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関税法違反、消費税法違反、地方税法違反
事件番号平成30(う)18
事件名関税法違反,消費税法違反,地方税法違反
裁判年月日平成30年6月19日
法廷名福岡高等裁判所
結果棄却
原審事件番号平成29(わ)512
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平成30年6月19日宣告福岡高等裁判所第2刑事部判決
平成30年(う)第18号

関税法違反,消費税法違反,地方税法違反

主文
本件各控訴を棄却する
理由
本件各控訴理由は,原判示第1に関する事実誤認並びに現金等の没収に関する法令適用の誤り,事実誤認及び量刑不当の主張である。
第1

原判示第1に関する事実誤認の主張について

各弁護人の論旨は,要するに,原判示第1につき,被告人4名には実行犯Eらとの共謀が認められないにもかかわらず,原判示第1の事実を認定した原判決には,判決に影響を及ぼすことの明らかな事実誤認がある,というのである。そこで,記録を調査して検討する。
1
原判示第1は,被告人4名が,E及びFこと氏名不詳者らと共謀の上,大韓
民国から金地金を輸入するに当たり,これに対する消費税及び地方消費税を免れようと考え,Eが,平成29年4月13日(現地時間),大韓民国(以下「韓国」という。)所在の仁川国際空港でティーウェイ航空291便に搭乗する際,金地金6個(以下「本件金地金」という。)を隠匿携行し,同日,到着した福岡空港内門司税関福岡空港税関支署入国旅具検査場において,入国に伴う税関検査を受けるに際し,同支署職員に対し,本件金地金を輸入する事実を秘し,その申告をしないまま同検査場を通過しようとし,もって税関長の許可を受けないで本件金地金を輸入(以下「本件密輸入」という。)するとともに,不正の行為により保税地域から引き取られる課税貨物である本件金地金(課税価格合計2753万0281円)に対する消費税173万4300円及び地方消費税46万7900円を免れようとしたが,同支署職員によって本件金地金を発見されたため,その目的を遂げなかった,とされる事案である。
原判決は,まず,Eの本件密輸入に至る経緯等から,本件密輸入には,本件金地金を韓国から日本に持ち込んで本件密輸入を実行する同人のほか,同人に対し,本件密輸入の具体的実行方法等につき指示を与えたり,その航空券を手配したり,本件金地金等を渡したりする者,更にはEから本件金地金を回収する者など,複数名が関与したことが推認でき,また,被告人4名から差し押さえたスマートフォン内のデータ及び本件密輸入の前日から当日にかけての被告人4名の行動から,被告人4名は本件密輸入に関係する者であり,本件密輸入について氏名不詳の共犯者らと意思を通じ合っており,本件密輸入を共通の目的として,本件密輸入の前日及び当日に行動を共にしていたことが推認できるとした。その上で,原判決は,以上を総合すれば,被告人4名が,本件密輸入につき,E及びその他の共犯者らと意思を通じ合い,また,被告人4名相互間でも意思を通じ合った上で,本件密輸入につき,実行犯であるEを出迎え,これを監視・誘導するなどした上,本件金地金を回収するという役割等を担っていたと認められるとして,原判示第1の事実を認定した。かかる原判決の判断に,論理則,経験則等に照らして不合理な点はなく,当裁判所も正当として是認することができる。以下,所論に鑑み説明する。2
まず,関係証拠によれば,Eの本件密輸入に至る経緯等(原審甲58)から,
本件密輸入には,本件金地金を韓国から日本に持ち込んで本件密輸入を実行するEのほか,同人に対して本件密輸入の具体的実行方法等につき指示を与えたり,その航空券を手配したり,本件金地金等を渡したりする者,Eから本件金地金を回収する者など,複数名が関与していたと認められるほか,概ね原判決が説示するとおり,以下の事実が認められる。
被告人Bと本件密輸入との結び付きを示す画像データの存在
被告人Bから差し押さえたスマートフォン内には,以下の各画像データが保存されており(原審甲122),これらは,いずれも本件密輸入の前日に当たる日本時間の平成29年4月12日(以下,年号を付さないものは「平成29年」を示す。)から本件密輸入当日にかけて,被告人Bのスマートフォンに他者から送信されたものである。

「<4月13日

木曜日>」との表題で,1から30までの通し番号順に3

0名の氏名及びその性別が記載され,各人の「連絡先」欄には8桁の数字が,「出発時間」欄には航空機の便の略称と出発時刻を意味すると思しき「KE787(08:00)」等が,更に前記氏名等が記載された欄の上部に「KE787(1陣6名

08:00)」等と記載された韓国語表記の一覧表(以下「本件一覧表」と
いう。)の画像データが保存されている。
なお,本件一覧表の番号20の欄には「E(男)」と記載され,「連絡先」として「3291

4731」,「出発時間」として「TW291(10:05)」と
記載されているところ,これはEの携帯電話番号及び同人が本件当日搭乗したティーウェイ291便と一致している。

冒頭に「…福岡空港の外にいる…場所で指定された回収者にだけ物件を渡す
ことを約束します。万一,指定された回収者でない人に物件を渡したときはそこに発生するすべての被害に対する民・刑事上の責任を負います。本人は上記内容を正確に熟知したのなら下にこれを確認するサインをいたします。日付:2017年4月13日」と記載され,その下に1から30までの通し番号順に「氏名」「数量」「物件サイン」「円貨サイン」の各欄が設けられ,「氏名」欄に本件一覧表と同じ番号順に同一の氏名が記載されており,このうち番号5,19及び26以外の27名について,その対応する「数量」「物件サイン」及び「円貨サイン」の各欄に手書きの記載がされた韓国語表記の一覧表(以下「本件誓約書」という。)の画像データが保存されている。
なお,本件誓約書の番号20の「氏名」欄には「E」と記載され,「数量」欄には手書きで「6」と記載されているところ,これはEが密輸入した本件金地金が6個であること(原審甲49,51)と一致し,また,本件誓約書の番号12,13,15,21,23及び24の「氏名」欄及び「数量」欄の各記載は,本件密輸入当日,税関検査で金地金を発見されたE以外の6名の韓国人の氏名及び所持に係る金地金の個数と一致している(原審甲63)。

本件誓約書の番号5,19及び26を除く27名を1ないし2名ごとにその
容姿を撮影し,その画像上に氏名,本件一覧表の番号に対応する「出発時間」欄の記載及び本件誓約書の番号に対応する「数量」欄の記載が印字された写真画像が保存されている。
なお,その中には,Eの容姿を撮影した写真に「TW291」「10時5分」「E6」と印字されたもの(以下「本件写真」という。)がある。被告人D及び被告人Aと本件密輸入との結び付きを示す画像データの存在被告人Dから差し押さえたスマートフォン内に,本件一覧表及び本件写真の各画像データ並びに本件誓約書類似の韓国語表記の一覧表(「氏名」欄と「数量」欄の間に「会社」欄が設けられ,「KE787(08:00)」等の記載があること及び日付や手書きの記載がないこと以外は,本件誓約書と概ね同内容である。)の画像データが保存されており(原審甲126),被告人Aから差し押さえたスマートフォン内にも,本件一覧表の画像データが保存されていた(原審甲120)。これらの各画像データは,いずれも日本時間の本件密輸入当日に,被告人D及び被告人Aのスマートフォンに他者から送信されたものである(原審甲136)。被告人Cと本件密輸入との結び付きを示すメッセージ等の存在
被告人Cは,被告人Bに対し,本件密輸入当日の午前11時17分頃,スマートフォンで「今,4次のティウェイ航空着陸したんだけど」などのメッセージを送信し,これに対し,被告人Bは,「引率者向かわせて」などと返信した(原審甲67)。
被告人Cは,本件密輸入当日の午後零時40分頃,Gこと氏名不詳者に対し,自己のスマートフォンのアプリケーションソフトを用いて,「今日の入管,税関の状況は最悪です」「現時点,7チーム捕まって」とのメッセージを送信した(原審甲95)。
本件密輸入の前日から当日にかけての被告人4名の行動
被告人4名は,本件密輸入の前日に同一の航空便で来日(関西空港)し(原審甲78),同日夜,福岡市博多区内のホテルに共に入ってチェックインし,本件当日朝に共に同ホテルを出て,同じタクシーに乗って移動した。なお,本件密輸入当日に先立ち,被告人4名のために,本件密輸入当日の夕方に福岡空港を出発予定の同一の航空便の航空券が同時に予約されており(原審甲61),被告人Bが,本件密輸入当日の午後零時12分頃,この予約内容を明らかにする画像データを被告人Cのスマートフォンに送信した(原審甲67)。
3
所論の検討
各弁護人の所論は,原判決の認定する金地金密輸入グループのメンバーは多
数にのぼり,毎回同じメンバーで密輸入をしていたわけではなく,本件密輸入につき役割が割り当てられていなかったメンバーにも区別なく本件一覧表等の本件密輸入に関するデータが共有されていた可能性があるから,被告人A,被告人B及び被告人Dのスマートフォンに何者かから本件一覧表等の本件密輸入に関するデータが送信,保存されていたとしても,本件密輸入に関して被告人A,被告人B及び被告人Dに具体的な役割が割り振られていたことを示すものではなく,共謀を認定することはできない,という。
しかし,被告人Bと被告人Cについては,本件密輸入当日に,金地金を密輸入する実行犯を乗せた航空機が到着したことや,実行犯の出迎え等をする引率者を向かわせることを内容とするメッセージのやり取りをしていることからして,同被告人らがEを含む金地金を密輸入する実行犯を出迎え,監視・誘導する役割を担っていたと認められる。そして,被告人Aと被告人Dは,被告人Bと被告人Cと共に本件密輸入の前日に同一の航空便で韓国から来日し,福岡まで移動して同じホテルに宿泊し,本件密輸入当日も同じタクシーで外出し,同一の航空便で出国する予定であったというのであり,このことからは被告人4名が共通の目的を持って行動を共にしていたと考えられること,しかも,本件密輸入の前日に日本に入国して福岡まで来た被告人Aと被告人Dのスマートフォンに,わざわざ本件密輸入当日に本件密輸入に関する画像データが送信されていることからは,同被告人らも被告人Bや被告人Cと同じく本件密輸入に関して一定の役割を担っていたと考えられることを考慮すれば,被告人Aと被告人Dも,特段の事情のない限り,被告人Bらと同様に,金地金を密輸入する実行犯を出迎え,監視・誘導する役割ないしこれと関連する役割を担っていたと推認でき,かかる推認を妨げるような事情はない。被告人Cの弁護人は,原判決は,被告人Cが被告人Bに対し,金地金を密輸入する実行犯を乗せた航空機が福岡空港に到着したことを知らせ,これに対し,被告人Bが被告人Cに対して実行犯を引率する者を向かわせるよう指示したものと推認できる旨説示するが,被告人Cが,本件密輸入の際に,被告人Cのスマートフォンを使用していたことは証明されていない,原判決の説示するSNSのやり取りの内容そのものからは被告人Cが回収役等の役割を果たしていたとまでは断定できず,被告人Cについて,本件密輸入の共謀や共同正犯性を認めることはできない,と主張する。
しかし,被告人CがEを含む金地金を密輸入する実行犯を出迎え,監視・誘導する役割を担っていたと認められることは既に説示したとおりであるし,被告人Cのスマートフォンは,原判示第2の犯行が発覚した際に被告人Cから差し押さえられた被告人C所有のものであって(原審甲26),本件密輸入の際に被告人C以外の者がこれを使用していたことを窺わせる事情もないことに照らせば,被告人Cが,本件密輸入の際に,被告人Cのスマートフォンを使用していたと考えるのが合理的である。
被告人Dの弁護人は,原判決は,本件密輸入の前日から当日にかけての被告人4名の行動から,被告人4名は,本件密輸入を共通の目的として,行動を共にしていたとするが,本件密輸入当日にホテルからタクシーに乗車した後も被告人4名が行動を共にしていたかどうかは定かではなく,別々に行動していた可能性は排斥できていないし,被告人Dは,本件密輸入当日,SNS上でのやり取りを行っていないから,そもそも本件密輸入に関与していたかは疑わしい,と主張する。しかし,既に説示したとおり,被告人Dが,他の3名の被告人と共に本件密輸入の前日に同一の航空便で韓国から来日して福岡まで移動するなどし,しかも事前に他の被告人3名と共に本件密輸入当日に福岡空港を出発する同一の航空便の航空券が予約されていた上,本件密輸入当日に被告人Dのスマートフォンに前記画像データが送信されていることからすれば,被告人Dも他の被告人3名と同様,Eを含む金地金を密輸入する実行犯を出迎え,監視・誘導する役割ないしこれと関連する役割を担っていたと認められるのであって,所論は採用できない。
その他,各弁護人はるる主張するが,これらを検討しても,原判示第1の事実を認定した原判決に事実の誤認はない。
論旨は理由がない。
第2

現金等の没収に関する法令適用の誤り,事実誤認及び量刑不当の主張につい
て1
犯罪組成物件該当性について

各弁護人の論旨は,要するに,原判決は,関税法111条1項1号の規定を形式的に適用して,原判示第2の現金合計約7億円(以下「本件現金」という。)が,原判示第2の本件現金の密輸出(以下「本件密輸出」という。)の犯罪行為を組成する物件である旨説示するが,刑法19条1項1号該当性の判断は,処罰法規が処罰の対象としている行為を実質的に検討してなされるべきであるところ,没収の対象とされた本件現金はそれ自体禁制品に当たらず,その輸出行為自体が犯罪を構成しないから,関税法111条1項1号は実質的には輸出入しようとする貨物について許可を受けなかった義務違反(不作為犯)を処罰対象としているというべきであり,本件現金は犯罪組成物件には当たらないにもかかわらず,これを肯定した原判決の判断には法令適用の誤りがあり,これが判決に影響を及ぼすことは明らかである,というのである。なお,被告人Aの弁護人の論旨は,本件金地金についても同様の主張をする。
しかしながら,関税法111条1項1号が,「貨物を輸出し,又は輸入しようとする者は,…必要な事項を税関長に申告し,貨物につき必要な検査を経て,その許可を受けなければならない。」と規定する同法67条に違反したことを処罰対象とせず,敢えて「第67条…の許可を受けるべき貨物について当該許可を受けないで当該貨物を輸出…し,又は輸入」する行為を処罰対象として規定していることに加え,同法111条3項及び4項において,未遂犯及び予備行為も処罰対象として規定していることからは,同条1項1号は,単に税関長への申告をせず,その許可を得なかったという義務違反を処罰対象とするものではなく,税関長への申告をせず,その許可を得ないで貨物を輸出入する行為を処罰対象としていると解するのが相当である。したがって,本件現金ないし本件金地金が刑法19条1項1号に該当するとした原判決の判断に法令適用の誤りはない。
2
「犯人以外の者に属しない物」の要件該当性について

各弁護人の論旨は,要するに,本件現金が「犯人以外の者に属しない物」とはいえないにもかかわらず,これを肯定した原判決には,判決に影響を及ぼすことの明らかな事実誤認がある,というのである。なお,被告人Aの弁護人は,本件金地金についても同様の主張をする。
そこで,記録を調査して検討する。
原判決は,関係証拠から,被告人らが意思を通じていた氏名不詳者らは,相当期間にわたって,組織的に金地金の密輸入及び現金の密輸出を大規模かつ多数回にわたって繰り返していたと推認できるところ,そのような循環を繰り返していたという状況自体,その密輸に係る金地金及び現金が被告人ら又は共犯者らに属し処分可能なものであること,ないし,情を知った者から被告人ら又は共犯者らに託されたものであることを推認させ,そのことはかかる循環の一環と推認される本件現金及び本件金地金についても妥当するとして,これらがいずれも「犯人以外の者に属しない物」と認められると認定した。かかる原判決の認定に,論理則,経験則等に照らして不合理な点はなく,当裁判所も正当として是認することができる。以下,所論に鑑み説明する。
まず,関係証拠によれば,原判決が説示するとおり,以下の事実が認められる。

4月13日の金地金の密輸入の状況

被告人4名は,原判示第1のとおり,E及び氏名不詳者らと共謀して本件密輸入に及んでいるところ,本件密輸入当日には,Eを含む27名を実行犯とした金地金の密輸入が計画・実行され,税関で摘発されたEほか6名以外の者については,金地金合計122個の密輸入を遂げた(以下「本件密輸入等」という。)。イ
本件密輸入等後の状況
被告人B及び被告人Dは,4月13日午後4時40分頃,福岡空港から,前
記のとおり事前に予約されていた同一の航空便で香港国際空港に向けて出発した(原審甲61,78)。その際,両被告人とも,100万円を超える現金の輸出につき特段申告をしていないが(原審甲133),被告人Bのスマートフォンには,同日午後8時21分頃(香港時間),香港国際空港付近で,現金約5億3100万円を置いた状態で撮影した写真が保存されていた(原審甲115)。さらに,被告人Bのスマートフォンには,①4月13日午後9時58分頃(日本時間),男が合計約5億3100万円の一万円札の束を数えながら,キャリーバッグに詰め込む様子を撮影した動画(原審甲117),②同日午後10時6分頃(前同)に撮影された,「Mic
000円受け取り

13/04/17

日本円で531,000,

2017年4月17日の月曜日に,116キログラムを渡す

Michael」などと記載されたメモ(在香港のホテル名が印字)の写真(原審甲116)が保存されていた。
また,被告人Cは,4月18日,自己のスマートフォンのアプリケーションソフトを用いて,Gこと氏名不詳者らに対し,「香港に到着して。金を直接購入しに注意しながら移動」「とりあえず,日本円を持ってきたら,香港ドルに換金して,金の購買可能」「今,香港本島で174,000,000円両替中」「両替所で円を両替して,金の会社に入金すれば,その後,金の会社に行って,金を受け取ればいい」などのメッセージを送信し,また,Gこと氏名不詳者からの「円から香港ドルに両替して,金塊をマイケルから購入する?それとも,他のところで購入する?」とのメッセージに対し,「マイケルの方で両替をして,金を買ってもらうというシステム」と返信している(原審甲102)。
所論の検討

まず,各弁護人は,①被告人らが原判示第2で所持していた本件現金の大部
分はその出所さえ明らかになっておらず,原判決のいう「循環」による現金であると認定するには証拠が不足している,②被告人らは,数千万円から数億円の価値を有する高級車両の売買を委託され,その関係で依頼者から多額の現金を預かることも多く,本件現金の中には高級車両の買い受けのための預り金が含まれていた可能性を否定できない,③原判決のいう組織が現金の密輸出等の事情を秘し,投資目的と称して第三者から資金を調達していた可能性があり,そのような現金が本件現金の中に含まれていた可能性も否定できない,と主張する。
①については,確かに,本件現金の全ての詳細な出所や,これを被告人らが所持するに至った詳細な経過を直接認定できる証拠はない。しかし,前記
認定事実

によれば,原判決が説示するように,被告人4名及びその共犯者らは,4月13日,大量の金地金を日本に密輸入した直後,多額の現金を香港に密輸出し,同現金を元手に香港で金地金を買い付けようとしている。これに加えて,㋐被告人Cのスマートフォンのアプリケーションソフトで,1月25日,Hこと氏名不詳者が,「今日はお金の回収があると必ず伝えてください」「GB(金塊)回収後円回収だけよろしくお願いします」というメッセージを「(引率者)」と付記された氏名不詳者に送ったり(原審甲82),4月1日,被告人Cが,「日本から香港に現金を持って出国するとき,入管で現金に対する出所を聞かれることがあります。現金に対する出所を話せる程度には,準備してください」との内容の添付ファイルをGこと氏名不詳者らに送る(原審甲91)などしていること,㋑被告人らのスマートフォンには,異なる日付が記載された本件一覧表類似の一覧表等が多数保存されている上,複数日にわたり,氏名不詳者らがアプリケーションソフトを通じて,客の搭乗,到着,入管通過状況,客からの「回収」状況等を報告し合う多数のやりとりがなされていること(原審甲79ないし96,120,122,124ないし127)も併せ考慮すれば,被告人ら組織の関係者が,多数回にわたって金地金の密輸入を行ってこれを日本で売却し,その現金を密輸出してこれを元手に海外で金地金を買い付けるということを繰り返すことで,金地金を密輸入する際に支払を免れた消費税等相当額の不当利得を重ねていたと強く推認することができる。しかも,原判決が説示するとおり,被告人ら組織の関係者が,本件密輸出当日に,「1次総36個持ってラウンジで待機中」「2次5名29個回収完了」などと金地金を回収したとみられるやりとり(原審甲109)をした後に本件密輸出に及んでいること,被告人A及び被告人Bが本件密輸出の際に所持していた現金には,4月19日に西日本シティ銀行本店営業部が作成・封印した一千万円束全9個のうちの5個が含まれており,これらは同日から翌20日にかけて現金を引き出した株式会社ネットジャパン福岡支店従業員にすべて交付され,そのうちの5個が同日に金地金20キログラムの売却代金として男性に交付されたものであること(原審甲20,25,45,46)も併せ考慮すると,前記推認を一層強めるといえる。②については,被告人Cのスマートフォンのアプリケーションソフトには,「日本から香港に現金を持って出国するとき,入管で現金に対する出所を聞かれることがあります。現金に対する出所を話せる程度には,準備してください(例:香港にラフェラーリを買いに行く)」「インターネットで検索して,車両も高いものを多様に準備してください。ポルシェ918

ランボルギーニ」などのメッセージが保存されている(原審甲91)。
かかるメッセージの内容は,高級車両購入資金を委託されたとの例をも示した上で,輸出しようとする現金の用途及び出所について虚偽の説明を準備するよう指示するものであることが明らかであって,この点を踏まえると,本件現金の中に,前記虚偽説明の例示となる高級車両の買い受けのための預り金が含まれていたとは信じ難い。③については,仮に各弁護人が主張するような情を知らない出資者が存在したとしても,そのような出資者が投資した現金の所有権は,出資者が投資した時点で投資を受けた組織に属すると解され,あとは出資者と組織との間で投資とその見返りに関する債権債務関係が残るのみであって,本件現金が「犯人以外の者に属しない物」に該当するとの結論に影響するものではない。

また,各弁護人は,そもそも現金の輸出は,その額にかかわらず関税が課せ
られることはなく,申告義務さえ果たせば必要な検査を経て許可されるのが通常の取扱いであるから,本件密輸出の際,被告人らが本件現金の輸出を税関長に申告するという選択肢も十分に考えられたはずであり,本件現金の所有者も,現金の輸出については申告・許可を経て適法に輸出されたものと信じていたと考えるのが自然であって,本件現金の所有者全てが本件現金の密輸出の故意を有していたとはいえない,と主張する。
しかし,原判示第2の犯行では,被告人4名は,現実に本件現金を申告することなく無許可で密輸出しようとして

アの事実からは,4月13日に被

告人Bが現金5億円余りを無申告で密輸出したと考えられること,被告人Cのスマートフォンのアプリケーションソフトに「入管が強気に出るときは,現金は申告して行くと言って,申告が可能であれば,申告をして通過してください。ダメな場合は,証拠書類を持ってくると言って,出直してください。」とのメッセージが保存されていること(原審甲91)も踏まえれば,被告人ら組織の関係者においては,税関長に申告せずに現金を無許可で密輸出することが前提となっていたと認められる。そして,前記のように本件現金が金地金の密輸入と現金の密輸出を循環するスキームの一部を構成するものと認められることからすると,本件現金及び本件金地金は被告人ら組織の関係者が所有するものと認められるのであって,被告人ら組織の関係者に本件密輸出の故意があることは明らかである。なお,被告人Aの弁護人は,預託者は,自己が所有する金地金を売却することのみを依頼した場合,その依頼を受けた者が利益を得る手段として,本邦に輸入する方法を選択したことも想定されるなどと主張するが,本件の実態からはそのような想定はできず,採用できない。

その他,各弁護人らはるる主張するが,これらを検討しても,本件現金及び
本件金地金が「犯人以外の者に属しない物」と認められるとした原判決に事実の誤認はない。
3
本件現金等の没収の相当性について

各弁護人の論旨は,要するに,本件現金の全部について没収する相当性が認められるとして,本件現金の全部を没収した原判決には,事実誤認若しくは量刑不当がある,というのである。なお,被告人Aの弁護人は,本件金地金についても同様の主張をする。
そこで,記録を調査して検討すると,原判決は,①被告人らから本件現金を没収することは,関税法上の必要的没収規定の改正の趣旨に照らして許されない,②刑法19条の趣旨や罪刑の均衡及び責任主義の要請から,本件現金の没収を行えば実質的に関税法が定める罰金額の上限を上回る刑罰を科すことになり許されないとの原審各弁護人の主張につき,①については,同改正によっても,必要的没収の対象外とされた貨物について刑法19条の適用を排除する規定は設けられておらず,刑法19条による任意的没収は妨げられない,②については,刑法19条1項1号が犯罪組成物件を没収の対象としたのは,同物件を没収することなく犯人に戻した場合,再度それを基に犯罪に及ぶことを防止する趣旨も含むと解され,本件密輸出は,組織による金地金の密輸入,換金,現金の密輸出,金地金の購入という循環の一部を構成し,本件現金を没収しなければ同組織によって同種犯罪が敢行される可能性が高く,没収の必要性が高度に認められ,本件密輸出の規模の大きさ及び計画性の高さに基づく事案の重大性・悪質性に鑑みれば,これを没収することが犯罪行為との均衡を欠くとはいえず,更に一般予防の観点からも本件現金を没収するべきであるとして,本件現金の全部を没収することが相当性を欠くとはいえないと判断した。かかる原判決の判断に裁量の逸脱はなく,当裁判所も正当として是認することができる。
各弁護人は,①現金は,その性質上,これを所持すること自体が犯罪に直結するものではないから,刑法19条1項1号が本来想定している犯罪組成物件には当たらないことを原判決は看過している(なお,被告人Aの弁護人は,金地金も性質としては現金に近いものがあり,同様にいえると主張する。),②原判決は,本件密輸出が循環型の犯行の一部であるとして,本件現金全部の没収の必要性を肯定するが,これは実質的に起訴されていない余罪を処罰するに等しく許されない,③現金は,税関長に必要な申告を行い,許可を受ければ問題なく輸出できるから,本件密輸出は循環型の犯行において不可欠の要素ではないのであって,一般予防効果は期待できない,と主張する。
しかし,①については,既に説示したとおり,本件密輸出は,組織による金地金の密輸入,換金,現金の密輸出,金地金の購入という循環の一部を構成するものであって,本件現金も金地金の購入資金として費消されることが予定されていたといえ,単純に現金の一般的性質を論ずることに意味はない。同様に,本件金地金も換金され,現金の密輸出につながることが予定されていたものである。②については,原判決が説示するとおり,刑法19条1項1号には,犯罪組成物件を没収することなく犯人に戻した場合,再度それを基に犯罪に及ぶことを防止する趣旨も含むと解されるところ,この点を判断する上で,本件密輸出が前記の循環の一部を構成することを考慮することは当然に許されるというべきであって,本件現金の全部を没収することが実質的に起訴されていない余罪を処罰するに等しいなどとはいえない。③については,既に説示したとおり,被告人らの組織では,金地金の密輸入及び現金の密輸出の循環において,税関長に申告せずに無許可で現金を密輸出することを前提としていたのであるから,本件現金の全部を没収することによって,本件と同様の犯行を抑止する一般予防効果が期待できるというべきである。その他,各弁護人はるる主張するが,これらを検討しても,本件現金及び本件金地金の全部を没収することが相当性を欠くとはいえないとして,本件現金及び本件金地金の全部を没収した原判決の判断に事実誤認や裁量の逸脱はない。論旨は理由がない。
第3

結論

よって,刑訴法396条により本件各控訴を棄却することとし,主文のとおり判決する。
平成30年6月19日
福岡高等裁判所第2刑事部
裁判長裁判官

岡田


裁判官

佐藤

哲郎

裁判官

髙橋

明宏
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