判例検索β > 平成30年(行ケ)第10028号
審決取消請求事件 商標権 行政訴訟
事件番号平成30(行ケ)10028
事件名審決取消請求事件
裁判年月日平成30年7月19日
法廷名知的財産高等裁判所
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平成30年7月19日判決言渡
平成30年(行ケ)第10028号
口頭弁論終結日

審決取消請求事件

平成30年6月7日
判原決告
レースクイーン・インク

同訴訟代理人弁護士

原被告Y
同訴訟代理人弁理士

學植是枝洋介楠主田屋宏行文1
原告の請求を棄却する。

2
訴訟費用は原告の負担とする。

3
この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を
30日と定める。
事実及び理由

第1

請求
特許庁が無効2017-890013号事件について平成29年10月25日にした審決を取り消す。

第2

事案の概要
本件は,商標登録の無効審判請求を不成立とした審決の取消訴訟であり,争
点は商標法4条1項10号の事由の有無である。
1
特許庁における手続の経緯等(後掲証拠及び弁論の全趣旨から認められる事実)
(1)

被告は,次の商標(以下「本件商標」という。)の商標権者である(甲1,
2)。
登録番号

第5843569号

登録出願日

平成26年3月27日

設定登録日

平成28年4月22日

登録商標

2ch(標準文字)

商品および役務の区分
第38類

電子掲示板による通信及びこれに関する情報の提供,イン

ターネット利用のチャットルーム形式による電子掲示板通信
及びこれに関する情報の提供
第42類

インターネット又は移動体通信端末による通信を利用した

電子掲示板用のサーバの記憶領域の貸与及びこれに関する情
報の提供,インターネット又は移動体通信端末による通信を
利用した電子掲示板へのアクセスのためのコンピュータープ
ログラムの提供及びこれに関する情報の提供
(2)

原告は,本件商標の無効審判請求をし,特許庁は,これを無効2017-
890013号事件として審理した。
(3)

特許庁は,
平成29年10月25日,
審判請求は成り立たない旨の審決
(以

下「本件審決」という。)をし,出訴期間として90日を附加した。その謄本は,同年11月2日,原告に送達された。
(4)

原告は,平成30年2月26日,本件審決の取り消しを求めて本件訴訟を
提起した。
2
本件審決の理由の要旨
本件審決の理由は別紙審決書(写し)記載のとおりであり,要するに,本件商標の商標登録は,商標法3条1項5号及び同法4条1項10号に反するものではないから,同法46条1項によって商標登録を無効とすることはできないというものである。
第3
1
原告主張の取消事由(商標法4条1項10号の適用の誤り)
「2ch」という文字からなる引用商標(以下「本件引用商標」という。)は,本件商標の登録出願時において,「他人」であるパケットモンスター社ないし原告の事業である電子掲示板「2ちゃんねる」(ドメイン名は2ch.net)(以下「本件電子掲示板」という。)の提供に係る役務を表示するものとして需要者の間で周知であった。

2
需要者の認識を基準にすれば,本件引用商標について,平成21年1月時点までに本件電子掲示板における使用によって獲得された業務上の信用は一義的には被告に帰属していたといえる。その後,本件電子掲示板運営事業は,被告からパケットモンスター社に,パケットモンスター社から原告に譲渡された。(1)

本件電子掲示板運営事業の譲渡
被告は,平成21年1月2日までに,パケットモンスター社に対し,本件電子掲示板運営事業を譲渡した(以下「本件事業譲渡1」という。)。そのことは次の点からもいうことができる。
(ア)

平成21年1月2日までに本件電子掲示板のドメイン名「2ch.net」
(以下
「本件ドメイン名」
という。のWhois情報の登録者

(Registrant)
がシンガポール法人であるパケットモンスター社に変更された。被告はパケットモンスター社の代表者でも株主でもないから,上記登録者の変更は被告がパケットモンスター社に本件ドメイン名を譲渡したことを示すものである。そして,電子掲示板運営事業の性質上,ドメイン名を譲渡するということは電子掲示板運営事業を譲渡したことを意味する。(イ)

被告は,その書籍やブログにおいて,平成21年1月に2ちゃんね
るを譲渡した旨述べた。また,その時期以降の読売新聞等の新聞記事において被告のことを本件電子掲示板の「元管理人」と表記していた。
(ウ)

平成21年1月以降,本件電子掲示板にはパケットモンスター社が
運営管理している旨の表示がされていた。

パケットモンスター社は,平成26年3月5日までに,原告に対し,本件電子掲示板運営事業を譲渡した(以下「本件事業譲渡2」といい,本件事業譲渡1と併せて「本件各事業譲渡」という。)。原告は,同日以降,本件電子掲示板を運営管理しており,本件電子掲示板のトップページには原告の名称が表示されている。

(2)

仮に,
被告からパケットモンスター社に対する全面的な事業譲渡又は承継
がされていなかったとしても,本件引用商標に関する周知,著名性を生じさせるような重要な業務が承継されれば本件電子掲示板に関連する周知,著名商標から生じる権限も移転する。パケットモンスター社が本件電子掲示板の運営管理を承継したことは明らかであるから,本件電子掲示板に関連する周知,著名商標から生じる権限を含めて事業譲渡又は承継がされたものといえる。
3
本件引用商標の周知性の獲得について
(1)

上記2(1)ア(イ)のとおりの被告の書籍及びブログの記載並びに新聞記事に
接した需要者は,本件引用商標はパケットモンスター社ないし原告の事業に係る役務を表示するものと理解するはずである。被告の書籍は平成21年に出版された後現在まで販売されているロングセラーであるし,上記新聞の購読者数は非常に多い。
(2)

上記2(1)ア(ウ)及び同イのとおりの本件電子掲示板上の表示を目にした需
要者は,本件引用商標はパケットモンスター社ないし原告の事業に係る役務を表示するものと理解するはずである。本件電子掲示板は非常に多くのページビューがある。
(3)

以上によれば,
本件商標の登録出願時までの間に,
本件引用商標はパケッ

トモンスター社ないし原告の事業に係る役務を表示するものとして周知性を獲得したものといえる。
4
本件引用商標と本件商標は同一又は類似であり,本件商標の「商品および役務の区分」
は電子掲示板の提供に係る役務と同一又は類似である。
したがって,
本件商標の商標登録は商標法4条1項10号に該当し,これを否定した審決の判断は誤りである。

第4
1
被告の反論
本件電子掲示板運営事業の譲渡について

(1)

被告は,パケットモンスター社に対し,本件電子掲示板運営事業を譲渡し
たことはない。

悪用防止等の目的で,
Whois情報にドメイン名の権利者とは異なる者
(例
えば,ドメイン名の権利者にホスティングサービスを提供する会社)の名称連絡先等を掲載することが広く行われており,

ドメイン名の登録者は,
ドメイン名の権利者やドメイン名を利用する事業の主体でないことも多い。被告は本件ドメイン名を譲渡したことはない。


被告は2ちゃんねるを譲渡した旨の発言をしている一方,平成21年1月以降も本件電子掲示板の書き込みの削除を行い,本件電子掲示板を運営管理していた。


パケットモンスター社の設立時の株主は被告であり,本件電子掲示板にパケットモンスター社の名称が記載されていることは,パケットモンスター社が本件電子掲示板運営事業の譲渡を受けたことを示すものではない。

原告は,平成26年3月5日頃から本件引用商標を使用して本件電子掲示板を運営管理しているが,これは,原告が,必要なID及びパスワードを被告の承諾なく取得して不正に使用し,被告がサーバにアクセスできないようにしたことによる。
(2)

被告は,
本件電子掲示板に関連する周知,
著名商標から生じる権限を譲渡

したことはない。
2
本件引用商標の周知性の獲得について
本件引用商標は被告の業務に係る役務である本件電子掲示板サービスを示すものとして周知ないし著名となったが,上記1のとおり,被告は本件電子掲示板運営事業も,本件電子掲示板に関連する周知,著名商標から生じる権限も譲渡していない。また,被告は平成11年頃に本件電子掲示板を開設して以来本件引用商標を使用しており,被告が本件引用商標を使用していた期間はパケットモンスター社が事業主体になったと主張されている期間と比べて長期間であるし,被告とパケットモンスター社の知名度には大きな差がある。本件引用商標がパケットモンスター社の事業に係る役務を表示するものとして周知性を獲得したとはいえない。
本件商標の登録出願時点を基準にすると,原告が事業主体となったと主張されている期間は極めて短期間であり,本件商標の登録出願時点までに本件引用商標が原告の事業に係る役務を表示するものとして周知性を獲得することはない。

第5

当裁判所の判断

1後掲各証拠及び弁論の全趣旨を総合すれば,
次の事実を認めることができる。
(1)

本件電子掲示板は平成11年に開設され,
程なく匿名の巨大電子掲示板と

して著名になった。被告は,開設当時から本件電子掲示板の運営に関与し,本件電子掲示板の管理人としてマスコミ等にも取り上げられたことから,平成21年1月までの間に,本件電子掲示板の名称である「2ちゃんねる」の略称である本件引用商標は,被告による本件電子掲示板に係る事業を示すものとして周知性を獲得した。(甲4,5,乙2,7,8,9)
(2)

平成12年から平成21年までの本件ドメイン名に係るWhois情報は次の
とおりであった。(甲7,25)
ア平成12年12月30日時点の登録者
(Registrant)(東京都北区)
は2ch

運営面に関する連絡先(AdministrativeContact)はAccess,Tokyo(東京都北区),技術面に関する連絡先(TechnicalContact)はジム・ワトキンス(アメリカワシントン州,NTテクノロジー社)であった。

平成17年5月10日時点の登録者は2ch(東京都北区),運営面に関する連絡先及び技術面に関する連絡先はジム・ワトキンス(アメリカワシントン州のNTテクノロジー社)であった。


平成18年2月6日時点の登録者は,NTテクノロジー社(アメリカネバダ州)運営面に関する連絡先はジム・ワトキンス

(アメリカネバダ州)

技術面に関する連絡先はジム・ワトキンス(アメリカワシントン州),登録サービス提供者(RegistrationServiceProvider)はNTテクノロジー社であった。


平成18年4月3日時点及び平成21年1月1日時点の登録者は
MonstersInc(東京都新宿区),運営面に関する連絡先は被告(東京都新宿区),技術面に関する連絡先はジム・ワトキンス(アメリカワシントン州),登録サービス提供者はNTテクノロジー社であった。


平成21年1月2日時点の登録者はPacketMonsterInc.Pte.Ltd,(シンガポール),運営面に関する連絡先はDhanvantray,Ragini(シンガポール)技術面に関する連絡先はジム・ワトキンス

(アメリカワシントン州)

登録サービス提供者はNTテクノロジー社であった。

(3)

被告は,平成21年1月2日付けの被告のブログ「Y日記」(以下「本件
ブログ」という。)において,
「そんなわけで,去年は何度も海外出張して2
ch譲渡の打ち合わせをしてたりもしてたんですが,ようやく譲渡完了しました」と記載した。(甲10)
(4)

被告は,被告の著書である「僕が2ちゃんねるを捨てた理由」(平成21
年6月1日初版発行。発行所株式会社扶桑社。以下「本件書籍」という。)において,
「最近の僕はといえば,2ちゃんねるを譲渡して管理人を外れ,その企業から何か相談をされたときにアドバイスをする『2ちゃんねるアドバイザー』,もしくは単なる1ユーザーだったりします」,
「僕は2009年,2
ちゃんねるをシンガポールのパケットモンスター社に譲渡しました。」,「も
ともと『2ch.Net』というドメインは,アメリカのベリーズにあるモンスターズ社が所有していて,営業を僕が行っているという状態でした。」と記載した。(甲8)
(5)

本件電子掲示板の過去のウェブサイトには次の記載がある。
平成21年1月4日当時の本件電子掲示板の「使い方&注意」の「2ちゃんねるって?」のページに,(問い)「2ちゃんねるって誰がやってるの?」
の次に英文で
「2ch.netismanagedandoperatedbyPACKETMONSTERINC.」と記載されている。(甲11の1)


平成26年3月5日当時の本件電子掲示板のトップページには,ページ中央上部に「2ちゃんねる」の縦書きのデザイン文字が大きく配置され,その下に小さめの文字で「使い方&注意|削除ガイドライン|拡張版メニュー|Y日記|広告のご案内」と横一列に記載され,その下には広告バナーが2段に配置され,さらに一番下に小さめの文字で「RaceQueen,Inc」の記載とこれに続けて海外の住所がアルファベットで記載されている。甲(
17の1)

(6)

パケットモンスター社は平成20年10月13日に設立されたシンガポー
ル法人である。同日時点の会社情報(乙21)によれば全株式の株主は被告であるが,平成25年8月18日時点の会社情報(甲14)によれば役員及び株主は被告ではない。
(7)

新聞紙面及びネットニュースには次の記事が掲載されている(以下,併せ
て「本件記事」という。)。

平成24年12月21日のスポーツ報知のネットニュースには,被告が本件電子掲示板上の違法薬物に関する書き込みを放置したとして,麻薬特例法違反(あおり,唆し)のほう助の被疑事実により書類送検された旨の記事が掲載されている。(乙24)

平成25年3月19日及び20日付け日本経済新聞(ネットニュース及び新聞紙面)には,上記アの麻薬取締法違反被疑事件について,本件電子掲示板上の書き込みの削除措置がとられたことなどから,
「元管理人」
(被
告)が不起訴処分になった旨の記事が掲載されている(甲26,乙23)

平成25年8月24日付け読売新聞には,「「2ちゃん譲渡」後3億5
000万円

Y元管理人掲示板広告料受け取り」との見出しで,被告が本

件電子掲示板を運営管理する権利を譲渡したと公表した後もパケットモンスター社を通じて本件電子掲示板の広告料から3億5000万円を受け取っていたとして,
東京国税局から指摘を受けた旨の記事が掲載されている。
(甲15)
2
原告は,需要者を基準にする限り,平成21年1月までに本件電子掲示板に係る本件引用商標の使用により獲得された業務上の信用が一義的には被告に帰属していたことは争わないとした上で,本件電子掲示板運営事業は,本件各事業譲渡により,被告からパケットモンスター社を経て原告に承継された旨主張する。
(1)

そこで,まず,本件各事業譲渡の有無について検討する。
電子掲示板に係る事業は,電子掲示板の名称等の商標のほか,ドメイン名を使用する権利,電子掲示板に表示される広告に関する契約及びインターネットサービス提供に関する契約を含む複数の財産を用いて行われているものであるから,電子掲示板に係る事業を譲渡するに当たっては,これらの複数の財産を移転し,その対価を支払うことを内容とする合意をするのが通常であるところ,本件各事業譲渡の合意の具体的な内容は明らかではない。
そして,事業譲渡をするに当たっては,移転の対象となる具体的な財産を特定し,事業譲渡の対価を定めるほか,対価の履行期及び履行方法,譲渡の対象となる財産の移転方法(第三者の承諾等を要する場合にはその手続の履行期及び履行方法等)を定めるのが通常であり,移転の対象となる財産の内容によっては事業譲渡の基準日時点での債権債務の処理について定める場合も考えられる。さらに,本件各事業譲渡のように,当事者の少なくとも一方が法人である場合には,なおさら慎重な手続がとられるのが一般であるし,本件各事業譲渡は渉外法律関係(パケットモンスター社はシンガポール法人,原告はフィリピン法人である。)を含むから準拠法の問題を生じ得ることからしても,
口頭のみで契約を行うことは考えにくい。
以上に照らせば,本件各事業譲渡につき契約書等の書面を作成せずに契約を締結するとはにわかに考え難いというべきところ,本件各事業譲渡に係る契約書等の処分証書の提出はない。

本件事業譲渡1の時期から5年以上経過した平成26年3月5日当時の本件電子掲示板のトップページには「Y日記」との文字が記載されており(上記1(5)イ),この記載からすれば,平成21年1月以降平成26年3月まで本件電子掲示板のトップページに本件ブログへのリンクが貼られていた可能性もある。また,本件記事には,①

平成24年12月に,被告

が本件電子掲示板上の違法薬物に関する書き込みを放置したとして検察庁に送致された旨,②

平成25年3月に,本件電子掲示板上の違法薬物に

関する書き込みの削除措置がとられたために被告が不起訴処分となった旨,③

同年8月に,被告が本件電子掲示板に係る高額の広告収入をパケット
モンスター社から受領したとして東京国税局から指摘を受けた旨が記載されている(上記1(7))。
これらの事実によれば,被告は,平成21年1月以降も本件電子掲示板の運営を含む本件電子掲示板に係る事業に実質的に関与していたことがうかがわれる。

以上のとおり,本件各事業譲渡の合意の具体的な内容が明らかでないこと,本件各事業譲渡に係る契約書がないのはそれ自体不自然であること,本件事業譲渡1がされたという時期以降も被告が本件電子掲示板に係る事業に実質的に関与していたことがうかがわれることに照らせば,本件事業譲渡1がされた事実や,原告が本件各事業譲渡により本件電子掲示板に係る事業を承継した事実を認めることはできない。


原告の主張について
(ア)

原告は,平成21年1月2日に本件ドメイン名のWhois情報上の登録
者がパケットモンスター社に変更されたことは,本件ドメイン名を使用する権利が移転したことを意味し,これは本件事業譲渡1を裏付けると主張する。
しかし,
上記1(2)のとおり平成12年から平成21年までの間に本件
ドメイン名のWhois情報上の登録者は何度も変更されているところ,これ
らの登録者の変更が本件ドメイン名を使用する権利の実体上の移転を伴うものであるかどうかは明らかではない(むしろ,登録者の変更が事業譲渡を反映しているのだとすると,上記1(2)アないしオによれば,平成
12年から平成21年の間に本件事業譲渡1を含む3回の事業譲渡が行われたことになるが,本件事業譲渡1に対応する平成21年1月の登録者変更以外の登録者変更に関しては,それが事業譲渡に伴うものであったことをうかがわせる証拠は全く存しないのであって,このことは,登録者の変更が,必ずしも事業譲渡に伴うものではないことをうかがわせる事情であるといえる。)。また,パケットモンスター社の設立時(平成20年10月13日)の株主は被告であるから(上記1(6)),パケットモンスター社は被告と関連を有する会社であったものとうかがわれる。以上によれば,
本件ドメイン名のWhois情報上の登録者がパケットモンス
ター社に変更されたことをもって,本件ドメイン名を使用する権利の移転やこれを伴う本件事業譲渡1を直ちに裏付けるものとみることはできない。なお,平成25年8月18日時点のパケットモンスター社の役員及び株主が被告でないこと(上記1(6))は,この判断を左右するものではない。
(イ)

次に,
原告は,
本件ブログ及び本件書籍並びに本件記事における記載

は,本件事業譲渡1を裏付けると主張する。
しかし,本件書籍及び本件ブログの「2ちゃんねる(ないし2ch)を譲渡」との記載自体からはこれが法律上の事業譲渡を意味するのかが不明であるし,本件書籍にはこの「譲渡」の後も被告が「2ちゃんねるアドバイザー」であった旨の記載もある。また,本件記事には,被告を「元管理人」と称し,被告が「本件電子掲示板を運営管理する権利を譲渡したと公表した」とする部分があるが,その一方で,被告が平成21年1月以降も本件電子掲示板の運営に深く関与していることを示唆する内容も含まれており,本件記事を事業譲渡を裏付ける証拠と断定することはできない。
以上によれば,本件ブログ及び本件書籍並びに本件記事における記載から,本件事業譲渡1がされた事実を認めることはできない。
(ウ)

さらに,
原告は,
本件電子掲示板上にパケットモンスター社及び原告

の名称の記載があることは本件各事業譲渡を裏付けると主張する。しかし,本件電子掲示板をパケットモンスター社が運営管理している旨の記載
(上記1(5)ア)
からは,
パケットモンスター社が事業主体であるのか,
事業主体から電子掲示板の運営管理の委託を受けているのかが明らかではなく,本件事業譲渡1を裏付けるものとはいえない。また,本件電子掲示板のトップページの下部に原告の名称及び住所(同イ)が記載されているだけでは本件事業譲渡2
(及びその前提としての本件事業譲渡1)
を裏付けるものとはいえない。
(2)

原告は,仮に全面的な事業譲渡又は承継がされていなかったとしても,
パケットモンスター社が本件電子掲示板の運営管理を行っていたことからすれば,本件電子掲示板に関連した周知,著名商標から生じる権限を含めた事業譲渡又は承継がされたといえると主張する。しかし,パケットモンスター社が本件電子掲示板の運営管理を行っていたとしても,同社が事業主体であるかどうかが明らかでないのは上記(1)エ(ウ)のとおりである。また,本件全証拠によっても,被告がパケットモンスター社に対し,本件電子掲示板に関連する周知,著名商標から生じる権限を譲渡した事実を認めることはできない。
3
上記2のとおり,本件事業譲渡1の事実は認められず,被告がパケットモンスター社に本件電子掲示板に関連する周知,著名商標から生じる権限等の権利を譲渡した事実も認められない。
さらに,原告は,本件書籍及び本件ブログ並びに本件記事の記載,本件電子掲示板上のパケットモンスター社ないし原告の名称の記載を根拠に,本件引用商標はパケットモンスター社ないし原告の事業に係る役務を表示する商標として周知性を獲得したと主張する。しかし,上記2(1)エ(イ)及び(ウ)に説示したところに照らせば,原告の指摘する記載は一義的に本件電子掲示板に係る事業の事業主体の変更を示すものとは解し得ない上,本件書籍及び本件記事には被告が本件電子掲示板の運営に関与していることを示唆する記載も含まれているから,これに接した需要者は,被告が本件電子掲示板の運営等に依然として関与していると認識するものといえる。ほかに,電子掲示板の需要者において,本件商標の登録出願時点までに,本件引用商標が「他人」であるパケットモンスター社ないし原告の事業に係る役務を表示するものとして周知となったことを認めるに足りる証拠はなく,原告の主張は採用できない。

4
以上によれば,本件商標が「他人」の業務に係る役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されている商標又はこれに類似する商標であるとは認められない。
よって,本件商標の商標登録が商標法4条1項10号に該当しないとした本件審決に誤りはなく,原告の請求は理由がないからこれを棄却することとし,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第3部

裁判長裁判官
鶴岡高橋寺田稔彦
裁判官

裁判官

利彦
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