判例検索β > 平成29年(行ウ)第559号
手続却下処分取消請求事件 特許権 民事訴訟
事件番号平成29(行ウ)559
事件名手続却下処分取消請求事件
裁判年月日平成30年8月30日
法廷名東京地方裁判所
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平成30年8月30日判決言渡
平成29年(行ウ)第559号

同日原本領収

口頭弁論の終結の日

裁判所書記官

手続却下処分取消請求事件

平成30年6月21日
判決原告
ユニバーシタ’デグリ
ディ

同許管理
フォッジャ

人吉川俊雄
同訴訟代理人弁護士

大本康志同関原秀行同小林聖詞同特
スタディ

南枝里陽子告国
同代表者法務大臣

上処庁
特許庁長官

宗像直子

人松本亮一同長島佑樹同近野智同小野和実同被安原文香同分指行定政代理主川香子文1
原告の請求を棄却する。

2
訴訟費用は原告の負担とする。

3
この判決に対する控訴のための付加期間を30日と定める。
事実及び理由
第1請求
特願2015-533705について,特許庁長官が,平成29年5月24日付けでした,
平成28年6月17日付け提出の出願審査請求書に係る手続を却下する処分を取り消す。
第2事案の概要
本件は,特願2015-533705の特許出願(以下「本件特許出願」という。
)について,特許法48条の3第1項に規定する出願審査の請求をすることができる期間(以下「出願審査請求期間」という。
)内に出願審査の請求をしなか

ったため,
同条4項により本件特許出願が取り下げられたものとみなされた原告が,特許庁長官に対し,期間内に出願審査の請求をすることができなかったことについて同条5項所定の「正当な理由」があるとして,平成28年6月17日付け出願審査請求書(以下「本件出願審査請求書」という。
)を提出して,出願審査
の請求をしたところ(以下「本件手続」という。,特許庁長官が,平成29年5)

月24日付けで,本件手続を却下する処分(以下「本件却下処分」という。)をし
たため,本件却下処分の取消しを求める事案である。
1前提事実(証拠等を掲げた事実以外は,当事者間に争いがない。)


当事者
原告は,
(住所は省略)
に住所を有する在外者であり,
特許法8条の規定によ

る特許管理人としてA(以下「本件国内事務所」という。
)に所属する弁理士を
選任している。
被告は,国である。


原告による国際出願

原告は,平成25(2013)年4月29日,
「穀物粒由来のグルテンタン
パク質の解毒方法」と題する発明について,パリ条約による優先権主張日を平成24(2012)年10月2日(
(住所省略)における基礎出願の特許出
願日)
,受理官庁を世界知的所有権機関の国際事務局として,
「千九百七十年
六月十九日にワシントンで作成された特許協力条約」
(以下
「特許協力条約」
という。
)に基づく国際出願(PCT/IB2013/000797)をした。上記国際出願は,特許法184条の3第1項の規定により,その国際出願日に我が国にされた特許出願とみなされた(本件特許出願)



原告は,特許庁長官に対し,平成27年3月23日付で,特許法184条の5第1項所定の国内書面を提出するとともに同法195条2項所定の手数料を納付し
(乙1)同年5月18日付で,

同法184条の4第1項所定の
明細書及び請求の範囲の翻訳文を提出した(乙2)



本件特許出願に係る出願審査請求期間(以下「本件期間」という。)は,平
成28年5月2日までであった。



本件手続及び本件却下処分

原告は,平成28年6月15日付けで,本件国内事務所の弁理士を代理人として,特許庁長官に対し,出願審査請求書(乙3)を提出して出願審査請求をした。


さらに,原告は,平成28年6月17日付けで,特許庁長官に対し,本件出願審査請求書(甲1)を提出し,併せて,出願審査請求期間内に本件特許出願について出願審査の請求をすることができなかったことについて「正当な理由」があったこと等を主張する回復理由書(甲2)を提出して出願審査請求をした(本件手続)



特許庁長官は,原告に対し,平成28年12月16日付け各却下理由通知書(前記アの出願審査請求手続に係るもの(乙4)と前記イの本件手続に係るもの(甲3)
。以下,後者を「本件通知書」という。
)を送付して,前記ア
の出願審査請求手続及び本件手続をいずれも却下すべき旨を通知した。
なお,前記アの出願審査請求手続に係る却下理由通知書においては,出願審査請求期間経過後の手続であることが却下の理由とされている。また,本件通知書においては,本件手続につき,出願審査請求期間内に手続をすることができなかったことについて
「正当な理由」
(特許法48条の3第5項)

あるときに当たらないことが却下の理由とされている。

原告は,特許庁長官に対し,平成29年1月13日付けで,本件通知書に対する弁明書(甲4。以下「本件弁明書」という。
)を提出した。


特許庁長官は,平成29年5月24日付けで,前記アの出願審査請求手続を却下する旨の却下処分をした(甲5の2)
。また,同日付けで,本件弁明書
に記載された弁明の趣旨を考慮しても本件通知書記載の却下の理由は解消されないとして,
本件手続を却下する旨の本件却下処分をし
(甲5の1)本

件却下処分に係る通知は,同年6月7日,原告に到達した。


原告は,平成29年12月5日,本件訴訟を提起した。

2争点
本件の争点は,
原告が本件期間内に出願審査の請求をすることができなかった
ことにつき,
特許法48条の3第5項所定の
「正当な理由」
があるか否かであり,
この点に関する当事者双方の主張は次のとおりである。
[原告の主張]
「正当な理由」の解釈について
「正当な理由」とは,相当な注意を払っていたにもかかわらず期間の不順守が生じた場合をいう。



原告が相当な注意を払っていたこと
本件では,原告の現地代理人B(以下「本件現地事務所」という。)が,本
件国内事務所に対し,平成28年4月1日,本件特許出願について出願審査請求をするようメールで指示したところ,
本件国内事務所の所内のサーバー
及びメールサーバーが同年3月28日から同年4月4日までの間,ウイルス

感染により使用不可能な状況となっていたため,
本件国内事務所において上
記メールを受信することができず,本件期間を徒過することとなった。イ
本件現地事務所の所在する(住所省略)においては,郵便事情が不安定であるなどの事情から,メールの方法による連絡に高い信用が置かれている。また,従前,本件現地事務所が本件国内事務所に対して,出願審査の請求手続を指示するメールを送信後,
同メールの到達を確認するという手順を踏ん
でいなかったが,特段の問題がなかった。したがって,本件現地事務所にお
いて,出願審査の請求手続を指示するメールを送信後,同メールの到達を確認しなかったことには相応の理由があり,
相当な注意を払ったことに変わり
ない。
また,前記のとおり,従前,本件現地事務所が本件国内事務所に対して,メールの到達を確認するという手順を踏んでいなかったが,
特段の問題がな

かったという事情からすれば,本件現地事務所が,出願審査の請求手続が問題なく進んでいると信頼したことには相応の理由があり,
本件期間を徒過す
る前に確認しなかったことは,やむを得ないといえ,これをもって相当な注意を払っていないとはいえない。

本件国内事務所が感染したウイルス「ランサムウェア」は,新種のもので突発的であったということができ,
このことから,
本件国内事務所において,
「ランサムウェア」
に対応するウイルスソフトを事前に導入しておくことは,
そもそも困難であった。
また,本件国内事務所は,元々,国内移行の段階で審査請求を行う日にち
の指示がない場合には,
出願審査請求期間満了の1か月前までに指示するよ
う本件現地事務所に依頼しており,
逐一その旨を連絡する運用ではなかった
から,本件期間満了の1か月前までに指示を求めた事実がないとしても,本件国内事務所が相当な注意を払ったことに変わりない。
さらに,
ウイルス感染により本件国内事務所のパソコンが使用不可となっ

たのは,平成28年3月28日からであり,本件国内事務所が本件現地事務所に本件期間を平成28年4月29日までと案内していたことから,本件国
内事務所において,
出願審査請求期間満了の1か月前までに本件現地事務所
から連絡がなかったと認識したことは,至極自然なことであり,サーバーが使用可能となった後に,本件現地事務所に確認をしなかったことは,やむを得ないものであって,本件国内事務所において,相当な注意を払ったことに変わりない。

[被告の主張]
「正当な理由」の解釈について
「正当な理由」があるときとは,特段の事情のない限り,特許出願を行う出願人(代理人を含む。)として,相当な注意を尽くしていたにもかかわらず,客観的にみて出願審査請求期間の徒過に至ったときである(知財高裁平成29年
3月7日判決参照)。


原告が出願人として相当な注意を尽くしていたとはいえないこと

およそ法令において手続についての期間制限が設けられている以上,その手続をしようとする者は,
当該期間を徒過しないよう注意を払うことが要求
される。ましてや本件で問題となる出願審査の請求については,出願審査請
求期間を徒過することによって,
当該特許出願は取り下げたものとみなされ
るのであるから(特許法48条の3第4項),出願審査の請求手続は,出願人の権利の得喪に関わる極めて重要な手続であるといえる。それゆえ,出願人やその代理人は,確実に同手続をすることができるよう,細心の注意を尽くすことが求められる。


こうした前提の下では,本件において,原告が主張するように,本件現地事務所が本件国内事務所に対して出願審査の請求を指示する電子メールを送信していたとしても,その事実のみをもって,本件現地事務所が,代理人として相当な注意を尽くしていたということはできない。すなわち,前記の
とおり,出願審査の請求が極めて重要な手続であることに鑑みれば,上記電子メールの送信のみならず,
本件国内事務所から電子メールの受領や手続を
受任した旨の返信がない限りは,
本件国内事務所に対して指示が到達したか
を確認すべきであったところ,
本件現地事務所がこうした確認をしたことは
確認できない。
仮に,本件現地事務所と本件国内事務所との関係において,指示受領の返信をすることなく手続が完了した時点で連絡をするのが通常であったとし
ても,本件においては,本件国内事務所から出願審査の請求手続が完了した旨の連絡はない以上,本件現地事務所は,遅くとも本件期間が経過する前には同手続の進捗状況を確認すべきであった。しかし,原告の主張によれば,本件現地事務所が本件国内事務所に対して本件特許出願の状況を確認したのは平成29年6月6日であるから,本件現地事務所は,指示した出願審査
の請求手続が完了した旨の連絡がないにもかかわらず,
本件期間が経過した
後1か月以上もの間,何ら確認をすることなく,漫然とこれを放置していたにすぎない。
以上によれば,本件現地事務所が,代理人として相当な注意を尽くしていたということはできない。


また,本件国内事務所についても,同事務所サーバーのウイルス感染について,原告が挙げる「ウイルス感染を防ぐソフトウェア(ウイルスバスター)を事前に導入していた」こと,及び「今回のウイルスは新種のもので突発的であったため,
当事務所がこのウイルス感染に備えることは予測不可能であ

った」ことは,何ら立証されていないから,同感染に対する予防措置を講じていたか否かは明らかではない。
この点をおくとしても,本件国内事務所は,平成27年7月2日に本件期間が平成28年4月29日までである旨を本件現地事務所に伝えたのみである。
本件国内事務所が本件現地事務所に対して本件期間満了の1か月前ま
でに指示を求めたという原告主張の事実も確認できない。まして,本件国内事務所は,同期間満了の1か月前頃に,サーバーがウイルス感染により使用不可能な状況となっており,
ウイルス感染期間中の全ての電子メールを回復
することは不可能であったとのことであるから,
この間に本件現地事務所か
ら上記指示に係る電子メールが送信されたにもかかわらず,
サーバーが使用
不可能であることにより当該電子メールを受信できていない可能性があることを考慮すれば,本件国内事務所では,この間に本件現地事務所から電子
メールによる出願審査の請求手続の指示がなかったことの確認はできていなかったものと評価せざるを得ない。そして,本件国内事務所は,サーバーが使用可能となった以降も,
本件期間の末日である平成28年5月2日まで
1か月弱の期間があったにもかかわらず,本件特許出願について,本件現地事務所への確認等を何らすることなく,
出願審査の請求を行わないものとみ

なして,同請求手続を行わなかったのである。したがって,ウイルス感染に係る原告の主張を前提としたとしても,本件期間の徒過は,ウイルス感染による不可抗力によるものと評価する余地はなく,
単に不注意の結果として至
ったものであることは明らかである。
以上によれば,本件国内事務所が,代理人として相当な注意を尽くしてい
たということはできない。

そして,出願人が自らの判断に基づき,代理人に委任して特許出願に係る手続を行わせることとした以上,出願人は,代理人の行為に責めを負うものと解される。
本件期間の徒過については,本件現地事務所及び本件国内事務所が代理人
として相当な注意を尽くしていたということはできないことは前記イ及びウで述べたとおりであるから,
原告が出願人として相当な注意を尽くしてい
たということはできない。

本件期間の徒過について特段の事情があったとは認められないこと原告は,本件国内事務所のサーバーがウイルス感染したことが,本件期間の
徒過に係る特段の事情に該当する旨主張するものと解されるところ,相当な注意を尽くさずに期間を徒過したにもかかわらず,なおも「正当な理由」があるとされる「特段の事情」は,天変地異により物理的に手続の続行が不能になった場合など,極めて限定的に解されるものであり,原告の主張する前記の事情は,
「特段の事情」に当たらない。
その点をおいて,原告の主張についてみても,原告が提出した全証拠を踏ま
えても,原告が主張する本件国内事務所のサーバーがウイルス感染したとの事実を認めることはできない。


以上のとおり,本件期間の徒過について,原告が出願人として相当な注意を
尽くしていたとはいえず,かつ,特段の事情があったとも認められないから,「正当な理由」があると認めることはできない。
第3当裁判所の判断
1認定事実
当事者間に争いのない事実並びに各項末尾掲記の証拠及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。



原告は,
本件特許出願に係る手続を本件現地事務所及び本件国内事務所に委任していたところ,本件国内事務所は,平成27年7月2日,本件現地事務所に対して,本件特許出願に係る出願審査請求期間(本件期間)の終期が平成28年4月29日である旨を伝える電子メールを送信した。
(甲2,
甲6の2,

6の4)



平成28年3月22日から同月23日にかけて,本件国内事務所の関係者の間で,本件国内事務所の関連会社のサーバー内のファイルがウイルス(LOCKYというランサムウェア)に感染していること等を告知する内容のメールが送受信された。
(甲8の1,甲8の2)


本件現地事務所は,平成28年4月1日,本件国内事務所に対して,本件特許出願について出願審査の請求をするように指示する旨の電子メールを送信した。
(甲2,甲6の2,甲6の4)


本件期間は平成28年5月2日までであった(なお,上記⑴のとおり,本件国内事務所は,
同期間を平成28年4月29日までと認識していた。ところ,

本件国内事務所は,同期間内に,本件特許出願について出願審査の請求を行わなかった。(甲2)



平成28年6月6日,本件国内事務所は,本件現地事務所から本件特許出願の近況が知りたいとの電子メールを受け取り,
本件現地事務所宛てに今後の対
応について連絡をとった。(甲2)

2特許法48条の3第5項所定の「正当な理由」の有無について


特許法48条の3第5項所定の「正当な理由」があるときとは,特段の事情のない限り,特許出願を行う出願人として,相当な注意を尽くしていたにもか
かわらず,
出願審査請求期間の徒過に至ったときをいうものと解するのが相当である。


これを本件についてみるに,原告は,従来から,本件現地事務所が,本件国
内事務所に対し出願審査の請求手続を指示するメールを送信後,メールの到達を確認する手順を踏まない運用をしていたこと,他方で,本件国内事務所は,元々,国内移行の段階で審査請求を行う日にちの指示がない場合には,出願審査請求期間満了の1か月前までに指示するよう本件現地事務所に依頼しており,逐一その旨は連絡しておらず,同期間満了の1か月前までに指示がない場合には審査請求を行わないものとみなす運用をしていたこと,そして,かかる
運用でも特段の問題は生じていなかったところ,本件では,本件現地事務所が本件国内事務所に対し,平成28年4月1日,本件特許出願について出願審査請求をするようメールで指示したにもかかわらず,本件国内事務所の所内のサーバー及びメールサーバーが同年3月28日から同年4月4日までの間,ウイルス感染により使用不可能な状況となっていたため,本件国内事務所において
上記メールを受信することができなかったこと等をるる主張する。しかしながら,原告の主張する運用には,本件現地事務所と本件国内事務所との間のメールの送受信に問題が生じた場合に対する何らの対策も含まれておらず,この運用に沿って行動したからといって,本件現地事務所あるいは本件国内事務所が相当な注意を払ったとは認めがたい。
また,原告は,突発的な事象として,本件国内事務所の所内サーバー及びメールサーバーのウイルス感染を主張するものと解されるところ,前記1⑵で認定した限度で,本件国内事務所の関連会社内のサーバーに関してランサムウェアの感染に係る問題が認識されていたことは認められるとしても,原告の主張する期間において,本件国内事務所の所内のサーバーなどが使用不可能な状況になっていたと認める足りる的確な証拠はない。そして,仮に原告の主張する
とおりの状況があったとしても,本件国内事務所が本件特許出願に係る出願審査請求期間(本件期間)の終期につき,平成28年4月29日と認識していたのであれば,その1か月前である平成28年3月29日の時点でサーバーが使用不可能な状態になっていたことになる以上,本件国内事務所としては,通常の運用がどうであれ,本件現地事務所に出願審査請求の指示のメールを送信し
た事実の有無を確認すべきであるし,サーバーが使用可能になった時点から本件期間の終期まで1か月弱の期間があったことからすれば,かかる確認をする時間的猶予は十分にあったというべきである。
そうすると,結局,本件において,本件現地事務所あるいは本件国内事務所が相当な注意を払ったとは,到底認めがたいし,特段の事情があったとも認め
られない。
なお,原告は,自らの判断に基づき,本件現地事務所あるいは本件国内事務所に委任して特許出願に係る手続を行わせることとした以上,原告が相当な注意を払ったか否かという点において本件現地事務所あるいは本件国内事務所についての前記の判断と別個の判断をすべき理由はない。



したがって,本件特許出願について本件期間内に出願審査の請求をすることができなかったことについて,特許法48条の3第5項所定の「正当な理由」があったとは認められず,その結果,本件手続については本件特許出願の取下擬制(特許法48条の3第4項)により客体が存在しないこととなるから,本件却下処分は適法である。
3結論
以上によれば,原告の請求は理由がないからこれを棄却することとして,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第47部

裁判長裁判官

沖中康人
裁判官

横山真通
裁判官

奥俊彦
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