判例検索β > 平成29年(う)第1132号
暴行、脅迫、殺人被告事件
事件番号平成29(う)1132
事件名暴行,脅迫,殺人被告事件
裁判年月日平成30年7月5日
法廷名大阪高等裁判所
結果破棄自判
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平成30年7月5日宣告

判決
上記の者に対する暴行,脅迫,殺人被告事件について,平成29年7月24日神戸地方裁判所姫路支部が言い渡した判決に対し,検察官から控訴の申立てがあったので,当裁判所は,検察官大口康郎出席の上審理し,次のとおり判決する。
主文
原判決中暴行及び脅迫に関する部分を破棄する
被告人を懲役1年4月に処する
原審における未決勾留日数中,その刑期に満つるまでの分をその刑に算入する。
その余の本件控訴を棄却する。
理由
第1事案の概要
本件控訴の趣意は,検察官植村誠作成の控訴趣意書に記載のとおりであり,これに対する答弁は,主任弁護人明石博隆,弁護人森津純及び同明石恵典共同作成の答弁書

及び同

に各記載のとおりであるから,これらを引用する。論

旨は,脅迫及び殺人の各公訴事実についての原判決の事実誤認を主張するものである(なお,検察官は,脅迫の公訴事実については,脅迫罪に関する原判決の法令適用の誤りも主張する旨釈明した。)。
すなわち,本件公訴事実の要旨は,被告人が,①平成27年8月8日午後7時17分頃,A(以下「A」という。)に対し,電話で,「お前,今から行って家上がってどついたろか。」,「蹴り回したろか,お前。」,「くそー,殺してもうたろかほんま。」(以下これらの発言を「本件発言」という。)などと申し向けて脅迫し(以下この事実を「本件脅迫」という。),②同年9月22日午前2時35分頃,
兵庫県加古川市内のビル
(以下
「本件ビル」
という。

1階エレベーターホールにおいて,同所床面に横たわっていたAの背部付近を数回足蹴りする暴行を加え(以下この事実を「本件暴行」という。),③同日午前2時45分頃,本件ビル5階通路において,殺意をもって,Aの身体を持ち上げて同通路南側手すり(5階床面からの高さ約116cm。以下「本件手すり壁」という。)越しに約15.2m下方の同ビル南側路上に落下させ,死亡させて殺害した(以下この事実を「本件殺人」という。),というものである。原判決は,本件脅迫について,被告人が本件発言をしたことは関係証拠により容易に認められ,当事者間に争いもないが,刑法上の脅迫罪を構成する,人を畏怖させるに足りる害悪の告知であるとはいえないとして,被告人を無罪とし,また,本件殺人についても,Aが本件手すり壁越しに落下して死亡した事実は明らかに認められるが,Aがとっさに飛び降り自殺をした可能性を排斥することはできず,被告人が故意にAを落下させたことが証明されたとはいえないとして,被告人を無罪とし,結局,本件暴行についてのみ被告人を有罪と認定し,懲役1年4月に処した。
これに対して,検察官が控訴を申し立てて上記控訴趣意を主張したのが本件控訴である。
そこで,原審記録を調査して検討する。
第2本件脅迫について
1本件脅迫について,被告人が本件発言をしたことは証拠上明らかであるが,原判決は,本件発言の文言自体を字面に即してみると,相手方との関係等のいかんによっては,相手方を畏怖させるに足りる害悪の告知と認め得るものであるものの,①当時被告人とAは交際関係にあり,本件発言があった際の電話(原審甲第76,95号証。以下,当事者の主張に合わせて「第3通話」という。)のやり取りからしても,本件発言は,被告人が殊更に暴力団員であるという属性を利用し誇示するなどして行ったものではなく,被告人とAの間でしばしばみられた痴話げんかの一環の中で発せられたものと捉えるのが相当であること,②「くそー,殺してもうたろかほんま。」は,つぶやくようなトーンでされた発言であって,Aはこれに対して何の反応も示しておらず,その耳に入っていたかも疑わしいこと,③その他の本件発言についても,Aは,本件発言とはすれ違うがごとく,本件発言前の話題である,A以外の女性との関係の追及を継続していること,
④第3通話は,
至って穏やかなトーンで終了し,
被告人とAはその日のうちに会う約束までしていること,⑤検察官が脅迫の根拠として主張する,Aがスマートフォン通話の録音アプリを導入していた点については,
(a)Aが,第3通話の録音を基に警察に被害申告したことはなく,同アプリの導入を勧めた同居人のB(以下「B」という。)に,それを聞かせたことすらないこと,(b)被告人自身も,
本件発言当時,会話を録音されている可
能性を認識していたこと,(c)Aは,被告人との関係について,Bにしばしば虚
偽を告げていたようであり,録音アプリ導入の経緯についても,BがAにごまかされていた,適当にあしらわれていたなどの可能性を否定できないことからすると,必ずしもAが,被告人の発言を証拠として警察に提出できるよう残しておこうと考えて導入したものとはいえず,検察官の主張は前提を欠くこと,以上の諸点によれば,本件発言は,痴話げんかの中の罵詈雑言,せいぜいが単なる暴言の域を出るものではなく,刑法上の脅迫罪を構成する,人を畏怖させるに足りる害悪の告知ということはできないとした。
検討すると,本件発言は,その文言上は,どつく,蹴り回す,殺すといった,被告人においてAの生命又は身体に対して危害を加えることを内容とするものであって,これが,人を畏怖させるに足りる害悪の告知となり得るものであることは,原判決も前提とするところであるから,そうであるにもかかわらず,原判決が,本件発言につき上記の意味での害悪の告知に当たらないとした根拠について検討する。
まず,原判決が,本件発言は,被告人が殊更に暴力団員の属性を利用,誇示するなどして行ったものではなく,被告人とAの痴話げんかの一環の中で発せられたものであるとした点(前記1①)は,正しい捉え方ということができ,これを是認することができる。
すなわち,本件発言に至る経緯をみると,第3通話は,これに先立つ第1通話(原審甲第76,93号証)及び第2通話(原審甲第76,94号証)に引き続いてされたものであるが,各通話はいずれもAの方から被告人に電話をかけたものである。第1ないし第3通話におけるAの発言からは,Aは,それ以前から,被告人に,死ね,殺す,どつく,くそ,こらーなどと言われ続けてきたという認識であったことが認められるが,それにもかかわらず,Aは,自ら被告人に電話をかけて第1通話及び第2通話をし,さらに,これらの通話においても,Aが自殺をほのめかしたことに対しては,被告人から,そうすればいい旨を言われたり,また,Aが経営するスナック「C」
(以下「C」という。)
について,被告人から,その営業を妨害するようなことを言われたりしたと認められるのに,
Aは,
なお自ら被告人に電話をかけて第3通話をしたのである。
そして,第1通話及び第2通話の主な内容は,被告人がAをホテルに誘ったのに,Aが子供の面倒を見ることを理由に断ったことに対して,被告人が,Aとの交際をやめ,他の女性を選ぶ旨の発言を繰り返すのに対し,Aは,被告人との交際をやめるという態度は示さず,むしろ,子供を放っておくわけにはいかない旨を説明して被告人に納得してもらおうとし,被告人が分かってくれないことに泣いたり,被告人と離れるときは死ぬときであると言ったりして,被告人との交際を継続しようとする態度を示し,また,被告人が,Aにそばにいてほしいという趣旨の発言をすると,Aが安堵した様子を示す,といったものである。被告人の,Aとの交際をやめ,他の女性を選ぶ旨の発言は,発言全体に照らすと,Aに言うことを聞かせた上で交際は続けたいという意図に基づく,駆け引きとみられるものである。
そして,第3通話も,第1通話及び第2通話を受けて,Aが,どうしたらよいのか尋ねるのに対し,被告人が,好きにしたらいい,他の女性を選ぶ旨言って突き放すといったやり取りをした後,Aが,被告人の家に実際に他の女性が来たことを察知して被告人を非難し,これに対して被告人が本件発言を始めた,という流れのものである。そして,被告人が「お前,今から行って家上がってどついたろか。」,「蹴り回したろか,お前。」と言った後も,Aは「事実,女の人来てるやん。」などと言って被告人の女性関係の追及を続けているが,被告人との交際をやめるという態度は示さず,被告人も,これに対して,「家に女の人が来る前に,な,お前に行こかっていうとるんや。」などと,Aとの交際を続ける意思がうかがわれる発言をしている。そして,更に言い合いになった後,被告人は,「くそー,殺してもうたろかほんま。」と言っているが,それに続く被告人の発言は,Aとの交際をやめるという趣旨のものであり,これは前記のとおり駆け引きとみられるものであるし,これに対しても,Aは,被告人の態度に不満は述べるものの,被告人との交際をやめるという態度は示しておらず,最終的には被告人とAはその日のうちに会う約束をしているし,Aは,第3通話の約5時間後,被告人に対し,約束どおり会えるのか,連絡はまだかという趣旨のメールを送っており(原審弁第6号証),Aにも被告人に会いたい気持ちがあったものと認められる。
このような会話の経過及び内容等に照らせば,本件発言は,現に交際関係にあり,今後も交際を継続する意思を有する男女間の,交際の在り方に関する口論の中でされたものであることは明らかであるから,原判決がこれを,被告人が殊更に暴力団員の属性を利用,誇示するなどして行ったものではなく,被告人とAの痴話げんかの一環の中で発せられたものであるとしたことに誤りはない。
また,原判決の前記1②ないし⑤の点は,それらを理由として,本件発言によりAが実際に畏怖したとは認められないことを指摘したものと解されるところ,これらの理由の一部は是認することができないものの,Aが畏怖したとは認められないという判断自体は相当として是認することができる。すなわち,②の点については,
検察官が主張するとおり,
被告人の
「くそー,
殺してもうたろかほんま。」という発言は明瞭に録音されており,他方,原判決が根拠とする,Aが反応を示していないことは,会話において相手の言葉を無視して追及を続けることは十分あり得ることであって,確実な根拠とはいえないから,Aは上記発言を聞いたと認めるのが相当である。また,③の点についても,検察官が主張するとおり,Aは,被告人の「お前,今から行って家上がってどついたろか。との発言を受けて一旦言いよどんだこと,

被告人の
「殺
してもうたろうかほんま。」との発言を受けて鼻をすすり,「くそ今から行ってほんま。」と言われて深くため息をついて追及をやめたことが認められる。しかし,他方で,Aは,被告人の「蹴り回したろか,お前。」との発言の後もなお被告人の女性関係を追及していたのであるし,言いよどんだり,追及をやめたりした場面も,被告人の態度にうんざりし,あるいは落胆したものとみる余地もあり,必ずしもAが本件発言を真に受けて畏怖したと断ずることはできない。
また,④の点については,第3通話終了の際の会話は,検察官が主張するとおり,被告人がAに対して自分の意に沿う行動をするよう強い口調で要求するのに対し,Aが被告人の機嫌を損ねないように対応していると解されるものであって,原判決のように「至って穏やかなトーン」であったということは困難である。しかし,被告人とAの間の会話のトーンは,一つの通話の中でも著しく変転していると認められる上,第3通話終了の際の会話の内容は,被告人とAが会う約束をし,被告人がAに対して電話をするので必ず出るように要求し,Aがこれに応じたというものであり,しかも,前記のとおり,その後Aが被告人に送ったメールの内容からは,Aにも被告人と会いたい気持ちがあったと認められるのであって,Aが被告人の機嫌を損ねないように対応していたのは,被告人から生命,身体に危害を加えられることを恐れたからではなく,被告人との交際をやめたくないと考えたからであるとみる余地が十分にある。そうすると,第3通話終了の際の会話が「至って穏やかなトーン」でなかったからといって,Aが本件発言により畏怖したと断ずることはできない。
⑤の点については,録音アプリの導入に関するBの原審証言は,Bが,Aから被告人の言動を伝え聞いていたことに加え,目の前でAの携帯電話から漏れ聞こえる被告人の怒鳴り声を聞いたり,それに対して泣きながら話すAの様子や声を見聞きしたりした,という具体的なエピソードを伴うものであること,前記のとおり,A自身,録音アプリ導入以前から,被告人に,死ね,殺す,どつく,くそ,こらーなどと言われ続けてきたという認識であったことに整合すること等からすれば,
十分信用することができるというべきである。
原判決は,
Aと被告人の関係性についてのBの証言内容は,その実態と余りにかけ離れており,Aは,被告人との関係について,Bにしばしば虚偽を告げていたようであるから,
Bの録音アプリ導入の経緯に関する証言も,
Aにごまかされていた,
適当にあしらわれていたなどの可能性を否定できないとして,その信用性を否定するが,録音アプリ導入の経緯自体は,Bの実際の体験であり,Aから伝え聞いたものではないから,BがAから被告人との関係について事実と異なる説明を受けていた可能性があるからといって,上記の部分の証言が事実と異なることになるとはいえないし,他にBが虚偽証言や記憶違いをしていることをうかがわせる事情も見当たらないから,この点の原判断は是認することができない。
しかしながら,Bの原審証言のとおり,録音アプリを導入した経緯が,被告人の発言を警察に提出できる証拠として残すことであったとしても,それは,Bにおいてそのつもりであったことを意味するにとどまり,直ちにAにおいてそのつもりであったことを意味するものではない。Bは,被告人とAは交際関係にはなかった,Aは無理やり付き合わされていた,Aは被告人のことをストーカーと呼んでいたなどとも証言しているが,これは,原判決も説示するとおり,他の関係証拠から認められる被告人とAの関係とは明らかに異なるものであって,
Bは,
Aから被告人との関係について虚偽の説明をされていたために,
これについて事実と異なる認識をしていたものと認められる。そうすると,Bは,目の前でAの携帯電話から漏れ聞こえる被告人の怒鳴り声を聞いたり,それに対して泣きながら話すAの様子や声を直接見聞きしたりしたとも証言するものの,このことから直ちに,Aが日頃から被告人に脅迫されて被告人を畏怖していたとまでいうことはできないし,上記のような場面を見聞きしたBが,Aが被告人に脅されており,警察に被害を届け出たり相談したりする必要があると考えたからといって,Aも同様の考えであったとはいえず,Aとしては,Bから勧められるまま録音アプリを導入したものの,警察に被害を届け出たり相談したりするつもりはなかったという可能性も十分あり得る。原判決が指摘するように,Aは,本件発言に係る通話を録音・保存していたものの,これを基に警察に被害申告をしなかったばかりか,Bに聞かせたことすらないことも,この可能性に沿うものといえる。そうすると,Aが録音アプリを導入した事実やその経緯から,本件発言によりAが畏怖したと断ずることもできないというべきである。
このように,本件発言が痴話げんかの中の一環で発せられたものであるとした原判決の捉え方が誤っているとはいえず,また,本件発言によりAが畏怖したと断ずることもできない。
しかしながら,本件発言が人を畏怖させるに足りる害悪の告知に当たらないとした原判断は,是認することができない。その理由は,次のとおりである。
まず,現に交際関係にあり,今後も交際を継続する意思を有する男女間の,交際の在り方に関する口論の中での発言であれば,当然に人を畏怖させるに足りる害悪の告知に当たらないといえるわけではないし,また,脅迫罪の成立には,相手方が現に畏怖したことは要しない。そして,既に述べたとおり,本件発言は,その文言上は,被告人においてAの生命又は身体に対して危害を加えることを内容とするものであるところ,文言上明確に発言者から相手方の生命又は身体に対する加害行為が告知された場合に,それが社会的に相当な説得,警告等と解される場合は考え難く,発言の相手方との関係,発言に至る経緯,発言の場面・状況・文脈,発言の際の表情・声色等に照らして,文言とは異なる趣旨・意味に解される場合や,相手方において,真意に基づかないものであって発言者が実際には発言に係る加害行為に及ばないこと(例えば冗談や戯言であること)を相当な確実性をもって信頼できる事情がある場合でなければ,他に特段の事情のない限り,人を畏怖させるに足りる害悪の告知に当たると解するのが相当である。
この点を本件発言についてみると,まず,被告人がAに対して本件発言をした理由は,それに至るまでの被告人とAの会話内容に照らせば,検察官が主張するとおり,Aから女性関係を追及されたことから,それをやめさせようとすることにあったと認められ,このような本件発言の意図に照らせば,本件発言中の,どつく,蹴り回す,殺す,といった言葉は,字義どおりかどうかはともかく,少なくとも身体的暴力を加えるという意味で用いられたというべきであり,これと異なる意味で用いられたものとは考えられない。また,被告人は,本件発言をした際,突如口調を一変させ相当語気強く言っていることは録音内容から明らかであるし,本件発言によりAが畏怖したと断ずることができないことは前記のとおりであるとはいえ,本件発言後のAの発言に,本件発言を冗談などとして軽く受け止めたことがうかがわれるような状況は見当たらない。加えて,被告人は,本件発言以前の平成27年6月か7月頃にAの頬付近を裏拳で2,3発殴ったことがある旨述べており(原審第7回公判7頁),Bの原審証言(原審第1回公判8頁)によっても,本件発言以前にAの身体にあざがあったことがあり,これについてAが被告人にされた旨説明していたと認められること,被告人が現役の暴力団員であることも考慮すれば,Aにおいて,本件発言が,身体的暴力を加えるという意味においても被告人の真意ではないことを,相当な確実性をもって信頼するような事情があったとはいえない。そうすると,本件発言が,現に交際関係にあり,今後交際を継続する意思を有する被告人とAの間の,交際の在り方に関する口論の中での発言であることや,本件発言によりAが実際に畏怖したと断ずることができないといった事情を考慮しても,本件発言は人を畏怖させるに足りる害悪の告知というべきであって,被告人には脅迫罪が成立する。上記各事情は,脅迫行為の悪質性の程度に関する事情として,量刑上考慮されるにとどまる。
3したがって,原判決が,前記1①ないし⑤の点を根拠として,本件発言は人を畏怖させるに足りる害悪の告知とはいえないとし,被告人に脅迫罪は成立しないとしたのは,刑法222条1項の「害を加える旨を告知」の解釈適用を誤り,ひいては事実を誤認したものといわざるをえない。そして,この誤りが判決に影響を及ぼすことは明らかである。
論旨は以上の限度で理由があり,原判決中,本件脅迫に関する部分は破棄を免れない。
第3本件殺人について
1証拠上明らかな事実関係
本件殺人に関して証拠上明らかな事実関係は,おおむね原判決が(一部無罪の理由)の第1の3及び4

で認定するとおりであり,その要旨は,次のとお

りである。
被告人とAの関係,事件前後の経緯等
アAは,事件当時,本件ビル5階南西角で「C」を経営しており,自宅では,離婚した前夫との間の子でAの扶養に係る長女(当時中学3年生)と長男(当時中学2年生),また,かつて交際関係にあったBと同居していた。他方,被告人は,D会に所属する現役の暴力団員であるが,平成27年3月頃,Aが結婚を期待して交際していたE某なる男性との交際関係の破たんに際し,そのトラブルの解決を,被告人とAの共通の知人を介して頼まれたことがきっかけとなってAと知り合うこととなり,遅くとも同年5月以降,Aとの交際を開始した。
イ被告人とAは,事件前日の午後から夜にかけて,メールや電話で連絡を取り合い,Aが「C」での仕事を終えた後,久しぶりに被告人宅で過ごす約束をした。
ウ被告人は,事件当日午前1時12分頃,女性2名を連れて「C」に入店し,しばらく飲酒したが,同日午前2時過ぎ頃,女性2名が同店を退店し,ほどなく,他にいた男性客2名も退店し,従業員であるF(以下「F」という。)が同男性客らを本件ビル1階出入口まで見送りに行った後,店内は被告人とAだけとなった。そこで,同日午前2時8分頃,Aは,一旦同店を閉めようとしたが,その頃,Fが男性客4名を伴って同店に上がってきたため,その客らを迎え入れることとした。その後,更に別の男性客1名が入店し,Aはこの男性客を,Fは上記男性客4名を接客したため,被告人には店の者が誰も付かない状態になった。すると,被告人は,Aに対し,「かばん取れや。」と声を荒げて指示し,かばんを受け取ると,不機嫌な様子で同店を退店した。エ被告人は,その後,再び「C」を訪れ,「携帯ないんかい。」と大きな声で怒鳴り,Aが「ないよ。」と返事をすると,
「表に出ろ。」と声を荒げた。
被告人とAは,
同店を出て,
一緒にエレベーターで本件ビル1階まで下りたが,
同日午前2時35分頃,被告人はAに対して本件暴行に及んだ。
オその後,被告人は,本件ビル南西角付近に止めてあった車(以下「被告人車両」
という。に乗り込み,

同車両を運転して東の方へ走り去った。
他方,
Aは,
「C」
に戻ると,
空いているボックス席に上半身を突っ伏して泣き崩れ,
Fに連れられて同店の外に出た。
カAは,同日午前2時43分5秒,「C」のドア外付近で被告人に電話をかけた。被告人はしばらくこれに応答しなかったが,午前2時44分36秒,被告人車両を再び本件ビル南西角付近に乗り付けて停車し,午前2時44分52秒に電話に出た。その通話において,Aは,「なんでそんなどつかれなあかんかったん私。」と声を荒げ,「私が何したん。警察呼ぶで,もう。」などと言い,Fに対し,「ほんま警察呼んで,警察。」と言い(なお,原判決は,このAの発言を,「つぶやいた」と認定するが,普通の口調での指示と認められる。
原審甲第97号証)これに対し,

被告人は,
「おーおー上がったらー。,

「よっしゃー,上あがったるわ。」などと言って,午前2時45分12秒に通話が終了した。
キAが「C」の外に出た後,店内にいた男性2名は,店外で男性と女性の言い争う大きな声,ないし男性のわめき散らすような声を聞き,さらに,そのうち男性1名は,女性の「やめろや。」という声を聞いた。また,その頃本件ビル南側路上を歩いていた男性2名は,本件ビルの階上の方から,男性と女性が大声で言い争っているような声を聞いた。この言い争っていた男性と女性は,被告人とAであったと認められる。
クその後,上記通行人の男性2名と,本件ビルの西側路上で客待ちをしていたタクシー運転手は,それぞれ,大きな音を聞き,音のした本件ビル南側路上付近に行くと,Aが仰向けで血を流して倒れているのを見た。
ケAは,上記キとクの間に,本件ビル5階の「C」前の南側通路から,本件手すり壁越しに落下したものと認められる。

その頃,Fが「C」のドアを開けて店外を見たところ,同所付近には,
Aのサンダルが転がり,
ネックレスのビーズが散乱しており,
Aの姿が見えず,
被告人が5階北側端のエレベーターの昇降ボタンを連打していた。Fが被告人に「ママは。」と尋ねると,被告人は,「知らんわ。」,「下におるんちゃうんか。」などと答えた。
サ上記通行人の男性2名は,本件ビル南西角で,慌てた様子で被告人車両の運転席に向かう被告人を見付け,うち1名が「おっさん何かしたんか。」と尋ねると,被告人は,「知らん。」,「お前らには関係ない。」と言って,付近に倒れていたAには一瞥もくれずに,そのまま被告人車両に乗り込み,同日午前2時47分29秒,東の方に走り去った。
シその後,被告人は,別の交際相手であるGと合流し,被告人車両で高松市に行き,更に,同日中に,被告人車両をH市に置いたまま岡山市内のホテルに移動し,その後,兵庫県I市,J市,兵庫県内のG方等を転々とした後,同年10月5日,所属する暴力団の若頭と共に兵庫県K警察署に出頭した。スなお,被告人が本件ビル5階に到着してから,上記コで昇降ボタンを押すまでの時間は,エレベーター昇降に要する時間や,被告人車両の停車位置からエレベーターホールまでの所要時間等から計算して,最大で約50秒ほどであった(なお,この点につき,原判決は,被告人が本件ビル5階に居た時間は最大で約50秒程度であったと認定するが,正確には,被告人が本件ビル5階通路に到着してから昇降ボタンを押すまでの時間が約50秒である。原審甲第108号証)。
本件手すり壁の状況,Aの遺体の発見状況等
ア本件手すり壁は,本件ビルの5階南側に位置し,5階の床面からの高さは116cm,上面の幅は34.5cmで,北側(本件ビルの内側)から南側(本件ビルの外側)に向かって約2.5cmの上り傾斜がついており,地上から本件手すり壁上面南側の縁までの高さは約15.2mである。
イ本件手すり壁には,原判決別紙2の現場指紋結果略図のとおり,①上面西端から東へ145cm,南端(外側)から北(内側)へ28cmの位置に,右足の爪先を本件ビルの内側に向けた状態の,Aの右足母趾球部の足紋(なお,原判決は,この足紋の位置について「真ん中やや内寄り」と表現するが,これは本件手すり壁の相当内寄りの位置というべきものである。),②北面(内側の面)の立ち上がり部分西端から東へ40cm,床面から上へ75cmの位置にAの右手掌紋,③同立ち上がり部分西端から東へ47cm,床面から上へ85cmの位置にAの右環指の指紋がそれぞれ付着していた。しかし,このほか,原判決別紙3の見取図中の黒色で塗りつぶされた範囲の床面,柱面,壁面には,被告人又はAの指掌紋・足紋の付着は認められていない。また,本件手すり壁の上面には,下記ウの血だまりの位置からやや東寄りの上に,広範囲に接触痕があった(原審甲第117号証)。
ウAの落下後,本件ビルの南側壁面よりも本件ビルの内側に全体が収まるような,東西の長さ44cm,南北の長さ33cmの血だまりがあり,そこから本件ビルの外側方向に少し離れた灰色グレーチングで蓋をされた側溝の縁にも血痕様のものの付着が認められ,
一部はグレーチングの下に垂れていた
(なお,
原判決は,グレーチングについて,本件ビル南側壁から50cm南側に位置すると表現するが,これは,幅35cmのグレーチングの南端が,本件ビル南側壁から50cm南側に位置するという趣旨と解される。原審甲第113,117,118号証。)。Aは,この血だまりの付近に,頭が北西側,足先が南東側を向き,本件ビルと平行,仰向けの姿勢で,頭部から大量の出血をして倒れていたが,その場所は,本件手すり壁の真下よりもやや内側に入った場所であった。エAの死因は,背部打撲による大動脈峽部断裂及び右心房破裂による失血死であり,ほぼ即死であった。遺体は,左右後頭部打撲による頭部の損傷が激しく,更に胴体部分の背中側に皮下出血等が認められ,重度の損傷は上半身の背中側,特に右側に集中しており,他方で下半身に骨折はなく,Aは,右上半身(右肩肩甲骨及び後頭部付近)から着地したと認められる。
オ本件手すり壁下の本件ビル南側壁面には,若干の凹凸等があるが,これらにAの身体が接触した痕跡は発見されなかった。
カなお,Aの身長は約158cm,体重は約48kgであり,被告人の身長は約169.5cm,体重は約63kgであった。
2検察官の立証構造
本件殺人における検察官の立証構造は,次のとおりである。
事件前後の経緯等からは,被告人が故意にAを落下させたことが推認される。
現場や遺体の客観的状況等からは,被告人が故意にAを落下させたことが推認される。中でも,Aの発見位置等から合理的に推認される落下状況(本件落下状況)は,被告人がAを故意に落下させたこと(殺人)と整合するが,Aが自ら落下したこと(自殺)とは矛盾する。
3原判決の認定判断の概要
原判決の認定判断の概要を,上記2の立証構造を踏まえて整理すると,次のとおりである。
事件前後の経緯について
ア一連の経緯を見れば,被告人がAに対する腹立ちからAを落下させたと,まずもって強く疑われる。
イしかし,うつ病で長く治療を受け,本件当時は中等度の症状で向精神薬等の投薬を受けており,また,日頃から家族や「C」の経営面での不安も抱えていたという背景を持つAが,心情的,肉体的,経済的に依存ないし傾倒を深めていたようにも思われる被告人から,理不尽な本件暴行を加えられて相当強い衝撃や屈辱感を受け,さらに,落下直前の言い争いの際に別れるなどと激しく言われて,突発的に自殺を決意して実行した可能性は,直ちに否定し難い。ウ
Aが落下した後の被告人の言動は,Aが自ら落下したという状況の下,
保身のためにとったものだとしても,捜査対象として嫌疑をかけられることの多い暴力団員であるという被告人の属性やその後に警察に出頭した経緯等にも照らすと,被告人が身勝手で自己中心的な目先のことしか考えない非市民社会的人物であると考えれば,特に不自然だということにはならない。なお,被告人が出頭後捜査機関に対し,自殺であるとの弁解・説明をしていない点については,弁護人からの指示で黙秘していたという被告人の説明は,十分納得のいくものとなっている。
本件落下状況は,被告人が故意にAを落下させたことに整合し,Aが自ら落下したこととは矛盾するかについて
ア被告人がAの脚を抱えたり,あるいはいわゆるお姫様抱っこしたりすることで,Aの身体を本件手すり壁上に持ち上げることは物理的に可能であり,また,
Aの反抗を考慮しても,
必ずしも困難ではない態様のものも想定し得る。
イAの遺体は,本件ビル建物の内側にやや入り込む位置で発見されているが,誰かが遺体を移動させた形跡はないから,着地後弾んだと考えるほかないところ,人体は反発係数がかなり低いとされているから,Aの身体が本件ビル建物の南側壁面に極めて近接したところをほぼ直下に近い状態で落下したことには疑いがない。
そうすると,一般に,ビルからの転落事案にあっては,建物から離れる方向(外方向)になにがしかの力が働いているため,落下運動は放物線の軌跡を描き,転落者は建物からある程度離れた位置で発見されるのが通常であるから,Aの身体を持ち上げて本件手すり壁越しに落下させたという公訴事実の客観的可能性が問題となるが,Aが本件手すり壁上面に仰向けに近い格好で横たわり,本件手すり壁や被告人の身体をつかむなどして抵抗するのを,被告人が押し出して落下させるという条件下にあっては,本件手すり壁外側へ向かう力と内側へ向かう力が相殺されて均衡し,おおむね外方向の速度0の状態となり,本件落下状況と矛盾しない落下行為が客観的に可能である。また,この場合,本件手すり壁上面の足紋と整合する形で落下させることが不可能であるとまでは認められない。
ウしかし,自殺の場合にも,一旦本件手すり壁上に全身を乗り上げて寝るような状態になり,そこからゆっくりとずり落ちるように落下する場合,あるいは,転がるようにしながら,落下開始の直前ないしその瞬間に,本能的に又は翻意して体を反転させる,あるいは上半身を強く落下とは反対の本件手すり壁内側方向に捻るなどの力を加える場合は,落下に際しての外に向かう初速をかなり0に近い状態にできるように思われ,そのような動きが自殺の場合にあり得ないと認めるに足りる根拠はない。本件落下状況が自殺と矛盾するということはできない。
原審検察官は,Aの身体は本件ビル建物の直近に落下していることから,静止状態又はこれに近い状態で落下を開始した,また,落下に要する時間はわずか約1.8秒であるから,その間,Aの身体は回転することなく,落下開始時と同じ姿勢を保ったまま着地したはずであるとして,落下開始時にもAの身体はほぼ仰向けの状態になっていたはずであり,このような体勢は自殺の体勢として不自然である,と主張するが,落下途中のAの身体状態は何も分かっておらず,どのように回転していたのか,又はしていなかったのかは不明であり,原審検察官主張のようにはいえない。
エそして,他殺の場合の方が,自殺の場合と比べて,容易にいわゆる相殺状況(外方向に向かう速度が0の状態)が作出されると認めるに足りる具体的根拠は示されていない。
原審検察官は,Aが本件手すり壁や被告人の身体をつかむなどして抵抗するなどすれば,上記状態が作出されるなどと主張するが,本件手すり壁上面にはそれに合致する指掌紋等の痕跡は全くなく,Aの手指から採取された微物中にも,被告人のDNA型に合致するものは発見されていない。兵庫県警察科学捜査研究所のL(以下「L」という。)らが実施した落下実験(平成27年11月11日実施のマネキンの落下実験(原審甲第81,91号証。以下「本件第1実験」という。)並びに平成28年1月21日実施の人間及びマネキンの落下実験(原審甲第83,91号証。以下「本件第2実験」という。)であり,両者を併せて「本件実験」という。)も,本件手すり壁をつかんだ状態の複数のパターンの実験のうち,最も本件落下状況に近いものですら,実際の着地位置とは齟齬を生じているし,さらに,落とそうとする者をつかんだパターンの実験は一切なされておらず,その現実的可能性すら示されていない。現場や遺体等の客観的状況等(本件落下状況を除く。)について
ア原審検察官は,本件手すり壁上部の足紋等の付着状況からして,被告人が,Aを本件手すり壁に背を向けた状態で足を抱えるなどして持ち上げたとすると整合的かつ自然である一方,Aが自ら本件手すり壁に上るならば,本件手すり壁上面に掌をついて体を押し上げる方法が自然であるのに,そのような痕跡がないのは不自然である旨主張するが,上記例示の方法は,相当の腕力等を要すると考えられ,そもそもこれが自然な方法といえるか甚だ疑問である上,本件手すり壁乗り越えの唯一の方法でもない。
イAのサンダルが本件ビル5階通路に散乱していたのは,Aが自ら脱いだと考えて特に不自然ではない上,その後,客又はFが店外に出た際に接触するなどして倒れた可能性も否定できない。Aのネックレスのビーズが同所に散乱していたことについても,Aが自ら本件手すり壁に飛び乗った際にちぎれて散乱した,あるいは激情に駆られて自ら引きちぎったことなどにより散乱した可能性を否定できない。
ウ本件ビル5階通路における被告人とAの言い争いが止んだ後,Aの身体が落下するまでに,少なくとも数秒の静寂があったと推認され,被告人が故意にAを落下させたとすると,その際,Aは助けを求める声も発することなく落下していったのかという疑問が残る。
被告人の弁解について
アしつこく女性関係を追及されたといって頬を殴り,直前にも会う約束をしていたのに客を入れたなどと怒ってAを蹴る(本件暴行のこと)ような被告人が,手が届くような距離で言い争い中に,Aに手か携帯電話を振り払われても,一切Aに触れることなく,言いたいことを言ったと満足してその場を離れたという被告人の弁解は,当時の状況からすれば,被告人が粗暴な行動をとることは十分あり得る一方で,そのような行動をとらないことが著しく不自然であるとはいえず,虚偽であると断じることはできない。
イAに背を向け,歩いて6~7m離れたエレベーター前に着くまでのわずかな間に,
Aが被告人に向かって言葉を発することも,
音を立てることもなく,
本件手すり壁を乗り越えて地面に落下したという被告人の弁解も,被告人と言い争いの末に,突発的に飛び降り自殺を決意したAが,被告人に対して何かを叫んだり,大きな音を立てたりすることは十分にあり得る一方で,このような行動に出ることなく,短時間の間に本件手すり壁を乗り越えて落下することが,著しく不自然であるとか,現実的に困難であるとは考え難く,虚偽であると断じることはできない。
動機について
被告人は,事件直前,Aに対して激高し,本件暴行を加えるに至ってもいるが,
被告人が激高した理由は,
久しぶりにAと性行為をする予定であったのに,
それが難しくなったなどというもので,これまでの被告人の粗暴な言動・性格や暴力団員という属性等を考慮しても,Aを本件手すり壁上に持ち上げて約15.2m下方に落下させるという確実な殺害行為に及ぶほどの動機たり得るか,いささか疑問がある。本件暴行後の通話で,Aから「警察呼ぶで。」などと言われ,さらに,本件ビルの5階通路で激しい言い争いに及んだことにより一段と怒りが増大したとも考えられるが,上記通話から約50秒後,上記口論からわずか数秒の間に,容易に発覚し得る殺害行為に及ぶほどに自制を失うものかも,若干の疑問なしとはしない。
原判決の結論
以上によれば,Aがとっさに飛び降り自殺をしたとみても,客観的証拠に反する点や致命的に不自然とみられる点は認められず,被告人の弁解を排斥することはできないから,被告人が故意にAを落下させたことが合理的な疑いを差し挟まない程度にまで立証されているということはできず,結局,本件殺人につき犯罪の証明はない。
4検討
そこで,検討すると,以上の原判決の認定判断は,論理則,経験則等に照らして不合理なものではなく,おおむね正当として是認することができる。以下,検察官の主張について検討する。
事件前後の経緯に関する検察官の主張とその検討
ア検察官は,
Aは,
落下する直前まで,
本件暴行について被告人に抗議し,
警察を呼ぶなどと言っており,死を考えたことがうかがえず,むしろ被告人への怒りがうかがわれること,被告人が関係を終わらせる旨Aに告げたのは,事件の時が初めてではないこと,Aは,前記の第2通話において,被告人と別れることになれば死ぬという発想をうかがわせるような発言をしているが,同時に死への恐怖も口にし,事件当日まで死の具体的危険性があるような態様で自殺を図ることもなかったことからすれば,Aが自殺を決意した可能性は考え難い,と主張する(控訴趣意書29頁(イ)。以下【

】内で控訴趣意書の頁数を指

す。)。
しかし,関係証拠によれば,Aは,①うつ病と診断されて長らく投薬を受け続けており,事件当時は,うつ病の中等度の症状により向精神薬等の投薬を受けていたこと,
②前記の被告人との第2通話
(平成27年8月8日)
において,
「あんたと離れる時は私死ぬ時なんやろーなってずーっと思ってきた。,」「死
のうかなってことにこだわるねん。」などと言い,飛び降り等による自殺を考えていた旨の発言をしていたこと,③同月21日,被告人に対し,「それだけ好きってことやねん。だから,あんまり不安にさせないで。心が壊れそうになるねんて。だからあんたに殺されたらとか,死んだら楽になるとか考えてまうねん。そしたら,一生あたしの事忘れへんかなとか思ってまう。」等と記載したメールを送っていたこと(原審弁第3号証),④同年9月上旬には,被告人と思われる人物との電話を終えた直後,「死んだるわ。」と言ってカーテンレールにマフラーをかけ,首を吊る素振りを見せたことがあること(Bの原審証言),⑤同月11日には,首吊り自殺に関するインターネット掲示板等を20分間近く閲覧していたこと(原審弁第7号証)が認められ,これらの事実に照らすと,Aは事件に近い時期にも,継続して死が意識にあったということができる。また,原判決も説示するとおり,⑥Aが日頃から家族や「C」の経営面での不安を抱えていたこと,⑦事件当夜は,被告人と会う約束をしていたが,閉店間際に客が来て,これを受け入れたことから,被告人と会う時間が遅れることになったというだけの理不尽な理由で,被告人から本件暴行を加えられ,相当強い衝撃や屈辱感を受けて,客もいる「C」の店内で,人目をはばからずに泣き崩れたことも認められる。
そうすると,検察官指摘の諸事実を考慮しても,Aが,落下直前に更に被告人と激しい言い争いとなった際に,被告人から別れ話を告げられるなどしたことから,衝動的に自殺を決意したとしても特に不自然であるとはいえないというべきである。もちろん,Aが自殺をしたとすれば,Aは,「C」を経営しており,自宅では,離婚した前夫との間の子で,Aが監護養育している長女(当時中学3年生)及び長男(当時中学2年生)並びにかつて交際関係にあったBと同居していたにもかかわらず,
同店の営業中に,
同店のすぐ近くの通路から,
子どもやB,
従業員のFに対して遺書も残さず,
何の連絡や示唆もしないまま,
被告人と言い争いを始めた後1分足らずの間に,飛び降り自殺を実行したことになり,これが自殺としてよくある類型であるとはいえない。しかし,衝動的な自殺であればその説明は付くところ,一般的に衝動的な自殺があり得ないこととはいえないし,被告人との言い争いの直後に自殺をすることには,上記③のメールの内容のように,被告人に自殺を見せ付けて,自己の存在やそれを失ったことを被告人に強く意識させるという意味を見出すことも可能であることからすれば,前記の事情の認められるAが自殺をした可能性を,事件前後の経緯を理由として否定することはできず,その旨の原判断に誤りはない。イ検察官は,
被告人は,
本件ビル1階に下りた後,
路上の通行人からの
「お
っさん何かしたんか。」との問い掛けに対して「知らん。」,「お前らには関係ない。」と答えたのみで,自殺をしたとは説明せず,それより先,Aが落下した直後に5階通路に現れたFに対しては,
「下におるんちゃうか。などと,

Aが生きて階下にいるかのようにごまかす発言をしており,これらは自殺だと認識した者の言動としては不自然不合理というべきであるが,原判決は,前記
張する【35頁(イ)】。
しかし,被告人の上記言動は,いずれも,Aのことはその生死を含めてどうでもよい,自分は関知しないという身勝手な態度の表れとも理解できるものであり,Aが自ら落下したと認識した者の言動としてあり得ないと断ずることは
本件落下状況に関する検察官の主張とその検討
ア検察官は,Aの着地位置と物理学的に矛盾しない自殺態様が想定できる旨の,

Lの原

審証言からすれば,
物理法則に反する,
誤ったものであることが明らかである,
と主張する【17頁a】。
検討すると,まず

は,Aの身体が落下を開始し

た時点での外方向に向かう速度が,地面に達するまでの間に建物からわずかしか離れない程度に低ければ,Aの着地位置と矛盾しないという趣旨と解される(例えば,本件ビルの外方向に向かう平均速度が秒速17cmであれば,1.8秒かけて着地した際には本件ビルから約30cmしか離れない。)。他方,Lは,原審公判において,「手すりからだんだんせり出して行くと,どこかで重心が空中に移り,回転を始めるが,その回転の軸となる部分が外側に滑り,外側に押す力や滑る力などいろいろな外方向にかかる力が合わさった状態で落下していくため,放物線を描いて離れたところに落ちる。」旨証言している。
しかし,Aが本件手すり壁から落下する場合に,重心が空中に移るために本件ビルの外方向に向けて働く力がどの程度の大きさなのか,あるいはそれが外方向に向けてどの程度の速度を与えるかについては,Lの証言するところではなく,理論的に考えても,重心が空中に移る直前の状態から重心が空中に移った状態にするために必要な力のうちの外方向に向かう成分が相当小さくなる場合は想定できる。また,重心が空中に移った後,(重力により)斜めに滑り出させる力のうちの外方向に向かう成分がどの程度の大きさなのか,あるいはそれが外方向に向けてどの程度の速度を与えるかについても,Lの証言するところではないし,理論的に考えても,重心が空中に移った際の体勢,本件手すり壁への身体の接触部分の大きさや形状,滑り出す角度等の諸条件によって,滑り出させる力のうちの外方向に向かう成分が相当小さくなる場合は想定できる。原判決は,上記のとおり,外方向に向かう速度が,地面に達するまでの間に本件ビルからわずかしか離れない程度に低ければ,Aの着地位置と矛盾しない旨説示しているのであり,これは,Lの証言と何ら矛盾せず,原判決の認定が物理法則に反するものとはいえない。
また,検察官は,本件実験の結果も援用して主張するが,本件実験は,Aの着地位置と整合するような自殺方法はあるか,という観点が乏しく,基本方針からして不十分なものであるし,極めて多様な実験条件の設定が考えられる中で,一つの実験結果のみから現実的に不可能などといった結論を導き出すことはできないというべきである。
イ(ア)

検察官は,
原判決がいうような
「転がるようにしながら,
落下開始の

直前ないしその瞬間に,本能的に又は翻意して体を反転させる,あるいは上半身を強く落下とは反対の本件手すり壁内側方向に捻るなどの力を加える」ことは,身体が既に空中に浮いた状態で,身体の外部のどこにも支点を持たずに体の向きや体勢を変えることなどは不可能であるから,現実的に不可能な動作である,と主張する【18頁b】。
(イ)

しかし,
原判決の上記説示は,Aが,
身体の外部のどこにも支点を持た
ない空中で,身体の向きや体勢を変えることができるとしたものではなく,Aの身体が空中に出る直前,いまだ本件手すり壁に接点を持っている状態で,身体の向きや体勢を変えることにより,外方向に向かう速度をそれまでよりも落とすことができるという趣旨と解され,これが物理法則に反するものとはいえない(少なくとも,そのような立証はされていない。)。検察官の主張は,原判決を正解していないものというほかない。
そして,
検察官は,
上記の諸点について,
原判決後に行った追加実験により,
①ゆっくりと体を本件手すり壁の外に出していって落下した場合でも,回転がかからないようにして建物から離れずに着地することは現実的には不可能であること【18頁】,②落下の瞬間に,本件手すり壁の内側に向けて体を捻ろうとすることにより,多少外向きの力を抑えても,全く抵抗しない場合と比べて,わずかに建物に近い位置に落下し得るにすぎないこと【19頁】,③Aが落下する際に,Aが被告人の身体・衣服や本件手すり壁等をつかんで抵抗した場合,又は被告人がAの身体・衣服をつかんだ場合には,建物直近に着地し得る場合があり,それ以上に着地位置と整合的な落下態様は見出し得ないこと【21頁】
が明らかになった,
と主張する。
そして,
検察官は,
当審において,
上記追加実験に関する証拠(以下「追加実験関係の証拠」という。実験に関与した証人Lと追加実験後にそれを踏まえて大学教授から意見を聴取した捜査報告書を含む。)について事実の取調べを請求し,原審においてその取調べを請求することができなかったやむを得ない事由として,(a)上記追加実験の結果は,原判決が現実的な可能性を無視した物理法則にも反する事実認定を行ったことを受けて,
初めて取調べの必要が生じたものであること,
(b)原審公判前
整理手続における争点整理において,Aが落下開始時の体勢のまま真下に落下したことに争いがないとされていたため,体を捻るなどして回転した可能性がないことについて立証する必要性や機会がなかったことを挙げる
【20頁c】

しかし,当裁判所は,追加実験関係の証拠(当審検第1ないし第8号証)について,刑訴法382条の2第1項にいうやむを得ない事由があるとはいえず,また,職権でこれを取り調べる必要性も乏しいと判断したことから,その事実取調べ請求を却下したものである。
すなわち,まず,追加実験関係の証拠のうち,上記③に関するものは,上記(a)(b)の事由とは関係しないものであり,単に追加立証を試みようとするものであるから,やむを得ない事由がないことは明らかである(なお,原審公判前整理手続において,
裁判所は,
平成28年11月9日,
原審検察官に対し,
(検
察官証明予定事実記載書面2の第1の2記載の,本件ビルの外方向に向かう力が)「相殺」される具体的な態様として,検察官が主張立証を予定しているのは,「本件手すり(注・本件手すり壁のこと。)の上面(部)に横たわり本件手すりをつかむなどして抵抗する被害者を,本件手すりの外に押し出して落下させる」態様のみなのか,他にもあるのか,他にもあるのであれば,あらかじめ主張されたい,との求釈明をし,これに対し,原審検察官は,同月15日,「検察官が現在のところ主張立証を予定しているのは,基本的に証明予定2記載の態様のみである。『基本的』としているのは,被害者が抵抗してつかむ対象物として,証明予定2で明示した『本件手すり』のほか『犯人の身体』が考えられるところ,被害者が犯人の身体をつかんだ場合,『本件手すりの外に押し出して落下させる』というよりは『被害者の手を振り払うなどして落下させる』という態様になる場合もあり得るからである。ただ,この場合も,結局,『被害者の身体に建物の外向きに加えられる力』と『被害者の身体に建物の内向きに加えられる力』
とが相殺されることを前提とすることに変わりはない。

と回答している。また,原審検察官は,平成29年3月3日の打合せ期日において,「これ(注・弁護人が実施した実験(原審弁第38号証)のこと。)に対する再主立証として,独自に再実験等を行うことは考えていない。」と発言している。)。
次に,
①②に関するものについては,
まず,
(a)の事由は,
既に述べたとおり,
原判決の認定が物理法則に反するものとはいえないから,前提を欠く。(b)の事由については,
確かに,
原審の公判前整理手続において,
原審検察官
が,Aは仰向けの体勢で自由落下を開始し,落下中その体勢はほぼ変化しなかった旨主張し,弁護人が,これをおおむね争わない旨主張した結果,Aが「ほぼ仰向けの状態(弁護人主張は仰向けというよりほぼ横向きの状態)で,落下を開始し,その体勢のままほぼ手すり壁の真下に着地した(無回転・直下)と推認される」ことについて争いがない,と整理されている(ただし,争点整理案5訂版の「当事者手控え用」とされた部分である。)。
しかし,原判決の「体を捻るなどして」という説示部分は,落下直前から落下の瞬間に,それまでの外方向に向かう速度を低減させるのに,考えられる可能な動きの例として示したものであり,落下中にAの身体が回転したことを積極的に認定したものではなく,
「Aが落下開始時の体勢のまま真下に落下した」
との整理内容と異なる認定をしたものとはいえない。もっとも,原判決は,落下中のAの身体がどのように回転していたのか,あるいはしていなかったのかは不明というほかない,縦方向の回転が生じることすらあり得るし,1回転以上したということも絶対にないとはいえないはずである,とも説示しており,この説示は,確かに上記整理内容とは異なるものといえる。
しかしながら,Aがほぼ仰向けの状態で落下を開始したことについて,当事者間に争いがないからといって,その立証が不要になるものではない。また,上記の整理では,
「ほぼ仰向け」
とされているものの,
弁護人は
「ほぼ横向き」
と主張していたのであり,「ほぼ仰向け」の語は,相当に幅のある概念として用いられている。そして,本件においては,落下開始時及び落下中のAの姿を直接立証する証拠はなく(結果的に原裁判所の心証がそうなったというわけではなく,
そもそも直接立証する証拠があるという前提では整理されていない。,)
上記整理の趣旨は,検察官が証拠から推論した落下開始時のAの姿勢と,弁護人が同様に証拠から推論したそれとが,相当に幅のある「ほぼ仰向け」という括りで合致した,ということにすぎない。
このような証拠関係の下で,上記の整理が上記の趣旨でされたからといって,当事者において,裁判所がこれと異なる指摘や推論をすることはなく,仮にそうする場合には何らかの釈明がされるであろう,と期待するのが合理的であるとはいえない。また,そもそも原判決の前記説示は,飽くまで可能性を指摘したものにとどまる上,しかもそれは力学的に当然の可能性にすぎない(後記のとおり,Aの身体が回転していたとしても,それが,回転の軸が本件ビルの外方向に全く,あるいはわずかしか動かないような回転であれば,Aの身体がほぼ真下に着地したことに何ら矛盾しないのである。)。
さらに,そもそも,落下開始時及び落下中のAの姿を直接立証する証拠がないのに,被告人を殺人罪で起訴する検察官としては,被告人の認否いかんにかかわらず,被告人が故意にAを落下させたことを立証するために,Aの落下状況について十分な間接証拠を収集・確保しておくべきであったし,起訴後には,
弁護人から,Aが自ら落下したとの予定主張が提出されたのであるから,それ以降はますます十分な間接証拠を収集・確保しておくべきであったといえる。そして,本件では,平成27年9月22日の事件発生後,同年11月11日に本件第1実験が実施され,同月17日に被告人を本件殺人により起訴し,平成28年1月21日に本件第2実験が実施され,同年5月26日に弁護人がAは自らの意思で落ちたと推認できるとの予定主張を提出し,その後1年以上が経過して,平成29年7月3日に公判前整理手続が終了し,同月4日に原審第1回公判が行われた,という経過をたどっており,捜査機関には証拠の収集・確保を行う十分な期間があったと認められる。しかも,捜査機関が行った本件実験は,Aの着地位置と整合するような殺害方法を見出すことに重点が置かれていて,Aの着地位置と整合するような自殺方法があるか,という観点に基づく実験は十分に行われておらず,基本方針からして不十分なものであったというほかない。そうすると,結局,検察官は,原審の公判前整理手続終了前,遅くとも原審公判中に行っておくべきであった立証準備を怠っていたにすぎないというべきであり,追加実験関係の証拠の事実取調べ請求にやむを得ない事由があるとはいえない。
そして,職権で取り調べる必要性について検討しても,検察官は,Aがほぼ仰向けの状態で落下を開始したと主張した上,このことを,このような落下開始時の体勢は自殺としては不自然であり,本件落下状況は自殺と矛盾するという主張の根拠として用いているが,そもそも,原判決は,Aがほぼ仰向けの状態で落下を開始したとすれば自殺と矛盾するとは考えていない。すなわち,原判決は,自殺の場合に考えられる「落下に至る態様」として,本件手すり壁に一旦全身を乗り上げて寝るような状態になり,そこからゆっくりずり落ちるように落下する場合と,転がるようにしながら,落下開始の直前ないしその瞬間に,本能的に又は翻意して体を反転させる,あるいは,上半身を強く本件手すり壁内側方向に捻るなどの力を加えた場合とを例示しているが,これらの場合には,Aがほぼ仰向けの状態から落下を開始することも十分想定されるのであって(原判決は,前記弁護人実施の実験がヒントになると説示しているが,この実験は,「ほぼ横向き」の状態,すなわち上記整理でいう「ほぼ仰向け」の状態に含まれる状態で落下を開始するものである。),原判決は,Aがほぼ仰向けの状態で落下を開始したとすれば自殺と矛盾するとは考えておらず,それゆえ,Aの身体が回転していた可能性の説示を,「なお若干付言すると」とい
に,検察官に,Aの体が回転した可能性がないこと,すなわちAが落下開始時の体勢のまま真下に落下したことを立証させても,原判断の当否が左右されることにはならない。また,検察官は,追加実験の結果が,原判決が指摘するような落下開始の直前ないしその瞬間の行動が現実的に不可能であることの根拠となるかのような主張もするが,極めて多様な実験条件の設定が考えられる中で,一つの実験の結果のみから現実的に不可能などという結論を導き出すことはできない。したがって,追加実験関係の証拠を職権で取り調べる必要性もないというべきであり,当裁判所はその事実取調べ請求を却下した次第である。ウ検察官は,原判決は,「約15.2mの落下に要する時間は重力加速度から算出すれば僅か約1.8秒であるから,その間,Aの身体は回転することなく,落下開始時と同じ体勢を保ったまま着地しているはずである」とする検察官の主張は,物理学の初歩的知識に照らし明白な誤りである,と説示しているが,検察官は,落下時間のみならず,Aの着地位置が本件手すり壁のほぼ真下であった事実から,「静止状態からの自由落下に近い状態で,無回転直下に落下時の体勢とほぼ同じ体勢で着地した(=初速ほぼ0)」と認められると主張していたのであって,原判決には誤りがある,と主張する【22頁イ(ア)】。しかし,原判決は,落下を開始する物体に回転モメント(力のモーメント)が与えられていれば,物体は回転しながら落下することから,Aの身体は回転することなく,落下開始時と同じ体勢を保ったまま着地しているはずである,という検察官の主張は,物理学的に誤りであり,落下中のAの身体がどのように回転していたか否かは不明である旨説示しているにすぎず,検察官がいうように,Aが落下中に体勢を大きく変えた可能性を指摘しているわけではない(なお,原判決がいう「回転」は,速い速度でくるくると回るようなもの(角速度の高いもの)に限られず,身体の向きが若干傾いていくような程度のもの(角速度の低いもの)も含むものと解される。)。そして,ここでいう「回転」が,その軸が本件ビルの外方向に全くあるいはわずかしか動かないようなものであれば,Aの身体はほぼ真下に落下することになるから,Aの着地位置が本件手すり壁のほぼ真下であった事実を考慮に入れても,原判決の前記説示はなお妥当するのであって,誤りはない(なお,検察官は,追加実験関係の証拠を事実取調べ請求するに当たり,この点に関する検察官の主張内容も立証趣旨に挙げているが,既に述べたとおり,検察官主張の前記(a)及び(b)の事由はやむを得ない事由とは認められないし,以上述べたところからは,職権で取り調べる必要性も認められない。)。
なお,検察官は,原判決が,上記の指摘に加えて,例えば落下開始時に身体の一部が手すり壁上面角の縁に引っかかるなどすれば,身体の縦方向の回転が生ずることすらあり得るし,1回転以上したことも絶対にないとはいえない,と説示していることについて,抽象的可能性をいうものにすぎないし,客観的状況にも整合しない,と主張する【24頁(イ)】。
しかし,原判決のこの説示は,そもそも,検察官の,Aの身体はほぼ仰向けの状態で落下を開始し,これと同じ体勢を保ったまま着地した,という主張が物理学的に誤っていることを指摘するに当たっての,単なる例示にすぎず,縦方向の回転や1回転以上の回転が起こる可能性にどの程度具体的な根拠があるかは,原判決の上記説示の当否を左右するものとはいえない。検察官は,Aの身体が縦方向に回転したとすれば,その手足が本件ビルの外壁に接触するはずであるのにその形跡がなく,客観的状況に整合しないと主張するが,そもそもAの身体は壁に極めて近接した空間を落下したのであるから,縦方向の回転(なお,原判決は,Aの身体が,本件ビルと平行な状態を保ちながら身体の縦方向に回転するという趣旨でこのように表記したものと解される。)をしていなかったとしてもその手足が本件ビルの壁に接触する可能性があることは明らかであり,回転していなければ接触するが,回転していれば接触しないなどとはいえない。
エ検察官は,

に対し,①Aの指掌紋やDNA型

の不検出は,接触していないことを示すものではない【31頁

ア】,②落下

実験の再現性には限界があり,実際の結果とぴったり一致するとは限らないし,本件実験の目的は,Aが抵抗することによってより建物の近くに着地し得ることを確認することにあり,実際に内向きの力と外向きの力が打ち消し合うような状況が生ずれば,外向きの力が0に近い状態となり,その結果,そうでない場合に比して本件ビルの近くに着地するという理論的説明は本件実験によって裏付けられている【32頁イ】,と主張する。
しかし,①については,検察官の指摘するとおり,指掌紋やDNA型の不検出が接触していないことを示すものではないとしても,原判決は,接触していない旨認定したわけではなく,検察官の主張する落下態様を裏付ける指掌紋やDNA型が検出されていないことを,検察官が落下原因の立証を果たしていないことの説明の一つとして用いているにすぎないから,原判決に何ら誤りはない。②についても,原判決は,検察官の主張する落下態様が本件実験によって裏付けられていないこと,すなわち,本件実験ではAの身体が本件手すり壁の直下に着地する結果は得られていないことから,検察官の主張する落下態様があり得ないと認定したわけではなく,その客観的可能性は肯定した上で,検察官の主張する落下態様が本件実験によって裏付けられていないことを,検察官が落下原因の立証を果たしていないことの説明の一つとして用いているにすぎない。また,前記のとおり,本件実験は,Aの着地位置と整合するような自殺方法はあるか,という観点が乏しく,基本方針からして不十分なものであるし,他者に抱えられて本件手すり壁越しに落とされそうになった者が,落とされまいとしてその他者をつかむことは,手すり壁をつかむのと並んで,あるいはそれ以上に自然な反応と考えられるのに,これを想定した実験も行われておらず,内容的にも不十分なものである。検察官は,理論的説明で十分であるというが,それは,力学的に起こり得ること,すなわち犯行の客観的可能性があることを意味するにとどまるし,それ以上にその可能性の大小を明らかにする理論的説明はないのであるから,Aが自ら落下した可能性が否定されないことはもろちん,被告人が故意にAを落下させた可能性とAが自ら落下した可能性の大小が明らかになるものでもない。

本件審理において明らかになった事実関係や知見を基に改めて検討し
ても,Aが自ら落下する場合に,落下開始時点での外方向に向かう速度が著しり壁上に寝た状態から,転がるなどして本件手すり壁上を外側に向けて移動し,停止する寸前のところで重心が空中に移って外側に落下する,というものなども考えられる。人は,意識的に水平方向に転がるなどして移動する場合,その速度を調整し,ねらった場所に止まることができることからすると,ちょうど重心が空中に移る位置で外方向に向かう速度が著しく低くなるように移動することが不可能であるとは考えられない(少なくとも,不可能であることは立証されていない。)。他方,検察官主張のように,本件手すり壁の外に押し出す力と内側に戻ろうとする力が相殺されて外方向に向かう力や速度がおおむね0となる状態は,理論的にはあり得るとしても,協力関係にない2人の人間がそれぞれ力を出し合った結果そのような状態となる可能性が高いとは考えられない(この場合,Aに対して殺意を抱いた被告人が,一定の大きさの力を一定時間加え続けるとは考え難く,瞬間的に相当な力を加えるなど,その加える力の大きさは,外方向の成分に限ったとしても,時間的に変化するのが自然と思われるが,そのような力を相殺する力をAがタイミングよく出す可能性が高いとは考えられない。)。そうすると,本件落下状況から,Aが自ら落下した可能性を否定することができないことはもちろん,被告人が故意にAを落下させた可能性とAが自ら落下した可能性の大小を論じることもできないというべきである。
現場や遺体の客観的状況等(本件落下状況を除く。)に関する検察官の主張とその検討
ア検察官は,原判決は,被告人がAの脚を抱えるなどして本件手すり壁上に持ち上げる方法について,
相当な腕力等を要すると説示するが,
これは,
「同
方法は女性警察官でも可能であることを確認済みであるし,L自身の経験としても容易であった」旨のLの原審証言を看過又は無視したものであるし,「被告人がAの脚を抱えることで,Aの身体を本件手すり壁上に持ち上げることは物理的に可能であり,また,Aの反抗を考慮しても,必ずしも困難ではない態様のものも想定し得る」との原判決の他の部分の説示とも矛盾する,と主張する【25頁(ウ)】。
しかし,被告人とAの体格(被告人は身長約169.5cm,体重約63kg,Aは身長約158cm,体重約48kg)に照らせば,上記方法には相当な腕力等を要するという認定が経験則に反するとはいえない。原判決の他の部分の説示との整合性に疑義があることは,検察官が指摘するとおりであるが,矛盾するとまではいえないし(相当な腕力等を要するが,必ずしも困難ではない態様,というのが概念矛盾であるとまではいえない。),そもそも,必要な腕力いかんによって,検察官指摘の方法が本件手すり壁乗り越えの唯一の方法ではないという原判断が左右されるものでもない。
イまた,
検察官は,
原判決の認定を前提とすると,
突発的に自殺を決意し,
激情に駆られて自らのネックレスを引きちぎるほどの興奮状態にあったAが,わざわざ本件手すり壁上に一旦寝るような体勢を取り,ゆっくりずり落ちたことになるが,
これは人の行動として不自然で矛盾しており,
原判決は,
全体的・
総合的観点からの考察を欠いている,と主張する【28頁b】。
しかし,原判決は,Aが自ら本件手すり壁に飛び乗った際にネックレスのビーズが散乱した可能性も指摘しているし,落下の方法についても,転がるようにしながら,落下開始の直前ないしその瞬間に,本能的に又は翻意して体を反転させる,あるいは上半身を強く本件手すり壁内側方向に捻るなどの力を加える方法も想定されるとしており,検察官は,原判決が想定している様々な可能性から,殊更に最も不自然と思われる組み合わせを選び出して批判を加えているにすぎず,その主張を採用することはできない。
また,衝動的に自殺を決意したAが,本件手すり壁上に飛び乗る形をとったとしても,不自然不合理であるとまではいえない。そして,その後の流れとしては,例えば,一気に本件手すり壁を超えられず,一旦本件手すり壁上に寝るような形になり,そこから,前記のとおり,転がるなどして本件手すり壁上を外側に向けて移動し,停止する寸前のところで重心が空中に移って外側に落下する,というものなどが考えられるのであって,これが人の行動としておよそ不自然であるとか,前後が矛盾しているとかいうことはできない。そして,この場合,Aが本件手すり壁上に飛び乗った際にネックレスがちぎれたものだとしても,あるいはそれに先立ち自ら引きちぎったものだとしても,特に不自然であるとはいえない。このように,Aの行動を一連の流れとして考察しても,Aが自ら落下したことがあり得ないとはいえない。
被告人の弁解に関する検察官の主張とその検討
検察官は,被告人の原審公判供述を前提とすると,被告人がAに背を向けて約6~7m離れたエレベーター前まで歩く間のわずかな時間,すなわち,落下開始から着地までに要する約1.8秒を除けばせいぜい4,5秒と考えられる時間のうちに,Aが,大きな物音を立てることもなく,本件手すり壁に上り,勢いよく飛び出さないようにしながらゆっくりと落下したことになるが,これは現実にはほぼ不可能であるのに,原判決が著しく不自然であるとか現実的に困難であるとは考え難いとしたのは不合理である,弁護人が実施した実験でも,通路上で踏み切ってから手すり壁上に寝転ぶまで4,5秒を要しており,少しずつ身体を外に出す時間は全くない,と主張する【34頁(イ)】。しかし,例えば,前記のように,衝動的に自殺を決意したAが,本件手すり壁上に飛び乗る形をとったが,一気に本件手すり壁を超えられず,一旦本件手すり壁上に寝るような形になり,そこから転がるなどして本件手すり壁上を外側に向けて移動し,停止する寸前のところで重心が空中に移って外側に落下するという場合は,短い時間しかかからないし,大きな物音も立たないと考えられる。前記の弁護人実施の実験では,本件手すり壁上に残されたAの足紋の位置との整合性を図るため,あるいは腹部等を強打しないようにするため,少々慎重に体勢を調整している様子がうかがわれるから,必ずしも同実験のような時間を要するとはいえない。
5以上のとおり,検察官の主張に採用に足りるものはなく,それらの点から原判断に論理則,経験則等に照らして不合理な点があるとはいえないが,さらに,本件の証拠関係を全体的に検討したときに,原判断に不合理な点があるかを検討する。
事件前後の
経緯等からは,被告人が故意にAを落下させたことが推認される,
現場や

遺体の客観的状況等からは,被告人が故意にAを落下させたことが推認される,中でも,本件落下状況は,被告人がAを故意に落下させたことと整合するが,Aが自ら落下したこととは矛盾する,というものである。
Aを落下さ
せたとしても起こり得る一方で,Aが自ら落下したことに整合しないともいえ
の点,
すなわち現場付近のサンダル,
ネックレスのビーズ,
指掌紋の状況等も,
被告人が故意にAを落下させた(殺人)としても,Aが自ら落下した(自殺)としても説明が付くものである。この点はおおむね原判決が説示するとおりであるが,
若干補足すると,
Aのサンダルが5階通路に散乱していたといっても,
それは,両足分のサンダルが同じ位置に倒れていたという程度であるから(原審甲第110号証),被告人のAに対する暴力ひいては殺人に結び付く事実であるとはいえない。原判決の指摘する,本件ビル5階通路での被告人とAの言い争いが止んでからAが落下するまでの間の「少なくとも数秒の静寂」にいう「静寂」についても,本件ビル付近の路上にいた者や,「C」の店内にいた者が2人の声を聞かなかったというものであり,その間2人がおよそ無言であったことまでを意味するものではないことを踏まえて検討する必要があるが,これについては,殺人であるとすると,Aが被告人に抱きかかえられるなどしたのに,一言の助けを求める声も発することなく落下していったことになって不自然である,という原判決のような見方もできれば,Aが恐怖,驚愕の余り大きな声を出せなかったと考えられるので不自然ではなく,かえって,何も言い残さず無言で飛び降りるというのは自殺としても不自然である,という見方もできるのであって,殺人であっても自殺であっても説明が付かないものではない。
そうすると

Aを落下させたことを合理

的な疑いを超えて認めることができるか,すなわち,Aが自ら落下した合理的な可能性を否定することができるかの問題となる。
検討すると,被告人が本件ビル5階通路に到着してから同階のエレベーターの昇降ボタンを押すまでの最大でわずか約50秒の間に,被告人とAが大声を出し合うような言い争いをした上で,Aが落下するという事態が生じたこと,その直後,被告人は慌てた様子(昇降ボタンを連打していたこと等から明らかである。)で5階から立ち去ろうとし,Fから尋ねられても「知らんわ。下におるんちゃうんか。」と嘘を言い,本件ビルの下に下りた後,被告人を怪しんだ通行人から聞かれても「知らん,お前らには関係ない。」と言って,近くに倒れていたAには目もくれずに被告人車両で走り去り,それ以降13日間にわたる逃亡生活を送ったことといった事件前後の経緯は,被告人が故意にAを落下させたとすると良く説明できる事情であるといえる。そして,Aが自殺をしたとすれば,前記のとおり,Aは,自らが経営する「C」の営業中に,同店のすぐ近くの通路から,2人の子ども,同居していたB及び従業員のFのいずれに対しても何も伝えないまま,被告人との言い争いの直後に衝動的な飛び降り自殺を実行したことになるが,これが自殺としてよくある類型であるとはいえない。
しかし,既に述べたとおり,現場や遺体等の客観的状況からは,Aが自ら落下した可能性を否定することはできないし,その可能性より被告人が故意にAを落下させた可能性の方が大きいということもできない。また,本件実験によっても,本件落下状況とほぼ同一の落下状況を再現することはできなかったのであって,このような状況の下で,上記の事件前後の経緯等を,他に特段の事情がない限り被告人が殺害したと推認させるほどの強い間接事実群とみるこAが自ら落下
したと認識した者の言動としてあり得ないものとまではいえない。また,ビルから人が転落したというケースで,落下の直前に転落者の近くに「別の人物」がいたということが実例としてどれほどあり,また,そのうち「別の人物」が故意に転落者を落下させたケース(殺人)がどれほどあって,落下者が自ら落下したケース(自殺)がどれほどあるのかも不明である。)。また,本件の状況下で,Aが自ら落下することが,よくある自殺の類型ではないにしても,前Aには,平均的な人物よりは自殺しても不自然ではない事
情が認められるから,Aが衝動的に自殺を実行に移すことがおよそ考え難いとまでいうことはできない。そして,被告人の原審供述についていえば,仮にそこに虚偽や信用性の乏しい部分があるとしても,それが当該供述と反対の事実を認定する積極的な根拠となるものではない。加えて,原判決も説示するとおり,被告人には,Aを本件ビル5階から落下させて確実に殺害する行為に及ぶだけの動機として確たるものも見出し難い。
そうすると,本件の証拠関係を全体的に検討してみても,被告人が故意にAを落下させたとすれば合理的に説明可能な事実関係は一応認められるものの,そうでないとしたならば合理的に説明することができない事実関係があるとまではいえない。原判決の,Aがとっさに飛び降り自殺をしたとしても,客観的証拠に反する点や致命的に不自然とみられる点はなく,被告人の弁解を排斥することはできないとした判断が,論理則,経験則等に照らして不合理であるとはいえない。
6本件殺人についての結論
本件殺人における検察官の主張立証は,殺人であることを説明可能とする証拠収集や証拠からの推論には意識が向いているものの,反対仮説(自殺)の可能性が否定されるかという観点からの証拠収集や証拠からの推論は不十分といわざるを得ない。被告人が故意にAを落下させたとは証明されていないとした原判決に事実誤認があるとはいえない。
論旨は理由がない。
第4まとめ
以上のとおり,原判決のうち,本件脅迫につき無罪を言い渡した部分については,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の解釈適用の誤りひいては事実の誤認があり,論旨はその限りで理由があるから,破棄を免れない。他方,
本件殺人につき無罪を言い渡した部分については,
論旨は理由がない。
そして,本件暴行につき有罪判決をした部分については,控訴趣意として何ら主張がないものの,本件暴行と本件脅迫は刑法45条前段の併合罪の関係にあり,後に述べるとおりこれらについて一個の懲役刑を科すのが相当と考えられるから,原判決中本件暴行に関する部分も破棄するのが相当である。よって,原判決中,本件暴行及び本件脅迫に関する部分については,刑訴法397条1項,380条,382条によりこれを破棄し,同法400条ただし書により更に判決することとし(なお,被告人が本件発言をしたことは原判決が明示的に認定している上,本件発言が人を畏怖させるに足りる害悪の告知であると評価する前提となる,被告人とAとの関係,本件発言に至る経緯,本件発言の場面・状況・文脈,発言の声色等の事実についても,当裁判所は,専ら原判決が認定した事実関係を前提に判決をするから,当審において改めて事実の取調べをすることを要しないと解する。),その余の部分については,同法396条により本件控訴を棄却することとする。
第5自判
(罪となるべき事実)
第1

被告人は,平成27年8月8日午後7時17分頃,兵庫県内において,
同県内にいたA(当時32歳)に対し,電話で,「お前,今から行って家上がってどついたろか。」,「蹴り回したろか,お前。」,「くそー,殺してもうたろかほんま。」などと申し向け,もって同人の生命,身体等に危害を加える旨を告知して脅迫した。
第2原判決の(罪となるべき事実)のとおり(本件暴行)
(証拠の標目)(括弧内の数字は,原審証拠等関係カードの検察官請求証拠番号である。)
省略
(累犯前科)
原判決の(累犯前科)のとおり
(法令の適用)
被告人の判示第1の所為は刑法222条1項に,判示第2の所為は刑法208条にそれぞれ該当するところ,所定刑中いずれも懲役刑を選択し,前記の前科があるので同法56条1項,57条によりそれぞれ再犯の加重をし,以上は同法45条前段の併合罪であるから,同法47条本文,10条により犯情の重い判示第2の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で被告人を懲役1年4月に処し,同法21条を適用して,原審における未決勾留日数中,その刑期に満つるまでの分をその刑に算入し,原審における訴訟費用は,刑訴法181条1項ただし書を適用して被告人に負担させないこととする。
(量刑の理由)
判示第2の犯行
(本件暴行)
の動機,
経緯,
態様,
被害結果についての評価,
また,前科等に照らし,同犯行が被告人の粗暴性が発露したものであることについては,原判決のとおりである。他方,判示第1の犯行(本件脅迫)は,Aに女性関係の追及をやめさせようとしたという動機に酌むべきところはないものの,本件発言は,交際関係にある男女間の,交際の在り方に関する口論の中での行き過ぎた発言であって,悪質な犯行とまではいえない。そして,被告人が本件暴行を認めて反省しており,本件脅迫についても本件発言をしたこと自体は認めていることは,被告人のために酌むべき事情である。これらを考慮すると,本件暴行及び本件脅迫を併せて一つの刑を言い渡す場合も,原判決が本件暴行につき言い渡した懲役1年4月より重い刑とすることは相当でなく,これと同一の刑で足りると判断した。
よって,主文のとおり判決する。
平成30年7月5日
大阪高等裁判所第3刑事部(裁判長裁判官
郎,裁判官

岩﨑邦生)
増田耕兒,裁判官

浅見健次

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