判例検索β > 平成27年(ワ)第1737号
損害賠償請求
事件番号平成27(ワ)1737
事件名損害賠償請求
裁判年月日平成30年6月28日
法廷名東京地方裁判所  立川支部
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主文
1被告は,原告甲に対し,33万円及びこれに対する平成25年5月7日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2原告甲のその余の請求並びに原告乙及び原告丙の請求をいずれも棄却する。3訴訟費用は,これを30分し,その1を被告の負担とし,その余を原告らの負担とする。
4この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。
事実及び理由
第1請求

1被告は,原告甲に対し,550万円及びこれに対する平成25年5月7日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2被告は,原告乙に対し,244万0853円及びこれに対する平成25年5月7日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3被告は,原告丙に対し,110万円及びこれに対する平成25年5月7日から
支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2事案の概要
本件は,原告らが,被告に対し,被告が設置及び管理運営する国士舘高等学校(以下「本件高校」という。
)の生徒として本件高校のサッカー部(以下,単に
「サッカー部」
という。に所属していた原告甲が,

平成25年5月7日にサッカ

ー部の部員らから暴行を受けた結果,右軽度感音難聴等の傷害を負った上,その後の本件高校の対応によって本件高校を退学せざる得なくなったと主張して,債務不履行又は不法行為に基づき,それぞれ損害賠償金及びこれに対する上記暴行の日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。

1前提事実(当事者間に争いがないか,弁論の全趣旨によって容易に認められる事実)
当事者等

原告甲は,平成25年4月,スポーツ推薦によって本件高校に入学し,サッカー部に入部した。

イウ
被告は,本件高校を設置,管理する学校法人である。


原告乙は原告甲の父であり,原告丙は原告甲の母である。

A及びB(以下,両名を併せて「加害生徒ら」ということがある。)は,い
ずれも,本件当時,本件高校に在籍(Aは3年生,Bは2年生)し,サッカー部に所属していた。
本件暴行及び原告甲の退学


原告甲は,平成25年5月7日,本件高校の体育武道館において,サッカー部の上級生部員である加害生徒らから蹴られたり,平手打ちをされるなどの暴行を受けた(以下,
「本件暴行」という。。



原告甲は,平成25年12月31日付けで,本件高校を退学した。
2争点及びこれに関する当事者の主張
本件における争点は,
被告の責任原因の有無
(争点1)原告らの損害の有無及

びその額(争点2)である。
争点1(被告の責任原因の有無)について
(原告らの主張)

安全配慮義務の存在
被告は,本件高校に関する原告甲との間の在学契約に基づき,同契約の付随義務として,生徒が安全な環境下で成長発達し,教育を受けられるよう,学校教育活動及びこれと密接に関連する生活関係において,生徒の心身に対して暴力行為等の違法な侵害が加えられないよう適切に配慮をすべき注意義務を負う(民法415条)
。また,被告は,被用者である本件高校の教職員

の違法行為によって,上記生活関係において,生徒の心身に対する違法な侵害が加えられないように適切な措置を執るべき使用者としての義務を負う(民法715条)

これらの義務の具体的内容は,次のとおりである。

損害発生防止義務違反
本件高校の教職員は,被告の履行補助者ないし被用者として,学校内にお
いて,
生徒の心身に対して違法な侵害が加わらないよう適切に配慮をする注意義務,すなわち,日頃から生徒の動静を観察して暴力行為やいじめ等がないかを注意深く見極めるとともに,その存在がうかがわれる場合には,生徒や保護者から事情聴取するなどしてその実態を調査して正確に把握し,関係する生徒を適正に指導及び説諭するなど,教育的配慮のために必要な措置を
執る義務を負う。そして,被告は,学校設置者ないし使用者として,本件高校の教職員に対し,上記の注意義務を認識させ,生徒に損害が生じないようにすべき義務,すなわち損害発生防止義務を負う。
しかし,被告は,これを怠り,以下のとおり,原告甲に対する本件暴行の発生を予見し,かつこれを回避し得たのに回避するための努力をせず,原告
らに損害を生じさせたから,債務不履行又は不法行為に基づき,原告らに対し,損害賠償責任を負う。
サッカー部では,
「ピン集」
と呼ばれる,
上級生が集団で下級生1人を呼
び出して口頭で注意をしたり暴行を加えることが伝統的に行われ,いわば「文化」として上級生から下級生に引き継がれていた。暴力を伴う被害を
受けた部員の身体にあざができたり,同部員の上級生に対する態度に変化が生じることは当然であり,サッカー部の監督や本件高校の教職員が,この長年の慣行に気付かないはずがない。
サッカー部においては,厳格な上下関係としごきの伝統が容認されており,部員には,暴力行為を絶対に行ってはいけないとの認識が希薄であっ
た。サッカー部の監督代行となったF教諭は,上下関係に反すれば暴力を振るわれることもやむを得ないとの考え方がサッカー部に蔓延していることを知りつつ,これを容認し,むしろ指導者としてその雰囲気を助長していた。
サッカー部では平成17年に本件と同様の暴力傷害事件が起きていたし,本件暴行の加害生徒の1人であるAは,過去に他の暴行事件を起こして処分を受けていた。
以上の事情からすれば,被告及び本件高校の教職員らにとって,サッカー部内での上級生部員から下級生部員に対する暴力行為,特に原告甲のような入学したばかりの1年生部員が「ピン集」に伴う暴行の被害にあうことは一般的に予見可能だったし,また,加害生徒らによる原告甲に対する
本件暴行も具体的に予見可能であった。
前述したように,
平成17年にサッカー部内で暴力傷害事件が起きてい
たのであるから,被告としては,日常からサッカー部内での暴行の有無を観察及び注視し,
定期的な聴き取り調査をして上級生部員による暴行が行
われていないかを把握すべきであった。
そして,
「ピン集」
がサッカー部内

で頻繁に行われていた以上,被告としては,学校全体の問題として捉え,抜本的に根絶するために,なぜ暴力がいけないのか生徒らと話し合い,伝統だから仕方ないという認識を改めさせ,同種の暴行事件を起こさせないよう強力な指導を行うなど,あらゆる教育的な措置を講じるべきであり,本件暴行があった当時,部員間の暴行が顕在化していた以上,暴力行為に
及んだ部員らに対し,
強く説諭して今後二度と暴力を振るわないよう指導
し,指導が行き届かない場合には,サッカー部を退部させる,部活動中及びその前後の時間帯に目が行き届くよう指導監督する教員の数を増やす等の防止措置を執るべきであった。被告がこれらの措置を執れば,本件暴行の発生を防止することができた。

しかし,被告は,これらの措置を執らなかったため,本件暴行を防止できなかったから,損害発生防止義務に違反したというべきである。ウ
調査義務及び損害拡大防止義務違反
生徒間で違法な侵害行為が発生し,被害生徒が不登校になった場合,学校としては,被害生徒が安心して復学できるような環境を整える義務がある。被告としても,本件暴行が発生した後,原告甲が本件高校や部活動に戻れる
ように,速やかに当該行為の原因,加害生徒や加害行為の態様等を調査し,被害の継続,拡大,再発等を防止すべき義務がある。具体的には,①事件の背景を含めた全容を調査し,調査内容を被害生徒及びその保護者に報告する義務,②被害生徒が孤立化しないよう,迎える生徒らに対し,悪いのは加害生徒であると指導する義務,③加害生徒の処分を解除する時期を事前に被害
生徒やその保護者に相談する義務,④再発予防のためにどのような協議や調査がされているかを保護者らに具体的かつ適時に情報を提供する義務,⑤被害生徒が復学するまでに学習補完のための措置を講じる義務,及び⑥被害生徒に対する心理的ケアを行う義務である。
しかし,以下のとおり,被告は,このような配慮を一切せず,これらの義
務に違反して原告らに損害を生じさせたから,
債務不履行又は不法行為に基
づき,原告らに対し,損害賠償責任を負う。
被告は,本件暴行があった後速やかに原告甲から事情を丁寧に聴き取っておらず,
加害生徒らを含む他の部員らからの事情聴取や情報収集も不十
分であり,本件暴行の背景に「ピン集」という悪しき伝統が存在するとい
う実態を把握していなかった。また,原告ら訴訟代理人が本件高校に対して第三者による調査委員会の設置を求めたものの,本件高校は,既にされた調査で十分であると回答をしたのみだった。被告から開示された資料はマスキング部分が多く,本件暴行以外にも暴行事件が発生していることや,その背景に何があったのかにつき,詳しい説明は一切なかった。したがっ
て,被告は,上記①の義務に違反した。
被告は,
新たな被害にあうのではないかという恐怖から通学ができなく
なっていた原告甲の精神状態に配慮し,原告甲が安心して本件高校に通って部活動も続けられるように,再発予防策を徹底し,二度と暴力がないような環境を整備するための措置を執るべき義務を負っていた。しかし,F教諭は,サッカー部のキャプテンとともに,原告甲に対し,生意気な態度をとっていたことをみんなに謝れば許すなどと述べ,あくまで原告甲に非
があるかのような対応をした。また,サッカー部の部員らの多くは,本件暴行があった平成25年5月の翌年3月においても「やられる側が悪い」などと供述しているとおり,被告がサッカー部員らの認識を改めさせることはなかった。本件高校は,加害生徒らを無期停学処分としたものの,原告甲が再び暴行や嫌がらせを受けないようにする安全確保の措置がない
状態で,原告らには何ら説明や関係調整のないまま同処分を解除した。被告は,再発予防のためにどのような協議や調査がされているかにつき,原告らに情報を提供しなかった。したがって,被告は,上記②ないし④の義務に違反した。
本件暴行発覚後,被告はF教諭に原告らの対応を一任したが,上記のと
おり,F教諭は原告甲に非があるかのような対応をした。また,平成25年8月末以降,
原告らはF教諭に対する不信感から同教諭との面談を拒絶
するようになったが,被告は,学校内で原告甲の復学に向けた体制作りをすべきだったのに,これをしなかった。被告は,夏休みが明けても欠席を続けた原告甲に対して実質的に何も働きかけをせず,担任の教諭がこのま
までは出席日数が足りなくなることを告げただけだった。したがって,被告は,上記⑤及び⑥の義務に違反した。(被告の主張)

一般的な在学契約の意義・内容としては認める。


損害発生防止義務違反の主張について
本件暴行によって原告らに生じた損害に関し,被告に注意義務違反があったとの主張は,争う。以下のとおり,被告において,本件暴行を予見し,結果発生を回避することは不可能だった。
サッカー部に集団暴行(
「ピン集」
)の「伝統」「文化」「慣行」があっ


たとの点は,否認する。サッカー部の指導者らは,
「ピン集」という用語を
聞いたことがなかった。サッカー部においては,けがで練習ができない部
員のけがの状態を把握していたが,部活動以外の暴力等によるけが人はいなかった。
本件暴行は,
原告甲が上級生部員に対して悪口を言うことなどに腹を立
てたという加害生徒らの私的な感情を理由としており,サッカー部の活動と直接に関係するものではない。本件暴行を含め,部員間の暴行は第三者
の目に触れないように秘密裏に行われたものであり,サッカー部の指導者らを含む被告の被用者において,
部員間の暴行を予見することはできなか
った。
サッカー部では,平成17年の暴力傷害事件を契機に,暴力等の問題行為を根絶するため,①学年ごとの更衣場所を指定し,上級生による下級生
に対する指導は指導者の目が届く場所において行わせる,②練習終了後の自主練習は指導者が残っている場合に限定し,目が届く場所で行わせる,③情報提供できるように監督のメールアドレスを部員及び保護者に公開する,という指導や対策を周到に行ってきた。これにより,同事件以降,暴行事件は1件も本件高校及びサッカー部において認識されていない。

調査義務及び損害拡大防止義務違反の主張について
争う。被告は,本件暴行の事後的対策として,調査と再発防止措置を行うとともに,原告甲がサッカー部に戻るための支援及び対策を行った。平成25年6月28日頃に原告丙から暴行に関する電話連絡があった
ことから,F教諭は,原告甲と面談して事情を聴取した。その際,原告甲からは,1年生同士の人間関係のもつれに関する申告があったものの,本件暴行に関する申告はなかった。また,本件高校は,同年7月8日,原告甲に対する調査を行い,同人に報告書を作成させている。F教諭は,同月頃,2回にわたり,サッカー部の部員全員を対象として,部内の暴力等に関するアンケート調査を実施した。同月上旬頃に原告乙からG副校長に本件暴行についての電話連絡があり,同人からその旨の報告を受けた校長は,自ら原告乙に電話し,原告らから詳しい事情を聞きたい旨,加害生徒を特定して謝罪するよう求める旨などを約束し,F教諭らと共に,原告らと面談して事実関係の詳細を聴取した。F教諭は,原告丙に対し,同月下旬以降,2日に1回程度の電話連絡を欠かさなかった。

本件高校は,加害生徒らに部活動を含む無期停学処分を課し,加害生徒らの担任教諭及びF教諭は,
加害生徒らと面接を行って反省文を提出させ
たり,奉仕活動をさせたりするなどの指導を何度も行った。また,F教諭は,加害生徒らの保護者に謝罪を促すとともに,サッカー部のキャプテンを交えて原告甲と面談する機会を設け,原告甲がサッカー部に戻れるよう
に努力する旨を伝えた。同面談において,F教諭は,あくまでも暴力は悪く,
原告甲にサッカー部に戻ってきてほしいという話を中心にした発言の中で,
その一部に原告甲が謝ればみんなが許すと言っている旨を発言したにすぎない。
サッカー部は,指導者らの改善指導の下で,部員が一体となって暴力等
の再発防止と原告甲の復帰に向けて真摯に取り組み,F教諭は,サッカー部の改善計画書を作成し,部員たちとミーティングを重ね,同計画書を実行に移した。また,原告甲のサッカー部復帰のための対策として,F教諭による原告甲との定期的な面談,同級生部員及び上級生部員との面談を順に行った後,時期を見て復帰させるというプランを指導者間で共有した。
さらに,1年生の部員らの人間関係を修復させるため,学年幹事を中心に現状を把握し,誤認識を改善することとした。
本件高校は,平成25年7月に行われた定期試験に際し,原告甲に配慮し,別室での受験を手配した。G副校長は,同年9月以降,原告らとの間で,
授業への復帰及びサッカー部への復帰に向けた働き掛けを繰り返した。しかし,原告甲は,電話になかなか出ない,面談の約束を予告無しに破る等の行動を重ねた後,退学の意思を表明しており,同月以降は復学への意思を全く見せず,話合い自体も一切拒否したままで退学を選択した。このように,原告らは,復学の意思を示すどころか,本件高校からの働き掛けを一切拒否していたのであり,原告甲が復学するまでの学習を補完するための措置を講ずる前提を欠いていた。

争点2(原告らの損害の有無及びその額)について
(原告らの主張)
原告甲は,本件暴行の結果,右耳が聞こえづらくなり,平成25年6月19日に右急性感音性難聴の診断を受け,同年10月17日には,右軽度感音難聴の症状が固定した旨の診断を受けた。また,自殺念慮が生じるなど精神的に不
安定になり,精神科に通院してカウンセリングを受けた。
さらに,原告甲は,本件暴行の結果,心身に大きな打撃を受け,加害生徒らに対する恐怖心からサッカー部への参加及び本件高校への登校ができない状態にあった中で,F教諭から原告甲が謝れば戻れるなどと言われ,サッカー部に戻りたいという気持ちが次第になくなった。本件高校においては,スポーツ
推薦で入学した生徒が所属するスポーツクラスと通常クラスとでは授業の内容や生徒の学力が異なっており,運動部の在籍と在学は一体のものとして捉えられていたことから,原告甲は,サッカー部に戻れない以上,スポーツ推薦で入学をした自分には戻る場所はなくなったと考え,また,本件暴行及び本件高校の不誠実な事後対応があり,学習を補完する何らの措置も提供されることな
く,
事務的な単位が足りないからこのままでは進級できないという状況に置かれたため,学校に対する絶望感から同年12月に本件高校を退学し,平成26年春に都立高校を受験して1年生からやり直さざるを得なくなった。その結果,原告らには以下の損害が発生した。

原告甲について(合計550万円)
慰謝料

500万円

原告甲は,本件暴行を受けた際に肉体的苦痛を味わっただけではなく,
生涯にわたり難聴というハンデを負わなければならなくなった。また,サッカーの強豪校である本件高校において教育を受ける機会を失い,将来サッカー選手になるという夢を捨てざるを得なくなった。さらに,本件高校を退学後に都立高校を受験し,年下の生徒に混ざって1年生からやり直すという大きな精神的苦痛を味わっている。原告甲の精神的苦痛を慰謝する
に足りる慰謝料は500万円を下らない。
弁護士費用

50万円

原告乙について(合計244万0853円)
治療費

3万1240円

原告乙は,原告甲の右耳の治療費(7240円)及びカウンセリング費
用(2万4000円)を支出した。
退学及び転学に伴う費用

118万9613円

原告乙は,原告甲の本件高校の退学及び転学に伴い,以下の費用が無駄になったり,支出せざるを得なくなった。
a
本件高校に支払った費用合計108万1768円(入学金及びスポーツ保険代52万0630円,サッカー用具代16万5800円,学費28万0888円,体育着代2万9400円,制服代8万5050円)
b
都立高校に支払った費用合計10万7845円(受験費用2200円,入学金5650円,修学旅行費用3万円,制服及び体育着代5万137
5円,1年生教材費1万4555円,書道教材費4065円)
慰謝料

100万円
原告乙は,
原告甲がサッカー選手になりたいという幼いころからの夢を
かなえるために努力した結果,
スポーツ推薦でサッカーの強豪校である本
件高校に入学し,
1年生ながら試合にも出られるようになったことを心か
ら喜んでいた。しかし,本件暴行によって原告甲が1学期しか通学できずに本件高校を退学することになった上,将来の希望を失い,死にたいとす
ら言うようになり,翌年,都立高校で1年生から始めなければならなくなったことを目の当たりにした。また,本件暴行後の本件高校の不誠実な対応にも苦しめられ,原告甲が難聴との診断を受けたことから,原告甲の将来についても強い不安がある。原告乙の精神的苦痛を慰謝するに足りる慰謝料は少なくとも100万円を下らない。

弁護士費用

22万円

原告丙について(合計110万円)
慰謝料

100万円

原告丙も,原告乙と同様の立場であり,原告丙の精神的苦痛を慰謝するに足りる慰謝料は100万円を下らない。
弁護士費用

10万円

(被告の主張)
原告甲が,本件暴行を原因として,難聴になったとの主張については争い,精神的に不安定になったとの主張については知らない。
本件暴行及び被告の事後対応によって原告甲が本件高校を退学することになったとの主張については争う。原告甲は,本件暴行から平成25年6月末日頃までの間,けがを理由に部活動を休んだことはなく,試合にも起用されていたのであって,本件暴行の影響は部活動の場では全く感じられなかった。原告甲は,上級生部員に対する悪口や陰口,素行の悪さ,同級生部員に対する暴行
によって,他の部員との間に溝を作り,孤立して敬遠されていたのであり,それ故にサッカー部に戻ることが困難になったにすぎない。本件高校には,スポーツ推薦による入学であるか一般入試による入学であるかにかかわらず,在学途中での運動部の退部を禁止した学則はなく,また,傷病以外の理由で運動部を退部した場合に退学を義務付ける学則はないし,被告が原告甲にサッカー部の活動に参加しなくなったことを理由に退学を求めた事実もない。ア
原告甲について
争う。プロのサッカー選手になるためには,高校サッカー部に所属するのではなく,
Jリーグ所属のプロチームやユースチーム等に所属すること
こそが王道であり,本件高校の在退学をストレートに「サッカー選手になる夢」
と結びつけることはできない。
また,
被告は,
原告らの要望に応じ,
1学年の途中からの編入試験を受験できる高校を調査して伝達したが,原
告らからは一切反応がなかった。
争う。

原告乙について
争う。
原告乙がこれらの費用を支出したことは争わないが,本件暴行による損
害とすることについては争う。
争う。
争う。

原告丙について
争う。
争う。

第3争点に対する判断
1認定事実
前記前提事実のほか,後掲各証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
サッカー部内での暴力行為等

サッカー部では,平成17年9月6日,3年生部員4名が,2年生部員4名に対し,部室内で顔や腹を殴る,蹴る等の暴行をし,けがを負わせた事件があった。
当時のサッカー部監督であったH前監督が同事件を受けて部員の
保護者宛てに作成した同年10月20日付けの
「国士舘高等学校サッカー部
の今後の改善方針」と題する書面(乙イ24の3頁)には,サッカー部内の
暴力行為を抑止するための対策として,①更衣場所の選定及び予算上の設備費等に調整が必要なために時間がかかるが,学年ごとの更衣場所を指定すること,②練習又は自主練習が終了するまで監督及びコーチが常駐すること,③監督のメールアドレスを部員及び保護者に公開すること,及び,④学年間の融和を図り,
相手の立場を尊重する教育を徹底することが記載されている。


しかしながら,H前監督は,上記アの事件発生から,本件暴行があった平成25年5月まで,サッカー部の部員に対し,上級生が下級生に暴力をふるっていないかどうか個別に聞くなどして,サッカー部内において暴力行為が行われているかどうかにつき,調査をしたことはなく,練習又は自主練習が終了した後,体育武道館の非常階段を見回ることもなかった(H前監督の証
人調書・9頁)


少なくとも平成25年当時にサッカー部に所属していた部員らは,下級生部員の態度が悪いときや,
下級生部員がやるべきことをやっていないときな
どに,複数の上級生部員で1人の下級生部員を呼び出し,まずは口頭で注意し,
それでも態度が改善されないような場合には殴る蹴る等の暴行をするこ
とがあり,これを「ピン集」と呼んでいた(甲1ないし9,47,乙ロ5,ハ15,
分離前相被告Aの本人調書・3頁以下,
同Bの本人調書・4頁以下,
原告甲の本人調書・1頁以下)


本件当時サッカー部の3年生部員であったAは,1,2年生時に,7,8回くらい「ピン集」として上級生部員に呼び出され,そのうち半分くらい殴られたり蹴られたりしたことがあった
(甲2,
乙ロ5,
Aの本人調書3頁)



Aは,本件暴行が発生した後の日である平成25年5月21日,試合後のミーティング終了後に2年生部員を平手打ちし,同部員が突発性難聴になったことから,同月29日,本件高校から1週間の停学処分を受けた(乙イ25,Aの本人調書・13頁)

本件暴行

原告甲は,平成25年5月7日頃,サッカー部の練習が終わり,着替えをした後である午後1時か2時頃,同級生のサッカー部の部員から,先輩が部室の前に来いと言っていると言われ,体育武道館の2階の部屋前に行くと,2年生部員から,
A及びBのほか6名の2年生部員らが集まっていた非常階段の3階踊り場まで連れて行かれ,加害生徒らから本件暴行を受けた。その具体的態様は次のとおりである。すなわち,Aは,原告甲に対し,
「先輩の悪口を言っただ
ろ」などと申し向けた後,Bから命じられて正座している原告甲の顔面を右足で振り抜くように蹴った上,同人の髪をつかんで立たせ,胸を左右の膝で複数回蹴り,
更に胸倉をつかんで同人の顔面を左右の手で複数回平手打ちするなど
した。そして,Aから「あとは2年でやっとけ」と言われたBは,「俺の悪口を
言っただろう」などと申し向けた後,原告甲に対し,顔面を左右の手で複数回平手打ちし,右足で腕を蹴り,胸を前蹴りするなどした。
(以上につき,甲1な
いし9,Aの本人調書・4頁以下,Bの本人調書・1頁以下)
本件暴行発生後の経緯


原告甲は,加害生徒らから本件暴行を受けた場所が腫れたりあざができていたが,Bから「明日学校を休んだり,誰かに言うようなことするな。」と言
われ,平成25年6月末日頃までは,サッカー部の活動を休むことはなく,公式戦にも数試合出場した。


原告甲は,平成25年6月19日,3日前からの右耳の難聴を訴えてM耳鼻咽喉科を受診し,I医師からストレスが原因と言われ,右急性感音性難聴との診断を受け,(ステロイドホルモン剤等)

を処方された
(甲1,
10)

また,原告甲は,同年10月17日,東京都立多摩総合医療センターの耳鼻咽喉科・頭頚部外科を受診したところ,J医師から,右急性感音難聴との診断を受けたが,同医師作成の診断書には,
「2013年6月19日受傷後の
右急性感音難聴。近医で加療後,2013年10月17日当科初診。当科初診時の聴力検査において右軽度感音難聴(4分法

右27.5dB

左6.

3dB)
を認めるが,
症状は固定しており,
治療による改善は困難である。

との記載がある(甲11)

なお,I医師は,平成26年5月14日,加害生徒らを被疑者とする暴行被疑事件の捜査を担当する警察官に対し,原告甲の診察結果について,鼓膜に異常はなく,耳の外傷は見られなかった旨,右急性感音性難聴と診断した
が,その原因は医学的にはっきりとは分かっておらず,ストレスが原因か,今回の暴行が原因か,サッカーのヘディング等が原因か,はっきりしたことは言えない旨,及び,初診日が平成25年6月19日であったため,上記診断と本件暴行との関連性があるとは言い切れない旨を説明した(乙ロ1)。

原告甲は,サッカー部における上下関係の厳しさに批判的な意見を持っており,本件高校に入学してから,サッカー部の1年生部員との会話の中で,2年生部員について「うざい」とか「先輩づらしすぎ」などと言ったことがあったところ,平成25年6月28日,1年生部員数名に呼び出され,上級生部員や同級生部員の悪口を言うのを止めるように言われた(甲47,乙イ11ないしイ15,イ20,原告甲の本人調書・19頁)



原告甲は,本件暴行後もサッカー部で「ピン集」が行われていたことや,同級生からも無視されるようになったことから,
平成25年6月下旬ないし
7月上旬頃,原告乙及び原告丙に対し,本件暴行を受けたことを伝えた。原告乙及び原告丙は,本件高校に架電し,H前監督やG副校長に対し,本件暴
行につき伝えるとともに,
対応を求めるなどした。
(以上につき,
甲47ない
し49,乙イ25,原告甲の本人調書・10頁,原告丙の本人調書・3頁)同じ頃にH前監督がサッカー部の監督を解任されたため,F教諭は,監督代行として原告らの対応の窓口となり,少なくとも同年7月中は頻繁に原告丙と電話で会話をしたほか,同年7月又は8月に2回程度原告甲と面談した(F教諭の証人調書・21・23頁,原告甲の本人調書・10頁,原告丙の本人調書・5・14頁)



本件高校が平成25年7月8日に原告甲に作成させた本件暴行に係る報告書(乙イ20)には,Aについて「ピン集されてもやり返せる」などの悪口を言ったという理由で同人から顔を蹴られたり,胸に数十発パンチやキックをされたこと,Bが「文句あんのか」と言ったのに対し,先輩づらばかりされるのが嫌だと正直に答えたところ,同人から何十発もビンタをされ,そ
の後殴ったり蹴られたりしたことが記載されている。

本件高校は,平成25年7月上旬頃,本件暴行を含む部員間での暴力行為についてサッカー部員に対する調査を行い,部員らに報告書を作成させるとともに,事情聴取を行ったところ,同調査でサッカー部員から申告された事
実は,概ね以下のとおりである(乙イ19ないしイ22,イ25)。
平成25年4月末頃,グラウンド倉庫脇において,Bを含むサッカー部員2年生4名が,1年生部員全員に対して普段の態度等を注意した後,Bが,1年生部員のCに対し,駅で先輩を見かけたら学校まで走るといった上下関係のルールを破っていたこと,練習中に笑ったりふざけたりするな
ど態度が悪いことなどを理由に,
顔を平手で殴ったり,
腹を蹴るなどした。
平成25年5月上旬頃,Bを含むサッカー部2年生5名が,1年生部員のDに対し,練習中に声を出さない,返事をしない,荷物等の仕事をさぼっていたなどと理由をつけ,部活動後の自主練習の時間中に,更衣室又は階段において,BがDに正座をさせて同人の腹や胸に前蹴りをしたり,他
の2年生部員がDの尻や背中及び腹をそれぞれ2,3回蹴るなどした。平成25年5月上旬頃,原告甲がAやBに対して「あの先輩ヘタクソ」などと悪口を言っていたこと,態度が悪いこと,注意しても直らないことなどを理由に,Bらが原告甲を体育館裏に呼び出し,Aが,原告甲をその場に正座させた上で,
顔を蹴る,
腹を7,
8回蹴る,
頭を3,
4回たたく,
胸ぐらをつかんで立たせて腹を1,2発殴る等の暴行を加え,さらに,Bが,前蹴りを10回する,ビンタを6回以上する,6回蹴る,腹を2回殴
る,ひざ蹴りを2回する等の暴行を加えた。
平成25年6月末頃,練習の片付けの際,B及び2年生部員1名が,1年生部員全員をグラウンド倉庫脇に呼び出して注意した後,1年生部員のEに対し,
携帯電話を学校に持ち込んで3回目の生徒指導を受けたことを
理由に,前蹴りをする,顔を殴る,腹を蹴るなどした。

なお,2年生部員6名は,それぞれ,
「3年生に言われてやり,やらない
と3年が2年をやるっていわれたからやった」「三年に調子に乗っている,
人がいたら,集合をしろと言われたので,した人が大半」「3年にルール,
とか守れない一年がいたら,ちゃんとやれよ(暴力)といわれることがあった」「3年生からもやれと言われていた(多数の),

」「3年生に,なめて

いるやつがいたらやれと言われていた。それに,やんないと,お前らをやるぞと言われていた」「3年生が自分たちに集合しろって言ってきて集合,
させた時もあります。
」などと申告した。
また,1年生部員が作成した報告書(乙イ21)には,原告甲が上級生に対して「へたくそ」などと悪口を言っていたことや,原告甲から理由も
なく教室内で肩を殴られたり,廊下で背中に飛び蹴りされたことがあるなどの記載があった。

原告甲は,平成25年7月8日から同月10日まで行われた定期試験の全科目を,教室ではない別室で受験した(乙イ27,原告甲の本人調書・26頁)



本件高校は,平成25年7月17日,本件暴行を理由に,加害生徒らを停学処分とした。
その処分内容は,
Aについては
「暴力行為により無期停学
(4
週間+α),Bについては「暴力行為により無期停学(4週間)

」であった
(乙イ18)

そして,Bについては同年8月22日付けで,Aについては同年9月5日付けで,それぞれ上記停学処分が解除された。


F教諭は,サッカー部員らとミーティングを行った上,平成25年7月22日付けで,
「今後のサッカー部の改善方針」及び「今後のチーム管理計画
(人間関係の改善)と題する各書面

(乙イ4)
を作成した。
前者の書面には,
「サッカー部の方向性/改善点」
として,
「暴力行為の根絶」

「過度な上下関
係の防止」「人間関係の修復」及び「陰口・悪口等の防止」等を記載し,後,

者の書面には,原告甲への対応として,F教諭との定期的な面談,同級生部員及び上級生部員との面談を順次経て,時期を見てサッカー部に復帰させる旨を記載した(乙イ4)


原告甲は,平成25年8月中旬頃,F教諭に呼ばれて同教諭及びサッカー部のキャプテンと面談した。同面談において,同人らは,原告甲に対し,原
告甲が他の部員に謝れば許すと部員らが言っている旨の発言をした(原告甲の本人調書・12頁)


原告甲は,平成25年8月中にはサッカー部を退部することを考えるとともに,退部する以上は本件高校を退学せざるを得ないと考えて,同年9月以降は本件高校に登校することはなかった(乙イ32,原告甲の本人調書・1
2・22・35頁)


G副校長は,平成25年9月,F教諭に代わって原告らの対応の窓口となり,原告らに対して直接電話をかけたり,原告甲との面談を求めたりしたものの,原告甲は,G副校長からの電話に応じなかったり,面談に応じなかっ
たことがあった。G副校長は,原告らの求めに応じ,同月28日付けで退学届の用紙を送付した。

原告甲の担任であるK教諭は,平成25年10月15日付けで,原告らに対し,各教科につき,同月11日までの原告甲の欠課時間数,及び,最大欠課時数(これ以上休めない時間数)を記載した書面を送付した(甲45)。


原告乙及び原告丙は,原告ら訴訟代理人を通じて,平成25年10月25日付けで,G副校長に対し,本件暴行に関する調査委員会を設置し,同委員
会において,原告甲が受けた暴行の内容のほか,サッカー部内での上級生部員による暴行の有無や学校の把握状況について調査すること,調査委員会の調査結果をまとめた報告書を原告乙及び原告丙に開示するとともに,同人らの求めに応じて説明会を開催することなどを要望する申入書を送付した(甲25)


なお,原告らは,その時点までには,原告甲が復学できないと考えていた(原告丙の本人調書・17頁以下)


被告は,被告訴訟代理人を通じて,平成25年11月22日付けで,原告らに対し,平成25年度第2学期末に転・編入試験を実施する私立高校について,
被告において個別に電話をするなどして収集した情報を記載した書面,
及び,公表されている資料を送付し(乙イ1の1・2)
,その後,同月26日
付けで,原告らに対し,東京都教育委員会のホームページに掲載された都立高校の3学期転学編入募集の情報を印刷した資料も送付した(乙イ3の1・2)


被告は,被告訴訟代理人を通じ,前記セの申入書に対する回答として,原告ら訴訟代理人宛てに,平成25年12月10日付けで,本件暴行に関する事実調査及びその結果の報告は完了しており,改めて調査を繰り返す考えがないことや,
調査委員会を改めて組織して説明会を行う考えがないこと等を
記載した「御回答」と題する書面(甲26)を送付した。


原告甲は,平成26年1月23日,平成25年9月頃から,1人でいるときにイライラしたり,不安になったりする旨の症状を訴えて,Lクリニックを受診し,睡眠薬等の処方を受けた。その後,原告甲は,同年6月18日まで,3回,同クリニックを受診した(甲43)


原告甲は,平成26年2月に都立高校を受験し,同年4月に同高校に入学した。
本件高校におけるスポーツ推薦入学について

サッカー部の事前説明資料(甲23)には,
「スポーツ推薦入学者(特待生を
含む)
は,
在学途中での退部は認めない。なお,怠慢等(操行不良・学習不良)による退部の場合は,学校に残る事は不可であり,進路変更をしてもらう。練習中又は試合中のけがにより,サッカーができなくなった場合は,公傷と認める。その場合は退部勧告又退学勧告は一切しない。
」と記載されている。

H前監督が退任するまでの32年間,スポーツ推薦で入学してスポーツクラスに在籍していた者が,所属していた運動部を退部した場合,本件高校に残った例はない(H前監督の証人調書・11頁以下)

2争点1(被告の責任原因の有無)について


損害発生防止義務違反の有無について
私立学校の設置者は,在学契約及び教育基本法等の法令に基づき,学校における教育活動及びこれと密接な関係にある生活関係について,生徒による加害行為から他の生徒を保護すべき安全配慮義務(原告らが主張するところの損害発生防止義務)を負っており,同義務の履行補助者かつ被用者である私立学校
の教職員が同義務を怠ったときは,当該学校設置者は,在学契約に基づく付随義務としての安全配慮義務違反による債務不履行責任を負い,又は,使用者責任による不法行為責任を負う。
そこで,被告の教職員にかかる安全配慮義務(損害発生防止義務)違反があったか否かにつき検討する。


前記認定事実によれば,サッカー部においては,平成25年4月から同年6月までの間,複数名の上級生部員が下級生部員を呼び出し,指導ないし注意のため暴行する事件が本件暴行を含めて5件あったこと,当時の部員らが,複数の上級生部員が下級生部員を呼び出して口頭で注意をし,場合によっては暴力を振るうことを「ピン集」と呼称していたこと,Aも自身が1,2年生であったときに「ピン集」で上級生部員から暴力を振るわれたことがあること,1年生部員に対する「ピン集」をやらなければ3年生部員から自分た
ちが暴力を受けるなどと2年生部員が考えていたことが認められる。これらの事実からすれば,
原告甲が本件暴行を受けた当時,
サッカー部においては,
上級生部員の下級生部員に対する暴行が常態化していたものと評価せざるを得ない。加えて,前記認定事実によれば,サッカー部においては,平成17年にも複数の上級生部員による下級生部員に対する暴力傷害事件が発生
し,
被告の教職員であるサッカー部の指導者らもその事実を把握して一定の対策を練っていたというのであり,本件暴行直後にも,本件暴行の加害生徒であるAがサッカー部の下級生部員に暴力を振るって停学処分を受けたことがあったというのであるから,被告の教職員は,本件暴行当時,サッカー部内で上級生部員による下級生部員に対する暴力行為が行われることを認
識し,若しくは容易に認識し得たと認められ,かつ,サッカー部での暴力行為の有無について部員に対する聴き取り調査を定期的に実施するなどして,上級生部員による下級生部員に対する暴力行為の実態を具体的に把握し,暴力行為を禁止する指導を徹底するなどしてこれを防止するための適切な措置を執るべき注意義務を負っていたものというべきである。


そこで,
被告の教職員が上記注意義務を尽くしていたかどうかについて検
討すると,前記認定事実及びH前監督の証言によれば,サッカー部においては,
平成17年の暴力傷害事件を契機として暴力行為を禁止する指導を行うための一定の指針が設けられ,以降,同指針に沿って,監督の連絡先(Eメ
ールアドレス)
を部員及び保護者に公開するなどの対策を実施していたこと
が認められるものの,
学年ごとに更衣場所を指定することは実現されなかっ
た上,本件暴行があった平成25年5月までの間,部員間の暴力行為の有無つき調査がされたことはなかったというのであるから,被告の教職員は前記注意義務を尽くしていなかったというべきである。

したがって,被告の教職員が安全配慮義務(損害発生防止義務)を怠ったと認められ,
被告は,
原告甲が加害生徒らから本件暴行を受けたことにつき,

在学契約に基づく付随義務としての安全配慮義務違反による債務不履行責任を負い,又は,使用者責任による不法行為責任を負う。

被告は,
サッカー部ではけがで練習ができない部員のけがの状態を把握
しているが,暴力等によるけが人がいなかったこと,本件暴行が加害生徒
らの私的な感情を理由とするものでサッカー部の活動とは直接関係がないこと,
教職員の目を盗んで秘密裏に行われた暴行につき認識することは
不可能であること等を理由に,被告の教職員らにおいて本件暴行を具体的に予見することはできなかったと主張する。
しかしながら,
そもそもサッカー部の指導者らがいかなる方法で部員の

けがの状態を把握していたのかは証拠上明らかでない上,
部員間の暴力行
為によって生じたけがが常に練習ができない程度であるとは限らないことからすれば,
練習ができない部員のけがの状態を把握するだけでは部員
間の暴力行為の有無を認識するのに十分であったということはできない。また,前述したように,本件当時,サッカー部で,練習終了後など部活動
と密接に関連した時間帯に「ピン集」がしばしば行われており,本件暴行も「ピン集」として行われたものといえるのであるから,本件暴行が,加害生徒らの私的な感情によるものであることを理由にサッカー部の活動とは関係がないなどとはいえない。さらに,Bが「ピン集」を行う場所について,人目につかない場所を選んでいたわけではない旨や,先生たちに
見られるかどうかというのは特に考えていなかった旨を供述し,Aも,隠れてやっていたというわけではない旨を供述していることからすれば,「ピン集」
が第三者の目に触れないように秘密裏に行われていたとはいい
難い上,
部員間の暴力行為が教職員の目を盗んで秘密裏に行われるもので
あったとしても,
部員に対する聴き取り調査や指導者らによる見回り等を
実施することにより,暴行の事実を把握することは十分に可能であったといえる。

よって,被告の上記主張は採用できない。
また,被告は,サッカー部では平成17年の暴力傷害事件を契機に暴力等の問題行為を根絶するために一定の指導を行ってきており,平成17年度以降は1件も暴行事件が認識されていないと主張するが,上記のとおり現に本件暴行があった当時に部員間での暴力行為が常態化していたと評
価せざるを得ないのであるから,被告が暴行事件を把握していなかったとしても,
このことをもって上記注意義務が尽くされていなかったとの判断
が左右されるものではない。被告の主張は採用できない。

調査義務・損害拡大防止義務違反の有無について
原告らは,被告には,生徒間で違法な侵害行為が発生した場合には,当該行為の原因や態様等を調査し,被害の継続,拡大,再発等を防止すべき義務があると主張する。しかしながら,私立学校の設置者が,在学契約及び教育基本法等の法令に基づく義務として,学校において生徒間での加害行為が発生した場合に,その被害の内容や原因について調査し,その被害の拡大等を防止する義
務を生徒又はその保護者に対して負う場合があり得るとしても,その内容,方法等については,被害を受けた生徒のみならず,他の生徒への教育上の配慮を要するから,
私立学校の設置者及びその履行補助者かつ被用者である教職員の
合理的な裁量に委ねられるというべきであるから,このような観点から被告の上記義務違反の有無を検討すべきである。

まず,原告らは,被告が本件暴行に関する調査をして調査内容の詳細を原告らに報告する義務を怠ったと主張する。しかし,前記認定事実によれば,本件高校及びサッカー部においては,原告らから本件暴行につき報告を受けると,原告甲を含めたサッカー部の部員を対象として部員間の暴力行為に関する調査が行われ,その際に部員らにより作成された報告書には,本件暴行に至った経緯や本件暴行の内容,
平成25年に行われた上級生部員から下級生部員に対
する複数件の暴行の内容,調子に乗っていたり,ルールを守らない1年生部員がいたら暴力を伴う指導をするよう,
2年生部員が3年生部員から圧力をかけ
られていたこと等が記載されていたというのであるから,
このような調査によ
って被告は本件暴行の内容や背景事情について一定程度把握したものといえ,被告が行った調査が不十分であったということはできない。また,原告らに調
査結果の詳細を報告することが,どのようにして被害の継続,拡大,再発防止につながるのかは原告らの主張からは明らかではないことは措くとしても,他の生徒への教育上の配慮を要することや,
調査結果が全て保護者らに明らかに
されることになれば部員の調査への協力を得られなくなるおそれがあることからすれば,調査結果の詳細を原告らに報告しなかったことをもって,被告又
はその教職員に裁量の逸脱又は濫用があったということはできない。次に,原告らは,被告が,悪いのは加害生徒らであると指導する義務,加害生徒らの処分を解除する時期を原告らに相談する義務,
再発予防の対策等に関
する情報を原告らに提供する義務に違反したと主張する。しかし,前記認定事実によれば,本件高校は,本件暴行を行った加害生徒らを無期限の停学処分と
し,また,サッカー部においては,暴力根絶のための改善書を作成するとともに,
部員間で話合いを持たせるなどして部員間での暴力行為を禁止するための対策がとられたというのであるから,
被告が行った教育的指導が不十分なもの
であったということはできない。また,生徒に対する処分をどうするかについては慎重な教育的配慮を要する問題であるから,
原告らに加害生徒らの停学処

分を解除する時期を相談しなかったことをもって,
被告又はその教職員に裁量
の逸脱又は濫用があったということもできない。確かに,一般論としては,生徒間の暴行により学校に登校できなくなった被害生徒及びその保護者に対し,再び被害にあうことがないと安心して登校できるよう,
暴行の再発予防の対策
等に関する情報を提供すべき義務が認められる場合もあり得るというべきではあるが,前記認定事実によれば,原告甲は平成25年8月中にはサッカー部を退部して本件高校を退学せざるを得ないと考え,同年9月中には,G副校長の電話や面談に応じなかった上,
退学届を送付するよう求めていたというので
あるし,
原告らが積極的に再発予防策を明らかにするよう被告らに求めていたという事情も窺われない本件においては,
被告において積極的に再発予防策を
明らかにする義務までは認められない。

さらに,
原告らは,
被告が原告甲の学習を補完するための措置を講じる義務,
及び心理的ケアを行う義務に違反したと主張する。いかなる補完措置やケアを行うべきであったのか原告らの主張は明らかではないが,
前記認定事実によれ
ば,本件高校は本件暴行が発生した後で原告甲に別室で定期試験を受けさせ,F教諭は,原告らと電話で連絡をとり,原告甲と複数回の面談の機会を設ける
などした上,さらに,G副校長は,原告らの対応窓口となり,原告甲と面談の機会を設けようとしたというのであり,これらの事実によれば,F教諭が面談時の話の流れの中で原告甲が他の部員に謝れば許すと部員らが言っている旨の発言をしたことを踏まえても,被告の教職員らは,原告甲がサッカー部及び本件高校に復帰できるようにするための一定の努力を行ったというべきであ
るし,
原告らが被告に対して積極的に執るべき教育的措置を求めたという事情も窺われないことからすれば,
原告らが主張するような注意義務違反があった
ということはできない。
したがって,本件暴行があった後の原告らに対する対応につき,被告に安全配慮義務(調査義務及び損害拡大防止義務)違反があったとは認められない。
3争点2(損害及びその額)について
前記2で述べたとおり,原告甲が本件暴行を受けたことにつき被告に安全配慮義務(損害発生防止義務)違反が認められるのであるから,被告は,本件暴行と相当因果関係を有する損害について,
債務不履行責任又は不法行為に基づ
き賠償する責任を負う。
原告甲は,
本件暴行を受けたこと自体により精神的苦痛を受けたことが認め
られ,
このような損害は本件暴行と相当因果関係を有する損害であると認められる。そして,本件暴行の態様や被告の注意義務違反の内容及び程度並びに原告甲の本件暴行当時の年齢のほか,
本件審理に顕れた一切の事情を考慮すると,
原告甲の精神的苦痛を慰謝するための慰謝料としては,30万円が相当である。また,本件事案の内容に鑑みれば,原告甲は,本件訴訟提起のために弁護士
に委任するのを余儀なくされたと認められるところ,本件事案の難易度,本件の審理経過,認容する慰謝料額など一切の事情を考慮すると,本件暴行と相当因果関係がある弁護士費用相当額の損害は,3万円をもって相当と認める。これに対し,原告らは,原告甲が本件暴行を受けた結果,右軽度感音難聴になったり,精神的に不安定になって精神科に通院したとか,加害生徒らに対す
る恐怖心からサッカー部への参加及び本件高校への登校ができなくなり,最終的に本件高校を退学せざるを得なかったなどと主張し,
このような通院及び退
学等に伴う費用や精神的苦痛も本件暴行と相当因果関係のある損害であると主張する。
しかしながら,前記認定事実のとおり,原告甲が3日前からの難聴を訴えて
耳鼻咽喉科を受診したのは本件暴行を受けた日から1か月以上経過した後であることや,I医師が警察官からの聴取の中で,原告甲の難聴の原因が何であるか断言することはできず,
本件暴行との関連性があるとは言い切れないなど
と説明したこと,また,原告甲が心療内科を受診したのは本件暴行から9か月以上経過した後であり,
受診時に本件暴行から約4か月が経過した頃から症状

がある旨を訴えていることからすれば,本件暴行と原告甲が難聴を負ったことや精神的不安を訴えて心療内科を受診したこととの間に相当因果関係を認めることはできない。
また,前記認定事実のとおり,原告甲は,本件暴行があった日から平成25年6月末までの2か月弱の間,
サッカー部の活動に参加して試合にも出場して
いたというのであるから,原告甲がその後部活動に参加できなくなったり,本件高校に登校できなくなったことに,本件暴行がどの程度影響を及ぼしているかは判然としないと言わざるを得ない。原告らは,原告甲が加害生徒らに口止めをされていたにもかかわらず本件暴行を口外したことにより報復を受けるおそれがあったなどとも主張するが,前記認定事実によれば,原告甲が同月28日に1年生部員数名から呼び出されて,
他の部員の悪口を言うのを止めるよ

う言われ,
本件高校が実施したアンケート調査にも1年生部員が原告甲の言動に問題があったことを窺わせる記載があったというのであるから,原告甲がサ
ッカー部や本件高校に行かなくなったのは,
同級生部員との人間関係が原因と
なった可能性も否定することはできない。そうすると,本件暴行と原告甲がサッカー部や本件高校に行けなくなったこと及び原告甲が本件高校を退学した
こととの間に相当因果関係があると認めることはできない。なお,被告がサッカー部における暴力行為を禁止する指導を徹底していなかったことが同級生部員の人間関係に影響を与えたとしても,その影響は直接のものとはいえない。したがって,原告らの上記各主張は採用できず,上記の原告甲に係る慰謝料及び弁護士費用以外の損害は,被告に賠償義務のある損害とは認められない。
第4結論
以上によれば,原告らの請求は,原告甲が,債務不履行又は不法行為に基づく損害賠償として,33万円及びこれに対する本件暴行の日である平成25年5月7日から支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し,原告甲のその余の請求並びに原告乙及び原
告丙の請求はいずれも理由がないから棄却することし,訴訟費用の負担につき民訴法61条及び同法64条本文を,仮執行の宣言につき同法259条1項を,それぞれ適用して,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所立川支部民事第3部

裁判長裁判官

見米正
裁判官

貝阿彌


裁判官

八屋敦子
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