判例検索β > 平成30年(ネ)第10020号
特許権侵害差止等請求控訴事件 特許権 民事訴訟
事件番号平成30(ネ)10020
事件名特許権侵害差止等請求控訴事件
裁判年月日平成30年10月18日
法廷名知的財産高等裁判所
原審裁判所名大阪地方裁判所
原審事件番号平成29(ワ)780
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平成30年10月18日判決言渡
平成30年(ネ)第10020号
原審

特許権侵害差止等請求控訴事件

大阪地方裁判所平成29年(ワ)第780号

口頭弁論終結の日

平成30年8月2日

当事者の表示


別紙当事者目録記載のとおり
主文
本件控訴を棄却する
控訴費用及び当審における参加費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
第1

控訴の趣旨

1
原判決を取り消す。

2
被控訴人株式会社エヌ・ティ・ティ・データ(以下「被控訴人NTTデータ」
という。)は,原判決別紙物件目録記載1の二次元コードによるトランザクション認証機能を実現するソフトウェアを提供し,提供の申出をしてはならない。3
被控訴人株式会社東京スター銀行,同株式会社百五銀行,同株式会社秋田銀
行,同株式会社大分銀行,同株式会社東日本銀行,同株式会社筑邦銀行,同京都信用金庫及び同長野県信用組合(以下,併せて「被控訴人金融機関ら」という。)は,原判決別紙物件目録記載2の二次元コードを生成して,インターネットバンキング利用者の端末上に送信し,同端末上の取引画面に表示させてはならない。4
被控訴人NTTデータは,控訴人に対し,1200万円及びこれに対する平
成29年2月9日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。5
被控訴人金融機関らは,控訴人に対し,それぞれ120万円及びこれに対す
る平成29年11月22日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。第2
1
事案の概要等(略称は原判決に従う。)
事案の概略


本件は,発明の名称を「二次元コード,ステルスコード,情報コードの読み
取り装置及びステルスコードの読み取り装置」とする特許権(本件特許権)を有する控訴人が,後記被控訴人NTTデータ及び被控訴人金融機関らの各行為は本件特許権を侵害すると主張して(被控訴人NTTデータに対しては予備的に間接侵害も主張),被控訴人NTTデータに対し,①本件特許権に基づき,後記本件認証機能を実現するソフトウェアの提供及び提供の申出の差止め,②不法行為に基づく損害賠償請求として,損害金2400万円のうちの一部である1200万円及びこれに対する平成29年2月9日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めるとともに,被控訴人金融機関らに対し,①本件特許権に基づき,後記本件コードを生成して,利用者の端末に送信し,同端末上の取引画面に表示させる行為の差止め,②不法行為に基づく損害賠償請求として,損害金各240万円の一部である120万円及びこれに対する平成29年11月22日(訴え変更申立書送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。

被控訴人NTTデータの行為

被控訴人NTTデータが,被控訴人金融機関らに対してインターネットバンキング機能提供サービス「AnserBizSOL」を提供するに当たり,その機能の一環として「二次元コードによるトランザクション認証機能」(本件認証機能)を実現するために,原判決別紙物件目録1記載の二次元コード(本件コード。同目録2記載の二次元コードはその例である。)による本件認証機能を実現するソフトウェアを提供することにより,被控訴人金融機関らのインターネットバンキングサービスの利用者がインターネット取引を実行する際に,被控訴人NTTデータが本件認証機能に関するプログラム(利用者端末において自動的に本件コードを生成,表示させるもの)を利用者端末に送信し,本件コードをその端末上の取引画面に表示させる行為(本件発明に係る二次元コードの生産行為(主位的主張)又は被控訴人金融機関らによる後記生産行為にのみ用いる物の譲渡等又は譲渡等の申出をする行為(予備的主張))。

被控訴人金融機関らの行為

各々のインターネットバンキングサービスにおいて,その利用者がインターネット取引を実行する際に,被控訴人NTTデータが提供する上記サービスを通じて,本件コードを生成し,利用者の端末上の取引画面に表示させる行為(本件発明に係る二次元コードの生産行為)。


原判決は,本件特許は特許無効審判により無効にされるべきものと認められ,
控訴人は被控訴人らに対し本件特許権を行使することができないとして,控訴人の請求を全部棄却したため,控訴人は,これを不服として控訴した。2
前提事実

前提事実は,原判決5頁10行目の「いずれも中小企業等協同組合法」を「中小企業等協同組合法」に,同頁19行目の「といい。」を「という。」にそれぞれ改めるほかは,原判決「事実及び理由」の第2の2(原判決4頁20行目~8頁5行目)に記載のとおりであるから,これを引用する。
3
争点



争点1(本件コードは本件発明の技術的範囲に属するか)



争点2(被控訴人らの本件特許権の直接侵害行為の成否)(主位的主張)


争点3(被控訴人NTTデータの間接侵害行為の成否)(予備的主張)


争点4(乙1発明に基づく新規性欠如)



争点5(乙2発明に基づく新規性欠如)



争点6(丁1発明に基づく新規性欠如)



争点7(丁2発明に基づく新規性欠如)



争点8(丁3発明に基づく新規性欠如)



争点9(控訴人に生じた損害の額)(被控訴人NTTデータ関係)

争点10(控訴人に生じた損害の額)(被控訴人金融機関ら関係)
第3

当事者の主張
1
原判決の引用

当事者の主張は,原判決10頁3行目の「課題する」を「課題とする」に,12頁15行目の「金融機関らもが」を「金融機関らも」にそれぞれ改めるとともに,後記2のとおり,当審における補充主張を付加するほかは,原判決「事実及び理由」の第2の3(原判決8頁6行目~56頁22行目)に記載のとおりであるから,これを引用する。
2
当審における補充主張(争点4について)

〔被控訴人らの主張〕


乙1発明は二次元コードに係る発明であること

本件発明の構成要件Aは,「表示領域を二次元的な配列で並べて形成され」と規定しており,二次元的な配列で並べられるのが「表示領域」であることはその文言上明白であって,「情報表示の要素」を二次元的に配列にすることを規定しているなどと解釈する余地はない。
そして,本件発明における「表示領域」とは,固有の反射又は放射の波長特性を有し表示する領域であるところ,乙1公報には,単位領域ごとに白色,赤色,緑色又は黄色とすることにより,2×2の四つの単位領域からなる1つの単位情報記録領域において,44=256種類の情報の記録が可能となることが記載されている。すなわち,乙1発明においては,本件発明の「表示領域」に相当する「単位領域」が二次元的に配列され,その組合せによって情報が表示されている。また,仮に本件発明の課題が控訴人の主張するとおりであっても,本件発明は,「表示領域」を二次元的に配列することで上記課題を解決しているのであり,「情報表示の要素」を二次元的に配列することを解決手段としているものではない。仮に「表示領域」を二次元的に配列することで上記課題を解決することができないのであれば,本件発明は課題を解決しないものということになる。


独立コードに関する控訴人の主張は失当であること

本件発明の特許請求の範囲にも本件明細書にも,「二次元コード」や「コード」を限定する趣旨の記載はないから,本件発明に係る「コード」とは「独立コード」を意味するとの控訴人の主張は失当である。
なお,仮に控訴人主張に係る技術常識が本件特許の出願日当時にあったとすれば,本件発明の新規性の有無を判断する際にも,これを参酌した上で乙1発明や乙2発明を理解すべきことになり,乙1発明及び乙2発明のコードに「独立コード」が含まれることは,本件特許出願日における当業者の技術常識に照らして当然ということになるから,新規性がないことに変わりはない。


波長特性の組合せについて

控訴人は,本件発明では,信号領域が単に配列されることに加え,組み合わせることが必要であるところ,乙1発明では,二次元的な配列で並べて形成された表示領域の波長特性が組み合わせられていないなどと主張する。
しかし,乙1公報【0024】には,単位領域ごとに白色,赤色,緑色又は黄色とすることにより,2×2の4つの単位領域からなる1つの「単位情報記録領域」において,44=256種類の情報の記録が可能となることが記載されていることから,乙1発明においては,本件発明の「表示領域」に相当する「単位領域」が二次元的に配列され,そのように配列された「単位領域」の色(波長)の組合せによって,情報が表示されている。


技術方式について


個別セル間での情報波長特性の組合せ組成方式について

控訴人は,配列された各個別のセルの波長特性が,本件発明では相互に組み合わされる波長組成であるのに対し,乙1発明は相互で分離された波長組成での技術方式であることにおいて,両者は完全に相違しているなどと主張する。しかし,上記主張はそもそも趣旨が極めて不明確である上,本件発明の構成要件とどのように関連するのか不明であり,主張自体失当である。また,乙1発明においては,1つの「単位情報記録領域」に記録されている情報は,2×2の4つの「単位領域」の色(波長)の組合せにより決定されており,本件発明と相違するところはない。

情報領域に記録される情報記録方式及び記録された情報の読み取り方式につ
いて
控訴人は,本件発明と乙1発明とは,情報領域に記録される情報記録方式において相違し,また,記録された情報の読み取り方式においても相違しているなどと主張する。
しかし,本件発明においては,控訴人の主張するような「情報追記型」と「情報固定型」のいずれであるかという点について何らの限定もされておらず,また,読み取り方式に関する限定も一切ないから,これらの点をもって乙1発明との相違点を論ずることはそもそも失当である。また,控訴人自身,上記各点が本件発明の構成要件とどのように関連するのかという点について何ら述べていない。〔控訴人の主張〕


乙1発明のコードは「二次元」コードでないこと

構成要件A及びCの「二次元」とは,縦(垂直)方向及び横(水平方向)の表示領域の組合せを情報表示の要素とすることを意味する。
本件発明は,バーコードに代表される一次元コードでは多くの情報を表示するためにはバーコードラベルが大型化し実用的でなくなるという課題を解決するためのものであるところ,表示領域さえ二次元的に配列されていれば情報表示の要素は二次元的に配列されていなくてもよいとすれば,多くの情報を表示するためには一方向に表示領域を配列していくほかなく,結局上記課題を解決することができない。このため,本件発明の二次元コードにおける「二次元」とは,単に表示領域が二次元方向に幾何学的に配列されているのみではなく,この組合せにより二方向に情報表示の要素を有することを意味する。
これに対し,乙1発明は,2×2の単位情報記録領域が幾何学的に二次元に配列されてはいるものの,当該コードが記録された光学式カードは読取装置において長手方向に間欠送りされ,当該カード送り方向と直交する方向に走査されることで,当該コードが直線状に順次読み取られるものである。そうすると,乙1発明のコードは,水平方向(一方向)のみにしか情報表示の要素を有しない。したがって,乙1発明におけるコードは,本件発明の「二次元」コードには当たらない。


乙1発明のコードは「独立コード」でないこと


コードは,コード化の対象となる情報を表すシンボルと,バーコードに記載
されているデータを読み取るために必要な取り決めの二つの要素を含むものでなければ,産業上の利用可能性がなく単独で発明として成立しない。発明としての「コード」がこの二つの要素を含む「独立コード」を意味することは,本件特許出願当時の当業者にとって技術常識であった。
これに対し,乙1発明は,光学式カードに記録された上で,読取装置により長手方向に間欠送りされることで初めて読み取りが可能となるものである。この「コード」は,光学式カードの記録面に形成されなければ読み取りの位置及び方向が定まらない点で,それ自体に読み取りに必要な取り決めを含まないものであるため,「独立コード」に該当しない。
したがって,乙1発明は,発明の名称のとおり,あくまで「光学式カード」の発明であって,本件発明に係る「コード」に当たらない。

なお,本件明細書にはカルラコードに関する記載があるが,当該記載におけ
るカルラコードは,読み取りに必要な取り決めを有するコードとして,読み取り方向が一定ではない表示媒体に表示された場合においても単独で技術的意義を有する態様のカルラコードを意味する。


乙1発明では波長特性の組合せが情報表示の要素とされていないこと
本件発明における「コード」とは,特許請求の範囲請求項1に記載のとおり,「二次元的な配列で並べて形成され,この配列における表示領域の波長特性の組み合せを情報表示の要素とした」ものである。本件明細書の記載によっても,単に配列されるのでみなく,波長特性が組み合わされることが本件発明における「コード」の前提となっている。
他方,乙1発明のコードは,隣接する4つの正方形で田の字型に配列されているが,この状態において個々に独立している情報であり,相互に関連付ける仕組みが表示領域上にない。したがって,乙1発明のコードは,二次元的な配列で並べて形成された表示領域の波長特性が組み合わせられておらず,本件発明の「コード」に当たらない。


本件発明と乙1発明の技術方式の相違


表示領域の配列された個別セル間での情報波長特性の組合せ組成方式の相違
前記のとおり,本件発明の「コード」は,「二次元的な配列で並べて形成され,この配列における表示領域の波長特性の組合せを情報表示の要素とした」ものであり,その表示領域の波長特性は,配列されていることに加えて,組み合わせることが必要である。
ここで,配列の状態が同じであっても,配列されたセルに記録される情報内容自身(本体)となる各個別の波長特性においては,相互に組み合わされる波長組成と相互で分離された波長組成での技術方式に区別される。乙1公報で引用されたカード型情報表示技術は,後者の分離型の波長組成である。この方式では,分離されている個別の波長は,読み取り機器側の,カードに印字されたセルに対する走査線のルート移動の動作によって,分離している各個別の波長特性がルート化され,互いに結ばれることで組み合わされ,各個別の波長特性が組成される。以上のとおり,配列された各個別のセルの波長特性が,本件発明では相互に組み合わされる波長組成であるのに対し,乙1発明は相互で分離された波長組成での技術方式であることにおいて,両者は完全に相違している。

情報領域に記録される情報記録方式の相違

情報記録方式には,一般的に,記録された情報に対し情報の追記等が可能な情報追記型と,情報改ざんからの保護を目的として情報の追記等ができない情報固定型の2つの記録方式に区別される。
乙1発明は本来光学式のカード情報記録技術であり,2-1~2-nまでの情報をカード上の情報記録領域2の全面に任意数記録するものである。そして,乙1発明と技術上の対をなす丁2発明では,詳細な実施方法として乙1発明の光学式カードが丁2公報に示され,情報をカード上の情報記録領域2に書き込むことが詳述されている。したがって,乙1発明は,情報の追記等が可能な追記型の情報記録方式である。
他方,本件発明の情報記録方式は,情報暗号が書式化される段階でクローズされ,その後情報の追記ができない情報固定型の暗号記録方式であり,情報表示領域全体を一括でフォーマット(書式化)される情報の記録方式である。本件明細書には,その代表例として図1の一次元バーコードや二次元コードPDF417が示されており,本件明細書【0048】記載のカルラコードも,情報暗号が座標系内において完了され固定されているものであって,これらと同様の情報固定型の記録方式である。
したがって,本件発明と乙1発明とは,情報記録方式において相違している。ウ
情報領域に記録された情報の読み取り方式の相違

乙1発明は,カード面の情報表示領域に余白のある限り追記情報を書き込むことができる仕様になっており,読み取り時には走査線が情報の1個体(セル)ずつ切り出しながら読み取りを始め,カード上の情報を切り出せなくなるまで繰り返し走査線を動かしていく必要がある。すなわち,乙1発明は,読み始めは同じでも,情報の読み終わりが不定であるendless型の情報逐次読み取り方式となっている。他方,本件発明においては,情報表示領域全体を一括でフォーマット(書式化)しているため,読み取りにあたっては,本件明細書で引用されている二次元コードPDF417等と同様に,フォーマット(書式化)された情報の読み始めから読み終わりまでを一括で読み取る方式となっている。すなわち,本件発明は,暗号化時に情報領域全体が書式化されることによって,読み始めと読み終わり(start&end)がその時点で定められることによる,情報一括認識の読み取り方式となる。したがって,本件発明と乙1発明とは,情報領域に記録された情報の読み取り方式において相違している。

第4

以上より,本件発明は乙1発明であるということはできない。
当裁判所の判断

当裁判所も,本件発明は乙1発明であるから,本件特許は特許法29条1項3号,123条1項2号に該当し,特許無効審判により無効にされるべきものと認められ,同法104条の3第1項により,控訴人は被控訴人らに対して本件特許権を行使することができないと判断する。理由は,以下のとおりである。
1
本件発明について



本件特許請求の範囲及び本件明細書の発明の詳細な説明の記載は,以下のと
おり付加するほかは,原判決「事実及び理由」の第3の1⑴(原判決56頁26行目~57頁25行目)に記載のとおりであるから,これを引用する。ア
原判決57頁2行目末尾に,改行の上,以下のとおり付加する。

「本発明は,色等の波長特性の組み合せによって情報を表示する情報コード及びその読み取り装置に関する。(【0001】)
上記JANコードは数字を13桁しか表現できず,多品種小量化の進んだ現在,商品に割り当てられた5桁では,商品の登録可能数が不足し,新たに商品を登録するために,既に扱わなくなった商品の登録を抹消しなければならない事態が生じている。(【0004】)
このような情報表示量の不足は,バーコードを採用する分野が広がるに伴って,顕著になって来ている。例えば電話の通話明細書では,バーの本数を増加したロングバーコードと標準型のバーコードを並べて印刷することにより,情報表示量の不足をカバーしようとしている。しかし,このように複数のバーコードを並べて表記する方法は,文字等を印刷する表示面を大きく圧迫して美観を損なう,ハンディスキャナで読み取ろうとすると長くなったバーコードを読み落し易い,大きな表示スペースが確保できる場合にしか採用できないといった問題があり,根本的な解決策にはなっていない。(【0005】)
また,バーコードの新たな利用方法として,製造年月日,製造者名,パック年月日,賞味期限等を同時に表示し,商品の購入者が支払いを行うとき,この情報を読み取り記録し,販売管理,商品管理等に利用することが考えられているが,モノクロ(黒と白,赤と白のように,地色に対して一色の色を使用することを意味する。)のバーコードで,このような多くの情報を表示しようとすると,表示パターンが複雑化すると共にバーコードラベルが大型化し,実用的でなくなるという問題があった。(【0006】)
しかし,この場合においても,モノクロの情報コードの情報表示量の限界のため実用的なシステムを作ることは困難であった。(【0008】)
そこで,本発明は,表示パターンを変えなくても表示できる情報量を大幅に増大して,上記問題を解決できる情報コードを提供することを目的とする。(【0009】)」

原判決57頁19行目末尾に,改行の上,以下のとおり付加する。
「さらに,本発明では,表示領域の配列数の多い二次元コードを多色化させているので,特に大幅な表示情報量の増大を図ることができる。(【0013】)」ウ
原判決57頁25行目末尾に,改行の上,以下のとおり付加する。
「この場合は,本発明の多色化による表示情報量の増大が,表示領域の配列数の多い二次元コードにおいて行われることになるので,表示情報量を,特に多くすることができる。(【0049】)
本発明は,情報コードを構成する表示領域の種類として3種以上の反射又は放射の波長特性を含ませるようにしたから,二次元コード又はステルスコードで表示できる情報量を飛躍的に増大することができる。したがって,従来の情報コードで表示量が不足していた問題を解決するとともに,本発明による大量の情報表示機能を生かして二次元コード又はステルスコードを新たな用途に用いることができる。(【0055】)」


本件発明の特徴


技術分野

本件発明は,色等の波長特性の組み合せによって情報を表示する情報コードに関する(【0001】)。

従来技術と本件発明の課題

JANコードのようなバーコードにおける情報表示量の不足は,バーコードを採用する分野が広がるに伴って,顕著になって来ている。しかし,複数のバーコードを並べて表記する方法は,文字等を印刷する表示面を大きく圧迫して美観を損なう,ハンディスキャナで読み取ろうとすると長くなったバーコードを読み落し易い,大きな表示スペースが確保できる場合にしか採用できないといった問題があり,根本的な解決策にはなっていない(【0004】,【0005】)。
また,モノクロのバーコードで多くの情報を表示しようとすると,表示パターンが複雑化すると共にバーコードラベルが大型化し,実用的でなくなるという問題があった(【0006】)。
そこで,本件発明は,表示パターンを変えなくても表示できる情報量を大幅に増大して,上記問題を解決できる情報コードを提供することを目的とする(【0009】)。

課題を解決するための手段

前記課題を解決するために,本件発明の二次元コードは,反射又は放射の波長特性が異なる3種以上の表示領域を二次元的な配列で並べて形成され,この配列における表示領域の波長特性の組み合せを情報表示の要素としたことを特徴とする(【0010】)。
この情報コードで表示できる情報量は,表示領域の種類の数を,並べられた表示領域数でべき乗した値となるので,モノクロで表示された情報コードに比べて,非常に多くの情報を表すことが出来るようになる(【0012】)。さらに,本件発明では,表示領域の配列数の多い二次元コードを多色化させているので,特に大幅な表示情報量の増大を図ることができる(【0013】,【0049】)。
したがって,従来の情報コードで表示量が不足していた問題を解決するとともに,本件発明による大量の情報表示機能を生かして二次元コードを新たな用途に用いることができる(【0055】)。
ここで,反射又は放射の波長特性が異なるとは,所定の配列で並べられて情報コードを形成する表示領域の色が異なることをいう。また反射又は放射の波長特性が異なる3種以上の表示領域とは,上記波長特性の異なる表示領域が3種類以上あることを意味する(【0011】)。
二次元コードは二次元に配列した表示領域(黒又は白で塗り分けられる最少表示単位)の組み合せにより情報を表示するもので,PDF417,カルラコード等が知られている。この二次元コードにおいて,各表示領域を,反射又は放射の波長特性が異なる3種以上の表示領域によって形成し,この二次元配列における表示領域の波長特性の組合せを情報表示の要素とする(【0048】)。
2
争点4(乙1発明に基づく新規性欠如)について



乙1公報の記載

乙1公報(平成5年9月10日公開)の記載については,原判決19頁1行目の末尾に改行の上,以下のとおり追加するほかは,原判決16頁9行目~20頁図4部分に記載のとおりであるから,これを引用する。
「【0030】制御部16は,フォトディテクタ14による電気信号SEを入力すると,その入力レベルSELとあらかじめ設定したしきい値THとの比較を行い,比較結果に応じた制御信号CTLを光源制御部13に出力するとともに,現在の読取対象位置にはいずれのデータが記録されているか否か,具体的には,読取対象の単位領域a~dに第1のマークMK1が記録されているか第2のマークMK2が記録されているか第3のマークMK3が記録されているか,あるいはいずれのマーク共記録されていないかを判別して,判別結果をメモリ17に記憶し,光学式カード1全体に対する読み取り動作が終了した時点で,記憶データの判別を行う。【0031】次に,上記構成による動作を図3のフローチャートに基づいて説明する。読取装置内に取り込まれた光学式カード1は,その情報記録面が図3に示す読取部に密着され,図示しないモータで所定方向に間欠送りされる。ここで,送られた光学式カード1の情報記録領域2は,カード送り方向と直交する方向に走査される。
【0033】制御部16では,まず電気信号SEの入力レベルSELがあらかじめ設定したしきい値TH以上であるか否かの判別が行われる(S3)。制御部16は,このステップS3において,電気信号SEの入力レベルSELがしきい値THより低いと判別した場合は,読み取った単位領域には波長6500Å近傍の光に対する吸収率の高いマーク,すなわち緑色の第2のマークMK2あるいは黄色の第3のマークMK3が記録(印刷)されているものと判定し,第1の光源11の点灯からの第2の光源12の点灯に切り替えるように制御信号CTLを光源制御部13に出力する。
【0035】制御部16では,上記したステップS3の場合と同様に,電気信号SEの入力レベルSELがあらかじめ設定したしきい値TH以上であるか否かの判別が行われる(S5)。制御部16は,このステップS5において,電気信号SEの入力レベルSELがしきい値THより低いと判別した場合は,読み取った単位領域には波長6500Å近傍の光および波長5200Å近傍の光に対する吸収率(判決注:「反射率」の誤りと認める。)の高いマーク,すなわち黄色の第3のマークMK3が記録(印刷)されているものと判定して(S6),その位置情報を加えてメモリ17に記憶する(S7)とともに,第2の光源12の点灯を停止するように制御信号CTLを光源制御部13に出力する。
【0036】一方,ステップS5において,電気信号SEの入力レベルSELがしきい値TH以上であると判別した場合は,読み取った単位領域には波長5200Å近傍の光に対する反射率の高いマーク,すなわち緑色の第2のマークMK2が記録(印刷)されているものと判定して(S8),その位置情報を加えてメモリ17に記憶する(S7)とともに,第2の光源12の点灯を停止するように制御信号CTLを光源制御部13に出力する。
【0037】一方,ステップS3において,電気信号SEの入力レベルSELがしきい値TH以上であると判別した場合は,読み取った単位領域には波長6500Å近傍の光に対する反射率の高いマーク,すなわち赤色の第1のマークMK1が記録(印刷)されているか,あるいは,第1,第2および第3のマークMK1,MK2,MK3のいずれのマークも記録されていないものと判定し,第1の光源11の点灯から第2の光源12の点灯に切り替えるように制御信号CTLを光源制御部13に出力する。
【0039】制御部16では,上記したステップS3およびS5の場合と同様に,電気信号SEの入力レベルSELがあらかじめ設定したしきい値TH以上であるか否かの判別が行われる(S10)。制御部16は,このステップS10において,電気信号SEの入力レベルSELがしきい値THより低いと判別した場合は,読み取った単位領域には波長5200Å近傍の光に対する吸収率の高いマーク,すなわち赤色の第1のマークMK1が記録(印刷)されているものと判定して(S11),その位置情報を加えてメモリ17に記憶する(S7)とともに,第2の光源12の点灯を停止するように制御信号CTLを光源制御部13に出力する。【0040】一方,ステップS10において,電気信号SEの入力レベルSELがしきい値TH以上であると判別した場合は,第1,第2および第3のマークMK1,MK2,MK3のいずれのマークも記録されていないものと判定して(S12),その位置情報も加えてメモリ17に記憶する(S7)とともに,第2の光源12の点灯を停止するように制御信号CTLを光源制御部13に出力する。【0041】以上の動作が,カードの間欠送り毎に繰り返し行われ,情報記録領域2の全範囲に亘る読み取りが終了した後に,読取情報の判別が行われる。【0043】なお,本実施例では,光学式カード1に記録(印刷)するマークの色として赤と緑と黄の場合を例にとり説明した,これに限定されるものでないことはいうまでもない。2色あるいは他の色,たとえば光の3原色の一つである「青色」を用いる場合には,読取装置における光源の波長もそれに応じて変えることが望ましい。また,記録するマークの色は2色または3色に限定されるものでないことは勿論である。多色にすればする程,単位情報記録領域の記録密度を高くすることができる。この場合に,精度よく情報を読み取るためのは,色の数に対応した数の光源を用いることが望ましく,また,それらの波長もそれぞれマークの色に応じた波長に設定することが望ましい。また,無彩色である「白色」,「黒色」と光の3原色である「赤色」,「緑色」,「青色」を組み合わせるなど,種々の態様が可能である。さらに,本実施例では,色の数に応じたそれぞれ波長の異なる複数の光源を用いる構成を例に説明したが,たとえば白色光を出射する一の光源を用い,その光のマークによる反射光を可変の波長フィルタを介して選択的に受光するように構成しても,上記と同様の効果を得ることができる。」


乙1発明の認定


技術分野及び発明が解決しようとする課題

乙1発明は,カルラコードなどマーク状に情報が記録された光学式カードに関するものである(【0001】)。
従来のカルラコードは,各単位情報記録領域2-1~2-nの一の単位領域に対しては,黒色の一種類のマークMKしか記録せず,読取装置もこれに応じて一種類の光によりマークMKがあるか否かを検出するように構成しているため,記録密度に制約があり,多くの情報を記録する場合などは,情報記録領域2を拡大しなければならない。これでは,携帯用のカードのように大きさに制約があるものに対してカルラコードで情報を記録する場合,記録情報にも制約を受け,光学式カードの汎用性にも問題を生じてしまう(【0007】)。
乙1発明は,かかる事情に鑑みてなされたものであり,その目的は,限られた広さの中で実質的に記録密度を高めた光学式カードを提供することにある(【0009】)。

(ア)

構成
乙1公報に記載された光学式カード1には,情報記録領域2が存在し,情
報記録領域2は一方向に等間隔で複数(n箇所)の単位情報記録領域2-1~2-nに区分けされ,各単位情報記録領域はそれぞれ2×2のマトリクス状に四つの単位領域a~dに区分けされる(【0020】,図1)。
(イ)

各単位領域は,第1のマークMK1,第2のマークMK2及び第3のマー
クMK3のいずれかが記録されているか,又はいずれのマークも記録されていないかのいずれかである(【0030】,図1)。
また,第1のマークMK1,第2のマークMK2及び第3のマークMK3は,それぞれ赤色,緑色及び黄色の塗料インクで印刷されたものである(【0021】~【0023】)。もっとも,「従来例を示す図2と同一構成部分は同一符号をもって表す。」(【0020】。ただし,「図2」は「図4」の誤りである。)とされているところ,従来例の光学式カード1については,「携帯用光学式カード1などの表面の所定領域を白地あるいはこれに近い色に形成した情報記録領域2を…複数の単位情報記録領域…に区分けするとともに,これら単位情報記録領域…をそれぞれ2×2の四つの単位領域a,b,c,dに区分けし,単位領域a,b,c,dのうちの任意の領域に光の反射率の低い黒色のマークMK(マーク有り)を付けあるいは黒色マークMKを付けない白色部(マーク無し)を設ける,これらの組合せでデータの記録または識別を行う」(【0002】)と記載されている。そうすると,乙1発明の実施例である図1の光学式カード1の単位領域のうち,いずれのマークも記録されていない単位領域は,「白地あるいはこれに近い色」(以下「白色」という。)であると認められる。
そうすると,乙1発明の各単位領域は,赤色,緑色,黄色及び白色の4色のいずれかであると理解される。
なお,このように理解することは,「それぞれの単位領域が少なくとも三色のうちの一色に着色されている。」(【0011】),「本実施例の光学式カード1は,従来のカードのようにマークMKとして黒色の一色ではなく,赤色と緑色と黄色の三色を用いて,いわゆる多色刷りのパターンを有するカードとして構成している。この構成により,一の単位領域に対して2値の情報ではなく,3値の情報を与えることができ」る(【0024】)といった記載と一見矛盾するかのごとくであるが,前記【0030】の記載のほか,「隣接する四つの単位領域から構成される一単位情報記録領域に対して44=256種類の情報の記録が可能となっている。」との記載(【0024】。すなわち,ここでは一の単位領域に対して4値の情報を与えることができることが示されている。)に鑑みると,乙1発明の光学式カード1の単位領域の取り得る色は,赤色,緑色,黄色及び白色の4色であり,この4色によって4値の情報を与えていると理解するのが技術的観点から自然である。また,乙1公報【0023】は,黄色について反射率と吸収率とを誤って記載しているところ,【0033】~【0040】の読取動作の記載は,この誤った記載に整合的な内容となっている。もっとも,同公報には「マークの色として赤と緑と黄の場合を例にとり説明した,これに限定されるものでないことはいうまでもない。2色あるいは他の色,たとえば光の3原色の一つである『青色』を用いる場合には,読取装置における光源の波長もそれに応じて変えることが望ましい。」(【0043】)との記載があることから,黄色に変えて青色を用いることも示されている。青色は赤色光(6500Å)及び緑色光(5200Å)の反射率が低いことから,赤色,緑色,青色及び白色の4色を用いた場合,その読取動作は,【0033】~【0040】の記載と整合的なものとなる。
そうすると,乙1発明の光学式カード1の単位領域が取り得る色は,反射の波長特性が異なる4色であると理解することは,乙1公報の記載全体と整合的である。(ウ)

これに加え,「単位情報記録領域が多色化されているので,記録される情
報の種類が多くなり,実質的に一単位記録領域当たりの記録密度が向上する。」(【0016】)との記載があることに鑑みれば,乙1公報に記載された技術は,光学式カード1それ自体の改良ではなく,光学式カード1に記録された情報記録領域2を多色化するという改良によって,前記課題を解決したものであると理解するのが相当である。
(エ)

以上より,乙1公報には,以下の乙1発明が記載されていると認められる。
携帯用光学式カード1などの表面の所定領域を白色に形成した情報記録領域2を,一方向に等間隔で複数の単位情報記録領域2-1~2-nに区分けし,単位情報記録領域2-1~2-nそれぞれを,マトリクス状に2×2の四つの単位領域a~dに区分けし,各単位情報記録領域は,隣接する四つの単位領域a~dごとに「マーク無し」,「マーク有り」の二つの状態を記録するカルラコードにおいて,隣接する四つの単位領域a~dに対して,「マーク有り」の状態の単位領域には,赤色の第1のマークMK1,緑色の第2のマークMK2及び黄色の第3のマークMK3のいずれかを印刷し,上記三色のマークに加え白色の四色で4値の情報を一の単位領域に対して与えることで,2×2のマトリクスを形成する隣接する四つの単位領域からなる一の単位情報記録領域2-1では4値の組合せで44=256種類の情報の記録が可能なコード。


本件発明と乙1発明との対比


「反射又は放射の波長特性が異なる3種以上の表示領域を二次元的な配列で
並べて形成され」(構成要件A)について
(ア)

乙1発明の「単位領域」は,「単位領域a~dごとに『マーク無し』,
『マーク有り』の二つの状態を記録するものである。ここで,乙1発明の「マーク」は,「赤色の第1のマークMK1,緑色の第2のマークMK2及び黄色の第3のマークMK3のいずれかを印刷し」たものであるから,「マーク有り」の状態の単位領域は,「赤色,緑色,黄色の三色」のうちいずれかの色を表示するものである。また,乙1発明の「単位領域」は「白地に形成した情報記録領域2」を区分けしたものであるから,「マーク無し」の状態の単位領域は「白色」を表示するものである。
したがって,乙1発明の「単位領域」は,第1のマークMK1,第2のマークMK2及び第3のマークMK3のいずれか又はマークなしを表示する「表示領域」に相当する。
(イ)

また,乙1公報の「単位領域」に赤色(第1のマークMK1),緑色(第
2のマークMK2),黄色(第3のマークMK3)及びマーク無し(白色)のいずれが表示されているかを判別する手法として,乙1公報には,第1の光源及び第2の光源のそれぞれから波長の異なる放射光を単位領域に照射し,単位領域により反射された光のレベルによって,上記放射光に対する吸収率ないし反射率の高いマークが記録されているものと判定して単位領域の色を判別する手法(【0030】~【0033】,【0035】~【0038】,【0040】,【0041】,【0043】)が記載されている。この記載に鑑みれば,乙1発明は,色ごとに反射の波長特性が異なることを利用した技術であることが理解できる。そうすると,乙1発明の「単位領域」は,反射の波長特性が異なる4種の色のいずれかを表示する領域といえることから,本件発明の「反射又は放射の波長特性が異なる3種以上の表示領域」に相当する。
(ウ)

さらに,乙1発明の「単位領域」は,一つの単位情報記録領域を「マトリ
クス状に2×2の四つの単位領域a~dに区分け」したものであるから,乙1発明の単位情報記録領域は,四つの「単位領域」をマトリクス状に2×2に配列したものといえる。同様に,乙1発明の単位情報記録領域は,「情報記録領域」を一方向に等間隔で複数(n個)に区分けしたものであるから,乙1発明の「情報記録領域」は,単位情報記録領域を一方向に等間隔で複数(n個)配列したものといえる。そうすると,乙1発明の「情報記録領域」は,「単位領域」をマトリクス状に2×2に配列した単位情報記録領域を一方向に等間隔で複数(n個)配列したもの,すなわち,「単位領域」をマトリクス状に2×2nに配列したものといえるところ,表示領域に相当する「単位領域」をマトリクス状に2×2nに配列することは,「単位領域」を縦方向に2行,横方向に2n列に並べること,すなわち,縦方向及び横方向からなる二次元的な配列で並べることにほかならない。
(エ)

したがって,乙1発明と本件発明とは,「反射(又は放射)の波長特性が
異なる3種以上の表示領域を二次元的な配列で並べて形成され」ている点で共通する。

「この配列における表示領域の波長特性の組み合せを情報表示の要素とした」
(構成要件B)について
(ア)

乙1発明の「単位情報記録領域」のそれぞれは,「44=256種類の
情報の記録が可能」であるから,256種類の情報のうち1種類を表示する「情報表示の要素」といえる。
(イ)

また,乙1発明では「2×2のマトリクスを形成する隣接する四つの単位
領域からなる一の単位情報記録領域では4値の組み合わせで44=256種類の情報の記録が可能」となるところ,当該「4値」は,「単位領域」に記録された「第1のマークMK1」,「第2のマークMK2」及び「第3のマークMK3」並びに「マーク無し」の状態に対応するそれぞれ異なった反射の波長特性を持つ4色によって単位領域に与えられたものである。そうすると,乙1発明の「4値の組み合わせ」は,本件発明の「表示領域の波長特性の組み合せ」に相当する。(ウ)

したがって,乙1発明の反射の波長特性が異なる「三色のマークに加え白
色の四色で4値の情報を一の単位領域に対して与えることで,2×2のマトリクスを形成する隣接する四つの単位領域からなる一の単位情報記録領域2-1では4値の組合せで44=256種類の情報の記録が可能」であることは,本件発明の「この配列における表示領域の波長特性の組み合せを情報表示の要素とした」ことに相当する。

「ことを特徴とする二次元コード」(構成要件C)について

上記アによれば,乙1発明の「コード」は,「反射(又は放射)の波長特性が異なる3種以上の表示領域を二次元的な配列で並べて形成され」たものであって,四つの単位領域からなる単位情報記録領域に対して「44=256種類の情報の記録が可能」であるから,情報を4色の単位領域の二次元的な配列によって記録したものである。
「コード」には「情報を表現する記号・符号の体系。また,情報伝達の効率・信頼性・守秘性を向上させるために変換された情報の表現,また変換の規則。」といった意味があるところ,本件明細書及び乙1公報は,いずれも「コード」につき上記の意味において使用しているものと理解される。
そうすると,乙1発明の「コード」は,4色のうち1色を取る単位領域を二次元的に配列したコードであるといえ,本件発明の「二次元コード」に相当する。このことは,乙1公報に「本発明は,カルラコードなどマーク状に情報が記録された光学式カードおよびその読取装置に関するものである。」(【0001】)との記載や,カルラコードが二次元バーコードの一種であること(本件明細書【0048】,甲25)とも整合する。

小括

以上を総合すると,本件発明と乙1発明とは,「反射又は放射の波長特性が異なる3種以上の表示領域を二次元的な配列で並べて形成され,この配列における表示領域の波長特性の組み合せを情報表示の要素としたことを特徴とする二次元コード。」である点で一致し,相違するところがない。


控訴人の主張について


控訴人は,本件発明は,一次元コードでは多くの情報を表示するためにはバ
ーコードラベルが大型化し実用的でなくなるという課題を解決するためのものであり,二次元コードにおける「二次元」とは,単に表示領域が二次元方向に幾何学的に配列されているのみではなく,この組合せにより二方向に情報表示の要素を有することを意味するなどと主張する。
しかし,そもそも,本件発明の構成要件において二次元的に配列されるとするのは「表示領域」であって,「情報表示の要素」を二次元的に配列にすることは規定されていない。そして,乙1発明においては,本件発明の「表示領域」に相当する「単位領域」が「2×2nに配列」されていることは,上記のとおりである。また,本件明細書は,「バーの本数を増加したロングバーコードと標準型のバーコードを並べて印刷することにより,情報表示量の不足をカバーしようと」する方法は「根本的な解決策にはなっていない。」(【0005】),「モノクロ…のバーコードで,このような多くの情報を表示しようとすると,表示パターンが複雑化すると共にバーコードラベルが大型化し,実用的でなくなる」(【0006】),及び「モノクロの情報コードの情報表示量の限界のため実用的なシステムを作ることは困難」(【0008】)との問題点を指摘した上で,「本発明は,表示パターンを変えなくても表示できる情報量を大幅に増大して,上記問題を解決できる情報コードを提供することを目的とする。」(【0009】)として,本件発明の課題を提示している。これらによれば,本件発明はモノクロのバーコードで多くの情報を表示するためにはバーコードラベルが大型化し実用的でなくなるという課題を解決するためのものであって,必ずしも一次元コードにおける課題を解決するためのものではないと認められる。そうすると,控訴人の主張は,本件発明の課題についての誤った認定に基づいたものというべきである。
その点をおくとしても,情報表示の要素を一次元に並べた場合(乙1発明)と二次元的に並べた場合(控訴人主張に係る本件発明)とで,必要な情報表示の要素数及び表示領域の数に変化はない。そうである以上,情報表示の要素を二次元的に並べた二次元コードにより控訴人主張に係る本件発明の課題が解決されるとは必ずしも認められない。控訴人の主張は,本件発明の課題解決手段についての誤った前提に基づいたものである。
さらに,控訴人は,乙1発明におけるコードの読取方法から,乙1発明のコードの情報表示の要素は水平方向のみにしかないと指摘する。しかし,前記のとおり,本件発明が二次元的に配列していると規定するのは「情報表示の要素」ではなく「表示領域」である。また,乙1発明の読取装置が,光学式カードを長手方向に間欠送りするという動作と,カード送り方向と直交する方向に走査するという動作とを共に必要とするということは,当該カードに記録されたコードは,二つの方向で,すなわち二次元的に読み取る必要があることを示すものであり,当該コードの表示領域は二次元的な配列で並べられているものと理解するほかない。イ
控訴人は,本件発明の「コード」とは,独立コード,すなわち,コード化の
対象となる情報を表すシンボル(有意情報)と,バーコードに記載されているデータを読み取るために必要な取り決め(構造情報)の二つの要素を含むものを意味するなどと主張する。
しかし,本件発明の特許請求の範囲及び本件明細書のいずれの記載にも,「二次元コード」ないし「コード」を限定する趣旨の規定はない。また,本件明細書【0048】においては,本件発明の「二次元コード」の例示としてカルラコードが挙げられていることからすると,かえって,本件発明にいう「二次元コード」又は「コード」は,それが構造情報を有するものか否かは問わないものであると解するのが相当である。
さらに,本件発明が「構造情報」を有しないコードであるカルラコードが普及しなかったことを受けて開発されたものであることは,本件明細書に記載されておらず,立証もされていない。有意情報と構造情報とを共に備えない限りコードが発明として成立しないことも,何ら立証されていない。
その他控訴人がるる指摘する点を考慮しても,この点に関する控訴人の主張は採用し得ない。

控訴人は,乙1発明では波長特性の組合せが情報表示の要素とされていない
などと主張する。
しかし,前記認定のとおり,乙1発明は,反射の波長特性が異なる「三色のマークに加え白色の四色で4値の情報を一の単位領域に対して与えることで,2×2のマトリクスを形成する隣接する四つの単位領域からなる一の単位情報記録領域2-1では4値の組合せで44=256種類の情報の記録が可能」なものであり,「この配列における表示領域の波長特性の組み合せを情報表示の要素とした」ものであるから,この点に関する控訴人の主張は採用し得ない。

控訴人は,本件発明と乙1発明とは技術方式における相違があるなどと主張
する。
しかし,その指摘に係る情報波長特性の組合せ組成方式,情報領域に記録される情報記録方式,情報領域に記録された情報の読み取り方式のいずれについても,本件発明に係る特許請求の範囲に記載されたものではなく,また,本件明細書にも,本件発明につきそのような限定がされていることをうかがわせる記載が見当たらないことなどから,この点に関する控訴人の主張は採用し得ない。


小括

以上のとおり,本件発明は乙1発明である。
したがって,本件発明は,特許法29条1項3号の規定により特許を受けることができないものであり,本件特許は同法123条1項2号に該当し,特許無効審判により無効にされるべきものと認められる。他方,控訴人は,訂正の再抗弁を主張しない。よって,同法104条の3第1項により,控訴人は被控訴人らに対して本件特許権を行使することができない。
3
結論

したがって,控訴人の請求は理由がないから,これを棄却した原判決は相当である。よって,本件控訴を棄却することとし,主文のとおり判決する。知的財産高等裁判所第1部

裁判長裁判官

高部眞
裁判官

杉浦正規子樹
裁判官

片瀬亮
(別紙)
当事者目録

控訴人
同訴訟代理人弁護士

X平野惠稔古庄俊哉手被控訴人
同訴訟代理人弁護士

代木啓
株式会社エヌ・ティ・ティ・データ

根本高梨義
同補佐人弁理士

伊藤健被控訴人
株式会社東京スター銀行

被控訴人
株式会社百五銀行

被控訴人
株式会社秋田銀行

被控訴人
株式会社大分銀行

浩幸太郎被控訴人
株式会社東日本銀行

被控訴人
株式会社筑邦銀行

被控訴人京被控訴人長都野信県用信用金組庫合
被控訴人エヌ・ティ・ティ・データを除く被控訴人ら訴訟代
理人弁護士
片山英服部誠中村閑大西ひ二とみ
被控訴人株式会社エヌ・ティ・ティ・データ補助参加人
ワンスパン

インターナショナル

ゲゼルシャフト
レンクテル

同訴訟代理人弁護士
萩尾
ミット

ベシュ

ハフツング

保繁山神恒関口尚久伊藤隆大佐藤信吾南山知広井健石
同補佐人弁理士

口司上浩二太郎
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