判例検索β > 平成26年(ネ)第126号
大飯原発3、4号機運転差止請求控訴事件
事件番号平成26(ネ)126
事件名大飯原発3,4号機運転差止請求控訴事件
裁判年月日平成30年7月4日
法廷名名古屋高等裁判所  金沢支部
原審裁判所名福井地方裁判所
原審事件番号平成24(ワ)394
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平成30年7月4日判決言渡
平成26年

同日原本領収

裁判所書記官

第126号大飯原発3,4号機運転差止請求控訴事件(原審・福井地
方裁判所平成24年
口頭弁論終結日

第394号,平成25年

第63号)

平成29年11月20日
判決1審原告A1審被告
関西電力株式会社


ほか182名

文1
1審被告の控訴に基づき,原判決中,1審被告の敗訴部分を取り消す。
2
上記取消部分に係る1審原告(被控訴人)らの請求を棄却する。

3
1審原告(控訴人)らの控訴を棄却する。

4
訴訟費用は,第1,2審を通じ,1審原告らの負担とする。

第1
1実及び理由
控訴の趣旨
1審原告(控訴人)ら
原判決中,1審原告(控訴人)らの敗訴部分を取り消す。
1審被告は,上記1審原告らとの関係で,福井県大飯郡おおい町大島1字吉見1-1において,大飯発電所3号機及び4号機の原子炉を運転してはならない。

2
1審被告
主文1項,2項と同旨。

第2
1
事案の概要
本件は,1審被告が福井県大飯郡おおい町大島1字吉見1-1に設置する原子力発電所である大飯発電所の3号機及び4号機(以下「本件発電所」という。
)について,福井県を中心に北海道から沖縄まで全国各地に居住する1審原告らが,その稼動により1審原告らの生命,身体が重大な危害にさらされる
おそれがあり,また,快適な環境を享受することができなくなるなどと主張して,1審被告に対し,人格権又は環境権に基づく妨害予防請求として,本件発電所の運転差止めを求めた事案である。
2
原審は,原子力発電所に求められる安全性や信頼性は極めて高度なものでなければならず,生命を守り生活を維持する利益は人格権の中でも根幹をなす根源的な権利であることや,東北地方太平洋沖地震に伴う福島第一原子力発電所の事故を通じて明らかとなった原子力発電の危険性及びそのもたらす被害の大きさからすれば,本件発電所において,このような事態を招く具体的危険性が万が一にもあるのかが判断の対象とされるべきであるところ,本件発電所は,1審被告の策定した基準地震動やクリフエッジとされたレベルを超える地震動に襲われる危険があり,その場合,冷却機能が喪失し炉心損傷を経てメルトダウンが発生し,大量の放射性物質が施設外に拡散する危険性が極めて高く,しかも,その危険性は基準地震動に満たない地震動によっても生じ得ることに加え,使用済核燃料の保管施設の冷却設備が損壊し,堅固な設備によって閉じ込められていない使用済核燃料の放射性物質が外部に放出される危険があって,このように地震の際の冷やす機能と閉じ込める構造に欠陥があるといえ,その具体的危険性を軽減する適切で有効な手段は本件発電所の運転を差し止めることであるが,本件発電所の運転によってその人格権が侵害される具体的な危険があるのは本件発電所から250㎞圏内に居住する者に限られると判断して,1審原告らのうち,上記圏内に居住する1審原告(被控訴人)らの関係でその請求を認容し,上記圏外に居住する1審原告(控訴人)らの請求を棄却した。この原判決に対し,1審原告(控訴人)ら及び1審被告が,それぞれの敗訴部分を不服として控訴した。
なお,1審原告のBは平成25年2月28日に,同じくCは平成26年8月27日に,同じくDは同年11月5日に,同じくEは平成28年6月27日に,同じくFは同年9月15日に,同じくGは平成29年1月18日にそれぞれ死
亡したところ,1審原告らが差止請求の根拠として主張する権利は一身専属的なものと解されるから,上記の1審原告らの関係では訴訟が終了した。3
本件の前提事実は,原判決「事実及び理由」欄の第2の2に記載されたとおりであるから,これを引用する。ただし,原判決14頁24行目及び15頁1行目の「新安全基準」を「新規制基準」に,同18行目の「現在,」から19
行目末尾までを「平成29年5月24日,原子力規制委員会は,本件発電所の新規制基準への適合性を認め,その審査結果を審査書に取りまとめた上,本件発電所の設置変更許可をし,次いで,同年8月25日に工事計画認可を,同年9月1日に保安規定変更認可をそれぞれした。
(乙235,236)
」にそれ
ぞれ改める。
以下,略称については,特に断らない限り,原判決の略称に従う。
第3

当事者の主張
原審における当事者双方の主張は,原判決「事実及び理由」欄の第3及び第4
のうちの主張掲記部分に記載されたとおりであり,当審における当事者双方の主張は,以下のとおりである。なお,
「第4

当裁判所の判断」においては,当審

における主張に沿って判断を示し,適宜の箇所で原審における主張に対する判断を付加する。
(1審原告ら)
1
本件差止請求の判断基準について
1審原告らは,生命・健康という憲法上保護されるべき最高の人権的価値を中核とする人格権(人格権としての生命をつなぐ権利又は世代間責任を果たす義務を含む。
)を有し,その生命・健康に対する具体的危険のある侵害
行為に対しては,人格権に基づく妨害排除(予防)請求を行うことができる。一方で,現代の事業活動や社会活動においては,有益な活動であってもその活動自体に第三者に対する危険性を内包することが通常の事態であるから,具体的危険性とは危険がゼロであることではなく,社会的に許容できないレ
ベルの危険性のことを指す。原子力発電所は,通常の運転を行うだけで人類の生存環境を脅かす放射性廃棄物を生成し続け,周辺住民に健康被害を与えたり(玄海原発の周辺では,放射性物質であるトリチウムが原因とみられる白血病死亡率が有意に上昇しているというデータがある。,温排水による)
地球温暖化や海洋生態系の破壊を招くから,それ自体で人格権を侵害するものといえ,原子力発電所からの被害発生の蓋然性がゼロであることまでは求め得ないとしても,事故の発生確率を可能な限り極小化するだけの極めて高度の対策が必要といえる。また,福島原発事故の被害の深刻さからも明らかなとおり,原発事故は,大量の放射性物質が放出されるなど被害が広範かつ深刻で,長期にわたり継続・拡大し,その回復が極めて困難であるばかりか,現場に立ち入って何が起こっているかを確認することも困難であり,事後的に誰も責任をとれないという他の災害にはない特質を有する。福島原発事故により,原子力発電の安全性や安全審査に対する信頼は崩壊し,これらの上に成り立っていた原発訴訟の在り方の土台も崩壊したのであって,これまでの原発訴訟の在り方に対する真摯な反省に根ざした新たな司法判断の枠組みが求められている。
具体的危険性の立証責任は,判例上,原告・住民側にあるとされるが,原子力災害の重大性に加え,高度の技術性・専門性がある原子力発電所の安全性に関する証拠を被告・電力事業者側が多数保有しており,原告・住民側の立証の負担を軽減する必要があることや,行政判断に追随しやすい司法審査を避けるべきであることからすれば,原告・住民側が原子炉の運転により許容限度を超える放射線に被ばくする具体的危険性があることについて相当程度の立証をした場合には,被告・電力事業者側において,原告・住民側が指摘する具体的危険性が欠如していることの証明を行う必要があると解すべきであり,これをしない場合には,上記の許容限度を超える放射線被ばくの具体的危険性の存在が推認される(相当程度の可能性のアプローチが採用され
る)べきである。
原判決は,1審原告らの立証すべき具体的危険性について,放射性物質による環境汚染のもたらす損害の深刻さに鑑み,放射性物質の大量放出に至る科学的確実性を証明し尽くすことができなくても,生命を守り生活を維持するという人格権の中でも根幹部分をなす根源的な権利が極めて広範に奪われるという事態を招く具体的危険性が,万が一にも存在することさえ証明できれば,それ以上の科学的確実性を要求することなく,原子力発電所の運転差止めを認めるという判断枠組みを提示しているが,この判断枠組みは今日の社会通念に合致し,現在の環境法体系の法原則といえる予防原則(環境に脅威を及ぼす物質又は活動と環境への損害とを結び付ける科学的証明が不確実であっても,環境に悪影響を及ぼさないようにすべきである。
)を踏まえた
ものであり,極めて正当である。そして,これを判断するに当たっては,必ずしも高度の専門技術的知識・知見を要することなく,ある程度の科学的知見と経験則に基づいて判断することが可能である。
なお,原子力発電の供給安定性,環境性,経済性などは,その抱える巨大なリスクを考えれば,何ら原子力発電の必要性を根拠付ける事柄ではない。原判決は,大飯発電所から250㎞圏外に居住する1審原告(控訴人)らの請求を棄却しているが,年間1mSv(ミリシーベルト)を超えて被ばくした場合,1万人の被ばくに比し,がんで死亡する人が3.7人増えるという研究があるほか,経済産業省の制定に係る実用発電用原子炉の設置,運転等に関する規則(以下「実用炉規則」という。
)の規定に基づく線量限度等を
定める告示により,周辺監視区域(人の居住が禁止され,業務上立ち入る者以外の者の立ち入りが制限される区域)の外側の実効線量は年間1mSvを超えないことが求められていること,ひとたび原発事故が起きれば,放射線被ばくによる健康被害のみならず,これ以外の要因によっても人命が失われたり,住民の生活及びコミュニティの崩壊を招くこと,チェルノブイリ原発事
故の健康への影響に関する研究等を併せ考慮すると,少なくとも原発事故で年間1mSvを超えて被ばくするおそれがある場合,生命を守り生活を維持する利益が奪われる具体的危険性があるといえる。そして,既往のシミュレーションや最新の研究結果によれば,本件発電所で重大な事故が起きれば,1審原告らのうち本件発電所から最も遠方の約1250㎞離れて居住する者でも,年間5.35~15.9mSvと年間1mSvを超えて被ばくするおそれがあり,がん等による死者や健康被害者が夥しい数に上り得ることも考えれば,この危険性は,人格権に基づく差止請求を基礎付けるに足りる具体的危険性というべきである。
2
新規制基準の不合理性について
原子力規制委員会や原子力規制庁は,制度上,事業者から独立した専門家として原子力の安全規制を行う機関であることが求められているが,その実態は,欠格事由に該当する委員長や委員が民主的プロセスを無視する形で選任されたりしているほか,安全確保に関する各専門分野の学識経験者等を擁するという事実もなく,人的構成からしても安全規制に関して独立した専門機関となっていない。そして,原子力規制委員会は,福島原発事故の原因究明がされていない状態で新規制基準を策定し,その検討期間も短く,形だけのパブリックコメントを行っただけであって,策定の手続的正当性が欠けている。
新規制基準においては,従前,原子力安全委員会が定めていた原子炉立地審査指針(原子炉に万全の損傷防止対策等が施されていることを前提にして,なお立地の観点から周辺住民の安全を図るべきとする考え方であり,重大事故が起きても周辺公衆に放射線障害を与えないこと,仮想事故が起きても周辺公衆に著しい放射線障害を与えないことを目標として,この目標を達成するために,重大事故の場合を想定して原子炉から一定の距離の範囲を非居住区域とし,仮想事故の場合を想定して非居住区域の外側の一定の範囲を低人
口地帯とする。
)は無視され,原子炉等規制法の要求する発電用原子炉施設
の位置等の基準適合性に明らかに違反したものとなっており,しかも,周辺住民と原子力発電所との隔離に関する基準・指針が存在しないため,周辺公衆の安全を確保できない。このことをとってみても,本件発電所の稼動は,1審原告らの人格権を侵害する具体的危険があるというべきである。新規制基準は,過酷事故や重大事故への対応の実態からして,極めて不十分である。例えば,重大事故等対処施設は基準地震動の何倍もの地震動に耐えることが基準として要求されなければならないが,設計基準対象施設と同じ基準地震動による地震力に対して機能が損なわれなければよいとされていたり,発電用原子炉を冷却するために必要な設備として実際に要求されているのは,可搬型重大事故対処設備(可搬型バッテリ又は窒素ボンベ等)であるか人力に頼る現場操作であり,また,原子炉格納容器内の圧力及び温度を低下させるために必要な設備,あるいは格納容器内の圧力及び温度並びに放射性物質の濃度を低下させるために必要な設備として実際に要求されているのは,格納容器スプレイ代替注水設備を配備すること,格納容器圧力逃がし装置あるいは格納容器再循環ユニットの設置,又はこれらと同等以上の効果を有する措置を行うことだけである。さらに,使用済核燃料貯蔵槽内の燃料体等を冷却し,放射線を遮蔽し,及び臨界を防止するために必要な設備としては,可搬型代替注水設備を配備することであり,貯蔵槽内燃料体等の著しい損傷の進行を緩和し,及び臨界を防止するために必要な設備としては,可搬型スプレイ設備を配備する程度しか要求していない。このように,重大事故や過酷事故の対策としての「冷やす」対策,
「閉じ込める」対策は付け焼
き刃的であり,国際基準が明確に禁止している可搬的設備による人的対応を基本にしていて,実効性が疑わしく不十分といわざるを得ない。
基準地震動を超える地震動や基準津波を超える津波により原子力発電所の安全機能が損なわれ,大規模損壊に至る場合があることを前提として,その
場合に放射性物質の拡散を防止する対策を立てておかなければならないが,新規制基準では,基準地震動や基準津波により必要な機能が損なわれないようにするにとどめ,かつ,大規模損壊がどのようなものであるのか,それによる被害としてどのようなものを想定すべきかという定義がない。そうすると,放射性物質の拡散抑制策はないといわざるを得ないし,しかも,基準地震動に関する基準が曖昧不明確であり,想定される最大の地震動でなければならないはずの基準地震動自体も,安全確保の基準になっていない。また,新規制基準では,航空機の衝突やいわゆるテロ行為への対策として特定重大事故等対処施設の整備,可搬式設備を中心とした対策などを義務付けているが,これらの施設が同時に意図的な航空機衝突等のテロリズムの対象になれば,その対策は全く機能せず,かつ,ミサイル攻撃を考慮していないという欠陥があるほか,コンピュータウィルスなどのサイバー攻撃や部内者の脅威に対して有効な対策が立てられていない。
以上に加えて,新規制基準が制定される前から存した単一故障指針(偶発故障は一つの原因から一つしか起こらず,同時に複数は起こらない。)が見
直されず,設計基準事故の想定事象として,福島原発事故の教訓を踏まえた共通要因故障を想定した設計になっていないという致命的な欠陥が放置されていること,受動的安全性,すなわち,電源や動力がなくても長期にわたって冷却できるように備えるという概念がなく,国際的な常識からみて極めて時代遅れとなっていること,火山の科学的・専門的知見の反映が明らかに不十分不合理であり,将来の活動可能性評価に関する国際基準に反していることなどに照らせば,新規制基準は災害の防止上支障がないものとは到底いえない内容であり,原子力基本法,原子炉等規制法に違反していることは明らかである。そして,具体的審査基準である新規制基準の不合理性は,本件のような民事訴訟でも司法審査の対象となる。
3
基準地震動について

基準地震動Ssの策定について
基準地震動Ssは,敷地ごとに震源を特定して策定する地震動」及び「
「震源を特定せず策定する地震動」について,敷地内の解放基盤表面における水平方向及び鉛直方向の地震動としてそれぞれ策定することとされる。「敷地ごとに震源を特定して策定する地震動」は,敷地に大きな影響を与えると予想される検討用地震を複数選定し,その検討用地震ごとに,応答スペクトルに基づく手法(適切な手法を用いて応答スペクトルを評価した上,それらを基に設計用応答スペクトルを設定し,これに地震動の継続時間,振幅包絡線の経時的変化等の地震動特性を適切に考慮して地震動評価を行う。)
及び断層モデルを用いた手法(地震発生メカニズムに基づき震源断層面を小区画に分け,破壊開始点を定めて,そこから破壊が伝播していき,各小区画の破壊に伴う地震動及びそれらが敷地まで達する間にどのように減衰するかを算定し,これら小区画からの地震動を全て重ね合わせて敷地の地震動を導く。
)による地震動評価の双方を実施し,それぞれによる基準地震動Ssを策定する。
「震源を特定せず策定する地震動」は,震源と活断層を関連付け
ることが困難な過去の内陸地殻内地震について得られた震源近傍における観測記録を収集し,これらを基に敷地の地盤特性を加味した応答スペクトルを設定し,これに地震動の継続時間,振幅包絡線の経時的変化等の地震動特性を適切に考慮して基準地震動Ssを策定する。
また,地震動の破壊力は最大加速度だけでは説明できず,地震動が建築物に与える影響を集約した応答スペクトルをみる必要があり,応答スペクトルが建物や施設の固有周期付近でどれだけであるのかが,耐震設計にとって重要である。なお,原子力発電所の重要な機器・配管の固有周期は,0.02~0.5秒の短周期に集中している。
基準地震動Ssの信頼性について

基準地震動は,原子力発電所の耐震設計の基礎となるものであり,その
想定を誤れば耐震安全性は確保されないが,基本的に既往地震の平均像で作られているにすぎない。しかも,1審被告は,本件発電所の敷地(以下「本件敷地」という。
)やその周辺の地下構造について十分な調査を行っ
たとするが,敷地内の観測記録はない上(本件敷地では解放基盤表面相当の場所に1か所しか地震計が設置されておらず,複数の地震計による観測記録の分析ができない。,内陸部の地震は一般的に地下十数㎞の所で発)
生するところ,4㎞以深については独自の詳細な調査をしておらず,この深さの地殻構造や応力分布状態は,現在の知識をもってしてもよく分からないのが現状であって,地盤に関する十分な知見は得られていない。また,1審被告は,地震動の把握において重要とされる震源特性と伝播特性について具体的な主張立証をしておらず,地盤の増幅特性については技術上の問題があって不確かさのあることを免れないところ,その調査や評価は恣意的であり(かえって,反射法地震探査の結果によれば,本件敷地の地下構造は,水平な

層ではなく,連続性に欠けていて回折波が見られるなど

特異な構造であることが示されていたり,PS検層や試掘抗弾性波探査の結果によれば,S波速度の低い層が見られる。,基準地震動を過小評価)
しているといえる。
なお,1審被告は,本件発電所の設置許可申請時に示していた旧F-6破砕帯について,最近になって位置を詳細に特定できたとして,その位置を新F-6破砕帯としているが,両者は位置が隔絶しており,別の破砕帯である可能性が高く,原判示のとおり,1審被告の調査能力の欠如や調査の杜撰さを示すものといわざるを得ない。

原判示のとおり,地震発生の機序や分析は仮説や推測に依拠せざるを得ないばかりか,発生の頻度は必ずしも高くなく,正確な記録は近時のものに限られるから,地震の予知予測には科学的限界があり,本件発電所が基準地震動Ss等を超える地震動に襲われる危険があることは否定できず,
過去最大(既往最大)を超える地震が来ないとの確実な科学的根拠に基づく想定すら,本来的には不可能である。平成7年の兵庫県南部地震以降の強震観測網の整備により,多くの詳細な地震動記録が得られるようになったとはいえ,わずか20年に満たないデータで10万年を超えるスパンで生起する地震現象やその結果発生する地震動の想定を行おうとすること自体,余りに無謀である。
本件ストレステストでは,クリフエッジが1260ガルとされているが,これを超える地震動が本件発電所に到来すれば,冷却機能が喪失し,打つべき有効手段がほとんどない状態となって,炉心損傷を経てメルトダウンに至る危険性が極めて高くなることは疑いないのである。しかも,これまでの原子力発電所の耐震設計は,上記のとおり,地震動や津波の現象の推定を平均像で行ってきたところ,平均像ではほぼ50%の事象しかカバーできず,不確かさの考慮として誠に不十分であり,著しい過小評価を招いているのであって,原子力発電所の耐震設計を平均像で行うことは,新規制基準や原子炉等規制法にも違反して許されないといわなければならない。ウ
1審被告は,FO-A~FO-B断層について,その長さを保守的に35kmと設定した旨主張するが,これはあるべきものをそのまま設定したというだけであり,保守的なところはどこにもない。また,上林川断層について,その北東端を京都府と福井県との県境付近として断層長さを設定しているが,同断層はおおい町笹谷付近まで延長しているという文献があるから,1審被告が前提とする同断層の長さは過小である。


応答スペクトルに基づく手法は,多数の地震の地震動観測記録に基づき,地震の規模(マグニチュード)
,敷地との距離(震源距離)に応じた地震
動の平均像を求める手法であり,周期ごとの平均を点としてプロットし,その点をつないだ折れ線を求める耐専スペクトルが採用されている。その出発点となる地震規模の想定につき,現在の地震の科学技術の水準ではそ
もそも予測が非常に困難であり,地表の活断層の長さから出発し,そこから地震規模を直接推定する方法や,地表の活断層の知見に加え,地下の震源断層面の長さや幅を推定した上で地震規模を推定する方法が採られるが,いずれにしても,基礎となる観測された地震動記録は極めてわずかであり,莫大な誤差という宿命から逃れられない(例えば断層の長さから地震規模を算出する松田式は,わずか14個の地震データに基づく関係式にすぎない。。観測された地震動の値との誤差の最大値をみても,短周期で平均)
値の4倍程度に達し,推定値の比のばらつきを考えると,少なくとも安全側に10倍程度の値を採用すべきである。
また,1審被告は,FO-A~FO-B~熊川断層による地震動評価に当たって,等価震源距離が極近距離より短いことを理由に耐専式を不適用としているが,極近距離との乖離が大きいというだけでは耐専式の適用を排除する根拠として余りに弱く,これによる評価を行うと基準地震動が大きくなることを避けたものである。しかも,上記断層は本件敷地の数㎞以内の近傍を走っていることが推定されるにもかかわらず,1審被告の評価は,この点の不確かさを考慮した形跡がない。他方,1審被告は,上林川断層による地震動評価に当たって耐専式を用いているが,その耐専式に最新の地震動観測記録を反映させていない。

断層モデルを用いた手法では,想定する震源断層の設定に当たって,地震調査研究推進本部の作成した「震源断層を特定した地震の強震動予測手法」
(強震動予測レシピ)と,そのレシピの採用する入倉・三宅式(震源断層面積から地震モーメントを導くもの。
)等が使われ,また,震源断層
面を小区画に細分化した各要素断層から放出される中小規模の地震波形を合成する手法としてグリーン関数法が用いられる。
入倉・三宅式は,もともと北米大陸の地震データを基に作成されているところ,国内の地震データを使った場合よりも地震モーメントが相当程度
小さくなるほか(日本における過去の地震の断層面積と地震モーメントの平均をとった武村式を使うと,入倉・三宅式を使った場合の4倍程度安全側になり,地震動評価は約1.8倍になるという計算結果もある。,そ)
こでの断層モデルは,地表から真下に断層が垂直に存在し,地表の断層から前後にはみ出すことがないとするものであるが,常識的に考えても,地下に行けば地表の断層からはみ出すように断層が存在すると考えるのが自然であり,かつ,地表の断層の前後に地表に現れない断層が存在することが否定できない以上,これらの連動を別途考慮しなければならないはずである。また,断層の傾斜角が垂直の横ずれ断層であれば,地震発生層の厚さが断層幅となるが,傾斜角が大きくなるほど断層幅は大きくなり,地震発生層の厚さは地表の痕跡からは分からないので,主として地震波の速度構造やこれまでの観測データによって推定することになるところ,このデータとして用いられる気象庁一元化カタログは,平成9年以降のデータでしかなく,余りに微々たるものであって,この不確かさの考慮もされていないし,実際の震源断層面は,四角形ではなくアスペリティも不定形であり,地震波の速度構造の誤差(調査の不十分さ)も大きいのである。さらに,近年のほぼ鉛直な横ずれ断層から発生した地震データは,大地震の震源断層の下端が,地震発生層から更に深い部分に及ぶことが多いことを示している。これらによれば,事前予測に用いることができる断層の長さや幅は,地震発生後に判明した震源断層の長さや幅よりも小さくなることは避けられず,予測手法として入倉・三宅式を使うと地震規模は過小評価となってしまう。地震モーメントから短周期レベルを導く過程もスケーリング則(各パラメータ間の経験的な関係式)を用いるが,そこにも必然的に大きな誤差がある。強震動予測レシピや入倉・三宅式から乖離する地震モーメントのデータは,入倉・三宅式で平均4倍程度,強震動予測レシピでほぼ3.5倍に達している。

入倉・三宅式には上記の問題点があるため,平成28年12月に修正された強震動予測レシピでは,より安定的に地震動を評価できる松田式を用いた手法も併用すべきこと,震源断層面積から予測を始めることより,地表地震断層の長さなどから予測を始めることが文理上も明確にされたが,1審被告は同手法を併用していない。地震記録がなくとも詳細な調査によって地下の震源断層の面積を事前に特定することはいずれ可能になるかもしれないが,当面は困難であり,本件発電所の基準地震動の策定において入倉・三宅式を適用すべきではなく,他の手法に従って断層パラメータを設定すれば,地震モーメント,短周期レベル,アスペリティ及び断層全体の静的応力降下量はいずれも有意に増加し,基準地震動は見直さざるを得ない。
なお,グリーン関数法(近くの実際に起きた小地震の距離減衰の様子をそのまま全ての小区画に当てはめて地震動を算定する経験的グリーン関数法と,近くに適当な小地震がないときに理論的手法などによって導く統計的グリーン関数法とがある。
)についても,推定方法であることから極め
て大きな誤差があり,また,統計的グリーン関数法は経験的グリーン関数法と比べて,短周期において過小となっているという問題もある。カ
断層モデルを用いた手法による地震動評価に当たり,アスペリティの応力降下量の増減は基準地震動に与える影響が大きいところ,1審被告は,FO-A~FO-B~熊川断層のアスペリティの平均応力降下量について,強震動予測レシピの長大断層に適用される断層面積全体の静的応力降下量3.1Mpa(メガパスカル)やアスペリティの面積比22%という暫定値を適用して14.1Mpaと算出し,不確かさの考慮としてその数値を1.5倍(21.1Mpa)しているが,背景領域の応力降下量が負になるようなケースでない限り上記の暫定値を用いるべきではないし,その暫定値についても,近時の研究成果に照らせば正当性は揺らいでおり,アスペリテ
ィ面積比をより小さく16%とすべきであること,上記断層から本件発電所までの距離が近いことからすれば,不確かさの考慮として数値を1.5倍するだけでは十分といえないこと,複数のアスペリティごとに応力降下量が異なることや断層面が曲がっている可能性(破壊伝播効果が大きくなる。
)が考慮されていないことといった問題点もある。
以上のとおり,強震動予測レシピ等の採用と併せて,1審被告の不確かさの考慮(不確かさの重ね合わせを含む。
)は全く不足しており,地震動
の推定に際しての誤差又は偶然的不確定性(新しい知見・データが追加されても低減不可能なばらつき)及び認識論的不確定性(より正確なモデル化や新しい知見・データを追加することで低減可能なばらつき)の検討が全くされていないといってよく,少なくとも想定する地震動は,既往最大を基礎とし,それをも超える可能性があることを前提とすべきである。キ
「震源を特定せず策定する地震動」の策定に当たって収集すべき観測記録について,加速度計による強震動観測は,日本国内では昭和28年から,米国カリフォルニアでは1930年代からそれぞれ開始され,日本で強震動観測網が整備されたのは平成7年の兵庫県南部地震以降にすぎず,加速度計による観測が始まってから未だ80年ほどしか経過していないし,詳細な地震記録はもっと短い期間のものしかない。1審被告がその策定に当たって取り上げた,加藤ほかの応答スペクトルの研究は,日本及び米国カリフォルニアで発生した41個の内陸地殻内地震のうちの震源を事前に特定できない9地震12点の強震記録を用いたものであるが,31年間という短期間の記録に基づくものでしかなく,かつ,マグニチュード6.6以下の比較的小さな地震動記録のみを対象としたものにすぎない。また,「基準地震動及び耐震設計方針に係る審査ガイド」
(以下「地震審査ガイ
ド」という。
)に挙げられている16個の地震は,わずか20年足らずの
地震観測の記録であり,かつ,平成19年の能登半島沖地震や新潟県中越
沖地震等といった,事前に震源が十分に特定できず原子力発電所に想定以上の地震動をもたらした地震が含まれていない。短い活断層付近の地下でも,更には活断層が確認されていない場所でも,長大な震源断層面を持つ大地震が起こり,震源近傍に激しい地震動をもたらすことがあるという現実もあるから,わずかな観測記録で地震動の最大値を知ることは不可能であるし,本件発電所の直下や近傍に未発見の活断層が潜んでいる可能性も十分にある。
また,1審被告は,
「震源を特定せず策定する地震動」の評価に当たり,
北海道留萌支庁南部地震の地震動(HKDO20の港町観測点,1000ガル超という地震動が観測されている。
)を採用しているところ,少なくとも現
実に他の観測点では観測記録の1.5倍から2倍以上の地震動が発生しているから,上記の観測記録から地表の地盤の影響を計算上取り去ったとされる地震動609ガルの1.5倍ないし2倍以上の地震動が想定されなければならない。さらに,同地震がモーメントマグニチュード(Mw)5.7の地震でしかなく,Mw6.5では短周期レベルは2.51倍となるから,それだけで地震動は2280ガル(≒609ガル×1.5×2.5)に達する。

1審被告は,基準地震動Ssを保守的に見直し,856ガルとしたとするが,856ガルの地震の応答が従前の700ガル(基準地震動Ss-1)を超えているのは0.02秒付近の短周期だけであり,本件発電所の機器・配管の固有周期は0.1秒以下の短周期に集中しているから,これによって本件発電所の機器・配管の耐震安全性の評価には,ほとんど影響を与えない。
他の観測事例との比較について


平成20年にマグニチュード7.2の岩手・宮城内陸地震が発生し,岩手県一関西の観測地点で我が国既往最大の加速度値4022ガルが観測さ
れた。もっとも,これは,平成8年からようやく強震動の詳細なデータが得られるようになってからの観測値であり,そもそも貧弱なデータの蓄積の下での最大値である。それはともかくとしても,上記の観測結果の原因として上下動が片方にぶれている状況やトランポリン効果の存在が指摘されているが,これ自体,実際に地震が発生して初めて指摘された事柄であり,地震動の増幅に影響を及ぼす地下構造やその影響の程度について事前の予測が容易でなく,想定外の大きな地震動が生ずることが避け難いことを証明しており,かつ,上記のトランポリン効果等の影響を受けない,解放基盤表面相当の固い岩盤に設置された地中地震計による観測記録としても,1078ガルという極めて大きな地震動が記録されている。
平成19年7月16日にマグニチュード6.8(Mw6.6)の新潟県中越沖地震が発生し,柏崎刈羽原発の1号機における解放基盤表面の最大加速度が1699ガル(当時の基準地震動450ガルの約3.8倍の剥ぎ取り波)となることが推定された。東京電力の分析では,その原因について解放基盤表面下の地質構造による地震動の増幅現象などが指摘されているが,この解析によって十分な説明ができているとは到底いえないし,上記のとおり,本件発電所の地下構造の把握が十分でないことから,地盤特性に上記柏崎刈羽原発のものとの差異が存在するか否かは,不明であるといわざるを得ない。
したがって,基準地震動の策定に当たって,これらの観測記録を考慮しないことは,地震動の評価として著しく不合理である。

基準地震動を超過した事例は本件5例にとどまらず,剥ぎ取り波の応答スペクトルが一部周期帯で基準地震動Ssの応答スペクトルを上回った事例として,東北地方太平洋沖地震における東海第二原発,平成23年4月7日の宮城県沖地震における女川原発がある。1審被告は,本件発電所の基準地震動との相違として,基準地震動Ssと基準地震動S1,S2との
内実における違い,地震発生様式の違い,地域的特性の違い,超過の密度の違いなどを主張するが,これらは判断を左右するものではなく,その当時における最新の知見に従って基準地震動を定めても,その都度,基準地震動を超える地震動が到来した事実,すなわち,地震動の想定を誤り続けてきたという事実を重視すべきである。そして,実際に地震が到来しない限り地震動に影響するような地域的特性の知見も得られないのであって,上記の各事例は地震科学の限界を示すものである。
なお,本件発電所は基準地震動S1及びS2に対して機能喪失しないように設計されたにすぎないのであり,なぜ基準地震動Ssでも機能が喪失しないのかの科学的根拠がない。また,基準地震動Ssは耐震設計の要であり,例え少しであっても超えることが許されないのが原則であるから,基準地震動Ssを超える地震があったが,おおむね妥当とかほぼ同等と評価されるから問題ないなどと軽々しく論ずることがあってはならない。4
津波について
1審被告が行った津波堆積物の調査では,せいぜい2000年程度しか遡れず,津波の有無を判断するには少なくとも数万年単位のデータが必要であるし,近年の原子力安全・保安院による調査では,久々子湖その他について,せいぜい1.1万年以降の地層が観察・検討されたにすぎず,活断層については少なくとも十数万年前にわたって活動性がないことの確認が必要である。しかも,津波堆積物が発見された範囲と実際の浸水域とは異なり,実際の浸水域は堆積物の発見箇所よりもずっと奥まで広がっているのである。また,1審被告は,過去に若狭湾に大津波が押し寄せた事実(西暦1586年の天正大地震の際の大津波等)や文献等に残っている伝承,更には福井県大飯郡高浜町で発見された津波堆積物について福井大学の山本博文教授らが平成27年にした発表を無視し,それを踏まえた検討をしていない。1審被告は,敷地周辺海域を含む若狭湾一帯について,活断層調査に基づ
いて起こり得る津波を検討し,シミュレーションを実施していると主張するが,敷地前面海域の海底地形については正確な測量のされていない箇所が多く,地震により海底地形が隆起し,沈降するなどの変化を生じる可能性があること(若狭湾一帯は活断層の巣であり,海域の活断層が活動した場合,断層に囲まれたブロックをなす地盤が瞬間的に沈降するか上昇するかし,それによって生じる津波は沖合からやってくる津波とは全く性質を異にし,リアス式地形の影響もあってますます複雑化し,局所的に異常に高い波が襲来する可能性がある。
)を見過ごしているほか,1審被告の解析モデルは震央に
近い最大津波の高さを正しく再現することができておらず,海域活断層の地震モーメントの算出やすべり量について平均値をとってばらつきを考慮していないなど,津波の最大高さを過小評価している。波源特性の不確かさとして挙げる各要因(断層の位置,長さ,幅,走向,傾斜角,すべり量,すべり角,すべり分布,破壊開始点,破壊伝播速度等)については,定量的な把握が極めて困難であることから,恣意的な設定がされる可能性は排除することができない。
1審被告は,地域性等を考慮して津波対策をすべきであるとしているが,地球の歴史と比較したとき,人が知り得るのはわずかな期間の断片的な情報にすぎず,少なくとも世界最大の既往津波(2004年のスマトラ島沖地震の津波で,10mに達する津波が数回にわたり押し寄せ,最大波高は30mを超えた。
)を想定すべきである。また,1審被告は,防潮堤や取水・放水
施設について,大型航空機等が墜落した場合や沖合を航行する大型船舶が衝突するなどしてその機能を損なった場合の想定を何らしていないし,防潮堤や防波堤が想定される津波に対し機能を保持できるかどうかについては,未だ十分な知見がない。
5
本件発電所の安全確保対策について
安全上重要な設備について


耐震重要度分類は,地震による当該設備の機能喪失により発生する可能性のある放射線による公衆への影響の程度の観点から,S,B,Cに分類しただけのものであり,Sクラスの設備が基準地震動に対して機能喪失しなければ,原子炉が危険な状態にならないということはない。すなわち,当該設備の機能喪失があれば放射線による公衆への影響が大きいと考えられる設備がSクラスに分類されただけであって,Sクラスの設備の耐震安全性が確保されても,他の設備が機能喪失したとすれば,放射線による公衆への影響が防げるとは限らないし,分類を間違えてSクラスに分類すべき設備をB,Cクラスに分類していれば,基準地震動でそれらの設備が機能喪失し,それによって重大事故に至ることは十分に考えられる。1審被告は,新規制基準に従い,冷却機能の維持に重要な役割を果たす外部電源設備,主給水ポンプのほか,原子炉補機冷却水系,更には計装系(少なくとも原子炉水位計,原子炉容器内外の温度計,原子炉格納容器圧力抑制室の水位計及び圧力計は,シビアアクシデント対応上必須の計測器である。
)を耐震Sクラスにせず,Cクラスにするなどしているが,福島原発事故の教訓を全く無視しており,東北地方太平洋沖地震の際の福島第一原発では,外部電源が地震により機能喪失して,送電線の復旧もできずに全交流電源喪失から原発事故に至っているし,同地震の際の東海第二原発では,補機冷却水系である非常用ディーゼル発電機2C用海水ポンプ電動機が水没して使用不能となっており,かつ,耐震Cクラスの補機冷却水系が基準地震動以下の地震動で機能喪失すれば,基準地震動以下の地震動で耐震Sクラスの非常用ディーゼル発電機の機能喪失が招来される可能性もある。


1審被告は,基準地震動による地震力に対して有する余裕として,評価基準値(許容値)に対する評価値(応力値等)の余裕,評価基準値自体に機器等が機能喪失する限界値に対する余裕,評価値を計算する過程におけ
る計算条件の設定等での余裕を主張するが,設計における安全余裕とは評価基準値と評価値との差だけであり,それ以外の事柄を安全余裕として考慮することは許されない。また,基準地震動Ssに対して安全余裕を有しているということは,本件発電所について安全性を脅かす不確定要素が多いことを意味するのであって,構造物の安全度が高いことを意味するのではない。しかも,構造物の不確定性(材質や寸法のばらつき,溶接や施工,保守管理の不備等の不確定要素)を考慮すれば,基準地震動を超える地震が発生しても,耐震重要施設の安全機能が喪失することはないとは到底いえない。1審被告は,あたかも基準地震動を超えても確実に構造物の安全性が確保されることを示す概念であるかのように主張するが,意味をねじ曲げた極めて不誠実な主張である。そもそも1審被告の想定する基準地震動は過小であって,その数倍の加速度の地震動を想定しなければならないから,そのような地震動を想定すれば,評価値が評価基準値を簡単に超過して安全上重要な設備の機能喪失が招来されるのである。
なお,機器・配管では,老朽化による耐力の低下を解析に加えて計算する必要があるが,1審被告はそれらを解析において考慮していないし,クラックの原因となる応力腐食割れの危険性も考慮すべきである。

多度津工学試験センターでの原子力発電施設耐震信頼性実証試験は,設定した条件下で振動台に設置した模型を揺らした場合にどのような結果が出たかという以外のものではなく,その結果が原子力発電所の安全余裕を根拠付けるというのは,データの科学的使用方法とはいえない。
異常の発生・拡大防止,重大事故等対策について


非常用ディーゼル発電機は,その装置自体が多くの部品やサブシステムから構成されており,通常時には部品の劣化や製造時の潜在的欠陥が顕在化していなくても,地震により,例えば燃料供給系の配管や様々な計装配管等が損傷したり,緊急時に起動しようとしたときに,いずれかのサブシ
ステムや部品がたまたま故障したりする可能性は否定できない。また,実用発電用原子炉及びその附属施設の位置,構造及び設備の基準に関する規則(以下「設置許可基準規則」という。
)の解釈33条7項では,外部電
源が喪失したと仮定して7日間分以上の貯蔵燃料を用意する旨定められているが,福島原発事故の教訓を踏まえるならば楽観的といわざるを得ない。電源車も,埋め戻し土との境界付近で段差により通行に支障が出る。イ
環境中への放射性物質の放出を防止する最後の防壁は原子炉格納容器であるが,その破壊の原因である極めて急激な爆発現象の主なものは,水蒸気爆発と水素爆発である。
水蒸気爆発は,非常に高温な溶融物と水が接触したときに極度に急速な蒸発が起こって,爆発的な様相を呈する物理現象であり,過酷事故が発生した場合,1審被告が想定するように,原子炉容器を貫通した溶融炉心を原子炉下部キャビティに作ったプールで冷却するとしても,溶融炉心と接触した水が水蒸気爆発を起こす蓋然性が高い。また,過酷事故の際には少なくとも数百㎏ないし100tの溶融物が生じる可能性があり,100tに及ぶ溶融物がプールに落下した場合には,少量の水を溶融物とプール底部や壁との間に囲い込んだり,水を含む固形物を囲い込んだりする可能性があり,囲い込まれた水が急蒸発して,水蒸気泡が急膨張することで水蒸気爆発のトリガー(誘因)となる可能性があるほか,外部から流入する水流の発生,水温の急変や水素爆発による圧力パルスもトリガーになる。他方,過酷事故の際に炉心燃料の温度が上昇して燃料が溶融すると,水素が発生する。その主な要因は,燃料被覆管材料の主成分であるジルコニウムと水との反応(ジルコニウムは高温になると,水と化学反応して水素を発生させる。,溶融炉心と床や壁のコンクリートとの相互作用(コン)
クリートが溶融炉心と接触し,熱分解により侵食されると,水分と炭酸ガスが発生し,これらが溶融炉心に含まれるジルコニウム等の金属成分と接
すると,酸化還元反応により水素と一酸化炭素が発生する。
)であり,他
に水の放射線分解やジルコニウム以外の金属と水との反応でも水素が発生する。本件発電所は加圧水型原子炉であり,通常運転中の原子炉格納容器内には空気があるので,上記のとおり,過酷事故時に原子炉内外で大量の水素が発生すると,格納容器内の空気中の酸素と反応して大規模な水素爆発が生じ,それに伴う放射性物質の大量放出が起きる具体的な危険性がある。また,大破断LOCA(1次冷却材の喪失)が発生すれば,原子炉容器と原子炉格納容器は均圧になり,そのとき原子炉に注水すると原子炉容器の温度が低下して減圧となり(不可知な事故の進展状況下で,注水することを望ましいと判断してしまうシチュエーションを排除することはできない。,格納容器内の空気が破断部から原子炉容器内に吸い込まれて,)
爆発条件を満たす水素,水蒸気,空気の分圧比に達したところで,水素爆発が発生する可能性がある。さらに,原子炉格納容器スプレイを運転して,水素濃度が格納容器内全体で均一にならず,局所的に濃度の高い所が形成される場合には,水素爆発が起こる可能性がある。なお,本件発電所の水素濃度(ドライ条件換算)最大値は約12.8%であるのに対し,爆轟防止判断基準値は13%であって,その余裕は僅少であり,不確かさとして水素の発生量,水素濃度の空間分布,解析予測のばらつきなどを安全側に考慮すると,この余裕はなくなるから,水素爆発を防ぐことはできないのである。

過酷事故対策は,設計基準事故対処設備が全て破綻した場合に,外部から仮設又は部分的に恒設の電源や冷却水を供給するものであるが,殊に可搬型の設備は基本的に人の手で対処するために確実性や信頼性に乏しく,訓練をすれば必ずできるといったものでもなく,条件次第で全く機能しないこともある。しかも,新規制基準には,直流電源が喪失した場合(直流電源設備は,原子炉隔離時冷却系,高圧注水系,非常用復水器等の蒸気駆
動の冷却設備の直流電動弁に電力供給するだけでなく,中央制御室制御盤,現場制御盤,中性子モニタ,プロセス放射線モニタ,地震計,原子炉水位・圧力計,原子炉格納容器圧力・温度計等の各種計装制御等にも電力を供給する。
)の深刻な事態に対する規定が存在しない。福島原発事故では,
計測装置に対する炉心損傷に伴う熱や放射線の環境条件が設計想定を大きく上回ったため,原子炉水位計が機能不全になるなどしたが,このような過ちを繰り返さないためには,過酷事故時の環境条件を的確に把握できる評価方法を確立し,その環境条件下に長期にわたって曝されても機能を維持できる計測装置類を開発し,その信頼性を実証することが必要であるところ,このような対策はされていない。

過酷事故対応に充てることが可能な淡水の容量には限りがあるから,海水注水がバックアップとなっているが,海水注水が塩分の析出を生じさせた場合には,流路の閉塞,金属融点の降下,伝熱の阻害といった悪影響が考えられる。特に蒸気発生器二次側に海水注水がされると,注入された海水は,蒸発して塩分濃度が上昇し,細管の外表面に塩が析出し,断熱材として振る舞うことになる。全交流電源喪失後の細管破断では,高温の放射能ガスが蒸気発生器二次側に充満し,主蒸気逃がし安全弁の開固着を伴って温度誘因蒸気発生器伝熱管破損(TI-SGTR)の事象に至るが,塩の析出が断熱材となった細管の場合には,細管の多数が同時,あるいは順次に破断する可能性があって,破断する細管の本数が増えることで,開固着した弁を経て外部環境に放出される放射能量が顕著に増加する。

福島原発事故において,中央制御室が十分に機能せず,原子炉事故を回避するために免震重要棟と呼ばれる緊急対策施設の果たした役割は大きかったが,本件発電所では,この緊急事故対策のために必要不可欠な設備である免震重要棟が設置されていない。新規制基準では,設計基準事故及び設計基準を超える事故が発生した場合に,対策要員が必要な指令を発した
り,関係各所と通信連絡し合い,必要な対策を行うための要員を収容したりする等の機能を発揮する緊急時対策所の設置を要求しているが,余震が続く中でも事故時の対応が求められることからすれば,緊急時対策所には,耐震構造だけでなく免震構造も要求されるべきである。1審被告が大飯発電所の1号機及び2号機の原子炉補助建屋内に設置するとしている緊急時対策所は,十分なスペースと居住性が確保されているとはいえず,免震構造も有していないから,安全性が確保できない。
多重防護について

原子力発電所では,いったん炉心の著しい損傷や周辺環境への放射性物質の異常な放出という事故が起こると,その収束は困難を極めるとともに,放射能汚染による被害が計り知れないから,多重防護(深層防護)の考え方,すなわち,前段否定の考え方に基づいて防護策を多段に配置し,前段の防護策によって異常の発生や進展を防止できない場合があることを想定して各防護策が設けられることが,安全性を考える上で必要不可欠であって,各段の防護策のいずれか1つにでも不備がある場合には,具体的危険性があると判断されるべきである。1審被告は,異常発生防止対策,異常拡大防止対策,放射性物質異常放出防止対策という3つの段階での対策を講じていると主張するが,国際原子力機関(IAEA)は,5つの多重防護レベルを定め,第3層を設計基準事故対策とした上で,第4層として過酷事故対策を,第5層として防災対策(防災計画又は避難計画)をそれぞれ求めているから,過酷事故対策又は防災対策に不備があれば,本件発電所について人格権等を侵害する具体的危険性があると判断されるべきである。また,そもそも新規制基準は,避難計画の実行可能性や実効性を事業者に対する規制としていないなど,上記のIAEA安全基準の要求を明らかに満たしていない。


本件発電所における過酷事故対策は,上記のとおり全く不十分なもので
あり,1審被告の過酷事故対策によっては,炉心溶融と原子炉容器の破損を防ぐことはできず,水蒸気爆発又は水素爆発による原子炉格納容器の破損も防ぐことはできない。設計基準事象の想定は不完全さに伴う不確かさがあり,設計基準事象に対して備えるのみでは現実の事故に対して完全に備えることはできず,しかも,設計基準事象を超える領域の存在を否定することはできない。その上,地震や津波を始めとする自然事象,テロや航空機衝突などの外的人為事象といった設計基準を超える外的ハザードに対しては,設計基準に対する対策は機能を失う。これらを考えれば,本件発電所には具体的危険性が認められる。
なお,朝鮮民主主義人民共和国は,近時,ミサイルの発射実験を繰り返しており,日本政府も同国によるミサイル攻撃の危険性が高まっているとして破壊措置命令を常時発令している状況にあるところ,飛来するミサイルを完全に迎撃することは不可能であって,本件発電所及びその周辺にミサイルが着弾すれば,原子炉格納容器や電源その他の重要な設備が破壊され,大量の放射性物質が放出されるなどの甚大な被害が生じることは明らかであるから,少なくとも破壊措置命令が継続している間は,本件発電所の運転を中止すべきである。

本件発電所における防災対策には,周辺住民の避難手段の不備(避難手段は自家用車を主とした自動車による道路移動とならざるを得ないが,自家用車を利用できない住民にとって使用できるバスは限られ,また,避難路が乏しいために長時間の渋滞や,県外避難先への殺到が引き起こされる。,原発密集地である福井県嶺南地方において,過酷事故時に避難区)
域が更に広範囲に拡大する可能性など様々な問題がある。それによって引き起こされる被害は,健康被害に直結するものとして,避難の困難性(複数回の避難,高線量地域への避難等)により付近住民が高線量の放射線を浴び続ける危険性が高いことや,病院患者,介護老人,障害者等の避難の
困難さがあり,生活破壊に直結するものとして,住民に対する原発事故の正確な情報伝達の欠如及び遅延に起因する生活破壊,長期間の屋内避難指示による生活破壊がある。このように本件発電所の防災対策は不備であって,安全対策の不十分性として,本件発電所の危険性そのものを示すというべきである。
ストレステストについて
本件ストレステストによる評価は,机上のシミュレーションにすぎず,シナリオや入力値次第で幾らでも恣意的に導くことが可能であり,事故の要因となる人的ミス,見えない欠陥,不運は含まれていないし,地震荷重と地震以外の荷重を組み合わせれば,クリフエッジは小さくなるものと解される。経年変化の考慮対象外とされている部材でも,温度差・熱膨張差による疲労現象,中性子照射による鋼材組織の破壊などを考えれば,これらを考慮対象外としては耐震安全性を確認することができない。また,支持構造物について,その耐震裕度を定量的に算定できないとか,変形によるエネルギー吸収効果を期待できるなどとして評価の対象外としているが,支持構造物の変形,破損によって配管の固有周期が変動し,配管に想定外の共振が生じることで力が加わり,配管が損傷して大事故につながるおそれが生じるのであって,ストレステストが全ての事態に対応する万全なものからはほど遠いことを示している。
さらに,イベントツリーの手法は,事故の原因となる初期の事象からスタートして,これが最終的に発展していく過程を枝分かれ式に展開して解析し,事故対策の有用性や事故のリスクを評価するのであるが,事故の原因となる事象を余すことなく取り上げることは事実上不可能である。
火山灰対策について

火山灰が外気取入口に設置されたフィルタに侵入すると,フィルタが閉塞し,その機能が失われ,全交流電源喪失という事態も起こり得るから,
原子力発電所は,火山灰の侵入によっても機能維持が十分可能なように設計されなければならない。原子力規制委員会は,火山の影響を判断するための基準として,
「原子力発電所の火山影響評価ガイド」
(以下「火山評
価ガイド」という。
)を定め,立地評価において,地理的領域(半径16
0㎞の範囲)内における第四紀(約258万年前以降現在まで)火山のうち,将来の活動可能性が否定できない火山かどうかを確認し,将来の活動可能性が否定できない火山とされた場合には,設計対応が不可能な火山事象が原子力発電所の運用期間中に影響を及ぼす可能性が十分小さいといえるか否かを検討する。次いで,影響評価において,地理的領域外の火山は降下火砕物のみについて,地理的領域内の火山は降下火砕物のほか,火山性土石流,噴石,火山性ガス等について,当該原子力発電所の安全性に影響を与える可能性のある火山事象を抽出し,各事象の特性と規模を設定する。そして,設定された各火山事象に対する設計対応及び運転対応が妥当か否かが判断されることになる。
本件では,地理的領域外の火山による降下火砕物の設定,及び火山事象に対する設計対応・運転対応の妥当性判断において,看過できない過誤・欠落が存在する。

そもそも大量の火山灰を放出する巨大噴火の時期や規模を予測する手法は確立されていないが,1審被告は,本件発電所の運用期間中に,大山火山について,40万年前以降で最も規模の大きい噴火である大山倉吉テフラ噴火と同規模の噴火が発生する可能性は十分に低いと評価している。しかし,大山倉吉テフラ噴火を大山火山の噴火履歴の中で特殊なものとして別物扱いする必要はなく,最大層厚を想定する上での対象から除外するのは明らかに誤っており,1審被告による火山灰の最大層厚の設定は過小というべきである。


本件発電所における降下火砕物の参考濃度の具体的数値は約1.5g/㎥
(降灰継続時間は24時間)と試算されているところ,本件発電所の現状における限界濃度(2台の非常用ディーゼル発電機を交互に切り替え,フィルタを取替・清掃することによって対応可能な限界濃度)は約1.1g/㎥となっており,参考濃度を大きく下回っている。これは,敷地に10㎝程度の火山灰が堆積するような事態になれば,非常用ディーゼル発電機は瞬く間に機能を喪失し,全交流電源喪失に陥るおそれがあることを意味する。要するに,1審被告が想定する程度の噴火が起こった場合には,約1.5g/㎥という濃度の火山灰が本件発電所を襲うことになるが,本件発電所は約1.1g/㎥という濃度までしか耐えられないため,安全性が確保できないのであり,最新の知見に適合しない原子力発電所については速やかに稼動を停止することが,福島原発事故の反省を踏まえて導入されたバックフィット制度の趣旨でもあるから,少なくとも降下火砕物の大気中濃度への然るべき対策が完了するまでは,本件発電所を稼動させるべきでない。1審被告の技術的能力について
原子炉等規制法は,発電用原子炉の設置許可の基準として,発電用原子炉設置者について,発電用原子炉を設置するために必要な技術的能力並びに重大事故の発生及び拡大の防止に必要な措置を実施するために必要な技術的能力その他の発電用原子炉の運転を適確に遂行するに足りる技術的能力があることを要求しているが,福島原発事故を発生させた東京電力との比較,1審被告が過去に大飯発電所を始め,美浜原発や高浜原発で起こした多数の事故やその隠ぺいからすれば,1審被告には安全意識が欠落しており,原子炉事故を収拾するために必要な経理的基礎や人的リソース等が不十分であることは明らかである。
なお,平成29年1月20日には,高浜原発1号機及び2号機において,原子炉格納容器の補強工事を行っていたクレーン車4台のうちの1台(長さ113m,高さ105m,総重量270t)が強風に煽られて転倒し,燃料
取扱建屋等の屋根が損傷するという事故が発生している。
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使用済核燃料プールについて
使用済核燃料の危険性について
福島原発事故において使用済核燃料プールの冠水状態が維持できなくなり,大量の放射性物質が放出されるという事態が現実にならなかったのは,僥倖といえるのであり,本件使用済核燃料プールの冠水状態が維持できなくなるような事態が万が一にも起こらないなどと認めることはできない。プールの冷却水が喪失した場合,損傷及びその進展状況によっては,過熱によるジルコニウム火災の懸念があり,この懸念を軽減するための措置として,崩壊熱の高い新しい使用済核燃料と古い使用済核燃料を市松模様状に配置することが有用とされているが,本件使用済核燃料プールではこのような対策も採られていない。
また,福島原発事故を踏まえれば,使用済核燃料プールへの電源を必要としない外部注水及びスプレイラインを敷設する対策を導入する必要があるが(あるいは自然循環冷却システムや空冷の中間貯蔵施設を設置する。,1)
審被告は消防ポンプからの注水を可能にしただけであり,恒久設備を設置せずに可搬設備の配備にとどめる対策は弥縫策といわざるを得ず,あくまで人の手に依存するものであることからしても,このような対策をもって使用済核燃料を冷却し続けられるとは到底いえない。
そもそも我が国の核燃料サイクルのシステムは完結しておらず(近い将来完結する見込みもない。,使用済核燃料と高レベル放射性廃棄物が大量に)
貯蔵・蓄積され続けているが,そのような中で本件発電所を再稼動すれば,行き場のない使用済核燃料を生み出し,本件使用済核燃料プールにおける保管量や保管密度を増加させ,1審原告らが居住する地域社会の環境リスクを確実に増大させるばかりか,子や孫といった次世代にも環境リスクや処理コストを押し付けることになる。したがって,使用済核燃料等の安全対策によ
るリスクの抜本的低減策が示され,地域環境へのリスクの現実化を防止できることが1審被告によって証明されない限り,1審原告らは,人格権に基づき,本件発電所の再稼動を差し止めることができる。
防御の必要性について

使用済核燃料は,原子炉内の燃料よりも核分裂生成物を遙かに多く含み,非常に高い放射能と熱を有するから,原子炉格納容器の炉心部分と同様,ミサイル攻撃など外部からの不測の事態に対して堅固な施設によって防御を固められる必要がある。建屋にしか守られていない本件使用済核燃料プールが航空機の衝突,爆弾,ミサイル等によるテロの標的となったときは,同プールや使用済核燃料自体が損傷するなどして,放射性物質が環境中に放出される危険性がある。


竜巻により,複数あるいは鋼製材等の飛来物が建屋の外壁及び屋根を貫通して本件使用済核燃料プールに侵入・衝突し,プール水の漏えいが生じる事態や使用済核燃料に衝突して被覆管に歪みが生じる可能性を1審被告も想定しているが,それ自体極めて深刻な事態であって,1審被告の対策では安全性に欠ける。しかも,損傷した建屋の屋根からプール水の吸い上げが生じる可能性も否定できず,少なくともトルネード・リリーフ・ベントの設置が必要である。
耐震安全性について
本件使用済核燃料プールの冷却設備の耐震クラスはBクラスであり,温度
や水位等の状態を示す事項を監視する計装系の耐震クラスはCクラスであって,1審被告が想定する過小な地震動によっても破損する危険性があり,どちらも使用済核燃料プールの安全機能を維持するために重要な設備であるから,深層防護の観点からもいずれもSクラスとすべきである。
(1審被告)
1
本件差止請求の判断基準について

人格権に基づく差止請求が認められる要件として,人格権の侵害による被害が生じる具体的危険性の存在が必要であるが,およそ科学技術を利用した現代文明の利器は,全てその効用の反面に多かれ少なかれ危険発生の可能性を内包し,社会はこの危険を人為的に管理統制して人類の利用に役立ててきたことからすれば,原子力発電に危険が内在すること自体が問題ではなく,原子力発電に内在する危険が顕在化しないように適切に管理統制ができるかどうかが問題とされるべきである。そして,原子力発電が高度に科学的・専門技術的なものである以上,具体的危険性の有無の判断に際しては,科学的・専門技術的知見を踏まえることは不可欠である。ところが,原判決は,危険性の有無を抽象的・潜在的な次元で判断しているにすぎず,このような立論は,原子力発電に内在する危険性の故に原子力発電そのものを否定するものであって,科学技術の利用に関する基本的な理念に反するといわざるを得ない。
このような安全性に関する審査の特質を考慮し,原子炉等規制法は,審査の基礎となる基準の策定及び基準への適合性の審査に関し,原子力利用における安全の確保に関する各専門分野の学識経験者等を擁する原子力規制委員会の科学的・専門技術的知見に基づく合理的な判断にこれを委ねている。原子力規制委員会が福島原発事故の反省や教訓を踏まえて新たに制定した新規制基準は,現在の科学技術水準を踏まえた合理的なものであり,原子力発電所に求められる安全性を具体化したものであるから,原子力規制委員会が新規制基準に適合すると認めた原子力発電所は,安全性を具備するというべきである。
なお,1審原告らは,年間1mSvを超えて被ばくするときのがんの発症をいうが,年間100mSvを下回る被ばく線量でがんの発症率が有意に上昇するとの疫学的報告は存在しない。
1審原告らは,本件において,人格権に基づいて本件発電所の運転差止め
を請求しているが,上記の観点からすれば,本件発電所が安全性を欠いているか否か,すなわち,原子力規制委員会の策定した新規制基準が不合理であるか否か,又は本件発電所が新規制基準に適合しているか否か,そして,本件発電所の運転に伴っていかなる機序でどのような人格権侵害の具体的危険が生じ,これにより1審原告らにどのような被害が生じるのかが,具体的に審理判断されるべきである。そして,民事裁判における主張立証責任の一般原則に従い,上記の審理判断対象については,1審原告らが主張立証しなければならない。
なお,今後,我が国が更なる発展を遂げていくためには,安定的で社会の負担の少ないエネルギー供給を実現する体制が求められているところ,原子力発電は,供給安定性,環境性,経済性のいずれの点においても優れた電源である。
2
新規制基準の合理性について
新規制基準は,原子力規制委員会において,透明性・中立性に留意しつつ,様々な専門分野を有する学識経験者等が最新の科学的・専門技術的知見,海外の規制動向等を踏まえ,相当期間,多数回にわたって行った検討の上,制定されたものである。原子力規制委員会の委員長や委員については,設置法が欠格事由に該当しないことを要求しており,同委員会における新規制基準適合性審査では,原子力発電所の様々な安全上の事項について高度の科学的・専門技術的知見を有する委員等によって厳格な審議・検討が行われているのであって,同委員会が原子力の安全規制に関して独立した専門機関となっていないなどという1審原告らの主張は当たらない。
1審原告らは,新規制基準においては,従前の原子炉立地審査指針が無視されており,周辺住民と原子力発電所の隔離に関する基準や指針が存在しないため,周辺公衆の安全を確保できないと主張するが,新規制基準では,例えば重大事故の発生時における周辺公衆への放射線の影響低減は,公衆との
離隔距離の確保によるのではなく,重大事故等対策を適切に講じるという考え方を採用することにしたのであり,放射線リスクの社会的影響に対する評価としても,大人口が極めて低線量の被ばくを受けることを含んだ集団線量の見地に基づいて評価するのは効果的でないため,半減期の長い放射性物質の総放出量を規制することとしており,立地審査指針の要求事項については現在の規制体系で考慮・判断されているといえる。したがって,1審原告らの主張は当たらない。
米国の原子力規制委員会のガイドには,敷地の地盤に永久変位が生じる可能性がある場合には他の候補地を求めるべきとする定めがあるが,我が国の設置許可基準規則及び同規則解釈は,耐震重要施設を設ける地盤について,基準地震動による地震力が作用した場合においても施設を十分に支持することができ,変形した場合においても安全機能が損なわれるおそれがなく,変位が生ずるおそれがないことを求めており,こうした要求事項は,米国の上記ガイドに比しても実質的に遜色がない。
新規制基準は,重大事故等対策では原因を問わず,設計基準対象施設が安全機能を喪失することをあえて仮定し,その場合でも炉心の著しい損傷や原子炉格納容器の破損を防止する対策を講じることを求めているが,そもそも地震に起因してシビアアクシデントのような事故が発生しないようにするために適切な基準地震動を想定することや,耐震重要施設等が基準地震動に対する耐震安全性を確保することを求めているから,基準地震動を超える地震動により原子力発電所の安全機能が損なわれたり,大規模損壊に至る事態が発生することは,まず考えられない。その点を措くとしても,新規制基準に従って1審被告が整備した重大事故等対策が有効であることは解析等により確認されており,それらの設備では重大事故等対策として不十分であるとする1審原告らの主張は当たらない。
新規制基準に組み入れられている安全評価審査指針によれば,外部事象に
起因する共通要因故障については,当該外部事象によって安全機能を喪失することがないように設計することで防止する(例えば,地震による共通要因故障は,基準地震動による地震力に対して安全機能を維持できるように設計することで防止する。
)ことが前提とされており,単一故障の仮定とは,こ
のような共通要因故障を防止する設計を行うことを前提として,更に設備の偶発的な故障等,何らかの要因で単一故障が発生したと仮定しても,所定の安全機能を維持できるように,多重性又は多様性及び独立性を有する設備を備えるようにするというものである。したがって,単一故障指針が見直されていないという1審原告らの主張は失当である。
その他,新規制基準の不合理性をいう1審原告らの主張については,全て理由がない。
3
基準地震動について
基準地震動Ssの策定について

基準地震動Ssの策定の流れは,次のとおりである。まず,敷地周辺における地震発生状況及び活断層の性質等を考慮し,地震発生様式による地震の分類を行った上で,敷地に大きな影響を与えると予想される検討用地震を選定し,選定された検討用地震が敷地においてどのような地震動を生じさせるのかの評価を行い(敷地ごとに震源を特定して策定する地震動),
さらに,敷地近傍において発生する可能性のある内陸地殻内地震の全てを事前に評価し得るとは言い切れないとの観点から,震源と活断層を関連付けることが困難な過去の内陸地殻内地震について得られた震源近傍における観測記録を収集し,これらを基に各種の不確かさを考慮して敷地の地盤特性に応じた応答スペクトル(地震動が様々な固有周期を持つ構造物に対してどの程度の大きさの揺れを生じさせるかを,縦軸に加速度や速度等の最大応答値,横軸に固有周期をとって描いたもの)を設定して評価し(震源を特定せず策定する地震動)
,これらの評価結果に基づき基準地震動S

sを策定する。
特定の地点における地震動は,地震の震源特性(震源から放出される地震波の性質は,断層の大きさ,断層面の破壊の仕方等によって決まる。,)
地震の伝播特性(地震波は,震源からの距離とともにその振幅を減じながら,地下の岩盤中を伝播する。,地盤の増幅特性(サイト特性。地震波)
は,固い地盤から軟らかい地盤に伝わる際に振幅が大きくなる性質を持っている。
)によって大きく左右され,例えば,同じ内陸地殻内地震であっ
ても,震源となる断層の大きさ,断層破壊の起こり方等(断層のずれの方向,破壊開始点の位置,アスペリティの位置,破壊伝播速度等)の震源特性によって,地震又は地震波の特徴が大きく異なり得るのであり,ある地点の地震動が,過去の多数の地震動の標準的平均的な姿よりも大きくなるのは,当該地点の震源特性,伝播特性,地盤の増幅特性のいずれかが標準的平均的な姿よりも大きいことによると考えられる。

平成7年の兵庫県南部地震を契機に,新たな知見が急速に蓄積され,原子力発電所に係る地震動評価手法は,震源特性や地下構造による地震波の伝播特性及び地盤の増幅特性を,詳細な調査に基づいて検討することとされて著しく発展した。このように高度化された現在の地震動評価手法においては,過去に発生した地震ないし地震動を統計的に分析すること(回帰分析)により,多数の地震ないし地震動の最も標準的平均的な姿をまず明らかにして,それを基礎に,当該地点の地域性を踏まえて地震動評価を行うことが予定されている。発生した地震そのものの記録の数は限られているとしても,過去の地震の痕跡である地表地震断層の有無や大きさ等を詳細に調査し,文献調査等により千年以上にわたる過去の地震の特徴を考慮し,小規模な地震によって得られたデータも活用し,かつ,反射法・屈折法地震探査,ボーリング孔を利用したPS検層,試掘杭弾性波探査,多数の地震計による地盤の振動調査等の物理探査を行って,敷地地盤における
地震波の増幅特性を把握することにより,内陸地殻内地震の規模及び本件発電所に到来する地震動を予測することは十分に可能である。
基準地震動Ssの信頼性について

耐震設計審査指針の改訂を受けて,1審被告は,改めて本件敷地周辺における地質調査や地下構造の評価を行った上,耐震バックチェックの実施に伴い新たに基準地震動Ss(最大加速度700ガル)を策定した。この新たに策定した基準地震動Ssについては,平成22年11月29日付けで原子力安全・保安院が取りまとめた評価書において妥当なものと評価され,原子力安全委員会もこの原子力安全・保安院による評価を適切なものとした。
また,1審被告は,平成25年7月に新規制基準が施行されたことに伴い,本件敷地及びその周辺の地下構造に係る追加調査等を実施し,その調査結果や原子力規制委員会の審査における議論も踏まえ,不確かさの考慮について新たなケースを追加するなどして,基準地震動をより保守的で厳しいものとなるように見直し,改めて本件発電所の基準地震動としてSs-1~Ss-19(最大加速度はSs-4(水平方向)の856ガル)を策定した。その概要は,次のとおりである。


1審被告は,適宜,文献調査により本件敷地周辺における過去の地震発生状況を確認し,また,変動地形学的調査,地表地質調査,海上音波探査,地球物理学的調査等の各種調査により,敷地周辺における震源となる活断層の有無やその規模等の調査を実施するとともに,大規模な地下構造調査,敷地内での微動アレイ観測,地震波速度トモグラフィ解析等の各種調査や既往地震の震源データによる検討結果等から,周辺地域の地盤の速度構造及び地震発生層の評価を行った。そして,それらの調査結果等を踏まえ,
「敷地ごとに震源を特定して策定する地震動」の検討
用地震として,FO-A~FO-B~熊川断層による地震及び上林川断
層による地震を選定した(これらはいずれも内陸地殻内地震であるところ,他の地震発生様式であるプレート間地震や海洋プレート内地震については,本件敷地に及ぼす影響は大きくないと評価した。。

なお,本件敷地周辺の地震発生状況,敷地周辺における活断層の分布状況等の地質・地質構造,敷地周辺の地下構造等に関する調査・評価結果からは,周辺の震源特性,地下構造による地震波の伝播特性及び地盤の増幅特性に関して,過去の多数の地震の標準的平均的な姿よりも大きくなるような地域性が存する可能性を示すデータは,特段得られていない。また,広域応力場に関して,西南日本全体の断層活動は,東西方向の圧縮軸を持つ応力場で,約50万年前から大きく変わっていないとされている。ウ
1審被告は,検討用地震として選定した上記の各地震について,
「応答
スペクトルを用いた地震動評価」及び「断層モデルを用いた手法による地震動評価」をそれぞれ行い,本件敷地に到来し得る地震動について検討評価した。その際には,活断層の長さや幅等の震源特性を示すパラメータについて,不確かさを考慮して地震動がより大きくなるケースを設定し,地質調査結果からは連続していると考えられない複数の活断層について,これらが連動する可能性を考慮したり,断層上端の深さを浅く設定したり,断層モデルを用いた手法による地震動評価に当たって,新潟県中越沖地震の知見を踏まえ,短周期の地震動レベルを1.5倍したケースを設定したり,強震動を生起するアスペリティの位置を各断層について敷地近傍に配置したり,破壊開始点を地震動が大きくなるように断層面やアスペリティの下端に複数設定して,破壊伝播効果による地震動の増幅を考慮したり,破壊伝播速度を大きく評価するなどし,かつ,応答スペクトルに基づく地震動評価に当たって,アスペリティの位置を敷地近傍に配置したり,耐専式の定める内陸補正係数(これを乗じると,求められる地震動の応答スペクトルは全体的に小さくなる。
)を適用しないなど,様々な手法で保守的

な評価をした。

1審原告らは,強震動予測レシピの信頼性を論難するが,入倉・三宅式を含め,強震動予測レシピに示されている関係式の多くは,既往の研究結果を基に幾つもの地震におけるデータを統計的に分析し,全てのデータになるべく適合するような最も確からしい関係式を求めているのであり(回帰分析)
,このような既往の研究により求められた多数の関係式を組み合
わせて策定された強震動予測レシピの有効性・信頼性は,現実に発生した地震との比較において確認されている。そして,一連の地震動評価手法である強震動予測レシピに示された各パラメータは,複数のパラメータと相関関係を持っているのであり,各パラメータや複数の関係式のうちの一部を個別的に取り上げたり,特定のパラメータの大小のみに着目して,それぞれにつき別々に取り出した最大のデータの値を適用して掛け合わせるべきであるなどとする1審原告らの主張は誤りである。また,1審原告らは,予測手法として入倉・三宅式を用いると地震動が過小に評価される旨主張するが,1審被告は,上記のとおり詳細な調査結果に基づいて把握した震源断層の長さや幅をより保守的に設定した上で入倉・三宅式を用いているから,過小評価のおそれはない。


大飯発電所においては,上記のとおり,敷地近傍に存在する長い活断層であるFO-A~FO-B~熊川断層を震源とする地震(想定される地震の規模はマグニチュード7.8)を基にして「敷地ごとに震源を特定して策定する地震動」を評価しているから,本件発電所に到来し得る地震動の想定においては,
「敷地ごとに震源を特定して策定する地震動」が支配的
な地位を占め,地表に断層が出現しないような地震でこれより規模の大きい地震が発生するとは考えにくく,基準地震動の策定に当たって「震源を特定せず策定する地震動」が寄与する度合いは,そもそも小さい。1審被告は,
「震源を特定せず策定する地震動」の評価に当たって,加

藤研一ほかの論文で示された応答スペクトル(同論文では,日本や米国カリフォルニアで発生した合計41個の内陸地殻内地震を対象として,文献調査,空中写真判読によるリニアメント調査,地表踏査等の詳細な地質学的調査によっても,なお震源位置と地震規模を前もって特定できなかったと考えられる地震を選定し,選定された地震の震源近傍の観測記録等をおおむね上回るような地震動の応答スペクトルが示されている。
)を参照す
るとともに,地震審査ガイドに例示された16個の地震のうちの2個の地震について,地下構造に係る不確かさを考慮して敷地の地盤特性に応じた応答スペクトルを設定するなど,不確かさを適切に考慮して,
「震源を特
定せず策定する地震動」を策定した。

以上の検討を踏まえ,1審被告は,基準地震動Ssとして,Ss-1~Ss-19を取りまとめ,これらについて,地震審査ガイドに基づき年超過確率(1年間にある値を超過する確率)を参照したところ,10-4から10-6(1万年から100万年に1回)程度となった。
上記基準地震動Ssは,平成29年5月に原子力規制委員会が取りまとめた審査書において,新規制基準に適合している旨が確認された。以上によれば,1審被告が策定した基準地震動Ssは,最新の科学的知見等を踏まえ,詳細な調査に基づいて策定されていることから,本件発電所が基準地震動Ssを超過する地震動に襲われることはまず考えられない。他の観測事例との比較について


平成20年の岩手・宮城内陸地震では,4022ガルという最大加速度値が観測されているが,これが観測された地点(一関西)は岩盤上ではなく,揺れの大きくなる傾向にある軟らかい地盤上であり,岩盤上に設置された本件発電所とは地盤の増幅特性が大きく異なるし,上記の観測ではトランポリン効果の存在も指摘されていて,上記の最大加速度値をもって,本件発電所が基準地震動Ssやクリフエッジを超える地震動に見舞われる
可能性があるなどとするのは,明らかに不適切である。なお,最近の研究では,地震動が建物等の構造物に及ぼす被害という観点からみて,最大加速度は確かに重要な指標であるが,最大加速度が大きい地震動であっても建物等の構造物に大きな被害を及ぼさない場合もあり得ることが示唆されている。
また,平成19年7月の新潟県中越沖地震において,柏崎刈羽原発の解放基盤表面における地震動の最大加速度値が1699ガルと推定されているが,これは,震源特性の影響のみならず,柏崎刈羽原発の敷地固有の地盤特性に負うところが大きく,本件発電所においてその大きさを考慮しなければならないものではない。

本件5例(①平成17年8月の宮城県沖地震における女川原発,②平成19年3月の能登半島地震における志賀原発,③平成19年7月の新潟県中越沖地震における柏崎刈羽原発,④平成23年3月の東北地方太平洋沖地震における福島第一原発,⑤同じく女川原発)について,まず,①ないし③で超過したとされる基準地震動は,旧指針下の基準地震動S1又はS2であって,新指針下の基準地震動Ssではなく,これらは基準地震動Ssを超過していない。次に,①,④及び⑤における地震は,本件敷地に大きな影響を与えると予想されるものとして検討用地震に選定される内陸地殻内地震とは,地震発生様式等の全く異なるプレート間地震である。次に,①及び③では,基準地震動の超過が生じた原因として,当該地点に固有の地域的特性による影響が大きいと考えられている。また,③を除く事例では,剥ぎ取り解析を行って算出した剥ぎ取り波の応答スペクトルをみると,各々の原子力発電所における基準地震動の応答スペクトルを超過したのは,ほんの一部の周期にすぎなかった。
このように,本件5例では,本件発電所の基準地震動Ssの信頼性と直接に結び付かない要素が多々存在するのであり,しかも,いずれの事例に
おいても,地震動によって原子力発電所の安全上重要な設備の健全性に特段の問題は生じていない。
4
津波について
新規制基準では,原子力発電所の供用中に安全上重要な設備に大きな影響を及ぼすおそれがある津波として基準津波を策定することとされ,津波の発生要因として,地震のほか,地すべり,火山現象(噴火,山体崩壊等)などを考慮することが明記され,かつ,津波対策として,安全上重要な設備の設置高さが基準津波による遡上波が到達する高さにある場合には,防潮堤等の津波防護施設を設置することなどが定められた。1審被告は,津波に関しても,最新の科学的・技術的知見を踏まえ,適宜,文献調査,若狭湾沿岸の三方五湖等における津波堆積物調査,神社への聞き取り調査により本件敷地周辺における過去の津波発生状況を確認し,また,大飯発電所が立地している日本海側には海溝型のプレート境界は存在していないことから,敷地周辺の海域活断層を対象とした断層調査を実施するとともに,津波の伝播に影響する海底や海岸線の地形の調査等を実施した。そして,基準津波の策定に当たっては,それらの調査結果を踏まえ,約1万年前以降の完新世に本件発電所の安全性に影響を与えるような規模の津波の痕跡が認められなかったことを確認しつつ,後期更新世以降(約12~13万年前以降)の活動が否定できない海域活断層を震源とする地震による津波や,地すべり等の地震以外の要因による津波及び行政機関が想定した波源モデルによる津波,並びにこれらの重畳津波(地震と地すべりとの組合せ)について,不確かさを数値シミュレーションにおいて考慮するなど大きな水位変動をもたらすケースを検討した上で,津波評価をした。
1審被告は,安全上重要な設備が設置された敷地について,基準津波による遡上波が到達する高さにある場合には防護壁等の津波防護施設を設置する,引き波による水位低下により海水ポンプの取水機能が保持できない場合には
貯水堰を設置するなどした上で,津波に対する施設評価を実施し,安全上重要な設備が基準津波に対して安全機能を保持できることを確認した。また,重大事故等対処施設についても同様に,基準津波に対して重大事故等に対処するための必要な機能が損なわれないことを確認した。
本件ストレステストでは,津波に係るクリフエッジは津波高さが標準海水面から11.4m(基準津波の水位を大きく上回る。
)と評価されており,
発生の蓋然性はさておき,それまでの津波高さであれば,燃料の重大な損傷は生じないと評価されている。
5
本件発電所の安全確保対策について
安全上重要な設備について

1審被告は,本件発電所の安全性を確保するため,その自然的立地条件(地盤,地震,津波等)を適切に把握した上で,これが安全確保に影響を与えるような大きな事故の誘因とならないようにして共通要因故障を防止するとともに,運転に伴って不可避的に放出される極めて微量の放射性物質をできるだけ少量に抑えるなどの対策を講じ,事故により放射性物質が周辺環境に異常放出されることを防止するために,多重防護の考え方に基づく設計を実施し(異常発生防止対策,異常拡大防止対策及び放射性物質異常放出防止対策)
,かつ,安全性の維持・向上のための継続的な活動を
行って,設計の実効性を確保している。これらの安全確保対策により,本件発電所においては,周辺環境への放射性物質の異常な放出につながり得るような事故が生じること自体が考えられない上,万が一,そのような事故が生じた場合であっても,高い信頼性を有する設備等の安全機能により,周辺環境への放射性物質の異常な放出は確実に防止されるようになっている。しかも,1審被告は,異常や事故に対して高い信頼性を有する設備等がその安全機能を喪失するような事態をあえて想定し,そのような場合に事象の進展・拡大を防ぎ,炉心の著しい損傷や原子炉格納容器の破損を防
止できるようにするために,より一層の安全性向上対策(重大事故等対策)を講じている。
1審原告らは,新規制基準では,外部電源や計装系の耐震重要度分類が従来と同じCクラスのままであるなどとして,安全上重要な施設のみをSクラスとし,それが基準地震動で機能喪失しなければ安全であるという考え方では安全は確保されないと主張するが,原子力発電所全体としての安全性を確保するためには,重要度に応じて要求の程度を変化させる方法(グレーディッドアプローチ)が有効なのであり,このような安全規制の方法は,IAEAの国際基準や多くの国で広く採用されている。なお,新規制基準の下では,原子炉水位計等の計測機器は重大事故等対処設備に該当し(設置許可基準規則2条2項11号,43条)
,その故障により重大
事故等に対処するために監視することが必要なパラメータを計測することが困難となった場合は,当該パラメータを推定するために有効な情報を把握できる設備の設置が求められるなど(同58条)
,シビアアクシデント
発生時に計装系が十分機能するよう規制が強化されており,1審原告らの主張は理由がない。

原子炉の安全性を確保する(原子炉を止める,冷やす,放射性物質を閉じ込める)ために重要な役割を果たす安全上重要な設備(原子炉格納容器,原子炉容器,制御棒,制御棒駆動装置,蒸気発生器,1次冷却材管,非常用ディーゼル発電機,補助給水設備,海水ポンプ,海水管等)は,基準地震動Ssに対して機能を喪失しないという耐震安全性を有し,原子力発電所の通常運転に必要な設備(主給水ポンプ,タービン,発電機等。これらが仮に機能喪失したとしても,原子炉を止める,冷やす,放射性物質を閉じ込めるという機能に支障は生じない。
)に比べて,格段に高い信頼性を
持たせている。安全上重要な設備の耐震安全性の確認に当たっては,評価値が評価基準値に対して余裕を持っていることに加えて,評価基準値自体
が実際に機器等が機能喪失する限界値に対して余裕を持った値に設定されている上,評価値を計算する過程においても,計算結果が保守的になるように条件設定等で余裕を持たせた。しかも,1審被告は,地震,津波等の自然力による共通要因故障の発生を防止した上で,更に事故防止に係る安全確保対策において,信頼性確保のために多重性,多様性,独立性を考慮した設計としている。そして,安全上重要な設備の機能が維持できれば,それ以外の設備の機能が喪失したとしても,原子炉が危険な状態になることはない。
また,1審原告らは,機器・配管系の評価では老朽化による耐力の低下を解析に加える必要があるのに,それがされていない旨主張するが,1審被告は,設計・施工のみならず,保守管理も適切に行い,検査等によって技術基準に適合した状態を維持していることを確認しており,その劣化が耐震安全性に有意な影響を与えるとは考えられないから,これを耐震安全性の評価に当たって考慮すべき理由はない。

1審被告は,上記の信頼性をより一層向上させる観点から,様々な耐震裕度向上工事を適宜実施している。また,新たに策定した基準地震動Ss-1~Ss-19(最大加速度856ガル)についても,これに対する地震応答解析を行い,その結果得られた発生応力値等(評価値)が評価基準値を満たし,しかも,評価基準値に対して余裕を有していることを確認するなどの耐震安全性評価を行うことにより,本件発電所の安全上重要な設備がいずれも基準地震動Ss-1~Ss-19に対し,安全機能を維持できることを確認している。原子力発電所における安全上重要な設備が耐震安全上の余裕を有していることは,財団法人原子力発電技術機構の多度津工学試験センターにおける実機を模した振動実験においても実証されている。
異常の発生・拡大防止,重大事故等対策について


本件発電所では,発電機が停止し,かつ,外部電源も喪失した場合に,原子炉を安全に停止した状態で維持するための必要な電力を供給し,工学的安全施設作動のための電力を供給する非常用ディーゼル発電機が備えられているところ,1台で必要な電力を供給できる容量を持つものを各号機に2台ずつ備え,1台ずつを独立した区画に分離して設置している。しかも,1審被告は,外部電源及び非常用ディーゼル発電機による電源供給機能も全て喪失する全交流動力電源喪失が生じた場合も想定し,非常用ディーゼル発電機とは位置的分散を図り,独立性を有する常設の空冷式非常用発電装置(運転に海水等を必要とせず,交流電源はもとより,直流電源の供給も可能であり,各号機につき必要な容量を有するものを高台に配備している。
)や電源車(プラント監視機能の維持等に必要な容量を有するも
のを各号機に2台ずつとバックアップ用のものを備え,空冷式非常用発電装置とは異なる場所に,かつ,電源車同士も場所を分散して保管している。
)を電源ケーブルとともに配備している。なお,可搬型設備は,運用の柔軟性,優れた耐震上の特性が認められるなどの利点を有し,新規制基準も,重大事故等対策において可搬型設備の設置を要求している。

原子炉停止後の残留熱を除去する冷却手段を確保するため,通常は,2次冷却設備の主給水ポンプで蒸気発生器への給水を継続することにより,蒸気発生器で1次冷却材の熱を2次冷却材に伝えて原子炉の残留熱を除去するが,何らかの原因で主給水ポンプによる給水機能が失われた場合には,別の水源から蒸気発生器に水を送る補助給水設備により,蒸気発生器への給水を維持する。補助給水設備には,電動機により駆動する電動補助給水ポンプと,動力源として電力を必要とせず,蒸気タービンにより主蒸気管から分岐した蒸気で駆動するタービン動補助給水ポンプがあり,本件発電所の各号機に前者は2台,後者は1台ずつ設置されている。なお,タービン動補助給水ポンプは復水ピットを水源としているが,復水ピットの水が枯渇す
る前に,電源を必要としない消防ポンプ(ガソリンにより駆動し,発電所内の備蓄に加えて,ガソリンをヘリコプターにより空輸する手段等も整備している。
)等により,発電所構内の純水を貯蔵しているタンクや海から
必要な水量を供給できるようにしており,また,原子炉補機冷却水冷却器や海水ポンプが使用できない場合に備えて,ディーゼル駆動式の大容量ポンプを配備している。

1次冷却設備等の原子炉施設の故障や破損等による炉心の著しい損傷及びそれに伴う多量の放射性物質放出を防止又は抑制するため,非常用炉心冷却設備(ECCS)
,原子炉格納施設(原子炉格納容器及びアニュラス部で構
成されている。アニュラス部は,原子炉格納容器の配管等貫通部の外側に設けられた密閉空間であり,配管等の貫通部から漏えいした空気を閉じ込める。,原子炉格納容器スプレイ設備(格納容器スプレイポンプ,スプレイリ)
ング等で構成され,LOCAが発生した場合等に,核分裂により生成した放射性ヨウ素を吸収しやすくする薬剤をホウ酸水に添加しながら,格納容器内に水を噴霧して圧力を下げるとともに,格納容器内に浮遊する放射性ヨウ素等を除去する。,アニュラス空気浄化設備(アニュラス空気浄化ファン,ア)
ニュラス空気浄化フィルタユニット等で構成され,LOCAが発生した場合等に,周辺環境に放出される放射性物質の濃度を減少させる。
)等の工学的
安全施設を設置している。工学的安全施設の作動については,高い信頼性を確保する必要があることから,多重性又は多様性及び独立性を持たせ,互いに独立した2系統以上の設備で構成することにより,同時にその機能を喪失しない設計としている。
ECCSは蓄圧注入系,高圧注入系及び低圧注入系でそれぞれ複数の系統により構成され,1次冷却材管の破断等によりLOCA等が発生した場合,原子炉を冷却して炉心の著しい損傷を防止するため,ホウ酸水を原子炉容器内に注入するものであるが,いずれの設備も燃料取替用水ピットの
ホウ酸水の水位が低くなった際に,水源を原子炉格納容器再循環サンプに切り替えて原子炉容器内に継続して注入することが可能である。また,多重性を持たせている高圧注入系が何らかの原因で2系列とも機能喪失する事象を想定し,このような状況に対処するため,蒸気発生器を通じた除熱に加えて,低圧注入系又は恒設代替低圧注水ポンプ(燃料取替用水ピットを水源として原子炉に注水する。,更には可搬式の代替低圧注水ポンプ(電)
源を必要としない消防ポンプにより海水を仮設組立式水槽に汲み上げて,これを水源として原子炉に注水し,専用の電源車を備えている。
)も配備
して,1次冷却材圧力を低下させ,炉心へ冷却水を注入する手段を確保している。
加えて,大破断LOCAが発生した場合に,ECCS及び原子炉格納容器スプレイ設備がその機能を喪失する事象を想定し,格納容器内に発生した蒸気等による圧力上昇を抑制するため,淡水タンクの水を,消防ポンプを用いて格納容器スプレイ配管に送水できるルートを設置し,かつ,上記の恒設代替低圧注水ポンプ及び可搬式代替低圧注水ポンプも,1次冷却材減少時の原子炉への直接注水という用途に加えて,格納容器スプレイ配管を通じてスプレイリングから格納容器内に注水して使用できるようにしている。さらに,自然対流冷却による原子炉格納容器内の除熱を可能とする格納容器再循環ユニット(新規制基準では,格納容器圧力逃がし装置又は格納容器再循環ユニットの設置を要求している。
)や,海水ポンプの代替
となるディーゼル駆動式の大容量ポンプを配備しており,これらの設備によって,格納容器内の温度や圧力を低下させ,格納容器の過圧破損を防止することが可能である。

本件発電所では,放射性物質を確実に閉じ込めるため,5重の防壁を設けている。第1の防壁はペレット(ウランと酸素の化合物である二酸化ウランを小さな円柱形に焼き固めたもので,燃料棒として燃料被覆管の中に
縦に積み重ねられている。
)であり,ペレットは高温で焼き固めたセラミ
ックであるため,化学的に非常に安定しており,放射性物質の大部分を閉じ込めることができる。第2の防壁は燃料被覆管であり,気体状の放射性物質は一部がペレット外に出るが,ペレットは燃料被覆管内に密封されており,気体状の放射性物質は燃料被覆管内に閉じ込められる。第3の防壁は原子炉容器であり,燃料集合体は原子炉容器内に収納されているが,放射性物質が燃料被覆管から1次冷却材中に漏れ出したとしても,鋼製の原子炉容器等が防壁となり,放射性物質は原子炉容器内に閉じ込められる。第4,第5の防壁は,原子炉格納容器内側の炭素鋼製ライナプレート,コンクリート造の格納容器本体であり,格納容器は耐圧性能を有し,仮に放射性物質が1次冷却設備から格納容器内に漏れ出した場合でも,格納容器によって閉じ込められる。
原子炉格納容器において,万が一,1次冷却材管が破断するなどして,放射性物質を含む1次冷却材が高温,高圧の蒸気となって放出され,格納容器内の圧力が上昇する事象が発生したとしても,自動的に作動する格納容器スプレイ設備で水を噴霧することにより,蒸気を凝縮させて格納容器内の圧力を下げ,その健全性を保つことにより格納容器内に放射性物質を閉じ込め,自動的にアニュラス空気浄化設備も起動し,周辺環境への放射性物質の異常な放出を防止する設計としている。

本件発電所では炉心の著しい損傷に至る蓋然性はないから,これが生じることを前提に水蒸気爆発や水素爆発の危険性を論ずる1審原告らの主張は,その前提を欠く。また,仮に炉心の著しい損傷の発生を想定したとしても,1審被告は,水蒸気爆発に関する種々の大規模実験の結果等を基に,実機においては水蒸気爆発の発生する可能性が極めて低いことを確認しており,水素爆発に関しても,原子炉下部キャビティ(原子炉容器の直下にある原子炉格納容器底部の凹部分)に水を張って溶融炉心を冷却し,コア
・コンクリート反応による水素の発生を防ぐことができるところ,同キャビティへの水の流入経路を複数確保し,仮に保温材が配管破損に伴い飛散するような場合でも,グレーチングや柵によって保温材が適宜捕捉され,流入経路が閉塞されないようにしている。さらに,想定するジルコニウム総反応量を新規制基準の定める75%を上回る81%(コア・コンクリート反応に伴う発生も含む。
)という保守的な条件にして解析した結果,静
的触媒式水素再結合装置(原子炉格納容器内の水素濃度上昇に従って,水素と酸素を結合させて水素濃度を低減する装置であり,電源を必要としない。
)及び原子炉格納容器水素燃焼装置(水素が格納容器内に拡散・蓄積して水素濃度が上昇する前に,水素を強制的に燃焼させることで水素濃度を低減する装置で,14基設置している。
)による水素濃度低減対策によ
り,水素爆発が発生しないことを確認している。
なお,1審原告らが主張する原子炉容器への注水による水素爆発やTI-SGTRは,その発生可能性が極めて低いことから,重大事故等対策において想定すべき事象とはしていない。

1審被告は,単に新たな設備や資機材を配備するだけでなく,運用面においても,定期的に点検,検査,取替え等を実施しているほか,役割分担や要員配置等の体制を整備し,マニュアルを作成するなどして手順を確立し,実際に設備や資機材を配置して給電,給水等を行う訓練を夜間,休日を含めて繰り返し実施している。その結果,仮に全号機が同時に電源供給や冷却の機能を喪失した場合においても,電源ケーブルを電源盤につなぎ込んでの給電や,ホースを接続して各種ポンプを用いた給水等を行うことにより,所定の時間内に必要量の電源,冷却水を確保できることを確認している。


テロ等への対応について,我が国の法制上,基本的に犯罪行為の予防及び鎮圧は警察の責務とされているが,1審被告は,本件発電所において,
核物質防護のため,実用炉規則91条の定めに基づき,防護区域,周辺防護区域及び立入制限区域という三重の区域設定を行っている。すなわち,原子力発電所の建屋をコンクリート壁等の強固な障壁によって区画し,外部と遮断された防護区域を設定し,その外側に柵等の障壁によって区画された周辺防護区域を設定し,さらに,これらの区域への部外者の侵入をより確実に防止するため,周辺防護区域の外側に柵等の障壁によって区画された立入制限区域を設定し,各区域境界に侵入検知装置等を設置している。また,従来から24時間体制で原子力発電所の警備を実施してきたが,警察及び海上保安庁においても,陸上及び海上から24時間体制で厳重な警備が行われている。さらに,平成18年度から国による核物質防護検査制度が導入され,原子力規制委員会の検査官によって核物質防護規定(改正原子炉等規制法43条の3の27)の遵守状況に関する検査が毎年行われ,物的障壁,監視装置及び入退域管理等の核物質防護対策の実施状況について確認を受けている。
なお,ミサイル等による大規模テロ攻撃又は他国による武力攻撃は,緊急対処事態として,
「武力攻撃事態等における国民の保護のための措置に
関する法律」「武力攻撃事態等及び存立危機事態における我が国の平和,
と独立並びに国及び国民の安全の確保に関する法律」に基づき,国が対処することになっていて,1審被告は,同法に基づき国と連携して対処していくこととなる。近時,朝鮮民主主義人民共和国がミサイルの発射実験を繰り返しているが,同国が本件発電所をミサイル攻撃の対象として選定し,ミサイル攻撃を実行に移す具体的かつ現実的な危険が切迫しているとはいえないのであって,1審原告らの人格権が侵害される具体的危険があるとは考えられない。このほか,原子炉施設及び核燃料物質の防護のために必要な設備又は装置の操作に係る情報システムについては,外部からのアクセスを遮断する設計としている。


このように,1審被告は,新規制基準の考え方(重大事故等対策では,重大事故等の発生及び具体的な事故の進展を確率論的リスク評価の手法等を用いて検討し,その事故の進展に対して講じた対策が有効であることが評価される。
)に則り,運転時の異常な過渡変化や設計基準事故が発生し
た場合を仮定し,その際に外部電源の喪失等の厳しい条件をあえて設定しても,炉心の著しい損傷等は生じず,当該事象を安全に収束することが可能であることや,万が一それらを超える重大事故等が発生した場合であっても,なお炉心の著しい損傷や原子炉格納容器の破損を防止し,又は放射性物質の異常な放出を低減するための対策が有効であることを確認している。
多重防護について


1審原告らは,事故対策における多重防護の各段の防護策のいずれか1つに不備がある場合には,原子力発電所に具体的危険性があると判断されるとし,IAEAが定める5つの多重防護レベルの第4層の過酷事故対策及び第5層の防災対策に不備があるから,本件発電所には具体的危険性があると主張するが,本件は人格権等の侵害を根拠とする民事の差止請求訴訟であり,差止請求の要件として人格権等を侵害する具体的危険性の存在が必要とされるべきであるから,いかなる欠陥に起因して,どのような機序で,1審原告らの人格権等を侵害するような放射性物質の大量放出等が生じるに至るのかが具体的に示されなければ,具体的危険性の存在は肯定されない。したがって,1審被告が講じている安全確保対策の有効性が評価の対象とされる場合において,1審原告らが主張するような判断枠組みを持ち込んで,前段階の対策が奏効しないという前提を無条件に設定することは,危険性を抽象的・潜在的な次元で判断しようとするものにすぎず,不合理であるのは明白である。そもそも本件発電所において,炉心の著しい損傷や周辺環境への放射性物質の異常な放出が生じる蓋然性はないので
あるから,このような事態が生じることを前提とする過酷事故対策及び防災対策の内容の当否は,本件訴訟では問題とならない。

原子力災害対策については,災害対策基本法に基づいて中央防災会議により「防災基本計画(原子力災害対策編)
」が策定され,同法の特別法で
ある原子力災害対策特別措置法に基づいて原子力規制委員会により原子力災害対策指針が策定されている。そして,防災基本計画及び原子力災害対策指針に基づいて,地方公共団体は「地域防災計画(原子力災害対策編)
」を作成し,原子力事業者は原子力事業者防災業務計画を作成することとされている。大飯発電所に関しても,1審被告は,原子力事業者防災業務計画を作成し,平常時から,原子力防災組織の編成,原子力防災資機材の配備,国や地方公共団体等との連絡体制の整備等を行い,緊急時には,国や地方公共団体等の原子力災害対策に要員を派遣し,資機材を貸与するなど,連携して原子力災害の発生及び拡大を防止し,復旧を図っていくこととしている。
ストレステストについて
ストレステストは,当該事象の発生の蓋然性とは無関係に,原子力発電所
が想定を超える地震や津波等に襲われた場合を仮想的に評価し,どの程度の大きさの地震動や津波でどのような事態が生じ得るか,そして,どの程度の地震動や津波にまで耐えられるかを検討したものである。すなわち,ストレステストにおいては,そのような大きさの地震動等が実際に原子力発電所に到来するか否かといった蓋然性の問題は一切捨象されている。しかも,プラントの各機器の耐震裕度を評価するに際しては,評価基準値の持つ余裕や計算条件の余裕は含まれず,原則として評価基準値を評価値で除した値がそのまま利用されている。本件ストレステストでは,そもそも基準地震動Ssを超える地震動が本件発電所に到来することなどはまず考えられないものの,クリフエッジ(プラントの状況が急変する地震,津波等のストレスのレベ
ル)が基準地震動Ssの1.80倍(1260ガル)と評価されていて,本件発電所が基準地震動Ss(従前の700ガル)を超える地震動に襲われることをあえて仮定しても,その1.8倍の地震動までは,燃料の重大な損傷は生じないと評価されていることになるし,クリフエッジを超える地震動の到来が直ちに燃料の重大な損傷の発生を意味するわけでもない。
なお,本件ストレステストの報告書中のイベントツリーに関し,ストレステストにおける事象の選定は,日本原子力学会が定めた「原子力発電所の地震を起因とした確率論的安全評価実施基準:2007」の考え方に基づいており,原子力安全・保安院により,事象の選定を含めて評価内容の妥当性が確認されている。また,ストレステストの検討対象設備から支持構造物が除外されているが,これは,その変形等が本体の安全機能喪失に直接結び付かないこと,支持構造物は全体の数が非常に多く,安全機能を失うまでの耐震裕度を個別に定量的に算定することが困難であること,支持構造物が大きな地震荷重を受ける際には自らの変形によるエネルギー吸収が生じ,荷重分担が生じるため,損傷が本体の安全機能喪失に至るまでに大きな余裕があることが理由である。
火山灰対策について

1審被告は,原子力規制委員会が原子力発電所への火山の影響を評価するための方法等を取りまとめた火山評価ガイドを踏まえ,文献調査及び地質調査を実施し,本件敷地及びその周辺に堆積した降下火砕物を抽出したところ,火山の活動履歴やマグマ溜まりの深度等に照らし,立地評価として,本件発電所の運用期間中に設計対応不可能な火山事象が影響を及ぼす可能性は十分に小さいと評価し,また,影響評価として,本件発電所に影響を及ぼす可能性のある火山事象により本件発電所の安全性が損なわれないことを確認した。そして,原子力規制委員会は,1審被告の本件発電所に係る火山事象に対する評価及び本件発電所の安全確
保対策が新規制基準に適合していることを確認している。

1審被告は,文献調査や周辺地域の調査結果等を踏まえ,本件発電所の運用期間中における敷地の降下火砕物の最大層厚を10㎝と設定し,降下火砕物の粒径を1㎜以下,乾燥密度を0.7g/㎥,湿潤密度を1.5g/㎤と設定した。そして,降下火砕物の荷重により本件発電所の健全性が損なわれない設計にするとともに,腐食,摩耗及び閉塞等の科学的,機械的影響によって安全機能が損なわれることのないよう,開口部を下向きに設置して,降下火砕物が流路に侵入し難い設計にしたり,換気空調設備や非常用ディーゼル発電機の吸気消音器にそれぞれフィルタを設置し,降下火砕物がフィルタに付着した場合でも交換や清掃が可能な構造にするなどして,降下火砕物による影響が生じない設計にしている。また,平成29年以降に原子力規制委員会で行われた気中降下火砕物濃度に関する改正議論を踏まえ,1審被告は,数g/㎥の気中降下火砕物濃度においても,非常用ディーゼル発電機の吸気フィルタが閉塞することのないように,その吸気フィルタの上流側に,吸気フィルタとは別のカートリッジ型のフィルタを設置する改良工事を実施することで,降下火砕物の捕集性能を向上させるとともに,非常用ディーゼル発電機を運転したままカートリッジ型フィルタの交換ができる対策を行うこととし,同年9月20日同工事を完了した。
以上によれば,火山事象の影響によって本件発電所に深刻な事故が発生することはない。
1審被告の技術的能力について
原子力規制委員会により本件発電所に係る原子炉設置変更許可,工事計画
認可,保安規定変更認可がされたが,1審被告の技術的能力についても,原子力規制委員会の厳格な審査を経て確認されている。また,1審被告は,本件発電所の安全を達成,維持,向上させるため,社団法人日本電気協会が策
定した原子力発電所における安全のための品質保証規程に基づき,原子力発電所における保安活動に係る品質マネジメントシステムを確立し,安全に関わる全ての活動において,業務を計画し,実施し,評価し,改善するという品質保証活動を行うとともに,運営に携わる所員の資質の維持向上のため継続的な教育・訓練を実施するなどして,安全意識の更なる向上に取り組んでいる。
6
使用済核燃料プールについて
使用済核燃料の危険性について
本件使用済核燃料プール(使用済燃料ピット)は,使用済核燃料の冷却に十分な量の水で満たされている。この水は使用済核燃料から発生する崩壊熱を除去するため,冷却設備により継続的に冷却され,水位等は常時監視され,仮に冷却機能が喪失する等して水位が低下した場合でも,水を補給するための設備(電源を必要としない可搬式の消防ポンプ等により,構内の淡水を貯蔵しているタンク,1次系純水を貯蔵しているタンクにより給水し,かつ,海から必要な水量を注水できるようにしている。
)を備えている。また,同
プールは,構内道路に近接した場所に配置され,燃料の搬出入用の扉が設けられているため,車両や要員のアクセス性は非常に高く,外部からの注水も非常に容易である。
防御の必要性について

使用済核燃料は,炉心の燃料と異なり,冠水状態さえ維持されていれば崩壊熱が十分除去され,放射性物質を閉じ込める役割を果たす燃料被覆管の損傷に至ることはなく,周辺環境への放射性物質の放出は生じないから,原子炉格納容器のような堅固な施設による閉じ込めを必要としない。

大飯発電所の周辺で最大風速毎秒50mを超える規模の竜巻が観測されたことはないが,1審被告は,風速毎秒100mの竜巻の襲来を前提とし,また,竜巻によって重量約135㎏の鋼製材が飛来することを想定し,こ
れが建屋の壁を貫通して本件使用済核燃料プールやその内部の燃料集合体に直接衝突することを仮定した影響評価を実施している。その評価の結果,原子炉周辺建屋の屋根及び外壁が飛散しないこと,本件使用済核燃料プールの水の吸い上げは生じないこと,内張りされたステンレス鋼板は飛来物の衝突により損傷する可能性があるものの,躯体部分である鉄筋コンクリートを飛来物が貫通することはないこと,飛来物が燃料集合体に直接衝突しても,燃料被覆管に生じる歪みは,鉛直方向で0.3%,水平方向で0.1%であって,許容値である破断歪み1%を下回っており,燃料被覆管の破損が生じることはないことなどが確認されている。
耐震安全性について
本件使用済核燃料プールは,原子炉補助建屋の基礎直上の地盤面近くに設置され,壁面及び底部を厚さ約2~4mの鉄筋コンクリート造とし,内面にステンレス鋼板を内張りした強固な構造物であり,基準地震動に対する耐震安全性を備えている。また,これを覆っている原子炉補助建屋,プール水の冷却設備及び補給設備,並びにプール水の冷却・補給機能を万が一喪失した場合に本件使用済核燃料プールに注水し,必要な水量を補う送水車等についても,基準地震動に対する耐震安全性を備え,その他,津波や竜巻に対しても安全機能が維持できることを確認している。
第4
1
当裁判所の判断
本件差止請求の判断基準について
1審原告らは,本件訴訟において,人格権又は環境権に基づいて本件発電所の運転の差止めを求めている。このうち環境権に基づく差止請求は,人が健康で快適な生活を営むために必要な環境を享受する権利があるとして,その権利を差止請求の根拠とするものであるが,健康で快適な生活を営むために必要な環境というのは,各人の主観によって相違があり,しかも,概念的に一応の権利性があるとしても,その権利に盛り込まれる具体的な環境の内
容,あるいは環境を享受し得る主体等が不明確で漠然としており,実定法の上でも明確な規範を観念することは困難であるから,およそ裁判規範として機能しないというべきである。一方で,人格権に基づく差止請求は,人の生命や健康を維持し,人として生きていくにふさわしい生活状態を保持するという,正しく人間としての根源的な権利を意味する人格権を根拠とし,その権利に対する侵害の排除ないし予防を目的とするから,裁判規範として機能するものである。
一般に差止請求は,それが人格権に基づくものであるとしても,相手方が本来有する権利や自由を直接的に制約することにもなるから,制約される相手方の権利が財産権の行使であるとしても,これが認められるためには,その侵害によって人格権の権利者が被害を受ける具体的危険があり,かつ,その侵害により回復し難い重大な損害が生じ得ることが客観的に想定され,その損害が相手方の被る不利益よりも遙かに大きいことに加え,直接的に相手方の権利や自由を制約することのほかに代替手段がないことを要するものと解される。
原子力発電所は,ひとたび設備の破損等による事故が発生すれば,人体に有害な放射性物質が所外に漏えいして,殊に原子力発電所に近接して居住する住民の生命や健康に重大な被害がもたらされる可能性があるほか,避難等に伴って住民の生活やコミュニティが破壊され,また,放射性物質は極めて長期にわたって漏えいした場所に残存するから,破壊された生活やコミュニティの再構築が著しく困難となるのであって,これらの事柄は,福島原発事故をみるまでもなく明らかである。したがって,原子力発電所の設備等について事故を起こす欠陥があり,周辺の環境に対して放射性物質の異常な放出を招く危険があるのであれば,どの範囲の住民が運転の差止めを求め得るのかはともかく,人格権を侵害するとして,上記の危険がある原子力発電所について,住民はその運転差止めを請求することができる。

その一方で,現在の我が国の法制度をみると,原子力の研究,開発及び利用を推進することによって,将来におけるエネルギー資源を確保し,学術の進歩と産業の振興とを図り,もって人類社会の福祉と国民生活の水準向上とに寄与することを目的として,原子力基本法が制定され(同法1条),また,
同法の精神にのっとり,原子炉等の利用が平和の目的に限られることを確保するとともに,原子力施設において重大な事故が生じた場合に放射性物質が異常な水準で当該原子力施設の外へ放出されることなどの災害を防止し,公共の安全を図るために,原子炉の設置及び運転等に関し,大規模な自然災害及びテロリズム等の発生も想定した必要な規制を行い,もって国民の生命,健康及び財産の保護,環境の保全並びに我が国の安全保障に資することを目的として,原子炉等規制法が制定されている(同法1条)
。すなわち,我が
国の法制度は,原子力発電を国民生活等にとって一律に有害危険なものとして禁止することをしておらず,原子力発電所で重大な事故が生じた場合に放射性物質が異常に放出される危険性や,放射性廃棄物の生成・保管・再処理等に関する危険性に配慮しつつも,これらの危険に適切に対処すべく管理・統制がされていれば,原子力発電を行うことを認めているのである。そうすると,このような法制度を前提とする限り,人格権に基づく原子力発電所の運転差止めの当否を考えるに当たっても,原子力発電所の運転に伴う本質的・内在的な危険があるからといって,それ自体で人格権を侵害するということはできない。
もっとも,この点は,法制度ないし政策の選択の問題であり,福島原発事故の深刻な被害の現状等に照らし,ひとたび重大な原発事故が起きれば,大量の放射性物質が放出されるなどして,周辺住民等に広範かつ深刻な被害が生じるおそれがあり,しかも,被害が起きればそれが長期にわたって継続・拡大し,その回復が極めて困難であることなどを考慮して,我が国のとるべき道として原子力発電そのものを廃止・禁止することは大いに可能であろう。
しかし,その当否を巡る判断は,もはや司法の役割を超えるものであり,国民世論として幅広く議論され,それを背景とした立法府や行政府による政治的な判断に委ねられるべき事柄である。
以上によれば,原子力発電所の運転差止めの当否,すなわち原子力発電所における具体的危険性の有無を判断するに当たっては,原子力発電所の設備が,想定される自然災害等の事象に耐えられるだけの十分な機能を有し,かつ,重大な事故の発生を防ぐために必要な措置が講じられているか否か,言葉を換えれば,上記のとおり,原子力発電に内在する危険性に対して適切な対処がされ,その危険性が社会通念上無視しうる程度にまで管理・統制がされているか否かを検討すべきである。
なお,原子力発電所で重大な事故が生じた場合の被害の深刻さと侵害される権利の対象が人格権であることに照らせば,1審被告が主張するような,原子力発電の供給安定性,環境性及び経済性といった点を考慮すべき事柄として取り上げるのは相当でない。
ところで,原子炉等規制法は,上記の目的に従い,発電用原子炉を設置しようとする者は,政令で定めるところにより,高度の専門的知見に基づき中立公正な立場から独立して職権を行う行政機関である原子力規制委員会の許可を受けなければならないと定め(同法43条の3の5,設置法1条ないし4条)
,その許可の要件として,
「発電用原子炉が平和の目的以外に利用さ
れるおそれがないこと」「その者に発電用原子炉を設置するために必要な,
技術的能力及び経理的基礎があること」「その者に重大事故(発電用原子,
炉の炉心の著しい損傷その他の原子力規制委員会規則で定める重大な事故)の発生及び拡大の防止に必要な措置を実施するために必要な技術的能力その他の発電用原子炉の運転を適確に遂行するに足りる技術的能力があること」,
「発電用原子炉施設の位置,構造及び設備が核燃料物質若しくは核燃料物質によって汚染された物又は発電用原子炉による災害の防止上支障がないもの
として原子力規制委員会規則で定める基準に適合するものであること」(原
子炉等規制法43条の3の6第1項各号)を求めており,許可を受けた事項を変更しようとする場合においても,同じく原子力規制委員会の許可を受けなければならないとしている(同法43条の3の8)

このように定められた趣旨は,上記のとおり原子力発電所が安全性を欠くときには極めて深刻な災害を引き起こすおそれがあることに鑑み,その災害が万が一にも起こらないようにするため,原子力発電所の設置又は変更の許可の段階において,申請に係る原子力発電所の設備の安全性等につき,科学的・専門技術的見地から十分な審査を行うこととし,その審査においては,原子力工学はもとより,将来の予測に係る事項も含めた多方面にわたる極めて高度な最新の科学的・専門技術的知見に基づく総合的な判断が必要とされることから,安全性に関する具体的審査基準の制定及び申請に係る原子力発電所の当該基準への適合性について,高度の専門的知識と高い独立性を持った原子力規制委員会の合理的な判断に委ねたものと解するのが相当である。このような原子力発電所に係る法規制の在り方も考慮すると,申請に係る原子力発電所が上記の具体的審査基準に適合しているとの判断が原子力規制委員会によってされた場合は,当該審査に用いられた具体的審査基準について現在の科学技術の水準に照らし不合理な点があるか,あるいは当該原子力発電所が具体的審査基準に適合するとした原子力規制委員会の判断に見過ごし難い過誤,欠落があるなど不合理な点があると認められるのでない限り,当該原子力発電所が有する危険性は社会通念上無視しうる程度にまで管理され,放射性物質の異常な放出を招くなどして周辺住民等の人格権を侵害する具体的危険性はないものと評価できるというべきである。
そうすると,上記の場合における原子力発電所の運転差止めを求める民事訴訟の審理に当たっては,原子力規制委員会が用いた具体的審査基準に不合理な点があるか,あるいは当該原子力発電所が具体的審査基準に適合
するとした原子力規制委員会の判断に不合理な点があるか否かが審理の対象とされるべきである。
差止請求の当否に関する主張立証責任については,民事訴訟の一般原則によれば,基本的に差止めを求める原告側が負うことはもちろんであるが,原子力発電所の設置変更許可を得た被告(電力事業者)側は,安全性の確保に関する科学的・技術的知見を有することはもとより,設置変更許可に関する資料を全て所持しているはずであるから,公平の見地に従い,被告側において,最新の科学的・専門技術的知見に照らし,原子力規制委員会が審査に用いた具体的審査基準並びに調査審議及び判断の過程などからして,原子力規制委員会の判断に不合理な点がないことを相当の根拠資料に基づいて主張,立証すべきであり,被告がその主張,立証を尽くさない場合には,原子力規制委員会の判断に不合理な点のあることが事実上推認されるというべきである。
2
新規制基準の合理性・不合理性について
証拠(乙65,67ないし72,74,113ないし118,143。枝番のあるものは枝番を含む,以下同じ。
)によれば,①原子力規制委員会は,
福島原発事故の教訓から,原子力利用の安全確保を図るため,その推進部門から分離・独立し,国家行政組織法3条2項に定める委員会として設置された行政機関であり,その委員長及び委員は,人格が高潔であって,原子力利用における安全の確保に関して専門的知識及び経験並びに高い識見を有する者のうちから,両議院の同意を得て,内閣総理大臣が任命し,独立してその職権を行うものとされたこと(設置法2条,5条,7条1項)
,②原子力規
制委員会の発足を受け,同委員会の下に発電用軽水型原子炉の新規制基準に関する検討チーム,発電用原子炉施設の新安全規制の制度整備に関する検討チーム,発電用軽水型原子炉施設の地震・津波に関わる規制基準に関する検討チーム,核燃料施設等の新規制基準に関する検討チームなどが置かれ,各
チームには,それぞれの分野における学識経験者,原子力規制委員会担当委員,原子力規制庁や独立行政法人原子力安全基盤機構の職員らが所属したこと,③各チームの会合はインターネット上で公開され,各チームは,それぞれ数か月以上にわたり,10回ないし20回以上の会合を開いて議論を重ねたこと(例えば,発電用軽水型原子炉の新規制基準に関する検討チームは平成24年10月25日から平成25年6月3日まで23回,発電用原子炉施設の新安全規制の制度整備に関する検討チームは平成24年11月20日から平成25年10月24日まで12回,発電用軽水型原子炉施設の地震・津波に関わる規制基準に関する検討チームは平成24年11月19日から平成25年6月6日まで13回の会合をそれぞれ重ねた。,④外部の有識者に)
対して意見を聴くに当たっては,透明性・中立性を確保するため,電気事業者等との関係について自己申告を行うことを求め,その情報を公開したこと,⑤これらの検討を受けて多数の骨子案ないし規則案が取りまとめられ,平成25年2月及び同年4月から5月までの2回にわたって行政手続法39条に基づく意見公募手続(パブリックコメント)が行われたところ,最初の手続には4379件の意見が,次の手続には2112件の意見がそれぞれ寄せられ(なお,意見公募の要領又は注意事項として,骨子案に対する意見については,その要旨を50字以内で記入することとされ,規則案に対する意見については,1000字を超える場合には冒頭に要旨を記載することとされた。,寄せられた意見に対する回答も公表されたこと,⑥このような手続)
を経て,新規制基準が制定され,平成25年7月8日から施行されたことが認められる。
上記認定に鑑みれば,新規制基準の制定に至るまでの検討は,各分野の専門家が参加し,その人選について透明性・中立性を確保しつつ,比較的短期間であるとはいえ精力的な取組みがされ,所定の手続も適切に踏んでいるのであって,単に期間の短さをとらえて,拙速に制定したとか重大な瑕疵があ
るなどと非難するのは相当でない。そして,制定に際しては,上記のとおり各分野の専門家が参加して,最新の科学的・専門技術的知見が反映されたことがうかがえるのであり,手続面でも実体面でも原子炉等規制法を始めとする関係法令に違反していると認めうる事情はない。新規制基準の内容面に関し,1審原告らが縷々不合理な点として挙げる事柄については,必要に応じて適宜,後記の箇所で説示するが,所詮,独自の見解に立って規制の在り方を論ずるものにすぎず,合法・違法の問題が生ずるとは解せられないのであって,およそ採用の限りでない。
なお,新規制基準の制定に当たっては,上記のとおり,地震,津波を始めとして自然科学の多方面にわたる分野の専門家が参加したことがうかがえるのであり,そうである以上,そのような各分野の専門家の議論が結実された新規制基準について,明らかに不合理な点がない限り,その内容を尊重するのが裁判所としてふさわしい態度といえる。そして,自然科学の分野で諸説が対立する事柄があったとしても,裁判は学術論争をする場でないことはもちろんであり,いたずらに自然科学の分野における論争や対立に介入すべきものではない。
1審原告らは,福島原発事故の原因究明が不十分なままに新規制基準を制定しても有効な規制とはいえない旨主張する。
この点,証拠(甲1,19,20,乙9,45,48,112,113)及び弁論の全趣旨によれば,福島第一原発の内部は未だに放射線量が高い状況にあって,調査の範囲は限られており,設備の具体的な損傷箇所や損傷状況等は完全に明らかになってはいないものの,同事故の原因については,これまでに国会,政府,民間及び東京電力株式会社がそれぞれ設置した事故調査委員会が調査結果を公表するとともに,一般社団法人日本原子力学会や原子力規制委員会も中間又は最終の報告書を取りまとめていること,それらの調査結果によれば,地震による設備の損傷の有無につい
て国会事故調査委員会とそれ以外の機関とで見解が分かれる部分はあるものの,電源喪失や炉心損傷,水素爆発に至るまでの事故の進展に関する基本的な事象はおおむね明らかにされていることが認められる。そうすると,福島原発事故と同じような過ちを繰り返さないための教訓はおおむね得られたといってよく,上記のとおり未だ究明されていない部分が残るとしても,今後の調査で新たな知見が得られれば,必要に応じてこれを新規制基準に反映させれば足りるのであって,これをもって現在の新規制基準の制定や内容が直ちに不当・不十分なものであるなどと論難するのは相当でない。
3
基準地震動について
基準地震動に関する新規制基準の定めについて

原判決が説示するとおり,耐震設計審査指針の旧指針は,原子力発電所の耐震設計において基準とすべき地震動(地震の発生によって放出されたエネルギーが特定の地点に到達して地盤を揺らす場合の揺れ)について,設計用最強地震を考慮して基準地震動S1を,設計用限界地震を考慮して基準地震動S2をそれぞれ策定し,原子炉の安全確保のために重要な役割を果たす安全上重要な施設が,基準地震動S1に対して損傷や塑性変形しないこと及び基準地震動S2に対して機能喪失しないことを確認することを求めていた。これに対し,平成18年に改訂された新指針は,安全上重要な施設の耐震設計において基準とすべき地震動について,敷地周辺の地質・地質構造並びに地震活動性等の地震学及び地震工学的見地から,施設の供用期間中に極めてまれではあるが発生する可能性があり,施設に大きな影響を与えるおそれがあると想定することが適切なものとして,基準地震動Ssを策定しなければならないと定め,発電用原子炉施設のうち重要施設(Sクラスの施設)は,基準地震動Ssに対してその安全機能が保持できることを求めていた。


その後,前記のとおり福島原発事故を受けて新たに制定された新規制基準においては,耐震重要施設(後記の設計基準対象施設のうち,地震の発生によって生ずるおそれがあるその安全機能の喪失に起因する放射線による公衆への影響の程度が特に大きいものをいう(設置許可基準規則3条1項))は,その供用中に当該施設に大きな影響を及ぼすおそれがある地。
震による加速度によって作用する地震力(基準地震動による地震力)に対して安全機能が損なわれるおそれがないものでなければならず(同規則4条3項)
,基準地震動について,最新の科学的・技術的知見を踏まえ,敷
地及び敷地周辺の地質・地質構造,地盤構造並びに地震活動性等の地震学及び地震工学的見地から想定することが適切なものとし,次の方針により策定することとしている(同規則の解釈別記2の4条5項。乙65)。
基準地震動は,敷地ごとに震源を特定して策定する地震動」及び

「震源を特定せず策定する地震動」について,解放基盤表面における水平方向及び鉛直方向の地震動としてそれぞれ策定すること。
上記の解放基盤表面とは,基準地震動を策定するために,基盤面上の表層及び構造物がないものとして仮想的に設定する自由表面であって,著しい高低差がなく,ほぼ水平で相当な拡がりをもって想定される基盤の表面をいう。ここでいう基盤とは,おおむねせん断波速度Vs=700m/s以上の硬質地盤であって,著しい風化を受けていないものとする。①

「敷地ごとに震源を特定して策定する地震動」は,内陸地殻内地震,プレート間地震及び海洋プレート内地震について,活断層の性質や地震発生状況を精査し,中・小・微小地震の分布,応力場,及び地震発生様式(プレートの形状・運動・相互作用を含む。
)に関する既往の
研究成果等を総合的に検討し,敷地に大きな影響を与えると予想される地震(検討用地震)を複数選定し,選定した検討用地震ごとに,不確かさを考慮して応答スペクトルに基づく地震動評価及び断層モデル
を用いた手法による地震動評価を,解放基盤表面までの地震波の伝播特性を反映して策定すること。
上記の内陸地殻内地震とは,陸のプレートの上部地殻地震発生層に生じる地震をいい,海岸のやや沖合で起こるものを含む。プレート間地震とは,相接する2つのプレートの境界面で発生する地震をいう。海洋プレート内地震とは,沈み込む(沈み込んだ)海洋プレート内部で発生する地震をいう。


内陸地殻内地震に関しては,次に示す事項を考慮すること。ⅰ)震源として考慮する活断層の評価に当たっては,調査地域の地形・地質条件に応じ,既存文献の調査,変動地形学的調査,地質調査,地球物理学的調査等の特性を活かし,これらを適切に組み合わせた調査を実施した上で,その結果を総合的に評価し活断層の位置・形状・活動性等を明らかにすること。ⅱ)震源モデルの形状及び震源特性パラメータ等の評価に当たっては,孤立した短い活断層の扱いに留意するとともに,複数の活断層の連動を考慮すること。



選定した検討用地震ごとに,応答スペクトルに基づく地震動評価及び断層モデルを用いた手法による地震動評価を実施して策定すること。なお,地震動評価に当たっては,敷地における地震観測記録を踏まえて,地震発生様式及び地震波の伝播経路等に応じた諸特性(その地域における特性を含む。
)を十分に考慮すること。
応答スペクトルに基づく地震動評価では,検討用地震ごとに,適切な手法を用いて応答スペクトルを評価の上,それらを基に設計用応答スペクトルを設定し,これに対して,地震の規模及び震源距離等に基づき地震動の継続時間及び振幅包絡線の経時的変化等の地震動特性を適切に考慮して地震動評価を行うこと。
断層モデルを用いた手法による地震動評価では,検討用地震ごとに,
適切な手法を用いて震源特性パラメータを設定し,地震動評価を行うこと。


基準地震動の策定過程に伴う各種の不確かさ(震源断層の長さ,地震発生層の上端深さ・下端深さ,断層傾斜角,アスペリティの位置・大きさ,応力降下量,破壊開始点等の不確かさ,並びにそれらに係る考え方及び解釈の違いによる不確かさ)については,敷地における地震動評価に大きな影響を与えると考えられる支配的なパラメータについて分析した上で,必要に応じて不確かさを組み合わせるなど適切な手法を用いて考慮すること。



内陸地殻内地震について選定した検討用地震のうち,震源が敷地に極めて近い場合は,地表に変位を伴う断層全体を考慮した上で,震源モデルの形状及び位置の妥当性,敷地及びそこに設置する施設との位置関係,並びに震源特性パラメータの設定の妥当性について詳細に検討するとともに,これらの検討結果を踏まえた評価手法の適用性に留意の上,各種の不確かさが地震動評価に与える影響をより詳細に評価し,震源の極近傍での地震動の特徴に係る最新の科学的・技術的知見を踏まえた上で,更に十分な余裕を考慮して基準地震動を策定すること。



検討用地震の選定や基準地震動の策定に当たって行う調査や評価は,最新の科学的・技術的知見を踏まえること。また,既往の資料等について,それらの充足度及び精度に対する十分な考慮を行い,参照すること。なお,既往の資料と異なる見解を採用した場合及び既往の評価と異なる結果を得た場合には,その根拠を明示すること。



「震源を特定せず策定する地震動」は,震源と活断層を関連付けることが困難な過去の内陸地殻内の地震について得られた震源近傍における観測記録を収集し,これらを基に,各種の不確かさを考慮して敷
地の地盤物性に応じた応答スペクトルを設定して策定すること。


解放基盤表面までの地震波の伝播特性を必要に応じて応答スペクトルの設定に反映するとともに,設定された応答スペクトルに対して,地震動の継続時間及び振幅包絡線の経時的変化等の地震動特性を適切に考慮すること。



「震源を特定せず策定する地震動」として策定された基準地震動の妥当性については,申請時における最新の科学的・技術的知見を踏まえて個別に確認すること。その際には,地表に明瞭な痕跡を示さない震源断層に起因する震源近傍の地震動について,確率論的な評価等,各種の不確かさを考慮した評価を参考とすること。



基準地震動の策定に当たっての調査については,目的に応じた調査手法を選定するとともに,調査手法の適用条件及び精度等に配慮することによって,調査結果の信頼性と精度を確保すること。



「敷地ごとに震源を特定して策定する地震動」及び「震源を特定せず策定する地震動」の地震動評価においては,適用する評価手法に必要となる特性データに留意の上,地震波の伝播特性に係る次に示す事項を考慮すること。ⅰ)敷地及び敷地周辺の地下構造(深部・浅部地盤構造)が地震波の伝播特性に与える影響を検討するため,敷地及び敷地周辺における地層の傾斜,断層及び褶曲構造等の地質構造を評価するとともに,地震基盤の位置及び形状,岩相・岩質の不均一性並びに地震波速度構造等の地下構造及び地盤の減衰特性を評価すること。なお,評価の過程において,地下構造が成層かつ均質と認められる場合を除き,三次元的な地下構造により検討すること。ⅱ)評価の実施に当たって必要な敷地及び敷地周辺の調査については,地域特性及び既往文献の調査,既存データの収集・分析,地震観測記録の分析,地質調査,ボーリング調査並びに二次元又は三次元の物理探査等を適切
な手順と組合せで実施すること。


「敷地ごとに震源を特定して策定する地震動」及び「震源を特定せず策定する地震動」については,それぞれが対応する超過確率を参照し,それぞれ策定された地震動の応答スペクトルがどの程度の超過確率に相当するかを把握すること。


また,設置許可基準規則の解釈の指針を示した地震審査ガイド(甲4
7)には,概要,次の記載がある。
敷地ごとに震源を特定して策定する地震動


「敷地ごとに震源を特定して策定する地震動」の策定においては,検討用地震ごとに「応答スペクトルに基づく地震動評価」及び「断層モデルを用いた手法による地震動評価」に基づき策定されている必要がある。なお,地震動評価に当たっては,敷地における地震観測記録を踏まえて,地震発生様式,地震波の伝播経路等に応じた諸特性が十分に考慮されている必要がある。震源が敷地に近く,その破壊過程が地震動評価に大きな影響を与えると考えられる地震については,断層モデルを用いた手法が重視されている必要がある。



検討用地震による地震動を断層モデル等により詳細に評価した結果,断層の位置,長さ等の震源特性パラメータの設定やその不確かさ等の評価においてより詳細な情報が必要となった場合,変動地形学的調査,地表地質調査,地球物理学的調査等の追加調査の実施を求めるとともに,追加調査の後,それらの詳細な情報が十分に得られていることを確認する。
震源モデルの長さ又は面積,あるいは1回の活動による変位量と地震規模を関連付ける経験式を用いて地震規模を設定する場合には,経験式の適用範囲が十分に検討されていることを確認する。その際,経験式は平均値としての地震規模を与えるものであることから,経験式
が有するばらつきも考慮されている必要がある。
長大な活断層については,断層の長さ,地震発生層の厚さ,断層傾斜角,1回の地震の断層変位,断層間相互作用等に関する最新の研究結果を十分考慮して,地震規模や震源断層モデルが設定されていることを確認する。
孤立した長さの短い活断層については,地震発生層の厚さ,地震発生機構,断層破壊過程,スケーリング則等に関する最新の研究結果を十分に考慮して,地震規模や震源断層モデルが設定されていることを確認する。


応答スペクトルに基づく地震動評価において,用いられている地震記録の地震規模,震源距離等から,適用条件,適用範囲について検討した上で,経験式(距離減衰式)が適切に選定されていることを確認する。
参照する距離減衰式に応じて適切なパラメータを設定する必要があり,併せて震源断層の拡がりや不均質性,断層破壊の伝播や震源メカニズムの影響が適切に考慮されていることを確認する。
水平及び鉛直地震動の応答スペクトルは,参照する距離減衰式の特徴を踏まえ,敷地周辺の地下構造に基づく地震波の伝播特性の影響を考慮して適切に評価されていることを確認する。



断層モデルを用いた手法による地震動評価において,検討用地震ごとに適切な手法を用いて震源特性パラメータが設定され,地震動評価が行われていることを確認する。
統計的グリーン関数法及びハイブリッド法(理論的手法と統計的あるいは経験的グリーン関数法を組み合わせたものをいう。
)による地
震動評価においては,地質・地質構造等の調査結果に基づき,各々の手法に応じて地震波の伝播特性が適切に評価されていることを確認す
る。
震源断層のパラメータは,活断層調査結果等に基づき,地震調査研究推進本部による「震源断層を特定した地震の強震動予測手法」等の最新の研究結果を考慮し設定されていることを確認する。
アスペリティの位置が活断層調査等によって設定できる場合は,その根拠が示されていることを確認する。根拠がない場合は,敷地への影響を考慮して安全側に設定されている必要がある。なお,アスペリティの応力降下量(短周期レベル)については,新潟県中越沖地震を踏まえて設定されていることを確認する。
震源が敷地に極めて近い場合の地震動評価においては,地表に変位を伴う断層全体(地表地震断層から震源断層までの断層全体)を考慮した上で,震源モデルの形状及び位置の妥当性,敷地及びそこに設置する施設との位置関係,並びに震源特性パラメータの設定の妥当性について詳細に検討されていることを確認する。これらの検討結果を踏まえた評価手法の適用性に留意の上,各種の不確かさが地震動評価に与える影響をより詳細に評価し,震源の極近傍での地震動の特徴に係る最新の科学的・技術的知見を踏まえた上で,更に十分な余裕を考慮して地震動が評価されていることを確認する。
地下構造モデルの設定においては,地下構造(深部・浅部地下構
造)が地震波の伝播特性に与える影響を検討するため,地層の傾斜,断層,褶曲構造等の地質構造を評価するとともに,地震発生層の上端深さ,地震基盤・解放基盤の位置や形状,地下構造の三次元不整形性,地震波速度構造等の地下構造及び地盤の減衰特性が適切に評価されていることを確認する。


応答スペクトルに基づく地震動の評価過程に伴う不確かさについて,適切な手法を用いて考慮されていることを確認する。地震動評価にお
いては,用いる距離減衰式の特徴や適用性,地盤特性が考慮されている必要がある。
断層モデルを用いた手法による地震動の評価過程に伴う不確かさについて,適切な手法を用いて考慮されていることを確認する。併せて,震源特性パラメータの不確かさについて,その設定の考え方が明確にされていることを確認する。地震動の評価過程に伴う不確かさについては,必要に応じて不確かさを組み合わせるなど適切な手法を用いて考慮されていることを確認する。地震動評価においては,震源特性(震源モデル)
,伝播特性(地殻・上部マントル構造)
,サイト特性
(深部・浅部地下構造)における各種の不確かさが含まれるため,これらの不確実さ要因を偶然的不確実さと認識論的不確実さに分類して,分析が適切にされていることを確認する。
震源を特定せず策定する地震動


「震源を特定せず策定する地震動」は,震源と活断層を関連付けることが困難な過去の内陸地殻内の地震について得られた震源近傍における観測記録を収集し,これらを基に各種の不確かさを考慮して敷地の地盤物性に応じた応答スペクトルを設定して策定されている必要がある。
応答スペクトルの設定においては,解放基盤表面までの地震波の伝播特性が反映されている必要がある。また,敷地及び敷地周辺の地下構造(深部・浅部地盤構造)が地震波の伝播特性に与える影響が適切に評価されている必要がある。
地震動の策定においては,設定された応答スペクトルに対して,地震動の継続時間,振幅包絡線の経時的変化等の地震動特性が適切に評価されている必要がある。
なお,
「震源を特定せず策定する地震動」として策定された基準地

震動の妥当性については,最新の科学的・技術的知見を踏まえて個別に確認する。その際には,地表に明瞭な痕跡を示さない震源断層に起因する震源近傍の地震動について,確率論的な評価等,各種の不確かさを考慮した評価が適切に行われている必要がある。


震源と活断層を関連付けることが困難な過去の内陸地殻内の地震を検討対象地震として適切に選定し,それらの地震時に得られた震源近傍における観測記録を適切かつ十分に収集していることを確認する。検討対象地震の選定においては,地震規模のスケーリング(スケーリング則が不連続となる地震規模)の観点から,地表地震断層が出現しない可能性がある地震(断層破壊領域が地震発生層の内部に留まり,国内においてどこでも発生すると考えられる地震で,震源の位置も規模も分からない地震として地震学的検討から全国共通に考慮すべき地震(震源の位置も規模も推定できないMw6.5未満の地震)であり,震源近傍において強震動が観測された地震を対象とする。
)を適切に
選定していることを確認する。
また,検討対象地震の選定の際には,事前に活断層の存在が指摘されていなかった地域において発生し,地表付近に一部の痕跡が確認された地震(震源断層がほぼ地震発生層の厚さ全体に広がっているものの,地表地震断層としてその全容を表すまでには至っていない地震(震源の規模が推定できないMw6.5以上の地震)であり,孤立した長さの短い活断層による地震が相当する。
)についても検討を加え,
必要に応じて選定していることを確認する。なお,活断層や地表地震断層の出現要因の可能性として,地域によって活断層の成熟度が異なること,上部に軟岩や火山岩,堆積層が厚く分布する場合や地質体の違い等の地域差があることが考えられる。このことを踏まえ,観測記録収集対象の地震としては,ⅰ)孤立した長さの短い活断層による地
震,ⅱ)活断層の密度が少なく活動度が低いと考えられる地域で発生した地震,ⅲ)上部に軟岩や火山岩,堆積層が厚く分布する地域で発生した地震を個別に検討する必要がある。
以上を基に,収集対象となる内陸地殻内の地震の例として,16個の地震(発生時期は最も古いもので平成8年8月11日の宮城県北部地震,最も新しいもので平成25年2月25日の栃木県北部地震。規模は最も大きいもので平成20年6月14日の岩手・宮城内陸地震のMw6.9,最も小さいもので平成23年7月5日の和歌山県北部地震のMw5.0)が挙げられる。
基準地震動
応答スペクトルに基づく手法による基準地震動は,検討用地震ごとに評価した応答スペクトルを下回らないように作成する必要があり,その際の振幅包絡線は,地震動の継続時間に留意して設定されていることを確認する。
断層モデルを用いた手法による基準地震動は,施設に与える影響の観点から地震動の諸特性(周波数特性,継続時間,位相特性等)を考慮して,別途評価した応答スペクトルとの関係を踏まえつつ複数の地震動評価結果から策定されていることを確認する。なお,応答スペクトルに基づく基準地震動が全周期帯にわたって断層モデルを用いた基準地震動を有意に上回る場合には,応答スペクトルに基づく基準地震動で代表させることができる。
震源を特定せず策定する地震動による基準地震動は,設定された応答スペクトルに対して,地震動の継続時間,振幅包絡線の経時的変化等の地震動特性が適切に考慮されていることを確認する。
超過確率
「敷地ごとに震源を特定して策定する地震動」及び「震源を特定せ
ず策定する地震動」について,それぞれ策定された地震動の応答スペクトルがどの程度の超過確率に相当するかを確認する。超過確率を参照する際には,基準地震動の応答スペクトルと地震ハザード解析による一様ハザードスペクトルを比較するとともに,当該結果の妥当性を確認する。地震ハザード解析による一様ハザードスペクトルの算定においては,例えば日本原子力学会による「原子力発電所の地震を起因とした確率論的安全評価実施基準:2007」等に示される手法を適宜参考にして評価する。
本件発電所における基準地震動Ssの策定について
証拠(甲48ないし51,53,54,56,72ないし75,110,118ないし120,122,125,209,210,212,295,304,306,371,422,430,447,乙21,22,27,29,32,37,43,49,50,54,57,75ないし77,81,82,87ないし92,94ないし96,98ないし100,102,113,122,123,152,154ないし158,162,163,172,182ないし184,235ないし237,239,241,262)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。

検討用地震の選定と震源特性
1審被告は,本件敷地周辺の地質・地質構造を把握するとともに,後期更新世以降(約12万年前から13万年前以降)の活動が否定できない活断層を抽出するため,活断層研究会「新編日本の活断層」
,海上保
安庁水路部(現・海上保安庁海洋情報部)
「5万分の1沿岸の海の基本
図」等の既存文献を調査するとともに,陸域において,空中写真判読(約60%ずつ重なるように撮影した空中写真一対を実体視鏡により観察する。,航空レーザー測量,地表踏査,ボーリング調査,トレンチ)
調査(断層等を横切るように溝状に地面を掘削して,地質の分布等を直
接観察する調査)
,ピット調査(地表から小さな縦穴を掘って,地質状
況を直接観察する調査)
,剥ぎ取り調査及び反射法地震探査(地表面か
ら人工的に地震波を発して地層からの反射地震波を観測し,解析して地下の速度構造分布を把握する調査)等を,海域において,総延長約1200kmに及ぶ海上音波探査(海面下から人工的に音波を発して海底面や海底下の地層境界からの反射音波を観測し,解析して海底の速度構造分布を把握する調査)
,海上ボーリング調査並びに地質調査所(現・国立
研究開発法人産業技術総合研究所)及び海上保安庁が実施した総延長約2700kmに及ぶ海上音波探査の記録解析をそれぞれ実施した。その結果,本件発電所の周辺は,活断層が繰り返し活動した痕跡である地表地震断層が数多く現れ,活断層が成熟していることや,舞鶴帯,超丹波帯,丹波帯と呼ばれる新第三紀(約2300万年前から約260万年前)より前の比較的固い岩盤が分布し,軟らかい堆積物が厚く分布する箇所はないことから,活断層の把握が比較的容易であって,震源が特定しにくい地域ではないと評価した。
上記の各調査を経て,1審被告は,検討用地震の候補となる主な断層として,FO-A~FO-B断層と熊川断層を抽出した。FO-A~FO-B断層は,本件発電所北側の若狭湾内において北西から南東方向に延びる断層であり,既存文献ではFO-A断層の長さは18kmとされ,FO-B断層については記載がなかったが,海上音波探査を始めとする上記の各調査によって断層活動による痕跡が認められない箇所を端部として上記各断層の長さを確認したところ,FO-A断層については約24km,FO-B断層については約11km(合計約35㎞)であると評価した。熊川断層は,FO-A~FO-B断層の南東側の陸上に西北西から東南東方向に延びる断層であり,既存文献では長さ9km又は12kmと記載されていたが,反射法地震探査等を始めとする上記の各調査によっ
て,同じく断層活動の痕跡が認められない箇所を端部として長さを把握し,これを14kmであると評価した。
そして,FO-A~FO-B断層と熊川断層について,断層の延びる方向が似通っていることや,連動の可能性を示唆する痕跡があるとの指摘があったことから,1審被告は,更に反射法地震探査,海上音波探査,海上及び陸上ボーリング調査,並びにリニアメント(断層活動等に伴う地形のずれの配列)及び段丘面の調査等を実施した。その結果,上記指摘に係る痕跡は連動の可能性を示すものではなく,また,熊川断層が北西方向に延伸していることを示す断層活動の痕跡や地質構造も認められなかったことから,1審被告は,両断層が約15㎞離隔しているものと評価し,かつ,Wesnousky(2006)の知見に基づき,その離隔距離であれば連動することもないと評価した。もっとも,1審被告は,原子力規制委員会における議論も踏まえ,より安全側に配慮して,離隔している15kmの区間にも断層が存在し,上記各断層が全て連動して活動するという保守的な条件を設定することとし,FO-A~FO-B~熊川断層の長さを合計63.4㎞(震央距離3㎞)と評価した。
その他の主な断層としては,本件発電所の南西側の陸域に位置し,北東から南西方向に延び,走向が本件敷地に向いている上林川断層を抽出した。同断層の長さは既存文献では約26㎞とされていたが,現地調査を実施したところ,その文献に記載されていた南西端は厚い堆積層に覆われていて端部を確認することができなかったため,活断層の存在を明確に否定できる福知山市付近まで南西端が延長しているものとし,さらに,その北東端は露頭した岩盤により活断層の存在を否定できる,京都府と福井県との県境付近まで延長しているものとし,その長さを約39.5㎞と評価した。
これらの活断層による地震を含め,本件敷地に大きな影響を及ぼすと考
えられる検討用地震の候補として,合計18個の活断層による地震を抽出した。
また,1審被告は,日本被害地震総覧,気象庁地震カタログ,宇津カタログ(1982)等の文献を調査し,本件発電所からの震央距離が200㎞程度以内で発生し,本件敷地に大きな影響を及ぼしたと考えられる震度5弱程度以上と推定される過去の地震として,西暦745年の美濃地震から1963年の越前岬沖地震までの9個の内陸地殻内地震を抽出した。そのうち,マグニチュードが最も大きいものは,1891年の濃尾地震の8.0であった。
プレート間地震や海洋プレート内地震に関しては,陸のプレートと海のプレートとの境界が本件敷地から200km以上離れていることや,過去に震度5弱程度以上と推定される揺れを本件敷地に及ぼしたと考えられる上記発生様式による地震はなかったことから,検討用地震の選定外とした。なお,本件敷地内の破砕帯について,東北地方太平洋沖地震後に原子力安全・保安院からの指示を受けて改めて調査したところ,旧F-6破砕帯とは異なる箇所に新F-6破砕帯が位置することを発見したが,多重逆解法や上載積載法等によって活動性を評価した結果,新F-6破砕帯は全ての区間において後期更新世以降は活動していないことを確認した(原子力規制委員会の有識者会合も同様の判断をした。。さらに,)
旧F-6破砕帯の一部とされていた台場浜トレンチの破砕部を含むその他の破砕帯については,分布が局所的であり,変動地形(長い年月の間に繰り返し発生した地震等に起因する痕跡の累積効果である特徴的な地形)が認められないことなどから,震源として考慮する活断層に当たらないと評価した。
以上の検討用地震の候補として抽出された地震の中から,1審被告は,本件敷地で想定される震度が最も大きいと評価されたFO-A~FO-
B~熊川断層による地震と,耐専スペクトルにおいて長周期側の地震動レベルが大きいと評価された上林川断層による地震の2つの地震を検討用地震として選定した。
そして,本件発電所が位置する若狭湾付近は,東西方向の圧縮軸を持つ圧縮応力場であるところ,上記の各断層の走向は圧縮方向から見て斜め横方向となっていることから,両方とも横ずれ断層であり,断層傾斜角は,横ずれ断層の場合の一般的な知見に従い,90度と評価した。地震発生層の深さについて,内陸地殻内地震はP波速度が6.0km/s以上の地盤で発生するとされているところ,1審被告は,活断層の上端深さにつき,文部科学省の大都市大震災軽減化特別プロジェクトにおける地下構造探査及び川里健ほか(2007)の地震波速度トモグラフィ解析(ボーリング孔を利用して人工的に発生させた弾性波が地盤内を伝播するデータを多数観測し,震源から複数の観測点までの地震波の到達する時間差を用いた解析により,地盤の速度構造を三次元的に把握する手法)といった既往の研究成果に加え,自ら行った後述の地震波干渉法(地表の離れた2点で常時微動を長期間観測してデータ解析を行い,2点間の地震波の伝わり方を求めることにより,当該2点間における地盤の速度構造を求める調査)及び微動アレイ観測(複数の微動計を地表に直線状・放射状等に連続して配置し,常時微動を同時に観測して,データ解析により微動計を配置した付近の地盤の速度構造を求める調査)による地盤の速度構造の解析結果も踏まえて,P波速度がおおむね6.0km/s以上となるのは地表から4km以深であると評価した。また,活断層の下端深さにつき,伊藤潔・中村修一(1998)の研究を参考にして,気象庁一元化震源の震源データを統計的に評価したところ,本件敷地から半径100㎞以内の若狭湾周辺における地震発生状況は,全体の90%が約15㎞より浅い地点で発生しており,上記伊藤・中村(1998)によれ
ば,断層の下端深さは,その地点よりも更に2~3㎞深いとされていることから,これを約17~18㎞と推定した。そして,1審被告は,これらの解析結果に加え,廣瀬一聖・伊藤潔(2006)に示された若狭湾周辺地域における地震発生層のP波速度のうち最も小さい値が5.8㎞/sであり,そのような速度になる層の上端が深さ3.3㎞程度であったことや,原子力規制委員会における議論も踏まえ,より安全側に配慮して地震発生層の上端深さを3㎞,下端深さを18㎞と評価した。そして,上記のとおり断層傾斜角が90度であることから,活断層の幅は15㎞と評価した。
なお,地震動を発生させる震源断層は,1回の地震で必ずしも断層全体が一度にずれるわけではないが,1審被告は,保守的に断層面の全体が一度にずれると想定して評価することとした。

伝播特性
地震波の伝播特性には幾何減衰(震源距離とともに地震波の振幅が減少すること)と内部減衰(媒質である岩石等を伝わる間にエネルギーの一部が摩擦熱等に変換されて小さくなること)があるが,伝播特性の大部分を占める幾何減衰は,地域差がほとんどなく,震源から敷地までの距離によって決まることから,1審被告は,上記の各断層の位置と敷地までの距離からこれを求めた。
また,内部減衰(媒質に固有のQ値で表される。
)については,若狭湾
付近の内部減衰の値について研究した佐藤智美ほか(2007)の知見に基づき,国内の平均的な値である50f(周波数)1.1と評価した。

増幅特性
地盤の増幅特性の把握に当たり,1審被告は,本件敷地内の地下200m程度までの浅部地盤について,ボーリング調査,PS検層(ボーリング孔を利用して人工的に発生させた弾性波が地盤内を伝播する状況を観測・
解析して,弾性波の深さ方向の速度構造を測定する調査)及び試掘抗弾性波探査(岩盤に掘削した試掘坑内で人工的に発生させた弾性波の伝播状況を測定装置で観測・解析して,速度構造を把握する調査)を実施し,敷地浅部にS波速度が約2.2㎞/s,P波速度が約4.3㎞/sの硬質な岩盤が広がっていることを確認した。そして,その結果に加え,地質断面図から,原子炉建屋の基礎直下にCM級以上の岩盤があることが確認されたことから,原子炉建屋直下のEL.0mの位置に解放基盤表面を設置した。また,単点微動観測の記録からH/Vスペクトルを評価して,解放基盤表面の上面深度は,EL.-25m~El.+65m程度の深さにあると推定し,敷地全体にわたって著しい高低差がないことを確認した。さらに,反射法地震探査を実施し,地下約500mまでに確認された反射面には特異な構造がみられないことから,水平成層構造とみなすことができるとして,新規制基準の定め(上記

のイ

②)により,三次元的な地下構造の検討は不要であると評
価した。減衰定数については,佐藤浩章ほか(2007)及び佐藤浩章・山中浩明(2009)の知見に基づいて,PS検層の結果から速度構造の不均質性と減衰定数の関係に着目して不均質強度を評価すると3%程度となったこと,本件敷地内でQ値を測定したところ3%程度以上となったことから,これを3%と評価した。
地下4km程度までの深部地盤については,微動アレイ観測及び地震波干渉法(本件発電所のある大島半島と高浜原発のある音海半島の各5か所に設置した地震計に基づくもの)をそれぞれ実施し,得られた位相速度を目的関数とするジョイントインバージョン解析により速度構造を推定し,さらに,第1層のS波速度を0.5km/s,その層厚の範囲を0.01~0.1kmとし,第2層以深のS波速度を2.2~3.6km/sまで0.1km/sごとに増加させ,その層厚の範囲を0.01~2.0kmとするハイブリッドヒューリスティック探索による逆解析を行って,本件敷地の地盤の一次元速度構造モ
デル(波の速度が変化する境界面が地表面と平行になっているモデル)を求め,これにより算定された理論位相速度と観測位相速度とがよく対応していることを確認した。

「敷地ごとに震源を特定して策定する地震動」における応答スペクトルに基づく地震動評価
応答スペクトルに基づく地震動評価は,震源断層面から放出される地震波を,ある1点の震源から放出されるものと仮定し(なお,震源断層面の各部から放出される地震波のエネルギーの総計が,特定の1点から放出されたものと仮定した場合に到達するエネルギーと等価となるように計算したときの距離を等価震源距離という。,距離減衰式を用いて,評)
価地点までの距離等の諸元から地震動の応答スペクトルを求めて,地震動を評価するものである。
距離減衰式とは,地震の規模及び震源からの距離と地震動の大きさとの関係を表す式であるところ,その代表的なものとして,社団法人日本電気協会の原子力発電耐震設計専門部会が取りまとめた耐専式がある。耐専式は,原子力発電所の地震動評価に用いるために,20年間の岩盤上の地震記録(水平成分214個,上下成分107個)を統計的に回帰分析して開発され,地震の規模,等価震源距離,地盤のP波速度及びS波速度から,評価地点における水平方向及び鉛直方向の地震動の応答スペクトルを評価するものである。耐専式の信頼性は,独立行政法人原子力安全基盤機構による地震動の実観測記録と耐専式による地震動評価との比較検討によって確認され,日本電気協会の最新の「原子力発電所耐震設計技術指針(JEAG4601-2015)
」においても耐専式は見直されるこ
となく採用されている。
もっとも,耐専式の開発に当たって基礎とされた地震観測記録には,等価震源距離が極近距離(マグニチュード8であれば25㎞,マグニチ
ュード7であれば12㎞)よりも著しく短い場合の地震観測記録は含まれておらず,そのような場合,耐専式による地震動評価は,実際に観測された地震動に比べて過大となる傾向が指摘されている。
以上を踏まえ,1審被告は,後記のとおり等価震源距離が30.2km(想定マグニチュードは7.5)である上林川断層に対しては耐専式を用いることとしたが,等価震源距離が11.0km(想定マグニチュードは7.8)であるFO-A~FO-B~熊川断層に対しては,耐専式を用いることが不適当であると判断し,耐専式以外の9個の距離減衰式(内山泰生・翠川三郎(2006)
,片岡正次郎ほか(2006)
,Abrahamson
andSilva(2008)など)を用いることとした。なお,9個の距離減衰式の多くは,耐専式以外の主な距離減衰式として日本電気協会の上記指針に登載されている。
ところで,地震審査ガイドでは,震源が敷地に近く,その破壊過程が地震動評価に大きな影響を与えると考えられる地震については,断層モデルを用いた手法を重視する必要があるとされていることから(上記のウ

①)
,1審被告は,上記のとおり震源が敷地に近いFO-A~F

O-B~熊川断層による地震については,断層モデルを用いた手法を重視することとし,応答スペクトルに基づく地震動評価は,断層モデルを用いた手法の妥当性を検証する限度で参照することとした。
上林川断層の応答スペクトルに基づく地震動評価については,耐専式を適用するに当たり,地震の規模と等価震源距離のパラメータが必要になるところ,地震の規模に関しては,活断層の長さからマグニチュードを求める松田式(松田時彦東京大学名誉教授が提案した活断層の長さと地震のマグニチュードの関係を表す経験式。1975)を用いることとし,上記のとおり活断層の長さを保守的に39.5kmと設定して,マグニチュードを7.5と算出した。なお,松田式の元データである14個の地
震のマグニチュードについては,平成15年に気象庁によって最新のマグニチュードに見直されたが,1審被告は,その見直されたマグニチュードと松田式とがよく整合していることを確認している。
等価震源距離(Xeq)を求めるに当たっては,保守的に断層の上端深さを3kmとするとともに,中央付近に配置するのが基本とされるアスペリティを敷地近傍側に配置するなど保守的な条件を設定して,等価震源距離を30.2kmと算出した。
その上で,1審被告は,内陸地殻内地震に耐専式を適用する際に用いることができる低減係数(短周期側の地震動を0.6倍とするもの。)
をあえて用いないこととするなど,安全側に配慮した条件を設定して,上林川断層の応答スペクトルに基づく地震動を評価した。
FO-A~FO-B~熊川断層の応答スペクトルに基づく地震動評価については,9個の距離減衰式のそれぞれに,震源から敷地までの距離,地震の規模その他距離減衰式ごとに必要となるパラメータを入力して応答スペクトルを求めた。なお,震源から敷地までの距離については,断層の上端深さを保守的に3kmと条件設定することで,震源断層面が敷地により近づく設定となっており,地震の規模については,FO-A~FO-B断層と熊川断層とが3連動するものとして断層の長さを63.4km,断層幅を15kmと設定することで,FO-A~FO-B断層の2連動の場合に比べて保守的な設定となっている。また,不確かさの考慮として,9個の距離減衰式のそれぞれにつき,傾斜角を90度とした基本ケースに加え,これを75度としたケースの応答スペクトルについても評価した。

「敷地ごとに震源を特定して策定する地震動」における断層モデルを用いた手法による地震動評価
「応答スペクトルに基づく地震動評価」は,過去の地震データに基づ
き,少ないパラメータで地震動を評価する手法であるが,一方で,実際の震源断層面は均質でなく,強く固着していて,すべり量が大きく強い地震波を出すアスペリティという領域があり,また,同時に震源断層面が全て破壊されるのではなく,破壊が始まった断層が地震波を発し,次第に破壊の範囲が広がっていくのであって,大きな地震は,小さな地震が次々に発生してそれぞれの揺れが合わさったものとみなすことができる。
「断層モデルを用いた手法による地震動評価」は,このような地震の発生メカニズムを反映した手法であり,震源断層面を設定し,その震源断層面にアスペリティを配置し,ある一点の破壊開始点から,これが次第に破壊し,揺れが伝わっていく様子を解析することにより地震動を計算する評価手法である。
この手法に関しては,平成7年の兵庫県南部地震を契機に全国的な地震観測網の充実が図られ,独立行政法人防災科学技術研究所が全国1000か所以上のほぼ20㎞等間隔の地表に地震計を設置し,強震観測網K-Netが平成8年に,かつ,基盤強震観測網KiK-Netが平成9年にそれぞれ運用を開始し,これらの観測記録を基に多くの内陸地殻内地震について断層の動き等をコンピュータ上の計算で再現できるようになるなど,多くの知見が蓄積されたことから精度が飛躍的に高まった。震源断層のモデル化の方法としては,平成7年6月制定の地震防災対策特別措置法に基づいて総理府(後に文部科学省に移管)に設置された地震調査研究推進本部の地震調査委員会によって強震動予測レシピが提案されており,地震審査ガイドにおいても,震源断層のパラメータは強震動予測レシピ等の最新の研究成果を考慮し設定すべきものとされている(上記

のウ

④)


強震動予測レシピは,上記の地震調査委員会において実施してきた強震動評価に関する検討結果から,強震動予測手法の構成要素となる震源
特性,地下構造モデル,強震動計算,予測結果の検証の現状における手法や震源特性パラメータの設定に当たっての考え方について,震源断層を特定した地震を想定した場合の強震動を高精度に予測するための,誰でも同じ答えが得られる標準的な方法論を確立することを目的として取りまとめられたものである。同委員会では,強震動予測レシピを策定した後に発生した,平成12年鳥取県西部地震及び平成17年福岡県西方沖地震等の観測記録を用いて強震動予測レシピの検証を行い,実際に観測された波形と強震動予測レシピを用いて行ったシミュレーション解析により得られる理論波形とが整合的であったことを確認している。強震動予測レシピでは,①断層全体の形状や規模を示す巨視的震源特性,②アスペリティの位置,面積等の震源断層の不均質性を示す微視的震源特性,③破壊開始点等のその他の震源特性を考慮した震源特性パラメータを設定することにより,詳細な地震動評価が可能であるところ,それらのパラメータ間には一定の関係があるとされている(例えば,断層面積が大きくなるほど地震モーメントは大きくなる。。また,強震)
動予測レシピに示されている関係式の多くは,過去の幾つもの地震におけるデータから経験的にパラメータ間の関係を導いており,地震という現象の最も確からしい姿を追求するという観点から,極端なデータは採用せず,全てのデータになるべく適合するように標準的な関係式を求めているが,これを用いて地震動を評価する際には,不確かさの考慮として複数の保守的な解析ケースを想定することが行われる。
1審被告は,強震動予測レシピに基づいて,次のとおり震源断層パラメータを設定した。
まず,震源断層面積は,震源となる断層の長さと幅から求めるところ,1審被告は,上記のとおり,本来は連動しないと評価しているFO-A~FO-B断層と熊川断層を連動させて長さ63.4㎞の断層を想定し
(上林川断層も保守的に長さ39.5㎞に設定した。,地震発生層の)
上端深さを地下構造の調査結果よりも浅い3㎞,下端深さを18kmとして地震発生層の厚さを15kmと設定し,断層傾斜角を90度(鉛直)として断層幅を15kmと算出し,これらに基づき,FO-A~FO-B~熊川断層の震源断層面積を951㎢(FO-A~FO-B断層のみで上端深さ4㎞の場合の面積494.2㎢(=35.3km×14km)の約2倍)
,上林川断層の震源断層面積を592.5㎢(断層長さ26kmで上端深さ4kmの場合の面積364㎢(=26km×14km)の約1.6倍)と設定した。
また,FO-A~FO-B~熊川断層については,不確かさを考慮して,周辺の逆断層の傾斜角を参考に,震源断層面の傾斜角を75度(水平面から75度下向き)にしたケースも設定したところ,この場合には断層の幅が広くなることから断層面積も広がり,その面積は1002.85㎢となった。
次いで,上記の震源断層面積から地震モーメントを求めるに当たっては,強震動予測レシピに採用されている入倉・三宅式を用いた。この入倉・三宅式は,入倉孝次郎京都大学名誉教授ら(2001)によって提案された震源断層面積と地震モーメントとの関係式であり,他のパラメータを介さず,直接,断層面積から地震モーメントを導く手法である。上記の震源断層面積を入倉・三宅式に代入した結果,FO-A~FO-B~熊川断層による地震の地震モーメントは,断層傾斜角が鉛直のケースでは5.03×1019N・m,75度のケースでは5.59×1019N・m(保守的な条件設定をしない場合の断層面積494.2㎢では1.36×1019N・m)となり,上林川断層による地震の地震モーメントは1.95×1019N・m(保守的な条件設定をしない場合の断層面積364㎢では0.66×1019N・m)となった。

次いで,強震動予測レシピに示された壇一男ほか(2001)等で提案されている地震モーメントと短周期レベル(震源特性のうち,短周期領域における加速度震源スペクトルのレベルを表す値。単位はN・m/s2)との関係式により,上記の地震モーメントから短周期レベルを求めたところ,FO-A~FO-B~熊川断層による地震については1.96×1019N・m/s2(傾斜角75度にしたケースでは2.03×1019N・m/s2),上
林川断層による地震については1.43×1019N・m/s2となった。なお,短周期レベルに関しては,地震審査ガイドにおいて,新潟県中越沖地震を踏まえて設定することが求められており(上記

のウ

④)


これは同地震の短周期レベルが平均的な短周期レベルの1.5倍であったという知見に基づく考慮を求めるものであるところ,横ずれ断層であるFO-A~FO-B~熊川断層や上林川断層による地震は,逆断層である新潟県中越沖地震の震源断層による地震よりも短周期レベルは小さいとされているものの,保守的に短周期レベルの倍率を1.5倍とするケースも設定した。
次いで,同じく壇ほか(2001)で提案されている関係式により,上記の短周期レベルからアスペリティの面積を求めた。もっとも,この関係式では,断層長さが断層幅に比べて十分に大きい長大な断層では,アスペリティの面積が過大評価となる傾向が指摘されているところ,増田徹・横田崇(2006)の知見によれば,アスペリティの面積は断層の総面積の20~30%に分布するとされているのに対し,上記の関係式を用いて算出したFO-A~FO-B~熊川断層のアスペリティの面積比は約37%と過大な値となったため,これを長大な断層と評価し,強震動予測レシピに示されたSomervilleetal.(1999)等の知見により,アスペリティ面積比について22%という固定値を用いた(上林川断層は壇ほか(2001)の関係式から求めた。。その結果,アスペリティの面積)

は,FO-A~FO-B~熊川断層で209.22㎢(傾斜角75度のケースでは220.63㎢)
,上林川断層で158.31㎢となった。
さらに,1審被告は,強震動予測レシピに示されたEshelby(1957)等の関係式により,震源断層面積及び地震モーメントから震源断層全体の応力降下量(地震発生直前と直後の震源断層面にかかるせん断応力(物体内でずれを生じさせる力)の差。単位はMpa)を求めた。もっとも,長大な断層であるFO-A~FO-B~熊川断層については,強震動予測レシピに示されたFujii&Matsu'ura(2000)で提案されている知見により,3.1Mpaという固定値を用いた(上林川断層についてはEshelby(1957)等の関係式から3.3Mpaを求めた。。

アスペリティの応力降下量は,強震動予測レシピに示されたMadariaga(1979)の関係式により,アスペリティの面積比と震源断層全体の応力降下量から,FO-A~FO-B~熊川断層については14.1Mpa(上林川断層については12.3Mpa)を求めた。複数あるアスペリティの応力降下量は,強震動予測レシピに従い,各アスペリティとも同じ値とした。
次いで,破壊伝播速度は,既往の研究では標準的に地震発生層におけるS波速度の0.72倍とされているが,破壊伝播速度が大きくなると,短い時間に多くの地震波が到達することになり,敷地での地震動は一般的に大きくなることから,不確かさを考慮し,宮腰研ほか(2003)の知見を参考にして0.87倍のケースも設定した。
その他のパラメータの設定に関し,1審被告は,アスペリティの配置に関して,断層面の中央付近に配置するのが基本とされているところ,アスペリティの位置を地震発生前に正確に特定するのは困難であることを踏まえ,保守的に,断層面のうち本件敷地に近い位置で,かつ断層面の上端に配置することとし,更に不確かさを考慮して,FO
-A~FO-B~熊川断層について,現実には想定し難いようなアスペリティが偏在する場合(敷地近傍に一塊正方形又は一塊長方形)を想定した。
また,破壊開始点の設定に当たり,破壊伝播効果による地震動を増幅させる方向で,断層やアスペリティの端といった本件敷地から遠い位置に複数置くケースも設定し,また,すべり角(震源断層上盤側の下盤側に対する相対的なずれの方向)につき,地質調査では水平であったが,断層面の傾きや広域応力場の向きによって水平から多少傾斜する可能性を踏まえて,FO-A~FO-B~熊川断層について,水平面から30度上向きにしたケースも設定した。
これらの地震動評価において大きな影響を与えるパラメータのうち,断層傾斜角,短周期レベル,すべり角,破壊伝播速度については,その性質上,事前の詳細な調査や過去のデータによる経験則等から地震発生前におおよそ把握できることから,それぞれ独立して不確かさを考慮することとし(認識論的な不確かさ)
,これに対し,アスペリティ
や破壊開始点の位置については,その性質上,地震発生前の把握が困難であることから(偶然的な不確かさ)
,不確かさを重畳させて考慮し
た。
ただし,破壊伝播速度は,短周期側の地震動への影響はさほど大きくないものの,長周期側の地震動に大きな影響を及ぼすことから,FO-A~FO-B~熊川断層による地震につき,短周期レベルと破壊伝播速度の不確かさを重畳させた場合の評価も行うこととした。なお,短周期レベルの不確かさについて,これを独立して考慮する場合には,上記のとおり新潟県中越沖地震の知見を踏まえて1.5倍としたが,破壊伝播速度と重畳させる場合には,逆断層型の地震(新潟県中越沖地震)による短周期レベルは横ずれ断層型(FO-A~FO-B~熊
川断層)のものに比べて1.2倍になるという佐藤智美(2008)の知見を踏まえて,1.5倍を1.2で除した1.25倍として設定した。このようにしてモデル化した震源断層の各要素面から放出される中小規模の地震波形を合成する手法として,1審被告は,敷地における適切な地震観測記録がなかったため,短周期側について統計的グリーン関数法を,長周期側について理論的方法(離散化波数法)を用いて評価し,これらを組み合わせるハイブリッド法を採用した。
統計的グリーン関数法とは,震源断層面を細分化した小さな地震の破壊範囲(要素断層)に対応する評価地点の地震動として,既往の地震観測記録を統計処理して作成した人工的な時刻歴波形を採用し,これらの小さな地震波形を評価地点に到達する時間差等を考慮して足し合わせることにより,震源断層面全体が破壊したときの地震動を評価する手法であり,評価地点の地盤をモデル化することで地盤の増幅特性が反映される。
このようにして,1審被告は,基本ケースの設定に加えて,断層傾斜角,短周期レベル,すべり角,破壊伝播速度,アスペリティの位置及び破壊開始点の位置について,それぞれ不確かさを独立又は重ね合わせて考慮したケースを設定し,FO-A~FO-B~熊川断層による地震については64のケース,上林川断層による地震については18のケースについて地震動を評価した。

震源を特定せず策定する地震動
「震源を特定せず策定する地震動」は,敷地周辺において詳細な調査を実施しても,なお敷地近傍において発生する可能性のある内陸地殻内地震の全てを事前に評価し得るとは言い切れないとの観点から,震源と活断層を関連付けることが困難な過去の内陸地殻内の地震について得られた震源近傍における観測記録を収集し,これらを基に,各種の不確か
さを考慮して敷地の地盤物性に応じた応答スペクトルを設定して策定するものである(上記

のイ

①)
。その策定に当たっては,地震の規模

や位置が事前に想定できないため,マグニチュードや震源距離を規定する方法ではなく,国内外の震源近傍の強震観測記録に基づいて地震動レベルを直接設定することとしており,仮想的な地震動を評価することは求められていない。
本件発電所においては,本件敷地近くにFO-A~FO-B~熊川断層という長い活断層が存在し(上記のとおり震央距離は3km,断層の長さは63.4km,その断層長さから想定される地震の規模はマグニチュード7.8)
,その地震動の大きさから考えて敷地に到来しうる地震動
の想定においては「敷地ごとに震源を特定して策定する地震動」が大きな地位を占めており,
「震源を特定せず策定する地震動」が寄与する度
合いは小さいと考えられるが,1審被告は,新規制基準の要求事項を踏まえ,
「震源を特定せず策定する地震動」について,以下のとおり評価
を行った。
まず,1審被告は,国内外の震源と活断層を関連付けることが困難な過去の内陸地殻内地震の観測記録を収集して策定した応答スペクトルの研究である加藤研一ほか(2004)の検討を行った。そこでは,1885年以降の日本や1940年以降の米国カリフォルニアで発生した内陸地殻内地震を対象に,文献調査や詳細な地質学的調査等によっても,震源位置と地震規模を前もって特定できなかったと考えられる地震を選定し,選定された地震の震源近傍の観測記録等をおおむね上回る応答スペクトルが示されているところ,1審被告は,そのうち本件発電所の地盤におけるS波速度と同じ2.2㎞/s以上の地盤について設定されている応答スペクトルを採用することとした。
次いで,1審被告は,地震審査ガイドにおいて,震源を特定せず策定
する地震動を評価するに当たり考慮すべき地震として例示されている16個の地震について,地震審査ガイドの区別に従い(上記

のウ

②)


Mw6.5以上の2地震とMw6.5未満の14地震とに分けて検討を行った。
Mw6.5以上の2地震のうち,平成20年岩手・宮城内陸地震は,地震審査ガイドにいう「上部に軟岩や火山岩,堆積層が厚く分布する地域で発生した地震」に該当し,本件敷地周辺はそのような地域でないことから,これを採用しないことにした。なお,同地震の一関西観測点では4022ガルという既往最大の地震動が観測されたが,その原因としては,軟らかい表層地盤が地震動により剥がれやすい状態となり,トランポリン上で跳ねている物体のように振る舞うトランポリン効果の存在が指摘されており,解放基盤表面においてS波速度2.2㎞/sの硬質な岩盤がほぼ均質に広がる本件敷地には生じ得ない現象であることから,同観測記録についても考慮しないこととした。
他方,平成12年鳥取県西部地震は,地震審査ガイドにいう「活断層の密度が少なく活動度が低いと考えられる地域で発生した地震」に該当し,本件敷地周辺とは地質学的差異があるものの,その差異が明瞭であるとまではいえないことから,鳥取県西部地震の震源近傍に位置する賀祥ダムの観測記録を採用することにした。なお,本件発電所の解放基盤表面の地盤(S波速度2.2km/s)は,上記観測記録が得られた地盤(S波速度1.2~1.3km/s)よりも固いものであるが,保守的な観点から,あえて地盤の特性による補正等は行わず,賀祥ダムにおける観測記録をそのまま用いて応答スペクトルを設定した。
次に,Mw6.5未満の14個の地震については,これらの地震に関する観測記録のうち,地盤が著しく軟らかいと考えられる観測点の観測記録を除外した95個の観測記録を抽出し,そのうち加藤ほか(2004)
の応答スペクトルとの比較において特に影響が大きいと考えられ,かつ,剥ぎ取り解析(地震計の観測波から解放基盤表面上部の地盤等による影響を取り除き,当該地震による解放基盤表面における地震動を評価する解析。剥ぎ取り解析によって評価された解放基盤表面における地震動を剥ぎ取り波という。
)により,観測点の地下の岩盤面における地震動を
推定するために必要な精度の高い情報が得られている記録は,平成16年北海道留萌支庁南部地震(Mw5.7)のみであったことから,これを採用することとした。
同地震のHKD020港町観測点の観測記録については,佐藤浩章ほか(2013)により,ボーリング調査やPS検層等の結果を基に解放基盤表面と評価できる固さの岩盤面(S波速度938m/s)における地震動の推定がされており,その最大加速度は水平方向585ガル,鉛直方向296ガルであった。本件発電所の解放基盤表面の地盤(S波速度2.2km/s)は上記岩盤面よりも固いが,ここでも保守的に地盤の特性による補正等は行わず,かつ,地下構造の不確かさを考慮して最大加速度を水平方向620ガル,鉛直方向320ガルとした。

基準地震動のまとめ
以上の検討の結果,基準地震動としてSs-1からSs-19までを策定した。
Ss-1は,FO-A~FO-B~熊川断層と上林川断層の応答スペクトルに基づく地震動評価をおおむね包絡するように策定したもので,最大加速度は700ガル(水平方向)であり,上林川断層の応答スペクトルに基づく地震動評価を水平方向及び鉛直方向ともに全周期帯で上回った。FO-A~FO-B~熊川断層の応答スペクトルに基づく地震動評価は,傾斜角75度のケースの一部の周期帯で700ガルをわずかに上回ったが,後記のSs-4の最大加速度856ガルは下回った。
次いで,断層モデルを用いた手法による地震動評価のうち,Ss-1の応答スペクトルを上回る16ケースをそれぞれSs-2からSs-17として策定した。これらはいずれもFO-A~FO-B~熊川断層によるものであり,最大加速度は,水平方向がSs-4の856ガル(短周期レベルを1.5倍し,破壊開始点の設定を変えたケースのうちの1つ)
,鉛直方向がSs-14の613ガルであった。
なお,上記のとおり,FO-A~FO-B~熊川断層の応答スペクトルに基づく地震動評価は,同断層の断層モデルを用いた手法による地震動評価の妥当性を検証するために策定したものであるが,両者の応答スペクトルを重ね合わせると,おおむね同等又は断層モデルを用いた手法による地震動評価が上回っており,同手法による地震動評価の妥当性が確認された。
震源を特定せず策定する地震動のうち,加藤ほか(2004)による応答スペクトルは,水平方向及び鉛直方向ともに全周期帯でSs-1の応答スペクトルを下回り,一方で,鳥取県西部地震及び北海道留萌支庁南部地震に基づく応答スペクトルは,いずれもSs-1の応答スペクトルをある周期で上回ったため,これらをそれぞれSs-18,Ss-19とした。もっとも,これらの評価結果は,上記のとおり,本件敷地と比べて軟弱な地盤で観測された記録を地盤の特性による補正等を行わずにそのまま採用したものであり,補正等を行えばSs-1を下回る。
これらの基準地震動Ss-1~19のうちの最大加速度856ガル(Ss-4)は,耐震バックチェック時に策定され,平成22年11月に原子力安全・保安院により妥当性が確認された最大加速度700ガル(応答スペクトルに基づく評価結果としての従来のSs-1)を上回るものである。
基準地震動Ss-1~19について,地震審査ガイドに例示された一
般社団法人日本原子力学会の「原子力発電所の地震を起因とした確率論的安全評価実施基準」
(2007)に従って年超過確率を算出すると,Ss
-1~17(敷地ごとに震源を特定して策定する地震動)につき10-4~10-5(これらを超える地震動が到来するのは1万年から10万年に1回程度)
,Ss-18,19(震源を特定せず策定する地震動)につ
き10-4~10-6となった。

原子力規制委員会の判断
原子力規制委員会は,平成29年5月24日,1審被告が策定した上記の基準地震動は,新規制基準に適合すると判断した。なお,基準地震動を始めとする本件発電所の新規制基準への適合性の審査に当たり,原子力規制委員会は,専門的知見を有する委員等を交えた会合を同年8月まで79回開催し(これらの審査会合は,一般傍聴等により公開され,資料もウェブサイト等で随時公開された。,原子炉設置変更許可申請に対する審査)
書案については,同年2月から3月までの間にパブリックコメントが行われて349件の意見が寄せられ,これらの意見を踏まえて一部修正された上,審査書として正式に了承されたものである。
基準地震動Ssの信頼性について
上記認定に鑑みれば,1審被告が策定した基準地震動Ssは,新規制基準
に従い,最新の科学的手法によって策定されたものであり,そこで用いられた各種のパラメータは,安全側に配慮して保守的な設定がされ,各種の不確かさについても,その性質や程度に応じ,独立又は重ね合わせて考慮し,基本ケースの他にも相当数に及ぶ保守的なケースを設定した上で評価されたものであり,それらの計算過程及び計算結果に不自然,不合理な点は見当たらず,耐震バックチェックにおいて妥当性が確認された従前の基準地震動を更に上回るものとなっており,年超過確率も極めて低い数値となっていることが認められ,これらに照らせば,上記の基準地震動Ssが新規制基準に適合
するとした原子力規制委員会の判断に不合理な点があるとは認められない。1審原告らの主張について

地震動想定の在り方
1審原告らは,地震の予知予測には科学的限界があり,地震発生の機序等も仮説や推測に依拠せざるを得ないのが現状であることからすると,過去最大を超える地震動が来ないとの確実な予測は困難であって,原子力発電所の耐震設計の基礎となる基準地震動については,少なくとも過去最大又は既往最大の考え方に基づいて策定されるべきである旨主張する。
確かに,現在の科学では地震発生のメカニズムは未だ十分に解明されていないし,地震の予知予測を正確に行うこともできないことは,疑いのないところである。また,過去のデータに依拠するとしても,比較的詳細な観測記録が収集されるようになったのは,前記のとおり,平成7年の兵庫県南部地震を契機として全国的に観測網の整備が進んでからのことであって,太古の昔から発生したであろう地震を考慮すると,正確なデータの蓄積としては心許ない面があることは否定できず,しかも,本件ストレステストにおいてクリフエッジとされた基準地震動Ss(当時の最大加速度700ガル)の1.8倍を超える地震動は将来的に来ないとの確実な想定は本来的に不可能であることも,原判決の指摘するとおりである。そうであってみれば,世界有数の地震国である我が国において,地震の発生や規模について正確な科学的予測を立てることが不可能であることなどを理由として,1審原告らの主張するように過去最大又は既往最大の考え方に基づいて基準地震動を策定したり,更に進んで原子力発電所の建設又は運転そのものを否定したり禁止することは,政策的な選択として十分にとり得るところであろう。
しかし,前記のとおり,現在の我が国の法制度は,原子力の平和利用
としての原子力発電を行うことを認めているのであって,司法判断として人格権侵害との関係を考えるに当たっては,最新の科学的・専門技術的知見に照らし,原子力発電に内在する危険に適切に対処すべく管理・統制がされているか否かが問題とされるべきであることからすると,原子力発電所に来襲する可能性のある地震動に関しても,最新の科学的・専門技術的知見に照らし,その想定が合理的な内容となっているか否かが問われるべきである。
そして,新規制基準について,各分野の専門家が参加し,最新の科学的・専門技術的知見を反映して制定されていることは,前記のとおりであり,かつ,原子力規制委員会でも,十分な審査を経て,1審被告が策定した基準地震動について新規制基準への適合性を確認しているのであって,その原子力規制委員会の判断に不合理な点が見当たらない以上,策定された基準地震動は,最新の科学的・専門技術的見地からして,本件発電所に来襲する地震動の想定として合理的な内容になっているというべきであり,これを超えて過去最大又は既往最大に備えなければ違法の問題が生ずるなどと解することはできない。
以上のとおり,1審原告らの主張は,政治的政策的見地としてはともかく,司法判断として人格権侵害を理由とした原子力発電所の運転差止めの当否が問われている本件訴訟においては,採用できないというべきである。なお,強震動予測レシピが平成28年12月に改訂された際,その中で「断層とそこで生ずる地震及びそれによってもたらされる強震動に関して得られた知見は未だ十分とはいえないことから,特に現象のばらつきや不確定性の考慮が必要な場合には,その点に十分留意して計算方法と計算結果を吟味・判断した上で震源断層を設定することが望ましい。
」との一文が記載されたが(甲422)
,これは,科学技術の不
断の進歩により地震に関する知見は常に蓄積されるものの,未だその解
明が十分であるとはいえないから,現象のばらつきや不確かさに対して適切な考慮が払われるべきであることを意味したものであって,科学的解明が不十分であるからといって,最新の科学的知見を反映させた基準地震動の策定が法的に不当なものとの評価を受けるわけではないのであり,上記の説示に符合する記述であるといって差し支えない。
1審原告らは,基準地震動の策定に当たって用いられる耐専式等の距離減衰式,強震動予測レシピやその中で用いられる松田式等の経験式あるいはグリーン関数法等について,これらはあくまで平均像を求めるものでしかなく,基礎となるデータが極めてわずかであることと相まって,莫大な誤差という宿命から逃れられず,基準地震動の過小評価につながっている旨主張する。
しかしながら,収集したデータを回帰的に分析して,それらのデータに最も適合する法則を見いだすのは科学的手法として一般的に確立されており,その法則に一定の誤差が生じるのは避けられないとしても,その誤差については,各経験式の成り立ちや適用範囲を踏まえつつ,保守的に各種パラメータを設定したり,各種の不確かさを独立して,あるいは重ね合わせて考慮することによって適切に対処することが可能であるといえるのであり,かつ,前記のとおり,強震動予測レシピや耐専式,松田式による地震動の評価結果と実際の地震動の観測記録とがよく整合することが確認されていることに照らしても,1審原告らの主張は当を得ないというべきである。

入倉・三宅式
1審原告らは,原子力規制委員会委員長代理であった島崎邦彦東京大学名誉教授の見解(甲193,264,297,298,317,331,450)及び当審証言(以下,併せて「島崎意見」という。
)に依
拠して,地震動の事前予測に当たり,入倉・三宅式を用いて断層面積か
ら地震モーメントを求めると,その数値は過小評価となり,ひいては地震動が過小評価となる旨主張する。
入倉・三宅式は,震源断層の面積(震源断層の長さと幅から求められる。
)と地震モーメントとの関係を表す経験式であり,地震発生後の震源インバージョン解析等によって得られた震源断層の面積を元データとして作られたものであるところ(甲212)
,島崎意見は,要するに,
地震発生前に知り得るのは地表地震断層の長さだけであり,地表地震断層の長さは地震発生後にようやく判明する震源断層の長さよりも短いとされているから,地震動の事前予測に当たって,地表地震断層の長さから求めた断層面積を入倉・三宅式に用いると,断層面積が過小に設定されることとなり,その結果,地震モーメントも過小に評価されてしまうというのである。
しかし,原子力発電所の耐震設計において基準地震動を策定する目的は,運用期間中に予想される地震動の大きさを科学的に合理的な方法で推定することによって,安全上重要な設備が損傷するのを防ぐことにあり,そうであってみれば,震源断層の面積が正確に計算されない限り地震動の大きさを合理的に推定できないというものではない。そして,島崎意見が示す過小評価のおそれは,事前予測に当たり,対象となる活断層の長さや幅を地表地震断層の長さ等に比して保守的に大きく見積もり,断層面積を地表地震断層の長さそのものから求めた数値より大きく設定すること,あるいは,科学技術の進展に伴い,詳細な地質調査等を行って,活断層の長さ等を事前にできるだけ実態に近い値に推定することによって防ぐことが可能であると考えられる。
このことは,近時に発生した熊本地震の例を見ても明らかであるといえ,証拠(乙164,190,193,197ないし199,202)によれば,①熊本地震では,平成28年4月14日に日奈久断層
帯の高野-白旗区間,同月16日に布田川断層帯の布田川区間がそれぞれ活動したとされ,地震規模は前者がマグニチュード6.5,後者がマグニチュード7.3であったこと,②独立行政法人防災科学技術研究所の震源インバージョン解析の結果では,震源断層の長さは前者が22km,後者が56km又は72kmとされるのに対し,国立研究開発法人産業技術総合研究所の調査では,同地震によって1回で発生した地表地震断層の長さは前者が6㎞,後者が28kmであるとされていること,③熊本地震の発生区域は,同地震の発生前から活断層が存在する区域として広く知られており,地震調査研究推進本部による長期評価の対象となっていて,平成25年2月の長期評価では,日奈久断層帯の全体と布田川断層帯の布田川区間が同時に活動した場合を想定すべきであるとして,これらの断層の長さは合計100km,地震規模はマグニチュード7.8~8.2と評価されていたこと,④川内原発を設置する九州電力株式会社は,同発電所の基準地震動の策定に当たり,上記の各断層帯が連動することを想定して断層の長さを92.1km,地震規模をマグニチュード8.1と評価していたことが認められる。すなわち,原子力発電所のような格段に高い安全性が求められる施設に対する地震動を事前予測するに当たっては,想定すべき震源断層の長さ(又は面積)を地表地震断層の長さに比して合理的に可能な範囲で保守的に設定することにより,過小評価を防ぐことが可能であるといえる。
これを本件発電所における地震動の事前予測についてみると,前記のとおり,本件発電所の存する若狭湾周辺は,明瞭な地表地震断層が密に発達している活断層の成熟した地域であり,地表地震断層から活断層の位置や長さなどを推定しやすいという特徴があるところ,1審被告は,そのような特徴を有する地域において,海上音波探査を始め
とする種々の調査を実施し,検討用地震の対象として選定した断層であるFO-A~FO-B~熊川断層について,確実に断層が存在しないといえる地点を端部として,既存文献では18kmとされていたFO-A断層の長さを24km,既存文献には記載されていなかったFO-B断層の長さを11km,既存文献では9km又は12kmとされていた熊川断層の長さを14kmと評価し,かつ,約15㎞離隔しているFO-A~FO-B断層と熊川断層とが連動するものとして,地表地震断層が存在しない上記の離隔部分も含めて断層の長さを合計63.4kmと評価している。加えて,断層の幅についても,上端深さ及び下端深さを保守的に評価して15kmと設定したほか,地震動評価に当たり,不確かさを考慮して断層幅が大きくなるように断層傾斜角を75度にしたケースも設定し,さらに,断層の全体が1回で動くものと想定して断層面積を求めているのであって,これらによれば,FO-A~FO-B~熊川断層の断層面積は,実態に近い値に推定されているかは措くとしても,十分に保守的に大きく評価されているということができる。
以上によれば,漫然と地表地震断層の長さに依拠すべきでないという意味で傾聴すべき島崎意見を踏まえても,1審被告が策定した基準地震動が過小評価であるということはできない。
1審原告らは,島崎氏の指摘を受けた原子力規制庁が強震動予測レシピで使われている入倉・三宅式を武村式(武村雅之名古屋大学教授が提案した断層の長さと地震モーメントの関係を表す経験式。1998)に置き換えて本件発電所に到来する地震動を評価したところ,入倉・三宅式を使った場合の1.8倍になるという結果が出たこと(甲339,340)を指摘するが,1つのパッケージとして地震動を評価する強震動予測レシピのうち,経験式や震源特性パラメータの一部だけ
を他の式等に置き換えて使うことについて科学的合理性があるといえるのかは疑わしく,現に武村式に置き換えると,アスペリティの面積や背景領域(震源断層面のアスペリティ以外の部分)の応力降下量が非現実的な数値となったことから,原子力規制庁や原子力規制委員会もその計算結果の信頼性を否定していることが認められ(乙159,239の1)
,これによれば,1審原告らの指摘する計算結果を考慮し
ても,1審被告が策定した基準地震動の妥当性は左右されないというべきである。
また,1審原告らは,入倉・三宅式の計算式そのものの信頼性についても疑問視するが,同式は熊本地震を含めた実際の地震記録と整合することが確認されているほか(甲360,448,457,乙186,190,201,242)
,島崎氏も同式の信頼性自体は否定しな
い旨証言していることからすると,その信頼性は問題とするに当たらない。
強震動予測レシピには,地震モーメントを求める方法として,入倉・三宅式を用いた方法以外にも,松田式を用いた方法が記載され,同方法が地震調査研究推進本部による長期評価や強震動予測に使われたり,他の原子力発電所の地震動評価に用いられた例のあることが認められる(甲299,302,422)
。もっとも,強震動予測レシピにおいて,
両式の使い分けの基準や優劣,あるいは両式を併用すべきとする記載はなく,両式とも科学的合理性のある方法として採用されているところ,新規制基準は事業者に対して活断層の詳細な調査を求めていることは前記のとおりであり,1審被告が実際に行った活断層の詳細な調査結果に鑑み,活断層の長さ等が保守的に設定されていることを前提として,入倉・三宅式を用いた方法によって地震動を評価し,基準地震動を策定したことが不合理であるとはいえない。

なお,平成28年12月の改訂によって強震動予測レシピの冒頭の文章及び地震モーメントの算定方法の表題部分が訂正されたとはいえ(甲422)
,これをもって強震動予測レシピの実質的な内容までが変
更されたものとは解せられず,これが変更されたかのようにいう1審原告らの主張は採用の限りでない。

震源として考慮すべき活断層
1審原告らは,①FO-A~FO-B断層について,海底下の200~300m程度の表層しか調査していないこと,②上林川断層について,亀高正男ほかの論稿(甲318)によれば,その北東端は1審被告が主張する位置よりも8km程度先のおおい町笹谷付近まで延長している可能性があること,③断層の幅について,地震調査研究推進本部の評価(甲565)によれば,若狭湾周辺において15kmよりも大きいとされている断層があることなどを指摘して,1審被告の調査は不十分であり,断層の長さや幅の設定が保守的とはいえない旨主張する。
しかしながら,①海底は風化の影響を受けにくく堆積物が保存されやすい上,堆積速度が大きい内湾では時間分解能が高い(堆積の薄い堆積物から長い年月の変化を知ることができる。
)とされているから
(乙256,260,261)
,海底下200~300mの深度しか調
査していないことをもって調査が不十分であるとはいえない。また,②上記の論稿は,活断層とは性質の異なる地質断層が上記付近まで延長していると指摘するものにすぎず,これによって活断層としての上林川断層の長さが左右されるとはいえない。さらに,③1審原告らが指摘する断層幅には,強震動予測レシピの松田式を用いた方法によって仮想的に長く調整された断層幅が含まれていると推認され,1審被告は詳細な活断層の調査によって断層幅を評価しているから,これと
比較して仮想的に調整された断層幅が長くなるのは特に不自然とはいえない。以上によれば,1審原告らの上記主張によっても,1審被告による調査及び断層の長さ・幅の設定が不合理であるとはいえない。1審原告らは,本件敷地にある破砕帯について,原子力安全・保安院の指示による再調査後の新F-6破砕帯は,旧F-6破砕帯とは異なる可能性があるし,仮に同じであるとしても,調査結果が変遷したのは1審被告の調査能力の欠如を示すものである旨主張する。
しかしながら,上記のとおり調査結果が変遷したのは,最新の科学的調査により正確な破砕帯の位置が判明したことによるのであって,別の破砕帯が存在することを示すものではなく,また,これをもって従前の調査がずさんであったとか,信頼性に欠けるものであったということにはならない。しかも,新F-6破砕帯のみならず,旧F-6破砕帯の一部とされていた台場浜トレンチの破砕部を含むその他の破砕帯は,いずれも震源として考慮すべき活断層に当たらない旨確認されたことは前記認定のとおりであり,1審原告らの主張は理由がない。
1審原告らは,本件発電所の立地する地域が歪み集中帯に位置し,内陸地殻内地震や大地震が発生しやすい地域性を有する旨主張するが,そうであるとしても,そのことは活断層の調査や地震の予測が困難であることを示すものではなく,1審被告の策定した基準地震動の信頼性は左右されない。

地震動評価における各種の不確かさ
1審原告らは,断層の長さが80kmを超えないFO-A~FO-B~熊川断層は長大な断層に当たらないから,アスペリティの面積比や応力降下量について,強震動予測レシピに記載された固定値(アスペリティの面積比22%,震源断層全体の応力降下量3.1Mpa)を用いるべきでない旨主張する。

しかしながら,強震動予測レシピにおいて,長大な断層を長さが100kmあるいは80kmを超える場合に限定する旨の記載はなく,むしろ平成28年12月に修正された強震動予測レシピでは,アスペリティ面積比が大きくなるなど円形クラックの式を用いてアスペリティの大きさを決めることが困難な断層には上記の固定値を用いることができる旨が示され(甲422)
,FO-A~FO-B~熊川断層のアスペ
リティの面積比が37%という大きい値であったことから上記の固定値を用いたことは前記認定のとおりであり,そのような取扱いは強震動予測レシピに沿うものである。この点,地震調査研究推進本部の強振動予測において,アスペリティの面積比が30%を超えるケースでも上記の固定値を用いていない例があること(甲354,567),ま
た,国内の内陸地殻内地震におけるアスペリティの面積比の平均値が16%であるとする研究があること(甲448)
,原子力安全・保安院
が開催した会合において,アスペリティの応力降下量を1.5倍又は25Mpaにすべきという提案をした専門家がいたこと(甲384)は,そのような事例や学問上の見解があるということにすぎず,これらによっても強震動予測レシピに従った1審被告のパラメータの設定が不合理であるとはいえない。
1審原告らは,山田雅行ほかの研究(2007,甲303添付資料②)に依拠して,強震動予測レシピに基づく強震動評価のばらつきは震源特性だけでも標準偏差で優に2倍を超えると考えられるのに,1審被告が不確かさを考慮したケースでは基本ケースの2倍程度の大きさにとどまるとして,その不確かさの考慮や重ね合わせは不十分である旨主張する。
しかしながら,上記研究が対象としたのは森本・富樫断層帯をモデルとした仮想の断層であって,本件のFO-A~FO-B~熊川断層
及び上林川断層とは断層の面積や形状が異なることがうかがえるから,震源パラメータのばらつきによる地震動への影響の程度に差異が生じても不自然ではないし,上記研究において地震動に影響を与えるとされたアスペリティの位置,応力降下量,破壊開始点及び破壊伝播速度といった震源パラメータのばらつきについては,FO-A~FO-B~熊川断層及び上林川断層に係る詳細な活断層調査を基として,1審被告も不確かさとして適切な考慮をし,それらの条件を独立又は重ね合わせて変化させた複数のケースを設定して地震動を評価しているのであるから,上記研究によっても1審被告の不確かさの考慮が不合理であるとはいえない。
1審原告らは,FO-A~FO-B~熊川断層の応答スペクトルに基づく地震動評価について,1審被告が用いた9個の距離減衰式は,震源断層面の広がりなどを評価することができる耐専式のような利点がなく,震源距離が短いものの評価には対応していない式も含まれており,これらを用いた地震動評価には信頼性がない旨主張する。
しかしながら,仮に9個の距離減衰式に耐専式のような利点がなくとも科学的な正当性がにわかに失われるものではないし,震源距離が短いもののの評価には向いていない式が含まれていたとしても,その不都合は他の式により補われていないわけではない。しかも,敷地との距離が近いFO-A~FO-B~熊川断層の応答スペクトルに基づく地震動評価は,前記のとおり断層モデルを用いた手法による地震動評価の妥当性を検証する限度で用いたのであるから,1審原告らの上記主張によっても,直ちに基準地震動の信頼性が動かされるとはいえない。

震源を特定せず策定する地震動
1審原告らは,①財団法人地域地盤環境研究所が北海道留萌支庁南部地震の震源断層モデルを用いて同地震を再現した結果(甲62)によれ
ば,その最大値は地震観測記録の1.8倍になったこと,②独立行政法人原子力安全基盤機構(後に原子力規制庁に統合)が独自の断層モデルを用いて震源を特定しにくい地震による地震動を解析した結果(甲204)によれば,マグニチュード6.5の横ずれ断層で1098ガル又は1340ガルの地震動が起こると指摘されていることからすると,1審被告による北海道留萌支庁南部地震を考慮した地震動の評価は過小である旨主張する。
しかしながら,①の地震動評価に用いられた地盤構造モデルは,HKD020観測点以外の地盤の速度構造を調査することなく,同地点の一次元速度構造モデルを20km四方の広域に拡張して面的な地震動評価を行ったものであり,留萌周辺における地盤の増幅特性を適切に反映しているといえるかは疑問が残るといわざるを得ない。また,②の調査報告は,地震動と年超過確率との関係を評価する目的で,仮想の断層モデルに種々の仮定的条件を与えて解析した結果を算出したものであり,そこで算出された地震動をそのまま震源を特定せず策定する地震動として用いることを目的としていないし(乙153)
,しかも,1審原告らが指摘する
1098ガル又は1340ガルという値は,いずれも年超過確率が10-6

よりも更に低い確率となっており(甲204[付2.1-12頁,左上
図],現実にそのような地震動が生ずる(本件発電所の運用期間中に)
そのような地震動に襲われる)ことは考え難い。
以上によれば,上記の各研究結果を根拠として北海道留萌支庁南部地震に基づく1審被告の地震動評価が過小であるとはいえず,1審原告らの上記主張は採用できない。
1審原告らは,地震審査ガイドに例示された地震以外にも事前に震源が特定できずに原子力発電所に想定外の地震動をもたらした地震(平成19年能登半島地震,同年新潟県中越沖地震など)があるし,リストに
例示された地震の中にも,仔細に検討すれば,震源を特定せず策定する地震動の評価がより厳しくなるはずの地震があり(平成23年長野県北部地震,同年和歌山県北部地震など)
,これらを考慮していない1審被
告の地震動評価は過小である旨主張する。
しかしながら,1審原告らが指摘する各地震は,詳細な調査をしていれば事前に震源を特定できたものか,あるいは各観測点において信頼性のある地盤モデルや剥ぎ取り解析の結果が得られておらず,それらの観測記録を直ちに活用できないものであって(甲286,乙88,239)
,これらを考慮していないことが不合理であるとはいえない。また,1審被告は,前記のとおり,国内外の複数の地震観測記録を包絡して作成された加藤ほか(2004)の応答スペクトルを参照しているから,地震審査ガイドに例示された地震以外についても考慮しているといえる。この点,1審原告らは,加藤ほか(2004)の研究における元データの数が9地震12地点の15記録にすぎないことを指摘して上記研究の信頼性を論難するが,独立行政法人原子力安全基盤機構の報告書(甲61)によれば,その信頼性が否定されるとは解されないし,1審被告が震源を特定せず策定する地震動評価として策定した基準地震動Ss-18,19は,加藤ほかの応答スペクトルを上回った鳥取県西部地震及び北海道留萌支庁南部地震の応答スペクトルに基づいて策定されているから,1審原告らの論難は問題とするに当たらない。
1審原告らは,平成14年6月に開かれた中央防災会議の東南海,南海地震等に関する専門調査会での議論を掲げて,マグニチュード7.3以下の地震は,活断層が地表に現れない潜在的な断層によるものも少なくなく,どこでもこのような規模の地震が発生する可能性がある旨主張するが,上記専門調査会での議論は,その議論の途中でされた一部の意見であることがうかがえるし,一般的な地震発生の可能性及び予測の困
難性を示したものと見受けられるのであって,概括的な意見の域を出ないといえるから,1審被告の地震動評価が妥当であるとする説示が左右されるものではない。

地盤モデル
1審原告らは,赤松純平の意見書(甲478)又は田村八洲夫の見解(甲546)に依拠して,本件敷地における試掘抗弾性波探査の結果には差があり,本件発電所のうち3号機の敷地の方が速度が遅いこと,PS検層,地震波干渉法及び微動アレイ観測の結果によれば,地下の一定程度の深さに低速度層の存在が示唆されること,反射法地震探査の深度断面における反射の層は,連続性に欠けていて回折波が見られるほか,多数のでこぼこや曲がりくねった形状も見られ,特異な構造であることが推定されることなどからすれば,地盤モデルが均質な水平成層構造であるとした1審被告の評価は誤っている旨主張する。
しかしながら,現実に観察される地層がきれいに均質な水平成層構造を呈していることなどはかえって考えにくいし,しかも,調査の結果に一定の誤差やばらつきが生じることは避けられないから,各種調査の結果を総合的に評価することが求められるところ,上記の意見書等が指摘する速度の差や地下に見られるという低速度層,あるいは特異と指摘する形状が,他の調査結果と照らし合わせたときに,どこまで有意な差といえるのかは必ずしも判然としないのであって,これをもって直ちに地下構造の均質さに疑義が生じるとはいえない。また,上記の意見書等が指摘する反射法地震探査の反射面を全体としてみれば,水平な成層であると評価することができるのであり,部分的には不連続であったり,曲がった箇所があるとしても,上記の評価に影響しないといって差し支えなく,かつ,それらが異常といえるほどのものなのか,あるいは見られるという回折波が上記の評価に与える影響の程度等は明らかでないので
あって,これらによって直ちに特異な地下構造であることが推定されるということはできない。以上によれば,上記の意見書等に依拠した1審原告らの主張によっても,1審被告が評価した地盤モデルの妥当性は動かないというべきである。
なお,1審原告らは,これ以外にも立石雅昭(甲316)及び石井吉(甲494)の各意見書を提出して,1審被告による活断層又は地下構造の調査方法等を論難するが,これらの意見書は,1審被告が行った調査方法の詳細を踏まえないものであったり,具体的な問題点を的確に指摘するものとは認められず,上記認定を左右しない。

以上の諸点を含め,基準地震動の信頼性を論難する1審原告らの主張は,前記の認定・説示に照らし,いずれも採用できない。
他の観測事例との比較について
1審原告らは,他の原子力発電所で基準地震動を超える地震動が到来した
事例(本件5例等)を指摘して,本件発電所にも基準地震動Ssを上回る地震動が到来する可能性があると主張する。

証拠(甲1,34ないし38,94,123,144,乙23ないし27,41,44,45)によれば,次の事実が認められる。
平成17年宮城県沖地震(Mj-気象庁マグニチュード-7.2)の際に女川原発で観測された岩盤表面の応答スペクトルは,周期によって基準地震動S1(250ガル)及びS2(375ガル)の応答スペクトルを上回ったが,その要因は,宮城県沖近海のプレート境界に発生する地震では,特に短周期レベルが大きい傾向にあるという地域特性によると考えられた。もっとも,上記地震動が安全上重要な施設に与えた影響は小さく,同発電所の耐震安全性は確保されていることが確認された。平成19年能登半島地震(Mj6.9)の際に志賀原発で観測された地震動の剥ぎ取り波(解放基盤表面はEL.-10m,S波速度1.5㎞/
s)の応答スペクトルは,一部の周期帯で基準地震動S1(375ガル)及びS2(490ガル)を超過したが,基準地震動S2を上回る周期帯には安全上重要な施設がなく,同施設に影響を与える可能性がある周期帯で基準地震動S1を超えた割合はわずかであった。また,原子炉建屋及び機器・配管に対する影響は,基準地震動S1に対して定められた評価基準値内に収まり,同発電所の耐震安全性は確保されていることが確認された。
平成19年新潟県中越沖地震(Mj6.8)の際に柏崎刈羽原発で観測された記録に基づき推定された解放基盤表面の地震動(最大で1699ガル)は,基準地震動S2(450ガル)を上回ったが,その要因は,同地震の震源断層モデルが海域の主に南東傾斜からなる逆断層であり,3つのアスペリティのうちの1つが敷地に近く,短周期レベルが平均的なものより1.5倍程度大きかったことに加え,周辺の深部地盤が堆積層の厚さと基盤正面の傾きの影響で不整形であり,更に敷地下に古い褶曲構造があることによって地震波が増幅されたことによると考えられた。なお,同発電所の解放基盤表面は,GL.-146m~-290m,S波速度700~730m/s程度の岩盤に設定されていた。
平成23年東北地方太平洋沖地震(Mw9.0)の際に福島第一原発及び女川原発において観測された記録の応答スペクトルは,それぞれ基準地震動Ssの応答スペクトルを局所的に上回ったが,その程度はほぼ同等であったり,ほとんどの周期帯で基準地震動Ssの応答スペクトルを下回った。女川原発では,同地震によっても原子炉建屋の機能が維持されたことが確認され,福島第一原発では,前記のとおり,国会事故調査委員会の見解を除き,地震による安全上重要な設備の損傷はなかったとされている。なお,同地震の際には,日本原子力発電株式会社の東海第二発電所でも,観測記録の応答スペクトルが基準地震動Ssの応答ス
ペクトルを局所的に上回ったが,ほとんどの周期帯で基準地震動Ssの応答スペクトルを下回り,施設の耐震安全性に影響はなかった。

上記認定に鑑みれば,

及び

の事例は,プレート間地震又は海洋プレ

ート内地震で起きた事例であり,内陸地殻内地震による影響を受けるとされる本件発電所の場合に当てはまるものではなく(1審原告らが指摘する平成23年4月の宮城県沖地震の際の女川原発の事例も同様である。,)
殊に

の事例は,

及び

の事例とともに,耐震設計審査指針の旧指針下

における基準地震動との比較であるから,新規制基準の下における基準地震動Ssの妥当性を検証するに当たって,ふさわしい事例とはいえない。また,

の事例は,S波速度が1.5㎞/sの解放基盤表面で観測された記
録であり,

の事例は,震源断層モデルが本件とは異なる逆断層において,

不整形かつ古い褶曲構造がある地盤で観測された記録であり,選定された検討用地震に係る断層が横ずれ断層で,地表面から地下200m付近にS波速度が2.2km/s程度の硬質な岩盤がほぼ均質に広がっている本件敷地周辺とは,震源特性又は増幅特性が大きく異なるといえる。なお,1審被告は,

の事例を踏まえ,短周期レベルを1.5倍にしたケースも検討し

ていることは前記のとおりである。
したがって,本件5例等を持ち出して,本件発電所の基準地震動の信頼性・妥当性を論難することは,当を得ないというべきである。

平成28年熊本地震では,熊本県内の益城観測点で1580ガル(Mj6.5の地震に伴うもの)
,大津観測点で1791ガル(Mj7.3の地
震に伴うもの)という大きな加速度(いずれも東西,南北,上下成分の三成分合成)が観測されたが(甲443,乙165,198)
,益城観測点
の地表の地震計は,S波速度が110m/s程度の軟らかい地盤上に設置され,その地下252m付近の固い地盤における観測値は約237ガルであったことが認められる(乙166ないし168)など,軟らかい地盤での
観測結果又は地盤の増幅特性の影響(地域性の違い)によることがうかがえるから,上記の各観測結果が本件発電所の基準地震動Ssの信頼性を左右するとはいえない。また,1審原告らは,平成20年の岩手・宮城内陸地震で加速度値4022ガルが観測された地点があったこと(地中地震計で1078ガルが記録されたこと)を指摘するが,前記認定のとおり,岩手・宮城内陸地震の事例は本件敷地に存しない特異な地盤の影響によるものであって,これをもって1審被告の策定した基準地震動の妥当性を論難することはできない。
4
津波について
基準津波に関する新規制基準の定めについて

設置許可基準規則5条は,設計基準対象施設(発電用原子炉施設のうち,運転時の異常な過渡変化又は設計基準事故の発生を防止し,又はこれらの拡大を防止するために必要となるものをいう(同規則2条2項7号)。な
お,運転時の異常な過渡変化とは,通常運転時に予想される機械又は器具の単一の故障若しくはその誤作動又は運転員の単一の誤操作及びこれらと類似の頻度で発生すると予想される外乱によって発生する異常な状態であって,当該状態が継続した場合には発電用原子炉の炉心又は原子炉冷却材圧力バウンダリの著しい損傷が生ずるおそれがあるものとして安全設計上想定すべきものをいい(同項3号)
,設計基準事故とは,発生頻度が運転
時の異常な過渡変化より低い異常な状態であって,当該状態が発生した場合には発電用原子炉施設から多量の放射性物質が放出するおそれがあるものとして安全設計上想定すべきものをいう(同項4号))は,その供用。
中に当該設計基準対象施設に大きな影響を及ぼすおそれがある津波(以下「基準津波」という。
)に対して安全機能が損なわれるおそれがないもの
でなければならないと規定し,同規則40条は,重大事故等対処施設(運転時の異常な過度変化及び設計基準事故を除き,重大事故に至るおそれが
ある事故又は重大事故に対処するための機能を有する施設をいう(同規則2条2項11号))は,基準津波に対して重大事故等に対処するために。
必要な機能が損なわれるおそれがないものでなければならないと規定している。

設置許可基準規則の解釈別記3の5条1項及び2項は,基準津波の策定について,次のとおり規定している(乙65)

基準津波は,最新の科学的・技術的知見を踏まえ,波源海域から敷地周辺までの海底地形,地質構造及び地震活動性等の地震学的見地から想定することが適切なものを策定すること。また,津波の発生要因として,地震のほか,地すべり,斜面崩壊その他の地震以外の要因,及びこれらの組合せによるものを複数選定し,不確かさを考慮して数値解析を実施し,策定すること。また,基準津波の時刻歴波形を示す際は,敷地前面海域の海底地形の特徴を踏まえ,時刻歴波形に対して施設からの反射波の影響が微少となるよう,施設から離れた沿岸域における津波を用いること。
なお,基準津波の策定に当たっての調査については,目的に応じた調査手法を選定するとともに,調査手法の適用条件及び精度等に配慮することによって,調査結果の信頼性と精度を確保すること。
基準津波の策定に当たっては,以下の方針によること。


津波を発生させる要因として,プレート間地震,海洋プレート内地震,海域の活断層による地殻内地震,陸上及び海底での地すべり及び斜面崩壊,火山現象(噴火,山体崩壊又はカルデラ陥没等)の要因を考慮するものとし,敷地に大きな影響を与えると予想される要因を複数選定すること。また,津波発生要因に係る敷地の地学的背景及び津波発生要因の関連性を踏まえ,プレート間地震及びその他の地震,又は地震及び地すべり若しくは斜面崩壊等の組合せについて考慮するこ
と。


プレート形状,すべり欠損分布,断層形状,地形・地質及び火山の位置等から考えられる適切な規模の津波波源を考慮すること。この場合,国内のみならず世界で起きた大規模な津波事例を踏まえ,津波の発生機構及びテクトニクス的背景の類似性を考慮した上で検討を行うこと。また,遠地津波に対しても,国内のみならず世界での事例を踏まえ,検討を行うこと。



プレート間地震については,地震発生層の深さの下限から海溝軸までが震源域となる地震を考慮すること。



他の地域において発生した大規模な津波の沖合での水位変化が観測されている場合は,津波の発生機構,テクトニクス的背景の類似性及び観測された海域における地形の影響を考慮した上で,必要に応じ基準津波への影響について検討すること。



基準津波による遡上津波は,敷地周辺における津波堆積物等の地質学的証拠及び歴史記録等から推定される津波高及び浸水域を上回っていること。また,行政機関により敷地又はその周辺の津波が評価されている場合には,波源設定の考え方及び解析条件等の相違点に着目して内容を精査した上で,安全側の評価を実施するとの観点から必要な科学的・技術的知見を基準津波の策定に反映すること。



耐津波設計上の十分な裕度を含めるため,基準津波の策定の過程に伴う不確かさの考慮に当たっては,基準津波の策定に及ぼす影響が大きいと考えられる波源特性の不確かさの要因(断層の位置,長さ,幅,走向,傾斜角,すべり量,すべり角,すべり分布,破壊開始点及び破壊伝播速度等)及びその大きさの程度並びにそれらに係る考え方及び解釈の違いによる不確かさを十分踏まえた上で,適切な手法を用いること。



津波の調査においては,必要な調査範囲を地震動評価における調査よりも十分に広く設定した上で,調査地域の地形・地質条件に応じ,既存文献の調査,変動地形学的調査,地質調査及び地球物理学的調査等の特性を活かし,これらを適切に組み合わせた調査を行うこと。また,津波の発生要因に係る調査及び波源モデルの設定に必要な調査,敷地周辺に襲来した可能性のある津波に係る調査,津波の伝播経路に係る調査及び砂移動の評価に必要な調査を行うこと。



基準津波の策定に当たって行う調査及び評価は,最新の科学的・技術的知見を踏まえること。また,既往の資料等について,調査範囲の広さを踏まえた上で,それらの充足度及び精度に対する十分な考慮を行い,参照すること。なお,既往の資料と異なる見解を採用した場合には,その根拠を明示すること。



基準津波については,対応する超過確率を参照し,策定された津波がどの程度の超過確率に相当するかを把握すること。

本件発電所における基準津波の策定について
証拠(甲18,215,235,406,乙51,52,62,63,107,109,111,182,210ないし213,235)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。

既往津波
1審被告は,敷地周辺に影響を及ぼした過去の津波を調査するに当たり,既存文献(羽鳥徳太郎「日本海の歴史津波」「歴史津波からみた・
若狭湾岸の津波の挙動」
,国立天文台編「理科年表」
,宇佐美龍夫ほか
「日本被害地震総覧」
,気象庁「地震・火山月報(防災編),渡辺偉夫

「日本被害津波総覧」など)を調査するとともに,若狭湾沿岸地域に現存し,創建年代が西暦700年以降の13か所の神社において聞き取り調査を行った。その結果,地震によるもの,地震以外の要因によるもの
を含め,若狭湾周辺に大きな被害をもたらした津波はなかったが,比較的大きな水位変動を与えた津波としては,昭和58年日本海中部地震津波(振幅0.75m)と平成5年北海道南西沖地震津波(水位変動T.P.(東京湾平均海面)-0.50~+0.80m)があることが確認された。また,火山活動に伴う山体崩壊が引き起こした津波としては,1741年の渡島沖地震の記録があったのみで,海底・陸上の地すべりや海底火山活動などによる津波の記録は見当たらなかった。
1審被告は,日本原子力発電株式会社及び独立行政法人日本原子力研究開発機構と共同で,若狭湾沿岸の三方五湖周辺の7か所,久々子湖東方陸域の8か所,猪ヶ池の6か所において,海岸から数十mないし約100m以内の湖や低地等を選定し,そこを調査位置として津波堆積物調査(津波による砂や海生生物の運搬・堆積を経て形成された堆積物について,現在とほぼ地形や海水面を同じくする約1万年前以降の完新世の地層をカバーするようにボーリング調査を行い,採取された津波堆積物について,X線CTスキャンを併用した肉眼観察,微化石層分析等を実施して,津波が到来した時代や到達範囲等を明らかにする調査)を実施したところ,本件発電所の安全性に影響を与えるような規模の津波の痕跡は認められなかった。

地震による津波
1審被告は,地震に起因する津波影響評価について,社団法人土木学会原子力土木委員会が取りまとめた「原子力発電所の津波評価技術」(2002)に基づき,日本海東縁部の断層及び海域活断層による地震に伴う津波の設定と数値シミュレーションによる検討を行った。
この手法では,津波をもたらす断層モデルの諸条件を合理的範囲内で変化させた数値計算を多数実施し(パラメータスタディ)
,その中から
評価点での水位が最も高くなるケースを選定することとされ,そうして
算出される津波水位は,平均的に既往最大津波の痕跡高の約2倍となり,既往最大津波の痕跡高を全て超過することが確認されている。
まず,1審被告は,数値シミュレーションで用いる解析モデル及び計算手法の妥当性を確認するため,当該数値シミュレーションにより本件発電所周辺の既往津波が再現できるかを検討した。既往津波には,前述の昭和58年日本海中部地震津波及び平成5年北海道南西沖地震津波を選定し,その波源となる断層モデルは,前者につき相田の「Model-10」
(1984)を,後者につき高橋ほかの「DCRC-26モデル」(1995)をそれぞれ用いた。また,数値シミュレーションの計算手法(概略数値計算モデルと詳細数値計算モデルがある。
)は,後藤智明ほ
か(1982)の非線形長波理論式及び連続式により,計算領域を対馬海峡から間宮海峡に至る東西方向約1500㎞,南北方向約2000㎞とし,時間格子間隔を0.1秒又は0.3秒,計算時間を海域活断層3時間,日本海東縁部の断層6時間,評価潮位(詳細数値計算モデルの場合)を水位上昇側T.P.+0.49m,水位下降側T.P.-0.01m(ただし,放水ピットの水位上昇側の評価については,循環水ポンプ稼動時の実測値に基づき,計算水位に1.2mを加える。
)とするなどの計算条件を
設定したものである。
上記再現計算の結果,既往津波の再現性の幾何平均(K)は1.01,幾何標準偏差(k)は1.37となり,いずれも目安値である0.95<K<1.05,k<1.45の範囲内に収まったことから,解析モデル及び計算手法の妥当性が確認された。
津波の原因となる対象波源の選定に当たり,まず,敷地周辺の海域活断層について,後期更新世以降(約12万年前から13万年前以降)の活動性が否定できないもののうち,阿部勝征(1989)の予測式を用いて,推定津波高さが1m以上となる5つの海域活断層を抽出し
た。なお,ここで用いた阿部の予測式は,対象波源を選定するために用いたにすぎず,基準津波を算定するための数値シミュレーションでは用いていない。
次いで,日本海東縁部の断層について,北海道沖から新潟沖までの広範囲な海域に,当該海域の既往最大の地震規模を上回るMw7.85の波源モデルを設定した。
以上の波源について,概略数値計算モデルを用いた数値シミュレーションによるパラメータスタディを行い,水位変動量が最大となる波源として,大陸棚外縁~B~野坂断層及びFO-A~FO-B~熊川断層を選定し,これを対象として,詳細数値計算モデルによる数値シミュレーションを実施した。なお,FO-A~FO-B断層と熊川断層,大陸棚外縁~B断層と野坂断層は,いずれも一連の活断層であるという調査結果は得られていないが,保守的に連動するものとして評価した。
その結果,水位上昇が最大となるのは大陸棚外縁~B~野坂断層による津波で,海水ポンプ室前面でT.P.+2.7m,取水路奥でT.P.+3.0mとの評価が得られ,水位下降が最大となるのはFO-A~FO-B~熊川断層による津波で,海水ポンプ室前面でT.P.-1.7mとの評価が得られた。

海底地すべりによる津波
本件発電所に大きな水位変動をもたらすと考えられる海底地すべり地形として,地質調査所(現・国立研究開発法人産業技術総合研究所地質調査総合センター)が作成した海底地質図によれば,本件発電所の北西海域に広がる海底盆地である隠岐トラフ付近に海底地すべり跡と考えられる地形が広範囲にわたって多数認められたことから,この地域を検討対象とすることとし,海底地質図が整理されていない北東側は,同図を参考にして1
審被告において海底地すべり跡を記載し,海上保安庁及び1審被告が行った海上音波探査記録を解析して層相の特徴等から崩壊部や堆積部の幅,長さ,標高等を判読した。その結果,隠岐トラフの南東側及び南西側の水深約500~1000m付近の大陸斜面に馬蹄形をした38個の海底地すべり地形を抽出し,これらを位置や向きにより3つのエリアに分け,エリアごとに最大規模の海底地すべり跡を選定した。そして,その選定した海底地すべりについて,Wattsほか(2005)の予測式及び佐竹健治・加藤幸弘(2002)の運動学的海底地すべりモデル(Kinematicモデル)による予想方法(すべり伝播速度と破壊継続時間で規定されるが,明確な知見は十分に得られていないため,すべり伝播速度はWattsほか(2005)の予測式から求められる最大値を採用し,破壊継続時間は合理的な範囲で地形変化が最速となるように設定した。
)を用いて海底地形変化を算出し,初期水位
波形を予測・設定して,数値シミュレーションによる津波伝播計算を行った。
その結果,最大の水位上昇は海水ポンプ室前面でT.P.+4.2m,取水路奥でT.P.+4.7m,最大の水位下降は海水ポンプ室前面でT.P.-2.7mとの評価が得られた。

陸上地すべりによる津波
本件発電所に最も影響を及ぼすと考えられる陸上地すべりの選定に当たり,まず,独立行政法人防災科学技術研究所が作成した地すべり地形分布図データベースに基づいて,本件発電所から半径約10㎞以内にある地すべり地形のうち,崩落規模及び位置関係を考慮して3つのエリア(内外海半島,本件発電所周辺及び大島半島西方)を抽出し,この抽出されたエリアの地すべり地形につき,空中写真や航空レーザー測量結果による判読,更には上記研究所による評価を参考にして現地踏査を行い,4か所の陸上地すべりを抽出した。次に,抽出された陸上地すべりについて,崩壊部の
体積,すべり角,本件発電所までの距離を算定し,HuberandHager(1997)に示される水位予測式を用いたスクリーニングを実施し,本件発電所での全振幅の推定値が大きく,取水口側への影響が大きいと考えられることから検討すべき地すべり地形として,内外海半島の2か所の地すべり地形を選定した。そして,選定した地すべり地形について,崩壊範囲や崩壊土砂量を想定し,海面に突入する崩壊土砂の挙動の解析結果を基に,Wattsetalほか(2005)による予測式や運動学的手法による予測方法(土砂崩壊シミュレーションによる時間刻み当たりの海面下の地形変化量が,海面水位と海底地形に時々刻々と反映されるものとする。
)により,初期水
位波形を予測・設定して,数値シミュレーションによる津波伝播計算を行った。
その結果,最大の水位上昇は海水ポンプ室前面でT.P.+2.2m,取水路奥でT.P.+1.5m,最大の水位下降は海水ポンプ室前面でT.P.-1.2mとの評価が得られた。

火山現象による津波
国立研究開発法人産業技術総合研究所地質調査総合センターの活火山データベース(2014)や気象庁の「我が国の活火山の分布」によれば,日本海側には活火山として渡島大島(1741年活動)や利尻島(2000~7900年前活動)等があるが,若狭湾沿岸の津波堆積物調査の結果によれば,本件発電所の安全性に影響を与えるような活火山の山体崩壊による津波の痕跡は認められなかった。活火山以外の第四紀火山(約260万年前から現在まで活動した火山)としては隠岐島後があるが,直近の噴火年から現在までに約55万年が経過しており,その期間は過去の最大活動休止期間である約47万年を上回っていることから,今後,同火山が活動する可能性は低く,かつ,同火山については,噴火形態が爆発的な噴火ではなく溶岩流であることから,山体崩壊による有意な津波を引き起こすこと
はないものと評価した。

行政機関が想定した波源モデルによる津波
国及び日本海に面する自治体では,様々な波源モデルを用いて津波の影響を評価しているところ,本件発電所に大きな水位変動をもたらす可能性のある波源モデルとしては,①福井県が想定した若狭海丘列付近断層(安全側に断層長さ90㎞の波源モデルを設定している。
)による津波,②秋
田県が想定した日本海東縁部の断層による津波(日本海東縁部の断層による津波影響評価として,自治体の中で最大規模の波源モデル。,③国土)
交通省・内閣府・文部科学省の「日本海における大規模地震に関する調査検討会」が想定した若狭海丘列付近断層及びFO-A~FO-B~熊川断層による津波があり,それぞれにつき数値シミュレーションを実施した結果,①につき,最大の水位上昇は海水ポンプ室前面でT.P.+3.2m,取水路奥でT.P.+3.9m,最大の水位下降は海水ポンプ室前面でT.P.-2.9m,②につき,最大の水位上昇は海水ポンプ室前面でT.P.+2.1m,取水路奥でT.P.+2.4m,最大の水位下降は海水ポンプ室前面でT.P.-2.0m,③につき,最大の水位上昇は海水ポンプ室前面でT.P.+1.5m,取水路奥でT.P.+1.8m,最大の水位下降は海水ポンプ室前面でT.P.-1.2mとの評価が得られた。


重畳津波
地震の発生に伴って海底又は陸上地すべりが同時的に発生することを想定し,震源断層との近接性を考慮して,①若狭海丘列付近断層(福井県モデル)と隠岐トラフ海底地すべりとの組合せ,②FO-A~FO-B~熊川断層と陸上地すべりとの組合せを検討した。各組合せの検討に当たっては,地震に起因する津波と,それに組み合わせる海底又は陸上地すべりに起因する津波の計算を個別に行い,発生時間の不確かさを考慮しつつ,個々の津波水位評価結果を足し合わせて,最も厳しい組合せのケースを抽出
した。それらの数値シミュレーションを実施した結果,①につき,最大の水位上昇が海水ポンプ室前面でT.P.+6.2m,取水路奥でT.P.+6.7m,最大の水位下降が海水ポンプ室前面でT.P.-4.6m,②につき,最大の水位上昇が海水ポンプ室前面でT.P.+2.7m,取水路奥でT.P.+2.0m,最大の水位下降が海水ポンプ室前面でT.P.-2.1mとの評価が得られた。

基準津波の選定
1審被告は,これらの津波水位の評価結果に基づき,本件発電所の安全上重要な設備に最も大きな影響を及ぼすおそれがある津波として,「若狭
海丘列付近断層(福井県モデル)と隠岐トラフ海底地すべり(エリアB)
」の組合せを選定し,より実現象に近く精度の高い津波計算を実施するため,2つの波源による津波の一体計算を行った。一体計算に当たっては,本件発電所に最も大きな水位変動をもたらす地すべり発生時間のずれを考慮するとともに,施設からの反射波の影響が微少となるように,沿岸から約1km沖合いの水深40mの地点に評価点を設定した。一体計算の結果,水位上昇及び水位下降がそれぞれ最も大きいものとして,地すべりの発生時間が81秒のずれのものを基準津波1に,0秒のずれのものを基準津波2にそれぞれ選定した。基準津波1の最大の水位上昇は,評価点で+2.66m,海水ポンプ室前面でT.P.+5.9m,取水路奥でT.P.+6.3m,最大の水位下降は,評価点で-2.91m,海水ポンプ室前面でT.P.-3.2mとの評価が得られ,基準津波2の最大の水位上昇は,評価点で+3.09m,海水ポンプ室前面でT.P.+5.2m,取水路奥でT.P.+5.4m,最大の水位下降は,評価点で-2.77m,海水ポンプ室前面でT.P.-3.4mとの評価が得られた。
評価点における基準津波の年超過確率を参照すると,水位上昇側及び水位下降側ともに10-5~10-6程度であった。

津波伝播特性の大まかな傾向を把握するため,大飯発電所を津波波源と仮定した上で津波伝播計算を行ったところ,若狭海丘列付近断層への伝播が見られたが,能登半島の地形的遮蔽効果により日本海東縁部への伝播は見られず,若狭海丘列付近断層による津波の影響が比較的大きいことが確認された。
また,基準津波に伴う砂移動評価として,藤井直樹ほか(1998)及び高橋智幸ほか(1999)の手法に基づき,本件発電所の海水ポンプ室前面を評価点とし,津波による砂の巻き上げ,沈降を考慮した移動床モデルによる数値シミュレーションを実施したところ,基準津波1では浮遊砂体積濃度上限値1%の場合で堆積0.01~0.12m程度,同上限値5%の場合で堆積0.01m程度であり,基準津波2では同上限値1%の場合で堆積0.01~0.14m程度,同上限値5%の場合で堆積0.01m程度であった。したがって,砂移動の堆積は最大でも0.14m程度であり,取水等への影響はないことが確認された。

原子力規制委員会の判断
原子力規制委員会は,1審被告による基準津波の策定及び津波評価について,新規制基準に適合することを確認した。
基準津波の信頼性について
上記認定に鑑みれば,1審被告による基準津波の策定及び津波評価は,
「原子力発電所の津波評価技術」を始めとする最新の科学的手法及び知見に基づいて行われたものであり,各種パラメータの設定や津波の組合せに当たっては,各種の不確かさを考慮するとともに安全側に配慮した保守的な条件が設定され(地震モーメントやすべり量についてばらつきを考慮していない旨をいう1審原告らの主張は当たらない。,そこで用いられた数値や,計)
算過程及び計算結果に不自然,不合理な点は見当たらず,基準津波の年超過確率も極めて低い数値となっていることが認められるのであり,これらによ
れば,1審被告による基準津波の策定及び津波評価が新規制基準に適合するとした原子力規制委員会の判断に不合理な点があるとは認められない。1審原告らの主張について

1審原告らは,福井大学の山本博文教授による津波堆積物調査の結果
(甲254,262,乙107の添付資料)に依拠して,若狭湾沿岸において,過去に基準津波を超える大津波が押し寄せた可能性がある旨主張する。
この点,上記の調査結果は,若狭湾沿岸に位置する高浜町薗部地区の8か所でボーリング調査を実施したところ,そのうち海岸から500m以上内陸の1か所で発見された砂層の堆積物について,14~16世紀頃に浜堤の切れ間を流れる笠原川を遡上した津波によってもたらされた可能性が高いとするものである。
しかしながら,証拠(乙107,108)によれば,1審被告が同地区を対象とする津波シミュレーションを実施したところ,基準津波より小規模の津波であっても上記の堆積物が発見された地点は浸水する結果となったこと,他方,基準津波と同程度の津波であれば上記地点を含む広い範囲が浸水したが,上記地点以外からは上記堆積物と同様の津波堆積物が発見されていないことが認められる。これによれば,上記堆積物をもたらした津波は,基準津波よりも小規模のものであった可能性が否定できないというべきであって,上記地点から上記堆積物が発見されたからといって,同地区に基準津波を超える津波が到来したものと推認することはできないというべきである。なお,津波堆積物の発見箇所に比べて実際の浸水域は内陸側まで広がっている可能性があることや,14~16世紀頃の笠原川は現在よりも規模が小さかった可能性があることなどを考慮しても,上記津波シミュレーションの結果が影響を受けるとは認められず,この判断は動かない。


1審原告らは,ルイス・フロイスの「日本史」や吉田兼見の「兼見卿記」には天正地震の際に若狭湾に大津波が押し寄せた旨の記載があることや,若狭湾沿岸には「くるみ浦」を始めとする津波に関する伝承が数多く残されていること(甲149ないし154,255)からすると,過去に若狭湾沿岸において天正地震等を原因とする大津波が押し寄せた可能性は否定できない旨主張する。
しかしながら,上記のとおり,基準津波を超える大規模な津波が押し寄せたことを示す津波堆積物は若狭湾沿岸では発見されていないほか,天正地震の震源は内陸部であると推定されており(乙62)
,同地震によって直
ちに津波が発生するとは考え難いことも併せれば,上記の古文書や伝承等を考慮しても,1審原告らの主張は容易に採用することができない。

1審原告らは,①1審被告がボーリング調査を行ったのは若狭湾東岸の狭い範囲だけであり,その選定は不合理である,②1審被告が聞き取り調査を行った八幡神社において,天正地震以前の社宝が3点しかないのは,天正地震の津波によって流されたことが原因であると考えるべきである旨主張する。
しかしながら,①本件発電所の安全性に影響を及ぼすような津波が若狭湾沿岸に押し寄せたのであれば,津波堆積物は沿岸の広い範囲に堆積するはずであるから,必ずしも本件発電所に近接した地点等で津波堆積物の調査を実施しなければならないものではなく,堆積物が失われにくい静謐な環境を維持している三方五湖周辺等の若狭湾東岸で津波堆積物調査を実施したことが不合理であるとはいえない。また,②「八幡神社誌」(乙21
0)の社史表には,天正地震(1586)前後の出来事として,八幡宮の炎上(1559)や神殿の造営(1592)が記載されているのに,天正地震の被害は記載されていないことに加え,同神社の蔵に保管されていた天正地震以前に発行された古文書には水に濡れた形跡がないこと(乙63)も考え合わ
せると,同神社において天正地震による津波の被害があったとは考え難い。よって,1審原告らの主張はいずれも理由がない。

1審原告らは,①若狭湾の海域では,断層に囲まれてブロック化した地盤が瞬間的に沈降又は上昇することによって沖合から到来する津波と性質の異なる津波が発生するおそれがある,②山陰地方の日本海側には年4ミリほど東西にずれ動いている歪み集中帯があり,地表に活断層がなくても津波の原因となる地震が起きる可能性がある旨主張する。
しかしながら,①1審被告による海域活断層の調査によってもブロック化した特殊な地盤は発見されていないし,そのような地盤から発生する津波が通常の海域活断層から発生する津波とは性質が異なるとする科学的な根拠も明らかではない。また,②1審原告らの主張によっても,歪み集中帯があるというのは山陰地方の日本海側であり,その歪み集中帯が本件発電所に影響を与えると認めるべき事情は見当たらない。よって,1審原告らの上記主張によっても基準津波の信頼性は左右されない。


1審原告らは,①1審被告が用いた数値シミュレーションの解析モデルは,既往津波の震央付近における実測値を再現することができていないし,②波源となる地震の地震モーメントについては武村式によって求められているが,武村式はわずか10個の地震データに基づく地震モーメントの平均像を表したものにすぎないから,これらを用いて策定された基準津波は信用できない旨主張する。
しかしながら,①本件発電所の遙か遠方に位置する既往津波の震央付近の実測値を数値シミュレーションで再現することが必要であると解する根拠はなく,震央付近については概略的な計算を行ったために実測値との乖離が生じたにすぎないのであるから(弁論の全趣旨)
,これによって数値シ
ミュレーションの信頼性が揺らぐとはいえない。また,②1審被告が依拠する方法によって算出された津波水位は,平均的に既往最大津波の痕跡高
の2倍となるなど,十分に保守的な数値となることは前記認定のとおりであって,算出過程の一計算式にすぎない武村式のみを取り上げて基準津波の信頼性を論難することは相当でないというべきであるから,1審原告らの上記主張は採用の限りでない。

1審原告らは,①東北地方太平洋沖でマグニチュード9にも及ぶ大地震が生じることは全く予測されていなかったのであり,政府の中央防災会議も既往最大の地震や津波に対応することを求める旨の見解(甲256)をまとめていること,②前記の島崎邦彦氏が政府の津波想定は能登半島以西では明らかに過小評価であるという見解を述べていること(甲257,264)を指摘して,本件発電所においても少なくとも既往最大の津波(東北地方太平洋沖地震で岩手県,宮城県,福島県沿岸を襲ったものと同程度の津波)を想定すべきである旨主張する。
しかしながら,①東北地方太平洋沖と若狭湾沿岸とでは地震の発生様式や規模のみならず,地域的な特性も異なるのであり,東北地方太平洋沖地震を予測できなかったからといって,若狭湾沿岸でもこれと同規模の地震や津波に備えるべきとする理由は見当たらないし,1審原告らが指摘する見解も,地域性を捨象してまで既往最大の地震や津波に備えることを求めるものとは解されない。また,②上記の島崎氏の見解は,津波評価に入倉・三宅式を用いることを問題視するものと解されるが,1審被告は津波評価に当たって入倉・三宅式ではなく武村式を用いているから,同氏の指摘は本件発電所に当てはまるものではない。よって,これらに依拠した1審原告らの上記主張は採用の限りでない。


以上の諸点を含め,基準津波の信頼性を論難する1審原告らの主張は,上記の認定・説示に照らし,いずれも採用できない(なお,津波に対する安全確保対策は後記のとおりである。。


5
本件発電所の安全確保対策について

安全確保対策に関する新規制基準の定めについて

耐震性に関する主な規定
設置許可基準規則4条は,設計基準対象施設は,地震力に十分に耐えることができるものでなければならない(1項)
,前項の地震力は,地震の
発生によって生ずるおそれがある設計基準対象施設の安全機能の喪失に起因する放射線による公衆への影響の程度に応じて算定しなければならない(2項)
,耐震重要施設は,その供用中に当該耐震重要施設に大きな影響
を及ぼすおそれがある地震による加速度によって作用する地震力(基準地震動による地震力)に対して安全機能が損なわれるおそれがないものでなければならない(3項)
,耐震重要施設は,前項の地震の発生によって生
ずるおそれがある斜面の崩壊に対して安全機能が損なわれるおそれがないものでなければならない(4項)と規定し,同規則の解釈別記2の4条は,次のとおり規定している(乙65)
。なお,地震審査ガイド(甲47)に
も同解釈と同様の指針が示されている。
同規則4条1項に規定する「地震力に十分に耐える」とは,ある地震力に対して施設全体としておおむね弾性範囲の設計がされることをいう。この場合,
「弾性範囲の設計」とは,施設を弾性体とみなして応力解析
を行い,施設各部の応力を許容限界以下にとどめることをいう。また,「許容限界」とは,必ずしも厳密な弾性限界ではなく,局部的に弾性限界を超える場合を容認しつつも施設全体としておおむね弾性範囲にとどまり得ることをいう。
同規則4条2項に規定する「地震の発生によって生ずるおそれがある設計基準対象施設の安全機能の喪失に起因する放射線による公衆への影響の程度」とは,地震により発生するおそれがある設計基準対象施設の安全機能の喪失(地震に伴って発生するおそれがある津波及び周辺斜面の崩壊等による安全機能の喪失を含む。
)及びそれに続く放射線による

公衆への影響を防止する観点から,各施設の安全機能が喪失した場合の影響の相対的な程度(耐震重要度)をいう。設計基準対象施設は,耐震重要度に応じて,以下のクラス(耐震重要度分類)に分類するものとする。


Sクラス
地震により発生するおそれがある事象に対して,原子炉を停止し,炉心を冷却するために必要な機能を持つ施設,自ら放射性物質を内蔵している施設,当該施設に直接関係しておりその機能喪失により放射性物質を外部に拡散する可能性のある施設,これらの施設の機能喪失により事故に至った場合の影響を緩和し,放射線による公衆への影響を軽減するために必要な機能を持つ施設及びこれらの重要な安全機能を支援するために必要となる施設,並びに地震に伴って発生するおそれがある津波による安全機能の喪失を防止するために必要となる施設であって,その影響が大きいものをいい,少なくとも次の施設はSクラスとすること。


原子炉冷却材圧力バウンダリ(発電用原子炉施設のうち,運転時
の異常な過渡変化時及び設計基準事故時において,圧力障壁となる部分をいう(同規則2条2項35号))を構成する機器・配管系




使用済燃料を貯蔵するための施設



原子炉の緊急停止のために急激に負の反応度を付加するための施
設,及び原子炉の停止状態を維持するための施設



原子炉停止後,炉心から崩壊熱を除去するための施設



原子炉冷却材圧力バウンダリ破損事故後,炉心から崩壊熱を除去
するための施設



原子炉冷却材圧力バウンダリ破損事故の際に,圧力障壁となり放
射性物質の放散を直接防ぐための施設



放射性物質の放出を伴うような事故の際に,その外部放散を抑制
するための施設であり,上記の「放射性物質の放散を直接防ぐための施設」以外の施設



津波防護機能を有する設備(津波防護施設)及び浸水防止機能を
有する設備(浸水防止設備)




敷地における津波監視機能を有する施設(津波監視設備)
Bクラス
安全機能を有する施設のうち,機能喪失した場合の影響がSクラス
施設と比べ小さい施設をいい,例えば,次の施設が挙げられる。


原子炉冷却材圧力バウンダリに直接接続されていて,1次冷却材
を内蔵しているか又は内蔵し得る施設



放射性廃棄物を内蔵している施設(ただし,内蔵量が少ない又は
貯蔵方式により,その破損により公衆に与える放射線の影響が実用炉規則2条2項6号に規定する「周辺監視区域」外における年間の線量限度に比べ十分小さいものは除く。




放射性廃棄物以外の放射性物質に関連した施設で,その破損によ
り,公衆及び従事者に過大な放射線被ばくを与える可能性のある施設


使用済燃料を冷却するための施設



放射性物質の放出を伴うような場合に,その外部放散を抑制する
ための施設で,Sクラスに属さない施設



Cクラス
Sクラスに属する施設及びBクラスに属する施設以外の一般産業施設又は公共施設と同等の安全性が要求される施設をいう。
同規則4条1項に規定する「地震力に十分に耐えること」を満たすた
めに,耐震重要度分類の各クラスに属する設計基準対象施設の耐震設計
に当たっては,以下の方針によること。


Sクラス(津波防護施設,浸水防止設備及び津波監視設備を除

く。



弾性設計用地震動による地震力又は静的地震力のいずれか大きい
方の地震力に対しておおむね弾性状態にとどまる範囲で耐えること。


建物・構築物については,常時作用している荷重及び運転時に作
用する荷重と,弾性設計用地震動による地震力又は静的地震力を組み合わせ,その結果発生する応力に対して,建築基準法等の安全上適切と認められる規格及び基準による許容応力度を許容限界とすること。



機器・配管系については,通常運転時,運転時の異常な過渡変化
時及び事故時に生じるそれぞれの荷重と,弾性設計用地震動による地震力又は静的地震力を組み合わせた荷重条件に対して,応答が全体的におおむね弾性状態にとどまること。なお,
「運転時の異常な
過渡変化時及び事故時に生じるそれぞれの荷重」については,地震によって引き起こされるおそれのある事象によって作用する荷重及び地震によって引き起こされるおそれのない事象であっても,いったん事故が発生した場合,長時間継続する事象による荷重は,その事故事象の発生確率,継続時間及び地震動の超過確率の関係を踏まえ,適切な地震力と組み合わせて考慮すること。



Bクラス


静的地震力に対しておおむね弾性状態にとどまる範囲で耐えるこ
と。また,共振のおそれのある施設については,その影響についての検討を行うこと。その場合,検討に用いる地震動は,弾性設計用地震動に2分の1を乗じたものとすること。



建物・構築物については,常時作用している荷重及び運転時に作

用する荷重と静的地震力を組み合わせ,その結果発生する応力に対して,建築基準法等の安全上適切と認められる規格及び基準による許容応力度を許容限界とすること。


機器・配管系については,通常運転時,運転時の異常な過度変化
時の荷重と静的地震力を組み合わせ,その結果発生する応力に対して,応答が全体的におおむね弾性状態にとどまること。



Cクラス


静的地震力に対しておおむね弾性状態にとどまる範囲で耐えるこ
と。



建物・構築物については,常時作用している荷重及び運転時に作
用する荷重と静的地震力を組み合わせ,その結果発生する応力に対して,建築基準法等の安全上適切と認められる規格及び基準による許容応力度を許容限界とすること。



機器・配管系については,通常運転時,運転時の異常な過度変化
時の荷重と静的地震力を組み合わせ,その結果発生する応力に対して,応答が全体的におおむね弾性状態にとどまること。

同規則4条2項に規定する「地震力」の「算定」に当たっては,以下に示す方法によること。


弾性設計用地震動による地震力


弾性設計用地震動は,基準地震動との応答スペクトルの比率の値
が,目安として0.5を下回らないような値で,工学的判断に基づいて設定すること。



弾性設計用地震動による地震力は,水平2方向及び鉛直方向につ
いて適切に組み合わせたものとして算定すること。なお,建物・構築物と地盤との相互作用,埋込み効果及び周辺地盤の非線形性について,必要に応じて考慮すること。



地震力の算定に当たっては,地震応答解析手法の適用性及び適用
限界等を考慮の上,適切な解析法を選定するとともに,十分な調査に基づく適切な解析条件を設定すること。



地震力の算定過程において建物・構築物の設置位置等で評価され
る入力地震動については,解放基盤表面からの地震波の伝播特性を適切に考慮するとともに,必要に応じて地盤の非線形応答に関する動的変形特性を考慮すること。また,敷地における観測記録に基づくとともに,最新の科学的・技術的知見を踏まえて,その妥当性が示されていること。



静的地震力
a
建物・構築物


水平地震力は,地震層せん断力係数に施設の耐震重要度分類に
応じた係数(Sクラス3.0,Bクラス1.5,Cクラス1.
0)を乗じ,更に当該層以上の重量を乗じて算定すること。地震
層せん断力係数は,標準せん断力係数を0.2以上とし,建物・
構築物の振動特性及び地盤の種類等を考慮して求められる値とす
ること。



また,建物・構築物の保有水平耐力が必要保有水平耐力を上回
ることの確認が必要であり,必要保有水平耐力の算定においては,地震層せん断力係数に乗じる施設の耐震重要度分類に応じた係数
は,耐震重要度分類の各クラスともに1.0とし,その際に用い
る標準せん断力係数は1.0以上とすること。この際,施設の重
要度に応じた妥当な安全余裕を有していること。



Sクラスの施設については,水平地震力と鉛直地震力が同時に
不利な方向の組合せで作用するものとすること。鉛直地震力は,
震度0.3以上を基準とし,建物・構築物の振動特性及び地盤の

種類等を考慮して求めた鉛直震度より算定すること。ただし,鉛
直震度は高さ方向に一定とすること。
b
機器・配管系


耐震重要度分類の各クラスの地震力は,上記に示す地震層せん
断力係数に施設の耐震重要度分類に応じた係数を乗じたものを水
平震度とし,当該水平震度及び上記の鉛直震度をそれぞれ20%
増しとした震度より求めること。



水平地震力と鉛直地震力は同時に不利な方向の組合せで作用さ
せること。ただし,鉛直震度は高さ方向に一定とすること。

同規則4条3項に規定する「安全機能が損なわれるおそれがないものでなければならない」ことを満たすために,基準地震動に対する設計基準対象施設の設計に当たっては,以下の方針によること。


耐震重要施設のうち,②以外のもの


基準地震動による地震力に対して,その安全機能が保持できるこ
と。



建物・構築物については,常時作用している荷重及び運転時に作
用する荷重と基準地震動による地震力との組合せに対して,当該建物・構築物が構造物全体としての変形能力(終局耐力時の変形)について十分な余裕を有し,建物・構築物の終局耐力に対し妥当な安全余裕を有していること。



機器・配管系については,通常運転時,運転時の異常な過度変化
時及び事故時に生じるそれぞれの荷重と基準地震動による地震力を組み合わせた荷重条件に対して,その施設に要求される機能を保持すること。なお,上記により求められる荷重により塑性歪みが生じる場合であっても,その量が小さなレベルにとどまって破断延性限界に十分な余裕を有し,その施設に要求される機能に影響を及ぼさ
ないこと。また,動的機器等については,基準地震動による応答に対して,その設備に要求される機能を保持すること。具体的には,実証試験等により確認されている機能維持加速度等を許容限界とすること。
なお,上記の「運転時の異常な過度変化時及び事故時に生じるそれぞれの荷重」については,地震によって引き起こされるおそれのある事象によって作用する荷重及び地震によって引き起こされるおそれのない事象であっても,いったん事故が発生した場合,長時間継続する事象による荷重は,その事故事象の発生確率,継続時間及び地震動の超過確率の関係を踏まえ,適切な地震力と組み合わせて考慮すること。②

津波防護施設,浸水防止設備及び津波監視設備並びに浸水防止設備が設置された建物・構築物


基準地震動による地震力に対して,それぞれの施設及び設備に要
求される機能(津波防護機能,浸水防止機能及び津波監視機能をいう。
)が保持できること。



津波防護施設及び浸水防止設備が設置された建物・構築物は,常
時作用している荷重及び運転時に作用する荷重と基準地震動による地震力の組合せに対して,当該施設及び建物・構築物が構造全体として変形能力(終局耐力時の変形)について十分な余裕を有するとともに,その施設に要求される機能(津波防護機能及び浸水防止機能)を保持すること。



浸水防止設備及び津波監視設備は,常時作用している荷重及び運
転時に作用する荷重等と基準地震動による地震力の組合せに対して,その設備に要求される機能(浸水防止機能及び津波監視機能)を保持すること。



これらの荷重組合せに関しては,地震と津波が同時に作用する可

能性について検討し,必要に応じて基準地震動による地震力と津波による荷重の組合せを考慮すること。
なお,上記の「終局耐力」とは,構造物に対する荷重を漸次増大した際,構造物の変形又は歪みが著しく増加する状態を構造物の終局状態と考え,この状態に至る限界の最大荷重負荷をいう。また,耐震重要施設が,耐震重要度分類の下位のクラスに属するものの波及的影響によって,その安全機能を損なわないように設計すること。この波及的影響の評価に当たっては,敷地全体を俯瞰した調査・検討の内容等を含めて,事象選定及び影響評価の結果の妥当性を示すとともに,耐震重要施設の設計に用いる地震動又は地震力を適用すること。
同規則4条3項に規定する「基準地震動による地震力」の算定に当たっては,以下に示す方法によること。


基準地震動による地震力は,基準地震動を用いて,水平2方向及び鉛直方向について適切に組み合わせたものとして算定すること。なお,建物・構築物と地盤との相互作用,埋込み効果及び周辺地盤の非線形性について,必要に応じて考慮すること。



基準地震動による地震力の算定に当たっては,地震応答解析手法の適用性及び適用限界等を考慮の上,適切な解析法を選定するとともに,十分な調査に基づく適切な解析条件を設定すること。



地震力の算定過程において建物・構築物の設置位置等で評価される入力地震動については,解放基盤表面からの地震波の伝播特性を適切に考慮するとともに,必要に応じて地盤の非線形応答に関する動的変形特性を考慮すること。また,敷地における観測記録に基づくとともに,最新の科学的・技術的知見を踏まえて,その妥当性が示されていること。


対津波安全性に関する主な規定

設置許可基準規則の解釈別記3の5条3項は,同規則5条を受けて,同条の「安全機能が損なわれるおそれがないものでなければならない」を満たすために,基準津波に対する設計基準対象施設の設計に当たってとるべき方針について,主に次のとおり規定している(乙65)

Sクラスに属する施設(津波防護施設,浸水防止設備及び津波監視設備を除く。
)の設置された敷地において,基準津波による遡上波を地上
部から到達又は流入させないこと。また,取水路及び排水路等の経路から流入させないこと。そのため,以下の方針によること。


Sクラスに属する設備(浸水防止設備及び津波監視設備を除く。


を内包する建屋及びSクラスに属する設備(屋外に設置するものに限る。
)は,基準津波による遡上波が到達しない十分高い場所に設置す
ること。なお,基準津波による遡上波が到達する高さにある場合には,防潮堤等の津波防護施設及び浸水防止設備を設置すること。


上記の遡上波の到達防止に当たっては,敷地及び敷地周辺の地形及びその標高,河川等の存在並びに地震による広域的な隆起・沈降を考慮して,遡上波の回込みを含め敷地への遡上の可能性を検討すること。また,地震による変状又は繰り返し襲来する津波による洗掘・堆積により地形又は河川流路の変化等が考えられる場合は,敷地への遡上経路に及ぼす影響を検討すること。



取水路又は放水路等の経路から,津波が流入する可能性について検討した上で,流入の可能性のある経路(扉,開口部及び貫通口等)を特定し,それらに対して浸水対策を施すことにより,津波の流入を防止すること。
津波防護施設(防潮堤,盛土構造物及び防潮壁等をいう。
)及び浸水

防止設備(水密扉及び開口部・貫通部の浸水対策設備等をいう。
)につ
いては,入力津波(施設の津波に対する設計を行うために,津波の伝播
特性及び浸水経路等を考慮して,それぞれの施設に対して設定するものをいう。
)に対して津波防護機能及び浸水防止機能が保持できること。
また,津波監視設備(敷地の潮位計及び取水ピット水位計,並びに津波の襲来状況を把握できる屋外監視カメラ等をいう。
)については,入力
津波に対して津波監視機能が保持できること。そのため,以下の方針によること。


入力津波については,基準津波の波源からの数値計算により,各施設・設備等の設置位置において算定される時刻歴波形とすること。数値計算に当たっては,敷地形状,敷地沿岸域の海底地形,津波の敷地への侵入角度,河川の有無,陸上の遡上・伝播の効果及び伝播経路上の人工構造物等を考慮すること。また,津波による港湾内の局所的な海面の固有振動の励起を適切に評価し考慮すること。



津波防護施設については,その構造に応じ,波力による侵食及び洗掘に対する抵抗性並びにすべり及び転倒に対する安定性を評価し,越流時の耐性にも配慮した上で,入力津波に対する津波防護機能が十分に保持できるよう設計すること。



浸水防止設備については,浸水想定範囲等における浸水時及び冠水後の波圧等に対する耐性等を評価し,越流時の耐性にも配慮した上で,入力津波に対して浸水防止機能が十分に保持できるよう設計すること。


津波監視設備については,津波の影響(波力及び漂流物の衝突等)に対して,影響を受けにくい位置への設置及び影響の防止策・緩和策等を検討し,入力津波に対して津波監視機能が十分に保持できるよう設計すること。
地震による敷地の隆起・沈降,地震(本震及び余震)による影響,津
波の繰り返しの襲来による影響及び津波による二次的な影響(洗掘,砂移動及び漂流物等)を考慮すること。


その他,安全確保対策に関する設置許可基準規則の主な規定
7条(発電用原子炉施設への人の不法な侵入等の防止)
工場等には,発電用原子炉施設への人の不法な侵入,発電用原子炉施設に不正に爆発性又は易燃性を有する物件その他人に危害を与え,又は他の物件を損傷するおそれがある物件が持ち込まれること及び不正アクセス行為を防止するための設備を設けなければならない。
10条(誤操作の防止)
設計基準対象施設は,誤操作を防止するための措置を講じたものでなければならない(1項)

12条(安全施設)
安全機能を有する系統のうち,安全機能の重要度が特に高い安全機能を有するものは,当該系統を構成する機械又は器具の単一故障(単一の原因によって1つの機械又は器具が所定の安全機能を失うことをいう。
)が発生した場合であって,外部電源が利用できない場合においても機能できるよう,当該系統を構成する機械又は器具の機能,構造及び動作原理を考慮して,多重性又は多様性を確保し,及び独立性を確保するものでなければならない(2項)

なお,安全施設とは,設計基準対象施設のうち,安全機能を有するものをいう(2条2項8号)

14条(全交流動力電源喪失対策設備)
発電用原子炉施設には,全交流動力電源喪失時から重大事故等に対処するために必要な電力の供給が交流動力電源設備から開始されるまでの間,発電用原子炉を安全に停止し,かつ,発電用原子炉の停止後に炉心を冷却するための設備が動作するとともに,原子炉格納容器の健全性を確保するための設備が動作することができるよう,これらの設備の動作に必要な容量を有する蓄電池その他の設計基準事故に対処するための電
源設備(安全施設に属するものに限る。
)を設けなければならない。
19条(非常用炉心冷却設備)
発電用原子炉施設には,次に掲げるところにより,非常用炉心冷却設備(安全施設に属するものに限る。
)を設けなければならない。1次冷
却材を喪失した場合においても,燃料被覆材の温度が燃料材の溶融又は燃料体の著しい損傷を生ずる温度を超えて上昇することを防止できるものとすること(1号)
。1次冷却材を喪失した場合においても,燃料被
覆材と冷却材との反応により著しく多量の水素を生じないものとすること(2号)

20条(1次冷却材の減少分を補給する設備)
発電用原子炉施設には,通常運転時又は1次冷却材の小規模漏えい時に発生した1次冷却材の減少分を補給する設備(安全施設に属するものに限る。
)を設けなければならない。
21条(残留熱を除去することができる設備)
発電用原子炉施設には,発電用原子炉を停止した場合において,燃料要素の許容損傷限界及び原子炉冷却材圧力バウンダリの健全性を維持するために必要なパラメータが設計値を超えないようにするため,原子炉圧力容器内において発生した残留熱を除去することができる設備(安全施設に属するものに限る。
)を設けなければならない。
22条(最終ヒートシンクへ熱を輸送することができる設備)
発電用原子炉施設には,次に掲げるところにより,最終ヒートシンクへ熱を輸送することができる設備(安全施設に属するものに限る。)を
設けなければならない。原子炉圧力容器内において発生した残留熱及び重要安全施設において発生した熱を除去することができるものとすること(1号)

24条(安全保護回路)

発電用原子炉施設には,次に掲げるところにより,安全保護回路(安全施設に属するものに限る。
)を設けなければならない。運転時の異常
な過渡変化が発生する場合において,その異常な状態を検知し,及び原子炉停止系統その他系統と併せて機能することにより,燃料要素の許容損傷限界を超えないようにできるものとすること(1号)
。設計基準事
故が発生する場合において,その異常な状態を検知し,原子炉停止系統及び工学的安全施設を自動的に作動させるものとすること(2号)。不
正アクセス行為その他の電子計算機に使用目的に沿うべき動作をさせず,又は使用目的に反する動作をさせる行為による被害を防止することができるものとすること(6号)

25条(反応度制御系統及び原子炉停止系統)
発電用原子炉施設には,反応度制御系統(原子炉停止系統を含み,安全施設に係るものに限る。
)を設けなければならない(1項)

反応度制御系統は,計画的な出力変化に伴う反応度変化を燃料要素の許容損傷限界を超えることなく制御できる能力を有し,かつ,次に掲げるものでなければならない(2項)
。制御棒,液体制御材その他反応度
を制御するものによる2以上の独立した系統を有するものとすること(同項1号)

26条(原子炉制御室等)
発電用原子炉施設には,次に掲げるところにより,原子炉制御室(安全施設に属するものに限る。
)を設けなければならない(1項)
。設計
基準対象施設の健全性を確保するために必要なパラメータを監視できるものとすること(同項1号)
。発電用原子炉施設の安全性を確保するた
めに必要な操作を手動により行うことができるものとすること(同項3号)

32条(原子炉格納施設)

原子炉格納容器は,1次冷却系統に係る発電用原子炉施設が損壊し,又は故障した場合において漏えいする放射性物質が公衆に放射線障害を及ぼさないようにするため,想定される最大の圧力,最高の温度及び適切な地震力に十分に耐えることができ,かつ,適切に作動する隔離機能と併せて所定の漏えい率を超えることがないものでなければならない(1項)

33条(保安電源設備)
発電用原子炉施設には,非常用電源設備(安全施設に属するものに限る。
)を設けなければならない(2項)
。設計基準対象施設に接続する
電線路のうち少なくとも2回線は,それぞれ互いに独立したものであって,当該設計基準対象施設において受電可能なものであり,かつ,それにより当該設計基準対象施設を電力系統に連系するものでなければならない(4項)
。非常用電源設備及びその附属設備は,多重性又は多様性
を確保し,及び独立性を確保し,その系統を構成する機械又は器具の単一故障が発生した場合であっても,運転時の異常な過渡変化時又は設計基準事故時において工学的安全施設(発電用原子炉施設の損壊又は故障その他の異常による発電用原子炉内の燃料体の著しい損傷又は炉心の著しい損傷により多量の放射性物質の放出のおそれがある場合に,これを抑制し,又は防止するための機能を有する設計基準対象施設をいう(2条2項10号))及び設計基準事故に対処するための設備がその機能。
を確保するために十分な容量を有するものでなければならない(7項)。
34条(緊急時対策所)
工場等には,1次冷却系統に係る発電用原子炉施設の損壊その他の異常が発生した場合に適切な措置をとるため,緊急時対策所を原子炉制御室以外の場所に設けなければならない。
37条(重大事故等の拡大の防止等)

発電用原子炉施設は,重大事故に至るおそれがある事故が発生した場合において,炉心の著しい損傷を防止するために必要な措置を講じたものでなければならない(1項)
。発電用原子炉施設は,重大事故が発生
した場合において,原子炉格納容器の破損及び工場等外への放射性物質の異常な水準の放出を防止するために必要な措置を講じたものでなければならない(2項)
。発電用原子炉施設は,重大事故に至るおそれがあ
る事故が発生した場合において,使用済燃料貯蔵槽内の燃料体又は使用済燃料の著しい損傷を防止するために必要な措置を講じたものでなければならない(3項)
。発電用原子炉施設は,重大事故に至るおそれがあ
る事故が発生した場合において,運転停止中における発電用原子炉内の燃料体の著しい損傷を防止するために必要な措置を講じたものでなければならない(4項)

42条(特定重大事故等対処施設)
工場等には,次に掲げるところにより,特定重大事故等対処施設を設けなければならない。原子炉建屋への故意による大型航空機の衝突その他のテロリズムに対してその重大事故等に対処するために必要な機能が損なわれるおそれがないものであること(1号)
。原子炉格納容器の破
損を防止するために必要な設備を有するものであること(2号)
。原子
炉建屋への故意による大型航空機の衝突その他のテロリズムの発生後,発電用原子炉施設の外からの支援が受けられるまでの間,使用できるものであること(3号)

43条(重大事故等対処設備)
重大事故等対処設備は,想定される重大事故等が発生した場合における温度,放射線,荷重その他の使用条件において,重大事故等に対処するために必要な機能を有効に発揮するものでなければならない(1項1号)
。可搬型重大事故等対処設備に関しては,1項に定めるもののほか,
想定される重大事故等の収束に必要な容量に加え,十分に余裕のある容量を有するものであり,地震,津波その他の自然現象又は故意による大型航空機の衝突その他のテロリズムによる影響,設計基準事故対処設備及び重大事故等対処設備の配置その他の条件を考慮した上で常設重大事故等対処設備と異なる保管場所に保管しなければならない(3項1号,5号)

44条(緊急停止失敗時に発電用原子炉を未臨界にするための設備)発電用原子炉施設には,運転時の異常な過渡変化時において発電用原子炉の運転を緊急に停止することができない事象が発生するおそれがある場合又は当該事象が発生した場合においても炉心の著しい損傷を防止するため,原子炉冷却材圧力バウンダリ及び原子炉格納容器の健全性を維持するとともに,発電用原子炉を未臨界に移行するために必要な設備を設けなければならない。
45条(原子炉冷却材圧力バウンダリ高圧時に発電用原子炉を冷却するための設備)
発電用原子炉施設には,原子炉冷却材圧力バウンダリが高圧の状態であって,設計基準事故対処設備が有する発電用原子炉の冷却機能が喪失した場合においても炉心の著しい損傷を防止するため,発電用原子炉を冷却するために必要な設備を設けなければならない。
46条(原子炉冷却材圧力バウンダリを減圧するための設備)
発電用原子炉施設には,原子炉冷却材圧力バウンダリが高圧の状態であって,設計基準事故対処設備が有する発電用原子炉の減圧機能が喪失した場合においても炉心の著しい損傷及び原子炉格納容器の破損を防止するため,原子炉冷却材圧力バウンダリを減圧するために必要な設備を設けなければならない。
47条(原子炉冷却材圧力バウンダリ低圧時に発電用原子炉を冷却す
るための設備)
発電用原子炉施設には,原子炉冷却材圧力バウンダリが低圧の状態であって,設計基準事故対処設備が有する発電用原子炉の冷却機能が喪失した場合においても炉心の著しい損傷及び原子炉格納容器の破損を防止するため,発電用原子炉を冷却するために必要な設備を設けなければならない。
48条(最終ヒートシンクへ熱を輸送するための設備)
発電用原子炉施設には,設計基準事故対処設備が有する最終ヒートシンクへ熱を輸送する機能が喪失した場合において炉心の著しい損傷及び原子炉格納容器の破損(炉心の著しい損傷が発生する前に生ずるものに限る。
)を防止するため,最終ヒートシンクへ熱を輸送するために必要
な設備を設けなければならない。
49条(原子炉格納容器内の冷却等のための設備)
発電用原子炉施設には,設計基準事故対処設備が有する原子炉格納容器内の冷却機能が喪失した場合において炉心の著しい損傷を防止するため,原子炉格納容器内の圧力及び温度を低下させるために必要な設備を設けなければならない(1項)
。発電用原子炉施設には,炉心の著しい
損傷が発生した場合において原子炉格納容器の破損を防止するため,原子炉格納容器内の圧力及び温度並びに放射性物質の濃度を低下させるために必要な設備を設けなければならない(2項)

50条(原子炉格納容器の過圧破損を防止するための設備)
発電用原子炉施設には,炉心の著しい損傷が発生した場合において原子炉格納容器の破損を防止するため,原子炉格納容器内の圧力及び温度を低下させるために必要な設備を設けなければならない。
51条(原子炉格納容器下部の溶融炉心を冷却するための設備)
発電用原子炉施設には,炉心の著しい損傷が発生した場合において原
子炉格納容器の破損を防止するため,溶融し,原子炉格納容器の下部に落下した炉心を冷却するために必要な設備を設けなければならない。52条(水素爆発による原子炉格納容器の破損を防止するための設備)
発電用原子炉施設には,炉心の著しい損傷が発生した場合において原子炉格納容器内における水素爆発による破損を防止する必要がある場合には,水素爆発による原子炉格納容器の破損を防止するために必要な設備を設けなければならない。
54条(使用済燃料貯蔵槽の冷却等のための設備)
発電用原子炉施設には,使用済燃料貯蔵槽の冷却機能又は注水機能が喪失し,又は使用済燃料貯蔵槽からの水の漏えいその他の要因により当該使用済燃料貯蔵槽の水位が低下した場合において貯蔵槽内燃料体等を冷却し,放射線を遮蔽し,及び臨界を防止するために必要な設備を設けなければならない(1項)
。発電用原子炉施設には,使用済燃料貯蔵槽
からの大量の水の漏えいその他の要因により当該使用済燃料貯蔵槽の水位が異常に低下した場合において貯蔵槽内燃料体等の著しい損傷の進行を緩和し,及び臨界を防止するために必要な設備を設けなければならない(2項)

55条(工場等外への放射性物質の拡散を抑制するための設備)
発電用原子炉施設には,炉心の著しい損傷及び原子炉格納容器の破損又は貯蔵槽内燃料体等の著しい損傷に至った場合において工場等外への放射性物質の拡散を抑制するために必要な設備を設けなければならない。56条(重大事故等の収束に必要となる水の供給設備)
設計基準事故の収束に必要な水源とは別に,重大事故等の収束に必要となる十分な量の水を有する水源を確保することに加えて,発電用原子炉施設には,設計基準事故対処設備及び重大事故等対処設備に対して重
大事故等の収束に必要となる十分な量の水を供給するために必要な設備を設けなければならない。
57条(電源設備)
発電用原子炉施設には,設計基準事故対処設備の電源が喪失したことにより重大事故等が発生した場合において炉心の著しい損傷,原子炉格納容器の破損,貯蔵槽内燃料体等の著しい損傷及び運転停止中原子炉内燃料体の著しい損傷を防止するために必要な電力を確保するために必要な設備を設けなければならない(1項)
。発電用原子炉施設には,33
条2項の規定により設置される非常用電源設備及び前項の規定により設置される電源設備のほか,設計基準事故対処設備の電源が喪失したことにより重大事故等が発生した場合において炉心の著しい損傷,原子炉格納容器の破損,貯蔵槽内燃料体等の著しい損傷及び運転停止中原子炉内燃料体の著しい損傷を防止するための常設の直流電源設備を設けなければならない(2項)

58条(計装設備)
発電用原子炉施設には,重大事故等が発生し,計測機器(非常用のものを含む。
)の故障により当該重大事故等に対処するために監視するこ
とが必要なパラメータを計測することが困難となった場合において当該パラメータを推定するために有効な情報を把握できる設備を設けなければならない。
61条(緊急時対策所)
34条の規定により設置される緊急時対策所は,重大事故等が発生した場合においても当該重大事故等に対処するための適切な措置が講じられるよう,次に掲げるものでなければならない(1項)
。重大事故等に
対処するために必要な指示を行う要員がとどまることができるよう,適切な措置を講じたものであること(同項1号)
。重大事故等に対処する

ために必要な指示ができるよう,重大事故等に対処するために必要な情報を把握できる設備を設けたものであること(同項2号)
。発電用原子
炉施設の内外の通信連絡をする必要のある場所と通信連絡を行うために必要な設備を設けたものであること(同項3号)
。緊急時対策所は,重
大事故等に対処するために必要な数の要員を収容することができるものでなければならない(2項)

62条(通信連絡を行うために必要な設備)
発電用原子炉施設には,重大事故等が発生した場合において当該発電用原子炉施設の内外の通信連絡をする必要のある場所と通信連絡を行うために必要な設備を設けなければならない。
耐震安全性及び対津波安全性について

証拠(甲14,16,乙3,5,33,50,58,59,174,178ないし180,185,213,235,246,268)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。
1審被告は,新規制基準の耐震重要度分類に従い,本件発電所の設計基準対象施設をそれぞれSクラス,Bクラス又はCクラスに分類した。例えば,原子炉を止める,冷やす,放射性物質を閉じ込める機能を有する制御棒駆動装置,1次冷却材管,原子炉格納容器スプレイ設備,非常用炉心冷却設備,補助給水ポンプ及び原子炉格納容器,非常時の電源確保のための設備である非常用ディーゼル発電機,並びに使用済核燃料の貯蔵施設である本件使用済核燃料プール等についてはSクラスに,機能喪失した場合の影響がSクラスよりも小さいとされる使用済核燃料ピットクレーン,使用済核燃料ピットポンプ等についてはBクラスに,外部電源,タービン,主給水ポンプ等についてはCクラスに分類した。仮に耐震重要度分類Bクラス及びCクラスの設備が機能を喪失しても,Sクラスの耐震重要施設によって,上記のとおり原子炉を止める,冷やす,
放射性物質を閉じ込めるという安全機能を果たすことが可能である。その上で,1審被告は,上記分類に応じて地震応答解析等による耐震安全性の評価を行い,各施設に基準地震動を入力するなどして得られた評価値が,規格等に定められた評価基準値を下回ることを確認した。例えば,原子炉建屋については,社団法人日本電気協会が策定した原子力発電所耐震設計技術指針JEAG4601-1987(同指針は,新規制基準の耐震設計に係る工認審査ガイドに適用可能な規格として示されている。に基づき,基礎版上にプレストレストコンクリート製)
(建設時に圧縮力を構造体にあらかじめ加えて,引張力を発生させる荷重に耐えられるようにしている。
)原子炉格納容器,これと構造的に一
体である内部コンクリート及び原子炉周辺建屋を立ち上げ,内部コンクリートに質量の大きな蒸気発生器を連成させたものを質点系モデル(建物を各階ごとの骨組みにイメージ化し,構成部位ごとに質量,剛性,減衰を考慮して,各階の重量を床の位置の質点に集約し,耐震壁や柱の揺れに対する抵抗性能を質点間をつなぐ棒で表現するモデル)を用いて表現し,当該モデルの下端に基準地震動Ss-1~Ss-19を入力して耐震壁のせん断歪みを求めたところ,その最大値は1.44×10-3(原子炉格納容器については1.25×10-3)となり,評価基準値である2.0×10-3を下回ることを確認した。
機器・配管系については,上記JEAG4601-1987や社団法人日本電気協会が策定した原子力発電所耐震設計技術規程JEAC4601-2008に従い,振動性状に応じて一次元又は三次元の地震応答解析モデルを構築し,このモデルに建物・構築物の地震応答解析により得られた各床での床応答波を用いて作成した床応答曲線を入力して発生する荷重を計算し,そこで得られた荷重を応力解析モデルに入力して,算出された応力値(評価値)が評価基準値を超えないことを確認した。
なお,保温材が巻かれた配管の減衰定数については,上記JEAC4601-2008の区分に従い,最大3%を適用した。
また,ポンプ,制御棒等の動的機器については,地震により発生する加速度又は荷重に対しても当該設備に要求される動的機能が保持されることを確認しており,制御棒の挿入時間については,評価値が2.07秒であるのに対し,評価基準値は2.2秒となっており(なお,原子力安全委員会の評価によれば,挿入時間が11秒程度までであれば原子炉の安全性が保たれるとされている。,地震時においても所定の時間内)
に挿入されることを確認した。
これらの過程を経て,安全上重要な設備が基準地震動に対して機能を喪失しないことを確認した。
なお,本件使用済核燃料プールの冷却設備はBクラスに分類されているが,基準地震動による地震力が作用した際の評価値は評価基準値を下回り,その計装設備も基準地震動に対する耐震安全性を有していることが確認されている。
上記のとおり,本件発電所の各設備の評価値は,いずれも規格等で定められた評価基準値を下回ることが確認されたが,評価基準値は,現実に設備が損壊する限界値に対し,余裕を持って小さめに設定されていて,材料の材質のばらつきといった不確定要素も考慮されている。例えば,上記の原子炉建屋のせん断歪みに関する2.0×10-3という評価基準値(高さ10mの耐震壁であればせん断変形が2㎝までに抑えられるという設定)は,JEAG4601-1987を踏まえ,実験結果のばらつきも考慮して評価された4.0×10-3に余裕を持たせて設定されたものであり,JEAG4601-1987を改定したJEAC4601-2008(乙268)は,2.0×10-3を超えるせん断歪み度が継続しても原子炉建屋の負圧機能は保持されることが実証されたとしてお
り,この評価基準値に裕度があることが確認されている。
また,評価値を計算する過程でも,余裕を持たせた条件設定をしており,例えば,機器・配管系の耐震安全性評価では,応力解析モデルを設定するに当たり,単位面積当たりに作用する荷重が大きくなるように,製造上定められた仕様の中でも最小となるような寸法を設定しているほか,地震の揺れによって瞬間的に作用する最大の力が,設備にとって厳しい方向に一定してかかり続けるものと仮定して評価するなどしており,さらに,材料が塑性変形することによって生じるエネルギー吸収効果をあえて考慮せずに耐震安全性を評価するなど,計算結果が保守的になるように安全側に余裕を持たせた設定を行っている。
評価値と評価基準値を比較すると,例えば,上記のとおり原子炉建屋における耐震壁の評価値は1.44×10-3であるが,評価基準値は2.0×10-3であるので,その耐震裕度は基準地震動による地震力に対して約1.4倍あり,炉内構造物であるラジアルサポートの評価値は184Mpaであるが,評価基準値は372Mpaであるので,その耐震裕度は約2.0倍あることとなる。
1審被告は,耐震バックチェックの実施による基準地震動Ss(最大加速度700ガル)の策定に伴い,平成20年から平成24年にかけて約250か所の補強工事を実施したが,さらに,新規制基準を踏まえた基準地震動Ss1~Ss19(最大加速度856ガル)の策定に伴い,平成25年から約1200か所の補強工事を実施し,平成28年12月までに全ての工事を完了した。
財団法人原子力発電技術機構(平成15年度以降は独立行政法人原子力安全基盤機構)は,昭和57年から平成16年にかけて,原子力工学試験センター多度津工学試験所において,原子力発電所の安全上重要な設備(原子炉格納容器,1次冷却設備,原子炉容器,炉内構造物,非常
用ディーゼル発電機,電算機,非常用炉心冷却系設備,主蒸気系設備,配管等)について,大型高性能振動台(最大積載質量1000t)を用いた耐震信頼性実証試験を行った。この試験は,本件発電所を始めとする原子力発電所で共通的に採用されている標準的な設計方法に依拠し,実機を模擬して製作された縮尺模型試験体を加振することによって,その試験体の強度の耐震裕度,地震時の機能維持,耐震設計手法の妥当性を確認したものである。その結果,例えば,プレストレストコンクリート製原子炉格納容器の約10分の1スケールの試験体について,機能喪失が最大加速度3398ガルとなるなど,全ての試験対象設備について十分な耐震安全上の余裕を有していることが実証された。
本件発電所の津波に対する安全性についてみると,原子炉格納施設及び本件使用済核燃料プールを収める原子炉補助建屋の敷地はT.P.+9.7m,重油タンクが埋設された敷地はT.P.+13.1m,海水ポンプ室の前面及び周囲の防護壁はT.P.+8.0m(止水壁の一部はT.P.+9.0m)の高さがあり,いずれも基準津波を踏まえて策定された入力津波の最大水位上昇T.P.+6.9mを上回っている。また,海水ポンプ室前面における入力津波の最低水位T.P.-4.8mは,海水ポンプの取水可能水位T.P.-3.1mを下回ったところ,津波による引き波対策として,海水ポンプ室前面の海底に貯水堰を設置し,最大水位下降に対しても取水機能が維持されることを確認している。さらに,津波監視設備として,大飯発電所1号機の原子炉補助建屋壁面T.P.+38.3mの高さ及び海水ポンプ室床面上T.P.+10.0mの高さに津波監視カメラを,海水ポンプエリアT.P.+2.1mの高さ及び海水ポンプ室前面の防護壁上部T.P.+9.0mの高さに潮位計を設置している。
なお,防護壁等の津波防護施設は,想定される最大級の漂流物(漁船,排水トン数60t)が津波により衝突しても,津波荷重と衝突荷重に十
分耐えられる設計としている。
原子力規制委員会は,本件発電所の耐震安全性及び対津波安全性について,新規制基準に適合することを確認した。

上記認定に鑑みれば,1審被告が耐震安全性の評価に用いた地震応答解析モデルや応力解析モデルは,最新の科学的手法を踏まえて設定されたものであり,評価値の計算や評価基準値の設定に当たっては安全側に配慮した保守的な条件設定がされ,その計算に当たって用いられた数値や計算過程に不自然,不合理な点は見当たらず,また,対津波安全性の評価も,入力津波の水位変動を踏まえた妥当なものであることが認められるのであって,これらによれば,本件発電所の耐震安全性及び対津波安全性が新規制基準に適合するとした原子力規制委員会の判断に不合理な点があるとは認められない。
なお,原子力発電所の設計基準対象施設を重要度に応じてSクラス,Bクラス,Cクラスに分類して安全性対策を講じること(グレーディッドアプローチ)は,1審被告も主張するように,IAEAの国際基準等に照らしても合理的な方法であり(乙113)
,安全規制の在り方として
問題があるとは認められない。


1審原告らの主張について
1審原告らは,新規制基準において,①外部電源の耐震重要度分類がCクラスのままとされ,②今後の課題であると指摘されていた計装系の強化が行われていないのは不合理であると主張する。
しかしながら,①原子力発電所そのものの設備ではない長大な電線路や経由する変電所の全てについて,高い信頼性を持たせることは物理的に不可能であることは明らかであるから,外部電源の耐震重要度分類をCクラスのままとし,事故発生時には所内に設置した非常用電源設備(耐震重要度分類Sクラス)の電力供給に頼るとしたことが,
事故対策として不合理であるとはいえない。また,②新規制基準においては,重大事故等への対処として,計測機器が故障した場合に有効な情報を把握できる代替の計装設備を設けることが求められており(設置許可基準規則58条)
,計装系に対する要求事項が強化されてい
るといえるから,1審原告らの上記主張は当を得ない。
1審原告らは,機器・配管系では,クラックの原因となる応力腐食割れや老朽化による耐力の低下を解析に加えて計算する必要があるが,1審被告はそれらを解析において考慮していない旨主張する。
しかしながら,原子力発電所が稼動すれば機器・配管系は保守管理の対象となり,応力腐食割れや老朽化による耐力低下のおそれがあれば,保守管理の段階で補修,取替えにより適切に対処することが想定されており(実用炉規則69条,81条参照)
,実際にもそのような手
法で対処するのが現実的かつ有効であるから,設計の段階でこれらを考慮していないとしても,直ちに安全性に影響を及ぼすとはいえない。異常の発生・拡大防止対策,重大事故等対策について

証拠(甲235,乙13ないし20,47,53,55,65,83,113,175,176,215ないし218,235)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。
本件発電所の原子炉容器は,縦置き円筒型の鋼製の容器で,通常運転圧力(15.4MpaG)に対し,十分余裕のある最高使用圧力(17.16MpaG)となっており,内部には燃料棒と制御棒が配置されている。燃料棒は,二酸化ウランを焼き固めたペレットをジルコニウム基合金製の燃料被覆管内に積み重ねて密封溶接したものであり,制御棒は,中性子を吸収しやすい銀・インジウム・カドミウム合金で造られ,常に先端部が制御棒案内シンブルの内部に入った状態で保持されており,地震等の外部事象によっても挿入が妨げられないようになっている。原子炉出力
は,制御棒制御装置によって安定的に制御されており,仮に電源を喪失するような事態が起こっても,制御棒が自重で炉心に落下して原子炉を自動停止する仕組みや,所定の手続きを踏まなければ制御棒を引き抜けないなど,フェイル・セーフ・システムやインターロック・システムが採用されている。本件発電所では,過去に原子炉容器の溶接部の一部において応力腐食割れが発生するという事象が起きたが,その対策として,平成24年6月までに,これらを応力腐食割れに強い690系ニッケル基合金の部材に取り替えるとともに,応力の因子を除去するためのウォータージェットピーニング工事が実施された。
原子炉の1次冷却設備は,約300℃,約157気圧の1次冷却材で満たされ,その圧力は,加圧器圧力制御設備により,あらかじめ設定した圧力に維持されるよう自動的に制御されている。
原子炉格納容器は,原子炉容器及び1次冷却設備を格納する容器で,気密性が確保されており,本体部はプレストレストコンクリート製,基礎部は鉄筋コンクリート造であり,内面には炭素鋼製のライナプレートが設けられている。
本件使用済核燃料プールは,壁面及び底部を厚さ約2~4mの鉄筋コンクリート造とし,内面にステンレス鋼板を内張りした構造物である。中央制御室の制御盤には,原子炉出力や1次冷却材圧力等を制御する原子炉制御設備の計測装置及び制御装置が配置されており,運転員がこれらを常時監視し,制御している。また,異常が発生した場合には,例え小規模のものであっても直ちに検知できるように,水位,圧力,温度,水の流量及び放射線レベル等を連続的に監視する設備が設けられており,異常を検知すれば,あらかじめ設定した警報が発信される仕組みとなっている。
原子炉の圧力が異常に上昇するなど,緊急を要する異常が検知された
場合には,原子炉トリップ信号を発信し,急速に制御棒を挿入して,原子炉を自動的に速やかに停止させる設備を設置している。また,独立系の化学体積制御設備から,ホウ酸水を1次冷却設備に注入することにより,原子炉内の核分裂反応を抑制し,原子炉を停止できる設計にしている。
1次冷却材喪失事故(LOCA)が発生すると,上記の原子炉トリップ信号によって原子炉が直ちに自動停止し,非常用炉心冷却設備(ECCS)の蓄圧注入系,高圧注入系及び低圧注入系が自動的に作動して炉心を冷却し,原子炉格納容器スプレイが作動して格納容器内雰囲気を冷却し,圧力を低下させる。蓄圧注入系は,外部電源等の駆動源を必要とせず,蓄圧タンク内に封入された窒素ガスの圧力によって原子炉容器内にホウ酸水を注入できる。高圧注入系は,高圧注水ポンプ等で構成され,原子炉容器内の圧力が高い場合であっても,ホウ酸水を原子炉容器内に注入できる。低圧注入系は,余熱除去ポンプ等で構成され,原子炉容器内の圧力が低い場合に,大量のホウ酸水を原子炉容器内に注入できる。高圧注入系及び低圧注入系の電動ポンプは,1台で必要な能力を有するものを2台それぞれ分離して設置し,その電動機は各々独立した電気系統に接続している。高圧注入系及び低圧注入系の水源は燃料取替用水ピットであるが,これが減少すると,原子炉格納容器再循環サンプに水源を切り替えて継続的にホウ酸水を注入する。なお,1審被告は,国外の原子炉において格納容器再循環サンプスクリーンが異物により閉塞した事例を踏まえ,平成24年6月までに,同スクリーンを表面積が大きいスクリーンに取り替える工事を実施した。
緊急時の電源確保として,1台で安全性確保のために必要な容量を有する非常用ディーゼル発電機を2台備えており,外部電源及び非常用ディーゼル発電機が機能を喪失した場合(全交流電源喪失)の代替電源と
して,電源車及び空冷式非常用発電装置を配備している(なお,設置許可基準規則の解釈57条は,同規則57条1項に規定する「必要な電力を確保するために必要な設備」とは,代替電源設備を設けること(可搬型代替電源設備-電源車及びバッテリ等-を配備することなど)などの措置,又はこれらと同等以上の効果を有する措置を行うための設備をいうとし,また,同条2項に規定する「常設の直流電源設備」として,更なる信頼性を向上するため,重大事故等の対応に必要な設備に電気の供給を行うことが可能であるもう1系統の特に高い信頼性を有する所内常設直流電源設備(3系統目)を整備することを求めている。ただし,この3系統目の整備には一定期間の猶予が与えられている。。

空冷式非常用発電装置は,原子炉の冷却維持に必要な機器に交流電源を提供するだけでなく,プラント監視に必要な機器に直流電源を供給することも可能となっており,本件発電所の各号機につき必要な容量を有するものを高台に配備している。電源車は,プラント監視機能の維持等に必要な容量を有するものを各号機に2台ずつ分離して保管し,バックアップ用も備え,空冷式非常用発電装置とは異なる場所に配置している。また,7日間連続して非常用ディーゼル発電機を運転するために必要な容量以上の燃料を敷地内に貯蔵している。この容量は,福島原発事故の際に同発電所の燃料供給に要した3日間よりも保守性を持たせたものである(なお,設置許可基準規則の解釈33条7項は,同規則33条7項に規定する「十分な容量」とは,7日間の外部電源喪失を仮定しても,非常用ディーゼル発電機等の連続運転により必要とする電力を供給できることをいい,非常用ディーゼル発電機等の燃料を貯蔵する設備は,7日分の連続運転に必要な容量以上を敷地内に貯蔵できるものであることとしている。。

緊急時の除熱機能の確保として,2次冷却設備の主給水ポンプが機能
を喪失した場合,電動補助給水ポンプとタービン動補助給水ポンプの2種類のポンプが補助給水設備として設けられており,各号機ごとに前者は2台,後者は1台設置されている。電動補助給水ポンプは,外部電源が喪失した場合であっても,非常用ディーゼル発電機から供給される電源により駆動し,蒸気により駆動するタービン動補助給水ポンプは,外部電源及び非常用ディーゼル発電機が機能を喪失した場合であっても駆動することができる。なお,これらの補助給水ポンプは,復水ピットを水源としているが,その水源が枯渇した場合に海水を補給するための送水車を配備している。
また,原子炉停止後の残留熱を除去するために,蒸気発生器で発生した2次冷却材の余剰な蒸気を逃がす必要が生じた場合には,大気に蒸気を直接放出する主蒸気逃がし弁を手動で開けることができ,仮に主蒸気逃がし弁が動作しない場合にも,主蒸気安全弁により大気に蒸気を直接放出することができる仕組みとなっている。
海水ポンプは,原子炉補機冷却水冷却器や非常用ディーゼル発電機等の各機器を冷却するために海水を汲み上げているが,これが機能を喪失した場合に備えて,空冷式のディーゼル駆動式大容量ポンプを配備している。
さらに,ECCSが機能を喪失した場合に備えて,冷却水を直接原子炉に注入するための設備として,恒設代替低圧注水ポンプ及び可搬式の代替低圧注水ポンプを配備している。前者は燃料取替用水ピットを水源とし,後者は送水車により海水を仮設組立式水槽に汲み上げて水源とし,専用の電源車を備えている。なお,これらの各代替低圧注水ポンプは,原子炉格納容器スプレイが機能を喪失した場合に,スプレイリングを通じて格納容器内に水を噴霧し,格納容器内の圧力を抑制するためにも使用することができる。

その他,自然対流冷却による原子炉格納容器内の除熱を可能とする設備として格納容器再循環ユニットが設けられており,これは原子炉補機冷却水設備から冷却水の供給を受けているが,全ての海水ポンプ及び原子炉補機冷却水ポンプが機能喪失しても,原子炉補機冷却海水設備と原子炉補機冷却水設備とを直接接続し,大容量ポンプから格納容器再循環ユニットに海水を直接通水することが可能となっている。
なお,本件使用済核燃料プールにおいて,核燃料プール冷却系及び補給水系の機能喪失により冷却手段がなくなった場合に備え,同プールに海水を供給するための送水車及び遠方からでも注水可能な放水砲を配備している。
以上のような各設備に加え,運用面においても,本件発電所の設備を安全な状態に維持するとともに,異常の発生を未然に防ぐため,運転実績,設置環境,劣化及び故障形態等を基に保守管理計画を策定し,それに基づいて定期的に設備の点検,検査,取替え等を実施している。また,運営に携わる運転員や保修員に対しては,資質の維持・向上を図るための教育訓練として,通常の運転操作や故障時の対応等についてシミュレータを用いた本番同様の訓練を始め,実機と同様の設備や機器を備え付けた研修施設における保守・点検作業等の訓練を定期的に実施している。
1審被告は,安全上重要な設備が機能喪失する事態を想定し,重大事故に至るおそれがある事故が発生した場合であっても炉心の著しい損傷が生じないこと,重大事故が発生した場合であっても原子炉格納容器が破損して放射性物質が異常な水準で外部に放出されることはないことを,解析によって確認した。
例えば,ECCS注水機能喪失(外部電源喪失,中破断LOCA,ECCSの高圧注入系機能喪失)という事故シーケンス(設置許可基準規
則の解釈37条に掲げる事故シーケンス)では,低圧注入系又は恒設代替低圧注水ポンプを用いて炉心に冷却水を注入するとともに,蒸気発生器を通じて除熱を行うこととなるが,当該事象に対する最も厳しい解析結果であっても,燃料被覆管の最高温度は約891℃,局所的最大ジルコニウム-水反応量は約1.7%,原子炉格納容器圧力の最高値は約0.308MpaGと解析され,評価基準値である燃料被覆管の最高温度1200℃,ジルコニウム-水反応量15%以下,原子炉格納容器の最高使用圧力0.39MpaGを下回り,炉心の著しい損傷に至らないことが確認された(なお,設置許可基準規則の解釈37条は,燃料被覆管の最高温度及び酸化量について,十分な科学的根拠が示される場合を除き,最高温度が1200℃以下であること,酸化量は酸化反応が著しくなる前の被覆管厚さの15%以下であることを求めている。。

重大事故等が発生した場合には,可搬型の重大事故等対処設備を運搬したり,他の設備の被害状況を把握することが必要となるが,本件発電所内の道路及び通路が確保できるよう,迂回路も考慮して複数のアクセスルートを確保している。
タービン建屋南側の盛土層及び堆積層においては,地震動に基づく揺すり込みによって最大30cmの段差が生じるおそれがあるため,その対策として,ブルドーザ及びこれを運転できる要員を配備し,段差が生じた場合には,破損したアスファルトをブルドーザで剥ぎ取り,道路面を通行可能な勾配に整形して段差を解消できるようにしている。
その他,重大事故等が発生した場合に的確かつ柔軟に対応できるように,手順書及び要員等の必要な体制を整備するとともに,高線量下,夜間,悪天候等を想定した事故時対応訓練を実施している。
1審被告は,設置許可基準規則34条,61条に従い,重大事故等が発生した場合に,必要な要員を収容するとともに,プラントの事象や運
転状況を把握し,発電所内外への必要な通信連絡等を行うための施設として,地上1階地下1階,建屋内面積約800㎡,収容人数最大約200人の緊急時対策所(耐震構造を有する。
)を整備している。
さらに,これに加えた取組みとして,地上5階地下1階,建屋内面積約4000㎡,収容想定人数約800人の規模をもつ免震事務棟を設置する予定としており,この事務棟は,Sクラス同等の耐震性と免震構造を有し,放射線被ばくを防止する機能,非常用発電装置,通信連絡設備等を備えるものとしている。
平常運転時に放出せざるを得ない微量の放射性物質によって周辺公衆が被ばくする程度をできる限り低減させるため,燃料被覆管内に生じた放射性物質が1次冷却材に漏えいするのを極力防止し,1次冷却材中に漏えいした放射性物質は,できる限り1次冷却設備内に封じ込めて捕捉し,その形態に応じて適切に処理することによって,周辺環境に放出される放射性物質の量を最小限に抑制する対策をとっている。
本件発電所の平常運転に伴って周辺環境に放出される放射性物質からの放射線によって周辺公衆が受ける実効線量(人体の一部の組織が放射線に被ばくしたときの影響の度合いを,全身の組織がある線量を均等に被ばくすることによりもたらされるそれと同等であるとしたときの,その全身に対する線量)の評価値は,最大でも年間約0.009mSvであり,これは,
「実用発電用原子炉の設置,運転等に関する規則の規定に
基づく線量限度等を定める告示」
(平成13年経済産業省告示第187
号)に定める線量限度(年間の実効線量1mSv)
,更には「発電用軽水
型原子炉施設周辺の線量目標値に関する指針」
(昭和50年5月13日
原子力委員会決定)に定める線量目標値(年間の実効線量0.05mSv)と比較して十分に低い値であり,放射性物質の放出量が上記数値を超えることがないように管理されている。

原子力規制委員会は,1審被告による上記の異常の発生・拡大防止対策及び重大事故等対策について,新規制基準に適合することを確認した。

上記認定に鑑みれば,本件発電所の安全上重要な設備は,種々の方法によって多重性又は多様性及び独立性が確保されており,前記

の地震,津

波を始めとした外部事象による共通要因故障のみならず,偶発的な設備の単一故障を仮定しても安全性が確保されていると認められるほか,想定される重大事故等については,その対策の有効性が科学的手法によって検証されていることが認められ,これによれば,1審被告による上記の異常の発生・拡大防止対策及び重大事故等対策が新規制基準に適合するとした原子力規制委員会の判断に不合理な点があるとは認められない。
なお,設備や機器等については,常に経年劣化による疲労が付きまとうが,その点も考慮した保守計画が立てられ,定期的に点検,検査,取替え等が実施されているから,人の手に頼る面が多いとはいえ,安全性の確保について特に問題とするに当たらない。

1審原告らの主張について
1審原告らは,新規制基準の内容が不合理であるとして,その重大事故等対策につき,①欧州電力事業者要求仕様(EUR)が明確に禁止する可搬式設備による人的対応を基本としている点で重大な欠陥がある,②重大事故等対処施設は,Sクラスと同じ耐震性が求められているにすぎず,基準地震動を超える地震動が到来すれば,設計基準対象施設と共倒れになってしまう,③所内常設直流電源設備(3系統目)の設置を要求しながら,5年間の猶予を与えているのは安全性に欠けると主張する。
しかしながら,①1審原告らが指摘するEURは,事業者が定めた自主的な規格であり,既設の全ての原子炉に適用されるような規制要
求ではないし(乙134,135)
,その点を措くとしても,可搬型設
備は,運用上の柔軟性や耐震性の点で常設設備よりも優れた面があることは否めないから,重大事故等の発生時に可搬型設備を中心とした対策をとることが不合理であるとはいえない。また,新規制基準においては,上記のとおり,可搬型設備のみならず,必要に応じて常設設備を設けることも求めており,本件発電所においても,重大事故等対処設備として,電源車に加えて空冷式非常用発電装置を,可搬型代替低圧注水ポンプに加えて恒設代替低圧注水ポンプを配備しているのであって,1審原告らの上記主張は当を得ない。
また,②基準地震動は保守的な設定が求められ,現に保守的に設定されているといえ,本件発電所の基準地震動Ss-1~19の年超過確率が10-4~10-6程度であることは前記のとおりであって,これを超える地震動の到来は直ちに想定し難いし,特定重大事故等対処施設(重大事故等対処施設のうち,故意による大型航空機の衝突その他のテロリズムにより炉心の著しい損傷が発生するおそれがある場合又は炉心の著しい損傷が発生した場合において,原子炉格納容器の破損による工場等外への放射性物質の異常な水準の放出を抑制するためのものをいう(設置許可基準規則2条2項12号))については,基準。
地震動を一定程度超える地震動に対しても,設計基準対象施設とは性質の異なる対策(多様性)を講じること等によって頑健性を高めることが求められており(設置許可基準規則の解釈39条4項。乙65),
1審原告らが懸念する点についても配慮されているから,この点の1審原告らの主張も当たらない。
次いで,③所内常設直流電源設備(3系統目)は,上記のとおり,設置許可基準規則33条2項所定の非常用電源設備及び同規則57条1項所定の代替電源設備等が機能喪失した場合に備えて,更なる信頼
性の向上のために設置が求められるものであるが,上記の非常用電源設備及び代替電源設備等が,多重性又は多様性及び独立性を備えており,高い信頼性を有することは上記の認定・説示のとおりであって,これらが同時に機能を喪失することは直ちに想定し難いから,3系統目の設置に猶予期間を設けたとしても安全性が損なわれることにはならない。
なお,1審原告らは,電源や動力がなくても長期にわたって炉心を冷却できる「受動的安全性」の概念を取り入れていない新規制基準は国際基準に劣ると主張するが,証拠(乙139)にも照らし,上記主張は根拠を欠くといわなければならない。
1審原告らは,地震,津波を原因とする共通要因故障によって福島原発事故が生じたというのに,新規制基準では,単一故障指針が見直されておらず,共通要因故障が想定されていないのは不合理である旨主張する。
しかしながら,新規制基準では,地震や津波等を含めた外部事象に基づく共通要因故障は設計により防止されていることを前提として(設置許可基準規則3条ないし9条など)
,更に設備の偶発的な故障等
の単一要因によっても,多重性又は多様性及び独立性を有する設備を設けることにより,全体として安全機能を維持できるように求めているのであるから(同規則12条)
,1審原告らの上記主張は,新規制基
準の仕組みを正しく理解しないものであって失当である。
1審原告らは,新規制基準では,原子力安全委員会が定めていた原子炉立地審査指針が採用されず,原子力発電所と周辺公衆との離隔要件が定められていないため,重大事故等の発生時に周辺公衆の安全を確保することができない旨主張する。
しかしながら,原子炉立地審査指針で想定されていた重大事故や仮想
事故は,その具体的な進展等を考慮しないものであり,結果的に非居住区域や低人口地帯は原子力発電所の敷地内に収まる可能性も生じ,離隔要件が十分に機能しているとはいえなかったことから,新規制基準では,離隔要件によらず,重大事故等対策を法的な要求事項として整備することなどによって直接的にこれに対処するものとしたことが認められ(乙113)
,原子炉立地審査指針の趣旨や目的は,より実効性を高めるた
めに形を変えて新規制基準に引き継がれたと評価できるから,1審原告らの上記主張は理由がない。
なお,米国の原子力規制委員会の指針には,原子力発電所の周辺8km付近に300m以上の断層がある場合には原子力発電所の敷地として適さない旨の定めがあると指摘する意見書(甲269)があるが,平成26年に改訂された米国の規制ガイド4.7(乙151)にはそのような記載は見当たらず,その他に上記定めがあることを認めるに足りる的確な証拠はないし,我が国の設置許可基準規則3条は,設計基準対象施設は,同規則4条2項の規定により算定する地震力が作用した場合においても当該設計基準対象施設を十分に支持することができる地盤に設けなければならないとするほか(1項)
,特に耐震重要施設については,変
形した場合においてもその安全機能が損なわれるおそれがなく,かつ,変位が生ずるおそれがない地盤に設けなければならない(2項,3項)と定めているのであって,上記の米国原子力規制委員会の指針と比べても,安全確保の観点から遜色がないものと評価することができる。1審原告らは,本件発電所には重大事故等対策のために必要不可欠な設備である免震重要棟が設置されていないと主張するが,上記のとおり,本件発電所には,新規制基準に適合する重大事故等対処施設として,耐震構造を有し相当数の人員を収容できる緊急時対策所が設置されているから(さらに,免震構造を有し,より大きな規模の免震事務棟の設置を
予定している。,1審原告らのいう免震重要棟が設置されていないか)
らといって,安全性に欠ける面があるとはいえない。
水素爆発及び水蒸気爆発について

証拠(甲136,141,198,199,乙65,84ないし86,
140,235,239)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。
1審被告は,水素爆発による原子炉格納容器の破損を防ぐため,次のとおり対策を講じ,その有効性について検証した。
まず,水素爆発を発生させるおそれのある最も厳しい事故シーケンスとして,大破断LOCA,ECCS高圧注入系及び低圧注入系機能喪失という条件を想定した。その場合,事象発生から約27分後に炉心溶融が開始し,約1.4時間後に原子炉容器が破損して溶融した炉心が原子炉下部キャビティに落下し始めることとなる。その対策として,原子炉格納容器スプレイによる冷却水の散布によって原子炉下部キャビティに水深1.3m程度のプールを作り,落下してきた溶融炉心をプールで冷却して,溶融炉心・コンクリート相互作用による水素の発生を防止し,あらかじめ格納容器内に設置した静的触媒式水素再結合装置及び格納容器水素燃焼装置(イグナイタ)を用いて,ジルコニウム-水反応等により発生する水素を除去することとした。なお,プールの組成が異物の混入によって妨げられないように,複数の水の流路を確保するとともに,異物を捕捉するためのグレーチングや柵を設置している。
上記事象において,ジルコニウムの反応量を75%と想定した場合を基本ケースとして設定し,解析コードMAAPを用いて水素の発生量を評価したところ,イグナイタの効果を考慮しなくても,水素濃度は12.8%にとどまり,爆轟防止基準13%を下回ることが確認された(なお,設置許可基準規則の解釈37条は,
「原子炉格納容器が破損する可能性

のある水素の爆轟を防止すること」として,原子炉格納容器内の水素濃度がドライ条件に換算して13vol%以下又は酸素濃度が5vol%以下であることを要求している。。

また,不確かさを考慮したケースとして,上記に加え,溶融炉心・コンクリート相互作用により水素が追加発生するケースも想定し,落下した溶融炉心が局所的に堆積するという厳しい条件を設定して,MAAPにより水素発生量を解析したところ,追加発生に係るジルコニウムの反応量は6%となり,基本ケースのジルコニウムの反応量75%と合わせると総反応量は81%となるが,イグナイタによる水素低減効果を考慮すれば,その水素濃度は爆轟防止基準である13%を下回ることが確認された。
また,1審被告は,本件発電所において水蒸気爆発が発生する可能性について,水蒸気爆発に関する既往の大規模実験の条件と本件発電所の実機の条件とを比較することによって検討した。
この点,実機において想定される二酸化ウランとジルコニウムの混合溶融物を用いた既往の大規模実験として,COTELS,FARO,KROTOS及びTROIがあり,KROTOS及びTROIの実験の一部で水蒸気爆発が発生したが,これらの実験では,外乱を与えて液-液直接接触を生じ易くしていることや,溶融物の初期温度を高く設定して溶融物表面が冷却材中で固化しにくくしていることが認められた。他方,実機においては,液-液直接接触が生じるような外乱となり得る要素は考えにくいことに加え,溶融物の初期温度は実験条件よりも低く,かつ,冷却材中を落下する過程で溶融物表面の固化が起こりやすいものと考えられた。
以上により,本件発電所では水蒸気爆発が発生する可能性は極めて低いと評価した。

原子力規制委員会は,上記の1審被告による水素爆発及び水蒸気爆発に対する安全性評価について,新規制基準に適合することを確認した。

上記認定に鑑みれば,1審被告による上記の解析評価や既往の大規模実験との比較検討は,科学的に相当な手法によって行われたものであり,水素爆発については,不確かさを考慮して水素が追加発生するケースも検討し,安全側に配慮した保守的な条件を設定しているほか,解析評価の過程に不自然,不合理な点は見受けられず,また,水蒸気爆発についても,既往の大規模実験との比較検討に不自然,不合理な点は見当たらないことからすると,1審被告による水素爆発及び水蒸気爆発に対する安全性評価について,新規制基準に適合するとした原子力規制委員会の判断に不合理な点があるとは認められない。


1審原告らの主張について
1審原告らは,滝谷紘一の意見書(甲138,199)に依拠して,水素爆発の解析評価に当たっては,溶融炉心・コンクリート相互作用による水素の追加発生に係るジルコニウムの反応量を25%(総反応量を100%)とすべきであって,これによれば水素濃度は16.4%となるし,仮にジルコニウムの総反応量を81%として計算しても,イグナイタの効果には期待できないから,その水素濃度は13.7%となり,いずれにせよ爆轟防止基準である13%を超えるはずである旨主張する。しかしながら,溶融炉心・コンクリート相互作用による水素の追加発生に係るジルコニウムの反応量は,上記認定のとおり保守的な条件を設定しても6%と解析されており,これを25%とすべき明確な科学的な根拠は見いだせないし,イグナイタの効果に期待できない理由も見当たらないことからすれば,上記意見書を採用することはできず,これに依拠する1審原告らの主張も採用できない。

1審原告らは,大破断LOCA等の重大事故等発生時には,冷却水を注水することによって減圧された原子炉容器内に原子炉格納容器内の空気が吸い込まれ,爆発条件を満たす水素,水蒸気,空気の分圧比に達したところで水素爆発を起こす可能性があると主張する。
しかしながら,大破断LOCAが発生した場合には原子炉容器内に注水することはせず,原子炉下部キャビティに作ったプールで溶融炉心を冷却することとしていることは上記のとおりであって,1審原告らの主張は前提を欠くし,仮に誤って原子炉容器内に注水したとしても,高温の炉心によって冷却水は直ちに気化し,原子炉容器内の水蒸気の濃度が非常に高くなって,そこに流入する空気の濃度は限定的となることが想定されるから,水素爆発に至る可能性は極めて低いというべきであり,いずれにしても1審原告らの懸念は問題とするに当たらない。
1審原告らは,水蒸気爆発や水素爆発の他にも,想定される重大事故として温度誘因蒸気発生器伝熱管破損(TI-SGTR)を考慮すべきである旨主張する。
この点,証拠(乙140)及び弁論の全趣旨によれば,TI-SGTRは,炉心の著しい損傷に伴い原子炉容器から発生した高温ガスによって蒸気発生器の伝熱管が内部から熱せられて破断し,伝熱管内部の放射性物質が2次冷却材の配管等を経由して外部に放出される事象であり,その発生の要件として,①蒸気発生器の伝熱管を含む1次冷却設備の内部が高圧であり,②蒸気発生器の内部を含む2次冷却設備の内部に2次冷却材がなく,かつ,低圧であることとされているが,①については加圧器逃がし弁による減圧,②については補助給水設備による2次冷却材の供給が可能であり,これらの設備は高い耐震安全性を備えているから,同時に機能を喪失するとは考え難いことに加え,1審被告が実施した確
率論的リスク評価(PRA)では,TI-SGTRによって放射性物質が外部に放出される確率は1.9×10-7/炉年という極めて低い頻度とされたことが認められ,これらによれば,TI-SGTRを考慮しなかったことが不合理であるとはいえない。


テロリズム等の対策について

証拠(乙65,144,147ないし149,173,235,275,276,278,279,282)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。
1審被告は,不審者の侵入や危険物の持込みを防ぐため,実用炉規則91条の規定に基づき,防護区域,周辺防護区域及び立入制限区域という3重の区域を設定し(防護区域とは,特定核燃料物質の防護のための区域であり,鉄筋コンクリート造りの障壁その他の堅固な構造の障壁によって区画し,適切かつ十分な監視を行うことができる装置を設置する。周辺防護区域とは,防護区域の周辺に,防護区域における特定核燃料物質の防護をより確実に行うために定められる区域であり,人が容易に侵入することを防止できる十分な高さ及び構造を有する柵等の障壁によって区画し,当該障壁の周辺に照明装置等の容易に人の侵入を確認することができる設備又は装置を設置する。立入制限区域とは,周辺防護区域の周辺に,人の出入りを制限するために定められる区域であり,人が容易に侵入することを防止できる十分な高さ及び構造を有する柵等の障壁によって区画し,当該障壁の周辺に標識及びサイレン,拡声機その他の人に警告するための設備又は装置を設置し,照明装置等の容易に人の侵入を確認することができる設備又は装置を設置する。,各境界にコン)
クリート壁や柵などの障壁を設けるとともに,監視カメラやセンサーを設置し,各区域の出入口では本人確認や持込物品の点検等を行うなど,24時間体制の警備を実施している。また,警察及び海上保安庁によっ
ても,陸上及び海上から24時間体制の警備が行われている。安全上重要な情報システムについては,不正アクセスを防止するため,外部からのアクセスを遮断する設計となっている。
これらの対策については,核物質防護規定(原子炉等規制法43条の3の27)に定められ,原子力規制委員会の認可を受けるとともに,同規定の遵守状況について,原子力規制委員会の検査官により年1回の確認が行われている。
テロリズムの予防,鎮圧は警察の責務であり,他国による武力攻撃は政府及び自衛隊によって対処されるものであるが,その中でも,大型航空機の衝突等による大規模テロ攻撃,あるいは他国によるミサイル等を用いた武力攻撃等については,
「武力攻撃事態等における国民の保護の
ための措置に関する法律」「武力攻撃事態等及び存立危機事態におけ,
る我が国の平和と独立並びに国及び国民の安全の確保に関する法律」等に基づいて,国が対策本部を設置し,原子力災害や放射性物質による汚染への対処を行うこととなっており,1審被告は,上記の法律に基づいて定められた国民保護業務計画に基づいて,国と連携して対処することとしている。
上記の大規模テロ攻撃等によって大規模損壊が生じた場合には,外部注水ラインを敷設して冷却水を散布することによって,周辺環境に放出される放射性物質を低減する対策を講じており,そのために必要となる可搬型の資機材は,攻撃目標となる施設と同時に機能を喪失することがないように分散して配備している。例えば,本件使用済核燃料プールが破壊された場合には,同プールの水位が維持できていれば,屋内外の消火栓及び送水車により注水するが,同プールの水位が維持できなければ,送水車に接続したスプレイヘッダ,又は大容量ポンプに接続した放水砲を用いて作業環境に応じた注水をすることとしており,送水車,スプレ
イヘッダ及び大容量ポンプは,本件使用済核燃料プールから100m以上離れた場所に分散して保管している。
(なお,設置許可基準規則の解
釈43条7項は,同規則43条3項5号について,可搬型重大事故等対処設備の保管場所は,故意による大型航空機の衝突も考慮し,例えば原子炉建屋から100m以上離隔をとり,原子炉建屋と同時に影響を受けないこととしている。

さらに,大規模損壊時の対応や手順等について,要員に対する教育,訓練を定期的に実施することとしている。
原子力規制委員会は,1審被告による上記のテロリズムその他の犯罪行為対策等について,新規制基準に適合することを確認した。

上記認定に鑑みれば,1審被告が講じているテロリズム等の対策に不合理な点は見当たらず,大規模損壊が発生した場合の対策については,これによって被害を受ける範囲の不確定性が大きく,取り得る手段に限界がある中で,放射性物質の異常放出を低減するための対策が講じられているのであって,これらによれば,上記の各対策が新規制基準に適合するとした原子力規制委員会の判断に不合理な点があるとは認められない。


1審原告らの主張について
1審原告らは,新規制基準の内容が不合理であるとして,大規模損壊発生時の要求事項を定めた実用炉規則86条は余りに抽象的であり,基準としての意味をなしておらず,その他にも大規模損壊時に周辺公衆の被害を防止するための効果的な基準はないに等しい旨主張する。しかしながら,同条は,大規模損壊時に放射性物質の放出を全く低減することができない事態を避けるために,保全のための活動を行う体制の整備に関する要求事項を定めたものであり(乙113)
,このよ
うな体制が適切に整備されているかについては,適合性審査において原子力発電所ごとの実情に応じて個別具体的に判断されるべきである
から,同条の定めが抽象的にすぎて不合理であるとはいえないし,その他の大規模損壊に対する対策としては,上記に認定した可搬型設備の分散配置のほか,消火活動等のための放水設備の設置(設置許可基準規則の解釈55条1項。乙65)
,アクセスルート復旧のための重機
の整備(同規則43条3項6号)などにより,新規制基準において重大事故等対策の要求事項に包含されていると評価できるから,大規模損壊対策の基準がないに等しいなどという1審原告らの上記主張は理由がない。
1審原告らは,近時,朝鮮民主主義人民共和国がミサイルの発射実験を繰り返しており,同ミサイルの破壊措置命令が常時発令されていることを指摘して,少なくとも同命令の発令期間中は本件発電所の運転を停止すべきである旨主張する。
しかしながら,同国のミサイルの発射は現状としてあくまで実験にすぎないものとみられ,我が国又は本件発電所が攻撃の目標となっていることを認めるに足りる証拠もないのであって,これによれば,本件発電所にミサイルが着弾する具体的な危険性があるとはいえないから,上記主張は採用の限りでない。


深層防護について

証拠(乙65,79,80,113)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。
IAEAの採用する深層防護の考え方(原子力発電所の安全・設計(2016)
)は,第1の防護レベルとして,通常運転状態からの逸脱と安
全上重要な機器等の故障を防止するために,実証された適切な工学的手法等に従い,原子力発電所の立地,設計,建設,保守及び運転が健全かつ保守的にされることを要求する。次いで,第2の防護レベルとして,原子力発電所の運転期間中に予期される事象(設置許可基準規則では運
転時の異常な過渡変化)が事故状態に拡大することを防止するために,通常運転状態からの逸脱を検知し,管理することを目的として,設計で特定の系統と仕組みを備えること,それらの有効性を安全解析により確認すること,さらに,上記事象を発生させる起因事象を防止するか,その影響を最小にとどめ,原子力発電所を安全な状態に戻す運転手順の確立を要求する。次いで,第3の防護レベルとして,運転期間中に予期される事象又は想定起因事象が拡大して前段のレベルで制御できず,設計基準事故に進展した場合において,固有の安全性や工学的な安全の仕組みなどによって,事故を超える状態に拡大することを防止するとともに,原子力発電所を安全な状態に戻すことができることを要求する。次いで,第4の防護レベルとして,第3の防護レベルでの対策が失敗した場合を想定し,事故の拡大を防止し,重大事故の影響を緩和するために,時間的にも適用範囲においても限られた防護措置のみで対応可能とするとともに,敷地外の汚染を回避又は最小化することを目的として,早期又は大量の放射性物質の放出を引き起こす事故シーケンスの発生の可能性を十分に低くすることによって,実質的に排除できることを要求する。次いで,第5の防護レベルとして,重大事故に起因して発生しうる放射性物質の放出による影響を緩和することを目的として,十分な装備を備えた緊急時対応施設の整備と,所内及び所外の緊急事態の対応に関する緊急時計画と緊急時手順の整備を要求する。
これを我が国の新規制基準に当てはめてみると,異常の発生・拡大の防止対策(設計基準事故対策)は第1ないし第3の防護レベルに,重大事故等対策は第4の防護レベルに該当するといえる。
第5の防護レベルについて,IAEAは,その対応まで原子力事業者に求めているものではなく,役割と責任を明示してこれを原子力事業者以外に割り当てることを可能としており,我が国の法制度上は,第5の
防護レベルにいう「所内及び所外の緊急事態の対応に関する緊急時計画と緊急時手順の整備」について,国,地方公共団体,原子力事業者等がそれぞれの責務を果たすものとして,災害対策基本法及び原子力災害対策特別措置法に基づいて規制することとしている。
これらの法律に基づき,中央防災会議が定める防災基本計画(原子力災害対策編)や原子力規制委員会が定める原子力災害対策指針により,都道府県及び市町村は,地域防災計画として,原子力発電所からおおむね半径5km以内の「予防的防護措置を準備する区域(PAZ)
」及びお
おむね半径30km以内の「緊急時防護措置を準備する区域(UPZ)」
をそれぞれ設定して各圏内の住民を対象とする避難計画を作成等するものとされ,当該計画は,最終的に内閣に設置された原子力防災会議に報告し,了承を受けることとされている。
また,原子力事業者は,その原子力事業所ごとに,原子力災害の発生及び拡大を防止し,並びに原子力災害の復旧を図るために必要な業務に関し,原子力事業者防災業務計画を作成するなどし,当該計画は,内閣総理大臣及び原子力規制委員会に届け出た上,要旨を公表することが義務付けられている。

少なくとも人格権に基づく原子力発電所の運転差止めの当否を考えるに当たって,緊急時の避難計画が作成されていなかったり,あるいはその内容に瑕疵があったとしても,そのことによって直ちに原子力発電所の危険性が肯定されるとか,運転の差止めという結論が導かれるものではなく,そもそも当該原子力発電所について人格権の侵害を招くような重大事故等を起こす具体的危険性があるか否かが検討されるべきであり,その危険性が肯定される場合に運転の差止請求が認められるというべきである。もっとも,その点を措くとしても,我が国の法制度上は,上記のとおり,緊急時の避難計画について,災害対策基本法及び原子力災害対策特別措置法に
よって規制がされることになっているのであり,これが新規制基準の内容になっていないからといって,IAEAの深層防護の考え方に反するとはいえない。
なお,証拠(甲12,13,166,167)及び弁論の全趣旨によれば,本件発電所のある福井県は,上記の防災基本計画及び原子力災害対策指針に基づき,平成25年7月に地域防災計画(原子力災害対策編)を,平成26年3月に広域避難計画要綱を策定し,同県大飯郡おおい町は,平成25年8月に地域防災計画(原子力防災編)を,平成26年11月に原子力災害時における住民避難計画を策定したこと,1審被告は,
「大飯発
電所

原子力事業者防災業務計画」を策定し,平常時から,原子力災害に
対応するための設備(汚染防護服及びフィルター付き防護マスク等の放射線障害防護用器具,緊急時電話回線及び衛星電話等の非常用通信機器,並びに安全パラメータ伝送システムなど)を本件発電所に整備するとともに,国や地方公共団体が実施する原子力防災訓練の計画の策定に協力し,要員派遣,資機材の貸与等を行うなど,当該訓練に参画していることが認められるのであって,IAEAの定める第5の防護レベルに係る対応もされているといえる。

したがって,新規制基準がIAEAの安全基準の要求を満たしていないとして,新規制基準の内容が不合理であるとか,防災対策等の策定に不備がある旨をいう1審原告らの主張は採用の限りでない。
また,1審原告らは,福井県やおおい町の策定した地域防災計画等による防災対策の内容を縷々論難するが,上記のとおり,人格権に基づく原子力発電所の運転差止請求の当否を考えるに当たって,基本的には避難計画の策定や内容の是非は争点とならないこと,加えて,本件発電所における安全確保対策,ないし異常の発生・拡大の防止対策,重大事故等対策に不合理な点はないことなどのこれまでの説示に照らせば,上記にいう1審原
告らの指摘を検討する必要はない。


ストレステストについて

証拠(甲14,16,乙10,33)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。
1審被告は,原子力安全・保安院から,福島原発事故を踏まえて,設計上の想定を超える外部事象に対する本件発電所の頑健性を総合的に評価するように指示されたことを受け,平成23年から平成24年にかけて,本件ストレステストを実施した。本件ストレステストは,地震,津波,全交流電源喪失及び最終ヒートシンク喪失の各評価項目について,炉心及び本件使用済核燃料プールの各燃料が重大な損傷に至る可能性のある起因事象を選定した上,イベントツリーを用いて起因事象の影響緩和機能及び起因事象を収束させる手順(収束シナリオ)を特定し,影響緩和機能を有する設備の裕度を算定することによって,燃料の重大な損傷を回避できる限界(クリフエッジ)を特定しようとするものである。なお,ここでの基準地震動や設計津波の高さ,起因事象の影響緩和に必要な本件発電所の設備については,本件ストレステストが実施された平成23年から平成24年当時のものを前提としており(当時の基準地震動Ssの最大加速度は700ガル)
,その後に施行された新規制基準の
下において新たに策定,配備された基準地震動,基準津波及び重大事故等対処設備とは異なる部分がある。
地震に関する評価
1審被告は,一般社団法人日本原子力学会の「原子力発電所の地震を起因とした確率論的安全評価実施基準」
(2007)に示される考え方に基
づき,①主給水喪失,②外部電源喪失,③2次冷却系の破断,④格納容器バイパス,⑤大・中・小破断LOCA,⑥補機冷却水の喪失及び⑦炉心損傷直結を起因事象として選定し,起因事象に直接関係する設備及び
起因事象の収束に活用される全ての影響緩和機能の耐震裕度につき,考慮すべき経年変化の影響も加味して評価した。なお,安全機能喪失に至るまでに大きな耐震裕度を有する設備(例えば,支持構造物は,自らの変形によるエネルギー吸収効果や他の支持構造物との荷重分担によって,当時の基準地震動の2倍以上の耐震裕度があるとされる。
)については,
ストレステストの結果に影響を及ぼさないとして,評価の対象外とした。その結果,起因事象発生までの耐震裕度が最も小さいのは「主給水喪失」及び「外部電源喪失」であり,それぞれ基準地震動未満の地震動においても当該事象が発生するところ,これらを包絡する「外部電源喪失」の収束シナリオでは,起因事象発生後,原子炉の停止に成功するものの,非常用所内電源からの電源供給の喪失(1.78Ss-当時の基準地震動の1.78倍-で海水ポンプ故障)により全交流電源喪失に至り,タービン動補助給水ポンプによる蒸気発生器への給水(1.81Ssで同ポンプ故障)と手動操作による主蒸気逃がし弁の開放(2.13Ssで直流電源盤故障)で熱を放出し,2次系による冷却を行うほか,蓄圧タンクのホウ酸水の注入(2.13Ssで直流電源盤故障)を行うことで未臨界性を確保し,蓄電池が枯渇するまでに空冷式非常用発電装置からの繋ぎ込み給電(1.80Ssで高電圧開閉装置故障)を行うとともに,復水ピットの水が枯渇するまでに消防ポンプを用いた海水の給水を行うことにより水源を確保し,2次系冷却を継続することにより炉心損傷を防止する。この収束シナリオにおけるクリフエッジの所在は,空冷式非常用発電装置による給電の失敗であり,当該失敗の原因は,メタルクラッドスイッチギア(高電圧開閉装置)やパワーセンターの機能損傷であり,それらの耐震裕度である1.80Ssをクリフエッジとして特定した。
本件使用済核燃料プールに関しては,①外部電源喪失,②冷却機能喪
失,③補機冷却水の喪失及び④プール自体の損傷を起因事象として選定し,起因事象に直接関係する設備及び収束シナリオの耐震裕度を評価した結果,外部電源喪失,冷却機能喪失及び補機冷却水の喪失については,最終的に消防ポンプを用いた海水の注水によって燃料の重大な損傷は回避されるため,プール自体の損傷に対する耐震裕度である2Ssをクリフエッジとして特定した。
津波に対する評価
1審被告は,社団法人土木学会の「原子力発電所の津波評価技術」(2002)に基づいて,本件発電所の設計津波高さを評価したところ,水位上昇側でT.P.+2.85m,水位下降側でT.P.-1.85mとなり,この設計津波高さに対して,影響緩和機能を有する設備が機能を維持できる許容津波高さの裕度を評価した。
津波による起因事象について,発電用原子炉施設の安全評価審査指針(平成2年8月30日原子力安全委員会決定,平成13年3月29日改訂)に示される安全評価事象等を勘案して,①主給水喪失,②外部電源喪失,③過渡事象,④補機冷却水の喪失及び⑤炉心損傷直結を選定し,起因事象に直接関係する設備の許容津波高さと収束シナリオの許容津波高さを評価した結果,起因事象発生までの許容津波高さが最も小さいものは「補機冷却水の喪失」であり,許容津波高さT.P.+4.65mで海水ポンプが浸水することにより発生し,従属的に「主給水喪失」及び「過渡事象」が発生するところ,これらの収束に用いられる全ての影響緩和機能の許容津波高さを評価した結果,クリフエッジの所在は,補助給水による蒸気発生器への給水の失敗であり,当該失敗の原因は,タービン動補助給水ポンプ,同起動盤及び電動補助給水ポンプの各浸水であり,これらが浸水するT.P.+11.4mをクリフエッジとして特定した。本件使用済核燃料プールに関しては,①外部電源喪失,②冷却機能喪
失及び③補機冷却水の喪失を起因事象として選定し,起因事象に直接関係する設備の許容津波高さを評価した結果,起因事象発生までの許容津波高さが最も小さいものは「補機冷却水の喪失」であり,許容津波高さT.P.+4.65mで海水ポンプが浸水することにより発生し,従属的に「冷却機能喪失」が発生するところ,これらを包絡する「補機冷却水の喪失」の収束に用いられる全ての影響緩和機能の許容津波高さを評価した結果,クリフエッジの所在は,消防ポンプによる注水の失敗であって,当該失敗の原因は消防ポンプ用燃料の浸水であり,当該燃料が保管されている箇所のうち最も低い箇所であるT.P.+33.3m(もっとも,これは本件発電所の3号機の数値であり,4号機の数値はT.P.+14.4mである。
)をクリフエッジとして特定した。
地震と津波の重畳に関する評価
上記の地震に関する評価及び津波に関する評価の結果から,特定されたクリフエッジとしての耐震裕度までの範囲及び許容津波高さまでの範囲で発生する各起因事象を選定した上で,それらの収束シナリオの影響緩和機能の耐震裕度と許容津波高さのそれぞれの最小値を算定し,それらの組合せを当該収束シナリオに対する地震及び津波への耐力とし,全ての収束シナリオから最も耐力を有するシナリオを抽出し,そのシナリオの耐力を地震と津波の重畳によるクリフエッジとして特定した結果,炉心の燃料に関しては,耐震裕度を1.80Ss,許容津波高さをT.P.+11.4m,本件使用済核燃料プールの燃料に関しては,耐震裕度を2Ss,許容津波高さをT.P.+33.3m(ただし,4号機はT.P.+14.4m)と特定した。
全交流電源喪失に関する評価
まず,外部電源喪失から全交流電源喪失までの過程について,2台の非常用ディーゼル発電機が運転継続できて原子炉を冷却できる期間を,
燃料(重油)の保有量と原子炉の冷却に必要な設備の燃料消費量と燃費に基づき,約10日間と評価した。
次いで,非常用ディーゼル発電機が機能を喪失し,全交流電源喪失事象が発生した場合の収束シナリオは,タービン動補助給水ポンプ及び電動補助給水ポンプによる給水によって原子炉を冷却し,その水源として,復水ピット,2次系純水タンク,その予備の順に切り替え,最終的には消防ポンプを用いて海水を取水し,復水ピットに補給することで給水を継続するものであるが,その場合のクリフエッジとなる各水源の枯渇時間は,復水ピットから2次系純水タンクの予備までの容量を踏まえて合計約16日間(消防ポンプによる海水の取水は,それまでに他号機で備蓄ガソリンが全て費消されて不可能となる。
)と特定した。
原子炉運転中の本件使用済核燃料プールに対する評価について,その冷却水の水源として,淡水タンク,1次系純水タンク及び海水を利用できるが,クリフエッジとなる各水源の枯渇時間は,淡水タンクと1次系純水タンクまでの容量を踏まえて合計約15日間(消防ポンプによる海水の取水は,それまでに他号機で備蓄ガソリンが全て費消されて不可能となる。,原子炉停止中の本件使用済核燃料プールに対する評価につ)
いて,クリフエッジとなる各水源及び備蓄ガソリンの枯渇時間は,合計約10日間であると特定した。
最終ヒートシンク喪失に関する評価
原子炉の運転中又は停止中に海水ポンプ及び循環水ポンプが故障し,海水による冷却機能が全て機能を喪失することによって,最終的な熱の逃し場(最終ヒートシンク)が喪失した場合,炉心及び本件使用済核燃料プールの各燃料の損傷を防止するための防護措置並びに各燃料の冷却のための水源等は上記

と同様であって,クリフエッジは,原子炉運転

時の炉心で約16日間,本件使用済核燃料プールで約15日間,原子炉
停止時の本件使用済核燃料プールで約10日間と特定した。
原子力安全・保安院は,平成24年2月,本件ストレステストが妥当なものであることを確認した。

上記認定に鑑みれば,本件ストレステストにおける起因事象及び収束シナリオの選定や当該収束シナリオにおいて影響緩和機能を有する設備の裕度評価は,当時の基準地震動等との比較という点を考慮しても,最新の科学的な手法に則って行われたことが認められ,その評価の過程に不自然,不合理な点は見当たらず,評価結果の正当性を疑わせる事情も見受けられないことからすれば,本件ストレステストが妥当であるとした原子力安全・保安院の判断が不合理であるとは認められない。
本件ストレステストは,平成23年から平成24年当時の基準地震動等や本件発電所の設備を前提とするものであり,現在の本件発電所の裕度を正確に示したものとはいえない。しかし,本件ストレステスト後に1審被告が新たに策定した基準地震動及び基準津波,更には設備の安全性評価及び炉心損傷等に関する重大事故等対策が新規制基準に適合することは,これまでに説示したとおりであり,また,本件ストレステスト後の耐震補強工事等によって安全上重要な設備の安全性が向上していることがうかがえるところ,これを措いても,当時の基準地震動がその後見直されて加速度値が増しており(基準津波も設計津波と比較して高さが増している。,)
この見直された数値はなお本件ストレステストで示されたクリフエッジより相当に低いのであって,これらによれば,本件ストレステストの結果をもって,本件発電所の安全性(耐震性等)を裏付ける1つの事情と考えることができる。



火山灰対策について

設置許可基準規則6条は,安全施設は,想定される自然現象(地震及び津波を除く。
)が発生した場合においても安全機能を損なわないもので

なければならない(1項)
,重要安全施設は,当該重要安全施設に大きな
影響を及ぼすおそれがあると想定される自然現象により当該重要安全施設に作用する衝撃及び設計基準事故時に生ずる応力を適切に考慮したものでなければならない(2項)と規定し,火山評価ガイドは,降下火砕物の影響評価では,降下火砕物の堆積物量,堆積速度,堆積期間及び火山灰等の特性などの設定を考慮し,それらの原子炉施設又はその付属施設への影響を評価し,必要な場合には対策がとられ,求められている安全機能が担保されることを評価する(同ガイド6.1

)ほか,原子力

発電所内及びその周辺敷地において降下火砕物の堆積が観測されない場合は,①類似する火山の降下火砕物堆積物の情報を基に求める,②対象となる火山の噴火量,噴煙柱高,全体粒度分布及びその領域における風速分布の変動を高度及び関連パラメータの関数として,原子力発電所における降下火砕物の数値シミュレーションを行うことより求める(同ガイド解説16)と規定している(乙269)


証拠(甲489,579,580,乙182,235,269ないし272)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。
1審被告は,降下火砕物による影響評価に当たり,本件敷地周辺の既往の降下火砕物を調査するなどして,本件発電所の運用期間中に想定される降下火砕物の最大層厚について,次のとおり設定した。
まず,噴出源を同定できる既往の降下火砕物としては,文献調査及び地質調査の結果,層厚が比較的厚いものとして,①大山倉吉テフラ,②姶良Tnテフラ,③恵比須峠福田テフラがあり,これらを噴出させたのと同規模の噴火が起こる可能性について検討したところ,①については,須藤茂ほか(2007)によれば,大山(鳥取県)が当該テフラに係る噴火を起こすまでには30万年以上を要したが,当該噴火後は約5.5万年しか経過していないこと,また,東宮昭彦(1997)によ
れば,爆発的噴火を引き起こす珪長質マグマの浮力中立点は深度7kmとされているが,DapengZhaoほか(2011)の知見に基づいて検討すると,大山のマグマ溜まりは20km以深に位置すると考えられることから,本件発電所の運用期間中において,①を噴出させたのと同規模の噴火を起こす可能性は十分に低いと評価し,②及び③については,当該火山の活動履歴や地下構造を検討した結果により,本件発電所の運用期間中において,これらを噴出させたのと同規模の噴火が起こる可能性は十分に低いと評価した。
なお,大山の噴火によって想定される降下火砕物については,その噴出量につき,繰り返し生じている数k㎥の噴火の中でも最大の5k㎥とし,風速分布につき,昭和56年から平成21年までの米子の風データにより設定し,移流拡散モデルを用いて数値シミュレーションを行ったところ,風速等のばらつきを含めても最大層厚は約9cm程度と算出された。
次に,噴出源を同定できない降下火砕物としては,本件発電所周辺の三方湖東岸で確認されたNEXCO80があり,その層厚は20cmであったが,上下2層に分かれており,再堆積を含むと考えられることや,周辺地域の地質調査の結果においても層厚10cmを超える火山性の堆積物は見られなかったことから,NEXCO80の降下火砕物の純層(降下火砕物が降り積もった場所でそのまま堆積したもの)の層厚を10cm以下と評価した。
以上から,1審被告は,降下火砕物の最大層厚を10cmと評価するとともに,文献調査及び地質調査結果を踏まえ,粒径を1mm以下,乾燥密度を0.7g/c㎥,湿潤密度を1.5g/c㎥と評価した。非常用ディーゼル発電機は,運転に当たって外気を取り込む必要があるから,降下火砕物の影響を受ける可能性があるが,その影響を防
ぐための対策として,外気取入口の開口部を下向きに設置して降下火砕物が流路に侵入しにくい設計にするとともに,屋内にある吸入口に吸気フィルタを設置し,降下火砕物が吸気フィルタに付着した場合でも交換又は清掃可能な構造を採用した。そして,セントヘレンズ山(米国ワシントン州)の1980年噴火に係る気中降下火砕物濃度(0.33mg/㎥)によっても,吸気フィルタを交換することによって機能を喪失しないことを確認した。
原子力規制委員会は,平成29年5月,上記の降下火砕物の影響評価について,新規制基準に適合していることを確認した。
その後,原子力規制委員会において,降下火砕物の影響評価の在り方について見直しが進められ,平成29年9月,新たな規制要求を追加するなどした改正案が示された。そこでは,原子力規制委員会が定める手法によって気中降下火砕物濃度を推定することなどが求められており,同手法を用いると,従来の想定を大幅に上回る気中降下火砕物濃度を設定すべきこととなる。同改正案は,同月21日から同年10月20日まで意見公募手続に付され,経過措置として,安全性に与える影響や事業者及び規制当局の評価・確認等に要する期間等を踏まえ,施行から約1年後までは適用しないとされている。
本件発電所の気中降下火砕物濃度について,上記改正に係る推定手法を用いて試算すると,その値は1.5g/㎥となり,非常用ディーゼル発電機の限界濃度である1.1g/㎥を上回ることとなった。なお,上記の試算は,降灰継続時間を24時間と仮定し,降灰開始から24時間後に降下火砕物の最大層厚に達すると仮定してその間の平均濃度を算定したものであり,24時間以降の降灰量も含めて平均濃度を算出していること,粒径の大小に関わらず同時に降灰が起こると仮定していることなどから保守的な数値となっている。

1審被告は,上記改正がされる予定であることを踏まえ,気中降下火砕物の捕集性能を向上させるため,新たに非常用ディーゼル発電機の吸気フィルタの上流側に,吸気フィルタとは別のカートリッジ型のフィルタを設置する改良工事を実施し,平成29年9月20日までに同工事を完了した。
このカートリッジ型のフィルタは,約400mm×約600mmの角形フィルタを1段当たり1個から3個並べたものを8段配置した縦置パネル型の構造であり,降下火砕物によって閉塞した角形フィルタは,閉止板を挿入して個別に抜き取ることで交換することができ,その作業には工具を必要とせず,非常用ディーゼル発電機の運転を継続したまま交換することができる。
上記改良工事がされたことにより,気中降下火砕物濃度が上記試算に係る1.5g/㎥であっても,非常用ディーゼル発電機は機能を喪失しないことを確認した。
仮に降下火砕物の影響によって非常用ディーゼル発電機が機能を喪失し,全交流電源喪失に至っても,電力を必要としないタービン動補助給水ポンプを用いて原子炉を冷却することが可能であり,その水源の容量は,動力源を必要としないもので約10.8日間,動力源が必要なものを含めれば約39日間となっている。

以上によれば,1審被告による降下火砕物の最大層厚の算定は科学的な知見及び手法に基づいてされたものであり,その算定過程及び算定結果に不自然,不合理な点は見当たらず,非常用ディーゼル発電機の安全対策も合理的といえるものであって,降下火砕物による安全性評価が新規制基準に適合するとした原子力規制委員会の判断に不合理な点は認められない。
また,1審被告は,上記のとおり火山影響評価に係る新規制基準が改
正されることを踏まえて,非常用ディーゼル発電機の吸気フィルタの改良工事を実施し,新たに想定すべき気中降下火砕物濃度に対しても機能が喪失しないことを確認しており,改正後の基準に照らしても,1審被告の安全対策について不合理な点は見当たらない。

1審原告らの主張について
1審原告らは,国立研究開発法人産業技術総合研究所の山元孝広の論文(甲491)に依拠して,本件発電所の運用期間中に大山倉吉テフラ噴火と同規模の噴火が起こる可能性が否定できない旨主張する。この点,上記論文は,1審被告が前提とした大山の降下火砕物の層序や噴出物の体積値には誤りがあり,階段ダイヤグラムを修正すると,最大規模の噴火であった大山倉吉テフラ噴火とその他の噴火との違いが小さくなり,10万年前頃からマグマ噴出率が大きくなる傾向が見られ,大山倉吉テフラ噴火に至る活動期間が30万年以上とするだけの根拠はないとするものである。しかしながら,上記論文によっても,大山倉吉テフラ噴火と同規模の噴火が発生する周期については明らかでないし,上記に認定した大山のマグマ溜まりの深度も考え合わせれば,これと同規模の噴火を想定しないことが不合理であるとはいえない。仮にこれと同規模の噴火を想定するとしても,証拠(乙182の1[6-8-12]
)によれば,大山倉吉テフラの層厚は,文献上は1
0cm程度とされているが,本件発電所周辺の地質調査の結果では火山性の堆積物が層厚10㎝を超えて分布している箇所はなかったことが認められるのであり,これによれば,同テフラの層厚を10cm弱程度と評価することが不合理であるとはいえないのであって,降下火砕物の最大層厚を10cmとした1審被告の評価結果が左右されることはない。なお,福井県の丹生山地中南部の河岸段丘から発見された小曽原火山灰層は大山倉吉テフラであって,その層厚は20cmであるなどと
論ずる文献のあることがうかがえるが,上記河岸段丘と本件発電所との距離,標高差,風速分布その他地理的条件の相違は明らかでなく,これを本件発電所の最大層厚の設定に反映させることが相当であるとはいえない。
また,原子力規制庁は,平成30年3月,京都市右京区越畑地点で発見された火山灰層が大山生竹テフラであり,その最大層厚について,これを26cmとみなすことが可能である旨の見解を公表したことがうかがわれるが,これはあくまで可能性を示したにすぎないし,かつ,同庁は,上記の火山灰層が上下2層に分かれており,堆積学的には,その上位の層を再堆積によるものと評価することにも合理性があるとしていることからすれば,今後の調査の進展次第では最大層厚の評価に影響を及ぼす可能性があるとしても,少なくとも現時点において,上記評価の信頼性が動かされるとはいえない。
1審原告らは,高濃度の降灰時,道路途絶,視界不良,外部電源喪失等の諸問題が起こっている中で,適切にフィルタ交換等の人的対応ができるかは疑問である旨主張する。
しかしながら,フィルタ交換自体は屋内での作業であるから,降灰の影響を直接に受けるとは考え難いし,それを措くとしても,上記改正に係る新規制基準では,火山影響発生時の保全のための活動を行う体制に関し,手順,要員及び資機材等を整備するとともに要員の訓練を実施することなどが求められており(改正後の実用炉規則92条1項21号の2)
,今後はこれに従った体制を整備することが予定されて
いるといえるから,1審原告らが主張する点は問題とするに当たらない。なお,上記の改正には経過措置として一定の猶予期間が設けられているが,その期間は1年間という限定されたものであるし,既存の重大事故等に対する対策によっても代替可能であると考えられるから,
上記の猶予期間を設けたことが不合理であるとはいえない。
1審原告らは,火山影響評価に関する新規制基準について,火山の科学的専門的知見の反映が明らかに不十分,不合理であるから,新規制基準の内容は不合理,違法である旨主張するが,根拠に欠けるというほかない。
1審被告の技術的能力について

1審被告の異常発生・拡大の防止対策,重大事故等対策が新規制基準に適合するものであることは,これまでに説示したとおりであり,これをも踏まえて原子力規制委員会は,1審被告には,重大事故の発生及び拡大の防止に必要な措置を実施するために必要な技術的能力その他の発電用原子炉の運転を適確に遂行するに足りる技術的能力があること(原子炉等規制法43条の3の6第1項3号)を確認したことが認められる(乙235)。


これに対し,1審原告らは,これまでに1審被告が多数の事故を起こしたことなどを指摘して,1審被告には原子炉事故を収束するために必要な技術的能力や経理的基礎等が不十分である旨主張する。
証拠(甲276ないし281,497,498,502)及び弁論の全趣旨によれば,1審被告が昭和45年から平成25年までの43年間に11基の原子力発電所で起こした事故は,蒸気発生器細管の損傷・破断,同細管からの放射能漏れ,復水器又は配管等からの水漏れ又は蒸気漏れなど,主なものだけで約270件に及び,そのうち深刻なものとしては,平成3年2月,美浜原発2号機において,蒸気発生器細管のギロチン破断により原子炉が自働停止して国内で初めてECCSが作動した事故があるほか,平成16年8月,美浜原発3号機において,破損した2次冷却材の配管から噴出した蒸気によって死者5名,重軽傷者6名を出した事故があり,更には近時のものとして,平成29年1月,高浜原発2号機において,強風に煽られた大型クレーン車が転倒し,原子炉補
助建屋の屋根等を損壊させる事故があったことが認められる。
1審被告がこれまでに上記のような多数の事故を起こし,とりわけ複数の死傷者を出すような痛ましい事故を起こしたことは誠に遺憾というほかなく,原子力発電所における事故は,事故の規模の大小を問わず,発電事業の関係者はもとより,近隣住民等に多大な危惧・不安を与えるのであるから,常にどのような小さな事故も起こさないという緊張感をもって発電所の業務に当たらなければならないことは多言を要しない。しかしながら,他方で,1審被告は,これまでに炉心の著しい損傷や放射性物質の異常な放出を招くような事故を起こしたことはなく,しかも,上記の各事故が発生した後には原因の究明や再発防止に努めていることがうかがえるのであって(甲502,510,511)
,これらによれば,1審被告が上記の
各事故を起こしたことをもって,1審被告について上記の技術的能力があることを認めた原子力規制委員会の判断が不当であるとはいえない。以上のとおり,本件発電所の安全確保対策に関する原子力規制委員会の判断に不合理な点はなく,その判断が依拠する新規制基準の内容も合理的なものであって,実際に1審被告が講じる安全確保対策の内容も考慮すれば,本件発電所が有する危険性に対して適切な対処がされ,その危険性は社会通念上無視しうる程度にまで管理・統制がされているといえるのであって,周辺住民等に対し,放射性物質の異常な放出を招くなどの人格権を侵害する具体的危険性はないというべきである(なお,本件使用済核燃料プールの安全性については,後記6の説示も併せ考慮する。。

ところで,本件訴訟の口頭弁論終結日の前後に,いわゆる神戸製鋼所グループによる検査データの改ざん問題が発生し,社会的にも耳目を集めたところ,そのことが本件発電所の安全性に影響を与えていないかという懸念が生ずるところではある。しかし,神戸製鋼所グループによる検査データの改ざんに係る不適切な部材が本件発電所に使用されていることを認めうる証拠は
なく,しかも,1審被告は,本件発電所の安全性を確認するため,その再稼動時期を遅らせて調査に当たるという慎重な対応をとっていることがうかがえるのであり(公知の事実)
,加えて,前記認定のとおり,保守管理計画の
下に設備の定期的な点検,検査,取替え等を行っていることも併せ考慮すると,上記の問題が本件発電所の安全性に影響を与えるとは認められない。6
使用済核燃料プールについて
証拠(甲68,70,乙113,171,173,174,235)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。

使用済核燃料は,長期間にわたって崩壊熱を出し続け,かなりの発熱量に及ぶため,冷却状態を維持しなければならないが,冠水さえしていれば崩壊熱が十分に除去され,放射性物質を閉じ込めている燃料被覆管が損傷することはないから,使用済核燃料からの放射性物質の放出を防ぐためには,その冠水状態を保つことができればよく,耐圧性能を有する原子炉格納容器のような堅固な施設によって閉じ込める必要はない。


本件発電所の使用済核燃料は,本件使用済核燃料プールの底部に設置された燃料ラック内に,垂直に立てた状態で収納されており,その長さは約4mであるが,プールの水位は約12mあり,使用済核燃料の上端から水面まで約8mの水位がある。本件使用済核燃料プールに接続されている全ての給排水配管は,使用済核燃料の上端よりも高い位置で接続されており,万が一これらの配管が破断しても,プールの水位が配管の接続位置より低下することはなく,冠水状態が維持される。


本件使用済核燃料プールに張られたプール水は,使用済核燃料から発生する崩壊熱を除去するため,冷却設備により継続的に冷却され,温度は約40℃に保たれている。その水位等は常時監視され,仮に冷却機能を喪失して水位が低下しても,プール水を補給する設備を備えている。
また,万が一,冷却機能及び注水機能が同時に機能を喪失した場合には,
各種タンク又は海水を水源としてプールに注水することができるように,送水車及び大容量ポンプと放水砲を,各号機につき前者は2台,後者は1台ずつ分散して配備しており,これらを用いた注水については,荒天,夜間,高放射線環境等の厳しい条件を想定した上での訓練を繰り返し行っている。冷却機能及び注水機能が喪失するという事象が起きた場合,1審被告の解析によれば,プール水が放射線の影響を遮蔽できない位置まで低下するのに約2.6日を要するが,送水車による注水を開始できるのは事象発生から5.2時間後とされており,十分な時間的余裕があることが確認された。

本件使用済核燃料プールが設置された位置は,構内道路に近接した場所にあるため,車両及び要員のアクセスがよく,燃料搬出入用の扉が設けられているため,外部からの注水にも支障はない。地震等によってアクセスルートの一部に段差が生じた場合であっても,ブルドーザを用いて整地する体制を整えていることは前記のとおりである。


本件使用済核燃料プールは,壁面及び底部を厚さ2~4mの鉄筋コンクリート造とし,内面にステンレス鋼板を内張りした強固な建造物であり,原子炉補助建屋の基礎直上の地盤面近くに設置され,基準地震動に対する耐震安全性を備えており,プールを覆っている原子炉補助建屋,プール水の冷却・補給設備,使用済核燃料ピットクレーン及び送水車についても,基準地震動に対する耐震安全性を備えている。また,これらの設備はT.P.+9.7m以上の敷地に設置されており,対津波安全性も備えている。なお,キャスクのような重量物が移動のためにプールの上を通過することはなく,その落下により使用済核燃料が損傷するおそれはない。


竜巻による本件使用済核燃料プール等への影響評価に当たり,
「原子力
発電所の竜巻影響評価ガイド」に基づき,基準竜巻の最大風速として92m/sを策定した。これは,本件発電所では最大風速50m/sを超える竜巻が
観測されたことはないものの,その地域性を重視せずに国内の既往最大の竜巻を勘案して保守的に設定したものであり,年超過確率は5.7×10-7

とされている。その上で,竜巻に伴う飛来物について,風速100m/s
の竜巻により,長さ4.2m,幅0.3m,奥行0.2m,重量約135kgの鋼製材が飛来することを想定し,これが建屋の壁を貫通してプール又は使用済核燃料に直接衝突することを仮定して,プール及び使用済核燃料への影響評価を実施した。その評価に際しては,実際には存在する建屋の壁をないものとして評価するとともに,鋼製材の飛来速度を飛来時の最大速度に設定し,飛来物が建屋の壁を貫通する際の減速も生じないものとして評価するなど,保守的な条件を設定した。
その結果,本件使用済核燃料プールに内張りされたステンレス鋼板は,飛来物の衝突により損傷する可能性があるものの,プールの躯体部分である鉄筋コンクリートは,十分な厚さを有しているため,これが破損してプール水が大量に漏えいする事態が生じることはなく,また,飛来物がプール内の使用済核燃料に直接衝突したとしても,燃料被覆管に生じる歪みは,鉛直方向で0.3%,水平方向で0.1%であり,破断歪みの評価基準値である1%を十分に下回っており,燃料被覆管の破損が生じることはないことを確認した。また,飛来物によって建屋の屋根の一部が損壊する可能性があるものの,屋根の全てはなくならず,プール水の吸い上げは生じないことを確認した。

原子力規制委員会は,本件使用済核燃料プールに関する上記の安全対策について,新規制基準に適合することを確認した。
上記認定に加え,これまでの説示を併せれば,本件使用済核燃料プールが
地震,津波,竜巻等の自然現象に対する安全性を有することは,保守的な条件を設定した上で,科学的見地から解析評価がされて確認されており,その解析評価に当たって用いられた数値や計算の過程に不自然,不合理な点はな
く,プールの冷却及び注水設備が万が一機能を喪失した場合についても,多様性及び独立性を考慮した対策が講じられていることからすれば,これらの安全対策が新規制基準に適合するとした原子力規制委員会の判断に不合理な点があるとは認められない。使用済核燃料が原子炉格納容器のような堅固な施設内に収容されていないこと,使用済核燃料を市松模様状に配置していないこと,重大事故等対策として主に可搬型設備の配備に依拠していること,プールの冷却設備の耐震重要度分類がBクラスであることなど,1審原告らの指摘を考慮しても,本件使用済核燃料プールが安全性を欠いて放射性物質の異常な放出を招く危険があるとはいえない。
なお,1審原告らは,使用済核燃料の最終的な処理システムが完結していないことを運転差止めの根拠の1つとして主張するが,それは,原子力発電所の稼動によって生成される使用済核燃料をどのように貯蔵・処理するかという問題であり,原子力発電所の稼動の是非とは分けて考えるべき問題であって,本件発電所自体の危険性とは直接の関連がない事情であるから,運転差止めを認める理由になると解することはできない。
以上の諸点を含め,本件使用済核燃料プールの安全性を論難する1審原告らの主張はいずれも採用できない。
7
まとめ
以上の次第であるから,本件発電所の安全性審査に当たって原子力規制委員会が用いた具体的な審査基準である新規制基準に違法や不合理の廉があるとは認められず,また,本件発電所が新規制基準に適合するとした原子力規制委員会の判断に不合理な点があるともいえないのであって,これらを非難する1審原告らの主張がいずれも採用できないことは,これまでに説示したとおりである。したがって,前記のとおり,本件発電所の危険性は社会通念上無視しうる程度にまで管理・統制されているといえるから,人格権に基づいて本件発電所の運転差止めを求める1審原告らの本件請求は理由がないというべきである。
第5

結論
よって,1審被告の控訴は理由があるから,同控訴に基づき,原判決中,1
審被告の敗訴部分を取り消し,同取消部分に係る1審原告(被控訴人)らの請求を棄却し,1審原告(控訴人)らの控訴は理由がないから,これを棄却することとして,主文のとおり判決する。

名古屋高等裁判所金沢支部第1部

裁判長裁判官

内藤正之
裁判官

鳥飼晃嗣
裁判官

能登謙太郎
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