判例検索β > 平成29年(行ケ)第10164号
審決取消請求事件 特許権 行政訴訟
事件番号平成29(行ケ)10164
事件名審決取消請求事件
裁判年月日平成30年9月11日
法廷名知的財産高等裁判所
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平成30年9月11日判決言渡
平成29年(行ケ)第10164号
口頭弁論終結日

審決取消請求事件

平成30年7月24日

当事者の表示


別紙当事者目録記載のとおり
主文
原告らの請求をいずれも棄却する。
訴訟費用は原告らの負担とする。
事実及び理由
第1

請求

特許庁が無効2016-800097号について平成29年6月30日にした審決を取り消す。
第2

事案の概要

1
特許庁における手続の経緯



被告らは,平成17年8月22日,発明の名称を「下肢用衣料」とする発明
について特許出願をし(特願2007-514943号),平成20年11月7日,設定登録を受けた(特許第4213194号。請求項の数5。以下「本件特許」という。)。


原告らは,平成28年8月5日,特許庁に対し,本件特許について無効審判
請求をし,無効2016-800097号事件として係属した。


特許庁は,平成29年6月30日,「本件審判の請求は,成り立たない。」
との別紙審決書(写し)記載の審決(以下「本件審決」という。)をし,その謄本は,同年7月10日,原告らに送達された。


原告らは,本件審決を不服として,同年8月7日,本件訴えを提起した。
2
特許請求の範囲の記載

本件特許の特許請求の範囲の記載は,以下のとおりである(以下,請求項の順に
「本件発明1」などといい,本件発明1~5を併せて「本件各発明」という。なお,各段落先頭のアルファベットは,本件審決において付された分説記号である。)。その明細書及び図面(甲1)を併せて「本件明細書」という。
【請求項1】
A
大腿部が挿通する開口部の湾曲した足刳りとなる足刳り形成部を備えた前身
頃と,
B
この前身頃に接続され臀部を覆うとともに前記前身頃の足刳り形成部に連続
する足刳り形成部を有した後身頃と,
C
前記前身頃と前記後身頃の各足刳り形成部に接続され大腿部が挿通する大腿
部パーツとを有し,
D
前記前身頃の足刳り形成部の湾曲した頂点が腸骨棘点付近に位置し,
E
前記後身頃の足刳り形成部の下端縁は臀部の下端付近に位置し,

F
前記大腿部パーツの山の高さを前記足刳り形成部の前側の湾曲深さよりも低
い形状とし,
G
前記足刳り形成部の湾曲部分の幅よりも前記山の幅を広く形成し,
H
取り付け状態で筒状の前記大腿部パーツが前記前身頃に対して前方に突出す
る形状となることを特徴とする
I
下肢用衣料。

【請求項2】
J
前記後身頃のウエスト部から股部までの長さは,前記前身頃のウエスト部か
ら股部までの長さよりも長く形成され,前記大腿部パーツに大腿部を挿入した状態において,大腿部が前身頃に対して前方に突出した状態で,前記後身頃に大きな張力が掛からない形状であることを特徴とする請求項1記載の下肢用衣料。【請求項3】
K
前記足刳り形成部は,身体の転子点付近から腸骨棘点付近を通り股底点脇付
近に至る湾曲した足刳り部分と,前記転子点付近から股底点脇まで膨らんだ曲線で
臀部裾ラインを包み込み,且つ臀部裾部分に密着する形状であることを特徴とする請求項1記載の下肢用衣料。
【請求項4】
L
前記大腿部パーツは,裾部で折り返された1枚の生地の両側縁部が互いに重
ねられ,前記前身頃の足刳り形成部と前記後身頃の足刳り形成部とに積層状態で接続され,前記大腿部パーツの折り重ねられた生地同士が相対的に摺動可能に形成されていることを特徴とする請求項1記載の下肢用衣料。
【請求項5】
M
前記大腿部パーツは,股下から踝付近までの間の適宜の長さに形成されてい
ることを特徴とする請求項1記載の下肢用衣料。
3
本件審決の理由の要旨



本件審決の理由は,別紙審決書(写し)記載のとおりである。要するに,本
件発明1は,①(i)後記ア~ウの引用例1~3に記載された発明(以下「引用発明1」などという。)のいずれでもないから,特許法29条1項2号の規定に該当するとはいえない,(ii)引用発明1~3のいずれかの発明,甲5,11~15,22各記載の事項及び従来周知の事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものではないから,同条2項の規定により,特許を受けることができないとはいえない,②(i)後記エの引用例4に記載された発明(以下「引用発明4」という。)ではなく,同条1項3号に該当するとはいえない,(ii)引用発明4,甲2~5,12~15,22各記載の事項及び従来周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないから,同条2項の規定により,特許を受けることができないとはいえない,③(i)後記オの引用例5に記載された発明(以下「引用発明5」という。)ではなく,同条1項3号に該当するとはいえない,(ii)引用発明5,甲2~5,11,12,14,15,22各記載の事項及び従来周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないから,同条2項の規定により,特許を受けることができないとはいえない,④(i)
後記カの引用例6に記載された発明(以下「引用発明6」という。)ではなく,同条1項3号に該当するとはいえない,(ii)引用発明6,甲2~5,11~13,15,22各記載の事項及び従来周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないから,同条2項の規定により,特許を受けることができないとはいえない,⑤発明の詳細な説明に記載されたものであるから,特許法36条6項1号の規定を満たす,というものである。また,本件発明2~5については,いずれも,①(i)引用発明1~6のいずれでもないから,同法29条1項2号又は3号に該当するとはいえない,(ii)引用発明1~6のうちの1つの発明,甲2~5,11~15,22各記載の事項及び従来周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもないから,同条2項の規定により,特許を受けることができないとはいえない,②発明の詳細な説明に記載されたものであるから,特許法36条6項1号の規定を満たす,というものである。

引用例1:先行製品1説明書(甲2)により導かれる製品


引用例2:先行製品2説明書(甲3)により導かれる製品


引用例3:先行製品3説明書(甲4)により導かれる製品


引用例4:実開昭51-73224号公報(甲11)


引用例5:特開昭50-83153号公報(甲13)


引用例6:特公昭57-1601号公報(甲14)



本件発明1と引用発明1~3との対比


引用発明1

(ア)

引用例1の構造を具体的に特定することはできない。

(イ)

引用例1の縫製情報が引用例2のそれと同一である場合,後記イに同じ。

引用発明2及び3

大腿部が挿通する開口部の湾曲した足刳りとなる足刳り形成部を備えた前身頃12を有し,この前身頃12に接続され臀部を覆うとともに前身頃12の足刳り形成部24に連続する足刳り形成部25を有した後身頃14を有し,前記前身頃12と
後身頃14の各足刳り形成部24,25に接続され脚が挿通する脚口パーツ18を有し,前身頃12の足刳り形成部24は湾曲した頂点があり,前記後身頃14の足刳り形成部の下端縁は臀部の下端付近に位置し,前記脚口パーツ18は山40aを有し,前記足刳り形成部の湾曲部分の幅よりも前記山40aの幅が広い箇所と狭い箇所を形成し,筒状の前記脚口パーツ18が前記前身頃12に対して突出する形状であるショーツ。

本件発明1と引用発明2との一致点

大腿部が挿通する開口部の湾曲した足刳りとなる足刳り形成部を備えた前身頃と,この前身頃に接続され臀部を覆うとともに前記前身頃の足刳り形成部に連続する足刳り形成部を有した後身頃と,前記前身頃と前記後身頃の各足刳り形成部に接続され大腿部が挿通する大腿部パーツとを有し,前記前身頃の足刳り形成部の湾曲した頂点を有し,前記後身頃の足刳り形成部の下端縁は臀部の下端付近に位置し,筒状の前記大腿部パーツが前記前身頃に対して突出する形状となることを特徴とする下肢用衣料。

(ア)

本件発明1と引用発明2との相違点
相違点1-1

本件発明1は,「前身頃の足刳り形成部の湾曲した頂点」が,「腸骨棘点付近に位置」するものであるのに対し,引用発明2は,「前身頃12の足刳り形成部24は湾曲した頂点」の位置と,腸骨棘点との関係が不明である点。
(イ)

相違点1-2

本件発明1は,「大腿部パーツの山の高さ」を,「足刳り形成部の前側の湾曲深さ」よりも「低い形状」としたものであるのに対し,引用発明2は,「脚口パーツ18」の「山40a」の高さと,「足刳り形成部の湾曲」の深さとの関係が不明である点。
(ウ)

相違点1-3

本件発明1は,「足刳り形成部の湾曲部分の幅」よりも「山の幅」を全ての箇所
で「広く形成」したものであるのに対し,引用発明2は,「足刳り形成部の湾曲」の幅よりも「脚口パーツ18」の「山40aの幅」が「広い箇所と狭い箇所を形成し」たものである点。
(エ)

相違点1-4

本件発明1は,「前記大腿部パーツ」が「前身頃」に対して「前方」に突出する形状であるのに対し,引用発明2の「筒状の前記脚口パーツ18」が「前身頃12」に対して「突出」する方向が明らかではない点。
(オ)

相違点1-5

本件発明1は,「取り付け状態」で「筒状の前記大腿部パーツが前記前身頃に対して前方に突出する形状となる」ものであるのに対し,引用発明2の「筒状の前記脚口パーツ18が前記前身頃12に対して突出する」のが「取り付け状態」であるかが明らかではない点。

本件発明1と引用発明3との一致点及び相違点は本件発明1と引用発明2と
の一致点及び相違点と同一である。
また,仮に引用例1の縫製情報が引用例2のそれと同一である場合は,本件発明1と引用発明1との一致点及び相違点も同様である。


本件発明1と引用発明4との対比


引用発明4

大腿部が挿通する開口部の湾曲した足刳りとなる足刳り形成部を備えた腰部主体片1と,この腰部主体片1に接続され臀部を覆うとともに前記腰部主体片1の足刳り形成部に連続する足刳り形成部を有した臀部片4と,前記腰部主体片1と前記臀部片4の各足刳り形成部に接続され大腿部が挿通する脚部片2とを有し,前記腰部主体片1の足刳り形成部を内方に湾曲に切り欠いて谷形に形成し,谷底点dがあり,前記脚部片2は山形に膨出形成し,前記足刳り形成部は湾曲した形状であり,前記臀部片4の足刳り形成部の下端片は臀部の下端付近に位置し,筒状の前記脚部片2が前記腰部主体片1に対して前方に突出する形状となるガードル。

一致点

大腿部が挿通する開口部の湾曲した足刳りとなる足刳り形成部を備えた前身頃と,この前身頃に接続され臀部を覆うとともに前記前身頃の足刳り形成部に連続する足刳り形成部を有した後身頃と,前記前身頃と前記後身頃の各足刳り形成部に接続され大腿部が挿通する大腿部パーツとを有し,前記後身頃の足刳り形成部の下端縁は臀部の下端付近に位置し,筒状の前記大腿部パーツが前記前身頃に対して前方に突出する形状となることを特徴とする下肢に着用する衣料。

(ア)

相違点
相違点2-1

本件発明1は,「前身頃の足刳り形成部の湾曲した頂点」が,「腸骨棘点付近に位置」するものであるのに対し,引用発明4は,「腰部主体片1の足刳り形成部の湾曲した谷底点d」の位置と,腸骨棘点との関係が不明である点。(イ)

相違点2-2

本件発明1は,「大腿部パーツの山の高さ」を,「足刳り形成部の前側の湾曲深さ」よりも「低い形状」としたものであるのに対し,引用発明4は,「脚部片2」の山の高さと「足刳り形成部の前側の湾曲深さ」との関係が不明である点。(ウ)

相違点2-3

本件発明1は,「足刳り形成部の湾曲部分の幅」よりも「山の幅」を「広く形成」したものであるのに対し,引用発明4は,「足刳り形成部の湾曲した形状」の幅と,「脚部片2」の山の幅との関係が不明である点。
(エ)

相違点2-4

本件発明1は,「取り付け状態」で「筒状の前記大腿部パーツが前記前身頃に対して前方に突出する形状となる」ものであるのに対し,引用発明4の「筒状の前記脚部片2が前記腰部主体片1に対して前方に突出する形状となる」のが「取り付け状態」であるか「着用状態」であるか不明である点。
(オ)

相違点2-5

「下肢に着用する衣料」について,本件発明1は,「下肢用衣料」であるが,引用発明4は,「ガードル」である点。


本件発明1と引用発明5との対比


引用発明5

大腿部が挿通する開口部の湾曲した足刳り形成部を備えた腰部布1と,この腰部布1に接続され臀部を覆うとともに前記腰部布1の足刳り形成部に連続する足刳り形成部を有したヒツプアツプ当布3と,前記腰部布1と前記ヒツプアツプ当布3の各足刳り形成部に接続され大腿部が挿通する脚部布2を有し,腰部布1の切替え線(1a)は人体屈曲時に画かれる関節部の線(C)に沿い,前記ヒツプアツプ当布3の足刳り形成部の下端縁は臀部の下端付近に位置し,前記脚部布2の切替え線(2a)が緩いカーブ(R1)とされ,前記腰部布1の足刳り形成部は切替え線(1a)が深いカーブ(R)とされ,着用時に筒状の前記脚部布2が前記腰部布1に対して前方に突出する形状となるパンティガードル。

一致点

大腿部が挿通する開口部の湾曲した足刳りとなる足刳り形成部を備えた前身頃と,この前身頃に接続され臀部を覆うとともに前記前身頃の足刳り形成部に連続する足刳り形成部を有した後身頃と,前記前身頃と前記後身頃の各足刳り形成部に接続され大腿部が挿通する大腿部パーツとを有し,前記後身頃の足刳り形成部の下端縁は臀部の下端付近に位置し,筒状の前記大腿部パーツが前記前身頃に対して前方に突出する形状となることを特徴とする下肢に着用する衣料。

(ア)

相違点
相違点3-1

本件発明1は,「前身頃の足刳り形成部の湾曲した頂点」が,「腸骨棘点付近に位置」するものであるのに対し,引用発明5は,そもそも,「腰部布1」の「切替え線(1a)が深いカーブ(R)」の頂点の位置が不明である点。(イ)

相違点3-2

本件発明1は,「大腿部パーツの山の高さ」を,「足刳り形成部の前側の湾曲深さ」よりも「低い形状」としたものであるのに対し,引用発明5は,「脚部布2」の「切替え線(2a)」の「緩いカーブ(R1)」の高さと,「足刳り形成部」の「切替え線(1a)」の「深いカーブ(R)」の深さとの関係が不明である点。(ウ)

相違点3-3

本件発明1は,「足刳り形成部の湾曲部分の幅」よりも「山の幅」を「広く形成」したものであるのに対し,引用発明5の,「足刳り形成部」の「切替え線(1a)」の「深いカーブ(R)」の幅と,「脚部布2」の「緩いカーブ(R1)」の幅との関係が不明である点。
(エ)

相違点3-4

本件発明1は,「取り付け状態」で「筒状の前記大腿部パーツが前記前身頃に対して前方に突出する形状となる」ものであるのに対し,引用発明5の「筒状の前記脚部布2が前記腰部布1に対して前方に突出する形状となる」のが「取り付け状態」であるか「着用状態」であるか明らかではない点。
(オ)

相違点3-5

「下肢に着用する衣料」について,本件発明1は,「下肢用衣料」であるが,引用発明5は,「パンティガードル」である点。


本件発明1と引用発明6との対比


引用発明6

大腿部が挿通する開口部の湾曲した足刳り形成部を備えた腰部布6と,この腰部布6に接続され臀部を覆うとともに前記腰部布6の足刳り形成部に連続する足刳り形成部を有したヒツプ布8と,前記腰部布6と前記ヒツプ布8の各足刳り形成部に接続され大腿部が挿通する脚部布7を有し,腰部布6の下端縁は人体屈曲時に画かれる関節部(C)に沿い,前記ヒツプ布8の足刳り形成部の下端縁は臀部の下端付近に位置し,前記脚部布7の上端縁13は凸状の緩いカーブ14であり,前記腰部布6の下端縁10は凹状の深いカーブ11であり,着用時に筒状の前記脚部布7が
前記腰部布6に対して前方に突出する形状となるパンティガードル。イ
一致点

大腿部が挿通する開口部の湾曲した足刳りとなる足刳り形成部を備えた前身頃と,この前身頃に接続され臀部を覆うとともに前記前身頃の足刳り形成部に連続する足刳り形成部を有した後身頃と,前記前身頃と前記後身頃の各足刳り形成部に接続され大腿部が挿通する大腿部パーツとを有し,前記後身頃の足刳り形成部の下端縁は臀部の下端付近に位置し,筒状の前記大腿部パーツが前記前身頃に対して前方に突出する形状となることを特徴とする下肢に着用する衣料。

(ア)

相違点
相違点4-1

本件発明1は,「前身頃の足刳り形成部の湾曲した頂点」が,「腸骨棘点付近に位置」するものであるのに対し,引用発明6は,そもそも,「腰部布6」の「凹状の深いカーブ11」の頂点の位置が不明である点。
(イ)

相違点4-2

本件発明1は,「大腿部パーツの山の高さ」が,「足刳り形成部の前側の湾曲深さ」よりも「低い形状」としたものであるのに対し,引用発明6は,「脚部布7」の「凸状の緩いカーブ14」の高さと,「腰部布6」の「凹状の深いカーブ11」の深さとの関係が不明である点。
(ウ)

相違点4-3

本件発明1は,「足刳り形成部の湾曲部分の幅」よりも,「山の幅」を「広く形成」したものであるのに対し,引用発明6は,「腰部布6」の「凹状の深いカーブ11」の幅と,「足刳り形成部の湾曲した形状」の幅との関係が不明である点。(エ)

相違点4-4

本件発明1は,「取り付け状態」で「筒状の前記大腿部パーツが前記前身頃に対して前方に突出する形状となる」ものであるのに対し,引用発明6の「筒状の前記脚部布7が前記腰部布6に対して前方に突出する形状となる」のが「取り付け状態」
であるか「着用状態」であるか不明である点。
(オ)

相違点4-5

「下肢に着用する衣料」について,本件発明1は,「下肢用衣料」であるが,引用発明6は,「パンティガードル」である点。
4
取消事由



取消事由1(引用発明1~3に基づく新規性及び進歩性判断の誤り)


取消事由2(引用発明4に基づく新規性及び進歩性判断の誤り)



取消事由3(引用発明5に基づく新規性及び進歩性判断の誤り)



取消事由4(引用発明6に基づく新規性及び進歩性判断の誤り)



取消事由5(請求項1のサポート要件判断の誤り)



取消事由6(本件発明2~5に係る新規性及び進歩性判断の誤り)


取消事由7(請求項3のサポート要件判断の誤り)

第3
1
当事者の主張
取消事由1(引用発明1~3に基づく新規性及び進歩性判断の誤り)
〔原告らの主張〕


相違点1-3の具体的内容

相違点1-3は,より厳密には「本件発明1は,『足刳り形成部の湾曲部分の幅』よりも『山の幅』を全ての箇所で『広く形成』したものであるのに対し,引用発明2は,『足刳り形成部の湾曲』の幅よりも『脚口パーツ18』の『山40aの幅』が『上部のごく一部でわずかに狭く,それ以外で広く形成し』たものである点。」と認定されるべきである。


構成要件F及びGの技術的意義


本件明細書の記載によれば,足刳り形成部の湾曲部分の幅及び大腿部パーツ
に設けられる山の幅は,身頃及び大腿部パーツを平面状に展開した状態で特定される。
しかし,人体は複曲面であり非可展面であるため,衣服を平面上の生地から作成
する限り,その着用状態では,平面上から等長変換されない生地には必ず複雑で不規則な伸びやせん断変形が生じることは,技術常識である。この技術常識に鑑みれば,本件発明1の下肢用衣料において,平面状に展開された身頃及び大腿部パーツを縫製により三次元状に造形し,着用した状態にすると,複雑で不規則に変形することになる。また,身頃の変形の仕方と大腿部パーツの変形の仕方は異なる。したがって,本件発明1の下肢用衣料が縫製により三次元状に造形され着用された状態となったときに,全ての箇所で構成要件Gに係る広狭関係が有意に維持されるとは限らない。そうである以上,構成要件Gに技術的意義はない。イ
本件明細書の記載によれば,大腿部パーツに設けられる山の高さ及び足刳り
形成部の湾曲深さは,大腿部パーツ及び身頃を平面状に展開した状態で特定される。しかし,上記と同様の理由から,本件発明1の下肢用衣料が縫製により三次元状に造形され着用された状態となったときに,構成要件Fに係る高低関係が有意に維持されるとは限らない。そうである以上,構成要件Fに技術的意義はない。⑶

相違点1-3に係る本件発明1の構成の技術的意義


本件明細書【0027】については,h1,h2,w1,w2の関係が構成
要件F及びGに対応していると捉えた場合,構成要件F及びGの効果として構成要件Hが得られることが記載されているものと理解される。
しかし,構成要件F及びGがいかに作用して構成要件Hが得られるのかという原理の説明は,本件明細書にはない。また,構成要件F及びGの効果として構成要件Hが得られることを示す証拠等も示されていない。しかも,上記のとおり構成要件F及びGに技術的意義はないのであるから,構成要件F及びGの効果として構成要件Hが得られないのも明らかである。

例えば引用例6には,脚部布7の山を腰部布6の下端縁10よりも「ある程
度」(三日月形の空間が形成される程度)浅いカーブにすることにより,腰部布6によって構成される脚部4を前方に突出させる,という技術が示されている。この技術は,引用例6及び5のほか,引用例1~4,甲12,甲15からも把握し得る
ものであり,周知・慣用技術といえる。本件明細書図3においても,足刳り形成部24,25の湾曲のカーブよりも大腿部パーツ18の山40aのカーブが「ある程度」浅くなっているから大腿部パーツ18が前方に突出するのであって,上記技術は本件発明1にも採用されている。
そして,上記⑵の技術常識によれば,パターン上におけるカーブの深浅がごくわずかである場合に,着用状態にそのカーブの深浅がそのまま反映されるとは限らず,大腿部パーツの前方への突出に繋がる程度(「ある程度」)カーブの深浅差が設けられている必要がある,と捉えるのが合理的である。

以上のとおり,本件発明1の構成要件Hが得られるのは,構成要件F及びG
によるものではなく,上記周知・慣用技術によるものである。


本件発明1の新規性及び進歩性について

以上より,本件発明1の新規性及び進歩性については,以下のとおりである。ア
相違点1-1~1-5のうち,相違点1-3以外については,実質的な相違
点ではない。
また,上記のとおり,相違点1-3に係る本件発明1の構成に格別の技術的意義はなく,実質的な相違点とはいえず,又は単なる設計的事項以上のものということはできない。
したがって,本件発明1は,引用発明2であり,又は引用発明2に基づいて容易に想到することができたものというべきである。

(ア)

このことは,以下の点からも裏付けられる。
引用例2が構成要件Gの関係を満たさないのは,引用例2では,身頃側の
足刳り形成部とこれに縫い合わされる脚口パーツの縁との寸法が同等ではなく大きく異なっているためであるが,脚口パーツの縁の寸法を身頃の足刳り形成部の寸法に近づけていけば,やがて構成要件Gの関係を満たすことになる。そして,衣服分野において,相互に縫い合わせる部分の寸法関係をどのように設定するかは設計的事項にすぎない。

(イ)

本件明細書には臀部ダーツ31ないしこれに代わるダーツが示されている
のに対し,引用例2には,これらに相当するものは設けられていない。このため,このようなダーツの有無が相違点1-3に関係していると捉えられる。しかし,曲面形成又は立体化のために,ダーツを設けるか,いせ込み又は伸ばしを行うかは,当業者が適宜選択し得る手法(設計的事項)であり,いせ込み(又は伸ばし)を行う引用例2において,これに代えて,又はこれに加えて,ダーツを設けるようにすることは設計的事項にすぎない。また,下肢用衣料又は引用発明2が属する技術分野又はこれに近接する技術分野において,臀部を覆う部位にダーツを設けて膨らみをもたせることは周知技術である。
そうすると,引用例2に種々の形態の臀部ダーツを設けることは,当業者が容易になし得ることである。このように臀部ダーツを設けた場合,構成要件Gを満たす蓋然性は極めて高い。
(ウ)

引用発明2及び6はともにショーツに係る発明であり,技術分野が同一で
ある。また,足口ないし脚部が前方に突出する点で,両者は,その機能も同一である。
そして,前記のとおり,引用例2において,身頃側の足刳り形成部とこれに縫い合わされる脚口パーツの縁との寸法の前記関係に代えて,引用例6に示されているパターンのように,腰部布6とヒップ布8とを曲線で縫合するようにして立体感を持たせるようにしつつ,身頃側の足刳り形成部とこれに縫い合わされる脚口パーツの縁との寸法を同等となるようにするのは容易であって,この場合,構成要件Gを満たすことになる。
このことは,引用発明2及び5との関係でも同様である。

引用例2の改変の動機付け

自ずと制限があるとはいえ,その範囲内で型紙(パターン)の形状はいわば無限に変更可能である。そして,下肢用衣料においては,着心地以外の多種多様な要素も総合的に考慮してパターンが決定されるのが通常である。引用例2の改変に強い
動機が必要という本件審決の認定は,こうした事情を全く考慮しないものである。そもそも,構成要件Gには技術的意義がないから,相違点1-3に係る構成に関し,引用例2の改変に動機を必要と判断すること自体が失当である。⑸

小括

以上のように,本件発明1は,引用発明2であり,また,当業者であれば引用発明2に基づいて容易に想到し得るものである。この点に関する本件審決の判断は誤りである。
以上のことは,引用例1及び3に係る本件審決の判断に関しても同様である。〔被告らの主張〕


相違点1-3の具体的内容について


原告らは,裾部36を表す線を上方に平行移動させてなる線を「基準線」と
称し,それより上側の部分を「山40a」と,それと縫い合わされる身頃側の部分を「湾曲部分」と特定しているが,「裾部36を表す線を上方に平行移動させる」という操作自体に技術的意味はない。
構成要件Gの「前記足刳り形成部の湾曲部分」とは,構成要件Fの「足刳り形成部の前側の湾曲」を受けた記載であり,両者は同一の部分を指している。そして,本件各発明の目的が股関節の屈伸運動に対する生地の抵抗を軽減し,その円滑性・追従性の向上を図ることにあることに鑑みれば,「足刳り形成部の前側」とは,人体を基準にした前側を意味し,その大部分が人体の前側に位置することになる部分でなければならない。
したがって,原告ら主張に係る方法によって特定された「湾曲部分」及び「山」を前提に本件発明1と引用発明2とを対比判断することは妥当でない。イ
そもそも,引用発明2は,どのような位置で「湾曲部分」及び「山」を特定
しても,必ず「足刳り形成部の湾曲部分の幅」<「大腿部パーツの山の幅」との関係を満たさない部分を有する。その技術的思想の理解に当たり特に重要な点は,引用例2では人体の前側にいくほど構成要件Gの大小関係を満たさない部分が拡大し
ていく点である。これは,人体の前側ほど伸びに対するゆとりがなく,股関節の屈伸運動に対する生地の抵抗が前側ほど大きいことを意味する。
そうすると,本件発明1と引用発明2の技術的思想の相違は明らかである。⑵

構成要件F及びGの技術的意義について


人体形状が非可展面であって平面に展開できない曲面であることはそのとお
りであるが,そのことを考慮しても,型紙上の寸法設定の意義を否定することはできない。

構成要件F及びGの「湾曲(部分)」によって囲まれる領域及び「山」はい
ずれも大腿部前面が当接する部分であり,同じ荷重が作用する限り,同じように変形する。また,構成要件F及びGに係る「湾曲(部分)」の高さ及び幅は,仮想線ないし仮想領域として対比の対象とされているにすぎず,最終製品に現れるのは大腿部パーツの「山」の高さ及び幅である。そして,両者はいずれも大腿部前面が当接する部分として対応関係にある。
したがって,「複雑で不規則な伸びやせん断変形」などは,構成要件F及びGに関する限り考慮する必要はない。

全ての箇所で構成要件Gに係る広狭関係が有意に維持されるといえなくなる
のは,着用時の状態が生地の弾性限界を超えるときのみであるが,不適合なサイズのものを着用しない限り,そのような事態は生じない。また,構成要件Gに係る広狭関係が縫合の前後又は着用の前後で変わるなどといったことも考えられない。したがって,構成要件Gに技術的意義がないとの原告らの主張は失当である。この点は,構成要件Fの技術的意義についても同様である。


相違点1-3に係る本件発明1の構成の技術的意義について


構成要件Fの大小関係が顕著になればなるほど,取り付け状態で筒状の大腿
部パーツが前身頃に対して前方に突出することになるのは容易に理解できることであり,また,構成要件Gの大小関係が顕著になればなるほど,取り付け状態で筒状の大腿部パーツが前身頃に対して前方に突出することになることも明らかである。

引用例6においても,脚部布7の山を腰部布6の下端縁10よりも浅いカー
ブにしておけば潜在的には「三日月形の空間」が形成されるものであり,カーブの浅さを「ある程度」以上にしなければならないわけではない。他方で,引用例6では,効果を顕在化させるための別の発明特定事項が規定されている。この点は本件発明1も同様であり,本件発明1は,構成要件F,Gだけでなく,構成要件Hを充足することを要求しているものである。


本件発明1の新規性及び進歩性について


前記のとおり,相違点1-3に係る本件発明1の構成に技術的意義がないと
の原告らの主張は失当であるから,相違点1-3は実質的な相違点であり,また,本件発明1は引用発明2に基づき容易に想到し得るものではない。イ
身頃側の足刳り形成部の寸法を変えずに脚口パーツの寸法のみを変更すると
いうこと自体,相手形状との整合性や完成品の着心地等を考慮しておらず,合理性に欠けるし,引用例1~3においてこのような改変を行うことには動機付けがないとともに,阻害事由が存在する。

本件発明1において,臀部ダーツ等は要件になっていない上,引用発明2に
臀部ダーツ等を設けたからといって,当然に構成要件Gを充足することになるものではない。また,引用発明2において,現在の構成に更に重ねて臀部ダーツ等を設けるべき理由もない。

仮に引用発明1~3が前方に突出するものであったとしても,引用発明2に
引用発明6を適用すれば当然に構成要件Gを充足することになるわけではない。引用例6に構成要件Gは開示されていないし,上記のとおり,引用発明2の構成の変更に動機付けは存在せず,むしろそのような改変は阻害事由に当たる。これらの点は,引用発明2に引用発明5を適用する場合も同様である。オ
原告ら主張のとおり,パターンの決定に当たって様々な事情が考慮されると
しても,だからといって当然に構成要件Gを充足することになるわけではない。むしろ,型紙形状を無限に変更できるのであれば,その中から敢えて本件発明1の構
成を採択することは困難である。


小括

以上のとおり,相違点1-3に関する原告らの主張はいずれも失当であり,この点に関する本件審決の認定判断に誤りはない。このことは,引用例1及び3を主引用例とする新規性及び進歩性についても同様である。
2
取消事由2(引用発明4に基づく新規性及び進歩性判断の誤り)

〔原告らの主張〕


相違点2-3について


本件審決が,相違点2-3に関し,引用発明4は,「足刳り形成部の湾曲し
た形状」の幅と,「脚部片2」の山の幅との関係が不明であるとする点は争う。イ
相違点2-3は,本件発明1の構成要件Gに対応するところ,引用例4第2
図に示されている腰部主体片1において辺adbで特定される湾曲部分,及び脚部片2においてa’b’を結ぶ直線よりも上側の部分は,それぞれ構成要件Gの「前記足刳り形成部の湾曲部分」及び「前記山」に相当する。
前記のとおり,パターンの形状の工夫によって大腿部パーツを前方に突出させるにあたり,足刳り形成部の湾曲のカーブよりも大腿部パーツの山のカーブを浅くすれば大腿部パーツが前方に突出する,という技術は,本件特許出願時における周知・慣用技術である。そして,引用発明6は構成要件Gを満たし,引用例2は構成要件Gを一部満たさないところ,この違いは,身頃側の足刳り形成部とこれに縫い合わされる脚口パーツの縁との寸法の異同に由来する。引用発明4においては,身頃側の足刳り形成部とこれに縫い合わされる脚口パーツの縁の寸法は同等であることが把握され,引用例2のように大きく異ならせる趣旨の記載もないから,引用発明4は構成要件Gを満たすと考えられる。
したがって,相違点2-3につき実質的な相違点であるとする本件審決の判断は誤りである。


本件発明1の新規性及び進歩性について


相違点2-1~2-5のうち,相違点2-3以外は,実質的な相違点ではな
い。また,上記のとおり,相違点2-3も実質的な相違点ではない。イ
仮に相違点2-3が実質的な相違点であるとしても,相違点2-3に係る本
件発明1の構成は相違点1-3に係る本件発明1の構成と実質的に同一であるところ,前記のとおり,このような構成に格別の技術的意義はない。したがって,本件発明1は引用発明4であると判断されるべきである。

仮に相違点2-3が実質的な相違点であるとしても,当該相違点は,単なる
設計的事項以上のものということはできないから,本件発明1は引用発明4に基づいて容易に想到することができたものというべきである。
このことは,以下の点からも裏付けられる。すなわち,引用発明4と同6とは技術分野が同一であり,また,その機能も同一であるから,引用発明4に同6を適用すれば,構成要件Gを満たすことになる。このような適用は,当業者が容易になし得るものにすぎない。引用発明4及び5においても同様のことが妥当する。⑶

小括

以上のとおり,本件発明1は,引用発明4であり,また,当業者であれば引用発明4に基づいて容易に想到し得るものである。したがって,この点に関する本件審決の判断は誤りである。
〔被告らの主張〕


前記のとおり,引用例6に構成要件Gは開示されていない。

また,原告らは,あたかも身頃側の足刳り形成部とこれに縫い合わされる脚口パーツの縁との寸法が同等であれば構成要件Gを充足するかのように主張するが,そのような事実はない。また,引用例4には,身頃側の足刳り形成部とこれに縫い合わされる脚口パーツの縁との寸法が同等であることはどこにも記載されていない。したがって,相違点2-3に関する本件審決の認定判断に誤りはない。⑵

構成要件Gに格別の技術的意義がないとの主張が失当であることは,前記の
とおりである。



引用発明6が構成要件Gを充足するということはできない以上,引用発明4
に同6を適用しても,構成要件Gを充足することにはならない。このことは,引用発明4及び5との関係においても同様である。


小括

以上のとおり,相違点2-3に関する原告らの主張はいずれも失当であり,この点に関する本件審決の認定判断に誤りはない。
3
取消事由3(引用発明5に基づく新規性及び進歩性判断の誤り)

〔原告らの主張〕


相違点3-3について


本件審決が,相違点3-3につき,引用発明5の,「足刳り形成部」の「切
り替え線(1a)」の「深いカーブ(R)」の幅と,「脚部布2」の「緩いカーブ(R1)」の幅との関係が不明であるとする点は争う。

相違点3-3は,本件発明1の構成要件Gに対応するところ,引用例5の第
1図記載のA1からE1まで延びる凹状の「深く」「急な」カーブ(R),及びA2からE2まで延びる凸状の「低く」「緩やかな」カーブ(R1)は,それぞれ構成要件Gの「前記足刳り形成部の湾曲部分」及び「前記山」に相当すると捉えられる。又は,前記カーブ(R)及びカーブ(R1)が,それぞれ構成要件Gの「前記足刳り形成部の湾曲部分」及び「前記山」を含むと捉えることもできる。そして,引用発明5は構成要件Gを有する。
したがって,相違点3-3は実質的な相違点ではない。


本件発明1の新規性及び進歩性について


相違点3-1~3-5のうち,相違点3-3以外については,実質的な相違
点ではない。また,上記のとおり,相違点3-3も実質的な相違点ではない。イ
仮に相違点3-3が実質的な相違点であるとしても,当該相違点に係る本件
発明1の構成は,相違点1-3に係る本件発明1の構成と実質的に同一であるところ,前記のとおり,当該相違点に格別の技術的意義はなく,単なる設計的事項以上
のものということはできないから,本件発明1は,引用発明5に基づいて容易に想到し得たものというべきである。


小括

以上のとおり,本件発明1は引用発明5であり,また,当業者であれば引用発明5に基づいて容易に想到し得るものである。したがって,この点に関する本件審決の判断は誤りである。
〔被告らの主張〕


引用発明5は本件発明1の構成要件Gを充足しない。また,単に「足刳り形
成部」の「切替え線(1a)」を「深いカーブ(R)」とし,「脚部布2」の「切替え線(2a)」を「緩いカーブ(R1)」としたからといって当然に構成要件Gを充足することにはならないことは,引用例1~3に照らして明らかである。したがって,相違点3-3を実質的な相違点であるとした本件審決の判断に誤りはない。


原告らは,相違点3-3に係る本件発明1の構成である構成要件Gにつき技
術的意義がないとの主張を前提として,本件発明1は引用発明5に基づき容易に想到し得る旨主張するけれども,その前提が失当であることは前記のとおりである。⑶

小括

以上のとおり,相違点3-3に関する原告らの主張はいずれも失当であり,この点に関する本件審決の認定判断に誤りはない。
4
取消事由4(引用発明6に基づく新規性及び進歩性判断の誤り)

〔原告らの主張〕


相違点4-3について


本件審決が,引用発明6は,「腰部布6」の「凹状の深いカーブ11」の幅
と,「足刳り形成部の湾曲した形状」の幅との関係が不明であるとする点は争う。イ
相違点4-3は本件発明1の構成要件Gに対応するところ,引用例6の第1
図記載のA1からE1まで延びる凹状の深いカーブ11,及びA2からE2まで延び
る凸状の緩いカーブ14は,それぞれ構成要件Gの「前記足刳り形成部の湾曲部分」及び「前記山」に相当すると捉えられる。
そして,引用発明6は構成要件Gを有する。
したがって,相違点4-3は実質的な相違点ではない。


本件発明1の新規性及び進歩性について


相違点4-1~4-5のうち,相違点4-3以外については,実質的な相違
点ではない。また,上記のとおり,相違点4-3も実質的な相違点ではない。イ
仮に相違点4-3が実質的な相違点であるとしても,当該相違点に係る本件
発明1の構成は,相違点1-3に係る本件発明1の構成と実質的に同一であるところ,当該相違点に格別の技術的意義はなく,単なる設計的事項以上のものということはできないから,本件発明1は,引用発明6に基づいて容易に想到し得たものというべきである。


小括

以上のとおり,本件発明1は引用発明6であり,また,当業者であれば引用発明6に基づいて容易に想到し得るものである。したがって,この点に関する本件審決の判断は誤りである。
〔被告らの主張〕


前記のとおり,引用発明6は本件発明1の構成要件Gを充足しない。また,
単に「腰部布6」の下端縁を「凹状の深いカーブ11」とし,「脚部布7」の上端縁を「凸状の緩いカーブ14」としたからといって当然に構成要件Gを充足することにはならないことは,引用例1~3に照らして明らかである。
したがって,相違点4-3を実質的な相違点であるとした本件審決の判断に誤りはない。


原告らは,相違点4-3に係る本件発明1の構成である構成要件Gにつき技
術的意義がないとの主張を前提として,本件発明1は引用発明6に基づき容易に想到し得る旨主張するけれども,その前提が失当であることは前記のとおりである。


小括

以上のとおり,相違点4-3に関する原告らの主張はいずれも失当であり,この点に関する本件審決の認定判断に誤りはない。
5
取消事由5(請求項1のサポート要件判断の誤り)

〔原告らの主張〕


「前記足刳り形成部の前側の湾曲深さ」について


「前身頃」が人体の後側に位置する領域を備えたり,「後身頃」が人体の前
側に位置する領域を備えたりすることがあるとしても,「前身頃」が人体の前の部分のみを覆い,「後身頃」が人体の後ろの部分のみを覆う場合もあるから,本件発明1の「前身頃」と「後身頃」とが直接接続されることのみを理由とする本件審決の解釈は誤りである。そもそも,なぜ,本件発明1の「前身頃」と「後身頃」とが直接接続されると,本件発明1の「前身頃」が人体の後側に位置する領域を備えるか,「後身頃」が人体の前側に位置する領域を備えるかのいずれかの構成をとることになるのか不明である。

本件審決の判断は,「後身頃14」の一部分(「前身頃12」との接続部分)
が人体の前側に位置していると認定し,この認定から理解される「後」及び「前」の呼称の意味を「前身頃」及び「後身頃」以外にも一般化しようとするものである。しかし,「後身頃14」の一部分(「前身頃12」との接続部分)が人体の前側に位置しているとの認定は,本件明細書【0014】の記載に反する。同段落の記載からは,前身頃12は下胴部の前側から両脇までを覆い,後身頃14は下胴部の後ろ側を覆うことを前提とし,又は定義していると捉えられる。
また,「前身頃」及び「後身頃」はその意味が一義的に定まっていない特殊な用語であることに鑑みれば,仮に「後身頃14」の一部分(「前身頃12」との接続部分)が人体の前側に位置していると認定し得るとしても,これをもって「後」及び「前」の呼称の意味を一般化し得るものではなく,また,このような理解が当該技術分野の常識になっているという証拠も示されていない。


本件審決は,本件発明1の「足刳り形成部の前側」とは,前身頃12の足刳
り形成部24及び後身頃14の足刳り形成部25が連続して形成された足刳り形成部であって,その大部分が図1に画かれる人体の前側に存在するようなものであると理解できるとするが,【0014】の記載によれば,図1に示されているのは人体の前側のみでなく,後身頃14が覆う部分は後側ということになるから,「その半分程度」が人体の前側に存在することを看取し得るにすぎない。エ
(ア)

サポート要件の判断基準と「足刳り形成部の前側の湾曲深さ」について本件審決は,本件発明1の「前記足刳り形成部の前側の湾曲深さ」の解釈
につき,人体の「前側のみ」を対象として「足刳り形成部の湾曲深さ」を特定する場合まで含むことを完全には排除していないとも捉えられるところ,このように人体の「前側のみ」を対象として「足刳り形成部の湾曲深さ」を特定することは,本件明細書に記載も示唆もされていない。
(イ)

本件発明1の「前記足刳り形成部の前側の湾曲深さ」に係る構成要件Fの
技術的意義や構成要件Fによる課題解決のための作用機序も,本件明細書に記載も示唆もされておらず,また,前記のとおり,技術常識に照らせば構成要件Fに技術的意義はない。そのため,当業者が,人体の「前側のみ」ではなく「後側」の一部をも対象として「足刳り形成部の湾曲深さ」を特定する本件明細書の開示に接した場合,本件発明1の「下肢用衣料」であれば,人体の「前側のみ」を対象として「足刳り形成部の湾曲深さ」を特定しても本件発明1の課題を解決できることを認識することができるとは認められない。
(ウ)

さらに,本件審決は,構成要件Gにつき,大腿部パーツに,周方向の伸び
に対してあらかじめ「余裕」ないし「ゆとり」を設けるといった技術的意義が有るとするところ,仮に当業者がこの技術的意義を把握することができるとすれば,この技術的意義との関係で,着用状態の下肢用衣料において大腿部パーツの山の幅も足刳り形成部の湾曲部分の幅も大腿部の周方向に延びる必要があると解される。しかるに,人体の「前側のみ」を対象として構成要件F及びGの「湾曲(部分)」を
特定した場合には,特定された「湾曲(部分)」の幅は大腿部の周方向に延びず,構成要件Gの上記技術的意義は存在しなくなる。
(エ)

したがって,仮に構成要件Gの上記技術的意義が把握され,これに伴い構
成要件Fの技術的意義も把握されるとした場合でも,人体の「前側のみ」を対象として「足刳り形成部の湾曲深さ」を特定するとこれらの技術的意義は存在しなくなる。したがって,本件明細書に,人体の「前側のみ」を対象として「足刳り形成部の湾曲深さ」を特定することがサポートされているとはいえない。オ
小括

以上のとおり,この点に関する本件審決の判断は誤りである。


「足刳り形成部の湾曲部分の幅」について


前記のとおり,【0014】の記載からすれば,「足刳り形成部24」と
「後身頃14」に形成された「足刳り形成部25」とが連続することにより形成された湾曲部の半分程度が人体の前面側に存在することが看取できるにすぎないのであって,本件審決の認定は誤りである。
また,本件審決は,「足刳り形成部」における「前」「後」は,その大部分が人体の前側あるいは後側に存在することを示すものであるとするけれども,前記のとおり,そのような解釈は誤りである。

本件審決は,本件明細書の「足刳り前部24,25」は,本件発明1の「足
刳り形成部の湾曲部分の幅」に係る「足刳り形成部」に対応していると認定しているものと思われるけれども,文言上,本件発明1の「足刳り形成部の湾曲部分の幅」は,「足刳り前部の湾曲部分の幅」ではなく,両者が必ずしも同一であるとは解釈されない。また,前記のとおり,構成要件Gの技術的意義はなく,構成要件Gによる課題解決のための作用機序も,本件明細書に記載も示唆もされていない。そうすると,当業者が,「足刳り前部24,25の湾曲部分の幅」をw2として特定する本件明細書の開示に接した場合,本件発明1の「下肢用衣料」であれば,「足刳り前部24,25の湾曲部分の幅」である「w2」の範疇に収まらない範囲
で「足刳り形成部の湾曲部分の幅」を特定しても,本件発明1の課題を解決できることを認識することができるとは認められないから,請求項1の記載はサポート要件に適合しない。

小括

以上より,この点に関する本件審決の判断は誤りである。
〔被告らの主張〕


「前記足刳り形成部の前側の湾曲深さ」について


ここでの問題は,「本件発明1における『前』や『後』の呼称は,その全て
の構成が人体の前側あるいは図2の背面図に画かれた部分である後側にのみ存在するものを指す呼称」といえるかどうかという点であるが,最終的には本件明細書の記載に照らして解釈するのが妥当である。その上で本件審決は判断したものであり,原告らの主張は失当である。

本件明細書【0014】には,「両脇」とは記載されているが,これが「前
後を区画する境界」とはされていない。衣料の分野において「脇」とは漠然とした言葉であり,人体の前後とは直接関係しない。「前身頃」及び「後身頃」の意味内容は,第一義的には,本件明細書の記載に基づいて判断するのが妥当であり,本件審決は,本件明細書の記載に照らして認定判断したものである。

本件発明1は,股関節の屈伸運動が円滑に行われ,運動に適した下肢用衣料
を提供することを目的としており(本件明細書【0006】),主に大腿部の前面での課題の解決を図るものである。
したがって,仮に人体を正確に前後に区画できたと仮定した場合の「前側のみ」を対象として「足刳り形成部の湾曲(部分)」及びそれと対応する「大腿部パーツの山」を特定し,そこで構成要件F及びGを充足する場合,当業者は,発明の課題を解決できることは容易に認識し得る。

原告らは,構成要件Gの技術的意義を誤って理解している。構成要件Gが意
味するのは,着用時の伸びた状態で更に大腿部を屈曲した場合の追加的な伸びに対
する「余裕」ないし「ゆとり」のことである。


「足刳り形成部の湾曲部分の幅」について


原告らによる本件明細書【0014】の記載の理解が誤っていることは前記
のとおりである。

特許請求の範囲における文言と発明の詳細な説明における文言とが一致して
いないというだけで,両者を別異に解さなければならない理由にはならない。また,本件発明1の構成要件Gの技術的意義は存在しないなどとする原告らの主張が失当であること,一部に後側を含む場合に発明の課題を解決できるのであれば,仮に人体を前後に正確に区画できたと仮定した場合の「前側のみ」を対象として「足刳り形成部の湾曲(部分)」及びそれと対応する「大腿部パーツの山」を特定し,そこで構成要件F及びGを充足する場合でも,発明の課題を解決できることを容易に認識できることは,いずれも前記のとおりである。

小括

以上のとおり,本件発明1の「足刳り形成部の湾曲部分の幅」につきサポート要件違反とする原告らの主張は失当であり,この点に関する本件審決の認定判断に誤りはない。
6
取消事由6(本件発明2~5に係る新規性及び進歩性判断の誤り)
〔原告らの主張〕
前記1~4のとおり,本件発明1に新規性・進歩性は認められない。そうすると,本件発明2~5についても新規性・進歩性はなく,この点に関する本件審決の判断は誤りである。
〔被告らの主張〕
原告らの主張は,取消事由1~4に理由があることを前提とするところ,これらに理由がないことは前記のとおりである。
したがって,無効理由5~8についての本件審決の認定判断に誤りはない。7
取消事由7(請求項3のサポート要件判断の誤り)

〔原告らの主張〕


本件審決は,転子点bから足刳り形成部25の「湾曲した位置」までの距離
より,転子点bから「足刳り形成部25の人体最側部の位置」までの距離が近いから,足刳り形成部25の湾曲した位置を「転子点b付近」の上方とすれば,足刳り形成部25の人体最側部の位置を「転子点b付近」と呼ぶことができることは,本件明細書から明らかとするけれども,その根拠となる本件明細書の記載を具体的に示していない。また,「付近」の定義も本件明細書には見当たらない。そもそも,足刳り形成部25の「湾曲した位置」と「足刳り形成部25の人体最側部の位置」は,どちらかといえば左右方向に大きく離れ,上下方向にはそれほど大きく離れていないことなどから,前者を「転子点b付近」の上方とすれば,後者も同様に「転子点b付近」の上方と呼ぶ方が「転子点b付近」と呼ぶより自然である。本件審決は,この点について極めて不自然な解釈を行っている。⑵

請求項3の「身体の転子点付近から腸骨棘点付近を通り股底点脇付近に至る
湾曲した足刳り部分」における「転子点付近」は,転子点の上方のみではなく,下方も含み得るところ,転子点bの上方を通っている足刳り形成部25を,転子点bの下方を通るようにすると,足刳り形成部25自体やこれに接続される足刳り形成部24等の延び方が大きく変わるものと考えられる。
また,請求項3における「前記足刳り形成部」と「足刳り部分」との関係性は不明であり,本件発明3が解決しようとする課題自体も不明である。そうすると,当業者が,本件明細書の開示に接した場合,本件発明3の「下肢用衣料」であれば,足刳り形成部25を転子点bの下方に通した場合でも本件発明3の課題を解決できることを認識することができるとは認められず,請求項3の記載はサポート要件に適合しない。


小括

以上より,この点に関する本件審決の判断は誤りである。
〔被告らの主張〕



転子点bを基準とした場合,「足刳り形成部25の人体最側部の位置」まで
の距離が足刳り形成部25の「湾曲した位置」までの距離よりも短いことは明らかであり,これをもって「足刳り形成部25の人体最側部の位置」までの距離を「転子点b付近」と呼んで差支えない。


請求項3の「転子点付近」の語が他の構成要件を充足する範囲に内在的に限
定されることは,特許請求の範囲の内的関係から明らかである。そして,請求項3が請求項1を限定するものである以上,他の構成要件を全て充足する範囲で足刳り形成部25を転子点bの下方に通しても,発明の目的の達成に影響しないことは容易に理解し得る。
「前記足刳り形成部」と「足刳り」との関係性については,足刳り形成部のうち,身体の転子点付近から腸骨棘点付近を通り股底点脇付近に至る湾曲した部分を特に足刳り部分と称していることは,本件明細書の記載自体から明らかである。また,請求項3に係る発明が解決しようとする課題については,請求項ごとに解決すべき課題を発明の詳細な説明に記載しなければならないものではない。⑶

以上のとおり,本件発明3についてサポート要件違反とする原告らの主張は
失当であり,この点に関する本件審決の認定判断に誤りはない。
第4

当裁判所の判断

1
本件各発明について



本件各発明に係る特許請求の範囲は,前記第2の2のとおりである。また,
本件明細書には,以下の記載がある(なお,図面は別紙本件明細書図面目録参照)。ア
技術分野

この発明は,大腿部を覆う形状のインナーやスポーツウエア等の下肢用衣料に関する。(【0001】)

背景技術

従来,市場に出ているスパッツ類の大半は,下胴部と大腿部が一枚の布で繋がっており,運動性は素材の伸びに頼っているものが大半である。その中で,大腿部の
動きを阻害しない工夫としては,高い伸縮性を有する素材を使用する程度であった。(【0002】)
その他,例えば所定形状のパーツを縫い合わせて着用感を良好なものにするスパッツとして,特許文献1の運動用被服がある。この運動用被服は,着用者のウエスト周辺と脚部等を確実にサポートし,筋肉を保護すると共に運動能力を向上させるものである。(【0003】)

発明が解決しようとする課題

上記従来のスパッツ類は,基本が直立姿勢に合わせたパターンであるため,これら個々の工夫では股関節の屈曲運動への追従は不十分であった。特に,前屈みになる姿勢をとったり,足を前に上げたりしゃがんだりして,股関節を大きく屈伸することが多いスポーツ種目では,より身体の動きに対応した形状が求められていた。(【0004】)
また,従来のスパッツ類は,臀部には生地が伸びて張力が発生して圧力がかかり,大腿部にも押さえられる方向に力がかかり,運動を妨げる抵抗が身体に生じていた。その他,足刳り部を切り替えて下胴部と大腿部を別々のパーツとし,繋ぎ合わせた製品も提案されているが,伸縮性や運動追従性が十分なものではなかった。同様に,特許文献1の運動用被服も,股関節を大きく屈伸する際の運動追従性等を向上させるものではなかった。(【0005】)
この発明は,上記従来の技術の問題点に鑑みてなされたものであり,股関節の屈伸運動が円滑に行われ,運動に適した下肢用衣料を提供することを目的とする。(【0006】)

課題を解決するための手段

本発明は,大腿部が挿通する開口部の湾曲した足刳りとなる足刳り形成部を備えた前身頃と,この前身頃に接続され臀部を覆うとともに前記前身頃の足刳り形成部に連続する足刳り形成部を有した後身頃と,前記前身頃と前記後身頃の各足刳り形成部に接続され大腿部が挿通する大腿部パーツとを有し,前記前身頃の足刳り形成
部の湾曲した頂点が腸骨棘点付近に位置し,前記後身頃の足刳り形成部の下端縁は臀部の下端付近に位置し,前記大腿部パーツの山の高さを前記足刳り形成部の前側の湾曲深さよりも低い形状とし,前記足刳り形成部の湾曲部分の幅よりも前記山の幅を広く形成し,取り付け状態で筒状の前記大腿部パーツが前記前身頃に対して前方に突出する形状となる下肢用衣料である。(【0007】)

発明の効果

本発明の下肢用衣料は,大腿部を屈曲した姿勢に沿う立体形状に作られ,股関節の屈伸運動に対して生地の伸張が少なく,生地にかかる張力が小さい状態で運動を行うことができる。これにより,屈伸運動等の際に生地による抵抗が少なく,体にかかる負担が少なく円滑に運動することができる。(【0011】)⑵

本件各発明の特徴

上記⑴認定に係る記載によれば,本件各発明は,以下のとおりのものであると認められる。

本件各発明は,大腿部を覆う形状のインナーやスポーツウエア等の下肢用衣
料に関する(【0001】)。

従来,市場に出ているスパッツ類の大半は,下胴部と大腿部が一枚の布で繋
がっており,運動性は素材の伸びに頼っているものが大半である。その中で,大腿部の動きを阻害しない工夫としては,高い伸縮性を有する素材を使用する程度であった(【0002】)。上記従来のスパッツ類は,基本が直立姿勢に合わせたパターンであるため,これら個々の工夫では股関節の屈曲運動への追従は不十分であった。特に,前屈みになる姿勢をとったり,足を前に上げたりしゃがんだりして,股関節を大きく屈伸することが多いスポーツ種目では,より身体の動きに対応した形状が求められていた(【0004】)。また,従来のスパッツ類は,臀部には生地が伸びて張力が発生して圧力がかかり,大腿部にも押さえられる方向に力がかかり,運動を妨げる抵抗が身体に生じていた(【0005】)。本件各発明は,上記従来の技術の問題点に鑑みてなされたものであり,股関節の屈伸運動が円滑に行われ,
運動に適した下肢用衣料を提供することを目的とする(【0006】)。ウ
本件各発明は,大腿部が挿通する開口部の湾曲した足刳りとなる足刳り形成
部を備えた前身頃と,この前身頃に接続され臀部を覆うとともに前記前身頃の足刳り形成部に連続する足刳り形成部を有した後身頃と,前記前身頃と前記後身頃の各足刳り形成部に接続され大腿部が挿通する大腿部パーツとを有し,前記前身頃の足刳り形成部の湾曲した頂点が腸骨棘点付近に位置し,前記後身頃の足刳り形成部の下端縁は臀部の下端付近に位置し,前記大腿部パーツの山の高さを前記足刳り形成部の前側の湾曲深さよりも低い形状とし,前記足刳り形成部の湾曲部分の幅よりも前記山の幅を広く形成し,取り付け状態で筒状の前記大腿部パーツが前記前身頃に対して前方に突出する形状となる下肢用衣料である(【0007】)。エ
本件各発明の下肢用衣料は,大腿部を屈曲した姿勢に沿う立体形状に作られ,
股関節の屈伸運動に対して生地の伸張が少なく,生地にかかる張力が小さい状態で運動を行うことができる。これにより,屈伸運動等の際に生地による抵抗が少なく,体にかかる負担が少なく円滑に運動することができる(【0011】)。2
取消事由1(引用発明1~3に基づく新規性及び進歩性判断の誤り)につい


引用発明1~3及びこれと本件発明1との対比


引用発明2並びにこれと本件発明1との一致点及び相違点については,本件

審決の認定につき当事者間に争いがない。よって,それぞれ前記第2の3⑵のとおりのものと認める(ただし,原告らは,各相違点につき,実質的な相違点ではない旨主張するところ,この点に関しては後述する。)。
なお,原告らは,相違点1-3につき,争いがないといいながら,「上部のごく一部でわずかに狭く,それ以外で広く」として,より厳密な認定がされるべきであると主張する。しかし,原告らの上記主張は,主観的評価の加味された表現であり,必要性も認められないから,上記主張は採用し得ない。

引用発明3並びにこれと本件発明1との一致点及び相違点,引用例1の縫製
情報が引用例2のそれと同一である場合の引用発明1並びにこれと本件発明1との一致点及び相違点についても,本件審決の認定につき当事者間に争いがないから,いずれも上記アと同様である。


新規性について


相違点1-3は,「本件発明1は,『足刳り形成部の湾曲部分の幅』よりも
『山の幅』を全ての箇所で『広く形成』したものであるのに対し,引用発明2は,『足刳り形成部の湾曲』の幅よりも『脚口パーツ18』の『山40aの幅』が『広い箇所と狭い箇所を形成し』たものである点」であるところ,これは,本件発明1の構成のうち構成要件Gに関するものである。

原告らは,相違点1-3は実質的な相違点ではなく,本件発明1は引用発明
2であり,新規性に関する本件審決の判断は誤りである旨主張する。しかし,引用発明2は,「足刳り形成部の湾曲部分」の幅よりも「脚口パーツ」の「山の幅」の方が広い箇所と狭い箇所とがそれぞれ形成されている点で,前者よりも後者の方が全ての箇所で「広く形成」されている本件発明1と相違している。そして,後記のとおり,構成要件Gは周知技術とも設計的事項ともいうことができないことにも鑑みると,相違点1-3は実質的な相違点というべきである。したがって,本件発明1は引用発明2と同一であるとは認められない。この点は,引用発明1及び3についても同様であるから,原告らの主張は採用し得ない。⑶

相違点1-3の容易想到性について


原告が副引用例として主張する甲5,11~15及び22には,それぞれ以
下の記載がある。なお,甲11,13,14(引用例4~6)の各記載は,それぞれ後記3⑴ア,4⑴ア及び5⑴アのとおりである。(ア)

甲5

本発明に関するスポーツ用パンツは,着用者の股部から側胴部にかけての骨格による身体の凸凹形状に着目し,主に身体のくぼんだ箇所に沿って位置するように縫製ラインを形成し,前記縫製ラインを中心に生地と身体との隙間がなく,フィット
性が従来のものよりも向上し,動的状態においてもずり落ちが極端に少ないスポーツ用パンツである。(【0007】)
(イ)

甲12

本考案では,上記の問題点を解決するために,前身,脇身,後身中央布,脚部布及び股部布で形成されたガードルにおいて前身及び脇身下辺部の凹状曲線を形成する部位の長さに対して,脚部布上辺の凸状曲線を形成する部位の長さを短くなるようにして太腿の付け根部に生地の余裕を設けるようにしたものである。(【0004】)
(ウ)

甲15

本考案によるガードルでは,布パターンとしては,左右のバック布をそれぞれ上部バックピースと下部バックピースとに分け,かつこの両バックピースをつなぎ合わせたときに,両者の縫い合される端縁が互いに他のバックピース上に重なってヒップ部分を形成するように裁断し,この縫い合せ端縁を互いに縫い合せるものである。(【0005】)
更に,左右のフロント布をそれぞれ上部フロントピースと下部フロントピースとに分け,かつこの両フロントピースをつなぎ合わせたときに,布パターンとしては,両者の縫い合される端縁がその中央部では若干間隙を置いて対するように裁断し,この縫い合せ端縁を互いに縫い合せる。(【0007】)
(エ)

甲22

本考案になるシヨートガードルまたはボデイスーツに於いては,腹部片1を,その前中心下方部から股部へ向つて舌状に延長させてその延長片を以つて股部片6と成し,腹部片1の両側に接合する側腹部片2から臀部片3にかけての両裾部分を,側腹部片2の前中心下方部から鼠経溝に沿うように斜上方に延びて脇中心に至る切替線a,脇中心から臀部側部の下方部を通るように斜下方に延びて臀部片3の後中心下方部に至る切替線bで切替えて,その各裾部分に,脇中心の接ぎ線cを境にして側腹部寄りと臀部寄りとに区分され且生地を2つ折りに成した2つの裾部片4,
5を,夫々の折り目側の辺が裾線を形成し,互いに重なり合う側の辺が縫合辺と成すように配して,側腹部寄りの裾部片4と側腹部片2とを,夫々緩やかに円弧状に陥んだ形状に形成した縫合片14,15で以つて縫合し,臀部寄りの裾部片5と臀部片3とを,夫々緩やかに円弧状に膨らんだ形状に形成した縫合片12,13で縫合し,且側腹部寄りの裾部片4を,その前中心下方部から股部へ向つて2つ折りのまま延長させてその延長片を以つて股部片6の縁片6aと成したシヨートガードルまたはボデイスーツを特徴としている。(1頁2欄23行目~2頁3欄19行目)イ
もっとも,甲5,11~15及び22のいずれにも,本件発明1の「足刳り
形成部の湾曲部分の幅」と「大腿部パーツ」の「山の幅」との広狭関係に着目した記載に相当する記載も示唆も見当たらない。そうである以上,引用発明2において,甲5,11~15及び22のいずれかに記載ないし示唆された事項を適用しても,相違点1-3に係る本件発明1の構成(構成要件G)とすることはできない。また,構成要件Gが周知技術であることを認めるに足りる証拠もない。さらに,上記のとおり構成要件Gは周知技術と認められず,また,これが技術常識であることをうかがわせるに足りる証拠もない以上,構成要件Gが,当業者が必要に応じて適宜選択し得る選択肢に含まれるとは認められず,引用発明2において,相違点1-3に係る構成(構成要件G)とすることが設計的事項であるということもできない。

以上より,引用発明2において,相違点1-3に係る本件発明1の構成(構
成要件G)とすることは,当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。この点は,引用発明1及び3についても同様である。

(ア)

原告らの主張について
原告らは,相違点1-3に係る本件発明1の構成(構成要件G)に技術的
意義は存在せず,単なる設計的事項以上のものということはできないのであるから,この点に関する本件審決の判断は誤りであるなどと主張する。
構成要件Gに関し,本件明細書【0020】には,「足付根部40の山40aの
縁部は,前身頃12の足刳り形成部24と等しい長さに形成され,足刳り形成部24に縫い合わされる部分である。ここで,足付根部40の,足刳り形成部24,25に取り付ける山40aの高さをh1とし,足刳り形成部24,25の湾曲深さをh2とすると,h1はh2よりも低い形状である。また,足付根部40の山の幅をw1とし,足刳り前部24,25の湾曲部分の幅をw2とすると,互いに縫い付けられる同じ位置間で,w1はw2よりも広い形状となっている。」との記載がある。ここで,h1,h2,w1,w2の相互の関係につき,仮に「h1=h2」とし,互いに縫い付けられる同じ位置間で「w1=w2」として足付根部40と前身頃及び後身頃とを縫い付けた場合,足付根部40は,前身頃12及び後身頃14に対して,下肢用衣料としての外側にも内側にも突出せず,同じ平面になることは,図3を参照すれば明らかである。そうすると,構成要件F及びGが規定するように,「h1<h2」とし,互いに縫い付けられる同じ位置間で「w1>w2」とすれば,足付根部40は,前身頃12及び後身頃14に対して,下肢用衣料としての外側ないし内側のいずれかに突出することも明らかである。そして,そのように縫い付けられた場合に,足付根部40が下肢用衣料としての外側に突出することを特定しているのが,本件発明1の構成要件Hであると理解される。
以上より,本件発明1は,構成要件Gと構成要件Fとによって構成要件Hを可能とし,これら構成要件F~Hによって,「本発明の下肢用衣料は,大腿部を屈曲した姿勢に沿う立体形状に作られ,股関節の屈伸運動に対して生地の伸張が少なく,生地にかかる張力が小さい状態で運動を行うことができる。これにより,屈伸運動等の際に生地による抵抗が少なく,体にかかる負担が少なく円滑に運動することができる。」(【0011】)との効果を奏するものと理解される。そうすると,相違点1-3に係る本件発明1の構成(構成要件G)に技術的意義が存在しないということはできない。
また,前記のとおり,相違点1-3に係る本件発明1の構成(構成要件G)は甲5,11~15及び22のいずれにも記載されておらず,示唆もなく,構成要件G
が周知技術であることを示す証拠もない。そうである以上,本件特許出願時の公知,周知ないし慣用技術等を考慮しても,引用発明2に基づいて相違点1-3に係る本件発明1の構成(構成要件G)とすることは,当業者が容易に想到し得たこととはいえない。
したがって,この点に関する原告らの主張は採用し得ない。
(イ)

原告らは,そのほかにも容易想到性に関してるる主張するけれども,引用
発明2の構成を本件発明1に近づける形で変更することが引用発明2の技術的思想に合致するか疑問があること,本件発明1において臀部ダーツ等は特許請求の範囲の記載に含まれていないことなどに鑑みると,これらの主張も採用し得ない。⑷

まとめ

以上より,本件審決の引用発明2に基づく新規性及び進歩性の判断に誤りはない。引用発明1及び3に基づく新規性及び進歩性の判断についても同様である。したがって,取消事由1は理由がない。
3
取消事由2(引用発明4に基づく新規性及び進歩性判断の誤り)について


引用発明4について


引用例4には,以下の記載がある。

(ア)

元来人体の脇中心線Bは第3図に示すように鼠径溝と臀溝を結ぶ脚の付け
根を境として逆”く”の字型に屈曲している。/このような人体の体型にあつても従来のガードルはこの人体の体型を重視せず,ガードル形成に当たつては全て脇中心線を直線的に為しているのが普通である。従つて人体に良好に適合しておらず直立時或いは運動時には大腿部前部に不自然な圧迫感を受け着用感に秀れないものであつた。/この考案は叙上の点に鑑み,人体の体型上の特徴に合致するように形成し,従来のガードルの着用感を改善することにある。(1頁16行目~2頁9行目。なお,「/」は改行部分を示す。以下同じ。)
(イ)

即ちこの考案は腰部主体片1と脚部片2とに分離した部片から形成される
ガードルであつて,腰部主体片1の下辺を内方に切欠いて谷形に形成すると共にこ
の腰部主体片1の下辺に対応する脚部片2の上辺を山形に膨出形成し,腰部主体片1と脚部片2の下辺,上辺を縫着するに際して腰部主体片1の下辺の谷底点dから前端点aに至る間と脚部片2の上辺の頂点d’から前端点a’に至る間に夫々ダーツ3,3’を取つて縫着形成してなることを特徴とするガードルAに係るものである。/図中4は臀部中心片,5はフロント片を示す。/このように形成されるこの考案ガードルは第1図にその側面を示すように,脚部は前上りにダーツ3,3’を取つた分だけ傾斜した形態になつて現われ又腰部主体片1の辺ab並びに臀部片4の辺b’cと脚部片2の辺a’c’との縫着線6は人体の鼠径溝から臀溝を結ぶ線と一致する。従つてこの考案ガードルは逆”く”の字型に屈曲せる体型に良好に適合して着用感が自然なものとなり,又脚の付け根部分で切替えられているから運動(特に脚の前挙運動)に対する適応性に秀れ,且つ運動時における裾線のずり上りを解消する。(2頁10行目~3頁13行目)

引用発明4並びにこれと本件発明1との一致点及び相違点については,相違
点2-3を除き,本件審決の認定につき当事者間に争いがない(ただし,原告らは,相違点2-3を除く相違点につき,実質的な相違点ではない旨主張する。)。また,上記各記載をはじめ,引用例4には,本件発明1の「足刳り形成部の湾曲部分」及び「山」に相当する部分の幅に関する具体的な記載はなく,その点に関する示唆もうかがわれない。
そうである以上,引用発明4は,「足刳り形成部の湾曲部分の形状」の幅と「脚部片2」の山の幅との関係は不明というほかないから,本件審決の認定する相違点2-3のとおりの相違点の存在が認められる。
以上より,引用発明4並びにこれと本件発明1との一致点及び相違点については,それぞれ前記第2の3⑶ア~ウのとおりのものと認める。これに反する原告らの主張は採用し得ない。


新規性について


相違点2-3は,「本件発明1は,『足刳り形成部の湾曲部分の幅』よりも
『山の幅』を『広く形成』したものであるのに対し,引用発明4は,『足刳り形成部の湾曲した形状』の幅と,『脚部片2』の山の幅との関係が不明である点」である。

原告らは,相違点2-3は実質的な相違点ではなく,本件発明1は引用発明
4であるなどと主張する。
しかし,引用例4には相違点2-3に係る本件発明1の構成(構成要件G)に関する具体的な記載はなく,また,技術常識等を参酌しても,これが記載されているに等しいということはできず,かつ,その示唆もうかがわれない。そして,相違点2-3は,本件発明1の足刳り形成部の湾曲部分及び山の形状や構造に関するものであるところ,前記のとおり,構成要件Gは周知技術とも設計的事項ともいうことができないことに鑑みると,これをもって形式的な相違点ということはできず,実質的な相違点であることは明らかである。
したがって,本件発明1は,引用発明4と同一であるとは認められない。この点に関する原告らの主張は採用し得ない。


相違点2-3の容易想到性について


相違点2-3に係る本件発明1の構成(構成要件G)につき,引用発明1~
3がいずれもこれを備えておらず,また,甲5,12~15及び22のいずれにも記載されておらず,示唆もないことは,前記のとおりである。
そうすると,引用発明4において,引用発明1~3のいずれかを適用し,又は,甲5,12~15及び22のいずれかに記載された事項を適用しても,相違点2-3に係る本件発明1の構成(構成要件G)とすることはできない。また,構成要件Gが周知技術であるとは認められず,引用発明4において,相違点2-3に係る本件発明1の構成(構成要件G)とすることが設計的事項であるとはいえないことも,前記と同様である。

小括

したがって,引用発明4において,相違点2-3に係る本件発明1の構成(構成
要件G)とすることは,当業者が容易に想到し得たものとはいえない。ウ
(ア)

原告らの主張について
原告らは,相違点2-3に係る本件発明1の構成(構成要件G)に技術的
意義は存在せず,単なる設計的事項以上のものということはできないから,本件発明1は,当業者であれば引用発明4に基づいて容易に想到し得るなどと主張する。しかし,相違点2-3に係る本件発明1の構成は相違点1-3に係る本件発明1の構成と同じであるところ,構成要件Gに技術的意義が存在しないといえないことは前記と同様であり,引用発明4において,相違点2-3に係る本件発明1の構成とすることが設計的事項であるということもできない。
したがって,本件発明1は引用発明4に基づいて当業者が容易に想到し得たものとはいえない。
(イ)

原告らは,本件発明1は,当業者は,引用発明4及び5又は6とに基づい
て容易に想到し得るなどと主張するけれども,前記のとおり,相違点2-3に係る本件発明1の構成(構成要件G)は,引用発明5及び6のいずれにも記載されておらず,示唆もない。そうである以上,本件発明1は,当業者が引用発明4及び5又は6とに基づいて容易に想到し得たものとはいえない。
(ウ)


以上のとおり,この点に関する原告らの主張はいずれも採用し得ない。まとめ

以上より,本件審決の引用発明4に基づく新規性及び進歩性の判断に誤りはない。取消事由2は理由がない。
4
取消事由3(引用発明5に基づく新規性及び進歩性判断の誤り)について


引用発明5について


引用例5には,以下の記載がある(なお,図面は別紙引用例5図面目録記載
参照)。
(ア)

この発明はパンテイガードル・パンテイストツキングのようなフアンデー
ション製品において,シヨーツラインに沿つた切替線を設けることにより,完全に
立体的な性質を有するようにしたものに関する。(1頁右下欄2行目~6行目)(イ)

この発明は上記の諸点に鑑みて案出されたものであつて,その特徴とする
ところは,編地等の伸縮性を有する布地からなるパンテイガードル並びにその類似品であつて,該製品は腰部布と脚部布並びにヒツプアツプ当布等から構成され,上記腰部布と脚部布が人体屈曲時の形態に沿う横の切替えで上下に分割されかつその部分が接合されると共に,腰部布とヒツプアツプ当布との接合部分は人体臀部稜線に沿う縦の切替えで分割されかつその部分が接合されると共に,腰部布,脚部布並びにヒツプアツプ当布とが上記縦・横切替え部分で接合されることにより,背柱線を中心に左右臀部に適合する膨み部と,この膨み部と脚部との境が前方に入り込み状として人体臀溝に位置しかつ脚部全体が前方に傾斜した状態で立体形状を保持する点にあり,従つて,この発明によればヒツプアツプ効果が確実に達成され,しかも,身体の脚部が前傾状態である点をも充分に考慮し,加えて,太腿部の寸法問題をも一挙に解消でき,フアンデーシヨン本来の目的を満足できる新しいガードル・並びにその類似品が提供できたのである。」(2頁右上欄15行目~左下欄15行目)
(ウ)

腰部布(1)と脚部布(2)は横方向の切替え線(1a)(2a)によつ
て上・下に分割され,その切替え線(1a)(2a)はそれぞれ人体屈曲時の形態に沿つている。即ち,切替え線(1a)(2a)の後部接合点をそれぞれA1,A2
とすると,このA1,A2点は第2図(Ⅱ)に示す臀溝線(B)の概ね中央に位置
し,ここを出発点として,人体屈曲時に画かれる関節部の線(C)(第2図参照)に沿つて,横方向に切替えられ,前身頃部分において,腰部布(1)の切替え線(1a)が深いカーブ(R)とされ,脚部布(2)の切替え線(2a)が緩いカーブ(R1)とされ,両者の部分に空間(D)が形成されて切替え線(2a)の長さに不足部分があるようにしてあり,これを,切替え線(1a)(2a)の前股部での接合部E1,E2点となるようにして補正している。(2頁右下欄2行目~16行目)

(エ)

この発明は以上の通りであつて,後部における腰部布とヒツプアツプ当布
並びに脚部布との三者の接合部分が,人体臀溝部の概ね中央部において対応して固定状に位置し,かつ,この接合部が従前例のものより大きく前に位置(従前例は点Q)し,脚部がやや前傾状になるように,要するに立体処理されたものであるから,ヒツプアツプ効果が倍加されるし,脚部が前傾状であるために身体の形態的な特徴をシルエツトとして出し得,これによつて,人学工学上優れており,いかなる運動姿勢にも無理なくフイツトし,力のバランスがよくなつて,着用時における脚部のずれ等,着崩れ現象を呈することがなく,立体処理しているので如何なる体型の人にでも適合できて,フアンデーシヨン本来の目的である造型性のバリエーシヨン表現を充足できるのであり,太腿部の寸法処理についても一挙に解消できて,従前例が専ら,縦方向の切替え線と素材のストレツチ性によつて平面的にデザイン処理していたものを,人体の屈曲した時の形態に沿う横の切替えによつて,身体にマツチしたバランスを持つことができたものとして,誠に斬新でかつ,フアンデーション業界では類を見ないものとしてその価値は著大である。(3頁右上欄9行目~左下欄11行目)

引用発明5並びにこれと本件発明1との一致点及び相違点については,相違
点3-3を除き,本件審決の認定につき当事者間に争いがない(ただし,原告らは,相違点3-3を除く相違点につき,実質的な相違点ではない旨主張する。)。また,上記各記載をはじめ,引用例5には,本件発明1の「足刳り形成部の湾曲部分」及び「山」に相当する部分の幅に関する具体的な記載はなく,その点に関する示唆もうかがわれない。
そうすると,引用発明5は,「足刳り形成部」の「切替え線(1a)」の「深いカーブ(R)」の幅と「脚部布2」の「緩いカーブ(R1)」の幅との関係は不明というほかないから,本件審決の認定する相違点3-3のとおりの相違点の存在が認められる。
以上より,引用発明5並びにこれと本件発明1との一致点及び相違点については,
それぞれ前記第2の3⑷ア~ウのとおりのものと認める。これに反する原告らの主張は採用し得ない。


新規性について


原告らは,引用発明5の「足刳り形成部」の「切替え線(1a)」の「深い
カーブ(R)」の幅と「脚部布2」の「緩いカーブ(R1)」の幅との関係は構成要件G(相違点3-3に係る構成)と同様であり,相違点3-3は実質的な相違点ではなく,本件発明1は引用発明5である旨主張する。上記関係の根拠として,原告らは,甲38において,引用例5の第1図を拡大し,その寸法を計測することにより,上記関係を求めている。

しかし,一般的に,特許文献では,図面は設計図等からコピーしたものであ
るとは限らず,特徴をわかりやすくするために部分的に誇張したもの等も含まれることから,目盛り等の相対的な大小関係や位置関係を保持することを表す何らかの記載がない場合,図面から計測した値は,特許文献に記載された技術的思想を正確に表すものとは必ずしもいえない。よって,原告らの上記主張はその前提において根拠を欠くものというべきである。
また,引用例5の記載(上記⑴ア(ウ))及び第1図を参照すると,腰部布(1)の切替え線(1a)の深いカーブ(R)と脚部布(2)の切替え線(2a)の緩いカーブ(R1)とが,ともに上に凸の部分を持つ曲線であり,かつ,脚部布(2)の切替え線(2a)の緩いカーブ(R1)の方が,腰部布(1)の切替え線(1a)の深いカーブ(R)よりも曲線の曲がり方が緩い,すなわち,曲率半径が大きいことから,脚部布(2)と腰部布(1)とを接合した場合,脚部布(2)の切替え線(2a)の緩いカーブ(R1)の幅が,腰部布(1)の切替え線(1a)の深いカーブ(R)の幅より大きくなる部分があることは明らかである。もっとも,例えば,腰部布(1)の切替え線(1a)の深いカーブ(R)と,脚部布(2)の切替え線(2a)の緩いカーブ(R1)とが,ともに上に凸で,かつ,変曲点のない曲線である場合,結果的に深いカーブ(R)と緩いカーブ(R1)とが構成要件Gを満た
す可能性もあるものの,引用例5には,腰部布(1)の切替え線(1a)の深いカーブ(R)と脚部布(2)の切替え線(2a)の緩いカーブ(R1)とが,ともに上に凸で,かつ,変曲点のない曲線であることを明示又は示唆する記載を見出すことはできない。すなわち,腰部布(1)の切替え線(1a)の深いカーブ(R)と脚部布(2)の切替え線(2a)の緩いカーブ(R1)とが,ともに上に凸の部分を持つ曲線であり,かつ,脚部布(2)の切替え線(2a)の緩いカーブ(R1)の方が,腰部布(1)の切替え線(1a)の深いカーブ(R)より曲率半径が大きいこと以外については,腰部布(1)の切替え線(1a)の深いカーブ(R)と脚部布(2)の切替え線(2a)の緩いカーブ(R1)とが,それぞれどのような曲線であるのか不明確である。
このため,引用発明5において,脚部布(2)の切替え線(2a)の緩いカーブ(R1)の幅が,腰部布(1)の切替え線(1a)の深いカーブ(R)の幅より大きくない部分があり得ることは否定できない。
以上より,引用例5の記載から,当該文献に構成要件Gが実質的に開示されているということはできず,相違点3-3は実質的な相違点である。

したがって,本件発明1は,引用発明5と同一であるとは認められない。こ
の点に関する原告らの主張は採用し得ない。


相違点3-3の容易想到性について


引用発明1~3がいずれも相違点3-3に係る本件発明1の構成(構成要件
G)を備えていないこと,甲5,11,12,14,15及び22のいずれにも当該構成について記載されておらず,示唆もないことは,前記と同様である。そうである以上,引用発明5において,引用発明1~3のいずれかを適用し,又は甲5,11,12,14,15及び22のいずれかに記載された事項を適用しても,相違点3-3に係る本件発明1の構成(構成要件G)とすることはできない。また,構成要件Gが周知技術ではないこと,引用発明5において,相違点3-3に係る本件発明1の構成(構成要件G)とすることが設計的事項であるとはいえな
いことも,前記と同様である。

小括

したがって,引用発明5において,相違点3-3に係る本件発明1の構成(構成要件G)とすることは,当業者が容易に想到することができたものとはいえない。ウ
原告らの主張について

原告らは,相違点3-3が実質的な相違点であるとしても,当該相違点に係る本件発明1の構成に技術的意義は存在せず,単なる設計的事項以上のものということはできないから,本件発明1は,当業者であれば引用発明5に基づいて容易に想到し得るものであるなどと主張する。
しかし,相違点3-3に係る本件発明1の構成は相違点1-3に係る本件発明1の構成と同じであるところ,構成要件Gに技術的意義が存在しないとはいえず,引用発明5において,相違点3-3に係る本件発明1の構成とすることが設計的事項であるともいえないことは,前記のとおりである。
よって,本件発明1は,引用発明5に基づいて当業者が容易に想到し得たものとはいえない。この点に関する原告らの主張は採用し得ない。


以上より,本件審決の引用発明5に基づく新規性及び進歩性の判断に誤りは
ない。取消事由3は理由がない。
5
取消事由4(引用発明6に基づく新規性及び進歩性判断の誤り)について


引用発明6について


引用例6には,以下の記載がある(なお,図面は別紙引用例6図面目録参
照)。
(ア)

本発明はパンテイガードル・パンテイストツキングのようなフアンデーシ
ヨン製品において,脚部付け根及び臀溝に沿うように工夫された特殊なカツテイングによる横の切替線を設けると共に臀部の左右2山の膨み部を設けることにより,完全に立体的な性質を有するようにしたものに関する。(1頁2欄14行目~19行目)

(イ)

本発明は上記の諸点に鑑みて案出されたものであつて,その特徴とすると
ころは,編地等の伸縮性を有する左右一対の腰部布,左右一対の脚部布並びに左右一対のヒツプ布および襠布から構成されたパンテイガードル並びにその類似品であつて,前記各腰部布の下端縁は前身頃部分において上方に深い凹状のカーブとされた横の切替線であり,各腰部布の後端縁は人体臀部稜線に沿う凸状のカーブとされた縦の切替線であり,前記各脚部布の上端縁は前身頃部分において前記腰部布の凹状カーブに対して上方に緩い凸状のカーブとされた横の切替線であり,前記各腰部布と各脚部布の凹凸状カーブは展開時において三ケ月形の空間が形成され,更に,各ヒツプ布の腰部布と対応する一側縁は前記腰部布の凸状カーブと合致する凸状のカーブとされた縦の切替線であり,各ヒツプ布の縦方向の他端縁同士が人体背柱線上で互いに接合され,各ヒツプ布の凸状カーブとされた一側縁がそれぞれ対応する腰部布の凸状カーブとされた後端縁に接合され,かつ,左右一対の腰部布の前端縁側を互いに接合して背柱線を中心に左右臀部に適合する2山の膨み部を後部に有する腰部が形成され,更に,前記腰部布の下端縁のそれぞれが対応する脚部布の上端縁にそれぞれ接合され,かつ,脚部布の前後端縁を互いに接合して左右一対の脚部が形成され,腰部布,脚部布およびヒツプ布の後部接合点のそれぞれが人体臀溝の略中央部において前方入り込み状とされ,かつ,左右脚部の全体がそれぞれ前方に傾斜した立体形状に保形されているとともに,左右一対の腰部布と脚部布の前股部および左右一対のヒツプ布と脚部片の後股部に連成する股部に襠布が接合されている点にある。
従つて,本発明によればヒツプアツプ効果が確実に達成され,しかも,身体の脚部が前傾状態である点をも充分に考慮し,加えて,太腿部の寸法問題を脚部布の大小変化を設けることによつて一挙に解消できると共に左右臀部を縦方向の切替により2山の膨み部としてあるので,これらの構成の相乗効果も手伝つて一層ヒツプアツプ効果が顕著なものとなり,無理な圧迫感も伴わず,自然の身体の動きにも無理なく即応できるフアンデーシヨン本来の目的を満足できる新しいガードル,並びに
その類似品が提供できたのである。(2頁4欄1行目~43行目)(ウ)

前記各腰部布6の下端縁10は前身頃部分において上方に凹状の深いカー
ブ11とされた横の切替線であり,各腰部布6の後端縁12は人体臀部稜線に沿う凸状のカーブ15とされた縦の切替線であり,前記各脚部布7の上端縁13は前身頃部分において前記腰部布6の凹状カーブ11に対して上方へ緩い凸状のカーブ14とされた横の切替線であり,腰部布6の下端縁10の凹状カーブ11と脚部布7の上端縁13の凸状カーブ14は展開されたとき三ケ月形の空間即ち第1図鎖線Dが形成され,この部分を互いに縫着等によつて接合され,その接合線はそれぞれ人体屈折時の形態に沿つている。
即ち,横の切替線つまり腰部布6の下端縁10と脚部布7の上端縁13との後部接合点をそれぞれA1,A2とすると,このA1,A2点は第2図Ⅱで示す臀溝線Bの概ね中央に位置し,この後部接合点A1,A2を出発点として人体屈折時に画かれる第2図で示す関節部Cに沿つて横方向に切替えられ,前身頃部分において腰部布6の下端縁10が凹状の深いカーブ11とされ,脚部布7の上端縁13が凸状の緩いカーブ14とされ,腰部布6の下端縁10におけるカーブ終点E1と脚部布7の上端縁13におけるカーブ終点E2を前股部で接合するようにされている。(3頁5欄16行目~40行目)
(エ)

本発明は斯る構成を有するため,例えば第1図に示されるように展開され
た布帛を縫着した製品は腰部布の凹状を示す深いカーブと脚部布の凸状を示す緩いカーブが一体に縫着されると共にそれらの後部接合点A1,A2が臀溝に位置するように縫着されており,この結果第5図に示すガードルの如く脚部全体が前方にやや傾斜し,接合部Q1が前方に入り込み状となつて人体臀溝にくい込み,人体の自然な状態とよくマツチする上に,人間の主要な運動である前傾運動に程よく適応できるものである。(4頁7欄9行目~19行目)
(オ)

この発明は以上の通りであつて,後部における腰部布とヒツプ布並びに脚
部布との三者の接合部分が,人体臀溝部の概ね中央部において対応して固定状に位
置し,かつ,この接合部が従前例のものより大きく前に位置(従前例は点Q)し,脚部がやや前傾状になると共に左右臀部が2つの同形同大の2山からなる膨み部を形成するもので,これらの構成の相乗作用により,要するに立体処理されたものであるから,ヒツプアツプ効果(第5図のX方向の矢印参照)が倍加されるし,脚部が前傾状(第5図のX’向の矢印参照)の形態的な特徴をシルエツトとして出し得,これによつて,人間工学上優れており,いかなる運動姿勢にも無理なくフイツトし,力のバランスがよくなつて,着用時における脚部のずれ等,着崩れ現象を呈することがなく,立体処理しているので如何なる体形の人にでも適合できて,フアンデーシヨン本来の目的である造形性のバリエーシヨンが表現できるのである,太腿部の寸法処理についても脚部布の大小変化によつて一挙に解消できて,従前例が専ら,縦方向の切替え線,あるいは横方向における編組織の変化とその素材のストレツチ性によつて平面的にデザイン処理がなされていたものを,本発明は人体脚部の自然なやや前傾して状態に沿うと共に人体臀溝にくい込むように工夫された特殊なカツテイングによる横の切替えと更に左右臀部に適合する2山の膨み部を設けるように工夫されたカツテイングによる臀部稜線に沿つた縦方向の切替えによつて身体にマツチしたバランスを持つことができ,かつ無理な圧迫感も伴なわず,人間の主要な運動たる前傾運動に程よく適応できるものとして誠に斬新であり,フアンデーシヨン業界では類を見ないものとしてその価値は著大である。(4頁7欄33行目~8欄23行目)

引用発明6並びにこれと本件発明1との一致点及び相違点については,相違
点4-3を除き,本件審決の認定につき当事者間に争いがない(ただし,原告らは,相違点4-3を除く相違点につき,実質的な相違点ではない旨主張する。)。また,上記各記載をはじめ,引用例6には,本件発明1の「足刳り形成部の湾曲部分」及び「山」に相当する部分の幅に関する具体的な記載はなく,その点に関する示唆もうかがわれない。
そうである以上,引用発明6は,「腰部布6」の「凹状の深いカーブ11」の幅
と,「足刳り形成部の湾曲した形状」の幅との関係は不明というほかないから,本件審決の認定する相違点4-3のとおりの相違点の存在が認められる。以上より,引用発明6並びにこれと本件発明1との一致点及び相違点については,それぞれ前記第2の3⑸ア~ウのとおりのものと認める。これに反する原告らの主張は採用し得ない。


新規性について


原告らは,引用発明6の,「腰部布6」の「凹状の深いカーブ11」の幅と,
「脚部布7」の「凸状の緩いカーブ14」の幅との関係は構成要件G(相違点4-3に係る構成)と同様であり,相違点4-3は実質的な相違点ではなく,本件発明1は引用発明6であるなどと主張する。上記関係の根拠として,原告らは,甲37において,引用例5の第1図を拡大し,その寸法を計測することにより,上記関係を求めている。

しかし,甲37は,引用例6の第1図を拡大し,その寸法を計測して上記関
係を求めている。前記のとおり,目盛り等の相対的な大小関係や位置関係を保持することを表す何らかの記載がない場合,図面から計測した値は,特許文献に記載された技術的思想を正確に表すものとは必ずしもいえないことから,原告らの上記主張はその前提において根拠を欠くものというべきである。
また,引用発明6の「凹状カーブ11」と「凸状カーブ14」について,引用例6の記載(上記⑴ア(ウ))からは,凸状カーブ14の曲率半径が凹状カーブ11の曲率半径より大きいことが認められるところ,第1図も参照すると,凸状カーブ14と凹状カーブ11は,ともに上に凸の部分を持つ曲線であるから,脚部布7と腰部布6を縫着した場合,凸状カーブ14の幅の方が,凹状カーブ11の幅よりも大きい部分ができる。もっとも,引用例6においても,凸状カーブ14と凹状カーブ11とが,ともに上に凸で,かつ,変曲点のない曲線であることを明示し,又はこれを示唆する記載を見出すことはできず,凸状カーブ14と凹状カーブ11は,ともに上に凸の部分を持つ曲線であり,かつ,凸状カーブ14の方が凹状カーブ11
よりも曲率半径が大きいこと以外には,それぞれどのような曲線であるのか不明確である。このため,引用例6について,凸状カーブ14の幅が凹状カーブ11の幅よりも大きくない部分がある可能性を否定し得ない。
そうすると,引用例6の記載からは,構成要件Gが実質的に開示されているとはいえないから,相違点4-3は実質的な相違点である。

したがって,本件発明1は,引用発明6と同一であるとは認められない。こ
の点に関する原告らの主張は採用し得ない。


相違点4-3の容易想到性について


引用発明1~3がいずれも相違点4-3に係る本件発明1の構成(構成要件
G)を備えていないこと,甲5,11~13,15及び22のいずれにも当該構成について記載されておらず,示唆もないことは,前記と同様である。そうである以上,引用発明6において,引用発明1~3のいずれかを適用し,又は甲5,11~13,15及び22のいずれかに記載された事項を適用して,相違点4-3に係る本件発明1の構成(構成要件G)とすることはできない。
また,構成要件Gが周知技術ではないこと,引用発明6において,相違点4-3に係る本件発明1の構成(構成要件G)とすることが設計的事項であるとはいえないことも,前記と同様である。

小括

したがって,引用発明6において,相違点4-3に係る本件発明1の構成(構成要件G)とすることは,当業者が容易に想到することができたものとはいえない。ウ
原告らの主張について

原告らは,相違点4-3が実質的な相違点であるとしても,当該相違点に係る本件発明1の構成に技術的意義は存在せず,単なる設計的事項以上のものということはできないから,本件発明1は,当業者であれば引用発明6に基づいて容易に想到し得るものであるなどと主張する。
しかし,相違点4-3に係る本件発明1の構成は相違点1-3に係る本件発明1
の構成と同じであるところ,構成要件Gに技術的意義が存在しないとはいえず,引用発明6において,相違点4-3に係る本件発明1の構成とすることが設計的事項であるともいえないことは,前記と同様である。
よって,本件発明1は,引用発明6に基づいて当業者が容易に想到し得たものとはいえない。この点に関する原告らの主張は採用し得ない。


以上より,本件審決の引用発明6に基づく新規性及び進歩性の判断に誤りは
ない。取消事由4は理由がない。
6
取消事由5(請求項1のサポート要件判断の誤り)について



特許請求の範囲の記載が,明細書のサポート要件に適合するか否かは,特許
請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し,特許請求の範囲に記載された発明が,発明の詳細な説明に記載された発明で,発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か,また,その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。


「前記足刳り形成部の前側の湾曲深さ」について


本件明細書【0014】には,「図1,図2はこの発明の一実施形態を示す
もので,この実施形態の下肢用衣料は,ウエストから大腿部の中間付近に達する半ズボン形のスパッツ10である。スパッツ10は,伸縮性を有する編地等の生地で作られている。スパッツ10は,下胴部の前側から両脇までを覆う前身頃12と,下胴部の後側を覆う後身頃14と,前身頃12の下端部の中心と後身頃14の下端部の中心を連結する股部パーツ16から成る。さらに,前身頃12と後身頃14,股部パーツ16で形成され大腿部が挿通する開口部に,大腿部を覆うように筒形に形成された一対の大腿部パーツ18が設けられている。」との記載がある。この記載からは,前身頃12が両脇まで伸びていることは認められるものの,両脇のどこまで伸びているのかは必ずしも明らかでなく,また,後見頃14が後側を覆うこと
は認められるものの,後側のみを覆うか否かは必ずしも明らかでない。他方,本件明細書には,「図3はスパッツ10を展開した状態を示したものであり,前身頃12は,ウエスト部20と,ウエスト部20の両側の大腿部付け根の腸骨棘点a付近で,ウエスト部20に対してほぼ直角に裁断された腰部前側縁22が設けられている。腰部前側縁22の身体前中央側には,腰部前側縁22の下端部から連続して切り欠かれた一対の足刳り部を形成する足刳り形成部24が各々設けられている。」(【0015】),「後身頃14は,大きく開いた略V字形に形成された縁部のウエスト部28が設けられ,…ウエスト部28の両端から,ウエスト部28に対してほぼ直角に離れる方向に延出するほぼ直線の腰部前側縁30が設けられている。腰部前側縁30は,前身頃の腰部前側縁22と等しい長さで,ウエスト部28から離れるに従い,僅かに互いに離れるほうへ広がっている。」(【0017】),「この実施形態のスパッツ10の製造方法は,まず,左右の臀部ダーツ31及びウエストダーツ29を縫い合わせる。次に,前身頃12の前股部26に股部パーツ16の前身頃連結部42を取り付ける。前身頃12と後身頃14の,左右の腰部前側縁22と腰部前側縁30を縫い合わせる。そして,一連に連結された各足刳り形成部24,25,32,46に大腿部パーツ18の足付根部40を縫い合わせる。」(【0023】)との記載がある。また,図1を見ると,前身頃12と後身頃14との境界は,厳密な意味で下胴部の両側端には位置しておらず,人体の「腰部前側」に位置している。これらの記載等によれば,前身頃12との境界である後見頃14の腰部前側縁30は,スパッツ10の前側にあること,すなわち,後見頃14の一部分が人体の前側に位置していることが認められる。これらの記載等を総合的に考慮すると,本件発明1における「前」及び「後」の呼称につき,その全ての構成が人体の前側又は後ろ側(図2の背面図に画かれた部分)のみに存在するものを指す呼称ではなく,大部分が人体の前側又は後ろ側にあるが,一部後ろ側又は前側に位置するものであってもよいと解することが合理的である。このような解釈と整合しない記載は,本件明細書上見当たらない。
そうすると,特許請求の範囲請求項1の「足刳り形成部の前側」とは,前身頃12の足刳り形成部24及び後身頃14の足刳り形成部25が連続することにより形成される足刳り形成部であり,図1及び2に示されているように,その大部分が図1に画かれる人体の前側に存在するようなものであると理解し得る。また,「h2」が示す深さは,図1を見ると,足刳り形成部24及び25が連続して形成された足刳り形成部の深さを示すものと理解される。
以上より,特許請求の範囲請求項1の「足刳り形成部の前側の湾曲深さ」(構成要件F)につき,本件明細書の発明の詳細な説明に記載されていないとすることはできない。

原告らは,本件発明1の「前身頃」と「後身頃」につき,これらが直接接続
されることのみを理由として,「前身頃」が人体の後側に位置する領域を備えるか,「後身頃」が人体の前側位置する領域を備えるかのいずれかの構成をとるものと解されるとすることは誤りである,「後身頃14」の一部分(「前身頃12」との接続部分)が人体の前側に位置しているとの認定は,本件明細書【0014】の記載に反する,構成要件Fに技術的意義はない,などとして,この点に関する本件審決の判断は誤りであると主張する。
しかし,上記のとおり,【0014】のみでなく他の記載及び図面をも考慮すれば,本件審決の認定及び判断は本件明細書の記載に基づく合理的なものといってよい。また,構成要件Fに技術的意義がないとはいえないことは前記のとおりである。その他原告らがるる主張する事情を考慮しても,この点に関する原告らの主張は採用し得ない。


「足刳り形成部の湾曲部分の幅」について


本件発明1の「足刳り形成部」については,特許請求の範囲に,「大腿部が
挿通する開口部の湾曲した足刳りとなる足刳り形成部を備えた前身頃と,この前身頃に接続され臀部を覆うとともに前記前身頃の足刳り形成部に連続する足刳り形成部を有した後身頃」との記載がある。ここで,「大腿部が挿通する開口部の湾曲し
た足刳りとなる足刳り形成部」との記載からは,「足刳り」とは「足刳り形成部」により形成された部分ないし領域を示すことが理解される。
他方,本件明細書には,「大腿部パーツ18は,僅かに内側に湾曲する曲線で形成された裾部36が設けられ,裾部36の両端部から裾部36に対してほぼ直角に離れる方向に延出するほぼ直線の大腿部後側縁38が形成されている。各大腿部後側縁38間の,裾部36とは反対側の縁部には,外側になだらかに膨出する山40aが形成された足付根部40が設けられている。足付根部40は,スパッツ10を縫製したときに前身頃12の足刳り形成部24,後身頃14の足刳り形成部25,32,股部パーツ16も足刳り形成部46が連続して形成する開口部に縫い合わされるものである。足付根部40の山40aの縁部は,前身頃12の足刳り形成部24と等しい長さに形成され,足刳り形成部24に縫い合わされる部分である。ここで,足付根部40の,足刳り形成部24,25に取り付ける山40aの高さをh1とし,足刳り形成部24,25の湾曲深さをh2とすると,h1はh2よりも低い形状である。また,足付根部40の山の幅をw1とし,足刳り前部24,25の湾曲部分の幅をw2とすると,互いに縫い付けられる同じ位置間で,w1はw2よりも広い形状となっている。」との記載がある(【0020】)。
ここに,「足刳り形成部の湾曲部分の幅」につき,「足付け根部40の山の幅をw1とし,足刳り前部24,25の湾曲部分の幅をw2とすると」との記載がある。また,上記【0020】の記載並びに図1及び2からは,着用者の大腿部が挿通する開口部が「前身頃12」に形成された「足刳り形成部24」と「後身頃14」に形成された「足刳り形成部25」とが連続することによって形成されたものであること,そうして形成された湾曲部の大部分は,図1に示される人体の前面側に存在することが認められる。
以上によれば,「足刳り前部24,25」とは,「足刳り形成部24」と「足刳り形成部25」とが連続することにより形成された湾曲部分であり,その幅は,上記「w2」であることが容易に理解される。

したがって,特許請求の範囲請求項1の「足刳り形成部の湾曲部分の幅」(構成要件G)につき,本件明細書の発明の詳細な説明に記載されていないということはできない。

原告らは,【0014】の記載からすれば,当該湾曲部の半分程度が人体の
前面側に存在することが看取できるにすぎない,「足刳り形成部」における「前」「後」に関する本件審決の解釈は誤りである,文言上,本件発明1の「足刳り形成部の湾曲部分の幅」は,「足刳り前部の湾曲部分の幅」ではなく,両者が必ずしも同一であるとは解釈されない,構成要件Gの技術的意義はない,などとして,本件審決の認定及び判断は誤りであると主張する。
しかし,前記のとおり,「足刳り形成部」における「前」,「後」に関する本件審決の解釈は【0014】も含む本件明細書の記載に基づく合理的なものである。また,「足刳り形成部24,25」との記載及び「足刳り前部24,25の湾曲部分の幅」との記載の意味は上記のとおりであり,このように解しても本件明細書の他の記載と矛盾等するとも思われない。さらに,構成要件Gに技術的意義が存在しないとはいえないことは,前記のとおりである。
その他原告らがるる指摘する事情を考慮しても,この点に関する原告らの主張は採用し得ない。


小括

以上のとおり,特許請求の範囲請求項1記載の発明は,本件明細書の発明の詳細な説明に記載された発明であり,その記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲内のものである。取消事由5は理由がない。7
取消事由6(本件発明2~5に係る新規性及び進歩性判断の誤り)について
原告らは,本件発明1に新規性及び進歩性は認められず,そのため,本件発明2~5にも新規性及び進歩性はないから,本件発明2~5の新規性及び進歩性に関する本件審決の判断は誤りであるなどと主張する。
しかし,前記のとおり,取消事由1~4はいずれも理由がなく,本件発明1に新
規性及び進歩性は認められるから,本件発明1の全ての発明特定事項を含む本件発明2~5にも新規性及び進歩性がある。
したがって,本件審決の本件発明2~5に係る新規性及び進歩性の判断に誤りはない。取消事由6は理由がない。
8
取消事由7(請求項3のサポート要件判断の誤り)について



特許請求の範囲請求項3の「身体の点視点付近から腸骨棘点付近を通り股底
点脇付近に至る湾曲した足刳り部分」について

「足刳り部分」の形状と「転子点」及び「腸骨棘点」との関係について,本
件明細書【0026】の「縫製されたスパッツ10を着用したとき,前身頃12の足刳り形成部24は,図1に示すように,股底点脇から上方に延出して足の付け根の腸骨棘点a付近を通過し,大腿部外側上方の転子点b付近の上方を通過して湾曲し,後側下向きに延出して,後身頃14の足刳り形成部32に連続する。後身頃14の足刳り形成部32は,臀部の下端部に沿って股底点付近に達している。足刳り形成部24の一番高いところは腸骨棘点a付近である。」との記載及び図1に鑑みると,本件審決が認定及び判断するとおり,足刳り形成部25の湾曲した位置を「転子点b付近の上方」としたことの対比として,より近い位置である,足刳り形成部25が人体最側部に位置したときの転子点bとの関係を「転子点b付近」と呼ぶことは合理性がある。

また,本件明細書には,【0026】のほか,「縫い合わされたスパッツ1
0は,後身頃14の足刳り形成部32が丸く下方に回り込み,筒状に形成された大腿部パーツ18が前方の斜め下方に突出する立体形状となる。即ち,基本の立体形状が,着用者が前屈みに軽く屈曲した姿勢に沿う形状になっており,足の運動性に適した形状に形成される。」(【0025】),「この実施形態のスパッツ10によれば,伸縮性のある素材を使用し,臀部の生地分量を確保し,足刳りのパターンの形状の工夫により,身体の腸骨棘点a付近から前方の生地の立体的方向性が確保されるため,着用時に股関節の前方への屈伸抵抗が少なく運動しやすく,疲れにく
いものである。即ち,臀部に関しては,股関節の屈曲時に臀部に過度の生地張力が掛からないように生地分量を十分に多く取り,且つヒップ裾ラインがずれないようヒップ裾ライン長を短くしている。特に,このスパッツ10は,着用者が軽く前屈みになった姿勢に沿う立体形状に作られ,この姿勢では生地にあまり張力が発生しないため身体が圧迫されず,またさらに深く屈む動作をするときの負荷も少なく抑えられるものである。また,大腿部パーツ18が前方に盛り上げられた立体形状になるため,図4,図5に示すように足を上げたりしゃがんだりする動作のとき,大腿部にかかる生地の抵抗が小さく,容易に運動することができる。さらに,生地が身体の動きに追従するため,衣服ズレも軽減することができる。また,後身頃14が前身頃12よりも上下に長く形成されているため,図4,図5に示すように足を上げたりしゃがんだりする動作のとき,後身頃14に大きな張力がかからず,このことからも円滑に運動することができ,後見頃14が摺り上がることもない。」(【0027】)との記載がある。
これらの記載によれば,本件各発明においては,着用時に股関節の前方への屈伸抵抗が少なく運動しやすくするために,大腿部パーツ18を前方の斜め下方に突出する立体形状とすることだけでなく,足刳り形成部24を足の付け根(鼠蹊部)辺りを通過させていることが認められる。そうすると,請求項3の「転子点付近」が転子点の下方を含むものとしても,なお請求項3の「身体の転子点付近から腸骨棘点付近を通り股底点脇付近に至る湾曲した足刳り部分」が,本件明細書記載の「この発明は,…股関節の屈伸運動が円滑に行われ,運動に適した下肢用衣料を提供することを目的とする」(【0006】)との課題を解決するものであるといえる。ウ
さらに,請求項3の「前記足刳り形成部は,身体の転子点付近から腸骨棘
点付近を通り股底点脇付近に至る湾曲した足刳り部分と,前記転子点付近から股底点脇まで膨らんだ曲線で臀部裾ラインを包み込み,且つ臀部裾部分に密着する形状である」の記載については,「足刳り形成部」と「足刳り部分」との関係が必ずしも一見して明確ではないが,【0026】の記載や図1を参酌すると,上記記載は,
「足刳り形成部」が「足刳り部分」を含むことを表していることは明らかである。エ
したがって,特許請求の範囲請求項3の「身体の点視点付近から腸骨棘点
付近を通り股底点脇付近に至る湾曲した足刳り部分」(構成要件K)につき,本件明細書の発明の詳細な説明に記載されていないということはできない。この点に関する原告らの主張は採用し得ない。


小括

以上によれば,特許請求の範囲請求項3記載の発明は,本件明細書の発明の詳細な説明に記載された発明であり,その記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲内のものである。取消事由7は理由がない。9
結論

よって,原告らの請求は理由がないからこれを棄却することとし,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第1部

裁判長裁判官

高部眞
裁判官

杉浦正
裁判官

片瀬規子樹亮
(別紙)
当事者目録原告株原告
株式会社名古屋タカギ

原告ら訴訟代理人弁護士

式会社タカギ藤本英二富永夕子順雅金同藤本英夫西被
弁理士

村幸城

株式会社ゴールドウインテクニカルセンター

被告
被告ら訴訟代理人弁護士

トラタニ株式会社

今宇西津康訓呂修渡場健太鈴江正二木
弁理士

り細同邉つ子村俊之
(別紙)
本件明細書図面目録
【図1】

【図2】

【図3】

(別紙)
引用例5図面目録

第1図

(別紙)
引用例6図面目録

第1図

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