判例検索β > 平成30年(行ケ)第10070号
審決取消請求事件 商標権 行政訴訟
事件番号平成30(行ケ)10070
事件名審決取消請求事件
裁判年月日平成30年10月29日
法廷名知的財産高等裁判所
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平成30年10月29日判決言渡
平成30年(行ケ)第10070号

審決取消請求事件

口頭弁論終結日平成30年9月12日
判決原告
栄研化学株式会社

訴訟代理人弁護士

永島孝明同安國忠彦同朝吹英太同野中信宏
訴訟代理人弁理士

若山俊輔被
アークレイ株式会社


訴訟代理人弁理士

木原美武同冨井美希同齋藤同大野主恵義也文1
原告の請求を棄却する。

2
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
特許庁が無効2017-890063号事件について平成30年4月11日にした審決を取り消す。
第2事案の概要
1
特許庁における手続の経緯等

(1)被告は,
以下の商標
(登録第5712789号。「本件商標」
以下
という。

の商標権者である(甲1)。
商標
E-Plate(標準文字)

登録出願日

平成25年11月15日

登録査定日

平成26年9月11日

設定登録日

平成26年10月24日

指定商品第5類「薬剤,動物用薬剤,血液検査に使用するための試験片」第10類
「医療用機械器具「歩行補助器・松葉づえ」

を除く。,

獣医科用機械器具」
(2)原告は,平成29年9月8日,本件商標について商標登録無効審判を請求した。
特許庁は,上記請求を無効2017-890063号事件として審理を行い,平成30年4月11日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決(以下「本件審決」という。)をし,その謄本は,同月19日,原告に送達された。
(3)原告は,平成30年5月18日,本件審決の取消しを求める本件訴訟を提起した。
2
本件審決の理由の要旨
本件審決の理由は,別紙審決書(写し)のとおりである。
その要旨は,本件商標は,以下のとおり,商標法4条1項10号及び15号
のいずれにも該当しないから,本件商標の登録はこれらの規定に違反してされたものとはいえず,同法46条1項の規定により無効にすべきではないというものである。


商標法4条1項10号該当性について
請求人(原告)が実際に会社案内,パンフレット,雑誌等に使用している酵素結合免疫吸着法(ELISA)による免疫血清検査用の試薬キット(以下「使用商品」という場合がある。)を示す標章の具体的な態様は,「Eプレート‘栄研’PSA」等において使用されている標章を含め,別紙のとおりの「Eプレート‘栄研’」の文字によって構成されている(以下,これらの標章を総称するときは「使用標章」という。)。
使用標章は,本件商標の登録出願時及び登録査定時において,原告の業務に係る使用商品を表示するものとして,需要者である医師,臨床検査技師及び薬剤師らの専門家又は専門業者(以下「医師等専門家」という。)の一定分野の関係者の間に広く認識されていたものと認めることはできず,使用標章の構成の一部からなる引用商標(「Eプレート」を横書きしてなる標章。以下同じ。)についても同様に,需要者の間に広く認識されていたものと認めることができないから,
本件商標は,
商標法4条1項10号に該当しない。


商標法4条1項15号該当性について
引用商標は,原告の業務に係る使用商品を表示するものとして,本件商標の登録出願時及び登録査定時において,需要者の間に広く認識されていたものと認められず,また,引用商標は,「E」のアルファベット1字と一般に親しまれ,使用されている「プレート」の片仮名とを単に結合したものであって,さほど特徴あるものとして看取,把握されるものではないし,その全体から生じる「「E」というプレート」程の観念も,印象の強いものとして記憶されるとはいい難い。
そうすると,本件商標をその指定商品について使用した場合に,これに接する需要者が,引用商標ないしは原告を連想,想起することはなく,その商品が原告又は原告と経済的若しくは組織的に何らかの関係を有する者の業務に係る商品であるかのように,商品の出所について混同を生じさせるおそれはないから,本件商標は,商標法4条1項15号に該当しない。
第3当事者の主張
1
取消事由1(商標法4条1項10号該当性の判断の誤り)



原告の主張

引用商標の使用
(ア)

原告は,平成9年3月から,酵素結合免疫吸着法(ELISA)に
よる免疫血清検査用の試薬キットを下記のとおりの商品名で「Eプレート‘栄研’」シリーズとして販売している。各商品の包装(甲6)には,商品名の記載がある。
なお,販売開始日は,①の商品が平成9年3月12日,②及び③の商品が同年11月17日,④ないし⑥の商品が平成11年6月1日,⑦及び⑧の商品が平成12年6月1日,⑨の商品が平成23年4月13日である。


「Eプレート‘栄研’PSA」



「Eプレート‘栄研’ペプシノゲンI」



「Eプレート‘栄研’ペプシノゲンⅡ」



「Eプレート‘栄研’DiscPSA」



「Eプレート‘栄研’DiscペプシノゲンⅠ」



「Eプレート‘栄研’DiscペプシノゲンⅡ」



「Eプレート‘栄研’H.ピロリ抗体」



「Eプレート‘栄研’DiscH.ピロリ抗体」



「Eプレート‘栄研’H.ピロリ抗体Ⅱ」

(イ)

「Eプレート‘栄研’」シリーズの商品は,患者の血液中における
検査目的物質の濃度を検査するための臨床検査用試薬キットであり,需
要者は,医師等専門家の一定分野の関係者である。
(ウ)a

「Eプレート‘栄研’」の構成中の「‘栄研’」の部分について

は,「‘

’」(引用符)によって明確に「Eプレート」の部分と分
離され,外観上「Eプレート」の部分と「‘栄研’」の部分とが明確に区別される態様で示されている。
b
原告の販売する商品には,「Eプレート‘栄研’」シリーズ以外にも,「KBディスク‘栄研’」,「ドライプレート‘栄研’」など,その構成に「‘栄研’」の文字を含む商品シリーズが多数存在すること,臨床検査試薬業界最大手の原告のロゴマークは,「栄研」の英語表記である「Eiken」であり,それが周知であることからすると,需要者,取引者の間では,「栄研」は,原告の略称を示すものとして認識されている。

c「Eプレート」は,アルファベットの「E」と片仮名の「プレート」を組み合わせた造語であること,「Eプレート」,「イープレート」,「E

Plate」及び「E-plate」は,それ自体独立した単

語として存在しないこと,「Eプレート‘栄研’」を「Eプレート」と略称する学術論文等が多数存在すること
(甲35,
38ないし40,
43,55,56,101,102,104)からすると,「Eプレート」の語は強い識別力を有しているといえる。
d
前記aないしcによれば,「Eプレート‘栄研’」シリーズの商品の各商品名に接した需要者は,
「Eプレート‘栄研’」の構成中の「‘
栄研’」の部分については,原告の企業名(「栄研化学株式会社」)を示すハウスマークとして認識し,
「Eプレート」
の部分については,
原告が製造販売する免疫血清検査用試薬キットに共通に用いられるファミリーマークとして認識する。
したがって,「Eプレート」の文字からなる引用商標は,それ自体が独立した商品識別機能を果たしており,独立の商標として認識されるものといえる。

(エ)

以上によれば,原告による包装に商品名を記載した「Eプレート‘栄研’」シリーズの商品の販売は,「商品の包装に標章を付したものを譲渡」する行為といえるから,引用商標の使用に該当するというべきである。

引用商標の周知性
(ア)「Eプレート‘栄研’」シリーズの商品の販売実績及び販売シェア「Eプレート‘栄研’」シリーズの商品の各年度の販売高は,平成24年度までは3億円前後であったが,平成25年度に5億円を突破し,平成27年度には7億円を上回っている。
また,「Eプレート‘栄研’」シリーズの商品のうち,ヘリコバクター・ピロリ抗体検査用試薬キット(前記ア(ア)⑦ないし⑨の商品)の各年度の販売高は,平成24年度までは2億円ないし3億円程度,平成25年度以後は4億円ないし5億円であり,
同試薬キットの市場において,
平成22年度から平成25年度にかけて80%前後という高い販売シェアを記録し,その後の販売シェアも60%を下回ることなく推移している。このヘリコバクター・ピロリ抗体検査は,主に任意型検診として,人間ドックのオプション検査項目や,任意の胃がんドックの検査項目として実施されているが,ヘリコバクター・ピロリ菌への感染と胃がん発生リスクの関係については,マスメディア,健康情報誌等を通じて広く知られており,ヘリコバクター・ピロリ抗体検査は,使用商品の需要者である医師等専門家の一定分野の関係者にとって周知の主要かつ基本的な検査項目である。
(イ)「Eプレート‘栄研’」シリーズの商品の宣伝広告
原告は,「Eプレート‘栄研’」シリーズの商品の販売を開始して以降,原告の会社案内資料,原告の商品パンフレット,原告が顧客向けに発行する雑誌「モダンメディア」,日本臨床検査医学会の機関誌「臨床病理」同学会の会員名簿,日本マス・スクリーニング学会の機関誌「日,
本マス・スクリーニング学会誌」,雑誌「臨床検査機器・試薬」,「ピロリ菌感染を考慮した胃がん検診研究会」(平成25年開催)のプログラム・抄録集などに,「Eプレート‘栄研’」シリーズの商品の宣伝広告を掲載している。
(ウ)学術論文における「Eプレート‘栄研’」シリーズの商品への言及「Eプレート‘栄研’」シリーズの商品は,医師,医療関係者等に広く知られている多数の媒体に掲載された学術論文(甲35ないし56,101ないし108)において,原告の製造販売に係る臨床検査用試薬キットとして頻繁に言及されている。
(エ)まとめ
以上のとおり,原告は,平成9年3月に「Eプレート‘栄研’PSA」の販売を開始し,その後20年以上にわたり,酵素結合免疫吸着法(ELISA)による臨床検査用試薬キットを「Eプレート‘栄研’」シリーズとして継続して販売してきたこと,「Eプレート‘栄研’」シリーズの商品の販売実績及び販売シェア,宣伝広告実績,更には,「Eプレート‘栄研’」シリーズの商品が,医師,医療関係者等に広く知られている多数の媒体に掲載された学術論文において,原告の製造販売に係る臨床検査用試薬キットとして頻繁に言及されてきたことを総合すれば,引用商標は,本件商標の登録出願時及び登録査定時において,原告の業務に係る使用商品を表示するものとして,需要者である医師等専門家の一定分野の関係者の間に広く認識されていたものといえる。

商標及び商品の類似
本件商標と引用商標は,共通の称呼を生じ,同一の観念を有するものであって,
外観の差異は強く印象に残るものではないことから,
本件商標は,
引用商標に類似する。
また,引用商標の使用商品は,本件商標の指定商品である「薬剤」及び「医療用機械器具」に該当するものであり,本件商標の指定商品と引用商標の使用商品は,類似する。

小括
以上によれば,本件商標は,原告の業務に係る使用商品を表示するものとして需要者の間に広く認識されている引用商標に類似する商標であって,使用商品に類似する商品について使用をするものであるから,商標法4条1項10号に該当する。
したがって,本件商標は同号に該当しないとした本件審決の判断は誤りである。



被告の主張

引用商標の使用の主張に対し
(ア)

原告は,酵素結合免疫吸着法(ELISA)による免疫血清検査用
の試薬キット(使用商品)を「Eプレート‘栄研’」シリーズとして販売しており,「Eプレート」シリーズとして販売しているものではない。(イ)a

「Eプレート‘栄研’」シリーズの商品の包装(甲6)に記載さ

れた商品名に係る「Eプレート‘栄研’」部分は,全体を通して同じ書体,同じ大きさ,間隔をもって一連に構成され,「イープレートエイケン」と短く一連一気に語呂良く発音することができるから,全体として各要素に分断し得ない一連の標章を構成している。
b
一般的に「E」は,「electric(電気の)」や「ecology(環境にやさしい)」の略語であって,「E」の商標を付した商品が単に電気的手段又はインターネットに関するものであるか,又は環境に配慮した商品であることを暗示させる語であって,広く一般に採用される語であるから,それ自体識別力はないか,極めて弱いといわざるを得ない。また,「プレート」は,原告の使用商品を構成する固相化プレートないしマイクロプレートを意味するものであるから,識別力は極めて弱い。
そうすると,需要者は,「Eプレート」の部分から「マイクロプレートを使用した酵素結合免疫吸着法(ELISA)に基づく血液検査」又は「電気的手段によるマイクロプレートを用いた検査」程度の暗示的意味合いを把握することができるが,その識別力は特段に強いとはいい難い。
c
原告が指摘する論文等のほとんどは,同じ論文中に商品名が「Eプレート‘栄研’」と明示され,「以下,Eプレートと略」などの注意書きが付された上で,当該論文中においてのみ「Eプレート」と略されたものである。このように論文中で「Eプレート‘栄研’」が「Eプレート」と略称されているからといって,当該略称が需要者の間で一般的に認識されているとはいえないし,「Eプレート」の語が強い識別力を有していることの根拠となるものではない。

d
「Eプレート‘栄研’」を構成する「‘栄研’」の部分は,それ自体が造語であって,本来的に識別力は強く,前後に強調符「‘

’」

が付されていることで,更にその識別力は強まっている。
してみれば,「Eプレート‘栄研’」部分から識別力の弱い「Eプレート」の部分が分離抽出されることはあり得ない。
eハウスマークとファミリーマークが一つの商標内に同時に表される場合,
ハウスマークが上段又は前方に置かれるのが通例であるところ,
「Eプレート‘栄研’」部分については,「‘栄研’」の部分が強調符を付した状態で後方に置かれており,この部分がハウスマークであると認識されるとは考え難い。
f前記aないしeによれば,「Eプレート‘栄研’」シリーズの商品の各商品名に接した需要者は,「Eプレート‘栄研’」部分全体が一連一体となって一つの製品群を示すファミリーマークであると認識すると考えるのが自然である。
したがって,「Eプレート‘栄研’」の構成中の「Eプレート」の部分が,それ自体が独立した商品識別機能を果たしているものとはいえないし,独立の商標として認識されることはない。
(ウ)

以上によれば,原告による包装に商品名を記載した「Eプレート‘
栄研’」シリーズの商品の販売が引用商標の使用に該当するとの原告の主張は,理由がない。

引用商標の周知性の主張に対し
前記アのとおり,引用商標が原告の業務に係る使用商品を表示するものとして使用されていない以上,引用商標が,原告の業務に係る使用商品を表示するものとして,本件商標の登録出願時及び登録査定時において,需要者である医師等専門家の一定分野の関係者の間に広く認識されていたものとは認められない。


小括
以上のとおり,原告が使用商品に引用商標を独立の商標として使用した事実は存在せず,また,引用商標の周知性も認められないから,本件商標が商標法4条1項10号に該当しないとした本件審決の判断に誤りはない。

2
取消事由2(商標法4条1項15号該当性の判断の誤り)


原告の主張
本件商標と引用商標は,いずれも「イープレート」の称呼を生じる商標で
あるから,両者は類似し,また,引用商標は,原告の業務に係る使用商品を示すファミリーマークとして,本件商標の登録出願時及び登録査定時において,需要者の間に広く知られていたものであり,一般用語としては認識されない引用商標そのものの独創性も顕著である。加えて,本件商標の指定商品は,いずれも引用商標の使用商品と密接不可分に関連するとともに,その需要者の多くを共通にする。
以上を総合すれば,本件商標をその指定商品について使用した場合,取引者及び需要者において,当該商品が原告と緊密な営業上の関係にある営業主の業務に係る商品であるとの誤認を生じさせる可能性が極めて高いものである。
したがって,本件商標は,原告の業務に係る使用商品と混同を生ずるおそれがある商標(商標法4条1項15号)に該当するから,これを否定した本件審決の判断は誤りである。


被告の主張
原告が使用商品に引用商標を独立の商標として使用した事実は存在せず,
引用商標の周知性も認められないことは,前記1⑵のとおりである。また,引用商標は,広く一般に採用される語であるアルファベットの「E」と,一般に親しまれ,使用されている「プレート」の片仮名とを単に結合したものにすぎず,独創性を有するものではない。
したがって,本件商標は,原告の業務に係る使用商品と混同を生ずるおそれがある商標(商標法4条1項15号)に該当するといえないから,本件審決の判断に誤りはない。
第4当裁判所の判断
1
取消事由1(商標法4条1項10号該当性の判断の誤り)について⑴

認定事実
証拠(甲3ないし9,12ないし14,16,18,20ないし22,2
5,74,75,90,乙14,15(枝番号のあるものは,枝番号を含む。特に断りのない限り,以下同じ。))及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。

原告は,昭和14年に設立された,医薬品,試薬,医療及び理化学機械器具の製造及び販売等を業とする株式会社であり,平成26年度の年間売上高は,約300億円である。

原告は,平成9年3月に,酵素結合免疫吸着法(ELISA)によるPSA(前立腺特異抗原)検査用試薬キットの販売を始め,その後,さらに,同吸着法によるペプシノゲン検査用試薬キット及びヘリコバクター・ピロリ抗体検査用試薬キットの販売を始めた。これらの商品は,患者の血液中における検査目的物質の濃度を検査するための臨床検査用試薬キットであり,固相化プレート(マイクロプレート),標識抗体,緩衝液,基質剤,溶解液,洗浄剤等からなる。
原告は,これらの商品を「Eプレート‘栄研’」シリーズ(甲12,21の1)と名付け,「Eプレート‘栄研’」の文字と検査目的物質の名称等を組み合せたものを商品名(「Eプレート‘栄研’PSA」,「Eプレート‘栄研’ペプシノゲンⅠ」,「Eプレート‘栄研’ペプシノゲンⅡ」,「Eプレート‘栄研’DiscPSA」,「Eプレート‘栄研’DiscペプシノゲンⅠ」,「Eプレート‘栄研’DiscペプシノゲンⅡ」,「Eプレート‘栄研’H.ピロリ抗体」,「Eプレート‘栄研’DiscH.ピロリ抗体」及び「Eプレート‘栄研’H.ピロリ抗体Ⅱ」)としている。

原告は,「Eプレート‘栄研’」シリーズの商品を販売するに当たり,商品の包装に当該商品の商品名を記載している。例えば,「Eプレート‘栄研’H.ピロリ抗体Ⅱ」の包装(外箱)(甲6)の上面には,その左側半分を占める部分の中央緑色の帯状部分に,「Eプレート‘栄研’H.ピロリ抗体Ⅱ」との白抜き文字が横書きで1行に記載され,側面には,「Eプレート‘栄研’H.ピロリ抗体Ⅱ」との黒色文字が横書きで1行に記載されている。この文字部分における各文字の大きさ及び文字の間隔はほぼ等しいものである。また,この「Eプレート」及び「H.ピロリ抗体Ⅱ」の文字の書体は同じゴシック体であり,「‘栄研’」の文字部分はそれよりやや細い書体である。
(2)引用商標の使用の有無について
原告は,「Eプレート‘栄研’」シリーズの商品の包装に付された商品名(「Eプレート‘栄研’H.ピロリ抗体Ⅱ」等)の記載から「Eプレート」を横書きしてなる標章(引用商標)が独立の商標として認識され,原告による包装に商品名を記載した「Eプレート‘栄研’」シリーズの商品の販売は,引用商標の使用に該当する旨主張するので,以下において判断する。ア
前記⑴イによれば,原告は,酵素結合免疫吸着法(ELISA)による免疫血清検査用の試薬キットに,「Eプレート‘栄研’」の文字と検査目的物質の名称等(「PSA」,「ペプシノゲンⅠ」,「DiscPSA」,「DiscペプシノゲンⅠ」,「H.ピロリ抗体」,「H.ピロリ抗体Ⅱ」等)を組み合わせた商品名を付し,これらの商品を「Eプレート‘栄研’」シリーズと名付けて販売していることが認められる。
上記商品の商品名のうち,
検査目的物質の名称等の部分は,
使用商品
(酵
素結合免疫吸着法(ELISA)による免疫血清検査用の試薬キット)の検査目的物質を表示するものであるから,商品の出所識別標識としての機能を果たしているものとはいえない。


そこで,「Eプレート‘栄研’」シリーズの商品の包装に付された当該商品の商品名の記載のうち,「Eプレート‘栄研’」部分について検討する。
(ア)

「Eプレート‘栄研’」部分は,欧文字1字,片仮名4字及び漢字
2字の合計7文字から構成され,漢字2字には「‘

’」(引用符)が

付されている。各文字の大きさはほぼ同一で,書体はさほど異なるものではなく,同色の各文字(引用符を含む。)がほぼ等間隔で1行にまとまりよく配置されている。
(イ)

「Eプレート‘栄研’」部分は,無理なく一連に発語することがで
き,「Eプレート‘栄研’」部分全体から「イープレートエイケン」の称呼が自然に生じる。
(ウ)

まず,「Eプレート‘栄研’」シリーズの商品(使用商品)は,患
者の血液中における検査目的物質の濃度を検査するための臨床検査用試薬キットであること(前記⑴イ)からすると,使用商品の需要者は,医師等専門家の一定分野の関係者であることが認められる。
次に,「Eプレート‘栄研’」部分のうち,「Eプレート」の部分は,アルファベットの「E」と片仮名の「プレート」を組み合わせた造語である。使用商品は,酵素結合免疫吸着法(ELISA)による免疫血清検査用の試薬キットであり,「E」は「ELISA」の頭文字を連想,想起させる語であることからすると,需要者においては,
「Eプレート」
の部分から,酵素結合免疫吸着法(ELISA)による検査用の「E」というプレート,あるいは単に「E」というプレートという観念が生じるものと認められる。もっとも,「Eプレート」の部分は,アルファベットの「E」と片仮名の「プレート」とを結合したものであって,その構成に特段の独創性は認められないから,「Eプレート」の部分の識別力(出所識別機能)はさほど強いものとはいえない。
一方で,「Eプレート‘栄研’」部分のうち,「‘栄研’」の部分については,原告が,昭和14年に設立された,医薬品,試薬,医療及び理化学機械器具の製造及び販売等を業とする株式会社であり,平成26年度の年間売上高は,約300億円であること(前記(1)ア),原告の商号が
「栄研化学株式会社」であることに照らすと,需要者において,「‘栄研’」の部分は,原告の略称であることを想起させるものと認められる。
そうすると,「Eプレート‘栄研’」部分全体からは,栄研(原告)の販売する酵素結合免疫吸着法(ELISA)による検査用の「E」というプレート,あるいは栄研(原告)の「E」というプレートという観念が生じるものと認められる。
(エ)前記(ア)ないし(ウ)の認定事実を総合すると,①「Eプレート‘栄研’」部分は,各文字の大きさはほぼ同一で,書体もさほど異なるものではなく,同色の各文字(引用符を含む。)がほぼ等間隔で1行にまとまりよく配置されており,
相互に関連する1つのまとまりのものとして認
識されること,②「Eプレート‘栄研’」部分全体から「イープレートエイケン」の称呼が自然に生じること,③「Eプレート‘栄研’」部分全体からは,
栄研
(原告)の販売する酵素結合免疫吸着法(ELISA)
による検査用の「E」というプレート,あるいは栄研(原告)の「E」というプレートという観念が生じること,④「Eプレート‘栄研’」部分のうち,「Eプレート」の部分については,その構成に特段の独創性は認められず,その識別力(出所識別機能)はさほど強いものとはいえないことが認められる。
上記認定事実によれば,「Eプレート‘栄研’」シリーズの商品の各商品名に接した需要者は,「Eプレート‘栄研’」部分は,「Eプレート」の部分と「‘栄研’」の部分とを結合した結合商標として認識するものというべきであるから,「Eプレート」の部分は独立の商標として認識されるものと認めることはできない。

これに対し,原告は,①「Eプレート‘栄研’」の構成中の「‘栄研’」の部分については,「‘

’」(引用符)によって明確に「Eプレート」

の部分と分離され,外観上「Eプレート」の部分と「栄研」の部分とが明確に区別される態様で示されていること,
②原告の販売する商品には,
「E
プレート‘栄研’」シリーズ以外にも,「KBディスク‘栄研’」,「ドライプレート‘栄研’」など,その構成に「‘栄研’」の文字を含む商品シリーズが多数存在すること,臨床検査試薬業界最大手の原告のロゴマークは,「栄研」の英語表記である「Eiken」であり,それが周知であることからすると,需要者,取引者の間では,「栄研」は,原告の略称を示すものとして認識されていること,③「Eプレート」は,アルファベットの「E」と片仮名の「プレート」を組み合わせた造語であること,「Eプレート」,「イープレート」,「E

Plate」及び「E-plat

e」は,それ自体独立した単語として存在しないこと,「Eプレート‘栄研’」を「Eプレート」と略称する学術論文等が多数存在すること(甲35,38ないし40,43,55,56,101,102,104)からすると,「Eプレート」の語は強い識別力を有しているといえること,以上の①ないし③によれば,「Eプレート‘栄研’」シリーズの商品の各商品名に接した需要者は,「Eプレート‘栄研’」の構成中の「‘栄研’」の部分については,原告の企業名(「栄研化学株式会社」)を示すハウスマークとして認識し,「Eプレート」の部分については,原告が製造販売する免疫血清検査用試薬キットに共通に用いられるファミリーマークとして認識するため,「Eプレート」の文字からなる引用商標は,それ自体が独立した商品識別機能を果たしており,独立の商標として認識される旨主張する。
しかしながら,上記①の点については,前記イ(エ)①の認定事実に照らすと,「Eプレート‘栄研’」部分が,「Eプレート」の部分と「栄研」の部分とに明確に区別される態様で示されているということはできない。次に,上記②の点については,「Eプレート」の部分が独立の商標として認識されることを積極的に基礎付ける事情には当たらない。
さらに,上記③の点については,「Eプレート」が造語であるからといって直ちに識別力(出所識別機能)が強いということはできないし,原告が挙げる論文は,「Eプレート‘栄研’」を「Eプレート」と略称することを明記した上で,
「Eプレート」
の語を用いているものであるから,
「E
プレート」の語の出所識別機能が強いことの根拠となるものではない。かえって,
原告が自ら原告の販売する酵素結合免疫吸着法
(ELISA)
による免疫血清検査用の試薬キット(使用商品)の一連の商品を「Eプレート‘栄研’シリーズ」と命名し,これらの商品の広告宣伝においても,「Eプレート‘栄研’シリーズ」と記載していたこと(甲12,21の1)に照らすと,需要者は,「Eプレート‘栄研’」部分全体で「Eプレート‘栄研’シリーズ」の商品を表示するものとして認識するものと認められる。
以上によれば,「Eプレート‘栄研’」シリーズの商品の各商品名に接した需要者が,「Eプレート‘栄研’」部分のうち,「Eプレート」の部分を独立の商標として認識するものと認めることはできないから,原告の上記主張は,理由がない。

したがって,原告による包装に商品名を記載した「Eプレート‘栄研’」シリーズの商品の販売は,引用商標の使用に該当するとの原告の前記主張は,その前提を欠くものであり,採用することができない。
他に原告が使用商品に引用商標を独立の商標として使用した事実を認めるに足りる証拠はない。



小括
以上のとおり,原告が使用商品に引用商標を独立の商標として使用した事実は認められないから,その余の点について判断するまでもなく,引用商標は,本件商標の登録出願時及び登録査定時において,原告の業務に係る使用商品を表示するものとして需要者の間に広く認識されていたものと認めることはできない。
したがって,本件商標は商標法4条1項10号に該当しないとした本件審決の判断に誤りはないから,原告主張の取消事由1は理由がない。
2
取消事由2(商標法4条1項15号該当性の判断の誤り)について原告は,引用商標は,原告の業務に係る使用商品を表示するものとして,本件商標の登録出願時及び登録査定時において,需要者の間に広く認識されていたものであり,その独創性も顕著であって,本件商標と類似するものであること,引用商標の使用商品は,本件商標の指定商品と密接不可分に関連するものであるとともに,その需要者の多くを共通にすることなどから,本件商標は,商標法4条1項15号に該当するものであり,これを否定した本件審決の判断は誤りである旨主張する。
しかしながら,前記1で説示したとおり,原告が使用商品に引用商標を独立の商標として使用した事実は認められないから,その余の点について判断するまでもなく,本件商標は,原告の業務に係る商品と混同を生ずるおそれがある商標であるものと認めることはできない。
したがって,本件商標は同号に該当しないとした本件審決の判断に誤りはないから,原告の上記主張(取消事由2)は理由がない。
3
結論
以上のとおり,原告主張の取消事由はいずれも理由がなく,本件審決にこれを取り消すべき違法は認められない。
したがって,原告の請求は棄却されるべきものである。

知的財産高等裁判所第4部

裁判長裁判官

大鷹
裁判官

山門一郎優
裁判官

筈井卓矢
(別紙)

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