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神奈川県議会議員政務活動費不正受給確認請求事件
事件番号平成29(行ヒ)404
事件名神奈川県議会議員政務活動費不正受給確認請求事件
裁判年月日平成30年11月16日
法廷名最高裁判所第二小法廷
裁判種別判決
結果破棄自判
原審裁判所名東京高等裁判所
原審事件番号平成28(行コ)325
原審裁判年月日平成29年7月10日
判示事項神奈川県議会政務活動費の交付等に関する条例(平成13年神奈川県条例第33号)に基づいて交付された政務活動費等について,その収支報告書上の支出の一部が実際には存在しないものであっても,当該政務活動費等の交付を受けた会派又は議員が不当利得返還義務を負わない場合
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平成29年(行ヒ)第404号神奈川県議会議員政務活動費不正受給確認請求事件
平成30年11月16日第二小法廷判決

主文
原判決を破棄し,第1審判決を取り消す。
被上告人の請求を棄却する。
訴訟の総費用は被上告人の負担とする。
理由
上告代理人島崎友樹ほかの上告受理申立て理由について
1
本件は,神奈川県(以下「県」という。)の住民である被上告人が,県議会
の会派であるB(以下「本件会派」という。)が平成23年度(ただし,平成23年4月分を除く。以下同じ。)から同25年度まで(以下「本件各年度」という。)に交付を受けた政務調査費及び政務活動費(以下,併せて「政務活動費等」という。)に関し,収支報告書に支出として記載されたものの一部は実際には支出されていないから,本件会派はこれを不当利得として県に返還すべきであるにもかかわらず,上告人はその返還請求を違法に怠っているとして,地方自治法(以下,後記の改正の前後を通じて「法」という。)242条の2第1項3号に基づき,上告人を相手として,上告人が本件会派に対する不当利得返還請求権の行使を怠ることが違法であることの確認を求める住民訴訟である。
2
(1)

原審の適法に確定した事実関係等の概要は,次のとおりである。
平成24年法律第72号による改正前の法は,普通地方公共団体は,条例
の定めるところにより,その議会の議員の調査研究に資するため必要な経費の一部として,その議会における会派又は議員に対し,政務調査費を交付することができ,その交付の対象,額及び交付の方法は条例で定めなければならないとし(法100条14項),政務調査費の交付を受けた会派又は議員は,条例の定めるところにより,当該政務調査費に係る収入及び支出の報告書を議長に提出するものとしていた(同条15項)。平成24年法律第72号による法の改正により,政務調査費の名称が「政務活動費」に改められ,その交付目的についても「議会の議員の調査研究その他の活動に資するため」とされ(法100条14項),議長は政務活動費の使途の透明性の確保に努めるものとされた(同条16項)。
(2)

上記の法の定めを受けて,神奈川県議会政務活動費の交付等に関する条例
(平成13年神奈川県条例第33号。平成25年神奈川県条例第42号による改正前の題名は「神奈川県議会政務調査費の交付等に関する条例」。以下,同改正前のものを「旧条例」,同改正後のものを「新条例」といい,併せて「新旧条例」という。)は,政務活動費等について,大要,以下のとおり規定している。ア
政務活動費等は,議会の会派及び議員に交付し,その額は議員1人当たり月
額53万円とする。その交付の方法は,会派ごとに,会派に交付する方法,議員に交付する方法,会派及び議員に交付する方法のいずれかによるものとし,会派に交付する方法による場合の交付額は,議員1人当たりの月額に当該会派に所属する議員の数を乗じて得た額とする(旧条例2条,3条,新条例2条,4条,5条)。イ
政務調査費の交付の対象となる経費は,調査研究費,研修費,会議費その他
規程で定める経費とする(旧条例9条)。なお,神奈川県議会政務調査費の交付等に関する条例施行規程(平成13年神奈川県議会議長告示第1号。平成25年神奈川県議会議長告示第1号による改正前のもの)は,上記経費の一つとして資料作成費を挙げ,その使途を「会派及び議員が議会審議に必要な資料を作成するために要する経費」と定めていた。
また,政務活動費を充てることができる経費は,調査研究費,資料作成費その他の11項目の経費であり,このうち資料作成費の使途は「会派及び議員が行う活動に必要な資料を作成するために要する経費」である(新条例3条,別表。以下,これらの政務活動費等を充てることができる経費に関する新旧条例等の定めを「使途基準」という。)。

知事は,政務活動費等の交付の方法等について記載した会派届の提出があった旨の通知を議長から受けたときは,速やかに,当該年度に係る政務活動費等の交付の決定を行い,当該決定を受けた会派の代表者及び議員から当該決定に係る政務活動費等の請求があったときは,原則として毎月16日に当該月分の政務活動費等を交付するものとする(旧条例6条,8条,新条例8条,10条)。エ
会派の代表者及び議員は,当該年度に係る政務活動費等の収入額,支出額,
残額その他規程で定める事項を記載した収支報告書及び当該収支報告書に記載された政務活動費等による支出に係る証拠書類等の写し(以下,併せて「収支報告書等」という。)を翌年度の5月15日までに議長に提出するものとする(旧条例12条1項,新条例13条1項)。

会派及び議員は,当該年度において交付を受けた政務活動費等の総額から,
当該年度において行った政務活動費等による支出(前記イの経費に係る支出をいう。)の総額を控除して残余がある場合には,当該残額に相当する額を翌年度の5月31日までに返還しなければならない(旧条例13条1項,新条例14条1項。以下,これらの規定を「本件返還規定」という。)。
(3)

県は,本件各年度において,本件会派に対し,会派に交付する方法によ
り,月額53万円に本件会派に所属する議員の数を乗じた額の政務活動費等を毎月交付した。その額は,平成23年度が2億5334万円,同24年度が2億6606万円,同25年度が2億6712万円であった。
(4)

本件会派は,本件各年度において,交付を受けた政務活動費等について,
毎月一定額を所属する議員に直接交付し,当該議員に対し,四半期ごとに支出伝票,出納簿,支出を証する証拠書類等の提出を求めていた。
本件会派に所属していた議員である上告補助参加人は,第1審判決別紙記載のとおり,11回にわたり,資料作成費(県政レポートの印刷代)として合計518万8050円の支出(以下「本件各支出」という。)をしたとして,支出伝票,領収証,成果物等を本件会派に提出した。その内訳は,平成23年度が158万7600円,同24年度が229万6350円,同25年度が130万4100円であった。しかしながら,本件各支出は実際には存在せず,上記領収証は虚偽の内容のものであった。
(5)

本件会派が,本件各年度について県議会議長に収支報告書を提出して報告
した政務活動費等の収入額(預金利子を含む。)及び支出額は次のとおりであり,その支出額のうち資料作成費の額には本件各支出に係るものが含まれていた。ア
平成23年度政務調査費

収入合計額

2億5334万0234円

支出合計額

2億6568万5163円(うち資料作成費563万6344円)

平成24年度政務活動費等

収入合計額

2億6606万0409円

支出合計額

2億8460万3062円(うち資料作成費605万2390円)

平成25年度政務活動費

収入合計額

2億6712万0318円

支出合計額

2億7565万5553円(うち資料作成費637万7528円)
3
原審は,上記事実関係等の下において,要旨次のとおり判断して,被上告人
の請求を認容すべきものとした。
収支報告書における所定の支出が実際には存在しない場合において,架空の領収証を用いるなどして政務活動費等を取得することは,法及び新旧条例等の定めから認められる政務活動費等の使途の透明性の確保という趣旨に著しく反し,特段の事情のない限り,当該支出分に対応する政務活動費等を取得する法律上の原因はないと解するのが相当である。本件においては,実体と合致しない虚偽の内容の領収証をもって政務活動費等として金員を取得しようとしたものというべきであり,本件各年度における収支報告書上の支出の総額から本件各支出の額を控除した額は政務活動費等の交付額を上回っているものの,上記特段の事情は認められない。実体と合致しない本件各支出について本件会派が政務活動費等を取得する法律上の原因はなく,本件各支出分は不当利得として返還されるべきである。4

しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次
のとおりである。
(1)

新旧条例によれば,政務活動費等は月ごとに交付されるが,その交付の決
定は年度ごとにされ,収支報告書の提出も年度ごとに行うこととされているところ,法及び新旧条例は,政務活動費等の使途を限定しているから,当該年度において交付を受けた政務活動費等のうち,上記使途に適合した支出に充てなかった残余がある場合には,当該残額はこれを保持する法律上の原因を欠くものとして,不当利得として返還されるべきこととなる。本件返還規定は,このような場合に不当利得返還義務が発生することを明確にしたものであると解される。
また,新旧条例は,具体的な使途を個別に特定した上で政務活動費等を交付すべきものとは定めておらず,知事が年度ごとに交付の決定を行い,当該決定に基づいて月ごとに一定額を交付した上で,事後に収支報告書等を提出させて使途を明らかにさせ,使途基準に適合した支出に充てなかった残額がある場合にはこれを返還させることにより,交付した政務活動費等が使途基準に適合した支出に充てられることを確保しようとするものといえる。さらに,新旧条例は,収支報告書上の支出の総額が当該年度の交付額を上回ることを禁ずるものとは解されず,その支出の総額が交付額を上回る場合に,収支報告書上,支出の総額のうちどの部分について政務活動費等を充てるのかを明らかにすることを求めているものとも解されない。そうすると,以上のような条例の定めの下では,政務活動費等の収支報告書に実際には存在しない支出が計上されていたとしても,当該年度において,使途基準に適合する収支報告書上の支出の総額が交付額を下回ることとならない限り,政務活動費等の交付を受けた会派又は議員が,政務活動費等を法律上の原因なく利得したということはできない。
したがって,新旧条例に基づいて交付された政務活動費等について,その収支報告書上の支出の一部が実際には存在しないものであっても,当該年度において,収支報告書上の支出の総額から実際には存在しないもの及び使途基準に適合しないものの額を控除した額が政務活動費等の交付額を下回ることとならない場合には,当該政務活動費等の交付を受けた会派又は議員は,県に対する不当利得返還義務を負わないものと解するのが相当である。
(2)

前記事実関係等によれば,本件会派の本件各年度における各収支報告書上
の支出の総額から本件各支出を控除した額は,それぞれの年度における政務活動費等の交付額を下回ることとはならず,本件会派が不当利得返還義務を負うものとはいえない。
5
以上と異なる原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違
反がある。論旨はこの趣旨をいうものとして理由があり,原判決は破棄を免れない。そして,以上に説示したところによれば,被上告人の請求は理由がないから,第1審判決を取り消し,同請求を棄却すべきである。
よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官
三浦

菅野博之

裁判官

鬼丸かおる

守)
裁判官

山本庸幸

裁判官

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