判例検索β > 平成29年(行ケ)第10222号
審決取消請求事件 商標権 行政訴訟
事件番号平成29(行ケ)10222
事件名審決取消請求事件
裁判年月日平成30年10月10日
法廷名知的財産高等裁判所
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平成30年10月10日判決言渡
平成29年(行ケ)第10222号
口頭弁論終結日

審決取消請求事件

平成30年9月19日
判原決告株
訴訟代理人弁護士

小林幸夫同木村剛大
訴訟代理人弁理士

飯塚信市同飯塚被告式会社アサヒ健
岡葉流通株式会社

訴訟代理人弁護士

大江修同大村麻
訴訟代理人弁理士

小林彰主子美子治文1
原告の請求を棄却する。

2
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由

第1請求
特許庁が無効2016-890042号事件について平成29年10月31日にした審決を取り消す。
第2事案の概要
1
特許庁における手続の経緯等
(1)

被告は,以下の商標(商標登録第5478795号。以下「本件商標」と
いう。)の商標権者である(甲1,乙66)。
商標
別紙記載のとおり

登録出願日

平成23年9月22日

登録査定日

平成24年1月23日

設定登録日

平成24年3月16日

指定商品
第22類「荷役作業時の被搬送物を覆う被搬送用の包装又は梱包用の伸縮自在なシート状又は筒状の布製緩衝材,布製包装用容器,わら製包装用容器,結束用ゴムバンド,日よけ,雨覆い,天幕,日覆い,よしず,衣服綿,ハンモック,布団袋,布団綿,編みひも,真田ひも,のり付けひも,よりひも,綱類」
(2)

原告は,平成28年7月6日,本件商標について商標登録無効審判(以下
「本件審判」という。)を請求した。
特許庁は,上記請求を無効2016-890042号事件として審理を行い,平成29年10月31日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決(以下「本件審決」という。)をし,その謄本は,同年11月9日,原告に送達された。
(3)

原告は,
平成29年12月7日,
本件審決の取消しを求める本件訴訟を提

起した。
2
本件審決の理由の要旨
本件審決の理由は,別紙審決書(写し)記載のとおりである。その要旨は,本件商標は,以下のとおり,商標法4条1項10号,15号,19号及び7号のいずれにも該当しないから,
本件商標の登録
(以下
「本件商標登録」
という。

は,これらの規定に違反してされたものとはいえず,同法46条1項の規定により無効とすべきでないというものである。
(1)

商標法4条1項10号該当性について
請求人(原告)が,商品「伸縮自在なキルティング製の筒状あてぶとん」
(以下「使用商品」という場合がある。)について使用する「ハイパット」の片仮名からなる標章(以下「引用商標」という。)は,本件商標の登録出願時及び登録査定時において,原告の取扱いに係る使用商品を表示するものとして,我が国の取引者,需要者の間に広く認識されていると認めることはできない。
したがって,本件商標は,引用商標と類似し,かつ,本件審判の請求に係る指定商品と引用商標の使用商品が同一又は類似する場合があるとしても,引用商標が周知性を有しないものであるから,商標法4条1項10号に該当しない。
(2)

商標法4条1項15号該当性について
引用商標は,本件商標の登録出願時及び登録査定時において,請求人(原
告)の業務に係る使用商品を表示するものとして,我が国の取引者,需要者の間に広く認識されていると認めることはできないものであるから,被請求人
(被告)
が本件商標を本件審判の請求に係る指定商品について使用しても,取引者・需要者において,その商品が原告あるいは原告と経済的又は組織的に何らかの関係を有する者の業務に係る商品であるかのように,商品の出所について混同を生じさせるおそれがあるものとはいえないから,本件商標は,商標法4条1項15号に該当しない。
(3)

商標法4条1項19号該当性について
本件商標は,
引用商標と類似する商標であって,
本件商標の指定商品中
「荷

役作業時の被搬送物を覆う被搬送用の包装又は梱包用の伸縮自在なシート状又は筒状の布製緩衝材」引用商標の使用商品と類似するものであるが,は,
引用商標は,本件商標の登録出願時及び登録査定時において,請求人(原告)の業務に係る使用商品を表示するものとして,我が国又は外国における需要者の間に広く認識されていたものと認めることができないし,また,被請求人(被告)が不正の目的で本件商標を使用するものと認めるに足る具体的事実を見いだすことができないから,本件商標は,商標法4条1項19号に該当しない。
(4)

商標法4条1項7号該当性について
被請求人(被告)が,引用商標と類似する本件商標の登録出願をし,登録
を受ける行為が「公の秩序又は善良の風俗を害する」という公益に反する事情に該当するものということはできないから,本件商標は,商標法4条1項7号に該当しない。
第3当事者の主張
1
取消事由1(商標法4条1項10号該当性判断の誤り)について
(1)

原告の主張
引用商標の周知性について
(ア)

引用商標の高い識別力及び独創性
引用商標の「ハイパット」は,「ハイ」の文字と,あてぶとんを称呼
するものとして引越業界において認識されていた「パット」の文字とを結合させた造語であり,識別力及び独創性の高い商標である。
(イ)

使用商品の特徴
原告は,原告の使用商品について,昭和57年6月25日に発明の名
称を
「家具等の梱包布団並びにその製造方法」
とする特許出願を行って,
特許を取得し,その特許権は,平成13年2月7日まで存続していた。原告の使用商品は,筒状の使用商品を家具などに被せるだけで簡単に梱包できるため,これまで家具などに毛布を被せてロープを巻くといった手間と技術のいる作業を行っていた引越業界の業務効率化に大きく貢献し,革命的なインパクトを与えた商品である。
(ウ)

使用商品の需要者
a
原告の使用商品は,
「伸縮自在なキルティング製の筒状あてぶとん」
であり,主に引越業者が,搬送物の梱包のために使用する商品であるから,主な需要者は,引越業者である。
したがって,引用商標が引越業者の間で原告の使用商品を表示するものとして広く認識されていたのであれば,引用商標は「需要者の間に広く認識されている商標」に該当するというべきである。

b
この点について,被告は,原告の使用商品は,梱包養生カバーとしての機能を有し,引越しの場面のみならず,物を運搬するあらゆる場面で使用されるものであり,需要者には,引越業者のみならず,引越業者以外の運搬用途全般に携わる業者が含まれるから,引用商標が周知であるというためには,これらの需要者の間で引用商標が原告の使用商品を表示するものとして広く認識されていたことの立証が必要である旨主張する。
しかしながら,少なくとも主な需要者が引越業者であることは本件審決が認定するとおりであるから,被告の上記主張は失当である。
(エ)
a
使用商品の長期間にわたる継続的販売及び販売実績
原告は,昭和59年から,引用商標を付した使用商品の製造販売を開始し,現在に至るまで継続して販売している。
原告の使用商品のうち,規格品(10種)の販売実績(甲14)は,2005年度(平成17年度)は8776個,2006年度(平成18年度)は1万3660個,2007年度(平成19年度)は1万4269個,2008年度(平成20年度)は1万3040個,2009年度(平成21年度)は7818個,2010年度(平成22年度)は1万3642個,
2011年度
(平成23年度)
は1万1579個,
2012年度(平成24年度)は1万5188個,2013年度(平成25年度)は1万1819個である。
b
2010年度(平成22年度)から2015年度(平成27年度)の引越事業の売上高の推移(甲68,69)をみると,本件商標の登録出願当時,株式会社サカイ引越センター(以下「サカイ引越センター」という。),アートコーポレーション株式会社(以下「アートコーポレーション」という。),日本通運株式会社(以下「日本通運」という。)及びヤマトホームコンビニエンス株式会社(以下「ヤマトホームコンビニエンス」という。)の業界大手4社で,約7割の市場シェアを占めていた。
原告の使用商品の大手引越業者に対する販売実績等は,次のとおりである。
業界大手4社のうち,約21%の市場シェアを占めるサカイ引越センターに対しては,昭和59年から引用商標を付した使用商品を継続して販売しており,同年から平成13年ころまでの間は,原告が独占的に使用商品を納入し,全国のサカイ引越センターの支社等で使用されていた。この間の平成8年度は合計6945個,平成21年度は1300個,平成22年度は5024個,平成23年度は2782個,平成24年度は7914個,平成25年度は5277個の販売実績がある。
業界大手4社のうち,日本通運に対しては,昭和59年ころから引用商標を付した使用商品を継続して販売しており,平成3年ころからは日本通運の引越業務に本格導入されている。この間の平成9年度は2224個,平成16年度は1万個,平成17年度は1万個,平成18年度は1万2000個,平成19年度は1万2000個の販売実績がある。このほか,日本通運向けの特注品についても,引用商標を付した使用商品の販売実績がある。また,日本通運のCSR報告書(環境・社会報告書)(甲173ないし182)には,平成16年以降,毎年,引越用反復梱包資材への投資として,「ハイパット」(原告の使用商品)が主な具体例として掲載されており,「日通の引越しパーフェクトガイド

年間保存版」
(平成15年ころ発行・甲40)「梱

包の紹介」欄にも,「プロコンポ」の梱包キットの一つとして「ハイパット」が紹介されている。
業界大手4社のうち,アートコーポレーションに対しては,アート商事株式会社(以下「アート商事」という。)を通じて,引用商標を付した使用商品を納入し,平成9年度は1万0200個,平成10年度は3070個,平成11年度は3523個,平成17年度は1671個の販売実績がある。このほか,アートコーポレーション向けの特注品についても,引用商標を付した使用商品の販売実績がある。
以上のほか,大手引越業者の株式会社引越社(アリさんマークの引越社。「以下「引越社」という。),株式会社タナックス(以下「タナックス」という。)及び全国引越専門協同組合連合会に対しても,引用商標を付した使用商品の販売実績がある。
c
本件審決は,原告の使用商品の販売個数が引越作業の取扱総件数との関係からみると多いものではない,引越業界の大手企業との取引は単発の取引にとどまり,継続して取引されていた事実は見いだせない旨判断した。
しかし,原告の使用商品は,繰り返し使用が可能な引越用資材であり,耐用年数は,最低でも3年から4年であること,前記bの大手引越業者に対する使用商品の販売実績に照らすと,原告は大手引越業者との間で継続的に取引を行っているといえるから,本件審決の上記判断は誤りである。

(オ)
a
広告宣伝
原告は,平成11年以降,毎年,引用商標を付した使用商品を掲載した,自社商品の「総合カタログ」(甲11ないし13,53ないし57,218,237,238等)を作成して,送付又は原告の営業社員の持参により,業界大手4社を含む引越業者等(甲283ないし287等)に対し,3000部から5000部を配布している。
また,原告は,引用商標を付した使用商品のチラシ(甲5,7)を作成し,引越業者等に配布していた。
b
平成20年以降,毎年,引用商標を付した使用商品の広告が,年間発行部数30万部を超える「工場・作業現場のプロツール総合カタログ」である「モノづくり大辞典

オレンジブック」(以下「オレンジ

ブック」という。甲10,58ないし66)に掲載されている。
c
「トラック経営」(甲4),「日刊運輸新聞」(甲9),「引越情報
月刊レポート」(甲79ないし86)といった業界紙にも,引用

商標を付した使用商品の広告が掲載されている。
「引越情報」では,「(原告の)主力商品である伸縮性のあてぶとん『ハイパット』は引越業者に好評で,今春にも大量に新規採用した業者が出るなど,着実に利用が進んでいる。」(平成8年6月1日号・甲79),「アサヒは引越業界でのハイパットの浸透とともに取扱物量・品種が拡大傾向にあり」
(平成9年10月10日号・甲83)

「引越業界における環境問題への対応や価格競争の動きが強まるなか,引越各社の反復資材利用が活発になってきた。それに伴いアサヒ…の伸縮性キルティングあてふとん『ハイパット』の需要もここに来て,急速に高まってきている。」(平成10年1月10日号・甲85)などと紹介されている。
また,全国引越専門協同組合連合会の主催する「第29回ひっこし専門全国大会

関東大会」の開催要領(甲41)にも,引用商標を付

した使用商品の広告が掲載されている。
(カ)
a
アンケート調査の結果
日刊運輸新聞(平成16年3月3日号)の記事(甲118)によれ
ば,同紙が引越運送を行っている各社に対し反復資材の使用などについてアンケート調査を実施したところ,反復資材としての「梱包用ハイパット」の使用率が80%を超える結果であった。「梱包用ハイパット」は,引用商標を付した使用商品を指すものであるから,上記アンケート調査の結果は,遅くとも平成16年3月時点で,引用商標を付した使用商品は,引越業者の間では原告の業務に係る商品を表示するものとして周知著名であったことを示すものといえる。
b
この点について,被告は,日刊運輸新聞の上記記事の「梱包用ハイパット」は,原告の使用商品のみを指すものではなく,一般的な保護材の意味で使用されている旨主張する。
しかし,「ハイパット」が引越業界で一般的な保護材の意味で使用されている事実はない。また,仮に上記記事の「梱包用ハイパット」が一般的な保護材の意味であって,そこに原告の使用商品が含まれていたとしても,そのことは原告の使用商品が引越運送業界において大きな市場シェアを有し,引用商標が広く浸透していたことを裏付けるものといえる。

(キ)

まとめ

以上のとおり,引用商標は造語による高い識別力,独創性を有していること,引用商標を付した原告の使用商品は,引越業界に革命的なインパクトを与えた商品であり,昭和59年から33年以上の長期間にわたり販売され,継続的な広告宣伝も行われ,大手引越業者に対しても継続的に納入されていたこと,平成16年時点で80%を超える引越業者が引用商標を付した使用商品を使用していたことからすれば,
引用商標は,
本件商標の登録出願時及び登録査定時において,需要者である引越業者の間で,原告の使用商品を表示するものとして広く認識されていたものといえる。

本件商標と引用商標の類否
本件商標は,「ハイパット」の片仮名及び「HIPAT」の欧文字を二段に横書きしてなり,
引用商標は,
「ハイパット」
の片仮名を書してなる。
そして,本件審決が認定するように,本件商標と引用商標とは,観念において比較できないとしても,外観において近似し,共通の称呼を生じるものであるから,本件商標は,引用商標に類似する商標である。


商品の類否
本件審決は,本件審判の請求に係る指定商品中,「荷役作業時の被搬送物を覆う被搬送用の包装又は梱包用の伸縮自在なシート状又は筒状の布製緩衝材」は,引用商標の使用商品と同一又は類似する商品であるが,それ以外の商品は,引越業界においてのみ用いられる商品ではなく,引用商標の使用商品とは,その品質,用途及び需要者が必ずしも一致しないものであるから,類似する商品ということはできない旨判断した。
しかしながら,本件審判の請求に係る指定商品中,「布製包装用容器,わら製包装用容器,結束用ゴムバンド,日よけ,雨覆い,天幕,日覆い,よしず,衣服綿,ハンモック,布団袋,布団綿,編みひも,真田ひも,のり付けひも,よりひも,綱類」の商品群についても,引越業務のために使用するという用途において引用商標の使用商品と密接な関連を有し,需要者は引越業者である。
また,原告は,上記商品群のうち,「結束用ゴムバンド,布団袋,編みひも,真田ひも,のり付けひも,よりひも,綱類」に当たる商品を販売している。
このような事情からすれば,上記商品群の商品及び引用商標の使用商品に本件商標を使用するときは,同一営業主の製造又は販売に係る商品と誤認されるおそれがあると認められる関係にある。
したがって,本件審判の請求に係る指定商品中,「布製包装用容器,わら製包装用容器,結束用ゴムバンド,日よけ,雨覆い,天幕,日覆い,よしず,衣服綿,ハンモック,布団袋,布団綿,編みひも,真田ひも,のり付けひも,よりひも,綱類」についても,引用商標の使用商品と類似する商品であるから,この点において,本件審決の上記判断は誤りである。エ
小括
以上によれば,本件商標が商標法4条1項10号に該当しないとした本件審決の判断は誤りである。

(2)

被告の主張
引用商標の周知性の主張に対し
(ア)

引用商標の識別力及び独創性について
引用商標は,「高い。高度な。高級な。」等の観念を有する「ハイ」
の語と,「あてぶとん」を意味する「パット」の語を結合させた造語であり,商標としての識別性は認められるが,記述的な語を結合させてなる点で,独創的な商標であるとまではいえない。
(イ)

使用商品の特徴について
仮に原告の使用商品が優れた機能を有するとしても,そのことと引用
商標の周知性とは直接的な関係はない。
(ウ)

使用商品の需要者について
原告の使用商品は,梱包養生カバーとしての機能を有する梱包資材で
あるため,その用途は引越しに限定されるものではなく,物を運搬するあらゆる場面において使用されるものであるから,原告の使用商品の需要者は,引越業者のみならず,引越業者以外の物の運搬を本業とする業種(例えば,梱包,倉庫保管)及び事業の遂行に付随して物を運搬する必要のある業種
(例えば,
家電量販店,
家具量販店)
の業者も含まれる。
このことは,原告自身が引越業者以外の業者に原告の使用商品を販売したり,商品カタログを配布していることからも明らかである。
したがって,引用商標が周知であるというためには,これらの需要者の間で引用商標が原告の使用商品を表示するものとして広く認識されていたことが必要である。
(エ)
a
使用商品の長期間にわたる継続的販売及び販売実績について
原告主張の使用商品の規格品10種の販売数量に推定平均単価(概算6800円)を乗じて算出した推定販売金額(平成17年度5967万円,平成18年度9288万円,平成19年度9702万円,平成20年度8867万円,平成21年度5316万円,平成22年度9276万円,平成23年度7873万円,平成24年度1億0327万円,平成25年度8036万円)は,経済産業省生産動態統計中の「通販・宅配・引越用段ボール」の推定生産金額(乙20,21)に比較しても,0.1%にすら及ばず,引越用反復資材の市場における使用商品の販売実績は極めて少ない。
また,
国土交通省自動車局貨物課の資料
(甲115の5)
によれば,
平成23年当時の一般貨物自動車運送事業者数は5万7600である。このうち,引越専門業者数は4136(甲115の1)であるが,このような引越専門業者に対する関係でみても,原告の使用商品の納入業者はわずかである。

b
原告は,大手引越業者に対する原告の使用商品の販売実績を引用商標が引越業者の間で原告の使用商品を表示するものとして周知であったことの根拠として挙げるが,本来,納入企業自身の売上高やシェアと引用商標の周知性とは直接的な関係はない。
また,原告の使用商品の大手引越業者(業界大手4社を含む。)に対する販売実績もわずかである。
すなわち,原告の使用商品は,平成7年度ないし平成11年度に大手引越業者に納入された実績があるが,本件商標の登録出願日から10年以上前の実績である。また,平成21年度ないし平成23年度の原告の大手引越業者に対する使用商品の販売数量は,年平均4024個に過ぎない。
業界大手の日本通運に対しては,平成16年度ないし平成19年度の4年連続で平均1万1000個の販売実績があるが,これらは単発の販売である上,同社向けの特注品であり,引用商標が付されていたのかすら不明である。原告の日本通運に対する使用商品の販売は,平成9年度を除けば,平成16年度ないし平成19年度の4年間のみであって,その後継続されていない。一方,業界大手のヤマトホームコンビニエンスに対しては,原告の使用商品の販売実績はない。
以上によれば,引越業界の業界大手4社の市場シェアが約7割であるからといって,少なくとも本件商標の登録出願時において,引用商標が引越業者の間で原告の使用商品を表示するものとして広く認識されていたことにはならない。また,業界大手4社に限ってみても,これと同様である。
(オ)
a
広告宣伝について
カタログは,その性質上,配布を受けた者のすべてが自発的に読む
とはいえない上,原告の自社商品の「総合カタログ」は,使用商品の専用カタログではなく,原告の取扱商品のすべてを掲載したものであり,
使用商品には,
20数ページ中の2頁が割かれているに過ぎない。
原告は,上記総合カタログを毎年3000部から5000部配布
している旨主張するが,平成23年ないし平成26年の各年の上記総合カタログの送付先数は,最多で342か所(甲284),最少で282か所(甲287)であり,原告主張の配布部数と大きくかけ離れた数字となっている。原告は,本件商標の登録出願前,その販売代理店に上記総合カタログをまとめて渡していたことからす
ると,
原告が様々な取引先に対してカタログを持参するという営業
活動を実施していたとは考え難いから,
上記総合カタログの配布数
は,実質的には,送付先数(300程度)に近いものとみるべきである。仮に原告が主張するように上記総合カタログが毎年3000部から5000部配布され,配布を受けた者のすべてが熟読したとしても,平成23年当時の一般貨物自動車運送事業者数は5万7600であることに照らすと,全国市場の5%ないし8.7%程度の業者にしか,引用商標を付した原告の使用商品が認識されることはない。
したがって,原告による上記総合カタログの配布数は,絶対数として少ないから,上記総合カタログによって,引用商標が原告の使用商品を表示するものとして広く認識されることはない。
次に,原告主張のチラシについては,その配布の時期,数量及び範囲が不明であるから,上記チラシによって,引用商標が原告の使用商品を表示するものとして広く認識されたものとはいえない。
b
原告主張の「オレンジブック」は,分野別に1巻ないし10巻に分かれ,36万アイテムもの膨大な商品が掲載されたカタログ雑誌であるから,これに引用商標を付した原告の使用商品が1件掲載されていることをもって,引用商標が原告の使用商品を表示するものとして広く認識されることはない。
また,原告主張の業界紙における原告の使用商品の広告のうち,本来的な広告といえるものは,「トラック経営」(甲4)及び日刊運輸新聞(平成17年3月25日号)(甲9)の2件程度である。このうち,「トラック経営」には昭和60年に,「日刊運輸新聞」には平成17年にそれぞれ1回掲載されただけである。
c
以上によれば,原告による引用商標を付した原告の使用商品についての広告宣伝によって,引用商標が,本件商標の登録出願時及び登録査定時において,原告の使用商品を表示するものとして周知性を獲得していたものとはいえない。

(カ)

アンケート調査の結果について

原告主張の日刊運輸新聞(平成16年3月3日号)掲載のアンケート調査に関する記事中には,反復資材としての「梱包用ハイパット」の使用率が80%を超える結果であった旨の記載があるが,同月時点において,原告の使用商品の類似品が多数販売され,市場に流通していたこと(甲96ないし101),「ハイパット」は,一般的な保護材の意味で使用されていたこと(乙12),同年の原告の使用商品の販売実績は,日本通運に対して特注品が1万個納入されたのみであることなどからすると,上記「梱包用ハイパット」がすべて原告の使用商品を指すものとはいえない。
そうすると,上記アンケート調査の結果は,平成16年3月時点で,引用商標が,引越業者の間で原告の使用商品を表示するものとして周知著名であったことを示すものとはいえない。
(キ)

まとめ
以上のとおり,引用商標は,本件商標の登録出願時及び登録査定時に
おいて,需要者の間で原告の使用商品を表示するものとして広く認識されていたものとはいえないから,引用商標の周知性を否定した本件審決の判断に誤りはない。

商品の類否について
本件審判の請求に係る指定商品中,「荷役作業時の被搬送物を覆う被搬送用の包装又は梱包用の伸縮自在なシート状又は筒状の布製緩衝材」と引用商標の使用商品(伸縮自在なキルティング製の筒状あてぶとん)」は,いずれも家具等の運搬時に当該商品を上からすっぽりと被せることにより家具等を保護するという用途に用いられるから,上記指定商品は,引用商標の使用商品と同一又は類似する商品である。
一方で,上記指定商品以外の指定商品は,引越業務のために使用されることが多いという観点からみると,引用商標の使用商品と関連を有するとしても,その具体的な用途が全く異なり,商品の属性(原材料,品質)も全く異なるから,引用商標の使用商品と類似する商品ではない。
したがって,これと同旨の本件審決の判断に誤りはない。

小括
以上によれば,引用商標の周知性を否定し,本件商標が商標法4条1項10号に該当しないとした本件審決の判断に誤りはない。

2
取消事由2(商標法4条1項15号該当性判断の誤り)について
(1)

原告の主張
前記1(1)アのとおり,引用商標は,本件商標の登録出願時及び登録査定
時において,原告の使用商品を表示するものとして需要者の間に広く認識されており,周知著名であったものである。
加えて,本件商標と引用商標は類似し,その類似性の程度も高いこと,引用商標の識別力及び独創性が高いこと,本件審判の請求に係る指定商品は,引用商標の使用商品と同一又は類似の商品であり,需要者も共通することに照らすと,本件商標を上記指定商品に使用したときは,その商品が原告あるいは原告と経済的又は組織的に何らかの関係を有する者の業務に係る商品であると誤信されるおそれがある。
そうすると,本件商標は,原告の業務に係る商品と混同を生ずるおそれがある商標であるといえるから,商標法4条1項15号に該当する。したがって,これを否定した本件審決の判断は誤りである。
(2)

被告の主張
前記1(2)アのとおり,
引用商標は,
本件商標の登録出願時及び登録査定時
において,原告の業務に係る商品であることを表示するものとして需要者の間に広く認識されていたものではなく,周知著名であったとはいえない。したがって,本件商標は,引用商標との関係で原告の業務に係る商品と混同を生ずるおそれがある商標であるといえないから,商標法4条1項15号に該当しないとした本件審決の判断に誤りはない。
3
取消事由3(商標法4条1項19号該当性判断の誤り)について
(1)

原告の主張
引用商標の周知性について
前記1(1)アのとおり,引用商標は,本件商標の登録出願時及び登録査定時において,原告の使用商品を表示するものとして需要者の間に広く認識されており,周知著名であったものである。


不正の目的について
(ア)

原告は,昭和59年から,引用商標を付した使用商品の製造販売を
開始した後,平成10年7月10日,「ハイパット」の片仮名を横書きしてなる商標(引用商標と同一構成の商標)について,指定商品を第22類「布製包装用容器」として,商標登録出願を行い,平成11年7月2日,その設定登録を受けた(以下,この登録商標を「原告旧登録商標」という。甲22)。
原告は,平成14年9月から,被告のグループ企業の株式会社オカバ(以下「オカバ」という。)に商品の保管,荷役,物流業務を依頼するようになった後,平成17年ころ,オカバに対し,オカバが原告の販売代理店の一つとして,引用商標を付した使用商品を販売することを了承した。
また,原告は,オカバの要望により,原告のデータを使用して作成した,
引用商標を付した使用商品が掲載された,
オカバの商品カタログ
(甲
35)を供給するようになった。上記カタログには,使用商品の製造元が原告であることが明示されていた。
その後,原告が商標管理を依頼していた代理人の弁理士が,原告旧登録商標の更新登録の申請手続を怠ったため,平成21年7月2日,原告旧登録商標の商標権は存続期間の満了により消滅した。
しかし,
原告は,
上記弁理士から,原告旧登録商標の更新登録に関する連絡を受けなかったため,その商標権が存続期間の満了により消滅したことに気づかなかった。
(イ)

原告は,平成22年,被告のグループ企業の株式会社オカバマネジ
メント(以下「オカバマネジメント」といい,被告,オカバ及びオカバマネジメントを併せて「被告グループ」という。)から,オカバマネジメント向けのプライベートブランド商品を中国で生産して欲しい旨の要請を受け,オカバマネジメントが独自の商品名で上記商品を販売することを条件として,これを了承した。しかし,原告は,平成23年11月ころ,上記商品の納期が近い中で,オカバマネジメントから,商品名を「ハイパット」(引用商標と同一の商標)としたい旨の強い要請を受けたため,
せめて
「ハイパット

エコノミー」
とするよう要請したものの,

オカバマネジメントの要請を了承し,平成24年2月,タグに発売元を「オカバ」と表記した,引用商標を付した使用商品(以下「オカバオリジナルハイパット」という。)を納品した。
その間の平成23年9月22日,被告は,原告旧登録商標の商標権が存続期間の満了により消滅したことを知った上で,原告に事前の連絡をすることなく,本件商標の登録出願をし,平成24年3月16日,本件商標登録を受けた。さらに,被告は,同年8月10日,本件商標について,指定商品を第24類「家具等の被搬送物の運搬・移動その他の荷役作業時の被搬送物を覆う被搬送物用の包装又は梱包用の伸縮自在にしたベルト状・シート状・筒状・袋状で綿・スポンジ・フェルト・不織布等の緩衝材を布生地・不織布生地・フェルト生地で挟みキルティング縫製した緩衝保護材」
等として,
商標登録出願をし,
平成25年2月15日,
その設定登録(商標登録第5558032号。以下「別件商標登録」という。)を受けた。
(ウ)

原告は,平成26年9月9日に開催された国際物流総合展2014
に出展していたオカバマネジメントが販売する商品の広告に記載された「ハイパット」の表示に登録商標のマークが付されていることに気づいたため,弁理士に相談したところ,原告旧登録商標の商標権が存続期間の満了により消滅したこと,
被告が本件商標について商標登録出願をし,
本件商標登録及び別件商標登録を受けていたことが判明した。
その後,原告は,上記商標登録出願の件について問い合わせるため,被告代表者に面談を要請したが,回答を得られなかった。
原告は,同年11月,オカバマネジメントから,平成24年に納品したオカバオリジナルハイパットの追加発注を求められた際,「ハイパット」の商品名では受注できないことを伝えるとともに,本件商標の登録出願経緯について説明を求めた。しかし,オカバマネジメントは,お互いのためを考えると,オカバマネジメントと原告が業務提携をすることを勧める旨,将来,原告が被告のグループに参入することの検討を求める旨を述べて,
原告に対し,
繰り返し業務提携をするよう圧力をかけた。
その後,原告は,平成28年12月,オカバに対し,「ハイパット」の商標を使用した,原告製の関連商品の販売の自粛等を求めたが,平成29年1月,オカバから,オカバと原告との物流用品販売事業を終了する旨の通知(甲251)を受けた。
(エ)

以上によれば,被告は,被告グループが原告から引用商標を付した
使用商品の納品を受け,原告の販売代理店として上記使用商品を販売し,引用商標が原告の使用商品を表示するものとして需要者の間に周知著名であることを認識していたにもかかわらず,引用商標と同一構成の原告旧登録商標の商標権が消滅したことを知るや,これを奇貨として,引用商標に表象される価値,業務上の信用を自己に帰属させるという「不正の目的」をもって,引用商標と実質的に同一の本件商標の登録出願を行ったものであるから,本件商標は,被告が「不正の目的」をもって使用をするものである。

小括
前記ア及びイによれば,本件商標は,原告の業務に係る商品(使用商品)を表示するものとして需要者の間に広く認識されている引用商標と同一又は類似の商標であって,「不正の目的」をもって使用をするものといえるから,商標法4条1項19号に該当する。
したがって,これを否定した本件審決の判断は誤りである。

(2)

被告の主張


引用商標の周知性について
前記1(2)アのとおり,引用商標は,本件商標の登録出願時及び登録査定時において,原告の業務に係る商品であることを表示するものとして需要者の間に広く認識されていたものではなく,周知著名であったとはいえない。


「不正の目的」について

(ア)

被告グループのオカバは,平成17年夏ころ,被告の方針に基づい
て,原告の販売代理店となり,引越業者以外の業者を含む,多方面の業者に対し,
引用商標が付された原告の使用商品を販売するようになった。
また,オカバは,平成18年,原告の意向を受けて,原告の引越用品のインターネット販売を行うためのWEB代理店である「オカバネットショップ」を運営するようになった。
そのような中で,被告は,「ハイパット」の標章(引用商標)が商標登録されていない事実にたまたま気が付き,
オカバが行う
「ハイパット」
の標章が付された商品の販売事業を守り,付随的に原告が行う上記販売事業を守る目的で,平成23年9月22日,本件商標について,本件審判の請求に係る指定商品を指定商品として商標登録出願をし,さらに,平成24年8月10日,上記指定商品とは異なる商品を指定商品として商標登録出願をした。被告は,本件商標の登録出願の際,原告旧登録商標の商標権が存続期間の満了により消滅した経緯があることを知らなかった。また,被告は,原告がこれまで引用商標の商標登録を受けることなく,販売事業を長期に継続していたことなどを踏まえると,原告は引用商標の商標登録に関心がないであろうと考えたため,原告に対し,本件商標の登録出願に関して連絡をしなかった。
(イ)

オカバは,平成23年10月,中国製のオカバオリジナル商品(使
用商品)を企画開発し,原告に対して製造委託した際,原告から,商品名を「ハイパット

エコノミー」として欲しい旨の要請があったが,原

告と交渉した結果,商品名は「ハイパット」に決まり,その後,上記商品(オカバオリジナルハイパット)の納品を受けるようになった。被告グループのオカバマネジメントは,平成26年11月ころ,オカバに代わって,
オカバオリジナルハイパットの販売を行っていたところ,
在庫がなくなってきたことから,原告に対して,追加発注を依頼した。被告は,そのころ,平成24年6月に被告が原告から原告野田工場の購入の提案を受けたことなどの諸事情から,原告の資金繰りが悪化しているのではないかと考え,原告に対し,業務提携の提案をした。しかし,原告は,追加発注の依頼を断り,業務提携の提案も受け入れなかった。そこで,オカバマネジメントは,他社に開発製造を委託し,オカバオリジナルハイパットを改良した,商品名を「新型ハイパット」とする商品を開発し,販売するようになった。なお,被告が原告に対して業務提携をするよう圧力をかけた事実はない。
その後,オカバは,平成28年12月,原告から,平成29年2月1日から「ハイパット」の標章を使用した,原告製の関連商品の販売の自粛等を求める旨の通知を受け,この通知により,原告とオカバ間の原告の使用商品及びその付随商品の取引が終了した。
(ウ)

以上のとおり,被告は,原告旧登録商標の商標権が存続期間の満了
により消滅した経緯があることを知らずに,オカバが「ハイパット」の標章が付された商品の販売事業を安定的に運営するために,防衛的に本件商標の登録出願を行ったものであって,「不正の目的」をもって上記登録出願を行ったものではない。また,被告は,原告に対して,本件商標の商標権を有していることを理由に,ライセンス料の請求や,商標権の買取請求など何らかの請求を行ったことは一切ないのであるから,被告が本件商標の登録出願の際に「不正の目的」を有していなかったことは明らかである。

小括
前記ア及びイによれば,引用商標は,原告の業務に係る商品(使用商品)を表示するものとして需要者の間に広く認識されていたものではなく,また,被告が「不正の目的」をもって本件商標を使用をするものとはいえないから,本件商標は商標法4条1項19号に該当しない。
したがって,これと同旨の本件審決の判断に誤りはない。

4
取消事由4(商標法4条1項7号該当性判断の誤り)について
(1)

原告の主張
商標法の目的は,「商標を保護することにより,商標の使用をする者の業務上の信用の維持を図り,もって産業の発達に寄与し,あわせて需要者の利益を保護すること」(商標法1条)にあるから,商標登録出願がその目的及び経緯に鑑みて適正な商道徳に反し,著しく社会的妥当性を欠く行為であり,これに基づいて商標登録を認めることが公正な取引秩序の維持の観点からみても不相当である場合には,当該商標は,同法4条1項7号所定の「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」に該当すると解すべきである。
しかるところ,前記3(1)イのとおり,被告による本件商標の登録出願の目的は,被告グループに原告を引き込んだり,業務提携において交渉を有利に運ぶことにあったことは明らかであるから,被告による本件商標の登録出願は,
適正な商道徳に反し,
著しく社会的妥当性を欠く行為であり,
これに基づいて商標登録を認めることは公正な取引秩序の維持の観点からみて不相当というべきである。なお,原告旧登録商標(引用商標と同一構成の商標)の商標権の消滅は,原告の代理人弁理士の商標管理の懈怠により更新時期を逸したことによるものであるが,多くの中小,零細企業にとっては,長期にわたる期限管理の困難性から,弁理士事務所からの更新期限通知を受けることなくして,確実な更新登録を行うことは著しく困難であるのが実際であることに鑑みると,仮に原告旧登録商標の商標権の消滅について原告に過失があったとしても,原告と被告との関係においては,被告は,原告の過失によって生じた原告旧登録商標の商標権の消滅という事態を意図的に利用して,原告旧登録商標に係る商標権を自ら取得し不当な利益を得ようとしたものであって,原告の過失に乗じて背信的な行為に及んだものにほかならないから,このような被告の行為の背信性が原告の過失の存在によって減じられるということにはならない。

以上によれば,本件商標は,「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」であるといえるから,商標法4条1項7号に該当する。したがって,これを否定した本件審決の判断は誤りである。

(2)

被告の主張
前記3(2)イのとおり,被告は,自己の事業の安定的な運営のために本件商標の登録出願を行ったものであり,原告旧登録商標の商標権が存続期間の満了により消滅していたことを奇貨として剽窃的に上記登録出願を行ったものではない。
被告が本件商標の登録出願を行ったのは,原告旧登録商標の商標権が消滅してから約2年が経過した後であり,その間,原告は,改めて商標登録出願をする機会が十分にあったにもかかわらず,それをしなかった責めを被告に求めるべきではない。また,原告旧登録商標の商標権の失効についての原告の代理人弁理士の過失は原告本人の過失と同視すべきである。さらには,原告旧登録商標の指定商品は,「布製包装用容器」であり,原告の使用商品である「伸縮自在なキルティング製の筒状あてぶとん」とは同一又は類似の指定商品といえないから,仮に原告旧登録商標の商標権の存続期間が更新されていたとしても,他者が使用商品に引用商標を付すことを排除できるものではない。
以上によれば,被告による本件商標の登録出願は,適正な商道徳に反し,著しく社会的妥当性を欠く行為に当たるものではないし,本件商標登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認し得ないような特段の事情も存在しないから,本件商標は,「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」に当たらない。
したがって,本件商標が商標法4条1項7号に該当しないとした本件審決の判断に誤りはない。
第4当裁判所の判断
1
取消事由1(商標法4条1項10号該当性判断の誤り)について
(1)

引用商標の周知性について
認定事実
証拠(甲4,9,10,14ないし20,23,43ないし49,51ないし66,68,69,79ないし89.115,118,119,121ないし218,236ないし242,254ないし265,268ないし298,乙26,73(枝番のあるものは,いずれも枝番を含む。))及び弁論の全趣旨を総合すれば,以下の事実が認められる。
(ア)
a
使用商品の販売実績
原告の使用商品は,
「伸縮自在なキルティング製の筒状あてぶとん」
であり,梱包養生カバーとしての機能を有する梱包資材である。
使用商品は,引越時の家具等や物流業における荷物等の搬送物に被せて使用する商品であり,繰り返しの利用が可能である。
原告は,
使用商品に関し,
昭和57年6月25日に発明の名称を
「家
具等の梱包布団並びにその製造方法」とする特許出願(甲23)を行い,特許を取得し,その特許権は,平成13年2月7日まで存続していた。原告の使用商品は,上記特許に係る特許発明を構成する「筒状に形成した布団本体」に相当する部材である。

b
原告は,昭和59年から,引用商標(「ハイパット」の片仮名を横書きしてなる標章)を付した使用商品の製造販売を開始し,現在に至るまで継続して販売している。
原告の使用商品は,10種類の規格品と,使用する事業者の名称やロゴ等を表面に印字した特注品があり,いずれにも引用商標を記載したタグ(甲241,242,254)が付されている。
原告の使用商品の販売先は,引越業者,物流業者,製造業者,梱包業者等であり,家電量販店や家具量販店も含まれている。
原告の使用商品のうち,規格品(10種)の販売実績(甲14)は,2005年度(平成17年度)は8776個,2006年度(平成18年度)は1万3660個,2007年度(平成19年度)は1万4269個,2008年度(平成20年度)は1万3040個,2009年度(平成21年度)は7818個,2010年度(平成22年度)は1万3642個,
2011年度
(平成23年度)
は1万1579個,
2012年度(平成24年度)は1万5188個,2013年度(平成25年度)は1万1819個である。
c
平成23年当時の一般貨物自動車運送事業者数は約5万7600
(甲115の5)であり,このうち,引越専門業者数は,少なくとも4136(甲115の1)であった。
本件商標の登録出願当時(登録出願日平成23年9月22日),全国の引越事業の売上高は,年間4500億円から5000億円程度であり,サカイ引越センター,アートコーポレーション,日本通運及びヤマトホームコンビニエンスの業界大手4社で,約7割の売上高(甲68,69)を占めていた。
原告の使用商品の大手引越業者に対する販売実績等は,次のとおりである。
業界大手4社のうち,サカイ引越センターに対しては,昭和59年から引用商標を付した使用商品を継続して販売しており,同年から平成13年ころまでの間は,原告が独占的に使用商品を納入し,全国のサカイ引越センターの各支社等で使用されていた。この間の平成8年度は合計6945個,平成21年度は1300個,平成22年度は5024個,平成23年度は3582個,平成24年度は7914個,平成25年度は5277個の販売実績がある。
業界大手4社のうち,日本通運に対しては,昭和59年ころから引用商標を付した使用商品を継続して販売しており,平成3年ころからは日本通運の引越業務に本格導入されている。そして,日本通運のグループ企業である日通商事株式会社に対しては,規格品と日本通運向けの特注品を含め,
平成9年度は2224個,
平成16年度は1万個,
平成17年度は1万個,平成18年度は1万2000個,平成19年度は1万2000個の販売実績がある。また,日本通運のCSR報告書(環境・社会報告書)(甲173ないし182)には,平成16年以降,
毎年,
引越用反復梱包資材への投資として,
「ハイパット」
(原
告の使用商品)が主な具体例として掲載されており,「日通の引越しパーフェクトガイド

年間保存版」(平成15年ころ発行・甲40)

の「梱包の紹介」欄にも,「プロコンポ」の梱包キットの一つとして「ハイパット」が紹介されている。
業界大手4社のうち,アートコーポレーションに対しては,アート商事を通じて,引用商標を付した使用商品を納入し,平成7年度は1388個,平成8年度は1万0627個,平成9年度は1万0200個,平成10年度は3070個,平成11年度は3523個,平成17年度は1671個の販売実績がある。このほか,アートコーポレーション向けの特注品についても,引用商標を付した使用商品の販売実績がある。
以上のほか,大手引越業者の引越社及び全越専門協同組合連合会に対しても,引用商標を付した使用商品の販売実績がある。
(イ)
a
広告宣伝
原告は,平成11年以降,毎年,引用商標を付した使用商品を掲載
した,自社商品の「総合カタログ」(甲11ないし13,53ないし57等)を3000部から5000部作成して,送付又は原告の営業社員の持参により,業界大手4社を含む引越業者,物流業者,製造業者,家具店,梱包業者等200社程度(甲283ないし287等)に対し配布していた。
また,原告は,昭和60年及び平成10年に引用商標を付した使用商品のチラシ(甲5,7)を引越業者等に配布した。
b
平成20年から平成25年にかけて,
毎年,
「オレンジブック」
(甲
10,58ないし63)に,その「緩衝材」のカテゴリ中に原告の使用商品の広告が掲載された。「オレンジブック」は,「工場・作業現場のプロツール総合カタログ」であり,分野別に1巻ないし10巻に分かれ,約36万アイテムが掲載されたカタログ雑誌である。

c
平成3年10月25日発行の「流通サービス新聞」(甲128)には,日本通運の引越梱包資材のリサイクルに関し,「タンス梱包用として使用する巻き段ボール,エアキャップについても,現在,分別ゴミとして捨てているが,これに代わるハイパットを本格導入する。」との記事が掲載された。
また,昭和60年3月1日発行の「トラック経営

1985年3月

号」
(甲4)平成8年6月1日,平成9年2月1日,同年5月1日,

同年7月1日,同年10月10日,同年11月10日,平成10年1月10日,同年4月10日各発行の「引越情報

月刊レポート」(甲

79ないし86)平成17年3月25日発行の

「日刊運輸新聞」
(甲
9)などの業界紙にも,引用商標を付した使用商品の広告が掲載された。このうち,「引越情報」では,「(原告の)主力商品である伸縮性のあてぶとん『ハイパット』は引越業者に好評で,今春にも大量に新規採用した業者が出るなど,着実に利用が進んでいる。」(平成8年6月1日号・甲79),「アサヒは引越業界でのハイパットの浸透とともに取扱物量・品種が拡大傾向にあり」(平成9年10月10日号・甲83),「成長企業/拝見!!

アサヒ・野田工場

「ハイパ

ット」の生産拠点」との見出しの下に,3頁を用いてハイパットを製造する原告の工場の様子を紹介し,「引越業界における環境問題への対応や価格競争の動きが強まるなか,引越各社の反復資材利用が活発になってきた。それに伴いアサヒ…の伸縮性キルティングあてふとん『ハイパット』
の需要もここに来て,
急速に高まってきている。(平

成10年1月10日号・甲85)などと紹介されている。
さらに,全国引越専門協同組合連合会の主催する「第29回ひっこし専門全国大会

関東大会」の開催要領(平成18年6月7日付け。

甲41)に,引用商標を付した使用商品の広告が掲載された。
平成24年5月1日発行の
「企業概況ニュース」
(甲119)「
に『ハ
イパット』
で米国の引越し業界を変革」
との見出しの記事が掲載され,
同記事は,原告の使用商品について「日本生まれの梱包資材『ハイパット』や『Dカンベルト』を武器に,この米国引越し業界の常識を変えていく。日本では,すでに,これらの梱包資材を使った引越しが主流。東京にある(株)アサヒが開発したこれらの商品群を利用することで,未経験者でも簡単に梱包が可能」との記載がある。
d
日刊運輸新聞(平成16年3月3日号)(甲118)に,同紙が引越運送を行っている各社に対し反復資材の使用などについてアンケート調査を実施した記事が掲載された。同記事には,「さまざまなものを傷つけることなく扱える梱包用ハイパットの使用も多く,品質重視の姿勢がうかがえた。」との記載があり,また,「反復資材の種類」のグラフには,「梱包用ハイパット」の使用率が80%を超える結果であった旨の記載がある。


使用商品の需要者について
原告の使用商品は,引越時の家具等や物流業における荷物等の搬送物に被せて使用する「伸縮自在なキルティング製の筒状あてぶとん」であり,繰り返しの利用が可能な梱包養生カバーとしての機能を有する梱包資材であることからすると,使用商品の需要者は,引越業者,運送業者等であることが認められる。
平成23年当時の一般貨物自動車運送事業者数は約5万7600(甲115の5)
であり,
このうち,引越専門業者数は,少なくとも4136(甲
115の1)であった。

引用商標の周知性の有無について
(ア)

引用商標の周知性について検討するに,まず,原告の使用商品の販
売状況をみると,前記ア(ア)の認定事実によれば,①原告は,昭和59年から30年以上にわたり,日本国内において,引越業者等に対し,引用商標を付した原告商品を継続して販売していること,②平成17年度から平成25年度の規格品の販売数量は,年平均1万2199個(合計10万9791個)であること,③上記販売数量のうち,大手引越業者に対する販売数量は,平成21年度が1300個,平成22年度が5024個,平成23年度が3582個,平成24年度が7914個及び平成25年度が5277個(いずれもサカイ引越センター分)であり,大手引越業者以外の引越業者等に対する販売数量が半数を超える相当の割合を占めていることが認められる。
次に,広告宣伝の状況をみると,前記ア(イ)の認定事実によれば,①平成18年ころまでは,「流通サービス新聞」,「トラック経営」,「引越情報

月刊レポート」,「日刊運輸新聞」などの業界紙に引用商標を

付した使用商品の広告が数回掲載されたことがあったが,その後は,平成24年5月1日発行の「企業概況ニュース」以外には,業界紙における広告掲載の実績がないこと,②平成20年から平成25年にかけて,毎年,「工場・作業現場のプロツール総合カタログ」である「オレンジブック」に原告の使用商品の広告が掲載されたが,「オレンジブック」は分野別に1巻ないし10巻に分かれ,約36万アイテムが掲載されたカタログ雑誌であり,原告の使用商品が特に目立って掲載されたものではないことが認められる。
また,原告は,平成11年以降,毎年,引用商標を付した使用商品を掲載した,自社商品の「総合カタログ」を3000部から5000部作成し,業界大手4社を含む引越業者等200社程度に対し,送付又は持参して配布していたことは,前記ア(イ)認定のとおりであるが,一般貨物自動車運送事業者数は約5万7600であり,このうち,引越専門業者数は少なくとも4136であること(前記イ)に照らすと,上記「総合カタログ」の配布先は,引越専門業者の1割にも満たないといえる。さらに,原告は,引用商標を付した使用商品のチラシを昭和60年及び平成10年にそれぞれ配布したことが認められるが,その配布数量や具体的な配布先は明らかではない。
以上によれば,本件商標の登録出願時において,引越業者,運送業者等の間で,原告による使用商品の前記販売及び広告宣伝によって,引用商標が原告の業務に係る使用商品を表示するものとして広く認識されていたものと認めることはできない。
(イ)

この点に関し,原告は,日刊運輸新聞(平成16年3月3日号)の
記事(甲118)によれば,同紙が引越運送を行っている各社に対し反復資材の使用などについてアンケート調査を実施したところ,反復資材としての「梱包用ハイパット」の使用率が80%を超える結果であり,「梱包用ハイパット」は,引用商標を付した使用商品を指すものであるから,上記アンケート調査の結果は,遅くとも平成16年3月時点で,引用商標は,引越業者の間では原告の業務に係る商品を表示するものとして周知著名であったことを示すものといえる旨主張する。
しかしながら,
上記アンケート調査におけるアンケートの対象企業数,
回答数,回答方法等のアンケート結果の信頼性を基礎づける事実は明らかではない。また,仮に原告が主張するように平成16年3月当時における反復資材としての「梱包用ハイパット」の使用率が80%を超えており,「梱包用ハイパット」が原告の使用商品を指すものとして,引越業者に認識されていたとしても,約7年後の本件商標の登録出願時においても同様の認識が当然に維持されていたということにはならない。したがって,原告の上記主張を前提としても,本件商標の登録出願時において,引越業者,運送業者等の間で,引用商標が原告の業務に係る使用商品を表示するものとして広く認識されていたということはできない。
このほか,全国引越専門協同組合連合会,引越専門協同組合,アートコーポレーション,セイノー引越株式会社,名鉄運輸株式会社の担当者作成の平成28年12月付けの各確認書
(甲67の1ないし5)
中には,
「ハイパット」というマークが原告の「キルティング製梱包用具」について使用されているマークであることを平成23年9月22日以前より認識していたことを確認する旨の記載部分があり,サカイ引越センターの代表取締役作成の平成30年2月2日付けの陳述書(甲117)中には,サカイ引越センターは昭和59年から継続的に原告の使用商品を購入して使用しており,
遅くとも平成13年には引越業界で
「ハイパット」
といえば知らない者はいないくらいによく知られていたのではないかと思われる旨の記載部分があるが,上記各記載部分は,上記確認書及び陳述書の作成者の認識を示したものであり,引用商標が,本件商標の登録出願時において,引越業者,運送業者等の間で,引用商標が原告の業務に係る使用商品を表示するものとして広く認識されていた事実を客観的に裏付けることにはならない。他にこれを認めるに足りる証拠はない。(2)

小括
以上によれば,引用商標は,本件商標の登録出願時及び登録査定時におい
て,原告の業務に係る商品であること(使用商品)を表示するものとして,需要者の間に広く認識されていたものと認められないから,その余の点について判断するまでもなく,本件商標が商標法4条1項10号に該当しないとした本件審決の判断に誤りはない。
したがって,原告主張の取消事由1は理由がない。
2
取消事由2(商標法4条1項15号該当性判断の誤り)について
前記1(1)のとおり,引用商標は,本件商標の登録出願時及び登録査定時において,
原告の業務に係る商品であること
(使用商品)
を表示するものとして,
需要者の間に広く認識されていたものと認められず,周知著名であったとはいえない。
そうすると,その余の点について判断するまでもなく,本件商標は,引用商標との関係で原告の業務に係る商品と混同を生ずるおそれがある商標であるといえないから,商標法4条1項15号に該当しないとした本件審決の判断に誤りはない。
したがって,原告主張の取消事由2は理由がない。

3
取消事由3(商標法4条1項19号該当性判断の誤り)について
(1)

引用商標の周知性について
前記1(1)のとおり,引用商標は,本件商標の登録出願時及び登録査定時
において,原告の業務に係る商品であること(使用商品)を表示するものとして,需要者の間に広く認識されていたものと認められず,周知著名であったとはいえない。このことは,日本国内における需要者の間のみならず,外国における需要者の間においても,同様である。
(2)

不正の目的について
認定事実
前記第2の1の事実と証拠(甲3,22,24ないし39,42,52,74ないし76,106,107,109ないし112,114,244ないし251,乙32,33,37,61,67ないし69(枝番のあるものは,いずれも枝番を含む。))及び弁論の全趣旨を総合すれば,以下の事実が認められる。
(ア)

原告は,昭和41年8月に設立された,運搬機器,包装資材,梱包
用品の製造卸販売等を目的とする株式会社である。
被告は,
昭和45年3月に設立された,
倉庫業,
貨物自動車運送事業,
自動車運送取扱事業等を目的とする株式会社である。オカバ及びオカバマネジメントは,被告の子会社であり,被告グループ(名称「オカバグループ」)を形成する被告のグループ企業である。
(イ)

原告は,昭和59年から,引用商標を付した使用商品の製造販売を
開始した後,平成10年7月10日,「ハイパット」の片仮名を横書きしてなる原告旧登録商標(引用商標と同一構成の商標)について,指定商品を第22類「布製包装用容器」として,商標登録出願を行い,平成11年7月2日,その設定登録を受けた。
(ウ)

原告と被告は,平成15年4月1日,原告が被告から保管専用の倉
庫を賃借し,被告が原告の物流代行作業を行う旨の契約(乙32)を締結した。
原告と被告は,平成17年ころ,被告グループのオカバが,原告の販売代理店として使用商品を含む原告の商品を販売する旨を合意し,オカバは,そのころから,引用商標を付した原告の使用商品を販売するようになった。また,オカバは,平成18年,原告の使用商品を含む原告の商品のインターネット販売を行うためのWEB代理店である「オカバネットショップ」を運営するようになった。
原告は,平成21年ころ,オカバの要望により,原告のカタログのデータを使用して作成した,引用商標を付した使用商品が掲載された,オカバの商品カタログ(甲35)を供給するようになった。上記カタログの使用商品の紹介ページは,原告のカタログ(甲218)と同内容であり,「『ハイパット』は,株式会社アサヒが開発したオリジナル商品です。類似品が出回っておりますが,品質・仕様がまったく異なりますので充分にご注意下さい。」との注意書きが付されている。
(エ)

原告旧登録商標の商標権は,更新登録の申請手続を怠ったため,平
成21年7月2日,存続期間の満了により消滅した。
しかし,原告は,その当時,原告旧登録商標の商標権が消滅した事実に気づいていなかった。
(オ)

原告は,平成23年11月,オカバから,原告が中国で製造してい
た使用商品と同様の仕様の商品を「ハイパット」の商品名でオカバオリジナルの商品として販売したい旨の要請を受けたのに対し,オカバが独自の商品名(「ハイパット

エコノミー」)で販売することを条件とす

る旨を提案した。その後,原告は,同年12月ころ,オカバの上記要請を了承し,平成24年2月,発売元を「オカバ」と表記した「ハイパット」の商品名の使用商品(「オカバオリジナルハイパット」)をオカバに納品した。一方で,オカバは,原告の販売代理店として,引用商標を付した使用商品の販売を継続していた。
その間の平成23年9月22日,被告は,本件商標の登録出願をし,平成24年3月16日,その設定登録(本件商標登録)を受けた。さらに,被告は,同年8月10日,本件商標について,指定商品を第24類「家具等の被搬送物の運搬・移動その他の荷役作業時の被搬送物を覆う被搬送物用の包装又は梱包用の伸縮自在にしたベルト状・シート状・筒状・袋状で綿・スポンジ・フェルト・不織布等の緩衝材を布生地・不織布生地・フェルト生地で挟みキルティング縫製した緩衝保護材」等として,商標登録出願をし,平成25年2月15日,その設定登録(別件商標登録)を受けた。
(カ)

原告は,平成26年9月9日に開催された国際物流総合展2014
に出展していたオカバマネジメントが販売する商品の広告に記載された「ハイパット」の表示に登録商標を示すマークの「Ⓡ」(甲112の添付資料6-2)が付されていることに気づき,不審に思い,弁理士に相談したところ,原告旧登録商標の商標権が存続期間の満了により消滅したこと,被告が本件商標について商標登録出願をし,本件商標登録及び別件商標登録を受けていたことが判明した。オカバマネジメントは,同年4月以降,オカバに代わって,オカバオリジナルハイパットの販売を行っていた。
原告は,同年10月28日,「ハイパット」の片仮名を横書きしてなる商標(引用商標と同一構成の商標)について,指定商品を17類「ポリエステル製の生地とポリエステル製の中綿とゴムとを重ね合わせてキルティング縫製して伸縮自在にした包装用又は梱包用の筒状又は袋状又はシート状の保護緩衝材,合成樹脂製梱包用保護緩衝材,ゴム製包装用容器」として,商標登録出願を行い,平成27年4月3日,その設定登録(商標登録第5755455号。以下「原告登録商標」という。)を受けた。
(キ)

オカバマネジメントは,平成26年11月ころ,オカバオリジナル
ハイパットの在庫がなくなってきたことから,原告に対して,追加発注をしたところ,原告は,「ハイパット」の商品名では受注できないことを伝えるとともに,今後の取引条件についての協議や本件商標の登録出願経緯について説明を求め,また,被告代表者と直接面談することを要請した。
その後,
オカバマネジメントは,
平成27年1月20日,
原告に対し,
お互いのためを考えると,原告がオカバマネジメントと業務提携をすることを勧める旨,将来に関しては,原告が被告グループに参加することを視野に入れて検討することを求める旨を記載した電子メール
(甲39)
を送信した。原告は,上記業務提携の提案に応じなかった。
(ク)

原告は,オカバに対し,平成28年10月12日付け書面で,原告の取扱商品の価格改定の通知をした後,同年12月16日付け書面で,オカバからの要望を受けて,価格改定は平成29年3月31日まで据え置き,同年4月1日から実施予定である旨の通知(甲249),同年3月31日をもって在庫数の提示サービス等のサービス業務を終了する旨の通知(甲250)及び同年2月1日からオカバが原告製の「ハイパット」
関連商品を販売することの自粛を求める旨の通知
(乙37)
をした。
オカバは,平成28年12月19日付け書面で,原告に対し,原告からの上記各通知の内容は承服することができず,原告と取引を続けることは難しいと考えるので,オカバは平成29年1月末日をもって原告との間の物流用品販売事業を終了することに決定した旨の通知
(甲251)
をした。
その間の平成27年に被告は,原告登録商標について登録異議の申立てをし,その後,平成28年7月6日,原告は,本件審判の請求及び別件商標登録の無効審判請求をした。

不正の目的の有無
原告は,被告は,原告から引用商標を付した使用商品の納品を受け,原告の販売代理店として上記使用商品を販売し,引用商標が原告の使用商品を表示するものとして需要者の間に周知著名であることを認識していたにもかかわらず,引用商標と同一構成の原告旧登録商標の商標権が消滅したことを知るや,これを奇貨として,引用商標に表象される価値,業務上の信用を自己に帰属させるという「不正の目的」をもって,引用商標と実質的に同一の本件商標の登録出願を行ったものであるから,本件商標は,被告が「不正の目的」をもって使用をするものである旨主張する。これに対し,被告は,原告旧登録商標の商標権が存続期間の満了により消滅した経緯があることを知らずに,オカバが「ハイパット」の標章が付された商品の販売事業を安定的に運営するために,防衛的に本件商標の登録出願を行ったものであり,また,被告は,原告に対して,本件商標の商標権を有していることを理由に,ライセンス料の請求や,商標権の買取請求など何らかの請求を行ったことは一切ないのであるから,被告が本件商標の登録出願の際に「不正の目的」を有していなかったことは明らかである旨主張する。
(ア)

そこで,まず,引用商標と本件商標の類否について検討するに,引
用商標は,「ハイパット」の片仮名を横書きしてなる標章であり,本件商標は,別紙のとおり,「ハイパット」の片仮名及び「HIPAT」の欧文字を二段に横書きしてなる商標であるところ,本件商標の構成中,「ハイパット」の片仮名と引用商標とは,その文字構成を共通にするため,両商標は,外観上近似した印象を与え,共に「ハイパット」の称呼を生じ,
また,
共に特定の観念を生じない造語であることが認められる。
これらを総合すると,本件商標は,引用商標に類似する商標であると認められる。
(イ)

次に,前記アの認定事実を総合すると,被告による本件商標の登録
出願当時,被告グループのオカバは,原告の販売代理店として,約6年以上にわたり,引用商標を付した原告の使用商品を販売しており,被告は,原告が原告の使用商品を表示するものとして引用商標を使用していることを十分に認識していたこと,被告は,事前に原告に問い合わせることのないまま,引用商標と類似する本件商標の登録出願を行い,本件商標登録後もその事実を自ら原告に知らせることはなかったことが認められる。
しかしながら,原告とオカバとの間の販売代理店契約において,オカバが引用商標又はその類似商標について商標登録出願をすることを禁止する旨の明示又は黙示の合意をしたことをうかがわせる事情は認められないのみならず,原告とオカバを含む被告グループとの間で,被告グループが上記のような商標登録出願をしないという不作為債務を負う旨の合意をしたことを認めるに足りる証拠はない。
また,引用商標と同一構成の原告旧登録商標の商標権が存続期間の満了により消滅した日(平成21年7月2日)から被告による本件商標の登録出願日(平成23年9月22日)までの約2年2か月の間に,原告が引用商標について再度の商標登録出願を行ったり,又は原告旧登録商標の商標権の消滅前に更新登録の申請手続を行うことについて客観的な支障があったものとは認められない。なお,原告が主張するように,原告旧登録商標の商標権の消滅は原告の代理人弁理士の商標管理の懈怠により更新時期を逸したことによるものであるとしても,そのことは,上記の客観的な支障に当たるものではない。
加えて,被告グループのオカバマネジメントが原告に対して業務提携の提案をしたのは,原告から,オカバオリジナルハイパットの追加発注を拒絶された際のことであり,その提案の時点で本件商標の登録出願日から約3年が経過し,しかも,その提案の際にも被告が本件商標の商標権を有していることを持ち出して交渉を優位に進めようとした事実は認められないこと,これまで被告は,原告に対して,本件商標の商標権を行使して,ライセンス料の請求や引用商標の使用の差止請求などを行っていないことを併せ考慮すると,被告による本件商標の登録出願は,原告旧登録商標の商標権が消滅したことを奇貨として,引用商標に表象される価値,業務上の信用を自己に帰属させる目的をもって行ったものということはできないのみならず,原告と被告グループ間の取引上の信義則に反する目的をもって行ったものと認めることもできない。
したがって,本件商標は,被告が「不正の目的」をもって使用をするものであるとの原告の主張は,理由がない。
(3)

小括
以上によれば,引用商標は,原告の業務に係る商品(使用商品)を表示するものとして需要者の間に広く認識されていたものではなく,また,被告が「不正の目的」をもって本件商標を使用をするものとはいえないから,本件商標は商標法4条1項19号に該当しないとした本件審決の判断に誤りはない。
したがって,原告主張の取消事由3は理由がない。
4
取消事由4(商標法4条1項7号該当性判断の誤り)について
原告は,被告による本件商標の登録出願の目的は,被告グループに原告を引き込んだり,業務提携において交渉を有利に運ぶことにあったことは明らかであって,本件商標の登録出願はその目的及び経緯に鑑みて適正な商道徳に反し,著しく社会的妥当性を欠く行為であり,これに基づいて商標登録を認めることが公正な取引秩序の維持の観点からみても不相当であるというべきであるから,本件商標は,商標法4条1項7号所定の「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」に該当する旨主張する。
しかしながら,前記3(2)ア認定の本件商標の登録出願の経緯等に照らせば,本件商標の登録出願はその目的及び経緯に鑑みて適正な商道徳に反し,著しく社会的妥当性を欠く行為であるものと認めることができないから,原告の主張は,その前提を欠くものであり,採用することができない。
したがって,本件商標は商標法4条1項7号に該当しないとした本件審決の判断に誤りはなく,原告主張の取消事由4は理由がない。

5
結論
以上のとおり,原告主張の取消事由はいずれも理由がなく,本件審決にこれを取り消すべき違法は認められない。
したがって,原告の請求は棄却されるべきものである。

知的財産高等裁判所第4部
裁判長裁判官

大鷹
裁判官

山門
裁判官

筈井一郎優卓矢
(別紙)

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