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関税法違反(変更後の訴因 関税法違反、消費税法違反、地方税法違反)
事件番号平成30(う)166
事件名関税法違反(変更後の訴因 関税法違反,消費税法違反,地方税法違反)
裁判年月日平成30年9月5日
法廷名福岡高等裁判所
結果棄却
原審裁判所名佐賀地方裁判所
原審事件番号平成29(わ)136
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平成30年9月5日宣告

福岡高等裁判所第1刑事部判決

平成30年(う)第166号

関税法違反(変更後の訴因

関税法違反,消費税法

違反,地方税法違反)被告事件
主文
本件各控訴を棄却する

第1


参加人の事実誤認の主張について

論旨は,要するに,原判決が没収した金地金206塊(以下「本件金地金」という)は参加人の所有する物であり,刑法19条2項本文にいう「犯人以外の者に属しない物」ではないから,本件金地金が本件犯行の共犯者Aあるいはその背後にいる氏名不詳の共犯者の所有する物と認定した原判決には,判決に影響を及ぼすことが明らかな事実誤認がある,というのである。
そこで記録を調査し,当審における事実取調べの結果をも併せて検討すると,原判決が本件金地金を刑法19条2項本文にいう「犯人以外の者に属しない物」と認定したことに,論理則,経験則に反するところはなく,原判決には判決に影響を及ぼすことが明らかな事実誤認はない。その理由は以下のとおりである。1
関係証拠からの検討

本件犯行は,原判示のとおり,被告人ら中国人とBら日本人が共謀し,平成29年5月末頃,東シナ海公海上で,本件金地金を国籍不明の船舶から本件船舶に積み替え,佐賀県唐津市の岸壁で本件金地金を陸揚げして,無許可で貨物を輸入し,不正の行為により消費税及び地方消費税を免れた,というものであるところ,関係証拠によれば,本件犯行に至る経緯について,次の事実が認められる。⑴

A,被告人らは,本件犯行より前の平成29年3月と4月,それぞれ本件と
同様に,
公海上で本件船舶を国籍不明の船舶に接舷させるいわゆる瀬取りの方法で,金地金を日本国内に持ち込んで密輸しようとし,同年3月には接舷できなかったものの,同年4月には金地金を日本国内に陸揚げし,密輸したその金地金をリュック
サック数個に入れたまま自動車で東京に運んでいる。


金地金を密輸するに当たっては,本件犯行の日本側の共犯者が本件船舶を購
入している上,本件船舶及び国籍不明の船舶にそれぞれ船舶電話が設置され,相互の連絡用に衛星電話2台が用意されている。また,Bは,共犯者が本件船舶を購入する資金を借り入れた債務を保証している上,平成28年10月本件船舶に船舶電話を設置する契約をし,平成29年3月本件船舶を青森県から長崎県壱岐市の漁港まで回航させている。


中国側と日本側の各共犯者との間で,平成29年2月,金地金の密輸につい
て,
各共犯者らの役割,
費用の負担及び利益の分配に関する文書が作成されており,
その後,AとBの間で,費用の負担と利益の分配について協議がされ,同年4月頃,Aは,Bに対し,同年5月中に本件船舶を出航させなくとも140万円を支払い,金地金の密輸が成功すれば更に80万円を加算して支払うことを約束し,同月初め頃には,Bの要求に応じて,140万円を宅急便で送付している。⑷

本件犯行の共犯者らは,前記船舶電話及び衛星電話4台の電話番号,公海上
の瀬取り位置の座標を各携帯電話で送信し合って連絡し,関係の共犯者らに金地金を陸揚げする漁港の場所を周知し,あらかじめ,本件金地金を入れる収納ボックスを購入し,陸揚げした金地金を運ぶための自動車を用意するなどして,本件犯行を準備している。
このように,本件犯行は,緻密な計画に基づいて,国籍不明の船舶で本件金地金を運搬した氏名不詳の共犯者らを含め多数人が関与して行われており,大掛かりな組織的犯行というべきであり,中国側の主犯格であるA及び被告人は,日本側の中心人物であるBらと連絡し,
協議するため,
通訳人に1日2万円の通訳料を支払い,
Bらの日本側の共犯者らに,費用や報酬を支払っている。A及び被告人は,本件犯行を実行するためかなりの資金を投入している上,本件犯行に必要な物全般が用意されているから,本件犯行でまさに必須ともいうべき金地金がA及び被告人あるいはその背後の共犯者らが調達した可能性は相当に高いということができる。被告人
の使用するスマートフォンに記録された「C」という名前で登録された人物とのやりとりによると,被告人は,その人物に対し,共犯者の氏名に触れたり,金銭の支払いを求めたりした後,本件犯行の直前になって,
「物を売りたい人誰かいますか」
「まだ40キロ足りない」などと,金地金の調達に協力を依頼するとみられるメッセージを送信している。このことも,A,被告人らが本件金地金を調達したことをうかがわせるものである。
金地金を密輸すれば,税関に輸入の申告をするときに課される金地金の価格の8%に当たる消費税及び地方消費税の支払いを免れることができ,金相場に変動がなければ,日本国内で金地金を売却することによって上乗せされる前記金地金の価格の8%分を利得することができる。A,被告人らは,陸揚げして密輸した本件金地金を自動車で京都まで運び,その後更に別の自動車に乗り換えて東京に行く予定であり,前記のとおり,平成29年4月には密輸した金地金を東京まで運んでいるから,密輸した金地金は,自分らの手元に留めることなく,第三者に引き渡す予定であったということができる。そうすると,A,被告人らが,大量の金地金の密輸を実行した目的は,前記利益の獲得のために密輸した金地金を日本国内で売却することにあったということができるのであり,A,被告人らが本件金地金を日本国内で売却処分することを予定していたのであれば,A及び被告人を含む本件犯行の中国側の共犯者以外に本件金地金の所有者はいなかったと認めるのが相当である。2
被告人の原審供述について

これに対し,被告人は,原審公判において,自分は本件金地金の所有者ではなく,Aから,中国内で本件金地金を受け取り運んで別の人物に渡し,日本国内で陸揚げされた本件金地金を東京まで運ぶことを頼まれただけであり,本件金地金は参加人から借りたもので,参加人を経営するDは,本件金地金が船舶で運ばれ密輸されることは知らなかったと供述する。
しかし,被告人は,原審公判において,本件犯行を含め一連の金地金の密輸の全容について明らかにしようとはせず,本件金地金の所有者が参加人であり,参加人
を経営するDが本件犯行とは無関係であるという結論を述べるだけで,その根拠について合理的な説明はしていない。むしろ,被告人は,平成29年3月金地金を密輸しようとした際,自らAらとともに本件船舶に乗船していた上,同年4月金地金を密輸するに当たっては,公海上の瀬取位置の座標を記載したメモの写真を共犯者に送信し,同年5月25日,本件犯行のために東京を出発して壱岐に向かうAらに対し,同日午後には中国側の準備が整う旨伝えている。また,被告人は,使用するスマートフォンに,平成28年9月に係留中の本件船舶の写真を,同年10月に本件犯行に使用された衛星電話2台の写真を,平成29年1月に金地金の密輸に関する中国側と日本側の協議内容を手書きしたメモの写真を,同年2月に金地金の密輸に関する中国側と日本側の協議内容のデータをそれぞれ保存している。加えて,被告人は,同年3月から4月までの間,そのスマートフォンを使って金地金の価格等に関する複数のサイトに多数回アクセスし,同年5月16日の金相場のデータをそのスマートフォンに保存している。このように,被告人は,本件犯行を含めた一連の金地金の密輸において,重要な部分に関与し,必要不可欠な連絡と調整をし,犯行を主導する立場の者が把握するべき記録を残している上,本件犯行による利益に直結する金地金の相場に関心を示している。
しかも,被告人は,スマートフォンに「C」として登録された人物に対し,本件犯行の4日前の平成29年5月26日,密輸する金地金の調達に協力を依頼するとみられるメッセージを送信し,翌日にすべて準備ができたというメッセージを送信し,その翌日には本件犯行に使用された船舶電話2台と衛星電話2台の各電話番号のメモの写真を送信している。他方で,「C」として登録された人物からは,被告人に対し,被告人とDとを投資者として同列に扱うメッセージが送信されてきている。
これらの事情に加え,本件金地金が売却を予定されたものであったことからすると,被告人が金地金の運搬役にとどまるという被告人の原審供述は,不合理,かつ不自然というほかない上,A及び被告人以外に本件金地金の所有権を有する者がい
たとしても,その者は本件犯行の共犯者と認定されるべきということができる。3
所論について

所論は,①参加人が提出した「黄金出借合同」なる契約書には,目的物である金地金の所有権を参加人に留保しつつ,本件犯行の首謀者であるAが代表を務める法人に貸し出したことが明記されており,参加人の経営者らは,貸し出した金地金をAがどのように運用するかは知らないし,それに関与もしていない,②本件金地金の密輸は水際で阻止され,現実には脱税による利益は発生していないにもかかわらず,罰金以外に脱税額の何倍もの金地金を没収するのは不公正である,という。しかし,①については,参加人は,前記契約書の真正を立証する証拠を提出していない上,前記契約書には,貸出物である黄金205.5㎏の所有権は平成29年5月10日から同年7月10日までの貸出期間中参加人に属する旨記載されているにしても,本件犯行で前記のような立場にある被告人の原審供述からは,それほど大量の金地金が貸し出された経緯は全く明らかにされていない。しかも,前記契約書には,貸出物である黄金を返還しなくとも,数量,規格,純度が一致した黄金の返還が許容されており,さらには金銭での返還も可能とされるなど,参加人が貸出物である黄金の所有権を留保したこととは矛盾する記載がある。さらに,前記のとおり,A及び被告人以外に本件金地金の所有権を有する者がいれば,その者は本件犯行の共犯者と認定されるべきであることにも照らすと,前記契約書は,A及び被告人を含む本件犯行の中国側の共犯者以外に本件金地金の所有者はいなかったと認定することに,合理的疑いを生じさせるものとはいえない。
また,②については,被告人らが免れた消費税及び地方消費税の合計は7441万3300円であり,
被告人らは現実にはその金額に相当する利益は得ていない上,
本件金地金の犯行当時の時価は,これらとは比較にならないほど高額の9億3016万8727円である。しかし,前記のような事実関係からすれば,A,被告人ら本件金地金の所有者は,本件以前にも金地金の密輸を企て,少なくとも1回はそれに成功しており,本件犯行後も金地金の密輸を継続しようとしていたということが
できる。そのような状況下で,本件犯行自体を組成し利得の源泉ともいうべき本件金地金をA,被告人ら本件犯行の共犯者らの下に返還したのでは,通関秩序を維持するという刑罰の目的は達成されたことにはならないというべきである。むしろ本件のような密輸の再発を抑止するためには,本件金地金を没収する必要があるというべきであり,被告人らが脱税による利益を得ていないからといって,本件金地金の没収が直ちに所有者にとって不当に過酷な処分になるとはいえず,没収を命じた原判決が裁量を逸脱したものとはいえない。
そのほか所論が縷々主張するところを検討しても,原判決の認定には論理則,経験則に反するところはなく,所論のいうような事実誤認はない。
論旨は理由がない。
第2

被告人の量刑不当の主張について

論旨は,要するに,被告人を懲役2年6月,5年間執行猶予及び罰金150万円に処した原判決の量刑は,懲役刑の刑期及び罰金刑の金額がいずれも重すぎて不当である,というのである。
そこで記録を調査し,当審における事実取調べの結果と併せて検討すると,本件は,次のとおりの関税法違反,消費税法違反及び地方税法違反の事案である。すなわち,被告人は,共犯者らと共謀の上,東シナ海の公海上で,共犯者らに,合計205㎏余りの本件金地金を国籍不明の船舶から共犯者らが乗る本件船舶に積み替えさせ,本件船舶を日本国内の岸壁に接岸させて本件金地金を陸揚げさせ,無許可で本件金地金を輸入するとともに,不正の行為により消費税5860万0500円及び地方消費税1581万2800円を免れた,というものである。被告人らは,
税関を通過することなく大量の金地金を輸入し,
金地金の価格の8%
に当たるわが国での消費税及び地方消費税分の利益を得ようとしたのである。本件犯行は,十名以上の中国人及び日本人が犯行の計画,準備及び実行に関与し,205㎏を超える金地金を密輸するというものであり,計画的で組織性の高い大掛かりな犯行である上,合計7441万3300円もの巨額の消費税及び地方消費税を免
れた結果は重大であり,同種事犯を抑止するためにも厳しい処罰が必要である。被告人は,前記のとおり,本件犯行に先立つ金地金の密輸において,自ら本件船舶に乗船し,密輸した金地金を東京まで運搬しており,本件犯行においては,本件金地金の調達,瀬取の日時場所等の連絡,日本国内における本件金地金の運搬の準備等を担当しており,犯行を主導した者が把握するべき記録を残している。これらのことからすると,被告人は,Aと並んで中国側の中心人物として,本件犯行の準備及び実行の全般に関わっていたというべきであり,共犯者の中でも,A及び日本側の中心人物であるBと並んで重い責任を負うべきである。
所論は,本件犯行の首謀者は,BとAであり,原判決も中国側の首謀者は被告人ではないと認定しており,被告人は,Aの指示に従って,日本の港で待機していたにすぎないから,原判決の量刑は不当である,という。しかし,前記のとおり,被告人は,本件犯行を含めた一連の金地金の密輸において,中国側の共犯者の中で,Aとともに中心人物として重要な役割を果たしていたということができる。原判決は,被告人が中国側の上位者に手足として利用されたと認定しているが,それは相当なものとはいえず,被告人に対する量刑は,果たした役割に照らして,懲役刑の執行を猶予したことにおいて,軽きに失しているといわざるを得ない。そうすると,被告人に日本国内での犯罪歴がないことなど,記録からうかがえる被告人のために酌むべき事情を十分考慮しても,被告人の本件犯行での立場及び役割に照らすと,原判決の量刑は,懲役刑の刑期の点でも,罰金刑の金額の点でも,重すぎて不当であるとはいえない。
論旨は理由がない。
よって,刑訴法396条により本件各控訴を棄却し,主文のとおり判決する。平成30年9月6日
福岡高等裁判所第1刑事部

裁判長裁判官

山口雅髙
裁判官

平島正道
裁判官

髙橋孝治
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