判例検索β > 平成28年(行ウ)第60号
事件番号平成28(行ウ)60
裁判年月日平成30年6月27日
法廷名福岡地方裁判所
戻る / PDF版
平成30年6月27日判決言渡

同日原本領収


裁判所書記官

文1
原告の請求をいずれも棄却する。

2
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由

第1

請求
中央労働基準監督署長が原告に対して平成26年6月26日付けでした労働者災害補償保険法に基づく遺族補償年金及び葬祭料を支給しない旨の各処分をいずれも取り消す。

第2
事案の概要

1
事案の要旨
本件は,株式会社A(以下「本件会社」という。)に勤務していたB(以下,単に「B」という。)が自死により死亡したこと(以下「本件自死」という。)に関し,Bの母である原告が,労働者災害補償保険法(以下「労災保険法」という。)に基づく遺族補償年金及び葬祭料の各支給を請求したところ,中央労働基準監督署長(以下「処分行政庁」という。)から,Bの本件自死は業務上
の事由によるものに当たらないとして,これらを支給しない旨の各処分(以下「本件各処分」という。)を受けたため,被告を相手に,その取消しを求める事案である。
2
前提事実(証拠等を掲記した事実のほかは,当事者間に争いがない。)当事者等


本件会社は,新聞紙の制作及び発行等を目的とする株式会社である。本件会社には,総務局,経理局,編集局,広告局,販売局等の部署のほか,支社として,北海道支社,中部支社及び北陸支社が存在する。
本件会社の決算期は3月である。

(甲1,弁論の全趣旨)

Bは,平成14年4月1日,株式会社Cに雇用された。同社について,同年7月1日,
会社分割がされ,
前記雇用関係は本件会社が承継した。
(乙
27)
Bは,本社(本件自死当時の所在地は東京都中央区。以下,この本件会社の本社のことを「東京本社」という。)経理局に配属された後,同年10月1日から平成17年9月30日まで同局監査部に,同年10月1日か
ら平成20年5月31日まで北海道支社総務部経理課に,同年6月1日から平成23年5月31日まで東京本社経理局管財部に,順次配属され,同年6月1日,同局経理部(以下「本件部署」という。)に異動となった(資格は主務社員Ⅰ。所属は会計担当〔甲1〕。)が,平成24年4月19日,本件自死に伴い退職となった。

Bは,本件自死の当時,東京都杉並区のマンション(以下「本件マンション」という。)で一人暮らしをしていた。

原告は,Bの母である。
Bの所定労働時間等

Bの所定始業時刻は午前9時30分,所定終業時刻は午後5時30分であり,所定休憩時間は午後0時から午後1時までの1時間であった。また,所定休日については,完全週休2日制が採られていた(甲1)。
Bが本件部署において業務に用いていたパソコン(以下「Bのパソコン」という。)には,いずれもBの公休日であった平成24年2月5日(日),
同月11日
(土)同月18日

(土)同年3月3日

(土)同月20日

(祝)

同月24日(土),同年4月8日(日)及び同月15日(日)の各日について,起動及び終了の記録(オペレーティング・システムであるウィンドウズの起動及び終了の記録。以下「パソコン起動記録」という。)が残っている(ただし,4月15日については終了の記録のみ。甲1。以下,上記の各日
を「公休出社日」といい,各公休出社日においてBが東京本社にいた時間を「公休出社時間」という。)。

Bの担当業務
Bは,本件部署の会計担当として,決算業務のうち,主に,売掛金・未収入金,貸倒引当金(年次),販売局並びに事業税(外形標準課税)及び地方法人特別税の申告に関する各業務を担当しており,本件自死の日(平成24年4月19日)が決算業務の締切りであった。
精神疾患の発症及び本件自死
Bは,平成24年4月頃,気分(感情)障害(疑い)(以下「本件疾病」という。)を発病した。
Bは,同月19日,本件疾病によって正常な認識,行為選択能力が著しく
阻害され,又は自死行為を思いとどまる精神的な抑制力が著しく阻害されている状態に陥った結果,自宅で縊頚する方法により自死した(本件自死)。本件各処分
原告は,処分行政庁に対し,Bの本件自死は本件会社における業務が原因であると主張して,平成25年11月25日,遺族補償年金及び葬祭料の各
支給を請求したところ,処分行政庁は,本件疾病は業務上の疾病とは認められないから,
本件自死は本件会社の業務に起因するものとはいえないとして,
平成26年6月26日,上記各給付を支給しない旨の決定をした(本件各処分)。
本件訴訟に至る経緯

原告は,本件各処分を不服として,平成26年7月17日,東京労働者災害補償保険審査官に対して審査請求をしたところ,同審査官は,平成27年2月26日,同審査請求を棄却する旨の決定をした。
原告は,上記決定を不服として,平成27年4月23日,労働保険審査会に対して再審査請求をしたところ,同審査会は,平成28年2月24日,同
再審査請求を棄却する旨の裁決をした。
原告は,
上記裁決を不服として,
平成28年8月23日,
当裁判所に対し,

本件各処分の取消しを求めて,
本件訴訟を提起した
(当裁判所に顕著な事実)

行政通達による業務起因性の判断基準
労働省(当時)は,精神障害の業務起因性に関する判断基準として,平成11年9月14日,「心理的負荷による精神的障害等に係る業務上外の判断指針について」(基発第544号。以下,後記の一部改正の前後を問わず,
「判断指針」という。)を示した(乙2)。その後,厚生労働省は,平成21年4月6日,「心理的負荷による精神的障害等に係る業務上外の判断指針の一部改正について」(基発第0406001号)を示し,判断指針を一部改正した(乙3)。
厚生労働省は,平成23年11月8日付けの「精神障害の労災認定の基準
に関する専門検討会報告書」(乙4)の内容を踏まえ,同年12月26日,「心理的負荷による精神障害の認定基準について」(基発1226第1号。以下「認定基準」という。)を示し,これにより判断指針は廃止された(乙5)。
認定基準は,心理的負荷による精神障害等の発病が業務に起因するもので
あると認定されるための具体的条件を定めたものであり,そのうち本件と関連する部分は,別紙1「心理的負荷による精神障害の認定基準について」のとおりである。
3
争点及び争点に関する当事者の主張
本件の争点は,本件自死が本件会社におけるBの業務に起因するものであるか否かであり,争点に関する当事者の主張は,次のとおりである。原告の主張

精神疾患の業務起因性の判断枠組みについて
精神疾患の発病が業務に起因するものであるか否かは,環境由来のスト
レス(業務上又は業務以外の心理的負荷)と個体側の反応性,脆弱性(個体側の要因)を総合考慮し,業務による心理的負荷が,社会通念上客観的
にみて,労働者に精神疾患を発症させる程度に過重であるといえるか否かによって判断すべきであり,労働者災害補償保険が労働者の福祉の増進に寄与することを制度趣旨とし,また,危険責任の法理に基づく制度であることからすると,
上記の過重性は,
同種労働者
(職種,
職場における地位,
年齢,経験等が類似する者で,業務の軽減措置を受けることなく日常業務
を遂行できる健康状態にあるもの)の中でその性格傾向が最も脆弱である者(ただし,同種の労働者の性格傾向の多様さとして通常想定される範囲内の者)を基準として判断すべきである。認定基準は,裁判所の判断を拘束するものではなく,精神疾患の発病と業務との間の相当因果関係が認められる場合を限定的に考えるべきではない。


Bの担当業務の内容等
Bは,平成23年6月に本件部署に配属される前の3年間,経理業務を行っておらず,決算業務についてブランクがあったところ,本件部署においてBが担当していた業務は,会計業務の中で最も困難で中心的な業務であり,また,本件自死直前の決算業務は,Bが初めて事実上の責任者とし
て行った業務であった上,新しい会計システムの本格稼働後初めての決算業務であったため,Bは,重大な責任を負いつつ,業務のペース配分の把握も困難な中,慣れないシステムの下で,締切りの設定されている決算業務を行っていた。これらの事情に加え,平成23年法律第114号による法人税法の改正(以下「平成23年法人税法改正」という。)により,平
成24年3月期における貸倒引当金の計上及び貸倒実績率の変更の検討が必要となったことも考慮すると,Bの業務に伴う心理的負荷の程度は強いものであった。

Bの労働時間
以下の各事情に照らすと,Bの業務に伴う心理的負荷の程度は,労働時間数の観点からも過重であった。

Bの労働時間数は東京本社の建物の入退館記録によって算出すべきであるところ,これによれば,本件疾病発病前3か月間(本件自死の日を本件疾病発病の日とする。以下,本件疾病発病前の期間をいう場合について同じ。)の時間外労働時間数は,以下のとおりとなる。なお,Bのパソコンの起動から終了までの時間は,Bがパソコンを用いて業務を行っていた時間にすぎないから,パソコン起動記録によってBの労働時間数を算出することは相当でない。
発病前1か月目
発病前2か月目

125時間59分
61時間02分

発病前3か月目

54時間29分

仮に,業務と関連しない,又は関連性の薄いと考えられるウェブサイト(以下「業務外サイト」という。)にアクセスしていた時間を全て控除したとしても,発病前1か月目の時間外労働時間数は112時間38分であり,これに加えて,平成24年3月20日,同月24日,同年4月8日及び同月15日に係る公休出社時間を労働時間と評価しないとしても,上記時間外労働時間数は104時間55分となる。
仮に,パソコン起動記録に基づいてBの労働時間数を算出したとしても,本件疾病発病前3か月間のBの時間外労働時間数は,以下のとおりとなる。
発病前1か月目

117時間36分

発病前2か月目

57時間58分

発病前3か月目

67時間00分

さらに,業務外サイトにアクセスしていた時間を全て控除したとしても,発病前1か月目の時間外労働時間数は104時間15分である。Bの業務外サイトへのアクセス時間には,野球やサッカーの試合の状況の速報を自動更新で表示するウェブサイトにアクセスしていた時間が
含まれており,その全てを労働時間から控除することは相当でない上,仮に,業務外サイトへのアクセス時間として一定時間を労働時間から控除するとしても,公休出社日について,業務外サイトにアクセスしていた時間があるというだけで,公休出社時間を全て労働時間として扱わないことは不合理である。

また,仮に,日曜日に本件会社の経理システム(以下「本件経理システム」という。)が稼働していなかったとしても,共有フォルダ内のエクセルファイルを使って,又は前日までに本件経理システムから必要なデータを取得しておくことにより,日曜日にも業務を行うことができたから,本件経理システムが稼働していなかったからといって,Bが日曜
日に業務を行っていなかったことにはならない。
本件疾病発病前1週間のBのパソコンの終了時刻が深夜に及んでいること及び本件自死前のBの心身の状態からすると,本件疾病発病前1か月間においてBは,休憩や休日を確保することが困難な状況であったといえる。


小括
以上の諸事情に加え,Bには,業務のほかに精神障害を発症させるような個体側要因がないことにも照らすと,Bの本件疾病の発病と本件会社の業務との間には相当因果関係がある。

また,上記の各事情は,認定基準上も,
「仕事内容・仕事量の(大きな)
変化を生じさせる出来事があった」場合及び「2週間以上にわたって連続勤務を行った」場合に該当し,前記ウの労働時間数及び連続勤務期間中,連日,深夜時間帯に及ぶ時間外労働を行っていたことからすると,これらによるBの心理的負荷の強度は「強」と評価されるから,本件自死の業務
起因性が認められる。
被告の主張


精神障害の業務起因性の判断枠組みについて
精神障害の発病については,環境由来のストレスと個体側の反応性,脆弱性との関係で精神的破綻が生じるかどうかが決まるという「ストレス-脆弱性」理論が広く受け入れられているところ,精神障害の業務起因性が認められるためには,平均的な労働者にとって,業務によるストレス(心
理的負荷)が客観的に精神障害を発病させるに足りる程度のものであること及び当該業務による負荷が,その他の業務外の要因に比して相対的に有力な原因となって,当該精神障害を発病させたと認められることが必要であり,これらの要件該当性は,最新の専門的知見に基づく専門検討会の報告書を踏まえて策定された認定基準に依拠して判断すべきである。

Bの労働時間数について
Bが業務を開始した時刻については,所定始業時刻である午前9時30分,業務を終了した時刻については,勤怠報告を行っている日は勤怠報告上の業務終了時刻,勤怠報告のない日はBのパソコンの終了時刻と
するのが合理的であり,休憩時間については,所定の1日1時間とした上,勤務時間が午後10時以降に及ぶ場合は,夕食の時間として更に30分を加算すべきである。また,Bが業務外サイトにアクセスしていた時間は労働時間と認められないから,少なくとも1回のアクセスにつき1分間を労働時間から控除すべきである。

公休出社時間については,平成24年3月当時,Bが公休日に出勤してまで処理すべき業務はなかった上,日曜日は本件経理システムが稼働せず,各部局の経理担当者も出社していないため,決算業務を遂行し得ないことからすると,Bが公休出社日に出勤すべき業務上の必要性はなく,これらの日に明示又は黙示の業務命令を受けて出勤したとはいえな
いから,公休出社時間を労働時間と評価することはできない。
以上によれば,本件疾病発病前6か月間の時間外労働時間数は,以下
のとおりとなり,また,同期間にBが2週間(12日)以上にわたって連続勤務をした事実は認められない。
発病前1か月目
発病前2か月目

31時間27分

発病前3か月目

29時間30分

発病前4か月目

8時間30分

発病前5か月目

19時間30分

発病前6か月目

83時間50分

17時間00分
Bについては,「仕事内容・仕事量の(大きな)変

化を生じさせる出来事があった」ものと認められるが,本件疾病発病前
6か月間において長時間労働が常態化していたとはいえず,本件疾病発病前1か月間においても,休憩時間が確保されており,定期的に休日も取得できていたことからすると,
この出来事による心理的負荷の強度は,
認定基準上,「中」と評価される。

Bの担当業務の内容等について
以下の各事情に照らすと,Bの担当業務は,質的にも,職場における立場や経験等がBと類似する平均的な労働者にとって,心理的負荷が強いものであったとはいえない。
Bは,本件会社に入社後,通算して10年近く経理業務を担当し,北
海道支社に在籍していた際には,決算業務について一通り経験していた上,平成24年4月の決算業務は,本件部署における一般的な決算業務であり,
Bに対する担当業務の割当て及び引継ぎも適切に行われていた。
Bの担当業務の遂行状況に問題はなく,Bの後任者も問題なく上記業務を遂行していた上,本件自死の直前の時点で,Bの業務は滞っていなか
った。したがって,Bの担当業務は,平均的な労働者にとって,特に困難なものではなかった。

なお,Bが決算業務の事実上の責任者の立場にあったという事実はない。また,Bは,新しい会計システムの検証作業段階からその運用に関与していたから,Bが同システムに不慣れであったとはいえない。さらに,平成23年法人税法改正によって貸倒引当金に関する業務が増加した事実も存在しない。

Bは,自己の担当業務について,前任者等に容易に相談することができる職場環境にあった。
Bの担当していた業務には,ノルマがなく,また,仮に過誤があっても修正が可能であるものが大半であった上,
外出や出張はほとんどなく,
人との折衝等によるストレスは強くなかった。

Bが,所定労働時間中に,業務外サイトに頻繁にアクセスしたり,私用に関するメールを送信したりしていたことからすると,Bの労働密度が高かったとはいえない。

小括
以上によれば,Bの業務による心理的負荷の程度は,客観的に本件疾病
を発病させるに足りるものであったとはいえないから,本件疾病の発病と業務との間の相当因果関係は認められず,本件疾病の結果発生した本件自死が業務に起因するものであるとはいえない。
第3
1
当裁判所の判断
認定事実
前提事実に加え,証拠(後掲各証拠,甲1,乙27,証人D)及び弁論の全趣旨を総合すると,以下の各事実が認められる。
本件部署の会計担当の業務等

人員配置等
Bが在籍していた当時,本件部署の会計担当の従業員は,年次が上の者から順に,E(部次長),F(主任。以下「F」という。),D(主
事補。平成5年入社。以下「D」という。),B(主務社員),G(主務社員。平成14年入社),H(主務社員。平成15年入社),I(社員。平成19年入社。以下「I」という。),J(社員。平成20年入社),K(社員。平成21年入社。以下「K」という。),L(社員。平成22年入社。以下「L」という。)であり,Dの座席はBの正面,
Iの座席はBの隣であった。
職制上,主任以上が管理職であり,DとBは,上司と部下ではなく,先輩と後輩の関係にあった。また,本件部署には,Bが決裁を行うような部下は存在しなかった。
Bは,本件部署に在籍していた当時,所定労働日はほぼ毎日,1時間
程度,本件部署の同僚ら(D,K,Lら)と一緒に,東京本社の近くの飲食店又は社員食堂で昼食を取っていた。また,東京本社に勤務する従業員が深夜まで勤務する場合,東京本社内のコンビニエンスストアや社員食堂で夕食を取ることが可能であり,Bが社員食堂で夕食を取ることもあった。

(乙19)

業務分担
Bが在籍していた当時の本件部署の会計担当の業務分担の状況は,別紙2「経理部(会計)業務分担表」のとおりである。


本件部署における決算業務等
本件部署において,会計担当は,月次及び年次の決算等の業務を行っている。
月次決算においては,年次決算と同様の形式及び基準により,貸借対照表,損益計算書等が作成される。年次の決算業務は,当該会計年度の
各月次決算を確定させた上で,
年次決算として取りまとめるものであり,
月次決算及び年次決算の双方で扱う事項のほか,年次決算においてのみ
扱う事項も存在する。
1年のうち本件部署の会計担当の業務が最も繁忙な時期は,年次決算の時期である3月下旬から4月20日頃までである。また,1月のうちでは,月次決算伝票を起票する10日前後,月次報告資料を作成する15日前後及び各残高照会を行う15日から25日までの間が繁忙な時期である。
本件経理システムは,本件会社の東京本社,支社及びグループ会社の企業活動を含む本件会社全体のあらゆる資金の出入りに関するデータを集計し,一元的に管理するコンピュータシステムであり,本件会社が独
自に開発し,本件会社の予算管理,決算作成及び税務申告に用いられている。
本件部署の会計担当は,各部署の経理担当者が本件経理システムを用いて作成し,経理局監査部が確認,修正した伝票について,再度,請求書等と照合してチェックをして一旦承認する。そして,本件経理システ
ム内で承認したデータを月単位で集計,管理し,同データと各部局が別途作成している残高表の数値に差異がないか検査し,差異がある場合には,各部局の経理担当者と連絡を取るなどしてその原因を特定した上で修正するといった手順で,月次の決算業務を行っている。売掛金についてこの決算業務を行う場合,各部局が作成している売掛金残高表との照
合作業は,本件経理システム内の売掛金の集計データを抽出し,エクセルファイル形式で出力した上で行うことになるが,この集計データと上記残高表の合計額が一致しない場合には,各部局の経理担当者に連絡を取りながら,本件経理システムを用いてその原因を特定し,修正を行う必要がある。なお,各部署が起票した伝票のうち,本件部署が承認して
いないデータは,本件経理システム内で閲覧,検索をすることはできるものの,エクセルファイル形式で抽出することはできない。

Bが本件部署に在籍していた当時,本件経理システムは,各日の午前1時から午前8時30分までの間のほか,日曜日及び祝日には,稼働していなかった。
(証人Iの供述書,証人Lの供述書)
Bの担当業務の内容等


Bの担当業務の概要
Bが,平成23年6月1日に本件部署に配属された後,同年度(同年4月から平成24年3月までの事業年度をいう。以下同様。)における月次又は年次の決算業務として担当していた主な業務の概要は,次のとおりで
ある。
売掛金・未収入金に関する業務(債権管理)は,月次に(毎月末),各原局(部署)が月ごとに作成している残高表と経理帳簿上の残高とを照合する作業を行い,年次決算でも同様の照合作業を行うものである。また,年次決算においては,月次で管理していない売掛金及び未収入金
の管理に関する業務も存在する。
販売局に関する業務(収支管理)は,毎日,販売局に帰属する伝票を確認し,月に一度,損益計算書の根拠となる収支表を作成した上,年次でも収支管理を行うものである。なお,販売局の収支管理のうち,立替金(奨学金)については,月次に原局の帳簿との残高照会作業を行うほ
かは,年次決算業務として,奨学金に関する立替金,未収入金及び預り金の残高照会及び伝票起票を行う。
貸倒引当金に関する業務は,売掛金・未収入金に関する業務に付随して生じる業務として,年次決算においてのみ行われるものである。そのうち,貸倒引当金の一括評価は,保有債権額と貸倒実績率(過去3年間
において貸し倒れた割合)をそれぞれ確定させた上で,これらを掛け合わせて算出するもの(正常債権の処理)であり,個別評価は,債権が発
生した部署の担当者に債務者の状況を確認しながら,個々の債権について貸し倒れリスクを評価するもの
(滞留債権,
不良債権の処理)
である。
事業税に関する業務は,各自治体への納税額を本件経理システムに入力した上,伝票を起票するものである。事業税額の算出は,決算で本件会社の所得が確定した後に行われるものであり,
事業税に関する業務は,

年次決算においてのみ処理されていた。
(証人Iの供述書)

Bの担当業務の引継ぎ等
Bの本件部署における主な担当業務のうち,事業税に関する業務以外の業務は,
Dから引き継いだものであり,
事業税に関する業務は,(平
M
成13年入社)から引き継いだものである。なお,事業税に関する業務のMの前任の担当者はIであった。
Dは,平成23年3月期(平成22年度)の決算業務として,法人税に関する業務も担当していたが,平成23年度の決算業務においては,同業務の負担の大きさを考慮して,Bではなく,FがDから同業務を引
き継いだ。
Dは,Bが本件部署に配属された後,Bに対し,売掛金及び未収入金に係る作業手順書を交付するとともに,日次の業務については平成23年6月1日から,月次の業務については同月15日頃,作業の手順を教えなが

Bの本件自死後,平成24年度の決算においては,Kが,平成23年度の決算におけるBの担当業務を引き継いだ。

本件自死の時点におけるBの業務の進捗状況
本件自死の時点において,Bが担当していた平成24年3月期の決算業
務のうち,①貸倒引当金の取崩しと繰入れを行って伝票を起票する作業,②奨学金に係る立替金,未収金及び預り金の残高照会及び伝票の起票を行
う作業並びに③事業税額を算出し,納税充当金の金額を確定させる作業が未達成であったが,その他の業務は全て完了しており,その後に問題が生じたこともなかった。また,上記①から③までについても,各作業の通常の進行に照らすと,本件自死の日の前日である同年4月18日までに行うべき作業はほぼ完了しており,Bの作業が遅れていたということはなく,
その後,これらの作業を完遂するに当たり問題が生じたこともなかった。エ
本件会社におけるシステムの変更等
本件会社の販売局では,平成22年7月から,販売店宛ての売上げ,補助,諸口取立て等を管理するための新しいシステム(以下「本件販売請求システム」という。)の開発が行われ,平成24年1月から同年2月まで
試験運用を行って,本件経理システムとの連動にも問題がないことを確認した上,同年3月,同システムの運用が開始された。本件販売請求システムの運用開始により,販売店に対する補助金の支払状況に係る明細表を作成する際,それまでは,紙媒体で出力して照合した上で,自己のパソコンに手動で数値を入力していたデータを,同システムからパソコンに取り込
むことが可能となった。本件販売請求システムの運用開始後,同システムについて,大きな問題が生じたことはない。
Bは,本件部署において,販売局及び売掛金に関する業務を担当していたことから,本件販売請求システムの上記試験運転における検証作業に携わっており,また,その運用開始後は,上記業務について同システムを使
用していた。
(乙8)

平成23年法人税法改正による変更等
平成23年法人税法改正により,本件会社については,平成24年度以
降,貸倒引当金制度(法人が,その有する金銭債権の貸倒れ等による損失の見込額として,
損金経理により貸倒引当金勘定に繰り入れた金額のうち,

貸倒引当金の繰入限度額に達するまでの金額を税務上の損金額に算入することができる制度)が,リース債権等一定の債権を除き,適用されないことになった。もっとも,同改正については,経過措置が設けられており,平成24年度から平成26年度までについては,それぞれ,同改正前の規定により計算した貸倒引当金繰入限度額の4分の3,4分の2及び4分の
1を繰入限度額として,損金算入することができるものとされた。(甲6から8まで,乙28から30まで)
本件部署に配属されるまでのBの経歴等

Bは,平成11年3月にN大学経済学部を卒業し,同年4月に同大学大学院に進学した後,平成14年4月,同大学院を中退し,本件会社に入社
した。

Bは,本件会社に入社後,平成14年10月1日から平成17年9月30日まで,東京本社の経理局監査部に在籍していた。同部の業務は,各部署の経理担当者が起票した伝票について,税務申告及び会計基準の観点から確認を行い,確認後の伝票を本件部署に回すというものである。

Bは,平成17年10月1日から平成20年5月31日まで,北海道支社総務部経理課において経理関係業務に従事し,その間の各年度の決算業務も担当していた。同業務には,同支社全体の貸借対照表や損益計算書を作成して支社長に報告する業務が含まれていたほか,Bは,子会社の法人税,事業税及び住民税に係る納税申告業務も行っていた。


Bは,平成20年6月1日から平成23年5月31日まで,東京本社の経理局管財部において,不動産管理業務のほか,東京本社の建物の建替えに伴う一時移転に関する業務も担当していた。また,Bは,同部の経理担当(本件部署との窓口)でもあった。
Bのウェブサイトへのアクセス状況等


Bは,Bのパソコンを用いて,ウェブサイトにアクセスすることがあっ
たところ,平成24年3月20日から同年4月19日までの期間におけるウェブサイトへのアクセスの状況は,別紙3「アクセス状況一覧表」のとおりである。同一覧表記載のウェブサイトへのアクセス記録のうち,網掛けしたものが,業務外サイト(税務関係のウェブサイト以外のウェブサイト)へのアクセスである。

(乙10)

Bは,所定労働日である平成24年3月29日の午後1時47分及び同日午後1時51分に,それぞれ,Bのパソコンを用いて,同僚らに対し,同年5月のゴルフの日程等を知らせるメールを送信した。
また,Bは,同年4月11日,東京本社の広告局に配属された従業員の
歓迎会
(同月19日午後6時30分開始)
への出欠を尋ねるメールに対し,
決算業務で厳しい状態であるため欠席する旨記載したメールを返信している。
本件会社における労働時間の管理等

本件会社の出退勤時間の管理は,本人の申告によって行われているところ,本件部署では,パソコンの共有フォルダ内に保存されているエクセルファイルに,従業員が各自で業務終了の時刻を入力する方法が採られている(以下,この入力結果を「勤怠報告」という。)。

イ少なくとも平成24年1月4日から同年4月19日までの期間について,Bが当時の東京本社の建物に入館した時刻及び同建物から退館した時刻が
記録されている
(以下,
各日について最初に入館した時刻を
「入館時刻」

最後に退館した時刻を「退館時刻」といい,これらの時刻の記録を「本件入退館記録」という。)。
(乙19)

Bのパソコンは,電源を入れると同時に,ウィンドウズが起動し,ログイン画面が表示される。その後,Bが同パソコン付属のカードリーダーに
社員証を挿入し,識別情報(ID)及びパスワードを入力してログインすることにより,同パソコンの使用が可能となる。
また,上記カードリーダーから社員証を抜去するか,パソコンの電源を切ることにより,ログアウトされることになるが,電源を切らない限り,ログアウトをしてもウィンドウズは起動したままになる。

(乙17)

Bは,平成20年5月から本件マンションに居住しており,本件マンションと東京本社との間の通勤時間は,四,五十分程度であった。

(乙20)
本件に関する専門部会の意見

本件に関する東京労働局地方労災医員協議会精神障害専門部会の意見書には,本件自死の業務起因性について,労働基準監督署の調査結果によると,Bの時間外労働時間数は,本件疾病発病前2か月目は32時間であったのに対し,同1か月目は80時間を超えており,これは,「仕事内容・仕事量の(大きな)変化を生じさせる出来事があった」との出来事に該当するが,業
務時間中に業務外サイトに頻繁にアクセスしており,明らかに休憩や休日を確保することが困難な状況であったとはいえないことから,同出来事による心理的負荷の強度は「中」程度と判断され,本件は業務外として処理するのが適当である旨の意見が記載されている。
2
争点に対する判断
業務起因性の有無の判断基準

労災保険法に基づく遺族補償年金又は葬祭料は,労働者が業務上死亡した場合に支給されるものであるところ
(同法12条の8第1項4号,
5号,
同条2項,労働基準法79条,80条),労働者の死亡が業務上のものと
いうためには,業務と当該死亡との間に相当因果関係が認められることを要する(最高裁昭和51年11月12日第二小法廷判決・裁判集民事11
9号189頁参照)。また,上記の相当因果関係の有無は,当該死亡の結果が,当該業務に内在する危険が現実化したものであると認められるか否かによって決せられるべきである(最高裁平成8年1月23日第三小法廷判決・裁判集民事178号83頁,最高裁平成8年3月5日第三小法廷判決・裁判集民事178号621頁各参照)。

なお,精神障害により正常な認識,行為選択能力が著しく阻害され,又は自死行為を思いとどまる精神的な抑制力が著しく阻害されている状態に陥った結果,自死に至った場合には,労働者の故意による死亡(労災保険法12条の2の2第1項)には当たらず,精神障害発病自体に業務起因性が認められれば,その自死は,原則として,「業務上の死亡」と認められ
るというべきである。

ところで,証拠(乙1,4,6)によれば,今日,精神障害の発病に関する精神医学的知見としては,環境由来のストレスと個体側の反応性,脆弱性との関係で精神的破綻が生じるかどうかが決まるという「ストレス-脆弱性」理論が広く受け入れられていることが認められる。このことから
すれば,業務による心理的負荷の有無及び程度と,業務以外の要因による心理的負荷及び個体側の要因とを総合考慮した上で,業務による心理的負荷が,一般に精神障害を発病させるに足りる程度のものであるといえる場合に,当該業務に内在する危険が現実化したものとして,当該精神障害発病の業務起因性を肯定するのが相当である。


そして,前掲各証拠によれば,平成23年11月8日に取りまとめられた「精神障害の労災認定の基準に関する専門検討会報告書」は,専門家によって構成された専門検討会が,近時の医学的知見,それまでの労災認定事例,裁判例の状況等を踏まえて,従前の判断指針が依拠する「ストレス
-脆弱性」理論を相当として,引き続きこれに依拠し,従来の考え方を維持しつつ,業務による心理的負荷の評価基準の改善と審査方法等の改善を
提言したものであることが認められるところ,厚生労働省は,同報告書を踏まえて,同年12月2
もとより,認定基準は,その法的性質において,判断指針と同様,裁判所による判断を直接拘束するものではないが,その作成経緯及び内容に照らすと相応の合理性を有するものであるといえる。

したがって,
精神障害発病の業務起因性の有無を判断するに当たっては,
基本的には認定基準を踏まえ,これを参考にしながら,当該労働者に関する精神障害発病に至るまでの具体的事情を総合的に斟酌して,当該精神障害の発病が当該業務に内在する危険が現実化したものと認められるか否かを判断すべきである。そして,当該業務が当該精神疾患を発病させる危険
性を有していたか否かは,同種の平均的な労働者を基準として判断するのが相当であるところ,そこには,同種の労働者の性格傾向の多様さとして通常想定される範囲内において,一定の個体側の脆弱性を有する者も含まれるものと解される。
以上を前提に,以下,時間外労働時間数及び業務の質的過重性の両側面
から,Bの業務が本件疾病を発病させる危険性を有していたか否か,検討する。
Bの時間外労働時間数

所定労働日における業務の開始及び終了の時刻並びに休憩時間について本件部署における会計担当の業務及びそのうちBが担当していた業務の各内容等(前記1

Bの業

務は,基本的に,Bのパソコンを用いて行うものであったといえる。そうすると,Bは,一日の業務を開始する際にBのパソコンを起動し,業務を終了した際に同パソコンを終了したものと考えるのが合理的であるBのパソコンの起

動及び終了の各時刻を記録したものといえるから,所定の労働日におけ
るBの業務開始及び終了の各時刻は,それぞれ,各日についてのパソコン起動記録の最初及び最後の各記録に係る時刻であると認めるのが相当である。なお,平成24年4月14日午前9時33分の起動の後,同月15日午後11時35分の終了までの間は,パソコン起動記録が存在しないが,乙第19号証によれば,同月14日に係るBの退館時刻は同月15日午前3時29分であり,
Bが同日午前3時25分までBのパソコンを使用していたことが認められるから,同月14日の勤務に係る業務終了の時刻は,同月15日午前3時25分であると認められる。また,同月15日に係るBの入館時刻
は午後0時24分であるところ,同年1月4日から同年4月18日までの期間の各日におけるBの入館時刻からBのパソコンの起動時刻までの時間的間隔(甲1,乙19)に照らすと,同月15日の勤務に係る業務開始の時刻は,午後0時27分と認めるのが相当である。
所定の労働日における休憩時間について

によれば,

各日(ただし,業務の終了時刻が午前11時47分である同年3月21日を除く。)とも昼食時間帯に1日当たり所定の1時間の休憩を取ることができていたと認められ,また,業務終了の時刻が午後10時以降である日については更に30分の休憩を取っていたものとみるのが合理的である。

以上によれば,本件疾病発病前3か月間の所定の労働日におけるBの業務の開始及び終了の時刻は,別紙4労働時間集計表の「労働時間」欄(公休出社日である平成24年2月の5日,11日及び18日,同年3月の3日,20日及び24日並びに同年4月の8日及び15日に係る欄を除く。)中の「始業」欄及び「終業」欄記載の各時刻となり,また,
各日の休憩時間は,同表の「一日の休憩時間数」欄(公休出社日に係る欄を除く。)記載の各時間となる。

これに対し,原告は,Bの業務開始及び終了の各時刻については,それぞれ,入館時刻及び退館時刻とすべきであると主張する。
しかし,上記のBの担当業務の内容に加え,証人I及び同Lが,平成24年4月当時,一般に,パソコンを終了した後にできる業務はなかった旨それぞれ供述していることに照らすと,Bが,Bのパソコンを起動するよりも前に業務を開始し,又は同パソコンの終了の後も業務を行っていたものとは認められない。
他方,被告は,Bの業務開始時刻は,所定始業時刻である午前9時30分とし,また,業務終了時刻は,勤怠報告を行っている日については
勤怠報告上の終業時刻とすべきであると主張する。
しかし,Bのパソコンの起動時刻が午前9時以前である日もあることBが,同パソコンを起動した後,午
前9時30分まで業務を一切開始していなかったものとは考え難い。また,Bの本件自死後に実施されたアンケートにおいて,本件部署の同僚
が,Bについて,平成24年4月18日の週は朝早く来て仕事をしていた旨記載していること(甲1)からも,Bが所定始業時刻より前に業務を開始していたことがあると認められる。なお,同証拠によれば,厚生労働事務官による事情聴取に対し,
経理局次長兼経理部長であったOは,
Bが本件部署に在籍していた当時,Bは,出社後,所定始業時刻までゆ
ったり過ごしていた印象である旨を,Dは,Bが極端に早出して業務に取り組んでいた様子はない旨を,それぞれ述べていることが認められるものの,前者は印象を述べるものにすぎず,また,後者は,そもそも,Bが所定始業時刻より前に業務を開始していなかった旨を述べたものとはも
のではない。
また,
勤怠報告上の終業時刻は,
B自身が申告したものではあるが
(前

。ただし,平成24年4月12日以降分については,パソコン
起動記録を基に本件会社が記入した〔甲1〕。),証拠(甲1,乙19)によれば,その時刻が退館時刻よりも2時間以上前であるものも一定数あるほか,
退館時刻より30分以上後のものも複数存在しており,
また,
Dが,上記事情聴取において,勤怠報告の方法について,Bは終業時刻
を何日分かまとめて入力していたと思う旨述べていることにも照らすと,Bに係る勤怠報告上の終業時刻は,実態を正確に反映したものとはいい難いから,その時刻をもってBの業務終了時刻であるということはできない。

業務外サイトへのアクセス時間について
B
少なくとも業務外サイトを

閲覧していた間,Bは業務を行っていなかったものと考えられるから,その時間については,
Bが業務を開始してから終了するまでの間であっても,
労働時間ということはできない。
B
本件疾病発病前1か月間において,Bがアクセスしていた業務外サイトには,各種チケットを購入するためのもの,ゴルフ場の予約を行うためのもの,サッカーチームに関するブログ,音楽グループの公式サイト及びファンサイト,
ニュースを提供するもの等が含まれており,
これらについては,

アクセスごとに,一定時間閲覧していたものと考えられる。また,Bがアクセスしていたウェブサイトには,野球やサッカーの試合の状況の速報を自動更新で表示するウェブサイトも多く含まれていたことがうかがわれるが,これらについても,随時閲覧するために表示したままにしていたものと考えられるから,直ちにその閲覧時間が短いものであったということは
できない。
そして,
各業務外サイトの内容,
アクセスの頻度等に照らすと,
各アクセスにつき閲覧時間が1分であるとすることには相応の合理性があ
るといえ,これによれば,本件疾病発病前1か月間のBの業務外サイト閲覧時間は,別紙4労働時間集計表(No.1)の「一日の閲覧時間数」欄記載の各時間となる。したがって,少なくとも,この閲覧時間を本件疾病発病前1か月間のBの労働時間から控除するのが相当である。

公休出社日について
前記ア(別紙4)によれば,平成24年2月以降,所定の労働日におけるBの業務の終了時刻が午後10時以降である日が相当数あり,特に,
公休出社日の前後は,業務終了時刻の遅い日が多く,同年4月9日以降は連日午後11時を超えている。そして,これらのBの業務終了時刻が
遅くなっている時期は,本件部署の会計担当の繁忙期
と矛盾しない。また,本件マンションから東京本社までの通勤には四,五十分程度を要することに照らせば,行うべき業務が全くないにもかかわらず,公休日にそれだけの時間をかけて出社したとは考えにくい。そうすると,Bには,公休出社日に行うべき業務が一定程度あったものと
推認できるというべきである。
この点,被告は,本件経理システムが日曜日及び祝日に稼働していなかったこと

)から,公休出社日にBが業務を行うことは

できなかったと主張する。
しかしながら,まず,土曜日は,本件経理システムが稼働していたのであるから,土曜日である公休出社日(同年2月11日,同月18日,同年3月3日及び同月24日)については,被告の主張する上記の理由で業務を行うことが可能であったものである。
また,

本件経理システムが稼働して

いない時であっても,同システム内のデータを事前にエクセルファイル形式で出力しておくこと等により,Bの業務の一部を行うことが可能であったと認められる。したがって,日曜日又は祝日である公休出社日に
すに足りるものではないというべきである。
また,被告は,Bの自宅である本件マンションの地下1階では,Bが居住していた当時から,ライブハウスの営業が行われており,Bは,そこでのライブや観客の声等の騒音を避けるために,公休日に出社して業務外サイトを閲覧していた蓋然性が高いと主張するところ,証拠(乙20から25まで)
及び弁論の全趣旨によれば,
Bが,
平成21年2月頃,
管理会社に対し,
上記ライブハウスからの騒音について苦情を申し立て,
同年6月頃には,賃料の減額を求めて実際に賃料が5000円減額され
たこと,公休出社日には,いずれも,上記ライブハウスにおいてライブが開催されていたことがそれぞれ認められる。
しかし,証拠(甲1,乙20,25)によれば,平成23年10月22日から同年12月31日までの間の土曜日,日曜日及び祝日には,いずれも,上記ライブハウスでライブが開催されていたにもかかわらず,
同月24日を除き,Bのパソコンに係るパソコン起動記録が存在しないことが認められ,このことからすると,Bが,各公休出社日に,騒音等を避けるためだけに出社していたとは考え難い。
以上によれば,Bには,公休出社日に出勤すべき業務上の必要があったものと認められる。そうすると,公休出社日におけるBの業務は,少
なくとも本件会社の黙示の指示に基づき,その指揮監督下で行われたものといえるから,公休出社時間は,当該業務の遂行時間の限度で,労働時間に当たるというべきである。
そして,公休出社日における業務についても,前記ア及びイで説示したところと同様に考えることができるから,各公休出社日におけるBの
業務開始及び終了の各時刻は,各日におけるBのパソコンの最初の起動及び最後の終了の時刻とし,業務外サイトへのアクセス時間は,1回の
アクセスにつき1分として,労働時間から控除するのが相当である。なお,各公休出社日における休憩時間については,所定労働日における休憩時間と同程度にとどまらない可能性もあるが,一応,所定労働日と同様に,午前に業務を開始し,午後に終えた場合は1時間,業務終了時刻が午後10時以降の場合は30分の各休憩を取ったものとするのが合理
的である。そうすると,各公休出社日におけるBの業務開始及び終了の各時刻並びに休憩時間並びに本件疾病発病前1か月間の公休出社日におけるBの業務外サイトへのアクセス時間は,それぞれ,別紙4労働時間集計表の各公休出社日に係る「労働時間」欄中の「始業」欄,「就業」欄,「一日の休憩時間数」欄及び「一日の閲覧時間数」欄に各記載のと
おりとなる。

小括
以上によれば,Bの労働時間数は,別紙4労働時間集計表のとおりとなり,本件疾病の発病前3か月間におけるBの時間外労働時間数は,次のとおりとなる。

発病前1か月目

113時間13分

発病前2か月目

64時間58分

発病前3か月目

77時間31分

Bの業務の質的過重性

業務内容等について
本件部署でBが担当していた主な業務は,月次及び年次の決算に係るイB
は,平成14年10月1日から平成17年9月30日まで,各部署の経理担当者が起票した伝票について税務申告及び会計基準の観点から確認を行う業務を担当する部署である経理局監査部に在籍していた上,同年10月1日から平成20年5月31日まで,北海道支社において,同支
社全体の貸借対照表や損益計算書の作成,支社長への報告を含む3年度分の決算業務を担当し,また,子会社の法人税,事業税及び住民税に係る納税申告業務も行っていた。これらの職務経験を考慮すると,東京本社と北海道支社の各決算業務の規模の相違に起因する違いはあるとしても,Bは,本件部署に配属される前に,本件部署での業務と同種の業務について相応の経験及び知識を有していたといえる。
他方で,本件部署におけるBの担当業務は,平成22年度の決算業務においては,事業税に関する業務を除き,いずれも,Dが前任者として担当していたものであり,また,Dが同年度に担当していた法人税に関
する業務は,
その負担の大きさに鑑み,
Bに引き継がれていない。
また,
平成24年度の決算業務においては,平成21年入社のKが,Bの上記
平成23年度の決算業務における本件部署の会計担当の業務の分担状況が別紙2のとおりであること,証人I及び同Lが,いずれも,Bの担当業務の内容は,同人の年次及び経験からすると,困難度が高いものとはいえない旨述べていること並びに本件自死の時点でBの担当業務についにも照らすと,B
の担当業務が,その量及び内容の点で,本件部署の会計担当の他の従業員の業務と比較して相対的に負担の大きいものであったとはいい難い。
また,

Bの担当業務のうち,売掛金・

未収入金に関する業務(月次で管理していないものを除く。)並びに販売局に関する業務(奨学金に係る立替金,未収入金及び預り金の残高照会及び伝票起票を除く。)は,月次での取りまとめが行われており,年次での業務は,それを踏まえて行われるものといえるから,年次決算の時期に初めて扱う業務ではない。
さらに,

Bが本件部署に在籍していた際,D及

びIは,Bと隣接した座席で業務を行っており,Bとこれらの者との人間関係に問題があったこともうかがわれないから,Bは,自己が担当する業務について,その前任者又は前々任者に容易に質問等をすることができる環境にあったといえる(なお,甲第1号証によれば,事業税に関する業務の前任者であるMも,
その当時,
経理局監査部に在籍しており,
本件部署の隣の区画で業務を行っていたことが認められる。)。実際のDからBへの業務引継ぎ時の状況

)からも,引継ぎ後,

Bが円滑に決算業務を遂行できるよう配慮されていたことがうかがわれる。
以上の各事情に鑑みると,本件部署におけるBの担当業務は,それが
Bにとって初めての東京本社の決算業務であったことを踏まえても,Bと同種の平均的な労働者にとって,その遂行に当たり,特に困難を伴うものであったり,
多大な労力を要するものであったりしたとはいえない。
原告の主張について
a
原告は,Bが,本件部署に異動するまで,決算業務にブランクがあったことから,本件部署における決算業務は,Bにとって負担が大きいものであったと主張する。
しかし,Bが東京本社の経理局管財部に在籍していた期間は3年間にすぎず,その前の2年7か月間,北海道支社で決算業務に従事して
いたことに加え,更にその前の3年間は東京本社の経理局監査部に在籍していたこと,上記の管財部在籍中は,同部の経理担当であったこBは,本件部署における決算業務を
遂行するに当たり,それまでの経験(特に北海道支社での業務経験)を生かすことができたものと考えられるから,原告の主張する程度の
ブランクがあったことによって,Bにとって本件部署における業務の負担が特に大きいものであったということはできない。なお,Bの本
件自死後に,
本件部署の従業員らに対して行われたアンケート
(甲1)
によれば,Bが,本件部署への異動後に,久しぶりの会計業務で不安がある旨や,初めての決算業務で緊張している旨を述べていたことがうかがわれるが,これらの発言がされた時期や具体的な状況は明らかでないから,これらの発言が,Bにとっての本件部署における業務の
負担の大きさを基礎づけるものと評価することはできない。
b
原告は,平成23年法人税法改正により,同年度の決算業務においては,同改正を踏まえて貸倒引当金の処理をしなければならなかったため,Bの業務の負担は大きいものであったと主張する。

同改正(経過措置を含む。)による変更点は,平成24年度から平成26年度まで,貸倒引当金勘定に繰り入れた金額のうち損金算入をすることができる額が,それぞれ,同改正前の規定により計算した貸倒引当金繰入限度額の4分の3,4分の2及び4分の1と逓減し,平成27年度以降は上記損金算入ができないことになるというものであり,貸倒引当金の計上について,従前とは異なる作業が必要となるものではないと解される(なお,甲第7号証によれば,平成24年3月期で貸倒引当金を計上しなかった場合,上記経過措置の適用はないとされているが,これは,同月期に会計基準を変更して貸倒引当金を計上し
ないことにした場合について述べたものであり,従前から貸倒引当金を計上していた場合に,上記経過措置の適用を受けるために,別途,特に貸倒引当金を計上しなければならないということをいうものではない。)。そして,平成23年法人税法改正によって,本件部署の決算業務において,増えた業務も,締切りが前倒しになった業務もない
旨の証人Dの証言にも照らすと,Bが担当していた貸倒引当金に関する業務の内容について,
同改正による影響があったとは認められない。

したがって,平成23年法人税法改正を踏まえた貸倒引当金の処理のためにBの業務の負担が大きいものであったとはいえない。
c
さらに,原告は,本件会社でシステムの変更があり,Bは,慣れないシステムの下で決算業務を行うことになったため,強い心理的負荷を受けていたと主張するところ,確かに,Bは,平成24年3月に運
用が開始された本件販売請求システムを用いて,決算業務を行っていた
しかし,Bは,本件販売請求システムの試験運転にも関与している上,同システムの運用開始後,大きな問題が生じたことはなく,かえって,データの入力作業が容易になったことがうかがわれること(前
り,Bの業務の負担が増加したとは認められない。
d
なお,原告は,Bが決算業務の事実上の責任者であった旨主張するが,本件全証拠によっても,Bがそのような立場にあったとは認められない。


労働密度等について
B
れば,本件疾病発病前1か月間の労働日のうち,業務外サイトの閲覧時間が30分程度に及ぶ日が相当数あり,特に,公休出社日である平成2
4年3月20日,
同月24日及び同年4月8日のほか,
同年3月28日,
同年4月7日及び同月14日については,業務外サイトの閲覧時間が1時間を超えている。このような業務遂行状況に鑑みると,本件疾病発病前1か月間の労働日においては,業務外サイトにアクセスしている時間以外の時間についても,Bの労働に係る労働密度は,労働時間の長さに
相応する程度に高いものであったとはいい難く,とりわけ,上記の各日における労働密度は低いものであったといわざるを得ない。なお,前記
野球やサッカー
の試合の状況の速報を自動更新で表示するウェブサイトが相当数含まれていたとしても,
そのことは上記の評価を直ちに左右するものではない。
また,Bが,所定労働日につき,少なくとも1日1時間の休憩を取るり,各公休出社日に

ついても,少なくとも,所定労働日と同様の休憩を取ることができていのとおりである。
本件疾病の発病の業務起因性

認定基準を基に,原告の業務による出来事
に起因する心理的負荷の強度について検討する。
Bの時間外労働時間数は,本件疾病発病前1か月
目が113時間13分,同2か月目が64時間58分,同3か月目が77時間31分であるから,時間外労働時間は長かった上に,発病前の1か月に急増しているから,「仕事内容・仕事量の(大きな)変化を生じ
させる出来事があった」場合には該当するものといえる。
しかし

Bの業務の量及び内容,本件部署に配属される

までの経験並びに本件部署における職場環境等に照らすと,年次決算業務による繁忙期であったことを考慮しても,本件疾病発病前1か月間において,Bの労働時間の増加に相応するだけの業務量の増加や業務内容の困難化があったとはいい難いから,「仕事量が著しく増加」した場合には該当しないし,過去に経験したことがない仕事内容に変更となり,「
常時緊張を強いられる状態となった」場合に当たるということもできない。そうすると,本件疾病発病前1か月目の時間外労働時間数が100時間を超えていることを考慮しても,上記の出来事による心理的負荷の
強度は「中」にとどまるというべきである。
また,

は一定の限度で労働時間と評価すべきであるから,Bは,平成24年4月2日から同月18日まで連続で勤務を行ったことになり,
これは,
「2
週間(12日)以上にわたって連続勤務を行った」場合に該当し,その平均的な心理的負荷の強度は「Ⅱ」である。
もっとも,

Bの労働

時間数は3時間18分にすぎない上,前記

上記期間に

おけるBの労働密度は高いものであったとはいい難く,同月7日,同月8日及び同月14日は,労働密度が特に低かったことを踏まえると,上記出来事による負荷の強度は「弱」にとどまるというべきである。以上によれば,Bの業務による心理的負荷の強度の全体評価は「中」
となり,他にBの業務による心理的負荷が「強」となることを基礎づける事情を認めるに足りる証拠はない。

以上の認定判断によれば,Bの業務による心理的負荷が,Bと同種の平均的な労働者を基準として,一般に精神障害を発病させるに足りる程度のものであったとは認められない。そうすると,本件疾病の発病は,本件会
社におけるBの業務に内在する危険が現実化した結果であるということはできず,その業務起因性は認められないから,本件自死の業務起因性も認めることができない。
よって,Bの本件自死について,業務上の事由によるものに当たらないとして,遺族補償年金及び葬祭料をいずれも支給しないこととした本件各
処分は,いずれも,違法であるということはできない。
第4

結論
以上によれば,原告の請求はいずれも理由がないから棄却することとして,主文のとおり判決する。

福岡地方裁判所第5民事部

裁判長裁判官

岡田健
裁判官

柵木澄子
裁判官

大塚真史
トップに戻る

saiban.in