判例検索β > 平成30年(う)第127号
有印私文書偽造・同行使、ストーカー行為等の規制等に関する法律違反
事件番号平成30(う)127
事件名有印私文書偽造・同行使,ストーカー行為等の規制等に関する法律違反
裁判年月日平成30年9月20日
法廷名福岡高等裁判所
結果破棄自判
原審裁判所名福岡地方裁判所
原審事件番号平成28(わ)585
戻る / PDF版
平成30年9月20日宣告福岡高等裁判所判決
平成30年(う)第127号

有印私文書偽造・同行使,ストーカー行為等の規制

等に関する法律違反被告事件
主文
原判決を破棄する
被告人を懲役8月に処する
原審における未決勾留日数中230日をその刑に算入する。
福岡地方検察庁で保管中の料金明細内訳書郵送発行申込書1枚(平成28年領第1325号符号1)及び料金明細送付サービス申込書1枚(同領号符号2)の各偽造部分を没収する。
理由1
控訴理由は事実誤認である。

2
控訴趣意の判断に先立ち,原判決の法令適用につき,職権で調査する。原判決は,別居していた当時の妻を被害者として,被害者使用自動車の駐車場でいわゆるGPS機器を密かに同車に取り付け,その後多数回にわたって同車の位置情報を探索取得した行為(原判示「犯罪事実」第2の1)につき,ストーカー行為等の規制等に関する法律(平成28年法律第102号による改正前のものであり,以下,「本法」という場合にはこれをいう。)2条1項1号の「通常所在する場所」付近における「見張り」に該当すると判断した。しかし,この原判決の判断は,是認することができない。以下,説明する。
原判決は,本法2条1項1号の「見張り」につき,「社会通念上,主として視覚等の感覚器官によって相手方の動静を観察する行為をいうと解されるが」とした上で,同法の目的,社会生活の変化を踏まえ,「前記のような行為態様に限定されるものではなく」「電子機器等を使用して相手方に関する情報を取得することを通じてなされる動静観察行為も含まれると解すべきである」と説示する。これは,その動静を把握するために行われる相手方関連の情報取得行為が一般的に「見張り」に該当し得る,との解釈である。
しかし,まず,「見張る」は「①目を大きく開いて見る。②注意深く見る。警戒して見守る。番をする。(広辞苑第7版)」「①目を大きく開いて見る。②注意深く目を配って監視する。(大辞泉第2版)」などと辞書的に定義されるとおり,原判決も「主として」で述べる「視覚等の感覚器官を用いた相手方の動静観察行為」(なお,相手方の動静を直接的に観察する行為だけでなく,相手方の動静を把握するため一定空間内の状況を観察する行為も含まれる。)を本来的には指すものである。これと異なる機序による動静把握行為一般は,字義的に当然には「見張り」に含まれない。
そこで,さらに,本法中における「見張り」の位置づけを検討する。まず,本法2条1項1号は,「つきまとい」「待ち伏せ」等の行為と異なり,「見張り」について「住居,勤務先,学校その他その通常所在する場所の付近において」という行為者の所在する場所に関する要件を規定して,可罰的な範囲を限定している。つまり,「見張り」は,その行為者が行為時に所在する場所によって当罰性が左右され,同場所的要件を充たす場合のみがその余の行為と同様の規制を受ける行為なのであるから,観察行為自体に行為者の感覚器官が用いられることを当然の前提にしていると解するのが自然である。また,同項2号の「行動を監視」は,行為態様を問題としない動静把握行為一般を指すと解されるところ,同項1号ではこれと異なる文言があえて用いられているのであるから,この点からも,「見張り」につき相手方の動静を把握するための情報取得行為一般を指すとは解釈し難い。
ところで,刑罰法規の解釈は,文理だけからなされるものではなく,当該刑罰法規の保護法益等を踏まえて合目的的になされる必要がある。しかし,刑法の自由保障機能確保を目的とする罪刑法定主義の要請から,その解釈はあくまで法文の文言の枠内で理解できる範囲に限られ,これとかい離して処罰範囲を拡張することは許されない。そして,これまで述べた点を考慮すれば,「視覚等の感覚器官を用いた」動静観察行為であることは,本法2条1項1号に規定される「見張り」という文言の基本的で重要な要素というべきであり,当罰性の観点や原判決の指摘する社会生活の変化等は,立法的解決の理由とはなり得ても,これとかい離した解釈を許容する理由とはなり得ない。また,実際にも,相手方の動静を把握するための情報取得行為一般が「見張り」に該当し得ると解した場合には,例えば相手方のいわゆるSNSを継続的に観察して動静情報の収集をする行為等もその定義に包摂され得るのであって,「見張り」概念の辺縁が不明確となり,国民にとっての予測可能性が確保し難いものとなってしまう。感覚器官の作用を補助し又は拡張する双眼鏡等の道具を用いることは別論として,感覚器官の作用とは全く異なる機構によって相手方の動静情報を収集する機器を用いる行為は,更なる「見張り」等のための準備,予備行為とはなり得ても,「見張り」の実行行為そのものではない。
したがって,取り付けたGPS機器を用いて位置情報を探索取得した被告人の行為は,本法2条1項1号の「見張り」に該当しない。
また,原判決は,位置情報の探索取得行為自体を取り出せば相手方の通常所在する場所の付近における見張りとはいえないが,GPS機器取付行為と位置情報探索取得行為は強い関連性があるから,これらを一体のものとしてみれば全体として場所的要件も充足する,と判断する。しかし,GPS機器取付行為と各位置情報探索取得行為はそれぞれ客観的には別個になされた行為であり,かつ,後者こそが動静情報の収集行為であり,当罰性の中心である。それにも関わらず,前者と後者とが評価として一体であるという理由で,可罰的な「見張り」を限定する場所的要件を後者につき不要とするのは,同要件を実質的に無意味化するものであり,解釈として許されない。なお,本件とは異なるが,仮に継続した見張り行為を問題とする場合であっても,その性質は状態犯ではなく継続犯であると解されるから,場所的要件を充たす範囲の行為のみが可罰的である。よって,この点においても,原判決は法令の適用を誤っている。
以上のとおりであるから,原判示「犯罪事実」第2の1のうち,GPS機器を取り付け,これを用いて位置情報を探索取得した行為は,「通常所在する場所」付近における「見張り」に該当しない。同行為に本法2条1項1号を適用した原判決には,判決に影響を及ぼすことの明らかな法令適用の誤りがあり,破棄を免れない。
3
破棄自判
よって,弁護人の控訴趣意に対する判断を省略し,刑訴法397条1項,380条により原判決を破棄し,同法400条ただし書を適用して,被告事件について更に次のとおり判決する。

(原判示第2の事実に代えて当裁判所が新たに認定した事実)
第2の1につき,1行目に「a区c丁目」とあるのを「a区bc丁目」と訂正し,4行目「同車の存在を視認することによって」の後から7行目「Aの動静を把握する方法で」の前までを削除するほかは,原判決と同一である。
(証拠の標目)省略
(事実認定の補足説明)
弁護人は,前記当審認定事実につき,被告人は「恋愛感情その他の好意の感情又はそれが満たされなかったことに対する怨恨の感情を充足する目的」(以下,「恋愛感情等充足目的」等という)を有していなかったから無罪である,と主張する。しかし,関係証拠によれば,被告人は,①平成28年2月15日頃(以下,日付は平成28年のもの),被害者使用自動車にGPS機器を密かに取り付け,その頃から同GPS機器が捜査機関によって発見される3月7日までの約20日間で,181回(なお,取得しようとしたのは193回。原審甲24)にわたって同車の位置情報を探索取得し,また,②同月4日,被害者の妹方付近で,妹を待って座っていた被害者を,その近くに建っていた集合住宅の廊下に隠れて約27分間にわたり注視し,その間に,被害者を繰り返し写真撮影したと認められる。被害者が家を出て被告人から身を隠す状態に至った後に多数回継続的な①の行為及び不穏な②の行為に及んでいる,という経過自体から,被告人がこれらの行為に及んだ際に恋愛感情等充足目的を有していたと基本的に推認可能である。
弁護人は,これらの行為が,夫婦共有財産であるにもかかわらず被害者が被告人の知人から回収した乗用車Bにつき,同Bの所在を突き止めてこれを取り戻す等の目的でなされたものであると主張し,被告人の原審供述からは,B取戻し目的の他に,「被害者が被告人の行動を監視していることの証拠をつかんでその行動をやめさせる目的」を主張するものと解される。しかし,①の行為は3月1日の同B回収より前に開始されたものであるところ,被害者による自分の動静把握をやめさせるための証拠とするつもりで前記の多数回継続的な被害者の動静把握行為に及んだとする被告人の説明が,基本的に不合理である。また,②の際になされた被害者の撮影は,弁護人主張の各目的に資するものではない。なお,被告人は,被害者らに接触していないことを証明するための写真撮影であると原審公判で説明する(原審第4回被告人質問4頁)が,不合理である。以上の点を考え併せれば,弁護人の主張する目的が主であったとは考え難い。弁護人は,被告人がこの時期に他の複数の女性と交際していたから,本件は恋愛感情等充足目的によるものではない,というが,同事情は同目的の有無に影響しない。また,弁護人は,被告人が3月1日ないし2日に前記Bの所在を突き止めて写真を撮影しているから本件各行為も取戻しを目的とするものである,とも主張するが,同Bを取り戻したいという思いと恋愛感情等充足目的は矛盾しないから,やはり同目的の有無に影響しない。
したがって,被告人は,恋愛感情等充足目的で当審認定に係るストーカー行為に及んだと認められる。
(累犯前科)省略
(法令の適用)省略
(量刑の理由)
量刑の中心となる原判示第1の犯行は,電話会社係員の面前で,妹を利用して書面を偽造行使した大胆な犯行である。当時の妻との紛争に有利な資料を収集しようとした,との被告人の供述する動機を仮に前提としても,卑劣で酌むべきものに乏しい。また,当審が新たに認定したストーカー行為に関する事実についても,前記元妻の妹方付近で元妻を注視するなどしたもので,無視できるものではない。被告人が異種とはいえ前刑の執行を受け終わってからわずか約9か月で原判示第1の犯行に及んだことも踏まえれば,被告人に対する責任非難は相応のものが妥当する。よって,被告人の刑事責任は軽視できない。そこで,被告人が原判示第1の事実については認めて謝罪の言葉を述べていること,元妻との和解が成立し,離婚するとともに財産的な紛争が決着しており,被告人が元妻に対して一切接触しないと誓約していることなど,被告人のため有利に酌むべき一般情状も踏まえ,主文のとおりその刑を量定した。
平成30年9月20日
福岡高等裁判所第2刑事部
裁判長裁判官

岡田


裁判官

佐藤

哲郎

裁判官

髙橋

明宏
トップに戻る

saiban.in