判例検索β > 平成29年(ワ)第10742号
特許権侵害差止等請求事件 特許権 民事訴訟
事件番号平成29(ワ)10742
事件名特許権侵害差止等請求事件
裁判年月日平成30年9月19日
法廷名東京地方裁判所
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平成30年9月19日判決言渡
平成29年(ワ)第10742号
口頭弁論終結日

同日原本交付

裁判所書記官

特許権侵害差止等請求事件

平成30年6月15日
判決原告
アイリスオーヤマ株式会社

同訴訟代理人弁護士

田哲郎同名越秀夫同高橋隆二同佐野辰巳同生吉浦洋一被告
日立アプライアンス株式会社

同訴訟代理人弁護士

城春実同牧野知彦同加治梓子
同訴訟代理人弁理士

古井上主文1
原告の請求をいずれも棄却する。

2学
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由

第1
1
請求
被告は,別紙1被告製品目録記載の各製品を製造し,又は販売してはならな
い。
2
被告は,別紙1被告製品目録記載の各製品を廃棄せよ。

3
被告は,原告に対し,4億4000万円及びこれに対する平成29年4月12日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2
1
事案の概要
本件は,発明の名称を「加熱調理器」とする特許第3895312号の特許
権(以下「本件特許権」といい,この特許を「本件特許」という。また,本件特許の願書に添付した明細書(ただし,平成30年4月10日にされた審決により訂正されたもの)及び図面を「本件明細書等」という。)及び本件特許権に基づく被告に対する一切の請求権の譲渡を受けた原告が,被告に対し,被告において製造し,販売する,
又は製造し,
販売していた別紙2被告製品関連製品目録記載の各製品
(以
下「被告製品関連製品」と総称する。)につき,本件特許の請求項1記載の発明(以
下「本件発明」という。)の技術的範囲に属するから,被告による被告製品関連製品の製造及び販売は本件特許権を侵害する旨を主張して,①特許法100条1項に基づき,被告製品関連製品のうち被告において現在製造し,販売する別紙1被告製品目録記載の各製品(以下「被告各製品」という。)の製造及び販売の差止めを求め,②同条2項に基づき被告各製品の廃棄を求めると共に,③民法709条の不法
行為による損害賠償請求権(対象期間は,平成19年1月1日から平成28年12月31日までである。)に基づき,4億4000万円(7億2600万円の一部である4億円及び弁護士費用4000万円)及びこれに対する不法行為後の日である平成29年4月12日から支払済みまでの民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。

2
前提事実(当事者間に争いがない又は後掲の証拠(以下,書証番号は特記し
ない限り枝番の記載を省略する。及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実))


当事者

原告は,電磁調理器等の各種家電,LED照明,各種日用品等の製造販売業務を営むことを目的とする株式会社である。
被告は,家庭用電気機械器具の設計,製造及び販売等の業務を営むことを目的とする株式会社である。


本件特許権


原告は,次の内容の本件特許権を有していた株式会社東芝(以下「東芝」と
いう。)から本件特許権を譲り受け,平成27年9月28日,特許権移転登録を得た(甲5,6)。
登録登出出番願番願
特許第3895312号

日録号
平成18年12月22日


特願2003-290176


平成15年8月8日(以下「本件出願日」という。)

発明の名称

加熱調理器

原告は,
本件特許の特許請求の範囲及び明細書について訂正審判請求をして,
平成30年4月10日,原告の請求どおりに訂正を認める旨の審決がされ,同審決は同月19日に確定した(甲15,19,弁論の全趣旨)。

訂正後の本件特許の特許請求の範囲の請求項1は,
次のとおりである
(なお,

下線部が訂正によって追加又は変更された部分である。)(甲6,19)。「ドロップインタイプの加熱調理器であって,
横幅寸法を560mm以下に設定したケース本体内に左右に配設され被加熱物を調理容器を介して加熱する複数の誘導加熱コイルと,この複数の誘導加熱コイルの下方に設けられたロースタと,前記誘導加熱コイル及びロースタの上方を覆うように設けられたトッププレートとその周縁部に装着したフレームとからなる天板とを
備え,
前記フレームの係り代を除く横幅寸法を700mm以上に設定した前記トッププレートには,前記誘導加熱コイルと対応する左右位置に前記調理容器を載置する加熱部を設けるとともに,これら加熱部に前記調理容器を所定の間隔を存して並置可能とする最大径の調理容器を載置したとき,この所定の間隔より該調理容器の外殻
から前記トッププレートの前記フレームの係り代を除く左右端部までの距離を長くなる構成としたことを特徴とする加熱調理器。」


本件発明の構成要件の分説

本件発明は,次のとおり,構成要件に分説される(以下,分説に係る各構成要件を符号に対応して「構成要件A」などという。)。
Gドロップインタイプの加熱調理器であって,
A横幅寸法を560mm以下に設定したケース本体内に左右に配設され被加熱
物を調理容器を介して加熱する複数の誘導加熱コイルと,
Bこの複数の誘導加熱コイルの下方に設けられたロースタと,
C前記誘導加熱コイル及びロースタの上方を覆うように設けられたトッププレートとその周縁部に装着したフレームとからなる天板とを備え,
D前記フレームの係り代を除く横幅寸法を700mm以上に設定した前記トッ
ププレートには,前記誘導加熱コイルと対応する左右位置に前記調理容器を載置する加熱部を設けるとともに,
Eこれら加熱部に前記調理容器を所定の間隔を存して並置可能とする最大径の調理容器を載置したとき,この所定の間隔より該調理容器の外殻から前記トッププレートの前記フレームの係り代を除く左右端部までの距離を長くなる構成としたことF
を特徴とする加熱調理器。



被告の行為

被告は,業として,被告製品関連製品を過去に製造し,販売しており,被告各製品を現在においても製造し,販売している(甲7,弁論の全趣旨)。被告各製品は,構成要件G,AないしD,Fを充足する(弁論の全趣旨。原告は,被告各製品の構成につき別紙3被告製品説明書(原告)に記載のとおり主張しているところ,被告は,別紙4被告製品説明書(被告)に記載の内容に反しない限度でこれを認めており,
前記各構成要件と対比すべき部分については概ね争いがない。。


3
争点



被告製品関連製品は構成要件Eを充足するか(争点1)


本件特許は特許無効審判により無効にされるべきものと認められるか(争点
2)
アイウ
本件特許は特許法36条4項1号に違反しているか(争点2-3)本件発明は新規性又は進歩性を欠くものであるか(争点2-4)



損害の発生の有無及びその額(争点3)

4
争点に対する当事者の主張


本件特許は特許法36条6項1号に違反しているか(争点2-2)

本件特許は特許法36条6項2号に違反しているか(争点2-1)
争点1(被告製品関連製品は構成要件Eを充足するか)

【原告の主張】

構成要件Eの意義

本件発明は,IHクッキングヒーターのトッププレート上に最大径の鍋を左右に並置して使用する場合に,鍋が左右方向にはみ出す等の課題があったことから,これを解決することを目的として,トッププレート中央部における鍋間の間隔である「所定の間隔」よりも,鍋の外殻からトッププレートのフレームの係り代を除く「左右端部までの距離」を長くしたものであって,「所定の間隔」と「左右端部までの距離」の長短の関係を従来技術と逆転させたものであり,それ以外の構成は従来技術の加熱調理器の構成と異なるものではない。よって,構成要件の意義は,本件明細書等に従来技術として記載された加熱調理器における各用語の意義と相違は
ない。
(ア)

「調理容器の外殻」及び「最大径の調理容器」の意義

一般に,「外殻」とは「外側にある殻」(広辞苑)を意味するから,「調理容器の外殻」は,調理容器の外壁を意味する。そして,本件明細書等の背景技術(以下,【】は,本件明細書等における発明の詳細な説明の段落番号を指す。【0003】,【0005】),実施例(【0021】,【0028】,【0029】,【0030】,【0032】)及び図1である別紙5本件明細書等の図面記載1の図面によれば,「調理容器の外殻」とは,鍋の外壁であり,鍋の最大径であって,左右の加熱部の領域を示すリング状枠と同径である。また,リング状枠は,調理容器を有効に加熱できる領域を示している。そうすると,調理用IHクッキングヒーターの加熱原理が調理容器の誘導加熱しうる領域の鍋底を加熱する点にあるのであるから,最大径の鍋は,左右の加熱部の領域を示すリング状枠と一致する鍋底径を有する調理容器であり,調理容器の外殻の径と,その鍋底の径とが同径である円筒状の鍋を想定して設計していることが理解できる。
以上のとおり,構成要件Eの「調理容器の外殻」の径とは,調理容器の鍋底の径と一致し,その最大径(「最大径の調理容器」)は,左右の加熱部の領域を示すリ
ング状枠と同径である。
(イ)

「該調理容器の外殻から前記トッププレートの前記フレームの係り代を除
く左右端部までの距離」の意義
前記(ア)を踏まえれば,「該調理容器の外殻から前記トッププレートの前記フレームの係り代を除く左右端部までの距離」とは,調理容器の外壁から前記トッププレートの前記フレームの係り代を除く左右端部までの距離であるから,最大径の鍋径である鍋底径を有する加熱部の領域の外縁からトッププレートのフレームの係り代を除く左右端部までの距離となり,前記図1にDとして示される距離である(以下,この距離を単に「D」と示すこともある。)。
(ウ)

「所定の間隔」の意義

本件明細書等の記載(【0005】,【0007】,【0029】)によれば,「所定の間隔」とは,左右の加熱部に最大径の鍋が載置されたとしても,載置された鍋やその取手が容易に触れない間隔として定められた間隔である。イ
被告各製品が構成要件Eを充足すること

被告各製品の構成は,別紙3被告製品説明書(原告)記載のとおりである。また,被告各製品において使用可能な最大径の鍋底の調理容器,つまり「最大径の調理容器」は,被告各製品の取扱説明書及び被告のウェブページにおける説明書によれば直径26cmであり,別紙6図面記載の図面1及び2において直径26cmの外殻線で示される領域である。
なお,被告各製品には,別紙3被告製品説明書(原告)記載のとおり,直径200mmの左IHヒーター位置マーク3及び右IHヒーター位置マーク4が存在するが,これは,鍋底全体を有効に加熱できる領域の外縁を示すマークではなく,左IHヒーター,右IHヒーターを配置する領域の位置を単に示している目印にすぎない。
(ア)

別紙1被告製品目録記載の製品番号1の各製品
(以下,
併せて
「被告製品1」

という。)
被告製品1は,別紙6図面記載の図面1のとおり,「所定の間隔」は40mmであり,「該調理容器の外殻から前記トッププレートの前記フレームの係り代を除く左右端部までの距離」は90mmであって「所定の間隔」より長い。(イ)

別紙1被告製品目録記載の製品番号2の各製品
(以下,
併せて
「被告製品2」

という。)
被告製品2は,別紙6図面記載の図面2のとおり,「所定の間隔」は70mmであり,「該調理容器の外殻から前記トッププレートの前記フレームの係り代を除く左右端部までの距離」は75mmであって「所定の間隔」より長い。(ウ)

小括

以上のとおり,被告各製品は構成要件Eを充足する。

被告各製品を除く被告製品関連製品が構成要件Eを充足すること

被告各製品を除く被告製品関連製品も,被告各製品と同じ構成を有しており,構成要件Eを充足する。
【被告の主張】

構成要件Eの内容を特定できないこと

本件明細書等によれば,①B(フレームを除くトッププレートの横幅)=2D+2K(最大の鍋径)+T(「所定の間隔」,以下,この距離を,単に「T」と示すこともある。),②C(コイルピッチ)=T+K(最大の鍋径),③D>Tの関係が成り立つことが理解できるが,
それぞれの記号をどのように設定するのか,
また,
どの記号の値を特定することが本件発明の内容なのかなどが全く示されていない。よって,構成要件Eの構成の意味するところは,全く不特定であって技術的範囲を定めることができない。

(ア)

被告各製品が構成要件Eを充足しないこと
「最大径の調理容器」及び「所定の間隔」について

本件発明は,「前記調理容器を所定の間隔を存して並置可能とする最大径の調理容器を載置したとき」における「調理容器」に着目した構成要件を採用しているのであるから,前提として,「所定の間隔」及び「前記調理容器を所定の間隔を存して並置可能とする最大径の調理容器」
があらかじめ定まっていることが必要である。
また,本件明細書等(【0002】~【0011】,
【0029】,
【0030】,
【0038】)によれば,構成要件Eの意義は,調理容器同士やその取手が接触することなく,調理容器のトッププレート左右からのはみ出しの防止等の効果を奏す
る点にあるとされている。そうすると,調理容器の径は,調理容器の最も径が大きい部分の径であるといえる。
通常,
調理容器の外殻の径は底の径よりも大きいから,
あらかじめ定まっているべき調理容器の
「最大径」調理容器の外殻の径である。
は,
(イ)

被告各製品が構成要件Eを充足しないこと

被告各製品では,「最大径の調理容器」及び「所定の間隔」を定めていない。被告各製品の取扱説明書では,
鍋底の直径を26cmまでと記載しているが,
これは,
直径26cmまでの鍋であれば概ね加熱ムラが生じないという目安を示しているにすぎない。
さらに,被告各製品には,原告が主張する別紙3被告製品説明書(原告)記載⑺-1及び同⑺-2に示された外殻線は存在せず,目安のためのトッププレート上に
印刷された直径20cmの位置マークが存在するにすぎない。
また,被告各製品の直径20cmの位置マークは原告主張の最大の鍋底径26cmよりも小さいため,正確に位置マークの中心と調理容器の鍋底の中心を合わせて調理容器を置くことはできず,置き方次第で調理容器間の間隔は変わってしまうから,「所定の間隔」を存して調理容器を並置できない。
以上によれば,被告各製品は,構成要件Eを充足しない。
また,原告は,被告各製品を除く被告製品関連製品が本件発明の技術的範囲に属する旨を具体的に主張,立証していない。

原告の主張に対する反論

なお,原告は,調理容器の最大径が調理容器を有効に加熱できる領域と一致すると主張するが,調理容器を基準として定められた構成要件Eの記載内容に沿うものではない。
また,本件明細書等は,本件発明により使用することができる鍋の最大径の値が従来より大きくなる旨説明しているところ,従来技術も実施例も同じコイル径を示しているのであって,鍋の最大径が調理容器を有効に加熱できる領域と一致するという前提とは整合しない。



争点2(本件特許は特許無効審判により無効にされるべきものと認められる
か)

争点2-1(本件特許は特許法36条6項2号に違反しているか)
【被告の主張】
前記⑴【被告の主張】アに主張したとおり,本件発明の特許請求の範囲の記載は不明確であり,本件特許は特許法36条6項2号の規定に違反してされたものであって,特許法123条1項4号の無効理由があるから,特許無効審判により無効にされるべきものである。
【原告の主張】
前記⑴【原告の主張】アに主張したとおり,構成要件Eには何ら不明確な点はな
いから,被告が主張する無効理由は成り立たない。

争点2-2(本件特許は特許法36条6項1号に違反しているか)【被告の主張】
本件発明は,前記ア【被告の主張】に記載のとおり,その内容が不確定なものであって本件明細書等にサポートされているとはいえない。また,本件発明には,調理容器の径大化(【0017】)という効果が得られない構成を含んでいる。さらに,本件明細書等では,実施例として,「所定の間隔」が30mmの場合にD>Tとすることで課題が解決すると記載されているが,「所定の間隔」が30mm以外の場合に何らかの課題が解決できるかどうかは分からない。
そうすると,本件発明は,発明の詳細な説明に記載したものではなく,本件特許は,特許法36条6項1号の規定に違反してされたものであって,特許法123条
1項4号の無効理由があるから,
特許無効審判により無効にされるべきものである。
【原告の主張】
争う。
本件明細書等には,D>Tの距離関係の構成とすることにより,従来技術の課題が解決されることが記載されているのであって,本件発明は,本件明細書等の記載
に基づくものであるから,サポート要件には違反せず,被告が主張する無効理由は成り立たない。

争点2-3(本件特許は特許法36条4項1号に違反しているか)
【被告の主張】
本件発明は,前記イ【被告の主張】に記載のとおり,その内容が不確定なものであり,また「所定の間隔」が30mm以外の場合に何らかの課題が解決できるかどうかは分からないから,本件発明が実施できるように記載されていない。以上によれば,本件明細書等に基づいて当業者が実施することができるものとはいえず,本件特許は特許法36条4項1号の規定に違反してされたものであって,特許法123条1項4号の無効理由があるから,特許無効審判により無効にされる
べきものである。
【原告の主張】
争う。
本件明細書等は,当業者であれば本件明細書等中の記載(【0011】,【0015】,【0029】,【0030】,【0035】)及び図面に基づいてD>Tとなる配置構成を備えた加熱調理器を実施できる程度に明確かつ十分に記載されているから,実施可能要件には違反せず,被告が主張する無効理由は成り立たない。エ
争点2-4(本件発明は新規性又は進歩性を欠くものであるか)

【被告の主張】
(ア)

公然実施品(乙12)に基づき新規性又は進歩性を欠くものであるか
被告は,遅くとも本件出願日前である平成13年10月に,製品番号をHTW-4DBとするIHクッキングヒーター(以下「公然実施品1」という。乙12。)を製造し,販売していた。
すなわち,本件発明と公然実施品1とは,①本件発明がフレームの係り代を除くトッププレートの横幅寸法が700mm以上に設定されているのに対し,公然実施品1では,フレームの係り代を除くトッププレートの横幅寸法は582mmである
点が相違し,その余の点は一致する。
この相違点については,トッププレートのサイズになんらかの臨界的意義があるわけではなく,公然実施品1もD>Tという構成を備えているから,トッププレートの横幅を「700mm以上」にすることは,実質的な相違点とはいえないし,単なる設計的事項の適用の問題にすぎない。また,ドロップインタイプの加熱調理器
においてトッププレートの横幅が広ければ使い勝手がよいことは明らかであるから,当業者であれば,
公然実施品1に,
下記(イ)に記載の公然実施品2に開示された75
cmのワイド幅を採用することは極めて容易なことであり,何の阻害事由もない。以上によれば,本件発明は,公然実施品1と同一であるか,公然実施品1に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであって,新規性又は進歩性を欠
くから,本件特許は特許法29条1項2号又は同条2項に違反してされたものである。よって,同法123条1項2号の無効理由があるから,特許無効審判により無効とされるべきものである。
(イ)

公然実施品(乙14)に基づき進歩性を欠くものであるか

リンナイ株式会社は,遅くとも本件出願日前である平成13年4月11日に,製品番号をRSK-N730V4TGT-STとするガスコンロ(以下「公然実施品2」という。乙14。)を製造し,販売していた。
すなわち,本件発明と公然実施品2とは,①本件発明では加熱手段が「誘導加熱コイル」であるのに対し,公然実施品2は加熱手段が「ガスバーナー」である点,②本件発明が「前記誘導加熱手段及びロースタの上方を覆うように設けられたトッププレートとその周縁部に装着したフレームとからなる天板とを備え」ているのに
対し,公然実施品2は,「前記加熱手段及びロースタの上方に設けられたトッププレートとその周縁部に装着したフレームとからなる天板とを備え」ているが覆うようにはなっていない点,③本件発明が「これら加熱部に前記調理容器を所定の間隔を存して並置可能とする最大径の調理容器を載置したとき,この所定の間隔より該調理容器の外殻から前記トッププレートの前記フレームの係り代を除く左右端部ま
での距離を長くなる構成」とされているのに対し,公然実施品2はそのような点が明示されていない点が相違し,その余の点は一致する。
相違点①及び②については,ガスコンロとIHクッキングヒーターは技術分野が同一又は密接に関連するから,公然実施品2に公然実施品1を組み合わせることで容易に想到できる事項である。また,相違点③については,公然実施品2の全長や
ガスコンロ間ピッチは本件発明の実施例と同じであるから,実質的な相違点でないか,容易に想到できる。
以上によれば,本件発明は,公然実施品2に公然実施品1を組み合わせることで当業者が容易に想到できたものであって進歩性を欠くから,本件特許は特許法29条2項に違反してされたものである。よって,同法123条1項2号の無効理由が
あるから,特許無効審判により無効とされるべきものである。
【原告の主張】
争う。
(ア)

公然実施品1に基づき新規性又は進歩性を欠くものであるか

本件発明と公然実施品1とでは,被告が挙げる相違点以外にも,②本件発明の「所定の間隔」は,左右の加熱部に鍋が載置されても,載置された鍋やその取手が容易に触れない間隔の意義であるところ,公然実施品1における最大径の26cmの鍋を並置したときの間隔は20mmであって,「所定の間隔」として30mmが確保されていない点で相違する。
よって,本件発明と公然実施品には,前記相違点①及び②が存在するから,本件発明は,公然実施品1と同一ではない。

また,本件発明の課題は,東芝が新たに見出したものである。公然実施品1と公然実施品2には,課題が現れていないから,課題の共通性はない。さらに,IHクッキングヒーターとガスコンロとは,求められる部品の構成,構造が基本的に相違しており技術分野が相違し,加熱手段であるガスバーナーをトッププレートで覆うことは技術的にあり得ないなどの技術的阻害要因があるから,公然実施品1に公然
実施品2に開示された75cmのワイド幅を採用することについて,当業者は容易に想到しない。
以上によれば,本件発明は,公然実施品1と同一とも,公然実施品1に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものともいえないから,被告が主張する無効理由は成り立たない。

(イ)

公然実施品2に基づき進歩性を欠くものであるか

本件発明と公然実施品2とは,被告主張のとおりの相違点が存在するが,前記(ア)と同様に,ガスコンロとIHクッキングヒーターには,技術分野の相違や技術的阻害要因があるから,公然実施品2に公然実施品1の構成を採用することについて,当業者は容易に想到しない。
以上によれば,本件発明は,本件出願日当時,当業者が公然実施品2に基づいて容易に発明をすることができたものとはいえないから,被告が主張する無効理由は成り立たない。


争点3(損害の発生の有無及びその額)

【原告の主張】

損害賠償請求権の譲渡

原告は,平成27年3月13日,東芝から,同社の第三者に対する本件特許権の侵害を理由とする損害賠償請求権の譲渡を受けた。東芝は,その後,被告に対し,同債権譲渡に係る通知をした。

被告は,別紙2被告製品関連製品目録に記載のとおり,平成19年1月1日
から平成28年12月31日までの間に,被告製品関連製品を製造し,販売して,合計726億円を売り上げた。特許法102条3項に基づいて本件特許権の実施につき特許権者が受けるべき金銭の額は,売上高の1パーセントを下らないので,被告の同行為により,本件特許権の特許権者が受けた損害額の合計は,少なくとも7億2600万円であり,原告はこの一部である4億円を請求する。ウ
弁護士費用

本件の訴訟追行に要する弁護士費用は,4000万円が認められるべきである。エ
小括

よって,原告は,被告に対し,本件特許権侵害の不法行為による損害賠償請求権に基づき,7億2600万円の一部である4億円及び弁護士費用4000万円の合計額並びにこれに対する不法行為後の日である平成29年4月12日から支払済みまでの民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。【被告の主張】
否認し,争う。
第3

当裁判所の判断

1
本件発明の意義について



本件明細書等の発明の詳細な説明の記載

本件明細書等の発明の詳細な説明は,概要,次のとおりであり,図4及び5は,別紙5本件明細書等の図面記載2及び3のとおりである(甲15,19)。ア
技術分野

「【0001】
本発明は,被加熱物をトッププレート上に載置した調理容器を介して加熱調理する加熱調理器に関する。」

背景技術

「【0002】
従来,加熱調理器は,例えば図4,5に示す複数口(ここでは3口タイプ)のドロップインタイプのものでは,説明は略すがロースタ機能や加熱手段,冷却ファン等の駆動機構部を要するケース本体1と,この上部を覆うように設けられたトッププレート2とから概略構成されている。この場合,トッププレート2の周縁部にはフレーム3が被着されて天板4として構成され,従ってトッププレート2の周縁部はフレーム3により一部覆われた(以下,係り代と称する)構成にある。また,前記加熱手段としては,
例えば誘導加熱コイルからなる左右に並設された加熱手段5,

6と,これらの奥方中央にニクロム線によるラジエントヒータからなる加熱手段7を配設していて,これらはいずれもほぼ円形状に形成されている。【0003】
しかして,上記加熱手段5,6,7に近接して上方に位置する前記トッププレート2には,各加熱手段5,6,7の円形状外殻線より若干径大としたリング状枠を
表示してなる各加熱部8,9,10を左右及び中央部位に夫々印刷表示により形成していて,図示しない鍋等の調理容器を有効に加熱できる領域として使用者に示し便宜を図っている。尚,左右の加熱手段5,6の直径であるコイル径Lは,通常いずれも180mmを採用していて,従って上記リング状枠たる左右の加熱部8,9は,これより径大に設定している(詳細は後述する)。」

「【0005】
具体的にトッププレート2としては,図4に示すように周縁部のフレーム3による係り代を除く有効な横幅寸法Vを550mmとしており,従って上記フレーム3の左右及び前方における幅寸法Wは各々25mmとしている。そして,このトッププレート2の各加熱部のうち,左右に並設された加熱部8,9には,適用できる調理容器として最大径の例えば鍋(図示せず)を並置可能としている。今,鍋の最大径をUとすると,左右に配設された加熱部8,9に載置された鍋が容易に触れない所定の間隔Tを存して並置されたとき,各鍋がトッププレート2の左右端部からはみ出さない寸法に設定される。
尚,
図4中には,
鍋の最大径Uは,
左右の加熱部8,
9の領域を示すリング状枠と同径としており,これを図示しない鍋の外殻とみなすことができる。

【0006】
しかして図4には,トッププレート2の中心線αは左右横幅の中央部をも示し,また左右の加熱部8,9の中心線βは,これに対応する誘導加熱コイルからなる加熱手段8,9の中心部でもあり,この間のピッチ寸法たるコイルピッチSは,上記所定の間隔Tを確保した上で求められる。この例では,通常中央部の間隔Tを30
mmとした上でコイルピッチSを285mmとし,鍋の最大径Uを255mm(U=S-T)と設定している。この結果,各鍋の外郭からトッププレート2の各左右端部までの各最短距離Rは,5mmの余裕としており,トッププレート2の奥行寸法Mが439mm,そして鍋の外殻から前端部までの最短距離Nが27.5mmと比較的余裕があるものの,左右方向に余裕がないため上記鍋の最大径Uとしてはこ
れが許容される実用上の限界であると言える。
【0007】
尚,上記鍋の間隔T(30mm)の根拠としては,左右に並置した鍋の取手が他方の鍋の側面に当接したり,或は当接しない位置にあっても近接した取手を掴み難くて取扱い難いなどの理由から設定されている。」

「【0008】
斯くして,上記最大径Uの鍋を左右に並置して実使用する場合,トッププレート2上において,中央部では所定の間隔T(30mm)を有するのに対し,左右端部側では最短距離R(5mm)と余裕がなく,このため鍋が左右方向にはみ出すおそれがあり,或はトッププレート2を超えて吹きこぼれや飛び散りにより周辺を汚すおそれもある。特にドロップインタイプでは,キッチンのカウンタートップ11上面と,トッププレート2の載置面とは,使い勝手及び意匠的な観点から段差を極力小さくしたり,ほぼ同一面とする平坦状をなしている。このため,鍋が左右にはみ出しても載置状態に特に大きな変化もなく見過ごすおそれがあり,延いては鍋の位置ずれを招き加熱効率が低下したり,はみ出した鍋が他のものと接触して加熱する不具合も懸念される。

【0009】
のみならず,カウンタートップ11上にある各種の調理器具や小物部品等がトッププレート2側に移動し易く,この場合では上記したように加熱部8,9が近接しているので,誤って加熱してしまうなどの可能性もある。また,キッチンではカウンタートップ11に置かれた食器棚等の側壁が,トッププレート2の左右のいずれ
か一方の端部に近接して配置されるケースも考えられ,このようなスペース制約を受けた設置条件の場合には鍋が食器棚に触れたり,鍋の取手が掴み難くて取扱い性が低下するなどの不具合が考えられる。」

発明が解決しようとする課題

「【0011】
解決しようとしている問題点は,径大な鍋などの調理容器をトッププレート上に左右並置する場合,該トッププレート上から左右方向にはみ出し易くて周辺に吹きこぼれや飛び散りを招き易く,延いては不具合な加熱形態を招いたり,また左右端部にスペース制約を受ける設置条件にある場合には,調理容器の取扱い性も低下するなどの難点を有する。」


課題を解決するための手段

「【0012】
上記問題点を解決するために,本発明の加熱調理器は,ドロップインタイプの加熱調理器であって,横幅寸法を560mm以下に設定したケース本体内に左右に配設され被加熱物を調理容器を介して加熱する複数の誘導加熱コイルと,この複数の誘導加熱コイルの下方に設けられたロースタと,前記誘導加熱コイル及びロースタの上方を覆うように設けられたトッププレートとその周縁部に装着したフレームとからなる天板とを備え,前記フレームの係り代を除く横幅寸法を700mm以上に設定した前記トッププレートには,前記誘導加熱コイルと対応する左右位置に前記調理容器を載置する加熱部を設けるとともに,これら加熱部に前記調理容器を所定の間隔を存して並置可能とする最大径の調理容器を載置したとき,この所定の間隔
より該調理容器の外殻から前記トッププレートの前記フレームの係り代を除く左右端部までの距離を長くなる構成としたことを特徴とする(請求項1の発明)。」「【0014】
そして,
上記請求項1記載のものにおいて,
ドロップインタイプの構成にあって,
ケース本体の横幅寸法を560mm以下,及び前記フレームの係り代を除くトップ
プレートの横幅寸法を700mm以上に設定したことを特徴とする(請求項1の発明)。」

発明を実施するための最良の形態

「【0021】
尚,上記加熱部28~30は,図示しない調理容器を有効に加熱する載置領域であることを示すもので,
後述する加熱手段より径大に表示してあるとともに,
特に,
このうちの手前左右の加熱部28,29たるリング状枠の径寸法は,許容される最大径の調理容器として例えば鍋の径寸法(図1に符号Kで示す)を兼ねて表しており,その配置関係等の詳細については後述する。」
「【0028】

上記のように,鍋を載置するトッププレート22の横幅寸法Bを大きくしたことにより,本実施例における要部の配置関係は図1に示す通りである。まず,少なくとも左右の加熱部28,29の径寸法は,例えば300mmに設定されていて,これは上記したように許容される最大の鍋径Kと共通としており,従来の最大の鍋径U255mmより径大化されている。一方,これと対応する左右の加熱手段34,35の径寸法たるコイル径Lは,従来と同じく共に180mmとしていて,従来と同じ横幅寸法Y
(543mm)
のケース本体21内にコンパクトに配設されている。
【0029】
ここで,上記した許容される最大の鍋径Kの定義について述べると,鍋の大きさは左右の加熱部28,29上に,所定の間隔寸法Tを確保した上で並置可能であることを前提条件としている。しかして,トッププレート22の中心線αで示す中央
部に,上記鍋の間隔寸法Tとして30mmを確保しつつ,左右の加熱手段34,35の中心線βで示すコイルピッチCが330mmとする本実施例では,鍋径Kは従来の約20%アップの300mmと設定することができる
(K=C-T)従って,

この鍋径Kと同径とするリング状枠である左右の加熱部28,29も,中央部に所定の間隔寸法Tたる30mmを介して左右にほぼ均等配分された位置に形成されて
いる。
【0030】
ただし,上記鍋径Kが許容される最大径と最終決定するには,本実施例では上記径大化に加えて従来不十分であった左右端部方向における距離的余裕を確保して決定される。

因みに,中央部における所定の間隔寸法T30mmに対し,鍋径Kたる鍋の外殻から左右端部までの最短距離Dは42mmと大きく設定され(T<D),即ち最大とする鍋径Kの鍋が左右に並置されてもトッププレート22の左右端部には,中央部の鍋間より長い距離が確保されている。」
「【0032】

尚,
本実施例ではトッププレート22の奥行寸法Gが406mmであるのに対し,左右に配置された加熱部28,
29の中心から前端部までの距離Hは182mmで,
各加熱部28,29,従って加熱手段34,35も若干前方寄りに配設され,中央の奥方の加熱部30及び加熱手段36の設置スペースを有効に確保する一方,最大鍋径K(加熱部28,29と同径に図示)の鍋の外殻から前端部までの最短距離Jにおいても32mmを確保しており,所定の間隔Tよりも長くしていて,前端部方向においても距離的に十分な余裕を確保している。」

発明の効果

「【0015】
本発明の加熱調理器は,請求項1によれば,トッププレート上に所定の間隔を存して最大径の調理容器を載置したとき,この所定の間隔より該調理容器の外殻から前記トッププレートの左右端部までの距離を長くする構成としたので,業界標準となっている限られた寸法内にロースタを一体に組み込んだケース本体を落とし込んで配置するような加熱調理器においても,所定の間隔を確保した上で許容される最大径の調理容器が,トッププレート上から左右方向にはみ出るのを抑えて不具合な加熱形態を回避するとともに,左右端部に余裕ができて調理容器の取扱いに支障を
来すこともない。」


本件発明の概要

前記第2の2前提事実⑵ウの特許請求の範囲の記載及び前記⑴の本件明細書等の記載によれば,本件発明の概要は,次のとおりであると認められる。ア
本件発明は,被加熱物をトッププレート上に載置した調理容器を介して加熱
調理する加熱調理器(調理用IHクッキングヒーター)に関する。(【0001】)

従来の加熱調理器においては,トッププレートの加熱部のうち,左右に併設
された加熱部に,最大径の鍋(255mm)を並置して使用する場合,トッププレート中央部に,鍋の間隔として所定の間隔(30mm)を有するのに対し,鍋の外殻から左右端部までの距離(5mm)は余裕がなく(【0002】,【0003】,
【0005】~【0008】),このため,調理容器がトッププレート上から左右方向にはみ出し易く,また,周辺に吹きこぼれや飛び散りを招き易く,ひいては不具合な加熱形態を招いたり,左右端部にスペース制約を受ける設置条件にある場合には,調理容器の取扱性が低下するなどの課題があった(【0008】,【0009】,【0011】)ところ,本件発明は,加熱部に前記調理容器を所定の間隔を存して並置可能とする最大径の調理容器を載置したとき,この所定の間隔より該調理容器の外殻からトッププレートのフレームの係り代を除く左右端部までの距離を長くなる構成としたことによって,業界標準となっている限られた寸法内にロースタを一体に組み込んだケース本体を落とし込んで配置するような加熱調理器においても,最大径の調理容器がトッププレート上から左右方向にはみ出るのを抑えて不具合な加熱形態を回避するとともに,調理容器の外殻から左右端部までの距離に余
裕ができて調理容器の取扱いに支障を来すこともないという効果(【0015】)を得ることができるようにしたものである。
2
争点1(被告製品関連製品は構成要件Eを充足するか)について



「調理容器の外殻」及び「最大径の調理容器」の意義

構成要件Eのうち,「調理容器の外殻」及び「最大径の調理容器」の意義について検討する。
上記各文言は,調理容器との関係をもって加熱調理器の構成を示すものであり,文言のみから一義的にその意義を明らかにすることができないことから,本件明細書等の発明の詳細な説明の内容を考慮して検討する必要がある。そこで,1⑴においてみたとおりの本件明細書等の記載を考慮すると,
本件明細書等【0003】



【0005】,【0021】,【0028】,【0029】,【0030】,【0032】)には,リング状枠はトッププレート上に印刷表示され,調理容器を有効に加熱できる領域として使用者に示されるものであること(【0003】),リング状枠は加熱部の領域を示し,鍋の最大径と同径で,鍋の外殻を表すものであること(【0005】,【0021】)及び加熱部は最大の鍋径と同径で,リング状枠
であること(【0028】,【0029】)が示され,これ以外に,上記各文言の意義の解釈を導くような説明がされていることは認められない。そうすると,「最大径の調理容器」トッププレート上に印刷表示され左右の加熱部の領域を示し,は,
また,リング状枠と同径のものであり,また,「調理容器の外殻」と一致するものであると解するのが一般的かつ自然である。
この点,
被告は,
構成要件Eの内容は不特定であるなどと主張するが,
同主張は,
前記認定に照らし採用することができない。


被告製品関連製品の構成


原告は,別紙3被告製品説明書(原告)において,被告各製品は,「左IH
ヒーター及び右IHヒーター上で,調理容器の鍋底全体を加熱できる最大径である直径26cmの領域を示す外殻線11,12」という構成を有し,これが「調理容器の外殻」であり「最大径の調理容器」である旨主張する。そして,被告各製品を除く被告製品関連製品も被告各製品と同様の構成を有する旨主張する。イ
しかしながら,前記⑴において認定したとおり,
「調理容器の外殻」及び「最

大径の調理容器」は,トッププレート上に印刷表示された加熱部及び有効加熱領域の領域を示すリング状枠と同径のものであるところ,原告の主張する外殻線11,12は,原告において付しているものにすぎず,トッププレート上に表示されているものではないから,これらを「調理容器の外殻」又は「最大径の調理容器」であるとみることはできない。そして,本件全証拠によっても,被告各製品には,加熱部及び有効加熱領域を示す直径26cmのリング状枠が表示されているとは認められず,加熱部及び有効加熱領域を示すリング状枠と同径である「調理容器の外殻」
及び「最大径の調理容器」が直径26cmであると認めることもできない。原告は,「調理容器の外殻」は,鍋底の最大径であり,被告は被告各製品において鍋底が直径26cmまでの鍋を使用することができる旨説明しているから,被告各製品の
「最大径の調理容器」
は26cmのものであると主張する。
しかしながら,
被告において上記のように説明することが,被告各製品で使用可能な最大径の鍋底
を示すものといえるか否かについてひとまず措くとしても,前記⑴において認定したとおり,「調理容器の外径」及び「最大径の調理容器」と同一であるリング状枠及び有効加熱領域は,トッププレートに表示される必要があるのであって,表示されていない有効加熱領域に基づく原告の主張はその前提を欠き失当である。⑶

小括

以上のとおり,被告各製品は,原告主張の「調理容器の鍋底全体を加熱できる最大径である直径26cmの領域を示す外殻線」という構成を有するとは認められないから,この外殻線を前提に被告各製品が構成要件Eを充足するという原告の主張は採用できず,ほかにこれを認めるに足りる証拠もない。また,被告各製品を除く被告製品関連製品が構成要件Eを充足することを認めるに足りる証拠もない。したがって,その余の点について判断するまでもなく,被告製品関連製品は,構
成要件Eを充足しないから,本件発明の技術的範囲に属すると認めることはできない。
3
結論

以上によれば,その余の争点につき検討するまでもなく,原告の請求には理由がないから,いずれも棄却することとして,主文のとおり判決する。東京地方裁判所民事第29部

裁判長裁判官
山田真紀
裁判官

棚橋知子西山芳樹
裁判官

(別紙1)

製品の名称
製品番号1

告製品目録
日立IHクッキングヒーター

HT-J200HTWF



HT-J200XTWF



HT-J300HTWF



HT-J300XTWF



HT-K100HTWF


HT-K100XTWF


HT-K8STWF


HT-K9HTWF


HT-K9XTWF


HT-J100HTWF


HT-J100XTWF


HT-K300XTWF



HT-K300HTWF



製品番号2

HT-K200XTWF



HT-K200HTWF





HT-J8SWF


HT-J8STWF


HT-J8SW


HT-J8STW
以上
(別紙2)
被告製品関連
製品番号
HTW-4WFS

品目録
販売期間と合計額
2007年の1年間

(以上1製品)
HTB-A8WS


合計3億円
2007~2008年までの2年間

HTB-A8WFS

合計24億円

HTB-A9WS
HTB-A9WFS
(以上4製品)
HT-A9TWS

2007~2009年までの3年間

HT-A9TWFS

合計36億円

HT-A20WS
HT-A20WFS
(以上4製品)
HT-B8WFS

2007~2010年までの4年間

HT-B8WS

合計54億円

HT-B9TWS
HT-B9TWFS
HT-B10TWS
HT-B10TWFS
(以上6製品)
HT-C8WS

2008~2011年までの4年間

HT-C8WFS

合計72億円

HT-C9TWS
HT-C9TWFS
HT-C10TWS
HT-C10TWFS
HT-C20TWS
HT-C20TWFS
(以上8製品)
HT-D8WS

2009~2012年までの4年間

HT-D8WFS

合計90億円

HT-D8TWS
HT-D8TWFS
HT-D9TWS
HT-D9TWFS
HT-D10TWS
HT-D10TWFS
HT-D20TWS
HT-D20TWFS
(以上10製品)
HT-E8WS

2010~2013年の4年間

HT-E8WFS

合計90億円

HT-E8TWS
HT-E8TWFS
HT-E9TWS
HT-E9TWFS
HT-E10TWS
HT-E10TWFS
HT-E20TWS
HT-E20TWFS
(以上10製品)
HT-F8WS

2011~2014年の4年間

HT-F8WFS

合計90億円

HT-F8TWS
HT-F8TWFS
HT-F9TWS
HT-F9TWFS
HT-F10TWS
HT-F10TWFS
HT-F20TWS
HT-F20TWFS
(以上10製品)
HT-G8WS

2012~2015年までの4年間

HT-G8WFS

合計90億円

HT-G8TWS
HT-G8TWFS
HT-G9TWS
HT-G9TWFS
HT-G10TWS
HT-G10TWFS
HT-G20TWS
HT-G20TWFS
(以上10製品)
HT-H8STW

2013~2016年までの4年間

HT-H8STWF

合計90億円

HT-H8SW
HT-H8SWF
HT-H100HTWF
HT-H100XTWF
HT-H200HTWF
HT-H200XTWF
HT-H300HTWF
HT-H300XTWF
(以上10製品)
HT-J100HTWF

2014~2016年の3年間

HT-J100XTWF

合計60億円

HT-J200HTWF
HT-J200XTWF
HT-J300HTWF
HT-J300XTWF
HT-J8STW
HT-J8STWF
HT-J8SW
HT-J8SWF
(以上10製品)
HT-K8STWF

2015年,2016年の2年間

HT-K9HTWF

合計27億円

HT-K9XTWF
HT-K100HTWF
HT-K100XTWF
HT-K200HTWF
HT-K200XTWF
HT-K300HTWF
HT-K300XTWF
(以上9製品)
総合計

726億円
以上
(別紙3)
被告製品説明書(原告)
1
物件の平面状態の説明(図1)
ドロップインタイプのIHクッキングヒーターである。
プレートワク2で囲まれたトッププレート1上に,下部に配置される3つのヒ
ーターの位置を示す左IHヒーター位置マーク3,右IHヒーターマーク4,及び中央ヒーター位置マーク5が表示されている。
各位置マーク3,4,5は,それぞれトッププレート1の直下であってケース10内に配置される左IHヒーター,右IHヒーター,中央ヒーターの位置を示している。
左IHヒーター及び右IHヒーターのそれぞれの中央にあわせて,調理容器が載置される。左IHヒーター及び右IHヒーター上に載置される調理容器は,それぞれ鍋底形状が平らなもので,鍋底の全体を加熱できる最大の直径は26cmとされている。最大径の調理容器を載置した場合が外殻線Kである。左IHヒーター上に最大径26cmの鍋底の調理容器を載置した場合の鍋外
殻線11と右IHヒーター上に最大径26cmの調理容器を載置した場合の鍋外殻線12との間の間隔は,被告製品1の場合には4cm,被告製品2の場合には7cmである。
各外殻線とプレートワク2の内枠までの間隔Dは,被告製品1の場合には9cm,被告製品2の場合には7.5cmである。

2
物件の正面状態の説明(図2)
各ヒーターの下方にヒーターで加熱するオーブン8が設けられている。
3
被告製品1の寸法の説明(図3)
トッププレート1のフレームの係り代を除く横幅寸法は740mmである。被告製品1の幅は749mmであり,奥行きは506.5mmである。横方向の中心線から,左IHヒーター位置マーク3,右IHヒーター位置マーク4の中心までの距離は150mmである。
左IHヒーター位置マーク3,右IHヒーター位置マーク4の直径は200mmであり,中央ヒーター位置マーク5の直径は140mmである。ケース本体の横幅寸法は545mmである。

4
被告製品2の寸法の説明(図4)
トッププレート1のフレームの係り代を除く横幅寸法は740mmである。被告製品2の幅は749mmであり,奥行きは506.5mmである。横方向
の中心線から,左IHヒーター位置マーク3,右IHヒーター位置マーク4の中心までの距離は165mmである。
左IHヒーター位置マーク3,右IHヒーター位置マーク4の直径は200mmであり,中央ヒーター位置マーク5の直径は140mmである。ケース本体の横幅寸法は545mmである。

5
符号の説明
14
右IHヒーター位置マーク,5

8
オーブン,10

K
トッププレート,2

最大径の調理容器を載置した場合の外殻線の寸法

6
プレートワク,3

ケース,

左IHヒーター位置マーク,

中央ヒーター位置マーク,7

11,12

排気口

鍋の外殻線

物件の構成


ドロップインタイプのIHクッキングヒーター



調理器のケース10の内部に配設された左IHヒーターと右IHヒータ
ーであって,ケース10の横幅寸法は54.5cm(545mm)である。⑶

左IHヒーターと右IHヒーターの下方に配置されたオーブン8



左IHヒーター,右IHヒーター及びオーブン8の上方に設けられたトッ
ププレート1は,その周縁部においてプレートワク2で囲まれており,プレートワク2の係り代を除く横幅寸法は74cm(740mm)である。⑸

トッププレート1上に,左IHヒーターに対応する位置を示す左IHヒー
ター位置マーク3,右IHヒーターに対応する位置を示す右IH位置マーク4が表示されている。


トッププレート1上に載置されて使用される調理容器のうち,鍋底の直径
が26cm以下の調理容器は,鍋底の全体が加熱でき,鍋底の直径が26cmを超える調理容器は,26cmを超える鍋底の範囲は加熱することができない。⑺-1

被告製品1では,左IHヒーター及び右IHヒーター上で,調理容器
の鍋底全体を加熱できる最大径である直径26cmの領域を示す外殻線11,12との間の間隔Tは4cmであり,各外殻線11,12とプレートワク2の内枠までの間隔Dは9cmである。
⑺-2

被告製品2では,左IHヒーター及び右IHヒーター上で,調理容器
の鍋底全体を加熱できる最大径である直径26cmの領域を示す外殻線11,12との間の間隔Tは7cmであり,各外殻線11,12とプレートワク2の内枠までの間隔Dは7.5cmである。


調理用IHクッキングヒーターである。

7図
(図1)(平面状態図)

(図2)(正面状態図)

(図3)

(図4)

以上

(別紙4)
被告製品説明書(被告)
物件の構成(以下の図を参照)



左IHヒーター13と右IHヒーター14より下方に配置されたオーブン


調理器10の内部に配設された左IHヒーター13と右IHヒーター14
左IHヒーター13,右IHヒーター14及びオーブンより上方に設けられ
たトッププレート1は,その周縁部においてプレート枠2で囲まれている。⑷

トッププレート1上に,左IHヒーター13に対応する位置を示す左IHヒ
ーター位置マーク3,右IHヒーター14に対応する位置を示す位置マーク4が表示されている。


トッププレート1上に載置されて使用される調理容器の鍋底の直径に上限は
設けられていない。


調理用IHクッキングヒーターである。
左右のIHヒーターの配置は,図2及び図3のとおりである(図2は被告製
品1に対応,図3は被告製品2に対応している。)。


被告製品はドロップインタイプの加熱調理器であり,
誘導加熱コイルを備え,

調理器のケースの横幅寸法が560mm以下であり,トッププレートのフレームの係り代を除く横幅寸法が700mm以上である。

(図1)

(図2)

(図3)

以上

(別紙5)
本件明細書1等の図面23
以上

(別紙6)
図1面
図面1

2
図面2

以上

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