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停職処分取消請求事件
事件番号平成29(行ヒ)320
事件名停職処分取消請求事件
裁判年月日平成30年11月6日
法廷名最高裁判所第三小法廷
裁判種別判決
結果破棄自判
原審裁判所名大阪高等裁判所
原審事件番号平成29(行コ)3
原審裁判年月日平成29年4月26日
判示事項地方公共団体の男性職員が勤務時間中に訪れた店舗の女性従業員にわいせつな行為等をしたことを理由とする停職6月の懲戒処分について,裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用した違法があるとした原審の判断に違法があるとされた事例
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平成29年(行ヒ)第320号停職処分取消請求事件
平成30年11月6日第三小法廷判決

主文
原判決を破棄し,第1審判決を取り消す。
被上告人の請求を棄却する。
訴訟の総費用は被上告人の負担とする。
理由
上告代理人荒尾幸三,上告復代理人中井崇の上告受理申立て理由(ただし,排除されたものを除く。)について
1
普通地方公共団体である上告人の男性職員である被上告人は,勤務時間中に
訪れた店舗においてその女性従業員に対してわいせつな行為等をしたことを理由に,停職6月の懲戒処分(以下「本件処分」という。)を受けた。本件は,被上告人が本件処分は重きに失するものとして違法であるなどと主張して,上告人を相手に,その取消しを求める事案である。
2
原審の適法に確定した事実関係等の概要は,次のとおりである。

(1)ア

地方公務員法(以下「地公法」という。)29条1項は,職員が同法等
に違反した場合(1号),全体の奉仕者たるにふさわしくない非行のあった場合(3号)等においては,これに対し懲戒処分として戒告,減給,停職又は免職の処分をすることができる旨を定め,同法33条は,職員はその職の信用を傷つけるような行為をしてはならない旨を定めている。

加古川市職員の懲戒の手続及び効果に関する条例(昭和28年加古川市条例
第7号。以下「本件条例」という。)4条1項は,停職の期間は1日以上6月以下とすると定めている。
また,加古川市長(以下「市長」という。)は,平成19年,「加古川市職員の懲戒処分に関する指針」(以下「本件指針」という。)において,懲戒処分に付すべき標準的な事例における処分の標準例を定めたところ,公務外非行関係の事由である「痴漢・わいせつ行為」による処分の標準例は,免職又は停職とされている。そして,本件指針においては,具体的な処分の量定を決定するに当たり,①非違行為の動機,態様及び結果,②故意又は過失の度合い,③職員の職務上の地位や職務内容,④上告人,他の職員及び社会に与える影響,⑤他の行政処分,刑事処分の程度等のほか,過去の非違行為やその後の対応等も含めて総合的に考慮した上で判断するものとされている。
(2)

被上告人は,平成3年に上告人に採用された一般職に属する男性の地方公
務員であり,同22年4月から自動車運転士として,主に一般廃棄物の収集及び運搬の職務に従事していた。
(3)ア

被上告人は,平成22年頃から,勤務時間中,上告人の市章の付いた作
業着である制服を着用して,兵庫県加古川市に所在するコンビニエンスストア(以下「本件店舗」という。)を頻繁に利用するようになった。その利用の際,被上告人は,本件店舗の女性従業員らを不快にさせる不適切な言動をしており,これを理由の一つとして退職した女性従業員もいた。

被上告人は,勤務時間中である平成26年9月30日午後2時30分頃,上
記制服を着用して本件店舗を訪れ,顔見知りであった女性従業員(以下「本件従業員」という。)に飲物を買い与えようとして,自らの左手を本件従業員の右手首に絡めるようにしてショーケースの前まで連れて行き,そこで商品を選ばせた上で,自らの右腕を本件従業員の左腕に絡めて歩き始め,その後間もなく,自らの右手で本件従業員の左手首をつかんで引き寄せ,その指先を制服の上から自らの股間に軽く触れさせた。本件従業員は,被上告人の手を振りほどき,本件店舗の奥に逃げ込んだ。
(4)ア

本件店舗のオーナーは,前同日,被上告人が所属する上告人の部署に宛
てて,被上告人の前記(3)イの行為について申告するメールを送信し,被上告人の上司は,平成26年10月7日,本件店舗を訪れてオーナーから事情を聴くなどして,上記行為について確認した。イ
平成26年11月7日の神戸新聞に,上告人の職員(氏名は伏せられてい
た。)が勤務時間中にコンビニエンスストアでセクシュアル・ハラスメントをしたが,上告人においては店側の意向を理由に職員の処分を見送っている旨の記事が掲載された。これを受けて,上告人は記者会見を開き,今後事情聴取をして当該職員に対する処分を検討する旨の方針を表明したところ,同月8日の朝日新聞,毎日新聞,読売新聞及び神戸新聞に,上記記者会見に関する記事が掲載された。ウ
上告人は,平成26年11月8日以降,関係者から被上告人の前記(3)イの
行為に関する事情聴取を行った。その際,被上告人は,下半身を触らせようという意識はなく,本件従業員の手が下半身に近づきはしたが触れてはいないなどと弁解した。他方,本件従業員は,被上告人の処罰は望んでいないが,同じようなことが起こらないようにしてほしい,これはオーナーも同じである旨を述べた。(5)

市長は,平成26年11月26日付けで,被上告人に対し,地公法29条
1項1号,3号に基づき,停職6月の懲戒処分(本件処分)をした。その処分説明書には,処分の理由として,「あなたは,平成26年9月30日に勤務時間中に立ち寄ったコンビニエンスストアにおいて,そこで働く女性従業員の手を握って店内を歩行し,当該従業員の手を自らの下半身に接触させようとする行動をとった。」(以下,被上告人のこの行動を「行為1」という。),「また,以前より当該コンビニエンスストアの店内において,そこで働く従業員らを不快に思わせる不適切な言動を行っていた。」(以下,被上告人のこの言動を「行為2」という。)との記載がある。なお,上告人は,本件処分の直接の対象は行為1であり,行為2は行為1の悪質性を裏付ける事情である旨を主張している。
3
原審は,上記事実関係等の下において,要旨次のとおり判断して,被上告人
の請求を認容すべきものとした。
被上告人による行為1は,以前からの顔見知りに対する行為であり,本件従業員は手や腕を絡められるという身体的接触をされながら終始笑顔で行動しており,これについて渋々ながらも同意していたと認められる。行為1は,兵庫県公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例(昭和38年兵庫県条例第66号。平成28年兵庫県条例第31号による改正前のもの)3条2項に違反する犯罪行為であるが,本件従業員及び本件店舗のオーナーは被上告人の処罰を望んでおらず,そのためもあって被上告人は行為1について警察の捜査の対象にもされていない。さらに,被上告人が常習として行為1と同様の行為をしていたとまでは認められず,自動車運転士である被上告人による行為1が社会に与えた影響は公権力の行使に当たる公務員が同様の行為をした場合ほど大きいとはいえないことや,被上告人は上告人において過去に懲戒処分を受けたことがないことも考慮すると,行為1が悪質であり,被上告人の反省の態度が不十分であるなどの事情を踏まえても,停職6月とした本件処分は重きに失するものとして社会観念上著しく妥当を欠く。したがって,本件処分は,裁量権の範囲を逸脱し,又はこれを濫用したものであり,違法である。
4
しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次
のとおりである。
(1)

公務員に対する懲戒処分について,懲戒権者は,諸般の事情を考慮して,
懲戒処分をするか否か,また,懲戒処分をする場合にいかなる処分を選択するかを決定する裁量権を有しており,その判断は,それが社会観念上著しく妥当を欠いて裁量権の範囲を逸脱し,又はこれを濫用したと認められる場合に,違法となるものと解される(最高裁昭和47年(行ツ)第52号同52年12月20日第三小法廷判決・民集31巻7号1101頁,最高裁平成23年(行ツ)第263号,同年(行ヒ)第294号同24年1月16日第一小法廷判決・裁判集民事239号253頁等参照)。
(2)

原審は,①本件従業員が被上告人と顔見知りであり,被上告人から手や腕
を絡められるという身体的接触について渋々ながらも同意していたこと,②本件従業員及び本件店舗のオーナーが被上告人の処罰を望まず,そのためもあって被上告人が警察の捜査の対象にもされていないこと,③被上告人が常習として行為1と同様の行為をしていたとまでは認められないこと,④行為1が社会に与えた影響が大きいとはいえないこと等を,本件処分が社会観念上著しく妥当を欠くことを基礎付ける事情として考慮している。
しかし,上記①については,被上告人と本件従業員はコンビニエンスストアの客と店員の関係にすぎないから,本件従業員が終始笑顔で行動し,被上告人による身体的接触に抵抗を示さなかったとしても,それは,客との間のトラブルを避けるためのものであったとみる余地があり,身体的接触についての同意があったとして,これを被上告人に有利に評価することは相当でない。上記②については,本件従業員及び本件店舗のオーナーが被上告人の処罰を望まないとしても,それは,事情聴取の負担や本件店舗の営業への悪影響等を懸念したことによるものとも解される。さらに,上記③については,行為1のように身体的接触を伴うかどうかはともかく,被上告人が以前から本件店舗の従業員らを不快に思わせる不適切な言動をしており(行為2),これを理由の一つとして退職した女性従業員もいたことは,本件処分の量定を決定するに当たり軽視することができない事情というべきである。そして,上記④についても,行為1が勤務時間中に制服を着用してされたものである上,複数の新聞で報道され,上告人において記者会見も行われたことからすると,行為1により,上告人の公務一般に対する住民の信頼が大きく損なわれたというべきであり,社会に与えた影響は決して小さいものということはできない。そして,市長は,本件指針が掲げる諸般の事情を総合的に考慮して,停職6月とする本件処分を選択する判断をしたものと解されるところ,本件処分は,懲戒処分の種類としては停職で,最も重い免職に次ぐものであり,停職の期間が本件条例において上限とされる6月であって,被上告人が過去に懲戒処分を受けたことがないこと等からすれば,相当に重い処分であることは否定できない。しかし,行為1が,客と店員の関係にあって拒絶が困難であることに乗じて行われた厳しく非難されるべき行為であって,上告人の公務一般に対する住民の信頼を大きく損なうものであり,また,被上告人が以前から同じ店舗で不適切な言動(行為2)を行っていたなどの事情に照らせば,本件処分が重きに失するものとして社会観念上著しく妥当を欠くものであるとまではいえず,市長の上記判断が,懲戒権者に与えられた裁量権の範囲を逸脱し,又はこれを濫用したものということはできない。(3)

以上によれば,本件処分に裁量権の範囲を逸脱し,又はこれを濫用した違
法があるとした原審の判断には,懲戒権者の裁量権に関する法令の解釈適用を誤った違法があるというべきである。
5
以上のとおり,原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の
違反がある。論旨は以上と同旨をいうものとして理由があり,原判決は破棄を免れない。そして,前記事実関係等の下においては,本件処分にその他の違法事由も見当たらず,被上告人の請求は理由がないから,第1審判決を取り消し,被上告人の請求を棄却すべきである。
よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官

景一

岡部喜代子

裁判官

裁判官

山崎敏充

宮崎裕子)
裁判官

戸倉三郎

裁判官

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