判例検索β > 平成28年(ネ)第3038号
事件番号平成28(ネ)3038
裁判年月日平成30年6月28日
法廷名東京高等裁判所
戻る / PDF版
主1文
第1審原告の控訴に基づき,原判決主文第1項及び第2項を次のとおり変更する。
第1審被告は,第1審原告に対し,59億5278万3219円及びうち58億9778万3219円に対する平成23年10月30日から,うち5500万円に対する平成24年5月10日から,各支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
第1審原告のその余の請求を棄却する。

2
第1審被告の本件控訴を棄却する

3
訴訟費用は,第1,2審を通じ,これを10分し,その3を第1審原告の負担とし,その余を第1審被告の負担とする。

4
この判決は,第1項

第1

及び理由
控訴の趣旨

1実
に限り,仮に執行することができる。

第1審原告
原判決を次のとおり変更する。
第1審被告は,第1審原告に対し,85億0509万5193円及びうち72億5421万8500円に対する平成23年10月30日から,うち1億3061万9469円に対する平成24年5月10日から,うち11億2025万7224円に対する平成26年1月28日から,各支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
訴訟費用は,第1,2審とも第1審被告の負担とする。
仮執行宣言

2
第1審被告
原判決中第1審被告敗訴部分を取り消す。
上記部分につき,第1審原告の請求を棄却する。

訴訟費用は,第1,2審とも第1審原告の負担とする。
第2
1
事案の概要
本件は,第1審原告が,第1審被告に対し,第1審被告から物流ターミナル等の建設を目的として原判決別紙物件目録記載1の土地(以下「本件土地」という。
)及び同2の建物(以下「本件建物」といい,本件土地と併せて「本件不動産」という。
)を代金848億円(本件土地について785億円,本件建
物について63億円。いずれも消費税込み)で買い受けたが(以下,同売買に係る契約を「本件売買契約」という。,本件土地から広範囲にわたって発見さ)
れたスレート片(以下「本件スレート片」という。
)が石綿を含有していたと
主張して,本件売買契約に基づく瑕疵除去義務の不履行又は本件売買契約上の瑕疵担保責任に基づく損害賠償として,本件スレート片の撤去及び処分費用,物流ターミナルの建設工事が遅れたことに伴う追加費用,逸失利益,弁護士費用の合計85億0509万5193円及びうち72億5421万8500円に対しては同請求に係る請求書に示された支払期限の翌日である平成23年10月30日から,うち1億3061万9469円に対しては訴状送達の日の翌日である平成24年5月10日から,うち11億2025万7224円に対しては訴えの変更申立書送達の日の翌日である平成26年1月28日から,各支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である(以下,略語については原判決の表記に従う。。

原審は,①

本件スレート片は,石綿含有産業廃棄物に当たるため,廃棄物

の処理及び清掃に関する法律(以下「廃棄物処理法」という。
)にのっとった
厳格な処理が求められるところ,本件土地の地中には,本件売買契約の締結当時,第1審原告に知らされていなかった本件スレート片が大量に混入していたのであるから,そのために多額の費用を必要とし,本件土地の交換価値が損なわれていることは明らかであり,売主である第1審被告は,買主である第1審原告に対し,本件売買契約9条2項に基づいてその除去義務を負い,これを拒
否した第1審被告は,第1審原告に対し,債務不履行に基づく損害賠償義務を負うほか,本件土地には「隠れたる瑕疵」があるとして,本件売買契約11条2項に基づき,損害賠償義務を負う,②

本件新築工事において元々予定さ

れていた掘削深度(原設計値)よりも深く掘削したことは本件土地の利用目的に照らし通常予定された範囲を超えたものであるから,本件スレート片の撤去及び処分費用の上記掘削深度(原設計値)を超えた追加掘削部分に係るものについて損害賠償を求めることはできないし,

清水建設が外部から搬入した

建設残土に石綿を含有したスレート片等の産業廃棄物が混入していたことを認めるに足りる的確な証拠はなく,同部分に係る撤去及び処分費用についても損害賠償を求めることはできないが,

本件スレート片発見前に鹿島建設が既

に搬出済みの土壌(本件既搬出土)にも本件土地と同様に本件スレート片が大量に混入していたものと認められるなどとして,第1審原告が鹿島建設に対して支払った土壌の撤去及び処分費用63億3171万円のうち,上記
及び

により掘削等した土量に応じて按分した額を控除した42億3819万1379円,本件新築工事の遅延に伴う追加費用及び第1審原告の逸失利益のうち同様に上記

及び

に対応する額を控除した13億2993万2637円,弁護

士費用5000万円の合計56億1812万4016円の損害が生じたものと認められるとして,この限度で第1審原告の請求を認容した。
これに対し,第1審原告及び第1審被告の双方が,それぞれ原判決のうち敗訴部分を不服として,本件各控訴を提起した。
2
前提事実
前提事実は,次のとおり補正するほか,原判決「事実及び理由」欄の「第2事案の概要」の1(原判決2頁23行目から7頁24行目まで)に記載のとおりであるから,これを引用する。
(原判決の補正)
原判決4頁1行目の末尾に「この代金額は,本件土地の土壌に本件スレー
ト片が混入しているという事実を考慮せずに算定され合意されたものであった。
」を加える。
同頁24行目の「という。。
)」の後に「本件新築工事においては,本件土
地を広範囲にわたって掘削することが予定されていた。
」を,同行目の「甲
8」の後に「,58の2,乙3,弁論の全趣旨」を,それぞれ加える。同7頁2行目の「第」を削り,3行目の「東京都環境確保条例第」を「都民の健康と安全を確保する環境に関する条例」に改める。
3
争点
第1審被告の債務不履行責任又は瑕疵担保責任の成否
第1審原告に生じた損害

4
争点

(第1審被告の債務不履行責任又は瑕疵担保責任の成否)に関する当
事者の主張
(第1審原告の主張)
本件においては,本件売買契約の「売主要達成事項」として,
「本件土地
の地中障害物その他の瑕疵(土壌汚染を除く。
)を除去し又は修補すること」
が定められ,売主である第1審被告が本件土地賃貸借契約の期間満了までにこれを遂行することが
「本件売買契約に基づく第1審被告の義務を構成する」
ものとして,売買当事者間で特に合意されていた(本件売買契約9条2項)。
これは,本件土地の利用を妨げ,ひいては本件土地の交換価値を下げることが明らかなものの除去義務を売主に課し,買主に不測の損害を与えることを回避しようとするものである。そうであるとすると,上記「瑕疵」を物理的に本件土地の利用を妨げるものに限定すべき理由はなく,法令において環境基準が定められた有害物質による土壌汚染の場合を除き,売買契約当時に明らかではなかった本件土地の交換価値を損なう事情を広く含むものと解するのが相当であって,このように解することが当事者の合理的な意思に合致するものというべきである。

また,本件売買契約には,
「第1審原告は,本件不動産に隠れたる瑕疵が
ある場合には,第1審被告に対して損害賠償を請求することができる。」と
の規定も置かれているところ(本件売買契約11条1項)
,この規定は,民
法570条の瑕疵担保責任を売買契約の内容に取り込んだものというべきであり,取引の通念からみて売買の目的物に何らかの欠陥がありその瑕疵が取引上一般に要求される程度の注意をしても発見できない場合に売主が負うべき責任を定めたものであると解するのが相当である。
本件土地の地中に第1審原告に知らされていなかった建材の破片が混入していた場合においても,その物の性質や量にかんがみ,特別の取扱いが義務付けられそのための費用がかかることによって本件土地の交換価値が損なわれているときは,売主である第1審被告は,買主である第1審原告に対し,本件売買契約9条2項に基づき,その除去義務を負うほか,本件土地には「隠れたる瑕疵」があるものとして,本件売買契約11条2項に基づき,損害賠償義務を負う。
次のとおり,本件売買契約締結当時,既に石綿の危険性に対する社会的認識が高まり,
石綿に対する種々の規制及び通達等がされている状況にあった。
本件土地には本件スレート片がまんべんなく散乱,混入していたのであるから,本件売買契約当時の取引観念をしんしゃくしても,本件土地には瑕疵があったものというべきである。

石綿の危険性に対する社会的認識
石綿は,これを吸入した場合,中皮腫,肺がん,じん肺の一種である石綿肺,良性石綿胸水,びまん性胸膜肥厚等の疾患を生じることがある物質である。
株式会社クボタは,平成17年に自社の石綿含有製品と関わりのあった従業員75名が石綿に関連する疾患により死亡していたことを公表し,これを契機として石綿関連疾患に対する社会的な関心が高まり,経済産業省
は,同年7月15日に「アスベスト(石綿)による健康被害の実態調査の結果について」を公表し,石綿含有製品の製造企業における石綿関連疾患による死亡者が374名に上ることを明らかにした。
このような中,石綿に対する規制が強化され,平成18年の労働安全衛生法施行令の改正により石綿及び石綿をその重量の0.1%を超えて含有する全ての物の製造,輸入,提供又は使用が禁止され,この改正は同年9月1日に施行された。また,廃棄物処理法施行令及び同法施行規則の改正により,工作物の新築,改築又は除去に伴って生じた産業廃棄物であって,石綿をその重量の0.1%を超えて含有するものを「石綿含有産業廃棄物」とする産業廃棄物の処理基準が新設され,この改正は同年10月1日に施行された。
石綿の危険性に対する社会的認識の高まりは,不動産取引の現場にも影響を及ぼし,国土交通省は,平成17年9月,不動産業関係団体を通じて不動産業者に対し,
「不動産業における石綿(アスベスト)問題への対応
について」と題する通知を発し,
「不動産の購入者等のアスベストに対す
る関心も急速に高まっていることから,不動産業者として購入者等の不安や疑問に適切に対応することが期待されている」として,
「購入者等から
のアスベストの使用に関する問い合わせに対し建築時の工事業者又は建築士,売主等にアスベストの使用の有無を問い合わせた結果を伝えるなど,できる限り購入者等の不安や疑問に適切に応えること」等を周知徹底するように要請した。

行政の取扱い
環境省大臣官房廃棄物・リサイクル対策部が平成19年11月5日に発出した「石綿含有廃棄物等処理マニュアル」において,石綿含有成形板とは,セメント,けい酸カルシウム等の原料に,石綿を補強繊維として混合し,成形されたもののうち,石綿含有率が0.1重量%を超えるものをい
うと定義され,石綿含有成形板では繊維強化セメント板が種類も多く,建築用に広く使用されてきており,石綿含有スレート(波形,ボード),石
綿含有パーライト板,石綿含有けい酸カルシウム板,石綿含有スラグせっこう板がそれに相当するものと解説されている。また,石綿含有成形板が廃棄物になったものは,主に産業廃棄物の「工作物の新築,改築又は除去に伴って生じたコンクリートの破片その他これに類する不要物」
(がれき
類)
(廃棄物処理法施行令2条9号)又は「ガラスくず,コンクリートくず(工作物の新築,改築又は除去に伴って生じたものを除く。
)及び陶磁
器くず」
(同条7号)に該当するものと解説されている。
このような状況が存在したことからも,本件売買契約締結当時の一般的な取引観念としても,売買当事者間の共通認識としても,厳密な意味での法令適合性や人体に対する具体的な危険性の有無にかかわらず,本件土地についてはアスベスト又はアスベストを含む物が混入しているべきではない(つまり,その存在は「瑕疵」に該当する。
)という認識が共有されて
いたことは明らかである。このことは,本件売買契約の重要事項説明書に「既存建物の石綿使用状況」がわざわざ特記され,
「売主は,本契約明渡
しまでに,本件既存建物を解体撤去します」と明記されていることにも表れている。
本件スレート片は,
「工場の新築,改築又は除去に伴って生じたコンクリ
ートの破片その他これに類する不要物」
(廃棄物処理法施行令2条9号)又
は「コンクリートくず(工作物の新築,改築又は除去に伴って生じたものを除く。」
)(同条7号)に該当し,廃棄物処理法上の「産業廃棄物」に該当するところ(同法2条4項1号)
,石綿の一種であるクリソタイルを重量比で
1.7~11.4%含有していることから,
「石綿含有産業廃棄物」に該当
する(同法施行令6条1項1号ロ,同法施行規則7条の2の3)

したがって,本件スレート片については,収集運搬の際には,破砕するこ
とがないよう,またその他の物と混合するおそれのないように他の物と区分して収集運搬しなければならないこと
(廃棄物処理法施行令6条1項1号ロ,
3条1号ホ)
,積替えや保管の際には,産業廃棄物の保管に関する一般的事
項に従うほか,石綿が飛散しないような方法で保管しなければならないこと(同法施行令6条1項1号ハ,ニ及びヘ,3条1号ヘ及びト)
,埋立処分を
行う際には,産業廃棄物の埋立処分に関する一般的事項に従うほか,最終処分場のうちの一定の場所において,本件スレート片が分散しないように埋立処分をし,埋立地の外に飛散し,流出しないように,その表面を土砂で覆うなど必要な措置を講じなければならないこと等の規制を受ける(同法施行令6条1項3号柱書,ヨ,3条1号イ及びロ,同条3号ニ及びホ)
。そして,
これらに違反した場合,都道府県知事から改善命令(廃棄物処理法19条の3)
,措置命令(同法19条の5以下)を受けるおそれがあり,これらの命令に違反した場合,
罰則の対象となる
(同法26条2号,
25条1項5号等)

実際,清水建設も,平成20年に既存建物の解体工事を行った際,本件スレート片を石綿含有産業廃棄物として処理しており,第1審被告自身,本件スレート片が発見されて以降,これが発見された区画の土壌を産業廃棄物として取り扱い,第1審被告の責任で調査,依頼の上「きれいにする」方法を策定する旨を表明していた。
第1審原告は,本件土地を物流ターミナル及び地元住民に提供するための公園等の建設のために利用する目的で購入しており,将来的に転売する可能性もあったが,前記のとおり本件土地には本件スレート片がまんべんなく散乱,混入しており,本件土地は上記目的に沿う性状を有しているとはいえない。
第1審原告は,本件土地に広範囲にわたって石綿を含有するスレート片が散在している状況を認識しておらず,本件土地の価額(785億円)は本件スレート片の処理を第1審原告において行うことを前提とした価額ではない。
そして,第1審原告は,本件スレート片が混入等していた土壌の撤去及び処分費用として後記5(第1審原告の主張)のとおり多額の費用を要したものであり,売買契約における等価性が失われている。
これに対し,第1審被告は,
「石綿含有スレート片が混入している土砂は
一般的に埋戻し土として流通している」ので,分量にかかわらず石綿含有産業廃棄物が混入していることが明らかになっている土壌が「有用物」とはならないとの第1審原告の主張に根拠がないと主張する。
しかしながら,混入してはならない石綿含有産業廃棄物が混入した土壌を廃棄物処理法上の「有用物」と評価することはできない。石綿含有スレート片を大量に含んでいると分かっている土砂を,それと認識しながら黙殺して通常残土として流通させることは一般常識としてあり得ないし,土壌が石綿含有スレート片を含むこと及びその危険性を知っていれば,それを進んで通常残土として受け入れる業者は市場に存在しない。現に,再生砕石に石綿含有建材が混入している事例が存在することが明らかになっただけで,石綿含有建材が含まれるか不明な再生砕石も売れなくなり,石綿含有建材以外のがれき類の処分ルートそのものすら減少するのではないかとの懸念が示されているところである(甲144)

したがって,
「石綿含有スレート片が混入している土砂は一般的に埋戻し
土として流通している」などという事実はなく,第1審被告の上記主張は失当である。
以上によれば,本件土地には瑕疵があったものというべきであり,売主である第1審被告は,買主である第1審原告に対し,本件売買契約9条2項に基づき,その除去義務を負うほか,本件土地には「隠れたる瑕疵」があるとして,本件売買契約11条2項に基づき,損害賠償義務を負う。
(第1審被告の主張)
本件売買契約11条1項は,
「買主は,本物件に隠れたる瑕疵がある場合

には,売主に対して損害賠償を請求することができる。
」と定め,本件売買
契約9条2項が,売主が重要事項説明書において約束した事項は本件売買契約に基づく売主の義務を構成すると規定しているところ,重要事項説明書の特記事項(以下単に「特記事項」ともいう。
)4.①

は,売主の義務とし

て,
「土間コンクリートまたは地中障害物(杭を含む。以下同じ。
)等,本件
土地2の地中障害物(以下総称して「地中障害物等」という)その他の瑕疵(土壌汚染を除く。
)を除去しまたは修補すること」を定めている。そして,
「土壌汚染」については,特記事項1.②Cが同B.に従い決定された環境基準を超過する有害物質等が検出された土壌(汚染土壌)を当該環境基準に適合させるために必要な有害物質等の除去につき合理的な方法による土地改良工事(土壌汚染等除去工事)を行う義務を売主に課すとともに費用負担について定めており,特記事項1.④において「地中埋設物・埋設管」については,特記事項4.に規定する売主要達成事項のとおりとされ,これを受けて,特記事項4.①

が規定されており,他に土壌中の物質・物体に関する規定

は特記事項には存在しない。以上の規定に従えば,特記事項は,1.②に定める有害物質と4.①

に定める物理的障害物を除いては,売主に特段の除

去義務を課したものではないとみるのが相当であり,本件売買契約は,これら以外の要因については本件売買契約における「瑕疵」から除外することとして,
「瑕疵」の範囲を具体的に画したものと解されるべきである。
そして,石綿であっても,石綿含有スレート片等といった非飛散性の状態では,健康障害を起こすことはないと考えられており,環境基本法,土壌汚染対策法,大気汚染防止法,都民の健康と安全を確保する環境に関する条例等の環境法令上,土壌中の石綿含有スレート片を規制する規定は存在せず(な
お,後記のとおり,廃棄物処理法上,土壌中の石綿含有スレート片を石綿含有産業廃棄物として処理する必要はない。,石綿含有スレート片は,特記事)
項1.②が定める法定環境基準の対象となるものではないし,地中障害物等のように物理的に本件土地の利用の障害となるものでもない。
したがって,本件スレート片が本件土地に混入していたことは,本件売買契約11条1項及び特記事項4.①

のいずれの「瑕疵」にも該当しない。

仮に,本件売買契約における「瑕疵」が民法570条における「瑕疵」の概念を取り込んだものであるとしても,
「瑕疵」に当たるか否かは,人の健
康に係る被害を生ずるおそれがあると認識されていた物質が人の健康を損なう限度を超えて土壌に含まれているかどうかによって判断すべきであるし,ある特定の物質が土壌に含まれていないことや,売買契約締結当時に有害性が認識されていたか否かにかかわらず,人の健康に係る被害を生ずるおそれのある一切の物質が土壌に含まれていないことが特に予定されていた場合には,当該物質が含まれているか否かによって判断すべきである(最高裁平成21年

第17号,同年

第17号同22年6月1日第三小法廷判決・民集

64巻4号953頁参照)

本件では,まず,本件売買契約に係る売買契約書及び重要事項説明書には,本件土地にスレート片その他の建材の破片が含まれていないことについて何も合意されていない。また,土壌中の石綿や石綿含有スレート片の存在について法令上の規制はなく,法定環境基準も定められていないし,そもそも,石綿含有スレート片は非飛散性であり,破砕等をしなければ石綿繊維の飛散のおそれはなく,本件土地に存在しているだけでは人の健康に係る被害を生ずるおそれはない(乙4)
。しかも,当事者間においては,物流ターミナル
等の建物を建設する目的で本件売買契約を締結することが前提となっていたところ,本件スレート片は他のスレート片やれんが片などと同様,物流ターミナル等の建物の建設に当たって地中障害物となるような大きさでも量でもないし,鹿島建設が本件土地に埋戻し土として搬入した土砂にも石綿含有スレート片が含まれていたとおり(乙54,55,57ないし64),石綿含
有スレート片が混入していることは建物建設を含む本件土地の利用の障害となるものではない。
このように,本件売買契約において,石綿含有スレート片が本件土地に混入しないことは特に予定されておらず,かつ,石綿含有スレート片は,人の健康に係る被害を生ずるおそれのあるものでもなく,本件土地に建物を建設する上で支障となるものでもない。第1審原告が入札に当たり参照した資料も,本件土地に石綿含有スレート片が含まれていないことについては何ら保証するものではなかった(甲1)

したがって,かかる点からも,本件土地に本件スレート片が混入していることは,本件売買契約上,
「瑕疵」に該当しない。
これに対し,第1審原告は,本件売買契約締結当時の一般的な取引観念としても,あるいは本件売買契約当事者間の共通認識としても,本件土地にアスベスト又はアスベストを含む物が混入しているべきではないという認識が共有されていたと主張するが,本件売買契約の当事者間の認識としても,本件売買契約締結当時の一般的な取引観念としても,本件土地に石綿含有スレート片が混入してはならないことは求められていなかった。
すなわち,まず,前記

のとおり,石綿含有スレート片は,土壌汚染対策

法及び都民の健康と安全を確保する環境に関する条例並びにこれらに関連する法令及び告示等に示される基準(法定環境基準)において何ら規制対象となっていない。法定環境基準以外の有害物質等の除去については,買主が希望する場合に限り,合意環境基準として買主の費用負担で調査・除去することになっていたが,第1審原告は,合意環境基準について何ら希望を述べることはなかったのであるから,当時,本件土地にアスベスト又はアスベストを含む物が混入しているべきではないという認識を有していなかったことは明らかであって,当事者間の認識として,本件土地に石綿含有スレート片が混入してはならないことは求められてはいなかった。
本件土地のように石綿含有スレート片が混入している土地は広く日本中に一般的に存在しているところ,仮に,取引観念上,土地に石綿含有スレート片が含まれていないことが求められるのであれば,不動産鑑定の場面において石綿含有スレート片の有無は当然考慮されるはずであるにもかかわらず,裁判所の競売物件において不動産鑑定士は石綿含有スレート片について何も言及していないし,国土交通省の作成する不動産鑑定評価基準においても価格形成要因として記載されていない(乙126)
。また,契約締結当時も現
在においても,実務上,石綿含有スレート片の有無は価格形成要因に該当するとは考えられていない(乙280,281)
。銀行員,ファイナンシャル
プランナー,建築士,不動産鑑定士等が行う不動産調査においても,土地について,石綿含有スレート片の有無は調査項目として挙げられていない(乙282)

さらに,鹿島建設が本件土地南側植栽帯に搬入した土砂には,100㎡あたり21.17個と,本件土地の9倍以上もの石綿含有スレート片が含まれており,
このような土砂が一般的に流通していたことからも明らかなとおり,石綿含有スレート片混じりの土砂は一般的に流通しており,有価物として取引されている。このように,土砂に石綿含有スレート片が含まれていることを知らないままに,すなわち,取引当事者によって関心が払われないままに土砂が流通している事実こそが,土砂の取引において,取引の目的物である土砂に石綿が含まれているか否かが取引の減額要因となっていないことを示している。
これらを踏まえれば,本件売買契約締結当時における取引観念として,土地に石綿含有スレート片が混入してはならないことが求められていなかったことは明らかである。
第1審原告は,東京都環境局が第1審原告や鹿島建設に対し,石綿含有スレート片の全量撤去を事実上指示していたなどと主張するが,事実に反する。すなわち,東京都環境局廃棄物対策部産業廃棄物対策課(現・資源循環推進部産業廃棄物対策課)には,
「本件土地における石綿含有スレート片を土
..
壌ごと全量撤去するよう指示若しくは行政指導をしたこと,又は,本件土地から石綿含有スレート片を土壌ごと全量撤去しない場合には改善命令,措置..
命令等の行政処分をする可能性があると警告したこと」に関する記録は存在せず(乙283)
,公法上の行政指導に限らず,事実上の指示も警告もなか
ったことは明らかである。このことは,東京都環境局担当者が,第1審原告らに対し,
「我々今日は指導している立場じゃないので。(乙121)と述

べていることとも合致する。
第1審原告は,本件スレート片は産業廃棄物に該当するなどと主張するが,本件スレート片が混入した土砂は産業廃棄物に該当せず,通常の土砂として処理すれば足りるものであり,特別の取扱いが義務付けられそのために費用がかかるものではない。
すなわち,廃棄物処理法において,
「廃棄物」とは,ごみ,粗大ごみ,燃
え殻,汚泥,ふん尿,廃油,廃酸,廃アルカリ,動物の死体その他の汚物又は不要物であつて,固形状又は液状のもの(放射性物質及びこれによつて汚染された物を除く。
)をいう(同法2条1項)
。そして,
「不要物」とは,自
ら利用し又は他人に有償で譲渡することができないために事業者にとって不要になった物をいい,これに該当するか否かは,その物の性状,排出の状況,通常の取扱い形態,取引価値の有無及び事業者の意思等を総合的に勘案して判断すべきであるとされる(最高裁平成9年

第105号同11年3月10

日第二小法廷判決・刑集53巻3号339頁)

これを建物の破片についてみると,破片が土壌から特段分離された状態にはなく,また建材の破片が集積しておらず土地の利用を妨げていない場合には,占有者は,建材の破片が混在した土壌それ自体を有用なものであると判断するのが普通であり,わざわざ手間をかけて分離すれば「不要物」であるが,土壌から特段分離しなければ「有用物」のまま存在する。本件においても,鹿島建設が本件土地に埋戻し土として新規に搬入した土砂において石綿含有スレート片が混入していたことが確認されているとおり,取引通念上,土壌中に建材の破片が含まれていたとしても土砂としての有用性は何ら失われていないばかりか,そのような土砂も現に取引の対象となっており,埋戻し土として世の中で利用・活用されているのであるのであって,石綿含有スレート片をわざわざ土壌から分離して取り出した状態で「廃棄物」該当性を判断するべきではなく,土壌と一体の物として「廃棄物」該当性の有無を判断するのが相当である。また,廃棄物処理法は,事業者が所有する土地の中に産業廃棄物が混入しているとしても,直ちにそれを掘り起こして処理すべき義務まで当該事業者に負わせておらず,当該土地の利用に当たり地中から掘削された産業廃棄物を運搬又は処分を行う場合に初めて,同法に従った処理を義務付けている。したがって,廃棄物該当性の判断においても,運搬又は処分を行う物を対象に判断すべきであるところ,スレート片は,本件土地と一体となって存在し,運搬又は処分されるのであるから,土壌と一体の物として「廃棄物」該当性の有無が判断されるべきである。
以上を踏まえ,石綿含有スレート片が混入した本件土地の土砂の廃棄物該当性について検討するに,まず,石綿含有スレート片は,本件土地に点在していただけであり,地中障害物として本件土地の利用を妨げるものではないし,石綿含有スレート片から石綿が流出することもなければ,環境法令上の規制対象になっていたわけでもない。また,建設廃材であっても,もっぱら土地造成の目的となる土砂に準じた物は廃棄物から除かれており(甲55,乙103)
,鹿島建設自身,石綿含有スレート片以外のスレート片やがれき
片については,廃棄物として処理をしていないし,第1審原告も,第1審被告に撤去を求めたり,撤去費用の支払を請求したりしておらず,建材の破片が含まれた土砂を有用物と判断していた。加えて,鹿島建設が埋戻し土として搬入した土砂にも石綿含有スレート片が含まれていることからも明らかなとおり,スレート片が混入した土砂は埋戻し土として現に利用・活用されており,市場においても流通し,取引価値がある物である。そして,本件土地の土壌中に石綿含有スレート片が存在していたとしても,本件土地周辺の石綿の大気中濃度調査及び本件土地における石綿繊維による土壌への影響調査の結果(乙3ないし7)から明らかなように,それらが地中において安定的に存在している限り,石綿繊維が大気中に飛散することはなく,かつ,土壌中に流出することもなく,人の健康を害するものでもないのであって,生活環境の保全及び公衆衛生に悪影響を及ぼすおそれはなく,地中の石綿含有スレート片をわざわざ除去すべき特段の事情も存在しない。
したがって,石綿含有スレート片を土壌中に含む本件土地の土砂は,埋戻し土としても現に活用され得る有用性がある物であり,廃棄物処理法上,その物の性状,排出の状況,通常の取扱い形態,取引価値の有無及び事業者の意思等を総合的に勘案して見る限り,
「自ら利用し又は他人に有償で譲渡す
ることができないために事業者にとって不要になった物」
(不要物)に該当
せず,したがって,
「廃棄物」にも該当しないのであって,本件土地の土壌
内の本件スレート片は,石綿含有産業廃棄物として処理する必要のないものであった。
これに対し,第1審原告は,再生砕石に石綿含有建材が混入している事例を挙げるなどして,分量にかかわらず石綿含有スレート片が混入した土砂を「有用物」と評価することはできず,廃棄物処理法上,石綿含有スレート片が混入した土砂については石綿含有産業廃棄物として処理すべきであるなどと主張する。
しかしながら,第1審原告が指摘する再生砕石の事案は,本件売買契約締結後のものであり,本件売買契約締結時の取引観念を示すものではない(なお,再生砕石中に石綿含有建材が混入していること自体に違法性はない(乙145))
。。そして,鹿島建設が本件土地に埋戻し土として搬入した土砂に石綿含有スレート片が混入していたことからも明らかなとおり,石綿含有スレート片が混入している土砂は一般的に埋戻し土として流通しており,第1審原告の上記主張は,実際に鹿島建設が本件土地に埋戻し土として搬入した土砂に石綿含有スレート片が混入していた事実を無視するものであって,失当である。
第1審原告は,本件土地には本件スレート片がまんべんなく散乱,混入していたなどと主張するが,客観的証拠上,そのような事実は認定できず,本件土地のスレート片及び石綿の量は土壌量全体に比べてわずかであるし,発見されたスレート片全てに石綿が含まれているわけでもない。
すなわち,まず,第一次調査の結果,本件土地を10m四方(約60畳分)の単位区画に区切り,アスファルト舗装されていた区画や鉄板の下に採石が敷かれている区画等を除外した区画934区画のうち,スレート片が発見されなかった区画は200区画(約25%)
,1個~4個見つかった区画は6
86区画(約70%)
,5個~10個見つかった区画はたったの48区画(約
5%)であり,本件土地のほとんどの区画(約95%)で,スレート片は約60畳当たりで全く見つからないか,見つかっても1~4個しか発見されていない。なお,この際発見されたスレート片に石綿が含まれていたかは,調査されていない(乙3)

本件土地の10区画において,それぞれ2m四方の深さ50㎝までの範囲の土壌(合計10地点)をサンプリング調査(第二次調査)し,その結果,合計992個のスレート片が発見されているが,このうち,石綿含有を分析・確認したスレート片は25個(約2.5%)のみであり,他は分析されていないし,含有が確認されたものも,スレート片を破砕して採取した一次分析試料の重量に対する含有率1.7~11.4%の石綿が確認されたものであって,平均で重量に対する含有率は約6.4%である。なお,目開き20㎜のふるいを用いてふるいがけを行ってスレート片を収集しており,20㎜四方(1円玉大)程度の小さなスレート片も1個のスレート片として数えられているし,一次分析試料はスレート片を粉砕した分析試料を目開き500μmのふるいによりふるい分けした結果得られたものであり,上記含有率はスレート片そのものに対する含有率ではない
(第三次調査においても同じ。。

さらに,東京環境測定センターが平成23年3月28日から同年4月7日にかけて行った第三次調査では,第二次調査においてスレート片が特に多く確認された2地点(50cmの深度で224個と262個が発見された地点)及び埋土が最も厚く堆積していることが確認された1地点の計3地点につき,それぞれ1m四方を調査対象として,30cmごとに土壌を掘削し,ふるいをかけ,目視により土砂と「スレート片」に分け個数及び重量の計測を行ったところ,前者2地点について,深度1.15mあるいは1.3mまでに発見されたスレート片の合計個数は,第二次調査の結果に,それぞれ181個と136個を加えるものとなったのに対し,埋土の堆積層が一番厚かった地点については,地表面から深度1.5mまで計測して87個しかスレート片が見つからなかった。また,定性・定量分析の結果,スレート片を破砕して採取した一次分析試料の重量に対する含有率2.1%から13.2%の石綿が確認された。
土壌との重量比でみると,サンプリングされた土量は,第1審原告がスレート片除去のために搬出した土壌全体量である約13万6000㎥のわずか0.0147%である。そして,そのサンプリングされた土量のうち収集されたスレート片の重量はわずか0.067%であり,仮にそのスレート片の全てが平均約6.4%の石綿を含有していたとしても,その石綿の量は,サンプリングされた土壌全体量のわずか0.0042%である(乙4,124)。このように,本件土地で発見されたスレート片の量も,スレート片から発見された石綿の量も,調査対象となった土壌全体からみればごくわずかな量に過ぎない。
しかも,本件土地で発見されたスレート片のうち,石綿が含まれていることが確認されているのは,鹿島建設アスベスト対策チーム専任次長Aが発見したスレート片4個(甲9,10)
,本件土地の10区画中9区画における
2m四方の深さ50㎝までの範囲の土壌(合計9地点)中から発見されたスレート片のうち25個(乙4)
,及び上記10区画のうち特にスレート片が
多く発見された2区画を含む3区画における1m四方の深さ1.5mまでの範囲の土壌(合計3地点)中から発見されたスレート片のうち10個(乙113)のみである。しかも,第二次調査の対象となった区画は,本件土地の他の場所よりもスレート片の個数が多いところが選ばれており,サンプル数も少ないため,統計学上,第二次調査の結果に基づき,単純比例計算によってスレート片の個数を計算して本件土地に大量にスレート片が存在していると認定することはできない(乙116,147)

以上のとおり,証拠上認定できる石綿含有スレート片の量はごくわずかに過ぎない。第二次調査で発見されたスレート片は992個であるが,石綿含有スレート片とそうでないコンクリート片ないし石片は,外観がよく似ており,わずか25個の分析結果をもって,本件土地に存在する全てのスレート片についても,石綿が含まれていると推認することはできない。
また,念のため,発見されたスレート片が全て石綿含有であると仮定したとしても,その量は,他の土地で発見された石綿含有スレート片の量より少ないか同程度にとどまる。本件土地の地表面では,100㎡当たり2.24個しかスレート片が発見されておらず,ほとんどの地表で100㎡(約60畳)に0~4個の密度でしか見つかっていない(乙98,100)。これに
対し,例えば,I公園では,地表面から合計102個のスレート片が発見されているが(乙72,100,101)
,これは100㎡当たり平均で8.
37個という比率であり,本件土地の4倍近くの割合でスレート片が存在している。
第1審原告は,本件土地におけるスレート片の重量割合が相当の高割合であることの根拠として,鹿島建設のB証人等の証言を引用する。
しかしながら,B証人等は石綿含有スレート片の重量割合について何も証言していない。鹿島建設の従業員であるC証人や東京環境測定センターのD証人は,スレート片が石綿を含有するか否かを目視で見分けることができないと明確に証言している。仮に,破断面のけば立ちから石綿含有スレート片であることが見分けられるとしても,スレート片の中には破断面のけば立ちが確認できないものも相当数含まれており,本件土地に存在したスレート片の全てについて破断面のけば立ちが確認されているわけではないし,そもそも,破断面にけば立ちがあるスレート片であっても,石綿が含有されていないものも存在するのであり(乙162・添付2のスレート片⑥参照),破断
面のけば立ちから石綿含有スレート片であることは見分けられない。さらに,E証人は,第一次調査ないし第三次調査という限られた範囲の調査時における印象論として証言しているだけであるし,B証人の証言についても,B証人が掘削を行った本件土地を全て確認したかどうかは明らかではない上,本件土地以外でこのように多数のスレート片が工事現場の土から発見されたことは「今まで一度も経験しておりません。
」と証言しながら,B
証人は,他者から指摘されるまで特段異常だという認識はなかったものであって,本件土地に広くまんべんなくスレート片が存在していたという証言は信用できない。
以上のとおり,これらの証言から本件土地に広くまんべんなく大量に石綿含有スレート片が存在したという事実を認定することはできない。したがって,本件土地に広くまんべんなく大量に石綿含有スレート片が混入していたとは認定できないし,本件土地は他の土地と比べて異常に多くのアスベスト含有スレート片が含まれている土地ということもできない。前記のとおり,石綿含有スレート片を含む土地は一般的に存在し,本件土地は,スレート片の存在状況や含有密度からして,何ら特殊な事例でもなければ,危険な土地でもないにもかかわらず,原判決が是認され,第1審原告が主張するように,石綿含有スレート片が存在することによって本件土地が瑕疵がある土地として扱われ,廃棄物処理法に従ってスレート片の全てを撤去しなければならないとすると,石綿含有スレート片を含む他の土地についても石綿含有スレート片の土中からの分別を強制され,仮に分別できないのであれば,石綿含有スレート片が混入した土砂を石綿含有産業廃棄物として除去しなければならないことを強制されることになる。
本件において第1審原告が約13万6000㎥の土壌を撤去処分したように,仮に,地中にわずかなスレート片が存在した場合に土壌まで全て撤去することとなれば,本件土地と同じ状況の土地が10個もあれば東京ドーム1つ分の容積に相当する土砂が搬出され,それだけ自然の土が削られ,環境破壊が進むことになる(乙124)
。東京23区の公園等の土地だけでみても,
東京ドーム853個分,東京都の宅地面積では東京ドーム7785個分もの土砂の撤去が必要であり,その分の自然土が削られ(乙147)
,少なくと
も2兆536億円といった,2020年に予定されている東京オリンピックの開催費用の推定額と同程度の多額の廃棄物処理費用が必要となる。東京都の宅地も含めると,18兆7000億円を超える費用が必要となるが,これは平成28年度一般会計歳入予算における所得税収入17兆9750億円と同程度という莫大な金額である(乙147)
。さらに,処理業者の能力を超
える処理量が発生することで,処理が追いつかないといった社会問題を引き起こす可能性すらもある。このように,原判決の結論を維持することにより社会経済に悪影響を与えることは明らかである。
5
争点

(第1審原告に生じた損害)に関する当事者の主張

(第1審原告の主張)
第1審原告は,以下のとおり,合計85億0509万5193円の損害を被った。
なお,第1審被告は,過失相殺により損害の減額が図られるべきであるなどと主張するが,第1審原告には過失と評価される行為はないし,そもそも,瑕疵担保責任に基づく損害賠償請求に過失相殺は適用されないから,第1審被告の上記主張は失当である。
本件スレート片の撤去及び処分費用

57億6785万9528円

本件スレート片の撤去及び処分の作業内容及びその費用の額は,原判決別紙「工事内容詳細」のうち,本件既搬出土の撤去及び処分費用分を除いた部分の各欄記載のとおりであり,その合計額は,54億9319万9550円となるところ,第1審原告は,同額に5%の消費税額を加算した57億6785万9528円の支払を余儀なくされた。
その詳細は,次のとおりである。

撤去及び処分の概要
本件スレート片は,一定の場所や深さに特定されることなく,本件土地の全体に,表面から深さ数mにかけて散在していたため,自然の地山でない埋土部分を掘削対象とすることとし,ボーリング調査等の結果から埋土部分の深さを推定した上,掘削した。掘削後,目視で埋土部分の掘削完了(地山への到達)及び本件スレート片の有無を確認して,本件スレート片が発見されなかった区画は掘削完了と判断し,発見された区画については更に掘削を行った。


前記アの工事方法を選択した理由
本件土地においては,調査の結果,土地の表面及び地中にわたって広く本件スレート片が混入していることが予想されたこと,本件スレート片と土壌は不可分一体にからみついていた上,本件スレート片の大きさにばらつきがあり,ふるい等によってこれらをより分けて処分することが困難であったことから,土壌ごと本件スレート片を処分するよりほかなかった。また,人工物である本件スレート片が自然の地山に含まれていることは考え難い一方,本件土地においては,表面のほぼ全域において本件スレート片が発見されていたこと,地中の調査においても,50㎝程度の掘削で1区画平均約100個もの本件スレート片が発見されたこと,地中の深さと本件スレート片の混入量に一定の法則がなかったこと,第1審被告が本件土地上において従前より複数回建物の建築,解体を行っていたことなどから,建物の建築工事等において土地の掘削を行った際,本件スレート片が土壌中に混入,撹拌されたものと推測され,したがって,人の手の入った埋土部分には本件スレート片が混入している可能性が高いと推測されたことから,埋土部分には本件スレート片が混入しているものとして,埋土部分の全ての処分,撤去を行う方針を採ったものである。実際,撤去の際には大量の本件スレート片が掘り出され,当初想定した掘削深度を超えた深度においても本件スレート片が発見されていた。
そして,第1審原告及び鹿島建設は,本件スレート片を含む土壌の撤去範囲が相当であることの客観性を担保するため,第三者たる専門機関である東京環境測定センターの立会いの下で本件スレート片の有無を確認しながら作業を進めていた。
以上のとおり,埋土全体に本件スレート片が含まれるとして埋土自体を撤去及び処分の対象としたことは,合理的かつ相当な方法である。これに対し,第1審被告は,本件土地の隣接地(以下単に「隣接地」という。
)における鹿島建設の対応が本件土地における対応と異なるなどと批判するが,本件土地は,埋土部分にスレート片が広くまんべんなく混入していたという極めて特殊な瑕疵ある土地だったのであり,隣接地とは全く異なる。また,本件土地と隣接地では,工事を行うに当たっての様々な状況や条件が異なるのであるから,両者の工事方法を比較することも無意味である。
また,本件売買契約締結後の平成21年10月に「廃棄物混じり土対応マニュアル」
(甲111,乙105。以下「本件マニュアル」という。
)が
策定される以前は,破棄物混じり土から廃棄物を取り除いたものを「分別土」とする概念自体が存在せず(甲145)
,技術的に土壌と廃棄物の分
別が可能な場合も廃棄物混じり土全体を一括して廃棄物として取り扱うことが当然であり,関係業界においては,そのように処理しなければならないと苦慮していたものである。

追加掘削部分について
本件スレート片は,前記4(第1審原告の主張)

のとおり,石綿含有

産業廃棄物に該当するから,当初予定していた掘削部分に含まれない部分であったとしても,地中にある石綿含有産業廃棄物の存在を認識した以上は,これを適切に処理しなければならない(廃棄物処理法3条1項,12条1項)

仮に法律上残置が可能であるとしても,第1審原告及び鹿島建設は,本件土地のうち当初掘削する予定のなかった部分について本件スレート片を掘削することなく残置することができないかを検討した上,東京都の担当部署にもかけあったが,東京都からは,産業廃棄物である以上は撤去する必要があり「封じ込め」の措置も認められないとの見解が示され,第1審原告らとしては,東京都の意見に従うよりほかなかった。
また,
「封じ込め」の措置については,廃棄物処理法の趣旨に照らすと,保管基準や最終処分場の埋立処分に準じた措置,具体的には「非飛散性アスベスト廃棄物の保管場所である」旨の表示をするなどの必要があると解されるが,それでは第1審原告が予定していた物流ターミナルの建設や公園といった利用方法と相容れず,実際には採り得ない方法であった。したがって,当初掘削を予定していなかった部分について追加して掘削したことも当然であり,追加部分の掘削は,必要かつ合理的な措置であって,これに要した費用も本件土地の「瑕疵」によって生じた損害というべきである。原判決が同費用を損害額から控除したのは不当である。エ
ピットの埋戻し部分について
清水建設は,本件土地上に存在した既存建物を撤去する工事を施工した際,建物のピット(地下水槽)を4つ撤去し(以下「ピット1」などという。,その後にできたくぼみを埋めるために外部から建設残土1万104)
0㎥を搬入して埋戻工事をしていた。鹿島建設は,この埋戻部分についても,一部を残して土壌を撤去して処分したところ,原判決が清水建設が外部から搬入した建設残土に石綿を含有したスレート片等の産業廃棄物が混入していたことを認めるに足りる的確な証拠はないなどとして本件スレート片の撤去・処分費用のうち上記土壌(推定土量8099.75㎥)に対応する額を損害額から控除したのは不当である。
まず,ピット3の埋戻しに外部搬入土が用いられておらず場内発生土が使用されたことについては,当事者間に争いがない。
次に,
ピット1の埋戻しに4086㎥の外部搬入土が使用されたところ,ピット1のうち「3分の1強」の部分についてはオープン工法が採られて外部搬入土による埋戻しがされたが,崩れた場内発生土との境界がはっきりせず,また掘削された場内発生土も外部搬入土と共に再び埋戻しに使われたと合理的に考えられ,残り「3分の2弱」の部分については全旋回工法が採られてそもそも外部搬入土による埋戻しは行われておらず,さらに,どこか所在不明な箇所に少なくとも約325㎥の場内発生土が埋戻しに用いられており,しかも,地表の均し作業においても場内発生土と外部搬入土の混合が行われたというのであるから,ピット1の外部搬入土と場内発生土は客観的に渾然一体となっており,鹿島建設が当時それを分別して処理することは不可能であったし,実際に鹿島建設によって掘削・撤去された土壌のうちいかなる量が外部搬入土だったのかを事後的に推定することも不可能である。
また,ピット2及び4の埋戻しにはそれぞれ5614㎥,1339㎥の外部搬入土が使用されたところ,これらのピットでは全面的にオープン工法が採られて外部搬入土による埋戻しがされたが,崩れた場内発生土との境界がはっきりせず,また掘削された場内発生土も外部搬入土と共に再び埋戻しに使われたと合理的に考えられ,地表の均し作業においても場内発生土と外部搬入土の混合が行われたというのであるから,外部搬入土と場内発生土は客観的に渾然一体となっており,鹿島建設が当時それを分別して処理することは不可能であったし,実際に鹿島建設によって掘削・撤去された土壌のうちいかなる量が外部搬入土だったのかを事後的に推定することも不可能である。
さらに,第1審原告も鹿島建設も,ピット1から4の三次元上の位置を知り得なかったし(甲142)
,ピット1から4の埋戻しに外部搬入土が
使われたという情報を知り得なかった。
以上のとおり,①

ピットの埋戻しに使われたという外部搬入土は,場

内発生土と不可分に渾然一体となっていたし,②

第1審原告や鹿島建設

がスレート片の撤去・処分作業の際にそれを分別することは,第1審原告らが得ていた情報にかんがみても不可能であったし,③
鹿島建設が実際

に撤去・処分した外部搬入土の量を推定することもできないから,その撤去・処分費用を損害額から控除すべきではない。

健全土埋戻し工事について
原判決別紙「工事内容詳細」の「健全土埋め戻し工事」の欄にある「鋤取りレベル以深

埋め戻し」とは,本件スレート片を撤去した後の地盤面

から「SAVE施工地盤レベル」まで埋戻しをした工程を指す。元来,本体工事においては,①

「SAVE施工地盤レベル」まで土壌のすき取り
を行い,②

地盤改良工事を行った上で,③

さらに,建物の基礎を作る

のに必要な深さまで土壌を掘削する工程が予定されていたところ,計画掘削部分には,上記③の工程で行う掘削工事の深さまでが含まれている。「鋤
取りレベル以深

埋め戻し」により実際に埋め戻された土壌には計画掘削

部分と追加掘削部分が混在しているが,それぞれの容量を正確に測定することは困難であるから,計画掘削部分と追加掘削部分に按分計算によって割付けを行うことが合理的である(甲142)

この点,第1審被告は,本件スレート片を撤去するために原設計値よりも深くまで掘削したのであれば,SAVE施工地盤レベルを当初の予定よりも低くし,埋戻し量を少なくするなどの損害軽減措置を採るべきであったのにこれを怠ったとして,過失相殺すべきであるなどと主張する。しかしながら,本件スレート片の撤去工事において原設計値よりも深くまで掘削したのは,あくまで一部の箇所のみであって,他の箇所では原設計値よりも浅くまでしか掘削しておらず,本件スレート片の撤去工事を行った段階で原設計値との関係では浅くなっているところと深くなっているところが混在していたのであるから,一部の箇所が深く掘られているからといって,SAVE施工地盤レベルを一律に下げることは全く合理的でない。第1審被告の主張には「SAVE施工地盤レベルを地点ごとに柔軟に変えられる」という前提があるように見受けられるが,SAVE施工地盤レベルは,建物の基礎を作る前工程として,広範に地盤改良及び杭を行うための施工地盤の高さを決めるものであり,基本的に平らであるべきものであって,地点によって異なる高さとすることは現実的でなく,上記前提がそもそも誤りである。
また,原判決別紙「工事内容詳細」の「健全土埋め戻し工事」の欄にある「埋め戻し」及び「盛土」の工事は,いずれも本体工事において行われることを予定していたが,本件土地に本件スレート片が存在していたことで,本件土地の場内発生土をこれらの「埋め戻し」及び「盛土」に転用することができなくなり,工事費用が増加した項目であり,本件スレート片の撤去・処分工事の代金として支払われているのは,この増加分の差額のみである。すなわち,これらの「埋め戻し」及び「盛土」は,新たな増加後の工事費により計上される一方で,元々の本体工事で計上されていた費用相当額については,
「既契約分」として本件スレート片の撤去・処分工
事費用から控除されている(甲80の1(14枚目。6・7番目の「埋め戻し」及び「盛土」のマイナス金額での計上が「既契約分」である。,甲)
142)
。なお,場内発生土の転用により費用が減じられた分については,甲91の1の「前回計上金額との調整金」によって調整済みである。カ
石綿含有汚染土壌処理費用の割付けについて
第1審被告は,
「石綿含有汚染土壌処理工事」の費用は,原判決にいう
搬出予定部分(A-1)及び埋戻等予定部分のうち産廃土になった部分(A-2)のみならず,追加掘削部分(B)にも割り付ける必要があると主張する。
しかしながら,
「石綿含有汚染土壌」とは,石綿を含有する本件スレー
ト片を含む土壌であって,自然由来汚染土(本件土地に存在していた自然的由来のヒ素及びフッ素が法定基準値を超えて検出された土壌)に該当するものをいい,当初から掘削が予定されていた部分(計画掘削部分)に含まれていた土壌であって,このことは,原審においては,争いがなかった。第1審被告は,乙93の合意書第2条

の「搬出すべき汚染土壌のうち,

石綿含有スレート片の混入が確認された土壌(括弧内省略)の量は7,678㎥」との記載が石綿含有汚染土壌処理工事で処理された本件スレート片を含む自然由来汚染土の土量約1万8622.6㎥と一致しないことを根拠に,自然由来汚染土が追加掘削部分に存在することも考えられると主張するようであるが,上記「7,678㎥」との記載が錯誤によるものであることは明確である。
したがって,第1審被告の上記主張は失当である。
本件既搬出土の撤去及び処分費用

5億6385万0472円

鹿島建設は,平成22年12月25日から平成23年1月7日にかけて,本件新築工事に伴って生じた残土1万2457.7㎥をa処分場に搬出していた。本件土地において本件スレート片が発見されたことに伴い,搬出先であるa処分場においても搬出土砂の調査を行ったところ,本件スレート片が発見されたことから,第1審原告は,本件既搬出土についても撤去・処分を行うこととした。
したがって,a処分場への搬出土砂の撤去及び処分に要した費用も,本件土地の「瑕疵」によって生じた損害というべきである。
同作業の内容及び処分費用の額は,原判決別紙「工事内容詳細」のうち,既出残土産廃土処理工事(追加Ⅰ期分を含む。
)欄記載のとおりであり,そ
の合計額は,5億3700万0450円となるところ,第1審原告は,同額に5%の消費税額を加算した5億6385万0472円の支払を余儀なくされた。
本件新築工事の遅延に伴う追加費用

20億6849万1348円

本件スレート片の撤去及び処分を行っている間,本件新築工事を行うことができず,その完成が遅延した。第1審原告は,当初,平成24年11月から物流ターミナルを供用開始する予定であったが,上記遅延により,物流ターミナルに移転予定であった第1審原告の支店の移転が11か月間遅れた。これに伴い,第1審原告は,重機の待機損料,仮設材等損料,設備保管費用,人件費等諸経費の追加費用として,平成25年11月29日,鹿島建設に対して14億9331万円,株式会社日建設計(以下「日建設計」という。)
に対して1億5319万5000円をそれぞれ支払い,平成26年3月10日,日本電気株式会社(以下「日本電気」という。
)に対して7507万5
000円,シネティックソーティング株式会社(以下「シネティック」という。
)に対して1411万2000円,村田機械株式会社(以下「村田機械」という。
)に対して189万円をそれぞれ支払った。
また,第1審原告は,東京都品川区bc丁目所在のd駅構内のコンテナ複合施設及びコンテナ複合駐車場を甲支店として賃借し,東京都大田区df丁目所在の事務所及び倉庫を乙支店として賃借していたところ,平成24年11月までには本件土地上に完成される物流ターミナルに移転する予定であったが,その竣工が遅れたため,移転も遅れ,このため,本来支払う必要のなかった同月から平成25年9月分までの賃料合計3億3090万9348円の支払を余儀なくされた。
これらの合計20億6849万1348円は,いずれも建設工事が遅れたことに伴って不可避的に発生したものであるから,損害となる。
逸失利益
前記

1039万3845円

のとおり,物流ターミナルの建設が遅れたため,当該施設の一角を
賃借する予定であったコンビニエンス・ストア及び託児所の開業も平成25年10月に遅れ,このため,第1審原告は,平成24年11月分から平成25年9月分までの11か月分の賃料収入を得ることができなかった。11か月分の賃料収入は,コンビニエンス・ストア分として合計185万9550円,託児所分として合計853万4295円になる。
弁護士費用

9450万円

第1審原告は,本件訴訟の提起のための弁護士費用として9450万円を支出しているところ(甲37)
,かかる費用も賠償請求の範囲に含まれる損
害というべきである。
(第1審被告の主張)
仮に,石綿含有スレート片が含まれていたことが本件土地の「瑕疵」に該当し得るとしても,その損害は相当因果関係のあるものに限定されるべきであるところ,次に述べるとおり,第1審原告の請求は不当に過大である。第1審原告は,第一次調査(乙3)と第二次調査(乙4)の調査結果から本件土地の埋土層全域にわたって石綿含有スレート片が散在する可能性が高いと評価して,埋土層を全部撤去する方法を採用したと主張する。
しかし,本件土地は10万㎡を超える広大な土地であるところ,本件土地の地表面の第一次調査(乙3)では石綿含有の有無は明らかでない上,そのほとんどの場所で,1区画10m×10mの100㎡,すなわち約60畳分当たり0個から4個のスレート片が点在していたに過ぎない。本件土地の土壌の第二次調査(乙4)においても,本件土地の土壌に占めるスレート片の重量比に注目すれば,スレート片の重量は調査対象となった土壌の重量のわずか0.067重量%に過ぎず,土壌に占める石綿含有量でみれば,0.0042%に過ぎない。
第1審原告は,このようにわずかな量しか発見されていない状況であり,しかも,次に述べるとおり,土地とスレート片の分別(乙106の2)や土砂の一部搬出(甲125)による方法も十分に検討可能であったにもかかわらず,合計で約13万6000㎥の土壌撤去を断行したのであり,不当に過剰な撤去といわざるを得ず,その処理義務と費用負担を第1審被告に課すことが不合理であることは明らかである。
また,第1審原告や鹿島建設は,埋土全部の掘削処分以外の搬出方法であれば,より損害を軽減できることを認識しながら,そのような対策方法を十分検討せず,埋土全部の掘削処分を行うこととし,その結果,多額の工事費用の損害を生じさせているが,このような損害を全部第1審被告に負担させるのは公平の観点から相当でなく,第1審原告には損害の拡大を防止するために,他の対策方法を十分検討することが求められるというべきである。それにもかかわらず,第1審原告が別の対策方法を十分に検討しなかったことは,損害の拡大を防止するために相当と認められる措置を講じなかったものであり,過失相殺により損害の減額が図られるべきである。
第1審原告や鹿島建設の採った処分方法が過剰であり,これによる費用等が瑕疵と相当因果関係がある損害とは認められないこと,あるいは,過失相殺の対象となることにつき,更に個別に検討すると,次のとおりである。本件土地の表層の本件スレート片だけを撤去すれば足りたものであり,土壌内の本件スレート片を撤去するまでの必要はなかった。
すなわち,東京環境測定センターによる2回の調査の結果,石綿による土壌及び大気の汚染は確認されておらず(乙3,4)
,周辺への健康被害のお
それはなく,本件土地の利用にも支障はない。廃棄物処理法は,石綿含有産業廃棄物の処理方法として「埋め立てる石綿含有産業廃棄物が埋立地の外に飛散し,及び流出しないように,その表面を土砂で覆う等必要な措置を講ずること」としており(同法施行令第6条第3号ヨ)
,地中にある限り石綿含
有産業廃棄物が飛散のおそれがないことを前提として,地中から取り出すよりは地中に置くことを推奨しているといえる。
実際,地中のスレート片混じりの土砂まで産業廃棄物として処理する法規制は存在せず,鹿島建設や東京環境測定センターの担当者も検査義務がないことを認めているし,建設発生土の流通の現場において土砂にスレート片が含まれているかを検査,調査する実務は存在せず,実務上,地中のスレート片は除去の対象とされていない。
そして,本件土地のほとんどの区画(約60畳分)で,スレート片は0~4個しか見つかっておらず,本件土地の表層のスレート片を集めることに支障はなく,表層のスレート片の撤去は容易である。
このように,本件土地については,表層のスレート片だけを撤去すれば足りたものであり,これに要する費用である2858万7908円(乙150の1及び2,151の1及び2)を超える費用は相当因果関係を欠き,認められない。
仮に,地中のスレート片混じりの土壌を土壌ごと撤去処分するとしても,人が直接土地に触れる可能性のない公園以外の土地の土砂まで処分する必要はなかった。
すなわち,本件土地は工業専用地域であるところ,本件土地の3%が公園として開放されることが予定されていたものの,それ以外の土地には,建物が建てられ,基本的に土地に触れる形での人の立入りは予定されていない土地であった(甲3)
。第1審原告は,地表面に存在するスレート片から飛散
する点を問題にしているのであるから,建物やアスファルトで覆われていたり,人の立入りが予定されていない土地の部分についてまでスレート片混じりの土壌を掘削して撤去する必要はなく,公園部分に限り,スレート片混じりの土壌を撤去処分すれば足りたものである。
したがって,上記

の表層のスレート片の撤去費用は更に減額され,スレ

ート片の拾い集めにかかる費用は全区画の場合の費用2585万2008円(乙150の2,乙151の2)の3%に当たる77万5560円で足りたはずである。これに運搬処分費用13万7000円と10%の諸経費を加えても,合計で100万3816円となり,相当因果関係のある損害はこの範囲に限られるというべきである。
また,仮に,表層のスレート片だけでなく,地中のスレート片混じりの土砂まで撤去処分することとし,かつ,追加掘削部分を含めるとしても,第1審原告が主張する(本件既搬出土を除く)本件土地の撤去処分費用の損害は,57億6785万9528円の3%に当たる1億7303万5785円に限られるというべきである。
仮に,本件土地の土壌が石綿含有スレート片を含むこと自体が瑕疵であると認定された場合であっても,相当因果関係のある損害として認められるのは,通常損害,すなわち,売買契約締結時点で,廃棄物混じり土を処分する通常の方法による処分費用(具体的には,石綿含有スレート片を分別して処理する費用)に限られる。
平成21年10月に「廃棄物混じり土対応マニュアル」
(本件マニュアル)
が発行される以前は,廃棄物混じり土についてどのように取り扱うか明確な基準は取り決められておらず,当然に廃棄物混じり土を一括して廃棄物処理する実務など確立されてはいない(乙215)
。売買契約締結以降に瑕疵を
除去する費用が発生することが顕在化した時点で,瑕疵を除去する合理的手法が示されていたにもかかわらず,これによることなく,別の手法による費用を損害として認めるのは明らかに不合理であるから,
本件土地においても,
本件マニュアルに従った分別処理を行う必要があった。本件マニュアルにおいて,40㎜程度以下の廃棄物が含まれる土を分別土として土質材料とする実施例(乙105)が挙げられているように,実務上,分別に当たって目視できないものまで含めて廃棄物を完全撤去しなければならないとする考えは採られておらず,目視不可能な廃棄物も含めた廃棄物と土砂の一括処理は実務以上の処理を求めるものである。東京都環境局も,目視できないものも含めて石綿含有スレート片を全て撤去する義務があるとか,石綿含有スレート片混じりの土砂を全て撤去する義務があるなどとは述べておらず,そのような指導ないし警告も行っていない(かえって,第1審原告及び鹿島建設の方から,本件土地の土壌を全量撤去すると申し出ている。。東京環境測定セン)
ターの担当者は,掘削が完了したか否かの判断を目視でスレート片が見つかるか否かにより行っていたし,鹿島建設も,埋戻しや盛り土に当たり,健全土か否かのチェックを目視により行っていたと考えられ,目視できないスレート片の存在を問題にしていなかった上,鹿島建設の除去後においても,本件土地の地表及び地中には目視できる石綿含有スレート片が84個取り残されているし(乙94)
,新たに本件土地以外から土砂を持ち込んだg植栽帯
やh公園内において,目視できる石綿含有スレート片が48個存在していた(別紙1「スレート片発見場所等整理表」の「1.本件土地内」
,乙54ない
し55,57ないし64)ことなどからして,鹿島建設において,本件土地に目視できるスレート片があったとしても問題ないと考えていたばかりか,目視すらできないスレート片を撤去することまで考えていなかったことは明らかである。
このように,本件土地の掘削は,目視できるスレート片を対象に調査が行われ,撤去作業も行われたのであり,目視できないものまで撤去することは予定されていなかったし,目視できるスレート片ですら撤去が十分でない。一般にも,目視できるスレート片混じりの土砂が流通しており,目視できないものであればなおさら流通していることは明らかである。したがって,目視できないスレート片まで撤去される必要はないのであり,土砂とスレート片を分別する方法で目視できないスレート片が残ることは,分別の方法を採用しない理由とはならない。
一定程度の深さの土壌に存在するスレート片を除去する場合,
「バケット
容量0.45㎥掘削機(中略)により掘削した土砂を本件土地内に適宜設置する一時保管集積場所に運搬車で小運搬し,これをスコップ・熊手レーキ等により分別」し(乙106の2)
,分別された後の土砂を埋め戻し,不足する
埋戻し土砂を外部から調達して埋め戻す方法が可能である。
実際,鹿島建設は,本件土地と地続きの隣接地において,スレート片含有土を「手で選別する」という,清水建設が本件土地で提案していた方式を採用しており(乙106の2,乙217)
,本件土地においても手作業で分別
処理ができることを物語っている。また,鹿島建設が隣接地で行っている,重機の先に網目状のトロンメルバケットを装着した状態でバケットを回転させて土砂と廃棄物とを分別処理する方法(乙226)のほか,トロンメルふるい機(分別を目的とするふるい機で,円筒状のスクリーンを回転させることで分別する機械であり,粘性の高い原料や水分の多い原料の選別に威力を発揮し,トロンメルバケットより処理能力に優れている(乙105,228~230)によっても,土砂と石綿含有スレート片との分別処理が可能である。しかも,鹿島建設は,スレート片取扱時及び土壌分別中(分別用の重機であるトロンメル使用時)にアスベスト粉じんが飛散しないことを確認している(乙285)
。そして,これらの方法によれば,処理費用を約17億円
に抑えることができる。
第1審原告及び鹿島建設は,鹿島建設が所有する隣接地では費用を抑えて分別処理を行い,第1審原告が買主の本件土地では工事費用が大きくかさむ土壌の全量撤去を行っているが,所有者側の立場と買主側の立場で対応を真逆にしており,不当といわざるを得ない。
この点,第1審原告は,本件土地については,埋土全体に目視できないような細かいものを含めスレート片が混入していると考えられたため,土壌ごと撤去する方法しかないと判断されたのであって,他の土地について土壌を全量撤去しなければならないなどという評価判断がされるわけではないと主張し,隣接地の工事方法を比較することも無意味であると主張する。しかしながら,本件土地に埋土全体に目視できないような細かいものを含めスレート片が混入していることを示す客観的な証拠はなく(むしろ,土壌中から石綿繊維は検出されていない(乙3,4))
。,本件土地は,何ら特殊
ではない一般的な土地である。仮に,このような土地について,目視できないような細かいものを含めスレート片が混入しているかもしれないとの理由で土壌ごと全量撤去しなければならないのであれば,同様に他の土地についても土壌ごと全量撤去することが必要となってしまい,第1審原告の見解は極めて不合理なものである。また,乙3のボーリング柱状図を客観的に評価すれば,本件土地が粘性の「高い」土地とはいえないし,本件土地と隣接地とは地続きで隣接しており(乙43)
,本件土地と性状が酷似していると考
えられる隣接地において,鹿島建設自身が手選別によるスレート片の分別を行うことができていることからしても,本件土地の粘性でも十分に手による選別が可能であることは明白である。さらに,本件土地のボーリング調査を担当し,汚染土壌の調査やアスベスト測定を専門とする株式会社環境公害分析センターは,
「本件土地の土砂は,工事現場で通常遭遇する土砂であ」り,
「粘性中」や「粘性小」などと記載のある土も含めて,手選別での分別に支障がないとして,東京環境測定センターとは異なる意見を述べている(乙219)

このように,本件土地とその隣接地は土地の性状も変わりはないし,本件土地と隣接地で出現したスレート片の量は,土地の面積を踏まえれば隣接地の方が1.5倍近い密度であり(乙284~286)
,隣接地の方が本件土
地よりもスレート片の量が多いのであるから,スレート片の量は本件土地で分別処理ができない理由とはならない。仮に,第1審原告の見解を前提とすれば,隣接地においても土壌ごと全量撤去しなければならないはずであるにもかかわらず,鹿島建設は,隣接地では目視により石綿含有スレート片を分別する処理を行い,分別した土砂を埋戻しに使用しており(乙217,284)
,土壌ごと全量撤去をしていないのであって,このことからも,本件土地についてスレート片を土壌ごと全量撤去する必要がなかったことは明らかである。
さらに,スレート片発見当時に専門的知識・技術・経験を有する鹿島建設が分別案を検討できなかったことに特段の理由はなく,
清水建設の分別案
(乙
106の2)が訴訟になって提出されたことは,分別が認められない理由とはならない。清水建設の土壌ごと撤去の見積案(甲125)は,第1審原告がスレート片の完全撤去を前提としていたため作成されたものであり(乙15,25)
,分別ができないことを理由とするものではない。
なお,第1審原告は,本件マニュアルの策定以前は,
「技術的に土壌と廃
棄物の分別が可能な場合も廃棄物混じり土全体を一括して廃棄物処理しなければならないと関係業界においては苦慮していた」などと主張するが,同マニュアルにそのような記載はなく,根拠を欠く主張である。同マニュアルの「現状では工事開始後に遭遇した場合,このような土及び廃棄物への対応に関して決まった基準やマニュアル等がなく,現場においてはその対応に苦慮しているところである」との記載(乙215)は,廃棄物混じり土についての対応が明確になっておらず,実務レベルで苦慮していたという趣旨であって,本件売買契約締結時点では,廃棄物混じり土を一括して廃棄物処理する実務など確立されてはいなかった。
また,第1審原告は,東京都環境局の担当者から,石綿含有スレート片を全量撤去するよう指示され,従わない場合は,廃棄物処理法に基づく改善命令や措置命令を課すことになるとの見解を事実上示されたため,これに逆らい本件土地に石綿含有スレート片を残置したまま物流ターミナル等の建設工事を行うことは現実的に極めて困難であったなどと主張する。
しかしながら,
東京都環境局担当者が本件土地上の石綿含有スレート片の存在状況について第1審原告及び鹿島建設から与えられていた情報は,本件土地及び大気中から石綿繊維が検出されなかったこと,及びスレート片が発見された区画の情報に限られ,東京都環境局に提出された資料も甲105(配置図・写真・サンプルとなったスレート片4個の分析結果)及び甲106(スレート片発見区画,現地盤面・埋土底面標高図等)のみであって,東京都環境局に与えられていた情報は限定的であるから,仮に東京都環境局担当者が本件土地から石綿含有スレート片を撤去するよう述べていたとしても,本件土地における石綿含有スレート片の状況を正確に把握して述べたものではないことは明らかである。また,東京都環境局の担当者は,行政指導ではないと明言した上,飽くまでも一般的な相談の範囲で,行政庁の指導に事業者が従わない場合に改善命令ないし措置命令を下すことがあり得るとの一般論を述べているにとどまり,石綿含有スレート片混じりの土砂について,法令上誰にどのような処理義務があるのか,掘削することを予定しておらず本件土地の土中に残置したままにしても法令上の処理義務が発生するのか,土砂とスレート片が分別できない場合とは具体的にどれくらいの大きさの石綿含有スレート片が含まれている場合を指すのかといった点について,明確な基準,法令上の根拠を示すことなどしておらず,第1審原告に対し石綿含有スレート片混じりの土砂を全量撤去する義務があるなどと述べているものではない。
追加掘削部分について
撤去処分費用等のうち,追加掘削部分に対応する部分について,因果関係は認められない。
これに対し,第1審原告は,建築計画(原設計値)は,工事の進捗状況や外部事情の変更により変更され得るものであり,本件土地において掘削することが通常予定された範囲に損害を限定するのは不合理であると主張するが,本件で原設計値が変更された理由として第1審原告が主張しているのは本件スレート片が本件土地の追加掘削部分に含まれていたことである。追加掘削部分に本件スレート片が入っていても,本来予定していた工事を実施するために掘削除去する必要はなかったのであるから,追加掘削はあくまで第1審原告の裁量で行ったことに過ぎない。さらに,仮設事務所,搬入ゲート付近のアスファルト舗装された部分を除く,本件土地の大部分の区画の掘削は,石綿含有スレート片が1つ1つ存在するかどうか確認して掘削するという方法ではなく,埋土と地山を区別し,埋土を全て掘削し,その後に目視でスレート片が見当たれば更に掘削するといった方法で行われており(甲75)
,鹿島建設や東京環境測定センターは,掘削した土壌にスレート片が存在するのか逐一確認することなく埋土を全て掘削しており,本件土地の地中に石綿含有スレート片がどれくらい存在するのかを確認しておらず,追加掘削部分にスレート片が含まれていたことが確認されているということはできない。
なお,
東京都環境局の担当者の発言内容については前記

のとおりであり,

追加掘削は不可欠であったとする第1審原告の主張を正当化する根拠とはなり得ない。
ピットの埋戻し部分について
本件スレート片の撤去及び処分費用のうち,ピットの埋戻し部分に係るものについては,損害とは認められず,原判決の判断は正当である。第1審原告は,鹿島建設及び東京環境測定センターがピット埋戻し部分にも本件スレート片が存在している状況を現認していたと主張するが,ピット埋戻し部分の土に石綿含有スレート片が入っていたことの証拠は示されていない。第1審原告や鹿島建設は石綿含有スレート片が含まれているかを確認することなく,埋土を全て撤去処分しており,ピット埋戻し部分についても石綿含有スレート片が存在することを確認しながら撤去処分が行われた事実は認められない。
また,ピット1,2及び4の解体及び埋戻しの流れは,別紙2から4のとおりであり,これらの埋戻し部分の大部分が外部搬入土によって埋め戻されている。
まず,ピット1の埋戻し工事のうち,約3分の2を全旋回工法で解体しており,ピット周囲の掘削は必要なく,ピットの周囲広くにまで埋戻しの範囲は及んでいないし(乙220,224)
,解体後の地盤面は解体前より0.
5~1.2m程度低く(乙220~222)
,ピット1の容量分全てを埋め
戻す必要はなかった。ピット1に埋め戻した外部搬入土は4532㎥である上(乙225)
,本件土地では50cmの深さごとに転圧する方式も採ってお
らず,圧密による土壌の目減りも生じていない(乙220)
。したがって,
ピット1は底部の場内発生土(自然由来汚染土を含む。
)を除き,大部分は
外部搬入土で埋め戻されており,ピット1を埋め戻す外部搬入土に不足はない。そして,鹿島建設が掘削・撤去した部分は,ピット1の深さ最大9mのうちの浅い部分(鹿島建設が掘削した深さは平均約2.75mである。)で
あり,ピットの底部にまで及んでおらず,ピット1の底部の土砂は搬出されていないから,仮にピット1の底部で場内発生土と外部搬入土の境界が不明確であり場内発生土と外部搬入土が混じっているとしても,ピット1の埋戻し手順において,外部搬入土と場内発生土が混在することはなく,控除した損害額の計算には影響がない。また,埋戻し後に場内発生土を移動させるような平準化作業も行ってはいないから(均す作業を行っているとしても,外部搬入土で埋め戻された状態を均した程度であり,場内発生土との混在も生じない。,鹿島建設が掘削・撤去したのは,外部搬入土である。なお,自然)
由来汚染土が発見された場所の周囲に適切な埋戻し場所がなかったため,穴が空いたピット1の場所を利用して自然由来汚染土を埋め戻したところ,この埋戻しは外部搬入土の埋戻し前に行われたものであり,鹿島建設はピット1の底部の土砂を掘削していないから,自然由来汚染土をピット1に埋めていても損害額の計算には影響がない。
次に,ピット2についてみると,ピット2の周囲の土壌を掘削してはいるものの,ピット1と同様に,解体後の地盤面は解体前より0.4~1.1m程度低く(乙220~222)
,ピット2の容量分全てを埋め戻す必要はな
かった。
ピット2に埋め戻した外部搬入土は5677㎥である上
(乙225)

本件土地では50cmの深さごとに転圧する方式も採っておらず,圧密による土壌の目減りも生じていない(乙220)
。したがって,ピット2を埋め戻
す外部搬入土に不足はなく,ピット2は外部搬入土で埋め戻されているし,そもそも,鹿島建設が掘削・撤去した部分は,ピット2の深さ最大6.5mのうちの浅い部分であり,ピット2の埋戻し手順において,外部搬入土と場内発生土が混在することもない。
ピット4については,
外部搬入土1326㎥で埋め戻している
(乙225)

ピット4はピット1や2のような深いピットではなく,周囲を広く掘削することもしておらず(乙220)
,外部搬入土と場内発生土が混在することも
ないから,鹿島建設が掘削・撤去した1046.25㎥の部分は,全て外部搬入土である。
また,第1審原告は,仮に,ピット埋戻し部分の一部に外部搬入土が存在していたとしても,第1審被告及び清水建設が第1審原告及び鹿島建設に対し,
ピット埋戻し部分に外部搬入土が使用された事実を知らせていないから,スレート片の有無を確認しながら土壌を撤去処分しようとすれば,ピット埋戻し部分のみならず,本件土地全体で同じ作業を行うことになり,工事費用及び工期が大幅に増加したことは明らかであり,非現実的であるなどと主張する。
しかしながら,第1審原告は,ピット1,2及び4の位置を把握していた(乙223)

その上,第1審被告及び清水建設は,アスベスト処理検討及び工事日程,工事条件の再設定に係る建築設計・監理業務(甲83の1)について第1審原告から委託を受けていた日建設計のFに対し,外部搬入土の埋戻し前に,ピット1,2及び4を外部搬入土で埋め戻すことを明確に伝えていた(乙291)

したがって,第1審原告及び鹿島建設は,日建設計を通じてピットが外部搬入土で埋め戻されていることを認識し得たものであり,ピット埋戻し部分についてスレート片の有無を確認しながら作業することは十分可能であったのであって,
スレート片の有無を確認しながら土壌の撤去処分を行うことは,
非現実的なものとはいえない。
健全土埋戻し工事費用について
原判決別紙「工事内容詳細」の「健全土埋め戻し工事」の欄にある「鋤取りレベル以深

埋め戻し」の工事に関し,第1審原告は,元々,更地の状態

からSAVE施工地盤レベルまで土壌のすき取りを行い,地盤の改良を行った上で,
原設計値まで更に土壌を掘削するという手順が予定されていたから,「鋤取りレベル以深

埋め戻し」の工事により埋め戻された土壌には計画掘

削部分と追加掘削部分があり,その費用を割り付けることは合理的である旨主張する。
しかしながら,SAVE施工地盤レベルは,地盤改良のための施工地盤の高さであり,掘削の状況により変更し得る高さであって絶対的なものではない。本件のようにスレート片撤去工事により追加掘削部分まで深く掘削して当初の予定を変更した状況であれば,建設業者は,更なる埋戻し費用や掘削費用の増加を抑えるため,元々のSAVE施工地盤レベルまで埋め戻すのではなく,原設計値を新たなSAVE施工地盤レベルとして埋め戻すか,仮に,原設計値を新たなSAVE施工地盤レベルにできないとしても,既に原設計値よりも深く追加で掘削している状況からして,従前予定していたSAVE施工地盤レベルよりも深い位置まで埋戻しを行うことで対処するのが通常であり(乙220)
,当初予定していたSAVE施工地盤レベルを維持する必
要性は全くない。
したがって,上記埋戻し工事の費用を単純に計画掘削部分と追加掘削部分で割り付けるのは不当である。第1審原告は,当初の予定どおりSAVE施工地盤レベルまで埋め戻す必要があるか否かなど,埋戻し量を減らす検討をすべきであったのにこれを検討せず,漫然と工事を進めており,損害を軽減する義務を果たしていないのであるから,
「鋤取りレベル以深

埋め戻し」

の費用は,少なくとも,過失相殺により相当減額が図られるべきである。また,原判決別紙「工事内容詳細」の「健全土埋め戻し工事」の欄にある「埋め戻し」の工事は「本件新築工事の基礎躯体工事施工後に建物外周部を埋め戻した工事」であり,同欄の「盛土」の工事は「地上躯体工事施工後に建物外周部を盛り土した工事」であるところ,これらの工事は,本件土地にスレート片が存在していたことで必要になった工事であるか不明であり,かかる工事代金は相当因果関係がなく,損害として認められるべきではない。本件既搬出土の撤去・処分費用について
本件既搬出土において発見された本件スレート片は1個に過ぎず,これを除去するために本件既搬出土の全てを撤去する必要はなかったものであり,本件既搬出土にかかる処理費用(5億6385万0472円)については,相当因果関係が認められない。
これに対し,第1審原告は,本件既搬出土は本件土地の埋土部分の土壌を無造作に掘削してa処分場に運搬した土壌であるから,本件既搬出土にも広くまんべんなく大量にスレート片が存在していたなどと主張するが,前記4(第1審被告の主張)

のとおり,本件土地にスレート片が広くまんべんな

く大量に存在したという前提が認められない以上,本件既搬出土についても大量にスレート片が存在したことにはならない。甲15の写真のとおり,複数の大人が捜索したが,発見されたスレート片は千葉県の残土対策室長が見つけた1つだけであったというのが証拠から認められる客観的な事実である。
逸失利益
鹿島建設は本件スレート片の発見以前から,土壌の搬出及び自然由来汚染土の処理に関して近隣住民とトラブルとなっており,延期は避けられない状況となっていたのであって,本件新築工事の遅延及びこれに伴う損害との間に相当因果関係はない。
また,前記

のとおり,本件土地の石綿含有スレート片は,土壌と分別す

る方法で撤去可能であり,
第1審原告が搬出した全土壌を処分するとしても,
実働137日で工事可能であるし(乙106の2)
,追加掘削部分を除く土
壌の分別作業であれば更に工事期間は短縮されるから,その分,経費や逸失利益の額も減額されるべきである。
弁護士費用
損害としての弁護士費用は,合理的範囲内に限られるところ,本件訴訟は,訴額こそ大きいものの,その実質は本件土地の瑕疵が問題となっているに過ぎず,高度な専門的知見を要するものでも,他の事件に比して多大な労力を要するものでもないから,第1審原告の請求は合理的な範囲を超えている。損害額

本件土地の表層のスレート片の処理費用
前記

のとおり,本件土地の地中のスレート片を処理する必要はなく,

表層のスレート片のみを処理すれば足りる。表層のスレート片除去に要する費用は2858万7908円であり(乙150の1及び2,乙151の1及び2)
,相当因果関係のある損害は表層のスレート片を除去する28
58万7908円に限られるべきである。

分別処理費用
仮に,本件土地のうち,追加掘削部分を除く計画掘削部分について瑕疵が認められるとしても,瑕疵と相当因果関係のある損害は,計画掘削部分の土量相当分の分別費用に限られ,第1審原告が搬出した全土壌を前提にしても,17億4308万6024円(乙106の2)に限られる。このうち,計画掘削部分の土量相当分の分別費用は,原判決と同様の考え方に従うと,以下のとおり,11億1605万9577円と算定される。搬出予定部分(A-1)の処理費用
17億4308万6024円×5万8422.4㎥(※1)/10万1960.4㎥(※2)=9億9877万2748円(①)埋戻等予定部分のうち産廃土になった部分(A-2)の処理費用
17億4308万6024円×1万0801.5㎥(※3)/10万1960.4㎥(※2)=1億8465万9375円(②)ピットに搬入された外部搬入土の土量分の処理費用
(17億4308万6024円×7987.25㎥(※4)/約14万0300㎥(※5)
)×(
(5万8422.4㎥(※1)+1万080
1.5㎥(※3)
)/10万1960.4㎥(※2)
)=6737万254
6円(③)
まとめ
9億9877万2748円(①)+1億8465万9375円(②)-6737万2546円(③)=11億1605万9577円※1

A-1の按分土壌量(原判決70頁)に本件既搬出土の土量(原
判決63頁)を合計した土量

※2

A-1,A-2及びBの按分土壌量(原判決70頁)と本件既搬
出土の土量(原判決63頁)を合計した全土量

※3
※4

鹿島建設が掘削したピット1,2及び4の土壌量(原判決62頁)
※5

A-2の按分土壌量(原判決70頁)

鹿島建設が処分した土壌の総量(原判決71頁)

分別処理による場合の追加費用(経費及び逸失利益)
分別処理を行うこととすれば,工事期間は相当短縮され,第1審原告が搬出した全土壌(計画掘削部分及び追加掘削部分)を前提にしても,実働137日で工事可能である(乙106の2)

そして,計画掘削部分について分別処理を行う場合の追加費用の額は,以下のとおり,4億1232万3449円である。
計画掘削部分の分別処理にかかる日数
137日(※1)×(
(5万8422.4㎥(※2)+1万0801.
5㎥(※3)
)/10万1960.4㎥(※4)
)=93.01日(①)
計画掘削部分の分別処理にかかる追加費用
13億2993万2637円(※5)×(93.01日(①)/300日(※6)
)=4億1232万3449円
※1

全土壌の分別処理の実働日数(乙106の2)

※2

A-1の按分土壌量(原判決70頁)に本件既搬出土の土量(原
判決63頁)を合計した土量

※3

A-2の按分土壌量(原判決70頁)

※4

A-1,A-2及びBの按分土壌量(原判決70頁)と本件既搬
出土の土量(原判決63頁)を合計した全土量

※5

計画掘削部分(A-1及びA-2)の按分土壌量で算定した追加
費用額(原判決78頁)

※6

開業が遅れた期間10か月(原判決74頁)

まとめ
以上によれば,計画掘削部分について分別処理を行う場合の損害額は,分別処理費用11億1605万9577円と追加費用4億1232万3449円の合計15億2838万3026円である。

石綿含有汚染土壌処理費用の割付け
原判決は,
「石綿含有汚染土壌処理工事」の費用を搬出予定部分(A-
1)及び埋戻等予定部分のうち産廃土になった部分(A-2)のみに割り付けているが,上記費用は,追加掘削部分(B)にも割り付ける必要がある。
すなわち,石綿含有汚染土壌処理工事は,スレート片を含んだ自然由来汚染土約1万8622.6㎥を処理した工事であるところ(乙93の別紙2「現状」の「石綿含有土壌処理工事扱い」参照)
,乙93の合意書第2

では,
「搬出すべき汚染土壌のうち,石綿含有スレート片の混入が確

認された土壌(括弧内省略)の量は7,678㎥」とされ,搬出予定の土壌だけでは1万8622.6㎥に満たないことが明白である。この点を措いても,いずれにしろ1万8622.6㎥が計画掘削部分のみの土量であることの証拠はなく,自然由来汚染土が追加掘削部分に存在することも十分に考えられるから,
「石綿含有汚染土壌処理工事」の費用は追加掘削部
分にも割り付けられる必要があるというべきである。
そして,原判決と同様の考え方に従った上で,
「石綿含有汚染土壌処理
工事」の費用を追加掘削部分に割り付けた場合の損害額の詳細は,別紙5のとおりである。
第3
1
当裁判所の判断
当裁判所は,原判決と同様,第1審被告は,第1審原告に対し,本件売買契約9条2項に基づく本件スレート片の除去義務の不履行により損害賠償義務を負うほか,本件土地には「隠れたる瑕疵」があるとして,同契約11条1項に基づき,損害賠償義務を負うものであるが,原判決とは異なり,清水建設が外部から搬入した建設残土等(ピットの埋戻し部分)の撤去及び処分に係る費用等を損害額から控除すべきではなく,また,弁護士費用に係る損害金は5500万円が相当であることなどから,第1審原告の請求は,59億5278万3219円及びうち58億9778万3219円に対する平成23年10月30日から,うち5500万円に対する平成24年5月10日から,各支払済みまで年6分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるものと判断する。その理由は,次のとおりである。
2
認定事実
認定事実は,次のとおり補正するほかは,原判決「事実及び理由」欄の「第3争点に対する判断」の1(原判決38頁22行目から49頁24行目まで)に記載のとおりであるから,これを引用する。
(原判決の補正)
原判決40頁26行目の末尾に「確認された本件スレート片の中には10cmを超え,20cm大のものもあった。
」を加える。
同42頁4行目から8行目の「発見された。
」までを削除し,13行目の
後に改行して次のとおり加え,同頁14行目の「ウ」を「エ」に改める。「ウ

追加して行われた地中のサンプル調査(第三次調査)
東京環境測定センターは,第1審被告から委託を受け,平成23年3月28日から4月7日にかけて地中のサンプル調査を追加して行った(第
三次調査)
。この調査では,第二次調査においてスレート片が特に多く
確認された2地点(50cmの深度で224個と262個が発見された地点)及び埋土が最も厚く堆積していることが確認された1地点の計3地点につき,それぞれ1m四方を調査対象として,30cmごとに土壌を掘削し,第二次調査と同様,20mm四方のふるいがけによって土砂と20mm以上の本件スレート片に分け,個数及び重量の計測を行い,土中の本件スレート片の含有量,含有率等を調査した。
この結果,前者2地点について,深度0.5mを超え,1.15mあるいは1.3mまでの土中から存在が確認されたスレート片の合計個数は,それぞれ181個と136個であった。また,後者の埋土の堆積層が一番厚かった地点については,地表面から深度1.5mまでの土中から合計87個の本件スレート片の存在が確認された。
さらに,上記3地点のそれぞれについて,深度30cmごとに1個の本件スレート片について石綿の定性・定量分析を行ったところ,採取した10検体の全てがクリソタイルを含有しており,含有割合は,2.1%から13.2%であった(乙113,証人D,E)」

同43頁3行目の「チャンバー」の前に「1辺が2メートルの立方体である」を加え,4行目の「6.3kg」を「7.26kg」に改める。同46頁2行目の「本件スレート片が確認できた」を「地山に達していないと判断された」に改める。
同47頁23行目から48頁9行目までを次のとおり改める。
「ア

平成24年7月から平成26年2月にかけて第1審被告が調査したところによると,①

別紙1「スレート片発見場所等整理表」記載1のとおり,

本件土地内の各所に鹿島建設が搬入した土壌から合計53個のスレート片が発見され,分析した48個全部に石綿が含まれていたこと,②
同2の

とおり,本件土地の近郊の土地30か所において合計214個のスレート片が発見され,分析した184個中181個に石綿が含まれていたことがそれぞれ判明した(証拠は別紙1「スレート片発見場所等整理表」記載1及び2に記載のとおり)


また,平成24年9月から平成29年6月にかけて第1審被告が調査したところによると,別紙1「スレート片発見場所等整理表」記載3のとおり,本件土地及びその近郊以外の全国の公園,小学校,広場,サッカー場等の土地550か所の地表面から石綿を含有するスレート片が多数発見され,しかも,分析したスレート片のうち圧倒的大多数のものに石綿が含まれていたことがそれぞれ判明した(証拠は別紙1「スレート片発見場所等整理表」記載3に記載のとおり)」

同49頁12行目の冒頭に次のとおり加える。


環境省が平成17年3月30日に発出した「非飛散性アスベスト廃棄物の適正処理について」
(環廃産発050330010号)
(甲45)においては,アスベ
スト成形板が廃棄物となった非飛散性アスベスト廃棄物の処理時にアスベスト成形版の破壊又は破断によってアスベストが飛散するおそれがあることから,非飛散性アスベスト廃棄物からのアスベストの飛散を防止し,廃棄物として適正に処理が行われるよう,非飛散性アスベスト廃棄物の具体的な処理手順が技術指針として示され,排出事業者や廃棄物処理業者等はこれに沿った処理を行うことが求められるようになった。
これによれば,非飛散性アスベスト廃棄物の最終処分場は,法に定める技術上の規準に適合し,都道府県知事又は保健所設置市長の許可を得たものでなければならず,最終処分場管理者は,非飛散性アスベスト廃棄物の埋立場所,埋立量を記録し,保存しなければならないなどとされている。また,

同頁24行目の「解説されている。
」の後に,次のとおり加える。
「そして,石綿含有産業廃棄物について,排出事業者(元請業者)は,その産業廃棄物が運搬されるまでの間,事業場において,産業廃棄物に係る保管の基準に従い,生活環境の保全上支障のないようにこれを保管しなければならず,飛散防止のため,覆いを設けたり梱包したりするなど必要な措置を講ずるとともに,流出しないような措置を講ずるものとされ,その収集・運搬に当たっても,その他の物と混合するおそれのないよう他の物と区分するほか,飛散・流出するおそれのない運搬車及び運搬容器を用いる必要がある。その中間処理は,溶融施設を用いて溶融する方法又は無害化処理の方法により行うものとされ,その最終処分は,都道府県知事又は廃棄物処理法の政令市の市長の許可を受けた最終処分場における埋立処分により行うこととされている。


(事実認定の補足説明)
第1審被告は,前記第2の4(第1審被告の主張)から

までのとおり,

客観的証拠上,本件土地に本件スレート片がまんべんなく散乱,混入していたという事実は認定できないし,鹿島建設のB証人等の証言も信用性に欠けることなどから,これらの証言からかかる事実を認定することもできない,本件土地が他の土地と比べて異常に多くのアスベスト含有スレート片が含まれている土地ということもできないなどと主張する。
しかしながら,前記2認定事実

によれば,①

東京環境測定センターが

平成23年1月から同年2月にかけて行った第一次調査により,1区画10m四方で区切られた本件土地には934区画中734区画の表層部分でスレート片が発見され,全体の約70%の区画において1個から4個,約5%の区画において5個から10個の本件スレート片の存在が確認されたものであって,表層部分に本件スレート片の存在が確認されなかった区画は,既に地面が掘り下げられた場所であり,掘削した際に盛った堆積土壌からは本件スレート片が発見されたこと(

ア)
,②

その後に東京環境測定センターが

行った第二次調査により,地中のサンプル調査が行われ,無作為に抽出した2m四方の調査対象10区画中9区画において調査した深度50㎝までの10㎝ごとのどの深度においても数個から数十個の本件スレート片が確認され,残りの1区画は,深度20㎝で地山層に達したため,それより深い地点では本件スレート片は発見されなかったが,深度20㎝までは本件スレート片が確認されたこと(同イ)
,③

第二次調査においてスレート片が特に多

く確認された2地点
(50cmの深度で224個と262個が発見された地点)
及び埋土が最も厚く堆積していることが確認された1地点の計3地点につき,東京環境測定センターが第三次調査を行ったところ,前者2地点について,深度0.5mを超え,1.15mあるいは1.3mまでの土中から存在が確認されたスレート片の合計個数は,
それぞれ181個と136個であり,
後者の地点についても,地表面から深度1.5mまでの土中から合計87個の本件スレート片の存在が確認されたこと(同ウ)の各事実を認めることができるのであるから,B証人等の証言の信用性を検討するまでもなく,本件土地の埋土部分には本件スレート片が広くまんべんなく混入していたものと認めるのが相当である。
しかも,ほぼ敷地全域にわたって本件スレート片が散乱している状況であった,広くまんべんなく,至るところで見受けられた,現場には無数のスレート片があったなどというC証人やB証人の証言や,鹿島建設が本件スレート片の撤去を行っている際に立ち会い,地中に本件スレート片が存在している状況を確認した,本件スレート片の散在状況を見て,かなり落ちているとの感覚であったなどという証人Dの証言は,上記認定事実に合致するものであり,基本的に信用することができるのであって,④
鹿島建設の作業員は,

本件スレート片の撤去作業の際に本件土地の地中に広くまんべんなく無数のスレート片が散在している状況を確認したこと(同エ


,⑤

東京環境測

定センターの担当者も,鹿島建設が本件スレート片の撤去を行っている際に立ち会い,地中に本件スレート片が存在している状況を確認したこと(同


等の各事実も認めることができる。
したがって,第1審被告の上記主張は,理由がない。
3
争点

(第1審被告の債務不履行責任又は瑕疵担保責任の成否)について
本件売買契約における「瑕疵」の意義

前記第2の2前提事実記載のとおり,本件不動産の買主である第1審原告は,売主である第1審被告に対し,本件不動産に隠れた瑕疵がある場合には,損害賠償請求をすることができる(本件売買契約11条1項)
。本件売買契約
における同項の定めは,その規定ぶりや内容からみて,民法570条の瑕疵担保責任を売買契約の内容に取り込んだものというべきであるから,本件売買契約11条1項にいう「瑕疵」とは,民法570条における「瑕疵」と同様に,第1審原告及び第1審被告の合意や本件売買契約の趣旨に照らし,予定されていた品質・性能を欠く場合をいうものと解される(本件売買契約11条2項は,損害賠償に代えて,又はそれとともに修補を請求することができる旨を定めているが,このことは,上記認定を左右するものではない。。)
また,前記第2の2前提事実記載のとおり,本件売買契約9条2項は,第1審被告は,本件土地賃貸借契約の期間満了までに重要事項説明書に定める売主要達成事項を遂行する義務を負うものとし,重要事項説明書の特記事項4.①

は,土間コンクリート又は地中障害物(杭を含む。
)等,本件建物の

敷地部分を除く本件土地の地中障害物その他の瑕疵(土壌汚染を除く。)を除
去し又は修補することを売主要達成事項の一つとしているから,第1審被告は,第1審原告に対し,本件売買契約上,本件土地賃貸借契約の期間満了までに,
「土間コンクリート又は地中障害物(杭を含む。
)等,本件建物の敷地
部分を除く本件土地の地中障害物その他の瑕疵(土壌汚染を除く。」を除去)
し又は修補する義務を負っているものである。そして,本件売買契約9条2項と11条1項及び2項は,いずれも本件不動産の売主である第1審被告の負う義務や責任の範囲を画するものであるから,本件売買契約9条2項において引用されている売主要達成事項に基づき第1審被告が除去し又は修補すべき「瑕疵」についても,本件売買契約11条1項と同様に,第1審原告及び第1審被告の合意や本件売買契約の趣旨に照らし,予定されていた品質・性能を欠く場合をいうものと解される。
そして,売買契約の当事者間においてどのような品質・性能を有することが予定されていたかについては,売買契約締結当時の取引観念をしんしゃくして判断すべきである(最高裁平成21年

第17号,同年

第17号同2

2年6月1日第三小法廷判決・民集64巻4号953頁参照)


これに対し,第1審被告は,特記事項の定めからして,特記事項1.②に定める有害物質と4.①

に定める物理的障害物を除いては,売主に特段の

除去義務を課したものではないとみるのが相当であり,本件売買契約は,これら以外の要因については本件売買契約における「瑕疵」から除外することとして,
「瑕疵」の範囲を具体的に画したものと解されるべきであるとして,法定環境基準の対象とならず,地中障害物等のように物理的に本件土地の利用の障害ともならない本件スレート片が本件土地に混入していたことは,本件売買契約11条1項及び特記事項4.①

のいずれの「瑕疵」にも該当し

ないなどと主張する。
しかしながら,特記事項1.②Cは,土壌汚染について,第1審被告は,環境基準を超過する有害物質(土壌汚染対策法2条1項に定める特定有害物質,都民の健康と安全を確保する環境に関する条例2条12号に定める有害物質及び合意環境基準に定められるその他の有害物質を総称したものを意味する。
)が検出された土壌を汚染土壌として,かかる汚染土壌を当該環境基準に適合させるために必要な有害物質の除去につき合理的な方法による土地改良工事を行うものとするとしており(甲5)
,特記事項4.①

において,本

件土地の瑕疵から土壌汚染が除かれたのは,売主の責任を定めた別途の規定があることを考慮したためであると認められる。しかも,特記事項にいう「土間コンクリート又は地中障害物(杭を含む。
)等」は例示に過ぎず,本件土地
の地中障害物「その他の瑕疵」という文言が用いられており,
「瑕疵」自体の
内容を限定する文言は付されていないこと,現に,必ずしも物理的に土地の利用を妨げるとは限らない土壌汚染について,あえて「瑕疵」から除く旨の付記がされていること,本件売買契約は,貨物自動車運送事業等を営む第1審原告の物流ターミナル等を建設するためにされたものであり(前記第2の2前提事実


,そのために本件土地について予定されていた品質・性能を損

なうものとして,あるいは,売主である第1審被告が除去・修補すべき対象として,地中障害物等の物理的に土地の利用を妨げるもの及び土壌汚染に限られるとすべき合理的な理由が見当たらないことなどに照らすと,特記事項4.①

にいう「瑕疵」が物理的障害物に限られるとか,特記事項1.②に定める有害物質と4.①

に定める物理的障害物を除いては売主に除去義務

を課したものではないなどということはできない。
第1審被告の上記主張は,その前提において理由がない。
本件スレート片の石綿含有廃棄物該当性

本件スレート片は,産業廃棄物に該当するのみならず,少なくともその大部分が「石綿含有廃棄物」に該当するものと認められる。その理由は,次のとおり補正するほか,原判決「事実及び理由」欄の第3の2

(原判決52

頁5行目から55頁14行目まで)に記載のとおりであるから,これを引用する。
(原判決の補正)
原判決54頁3行目の「石綿」の次に「含有」を加える。
同55頁10行目の「のであるから」から14行目までを次のとおり改める。
「ほか,第三次調査において分析した10検体の本件スレート片がいずれもクリソタイルを2.1%から13.2%含有していたこと(前記2認定事実

ウ)
,鹿島建設アスベスト対策チーム専任次長Aが本件土地に

おいて発見した本件スレート片4個についても,分析の結果,クリソタイルを4.5%から5.3%含有していたこと(甲9,10)など,本件土地において発見され,アスベストの含有率等を分析された本件スレート片の全てから重量比0.1%を大きく上回るアスベスト(クリソタイル)が検出されていることからすると,本件土地に存在していた本件スレート片は,少なくともその大部分が重量比0.1%を超えるアスベストを含有していたものと推認される(なお,第二次調査及び第三次調査の結果得られたアスベストの含有率が本件スレート片を粉砕した分析試料を目開き500μmのふるいによりふるい分けした結果得られた一次分析試料に対する含有率であってスレート片そのものに対する含有率ではないということは,これによって含有率に有意な差が出ると認めるに足りる的確な証拠はないから,上記認定を左右するほどのものではない。。

第1審被告は,前記第2の4(第1審被告の主張)

のとおり,サン

プル数が少ないとか,証拠上認定できる石綿含有スレート片の量はごくわずかに過ぎないなどと主張するが,前記のとおり,本件土地から発見され分析された39検体の全てから重量比0.1%を大きく超えるクリソタイルが検出されたのであるから,上記のとおり推認することができるのは論を待たない(なお,前記2認定事実

のとおり,第1審被告が

本件土地以外の土地で行った調査により採取したスレート片(外観上,本件スレート片と同様のものと認められる。
)のうち圧倒的大多数から石
綿が検出されているという事実も,上記推認が合理的であることを補強するものといい得る。。第1審被告は,アスベストないし本件スレート)
片の量を土壌の量と対比した主張も行っているが,かかる主張が採用できないのは,後記イのとおりである。
以上によれば,本件スレート片は,廃棄物処理法令にいう産業廃棄物に該当するのみならず,少なくともその大部分が「石綿含有廃棄物」に該当するものと認められる。


これに対し,第1審被告は,①

廃棄物処理法は,事業者が所有する土地

の中に産業廃棄物が混入しているとしても,直ちにそれを掘り起こして処理すべき義務まで当該事業者に負わせておらず,当該土地の利用に当たり地中から掘削された産業廃棄物を運搬又は処分を行う場合に初めて,同法に従った処理を義務付けるものであるから,廃棄物該当性の判断においても,運搬又は処分を行う物を対象に判断すべきであるところ,②
スレート片が混入

した土砂は埋戻し土として現に利用・活用されており,市場においても流通し,取引価値がある物であるし,本件土地の土壌中に石綿含有スレート片が存在していたとしても,それらが地中において安定的に存在している限り,石綿繊維が大気中に飛散することはなく,かつ,土壌中に流出することもなく,人の健康を害するものでもないのであって,生活環境の保全及び公衆衛生に悪影響を及ぼすおそれはなく,地中の石綿含有スレート片をわざわざ除去すべき特段の事情も存在しないとした上で,③

石綿含有スレート片を土

壌中に含む本件土地の土砂は,埋戻し土としても現に活用され得る有用性がある物であり,同法上,不要物に該当せず,したがって,
「廃棄物」にも該当
しないのであって,本件土地の土壌内のスレート片は,石綿含有産業廃棄物として処理する必要はないものであったなどと主張する。
しかしながら,①

「廃棄物」とは,ごみ,粗大ごみ,燃え殻,汚泥,ふ

ん尿,廃油,廃酸,廃アルカリ,動物の死体その他の汚物又は不要物であって,固形状又は液状のもの(放射性物質及びこれによって汚染された物を除く。
)をいい,
「産業廃棄物」とは,事業活動に伴って生じた廃棄物のうち,
燃え殻,汚泥,廃油,廃酸,廃アルカリ,廃プラスチックその他政令で定める廃棄物等をいうのであって(廃棄物処理法2条1項,4項1号),それらが
地中にあるとか,土砂と一体となって運搬・処分されるからといって,その「廃棄物」該当性ないし「産業廃棄物」該当性が左右されるものではないし,もっぱら土地造成の目的となる土砂に準じた物が廃棄物から除かれているからといって,当該「土砂に準じた物」に上記「産業廃棄物」の定義に該当する物が混入している場合における当該混入している物の産業廃棄物該当性が否定されるものでもない(例えば,産業廃棄物である建設汚泥又は建設汚泥処理物に土砂を混入したとしても,同法上,全体として「土砂」として取り扱われるのではなく,
「廃棄物」と「土砂」の混合物として取り扱われるもの
とされている。甲92)
。第1審被告の上記主張①は,独自の見解に立つものといわざるを得ない(第1審被告は,アスベストないし本件スレート片の量を土壌の量と対比して,土壌全体からみればごくわずかな量に過ぎないとの主張も行っているが,土壌全体との対比に基づく主張が失当なのは,上記のことからも明らかである。。

また,②

市場においてスレート片が混入した土砂が埋戻し土として流通

しているからといって,スレート片の混入度合いは土砂によって異なるし,そもそも,一般に,石綿含有スレート片が混入している土砂であることを契約の両当事者が認識しながらこれを埋戻し土として取引していることを認めるに足りる的確な証拠はない。かえって,本件売買契約後のこととはいえ,鹿島建設がa処分場に搬出していた本件既搬出土についても本件スレート片が混入しているとして,千葉県から石綿飛散防止のための覆土等を指示され,さらに,株式会社大倉から本件既搬出土の撤去を求められたという経緯や(前記第2の2前提事実

,前記2認定事実


,再生砕石に石綿含有建材が混入

している事例が存在することが明らかになっただけで,石綿含有建材が含まれるか不明な再生砕石も売れなくなり,石綿含有建材以外のがれき類の処分ルートそのものすら減少するのではないかとの懸念が示されたことがあること(甲144)に加え,株式会社クボタが平成17年に自社の石綿含有製品と関わりのあった従業員75名が石綿に関連する疾患により死亡していたことを公表したことを契機として石綿関連疾患に対する社会的な関心が高まり,平成18年,石綿に対する規制が強化され,石綿及び石綿をその重量の0.1%を超えて含有する全ての物の製造,輸入,提供又は使用が禁止されるとともに,石綿をその重量の0.1%を超えて含有するものを「石綿含有産業廃棄物」とする産業廃棄物の処理基準が新設されたこと(前記2認定事実



,石綿(アスベスト)を吸入した場合,中皮腫,肺がん,じん肺の一種である石綿肺,良性石綿胸水,びまん性胸膜肥厚等の疾患を生じることがあるということが,本件売買契約当時,広く社会的にも認識されていたこと(前記第2の2前提事実

)などからすると,本件売買契約当時においても,一

般に,石綿含有スレート片が混入している土砂であることを契約の両当事者が認識しながらこれを埋戻し土として取引していたとは,にわかに認め難い(仮に,遵法意識の乏しい業者やあえて違法行為を行う業者が一部にいたとしても,上記認定を左右するものではない。。東京都環境局の担当者が,石)
綿含有スレート片が混入した土砂について,土壌中に占める石綿含有スレート片の量(重量比等)を具体的に問題とすることなく「市場流通性は絶対にあり得ない」「有価物になり得ない」などと発言したのも(甲57の1及び,
2)
,これと同じ認識に立つものといえる。
また,
「石綿含有産業廃棄物」とは,
「石綿が含まれている産業廃棄物であ
って,環境省令で定めるもの」をいい(廃棄物処理法施行令6条1項1号ロ),
「環境省令で定めるもの」として,
「工作物の新築,改築又は除去に伴って生
じた産業廃棄物であって,石綿をその重量の0.1%を超えて含有するもの(廃石綿等を除く。」
)(廃棄物処理法施行規則7条の2の3)等が規定されて
いるのであって,現に大気中に石綿繊維を飛散させているなど,人の健康を害する現実的なおそれがあるか否かを問題とするまでもなく規制するのが法令の趣旨と解される。実際,非飛散性アスベスト廃棄物の処理時にアスベスト成形版の破壊又は破断によってアスベストが飛散するおそれがあるとして,環境省から非飛散性アスベスト廃棄物の具体的な処理手順が技術指針として示され,排出事業者や廃棄物処理業者等はこれに沿った処理を行うことが求められるようになったところであるし(前記2認定事実


,石綿含有スレー

ト片については,目安として30~40年程度で劣化が始まり,60~70年で完全に風化するので,使用を開始してから数十年という長期間が経過した石綿含有スレート片については,破砕,切断が生じるような作業等を伴わずとも,石綿が周囲の大気中に飛散する可能性があるという専門家の意見もあるのであって(甲69の2)
,石綿含有スレート片が石綿繊維を現に大気中
に飛散させていないからといって,およそ対処しなくてよいということにはならない。しかも,本件では,物流ターミナル等のために本件土地を広範囲にわたって掘削することが予定されていたのであるから(当事者双方が主張しているピット埋戻しや健全土埋戻しの手順や本件既搬出土発生の経緯からも,このことがうかがわれる。,これによって地中にある本件スレート片が)
地表に現れたり,破砕等されたりするおそれ(ひいては,これらにより本件スレート片の劣化や石綿繊維の飛散が促進されるおそれ)は無視できないというべきである。
さらに,③

鹿島建設が本件土地に埋戻し土として搬入した土砂に石綿含

有スレート片が混入していたという事実があったとしても,その経緯は必ずしも証拠上明らかでなく,かかる事実を重視するのは相当でない上,上記のとおり,本件売買契約当時において,一般に,石綿含有スレート片が混入している土砂であることを契約の両当事者が認識しながらこれを埋戻し土として取引していたとは認め難く,また,石綿含有スレート片が「産業廃棄物」に当たるとの上記認定が左右されるものではない。
そもそも,事業者は,その事業活動に伴って生じた廃棄物を自らの責任において適正に処理しなければならず(廃棄物処理法3条1項)
,また,その産
業廃棄物を自ら処理しなければならないところ(同法11条1項),自らその
産業廃棄物の運搬又は処分を行う場合には,政令で定める廃棄物処理基準に従わなければならず,廃棄物処理法令上認められた者に運搬・処分を委託する場合にも政令で定める基準に従わなければならない(石綿含有産業廃棄物の収集又は運搬を行う場合には,石綿含有産業廃棄物が,破砕することのないような方法により,かつ,その他の物と混合するおそれのないようにその他の物と区分して,収集し,又は運搬することとされ(廃棄物処理法施行令6条1項1号ロ,3条1号ホ)
,積替えや保管の際には,石綿が飛散しないよ
うな措置を講じ,石綿含有産業廃棄物がその他の物と混合するおそれのないように仕切りを設ける等必要な措置を講ずることとされている(同6条1項1号ハ,ニ,ホ及びヘ,3条1号ヘ,ト及びリ)
。また,埋立処分を行う際に
は,産業廃棄物の埋立処分に関する一般的事項に従うほか,最終処分場のうちの一定の場所において,石綿含有産業廃棄物が分散しないように処分し,埋立地の外に飛散し流出しないようにその表面を土砂で覆うなど必要な措置を講ずることとされている(同6条1項3号柱書,ヨ,3条1号イ及びロ,同条3号ニ及びホ))
。。しかも,産業廃棄物が運搬されるまでの間は,環境省
令で定める技術上の基準に従い,生活環境の保全上支障のないように産業廃棄物を保管しなければならない(廃棄物処理法12条1項ないし3項,6項)。
そして,これらに違反した場合,都道府県知事から改善命令(同法19条の3)
,措置命令(同法19条の5以下)を受けるおそれがあり,これらの命令に違反した場合は,罰則の対象となるのであって(同法26条2号,25条1項5号等)
,石綿含有産業廃棄物については,廃棄物処理法令にのっとった
厳格な処理が求められているのである。
そして,前記前提事実及び認定事実のとおり,本件土地の表層及び土壌内には石綿含有産業廃棄物に該当する本件スレート片が広くまんべんなく存在していたこと,本件新築工事においては,本件土地を広範囲にわたって掘削することが予定されており,実際,鹿島建設は,土砂を掘削して残土処分場(a処分場)に搬出していたこと,したがって,このような本件土地の状況や工事の内容等からしても,また,石綿含有産業廃棄物の処理に関する行政の取扱い(前記2認定事実

)からしても,本件土地の土壌内の石綿含有産

業廃棄物であるスレート片をそのまま封じ込めの方法によって処理することはおよそ現実的に不可能であること,実際,東京都環境局の担当者も,第1審原告らからの相談に対し,本件スレート片が混入した土砂は産業廃棄物に該当する,石綿含有産業廃棄物の処分は無害化溶融処理か管理型埋立処分の方法しか認められておらず,封じ込めによって処理することはできないなどとして,これを撤去するしかないとの見解を繰り返し述べていたこと(前記2認定事実

ウ,甲22の1~5,甲57の1及び2,甲58の1及び2。
なお,これが一般的な相談の範囲にとどまるとしても,この点の結論を左右しない。
)からすると,本件土地の表層及び土壌内にある石綿含有スレート片を石綿含有産業廃棄物として関係法令に従い処理基準にのっとって適正に撤去・処理しなければならないことは明らかである。
第1審被告の上記主張は,採用できない。
第1審被告の債務不履行責任又は瑕疵担保責任
以上を基に,本件土地の表層及び土壌内に本件スレート片が混入していることが本件売買契約上の「瑕疵」に当たるか否かを検討する。
前記

のとおり,本件売買契約11条1項及び特記事項4.①
にいう「瑕

疵」とは,第1審原告及び第1審被告の合意や本件売買契約の趣旨に照らし,予定されていた品質・性能を欠く場合をいうものと解され,また,売買契約の当事者間においてどのような品質・性能を有することが予定されていたかについては,売買契約締結当時の取引観念をしんしゃくして判断すべきである。これを本件についてみるに,本件土地は,第1審原告の物流ターミナルの建設及び公園としての利用等のために購入されたものであるところ(前記第2の2前提事実


,公園となるべき部分はもとより,物流ターミナルの建設等のた

めに利用される部分についても,供用開始後は一般消費者等に届けられる宅配物やその運搬のための車両等が大量に集まることが予定されていたと認められるから,人の健康に危害を及ぼすおそれがあるために法令上規制されている物質が残置等されている状態のままでは不適格であるし,物流ターミナル等の建設工事に当たり広範囲にわたって土地を掘削して工事を行うことが予定されていたから,工事に伴い本件スレート片を破砕するなどして石綿を飛散させることのないよう,工事に先立ち,人の健康に危害を及ぼすおそれがあるために法令上規制されている物質を予め撤去・処分するなどして工事予定の土壌の改良を行う必要があることは明らかであり(このことは,本件スレート片発見後の東京都環境局の説明内容(前記2認定事実
ウ)や本件既搬出土に関する千葉

県による指導(同

オ)からも優に推認することができる。,また,そのため


に多大な費用を要することも明らかである。そうすると,貨物自動車運送事業等を営む会社(第1審原告)の物流ターミナルの建設及び公園としての利用等のための土地購入に当たり,売買対象物である本件土地の品質・性能として,人の健康に危害を及ぼすおそれがあるために法令上規制されている物質が本件土地(表層部及び工事が予定された地中)に残置等されていないことが当然に予定されていたもの(仮にそのような物質が残置等されていることが判明しているのであれば,その処分費用等を勘案した売買価格となっていたはずのもの)と認められる。
そして,石綿は,これを吸入した場合,中皮腫,肺がん,じん肺の一種である石綿肺,良性石綿胸水,びまん性胸膜肥厚等の疾患を生じることがある物質であり(前記第2の2前提事実

,前記2認定事実


,本件売買契約に先立つ

平成18年の労働安全衛生法施行令の改正により石綿及び石綿をその重量の0.1%を超えて含有する全ての物の製造,輸入,提供又は使用が禁止され,また,廃棄物処理法施行令及び同法施行規則の改正により,工作物の新築,改築又は除去に伴って生じた産業廃棄物であって,石綿をその重量の0.1%を超えて含有するものを「石綿含有産業廃棄物」とする産業廃棄物の処理基準が新設されたものであり(前記2認定事実


,石綿が人の健康に危害を及ぼすおそれが

あるために法令上規制されている物質に該当することは明らかである。また,石綿の上記危険性は,本件売買契約当時,広く社会的にも認識されており(前記第2の2前提事実


,上記の法規制と相まって,本件売買契約締結当時の取

引観念に大きく影響していることも明らかである。しかるに,前記
のとおり,

本件スレート片は,少なくともその大部分が法令の基準値(重量比0.1%)を大きく超える石綿(クリソタイル)を含有しており,石綿含有廃棄物に該当する上,本件土地の表層及び土壌内に広くまんべんなく混入していたのであって,仮に計画掘削部分について分別処理を行うとの第1審被告の主張を前提にしても,その処理費用だけで11億円以上もの多大な金額を要するものであったことが認められる(なお,第1審原告が負担した撤去・処分費用は本件既搬出土に関するものを含めて63億円以上にのぼっている。。

したがって,本件土地にそのような本件スレート片が広くまんべんなく混入していることが,物流ターミナルの建設予定地及び公園の予定地である本件土地に予定されていた品質・性能を満たすものでないことは明らかであり,これは,本件売買契約上の「瑕疵」に当たるものと認められる。
そして,本件土地に本件スレート片が混入していることが特記事項4.①にいう「土壌汚染」に当たるものでないことは当事者間に争いがない。また,前記前提事実

アのとおり,入札手続において第1審被告が開示した資料には,

本件土地に石綿を含む多数のスレート片が広範囲にわたって散乱,混入しているという情報は記載されておらず,第1審原告は,本件売買契約の締結当時,本件土地の埋土部分に本件スレート片が大量に混入している事実を知らなかったものであり,本件土地上の既存建物が撤去され,本件新築工事が着工されるに至って,その事実が顕在化したものということができるから,上記の「瑕疵」は「隠れた」ものであったと認められる。
したがって,第1審原告は,第1審被告に対し,これによって生じた損害の賠償を求めることができる(本件売買契約11条1項)

また,第1審被告は,第1審原告に対し,上記瑕疵を除去し又は修補すべき義務を負っているにもかかわらず(本件売買契約9条2項,特記事項4.①



本件スレート片を含む土壌は通常の健常土として処分でき,これを本件土地に埋め戻しても法律上規制されておらず,第1審被告には法的責任はないなどと主張し,結局,かかる義務を履行しなかったのであるから(前記認定事実


争いのない事実)
,債務不履行責任をも負うものである。
これに対し,第1審被告は,①

「瑕疵」に当たるか否かは,人の健康に係

る被害を生ずるおそれがあると認識されていた物質が人の健康を損なう限度を超えて土壌に含まれているかどうかによって判断すべきであるし,ある特定の物質が土壌に含まれていないことや売買契約締結当時に有害性が認識されていたか否かにかかわらず,人の健康に係る被害を生ずるおそれのある一切の物質が土壌に含まれていないことが特に予定されていた場合には,当該物質が含まれているか否かによって判断すべきであるとした上で,②
本件売買契約に係

る売買契約書及び重要事項説明書には,本件土地にスレート片やその他の建材の破片が含まれていないことについて何も合意されておらず,本件売買契約において,石綿含有スレート片が本件土地に混入しないことは特に予定されていなかったし,第1審原告が入札に当たり参照した資料も,本件土地に石綿含有スレート片が含まれていないことについては何ら保証するものではなかった,③

土壌中の石綿や石綿含有スレート片の存在について法令上の規制はなく,
法定環境基準も定められていないし,そもそも,石綿含有スレート片は非飛散性であり,破砕等をしなければ石綿繊維の飛散のおそれはなく,本件土地に存在しているだけでは,人の健康に係る被害を生ずるおそれはない上,物流ターミナル等の建物の建設に当たって地中障害物となるような大きさでも量でもなく,石綿含有スレート片が混入していることは建物建設を含む本件土地の利用の障害となるものではないなどとして,本件土地に本件スレート片が混入していることは,本件売買契約上,
「瑕疵」に該当しないなどと主張する。
しかしながら,売買契約の当事者間において目的物がどのような品質・性能を有することが予定されていたかについては,売買契約締結当時の取引観念をしんしゃくして判断すべきであり(前掲最高裁平成22年6月1日判決参照),
この判断に当たっては,売買契約の目的等に照らして判断すべきであるから,必ずしも第1審被告が上記①において主張する基準によって判断すべきとは限らない。むしろ,本件においては,前記

のとおり,貨物自動車運送事業等を

営む第1審原告の物流ターミナルの建設及び公園としての利用等のために本件売買契約が締結されたこと等の事情があるのであって,売買対象物である本件土地の品質・性能としては,人の健康に危害を及ぼすおそれがあるために法令上規制されている物質が本件土地の表層部及び工事が予定された地中に残置等されていないことが当然に予定されていたものと認められる。
そして,前記

のとおり石綿が人の健康に危害を及ぼすおそれがあるために

法令上規制されている物質に該当することは明らかであるし,このことが,本件売買契約締結当時の取引観念に大きく影響していることも明らかであるところ,前記

のとおり,本件スレート片は,少なくともその大部分が法令の基準
値(重量比0.1%)を大きく超える石綿(クリソタイル)を含有しており,石綿含有廃棄物に該当する上,本件土地の表層及び土壌内に広くまんべんなく混入していたのであり,しかも,その処理費用に多大な金額を要するものであって,本件土地にそのような本件スレート片が広くまんべんなく混入していることが,物流ターミナルの建設予定地及び公園の予定地である本件土地に予定されていた品質・性能を満たすものでないことは明らかであり,これは,本件売買契約上の「瑕疵」に当たるものと認められるのであるから,第1審被告が上記②及③で指摘するような点は,いずれも,本件売買契約上の「瑕疵」に当たるか否かの判断において重視すべき事柄ではない(ただし,第1審被告の上記②主張のうち,
「本件売買契約において,石綿含有スレート片が本件土地に混
入しないことは特に予定されていなかった」という部分については,単に重視すべきでないというのではなく,前記

のとおり,そもそも採用することがで

きない。。

また,第1審被告は,①

石綿含有スレート片は,法定環境基準,すなわち

土壌汚染対策法及び都民の健康と安全を確保する環境に関する条例並びにこれらに関連する法令及び告示等に示される基準において,何ら規制対象となっていない,②

第1審原告は,合意環境基準について何ら希望を述べることはな

かったものであるから,当時,本件土地にアスベスト又はアスベストを含む物が混入しているべきではないという認識を有していなかったことは明らかであって,当事者間の認識として,本件土地に石綿含有スレート片が混入してはならないことは求められてはいなかった,③

不動産鑑定の場面においても裁判

所の競売物件においても石綿含有スレート片の有無は考慮されておらず,国土交通省の作成する不動産鑑定評価基準においても価格形成要因として記載されていないし(乙126)
,銀行員,ファイナンシャルプランナー,建築士,不動
産鑑定士等が行う不動産調査においても,土地について,石綿含有スレート片の有無は調査項目として挙げられておらず(乙282)
,実務上,石綿含有スレ
ート片の有無は価格形成要因に該当するとは考えられていない(乙280,281)
,④

鹿島建設が本件土地南側植栽帯に搬入した土砂には100㎡あたり
21.17個と,本件土地の9倍以上もの石綿含有スレート片が含まれており(乙54,55,57ないし64)
,石綿含有スレート片混じりの土砂は一般的
に流通しており,有価物として取引されているし,このように,土砂に石綿含有スレート片が含まれていることを知らないままに,すなわち,取引当事者によって関心が払われないままに,土砂が流通している事実こそが,土砂の取引において,取引の目的物である土砂に石綿が含まれているか否かが取引の減額要因となっていないことを示しているなどとして,本件売買契約締結当時における取引観念として,土地に石綿含有スレート片が混入してはならないことが求められていなかったことは明らかであるなどとも主張する。
しかしながら,①

土壌汚染対策法等において石綿含有スレート片が規制対

象となっていないとしても,石綿及び石綿をその重量の0.1%を超えて含有する全ての物の製造,輸入,提供又は使用はそもそも禁止されており(前記2認定事実


,土中に不法投棄された産業廃棄物について処理義務者や費用負担
者が問題となることはあっても廃棄物処理法の規制を免れるわけでないのと同様に,石綿含有スレート片が地中にあるからといって,それが石綿含有産業廃棄物でなくなるわけではなく,同法による規制から直ちに外れるわけではない。また,②

本件土地に本件スレート片が混入していることは特記事項及び重要事項説明書(甲5)にいう「土壌汚染」の問題ではなく,第1審原告が合意環境基準について何ら希望を述べなかったとしても,そのことをもって,本件土地にアスベスト又はアスベストを含む物が混入しているべきではないという認識を第1審原告が有していなかったということにはならない。さらに,③

動産鑑定等の場面において石綿含有スレート片の有無は考慮されておらず,不動産鑑定士等が行う不動産調査において土地について石綿含有スレート片は調査項目として挙げられていない等の事情があるとしても,表層及び地中に広くまんべんなく石綿含有スレート片が混入している事実が判明している土地の価格決定において,上記事実が価格に影響しないとはいえない。さらに,④記前
のとおり,鹿島建設が本件土地に埋戻し土として搬入した土砂に石綿含有
スレート片が混入していたという事実があったとしても,その経緯は証拠上必ずしも明らかでなく,かかる事実を重視するのは相当でない上,本件売買契約当時において,一般に,石綿含有スレート片が混入している土砂であることを契約の両当事者が認識しながらこれを埋戻し土として取引していたとは認め難いのであって,土砂の取引において,取引の目的物である土砂に石綿が含まれているか否かが取引の減額要因となっていないとはいえないし,まして,本件売買契約締結当時における取引観念として,土地に石綿含有スレート片が混入してはならないことが求められていなかったことが明らかであるなどとはいえない。
第1審被告の上記主張は,いずれも採用することができない。
4
争点

(第1審原告に生じた損害)について

本件スレート片の撤去及び処分費用について

認定事実
認定事実については,次のとおり補正するほかは,原判決第3の3

(原判決64頁7行目から67頁23行目まで)に記載のとおりであるから,これを引用する。
(原判決の補正)
原判決64頁8行目の「109」の後に「,乙93」を加える。
同66頁2行目の「のため追加で」から3行目の「について」までを「後に」に改める。

本件スレート片を含む本件土地の土壌自体を撤去・処分したことの相当性について
第1審原告は,本件スレート片の全てを本件土地から撤去及び処分するため,本件スレート片が含まれる本件土地の土壌を土壌ごと撤去及び処分したものであるところ(前記2認定事実


,当裁判所も,第1審原告がこのよう

な処分方法を採用したことは不合理とはいえないと判断する。その理由は,原判決60頁16行目の「を含め」を「であるか否かにかかわらず,」に改め
るほかは,同頁6行目から23行目までに記載のとおりであるから,これを引用する。
これに対し,第1審被告は,前記第2の5(第1審被告の主張)

及び

のとおり,本件土地の表層の本件スレート片だけを撤去すれば足りたものであり,土壌内の本件スレート片を撤去するまでの必要はなかったとか,仮に,地中のスレート片混じりの土壌を土壌ごと撤去処分するとしても,人が直接土地に触れる可能性のない公園以外の土地の土砂まで処分する必要はなかったなどと主張するが,かかる主張に理由がないことは,前記3で説示したところからも明らかである。
第1審被告は,前記第2の5(第1審被告の主張)

のとおり,相当因果

関係にある損害として認められるのは,売買契約締結時点で,廃棄物混じり土を処分する通常の方法による処分費用(具体的には,石綿含有スレート片を分別して処理する費用)に限られる旨主張するが,次に述べるとおり,かかる主張を直ちに採用することはできない。
すなわち,本件土地は,10万㎡を越える広大な土地であるところ(前記第2の2前提事実


,上記のとおり引用した原判決の説示するとおり,①
掘削した埋土部分の深さは深いところで3mを超える箇所もあったこと(前記2認定事実

オ)
,②

東京環境測定センターが本件土地において本件スレ

ート片の含有量及び含有率調査を行った際には,本件土地の土壌は粘性の高い土質であり,本件スレート片に土壌が付着することもあったため,分別作業は困難を極め,最終的には手作業を余儀なくされたことから,1区画(2㎥)の土地の掘削と分別作業に2名から4名が関わり1日から1.5日の時間を要したこと(同

イ)
,③

同調査では,ふるいの目を通り抜け,調査の

対象外とされた20㎜未満の本件スレートも確認されたこと(同)からすると,目視で確認することが困難なスレート片であるか否かにかかわらず,本件スレート片を全て本件土地から分別してこれを撤去し処分することは,事実上不可能であったといわざるを得ない。
本件スレート片の撤去及び処分について,平成21年10月に策定された本件マニュアルを参照するとしても,同マニュアルでは,分別困難な廃棄物と土とが渾然一体となった廃棄物混じり土は全体を廃棄物として取り扱い,廃棄物処理法にのっとって適正に処分するとされているとおり(甲111),
同マニュアルに記載された廃棄物混じり土に関する分別処理は,廃棄物と土砂とを分別できることを前提としているものと解されるし,同マニュアルにおいて,40㎜程度以下の廃棄物が含まれる土を分別土として土質材料とする実施例が挙げられているからといって,前記のとおり石綿含有産業廃棄物については法令により厳格な規制がされているのであるから,同マニュアルを根拠として,本件土壌から本件スレート片を分別すべきであったとか,目視不可能な廃棄物も含めた廃棄物と土砂の一括処理は実務以上の処理を求めるものであるとか,上記実施例にならって40㎜程度以下の本件スレート片を残置することが許されるなどとは直ちにいい難い。また,鹿島建設が掘削を完了するか否かの判断を目視で行っていたとしても,単に,目視により本件スレート片を発見できたか否かのみによって判断していたのではなく,本件スレート片等の人工物が見られなくなり地質も変わって地山に達したと判断された箇所については掘削を完了し,地山に達していないと判断された場合には更に深く掘削をしたのであるから(前記2認定事実

オ)
,目視できな

いスレート片の存在を問題にしていなかったなどとはいえないし,そもそも,上記のとおり,本件土地は広大であり,手作業では非常に時間がかかることやふるいの目を通り抜けた本件スレート片もあったことなどからして,目視で確認することが困難なスレート片であるか否かにかかわらず,本件スレート片を全て本件土地から分別してこれを撤去し処分することは事実上不可能であったのであるから,第1審被告の上記指摘は正鵠を射たものとはいえない。
同様に,鹿島建設が隣接地においてトロンメルバケットを用いて土砂と廃棄物とを分別処理しているとか,スレート片を目視の上で手で選別しているなどの事実があったとしても,上記のような事情の下では,本件土地において本件スレート片が広くまんべんなく混入した土壌を全て撤去して処分したことが過剰な処理方法であったとはいえない。なお,第1審被告は,このような分別処理をすれば,処理費用を約17億円に抑えることができるとして,証拠(乙106の1及び2)を提出するが,この試算は,140日(実働)以内に作業が完了することを当初から前提とした上で,分別すべき土壌の量を基に作業員数等を試算したものに過ぎないし,作業員1人当たりの掘削土砂分別量を4.0㎥/日とする根拠も明らかでなく,むしろ,1区画(2㎥)の土地の掘削と分別作業に2名から4名が関わり1日から1.5日の時間を要したという第二次調査の結果からすると,非現実的な掘削土砂分別量を設定しているとの疑いが払拭できず,およそ採用することができない。そのほか,第1審被告が縷々主張しているところをもっても,第1審原告が本件スレート片が含まれる本件土地の土壌を土壌ごと撤去・処分したことが不合理とはいえないとの前記判断が左右されるものではない。

追加掘削部分について
第1審原告は,前記第2の5

ウ(第1審原告の主張)のとおり,追加

掘削部分の掘削につき,必要かつ合理的な措置であって,これに要した費用も本件土地の「瑕疵」によって生じた損害というべきであるなどと主張する。
しかしながら,石綿含有産業廃棄物の処理等の観点からみて,追加掘削部分の掘削が必要かつ合理的な措置であるからといって,直ちにこれに要した費用を第1審被告が負担すべきものとされるわけではない。
すなわち,前記3

のとおり,本件売買契約は,物流ターミナルの建設

及び公園としての利用等のために行われたものであり,その対象物である本件土地の品質・性能として,人の健康に危害を及ぼすおそれがあるために法令上規制されている物質が本件土地(表層部及び工事が予定された地中)に残置等されていないことが予定されていたものと認められるが,これを超えて,工事が予定されていない深度の土壌についても上記物質が残置等されていないことまで本件売買契約上予定されていたことを認めるに足りる的確な証拠はない。第1審原告は,建築計画(原設計値)などというものは,工事の進捗状況や外部事情の変更によりいくらでも変更され得る流動的なものであり,このような数値を絶対的な基準として「本件土地において掘削することが通常予定された範囲」ひいては瑕疵の範囲を画するのは不合理であるなどと主張するが,単なる抽象的な変更の可能性をいうに過ぎず,にわかに採用し難い。確かに,計画掘削部分の土壌と追加掘削部分の土壌とは連続しており,本件スレート片が混入するに至った経緯等についても格別の違いはないものと推測されるが,本件土地の品質・性能として本件売買契約上予定されていたのはどのようなものか,ひいては本件土地の売主である第1審被告が責任を負うのはどの範囲かという観点からは,本件スレート片が計画掘削部分に混入しているという事実と,追加掘削部分に混入しているという事実は,截然と区別することができるし,また,後者の部分に混入した本件スレート片を撤去・処分しなくても,前者の部分に混入した本件スレート片を撤去・処分することは可能である。そうすると,追加掘削部分に本件スレート片が混入していたという事実は,本件売買契約において予定されていた本件土地の品質・性能とは直接関係がなく,そのような事実をもって本件売買契約11条1項ないし特記事項4.①

にいう「瑕疵」に当たるということはできない。

したがって,東京都から追加掘削部分に混入していた本件スレート片の撤去等が必要であるとの意見を示され,これに従うほかなかったとか,石綿含有産業廃棄物の処理等の観点からみて,追加掘削部分の掘削が必要かつ合理的な措置であるとしても,上記混入の事実は本件売買契約にいう「瑕
疵」ではなく,売主である第1審被告が責任を負うべき範囲外の事柄であり,それゆえ,追加掘削部分の土壌の撤去・処分に要した費用をもって,本件売買契約上の「瑕疵」と相当因果関係のある損害ということはできない。
以上によれば,第1審原告は,追加掘削部分の土壌の撤去・処分に要した費用につき,第1審被告に対し,賠償を求めることはできない。エ
ピットの埋戻し部分について
前記2認定事実

のとおり,清水建設が本件土地上に存在した既存建

物を撤去する工事を施工した際,建物のピット(地下水槽)を撤去し,その後にできたくぼみを埋めるために外部から建設残土1万1040㎥を搬入して埋戻工事をしていたが,鹿島建設は,同埋戻部分についても一部を残して撤去し処分したものであるところ,証拠(乙3,52,53,123)及び弁論の全趣旨によれば,①

清水建設が撤去したピッ

トは4つあり,それぞれの大きさは,ピット1が縦横各約38m,ピット2が縦約36m,横約30m,ピット3が縦約10m,横約15m,ピット4が縦約15m,横約31mであったこと,②
その容量は,ピ

ット1が約7000㎥,ピット2が約3500㎥,ピット3が約600㎥程度であり,ピット4の容量は不明であること,③
清水建設は,上

記のとおり,ピットを撤去した後にできたくぼみを埋めるため,外部から建設残土1万1040㎥を搬入して埋戻工事をしたが,鹿島建設は,本件スレート片を撤去する作業の際,ピット1部分は約2mから約3.5mの深さ(平均値約2.75m)の土壌を,ピット2部分は約2.5mから約3mの深さ(平均値約2.75m)の土壌を,ピット3部分は約0.5mから約1mの深さ(平均値約0.75m)の土壌を,ピット4部分は約2mから約2.5mの深さ(平均値約2.25m)の土壌をそれぞれ撤去し処分したこと,④

第一次調査の結果,ピットを埋め戻

した跡地部分の土地の表層からも,他の部分と同様,本件スレート片が発見されており,5個以上発見された区画もピット1の跡地内に2区画あった一方,本件スレート片が1つも発見されなかった区画はなかったこと(区画の一部又は全部がアスファルトで舗装されている区画等は集計の対象外)がそれぞれ認められる。
そして,ピット3の埋戻工事に本件土地において掘削された場内発生土が用いられたことについては当事者間に争いがないところ(乙52,123も参照)
,前記2のとおり,本件土地の表層及び地中には広くま
んべんなく本件スレート片が混入していたのであるから,ピット3の埋戻工事に用いられた場内発生土についても,同様に,本件スレート片がまんべんなく混入していたことが推認されるのであって,実際,上記のとおり,ピット3の跡地の表層部分からも本件スレート片が発見されているのであるから,ピット3から土壌を撤去し処分するのに要した費用は,本件土地の瑕疵により第1審原告に生じた損害というべきである。第1審被告は,前記第2の5(第1審被告の主張)

のとおり,鹿島

建設がピット1,2及び4から掘削・撤去したのはピットの浅い部分の外部搬入土であり場内発生土ではないなどとして,本件スレート片の撤去及び処分費用のうち,これらのピットの埋戻し部分に係るものについて,損害と認められない旨主張する。
まず,ピット1につき,第1審被告の主張によれば,底部に埋め戻された場内発生土(自然由来汚染土)は325.4㎥,埋め戻された外部搬入土は4532㎥というのであるが,ピット1の容量約7000㎥の約7割に過ぎず,不自然であり,その作業工程に照らしても,場内発生土が埋戻しに使われたことがうかがわれる。第1審被告は,約3分の2を全旋回工法で解体しており,ピット周囲の掘削は必要なく,ピットの周囲広くにまで埋戻しの範囲は及んでいないし,解体後の地盤面は解体前より0.5~1.2m程度低く,ピット1の容量分全てを埋め戻す必要はなかったとし,さらに,本件土地では50cmの深さごとに転圧する方式も採っておらず,圧密による土壌の目減りも生じていないから,ピット1は底部の場内発生土(自然由来汚染土を含む。
)を除き,大部分
は外部搬入土で埋め戻されており,ピット1を埋め戻す外部搬入土に不足はないなどと主張する。
しかしながら,ピット1の解体及び埋戻し工事のうち,約3分の1の範囲はオープン工法により行われたところ(争いがない。,この場合,)
ピットの躯体部分とその外側に設置されたシートパイルとの間の土壌(以下「外側土壌」という。
)も掘削することになるから(別紙2の図
⑦,⑧参照)
,埋め戻すべき土砂の量は,その分増加する。この点,清
水建設東京支店工事長のGは,躯体とシートパイルの間の場内発生土が一部崩れて(この土壌を「一部崩落土壌」という。
)ピット1跡地の穴
の底の方に入るため,埋戻しに必要な土量も低減される旨陳述しているが(乙220)
,一部崩落土壌は元々外側土壌の一部に過ぎないから,
この崩落により埋め戻すべき土量がピットの容量よりも小さくなるものではない(上記のとおり外側土壌を掘削することにより埋め戻すべき土量が増加するところ,崩落により,この増加量が低減されるにとどまる。なお,第1審被告は,ピット2については,ピットの周囲を盤下しており,その際,一部崩落土壌も搬出していると主張しているところ,その分,埋め戻すべき土量は増加する。。また,解体後の地盤面が解体前よ)
り0.5m~1.2m程度低いとしても,このことから埋め戻すべき土量が低減されるのは,最大でも1733㎥(38m×38m×1.2m=1732.8㎥)にとどまる。そうすると,仮に,掘削した外側土壌が全てピット1の底部に崩落し(これにより,埋め戻すべき土量が増加しないことになる。,かつ,地盤面の低下により最大1733㎥埋め戻)
すべき土量が低減したとしても,
埋め戻すべき土量は5267㎥となり,
第1審被告が主張している外部搬入土及び場内発生土
(自然由来汚染土)
では不足が生じることが明らかである。さらに,残り約3分の2の範囲は全旋回工法が採られたところ(争いがない。,全旋回工法は,地面に)
対し垂直に鉄製の筒(ケーシング)内の掘削機で地中を掘削しながら地中の障害物を破砕し土砂ごと引き上げ,その後に引き上げだ土砂等から破砕した地中障害物を取り除き,その土砂で再度当該ケーシング内の埋戻しを行う工法であるから(乙220)
,掘削する範囲に場内発生土が
あれば,当該場内発生土が埋戻しに利用されることになる。そもそも,ピット1の埋戻工事において,オープン工法と全旋回工法が併用されたのは,ピットの躯体が解体されて大きな穴が空くと河川側からの水圧に抵抗する護岸(堤防)の土圧が弱くなり,護岸(堤防)が崩れる可能性があったためであるが(乙220)
,オープン工法により掘削する範囲
と全旋回工法により掘削する範囲の境界部分において,前者により掘削した場内発生土が後者により掘削する部分に崩落して入り込まないような措置がされていたことを認めるに足りる的確な証拠はなく,全旋回工法により掘削された部分の一部においては,底部付近に場内発生土が入り込み,これが埋戻しに利用された可能性は否定できない(しかも,その場合,ピット1の底部付近に埋め戻されるとは限らない。。

以上に加えて,一般的にみても,すき取りによって発生する場内発生土を利用する方がわざわざ外部搬入土を利用するよりも安価であると考えられ,本件スレート片が発見されるよりも前に行われたこの一連の作業において,あえて場内発生土を利用しない作業工程が行われたとは考えにくいし(現に,ピット3の埋戻工事については,全て場内発生土が用いられている。,上記のとおり,ピット1の跡地部分の表層からも,)
他の部分と同様,本件スレート片が発見されていること(中には,5個以上発見された区画も2区画ある。
)をも併せると,ピット1の埋戻し
に場内発生土が利用されたことが推認され,かつ,場内発生土と外部搬入土の境界は不分明であり,場内発生土の場所及び量を具体的に特定することはできないというべきである。
次に,ピット2についてみるに,ピット2では,全体についてオープン工法が採られ(争いがない。,しかも,第1審被告の主張によれば,)
盤下げが行われ,外側土壌が掘削されたのであるから,埋め戻すべき土量は掘削された外側土壌の分増加する(しかも,上記のとおり,ピット2については,一部崩落土も搬出していると主張しているから,これを搬出しない場合と比べ,その分埋め戻すべき土量は増加する。
)一方,
すき取りにより解体後の地盤が低下するのは0.4~1.1m程度に過ぎず,外部搬入土だけで埋戻しが行われたと即断することはできない。ピット4についても,同様に,オープン工法が採られ(争いがない。,)
ピットの躯体よりも大きな穴が掘削されたと認められる。
以上に加えて,
ピット2及び4についても,ピット1と同様,本件スレート片が発見されるよりも前に行われたこの一連の作業において,あえて場内発生土を利用しない作業工程が行われたとは考えにくい上,これらの跡地部分の表層からも,他の部分と同様,本件スレート片が発見されていることをも併せると,ピット2及び4の埋戻しに場内発生土が利用されたことが推認され,かつ,場内発生土と外部搬入土の境界は不分明であり,場内発生土の場所及び量を具体的に特定することはできないというべきである。
以上によれば,ピット3はもとより,ピット1,2及び4についても,本件土地の他の部分と同様に,埋戻部分の土壌に本件スレート片が混入しており,このことは本件売買契約上の「瑕疵」に当たるものであるから,第1審原告がこれを撤去して処分したのは必要かつやむを得ない措置と認められるのであって,これに要した費用も上記瑕疵による損害と認められる。
なお,第1審被告は,鹿島建設が掘削・撤去したのは埋め戻したうちの浅い部分であり底部ではないとか,第1審原告はピット1,2及び4の位置を把握していたし,第1審被告及び清水建設は日建設計に対し,これらのピットを外部搬入土で埋め戻す旨を明確に伝えていたなどと主張しているが,これらの事実があるとしても,上記の認定・判断が左右されるものでない。
また,第1審被告は,本件土地以外でも一般に土地の多くに石綿含有スレート片が含まれていることからすれば,ピットに埋め戻された外部搬入土にスレート片が含まれていても何ら不思議ではないとも主張するが,抽象的な可能性をいうものに過ぎない上,仮に,清水建設により埋め戻された外部搬入土に本件スレート片と同様のスレート片が含まれていたとしても,本件売買契約及び特記事項に基づき第1審被告が負っている義務がこれにより軽減されるものではない。

健全土埋戻し工事について
前記アで認定したとおり,鹿島建設は,本件スレート片の撤去の跡に本件新築工事を実施するために施工地盤面まで埋め戻したところ(原判決別紙「工事内容詳細」の「健全土埋め戻し工事」の欄にある「鋤取りレベル以深

埋め戻し」がこれに当たる。,これにより実際に埋め戻された土壌)

には計画掘削部分と追加掘削部分が混在していることが明らかである。しかるに,引渡し地盤レベルからSAVE施工地盤レベルまでのすき取りの深さは場所により区々であり,この埋戻し工事に係る上記各部分の容量を認定するに足りる的確な証拠はないから,本件スレート片を撤去し処分するために要した費用全体の中で,計画掘削部分の土量と追加掘削部分の土量に基づき,按分計算によって割付けを行うほかない。
この点,第1審被告は,本件スレート片を撤去するために原設計値よりも深くまで掘削したのであれば,SAVE施工地盤レベルを当初の予定よりも低くし,埋戻し量を少なくするなどの損害軽減措置を採るべきであったのにこれを怠ったとして,過失相殺すべきであるなどと主張するが,SAVE施工地盤レベルは,建物の基礎を作る前工程として,広範に地盤改良及び杭を行うための施工地盤の高さを決めるものであり,基本的に平らであるべきものであって,埋戻し量を少なくするために地点によって異なる高さとすることはその本来の機能を損ないかねないものであるから,第1審原告がそのような措置を採るべきであったとはいえない(これに反する乙220は,にわかに採用できない。。

なお,原判決別紙「工事内容詳細」の「健全土埋め戻し工事」の欄にある「埋め戻し」及び「盛土」の工事は,いずれも本体工事において行われることを予定していたが,本件土地に本件スレート片が存在していたために本件土地の場内発生土をこれらの「埋め戻し」及び「盛土」に転用することができなくなり,工事費用が増加した項目であり,これらの「埋め戻し」及び「盛土」が新たな増加後の工事費により計上される一方で,元々の本体工事で計上されていた費用相当額については「既契約分」として本件スレート片の撤去・処分工事費用から控除され(前記ア,甲80の1,甲142)
,場内発生土の転用により費用が減じられた分については「前
回計上金額との調整金」によって調整済みであるから(甲91の1。なお,その額が著しく不合理であるとは認められない。,これらの「埋め戻し」)
及び「盛土」に係る費用は,本件売買契約上の「瑕疵」により第1審原告に生じた損害と認められる。

石綿含有汚染土壌処理費用の割付けについて
第1審被告は,
「石綿含有汚染土壌処理工事」の費用は,搬出予定部分
(A-1)及び埋戻等予定部分のうち産廃土になった部分(A-2)のみならず,追加掘削部分(B)にも割り付ける必要があると主張する。しかしながら,前記アで認定したとおり,本件土地の土壌のうち,自然由来のヒ素及びフッ素が検出された土壌のうち石綿含有スレート片の混入が確認されていない3万7866.8㎥については,第1審被告が8億830万円の費用を負担してこれを撤去・処分することとされる一方,石綿含有スレート片の含有が確認された「石綿含有汚染土壌」1万8622.6㎥(前記アの認定のとおり。なお,乙93の合意書第2条

にある「7

678㎥」との記載が誤記であることは,同合意書別紙2の記載からも明らかである。
)の処理費用については,別途解決するものとされたのであ
り(乙93)
,しかも,石綿含有汚染土壌が追加掘削部分に含まれていた
ことを認めるに足りる的確な証拠はないから,上記の経緯からしても,石綿含有汚染土壌は計画掘削部分に含まれているものと認められる。第1審被告の上記主張は,採用できない。
本件既搬出土の撤去及び処分費用
前記2認定事実

に証拠(甲15,19,131,原審における証人Cの

証言)及び弁論の全趣旨を併せると,鹿島建設は,平成22年12月25日から平成23年1月7日にかけて,本件新築工事に伴って生じた残土1万2457.7㎥(本件既搬出土)をa処分場に搬出していたこと,本件土地において本件スレート片が発見されたことに伴い,搬出先であるa処分場においても搬出土砂の調査を行ったところ,同月20日頃,本件スレート片が発見されたこと,処分場を運営する株式会社大倉は,千葉県から石綿の飛散防止として本件既搬出土に覆土するように指示され,さらに,その上にブルーシートを掛けるように指示されて,これに従った措置を執り,この結果,残土処分場を使うことができなくなったこと,そのため,株式会社大倉は,鹿島建設に対し,本件既搬出土をa処分場から撤去するよう求めたこと,これを受け,第1審原告は,本件既搬出土についても撤去・処分を行うこととし,同年4月11日,鹿島建設に対し,そのための作業を発注したこと,この作業の内容及び処分費用の額は,原判決別紙「工事内容詳細」のうち既出残土産廃土処理工事(追加Ⅰ期分を含む。
)欄記載のとおりであり,これにより,
第1審原告は5億6385万0472円(消費税相当額込み)の支払を余儀なくされたこと,以上の事実が認められる。
そして,本件既搬出土が本件土地から掘削されたのは,追加掘削部分が掘削されるよりも前であるから(前記2認定事実

参照)
,これが計画掘削部

分の土砂であることは明らかであるところ,本件既搬出土に本件スレート片が混入していたという事実は本件土地の「瑕疵」に当たり,第1審原告がその撤去・処分のために要した費用は,上記「瑕疵」によって生じた損害と認められる。
これに対し,第1審被告は,前記第2の5(第1審被告の主張)

のとお

り,複数の大人が捜索したが,発見されたスレート片は千葉県の残土対策室長が見つけた1つだけであったというのが証拠から認められる客観的な事実であり,本件既搬出土において発見された本件スレート片は1個に過ぎず,これを除去するために本件既搬出土の全てを撤去する必要はなかったというべきであり,本件既搬出土の撤去及び処分費用については相当因果関係が認められないなどと主張する。
しかしながら,本件土地の表層及び地中には本件スレート片が広くまんべんなく混入していたから(これに反する第1審被告の主張が採用できないのは,前記2のとおりである。,本件土地から搬出した本件既搬出土について)
のみ本件スレート片が混入していないとはおよそ考えにくく,そのような事実をうかがわせる証拠も提出されていない。
確かに,写真撮影報告書(甲15)によれば,本件既搬出土から本件スレート片が1個発見された事実が認められるが,それ以外に本件スレート片がおよそ発見されなかったということまで上記報告書から直ちに認められるわけではない。この点に関し,証人Cは,原審における証人尋問において,本件スレート片を1つ見つけ,本件既搬出土にも本件スレート片があるということが分かった時点でその後の調査をしなかったと聞いている旨を証言しているところ,甲15の写真が撮影された平成23年2月2日の時点では,既に千葉県に対して報告がされており,アスベストの混入の有無の確認,飛散防止対策や住民の安全確保が重視されていたと認められるから(甲131),
証人Cの上記証言もあながち不合理なものとはいえず,甲15をもって,本件既搬出土には本件スレート片が混入していないとか,1個しか混入していないなどといった事実を認めることはできない。
本件スレート片の撤去及び処分費用に係る損害額の認定

本件スレート片を含む土壌を撤去し処分するために鹿島建設が行った作業等の内容は,前記

アのとおりであり,その内容には不合理な点はうかがわ

れない。また,原判決別紙「工事内容詳細」記載の個々の作業に記載されている単価が市場における一般的な単価と同程度であることは,第1審被告も自認するところである。そして,第1審原告が鹿島建設に対して本件スレート片を含む土壌を撤去し処分するための作業を発注し,請負代金として合計63億3171万円(本件土地における作業について57億6785万9528円,a処分場における作業について5億6385万0472円。いずれも消費税を含んだ額)を支払ったことは,前記第2の2前提事実

ウのとお

りである。
しかしながら,第1審原告が鹿島建設に支払った上記請負代金には,前記
ウのとおり第1審被告に対して賠償を求めることのできない追加掘削
部分に係る費用が含まれているため,以下,この点について検討する。イ
第1審原告が鹿島建設に支払った上記請負代金63億3171万円のうち追加掘削部分に係る費用を特定するため,
撤去及び処分した土壌を,
本件新築工事において元々掘削が予定されていた計画掘削部分(A)と本件スレート片の全てを撤去するため追加で掘削された追加掘削部分(B)に分類して,その土量を相対的に比較してみると,次のとおりである。
すなわち,証拠(甲71~73)及び弁論の全趣旨によれば,①
鹿
島建設は,本件新築工事を請け負った際,本件土地の敷地表面の土地を削り取る「すき取り」の作業及び建物の基礎や地下構造物を造るために地盤面下の土を掘削する「根切」の作業を予定していたところ,本件新築工事において元々予定されていた「すき取り」及び「根切」による掘削部分の土量は,13万1874.2㎥であったこと,②本件新築工

事においては,工事用の重機が通行するための道路の仮設もされているところ,当該仮設道路を造るために行われた土壌の掘削において発生した土量は,5121.0㎥であったことが認められ,これを合算した13万6995.2㎥が本件新築工事において元々予定されていた計画掘削部分の土量であったということができる。
一方,証拠(甲73)及び弁論の全趣旨によると,本件土地に混入している本件スレート片の全てを撤去するため追加で掘削された追加掘削部分の土量は,①

本件新築工事に係る請負契約締結当時の原設計で定

められていた掘削深度(原設計値)と,②

本件スレート片の撤去が完

了した時点で実測した掘削深度(実測値)とを比較し,②の方が深かった場合に,その体積の差分を求め,ここから上記計画掘削部分に加算した仮設道路部分の土量5121.0㎥を控除することにより算出することができるところ,その数量は3万2736.5㎥になることが認められる。
また,証拠(甲71,72)及び弁論の全趣旨によると,本件新築工事に係る請負契約書(甲8)に添付された「工事費内訳明細書」
(甲7
1)により,計画掘削部分(A)のうち掘削した土壌を埋戻し及び盛り土にすることが予定されていた埋戻等予定部分の土量は5万0837.2㎥であったことが明らかとなり,計画掘削部分(A)のうち外部に搬出することが予定されていた搬出予定部分(A-1)の土量は8万6158.0㎥になること,埋戻等予定部分のうち実際に健全土として埋戻し及び盛り土として使われた土量は3万3518.0㎥であり,埋戻しに用いることができずに産廃土になった部分(A-2)の土量は1万7319.2㎥となることが認められる。
そして,本件既搬出土の土量は1万2457.7㎥であるから(前記)
,これを控除した搬出予定部分(A-1)の土量は7万3700.3㎥になる。
一方,別途処分された自然由来汚染土壌の土量が3万7866.8㎥であったことは,前記

アで認定したとおりであり,証拠(乙93)及

び弁論の全趣旨によると,これは,
「汚染土壌」3万4253.2㎥と
「汚染汚泥」3613.6㎥に分けられることが認められる。
「汚染汚
泥」は,元々自然由来汚染の有無にかかわらず,産業廃棄物として通常の土壌とは別枠で計上されていたものであるから,計画掘削部分(A)には含まれず,第1審原告が鹿島建設に支払った上記請負代金63億3171万円を土壌の分類に応じて割り付けする際に考慮することは相当ではない。一方,自然由来の「汚染土壌」3万4253.2㎥については,計画掘削部分として当初掘削が予定されていた部分に含まれるものであるから,本件既搬出土分を控除した搬出予定部分(A-1)及び埋戻等予定部分のうち産廃土になった部分(A-2)に含まれていたものとして,それぞれの土量から按分割合で控除するのが相当である。
そうすると,本件既搬出土分を控除した搬出予定部分(A-1)の土量は4万5964.7㎥,埋戻等予定部分のうち産廃土になった部分(A2)の土量は1万0801.5㎥,追加掘削部分(B)の土量は3万2736.5㎥になる。
73,700.3-(34,253.2*(73,700.3/(73,700.3+17,319.2))=45,964.717,319.2-(34,253.2*(17,319.2/(73,700.3+17,319.2))=10,801.5上記土壌分類ごとの土量に基づき,第1審原告が鹿島建設に支払った上記請負代金63億3171万円を各分類に割り付けるのが相当であるが,石綿含有汚染土壌処理工事は,追加掘削部分において予定されたものではないから,本件既搬出土分を控除した搬出予定部分(A-1)及び埋戻等予定部分のうち産廃土になった部分(A-2)に割り付けるべきである。また,前記

アで認定したとおり,本件スレート片の撤去及び処

分の作業のうち本件新築工事において元々予定されていた作業,すなわち,原判決別紙「工事内容詳細」において「既契約分」としてマイナスで計上されている分については,そのうち「残土処分」は元々処分予定であったA-1に,
「場内仮置き」「埋め戻し」及び「盛土」は元々埋戻

しを予定していたA-2に,
「鋤取」は,処分予定の土壌にも埋戻予定の
土壌にも関わる掘削工程であるから,A-1とA-2に按分してそれぞれ割り付けるのが相当である。
以上のとおり,割り付けした結果は,第1審原告作成に係る原判決別紙「土壌分類ごとの撤去費用額」に記載のとおりであり,第1審原告が鹿島建設に支払った請負代金63億3171万円は,本件既搬出土分を含む搬出予定部分(A-1)が37億6367万9687円,埋戻等予定部分のうち産廃土になった部分(A-2)が7億2268万7526円,追加掘削部分が18億4534万2787円となる(原判決別紙「土壌分類ごとの撤去費用額」では,円未満の端数を四捨五入しているため,37億6367万9688円と記載されているが,総額が支払額を超えるため,A-1の金額を上記のとおりとした。。


小括
以上によれば,第1審原告が第1審被告に対して請求することができる本件スレート片の撤去及び処分費用は,本件既搬出土分を含む搬出予定部分(A-1)につき37億6367万9687円,埋戻等予定部分のうち産廃土になった部分(A-2)につき7億2268万7526円の合計44億8636万7213円となる。
本件新築工事の遅延に伴う追加費用及び逸失利益

認定事実
認定事実については,原判決77頁8行目の「10月からになった」を「10月からとなり,第1審原告は,予定していた平成24年11月分から平成25年9月分までの11か月分の賃料収入を得られなかった」に改めるほかは,原判決第3の3

ア(原判決73頁26行目から77頁9行

目まで)に記載のとおりであるから,これを引用する。

本件新築工事の遅延に伴う追加費用及び逸失利益に係る損害額の認定前記アのとおり,本件土地に本件スレート片が発見され,本件新築工事が遅れたため,各種の追加費用が発生してその負担を余儀なくされ,あるいは得べかりし賃料収入が得られなかったものであるから,これらは,本件土地に瑕疵があったことに基づく損害ということができる。しかしながら,第1審原告が鹿島建設に発注して撤去し処分した本件土地に係る土壌及び本件既搬出土の総量は約14万0300㎥であったところ(前記2認定事実



,前記

ウのとおり,予定掘削部分を

超える追加掘削部分については,第1審被告に対して損害賠償を求めることができないものであるから,本件新築工事の遅延に伴う追加費用及び逸失利益を算定するに当たり,この点を考慮する必要がある。
そして,撤去・処分した土壌の量は撤去・処分工事の工期の長さに概ね比例するものと推認され(これに反する証拠はない。,上記工期の長)
さが本件新築工事の遅延に伴う追加費用及び逸失利益の額にも概ね比例するものと一応推認されるから,土壌分類ごとの土量に応じて,追加費用及び逸失利益を算出するのが相当である。
前記アで認定した事実によれば,本件新築工事が遅れたため,第1審原告が負担を余儀なくされた追加費用は,鹿島建設について14億9331万円,日建設計について1億5319万5000円,日本電気について7507万5000円,シネティックについて1411万2000円,村田機械について189万円,旧店舗等の賃料について3億3090万9348円の合計20億6849万1348円となり,得られなかった賃料収入は,11か月分の合計1039万3845円となる(総額20億7888万5193円)

一方,上記のとおり,追加掘削部分の撤去及び処分については,第1審被告に対して損害賠償を求めることができないから,前記

において

検討した土壌分類ごとの土量である本件既搬出土分を含む搬出予定部分(A-1)の土量5万8422.4㎥,埋戻等予定部分のうち産廃土になった部分(A-2)の土量1万0801.5㎥,追加掘削部分(B)の土量3万2736.5㎥で按分して割り付けると,A-1が11億9118万2677円,A-2が2億2023万3329円,Bが6億6746万9185円となる。
以上によれば,第1審原告が第1審被告に対して請求することができる本件新築工事遅延に基づく追加費用及び逸失利益は,本件既搬出土分を含む搬出予定部分(A-1)に相応する部分は11億9118万2677円,埋戻等予定部分のうち産廃土になった部分(A-2)に相応する部分は2億2023万3329円の合計14億1141万6006円となる。
これに対し,第1審被告は,本件新築工事が遅延した原因は,自然由来汚染土を鹿島建設が住民らに説明せず,反発を招いたことにあり,遅延の責任を第1審被告に負わせることはできない旨主張するが,かかる主張を採用することができないのは,原判決の説示(原判決79頁3行目から8行目まで)するとおりであるからこれを引用する。
また,第1審被告は,本件土地の石綿含有スレート片は,土壌と分別する方法で撤去可能であるとの主張を前提に,第1審原告が搬出した全土壌を処分するとしても,実働137日で工事可能であり,追加掘削部分を除く土壌の分別作業であれば更に工事期間は短縮されるなどとして,その分,経費や逸失利益の額も減額されるべきであるとも主張するが,前提となる上記主張を採用することができないのは,前記

イのと

おりである。
弁護士費用
証拠(甲37)及び弁論の全趣旨によれば,第1審原告は,本件訴訟の追行を第1審原告訴訟代理人らに依頼し,平成23年12月29日,本訴提起のために9450万円を支払っていることが認められるが,
本件訴訟の内容,
審理の経緯,請求額,認容された額その他一切の事情を考慮し,弁護士費用については,5500万円の限度で損害と認めるのが相当である。遅延損害金の支払請求について

第1審原告は,本訴において,本件売買契約9条2項及び11条1項に基づき,①

本件スレート片及び本件既搬出土の撤去及び処分費用63億

3171万円,②

本件新築工事の遅延に伴う追加費用及び逸失利益20

億7888万5193円,③

弁護士費用9450万円の合計85億05

09万5193円及びうち72億5421万8500円に対しては同請求に係る請求書(甲40の1及び2)に示された支払期限の翌日である平成23年10月30日から,うち1億3061万9469円に対しては訴状送達の日の翌日である平成24年5月10日から,うち11億2025万7224円に対しては訴えの変更申立書送達の日の翌日である平成26年1月28日から各支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払を求めているところ,前記

ないし

のとおり,①

本件スレー

ト片及び本件既搬出土の撤去及び処分費用として44億8636万7213円,②

本件新築工事の遅延に伴う追加費用及び逸失利益として14億
1141万6006円,③

弁護士費用として5500万円の合計59億

5278万3219円の範囲で,第1審原告の請求は理由がある。イ
前記アのとおり第1審被告が負う債務は,本件売買契約の目的物である本件土地に「瑕疵」があることにより生じた瑕疵担保責任に基づく損害賠償債務又は第1審被告がその除去義務を履行しないことによる債務不履行に基づく損害賠償債務であるところ,前記アの各項目の損害は,いずれも,同一の瑕疵ないし債務不履行に基づいて発生する損害賠償債務の一部を構成するものであるから,原則として,履行遅滞に陥る時期も同じくするものである(最高裁昭和55年

第1113号同58年9月6日第三小法廷

判決・民集37巻7号901頁参照)


これを本件についてみるに,第1審原告は,本件土地の引渡しを受けた後である平成23年10月18日付け請求書(甲40の1)により,①本件石綿含有スレート片の除去費用46億2525万円,②
本件石綿含

有スレート片を含む既搬出土壌の処分費用5億5860万円,③
物流タ

ーミナル建設工事の着工延期に伴い発生した費用17億8278万4500円,④

物流ターミナル完成の遅延による逸失利益2億8758万40

00円の合計72億5421万8500円を書面到達後10日以内に支払うよう請求し(以下「平成23年10月請求」という。,同書面は同月1)
9日に第1審被告に配達されたものであるところ(甲40の2)
,前記ア
のとおり第1審原告の請求のうち理由があると認められる本件スレート片及び本件既搬出土の撤去及び処分費用44億8636万7213円及び本件新築工事の遅延に伴う追加費用及び逸失利益14億1141万6006円は,それぞれ,平成23年10月請求のうち①及び②の合計額,③及び④の合計額の範囲内の額であり,同請求に係る支払期限である同月29日の経過によって遅滞に陥り,同月30日から遅延損害金が発生する。なお,弁護士費用5500万円の損害については,平成23年10月請求に挙げられていなかったところ(甲40の1参照)
,第1審原告として
は,弁護士費用のように同請求に挙げられていないが訴状に記載された損害については訴状送達の日の翌日からの遅延損害金の支払を求めるとの趣旨であることが訴状の記載から明らかであるから,同損害については,訴状送達の日の翌日である平成24年5月10日からの遅延損害金の支払を命ずることとする。
過失相殺について
第1審被告は,過失相殺により損害の減額が図られるべきであるなどと主張するが,前記説示のとおり,上記各損害の発生に関して第1審原告には過失と評価されるべき行為は見当たらないから,第1審被告の上記主張は採用することができない。
第4

結論
以上によれば,第1審原告の請求は,第1審被告に対し,59億5278万3219円及びうち58億9778万3219円に対する平成23年10月30日から,うち5500万円に対する平成24年5月10日から,各支払済みまで年6分の割合による金員の支払を求める限度で理由があり,第1審原告の本件控訴は一部理由があるから,原判決を上記のとおり変更することとし,第1審被告の本件控訴は理由がないから,これを棄却することとして,主文のとおり判決する。東京高等裁判所第8民事部

裁判長裁判官

阿部潤
裁判官土田昭彦及び裁判官篠田賢治は,いずれも転補のため,署名押印することができない。
裁判長裁判官

阿部潤
トップに戻る

saiban.in