判例検索β > 平成29年(行ケ)第10117号
特許取消決定取消請求事件 特許権 行政訴訟
事件番号平成29(行ケ)10117
事件名特許取消決定取消請求事件
裁判年月日平成30年11月6日
法廷名知的財産高等裁判所
裁判要旨特 判決年月日 平成30年11月6日 担
許 当 知財高裁第3部
権 部
事 件 番 号 平成29年(行ケ)第10117号
○ 特許法29条1項3号の「刊行物に記載された発明」は,当業者が,出願時の技術
水準に基づいて本願発明(本件特許発明)を容易に発明することができたかどうかを判
断する基礎となるべきものであるから,当該刊行物の記載から抽出し得る具体的な技術
的思想でなければならず, また,刊行物に物の発明が記載されているといえるためには
,刊行物の 記載及び本件特許の出願時の技術常識に基づいて,当業者がその物を作れる
ことが必要である。
○ 引用例の記載及び出願時の技術常識から引用例に引用発明が記載されている,ある
いは,記載されているに等しいとはいえず,特許取消決定には,引用発明の認定を誤り
,相違点を看過した違法があるとした事例。
(事件類型)特許取消決定取消 (結論)決定取消
(関連条文)特許法29条2項
(関連する権利番号等)特許第5845033号,異議2016-700611号
判 決 要 旨
1 本件は,発明の名称を「マイコプラズマ・ニューモニエ検出用イムノクロマトグラフ
ィー試験デバイスおよびキット」とする特許第5845033号について特許異議の申
立てがあり,特許庁が特許を取り消す旨の決定をしたため,特許権者が同決定の取り消
しを求めて提訴した事案である。
同決定が特許を取り消した理由は,特許法29条2項違反(進歩性欠如)である。原
告は,同決定の取消事由として,①引用発明の認定及び一致点と相違点の認定の誤り,
②相違点についての判断の誤り,③顕著な作用効果に関する認定の誤りを主張した。
2 本判決は,以下のとおり判示して特許庁の決定を取り消した。
(1) 特許法29条1項3号の「刊行物に記載された発明」は,当業者が,出願時の技術
水準に基づいて本願発明(本件特許発明)を容易に発明することができたかどうかを
判断する基礎となるべきものであるから,当該刊行物の記載から抽出し得る具体的な
技術的思想でなければならない。また,本件特許発明は物の発明であるから,進歩性
を検討するに当たって,刊行物に記載された物の発明との対比を行うことになるが,
ここで,刊行物に物の発明が記載されているといえるためには,刊行物の記載及び本
件特許の出願時(以下「本件出願時」という。)の技術常識に基づいて,当業者がそ
の物を作れることが必要である。
(2) かかる観点から本件について検討すると,引用例1の記載及び本件出願時の技術常
識を考慮しても,引用発明1のデバイスを当業者が作れるように記載されているとは
-1-
いえない。すなわち,
ア 本件取消決定は,引用発明1をP1タンパク質に対するモノクローナル抗体を用
いて,患者サンプル中のマイコプラズマ・ニューモニエの検出を行うラテラルフロ
ーデバイスに関する発明として認定しているところ,ラテラルフローデバイスは,
イムノクロマトグラフィー法に基づく検出デバイスであり,イムノクロマトグラフ
ィー法による抗原検出においては,抗体と抗原がサンドイッチ複合体を形成する必
要があると認められ,また,モノクローナル抗体の場合には,抗原を挟み込む二つ
の抗体が同じものでは不都合であり,少なくとも,二つの異なる抗体を用いること
が必要であると認められる。
その一方で,異なる二つのモノクローナル抗体でありさえすれば,抗体と抗原が
サンドイッチ複合体を形成するとの本件出願時の技術常識も見当たらず,また,サ
ンドイッチ複合体を形成しさえすれば,必ず患者サンプル中のマイコプラズマ・ニ
ューモニエを検出できると直ちにいうこともできない。引用例2の記載を踏まえれ
ば,モノクローナル抗体を用いてサンドイッチ複合体の形成に基づく検出を行う場
合には,適切な抗体を組み合わせて用いる必要があると認められる。
そこで,第1のモノクローナル抗体と第2のモノクローナル抗体の組合せに関し
て引用例1の記載を検討するに,引用例1には,ラテラルフローデバイスに用いる
二つの抗体について,具体的なモノクローナル抗体の組合せを示す記載は見当たら
ない。また,本件出願時において,ラテラルフローデバイス等のサンドイッチ複合
体を形成できる具体的なモノクローナル抗体の組合せが周知であったことを示す証
拠もない。
次に,引用例1に記載された具体的なイムノクロマトグラフィー(ICT)デバ
イスについての唯一の実施例である実施例4は,抗rCARDS抗体を用いたもの
で,P1タンパク質に対する抗体を用いたものではない。また,引用例1における
P1タンパク質に対する抗体に関する具体的な記載は,実施例3のみであるが,実
施例3における抗原の検出は,サンドイッチ複合体の形成とは異なる,市販の二次
抗体である抗ウサギ又は抗マウス抗体を用いた方法によるものである。したがって,
これらの実施例の記載から,サンドイッチ複合体を形成可能なモノクローナル抗体
を知ることはできない。
さらに,引用例1には,P1タンパク質に対するモノクローナル抗体として,マ
ウスのモノクローナル抗真正P1タンパク質抗体H136E7とrP1に対するモ
ノクローナル抗体に関する記載があるが,P1タンパク質に対する具体的なモノク
ローナルは,H136E7が記載されているにとどまり,rP1に対するモノクロ
ーナル抗体については,その当該モノクローナル抗体を生産する細胞株も,モノク
ローナル抗体のアミノ酸配列等の情報も,H136E7とのサンドイッチ複合体の
形成の有無に関する手掛かりとなる情報も記載されていない。このような引用例1
-2-
の記載に基づいて,ラテラルフローデバイスを作るためには,モノクローナル抗体
として一つはH136E7を用いるとしても,もう一つ,H136E7とサンドイ
ッチ複合体を形成可能な別のモノクローナル抗体を用いる必要があるが,引用例1
には,そのようなモノクローナル抗体の構造について手掛かりとなる記載がなく,
何らかの方法でモノクローナル抗体を入手し,それらのモノクローナル抗体が,H
136E7とサンドイッチ複合体を形成可能であるかを調べ,試行錯誤によって,
H136E7と組み合わせて患者サンプル中のマイコプラズマ・ニューモニエを検
出するラテラルフローデバイスを構成できるモノクローナル抗体を見つけ出す必要
がある。
以上を踏まえれば,たとえ様々なモノクローナル抗体を得る技術自体は周知技術
であるとしても,本件取消決定が認定した引用発明1のラテラルフローデバイスは,
引用例1の記載及び本件出願時の技術常識から,直ちに作ることができるものとは
いえない。
したがって,引用例1に引用発明が記載されている(あるいは,記載されている
に等しい)ということはできない。
イ 患者サンプル(臨床検体)からの検出という点についても検討する。患者サンプ
ルからの患者サンプル中のマイコプラズマ・ニューモニエの検出については,引用
例1の実施例7に記載があるが,この方法は,CARDSを検出抗原とした抗原捕
捉EIAに基づくものであって,P1タンパク質をサンドイッチ複合体の形成に基
づいて検出する引用発明1のデバイスとは,抗原も検出手法も異なる。それだけで
はなく,引用例1の実施例7の記載は,患者サンプル(臨床検体)からのマイコプ
ラズマ・ニューモニエの検出が可能であったことを示すものとはいえない。
かかる観点からも,引用例1に引用発明が記載されている(あるいは,記載され
ているに等しい)ということはできない。
(3) 以上によれば,本件取消決定は,進歩性についての判断を行うに際し,引用発明の
認定を誤った結果,第1の抗体及び第2の抗体としてモノクローナル抗体を用いる点
と,患者サンプル中のマイコプラズマ・ニューモニエの検出を行う点についての相違
点を看過し,なおかつ,これらの相違点に関する容易想到性の判断を全く行わないま
まに,進歩性欠如の結論を導いて(これを理由に)本件特許を取り消したものである
から,当該引用発明の認定の誤り及び相違点の看過は本件取消決定の結論に影響する
ものである。
したがって,原告が主張する取消事由1は上記の限度で理由があるというべきであ
り,その余の取消事由につき検討するまでもなく,本件取消決定は取り消されるべき
である。
-3-
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平成30年11月6日判決言渡
平成29年(行ケ)第10117号
口頭弁論終結日

特許取消決定取消請求事件

平成30年8月23日
判原決告
アルフレッサファーマ株式会社

訴訟代理人弁護士

中世古

裕之犬飼一博戀田
訴訟代理人弁理士

大平被告特
指定代理人

福島浩司高橋祐介板谷玲子伊藤昌哉河本充雄主1許
訴訟費用は被告の負担とする。

請求
主文同旨

第2

庁長幸官
特許庁が異議2016-700611号事件について平成29年4月18日
事実及び理由
第1

和文
にした異議の決定を取り消す。
2剛
事案の概要
1
特許庁における手続の経緯等
(1)原告は,発明の名称を「マイコプラズマ・ニューモニエ検出用イムノクロマトグラフィー試験デバイスおよびキット」とする特許第5845033号(平成23年9月26日特許出願,平成27年11月27日設定登録,請求項の数8。以下「本件特許」という。)の特許権者である。
(2)本件特許については,訴外松下亮,同秋本悠太,同木村愛子及び同秋元正哉から特許異議の申立てがあり(異議2016-700611号),同申立てについての審理においては,平成28年9月16日付けで取消理由が通知され,同年11月22日に意見書が提出され,平成29年1月19日付けで取消理由通知(決定の予告)がされ,同年3月27日に意見書の提出及び訂正請求(以下「本件訂正」という。)がされた。
(3)特許庁は,平成29年4月18日,上記申立てについて,「特許第5845033号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり訂正後の請求項〔1-6〕,〔7,8〕について訂正することを認める。
特許第5845033号の請求項1ないし8に係る特許を取り消す。」
との決定をし(以下「本件取消決定」という。),その謄本は同月28日に原告に送達された。
(4)本件取消決定に不服のある原告は,平成29年5月26日,その取消しを求めて本件訴えを提起した。

2
特許請求の範囲の記載
本件訂正後の特許請求の範囲の記載は,次のとおりである(下線は訂正部分を示す。請求項1の分説は本件取消決定による。以下,まとめて「本件特許発明」
といい,
個別に特定するときは,
請求項の番号に応じて
「本件特許発明1」
などという。また,本件特許発明に係る明細書及び図面〔甲2〕を併せて「本件明細書」という。)。
【請求項1】
(A)(A-1)イムノクロマトグラフィー試験デバイス及び検出キットにおける抗体として,
(A-2)マイコプラズマ・ニューモニエ由来のP1タンパク質抗原に対して特異的なモノクローナル抗体を含む,
(A-3)検体からマイコプラズマ・ニューモニエ感染検出用のイムノクロマトグラフィー試験デバイスであって,
(B)第一のモノクローナル抗体および第一のモノクローナル抗体とは異なる第二のモノクローナル抗体,ならびに
(C)膜担体を備え,
(D)該第一のモノクローナル抗体が,
該膜担体に固定されて検出部位を構成し,
(E)該第二のモノクローナル抗体が,(E-1)標識物質で標識されており,かつ(E-2)該検出部位とは離れた位置に,該膜担体中を移動可能に配置され,(F)(F-1)該検体であって,濃縮処理物を除く該検体中に(F-2)マイコプラズマ・ニューモニエ抗原が存在する場合に,該マイコプラズマ・ニューモニエ抗原と該標識物質で標識された該第二のモノクローナル抗体とを標識担持部材において結合させて,複合体を形成させる手段と,
(G)該複合体を,該膜担体を介して展開させ,該検出部位において固定された該第一のモノクローナル抗体と結合させ,集積させることで発色させる手段と,を有する,
(H)マイコプラズマ・ニューモニエ感染検出用のイムノクロマトグラフィー試験デバイス。
【請求項2】
前記標識物質が不溶性粒状物質である,請求項1に記載のイムノクロマトグラフィー試験デバイス。
【請求項3】
前記不溶性粒状物質が,
着色合成高分子粒子または金属コロイド粒子である,
請求項2に記載のイムノクロマトグラフィー試験デバイス。
【請求項4】
前記イムノクロマトグラフィー試験デバイスがマイコプラズマ・ニューモニエ感染診断用であり,生体由来材料またはその濃縮処理物を除く前処理物を検体とする,請求項1から3のいずれかに記載のイムノクロマトグラフィー試験デバイス。
【請求項5】
前記生体由来材料が,咽頭拭い液または鼻腔吸引液である,請求項4に記載のイムノクロマトグラフィー試験デバイス。
【請求項6】
請求項1から5のいずれかに記載のイムノクロマトグラフィー試験デバイスを備える,マイコプラズマ・ニューモニエ検出用キット。
【請求項7】
マイコプラズマ・ニューモニエP1タンパク質を検出することにより,検体からマイコプラズマ・ニューモニエの感染を検出する方法であって,イムノクロマトグラフィー試験デバイス及び検出キットにおける抗体として,マイコプラズマ・ニューモニエ由来の該P1タンパク質に対して特異的に結合でき,膜担体の検出部位に固定された第一のモノクローナル抗体と,前記マイコプラズマニューモニエ由来の該P1タンパク質に対して特異的に結合でき,・
標識物質で標識され,かつ標識担持部材に担持された第一のモノクローナル抗体とは異なる第二のモノクローナル抗体と,を有し,該第一のモノクローナル抗体および該第二のモノクローナル抗体のいずれかまたは両方が該P1タンパク質に特異的に結合できるモノクローナル抗体である,イムノクロマトグラフィー試験デバイスにおいて,
該検体であって,濃縮処理物を除く該検体を該イムノクロマトグラフィー試験デバイスの検体添加部材に添加する工程と,
該検体中に該マイコプラズマ・ニューモニエが存在する場合に,該マイコプラズマ・ニューモニエ由来のタンパク質と該標識物質で標識された第二のモノクローナル抗体とを標識担持部材において結合させて,複合体を形成させる工程と,
該複合体を,該膜担体を介して展開させ,該検出部位において固定された該第一のモノクローナル抗体と結合させ,集積させることで発色させる工程と,を有する,マイコプラズマ・ニューモニエの感染を検出する方法。【請求項8】
前記標識物質が不溶性粒状物質である,請求項7に記載のマイコプラズマ・ニューモニエの感染を検出する方法。
3
本件取消決定の理由の要旨
(1)本件取消決定の理由は,別紙決定書の写しに記載のとおりである。要するに,本件特許発明は,いずれも下記の引用例1に記載された発明(引用発明1)や当該技術分野において周知の事項により,当業者が容易に想到できたにすぎないものであるから,特許法29条2項の規定に違反してされたものであって取り消されるべき,とするものである。
なお,本件取消決定が引用する刊行物は,次のとおりである。
引用例1

国際公開第2008/021862号公報(甲4,乙1)

引用例2

RapidDiagnosisofMycoplasmas,EditedbyI.KahaneandA.Adoni,PlenumPress,NewYork,1993,P195-205(甲5,乙8)

引用例3

特開平05-304990号公報(甲6,乙9)

引用例4

JournalofGeneralMicrobiology(1992),138,407-422(甲7,乙10)

刊行物A

特開2001-33457号公報(甲8)

刊行物B

特表2005-506342号公報(甲9)
刊行物C

特開昭62-206447号公報(甲10)

引用例D

特開2009-162558号公報(甲11)

(「引用例D」は「刊行物D」の誤記と認められる。)
(2)本件取消決定が認定した引用発明1,本件特許発明1と引用発明1との一致点及び相違点は,以下のとおりである。

引用発明1
(a)M・ニューモニエ蛋白質P1由来のエピトープに特異的に結合する単離された抗体を含むラテラルフローデバイスであって,
(b)前記抗体を含む少なくとも1つの部位を包含する多孔質テストストリップを含み,
(c)ラテラルフローデバイスは担体である膜を含み,担体上には,(c-i)M・ニューモニエのP1のポリペプチドエピトープに特異的な,金コロイドで標識された第1の抗体であり,移動可能に標識された該第1の抗体を含んでいるサンプル受容部位と,
(c-ii)

M・ニューモニエのP1のポリペプチドエピトープに特異的な第

2の抗体が固定されている,担体上に設けられた捕捉部位,
とが配置され,
(d)[標識された第1の抗体]-[M・ニューモニエのP1のポリペプチド]-[担体である膜上の捕捉部位に固定された第2の抗体]の結合体が形成され,
(e)担体である膜上の捕捉部位に局在する,M・ニューモニエのP1のポリペプチドエピトープ対して特異的な第1の抗体にコンジュゲートした金のコロイド標識によるシグナルが生じることは,
患者サンプル中にM

ニューモニエが存在することを意味し,
(f)前記第1の抗体及び前記第2の抗体は,モノクローナル抗体である(h)ラテラルフローデバイス。

一致点
(A)(A-1)イムノクロマトグラフィー試験デバイス及び検出キットにおける抗体として,
(A-2)マイコプラズマ・ニューモニエ由来のP1タンパク質抗原に対して特異的なモノクローナル抗体を含む,
(A-3)検体からマイコプラズマ・ニューモニエ感染検出用のイムノクロマトグラフィー試験デバイスであって,
(B)第一のモノクローナル抗体および第一のモノクローナル抗体とは異なる第二のモノクローナル抗体,ならびに
(C)膜担体を備え,
(D)該第一のモノクローナル抗体が,該膜担体に固定されて検出部位を構成し,
(E)該第二のモノクローナル抗体が,(E-1)標識物質で標識されており,かつ
(E-2)該検出部位とは離れた位置に,該膜担体中を移動可能に配置され,(F)(F-1')該検体であって,該検体中に(F-2)マイコプラズマ・ニューモニエ抗原が存在する場合に,該マイコプラズマ・ニューモニエ抗原と該標識物質で標識された該第二のモノクローナル抗体とを標識担持部材において結合させて,複合体を形成させる手段と,
(G)該複合体を,該膜担体を介して展開させ,該検出部位において固定された該第一のモノクローナル抗体と結合させ,集積させることで発色させる手段と,を有する,
(H')


イムノクロマトグラフィー試験デバイス。

相違点
(F-1')の検体及び(H')の
「イムノクロマトグラフィー試験デバイス」
が,
引用発明1では患者サンプルに「濃縮処理物」を含むか不明であり,引用例1に実施例がなく,ラテラルフローデバイスが,濃縮処理をしない患者サンプルについても「マイコプラズマ・ニューモニエ感染検出用」として使用できるか不明であるのに対して,本件特許発明1は,「濃縮処理物を除く」検体であっても,イムノクロマトグラフィー試験デバイスが「マイコプラズマ・ニューモニエ感染検出用」である点。
4
取消事由
(1)引用発明の認定及び一致点と相違点の認定の誤り(取消事由1)(2)相違点についての判断の誤り(取消事由2)
(3)顕著な作用効果に関する認定の誤り(取消事由3)

第3
1
当事者の主張
取消事由1(引用発明の認定及び一致点と相違点の認定の誤り)について
(原告の主張)
(1)引用発明1の認定について
本件取消決定は,
引用発明1の,
①構成(a),
(c)及び(d)において,
「P1」
タンパク質に着目した検出技術であると認定している点,
②構成(e)において,
「患者サンプル」
を用いて検出を行うものと認定している点,
③構成(f)にお
いて,第1の抗体及び第2の抗体がいずれも「モノクローナル抗体」であることを要素として認定している点でそれぞれ誤っている。次のとおり,引用例1はこれらの技術情報を開示するものではない。

上記①の点(「P1」タンパク質に着目した検出技術であると認定している点)について
(ア)引用例1は,P1タンパク質とは異なるCARDSタンパク質を用いて特異的な検出を試みる技術に関するものであり,そもそも着目するタンパク質自体が根本的に全く異なる。
すなわち,「CARDS」とは,マイコプラズマ・ニューモニエの症状の一因である,
百日咳毒素と似た構造を持つ毒素のタンパク質である。
他方,P1タンパク質は,マイコプラズマ・ニューモニエが人体に付着するために必要な細胞接着タンパク質であり,菌体の外側に存在しており,両者は,性質やその反応する抗体のエピトープがそれぞれ異なるものである。
しかしながら,引用例1の実施例は,CARDSタンパク質とそのポリクローナル抗体に着目した実験であることは明らかであり,P1タンパク質に特異的な抗体を用いてマイコプラズマ・ニューモニエを検出するための実験ではない。すなわち,引用例1で実施可能なレベルで開示されているのは,抗CARDSポリクローナル抗体に関するもののみであり,P1タンパク質とそのモノクローナル抗体については何ら検出実験が記載されていない。本件取消決定は,根本的な差異を看過したままに,
引用発明1をP1タンパク質に着目した技術であると認定しており,重大な誤りが存することは明らかである。
(イ)被告の主張について
被告は,後記のとおり,免疫学的測定法(Immunoassay)は,検出対象であるタンパク質と強い親和性と良好な特異性を持つ抗体を結合試薬として利用した測定法であることから,タンパク質の性質の違いは,それがエピトープと抗体との結合を妨げるものでない限り問題とはならないことは明らかである,などと主張する。
しかし,引用例1で実施されるELISA法と,本件特許発明で採用されるイムノクロマトグラフィー法とは,いずれも抗原抗体反応を利用した免疫学的測定方法である点で共通するものの,測定者が意図する抗原抗体反応を得るために抗体に必要な条件が大きく異なることは当業者にとって常識であり,ELISA法で検出可能であるからといって,イムノクロマトグラフィー法でも検出可能であるとはいえない。
したがって,ELISA法において,特定の抗原と特異的に結合する抗体を用いて検出に成功したとしても,その技術を直ちにイムノクロマトグラフィー法に転用することはできない。
(ウ)引用例1のCARDSタンパク質をP1タンパク質に置き換えるのが容易でないことについて
一般的に,タンパク質の抽出を行う際には,まず,界面活性剤を用いて細胞を覆っている細胞膜を溶解する必要があるところ,CARDSタンパク質とは異なり,P1タンパク質は細胞膜内部に埋め込まれている「膜タンパク質」であるため,抽出が特に困難とされている。この性質の違いは,被告が主張するところの「エピトープと抗体との結合を妨げるもの」にほかならない。
また,引用例1の実施例3においては,他の実施例と異なり,P1タンパク質が用いられているものの,同実施例は,マイコプラズマ・ニューモニエの検出実験ではなく,P1タンパク質のエピトープを調査した実験にすぎない。したがって,引用例1の実施例3を踏まえても,引用例1には,P1タンパク質に着目してマイコプラズマ・ニューモニエを検出する技術情報の開示がない。
さらに,本件取消決定は,臨床検体から得られたマイコプラズマ・ニューモニエ由来のタンパク質と精製タンパク質との性質の違いも看過しているところ,天然の菌体から得られたタンパク質と精製タンパク質とでは,構造が大きく異なるために,後者を用いて検出に成功したからといって,前者の検出にも適用できるとはいえない。
以上を踏まえれば,引用例1のCARDSタンパク質をP1タンパク質に置き換えるのは容易でない。

上記②の点(「患者サンプル」を用いて検出を行うものと認定している点)について
そもそも,引用例1には本件特許発明が想定するような臨床検体を用いた検出に成功した旨の記載が一切なく,引用例1は,「患者サンプル」のような臨床検体からマイコプラズマ・ニューモニエを検出するための技術を開示するものとはいえない。
すなわち,引用例1の実施例4(【00101】)では,抗rCARDSポリクローナル抗体を用いたイムノクロマトグラフィー法による検出に成功しているが,これは精製タンパク質を試料に用いており,臨床検体から検出したものではない。
また,実施例7(【00111】)では,イムノクロマトグラフィー法よりも感度が高い抗原捕捉EIA(antigencaptureEIA)を用いてマイコプラズマ・ニューモニエの検出を試みているが,マイコプラズマ・ニューモニエ感染患者からの9検体中1検体しかEIAのバックグラウンドを超えず,マイコプラズマ・ニューモニエ非感染の18検体からバックグラウンドを超えるシグナルが得られたと記載されている。この結果は,イムノクロマトグラフィーよりも感度の高い抗原捕捉EIAにおいてすら,マイコプラズマニューモニエの正確な検出には失敗したことを意味している。・
なお,実施例7の評価に関し,被告は,後記のとおり,抗原捕捉EIAは「競合法」で検出されたものであり,実施例7の結果は,96.3%成功したことを示すものであると解釈するのが相当であると主張するが,競合法は,競合体となる「酵素標識抗原」が別途必要となり,「サンドイッチ法」
を用いる場合とは全く異なる特別な準備を要することになるところ,実施例7においては,
そのような競合法に関する説明が一切なく,
むしろ,
サンドイッチ法を用いた結果であることが明らかな実施例5及び6と同じく
「抗原捕捉EIAを行った」
と記載されていることや,
競合法において,
検体を検体抽出液に添加していない「バックグラウンド」の状態よりもさらに大きな反応が生じるというのはあり得ない結果であることからすると,実施例7ではサンドイッチ法が用いられていると解釈するのが相当である。以上によれば,引用例1は臨床検体からのマイコプラズマ・ニューモニエを検出する技術を開示するものではなく,
引用発明1を
「患者サンプル」
を用いる検出技術とした認定には明らかな誤りがある。

上記③の点(第1の抗体及び第2の抗体がいずれも「モノクローナル抗体」であることを要素として認定している点)について
本件特許発明で用いるモノクローナル抗体は,抗原の特定のエピトープにしか結合しないという性質を持っており,それぞれが異なるエピトープに結合することができる抗体の集合物であるポリクローナル抗体とは全く異なるものである。
そして,特定のエピトープに結合できる抗体は,ただ一つに限られるため,用いるモノクローナル抗体を二つとも同一のものにしてしまうと,モノクローナル抗体の片方のみしかエピトープに結合することができず,イムノクロマトグラフィー法では検出できなくなる。
したがって,イムノクロマトグラフィー法の抗体としてモノクローナル抗体を使用する場合には,第1の抗体と第2の抗体とを異なる抗体としなければならないことは技術常識である。
これとは異なり,ポリクローナル抗体であればそれぞれが異なるエピトープを認識する抗体の集合物なので,二つのポリクローナル抗体が同じポリクローナル抗体であっても検出には問題がない。
引用例1には,「M・ニューモニエのポリペプチドエピトープに特異的な第1および第2の抗体,抗体断片,または作用物質は同じものとすることも異なるものとすることもできる。」
(【0068】)との記載があり,
二つの抗体が同じ抗体となることを明示的に許容していることから,ポリクローナル抗体の使用を前提としており,モノクローナル抗体を用いることについての開示がないことは,当業者にとって明らかである。
また,引用例1の【0022】においては,「用語『抗体』は,免疫グロブリン,特異的結合能を維持するその誘導体及び免疫グロブリンの結合ドメインと相同または大きく相同な結合ドメインを有するタンパク質を意味する。これらのタンパク質は,天然の供給源から誘導されるか,または部分的もしくは完全に合成的に製造することができる。抗体は,モノクローナルまたはポリクローナルであってもよい。」とされているが,これは飽くまで抗体に関する一般的な定義として,「モノクローナルまたはポリクローナル」と記載しているにすぎない。
さらに,引用例1の【0096】(本件取消決定の(引1p))には,「マウス」から「モノクローナル抗体」が取得できたとの記載はなく,むしろ,標準的なプロトコルを用いて,「ウサギ」から「ポリクロ―ナル抗体」が得られたことの記載しかない。また,同【0096】で指摘される図7の説明【0012】には,モノクローナル抗体として市販のH136E7の1種類しか記載されていない。既に述べてきたところから,イムノクロマトグラフィー法を用いる場合には2種類のモノクローナル抗体が必要であるが,かかる記載では,モノクローナル抗体を用いることについての十分な技術情報の開示があるとは到底いえない。
以上のとおり,引用例1がポリクローナル抗体を用いる旨の技術情報しか開示していないことは明らかである。
(2)一致点及び相違点の認定について
本件取消決定は,本件特許発明1の構成要件(F)では,検体から「濃縮処理物を除く」ことが明確にされているのに対し,引用発明1では,患者サンプル(検体)に「濃縮処理物」を含むのか否かが不明である点のみを相違点として認定する一方(以下「本件相違点」という。),その他の構成要件は一致する旨認定した。
しかしながら,前記(1)のとおり,引用発明1を,P1タンパク質に特異的なモノクローナル抗体を用いて,患者サンプル(臨床検体)からマイコプラズマ・ニューモニエを検出することができると認定した点に重大な誤りが存する以上,これらの点において,一致点及び相違点の認定に誤りがあることもまた明らかである。
(3)以上のとおり,本件特許発明は,P1タンパク質に対する特異的なモノクローナル抗体に着目することで,イムノクロマトグラフィー法によって,初めて臨床検体からのマイコプラズマ・ニューモニエ抗原の特異的な検出を実現した発明であるところ,引用例1は,そもそも,P1タンパク質とは全く異なるタンパク質(CARDS)とそのポリクローナル抗体に着目した発明の特許公報である上に,引用例1においては,CARDSに特異的なポリクローナル抗体を用いた場合ですら,臨床検体からのマイコプラズマ・ニューモニエの検出には成功しておらず,かつ,そもそもP1タンパク質に特異的な抗体については,臨床検体はもちろん,精製rP1タンパク質を用いた検出実験すら行われていないにもかかわらず,本件取消決定は,P1タンパク質とCARDSタンパク質の差異や,臨床検体と非臨床検体との差異,さらにはモノクローナル抗体とポリクローナル抗体との差異をいずれも看過したまま,引用発明1を,P1タンパク質に特異的なモノクローナル抗体を用いて,患者サンプル(臨床検体)からマイコプラズマ・ニューモニエを検出することができる発明であると認定したものである。
本件取消決定は,かかる誤った認定に基づいて本件特許発明の進歩性を否定したのであるから,
重大な過誤があるものとして取り消されるべきである。
(被告の主張)
(1)引用発明の認定について
アP1タンパク質とCARDSタンパク質の差異
(原告主張の上記①の点)
に関し
(ア)そもそも免疫学的測定法(Immunoassay)は,検出対象であるタンパク質と強い親和性と良好な特異性を持つ抗体を結合試薬として利用した測定法であることから,タンパク質の性質の違いは,それがエピトープと抗体との結合を妨げるものでない限り問題とはならないことは明らかであるところ,原告の主張する,CARDSタンパク質とP1タンパク質の性質の違いは,エピトープと抗体との結合を妨げるものであるとはいえない。
また,本件特許において,P1タンパク質の検出のために特別な条件は必要とされていない。
そして,後記イのとおり,マイコプラズマ・ニューモニエ感染検出用として有効なマイコプラズマ・ニューモニエ由来のP1タンパク質抗原に対して特異的なモノクローナル抗体を用いてELISA法により患者サンプルによるマイコプラズマ・ニューモニエの感染の判定を行えることが引用例1の頒布時に既に周知であったことに鑑みれば,CARDSタンパク質を利用してマイコプラズマ・ニューモニエの検出ができる事実に接した当業者であれば,該周知の抗P1モノクローナル抗体などを用いることにより,P1タンパク質を利用してマイコプラズマ・ニューモニエを検出できることは,当然予測できることである。
(イ)引用例1のCARDSタンパク質をP1タンパク質に置き換えることの容易性について
原告が主張するとおり,P1タンパク質は細胞膜内部に埋め込まれている「膜タンパク質」であり,P1タンパク質をマイコプラズマ・ニューモニエから抽出するには細胞膜を溶解する必要がある。しかし,細胞膜を溶解しP1タンパク質の構造を保ちつつ検体抽出液中に抽出する技術は,本件取消決定で引用した引用例3の【0045】や,そこで引用されている乙11(特開平02-036193号公報)の記載から,本件特許の出願当時には一般に知られていた技術であったといえる。また,原告が主張するとおり,P1タンパク質は,マイコプラズマ・ニューモニエが人体に付着するために必要な細胞接着タンパク質であり,菌体の外側に存在するものであるところ,この細胞接着タンパク質は他の「膜タンパク質」と違い,マイコプラズマ・ニューモニエを人体に付着させるために,多くの部分が細胞膜の外に突出している。この細胞膜より突出した部分のエピトープに結合する抗体を用いることにより,細胞膜を溶解しP1タンパク質を抽出することなく,マイコプラズマ・ニューモニエを検出することができる。
したがって,P1タンパク質が「膜タンパク質」であることが,「エピトープと抗体との結合を妨げるもの」になるとはいえない。
なお,仮に原告が主張するとおり,イムノクロマトグラフィーによるP1タンパク質の検出において,P1タンパク質の構造を保ちつつ検体抽出液中に抽出するために,界面活性剤の濃度を調整する等の何らかの工夫が必要であったとしても,
本件特許発明において,
マイコプラズマ・
ニューモニエの検出のためにそのような工夫が必要とされる点は特定されておらず,
本件明細書においてもそのような工夫は記載されていない。

臨床検体と非臨床検体との差異(原告主張の上記②の点)に関し引用例1の実施例4には,
抗rCARDSポリクローナル抗体を用いて,
精製タンパク質を試料として,検出限界が0.2~2.0ng/mlで検出が可能であることが示されている。この実施例4は,原告が主張するように,
臨床検体を検出したものではないが,
この結果からは,
検体中に0.
2~2.0ng/ml程度の濃度でrCARDSタンパク質が含まれていれば,イムノクロマトグラフィーデバイスにより検出が可能であることを示すものといえる。
そして,原告も認めるように引用例1の実施例7では,患者サンプルを使用してイムノクロマトグラフィー法より感度が高い抗原捕捉EIAを用いてM・ニューモニエの検出を試みた結果,M・ニューモニエ感染患者からの9検体中の1検体と,M・ニューモニエ非感染の18検体とから,バックグラウンドを超えるシグナルが得られたという結果が記載されている。原告は,この結果より,M・ニューモニエの正確な検出に失敗している旨主張しているが,引用例1では,これらの結果から,「CARDSの抗原の捕捉検出が検体中のM・ニューモニエの存在を特異的に検出する手段であると示唆している」(引用例1【00112】)と記載されていること,
実施例7には,
実際のデータがなく,
何を検出しているものであるか,
【00111】の記載から明らかではないこと,実施例7のバックグラウンド以上のEIAシグナルがM・ニューモニエ非感染のものを検出しているとすれば,
M・ニューモニエ感染患者からの9検体中1検体のみからM・
ニューモニエ非感染のものが検出され,M・ニューモニエ非感染の18検体からは全ての検体からM・ニューモニエ非感染のものが検出されているという結果は,上記「CARDSの抗原の捕捉検出が検体中のM・ニューモニエの存在を特異的に検出する手段であると示唆している」との記載と整合的に理解できることからすれば,むしろ,当業者であれば,実施例7の結果が患者サンプルから,M・ニューモニエの存在を特異的に検出しているものであると理解することができる。
補足するに,引用例1の実施例7では,抗原捕捉EIAについては,どのような方法で検出を行っているかその具体的方法(検出方法)が記載されていないが,一般に,検出方法には抗原の量が多くなるとシグナルも大きくなる「サンドイッチ法」と,シグナルが小さくなる「競合法」とが存するところ,実施例7の検出方法がこのうちの後者(競合法)であったと仮定すると,27検体中エラーは1検体のみで,残りの96.3%が成功したことになり,
このことは,
上記
【00112】
の記載とも矛盾しない。
そうすると,抗原捕捉EIAは競合法で検出されたものであり,実施例7の結果は,96.3%成功したことを示すものであると解釈するのが相当である。
さらにいえば,本件取消決定において引用された引用例2ないし4に見られるように,マイコプラズマ・ニューモニエ感染検出用として有効なマイコプラズマ・ニューモニエ由来のP1タンパク質抗原に対して特異的なモノクローナル抗体を用いてELISA法により患者サンプルによるマイコプラズマ・ニューモニエの感染の判定を行えることが引用例1の頒布時に既に周知であったことに鑑みれば,
上記の記載
(引用例1
【00111】
の記載)に接した当業者であれば,サンプルに存在する検出対象の濃度を向上させるか,検出感度を向上させることで,マイコプラズマ・ニューモニエの感染の有無が検出可能となるであろうことは十分理解できることでもある。
そして,本件取消決定において摘記した(引1d)の記載(引用例1の【0062】)によれば,引用例1には,「(e)担体である膜上の捕捉部分に局在する,M・ニューモニエのP1ポリペプチドエピトープ対して特異的な第1の抗体にコンジェゲートした金コロイド標識によるシグナルが生じることは,患者サンプル中にM・ニューモニエが存在することを意味し,」との記載が存在するのであるから,当該記載に接した当業者であれば,
本件取消決定が引用発明1について認定したように,
「患者サンプル」
を用いてM・ニューモニエを検出することができるであろうと把握するものというべきである。
そして,上記のとおり,サンプルに存在する検出対象の濃度を向上させるか,検出感度を向上させることで,M・ニューモニエの感染の有無が検出可能となるであろうことは十分理解できることであるから,検体の濃度を高くするなどすることでイムノクロマトグラフィー法においても「患者サンプル」を用いたM・ニューモニエの感染の有無を検出できるであろうことは,当業者において明らかである。
以上のとおり,引用例1には,「患者サンプル」を用いてM・ニューモニエの感染を検出できることが記載されているといえるし,そうでないとしても少なくとも示唆されているといえる。
以上のとおりであるから,
本件取消決定が,
引用発明1の構成(e)におい
て「患者サンプル」を用いて検出を行うと認定したことに誤りはない。ウ
モノクローナル抗体とポリクローナル抗体との差異(原告主張の上記③の点)に関し
原告は,モノクローナル抗体をイムノクロマトグラフィー法に用いる場合には,第1抗体と第2抗体は異なる抗体としなければならないところ,引用発明1は,引用例1の【0068】の,「M・ニューモニエのポリペプチドエピトープに特異的な第1及び第2の抗体,抗体断片,または作用物質は同じものとすることも異なるものとすることもできる。」との記載より,
二つの抗体は同じ抗体とすることを明示的に許容していることから,ポリクローナル抗体のみの使用を前提としている旨主張している。しかしながら,引用例1の【0068】は,「…異なるものとすることもできる。」とも記載しているのであるから,当該記載から,二つの抗体を異ならせることも同様に明示的に許容していると解される。
そして,イムノクロマトグラフィー法において,第1の抗体と第2の抗体のいずれもモノクローナル抗体とすることは,乙2(国際公開第2011/068189号公報)の【0067】ないし【0069】や,乙3(特開2007-315883号公報)の【0052】ないし【0054】に記載されているように本件特許の出願前に既に常套手段であったことからすれば,当該記載に接した当業者であれば,第1抗体及び第2抗体としてモノクローナル抗体を用いることについても記載されていると把握できることは明らかである。
原告の主張,すなわち,「同じものとすることも異なるものとすることもできる。」との記載から,「同じものとすることもできる」という記載のみを殊更強調してポリクローナル抗体のみの使用を前提とするものであるとする主張は,「異なるものとすることもできる」という記載を恣意的に無視している点で失当である。
さらに,原告は,本件取消決定が引用例1について摘記した(引1p,【0096】)の「標準的なプロトコル」を用いた結果に関する記載は,明らかにウサギについての記載であって,マウスについての記載ではないこと,引用例1では,ウサギからモノクローナル抗体ではなく,「ポリクローナル抗体」
を取得しているのであるから,
本件取消決定が,
「マウス」
に対して標準的なプロトコルを用いただけでM・ニューモニエタンパク質P1に対する「モノクローナル抗体」が得られたと認定したことは誤りであることを主張している。
なお,本件取消決定においては,摘記した(引1p)についての訳文を「…マウスのサンプル,
モノクローナル抗標準P1蛋白質が得られた。
…」
と記載しているが,ここでの「モノクローナル抗標準P1蛋白質」は,正しくは
「モノクローナル抗真性P1蛋白質」
と訳すべきである。
すなわち,
ここでの訳文は,乙1の翻訳文の【0096】に記載したように,「マウスのモノクローナル抗真性P1タンパク質抗体サンプルを取得した」と訳すべきものである。
しかしながら,そのように訳すべきものであったとしても,既に述べたとおり,引用例1には,モノクローナル抗体を用いることについて記載されている以上,本件取消決定の引用発明1の認定に影響を与えるものではない。
しかも,引用例1の【0042】において,マウスを用いたヒトモノクローナル抗体の生成方法が記載されていることからすれば,引用例1において,「マウス」に対して標準的なプロトコルを用いただけでM・ニューモニエタンパク質P1に対する「モノクローナル抗体」が得られることが理解できるし,また,マウスを用いてモノクローナル抗体を得ることについては,乙4(特開2010-154859号公報)の【0067】の「…2つのマウスモノクローナル抗体(AC1およびAB12)を,標準的なプロトコル
(Fazekasら,
J.
Immunol.
Methods

3
5(1981),1-21)に従い作製した。…」との記載や,乙5(特表2011-503219号公報)の【0134】の「…3日後,モノクローナル抗体作成のための標準的なプロトコルに従い,マウスを屠殺し,脾細胞を骨髄腫系P3X63Ag8.653と融合させた。ハイブリドーマ上清のスクリーニングを,標準的なELISAアッセイにおいて,96穴プレートに吸着したカップリングしていない31-N-hXCR1ペプチドを使用して実施した。…」などの記載より,引用例1の頒布時において既に周知であることからも,本件取消決定が引用例1において,「マウス」に対して標準的なプロトコルを用いただけでM・ニューモニエタンパク質P1に対する「モノクローナル抗体」が得られたことが記載されている旨認定したことには誤りはない。
なお,原告は,引用例1の【0096】で指摘される図7の説明【0012】には,モノクローナル抗体として市販のH136E7の1種類しか記載されていないから,モノクローナル抗体を用いることについて十分な技術情報の開示があるとは到底いえない旨主張しているが,
引用例1には,
二つの抗体を異ならせるものとすることを明示的に許容していると解されることから第1の抗体と第2の抗体のいずれもモノクローナル抗体とすることが記載されているといえることは上述したとおりである。
さらにいえば,たとえ引用例1の【0012】において開示している抗P1モノクローナル抗体がH136E7の一つのみであったとしても,引用例1には,P1タンパク質のエピトープの配列が配列番号8ないし10として複数記載されており,そのようなエピトープが開示されていれば,その情報に基づいてモノクローナル抗体を生成することは,【0042】に記載されている手法や,乙4及び乙5に記載されているようなマウスを用いた標準的なハイブリドーマ技術によって当業者が容易になし得ることである。
その上,抗P1モノクローナル抗体は,本件取消決定において引用された引用例2ないし4にも開示されているように,引用例1の頒布時において従来周知のものである。
してみると,引用例1には,抗P1モノクローナル抗体について十分な技術的情報が開示されているといえる。
(2)一致点及び相違点の認定について
前記(1)のとおり,
引用発明1を,
P1タンパク質に特異的なモノクローナ
ル抗体を用いて,患者サンプル(臨床検体)からマイコプラズマ・ニューモニエを検出することができるとする本件取消決定の認定に誤りがない以上,一致点及び相違点の認定についても誤りはない。
2
取消事由2(相違点についての判断の誤り)について

(原告の主張)
本件取消決定は,当業者にはより親和性の高い抗体を選択しようとする動機付けが認められるから,本件相違点が存在しても,当業者は容易に本件特許発明に到達することができたとして,進歩性を否定した。
しかしながら,本件特許発明に至るには,以下の阻害事由があるため,当業者が容易に到達することができたとはいえない。
(1)引用例1には示唆がないこと
前記のとおり,引用例1には,ポリクローナル抗体を検出に用いる旨の記載があるのみで,本件特許発明が開示するモノクローナル抗体を用いることを開示した記載はない。むしろ,引用例1には,人体から採取した検体では全て検出に失敗した旨の記載があり,このことは,本件特許発明の完成が困難であったことを裏付ける。
(2)抗体の親和性が高いだけでは不十分であること
抗体の親和性が高いだけでは,イムノクロマトグラフィー法に適しない抗体も存在するため,親和性の高い抗体を選択することによって,本件特許発明に到達することが容易であったとはいえない。したがって,親和性の高い抗体を選別することが可能であったことが,直ちにイムノクロマトグラフィー法に適用できる抗体を選択することには結び付かない。
(被告の主張)
(1)引用例1には示唆がないとの指摘に対し
前記のとおり,引用例1には,モノクローナル抗体について十分な技術情報が記載されており,そのようなモノクローナル抗体を,イムノクロマトグラフィーデバイスを用いた検出に用いる旨の記載がある。
また,前記のとおり,引用例1には,「患者サンプル」を用いてM・ニューモニエの感染を検出できることが記載されているといえるし,そうでないとしても少なくとも示唆されているといえる。なお,引用例1の【00112】の「全体として,これらのデータは,CARDSのZwittergen抽出および抗原の捕捉検出が検体中のM・ニューモニエの存在を特異的に検出する手段であると示唆している。」との記載より,当業者であれば,引用例1の記載から,サンプルに存在する検出対象の濃度を向上させるか,検出感度を向上させることで,M・ニューモニエの感染の有無が検出可能となるであろうことは十分理解できるから,当該記載を理由に,引用例1が本件特許発明の完成が困難であったことを裏付けているものであるとする点も失当である。
(2)抗体の親和性が高いだけでは不十分であるとの指摘に対し
本件特許発明は,マイコプラズマ・ニューモニエ由来のP1タンパク質抗原に対して特異的なモノクローナル抗体を用いたイムノクロマトグラフィー試験デバイスを使用することにより,
従来困難とされていたマイコプラズマ

ニューモニエ感染の有無を検査可能とした発明と評価されるにすぎず,本件特許発明1ないし8において,それ以外の特定の条件,例えば,マイコプラズマ・ニューモニエ由来のP1タンパク質抗原に対して特異的なモノクローナル抗体が特定の抗体に限られるとか,該抗体をイムノクロマトグラフィー試験デバイスに適用するために該試験デバイスに付加される特別な構成も特定されていない。
また,本件明細書の発明の詳細な説明において,マイコプラズマ・ニューモニエ由来のP1タンパク質抗原に対して特異的なモノクローナル抗体として,第1及び第2の抗体ともに,「抗マイコプラズマ・ニューモニエP1タンパク質モノクローナル抗体(セントラルリサーチ社製)」を使用した実施例があるのみで,イムノクロマトグラフィー試験デバイスに適用可能な抗体として,特定のものが開示されていない。
さらに,イムノクロマトグラフィー法に適用できる抗体を選択するためには,抗原に対する抗体の親和性の高さ以外の条件が必要であるとしても,そのような条件は,本件明細書には開示されていない。
以上のことからすれば,仮に,本件特許発明において用いられるマイコプラズマ・ニューモニエ由来のP1タンパク質抗原に対して特異的なモノクローナル抗体の全てがイムノクロマトグラフィー試験デバイスに適用できるというわけではない場合は,当該技術分野において一般的に行われている方法により,イムノクロマトグラフィー試験デバイスに使用可能な抗体をマイコプラズマ・ニューモニエ由来のP1タンパク質抗原に対して特異的なモノクローナル抗体の中から選択すれば足りるというべきであるし,イムノクロマトグラフィー試験デバイスに適用可能な抗体として適するのは,感度の高い抗体であることは明らかであるから,マイコプラズマ・ニューモニエ由来のP1タンパク質抗原に対して親和性の高い抗体を選択することも,当業者であれば当然想起し得る程度のことにすぎない。
そして,引用発明1も本件特許発明同様,イムノクロマトグラフィー試験デバイスにM・ニューモニエ由来のP1タンパク質抗原に対して特異的なモノクローナル抗体を適用したものであると把握することができ,また,引用例1に記載されたM・ニューモニエ由来のCARDSタンパク質抗原に対して特異的なモノクローナル抗体での実験結果から,検体に含有される抗原濃度を向上させたり,感度の高い抗体,すなわち抗原に対しより親和性の高い抗体を用いたりすることで,イムノクロマトグラフィー試験デバイスによる検出ができるであろうことは十分理解できることであるから,本件特許発明の構成は,そのような示唆に基づいて,当業者であれば容易に想到できたことである。
以上のとおりであるから,本件取消決定において,当業者にはより親和性が高い抗体を選択しようとする動機付けが認められるから,本件相違点が存在しても,当業者は容易に本件特許発明に到達することができたとした点に誤りはない。
3
取消事由3(顕著な作用効果に関する認定の誤り)について

(原告の主張)
(1)本件特許発明の顕著な作用効果は,イムノクロマトグラフィー法により,簡便かつ迅速にマイコプラズマ・ニューモニエの検出を実現した点である。すなわち,P1タンパク質は感染成立のために必須であるが,マイコプラズマ・ジェニタリウムにも存在するタンパク質であるため,
マイコプラズマ・
ジェニタリウムに感染していれば,陽性反応が起こってしまうという非特異反応が生じやすい。精密な検査方法としては,従来からPCR法が存在するが,こちらは操作が煩雑(特殊な設備と専門知識を有する技術者による操作が必要)で,測定にも数時間を要するといった難点がある。本件特許発明では,上記のようなP1タンパク質の特殊性にもかかわらず,簡易なイムノクロマトグラフィー法でありながら,PCR法にも匹敵する精度で測定を可能とした点に技術的意義が認められる。
また,マイコプラズマ・ニューモニエのイムノクロマトグラフィーによる検出キットは,長年小児科医から求められており,本件特許発明によってようやく実現したものである。
そして,
本件特許発明にかかるマイコプラズマ・
ニューモニエP1タンパク質のイムノクロマトグラフィーデバイスが発売されると,初年で約3億円の売上げとなるヒット商品となった。これらの事情も,本件特許発明が,待望されながら長年実現することができなかった優れた技術であることを裏付ける。本件特許発明が,望まれながら長期間にわたって開発できなかったこと及び経済的に成功したという事実は,当業者であっても容易には本件特許発明に想到できず,進歩性があることを示唆する証左である。
(2)本件取消決定は,本件特許請求の範囲に「検出感度の向上」を導けるような特定事項についての記載がないこと,また,本件明細書の【0063】ないし【0068】に記載の実施例では,患者が「感染初期」のケースかは不明であること等から,「(c)感染初期の検出が困難とされていたマイコプラズマ・ニューモニエ感染においても,医療現場で簡便に使用でき,迅速な測定が可能になること。」という作用効果は認められないと判断したが,相当でない。
すなわち,マイコプラズマ・ニューモニエの感染の有無を検査する方法としては,従来から,血清抗体価を測定する方法が存在したが,かかる抗体検査では,
抗原抗体反応により血清抗体価が上昇するまでに一定の日数を要し,感染初期段階での診断は困難であった。本件特許発明は,抗体ではなく,抗原を検出することで,かかる抗体検査と比較してより早期に,感染初期の段階でマイコプラズマ・ニューモニエの検出を実現したという点でも,際立った作用効果を発揮している。
したがって,「感染初期の検出」をすることが可能になった点も,本件特許発明の顕著な作用効果の一つとして認められるべきであり(甲23・小児科臨床66巻10号2114頁〔130頁〕表11参照),この点に関しても本件取消決定の認定判断には誤りがある。
(被告の主張)
(1)そもそもイムノクロマトグラフィー法は,簡便かつ迅速に検査を行うための方法であるところ,引用発明1もイムノクロマトグラフィーデバイスを使用するものであるから,簡易かつ迅速に検出を実現したとの点は,引用発明1においても必然的に奏される効果であるといえるし,少なくとも,引用発明1のデバイスにおいて抗P1モノクローナル抗体を用いることでマイコプラズマ・ニューモニエの感染の検査を実現することが容易になし得るのであるから,原告主張の効果は,引用発明1における検査の実現により予測できる効果である。
また,PCR法にも匹敵する精度で測定を可能としたとの点についても,原告の主張は,本件明細書の【0067】の表1の結果を根拠とするものであるところ,表1は第1及び第2の抗体共に抗マイコプラズマ・ニューモニエP1タンパク質モノクローナル抗体(セントラルリサーチ株式会社製)を使用したもののみの結果であるから,全ての抗マイコプラズマ・ニューモニエP1タンパク質モノクローナル抗体を用いる場合においても同様の結果を奏するものということはできない。したがって,原告主張の効果は,抗マイコプラズマ・ニューモニエP1タンパク質モノクローナル抗体に関して何ら限定のない本件特許発明の効果として認めることができない。
望まれながら長期にわたって開発できなかったことについても,本件特許発明によるものとはいえないし,経済的に成功したという事実は,進歩性の判断に直接影響するものではない。
(2)血清抗体価を測定する方法と比較してより早期に,感染初期の段階でマイコプラズマ・ニューモニエの検出を実現したという点についても,原告が主張する「より早期に」が,より迅速に検出できるということであれば,迅速に検出できるという効果はイムノクロマトグラフィー法による効果であるから,「感染初期の検出」をすることが可能となったという効果も,引用例1より容易に予測できる効果である。
また,「より早期に」が,検体の中で感染よりあまり時間が経っていないものを指しているのであれば,本件取消決定において指摘したとおり,本件特許請求の範囲に「検出感度の向上」を導けるような特定事項について記載がないこと,また,本件明細書の【0063】ないし【0068】に記載の実施例では,
患者が
「感染初期」
のケースであるかは不明であること等から,
「感染初期の検出」をすることが可能となったという作用効果は,本件明細書の記載からは,本件特許発明の効果と認めることができない。
第4
1
当裁判所の判断
本件特許発明について
(1)本件明細書には,おおむね次の記載がある(甲2)。

技術分野
【0001】本発明は,マイコプラズマ・ニューモニエ(Mycoplasma

pneumoniae)の検出のためのイムノクロマトグラフィ

ーデバイスおよびキットに関する。

背景技術
【0002】細菌性の定型肺炎とは別に,胸部X線写真で肺湿潤像を呈する非細菌性肺炎(異型肺炎)の30~40%(流行時には60%)の原因は肺炎マイコプラズマである。ヒトから分離されるマイコプラズマは7種類あるが,病原性が明らかなものはマイコプラズマ・ニューモニエ(Mycoplasma

pneumoniae)である。…
【0005】マイコプラズマ・ニューモニエ感染の診断のために,以下に説明するような種々の手法が利用されている。
【0006】咽頭拭い液,喀痰などの検体の分離培養法は,確定診断に用いられているが,特殊な培地および長い日数(2~4週間)を要し,そして検査不能例が5~10%発生する。
【0007】マイコプラズマ・ニューモニエ感染で生じる抗体の検出法では,例えば,粒子凝集法(PA),赤血球凝集反応法(IHA),補体結合反応法(CF)などを利用して,血清抗体が検出されている。…酵素結合免疫測定法
(ELISA)
を用いたマイコプラズマ抗体IgM,
IgG,
IgAの検出法もある。
【0008】咽頭拭い液,喀痰などの検体中のマイコプラズマ・ニューモニエ核酸の遺伝子増幅技術を利用した検出法において,ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)による判定は,確定診断である分離培養法の結果と非常に相関している。しかし,PCRは,操作が複雑であり,特別な機器を必要とし,測定に数時間を要し,そして開業医レベルでは一般的ではない。また,PCRより簡便な手法として,LAMP法(Loop-Mediated

Isothermal

Amplification)の利用も報

告されている…。
【0009】ところで,マイコプラズマ・ニューモニエのP1タンパク質(接着タンパク質または168kdタンパク質としても知られる)に特異的なモノクローナル抗体…およびマイコプラズマ・ニューモニエのRibosomalProteinL7/L12タンパク質に対して特異的なモノクローナル抗体…が報告されている。また,マイコプラズマ・ニューモニエが産生するグリセロ型糖脂質抗原に対して特異的なモノクローナル抗体も報告されている…。
【0010】マイコプラズマ肺炎では,抗生剤選択のために,感染初期にマイコプラズマ・ニューモニエ感染の有無を判定したいという医療現場のニーズが高い。イムノクロマトグラフィー法は,操作が簡便であり,特別な装置は不要であり,
数十分以内での測定が可能である。
マイコプラズマ・
ニューモニエ感染においても,他の感染症と同じく,医療現場で簡便に使用できかつ迅速に抗原を測定可能なイムノクロマトグラフィーキットが求められているが,他の感染症に比べて抗原量が少ないため,その実現は困難であった。

発明が解決しようとする課題
【0012】本発明の目的は,簡便かつ迅速にマイコプラズマ・ニューモニエ感染を検出できるキットを提供することである。


課題を解決するための手段
【0013】本発明は,マイコプラズマ・ニューモニエ由来のタンパク質抗原に対して特異的な抗体を含む,マイコプラズマ・ニューモニエ検出用のイムノクロマトグラフィー試験デバイスを提供する。
【0014】1つの実施態様では,上記マイコプラズマ・ニューモニエ由来のタンパク質抗原は,マイコプラズマ・ニューモニエP1タンパク質である。
【0015】1つの実施態様では,上記イムノクロマトグラフィー試験デバイスは,上記マイコプラズマ・ニューモニエ由来のタンパク質抗原に対して特異的である第一の抗体および第二の抗体,ならびに膜担体を備え,該第一の抗体は,該膜担体に固定されて検出部位を構成し,該第二の抗体は,標識物質で標識されており,かつ該検出部位とは離れた位置に,該膜担体中を移動可能に配置されている。
【0016】1つの実施態様では,上記標識物質は,不溶性粒状物質である。
【0017】さらなる実施態様では,上記不溶性粒状物質は,着色合成高分子粒子または金属コロイド粒子である。
【0018】さらなる実施態様では,上記イムノクロマトグラフィー試験デバイスはマイコプラズマ・ニューモニエ感染診断用であり,生体由来材料またはその前処理物を検体とする。
【0019】さらなる実施態様では,上記生体由来材料は,咽頭拭い液または鼻腔吸引液である。
【0020】本発明はさらに,上記イムノクロマトグラフィー試験デバイスを備える,マイコプラズマ・ニューモニエ検出用キットを提供する。オ
発明の効果
【0021】本発明によれば,簡便かつ迅速にマイコプラズマ・ニューモニエを検出できるイムノクロマトグラフィー試験デバイスおよびキットが提供される。


発明を実施するための形態
【0022】(抗体)
本発明のマイコプラズマ・ニューモニエのイムノクロマトグラフィー試験デバイスおよび検出用キットにおける抗体として,マイコプラズマ・ニューモニエ由来のタンパク質抗原に対して特異的な抗体,例えば,マイコプラズマ・ニューモニエP1タンパク質に対して特異的な抗体(以下,単に「抗マイコプラズマ・ニューモニエP1タンパク質抗体」とも称する)が用いられる。マイコプラズマ・ニューモニエP1タンパク質は,マイコプラズマが生体細胞に接着するのに必要なタンパク質であり,接着因子とも称され,分子量168kdのタンパク質である。
【0023】マイコプラズマ・ニューモニエ由来のタンパク質抗原に対して特異的な抗体,例えば,抗マイコプラズマ・ニューモニエP1タンパク質抗体は,ポリクローナル抗体またはモノクローナル抗体のいずれでもよいが,モノクローナル抗体が好ましい。
【0025】マイコプラズマ・ニューモニエ由来のタンパク質抗原に対して特異的なモノクローナル抗体,例えば,抗マイコプラズマ・ニューモニエP1タンパク質モノクローナル抗体は,常法に従って作製したハイブリドーマから得ることができる。…
【0026】本明細書において,「抗体」とは,抗体,ならびに当該抗体と実質的に同等のマイコプラズマ・ニューモニエ由来のタンパク質抗原,例えば,マイコプラズマ・ニューモニエP1タンパク質に対する特異性を有する抗体フラグメントおよび改変抗体も含む。…
【0029】イムノクロマトグラフィー試験デバイスおよび検出キット)(
本明細書において,「イムノクロマトグラフィー試験デバイス」とは,検体が膜担体を毛管現象により移動(「展開」ともいう)するに際し,当該検体中の抗原,標識抗体,および当該膜担体上に固定された捕捉抗体の三者による抗原抗体反応による複合体が形成され,当該複合体の形成を標識を介して検出できるように構成されたデバイスをいう。本明細書において,「標識抗体」とは,上記標識物質で標識された抗体を意味し,「捕捉抗体」とは,膜担体上に固定されており,展開された当該検体中の抗原と標識抗体との複合体(「検体抗原-標識抗体複合体」)の抗原に結合することにより当該検体抗原-標識抗体複合体を捕捉する抗体を意味する。膜「
担体」とは,検体,検体抗原-標識抗体複合体,標識抗体などを毛管現象により移動させる(すなわち「展開させる」)膜をいう。
【0030】本発明の「イムノクロマトグラフィー試験デバイス」は,マイコプラズマニューモニエ由来のタンパク質抗原に対して特異的な抗体,・
例えば,抗マイコプラズマ・ニューモニエP1タンパク質抗体を含む。…【0031】本明細書において,「固定」とは,抗体が移動しないように配置されることを意味する。「担持」とは,抗体が移動可能に配置されることを意味する。
「標識抗体」は,標識物質で標識されたマイコプラズマ・
ニューモニエ由来のタンパク質抗原に対する抗体,例えば,抗マイコプラズマ・ニューモニエP1タンパク質抗体であり,そして「捕捉抗体」は,マイコプラズマ・ニューモニエ由来のタンパク質抗原に対する抗体,例えば,抗マイコプラズマ・ニューモニエP1タンパク質抗体であり,膜担体に固定されて該抗原を捕捉するための抗体である。
「標識抗体」
および
「捕
捉抗体」は,マイコプラズマ・ニューモニエ由来のタンパク質抗原に対して特異性の異なる抗体,例えば,別個の異なる抗マイコプラズマ・ニューモニエP1タンパク質抗体であることが好ましい。…以下の実施例1に,「標識抗体」および「捕捉抗体」として用いられる抗マイコプラズマ・ニューモニエP1タンパク質抗体の組み合わせの例を示すが,これらの抗体の組み合わせは逆でもよく,そしてこの組み合わせに限定されない。【0032】イムノクロマトグラフィー試験デバイスは,好ましくは,第一の抗体および第二の抗体,ならびに膜担体を備える。第一の抗体および第二の抗体はともに,マイコプラズマ・ニューモニエ由来のタンパク質抗原,例えば,マイコプラズマ・ニューモニエP1タンパク質に対して特異的であり,該第一の抗体は,該膜担体に固定されて検出部位を構成し,該第二の抗体は,標識物質で標識されており,かつ該検出部位とは離れた位置に,該膜担体中を移動可能に配置されている。第一の抗体および第二の抗体は,マイコプラズマ・ニューモニエ由来のタンパク質抗原に対して特異性の異なる抗体,例えば,別個の異なる抗マイコプラズマ・ニューモニエP1タンパク質抗体であることが好ましい。第一の抗体は,上記の「捕捉抗体」に対応し,
そして第二の抗体は,上記の「標識抗体」に対応する。
「検出部位」とは,膜担体上に固定された第一の抗体の捕捉抗体によって検体抗原-標識抗体複合体を捕捉し,抗原の存在を検出する部位をいう。【0034】第二の抗体(「標識抗体」)を担持している標識担持部材は,膜担体の検出部位よりも上流側に配置される。
標識担持部材と膜担体とは,
接触してもしなくてもよいが,標識担持部材中の下流側領域の下面と,膜担体中の検出部位よりも上流側にある領域(好ましくは端部)の上面とが接触していることが好ましい。検体添加部材は,標識担持部材の上流側に配置され,
好ましくは,
検体添加部材中の少なくとも下流側領域の下面が,
標識担持部材中の上流側の領域の上面と接触している。標識担持部材の一部が,検体添加部材の下面と膜担体の上流側の領域の上面との間に挟みこまれていることが好ましい。吸収部材は,膜担体の下流に配置され,吸収部材中の少なくとも上流側領域の下面が,膜担体中の検出部位よりも下流側にある領域の上面と接触するように配置される。
【0035】本明細書において,「上流側」および「下流側」とは,イムノクロマトグラフィー試験デバイスの長手方向について,検体を添加する側を上流側,検体が移動および展開していく(流れていく)側を下流側として考えた場合の相対的な方向を意味する。本明細書において,デバイスの検出面(すなわち,捕捉抗体を固定した面)を「上面」,そしてその反対側の面を「下面」という。
【0036】検体添加部材は,検体を受けて,検体をデバイス中に均一に分配する。検体添加部材の材質としては,コットン,グラスファイバー,多孔質ポリエチレン,多孔質ポリプロピレンなどの多孔質合成樹脂,セルロースファイバーなどが挙げられる。検体添加部材は,これらの材質からなる織布,不織布,濾紙,シート,フィルムなどであり得る。検体添加部材は,サンプルパッドとも称される。
【0037】標識担持部材は,乾燥状態で標識抗体を担持し,液体で浸潤すると標識抗体を放出する。標識担持部材の材質としては,グラスファイバー,セルロースファイバー,プラスチック(例えば,ポリエステル,ポリプロピレン,ポリエチレンなど)ファイバーなどが挙げられる。標識担持部材は,標識抗体を含む適切な緩衝液に標識担持部材を含浸させるか,または標識抗体を含む適切な緩衝液を標識担持部材に添加して乾燥することにより,標識抗体を担持させることができる。…
【0039】上述した標識物質で標識されたマイコプラズマ・ニューモニエ由来のタンパク質抗原に対して特異的な抗体,例えば,標識された抗マイコプラズマ・ニューモニエP1タンパク質抗体自体を,対照用標識物質として利用できる。この場合,対照用標識物質に結合可能な物質として,標識物質で標識されたマイコプラズマ・ニューモニエ由来のタンパク質抗原に対して特異的な抗体,例えば,標識された抗マイコプラズマ・ニューモニエP1タンパク質抗体と結合可能な抗体(抗ウサギIgG抗体,抗マウスIgG抗体など)を用いることができる。
【0040】デバイスに添加された液状の検体が(好ましくは,検体添加部材を介して)標識担持部材を浸潤すると,標識担持部材に担持されている標識抗体が放出され,検体にマイコプラズマ・ニューモニエ抗原(P1タンパク質)が含まれる場合,標識担持部材において,当該検体抗原と標識抗体とが抗原抗体反応により複合体(「検体抗原-標識抗体複合体」)を形成する。次いで,検体,検体抗原-標識抗体複合体,検体抗原と結合することなく遊離した標識抗体が,標識担持部材から膜担体の上流側に移動し,引き続き膜担体中を移動,すなわち,下流に向かって展開し得る。【0042】膜担体は,捕捉抗体が固定された検出部位を有する。膜担体は,検体が適切に展開されたか否かを確認するための,対照用標識物質に結合可能な物質が固定された対照部位をさらに有することが好ましい。対照用標識物質に結合可能な物質は,対照用標識物質について上述したとおりである。
【0043】検出部位および必要に応じて対照部位は,膜担体上に,展開方向を横断する方向で線状に設置され得る(それぞれ「テストライン」および「コントロールライン」とも称される)。膜担体上の検出部位および対照部位の位置は限定されないが,通常,対照部位が,検出部位よりも下流側に設置される。
【0045】検体,検体抗原-標識抗体複合体,対照用標識物質(好ましくは,検体抗原と結合していない標識抗体)などが膜担体の上流側に到達すると,これらを下流に展開させる。検出部位に固定された捕捉抗体が検体抗原-標識抗体複合体を捕捉し,標識を介する検出を可能にする。膜担体が対照部位を有する場合,検出部位を通過した標識(好ましくは,検体抗原と結合していない標識抗体)は,対照部位に固定された対照用標識物質に結合可能な物質によって捕捉される。
【0046】吸収部材は,イムノクロマトグラフィー試験デバイスにおいて,膜担体にて展開された検体を吸収する。吸収部材は,通常,膜担体中の検出部位よりも下流に存在する場合,対照部位よりも下流側の領域と重なるように,膜担体の上面と接触させて配置される。イムノクロマトグラフィー試験デバイスは,このような位置に吸収部材を備えることにより,検体の展開速度を速くすることができる。…
【0051】本発明のイムノクロマトグラフィー試験デバイスでは,必要に応じて前処理した液体状の検体を検体添加部材に滴下すると,標識担持部材を浸潤して標識抗体を放出し,検体と標識抗体との混合物を膜担体に移動させ,膜担体中にて検出部位に向けて展開させる。検体にマイコプラズマ・ニューモニエ抗原が含まれる場合,当該検体抗原と標識抗体とが検体抗原-標識抗体複合体を形成し,次いで,検出部位で抗原抗体反応により当該検体抗原-標識抗体複合体が捕捉抗体に捕捉され,集積して発色する。したがって,検出部位における呈色の度合いを目視で観察することができ,検体中の抗原の有無を判定することができる。また,膜担体が対照部位を有する場合,標識担持部材から放出された対照用標識物質が,対照部位の対照用標識物質に結合可能な物質に捕捉され,集積して発色する。標識抗体を対照用標識物質としてもまた用いる場合,標識担持部材において複合体を形成せずに残留する標識抗体は,検出部位を素通りし,下流の対照部位に固定された標識抗体に結合可能な物質に捕捉され,集積して発色する。
【0054】本発明のイムノクロマトグラフィー試験デバイスを用いて試験される検体は,マイコプラズマ・ニューモニエを含む可能性がある検体である。本発明のイムノクロマトグラフィー試験デバイスは,マイコプラズマ・ニューモニエ感染の診断用に用いることができ,検体としては,例えば,マイコプラズマ・ニューモニエの感染が疑われる被検体から採取された生体由来材料,および当該生体由来材料を前処理することにより得られる材料が挙げられる。
生体由来材料としては,
咽頭拭い液,
鼻腔拭い液,
鼻腔吸引液,鼻腔洗浄液,喀痰,肺胞洗浄液,直腸拭い液,…特に,咽頭拭い液,鼻腔拭い液,鼻腔吸引液,鼻腔洗浄液,喀痰などが好ましく,咽頭拭い液および鼻腔吸引液がさらに好ましい。…
【0056】
検体を採取するための器具としては,
綿棒,
スワブ,
白金耳,
スポイトまたはさじ形状の用具などを用いることができる。
特に人体から,
鼻腔ぬぐい液,鼻腔吸引液,咽頭ぬぐい液,肺胞洗浄液,喀痰などの検体を採取する場合は,
検体採取器具として,
綿棒,
スワブなどが用いられる。
【0057】検体の前処理として,マイコプラズマ・ニューモニエの感染が疑われる被検体から採取された検体を前処理用試薬に溶解し,イムノクロマトグラフィー試験デバイスに滴下するための液体を調製することが挙げられる。このような前処理により,検体を展開可能な液体とすることができる。本明細書では,この前処理用試薬を「検体抽出液」ともいう。検体抽出液は,通常,塩およびpHを一定に維持するための緩衝液を含み得る。
緩衝液としては,
免疫学的試験に通常使用される緩衝液が用いられ得,
トリス緩衝液,
リン酸緩衝液,
グッドの緩衝液などが挙げられる。
さらに,
検体抽出液には,特異的な凝集反応を阻害しない範囲で非特異反応を減じる目的で界面活性剤を含有させてもよい。界面活性剤としては,Triton

X-100(商品名):ポリエチレングリコールモノ-р-イソオ
クチルフェニルエーテル,Tween

20:ポリオキシエチレンソルビ

タンモノラウレート,Tween

80:ポリオキシエチレンソルビタン

モノオレエート,Nonidet

P-40:ノニデットP-40,ZW

ITTERGENT

3-14:…,CHAPS:3-〔(3-コラミド

プロピル)ジメチルアンモニオ〕プロパンスルホン酸…など,あるいはこれらを2種類以上混合したものが挙げられる。検体抽出液には,非特異反応を減じる目的でウシ血清アルブミン,イムノグロブリン,カゼインなどのタンパク質,ウサギやマウスなどの血清などを含有させてもよい。キ
実施例
【0060】
(実施例1:イムノクロマトグラフィー試験デバイスの作製)
(1-1.標識担持部材の調製)
抗マイコプラズマ・ニューモニエP1タンパク質モノクローナル抗体…を5mMリン酸緩衝液(pH7.4)で0.05mg/mLの濃度になるように希釈した。金コロイド懸濁液(…平均粒子径60nm)0.5mLに0.
1mLの50mMリン酸緩衝液
(pH7.
4)
を加えて混和した後,
上記希釈した抗マイコプラズマ・ニューモニエP1タンパク質モノクローナル抗体溶液0.1mLをさらに加え,室温にて10分間静置した。静置後の溶液に,10mMリン酸緩衝液で希釈した10質量%のウシ血清アルブミン(BSA)溶液0.1mLを加え,十分撹絆した後,8000×gにて15分間遠心分離した。上清を除去した後,残渣にpH7.4の10mMリン酸緩衝液を1mL加え,超音波破砕機を用いてコロイド状物をよく分散させた後,8000×gにて15分間遠心分離した。再度,上清を除去し,残渣にpH7.4の10mMリン酸緩衝液を加えて超音波破砕機にてよく分散させ,標識抗体溶液とした。この標識抗体溶液を幅16mm×長さ100mmのグラスファイバー製パッド…に均一に添加した後,真空乾燥機にて乾燥させ,標識担持部材を得た。
【0061】(1-2.検出部位および対照部位を備えたニトロセルロース膜担体の調製)
上記1-1の標識抗体溶液の作製に用いたものとは異なる抗マイコプラズマ・ニューモニエP1タンパク質モノクローナル抗体…を,5質量%のイソプロピルアルコールを含むリン酸緩衝液(pH7.4)で1.3mg/mLの濃度になるように希釈し,検出部位固定用抗体溶液として調製した。この検出部位固定用抗体溶液を,長さ25cm×幅2.5cmのニトロセルロース膜…の長軸側の一端(この端を展開方向の上流側端,反対側を下流側端とする)から1cm離れた位置に,…1μL/cmの塗布量で線状に塗布した。さらに,ニトロセルロース膜の上流側端から1.5cm離れた位置に,抗マウスIgG抗体を1mg/mLの濃度になるように希釈した対照部位固定用抗体溶液を,…1μL/cmの塗布量で線状に塗布した。塗布後,42℃にて60分間乾燥させ,検出部位および対照部位を備えたニトロセルロース膜担体を得た。
【0062】(1-3.イムノクロマトグラフィー試験デバイスの作製)上記1-2のニトロセルロース膜担体の抗体塗布面(この面を上面とする)の反対側(この面を下面とする)に,プラスチック製バッキングシートを接着した。次いで,上記1-1の標識担持部材を上記ニトロセルロース膜の上面に,ニトロセルロース膜の上流側端が2mm重なるように配置して貼り付け,さらに幅5mm×長さ23mmのグラスファイバー製サンプルパッド…を,標識担持部材の上面に2mm重なるように配置して貼り付けた。さらに,幅5mm×長さ25mmの吸収パッド…を,上記ニトロセルロース膜担体の上面に,ニトロセルロース膜担体の下流側端が15mm重なるように貼り付けた。最後に,長軸方向に沿って5mmずつ切断し,イムノクロマトグラフィー試験デバイスを得た。
【0063】(実施例2:鼻腔吸引液検体からのマイコプラズマ・ニューモニエの検出)
臨床的にマイコプラズマ・ニューモニエの感染が疑われる患者から,常法どおりに鼻腔吸引液を採取した。採取した鼻腔吸引液各検体の一部を,本イムノクロマトグラフィー試験具を用いるマイコプラズマ・ニューモニエの検出(「イムノクロマト判定」)に用いた。
【0064】滅菌した綿棒を鼻腔吸引液に浸漬した後に引き上げ,チューブ内に分注した検体抽出液に浸し,攪拌した。チューブの外部から綿棒を摘み,数回しごいて検体をよく搾り出した後,綿棒を取り出した。これにより,検体が調製された。次いで,チューブに付属のフィルターメンブレン付きノズルキャップを装着した。チューブの中ほどを摘み,実施例1のイムノクロマトグラフィー試験デバイスに,液状検体3滴(120μL)を滴下にて添加し,15分間静置し,その後,判定を行った。なお,上記綿棒および検体抽出液は,アデノウイルスの検査キット「プライムチェック
アデノ」
(アルフレッサファーマ株式会社製)
に付属のものを用いた。

また,チューブおよびフィルター付きノズルキャップは,インフルエンザAおよびBの検査キット「チェックFlu

A・B」(アルフレッサファ

ーマ株式会社製)に付属のものを用いた。
【0065】判定は,対照部位に赤紫色の発色が認められた場合を有効とし,
さらに検出部位にも赤紫色の発色が認められた場合を陽性と判定した。対照部位に赤紫色の発色が認められたが,検出部位に発色が認められなかった場合を陰性と判定した。結果を表1に示す。
【0066】同じ患者の鼻腔吸引液各検体の別の一部を,PCR判定のための検体として用いた。…PCR判定の結果を併せて,表1に示す。【0067】
【表1】

【0068】表1に示されるように,いずれの検体においても,イムノクロマト判定とPCR判定との結果が一致していた。
【0069】(実施例3:咽頭拭い液検体からのマイコプラズマ・ニューモニエの検出)
臨床的にマイコプラズマ・ニューモニエの感染が疑われる患者から,滅菌した綿棒を用いて,常法どおりに咽頭拭い液を採取した。これ以外は,実施例2と同様にして,イムノクロマト判定およびPCR判定を行った。結果を表2に示す。
【0070】
【表2】

【0071】表2に示されるように,いずれの検体においても,イムノクロマト判定とPCR判定との結果が一致していた。
【0072】(実施例4:マイコプラズマ・ニューモニエを含む種々の微生物との反応性の検討)
マイコプラズマニューモニエを含む種々の微生物の菌体を107CFU・
/mL濃度になるように検体抽出液で希釈して,菌体液を調製した。実施例1のイムノクロマトグラフィー試験デバイスに,菌体液3滴(120μL)を滴下にて添加し,15分間静置し,その後,判定を行った。また陰性コントロールとして,
検体抽出液を同様の操作で滴下し,
判定を行った。
なお,
検体抽出液は,
アデノウイルスの検査キット
「プライムチェック


デノ」(アルフレッサファーマ株式会社製)に付属のものを用いた。結果を表3に示す。
【0073】
【表3】
【0074】表3に示されるように,マイコプラズマ・ニューモニエの菌体液はイムノクロマト判定で陽性の結果となった。マイコプラズマ・ニューモニエ以外の微生物の菌体液および検体抽出液はいずれもイムノクロマト判定で陰性との結果となった。
【0075】(比較例1:マイコプラズマ・ニューモニエ由来の糖脂質抗原に特異的な抗体を用いたイムノクロマトグラフィー試験デバイスの作製)標識抗体溶液の調製のための抗体として,抗マイコプラズマ・ニューモニエGlycolipidモノクローナル抗体…,そして検出部位固定用抗体溶液の調製のための抗体として,標識抗体溶液の調製に用いた抗体とは異なる抗マイコプラズマ・ニューモニエGlycolipidモノクローナル抗体…を用いたこと以外は,実施例1に記載の手順に従い,イムノクロマトグラフィー試験デバイスを作製した。
【0076】(実施例5:マイコプラズマ・ニューモニエの検出における抗P1タンパク質抗体イムノクロマトグラフィー試験デバイスおよび抗Glycolipid抗体イムノクロマトグラフィー試験デバイスの反応性の検討)
マイコプラズマ・ニューモニエ抗原…を10μg/mL濃度になるように検体抽出液で希釈し,試験液を調製した。実施例1の抗P1タンパク質抗体イムノクロマトグラフィー試験デバイスに,
試験液3滴
(120μL)
を滴下にて添加し,15分間静置し,その後,判定を行った。また陰性コントロールとして,検体抽出液を同様の操作で滴下し,判定を行った。比較例1の抗Glycolipid抗体イムノクロマトグラフィー試験デバイスに対しても,同様の操作を行った。検体抽出液には,アデノウイルスの検査キット「プライムチェック

アデノ」(アルフレッサファーマ株式

会社製)に付属のものを用いた。結果を表4に示す。
【0077】
【表4】

【0078】表4に示されるように,実施例1の抗P1タンパク質抗体イムノクロマトグラフィー試験デバイスを用いると,検体抽出液を陰性と判定したのに対し,試験液は陽性と判定した。一方,比較例1の抗Glycolipid抗体イムノクロマトグラフィー試験デバイスを用いると,試験液および検体抽出液ともに陰性と判定した。

産業上の利用可能性
【0079】本発明によれば,簡便かつ迅速にマイコプラズマ・ニューモニエを検出できるイムノクロマトグラフィー試験デバイスおよびキットが提供される。イムノクロマトグラフィー法は,操作が簡便であり,特別な装置は不要であり,数十分以内での迅速な測定が可能である。イムノクロマトグラフィー法を応用したマイコプラズマ・ニューモニエ検出を可能とすることにより,感染初期の検出が困難とされていたマイコプラズマ・ニューモニエ感染においても,医療現場で簡便に使用でき,迅速な測定が可能になる。

(2)上記記載によれば,本件特許発明について,次の事項が認められる。本件特許発明は,マイコプラズマ・ニューモニエ(Mycoplasmapneumoniae)の検出のためのイムノクロマトグラフィーデバイス及びキットに関する(【0001】)。
マイコプラズマ肺炎では,抗生剤選択のために,感染初期にマイコプラズマ・ニューモニエ感染の有無を判定したいという医療現場のニーズが高い。イムノクロマトグラフィー法は,操作が簡便であり,特別な装置は不要であり,数十分以内での測定が可能である。マイコプラズマ・ニューモニエ感染においても,他の感染症と同じく,医療現場で簡便に使用できかつ迅速に抗原を測定可能なイムノクロマトグラフィーキットが求められているが,他の感染症に比べて抗原量が少ないため,
その実現は困難であった【0010】。


本件特許発明は,マイコプラズマ・ニューモニエ由来のタンパク質抗原に対して特異的な抗体を含む,マイコプラズマ・ニューモニエ検出用のイムノクロマトグラフィー試験デバイスを提供する(【0013】)。
一つの実施態様では,上記マイコプラズマ・ニューモニエ由来のタンパク質抗原は,マイコプラズマ・ニューモニエP1タンパク質であり,上記イムノクロマトグラフィー試験デバイスは,上記マイコプラズマ・ニューモニエ由来のタンパク質抗原に対して特異的である第一の抗体及び第二の抗体,並びに膜担体を備え,該第一の抗体は,該膜担体に固定されて検出部位を構成し,該第二の抗体は,標識物質で標識されており,かつ該検出部位とは離れた位置に,該膜担体中を移動可能に配置されている(【0014】,【0015】)。
さらなる実施態様では,上記イムノクロマトグラフィー試験デバイスはマイコプラズマ・ニューモニエ感染診断用であり,咽頭拭い液又は鼻腔吸引液などの生体由来材料又はその前処理物を検体とする(【0018】,【0019】)。
2
引用例1の記載事項について
引用例1には,おおむね次の記載がある(甲4,乙1。原文は英文。和訳は基本的に被告提出の訳文によるが,適宜修正を加えている。)。
(1)背景
【0002】マイコプラズマ・ニューモニエ(Mycoplasma
pn

eumoniae)は,気道粘膜の繊毛上皮細胞に付着してこれを破壊する細胞外病原体である。M・ニューモニエは,市中肺炎感染症の約20%~30%の原因となっていると考えられており,喘息および慢性閉塞性肺疾患に関与している。…
【0003】このような症状の原因となるM・ニューモニエ病原体の診断は困難であり,その診断は,通常,血清抗体価の急性期と回復期との比較に基づいている。急性期と比較し回復期の抗体価が4倍以上上昇した場合,その患者がこの微生物に感染したことが示される。従って,M・ニューモニエを検出する改良法が必要とされる。
(2)概要
【001】M・ニューモニエを検出するための組成物,方法およびデバイスを提供する。我々は,M・ニューモニエのエピトープに特異的に結合する能力を持つ抗体およびその他の物質を作り出すために利用し得るM・ニューモニエの新規エピトープを発見した。
このような抗体およびその他の複合物は,
標準化され,高感度および/または特異的なM・ニューモニエ検出のための様々な方法に組み込まれ得る。
(3)図面の簡単な説明
【0012】図7は,組換えP1(「rP1」)タンパク質断片の配列を示している(配列ID番号:7)。約165kDaのタンパク質であるP1の完全長配列は,
ジェンバンク
(GenBank)
受入番号AAK92039,
AAK92040,AAK92038,AAK92037,NP_109829およびAAB95661で見ることができる。ポリクローナル抗rP1ウサギ抗血清によって認識されるエピトープはイタリック体,モノクローナル抗体H136E7によって認識されるエピトープは太字で示す。本モノクローナル抗体は,
米国特許第4,
945,
041号およびKahaneら
(1
985年)IAI50:944に記載されている。二つのオーバーラップするペプチドのみが本モノクローナル抗体H136E7によって認識された。これらのペプチド間で共通の配列を下線付き太字で示す。
(4)詳細な説明
【0030】1.

M・ニューモニエのエピトープおよびM・ニューモニエ

のエピトープに結合する物質
【0031】M・ニューモニエ由来のタンパク質のエピトープを含んでいる単離されたおよび/または精製されたポリペプチドを提供する。このようなポリペプチドは,本願ではまとめて「M・ニューモニエのポリペプチドエピトープ」と称する。特定の実施形態においては,M・ニューモニエ由来のrCARDSタンパク質(配列ID番号:1)およびrP1タンパク質(配列ID番号:7)のエピトープを含んでいる単離されたおよび/または精製されたポリペプチドを提供する。例えば,rCARDSタンパク質のエピトープを含んでいるポリペプチドの配列は,配列ID番号:2~6であり,rP1タンパク質のエピトープを含んでいるポリペプチドの配列は,配列ID番号:8~10である。付加的なエピトープは,当業者に知られているエピトープ特定のための方法を用いるのみならず,その他のM・ニューモニエタンパク質に関する実施例において概説する手順を用いて特定され得る。…【0047】2.

M・ニューモニエを検出するためのM・ニューモニエの

エピトープに結合する物質を用いる方法
【0048】例えば,ある被験者に感染した可能性のあるM・ニューモニエ細菌を検出するためのM・ニューモニエのポリペプチドエピトープに特異的な1個以上の抗体,抗体断片,またはその他の物質の使用を含んでいる方法も提供する。これらの抗体,抗体断片,またはその他の物質は,溶解した細菌から調整されたサンプル中のM・ニューモニエタンパク質,または肺炎マイコブラズマ細菌上に存在するM・ニューモニエタンパク質に結合し得る。【0049】一つの実施形態において,M・ニューモニエ細菌の検出方法には,サンプル,好ましくはM・ニューモニエ細菌および/またはタンパク質を含むことが疑われる呼吸器系のサンプルの供給段階が含まれる。サンプルは,そのサンプル中のM・ニューモニエ細菌および/またはタンパク質の存在を確認するために,既知のあらゆる方法によって検査され得る。…例として,サンプルがM・ニューモニエ細菌および/またはタンパク質を含むことを確認するために,M・ニューモニエ細菌および/またはタンパク質が検出可能な一般的なイムノクロマトグラフィー検査デバイスを利用してもよい。【0050】特定の実施形態においては,サンプルは,スワブのような呼吸器系のサンプルとなり得る。スワブは,測定方法またはデバイスにおいて直接使用でき,または溶出緩衝液で洗浄し,その溶出液を測定方法またはデバイスにおいて使用することができる。
【0051】実施形態において,サンプルは咽頭スワブであるか,それから調整されたものである。サンプルは,以下のように咽頭スワブから調整され得る。咽頭スワブは,M・ニューモニエ感染に相応する呼吸器症状を示す患者から採取される。その後,咽頭スワブは,例えばBrij58,Zwittergen

3-14またはコール酸塩のような界面活性剤を含む緩衝液

中に置くことができる。好ましくは,界面活性剤を使用する場合は,Zwittergen

3-14が用いられる。適切な場合には,不溶性成分はサ

ンプルから除去でき,その上清が検査サンプルとして使用され得る。【0052】特定の実施形態において,サンプルは,M・ニューモニエ細菌から抽出されたM・ニューモニエタンパク質を含み得る。細菌の細胞溶解およびそれに続くタンパク質抽出の方法は,当該技術分野では周知である。【0053】一般的に,方法には,M・ニューモニエのポリペプチドエピトープに特異的な抗体,抗体断片またはその他の物質の供給が含まれ得る。それらの抗体,抗体断片または物質は,そのポリペプチドエピトープが由来するM・ニューモニエタンパク質上に存在するエピトープに結合し,検査されるサンプル中にこのエピトープが存在する場合,複合体を形成する。サンプルにこのエピトープが含まれない場合は,複合体は形成されない。【0055】方法には,さらに,潜在的に複合体を含むサンプルに,M・ニューモニエのポリペプチドエピトープに特異的な二次抗体,二次抗体断片またはその他の二次物質を接触させることが含まれ得る。二次抗体,二次抗体断片またはその他の二次物質は,M・ニューモニエのポリペプチドエピトープに特異的な第1の抗体,抗体断片またはその他の作用物質と同じものまたは異なるものとなり得る。第2の抗体または抗体断片または作用物質は,検出しやすいように標識を付してもよく,その標識は,検出可能なあらゆる適切な標識であり得る。例として,標識は,放射性標識,蛍光標識,コロイド標識,酵素標識,微粒子標識またはその存在または活性のいずれかによって容易に検出可能な分子であり得る。
【0056】方法には,さらに,第1の抗体-M・ニューモニエタンパク質または細菌-第2の抗体複合体の存在または非存在を検出することが含まれ得る。…例えば,サンプルは,一般的なイムノクロマトグラフィー検査デバイスによって検査され得る。
【0057】一つの実施形態において,方法は,(a)サンプルとM・ニューモニエのポリペプチドエピトープに特異的な第1の抗体,抗体断片または作用物質との接触であり,そのエピトープを含むM・ニューモニエタンパク質またはM・ニューモニエ細菌が当該サンプル中に存在する場合,第1の抗体,抗体断片またはその他の作用物質とそのエピトープを含むM・ニューモニエタンパク質またはM・ニューモニエ細菌から成る第1の複合体を形成する;(b)当該サンプルとM・ニューモニエのポリペプチドエピトープに特異的な第2の抗体,抗体断片または作用物質との接触であり,当該サンプルが第1の複合体を含む場合,第1の複合体とM・ニューモニエのポリペプチドエピトープに特異的な第2の抗体,抗体断片または作用物質から成る第2の複合体を形成する;そして(c)第2の複合体が形成されるかどうかの検出,を含む。
【0058】特定の実施形態において,M・ニューモニエタンパク質の検出は,以下の3種の特定の方法のいずれかによって達成される。(1)直接的な酵素免疫測定法(「EIA」),(2)ウェスタン・ブロット法,および(3)ラテラルフロー法。
【0059】例えば,直接的な酵素免疫測定法に関しては,M・ニューモニエのポリペプチドエピトープに特異的な第1の抗体,抗体断片またはその他の作用物質でEIAプレートの表面を覆い,洗浄後ブロッキングを行い,洗浄し得る。患者のサンプルをそのプレートに添加し,その後インキュベートし洗浄し得る。その後,レポーター・システムにコンジェゲートさせたM・ニューモニエのポリペプチドエピトープに特異的な二次抗体,二次抗体断片またはその他の二次物質を添加し,そのプレートをインキュベートし洗浄し得る。その後,レポーター・システムの基質を添加し,基質の反応を起こさせる。その後,その反応を停止させ,基質の反応の程度をプレート・リーダーまたはその他の適切なデバイスで読み取り得る。M・ニューモニエのポリペプチドエピトープの存在は,その有機体の非存在下で生じた反応より高いシグナルの発生によって示される。
【0061】上記の方法における使用のため,上記の方法の実施のためのキット及びデバイスもまた提供される。方法の実施のためのデバイスは,ラテラルフローデバイス(反応に用いられる試薬は,デバイス内に含まれるクロマトグラフィーの担体上に乾燥または固定化させ得る),検査ストリップ,または方法の実施のための他の担体を包含する。
【0062】ラテラルフロー法を組み入れる方法は,以下のとおり実施され得る。患者のサンプルは,ラテラルフローデバイスのサンプルパッドに添加され得る。サンプルパッドまたは他の構成要素は,界面活性剤Zwittergen

3-14などの抽出剤を含有することができる。デバイス内にお

いて,患者サンプルがコンジェゲートパッドに移動し,そこではM・ニューモニエのポリペプチドエピトープに特異的な抗体,抗体断片または他の物質が患者のサンプル中のM・ニューモニエのポリペプチドエピトープを含んでいるあらゆるタンパク質と反応する。抗体,抗体断片またはその他の作用物質は,乾燥形態でレポーター(例えば,金,ラテックス,またはその他の微粒子,またはその他のあらゆる種類のレポーター・システム)にコンジェゲートされている。患者のサンプルは本デバイスを移動していく。サンプル中にエピトープが存在する場合,
そのエピトープを含んでいるポリペプチドは,
膜に局在するM・ニューモニエのポリペプチドエピトープに特異的な抗体,抗体断片またはその他の物質によって捕捉される。抗体,抗体断片またはその他の物質にコンジェゲートしたレポーターによってシグナルが発生し得,それが患者サンプル中のM・ニューモニエの存在を示す。その他の実施形態において,コンジェゲート抗体との相互作用は液体中で成し得,その場合,患者サンプルは,そのコンジェゲート抗体を含む溶液に添加される。【0063】上述の方法を実施するためのキットには,支持体,試薬,洗浄およびインキュベーション用緩衝液が含まれ得る。…このようなキットおよびデバイスには,例えば診断,治療,およびその他の活用を含む様々な利用法があり得る。
【0065】サンプル添加パッドは,検査されるサンプルを吸収し,その吸収されたサンプルを毛細管現象によってコンジェゲートパッドに移動させることのできる多孔質パッドである。コンジェゲートパッドは,1個以上の目的分析物と特異的に結合して分析物-標識試薬複合体を形成する能力のある,1個以上の乾燥化標識分子または標識試薬(例えば抗体)を含んでいる。コンジェゲートパッドは,熱安定性および湿気と温度によって受ける状態に関する安定性も誘導し得る1種類以上の安定化化合物も含み得る。コンジェゲートパッドは,サンプル適用パッドから移動したサンプルを吸収し,そのサンプルを毛細管現象によってニトロセルロースのストリップに移動させることのできる多孔質パッドである。ニトロセルロースストリップは,コンジェゲートパッドからのサンプルを吸収し,毛細管現象によって,そのサンプルを下流の試験結果部位および対照部位に移動させることができる。イムノアッセイデバイスの試験結果部位には,1個以上の目的分析物またはその分析物-標識試薬複合体の任意の部位に特異的に結合することができる抗体または抗体断片のような1個以上の固定化された分子または試薬が含まれる。イムノアッセイデバイスの対照部位には,1個以上の標識試薬と特異的に結合する能力のある抗体または抗体断片のような1個以上の固定化された分子または試薬が含まれ得る。…
【0066】液体の検査サンプルが本デバイスのサンプル添加パッドに添加されると,そのサンプルは,毛細管現象によって,サンプル添加パッド,コンジェゲートパッド,
およびニトロセルロースストリップを通って移動する。
サンプルがコンジェゲートパッドを通って移動する時,そのサンプルは乾燥化標識分子または標識試薬を溶解し,目的の分析物がサンプル中に存在すれば,溶解された標識分子または標識試薬が目的の分析物と結合して分析物-標識試薬複合体を形成するが,
目的の分析物がサンプル中に存在しなければ,
複合体は形成されない。陽性試験の場合の分析物-標識試薬複合体,または陰性検査の場合の単独の標識試薬は,その後ニトロセルロースのストリップに移動し,試験結果部位と対照部位を移動して通過する。目的の分析物がサンプル中に存在する場合,分析物-標識試薬複合体は,試験結果部位の固定化試薬と結合して検出可能なラインを形成し,目的の分析物がサンプル中に存在しない場合は,分析物-標識試薬複合体は形成されず,従って試験結果部位での結合は発生しない。…
【0067】分析物質は,M・ニューモニエ由来のタンパク質またはその他の成分またはM・ニューモニエ細菌であり得る。
【0068】一つの実施形態において,デバイスは,(a)M・ニューモニエのポリペプチドエピトープに特異的な移動可能に標識された第1の抗体,抗体断片または作用物質を含んでいるサンプル受容部位と,
および
(b)
M・
ニューモニエのポリペプチドエピトープに特異的な固定化した第2の抗体,抗体断片または作用物質を含んでいる,捕捉部位とが配置された担体を含み得る。M・ニューモニエのポリペプチドエピトープに特異的な第1及び第2の抗体,抗体断片または作用物質は,同じまたは異なっていてもよい。【0069】その他の実施形態において,デバイスは,M・ニューモニエのポリペプチドエピトープに特異的な移動可能に標識された第1の抗体,抗体断片または作用物質,およびM・ニューモニエのポリペプチドエピトープに特異的な第2の抗体,抗体断片または作用物質が流路に沿って配置された,少なくともサンプル受容部位から捕捉部位まで伸びる水路を特徴づける担体を含み得,そこでは,受容部位で受け取られた液体サンプルは,移動可能な標識された抗体,抗体断片または作用物質の流路に沿って移動し,M・ニューモニエ細菌またはタンパク質の存在下で,捕捉部位においてその抗体,抗体断片または作用物質を捕捉するために,標識されたものと第2の抗体,抗体断片または作用物質が連携する。
【0070】デバイスが未使用な状態で,第2の抗体,抗体断片または作用物質が捕捉部位に配置され得る。
(5)実施例
【0078】実施例1:組換えCARDS中のエピトープの特定
【0079】Joel

Baseman博士および共同研究者は,M・ニュ

ーモニエが産生する毒素分子について記述した(Kannanら,2005年,Inf.Immun.73:52828-34;KannanおよびBaseman,2006年,PNAS

103:6724-9)。感染期間

での本毒素の検出は,病原体の診断のための手段となり得る。…
【0080】M・ニューモニエ由来の組換えCARDS(「rCARDS」)の配列(配列ID番号:1)が図1に示されている。標準的な手順を用い,rCARDSタンパク質でウサギを免疫および追加免疫した。rCARDS配列を含む重複ペプチドのアレイを取得した。各ペプチドは,rCARDS配列の17個のアミノ酸を含んでおり,その近傍配列は,それぞれ10個のアミノ酸が重複していた。市販のマイクロタイター・プレートにペプチドを共有結合させるために用いるシステイン残基をC末端に有する各ペプチドを合成した。ペプチドを溶媒中でマイクロタイター・プレートに結合させた。…
【0081】ポリクローナル抗rCARDSウサギ抗血清の連続希釈系列を作製した。本試験には,二番目のM・ニューモニエタンパク質に対して作製した対照抗血清を含めた。
各希釈液を固定化ペプチドに添加し,
反応させた。
プレートを洗浄した。適切な市販の二次抗ウサギ抗体にレポーター・システムである西洋ワサビペルオキシダーゼを事前に結合させ,それを一定の濃度で添加し,反応させた。そのプレートを洗浄した。西洋ワサビペルオキシダーゼの基質を添加し,発色を認めた。無機酸を添加して反応を終了させた。マイクロタイター・プレート・リーダーを用いて呈色を測定した。抗rCARDS抗体または抗CARDS抗体の希釈系列において,対照の反応と比較しより強い呈色を示したペプチドの配列がペプチドのエピトープを示唆した。このようにしてエピトープとして決定されたrCARDSの領域が図1にイタリック体で示されている。
【0082】実施例2:rCARDSのエピトープの合成および評価【0083】rCARDSのエピトープの合成
【0084】実施例1の研究は,ポリクローナル抗rCARDSウサギ抗血清を用いて,M・ニューモニエCARDS毒素の対象となる抗原の捕捉および検出のための潜在的部位である組換えCARDS(rCARDS)中のエピトープを特定した。
【0085】特定されたrCARDSのエピトープを含むペプチドを合成した(図2)。…
【0086】rCARDSのエピトープに対する抗体の精製
【0087】標準的な技術を用いて,実施例1のウサギ抗rCARDSポリクローナル抗血清から,ウサギIgG抗体を濃縮した。一部を残し,出発IgGプールとして使用した。図3に記載されている5種のペプチドの一つをそれぞれ含み,末端のシステインを介して固相に結合させた5種の個別カラムを用意した。標準的な手順を用いて,精製IgG抗体調整品の一部をこの5種の固定化した各ペプチドのアフィニティー精製に掛ける。25~50μgのアフィニティー精製されたそれぞれの抗体および出発IgG調整品をレポーター酵素である西洋ワサビペルオキシダーゼにコンジェゲートさせた。残りのアフィニティー精製抗体および出発IgGは,非変性形で利用した。【0088】抗原の捕捉および検出
【0089】固相での抗原の捕捉および検出をプラスチック製のマイクロタイター・プレートで実施した。…
【0090】精製抗rCARDS

IgGまたはアフィニティー精製抗ペプ

チド抗体は,
標準的な方法を用いて固相に吸着させた。
いくつかの試験では,
アフィニティー精製抗体を組み合わせて固相に固定化した。…無関係なタンパク質の存在下で固相をインキュベートすることによって,固相上の非反応部位をブロックした。無関係なタンパク質を含むPBST中で,固相にrCARDSタンパク質を添加した。rCARDSの最低検出限界を決定できるように,rCARDSの希釈系列を同時に作製した。いくつかの試験では,測定系の特異性を検証するために,2番目の組換えM・ニューモニエタンパク質(rP1)の同様の希釈系列を用いた。インキュベートし,固定化抗体により抗原を捕捉した。反応しなかった抗原を除くために,洗浄を行った。西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)を結合させたアフィニティー精製抗ぺプチド抗体または出発IgGプールを個々の反応に添加した。これらのコンジェゲート抗体は,インキュベーションによってrCARDSを捕捉するために結合することが可能であった。過剰のコンジェゲートを除くために,洗浄を行った。適切なレポーター基質を用いてコンジェゲートの結合を測定した。無機酸を添加して反応を終了させた。マイクロタイター・プレート・リーダーを用いて抗原の捕捉および検出を定量した。データを分析し,図表を作成した。場合によっては,抗原が含まれていないときに発生するバックグラウンドの反応は,比較を容易にするために,差し引かれた。
【0091】図4は,出発IgGプールとアフィニティー精製抗ペプチド抗体を用いた抗原の捕捉および検出のための可能なすべての組み合わせの結果を示している。すべての組み合わせが成功した。捕捉および検出の試薬の両方にIgGプールを使用した場合,最強の反応が観察されている。検出のための.抗ペプチド2-HRPコンジェゲート抗体は,全体的にIgGプールコンジェゲート体の使用と同程度に有効である。ほとんどの場合において,捕捉試薬と検出試薬として同じアフィニティー精製抗体を使用した場合は,異種の試薬を使用した場合ほど有効ではない。
【0092】図5は,出発IgGプール,抗ペプチド(3,4および6)抗体の組み合わせおよび抗ペプチド4抗体を用いた抗原の捕捉が,すべて同等に有効であったことを示している。抗ペプチド2コンジェゲートが検出用に用いられた。
【0093】通常,組換え分子の生産の間に生ずる夾雑細菌タンパク質が懸念される。抗rCARDS抗血清がこのような夾雑物に対し反応を示す可能性を排除するために,2番目の組換えタンパク質のrP1を用いて測定系を検証した(図6)。抗原の捕捉は,出発IgGプール,抗ペプチド3,4および5抗体の組み合わせ,または抗ペプチド4抗体の使用によって達成されている。抗ペプチド2またはIgGプールコンジェゲートが検出用に用いられた。可能なすべての組み合わせは,有用性を示した。rP1との有意な反応は,観察されなかった。後者の観察は測定系の特異性を示唆しており,夾雑している細菌タンパク質に対する抗体の懸念はないことを示している。【0094】実施例3:組換えP1中のエピトープの特定
【0095】M・ニューモニエP1接着タンパク質は,文献に記載されている。P1タンパク質の検出によるM・ニューモニエの診断は,既存の測定法との実行可能な代替法であり得る。抗組換えP1ポリクローナル抗血清および抗体は,この手法のための有益な試薬であり得る。
【0096】M・ニューモニエ由来の組換えP1(「rP1」)の配列(配列ID番号:7)が図7に示されている。標準的な手順を用い,rP1タンパク質でウサギを免疫および追加免疫した。マウスのモノクローナル抗真正P1タンパク質抗体サンプルを取得した。rP1配列を含む重複ペプチドのアレイを取得した。各ペプチドは,rP1配列の14個のアミノ酸を含んでおり,その近傍配列は,それぞれ10個のアミノ酸が重複していた。市販のマイクロタイタープレートにペプチドを共有結合させるために用いるC・
(シ
ステイン,cys)残基をC末端に有する各ペプチドを合成した。ペプチドを溶媒中でマイクロタイター・プレートに結合させた。システイン溶液を用いて非結合部位を不活化し,ウシ血清アルブミン溶液を用いてプラスチックのタンパク質結合部位をブロックした。マイクロタイター・プレートを標準的な条件を用いて洗浄した。
【0097】ポリクローナル抗rP1ウサギ抗血清の連続希釈系列を作製した。本試験には,二番目のM・ニューモニエタンパク質に対して作製した対照抗血清を含めた。モノクローナル抗体のサンプルも連続希釈した。対照は無関係のモノクローナル抗体であった。
各希釈液を固定化ペプチドに添加し,
反応させた。プレートを洗浄した。適切な市販の二次抗体(抗ウサギまたは抗マウスIgG)にそれぞれレポーター・システムである西洋ワサビペルオキシダーゼを結合させ,それを一定の濃度で添加し,反応させた。プレートを洗浄した。西洋ワサビペルオキシダーゼの基質を添加し,発色を認めた。無機酸を添加して反応を終了させた。マイクロタイター・プレート・リーダーを用いて呈色を測定した。抗rP1抗体または抗P1抗体の希釈系列において,対照の反応と比較しより強い呈色を示したペプチドの配列がペプチドのエピトープを示唆した。関連する配列の確認は,2番目の試験で行った。この場合,希釈系列の作製に先立ち,ポリクローナル抗rP1抗血清がプールされた。データは,図7に示される領域がエピトープであることを示している。エピトープ配列は,以下の通りである。
【0098】配列ID番号:8:MAFRGSWVNRLGRVESVWDLKGVWAD
【0099】配列ID番号:9:EHPNALAFQVSVVE
【00100】配列ID番号:10:STNSSPYLHLVKPKKVTQSDKLDDDLKNLLDPNQ
【00101】実施例4:抗rCARDS

ICTデバイス

【00102】イムノクロマトグラフィー(ICT)は,診療検査室ではマイクロタイター・プレート形式より容易に使用され得る。この手法の有効性を検討するために試験を計画した。抗rCARDS

IgGプールを細孔の

大きさの異なる2種類のニトロセルロースに3種類の濃度で添加した。このニトロセルロースを,多孔質サンプルパッド,ニトロセルロース,および遠位端の吸収パッドから成る計量棒型のデバイスに組み入れた。この研究に使用したコンジェゲートは,IgGプールまたは配列ID番号:2でアフィニティー精製した抗体に結合したコロイド金であった。本試験では,コンジェゲートは溶液状態;非特異的反応を防ぐための界面活性剤および外来性タンパク質を含むコンジェゲート溶液で維持した。
【00103】ストリップは,以下の通り,測定に使用した。rCARDSは,BSAを含むリン酸緩衝生理食塩水(PBS)に連続希釈した。rP1は,その後の試験における特異性の検証のために使用した。液体のコンジェゲートをこのサンプルに添加した。ストリップは,コンジェゲート/サンプル混合液中に置き,液体流動を開始し,5~10分間継続した。次に,ストリップは,10分間のPBSTによる洗浄に移した。測定は,15分および30分後に任意の一組の強度標準に対してスコア化された(図11)。スコア3.0が飽和状態と見なされることに留意すること。スコア0は,反応が認められなかったことを示す。表示されているデータは,15分での2回のスコアの平均値を示している。rCARDSの検出限界は,0.2~2.0ng/mlの間であった。rP1に対しては,高濃度であってもほとんど反応が観察されず,これはrCARDSの検出が特異的であることを示唆している。
【00104】実施例5:培養M・ニューモニエ感染細胞からのCARDSの抽出
【00105】γ線照射した培養細胞は,感染の危険性無しに実験台上で思慮深く取り扱うことができることから,このような有機体を使用した。γ線照射は,タンパク質の天然構造を保持すると考えられている。
【00106】γ線照射したM・ニューモニエの一定分量を可能性のある抽出試薬の望ましい濃度に適合させることによって,適切な抽出方法を検討した。抽出によって可溶化されなかった物質を沈殿させるために,一定分量を10,000~15,000xgで微量遠心した。各抽出から,変性条件での電気泳動に適した上清を作製した。沈殿は,最初の一定分量と同体積のPBSに分散させ,その後,変性条件のゲル電気泳動用に調整した。対照は,抽出試薬非存在下(未処理)での分画とした。上清および沈殿物を電気泳動し,ニトロセルロースに転写させてウェスタン・ブロットを実施した(図12)。ニトロセルロース膜をウサギポリクローナル抗rCARDS抗血清と反応させた後,ヤギ抗ウサギIgG-西洋ワサビペルオキシダーゼコンジェゲートと反応させた。その後,西洋ワサビペルオキシダーゼに対する沈降性基質でフィルターを発色させた。対となる沈殿物および未処理上清と比較した場合の上清レーンに認められるバンドの強度の増加は,どの抽出試薬が良好な候補であるかを示した。検討した可能性のある抽出試薬の内,界面活性剤Brij58,Zwittergen

3-14およびコール酸塩が有効

性を示した。これら3種類の各試薬での用量反応性が確認された。Zwittergen

3-14は,0.1%以上の界面活性剤の使用でほとんど完

全な可溶化を示した。
【00107】Zwittergen抽出の有効性を判断するために,抗原捕捉EIAも用いられた(図13)。抗rCARDS抗血清のIgG調整品をプラスチック製のマイクロタイター・プレートのウェルに結合させた。γ照射したM・ニューモニエ感染細胞を1%のZwittergenに合わせて調整した後,
微量遠心した。
PBS中に1%の担体タンパク質
(BSA)

1%のZwittergen

3-14を含む緩衝液を用い,マイクロタイ

ター・プレート上で,上清の5段階の連続希釈系列を作製した。抽出後の沈殿は,出発時の体積の同一緩衝液に分散させ,同様に連続的に希釈した。反応曲線の比較により,上清は,沈殿より少なくとも25倍多くCARDSを含むことが示された。付加的なグラフは,緩衝液配合の対照としての役割を果たす様々な緩衝液に加えたrCARDSを示している。
【00108】実施例6:検体中に加えられたM・ニューモニエの検出【00109】いくつかの咽頭スワブおよび口腔スワブを一人の個人から採取し,1%のZwittergen

3-14含有PBS緩衝液またはPB

S単独緩衝液に入れた。γ線照射したM・ニューモニエを一定分量のこれらの緩衝液に加え,この添加検体を連続希釈した。陰性対照は,ヒトの口腔および呼吸器検体に見られる片利共生マイコプラズマであるマイコプラズマ・サリバリウム(M.salivarium)をγ照射して加えることによって設定した。抗原捕捉EIAは,捕捉用にアフィニティー精製抗ペプチド2抗体を用い,検出用に抗rCARDS

IgG-HRPコンジェゲート抗体

を用いて実施した(図14)。陽性対照には,1%のZwittergen3-14含有PBSで調整したスワブに加えられたrCARDSを用いた。PBSで調整したスワブと比較し,M・ニューモニエ由来のより強いシグナルが界面活性剤の存在下で生じており,これは,Zwittergen抽出の有効性を裏付けている(図14)。マイコプラズマ・サリバリウムに対するシグナルはなく,これは測定系の特異性を示している。
【00110】実施例7:呼吸器系検体中のCARDSの検出
【00111】27名の患者の呼吸器系検体を試験した。これらには,咽頭スワブの溶出後の移送溶媒,
鼻吸引物,
唾液および気管支肺胞洗浄
(BAL)
検体が含まれた。9検体は,M・ニューモニエ感染患者からの採取とされていた。4検体は肺炎クラミジア(Chlamydia

pneumonia

e)感染のあることが言明された患者由来であり,残りの検体については病原体のないことが言明されていた。これらの検体は0.1%のZwittergen

3-14に調整し,CARDSの存在に関して抗原捕捉EIAを

行った。M・ニューモニエ感染の9検体の内の1検体および非M・ニューモニエ感染の18検体が,それぞれバックグラウンドを超えるEIAシグナルを示した(データは示されていない)。
【00112】全体として,これらのデータは,CARDSのZwittergen抽出および抗原の捕捉検出が検体中のM・ニューモニエの存在を特異的に検出する手段であることを示唆している。
(6)特許請求の範囲
【請求項1】
M・ニューモニエタンパク質由来のエピトープに特異的に結合する単離された物質
【請求項2】
物質が抗体である請求項1記載の単離された物質
【請求項3】
物質が抗体断片である請求項1記載の単離された物質
【請求項4】
M・ニューモニエタンパク質がCARDSである請求項1,2,または3のいずれか記載の単離された物質
【請求項5】
M・ニューモニエタンパク質がP1である請求項1,2,または3のいずれか記載の単離された物質
【請求項6】
エピトープが配列ID番号:2,3,4,5または6のいずれかを含む請求項4記載の単離された物質
【請求項7】
エピトープが配列ID番号:8,9または10を含む請求項5記載の単離された物質
【請求項8】
請求項1~7のいずれか一つに記載の少なくとも一つの単離された物質とサンプルとの接触,および請求項1~7のいずれか一つに記載の少なくとも一つの単離された物質とM・ニューモニエタンパク質または細菌との複合体の検出を含んでいる,サンプル中のM・ニューモニエタンパク質または細菌の存在を検出するための方法
【請求項9】
方法がさらにサンプルからのM・ニューモニエタンパク質の抽出を含む請求項8記載の方法
【請求項10】
請求項1~7のいずれか一つに記載の物質を含んでいる少なくとも一つの区域を含んでいる多孔質検査ストリップを含んでいるデバイス
【請求項11】
一つの区域が請求項1~7のいずれか一つに記載の可動性の物質を含み,別の区域が請求項1~7のいずれか一つに記載の固定化された物質を含む請求項10記載のデバイス
【請求項12】
デバイスがラテラルフローデバイスである請求項10記載のデバイス【請求項13】
デバイスが対向性要素,取り外し可能な要素または多くの構成要素を持つクロマトグラフィー検査デバイスである請求項10記載のデバイス3
取消事由1(引用発明の認定及び一致点と相違点の認定の誤り)について(1)原告の主張は,要するに,本件特許発明は,P1タンパク質に対する特異的なモノクローナル抗体に着目することで,イムノクロマトグラフィー法によって,初めて臨床検体からのマイコプラズマ・ニューモニエ抗原の特異的な検出を実現した発明であるところ,引用例1は,そもそも,P1タンパク質とは全く異なるタンパク質(CARDS)とそのポリクローナル抗体に着目した発明の特許公報である上に,引用例1においては,CARDSに特異的なポリクローナル抗体を用いた場合ですら,臨床検体からのマイコプラズマ・ニューモニエの検出には成功しておらず,かつ,そもそもP1タンパク質に特異的な抗体については,臨床検体はもちろん,精製rP1タンパク質を用いた検出実験すら行われていないにもかかわらず,本件取消決定は,P1タンパク質とCARDSタンパク質の差異や,臨床検体と非臨床検体との差異,さらにはモノクローナル抗体とポリクローナル抗体との差異をいずれも看過したまま,引用発明1を,P1タンパク質に特異的なモノクローナル抗体を用いて,患者サンプル(臨床検体)からマイコプラズマ・ニューモニエを検出することができる発明であると認定した,というものである。(2)よってまず,引用例1から本件取消決定が認定した引用発明1を認定することができるかどうかについて検討する。
特許法29条1項3号の「刊行物に記載された発明」は,当業者が,出願時の技術水準に基づいて本願発明(本件特許発明)を容易に発明することができたかどうかを判断する基礎となるべきものであるから,当該刊行物の記載から抽出し得る具体的な技術的思想でなければならない。また,本件特許発明は物の発明であるから,進歩性を検討するに当たって,刊行物に記載された物の発明との対比を行うことになるが,ここで,刊行物に物の発明が記載されているといえるためには,刊行物の記載及び本件特許の出願時(以下「本件出願時」という。)の技術常識に基づいて,当業者がその物を作れることが必要である。
かかる観点から本件について検討すると,引用例1の記載及び本件出願時の技術常識を考慮しても,引用発明1のデバイスを当業者が作れるように記載されているとはいえない。理由は以下のとおりである。

本件取消決定は,引用発明1をP1タンパク質に対するモノクローナル抗体を用いて,患者サンプル中のマイコプラズマ・ニューモニエの検出を行うラテラルフローデバイスに関する発明として認定しているところ,ラテラルフローデバイスは,イムノクロマトグラフィー法に基づく検出デバイスであり,イムノクロマトグラフィー法による抗原検出においては,抗体と抗原がサンドイッチ複合体を形成する必要があると認められ(甲8~10,弁論の全趣旨),また,モノクローナル抗体の場合には,抗原を挟み込む二つの抗体が同じものでは不都合であり,少なくとも,二つの異なる抗体を用いることが必要であると認められる(この点は特に当事者に争いがない。)。
その一方で,異なる二つのモノクローナル抗体でありさえすれば,抗体と抗原がサンドイッチ複合体を形成するとの本件出願時の技術常識も見当たらず,また,サンドイッチ複合体を形成しさえすれば,必ず患者サンプル中のマイコプラズマ・ニューモニエを検出できると直ちにいうこともできない。
たとえば,引用例2の199頁図1には,捕獲抗体として特異性の異なる二つのポリクローナル抗体を用い,ペルオキシダーゼ標識モノクローナル抗体(検出抗体)を変えてマイコプラズマ・ニューモニエ抗原の捕獲アッセイを行った試験の結果を表す二つのグラフが示されている。捕獲抗体が抗Mp-IgG(右)の場合,試験されたペルオキシダーゼ標識抗体では,いずれも,標識抗体100ngで450nmにおける吸光度が2を超え,標識抗体1μgにおいて,450nmにおける吸光度が3を超えている。これに対し,捕獲抗体が抗P1-IgG(左)の場合には,標識抗体がP1.25又はM74では,1μgで450nmにおける吸光度が3を超えていても,
標識抗体がM57では,
1μgでも吸光度が1に満たない。
このように,同じ捕獲抗体を用いた場合であっても,検出抗体によって検出感度が異なり,サンドイッチ複合体の形成に基づく検出は,抗体の組合せによって,検出感度が大きく異なる場合があると理解されるから,モノクローナル抗体を用いてサンドイッチ複合体の形成に基づく検出を行う場合には,適切な抗体を組み合わせて用いる必要があると認められる。本件取消決定が認定した引用発明1のラテラルフローデバイスも,サンドイッチ複合体の形成に基づく抗原の検出デバイスであるから,P1タンパク質に対するモノクローナル抗体を用いて,患者サンプル中のマイコプラズマニューモニエを検出するラテラルフローデバイスを作るためには,・
第1のモノクローナル抗体と第2のモノクローナル抗体として適切な組合せのモノクローナル抗体を用いる必要があると認められる。
そこで,第1のモノクローナル抗体と第2のモノクローナル抗体の組合せに関して引用例1の記載を検討するに,引用例1には,ラテラルフローデバイスに用いる二つの抗体について,具体的なモノクローナル抗体の組合せを示す記載は見当たらない。また,本件出願時において,ラテラルフローデバイス等のサンドイッチ複合体を形成できる具体的なモノクローナル抗体の組合せが周知であったことを示す証拠もない(引用例2の199頁図1の左側のグラフに示されている実験において,P1.25とM74は,それぞれ,抗P1-IgG又は抗Mp-IgGを捕獲抗体とした場合に,抗原を検出可能としていることから,当該捕獲抗体と抗原とからなるサンドイッチ複合体を形成するものと考えられるが,引用例2に記載されていることをもって,直ちにこれらの抗体が周知であるということはできないし,そもそも,当該捕獲抗体はいずれもポリクローナル抗体であるから,異なる二つのモノクローナル抗体の組合せが明らかにされているとはいえない。ほかにサンドイッチ複合体を形成できる具体的なモノクローナル抗体の組合せを明らかにする証拠はない。)。
次に,引用例1に記載された具体的なイムノクロマトグラフィー(ICT)デバイスについての唯一の実施例である実施例4は,抗rCARDS抗体を用いたもので,
P1タンパク質に対する抗体を用いたものではない。
また,引用例1におけるP1タンパク質に対する抗体に関する具体的な記載は,実施例3のみであるが,実施例3における抗原の検出は,サンドイッチ複合体の形成とは異なる,市販の二次抗体である抗ウサギ又は抗マウス抗体を用いた方法によるものである。したがって,これらの実施例の記載から,サンドイッチ複合体を形成可能なモノクローナル抗体を知ることはできない。
さらに,引用例1には,P1タンパク質に対するモノクローナル抗体として,
マウスのモノクローナル抗真正P1タンパク質抗体H136E7【0(
012】)とrP1に対するモノクローナル抗体(【0096】)に関する記載があるが,P1タンパク質に対する具体的なモノクローナルは,H136E7が記載されているにとどまり,rP1に対するモノクローナル抗体については,その当該モノクローナル抗体を生産する細胞株も,モノクローナル抗体のアミノ酸配列等の情報も,H136E7とのサンドイッチ複合体の形成の有無に関する手掛かりとなる情報も記載されていない。このような引用例1の記載に基づいて,ラテラルフローデバイスを作るためには,
モノクローナル抗体として一つはH136E7を用いるとしても,もう一つ,H136E7とサンドイッチ複合体を形成可能な別のモノクローナル抗体を用いる必要があるが,引用例1には,そのようなモノクローナル抗体の構造について手掛かりとなる記載がなく,何らかの方法でモノクローナル抗体を入手し,それらのモノクローナル抗体が,H136E7とサンドイッチ複合体を形成可能であるかを調べ,試行錯誤によって,H136E7と組み合わせて患者サンプル中のマイコプラズマ・ニューモニエを検出するラテラルフローデバイスを構成できるモノクローナル抗体を見つけ出す必要がある。
以上を踏まえれば,たとえ様々なモノクローナル抗体を得る技術自体は周知技術であるとしても,本件取消決定が認定した引用発明1のラテラルフローデバイスは,引用例1の記載及び本件出願時の技術常識から,直ちに作ることができるものとはいえない。
したがって,引用例1に引用発明が記載されている(あるいは,記載されているに等しい)ということはできない。

患者サンプル(臨床検体)からの検出という点についても検討する。患者サンプルからの患者サンプル中のマイコプラズマ・ニューモニエの検出については,引用例1の実施例7に記載があるが,この方法は,CARDSを検出抗原とした抗原捕捉EIAに基づくものであって,P1タンパク質をサンドイッチ複合体の形成に基づいて検出する引用発明1のデバイスとは,抗原も検出手法も異なる。それだけではなく,以下のように,検体から感染が検出されているかどうかも定かではない。
すなわち,
引用例1の実施例7では,
患者からの検体で試験したところ,
M・ニューモニエ感染の9検体内の1検体と,非M・ニューモニエ感染の18検体が,それぞれバックグラウンドを超えるEIAシグナルを示したとの記載がある。ここで,引用例1には,抗原捕捉EIAとのみ記載されており,具体的な検出系については記載されていないが,仮に,通常のサンドイッチ複合体の形成に基づく検出系であるとすると,抗原の存在によりシグナルが増大するので,実施例7の試験結果は,感染・非感染と,シグナルの増大とが正しく対応していないことになる。
この点に関し,被告は,競合法であれば,サンプル中の抗原が多くなるとシグナルが小さくなる検出法であるから,非M・ニューモニエ感染の18検体では抗原が存在しないためシグナルが大きくなり,M・ニューモニエ感染の9検体では抗原が多いためシグナルが小さくなることが予測されるところ,実施例7の記載は,これとほぼ一致しており,したがって,実施例7は,感染・非感染を検出できたことを示すものとして解釈すべきである旨を主張している。
しかし,仮に,実施例7の試験が競合法によるものであるとすると,競合法は,標識抗体を用いるサンドイッチ法などの標識抗体を用いる検出方法とは異なり,標識抗原を用いる必要があるが,引用例1には,標識抗原を製造したことや,標識抗原を入手したことについての記載が全くない。そして,そもそも,引用例1には,実施例7がどのような検出系により検出を行ったのかについても記載されていない。したがって,試験結果との整合性のみから,競合法に基づくと断定することはできない。
以上の点からみて,引用例1の実施例7の記載は,患者サンプル(臨床検体)からのマイコプラズマ・ニューモニエの検出が可能であったことを示すものとはいえない。
かかる観点からも,引用例1に引用発明が記載されている(あるいは,記載されているに等しい)ということはできない。
(3)小括
以上によれば,本件取消決定は,進歩性についての判断を行うに際し,引用発明の認定を誤った結果,第1の抗体及び第2の抗体としてモノクローナル抗体を用いる点と,患者サンプル中のマイコプラズマ・ニューモニエの検出を行う点についての相違点を看過し,なおかつ,これらの相違点に関する容易想到性の判断を全く行わないままに,進歩性欠如の結論を導いて(これを理由に)本件特許を取り消したものであるから,当該引用発明の認定の誤り及び相違点の看過は本件取消決定の結論に影響するものである。したがって,原告が主張する取消事由1は上記の限度で理由があるというべきであり,その余の取消事由につき検討するまでもなく,本件取消決定は取り消されるべきである。
4
結論
よって,本件取消決定を取り消すこととし,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第3部

裁判長裁判官
鶴岡稔彦寺田利彦間明宏充
裁判官

裁判官

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