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特許権に基づく差止等請求控訴事件 特許権 民事訴訟
事件番号平成30(ネ)10018
事件名特許権に基づく差止等請求控訴事件
裁判年月日平成30年7月19日
法廷名知的財産高等裁判所
原審裁判所名東京地方裁判所
原審事件番号平成29(ワ)5074
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平成30年7月19日判決言渡
平成30年(ネ)第10018号

特許権に基づく差止等請求控訴事件(原審


京地方裁判所平成29年(ワ)第5074号)
口頭弁論終結の日

平成30年5月22日
判控決訴人
同訴訟代理人弁護士

大洋化学株式会社

一成田俊明猿訴田恩控本戸被山渡馨人有
同訴訟代理人弁護士

笠原基広坂生雄一中村京子保敦子田主限俊久会社寿文1
本件控訴を棄却する

2
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由

第1

控訴の趣旨

1
原判決を取り消す。

2
被控訴人は,原判決別紙被告製品目録記載の各自動麻雀卓を生産し,譲渡
し,貸し渡し若しくは輸入し,又は生産,譲渡,貸渡し若しくは輸入の申出をしてはならない。
3
被控訴人は前項記載の各自動麻雀卓を廃棄せよ。

4
被控訴人は,控訴人に対し,408万円及びこれに対する平成29年2月22日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金を支払え。
第2
1
事案の概要等(略称は原判決のそれに従う。)
本件は,名称を「自動麻雀卓」とする発明に係る特許権(特許第4367956号。「本件特許権」又は「本件特許」)を有する控訴人が,原判決別紙被告製品目録記載の各自動麻雀卓(各被告製品)は本件特許の請求項1に係る発明(本件発明)の技術的範囲に属すると主張して,被控訴人に対し,特許法100条1項及び2項に基づき,各被告製品の輸入,販売等の差止め及び各被告製品の廃棄を求めるとともに,民法709条に基づき,損害賠償金408万円及びこれに対する不法行為の日以後である平成29年2月22日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。

2
原判決は,各被告製品は本件発明の技術的範囲に属しないとして控訴人の各請求をいずれも棄却したため,これを不服とする控訴人が控訴した。
3
前提事実
前提事実は,原判決「事実及び理由」「第2

事案の概要」「1

前提事実」

(原判決2頁11行目から4頁9行目まで)に記載のとおりであるから,これを引用する。
4
争点及び争点に関する当事者の主張
本件における当事者の主張は,後記5のとおり当審における補充主張を付加し,後記6のとおり当審における追加主張を付加するほかは,原判決「事実及び理由」「第2

事案の概要」「2

7行目まで)及び「3

争点」(原判決4頁10行目から同頁1

争点に関する当事者の主張」(原判決4頁18行目か

ら13頁9行目まで)に記載のとおりであるから,これを引用する。5
当審における補充主張
(1)

争点1(各被告製品が構成要件Iを充足するか否か)について

(控訴人の主張)

本件発明の構成要件I及び構成要件Kの技術的意義につき,吸着面か
らはみ出た牌の部分に案内部材を当接させることによって牌の向きを揃えることにあるとする原判決の解釈は誤りである。
すなわち,本件明細書には吸着面の幅を利用して牌の方向を吸着面上で揃えるという技術的思想は明示されておらず,吸着面から「はみ出た」牌の部分に案内部材を当接させて牌の向きを揃えることを前提とする構成要件Gの解釈は,実施例の一つに過ぎない本件明細書の記載(段落【0033】の「はみ出た側面」)を過剰に重視するものである。このような解釈は,本件明細書の図10の案内部材501が円筒回転体及び吸着面の外側の軌道より相当内側に食い込み,吸着面からはみ出ない牌の向きをも揃える構成を示していることにも反する。
また,磁石と案内部材の位置・角度・形状等が適切に設計されていれば,吸着面の幅に関わらず案内部材を接触させることによって牌の向きを揃えることができるから,「牌の横幅ほどの幅」から牌の縦幅に近似する幅を除外する構成要件Gの解釈は不当であり,このような解釈は,本件明細書の段落【0009】の「円筒回転体の幅は牌の縦幅と略等しい寸法でよく」との記載に反する。

特許請求の範囲及び本件明細書の記載や「吸着面」の目的や機能に照らせば,構成要件Iの「牌の横幅ほどの幅」の技術的意義は,牌を撹拌機構の中から吸着可能な幅で,かつ,自動麻雀卓における牌の汲上機構をコンパクトにできる範囲の幅という点にあり,「横幅ほど」との表現は「縦幅」を除外する趣旨で設けられたものではなく「機構自体を小型に」
することを象徴的に述べたものに過ぎない。そして,牌を撹拌機構の中から吸着可能な幅とは,牌を撹拌機構から安定的に吸着して汲み上げるという汲上機構の機能を果たすために,吸着面の幅が牌の横幅ほど以上であることが求められることを意味する。したがって,「牌の横幅ほどの幅」とは,「撹拌機構から牌の磁力による吸着が安定的に可能である最小限の幅以上で,かつ,機構全体の小型化を阻害しない程度の幅」を意味する。
(被控訴人の主張)
各被告製品が構成要件Iを充足しないとした原判決の判断に誤りはない。(2)

争点2(各被告製品が構成要件Kを充足するか否か)について

(控訴人の主張)

本件発明が吸着面からはみ出た牌の部分に案内部材を当接させること
によって牌の向きを揃えるとの技術的思想に基づくものであるという解釈が誤りであることは上記(1)(控訴人の主張)ア記載のとおりであり,これを前提に構成要件Kの意義を解釈するのは相当ではない。

本件特許の課題は「攪拌装置から牌を取り上げ,形成・供給機構に供給する機構を簡単にし,機構自体を小型にし,自動麻雀卓をコンパクトで経済的にする」ことにある(段落【0007】)ところ,吸着面を牌の横幅以上とし,案内部材を吸着面の外側の軌道よりも内側に配置しても,機構の小型化という課題の解決を阻害することはない。また,本件明細書の図10及び図11に,案内部材を吸着面の外側の軌道の外側に配置する構成,内側に配置する構成,及び吸着面の外側の軌道と案内部材の内壁が完全に平行でない構成が開示されている。
したがって,「吸着面の外側の軌道に沿って配設した案内部材」とは,吸着面の外側の軌道と略平行で,牌の向きを揃えられる程度の距離に位置する案内部材であり,その位置が吸着面の外側の軌道の外側であるか
内側であるかは問わないものと解すべきである。
(被控訴人の主張)
構成要件Iについての解釈を前提とすると,構成要件Kの「吸着面の外側の軌道に沿って配設した案内部材」とは,案内部材の少なくともその一か所について,その内壁面が吸着面の外側の軌道と平行になって,かつ,吸着面の幅と吸着面の一側端から案内部材内壁面の幅が等しくなるような位置に配設されることを要する。
(3)

争点3(各被告製品が構成要件Lを充足するか否か)について

(控訴人の主張)
構成要件Lには,剥離の時点と「誘導路」を関連づける記載はないこと,「導くための」との記載は誘導路が牌を剥離する機能を有することを一義的に導くものではないこと,本件明細書の段落【0037】の記載からも,牌を「剥離」する主体が「誘導路」であるとの解釈を読み取ることはできないことから,構成要件Lは,牌が吸着面から誘導路に移動する過程において,牌が吸着面から剥離することと牌が誘導路に捕捉されることが同時に起こる構成を除外するものではない。
(被控訴人の主張)
本件明細書の段落【0037】からは,誘導路の一部である誘導路の一端が牌を剥離することが読み取れるから,構成要件Lの「誘導路」とはその一端を接触させることによって,牌を吸着面より剥離する作用を有するものである。各被告製品のベルトコンベアには切れ目がないため,「一端」というべきものはないから,「誘導路」に当たらない。
(4)

争点4(各被告製品が構成要件Mを充足するか否か)について

(控訴人の主張)
構成要件Mの「牌は,案内部材にそって牌の向きを揃えながら」の記載は「上方に移動するとともに前記誘導路の一端に捕捉されて前記円筒回転体か
ら離脱するようにした」の全体にかかると解釈するのが文理上自然であるから,牌が円筒回転体から離脱を完了するまでの間に牌の向きを揃える作用が生じていれば足りると解すべきである。
各被告製品は,牌が離脱を完了する前の段階で案内部材に当接し,牌の向きを揃える作用を生じているから,構成要件Mの「牌の向きを揃えながら」を充足する。
(被控訴人の主張)
仮に控訴人の主張するように,「案内部材に沿って牌の向きを揃えながら」の記載が「上方に移動するとともに前記誘導路の一端に捕捉されて前記円筒回転体から離脱するようにした」の全体にかかるとすると,牌が向きを揃える最中に牌が上方に移動し,かつ誘導路の一端に捕捉されて円筒回転体から離脱するものと解することとなる。
そうすると,やはり各被告製品は「牌の向きを揃えながら上方に移動する」構成を有するとはいえない。
(5)

争点5(構成要件Mについての均等侵害の成否)について

(控訴人の主張)
本件明細書の段落【0032】,【0033】,図10及び図11における案内部材先端502を除くというのは容易に想到でき,さらに案内部材501の配置場所は設計事項であるから,各被告製品の案内部材の位置関係に配置することは容易に想到することができる(第3要件)。
原審で主張したとおり,仮に文言侵害が認められない場合でも,各被告製品につき構成要件Mの均等侵害が認められる。
(被控訴人の主張)
控訴人は案内部材の配設場所のみを変えることをもって置換容易性を満たすと主張するが,ベルトコンベアの配設が必要となる点を看過しており不当である。

6
当審における追加主張(構成要件Kについての均等侵害の成否)(争点6)(控訴人の主張)
被控訴人の主張する構成要件Kに係る本件発明と各被告製品との相違点は,案内部材が吸着面の外側の軌道に沿って配設されているのか(本件発明),案内部材が吸着面の外側の軌道よりも約5.6㎜内側に設置されているのか(各被告製品)という点(以下「本件相違点2」という。)である。仮に,各被告製品につき,本件相違点2によって文言侵害を否定されたとしても,以下のとおり均等侵害が成立する。
(1)

第1要件
本件発明の本質的特徴は,磁石を埋設した吸着面を付した円筒回転体の吸
着面に同じく磁石を埋設した牌を吸着し,下方から上方に吸い上げるように円筒回転体を縦方向に回転させ,牌を汲み上げる汲上機構を採用することにより,全自動麻雀卓における汲上機構を小型化するというものであるから,本件相違点2は,本件発明の本質的部分に当たらない。したがって,各被告製品は均等論の第1要件(非本質的部分)を充足する。
(2)

第2要件
各被告製品は,円筒回転体を縦向きに回転させて磁石を埋設した吸着面
により牌を撹拌機構から下から上へ吸い上げるという機構を具備しており,案内部材と吸着面の位置関係に関わらず,汲上機構の小型化という本件発明の構成要件Kと同一の作用効果をもたらすから,各被告製品は均等論の第2要件(置換可能性)を充足する。
(3)

第3要件
本件明細書の図10及び図11には,吸着面の内側にかかる案内部材5
01が開示されているし,牌の向きを揃えることが可能な吸着面と案内部材の位置関係は無数にあり得るから,案内部材を吸着面の内側に配置させることを想到する動機付けが十分に認められ,各被告製品は均等論の第3要件
(置換容易性)を充足する。
(4)

第5要件
本件特許の出願人は明確性要件の充足のために補正をおこなったことが明
らかであり,意図的に本件相違点2に係る構成を除外したものではないから,各被告製品は均等論の第5要件(非意識的除外)を充足する。
(被控訴人の主張)
各被告製品は,均等論の第1ないし第3要件及び第5要件を充足しないから,均等侵害は成立しない。
第3

当裁判所の判断

1
本件発明の意義
(1)

本件明細書の記載
本件明細書の記載については,原判決15頁19行目末尾に改行の上次
のとおり付加するほかは,原判決「第3
び2について」「(1)

当裁判所の判断」「1

争点1及

本件明細書には,以下の各記載がある。」の項(原

判決13頁14行目から15頁19行目まで)に記載のとおりであるから,これを引用する。
「オ

【発明を実施するための最良の形態】
円筒回転体401は牌10の縦幅と略等しい長さ(lL)の高さ寸法を有した円筒形状をした樹脂材からなり,一側端から牌の横幅分(lS)の位置には溝401Aが形成されている。円筒回転体401の周面部位には,2カ所等間隔に,平伏牌の面積ほど平に削り落とした吸着面401Bが形成されており,その中心部には吸着面401Bから僅かの埋設深さ距離をもって,磁石401Cが埋設されている。(段落【0021】。ただし抜粋。)
円筒回転体401は,ターンテーブル101内を覗くように突出しており,且つ,円筒回転体401とターンテーブル101との隙間は
牌10の厚さよりやや広い程度になっていて,この間を通過する平伏状の牌10を円筒回転体401に埋設した磁石401C(図6,図7参照)で吸着して牌を汲み上げることができるようになっている。(段落【0024】。ただし抜粋。)
円筒回転体401に埋設した磁石401Cの極性と,牌10に埋設した磁石11の極性との関係は,牌10が字面を上にした状態で円筒回転体401に吸着するように定められている。例えば牌10の字面側をS極とした場合,吸着面401B側がN極となるように各磁石が埋設されている。(段落【0025】)
図10及び図11を参照して,吸着面401Bに様々な角度にて吸着した牌10が,整列機構500により縦長方向に整列する動作について説明する。案内部材501の入り口付近で吸着面401Bからはみ出た側面が,案内部材先端502に接触して抵抗を受けるが,牌10に埋設されている磁石11の中心が,円筒回転体401に埋設されている磁石401Cの中心に吸引されて回転しながら向きを変え,当該側面が案内部材501の内壁面501Aと並行状態になって整列機構500の内部に進入する。(段落【0033】)
図10は牌の長手側面が案内部材先端502に接触する様子を示したもので牌10は縦長の状態で整列機構500の内部に進入する。この状態で進入した牌10は案内部材501の途中に用意されている切欠503を通過して上部に到達する。案内部材501の内壁は上部付近にて緩やかに外側に向かっていて,牌10は向きを外側に向けると共に吸着面401Bからはみ出していく。牌10の中心が最高点を通過すると牌10は下方に向きを変えるがこのとき牌10の先頭部分は誘導路504の入り口付近に到達する。誘導路504は両側を案内部材501と側壁に囲まれたスロープからなり,図示するようにスロー
プ先端の一部は溝401A内に突出している。案内部材501によって吸着面401Bから外側に逸脱した牌10の先端はこのスロープ先端を跨ぐようにして誘導路504内に進入する。(段落【0034】)図11は牌10の短手側面が案内部材先端502に接触する様子を示したものである。牌10は短手側面が案内部材先端502に接触して図10の場合と同様に回転するが,牌10は傾斜部401Dを跨いだ形で横長の状態になって内部に進入する。このとき牌10に埋設されている磁石11の中心が,円筒回転体401に埋設されている磁石401Cの中心より外側に偏っているため,牌10は内側に吸引力を受け,当該側面は案内部材501の内壁面501Aに圧接した状態で整列機構500の内部に進入する。(段落【0035】)
牌10の中心が切欠503に到達すると,内壁に当接している側面は抵抗を受けているため牌10は切欠先端505を中心に回転し牌10の一部は切欠503内に進入する。このとき傾斜部401Dによって僅かに浮き上がっていた牌10の一端が傾斜部401D上を滑落して牌10の回転を加速する。なお,傾斜部401Dは回転を補助するためであって特に設けなくともよい。この状態で牌10が更に進むと,牌長手側面が切欠後端506に接触し,再度回転して長手側面を案内部材501の内壁面501Aに当接して前進する。上述の如く,様々な角度で円筒回転体401に吸着した牌10は整列機構500により一定の向きに制御される。(段落【0036】)」
(2)

本件発明の特徴
以上の本件明細書の記載によれば,本件発明の課題は,従来の自動麻雀卓
において,構造が複雑で大型化するという問題点があることから,攪拌装置から牌を取り上げ,形成・供給機構に供給する機構を簡単にし,機構自体を小型にし,自動麻雀卓をコンパクトで経済的にすることである。そして,本
件発明の効果は,牌を取り上げる汲上機構を円筒回転体と吸着面を設けて,吸着面の牌を磁気力により吸着して下方から上方に吸い上げるように円筒回転体を縦方向に回転させたので,スペース的には従来の水平方向に回転する汲上方式とは異なり円筒回転体の幅は牌の縦幅と略等しい寸法でよく,かつ,水平方向の移動は円筒回転体の幅があれば良いから,これらにより,攪拌装置から牌を取り上げる汲上機構を小型にすることができ,結果として,自動麻雀卓の全体が小型,軽量,コンパクトとなり経済的に有利となるという点にある。
2
争点1(各被告製品が構成要件Iを充足するか否か)について
(1)

構成要件Iの意義
本件発明に係る特許請求の範囲には,「吸着面」について,①
攪拌装

置から牌を取り上げる汲上機構を構成する円筒回転体には円筒回転体の一側端から「牌の横幅ほどの幅」の「吸着面」が配設されること(構成要件C,H,I),②

「吸着面」の中心には磁石を埋没し,「吸着面」

に磁気力により牌を吸着して下方から上方に吸い上げるように円筒回転体を回転させること(構成要件J),③

汲上機構によって取り上げら

れた牌を一方向に整列して送り出すための整列機構には,円筒回転体に吸い上げられた牌の方向を揃えるため「吸着面」の外側の軌道に沿って配設した案内部材が設けられること(構成要件D,K)の記載がある。そして,自動麻雀卓における「牌」は,字面に垂直な方向からみて「横幅」が「縦幅」より短い長さとなる長方形状であるから(原判決別紙図2),構成要件Iの「牌の横幅ほどの幅」との特定は,「吸着面」の幅が「牌の縦幅」より「牌の横幅」に近い幅をもつことを特定するものと解するのが文言上自然である。

もっとも,特許請求の範囲の記載のみからは「横幅ほど」の外延は必ずしも明らかではないことから,本件明細書の記載について検討する。
本件明細書には,上記1(2)のとおりの本件発明の課題の解決手段として,円筒回転体の周面部位に円筒回転体の一側端から牌の横幅ほどの幅をもつ吸着面を配設し,磁性体を埋設した牌を,中心に磁石を埋没した吸着面に磁気力により吸着し,円筒回転体に吸い上げられた牌の方向を揃えるため前記吸着面の外側の軌道に沿って配設した案内部材を設け,前記円筒回転体によって下方位置にて取り上げられた牌は,前記案内部材にそって牌の向きを揃えながら上方に移動する(段落【0008】)ことが記載されている。そして,円筒回転体は牌の縦幅と略等しい長さの高さ寸法であり(段落【0009】,【0021】),円筒回転体の一側端から「牌の横幅」と略等しい幅の吸着面が形成される(段落【0021】)ことが記載されており,これらの記載からは,「牌の縦幅」と区別される「牌の横幅」を「吸着面の幅」に相当するものとしていることが理解され,このような理解は特許請求の範囲の記載とも整合する。さらに,本件明細書の段落【0033】~【0035】には,吸着面401Bに様々な角度で吸着した牌10につき,案内部材501の入り口付近で吸着面401Bからはみ出た側面が,案内部材先端502に接触して抵抗を受け,磁石により吸引されて回転しながら向きを変え,縦長方向に整列することが記載され,図10及び図11における吸着面401Bの幅は牌の横幅に近似する幅であることが見て取れる。

以上のとおりの各構成要件相互の関係及び本件明細書の記載によれば,本件発明において「牌の横幅ほどの幅をもつ吸着面」とした技術的意義は,吸着面の幅を「牌の横幅」分の幅とすれば,牌が少しでも斜めに吸着した場合には牌が吸着面からはみ出るから,はみ出た牌の側面に吸着面の外側の軌道に配設した案内部材を接触させ,接触による力学的な作用と牌に埋設された磁石と吸着面の中心に埋設された磁石との吸引力によって牌を回転させて長手方向の向きに揃えるようにしたことにあると
解することができる。
そして,このような技術的意義に照らせば,構成要件Iの「牌の横幅ほどの幅」とは,吸着面の幅が,牌の横幅(短辺)と同一か,様々な角度で吸着面に吸着した牌の側面が当該吸着面からはみ出る部分を有し,はみ出た部分に案内部材を接触させることによって牌の方向を揃えることができる程度の幅を意味し,牌の縦幅に近似する幅はこれに含まれないと解すべきである。

控訴人の主張について
(ア)

控訴人は,吸着面から「はみ出た」牌の部分に案内部材を接触させ
て牌の向きを揃えるという技術的思想を前提とする上記ウの解釈は,実施例の記載(段落【0033】)を過大に重視するもので不当であるし,本件明細書の図10の案内部材501が吸着面の外側の軌道より内側に食い込み,吸着面からはみ出ない牌の向きを揃える構成を示していることに反すると主張する。しかし,上記のような技術的思想は,各構成要件相互の関係を踏まえた本件発明の特許請求の範囲の記載に加え,本件発明の課題及びその解決手段に関する本件明細書の記載等を考慮して理解されるもので,段落【0033】の記載のみから導き出されるものではないから,控訴人の主張は当たらない。また,図10は,吸着面からはみ出た牌の向きも揃える構成(案内部材先端502)を有することを前提としているのであるから,上記ウの解釈に反するものではなく,控訴人の主張は採用できない。
さらに,控訴人は,磁石と案内部材の位置関係が適切に設計されていれば,吸着面の幅が牌の縦幅に近似する幅であっても案内部材を接触させることによって牌の方向を揃えることができるから,牌の縦幅に近似する幅を有する吸着面を除外する解釈は不当であり,このような解釈は,本件明細書の「円筒回転体の幅は牌の縦幅と略等しい寸法でよく」(段
落【0009】)との記載にも反すると主張する。しかし,磁石と案内部材の位置関係についての控訴人の主張は,本件発明において「牌の横幅ほどの幅をもつ吸着面」としたことの技術的意義についての上記ウの認定を左右するものではないし,段落【0009】は円筒回転体の幅に関する記載であって上記ウの解釈と矛盾するものではないから,控訴人の主張は採用できない。
(イ)

控訴人は,「牌の横幅ほどの幅」(構成要件I)の意義について,
「攪拌機構から牌の磁力による吸着が安定的に可能である最小限の幅以上で,かつ,機構全体の小型化を阻害しない程度の幅」を意味し,「横幅ほど」との文言は縦幅を除外する趣旨で設けられたものではなく機構自体を小型にすることを象徴的に述べたものに過ぎないと主張する。しかし,特許請求の範囲の記載における「横幅ほど」という記載は発明の具体的な構成を特定する記載であり,これをもって控訴人の主張するような象徴的な記載と解することはできない。また,本件明細書の記載や図面には,吸着面の幅を牌の横幅に近似する幅とする構成が記載され,牌の縦幅に近似する幅とする構成は開示も示唆もされていない。控訴人の主張は採用できない。
(2)

構成要件Iの充足性
以上を前提に,構成要件Iの充足性について検討するに,各被告製品の吸
着面の幅(円筒回転体の一側端からの幅)が約32.6mmであるのに対し,牌の横幅は約24.0mm,牌の縦幅は約32.9mmであって(乙4及び当事者間に争いがない事実),各被告製品の吸着面の幅は牌の横幅より約8.6mm大きい一方,縦幅よりわずかに約0.3mm小さいに過ぎない。これによれば,各被告製品の吸着面の幅は,牌の横幅ではなく縦幅に近似し,様々な角度で吸着面に吸着した牌の側面が当該吸着面からはみ出る部分を有し,はみ出た部分に案内部材を接触させることによって牌の方向を揃えるこ
とができる程度の幅であるともいえないから,各被告製品の吸着面は構成要件Iの「牌の横幅ほどの幅をもつ吸着面」を充足しない。
3
このように,各被告製品は構成要件Iを充足しないから,当審における追加主張(争点6)を含むその余の点を判断するまでもなく,被控訴人が各被告製品を輸入,販売等することが本件特許権を侵害するものとは認められない。

第4

結論
以上によれば,控訴人の請求は理由がないから,控訴人の請求をいずれも棄却した原判決は,相当である。
よって,本件控訴を棄却することとして,主文のとおり判決する。知的財産高等裁判所第3部

裁判長裁判官
鶴岡高橋寺田稔彦
裁判官

裁判官

利彦
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