判例検索β > 平成29年(ワ)第14142号
損害賠償等請求事件 特許権 民事訴訟
事件番号平成29(ワ)14142
事件名損害賠償等請求事件
裁判年月日平成30年6月28日
法廷名東京地方裁判所
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平成30年6月28日判決言渡

同日原本領収

平成29年(ワ)第14142号
口頭弁論終結日

裁判所書記官

損害賠償等請求事件

平成30年3月26日
判決原告
株式会社JUICEDESIGN

同訴訟代理人弁護士

上田洋介下欣文若被口森山浩松牧告
AppleJapan合同会社

同代表者代表社員

アップルサウスアジアピーテ
ィーイーリミテッド

同訴訟代理人弁護士

北原潤一米山朋宏原将吾村佳正

同訴訟代理人弁理士

中主文1
原告の請求をいずれも棄却する。

2
訴訟費用は原告の負担とする。

第1

志実及び理由
請求
被告は,原告に対し,1億2960万円及びこれに対する平成29年5月2日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。第2

事案の概要
本件は,発明の名称を「入力制御方法,コンピュータ,および,プログラム」
とする特許権を有する原告が,被告によるスマートフォン製品の輸入・販売が原告の上記特許権を侵害すると主張して,被告に対し,民法709条,特許法102条3項に基づく損害賠償金498億4168万3808円の一部である5400万円,特許法65条1項に基づく補償金63億7162万3600円の一部である5400万円,及び弁護士費用相当額2160万円の合計1億2960万円及びこれに対する平成29年5月2日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで
民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。1
前提事実(証拠等を掲げた事実以外は,当事者間に争いがない。)原告の特許権
原告は,次の特許権(以下,「本件特許権」といい,この特許を「本件特許」といい,本件特許の願書に添付した明細書を「本件明細書」という。)
を有している。

特許第5935081号


発明の名称

入力制御方法,コンピュータ,および,プログラム


出願日

平成25年4月18日


優先日

平成24年4月18日


優先権主張国


特許番号

登録日

日本
平成28年5月20日

特許請求の範囲の記載
本件特許の願書に添付した特許請求の範囲の請求項3の記載は,本判決添付の本件特許に係る特許公報の該当項記載のとおりである(以下,同請求項に係る発明を「本件発明」という。)。
本件発明の構成要件本件発明を構成要件に分説すると,次のとおりである(以下,分説した構成要件をそれぞれの符号に従い「構成要件A」のようにいう。)。A
表示画面にスライドせずに接触したオブジェクトの力入力を,直接的または間接的に検出する力入力検出手段と,

B
前記オブジェクトが前記表示画面に接触した位置を検出する位置入力手段と,

C
前記位置入力手段にて検出された位置の表示対象を前記位置に保持しつつ,

D
前記力入力検出手段により検出された前記力入力に応じて,当該表示対象以外の表示態様を変更することにより,

E
当該表示対象を相対的に変更させ,

F
当該変更結果を当該表示対象に対する入力として記憶部に記憶させる変更手段と,

G
を備えたことを特徴とする情報処理装置。

被告の行為

被告は,業として,別紙被告製品目録記載の各製品(以下,「被告製品1」などといい,併せて「被告各製品」という。)を輸入し,日本国内において販売している。
被告各製品の構成等
被告各製品の構成等について,原告は,別紙被告製品説明書(原告主張)
のとおりと主張するのに対し,被告は,別紙被告認否書のとおり認否する。⑹

本件特許の優先日前の公知文献
本件特許の優先日(平成24年4月18日)前の公知文献として,平成19年8月23日に公開された特開2007-212975(乙8。以下「乙
8文献」という。),平成21年5月7日に公開された特開2009-98086(乙9。以下「乙9文献」という。),及び平成14年1月23日に公開された特開2002-22472(乙10。以下「乙10文献」という。)がある。
2
争点
被告各製品は本件発明の技術的範囲に属するか(争点1)
なお,構成要件Gの充足性については当事者間に争いがない。

アイ
被告各製品は構成要件Bを充足するか(争点1-2)


被告各製品は構成要件Cを充足するか(争点1-3)


被告各製品は構成要件Dを充足するか(争点1-4)


被告各製品は構成要件Eを充足するか(争点1-5)


被告各製品は構成要件Aを充足するか(争点1-1)

被告各製品は構成要件Fを充足するか(争点1-6)
本件特許には無効理由が存するか(争点2)

アイ
乙8文献に基づく新規性欠如(争点2-2)


乙9文献に基づく新規性欠如(争点2-3)


拡大先願違反(争点2-1)

乙10文献に基づく新規性欠如(争点2-4)
原告の損害額及び補償金額(争点3)

3
争点に関する当事者の主張
被告各製品は構成要件Aを充足するか(争点1-1)について

〔原告の主張〕
被告各製品のディスプレイ部(タッチパネル)は,構成要件Aの「表示画面」に該当する。
また,被告各製品は,そのディスプレイ部のバックライトに圧力を感知する容量性センサーが組み込まれており,指やスタイラスペン(タッチペン)
で押圧(プレス)することによる操作(以下「プレス操作」という。)が可能である。被告はプレス操作を感知する機能を「3DTouch」と呼び,同機能により「PeekandPop(ピーク・アンド・ポップ)」のジェスチャーが可能であると宣伝広告しており,また,ユーザーガイドにおいてそのように説明している。このように,指又はスタイラスペンが構成要件Aの「オブジェクト」に,ディスプレイ部に対するプレス操作が「表示画面にスライドせずに接触したオブジェクトの力入力」に,それぞれ該当する。
さらに,「力入力を,直接的または間接的に検出」とは,本件明細書を参酌すれば,力判定部が,タッチパネルの表示手段への接触による所定の力を,タッチパネルの位置入力手段(例えば,可動のタッチパネルをスライドさせること(段落【0041】)を介して間接的に,または,任意の検出手
段(例えば,検出装置)によって直接的に,判定する手段である(段落【0041】【0048】)。被告各製品は,ディスプレイ部に対するプレス操作がなされると,ディスプレイに組み込まれた容量センサーが,カバーガラスとバックライトの間の微細な距離の変化を測定することによって,プレス操作の判定を行っているから,「オブジェクトの力入力を…直接的に検出す
る」に該当する。
したがって,被告各製品は,構成要件Aを充足する。
〔被告の主張〕
原告は,構成要件Aのうち「力入力を,直接的または間接的に検出」との文言が意味するところを明らかにしていない(原告のこの点に係る主張は理
解できない。)。したがって,被告各製品が同文言に対応する構成を有しているかは明らかでなく,被告各製品は構成要件Aを充足しない。
被告各製品は構成要件Bを充足するか(争点1-2)について
〔原告の主張〕
本件明細書の「位置入力手段は,表示手段とともにタッチパネル等として
構成されてもよい」(段落【0022】),及び「タッチパネル114は,表示手段と,当該表示手段に対する位置を入力するための位置入力手段とを備える。より具体的には,タッチパネル114は,液晶パネル等の表示装置と,タッチパッド等の位置入力装置を組み合わせた入出力手段である」(段落【0036】)の記載から明らかなとおり,タッチパネルは「表示画面」であり,かつ,「位置入力手段」であり得る。そして,被告各製品のディスプレイ部もまた,タッチ位置センサーを備えたタッチパネル機能付きのディスプレイである。
このことは,被告公式HP(甲7)の「iOSデバイスのアクセシビリティ機能であるタッチ調整を使って,デバイスのタッチパネルの反応を変更できます」及び「画面上に指を一定期間(保持継続時間)ずっと置き続けたとき
にだけ,タッチパネルが反応するようにデバイスを設定できます」の記載に示されているとおりである。
したがって,被告各製品のディスプレイ部が「前記オブジェクトが前記表示画面に接触した位置を検出する位置入力手段」に相当することは明らかであり,被告各製品は,構成要件Bを充足する。

〔被告の主張〕
文理上,構成要件Bの「表示画面」と「位置入力手段」とが別の機構であることは明白である。したがって,被告各製品のディスプレイ部が「表示画面」に該当し,かつ,「位置入力手段」にも該当するとの原告の主張は失当であり,被告各製品は構成要件Bを充足しない。

被告各製品は構成要件Cを充足するか(争点1-3)について
〔原告の主張〕
被告各製品のうち,①iOSホーム画面におけるアイコン操作に関しては,指がアイコンに接触すると,アイコンの色が灰色に変化し,さらにプレスすると,プレスされたアイコンの周囲に半透明の枠を伴うようになり,当該枠
はプレスされた力に応じて大きさが変化するが,プレスで大きさが変化するのはアイコンの周囲の半透明の枠であって,アイコン自体は変化しない。②メールアプリケーションにおけるリンク表示操作に関しては,接触されたメールの色が灰色に変化し,さらにプレスするとメール自体が拡大される。③メッセージアプリケーションにおけるリンク表示操作に関しては,接触されたメッセージの色が灰色に変化し,さらにプレスするとメッセージ自体が拡大される。④Safariアプリケーションでのリンク表示操作に関しては,接触されたリンクの色が灰色に変化し,さらにプレスするとリンク自体が拡大される。
そして,構成要件Cは「前記位置入力にて検出された位置の表示対象を前記位置に保持し」であり,表示態様に関する文言は何ら含まれていない。な
お,被告が指摘する本件明細書の各記載のいずれも,構成要件Cとの関係では,表示対象を「前記位置に保持」することに関するものではあっても,「表示態様を保持すること」に関するものではない。
したがって,被告各製品において,プレスされた表示対象の表示態様が変更されることを前提としても,表示対象の位置が保持されている以上,被告
各製品が構成要件Cを充足することは明らかである。
〔被告の主張〕
本件明細書の段落【0024】,【0025】,【0042】ないし【0044】,【0057】,【0059】ないし【0062】の記載によれば,構成要件Cは,「オブジェクトが表示画面に接触した位置を検出する位置入
力手段により検出された位置の表示要素について,移動,拡大,縮小,回転等の表示態様の変更を加えることなく,オブジェクトが表示画面に接触する前の表示態様を保持すること」を意味すると解すべきである。
そして,被告各製品においては,アイコン等をプレスすると,プレスされたアイコン等は,プレスされた力に応じて表示態様が変更されることから,
オブジェクトが表示画面に接触した位置を検出する位置入力手段により検出された位置の表示要素について,表示態様の変更を加えているといえる。したがって,被告各製品は,構成要件Cを充足しない。原告は,「前記位置入力手段にて検出された位置の表示対象が拡大すること」は,「前記位置に保持」に含まれるとするようであるが,「前記位置入力手段にて検出された位置の表示対象が拡大」する場合には,当該表示対象が表示画面上に占める位置が変化することとなるから(当該表示対象が表示画面上に占める割合が増大することとなるから),前記位置入力手段にて検出された位置の表示対象を「前記位置に保持」しているとはいえない。なお,iOSホーム画面におけるアイコンについて,プレスしたアイコンの周囲の半透明の枠は,プレスした力に応じて同心円状に拡大しており,プレ
スしたアイコンとその周囲の半透明の枠が一体のものであることは明らかである。したがって,プレスにより,プレスしたアイコン及びこれと一体をなす半透明の枠が表示画面上に占める位置が変化することとなるから(プレスしたアイコン及びこれと一体をなす半透明の枠が表示画面上に占める割合が増大することとなるから),上記アイコンについても,前記位置入力手段に
て検出された位置の表示対象を「前記位置に保持」しているとはいえない。被告各製品は構成要件Dを充足するか(争点1-4)について
〔原告の主張〕
被告各製品のディスプレイ部に表示されるアイコン等をプレスすると,当該アイコン等以外の画面表示がデフォーカス(ピンボケ)された状態に変更
される。この変更が「当該表示対象以外の表示態様を変更する」に該当する。したがって,被告各製品は,構成要件Dを充足する。
構成要件Dの「前記力入力に応じて,当該表示対象以外の表示態様を変更することにより」とは,「当該表示対象(プレスしたアイコン等)の表示態様に変更を加えることなく,それ以外の表示態様を変更する」場合だけでは
なく,「当該表示対象の表示態様に変更を加えるととともに,それ以外の表示態様も変更する」場合も含まれる。本件明細書の段落【0026】,【0031】,【0069】には,当該表示対象(プレスしたアイコン等)の表示態様を変更する場合も開示されている。
すなわち,段落【0026】は「位置入力にかかる表示要素を,所定の力入力に従って表示変更させてもよい」ことを明確に述べている以上,被告の主張するような具体的な記載の有無に関わらず,構成要件Dが「表示対象」の表示態様を変更する場合も含むことは明らかである。
また,段落【0031】の「例えば,一方では,位置入力によって,画面遷移やウィンドウの切り替えといった操作を行いながら,他方では,力入力によって,表示対象の移動といった操作を,同時に行わせてもよい」の記載
は,その文言から,画面遷移やウィンドウの切り替え等により,位置入力にかかる表示要素を他の画面や他のウィンドウに相対的に移動し,回転・拡大・縮小などの変化を起こさせること(段落【0030】参照)により,「所定の力入力に従って表示変更させ」ることを指していることが明らかであるから,「位置入力にかかる表示要素」を「前記位置に保持」しつつ,表
示態様に変更を加えることを述べている。
さらに,段落【0069】には,「例えば,地図表示の例では,任意の地点を接触することによって,そこに出発地点としての表示要素を出現させ,これを他の地点までドラッグすることによって,その地点(目的地等)までのリンクを形成させてもよい。」との記載があるところ,表示対象(例えば,
道路上のある地点)に対して力入力を行うことにより,当該表示対象に出発地点であることを示すマーカーが出現し,これにより,当該表示対象の表示態様が変更される。そして,「表示態様変更部102bは,入力位置に対応する表示要素以外の表示要素を,力判定部102dにより右方向の力が判定された場合に左方向に移動させ,左方向の力が判定された場合に右方向に移
動させ,上方向の力が判定された場合に下方向に移動させ,下方向の力が判定された場合に上方向に移動させ」(段落【0045】)るなどの方法により,「これを他の地点までドラッグする」(段落【0069】)ことにより,表示対象であるマーカー以外の地図が相対的に移動させられ,相対的な「ドラッグ」(段落【0069】)が実現される。このようにして表示対象であるマーカー以外の地図が相対的に移動させられることは,「当該表示対象以外の表示態様を変更すること」(構成要件D)に相当する。したがって,段落【0069】も,「位置入力にかかる表示要素」を「前記位置に保持」しつつ,表示態様に変更を加えることを述べていることは明らかである。〔被告の主張〕
構成要件Dの「前記力入力に応じて,当該表示対象以外の表示態様を変更
することにより,」との意義を参酌する上では,力入力に応じて位置入力に係る表示対象以外の表示態様を変更する方法を詳細に説明している本件明細書の段落【0044】~【0046】の記載を参考とすべきであるところ,上記記載のうち,本件発明について説明する記載(構成要件Aの「表示画面にスライドせずに接触したオブジェクトの力入力」との要件を充たす記載)
は,位置入力に係る表示対象(構成要件Dにおける「当該表示対象」)の表示態様を変更することなく,位置入力に係る表示対象以外(構成要件Dにおける「当該表示対象以外」)の表示態様を変更するもののみであり,この点は原告も認めている。なお,本件明細書の段落【0026】,【0031】及び【0069】のうち原告が指摘する記載は,本件発明について説明した
記載ではない。
また,原告は,無効論に対する反論において,構成要件Dの「前記力入力に応じて,当該表示対象以外の表示態様を変更することにより」とは,当該表示対象の表示態様に変更を加えることなく,それ以外の表示態様を変更する場合に限られることを自認している。

さらには,構成要件Dが「当該表示対象以外の表示態様を変更することにより」と規定していることからすれば,構成要件Dが予定しているのは,「当該表示対象」(構成要件Cにおける「前記位置入力手段にて検出された位置の表示対象」)以外の表示態様を変更することと解するのが文理上,自然である。
以上によれば,構成要件Dの「前記力入力に応じて,当該表示対象以外の表示態様を変更することにより」の意義は,「力入力に応じて,当該表示対象(構成要件Cにおける「前記位置入力手段にて検出された位置の表示対象」)の表示態様に変更を加えることなく,それ以外の表示態様を変更することにより,」との意味に解すべきである。
しかるところ,被告各製品のディスプレイ部のアイコン等に接触すると,
プレスする力に応じて当該アイコン等が拡大する等の表示態様の変更が起きるから,被告各製品においては,「力入力に応じて,当該表示対象(構成要件Cにおける「前記位置入力手段にて検出された位置の表示対象」)」の表示態様に変更を加えているといえる。したがって,被告各製品は,構成要件Dの「前記力入力に応じて,当該表示対象以外の表示態様を変更することに
より,」を充足しない。
なお,構成要件Dの「前記力入力検出手段により検出された前記力入力に応じて,」との文言からすれば,構成要件Dは,構成要件A(表示画面にスライドせずに接触したオブジェクトの力入力を,直接的または間接的に検出する力入力検出手段と,)の充足を前提とするというべきであるが,前記の
とおり,被告各製品は構成要件Aを充足しないから,構成要件Dも充足しない。
被告各製品は構成要件Eを充足するか(争点1-5)について
〔原告の主張〕
被告各製品においては,被告各製品のディスプレイ部に表示されるアイコ
ン等をプレスすると,そのアイコン等以外の部分がデフォーカス状態に変化することによって,当該アイコン等のみが表示画面中で明瞭に(浮き上がったかのように)表示される状態に変更されるから,「当該表示対象を相対的に変更させ」ることに該当する。したがって,被告各製品は,構成要件Eを充足する。
〔被告の主張〕
構成要件Cが「保持しつつ,」と規定し,構成要件Dが「変更することにより,」と規定していることからすれば,構成要件C及びDを受けている構成要件Eの充足については,文理上,構成要件C及びDの充足を前提とすると解すべきであるところ,前記のとおり,被告各製品は,構成要件C及びDを充足しないから,構成要件Eも充足しない。

また,被告各製品のディスプレイ上のアイコン等をプレスすることにより,プレスしたアイコン等のみが表示画面中で浮き上がったかのように明瞭に表示されるとの原告主張に係る事実は存しない。アイコン等をプレスした場合には,単に,プレスしたアイコン等が拡大し,プレスしたアイコン等以外の領域がデフォーカス状態に変化しているだけである。したがって,被告各製
品は構成要件Eを充足しない。
被告各製品は構成要件Fを充足するか(争点1-6)について
〔原告の主張〕
被告各製品においては,指でプレスしたアイコン等以外の部分がデフォーカス状態に変更し,当該アイコン等のみを明瞭に(浮き上がったかのよう
に)表示している。そのためには,変更後の表示態様すなわち変更結果をメモリに記憶させることが必要である。したがって,被告各製品においては,表示対象に対するプレスすなわち(力)入力による結果として表示態様が変更された結果がメモリに記憶されているといえ,「当該変更結果を当該表示対象に対する入力として記憶部に記憶させる変更手段」に該当する。よって,
被告各製品は,構成要件Fを充足する。
〔被告の主張〕本件明細書において記憶されるべき表示態様の変更について述べているのは,段落【0035】のドラッグ・アンド・ドロップ類似の表示態様の変更のみであるから,原告は,本件明細書において,「プレス前の状態から変更された状態をディスプレイ部に継続して表示するためには,その状態をメモリに記憶していることが必須であることは自明の事項」といえないことを自認しているというべきである。
また,構成要件Fの「当該変更結果を・・・記憶部に記憶」との要件は,特許庁の拒絶査定を受けて,原告が特許請求の範囲を補正した際に付加された要件である。仮に原告が主張するとおり,当該構成が自明の事項であると
すれば,これが補正により付加されて特許登録を受けられたはずがない。本件明細書の段落【0035】には,変更後の表示態様が必ずしもメモリに記憶されるものではないことが述べられているから,構成要件Fの「当該変更結果を・・・記憶部に記憶」との要件は,変更後の表示態様については,メモリに記憶される場合と記憶されない場合の双方があり得るものの,変更
後の表示態様がメモリに記憶される場合のみを本件発明の技術的範囲に含ませる要件と解される。しかるところ,被告各製品においては,指でプレスしたアイコン等以外の部分がデフォーカス状態に変更した状態をディスプレイ部に継続して表示するために,かかる状態をメモリに記憶するという動作は行われていない。したがって,被告各製品は,構成要件Fの「当該変更結果
を・・・記憶部に記憶」を充足しない。
なお,構成要件Fは,「当該変更結果を記憶部に記憶」と規定せず,あえて,「当該変更結果を当該表示対象に対する入力として記憶部に記憶」と規定している。本件明細書の記載を参酌しても,「当該表示対象に対する入力として」の意味するところは理解不能である。したがって,被告各製品は,
構成要件Fの「当該表示対象に対する入力として」を充足しない。拡大先願違反の無効理由があるか(争点2-1)について〔被告の主張〕ア
本件発明は,その優先日である平成24年(2012年)4月18日より前に優先日を有する他の特許出願(国際特許出願)であって,本件特許の優先日後に特許協力条約(1970年6月19日にワシントンで作成された特許協力条約)21条に規定する国際公開がされたものであるPCT
/US2012/035992(以下「クアルコム国際特許出願」という。)の国際出願日における国際出願の明細書,特許請求の範囲又は図面に記載された発明と同一であるから,本件特許は,特許法29条の2,184条の13違反の無効理由を有する。
すなわち,QualcommIncorporatedは,2012年5月1日,2012
年3月9日の米国での特許出願(出願番号:13/416731)(乙2)に基づく優先権を主張(優先権主張番号:13/416731)するクアルコム国際特許出願を行い,これは,2012年11月22日に国際公開(公開番号:WO2012/158337A1)(乙3)された。クアルコム国際特許出願の明細書,特許請求の範囲又は図面は乙3の内容と
同じであるところ(これらは乙2の内容とも同じである。),乙3には,本件発明の全ての構成要件が開示されている。

構成要件Dについては,乙3では,ユーザ101が加える力に応じて,電話アイコン214,テキスト・メッセージ・アイコン216の表示を半
透明から不透明に変更している(乙3の図5,段落[0045]~[0048])から,乙3においては,タッチ・センサ110に基づいて検出されるタッチ・スクリーン・ディスプレイ102上の接触位置に存在するインタフェース要素(名前212。構成要件Cの「前記位置入力手段にて検出された位置の表示対象」に該当する。)の表示態様に変更を加えるととも
に(名前212を半透明から不透明に変更するとともに),それ以外の表示態様も変更している(電話アイコン214,テキスト・メッセージ・アイコン216を半透明から不透明に変更している)といえる。したがって,構成要件Dに関する原告主張を前提とすれば,乙3には本件発明の構成要件Dが開示されている。

また,構成要件Eは,構成要件C及びDの双方により達成されるものであるところ,乙3には構成要件C及びDが開示されているから,構成要件
Eも開示されている。

さらに,構成要件Fについては,乙3では,ユーザ101が加える力に応じて,名前212,電話アイコン214,テキスト・メッセージ・アイコン216が,同一の位置に保持されたまま,半透明から不透明に変更されることが記載されており,これら変更後の表示態様は,ユーザ101に
より同一の力が加えられている間,継続して表示されることが前提とされている(乙3の図5,段落[0045]~[0048])から,変更後の表示態様をディスプレイ部に継続して表示するためには変更後の表示態様をメモリに記憶することが必要・必須であるとの原告の主張に従えば,乙3においても,変更後の表示態様がメモリ154(乙3の図3)に記憶されて
いるということとなる。したがって,構成要件Fに関する原告主張を前提とすれば,乙3には本件発明の構成要件Fが開示されている。
〔原告の主張〕
以下のとおり,クアルコム国際特許出願には,構成要件D,E及びFが開示されていないから,これに基づく被告の無効主張は理由がない。ア
乙2には構成要件Eが開示されていない。すなわち,構成要件Eの「相対的に変更」とは,表示対象以外の表示態様を変更することで,あたかも表示対象の表示態様が変更されているように見えるよう制御することをいう。例えば,表示態様の変更が「移動」の場合には,表示対象以外の表示
要素を右方向に移動させると,表示対象の位置が移動していなくても,あたかも表示対象が左方向に移動しているように見えることになる。このような制御が「相対的に変更」することである。つまり,本件明細書の段落【0045】,【0046】,【0068】の記載から把握できるとおり,構成要件Eの「当該表示対象を相対的に変更させ」るとは,当該表示対象以外の表示態様を変更することにより,視覚対比によって当該表示対象の表示態様が相対的に変更されているように見えるよう制御することである。
これに対して,乙2には,名前アイコン212のいずれかの場所に力を加えた場合,その力の大きさに応じて,電話アイコン214またはテキストメッセージアイコン216の表示態様を変化させることが開示されているにすぎず,「当該表示対象を相対的に変更させ」ることに相当する事項は開示されていない。以上のとおりであるから,乙2には構成要件Eが開
示されていないことが明らかである。

乙2には構成要件Dが開示されていない。すなわち,構成要件Eは,構成要件Dの「前記力入力検出手段により検出された前記力入力に応じて,当該表示対象以外の表示態様を変更することにより,」を受けて,「当該表示対象を相対的に変更させ,」という構成を記載している。したがって,
構成要件D及びEの文脈から,構成要件Dの「当該表示対象以外の表示態様を変更する」とは,当該表示対象を相対的に変更すること意味することが明らかである。これに対して,上記のとおり,乙2には「当該表示対象以外の表示態様を変更する」ことは開示されていない。したがって,乙2には,構成要件Dの「当該表示対象以外の表示態様を変更する」も開示さ
れていないことになる。

乙2には構成要件Fが開示されていない。すなわち,構成要件Fは,当該表示対象に対する力入力の結果として表示態様が変更された結果を,
「当該表示対象に対する入力」として記憶部に記憶させる,というものである。
これに対して,乙2には,名前アイコン212に対する力入力のレベルに応じて,電話アイコン214又はテキストメッセージアイコン216のいずれかを選択し,電話をかける処理又はテキスト・メッセージを開始する処理を行うことが記載されている(乙2・段落【0047】~【0049】)。このことから,乙2においては,名前アイコン212(当該表示対象)に対する力入力は,電話アイコン214又はテキストメッセージア
イコン216に対する入力として記憶部に記憶されているのであり,名前アイコン212に対する入力としては記憶されていないと解される。したがって,乙2には,「当該表示対象に対する入力として記憶部に記憶させる」(構成要件F)ことは開示されていない。
乙8文献に基づく新規性欠如の無効理由があるか(争点2-2)について
〔被告の主張〕

本件特許の優先日(平成24年4月18日)前である平成19年8月23日に公開された乙8文献(特開2007-212975)には,本件発明の構成要件が全て開示されているから,本件特許は,新規性欠如の無効理由(特許法29条1項3号)を有する。


構成要件Aについては,本件明細書の【0039】の記載によれば,同構成要件の「力入力検出手段」には,表示画面に対する接触の有無を検出する手段が含まれる。しかるところ,乙8文献には,ナビゲーション装置20の表示部26中の自車位置マークCがユーザの指Eによって触れられていると,当該接触が検知器32(表示部26と一体となっている。)に
より検出され,オンルートスクロール(経路上を移動する点(移動点)を移動させつつ地図をスクロールさせるもの)が開始されることが記載されている。したがって,乙8文献には,ユーザの指Eによる表示部26に対する接触の有無を検出する手段を備えたナビゲーション装置20が記載されている。したがって,乙8文献には構成要件Aが開示されている。

構成要件Dについては,乙8文献の図7(a)~(c)には,ユーザの指Eが表示部26中の自車位置マークCに接触した場合における,オンルートスクロールの例が記載されている。かかるスクロールの間,自車位置マークC(構成要件Dの「当該表示対象」)は左右上下等に移動せず,元の位置に保持されている一方,報知ポイントB等の地図上の記載(構成要件Dの「当該表示対象以外」)については表示部26上の経路Aに沿って
移動している。したがって,乙8文献には構成要件Dが開示されている。エ
構成要件Fについては,乙8文献においては,ユーザの指Eによる表示部26中の自車位置マークCへの接触が継続されるとオンルートスクロールが継続され,かかる接触が止められるとオンルートスクロールが停止されることが記載されている。すなわち,乙8文献には,ユーザの指Eの接
触による変更後の表示態様(オンルートスクロールが進んだ後の表示態様)がディスプレイに継続して表示されることが記載されている。そうすると,構成要件Fに関する原告主張を前提とすれば,乙8文献においても変更後の表示態様がメモリ(制御部29のROM,RAM等)に記憶されており,ゆえに,乙8文献には構成要件Fが開示されているということに
なる。
〔原告の主張〕
乙8文献には,少なくとも構成要件A,D及びFが開示されていないから,本件発明が新規性を欠くことはない。

乙8文献には構成要件A及びDが開示されていない。すなわち,本件明細書の段落【0039】には,表示画面への接触による力の有無を検出する手段が記載されているが,当該手段は,段落【0039】の初めに記載されている「なお,上記のように検出装置112が機械的に直接,摩擦力または押下力を検出することに限られず,間接的に摩擦力または押下力が
検出されてもよい」という文言に明示されているとおり,表示画面に加えられた力の有無を間接的に検出する手段であり,乙8文献に開示されている単なる接触の有無を検出する手段とは異なる。なお,本件明細書の段落【0049】及び【図4】は,タッチパネル(これ自体は,指の接触の有無や接触位置を検知することはできても,力の有無を直接には検知できない。)を用いて,「間接的に摩擦力または押下力」を検出する実施例の記載である。以上から明らかなとおり,被告の援用する本件明細書の段落
【0039】の記載は,上記の方法等により,単なる接触の有無ではなく,力の強さ又は有無を間接的に検出する手段について述べたものである。これに対して,乙8文献には,検知器32への接触を検出する手段が開示されているにすぎず,力入力を検出する手段は開示も示唆もされていない。したがって,乙8文献には,構成要件A「表示画面にスライドせずに
接触したオブジェクトの力入力を,直接的または間接的に検出する力入力検出手段と,」及び構成要件Dの「前記力入力検出手段により検出された前記力入力に応じて,当該表示対象以外の表示態様を変更することにより,」が開示されていないことが明らかである。

乙8文献には構成要件Fが開示されていない。すなわち,構成要件Fの
「当該変更結果」とは,構成要件D及びEの「前記力入力検出手段により検出された前記力入力に応じて,当該表示対象以外の表示態様を変更することにより,当該表示対象を相対的に変更させ」た結果を意味している。しかし,上記のとおり,乙8文献には,構成要件Dの「前記力入力に応じて,当該表示対象以外の表示態様を変更すること」は開示されていない。したがって,乙8文献には,構成要件Fの「当該変更結果」も開示されていないことになる。
乙9文献に基づく新規性欠如の無効理由があるか(争点2-3)について〔被告の主張〕

本件特許の優先日前である平成21年5月7日に公開された乙9文献(特開2009-98086)には,本件発明の構成要件が全て開示されているから,本件特許は,新規性欠如の無効理由(特許法29条1項3号)を有する。
構成要件Aについては,同構成要件の「力入力検出手段」には,表示画面に対する接触の有無を検出する手段が含まれる。しかるところ,乙9文献には,ナビゲーション装置のディスプレイ12中の拡大スクロールボタン310又は縮小スクロールボタン312が表示された領域が触れられていると,当該接触がタッチ入力検出装置13により検出され,当該領域に対応する方向に画面がスクロールされ,かつ,かかるスクロールと同時に,当該領域に対応するスケール(拡大又は縮小)へのスケール変更が行われることが記載
されている。したがって,乙9文献のナビゲーション装置は,ディスプレイ12に対する接触の有無を検出する手段を備えているといえる。以上より,乙9文献には構成要件Aが開示されている。
構成要件Dについては,乙9文献の図6~9には,拡大スクロールボタン310及び縮小スクロールボタン312にタッチした場合における,右方向
への拡大スクロール,右方向への縮小スクロール実行中のディスプレイ12の例が記載されている。かかるスクロールの間,拡大スクロールボタン310及び縮小スクロールボタン312(構成要件Dの「当該表示対象」)は左右上下等に移動せず,元の位置に保持されている一方,拡大スクロールボタン310及び縮小スクロールボタン312以外(建造物マーク320等。構
成要件Dの「当該表示対象以外」。)についてはディスプレイ12上を右から左へと移動している。よって,乙9文献には構成要件Dが開示されている。構成要件Fについては,乙9文献においては,拡大スクロールボタン310又は縮小スクロールボタン312のタッチを継続すると,スクロール及びスケール変更が継続され,タッチを止めた場合には,スクロールが停止され,
初期値のスケールまで段階的に地図のスケールが変更されるが,スケールが変更されないようにしてもよいと記載されている。すなわち,乙9文献には,タッチによる変更後の表示態様(スクロールし,かつ,スケール変更された後の表示態様)をディスプレイ12に継続して表示することが記載されている。そうすると,構成要件Fに関する原告主張を前提とすれば,乙9文献においても変更後の表示態様がメモリ(制御装置10のRAM,ROM等)に記憶されており,ゆえに,乙9文献には構成要件Fが開示されているということになる。
〔原告の主張〕
乙9文献には,少なくとも本件発明の構成要件A,D及びFが開示されていないから,乙9文献に基づいて本件発明が新規性を欠くことはない。すなわち,乙9文献には,タッチ入力検出装置13によるタッチすなわち
接触の有無を検出する手段が開示されているにすぎず,力入力を検出する手段は開示も示唆もされていない。したがって,乙9文献には,構成要件A「表示画面にスライドせずに接触したオブジェクトの力入力を,直接的または間接的に検出する力入力検出手段と,」,構成要件Dの「前記力入力検出手段により検出された前記力入力に応じて,当該表示対象以外の表示態様を変更することにより,」及び構成要件Fの「当該変更結果」が開示されていないことが明らかである。
乙10文献に基づく新規性欠如の無効理由があるか(争点2-4)について
〔被告の主張〕
本件特許の優先日前である平成14年1月23日に公開された乙10文献(特開2002-22472)には,本件発明の構成要件が全て開示されているから,本件特許は,新規性欠如の無効理由(特許法29条1項3号)を有する。

構成要件Aの「力入力検出手段」には,表示画面に対する接触の有無を検出する手段が含まれる。しかるところ,乙10文献には,ディスプレイ33に表示される表示シンボル60のうち矢印の表示シンボルが接触されると,当該接触がタッチスイッチ34により検出され,当該接触された矢印の表示シンボルに応じた方向に表示地図がスクロールされるナビゲーション装置が記載されているといえる。したがって,乙10のナビゲーション装置は,ディスプレイ33に対する接触の有無を検出する手段を備えているといえるから,乙10文献には構成要件Aが開示されている。
構成要件Dについて,乙10文献においては,ディスプレイ33に表示される表示シンボル60のうち矢印の表示シンボルに接触すると,表示シンボル60(構成要件Dの「当該表示対象」)は左右上下等に移動せず,元の位
置(ディスプレイ33の中央)に保持される一方,表示シンボル60以外(表示地図等。構成要件Dの「当該表示対象以外」。)についてはディスプレイ33上を移動することが前提とされている。よって,乙10文献には構成要件Dが開示されている。
構成要件Fについては,乙10文献においては,矢印の表示シンボルへの
接触終了後,矢印の表示シンボルへの接触による変更後の表示態様(表示地図がスクロールした後の表示態様)をディスプレイ33に継続して表示することが前提とされている。そうすると,構成要件Fに関する原告主張を前提とすれば,乙10文献においても変更後の表示態様がメモリ(中央処理装置1のROM4,RAM5等)に記憶されており,ゆえに,乙10文献には構
成要件Fが開示されているということになる。
〔原告の主張〕
乙10文献には,少なくとも本件発明の構成要件A,D及びFが開示されていないから,乙10文献に基づいて本件発明が新規性を欠くことはない。すなわち,乙10文献には,タッチスイッチ34によるタッチすなわち接
触の有無を検出する手段が開示されているにすぎず,力入力を検出する手段は開示も示唆もされていない。したがって,乙10文献には,構成要件A「表示画面にスライドせずに接触したオブジェクトの力入力を,直接的または間接的に検出する力入力検出手段と,」,構成要件Dの「前記力入力検出手段により検出された前記力入力に応じて,当該表示対象以外の表示態様を変更することにより,」及び構成要件Fの「当該変更結果」が開示されていないことが明らかである。
原告の損害額及び補償金額(争点3)について
〔原告の主張〕
原告は,被告に対し,民法709条,特許法102条3項に基づく損害賠償金498億4168万3808円の一部である5400万円,特許法65
条1項に基づく補償金63億7162万3600円の一部である5400万円,及び弁護士費用相当額2160万円の合計1億2960万円及びこれに対する遅延損害金の支払を求める。

特許法102条3項に基づく実施料相当額
被告は,プレス操作による機能を「3DTouch」と称し,3DTouchを被告各製品の操作性の要と位置づけ,新機能,セールスポイントしてこれ
を積極的に宣伝し,好評を博してきた。3DTouch機能は被告各製品の顧客吸引力の要となる極めて重要なものであり,これによって被告各製品の売上げが増大したといえることは明らかであるから,相当実施料率は5%を下回ることはない。
特許権の設定登録がなされた平成28(2016)年5月20日から平成
29(2017)年3月末日までの間の10.3か月間の,被告各製品の日本国内における売上高は9968億3367万6168円と推定される。したがって,実施料相当額は,498億4168万3808円を下回らない。

特許法65条1項に基づく補償金額
原告は,本件特許の特許出願に係る発明の内容を記載した平成28年3月11日付「通知書」を被告に送付し,補償金請求権に係る警告を行い,当該通知書は同月14日に被告に配達された。したがって,原告は,被告に対し,平成28年3月14日から特許権の設定登録がなされた日の前日である同年5月19日までの2.16か月分の補償金請求権を有する。上記期間における被告製品1及び被告製品2の売上高は1274億32
47万2006円と推定されるところ,その相当実施料率は上記のとおり5%であるから,補償金額は63億7162万3600円を下回らない。ウ
弁護士費用相当額
原告は,被告の特許侵害行為の調査及び交渉並びに本件訴訟の提訴及び追行を原告代理人弁護士らに委任し,弁護士費用を支出しているところ,
少なくとも,上記の内金請求額合計1億0800万円の2割である2160万円は,被告の行為と相当因果関係を有する損害に当たる。
〔被告の主張〕
争う。
第3

当裁判所の判断
事案に鑑み,争点2-2から判断する。

1
乙8文献に基づく新規性欠如の無効理由があるか(争点2-2)について乙8文献の記載
本件特許の優先日(平成24年4月18日)前である平成19年8月23
日に公開された乙8文献(特開2007-212975)には,以下の記載がある。
「本発明は,表示部に経路等を表示することができる経路表示装置に関する。」(段落【0001】)
「ここで,経路表示装置の一機能であるオンルートスクロールと呼ばれる
機能に上述した技術を適用することを考える。オンルートスクロールというのは,経路上を移動する点(移動点)を移動させつつ地図をスクロールさせるものであり,移動点の場所に応じてユーザに,右左折情報,交通情報,道路の勾配情報,サービスエリアの情報等を事前に報知することを目的としたものである。このようなオンルートスクロール機能に対し,上述した技術をそのまま適用すると次のような問題が生じる。」(段落【0007】)「特許文献1に記載の技術は,ユーザが表示装置上を指でなぞる必要があるわけであるから,ユーザは地図のスクロールを停止させた後,表示装置に表示された経路の形状にしたがって指をなぞらなければならない。つまり,ユーザは表示装置を注視する必要があり,例えば,上述した状況Aや状況Cにおいてユーザは十分にオンルートスクロール機能を利用することができな
い。」(段落【0008】)
「特許文献2に記載の技術は,ユーザが地図のスクロール方向やスクロールの停止を制御するものであるため,ユーザが次の右左折ポイントまで地図をオンルートスクロールさせることになる。つまり,ユーザは表示装置を注視する必要があり,例えば,上述した状況Aや状況Cにおいてユーザは十分
にオンルートスクロール機能を利用することができない。」(段落【0009】)
「本発明はこれらの課題に鑑みてなされたものであり,その目的は,様々な状況において,より容易にユーザが情報を認識することができる経路表示装置を提供することである。」(段落【0010】)

「このため,オンルートスクロール中,経路関連情報が存在する地点に仮想的な移動点が到達したことを,ユーザは表示手段を見なくても体性感覚によって認識することができる。したがって,ユーザが画面を見る時間を最小限に抑えることができ,雑音が著しい状況でもユーザは確実に経路関連情報が存在する旨を認識することができる。」(段落【0012】)

「[構成の説明]図1は,本発明の経路表示装置の機能が組み込まれたナビゲーション装置20の概略構成を示すブロック図である。」(段落【0044】)「表示部26は,液晶ディスプレイ,有機ELディスプレイ等からなり,位置検出器21にて検出した車両の現在位置と地図データ入力器25より入力された地図データとから特定した現在地を示すマーク,目的地までの誘導経路,名称,目印,各種施設のマーク等の付加データとを重ねて表示することができる。また,施設のガイド等も表示できる。」(段落【0051】)「検知器32は,感圧方式,電磁誘導方式,静電容量方式等のセンサにより,ユーザが検知器32に触れたこと,及び,離れたことを検知することができる。」(段落【0053】)

「図2(b)に示すように,ユーザ側に板状の検知器32が配置され,ユーザが指で触れた操作をその位置と共に検知することができるようになっている。」(段落【0056】)
「オンルートスクロール処理の実行が開始されるのは,(判決注:中略)指令をユーザから受け付けた際である。ユーザの視点で言えば,目的地への
出発前に全走行ルートを確認したい際や,経路案内中に走行ルートを確認したい際である。」(段落【0058】)
「オンルートスクロールというのは,経路上を移動する点(移動点)を表示面上の基準点に一致させた地図をスクロールさせるものである」(段落【0061】)

「検知器32は未検知状態にあると判定した場合に進むS140では,オンルートスクロールを一旦停止し,上述したS105へ処理を戻す。」(段落【0065】)
「ユーザから見れば「指で触れている自車位置マークCが移動(スクロール)を開始し,経路関連情報の存在する地点に自車位置マークCが到達した
ため,自車位置マークCが振動する」というように感じることができ」(段落【0073】)「また,上述した
2つの場合と異なり,
基準点がユーザによ
って触れられている
場合にのみオンルー
トスクロールを行う
ようになっていても
よい。」(段落【0
078】)

「自車位置マーク
がユーザによって触
れられていると判定
した場合に進むS1
15では,オンルー

トスクロールを開始
する。」(段落【0
079】)
「次に,このよう
に,触れられた位置

が基準点であったと
きに限りオンルート
スクロールを開始するようになっている場合において,表示部26に表示される経路図の実例を図7を用いて説明する。図7(a)に示す経路図501は,オンルートスクロール開始直後の状態である。(判決注:中略)なお,
指Eの先端が自車位置マークCを触れていることが確認できる。」(段落【0080】)「オンルートスクロールが進み,自車位置マークCが報知ポイントBに到達すると,図7(b)に示すように,指Eの位置に対応する(液晶パネル26aや導光板26bを挟んだ指Eの反対側に位置する)体感器31が作動し,指Eに振動を伝える。また,経路図511の上端に経路関連情報513が表示される。」(段落【0081】)
「その後,ユーザが表示部26を触り続ければ,図7(c)に示すように,自車位置マークCが報知ポイントBを通過した後もオンルートスクロールが引き続き実行される。」(段落【0082】)
本件発明と乙8文献記載の発明との対比

乙8文献の段落【0053】「検知器32は,感圧方式,電磁誘導方式,静電容量方式等のセンサにより,ユーザが検知器32に触れたこと,及び,離れたことを検知することができる。」及び【0056】「ユーザ側に板状の検知器32が配置され,ユーザが指で触れた操作をその位置と共に検知することができるようになっている。」との記載によれば,乙8文献には,構
成要件A「表示画面にスライドせずに接触したオブジェクトの力入力を,直接的または間接的に検出する力入力検出手段と,」及び構成要件B「前記オブジェクトが前記表示画面に接触した位置を検出する位置入力手段と,」の各構成が開示されているといえる。
また,乙8文献の段落【0061】の「オンルートスクロールというのは,
経路上を移動する点(移動点)を表示面上の基準点に一致させた地図をスクロールさせるものである」,段落【0073】の「ユーザから見れば「指で触れている自車位置マークCが移動(スクロール)を開始し,経路関連情報の存在する地点に自車位置マークCが到達したため,自車位置マークCが振動する」というように感じることができ」との各記載に併せて図7の記載も
考慮すれば,乙8文献記載の発明(図7から認定される発明)は,「地図」(本件発明の「表示対象以外」に相当)が移動すること(本件発明の「表示態様を変更」に相当)で,あたかも「自車位置マーク」(本件発明の「表示対象」に相当)が移動しているように見えるよう制御されているといえる。したがって,乙8文献には,構成要件C「前記位置入力手段にて検出された位置の表示対象を前記位置に保持しつつ,」,構成要件D「前記力入力検出手段により検出された前記力入力に応じて,当該表示対象以外の表示態様を変更することにより,」及び構成要件E「当該表示対象を相対的に変更させ,」の各構成が開示されているというべきである。
さらに,乙8文献の段落【0065】には,「検知器32は未検知状態にあると判定した場合に進むS140では,オンルートスクロールを一旦停止
し,上述したS105に処理を戻す」と記載されていることから,乙8文献記載の発明においても,「自車位置マーク」に対する「地図」の変更結果を記憶部に記憶していることは自明のことというべきである。したがって,乙8文献には,構成要件F「当該変更結果を当該表示対象に対する入力として記憶部に記憶させる変更手段と,」の構成が開示されているといえる。また,乙8が情報処理装置(構成要件G)を開示していることは明らかで
ある。
以上によれば,乙8文献に記載された発明と本件発明とは同一であると認められる。
原告の主張について

これに対し,原告は,本件明細書の段落【0039】には,表示画面への接触による力の有無を検出する手段が記載されているが,当該手段は,表示画面に加えられた力の有無を間接的に検出する手段であって,乙8文献に開示されている単なる接触の有無を検出する手段とは異なるから,乙8文献には,本件発明の構成要件A「表示画面にスライドせずに接触した
オブジェクトの力入力を,直接的または間接的に検出する力入力検出手段と,」(ひいては構成要件D及びFも)の構成が開示されていない旨主張する。イ
本件明細書の段落【0039】には,次の記載がある。
「なお,上記のように検出装置112が機械的に直接,摩擦力または押下力を検出することに限られず,間接的に摩擦力または押下力が検出されてもよい。例えば,後述する制御部102が,タッチパネルへの接触によ
る入力位置の占める領域が,所定の形状から変化した場合に,所定の摩擦力を検出してもよい。(判決注:中略)また,検出装置112は,表示画面への接触による力の強さを検出することに限られず,表示画面への接触による力の有無を検出してもよい。この場合,表示画面に対して非接触の場合に,所定の押下力または摩擦力が検出されないものとし,表示画面に
対して接触があった場合に,所定の押下力または摩擦力があったものとして検出してもよい。」

原告が主張するように,上記段落【0039】の記載が,「力の強さ又は有無を間接的に検出する手段」について述べたものであるとしても,該
「力の強さ又は有無を間接的に検出する手段」の一例として,「表示画面に対して非接触の場合に,所定の押下力または摩擦力が検出されないものとし,表示画面に対して接触があった場合に,所定の押下力または摩擦力があったものとして検出」する手段が記載されていることは明らかである。エ
そして,本件発明の構成要件Aは「表示画面にスライドせずに接触したオブジェクトの力入力を,直接的または間接的に検出する力入力検出手段と,」というものであるところ,そこにおいては,「力入力」の「検出」に関し,それ以上に具体的な規定は何らされておらず,また,上記「力の強さ又は有無を間接的に検出する手段」の一例である,「表示画面に対して非接触の場合に,所定の押下力または摩擦力が検出されないものとし,
表示画面に対して接触があった場合に,所定の押下力または摩擦力があったものとして検出」する手段を排除する格別な理由も見当たらないことからすれば,構成要件Aは,「表示画面への接触・非接触による力の有無を検出」することも含むと解すべきである。

したがって,乙8文献に開示されている接触の有無を検出する手段が,本件発明の構成要件A「表示画面にスライドせずに接触したオブジェクトの力入力を,直接的または間接的に検出する力入力検出手段と,」の構成
と異なることを前提とする原告の上記主張は,その前提を欠くものであり,採用できない。


小括
以上のとおり,乙8文献に記載された発明は本件発明と同一であるから,本件特許には乙8文献に基づく新規性欠如の無効理由が存すると認められる。
2
結論
以上によれば,その余の点について判断するまでもなく,原告の請求はいずれも理由がないからこれらを棄却することとし,主文のとおり判決する
(なお,原告は,本件特許について訂正審判を請求したとして平成30年6月21日付けで口頭弁論の再開を申し立てたが,当裁判所は,原告にはより早い時期に訂正の再抗弁を主張する機会が十分にあったこと等を考慮して,口頭弁論を再開しない。)。
東京地方裁判所民事第47部

裁判長裁判官

沖中康人
裁判官

髙櫻慎

裁判官矢口俊哉は転補のため署名押印できない。

裁判長裁判官

沖中康人
(別紙)
被告製品目録

iPhone6sPlusという名称の付された携帯電話(スマートフォン)。iPhone7という名称の付された携帯電話(スマートフォン)。
iPhone7Plusという名称の付された携帯電話(スマートフォン)。
iPhone8という名称の付された携帯電話(スマートフォン)。10
3
iPhone6sという名称の付された携帯電話(スマートフォン)。
iPhone8Plusという名称の付された携帯電話(スマートフォン)。
iPhoneXという名称の付された携帯電話(スマートフォン)。
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