判例検索β > 平成30年(ネ)第10007号
特許権侵害差止等請求控訴事件 特許権 民事訴訟
事件番号平成30(ネ)10007
事件名特許権侵害差止等請求控訴事件
裁判年月日平成30年7月3日
法廷名知的財産高等裁判所
原審裁判所名大阪地方裁判所
原審事件番号平成28(ワ)1453
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平成30年7月3日判決言渡
平成30年(ネ)第10007号

特許権侵害差止等請求控訴事件(原審

大阪地

方裁判所平成28年(ワ)第1453号)
口頭弁論終結の日

平成30年5月29日
判控決訴人
同訴訟代理人弁護士

カワタ工業株式会社


弁理士

控訴人
同訴訟代理人弁護士

上哲也河同溝原秀樹山本進
株式会社フジワラテクノアート

井上義隆安井友章
弁理士

鈴木
同補佐人弁理士

加藤同主守真司文
本件控訴を棄却する
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
第1

控訴の趣旨

1
原判決を取り消す。

2
被控訴人は,原判決別紙被告製品目録記載の製品の製造,販売又は販売の申
出をしてはならない。
3
被控訴人は,控訴人に対し,●●●●●●及びこれに対する平成25年1月
1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2
1
事案の概要等(略称は原判決に従う。)
本件は,発明の名称を「固体麹の製造方法」とする特許第4801443号
の特許権
(本件特許権)
を有する控訴人が,
原判決別紙被告製品目録記載の製品
(被
告製品)を製造販売する被控訴人に対し,被告製品の製造販売行為は本件特許権の間接侵害(特許法101条5号)に該当すると主張して,同法100条1項に基づきその行為の差止めを求めるとともに,不法行為に基づく損害賠償請求として●●●●●●及びこれに対する平成25年1月1日(不法行為後の日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。原判決は,本件特許は特許無効審判により無効にされるべきものと認められ,控訴人の被控訴人に対する本件特許権に基づく権利行使は同法104条の3により許されないとして,控訴人の請求を全部棄却したため,控訴人は,これを不服として控訴した。
2
前提事実

前提事実は,原判決5頁26行目の「被告」を「控訴人」に改めるほかは,原判決「事実及び理由」の第2の1(原判決2頁9行目~6頁20行目)に記載のとおりであるから,これを引用する。
第3
1
争点及び争点に対する当事者の主張
原判決の引用

本件における争点及び争点に対する当事者の主張は,
原判決39頁20行目の
「乙
14」を「乙14明細書」に,同47頁23行目の「被告」を「控訴人」に,同48頁2行目から3行目にかけての「無効とされるさるべきである」を「無効にされるべきである」に,それぞれ改めるとともに,後記2のとおり当審での当事者の主張を付加するほかは,原判決「事実及び理由」の第2の2(原判決6頁21行目~49頁6行目)に記載のとおりであるから,これを引用する。
2
当審における当事者の主張

〔控訴人の主張〕


乙14発明の認定及びこれと本件発明との相違点について


「品温センサ」について
乙14明細書の「約30℃」や「空気の流れ」との文言は,同明細書の記載
によれば,蒸気を当てて培地を殺菌する工程の後であり,かつ,もやし胞子を接種する工程の前の段階における培地の温度や空気の流れを意味する。他方,本件発明の「品温センサ」(構成要件B)は,原料処理工程において蒸煮後の原料が適温にまで下がったかを確認するためのものではなく,種麹を接種しドラムの回転を開始した後の流動培養工程において,構成要件H「前記品温の上昇を感知すると,前記回転ドラム本体内に送風して断続的に冷却を行い」を実現するための手段として用いるものである。
また,乙14明細書の記載全体を見ても,センサが塊(培地)の温度を感知して空気の流れを機械的に停止させる旨の記載はなく,むしろ,蒸気を当てて培地を殺菌する工程の後,培地の温度が約30℃に下がったことは人が確認し,手動で空気の流れを停止させていると解するべきである。
乙14明細書の記載全体を見ても,品温センサを回転ドラム内に設置する点の説明はなく,まして,流動培養工程中に品温の上昇を感知すると回転ドラム内に送風し,断続的に冷却を行う手段として品温センサを用いることは,開示されていない。むしろ,同明細書の記載は,乙14発明には品温センサや温度計測装置がないことを示唆しているというべきである。
以上より,乙14発明は品温センサを備えていない。乙14発明は品温センサが設置されていることを前提とした原判決の認定は誤りである。そうすると,
本件発明と乙14発明との相違点についても,
「本件発明において,
回転ドラム本体の内部に品温センサが装着されているのに対して,乙14発明では明らかでない点。」(相違点1)が認定されるべきである。

「品温が上昇するまで…静置する」について
乙14明細書の訳文2頁16行目~19行目に相当する部分の原文は,正し
くは「菌胞子の発芽により塊がそれ自体で熱くなり始めるであろう,16時間ないし20時間,塊の温度を約30℃に維持した状態で」と訳されるべきである。これによれば,乙14明細書の上記記載において不確かなのは,菌胞子の発芽により塊がそれ自体で熱くなり始めるであろう時間ではなく,塊がそれ自体で熱くなり始めるかどうかである。
この乙14明細書の正しい訳を前提とすると,同明細書は「品温が上昇するまで…静置する」という技術思想を開示していない。
製麹の進行状況は,製麹原料のほか,麹菌の種類,麹菌の接種量,温度,湿度等の培養条件の違いによって大きく左右されるものであり,この点は,乙14明細書のように製麹原料として「ふすま」を用いる場合も同様である。すなわち,製麹原料として「蒸米」を用いる場合と「ふすま」を用いる場合とで製麹の進行状況は大きく異なることは技術常識であるし,同じく「ふすま」を製麹原料として用いる場合であっても,製麹の進行状況は麹菌の種類等の培養条件の違いに大きく左右されるから,16時間ないし20時間経過すれば品温が上昇すると一概にはいえない。
以上より,乙14発明は「品温が上昇するまで…静置する」,「製麹原料の品温上昇後に…攪拌」することをその内容とするものではない。これらが乙14発明の内容であることを認めた原判決の認定は誤りである。
そうすると,
本件発明と乙14発明との相違点についても,
「本件発明において,
『種麹の接種後,
製麹原料の品温が上昇するまで製麹原料を静置すると共に』『製

麹原料の品温上昇後に』製麹原料の攪拌を開始するのに対して,乙14発明ではこれらの条件がない点。」(相違点3)が認定されるべきである。

構成要件H及びIについて
構成要件Hについて
a
前記アのとおり,乙14発明は品温センサを備えていない。

b
製麹原料の塊の「冷却」についても,乙14明細書によれば,空気の流れを
増加させるか,冷たく湿った状態に維持することで実現されているのであり,本件発明の構成要件Hのように,品温センサが品温の上昇を感知すると回転ドラム本体内に断続的に送風することによりなされるものではない。
c
したがって,乙14発明は,構成要件H「品温センサが前記品温の上昇を感
知すると,前記回転ドラム本体内に送風して冷却を行い」に係る構成を開示するものではない。
構成要件Iについて
a
乙14明細書には,ドラムの構造を示す図面はないが,その記載及び同時期
に出願された米国特許第700842号公報(甲69(訳文は甲70の1)。以下「甲69文献」という。)を参酌すれば,乙14発明のドラムは,原料層自体に空気を通す方式のものであることが理解できる。
そうすると,
乙14発明のドラムは,
空気が「外部煙道」から「中央排気煙道」へと流れる構造となっており,空気が原料層中を通過する段階で温度上昇した培地との間で熱交換が行われることになる。これによれば,外部煙道から中央排気煙道へ直接流れずに原料層の上部に抜けてくる空気があっても,その空気も原料層中を通過する段階で熱交換が行われるので,原料層の上部に達した空気は,
既に熱交換済みのものであり飽和状態となっており,
もはや熱交換できない空気である。
このため,乙14発明では,本件発明の構成要件Iのように,温度及び湿度が任意に調整された回転ドラム本体内で,製麹原料が傾斜面から順次落下する時に回転ドラム本体内の空気に触れることにより熱交換を行うことは不可能である。b
本件発明の熱交換方式は,
「製麹原料が前記傾斜面から順次落下する時」
(構

成要件I)に熱交換が行われるというものである。これに対し,乙14発明は,ドラム内の原料の動きが「傾斜面から順次落下」するものであるか否か,乙14明細書の記載からは不明である。また,甲69文献の記載を参酌しても,「順次落下」との記載はなく,「材料が…時折その自重で,ドラムの横方向に斜線に落下する」との記載があるにとどまるが,これは,乙14発明の空気式発芽製造ドラムでは煙道が邪魔をして本件発明のような傾斜面ができないためと考えられる。c
乙14明細書の「冷たく湿った状態に維持」とは,本件特許明細書【000
4】で説明しているとおり,ヌリハゼ型の水分過多,軟弱,α-アミラーゼ過多の麹が製造される傾向となるものであり,本件発明の目的に反する。また,乙14明細書の「30℃付近に下げて維持すること」は,偶発的にその温度を下回る結果となることがあり,菌の成長を妨げることがある温度であって,原料表面や原料外空中での菌糸の生育を抑制して製麹原料への菌糸の破精込みを活発にするという本件発明の目的に反する。
加えて,本件特許明細書においては,温度及び湿度を任意に調整するための手段として,
【0023】,
【0024】の記載及び図1が示されている。これに対し,
前記aのとおり,乙14発明のドラムは,原料層の上部の空間の空気は熱交換済みのもので,温度及び湿度が調整されていない空気であり,これを外部に逃がす機構も存在しない。
d
以上より,乙14明細書は,構成要件I「温度及び湿度が任意に調整された
前記回転ドラム本体内で前記製麹原料が前記傾斜面から順次落下する時に,前記回転ドラム本体内の空気に触れることにより熱交換が行われ」に係る構成を開示するものではない。
そうすると,本件発明と乙14発明との相違点としては,「本件発明において,『前記品温センサが前記品温の上昇を感知すると,前記回転ドラム本体内に送風して断続的に冷却を行い』,『温度及び湿度が任意に調整された前記回転ドラム本体内で前記製麹原料が前記傾斜面から順次落下する時に,前記回転ドラム本体内の空気に触れることにより熱交換が行われる』のに対して,乙14発明ではこれらの制御がない点。」(相違点4)が認定されるべきである。「本件発明では,品温センサが品温の上昇を感知すると,回転ドラム本体内に送風して『断続的に』冷却を行うものであるのに対し,乙14発明では,『断続的に』冷却を行うものであるか明らかでない」(原判決認定の相違点Ⅱ)にとどまるものではない。⑵

相違点に対する評価(容易想到性の判断)について


控訴人主張の相違点2(原判決認定の相違点Ⅰ)について
本件発明において,構成要件Dは,ドラムの回転を開始した後の流動培養工
程において,室内及び回転ドラムの本体内の温度を共に製麹開始温度に調節するものではなく,種麹を接種してからドラムの回転を開始する静置工程において,室内及び回転ドラム本体内の温度を共に製麹開始温度となるように調節することを特定したものである。
また,乙14明細書を見ても,室温が調節された室内にドラムが設置されていることをうかがわせる記載はない。
乙14明細書の記載(訳文2頁17行目~19行目)において「約30℃に維持」されるのは「塊」すなわち製麹原料であり,この「約30℃」は回転ドラム本体内の「空気」の温度ではない。このため,乙14明細書には,製麹原料を静置する静置工程において,回転ドラム本体内の空気の温度をどのように調節するかについての開示はない。また,同明細書には,そもそもドラムの設置場所に関する記載はなく,静置工程において回転ドラムを設置した室内の温度を製麹の開始に適した温度とすることの開示もない。
したがって,構成要件Dは,乙14発明との実質的な相違点である。乙16及び17は,いずれも,ドラムの回転を開始する前の静置工程の段階で,ドラムが設置された室内の温度及びドラム内の温度を共に製麹開始温度となるように調節する点を開示するものではないから,これらの文献をもって構成要件Dが周知技術であるとはいえない。乙18を参酌しても同様である。以上より,乙16及び17を参酌しても,乙14発明に,本件発明の構成要件Dを付加する動機付けはなく,当業者が本件発明と乙14発明の相違点である構成要件Dに想到することは容易でない。

控訴人主張の相違点4について

乙14明細書の記載を見ても,品温センサが設置されていない乙14発明のドラムに,
品温センサを設置した上で,
ドラムの回転を開始した培養工程において,
「品
温センサが前記品温の上昇を感知すると,前記回転ドラム本体内に送風して断続的に冷却」するという制御を付加する動機付けは認められないから,当業者が,本件発明との相違点である構成要件Hに想到することは容易ではない。ウ
控訴人主張の相違点5(原判決認定の相違点Ⅲ)について
破精込みが活発であることと糖化力が強いことは,客観的には同じ現象を異
なる指標で表現したものにすぎない,ということはできない。
すなわち,本件特許明細書においては,グルコアミラーゼ活性が高いというだけで酵素力価の高い麹が得られるとはされておらず,そのような一部の酵素力価だけを確認して破精込みが活発になるとしているのでもなく,どの酵素についてもバランスよく向上することを確認している。これに対し,乙14明細書は,「糖化力が高い」という記載があるにとどまり,α-アミラーゼ,酸性プロテアーゼ,酸性カルボキシペプチダーゼの酵素力価が向上しているかは不明である。また,甲58によれば,デンプン分解系酵素だけが良好に生産されても,製麹原料全体としての分解は良好に進まないのであり,α-アミラーゼ,グルコアミラーゼ,酸性プロテアーゼ,酸性カルボキシペプチダーゼの4酵素がバランス良く生成されるものでなければ,
本件発明が目的とする破精込みの良い麹とは認められない。
他方,乙28には,総破精及び突き破精の麹は,糖化力のみならずタンパク分解力も「ともに強い」又は「ともにかなり強い」ことが記載されているところ,これによれば,糖化力のみならず,タンパク分解力も共に強くなっていることが確認できて初めて「破精込みが活発」になっていることが認められるというべきであって,「糖化力が強い」ものは「破精込みが活発」であると,逆向きの関連性を認めることはできない。
乙38及び39についても,「糖化力」は,上記4酵素のうちグルコアミラーゼ活性と関連性を有することは認められるものの,糖化力が高ければ上記4酵素の活性が共に高いという説明はない。したがって,これらの文献によっても,「糖化力が強い」ものは「破精込みが活発」であると,逆向きの関連性を認めることはできない。
また,「糖化力」は,「でんぷん及びその分解物」に作用するものであって,タンパク質やアミノ酸に作用するものではなく,かつ,でんぷんを構成するグルコース同士の間のグルコシド鎖(グルコシド結合)を加水分解するものであって,タンパク質を構成するアミノ酸同士の間のペプチド結合を分解するものではない。したがって,乙13を参酌すると,乙14明細書に「糖化力が高い」という記載があっても,上記4酵素のうちタンパク質分解系の酵素に分類される酸性プロテアーゼと酸性カルボキシペプチダーゼの活性が向上しているかどうかは不明である。甲55についても,その結果は菌株に依存していることから,ある製法により得られる麹のグルコアミラーゼ活性が高ければ,その製法はα-アミラーゼ,酸性プロテアーゼ,酸性カルボキシペプチダーゼの各活性についても必ず高いことを示したデータではないし,その麹が,破精込みが活発になっていることを示すものでもない。
乙14発明は,蒸煮時の加水率が60~80%と極めて高い製麹方法であるところ,明らかに水分過多であり,α-アミラーゼ過多のベタ付き傾向の麹と考えられる。このようなヌリハゼ型の麹は本件発明の目的に反するものであるから,乙14発明の加水率が高いことは,同発明により製造される麹につき破精込みが活発になっていないことを裏付けるものである。
また,甲76によれば,乙14発明の製法は,
「糖化力が強い」との記載に反し,
実際はグルコアミラーゼの生成量は少なく,α-アミラーゼ過多のヌリハゼ型の麹ができる製法と考えられる。
以上のとおり,麹の破精込みが深い(活発である)ことと麹の糖化力が強いということは,客観的には同じ現象を異なる指標で表現したものにすぎない,ということはできないのであって,当業者が,乙14発明に基づき,破精込みが活発な麹の製法とすることは容易でない。


まとめ

以上のとおり,本件特許には特許法29条2項の無効理由があるということはできない。この点に関する原判決の判断は誤りである。
〔被控訴人の主張〕


控訴人主張の相違点1について


控訴人の主張は,乙14明細書に「品温センサ」という文言が用いられてい
ないことのみに基づいた主張であるし,「品温センサ」を備えた被控訴人製品を用いた製法であっても,控訴人が主張する「不本意な温度」の発生は避けられない。イ
仮に,乙14発明が「品温センサ」を備えているか不明とする点が実質的な
相違点を構成するとしても,「品温」が一定範囲に収まるように,送風(通風)制御を行う前提として,
「品温」を「品温センサ」により測定する周知慣用の技術(乙
8,16~19)を乙14発明に適用することは,当業者において極めて容易になし得ることにすぎない。


控訴人主張の相違点2(原判決認定の相違点Ⅰ)について


控訴人主張の相違点2(原判決認定の相違点Ⅰ)は,一応の相違点ではある
ものの,原判決が認定したとおり,実質的な相違点ではない。
また,乙14発明において,回転ドラムが設置されている室内は,直射日光や風雨をしのいでいること,現実に麹が得られていることを踏まえれば,乙14発明における室内の温度及び回転ドラム内の温度は,製麹を開始できるように「調節」された温度であることは自明である。したがって,控訴人主張の相違点2が実質的な相違点を構成すると解する余地はない。

仮に,乙14発明が「室内」及び「回転ドラム本体内」の温度を「共に製麹
開始温度となるように調節」する構成を備えているか不明であるとしても,原判決のとおり,
これを備える構成とすることは当業者において極めて容易に想到し得る。⑶

控訴人主張の相違点3について

乙14明細書の訳文については,技術常識を踏まえ,その文脈,趣旨を合理的に評価すれば,原判決の理解するとおりのものとなる。
これを前提とすると,乙14明細書は「品温が上昇するまで」,「品温上昇後」を開示しているものということができ,この点は乙14発明と本件発明との相違点を構成しない。


控訴人主張の相違点4について


冷却が「断続的」について

控訴人主張の相違点4のうち,冷却が「断続的」であることについては,この点に係る構成には何らの技術的意義も存しないことも考慮すれば,冷却を断続的な送風により行うことは,当業者であれば適宜なし得る設計事項にすぎない。仮に,乙14発明に「品温センサ」が設けられていないと解したとしても,過度の発熱による製麹原料の温度上昇が製麹の促進にとってマイナスであることは技術常識である。そうすると,製麹原料の品温上昇をセンサで感知して回転ドラム内に断続的に送風して冷却を行うことは,製麹分野の本件特許出願時の技術常識であるから,製麹装置に品温センサを設置して送風を断続的に行うことに困難性は認められない。

ドラム内の「温度及び湿度が任意に調整」について

乙14明細書の記載に鑑みれば,原判決の認定したとおり,乙14発明では,ドラム内の「温度及び湿度が任意に調整」されているものと認められる。乙14明細書に「湿度が任意に調整」(構成要件I)が開示されていないとする控訴人の主張は,「湿度が任意に調整」を根拠もなく不当に限定した解釈を前提とし,かつ,その解釈は技術常識に反するものであり,失当である。

傾斜面落下時の「熱交換」について

乙14明細書の記載によれば,原判決が認定したとおり,塊の粒子が落下する際に,その粒子が空気に触れることはいうまでもなく,乙14発明には,ドラム本体内で製麹原料が傾斜面から順次落下する時に,回転ドラム本体内の空気に触れることにより熱交換を行うことが開示されているということができる。控訴人は,乙14発明におけるドラムの構造につき,甲69文献記載の構造を備えていることを前提としてるる主張しているが,失当である。


控訴人主張の相違点5(原判決認定の相違点Ⅲ)について


乙14明細書には,「糖化力が非常に均一化されており,静置して原料上で
菌を成長させて製造するよりも明らかに強くなる」との記載はあるものの,「製麹原料への破精込みを活発に」するとの記載はない。
しかし,原判決が認定したとおり,麹の破精込みが深い(活発である)ことと,麹の糖化力が強いということは,客観的には同じ現象を異なる指標で表現したものにすぎないから,糖化力が強い麹の製造方法に関して記載された乙14明細書は,客観的には,破精込みが活発な麹の製造方法を開示しているものと変わりがないということができる。
したがって,この点は実質的な相違点とはいえない。

控訴人は,乙14明細書記載の製麹方法について,加水率を理由に,同方法
により製造される麹において破精込みが活発になっていないことを裏付けるものとするが,乙14明細書の開示で問題とすべきは従来の静置方式に比して強くなった「糖化力」と「破精込み」の関係に集約されるのであり,加水率に関する控訴人の主張は失当である。
また,控訴人は,乙14明細書には「糖化力」が強くなったこと,すなわちグルコアミラーゼ活性が向上したことしか記載されておらず,他の活性については記載がなく不明であると主張するけれども,乙14明細書の当時は測定技術の問題から麹を「糖化力」により評価せざるを得なかったにすぎないし,タンパク質分解に係る
「酸性プロテアーゼ活性」
及び
「酸性カルボキシペプチダーゼ活性」
については,
その活性の向上をもって「破精込みを活発にし」の開示に結び付けることはできない。「破精込み」の観点から特に着眼すべきはグルコアミラーゼ活性及びα-アミラーゼ活性であるところ,乙53によれば,グルコアミラーゼ活性が高まった事実をもって,直ちに「破精込みを活発にし」を導くことができる。
したがって,酵素力価を構成するグルコアミラーゼ活性以外の活性の開示についての控訴人の主張は失当である。


まとめ

以上のとおり,本件特許には特許法29条2項の無効理由があるのであって,この点に関する原判決の判断に誤りはない。
第4

当裁判所の判断

当裁判所も,本件特許は特許無効審判により無効にされるべきものと認められることから,控訴人の被控訴人に対する本件特許権に基づく権利行使は,特許法104条の3により許されないと判断する。
その理由は,以下のとおりである。
1
争点⑷(無効の抗弁その1(進歩性))について



本件発明について


本件発明は,その特許請求の範囲請求項3の記載により特定される,以下の
とおりのものである(文中の「\」は改行部分を示す。)。
「少なくとも製麹工程において,回転ドラムが用いられ,撒水又は浸漬,蒸煮,放冷等の原料処理工程を経て製麹可能となされた製麹原料に種麹を接種することにより固体麹を製造する方法において,\前記回転ドラムは,駆動装置により回転される回転ドラム本体と,この回転ドラム本体の内部に装着された品温センサを,少なくとも備え,\種麹の接種後,製麹原料の品温が上昇するまで製麹原料を静置すると共に,\前記回転ドラムが設置された室内の温度及び前記回転ドラム本体内の温度を,共に製麹開始温度となるように調節し,\製麹原料の品温上昇後に製麹原料を常にあるいは少なくとも1~10分間隔で間欠的に攪拌し,\前記製麹原料の攪拌が,前記回転ドラム本体の回転により生じる原料層の傾斜面からの落下により行われ,\前記回転ドラム本体の回転速度は,1回転/30~90秒に設定されていると共に,\前記品温センサが前記品温の上昇を感知すると,前記回転ドラム本体内に送風して断続的に冷却を行い,温度及び湿度が任意に調整された前記回転ドラム本体内で前記製麹原料が前記傾斜面から順次落下する時に,前記回転ドラム本体内の空気に触れることにより熱交換が行われ,\前記攪拌により前記製麹原料表面や原料外空中での菌糸の生育を抑制して前記製麹原料への菌糸の破精込みを活発にし,\製麹を完了することを特徴とする固体麹の製造方法。」

本件特許明細書の記載等については,
原判決49頁19行目の
「行なければ」

を,「行わなければ」に改めるほかは,原判決「事実及び理由」の第3の1⑴(原判決49頁10行目~53頁7行目)
に記載のとおりであるから,
これを引用する。


乙14発明の認定について


乙14明細書の記載については,原判決「事実及び理由」の第3の1⑵ア及
びイ(原判決53頁9行目~56頁2行目)に記載のとおりであるから,これを引用する。

上記認定の乙14明細書の記載によれば,乙14発明は,以下のとおりのも
のと認められる。
「回転ドラムが用いられ,水で湿らせた後に蒸気を当てて殺菌した小麦ふすまにもやし胞子を接種する麹の製造方法において,もやし胞子の接種後,菌胞子の発芽により,小麦ふすまの培地ともやし胞子とを含む塊を,それ自体で熱くなり始めるまで,16時間ないし20時間,約30℃に維持した状態で静置し,その後,1分間当たり1回ないし2回の回転により攪拌し,塊の温度が40℃ないし42℃に到達すると,空気の流れが安定的に増加され,冷たく湿った状態に維持され,前記攪拌により,塊全体に菌の成長が行き渡り,静置して製造するよりも糖化力を明らかに強くする,麹の製造方法」


本件発明と乙14発明との対比


乙14発明の「小麦ふすま」,「もやし胞子」及び「麹」は,それぞれ本件
発明の「製麹原料」,「種麹」及び「固体麹」に相当する。
また,
製麹原料が16時間ないし20時間静置される間に品温が上昇することは,技術常識(乙18~20,47~50)から明らかであるから,乙14発明の「もやし胞子の接種後,…小麦ふすまの培地ともやし胞子とを含む塊を,それ自体で熱くなり始めるまで,16時間ないし20時間,約30℃に維持した状態で静置し」は,本件発明の「種麹の接種後,製麹原料の品温が上昇するまで製麹原料を静置する」に相当する。そして,乙14発明の「その後,…攪拌し」は,本件発明の「製麹原料の品温上昇後に製麹原料を常にあるいは少なくとも1~10分間隔で間欠的に攪拌し」に相当する。
さらに,乙14発明の「塊の温度が40℃ないし42℃に到達すると,空気の流れが安定的に増加され,冷たく湿った状態に維持され」は,本件発明の「品温の上昇を感知すると,前記回転ドラム本体内に送風して断続的に冷却を行い,温度及び湿度が任意に調整され」に相当する。なお,乙14発明において「空気の流れ」は温度の上昇した場合に行われるものであるから,断続的に冷却を行う点において本件発明と乙14発明とは相違しない。

以上より,本件発明と乙14発明との一致点及び相違点は,以下のとおりで
あると認められる(なお,相違点につき,控訴人主張のものと実質的に同義のものには同一番号を付すこととする。)。
一致点
少なくとも製麹工程において,回転ドラムが用いられ,撒水又は浸漬,蒸煮,放冷等の原料処理工程を経て製麹可能となされた製麹原料に種麹を接種することにより固体麹を製造する方法において,前記回転ドラムは,駆動装置により回転される回転ドラム本体を,少なくとも備え,種麹の接種後,製麹原料の品温が上昇するまで製麹原料を静置すると共に,製麹原料の品温上昇後に製麹原料を常にあるいは少なくとも1~10分間隔で間欠的に攪拌し,前記回転ドラム本体の回転速度は,1回転/30~90秒に設定されていると共に,前記品温センサが前記品温の上昇を感知すると,前記回転ドラム本体内に送風して断続的に冷却を行い,温度及び湿度が任意に調整された前記回転ドラム本体内で攪拌が行われ,製麹を完了することを特徴とする固体麹の製造方法。
相違点1
本件発明では,回転ドラムの内部に装着した品温センサを備えるのに対して,乙14発明では,品温センサについて明示がない点。
相違点2
本件発明では,回転ドラムが設置された室内及び回転ドラム本体内の温度を共に製麹開始温度に調節しているのに対して,乙14発明では明らかでない点。相違点4’
本件発明では,製麹原料の攪拌が,前記回転ドラム本体の回転により生じる原料層の傾斜面からの落下により行われ,前記回転ドラム本体内で前記製麹原料が前記傾斜面から順次落下する時に,前記回転ドラム本体内の空気に触れることにより熱交換が行われるのに対して,乙14発明ではその点について言及がない点。相違点5
本件発明では,「前記攪拌により前記製麹原料表面や原料外空中での菌糸の生育を抑制して前記製麹原料への菌糸の破精込みを活発にし」ているのに対して,乙14発明では,「前記攪拌より,塊全体に菌の成長が行き渡り,静置して製造するよりも糖化力を明らかに強く」している点。

控訴人の主張について
控訴人主張の相違点3について

控訴人は,乙14明細書の訳文2頁16行目~19行目につき正しい訳を前提とすると,同明細書は「品温が上昇するまで…静置する」という技術思想を開示しておらず,また,製麹の進行状況は麹菌の種類等の培養条件の違いに左右され,16時間ないし20時間経過すれば品温が上昇するとは一概にはいえないなどとして,控訴人主張に係る相違点3が認定されるべきである旨主張する。
しかし,乙14明細書の上記部分の訳文が誤りといえないことは前記のとおりである(引用に係る原判決55頁13行目~56頁2行目)。
また,製麹の進行状況が麹菌の種類や接種量等の培養条件の違いにより左右されることは控訴人の主張のとおりであるが,乙14発明において,胞子と培地が混合された塊(製麹原料)が,約16時間ないし20時間静置される間に品温の上昇を認められることは,
乙14明細書の記載及び技術常識
(乙18~20,
47~50)
から明らかである。
そうである以上,当業者にとって,塊がそれ自体で熱くなるまで16時間ないし20時間静置した後にドラムの回転を再開するという乙14明細書の記載は,品温が上昇するまで製麹原料を静置し,品温上昇後に製麹原料の攪拌を開始するという本件発明の構成要件C及びEを開示するものであるということができる。したがって,控訴人主張の相違点3は認められない。控訴人がるる指摘する事情を考慮しても,この点に関する控訴人の主張は採用し得ない。
控訴人主張の相違点4について
控訴人は,その主張に係る相違点4が認められるべき旨主張する。しかし,断続的に冷却を行う点において本件発明と乙14発明とが相違しないことは,上記のとおりである。また,「温度及び湿度が任意に調整された」ものであることについては,後記のとおり,乙14明細書の記載からは,回転ドラム内部に製麹原料(塊)の温度(品温)を計測するための装置である品温センサが設置されていること,培地の殺菌から塊(製麹原料)の静置,その後のドラムの回転再開の各工程を通じて一貫して塊の温度管理が行われていることがそれぞれうかがわれることから,乙14発明においても同様の制御が行われるものと認められる。これらの点を踏まえると,控訴人の主張する相違点4を認めることはできず,相違点4’のとおり認定するのが相当である。
その他控訴人がるる指摘する事情を考慮しても,この点に関する控訴人の主張は採用し得ない。


相違点についての判断

相違点1について
乙14明細書には,「品温センサ」という語は明示的には記載されていない
ものの,特定の品温を感知すると塊を冷却するための送風を停止すること(訳文2頁12行目~13行目),塊の温度を35℃ないし38℃付近に維持することが好ましいこと(同頁25行目~27行目)が記載されている。これらの記載は,乙14明細書の回転ドラム内部に製麹原料
(塊)
の温度
(品温)
を計測するための装置,
すなわち「品温センサ」(構成要件B)が設置されていることを前提とするものと理解される。
そうすると,品温センサの設置については,乙14発明に開示されているものといってよいから,
この点は本件発明と乙14発明との実質的な相違点とはならない。これに対し,控訴人は,乙14明細書の「約30℃」や「空気の流れ」との文言は,流動培養工程ではなく,殺菌工程後播種工程前の培地の温度や空気の流れを意味するのに対し,本件発明の「品温センサ」(構成要件B)は,種麹接種後の流動培養工程で用いられるものであるなどと主張する。
しかし,乙14明細書の上記記載のうち,「塊の温度を35℃ないし38℃付近に維持することが好ましいこと」は,控訴人のいう流動培養工程における制御に関する記載と見られることから,控訴人の上記主張は,そもそもその前提に誤りがある。
また,控訴人は,乙14発明においては,培地の殺菌後に培地の温度が約30℃に下がったことは人が確認し,手動で空気の流れを停止させていると解するべきである旨も主張するが,乙14明細書に「品温センサ」との記載がないことを除き,これを裏付けるに足りる記載はない。むしろ,上記のとおり,「塊の温度を35℃ないし38℃付近に維持することが好ましいこと」が控訴人のいう流動培養工程における制御に関する記載と見られることなどに鑑みると,控訴人主張に係る上記解釈は不自然ないし不合理というべきである。
さらに,控訴人は,乙14明細書には品温センサに関する記載はなく,むしろ品温センサや温度計測装置がないことを示唆している旨主張するけれども,これが失当であることは上記のとおりである。
その他控訴人がるる指摘する事情を考慮しても,この点に関する控訴人の主張は採用し得ない。

相違点2について
相違点2については,原判決61頁3行目の「相違点Ⅰ」を「相違点2」に,
同62頁9行目の「20頁右欄7行目」を「20頁左欄8行目」に,同頁19行目の「2頁右欄8行目」を「2頁右欄6行目」に,それぞれ改めるほかは,原判決「事実及び理由」の第3の1⑷ア(原判決61頁3行目~63頁2行目)に記載のとおりであるから,これを引用する。
これに対し,控訴人は,本件発明の構成要件Dは,ドラムの回転を開始した後の流動培養工程ではなく,種麹を接種してからドラムの回転を開始するまでの静置工程において,室内及び回転ドラム本体内の温度を共に製麹開始温度となるように調節することを特定したものであるなどと主張する。
しかし,仮にそうであるとしても,乙14明細書には「この培地は,…1時間以下の間,蒸気に当てて培地が殺菌される。ドラムの回転が開始され,塊を冷却するために空気を流す。約30℃に冷却されると,ドラムの回転及び空気の流れが停止され,…もやし胞子が塊に加えられる。胞子と培地とを完全に混合するようにドラムを十分に回転させた後,停止させ,菌胞子の発芽により塊がそれ自体で熱くなるまで,約16時間ないし20時間,塊の温度を約30℃に維持した状態で静置しておく。
その後,
ドラムの回転が再開され,
空気の流れが開始される。
空気の流れは,
塊の温度が上昇するにつれて増加するように調整される。塊の温度は,40℃ないし42℃に到達することもあるが,空気は流れが安定的に増加され,また,冷たく湿った状態に維持されることで,塊の温度は菌の成長の最適点である30℃付近に下げて維持することが可能である。温度を30℃付近に維持する試みは,しばしば偶発的にその温度を下回る結果となることがあり,
…35℃ないし38℃の温度は,
…塊をこの温度付近に維持することが好ましい。」との記載がある(訳文2頁9行目~27行目)。上記記載によれば,乙14発明においては,培地の殺菌から塊(製麹原料)の静置,その後のドラムの回転再開の各工程を通じ,一貫して塊の温度管理が行われていることがうかがわれる。このうち静置工程を具体的に見ると,その間「塊の温度を約30℃に維持した状態」とするというのであるから,塊の温度管理が行われていることは明らかであり,そのためには室温及び回転ドラム内の温度を適宜調整する必要があることも,前記のとおりである(引用に係る原判決61頁7行目~62頁4行目)。
そうである以上,控訴人の上記主張は相違点の判断を左右するものではない。その他控訴人がるる指摘する事情を考慮しても,この点に関する控訴人の主張は採用し得ない。

相違点4’について
乙14明細書には,「私の発明を実施する際,塊が連続的に攪拌されるよう
にし,これにより,塊の粒子は,空気に接近させるために,連続的に表面に導かれる。」(訳文1頁32行目~33行目),「私は,攪拌に採用する機械に限定していると理解されることを所望するわけではない。しかしながら,成長に必要な空気を供給し,ガスが発生するのと同じ速さでガスを除去するために,湿った空気の流れを塊に当てながら,好ましくは1分間当たり1回ないし2回の回転により塊を転回させる空気式麦芽製造ドラムを採用することが好ましい。」(同2頁3行目~7行目),「40時間ないし50時間の間,ドラムの回転及び空気の流れにさらされると,塊全体に菌の成長が行き渡り,…」(同27行目~29行目)との記載がある。
これらの記載によれば,乙14発明においては,ドラムの回転により,塊の粒子の一つ一つが,代わる代わる空気に接触し得る表面に導かれること,具体的には,ドラムが回転することにより製麹原料の塊がドラム内で傾斜面を形成し,その傾斜面から塊の粒子が落下し,表面にある塊の粒子とそれ以外の粒子とが順次入れ替わることが開示されているということができる。また,ドラム本体内で塊の粒子が落下する際にその粒子が空気に触れること,冷却のために供給される空気が製麹原料の温度より低いことはいずれも明らかであるから,乙14発明においては,ドラム本体内で製麹原料が傾斜面から順次落下する際に,ドラム本体内の空気に触れることにより熱交換が行われることも開示されているというべきである。したがって,相違点4’は,本件発明と乙14発明との実質的な相違点とはならない。
これに対し,控訴人は,乙14発明のドラム本体内で,製麹原料が傾斜面から順次落下する時にドラム本体内の空気に触れることにより熱交換を行うことは不可能であるなどと主張する。
しかし,乙14発明においてそのような熱交換が行われることが開示されているというべきであることは,上記のとおりである。また,乙14明細書それ自体その他の証拠を見ても,同明細書記載のドラム(空気式麦芽製造ドラム)が甲69文献記載の構造を有するものと認めるべき理由は見当たらない。そうである以上,当該構造を前提とする控訴人の主張は採用し得ない。
その他控訴人がるる主張する事情を考慮しても,この点に関する控訴人の主張は採用し得ない。

相違点5について

乙14発明における「糖化力」とは,でんぷんなどを分解して糖を生成することをいい(乙13,38),「糖化力が強い」とは,糖化に寄与する酵素であるグルコアミラーゼ,
α-アミラーゼ等の活性が高い状態を表しているものと解される
(乙
38,39)。
また,乙28によれば,(米粒の中心部に菌糸が生育していく)破精込みが活発である正常な麹(総破精麹,突き破精麹)では,糖化力やタンパク分解力が「ともに強く」ないし「ともにかなり強い」ことを理解し得る。
さらに,甲55には,「α-アミラーゼ活性が高いほどでんぷんを主体とする蒸米内部組織の崩壊がより早く進み,
その結果麹菌糸が蒸米内部に伸長しやすくなり,
破精込みの程度が大きくなったと考えられた。725頁左欄8行目~11行目)」


「酵素活性の高い麹ほど破精込みがよくなった。(同頁右欄15行目~16行目)」
との記載があり,さらに,タンパク質分解酵素である酸性プロテアーゼについて,「酸性プロテアーゼ活性の高低が破精歩合に影響しなかったのも,酸性プロテアーゼが蒸米内部の組織変化にあまり関与しないためであると推察される。」(同頁右欄5行目~8行目)と記載されている。これらの記載によれば,酸化プロテアーゼ等のタンパク質分解酵素よりも,米の組織(でんぷん)を分解する酵素の方が,破精込みに対する影響が大きいと解される。
これらを踏まえると,菌糸の破精込みが活発であること,でんぷんを分解する力を示す糖化力が強いこと,
及び糖化に寄与するグルコアミラーゼ,α-アミラーゼ等
の酵素の活性が高いことは,技術的に相関が高く,これらは,客観的には同じ現象を異なる指標で表現したにすぎないものというべきである。
そうすると,糖化力が強い麹の製造方法に関して記載された乙14明細書は,明示的に破精込みに触れる記載はないものの,客観的には,破精込みが活発な麹の製造方法を開示しているものと変わりがないということができ,相違点5は実質的な相違点とはいえない。これに反する控訴人の主張は採用し得ない。なお,本件発明は,麹の原料を明記していないものの,「破精」なる語を使用していることなどから,日本酒の製造に用いられている米麹を念頭に置いたものと見られる。他方,乙14明細書記載の技術は,小麦ふすまが原料とされている(訳文1頁13行目)点で本件発明と異なる。もっとも,乙14発明も麹による糖化の活発化,すなわちアミラーゼ等のでんぷん分解酵素の働きに焦点を当てたものであるし,麹の製造方法に係る温度の調節等の諸条件は対象とする穀物や麹菌の種類等によって異なることは,控訴人も認めるとおり,技術常識であるところ,製麹原料に応じた細かな条件を見出すことも当業者の通常の創作能力の発揮にすぎないものと見られるから,上記相違により本件の結論は左右されるものではない。⑸

小括

以上のとおり,本件発明は,乙14発明に周知技術を適用すること等により当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本件特許は,特許法29条2項の無効理由があり,同法123条1項2号に基づき特許無効審判により無効にされるべきものと認められる。そうすると,控訴人の被控訴人に対する本件特許権に基づく権利行使は,同法104条の3により許されない。
2
結論

したがって,控訴人の請求をいずれも棄却した原判決は相当であり,本件控訴は理由がないから,これを棄却することとする。
よって,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第1部

裁判長裁判官

髙部眞
裁判官

杉浦正
裁判官

片瀬規子樹亮
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