判例検索β > 平成29年(行ケ)第10166号
審決取消請求事件 特許権 行政訴訟
事件番号平成29(行ケ)10166
事件名審決取消請求事件
裁判年月日平成30年11月22日
法廷名知的財産高等裁判所
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平成30年11月22日判決言渡
平成29年(行ケ)第10166号
口頭弁論終結日

審決取消請求事件

平成30年8月23日
判原決告
JNC株式会社

同訴訟代理人弁護士

告吉深被末井剛俊至
DIC株式会社

同訴訟代理人弁護士

塚朋一寺下雄介石川裕彬
長谷川

芳樹清水義憲吉住和之中
同訴訟代理人弁理士

原塚主岳文1
原告の請求を棄却する。

2
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由

第1

請求
特許庁が無効2015-800228号事件について平成29年7月10日にした審決を取り消す。
第2
1
前提となる事実(証拠を掲記した以外の事実は,当事者間に争いがない。)特許庁における手続の経緯等

(1)被告は,平成24年9月27日,発明の名称を「ネマチック液晶組成物」とする特許出願
(特願2012-214114号。「本件出願」
以下
という。

をし,平成26年10月3日,特許権の設定の登録(特許第5622058号。請求項の数は3。)を受けた(以下,この特許を「本件特許」といい,本件特許に係る明細書を「本件明細書」という。)。
本件出願は,平成17年10月31日にした特許出願(特願2005-316168号。以下「本件原出願」という。)の一部について新たにした分割出願である。
(2)原告は,平成27年12月17日,本件特許の請求項1~3に係る発明につき無効審判を請求した(無効2015-800228号)。
被告は,平成29年2月24日付けで,本件特許の特許請求の範囲について訂正請求をした(以下「本件訂正」という。)。
特許庁は,平成29年7月10日,本件訂正請求を認めた上,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,その謄本は,同月21日,原告に送達された。
(3)原告は,平成29年8月17日,審決の取消しを求めて,本件訴訟を提起した。
2
特許請求の範囲の記載
本件特許の本件訂正後の特許請求の範囲の記載は,次のとおりである(甲24。以下,請求項の番号に従って,それぞれ「本件発明1」,「本件発明2」などといい,これらを総称して「本件発明」という。)。
【請求項1】
第一成分として構造式(1),
【化1】
で表される化合物を35~65%含有し,第二成分として一般式(2)【化2】

(式中,R1は炭素数1~15のアルキル基であり,
B1,B2,B3はそれぞれ独立的に
(a)トランス-1,4-シクロへキシレン基
(b)
1,
4-フェニレン基からなる群より選ばれる基であり,
上記の基
(b)
はCH3又はハロゲンで置換されていても良く,
L1は単結合を表し,L2,L3はそれぞれ独立的に単結合,-CH2CH2-又は-CF2O-を表し,
Q1は単結合であり,
X1,X3はそれぞれ独立してH又はFであり,X2はFである。)で表される化合物群から選ばれる2種以上の化合物を10~30質量%含有し,前記構造式(1)で表される化合物及び前記一般式(2)で表される化合物を55~95%含有し,
25℃における誘電率異方性(Δε)が2.5~7.0であることを特徴とするアクティブマトリックス型液晶表示素子用ネマチック液晶組成物(ただし,
下記式の化合物
【化4】

(式中,R1は,ハロゲン化されているか無置換で1~15個の炭素原子を有しているアルキルまたはアルコキシ基を表し,ただし加えて,これらの基の1個以上のCH2基は,それぞれ互いに独立に,酸素原子が互いに直接結合しないようにして,-C≡C-,-CH=CH-,-O-,-CO-O-または-O-COで置き換えられていてもよく,
環Aは,以下の式:
【化5】

の左または右を向いている環構造を表し,
Z1,Z2は,単結合,-C≡C-,-CF=CF-,-CH=CH-,-CF2O-または-CH2CH2-を表し,ただし,Z1およびZ2からの少なくとも一方の基は,基-CF=CF-を表し,
Xは,F,Cl,CN,SF5またはハロゲン化されているか無置換で1~15個の炭素原子を有しているアルキルまたはアルコキシ基を表し,ただし加えて,これらの基の1個以上のCH2基は,それぞれ互いに独立に,酸素原子が互いに直接結合しないように,-C≡C-,-CH=CH-,-O-,-CO-O-または-O-CO-で置き換えられていてもよく,
L1,L2,L3,L4,L5およびL6は,それぞれ互いに独立に,HまたはFを表し,および
mは,0または1を表す。)を1種類以上含むことを特徴とする,化合物の混合物に基づく正の誘電異方性を有する液晶媒体,並びに,
下記式で表される1種以上の化合物を含むことを特徴とする極性化合物混合物系液晶媒体,を除く)。
【化6】

(式中,R1は,ハロゲン化されているかまたは置換されていない1~15個の炭素原子を有するアルキルまたはアルコキシ基を表し,但し,加えて,これらの基の1個以上のCH2基は,それぞれ互いに独立に,酸素原子が互いに直接結合しないようにして,-C≡C-,-CF2-O-,-OCF2-,-CH=CH-,

-O-,-CO-O-または-O-CO-で置き換えられていてもよく,Xは,それぞれ互いに独立に,F,Cl,CN,SF5,SCN,NCS,6個以下の炭素原子を有するハロゲン化アルキル基,
ハロゲン化アルケニル基,
ハロゲン化アルコキシ基またはハロゲン化アルケニルオキシ基を表し,L1~L3は,それぞれ互いに独立に,HまたはFを表す。)
【請求項2】
第三成分として一般式(3)
【化3】

(式中,R2はR1と同じ意味を表し,
B4はB1と同じ意味を表し,
L4,L1と同じ意味を表し,
B4及びL4が複数存在する場合はそれらは同一でも良く異なっていても良く,mは0,1又は2であり,
nは0又は1であり,
Q2は-OCH2-,-OCF2-,-OCHF-,-CF2-,または単結合であり,
X4~X8はそれぞれ独立してH,F又はClである。)で表される化合物群から選ばれる1種もしくは2種以上の化合物を含有する請求項1記載のネマチック液晶組成物。
【請求項3】
ネマチック-アイソトロピック転移温度が68℃~120℃であり,クリスタル又はスメクチック-ネマチック転移温度が-80℃~-20℃であり,屈折率異方性Δnが0.05~0.15であり,加熱150℃1時間後の60℃での保持率(%)(セル厚6μmのTN-LCDに注入し,5V印加,フレ-ムタイム200ms,パルス幅64μsで測定したときの測定電圧と初期印加電圧との比を%で表した値)が96%以上に保たれることを特徴とする請求項1又は2に記載の液晶組成物。
3
審決の理由
審決の理由は,別紙審決書の写しに記載のとおりであるところ,その概要は次のとおりである
(ただし,
本件訴訟の争点と関連する部分のみを掲記する。。

(1)本件発明1~3は,国際公開第2005/017067号(公開日:平成17年2月24日。甲1)に記載された発明(以下「甲1発明」という。)ではないし,当該発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないから,特許法29条1項3号又は同条2項の規定により,特許を受けることができないものではない。
(2)本件発明1~3は,特開2004-238489号公報(公開日:平成16年8月26日。甲2)に記載された発明(以下「甲2発明」という。)ではないし,当該発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないから,特許法29条1項3号又は同条2項の規定により,特許を受けることができないものではない。
(3)本件発明1~3は,特開2005-220355号公報(公開日:平成17年8月18日。甲3)に記載された発明(以下「甲3発明」という。)ではないし,当該発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないから,特許法29条1項3号又は同条2項の規定により,特許を受けることができないものではない。
(4)本件発明1,3は,特開2006-328399号公報(優先日:平成17年5月25日

欧州特許庁,
公開日:平成18年12月7日。
甲8。
なお,

先願である欧州特許出願番号05011326号には,当該公開公報の【0122】
以降の例27~例38が開示されていない。に記載された発明「甲)

8発明1」及び「甲8発明2」の2つの発明が記載されているところ,本件訴訟において争点となっているのは,甲8発明1」

との同一性判断である。)
と実質的に同一でないから,特許法29条の2の規定により,特許を受けることができないものではない。
4
審決が認定した引用発明並びに本件発明と引用発明との一致点及び相違点(1)甲1発明との対比について

甲1発明
正の誘電異方性を有する極性化合物の混合物に基づく液晶媒体であって,式I

で表される1種または2種以上の化合物および式IA

で表される1種または2種以上の化合物を含み,ここで,該媒体中の式Iで表される化合物の比率は,
少なくとも18重量%,
好ましくは24重量%
以上であり(個々の基は,以下の意味:
R1は,2~8個の炭素原子を有するアルケニル基であり,
R2は,H,1~15個の炭素原子を有し,ハロゲン化されているか,CNもしくはCF3により置換されているか,または非置換であるアルキル基であり,ここでさらに,これらの基中の1つまたは2つ以上のCH2基は,各々,互いに独立して,O原子が互いに直接結合しないように,
により置換されていてもよく,
X1は,各々6個までの炭素原子を有するアルキル基,アルケニル基,アルコキシ基またはアルケニルオキシ基であり,a=1である場合には,またF,Cl,CN,SF5,SCN,NCSまたはOCNであり,X2は,F,Cl,CN,SF5,SCN,NCS,OCN,各々6個までの炭素原子を有するハロゲン化アルキル基,ハロゲン化アルケニル基,ハロゲン化アルコキシ基またはハロゲン化アルケニルオキシ基であり,Z1およびZ2は,各々,互いに独立して,-CF2O-,-OCF2-または単結合であり,ここでZ1≠Z2であり,
aは,0または1であり,

は,各々,互いに独立して,

であり,
L1~4は,各々,互いに独立して,HまたはFである),
(式Iで表される化合物として,)式I-1~I-5

で表される1種または2種以上の化合物を含み,
式IAで表される化合物の,全体としての混合物中の比率が,5~40重量%,好ましくは10~30重量%であって,
20℃における誘電率異方性が6以上である,ノ-ト型PC用途のためのTN-TFT混合物として適するネマチック液晶媒体。

本件発明1と甲1発明との一致点及び相違点
<一致点>
第一成分としてアルケニル基を有する化合物を特定量含有し,第二成分として2種以上の四環化合物を10~30質量%含有するアクティブマトリックス型液晶表示素子用ネマチック液晶組成物。
<相違点1-1>
アルケニル基を有する化合物の構造及び含有量が,
本件発明1では,
「構
造式(1)で表される化合物(式略)」及び「35~65%」であるのに対し,甲1発明では,「式Iで表される1種または2種以上の化合物(式略)」及び「少なくとも18重量%,好ましくは24重量%以上」である点。
<相違点1-2>
四環化合物が,本件発明1では,「一般式(2)で表される化合物(式略)であるのに対し,

甲1発明では,
「式IAで表される化合物
(式略)

である点。
<相違点1-3>
本件発明1では,「構造式(1)で表される化合物(式略)及び一般式(2)で表される化合物(式略)を55~95%含有」することが特定されているのに対し,甲1発明ではかかる事項が特定されていない点。<相違点1-4>
本件発明1では,
「25℃における誘電率異方性(Δε)が2.5~7.
0」であることが特定されているのに対し,甲1発明では,20℃における誘電率異方性が6以上である点。
<相違点1-5>
本件発明1では,
「(ただし,下記式の化合物(式略)を1種以上含む,
化合物の混合物に基づく正の誘電率異方性を有する液晶媒体,並びに,下記式で表される1種以上の化合物(式略)を含むことを特徴とする極性化合物混合物系液晶媒体,を除く)。」ことが特定されているのに対し,甲1発明ではかかる事項が特定されていない点。
(2)甲2発明との対比について

甲2発明
正の誘電異方性を有する極性化合物の混合物を基材とする液晶媒体であって,1種または2種以上の式I

で表わされるエステル化合物および1種または2種以上の式IA

で表わされる化合物
(各式中,各基は,下記の意味を有する:
R1およびR2は,それぞれ相互に独立し,水素であり,もしくは炭素原子1~15を有し,ハロゲン化されている未置換のアルキル基であり,これらの基中に存在する1個または2個以上のCH2基は,それぞれ相互に独立し,酸素原子が相互に直接に結合しないものとして,-C≡C-,-C=C-,-O-,-CO-O-または-O-CO-により置き換えられていてもよく,
X1およびX2は,それぞれ相互に独立し,F,Cl,CN,SF5,SCNまたはNCSであり,もしくはそれぞれ6個までの炭素原子を有するハロゲン化アルキル基,ハロゲン化アルケニル基,ハロゲン化アルコキシ基またはハロゲン化アルケニルオキシ基であり,
Z1およびZ2は,それぞれ相互に独立し,-CF2O-,-OCF2-または単結合であり,ただしZ1≠Z2であり,

であり,
L1-6は,それぞれ相互に独立し,HまたはFである)を含有し,さらに1種または2種以上の式RI~RIX

(上記各式中,R0は,それぞれ9個までの炭素原子を有するn-アルキル,オキサアルキル,フルオロアルキル,アルケニルオキシまたはアルケニルであり,
Y1は,HまたはFであり,
alkylおよびalkyl*は,それぞれ相互に独立し,9個までの炭素原子を有する直鎖状または分枝鎖状アルキル基であり,
alkenylおよびalkenyl*は,それぞれ相互に独立し,炭素原子1~9個を有する直鎖状または分枝鎖状アルケニル基である。)で表わされる化合物を含有し,式IAで表わされる化合物の,全体としての混合物中の割合が,5~40重量%,好ましくは10~30重量%であって,20℃における誘電率異方性が6以上である,ノート型PC用途のためのTN-TFT混合物として有利に適しているネマチック液晶媒体。イ
本件発明1と甲2発明との一致点及び相違点
<一致点>
第二成分として2種以上の四環化合物を10~30質量%含有するアクティブマトリックス型液晶表示素子用ネマチック液晶組成物。
<相違点2-1>
本件発明1が,
「第一成分として構造式(1)で表される化合物(式略)
を35~65%含有」
することが特定されているのに対し,
甲2発明では,
「式RI~RIXで表わされる化合物(式略)」を単に含有することが特定されている点。
<相違点2-2>
四環化合物として,本件発明1では,「一般式(2)で表される化合物群(式略)から選ばれる化合物」を含有することが特定されているのに対し,甲2発明では,「式IAで表わされる化合物(式略)」である点。<相違点2-3>
本件発明1では,「構造式(1)で表される化合物(式略)及び一般式(2)で表される化合物(式略)を55~95%含有」することが特定されているのに対し,甲2発明ではかかる事項が特定されていない点。<相違点2-4>
本件発明1では,
「25℃における誘電率異方性(Δε)が2.5~7.
0」であることが特定されているのに対し,甲2発明では,20℃における誘電率異方性Δεが6以上である点。
<相違点2-5>
本件発明1では,
「(ただし,下記式の化合物(式略)を1種以上含む,
化合物の混合物に基づく正の誘電率異方性を有する液晶媒体,並びに,下記式で表される1種以上の化合物(式略)を含むことを特徴とする極性化合物混合物系液晶媒体,を除く)。」ことが特定されているのに対し,甲2発明ではかかる事項が特定されていない点。
(3)甲3発明との対比について

甲3発明
次の成分(A)~(D)を含み,20℃におけるΔεが4.0以上である,アクティブマトリックス駆動される液晶ディスプレイに含まれるネマチック液晶媒体
成分(A):式Iの誘電的に正の化合物の1種または2種以上と,式IIおよび式III

(式中,
R1,R2およびR3は,互いに独立して,炭素数1~7のアルキル,アルコキシ,フッ素化アルキルまたはフッ素化アルコキシ,炭素数2~7のアルケニル,アルケニルオキシ,アルコキシアルキルまたはフッ素化アルケニルであり,

は,互いに独立して,且つ

が,2つ存在するときはこれらも互いに独立して,それぞれ

であり,
Z21,Z22,およびZ3は,互いに独立して,且つZ21および/またはZ3が2つ存在するときはこれらも互いに独立して-CH2CH2-,-COO-,
trans--CH=CH-,trans--CF=CF-,-CH2O-,-CF2O-または単結合であり,
nおよびmは,互いに独立して,0,1または2であり,
X1,X2およびX3は互いに独立して,ハロゲン,炭素数1~3のハロゲン化アルキルもしくはアルコキシ,または炭素数2または3のハロゲン化アルケニルもしくはアルケニルオキシであり,
Y21およびY22は,互いに独立してHまたはFであり,そしてY31およびY32は,互いに独立してHまたはFであり,但し,
であるときは,31およびY32は両方ともHまたはFのどちらかである。Y

の群から選ばれる誘電的に正の化合物の1種または2種以上とを含有する誘電的に正の成分,成分(A)
成分(B):任意成分として式IV-1,IV-4,IV-6およびIV-7

(式中,R41およびR42は,式IのR1に定義されるものと同じ意味である。)の化合物の群から選ばれる1種または2種以上の化合物を含む誘電的に中性の成分,成分(B)
成分(C):任意成分としてさらに誘電的に正の成分,成分(C)成分(D):任意成分として誘電的に負の成分,成分(D)

本件発明1と甲3発明との一致点及び相違点
<一致点>
アクティブマトリックス型液晶表示素子用ネマチック液晶組成物。<相違点3-1>
本件発明1では,「構造式(1)で表される化合物(式略)を35~65%含有」することが特定されているのに対し,甲3発明では,「式IV-1,IV-4,IV-6およびIV-7の化合物の群(式略)から選ばれる1種または2種以上の化合物」を含むとの特定にとどまる点。<相違点3-2>
本件発明1では,「一般式(2)で表される化合物群(式略)から選ばれる2種以上の化合物を10~30質量%含有」することが特定されているのに対し,甲3発明では,「式IIおよび式IIIの群から選ばれる誘電的に正の化合物(式略)の1種または2種以上とを含有」するとの特定にとどまる点。
<相違点3-3>
本件発明1では,「構造式(1)で表される化合物及び一般式(2)で表される化合物を55~95%含有」
することが特定されているのに対し,
甲3発明ではかかる事項が特定されていない点。
<相違点3-4>
本件発明1では,
「25℃における誘電率異方性(Δε)が2.5~7.
0」であることが特定されているのに対し,甲3発明では,「20℃におけるΔεが4.0以上」である点。
<相違点3-5>
本件発明1では,
「(ただし,下記式の化合物(式略)を1種以上含む,
化合物の混合物に基づく正の誘電異方性を有する液晶媒体,並びに,下記式で表される1種以上の化合物(式略)を含むことを特徴とする極性化合物混合物系液晶媒体,を除く)。」ことが特定されているのに対し,甲3発明ではかかる事項が特定されていない点。
(4)甲8発明1との対比について

甲8発明1
液晶媒体であって,
-式I:

で表される誘電的に中性の化合物を含む,誘電的に中性の成分である成分A,および
-式IIおよびIII:

式中,
R2およびR3は,
互いに独立して,
1~7個のC原子を有するアルキル,
アルコキシ,フッ化アルキルまたはフッ化アルコキシ,2~7個のC原子を有するアルケニル,アルケニルオキシ,アルコキシアルキルまたはフッ化アルケニルであり,

は,互いに独立して,

であり,
L21,L22,L31およびL32は,互いに独立して,HまたはFであり,X2およびX3は,互いに独立して,ハロゲン,1~3個のC原子を有するハロゲン化アルキルもしくはアルコキシ,または2もしくは3個のC原子を有するハロゲン化アルケニルもしくはアルケニルオキシであり,Z3は,-CH2CH2-,-CF2CF2-,-COO-,トランス-CH=CH-,
トランス-CF=CF-,
-CH2O-または単結合であり,
そして
l,m,nおよびoは,互いに独立して,0または1である,
で表される化合物の群から選択される,3より大の誘電異方性を有する1種または2種以上の誘電的に正の化合物を含む,誘電的に正の成分である成分B,を含むこと,前記媒体中の成分Aの濃度が,25%~60%の範囲であり,および,前記媒体中の成分Bの濃度が,10%~60%の範囲であり,1kHzおよび20℃におけるΔεは,4.0以上である,アクティブマトリクスによってアドレスされる液晶ディスプレイに含まれるネマチック液晶媒体。

本件発明1と甲8発明1との一致点及び相違点
<一致点>
第一成分として構造式(1)で表される化合物(式略)を含有し,第二成分として,多環化合物を含有するアクティブマトリックス型液晶表示素子用ネマチック液晶組成物。
<相違点6-1>
多環化合物が,本件発明1では,
「一般式(2)で表される化合物群(式
略)から選ばれる2種以上の化合物を10~30質量%含有」することが特定されているのに対し,甲8発明1では,「式IIおよびIIIで表される化合物(式略)の群から選択される,1種または2種以上の化合物」を「10%~60%」含有するとの特定にとどまる点。
<相違点6-2>
本件発明1では,構造式(1)で表される化合物(式略)を「35~65%含有」
し,
かつ,
構造式
(1)
で表される化合物
(式略)
と一般式
(2)
で表される化合物(式略)を「55~95%含有」することが特定されているのに対し,甲8発明1では,構造式(1)(判決注:「式I」の誤記と考えられる。)で表される化合物(式略)を「25%~60%」含有することは特定されているものの,構造式(1)(判決注:「式I」の誤記と考えられる。)で表される化合物(式略)と一般式(2)で表される化合物(判決注:「式IIおよびIIIで表される化合物(式略)の群から選択される,1種または2種以上の化合物」の誤記と考えられる。)(式略)を「55~95%含有」することは,特定されていない点。
<相違点6-3>
本件発明1では,
「25℃における誘電率異方性(Δε)が2.5~7.
0」であることが特定されているのに対し,甲8発明1では,「1kHzおよび20℃におけるΔεは,4.0以上」である点。
<相違点6-4>
本件発明1では,
「(ただし,下記式の化合物(式略)を1種以上含む,
化合物の混合物に基づく正の誘電異方性を有する液晶媒体,並びに,下記式で表される1種以上の化合物(式略)を含むことを特徴とする極性化合物混合物系液晶媒体,を除く)。」ことが特定されているのに対し,甲8発明1ではかかる事項が特定されていない点。
第3
1
原告主張の取消事由
取消事由1(甲1記載の発明の認定の誤り)

(1)甲1記載の発明の認定の誤り

審決は,甲1に基づいて,甲1発明を認定した。しかし,次のとおり,この認定は誤りである。


審決の認定した甲1発明の式I-1~I-5は,
甲1の段落
【0044】
において,式Iで表される「好ましい化合物」とされている。
しかし,甲1の段落【0045】には,式Iで表される「特に好ましい化合物」として,より限定された8つの化学式ないし化合物が挙げられており,最初に記載されているのがCC-n-Vである。ここで,n=3の場合が,本件発明1の構造式(1)で表されるCC-3-Vに該当する。また,甲1には,実施例として,8つの組成物(M1~8)が記載されているところ,これらの実施例で使用された式Iの化合物は,3つのみであり,いずれも上記8つの化学式のうち,先頭に掲げられた2つのタイプ(CC-n-V及びCC-n-V1)
のどちらかに該当する。
したがって,
CC-n-V及びCC-n-V1が,さらに特に好ましい化合物である。加えて,CC-3-Vが使用された実施例は,M2,M3,M4,M5及びM7であるところ,そのいずれにおいてもCC-3-Vは最も濃度の高い成分である。


以上によれば,甲1に記載されている発明は,次のように認定されるべきである。
「正の誘電異方性を有する極性化合物の混合物に基づく液晶媒体であって,式Iで表される1種または2種以上の化合物(式は省略)および式IAで表される1種または2種以上の化合物(式は省略)を含み,ここで,該媒体中の式Iで表される化合物の比率は,少なくとも18重量%,好ましくは24重量%以上であり,
(式Iで表される化合物として,)CC-3-V及びCC-5-VなどのCC-n-V並びにCC-3-V1などのCC-n-V1を含み,式IAで表される化合物の,全体としての混合物中の比率が,5~40重量%,好ましくは10~30重量%であって,
20℃における誘電率異方性が6以上である,ノ-ト型PC用途のためのTN-TFT混合物として適するネマチック液晶媒体。」(以下「甲1発明〔原告〕」という。)
(2)本件発明1と甲1記載の発明との相違点の認定の誤り

甲1記載の8つの実施例中の5つにおいてCC-3-Vが使用されていることからも明らかなように,甲1発明〔原告〕において,CC-3-Vは,いわゆる事実上の選択肢である。そうすると,本件発明1の液晶組成物がCC-3-Vを含有することは,甲1発明〔原告〕との相違点とならない。
したがって,審決が認定した相違点1-1に対応する,本件発明1と甲1発明
〔原告〕
との相違点1-1’
は,
次のように認定されるべきである。
<相違点1-1’>
本件発明1では,アルケニル基を有する化合物であるCC-3-Vの含有量が35~65%であるのに対し,甲1発明〔原告〕では,CC-3-V及びCC-5-VなどのCC-n-V並びにCC-3-V1などのCC-n-V1の含有量が少なくとも18重量%以上,好ましくは24重量%以上である点。


なお,審決が認定した本件発明1と甲1記載の発明との相違点のうち,相違点1-2ないし1-5は認める。

2取消事由2
(本件発明と甲1記載の発明との相違点の容易想到性判断の誤り)(1)相違点1-1’の構成は容易想到であること
甲1発明〔原告〕では,CC-n-V及びCC-n-V1の含有量が「好ましくは24重量%以上」である。これに対し,本件発明1では,CC-n-V及びCC-n-V1のうちCC-3-Vの含有量が35~65%に特定されているところ,この含有量の範囲は,甲1発明〔原告〕が特定する範囲に含まれる。
そして,CC-3-Vの含有量を増やすと粘度が低下することは,CC-3-Vの配合目的のとおりである。
したがって,液晶組成物の粘度を下げる目的で,CC-n-V及びCC-n-V1の含有量を増やし,相違点1-1’の構成を採用することは,当業者が容易に想到できた。
さらに,
後記(2)において主張する事情を考慮すると,
相違点1-1’の構成を採用することは,なおさら当業者が容易に想到し得たというべきである。
(2)相違点1-1の構成は容易想到であること

仮に,甲1に記載された発明が甲1発明と認定され,本件発明1と甲1発明とが相違点1-1で相違するとしても,次のとおり,当業者は,相違点1-1の構成を容易に想到できた。


液晶組成物に低粘度成分として末端アルケニル基を有するビシクロヘキサン誘導体を配合することは周知技術であったこと
液晶ディスプレイは,応答速度が遅いと,変化の速い動画を十分な品質で表示することができないため,応答速度を速くすることは,液晶ディスプレイの技術分野において,周知の課題であった。そして,液晶組成物については,粘度を下げることが,応答速度を速くするための周知の手段であった。
ところで,液晶ディスプレイに求められる特性を実現するには,液晶組成物にも様々な物性値が求められる。そのため,液晶組成物は,複数の成分,すなわち①大きな誘電異方性を有する成分(ベ-ス成分),②低粘度成分及び③その他の成分,の混合物とする必要がある。そして,本件原出願当時,粘度を低減し,透明点(ネマチック相の上限温度)を高めてネマチック相の温度範囲を広げるため,回転粘度γ1が小さく,ネマチック相を形成し易い,末端アルケニル基を有するビシクロヘキサン誘導体を,低粘度成分として液晶組成物に配合することは,既に周知の技術であった。

当業者は,粘度低減の手段として,CC-3-Vに着目すること
(ア)CC-3-Vは,
末端アルケニル基を有するビシクロヘキサン誘導体
の中でも,その代表例とされている化合物である。
被告が指摘するジアルケニルビシクロヘキサン誘導体に係る特許出願においても,CC-n-Vはベンチマ-クとして位置づけられていた。そして,当該特許出願がされた後も,CC-n-Vなどのモノアルケニルビシクロヘキサン誘導体は,低粘度成分として広く利用されていた。このことは,①当該特許出願の公開公報の公開日後に刊行された総説において,低粘度成分としてCC-n-Vが挙げられている一方で,ジアルケニルビシクロヘキサン誘導体に関する記載がないこと,②CC-3-Vについては,既に平成17年9月27日の時点で労働安全衛生法に基づく名称の公表がされるほどに,商業的に多量に使用されているのに対し,ジアルケニルビシクロヘキサン誘導体については,未だ名称の公表がされていないこと,からも明らかである。
(イ)上記イの末端アルケニル基を有するビシクロヘキサン誘導体の配合に関する技術常識に照らせば,甲1に接した当業者は,甲1記載のCC-n-V及びCC-n-V1が,液晶組成物の粘度を低減し,TN-Iを高め,ネマチック相の温度範囲を広げるために配合されていることを当然に理解する。そして,甲1においては,CC-3-Vが,8つの実施例のうち5つで使用されており,かつ,その5つの実施例において,CC-3-Vは,式Iに限らず液晶組成物の全成分の中で最も濃度の高い成分である。
そうすると,
上記(ア)のCC-3-Vに関する技術常識を踏まえると,
甲1に接した当業者は,粘度の低減の手段としてCC-3-Vに着目するというべきである。

本件発明1の濃度範囲は甲1に示唆されていること
(ア)甲1の段落【0069】には,式Iで表される化合物の液晶組成物に占める割合は,「極めて特に好ましくは≧24重量%」と記載されている。そして,上記ウのとおり,甲1に接した当業者は,CC-3-Vに着目するから,液晶組成物の粘度を低減し,液晶ディスプレイの応答時間を短くすることを目的として,
CC-3-Vの濃度を24重量%以上,
例えば35重量%に増やすことを容易に想到し得た。
(イ)この点に関連して,被告は,甲1の記載は,CC-3-Vの比率を35~65重量%とすることを示唆していないとか,各ビシクロヘキサン化合物の比率は多くても20%であるから,CC-3-Vの濃度を35重量%に増やすことは容易に想到できないと主張する。
しかし,被告自身が,中国の無効審判において主張していたとおり,低粘度成分であるモノアルケニルビシクロヘキサン誘導体の中でも,CC-3-V,CC-3-V1,CC-4-V及びCC-5-Vは,類似した構造及び性質を有し,交換可能な化合物である。
そして,甲1の実施例M4及びM7では,CC-3-VとCC-3-V1との合計濃度が30%に達しているから,当業者は,CC-3-Vの濃度を30%,ひいては35%にすることを容易に想到できる。

本件発明1の効果は当業者の予測の範囲内にすぎないこと
(ア)CC-3-Vの濃度が増えることによって液晶組成物の粘度が低減する効果は,CC-3-Vの周知の性質に照らし,当業者の予測の範囲内である。本件発明1は,粘度を低下させる成分の濃度を増やして粘度の低減を図る一方で,誘電異方性やネマチック相の温度範囲といった他の物性値を犠牲にしており,特段の効果を奏するものではない。
(イ)この点に関し,審決は,本件明細書の段落【0030】に基づき,TN-I

(ネマチック相-等方性液体相転移温度。以下同じ。)が70℃,
T→N
(固体相又はスメクチック相-ネマチック相転移温度。
以下同じ。

が-20℃の場合も液晶温度範囲が広いと認定した。しかし,液晶組成物のネマチック相の温度範囲は,液晶ディスプレイの保存温度よりも十分広くなるように設計されることに照らすと,TN-Iが70℃以上,T→N
が-20℃以下では,ネマチック相の温度範囲が十分広いとはいえな
いから,この審決の認定は誤りである。
また,
本件明細書には,
回転粘度の測定条件が記載されていないから,
実施例を従来技術と比較することができず,その効果を評価できない。その点を措くとしても,液晶組成物の回転粘度は,配合された様々な成分に依存するから,CC-3-Vの濃度だけでなく,それ以外の成分の種類及び濃度に違いがある本件明細書の実施例と甲1の実施例との対比,及び本件明細書の実施例と比較例との対比によっては,本件発明の組成物が従来技術よりも優れた効果を奏するものであるか否かを判断することができない。
(3)小括
以上のとおり,本件発明1と甲1記載の発明との相違点の容易想到性についての審決の判断は誤りである。
そして,審決の本件発明2及び3の容易想到性についての判断も,本件発明1の相違点1-1の判断に依拠しているから,当然に誤りである。3
取消事由3(甲2記載の発明の認定の誤り)
(1)甲2記載の発明の認定の誤り

審決は,甲2に基づいて,甲2発明を認定した。しかし,次のとおり,この認定は誤りである。


審決の認定した甲2発明の式RI~RIXのうち,
RIa及びRIb
(R
Iの下位概念),RIIa及びRIIb(RIIの下位概念)並びにRIIIa(RIIIの下位概念)は,甲2の段落【0072】及び【0073】
において好ましい例とされている。
ここで,
RIIa及びRIIbは,
それぞれCC-n-V及びCC-n-V1である(同【0095】)。また,甲2には,実施例として10の組成物(M1~10)が記載されているところ,このうち7の実施例でCC-3-Vが使用されており,そのいずれにおいてもCC-3-Vは最も濃度の高い成分である。


以上によれば,甲2に記載されている発明は,次のように認定されるべきである。
「正の誘電異方性を有する極性化合物の混合物に基づく液晶媒体であって,1種または2種以上の式Iで表されるエステル化合物(式略)および1種または2種以上の式IAで表される化合物(式略)を含有し,さらにCCH-35などの式RIaで表される化合物,CC-3-V及びCC-5-Vなどの式RIIaで表される化合物並びにCC-3-V1などの式RIIbで表される化合物を1種または2種以上含有し,式IAで表される化合物の,全体としての混合物中の比率が,5~40重量%,好ましくは10~30重量%であって,20℃における誘電率異方性が6以上である,ノ-ト型PC用途のためのTN-TFT混合物として有利に適しているネマチック液晶媒体。」(以下「甲2発明〔原告〕」という。)

(2)本件発明1と甲2記載の発明との相違点の認定の誤り

甲2記載の10の実施例中の7つにおいてCC-3-Vが使用されていることからも明らかなように,甲2発明〔原告〕において,CC-3-Vは,いわゆる事実上の選択肢である。そうすると,本件発明1の液晶組成物がCC-3-Vを含有することは,甲2発明〔原告〕との相違点とならない。
したがって,審決が認定した相違点2-1に対応する,本件発明1と甲2発明
〔原告〕
との相違点2-1’
は,
次のように認定されるべきである。
<相違点2-1’>
本件発明1では,
CC-3-Vの含有量が35~65%であるのに対し,
甲2発明〔原告〕では,CC-3-Vの含有量が特定されていない点。イ
なお,審決が認定した本件発明1と甲2記載の発明との相違点のうち,相違点2-2ないし2-5は認める。

4取消事由4
(本件発明と甲2記載の発明との相違点の容易想到性判断の誤り)(1)相違点2-1’の構成は容易想到であること
甲2の実施例では,CC-3-V及びCC-3-V1の濃度の合計は,M7で22.5%,M10で29%であるほか,M8で30%(CC-3-Vは18%)に達している。また,CC-3-V単独での最大の濃度は,M3の19%である。
したがって,当業者は,減粘剤としての末端アルケニル基を有するビシクロヘキサン誘導体,とりわけCC-3-Vの技術常識を踏まえ,液晶組成物の粘度を下げる目的でCC-n-V及びCC-n-V1の含有量を増やし,相違点2-1’の構成を採用することを容易に想到できた。さらに,後記(2)において主張する事情を考慮すると,相違点2-1’の構成を採用することは,なおさら当業者が容易に想到し得たというべきである。
(2)相違点2-1の構成は容易想到であること

仮に,甲2に記載された発明が甲2発明と認定され,本件発明1と甲2発明とが相違点2-1で相違するとしても,次のとおり,当業者は,相違点2-1の構成を容易に想到できた。


当業者はCC-3-Vの濃度を高めることを容易に想到し得たこと上記2(2)イにおいて主張した末端アルケニル基を有するビシクロヘキサン誘導体の配合に関する技術常識に照らせば,甲2に接した当業者は,甲2記載のCC-n-V及びCC-n-V1が,
液晶組成物の粘度を低減し,
TN-Iを高め,ネマチック相の温度範囲を広げるために配合されていることを当然に理解する。そして,甲2においては,CC-3-Vが10の実施例のうち7つで使用されており,かつ,その7つの実施例において,CC-3-Vは液晶組成物の全成分の中で最も濃度の高い成分である。そうすると,CC-3-Vに関する技術常識を踏まえると,甲2に接した当業者は,粘度の低減の手段としてCC-3-Vに着目するというべきである。
そして,CC-3-VとCC-3-V1との合計濃度は,甲2の実施例M10では29%,M8では30%に達しているから,当業者は,液晶組成物の粘度を低減し,液晶ディスプレイの応答時間を短縮することを目的として,CC-3-Vの濃度を35%とすることを容易に想到できた。ウ
本件発明1の効果は当業者の予測の範囲内にすぎないこと
上記2(2)オにおいて主張したところと同様に,
本件発明1は,
特段の効
果を奏するものではない。

(3)小括
以上のとおり,本件発明1と甲2記載の発明との相違点の容易想到性についての審決の判断は誤りである。
そして,審決の本件発明2及び3の容易想到性についての判断も,本件発明1の相違点2-1の判断に依拠しているから,当然に誤りである。5取消事由5
(本件発明と甲3記載の発明との相違点の容易想到性判断の誤り)(1)審決の認定した甲3発明並びに本件発明1と甲3発明との一致点及び相違点は認める。
しかし,相違点3-1~3-3の構成を想到することは容易とはいえないとの審決の判断は,次のとおり誤りである。
(2)相違点3-1の構成は容易想到であること

上記2(2)イ及びウにおいて主張したとおり,
液晶組成物の粘度を低下さ
せるために,末端アルケニル基を有するビシクロヘキサン誘導体を配合することは周知の技術であり,CC-3-Vはその代表例である。
したがって,当業者には,液晶組成物の粘度を下げて応答速度を短縮する目的で,CC-3-Vの濃度を増やす動機付けがある。


また,甲3の例5では,CC-3-VとCC-3-V1の合計濃度が42%に達しており,CC-3-V単独の濃度は32%である。
そして,甲3の段落【0132】には,式IVの濃度は「好ましくは0~50%」と記載されているから,式IVに該当するCC-3-Vの濃度を,例5の32%から3~8%増やして35~40%とし,CC-3-VとCC-3-V1との合計濃度を45~50%にすることが強く示唆されている。

ウ被告は,
甲3の例5に係る組成物のTN-Iは実施例の中で最も低いから,甲3に接した当業者は,むしろCC-3-Vを含む式IⅤの化合物の合計濃度を減らした方がよいと理解すると主張する。
しかし,甲3の例5に係る組成物のTN-Iは78.4℃と,本件明細書記載の実施例のそれ(70.0~70.8℃)よりも高く,液晶相温度の上限という点でより優れている。そうすると,TN-Iが多少低下するとしても,回転粘度を重視しようとするときは,甲3の例5に係る組成物からCC-3-Vの濃度をわずか3%増やし,本件発明1が特定する濃度範囲内とすることは,当業者が適宜調整する程度の事項にすぎない。

したがって,当業者は相違点3-1の構成を容易に想到できた。

(3)相違点3-2の構成は容易想到であること

正の誘電異方性を有する液晶組成物には,多くの場合,正の誘電異方性を有する液晶化合物が複数種類配合されている。そして,三環型の液晶化合物と比較すると,四環型の液晶化合物には,液晶組成物の耐熱性を改善し,TN-Iを高めるという利点があるものの,その一方で,四環型の液晶化合物の濃度を増やすと粘度は上昇する傾向にある。これに対し,CC-3-Vなどの減粘剤の濃度を増加することより,粘度の上昇を打ち消すことができる。
したがって,優れた耐熱性及び高いTN-Iが重視される場合に,三環型の液晶化合物に替えて四環型の液晶化合物を使用することは,当業者が当然採用すべき手段である。

また,甲1,2,27,28及び29に例示されているとおり,本件原出願当時,正の誘電異方性を有する四環型の液晶化合物(例えば,CGUQU-n-F及びCPUQU-n-F)を2種以上組み合わせて使用し,その合計濃度を11~20.
5%とすることは,
既に周知の技術であった。
そして,甲3には,例7としてCCGU-3-Fを8%の濃度で配合する液晶組成物が記載されているところ,これは四環型の正の誘電異方性を有する液晶化合物を例示することによって,当該周知技術の適用を示唆するものである。
そうすると,甲3発明に当該周知技術を適用し,CGUQU-n-F及びCPUQU-n-Fの2種以上を組み合わせて配合するとともに,合計濃度を11~20.5%として,相違点3-2の構成を採用することは,当業者が容易に想到できた。

(4)相違点3-3の構成は容易想到であること
相違点3-1に関して主張したとおり,CC-3-Vの濃度を35%以上とすることは,当業者が容易に想到できた。
また,相違点3-2に関して主張したとおり,四環型の正の誘電異方性を有する液晶化合物を2種以上組み合わせて,11~20.5%の合計濃度で配合することも,当業者が容易に想到できた。
そして,四環型の液晶化合物の濃度を20.5%とすると,CC-3-Vと四環型の正の誘電異方性を有する液晶化合物との合計濃度は55.5%となり,相違点3-3の構成となる。
したがって,当業者は,相違点3-3の構成も容易に想到できた。6
取消事由6(本件発明1と甲8発明1との同一性判断の誤り)
(1)審決は,相違点6-1及び6-2はいずれも実質的な相違点であると判断した。しかし,次のとおり,この判断は誤りである。
(2)相違点6-1について

本件明細書には,正の誘電異方性を有する四環型の液晶化合物として1種類のみを使用した場合と,2種類以上を使用した場合とを対比する実験結果は記載されていない。例えば,実施例1~3と比較例1~3には,いずれも正の誘電異方性を有する四環型の液晶化合物として3種類の成分が使用されているところ,
当該化合物の違いは検証されていない。
ましてや,
合計濃度の違いについては検証されていない。
したがって,本件明細書の記載から相違点6-1の特段の技術的意義を導くことはできない。

イ同じタイプの液晶化合物を混合することにより,
液晶温度範囲を拡大し,
かつ,
粘度を下げることは,
液晶分野において古くからの技術常識である。
正の誘電異方性を有する四環型の液晶化合物についても,この技術常識を適用した例が多数報告されており,その合計濃度は11~20.5%と,相違点6-1の構成の範囲内にある。
そうすると,本件発明においても,上記の技術常識に沿った目的のために,周知慣用技術により複数の種類の正の誘電異方性を有する四環型の液晶化合物を使用したと解さざるを得ない。

また,甲8には,CCGU-3-Fが単独で9.0%配合されている実施例が記載されていることからすると,式II及びIIIに表される化合物のうち,本件発明1の一般式(2)で表される化合物に対応する化合物を10%以上含むことも十分に想定されていると解されるから,甲8発明1は,かかる化合物を10%以上含有することも包含している。

以上によれば,相違点6-1は,技術常識に従って周知慣用の技術が付加されているにすぎないものであり,実質的な相違点ではない。

(3)相違点6-2について

本件明細書には,第一成分であるCC-3-Vと,第二成分である正の誘電異方性を有する四環型の液晶化合物との合計濃度が有する技術的意義についても,その合計濃度範囲についても何ら記載されていない。そして,
本件発明においては,
第一成分と第二成分との合計濃度に関し,
各々の濃度範囲
(前者について35~65%,
後者について10~30%)
と独立して議論する根拠を欠く。


すなわち,合計濃度の上限値(95%)は,第一成分の濃度範囲の上限(65%)
と,
第二成分の濃度範囲の上限
(30%)
の和にすぎないから,
合計濃度の上限値は,第一成分及び第二成分について,新たな限定をもたらすものではない。したがって,この上限値を第一成分及び第二成分から独立した相違点として議論する必要はない。


次に,合計濃度の下限値(55%)の根拠は,実施例1において,第一成分の濃度が40%,
第二成分の合計濃度が15%で,
両者の合計が55%
であったことに基づくものである。
もっとも,
合計濃度の下限が55%という条件は,
一方の成分を増やし,
他方の成分を減らすことによっても実現できるから,合計濃度の下限の規定は,第一成分と第二成分とが等価で交換可能であることを前提として,はじめて技術的に理解できるものである。しかし,本件発明では,第一成分と第二成分とは,構造上もその役割の点からも,等価ではあり得ない。したがって,第一成分と第二成分との合計濃度の下限は,特段の技術的意義を有するものではなく,課題解決のための具体化手段における微差というほかない。

以上によれば,相違点6-2は,形式上の相違点を作出することのみを目的として作られたものであり,実質的な相違点ではない。

第4
1
被告の反論
取消事由1(甲1記載の発明の認定の誤り)について

(1)甲1記載の発明の認定について
原告は,甲1に甲1発明〔原告〕が記載されていると主張する。
しかし,甲1には,液晶媒体中の式Ⅰで表される化合物が,8個の式の化合物のうちの「CC-n-V」,「CC-n-V1」を含むとは記載されていないし,また,「CC-n-V並びにCC-n-V1」と「式ⅠAで表される1種又は2種以上の化合物」を組み合わせた混合物である液晶媒体についての記載もない。
また,
甲1には,式Ⅰで表される化合物の比率は,

少なくとも18重量%,
好ましくは24重量%以上」であることが記載されているものの,「CC-3-V及びCC-5-VなどのCC-n-V並びにCC-3-V1などのCC-n-V1」の比率が,「少なくとも18重量%,好ましくは24重量%以上」であることは記載されていない。したがって,甲1発明〔原告〕の特定事項の意味がこのようなものであるならば,甲1発明〔原告〕は,「CC-3-V及びCC-5-VなどのCC-n-V並びにCC-3-V1などのCC-n-V1」の比率が「少なくとも18重量%,好ましくは24重量%以上」である点でも,甲1に記載された発明ではない。
したがって,甲1発明〔原告〕は,甲1に記載された事項及び記載されているに等しい事項から把握される発明ではない。
(2)本件発明1と甲1記載の発明との相違点の認定の誤りについて原告は,相違点1-1’が本件発明1と甲1発明〔原告〕との相違点であると主張する。
しかし,
そもそも甲1発明
〔原告〕
は甲1に記載された発明ではないから,
この点についての原告の主張は,前提において誤っている。
2取消事由2
(本件発明と甲1記載の発明との相違点の容易想到性判断の誤り)について
(1)相違点1-1’の構成は容易想到であるとの主張について
上記1において主張したとおり,甲1発明〔原告〕は,甲1に記載された発明ではない上,原告が主張する相違点1-1’も誤りであるから,この点についての原告の主張は失当である。
(2)相違点1-1の構成は容易想到であるとの主張について

当業者は甲1記載の発明に着目しないこと
本件原出願当時,CC-3-VとCF2Oを有する三環化合物との組合せは,低いγ1を達成するのに有効であるとされており,液晶媒体において,ビシクロヘキサン誘導体と主に組み合わせられているのは三環化合物であることが当業者に知られていた。しかし,当業者において,γ1が極めて大きい四環化合物との組合せが低い粘度を達成するのに有効であることが知られていたことはうかがわれない。
そうすると,低い粘度を達成するとの観点からすると,当業者は,三環化合物を主たる組成とし,これとCC-3-Vを組み合わせた発明に着目するのが通常であって,四環化合物である式ⅠAで表される化合物を必須とする甲1記載の発明に着目することはない。


甲1に接した当業者はCC-3-Vに着目しないこと
仮に,
当業者が甲1に着目したとすると,
当業者は,
その記載内容から,
式Ⅰで表される特に好ましい化合物であるとされた「8個の式の化合物」が,甲1発明と従来技術の混合物とを粘度により区別する成分であると理解する。
しかし,甲1には,式Ⅰで表される特に好ましい化合物である「8個の式の化合物」の中でもCC-3-Vがとりわけ好ましいものである旨の記載はないし,広いネマチック相範囲を達成するための技術的手段についての記載もない。
そして,本件原出願当時,液晶組成物について高い透明点(広い動作温度範囲)と低い粘度(速い切り替え)とを両立させるという矛盾した要求を実現するのは大変困難であるが,①シクロヘキサン環のみをメソゲンコア構造として有する材料はネマチック相が狭くスメクチック相が広いが,シクロヘキサン環を有する中性物質を粘度の低下のために使用し得ること,②さらに,ビシクロヘキサン誘導体には,粘度を低下させ広いネマチック相範囲とするために使用し得るものもあるが,ジアルキルビシクロヘキサン,モノアルケニルビシクロヘキサンと比較すると,特にジアルケニルビシクロヘキサンが優れていることは,当業者によく知られていた。これに対し,本件原出願当時,粘度を低下させ,TN-Iを高めてネマチック相の温度範囲を広げるために,末端アルケニル基を有するビシクロヘキサン誘導体を配合することは周知ではなかった。
そうすると,広い動作温度範囲及び低い粘度の両立という矛盾した要求を念頭に置いて甲1の記載に接した当業者は,「8個の式の化合物」はそれぞれ物理的性質が異なっており,①そのうちのビシクロヘキサン誘導体はネマチック相が狭い,②ビシクロヘキサン誘導体の中では,ジアルケニルビシクロヘキサンが粘度を低下させ広いネマチック相範囲を得るのに優れていると推論する。
したがって,甲1の教示に従うとしても,広い動作温度範囲及び低い粘度の両立という矛盾した要求に対応しようとする当業者が,「8個の式の化合物」のうち,ネマチック相が狭い(温度範囲14℃)上に,ビシクロヘキサン誘導体の中では当該要求に最も合致するジアルケニルビシクロヘキサンでもないCC-3-Vに着目することはない。

CC-3-Vの含有量を増加させることには阻害要因があること
仮に当業者がCC-3-Vに着目し得たとしても,甲1には,混合物中のCC-3-Vの含有量が「35~65」重量%であることは記載も示唆もされていない。また,そもそも四環化合物を含有する液晶組成物において,混合物中のCC-3-Vの含有量を増加させて,広い動作温度範囲及び低い粘度の両立という矛盾した要求に対応しようという発想があったことをうかがわせる証拠すらない。かえって,本件原出願当時,ビシクロヘキサン誘導体を含有する液晶媒体の各ビシクロヘキサン化合物の比率は多くても20%程度であることが知られていたのであるから,液晶組成物は化合物の組合せとその含有量によって特性が変わるとの技術常識を有していた当業者は,CC-3-Vを多量に配合すべきでないという認識を持っていたと解される。
そうすると,甲1の教示に従い,広い動作温度範囲及び低い粘度の両立という矛盾した要求に対応しようとする当業者において,CC-3-Vの比率を増加させる動機はない。むしろ,広い動作温度範囲及び低い粘度の両立という矛盾した要求に対応できなくなるにもかかわらず,ネマチック相が狭いCC-3-Vの含有量を増加させることには阻害要因がある。

本件発明の効果について
(ア)ある液晶化合物を混合して得られた組成物のネマチック相転移温度を予測するのは困難であるところ,本件発明1では,第一成分と第二成分を組み合わせて,→Nを所望の-20℃以下にし,
T
かつ粘度も下げる
(回
転粘度が35以下)ことができているから,本件発明1は,広い動作温度範囲及び低い粘度の両立という矛盾した要求に応え,「非常に粘性が低く,
低温で安定したネマチック相を持ち,
液晶相温度範囲が広」「ア

クティブマトリクス型液晶表示素子用液晶組成物が得られた」という効果を奏している。そして,本件発明1が甲1発明全体と比較して,少なくとも回転粘度γ1につき格別の効果を奏していることは明らかである。したがって,本件発明1の効果は,甲1の記載から予測し得るものとはいえない。
(イ)原告は,
本件明細書には,
回転粘度の測定条件が明記されていないと
主張する。
しかし,液晶表示パネルの応答時間測定方法において恒温室又は恒温槽が用いられ,マトリクス形液晶表示パネル等を恒温室又は恒温槽に保持して測定する標準測定状態の温度は25±2℃であるのが通常であるから,実施例1~3の回転粘度γ1も25℃で測定されたと解するのが合理的である。

したがって,当業者は相違点1-1の構成を容易に想到できないとした審決の判断に誤りはない。

(3)その余の相違点について
ネマチック相転移温度が高く,回転粘度も極めて大きい式IAで表される化合物の含有量だけを増加させる動機はないから,相違点1-3の構成は容易想到でない。
また,
本件発明3と甲1発明とは,
前者が
「加熱150℃1時間後の60℃
での保持率(%)(セル厚6μmのTN-LCDに注入し,5V印加,フレ-ムタイム200ms,パルス幅64μsで測定したときの測定電圧と初期印加電圧との比を%で表した値)が96%以上に保たれる」ものであるのに対し,後者ではかかる事項が特定されていない点でも相違するところ,この相違点も容易想到でない。
3
取消事由3(甲2記載の発明の認定の誤り)について
(1)甲2記載の発明の認定について
原告は,甲2に甲2発明〔原告〕が記載されていると主張する。
確かに,甲2には,式RⅠ~RⅠⅩで表される化合物に関し,好ましいものとしてRIa,RIb,RIIa,RIIb及びRIIIaの5個の式の化合物が示され,CC-3-V,CC-3-V1,CCH-35,CC-5-Vが,これらの具体例であることが記載されている。しかし,甲2には,混合物を基材とする液晶媒体が,
上記の5個の式の化合物から選択された
「式
RⅠa,RⅠⅠa及びRⅠⅠbで表される1種または2種以上の化合物」を含むとまでは記載されていないし,さらに,当該化合物と,「1種または2種以上の式Ⅰで表されるエステル化合物」並びに「1種または2種以上の式ⅠAで表される化合物」を組み合わせた混合物を基材とする液晶媒体についての記載もない。
したがって,甲2発明〔原告〕は,甲2に記載された事項及び記載されているに等しい事項から把握される発明ではない。
(2)本件発明1と甲2記載の発明との相違点の認定の誤り
原告は,相違点2-1’が本件発明1と甲2発明〔原告〕との相違点であると主張する。
しかし,
そもそも甲2発明
〔原告〕
は甲2に記載された発明ではないから,
この点についての原告の主張は,前提において誤っている。
4取消事由4
(本件発明と甲2記載の発明との相違点の容易想到性判断の誤り)について
(1)相違点2-1’の構成は容易想到であるとの主張について
上記3において主張したとおり,甲2発明〔原告〕は,甲2に記載された発明ではない上,原告が主張する相違点2-1’も誤りであるから,この点についての原告の主張は失当である。
(2)相違点2-1の構成は容易想到であるとの主張について

当業者は甲2記載の発明に着目しないこと
上記2(2)アにおいて主張したところと同様に,
低い粘度を達成するとの
観点からすると,当業者は,四環化合物である式ⅠAで表される化合物を必須とする甲2記載の発明に着目することはない。

甲2に接した当業者はCC-3-Vに着目しないこと
甲2に記載された発明は,「1種または2種以上の式Ⅰで表されるエステル化合物」を必須とするものである(【請求項1】)。そして,甲2の段落【0032】及び【0110】の記載から,当業者は,「1種または2種以上の式Ⅰで表されるエステル化合物」が,甲2発明と従来技術の混合物とを透明点,γ1値及び100℃における電圧保持率(VHR)により区別する成分であると理解し,これらの物性の観点から,まず必須成分である当該エステル化合物に着目する。
しかし,甲2には,任意成分の一つである式RⅠ~RIXで表される好ましい化合物である「5個の式の化合物」の中でもCC-3-Vがとりわけ好ましいものである旨の記載はないし,広いネマチック相範囲を達成するための技術的手段についての記載もない。
上記2(2)イにおいて主張したところと同様に,
広い動作温度範囲及び低
い粘度の両立という矛盾した要求を念頭に置いて甲2の記載に接した当業者は,「5個の式の化合物」はそれぞれ物理的性質が異なっており,①そのうちのビシクロヘキサン誘導体はネマチック相が狭い,②ビシクロヘキサン誘導体の中では,ジアルケニルビシクロヘキサンであるRIIIaで表される化合物が粘度を低下させ広いネマチック相範囲を得るのに優れていると推論する。
したがって,広い動作温度範囲及び低い粘度の両立という矛盾した要求に対応しようとする当業者が,「5個の式の化合物」のうち,ビシクロヘキサン誘導体の中では当該要求に最も合致するRIIIaではなく,ネマチック相が狭い(温度範囲14℃)CC-3-Vに着目することはない。ウ
CC-3-Vの含有量を増加させることには阻害要因があること
仮に当業者がCC-3-Vに着目し得たとしても,甲2には,混合物中のCC-3-Vの含有量が「35~65」重量%であることは記載も示唆もされていない。また,上記2(2)ウにおいて主張したとおり,本件原出願当時の当業者は,CC-3-Vを多量に配合すべきでないという認識を持っていたと解される。
そうすると,甲2の教示に従い,広い動作温度範囲及び低い粘度の両立という矛盾した要求に対応しようとする当業者において,CC-3-Vの比率を増加させる動機はない。むしろ,広い動作温度範囲及び低い粘度の両立という矛盾した要求に対応できなくなるにもかかわらず,ネマチック相が狭いCC-3-Vの含有量を増加させることには阻害要因がある。

本件発明の効果について
上記2(2)エにおいて主張したとおり,
本件発明1は,
広い動作温度範囲
及び低い粘度の両立という矛盾した要求に応え,「非常に粘性が低く,低温で安定したネマチック相を持ち,液晶相温度範囲が広」い「アクティブマトリクス型液晶表示素子用液晶組成物が得られた」という効果を奏している。そして,本件発明1が甲2発明全体と比較して,液晶相温度範囲及び回転粘度γ1につき格別の効果を奏していることは明らかである。したがって,本件発明1の効果は,甲2の記載から予測し得るものとはいえない。


したがって,当業者は相違点2-1の構成を容易に想到できないとした審決の判断に誤りはない。

(3)その余の相違点について
ネマチック相転移温度が高く,回転粘度も極めて大きい式IAで表される化合物の含有量だけを増加させる動機はないから,相違点2-3の構成は容易想到でない。
また,
本件発明3と甲2発明とは,
前者が
「加熱150℃1時間後の60℃
での保持率(%)(セル厚6μmのTN-LCDに注入し,5V印加,フレ-ムタイム200ms,パルス幅64μsで測定したときの測定電圧と初期印加電圧との比を%で表した値)が96%以上に保たれる」ものであるのに対し,後者ではかかる事項が特定されていない点でも相違するところ,この点も容易想到でない。
5取消事由5
(本件発明と甲3記載の発明との相違点の容易想到性判断の誤り)について
(1)相違点3-1の構成は容易想到であるとの主張について

甲3に接した当業者はCC-3-Vに着目しないこと
甲3の段落【0166】~【0186】には,甲3発明の例である例1~7につき,式ⅠⅤ-1,ⅠⅤ-4,ⅠⅤ-6及びⅠⅤ-7の化合物の具体例であるCCP-V-1,CC-3-V1,CC-4-V,CCH-34,CBC-33,CBC-33F,CBC-53,CC-3-V,CC-3-V1,CCP-V2-1を含有している旨が記載されている。しかし,甲3には,式ⅠⅤ-1,ⅠⅤ-4,ⅠⅤ-6及びⅠⅤ-7の化合物の中でもCC-3-Vがとりわけ好ましいものである旨の記載はないし,広いネマチック相範囲を達成するための技術的手段についても記載がない。
上記2(2)イにおいて主張したところと同様に,
広い動作温度範囲及び低
い粘度の両立という矛盾した要求を念頭に置いて甲3の記載に接した当業者は,式ⅠⅤ-1,ⅠⅤ-4,ⅠⅤ-6及びⅠⅤ-7の化合物はそれぞれ物理的性質が異なっており,そのうちの式ⅠⅤ-1の化合物はネマチック相が狭いものの,
その中ではR41及びR42がともに炭素数2~7のアルケ
ニルである化合物が粘度を低下させ広いネマチック相範囲を得るのに優れていると推論する。
したがって,広い動作温度範囲及び低い粘度の両立という矛盾した要求に対応しようとする当業者が,式ⅠⅤ-1,ⅠⅤ-4,ⅠⅤ-6及びⅠⅤ-7の化合物のうち,式ⅠⅤ-1の化合物の中では当該要求に最も合致するR41及びR42がともに炭素数2~7のアルケニルである化合物ではなく,ネマチック相が狭いCC-3-Vに着目することはない。

CC-3-Vの含有量を増加させることには阻害要因があること
仮に当業者がCC-3-Vに着目し得たとしても,甲3には,混合物中のCC-3-Vの含有量が「35~65」重量%であることは記載も示唆もされていない。また,上記2(2)ウにおいて主張したとおり,本件原出願当時の当業者は,CC-3-Vを多量に配合すべきでないという認識を持っていたと解される。
なお,甲3に記載された例5の混合物はCC-3-Vを32.0%含有するところ,そのTN-I(甲3中の記載はT(N,I)。以下同じ。)は全ての例の中で最も低い。また,甲3の段落【0132】に,「式ⅠⅤの化合物の濃度は,
…最も好ましくは25~35%」
と記載されているから,
広い動作温度範囲及び低い粘度の両立という矛盾した要求に対応する当業者は,TN-Iが全ての例の中で最も低い例5の混合物については,含有する式ⅠⅤの化合物の具体例であるCC-3-V,CC-3-V1,CCP-V-1,CCP-V2-1,CBC-33Fの合計濃度をむしろ減らした方がよいと理解する。
そうすると,甲3の教示に従い,広い動作温度範囲及び低い粘度の両立という矛盾した要求に対応しようとする当業者において,CC-3-Vの比率を増加させる動機はない。むしろ,広い動作温度範囲及び低い粘度の両立という矛盾した要求に対応できなくなるにもかかわらず,ネマチック相が狭いCC-3-Vの含有量を増加させることには阻害要因がある。
(2)相違点3-2の構成は容易想到であるとの主張について
甲3の段落【0166】~【0186】には,甲3発明の例である例1~7につき,式ⅠⅠ及び式ⅠⅠⅠの群から選ばれる誘電的に正の化合物の具体例である「BCH-2F,F」,「BCH-3F,F」,「BCH-5F,F」,「CGU-2-F」,「CGU-3-F」,「ECCP-3F,F」,「ECCP-5F,F」,「BCH-5F,F,F」,「CCP-3F,F,F」,
「CCP-5F,F,F」,
「PGU-2-F」,
「PGU-3-F」,
「PGU-5-F」,「CCGU-3-F」,「PUQU-2-F」,「PUQU-3-F」,「CCG-V-F」,「GGP-3-CL」,「CCQU-3-F」,「CCQU-5-F」,「CCP-2F,F,F」を含有している旨が記載されている。
しかし,甲3の段落【0029】には,式ⅠⅠ及び式ⅠⅠⅠのn,mについて,「好ましくは,0または1であり,最も好ましくは1」と記載されているから,
式ⅠⅠ及び式ⅠⅠⅠの群から選ばれる誘電的に正の化合物の中で,CCGU-3-Fを具体例とするn,mが2のものは好ましくない化合物に分類されることになる。また,その濃度が「10~30」%であることは,甲3において記載も示唆もされていない。
そして,本件原出願当時,四環化合物はネマチック相への転移温度が高い上に回転粘度γ1が極めて大きく,それを含有する液晶媒体の回転粘度γ1も大きいことは技術常識であった。
そうすると,広い動作温度範囲及び低い粘度の両立という矛盾した要求に対応しようとする当業者において,CCGU-3-Fを具体例とするn,mが2である式ⅠⅠ及び式ⅠⅠⅠの化合物の濃度を増加させる動機はない。むしろ,広い動作温度範囲及び低い粘度の両立という矛盾した要求に対応できなくなるにもかかわらず,ネマチック相への転移温度が高い上にγ1が極めて大きい四環化合物(CCGU-3-Fを具体例とするn,mが2である式ⅠⅠ及び式ⅠⅠⅠの化合物)の濃度を増加させることには阻害要因がある。(3)相違点3-3の構成は容易想到であるとの主張について
上記(1)及び(2)において主張したとおり,当業者は相違点3-1及び3-2の構成をいずれも容易に想到できない以上,相違点3-3の構成も当然に容易に想到できない。
仮に,当業者が,粘度を低下させるとの観点のみから,甲3記載の実施例のうちγ1が最も小さい例5の混合物に着目し,CC-3-Vの濃度を増加させることができたとしても,相違点3-2には到底到達し得ないから,相違点3-3の要件を満たすことはできない。
(4)本件発明の効果について
上記2(2)エにおいて主張したとおり,
本件発明1は,
広い動作温度範囲及
び低い粘度の両立という矛盾した要求に応え,「非常に粘性が低く,低温で安定したネマチック相を持ち,液晶相温度範囲が広」い「アクティブマトリクス型液晶表示素子用液晶組成物が得られた」という効果を奏している。そして,本件発明1が甲3発明全体と比較して,液晶相温度範囲及び回転粘度γ1につき格別の効果を奏していることは明らかである。
したがって,本件発明1の効果は,甲3の記載から予測し得るものとはいえない。
(5)小括
したがって,当業者は相違点3-1~3-3の構成をいずれも容易に想到できないとした審決の判断に誤りはない。
6
取消事由6(本件発明1と甲8発明1との同一性判断の誤り)について(1)相違点6-1について

本件発明1の10~30質量%含有する第二成分は,35~65%含有する第一成分と組み合わされることによって,「液晶相温度範囲が広く,粘性が低いアクティブマトリクス型液晶表示素子用液晶組成物を提供する」ためのものである。

これに対し,甲8発明1の「式ⅠⅠおよびⅠⅠⅠ:…で表される化合物の群から選択される,3より大の誘電異方性を有する1種または2種以上の誘電的に正の化合物」は,極めて多数の化合物を選択肢としているが,当該化合物に共通する化学構造は「ベンゼン環」しかない。そして,甲8を参照しても,当該化合物に共通する性質は「3より大の誘電異方性を有する」ということしか理解できない。
そうすると,甲8発明1の当該化合物は,35~65%含有するCC-3-Vと組み合わせて,広いネマチック相の温度範囲と低い粘度とを両立するためのものとはいえない。


また,液晶分子の全ての構造要素(側鎖,環,結合基,末端基)は物理的性質に寄与し,
その各部分を変えると性質もいろいろ変わるというのが,
本件原出願当時の当業者の技術常識であるところ,広いネマチック相の温度範囲と低い粘度とを両立するために,高含有量(35~65%)のCC-3-Vと組み合わせて,10~30質量%の第二成分を含有させることが,当業者の周知技術,慣用技術であったことはうかがわれない。

さらに,本件発明1は,非常に粘性が低く,低温で安定したネマチック相を持ち,液晶相温度範囲が広いという効果,具体的には当業者の予測を超えて回転粘度γ1が35以下に低下するという効果を奏するのに対し,甲8記載の例1~26の混合物のうち,γ1が最も小さい例18の混合物ですら50mPa・sにすぎないから,本件発明1は相違点6-1により新たな効果を奏しているといえる。


したがって,相違点6-1は,課題解決の具体化手段における微差ではないから,実質的な相違点であるとした審決の判断に誤りはない。
(2)相違点6-2について

本件発明1において,ビシクロヘキサン誘導体のうち構造式(1)で表される化合物と,四環化合物のうちの一般式(2)で表される化合物群から選ばれる2種以上の化合物を主成分として55~95%配合しているのは,「液晶相温度範囲が広く,粘性が低いアクティブマトリクス型液晶表示素子用液晶組成物を提供する」ためである。

これに対し,甲8には,成分Aと成分Bの合計濃度すら記載されていない。
また,
上記(1)ウにおいて主張したとおり,
液晶化合物の組合せとその含
有量によって特性が変わることは,本件原出願時の当業者の技術常識であるところ,広いネマチック相の温度範囲と低い粘度とを両立するために,CC-3-Vと本件発明1の一般式(2)で表される化合物とを55~95%配合することが,当業者の周知技術,慣用技術であったことはうかがわれない。


したがって,相違点6-2は,課題解決の具体化手段における微差ではないから,実質的な相違点であるとした審決の判断に誤りはない。
第5
1
当裁判所の判断
本件発明について

(1)特許請求の範囲
本件発明の特許請求の範囲は,上記第2の2に記載のとおりである。(2)本件明細書の記載内容
本件明細書には,概ね以下の記載がある(甲23)。

技術分野
【0001】本発明は電気光学的液晶表示材料として有用なネマチック晶(判決注:原文のまま)組成物,これを用いた液晶表示装置に関する。

背景技術
【0002】表示品質が優れていることから,アクティブマトリクス形液晶表示装置が携帯端末,液晶テレビ,プロジェクタ,コンピュ-タ-等の市場に出されている。…
【0003】ツイステッドネマチック液晶表示素子(TN-LCD)やスーパーツイステッドネマチック液晶表示素子(STN-LCD)においては,表示の応答速度を高速化させるために低粘性化された液晶組成物への要望が強くなっている。また低温領域から高温領域まで広い動作温度範囲を可能にするためにネマチック温度範囲の広い液晶組成物が要求されている。
【0004】低粘性液晶組成物は,Δn値の小さいシクロヘキサン環で構成されたビシクロヘキサン誘導体等の含有率を大きくすることで得ることができる。しかし,これらの化合物はスメクチック性が高く,ビシクロヘキサン系化合物の含有率を大きくした場合,ネマチック相下限温度(T-n)を低くすることが困難であり,広いネマチック温度範囲を有する液晶組成物を得ることが困難であった。
【0005】比較的低粘性である液晶組成物は既に知られており,好ましい化合物の具体例が開示されている…。…
【0006】一方,四環化合物を使用して液晶温度範囲を調整した液晶組成物も既に知られており,好ましい化合物の具体例が開示されている…。しかしながら,この組成物も高速応答に対応できるほど粘性が十分に低いものではなかった。
【0007】以上のことから,液晶相温度範囲が広く,粘性が低い液晶組成物を得ることは困難であった。

発明が解決しようとする課題
【0009】本発明が解決しようとする課題は,液晶相温度範囲が広く,粘性が低いアクティブマトリクス型液晶表示素子用液晶組成物を提供すること,また,この液晶組成物を使用した動作温度範囲が広いアクティブマトリクス型液晶表示素子を提供することにある。


課題を解決するための手段
【0010】本発明は,上記課題を解決するために鋭意検討した結果,第一成分として構造式(1),
【0011】

で表される化合物を35~65%含有し,第二成分として一般式(2)【0012】

(式中,R1炭素数1~15のアルキル基又は炭素数2~15のアルケニル基であり,この基は非置換であるか,あるいは置換基として少なくとも1個のハロゲン基を有しており,そしてこれらの基中に存在する1個又は2個以上のCH2基はそれぞれ独立してO原子が相互に直接結合しないものとして-O-,-S-,-CO-により置き換えられても良く,B1,B2,B3はそれぞれ独立的に
(a)トランス-1,4-シクロへキシレン基(この基中に存在する1個のCH2基又は隣接していない2個以上のCH2基は-O-及び又は-S-に置き換えられてもよい)
(b)1,4-フェニレン基(この基中に存在する1個のCH2基又は隣接していない2個以上のCH2基は-N-に置き換えられてもよい)からなる群より選ばれる基であり,上記の基(a),基(b)はCH3又はハロゲンで置換されていても良く,
L1,L2,L3はそれぞれ独立的に単結合,-CH2CH2-,-(CH2)4
-,-COO-,-OCH2-,-CH2O-,-OCF2-,-CF2O
-又は-C≡C-を表し,
Q1は-OCH2-,-OCF2-,-OCHF-,-CF2-,または単結合であり,
X1~X3はそれぞれ独立してH,F又はClである。)で表される化合物群から選ばれる1種もしくは2種以上の化合物を含有することを特徴とするアクティブマトリクス型液晶表示素子用液晶組成物及び当該液晶組成物を構成部材とする液晶表示素子を提供する。

発明の効果
【0013】本発明の液晶化合物の組み合わせによって,
非常に粘性が低
く,低温で安定したネマチック相を持ち,液晶相温度範囲が広く,広い範囲で屈折率異方性(Δn=0.05~0.15)を調整でき,かつ信頼性に優れたアクティブマトリクス型液晶表示素子用液晶組成物が得られた。この組成物を用いることにより,動作温度範囲が広いアクティブマトリクス型液晶表示素子が提供され,反射または半透過モ-ド等の液晶ディスプレイとして非常に実用的である。


発明を実施するための最良の形態
【0014】本願発明における液晶組成物において,第一成分として構造式(1)で表される化合物の含有率は30~65%であるが,40~60質量%の範囲であることが好ましい。
【0015】第二成分として一般式(2)で表される化合物群から1種または2種以上を含有するが,1種~10種が好ましく,1種~7種がより好ましく,2種~5種がさらに好ましい。
【0016】第二成分として一般式(2)で表される化合物群から選ばれる1種または2種以上の化合物の含有率は,5~30質量%の範囲であることが好まく(判決注:原文のまま),10~20質量%の範囲であることがより好ましい。…
【0020】さらに詳述すると,一般式(2)の具体的な構造として以下の化合物が好ましい。
【0021】

(式中R1はそれぞれ独立して,炭素数1~15のアルキル基又は炭素数2~15のアルケニル基を表す。)
【0030】本発明において,ネマチック相-等方性液体相転移温度(TN-I

)は70℃以上であることがより好ましい。固体相又はスメクチック
相-ネマチック相転移温度
(T→N)
は-20℃以下であることが好ましい。
25℃における誘電率異方性(Δε)が2.5~7.0であることが好ましく,3.0~5.0であることがより好ましい。25℃における屈折率異方性(Δn)が0.08~0.13であることが好ましい。

実施例
【0033】…以下の実施例および比較例の組成物における「%」は『質量%』を意味する。
【0034】
TN-I

:ネマチック相-等方性液体相転移温度(℃)を液晶相上限

温度とする
T→N

:固体相又はスメクチック相-ネマチック相転移温度(℃)

を液晶相下限温度とする。
Δε

:誘電率異方性

Δn

:屈折率異方性

γ1

:回転粘性

HR

:60℃での保持率(%)(セル厚6μmのTN-LCDに

注入し,5V印加,フレ-ムタイム200ms,パルス幅64μsで測定したときの測定電圧と初期印加電圧との比を%で表した値。)
化合物記載に下記の略号を使用する。
末端のn(数字)

CnH2n+1-

2
-CH2CH2-

On

-OCnH2n+1

F
-F

CFFF

-CF3

OCFFF

-OCF3

ndm-

CnH2n+1-C=C-(CH2)m-1-

nOm-

CnH2n+1-O-(CH2)m-1-

-E-

-COO-

-T-

-C≡C-

【0035】

【0036】(実施例1~3)液晶組成物の調整
以下に示すネマチック液晶組成物(No.1),(No.2)及び(No.3)を調整しその物性値を測定し,その結果を表1に示す。
【0037】
【表1】

【0038】実施例1~3のネマチック液晶組成物(No.1)~(No.3)特性は,ネマチック相-等方性液体相転移温度(TN-I),固体相又はスメクチック相-ネマチック相転移温度
(T→N)誘電率異方性

(Δε)

屈折率異方性(Δn)全ての特性において所望の値を示した。また粘性も低く,パネルの応答速度も良好であり,さらに加熱150℃1時間後の保持率も初期の値を保っており信頼性が良好であった。
【0039】(比較例1~3)液晶組成物の調整
比較例として以下に示すネマチック液晶組成物(R1)~(R3)を調整しその物性値を測定し,その結果を表2に示す。
【0040】
【表2】

【0041】比較例1~比較例3は第一成分の含有量を30%としたものだが,実施例と比較して粘性が高いものであった。
(3)本件発明の概要
本件発明は,電気光学的液晶表示材料として有用なネマチック液晶組成物に関するものである。(【0001】)
ツイステッドネマチック液晶表示素子(TN-LCD)等では,表示の応答速度を高速化させるための低粘性化された液晶組成物,低温領域から高温領域まで広い動作温度範囲を可能にするネマチック温度範囲の広い液晶組成物が求められていたところ,従来の液晶組成物は,高速応答に対応できるほど粘性が十分に低いものではなく,液晶相温度範囲が広く,粘性が低い液晶組成物を得ることは困難であった。(【0003】~【0007】)そこで,本件発明は,液晶相温度範囲が広く,粘性が低いアクティブマトリクス型液晶表示素子用液晶組成物を提供することを技術課題とし(【0009】),構造式(1)(式略)で表される化合物を35~65%,及び一般式(2)(式略)で表される化合物群から選ばれる1種もしくは2種以上の化合物をアクティブマトリクス型液晶表示素子用液晶組成物に配合することを課題解決手段として採用するものである【0010】【0012】。(


実施例によれば,本件発明の液晶組成物は,ネマチック相-等方性液体相転移温度(TN-I)が70℃以上,固体相又はスメクチック相-ネマチック相転移温度(T→N)が-20℃以下の両方の要件(広い液晶相温度範囲の要件)を満足しつつ,低い粘度(η),回転粘性(γ1)を備えるのに対して(【表1】),構造式(1)で表される化合物が30%である比較例の液晶組成物は,広い液晶相温度範囲の要件は満足するものの,粘度(η),回転粘性(γ1)は高くなっており(【表2】),実施例と比較例の対比から,一般式(2)で表される化合物(四環化合物)を含む液晶組成物に,構造式(1)で表される化合物を35%以上配合することにより,本件発明の技術課題を解決できることを理解できる。
2
取消事由1(甲1記載の発明の認定の誤り)について
(1)甲1の記載

特許請求の範囲
【請求項1】正の誘電異方性を有する極性化合物の混合物に基づく液晶媒体であって,式I
【化1】

で表される1種または2種以上の化合物および式IA
【化2】

で表される1種または2種以上の化合物を含み,ここで,該媒体中の式Iで表される化合物の比率は,少なくとも18重量%であり,ここで,個々の基は,以下の意味:
R1は,2~8個の炭素原子を有するアルケニル基であり,
R2は,H,1~15個の炭素原子を有し,ハロゲン化されているか,CNもしくはCF3により置換されているか,または非置換であるアルキル基であり,ここでさらに,これらの基中の1つまたは2つ以上のCH2基は,各々,互いに独立して,O原子が互いに直接結合しないように,【化3】

により置換されていてもよく,
X1は,各々6個までの炭素原子を有するアルキル基,アルケニル基,アルコキシ基またはアルケニルオキシ基であり,a=1である場合には,またF,Cl,CN,SF5,SCN,NCSまたはOCNであり,X2は,F,Cl,CN,SF5,SCN,NCS,OCN,各々6個までの炭素原子を有するハロゲン化アルキル基,ハロゲン化アルケニル基,ハロゲン化アルコキシ基またはハロゲン化アルケニルオキシ基であり,Z1およびZ2は,各々,互いに独立して,-CF2O-,-OCF2-または単結合であり,ここでZ1≠Z2であり,
aは,0または1であり,
【化4】

は,各々,互いに独立して,
【化5】

であり,
L1~4は,各々,互いに独立して,HまたはFである,
を有することを特徴とする,前記液晶媒体。
【請求項2】式IA-1~IA-30
【化6】

【化7】

…式中,R2は,請求項1において定義した通りである,で表される1種,2種または3種以上の化合物を含むことを特徴とする,請求項1に記載の液晶媒体。
【請求項3】式I-1~I-5
【化12】

式中,alkenylは,2~8個の炭素原子を有するアルケニル基であり,alkylは,1~15個の炭素原子を有する直鎖状アルキル基である,
で表される1種または2種以上の化合物を含むことを特徴とする,請求項1または2に記載の液晶媒体。
【請求項9】
式IAで表される化合物の,
全体としての混合物中の比率が,
5~40重量%であることを特徴とする,請求項1~8のいずれかに記載の液晶媒体。
イ【0014】TN(シャット-ヘルフリッヒ)セルにおいて,このセルには以下の利点を容易にする媒体が望ましい:
-拡大したネマティック相範囲(特に,低温まで),
-極めて低い温度においても貯蔵安定性,
-超低温における切換能力(野外での使用,自動車,航空機),
-UV放射線に対する増大した耐性(比較的長い有効寿命),
-反射性ディスプレイについての低い光学的複屈折(Δn)。
【0016】本発明は,前述の欠点を有しないか,または有しても低下した程度のみであり,好ましくは同時に極めて低いしきい値電圧,低い粘度および電圧保持比(VHR)についての高い値を有する,特にこのタイプのMLC,TNまたはSTNディスプレイのための媒体を提供する目的を有する。
ここで,この目的は,本発明の媒体をディスプレイにおいて用いる場合に達成することができることが,見出された。
【0037】「本発明の液晶混合物は,-30℃まで,特に好ましくは-40℃までのネマティック相を維持しながら,70℃を超える,好ましくは75℃を超える,特に好ましくは≧80℃の透明点,同時に≧6,好ましくは≧8の誘電異方性値Δε並びに優れたSTNおよびMLCディスプレイを得ることを可能にする比抵抗値についての高い値を達成することを可能にする。…
【0040】20℃における流動粘度ν20は,好ましくは<20mm2・s-1,
特に好ましくは<19mm2・s-1である。
本発明の混合物の20℃
における回転粘度γ1は,好ましくは<140mPa・s,特に好ましくは<120mPa・sである。ネマティック相範囲は,好ましくは少なくとも100°,特に少なくとも110°である。この範囲は,好ましくは少なくとも-40°~+80°まで拡大される。
【0042】電圧保持率(HR)の測定値…は,式IおよびIAで表される化合物を含む本発明の混合物は,式
【化6】

で表されるシアノフェニルシクロヘキサン類または式
【化7】
で表されるエステル類を,式IAで表される化合物の代わりに含む類似する混合物よりも,温度の上昇に伴うHRの減少が顕著に小さいことを示した。
【0043】本発明の混合物は,好ましくは,ニトリル類をほとんど(≦20%,特に≦10%)または全く含まない。20℃における本発明の混合物の保持比は,少なくとも98%,好ましくは>99%である。本発明の混合物のUV安定性はまた,顕著に一層良好であり,即ち,これらは,UVに露光した際にHRの顕著に小さい低下を示す。
ウ【0045】式Iで表される特に好ましい化合物は,式
【化9】

【0046】
【化10】

式中,nは,1,2,3,4,5,6,7,8,9,10,11または12,好ましくは1,2,3または5である,で表される化合物である。【0047】alkylは,1~15個の炭素原子を有する直鎖状アルキル,好ましくはCH3,C2H5,n-C3H7,n-C4H9,n-C5H11またはn-C6H13である。
alkenylは,好ましくは,CH2=CH,CH3CH=CH,CH2
=CH2CH2またはCH3-CH=CHCH2CH2である。

エ【0069】…-式IAおよびI~VIで表される化合物の合計の,全体としての混合物中の比率は,少なくとも50重量%である;
-式Iで表される化合物の,全体としての混合物中の比率は,≧18重量%,好ましくは≧20重量%,特に≧22重量%,極めて特に好ましくは≧24重量%である;
-式IAで表される化合物の,全体としての混合物中の比率は,5~40重量%,特に好ましくは10~30重量%である;
オ【0131】以下の例は,本発明を限定せずに,本発明を説明することを意図する。本明細書中,パーセンテージは重量パ-セントである。すべての温度を,摂氏度で示す。m.p.は融点を示し,cl.p.は透明点を示す。さらに,C=結晶状態,N=ネマティック相,S=スメクティック相およびI=アイソトロピック相である。これらの記号間のデ-タは,転移温度を示す。Δnは,光学異方性(589nm,20℃)を示し,Δεは,誘電異方性(1kHz,20℃)を示す。流動粘度ν20(mm2/秒)は,20℃において決定する。回転粘度γ1(mPa・s)は,同様に20℃において決定する。
【0132】例M1
【表2】

【0133】例M2
【表3】

【0134】例M3
【表4】

【0136】例M4
【表6】

【0137】例M5
【表7】

【0138】例M6
【表8】

【0139】例M7
【表9】

【0140】例M8
【表10】


なお,上記表に記載されている略号に対応する化学構造式は以下のとおりである。(【0116】,【0117】,【0120】,【0121】)
(2)検討
原告は,甲1の請求項1記載の式Iの化合物に着目し,段落【0045】~【0047】に,CC-n-V及びCC-n-V1が「さらに特に好ましい化合物」として挙げられ,8つの実施例のうち5つで,CC-3-VとCC-3-V1が併用されていることなどを根拠として,
甲1には甲1発明
〔原
告〕が記載されていると主張する。
そこで検討するに,
審決が認定した甲1発明と原告が主張する甲1発明
〔原
告〕とは,式Iの化合物に対応するものを,請求項3に記載された式I-1~I-5の化合物と特定するか(甲1発明),実施例に記載されたCC-3-V及びCC-5-VなどのCC-n-V並びにCC-3-V1などのCC-n-V1の化合物と特定するか(甲1発明〔原告〕)において相違する。しかし,甲1において,24重量%以上の比率で用いることが可能と明記されているのは,請求項1に記載された式Iの化合物や請求項3に記載された式I-1~I-5の化合物であって,その下位概念であるCC-3-V,CC-5-VなどのCC-n-VやCC-3-V1などのCC-n-V1ではない。また,甲1には,CC-3-Vなど下位概念で示された上記各化合物を単独で24重量%以上の比率で用いた実施例はなく,そのような処方を具体的に示唆する記載も見当たらない。
以上によれば,甲1に記載されている発明として,式Iの化合物を「CC-3-V及びCC-5-VなどのCC-n-V並びにCC-3-V1などのCC-n-V1を含み」を付加して認定すべき特段の理由があるとはいえない。
したがって,審決の甲1記載の発明の認定に誤りがあるとはいえない。そうすると,本件発明1と甲1発明との相違点1-1に係る審決の認定についても,誤りがないことは明らかである。
(3)よって,原告が主張する取消事由1は理由がない。
3取消事由2
(本件発明と甲1記載の発明との相違点の容易想到性判断の誤り)について
(1)原告は,相違点1-1に関し,液晶組成物の粘度を低減し,液晶ディスプレイの応答時間を短くすることを目的として,甲1発明において,CC-3-Vの濃度を,24重量%以上,例えば35重量%とすることは,当業者が容易に想到し得たと主張するので,以下,検討する。
(2)当業者は,液晶組成物の粘度低減の手段として,CC-3-Vに着目するかについて

本件原出願当時における液晶化合物についての技術常識に関し,以下の事実が認められる。
(ア)低い回転粘度の観点に係る技術常識
a
「液晶とディスプレイ応用の基礎」(平成6年5月20日発行。甲25)には,誘電異方性(Δε)の大きな液晶は一般に粘度が高いことから,高速応答が得られないため,シクロヘキサン環コアの両端に極性の小さなアルキル基やアルコキシ基のついた減粘剤
(低粘度成分)
が用いられていたことが記載されている(177頁)。
また,「NematicLiquidCrystalsforActiveMatrixDisplays:MolecularDesignandSynthesis」と題する論文(Angew.Chem.Int.Ed.2000.Vol.39。平成12年発行。甲31)には,ディスプレイの動作温度範囲を改善し,誘電異方性をディスプレイの設計仕様に合致するように調整する目的で,液晶混合物の微調整のために,シクロヘキサン環にオレフィン側鎖(アルケニル基)を有するビシクロヘキサン化合物を用いること,当該ビシクロヘキサン化合物は,飽和の類縁体と比較して,より低い回転粘度γ1とネマチック相の形成に優れることが記載されている(4223頁右欄)。
そして,末端にアルケニル基を有するビシクロヘキサン誘導体を,液晶組成物の低粘度成分として用いることが,多くの文献に記載されていた(甲1~3,26,33,34)。

b
特開平9-77692号公報(甲33)及び特開平10-114690号公報(甲34)は,いずれもCC-1V-V1などの両末端にアルケニル基を有するビシクロヘキサン誘導体(ビスアルケニルビシクロヘキサン化合物)を技術主題とする発明の公開特許公報である。これらの公報には,従来技術として,一方の末端にのみアルケニル基を有するビシクロヘキサン誘導体(例えば,CC-n-Vなどのモノアルケニルビシクロヘキサン化合物)が記載されていることから,液晶組成物の低粘度成分として,モノアルケニル化合物からジアルケニル化合物の順に技術開発が行われてきたことがうかがわれる。
c
アルケニル基を有するビシクロヘキサン誘導体の回転粘度
(mPa

s。25℃)は次のとおりである(乙32)。
CC-3-V

17

CC-5-V

22

CC-3-V1

32

CC-1V-V1

44

(イ)広いネマチック相を得るとの観点に係る技術常識
a
甲31には,シクロヘキサンのみに基づくメソゲンコア構造を有するほとんど全ての材料が,最良の場合でも,大変小さいネマチック相範囲を有することが記載されている
(4228頁左欄15~23行目。
訳文は乙6参照)。
また,「Advancedliquidcrystalsfortelevision」と題する論文(Journalof

MaterialsChemistry,2004Vol.14。平成16年3月
19日発行。甲26)には,広いスメクチック相を有することは実用を制限するものであること,CC-3-Vのような極めて低いγ1を有する中性化合物は混合物の粘性を低減させるために不可欠であることが記載されている
(1225頁右欄6~11行目。
訳文は乙5参照。。

これらの記載事項から,一般に,シクロヘキサンをベースとするメソゲンコア構造を有するビシクロヘキサン化合物は,液晶組成物の粘度を低下させるために必要であるものの,広いスメクチック相を有するなどの理由により,ほとんど全ての当該化合物は狭いネマチック相範囲(液晶相範囲)を有すると理解されていたと認められる。
b
各化合物の相転移温度(左から順に,「固体相-スメクチックB

相」,「スメクチックB相又は固体相-ネマチック相」,「ネマチック相-等方性液体」を示す。単位はいずれも℃)は以下のとおりである(甲31,34,53,乙31)
CC-3-V

33

49

CC-5-V

-9

52

63.1

CC-3-V1

なし

42

83.3

CC-1V-V1

-23

なし

69

109.6

上記アの技術常識を踏まえると,甲1記載の実施例に接した当業者は,上記ア(ア)のとおり,
CC-3-V及びCC-5-Vは,
CC-3-V1,
CC-1V-V1よりも回転粘度が低いから,単に低い回転粘度を有する液晶組成物を得ようとする場合には,CC-3-VやCC-5-Vに着目するといえる。
しかし,上記ア(イ)のとおり,モノアルケニルビシクロヘキサン化合物のネマチック相の温度範囲が狭いことから,ネマチック相に与える影響も考慮した場合には,当業者は,①CC-3-V,CC-3-V1,CC-5-Vなどのモノアルケニルビシクロヘキサン化合物より,CC-1V-V1などのビスアルケニルビシクロヘキサン化合物が好ましく,②モノアルケニルビシクロヘキサン化合物の中では,CC-3-Vよりも,CC-3-V1,CC-5-Vが好ましい,と認識するというべきである。
(3)CC-3-Vを35重量%以上とすることが容易に想到できたかについて
甲1には,例M1~例M8として,CC-3-V,CC-3-V1,CC-5-Vを2種以上用いた液晶組成物が記載されているものの,これらのうちの1種のみを用いた液晶組成物は具体的に開示されていない。そして,甲1の例M1~例M8のいずれの液晶組成物においても,CC-3-V1が併用されているところ,この記載に接した当業者は,(2)アにおいて認定した技術常識を踏まえると,CC-3-V,CC-5-Vなどを使用することにより,液晶組成物の粘度を低下させられるものの,CC-3-Vは,等方性液体に転移する温度が最も低く,ネマチック相の温度範囲が狭いものであるから,実用的なネマチック相を有する液晶組成物を得るために,適度な温度範囲のネマチック相を有し,スメクチック相を有しないCC-3-V1が併用されていると理解するというべきである。したがって,上記(2)イにおいて説示したとおり,当業者は,ネマチック相に与える影響を考慮すると,モノアルケニルビシクロヘキサン化合物の中では,CC-3-Vよりも,CC-3-V1,CC-5-Vが好ましいと理解すると考えられることに鑑みると,甲1において,式Iの化合物の濃度が「24重量%以上」
と特定されているとしても,
例M1~例M8において,
広い温度範囲のネマチック相を得る目的で配合されているCC-3-V1などを,専らCC-3-Vに置き換えるとともに,CC-3-Vの配合量を35重量%以上とすることまで,容易に想到できたということはできない。
(4)原告の主張について

原告は,CC-3-V,CC-5-V及びCC-3-V1は,構造がわずかに異なるだけで,
性質も類似するものであるから,
甲1発明において,
相互に交換可能なものであると主張する。
確かに,(2)ア(ア)のとおり,CC-3-V,CC-5-V及びCC-3-V1は,各種の液晶組成物に用いられている低粘度成分であって,低い回転粘度を得るとの観点からは,性質が類似し,交換可能な配合成分であると評価する余地がある。
しかし,本件発明は,「液晶相温度範囲が広く,粘性が低いアクティブマトリクス型液晶表示素子用液晶組成物を提供すること」を課題とするものであるところ,(2)ア(イ)のとおり,各化合物の性質に鑑みると,当業者は,特にネマチック相が狭く,スメクチック相が広いCC-3-Vを増量し,
CC-3-V1を減量すると,
最終的に得られる液晶組成物において,
ネマチック相の温度範囲が狭くなり,実用的な温度範囲においてもスメクチック相が生じる可能性があると認識するのが通常と認められるから,広いネマチック相(液晶相)を得るとの観点も考慮した場合において,CC-3-V,CC-5-V及びCC-3-V1が常に交換可能な配合成分であると認めることはできない。
したがって,この点についての原告の主張を採用することはできない。イ
また,
原告は,
本件発明1の効果についても論難するが,
上記(2)及び(3)
において説示したとおり,当業者は甲1発明を出発点として相違点1-1係る構成に容易に想到することができないのであるから,既にその点において進歩性を肯定し得るものである。


このほか,原告は種々の主張をするが,いずれも採用することができない。

(5)以上によれば,原告が主張する取消事由2は理由がない。
4
取消事由3(甲2記載の発明の認定の誤り)について
(1)甲2の記載

特許請求の範囲
【請求項1】正の誘電異方性を有する極性化合物の混合物を基材とする液晶媒体であって,
1種または2種以上の式Iで表わされるエステル化合物:
【化1】

および1種または2種以上の式IAで表わされる化合物:
【化2】
(各式中,各基は,下記の意味を有する:
R1およびR2は,それぞれ相互に独立し,水素であり,もしくは炭素原子1~15を有し,ハロゲン化されている未置換のアルキル基であり,これらの基中に存在する1個または2個以上のCH2基は,それぞれ相互に独立し,酸素原子が相互に直接に結合しないものとして,-C≡C-,-C=C-,-O-,-CO-O-または-O-CO-により置き換えられていてもよく,
X1およびX2は,それぞれ相互に独立し,F,Cl,CN,SF5,SCNまたはNCSであり,もしくはそれぞれ6個までの炭素原子を有するハロゲン化アルキル基,ハロゲン化アルケニル基,ハロゲン化アルコキシ基またはハロゲン化アルケニルオキシ基であり,
Z1およびZ2は,それぞれ相互に独立し,-CF2O-,-OCF2-または単結合であり,ただしZ1≠Z2であり,
【化3】

であり,
L1-6は,それぞれ相互に独立し,HまたはFである)
を含有することを特徴とする,前記液晶媒体。
【請求項4】1種または2種以上の一般式II,III,IV,VおよびVIからなる群から選択される化合物をさらに含有することを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の液晶媒体:
【化9】

上記各式中,各基は,下記の意味を有する:
R0は,水素であり,もしくはそれぞれ9個までの炭素原子を有するn-アルキル,
オキサアルキル,
フルオロアルキルまたはアルケニルであり,
X0は,FまたはClであり,もしくはそれぞれ6個までの炭素原子を有するハロゲン化アルキル基,ハロゲン化アルケニル基またはハロゲン化アルコキシ基であり,
Z0は,-C2F4,-CF=CF-,-C2H4-,-(CH2)4-,-CF2O-,OCF2-,-OCH2-または-CH2O-であり,Y1およびY2は,それぞれ相互に独立して,HまたはFであり,rは,0または1である。
【請求項5】混合物中の式IAおよび式I~VIで表わされる化合物の割合が全体として,少なくとも50重量%である,請求項4に記載の液晶媒体。
【請求項8】1種または2種以上の下記式で表わされる化合物を含有することを特徴とする請求項1~7のいずれかに記載の液晶媒体:
【化12】

上記各式中,
R0は,それぞれ9個までの炭素原子を有するn-アルキル,オキサアルキル,フルオロアルキル,アルケニルオキシまたはアルケニルであり,Y1は,HまたはFであり,
alkylおよびalkyl*は,それぞれ相互に独立し,9個までの炭素原子を有する直鎖状または分枝鎖状アルキル基であり,
alkenylおよびalkenyl*は,それぞれ相互に独立し,炭素原子1~9個を有する直鎖状または分枝鎖状アルケニル基である。【請求項9】混合物中の式IAで表わされる化合物の割合が全体として,5~40重量%である,請求項1~8のいずれかに記載の液晶媒体。イ【0005】一例として,各画素の切換えに集積非線型素子を備えたマトリックス液晶ディスプレイ(MLCディスプレイ)の場合,大きい正の誘電異方性,広いネマティック相,比較的小さい複屈折率,非常に大きい比抵抗,良好な紫外線および温度安定性,ならびに低い蒸気圧を有する媒体が望まれる。
この型式のマトリックス液晶ディスプレイは公知である。各画素それぞれの切換えに使用することができる非線型素子の例には,能動的素子(すなわち,トランジスター)がある。この素子はまた,「アクティブマトリックス」の用語で表わされ,二つのタイプに分けることができる:1.基板としてのシリコンウエファー上のMOS(金属酸化物半導体)または別のダイオード。
2.基板としてのガラス板上の薄膜トランジスター(TFT類)。【0032】本発明による液晶混合物は,利用できるパラメーター範囲の格別の拡大を可能にする。透明点,低温における粘度,熱および紫外線安定性,ならびに誘電異方性の達成される組合せは,従来技術からの従来の混合物に比較して,はるかに優れている。公知刊行物に開示されている混合物と比較して(例えば,特許文献3参照),本発明による混合物は,より高い透明点,小さいγ1値および100℃における非常に大きいVHR値を有する。…
【0034】
本発明による液晶混合物は,
-20℃,
好ましくは-30℃,
特に好ましくは-40℃にまで低下したネマティック相を保有しながら,60℃以上,好ましくは65℃以上,特に好ましくは70℃以上の透明点を得ることができると同時に,≧6,好ましくは≧8の誘電異方性値△?(判決注:原文のまま)および大きい比抵抗値の獲得を可能にし,これにより優れたSTNおよびMLCディスプレイを得ることを可能にする。特に,本混合物は低い動作電圧を有するという特徴を有する。TNしきい値電圧は,2.0V以下,好ましくは1.5V以下,特に好ましくは<1.3Vである。
ウ【0056】…
-混合物中の式IAおよび式I~VIで表わされる化合物の総割合は全体として,少なくとも50重量%である;
-混合物中の式Iで表わされる化合物の割合は全体として,
5~40重量%,
特に好ましくは10~30重量%である;
-混合物中の式IAで表わされる化合物の割合は全体として,5~40重量%,特に好ましくは10~30重量%である;
-混合物中の式II~VIで表わされる化合物の割合は全体として,30~80重量%である;」
エ【0070】…
-媒体は,好ましくは下記式RI~RVIIIからなる群から選択される化合物をさらに含有する:…
【0072】…
-媒体は好ましくは,1種または2種以上の下記式で表わされる化合物を含有する:
【0073】
【化40】

【0074】上記各式中,nおよびmはそれぞれ,1,2,3,4,5,6,7,8,9,10,11または12であり,好ましくはnおよびmは,1,2,3,4,5または6である。

実施の態様
【0106】下記例は,本発明を説明しようとするものであり,制限を示すものではない。本明細書全体をとおして,パーセンテージは重量パーセントである。全部の温度は摂氏度で示されている。m.p.は融点を表わし,cl.p.は透明点を表わす。さらにまた,C=結晶状態,N=ネマティック相,S=スメクティック相,およびI=アイソトロピック相である。これらの記号間のデータは転移温度である。△nは光学異方性を表わし
(589nm,
20℃)△εは誘電異方性を表わし

(1kHz,
20℃)

および流動粘度V20(mm2/秒)は20℃で測定した。回転粘度γ1(mPa・秒)はまた,20℃で測定した。」
【0108】例M2
【表3】

【0109】例M3
【表4】

【0111】例M4
【表6】

【0114】例M7
【表9】

【0115】例M8
【表10】

【0116】例M9
【表11】

【0117】例M10
【表12】


なお,上記表に記載されている略号に対応する化学構造式は以下のとおりである。(【0095】,【0098】)

(2)検討
原告は,甲2には式RI~RIXで表される化合物に関し,RIa及びRIb(RIの下位概念),RIIa及びRIIb(RIIの下位概念)並びにRIIIa(RIIIの下位概念)の5つが好ましい例として挙げられ,10の実施例のうち7つで,RIIaに相当するCC-3-Vが使用されていることなどを根拠として,甲2には甲2発明〔原告〕が記載されていると主張する。
そこで検討するに,
審決が認定した甲2発明と原告が主張する甲2発明
〔原
告〕とは,式RI~RIXの化合物に対応するものを,請求項8に記載された式RI~RIXの化合物と特定するか(甲2発明),実施例に記載されたCC-3-V及びCC-5-Vなどの式RIIaの化合物,CC-3-V1などの式RIIbの化合物と特定するか(甲2発明〔原告〕)において相違する。
しかし,甲2において,式Iの化合物及び式IAの化合物と組み合わせる化合物として明記されているのは,式RI~RIXの化合物であるところ,式Iの化合物及び式IAの化合物については請求項1記載の上位概念で認定する一方で,式RI~RIXの化合物についてのみ,実施例の記載を踏まえて下位概念の特定の化合物を含むと認定すべき特段の事情はうかがわれない。したがって,審決の甲2記載の発明の認定に誤りがあるとはいえない。そうすると,本件発明1と甲2発明との相違点2-1に係る審決の認定についても,誤りがないことは明らかである。
(3)以上によれば,原告が主張する取消事由3は理由がない。
5取消事由4
(本件発明と甲2記載の発明との相違点の容易想到性判断の誤り)について
(1)原告は,相違点2-1に関し,液晶組成物の粘度を低減し,液晶ディスプレイの応答時間を短くすることを目的として,甲2発明において,CC-3-Vの濃度を35%とすることは,当業者が容易に想到し得たと主張するので,以下,検討する。
(2)当業者は,液晶組成物の粘度低減の手段として,CC-3-Vに着目するかについて
上記3(2)ア及びイにおいて説示したとおり,液晶化合物についての技術常識を踏まえると,甲2に接した当業者は,ネマチック相に与える影響も考慮した場合には,CC-3-Vよりも,CC-5-V,CC-3-V1,CC-1V-V1が好ましいと認識するというべきである。
(3)CC-3-Vを35%とすることが容易に想到できたかについて甲2には,例M2~4,7~10として,CC-3-Vを用いた液晶組成物が記載されているものの,CC-3-Vの含有量は最大でも19.00%にとどまる
(例M3)ビシクロヘキサン化合物の含有量が多い実施例でも,

適度な温度範囲のネマチック相を有しスメクチック相を有しないCC-3-V1が合計30.
00%のうちの12.
00%
(CC-3-Vは18.
00%)
を占めている(例M8)。
そして,甲2には,式RI~RIXの化合物やその下位概念に相当するRIa,RIb,RIIa,RIIb,RIIIa,ひいてはCC-3-Vを多く配合することを動機付ける記載は存在しない。また,例M8及び例M10でのCC-3-VとCC-3-V1の含有量がそれぞれ合計30%及び29%に達するものであるとしても,上記3(3)において説示したように,当業者は,
実用的なネマチック相を有する液晶組成物を得るために,CC-
3-V1が併用されていると理解するというべきであるから,
CC-3-V
1を専らCC-3-Vに置き換えるとともに,
CC-3-Vの配合量を35%
以上とすることまで,容易に想到できたということはできない。
(4)本件発明の効果について
原告は,本件発明1の効果についても論難するが,上記(2)及び(3)において説示したとおり,当業者は甲2発明を出発点として相違点2-1に係る構成に容易に想到することができないのであるから,既にその点において進歩性を肯定し得るものである。
(5)以上によれば,原告が主張する取消事由4は理由がない。
6取消事由5
(本件発明と甲3記載の発明との相違点の容易想到性判断の誤り)について
(1)甲3の記載

特許請求の範囲
【請求項1】次の成分(A)~(D)を含む液晶媒体。
成分(A):式Iの誘電的に正の化合物の1種または2種以上と,式IIおよび式IIIの群から選ばれる誘電的に正の化合物の1種または2種以上とを含有する誘電的に正の成分,成分(A)
【化1】

(式中,
R1,R2およびR3は,互いに独立して,炭素数1~7のアルキル,アルコキシ,フッ素化アルキルまたはフッ素化アルコキシ,炭素数2~7のアルケニル,アルケニルオキシ,アルコキシアルキルまたはフッ素化アルケニルであり,
【化2】

は,互いに独立して,且つ
【化3】

が,2つ存在するときはこれらも互いに独立して,それぞれ
【化4】

であり,
Z21,Z22,およびZ3は,互いに独立して,且つZ21および/またはZ3が2つ存在するときはこれらも互いに独立して-CH2CH2-,-COO-,trans--CH=CH-,trans--CF=CF-,-CH2O-,-CF2O-または単結合であり,
nおよびmは,互いに独立して,0,1または2であり,
X1,X2およびX3は互いに独立して,ハロゲン,炭素数1~3のハロゲン化アルキルもしくはアルコキシ,または炭素数2または3のハロゲン化アルケニルもしくはアルケニルオキシであり,
Y21およびY22は,互いに独立してHまたはFであり,そしてY31およびY32は,互いに独立してHまたはFであり,但し,【化5】

であるときは,31およびY32は両方ともHまたはFのどちらかである。Y

成分(B):任意成分として誘電的に中性の成分,成分(B)
成分(C):任意成分としてさらに誘電的に正の成分,成分(C)成分(D):任意成分として誘電的に負の成分,成分(D)
【請求項6】下記式IV-1,IV-4,IV-6およびIV-7の化合物の群から選ばれる1種または2種以上の化合物を含む誘電的に中性の成分,成分(B)を含有することを特徴とする請求項1~5のいずれか1項に記載の液晶媒体。
【化11】

(式中,R41およびR42は,請求項2で定義された意味を有する。)(判決注:請求項2で定義された「R41およびR42」は,請求項1の式IのR1
と同じ意味である。)

【請求項8】請求項1~7のいずれか1項に記載の液晶媒体を含むことを特徴とする液晶ディスプレイ。
【請求項9】アクティブマトリックス駆動される請求項8記載の液晶ディスプレイ。
イ【0127】成分(B)は,好ましくは全混合物の0%~45%の濃度で使用され,より好ましくは10%~40%,さらに好ましくは15%~35%,最も好ましくは20%~30%の範囲で使用される。
【0132】本発明の好ましい実施形態において,
-本発明の媒体の中で,
式Iの化合物の濃度は,
好ましくは1%~40%,
より好ましくは2%~30%,さらに好ましくは3%~20%,最も好ましくは5%~15%であり;
-本発明の媒体の中で,式IIの化合物の濃度は,好ましくは20%~90%,
より好ましくは30%~80%,
さらに好ましくは40%~70%,
最も好ましくは50%~65%であり;
-本発明の媒体の中で,式IIIの化合物の濃度は,好ましくは0%~50%,より好ましくは0%~40%,さらに好ましくは0%~30%,最も好ましくは10%~25%であり;
-本発明の媒体の中で,
式IVの化合物の濃度は,
好ましくは0%~50%,
より好ましくは10%~40%,さらに好ましくは20%~30%,最も好ましくは25%~35%である。
【0138】本発明の液晶媒体の1kHz,20℃におけるΔεは,好ましくは4.0以上,より好ましくは6.0以上,最も好ましくは10.0以上であり,特に6.0~20.0である。
【0142】
本発明の媒体のネマチック相は,
少なくとも0℃から70℃,
好ましくは少なくとも-20℃から75℃まで,最も好ましくは少なくとも-30℃から80℃まで,とくに少なくと(判決注:原文のまま)-40℃から85℃まで
(あるいは90℃までさえも)
広がることが好ましい。

【0178】例5
次表に与えられた組成と特性を有する液晶媒体を調製した。
【0179】
【表6】

【0180】この混合物は,適度に高いΔn値,中庸のΔε値および極めて低い回転粘度を有する。従って,TNモードで動作するアクティブマトリックス駆動ディスプレイに非常によく適している。
【0184】例7
次表に与えられた組成と特性を有する液晶媒体を調製した。
【0185】
【表8】
【0186】この混合物は,有利に低いΔn値,かなり高いΔε値および非常に低い回転粘度を有する。従って,TNモードで動作するアクティブマトリックス駆動ディスプレイに非常によく適している。

なお,上記表に記載されている略号に対応する化学構造式は以下のとおりである。(【0158】,【0159】,【0162】)

(2)相違点3-1について
原告は,甲3の例5では,式IV-1を具体化したCC-3-VとCC-3-V1の合計濃度が42%で,そのうちCC-3-Vが32%の濃度で配合されていることに加え,段落【0132】に,式IVの濃度は「好ましくは0~50%」と記載されていることから,甲3に接した当業者には,CC-3-Vの濃度を3~8%増やして35~40%とする積極的な動機付けがあると主張する。
しかし,
上記3(2)ア及びイにおいて説示したとおり,
液晶化合物について
の技術常識を踏まえると,甲3に接した当業者は,ネマチック相に与える影響も考慮した場合には,CC-3-VよりもCC-3-V1などが好ましいと認識するというべきである。
そして,甲3発明は,式IV-1,IV-4,IV-6及びIV-7の化合物を任意成分として配合しているにすぎない上に,甲3にはネマチック相(液晶相)の特性よりも,粘度の低下を特に優先すべきであるとの記載は見当たらないから,段落【0132】の記載があることを考慮しても,当業者が,甲3発明において,特に式IV-1の化合物のうちCC-3-Vのみに着目し,CC-3-V単独で35%以上の濃度で用いることを容易に想到できたということはできない。
(3)相違点3-2及び3-3について

原告は,相違点3-2に関し,優れた耐熱性及び高いTN-Iが重視され
る場合に,三環型の液晶化合物に替えて四環型の液晶化合物を使用することは,当業者が当然採用すべき手段であって,本件原出願当時,正の誘電異方性を有する四環型の液晶化合物を2種以上組み合わせて使用し,その合計濃度を11~20.5%とすることは,既に周知の技術であったと主張する。
また,相違点3-3に関し,四環型の液晶化合物の濃度を20.5%とすると,CC-3-Vと四環型の正の誘電異方性を有する液晶化合物との合計濃度は55.5%となり,相違点3-3の構成になると主張する。イ
そこで検討するに,本件発明1は,第二成分として一般式(2)で表される2種以上の四環化合物を10~30質量%の割合で配合することを技術的特徴とするものである。
これに対し,甲3の例5では,誘電的に正の化合物として三環化合物が用いられているにすぎず,例8でも,CCGU-3-Fという四環化合物が8.0%用いられているにとどまる。
そして,甲3の実施例等に記載されている液晶組成物は,誘電的に正の化合物として,
主として四環化合物を用いるものではない上に,
甲3には,
2種以上の四環化合物を用いることも四環化合物の配合量を示唆する記載も見当たらない。
そうすると,当業者が,甲3発明において,2種以上の四環化合物を10~30%の割合で配合することを容易に想到できたということはできない。

また,上記(2)において説示したとおり,甲3発明において,CC-3-Vを35%以上の濃度で用いることの動機付けがあるとはいえない以上,CC-3-Vと四環化合物とを合計で55~95%含有するとの相違点3-3の構成とすることも,当業者が容易に想到できたとはいえない。

原告の主張について
原告は,甲3記載の例5に係る組成物のTN-Iは78.4℃と,本件明細書記載の実施例(70.0~70.8℃)よりも高く,優れているものであるから,回転粘度を重視するときには,CC-3-Vの濃度をわずか3%増やして本件発明1が特定する濃度範囲内とすることは,当業者が適宜調整する程度の事項にすぎないと主張する。
しかし,甲3には,特に回転粘度を重視すべきとの記載は何ら見当たらないし,例5は四環化合物を含まない組成物であるから,仮に例5においてCC-3-Vの濃度を3%増やしても本件発明1には至らない。したがって,この点についての原告の主張を採用することはできない。
(4)本件発明の効果について
原告は,本件発明1の効果についても論難するが,上記(2)及び(3)において説示したとおり,当業者は甲3発明を出発点として相違点3-1~3-3に係る構成に容易に想到することができないのであるから,既にその点において進歩性を肯定し得るものである。
(5)以上によれば,原告が主張する取消事由5は理由がない。
7
取消事由6(本件発明1と甲8発明1との同一性判断の誤り)について(1)甲8の記載

特許請求の範囲
【請求項1】液晶媒体であって,
-式I:
【化1】

で表される誘電的に中性の化合物を含む,誘電的に中性の成分である成分A,
および
-3より大の誘電異方性を有する1種または2種以上の誘電的に正の化合物を含む,誘電的に正の成分である成分B,
を含むこと,および,前記媒体中の成分Aの濃度が,20%~80%の範囲であることを特徴とする,前記液晶媒体。
【請求項2】媒体中の成分Aの濃度が,25%~60%の範囲であることを特徴とする,請求項1に記載の液晶媒体。
【請求項3】誘電的に正の成分である成分Bが,式IIおよびIII:【化2】

式中,
R2およびR3は,
互いに独立して,
1~7個のC原子を有するアルキル,
アルコキシ,フッ化アルキルまたはフッ化アルコキシ,2~7個のC原子を有するアルケニル,アルケニルオキシ,アルコキシアルキルまたはフッ化アルケニルであり,
【化3】

は,互いに独立して,
【化4】

であり,
L21,L22,L31およびL32は,互いに独立して,HまたはFであり,X2およびX3は,互いに独立して,ハロゲン,1~3個のC原子を有するハロゲン化アルキルもしくはアルコキシ,または2もしくは3個のC原子を有するハロゲン化アルケニルもしくはアルケニルオキシであり,Z3は,-CH2CH2-,-CF2CF2-,-COO-,トランス-CH=CH-,
トランス-CF=CF-,
-CH2O-または単結合であり,
そして
l,m,nおよびoは,互いに独立して,0または1である,
で表される化合物の群から選択される,1種または2種以上の化合物を含むことを特徴とする,請求項1または2に記載の液晶媒体。
【請求項4】1種または2種以上の,請求項3の式IIで表される化合物を含むことを特徴とする,請求項1~3のいずれかに記載の液晶媒体。【請求項5】1種または2種以上の,請求項3の式IIIで表される化合物を含むことを特徴とする,請求項1~4のいずれかに記載の液晶媒体。【請求項8】請求項1~7のいずれかに記載の液晶媒体を含むことを特徴とする,液晶ディスプレイ。
【請求項9】アクティブマトリクスによってアドレスされることを特徴とする,請求項8に記載の液晶ディスプレイ。

発明が解決しようとする課題
【0007】従って,実用用途に適切な特性を有する,例えば広いネマチック相の範囲,適当な光学異方性Δn,用いるディスプレイモ-ドに依存して,高いΔεおよび特に低い粘度などを有する液晶媒体に対する,重大な要請が存在する。


課題を解決するための手段
【0008】驚くべきことには,好適に高いΔε,好適な相範囲およびΔnを有し,従来技術の材料の欠点を示さないか,または少なくとも有意に少ない程度においてのみ示す液晶媒体が実現できることが見出された。【0057】本発明による液晶媒体は,70℃以上,好ましくは75℃以上,そして特に80℃以上の透明点によって特徴付けられる。
本発明による液晶媒体の,589nm(NaD)および20℃におけるΔnは,好ましくは0.060以上~0.135以下の範囲,より好ましくは0.070以上~0.125以下の範囲,そして最も好ましくは0.080以上~0.120以下の範囲である。
【0058】本発明による液晶媒体の,1kHzおよび20℃におけるΔεは,4.0以上である。
好ましくは本発明の媒体のネマチック相は,少なくとも0℃以下から70℃以上まで,より好ましくは少なくとも-20℃以下から70℃以上,最も好ましくは少なくとも-30℃以下から75℃以上,そして特に,少なくとも-40℃以下から75℃以上まで広がっている。
【0062】…成分Aは好ましくは,混合物全体に対して29%~65%の濃度で,
より好ましくは33%~59%の濃度で,
より好ましくは36%
~47%の濃度で,そして最も好ましくは39%~44%の濃度で用いられる。
【0063】成分Bは好ましくは,混合物全体に対して10%~60%の濃度で,より好ましくは15%~55%の濃度で,より好ましくは20%~50%の濃度で,そして最も好ましくは25%~45%の濃度で用いられる。

実施例
【0104】例9
次の表に与えられた組成と特性を有する液晶混合物を作製する。
【表14】

この混合物は,有利なΔn値,高いΔε値,および非常に低い回転粘度を有する。従ってこれは,例えばTNモードで作動するモニター用途のディスプレイに非常によく適している。
【0105】例10
次の表に与えられた組成と特性を有する液晶混合物を作製する。
【表15】

【0106】例11
次の表に与えられた組成と特性を有する液晶混合物を作製する。
【表16】

この混合物は,有利なΔn値,高いΔε値,および低い回転粘度を有する。従ってこれは,例えばTNモードで作動するモニター用途のディスプレイに非常によく適している。
【0107】例12
次の表に与えられた組成と特性を有する液晶混合物を作製する。
【表17】

この混合物は,有利なΔn値,高いΔε値,および低い回転粘度を有する。従ってこれは,例えばTNモードで作動するモニター用途のディスプレイに非常によく適している。
【0109】例14
次の表に与えられた組成と特性を有する液晶混合物を作製する。
【表19】

この混合物は,有利なΔn値,高いΔε値,および低い回転粘度を有する。従ってこれは,TNモ-ドで作動するディスプレイに非常によく適している。

なお,上記表に記載されている略号に対応する化学構造式は以下のとおりである。(【0083】,【0084】,【0088】,甲3の【0158】)

(2)相違点6-1について

原告は,相違点6-1は,技術常識に従って周知慣用の技術が付加されているにすぎないもので,実質的な相違点ではないと主張する。


そこで検討するに,本件発明1は,第二成分として一般式(2)で表される2種以上の四環化合物を10~30質量%の割合で配合することを技術的特徴とするものである。
これに対し,甲8発明1の式II及びIIIで表される化合物(式略)は,l=m=1,n=o=1である場合に四環化合物となり,甲8の例9~12,14では,APUQU-2-F,APUQU-3-F,CCGU-3-Fという四環化合物を2種以上配合した液晶組成物が記載されているから,甲8発明1は,四環化合物である式II及びIIIで表される化合物を2種以上含有する態様を包含するといえる。

しかし,甲8の実施例で具体的に用いられている四環化合物のうち,APUQU-2-F,APUQU-3-Fは,1,4-シクロヘキシレン基の1個のCH2基が,-O-で置換された2,5-テトラヒドロピラニレン基を有する点で,本件発明1の一般式(2)の化合物と環構造が顕著に異なる。これに対し,甲8の実施例の液晶混合物(例1~26)では,APUQU-2-F,APUQU-3-Fの-O-をCH2基で置換した化合物,すなわち本件発明1の一般式(2)で表される四環化合物に該当するCPUQU-n-Xは用いられていない。
そして,甲8の式II及びIIIで表される化合物は,二環から四環の化合物を含み,その環構造もさまざまで,極めて広範な化合物を含んでいるところ,液晶分子の全ての構造要素(側鎖,環,結合基,末端基)は物理的性質に寄与し,その各部分を変えると性質もいろいろ変わることは技術常識である(甲26,乙7)。


さらに,甲8発明1では,式II及びIIIで表される化合物の群から選択される1種又は2種以上の化合物を10~60%含有することが特定されているところ,これが甲8において具体的に明示されていない本件発明1の一般式(2)で表される2種以上の化合物の含有量を示すものとは到底理解することができない。


したがって,本件発明1の相違点6-1に係る構成が周知慣用技術の付加にすぎないということはできないから,相違点6-1は,実質的な相違点というべきである。
(3)相違点6-2について

原告は,相違点6-2は,形式上の相違点を作出することのみを目的として作られたものであり,実質的な相違点ではないと主張する。


そこで検討するに,甲8には,本件発明1の一般式(2)で表される化合物を2種以上使用することも,液晶組成物にこの2種以上の化合物を合計10~30質量%配合することも示されていないから,この配合量を前提とする,本件発明1の構造式(1)で表される化合物と一般式(2)で表される化合物との合計量の記載も,甲8に示されているとはいえない。また,甲8の例15を参照しても,本件発明1の一般式(2)で表される化合物に含まれるCCGU-3-Fの濃度は9.0%にすぎないから,本件発明1の構造式(1)で表されるCC-3-Vの濃度41.0%との合計は51.0%にとどまり,「55~95%」の範囲とならない。

したがって,相違点6-2は,実質的な相違点というべきである。
(4)小括
以上によれば,本件発明1及び本件発明1を限定する本件発明3と,甲8発明1とが,実質的に同一の発明であるということはできない。
したがって,原告が主張する取消事由6は理由がない。
第6

結論
よって,審決に取り消すべき違法があると認めることはできないから,原告の請求を棄却することとし,主文のとおり判決する。

知的財産高等裁判所第3部

裁判長裁判官

鶴岡稔彦
裁判官

高橋間明彩
裁判官

宏充
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