判例検索β > 平成27年(行ウ)第4号
石木ダム事業認定処分取消請求事件
事件番号平成27(行ウ)4
事件名石木ダム事業認定処分取消請求事件
裁判年月日平成30年7月9日
法廷名長崎地方裁判所
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平成30年7月9日判決言渡
平成27年(行ウ)第4号
口頭弁論終結の日

同日原本領収

裁判所書記官

石木ダム事業認定処分取消請求事件

平成30年3月20日
判主1決文
別紙1原告目録の番号2ないし5,7,8,10,13,14,16,18,20,22,26,27,29,33,36,37,42,43,45ないし48の原告らの訴えをいずれも却下する。

2
その余の原告らの請求をいずれも棄却する。

3
訴訟費用は原告らの負担とする。

第1章
第1

実及び理由
請求の趣旨及び事案の概要等
請求の趣旨
処分行政庁が平成25年9月6日付けでした二級河川川棚川水系石木ダム建
設工事並びにこれに伴う県道,町道及び農業用道路付替工事に係る事業認定処分を取り消す。
第2
1
事案の概要等
事案の概要
本件は,
「二級河川川棚川水系石木ダム建設工事並びにこれに伴う県道,町道及び農業用道路付替工事」
(以下「本件事業」という。
)の起業地内に存する
土地の所有者若しくは共有権者,起業地上に存在する建物の居住者又は同建物を実家とする元居住者である原告らが,処分行政庁が土地収用法(以下,同法の条数を摘示する場合には,単に「法」という。
)20条及び法138条1項
の規定により準用される法20条の規定に基づいてした本件事業に係る事業認定処分(平成25年9月6日付け九州地方整備局告示第157号による告示に係るもの。以下「本件事業認定」という。
)は,法20条3号及び4号に違反

する違法な処分であるとして,処分行政庁の属する被告に対し,本件事業認定の取消しを求める事案である。
2
前提事実
以下の事実は,当事者間に争いがないか,証拠(末尾に掲記。枝番号のある書証につき枝番号の記載のないものは,各枝番号を含む。以下同じ。)及び弁
論の全趣旨により容易に認められる。
本件事業の概要

起業者
長崎県(以下「県」という。
)及び佐世保市(以下,後記合併の前後を
通じて「市」といい,県と併せて「本件起業者」という。

なお,市は,平成17年4月1日に長崎県北松浦郡に属していた吉井町及び世知原町と,平成18年3月31日に同郡に属していた宇久町及び小佐々町と,平成22年3月31日に同郡に属していた江迎町及び鹿町町とそれぞれ合併した(乙A15〔5-11の59頁〕
。以下,上記各合併前
からの佐世保市の市域を「佐世保地区」
,上記各合併により市に編入され
た地域を「合併地区」といい,合併地区のうち旧小佐々町の町域を「小佐々地区」という。。



事業の種類
二級河川川棚川水系石木ダム建設工事並びにこれに伴う県道,町道及び農業用道路付替工事


起業地
別紙4のとおり(以下「本件起業地」という。



事業概要図
別紙5のとおり


石木ダムの概要
型式

重力式コンクリートダム(貯水池の水圧荷重に堤体重量により

抵抗し,これを基礎岩盤に伝達する構造物)
河川名
位置

二級河川川棚川水系石木川(以下「石木川」という。

左岸:川棚町岩屋郷地内,右岸:川棚町岩屋郷地内

堤高(基礎地盤から非越流部の堤頂までの高さ)

55.4m

堤頂長(ダム軸面と堤頂標高の水平面との交線上の堤体の長さ)

2
34m
堤体積(ダムの体積)
事業費

15万7000㎥

285億円

貯水池
a
集水面積(集水区域の面積)

b
湛水面積(貯水池にサーチャージ水位まで水が溜まっている場合の表面積)

9.3㎢

0.34㎢

c
総貯水容量

548万㎥

d
有効貯水容量(総貯水容量から死水容量及び堆砂容量を除いたもの)518万㎥

なお,貯水池容量配分は,別紙6のとおりである。
(甲A2,乙A2)
当事者等

原告ら
別紙1原告目録の番号1,6,9,11,12,15,17,19,21,23ないし25,28,30ないし32,34,35,38ないし41,44,49ないし104,106ないし110の各原告(別紙1の「属性」欄に「所有者」と記載のある者である。以下「原告所有者ら」という。
)は,本件事業認定時から現在まで,本件起業地のうち収
用の部分に係る土地(以下「本件収用地」という。
)又はその上の建物
について所有権(共有権を含む。
)を有する者である(なお,別紙1の

番号4の原告X4〔以下「原告X4」という。
〕が本件起業地内に建物
を所有しているかについては争いがある。。

別紙1の番号2,3,7,8,10,13,14,16,18,20,22,26,29,36,37,42,43,45の各原告(別紙1の「属性」欄に「居住者」と記載のある者である。以下「原告居住者ら」という。
)は,本件事業認定時から現在まで,本件収用地内にある住所
地上の建物に居住する者である。
別紙1の番号5,27,33,46ないし48の各原告(別紙1の「属性」欄に「元居住者」と記載のある者である。以下「原告元居住者ら」という。
)は,過去に本件収用地上にあった建物に居住していたが,
遅くとも本件訴え提起時には同建物に居住していなかった者である。イ
処分行政庁及び被告
処分行政庁は,法20条及び法138条1項の規定により準用される法20条の規定に基づいて事業認定をする権限を有し,本件事業認定を行った者である。被告は,国土交通省設置法4条6号,30条,31条,国土交通省組織令206条等に基づき,処分行政庁を設置する者である。起業地周辺の概況
二級河川川棚川水系川棚川(以下「川棚川」という。
)は,その源を長崎

県東彼杵郡波佐見町(以下「波佐見町」という。
)に発し,波佐見町中央部
から西部にかけて西方に流れ,波佐見町西部から南下して長崎県東彼杵郡川棚町(以下「川棚町」という。
)中央部付近で支川である石木川と合流し,
そのまま南下して大村湾に注ぐ,流路延長約19.4㎞,流域面積81.4㎢の二級河川であり,その河川管理者は長崎県知事(以下「県知事」という。
)である(河川法10条1項)

川棚川水系の流域図は,別紙7のとおりである。
本件事業認定及びこれに至る経緯


予備調査及びこれに関する覚書
県は,昭和47年1月5日,川棚町に対し,石木ダム建設のための予備調査を依頼した。
県知事並びに川棚町a郷,b郷及びc郷の各総代は,同年7月29日,川棚町長立会いの下,石木川の河川開発調査(予備調査)に関し,県が上記3郷の同意を得て調査を行うこと,県の調査の結果,建設の必要が生じたときは,改めて上記3郷と協議の上,書面による同意を受けた後で着手することなどを定めた覚書(甲D1,D2。以下「本件覚書」という。)を
交わした。
県は,その後,予備調査を実施した。


全体計画
県知事は,昭和51年1月9日付けで,河川法(平成11年法律第87号による改正前のもの)79条2項2号,河川法施行令(平成11年政令第352号による改正前のもの)46条,45条1号の規定に基づき,建設大臣(当時)から「川棚川総合開発補助事業全体計画」
(以下,後記変
更の前後を通じて「全体計画」という。
)の認可を受けた。
なお,全体計画は,平成19年6月29日及び平成21年3月11日付けで,それぞれ国土交通大臣との協議を経て変更された。
(乙A4〔2-2の19頁,2-3〕
,A15〔5-5の2頁〕



手続の委任
市は,平成21年10月14日,法136条1項の規定に基づき,県知事に対し,土地収用法の規定に基づく起業者として行うべき手続の一切の権限を委任した。


事業認定申請等
県は,平成21年11月9日,処分行政庁に対し,本件事業について,事業認定申請書(乙A2)及び事業認定申請書参考資料(乙A4)を提出
して本件事業の認定を申請した。
また,県は,同日,処分行政庁に対し,本件起業地(土地及び漁業権)の一部について,手続留保の申立て(法31条〔法138条による準用を含む。)をした。これは,県が,事業面積の大規模なダム事業であり,未〕
取得地全体について,事業認定の有効期間である1年以内に裁決申請することは,予算及び事務量等の問題から困難であると判断したためであった。(乙A4〔5-2〕


ダム検証
被告(国土交通大臣)は,平成22年9月28日,県に対し,同月から臨時的かつ一斉にダム事業の再評価を実施する旨を定めた「国土交通省所管公共事業の再評価実施要領」及び「ダム事業の検証に係る検討に関する再評価実施要領細目」
(以下「ダム検証要領細目」という。
)に基づき,本
件事業の再評価を行うことを要請した。
長崎県公共事業評価監視委員会は,同年12月からパブリックコメント並びに地権者,学識経験者,関係利水者及び関係地方公共団体の長等への意見聴取を実施した上で,平成24年2月に「川棚川河川総合開発事業(施設名:石木ダム)の検証に係る検討

結果報告書」
(乙A15〔2-

3-4の10~67頁〕
。以下,同報告書に記載された検討内容を「本件
ダム検証」という。
)を取りまとめ,その頃,県は本件ダム検証を国土交
通省に報告した。
国土交通省は,同年6月11日付けで,県に対し,本件事業に関する補助金交付に係る対応方針を「継続」とした。
(乙A15〔2-3-4〕
,C5)

資料の追加
処分行政庁は,平成25年5月7日付けで,県に対し,追加資料の提出依頼を行い,県は,同月16日頃,追加資料(乙A15)を提出した。

有識者の意見聴取
処分行政庁は,平成25年5月7日,法22条に基づき,専門的学識を有する者として,甲(以下「甲」という。
)首都大学東京都市環境学部特
任教授及び乙東京大学大学院工学系研究科教授(以下,両名を併せて「本件各有識者」という。
)の2名に対し,生活用水,業務営業用水及び大口
需要者の工場用水の各需要予測の推計並びに負荷率の設定の妥当性について意見聴取した。
乙教授は,同月13日,上記の点が妥当である旨の意見を回答し,甲教授は,同月15日,上記の点が妥当である旨の意見を回答した(以下,両教授の意見を併せて「本件各有識者意見」という。。

(乙A16~19)


事業認定等
処分行政庁は,平成25年9月6日,法20条,法138条1項により準用される法20条に基づき,本件事業につき事業の認定をし(本件事業認定)
,同日付けの官報において,上記エの手続の留保と共に告示した。水道用水の確保(利水)について


前提となる用語等
有収水量
水道メーターを実際に通過し,水道料金収入に繋がった水量を指す。無収水量
浄水場から配水された浄水のうち,水道メーターを通過しなかった水量であり,主に作業水や水道管の漏水等がこれに該当する。
有効率
浄水場から配水された水量のうち,漏水せずに有効に到達した割合を指す。
有収率

浄水場から配水された水量のうち,有収水量が占める割合を指す。負荷率
一日最大給水量に対する一日平均給水量の割合を指す。(一日平均給[
水量)÷(一日最大給水量)×100%]により算出される。年間における給水量の最大値と平均値の変動幅を割合により表現したもので,負荷率が大きいほど変動幅が大きいことを意味する。

水道に関する基準等
社団法人日本水道協会は,平成24年7月,
「水道施設設計指針(日本
水道協会発行)(以下「設計指針」という。

)を発行した(乙A15〔2
-4-2の参考資料125~161頁〕
,B1,B6)



市の水需要の予測
市は,平成12年10月頃,平成10年から平成29年までの水需要予測等を記載した「佐世保市水道事業変更認可(平成12年10月25日認可)
」と題する資料(以下,同資料及びその内容を「平成12年水
需要予測」という。
)を作成した(甲B13)

市は,平成16年9月30日,平成16年から平成29年までの水需要予測等を記載した「平成16年度佐世保市水道水源整備事業再評価監視委員会資料<水需要予測の比較検討>」
(以下,同資料及びその内容
を「平成16年水需要予測」という。
)を作成した(甲B14)

市は,平成19年10月10日頃,
「佐世保市水道施設整備事業再評
価第1回委員会資料」を作成し,同資料の「4.水需要予測結果」(以
下,これを「平成19年水需要予測」という。
)において平成19年か
ら平成29年までの水需要予測等を記載した(甲B3)

市は,平成20年3月,
「第6次佐世保市総合計画」
(以下「市総合計
画」という。
)を策定した。
a
市は,平成24年,平成24年度から平成36年度までの水需要予
測等を記載した「佐世保市第9期拡張事業平成24年度再評価水需要予測資料」
(以下,同資料及びその内容を「本件水需要予測」という。

を作成した。この中には,市の水需要予測を総括した「水需要予測総括表」が添付されており,その内容は別紙8のとおりである(平成23年度以前が実績値,平成24年度以降が予測値である。。本件水需)
要予測は,上記

カの追加資料の一部として,県を通じて処分行政庁

に提出された。
(甲B1,乙A15〔2-4-2の水需要予測資料〕

b
本件水需要予測における水需要予測の手法
市が本件水需要予測において採用した水需要予測(計画一日最大給水量の算定)の手法の概略は,別紙9のとおりである。
すなわち,水量の予測(別紙9の(3)から(5)の部分)においては,

有収水量の実績を基に将来の計画有収水量を用途別に予測し

て,それぞれの用途別一日平均有収水量を算出し,これらを合算した数値(一日平均有収水量。平成36年予測値は7万5542㎥である。
)を算定し,
率を算定し,

有効率と有効無収率を予測し,両者を乗じて有効

上記

の一日平均有収水量を上記

の有効率で除して,

浄水場地点の水量である計画一日平均給水量(平成36年予測値は8万4685㎥である。
)を算出し,

これに,年間変動を考慮した負

荷率を乗じて,施設能力の基礎となる一日最大給水量(平成36年予測値は10万5461㎥である。
)に換算し,

これに,一定の割合

(被告は「安全率」と,原告らは「利用量率」と称するのが適切であると主張するが,以下では便宜的に「安全率」という。
)を加えて水
源地地点の原水量に置き換えた計画取水量11万7000㎥/日を算出するというものであった。
洪水調節(治水)について

前提となる用語等

基本高水
洪水防御計画の基本となる洪水のこと(河川法施行令10条の2第2号イ)であり,具体的には,上記洪水における流量と時間の経過の相関関係を図示したハイドログラフ(流量図)を指す。
計画基準点
洪水防御計画において,基本高水を設定する基準とし,目標とする安全度を評価する地点のことを指す。
計画規模
計画対象地域の洪水に対する安全の度合いを表す数値であり,一般に,水文量の年超過確率(1/x。発生確率がx年に一度の確率であることを示す。
)によって表現される。
対象降雨
計画基準点ごとに

降雨量,

降雨量の時間分布及び

降雨量の地域

分布の3要素を決定することにより表現される降雨のことをいう。計画高水流量
主要地点の河道やダム等の計画の基本となる高水流量のことを指す。基本高水を河道やダム等に配分することにより決定される。
洪水調節容量
洪水調節のための貯水池(ダム)の貯水容量のことを指す。
(乙C1~3,11,12)

河川の管理に関する基準,解説等
国土交通省河川砂防技術基準
国土交通省は,河川等に関する調査,計画,設計及び維持管理を実施するために必要な技術的事項について定めることなどを目的として,「国土交通省河川砂防技術基準」
(以下「技術基準」という。
)を策定し
ている(乙C1,C4,C15。いずれも平成16年6月30日付け改
定版である。。

国土交通省河川砂防技術基準同解説
国土交通省河川局(監修者)及び社団法人日本河川協会(編者)は,平成17年11月,
「国土交通省河川砂防技術基準同解説・計画編」
(以
下「技術基準解説」という。
)を発行した(乙C3,C11)

二級河川工事実施基本計画検討の手引き(案)
社団法人日本河川協会は,平成5年3月,
「二級河川工事実施基本計
画検討の手引き(案)(以下「工実手引き」という。

)を策定した(乙
C9)

中小河川計画の手引き(案)
中小河川計画検討会は,平成11年9月,中小河川計画の手引き

(案)(以下「中小河川手引き」という。

)を策定した(乙C2,C1
2)


川棚川の治水計画等
2級水系川棚川工事実施基本計画
県は,平成9年11月,河川法(平成9年法律第69号による改正前のもの)16条1項の規定に基づき,
「2級水系川棚川工事実施基本計
画」
(以下「工実計画」という。
)を策定した。工実計画では,水分資料
の整理がなされていることや,最下流の川棚町市街地の洪水防御対象地区の上流端に位置することなどから,治水計画基準点は山道橋(その位置は別紙7のとおりである。
)と設定された。
(甲C13)
なお,工事実施基本計画は,平成9年法律第69号による改正後の河川法16条1項の規定に基づき当該河川について河川整備基本方針が定められるまでの間においては,河川整備基本方針及び河川整備計画とみなすものとされた(上記改正法附則2条)

川棚川水系河川整備基本方針

県知事は,平成17年11月,河川法16条1項に基づき,川棚川水系河川整備基本方針(以下「川棚川水系基本方針」という。
)を策定し
た。川棚川水系基本方針では,基準点山道橋における基本高水のピーク流量を1400㎥/秒,洪水調節施設により270㎥/秒を調節し,河道への配分流量を基準点において1130㎥/秒とした。
(乙A4〔2
-1〕

川棚川河川整備計画
県知事は,平成19年,河川法16条の2に基づき,川棚川河川整備計画(以下,次の改正の前後を通じて「川棚川整備計画」という。)を
策定し,平成21年にこれを改正(変更)した。川棚川整備計画では,計画対象期間は概ね30年間とされ,想定氾濫区域内における人口・資産の状況等を考慮し,計画規模は,石木川合流点下流では1/100とされ,石木川合流点上流については1/30とされたが,基準点山道橋における計画高水流量は前項の数値と同じとされた。
(乙A4〔2-2〕

3
争点
原告適格の有無(本案前の争点)
本件事業が法20条3号の要件を充足するか。
本件事業が法20条4号の要件を充足するか。

第2章
第1

争点に関する当事者の主張
争点

(原告適格の有無〔本案前の争点〕
)について

(原告らの主張)
1
原告X4は,本件起業地内にある建物を所有しているから,原告適格がある。
2
原告居住者ら
法5条1項1号は,土地を特定の事業の用に供するため,その土地にある所有権以外の権利を収用し,又は使用することができるとしており,土地収用法は,土地の居住権者を含む所有権者以外の者の利益の調整を図ることをも目的
としている。
そして,原告居住者らは,本件事業認定によって実際に本件起業地内の居住地に居住し続けることができなくなるから,自らの権利利益を直接侵害される者といえ,原告適格が認められる。
3
原告元居住者ら
土地収用法は,特定の事業目的のための土地所有権等の制限を認める代わりに,私有財産との調整を図ることを目的としているところ,上記私有財産との調整は,土地所有権等の権利の価値のみならず生活利益も考慮するものとされる。したがって,起業地について生活上特別の利益を有する者も当該起業地に係る事業認定の取消しを求める法律上の利益を有する。具体的には,起業地内に生まれ育ち,そこをふるさととして個人の人格を形成させている者や,度々起業地内に帰省して当該土地との強い繋がりを有している者は,当該土地の存在や当該土地との関係性がその者の生活や人生の一部となっており,上記生活上特別の利益を有する者に当たる。
したがって,本件起業地内の土地建物について所有権又は居住権を有しない者であっても,本件起業地内の土地の所有権者(原告所有者ら)の推定相続人であって,本件起業地内の土地で生まれ育ち,当該土地をふるさととして特別の関係を有している者は,本件起業地内に人格権というべき生活上の利益を有しており,本件事業認定の取消しを求める法律上の利益を有する者に当たるというべきところ,原告元居住者らは,上記要件をいずれも満たすから,原告適格を有する。

(被告の主張)
1
原告X4が本件起業地内の家屋の所有権を有することについて何ら立証がない。したがって,同原告には原告適格はない。

2
原告居住者ら及び原告元居住者らについて
土地収用法は,憲法29条3項の規定の趣旨を受けて,公共の利益の増進と
私有財産との調整を図り,もって国土の適正且つ合理的な利用に寄与することを目的として制定されたものであり(法1条)
,起業地内に私有財産を有しな
い周辺居住者等の権利ないし利益を保護する趣旨,目的を有するものではなく,同法の定める事業認定の手続も同様の観点から設けられたものである。したがって,本件起業地内の土地又は土地上の立木等に所有権その他の権利を有する者以外の第三者に事業認定の取消しを求める法律上の利益はなく,行政事件訴訟法9条1項の原告適格を認めることはできない。
そして,原告居住者ら及び原告元居住者らについては,本件起業地内の土地建物の所有権者に従属し,その下で占有している者にすぎず,当該土地建物の使用貸借契約等に基づき財産法上の権利義務関係が成立している等,所有権者から独立した個別の権利を観念する実益は認められない。
したがって,本件起業地内の土地又は土地上の立木等に所有権その他の権利を有することの証明がないから,これらの原告らに係る訴えは却下されるべきである(本案前の主張)

第2

争点

(本件事業が法20条3号の要件を充足するか)について

(被告の主張)
1
要件について
法20条3項は,

得られる公共の利益と失われる利益を比較衡量した結果,

前者が後者に優越すると認められること,

社会的,経済的及び経済的な観点

から代替案と比較した結果,合理的な計画となっていることが具体的要件であると解される。なお,技術基準への適合性は,上記



を検証する上での一

つの視点であるが,これらの技術基準は一般的技術的基準を定めるものであることから,個々の事業の条件によって総合的に判断することになる。本件事業は,上記の要件をいずれも満たす。
2
起業地がその事業の用に供されることによって得られるべき利益について水道用水の確保(利水事業)のための必要性


水道法の定める地方公共団体及び水道事業者としての責務の内容及び性質に照らすと,水道事業者は,長期的な給水区域内の水道需要及び供給能力を合理的に予測した上,水道の計画的整備に関する施策を策定及び実施し,水道事業を適正かつ能率的に運営し,水道を安定的に供給し,渇水によって住民の生活が極力影響を受けないよう努力する責務を負っており,上記施策の策定及び実施については,水道事業者の広範な裁量に委ねられている。また,水道法は,水道の計画的整備に関する施策の策定及び実施に当たって複数の要素を総合的に考慮すべきことを規定しているが,これは,上記施策の策定に当たっては政策的,技術的見地からの判断が必要不可欠であり,高度に技術的かつ専門的事項を含むことから,水道事業者の広範な裁量に委ねている趣旨である。
そして,一般に,水道施設整備における水需要予測は,将来の水需要や都市発展の状況,他の簡易水道事業等の統合等を視野に入れた上で,長期的な計画年次を定め,想定される渇水時においても安定的な水道供給を可能とするなど,リスク管理も考慮の上,能力規模が算定されるべきである。これらの点からすれば,市が行った本件水需要予測は合理的なものであり,前提事実


bのとおり,平成36年度における市の計画取水量が

11万7000㎥/日であるのに対し,保有水源が7万7000㎥/日であるから,4万㎥/日が不足し,石木ダムの利水容量のうち水道用水を目的とする249万㎥は,これを補うものであり,石木ダムは,安定した水道用水を確保するための水供給施設として,必要かつ有効なものである。イ
用途別一日平均有収水量について
生活用水について
生活用水の一日平均有収水量は,
[給水人口×原単位(市民一人1日
当たりの使用水量)
]によって算出される。
市は,本件水需要予測において,設計指針が気候変動に伴う降雨の不
安定化等の影響による水源の利水安全度の低下に留意して目標を設定することを定めていることを踏まえ,原単位の将来推計をするに当たり,平成6年から平成7年にかけての大渇水の翌年から平成23年までの16年分の実績値を検討したところ,少雨による給水制限や節水対策のための広報等の何らかの渇水対策を行った年度は,前年度よりも原単位の数値が減少する傾向にあり,反対に渇水対策を実施していない年度は,前年度よりも原単位の数値が増加する傾向にあったことから,市の原単位が渇水による制約を受けている傾向を確認した。
そこで,市は,渇水対策を行っていない平常時の市民全体が使用する水需要の傾向を踏まえて予測するため,はじめに,重回帰分析(水需要の変動に関係の深い社会・経済等の要因を説明変数として用いる予測手法)により,平成36年を予測の目途として,原単位の上限値(渇水の影響が全くなくなった場合)と下限値(渇水の影響が続いた場合)を予測した。その結果,上限値が214L(リットル。以下同じ。,下限値)
が200Lと算出されたことから,将来の原単位が上記上限値と下限値の間に収まるものと推測した。
次に,市は,原単位について,平成6年から平成23年の過去実績を用いて時系列傾向分析(過去の実績の傾向が今後も続いていくものとした推計手法で,実績の趨勢に最もよく適合する傾向曲線を用いて推計するもの)を行ったが,この際,給水制限を受けた実績を含めると,今後も給水制限を繰り返すことが前提となり妥当でないため,上記過去実績のうち少雨による給水制限の影響がある平成17年から平成19年の傾向を排除して分析を行った。その結果,目標年度である平成36年度における予測値は,上記重回帰分析による上限値と下限値のほぼ中間の207Lとなったことから,上記数値を原単位として採用した。
そして,上記原単位に,一般的な人口推計式を用いて算定した給水人
口を乗じて,生活用水の一日平均有収水量を4万3290㎥/日(目標年度)と予測した。
また,市は,全国他都市平均値との比較を行うなど,原単位の推計結果の妥当性を検証した。
さらに,本件各有識者は,平成24年の設計指針の改定に際し特別調査委員会の委員を務めた有識者であるところ,いずれも,過去の渇水による抑圧効果が時間の経過により解消され,生活用水原単位が回復する結果,上記のような水需要予測となることについて妥当である旨の意見を述べていることからも,上記需要予測は妥当である。
業務営業用水について
大口需要は,米軍基地及び自衛隊であるが,市が防衛省から得た回答文書には,基地関係の諸活動における水源確保の必要性が示されており,米軍基地及び自衛隊の重要性が高まっていくと考えられることから,設計指針にいう将来の使用水量が困難な場合に当たると判断し,過去実績の最大値である4234㎥/日(目標年度)と予測した。
小口需要には,観光業等が含まれる。佐世保地区の業務営業用水の過去実績は,渇水と経済不況の影響が強く出ており,これらを含むことになる時系列分析は適切でないことから,要因別分析による推計(水使用に関連する要因に着目して,関連する社会経済要因の動きと連動させて推計する方法や水量を構成する要因に分割する方法等の総称。時系列傾向分析や回帰分析等の方法を組み合わせて用いる。
)を用いた。次いで,
設計指針においては,水使用と観光との関連性が示唆され,説明変数の例として観光客数が明記されているところ,平成15年から平成23年の実績値と観光客数との間に約0.7の相関係数が確認されたことから,観光客数を基礎に一日平均有収水量を算定することとした。そして,市総合計画の推計によれば,将来,観光客数の増加が見込まれることから,
増加を見込み,1万7359㎥/日(目標年度)と予測した。
さらに,新規需要として,新規に建設する給食センター(230㎥/日)に加え,現在は専用水道(地下水による自己水源)を利用する施設について水道への転換による水量(5施設合計1179㎥/日)を見込んだ。
本件各有識者が,業務営業用水の需要予測の手法は妥当である旨の意見を述べていることからも,上記需要予測は妥当である。
工場用水について
a
大口需要
丙株式会社(以下「丙株式会社」という。
)が大口需要に位置づけ
られるところ,丙株式会社は,平成27年度から修繕船事業中心への経営方針の転換をしており,市の丙株式会社に対する実態調査の結果,修繕船事業は,作業当初に船体洗浄作業において大量に水道を使用し,それ以外はあまり使用しないことになること,丙株式会社の一日平均有収水量(使用水量)を約500㎥/日と想定した場合,平均的な船体の洗浄作業における使用水量は約2200㎥/日であり,かつ同じ日に複数のドックで船体の洗浄作業が行われる事態が想定されることが判明し,一日最大給水量と一日平均給水量の差が激しいパルス(脈動)的な使用形態になることが予想された。
設計指針においては,後記ウ

のとおり,一日最大給水量は,用途

別一日平均有収水量を合算した後に,全体の負荷率(本件水需要予測においては80.3%)で除することにより算定することとされているが,この手法では,622㎥/日(計算式500㎥/日÷80.3%≒622㎥/日)となり,丙株式会社の修繕船事業において想定される上記約2200㎥/日の給水量に対応できない。そこで,過去の修繕船事業の実績値に基づき,修繕船一隻当たり平均使用水量を2
206㎥/日と算出し,丙株式会社が6つのドックのうち2つのドックで同じ日に船体洗浄に伴う脈動的な使用が生じることが想定できたことから,丙株式会社の水量を4412㎥/日(2206㎥/日×2=4412㎥/日)と予測した。
本件各有識者が上記の予測手法について合理的であることを是認していることからも,上記需要予測は妥当である。
b
小口需要
市は,本件水需要予測において,小口需要について,過去の実績値に渇水や経済不況の影響が強く出ており時系列傾向分析は適切でなく,また,適切な要因が確認できないため要因別分析も適切ではないと判断した。設計指針においては,過去の水需要の変動から一定の傾向を見出すことが困難な場合等には典型的な推定手法によれず,過去の水需要の平均値や最大値等を用いることもあるとされている。市は,上記設計指針を踏まえ,過去20年実績の平均値である1114㎥/日を採用した。平成17年から平成19年に渇水の影響を受けていることや,過去に単年度の回復量が大きい年度が複数あることなどからすれば,上記予測は合理的なものである。
中水道について
市においては,下水処理水を原水とした再生水事業を行っており,こ
れが中水道に該当する(中水道は,トイレの処理水などに利用されるものである。。市は,平成15年度に施設能力500㎥/日(最大供給可)
能水量)として再生水の共用を開始したが,事業開始以降は70㎥/日程度の実績にとどまっている。もっとも,渇水リスクの軽減を図るために市は事業を継続しており,再生水施設の維持管理費を賄うことができる150㎥/日を目標値としたものである。
原告らは,中水道の供給量は市の努力次第で増加することができると
主張するが,上記の事情のほか,再生水は処理から供給までの全施設を上水道と別系統で整備する必要があり,遠隔地に再生水需要があっても容易に供給できるものではないこと,再生水の利用者においても別系統の配管工事の費用負担が生じることから,中水道の水量は市の努力によって増加することができるものではない。

用途別一日平均有収水量以外の予測値について
負荷率
設計方針においては,負荷率の設定に当たり,過去の実績値や気象,渇水等による変動条件にも十分留意して,各々の都市の実情に応じて検討することとされている。市は,本件水需要予測において,平成6年度大渇水を契機に市民の水使用形態が大きく変化していることから,過去20年の実績のうち,平成6年の大渇水時を除いて最も変動幅の大きい(すなわち,負荷率の小さい)平成11年度の80.3%を採用した。以上より,計画一日最大給水量は10万5461㎥/日(計算式一日平均給水量8万4685㎥/日÷負荷率80.3%=10万5461㎥/日)とした。
安全率及び計画取水量
設計指針においては,計画取水量は,計画一日最大給水量に10%程度の安全率を加算して決定することを標準とするものとされている。市は,これを踏まえ,本件水需要予測において,計画一日最大給水量11万7178㎥/日(計算式10万5461㎥/日÷(100-10)%=11万7178㎥/日)を計画取水量とした。


保有水源について
市の水源は,

河川法23条の許可を受けた水源(6ダム及び3取水

場の計9か所,合計7万7000㎥/日。以下「本件各許可水利権」という。,


市の慣行水利権(二級河川相浦川水系相浦川〔以下「相浦川」

という。
〕の三本木取水場及び四条橋取水場,合計2万2500㎥/日。
以下「本件各慣行水利権」という。,

定豊水取水,5000㎥/日)


市の暫定豊水水利権(川棚川暫

湧水(岡本水源地,1000㎥/日)

となっている。
を安定水源といい,

ないし

を不安定水源というところ,不安定

水源は,水量が豊富なときにのみ取水できる水源や暫定的な水利権に基づくものなどであり,取水の権利又は水量の点で年間を通して安定した取水を確保できない水源である。
すなわち,水道法における水源の認可を受けるためには,取水の権利及び水量のいずれの点においても取水が確実であることが見込まれること(権利的安定性及び量的安定性)が条件とされ,河川取水に当たっては河川法23条の安定水利権の許可を受けることが条件となっている。同条の許可は,10年に1回程度の渇水時の河川流量において,他の既得水利権量や河川の維持流量を控除した上で,年間を通して確実に取水可能な水量の範囲で許可されるものである。したがって,市の保有水源量は,上記安定水源である

の本件各許可水利権の合計7万7000㎥

/日であるとみるべきである。
他方で,不安定水源は,取水実績の面で年間を通じた安定した取水ができないことから,河川法23条の許可要件を満たさず,水道法上の認可水源となり得ないから,市の保有水源に含めるべきではない。
原告らは,不安定水源のうち慣行水利権は市の保有水源に含めるべき安定した水源であると主張する。
しかし,慣行水利権は,現在の河川法の施行前から存在する水に対する事実上の支配を基に社会的に承認された権利で,河川法87条により,同法23条の許可を受けたものとみなされる水利権であり,許可水利権と異なり,占有の目的及び条件,占有している流水の量並びに流水の占
有の場所などの権利内容が,旧来からの慣習に委ねられており,不明確な点が多い。また,慣行水利権を有する者は,河川法88条,河川法施行令48条により上記権利内容等を河川管理者に届け出なければならないが,届出がされていても更新の機会や取水量の報告義務がないため,当該届出内容の正確性は不明であり,河川管理者が慣行水利権の実態を正確に把握することは困難である。
そして,水道法7条に係る同法施行規則1条の2第4号が,認可申請における添付資料として取水が確実かどうかの事情を明らかにする書類を定め,水道法8条に係る水道法施行規則6条10号が,取水に当たり河川法23条の規定に基づく許可を必要とする場合には当該許可を受けているか,受けることが確実と見込まれることを必要としていること,水道法5条1項2号が,水道施設の備えるべき要件として,貯水施設が渇水時(一般に10年に1回程度の頻度で生じ得るものと解される。)
においても必要量の原水の供給に必要な貯水能力を有することを定め,設計指針等も,上記と同じ能力を備えた施設整備を進めていくことを求めている。以上からすれば,概ね10年に一度の規模の渇水年度に取水できていない水源は,それ以外の年に当該水源から安定した取水ができていたとしても,保有水源として考慮することはできない。
本件各慣行水利権の届出水量は,三本木取水場が4500㎥/日,四条橋取水場が1万8000㎥/日となっているが,取水実績をみると,10年に1回相当の少雨であった平成19年度においては,河川からの取水を最大限行っていたにもかかわらず,三本木取水場では上記届出水量分を取水できなかった日が多く,四条橋取水場では上記届出水量を取水できた日はなかった。また,県が調査した区間別の維持流量(当該流量が定められた地点より下流における流水の占有のために必要な流量)は,三本木取水場を含む区間が0.035㎥/秒(3024㎥/日),

四条橋取水場を含む区間が0.105㎥/秒(9072㎥/日)であるところ,上記平成19年度において上記維持流量を確保しようとすると,本件各慣行水利権から全く取水できない日が10日以上存在することになる。
したがって,本件各慣行水利権は取水量的に安定しておらず,本件各慣行水利権を保有水源に含めることはできないとの市の判断は,妥当である。
また,原告らは,業務営業用水と工場用水の水需要に小佐々地区等の水需要を含める以上,小佐々地区等の保有水源も市の保有水源に含めるべきと主張する。しかし,市は,本件水需要予測を行った当時,合併地区と佐世保地区の水道施設の統合計画を策定していたところ,小佐々地区を含む合併地区の既存の水道施設はいずれも小規模で,これらを継続使用すると費用面で経営効率が悪いこと,平成27年度に北部浄水場の供用が開始され,さらに石木ダムが建設されれば,合併地区の必要水量は同浄水場から送水可能であることから,合併地区においては同浄水場からの送水を前提に施設を統合し,既存の小規模浄水場を廃止することとした。このとき,上記小規模浄水場と一体として運用していた既存水源は,佐世保地区の浄水場に導水しない限り運用できなくなるが,市水道事業の財政面や業務遂行能力等を考慮すると,統合と同時期に導水管を整備することは困難であり,かつ,水源不足が深刻な小佐々地区等との統合が急がれることから,安定した水源として活用の見込みがないものは廃止し,安定水源については今後,統合計画の進捗に合わせて検討,判断することとしたもので,このような市の方針には合理性がある。オ
原告らは,上記の個別の予測値に関する主張に加えて,
歴代の水需要予測の手法が変遷している旨,

市が実施した

過去の予測値と実績値とが

乖離していることを捉えて,市の水需要予測が石木ダム建設の必要性を導
くための数字合わせである旨の主張をする。
しかし,

については,処分行政庁は,事業認定に当たり,当該事業認

定の基礎となる資料の内容の適正性を審査すれば足りるのであって,本件事業認定においても,水需要予測については処分当時の最新の予測内容の適正性を審査すれば足り,過去の水需要予測の内容や手法の変更の有無,理由について審査する必要はない。さらに,水需要予測は,過去の水需要予測から時点修正で対応することができる連続性を有するものではなく,種々の要素に基づき,評価時点における最新の予測を行うもので,手法の変化は考慮すべき各要素の内容の変化に伴い必然的に生じたものである。設計指針においても,水需要予測の予測手法は,過去に実施した手法に固定されるものでなく,その時点における社会経済情勢や地域特性等を反映させ,実態と近い予測とするために弾力的に運用すべきものとされている。については,水道施設整備における水需要予測は,長期的かつ先行的な観点から,将来の社会の発展にも対応できるものであることが求められ,その数値は,リスク管理の観点から将来の安定性及び安全性を見込んで設定される負荷率及び安全率を考慮して算定されるものであるから,実績値が水需要予測の数値を下回ることは十分に想定され,反対に,水需要予測の数値と同程度の実績値がある場合には水道供給能力に余力がないことを意味し,リスク管理の観点から不適切な予測である。
また,水需要予測は,計画取水量,すなわち,将来の安定供給の確保上必要となる水源施設の能力規模を算定するものであるのに対し,実績値は,現在保有している水源施設の能力の範囲内でのみ記録されるものであることからも,実績値が水需要予測の数値を下回ることは十分に想定され,このことによって水需要予測が不合理であるということにはならない。流水の正常な機能の維持のための必要性

河川管理は,河川法に基づき,河川法施行令10条2号及び3号に列挙
された流水の清潔の保持や河口の閉塞の防止等の事項を総合的に考慮して定められた流量(維持流量)と,維持流量が定められた地点よりも下流における流水の占用のために必要な流量(水利流量)の双方をいずれも満たす流量が,当該河川の主要な地点で確保されている必要がある。
そして,利水基準年(10年に1回程度の河川流量の少ない年)において上記各流量を満足する流量(正常流量)を確保することができない場合には,ダム等によって補給することが必要となり,当該補給に必要なダム容量(不特定容量)を確保することを要する。

川棚川においては,渇水期の用水不足が著しく,特に昭和42年,昭和49年及び平成6年の渇水被害が深刻であった。そこで,流水の正常な機能の維持を図るために必要な流量(1月から3月につき0.090㎥/秒,4月から12月につき0.120㎥/秒)を石木ダムにより確保し(利水容量のうち流水の正常な機能の維持を目的とするものは74万㎥である。,)
川棚川における既得用水への安定的補給と河川環境の改善を図り,川棚川水系を渇水に強くするための必要性がある。
洪水調節効果(治水事業)のための必要性


川棚川の治水計画は,川棚川水系基本方針及び川棚川整備計画に基づくものであるが,河川法16条及び16条の2は,河川整備基本方針及び河川整備計画を定めなければならないとするものの,内容自体を直接規律するものではなく,策定に当たって複数の要素を総合的に考慮すべきことを規定している。これは,河川整備計画等の策定に当たっては,政策的,技術的見地からの判断が必要不可欠であり,高度に技術的かつ専門的事項を含むことから,河川管理者の広範な裁量に委ねている趣旨であり,同法施行令10条の2において,河川整備基本方針において定めなければならないとされている基本高水,計画高水流量及び計画高水量についても,また,これらに付随する事項についても,県には広範な裁量が認められる。

基本高水流量の算定方法の妥当性について
総論
基本高水流量は,技術基準等に沿って,具体的な計算根拠となる数値やデータ等に基づいて,適切に設定されたものであり,その大まかな流れは,県が平成19年3月付けで策定した「二級河川川棚川水系河川整備基本方針・整備計画参考資料治水計画編」におけるフロー図(別紙10)のとおりであり,計画規模を決定した上,降雨解析及び流出解析を行った上,基本高水流量を決定したものである。
計画規模の決定
a
県は,技術基準,技術基準解説及び中小河川手引きを踏まえ,平成11年に,流域の重要度の評価指標と計画規模を対応させた長崎県二級河川流域重要度評価指標(以下「県評価指標」という。
)を設定し
た。
県評価指標においては,計画規模の設定に当たり,
想定氾濫区域内の宅地面積,
額及び

同区域内の人口,

想定氾濫面積,
同区域内の資産

同区域内の工業出荷額の5つの評価項目(以下,上記各評価

項目を「項目

」などという。
)のうち3項目以上適合することを基

本とするが,県庁所在地をはじめとする県内主要都市を流れる河川については,過去に大規模な洪水被害を受けていることや,大規模開発が計画されていることなどの流域状況を総合的に判断して決定するものとした。そして,計画規模の決定に当たっては,地理的特性や過去の災害の特性を含めた様々な要素を考慮する必要があるところ,県は,山岳丘陵が海まで迫る急峻な地形となっているため,河川は山から海までの距離が短く,急勾配であり,豪雨が降ると短い時間で増水し,降雨がやむと短い時間で減水するほか,台風の常襲地域であり,梅雨前線停滞による大雨が頻発するという地理的地形的特性がある。県は,
このような地理的地形的特性や既往洪水による被害の実態も踏まえ,計画規模1/100の指標値は,項目
㏊以上,項目

が3000人以上,項目

が70㏊以上,項目

が40

が100億円以上,項目

が30億円以上と設定した。
川棚川は,項目
人,項目
項目

が472㏊,項目

が927億円,項目

が59㏊,項目

が2700

が70億円であり,上記5項目中,

を除く4項目が基準値を超えていることから計画規模を1/1

00としたものである。また,川棚川は,長崎県内の同規模河川の中で項目







が平均値より大きく,また,項目

は平均値程

度であることからも,上記計画規模は適正である。
なお,項目

(想定氾濫面積)について,河川計画の計画規模は,

事業を実施する前に決定することが技術基準,技術基準解説及び中小河川手引きの文理上明らかであり,事業の進捗に応じて算出するものではないから,河道整備前の昭和50年頃の河道状況を前提に氾濫想定面積を算定したことは妥当である。
b
計画規模は,川棚川水系のこれまでの治水事業においても検討されてきた。すなわち,県は,昭和31年8月洪水を契機として,昭和33年から中小河川改修事業に着手した。その時点では既往最大主義に基づき,上記洪水の実績洪水対応としていたが,昭和39年に制定された現行河川法及び昭和33年に制定された建設省河川砂防技術基準(案)計画編(以下「技術基準(案)計画編」という。
)に従い,既
往洪水の降雨の超過確率規模,事業の経済効果及び計画対象地域の重要度を総合的に考慮し,昭和50年には1/100と設定した。県は,その後の技術基準や工実手引きに基づき,河川の重要度の評価指標や他河川とのバランス等を総合的に考慮し,計画規模の妥当性を評価し,川棚川については,平成9年に計画規模1/100(基本高水のピー
ク流量は1400㎥/秒,計画高水流量1020㎥/秒)とする工実計画について,建設大臣の許可を得,平成17年に策定された川棚川水系基本方針では,上記のとおり,県評価指標に基づき1/100と設定したものである。
水文資料の収集整理
川棚川流域内外の観測所の雨量資料の存在状況を調査,整理した。流域平均雨量の算定
川棚川流域の流域平均雨量(河川の流域ごとに面積平均した実況及び予想の雨量)は,同流域に雨量計が存在しなかった昭和22年から昭和60年までは,近隣の佐世保観測所を標本として,同観測所と川棚川流域の各観測所の雨量を推算した上で,ティーセン法(複数の雨量観測所での観測結果から流域平均降雨量を算定する一手法)によって算定した結果,上記期間の川棚川流域平均雨量を,計算式[佐世保観測所雨量×0.94]と算出した。また,昭和61年以降は,実績降雨を基にティーセン法により算出した。
洪水到達時間・計画降雨の継続時間設定
洪水到達時間は,ピーク時差法,重心法,等流流速法及びクラーヘン法の4手法により算定した結果,1.9時間から3.8時間程度となったことを踏まえ,3時間とした。
降雨継続時間は,一雨降雨(無降雨期間,無降雨の条件及び継続時間の3条件を満足する,独立事象として扱うことのできる降雨のこと)の降雨継続時間の頻度分布を調査した結果,24時間程度あればほぼ全ての一雨降雨の降雨継続時間を包絡できる(ほぼ全ての一雨降雨の継続時間が24時間以下であることを意味する。
)こと,また,主要降水につ
いて24時間雨量が総雨量に占める割合を調査した結果,主要洪水12洪水のほぼ全てにおいて24時間雨量により総雨量を包絡できる(すな
わち,
[24時間雨量÷総雨量≧1]となる)ことから,24時間とし
た。
確率雨量
確率雨量とは,再現期間がある年数である雨量をいい,再現期間T年の雨量をRT,RTの超過確率をW(RT)
,雨量の年平均生起回数をm
としたとき,計算式[T=1/mW(RT)
]から求められる。
平成9年の工実計画策定時,昭和22年から平成6年までの佐世保観測所の雨量資料を基に,ハーゼン法,トーマス法,グンベル法,対数正規法及び岩井法の5つの確率計算手法によって算出された3時間雨量(上記

の洪水到達時間内雨量)と24時間雨量(上記

続時間内雨量)の平均値の直近上位値に,上記

の計画降雨継

で算出した係数0.9

4を乗じて,川棚川流域の3時間雨量を203.0㎜,同24時間雨量を400㎜とした。なお,近年までの降雨資料を追加し,12の確率計算手法により上記各確率雨量の妥当性を確認したところ,新手法による各確率雨量の範囲に含まれていることから,上記数値を妥当と判断した。検討対象降雨(群)の選定
対象降雨群は,時間雨量が整備されている昭和22年以降の洪水から,上記

の年超過確率1/100の24時間雨量である400㎜の2分の

1に当たる24時間雨量200㎜以上の洪水を抽出し,以下の12の洪水(以下,これらの洪水をまとめて「本件主要洪水」といい,個々の洪水については,発生年を冠して「昭和23年洪水」などという。
)を選
定した。
昭和23年9月11日

昭和28年6月26日

昭和30年4月15日

昭和32年7月25日

昭和42年7月9日

昭和53年8月6日

昭和55年8月29日

昭和57年7月23日

昭和63年6月2日

平成元年7月28日

平成2年7月2日

平成3年9月14日

検討対象降雨の拡大(引き伸ばし)
・棄却検討
本件主要洪水の実績降雨群について,一般的な引き伸ばしの方法であるⅠ型(計画継続時間内雨量を計画規模の確率雨量まで引き伸ばす方法)
,Ⅱ型(洪水到達時間内の雨量のみを上記確率雨量まで引き伸ばす方法)及びⅢ型(計画継続時間内雨量と洪水到達時間内雨量の両方を上記確率雨量まで引き伸ばす方法)のうち,Ⅲ型により引き伸ばし,到達時間内の3時間雨量の引き伸ばし率が2倍程度を上回った3洪水を棄却(除外)し,9洪水を対象とした。
流出量の算出・基本高水の決定
貯留関数法(流域からの流出高と流域内の雨水貯留高から流域の降水量による流出量を推定する方法)により流出計算を行った結果,流出量は昭和42年洪水を引き伸ばした後のハイドログラフ(以下「昭和42年洪水型」といい,以下,洪水型という場合,引き伸ばした後のハイドログラフを指す。
)が最大となったことから,基本高水のピーク流量と
して,昭和42年洪水型を採用し,このときの基準点山道橋での最大流量が1391.1㎥/秒であること,基本高水流量は最大流量を10㎥/秒単位に切り上げるとされていることから,基準点山道橋における基本高水のピーク流量を1400㎥/秒とした。
なお,原告らは,1時間当たりの降雨強度を検討して異常な洪水型を棄却すべきであると主張するが,降雨強度は,上記のとおり既に検討がなされている3時間雨量(洪水到達時間内雨量)と同義であるところ,改めて1時間当たりの降雨強度を考慮して棄却するというのは技術基準等と異なる独自の手法であって妥当でない。また,県においては,昭和57年7月の豪雨で広範囲に150㎜/時以上の雨量を観測しており,
平成28年6月にも長崎市で136㎜/時の雨量を観測していることから,昭和42年洪水型の引き伸ばし後の最大降雨である138㎜/時は実績降雨と比較しても過大ではない。

石木ダム建設による治水効果について
技術基準は,計画高水流量は,基本高水を合理的に河道,ダム等に配分して,主要地点の河道,ダム等の計画の基本となる高水流量を決定するものであり,河道やダム等の計画高水流量を決定するに際しては,ダム等の洪水調整施設の設置の技術的,経済的,社会的及び環境保全の見地からの検討,並びに河道の現河道改修,放水路への分流等についての技術的,経済的,社会的及び環境保全の見地からの検討をすべきと定めている。
川棚川整備計画においては,技術基準に記載された検討事項を考慮した上で,基準点山道橋の基本高水1400㎥/秒に対し,同基準点における既存ダム(野々川ダム)による調節後の流量が1320㎥/秒であることを考慮して,河道と洪水調節施設(ダム)の最適組合せの検討を行うとともに,後記4のとおり治水代替案についても検討した結果,石木ダム建設と河道改修によった場合が最も合理的と判断し,これによる基準点山道橋の計画高水流量を1130㎥/秒と決定し,同基準点において,石木ダムで190㎥/秒を調節することにしたものである。他方,石木ダム建設地点における基本高水のピーク流量280㎥/秒のうち220㎥/秒を調節し,60㎥/秒(最大70㎥/秒)を放流することとし,石木ダムによる洪水調節容量については,人工的な操作が不要な自然調節方式とした上で,最大となる昭和63年型洪水を基に計算した容量161万9400㎥を1.2倍し,1万㎥単位以下を切り上げて195万㎥としたものである。
石木ダムを建設せずに堤防の嵩上げ等の河道整備を行うことによる治
水案は現実的ではない。
a
堤防を一部区間であっても嵩上げする場合,計画高水位を現状から上げることになり,洪水をできるだけ低い水位で流すという治水の大原則に反する上,中小河川手引きにおいて,計画高水位の設定に当たっては,不等流計算に局所的な水位上昇量を加えて算出された各地点の水位を包絡するように直線近似で設定し,直線近似する区間をあまり短く設定しないように注意すべきものとされていることにも反する。また,堤防高についても,余裕高を計画高水位に加算すべき高さとして規定されているところ,余裕高とは堤防の構造上必要とされる高さの余裕のことであり,計画上の余裕を含むものではない。原告らは,河川管理施設等構造令20条1項ただし書による堀込河道(堤内地盤高が計画高水位より高い状態の河道)における余裕高の特例について主張するが,同ただし書に該当する場合,堤防の高さは背後地の状況や上下流又は対岸の堤防の高さ等を考慮の上決定するものとされ,背後地が人家連坦地域である場合には,計画高水流量に応じ所定の余裕高を確保することが多く,川棚川の下流部および上流部は,背後地が人家連坦地域であること及び築堤区間が存在することから,河川管理施設等構造令に基づく余裕高を計画高水位に加算することとし,河口から石木川合流部地点までの間の計画高水流量を上記構造令に当てはめ,余裕高を1mとしているものであり,嵩上げをしなくても計画高水水量1130㎥/秒を安全に流下させるとはいえない。
さらに,原告らが主張する石木ダムが存在しない場合の計画高水位1320㎥/秒(基準点山道橋における基本高水のピーク流量1400㎥/秒から野ノ川ダムによる調節分80㎥/秒を除いた流量である。
)を用いたとしても,全21地点中15地点で洪水を安全に流す
ことのできる計画高水位を最大で43.9㎝超えてしまうことになる。
そして,上記のとおり堤防の余裕高は1m確保する必要があることから,嵩上げの影響範囲は原告らが主張するよりも広く,現実的な計画ではない。
b
河道掘削案についても,河道の縦断形は,川床の安定等を考慮して定めるが,一般には現況河道の縦断形を重視して定めるものとされること(技術基準)
,河床の掘削は河口部が堆積空間であることからそ
の維持管理に困難をきたす場合があるので極力避けるものとし,やむを得ない場合には十分な対策を考慮する必要があるとされていること(技術基準解説)から,河床の安定が図られず,現実的な計画とはならない。仮に原告らの算定している石木ダムがない場合の計画高水位を用いたとしても,全31地点中23地点で洪水を安全に流すことのできる計画高水位を越えてしまうこととなり,その掘削の影響範囲は原告らの主張する限度にとどまるものではない。なお,本件ダム検証において検証している河道掘削案では,約3.3㎞の区間において深さ1.2mの連続する河床部の掘削のみならず,それに伴い,低水護岸,堰の改築,橋梁基礎の保護,導流堤などの工事が必要となることから,現実的な計画とはならない。


過去の洪水の原因分析について
住民の生命・身体や財産をできる限り水害から守るという河川管理者の責務に鑑みれば,洪水が発生し,あるいは発生すると予想される場合には,それが河川の氾濫とは別の原因によるものと確認することができない以上,河川の氾濫を前提に治水対策を検討するのが,あるべき基本的姿勢である。この点を措いても,県は,平成2年洪水について,外水の形跡の写真等の資料収集などの洪水痕跡調査を実施した。その結果,洪水時の記録写真からも,浸水被害の原因が,川棚川の水位が計画高水位を遥かに超え,さらに江川橋付近では洪水が堤防を越えたことから浸水被害が拡大したこと
を確認し,また,川棚川に合流する野口川等からの氾濫についても,川棚川の水位が計画高水位を超え堤防ぎりぎりに迫り又は越流したことが一因であると判断された。
3
起業地がその事業の用に供されることによって失われる利益,及びこれと得られる公共の利益との比較衡量について
失われる利益について
県は,任意に条例に基づく環境影響評価を実施し,
「川棚川総合開発事業
石木ダム環境評価書」を作成した。同評価書及びその他の調査によれば,本件起業地及びその周辺の土地における動物への影響は小さく,植物については環境省レッドリスト絶滅危惧Ⅱ類に掲載されているものについて必要な保全措置を講じることとし,工事中は環境調査を行うことなどにより,本件事業の実施による環境への影響は実現可能な範囲内でできる限り回避又は低減される。
また,本件起業地内には文化財保護法に基づく周知の埋蔵文化財包蔵地は存在せず,工事施工中に遺跡等が確認された場合は県教育委員会との協議により記録保存等の措置を講じることとしている。
したがって,本件事業の施行により失われる利益は軽微である。
比較衡量について
上記2の被告の主張のとおり,本件起業地が本件事業の用に供されることによって得られる公共の利益は,
(利水)


市の水道用水の安定的な供給への寄与

流水の正常な機能の維持及び

川棚川流域の洪水被害の軽減

(治水)という極めて大きいものである。
他方で,上記

のとおり,失われる利益及びそれが失われることによる影

響は軽微である。
したがって,得られる利益は失われる利益に優越している。
4
代替案と比較した計画の合理性について

代替案の検討の必要性について
法20条3号の要件は,事業計画そのものが適正かつ合理的であって公共性を有することを求めるものであるから,代替案との比較は,その要件の判断において論理必然に求められるものではないが,社会的,技術的及び経済的観点から代替案と比較検討することは,当該事業計画の合理性を判断し,申請事業の公益性を明らかにする上で有効な手法の一つであることから,本件事業認定においても代替案との比較検討を行っている。
治水代替案

川棚川整備計画等における検討
県は,川棚川整備計画等において,技術基準を踏まえ,川棚川水系における治水代替案として,
遊水地+河道改修案及び

河道改修案,

ダム+河道改修案(申請案)


放水路案を設定し,上記4案について経済性

のみならず社会性,自然条件までを含めた総合的な見地から比較検討を実施した。
なお,上記のうち,
引堤及び

河道改修案の検討においては,

河道の掘削,

堤防の嵩上げの三つの方法が考えられる。上記

による対応は,

破堤等により洪水が氾濫した場合に氾濫流がより高いところから押し寄せ,災害ポテンシャルが増大することから適当でない。また,上記

のみによ

る対応は,川棚川の河口に面する大村湾の海底が浅いため河床の維持管理が困難な上,河床に送水管が埋設されていることから社会的影響が大きく適当でない。そこで,本件事業認定申請における代替案としては上記

より検討している。
そして,上記4案を比較検討した結果の概要は,別紙11のとおりであり(なお,同別紙の河道改修案の「治水対策の概要」欄に記載された「河床整正程度」とは,軽微な掘削で,平均的な掘削深にして60㎝以内の掘削を指す。以下同じ。,そのうち主要な点は,後記


ないし

のとおりで

ある。
このように,申請案(

案)が経済性及び社会性の面から有利と判断さ

れており,実質的な代替案の検討がなされている。
河道改修案(引堤案)


-

案)

川棚川本川で低水護岸及び高水敷部の小段撤去,河床整正程度,引堤,橋梁架替え(5橋)並びに堰の改築(1基)が,石木川で引堤,掘削,河道整正程度,橋梁架替え(8橋)及び堰の改築(17基)等の構造物の大幅な改築等が必要となる。また,家屋48戸,用地9.4㏊が事業の対象となり,事業費は147.2億円であり,現行案(

案)の1.

07倍となる。さらに,自然条件では,川棚川,石木川ともに河川環境が変化し動植物の生息に影響を与えることが考えられる。
石木ダム+河道改修案(申請案)


案)

川棚川本川で低水護岸及び高水敷部の小段撤去並びに河床整正程度が,石木川では治水容量195万㎥規模の石木ダム建設,河岸掘削並びに河床掘削による河床整正及び管理用通路整備が必要となる。石木ダムでは,67戸の家屋移転や水没に伴う生活再建対策が必要となり,用地54㏊が事業の対象となり,事業費は137.5億円である。川棚川及び石木川では,ほぼ現況の河川環境を保持できるが,ダム湛水区域内では自然環境が変化する。
遊水地+河道改修案(

案)

川棚川本川で低水護岸及び高水敷部の小段撤去並びに河床整正程度が,石木川では,

案同様の構造物の大幅な改築等が必要となる。また,遊

水地の建設のために合計35.9㏊の水田の用地補償が必要となり,水田用地の減少は営農に悪影響を生じ,現在まで推進してきた圃場整備に大幅な手戻りが生じるとともに,新たに家屋4戸,用地43.8㏊が事業の対象となり,事業費は187.4億円で

案の約1.36倍となる。

川棚川ではほぼ現況の河川環境を保持できるが,河川沿いに大規模な遊水地を設けるために既設道路が遊水地により分断され,遊水地周辺に既設道路を付け替えることとなり,道路延長が長く見通しも悪くなることから,河川と集落とのアクセスに悪影響を与え,また,石木川では河幅の増大により河川環境が変化し,動植物の生息に影響を与えることが考えられる。
放水路案(

案)

川棚川本川では

案同様の整備が,石木川では直径7.0m,延長2

500mの放水路2連の建設とともに,距離標(川棚川合流点を0k000mとして上流に向けてプラスで表示する方法で位置を表示したものをいう。以下同じ。
)2k000mより下流部では
同距離標より上流部では
15.6億円であり,

案と同様の整備,

案と同様の整備が必要であり,事業費は21
案の約1.57倍となる。放水路は,トンネル

及び呑口部,吐口部が大規模な施設となり,施設完成までに長期間を要する。また,放流先が大村湾となるため,漁業に与える影響等についても十分な調査を行った上で適切な対応を行う必要がある。

本件ダム検証における検討
さらに,被告が本件事業認定の適否を判断するに当たっては,上記アに加え,本件ダム検証における治水代替案の検討についても評価しており,河道改修案(上記アの

案)の検討においては,原告らが最適案であると

主張する河道掘削案(同

-

案)及び堤防嵩上げ案(同

-

案)につ

いても検討し,申請案(

案)が最も有利であると判断している。本件ダ

ム検証は,ダム検証要領細目に基づいており,川棚川水系においては,ダム検証要領細目において示された,河川を中心とした対策12案,流域を中心とした対策14案の計26案について,川棚川流域における適用可能性につき概略評価を行い,概略評価において適用可能と抽出された8案の
治水対策の概算事業費を算定し,安全度,コスト,実現性,持続性,柔軟性,地域社会への影響及び環境への影響の複数の評価軸で総合的に評価した結果,申請案が有利と判断されたものである。
利水代替案

市は,石木ダム案(申請案)のほか,海水淡水化案,地下ダム案及び地下水案の4案を比較検討しており,石木ダム案(申請案)が最も妥当な案である。


また,市が平成25年3月に実施した水道施設整備事業再評価においても,申請案のほか14案の検討を行い,海水淡水化案を除く13案は技術的,法的又は量的可能性等の面で取水量確保の可能性がなく,海水淡水化案も地域社会への影響,技術的課題,環境への影響,事業費等の面から申請案が優位であるとしている。
ダムサイトの候補地の代替案等
県は,石木川におけるダムサイトの候補地について,上流サイト案,中流
サイト案及び下流サイト案(申請案)を検討している。申請案は,他の2案に比べて支障家屋は最も多くなるが,ダムの規模が最も小さく施工性に優れ,貯水効率も最も優れており,事業費が最も合理的であることから,申請案を選択したことは妥当である。
(原告らの主張)
1
要件について
法20条3項は,
(被告の主張)記載



の要件に加え,

技術基準に適

合していることが具体的要件である。
本件事業は,そのいずれの要件をも満たさない。なお,本件事業は,実態としては憲法29条3項の趣旨に反する違憲な事業であるが,原告らは,本件事業の違憲無効を主張するものではなく,少なくとも法に違反する違法な事業であることを主張するものである。

2
起業地がその事業の用に供されることによって得られるべき利益について水道用水の確保(利水事業)のための必要性について

総論
本件事業の利水の根拠である市の本件水需要予測は,石木ダムを建設する必要性を作出するために,約4万㎥/日が不足するという結論を先に設定した上で,これに合わせて市の水需要を過大に予測し,市の保有水源を過小に予測したものであり,不合理である。
このことは,後記イ以下のとおり,本件水需要予測における各予測値が不合理であることに加え,
していること,

市が実施した過去の水需要予測の手法が変遷

過去の水需要予測と実績値とが乖離していることからも

明らかである。
すなわち,

については,市又は県が昭和50年頃以降に作成した水需

要予測を比較すると,市が石木ダムの必要性を作出するために,そのたびごとに異なる予測手法を使用することにより数値を操作し,存在しない水需要を作出してきたことが明らかである。そして,本件水需要予測の不合理性は,過去の水需要予測と比較してこそ明らかになるものであり,被告は,市が水需要予測の手法を変遷させてきた理由及びその理由が合理的なものであることを主張,立証しなければならないが,被告はこの点について何ら実質的な主張,立証をしていない。
について,一般論として実績値が水需要予測の数値を下回ることがあり得るとしても,本件水需要予測及び過去の水需要予測において,用途別一日平均有収水量がいずれの用途についても予測どおりの実績値になっていないのは,予測手法が誤っているにもかかわらず,市が予測手法を変えず,又は更に不合理な予測手法に変更したためである。

用途別一日平均有収水量について
生活用水について

a
平成8年から平成26年にかけて,市の原単位の実績値は188Lから196Lで推移しており,増加していない。また,市は,全国的に原単位は節水機器の普及や社会情勢の変化などが影響して減少しているにもかかわらず,市の原単位が増加傾向にあるのは,節水どころではなく,我慢をしており一般的な受忍限界を超えているからであると述べるが,市水道局が公開質問の席上において市民が我慢していることを示す根拠がないことを認めたように,この点に根拠はない。また,市は,平成6年から平成7年にかけての渇水の苦しみを繰り返してはならないとして渇水の防止を強調するが,事業計画に渇水対策は挙げられていない。
また,被告は,石木ダムが完成して水不足が解消されれば,市民は水使用を抑制しなくなり原単位が上昇すると主張するが,これは石木ダムの建設により需要が増加するというもので,需要の増加に対応するために石木ダムを建設する必要があることの説明になっていない。さらに,石木ダムが完成した場合,水道代は当然に値上がりするが,その場合,元々節水意識が高く節水技術も有している市民が高価な水を従前以上に使うはずはない。
市は,平成19年水需要予測においても原単位の上昇を予測したが,実際には原単位は上昇しておらず,市の予測の不合理性を裏付けるものである。

b
市が実施した全国他都市の平均値との比較は,前提となる全国他都市の数や内容,選定基準,市の上下水道事業経営検討委員会の資料として示された,市がアンケートを実施した14都市との関係,他都市における生活用水の定義等,不明な点が多く,信用性がない。また,仮に他都市の回答内容に信用性があるとしても,市における比較検討過程や公表方法が恣意的である。

また,本件各有識者意見は,上記のとおり不合理な市の需要予測を基礎資料としており,この予測に反する資料や意見が市から提示され,又は自ら分析した形跡はない。また,本件各有識者意見は,市の行った推計が設計指針に形式的に合致していることを述べるにとどまっており,ごく限られた範囲についての意見にすぎず,本件水需要予測がそれ以前と違う予測をした理由やその合理性については意見を述べていないから,市の予測が合理的であることの根拠にはならない。
業務営業用水について
a
大口需要(米軍基地及び自衛隊)については,本件水需要予測では,万が一の災害に備えて過去の実績最大値を採用したとされるが,そのような理由付けはいかなる用途にも当たり得るものであって,合理性がない。上記「万が一の災害」とは米軍基地や自衛隊駐屯地等の火災を意味すると考えられるところ,実際にそのような災害は起きておらず,それに備えて上記実績最大値を採用することは不合理である。また,平成12年から平成24年の各水需要予測に示された最新実績年の実績値の推移をみると,実績値は減少を続けている。

b
小口需要(観光業)については,各年の観光客数と使用水量を具体的に比較すると,両者の間に相関関係を見出すことはできない。現に,市は,平成19年水需要予測においては,5つのトレンド式による分析を行ったが,妥当な推算式が得られなかったとして,過去実績を基に予測値を設定していた。そして,小口需要は,観光客数よりも市の給水人口と高い相関関係にある。観光客数と給水人口から多変量回帰分析により小口需要を予測すると,目標年度の平成36年の予測値は1万0911㎥/日となり,市の予測値である1万7359㎥/日は過大である。
また,市は,本件水需要予測から丁施設を従前の大口需要から小口
需要に変更したが,入場者数や使用水量にかんがみれば,丁施設は米軍基地や自衛隊と並ぶ大口需要であり,上記変更には合理的な理由がなく,小口需要と観光客数の相関関係を恣意的に作出するためのものである。その結果,本件水需要予測における目標年度(平成36年度)の予測値を直近実績年(平成23年度)の実績値で除した割合は,平成19年水需要予測以前よりも大きくなっている。
c
新規需要分の専用水道からの転換については,既に自己水源により需要を賄っている営利企業が上水道に転換する必要はなく,市が転換させることになるが,上記企業がこれを承諾する義務はなく,予測には合理性がない。
工場用水について

a
大口需要(丙株式会社)について


丙株式会社の経営方針転換においては,艦艇・修繕船事業(以下
「修繕船事業」という。
)の売上の総売上に対する割合(事業構成
比)を13%(平成23年度実績値)から25%(平成26年度目標値)に引き上げることとしているが,売上高では約86億円(平成23年度実績値)から100億円(平成26年度目標値)と1.16倍になるにすぎない。他方で,新造船事業の平成26年度目標値は,事業構成比が40%,目標額が150億円であり,丙株式会社において新造船事業が中心事業であることに変わりはなく,市が丙株式会社の需要予測の根拠とした「修繕船事業中心への事業方針の転換」は前提を欠く。このことは,その後明らかになった実績値によれば,修繕船事業の売上高が最大である平成28年度において,同事業の事業費率は24%であり,売上高は平成23年度比約1.2倍にすぎないことからも明らかである。
市の調査に対する丙株式会社の回答は,

本件水需要予測の策定

前に実施された分については,
「これまでの倍以上の水量を供給し
て頂くことも十分考えられる」というのは新造船事業と修繕船事業の合算について説明したものであり,丙株式会社全体で平成23年度の丙株式会社の実績値1166㎥/日の2倍の2300㎥/日程度を使用する可能性をいうにすぎない。また,

本件水需要予測の

策定後に実施された分については,そもそも策定後に丙株式会社に意見聴取すること自体,結論を先行させて理由を後付けした証である上,内容面でも,複数のドックで同時に船体洗浄作業を行うことの客観的,具体的根拠は示されていないこと,丙株式会社は自社の使用水量を把握しておらず,市が独自に算出した予測値を追認したものにすぎないことから,市の予測が合理的であることの根拠にはならない。
さらに,市は,修繕船が2隻同時にドック入りする事態が生じる
可能性の頻度を把握しておらず,そのような極めて限定的な場合の使用水量を前提とする根拠は乏しく,仮に上記事態が生じるのが年に数回程度であれば,丙株式会社が必要な水量を事前に貯水若しくは融通し,又はドック入りの日を調整するなどして,丙株式会社自身で対応すべきであって,丙株式会社も,そのような事態に対応する水量の確保までは要求していない。


また,本件水需要予測においては,用途別一日平均有収水量を基
に一日平均給水量を算定し,これを負荷率で割り戻して一日最大給水量を算定している。ところが,丙株式会社の水需要については,用途別一日平均有収水量を算定する時点で一日最大給水量を採用した。これは,水需要予測の原則を大きく変更するもので,客観的な根拠に乏しい上,上記一日最大給水量を更に負荷率で割り戻すのは二重計上であって,不当に水需要が水増しされている。



本件各有識者意見は,上記のとおり根拠が示されていない丙株式
会社に対する意見聴取結果を前提に妥当である旨の結論を述べているにすぎず,いずれも信用性がない。

b
小口需要について
被告は,市が,工場用水の小口需要に時系列傾向が確認されないことから,過去20年実績の平均値を採用した旨主張するが,平成10年から平成23年までの14年間で同小口需要は4割減少しており,時系列傾向が認められる。今後,同小口需要が上記平均値にまで回復することはあり得ない。
中水道について
市は,水需要を増加させる方向に作用する業務営業用水や工場用水に
ついては過去の水需要予測から増加するとの予測をする一方で,水需要を減少させる方向に作用する中水道については,平成12年水需要予測以降減少するとの予測をしており,市の水需要予測が数字合わせであることを裏付けている。また,市は,原告ら本件収用地の居住者の生活を破壊する石木ダムの建設よりも中水道を含む水源開発に注力すべきであるのに,中水道普及目標を削減しており,不合理である。

用途別一日平均有収水量以外の予測値について
負荷率について
市は,平成16年水需要予測までは「過去10年間の実績値の平均」を採用していたが,平成19年水需要予測で「過去10年間の最低値」に,本件水需要予測では「過去20年間の最低値(ただし,平成6年の数値は異常値として除く。」に変更している。市の負荷率の実績は,平)
成9年以降徐々に改善していることからすれば,上記変更に合理性はなく,負荷率を80.3%に設定するという結論を先行させたものである。安全率及び計画取水量について

市が設定した安全率は明らかでないが,被告の主張によれば,石木ダムの開発水量は,計算式[一日最大給水量÷安全率-保有水源]により算定されるから,安全率は,計算式[100-一日最大給水量÷(石木ダムの開発水量+保有水源)(%)により算出することができ,上記右]
辺に各数値を代入すると,安全率は9.86%であると推測される。しかし,設計指針の規定にかかわらず,実績値が存在する場合には,当該実績値を採用するのが通常である。市の安全率の実績値は3%前後であり,多少の余裕を持たせるとしても5%程度が適切であって,本件水需要予測における安全率は過大である。
また,上記同様の方法により推測した昭和50年から平成19年の各水需要予測における安全率は4.68%から5.61%であり,本件水需要予測のみ大幅に増加している点においても不合理であり,市は,本件事業を成り立たせるために,実績値を無視し,高い数値を採用したものである(なお,上記のとおり,原告らは安全率について「利用量率」と称するべきであると主張している。。


保有水源について
慣行水利権について
a
本件各慣行水利権は,市の保有水源に含めるべきである。
すなわち,慣行水利権は,河川法87条により許可水利権とみなされることから,許可水利権と同等の権利性を有し,渇水時に許可水利権からの取水が慣行水利権からの取水に優先するという関係にはない。そして,許可水利権は,権利の安定性によって安定水利権,豊水水利権及び暫定豊水水利権に分類されるところ,慣行水利権は,豊水の際にのみ使用できる豊水水利権や,ダム設置等を前提に認められる暫定豊水水利権の性質と矛盾するから,安定水利権に含まれる。また,許可水利権は,基準渇水流量から維持流量と既得水利権の流量(水利流
量)を控除した範囲でのみ許可されるところ,慣行水利権も既得水利権に含まれるから,慣行水利権者の同意なく慣行水利権を削減した上で新規の水利権が許可されることはない。したがって,本件各慣行水利権は法的に許可水利権と同等の権利性を有する。
さらに,取水実績を見ても,市の一日最大給水量は,平成9年から平成26年まで,市及び被告が「安定水源」と称する本件各許可水利権の合計である7万7000㎥/日を常に上回っているところ,市及び被告が「不安定水源」と称する水源から最大で2万から3万㎥/日を取水している上,平成19年の渇水時の取水量を調査すると,本件許可水利権と本件各慣行水利権からはほぼ同じ割合が執行(行使)されており,実績面においても,本件各慣行水利権は,市の保有水源に含めるべき「安定」した水源であり,河川法23条の許可要件も満たす。
仮に,10年に一度の渇水時であった平成19年に取水量が減少したとしても,本件慣行水利権による取水量のすべてを保有水源から排除するのは不合理である。
b
市の保有水源の変遷をみると,市は,平成7年に「不安定水源」との用語を使い始め,それから時期を置いて平成11年時点で三本木取水場の慣行水利権と岡本水源地の湧水を「安定水源」から「不安定水源」に変更しており,市が恣意的に保有水源を少なく見せるために「不安定水源」との概念を用いていることが明らかである。

c
被告が指摘する水道法8条,水道法施行規則6条10号の規定は,水道事業経営の認可の条件に関するものであるところ,市は現に認可を受けて水道事業を行っており,また,本件各慣行水利権は本件事業により新たに増える水源ではないから,本件各慣行水利権につき上記認可が必要となることはない。また,水道法施行規則6条10号は,
河川法23条の規定に基づく流水の占用の許可を必要とする場合に許可を受けることを条件とするが,上記のとおり,本件各慣行水利権は河川法87条により同法23条の許可を受けたものとみなされることから,上記許可を必要とする場合に当たらないか,許可を受けるという条件を満たしている。さらに,仮に,被告が主張するように本件各慣行水利権について河川法87条のみなし許可ではなく同法23条の許可が必要であると解しても,本件各慣行水利権について許可を申請すれば,許可の要件を満たし,許可を受けることが確実であると見込まれる。したがって,上記各法条は,本件各慣行水利権を保有水源に含めない理由にはならない。
小佐々地区等の保有水源について
市が,本件水需要予測において,小佐々地区等の水需要を含め,それを基に石木ダムの必要性を主張するのであれば,少なくとも,小佐々地区等の保有水源量を明らかにし,これを有効活用するための費用を算定することが不可欠であるが,市はこれを怠っている。

石木ダムの必要性について
以上のとおり,本件水需要予測は,市の水需要を過大に見積もり,他方で市の保有水源を過小に評価したものであり,これらを適切に評価した場合には,市の水需要は市の保有水源によって賄うことができているから,石木ダムを建設する必要性はない。
流水の正常な機能の維持のための必要性について
否認し,争う。
洪水調節効果(治水事業)のための必要性について


基本高水流量の算定方法の妥当性について
計画規模について
計画規模を低くする(年超過確率1/xのxの値を小さくすることを
示す。以下,高くするという場合は,xの値を大きくすることを示す。)
と,基本高水流量が小さくなってしまい,ダムは不要となるところ,川棚川の治水上,計画規模は100より小さい数字とするのが合理的であるにもかかわらず,県は,石木ダムを建設するという結論を導くために恣意的に計画規模を1/100としたものである。
a
県評価指標が不合理であること
計画規模はより高い方が理想であるが,全ての河川において高い計画規模を求めることは不可能であることから,資源の公平かつ有効な分配という観点から,河川の重要度に応じて計画規模に差を付ける必要があり,全国的なバランス(均衡)が求められる。しかし,県評価指標は,全国的な基準及び他県の基準と比較して,計画規模が高く評価されることになる異常な基準である。
全国的な基準について,技術基準解説は,河川の重要度をA級からE級に区分し,都市河川でない二級河川はD級(計画規模1/10~1/50)以下と定義するところ,都市河川についての他県(鹿児島県)の基準(人口集中地区の人口が3万人以上,人口が30万人以上の都市の河川)等に照らせば,川棚川は都市河川には当たらず,DないしE級相当であり,D級であるとしても適正な計画規模は1/10から1/50である。
中小河川手引きは,堀込河道である河川の計画規模の設定方針は,地域区分ごとに密着都市域で1/100,一般都市域で1/50,一般住居区域で1/30などとされているところ,川棚川流域は一般住居区域であるから1/30が相当であり,仮に一般都市域であるとしても1/50にすぎない。
工実手引きは,計画規模1/100について,項目
積)が5000㏊以上,項目

(想定氾濫面

(想定氾濫区域内の宅地面積)が20

00㏊以上,項目

(同区域内の人口)が20万人以上,項目

区域内の資産額)が1兆円以上,項目

(同

(同区域内の工業出荷額)が

2000億円以上と定めており,川棚川は,県が当てはめに用いた数値を用いたとしても(ただし,その不合理性は後記bのとおりである。,項目


が計画規模1/50に,その余の項目が計画規模1/3

0に該当し,上記基準によれば計画規模は1/30が妥当である。また,他県の基準についてみると,香川県,三重県及び群馬県の基準に当てはめると,計画規模は1/5ないし1/30となる。
川棚川の計画規模は,県評価指標が定められる前から,1/100と定められており,県評価指標はこれに合わせるために設定されたものであるため,上記のとおり他県と比較して異常な基準になっている。b
想定氾濫面積の基準時点が不合理であること
県は,県評価指標において,項目

(想定氾濫面積)川棚川水系基

本方針策定時(平成17年)のシミュレーションを用いて472㏊と算定しているが,その前提となる河道の状況は,あえて河道整備前の昭和50年頃の状況を基礎としており,河道整備が進んだ川棚川水系基本方針策定時の河道状況を採用していないが,この点に合理性はない。
なお,県は,県評価指標とは別に,平成18年3月作成の「川棚川想定氾濫区域図等作成」において,同年当時の河道状況に基づき,項目
を182㏊と想定し,これに基づき,項目

宅地面積)を18㏊,項目

(想定氾濫区域内の

(同区域内の人口)を900人,項目

(同区域内の資産額)を281億円,項目

(同区域内の工業出荷額)

を21億円と想定している。これを県評価指標に当てはめると,項目及び

が計画規模1/100,項目



及び

が計画規模1/5

0となり,過半数の項目が該当する計画規模1/50が川棚川の計画
規模となるべきである。また,上記「川棚川想定氾濫区域図等作成」で採用している数値を上記の中小河川手引きの基準や他県の基準に当てはめると,ほとんど全ての項目で計画規模1/30以下に該当し,計画規模1/100との評価がなされる余地はない。
以上の点につき,被告は,河道状況については川棚川水系の河川整備の開始時点の事情を基礎とすべきであると主張するが,事業認定については処分行政庁が事業認定を行った時点の事情を基礎とすべきであるから,本件事業認定の適法性を判断する前提となる事情である河道の状況についても,本件事業認定時に存在していた事実等を基礎としなければならない。
c
計画規模の変遷が不合理であること
川棚川における計画規模は昭和30年頃には1/30であったが,石木ダム建設事業に着手した昭和50年に突如として1/100に変更されているところ,これは,1/100にしなければ石木ダムが作れなかったためであり,昭和33年に制定された技術基準(案)計画編において年超過確率の考え方が導入されて間もない時期や,現行河川法が制定された昭和39年から間もない時期に変更されたのであればともかく,それから10年以上が経過した昭和50年に計画規模が1/100に変更されたのは,石木ダムを建設することだけを目的としたものである。

d
川棚川上流域の計画規模との不均衡
川棚川整備計画においては,前提事実


のとおり,川棚川のう

ち石木川との合流地点から下流域の計画規模を1/100とし,同地点から上流域の計画規模を1/30としている。したがって,年超過確率1/100の基本高水のピーク流量が流下した場合には,上流域において流下能力流量を超過して川棚川外部へ越水する結果,基準点
山道橋付近においては流量が上記ピーク流量よりも大幅に減少する。したがって,基準点山道橋を含む計画規模1/100の流域において基本高水のピーク流量が流下することはあり得ない。そして,川棚川整備計画においては,河道整備により下流域において1130㎥/秒の流下能力を確保することが予定されているから,石木ダムがなくても下流域において越水が生じることはない。
したがって,下流域の計画規模を上流域よりも大幅に高い1/100とすることには合理性がない。
検討対象降雨の選定,拡大(引き伸ばし)及び棄却検討について
県は,対象降雨群について,3時間雨量をⅢ型により引き伸ばし,そのうち昭和42年洪水型の雨量分布を採用して基本高水のピーク流量を1400㎥/秒としたが,これは現実に発生することのない数値であり,不合理である。
a
降雨強度について
技術基準及び技術基準解説によれば,河川のピーク流量に支配的な(すなわち,ピーク流量を決定づける影響の大きい降雨の)継続時間における降雨強度(瞬間的な雨の強さを1時間当たりに換算した雨量)の超過確率が,対象降雨の降雨強度の超過確率の値と著しい差異がある場合には,単純に引き伸ばすことによって著しく不合理が生ずることから,対象降雨として採用することが不適当であると考えられるため,当該降雨パターンの引き伸ばし降雨を対象降雨から棄却(除外)すべきであるとされている。貯留関数法を用いて流量を算出する場合,一定時間の降雨後は1時間当たり雨量と流量が比例する関係にあるから,1時間当たりの降雨強度の超過確率について検討しなければ,現実的な流量(基本高水のピーク流量)の設定はできないはずであり,1時間当たりの超過確率について検討する必要があるが,県は,この
超過確率について検討していない。とりわけ,県が採用した昭和42年洪水型の雨量分布は,1時間に約118㎜という集中した降雨があり,他の時間帯はその3分の1未満の降雨があったにすぎないという極めて特殊な雨の降り方であったから,3時間降雨についてのみ検討することは不合理である。
b
引き伸ばしについて
昭和42年洪水型の最大降雨強度118㎜/時の超過確率は1/150ないし1/200であり,さらにこれをⅢ型により引き伸ばした後の降雨強度138㎜/時の超過確率は1/500ないし1/1000であって,計画規模である1/100とは5倍ないし10倍の差がある。上記のような雨量分布は,他の8洪水における雨量分布にはみられないことからも,昭和42年洪水型は,対象降雨から棄却されなければならないものであった。
流出量の算出・基本高水の決定について
基準点山道橋における基本高水のピーク流量を1400㎥/秒と設定
しているが,川棚川においては,過去に1400㎥/秒という流量を記録したことはなく,記録上,昭和23年洪水時に1018ないし1116㎥/秒となったのが最大であって,上記ピーク流量は実績値をはるかに上回る異常な数値である。しかし,被告は,上記ピーク流量を1400㎥/秒と設定しなければならない合理的理由を説明していない。上記実績値を考慮すれば,上記ピーク流量は1116㎥/秒又はこれを引き伸ばした後の1130㎥/秒(一の位を切上げ)程度とすべきである。

石木ダムの必要性について
被告は,石木ダムがなければ既存ダム(野々川ダム)による調節後の流量1320㎥/秒を流下できないと主張するが,石木ダムを建設しなくて
も上記流量の流下は可能である。
すなわち,石木ダムが存在しない場合の水位は,基準点山道橋における計画高水水量である1130㎥/秒を,基本高水のピーク流量(1400㎥/秒)から野々川ダムによる調節分(80㎥/秒)を控除した1320㎥/秒に拡大することによって,算定(逆算)することができる。その算定結果によれば,全区間において堤防高を下回っている。
なお,上記算定結果によれば,県が設定する堤防余裕高1mを下回る区間が存在するが,川棚川は,いわゆる堀込河道であり,河川管理施設等構造令20条1項本文において要求される1mの余裕高の適用除外であり(同項ただし書)
,一般的には,堀込河道においては0.6m程度の余裕
高を確保するものとされているのも法令の根拠があるわけではないから,法令上の問題はない。
また,仮に上記0.6mの余裕高が必要であったとしても,上記余裕高を下回る区間は,片側(右岸)の数十メートル程度の限られた区間であり,その不足高も4㎝にすぎない。したがって,上記区間の堤防高を約4㎝嵩上げするだけで,県の想定する外水氾濫を防ぎ,0.6mの堤防余裕高を確保することができる。
さらに,仮に1mの余裕高が必要であったとしても,上記余裕高を下回る区間は,左岸が2か所(合計約60m)
,右岸が2か所(合計約670
m)であって,その長さが長いとはいえず,不足高も最大で44㎝未満にすぎない。したがって,上記区間の前後の堤防のみを嵩上げし,又は河道掘削の方法と複合することにより,治水目的を達成することができる。ウ
過去の洪水の原因分析について
本件起業者は,過去の水害について,地域住民の指摘する内水氾濫(低地への降水が河川等に流出できなかったことによる氾濫)や支流の氾濫,川棚川に流れ込む側溝の逆止弁の閉め忘れによる堤防内地への逆流等,越
流以外が要因であった可能性の有無等の原因分析や科学的調査をほとんど行わないままに治水計画を策定している。
このような分析,調査を怠った治水計画は合理性を欠く上,過去の洪水の原因が越流以外にある場合には,石木ダムは現実的な治水対策とはならない。
被告は,平成2年洪水についての洪水痕跡調査の実施を主張するが,再度の洪水を防ぐためには水害の主な原因やその他の要因,それら複数の要因がどのように影響しあったかについて検証されなければならないところ,県は,同洪水の被害について科学的,客観的な原因究明,調査を行っていない。
3
起業地がその事業の用に供されることによって失われる利益及びこれと得られる公共の利益との比較衡量について
失われる利益について
本件事業により,原告らが本件起業地内において培ってきた暮らし(生活)が奪われることになる。こうした生活は,原告らの先祖の代からの継続的な努力によって成り立っているものであり,原告らにとっては,先祖代々住み続けてきた本件起業地内の土地に自身も住み続け,家屋や田畑,墓を守り,これらを次の世代に引き継ぐことが,原告らの生き方の根幹であり,原告らが尊厳ある人間として自律的に生きる上での基盤であって,決して侵されることのない権利ないし価値である。
また,本件事業によって,本件起業地内の豊かな自然が破壊されることや,原告らが本件起業地からの移転を強制され,新しい生活に慣れなければならないという精神的肉体的苦痛も,本件事業により失われる利益に含まれる。得られる公共の利益との比較衡量について
上記2のとおり,本件起業地が本件事業の用に供されることによって得られる公共の利益は,利水及び治水のいずれの面においても存在しない。
他方で,上記

の失われる利益は,憲法においても保障される,人が人と

して生きていくための権利(個人の尊厳ないし人格権)であり,金銭では贖うことのできない価値であって,最大限の尊重を要する権利ないし価値である。
したがって,前者(得られる利益)が後者(失われる利益)に優越することはなく,法20条3号の要件を満たさない。
4
代替案と比較した計画の合理性について
起業者及び被告による代替案の検討は,以下の点において合理性がない。検討すべき代替案を除外した点
仮に流下能力を向上させる必要があったとしても,堤防の嵩上げ又は堤防の嵩上げと河道掘削を併用することにより実現することができる。そして,本件ダム検証においては上記併用案が代替案として検討されたが,本件事業認定申請においてはこれらが除外されている。これは,県が石木ダムありきの方針に基づき,検討していた上記各代替案をあえて代替案から除外することにより,石木ダムの形式的優位性を作出したものである。
本件事業の事業費の算定方法について
起業者は,代替案との比較において,石木ダムの事業費について,残事業費に治水割合47%を乗じた額と維持管理費等とを合計して77億円と設定している。しかし,上記2

のとおり,本件事業に利水目的の必要性がない

ことは明白であること,石木ダム建設事業自体は利水目的と治水目的で不可分一体であることから,少なくとも残事業費142億円全額を上記事業費として計上すべきである。
さらに,工期の延長や建設費用の高騰による費用の増加が見込まれることから,当該増加分も加算すべきである。
代替案の事業費の算定方法について
本件起業者は,各代替案の事業費に「石木ダム中止に伴って発生する費用」
として62億円を計上しており,その内訳は,
既買収地の維持管理費用(50年分)

年分)及び

付替道路完成にかかる費用,

仮設水道の維持管理費用(50

過年度事業費に対する利水負担費用(県が市に支払う可能性の

ある費用)とされている。しかし,
発生する費用ではない。



費用を計上しており,かつ

は石木ダムを建設しない場合に新たに

は法令等の根拠なく50年間という長期間の
は買収地の活用や譲渡等を検討していない。

は,県と市の間で費用支出について合意しておらず,県が負担する義務のない費用である。
代替案の内容について
川棚川の越流による洪水被害を防止するための方法としては,洪水時にのみ貯水できる小容量の貯水池を設け,又は,川棚川の一部区間の堤防高を嵩上げするなどの方法によりピーク流量を調整する方法があるにもかかわらず,本件起業者や被告の検討する代替案は,いずれも石木ダムと同等の容量を確保しようとするもので,過大である。また,被告主張の

河道改修案は,従

前及び将来の河道整備について考慮しておらず,過剰な内容になっている。第3

争点

(本件事業が法20条4号の要件を充足するか)について

(被告の主張)
1
総論
法20条4号にいう「土地を収用し,又は使用する公益上の必要性があること」とは,申請事業が同条1から3号までの各要件に合致するものであっても,なお収用又は使用という手段を採ることについて公益上の必要に欠けるところがないことをいい,具体的には,
と,

申請事業を早期に施行する必要性があるこ

収用又は使用しようとする起業地の範囲が申請事業の公益性の発揮のた
めに必要な範囲に存すること,

収用又は使用の別の合理性等を考慮して判断

される。
そして,公益性に関する判断は,処分行政庁の専門技術的,政策的判断に基
づく自由裁量に属し,裁量権の範囲を超え又はその濫用があると認められる場合に限り違法とされる。
2
事業を早期に施行する必要性
本件事業においては,平成25年4月末時点において約139億円が投ぜられ(平成27年3月末時点で158億円)
,本件起業地の約80%が既に県に
よって買収され,県が収用裁決手続を進めていること,川棚川流域はその地形的特徴から洪水被害が頻発しており,市においては安定して取水できる水源の給水能力が不足し,不安定取水(流水が正常流量を超えたときにのみ取水することができる豊水水利権等の取水)に依存している状況に加え,更なる供給能力の不足が見込まれる将来の水需要への対応が必要となることから,川棚川流域の洪水被害の軽減,流水の正常な機能の維持及び水道用水の確保のためにできるだけ早期に本件事業を行う必要があり,市や川棚町,市民団体等も石木ダムの早期完成を強く要望している。
また,市では,既設ダムやこれと一体化した付帯施設の老朽化が激しく,経年による土砂の堆積による有効貯水率の減少もみられるところ,既存施設の更新や土砂浚渫をするためには,ダムの水位を下げる必要があるが,市の水源には余裕がないため,これまで実施ができていなかったところ,本件事業により石木ダムが完成することによって既設施設の更新等が実現する。
したがって,本件事業を早期に施行する必要性は高い。

3
起業地の範囲及び収用・使用の別の合理性
本件起業地の範囲は,本件事業の事業計画に必要な範囲である。また,収用の範囲は全て本件事業の用に恒久的に供される範囲に留められており,収用又は使用の別も合理的である。
原告らは,石木ダムの調節方式が自然調節方式(洪水調節ゲートを有しない方式)であることは非効率であり,必要最小限でないと主張するが,技術基準解説は,小流域のダム等では自然調節方式をとることが望ましいとされている
ところ,石木ダムを含む県が管理するダムは上記小流域のダムに該当することから,自然調節方式を採用したもので,適切である。
4
手続違反の主張について
原告らは,本件起業者は,本件覚書に基づき,本件起業地の地権者全員の書面による同意又は少なくとも同意を得るための十分な尽力をしなければならず,これを欠く本件事業は当事者間の信義則に反し法20条4号の要件を満たさないと主張する。
しかし,事業認定に関する処分は,事業の公益性,土地利用の合理性等,法20条各号に定める要件を全て備えているか否かを審査するものであって,起業地内の権利関係や当該権利者の特殊個人的な事情は考慮すべき事項ではなく,原告らの主張する事情は本件事業認定の違法事由に当たらない。

(原告らの主張)
1
事業を早期に施行する必要性について
利水面に関して,上記第2(原告らの主張)2

のとおり,市の水需要に対

して保有水源が不足している事実はない。また,治水面に関しても,上記第2(原告らの主張)2

のとおり,石木ダムを建設しなくても,川棚川整備計画

に基づく河道整備や堤防の嵩上げによって,水害を防止することができる。したがって,本件事業を早期に施工する必要性はない。
2
起業地の範囲及び収用・使用の別の合理性について
利水面に関し,上記1のとおり,市の水需要は充足されている以上,起業地が水需要に応えるという公益性発揮のために必要最小限の範囲とはいえず,収用と使用の別についても,被告は,原告らが奪われることになる生活利益や,破壊されることになる人格的利益を個別具体的に検討することなく,本件収用地の範囲を合理的と判断しており,根拠に乏しい。また,治水面に関しては,上記第2(原告らの主張)2

のとおり,仮に,本件起業者の想定する年超過

確率1/100の降雨が発生しても,川棚川の流量が最大になる1時間分の流
量を調整すれば足りるにもかかわらず,石木ダムが自然調節式ダムであり,ピーク時の流量を調節するピークカット方式による治水を行うことができないため,195万㎥という過大な洪水調節容量を有するダムの建設を計画しており,技術的な観点に照らし,最小限の土地の収用となっていない。
したがって,本件起業地の範囲は最小限の範囲となっておらず,収用の範囲にも合理性がない。
3
手続違反があること
本件覚書は,地元住民が石木ダム建設に関し激しい反対運動をする中で,県が石木ダム建設のための予備調査を進めるために,予備調査に対する地元住民の同意を得る目的で締結されたものであり,当事者間の信義則として当事者の法律関係を法的に拘束する効力がある。
したがって,県が本件事業を実施する場合には,本件覚書に基づき,川棚町川原郷,岩屋郷及び木場郷の全地権者の書面による同意を得て行わなければならず,又は少なくとも上記同意を得るための十分な努力をしなければならない。このような同意又は同意に代わる十分な努力を欠く本件事業は,当事者間の信義則に反し,法20条4号に違反する。

第3章
第1
1
当裁判所の判断
争点

(原告適格の有無〔本案前の争点〕
)について

行政事件訴訟法9条1項にいう処分の取消しを求めるにつき「法律上の利益を有する者」とは,当該処分により自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され,又は必然的に侵害されるおそれのある者をいい,当該処分を定めた行政法規が,不特定多数者の具体的利益を専ら一般的公益の中に吸収解消させるにとどめず,それが帰属する個々人の個別的利益としてもこれを保護すべきとする趣旨を含むと解される場合には,このような利益も法律上保護された利益に当たり,当該処分によりこれを侵害され又は必然的に侵害されるおそれのある者は,当該処分の取消訴訟における原告適格を有すると解するのが相当
である(最高裁判所平成元年2月17日第二小法廷判決・民集43巻2号56頁参照)
。そして,処分の相手方以外の者について上記の法律上保護された利益の有無を判断するに当たっては,当該処分の根拠となる法令の規定の文言のみによることなく,当該法令の趣旨及び目的並びに当該処分において考慮されるべき利益の内容及び性質を考慮し,この場合において,当該法令の趣旨及び目的を考慮するに当たっては,当該法令と目的を共通にする関係法令があるときはその趣旨及び目的をも参酌し,当該利益の内容及び性質を考慮するに当たっては,当該処分がその根拠となる法令に違反してされた場合に害されることになる利益の内容及び性質並びにこれが害される態様及び程度をも勘案すべきものである(同条2項)

2
原告らの原告適格について
土地収用法は,公共の利益となる事業に必要な土地等の収用又は使用に関し,その要件,手続及び効果並びにこれに伴う損失の補償等について規定し,公共の利益の増進と私有財産との調整を図り,もって国土の適正かつ合理的な利用に寄与することを目的とする(法1条)
。そして,事業の認定の告示
(法26条1項)がされると,起業地について明らかに事業に支障を及ぼすような形質の変更をすることが制限され(法28条の3)
,起業者は,法の
定める手続により土地の収用,使用をすることができ(法35条以下),そ
のために起業者は,起業地内の土地調書,物件調書作成のための立入調査権(法35条1項)
,裁決申請権(法39条1項)等の権限が与えられる。
そうすると,仮に違法な事業認定がなされると,起業地内の土地に所有権を有する者は自己の所有権を侵害され又は必然的に侵害されるおそれが生じることになるから,法第3章の認定の手続や要件等を定めた規定は,起業地内の土地所有者の利益をも保護することを目的とした規定と解される。したがって,土地所有者は,事業の認定の取消しを求める訴えの原告適格を有するものと解すべきである。

さらに,法8条3項は,法2条により土地を収用又は使用する場合において,当該土地に関して地上権,永小作権,地役権,採石権,質権,抵当権,使用貸借若しくは賃貸借による権利その他所有権以外の権利を有する者及びその土地にある物件に関して所有権その他の権利を有する者等を「関係人」とし,法68条が,土地の収用又は使用によって土地所有者及び関係人が受ける損失は,起業者が補償しなければならないと定め,関係人についても,土地所有者と同様に,補償等の周知のための措置(法28条の2)や土地調書作成時の立会権(法36条2項)
,収用裁決申請に対する意見書の提出権
(法43条1項)
,収用委員会に対する意見申述権(法63条1項)等の権
利が与えられており,補償及びそれに至る手続の保障がされていることからすれば,法8条3項にいう関係人は,収用又は使用の対象となる土地又はこれにある物件に財産的な権利を有することにより,仮に違法な事業認定がなされると,起業地内の土地又はこれにある物件に有している財産的権利を侵害され又は必然的に侵害されるおそれが生じることになるから,土地所有者と同様に,事業の認定の取消しを求める訴えの原告適格を有するものと解するのが相当である。
原告所有者らについて
前提事実


のとおり,本件起業地内に土地又は建物を所有又は共有し

ている原告所有者らは,本件事業認定の取消しを求める原告適格を有する。原告X4については,同原告が本件起業地内に建物を所有していると認めるに足る証拠はない。したがって,所有者として原告適格を有しているということはできない(なお,証拠〔甲E14〕及び弁論の全趣旨によれば,同原告は元居住者であると認められる。。

原告居住者らについて
原告らは,原告居住者らについて,本件起業地内にある建物に居住し続けることができなくなることを理由に,自らの権利利益が直接侵害されるから
原告適格があると主張する。
しかしながら,証拠(甲E3,E4の1,E6,E7,E9,E10の1,E12の1,E13の1,E14~E16)及び弁論の全趣旨によれば,原告居住者らは,原告所有者らが所有する建物に,原告所有者らと共に居住する者であると認められるところ,原告居住者らが,本件事業により,本件起業地内にある建物に居住することができなくなることによって不利益を被ることは否定できないが,これらの不利益は,土地収用法上は原告所有者らの損失に含めて評価されるものであり,別個独立に補償を受けるべき正当な利益を有していると評価することはできない。この点,上記

の関係人には,

土地にある物件としての建物について使用貸借による権利を有する者が含まれるが,上記

の関係人に対する手続保障の内容からすれば,上記の使用貸

借による権利とは,建物の所有者とは別個独立に補償を受けるべき正当な利益を有する権利をいい,建物所有者と共に居住している者を含まないと解するのが相当である。したがって,原告居住者らを関係人に当たるということはできない。
原告らは,法5条1項1号の規定等を根拠に,原告居住者らの原告適格が認められると主張するが,原告居住者らの居住の利益は,建物に関するものであるところ,法5条1項1号は,土地に関する権利についての収用又は使用を定めたものであり,建物に関する権利について定めたものではないと解するのが相当であり,主張の前提を欠くというべきである。
以上によれば,原告居住者らに原告適格があるということはできない。原告元居住者らについて
原告元居住者らは,上記

の関係人には該当しない。

原告らは,原告元居住者らが,人格権というべき生活上の利益を有しているから,本件事業認定の取消しを求める法律上の利益を有すると主張するが,法第6章第1節の規定による補償の対象となる損失は財産権に限られるもの
であることや(憲法29条3項参照)
,法8条3項ただし書が権利の承継を
想定していることからすれば,法8条3項にいう「所有権以外の権利」とは,物権及び債権等の財産権を指すことが明らかであり,人格権又はこれに類する権利がこれに当たるということはできない。
以上によれば,原告居住者ら,原告元居住者ら及び原告X4については,本件事業認定の取消しを求めるにつき法律上の利益を有するということはできないから,上記原告らの訴えは不適法というべきである。
第2
1
争点

(本件事業が法20条3号の要件を充足するか)について

法20条3号は,事業の認定の要件として,
「事業計画が土地の適正且つ
合理的な利用に寄与するものであること」を定めるところ,法1条が,土地収用法の目的として上記第1の2

のとおり定めていることなどを勘案すれ

ば,当該土地が当該事業の用に供されることによって得られるべき公共の利益と,その土地が当該事業の用に供されることによって失われる私的な利益及び公共の利益を比較考慮した結果として,前者が後者に優越する場合に,当該事業は,上記の要件に該当するものと解するのが相当である。そして,上記の要件に該当するか否かについての判断は,具体的には事業の認定に係る事業計画の内容,事業計画が達成されることによってもたらされるべき公共の利益,事業計画において収用の対象とされている土地の状況等の諸要素,諸価値の比較考量に基づく総合判断として行われるべきものと解される。その上で,上記の総合判断は,多様,多種な公共の利益と私的な利益の比較考量を要するものであり,その性質上,専門技術的,政策的な判断を伴うものであるから,事業の認定をする行政庁は,その判断に係る裁量権を有するといえる。そして,この判断については,それが裁量権の行使としてされたことを前提として,その基礎とされた重要な事実に誤認があることなどにより重要な事実の基礎を欠くこととなる場合,又は,事実に対する評価が明らかに合理性を欠くこと,判断の過程において考慮すべき事情を考慮しない
ことなどによりその内容が社会通念に照らし著しく妥当性を欠くものと認められる場合に限り,裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用したものとして違法となるとすべきものと解するのが相当である(最高裁判所平成18年11月2日第一小法廷判決・民集60巻9号3249頁参照)

およそ取消訴訟において,問題となる行政処分の適法性を判断するに際しては,行政庁の第一次的判断権を前提とし,行政処分に対する事後審査を行うものであることにかんがみ,行政処分の適法性の判断は,当該処分がなされた当時を基準とするのが相当である(最高裁判所昭和27年1月25日第二小法廷判決・民集6巻1号22頁,最高裁判所昭和34年7月15日第二小法廷判決・民集13巻7号1062頁参照)
。したがって,本件事業認定
の取消訴訟における適法性判断の基準時は,処分行政庁がした本件事業認定時であり,本件事業認定の適否を判断するに当たっては,同認定時に存在していた事実等を基礎とし,事業認定後に生じた事実は,その処分当時の事情を推認する間接事実等として役立つ限りにおいて斟酌することになる。2
起業地がその事業の用に供されることによって得られるべき利益について水道用水の確保(利水事業)としての必要性について

市は,地方公共団体として,水源及び水道施設等に関し必要な施策を講じ(水道法2条1項)
,当該地域の自然的社会的諸条件に応じて,水
道の計画的整備に関する施策を策定,実施するとともに,水道事業の経営に当たって,その適正かつ能率的な運営に努める責務を負っている(同法2条の2第1項)ところ,その趣旨は,水は地域属性が強く,当該地域の地形等の自然的条件に影響を受けざるを得ないことから,このような自然的条件を考慮するとともに,当該地域の社会的諸条件に即して合理的な施策を策定し,これを実施すべき点にある。
また,市は,水道事業者として,給水区域内の需要者から給水契約の申込みを受けたときは,正当な理由がなければ,これを拒んではならず,
給水契約の成立した水道利用者に対し,常時水を供給しなければならないものとされている(同法15条1項,同条2項)

このような市の地方公共団体及び水道事業者としての責務に照らすと,市としては,長期的な給水区域内の水道需要及び供給能力を合理的に予測した上,水道の計画的整備に関する施策を策定及び実施して,水道事業を適正かつ能率的に運営し,水道を安定的に供給し,渇水によって市民の生活が極力影響を受けないよう努力する責務を負っており,上記施策の策定及び実施については,市の広範な裁量に委ねられていると解される。ただし,上記1

と同様に,裁量権の行使の基礎とされた重要な

事実に誤認があることなどにより重要な事実の基礎を欠くこととなる場合等に限っては,裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用したものとして違法となるものと解される。
前提事実

イのとおり,水道設計に関する指針としては,設計指針

(乙A15〔2-4-2の参考資料125~161頁〕
,B1。以下,
証拠として引用する場合も単に「設計指針」という。
)が存するところ,
証拠(設計指針〔1頁〕
,乙B6)及び弁論の全趣旨によれば,設計指
針は,水道施設の技術的基準を定める省令において定められた基準に沿った設計指針を示すために作成されたものであり,数十名の学者や水道局の担当者等の専門家により構成される特別調査委員会が策定,改訂したものであることが認められ,設計指針の内容や,設計指針に沿った水需要予測をすることが合理性を欠く特段の事情がない限り,設計指針に基づいて実施された水需要予測は,水道法や水道施設の技術的基準を定める省令に沿ったものであり,合理性があるというべきである。
以上の観点から,本件水需要予測の合理性の有無について検討する。イ
用途別一日平均有収水量の予測の合理性
生活用水について

a
証拠(甲B1,乙A4〔3-4,5-8〕
,A15〔2-4-2の
35~45頁,3-4〕
。なお,甲B1及び乙A15〔2-4-2の
35~45頁〕は本件水需要予測であるが,以下,証拠として引用する場合も単に「本件水需要予測」という。
)及び弁論の全趣旨によれ
ば,次の各事実が認められる。


市は,別紙12のとおり,渇水対策を要する渇水に見舞われ,と
りわけ平成6年から平成7年にかけての渇水は約9か月間の給水制限(断水を含む。
)を要するものであり,その他にも,昭和53年,
平成17年,平成19年にも給水制限を実施した。
渇水の原因は,長崎県全体が,平地に乏しく,いたるところに山
岳や丘陵が起伏し,山地から海岸までの距離が短く,急勾配の中小河川が多いことにより,河川の保水能力が低いためである。



市は,佐世保地区の過去20年間の生活用水量原単位を分析した
結果,平成5年度までの増加傾向が平成6年度に減少し,平成16年度まで緩やかな回復傾向であったが,平成17年度,平成19年度に再度減少し,平成23年度まで緩やかな回復傾向を示していること,近年は全国同規模都市の原単位が減少傾向の中で,市の原単位は増加傾向を示していることから,上記原単位の減少の要因は市の渇水にあり,他都市と同様に節水機器の普及や社会情勢の変化という原単位の減少要因がありながら,なお原単位が渇水時を除いて増加傾向にあるのは,市民が,節水どころではなく,我慢をしており一般的な受忍限界を超えていたため,本来の値に向かって回復傾向になっているものと考察し,石木ダムの完成により渇水がなくなれば更に原単位が増加(回復)するものと予想した。そこで,まず,単純な時系列傾向分析では,相関係数が0.06と非常に悪い上,今後も給水制限を繰り返すことが前提となり,水需要予測の本来の
目的である安定供給になじまないため,渇水の有無を変数とする重回帰分析により,渇水の影響が全くなくなった場合の上限値と,渇水の影響が続いた場合の下限値を予測した結果,上限値が210L,下限値が195Lとなった。その上で,時系列傾向分析を行ったが,平成6年から平成23年のうち,給水制限の影響がある平成17年から平成19年の傾向を排除し,現状以降に過去の渇水からの回復傾向を適用する時系列傾向分析を行った結果,相関係数が0.94と非常に高い上,目標年度206Lは同年の近郊都市予測値(211L)と同水準であり,最も現実的であることから,上記206L(佐世保地区。合併地区等を併せた全体では207L)を原単位として採用した。
b
設計指針(27頁)は,生活用水の将来推計について,時系列傾向分析,回帰分析,要因別分析,使用目的別分析などの推計方法から,適切なものを選択組み合わせて行うことを定めているところ,市は,上記のとおり,重回帰分析により予測の幅を設定した上で,現状以降に過去の渇水からの回復傾向を適用する時系列傾向分析により原単位を決定したもので,上記設計指針に沿うものといえ,その判断過程に不合理な点があるとはいえない。
そして,証拠(乙A15〔2-4-2の参考資料69頁〕
)によれ
ば,水道統計に基づく平成21年度の全国の平均原単位は230.5Lであり,市の原単位はこれを下回るものであることも考慮すれば,市の上記原単位の設定が合理性を欠くということはできない。

c
原告らは,第2章第2(原告らの主張)2



のとおり主張する。

原告らの主張のうち実績値の減少を踏まえて予測値を算出すると
いう点は,単純な時系列傾向分析を採用することと同義であると考えられる。しかし,証拠(本件水需要予測37・41頁)によれば,
上記分析方法によると,相関係数が0.06と極めて低い上,目標年度の原単位が188Lとなり,過去20年間の実績値で3番目に低い値になることからすれば,実績値の減少は渇水による給水制限やその予告が影響しているとの市の分析に合理性がないとはいえない。そして,設計指針(32頁)によれば,時系列傾向分析は水需要が将来も実績期間と同様な傾向で推移すると予想される場合に適切な方法であるとされるところ,水不足を解消するための水需要予測において,将来も過去と同様に給水制限が生じることを織り込んで予想を立てることは不合理であるから,単純な時系列傾向分析を採用することは相当でないとした市の判断が,事実の基礎を欠く不合理なものということはできない。
また,原告らは,渇水により市民の受忍限度を超えているとする
市の分析に根拠がないと主張するが,別紙12のとおりの渇水対策の事実に,証拠(甲A4〔3-4の2頁〕
,本件水需要予測40頁,
証人甲)を総合すると,市が,渇水による給水制限(断水若しくは減圧)又はその予告等を実施したことがあること,これらの措置を実施した年の原単位は前年よりも減少する傾向にあることが認められ,上記のとおり,目標年度の原単位が全国の平均原単位よりも下回っていることからすれば,市の上記分析が根拠を欠く不合理なものであるということはできない。
加えて,原告らは,石木ダムが完成すれば水道代が当然に値上が
りし,水道の使用量の抑制につながる旨主張するが,水道法上,水道料金は水道事業全体の収支状況に基づいて算定されるものであること(同法14条2項1号,同法施行規則12条1号)
,証拠(乙
B8の3)によれば,石木ダム建設費用のうち企業債の返済に係る費用は現行の水道料金に含まれていることから,石木ダムの完成が
直ちに水道料金の値上がりを意味するものではないといえる。また,証拠(本件水需要予測62頁,乙B8の1,B8の4)によれば,市は,平成22年4月1日に水道料金を19.68%値上げしたが,市(佐世保地区)の原単位は平成21年から平成23年にかけて189L,190L,189Lと横ばいで推移していることが認められ,水道料金の値上げが市民の水使用の抑制に直結することが明らかであるということもできない。


さらに,原告らは,市が比較の対象とした「全国同規模都市(寒
冷地を除く。」の選択等が恣意的であると主張するが,上記bのと)
おり,全国の平均原単位が230.5Lであり,本件水需要予測における目標年度の予測原単位207Lはこれを下回っている以上,上記同規模都市の選択方法は,市の需要予測の合理性を疑わせる事情とはいえない。

業務営業用水について
a
大口需要について


証拠(乙A15〔2-4-2の参考資料74頁〕
)によれば,九
州防衛局長は,平成24年12月21日付けで,佐世保市長に対し,海上自衛隊佐世保総監部,陸上自衛隊相浦駐屯地及び米海軍佐世保基地等の防衛施設(以下「市内各防衛施設」という。
)は,我が国
の西側の守りの拠点として重要な役割を有しており,今後ともこれらの役割はますます重く,また,高度な運用がなされていくと考えていること,市内各防衛施設の安定的な運用に当たり,市の備える社会基盤が重要な要素であること,石木ダム建設事業に伴う水需要の将来見通しについて,九州防衛局としては,上記将来的視点や防衛活動の堅持の観点,更には近年重要性を増している市内各防衛施設における運用を支え,万が一の災害等の緊急時や有事における迅
速かつ適切な諸活動の遂行のためにも,十分かつ安定的な水源の確保がより重要になると認識していること,市内各防衛施設の安定的な運用環境確保の観点から,水源確保の施策が大きく寄与するものと認識しその推進を望むことを回答したこと(以下,上記回答を
「九州防衛局長回答」という。
)が認められる。
また,証拠(本件水需要予測〔46~49頁〕
,証人戊)によれ
ば,市の担当者は,九州防衛局長回答には具体的な必要量等が示されていないが,基地関係の特殊性からそのような回答がされることが予想され,基地関係業務の性格上,市内各防衛施設の水需要は時系列傾向を示すものではなく,また,今後の計画を知ることもできないことから,九州防衛局長回答において,市内各防衛施設において高度な運用がなされることや,万が一の災害等の緊急時等における適切な活動のためにも十分な水量確保が必要であることを踏まえ,過去最大値(陸上自衛隊相浦駐屯地につき昭和62年の1955㎥/日,米海軍佐世保基地につき平成12年の2279㎥/日)を採用したことが認められる。


設計指針(30頁)が,業務営業用水の水需要予測について,推
計する数値を業態別にするか業務営業用水の総量にするかを検討した上で推計方法を選択することとしていることからすれば,自衛隊及び米軍を大口需要とし,他の小口需要と区別して推計することとしたことが合理性を欠くとはいえない。
また,設計指針(2・6・7頁)は,計画給水量等の決定に当た
っては,平常時だけでなく地震・渇水等の災害時及び事故時等の非常時の水運用を踏まえた量的な安全性を見込み,併せて,これに見合った水源を確保する必要があることを示しており,災害を含む非常時の水需要を想定して水需要を予測することには合理性がある。
そして,九州防衛局長回答にいう「万が一の災害等の緊急時」とは,その前後の文脈や,法律上,自衛隊の災害派遣について定めがある(自衛隊法83条)ことに照らせば,わが国において災害等の緊急事態が発生した場合に緊急の活動をする必要が生じた場合を指すことが明らかである。
その上で,設計指針(32頁)が,過去の水需要の変動から一定
の傾向を見出すことが難しい場合や,将来の使用水量や原単位,説明変数等の予測が困難な場合には,時系列傾向分析,重回帰分析,要因別分析又は使用目的別分析によらず,過去の水需要の平均値や最大値等を用いることもあるとしていることからすれば,上記事情を踏まえて過去最大値を採用した市の判断が不合理であるとはいえない。
b
小口需要について


証拠(本件水需要予測〔46~50頁〕
,乙A15〔2-4-2
の参考資料71頁〕
,証人戊)によれば,市は,業務営業用水の小
口需要について,平成17年から平成19年にかけての渇水と平成20年のリーマンショックによる大幅な減少があり,時系列傾向分析は適切でないことから,要因別分析として回帰式により予測することとし,要因としては,業務営業用水の小口需要の水量のうち観光関連産業が全体の49.2%を占め,それ以外の一般事業所の中にも旅行代理店のように観光客の増減が業績に影響する企業が含まれていると考えられることを踏まえ,過去の実績値と相関の高い観光客数を採用することとし,観光客数について市総合計画の値を佐世保地区に補正して推計し,これが増加するのに対応して小口需要についても増加すると予測(平成25年以降は,グラフ上は直線的に増加すると予測)したことが認められる。



市は,リーマンショックによる市の経済への影響及びそれに伴う
各用途別一日平均有収水量への影響について検討し,業務営業用水については,企業の活動量の衰退や経費削減,観光客数の減少により,使用水量の減少がみられることを分析しており(乙A15〔2-4-2の参考資料29~34頁〕,リーマンショックによる使用)
水量の減少傾向を含む時系列傾向分析が適切でないと判断したことが不合理であるということはできない。
そして,設計指針(32頁)によれば,重回帰分析による推計に
おいて,業務営業用水を目的変数とした場合における業態別推計時の説明変数の例として,観光客数が列挙されていること,証拠(本件水需要予測50頁,証人甲)によれば,観光客数を説明変数とする要因別分析の相関係数は0.68であり,相関の度合いは高くはないものの,一定の相関関係があること,そもそも業務営業用水には様々な業態の需要先が含まれており,予測には困難が伴うことからすれば,観光客数を説明変数として予測をしたことが不合理なものということはできない。



原告らは,本件水需要予測が採用した業務営業用水の小口需要の
実績値と観光客数との相関係数は低く,給水人口の方が高い相関係数にあるから,給水人口を説明変数とする重回帰分析による推計を行うべきであると主張する。しかし,証拠(証人甲)によれば,給水人口を説明変数とする予測手法は,相関係数自体は高くても,給水人口が増加すれば業務営業用水の小口需要が増加するという因果関係を合理的に説明できず,予測として意味のないものである可能性があると認められる。
設計指針(32頁)においては,重回帰分析は,複数の説明変数
により水需要を推計するものであり,説明変数の選択に当たっては,
統計的有意性だけでなく因果関係の合理性,妥当性を十分に考慮することとされていることから,因果関係を合理的に説明することが困難な給水人口ではなく,業務営業用水の約5割を占める観光関連産業と関連性が高い観光客数を説明変数として採用したことが,裁量を逸脱する不合理なものであるということはできない。
したがって,給水人口を説明変数とする重回帰分析を採用しなか
ったことが合理性を欠くということはできない。


また,原告らは,丁施設の大口需要から小口需要への移行を見込
んだことに合理的根拠がない旨を主張する。
しかし,処分行政庁は,法20条3項に該当するか否かを審査す
るに当たり,その基礎となる本件水需要予測の客観的合理性を審査するものであり,かつ,それで足りるものであるから,本件水需要予測の内容が過去の水需要予測の内容から変更されていることが,本件水需要予測の合理性に必ず影響するとはいえない。
なお,証拠(乙A4〔3-8の8~17頁〕
,A15〔2-4-
2の参考資料72頁〕
,証人戊)及び弁論の全趣旨によれば,市は,
従前の総合計画においては丁施設がその他の観光施設への誘客を図るための中心と位置付けられ,また,観光客数の目標値が設定されていなかったが,平成19年水需要予測の策定後の平成20年3月に策定した市総合計画において,丁施設は,市の観光の基盤となる観光施設から除外され,他の観光施設や観光資源と連携強化を図る観点から,必要に応じて側面的な支援を図るとの位置付けに後退し,また,丁施設を含む観光施設等の観光客数の目標値が示されたことが認められる。
設計指針(12頁)は,水道施設整備の全体目標を示す基本方針
の決定に当たっては,地域や都市のマスタープラン等の上位の計画
が既に策定されている場合,当該上位計画に十分留意して方針を決定する必要があることを示していることからすれば,上記丁施設の位置付けの変更及び観光客数の目標値の明示化を踏まえて,使用水量が多く,かつ水の使用形態が特殊な自衛隊及び米軍基地を大口需要とし,その余を小口需要とした上で,小口需要は丁施設を含めた観光関連企業が使用量の約半分を占めることにかんがみ,上記のとおり観光客数を説明変数とする重回帰分析を行ったことが合理性を欠くということはできない。
c
新規分について


証拠(本件水需要予測〔47・49頁〕
,乙A15〔2-4-2
の参考資料75~77頁〕
)によれば,市は,平成25年度から新
規に建設する中学校の給食センターについて計画給水量230㎥/日,専用水道について,自己水源(深井戸)から水道への統合分として計画給水量1179㎥/日を計上したことが認められる。



これに対し,原告らは,新規需要分として専用水道からの転換を
見込んだことに合理的根拠がないこ旨主張する。
しかし,設計指針(14頁)は,地下水の利用状況,特に多量使
用する建築物等の動向を調査し,水道水への切替えの予測を行うこと,地下水を雑用水等に利用している場合には,地盤沈下等により水道水への転換があり得ることから十分な調査と対策の検討が必要であることを示しているところ,証拠(乙A4〔2-6の資-86~88頁〕
,A15〔2-4-2の参考資料49~51頁〕
)によれ
ば,市は,専用水道を使用する5施設のうち少なくとも4施設に対して聴取を実施し,いずれの施設からも水道への切替えの可能性があることを確認したことが認められ,設計指針に沿って,具体的な根拠に基づき専用水道からの転換を見込んだものといえるから,そ
の予測が不合理なものであるとはいえない。
工場用水について
a
大口需要(丙株式会社)について


証拠(甲B9,B20,乙A15〔2-4-2の参考資料84~
88頁〕
,本件水需要予測〔52~56頁〕
)によれば,以下の事実
が認められる。

丙株式会社の過去の水量の実績値は,平成4年以降では平成5
年の2386㎥/日が最大であり,その他は,平成8年の216
0㎥/日を除き,2000㎥/日未満にとどまり,平均値は16
10㎥/日であった。また,修繕船事業における使用量は過去9
年間で331㎥/日であった。


佐世保市長は,平成24年12月13日付けで,丙株式会社に
対し,丙株式会社が平成24年3月期決算短信等において発表し
た新造船事業の縮小及び修繕船事業の強化という経営方針の転換
による水使用の影響の有無及び内容並びに上記経営方針はある程
度中長期的な経営戦略であるか否かを文書で質問した。


丙株式会社は,平成24年12月28日付けで,上記質問に対
し,新造船事業を縮小することを含めて採算の改善を図る一方,
修繕船事業等の事業の強化等を推進していくこと,具体的には,
修繕船事業の事業構成比を13%(平成23年度)から25%
(平成26年度)に引き上げ,以後3年間で約2倍の受注拡大を
図ること,このため,修繕船事業におけるドックでの水道水の使
用がこれまで以上に大量の水道水を一時期に集中して使用するこ
とになること,また,新造船事業においても,従前の使途に加え
て,従来は必要でなかった引渡し前のファイナルドック(再塗装
等)が必要となり,その際の塩分除去のため塗装作業に先行して

水洗い作業が行われ,新たな水道水の使用が生じること,これら
のことから,
「運用状況によっては,各ドックで使用する水道水
が,一日で同時に使用することも想定され,これまでの倍以上の
水量を供給して頂くことも十分考えられ」ること,以上の使用を
前提とした供給計画を策定して頂きたいことなどを回答した(以
下「丙株式会社回答

」という。。


市は,本件水需要予測において,平成15年から平成23年の
修繕船給水量の実績値(平均値は,隻数が34.8,修繕船給水
量が9万3711㎥/年であった。
)から導かれた1隻平均給水
量(水量÷修繕船受注数)2693㎥に,最初の船体洗浄にほと
んどの水量を費やすという脈動的な使用であることにより,船体
洗浄の水使用比率8割と,残りの2割を作業日数10.5日で除
した1日作業水量をそれぞれ乗じて,平均的な大きさの船体にお
けるドック修繕時の最初の船体洗浄を行う日を想定して一日平均
給水量を2206㎥/日と算定した(計算式2693×(0.8
+0.2÷10.5)=2206)

そして,丙株式会社が修繕船事業について2倍の受注拡大を見
込んでいることを踏まえ,上記給水量の2倍である4412㎥/
日を計画給水量とした。なお,これは,複数のドックで同時に船
体洗浄を行うことを想定したものであった。
市は,上記修繕船事業の給水量を4412㎥/日として,これ
に修繕船事業以外の水量を加えるために,過去20年間の平均値
である水量1610㎥/日を加算した上,ここから過去9年間の
平均値から導いた従前の修繕船事業における水使用量331㎥/
日を控除し,丙株式会社の計画給水量を5691㎥/日と算出し
た。


佐世保市長は,平成25年4月4日付けで,丙株式会社に対し,
丙株式会社の必要水量について,
使用及び

丙株式会社における今後の水

今回の増加水量を丙株式会社独自又は市の再生水の利

用により対応することの可能性について,改めて意見聴取した。

丙株式会社は,同月8日付けで,佐世保市長に対し,上記
ついては,丙株式会社回答


と同旨のほか,修繕船事業において

は最初の船体洗浄作業に大量の清廉な水道水を使用するところ,
同作業を複数のドックで同時に行うことが想定されること,同作
業に使用する水量は,修繕内容等により違いはあるが,全体の作
業で使用する水量の概ね8割程度になること,具体的な水量デー
タは把握していないものの,市が本件水需要予測で分析,計上す
るとおり,同作業における使用水量は約2000㎥/日程度と考
えており,今後におけるドックの新たな運用や稼働率の上昇によ
る水量増加や過去の実態に加え,今後の丙株式会社の経営戦略等
を考えると,市が新規水量分として予測している4412㎥/日
は最低限確保していただきたいことを回答した。また,

につい

ては,自社独自に再生水事業を行う場合,施設整備のコストの問
題に加え,処理した再生水を貯留しておく設備を設置する敷地の
余裕がないことから,実現は困難であること,市の再生水事業を
利用する場合,供給能力の不足や丙株式会社の使用実態から生じ
る運用上の問題があり,過去に導入の可否を検討した際には塩分
濃度の問題により船の洗浄には利用できず,場内のトイレ洗浄等
にしか利用できないとの結果になったことを回答した(以下「丙
株式会社回答

」といい,丙株式会社回答

と併せて「丙株式会

社各回答」という。。


丙株式会社は,大小合わせて6つのドックを有している(大き

なものが2つ,中程度の大きさのものが1つ,小さなものが3つ
である。。

⒝ⅰ

市が,修繕船事業における最初の船体洗浄を行う日について給
水量を2206㎥/日としたことについて,上記⒜で認定したと
おり,丙株式会社の平成15年から平成23年の修繕船給水量の
実績値から導かれた1隻給水量が2693㎥であること,修繕船
事業においては,最初の船体洗浄にほとんどの水量を費やすとい
う脈動的な使用であることに照らすと,合理性がないということ
はできない。
次に,市が,修繕船事業における水需要を,上記給水量の2倍
である4412㎥/日とした点について,これによって,丙株式
会社に対する計画給水量が,従来の水量の実績値を大幅に上回る
ことに照らすと,市が,丙株式会社に対し,複数のドックにおい
て,船体洗浄を行う事態が生起することについて,具体的に事情
を確認し,かつ,これを記録化する方がより適切ではあったとい
えるものの,上記⒜で認定したとおり,丙株式会社が,市に対し,平成26年度に向けて,修繕船事業について,約2倍の受注拡大
を図る旨回答したこと,丙株式会社が6つのドックを有している
こと,丙株式会社回答

において,修繕船事業における最初の船

体洗浄作業を複数のドックで同時に行うことが想定される旨が回
答されているところ,市においては,この回答を受ける前に,丙
株式会社に聴き取りを行い,その内容について把握していたと推
認できることに照らすと,上記の点に関し,その基礎とされた重
要な事実に誤認があり,或いは,事実に対する評価が明らかに合
理性を欠くことにより,その内容が社会通念に照らし,著しく妥
当性を欠くとまでいうことはできない。


そして,市が,丙株式会社の修繕船事業における給水量を44
12㎥/日とし,これに修繕船事業以外の給水量を加えるために,過去の水量の実績値の平均である1610㎥/日を加え,過去の
修繕船事業における水量の平均値である331㎥/日を控除した
上,丙株式会社に対する計画給水量を5691㎥/日としたこと
について,重要な事実の基礎を欠くとまではいえず,裁量権の範
囲を逸脱したということはできない。

⒞ⅰ

原告らは,丙株式会社の経営方針転換によっても,修繕船事業
の売上高は1.16倍になるにすぎず,実際に,平成28年度の
売上高も平成23年度比約1.2倍にすぎない旨主張するが,丙
株式会社は,修繕船事業について,約2倍の受注拡大を図るとし
ており(なお,この点に関し,本件水需要予測〔56頁〕に「売
上高を約2倍」と記載されているのは,丙株式会社回答

に照ら

すと,
「受注を約2倍」の誤りであると解される。,水使用量は,

売上高よりも受注量に影響されるといえ,上記主張によって,丙
株式会社に対する計画給水量についての予測がただちに不合理で
あるとはいえない。

原告らは,丙株式会社回答

は,新造船事業と修繕船事業の合

算について,
「これまでの倍以上の水量」を要するとしたもので
あり,また,市は,丙株式会社回答

については,本件水需要予

測の策定後に実施したもので,結論を先行させて理由を後付けし
た旨主張する。しかし,丙株式会社回答

の内容によれば,新造

船作業におけるファイナルドックの際の洗浄と修繕船事業におけ
る洗浄が重なることだけでなく,修繕船事業における複数の船体
に対する洗浄が重なることも想定できるから,後者を想定したこ
とが不合理であるとまではいえない。また,書面としては,丙株

式会社各回答が存在するにすぎないものの,丙株式会社各回答の
内容及び証拠(乙A15〔2-4-2の参考資料89~92頁〕

に照らすと,市は,本件水需要予測に当たり,丙株式会社に聞き
取り調査を行い,修繕船事業において最初の船体洗浄の際にほと
んどの水量を費やすことなどその水道水の使用の実態を把握して
おり,その結果,正式に回答を求めた際に,これと同じ内容の書
面が提出されたと推認でき,結論を先行させて理由を後付けした
とはただちには認められない。

さらに,原告らは,修繕船が2隻同時にドック入りする事態が
生ずる可能性の頻度を把握しておらず,その可能性が生じた場合
は,丙株式会社自身で対応すべき旨主張するところ,市が,丙株
式会社において,複数のドックで船体洗浄を行う事態に関する具
体的事情を確認し,記録化する方がより適切であったことは上記
のとおりであるものの,丙株式会社各回答において,丙株式会社
がこの事態を想定していると回答している以上,市において,こ
のような事態がないことを前提にすることはできず,また,その
ような事態について,水道事業者である市が,丙株式会社に対し,ドック入りの日を調整するなどして対応することを求めるべきで
あったということはできない。


原告らは,市が,上記修繕船部門の水需要4412㎥/日に他
の有収水量(丙株式会社の小口使用及び小口需要)を含めて工場
用水の用途別有収水量とし,これに負荷率を乗じたことは,二重
計上であり不合理であると主張する。しかし,市は,上記のとお
り,過去の修繕船事業における水使用量の平均値から,平均的な
大きさの船体におけるドック修繕時の一日平均給水量を2206
㎥/日と算定したものであり,これより大きな船体を洗浄する場

合にはこれを上回る水量が必要となることから,一日平均有収水
量から一日最大有収水量を算定する負荷率の考え方を,丙株式会
社の修繕船部門の水需要にも適用して,他の水需要と同様に負荷
率を乗じたことが不合理であるということはできない。
b
小口需要について


証拠(本件水需要予測52~55頁,乙A15〔2-4-2の1
2頁〕
)によれば,市は,佐世保地区の工業用水(小口需要)の水
需要は,平成6年度の大渇水により大きく減少し,平成10年までは回復傾向を示すが,以降は緩やかな減少傾向となっていること,さらに平成17年から平成19年にかけての渇水及び平成20年のリーマンショックにより大きく減少していると分析し,渇水と経済不況の影響が強く時系列傾向分析は適切でなく,要因別(回帰式)分析による予測を試みたが,適切な要因が確認できなかったことから,現状が渇水の影響を受けていること,過去に単年での回復量が大きい年度が複数あったことを踏まえ,最低でも過去20年の平均値までは回復する見込みが高いと判断して,過去20年平均値を採用したことが認められる。



市の上記分析は,渇水の影響については,平成5年以降の原単位
をみると,給水制限等の渇水又はその警戒があった年には原単位が減少し,それらがなかった年には増加することが多かった(本件水需要予測〔55頁〕
)という実績に見合うもので,そのような評価
が根拠を欠くものということはできない。また,リーマンショックの影響については,市が工場用水と経済の関係について検討し,丙株式会社の高操業により丙株式会社の使用量が工場用水全体に占める割合が更に高まっていることを踏まえ,丙株式会社の売上高と工場用水の実績値を比較すると,平成20年のリーマンショックに伴
い丙株式会社の新規受注が減少に転じ,平成21年から売上が減少しているが,工場用水の実績値も同様に落ち込んでいることを分析した(乙A15〔2-4-2の参考資料31頁〕
)ことを踏まえた
ものであり,事実の基礎を欠くということはできない。
そして,設計指針(30~33頁)が,工場用水の将来推計に当
たっては,工場の生産活動に影響を与える景気の将来動向等の状況について留意することが必要であるとし,また,水需要の推計手法一般について,過去の水需要の変動からの傾向判断が困難な場合や使用水量等の予測が困難な場合には,過去の水需要の平均値等を用いることもあるとしていることからすれば,市が,工場用水の小口需要について,上記のとおり時系列傾向分析及び要因別(回帰式)分析が困難であることを理由に,過去20年の平均値を採用したことが不合理であるということはできない。


原告らは,平成10年から平成23年までに上記小口需要が4割
減少していることから,時系列傾向がみられると主張するが,上記cのとおり,設計指針(32頁)によれば,時系列傾向分析は,
水需要が将来も実績期間と同様な傾向で推移すると予想される場合に適切な方法であるとされるところ,渇水については,上記

cと

同様,将来に同様の事態が生じることを前提とする予測は不適切であるし,リーマンショックについても,それが目標年度まで継続することを前提とすることは必ずしも妥当でないことからすれば,市が将来において実績期間と同様の傾向で推移しないものと予想したことが不合理であるということはできない。
中水道について
a
証拠(水需要予測58頁)によれば,市は,中水道水量について,佐世保駅周辺の再生水事業の需要が近年は50㎥/日で推移しており,
増加を見込めないこと,しかし,市が検討する採算ラインである150㎥/日までは事業を推進することから,150㎥/日を有収水量から控除したことが認められる。
b
設計指針には,中水道に関する直接の記述はないことから,上記予測が根拠に基づくもので不合理とはいえないかについて検討すると,証拠(乙B3,B25,証人戊)及び弁論の全趣旨によれば,中水道は,水道水と別に新たな再生水の管路を敷設する必要があり,利用者に設備投資の負担がかかることから,既存の建物への普及は困難であること,そのため,市は,新規開発地である佐世保駅周辺の再開発地区において再生水事業を行い,普及拡大を図ってきたが,実態としては普及拡大が進まず,需要は伸びていないこと,上記地区の再開発は完了していることが認められる。
以上の事実関係を前提とすれば,現状以上の需要の増加は難しいと見込み,市が採算ラインとする現状の50㎥/日を上回る150㎥/日を中水道の使用量として見込んだことには相応の理由があり,上記判断が合理性を欠くということはできない。

c
原告らは,必要水量を減少させる方向に作用する中水道の使用量のみ少なく予測していることは水需要予測が数字合わせであることを裏付けると主張するが,上記bで認定した事実からすれば,中水道の更なる普及は困難であるとした市の判断が不合理なものであるということはできず,原告らの上記主張は採用できない。


用途別一日平均有収水量以外の予測値について
負荷率について
a
証拠(本件水需要予測〔60・62頁〕
)によれば,市は,負荷率
について,安全性を重視して過去20年実績値の最小値としたが,平成6年度の74.8%は大渇水による異常値であるため,これを除外
し,平成11年度の80.3%を採用したこと,市の給水人口は,平成13年度以降20万人を超え,25万人未満であり,平成36年度の予測も20万人台であることが認められる。
b
設計指針によれば,一日最大給水量は時系列的傾向を有するものとはいえないため,負荷率の設定に当たっては,過去の実績値や,気象,渇水等による変動条件にも十分留意して,各々の都市の実情に応じて検討することとされ,昭和55年から平成21年の水道統計データを元に作成された給水人口規模10万人から25万人未満の負荷率の実績範囲は,約78%から約88%であるとされていることからすれば,過去の実績値と渇水の影響を考慮し,上記実績範囲内である80.3%を負荷率として採用した市の判断が不合理であるということはできない。

c
原告らは,市が負荷率を順次変遷させたことに合理性はないと主張する。しかし,上記のとおり,設計指針は,渇水による変動条件に十分留意し,都市の実情に応じて検討するものとするところ,過去に渇水により負荷率が低下した実績を踏まえ,そのような事態が再び生じる可能性を見込んで予測に取り入れることに合理性がないとはいえず,上記変遷の事実を前提としても,市が本件水需要予測において過去20年間のうち,平成6年度の数値を大渇水による異常値として除外した上,最低値を採用したことが合理性を欠くということはできない。安全率及び計画取水量について

a
証拠(乙A15〔2-4-2の16頁〕
,証人戊)によれば,市は,
一日最大給水量10万5461㎥/日に対し,安全率を10%と設定し,百の位を切り捨てて,計画取水量を11万7000㎥/日と予測したことが認められる(計算式10万5462㎥÷(100-10)/100=11万7178.8㎥≒11万7000㎥)


b
設計指針(8頁)によれば,計画取水量は,計画一日最大給水量に10%程度の安全を見込んで決定することを標準とすることとされていることからすれば,市が安全率を10%と設定したことが合理性を欠くということはできない。

c
原告らは,設計指針にかかわらず,安全率の実績値が存在する場合には,当該実績値を採用するのが通常であると主張する。しかし,そのような主張を裏付ける的確な証拠はない上,安全率は,計画一日最大給水量を超過する給水の必要が生じた場合に備えて一定の余裕を確保する趣旨で設定されるもので,不確実な要素を予測するものであるから,過去の実績値を採用しないことが直ちに合理性を欠くことにはならず,原告らの上記主張は採用できない。


水需要予測に関する小括
以上によれば,市の予測の内容に不合理な点があるとはいえず,本件水需要予測上,計画取水量が11万7000㎥/日とされたことについて明らかに不合理な点があるとはいえない。


保有水源について
慣行水利権について
a
前提事実に証拠(甲B22,B23,乙A4〔1-2〕A15

〔3-4〕
,B14,B16,B17,B22,B23,証人戊)及
び弁論の全趣旨を総合すると,次の事実が認められる。


本件各慣行水利権の水源のある相浦川は,昭和6年2月17日,
県知事により旧河川法(明治29年法律第71号。以下「旧河川法」という。
)に規定する事項を準用すべき河川(準用河川)と認定さ
れた。また,現行の河川法(昭和40年4月1日施行。以下,特に旧法と区別するときは「現行河川法」という。
)の施行の際に現に
存する,旧河川法の規定により同法が準用される河川は,一級河川
に指定されるものを除き,現行河川法の施行時に二級河川となるものとする河川法施行法(昭和39年7月10日法律第168号)2条により,昭和40年4月1日に,二級河川とされた。
県が平成13年9月に作成した相浦川水系河川整備基本方針では,相浦川は,流域面積約69.2㎢,幹線流路約20.1㎞の二級河川であり,流域の年平均降水量は2000ミリメートル程度であるが,台風や梅雨期の集中豪雨の影響を強く受け,多雨年と少雨年,夏季と冬季の降水量較差が大きいとされている。また,県の他の河川と同様に,山地から海岸までの距離が短く,急勾配であることにより河川の保水能力が低い。
(乙A4〔1-2の3頁〕
,B16,B17)



市は,平成12年6月8日,県知事に対し,本件各慣行水利権に
関する河川法88条の規定に基づく届出を行った(なお,その後,本件事業認定時まで届出はされていない。。これは,現行河川法の)
施行に伴う経過措置として,二級河川等の指定の際に,現に権原に基づき,現行河川法の規定により許可等を要する行為等を行っている者は,従前と同様の条件により,当該行為等について現行河川法の規定による許可を受けたものとみなされるところ(いわゆるみなし水利権である。同法87条参照)
,同法88条,同法施行令48
条1項・2項4号によれば,上記経過措置により同法23条の流水占用許可を受けたものとみなされる者は,二級河川の指定があった日から1年以内に,占用している流水の量などを記載した書面を河川管理者に提出して必要な事項を届け出なければならないとされたことによるものであった。その際の届出書記載の取水量は,三本木取水場が0.0521㎥/秒(4500㎥/日)
,四条橋取水場が
0.2084㎥/秒(1万8000㎥/日)であった。

しかし,市に渇水があった平成19年において,四条橋取水場で
は,年間を通じて上記届出取水量分を取水できた日は1日もなく,まったく取水できなかった日もあった。三本木取水場でも,届出取水量分を取水できなかった日が一定程度あり,わずかな水量しか取水できなかった日もあった。なお,同年においては,河川法53条の2の規定に基づく特例措置として,九州電力が保有する河川水利権の一部融通や水利権量を上回る特例取水及び民間所有井戸から河川への放流等の渇水対策が講じられていた。
(甲B22,B23,乙A15〔3-4の87~92頁〕
,B14,
B22,証人戊)


総務省は,平成13年7月,
「水資源に関する行政評価・監視結
果に基づく勧告」と題する文書を公表し,この中で,慣行水利権に基づく水利使用の実態の把握が不十分であるため,取水が行われていないにもかかわらず,これを把握していない事例(7事例)や,届出をしている取水量と実際の取水量が相違している可能性が高いにもかかわらず,取水の実態を把握していない事例(2事例)があったことを明らかにした(乙B19〔10頁〕。


b⒜

設計指針(16頁)は,地表水の水量について,一般に河川等は
水道用水,農業用水,工業用水の利水のほか,発電,漁業及び舟運等に利用されることから,新規に地表水を取水する場合には,水利権等水利用の実態について調査をすることとしている。



慣行水利権とは,旧河川法の制定前,又は河川法に基づく河川指
定以前から,長期に亘り反復継続して水を利用してきたという事実があり,当該水利用の正当性に対する社会的承認がなされ,旧河川法又は河川法に基づく許可を受けたものとみなされ,権利として認められたものをいう(旧河川法18条,河川法施行規程11条1項,
河川法23条,87条,河川法施行法20条1項。乙B19参照)ところ,上記a⒝のとおりの河川法88条の届出は要するものの,審査はされず,また,取水量の把握や報告も必要とされていない。他方で,許可水利権について,河川の流水を占用しようとする者
は,河川法に基づき,河川管理者(二級河川においては,原則として都道府県知事)の許可を受けなければならず(同法10条1項,23条)
,当該許可の申請に当たっては,申請書に,河川の流量と
申請に係る取水量及び関係河川使用者の取水量との関係を明らかにする計算を記載した図書を添付することを要する(同法施行規則11条2項1号ハ)
。また,河川管理者は,同法23条の許可の条件
(同法90条)として,通常,許可の期限の定め並びに取水量の計測及び報告義務を定めており,県も許可に際し,上記条件を付している。そして,同法23条の許可の要件は法令上明示されていないものの,証拠(乙A15〔2-4-1の10~22頁,2-4-2の参考資料11頁〕
,B18,B19〔6頁〕
)によれば,国土交通
省は,同省ホームページや,同省河川局水利調整室が監修した「水利権実務ハンドブック」において,許可の一つの基準として,申請された取水予定量が,基準渇水流量(10年に1回程度の渇水年における取水予定地点の渇水流量〔年間で355日間満たされる程度の流量〕
)から,維持流量及び水利権流量を控除した流量(基準流
量)の範囲内である場合に限り,新規に水利権を許可することを原則としていることを公表している。
以上のとおり,許可水利権が,許可時及び許可の更新時において
基準流量の範囲内であることが審査され,さらに許可の条件として取水量の計測及び報告が義務付けられていることから,実際の取水量について一定の担保がされているのに対し,慣行水利権は,届出
の義務が定められているのみで,水量の計測や報告は義務付けられておらず,また,現実には上記届出すらされていなかったり,届出水量と現実の取水量に齟齬があることもあったりすることからすれば,慣行水利権を許可水利権と同視することはできない。
また,水道事業経営の認可に当たって,水道事業を経営しようと
する者は,水道法に基づき,厚生労働大臣の認可を受けなければならず(同法6条1項)
,当該認可の申請をするには,申請書に,取
水が確実かどうかの事情を明らかにする書類を添付することを要し(同法7条1項,同法施行規則1条の2第4号)
,厚生労働大臣は,
一定の要件に適合していると認められるときに限り,水道事業経営の認可をするところ,当該要件には,当該水道事業の計画が確実かつ合理的であることが含まれ(同法8条1項2号)
,具体的には,
取水に当たって河川法23条の規定に基づく流水の占用の許可を
必要とする場合には,当該許可を受けているか,又は許可を受けることが確実であると見込まれること,

取水に当たって河川法23

条の規定に基づく流水の占用の許可を必要としない場合にあっては,水源の状況に応じて取水量が確実に得られると見込まれることが要件の一つとされ(同法施行規則6条10号,11号)
,取水につい
て流水の占有の許可が必要でない場合には,水源の状況に応じた確実な取水の見込みという実質的要件を満たすことが要求されるところ,上記要件が水道事業計画の確実性・合理性に関するものであるという趣旨からして,水道事業者が水道事業を継続するに当たっても,上記要件を充足することが当然に求められることからすれば,本件各慣行水利権からの確実な取水が見込まれるかという具体的事情を考慮して保有水源に含めるか否かを検討することにした市の判断が不合理なものであるということはできない。



本件各慣行水利権の取水の状況について,上記a⒝の事実によれ
ば,10年に一度の渇水年に相当する平成19年においては,渇水に伴う水の融通があったにもかかわらず,本件各慣行水利権のいずれにおいても全く取水できない日があり,それ以外の日も届出取水量を充足しない状況が頻発したことが認められる。
そして,上記の取水状況からすれば,本件各慣行水利権を市の保
有水源に含めた場合には,平成19年と同程度の渇水が発生すれば,最大で届出水量である合計2万2500㎥/日の全部が,実際には取水できないおそれがあるところ,上記本件各慣行水利権の届出水量は,市の許可水利権7万7000㎥/日との合計の2割超を占めるから,取水できなかった場合には安定的な給水に重大な影響を与えるおそれがあるといえる。
設計指針(7頁)は,渇水規模について,地理的条件や経済的な
理由等により,10年に1回程度として決定することが多いとしており,別紙12に係る市の渇水対策の実施状況からすれば,市が,平成19年を10年に1回程度の渇水年に相当すると判断したことは不合理とはいえず,設計指針(6・16頁)が,渇水等の災害時においても住民の生活に著しい支障をきたすことがないよう水源の安定確保を求めており,水量については,年間を通じた流量や水位等を調査すること,特に,渇水時の流量や水位の把握が不可欠であるため,水源地域の特性等を考慮し,既往の最大渇水等についても調査することが望ましいことを示すところ,上記a⒜のとおり保水能力が低いという自然的特性を踏まえ,渇水時に本件各慣行水利権からの取水ができなくなる可能性を考慮して,本件各慣行水利権を市の保有水源から除外した市の判断が,合理性を欠くということはできない。



原告らは,第2章第2(原告らの主張)2


のとおり主張す

る。

しかし,慣行水利権と許可水利権の法的な同等性をいう点につ
いては,上記⒞のとおり,本件各慣行水利権を市の保有水源に含
むべきか否かを判断するに当たっては,実際の取水実績に基づく
渇水時の取水の具体的可能性の有無や程度が問題になるところ,
法的にみて慣行水利権と許可水利権が同等の権利であるか否かは,上記の点を直ちに左右するものではない。


また,取水実績をいう点については,上記a⒝の取水状況から
すれば,上記b⒝の許可の要件を満たす基準流量はない。また,
市の一日最大給水量から推算した本件各慣行水利権からの取水量
に基づく主張については,過去実績を基礎とした場合,一日最大
給水量を記録した日に基準渇水流量程度の流量しかなかったとは
限らず,過去実績のみをみても,基準渇水流量時に計画一日最大
給水量を給水できるようにするという水需要予測の目的を満たす
ものであるかは明らかでない上,上記a⒝のとおり,市は,渇水
時に特例措置として他の水利権の融通や水利権量を上回る取水を
行っているところ,一日最大給水量からの推算は,これらの水量
を控除しておらず,妥当なものとはいえない。
したがって,本件各慣行水利権が取水実績の面で安定している
とする原告らの主張は根拠を欠く。


市の過去の水需要予測からの変遷に関する主張については,市
は平成6年から平成7年にかけて断水を伴う最大級の渇水を経験
しており,その後の見直しにより平成11年に三本木取水場の慣
行水利権等を保有水源から除外した判断が合理性を欠くというこ
とはできない。


水道法や河川法の規定が本件慣行水利権を保有水源に含めない
理由にならないという点については,上記b⒝のとおり,水道事
業経営の認可の要件は,当然に水道事業を継続するに当たっても
求められる基準であると解するのが相当である上,上記a⒝の事
実に照らせば,本件各慣行水利権について占有許可の見込みがあ
るとはいい難く,この点に関する原告らの主張も採用できない。

合併地区の保有水源について
a
証拠(乙A15〔1-2の36~47頁,3-4の80・81・109頁〕
,B12,B13,B27〔5・8頁〕
)及び弁論の全趣旨に
よれば,以下の事実が認められる。


市は,合併地区の既存の各浄水場が小規模で,現状での継続使用
をすると,イニシャルコスト(初期経費)及びランニングコスト
(運転経費)が生じ,市町合併のスケールメリット(規模の経済性)を発揮できず合理性を欠くことから施設の集約が望ましいとの方針の下,平成27年度から佐世保地区の山の田浄水場を更新して北部浄水場(仮称)
(以下「北部浄水場」という。
)の供用を開始して施
設を統合し,合併地区には北部浄水場から送水し,既存の施設の更新や合併地区内への統合浄水場の新設を行わないこととした。



市は,合併地区の保有水源について,取水の安定性と合理性(規
模)の観点から,問題があるものからないものまで4段階に分ける総合評価を行った。その結果,つづらダム(許可水量2470㎥/日。評価は安定性に問題がないというものであった。
)は今後も水
源として使用する予定とし,それ以外の水源について,いずれも許可水量1000㎥/日未満の小規模な水源であり,かつ北部浄水場と佐世保地区のいずれからも距離があるため導水管敷設の費用面に問題があることも踏まえ,今後活用の見込みがないものは廃止し,
安定性確保の可能性のある水源は,今後の統合計画の進捗に合わせて詳細を検討して判断することとした。


市は,上記のつづらダムについて,本来は,佐世保地区も慢性的
に水源不足であり,北部浄水場から小佐々地区への給水開始時期と,つづらダムから北部浄水場への導水時期を一致させることが望ましいものの,渇水等により事業収益が減少傾向にある一方で,老朽化対策等により事業経費及び施設整備費は今後増加が見込まれることから,両者の差額を自己資金から補填しつつ,渇水等の対策経費や事業の支払のために保有すべきと考えられる自己資金(類似規模の全国平均と同程度である収益の50%程度)を維持するためには,両者の実施時期を一致させることは困難であり,水道給水の安全確保にかかる事業である北部浄水場から佐世保地区以上に水源不足が深刻な小佐々地区等への配水を優先させるため,つづらダムから北部浄水場への導水は平成39年以降に先送りすることとした。



小佐々地区の上水道は田原上水系と楠泊上水系の2系統があるが,田原上水系の水源の中心であるつづらダムの容量は同水系の約31日分,楠泊上水系の水源の中心である楠戸丸貯水池の容量は同水系の約20日分にすぎず,小佐々地区の水源はその多くを河川や井戸に頼っており,少雨傾向になると直ちに取水不足に陥る傾向がみられる。小佐々地区の水源余裕率は合併地区の中で最も低い。
平成19年渇水時には,佐世保地区の渇水対策(給水制限等)は
平成20年3月26日に終了したが,小佐々地区の渇水対策は同年4月30日まで継続した。また,平成23年渇水時には,佐世保地区では警戒体制への移行後,給水制限実施準備前に同体制は解除されたが,小佐々地区では佐々町からの応援給水の受け入れ等の渇水対策を実施した。

b
水道法が,地方公共団体が水道事業及び水道用水供給事業を経営するに当たって適正かつ能率的な運営に努めなければならない旨の責務を定め(同法2条の2第1項)
,水道事業者が供給規程において定め
る料金は,能率的な経営の下における適正な原価に照らし公正妥当なものであることが要件とされていること(同法14条2項1号)
,設
計指針(2・13頁)は,水道事業の経営効率を高めるため,イニシャルコストとランニングコストとを総合的に捉えた水道施設全体のライフサイクルコストについての検討や,各事業体の実情や地域特性に応じて,スケールメリットが期待できる施設の共同化等の広域化の検討が重要であること,給水区域の拡張や事業統合,安全な水の安定供給等には多額の資金を要することから,財政収支見通しを踏まえた効率的な整備計画を立てることが有効であることを示していることからすれば,市が,合併地区の保有水源について,その全てを活用するのではなく,規模と水量という効率性の観点から今後の活用の有無を区別し,その一部について直ちに活用の有無を判断するのではなく,統合の進捗に合わせて順次検討することとしたことが,合理性を欠くということはできない。
また,上記の水道法及び設計指針の趣旨に照らせば,渇水等の対策経費等のために全国平均と同程度の自己資金を維持する必要があるとの市の方針が不合理であるとはいえず,水の安定供給は水道事業者の最も重要な責務であるところ,上記a⒟のとおり小佐々地区が佐世保地区以上に水源不足が深刻であることからすれば,限られた予算の中で,北部浄水場から小佐々地区への給水を優先し,つづらダムから北部浄水場への導水を先送りにすることとしたことが,合理性を欠くということはできない。
小括

以上によれば,市が保有する水利権を7万7000㎥と算定したことが合理性を欠くということはできない。

原告らは,市は過去の水需要予測から予測手法を変遷させており,このような変遷の理由とその合理性が立証されなければならないと主張する。しかし,処分行政庁は,法20条3号に該当するか否かを審査するに当たり,その基礎となる水需要予測の客観的合理性を審査するものであり,かつそれで足りるものであるから,被告において常に上記の点を立証することを必要とするものと解するのは相当でない。
また,設計指針(2頁)は,施設整備の途上で既存計画と社会的ニーズの不整合や,人口の減少,社会経済情勢の変化などにより,水需要予測と実績の乖離が大きくなっていく可能性があることから,適宜,点検・評価等を行い,必要に応じて基本計画を見直すことが望ましい旨記載しており,水需要予測の手法の見直しが当然に想定されているものと評価することができることからしても,水需要予測の手法が変遷しているという事実のみをもって,当該変遷後の水需要予測が不合理であることを推認させる事実であるということはできない(なお,個々の予測項目における予測手法の変遷の点については,各項目において言及したとおりである。。

原告らは,上記のような予測手法の変遷は,市が石木ダムありきで予測をしてきたことを裏付けると主張するが,水需要予測の合理性は客観的に判断されるべきものであって,市の上記のような主観的意図の有無は,上記予測の合理性を左右するものでないから,その点については判断を要しない。
また,原告らは,過去のいずれの水需要予測においても各用途別一日平均有収水量の実績値が予測値を下回っていることを予測の不合理性の根拠として指摘するが,設計指針が,計画給水量等の決定に当たっては,それぞれの水道施設の条件により,平常時だけでなく非常時の水運用を踏まえ
た量的な安全性を見込む必要があることを示すように,非常時を見据えた需要量を予測する必要がある以上,結果として想定した非常事態が発生しなかった場合に実績値が予測値を下回ることは当然に想定され,事後的にみた実績値が予測値を下回っていたとしても,このことが直ちに水需要予測が合理性を欠くことを意味するものとはいえない。

石木ダムの必要性について
以上によれば,市の計画年度時点における計画取水量11万7000㎥/日に対し,市の保有水源量は7万7000㎥/日であるから,約4万㎥/日を新規開発水量として確保する必要があると認められる。
流水の正常な機能の維持のための必要性について


証拠(乙A4〔2-5〕
,A15〔2-4〕
)によれば,県は,川棚川の
夏期渇水期の用水不足が著しく,沿岸既成農地の灌漑用水及び既得の水道用水の取水に支障を来していること,昭和42年,昭和49年及び平成6年の渇水被害が特に甚大であったことから,農業,工業,水道及び河川維持の各既得用水の補給等を図るため,基準点山道橋において,維持流量として0.090㎥/秒(1月から3月)又は0.120㎥/秒(4月から12月)を確保することし,基準点山道橋下流に既得用水はないため,水利流量は計上しなかったことが認められる。


河川管理者は,河川整備基本方針において,主要な地点における流水の正常な機能を維持するため必要な流量に関する事項を定めなければならない(河川法16条,河川法施行令10条の2第2号ニ)

そして,流水の正常な機能を維持するため必要な流量とは,舟運,漁業,観光,流水の清潔の保持,塩害の防止,河口の閉塞の防止,河川管理施設の保護,地下水位の維持,景観,動植物の生息・生育地の状況,人と河川との豊かな触れ合いの確保等を総合的に考慮して定められた流量(維持流量)及びそれが定められた地点より下流における流水の占用のために必要
な流量(水利流量)の双方を満足する流量(正常流量)をいう(技術基準7頁参照)

したがって,別紙12のとおり,市を含む川棚川の周辺地域においては渇水被害が著しいこと(上記


a)を踏まえ,県が上記維持流量を確

保することとしたことが合理性を欠くということはできない。なお,原告らは,本件事業に渇水対策という目的はないと主張するが,流水の正常な機能の維持は,渇水時にも維持流量及び水利流量を確保することを目的とするものであり,上記主張は前提を欠き,採用できない。
洪水調節効果(治水事業)としての必要性について

河川法は,河川整備基本方針及び河川整備計画について,考慮すべき事項を挙げるにとどまり(同法16条2項,16条の2第2項)
,これ
らにおいて定めるべき事項については政令(河川法施行令)に委任し(同法16条1項,16条の2第1項)
,これを受けた同施行令も,こ
れらにおいて当該事項の項目を列挙するのみで,その具体的内容や策定方法等については何ら定めていないところ,その趣旨は,河川整備基本方針及び河川整備計画の策定に当たっては,高度に技術的かつ専門的な事項を含む上,河川整備の時期やその範囲については,当該河川整備の費用を負担する地方公共団体の財政状況等と密接に関係する政策的な事項であることから,河川管理者の広範な裁量に委ねる趣旨であるというべきである。
したがって,裁判所が上記計画の内容の適否を審査するに当たっては,上記


と同様に,当該計画が裁量権の行使としてされたことを前提

として,重要な事実の基礎の不存在や評価の不合理性,判断過程における考慮不尽等によりその内容が社会通念に照らし著しく妥当性を欠くものと認められる場合に限り,裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用したものとして違法となるとすべきものと解するのが相当である(同項に引
用した最高裁判例参照)

そして,前提事実

イのとおり,河川整備に関する基準等に関し,技

術基準(乙C1,C4,C5。以下,証拠として引用する場合も単に「技術基準」という。,技術基準解説(乙C3,C11。以下,証拠と)
して引用する場合も単に「技術基準解説」という。,工実手引き(乙C)
9。以下,証拠として引用する場合も単に「工実手引き」という。)及
び中小河川手引き(乙C2,C12。以下,証拠として引用する場合も単に「中小河川手引き」といい,技術基準,技術基準解説,工実手引き及び中小河川手引きを併せて「技術基準等資料」という。
)が存すると
ころ,これらの各証拠によれば,技術基準は,河川法を所管する国土交通省が河川等に関する計画等を実施するために必要な技術的事項について定めるものであること(技術基準「総則」,技術基準解説は同省河川)
局が監修し,技術基準の趣旨等につき解説するものであること,工実手引きは,建設省(当時)の指導,教示を受けて二級水系工事実施基本計画策定に当たっての調査手法等を示したものであること(工実手引き「まえがき」,中小河川手引きは,学識経験者や建設省,都道府県の河)
川技術者からなる中小河川検討会における意見等を参考に,治水計画や河道計画に関する基本的な考え方や技術的な手法について整理を行ったものであること(中小河川手引き「まえがき」
)が認められ,これらは
その内容にいずれも信用性があり,技術基準等資料の内容や,同資料に沿った計画を立案することが合理性を欠く特段の事情がない限り,同資料に基づいて実施された計画は,河川法及び河川法施行令に沿ったものであり,合理性があるというべきである。

基本高水流量の算定方法の妥当性について
計画規模について
a
証拠(甲C9,C11,C13,乙A4〔1-1,2-4,2-

5〕
,A15〔2-1〕
,C6,C7,C9,C10,証人己)及び弁
論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。


県の二級河川は,210水系,341河川,約1024㎞に及び,そのほとんどが,地理的・地形的要因により中小河川であり,山から海までの距離が短く,勾配が急であるため,洪水時には激流となって流下するが,平常時には流量が少ないという特徴がある。そして,県では,台風や豪雨等により頻繁に水害に見舞われ,昭和28年から昭和62年までの間に,11回にわたり,死者・行方不明者が生ずる水害を被った。その後も,平成3年及び平成11年に,台風や豪雨により死者・行方不明者が生じ,床上浸水を生じた水害は他にも発生した。
(乙C6,C7)



川棚川は,過去に,別紙13のとおり洪水被害が生じた(同別紙
の「雨量」欄上段記載の雨量は川棚川流域平均雨量であり,同欄下段記載のかっこ書は上記雨量を年超過確率に換算したものである。)
(乙A4〔2-4のⅡ-4頁〕
,弁論の全趣旨)




川棚川流域の人口は,主に川棚町の市街地である下流部と,波佐
見町の市街地である上流部に集中しており,川棚川流域は市(佐世保市)に隣接することや,交通網の発達により,下流域を中心に市街化が進んでいる。山道橋付近から下流の流域は,川棚町の都市計画区域に指定されており,上・中流域の一部は波佐見町の都市計画区域に指定されている。
(乙A4〔2-5の3-2頁〕
,A15〔2
-1の1頁〕

川棚川は,堀込河道の区間が多いが,最下流部に位置しJR川棚
駅に近い江川橋(その位置は別紙7のとおりである。
)下流左岸部
には築堤河道の部分があり,その背後には人家が立ち並んでいる。また,山道橋・江川橋間及び江川橋下流の各右岸部は,河川沿いの
地盤高は堤防高と概ね同じであるが,背後地の住宅等の地盤高が計画高水位よりも低い部分が存在する。
(乙A40の2〔1・17頁〕

弁論の全趣旨)
⒟ⅰ

県は,昭和31年洪水を契機として,昭和33年から,中小河
川改修事業として,川棚川について,昭和31年洪水の実績に対
応する形で山道橋地点における計画高水流量を1030㎥/秒と
定め,築堤・掘削等の施工に着手した。この時点における計画規
模は1/30であった。
(乙A4〔1-1の3頁,2-4のⅡ-
3頁〕
,弁論の全趣旨)


昭和39年に現行河川法が制定され,河川管理者は工事実施基
本計画を策定することとされ,工事実施基本計画には基本高水や
その河道・洪水調節ダムへの配分,計画高水流量に関する事項等
について定めるものとされた(平成9年法律第69号による改正
前の河川法16条1項,平成9年政令第342号による改正前の
河川法施行令10条1項2号。前提事実

ⅲウ
参照)


県は,昭和42年洪水が発生したことを受け,昭和48年に石
木ダムの実施計画調査事業に着手し,河川改修と石木ダムの新設
組み合わせによる洪水調整計画を定め,昭和50年から石木ダム
の建設事業に着手した。その際,計画規模は1/100と設定さ
れ,また,石木川の川棚川合流地点における基本高水のピーク流
量は1390㎥/秒,河道への配分流量は1020㎥/秒とされ,石木ダム建設予定地点において計画高水流量280㎥/秒のうち
210㎥/秒の洪水調節を行うものとされた。
(乙A4〔2-3,
2-4のⅡ-3頁〕
,A15〔2-2〕



県は,平成9年11月に策定した工実計画においても,計画規
模を1/100とした(甲C13)


ⅴ(ⅰ)県は,平成11年,県評価指標を策定した。県評価指標は,流域重要度を評価する指標とそれに対応する計画規模の下限値
を別紙14のとおりとし,計画規模の設定に当たっては,5つ
の評価項目のうち3項目以上適合することを基本とするが,
県庁所在地をはじめとする県内の主要な都市を流れる河川であ
る場合,

過去に大規模な洪水被害を受けている場合,

大規

模開発が計画されている場合等,流域の状況を総合的に判断し
て決定するものと定めた。
(乙A4〔2-4のⅡ-10頁〕

(ⅱ)県が,県評価指標において算定した川棚川の各指標の数値は,次のとおりである(乙A4〔2-4のⅡ-10頁〕。

想定氾濫面積(昭和50年頃の河道状況下において想定さ
れる氾濫面積)
(項目



472ha
想定氾濫区域内の宅地面積(平成15年住宅・土地統計調
査による県の1戸当たりの敷地面積×想定氾濫区域内の家屋
棟数)
(項目



59㏊
想定氾濫区域内の人口(平成12年国勢調査地域メッシュ
統計)
(項目



2.7千人
想定氾濫区域内の資産額(想定氾濫面積内の家屋,家庭用
品,農漁家,事業所及び農作物資産の合計値)
(項目



927億円
想定氾濫区域内の工業出荷額(平成11年の「長崎県の工
業」における製造業従業員数一人当たりの製造品出荷額〔町
別〕×想定氾濫区域内の製造業従業員数)
(項目



70億円
(ⅲ)県は,項目

以外の4項目が1/100の下限値以上となる

ことに加え,既往洪水の規模及び将来の増雨を見込んで,1/
100の計画規模が妥当であるとした(乙A4〔2-4のⅡ-
11頁〕。


県は,石木ダムについて,当初,工期を昭和48年度から昭和

54年度までとしていたが,遅延した。他方,川棚川についての
広域基幹河川改修事業については,平成14年度に改修がほぼ終
了した。
(乙A4〔2-4のⅡ-127頁〕
,A15〔2-2〕


県は,平成18年3月,平成17年当時の河道状況を基に氾濫

シミュレーションを実施した川棚川想定氾濫区域図等を作成した。この中では,想定氾濫面積は約183ha,宅地面積は約18ha,人口は約900人,資産額は約281億円,工業出荷額は約21
1億円とされた。なお,県が,上記川棚川想定氾濫区域図等を作
成したのは,整備計画を策定するに当たり,上流と下流の資産を
確認し,上流から整備しなくてよいかどうかを確認するためであ
った。
(甲C11,証人己)


技術基準(5頁)では,計画規模の決定に当たり,河川の重要度
を重視するとともに,既往洪水による被害の実態,経済効果等を総合的に考慮して定めるとされている。



技術基準解説(29・30頁)では,計画規模について次のとお
りとされている。
計画規模は計画対象地域の洪水に対する安全の度合いを表すもの
であり,それぞれの河川の重要度に応じて上下流,本支川でバランスが保持され,かつ全国的に均衡が保たれることが望ましい。
上記重要度は,洪水防御計画の目的に応じて流域の大きさ,その

対象となる地域の社会的経済的重要性,想定される被害の量と質,過去の災害の履歴などの要素を考慮して定めるものである。河川整備基本方針の策定に当たって,計画規模を決定する際のおおよその基準として,河川をその重要度に応じてA級ないしE級の5段階に区分した場合の当該区分に応じた対象降雨の規模の標準は,別紙15のとおりである。
一般に,河川の重要度は,一級河川の主要区間においてはA級又
はB級,一級河川のその他の区間及び二級河川においては,都市河川はC級,一般河川は重要度に応じてD級又はE級が採用されている例が多い。
なお,洪水により特に著しい被害を被った地域にあっては,既往
洪水を無視して計画規模を定めることは一般に好ましくなく,したがって,このような場合には,その被害の実態等に応じて,民生安定上,この実績洪水規模の再度の災害が防止されるように計画を定めるのが通例である。ただし,この場合においても,上下流及び本支川のバランスが保持されるよう配慮する必要がある。


中小河川手引き(17頁)では,計画規模の設定に当たっての基
本方針として,

河川の大きさ,流域の社会経済的重要性,想定さ

れる被害の実態,過去の災害の履歴,経済効果に加え,上下流バランス,流域の将来の姿などに配慮すること,

河川の重要度を評価

する流域の指標として,流域面積,流域の都市化状況,氾濫区域の面積,資産,人口,工業出荷額等が考えられるが,このほか水系として一貫した上下流,本支川でバランスが保たれ,また都道府県内の他河川とのバランスにも配慮して決定するものとするとされ,参考事項として,河川形態又は地形条件に応じて計画規模に差をつけるという考え方があることが紹介され,その例として,別紙16の
表が示されている。


工実手引き(16~21頁)では,計画規模について次のとおり
とされている。
計画規模決定に当たっては,河川の大きさ,流域の社会経済的重
要性,想定される被害の質量,過去の災害の履歴,経済効果に加え,流域の将来の姿などを配慮する。ただし,計画規模は,やむを得ない場合を除き,原則として1/30を下回らないように設定する。河川の重要度を評価する流域の指標として,流域面積,流域の都
市化状況,氾濫区域の面積,資産,人口,出荷額等が考えられるが,このほか水系として一貫して上下流,本支川でバランスが保たれ,また周辺河川とのバランスにも配慮して決定する。計画規模決定に当たっては,必要に応じ,計画規模を上回る洪水により被害を受けている場合,利水上のダム計画があって多目的ダムとすることが適当である場合等の要素を総合的に判断して定める。
認可済みの二級水系の約240河川における計画規模の下限の平
均的値と項目

ないし

の範囲を示した,実績による流域重要度の

評価指標の範囲(○点又は●点の分布)と計画規模の下限値(赤線)は別紙17(ただし,原典では,川棚川を示す青字部分はなく,赤線部分は黒太線である。
)のとおりであり,その計画規模別の評価
指標の範囲は別紙18のとおりである(なお,同手引きにおいて,上記の分布について,計画規模と各指標との関係は,ばらつきが大きく相関関数は,0.3から0.4程度の値であり,回帰式表示はあまり意味をもたないとされている。乙C9)

別紙17に上記⒟ⅴ(ⅱ)の川棚川の項目

ないし

の数値と計画規

模(1/100)をプロット(位置付け)したものが,同別紙の青字部分である(乙C10)


b
県評価指標及び県評価指標に基づく川棚川の計画規模の設定が,上記a⒠ないし⒣の基準等に適合したものであるかについて検討する。⒜

前提として,計画規模の定め方については,法令上の基準はなく,上記a⒠ないし⒣の技術基準等資料が,法令の趣旨に則って基準を示しているにとどまること,同資料は複数の基準を示しており,かつ同等の要素を考慮する場合にもその内容には差異がある(例えば,技術基準解説では二級河川の計画規模は最大で1/100が目安とされているが,中小河川手引きでは中小河川の計画規模は最大で1/150が目安とされている。
)ことに照らせば,技術基準等資料
に示された計画規模の範囲を一つでも逸脱した場合に直ちに起業者の設定した計画規模が不合理であるということは相当でなく,技術基準等資料全体に照らして,川棚川と類似する河川において一般に採用されている計画規模の範囲を合理的な理由なく逸脱している場合に,市の計画規模の設定が合理性を欠くものというべきである。


上記a⒠,⒡のとおり,技術基準及び技術基準解説によれば,二
級河川においてはC級ないしE級が採用されている例が多いことが認められる。そして,C級の例が多いとされる都市河川とD・E級の例が多いとされる一般河川の区別については法的な定義が存在しないところ(弁論の全趣旨)
,上記a⒞の事情(なお,都市計画区
域に指定されていることは,一体の都市として総合的に整備し,開発し,及び保全する必要がある区域とされていることを示すものである。都市計画法5条1項参照)からすれば,川棚川が都市河川相当のC級であると判断したことが直ちに不合理であるということはできない。
これに加えて,技術基準解説においては,特に著しい被害を被っ
た地域においては実績規模程度の災害の再発防止のために計画が設
定されることが通例であるとされているところ,川棚川においては過去に上記a⒝(別紙13)のとおりの洪水被害が生じており,とりわけ平成2年洪水においては総被害額約38億円,全半壊10戸,床上・床下浸水約400戸という被害があったこと,昭和23年洪水の24時間雨量の年超過確率は1/80程度であることにかんがみれば,上記のような過去の洪水被害をも考慮して,実績規模に近似した1/100を計画規模として設定したことが,技術基準及び技術基準解説に照らして不合理であるということはできない。


また,中小河川手引きに示された別紙16の表は,河川形態等に
応じて計画規模に差をつけるという考え方があることを紹介した参考事項という位置付けであるから,中小河川手引きが直ちに同表を計画規模の基準という位置付けで示したものとはいえないが,同表によれば,一般都市域を流域とする築堤河道の河川の基本的な計画規模は1/100であるとされているところ,川棚川には築堤河道の区間があること(上記a⒞)
,一般都市域等の地域分類について
法的な定義はないこと(弁論の全趣旨)に加え,上記a⒞の川棚川流域の実情からすれば,川棚川流域が一般都市域という概念と文言上明らかに矛盾するとまではいえないことからすれば,本件の計画規模が中小河川手引きにおける上記参考事項と矛盾するものとはいえない。

⒟ⅰ

工実手引きに関し,同手引きが示す別紙18のとおりの計画規
模別の評価指標と別紙14の県評価指標は,同じ計画規模につい
て,氾濫面積など共通する項目において,県評価指標の方が小さ
い数値を基準としている。しかし,別紙18については,計画規
模の下限値を示すものであり,別紙17と合わせてみた場合,評
価指標の各要素の数値が別紙18に記載されたものより小さい場

合に,計画規模を高くすることが許容されていないということは
できない。実際に,別紙17の分布によれば,川棚川と同一の指
標値又はそれ以下の値であっても,同じ計画規模を採用している
ケースがままみられ,県評価指標及びそれに基づく本件事業の計
画規模が,同別紙の示す二級河川の計画規模に関する全国的な分
布に照らして過度に高い数値であるということはできない。
また,工実手引きにおいても,計画規模決定に当たって配慮す
べき要素として,過去の災害の履歴が挙げられているところ,こ
のことは,当然に過去の災害の発生の原因となるその地域の河川
の特性を考慮すべきことを含むと認められる。そして,上記a⒜
のとおり,県の二級河川の勾配が急であることに照らすと,越水
ないし溢水の程度が同等であっても,増水が緩やかな河川と比較
して避難等の被害の予防がより困難であり,人的・物的被害を受
けやすいといえる。
加えて,同手引きが,上記のとおり,計画規模の下限値を示し
ていることや,計画規模について,やむを得ない場合を除き,原
則として,年超過確率1/30を下回らないことなどとしている
ことに照らすと,同手引きは年超過確率を低くすることについて
慎重な態度を示しているといえる。
以上によれば,県評価指標が,工実手引きが示す下限値を採用
しなかったことに合理性がないということはできない。

次に,川棚川の計画規模について,県が,上記a⒟ⅴ(ⅱ)の川棚川の各指標の数値を県評価指標に当てはめた場合,3項目以上が
1/100となり,また,川棚川の計画規模を,認可済みの他の
河川の分布と比較した場合も,別紙17の青字部分のとおり,同
計画規模が全国的な分布を逸脱しているとはいえない。

この点,県が,川棚川の計画規模を決定するに当たり,氾濫面
積の前提となる河道状況を昭和50年当時のものと設定したこと
について,上記a⒟の事実によれば,県は,昭和50年に全体計
画を策定した際に,河川改修と石木ダムの新設ダムの組み合わせ
による洪水調節計画を採用し,その後も,石木ダム建設地点にお
ける洪水調節量等に着目すれば,工実計画や川棚川水系整備計画
においても,流出計算手法の見直しや利水容量の変更に伴う貯水
容量の変更があったほかは引き継がれていると認められ,本件事
業は,当初から河川改修と相まって所定の洪水調節機能を果たす
ことが予定されており,河川改修事業と一体のものとして計画さ
れたものと認められる。しかし,その後の実際の事業の進行とし
ては,石木ダムは,当初,昭和54年度完成の予定であったもの
の,遅延し,他方で,平成14年度には河川改修がほぼ終了した
ものであるが,県が,上記のとおり,石木ダム建設と河川改修事
業が一体のものとして洪水調節機能を果たすことを計画していた
ことに照らせば,計画規模の検討に当たり,先に進行した河川改
修事業の結果を考慮せず,当初の計画を前提としたことが明らか
に不合理であるということはできない。
すなわち,仮に事業認定申請時の最新の河道状況を前提に想定
氾濫面積を算定し,計画規模を設定すべきものと解すると,予定
される事業の内容が同一であるにもかかわらず,事業認定申請の
時期が遅くなるほど計画規模が小さくなり,当初の計画を履行す
ることができなくなり,反対に,全体計画や河川整備基本方針で
定めた計画規模に相当する年超過確率の基本高水を安全に流下さ
せるための河道とダムの流量分配を達成するためには,ダム建設
のための事業認定を受けるまで河道整備を留保するか,ダム建設

の事業計画を立案した時点で,河道整備やダム建設のための地権
者との任意の交渉等に先立って,強制収用を可能にするための事
業認定を受けることを事実上強制することになり,段階的な治水
安全度の向上や,起業者の用地取得のための円滑な任意交渉を妨
げることになるからである。
以上によれば,一連の事業の開始時である上記全体計画の策定
時(昭和50年)頃の河道状況を前提に想定氾濫面積を算定する
ことに合理性がないということはできない。
なお,上記a⒟ⅶで認定した平成17年の想定氾濫面積等を県
評価指標に当てはめた場合,想定氾濫面積及び資産額が計画規模
1/100となり,宅地面積,人口及び工業出荷額は計画規模1
/50となる。上記a⒟ⅴ(ⅰ)のとおり,県評価指標は,3項目以上適合することを基本とするが,過去に大規模な洪水被害を受け
ている場合は流域の状況を総合的に判断して決定するものと定め
ており,川棚川の過去の洪水被害に照らせば,平成17年の想定
氾濫面積等によっても計画規模を1/100とすることが不合理
であるということはできない。

以上によれば,市が川棚川の計画規模を1/100と設定した
ことが,工実手引きに照らして不合理であるということはできな
い。

c
さらに,県内の他河川との均衡について検討しても,証拠(乙A4〔2-4のⅡ-13頁〕
)によれば,河川整備基本方針においては県
評価指標に照らして1/100相当とされる項目が3以上ある河川についてはいずれも計画規模を1/100と設定していることが認められるから,川棚川の計画規模を1/100と設定することが,県内の他河川との均衡を欠き不合理であるということもできない。

d
以上によれば,市が川棚川の計画規模を1/100と設定したことが合理性を欠くということはできない。

e⒜

以上に対し,原告らは,工実手引きに別紙17の図に示した計画
規模と各指標との関係はばらつきが大きく相関係数が0.3から0.4程度の値であって回帰式表示はあまり意味を持たないとの記載があることをもって,同図は意味を有しない旨主張する。しかし,工実手引きの上記記載部分が意味するところは,計画規模と各指標の関係性を回帰分析により特定の回帰式で表示することが意味を持たないことをいうものにすぎない。そして,工実手引き(16~17頁)は,計画規模と各指標の分布状況から計画規模の下限の平均的値を導き(別紙17の赤線)
,当該河川の流域の状況及び県内河川
の計画規模とのバランス等を総合的に配慮して計画規模を設定するに当たり,上記下限の平均的値との関係にも配慮することが相当であるとしており,別紙17の図をそのような方法で活用することが有意義であることを述べていることは明らかであって,原告らの上記主張には理由がない。



また,県が氾濫面積の前提となる河道状況を昭和50年のものと
したことにつき,原告らは,県が作成した「河川整備基本方針策定における計画規模設定の基本的な考え方」
(甲C14)に「現況で
の評価」をすべき旨の記載がある旨主張する。しかし,同文書は,「流域内で大規模開発が計画されているような場合には,現況での評価と合わせて将来の評価を行った上で決定する」ことを定めるものであり,年超過確率を高くすべき事情が既にある場合にこれを考慮すべきことを定めており,また,上記事情は,想定氾濫面積内の宅地面積,人口,資産額及び工業出荷額に影響を及ぼすものの,想定氾濫面積自体が変化するものとは考えられず,原告の主張は採用
できない。


原告らは,川棚川の諸指標を他の都道府県の評価指標に当てはめ
ると1/100未満の計画規模が相当である旨主張する。しかし,都道府県ごとに河川の本数や規模等は異なるところ,全国的な基準等を基礎として各都道府県がその地域的特性を考慮して如何なる評価指標を作成するかは河川管理者である各都道府県知事の裁量に委ねられているものと解するのが相当であるから,単純に他の都道府県の評価指標に当てはめて過大であるからといって,そのような計画規模の設定が直ちに全国的な均衡を欠く不合理なものであるということはできない。



原告らは,計画規模の変遷が不合理であり,昭和30年代には1
/30であったものが,石木ダム建設事業に着手した直後に,突如として1/100に変更された旨主張するところ,計画規模の数値については原告ら主張の事実が認められる。しかし,石木ダム建設事業に着手した時点以降の計画規模が1/100とされ,本件事業認定時の計画規模が1/100とされたことについて不合理であるといえないことについては,上記のとおりであり,計画規模が変更されたことによってただちに変更後の計画規模が合理性を欠くということはできない。



原告らは,前提事実


のとおり,川棚川上流域の計画規模が

1/30とされていることと不均衡であることをも主張する。技術基準(5頁)及び技術基準解説(30頁)
,中小河川手引き(18
頁)並びに工実手引き(16頁)はいずれも上下流のバランス(均衡)ないし整合性を保持すべきことを記載するところ,段階的に河川改修等を実施し計画規模を向上させる場合においては,一般に下流域の方が都市化の進行により洪水の影響が大きいことに加え,単
純に計画規模をそろえることは多くの場合,超過洪水の生起に際して,上下流の間では下流が危険になるのが一般であるので,この点も考慮して整合性を保つよう配慮すべきであるとされている(技術基準解説30頁参照)ことに照らせば,下流域から先行して計画規模を引き上げることが不合理であるということはできない。
検討対象降雨の拡大(引き伸ばし)
・棄却検討について
a
証拠(乙A4〔2-4のⅡ-33~104頁〕
)によれば,以下の
事実が認められる。


県は,水文資料から算出した実績降雨波形を基に,
による方法,

重心法,

等流流速法及び

ピーク時差

クラーヘン式による方

法の4手法により川棚川の洪水到達時間(ピーク流量の流域最遠点からの到達時間)を算定した結果,その平均は,
が3.8時間,

が1.9時間,

が3.1時間,

が2.8時間であり,概ね2

時間から3時間の範囲であったことから,洪水到達時間を3時間とした。


県は,実降雨における一雨降雨の継続時間を把握するため,降雨
規模が比較的大きい一雨降雨(昭和22年から平成15年までの57年間の一雨降雨として抽出された降雨のうち,総雨量の多い順に57の降雨)を対象として,降雨継続時間の短いものから順に累加したところ,降雨継続時間が24時間以内の一雨降雨が87.7%であり,降雨継続時間が24時間程度あれば,ほぼ全ての降雨継続時間を包絡できると判断した。
県は,これを踏まえ,24時間雨量が総雨量に占める割合(24
時間雨量/総雨量)を洪水の頻度(回数)で分類した結果,本件主要洪水(12洪水)のうち9洪水が1以上であり,その余の3洪水も0.9以上であって,ほぼ全ての洪水において24時間雨量によ
り総雨量を包絡できることから,24時間雨量により降雨を代表させることが妥当である一方,12時間雨量では半分以下の5洪水しか包絡できず,36時間雨量では12洪水全てを包絡できるが総雨量と比べて過大であることなども踏まえ,24時間雨量を計画降雨継続時間として,これにより降雨を代表させることとした。


県は,上記⒜の洪水到達時間(3時間)と上記⒝の計画降雨継続
時間(24時間)における上記

の年超過確率(1/100)の各

確率雨量について,平成9年の工実計画策定時に,昭和22年から平成6年までの佐世保雨量観測所の雨量資料を基に,
トーマス法,

グンベル法,

対数正規法及び

ハーゼン法,

岩井法の5手法

により算定しており,その平均値を基にした確率雨量は,3時間雨量が203.0㎜,24時間雨量が400㎜であった。
県は,更に平成15年までの雨量資料を追加し,上記

から


新たに12手法を加えた17手法により各確率雨量を算定した結果,3時間雨量は183㎜から217㎜,24時間雨量は381㎜から434㎜であり,上記工実計画策定時の確率雨量がこの範囲に含まれていることから,同雨量は妥当であることを確認し,川棚川の流域平均の年超過確率1/100の3時間雨量を203㎜,24時間雨量を400㎜と設定した。


次に,県は,24時間雨量が,上記⒞で設定した400㎜の2分
の1に相当する200㎜以上である12の洪水(本件主要洪水)を抽出し,川棚川の流域面積は81.4㎢と100㎢未満の小流域であることから,Ⅲ型(計画継続時間内雨量と洪水到達時間内雨量を計画確率年に相当する雨量の値に引き伸ばす方法)により引き伸ばした。この中で,

3時間雨量又は24時間雨量の引き伸ばし率

(引き伸ばし後の雨量/実績雨量)が2倍程度以上となるもの及び
洪水到達時間内の確率評価が1/50以下又は1/200以上の
ものを棄却(除外)の対象とすることとし,

の24時間雨量につ

き,昭和28年洪水(2.657倍)
,昭和53年洪水(2.53
8倍)及び昭和55年洪水(3.859倍)については,2倍を大きく上回ったことから棄却し,その余の9洪水を対象とすることとした(
b
による棄却の対象はなかった。。


技術基準(5・6頁)及び技術基準解説(31・32頁)は,対象降雨の継続時間について,洪水の流域最遠点からの到達時間が数時間であるような河川においては,洪水のピーク流量に支配的な継続時間の降雨について別に検討する必要があること,対象降雨の時間分布については,過去に生起したいくつかの降雨パターンを伸縮して時間分布を作成し,それが統計的にみて特に生起し難いものであると判断されない限り採用するという方法が,単純でわかりやすいため,技術基準において採用されているところ,引き伸ばし率は2倍程度にすることが多いこと,時間的に高強度の雨量の集中が見られる降雨において,その河川のピーク流量に支配的な継続時間における降雨強度が対象降雨の降雨強度との間で,超過確率の値において著しい差異を生じる場合があり,そのような場合には単純な引き伸ばしでは著しい不合理が生じることから,このような場合には,対象降雨として採用することが不適当であると考えられるため,当該降雨パターンの引き伸ばし降雨を対象降雨から棄却するという処理法が例として考えられることを示す。
また,中小河川手引き(40・41頁)は,計画降雨の引き伸ばしの方法について,中小河川計画においては,各河川の規模,洪水調整施設の有無等の特性を十分に考慮し,適切な引き伸ばし方法を選択する必要があること,Ⅲ型引き伸ばしは,Ⅰ型(計画継続時間内雨量を
計画規模の確率雨量の値になるよう一定率で引き伸ばす方法)及びⅡ型(洪水到達時間内の雨量のみを計画確率年に相当する雨量の値に引き伸ばす方法)の欠点を補うものであるが,洪水到達時間以外の降雨強度が大きくなる等の不都合が生じていないか,ハイエトグラフを描いて確認する必要があること,ダム等の洪水調節施設の容量決定に当たっては,Ⅰ型を採用することが多いが,降雨特性を勘案して必要があれば,実績著明洪水の降雨継続時間を概ね包絡する時間単位を計画降雨継続時間としてⅠ型又はⅢ型により計画降雨を定めることも考えられることを示す。
c
上記aの県の一連の算定方法は,上記bの技術基準,技術基準解説及び中小河川手引きに記載された方法に従った一般的なものであり,不合理な点があるということはできない。

d
原告らは,県は,降雨強度(瞬間的な雨の強さを1時間当たりに換算した雨量)の超過確率について考慮していないが,本件で採用された昭和42年洪水型が,1時間当たり約118㎜という集中した降雨があり,他方で他の時間帯の雨量はその3分の1未満であったことから,特殊な降雨であり,そのような降雨が生じる確率は低い旨主張する。
しかし,技術基準解説(32頁)は,
「洪水のピーク流量に支配的
な継続時間内での降雨強度の超過確率が,計画規模の超過確率に対して著しく差異がある場合」には,対象降雨から棄却することが考えられる旨を記載するが,洪水到達時間の雨量が重要な指標とされる趣旨は,それが降雨継続時間と並んで流出ピークに大きく影響を及ぼす要素であり(中小河川手引き41~44頁)
,特に,洪水到達時間が数
時間であるような中小河川ではそれが顕著なためである(技術基準解説31頁の2.6.3の「解説」参照)ことに照らせば,
「洪水のピ

ーク流量に支配的な継続時間」とは洪水到達時間を指し,
「降雨強度」
とは洪水到達時間の雨量,すなわち本件においては3時間雨量203㎜をいうと解するのが相当である(あるいはそれを「強度」との表現に即して1時間当たりに平均した「約67.6㎜/時」とも表記し得るが,両者の意味するところは同じである。。

他方で,そのように流出ピークに大きく影響を及ぼす要素である洪水到達時間の中で,更に原告らの主張するように1時間当たりの雨量を抜き出して考慮すべき合理的な理由は見当たらない。すなわち,大河川においては,降雨継続時間内の雨量の分布は流出ピークへの影響が大きくないため,必ずしも考慮することを要しない(Ⅰ型引き伸ばしは基本的にそのような考え方である。
)のと同様に,中小河川にお
いても,洪水到達時間を更に細分化した特定の1時間における雨量の分布は,流出ピークへの影響が大きいと認めるに足る的確な証拠はない上,かえって,ハイエトグラフにおける1時間当たりの雨量は,連続的な現象である降雨について毎正時を基準に機械的に分割するものであって,ピークの降雨が正時を跨ぐか跨がないかによっても数値に大きな変動が生じる性質のものであり,流出ピークへの影響を正確に反映する値であることが確実であるとはいえないから,1時間当たりの雨量が高く,その超過確率が低いからといって,直ちに検討から棄却すべき異常な降雨に該当するとはいえない。
以上の点について,中小河川手引き(44頁)は,ハイエトグラフとハイドログラフ(高水流量波形)から洪水到達時間を推定する方法を紹介するが,この中でも洪水到達時間内の「平均雨量強度」が最大となるのが洪水到達時間の範囲内であることを幾何学的に検証しており,
「洪水到達時間の平均雨量強度」
(上記のとおり,洪水到達時間の
雨量とは単位が異なるのみで同義である。
)をピーク流量に影響を与

える要素として考慮していることが明らかである。なお,原告らは,技術基準解説(32頁21行目)が「洪水のピーク流量に支配的な継続時間内での降雨強度」との文言を使っていることから,上記降雨強度とは継続時間内の1時間当たりの雨量を指すと主張するが,文言から一義的にそのように読み取ることができるものではない上,その直上(同頁14行目)では「その河川のピーク流量に支配的な継続時間における降雨強度」との文言を使っており,
「継続時間内」と「継続
時間」を同義に用いているから,上記記載が原告らの主張を裏付けるものということはできない。
さらに,実績面からみても,証拠(甲C23,乙C7)及び弁論の全趣旨によれば,県においては,昭和57年7月の長崎豪雨において最大187㎜/時(長与町役場)の雨量を観測し,近年においても平成27年8月に雲仙岳(気象庁観測所)で134.5㎜/時,平成28年6月に長崎市(県観測所)で136㎜/時の雨量を記録するなど,118㎜/時を超える時間雨量を少なからず観測していることが認められるから,昭和42年洪水型の約118㎜/時という数値が検討対象から棄却すべき異常な数値であるということもできない。
その他,原告らが種々主張する点は,いずれもピーク時の1時間当たりの雨量を棄却検討の対象とすべきことを前提とするものであるから,これらの主張は前提を欠き採用することができない。
流出量の算出・基本高水の決定について
a
証拠(乙A4〔2-4のⅡ-103~107頁〕
)によれば,県は,
上記

a⒟で検討対象とした9洪水について,貯留関数法による流出

計算を行った結果,昭和42年型の流出量(基準点山道橋で1391.1㎥/秒)が最大となったことから,上記流出量を10㎥単位で切り上げた1400㎥/秒を基本高水のピーク流量としたこと,合理式
(流出係数,降雨強度及び流域面積からピーク流量を算定する方法)によってピーク流量を算定した結果,1320㎥/秒となり,上記設定値とほぼ同等であることから妥当と判断したことが認められる。b
技術基準(6頁)及び技術基準解説(34頁)は,基本高水は,対象降雨について適当な洪水流出モデルを用いて洪水のハイドログラフを求め,これを基に既往洪水,計画対象施設の性質等を総合的に考慮して決定するが,通常,時間分布等の検討結果により不適切な降雨は棄却されていることから,計算されたハイドログラフ群の中から最大流量となるハイドログラフのピーク流量を,基本高水のピーク流量とするとしている。

c
上記aの県の基本高水の決定方法は,上記bの技術基準及び技術基準解説に記載された方法に従った一般的なものであり,不合理な点があるということはできない。

d
原告らは,記録上,基準点山道橋の流量は昭和23年洪水時の1018ないし1116㎥/秒が最大であり,上記流量の設定が過大である旨主張する。
しかし,技術基準(4頁)は,既往最大主義を採用せず,洪水防御計画として,計画基準点において計画の基本となる洪水のハイドログラフ(基本高水)を設定し,これに対して同計画の目的とする洪水防御効果が確保されるよう策定するものとしている。そして,上記


とおり,検討対象降雨の拡大は,実績降雨の年超過確率が計画規模と等しくなるように,実績降雨の継続時間が対象降雨の継続時間よりも短い場合には前者を後者まで引き伸ばすことを原則としており,実績降雨の年超過確率が計画規模に満たない場合には,基本高水のピーク流量が実績上のピーク流量を超過することが当然に想定されているというべきである。

また,川棚川において降雨量の水文資料が残存し洪水の選定対象となっているのは昭和22年から平成15年の60年弱にすぎない上(乙A4〔2-4のⅡ-95頁〕,年超過確率1/100の洪水とは)
100年の間に必ず当該規模の洪水が生じることを意味するものでもないこと(弁論の全趣旨)
,実績最大値である昭和23年洪水では堤
防の決壊が生じており(上記

a⒝〔別紙13〕,外水氾濫により流


量が減殺された可能性が否定できないことに照らせば,設定された基本高水のピーク流量が実績上のピーク流量と乖離しているとしても,直ちに合理性を欠くということはできない。

石木ダムの必要性について
証拠(乙A4〔2-4のⅡ-127~248頁〕
)及び弁論の全趣旨
によれば,県は,川棚川水系基本方針において,基準点山道橋における計画高水流量を1130㎥/秒としたこと,現在の河道の流下能力を1020㎥/秒と算定し,基本高水のピーク流量1400㎥/秒に相当する年超過確率1/100の洪水を計画高水位以下で安全に流すために,河道改修の継続により河道の流下能力を1130㎥/秒に引き上げた上で,同地点における残りの270㎥/秒の流量について,80㎥/秒を既設野々川ダムで,190㎥/秒を石木ダムにより調節することとしたこと,上記河道流下能力(1130㎥/秒)は,県が工実計画において設定した計画高水位(川棚川水系基本方針及び川棚川整備計画もこれを踏襲した。
)を前提に,堤防高については1mの余裕高を設定として算
定したものであることが認められる。
技術基準(技術基準解説127頁参照)は,計画高水位が定められている河川で河道計画の見直しを行う場合には,原則として既往の計画高水位を上回らないよう定めるものとし,やむを得ず部分的に計画高水位を上げることが必要となる場合においても,その範囲はできるだけ小さ
くするものとし,できる限り既往洪水の最高水位以下に留めることが望ましいことを示し,技術基準解説(127頁)は,その趣旨について,過去に計画高水位が定められている河川区間で河道計画の見直しを行う場合,計画高水位を以前よりも高くすることは,河川を大幅に再改修するに等しいことになり,部分的な場合を除き現実的でないばかりでなく,洪水をできるだけ低い水位で流すという治水の大原則に反するものであることから,既往の計画高水位を踏襲するのが一般的であることを示す。したがって,県が,河道流下能力(1130㎥/秒)を算定するに当たり,県が工実計画において設定し,川棚川水系基本方針及び川棚川整備計画が踏襲した計画高水位を前提としたことは,技術基準及び技術基準解説に沿うものであり,不合理なものとはいえない。
また,河川管理施設等構造令20条1項は,堤防に隣接する堤内の土地の地盤高(堤内地盤高)が計画高水位より高く(いわゆる堀込河道),
かつ,地形の状況等により治水上の支障がないと認められる区間(以下「余裕高特例区間」という。
)を除き,計画高水流量(㎥/秒)が50
0以上2000未満であるときは,1mの余裕高を設けることを定める。そして,同構造令の解説書である『改定解説・河川管理施設等構造令』(財団法人国土開発技術研究センター・編集,社団法人日本河川協会・発行)
(乙C13)では,余裕高特例区間に関する中小河川を中心とす
る運用例として,背後地が人家連坦地域である場合には,計画高水流量に応じ所定の余裕高を確保することが多いとされる。
川棚川には築堤河道の部分があるから(前記イ

a⒞)
,当該部分は

同構造令に従って1mの余裕高を設ける必要がある。また,堀込河道の部分についても,証拠(乙A4〔1-1の1・2頁,2-1の4頁〕,
A15〔3-1の4~15頁〕
)によれば,川棚川の流域内人口は約2
万人であり,川沿いに住宅等の建物が連なる範囲が存在することが認め
られ,上記解説書に基づき,背後地に人家連坦地域であることを理由に1mの余裕高を設けた県の判断が不合理なものということはできない。原告らは,1mの余裕高が必要であるとしても,原告らの計算によれば,基本高水のピーク流量が余裕高を割り込む区間は僅かであり,堤防の嵩上げ又はこれと河道掘削の併用により治水の目的を達成できると主張する。
しかし,堤防の嵩上げや河道掘削によって計画高水位を上げることは,上記

のとおり,洪水をできるだけ低い水位で流すという治水の大原則

に反するものであり,特に川棚川のように築堤河道の区間が存在する場合には,当該築堤区間に過度の負担を課し,破堤の危険性を高めることになるから,回避する必要がある。そして,技術基準及び技術基準解説は,河道の縦断形は,動植物の生息,生育環境や河川の利用面等にも強く関連することから,縦断方向の連続性の確保など河川環境にも十分に考慮して検討する必要があり,一般には現況河道の縦断形を重視して定めるものとし,一般の河川では河床勾配が上流から下流に向かって急から緩となるように変化させるのが一般的であることを示しているところ(技術基準解説130頁)
,原告らの主張は,川棚川整備計画による整
備後の堤防高が計画高水位に余裕高を加えた高さに不足する部分についてのみ,その高さを補完するための堤防の嵩上げ又は河道掘削を行うべきことを主張するもので,上記河道の縦断形についての留意事項について考慮した現実的なものであるということはできない。
河道改修のみで計画高水を流すシミュレーションとしては,県が本件事業の代替案として検討した河道改修案(引堤案)
(乙A4〔2-4の
Ⅱ-199頁〕が,河床整正程度の掘削のみによった場合の不都合)
(河口部の河床維持の困難,河床に埋設された送水管,川棚川と石木川の河床高の整合性)について検討したもので,現実的,合理的なものと
いうことができる。これによれば,川棚川において6か所で2から10m程度,石木川において6か所で20から26m程度の引堤が,また5つの橋の架替え等が必要になることが認められ,わずかな区間の堤防の嵩上げ又は河床掘削により治水目的を達成できる旨の原告らの主張には理由がない(なお,本件事業と上記代替案の比較については,別途,後記4において検討する。。


過去の洪水の原因分析について
原告らは,過去の洪水の原因を調査,分析していないと主張する。上記のとおり,現在の河川法に基づく治水は,既往最大主義ではなく,一定の年超過確率の洪水を安全に流下させることを目的とするものであるから,過去の洪水の原因が越流以外のものであるか否かは,直ちに治水計画の合理性を左右するものということはできず,また,このような分析が完了しなければ治水事業を行うことが許されないという関係にあるとはいえない。また,この点を措いても,証拠(乙A4〔3-1〕
,A15〔5-11
の37・38頁)及び弁論の全趣旨によれば,県は,過去の主たる洪水(昭和23年洪水,昭和31年洪水,昭和42年洪水及び平成2年洪水)について,当時の写真や新聞記事等を含む資料を収集し,被害状況を取りまとめ,平成2年洪水については,洪水痕跡調査の結果,洪水時の記録写真から江川橋付近で洪水が堤防を越えたことにより浸水被害が拡大したことを確認していることが認められ,当該分析は,同所付近の写真(乙A4〔3-1の4頁〕
,A15〔5-11の37・38頁〕
)によって,堤防の
境界がほとんど分からない程度の水位にまで湛水していることが認められることからしても,不合理なものとはいえない。
したがって,原因分析が不十分である旨の原告らの主張には理由がない。小括
以上によれば,本件事業は,

水道用水の確保のために4万㎥/日を新規

開発水量として確保し,

流水の正常な機能の維持のために,基準点山道橋

において,正常流量(維持流量)として0.090㎥/秒(1月から3月)又は0.120㎥/秒(4月から12月)を確保し,

洪水調節のために1

90㎥/秒の流量を石木ダムにより調節することとした点において合理性がないとはいえない。
よって,本件事業は,水道用水の確保,流水の正常な機能の維持及び洪水調節のための必要性があり,起業地が本件事業の用に供されることによって得られるべき利益があると認められる。
3
起業地がその事業の用に供されることによって失われる利益及びこれと得られる公共の利益との比較衡量について
失われる利益について

証拠(乙A2,A4〔4-2〕
,A15〔3-5-1,3-6〕
,A40
の2)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
a
本件事業により,67戸の家屋移転が必要となる(乙A2〔38
頁〕
,A4〔2-4のⅡ-221頁〕
,A40の2〔9頁〕。


b
本件起業者は,平成9年11月に損失補償基準を妥結した後,移転対象者からの要望を受け,生活再建措置として,石木ダム本体建設予定地から約1.5㎞下流の川棚町石木郷下石木・中石木地内に全29区画(第1期及び第2期の合計。造成規模3万0619㎡,宅地面積約1.99㏊)の代替宅地を造成した。収用地から任意に移転した54戸のうち,21戸が代替宅地に移転した(平成28年現在)(乙A。
40の2)
県は,任意に環境調査を実施した上で,
「川棚川総合開発事業石木ダ

ム環境影響評価書」を作成し,その中で,本件起業地及びその周辺の土地において,

動物については,いわゆる種の保存法上の国内希少野生

動植物や環境省のレッドリストの絶滅危惧ⅠB類・Ⅱ類として掲載され
ている動物の生息が確認されたが,いずれも周辺に生息環境が残存するなどの理由から,本件事業による影響は小さいか又は想定されないこと,植物については,上記レッドリストの絶滅危惧Ⅱ類として掲載されている植物の生息が確認されたが,起業地外への移植等の必要な保全措置を講じ,又は講じることとしている(乙A15〔3-5-1~3-5-4〕。

県は,本件起業地内に文化財保護法に基づく周知の埋蔵文化財包蔵地がないことを確認し,工事施工中に遺跡等が確認された場合は,県教育委員会との協議により記録保存等の措置を講じることとした(乙A15〔3-6の3頁〕。


得られる公共の利益と比較衡量すべき失われる利益には,居住の利益等の私的な利益や,景観や環境等の公共の利益が含まれるというべきである。
上記ア

aのとおり,本件事業により移転の対象となる家屋の数は6

7戸と少ないとはいえないものの,同bのとおり,本件起業者は,移転対象者の生活再建措置として代替宅地を造成しているところ,代替宅地は本件起業地から比較的近接した場所であり,また,比較的広範な土地にまとまった宅地として造成されており,移転対象者が希望して移転すれば本件起業地内に属する地域のコミュニティをある程度再現することも不可能ではなく(上記ア

bのとおり,既に移転した54戸のうち2

1戸が代替宅地に移転している。,失われる居住の利益が極めて大きい)
ということはできない。
また,上記ア



のとおり,動植物や埋蔵文化財に与える影響も軽

微である。
したがって,起業地が本件事業の用に供されることによって失われる利益が大きいということはできない。

原告らは,起業地の供用により失われる利益として,原告らが本件起業地内において培ってきた暮らし(生活)や,新しい生活に慣れなければならない精神的苦痛を挙げるが,これらは,土地が収用される場合には,その土地上に建物を所有し,これに居住する者において必然的に生じるものであって,土地収用法はこのような不利益を踏まえてもなお,必要がある場合には損失を補償して土地を収用できることを定めているといえるから,この不利益のみを重視することはできない。
また,原告らは,失われる利益として,本件起業地内の自然も挙げるところ,一般に,多目的ダムは治水及び利水の目的を達成し,あるいは失われる利益が最も大きい宅地等の移転を最小限にするため,河川の比較的上流の自然が豊かな場所に建設されることが多く,巨大な構造物であるダムの建設によって,周辺の景観や自然環境に変化をもたらすことは,この種の事業において不可避的に生じるものといわざるを得ず,本件事業における上記変化が,他に比較して特に顕著であるとまでは認められない。
得られる公共の利益との比較衡量について

証拠(乙A15〔2-3-4の7頁,5-4の21頁〕
)によれば,県
は,本件ダム検証において,本件事業により年平均浸水軽減戸数が129戸,年平均浸水軽減面積が11㏊となり,本件事業の便益は,渇水被害防止の便益が115億円,流水の正常な機能の維持に関する便益が187億円であるとしたこと,また,市は,本件事業を実施しなかった場合と比較して算定した断減水被害防止の便益が約8636億円であるとしたことが認められる。


上記2

にみたように,本件起業地が本件事業の用に供されることによ

って得られる利益は,水道用水の確保,流水の正常な機能の維持及び洪水調節という地元住民の生命の安全にも関わるものであって,上記アの便益
からも明らかなとおり,非常に大きいものというべきである。
これに対し,失われる利益は,上記

のとおり,大きいとはいえない。

したがって,本件起業地が本件事業の用に供されることによって得られるべき公共の利益は,これによって失われる利益に優越していると認められる。
4
代替案と比較した計画の合理性について
治水代替案との比較について

証拠(乙A4〔2-4のⅡ-197~221頁〕
)によれば,県は,
河道改修案(引堤案)

+河道改修案及び

石木ダム+河道改修案(申請案)


遊水池

放水路案の4案を比較検討し,その結果は,別紙1

1のとおりであったこと,経済性の面では,

案が137.5億円で最

も安価で,かつ唯一費用便益比が1以下(1.00)であったこと,社会性の面では,

案は67戸の家屋移転が必要であるが,

8戸のほか橋梁13橋等,

案は家屋4

案は水田35.9㏊や家屋4戸,橋梁9橋

等の補償が必要となることが認められる。
案と比較した場合,

案は,事業費は10億円程度高額であり,

案と大きく異ならない数の家屋移転に加えて橋梁等の移転が必要であること,

案は,事業費が50億円程度高額である上,広範囲の水田の用

地補償が必要となること,

案は,土地家屋の補償は必要ないものの,

事業費が78億円程度高額であり(

案の1.5倍以上)
,放水路のト

ンネル等の建設に長期間を要することが認められる。
また,証拠(乙A15〔2-3-4〕
,C5)によれば,県は,本件
ダム検証において,ダム検証要領細目に基づき,ダム検証要領細目が提示する26の参考代替案について,川棚川流域での摘要の可能性を概略評価し,これにより抽出された8案(ダム案〔申請案〕
,遊水地案その
1,同その2,放水路案,河道掘削案,引堤案,堤防嵩上げ案及び複合
案〔河道掘削+堤防嵩上げ+引堤案〕
)について比較検討し,その結果
は,別紙19のとおりであり,ダム案(申請案)が経済性において最も安価で(79億円)
,代替案は最も安価なものでも206億円(遊水地
案その1)であったことが認められ,最新の知見を踏まえたより多くの代替案との比較でも経済的合理性が確認されている。

以上によれば,申請案が,経済性及び社会性の両面において最も優れているとした県の判断が裁量を逸脱したものということはできない。

原告らは,

本件ダム検証において検討した複合案が本件事業認定申請

で削除されたのは申請案の優位性を作出するためであること,

申請案の

事業費について残事業費に治水割合を乗じて算定しているのは不合理であること,

代替案の事業費の算定方法が不合理であること及び

代替案の

内容が過大である旨主張する。
前提として,土地収用法は,申請に係る事業の計画が土地の適正かつ合理的な利用に寄与するものであるか否かを審査するに当たって,代替案と比較検討すべきことや,その具体的方法について何ら規定していないから,処分行政庁には代替案の比較の方法につき一定の裁量があるというべきであり,それが与えられた裁量権を逸脱又は濫用するものでない限り,違法と評価されるものではない。
については,証拠(乙A15〔2-3-4の23頁〕
,C5)によ
れば,本件ダム検証においては,ダム検証要領細目に堤防嵩上げが参考代替案として記載されていることから,堤防嵩上げ案及びこれを含む複合案が検討されているが,上記複合案及び堤防嵩上げ案は,目標を上回る洪水等が発生した場合の状態に関する安全度評価について,他の案より計画高水位が高いため,破堤した場合,被害が大きくなるとして,「現行案よりも劣る」との評価をされている。そして,上記のとおり,堤防嵩上げは低い水位で流水を流下させるという治水の大原則に反する
もので,原則として避けるべきものであること,費用面においても,複合案の概算総費用は203億円であり,他の代替案と比べて特に優位であるとはいえないことに照らせば,県が本件事業認定申請時に複合案を含めず,代わりに河床掘削と引堤の複合である「河道改修案(引堤案)」
を検討対象としたことが合理性を欠くということはできない。なお,仮にこの点が不合理であるとしても,上記アのとおり,申請案は複合案よりも費用面で大幅に有利であることに照らせば,申請案が最も優れた案であるとした県の判断の合理性を左右するものではない。
また,

については,石木ダムは治水目的と利水目的を兼ねた多目的

ダムであり,上記2

のとおり,利水事業としての必要性があると認め

られるところ,一つのダムの建設によって複数の目的を達成する以上,事業費全体に治水目的に利する割合(治水割合)を乗じた金額を費用とすることが不合理とはいえない。
については,川棚川整備計画等における治水代替案の比較検討(別紙18)においては,石木ダムの中止に伴う費用は計上されていない(乙A4〔2-4のⅡ-197~221頁〕。他方で,本件ダム検証に)
おける比較検討(別紙19)においては,ダム中止に伴う費用59億円が代替案に加算されているものの,同別紙のとおり,上記費用を控除しても,申請案(概算総費用79億円)を下回る代替案は存在しないから,原告らの主張は,その当否にかかわらず結論を左右しない。
について,原告らは,洪水時にのみ貯水できる小容量の貯水池(遊水地)を設け,又は川棚川の一部区間の堤防を嵩上げする代替案を検討すべきであると主張する。
しかし,前者については,証拠(乙A4〔2-4のⅡ-204~221頁〕
)によれば,本件起業者は,川棚川の石木川合流点より上流で,
川棚川に効率的な洪水調節となる位置であり,かつ補償物件等が少ない
利用可能な平地に遊水地を設定するものとし,その規模は,当該遊水地によって基準点山道橋の計画高水流量を1130㎥/秒にまで低下させるものとし,なお調節後の流量が現況流下能力を上回る区間については,最も現実的かつ経済性の面においても有利な回収方法である一部小段の撤去と河床整正程度の河床掘削による河道の再改修を併用することとしたこと,上記の基準に基づき,2箇所の遊水地(遊水地B及び遊水地C)を選定し,本件主要洪水のうち棄却対象としなかった9洪水に当てはめて洪水調節計算を行って計算容量等を算出し,これを踏まえて,上記2遊水地の工事費(本工事費,附帯工事費,測量及び試験費,用地及び補償費並びに事務費)を算定して,遊水地の事業費を約108.5億円と算定したことが認められ,その算定過程に原告らが主張するような過大な計上があったと認めるに足る証拠はない。したがって,起業者が代替案として検討した「遊水地+河道改修案」よりも低廉な価格で申請案を代替することができるとはいえない。
また,後者について,堤防の嵩上げのみの方法による代替案の実現が困難であることは,上記2


のとおりであり,これらの点に関する

原告らの上記主張は採用できない。
なお,原告らは,代替案との比較がダム建設の結論ありきであるとするが,県は,石木川合流点上流の治水について,現行の河道改修案に加えて仮想ダムを併用する代替案についても検討しているところ,ここでは自然条件,社会条件及び経済性の面から前者を採用しており(乙A4〔2-4のⅡ-243頁〕,県がダム建設に拘泥しているとは認められ)
ない。
利水代替案との比較について

証拠(乙A4〔4-3〕
,A15〔4-4〕
)によれば,市は,利水代
替案として,

海水淡水化案,

地下ダム案及び

地下水案を検討した

ところ,

案は,海水淡水化プラントのみで350億円程度と高価であ

ることや造水コストが高いことなどにより,

案は,調査検討をしたが,

地形及び地質構造上,まとまった取水量を確保することができないことが明らかになったことにより,

案は,市内62か所のボーリング調査

を実施したが水源として利用可能な箇所がなかったことにより,いずれも比較すべき有効な案を選定できなかったこと,また,市は,平成19年度水道施設整備事業再評価において上記3案及びそれ以外の14案を検討したが,

案以外は代替案として不可能であるか又は適さず,代替

案となる可能性がある

案についても,完成費用が申請案より約50億

円高額で,50年間に要する維持管理費用が約4倍であり,これらの総費用が申請案の約3倍であることから,申請案が有利であると評価したことが認められる。
また,証拠(乙A15〔2-3-4の31~53頁〕
)によれば,県
は,本件ダム検証において,ダム検証要領細目に基づき,ダム検証要領細目が提示する14の参考代替案と川棚川流域の特性を勘案した2案の計16案について,川棚川流域での摘要の可能性を概略評価し,これにより抽出された6案(ダム案〔申請案〕
,岩屋川ダム案,貯水池案その
1,同その2,地下トンネルダム案及び海水淡水化案)について比較検討した結果,別紙20のとおり,ダム案(申請案)が経済性において最も安価であったことが認められ,最新の知見を踏まえたより多くの代替案との比較でも経済的合理性が確認されている。

以上によれば,申請案が,経済性及び社会性の両面において最も優れているとした本件起業者の判断が裁量を逸脱したものということはできない。
5
まとめ
以上によれば,本件事業が法20条3号の要件を充足すると判断した処分行政庁の判断に違法な点はない。

第3
1
争点

(本件事業が法20条4号の要件を充足するか)について

証拠(乙A2,A32)によれば,以下の事実が認められる。
市の既存水源施設は,明治41年建設の山の田ダムや昭和15年建設の菰田ダムなど,建設から相当年数が経過した施設が多く,ダムと一体化した付帯施設の老朽化が進行している。
また,一般に,ダムは経年により上流からの土砂が堆積するため,総貯水容量(河床から満水位までの総容量)から堆砂容量等を控除して有効貯水容量を定めているが,上記2ダムでは,計画上の堆砂容量を上回る土砂が堆積しており,有効貯水容量を確保できない状況にある。
これら既存施設の更新や,貯水池の浚渫による堆砂の除去は,ダムの水位を下げて行う必要があるが,市の保有水源には余裕がないため,これらの事業に着手することが困難な状況にある。
(乙A32)
本件起業者は,本件起業地の範囲及び収用・使用の別について,以下のとおり決定した(乙A2〔39頁〕。


土地のうち収用の部分は,

貯水池用地(河川管理施設等構造令によっ

て定めた堤体の非越流部の高さに相当する標高72.8m以下の標高部分の土地)


ダム本体用地(重力式コンクリートダム及び鞍部処理工の築

造用地及び

関連事業用地(付替えに係る県道,町道及び農業用道路の用

地)とした。

土地のうち使用の部分は,鞍部処理工の設置工事並びに付替県道及び町道の橋台及び擁壁設置工事の床堀のために工事期間中一時的に使用が必要な範囲とした。


漁業権のうち,収用の部分はダム本体部分に設定された権利とし,使用の部分は貯水池に設定された権利とした。

2
上記第2の2の事実によれば,本件事業の完成による便益は高く,その効
果は,水道用水の確保(利水)
,洪水調節(治水)及び流水の正常な機能の
維持という地元住民の生命に関するものであって,重要な価値を有する。特に,渇水については,平成6年度の渇水により約50億円という対策費用が発生し,市の財政を圧迫する結果となっており(乙B27〔5頁〕,再度同)
様の渇水が発生すれば,このような高額かつ施設建設のような資産の残らない費用を再び支出することを余儀なくされることになる。また,上記1

とおり,市の保有水源に一定の余裕を持たせ,市の既存水源施設の更新及び浚渫を行う必要があるが,現状では困難であることも併せ考慮すると,本件事業を早期に施行する必要性は高いというべきである。

また,上記1

の事実によれば,本件起業者は,本件事業に必要最小限

度の範囲を起業地とした上で,本件事業に恒久的に供される範囲のみを収用の部分とし,その余は使用の部分としていることが認められ,起業地の範囲及び収用・使用の別が不合理であるということはできない。

原告らは,石木ダムが自然調節方式のダムであることは最小限でないと主張する。しかし,証拠(技術基準解説137頁)によれば,技術基準解説は,小流域のダム(概ね20㎢以下)及び洪水調節容量の少ないダム(概ね相当雨量〔洪水調節容量/流域面積。単位:㎜〕50㎜以下)では,ゲート操作の繁雑さを避けるため,自然調節方式とすることが望ましいと記載されていることが認められる。
そして,石木ダムの流域面積(集水面積)は9.3㎢,洪水調節容量は195万㎥,相当雨量は210㎜であるから(前提事実


〔別紙6〕


乙A4〔2-8の1頁〕,石木ダムは,技術基準解説において自然調節方)
式が望ましいとされる小流域のダムに当たる。
さらに,上記第2の2


a⒜のとおり,石木川を含む県の河川は勾

配が急で洪水到達時間が短いことに照らせば,ゲート操作を行う時間的余裕に乏しいといえるから,本件起業者が,この点も考慮して自然調節方式
を選択したことが合理性を欠くということはできず,原告らの上記主張は採用することができない。
3
原告らは,本件覚書は当事者間の信義則として法的拘束力があり,本件覚書に反する本件事業は当事者の信義則に反し,法20条4号に違反すると主張する。
土地収用法は,公共の利益となる事業に必要な土地等の収用又は使用に関し,その要件,手続及び効果並びにこれに伴う損失の補償等について規定し,公共の利益の増進と私有財産との調整を図り,もって国土の適正且つ合理的な利用に寄与することを目的とするものであり(法1条)
,公共の利益となる事業の
用に供するため土地を必要とする場合において,その土地を当該事業の用に供することが土地の利用上適正且つ合理的であるときは,土地収用法の定めるところにより,これを収用し,又は使用することができるものとされているところ(法2条)
,事業の認定は,当該事業等のために土地を収用し、又は使用し
ようとするときの要件及び手続等を定めるものであって(法16条),法20
条各号の要件の全てに該当することがその要件とされているものである(同条)

すなわち,事業認定を行う機関は,法20条各号の要件について,私有財産である土地を収用することが正当化される程度に公共の利益の増進に役立つものであるか否かや,その土地の利用が当該土地の適正且つ合理的な利用に寄与するものであるか否かという観点から,同条各号の要件を全て満たすか否かを審査することを要し,かつ,それで足りるものであって,被収用地に関する被収用者や第三者の私法上の権利義務関係の存否については,事業の認定の要件とはされていない以上,その審査をすべきものではないと解するのが相当である。
前提事実

アのとおり,本件覚書は,県知事と地元の3郷の各総代が,ダム

等の建設の必要が生じたときは,予め書面による同意を受けることなどを定め
たものであって,仮にこのような合意が有効に形成されていたとしても,県知事と上記3郷又はこれに属する住民との間で当該合意に基づく私法上の効果が生じる可能性があるにとどまり,本件事業認定の適法性に影響を与えないというべきである。
4
したがって,本件事業について,土地及び漁業権を収用し,又は使用する公益上の必要性があり,法20条4号の要件を充足するとした処分行政庁の判断が合理性を欠くものということはできない。

第4

結論
以上によれば,別紙1の結論欄に「却下」と表記のある原告ら(原告居住者ら,
原告元居住者ら及び原告X4)の訴えはいずれも不適法であるからこれを却下し,別紙1の結論欄に「棄却」と表記のある原告ら(原告X4を除く原告所有者ら)の請求にはいずれも理由がないからこれを棄却することとし,訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。長崎地方裁判所民事部


裁判長裁判官

田瑞佳
裁判官富張邦夫及び裁判官大久保紘季は,いずれも転補のため署名押印することができない。


裁判長裁判官

田瑞佳
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