判例検索β > 平成30年(行ケ)第10030号
審決取消請求事件 特許権 行政訴訟
事件番号平成30(行ケ)10030
事件名審決取消請求事件
裁判年月日平成30年11月28日
法廷名知的財産高等裁判所
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平成30年11月28日判決言渡
平成30年(行ケ)第10030号
口頭弁論終結日

審決取消請求事件

平成30年9月19日
判原決告
株式会社技研製作所

訴訟代理人弁護士

井上義隆同安井友章
訴訟代理人弁理士

鈴木同加藤被告守真司
株式会社コーワン

訴訟代理人弁護士

小同原
訴訟代理人弁理士

田主松陽一郎悠中介幹人文1
原告の請求を棄却する。

2
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由

第1請求
特許庁が無効2017-800078号事件について平成30年1月24日にした審決を取り消す。
第2事案の概要
1
特許庁における手続の経緯等
(1)

被告は,
平成22年4月22日にした特許出願
(特願2010-9913

7号)の一部を分割して,平成26年1月14日,発明の名称を「鋼矢板圧入引抜機及び鋼矢板圧入引抜工法」とする発明について特許出願(特願2014-4293号。以下「本件出願」という。)をし,平成27年6月19日,特許権の設定登録(特許第5763225号。請求項の数9。以下,この特許を「本件特許」という。甲17)を受けた。
(2)

原告は,平成29年6月19日,本件特許に係る請求項1ないし3,8及
び9に係る発明についての特許を無効にすることを求める特許無効審判を請求した(甲19)。
特許庁は,上記請求を無効2017-800078号事件として審理を行い,平成30年1月24日,「本件審判の請求は成り立たない。」との審決(以下「本件審決」という。)をし,その謄本は,同年2月1日,原告に送達された。
(3)

原告は,
平成30年2月28日,
本件審決の取消しを求める本件訴訟を提

起した。
2
特許請求の範囲の記載
本件特許の特許請求の範囲の請求項1ないし9の記載は,以下のとおりである(以下,請求項1に係る発明を「本件発明1」,請求項2に係る発明を「本件発明2」,請求項3に係る発明を「本件発明3」,請求項8に係る発明を「本件発明8」,請求項9に係る発明を「本件発明9」という。甲17)。【請求項1】
下方にクランプ装置を配設した台座と,台座上にスライド自在に配備されたスライドベースの上方にあって縦軸を中心として回動自在に立設されたガイドフレームと,該ガイドフレームに昇降自在に装着されて鋼矢板圧入引抜シリンダが取り付けられた昇降体と,昇降体の下方に形成されたチャックフレームと,チャックフレーム内に旋回自在に装備されるとともにU型の鋼矢板を挿通してチャック可能なチャック装置とを具備してなる鋼矢板圧入引抜機において,
前記クランプ装置は,台座の下面に形成した複数のクランプガイドに,相互に継手を噛合させて圧入した既設のU型の鋼矢板の上端部に跨ってクランプする複数のクランプ部材を組み替え可能に装備するとともに,複数のクランプガイドのピッチ及び複数のクランプ部材の形状を異ならしめてなり,前記既設のU型の鋼矢板の継手ピッチに応じて,クランプガイドとクランプ部材を組み替えてクランプピッチを変更することによって,前記既設のU型の鋼矢板の継手ピッチが400mm,500mm,600mmのいずれであっても前記既設のU型の鋼矢板の先頭からクランプ可能としたことを特徴とする鋼矢板圧入引抜機。
【請求項2】
クランプピッチを428mm~772mm,412mm~588mm,300mm~500mmのいずれかの範囲に変更可能とした請求項1に記載の鋼矢板圧入引抜機。
【請求項3】
クランプ装置で先頭の鋼矢板を含む既設のU型の鋼矢板をクランプすることにより台座を既設のU型の鋼矢板上に定置させて,チャック装置に作業するU型の鋼矢板を挿通してチャックするとともに,先頭のU型の鋼矢板の開放された継手に,作業するU型の鋼矢板の継手を噛合させた状態において,鋼矢板圧入引抜機の他の部材と干渉することがないようにチャックフレームを配置した請求項1又は2に記載の鋼矢板圧入引抜機。
【請求項4】
チャックフレームに複数のチャック装置を,それぞれ着脱自在に装着可能とし,複数のチャック装置はそれぞれ,鋼矢板の挿通孔と,挿通孔に挿通された鋼矢板をチャックするチャック部と,チャック装置を旋回させるために挿通孔の外周に配備されたチャックリングギアを有し,チャックリングギアとして同一形状のものを採用するとともに,それぞれ異なる継手ピッチの鋼矢板に対応したチャック部を有する請求項1,2又は3に記載の鋼矢板圧入引抜機。【請求項5】
チャック装置を旋回させるために,チャックフレームにチャック旋回モータと該チャック旋回モータの駆動軸に連結したピニオンギアを装備し,該ピニオンギアをチャックリングギアに噛合させるとともに,チャック旋回モータとピニオンギア及びピニオンギアを収納したピニオンギアボックスを台座の上端面の位置する水平線より上方に配置した請求項4に記載の鋼矢板圧入引抜機。【請求項6】
複数のチャック装置が,鋼矢板の継手ピッチが600mm用のチャック装置と鋼矢板の継手ピッチが400mm用のチャック装置からなる請求項4又は5に記載の鋼矢板圧入引抜機。
【請求項7】
クランプ装置で先頭の鋼矢板を含む既設のU型の鋼矢板をクランプすることにより台座を既設のU型の鋼矢板上に定置させて,チャック装置に作業するU型の鋼矢板を挿通してチャックするとともに,先頭のU型の鋼矢板の開放された継手に,作業するU型の鋼矢板の継手を噛合させた状態において,チャックフレームに装着された前記複数のチャック装置は,いずれも鋼矢板圧入引抜機の他の部材と干渉することがない請求項4,5又は6に記載の鋼矢板圧入引抜機。
【請求項8】
請求項1~7に記載したいずれかの鋼矢板圧入引抜機を使用して,それぞれ相互に継手を噛合させて圧入した複数の既設のU型の鋼矢板の内,先頭の鋼矢板を含む既設のU型の鋼矢板をクランプ装置で掴んで台座を既設のU型の鋼矢板上に定置した状態において,先頭のU型の鋼矢板の開放された継手に,作業するU型の鋼矢板の継手を噛合させた状態で,継手ピッチが異なるU型の鋼矢板を圧入・引抜可能としたことを特徴とする鋼矢板圧入引抜工法。
【請求項9】
継手ピッチが異なるU型の鋼矢板として,継手ピッチが400mm,500mm,600mmのいずれであっても圧入・引抜可能とした請求項8に記載の鋼矢板圧入引抜工法。
3
本件審決の理由の要旨

(1)

本件審決の理由は,別紙審決書(写し)のとおりである。
その要旨は,①本件発明1ないし3,8及び9(請求項1ないし3,8及
び9)は,特許法36条6項1号に規定する要件(以下「サポート要件」という。)に適合するから,原告主張のサポート要件違反の無効理由(無効理由1)は理由がない,②本件発明1は,本件出願前に頒布された刊行物である甲1(特開2008-267015号公報)に記載された発明と同一の発明とはいえず,同様に,本件発明1の発明特定事項を全て含む本件発明2,3,8及び9も,甲1に記載された発明と同一の発明といえないから,原告主張の甲1に基づく新規性欠如(同法29条1項3号違反)の無効理由(無効理由2)は理由がない,③本件発明1は,甲1及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえず,本件発明2,3,8及び9も,これと同様であるから,原告主張の甲1を主引用例とする進歩性欠如(同条2項違反)の無効理由(無効理由3)は理由がない,④本件発明1は,本件出願前に公然実施されていた「TILT

PILER

WP-

100」(甲5)に係る発明と同一の発明とはいえず,本件発明2,3,8及び9も,これと同様であるから,原告主張の「TILT

PILER

W
P-100」に係る公然実施発明に基づく新規性欠如(同条1項3号違反)の無効理由(無効理由4)は理由がない,⑤本件発明1は,上記公然実施発明及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえず,本件発明2,3,8及び9も,これと同様であるから,原告主張の上記公然実施発明を主引用例とする進歩性欠如(同条2項違反)の無効理由(無効理由5)は理由がないというものである。
なお,本件審決は,本件発明1の構成要件を次のとおり分説した。(本件発明1)
A
下方にクランプ装置を配設した台座と,

B
台座上にスライド自在に配備されたスライドベースの上方にあって縦軸を中心として回動自在に立設されたガイドフレームと,

C
該ガイドフレームに昇降自在に装着されて鋼矢板圧入引抜シリンダが取り付けられた昇降体と,

D
昇降体の下方に形成されたチャックフレームと,

E
チャックフレーム内に旋回自在に装備されるとともにU型の鋼矢板を挿通してチャック可能なチャック装置とを具備してなる鋼矢板圧入引抜機において,

F
前記クランプ装置は,台座の下面に形成した複数のクランプガイドに,相互に継手を噛合させて圧入した既設のU型の鋼矢板の上端部に跨ってクランプする複数のクランプ部材を組み替え可能に装備するとともに,
G
複数のクランプガイドのピッチ及び複数のクランプ部材の形状を異ならしめてなり,

H
前記既設のU型の鋼矢板の継手ピッチに応じて,クランプガイドとクランプ部材を組み替えてクランプピッチを変更することによって,前記既設のU型の鋼矢板の継手ピッチが400mm,500mm,600mmのいずれであっても前記既設のU型の鋼矢板の先頭からクランプ可能としたことを特徴とする

I
鋼矢板圧入引抜機。
(2)

本件審決が認定した甲1に記載された発明(以下「甲1発明」という。),
「TILT

PILER

WP-100」に係る公然実施発明(以下「甲5

発明」という。),本件発明1と甲1発明との一致点及び相違点,本件発明1と甲5発明との一致点及び相違点は,以下のとおりである。

甲1発明
下方にクランプ装置3を配設した台座2と,台座2上に摺動自在に配備されたスライドベース4と,スライドベース4上には支持アーム5が縦軸を中心として回動自在に軸支され,この支持アーム5に立設されたガイドフレーム7と,該ガイドフレーム7に昇降自在に装着されて鋼矢板圧入引抜シリンダ9が取り付けられた昇降体8と,昇降体8の下方に形成されたチャックフレーム内に旋回自在に装備されるとともにU形鋼矢板を挿通してチャック可能なチャック装置10とを具備してなる鋼矢板圧入引抜機において,前記クランプ装置3は,台座2の下面に形成した複数のレール26に,相互に継手を噛合させて圧入した既設のU形鋼矢板の上端部に跨ってクランプする複数のクランプを組み替え可能に装備するとともに,複数のレール26のピッチ及び複数のクランプの形状を異ならしめてなり,前記既設のU形鋼矢板の継手ピッチに応じて,レールとクランプを組み替えてクランプピッチを変更することによって,前記既設のU形鋼矢板の継手ピッチが600mm,700mmのいずれであっても前記既設のU形鋼矢板をクランプ可能とし,既設のU形鋼矢板の継手ピッチが700mmにおいてはその先頭のU形鋼矢板をクランプする,鋼矢板圧入引抜機。

甲5発明
下方にクランプを配設したサドルと,サドル上にスライド自在に配備されたスライドベースの上方にあって縦軸を中心として回動自在に立設されたガイドフレームと,該ガイドフレームに昇降自在に装着されて圧入引抜シリンダーが取り付けられた昇降体と,昇降体の下方に形成されたチャックフレームと,チャックフレーム内に旋回自在に装備されるとともにU型の鋼矢板を挿通してチャック可能なチャック本体とを具備してなる鋼矢板圧入・引抜機において,
前記クランプは,サドルの下面に形成した複数のクランプガイドに,相互に継手を噛合させて圧入した既設のU型の鋼矢板の上端部に跨ってクランプする複数のクランプを組み替え可能に装備するとともに,複数のクランプガイドのピッチ及び複数のクランプ部材の形状を異ならしめてなり,前記既設のU型の鋼矢板の継手ピッチに応じて,クランプガイドとクランプ部材を組み替えてクランプピッチを変更することによって,前記既設のU型の鋼矢板の継手ピッチが500mm,600mmのいずれであっても前記既設のU型の鋼矢板の先頭からクランプ可能とするとともに,前記既設のU型の鋼矢板の継手ピッチが400mmであっても前記既設のU型の鋼矢板を先頭からではないがクランプ可能とした,
鋼矢板圧入・引抜機。

本件発明1と甲1発明との一致点及び相違点
(一致点)
「下方にクランプ装置を配設した台座と,台座上にスライド自在に配備されたスライドベースの上方にあって縦軸を中心として回動自在に立設されたガイドフレームと,該ガイドフレームに昇降自在に装着されて鋼矢板圧入引抜シリンダが取り付けられた昇降体と,昇降体の下方に形成されたチャックフレームと,チャックフレーム内に旋回自在に装備されるとともにU型の鋼矢板を挿通してチャック可能なチャック装置とを具備してなる鋼矢板圧入引抜機において,
前記クランプ装置は,台座の下面に形成した複数のクランプガイドに,相互に継手を噛合させて圧入した既設のU型の鋼矢板の上端部に跨ってクランプする複数のクランプ部材を組み替え可能に装備するとともに,複数のクランプガイドのピッチ及び複数のクランプ部材の形状を異ならしめてなり,
前記既設のU型の鋼矢板の継手ピッチに応じて,クランプガイドとクランプ部材を組み替えてクランプピッチを変更することによって,前記既設のU型の鋼矢板の継手ピッチが異なるものであっても前記既設のU型の鋼矢板をクランプ可能とした,鋼矢板圧入引抜機。」である点。
(相違点)
継手ピッチが異なるU型の鋼矢板をクランプする構成について,
本件発明1は,「前記既設のU型の鋼矢板の継手ピッチが400mm,500mm,600mmのいずれであっても前記既設のU型の鋼矢板の先頭からクランプ可能とした」のに対し,
甲1発明は,「前記既設のU形鋼矢板の継手ピッチが600mm,700mmのいずれであっても前記既設のU形鋼矢板をクランプ可能とし,既設のU形鋼矢板の継手ピッチが700mmにおいてはその先頭のU形鋼矢板をクランプする」点(以下,この相違点を「相違点1」という。)。エ
本件発明1と甲5発明との一致点及び相違点
(一致点)
「下方にクランプ装置を配設した台座と,台座上にスライド自在に配備されたスライドベースの上方にあって縦軸を中心として回動自在に立設されたガイドフレームと,該ガイドフレームに昇降自在に装着されて鋼矢板圧入引抜シリンダが取り付けられた昇降体と,昇降体の下方に形成されたチャックフレームと,チャックフレーム内に旋回自在に装備されるとともにU型の鋼矢板を挿通してチャック可能なチャック装置とを具備してなる鋼矢板圧入引抜機において,
前記クランプ装置は,台座の下面に形成した複数のクランプガイドに,相互に継手を噛合させて圧入した既設のU型の鋼矢板の上端部に跨ってクランプする複数のクランプ部材を組み替え可能に装備するとともに,複数のクランプガイドのピッチ及び複数のクランプ部材の形状を異ならしめてなり,
前記既設のU型の鋼矢板の継手ピッチに応じて,クランプガイドとクランプ部材を組み替えてクランプピッチを変更することによって,前記既設のU型の鋼矢板の継手ピッチが500mm,600mmのいずれであっても前記既設のU型の鋼矢板の先頭からクランプ可能としたことを特徴とする鋼矢板圧入引抜機。」である点。
(相違点)
「既設のU型の鋼矢板の先頭からクランプ可能とした」構成について,本件発明1は,「継手ピッチが400mm,500mm,600mmのいずれであっても」(前記既設のU型の鋼矢板の先頭からクランプ可能)なのに対し,
甲5発明は,「継手ピッチが500mm,600mm」であって,「継手ピッチが400mm」のものは,既設のU型の鋼矢板をクランプ可能であるが先頭の鋼矢板をクランプするものではない点(以下,この相違点を「相違点A」という。)。
第3当事者の主張
1
取消事由1(サポート要件の判断の誤り)

(1)

原告の主張
本件出願の願書に添付した明細書(以下,図面を含めて,「本件明細書」という。甲17)の記載事項(【0007】ないし【0010】,【0013】,【0016】.【0019】,【0028】,図19ないし21,23)によれば,本件明細書には,本件発明1の課題は,従来の鋼矢板圧入引抜機(図21の「鋼矢板圧入引抜機40」)における「一定寸法範囲を超えた最小寸法の継手ピッチを有する鋼矢板」をチャック装置でチャックする場合に,チャック装置が他の部材と干渉し,既設の「先頭」の鋼矢板をクランプできないという問題(以下「チャック装置干渉問題」という場合がある。)及び「一定寸法範囲を超えた継手ピッチの寸法差を有する鋼矢板」をクランプできないという問題(以下「クランプ装置寸法差問題」という場合がある。)を解決することにある旨の記載がある。
本件発明1は,上記課題を解決するための手段として,構成要件F,G及びHの構成を採用したものであるが,従来の鋼矢板圧入引抜機と異なる構成は,構成要件Hの「前記既設のU型の鋼矢板の継手ピッチに応じて,クランプガイドとクランプ部材を組み替えてクランプピッチを変更することによって,前記既設のU型の鋼矢板の継手ピッチが400mm,500mm,600mmのいずれであっても前記既設のU型の鋼矢板の先頭からクランプ可能とした」のうちの「前記既設のU型の鋼矢板の継手ピッチが400mm」であっても「前記既設のU型の鋼矢板の先頭からクランプ可能とした」との構成部分のみである。
そして,本件発明1は,「チャック装置干渉問題」については,構成を特定することなく,既設の「先頭」の鋼矢板をクランプするという「結果」(構成要件H)を発明特定事項とし,「クランプ装置寸法差問題」については,従来の鋼矢板圧入引抜機がいずれも既に備えていた,「複数のクランプガイドのピッチ及び複数のクランプ部材の形状」を異にする構成(構成要件G),「クランプガイド」と「クランプ部材」を組み替えてクランプピッチを変更する構成(構成要件F,Hの一部)を発明特定事項としているにすぎない。また,構成要件Gの構成は,「複数のクランプガイドのピッチ」が同一又は「複数のクランプ部材の形状」が同一の構成であっても,クランプの組み替えによって,継手ピッチが400mm,500mm,600mmの既設のU型の鋼矢板をクランプすることができるから,単に「複数のクランプガイドのピッチ」が同一又は「複数のクランプ部材の形状」が同一の構成を「除く」という消極的な意義を有するにすぎない。したがって,当業者は,本件明細書の記載から,従来の鋼矢板圧入引抜機において「チャック装置干渉問題」及び「クランプ装置寸法差問題」という課題があることを認識し,本件発明1によって上記課題を解決できるものと認識することはできないから,本件発明1はサポート要件に適合しない。本件発明1の発明特定事項を全て含む本件発明2,3,8及び9も,これと同様にサポート要件に適合しない。
なお,原告は,本件特許に係る前件の特許無効審判(無効2015-800184号事件。以下「前件無効審判」という。)及びその審決(請求不成立審決)
に対する審決取消訴訟
(知的財産高等裁判所平成28年(行ケ)
10161号事件。以下「前件訴訟」といい,また,前件訴訟の判決(請求棄却判決・平成29年4月18日判決言渡し・平成30年1月23日確定)を「前件判決」という。甲8)において,「チャック装置干渉問題」及び「クランプ装置寸法差問題」が密接不可分な問題であることを前提にサポート要件違反の主張をしたが,本件審判においては,これらが別の問題であること及び前件判決の説示事項を前提にサポート要件違反を主張するものであるから,同一の主張の蒸し返しには当たらない。

以上によれば,本件発明1ないし3,8及び9がサポート要件に適合するとした本件審決の判断は誤りである。

(2)

被告の主張
本件発明1は,「継手ピッチ19が400mmと600mmのように200mm程度以上の寸法差を有する鋼矢板15の双方を施工可能な鋼矢板圧入引抜機が提供されていなかった」という従来技術の問題点を解決するために,継手ピッチが400mm,500mm,600mmのいずれであっても,「既設の先頭の鋼矢板をクランプ装置でクランプした状態で,作業する鋼矢板を先頭の鋼矢板の開放された継手に噛合させた状態」(以下「正規状態」という場合がある。)の施工を可能とする「鋼矢板圧入引抜機及び鋼矢板圧入引抜工法」を提供することを課題とするものであり,本件発明1は,その課題を解決するための発明特定事項として,「既設のU型の鋼矢板の継手ピッチが400mm,500mm,600mmのいずれであっても前記既設のU型の鋼矢板の先頭からクランプ可能とした」との構成(構成要件H)を採用したものである。
そして,本件明細書には,本件発明1の全ての構成要件について具体的な記載があるから(【0038】ないし【0041】,【0052】ないし【0059】),本件発明1はサポート要件に適合する。
したがって,本件発明1ないし3,8及び9がサポート要件に適合するとした本件審決の判断に誤りはない。

また,原告は,前件無効審判及び前件訴訟においても,サポート要件違反の主張をしており,本件審判の請求は,その細部の理由を異にするだけであって,同一の主張を蒸し返しているだけであるから,原告の主張は理由がない。なお,原告の主張は,紛争の一回的解決の要請及び信義則にも反する。

ウ以上によれば,原告主張の取消事由1は理由がない。
2
取消事由2(甲1を主引用例とする進歩性の判断の誤り)

(1)

原告の主張
甲1発明の認定の誤り
甲1の記載事項
(請求項3,
【0001】【0003】【0019】



図23,24等)によれば,甲1には,クランプ可能とする具体的な継手ピッチサイズを限定することのない,「より広範囲で多様な継手ピッチサイズの鋼矢板」(【0019】)をクランプ可能とする鋼矢板圧入引抜機が開示されている。
そして,「より広範囲で多様な継手ピッチサイズの鋼矢板」には,少なくとも,「400mm」,「500mm」,「600mm」及び「700mm」が含まれていることは明らかであるから(【0003】),甲1記載の鋼矢板圧入引抜機は,既設のU形鋼矢板の継手ピッチが,「600mm」,「700mm」の場合のみならず,「400mm」,「500mm」の場合であっても,既設のU形の鋼矢板のクランプが可能である。したがって,本件審決認定の甲1発明のうち,「前記既設のU形鋼矢板の継手ピッチが600mm,700mmのいずれであっても前記既設のU形鋼矢板をクランプ可能」との部分は,「前記既設のU形鋼矢板の継手ピッチが400mm,500mm,600mm,700mmのいずれであっても前記既設のU形鋼矢板をクランプ可能」と認定すべきであるから,この点において本件審決における甲1発明の認定には誤りがある。
その結果,
本件審決における一致点の認定及び相違点1のうち,甲1発明の認定部分にも誤りがある。これらの認定の誤りは,本件審決の結論に影響を及ぼすものである。

相違点1の容易想到性の判断の誤り
(ア)

本件審決は,甲2(実公昭52-52405号公報),甲3(実願
昭61-187160号(実開昭63-91533号)のマイクロフィルム)及び甲4(実願昭53-42786号(実開昭54-146010号)のマイクロフィルム)には,相違点1に係る本件発明1の構成は記載も示唆もない旨認定した。
しかしながら,甲2ないし4には,本件出願当時,矢板や杭の圧入時に既設の矢板等を押し下げる
「共下がり」
が発生することの防止のため,
「共下がり」が発生する既設の先頭の矢板等をクランプすることは,周知技術であったことの開示があるから,本件審決の上記認定は誤りである。
(イ)

そして,甲1記載の鋼矢板圧入引抜機は,「前記既設のU形鋼矢板
の継手ピッチが400mm,500mm,600mm,700mmのいずれであっても前記既設のU形鋼矢板をクランプ可能」であること(前記ア),既設の先頭のU形鋼矢板をクランプしない場合には,「共下がり」が発生することは不可避であることに照らすと,当業者は,甲1記載の鋼矢板圧入引抜機において,「共下がり」の発生の防止のため,前記周知技術を適用して,「前記既設のU型の鋼矢板の継手ピッチが400mm,500mm,600mmのいずれであっても前記既設のU型の鋼矢板の先頭からクランプ可能とした」構成(相違点1に係る本件発明1の構成)を採用することを容易に想到することができたものである。なお,甲1記載の鋼矢板圧入引抜機において,継手ピッチが400mm,500mm,600mmの場合,既設のU型の鋼矢板の先頭をクランプする際に,チャック装置干渉問題が生じる可能性があるが,前件判決が,原告のサポート要件違反の主張に関し,「本件発明1は,鋼矢板圧入引抜機におけるクランプ装置に特徴を有するものであり,チャック装置については,請求項4記載のチャック装置をはじめとして当業者において適宜選択可能なものと解される。」と説示するとおり,当業者は,チャック装置干渉問題を適宜の方法により解決できたものであるから,チャック装置干渉問題は,甲1記載の鋼矢板圧入引抜機に前記周知技術を適用することの阻害事由となるものではない。
したがって,相違点1に係る本件発明1の構成は,当業者が容易に想到し得たものとはいえないとした本件審決の判断は誤りである。

小括
以上のとおり,本件審決は,甲1発明の認定を誤った結果,本件発明1と甲1に記載された発明との一致点及び相違点の認定を誤り,さらには相違点1の容易想到性の判断を誤ったことにより,本件発明1は,甲1及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないとの誤った判断をしたものである。また,同様に,本件発明1の発明特定事項を全て含む本件発明2,3,8及び9は,甲1及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないとの誤った判断をしたものである。
(2)

被告の主張
甲1発明の認定の誤りの主張に対し
甲1において,1台の鋼矢板圧入引抜機でレールとクランプを組み替えてクランプピッチを変更することによりクランプ可能とした実施例は,クランプピッチ560mm(【0050】,図28)の場合と,クランプピッチ660mm(【0046】,【0048】,図24,26)の場合のみであり,継手ピッチの寸法差100mmを臨界値とするものである。しかも,U形鋼矢板の実施例は継手ピッチが700mmの場合のみであり,それ以外の実施例はZ形鋼矢板の実施例である。そのため,甲1には,継手ピッチの寸法差が200mmとなる「継手ピッチが400mm,500mm,600mmのU形の鋼矢板」を1台の鋼矢板圧入引抜機でクランプすることの開示はない。
したがって,甲1記載の鋼矢板圧入引抜機は,「400mm」,「500mm」の場合であっても,既設のU形の鋼矢板のクランプが可能であるとはいえないから,本件審決における甲1発明の認定に原告主張の誤りはなく,同様に,本件審決における本件発明1と甲1発明の一致点及び相違点の認定にも原告主張の誤りはない。


相違点1の容易想到性の判断の誤りの主張に対し
甲1には,相違点1に係る本件発明1の構成についての記載や示唆がないのみならず,本件発明1が課題とする「継手ピッチ19が400mmと600mmのように200mm程度以上の寸法差を有する鋼矢板15の双方を施工可能な鋼矢板圧入引抜機が提供されていなかった」という従来技術の問題点及びそれを解決するための技術についての記載も示唆もない。次に,甲2ないし4の記載事項から,矢板や杭の圧入時に既設の矢板等を押し下げる「共下がり」が発生することの防止のため,「共下がり」が発生する既設の先頭の矢板等をクランプすることが,本件出願当時周知であったことを認定することはできない。また,甲2ないし4には,相違点1に係る本件発明1の構成についての記載や示唆はなく,さらに,甲2ないし4記載の技術は,甲1記載の鋼矢板圧入引抜機と解決課題を全く異にするものである。
したがって,当業者において,甲1記載の鋼矢板圧入引抜機に甲2ないし4記載の技術を適用する動機付けは存在せず,仮にこれを適用したとしても,
相違点1に係る本件発明1の構成を容易に想到することはできない。これと同旨の本件審決の判断に誤りはない。

小括
以上のとおり,本件審決における甲1発明の認定,本件発明1と甲1発明との一致点及び相違点の認定に誤りはなく,また,相違点1の容易想到性の判断にも誤りはないから,原告主張の取消事由2は理由がない。
3
取消事由3(甲5発明を主引用例とする進歩性の判断の誤り)
(1)

原告の主張
相違点Aの容易想到性の判断の誤り
(ア)

甲5(「TILT

PILER

WP-100」の取扱説明書・平

成17年10月版)の69頁には,図面(別紙3参照)とともに,「※WP-100はNo.1クランプを追加して購入することによって400mmの鋼矢板も施工することが出来ます。」,「圧入する矢板の手前の矢板はクランプすることが出来ません。施工時に圧入する矢板の手前の矢板が共上がり,共下がりすることがありますので,圧入する矢板の手前の矢板とクランプしている矢板を溶接止めして下さい。」との記載がある。
上記記載中の「圧入する矢板の手前の矢板はクランプすることが出来ません。」との部分は,U形鋼矢板の継手ピッチが400mmの場合,既設の先頭の鋼矢板はクランプすることができないことを述べたものであり,その理由は,チャック装置が他の部材等と干渉すること(「チャック装置干渉問題」)によるものである。そして,上記記載中の「施工時に圧入する矢板の手前の矢板が共上がり,共下がりすることがありますので,圧入する矢板の手前の矢板とクランプしている矢板を溶接止めして下さい。」との記載部分は,「チャック装置干渉問題」を解決するための「便法」として既設の先頭から2番目以降の鋼矢板からクランプする構成を採用したこと,その結果,別途新たに「共上がり」,「共下がり」の問題が生じるため,これを解決するために既設の先頭の鋼矢板とクランプしている鋼矢板とを「溶接止め」する構成を採用するよう述べたものである。
しかるところ,この「溶接止め」の構成は,「手間と時間がかかる」こと(甲14),「不便であると共に,工期が伸びる原因ともなっている」こと(甲15)は,本件出願当時,技術常識であった。
一方で,甲5の頒布時点(平成17年10月)の後である本件出願当時においては,当業者は,チャック装置干渉問題を適宜の方法により解決できたことは,前記2(1)イのとおりである。そして,甲5の「圧入する矢板の手前の矢板はクランプすることが出来ません。」との上記記載部分は,チャック装置干渉問題が存在することの認識を表明するものであるから,当業者において,チャック装置干渉問題を解決するために適宜の方法を採用することの積極的な動機付けとなるものといえる。(イ)

そうすると,当業者は,U形鋼矢板の継手ピッチが400mmの場
合,TILT

PILER

WP-100において,「チャック装置干

渉問題」を,「便法」としての既設の先頭から2番目以降の鋼矢板からクランプする構成によることなく,
適宜の方法により解決し,
前記2(1)
イ(ア)の周知技術(矢板や杭の圧入時に既設の矢板等を押し下げる「共下がり」が発生することの防止のため,「共下がり」が発生する既設の先頭の矢板等をクランプすること)を適用して,既設の先頭の鋼矢板をクランプする構成(相違点Aに係る本件発明1の構成)とすることを容易に想到することができたものである。
したがって,本件審決における相違点Aの容易想到性の判断には誤りがある。
(ウ)

この点に関し,本件審決は,甲5の「圧入する矢板の手前の矢板は
クランプすることが出来ません。」との前記記載部分は,U形鋼矢板の継手ピッチが400mmの場合,TILT

PILER

WP-100

に前記周知技術を適用して既設の先頭の鋼矢板をクランプすることの阻害要因である旨判断した。
しかしながら,前記(ア)のとおり,甲5の頒布時点(平成17年10月)の後である本件出願当時には,当業者は,チャック装置干渉問題を適宜の方法により解決できることを認識していたから,甲5の上記記載部分は阻害要因であるということはできない。
したがって,本件審決の上記判断は誤りである。

小括
以上のとおり,本件審決は,相違点Aの容易想到性の判断を誤ったことにより,本件発明1は,本件発明1は,TILT

PILER

WP-1

00に係る公然実施発明(甲5発明)及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものではないとの誤った判断をしたものである。また,同様に,本件発明1の発明特定事項を全て含む本件発明2,3,8及び9について,上記公然実施発明(甲5発明)及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないとの誤った判断をしたものである。
(2)

被告の主張
相違点Aの容易想到性の判断の誤りの主張に対し
甲5には,「※WP-100はNo.1クランプを追加して購入することによって400mmの鋼矢板も施工することが出来ます。」,(U形鋼矢板の継手ピッチが400mmの場合)「圧入する矢板の手前の矢板はクランプすることが出来ません。施工時に圧入する矢板の手前の矢板が共上がり,共下がりすることがありますので,圧入する矢板の手前の矢板とクランプしている矢板を溶接止めして下さい。」(69頁)と明記されており,甲5の記載自体から,U形鋼矢板の継手ピッチが600mm及び500mm用のTILT

PILER

WP-100を使用して,継手ピッチ

が400mmの既設の先頭の矢板をクランプすることに阻害事由があることは明らかである。
一方で,TILT

PILER

WP-100に係る公然実施発明(甲

5発明)及び甲5には,相違点Aに係る本件発明1の構成についての記載や示唆がないのみならず,本件発明1が課題とする「継手ピッチ19が400mmと600mmのように200mm程度以上の寸法差を有する鋼矢板15の双方を施工可能な鋼矢板圧入引抜機が提供されていなかった」という従来技術の問題点及びそれを解決するための技術についての記載も示唆もない。
次に,前記2(2)イのとおり,甲2ないし4の記載事項から,原告主張の周知技術を認定することはできない。また,甲2ないし4には,相違点Aに係る本件発明1の構成についての記載や示唆はなく,甲2ないし4記載の技術は,甲5発明の鋼矢板圧入引抜機と解決課題を全く異にするものである。
したがって,当業者において,甲5発明に甲2ないし4記載の技術を適用する動機付けは存在せず,仮にこれを適用したとしても,相違点Aに係る本件発明1の構成を容易に想到することはできない。これと同旨の本件審決の判断に誤りはない。

小括
以上のとおり,本件審決における相違点Aの容易想到性の判断に誤りはないから,原告主張の取消事由3は理由がない。

第4当裁判所の判断
1
取消事由1(サポート要件の判断の誤り)について

(1)

本件明細書の記載事項について
本件特許の特許請求の範囲の請求項1ないし9の記載は,前記第2の2のとおりである。
本件明細書(甲17)の「発明の詳細な説明」には,次のような記載がある(下記記載中に引用する「図1,2,13ないし23」については別紙1を参照)。
(ア)

技術分野

【0001】
本発明は,多様な継手ピッチの鋼矢板,特には継手ピッチにおいて200mm程度以上の差異を有する鋼矢板にも対応可能な汎用性を有する鋼矢板圧入引抜機及び鋼矢板圧入引抜工法に関するものである。
(イ)

背景技術

【0002】
近年,各種土木基礎工事等における鋼矢板の圧入・引抜工事においては,振動,騒音の発生が少ない静荷重型の鋼矢板圧入引抜機が採用されている。圧入される鋼矢板として種々のタイプが提供されているが,現在わが国で広く普及している鋼矢板はU形の鋼矢板である(非特許文献1参照)。図11に示すように,U形の鋼矢板15は,ほぼU形の断面形状を有しており,ウエブ16の両端に所定の配置角度θを有するフランジ17が連接されており,フランジ17の開放端部に継手18が形成されている。
【0003】
このU形の鋼矢板15(以下,単に鋼矢板15という)では,ウエブ16が中立軸L1と平行に延びて,フランジ17は継手ピッチ19により配置角度が変化することとなる。そして,継手18を相互に噛合させて図12に示すように連続して圧入するものであり,圧入後の鋼矢板壁の中立軸L2上に継手18が位置している。鋼矢板15の継手ピッチ19は,従来400mm,500mmのものが使用されてきており,その他に600mmの広幅のものが使用されるようになっている。即ち,わが国ではU形の鋼矢板においては,継手ピッチ19として400mm,500mm,600mmの鋼矢板15が主流となっている。
【0004】
この静荷重型の鋼矢板圧入引抜機は,特許文献1に示すように,既設の鋼矢板上に定置された台座の下方に複数のクランプ部材からなるクランプ装置を設けて,このクランプ装置により既設の鋼矢板をクランプすることによって反力を得て,チャック装置によりチャックした鋼矢板を圧入引抜シリンダによって地盤に圧入・引抜している。また,特許文献2に示すように,圧入・引抜作業を行う鋼矢板の形状に応じてクランプ装置の汎用性を得るために,複数のクランプ部材の位置を入れ替えることによってクランプピッチを変更する手段も提供されている。
(ウ)

発明が解決しようとする課題

【0007】
従来,継手ピッチ19が一定寸法以上異なる鋼矢板15を圧入・引抜する場合には,継手ピッチ19の寸法に応じたそれぞれ専用の鋼矢板圧入引抜機を使用することが基本となっている。即ち,一定寸法範囲を超えた多様な継手ピッチの鋼矢板15,特には継手ピッチ19が400mmと600mmのように200mm程度以上の寸法差を有する鋼矢板15の双方を施工可能な鋼矢板圧入引抜機は提供されていない。
【0008】
その理由の第1は,作業する鋼矢板15をチャックして圧入するためのチャック装置を,最大寸法の継手ピッチ19を有する鋼矢板15をチャックして旋回できるように構成する必要があるため,一定寸法範囲を超えた最小寸法の継手ピッチを有する鋼矢板15を同一のチャック装置を使用してチャックすると,具体的には図11に示す鋼矢板15において,継手ピッチ19が600mmの鋼矢板15をチャック可能なチャック装置で,継手ピッチ19が400mmの鋼矢板15をチャックして圧入・引抜作業を行おうとすると,チャック装置が鋼矢板圧入引抜機の他の部材と干渉して,既設の鋼矢板の内,クランプ装置でクランプした先頭の鋼矢板の開放された継手に噛合させる位置に設置することができないためである。
【0009】
その理由の第2は,鋼矢板圧入引抜機を既設の鋼矢板に自立させるとともに,既設の鋼矢板から反力を得るために既設の鋼矢板をクランプするクランプ装置が一定寸法範囲を超えた継手ピッチの寸法差を有する鋼矢板に対応してクランプできないためである。
(エ)【0010】
そこで,先ず,これらの理由の第1及び第2の詳細を明らかとする。図19は継手ピッチ19aが600mmの鋼矢板15aを圧入している従来の鋼矢板圧入引抜機の側面図である。図において,40は従来の鋼矢板圧入引抜機であって,下方にクランプ装置3を配設して,継手ピッチ19aが600mmの既設の鋼矢板20a上に定置される台座2と,該台座2上にスライド自在に配備されたスライドベース4の上方にあって縦軸を中心として回動自在に立設されたガイドフレーム7と,該ガイドフレーム7に昇降自在に装着されて鋼矢板圧入引抜シリンダ9が取り付けられた昇降体41と,昇降体41の下方に形成されたチャックフレーム42と,チャックフレーム42内に旋回自在に装備されるとともに鋼矢板15aを挿通してチャック可能なチャック装置43とを具備してなる。
【0011】
図19において,クランプ装置3は3本のクランプ部材3a,3b,3cを進行方向Fに対して順に配置しており,相互に継手を噛合させて圧入された既設の鋼矢板20aの上端部に跨ってクランプするとともに,先頭のクランプ部材3aが先頭の鋼矢板20a1をクランプしている。これにより鋼矢板圧入引抜機40を既設の鋼矢板20a上に定置するとともに圧入時の反力を既設の鋼矢板20aから得るようにしている。クランプ部材3a,3b,3cはそれぞれ形状及びオフセット量を異にする公知の構成である。そして,圧入する鋼矢板15aをチャック装置43に挿通してチャックするとともに,既設の先頭の鋼矢板20a1の開放された継手に,圧入する鋼矢板15aの継手を噛合させた状態で,鋼矢板圧入引抜シリンダ9を作動させて圧入作業を行う。
【0012】
チャック装置43は600mmの継手ピッチ19aの鋼矢板15aを挿通してチャックするとともに,図12に示す中立軸L2に対して左右交互に圧入するため,圧入作業の進行方向Fに対して,鋼矢板15aを1枚圧入する毎に左右交互に向きを変えて次の鋼矢板15aをチャックできるように,チャックフレーム42内において旋回する必要がある。そのため,肉厚部分を含めると外形部分の最大寸法48は直径900mm程度となる。また,チャック装置43のチャックフレーム42内に位置する部分には,旋回のためのチャックリングギア44が装備されており,昇降体41に装備されたチャック旋回モータ45の駆動軸に連結したピニオンギア46が,このチャックリングギア44と噛合することによってチャック装置43を旋回させるようにしている。そのため,チャックリングギア44を装備するチャックフレーム42の外形から,ピニオンギア46及びピニオンギア46を収納したピニオンギアボックス47が突出することとなり,この突出部分を合わせたチャックフレーム42と同一平面における外形部分の最大寸法49は直径1080mm程度となる。
【0013】
図19に示すように,600mmの継手ピッチ19aの鋼矢板15aを圧入する場合は,継手ピッチ19aに余裕があるため,チャックフレーム42やチャック装置43が鋼矢板圧入引抜機40の他の部材に干渉することがなく,クランプ装置3で既設の鋼矢板20aをクランプし,かつ,先頭のクランプ部材3aが既設の先頭の鋼矢板20a1をクランプしている状態で,作業する鋼矢板15aの継手18を既設の先頭の鋼矢板20a1の開放された継手18に噛合させて圧入・引抜作業することができる。
(オ)【0014】
次に,同一の鋼矢板圧入引抜機40を使用して継手ピッチ19bが500mmの鋼矢板15bを圧入する作業を説明する。図20は継手ピッチ19bが500mmの鋼矢板15bを圧入している従来の鋼矢板圧入引抜機40の側面図である。図において,図19と同一の構成については同一の符号を付してその説明を省略する。
【0015】
チャック装置43は継手ピッチ19aが600mmの鋼矢板15aを挿通してチャックできる構成であり,継手ピッチ19bの寸法が500mmと鋼矢板15aより小さい鋼矢板15bを挿通してチャックすることもできる。また,クランプ装置3もクランプ部材3a,3c,3dを設置順序を調節することによって,継手ピッチ19bが500mmの既設の鋼矢板20bを掴んで鋼矢板圧入引抜機40を定置するとともに圧入時の反力を既設の鋼矢板20bから得ることができる。
【0016】
この場合においても,
図20に示すように,
継手ピッチ19bが50
0mmの鋼矢板15bを圧入する場合は,
継手ピッチ19bにまだ余裕
があるため,
チャックフレーム42やチャック装置43が鋼矢板圧入引
抜機40の他の部材に干渉することがなく,
クランプ装置3で既設の鋼
矢板20bをクランプし,
かつ,
先頭のクランプ部材3aが既設の先頭
の鋼矢板20b1をクランプしている状態で,
作業する鋼矢板15bの
継手18を既設の先頭の鋼矢板20b1の開放された継手18に噛合させて圧入・引抜作業することができる。
(カ)

【0017】
次に,
同一の鋼矢板圧入引抜機40を使用して継手ピッチ19cが4

00mmの鋼矢板15cを圧入する作業を説明する。
図21は継手ピッ
チ19cが400mmの鋼矢板15cを圧入している従来の鋼矢板圧入引抜機40の側面図である。
図において,
図19と同一の構成につい
ては同一の符号を付してその説明を省略する。
【0018】
クランプ装置3は,4本のクランプ部材3a,3e,3a,3cを使用して,
その設置順序を調節することによって,
継手ピッチ19cが4
00mmの既設の鋼矢板20cをクランプして鋼矢板圧入引抜機40を定置するとともに圧入時の反力を既設の鋼矢板20cから得ることは可能である。
また,
チャック装置43も継手ピッチ19aが600m
mの鋼矢板15aを挿通してチャックできる構成であり,
継手ピッチ1
9cの寸法が400mmと鋼矢板15aより小さい鋼矢板15cを挿通してチャックすることは可能である。
【0019】
しかしながら,
図21に示すように,
継手ピッチ19cが400mm
の鋼矢板15cを圧入する場合は,
継手ピッチ19cの寸法が,
鋼矢板
15aの600mmよりも200mmも小さいため,
継手ピッチ19c
に余裕がない。
そのため,
クランプ装置3で既設の鋼矢板20cをクラ
ンプし,
かつ,
先頭のクランプ部材3aが既設の先頭の鋼矢板20c1
をクランプしている状態で,
作業する鋼矢板15cの継手18を既設の
先頭の鋼矢板20c1の開放された継手18に噛合させて圧入引抜作・
業することができない。即ち,前記した状態を実現しようとすると,図21において干渉部分Kとして示すようにチャック装置43が台座2や先頭のクランプ部材3aに干渉し,
又干渉部分Sとして示すようにチ
ャックフレーム42のピニオンギア46及びピニオンギアボックス47の位置する突出部が台座2に干渉することとなる。
そのため,
継手ピ
ッチ19aが600mmの鋼矢板15aを圧入するための鋼矢板圧入引抜機40を使用して継手ピッチ19cが400mmの鋼矢板15cを圧入・引抜することはできない。
【0020】
継手ピッチ19cが400mmの鋼矢板を圧入するためには400mm用に外形寸法を小さくした専用のチャック装置及び該チャック装置を装備するチャックフレームを有する専用の鋼矢板圧入引抜機を使用する必要がある。
即ち,
継手ピッチ19cが400mmの鋼矢板15
cを挿通してチャックするチャック装置及び該チャック装置を旋回可能に装備するチャックフレームの外形寸法を小さくしないと,
図21に
干渉部分Kや干渉部分Sとして示すようなチャック装置43及びチャックフレーム42とクランプ装置3や台座2との干渉を生じるためである。
一方,
継手ピッチ19cが400mm用のチャック装置には継手
ピッチ19aが600mmの鋼矢板15aを挿通することが物理的に不可能であってチャックすることができない。
そのため,
継手ピッチ1
9cが400mm用の鋼矢板圧入引抜機を使用して継手ピッチ19aが600mmの鋼矢板15aを圧入することもできない。
【0021】
よって,
一定寸法範囲を超えた多様な継手ピッチの鋼矢板15,
特に
は継手ピッチ19aが600mmの鋼矢板15aと,
継手ピッチ19c
が400mmの鋼矢板15cのように200mm程度以上の寸法差を有する鋼矢板15a,
15cの双方を,
クランプ装置3で既設の先頭の
鋼矢板20a,20cをクランプし,かつ,先頭のクランプ部材3aが既設の先頭の鋼矢板20a1,
20c1をクランプしている状態で,

業する鋼矢板15a,15cの継手18を既設の先頭の鋼矢板20a1,
20c1の開放された継手18に噛合させて圧入作業する鋼矢板圧入引抜機は提供されていない。
そのため従来は,
それぞれ継手ピッチ1
9の寸法に応じた専用の鋼矢板圧入引抜機を準備する必要があり,汎用
性に欠け,作業性が悪いばかりでなく,各現場に応じた迅速な対応・作業ができず経済性にも欠けていた。
【0022】
そこで従来,
最大寸法の継手ピッチ19を有する鋼矢板15をチャッ
ク可能なチャック装置43を使用して,
一定寸法範囲を超えた最小寸法
の継手ピッチ19を有する鋼矢板15をチャックして圧入するための便宜的手段として,
例えば,
図19に示す継手ピッチ19aが600m
m用の鋼矢板圧入引抜機40を使用して,
図21に示す継手ピッチ19
cが400mmの鋼矢板15cを圧入するための便法が行われている。これは,
図22に示すように,
スライドベース4を進行方向Fに向けて
伸長させることにより,
既設の鋼矢板20cの内,
先頭の鋼矢板20c
1を鋼矢板圧入引抜機40のクランプ装置3でクランプすることなく,2番目以降の鋼矢板20c2以降をクランプした状態で
(即ち,
既設の
先頭の鋼矢板20c1が無負荷の状態で)鋼矢板圧入引抜機40を既,
設の鋼矢板20cに定置し,
チャック装置43でチャックした作業する
鋼矢板15cの継手18を既設の先頭の鋼矢板20c1の開放された継手18に噛合させて圧入・引抜作業を行うものである。
かかる施工方
法によれば,
チャック装置43やチャックフレーム42が台座2やクラ
ンプ装置3と干渉することなく,
1台の鋼矢板圧入引抜機40を使用し
て,
継手ピッチ19aが600mmの鋼矢板15aと,
継手ピッチ19
cが400mmの鋼矢板15cを施工することが可能とはなる。
【0023】
しかしながら,
かかる既設の鋼矢板20cの先頭の鋼矢板20c1を
クランプすることなく圧入作業を行う便法は,
以下に説明する大きな問
題点を有しており,
その解決が望まれている。
図23は前記した便法に
よる作業状態を示す側面説明図である。
図に示すように,
先頭の鋼矢板
20c1の開放された継手18に噛合させて,
圧入作業する鋼矢板15
cを圧入力Pで圧入施工すると噛合させた継手18部分に継手抵抗Rが働く。
継手抵抗Rは鋼矢板20c1と鋼矢板15cの継手18に砂噛
み等の欠陥がある場合や,
既設の鋼矢板20cのねじれやゆがみ等によ
っても発生する。
このとき,
先頭の鋼矢板20c1をクランプ部材によ
り固定できていないため,
その上端が下がる場合がある。
この現象を共
下がりという。
また,
引抜作業をするときは圧入時と反対の方向の継手
抵抗が発生するため,先頭の鋼矢板20c1の上端が上がる場合がある。この現象を共上がりという。即ち,既設の先頭の鋼矢板20c1をクランプすることができないため,
該先頭の鋼矢板20c1の開放され
た継手18に作業する鋼矢板15cの継手18を噛合させて圧入引抜・
を行うと,
作業する鋼矢板15cと先頭の鋼矢板20c1の継手抵抗に
より,
先頭の鋼矢板20c1が共下がり又は共上がりを起こすことがあ
る。
【0024】
上記構成の鋼矢板圧入引抜機40を使用して鋼矢板15a,15b,15cの圧入・引抜作業を行う場合は,既設の鋼矢板20a,20b,20cの内,先頭の鋼矢板20a1,20b1,20c1をクランプ装置3でクランプした状態で,作業する鋼矢板15a,15b,15cの継手18を先頭の鋼矢板20a1,
20b1,
20c1の開放された継
手18に噛合させた状態(以下,この状態を正規状態という)で作業することが重要である。
【0025】
この正規状態の作業姿勢であると,
鋼矢板圧入引抜機40で圧入力と
して定格荷重をかけたときに,
反力と圧入位置の距離が近いため,
発生
するモーメントが小さく,
鋼矢板圧入引抜機40にかかる応力が小さく
なる。従って,よりコンパクトな機械で圧入可能となる。また,何より先頭の鋼矢板20a1,
20b1,
20c1をクランプ装置3でクラン
プしているため,先頭の鋼矢板20a1,20b1,20c1の継手と噛合して作業する鋼矢板15a,
15b,
15cとの間で継手抵抗が発
生して,この継手抵抗によって先頭の鋼矢板20a1,20b1,20c1が上下に動かされることはなく,
共下がり又は共上がりすることが
ない。
よって,
施工基準に従って鋼矢板15の上端部を揃えて圧入した
既設の鋼矢板の施工精度を保つことができる。
【0026】
これに対して,
図22,
図23に示すような正規状態ではない作業姿
勢であると,正規状態の作業姿勢に比して,作業する鋼矢板15a,15b,15cを掴むチャック装置43の位置と,既設の鋼矢板20a,20b,
20cをクランプするクランプ装置3の反力位置の距離が先頭
の鋼矢板20a1,20b1,20c1の継手ピッチ19a,19b,19c分だけ遠く離れるため,
同一の圧入力・引抜力をかけたときに反
力側に発生するモーメントが大きいので機械にかかる応力が大きくなる。従って,正規状態での作業と同じ圧入力・引抜力をかけて施工することができないため,定格荷重が小さくなる。
【0027】
また,何より,既設の先頭の鋼矢板20a1,20b1,20c1をクランプ装置3でクランプしていないため,
前記した継手抵抗によって
先頭の鋼矢板20a1,
20b1,
20c1が共下がりや共上がりを起
こして,先頭の鋼矢板20a1,20b1,20c1が上下に動かされ施工精度の低下や打ち直し等の手間が生じる。
即ち,
施工基準に従って
上端部を規定高さに揃えて圧入した既設の鋼矢板20a1,20b1,20c1が,共下がりや共上がりによって上下方向に位置が変化すると,
再度規定寸法に打設し直す必要がある。
共下がりや共上がりの防止
策として圧入後の鋼矢板20a,
20b,
20cと先頭の鋼矢板20a
1,20b1,20c1とを溶接して固定する必要があり,余分な手間や材料費が発生することとなる。
また,
仮設の場合は引抜作業時に溶接
部をガスで切断する手間がかかるとともに鋼矢板の損傷により損料も発生する。
更に,
共上がりした鋼矢板が鋼矢板圧入引抜機40の下面に
当たり,機械を損傷させる不具合が発生することもある。
【0028】
そこで本発明はこのような従来の鋼矢板圧入引抜機が有している課題を解決し,
多様な継手ピッチの鋼矢板に対応可能な汎用性を有する鋼
矢板圧入引抜機及び鋼矢板圧入引抜工法を提供することを目的とする。(キ)

課題を解決するための手段

【0029】
本発明は,
上記課題を解決するために,
下方にクランプ装置を配設し
た台座と,
台座上にスライド自在に配備されたスライドベースの上方に
あって縦軸を中心として回動自在に立設されたガイドフレームと,該ガ
イドフレームに昇降自在に装着されて鋼矢板圧入引抜シリンダが取り付けられた昇降体と,昇降体の下方に形成されたチャックフレームと,チャックフレーム内に旋回自在に装備されるとともにU型の鋼矢板を挿通してチャック可能なチャック装置とを具備してなる鋼矢板圧入引抜機において,
前記クランプ装置は,
台座の下面に形成した複数のクラ
ンプガイドに,
相互に継手を噛合させて圧入した既設のU型の鋼矢板の
上端部に跨ってクランプする複数のクランプ部材を組み替え可能に装備するとともに,
複数のクランプガイドのピッチ及び複数のクランプ部
材の形状を異ならしめてなり,
前記既設のU型の鋼矢板の継手ピッチに
応じて,
クランプガイドとクランプ部材を組み替えてクランプピッチを
変更することによって,
前記既設のU型の鋼矢板の継手ピッチが400
mm,
500mm,
600mmのいずれであっても前記既設のU型の鋼
矢板の先頭からクランプ可能とした鋼矢板圧入引抜機を基本として提供する。
【0030】
そして,
クランプピッチを428mm~772mm,
412mm~5
88mm,
300mm~500mmのいずれかの範囲に変更可能とした
構成を提供する。
【0031】
クランプ装置で先頭の鋼矢板を含む既設のU型の鋼矢板をクランプすることにより台座を既設のU型の鋼矢板上に定置させて,
チャック装
置に作業するU型の鋼矢板を挿通してチャックするとともに,
先頭のU
型の鋼矢板の開放された継手に,
作業するU型の鋼矢板の継手を噛合さ
せた状態において,
鋼矢板圧入引抜機の他の部材と干渉することがない
ようにチャックフレームを配置した構成を提供する。
【0032】
また,
チャックフレームに複数のチャック装置を,
それぞれ着脱自在
に装着可能とし,複数のチャック装置はそれぞれ,鋼矢板の挿通孔と,挿通孔に挿通された鋼矢板をチャックするチャック部と,
チャック装置
を旋回させるために挿通孔の外周に配備されたチャックリングギアを有し,チャックリングギアとして同一形状のものを採用するとともに,それぞれ異なる継手ピッチの鋼矢板に対応したチャック部を有する構成,
チャック装置を旋回させるために,
チャックフレームにチャック旋
回モータと該チャック旋回モータの駆動軸に連結したピニオンギアを装備し,該ピニオンギアをチャックリングギアに噛合させるとともに,チャック旋回モータとピニオンギア及びピニオンギアを収納したピニオンギアボックスを台座の上端面の位置する水平線より上方に配置した構成,
及び複数のチャック装置が,
鋼矢板の継手ピッチが600mm
用のチャック装置と鋼矢板の継手ピッチが400mm用のチャック装置からなる構成を提供する。
【0033】
更に,
クランプ装置で先頭の鋼矢板を含む既設のU型の鋼矢板をクラ
ンプすることにより台座を既設のU型の鋼矢板上に定置させて,
チャッ
ク装置に作業するU型の鋼矢板を挿通してチャックするとともに,先頭
のU型の鋼矢板の開放された継手に,
作業するU型の鋼矢板の継手を噛
合させた状態において,
チャックフレームに装着された前記複数のチャ
ック装置は,
いずれも鋼矢板圧入引抜機の他の部材と干渉することがな
い構成を提供する。
【0034】
そして,
上記したいずれかの鋼矢板圧入引抜機を使用して,
それぞれ
相互に継手を噛合させて圧入した複数の既設のU型の鋼矢板の内,先頭
の鋼矢板を含む既設のU型の鋼矢板をクランプ装置で掴んで台座を既設のU型の鋼矢板上に定置した状態において,
先頭のU型の鋼矢板の開
放された継手に,
作業するU型の鋼矢板の継手を噛合させた状態で,

手ピッチが異なるU型の鋼矢板を圧入引抜可能とした鋼矢板圧入引抜・
工法,
継手ピッチが異なるU型の鋼矢板として,
継手ピッチが400m
m,500mm,600mmのいずれであっても圧入・引抜可能とした鋼矢板圧入引抜工法を提供する。
(ク)

発明の効果

【0035】
本発明にかかる鋼矢板圧入引抜機及び鋼矢板圧入引抜工法によれば,チャックフレームに鋼矢板の継手ピッチに対応した複数のチャック装置を着脱自在に装着可能としているため,
1台の鋼矢板圧入引抜機にお
いてチャック装置を交換して使用することにより,
多様な継手ピッチを
有する鋼矢板をチャックできる。また,そのチャック時において,既設の先頭の鋼矢板をクランプ装置でクランプした状態で,
作業する鋼矢板
を既設の先頭の鋼矢板に噛合させた正規状態において,
チャック装置と
クランプ装置が干渉することがない。
更に,
チャック装置をチャックフ
レーム内で旋回させるためのチャック旋回モータとピニオンギアを台座の上端面の位置する水平線より上方に配置したため,
多様な継手ピッ
チの鋼矢板を正規状態でチャックした場合において,
継手ピッチに関わ
りなく,
チャックフレームを構成するチャック旋回モータやピニオンギ
アが鋼矢板圧入引抜機の他の部材と干渉することがない。
【0036】
また,
クランプ装置を構成する複数のクランプ部材の台座への配設箇
所を組み替えて,
クランプピッチを変更可能としたことによって,
クラ
ンプする既設の鋼矢板が多様な継手ピッチを有していたとしても,既設
の先頭の鋼矢板をクランプ装置でクランプした状態で鋼矢板圧入引抜機を既設の鋼矢板上に定置することができる。
よって,
多様な継手ピッ
チの鋼矢板,特には継手ピッチ400mm,500mm,600mmの鋼矢板に対応可能な汎用性を有し,
従来の鋼矢板圧入引抜機では対応不
可であった継手ピッチが600mmと400mmの継手ピッチにおいて200mm程度以上の寸法差を有する多様な鋼矢板を,
それぞれ専用
の鋼矢板圧入引抜機を使用することなく,
汎用性を有する1台の鋼矢板
圧入引抜機で圧入・引抜することができる。また,継手ピッチ400mm,500mm,600mmの鋼矢板に限ることなく,継手ピッチにおいて200mm程度以上の寸法差を有する鋼矢板にも適用することが可能である。
(ケ)

発明を実施するための形態

【0038】
以下図面に基づいて本発明にかかる鋼矢板圧入引抜機及び鋼矢板圧入引抜工法の実施形態を説明する。図1(A),図2(A)は本発明にかかる鋼矢板圧入引抜機1の側面図,図1(B),図2(B)は同平面図である。
前記した従来の鋼矢板圧入引抜機40と同一の構成について
は同一の符号を付して説明する。
図において,
1は鋼矢板圧入引抜機で
あって,2は台座,3は台座2の下部に配設されて,既設の鋼矢板をクランプして鋼矢板圧入引抜機1を定置するとともに,
既設の鋼矢板から
反力を得るためのクランプ装置である。
このクランプ装置3は,
台座2
の下面に形成されたクランプガイド13に幅方向に摺動自在に装備される。図1の図示例では,3本のクランプ部材(3a,3b,3c)を,図2の図示例では4本のクランプ部材(3a,3e,3a,3c)をそれぞれ図に示す順に装備している。
【0039】
本発明において,
鋼矢板圧入引抜機1を使用して圧入・引抜する鋼矢
板は,
現在わが国で最も普及しているU型であり,
中でも継手ピッチ1
9が400mm,500mm,600mmの鋼矢板15を対象とする。また,
継手ピッチ19の寸法が上記数値以外であってもU形であって継
手ピッチ19が200mm程度以上の寸法差を有する鋼矢板15であれば対象とすることができる。その構成は図11,図12に示す通り,鋼矢板15は,
ほぼU形の断面形状を有しており,
ウエブ16の両端に
所定の配置角度θを有するフランジ17が連接されており,
フランジ1
7の開放端部に継手18が形成されている。
【0040】
Fは鋼矢板圧入引抜機1の直進方向を示す。
台座2には鋼矢板圧入引
抜機1の直進方向Fに沿ってスライドベース4が,
圧入する鋼矢板15
の継手ピッチ19以上の距離を摺動自在に配備されている。
このスライ
ドベース4上には支持アーム5が縦軸を中心として回動自在に軸支され,
この支持アーム5の前部に設けた軸受部6を中心として回動可能なガイドフレーム7が立設されている。
このガイドフレーム7は,
一端が
支持アーム5に軸支された傾動シリンダ
(図示略)
の伸縮によって軸受
部6を中心として傾動可能となっている。
【0041】
ガイドフレーム7には昇降体8が昇降自在に装着されている。
該昇降
体8の両側には左右一対の鋼矢板圧入引抜シリンダ9が取り付けられていて,
この鋼矢板圧入引抜シリンダ9の一端が前記軸受部6に軸支さ
れており,
昇降体8を上下駆動するように構成されている。
昇降体8の
下方にはチャックフレーム10が形成されており,
このチャックフレー
ム10内に,
図1に示す鋼矢板圧入引抜機1においては,
継手ピッチ1
9aが600mmの鋼矢板15aをチャックすることができる第1チャック装置11が,
又図2に示す鋼矢板圧入引抜機1においては,
継手
ピッチ19cが400mmの鋼矢板15cをチャックすることができる第2チャック装置12がそれぞれ旋回自在に装備されている。
【0042】
本発明にかかる鋼矢板圧入引抜機1は,
鋼矢板15の継手ピッチ19
に対応した複数のチャック装置を装備するものである。
これらの複数の
チャック装置として,
継手ピッチ19aが600mm用の第1チャック
装置11と,
継手ピッチ19cが400mm用の第2チャック装置12
を,チャックフレーム10に着脱自在に装着可能とし,圧入・引抜を行う鋼矢板15の継手ピッチ19の寸法に応じて交換使用することに特徴を有する。なお,第1チャック装置11は,1台で継手ピッチ19bが500mm用の鋼矢板15bにも対応可能である。
また,
第1チャッ
ク装置11及び第2チャック装置12に加えて,
継手ピッチ19が他の
サイズとなる3つ以上のチャック装置を装備するようにしてもよい。【0043】
…第1チャック装置11は,
継手ピッチ19aが600mmの鋼矢板
15aを挿通可能な挿通孔21と,
挿通孔21に挿通された鋼矢板15
aのウエブ16をチャックして固定するチャック部22と,
挿通孔21
の外周部を囲繞するように第1チャック装置11の上端部に設置されたチャックリングギア23と,
チャックリングギア23の下部に設置さ
れたリング状のフランジ24を有している。
なお,
チャック部22は固
定チャック爪と可動チャック爪及び可動チャック爪を動作させるシリンダ装置からなる公知の構成である。
このチャック部22は継手ピッチ
19aが600mmの鋼矢板15aを挿通してチャックするとともに,図12に示す中立軸L2に対して左右交互に圧入するため,
圧入作業の
進行方向Fに対して,
鋼矢板15aを1枚圧入する毎に左右交互に向き
を変えて鋼矢板15aをチャックできるように,
チャックフレーム10
内において旋回する必要がある。
よって,
肉厚部分を含めると外形部分
の直径寸法D1は900mm程度となる。
【0044】
この第1チャック装置11をチャックフレーム10内に旋回自在に装備する。
チャックフレーム10は内周面に溝部29が穿設されるとと
もに,
半円状のフロントカバー10aが脱着可能である。
図5に示すよ
うにフロントカバー10aを取り外した状態で第1チャック装置11のフランジ24をチャックフレーム10の溝部29に嵌合させ,
その後
同様にしてフロントカバー10aの溝部29にフランジ24を嵌合させてからボルト等の締結具を使用して,
フロントカバー10aをチャッ
クフレーム10に固着する。
これにより,
チャックリングギア23を含
んだ第1チャック装置11の上部をチャックフレーム10に嵌合する。昇降体8にはチャック旋回モータ25が装備され,
その駆動軸に連結さ
れたピニオンギア26がチャックフレーム10に装備された第1チャック装置11のチャックリングギア23と噛合するように配置されており,
第1チャック装置11をチャックフレーム10内で旋回させるこ
とができる。
【0045】
…第2チャック装置12は,
継手ピッチ19cが400mmの鋼矢板
15cを挿通可能な挿通孔31と,
挿通孔31に挿通された鋼矢板15
cのウエブ16をチャックして固定するチャック部32と,
挿通孔31
の外周部を囲繞するように第2チャック装置12の上端部に設置されたチャックリングギア33と,
チャックリングギア33の下部に設置さ
れたリング状のフランジ34を有している。
なお,
チャック部32は固
定チャック爪と可動チャック爪及び可動チャック爪を動作させるシリンダ装置からなる公知の構成である。
このチャック部32は継手ピッチ
19cが400mmの鋼矢板15cを挿通してチャックするとともに,図12に示す中立軸L2に対して左右交互に圧入するため,
圧入作業の
進行方向Fに対して,
鋼矢板15cを1枚圧入する毎に左右交互に向き
を変えて鋼矢板15cをチャックできるように,
チャックフレーム10
内において旋回する必要がある。
よって,
肉厚部分を含めると外形部分
の直径寸法D2は700mm程度となる。
【0046】
この第2チャック装置12をチャックフレーム10内に旋回自在に装備する。
チャックフレーム10は内周面に溝部29が穿設されるとと
もに,
半円状のフロントカバー10aが脱着可能である。
図6に示すよ
うにフロントカバー10aを取り外した状態で第2チャック装置12のフランジ34をチャックフレーム10の溝部29に嵌合させ,
その後
同様にしてフロントカバー10aの溝部29にフランジ34を嵌合させてからボルト等の締結具を使用して,
フロントカバー10aをチャッ
クフレーム10に固着する。
これにより,
チャックリングギア33を含
んだ第2チャック装置12の上部をチャックフレーム10に嵌合する。昇降体8にはチャック旋回モータ25が装備され,
その駆動軸に連結さ
れたピニオンギア26がチャックフレーム10に装備された第2チャック装置12のチャックリングギア33と噛合するように配置されており,
第2チャック装置12をチャックフレーム10内で旋回させるこ
とができる。
【0047】
第1チャック装置11と第2チャック装置12において,
チャックリ
ングギア23,33及びフランジ24,34は,同一の形状・同一寸法であって,
それぞれチャックフレーム10に脱着自在に交換して装着可
能であり,
かつ,
チャック旋回モータ25によってチャックリングギア
23,
33に噛合したピニオンギア26を介して旋回可能である。
よっ
て,
第1チャック装置11と第2チャック装置12を鋼矢板15の継手ピッチ19の寸法に応じて選択し,
交換使用することによって,
第1チ
ャック装置11,
第2チャック装置12,
チャックフレーム10が既設
の鋼矢板20や鋼矢板圧入引抜機1の他の部材に干渉することがない。【0048】
従来,
チャック装置におけるチャックリングギアはチャックする鋼矢
板15の継手ピッチ19の寸法に応じて直径サイズを異にし,
例えば継
手ピッチ19aが600mm用のチャックリングギアの直径寸法は825mm程度,
継手ピッチ19cが400mm用のチャックリングギア
の直径寸法は625mm程度であって,
これらの直径寸法の異なるチャ
ックリングギアを交換して,
同一のチャックフレームに装着することは
できなかった。これに対して,本発明では,上記した通り,チャックリングギア23,
33及びフランジ24,
34の直径寸法を共通としてい
るため,
同一のチャックフレーム10に脱着自在に交換して装着可能で
ある。
そのため,
同一の鋼矢板圧入引抜機1を使用して継手ピッチ19
aが600mmの鋼矢板15aと,
継手ピッチ19cが400mmの鋼
矢板15cという継手ピッチ19が200mm程度以上異なる鋼矢板15をチャックするとともに,
鋼矢板15cをチャックする第2チャッ
ク装置12のチャック装置の外形部分の直径寸法D2が700mm程度と,
第1チャック装置11の外形部分の直径寸法D1の900mm程
度から縮小しているため,第2チャック装置12のチャック部32が,既設の鋼矢板20の先頭の鋼矢板20c1を掴んでいるクランプ部材3aと干渉することがなく,
図21に示す従来の鋼矢板圧入引抜機40
における干渉部分Kを解消することができる。
【0049】
更に,
チャックリングギア23,
33を駆動するためのチャック旋回
モータ25とピニオンギア26を収納したピニオンギアボックス27を台座2の上端面2a(図1,図2参照)の位置する水平線より上方に配置してあるため,
チャックフレーム10を構成するとともにチャック
フレーム10からの突出部分であるピニオンギアボックス27に収納されたピニオンギア26が鋼矢板圧入引抜機1の他の部材に干渉することなく,
図21に示す従来の鋼矢板圧入引抜機40における干渉部分
Sを解消することができる。
【0050】
よって,
本発明によれば,
継手ピッチ19aが600mmの鋼矢板1
5aと,
継手ピッチ19cが400mmの鋼矢板15cを同一の鋼矢板
圧入引抜機を使用して,
即ち,
継手ピッチ19において200mm程度
以上の寸法差を有する鋼矢板15を正規状態
(既述の通り,
既設の先頭
の鋼矢板をクランプ装置でクランプした状態で,
作業する鋼矢板を先頭
の鋼矢板の開放された継手に噛合させた状態)
で圧入・引抜作業を行う
ことができる。
(コ)

【0051】
多様な継手ピッチ19を有する鋼矢板15に対応する汎用性を鋼矢
板圧入引抜機1に付与するためには,
上記した通り,
第1チャック装置
11,
第2チャック装置12やチャックフレーム10が鋼矢板圧入引抜
機1の他の部材に干渉しないとともに,
鋼矢板圧入引抜機1がそれぞれ
の継手ピッチ19を有する既設の鋼矢板20をクランプ装置3で掴んで定置して反力を得る必要がある。
そこで,
600mmの継手ピッチ1
9a,
500mmの継手ピッチ19b,
400mmの継手ピッチ19c
の既設の鋼矢板20a,
20b,
20cをクランプ装置3を使用してク
ランプするための条件について検討する。
【0052】
図13は継手18を相互に噛合して隣接する継手ピッチ19aが600mmの既設の鋼矢板20aのウエブ16をクランプ装置3でクランプする場合を示しており,図13(A)は基準となるウエブ16の中心をクランプした場合を,図13(B)はウエブ16の反対方向の両端部をクランプした場合を,図13(C)はウエブ16の隣接する両端部をクランプした場合を示しており,
それぞれクランプピッチ35aが6
00mm,
クランプピッチ35bが772mm,
クランプピッチ35c
が428mmとなっている。
よって,
クランプ装置3のクランプピッチ
が428mm~772mmの範囲であれば,
継手ピッチ19aが600
mmの既設の鋼矢板20aをクランプして鋼矢板圧入引抜機1を定置することが可能である。
【0053】
そこで,図14に示すように,クランプガイド13a,13b,13dを使用して,クランプ部材3a,3b,3cを順に組付けたところ,クランプ部材3aと3bのクランプピッチ35dが590mm,
クラン
プ部材3bと3cのクランプピッチ35eが570mmとなり,
いずれ
も前記した428mm~772mmの範囲に収まった。
なお,
図14に
示すようにクランプ部材3aは右側に,
クランプ部材3bは左側にオフ
セットした形状であり,
又クランプ部材3cは直線状の形状である。

ち,クランプ部材3a,3b,3cはそれぞれ形状及びオフセット量を異にしている。更に,クランプガイド13a,13b,13c,13dはそれぞれのピッチを異にして配置されており,
クランプガイド13a
と13bのピッチ38aが350mm,
クランプガイド13bと13c
のピッチ38bが400mm,
クランプガイド13cと13dのピッチ
38cが290mmに設置されている。
よって,
これらの各クランプガ
イド13a,13b,13c,13dと各クランプ部材3a,3b,3cを組み合わせることによって,
多様なクランプピッチを実現すること
ができる。
【0054】
また,
図14に示す第1チャック装置11のチャック部22は正規状
態におけるチャックの位置を示すものであるが,
図示のように台座2や
先頭のクランプ部材3aと干渉することはない。
よって,
継手ピッチ1
9aが600mmの鋼矢板15aを第1チャック装置11を使用して正規状態で圧入・引抜作業をすることができる。
【0055】
図15は継手18を相互に噛合して隣接する継手ピッチ19bが500mmの既設の鋼矢板20bのウエブ16をクランプ装置3でクランプする場合を示しており,図15(A)は基準となるウエブ16の中心をクランプした場合を,図15(B)はウエブ16の反対方向の両端部をクランプした場合を,図15(C)はウエブ16の隣接する両端部をクランプした場合を示しており,
それぞれクランプピッチ36aが5
00mm,
クランプピッチ36bが588mm,
クランプピッチ36c
が412mmとなっている。
よって,
クランプ装置3のクランプピッチ
が412mm~588mmの範囲であれば,
継手ピッチ19bが500
mmの既設の鋼矢板20bをクランプして鋼矢板圧入引抜機1を定置することが可能である。
【0056】
そこで,図16に示すように,クランプガイド13a,13b,13cを使用して,クランプ部材3a,3c,3dを順に組付けたところ,クランプ部材3aと3cのクランプピッチ36dが470mm,
クラン
プ部材3cと3dのクランプピッチ36eが520mmとなり,
いずれ
も前記した412mm~588mmの範囲に収まった。
図16に示すよ
うにクランプ部材3aは右側に,
クランプ部材3dは左側にオフセット
した形状であり,又クランプ部材3cは直線状の形状である。即ち,クランプ部材3a,
3d,
3cはそれぞれ形状及びオフセット量を異にし
ている。
また,
図16に示す第1チャック装置11のチャック部22は
正規状態の位置を示すものであるが,
図示のように台座2や先頭のクラ
ンプ部材3aと干渉することはない。
よって,
継手ピッチ19bが50
0mmの鋼矢板15bを第1チャック装置11を使用して正規状態で圧入・引抜作業をすることができる。
【0057】
図17は継手18を相互に噛合して隣接する継手ピッチ19cが400mmの既設の鋼矢板20cのウエブ16をクランプ装置3でクランプする場合を示しており,図17(A)は基準となるウエブ16の中心をクランプした場合を,図17(B)はウエブ16の反対方向の両端部をクランプした場合を,図17(C)はウエブ16の隣接する両端部をクランプした場合を示しており,
それぞれクランプピッチ37aが4
00mm,
クランプピッチ37bが500mm,
クランプピッチ37c
が300mmとなっている。
よって,
クランプ装置3のクランプピッチ
が300mm~500mmの範囲であれば,
継手ピッチ19cが400
mmの既設の鋼矢板20cをクランプして鋼矢板圧入引抜機1を定置することが可能である。
【0058】
そこで,図18に示すように,クランプガイド13a,13b,13c,13dを使用して,クランプ部材3a,3e,3a,3cを順に組付けたところ,クランプ部材3aと3eのピッチ37dが350mm,クランプ部材3eと3aのピッチ37eが400mm,
クランプ部材3
aと3cのピッチ37fが410mmとなり,
いずれも前記した300
mm~500mmの範囲に収まった。
なお,
図18においてクランプガ
イド13cに組付けたクランプ部材3aは,
図14に示すクランプ部材
3bを反転させて装備したものであり,
クランプ部材3eは図16に示
すクランプ部材3dを反転させて装備したものである。
従って図18に
示すクランプ部材4本を使用して図14,
及び図16のクランプの構成
が可能であり,経済的に優れている。また,図18に示す第2チャック装置12のチャック部32は正規状態の位置を示すものであるが,図示
のように台座2や先頭のクランプ部材3aと干渉することはない。よっ
て,
継手ピッチ19cが400mmの鋼矢板15cを第2チャック装置12を使用して正規状態で圧入・引抜作業をすることができる。
【0059】
なお,
継手ピッチ19cが400mmの既設の鋼矢板20cをクラン
プする場合は,4本のクランプ部材3a,3e,3a,3cを使用している。
これは鋼矢板20cの継手ピッチ19cが400mmと狭いため
に,
クランプする4本の既設の鋼矢板20cの幅方向の長さの合計を1600mm(400mm×4)として,硬質地盤においても十分な反力を得るためである。
(サ)

【0060】
次に上記した構成の鋼矢板圧入引抜機1を使用して多様な継手ピッ
チ19を有する鋼矢板15の圧入・引抜工法を説明する。図1(A)は継手ピッチ19aが600mmの鋼矢板15aを圧入引抜している状・
態を示しており,
継手ピッチ19aが600mmの既設の鋼矢板20a
にクランプ部材3a,
3b,
3cを使用してクランプピッチを調節した
上で鋼矢板圧入引抜機1の台座2を定置している。
そして,
チャックフ
レーム10には,
継手ピッチ19aが600mmの鋼矢板15aを挿通
してチャックすることが可能な第1チャック装置11を装備している。そして,
圧入・引抜する鋼矢板15aを第1チャック装置11の挿通孔
21に挿通し,
チャック部22でチャックし,
既設の先頭の鋼矢板20
a1を先頭のクランプ部材3aでクランプした状態において,
該先頭の
鋼矢板20a1の開放された継手18に作業する鋼矢板15aの継手18を噛合させた状態で昇降体8を上下動させて,
鋼矢板15aを圧入
・引抜する。
【0061】
このとき,
継手ピッチ19aは600mmと余裕があるため,
直径9
00mm程度のチャック部22がクランプ部材3aに干渉することがなく,
又チャックフレーム10内で第1チャック装置11を旋回させる
ためのピニオンギア26やピニオンギアボックス27が台座2等の鋼矢板圧入引抜機1の他の部材に干渉することがなく,
正規状態において
作業をすることができる。
また,
同様に第1チャック装置11を使用し
て継手ピッチ19bが500mmの鋼矢板15bも圧入引抜すること・
ができる。
【0062】
従来の継手ピッチ19aが600mmの鋼矢板15aを圧入引抜す・
る専用の鋼矢板圧入引抜機40を使用して,
対象とする継手ピッチ19
aが600mmの鋼矢板15aとともに,
継手ピッチ19bが500m
mの鋼矢板15bを圧入引抜することは可能であった。

しかしながら,
従来は,
継手ピッチ19aが600mmの鋼矢板15aを圧入・引抜す
る鋼矢板圧入引抜機40を使用して,
継手ピッチ19において200m
m程度以上の差異を有する継手ピッチ19cが400mmの鋼矢板15cを,
既設の先頭の鋼矢板20c1をクランプ装置3でクランプした
状態において,
該先頭の鋼矢板20c1の開放された継手18に作業す
る鋼矢板15cの継手18を噛合させた状態で,
圧入・引抜することは
できなかった。
【0063】
これに対して,
本発明にかかる鋼矢板圧入引抜機1を使用すれば,

手ピッチ19において200mm程度以上の差異を有する継手ピッチ19cが400mmの鋼矢板15cを圧入・引抜することが可能である。図2(A)は継手ピッチ19cが400mmの鋼矢板15cを圧入・引抜している状態を示しており,
継手ピッチ19cが400mmの既
設の鋼矢板20cにクランプ部材3a,3e,3a,3cを使用してクランプピッチを調節した上で鋼矢板圧入引抜機1の台座2を定置している。そして,チャックフレーム10には,継手ピッチ19cが400mmの鋼矢板15cを挿通してチャックすることが可能な第2チャック装置12を装備している。よって,圧入・引抜する鋼矢板15cを第2チャック装置12の挿通孔31に挿通し,
チャック部32でチャック
し,
既設の先頭の鋼矢板20c1をクランプ装置3でクランプした状態において,
該先頭の鋼矢板20c1の開放された継手18に作業する鋼
矢板15cの継手18を噛合させた状態で昇降体8を上下動させて,鋼
矢板15cを圧入・引抜することができる。
【0064】
このとき,
継手ピッチ19cは400mmと寸法が小さいが,
そのチ
ャック部32の直径も700mmと,
第1チャック装置11のチャック
部22の直径900mmに比して小さくなっているため,
このチャック
部32がクランプ部材3aに干渉することがなく,
又チャックフレーム
10内で第2チャック装置12を旋回させるためのピニオンギア26やピニオンギアボックス27が台座2等の鋼矢板圧入引抜機1のその他の部材に干渉することがなく,
正規状態において作業をすることがで
きる。よって,本発明にかかる鋼矢板圧入引抜機1によれば,第1チャック装置11と第2チャック装置12を交換使用することによって,継
手ピッチ19aが600mmの鋼矢板15aと,
継手ピッチ19cが4
00mmの鋼矢板15cを正規状態において圧入引抜することが可能・
である。
(シ)

産業上の利用可能性

【0065】
本発明にかかる鋼矢板圧入引抜機及び鋼矢板圧入引抜工法によれば,チャックフレームに鋼矢板の継手ピッチに対応した複数のチャック装置を着脱自在に装着可能としているため,
1台の鋼矢板圧入引抜機にお
いてチャック装置を交換して使用することにより,
多様な継手ピッチを
有する鋼矢板をチャックできる。また,そのチャック時において,既設の先頭の鋼矢板をクランプ装置でクランプした状態で,
作業する鋼矢板
を既設の先頭の鋼矢板に噛合させた正規状態において,
チャック装置と
クランプ装置が干渉することがない。
更に,
チャック装置をチャックフ
レーム内で旋回させるためのチャック旋回モータとピニオンギアを台座の上端面の位置する水平線より上方に配置したため,
多様な継手ピッ
チの鋼矢板を正規状態でチャックした場合において,
継手ピッチに関わ
りなく,
チャックフレームを構成するチャック旋回モータやピニオンギ
アが鋼矢板圧入引抜機の他の部材と干渉することがない。
【0066】
また,
クランプ装置を構成する複数のクランプ部材の台座への配設箇
所を組み替えて,
クランプピッチを変更可能としたことによって,
クラ
ンプする既設の鋼矢板が多様な継手ピッチを有していたとしても,既設
の先頭の鋼矢板をクランプ装置でクランプした状態で鋼矢板圧入引抜機を既設の鋼矢板上に定置することができる。
よって,
多様な継手ピッ
チの鋼矢板,特には継手ピッチ400mm,500mm,600mmの鋼矢板に対応可能な汎用性を有し,
従来の鋼矢板圧入引抜機では対応不
可であった継手ピッチが600mmと400mmの継手ピッチにおいて200mm程度以上の寸法差を有する多様な鋼矢板を,
それぞれ専用
の鋼矢板圧入引抜機を使用することなく,
汎用性を有する1台の鋼矢板
圧入引抜機で圧入及び引抜することができる。
また,
継手ピッチ400
mm,500mm,600mmの鋼矢板に限ることなく,継手ピッチにおいて200mm程度以上の寸法差を有する鋼矢板にも適用することが可能である。

前記アの記載事項を総合すれば,本件明細書の「発明の詳細な説明」には,本件発明1に関し,次のような記載があることが認められる。(ア)

従来技術の課題
鋼矢板圧入引抜機を使用した鋼矢板の圧入・引抜作業においては,チ
ャック装置は,
作業する鋼矢板を挿通してチャックするとともに,
左右
交互に圧入するため,
鋼矢板を1枚圧入する毎に左右交互に向きを変え
て次の鋼矢板をチャックできるように,
チャック装置がチャックフレー
ム内において旋回する必要があり(【0012】),また,既設の先頭の鋼矢板をクランプ装置でクランプした状態で,
作業する鋼矢板の継手
を既設の先頭の鋼矢板の開放された継手に噛合させた状態(「正規状態」)で作業することが重要である(【0024】,【0025】)。しかるところ,従来,一定寸法範囲を超えた継手ピッチの鋼矢板,特に継手ピッチが400mmと600mmのように200mm程度以上の寸法差を有する鋼矢板の双方を施工可能な鋼矢板圧入引抜機は提供されていなかったため,
それぞれの継手ピッチの寸法に応じた専用の鋼
矢板圧入引抜機を準備する必要があり,
作業性が悪いばかりでなく,

現場に応じた迅速な対応・作業ができず,経済性にも欠けていた(【0007】,【0021】)。このような鋼矢板圧入引抜機が提供されていなかった理由は,第1に,チャック装置は,最大寸法の継手ピッチを有する鋼矢板をチャックして旋回できるように構成する必要があるが,一定寸法範囲を超えた最小寸法の継手ピッチを有する鋼矢板を同一のチャック装置を使用してチャックして圧入・引抜作業を行おうとすると,
継手ピッチに余裕がないため,
チャック装置及びチャックフレーム
が鋼矢板圧入引抜機の他の部材(台座,先頭のクランプ部材等)に干渉して,正規状態で圧入・引抜作業を行うことができないこと(【0008】,【0019】,【0020】,図21),第2に,既設の鋼矢板をクランプするクランプ装置が一定寸法範囲を超えた継手ピッチの寸法差を有する鋼矢板に対応してクランプできないこと(【0009】)にある。
そこで,
従来,
最大寸法の継手ピッチを有する鋼矢板をチャック可能
なチャック装置を使用して,
一定寸法範囲を超えた最小寸法の継手ピッ
チを有する鋼矢板をチャックして圧入するための便法として,
既設の先
頭の鋼矢板をクランプすることなく,
2番目以降の鋼矢板をクランプし
た状態で,
作業する鋼矢板の継手を既設の先頭の鋼矢板の開放された継
手に噛合させて圧入・引抜作業を行っていたが,この便法は,既設の先頭の鋼矢板をクランプ部材により固定できていないため,
鋼矢板の圧入
・引抜作業時に,
継手抵抗によって既設の先頭の鋼矢板が,
「共下がり」
又は「共上がり」を起こして,施工精度の低下や打ち直し等の手間が生じるという問題があった(【0022】,【0023】,【0027】,図22,23)。「共下がり」や「共上がり」の防止策として,圧入後の鋼矢板と既設の先頭の鋼矢板とを溶接して固定する必要があるが,余
分な手間や材料費が発生するなどの問題があった(【0027】)。(イ)

発明の目的,構成及び効果等
「本発明」は,従来の鋼矢板圧入引抜機が有している課題を解決し,
多様な継手ピッチの鋼矢板
(特に継手ピッチが200mm程度以上の差
異を有する鋼矢板)
に対応可能な汎用性を有する鋼矢板圧入引抜機及び
鋼矢板圧入引抜工法を提供することを目的とする(【0001】,【0028】)。
そして,
本件発明1は,
従来の鋼矢板圧入引抜機が有している課題を
解決するための手段として,鋼矢板圧入引抜機(構成要件AないしE,I)において,「前記クランプ装置は,台座の下面に形成した複数のクランプガイドに,
相互に継手を噛合させて圧入した既設のU型の鋼矢板
の上端部に跨ってクランプする複数のクランプ部材を組み替え可能に装備するとともに,
複数のクランプガイドのピッチ及び複数のクランプ
部材の形状を異ならしめてなり,
前記既設のU型の鋼矢板の継手ピッチ
に応じて,
クランプガイドとクランプ部材を組み替えてクランプピッチ
を変更することによって,
前記既設のU型の鋼矢板の継手ピッチが40
0mm,
500mm,
600mmのいずれであっても前記既設のU型の
鋼矢板の先頭からクランプ可能とした」構成(構成要件FないしH)を採用した(【0029】,【0038】~【0059】,図1,2,14,16,18)。このような構成を採用したことにより,多様な継手ピッチの鋼矢板,特には継手ピッチ400mm,500mm,600mmの鋼矢板に対応可能な汎用性を有し,
従来の鋼矢板圧入引抜機では対
応不可であった継手ピッチが600mmと400mmの継手ピッチにおいて200mm程度以上の寸法差を有する多様な鋼矢板を,
それぞれ
専用の鋼矢板圧入引抜機を使用することなく,
1台の鋼矢板圧入引抜機
で圧入・引抜することができるという効果を奏する【0036】【0(

066】)。
また,
正規状態での鋼矢板の圧入・引抜作業時に鋼矢板圧入引抜機の
他の部材と干渉しないようにする具体的な構成としては,
鋼矢板圧入引
抜機の他の部材と干渉することがないようにチャックフレームを配置した構成(【0031】),チャックフレームに鋼矢板の継手ピッチに対応した複数のチャック装置を着脱自在に装着可能とした構成【00(
32】,【0048】,【0050】,【0063】),チャックフレームを構成するチャック旋回モータやピニオンギアがチャック装置をチャックフレーム内で旋回させるためのチャック旋回モータとピニオンギア及びピニオンギアを収容したピニオンギアボックスを台座の上端面の位置する水平線より上方に配置した構成(【0032】,【0049】,【0050】,【0064】)がある。

前記イの認定事実によれば,本件発明1は,本件明細書の「発明の詳細な説明」に記載したものであることが認められる。
加えて,前記アの記載事項によれば,本件発明2の発明特定事項は,【0030】,【0052】,【0053】,【0055】ないし【0058】に,本件発明3の発明特定事項は,【0031】,【0035】及び【0049】に,本件発明8及び9の発明特定事項は,【0034】,【0060】ないし【0064】にそれぞれ記載されているから,本件発明2,3,8及び9は,本件明細書の「発明の詳細な説明」に記載したものであることが認められる。
したがって,本件発明1ないし3,8及び9は,いずれもサポート要件に適合する。
(2)

原告の主張について
原告は,本件明細書によれば,本件発明1の課題は,従来の鋼矢板圧入引
抜機(図21の「鋼矢板圧入引抜機40」)における「一定寸法範囲を超えた最小寸法の継手ピッチを有する鋼矢板」をチャック装置でチャックする場合に,チャック装置が他の部材と干渉し,既設の「先頭」の鋼矢板をクランプできないという問題(「チャック装置干渉問題」)及び「一定寸法範囲を超えた継手ピッチの寸法差を有する鋼矢板」をクランプできないという問題(「クランプ装置寸法差問題」)にあるが,本件発明1における従来の鋼矢板圧入引抜機と異なる構成は,構成要件Hの「前記既設のU型の鋼矢板の継手ピッチに応じて,クランプガイドとクランプ部材を組み替えてクランプピッチを変更することによって,前記既設のU型の鋼矢板の継手ピッチが400mm,500mm,600mmのいずれであっても前記既設のU型の鋼矢板の先頭からクランプ可能とした」のうちの「前記既設のU型の鋼矢板の継手ピッチが400mm」であっても「前記既設のU型の鋼矢板の先頭からクランプ可能とした」との構成部分のみであり,当業者は,本件明細書の記載から,従来の鋼矢板圧入引抜機において「チャック装置干渉問題」及び「クランプ装置寸法差問題」という課題があることを認識し,本件発明1によって上記課題を解決できるものと認識することはできないから,本件発明1はサポート要件に適合しないし,本件発明1の発明特定事項を全て含む本件発明2,3,8及び9も,これと同様にサポート要件に適合しない旨主張する。しかしながら,前記(1)イの認定事実によれば,本件発明1は,従来,一定寸法範囲を超えた継手ピッチの鋼矢板,特に継手ピッチが400mmと600mmのように200mm程度以上の寸法差を有する鋼矢板の双方を施工可能な鋼矢板圧入引抜機は提供されていなかったため,多様な継手ピッチの鋼矢板(特に継手ピッチが200mm程度以上の差異を有する鋼矢板)に対応可能な汎用性を有する鋼矢板圧入引抜機を提供することを目的とするものであるから,原告のいう「チャック装置干渉問題」及び「クランプ装置寸法差問題」は,従来,このような鋼矢板圧入引抜機が提供されていなかった理由にすぎず,本件発明1の目的ないし課題そのものであるとはいえない。そして,前記(1)イの認定事実によれば,本件明細書の「発明の詳細な説明」には,本件発明1は,構成要件AないしIの構成を採用したことにより,継手ピッチが400mmと600mmのように200mm程度以上の寸法差を有する鋼矢板を1台の鋼矢板圧入引抜機で正規状態で圧入・引抜することができることが具体例に基づいて記載されているから,当業者は,本件明細書の記載から,本件発明1の目的ないし課題を認識し,本件発明1によってその課題を解決できるものと認識することができるものと認められる。したがって,原告の上記主張は,理由がない。
(3)

小括
以上によれば,本件発明1ないし3,8及び9がサポート要件に適合する
とした本件審決の判断に誤りはないから,原告主張の取消事由1は理由がない。
2
取消事由2(甲1を主引用例とする進歩性の判断の誤り)について
(1)

甲1発明の認定について
原告は,本件審決認定の甲1発明のうち,「前記既設のU形鋼矢板の継手
ピッチが600mm,700mmのいずれであっても前記既設のU形鋼矢板をクランプ可能」との部分は,「前記既設のU形鋼矢板の継手ピッチが400mm,500mm,600mm,700mmのいずれであっても前記既設のU形鋼矢板をクランプ可能」と認定すべきであるから,この点において本件審決における甲1発明の認定には誤りがあり,その結果,本件審決における一致点の認定及び相違点1のうち,甲1発明の認定部分にも誤りがあり,これらの認定の誤りは,本件審決の結論に影響を及ぼすものである旨主張するので,以下において判断する。

甲1には,次のような記載がある(下記記載中に引用する「図1,2,5,6,10,11,23ないし25,28,29」については別紙2を参照)。
(ア)

技術分野

【0001】
本発明は,多様な継手ピッチサイズの鋼矢板に対応し得るとともに,U形鋼矢板及びZ形鋼矢板の双方に対応し得る汎用性を有する鋼矢板圧入引抜機に関するものである。
(イ)

背景技術

【0002】
近年,各種土木基礎工事等における鋼矢板の圧入,引抜工事においては,振動,騒音の発生が少ない静荷重型の鋼矢板圧入引抜機が採用されている。
この静荷重型の鋼矢板圧入引抜機は,
特許文献1に示すように,
既設の鋼矢板上に定置された台座の下方に複数のクランプ装置を設けて,このクランプ装置により既設の鋼矢板をクランプすることによって反力を得て,チャック装置によりチャックした鋼矢板を圧入引抜シリンダによって地盤に圧入している。
【0003】
圧入される鋼矢板として種々のタイプが提供されており,わが国で広く普及しているものとして,U形鋼矢板がある(非特許文献1参照)。図32に示すように,U形鋼矢板31は,ほぼU形の断面形状を有しており,ウエブ31aの両端に所定の配置角度θを有するフランジ31bが連接されており,フランジ31bの開放端部に継手31cが形成されている。このU形鋼矢板31では,ウエブ31aが中立軸L1と平行に延びて,フランジ31bは継手ピッチ及び鋼矢板の型式により配置角度が変化することとなる。そして,継手31cを相互に噛合させて図33に示すように連続して圧入するものであり,圧入後の鋼矢板壁の中立軸L2上に継手31cが位置している。U形鋼矢板31の継手ピッチ38は,従来400mmのものが主流であり,その他に500mm,600mmのものが使用されており,
近年700mmのものも提供されている。
【0005】
U形鋼矢板31を圧入する場合,図36,図38に示すように,既設のU形鋼矢板31のウエブ31aを鋼矢板圧入引抜機に装備した複数のクランプ装置32でクランプすることにより,鋼矢板圧入引抜機を既設のU形鋼矢板31上に定置させるとともに,圧入時の反力を得るようにしている。これはU形鋼矢板31のフランジ31bは継手ピッチ及び鋼矢板の型式により配置角度θが変化するため,同一のクランプ装置32で同一方向にクランプするにはU形鋼矢板31の中立軸L1と平行に延びるウエブ31aをクランプする必要があるためである。
【0006】
クランプ装置32は,固定クランプ爪33と可動クランプ爪34からなり,可動クランプ爪34をクランプシリンダ35によって,固定クランプ爪33に向けて伸長させることにより,固定クランプ爪33と可動クランプ爪34の間に既設のU形鋼矢板31のウエブ31aの上端部分を押圧して保持している。
(ウ)

発明が解決しようとする課題
【0009】
従来の鋼矢板圧入引抜機は,図36,図39に示すようにクランプピッチ36,37,48,49が固定されているために,圧入するU形鋼矢板31やZ形鋼矢板41の継手ピッチ38,50が一定の範囲を超えて変化すると,即ち一定の範囲を超えて異なるサイズとなると対応できなくなり,クランプすることができなくなる。
【0010】
U形鋼矢板31の場合,図36に示すようにクランプピッチ36が400mm,クランプピッチ37が350mmの鋼矢板圧入引抜機を使用して,継手ピッチ38が400mmのU形鋼矢板31はクランプできるが,図37に示すように継手ピッチ38が500mmに拡大したU形鋼矢板31をクランプしようとすると,固定クランプ爪33と可動クランプ爪34がU形鋼矢板31のウエブ31aの範囲から逸脱してしまうため,クランプすることができなくなる。また,U形鋼矢板31のクランプ装置32は,図38に示すように押圧するクランプシリンダ35自体が可動クランプ爪34となっている。また固定クランプ爪33と可動クランプ爪34にはZ形鋼矢板41の継手41cに対応する凹部が形成されていないため,
既設のZ形鋼矢板41をクランプすることができない。
【0011】
Z形鋼矢板41の場合,図39に示すようにクランプピッチ48,49ともに660mmの鋼矢板圧入引抜機を使用して,継手ピッチ50が630mmのZ形鋼矢板41はクランプできているが,図40に示すように継手ピッチ50が575mmに変化したZ形鋼矢板41をクランプしようとすると,継手41cが固定クランプ爪43と可動クランプ爪44の凹部46,47から逸脱してしまうため,クランプすることができなくなる。
【0012】
よって,従来はU形鋼矢板31とZ形鋼矢板41の継手ピッチが一定範囲を超えて変化すると,クランプ装置をそれぞれ継手ピッチに対応したサイズのものに交換する必要があり,又U形鋼矢板31とZ形鋼矢板41を同一の鋼矢板圧入引抜機を使用してクランプすることができなかった。
【0013】
一方,圧入する鋼矢板をチャックするチャック装置も,クランプ装置がU形鋼矢板とZ形鋼矢板の双方に対応するものではなかったため,双方の鋼矢板をチャックできるチャック装置は提供されていない。
【0014】
そこで本発明はこのような従来の鋼矢板圧入引抜機が有している課題を解決するため,圧入する鋼矢板の多様なサイズの継手ピッチに対応し得るとともに,U形鋼矢板及びZ形鋼矢板の双方に対応し得る汎用性を有する鋼矢板圧入引抜機を提供することを目的とする。
(エ)

課題を解決するための手段

【0015】
本発明は上記課題を達成するために,固定クランプ爪と可動クランプ爪からなるクランプ爪を既設の鋼矢板の上端部に跨らせた状態で,クランプシリンダによって可動クランプ爪を固定クランプ爪に向けて伸長させることによりクランプする複数のクランプ装置と,圧入,引抜する鋼矢板を,固定チャック爪と可動チャック爪の間に挿通した状態でチャックシリンダによって可動チャック爪を固定チャック爪に向けて伸長させることによりチャックするチャック装置と,
チャックした鋼矢板を圧入,
引抜する圧入引抜シリンダを具備する鋼矢板圧入引抜機において,クランプ装置のクランプ爪を位置調節可能とした鋼矢板圧入引抜機を提供する。そして,複数のクランプシリンダの間隔を変更することなく,クランプ装置のクランプ爪を位置調節可能とする。
【0016】
更に,固定クランプ爪と可動クランプ爪からなるクランプ爪を既設の鋼矢板の上端部に跨らせた状態で,クランプシリンダによって可動クランプ爪を固定クランプ爪に向けて伸長させることによりクランプする構成を有する前部クランプ,中央クランプ及び後部クランプからなるクランプ装置と,圧入,引抜する鋼矢板を,固定チャック爪と可動チャック爪の間に挿通した状態でチャックシリンダによって可動チャック爪を固定チャック爪に向けて伸長させることによりチャックするチャック装置と,チャックした鋼矢板を圧入,引抜する圧入引抜シリンダを具備する鋼矢板圧入引抜機において,前部クランプ,中央クランプ及び後部クランプの各クランプ入替シリンダを伸縮させることにより,クランプする既設の鋼矢板の中立軸と直交する方向にレールに沿って各クランプ装置をスライド自在に構成し,レールの中心線に対して,前部クランプのクランプシリンダの作用中心線をチャック装置側へ,後部クランプのクランプシリンの作用中心線をチャック装置と反対側に一定距離ずらして構成し,前部クランプと後部クランプの位置を交換することにより,前部クランプ,中央クランプ及び後部クランプのクランプピッチを変更するとともに,クランプ装置のクランプ爪を位置調節可能とした鋼矢板圧入引抜機を提供する。
【0017】
そして,クランプ装置のクランプ爪を既設の鋼矢板の中立軸と平行な方向に移動可能とし,クランプ装置のクランプ爪を既設の鋼矢板の中立軸と平行な方向に移動可能とすることにより,複数のクランプ爪の間隔を変更する。複数のクランプ爪の間隔を変更することにより,多様な継手ピッチを有する鋼矢板の圧入,引抜作業を可能とした。
(オ)

発明の効果

【0019】
本発明にかかる鋼矢板圧入引抜機によれば,鋼矢板の継手ピッチのサイズが異なるため,そのままでは既設の鋼矢板としてクランプ装置でクランプすることができない場合であっても,複数のクランプシリンダの間隔を変更することなく,クランプ爪を既設の鋼矢板の中立軸と平行な方向に移動させることにより,複数のクランプ爪の間隔を変更して,継手ピッチのサイズが異なる鋼矢板を既設杭としてクランプすることが可能となる。さらに,前部クランプ,中央クランプ及び後部クランプからなるクランプ装置の前部クランプと後部クランプの位置を入れ替えて前部クランプ,中央クランプ及び後部クランプのクランプピッチを変更する手段を併用することによって,より広範囲で多様な継手ピッチサイズの鋼矢板に対応し得る。
【0020】
また,クランプ爪はZ形鋼矢板の継手部を包囲して収納する凹部を有するため,Z形鋼矢板とU形鋼矢板のいずれであっても既設杭としてクランプすることができ,更にチャック装置は,U形鋼矢板とZ形鋼矢板の双方をそれぞれ対称位置に挿通可能な挿通孔としたため,U形鋼矢板とZ形鋼矢板の双方を1台の鋼矢板圧入引抜機で圧入,引抜施工をすることができる。
(カ)

発明を実施するための最良の形態

【0021】
以下図面に基づいて本発明にかかる鋼矢板圧入引抜機の最良の実施形態を説明する。図1は本発明にかかる鋼矢板圧入引抜機1の側面図,図2はその平面図である。図において,1は鋼矢板圧入引抜機であって,2は台座,3は台座2の下部に配設されて,既設の鋼矢板をクランプして鋼矢板圧入引抜機1を定置するとともに,既設の鋼矢板から反力を得るためのクランプ装置である。このクランプ装置3は,複数のクランプから構成されるものであり,図示例では前部ランプ3a,中央クランプ3b,後部クランプ3cの3本のクランプから構成されている。…【0022】
Fは鋼矢板圧入引抜機1の直進方向を示す。台座2には鋼矢板圧入引抜機1の直進方向Fに沿ってスライドベース4が,圧入するU型鋼矢板の継手ピッチ以上,及びZ形鋼矢板の継手ピッチの2倍以上の距離を摺動自在に配備されている。このスライドベース4上には支持アーム5が縦軸を中心として回動自在に軸支され,この支持アーム5の前部に設けた軸受部6を中心として回動可能なガイドフレーム7が立設されている。このガイドフレーム7は,一端が支持アーム5に軸支された傾動シリンダ(図示略)の伸縮によって軸受部6を中心として傾動可能となっている。
【0023】
ガイドフレーム7には昇降体8が昇降自在に装着されている。該昇降体8の両側には左右一対の鋼矢板圧入引抜シリンダ9が取り付けられていて,この鋼矢板圧入引抜シリンダ9の一端が前記軸受部6に軸支されており,昇降体8を上下駆動するように構成されている。10は圧入,引抜作業をする鋼矢板をチャックするチャック装置であり,昇降体8の下方にあって該昇降体8に対して旋回自在に配備されている。これらの基本構成は公知の静荷重型の鋼矢板圧入引抜機と同様である。
【0026】
図5,図6はクランプ装置3のA-A部の平断面図,図7は固定クランプ爪12及び可動クランプ爪13を外した状態を示すクランプ装置3の平断面図であり,図8の(A)は固定クランプ爪12の正面図,(B)は同右側面図,(C)は同背面図,(D)は横断面図である。この固定クランプ爪12は,クランプ装置3のボルト孔19a,19bから固定クランプ爪のボルト孔12b,12d又は12a,12cに向けてボルト18a,18bを螺着することによって,クランプ装置3に脱着自在に固定されており,クランプする既設の鋼矢板の中立軸(図33,図35参照)
と平行な方向
(鋼矢板圧入引抜機1の直進方向Fと平行な方向)
に所定量移動可能である。
【0027】
図5は,直進方向Fの反対方向に固定クランプ爪12を移動させた状態を示すものであり,ボルト孔12cと,クランプ装置3から外方に張り出したボルト孔12aとは使用しておらず,ボルト18aがボルト孔12bに,ボルト18bがボルト孔12dに螺合することによって固定されている。よって,固定クランプ爪12は直進方向Fと反対方向に所定量オフセットされている。一方,図6に示す状態は,ボルト孔12dがクランプ装置3から外方に張り出しており,ボルト18aがボルト孔12aに,ボルト18bがボルト孔12cに螺合することによって固定されている。よって,固定クランプ爪12は直進方向Fの方向に所定量オフセットされている。即ち,固定クランプ爪12は,図5,図6に示すボルト孔12a,12c或いはボルト孔12b,12dを使用してクランプ装置3に固定することにより,位置を変えることが可能である。【0028】
…図5は,直進方向Fの反対方向に可動クランプ爪13を移動した状態を示すものであり,可動クランプ爪13のボルト孔13aと可動クランプ爪支持体14のボルト孔22aがボルト23aで一体に固定されるとともに,可動クランプ爪13のボルト孔13bと可動クランプ爪支持体14のボルト孔22bがボルト23bで一体に固定されている。よって,可動クランプ爪13は直進方向Fと反対方向に所定量オフセットされている(図10,図11に示す後部クランプ3cの状態)。
【0029】
一方,
図6に示す状態は,
可動クランプ爪13を前後方向に反転させ,
可動クランプ爪13のボルト孔13bと可動クランプ爪支持体14のボルト孔22aがボルト23aで一体に固定されるとともに,可動クランプ爪13のボルト孔13aと可動クランプ爪支持体14のボルト孔22bがボルト23bで一体に固定されている。よって,可動クランプ爪13は直進方向Fに所定量オフセットされている(図10,図11に示す前部クランプ3aの状態)。可動クランプ爪13は,前後に反転させて固定することにより,位置を変えることが可能である。
【0030】
上記構成の固定クランプ爪12と可動クランプ爪13からクランプ爪25が構成されており,クランプ爪25は,クランプする既設の鋼矢板の中立軸(図33,図35参照)と平行な方向(鋼矢板圧入引抜機1の直進方向Fと平行な方向)に移動可能であり,複数のクランプシリンダ15の間隔を変更することなく,複数のクランプ爪25の間隔を変更することができる。そして,複数のクランプ爪25の間隔を変更することにより,クランプ装置3を交換することなく,多様な継手ピッチを有する鋼矢板を既設杭としてクランプすることができ,鋼矢板圧入引抜機1を既設杭上に定置できるとともに,
既設杭から反力を得ることができる。
【0032】
図10はクランプ装置3の配置構成を示す鋼矢板圧入引抜機1の側面図,図11はクランプ装置3の部分拡大側断面図である。前部クランプ3a,中央クランプ3b,後部クランプ3cをクランプする既設の鋼矢板の中立軸(図33,図35参照)と直交する方向にスライドさせるためのレール26の中心線26aと,可動クランプ爪13を移動させるクランプシリンダ15の作用中心線15aとがクランプする既設の鋼矢板の中立軸(図33,図35参照)と平行な方向へ距離dだけずれる形状にして配置している。即ち,レール26の中心線26aに対して,前部クランプ3aのクランプシリンダ15の作用中心線15aをチャック装置10側へ,後部クランプ3cのクランプシリンダ15の作用中心線15aをチャック装置10と反対側に距離dだけずらして構成している。また,図10に示すように前部クランプ3aと後部クランプ3cとは垂直線に対して線対称の形状としてあり,前部クランプ3aと後部クランプ3cの位置を入替えることにより前部クランプ3aと中央クランプ3b間及び中央クランプ3bと後部クランプ3c間の距離(クランプピッチ)を変化させることが可能となる。
(キ)

【0042】

図23は,
U形鋼矢板31を圧入施工する施工状態を示すものであり,
(A)は相互に継手31cを噛合して圧入されている既設のU形鋼矢板31e,31f,31g,31hの内,U形鋼矢板31f,31g,31hの各ウエブ31aをそれぞれ前部クランプ3a,
中央クランプ3b,
後部クランプ3cでクランプし,圧入する1枚目のU形鋼矢板31iを圧入終了後,スライドベース4を伸長させて圧入する2枚目のU形鋼矢板31jをチャック装置10でチャックして圧入作業をしている状態である。
【0043】
図23(A)に示すように,2枚目のU形鋼矢板31jを充分な支持力が得られるまで圧入した後に,図23(B)に示すように,前部クランプ3a,中央クランプ3b,後部クランプ3cを開放し,昇降体8を上昇させて,鋼矢板圧入引抜機1を上昇させる。このとき,自走補助ローラ装置61の自走補助シリンダ61bを伸長させて,自走補助ローラ61aを下降させて既設のU形鋼矢板31eの上端部を押圧した状態で行う。これにより,鋼矢板圧入引抜機1は安定した状態で圧入作業中のU形鋼矢板31jに支持される。
【0044】
次に,図23(B)に示す状態から図23(C)に示すように,1枚の既設のU形鋼矢板31の継手ピッチ長さだけスライドベース4を前方に移動させる。そして,図23(C)に示す状態から,自走補助ローラ装置61の自走補助シリンダ61bを上昇させて自走補助ローラ61aを上昇させながら,昇降体8を下降させ,鋼矢板圧入引抜機1を下降させて,既設のU形鋼矢板31g,31h,31iのそれぞれのウエブ31aを前部クランプ3a,中央クランプ3b,後部クランプ3cでクランプする。その後U形鋼矢板31jの圧入作業を完了させ,スライドベース4を1枚のU形鋼矢板31の継手ピッチ長さ分前方に移動させ,次のU形鋼矢板をチャックして圧入作業を行う。以後順次この動作を繰り返すことにより,既設のU形鋼矢板31上を自走しながら,圧入作業を行うことができる。
(ク)

【0046】

そして,本発明にかかる鋼矢板圧入引抜機1のクランプ装置3が多様な継手ピッチサイズのU形鋼矢板31及びZ形鋼矢板41をクランプできることを具体的に説明する。図24はU形鋼矢板31又はZ形鋼矢板41の継手ピッチ670mm,675mm,700mmに対応可能なクランプ装置3の位置関係を示す平面説明図,
図25は側面説明図である。
前部クランプ3a,中央クランプ3b,後部クランプ3cのクランプシリンダ15のクランプピッチ65(作用中心間距離)が660mmになるように構成している。そして,前部クランプ3aの固定クランプ爪12及び可動クランプ爪13はクランプする既設のU形鋼矢板31又はZ形鋼矢板41の中立軸(図33,図35参照)と平行に前方(チャック装置10側)に25mm移動させ,後部クランプ3cは同様に後方(チャック装置10と反対方向)
へ25mm移動させるている。
これにより,
前部クランプ3a,中央クランプ3b,後部クランプ3cのクランプ爪25(固定クランプ爪12+可動クランプ爪13)のクランプ爪ピッチ66(クランプ爪25の中心間距離)が685mmになる。よって,図25に示すように,前部クランプ3aからは前方にオフセットした可動クランプ爪13が視認され,後部クランプ3cからは後方にオフセットした可動クランプ爪13が視認される状態となる。
【0047】
クランプするU形鋼矢板31又はZ形鋼矢板41の継手ピッチを670mm,675mm,700mmとすればクランプ爪25の中心部とU形鋼矢板31又はZ形鋼矢板41の継手ピッチのずれが最大15mmとなり,U形鋼矢板31の場合はウエブ31aの範囲に収まり,Z形鋼矢板41の場合にも継手41cが凹部16,17内に収まるとともに相互に噛合した2枚のフランジ41bの範囲に収まるため,これらの継手ピッチを有するU形鋼矢板31又はZ形鋼矢板41を同一の鋼矢板圧入引抜機1で汎用的にクランプすることができる。併せて,チャック装置10の挿通孔51をこれらのサイズの継手ピッチを有するU形鋼矢板31又はZ形鋼矢板41を挿通可能なサイズとしておくことにより,圧入,引抜作業が可能となる。
(ケ)

【0048】

図26は,U形鋼矢板31又はZ形鋼矢板41の継手ピッチ630mmに対応可能なクランプ装置3の位置関係を示す平面説明図,図27は側面説明図である。前部クランプ3a,中央クランプ3b,後部クランプ3cのクランプシリンダ15のクランプピッチ65
(作用中心間距離)
が660mmになるように構成している。そして,前部クランプ3aの固定クランプ爪12及び可動クランプ爪13はクランプする既設のU形鋼矢板31又はZ形鋼矢板41の中立軸(図33,図35参照)と平行に後方(チャック装置10と反対方向)に25mm移動させ,後部クランプ3cは同様に前方(チャック装置10側)へ25mm移動させるている。これにより,前部クランプ3a,中央クランプ3b,後部クランプ3cのクランプ爪25(固定クランプ爪12+可動クランプ爪13)のクランプ爪ピッチ66(クランプ爪25の中心間距離)が635mmになる。よって,図27に示すように,前部クランプ3aからは後方にオフセットした可動クランプ爪13が視認され,後部クランプ3cからは前方にオフセットした可動クランプ爪13が視認される状態となる。【0049】
クランプするU形鋼矢板31又はZ形鋼矢板41の継手ピッチを630mmとすればクランプ爪25の中心部とU形鋼矢板31又はZ形鋼矢板41継手ピッチのずれが最大5mmとなり,U形鋼矢板31の場合はウエブ31aの範囲に収まり,Z形鋼矢板41の場合にも継手41cが凹部16,17内に収まるとともに相互に噛合した2枚のフランジ41bの範囲に収まるため,これらの継手ピッチを有するU形鋼矢板31又はZ形鋼矢板41を同一の鋼矢板圧入引抜機1で汎用的にクランプすることができる。チャック装置10の挿通孔51のサイズを選択することは図24,図25に示す場合と同様である。
(コ)

【0050】

図28は,U形鋼矢板31又はZ形鋼矢板41の継手ピッチ575mm,580mmに対応可能なクランプ装置3の位置関係を示す平面説明図,図29は側面説明図である。この場合は,前部クランプ3aと後部クランプ3cを入れ替えて,前方(チャック装置10側)に後部クランプ3cを,後方に前部クランプ3aを配備し,中央にはそのまま中央クランプ3bを配備する。これにより前部クランプ3a,中央クランプ3b,
後部クランプ3cのクランプシリンダ15のクランプピッチ65
(作
用中心間距離)を560mmに変更することができる。そして,後方に配備されている前部クランプ3aの固定クランプ爪12及び可動クランプ爪13はクランプする既設のU形鋼矢板31又はZ形鋼矢板41の中立軸(図33,図35参照)と平行に後方(チャック装置10と反対方向)に25mm移動させ,前方に配備されている後部クランプ3cは前方(チャック装置10側)へ25mm移動させるている。これにより,前部クランプ3a,中央クランプ3b,後部クランプ3cのクランプ爪25(固定クランプ爪12+可動クランプ爪13)のクランプ爪ピッチ66(クランプ爪25の中心間距離)が585mmになる。
【0051】
よって,図29に示すように,クランプ3aとクランプ3cの位置が入れ替わり,クランプ3aがチャック装置10と反対方向の後部に,クランプ3cがチャック装置10方向の前方に位置している。また,クランプ3aからは後方にオフセットした可動クランプ爪13が視認され,クランプ3cからは前方にオフセットした可動クランプ爪13が視認される状態となる。
【0052】
クランプするU形鋼矢板31又はZ形鋼矢板41の継手ピッチを575mm,580mmとすればクランプ爪25の中心部とU形鋼矢板31又はZ形鋼矢板41継手ピッチのずれが最大10mmとなり,U形鋼矢板31の場合はウエブ31aの範囲に収まり,Z形鋼矢板41の場合にも継手41cが凹部16,17内に収まるとともに相互に噛合した2枚のフランジ41bの範囲に収まるため,これらの継手ピッチを有するU形鋼矢板31又はZ形鋼矢板41を同一の鋼矢板圧入引抜機1で汎用的にクランプすることができる。チャック装置10の挿通孔51のサイズを選択することは図24,図25に示す場合と同様である。
(サ)

【0053】

このように,前記した実施例によれば,継手ピッチが600mm,700mmのU形鋼矢板31や,継手ピッチが575mm,580mm,630mm,670mm,675mm,700mmのZ形鋼矢板41を1台の鋼矢板圧入引抜機1にてクランプすることができるとともに,チャックすることができて,圧入,引抜作業を行うことができる。また,固定クランプ爪12及び可動クランプ爪13の移動量やサイズを変更することにより,
更に広範囲の継手ピッチにも対応することが可能であり,
現在使用されている継手ピッチが400mm,500mmのU形鋼矢板31やその他の継手ピッチのU形鋼矢板31やZ形鋼矢板41を施工することも可能である。なお,本発明は,U形鋼矢板31やZ形鋼矢板41に特に効果を発揮するが,ハット形鋼矢板や他の形状の鋼矢板への適用も可能であり,特にクランプ装置3はそのまま適用することが可能である。
(シ)

【産業上の利用可能性】

【0055】
本発明にかかる鋼矢板圧入引抜機によれば,鋼矢板の継手ピッチのサイズが異なるため,そのままでは既設の鋼矢板としてクランプ装置でクランプすることができない場合であっても,複数のクランプシリンダの間隔を変更することなく,クランプ爪を既設の鋼矢板の中立軸と平行な方向に移動させることにより,複数のクランプ爪の間隔を変更して,継手ピッチのサイズが異なる鋼矢板を既設杭としてクランプすることが可能となる。そのため,多様な継手ピッチサイズの鋼矢板に対応し得る。また,クランプ爪はZ形鋼矢板の継手部を包囲して収納する凹部を有するため,Z形鋼矢板とU形鋼矢板のいずれであっても既設杭としてクランプすることができ,更にチャック装置は,U形鋼矢板とZ形鋼矢板の双方をそれぞれ対称位置に挿通可能な挿通孔としたため,U形鋼矢板とZ形鋼矢板の双方を1台の鋼矢板圧入引抜機で圧入,引抜施工をすることができる。そのため,多様な継手ピッチサイズの鋼矢板に対応し得るとともに,U形鋼矢板及びZ形鋼矢板の双方に対応し得る汎用性を有する鋼矢板圧入引抜機を得ることができる。

前記アの記載事項によれば,甲1には,①従来の鋼矢板圧入引抜機は,クランプピッチが固定されているために,U形鋼矢板の継手ピッチが一定範囲を超えて変化すると,クランプ装置の固定クランプ爪及び可動クランプ爪がU形鋼矢板のウェブの範囲から逸脱してしまい,同一の鋼矢板圧入引抜機を使用してクランプすることができなくなるという問題があり,また,クランプ装置がU形鋼矢板とZ形鋼矢板の双方に対応するものではなかったため,双方の鋼矢板をチャックできるチャック装置は提供されていなかったこと(【0009】~【0013】),②「本発明」(甲1記載の鋼矢板圧入引抜機)は,従来の鋼矢板圧入引抜機が有している課題を解決し,圧入する鋼矢板の多様なサイズの継手ピッチに対応し得るとともに,U形鋼矢板及びZ形鋼矢板の双方に対応し得る汎用性を有する鋼矢板圧入引抜機を提供することを目的とし,この課題を解決するための手段として,前部クランプ,中央クランプ及び後部クランプの各クランプ入替シリンダを伸縮させることにより,クランプする既設の鋼矢板の中立軸と直交する方向にレールに沿って各クランプ装置をスライド自在に構成し,レールの中心線に対して,前部クランプのクランプシリンダの作用中心線をチャック装置側へ,後部クランプのクランプシリンダの作用中心線をチャック装置と反対側に一定距離ずらして構成し,前部クランプと後部クランプの位置を交換することにより,前部クランプ,中央クランプ及び後部クランプのクランプピッチを変更するとともに,クランプ装置のクランプ爪を位置調節可能とした構成を採用したこと【0014】【0016】,(


③実施例として,U形鋼矢板又はZ形鋼矢板の継手ピッチが670mm,675mm及び700mmの場合,575mm及び580mmの場合のそれぞれについて,1台の鋼矢板圧入機でクランプして,圧入,引抜作業を行うことができること(【0046】,【0047】,【0050】~【0052】)の開示があることが認められる。
そして,甲1の【0053】に「このように,前記した実施例によれば,継手ピッチが600mm,700mmのU形鋼矢板31や,継手ピッチが575mm,580mm,630mm,670mm,675mm,700mmのZ形鋼矢板41を1台の鋼矢板圧入引抜機1にてクランプすることができるとともに,チャックすることができて,圧入,引抜作業を行うことができる。また,固定クランプ爪12及び可動クランプ爪13の移動量やサイズを変更することにより,更に広範囲の継手ピッチにも対応することが可能であり,現在使用されている継手ピッチが400mm,500mmのU形鋼矢板31やその他の継手ピッチのU形鋼矢板31やZ形鋼矢板41を施工することも可能である。」との記載があることからすると,甲1には,甲1記載の鋼矢板圧入引抜機は,U形鋼矢板の継手ピッチが400mm,500mm,600mmの場合においても,クランプすることができることの開示があることが認められる。
一方で,甲1の【0042】ないし【0044】及び図23には,既設の先頭のU形鋼矢板31iをクランプしてU形鋼矢板31jの圧入作業を行うことができることの記載があるが,甲1には,当該U形鋼矢板の継手ピッチのピッチサイズについての記載はない。
そうすると,甲1記載の鋼矢板圧入引抜機は,U形鋼矢板の継手ピッチが400mm,500mm,600mm,700mmのいずれであっても既設の鋼矢板をクランプすることが可能であるが,既設の鋼矢板の先頭からクランプすることが可能であることは明らかでないというべきであるから,本件審決認定の甲1発明のうち,「前記既設のU形鋼矢板の継手ピッチが600mm,700mmのいずれであっても前記既設のU形鋼矢板をクランプ可能とし,既設のU形鋼矢板の継手ピッチが700mmにおいてはその先頭のU形鋼矢板をクランプする,」との部分は,「前記既設のU形鋼矢板の継手ピッチが400mm,500mm,600mm,700mmのいずれであっても前記既設のU形鋼矢板をクランプ可能とした」と認定するのが,より適切であると認められる(以下,この認定のとおり修正した甲1発明を「甲1’発明」という場合がある。)。
したがって,
本件審決における甲1発明の認定には誤りがあり,
同様に,
本件審決における一致点の認定及び相違点1のうち,甲1発明の認定部分(甲1発明は,「前記既設のU形鋼矢板の継手ピッチが600mm,700mmのいずれであっても前記既設のU形鋼矢板をクランプ可能とし,既設のU形鋼矢板の継手ピッチが700mmにおいてはその先頭のU形鋼矢板をクランプする」との認定部分)にも誤りがある。
しかしながら,本件審決認定の相違点1は,甲1発明は,相違点1に係る本件発明1の構成(「前記既設のU型の鋼矢板の継手ピッチが400mm,500mm,600mmのいずれであっても前記既設のU型の鋼矢板の先頭からクランプ可能とした」との構成)を備えていない点で本件発明1と相違することを認定したものと認められるところ,甲1’発明においても,相違点1に係る本件発明1の構成を備えていない点で本件発明1と相違するものと認められるから,本件審決における甲1発明の認定の誤り等は,本件審決の結論に直ちに影響を及ぼすものとはいえない。
よって,原告の前記主張は,この点において採用することができない。(2)

本件出願当時の周知技術について
各文献の記載事項(下記記載中に引用する「甲2の第2図」,「甲3の第1図」,「甲4の第1図」については別紙3を参照)
(ア)

甲2(実公昭52-52405号公報)

「挾着具3は図示の場合三個を用い,連繋した矢板Aと等しいピッチをもって基板1の長手方向に並設したもの…」(1頁1欄34行~36行)
「基板1の中央部長手方向で両端挾着具3の外端寄りの位置に,圧入矢板Bの貫通する開孔8を開設する。」(1頁2欄9行~11行)「圧入途中の矢板Bと連繋される最外端の矢板Aには圧入矢板Bと共に共下りしようとするが,基板1の挾着具3により挾持され,しかも圧入圧力により上方へ引かれるため共下りすることがない。」(2頁3欄13行~16行)
「第1図は本考案に係る防止装置の使用状態を示す平面図,第2図は同正面図…」(2頁4欄21行~22行)
(イ)

甲3(実願昭61-187160号(実開昭63-91533号)
のマイクロフィルム)
「第1図は本考案の一実施例を示す側面図である。
図中,1は既設杭列A上に定位する基台である。この基台1は下部に少なくとも1つのクランプ2を有し,このクランプによって基台1を杭列上に固定保持する。
ここでの杭Pは擁壁,突堤,コファダム等に適用される鋼矢板であるが,特にこれに限るものではない。杭Pは上端部分を地上に露出させた状態で並設状に連結されて杭列Aを構成する。したがって,本考案の装置を杭列Aの前端部に位置づけ,更に前方に杭POを新たに途中圧入して杭列を延長させる。」(明細書5頁3行~14行)
「このように本実施例では,クランプが既設杭を摑んでいるため,杭圧入時の共下がり減少を防止すると共に,圧入時の振動が最小限に止められる。」(明細書9頁4行~6行)
(ウ)

甲4(実願昭53-42786号(実開昭54-146010号)
のマイクロフィルム)
「また従来の手段によるときは,杭押込みに際しては押込む杭と既に押込んだ杭との間にセクション抵抗が発生し軟弱な地層にては2枚同時に下るという現象が発生していたが,本案装置によれば埋設杭をつかんで共下がりを防止する事が出来る。
第1図乃至第3図に基いてこの考案の第1の実施例を説明する。(明」
細書3頁10行~17行)
「埋設杭をB,C,D,これから押込む杭をEとし,杭Dと杭Eとは隣接しているものとする。杭Dの上端にクランプ装置Aの二股部11を嵌め,
…挟持片12と摺動片22との間に杭Dの上端を挟持固定する。

(明細書5頁14行~6頁5行)

前記アの記載事項を総合すると,本件出願当時,既設の鋼矢板又は杭の先頭をクランプすることで,鋼矢板又は杭の圧入時の共下がりを防止することができることは,周知であったことが認められる。

(3)

相違点1の容易想到性について
甲1の【0042】ないし【0044】及び図23には,既設の先頭のU形鋼矢板31iをクランプしてU形鋼矢板31jの圧入作業を行うことができることの記載があり,既設のU型の鋼矢板の先頭をクランプして鋼矢板の圧入作業を行うことの開示がある。そして,既設の鋼矢板又は杭の先頭をクランプすることで,鋼矢板又は杭の圧入時の共下がりを防止することができることは,本件出願当時,周知であったこと(前記(2)イ)に照らすと,甲1に接した当業者は,既設の先頭のU形鋼矢板31iをクランプしてU形鋼矢板31jの圧入作業を行っているのは,U形鋼矢板31jの圧入時のU形鋼矢板31iの共下がりを防止するためであることを理解するものと認められる。
他方で,甲1には,当該U形鋼矢板の継手ピッチのピッチサイズについての記載はなく,また,継手ピッチが200mm程度以上の寸法差を有するU形鋼矢板について,1台の鋼矢板圧入引抜機で,既設のU型鋼矢板の先頭をクランプして圧入作業を行うことができることについての記載もない。もっとも,甲1には,実施例として,U形鋼矢板又はZ形鋼矢板の継手ピッチが670mm,675mm及び700mmの場合,575mm及び580mmの場合のそれぞれについて,1台の鋼矢板圧入機でクランプして,圧入,引抜作業を行うことができること(【0046】,【0047】,【0050】~【0052】)が記載されているが,これらの実施例において,圧入,引抜作業時に既設のU型鋼矢板の先頭をクランプしていることについての明示の記載はない。また,仮にこれらの実施例において既設のU型鋼矢板の先頭をクランプしているとしても,継手ピッチの寸法差が200mmに満たないことは明らかである。

次に,甲5(「TILT
平成17年10月版
PILER

PILER

WP-100」の取扱説明書・

31号機~)には,鋼矢板圧入・引抜機「TILT

WP-100」は,「600mm鋼矢板」及び「500mm

鋼矢板」のいずれであっても,クランプの組替えにより,既設の鋼矢板の先頭をクランプして圧入作業をすることができること
(59頁,
68頁)

「※WP-100はNo.1クランプを追加して購入することによって400mmの鋼矢板も施工することが出来ます。」,「圧入する矢板の手前の矢板はクランプすることが出来ません。施工時に圧入する矢板の手前の矢板が共上がり,共下がりすることがありますので,圧入する矢板の手前の矢板とクランプしている矢板を溶接止めして下さい。」(69頁,別紙3の甲5・69頁図面)との記載がある。
甲5の上記記載及び弁論の全趣旨によれば,本件出願前において,継手ピッチが400mmと600mmのように200mm程度以上の寸法差を有するU形鋼矢板については,1台の鋼矢板圧入引抜機で,既設のU型鋼矢板の先頭をクランプして圧入作業を行うことができないものと広く認識されていたことが認められる。
そうすると,甲1に接した当業者は,甲1記載の鋼矢板圧入引抜機(甲1’発明)は,U型鋼矢板の継手ピッチが400mm,500mm,600mmのいずれの場合であってもU形鋼矢板をクランプすることができること,既設のU型鋼矢板の先頭をクランプすれば共下がりを防止することができること(前記(2)イの周知技術)を認識したとしても,甲1記載の鋼矢板圧入引抜機(甲1’発明)において,継手ピッチが400mm及び600mmの両方の鋼矢板について「既設のU型の鋼矢板の先頭からクラン可能」とした構成(相違点1に係る本件発明1の構成)とすることを容易に想到することができたものと認めることはできない。
したがって,本件発明1は,甲1に記載された発明及び前記周知技術に基づいて,当業者が容易に想到することができたものとは認められない。ウ
これに対し原告は,甲1記載の鋼矢板圧入引抜機において,継手ピッチが400mm,500mm,600mmの場合,既設のU型の鋼矢板の先頭をクランプする際に,チャック装置干渉問題(「一定寸法範囲を超えた最小寸法の継手ピッチを有する鋼矢板」をチャック装置でチャックする場合に,チャック装置が他の部材と干渉し,既設の「先頭」の鋼矢板をクランプできないという問題)が生じる可能性があるが,前件判決が,原告のサポート要件違反の主張に関し,「本件発明1は,鋼矢板圧入引抜機におけるクランプ装置に特徴を有するものであり,チャック装置については,請求項4記載のチャック装置をはじめとして当業者において適宜選択可能なものと解される。」と説示するとおり,当業者は,チャック装置干渉問題を適宜の方法により解決できたものであるから,相違点1に係る本件発明1の構成を容易に想到することができた旨主張する。
しかしながら,原告がいう前件判決(甲8)の説示部分(22頁)は,本件発明1の構成要件Hは,鋼矢板の継手ピッチが400mm,500mm,600mmのいずれであっても,請求項4記載のチャック装置を含まない鋼矢板圧入引抜機を正規状態で施工可能とした発明を含むものであるところ,本件明細書の記載及び出願時の技術常識に照らしても,チャック装置を交換することなく,部材の干渉の課題を解決して,既設の先頭の鋼矢板をクランプし,正規状態で施工可能なものと認識することはできないから,本件発明1はサポート要件に違反する旨の原告の主張を排斥する理由の一つとして説示されたものであって,上記説示部分にいう当業者は,本件出願後に本件明細書に接した当業者を前提としていることは明らかである。
したがって,
前件判決の上記説示部分は,
本件出願前の当業者において,
チャック装置干渉問題を適宜の方法により解決できたことの根拠になるものではない。
また,本件明細書には,正規状態での鋼矢板の圧入・引抜作業時に鋼矢板圧入引抜機の他の部材と干渉しないようにする具体的な構成としては,鋼矢板圧入引抜機の他の部材と干渉することがないようにチャックフレームを配置した構成(【0031】),チャックフレームに鋼矢板の継手ピッチに対応した複数のチャック装置を着脱自在に装着可能とした構成(【0032】,【0048】,【0050】,【0063】),チャックフレームを構成するチャック旋回モータやピニオンギアがチャック装置をチャックフレーム内で旋回させるためのチャック旋回モータとピニオンギア及びピニオンギアを収容したピニオンギアボックスを台座の上端面の位置する水平線より上方に配置した構成(【0032】,【0049】,【0050】,【0064】)の開示があるが,甲1には,正規状態での鋼矢板の圧入・引抜作業時に鋼矢板圧入引抜機の他の部材と干渉しないようにする構成について記載や示唆はない。他に本件出願前の当業者において,チャック装置干渉問題を適宜の方法により解決できたことを認めるに足りる証拠はない。
以上によれば,原告の上記主張は,採用することができない。
(4)

小括
以上のとおり,本件発明1は,甲1に記載された発明及び周知技術に基づ
いて,当業者が容易に発明をすることができたものではなく,本件発明1の発明特定事項を全て含む本件発明2,3,8及び9も,同様に,当業者が容易に発明をすることができたものではないから,これと同旨の本件審決の判断に誤りはない。
したがって,原告主張の取消事由2は理由がない。
3
取消事由3(甲5発明を主引用例とする進歩性の判断の誤り)について(1)

相違点Aの容易想到性について
①甲5(「TILT
17年10月版
ILER

PILER

WP-100」の取扱説明書・平成

31号機~)には,鋼矢板圧入・引抜機「TILT

P
WP-100」について,「※WP-100はNo.1クラン

プを追加して購入することによって400mmの鋼矢板も施工することが出来ます。」,「圧入する矢板の手前の矢板はクランプすることが出来ません。施工時に圧入する矢板の手前の矢板が共上がり,共下がりすることがありますので,圧入する矢板の手前の矢板とクランプしている矢板を溶接止めして下さい。」(69頁)との記載があること,②本件出願前において,継手ピッチが400mmと600mmのように200mm程度以上の寸法差を有するU形鋼矢板については,1台の鋼矢板圧入引抜機で,既設のU型鋼矢板の先頭をクランプして圧入作業を行うことができないものと広く認識されていたことは,前記2(3)イ認定のとおりである。そうすると,当業者において,既設のU型鋼矢板の先頭をクランプすれば共下がりを防止することができること(前記2(2)の周知技術)を認識したとしても,TILT

PILER

WP-100において,継手ピッ

チが400mmのU型鋼矢板について「既設のU型の鋼矢板の先頭からクランプ可能」とした構成(相違点Aに係る本件発明1の構成)とすることの動機付けがあるものと認められないから,上記構成を容易に想到することができたものと認めることはできない。
したがって,本件発明1は,TILT

PILER

WP-100に係

る公然実施発明(甲5発明)及び前記周知技術に基づいて,当業者が容易に想到することができたものとは認められない。

これに対し原告は,①甲5の頒布時点(平成17年10月)の後である本件出願当時においては,前件判決が説示するとおり,当業者は,「チャック装置干渉問題」を適宜の方法により解決できたことに照らすと,甲5におけるU形鋼矢板の継手ピッチが400mmの場合についての「圧入する矢板の手前の矢板はクランプすることが出来ません。との記載部分は,」
チャック装置干渉問題が存在することの認識を表明するものであるから,当業者において,チャック装置干渉問題を解決するために適宜の方法を採用することの積極的な動機付けとなる,②当業者は,U形鋼矢板の継手ピッチが400mmの場合,TILT

PILER

WP-100におい

て,「チャック装置干渉問題」を,「便法」としての既設の先頭から2番目以降の鋼矢板からクランプする構成によることなく,適宜の方法により解決し,前記周知技術を適用して,継手ピッチが400mmのU型鋼矢板について「既設のU型の鋼矢板の先頭からクランプ可能」とした構成(相違点Aに係る本件発明1の構成)とすることを容易に想到することができたものである旨主張する。
しかしながら,
前記2(3)ウ認定のとおり,
原告がいう前件判決の説示部
分は,本件出願後に本件明細書に接した当業者を前提としていることは明らかであり,本件出願前の当業者において,チャック装置干渉問題を適宜の方法により解決できたことの根拠になるものではないし,他に本件出願前の当業者において,チャック装置干渉問題を適宜の方法により解決できたことを認めるに足りる証拠はないから,原告の上記主張は,その前提において,理由がない。
(2)

小括
以上のとおり,本件発明1は,TILT

PILER

WP-100に係

る公然実施発明(甲5発明)及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものではなく,本件発明1の発明特定事項を全て含む本件発明2,3,8及び9も,同様に,当業者が容易に発明をすることができたものではないから,これと同旨の本件審決の判断に誤りはない。したがって,原告主張の取消事由3は理由がない。
4
結論
以上のとおり,原告主張の取消事由はいずれも理由がなく,本件審決にこれ
を取り消すべき違法は認められない。
したがって,原告の請求は棄却されるべきものである。

知的財産高等裁判所第4部

裁判長裁判官

大鷹一郎
裁判官

古河謙一
裁判官

関根澄子
別紙1

【図1】

【図2】

【図13】

【図14】

【図15】

【図16】

【図17】

【図18】

【図19】

【図20】

【図21】

【図22】

【図23】

別紙2
【図1】

【図2】

【図5】

【図6】

【図10】

【図11】

【甲23】

【図24】

【図25】

【図28】

【図29】

別紙3

甲2・第2図

甲3・第1図

甲4・第1図

甲5・69頁図面

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