判例検索β > 平成29年(行ケ)第10174号
審決取消請求事件 特許権 行政訴訟
事件番号平成29(行ケ)10174
事件名審決取消請求事件
裁判年月日平成30年7月19日
法廷名知的財産高等裁判所
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平成30年7月19日判決言渡
平成29年(行ケ)第10174号
口頭弁論終結日

審決取消請求事件

平成30年5月22日
判原決告
株式会社コーエーテクモゲームス

訴訟代理人弁護士

佐橋元弘羽
真一郎

末吉亙鶴谷裕二鈴告紘吉被安高
訴訟代理人弁理士

藤野幹夫
株式会社カプコン

訴訟代理人弁護士

金光庄俊哉祥雅
長谷部

陽平廣文雄瀬文
原告の請求を棄却する。

2貴澤1冨古主
美智子


訴訟代理人弁理士


訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1

請求
特許庁が無効2016-800041号事件について平成29年8月17日にした審決のうち,「特許第3295771号の請求項1,5,8に係る発明についての審判請求は,成り立たない。」との部分を取り消す。

第2
1
事案の概要
特許庁における手続の経緯等
(1)被告は,発明の名称を「遊戯装置,およびその制御方法」とする特許第3295771号
(平成6年5月31日出願,
平成14年4月12日設定登録。
請求項数12。「本件特許」
以下
という。の特許権者である

(甲16の1)

なお,本件特許に係る特許権は,平成26年5月31日をもって既に存続期間が満了し,その権利が消滅している。
(2)被告は,平成27年9月9日,特許請求の範囲の請求項1,4及び8の訂正を内容とする訂正審判を請求し,
同年12月3日,
同訂正が認められた
(甲
16の2及び3)。
(3)原告は,平成28年4月1日,無効審判を請求し,特許庁はこれを無効2016-800041号事件として審理した(甲27)。
同審理において,被告は,平成29年5月25日,特許請求の範囲の請求項2ないし4,6,7,9ないし12の削除等を内容とする訂正請求を行った(甲35。以下「本件訂正」という。)。
(4)特許庁は,平成29年8月17日,本件訂正を認めた上で,「特許第3295771号の請求項2乃至4,6,7,9乃至12に係る発明についての審判請求を却下する。特許第3295771号の請求項1,5,8に係る発明についての審判請求は,成り立たない。」とする審決(以下「本件審決」という。)をし,その謄本は同月25日原告に送達された。
(5)原告は,平成29年9月21日,本件審決のうち請求不成立とした部分の取消しを求めて本件訴訟を提起した。
2
特許請求の範囲の記載
本件訂正後の特許請求の範囲の記載は,次のとおりである(以下,特許請求の範囲に記載された発明を「本件発明」と総称し,個別に特定するときは請求項の番号に従って「本件発明1」などという。また,本件発明に係る明細書〔甲16の1〕を「本件明細書」という。なお,下線部は平成27年9月9日付け訂正審判の請求によって訂正が認められた部分である。)。
「【請求項1】

遊戯者が操作する入力手段と,この入力手段からの信号に基

づいてゲームの進行状態を決定あるいは制御するゲーム進行制御手段と,このゲーム進行制御手段からの信号に基づいて少なくとも遊戯者が上記入力手段を操作することにより変動するキャラクタを含む画像情報を出力する出力手段とを有するゲーム機を備えた遊戯装置であって,
上記ゲーム進行制御手段からの信号に基づいて,ゲームの進行途中における遊戯者が操作している上記キャラクタの置かれている状況が特定の状況にあるか否かを判定する特定状況判定手段と,
上記特定状況判定手段が特定の状況にあることを判定した時に,上記画像情報からは認識できない情報を,上記キャラクタの置かれている状況に応じて間欠的に生じる振動の間欠周期を異ならせるための体感振動情報信号として送出する振動情報制御手段と,
上記振動情報制御手段からの体感振動情報信号に基づいて振動を生じさせる振動発生手段と,
を備えたことを特徴とする,遊戯装置。
【請求項5】

上記請求項1に記載の遊戯装置において,上記入力手段は,二

人以上の遊戯者がそれぞれ独立して操作することが可能に構成されているとともに,上記特定状況判定手段は,ゲームの進行途中における上記二人以上の遊戯者がそれぞれ操作している二個以上のキャラクタの置かれている状況を別々に判定するように構成されており,かつ,この特定状況判定手段のそれぞれの判定結果に基づいて,上記振動情報制御手段から別々の体感振動情報信号が,二個以上の上記振動発生手段に送出されるように構成されている,遊戯装置。【請求項8】

遊戯者が操作する入力手段と,この入力手段からの信号に基づ

いてゲームの進行状態を決定あるいは制御するゲーム進行制御手段と,このゲーム進行制御手段からの信号に基づいて少なくとも遊戯者が上記入力手段を操作することにより変動するキャラクタを含む画像情報を出力する出力手段とを有するゲーム機を備えた遊戯装置の制御方法であって,
上記ゲーム進行制御手段からの信号に基づいて,ゲームの進行途中における遊戯者が操作している上記キャラクタの置かれている状況が特定の状況にあることを判定した時に,上記画像情報からは認識できない情報を,上記キャラクタの置かれている状況に応じて間欠的に生じる振動の間欠周期を異ならせるための体感振動情報信号として振動発生手段に送出するようにしたことを特徴とする,遊戯装置の制御方法。」
3
本件審決の理由の要旨
本件審決の理由は,別紙審決書の写しに記載のとおりであり,その要旨は次のとおりである(ただし,本件における取消事由の主張と関連するもののみを掲記する。)。
(1)原告が主張した無効理由

無効理由1-1(新規性欠如)
本件発明1及び8は,本件特許の出願前に日本国内において公然知られた発明又は公然実施された発明
(甲1ないし7。「公知発明」
以下
という。

であるから,特許法29条1項1号又は2号により特許を受けることができない。


無効理由1-2(進歩性欠如)
本件発明1及び8は,公知発明及び周知技術Y1(甲8ないし11)に基づいて,本件特許の出願前に,当業者が容易に発明できたものであり,特許法29条2項により特許を受けることができない。

無効理由5(進歩性欠如)
本件発明5は,公知発明,周知技術Y1,甲11に記載された発明(甲11発明),甲12に記載された発明(甲12発明),周知技術Y2(甲8ないし11),甲13の1及び甲13の2に記載された発明(甲13発明)並びに甲14に記載された発明(甲14発明)に基づいて,本件特許の出願前に,当業者が容易に発明できたものであり,特許法29条2項により特許を受けることができない。


甲1ないし14の概要
(ア)「ニンジャウォーリアーズゲーム装置の構成」
(作成者:原告代理人,
作成日:平成27年7月3日)(甲1)
(イ)1988年3月1日発行「ゲームマシン第327号」(株式会社アミューズメント通信社)(甲2)
(ウ)「『ニンジャウォーリアーズ』証拠ビデオ撮影環境」(作成者:原告代理人,作成日:平成27年7月3日)(甲3の1)
(エ)時計アプリケーションである
「EMERALD

TIME」のアイコ

ン及び実行画面の写し(作成者:原告代理人,作成日:平成27年7月3日)(甲3の2)
(オ)「EMERALD
成者:Emerald

TIME」の仕様に関する文書の写し(文書の作

Sequoia

LLC,出典:http://emeraldsequoia.com/et/
index.html,写しの印刷日:平成27年5月26日)(甲3の3)(カ)地震計アプリケーションである「iSeismometer」のアイコン,実行画面及び設定画面の写し(作成者:原告代理人,作成日:平成27年7月3日)(甲3の4)
(キ)ニンジャウォーリアーズのゲームの進行を撮影,
収録したCD-R
(作
成者:原告代理人,撮影日:平成27年3月15日,編集日:平成27年5月26日)(甲4)
(ク)ニンジャウォーリアーズのゲームの進行を撮影,
収録したCD-R
(作
成者:原告代理人,撮影日:平成27年12月22日)(甲5)
(ケ)「iSeismometer」
の動作を撮影,
収録したDVD+R
(作
成者:原告代理人,編集日:平成27年5月26日)(甲6)
(コ)原告代理人による平成28年1月29日付け報告書(甲7の1)(サ)体感音響研究所・小松明「ボディソニックによる効果音,ドキュメンタリー音などの臨場感再現効果」(1999年3月,出典:http://bodysonic.cc/technology/documentary.htm)(甲7の2)(シ)実願平3-38665号(実開平6-34693号)のCD-ROM(甲8)
(ス)実願平4-6906号
(実開平5-58184号)
のCD-ROM
(甲
9)
(セ)特開平5-277258号公報(甲10)
(ソ)特開平5-192449号公報(甲11)
(タ)特開昭63-174681号公報(甲12)
(チ)特開平5-84360号公報(甲13)
(ツ)特開平6-39145号公報(甲14)
(2)引用発明の認定

公知発明
「遊戯者が操作する操作部を左右に一組備え,この操作部の操作に基づいてニンジャの動きを制御し,遊戯者が操作することにより動作を行うニンジャ及びニンジャの動きによって背景画像をスクロールするゲーム画面を含む画像表示するゲーム画面と,複数の遊戯者が座ることのできるベンチとを有するゲーム装置であって,
右から左方向にスクロールする背景画像のうち柱が,ゲーム画面中央に到達すると,前記ベンチは振動を開始し,該振動開始後,所定時間経過すると,ゲーム画面右方から戦車がフレームインし,
ニンジャと戦車とは,戦闘を行い,
戦車が,ゲーム画面左方にフレームアウトして所定時間経過後に前記振動が終了するまでは,振動が継続しているゲーム装置。」

甲8以下に記載された発明(符号については別紙引用発明の図参照)(ア)甲8発明
「2人の遊戯者が,シート3に並んで着座すると前方にモニターTV5が位置し,両者がスタートボタン9を押すと,ゲームがスタートし,モニターTV5には,トロッコに乗った人が進行方向を見たときのレール10や周囲の様子さらに前方をトロッコ11に乗って走っている敵12等が映し出され,シート3と一体の揺動部材20の枠体20aの前側左右隅と基台2との間に左右一対の複動形のエアシリンダ40,41が介装され,
該エアシリンダ40,
41は,
互いに独立して駆動可能であり,
両シリンダロッド40a,41aを縮めた状態で揺動部材20の上に装着されるシート3は前傾状態にあり,両者を同時に伸長すれば後傾し,左側シリンダロッド41aのみを伸長すれば右傾し,右側のシリンダロッド40aのみを伸長すれば左傾するものであって,
前記エアシリンダ40,41の駆動制御およびモニターTV5の画像制御等は,コンピュータによって行われ,そのメインボード50およびエアシリンダ40,41の駆動を制御する制御ボード51,画像処理回路52は,筐体4のモニターTV5の下方に内蔵され,
メインボード50は,シューティングスティック7,シューティングボタン8,スタートボタン9等からの情報を入力し,CPU53により判断された結果に基づき制御ボード51に動作指令信号を送信するとともに,画像処理回路52に画像指示信号を出力し,
制御ボード51は,動作指令信号に基づきエアシリンダ40,41を動作させるための各種電磁弁等からなる空気圧回路54に所要の駆動信号を出力し弁の切換動作を行わせることで,モニターTV5の映像に同期してシート3が揺動および振動し,
上りや下りの加速や減速も振動の変化により表現可能で,例えば,加速時にはレール継ぎ目の振動の間隔を徐々に縮め,逆に減速時にはその間隔を長くすることにより遊戯者は映像および効果音との相乗効果で,あたかもスピードが変化したかの如くに感じることができるように走行時の細かい振動が再現できる揺動遊戯機1。」
(イ)甲9発明
「プレーヤーがハンドル,アクセル,ブレーキ,クラッチ切換などを操作して,ビデオ表示面における自動車を走行させるドライブビデオゲーム機であって,
ステアリングシャフト22の一端は,ドライブビデオゲーム機本体20の外方へ突出し,その先端にステアリングホイール23が固定され,ステアリングシャフト22の他端には,ステアリングシャフト22の回転角を検出してビデオ表示器へ回転角を表す信号を出力する回転角検出装置24が一体的に回動するように固定され,
前記ステアリングシャフト22の中間部において半径方向に突出して固定された突出軸30と,
前記突出軸30に回動自在に取付けられた回転ローラー31と,
中央に軸穴40aを有する円筒体であって,前記ステアリングシャフト22に回動自在に且つ軸方向移動自在に該軸穴40aによって装着され,軸方向の接触端面40bの肉厚が軸穴40aの円周方向に沿って変化するセンタリングカム40と,
ステアリングシャフト22には,アーム板41とフレーム21との間においてワッシャ50,51及びスプリング52が装着され,このスプリング52で,アーム板41及びセンタリングカム40をステアリングホイール23側へ強く押圧することで,センタリングカム40の接触端面40bに接触ローラー31が強く押圧され,
センタリングカム40の前記接触端面40bと反対面には,軸穴40aと一致する穴41aを有するアーム板41が固定され,該アーム板41がモーター60によって揺動すると,一体的にセンタリングカム40も揺動して,ステアリングシャフト22の回転ローラー31にスプリング52の押圧力が加わって,スプリング52の強い付勢力によってステアリングシャフト22及びステアリングホイール23は回転方向の往復振動を生じ,
ビデオ表示面でプレーヤーの自動車が他の自動車,他の物体に衝突したり,悪路を走行したり,コーナーをするどく曲がったりするようなゲーム状況に応じて制御装置でモーター60の駆動の早さ,時間などを制御すれば,ステアリングホイール23に強弱,時間の長さを選んで回転方向の振動を与えることができるドライブビデオゲーム機のステアリングホイール振動装置。」
(ウ)甲10発明
「プレーヤのアクセルペダルの踏込みにより,ビデオゲーム装置の表示画面上の自動車映像または自動車外映像で自動車の車速が或る限度を越えた場合,または映像上の路面が凸凹となった場合には,ステアリングホイール1を振動させる状態を発生させることもできるビデオゲーム装置であって,ステアリングホイール1と一体のステアリングシャフト2をベース3にベアリング4を介して回転自在に枢支し,ステアリングシャフト2にクランクアーム12を一体に装着し,操舵反力付与ベース10と一体のエアシリンダー枢支ブラケット13に枢軸14を介してセンタリングエアシリンダー15およびアクションエアシリンダー16の基端を枢支し,クランクアーム12の取付部分17,18にセンタリングエアシリンダー15およびアクションエアシリンダー16の先端を枢着し,ステアリングホイール1の操舵角θがどのような範囲にあっても,2本のセンタリングエアシリンダー15およびアクションエアシリンダー16の協同動作により,操舵角θの絶対値の大きさに略比例した大きさの操作反力を発生させることができ,また振動や,キックバックも発生させることができるビデオゲーム装置用ステアリング装置であって,ステアリングシャフト2にはポテンシオメータ9が付設されており,ステアリングホイール1の操舵角が検出されて,ビデオゲーム装置に送信され,該ステアリングホイール1の操舵角の大小に応じて該ビデオゲーム装置の表示画面上に表示された自動車映像の方向および左右位置または自動車外映像の変化の度合が制御されるビデオゲーム装置用ステアリング装置。」
(エ)甲11発明
「予めゲームの進行に必要なプログラムがロードされたゲーム制御回路3と,
銃撃戦のターゲットとなる敵の画像やその背景,障害物などを含むゲームの進行状況が表示されるビデオディスプレイ装置2と,
ビデオビィスプレイ装置2のスクリーンに現れる敵の画像に向けて射撃を行うことができ,銃身41の方位角はポテンショメーター66により,又仰角はポテンショメーター68により,それぞれ電気信号に変換され,ゲーム制御回路3に伝送される模擬銃4とを具備し,
該模擬銃4は,支持装置6及び振動発生装置7を内蔵する射撃台に設けられ,
プレイヤーが引金42を引くと,銃身41に内蔵されている発信器から射撃信号が発信されてゲーム制御回路3に伝送されるとともに,射撃音と銃身の反動が発生し,
射撃信号が発信されたとき,銃身41の方位角及び仰角が,ビデオビィスプレイ装置2のスクリーン上の敵の画像に対応して予め定められた範囲内にあるときは,発射された弾丸が敵に命中したものと判定され,プレイヤーが敵を倒す前に敵が正しくプレイヤーに向けて銃撃を行ったとされる場合には,プレイヤーの負と判定されて,プレイヤーは味方のコマンドを一人失うこととなり,味方のコマンドが全滅するまでの間に得た得点を競うものであって,
プレイヤーが被弾したときには,模擬銃4の支持装置6に設けられた振動発生装置7によって模擬銃4に強い振動が与えられ,プレイヤーの被ったダメージに応じて予め定められた時間が経過すると,振動発生装置7がOFFとなり,模擬銃4の振動が停止するビデオ式銃撃戦ゲーム装置。」
(3)本件発明1と公知発明との対比

一致点
「遊戯者が操作する入力手段と,
この入力手段からの信号に基づいてゲームの進行状態を決定あるいは制御するゲーム進行制御手段と,
このゲーム進行制御手段からの信号に基づいて少なくとも遊戯者が上記入力手段を操作することにより変動するキャラクタを含む画像情報を出力する出力手段とを有するゲーム機を備えた遊戯装置であって,
上記ゲーム進行制御手段からの信号に基づいて,ゲームの進行途中における遊戯者が操作している上記キャラクタの置かれている状況が特定の状況にあるか否かを判定する特定状況判定手段と,
上記特定状況判定手段が特定の状況にあることを判定した時に,上記画像情報からは認識できない情報を,体感振動情報信号として送出する振動情報制御手段と,
上記振動情報制御手段からの体感振動情報信号に基づいて振動を生じさせる振動発生手段と,を備えた遊戯装置。」

相違点(相違点1)
特定状況判定手段が特定の状況にあることを判定した時に送出される体感振動情報信号に関して,本件発明1は,「キャラクタの置かれている状況に応じて間欠的に生じる振動の間欠周期を異ならせ」ているものであるのに対し,公知発明は,その点については不明な点。

(4)無効理由に対する判断

無効理由1-1(新規性欠如)について
本件発明1と公知発明との間には相違点1が存在するから,本件発明1は本件特許の出願前に日本国内において公然知られた発明又は公然実施された発明ではない。同様に,本件発明8も公然知られた発明又は公然実施された発明ではない。
したがって,本件発明1及び8に係る特許は,特許法29条1項1号又は同2号の規定に違反してされたものでない。


無効理由1-2(進歩性欠如)について
甲8発明には,相違点1に係る構成が記載されているが,甲9ないし11発明には周知技術Y1が記載されていないから,「キャラクタの置かれている状況に応じて間欠的に生じる振動の間欠周期を異ならせること」は,
周知技術Y1とはいえない。
したがって,
本件発明1及び8は,
公知発明,
甲8ないし11発明から,
当業者が容易に想到し得たものであるとはいえないから,本件発明1及び8に係る特許は,特許法29条2項の規定に違反してされたものでない。

無効理由5(進歩性欠如)について
本件発明5は,本件発明1に限定を付したものであるから,限定を付した事項を検討するまでもなく,特許法29条2項の規定に違反してされたものでない。
したがって,請求人が主張する無効理由5は認められない。
4
取消事由
(1)公知発明と甲8発明の組合せによる容易想到性判断の誤り(取消事由1)(2)周知技術等の認定の誤り(取消事由2)
(3)公知発明と周知技術の組合せによる容易想到性判断の誤り(取消事由3)
第3
1
当事者の主張
取消事由1(公知発明と甲8発明の組合せによる容易想到性判断の誤り)について

(原告の主張)
(1)本件審決は,相違点1に係る「キャラクタの置かれている状況に応じて間欠的に生じる振動の間欠周期を異ならせる」点について,甲8発明に記載されていると認定しながら,他の特許文献には記載されていないから周知技術ではないとの理由のみで,本件発明1及び8の容易想到性を否定した。これは,相違点に係る構成が開示されている公知文献の存在を認定しながら,公知発明と甲8発明の組合せによる本件発明1及び8の容易想到性の有無を判断しなかったもので,その点で判断遺漏の違法がある。
そして,以下に述べるとおり,当業者であれば,公知発明に甲8発明を組み合わせることにより,本件発明1及び8を容易に発明することができる。(2)公知発明の認定について
公知発明のうち,「該振動開始後,所定時間経過すると,ゲーム画面右方から戦車がフレームインし,」との部分は,「該振動開始後,所定時間経過するとごく短い時間(約0.3秒間程度),その前後に比べてきわめて振動が少ない状態が発生しており,振動開始後,約3秒間の振動,ごく短い時間の振動のきわめて少ない状態というパターンを4回繰り返した後に,ゲーム画面右方から戦車がフレームインし,」なる構成を備えたものとして認定すべきである。
付加した部分は,本件審決が甲7の1から読み取れるとした部分であり,公知発明の認定において看過することができない構成である。
そうすると,公知発明は,本件審決が認定するとおり,「振動が開始した時点では,戦車はゲーム画面に表示されておらず,『振動開始後,所定時間が経過すると,
ゲーム画面右方から戦車がフレームイン』
していることから,
後者の『振動』は戦車の登場を予告している」
(49頁)ものであるところ,
その予告開始当初と戦車が登場する直前とで振動の種類を異ならせているといえる。
(3)甲8発明の認定について
甲8発明は,振動を発生する遊技機に関する発明であり,「図2および図3に図示するようなモニターTV5の映像に同期してシート3が揺動および振動し,前記のように走行時の細かい振動が再現でき,上りや下りの加速や減速も振動の変化により表現可能で,例えば,加速時にはレール継ぎ目の振動の間隔を徐々に縮め,逆に減速時にはその間隔を長くすることにより遊戯者は映像および効果音との相乗効果で,あたかもスピードが変化したかの如くに感じることができる。」(【0056】),「単純な動きで複数の動きすなわち微振動からローリング,ピッチング等の多種多様な振動を再現できるとともに特にレール走行車両の動きに近似し臨場感のあるゲームを楽しむことができる」(【0060】)と記載されている。以上のとおり,甲8発明には「シート3が揺動および振動」し「レール走行車両の動きに近似し臨場感」を与える作用・機能を有し,車両の速度に応じて(例えば,加速又は減速を判定し)「レール継ぎ目の振動の間隔」

を変更せしめる構成を有し,
「臨場感のあるゲームを楽しむことができる」という効果を奏するゲーム装置の技術,すなわち,レールの継ぎ目における振動が間欠的に発生し,その間欠的な振動の周期は車両の速度に応じて変化することにより,臨場感のあるゲームを提供する技術が開示されている。
なお,レールの継ぎ目が車輪と接触する場面がゲームの画面に表示されないことは当業者に明らかであるから,甲8発明には,レールの継ぎ目が車輪と接触するという画面からは認識できない情報に基づいて振動を生じさせる技術も併せて開示されている(被告が主張するように,「車両のスピードが変化した」という情報が画像情報から認識できたとしても,「レールの継ぎ目」
の上を走行したという情報は画面情報からは認識できないのであるから,「画面情報からは認識できない情報を,振動の間欠周期を異ならせて伝達している」ことは明らかである。)。また,継ぎ目と車輪の接触は,シート3の揺動及び振動によってプレーヤーが体感でき,シートに座らない他者は揺動及び振動を体感できず,揺動及び振動によってプレーヤーに伝えられるゲームの状況を知ることができない。
以上のように,甲8発明には,キャラクタたる車両が,走行しているレールの上を特定の速度で通過しているという状況に応じて間欠的に生じる振動の間欠周期を異ならせる技術及び画像からは認識できない情報を体感振動信号として振動発生手段に送出する相違点に係る構成が開示されている。(4)公知発明と甲8発明の組合せに係る容易想到性について
公知発明と甲8発明は,振動を発生する遊技機という技術分野が一致し,キャラクタの置かれた状況に応じた振動を発生させることで臨場感のあるゲームを提供するという作用・機能,さらには,画面情報から認識できない情報を体感振動信号として振動発生手段に送出するという作用・機能においても一致しているから,作用・機能の共通性がある。
また,振動を用いた体感ゲームにおいて,そのキャラクタの置かれた状況に応じた異なる振動を体感的に知得できるようにすることにより,迫力や現実感を増大させるために振動に変化を与える課題や技術は周知であった。なお,公知発明における振動は,戦車の走行による地響きが発生している状態をプレーヤーに伝えており,
戦車が停止する場面も存在する
(甲4,。
5)
戦車の走行による地響きは,戦車が停止している時は発生しないから,間欠的な振動の間欠周期が異なることと親和性があり,公知発明に甲8発明の構成を採用する動機付けがある。
以上のとおり,公知発明に「キャラクタの置かれている状況に応じて間欠的に生じる振動の間欠周期を異ならせる」という甲8発明に開示された技術を採用することは容易であって,本件発明1及び8は進歩性欠如の無効理由がある。それにもかかわらず,かかる審理検討を行わなかった本件審決の判断は誤りであり取消しを免れない。
(5)公知発明と甲8発明の組合せによる容易想到性を主張することは許されること
被告は,新たな無効理由として,公知発明と甲8発明の組合せによる容易想到性を主張することはできないと主張する。
しかし,審判において複数の公知事実が審理判断されている場合に,その組合せにつき審決と異なる主張をすることは,それだけで直ちに審判で審理判断された公知事実との対比の枠を超えるということはできない(知財高裁平成28年(行ケ)第10087号同29年1月17日判決)。特に,甲8発明の内容については本件審決において具体的に審理されていることから,被告による防御という観点からも問題はなく,また,紛争の一回的解決の観点からも,公知発明と甲8発明の組合せによる容易想到性を本件訴訟において判断することは許される。
他方で,
特許法167条の
「同一の事実及び同一の証拠」
の意義について,
特許無効審判の一回的紛争解決を図るという趣旨をより重視して広く解釈されてしまうと,本件審決が確定した後に公知発明と甲8発明の組合せによる容易想到性を争うことが同条により許されないと解釈されるおそれがあり(知
財高裁平成27年(行ケ)第10260号同28年9月28日判決),その場合,原告による本件特許の無効を争う機会を奪うことになり不当である。したがって,本件訴訟で公知発明と甲8発明の組合せによる容易想到性に関する本件審決の判断の遺漏及び違法を争うことは許される。
(被告の主張)
(1)原告は,公知発明と甲8発明の組合せによる本件発明1及び8の容易想到性の有無を判断していない点で判断遺漏の違法がある,と主張する。しかしながら,原告は,本件審判手続において,キャラクタの置かれている状況に応じて間欠的に生じる振動の間欠周期を異ならせる技術が「周知技術」であるとの主張の一つの根拠として,甲8発明を主張立証するにとどまり,公知発明と甲8発明の組合せによる容易想到性については一切主張していない。本件審決は,かかる原告の主張を前提に,甲8ないし11発明に記載された技術を踏まえて,キャラクタの置かれている状況に応じて間欠的に生じる振動の間欠周期を異ならせることが遊戯(ゲーム)装置の技術分野における周知技術といえるか否かについて検討し,結論として,周知技術とは認められないという判断を行った。
このように,原告は,そもそも,本件審判手続において,公知発明と甲8発明の組合せによる容易想到性(進歩性の欠如)について一切主張していないのであるから,本件審決がこの点について判断していないのは当然であって,本件審決の判断に何らの遺漏はない。
また,原告は,本件訴訟において,本件審判手続において審理判断されていない,公知発明と甲8発明の組合せによる容易想到性という新たな無効理由を主張していることになるが,特許無効審判の審決に対する取消しの訴えにおいてその判断の違法が争われる場合には,専ら当該審判手続において現実に争われ,かつ,審理判断された特定の無効理由に関するもののみが審理の対象とされるべきであり,それ以外の無効理由については,訴訟においてこれを審決の違法事由として主張することはできない
(最高裁昭和42年
(行
ツ)第28号同51年3月10日大法廷判決・民集30巻2号79頁〔メリヤス編機事件〕参照)。
したがって,原告は,本件訴訟において,新たな無効理由として,公知発明と甲8発明の組合せによる容易想到性を主張することはできず,原告の主張は,主張自体失当である。
(2)公知発明の認定について
原告は,公知発明として,「該振動開始後,所定時間経過するとごく短い時間(約0.3秒間程度),その前後に比べてきわめて振動が少ない状態が発生しており,振動開始後,約3秒間の振動,ごく短い時間の振動のきわめて少ない状態というパターンを4回繰り返した後に,ゲーム画面右方から戦車がフレームインし,」なる構成を備えたものを認定すべきである,と主張する。
しかしながら,上記の「ごく短い時間(約0.3秒間程度),その前後に比べてきわめて振動が少ない状態が発生しており,振動開始後,約3秒間の振動,ごく短い時間の振動のきわめて少ない状態」というのは,画面情報からは認識できない「戦車の登場の予告」とはおよそ無関係の事象により発生しているものであって,原告の主張は失当である。
すなわち,約3秒毎に4回振動に強弱が生じているのは,発射された砲弾がニンジャキャラクタの近くで爆発するのに合わせて(ゲーム画面上認識可能なニンジャキャラクタの近くで砲弾が爆発したことを示す演出として),戦車の地響きを示す振動とは全く別の振動が発生しており,それによって振動の振幅が変化しているにすぎない。本件発明との対比において認定すべき公知発明の構成は,「戦車の登場の予告」との関係で発生している振動であり,これとは全く別の原因(ゲーム画面上認識可能な砲弾の爆発)で発生している振動を認定する必要はない。
したがって,公知発明に係る本件審決の認定に誤りはない。
(3)甲8発明の認定について
原告は,甲8発明には,キャラクタとしての車両が,走行しているレールの上を特定の速度で通過しているという状況に応じて間欠的に生じる振動の間欠周期を異ならせる技術及び画像からは認識できない情報を体感振動信号として振動発生手段に送出する相違点に係る構成が開示されている,と主張する。
しかしながら,甲8発明は,画像情報からは認識できない情報を,間欠的に生じる振動の間欠周期を異ならせるための体感振動信号として振動発生手段に送出するものではないから,原告の主張は誤りである。
すなわち,
甲8発明は,
走行する車両とレールの継ぎ目が接触する際の
「瞬
時的な振動」を再現することに発明の意義があり,副次的な効果として,レールの継ぎ目が等間隔であることから,「瞬時的な振動」の間隔を変化させることにより,遊戯者に対し,「映像や効果音」との相乗効果で,あたかも車両のスピードが変化したかのように感じさせることを可能とするものである。そして,「車両のスピードが変化したこと」は,「映像や効果音」との相乗効果で感じることができ,「画像からは認識できない情報」ではない。したがって,甲8発明は,画像情報から認識可能な「車両のスピードが変化した」という情報を,レールの継ぎ目で生じる振動の時間的間隔を異ならせることで再現し,「車両スピードが変化したこと」を遊戯者に知覚させ,もってゲームの臨場感を高めたものにすぎず,これを超えて,抽象的に間欠周期の変化それ自体を利用して「画像情報から認識できない情報」を遊戯者に知覚させる発明が記載されているわけではない。
(4)公知発明と甲8発明の組合せに係る容易想到性について

本件審決が認定するとおり,公知発明の振動は,戦車がゲームステージに登場することに対応して発生するもので,戦車の走行音とともに,走行による戦車の「地響き」が発生している状態を表現し,プレーヤーが臨場感や高度の現実感を得られるようにすることを目的としている。そうすると,公知発明において戦車の登場に対応して発生する振動は,戦車の走行音とともに,戦車がゲームステージに登場している(ニンジャの近くにいる)限り継続的に発生させなければ,戦車による地響きが発生している状態を表現し,プレーヤーが臨場感や高度の現実感を得られるという目的を達成できない。
これに対し,
甲8発明は,
飽くまで,
レール上を走行する車両において,
レールの継ぎ目ごとに瞬時的な振動を再現することを目的とし,その副次的な効果として,レールの継ぎ目が等間隔であることから,その振動が発生する時間的間隔が車両の速度によって変化するという性質を利用して,映像や効果音とともに,「車両スピードが変化したこと」を遊戯者に知覚させるものであり,かかる振動の構成は,公知発明における戦車の走行による「継続的な」地響きを再現する振動とは相容れない。
すなわち,公知発明に甲8発明を適用すると,戦車による地響きが発生している状態を振動によって表現できなくなるから,公知発明に甲8発明の構成を適用する動機付けはなく,むしろ阻害要因がある。

原告は,戦車の走行による地響きは,戦車が停止している時は発生しないのが自然であるから,間欠的な振動の間欠周期が異なることと親和性があり,そのため,公知発明に甲8発明の構成を採用する動機付けがある,と主張する。
しかしながら,戦車が走行している時に振動が発生し,戦車が走行していない時に振動が発生しないという点は,ある事象が発生した場合に振動を発生させるという制御を行い,当該事象が発生していない場合には振動を発生させないという制御を行うということにすぎず,キャラクタの置かれている状況に応じて間欠的に生じる振動ではないし,かかる間欠的に生じる振動の間欠周期を異ならせるものでもなく,本件発明の構成とは無関係である。
2
取消事由2(周知技術等の認定の誤り)について

(原告の主張)
(1)「キャラクタの置かれている状況に応じて間欠的に生じる振動の間欠周期を異ならせること」という技術が,甲8発明には開示されているが,甲9ないし11発明には記載されていないとの本件審決の認定は,次のとおり誤りである。
(2)甲9発明の認定について
本件審決は,甲9発明が,「自動車の走行」という特定の状況にあることを判定した時に送出される体感振動情報信号に関して,「プレーヤーの自動車」
というキャラクタの置かれている,
「プレーヤーの自動車が他の自動車,
他の物体に衝突したり,悪路を走行したり,コーナーをするどく曲がったりするようなゲーム状況」という状況に応じて「ステアリングホイール23に強弱,時間の長さを選んで回転方向の振動」という振動の種類を異ならせていることを認定しながら,他方で,この振動は,「『ゲーム状況』に応じて『ステアリングホイール23に強弱,時間の長さを選んで回転方向の振動』を与え」るものであるから,この振動が「間欠的に生じる」振動であったとしても,「間欠周期」を有するものではないと認定している。
しかしながら,
「間欠」とは,
「一定の時間を隔てて起こること。止んで,
また,起こること。」(甲25)であるから,振動の「間欠周期」とは,振動が発生したり止まったりする周期のことを意味する。
ステアリングホイールの振動は,不規則に発生したり止まったりし,間欠的に生じる振動である。そして,振動が発生したり止まったりする際に,例えば,ステアリングホイールの第1の振動が発生した時刻から,第2の振動が発生する時刻までが,間欠周期の第1の周期であり,該第2の振動が発生した時刻から,
第3の振動が発生する時刻までが,
第2の周期であるところ,
第1の周期と第2の周期は通常異なるから,ステアリングホイールの振動の間欠周期が異なることとなることは自明である。
よって,甲9に「キャラクタの置かれている状況に応じて間欠的に生じる振動の間欠周期を異ならせること」という技術が開示されていることは明らかであり,本件審決の甲9発明の認定は誤りである。
(3)甲10発明の認定について
本件審決は,甲10発明が,「自動車の車速が或る限度を越えた場合,または映像上の路面が凸凹となった場合」という特定の状況にあることを判定した時に送出される体感振動情報信号に関して,「自動車」というキャラクタの置かれている,「車速,または路面の凹凸」という状況に応じて「ステアリングホイール1を振動させる」という振動の種類を異ならせていることを認定しながら,どのような振動であるかについては何ら記載がなく,「間欠的に生じる」か「間欠周期」を有するかについては不明であると認定している。
しかし,本件審決も認定するとおり,甲10発明は,「自動車の車速が或る限度を越えた場合」又は「路面が凸凹となった場合」に「ステアリングホイール1を振動させる状態を発生させる」ものである。ここで「自動車の車速が或る限度を越えた場合」又は「路面が凸凹となった場合」が発生する事象は,ゲーム中において,間断なく発生しているものではなく,止んで,また,起こるもの(間欠的に起こるもの)であり,その発生間隔が異なる(周期は異なる)ことは自明である。すなわち,ステアリングホイールの振動の間欠周期が異なることは自明である。
また,甲10の【0011】によれば,甲10発明において,特定の状況が判定された場合に2本の往復動アクチュエータの両ポートに圧力流体を選択的に供給するとともにこの供給状態を間欠的に切換えれば,特定の状況が判定された場合に生じるステアリングホイールに振動状態またはキックバック状態を与える振動のひとかたまりが開始される時刻と次の振動のひとかたまりが開始される時刻との間の時間(すなわち周期)も必然的に異なることになるから,甲10発明は,振動の発生の有無を間欠的に切り換えることができる技術を開示しており,間欠周期の異なる振動を発生させていることは明らかである。
よって,甲10に「キャラクタの置かれている状況に応じて間欠的に生じる振動の間欠周期を異ならせること」という技術が開示されていることは明らかであり,本件審決の甲10発明の認定は誤りである。
(4)甲11発明の認定について
本件審決は,甲11発明が,「(模擬銃の)射撃」という特定の状況にあることを判定した時に送出される体感振動情報信号に関して,プレイヤー」「
というキャラクタの置かれている,「発射された弾丸が敵に命中すること」及び「敵が正しくプレイヤーに向けて銃撃を行ったとされる場合」という状況に応じて「模擬銃4」に種類の異なる「強い振動」を発生させることを認定しながら,「どのような振動であるかについては何ら記載がなく,『間欠的に生じる』か『間欠周期』を有するかについては不明である。」と認定している。
しかし,
「敵が正しくプレイヤーに向けて銃撃を行ったとされる場合」
は,
ゲーム中において,止んで,また起きることは自明である。したがって,「模
擬銃4」に「与えられ」る「振動」は,止んで,また,起こるものである。しかも,この「振動」が発生する間隔(周期)は一定ではなく異なることは自明である。すなわち,「模擬銃4」に「与えられ」る「振動」の間欠周期は異なる。
よって,甲11に「キャラクタの置かれている状況に応じて間欠的に生じる振動の間欠周期を異ならせること」という技術が開示されていることは明らかであり,本件審決の甲11発明の認定は誤りである。
(5)周知技術の公知発明への適用について
以上のとおり,「キャラクタの置かれている状況に応じて間欠的に生じる振動の間欠周期を異ならせること」は,本件審決の認定した甲8発明のみならず,
甲9ないし11発明に記載された周知技術であることは明らかである。これに反する本件審決の認定,及びその認定のみを理由として本件発明1及び8の容易想到性を否定する本件審決の判断は誤りであり,取消しを免れない。
なお,被告は,公知発明に「キャラクタの置かれている状況に応じて間欠的に生じる振動の間欠周期を異ならせる」体感振動情報信号として振動を発生させる構成を適用することには動機付けがなく,むしろ,阻害要因があると主張する。
しかし,公知発明と甲8ないし11発明から成る周知技術は,振動を発生する遊技機という技術分野が一致し,キャラクタの置かれた状況に応じた振動を発生させることで臨場感のあるゲームを提供するという作用・機能において一致している。また,振動を用いた体感ゲームにおいて,そのキャラクタの置かれた状況に応じた異なる振動を体感的に知得できることにより迫力や現実感を増大させるために振動に変化を与える課題や技術は周知であったことなどから,公知発明に周知技術に開示された相違点1に係る構成を採用する動機付けが存在する。さらに,現実の世界では戦車等の走行車両が停止したところから走行を開始する場合には,間欠的に生じる振動の間欠周期が長くなり,そこから走行速度が加速されることで間欠的に生じる振動の間欠周期が短くなるから,公知発明においても,より現実に近い振動を発生させるために,戦車が停止したところから走行を開始するという低速での走行時には間欠的に生じる振動の間欠周期を長くし,ニンジャキャラクタに近づくにつれてその走行速度が加速されるとともに,振動の間欠周期を短くすることも,当業者であれば容易に想到することは明らかである。
したがって,上記の動機付けはあり,阻害要因もないから,被告の主張は失当である。
(被告の主張)
(1)本件審決の甲9ないし11発明の認定に誤りはなく,「キャラクタの置かれている状況に応じて間欠的に生じる振動の間欠周期を異ならせること」は周知技術とはいえないから,本件審決の判断に誤りはない。
また,「キャラクタの置かれている状況に応じて間欠的に生じる振動の間欠周期を異ならせること」という技術を公知発明に適用することに動機付けがなく,むしろ,阻害要因があるというべきであるから,いずれにせよ,本件審決の結論に誤りはない。
(2)甲9発明の認定について
甲9発明は,キャラクタの置かれている状況に応じて,振動の強弱やその時間を異ならせる技術的思想を開示しているといえるが(【0024】),甲9発明では,単に一定の事象(プレーヤーの自動車の他の自動車や他の物体への接触,悪路走行,コーナーの走行等)が生じた場合に振動を発生させる,すなわち,単に「特定の状況」の判定が行われる都度,振動を発生させる構成が開示されているにすぎず,「キャラクタの置かれている状況に応じて間欠的に生じる振動の間欠周期を異ならせている」構成が開示されているわけではない。
原告の主張は,甲9発明が単に一定の事象が生じた場合に振動を発生させていることの結果として,一定の事象が生じた際に発生する個々の振動を全体として捉えて,その発生間隔がばらばらであることを指摘しているにすぎない。キャラクタの置かれている状況に応じて,振動の間欠周期を異ならせることと,単に一定の事象が生じた際に振動を発生させ,特定の事象が複数回発生した結果を全体としてみたときに,振動が発生する間隔が異なっていることには明白な違いがある。すなわち,前者は,キャラクタの置かれている状況に応じて,振動の間欠周期を「異ならせる」ことによって,遊戯者に一定の情報を知得させることができるものである。これに対し,後者は,単に一定の事象が発生する度に振動を発生させているにすぎず,当該事象がゲーム中に複数回発生した結果,ゲーム全体で見ると,結果的に振動が発生する間隔(すなわち,当該事象が発生する間隔)が「異なっている」にすぎないのであって,この振動の発生間隔には何らの意味はなく,両者は,全く異なる振動の制御を行う技術である。
そして,甲9発明は,キャラクタの置かれている状況に応じて,間欠的に生じる振動の間欠周期を「異ならせている」わけではなく,ゲーム全体をみたときに,一定の事象が発生する度に発生する振動の発生間隔(当該事象の発生間隔)が「異なっている」にすぎず,かかる振動は,何らかの周期,規則性のある振動ではなく,間欠周期を異ならせているものでもない。(3)甲10発明の認定について
甲10発明は,ハンドルの回転角度(どの程度の曲がり度合いで曲がったか)の絶対値の大きさに略比例して,振動の大きさ(強弱)を異ならせる技術を開示しているといえるが,ハンドルの回転角度によって,間欠的に振動を生じさせ,その間欠周期を異ならせる技術を開示するものではない。甲10発明で開示されているのは,甲9発明と同様,単に一定の事象が生じている場合に振動を発生させるという構成(単に「特定の状況」の判定が行われる都度,振動を発生させる構成)にすぎず,「キャラクタの置かれている状況に応じて間欠的に生じる振動の間欠周期を異ならせる」構成とはおよそ異なる構成である。
原告の主張は,甲10発明が単に一定の事象が生じた場合に振動を発生させていることの結果として,一定の事象が生じた際に発生する個々の振動の間(一定の事象の発生間隔)を捉えて,その周期がばらばらであることを指摘しているにすぎない。すなわち,原告の主張は,単に一定の事象が生じるタイミングがばらばらであることを指摘するにすぎず,甲10発明は,決して,キャラクタの置かれている状況に応じて,間欠的に生じる振動の間欠周期を「異ならせている」わけではない。
(4)甲11発明の認定について
甲11の明細書には,「モーター72」を作動させた場合に生じる振動が「間欠的に生じる振動」であるなどとは記載されておらず,むしろ,「振動により照準合わせが困難となる」
(【0021】)といった記載からすれば,
味方の被弾が生じた場合に発生する振動は,「継続的」な振動であることを当然の前提としているものと考えられる。
したがって,甲11発明は,味方の被弾によるダメージの程度に応じて振動の時間を異ならせるという技術を開示するにすぎず,間欠的に生じる振動を生じさせるものではなく,また,キャラクタの置かれている状況に応じて間欠的に生じる振動の間欠周期を異ならせているものでもない。
原告の主張は,甲11発明が,単に一定の事象が生じた場合に振動を発生させていることの結果として,一定の事象が生じた際に発生する個々の振動の間を捉えて,その周期がばらばらであることを指摘しているにすぎない。すなわち,原告の主張は,単に一定の事象が生じるタイミングがばらばらであることを指摘するにすぎず,甲11発明は,決して,キャラクタの置かれている状況に応じて,間欠的に生じる振動の間欠周期を「異ならせている」わけではない。
(5)周知技術の公知発明への適用について(阻害要因の存在)
以上のとおり,「キャラクタの置かれている状況に応じて間欠的に生じる振動の間欠周期を異ならせること」は周知技術ではないが,仮に,公知発明に「キャラクタの置かれている状況に応じて間欠的に生じる振動の間欠周期を異ならせる」技術を適用できるか否かを検討するとしても,これを組み合わせることには,やはり阻害要因がある。
すなわち,公知発明において戦車の走行に対応して発生する振動は,戦車がゲームステージを走行している限り「継続的」に発生させなければ,戦車の走行による地響きが発生している状態を表現できない。かかる公知発明における振動を「キャラクタの置かれている状況に応じて間欠的に生じる振動の間欠周期を異ならせる」体感振動情報信号として振動を発生させるという構成に変更すると,戦車の走行による地響きが発生している状態の表現として極めて不自然なものとなり,プレイヤーが臨場感や高度の現実感を得られるようにする効果が得られないことになる。
したがって,公知発明に「キャラクタの置かれている状況に応じて間欠的に生じる振動の間欠周期を異ならせる」体感振動情報信号として振動を発生させる構成を適用することには動機付けがなく,むしろ,阻害要因がある。3
取消事由3(公知発明と周知技術の組合せによる容易想到性判断の誤り)について

(原告の主張)
(1)仮に,「キャラクタの置かれている状況に応じて間欠的に生じる振動の間欠周期を異ならせ」る技術が周知技術ではないとしても,少なくとも,「キャラクタの置かれている状況に応じて振動の種類を異ならせる技術」は,本件審決の判断を前提としても周知であり,公知技術にこれを採用することは当業者であれば容易である。そして,「振動の種類を異ならせる」手段として「間欠的に生じる振動の間欠周期を異ならせる」ことは,複数ある選択肢のうちの一つを選択したという程度の意味しかない。そのため,状況に応じて振動の大きさ(強弱)を異ならせる技術が開示されていれば,これに代えて,間欠的に生じる振動の間欠周期を異ならせることも,当業者であれば適宜選択できる設計的事項にすぎない。したがって,相違点は実質的な相違点ではない。本件発明1及び8は,かかる観点からも,当業者であれば容易に発明できたといえる。
原告は,口頭審理陳述要領書(甲30)や弁駁書(甲37)でその旨を主張していたが,本件審決は,これについて何ら判断することなく,また,「間
欠的に生じる振動の間欠周期を異ならせ」ることの技術的意義について何ら考慮することなく,「キャラクタの置かれている状況に応じて間欠的に生じる振動の間欠周期を異ならせること」は,周知技術とまではいえないという理由のみで容易想到性を否定しており,この点において判断を遺漏した違法がある。
(2)相違点に係る構成の技術的意義について
本件発明1及び8の「上記キャラクタの置かれている状況に応じて間欠的に生じる振動の間欠周期を異ならせるための体感振動情報信号として送出する振動情報制御手段」の技術的意義は,本件明細書(【0031】)に記載のとおり,遊戯者が一層高度な現実感やスリルを味わえるという作用効果を生じさせるため,ゲームの変化の態様に応じた異なる体感振動情報信号を送出することにあり,換言すれば,振動の種類を異ならせることに技術的意義がある。他方,本件発明1及び8において,キャラクタの置かれている状況に応じて振動の種類を異ならせるに際し,この振動を間欠的に生じる振動の間欠周期を異ならせることは,
作用効果に何らかの差異があるものではなく,
また,何らかの技術的な解決手段を示すものでもないから,技術的な意義はない。
例示的に列挙されたものの中からその一部を限定したにすぎない場合のように,
引用発明から限定された部分によって作用効果に差異がない場合には,相違点がないとされる(知財高裁平成22年(行ケ)第10324号同23年7月7日判決)。同様に,相違点に何らの技術的意義があるとは認められない場合には,実質的な相違点とは認められない(知財高裁平成22年(行ケ)第10334号同23年7月11日判決)。
しかるところ,公知発明は,ニンジャキャラクタの置かれた状況に応じて「振幅を異ならせる」ための体感振動情報信号を送出する振動情報制御手段を備えているが,公知発明と本件発明1及び8との間に相違点が存在するとしても,その相違点であるキャラクタの置かれている状況に応じて生じさせる振動の種類を「間欠的に生じる振動」とすることは,複数ある選択肢のうちの一つを選択したという意味を超えて,何らかの技術的な解決手段を示したものではないから,実質的な相違点ではなく,少なくとも当業者であれば適宜選択できる設計的事項にすぎない。
しかるに,本件審決は,「間欠的に生じる振動の間欠周期を異ならせ」ることの技術的意義を何ら考慮することなく,「キャラクタの置かれている状況に応じて間欠的に生じる振動の間欠周期を異ならせること」は周知技術とまではいえないことのみを理由に容易想到性を否定しており,かかる判断はそもそも誤りである。
(3)「キャラクタの置かれている状況に応じて振動の種類を異ならせる技術」は周知であること
「キャラクタの置かれている状況に応じて振動の種類を異ならせる技術」は,甲8発明だけではなく,甲9発明,甲10発明及び甲11発明にも記載されていることは,本件審決も認めている。また,振動を用いた体感ゲームにおいて,そのキャラクタの置かれた状況に応じた異なる振動を体感的に知得でき,迫力や現実感を増大させるために,振動に変化を与える技術は,本件特許の出願日以前に発売されたゲーム機において多数採用されており,さらに,甲12(特開昭63-174681号公報),甲18の1(特開平4-8381号公報),甲18の2(特開平5-303324号公報)及び甲19(実開平5-84385号公報)にも開示されている。
これに対して,被告は,これらの文献は,一定の事象が発生した際に,当該事象に対応した振動を発生させることで当該事象をリアルに表現する技術を開示したものにすぎない,と主張する。
しかし,
被告自身,
公知発明において振動の種類を変更することによって,
戦車の地響きによる振動をよりリアルに再現する(遊戯者において実際の戦車の地響きを感じさせる)こと自体に動機付けが認められ,阻害要因がないことを認めているといえる。そして,上記のとおり,振動の種類を異ならせるために,間欠的に生じる振動の間欠周期を異ならせることは,複数ある選択肢のうちの一つを選択したという意味を超えて,何らかの技術的な解決手段を示したものではなく,したがって,実質的な相違点ではなく,少なくとも,当業者であれば適宜選択できる設計的事項にすぎないのであるから,公知発明に周知技術を組み合わせることで本件発明1及び8を容易に発明できることは明らかである。
なお,公知発明においても,より現実に近い振動を発生させるために,停止した戦車が走行を開始した直後の低速走行時には間欠的に生じる振動の間欠周期を長くし,ニンジャキャラクタに近づくにつれて走行速度が加速されるとともに振動の間欠周期を短くすることは,当業者であれば容易に想到することは明らかである。
(4)公知発明と周知技術の組合せによる容易想到性を主張することは許されること
被告は,上記の無効理由は,当初の審判請求書(甲27)に新たに特許を無効にする根拠となる事実(特許法131条2項)を追加するものであり,そもそも,審判請求書の要旨変更として許されない(同法131条の2第1項柱書),と主張する。
しかしながら,
上記の無効理由は,
単に周知技術を追加したものであって,
請求理由の要旨変更に該当しないことは明らかであるから,被告の主張は失当である。
(被告の主張)
(1)原告が審判請求書(甲27)において主張した無効理由は,①公知発明と「キャラクタの置かれている状況に応じて間欠的に生じる振動の間欠周期を異ならせる技術」なる周知技術との組合せであり,②公知発明と「キャラクタの置かれている状況に応じて振動の種類を異ならせる技術」なる周知技術の組合せによる進歩性欠如を本件審判手続における無効理由としては挙げていない。原告が上記②の主張を行ったのは,審決予告後に提出した平成29年7月5日付け審判事件弁駁書
(甲37)
である。
この点,
上記②の主張は,
上記①の主張とは,公知発明に組み合わせる周知技術の内容が異なっているから,このような主張の追加は,審判請求書記載の請求の理由に異なる主要事実を追加するもの,すなわち,当初の審判請求書(甲27)に新たに特許を無効にする根拠となる事実
(特許法131条2項)
を追加するものであり,
そもそも,審判請求書の要旨変更として許されない(同法131条の2第1項柱書)。
なお,被告は平成29年5月25日に訂正の請求を行っているが,当該訂正請求は請求項の削除とそれに伴う引用請求項の削除にとどまるものであり,当該訂正請求により原告において請求の理由を補正する必要が生じた(同法131条の2第2項1号)とはいえない。
このように,原告が本件審判手続において上記②の主張を行うこと自体許されなかったのであり,本件審決が上記②の主張を明示的に判断していないとしても,かかる本件審決の判断に遺漏はない。また,原告が本件訴訟において新たに上記②の無効理由の主張をすることもできないというべきである(前記メリヤス編機事件最高裁判決参照)。
(2)以上の点を措くとしても,原告が,甲12,甲18の1,甲18の2及び甲19を根拠として周知技術であると主張する「キャラクタの置かれている状況に応じて振動の種類を異ならせる技術」とは,単に,一定の事象が発生した際に,振動の種類を異ならせることによって当該事象を表現する技術にすぎず,「キャラクタの置かれている状況に応じて,振動の間欠周期を異ならせる」ことによって,画像情報から認識できない情報を遊戯者に知得させる本件発明とは全く異なる技術である。そのため,公知発明に,原告の主張する
「キャラクタの置かれている状況に応じて振動の種類を異ならせる技術」を組み合わせたとしても,本件発明には至らない。
(3)また,原告の主張する「キャラクタの置かれている状況に応じて振動の種類を異ならせる技術」とは,単に,ゲーム内における一定の事象について,振動の種類を異ならせることで当該事象をリアルに表現する(遊戯者に実際に当該事象が生じたかのように感じさせる)技術にすぎない。したがって,かかる技術を公知発明に組み合わせたとしても,振動の種類を変更することによって,戦車の地響きによる振動をよりリアルに再現する(遊戯者において実際の戦車の地響きを感じさせる)ことが可能となるにすぎず,これを超えて,本件発明のように,振動の間欠周期を異ならせることによって,当該周期の変化から,画像情報からは認識できない情報を遊戯者に知得させるという構成には至らない。
第4
1
当裁判所の判断
本件発明について
(1)本件明細書(甲16の1)の記載
本件明細書には,おおむね以下の記載がある(図については別紙本件明細書の図参照。なお,特許査定以降,特許請求の範囲の記載以外について訂正はない。)。

産業上の利用分野
【0001】
本願発明は,
遊戯装置およびその制御方法に関し,
詳しくは,
業務用ゲーム機や家庭用ゲーム機におけるゲームの進行に際して,遊戯者による入力手段の操作により上記ゲームの進行にその遊戯者が参加するように構成され,かつそのゲームの進行状態に応じてその遊戯者に振動を体感的に伝達するように構成された遊戯装置およびその制御方法に関する。イ
従来の技術
【0002】近年においては,業務用ゲーム機や家庭用ゲーム機などを使用して行われるゲームとして,・・・遊戯者の入力操作により移動するキャラクタ等が存在して遊戯者がそのゲームの進行に参加するように構成したものが実用化されている。
【0003】この遊戯者の参加によるゲームは,ジョイスティックレバーや押しボタン等から構成される入力手段を上記各種ゲーム機に取り付け,そのゲーム機に備えられあるいは接続されているCRTやLCDなどの画像出力手段を視認しながら遊戯者が上記入力手段を操作することにより,そのゲームの進行中において自己に対応する仮想人物画像等の行動を制御するものである。
【0004】この種のゲームの具体的内容としては,たとえば格闘技等のスポーツに係るものや,冒険あるいはレースに係るもの,さらには宝探しを行うものなど,種々の分野にわたるものが提案されあるいは実用化されている。そして,この種のゲームの進行途中においては,ゲーム機に備えられあるいは接続されているスピーカ等の音響出力手段から様々な音響が発せられるように構成されている。


発明が解決しようとする課題
【0005】ところで,上記従来の各種ゲーム機により行い得る遊戯者参加ゲームは,そのゲームの途中において自己に対応する仮想人物画像等の置かれている状況が変化した場合等に,ゲーム機専用のスピーカから音響が発せられるものが主流を占めている。したがって,自己と他者とで勝負を決するようなゲームにおいては,上記スピーカから発せられた音響が自己だけでなく他者にも聞こえてしまうことになり,たとえば他者に対して秘密にしておきたい状態等が存在する場合であっても,その秘密状態を維持しておくことは不可能である。
【0006】このため,ゲームの内容が全てオープンなものとなり,十分なスリル感を味わえなくなるばかりでなく,音響が発せられることに起因して,自己のみが知っている情報に基づいて秘密のうちにゲームを進行させるといったことができなくなり,この種のゲームを製作する上での自由度ないし選択の幅が小さくなるという問題を有している。
【0007】加えて,この種のゲームは,そのゲーム進行途中において発せられる音声や効果音のみによって,遊戯者にある程度の現実感や迫力を与えようとしているのが実情であるが,このような手法では,遊戯者は聴覚および視覚だけでその雰囲気を味わうに留まり,より高度な現実感や十分な迫力等が得られず,娯楽性や面白さに欠けるという難点がある。【0008】
本願発明は,
上述の事情のもとで考え出されたものであって,
ゲームの進行途中における自己の置かれている状況を,視覚および聴覚以外の感覚をもって知得できるようにするとともに,相手方に対して秘密状態の下でゲームを進行させることなどを可能にし,これによりゲーム製作上の自由度を増大させ,かつ高度な現実感や十分な迫力が得られる遊戯装置を提供することをその課題とする。

課題を解決するための手段
【0009】上記の課題を解決するため,本願発明では,次の技術的手段を講じている。
【0010】すなわち,本願の請求項1に記載した発明は,遊戯者が操作する入力手段と,この入力手段からの信号に基づいてゲームの進行状態を決定あるいは制御するゲーム進行制御手段と,このゲーム進行制御手段からの信号に基づいて少なくとも遊戯者が上記入力手段を操作することにより変動するキャラクタを含む画像情報を出力する出力手段とを有するゲーム機を備えた遊戯装置であって,上記ゲーム進行制御手段からの信号に基づいて,ゲームの進行途中における遊戯者が操作している上記キャラクタの置かれている状況が特定の状況にあるか否かを判定する特定状況判定手段と,上記特定状況判定手段が特定の状況にあることを判定した時に,上記画像情報からは認識できない情報を,体感振動情報信号として送出する振動情報制御手段と,上記振動情報制御手段からの体感振動情報信号に基づいて振動を生じさせる振動発生手段と,
を備えたことを特徴としている。
・・・
【0014】また,上記請求項1~4のいずれかに記載の遊戯装置において,上記入力手段は,二人以上の遊戯者がそれぞれ独立して操作することが可能に構成されているとともに,上記特定状況判定手段は,ゲームの進行途中における上記二人以上の遊戯者がそれぞれ操作している二個以上のキャラクタの置かれている状況を別々に判定するように構成されており,かつ,この特定状況判定手段のそれぞれの判定結果に基づいて,上記振動情報制御手段から二種以上の体感振動情報信号が,二個以上の上記振動発生手段に送出されるように構成されているものであってもよい
(請求項5)

・・・
【0017】一方,本願の請求項8に記載した発明は,遊戯者が操作する入力手段と,この入力手段からの信号に基づいてゲームの進行状態を決定あるいは制御するゲーム進行制御手段と,このゲーム進行制御手段からの信号に基づいて少なくとも遊戯者が上記入力手段を操作することにより変動するキャラクタを含む画像情報を出力する出力手段とを有するゲーム機を備えた遊戯装置の制御方法であって,上記ゲーム進行制御手段からの信号に基づいて,ゲームの進行途中における遊戯者が操作している上記キャラクタの置かれている状況が特定の状況にあることを判定した時に,上記画像情報からは認識できない情報を,体感振動情報信号として振動発生手段に送出するようにしたことを特徴としている。

発明の作用及び効果
【0022】上記請求項1に記載した発明によれば,遊戯者が入力手段を操作することにより,ゲーム進行制御手段からの信号に基づいて,出力手段(少なくともディスプレイ等)から時々刻々と変化する画像表示がなされてゲームが進行する。この場合,遊戯者は,入力手段を操作することによりそのゲームに参加した状態にある。具体的には,たとえば上記出力手段に表示される画像の中に,遊戯者による入力手段の操作に伴ってその行動が変化する人物画像等のキャラクタが存在していれば,そのキャラクタを自己の意志に基づいて移動させることにより,遊戯者がそのゲームに参加した状態にある。
【0023】そして,このようなゲームの進行途中における上記ゲーム進行制御手段からの信号に基づいて特定状況判定手段が,遊戯者の置かれている状況,すなわち遊戯者により操作されている上記キャラクタの置かれている状況が,特定の状況にあるか否かを判定する。そして,特定の状況にあることが判定された時点で,振動情報制御手段から振動発生手段に対して,画像情報からは認識できない情報が,体感振動情報信号として送出される。
【0024】これにより,上記出力手段により画像として表示されていない内容が,所定の体感振動として上記振動発生手段に生じることになる。したがって,遊戯者は,この振動発生手段を身体に接触させておけば,この時に生じる振動を体感的に知得して,ゲームの進行状態が特定の状況にあることを知得できるのに対して,他の遊戯者や周辺の見物人は,上記画像を見ているだけではその特定の状況を認識することができない。【0025】この結果,遊戯者は,周囲にその特定の状況を悟られることなく,自己のみが知り得る秘密の状態の下でゲームを進行していくことができるとともに,振動を体感的に知得できることにより迫力や現実感が増大することになる。
・・・
【0032】さらに,上記請求項5に記載した発明によれば,たとえば二人の遊戯者がゲームを競い合う場合に,その効果が顕著に得られる。すなわち,一の遊戯者が操作しているキャラクタと他の遊戯者が操作しているキャラクタとが,それぞれ別々に特定の状況を判定され,その判定結果に基づいて別々の振動発生手段に体感振動情報信号が送出される。したがって,二人の遊戯者は,それぞれ異なる時に異なる振動を体感的に知得できることになり,しかもその情報を相手方に対して秘密にした状態でゲームを進行できることになる。
・・・
【0035】なお,上記請求項8・・・に記載した発明に係る遊戯装置の制御方法はそれぞれ,既述の請求項1・・・に記載した発明に係る遊戯装置に対応するものである。したがって,これらの制御方法により得られる作用効果はそれぞれ,対応する遊戯装置について既に述べた内容と同様である。

実施例の説明
【0036】以下,本願発明の好ましい実施例を,図面を参照しつつ具体的に説明する。
【0037】図1は,本願発明に係る遊戯装置の概略システムを示すブロック図である。同図に示すように,この遊戯装置20は,大別すると,振動発生手段である音響体感器1と,
家庭用または業務用のゲーム機21と,
このゲーム機21からの出力信号に基づいて上記音響体感器1を制御する制御手段31とから構成されている。
【0038】詳述すると,上記ゲーム機21は,たとえばジョイスティックレバー22および押しボタン式スイッチ23を有する入力手段24と,各種のゲーム情報を記憶しているゲーム情報記憶手段25と,上記入力手段24およびゲーム情報記憶手段25からの信号に基づいてゲームの進行状態を決定あるいは制御するゲーム進行制御手段26と,このゲーム進行制御手段26からの音響信号aを受けて利用者に対して可聴音響を発する音響出力手段27と,上記ゲーム進行制御手段26からの画像信号bを受けて利用者に対して画像表示を行う画像出力手段28と,を備えている。【0039】一方,上記制御手段31は,上記ゲーム進行制御手段26からの信号に基づいて,進行中のゲームにおける遊戯者の入力手段24の操作による画像上のキャラクタの置かれている状況が特定の状況にあるか否かを判定する特定状況判定手段32と,この特定状況判定手段32からの信号に基づいて,上記音響信号aに所定の制御を施し,これを体感振動情報信号cとして上記音響体感器1のスピーカ6に送出する振動情報制御手段33と,を備えている。
【0040】上記特定状況判定手段32は,たとえば,進行中のゲームにおける遊戯者が操作しているキャラクタの置かれている状況が危険な状態にあるか安全な状態にあるかの判定や,あるいはそのキャラクタにとって有利な状態にあるか不利な状態にあるかの判定などを行う。そして,この判定結果が危険な状態にある場合や,有利な状態にある場合には,上記振動情報制御手段33から,それ以外の場合には送出されない情報が体感振動情報信号cとして音響体感器1に対して送出される。
【0041】この場合,上記振動情報制御手段33から送出される体感振動情報信号cには,上記ゲーム進行制御手段26から画像出力手段28に送出される画像信号bには含まれていない情報がインプットされている。したがって,CRTやLCD等で構成される上記画像出力手段28による画像を見ていただけでは把握できない情報が,体感振動情報として上記音響体感器1のスピーカ6に対して伝送されることになる。
【0042】また,上記特定状況判定手段32が,ゲーム進行中におけるキャラクタの置かれている状況が特定の状況にあることを判定した場合には,上記振動情報制御手段33から,それ以外の場合に送出されていない情報が体感振動情報信号cとして音響体感器1に対して送出される。その一例として,上記判定結果が,危険な状態や,有利な状態にあることを判定した場合には,その判定がなされた時点で初めて振動を生じさせるための体感振動情報信号cが送出される。また,他の例として,上記体感振動情報信号cが振動を間欠的に生じさせるものであればその間欠周期(発生周期)を異ならせるための信号が送出され,あるいは振動の周波数や振幅を異ならせるための体感振動情報信号cが送出される。
【0043】さらに,図示しないが,上記入力手段24を複数個たとえば二個設置して,二人の遊戯者がそれぞれ上記入力手段24を独立して操作できるようにすることも可能である。この場合には,上記特定状況判定手段32が,ゲームの進行途中における上記二人以上の遊戯者がそれぞれ操作している二個以上のキャラクタの置かれている状況を別々に判定するように構成されるとともに,この特定状況判定手段32のそれぞれの判定結果に基づいて,
上記振動情報制御手段33から別々の体感振動情報信号c,
cを,二個の音響体感器1,1に送出するように構成される。このような構成を採用した場合には,二人の遊戯者に対応する音響体感器1,1に対してそれぞれ異なる音響信号c,cを送出するための手法として,ステレオ音響の一方側「L」と他方側「R」とを利用して上記二個の音響体感器1,1にそれぞれ別々に体感振動情報信号c,cを送出させることが好ましい。
【0044】一方,上記のような構成を備えた遊戯装置20の使用態様としては,その具体例を挙げれば,以下に示す通りである。
【0045】すなわち,図2に示すように,画像出力手段28の所定の表示領域を,縦横に複数のブロック40に仮想区分し,これらのうちの所定数のブロック40内における符号Xで示す箇所に地雷が埋められているものとする。そして,地雷Xが埋められている状態は,画像として表示されない。したがって,遊戯者は,各ブロック40のうちの何れのブロックに地雷Xが埋められているのかを,認識することができない状態にある。【0046】このような状態で,遊戯者が上記入力手段24を適宜操作することにより,
同図に示す特定のキャラクタ41が移動することになるが,
このキャラクタ41が鎖線で示すように地雷Xの埋められているブロック40に隣接するブロックに侵入した時点で,
上記特定状況判定手段32が,
遊戯者の置かれている状況が危険な状況にあると判定する。図示例の状態は,地雷Xの存在するブロック40に縦方向に対して隣接するブロックに侵入する場合を想定したものであるが,横方向に対して隣接するブロックに侵入した場合であっても,上記特定状況判定手段32は,遊戯者が危険な状況にあると判定する。
【0047】このようにして危険な状況の判定がなされた場合には,上記特定状況判定手段32からの信号に基づいて上記振動情報制御手段33が音響信号aに対して所定の制御を施し,耳に聞こえない低周波領域の音響信号を体感振動情報信号cとして音響体感器1のスピーカ6に送出する。この場合,上記特定状況判定手段32は,キャラクタ41が地雷Xに近づいているか,
あるいは遠ざかっているかを判定し,
近づいている場合には,
その離間距離が短くなるにつれて上記低周波領域の音響信号の間欠周期を序々に小さくして振動が頻繁に生じるようにし,逆に遠ざかっている場合には,その離間距離が長くなるにつれて上記間欠周期を序々に大きくして振動の発生頻度を低下させるようにしてもよい。すなわち,地雷Xに対する接近度合いと心臓の鼓動とが一致したような雰囲気を味わえるようにするのである。
【0048】そして,上記のように耳に聞こえない音響信号が体感振動情報信号cとして音響体感器1のスピーカ6に送出されることにより,このスピーカ6から音圧が発せられ,この音圧に起因して音響体感器1の身体への接触側部分(後述する)に振動が生じる。この振動は,上記音響体感器1を装着している遊戯者の身体に伝達され,これにより遊戯者はキャラクタ41が地雷Xに接近していることを認識できる。したがって,上記キャラクタ41は,振動式の地雷探知機を備えたマインスイーパーを持って移動しているものと擬制できる。
【0049】このようにして,上記キャラクタ41が地雷Xに最接近したことを認識した時点で,
遊戯者が上記入力手段24を操作することにより,
画像上においてキャラクタ41がマインスイーパーにより地雷Xを掘り起こす。そして,上記表示領域の右側方に配設されている第一の表示部42には,掘り起こした地雷Xの総数が表示され,第二の表示部43には制限時間の残余時間が表示される。
【0050】したがって,制限時間内に何個の地雷Xを掘り起こすことができるかを競い合うゲームを楽しめることになる。この場合,遊戯者ができるだけ多くの地雷Xを掘り起こすために,慌ててキャラクタ41を移動させたならば,地雷Xの上にキャラクタ41が乗ってしまい大爆発が生じる。そして,この大爆発が生じた場合にも,上記特定状況判定手段32が特定の状況であると判定し,これに伴って,振幅の大きな振動を生じさせるための体感振動情報信号cが上記振動情報制御手段33から送出される。この結果,上記音響体感器1から身体に対して,大爆発に対応するような大きな振幅の振動が伝達され,遊戯者は大爆発が生じたことを疑似的に体験できる。
【0051】また,上記キャラクタ41が地雷Xに最接近したことを遊戯者が振動により認識しても,その地雷Xがキャラクタ41の前方,右側方および左側方のいずれにあるかの判別ができないため,この時の遊戯者の判断力によって掘り起こされる地雷Xの個数が変化することにもなる。これによっても,ゲームの面白さが増大する。
(2)本件発明の特徴
前記(1)の記載によると,本件発明は次の特徴を有すると認められる。ア
本件発明は,遊戯装置及びその制御方法に関する(【0001】)。

近年,業務用ゲーム機や家庭用ゲーム機等を使用して行われるゲームとして,そのゲーム機に備えられあるいは接続されているCRTやLCDなどの画像出力手段を視認しながら遊戯者がジョイスティックレバーや押しボタン等の入力手段を操作することにより,そのゲームの進行中において自己に対応する仮想人物画像等の行動を制御するものが実用化されている(【0002】~【0004】)。

ウところで,
上記従来の各種ゲーム機により行い得る遊戯者参加ゲームは,
そのゲームの途中において自己に対応する仮想人物画像等の置かれている状況が変化した場合等に,ゲーム機専用のスピーカから音響が発せられるものが主流を占めているが,自己と他者とで勝負を決するようなゲームにおいては,上記スピーカから発せられた音響が自己だけでなく他者にも聞こえてしまい,ゲームの内容が全てオープンなものとなり,十分なスリル感を味わえなくなるばかりでなく,音響が発せられることに起因して,自己のみが知っている情報に基づいて秘密のうちにゲームを進行させるといったことができなくなり,この種のゲームを製作する上での自由度が小さくなるという問題がある。加えて,ゲーム進行途中において発せられる音声や効果音のみでは,遊戯者は聴覚及び視覚だけでその雰囲気を味わうにとどまり,より高度な現実感や十分な迫力等が得られず,娯楽性や面白さに欠けるという難点がある(【0005】~【0007】)。

本件発明は,上記のような事情の下で考え出されたものであって,ゲームの進行途中における自己の置かれている状況を,視覚及び聴覚以外の感覚をもって知得できるようにするとともに,相手方に対して秘密状態の下でゲームを進行させることなどを可能にし,これによりゲーム製作上の自由度を増大させ,かつ高度な現実感や十分な迫力が得られる遊戯装置を提供するということを課題とし,当該課題を解決するために請求項に記載の構成を採用した(【0008】,【0009】,【0010】,【0014】及び【0017】)。


これにより,本件発明では,遊戯者が入力手段を操作することによりゲームに参加し,
ゲーム進行制御手段からの信号に基づいて出力手段から時々
刻々と変化する画像表示がなされ,ゲームの進行途中にゲーム進行制御手段からの信号に基づいて特定状況判定手段により遊戯者の置かれている状況が特定の状況にあると判定された時点で,振動情報制御手段から振動発生手段に対して画像情報からは認識できない情報が体感振動情報信号として送出され,遊戯者は,上記出力手段により画像として表示されていない内容を所定の体感振動として知得できるので,遊戯者は,周囲にその特定の状況を悟られることなく,自己のみが知り得る秘密の状態の下でゲームを進行していくことができるとともに,振動を体感的に知得できることにより迫力や現実感が増大する(【0022】~【0025】,
【0032】
【0035】)。

2
取消事由1(公知発明と甲8発明の組合せによる容易想到性判断の誤り)について
(1)原告は,本件審決が甲8発明に相違点1に係る構成が記載されていると認定しながら,公知発明(主引用発明)と甲8発明の組合せによる本件発明1及び8の容易想到性の有無を判断していない点において,判断遺漏の違法がある,と主張する。
しかしながら,主引用発明が同一であったとしても,主引用発明に組み合わせる技術が公知発明における一部の構成か,あるいは,周知技術であるかによって,通常,論理付けを含む発明の容易想到性の判断における具体的な論理構成が異なることとなるから,たとえ公知技術や周知技術認定の根拠となる文献が重複するとしても,上記二つの組合せは,それぞれ異なる無効理由を構成するものと解するのが相当である。
しかるところ,本件審判手続において,原告は,「本件発明1及び8は,公知発明及び周知技術Y1に基づいて,当業者が容易に発明できた」という無効理由1-2の主張に関連して,「キャラクタの置かれている状況に応じて間欠的に生じる振動の間欠周期を異ならせる」技術が「周知技術」であると主張し,その根拠の一つとして甲8発明の内容を主張立証するにとどまっており,更に進んで,動機付けを含む公知発明と甲8発明それ自体との組合せによる容易想到性については一切主張していない。
そうすると,原告が本件訴訟において主張する無効理由(公知発明と甲8発明の組合せによる容易想到性)は,本件審判手続において主張した無効理由1-2(公知発明と甲8発明を含む周知技術Y1の組合せによる容易想到性)とは異なる別個独立の無効理由に当たるというべきである。
したがって,本件審決が,公知発明と甲8発明との組合せによる容易想到性について判断していないとしても,本件審決の判断に遺漏があったとは認められない。
(2)これに対し,原告は,審判において審理された公知事実に関する限り,複数の公知事実が審理判断されている場合に,その組合せにつき審決と異なる主張をすることは,それだけで直ちに審判で審理判断された公知事実との対比の枠を超えるということはできず(知財高裁平成28年(行ケ)第10087号同29年1月17日判決),甲8発明の内容については本件審決において具体的に審理されていることから,被告による防御という観点からも問題はなく,また,紛争の一回的解決の観点からも,公知発明と甲8発明の組合せによる容易想到性を本件訴訟において判断することは許される,と主張する。
しかしながら,この主張が,本件審決の手続上の違法(判断の遺漏)を主張するものではなく,実体判断上の違法(進歩性の判断の誤り)を主張するものであるとしても,本件審判手続において,甲8発明の内容を個別に取り上げて公知発明に適用する動機付けの有無やその他公知発明と甲8発明の組合せの容易想到性を検討することは何ら行われていない。したがって,かかる組合せによる容易想到性の主張は,専ら当該審判手続において現実に争われ,かつ,審理判断された特定の無効原因に関するものとはいえないから,本件審決の取消事由(違法事由)としては主張し得ないものである(最高裁昭和42年(行ツ)第28号同51年3月10日大法廷判決・民集30巻2号79頁〔メリヤス編機事件〕参照)。
なお,原告が指摘する上記知財高裁判決は,審判手続で主張されていない引用例の組合せについて,審決取消訴訟において審理判断することを当事者双方が認め,なおかつ,その主張立証が尽くされている事案であるから,本件訴訟とは事案を異にするというべきである。
また,原告は,特許法167条の「同一の事実及び同一の証拠」の意義について,特許無効審判の一回的紛争解決を図るという趣旨をより重視して広く解釈されてしまうと,本件審決が確定した後に公知発明と甲8発明の組合せによる容易想到性を争うことが同条により許されないと解釈されるおそれがあり(知財高裁平成27年(行ケ)第10260号同28年9月28日判決),その場合,原告による本件特許の無効を争う機会を奪うことになり不当であるから,本件訴訟で公知発明と甲8発明の組合せによる容易想到性に関する本件審決の判断の遺漏及び違法を争うことは許される,
とも主張する。
しかしながら,本件審判手続においても,本件訴訟手続においても,公知発明と甲8発明の組合せによる容易想到性という無効理由の有無については何ら審理判断されていないのであるから,特許法167条の「同一の事実及び同一の証拠」に当たるということはないというべきである。
(3)以上によれば,本件訴訟手続において,公知発明と甲8発明の組合せによる本件発明1及び8の容易想到性を判断することは許されないというべきである。
したがって,原告が主張する取消事由1は,その余の点について判断するまでもなく,理由がない。
3
取消事由2(周知技術等の認定の誤り)について
(1)原告は,「キャラクタの置かれている状況に応じて間欠的に生じる振動の間欠周期を異ならせること」
という技術が,
甲8発明には開示されているが,
甲9ないし11発明には記載されていないとの本件審決の認定は誤りであると主張する。
そこでまず,甲9ないし11発明について検討する。
(2)甲9発明について

ドライブゲーム機に関する甲9発明は,「自動車の走行」中に特定の状況にあることを判定した時に送出される体感振動情報信号に関して,「プレーヤーの自動車」の置かれている「プレーヤーの自動車が他の自動車,他の物体に衝突したり,悪路を走行したり,コーナーをするどく曲がったりするようなゲーム状況」に応じて「ステアリングホイール23に強弱,時間の長さを選んで回転方向の振動」を与えるものではあるが(甲9【0024】),当該「振動」を「間欠的に生じる振動」とみる根拠はなく,少なくとも,甲9発明が,「プレイヤーの自動車」の置かれている「プレーヤーの自動車が他の自動車,
他の物体に衝突したり,
悪路を走行したり,
コーナーをするどく曲がったりするようなゲーム状況」に応じて「ステアリングホイール23」に与えられる「振動」の「間欠周期」を異ならせているとは認められない。
したがって,甲9発明は,「キャラクタの置かれている状況に応じて間欠的に生じる振動の間欠周期を異ならせる」ものとはいえない。

原告は,ステアリングホイールの振動は,不規則に発生したり止まったりする,間欠的に生じる振動であることは明らかであり,振動が発生したり止まったりする際,例えば,ステアリングホイールの第1の振動が発生した時刻から,第2の振動が発生する時刻までが,間欠周期の第1の周期であり,該第2の振動が発生した時刻から,第3の振動が発生する時刻までが,第2の周期であるところ,第1の周期と第2の周期は通常異なるから,ステアリングホイールの振動の間欠周期が異なることとなることは自明である,と主張する。
しかしながら,ステアリングホイールの第1の振動が発生した時刻から第2の振動が発生する時刻までを第1の周期とし(「間欠周期」といえるかはひとまず措く),該第2の振動が発生した時刻から第3の振動が発生する時刻までを第2の周期とし「間欠周期」

といえるかはひとまず措く)

第1の周期と第2の周期とが異なるとしても,そのことから,特定のゲーム状況(例えば,他の自動車に衝突した場合,他の物体に衝突した場合,悪路を走行している場合,コーナーをするどく曲がっている場合)に応じて,「ステアリングホイール23」に与える振動の「間欠周期」を異ならせているとはいえないから,原告の上記主張は失当である。

(3)甲10発明について

ビデオゲーム装置に関する甲10発明は,「自動車の走行」中に特定の状況にあることを判定した時に送出される体感振動情報信号に関して,自「
動車」の置かれている「自動車の車速が或る限度を越えた場合」,「路面が凸凹となった場合」といった特定の状況に応じて「ステアリングホイール1を振動させる」ものであるが(甲10【0024】),当該「振動」を
「間欠的に生じる振動」
とみる根拠はなく,
少なくとも,
甲10発明が,
「プレイヤーの自動車」の置かれている「自動車の車速が或る限度を越えた場合」,「路面が凸凹となった場合」といった状況に応じて「ステアリングホイール1」に与えられる「振動」の「間欠周期」を異ならせているとは認められない。
したがって,甲10発明は,「キャラクタの置かれている状況に応じて間欠的に生じる振動の間欠周期を異ならせる」ものとはいえない。イ
原告は,「自動車の車速が或る限度を越えた場合」又は「路面が凸凹となった場合」が発生する事象は,ゲーム中において間欠的に起こり,その発生間隔(すなわち周期)は異なること,すなわち,ステアリングホイールの振動の間欠周期が異なることは自明である,と主張する。
しかし,「自動車の車速が或る限度を越えた場合」又は「路面が凸凹となった場合」が発生する事象について,事象間の発生間隔が異なるとしても,
上記特定の状況
(例えば,
「自動車の車速が或る限度を越えた場合」,
「路面が凸凹となった場合」)に応じて,「ステアリングホイール1を振動させる」際の振動の「間欠周期」を異ならせているものとはいえないから,原告の上記主張は失当である。
また,原告は,甲10の【0011】を根拠に,甲10発明が振動の発生の有無を間欠的に切り換えることができる技術を開示しており,間欠周期の異なる振動を発生させていることは明らかである,とも主張するが,かかる技術が開示されているからといって,直ちにそのような振動を発生させていることが明らかであるとはいえないから,やはり失当である。
(4)甲11発明について

甲11発明の「模擬銃4」に与えられる「強い振動」は,甲11の【0021】の「本発明に係るビデオ式銃撃戦ゲーム装置に於いては,上記のプロセスに次いで,振動発生装置7が起動され,プレイヤーの銃が左右に激しく振動するようになる。然るときは,プレイヤーはこの振動により照準合わせが困難となるため,銃把43を強く握り,全力を挙げて模擬銃4を押さえ込んで射撃を続けるため,
恰も激しい白兵戦状態となる。
而して,
プレイヤーの被ったダメージに応じて予め定められた時間が経過すると,振動発生装置7がOFFとなり,模擬銃4の振動が停止する。」との記載からして,「継続的」な振動とみるのが自然であり,これを「間欠的に生じる振動」とみる根拠はない。少なくとも,甲11発明が,
「プレイヤー」
の置かれている「プレイヤーが被弾したとき(敵が正しくプレイヤーに向けて銃撃を行ったとされる場合)という状況とそれ以外の状況とで,」
「模
擬銃4」に与えられる「振動」の「間欠周期」を異ならせているとは認められない。
したがって,甲11発明は,「キャラクタの置かれている状況に応じて間欠的に生じる振動の間欠周期を異ならせる」ものとはいえない。イ
原告は,「敵が正しくプレイヤーに向けて銃撃を行ったとされる場合」は,ゲーム中に,止んで,また起きるから,
「模擬銃4」に与えられる「振
動」も,止んで,また起こるものであり,この「振動」が発生する間隔(周期)は,一定ではなく異なる,すなわち,「模擬銃4」に与えられる「振動」の間欠周期は異なる,と主張する。
しかしながら,「敵が正しくプレイヤーに向けて銃撃を行ったとされる場合」が,ゲーム中に複数回発生し,その度に「模擬銃4」に「振動」が与えられ,その間隔が一定ではなく異なるとしても,「敵が正しくプレイヤーに向けて銃撃を行ったとされる場合」とそれ以外の場合とで「模擬銃4」に与えられる「振動」の「間欠周期」を異ならせているとはいえないから,原告の上記主張は失当である。

(5)周知技術の公知発明への適用について
原告は,公知発明に「キャラクタの置かれている状況に応じて間欠的に生じる振動の間欠周期を異ならせる」技術を適用できる旨主張する。しかしながら,その主張は,「キャラクタの置かれている状況に応じて間欠的に生じる振動の間欠周期を異ならせる」技術が周知技術であることを前提とするものであるところ,かかる前提が採用できないことは上記のとおりであるから,その余の点について判断するまでもなく失当である。(6)以上の次第であるから,原告が主張する取消事由2は理由がない。4
取消事由3(公知発明と周知技術の組合せによる容易想到性判断の誤り)について
(1)原告は,①仮に,「キャラクタの置かれている状況に応じて間欠的に生じる振動の間欠周期を異ならせる」技術が周知技術ではないとしても,少なくとも
「キャラクタの置かれている状況に応じて振動の種類を異ならせる技術」は,本件審決の判断を前提としても周知であり,公知技術にこれを採用することは当業者であれば容易である,
②振動の種類を異ならせる手段として
「間
欠的に生じる振動の間欠周期を異ならせる」ことは複数ある選択肢のうちの一つを選択したという意味しかなく,当業者であれば適宜選択できる設計的事項にすぎない,③原告が①,②を本件審判手続において主張していたにもかかわらず,本件審決は,これについて何ら判断することなく,「キャラクタの置かれている状況に応じて間欠的に生じる振動の間欠周期を異ならせること」は周知技術とまではいえないことのみを理由に,容易想到性を否定しており,この点において判断を遺漏した違法がある,と主張する。しかしながら,①原告が審判請求書(甲27)において主張した,公知発明と「キャラクタの置かれている状況に応じて間欠的に生じる振動の間欠周期を異ならせる技術」「周知技術Y1」
なる
との組合せによる進歩性欠如と,
②原告が口頭審理陳述要領書(甲30)及び審決予告(甲34)後に提出した弁駁書(甲37)において主張した,公知発明と「キャラクタの置かれている状況に応じて振動の種類を異ならせる技術」なる周知技術の組合せによる進歩性欠如とでは,公知発明に組み合わせる周知技術の内容が明らかに異なっているだけでなく,本件発明の特徴である,「間欠的に生じる振動の間欠周期を異ならせること」を,それ自体独立した一つの「周知技術」として扱うか,それとも,単なる「設計的事項」として扱うかの点においても明らかに異なるものである。
そうすると,上記①②のいずれを主張するかによって,容易想到性に関する論理構成が大きく変わり得ることは自明であるから,両者は,もはや,請求の理由を構成する「特許を無効にする根拠となる事実」(特許法131条2項)を異にする別個独立の無効理由というほかない。したがって,両者の間における主張の変更は,審判請求書の補正によるとしても,通常は,要旨変更として許されないものである(同法131条の2第1項柱書)。ましてや,本件においては,審判請求書の補正すらなされておらず,審判長の補正許可の判断もなされてないのであるから,本件審決が上記②の主張について明示的に判断を加えていないとしても,本件審決の判断に遺漏があるとはいえない。
(2)これに対し,原告は,上記②の無効理由は,単に周知技術を追加したものであって,請求理由の要旨変更に該当しない,と主張するが,その主張が採用し得ないことは,上記(1)のとおりである。
なお,
仮に中身に立ち入って判断するとしても,
本件明細書の
【0047】
に,「・・・キャラクタ41が地雷Xに近づいているか,あるいは遠ざかっているかを判定し,近づいている場合には,その離間距離が短くなるにつれて上記低周波領域の音響信号の間欠周期を序々に小さくして振動が頻繁に生じるようにし,逆に遠ざかっている場合には,その離間距離が長くなるにつれて上記間欠周期を序々に大きくして振動の発生頻度を低下させるようにしてもよい。すなわち,地雷Xに対する接近度合いと心臓の鼓動とが一致したような雰囲気を味わえるようにするのである。」とあるように,間欠的に生じる振動の「間欠周期を異ならせる」技術は,「心臓の鼓動」が早くなったり遅くなったりすることをイメージしていることが明らかであって,単にキャラクタの置かれている状況に応じて「振動の種類を異ならせる」技術(周波数や振幅を異ならせる等)とは,同じリアリティーを追求するものであるとしても,明らかに着想や意味合いが異なることから,これを複数ある選択肢の一つであるとか,単なる設計的事項の範囲内の相違にすぎないなどということは相当でない。
したがって,原告の主張は,上記いずれの理由においても採用し得ないものであり,失当である。
(3)以上の次第であるから,原告が主張する取消事由3は理由がない。5
結論
以上によれば,原告が主張する取消事由はいずれも理由がなく,本件審決に取り消されるべき違法はない。
よって,原告の請求を棄却することとし,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第3部

裁判長裁判官
鶴岡稔彦寺田利彦
裁判官

裁判官
間明宏充
(別紙)本件明細書の図

注:分かりやすさの観点から適宜着色し,符号の説明等を加えている。
(別紙)引用発明の図

注:いずれも,公報記載の図に適宜着色し,符号の説明等を加えたものである。
1
甲8発明
(図1)

(図2)

(図3)

2
甲9発明
(図1)

3
甲10発明

(図1)

4
甲11発明
(図1)

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