判例検索β > 平成29年(行ケ)第10226号
審決取消請求事件 特許権 行政訴訟
事件番号平成29(行ケ)10226
事件名審決取消請求事件
裁判年月日平成30年12月27日
法廷名知的財産高等裁判所
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平成30年12月27日判決言渡
平成29年(行ケ)第10226号

審決取消請求事件

口頭弁論終結日平成30年10月10日
判原決告サノフィ
訴訟代理人弁護士

三村量一同東崎賢治同中島同松下昂永
訴訟代理人弁理士

南条雅裕同瀬田あや子同伊波興一朗被告慧
アムジエン・インコーポレーテッド

訴訟代理人弁護士

大野聖二同多田宏文同山口裕司
訴訟復代理人弁理士

森田主裕文1
原告の請求を棄却する。

2
訴訟費用は原告の負担とする。

3
この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30
日と定める。
事実及び理由
第1請求
特許庁が無効2016-800066号事件について平成29年8月2日にした審決のうち,特許第5906333号の請求項1及び5に係る部分を取り消す。
第2事案の概要
1
特許庁における手続の経緯等

(1)

被告は,平成20年8月22日(優先日平成19年8月23日,同年1
2月21日,平成20年1月9日及び同年8月4日(以下「本件優先日」という。),優先権主張国米国)を国際出願日とする特許出願(特願2010-522084号)の一部を分割して,平成27年2月23日,発明の名称を「プロタンパク質コンベルターゼスブチリシンケクシン9型(PCSK9)に対する抗原結合タンパク質」とする発明について特許出願(以下「本件出願」という。)をし,平成28年3月25日,特許権の設定登録(特許番号第5906333号。請求項の数5。以下,この特許を「本件特許」という。甲201,211)を受けた。
(2)

原告は,平成28年5月31日,本件特許について特許無効審判(無効
2016-800066号事件)を請求した(甲212)。
被告は,平成29年3月9日付けの審決の予告(甲225)を受けたため,同年5月8日付けで,特許請求の範囲の請求項1,2及び5からなる一群の請求項のうち,請求項1及び5を訂正し,請求項2を削除する,請求項3及び4からなる一群の請求項を削除する旨の訂正請求(以下「本件訂正」という。甲203)をした。
その後,特許庁は,同年8月2日,本件訂正を認めた上,「本件特許の請求項1,5に係る発明についての審判請求は成り立たない。請求項2な
いし4に係る審判請求を却下する。」との審決(以下「本件審決」という。)をし,その謄本は,同月10日,原告に送達された。
(3)

原告は,平成29年12月8日,本件審決のうち,本件特許の請求項1
及び5に係る部分の取消しを求める本件訴訟を提起した。
2
特許請求の範囲の記載
本件訂正後の特許請求の範囲の請求項1及び5の記載は,以下のとおりで
ある(以下,請求項1に係る発明を「本件訂正発明1」,請求項5に係る発明を「本件訂正発明5」という。甲203)。
【請求項1】PCSK9とLDLRタンパク質の結合を中和することができ,PCSK9との結合に関して,配列番号67のアミノ酸配列からなる重鎖可変領域を含む重鎖と,配列番号12のアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域を含む軽鎖とを含む抗体と競合する,単離されたモノクローナル抗体。【請求項5】請求項1に記載の単離されたモノクローナル抗体を含む,医薬組成物。
3
本件審決の理由の要旨
本件審決の理由は,別紙審決書(写し)記載のとおりである。このうち,
請求項1及び5に係る部分の要旨は,以下のとおりである。
(1)

サポート要件違反(無効理由1)について
①(明細書の)発明の詳細な説明には,本件訂正発明1に含まれる具体
的な抗体が多種類記載されているし,その作成方法及びスクリーニング方法の記載に基づいて本件訂正発明1に含まれる抗体をさらに得ることができると当業者は理解できるから,本件訂正発明1はその全体にわたって発明の詳細な説明に記載したものであり,②本件訂正発明1の抗体が医薬として使用できることは,理論的にも,実験的にも記載されているから,本件訂正発明5も,発明の詳細な説明に記載したものである。
したがって,本件訂正発明1及び5は,特許法36条6項1号の規定す
る要件(サポート要件)を満たすから,請求人(原告)主張の無効理由1は理由がない。
(2)

実施可能要件違反(無効理由2)について
発明の詳細な説明には,本件訂正発明1に係る抗体及び本件訂正発明5
に係る医薬組成物について,当業者が作り,使うことができる程度に記載されているから,本件訂正発明1及び5は特許法36条4項1号の定める要件(実施可能要件)を満たしていないとの請求人(原告)主張の無効理由2は理由がない。
(3)

甲1を主引用例とする進歩性欠如(無効理由4)について
本件優先日前に頒布された刊行物である甲1(「J.Clin.Inv
est.,vol.116(11),pp.2995-3005(2006)」・訳文甲1の2)は,高コレステロール血症の治療用医薬を開発する目的で,PCSK9とLDLRの相互作用を阻害する物質を探索する動機づけを与えるものであり,生体分子間の相互作用を阻害する物質として抗体は周知であるから,当業者であれば,PCSK9とLDLRの相互作用を阻害する抗体の作成を容易に想到し得るとまでは認められる。しかしながら,技術常識を考慮しても,甲1から,「配列番号67のアミノ酸配列からなる重鎖可変領域を含む重鎖と,配列番号12のアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域を含む軽鎖とを含む抗体」という特有の構造を有する抗体を導き出すことはできないし,まして,当該抗体と「競合する抗体」についてはなおさらであるから,本件訂正発明1及び5は,甲1及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものと認められず,請求人(原告)主張の無効理由4は理由がない。
第3当事者の主張
1
取消事由1-1(本件訂正発明1の進歩性の判断の誤り)

(1)

原告の主張


甲1の開示事項について

(ア)

甲1の記載事項(2995頁の3行~14行(「要約」),300
2頁左欄下から7行~右欄4行,3002頁右欄下から6行~最終行)によれば,甲1には,PCSK9がLDLRに対して細胞外で結合して,LDLRの減少を導くことを実証した上で,PCSK9とLDLRとの相互作用(結合)を阻害(中和)する結合中和抗体が高コレステロール血症の治療のために有用であり得ることが明示的に開示されている。
上記開示事項は,PCSK9とLDLRとの結合を阻害する抗体(結合中和抗体)を取得し,その有用性を試験することを明示的に動機づけるものといえる。
(イ)

甲1の記載事項によれば,甲1には,「PCSK9とLDLRとの
結合を阻害する抗体」の開示がある。
そして,本件訂正発明1と甲1記載の発明の一致点及び相違点は,次のとおりである。
(一致点)
「PCSK9とLDLRとの結合を阻害する抗体」である点
(相違点1)
PCSK9とLDLRとの結合を阻害する抗体が,本件訂正発明1では,単離されたモノクローナル抗体であるのに対し,甲1には,その点が明示的には記載されていない点
(相違点2)
PCSK9とLDLRとの結合を阻害する抗体が,本件訂正発明1では,「配列番号67のアミノ酸配列からなる重鎖可変領域を含む重鎖と,配列番号12のアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域を含む軽鎖とを含む抗体」(以下「31H4抗体」又は「参照抗体」という場合がある。)
と競合するのに対し,甲1には,その点が明示的には記載されていない点イ
相違点1の容易想到性について
本件優先日当時,抗原に対して特異的な結合を有するモノクローナル
抗体を作成する方法(動物免疫法,ファージディスプレイ法等),種々のモノクローナル抗体の中から結合中和抗体を選別するアッセイ方法(抗体のスクリーニングにおいて抗原をビオチン化により固相化する方法等)は,周知であった(例えば,甲220ないし224)。
そして,甲1に接した当業者は,PCSK9とLDLRとの結合中和抗体を取得し,その有用性を試験することの動機づけがあるから(前記ア(ア)),甲1及び上記周知技術に基づいて,PCSK9とLDLRとの結合を阻害するモノクローナル抗体(相違点1に係る本件訂正発明1の構成)を容易に想到することができたものである。

相違点2の容易想到性について

(ア)

PCSK9とLDLRとの結合中和抗体が,PCSK9上のLDL
Rと結合する部位又はせいぜいそのごく近傍においてPCSK9に結合しようとする際に,同様の部位に結合しようとする参照抗体と競合すること(同時に存在したならば,立体的にぶつかりあうこと)は,当然に大いに生じ得ることである。
PCSK9とLDLRとの結合中和抗体の多くが,参照抗体と競合することは,本件出願の願書に添付した明細書(以下,図面を含め
て,「本件明細書」という。甲201)記載の図27D(PCSK9上のLDLR及び参照抗体の結合部位の位置関係を示した図)及び実施例37の表37.1(参照抗体と競合するか否かを何ら指標とすることなく,PCSK9とLDLRとの結合中和抗体を複数作成したところ,そのような抗体の多く(ビン1~4の抗体の総数に対するビン2~3の抗
体の数の割合が約38%)が,参照抗体と競合するものであったことを記載したもの)から裏付けられる。
さらには,本件明細書に記載されたデータに基づいて解析を行った,A教授の平成29年11月5日付け及び平成30年4月22日付け各供述書(甲204,215。以下,これらを併せて,「A教授の供述書」という。)によっても裏付けられる。
したがって,PCSK9とLDLRとの結合中和抗体を取得した場合,その中には参照抗体と競合する抗体が多く含まれており,少なくとも所定の割合で含まれているといえるから,当業者は,何らかのPCSK9とLDLRとの結合中和抗体をいくつか作成するだけで,参照抗体と競合する結合中和抗体を取得し得たものといえる。
(イ)

そして,甲1に接した当業者は,PCSK9とLDLRとの結合中
和抗体を取得し,その有用性を試験することの動機づけがあるから(前記ア(ア)),甲1及び前記イの周知技術に基づいて,PCSK9とLDLRとの結合中和抗体をいくつか作成するだけで,参照抗体と競合する結合中和抗体(相違点2に係る本件訂正発明1の構成)を容易に想到することができたものである。
(ウ)

これに対し,被告は,本件訂正発明1の抗体は,免疫応答を誘導す
るための免疫補助剤(アジュバント)の使用など,動物免疫法における工夫,PCSK9をプレートに付着させる固相化法として,ビオチン-ニュートラビジンリンカーを介してプレートに固相化する方法(ビオチン化による固相化法)の採用,変異型PCSK9(D374Y

PCS

K9)を用いた,参照抗体と競合する抗体のスクリーニング系などに特徴がある,本件明細書記載の作製方法によって初めて得られたものであって,本件優先日当時の周知技術のみでは本件訂正発明1の抗体を取得することはできなかった旨主張する。

しかしながら,前記イのとおり,本件優先日当時,動物免疫法,ファージディスプレイ法等によりモノクローナル抗体を作成する方法や,ビオチン化による固相化法は周知であったものであり,動物免疫法における免疫補助剤の使用も,既に行われていたものにすぎない(例えば,甲220)。
また,本件優先日前のPCSK9とLDLRとの結合中和抗体に関するメルク社(メルク

エンド

カンパニー

インコーポレーテッド)の

出願(乙7)及びノバルティス社(ノバルティス

アーゲー。以下同

じ。)の出願(乙9)では,動物免疫法を採用せずに,いずれもファージディスプレイ法を採用し,変異型PCSK9を用いたスクリーニングも行っていないこと,メルク社の出願ではビオチン化による固相化法ではなく,V5-タグを用いた固相化法を採用し,ノバルティス社の出願では,ビオチン-ストレプトアビジンを用いたビオチン化による固相化法を採用していることに照らすと,被告主張の動物免疫法の工夫,ビオチン化による固相化法及び変異型PCSK9を用いたスクリーニングの採用がなくても,従来技術によって,PCSK9とLDLRとの結合中和抗体を取得できたことは明らかである。
そして,何らかのPCSK9とLDLRとの結合中和抗体をいくつか作成するだけで,参照抗体と競合する結合中和抗体を取得し得たことは,前記ウ(ア)のとおりであるから,被告の上記主張は理由がない。エ
小括
以上のとおり,当業者は,甲1及び周知技術に基づいて,本件訂正発明1に含まれる抗体を容易に想到することができたものであるから,これと異なる本件審決の判断は誤りである。

(2)

被告の主張
甲1の開示事項の主張に対し

(ア)

甲1には,PCSK9とLDLRとの相互作用を阻害する抗体を取
得する可能性が記載されているにすぎず,PCSK9とLDLRとの結合中和抗体を取得したことはもちろんのこと,そのような抗体自体の記載もない。
また,甲1には,特定の参照抗体と競合する抗体はもちろんのこと,そのような抗体が血清LDLコレステロールの低下に特に適していることについての記載も示唆もない。
さらに,本件優先日当時,体内におけるPCSK9の正確な機能及び作用機構は判明しておらず,PCSK9が実際に細胞内で機能するのか,細胞外で機能するのか,そのどちらが有意な経路であるのかは不明であった。また,甲1に,「現在入手可能なデータは,PCSK9が細胞外と細胞内とで機能し得ることを示唆するが,しかし,いずれの経路が通常のおよび/または病的条件下において優勢であるのか分からない。」などの記載があることからすると,甲1は,PCSK9が細胞外でLDLRに作用することを実証したものとはいえない。むしろ,甲1の著者らが本件優先日の前後に公表した著作(乙4,5)によれば,甲1の著者らは,本件優先日時点で,PCSK9が体内の細胞外でLDLRに作用すると判断できていなかったものである。
以上によれば,甲1の記載事項は,PCSK9とLDLRとの結合中和抗体を取得し,その有用性を試験することの動機づけとはならない。(イ)

前記(ア)のとおり,甲1には,PCSK9とLDLRとの結合中和
抗体の記載はないから,原告主張の本件訂正発明1と甲1記載の発明の一致点は存在しない。

相違点1及び2の容易想到性の主張に対し

(ア)

甲1には,PCSK9とLDLRとの結合を中和するモノクローナ
ル抗体を得ることについての記載も示唆もない。

また,本件訂正発明1の抗体は,本件明細書に開示された特定の方法を用いて初めて得られたものであり,その方法は,周知慣用技術とは異なるものである。すなわち,本件明細書の表3に示されるように非常に強力な免疫計画を確立し,動物の免疫システムにできるだけ多くの表面領域に結合する抗体を作製させるようにし,PCSK9の投与部位を交互に入れ替え,強力な免疫応答を誘導するための免疫補助剤(アジュバント)を交互に使用することにより,多様な抗PCSK9抗体のプールを得たこと,PCSK9をプレートに付着させる固相化法として,ビオチン-ニュートラビジンリンカーを介してプレートに固相化する方法(ビオチン化による固相化法)を採用したこと,変異型PCSK9(D374Y

PCSK9)を用いた,参照抗体と競合する抗体のス

クリーニング系の構築において極めて高い基準を設定したことに特徴がある。
加えて,本件優先日当時,①周知慣用技術のみを用いて取得し得た,参照抗体又は本件訂正発明1とはLDLRとの結合部位が異なる,PCSK9とLDLRとの結合中和抗体が様々に存在し得たこと(乙7,9),②PCSK9がいずれの箇所でLDLRと結合しているのか知られておらず,適したPCSK9の固相化法を選択する必要性も知られていなかったこと,③参照抗体と競合する特性を有する抗体を得るためのスクリーニング系が存在せず,周知慣用技術には,そのような特性を有する抗体を選択するための他の指標は存在しなかったことに照らすと,当業者は,甲1及び周知技術に基づいて,本件訂正発明1(「PCSK9とLDLRタンパク質の結合を中和することができ,PCSK9との結合に関して,参照抗体と競合する,単離されたモノクローナル抗体」)を容易に想到することができたものとはいえない。
(イ)

この点に関し,原告は,PCSK9とLDLRとの結合中和抗体を
取得した場合,その中には参照抗体と競合する抗体が多く含まれており,少なくとも所定の割合で含まれているから,当業者は,何らかのPCSK9とLDLRとの結合中和抗体をいくつか作成するだけで,参照抗体とも競合する結合中和抗体を取得し得たから,当業者は,甲1及び周知技術に基づいて,本件訂正発明1を容易に想到することができた旨主張する。
しかしながら,原告が根拠として挙げる本件明細書記載の表37.1は,参照抗体又は21B12抗体と競合するものの一部を記載したものであって,この表を分析しても,PCSK9とLDLRとの結合中和抗体のうち,参照抗体と競合する抗体の割合を導き出すことはできない。また,原告が根拠として挙げるA教授の供述書における本件明細書の図27Dに基づく分析は,「競合領域」の設定が適切でなく,PCSK9の表面の立体形状を考慮していない,具体的な実証データに基づく分析ではないなどの問題(乙1)がある。
したがって,原告の上記主張は,その前提において理由がない。

小括
以上のとおり,当業者は,甲1及び周知技術に基づいて,本件訂正発明1に含まれる抗体を容易に想到することができたものとはいえないから,これと同旨の本件審決の判断に誤りはない。

2
取消事由1-2(本件訂正発明5の進歩性の判断の誤り)

(1)

原告の主張
本件訂正発明5は,本件訂正発明1記載の抗体を含む医薬組成物に関す
る発明である。
前記1(1)ア(ア)のとおり,甲1には,PCSK9とLDLRとの結合中和抗体が高コレステロール血症の治療のために有用であり得ることが明示的に開示されている。

そうすると,前記1(1)と同様の理由により,当業者は,甲1及び周知技術に基づいて,本件訂正発明5に含まれる医薬組成物を容易に想到することができたものであるから,これと異なる本件審決の判断は誤りである。(2)

被告の主張
原告の主張は争う。

3
取消事由2(サポート要件の判断の誤り)

(1)

原告の主張
本件訂正発明1における解決すべき課題は,「PCSK9とLDLRタンパク質の結合を中和することができる抗体」を提供すること,すなわち,PCSK9とLDLRとの結合中和抗体を提供することであり,本件訂正発明5における解決すべき課題も,同様に,PCSK9とLDLRとの結合中和抗体を含む医薬組成物を提供することである。

イ(ア)

本件訂正発明1の特許請求の範囲(請求項1)は,抗体の構造を特
定することなく,機能ないし特性(「結合中和」及び「参照抗体との競合」)のみによって定義された発明であるため,文言上ありとあらゆる構造の膨大な数ないし種類の抗体を含むものである。
すなわち,抗体の結合特異性は,相補性決定領域(CDR)のアミノ酸配列,主として,重鎖CDR1,重鎖CDR2及び重鎖CDR3(以下「重鎖CDR1~3」と総称する場合がある。)と軽鎖CDR1,軽鎖CDR2及び軽鎖CDR3(以下「軽鎖CDR1~3」と総称する場合がある。)によって決定され,重鎖CDR1~3や軽鎖CDR1~3において,1アミノ酸が置換・付加・欠失しただけでも,置換等の位置や種類によっては,結合特異性をほとんど失うこともごく一般的であることは,技術常識である。
しかるところ,本件訂正発明1は,抗体の構造を特定していないため,本件訂正発明1には,参照抗体の重鎖可変領域(重鎖CDR1~3を含
む。)及び軽鎖可変領域(軽鎖CDR1~3を含む。)とはアミノ酸配列において全く異なる重鎖可変領域及び軽鎖可変領域を有する多種多様な結合中和抗体も文言上含まれ得る。さらには,本件訂正発明1には,未だ知られていない膨大な種類の抗体も文言上含まれ得る。
(イ)

本件明細書の発明の詳細な説明には,本件訂正発明1に文言上含ま
れ得る具体的な抗体として,わずか2グループないし2種類の抗体しか記載されていない。
すなわち,本件明細書記載の実施例37(段落【0489】~【0495】)には,表37.1のビン2とビン3に分類された抗体が,本件訂正発明1の「参照抗体と競合する」との要件を充足する抗体であることの記載がある。これらの抗体について,本件明細書記載の重鎖CDR1~3及び軽鎖CDR1~3のアミノ酸配列の同一性を検討し,そのアミノ酸配列に基づいて,アミノ酸置換が許容され得ると認識される範囲のものを分類すると,参照抗体(グループ1),28D6抗体及びその変異体(グループ2)の2グループの抗体に分類される。そして,グループ1には,参照抗体自体しか含まれない。
このような本件明細書に記載された具体的な抗体(わずか2グループないし2種類の抗体)から,本件訂正発明1の特許請求の範囲(請求項1)に含まれ得る抗体全体にまで拡張ないし一般化することはできない。(ウ)

本件訂正発明1は,特定の参照抗体と「競合する」ことによって特
定されるPCSK9とLDLRとの結合中和抗体の発明であるところ,参照抗体と「競合する」抗体であれば,PCSK9とLDLRとが結合中和するとはいえず,参照抗体と「競合する」抗体であることは,「結合中和」の指標にはならない。
すなわち,ある抗体が「PCSK9との結合に関して参照抗体と競合する」というのは,基本的には,当該ある抗体が,参照抗体と物理的な
障害を生じさせる位置でPCSK9に結合することを意味するが,当該位置が,PCSK9とLDLRとの結合を阻害する位置とは限らない。このことは,本件明細書の図27Dを基に作成した別紙3の図A及びBからも,明らかである。図Bのとおり,参照抗体(31H4抗体)と21B12抗体との結合部位との中間付近がPCSK9とLDLRとの結合部位であるところ,参照抗体(31H4抗体)の右上側でPCSK9に結合する抗体(紫の楕円で示した仮想の抗体)は,参照抗体(31H4抗体)と競合するが,PCSK9とLDLRの結合を中和することはできない。さらに,参照抗体と「競合する」としても,PCSK9とLDLRとが結合中和するとはいえないことは,A教授の供述書によっても裏付けられる。
加えて,本件明細書の実施例では,抗体の取得の段階においてまずPCSK9とLDLRとの結合を中和する抗体を選別する中和試験を行った後に,参照抗体との競合試験を行っているから,本件明細書の発明の詳細な説明に記載された試験によっては,参照抗体と競合することによって,PCSK9とLDLRとの結合を中和する抗体であることを示すことができない
したがって,本件明細書の記載から,参照抗体と「競合する」抗体であれば,PCSK9とLDLRとの結合中和抗体の提供という本件訂正発明1の課題を解決できると認識し得るものとはいえない。
(エ)

以上によれば,本件明細書に記載されていないありとあらゆる構造
の抗体についてまでも,本件明細書の記載から,PCSK9とLDLRとの結合中和抗体の提供という本件訂正発明1の課題を解決できると認識し得るものではない。

本件訂正発明1は,発明の対象である抗体について,物の構造としての特定を一切することなく,スクリーニング方法(①PCSK9に結合す
る抗体を選別・取得し,それらのうち,②PCSK9とLDLRの結合を中和する抗体であるものを選別・取得し,さらに,それらのうち,③「特定の参照抗体と競合する」抗体を選別・取得して得るというもの)によって特定している物の発明である。
本件明細書記載の実施例の参照抗体(31H4抗体)が,PCSK9とLDLRとの結合を阻害する結合中和抗体であるとしても,本件訂正発明1のように「自分の実施例抗体と競合する抗体はありとあらゆる構造の抗体であっても全て自分のもの」という機能的な限定のみの強力なクレームがまかりとおれば,公開されていない発明について独占的,排他的な権利が発生することになり,特許法の目的である産業の発達を阻害し,特許制度の趣旨に反する事態が生じることは明らかである。したがって,本件訂正発明1のように,物(抗体)の具体的な構造が特許請求の範囲において特定されておらず,その物が機能的にのみ定義され,スクリーニング方法によって特定された物の発明である場合には,機能的な定義やスクリーニング方法の特定は,サポート要件を基礎付けることにはならないというべきである。

以上によれば,本件訂正発明1は,サポート要件を充足せず,また,本件訂正発明5も,これと同様である。
したがって,本件訂正発明1及び5はサポート要件を満たすとした本件審決の判断は誤りである。

(2)

被告の主張
本件明細書には,①抗PCSK9モノクローナル抗体を得ることができ,その中から良好にPCSK9とLDLRとの結合を遮断するモノクローナル抗体を得ることができること(【0325】~【0336】),②参照抗体が,極めて良好にPCSK9とLDLRとの結合を遮断すること(実施例11,図20A),③PCSK9とLDLRとの結合を遮断
する抗PCSK9モノクローナル抗体が,いずれも細胞膜上のLDLRレベルを増加させ,このLDLRレベルの増加は,血清LDLコレステロールレベルの減少に有効であること(実施例12,14,26,図7A~D,12A,B,D及びE,14A及びB),④参照抗体と競合する抗体は,PCSK9とLDLRとの結合を抑制できること(実施例10,表8.3)の記載がある。
そうすると,当業者は,本件明細書の記載から,本件訂正発明1の技術的範囲全体にわたって,本件訂正発明1の課題を解決できると認識できたものである。
したがって,本件訂正発明1(請求項1)がその発明の効果を奏するであろうことは,本件明細書の記載及び技術常識に基づいて理解できるから,本件訂正発明1は,本件明細書のサポート要件に適合し,これを引用する本件訂正発明5(請求項5)もサポート要件に適合する。イ(ア)

これに対し原告は,本件訂正発明1の特許請求の範囲(請求項1)
は,抗体の構造を特定することなく,機能ないし特性(「結合中和」及び「参照抗体との競合」)のみによって定義された発明であるため,文言上ありとあらゆる構造の膨大な数ないし種類の抗体を含むものであり,また,参照抗体と「競合する」抗体であれば,PCSK9とLDLRとが結合中和するとはいえず,参照抗体と「競合する」抗体であることは,「結合中和」の指標にはならないから,本件明細書に記載されていないありとあらゆる構造の抗体についてまでも,本件明細書の記載から,PCSK9とLDLRとの結合中和抗体の提供という本件訂正発明1の課題を解決できると認識し得るものではない旨主張する。
しかしながら,抗体の製造プロセスでは,免疫により優れた結合特性を有する抗体が,動物の体内で⽣み出され得て,その産⽣過程で発明に適したアミノ酸配列が決定されていくことから,特定の結合特性を有す
る抗体を得るときに,その抗体のアミノ酸配列を設計しておく必要はない。
また,抗体の特性が分かれば,その特性を試験してスクリーニングすることにより所望の特性を有する抗体を得ることができることは,本件優先日当時の技術常識である。
さらに,抗体の技術分野においては,抗体のアミノ酸配列そのものは,抗体を特定するために必須であるとは考えられていないし,アミノ酸配列を記載しなくても,抗体の特性が分かればその抗体が奏する効果との関係を把握するに十分であると考えられている。
そして,本件訂正発明1(請求項1)は,参照抗体(31H4抗体)とPCSK9との結合に関して競合するとの特性を有することで発明を特定したものであるところ,当業者においては,前記アの本件明細書の記載事項及び技術常識に基づいて,抗体のアミノ酸配列を参照しなくとも,本件訂正発明1の特性を有する抗体を得ることができたといえるし,そのようにして得られた抗体が発明の効果を奏することも十分に理解できたものである。
仮に参照抗体と競合するが,PCSK9とLDLRとの結合を中和できない例外的な抗体が存在していたとしても,そのような例外的な抗体は,本件訂正発明1が「PCSK9とLDLRタンパク質の結合を中和することができ」ることを発明特定事項としているため,その技術的範囲から文言上除外されており,本件明細書の記載に基づいて,PCSK9とLDLRとの相互作用を確認することにより技術的にも困難なく取り除くことができる。また,原告が述べるように抗体のアミノ酸配列のうち1アミノ酸が置換・付加・欠失することにより,抗体の結合特性が失われる場合があるとしても,本件訂正発明1は,「PCSK9とLDLRタンパク質の結合を中和することができ」る抗体であることを発明
特定事項とし,抗体のそのアミノ酸配列は問わない規定をしているから,アミノ酸配列自体の異同を議論することに意味はない。
したがって,原告の上記主張は理由がない。
(イ)

次に,原告は,本件訂正発明1は,発明の対象である抗体について,
物の構造としての特定を一切することなく,スクリーニング方法によって特定している物の発明であり,機能的な定義やスクリーニング方法の特定は,サポート要件を基礎付けることにはならない旨主張する。しかしながら,前記(ア)のとおり,当業者は,本件明細書の記載事項及び技術常識に基づいて,抗体のアミノ酸配列を参照しなくとも,本件訂正発明1の結合特性を有する抗体を得ることができたといえるし,そのようにして得られた抗体が発明の効果を奏することも十分に理解できたものであるから,当業者が,本件訂正発明1がその発明の効果を奏することを理解する上で,抗体のアミノ酸配列を参照する必要はない。また,アミノ酸配列を全く規定せずに,競合等の特性のみによって規定した請求項の記載形式によって抗PCSK9抗体の特許を取得した実務例(乙2,3)も存在しており,アミノ酸配列で抗体を限定する場合のみが,抗体の請求項の記載形式であるとはいえないし,本件訂正発明1のクレームが過度に広範であるということもできない。
したがって,原告の上記主張は理由がない。

以上によれば,本件訂正発明1は,サポート要件に適合し,また,本件訂正発明5も,これと同様である。
したがって,本件訂正発明1及び5は,サポート要件を満たすとした本件審決の判断に誤りはない。

4
取消事由3(実施可能要件の判断の誤り)

(1)

原告の主張
本件訂正発明1は,物の発明であるから,特許請求の範囲に含まれる個
々の抗体の全体について,実施可能要件が充足されていなければならない。
しかるところ,本件訂正発明1は,抗体の構造を特定することなく,機能的にのみ定義されており,極めて多種類の抗体を含むものである。そのような権利範囲には,本件明細書の発明の詳細な説明において本件訂正発明1に含まれ得る抗体として記載された具体的な抗体(2グループないし2種類の抗体)とはアミノ酸配列が全く異なる多種多様な構造の抗体も文言上含まれ得るし,当然ながら,今後発見される,いまだ全く知られていない抗体も全て含まれている。
しかしながら,本件訂正発明1において,PCSK9とLDLRとの結合を中和すること及び特定の参照抗体と競合することという抗体が有すべき機能が特定されたからといって,当該機能を有する抗体の構造を当業者が理解できるものではない。特に,重鎖CDR1~3や軽鎖CDR1~3において,1アミノ酸が置換・付加・欠失しただけでも,置換等の位置や種類によっては,結合特異性をほとんど失うこともごく一般的であるため,本件明細書の発明の詳細な説明に本件訂正発明1に含まれ得る抗体としていくつかの抗体が具体的に記載されていたとしても,当業者が,当該実施例抗体以外の,構造が特定されていない本件訂正発明1の特許請求の範囲の全体に含まれる,ありとあらゆる抗体を取得するには,無数の抗体を製造し続け,各試験を行い続け,抗体を発見しなければならない。
本件訂正発明1の特許請求の範囲に含まれる全体の抗体を得るためには,当業者に期待し得る程度を超える過度の試行錯誤を要することは明らかであるから,本件訂正発明1は,実施可能要件を満たさない。また,本件訂正発明5も,これと同様である。

本件訂正発明1は,発明の対象である抗体について,物の構造としての
特定を一切することなく,スクリーニング方法(①PCSK9に結合する抗体を選別・取得し,それらのうち,②PCSK9とLDLRの結合を中和する抗体であるものを選別・取得し,さらに,それらのうち,③「特定の参照抗体と競合する」抗体を選別・取得して得るというもの)によって特定している物の発明である。
しかるところ,スクリーニング方法の発明が特許を受けられる場合であっても,スクリーニング方法によって特定される化合物の発明は特許を受けることができないと解されている(知財高裁平成22年5月10日判決(平成21年(行ケ)第10170号)参照)。なぜなら,特許請求の範囲の全体には,多種多様な物が含まれているが,特許請求の範囲全体に含まれる物がどのような物であるかを当業者が把握できないため,特許請求の範囲の全体を実施するためには,無数の物を製造し,確認試験をしなければならず,当業者に過度の試行錯誤を強いることとなり,実施可能要件を満たさないからである。
したがって,本件訂正発明1をスクリーニング方法によって特定される物(抗体)として特許請求の範囲を記載したとすれば実施可能要件違反となるのと同様,それと実質的に変わらない本件訂正発明1が実施可能要件違反であることは当然である。本件訂正発明5も,これと同様である。

本件訂正発明1は,抗体の有すべき機能(解決すべき課題)を発明特定事項としているが,実施可能要件は実質的な要件であるから,その物が有すべき機能を発明特定事項に記載したとしても,そのことによって当業者が当該発明に属する物の全てを使用できるとはいえず,実施可能要件を充足することにはならない。この場合,実施可能要件違反にならないとすれば,機能的に定義された,いかなる広範囲のクレームであっても,実施可能要件を充足することが可能となり,実施可能要件の判断が
形式的なものに貶められる。本件訂正発明5も,これと同様である。エ
以上によれば,本件訂正発明1は,実施可能要件を充足せず,また,本件訂正発明5も,これと同様である。
したがって,本件訂正発明1及び5は,実施可能要件を満たすとした本件審決の判断は誤りである。

(2)

被告の主張
本件訂正発明1を実施するためには,その技術的範囲に含まれるありとあらゆる抗体のアミノ酸配列を知る必要はなく,また,ありとあらゆる抗体を取得することも必要ない。例えば,参照抗体(31H4抗体)と競合し,PCSK9とLDLRとの相互作用を中和することができる抗体は,アミノ酸配列で区別することなく,本件訂正発明1の実施に用い得る。
したがって,当業者であれば,本件明細書の記載に基づいて,参照抗体以外の抗体のアミノ酸配列を知ることなく,本件訂正発明1で規定された抗体を作製することができたものである。
本件訂正発明1で規定された抗体を作製するのに,当業者に期待し得る程度を超える過度の試行錯誤を要することはない。


また,抗体取得の再現性に関しては,本件明細書では,参照抗体とPCSK9との結合に関して競合する抗体をどのようにすれば取得できるかが,具体的に開示されており,参照抗体とPCSK9との結合に関して競合する抗体を複数取得できたことは,表8.3のビン3に複数の抗体がリストされていることから明らかである。
したがって,本件明細書の記載に基づいて,本件訂正発明1で規定された抗体を再現性を持って取得できることが理解できる。


以上によれば,本件訂正発明1は,実施可能要件に適合し,また,本件訂正発明5も,これと同様であるから,これと同旨の本件審決の判断に
誤りはない。
第4当裁判所の判断
1
取消事由1-1(本件訂正発明1の進歩性の判断の誤り)について(1)

本件明細書の記載事項等について
本件訂正発明1及び5の特許請求の範囲(請求項1及び5)の記載は,前記第2の2のとおりである。
本件明細書(甲201)の「発明の詳細な説明」には,次のような記載がある(下記記載中に引用する「表2」,「表3」,「表8.
3」,「表37.1」,「図1A」,「図7AないしD」,「図14A及びB」,「図20AないしD」及び「図27D」については別紙1参照)。
(ア)

技術分野

【0002】
本発明は,プロタンパク質コンベルターゼスブチリシンケクシン9型(PCSK9)に結合する抗原結合タンパク質並びに該抗原結合タンパク質を使用及び作製する方法に関する。
(イ)

背景技術

【0003】
プロタンパク質コンベルターゼスブチリシンケクシン9型(PCSK9)は,低密度リポタンパク質受容体(LDLR)タンパク質のレベルの制御に関与するセリンプロテアーゼである(Horton
t
al.,2007;Seidah

and

e
Prat,200

7)。インビトロ実験は,HepG2細胞へのPCSK9の添加は細胞表面LDLRのレベルを低下させることを示している(Benjannet

et

al.,2004;Lagace

2006;Maxwell

et

et

al.,

al.,2005;Park

et
al.,2004)。マウスを用いた実験は,PCSK9タンパ

ク質レベルを増加させることが肝臓中のLDLRタンパク質のレベルを減少させる(Benjannet
gace

et

et

al.,2004;La

al.,2006;Maxwell

l.,2005;Park

et

et

al

al.,2004)が,PCSK

9ノックアウトマウスは肝臓中のLDLRの増加したレベルを有する(Rashid

et

al.,2005)ことを示した。さらに,

血漿LDLの増加又は減少したレベルの何れかをもたらす様々なヒトPCSK9変異が同定されている(Kotowski
2006;Zhao

et

et

al.,

al.,2006)。PCSK9は,L

DLRタンパク質と直接相互作用し,LDLRとともに細胞内に取り込まれ,エンドソーム経路全体を通じてLDLRと同時に免疫蛍光を発する(Lagace

et

al.,2006)ことが示されてい

る。PCSK9によるLDLRの分解は観察されておらず,細胞外LDLRタンパク質レベルを低下させる機序は不明である。
(ウ)

発明を実施するための形態

【0066】
当業者によって理解されるように,本発明の開示に照らせば,PCSK9とLDLRの間の相互作用を変化させることは,LDLへの結合に利用可能なLDLRの量を増加させ,続いて,これは,対象中の血清LDLの量を減少させ,対象の血清コレステロールレベルの低下をもたらす。従って,PCSK9に対する抗原結合タンパク質は,上昇した血清コレステロールレベルを有する対象,上昇した血清コレステロールレベルのリスクを有する対象又は血清コレステロールレベルの低下が有益であり得る対象を治療するための様々な方法及び組成物において使用することができる。…幾つかの実施形態において,抗原結合タンパク質は,
LDLRへのPCSK9の結合を妨げ,又は低下させる。
【0071】
「PCSK9活性」という用語は,PCSK9のあらゆる生物学的効果を含む。ある種の実施形態において,PCSK9活性は,基質若しくは受容体と相互作用し,又は基質若しくは受容体に結合するPCSK9の能力を含む。幾つかの実施形態において,PCSK9活性は,LDL受容体(LDLR)に結合するPCSK9の能力によって表される。幾つかの実施形態において,PCSK9は,LDLRを含む反応に結合し,触媒する。幾つかの実施形態において,PCSK9活性は,LDLRの利用可能性を変化させる(例えば,低下させる)PCSK9の能力を含む。幾つかの実施形態において,PCSK9活性は,対象中のLDLの量を増加させるPCSK9の能力を含む。幾つかの実施形態において,PCSK9活性は,LDLへの結合に利用可能なLDLRの量を減少させるPCSK9の能力を含む。幾つかの実施形態において,「PCSK9活性」は,PCSK9シグナル伝達から生じるあらゆる生物活性を含む。典型的な活性には,LDLRへのPCSK9の結合,LDLR又は他のタンパク質を切断するPCSK9酵素活性…が含まれるが,これらに限定されない。
【0109】
本明細書において使用される「抗原結合タンパク質」(「ABP」)は,特定された標的抗原を結合するあらゆるタンパク質を意味する。本願において,特定された標的抗原は,PCSK9タンパク質又はその断片である。「抗原結合タンパク質」には,抗体及びその結合部分(免疫学的に機能的な断片など)が含まれるが,これらに限定されない。…本明細書において使用される抗体又は免疫グロブリン鎖(重鎖又は軽鎖)抗原結合タンパク質の「免疫学的に機能的な断片」(又は単に「断
片」)という用語は,完全長の鎖中に存在するアミノ酸の少なくとも幾つかを欠如するが,抗原になお特異的に結合することができる抗体の部分(当該部分がどのようにして取得され,又は合成されたかを問わない。)を含む抗原結合タンパク質の種である。このような断片は,標的抗原に結合し,あるエピトープへの結合に関して,完全な状態の抗体を含む他の抗原結合タンパク質と競合し得るという点で生物学的に活性を有する。幾つかの実施形態において,断片は,中和断片である。幾つかの実施形態において,断片は,LDLRとPCSK9の間の相互作用の可能性を遮断し,又は低下させることができる。一態様において,このような断片は,完全長の軽鎖又は重鎖中に存在する少なくとも1つのCDRを保持し,幾つかの実施形態において,単一の重鎖及び/又は軽鎖又はその一部を含む。…
【0123】
「抗原結合領域」は,特定の抗原(例えば,パラトープ)を特異的に結合するタンパク質又はタンパク質の一部を意味する。例えば,抗原と相互作用し,抗原に対するその特異性及び親和性を抗原結合タンパク質に対して付与するアミノ酸残基を含有する抗原結合タンパク質のその部分は,「抗原結合領域」と称される。抗原結合領域は,通例,1つ又はそれ以上の「相補性結合領域」(「CDR」)を含む。ある種の抗原結合領域は,1つ又はそれ以上の「フレームワーク」領域も含む。「CDR」は,抗原結合特異性及び親和性に寄与するアミノ酸配列であ
る。「フレームワーク」領域は,CDRの適切な立体構造の維持を補助して,抗原結合領域と抗原の間の結合を促進することができる。構造的には,フレームワーク領域は,抗体中においてCDR間に位置することができる。フレームワーク及びCDR領域の例は,図2Aから3D,3CCC-JJJ及び15Aから15Dに示されている。…

【0127】
可変領域は,3つの超可変領域(相補性決定領域又はCDRとも称される。)によって連結された,相対的に保存されたフレームワーク領域(FR)の同じ一般的構造を典型的に呈する。各対の2つの鎖から得られるCDRは,フレームワーク領域によって通例並列され,これにより,特異的なエピトープへの結合が可能となり得る。N末端からC末端へ,軽鎖及び重鎖可変領域は何れも,通例,ドメインFR1,CDR1,FR2,CDR2,FR3,CDR3及びFR4を含む。各ドメインへのアミノ酸の割り当ては,通例,免疫学的に関心が持たれるタンパク質のKabat配列の定義(National
of
d
Health,

Bethesda,

1991)),又は「Chothia

l.Biol.,196:901-917
hia

et

Institutes

al.,

Nature,

Md.(1987


an

Lesk,

J.Mo

(1987);

Chot

342:878-883

(1989)」に従う。
【0132】
「軽鎖」という用語は,完全長の軽鎖及び結合特異性を付与するのに十分な可変領域配列を有するその断片を含む。完全長軽鎖は,可変領域ドメイン,VL及び定常領域ドメイン,CLを含む。軽鎖の可変領域ドメインは,ポリペプチドのアミノ末端に位置する。軽鎖は,κ鎖及びλ鎖を含む。
【0133】
「重鎖」という用語は,完全長の重鎖及び結合特異性を付与するのに十分な可変領域配列を有するその断片を含む。完全長の重鎖は,可変領域ドメインVH及び3つの定常領域ドメインCH1,CH2及びCH3を含む。VHドメインはポリペプチドのアミノ末端に,及びCHドメイン
はカルボキシル末端に位置し,CH3がポリペプチドのカルボキシ末端に最も近い。重鎖は,IgG(IgG1,IgG2,IgG3及びIgG4サブタイプを含む。),IgA(IgA1及びIgA2サブタイプを含む。),IgM及びIgEなどのあらゆるイソタイプのものであり得る。
(エ)

【0138】

「中和抗原結合タンパク質」又は「中和抗体」という用語は,リガンドに結合し,そのリガンドの生物学的効果を妨げ,又は低下させる,それぞれ,抗原結合タンパク質又は抗体を表す。これは,例えば,リガンド上の結合部位を直接封鎖することによって,又はリガンドに結合し,間接的な手段(リガンド中の構造的又はエネルギー的変化など)を通じて,リガンドの結合能を変化させることによって行うことができる。…幾つかの実施形態において,PCSK9抗原結合タンパク質の場合には,このような中和分子は,PCSK9がLDLRを結合する能力を低減させることができる。幾つかの実施形態において,競合アッセイを介して,中和能力を性質決定し,及び/又は記載する。…幾つかの実施形態において,ABP27B2,13H1,13B5及び3C4は,非中和ABPであり,3B6,9C9及び31A4は弱い中和物質であり,表2中の残りのABPは強い中和物質である。幾つかの実施形態において,抗体又は抗原結合タンパク質は,PCSK9へ結合し,PCSK9がLDLRに結合するのを妨げる(又はPCSK9がLDLRに結合する能力を低下させる)ことによって中和する。幾つかの実施形態において,抗体又はABPは,PCSK9に結合し,PCSK9をLDLRへ結合させながら,LDLRのPCSK9媒介性分解を妨げ,又は低下させることによって中和する。…
【0140】

同じエピトープに対して競合する抗原結合タンパク質(例えば,中和抗原結合タンパク質又は中和抗体)という文脈において使用される場合の「競合する」という用語は,検査されている抗原結合タンパク質(例えば,抗体又は免疫学的に機能的なその断片)が共通の抗原(例えば,PCSK9又はその断片)への参照抗原結合タンパク質(例えば,リガンド又は参照抗体)の特異的結合を妨げ,又は阻害する(例えば,低下させる)アッセイによって測定された抗原結合タンパク質間の競合を意味する。ある抗原結合タンパク質が別の抗原結合タンパク質と競合するかどうかを決定するために,競合的結合アッセイの多数の種類,例えば,固相直接又は間接ラジオイムノアッセイ(RIA),固相直接又は間接酵素イムノアッセイ(EIA),サンドイッチ競合アッセイ(例えば,Stahli

et

nzymology

al,

1983,

Methods

in

E
9:242-253参照);固相直接ビオチン-

アビジンEIA(例えば,Kirkland

et

al,

1986,

J.Immunol.137:3614-3619参照),…固相直接ビオチン-アビジンEIA(例えば,Cheung,
1990,

Virology

et

al.,

176:546-552参照)…を使

用することができる。典型的には,このようなアッセイは,これらの何れかを有する固体表面又はセルに結合された精製抗原,標識されていない検査抗原結合タンパク質及び標識された基準抗原結合タンパク質を使用することを含む。競合的阻害は,検査抗原結合タンパク質の存在下で,固体表面又はセルに結合された標識の量を測定することによって測定される。通常,検査抗原結合タンパク質は過剰に存在する。競合アッセイによって同定される抗原結合タンパク質(競合抗原結合タンパク質)には,基準抗原結合タンパク質と同じエピトープに結合する抗原結合タンパク質及び立体的妨害が生じるのに,基準抗原結合タンパク質に結合さ
れるエピトープに十分に近接した隣接エピトープに結合する抗原結合タンパク質が含まれる。…
【0142】
「エピトープ」という用語は,抗体又はT細胞受容体などの抗原結合タンパク質によって結合され得るあらゆる決定基を含む。エピトープは,その抗原を標的とする抗原結合タンパク質によって結合される抗原の領域であり,抗原がタンパク質である場合,抗原結合タンパク質に直接接触する特定のアミノ酸を含む。最も頻繁には,エピトープはタンパク質上に存在するが,幾つかの事例では,核酸などの分子の他の種類上に存在することができる。エピトープ決定基は,アミノ酸,糖側鎖,ホスホリル又はスルホニル基などの分子の化学的に活性な表面基を含むことができ,特異的な三次元構造の特徴及び/又は特異的な電荷的特長を有することができる。一般に,特定の標的抗原に対して特異的な抗体は,タンパク質及び/又は高分子の複雑な混合物中において,標的抗原上のエピトープを優先的に認識する。
(オ)

【0154】

PCSK9に対する抗原結合タンパク質
プロタンパク質コンベルターゼスブチリシンケクシン9型(PCSK9)は,低密度リポタンパク質受容体(LDLR)タンパク質のレベルの制御に関与しているセリンプロテアーゼである(Horton
al,

2007;

Seidah

and

Prat,

et

2007)。

PCSK9は,セリンプロテアーゼのスブチリシン(S8)ファミリーのプロホルモン-プロタンパク質コンベルターゼである(Seidahet

al.,2003)。…PCSK9タンパク質の構造は,2つの

グループによって最近解決された(…)。PCSK9は,シグナル配列,N末端プロドメイン,スブチリシン様触媒ドメイン及びC末端ドメイン
を含む。
【0155】
ヒトPCSK9を含むPCSK9を結合する抗原結合タンパク質(ABP)は,本明細書中に記載されている。幾つかの実施形態において,提供される抗原結合タンパク質は,本明細書に記載されているように,1つ又はそれ以上の相補性決定領域(CDR)を含むポリペプチドである。同じ抗原結合タンパク質において,CDRは,CDRの適切な抗原結合特性が達成されるようにCDRを方向付ける「フレームワーク」領域中に包埋されている。幾つかの実施形態において,本明細書中に提供されている抗原結合タンパク質は,PCSK9とLDLR間の相互作用を妨害し,遮断し,低下させ,又は調節することができる。このような抗原結合タンパク質は,「中和」と表される。幾つかの実施形態において,抗原結合タンパク質が中和性であり,PCSK9に結合されている場合でさえ,PCSK9とLDLR間の結合はなお起こり得る。例えば,幾つかの実施形態において,ABPは,PCSK9上のLDLR結合部位を封鎖することなく,LDLRに対するPCSK9の悪影響を妨げ,又は低下させる。従って,幾つかの実施形態において,ABPは,PCSK9とLDLR間の結合相互作用を抑制する必要なしに,LDLRの分解をもたらすPCSK9の能力を調節し,又は変化させる。このようなABPは,「非競合的に中和する」ABPと特に記載することができる。幾つかの実施形態において,中和ABPは,PCSK9がLDLRに結合するのを妨げる位置及び/又は様式で,PCSK9に結合する。このようなABPは,「競合的に中和する」ABPと特に記載することができる。上記中和物質は何れも,対象中に存在している遊離のLDLRのより大きな量をもたらすことができ,これにより,LDLに結合しているより多くのLDLRがもたらされる(これにより,対象中のLD
Lの量を低下させる。)。続いて,これは,対象中に存在する血清コレステロールの量の低下をもたらす。
(カ)

【0170】

提供されている抗体の軽鎖及び重鎖の可変領域の幾つかの具体例及びそれらの対応するアミノ酸配列は表2中に要約されている。
【0172】
同じく,表2に列記されている典型的な可変重鎖の各々は,抗体を形成するために,表2に示されている典型的な可変軽鎖の何れとも組み合わせることができる。表2は,本明細書中に開示されている抗体の幾つかの中に見出される典型的な軽鎖及び重鎖の対を示している。…
(キ)

【0262】
…幾つかの実施形態において,ABPはABP31H4と競合する。
【0268】
幾つかの実施形態において,ABP21B12は,残基162から167(例えば,配列番号1の残基D162-E167)を含むエピトープに結合する。…
【0269】
競合する抗原結合タンパク質
別の態様において,PCSK9への特異的結合に関して,本明細書中に記載されているエピトープに結合する例示された抗体又は機能的断片の1つと競合する抗原結合タンパク質が提供される。このような抗原結合タンパク質は,本明細書中に例示されている抗原結合タンパク質の1つと同じエピトープ又は重複するエピトープにも結合し得る。例示された抗原結合タンパク質と同じエピトープと競合し,又は結合する抗原結合タンパク質及び断片は,類似の機能的特性を示すと予想される。例示された抗原結合タンパク質及び断片は,重鎖及び軽鎖可変領域ドメイン
並びに表2及び/又は図2から3及び15に含まれるCDRを有するものなど,上述されているものを含む。従って,具体例として,提供される抗原結合タンパク質には,
(a)図2から3及び15に列記されている抗体に対して列記されているCDRの6つ全て;
(b)表2中に列記されている抗体に対して列記されているVH及びVL;又は
(c)表2に列記されている抗体に対して明記されている2つの軽鎖及び2つの重鎖
を有する抗体又は抗原結合タンパク質と競合するものが含まれる。【0270】
ある種の治療的用途及び医薬組成物
ある種の事例において,PCSK9活性は,多数のヒトの病状と相関する。例えば,ある種の事例において,高すぎる又は低すぎるPCSK9活性は,高コレステロール血症などのある種の症状と相関する。従って,ある種の事例において,PCSK9活性を調節することは治療的に有用であり得る。ある種の実施形態において,PCSK9に対する中和的抗原結合タンパク質は,少なくとも1つのPCSK9活性(例えば,LDLRへの結合)を調節するために使用される。このような方法は,上昇した血清コレステロールレベルと関連する,又は上昇したコレステロールレベルが関連する疾患を治療し,及び/又は予防し,及び/又は疾患のリスクを低減することができる。
【0271】
当業者によって理解されるように,本開示に照らして,変動したコレステロール,LDL又はLDLRレベルと関連し,変動したコレステロール,LDL又はLDLRレベルを伴い,又は変動したコレステ
ロール,LDL又はLDLRレベルによって影響を受け得る疾患は,抗原結合タンパク質の様々な実施形態によって対処することができる。幾つかの実施形態において,(「血清コレステロール関連疾患」を含む)「コレステロール関連疾患」には,例えば,上昇した総血清コレステロール,上昇したLDL,上昇したトリグリセリド,上昇したVLDL及び/又は低HDLを呈し得る以下のもの:高コレステロール血症,心臓病,メタボリックシンドローム,糖尿病,冠状動脈性心臓病,卒中,心血管疾患,アルツハイマー病及び脂質異常症全般の何れか1つ又はそれ以上が含まれる。…
【0276】
幾つかの実施形態において,PCSK9に対する抗原結合タンパク質は,異常に高いレベル又は正常なレベルからPCSK9活性の量を減少させるために使用される。幾つかの実施形態において,PCSK9に対する抗原結合タンパク質は,高コレステロール血症を治療若しくは予防するために,並びに/又は高コレステロール血症及び/若しくは他のコレステロール関連疾患(本明細書中に記載されているものなど)に対する医薬の調製において使用される。ある種の実施形態において,PCSK9に対する抗原結合タンパク質は,PCSK9活性が正常である高コレステロール血症などの症状を治療又は予防するために使用される。このような症状において,例えば,正常を下回るPCSK9活性の低下は,治療効果を提供することができる。
(ク)

【0312】

(実施例1)
免疫化及び力価測定
抗PCKS9抗体及びハイブリドーマの作製
PCSK9の成熟形態に対する抗体(図1A中の配列として図示されて
おり,プロドメインに下線が付されている。)を,ヒト免疫グロブリン遺伝子を含有するマウスであるXenoMouse(R)マウス(Abgenix,

Fremont,

CA)中で作製した。PCSK9に対

する抗体を作製するために,XenoMouse(R)マウスの2つのグループ(グループ1及び2)を使用した。グループ1は,完全ヒトIgG2κ及びIgG2λ抗体を産生するXenoMouse(R)系統XMG2-KLのマウスを含んだ。グループ1のマウスを,ヒトPCSK9で免疫化した。GenBank配列を参照として(NM_174936)を使用する標準的組換え技術を用いて,PCSK9を調製した。グループ2は,完全ヒトIgG4κ及びIgG4λ抗体を産生するXenoMouse(R)系統XMG4-KLのマウスを含んだ。グループ2のマウスも,ヒトPCSK9で免疫化した。
【0313】
表3中のスケジュールに従って,両グループのマウスに抗原を11回注射した。最初の免疫化において,腹部中に腹腔内送達された抗原計10μgを各マウスに注射した。その後の強化免疫は5μgの用量であり,注射法は,服部内への腹腔内注射と尾の基部への皮下注射間でずらされる。腹腔内注射のために,TiterMax(R)Gold(Sigma,Cat



T2684)を加えたエマルジョンとして抗原を調製し,

皮下注射のために,抗原をAlum(リン酸アルミニウム)及びCpGオリゴと混合する。注射2から8及び10において,アジュバントalumゲル中の抗原計5μgを各マウスに注射した。マウス当り抗原5μgの最終注射をリン酸緩衝化された生理的食塩水中に送達し,2つの部位に送達する(腹部内へ50%腹腔内及び尾の基部に50%皮下)。免疫化プログラムは,以下に示されている表3中に要約されている。【0320】

ヒトPCSK9に対する抗体の力価は,記載されている可溶性抗原を用いて免疫化されたマウスに対するELISAアッセイによって検査した。表4は,ELISAデータを要約し,PCSK9に対して特異的であるように見受けられる幾つかのマウスが存在したことを示す。例えば,表4を参照されたい。従って,免疫化プログラムの終わりに,10匹のマウス(表4中の太字)を採集のために選択し,本明細書中に記載されているように,それぞれ,脾臓及びリンパ節から脾細胞及びリンパ球を単離した。
【0322】
(実施例2)
リンパ球の回収,B細胞の単離,融合及びハイブリドーマの作製
この実施例は,免疫細胞がどのようにして回収され,ハイブリドーマがどのようにして作製されたかについて概説する。選択された免疫化マウスを頚椎脱臼によって屠殺し,各コホートから流入領域リンパ節を採集し,プールした。細胞を組織から放出させるために,DMEM中で磨り潰すことによって,リンパ系組織からB細胞を解離させ,細胞をDMEM中に懸濁した。細胞を計数し,穏やかに,但し,完全に細胞を再懸濁させるために,1億のリンパ球当りDMEM0.9mLを細胞沈降物に添加した。
【0323】
1:4の比で,リンパ球をATCC,cat.#CR11580から購入した非分泌性骨髄腫P3X63Ag8.653細胞(…)と混合した。400×gで,4分の遠心によって,細胞混合物を穏やかに沈降させた。容器を傾けて上清を除去した後,1mLピペットを用いて,細胞を穏やかに混合した。1分にわたって,穏やかに撹拌しながら,Sigma(cat#P7306)から得た事前加熱されたPE
G/DMSO溶液(B細胞100万個当り1mL)をゆっくり添加した後,1分間混合した。次いで,穏やかに撹拌しながら,2分にわたって,事前加熱されたIDMEM(B細胞100万個当り2m
L)(グルタミン,L-グルタミン,ペニシリン/ストレプトマイシン,MEM非必須アミノ酸なしのDMEM)(全て,Invitrogenから得た)を添加した。最後に,3分にわたって,事前加熱されたIDMEM(106個のB細胞当り8mL)を添加した。
【0324】
400×gで6分,融合された細胞を遠心沈降させ,100万個のB細胞当り選択培地20mL(L-グルタミン,ペニシリン/ストレプトマイシン,MEM非必須アミノ酸,ピルビン酸ナトリウム,2-メルカプトエタノール(全て,Invitrogenから入手),HA-アザセリンヒポキサンチン及びOPI(オキサロアセタート,ピルバート,ウシインシュリン)(何れも,Sigmaから入手)及びIL-6(Boeringer

Mannheim)が補充された,DMEM(In

vitrogen),15%FBS(Hyclone)中に再懸濁した。37℃で20から30分間,細胞を温置し,次いで,選択培地200mL中に再懸濁し,96ウェルへの播種の前に,T175フラスコ中で3から4日間培養した。このようにして,PCSK9に対する抗原結合タンパク質を産生するハイブリドーマを作製した。
【0325】
(実施例3)
PCSK9抗体の選択
本実施例は,様々なPCSK9抗原結合タンパク質をどのようにして性質決定し,選択したかについて概説する。(実施例1及び2で産生されたハイブリドーマから産生された)分泌された抗体のPCSK9への
結合を評価した。抗体の選択は,結合データ及びLDLRへのPCSK9の結合の阻害及び親和性を基礎とした。以下に記載されているように,ELISAによって,可溶性PCSK9への結合を分析した。結合親和性を定量するために,BIAcore(R)(表面プラズモン共鳴)を使用した。
【0326】
一次スクリーニング
野生型PCSK9に結合する抗体に対する一次スクリーニングを行った。2つの採集物に対して,一次スクリーニングを行った。一次スクリーニングは,ELISAアッセイを含み,以下のプロトコールを用いて行った。
【0327】
Costar37-2培地結合384ウェルプレート(Corning
Life

Sciences)を使用した。40μL/ウェルの容

量で,1×PBS/0.05%アジ化物中,4μg/mLの濃度のニュートラビジンでプレートを被覆した。4℃で一晩,プレートを温置した。次いで,Titertekプレート洗浄装置(Titertek,Huntsville,AL)を用いて,プレートを洗浄した。3サイクルの洗浄を行った。1×PBS/1%ミルク90μLでプレートをブロックし,室温で約30分間温置した。次いで,プレートを洗浄した。再度,3サイクルの洗浄を行った。捕捉試料は,V5タグを持たないビオチン化合されたPCSK9であり,40μL/ウェルの容量で,1×PBS/1%ミルク/10mMCa2+中に0.9μg/mLで添加した。次いで,プレートを室温で1時間温置した。次に,3サイクル洗浄を用いて作動されるTitertekプレート洗浄装置を用いて,プレートを洗浄した。1×PBS/1%ミルク/10mMCa2+40μL中に,
上清10μLを移し,室温で1.5時間温置した。再度,3サイクル洗浄を用いて作動されるTitertekプレート洗浄装置を用いて,プレートを洗浄した。1×PBS/1%ミルク/10mMCa2+中,100ng/mL(1:4000)の濃度のヤギ抗ヒトIgGFcPOD40μL/ウェルをプレートに添加し,室温で1時間温置した。3サイクル洗浄を用いて,プレートをもう一度洗浄した。最後に,1工程TMB(Neogen,

Lexington,

Kentucky)の4

0μL/ウェルをプレートに添加し,室温で30分後に,1N塩酸の40μL/ウェルを用いて消光を行った。Titertekプレートリーダーを用いて,450nmでODを直ちに読み取った。
【0328】
一次スクリーニングによって,2つの採集物から同定された合計3104の抗原特異的ハイブリドーマが得られた。最高のELISAODに基づいて,合計3000の陽性に対して,採集物当り1500のハイブリドーマをさらなる操作に用いた。
【0329】
確認用スクリーニング
次いで,安定なハイブリドーマが確立されたことを確認するために,野生型PCSK9への結合に関して,3000の陽性を再スクリーニングした。…合計2441の陽性を,第二のスクリーニングで反復した。次いで,その後のスクリーニングにおいて,これらの抗体を使用した。【0330】
マウス交叉反応スクリーニング
次いで,抗体がヒト及びマウスPCSK9の両方に結合できることを確認するために,マウスPCSK9に対する交叉反応性に関して,ハイブリドーマのパネルをスクリーニングした。…579抗体は,マウスP
CSK9と交叉反応することが観察された。次いで,その後のスクリーニングにおいて,これらの抗体を使用した。
【0331】
D374Y変異体結合スクリーニング
PCSK9中のD374Y変異は,ヒト集団中において文献に記載されている(例えば,Timms
tion

in

PCSK9

dominant
a
Utah

KM

causing

al,

“A

muta

autosomal-

hypercholesterolemia

pedigree”,

349-353,

et

in

Hum.Genet.114:

2004)。抗体が野生型に対して特異的であり,

又はPCSK9のD374Y形態に結合されているかどうかを測定するために,次いで,変異D374Yを含む変異体PCSK9配列への結合に関して,試料をスクリーニングした。…野生型PCSK9に対する陽性ヒットの96%以上が,変異体PCSK9も結合した。
【0332】
大規模受容体リガンド遮断スクリーニング
LDLRへのPCSK9結合を遮断する抗体をスクリーニングするために,D374YPCSK9変異体を用いたアッセイを開発した。LDLRに対してより高い結合親和性を有するので,このアッセイに対して変異体を使用し,より感度が高い受容体リガンド遮断アッセイの開発を可能とした。受容体リガンド遮断スクリーニングでは,以下のプロトコールを使用した。スクリーニングでは,Costar3702培地結合384ウェルプレート(Corning

Life

Science

s)を使用した。40μL/ウェルの容量で,1×PBS/0.05%アジ化物中,2μg/mLのヤギ抗LDLR(R&DCat#AF2148)でプレートを被覆した。4℃で一晩,プレートを温置した。次い
で,Titertekプレート洗浄装置(Titertek,Huntsville,AL)を用いて,プレートを洗浄した。3サイクルの洗浄を行った。1×PBS/1%ミルク90μLでプレートをブロックし,室温で約30分間温置した。次いで,Titertekプレート洗浄装置を用いてプレートを洗浄した。3サイクルの洗浄を行った。捕捉試料は,LDLR(R&D,Cat#2148LD/CF)であり,40μL/ウェルの容量で,1×PBS/1%ミルク/10mMCa2+中に0.4μg/mLで添加した。次いで,プレートを室温で1時間10分間温置した。同時に,Nuncポリプロピレンプレート中のハイブリドーマ枯渇上清15μLとともに,ビオチン化されたヒトD374YPCSK9の20ng/mLを温置し,枯渇上清濃度を1:5希釈した。次いで,プレートを室温で約1時間30分間事前温置した。次に,3サイクル洗浄を用いて作動されるTitertekプレート洗浄装置を用いて,プレートを洗浄した。事前温置された混合物50μL/ウェルを,LDLRで被覆されたELISAプレート上に移し,室温で1時間温置した。LDLRに結合されたb-PCSK9を検出するために,アッセイ希釈液中の500ng/mLのストレプトアビジンHRP40μL/ウェルをプレートに添加した。プレートを室温で1時間温置した。再度,Titertekプレート洗浄装置を用いてプレートを洗浄した。3サイクルの洗浄を行った。最後に,1工程TMB(Neogen,
xington,

Le

Kentucky)の40μL/ウェルをプレート

に添加し,室温で30分後に,1N塩酸の40μL/ウェルを用いて消光した。Titertekプレートリーダーを用いて,450nmでODを直ちに読み取った。スクリーニングによって,PCSK9とLDLRウェル間での相互作用を遮断する384の抗体が同定され,100の抗体は相互作用を強く遮断した(OD<0.3)。これらの抗体は,P
CSK9とLDLRの結合相互作用を90%超阻害した(90%超の阻害)。
【0333】
遮断物質のサブセットに対する受容体リガンド結合アッセイ
次いで,第一の大規模受容体リガンド阻害アッセイにおいて同定された中和物質の384にサブセットに対して,変異体酵素を用いて受容体リガンドアッセイを反復した。384の遮断物質サブセットアッセイのスクリーニングでは,大規模受容体リガンド遮断スクリーニングにおいて行われたものと同じプロトコールを使用した。この反復スクリーニングによって,最初のスクリーニングデータが確認された。
【0334】
この384メンバーのサブセットのスクリーニングによって,90%を超えて,PCSK9変異体酵素とLDLR間の相互作用を遮断する85の抗体が同定された。
【0335】
野生型PCSK9を結合するが,D374Y変異体を結合しない遮断物質の受容体リガンド結合アッセイ
3000の上清の当初パネル中には,野生型PCSK9に特異的に結合するが,huPCSK9(D374Y)変異体に結合しないことが示された86の抗体が存在していた。LDLR受容体への野生型PCSK9の結合を遮断する能力に関して,これらの86の上清を検査した。…【0336】
スクリーニングの結果
記載されているアッセイの結果に基づいて,PCSK9との所望の相互作用を有する抗体を産生するとして,幾つかのハイブリドーマ株が同定された。各株からクローンの管理可能な数を単離するために,限外希
釈を使用した。ハイブリドーマ株の数字(例えば,21B12)及びクローン数(例えば,21B12.1)によって,クローンを表記した。一般に,特定の株の異なるクローン間の差は,本明細書中に記載されている機能的アッセイによって検出された。2,3の事例では,機能的アッセイにおいて異なる挙動を示した特定の株からクローンが同定された。例えば,25A7.1はPCSK9/LDLRを遮断しないが,25A7.3(本明細書において,25A7と称される。)は中和性であることが見出された。単離されたクローンを,ハイブリドーマ溶媒50から100mL中でそれぞれ増殖させ,枯渇するまで増殖させた(すなわち,約10%未満の細胞生存率)。これらの培養物の上清中でのPCSK9に対する抗体の濃度及び効力を,本明細書中に記載されているようなELISAによって,及びインビトロ機能的検査によって測定した。本明細書に記載されているスクリーニングの結果として,PCSK9に対する抗体の最も高い力価を有するハイブリドーマを同定した。図2Aから3D及び表2中に,選択されたハイブリドーマが示されている。
【0373】
(実施例10)
エピトープビニング
抗PCSK9抗体のビニングのために,競合ELISAを使用した。要約すれば,2つの抗体が同じエピトープのビンに属するかどうかを決定するために,一晩の温置によって,2μg/mLで,ELISAプレート(NUNC)上に,まず抗体(mAb1)の1つを被覆した。次いで,プレートを洗浄し,3%BSAでブロックした。一方,ビオチン化されたhPCSK9の30ng/mLを,室温で2時間,第二の抗体(mAb2)とともに温置した。混合物を被覆されたmAb1に適用し,室温で1時間温置した。次いで,ELISAプレートを洗浄し,1
:5000の希釈で1時間,Neutravidin-HRP(Pierce)とともに温置した。さらなる洗浄後,TMB基質とともにプレートを温置し,Titertekプレートリーダーを用いて,シグナルを650nmで検出した。同じ結合特性を有する抗体を,同じエピトープビンの中にグループ分けした。抗体ビニング研究の結果が,表8.3に示されている。
(ケ)

【0377】

(実施例11)
D374YPCSK9/LDLR結合を遮断する31H4及び21B12の効果
本実施例は,PCSK9D374YがLDLRに結合する能力を遮断する上での,抗体の2つに対するIC50値を提供する。緩衝液A(100mMカコジル酸ナトリウム,pH7.4)中に希釈されたヤギ抗LDL受容体抗体(R&D

Systems)2μg/mLで,透明な3

84ウェルプレート(Costar)を被覆した。緩衝液Aでプレートを完全に洗浄した後,緩衝液B(緩衝液A中の1%ミルク)で2時間ブロックした。洗浄後,緩衝液C(10mMCaCl2が補充された緩衝液B)中に希釈されたLDL受容体(R&D

Systems)0.4

μg/mLとともに,プレートを1.5時間温置した。この温置と同時に,緩衝液A中に希釈された31H4IgG2,31H4IgG4,21B12IgG2又は21B12IgG4抗体の様々な濃度又は緩衝液Aのみ(対照)とともに,ビオチン化されたD374YPCSK9の20ng/mLを温置した。LDL受容体を含有するプレートを洗浄し,ビオチン化されたD374YPCSK9/抗体混合物をプレートに移し,室温で1時間温置した。LDL受容体へのビオチン化されたD374Yの結合は,緩衝液C中の500ng/mLのストレプトアビジン-HR
P(Biosource)とともに,次いで,TMB基質(KPL)とともに温置することによって検出した。1NHClを用いてシグナルを消光し,450nmで吸光度を読み取った。
【0378】
この結合研究の結果が,図6Aから6Dに示されている。要約すると,各抗体に対してIC50値を測定し,31H4IgG2に対して199pM(図6A),31H4IgG4に対して156pM(図6B),21B12IgG2に対して170pM(図6C)及び21B12IgG4に対して169pM(図6D)であることが見出された。
【0379】
抗体は,このアッセイにおいて,LDLRへの野生型PCSK9の結合も遮断した。
【0380】
(実施例12)
細胞LDL取り込みアッセイ
本実施例は,様々な抗原結合タンパク質が細胞によるLDLの取り込みを低下させ得ることを示す。…
【0381】
細胞取り込みアッセイの結果が,図7Aから7Dに示されている。要約すると,各抗体に対してIC50値を測定し,31H4IgG2に対して16.7nM(図7A),31H4IgG4に対して13.3nM(図7B),21B12IgG2に対して13.3nM(図7C)及び21B12IgG4に対して18nM(図7D)であることが見出された。これらの結果は,適用された抗原結合タンパク質がPCSK9(D374Y)の効果を低下させて,細胞によるLDLの取り込みを遮断できることを示している。抗体は,このアッセイにおいて,野生型
PCSK9の効果も遮断した。
(コ)

【0382】

(実施例13)
6日の研究における31H4抗体の血清コレステロール低下効果
PCSK9タンパク質に対する抗体治療を介した野生型(WT)マウスにおける総血清コレステロール(TC)低下を評価するために,以下の手順を行った。
【0383】
Jackson

Laboratory(Bar

Harbor,M

E)から得られた雄のWTマウス(C57BL/6系統,9から10週齢,17-27g)には,実験の期間を通じて,通常の食餌(Harland-Teklad,

Diet2918)を与えた。t=0におい

て,マウスの尾静脈を通じて,10mg/kgのレベルで,抗PCSK9抗体31H4(PBS中の2mg/mL)又は対照IgG(PBS中2mg/mL)の何れかをマウスに投与した。ナイーブマウスも,ナイーブ対照群として別に分けた。投薬群及び屠殺の時間が,表9に示されている。
【0385】
表9に示されている所定の時点でのCO2窒息を用いて,マウスを屠殺した。大静脈を介して,エッペンドルフチューブの中に血液を集め,室温で30分間凝固させた。次いで,血清を分離するために,10分間,12,000×gでの卓上遠心機中で,試料を遠心沈降させた。Hitachi912臨床分析装置及びRoche/HitachiTC及びHDL-Cキットを用いて,血清総コレステロール及びHDL-Cを測定した。
【0386】

実験の結果が,図8Aから8Dに示されている。要約すると,抗体31H4が投与されたマウスは,実験の間にわたって,減少した血清コレステロールレベルを示した(図8A及び図8B)。さらに,マウスは減少したHDLレベルを示すことも注目される(図8C及び図8D)。図8A及び図8Cに関して,%変化は,同じ時点での対照IgGに対する(*P<0.01,#P<0.05)。図8B及び8Dに関して,%変化は,t=0時間で,ナイーブ動物中において測定された総血清コレステロール及びHDLレベルに対する(*P<0.01,#P<0.05)。
【0387】
低下したHDLレベルに関して,マウス中でのHDLの減少はHDLの減少がヒトで起きることを示唆せず,この生物中での血清コレステロールが減少したことをさらに反映するに過ぎないことが当業者に理解されることが注目される。マウスは高密度リポタンパク質(HDL)粒子中に血清コレステロールの大半を輸送し,これはLDL粒子上に殆どの血清コレステロールを有するヒトとは異なることが注目される。マウスでは,総血清コレステロールの測定は,血清HDL-Cのレベルを最も近似する。マウスHDLは,LDL受容体(LDLR)に対するリガンドであるアポリポタンパク質E(apoE)を含有しており,LDLRによるHDLの排除を可能とする。従って,HDLを調べることは,マウスにおける,本実施例での適切な指標である(HDLの減少は,ヒトに対しては予測されないことが理解される。)。これに対して,例えば,ヒトHDLは,apoEを含有しておらず,LDLRに対するリガンドではない。PCSK9抗体はマウス中でのLDLR発現を増加させるので,肝臓はより多くのHDLを排除させることができ,従って,血清HDL-Cレベルを低下させる。

【0388】
(実施例14)
6日の研究における,LDLRレベルに対する抗体31H4の効果本実施例は,予想されたように,抗原結合タンパク質が,経時的に,対象中のLDLRのレベルを変化させることを示す。LDLRレベルに対する抗体31H4の効果を確認するために,ウェスタンブロット分析を行った。実施例13で記載した屠殺されたマウスから得られた肝臓組織50から100mgを,完全なプロテアーゼ阻害剤(Roche)を含有するRIPA緩衝液(Santa
logy

Cruz

Biotechno

Inc.)0.3mL中において均質化した。ホモゲネート

を氷上で30分間温置し,細胞破砕物を沈降させるために遠心した。BioRadタンパク質アッセイ試薬(Bio

Rad

laborat

ories)を用いて,上清中のタンパク質濃度を測定した。70℃で10分間,タンパク質100μgを変性させ,4から12%Bis-TrisSDS勾配ゲル(Invitrogen)上で分離した。0.45μmPVDF膜(Invitrogen)にタンパク質を移し,室温で1時間,5%無脂肪ミルクを含有する洗浄緩衝液(50mMTrisPH7.5,150mMNaCl,

2mMCaCl2及び0.05%

Tween20)中でブロックした。次いで,室温で1時間,ヤギ抗マウスLDLR抗体(R&Dsystem)1:2000又は抗βアクチン(sigma)1:2000を用いて,ブロットのプローブ検査を行った。ブロットを短時間洗浄し,ウシ抗ヤギIgG-HRP(Santa
Cruz

Biotechnology

Inc.)1:2000

又はヤギ抗マウスIgG-HRP(Upstate)1:2000とともに温置した。室温で1時間の温置後,ブロットを完全に洗浄し,ECLplusキット(Amersham

biosciences)を用

いて,免疫反応性バンドを検出した。ウェスタンブロットは,図9に図示されているように,抗体31H4の存在下でのLDLRタンパク質レベルの増加を示した。
【0389】
(実施例15)
13日の研究における抗体31H4の血清コレステロール低下効果13日の研究において,PCSK9タンパク質に対する抗体治療を介した野生型(WT)マウスにおける総血清コレステロール(TC)低下を評価するために,以下の手順を行った。
【0390】
Jackson

Laboratory…から得られた雄のWTマウ

ス(C57BL/6系統,9から10週齢,17-27g)には,実験の期間を通じて,通常の食餌…を与えた。t=0において,マウスの尾静脈を通じて,10mg/kgのレベルで,抗PCSK9抗体31H4(PBS中の2mg/mL)又は対照IgG(PBS中2mg/mL)の何れかをマウスに投与した。ナイーブマウスも,ナイーブ対照群として別に分けた。
【0391】
投薬群及び屠殺の時間が,表10に示されている。動物を屠殺し,肝臓を摘出し,実施例13のとおりに調製した。
【0393】
6日の実験を13日の研究に延長すると,6日の研究において観察された同じ血清コレステロール低下効果が,13日の研究においても観察された。より具体的には,10mg/kgで投薬された動物は,3日目に,血清コレステロールの31%の減少を示し,13日までに,投薬前レベルまで徐々に戻った。図10Aは,この実験の結果を図示する。図
10Cは,31H4の10mg/kg用量を用いた,及び同じく10mg/kgの別の抗体16F12を用いた上記手順を反復した結果を図示している。投薬群及び屠殺の時間が,表11に示されている。
【0395】
図10Cに示されているように,16F12及び31H4は何れも,単回投薬のみの後に,総血清コレステロールの著しく,大幅な減少をもたらし,1週以上にわたって(10日又はそれ以上)有益であった。反復された13日の研究の結果は最初の13日の研究の結果と合致しており,3日目における26%の血清コレステロールレベルの減少が観察される。図10A及び図10Bに関して,%変化は,同じ時点での対照IgGに対する(*P<0.01)。図10Cに関して,%変化は,同じ時点での対照IgGに対する(*P<0.05)。
(サ)

【0422】

(実施例26)
インビボでLDLを低下させるPCSK9及びABPの能力に対するマウスモデル
ヒトPCSK9を過剰発現するマウスを作製するために,マウス中のLDL-コレステロールの測定可能な増加を与える正しい力価を測定するためにヒトPCSK9を発現するように組換え的に修飾されたアデノ随伴ウイルス(AAV)の様々な濃度を,尾静脈投与を介して3週齢WTC57B1/6マウスに注射した。ヒトPCSK9を発現するこのウイルスを用いて,ウイルスの4.5×10E12pfuは循環血液中の約40mg/dLのLDL-コレステロールレベル(WTマウス中のLDLの正常レベルは,約10mg/dLである。)をもたらすことが決定された。これらの動物中のヒトPCSK9レベルは,約13μg/mLであることが見出された。この注射基準を用いて,マウスのコロニー
を作製した。
【0423】
注射から1週後に,LDL-コレステロールレベルに関してマウスを評価し,異なる処理群へ無作為に振り分けた。次いで,尾静脈注射を介して,16F12,21B12又は31H4抗原結合タンパク質の10mg/kg又は30m/kgの何れかの単回大量瞬時注射を動物に投与した。投薬対照として,動物の別個の群にIgG2ABPを投与した。次いで,ABP動物から24及び48時間後に,動物のサブグループ(n=6から7)を安楽死させた。何れの投薬量でも,IgG2投与後に,LDL-コレステロールレベルに対する影響は存在しなかった。31H4及び21B12は何れも,IgG2対照(2つの異なる投薬量で図14A及び14Bに示されている。)と比べて,投与後最大48時間まで(48時間を含む。)著しいLDL-コレステロール低下を示した。16F12は,48時間の時点までに,約40mg/dLのベースラインに復帰するレベルで,中間のLDL-コレステロール低下応答を示す。このデータは,31H4と21B12の間でヒトPCSK9に対してほぼ等しい結合親和性を示し,PCSK9に対して16F12のより低い親和性を示すインビトロ結合データ(Biacore及びKinexa)と合致している。
(シ)

【0433】

(実施例29)
31H4は,PCSK9のプロドメイン及び触媒ドメインの両方に由来するアミノ酸残基と相互作用する。
本実施例は,2.3オングストロームの分解能になるように測定された(以下の実施例に記載されている条件),31H4のFab断片に結合された完全長PCSK9(配列番号3のN533A変異体)の結晶構
造を表す。図18A及び18Bに図示されているこの構造は,触媒部位の領域中において,31H4がPCSK9に結合し,プロドメイン及び触媒ドメインの両方に由来するアミノ酸残基と接触することを示す。【0434】
図示されている構造によって,PCSK9との31H4の相互作用界面のための特異的コアPCSK9アミノ酸残基を同定することも可能である。これは,31H4タンパク質の5オングストローム内に存在する残基として定義された。コア残基は,以下のとおりである。W72,F150,A151,Q152,T214,R215,F216,H217,A220,S221,K222,S225,H226,C255,Q256,G257,K258,N317,F318,T347,L348,G349,T350,L351,E366,D367,D374,V380,S381,Q382,S383又はG384。
【0437】
当業者によって理解されるように,実施例29から得られる結果は,PCSK9に対する抗体はPCSK9に対して相互作用できること,及びEGFaとの(従って,LDLRとの)相互作用からPCSK9を遮断できることを示す。従って,これらのPCSK9残基の何れかと相互作用し,又はこれらの残基の何れかを(例えば,これらの残基に結合する他の抗原結合タンパク質から)遮断する抗原結合タンパク質は,PCSK9とEGFa(従って,LDLR)の相互作用を阻害する抗体として有用であり得る。従って,幾つかの実施形態において,上記残基の何れかと相互作用し,又は上記残基の5オングストローム以内の残基と相互作用する抗原結合タンパク質は,LDLRへのPCSK9結合の有用な阻害を与えるものと想定される。同様に,上記残基の何れかを遮断する抗原結合タンパク質(例えば,競合アッセイを介して測定することが
できる。)は,PCSK9/LDLR相互作用の阻害のためにも有用であり得る。
(ス)

【0489】

(実施例37)
エピトープマッピング-ビニング
実施例10中の組に加えて,ビニング実験の別の組を実施した。実施例10におけると同様に,互いに競合するABPは,標的上の同じ部位に結合するものと考えることができ,一般的な語法では,互いに「ビン」を形成していると言われる。
【0490】
Jia他(J.
288

Immunological

(2004)

Methods,

91-98)によって記載された多重化ビニン

グ法の改変を使用した。室温で1時間,暗所にて,0.5μg/mLビオチン化一価マウス抗ヒトIgG捕捉抗体(BD

Pharminge

n,#555785)100μL中で,ストレプトアビジンによって被覆されたLuminexビーズの各ビーズコードを温置し,次いで,PBSA(1%ウシ血清アルブミン(BSA)を加えたリン酸緩衝化生理的食塩水(PBS))で3回洗浄した。2μg/mL抗PCSK9抗体(CoatingAntibody)100μLとともに,各ビーズコードを別々に1時間温置した後,PBSAで3回洗浄した。ビーズをプールした後,96ウェルフィルタープレート(Millipore,#MSBVN1250)に分配した。2μg/mLの精製されたPCSK9タンパク質100μLをウェルの半分に添加した。緩衝液を対照として他の半分に添加した。反応を1時間温置した後,洗浄した。2μg/mL抗PCSK9抗体(DetectionAb)100μLを全てのウェルに添加し,1時間温置し,次いで,洗浄した。別の対象として,
無関係のヒトIgG(Jackson,#009-000-003)を走行させた。各ウェルに,PE連結された一価マウス抗ヒトIgG(BD
Pharmingen,#555787)20μLを添加し,1時
間温置し,次いで,洗浄した。PBSA100μL中にビーズを再懸濁し,最低100事象/ビーズコードをBioPlex装置(BioRad)上で収集した。
【0491】
PCSK9を含有する対応する反応のシグナルから,PCSK9なしでの抗体対の中央値蛍光強度(MFI)を差し引いた。抗体対が同時に(従って,異なるビンに)結合したと考えられるためには,差し引かれたシグナルは,それ自身と競合する抗体のシグナルより3倍大きく,且つ無関係の抗体と競合する抗体のシグナルより3倍大きくなければならなかった。
【0492】
上記から得られたデータは,図23Aから23Dに図示されている。ABPは,5つのビンに属した。影が付いた枠は,PCSK9へ同時に結合することができるABPを示している。影が付いていない枠は,結合に関して互いに競合するABPを示している。結果の要約が,表37.1に示されている。
【0494】
ビン1(ABP21B12と競合する。)及び3(31H4と競合する)は,互いに排他的であり,ビン2はビン1及び3と競合し,並びにビン4はビン1及び3と競合しない。この実施例において,ビン5は,他のビンに適合するABPを記載するために,「キャッチオール」ビンとして表される。従って,ビンのそれぞれの中の上記ABPは,PCSK9上のエピトープ位置の異なる種類の代表であり,それらの幾つかは
互いに重複する。
【0495】
当業者によって理解されるように,基準ABPがプローブABPの結合を妨げるのであれば,抗体は同じビン中にあると称される。ABPが使用される順序が重要であり得る。ABPAが基準ABPとして使用され,ABPBの結合を遮断すれば,逆は必ずしも真ではない。…一般に,何れの順序においても競合が観察されれば,ABPは互いにビンであると称され,両ABPが互いに遮断することができれば,エピトープはより完全に重複する可能性がある。
(セ)

【0521】
表39.5は,様々な抗体に対するヒットの全ての要約を示してい
る。
【0523】
これらの残基が関連するエピトープの一部又は全部をどのようにして形成するかをさらに調べるために,上記位置を様々な結晶構造モデル上にマッピングし,結果が図27Aから27Eに示されている。…【0526】
図27Dは,31H4及び21B12抗体とのPCSK9の結晶構造上にマッピングされた,12H11エピトープヒットを図示する。構造は,PCSK9残基を以下のように同定する。薄い灰色は,変異を受けていない残基を示し(構造上に明示されている残基を除く。),より濃い灰色は変異を受けた残基を示す(それらの一部は発現できなかった。)。(図の上に示されている影に関わらず)明示されている残基を検査し,EC50及び/又はBmaxの有意な変化を得た。12H11は,上に記載されているビニングアッセイにおいて,21B12及び31H4と競合する。


前記アの記載事項によれば,本件明細書の発明の詳細な説明には,本件訂正発明1及び5に関し,次のような開示があることが認められる。(ア)

PCSK9(プロタンパク質コンベルターゼスブチリシンケクシ

ン9型)は,セリンプロテアーゼであり,LDLR(低密度リポタンパク質受容体)と結合して,相互作用し,LDLRとともに肝臓の細胞内に取り込まれ,肝臓中のLDLRのレベルを低下させ,さらには,細胞表面(細胞外)でLDLへの結合に利用可能なLDLRの量を減少させることにより,対象中のLDLの量を増加させる(【0002】,【0003】,【0071】)。
本件明細書に開示されている抗原結合タンパク質(ABP。配列番号67のアミノ酸配列からなる重鎖可変領域と,配列番号12のアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域とを含む抗体(「31H4」)(参照抗体)と「競合」する,単離されたモノクローナル抗体)は,PCSK9がLDLRに結合するのを妨げる位置及び/又は様式で,PCSK9に結合し,PCSK9とLDLR間の相互作用(結合)を遮断し,又は低下させ,「競合的に中和する」中和抗原結合タンパク質(中和ABP)である(【0138】,【0140】,【0155】,【0262】,【0269】,表2)。
(イ)

このPCSK9に対する中和ABPは,PCSK9とLDLRと

の結合を中和し,LDLRの量を増加させることにより,対象中のLDLの量を低下させ,対象中の血清コレステロールの低下をもたらす効果を奏し,また,この効果により,高コレステロール血症などの上昇したコレステロールレベルが関連する疾患を治療し,又は予防し,疾患のリスクを低減することができるので,治療的に有用であり得る(【0155】,【0270】,【0271】,【0276】)。(2)

甲1の開示事項について


甲1(訳文甲1の2)には,次のような記載がある(下記記載中に引用する「図2A」及び「図3」については別紙2参照)。
(ア)

「分泌されたPCSK9が肝細胞及び並体結合マウスの肝臓におけ
るLDL受容体の数を減少させる。」(2995頁論文名,訳文1頁)
(イ)

「我々は,HepG2細胞の培養液に添加された精製PCSK9が,
用量及び時間依存的な態様で細胞表面のLDLRの数を減少させることを示す。この活性は,高コレステロール血症を引き起こす機能獲得型変異体PCSK9(D374Y)において,約10倍大きいものであった。PCSK9の結合や取り込みは,LDLRの存在に大きく依存した。共免疫沈降及びリガンドブロッティング試験はPCSK9とLDLRとが直接会合することを示した。…PCSK9が血漿中で活性であるかを決定するために,PCSK9トランスジェニックマウスを野生型同腹子と並体結合した。並体結合の後,分泌されたPCSK9は野生型マウスの循環血中に運ばれ,肝臓のLDLRの数を,ほぼ検出できないレベルにまで減少させた。我々は,分泌されたPCSK9はLDLRと結合して肝臓のLDLRタンパク質のレベルを減少させると結論する。」(2995頁要約3行~14行,訳文1頁)
(ウ)

「PCSK9の生物活性はマウスにおける過剰発現研究をとおして
明らかとなった。転写後のPCSK9過剰発現は,肝臓におけるLDLRの量を減少させた(3,8-10)。PCSK9が,通常時LDLRタンパク質のレベルを制御することの確証は,ヒト及びマウスにおける機能喪失研究により行われた。PCSK9対立遺伝子にナンセンス変異のヘテロ接合を有する個体は,著しくより低い血漿LDLコレステロールレベルを有し,PCSK9活性の低下はLDLRの増加を導くことが示唆された(11)。これらの結論は,PCSK9ノッ
クアウトマウスの研究によっても裏付けられ,当該研究は,PCSK9の欠失が,肝細胞におけるLDLRの数の増大,血漿LDLクリアランスの加速,そして著しくより低い血漿コレステロールレベルという結果をもたらすことを示した(12)。最近のほとんどの研究において,PCSK9に機能欠失型変異のヘテロ接合を有するヒトは,アテローム硬化性心疾患を発症する長期的リスクにおける大幅な低減を有することが示された(13)。
ヒトの遺伝的データ及びマウスのin

vivo研究は,PCSK9

の一つの機能はLDLRの数を減少させることであること,及び,この機能は,基礎状態のヒトにおいても明白であることを示してい
る。」(2995頁右欄6行~25行,訳文1頁~2頁)
(エ)

「図2

細胞培養液に組換え精製PCSK9を添加した後のHepG2細胞における内在性LDLRの減少。(A)HepG2細胞における細胞外PCSK9-仲介型LDLR分解の投与量応答性。」(2996頁左欄,訳文2頁)
「図2Aに示されるように,生理学的に適切な濃度である,PCSK9の0.5μg/mlとともにインキュベーションした後,細胞表面のLDLRの数は,約50%減少した(レーン2)。そして,PCSK9の2.5μg/mlへの接触後には,ほぼ検出不能となった(レーン4)。HepG2細胞の,PCSK9の5または10μg/mlとの4時間のインキュベーションは,細胞全体のLDLRタンパク質のレベルを約50%減少させた(レーン11および12)。FLAGタグ化されたPCSK9は,細胞全体抽出物において,濃度依存的に検出されたが(レーン7~12),ビオチンラベル化された細胞表面タンパク質は検出されなかったので(レーン1~6),このことは,細胞に結合した
PCSK9の大部分が内在化されたことを示唆する。」(2997頁左欄11行~21行,訳文2頁~3頁)
(オ)

「序論において議論されたように,PCSK9におけるある種の点
突然変異は,高コレステロール血症を引き起こす。1つのこのような突然変異が,細胞をベースとしたアッセイにおいて,PCSK9の活性を増大させるか否かを決定するために,野生型PCSK9及びPCSK9変異体D374Y(4)の種々の量が,HepG2細胞に対し,LDLRタンパク質レベルが測定された後で,添加された(図3)。D374Y変異体は,この変異を有する個体は重篤な高コレステロール血症を示してきたことから(16),研究のために選択された。PCSK9(D374Y)は,細胞表面LDLRの低下において,野生型PCSK9よりも,少なくとも10倍高い活性を示した。したがって,0.25μg/mlのPCSK9(D374Y)は,少なくとも,2.5μg/mlの野生型PCSK9と同程度に効果的である(レーン5及び11の比較)。野生型PCSK9とのインキュベーション後に,LDLRの数は,細胞全体抽出物において著しく低下し,10倍低い濃度のPCSK9(D374Y)においても同様の結果が得られた(レーン13~24)。異なる濃度が用いられたにもかかわらず,細胞抽出物において測定された野生型及び変異型PCSK9の量は同様であり,このことは,変異型タンパク質は,細胞によって,野生型タンパク質と比較して約10倍より効果的に取り込まれたことを示唆する。」(2997頁左欄30行~右欄7行,訳文3頁)
「図3
精製されたPCSK9(D374Y)変異体のHepG2細胞培養液への添加により,増大された細胞結合及びLDLR分解。細胞は,培養液C中において18時間培養され,その後,示された量の精製されたヒト
PCSK9又はPCSK9(D374Y)とともに4時間インキュベートされた。LDLR,FLAG-タグ化PCSK9,及び,トランスフェリン受容体のイムノブロット分析が図2の説明文に記載されているように行われた。アステリスクは,非特異的結合を示す。同様の結果が3つの独立した実験において得られた。」(2997頁,訳文3頁~4頁)
(カ)

「共免疫沈降と一致して,PCSK9(D374Y)変異体は,L
DLRタンパク質に対してより大きな親和性で結合するとみられた。組み合わせれば,これらの研究の結果は,PCSK9(D374Y)が,LDLRに対して野生型PCSK9と比較してより高い親和性で結合することを示し,これは,PCSK9変異体がLDLRを破壊する能力の増大と相関する知見である。」(2998頁右欄20行~25行,訳文4頁)
(キ)

「本報告において,我々は,内因性のPCSK9が細胞から急速に
分泌されること,および,分泌されたPCSK9は培養されたHepG2細胞及びマウス初代肝細胞の培養液に添加されるとLDLRを破壊すること,を実証する。培養細胞においてLDLRの数を減少させるのに有効なPCSK9の濃度はヒト血漿中において測定される血漿PCSK9の濃度と同等の範囲であった。PCSK9の細胞との会合と細胞への取り込みがLDLRへの結合を介して生じた。そして,両方のタンパク質は,後期エンドサイトーシス/リソソームのコンパートメントに共局在化された。PCSK9がLDLRタンパク質レベルを減少させるには,PCSK9がLDLRを伴って,エンドソーム/リソソームのコンパートメントへ内在化されることが必要であった。なぜなら,この活性はARHの不存在下においてブロックされたからである。最後に,我々は,PCSK9はトランスジェニックマウスの
血漿中に存在し,当該分泌されたタンパク質は,肝臓のLDLRの破壊において活性であることを示す。
分泌されたPCSK9の活性のメカニズムについての洞察は,MEFs及びマウス肝細胞における研究に由来し,それらの研究はPCSK9の大部分が細胞表面に結合するのにLDLRが必要とされることを示したものである(図4A及び図6B)。これらの研究は,LDLRとPCSK9が直接相互作用しうることを示唆するものであったが,そして,LDLRとPCSK9が直接相互作用することは,LDLRとPCSK9についての共免疫沈降及びリガンドブロッティングの研究により確認された(図5)。」(3001頁左欄下から24行~下から2行,訳文4頁)
(ク)

「これらを合わせ考えると,現在入手可能なデータは,PCSK9
が細胞外と細胞内とで機能し得ることを示唆するが,しかし,いずれの経路が通常のおよび/または病的条件下において優位であるのか分からない。現在,当該タンパク質が細胞内で作用することを示唆するすべての研究は,強力なCMVプロモーターを通じたPCSK9過剰発現を用いて行われたものである。過剰発現は,生理学的に生じない細胞内分画におけるPCSK9とLDLRとの結合を許容する可能性がある。本研究において,我々は,生理学的に適切な濃度のPCSK9がHepG2細胞に添加されたときに細胞表面のLDLRの数を著しく減少させたことを実証することができた(図2および
3)。」(3002頁左欄下から7行~右欄4行,訳文4頁~5頁)。(ケ)

「PCSK9の機能喪失型変異体を有するヒトからの遺伝学的デー
タとPCSK9を欠損したノックアウトマウスにおける研究を組み合わせると,タンパク質分解酵素の阻害剤が高コレステロール血症の治療に対して治療学的に有益であり得ることが明確に示される。マウス
における酵素的に不活性な形態のPCSK9の過剰発現は,LDLRタンパク質レベルを変化させなかったことのみからすれば(文献[9]),小胞体におけるPCSK9のプロテアーゼ活性の阻害剤は,LDLRタンパク質レベルを減少させる能力を阻害するのに十分であろう。本研究のデータが示唆するとおりに,PCSK9が分泌因子として機能するならば,LDLRとの相互作用を遮断する抗体,または血漿におけるその活性を遮断する阻害剤の開発などの,PCSK9の活性を中和する追加の手法が,高コレステロール血症の治療として探求し得る。」(3002頁右欄下から13行~最終行,訳文5頁)
(コ)

「抗体。抗ヒトPCSK9ポリクローナル抗体のために,Prot
eanソフトウェア(Lasergene;DNAstar)を用いてヒトPCSK9アミノ酸配列の免疫原性領域を分析した。アミノ酸165-180(RYRADEYQPPDGGSLV)及び220-240(ASKCDSHGTHLAGVVSGRDAG)を合成し,Imject
H
Maleimide

Activated

mcKL

キット(Pierce)を用いてキーホールリンペットヘモシア

ニンに結合し,以前に記載した方法(28)により,ウサギに当該ペプチド(それぞれ20μg)の混合物を注射した。IgG画分を血清から,ImmunoPure(A/G)IgG精製キット(Pierce)を用いて精製した。」(3003頁左欄26行~33行,訳文5頁)

前記アの記載事項によれば,甲1には,①精製されたPCSK9をHepG2細胞の培養液へ添加する実験により,精製されたPCSK9が,用量及び時間依存的な態様で,HepG2細胞の細胞表面のLDLRの数を減少させたことを確認したこと(図2及び3)(前記ア(イ),(エ),(オ),(キ),(ク)),②①の実験結果から,分泌されたPCSK9は,
LDLRと結合して肝臓のLDLRタンパク質のレベルを減少させるとの結論に至ったこと(前記ア(イ)),③PCSK9の機能喪失型変異体を有するヒトからの遺伝学的データとPCSK9を欠損したノックアウトマウスにおける研究を組み合わせると,高コレステロール血症の治療として,細胞内におけるPCSK9のプロテアーゼ活性の阻害剤がLDLRのレベルを減少させる能力を阻害するのに十分であろうが,本研究のデータが示唆するとおり,PCSK9とLDLRとの相互作用(結合)を遮断する抗体又は血漿におけるその活性を遮断する阻害剤の開発などのPCSK9の活性を中和する追加の手法も,高コレステロール血症の治療として探求し得ること(前記ア(ケ))の開示があることが認められる。

この点に関し,原告は,甲1の記載事項によれば,甲1には,PCSK
9とLDLRとの結合を阻害する抗体(結合中和抗体)の開示がある旨主張する。
しかしながら,甲1には,PCSK9に対する抗体として,ウサギに注射して得た血清から精製して「抗ヒトPCSK9ポリクローナル抗体」が得られたこと(前記ア(コ))の記載があるが,このポリクローナル抗体がPCSK9とLDLRとの結合を中和するものであったことの記載はない。また,前記イのとおり,甲1には,PCSK9とLDLRとの相互作用(結合)を遮断する抗体の開発などのPCSK9の活性を中和する追加の手法も,高コレステロール血症の治療として探求し得ることについての開示があるが,このような作用を有する具体的な抗体の記載や示唆はない。したがって,原告の上記主張は採用することができない。

本件訂正発明1の特許請求の範囲(請求項1)の記載及び前記ウによれば,本件訂正発明1と甲1に記載された抗体(「抗ヒトPCSK9ポリクローナル抗体」)とは,①本件訂正発明1は,「単離されたモノクローナ
ル抗体」であって,PCSK9とLDLRとの「結合を中和」することができる結合中和抗体であるのに対し,甲1に記載された抗体は,ポリクローナル抗体であって,PCSK9とLDLRとの結合中和抗体であるかどうか明らかでない点(以下「相違点A」という。),②本件訂正発明1は,「PCSK9との結合」に関して,「配列番号67のアミノ酸配列からなる重鎖可変領域を含む重鎖と,配列番号12のアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域を含む軽鎖とを含む抗体」(参照抗体)と「競合する」のに対し,甲1に記載された抗体は,参照抗体と競合するかどうか明らかでない点(以下「相違点B」という。)で相違するものと認められる。(3)

本件優先日当時の周知技術について
甲220ないし224には,次のような記載がある。
(ア)

甲220(「Antibodies

A
LABORATORY

MANUAL」,1988年(昭和63年))
「抗体

実験マニュアル」(書籍名,訳文1頁)

「ある特定の抗原に対する反応性を操り適合させるために研究者が介入できるところはわずかに限られている。そのような介入のタイプは,2つの大きなカテゴリーに分けられる。すなわち,抗原を改変すること,又は,注射の条件を変えることである。…介入の2番目の種類は,動物の選択,抗原の投与量及び形態,免疫補助剤(アジュバント)の使用,注射の経路及び回数,及び,注射の間に置かれる期間を含む。」(92頁1行~11行,訳文1頁)
「モノクローナル抗体の作成のためには,マウス及びラットの両方を用いることができる。(…)」(94頁14行~15行,訳文1頁))(イ)

甲221(「Antibody

hods

and

Engineering

Met

Protocols」,2004年(平成16

年))

「3.6

抗原結合の一次スクリーニング

1.適切な数のELISAプレートを,プレートコーティングバッファー(プレートの表面を被覆する緩衝液)中に…可溶性抗原,又は,ストレプトアビジンでコート(表面を被覆)されたプレート(…)を用いる場合には,100~300ng/mLのビオチン化抗原を,50μL/ウェルでコート(表面を被覆)する。」(197頁12行~17行,訳文1頁~2頁)
「3.7

二次ELISAのスクリーニング

1.一次スクリーニング(…)に用いられたものと同様の条件を用いて,培養プレートの数の2倍に等しい数のELISAプレートを,可溶性又はビオチン化された抗原の50μL/ウェルでコート(表面を被覆)する。」(197頁33行~36行,訳文2頁)
(ウ)

甲222(Phage

and

Proteins

Display
A
of

Peptides

Laboratory

Manua

l」,1996年(平成8年))
「ペプチド及びタンパク質のファージディスプレイ

実験マニュア

ル」(書籍名,訳文1頁)
「ビオチン化された抗原を用いた選択」(101頁15行,訳文2頁)
「プロトコル12

ビオチン選択によるファージ-抗体ライブラリの

選択」(101頁下から5行,訳文2頁)。
(エ)

甲223(「REVIEW「Selecting

eening

recombinant

and

antibody

scr

libr

aries」」,2005年(平成17年)9月)
「総説

遺伝子組み換え抗体ライブラリの選択及びスクリーニン

グ」(題名,訳文1頁)

「ファージディスプレイ
2種類のバクテリオファージであるfd及びM13の表面における抗体のディスプレイは,抗体の大規模のコレクションのディスプレイ及び選択のために,及び,選択された抗体のエンジニアリングのために,一般に最も広く用いられる方法である(…)。」(1106頁左欄10行~右欄2行,訳文1頁)
「図3
結合のための生体外(in

vitro)選択の方法。ディスプレイ

ライブラリからの選択は,いくつかの方法(又はそれらの組合せ)を用いて行われてきている。
(中略)
(b)ビオチン化された抗原(ビオチン(赤)はストレプトアビジンでコート(被覆)されたビーズ(グレー)介して捕捉される)」(1111頁,訳文1~2頁)
(オ)

甲224(「REVIEWS「Potent

therapeutics

by

antibody

design」」,2006年(平

成18年)5月)
「総説

計画による,効果的な抗体医療」(題名,訳文1頁)

「表1

米国において治療用途のために承認されたモノクローナル抗

体」(344頁,訳文1頁)
「ヒト抗体を作製するための遺伝子導入マウスの使用は,比較的シンプルであり,広く用いられている技術に基づく。」(347頁左欄18行~19行,訳文2頁)
「ファージディスプレイライブラリからのヒト抗体」(347頁左欄下から9行,訳文2頁)
「ファージディスプレイライブラリから単離後,いくつかの抗体フラ
グメントは,治療適用として,十分に高い結合親和性や生物学的効力を有する。」(347頁右欄30行~33行,訳文2頁)
「現在の抗体の親和性成熟とそれに続く機能的スクリーニングが,抗体の有効性を高めるための,広く用いられ,かつ,高い頻度で成功する戦略である。」(350頁右欄下から2行~351頁左欄2行,訳文3頁)

前記アの記載事項を総合すると,本件優先日当時,①動物免疫法又はファージディスプレイ法により,抗原に対して特異的な結合を有するモノクローナル抗体を作製する方法,②その作製工程において,ヒト抗体を作製するための遺伝子導入マウスの使用,抗体のスクリーニングのために抗原をビオチン化により固相化する方法,遺伝子組み換え抗体のファージディスプレイライブラリを得る手段は,周知であったことが認められる。
(4)

相違点の容易想到性について
本件訂正発明1の特許請求の範囲(請求項1)中には,本件訂正発明1の「PCSK9とLDLRタンパク質の結合を中和することができ,PCSK9との結合に関して,配列番号67のアミノ酸配列からなる重鎖可変領域を含む重鎖と,配列番号12のアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域を含む軽鎖とを含む抗体と競合する」にいう「抗体と競合する」との意義を規定した記載はない。本件明細書を参酌すると,本件明細書には,「競合アッセイによって同定される抗原結合タンパク質(競合抗原結合タンパク質)には,基準抗原結合タンパク質と同じエピトープに結合する抗原結合タンパク質及び立体的妨害が生じるのに,基準抗原結合タンパク質に結合されるエピトープに十分に近接した隣接エピトープに結合する抗原結合タンパク質が含まれる。」(【0140】),「中和ABPは,PCSK9がLDLRに結合するのを妨げる位置及び/又は様式で,PCSK9に結合する。このようなABPは,「競合的に中和する」ABPと特に記載す
ることができる。」(【0155】)との記載がある。
以上の本件訂正発明1の特許請求の範囲(請求項1)の文言及び本件明細書の上記記載事項を総合すると,本件訂正発明1の「抗体と競合する」とは,「配列番号67のアミノ酸配列からなる重鎖可変領域を含む重鎖と,配列番号12のアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域を含む軽鎖とを含む抗体」(参照抗体)がPCSK9に結合する部位と同一のPCSK9上の部位又は参照抗体とPCSK9との結合の立体的障害となるPCSK9上の部位に結合することを意味するものと解される。

甲1には,「高コレステロール血症の治療として,細胞内におけるPCSK9のプロテアーゼ活性の阻害剤がLDLRのレベルを減少させる能力を阻害するのに十分であろうが,本研究のデータが示唆するとおり,PCSK9とLDLRとの相互作用(結合)を遮断する抗体又は血漿におけるその活性を遮断する阻害剤の開発などのPCSK9の活性を中和する追加の手法も,高コレステロール血症の治療として探求し得ること」(前記(2)イ③)の開示があり,この開示事項は,PCSK9とLDLRとの相互作用(結合)を遮断し,PCSK9の活性を中和する抗体は,高コレステロール血症の治療に有用であり得ることを示唆するものといえるから,甲1に接した当業者に対し,PCSK9とLDLRとの結合中和抗体を得ることの動機づけとなるものと認められる。
加えて,甲1には,PCSK9とLDLRとの結合を中和することのできるモノクローナル抗体の記載はないものの,本件優先日当時,動物免疫法又はファージディスプレイ法により,モノクローナル抗体を作製する一般的な方法は周知であったこと(前記(3)イ①)からすると,当業者は,甲1及び上記周知技術に基づいて,PCSK9とLDLRとの結合を中和することのできる,何らかのモノクローナル抗体(相違点Aに係る本件訂正発明1の構成)を得ることは可能であったものと認められる。

ウ(ア)

一方で,甲220の記載事項(前記(3)ア(ア))によれば,動物免
疫法による抗体の作製においては,動物の選択,抗原の投与量及び形態,免疫補助剤(アジュバント)の使用,注射の経路及び回数及び注射の間に置かれる期間を含む(動物に対する)「注射の条件」の違いによって,抗原に対する反応性の異なる抗体が得られることは,本件優先日当時,技術常識であったものと認められる。
この点に関し,本件明細書には,実施例1として,参照抗体及びこれと競合する,PCSK9とLDLRとの結合中和抗体を得るために,表3記載の免疫化プログラムのスケジュールに従って,ヒト免疫グロブリン遺伝子を含有する二つのグループのマウスにヒトPCSK9抗原を11回注射して免疫化マウスを作製し,PCSK9に対して特異的な抗体を産生するマウス(10匹)を選択したこと(【0312】,【0313】,【0320】,表3)の記載がある。具体的には,第1回目の強化免疫において,抗原10μgを各マウスに腹腔内注射したこと,その後の強化免疫は,尾の基部への皮下注射と腹腔内注射を交互に各5μgの用量で行ったこと,腹腔内注射の際に,TiterMax(R)Goldを加えたエマルジョンとして抗原を調製し,尾の基部への皮下注射の際に,抗原をAlum(リン酸アルミニウム)及びCpGオリゴと混合したこと,第2回目から第8回及び第10回目の強化免疫において,アジュバントalumゲル中の抗原各5μgを各マウスに注射したこと,マウス当たり抗原5μgの最終注射をリン酸緩衝化された生理的食塩水(PBS)中に送達し,腹腔内及び尾の基部の皮下にそれぞれ50%ずつ送達したこと,ヒトPCSK9に対する抗体の力価をELISAによって検査し,免疫プログラムの終わりに,PCSK9に対して特異的であるように見受けられる10匹のマウスを選択したことの記載がある。そして,本件明細書には,①上記選択された免疫化マウスを使用して,
PCSK9に対する抗原結合タンパク質を産生するハイブリドーマを作製したこと(実施例2,【0322】~【0324】),②ニュートラビジン被覆したプレートに結合させたV5タグを持たないビオチン化合されたPCSK9を捕捉試料とするELISAによる「一次スクリーニング」によって,合計3104の抗原特異的ハイブリドーマが得られたこと(実施例3,【0325】~【0328】),③安定なハイブリドーマが確立されたことを確認するため,合計3000の陽性を再スクリーニングし,更に合計2441の陽性を第二のスクリーニング(「確認用スクリーニング」)で反復し,次いで,「マウス交叉反応スクリーニング」によって579の抗体がマウスPCSK9と交叉反応することを確認したこと(【0329】,【0330】),④LDLRへのPCSK9結合を遮断する抗体をスクリーニングするために,ヤギ抗LDLRで被覆したプレートに,捕捉試料としてLDLRを結合させ,ハイブリドーマ枯渇上清とともに,ビオチン化されたヒトD374YPCSK9をプレート上に移し,LDLRに結合されたビオチン化PCSK9をストレプトアビジンHRPを用いて検出するスクリーニング(「大規模受容体リガンド遮断スクリーニング」)を行い,PCSK9とLDLRウェル間での相互作用を強く遮断する384の抗体が同定され,100の抗体は,PCSK9とLDLRの結合相互作用を90%超阻害したこと(【0332】),⑤④により同定された384の中和物質(遮断物質)のサブセットに対して,大規模受容体リガンド遮断スクリーニングと同じプロトコールを使用して反復スクリーニング(「遮断物質のサブセットに対する受容体リガンド結合アッセイ」)を行い,90%を超えて,PCSK9変異体酵素とLDLR間の相互作用を遮断する85の抗体が同定されたこと(【0333】,【0334】),⑥これらのアッセイ(スクリーニング)の結果に基づいて同定されたPCSK9との所
望の相互作用を有する抗体を産生するいくつかのハイブリドーマ株中に参照抗体(31H4)が含まれていたこと(【0336】,表2),⑦参照抗体は,PCSK9とLDLRとの結合を強く遮断する中和抗体であること(実施例11,【0138】,【0378】)の記載がある。本件明細書の上記記載を総合すると,まず,本件明細書記載の免疫プログラムに従ってPCSK9に対して特異的な抗体を産生する免疫化マウスを作製及び選択し,次に,選択された免疫化マウスを使用してハイブリドーマ(合計3104の抗原特異的ハイブリドーマ)を作製し,このハイブリドーマから産生された抗体に対して,PCSK9とLDLRとの結合相互作用を強く遮断する抗体を同定するために特定のプロトコールのスクリーニングを組み合わせて実施し,その結果に基づいて,同定されたPCSK9との所望の相互作用を有する抗体の一つとして,PCSK9とLDLRとの結合を強く中和する参照抗体が得られたことが認められる。
しかるところ,本件優先日当時の上記技術常識に照らすと,本件明細書記載の免疫化プログラムに従って免疫化された免疫化マウスから産生される抗体とこれと異なる条件及びスケジュールの免疫化プログラムに従って免疫化された免疫化マウスから産生される抗体とでは,PCSK9に対して異なる反応性を示すものと認められ,免疫化プログラムの条件及びスケジュールを最適化し,参照抗体を得るのに適した免疫化マウスを作製するには,通常期待し得る範囲を超えた試行錯誤を要するものと認められる。
また,モノクローナル抗体の作製工程において,ヒト抗体を作製するための遺伝子導入マウスの使用や抗体のスクリーニングのために抗原をビオチン化により固相化する方法は,本件優先日当時,周知であったものの(前記(3)イ②),これらの技術を用いて,上記免疫化マウスを使
用して作製されたハイブリドーマから参照抗体を得るのに適したスクリーニング系を構築することについても,一定の創意工夫が必要であるものと認められる。
しかしながら,甲1には,本件明細書記載の免疫化プログラムの条件及びスケジュールに関する記載や示唆はなく,そもそもPCSK9とLDLRとの結合を阻害する抗体(結合中和抗体)の作製方法の記載はない。
そうすると,当業者は,甲1及び周知技術(前記(3)イ)に基づいて,動物免疫法によって,参照抗体を得ることを容易に想到することができたものと認めることはできない。
(イ)

また,ファージディスプレイ法によるモノクローナル抗体の作製に
は,抗体のCDRのアミノ酸配列を設計し,当該アミノ酸配列を有するファージディスプレイライブラリを作製する必要があるが,甲1には,参照抗体のCDRのアミノ酸配列情報(本件明細書の【0123】,図3E)の記載はなく,また,本件優先日前に,上記アミノ酸配列情報が広く知られていたことを認めるに足りる証拠はない。
そうすると,当業者は,甲1及び周知技術(前記(3)イ)に基づいて,ファージディスプレイ法によって,参照抗体を得ることを容易に想到することができたものと認めることはできない。

前記イ及びウを総合すると,甲1に接した当業者は,甲1及び周知技術(前記(3)イ)に基づいて,PCSK9とLDLRとの結合を中和することのできる,何らかのモノクローナル抗体(相違点Aに係る本件訂正発明1の構成)を得ることが可能であったとしても,参照抗体を得ることを容易に想到することができたものと認められないから,参照抗体がPCSK9に結合する部位と同一のPCSK9上の部位又は参照抗体とPCSK9との結合の立体的障害となるPCSK9上の部位に結合する,参照抗体
と「競合する」抗体(相違点Bに係る本件訂正発明1の構成)についても,容易に想到することができたものと認めることはできない。

これに対し原告は,①本件明細書記載の図27D(PCSK9上のLDLR及び参照抗体の結合部位の位置関係を示した図)及び実施例37の表37.1(参照抗体と競合するか否かを何ら指標とすることなく,PCSK9とLDLRとの結合中和抗体を複数作成したところ,そのような抗体の多く(ビン1~4の抗体の総数に対するビン2~3の抗体の数の割合が約38%)が,参照抗体と競合するものであったことを記載したもの),②本件明細書に記載されたデータに基づいて解析を行ったA教授の供述書を根拠として挙げて,PCSK9とLDLRとの結合中和抗体を取得した場合,その中には参照抗体と競合する抗体が多く含まれており,少なくとも所定の割合で含まれているといえる,したがって,当業者は,何らかのPCSK9とLDLRとの結合中和抗体をいくつか作成するだけで,参照抗体と競合する結合中和抗体を取得し得たものであるから,甲1に接した当業者は,甲1及び周知技術に基づいて,参照抗体と競合する結合中和抗体を容易に想到することができた旨主張する。
しかしながら,本件明細書記載の表37.1は,確認用スクリーニングによってPCSK9に結合する抗体を産生する2441の安定なハイブリドーマが確立したことを確認し(【0329】),そのうちの一部(合計39抗体)についてエピトープビニングした結果を要約したものであり(【0489】~【0492】),この表を分析しても,PCSK9とLDLRとの結合中和抗体のうち,参照抗体と競合する抗体の割合を導き出すことはできない。
次に,A教授の供述書における本件明細書の図27Dに基づく分析は,抗体が,PCSK9とLDLRとの結合を中和するためには,少なくとも2つのアミノ酸残基においてPCSK9上のLDLRの結合部位と重複し
なければならず,その結合部位のサイズは20Å×30Åであることを前提として,PCSK9とLDLRとの結合を中和する抗PCSK9抗体は,「図27Dに図示されるとおり,それらの抗体の結合の態様及びLDLRのPCSK9表面上の結合部位から,PCSK9とLDLRとの結合を中和する抗PCSK9抗体のほとんどが31H4又は21B12のいずれかと競合することは明らかである。」旨を述べたものであるところ(甲204の「4.1」,訳文3頁),上記の見解は,「31H4又は21B12のいずれかと競合する」とあるように,PCSK9とLDLRとの結合を中和する抗PCSK9抗体が参照抗体(31H4抗体)のほとんどと競合することを述べたものではなく,また,そのように参照抗体と競合することを示す実証的データの裏付けもない。
さらに,ノバルティス社が出願した発明に係る公表特許公報(優先日2007年(平成19年)4月13日。乙9)によれば,PCSK9とLDLRとの結合相互作用を中和する「H1-Fab」(抗PCSK9抗体)のhPCSK9(ヒトPCSK9)との結合部位(エピトープにおけるアミノ酸残基101~107及び123~132に結合)(段落【0237】~【0241】)の領域は,参照抗体(31H4抗体)と競合する領域(本件明細書の【0434】等)とは異なるものであることに照らすと,PCSK9とLDLRとの結合を中和する抗体であれば,参照抗体と競合する関係にあるとはいえず,参照抗体と競合する抗体が多く含まれているということもできない。
したがって,原告の上記主張は,採用することができない。
(5)

小括
以上によれば,本件訂正発明1は,甲1及び周知技術に基づいて,容易に
想到することができたものとはいえないから,これと同旨の本件審決の判断に誤りはなく,原告主張の取消事由1-1は理由がない。

2
取消事由1-2(本件訂正発明5の進歩性の判断の誤り)
原告は,本件訂正発明5は,本件訂正発明1記載の抗体を含む医薬組成物に関する発明であるところ,甲1には,PCSK9とLDLRとの結合中和抗体が高コレステロール血症の治療のために有用であり得ることが明示的に開示されていることからすると,本件訂正発明1の場合と同様に,当業者は,甲1及び周知技術に基づいて,本件訂正発明5に含まれる医薬組成物を容易に想到することができたものであるから,これと異なる本件審決の判断は誤りである旨主張する。
しかしながら,本件訂正発明1は,甲1及び周知技術に基づいて,当業者が容易に想到することができたものとはいえないことは,前記1(5)のとおりであるから,原告の上記主張は,その前提を欠くものであって,理由がない。したがって,原告主張の取消事由1-2は理由がない。

3
取消事由2(サポート要件の判断の誤り)について
(1)

サポート要件の適合性について
前記1(1)及び(4)ウ(ア)の認定事実を総合すると,本件明細書の発明の詳細な説明には,本件訂正発明1及び5に関し,次のとおりの開示があることが認められる。
(ア)

PCSK9(プロタンパク質コンベルターゼスブチリシンケクシン
9型)は,セリンプロテアーゼであり,LDLR(低密度リポタンパク質受容体)と結合して,相互作用し,LDLRとともに肝臓の細胞内に取り込まれ,肝臓中のLDLRのレベルを低下させ,さらには,細胞表面(細胞外)でLDLへの結合に利用可能なLDLRの量を減少させることにより,対象中のLDLの量を増加させる(【0002】,【0003】,【0071】)。
「中和抗体」という用語は,リガンドに結合し,リガンドの生物学的効果を妨げ,又は低下させる抗体を表し,抗PCSK9抗体においては,
PCSK9とLDLRの結合を妨げることによる中和と,PCSK9とLDLRの結合は妨げず,LDLRのPCSK9媒介性分解を妨げることによる中和がある(【0138】)。
「競合する」という用語は,検査されている抗体が抗原への参照抗体の特異的結合を妨げ,又は阻害する程度を測定する各種アッセイによって決定された,抗体間の競合を意味するものであり,競合アッセイによって同定される抗体には,参照抗体と同じ又は重複するエピトープに結合する抗体や,参照抗体がエピトープに結合するのを立体的に妨害するのに十分なほど近接した隣接エピトープに結合する抗体が含まれ
る(【0140】,【0269】)。
「エピトープ」という用語は,抗体によって結合される抗原の領域であり,抗原がタンパク質の場合,抗体に直接接触する特定のアミノ酸を含む(【0142】)。
(イ)

配列番号67のアミノ酸配列からなる重鎖可変領域と,配列番号1
2のアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域とを含む抗体(「31H
4」)(参照抗体)と「競合」する,単離されたモノクローナル抗体は,PCSK9がLDLRに結合するのを妨げる位置及び/又は様式で,PCSK9に結合し,PCSK9とLDLR間の相互作用(結合)を遮断し,又は低下させ,「競合的に中和する」中和抗原結合タンパク質(中和ABP)である(【0138】,【0140】,【0155】,【0262】,【0269】,表2)。
このPCSK9に対する中和ABPは,PCSK9とLDLRとの結合を中和し,LDLRの量を増加させることにより,対象中のLDLの量を低下させ,対象中の血清コレステロールの低下をもたらす効果を奏し,また,この効果により,高コレステロール血症などの上昇したコレステロールレベルが関連する疾患を治療し,又は予防し,疾患のリスク
を低減することができるので,治療的に有用であり得る(【0155】,【0270】,【0271】,【0276】)。
(ウ)

参照抗体及びこれと競合する,PCSK9とLDLRとの結合中和
抗体を得るために,表3記載の免疫化プログラムの手順及びスケジュールに従って,ヒト免疫グロブリン遺伝子を含有する二つのグループのマウスにヒトPCSK9抗原を11回注射して免疫化マウスを作製し,PCSK9に対して特異的な抗体を産生するマウス(10匹)を選択した(実施例1,【0312】,【0313】,【0320】,表3)。
これらの選択された免疫化マウスを使用して,PCSK9に対する抗原結合タンパク質を産生するハイブリドーマを作製し(実施例2,【0322】~【0324】),ニュートラビジン被覆したプレートに結合させたV5タグを持たないビオチン化合されたPCSK9を捕捉試料とするELISAによる「一次スクリーニング」によって,合計3104の抗原特異的ハイブリドーマが得られた(実施例3,【0325】~【0328】)。
安定なハイブリドーマが確立されたことを確認するため,「一次スクリーニング」によって得られた上記ハイブリドーマのうち,合計3000の陽性を再スクリーニングし,更に合計2441の陽性を第二のスクリーニング(「確認用スクリーニング」)で反復し,次いで,「マウス交叉反応スクリーニング」によって579の抗体がマウスPCSK9と交叉反応することを確認し(【0329】,【0330】),さらに,LDLRへのPCSK9結合を遮断する抗体をスクリーニングするために,「大規模受容体リガンド遮断スクリーニング」を行い,PCSK9とLDLRウェル間での相互作用を強く遮断する384の抗体が同定され,100の抗体は,PCSK9とLDLRの結合相互作用を90%超
阻害した(【0332】)。
このように同定された384の中和物質(遮断物質)のサブセットに対して,「遮断物質のサブセットに対する受容体リガンド結合アッセイ」を行い,90%を超えて,PCSK9変異体酵素とLDLR間の相互作用を遮断する85の抗体が同定された(【0333】,【0334】)。
これらのアッセイ(スクリーニング)の結果に基づいて同定されたPCSK9との所望の相互作用を有する抗体を産生するいくつかのハイブリドーマ株中に含まれていた参照抗体(31H4)(【0336】,表2)は,PCSK9とLDLRとの結合を強く遮断する中和抗体である(実施例11,【0138】,【0378】)。
(エ)

表2(PCSK9との所望の相互作用を有する抗体を産生するいく
つかのハイブリドーマ株)記載の32の抗体のうち,27B2,13H1,13B5及び3C4は非中和抗体,3B6,9C9及び31A4は弱い中和抗体,その他(参照抗体を含む。)は,強い中和抗体である(【0138】,【0336】)。
そして,上記32の抗体に対するエピトープビニングの結果によれば,21B12抗体と競合するもの(ビン1)が19個,31H4抗体(参照抗体)と競合するもの(ビン3)が7個であり,これらは互いに排他的であり,参照抗体と21B12抗体のいずれとも競合するもの(ビン2)が1個,参照抗体と21B12抗体のいずれとも競合しないもの(ビン4)が1個である(実施例10,【0373】,【0494】,表8.3)。
また,実施例10中の組に加えて,別の組(合計39抗体)に実施したエピトープビニングの結果によれば,21B12抗体と競合するが,31H4抗体(参照抗体)と競合しないもの(ビン1)が19個,21
B12抗体と31H4抗体のいずれとも競合するもの(ビン2)が3個,31H4抗体と競合するが21B12抗体と競合しないもの(ビン3)が10個である。そして,ビン3に含まれる抗体のうち7個は,表2に掲げられた抗体であり,【0138】の記載によれば,中和抗体であることが確認されている(実施例37,【0489】~【0495】,表37.1)。

前記アの認定事実によれば,本件訂正発明1及び5は,本件明細書の発明の詳細な説明に記載したものであることが認められる。
そして,本件明細書記載の表37.1には,本件明細書の記載に従って
作製された免疫化マウスを使用してハイブリドーマを作製し,スクリーニングによってPCSK9に結合する抗体を産生する2441の安定なハイブリドーマが確立され(【0329】),そのうちの一部(合計39抗体)について,エピトープビニングをした結果,31H4抗体(参照抗体)と競合するが,21B12抗体と競合しないもの(ビン3)が10個含まれ,そのうち7個は,中和抗体であることを確認されたこと(【0138】,表2)が示されていることに照らすと,甲1に接した当業者は,上記2441の安定なハイブリドーマから得られる残りの抗体についても,同様のエピトープビニングアッセイを行えば,本件訂正発明1の特許請求の範囲(請求項1)に含まれる参照抗体と競合する中和抗体を得られるものと認識できるものと認められる。
さらに,当業者は,本件明細書記載の免疫プログラムの手順及びスケジュールに従った免疫化マウスの作製及び選択,選択された免疫化マウスを使用したハイブリドーマの作製,本件明細書記載のPCSK9とLDLRとの結合相互作用を強く遮断する抗体を同定するためのスクリーニング及びエピトープビニングアッセイ(前記ア(ウ)及び(エ))を最初から繰り返し行うことによって,本件明細書に記載された参照抗体と競合する中和抗
体以外にも,本件訂正発明1の特許請求の範囲(請求項1)に含まれる参照抗体と競合する様々な中和抗体を得られるものと認識できるものと認められる。
以上によれば,本件訂正発明1(請求項1)は,サポート要件に適合するものと認められる。
また,前記ア(イ)のとおり,本件明細書には,高コレステロール血症などの上昇したコレステロールレベルが関連する疾患を治療し,又は予防し,疾患のリスクを低減することができるので,治療的に有用であり得ることの記載があることに照らすと,当業者は,本件明細書の記載から,本件訂正発明1の抗体を医薬組成物として使用できることを認識できるものと認められる。
したがって,本件訂正発明5(請求項5)は,サポート要件に適合するものと認められる。
(2)

原告の主張について
原告は,本件訂正発明1の特許請求の範囲(請求項1)は,抗体の構造を特定することなく,機能ないし特性(「結合中和」及び「参照抗体との競合」)のみによって定義された発明であるため,文言上ありとあらゆる構造の膨大な数ないし種類の抗体を含むものであるが,本件明細書に記載された具体的抗体はわずか2グループないし2種類の抗体しかなく,また,参照抗体と「競合する」抗体であれば,PCSK9とLDLRとが結合中和するとはいえず,参照抗体と「競合する」抗体であることは,「結合中和」の指標にはならないから,本件明細書に記載されていないありとあらゆる構造の抗体についてまでも,本件明細書の記載から,PCSK9とLDLRとの結合中和抗体の提供という本件訂正発明1の課題を解決できると認識し得るものではないとして,本件訂正発明1及び5はサポート要件に適合しない旨主張する。

しかしながら,動物免疫法によるモノクローナル抗体の作製プロセスでは,動物の体内で特定の抗原に特異的に反応する抗体が産生され,その免疫化動物を使用して作製したハイブリドーマをスクリーニングし,特定の結合特性を有する抗体を同定する過程において,アミノ酸配列が特定されていくことは技術常識であるから,特定の結合特性を有する抗体を得るために,その抗体の構造(アミノ酸配列)をあらかじめ特定することが必須であるとは認められない。
そして,本件訂正発明1(請求項1)は,「PCSK9とLDLRタンパク質の結合を中和することができ」,かつ,「PCSK9との結合に関して」,参照抗体(31H4抗体)と「競合する」ことを発明特定事項とするものであり,前記(1)イのとおり,当業者は,抗体のアミノ酸配列を参照しなくとも,本件明細書の記載から,本件訂正発明1の特許請求の範囲(請求項1)に含まれる参照抗体と競合する中和抗体を得られるものと認識できるものと認められる。
また,参照抗体と「競合する」抗体であれば,PCSK9とLDLRとの結合を中和するものといえないとしても,本件訂正発明1は「PCSK9とLDLRタンパク質の結合を中和することができ」る抗体であることを発明特定事項とするものであるから,そのことは,上記認定を左右するものではない。
したがって,原告の上記主張は理由がない。

原告は,本件訂正発明1のように,物(抗体)の具体的な構造が特許請求の範囲において特定されておらず,その物が機能的にのみ定義され,スクリーニング方法によって特定された物の発明である場合には,機能的な定義やスクリーニング方法の特定は,サポート要件を基礎付けることにはならないし,このような請求項の記載形式を認めることは,特許法の目的である産業の発達を阻害し,特許制度の趣旨に反する事態が生じる旨主張
する。
しかしながら,前記アのとおり,特定の結合特性を有する抗体を得るために,その抗体の構造(アミノ酸配列)をあらかじめ特定することが必須であるとはいえず,当業者は,抗体のアミノ酸配列を参照しなくとも,本件明細書の記載から,本件訂正発明1の特許請求の範囲(請求項1)に含まれる参照抗体と競合する中和抗体を得られるものと認識できるものと認められる。
また,本件訂正発明1の請求項の記載形式によって,原告が述べるような特許法の目的である産業の発達を阻害し,特許制度の趣旨に反する事態を招くということもできない。
したがって,原告の上記主張は理由がない。
(3)

小括
以上によれば,本件訂正発明1及び5がサポート要件に適合するとした本
件審決の判断に誤りはないから,原告主張の取消事由2は理由がない。4
取消事由3(実施可能要件の判断の誤り)について
(1)

実施可能要件の適合性について
前記3(1)アの認定事実によれば,本件明細書の記載から,本件訂正発明
1の抗体及び本件訂正発明5の医薬組成物を作製し,使用することができるものと認められるから,本件明細書の発明の詳細な説明は,当業者が本件訂正発明1及び5の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであることが認められる。
したがって,本件訂正発明1及び5は,実施可能要件に適合するものと認められる。
(2)

原告の主張について
原告は,本件訂正発明1は,抗体の構造を特定することなく,機能的にのみ定義されており,極めて多種類の抗体を含むものであるが,本件明
細書の発明の詳細な説明において本件訂正発明1に含まれ得る抗体として記載された具体的な抗体(2グループないし2種類の抗体)とはアミノ酸配列が全く異なる多種多様な構造の抗体も文言上含まれ得るし,当然ながら,今後発見される,いまだ全く知られていない抗体も全て含むものであり,本件訂正発明1の特許請求の範囲に含まれる全体の抗体を得るためには,当業者に期待し得る程度を超える過度の試行錯誤を要することは明らかであるから,本件訂正発明1は,実施可能要件を満たさず,また,本件訂正発明5も,これと同様である旨主張する。
しかしながら,前記3(2)アの認定事実に照らすと,特定の結合特性を有する抗体を得るために,その抗体の構造(アミノ酸配列)をあらかじめ特定することが必須であるとはいえず,当業者は,抗体のアミノ酸配列を参照しなくとも,本件明細書の記載に従って,本件訂正発明1の特許請求の範囲(請求項1)に含まれる参照抗体と競合する中和抗体を得ることができるものと認められる。
また,前記3(1)イの認定事実に照らすと,当業者は,本件明細書の記載に基づいて,本件明細書に記載された参照抗体と競合する中和抗体以外にも,本件訂正発明1の特許請求の範囲(請求項1)に含まれる参照抗体と競合する中和抗体を得られるものと認められるから,本件訂正発明1の特許請求の範囲(請求項1)に含まれる抗体を得るために,当業者に期待し得る程度を超える過度の試行錯誤を要するものとはいえない。
したがって,原告の上記主張は,理由がない。

原告は,本件訂正発明1は,抗体の有すべき機能(解決すべき課題)を発明特定事項としているが,実施可能要件は実質的な要件であるから,その物が有すべき機能を発明特定事項に記載したとしても,そのことによって当業者が当該発明に属する物の全てを使用できるとはいえず,実施可能要件を充足することにはならないし,この場合,実施可能要件違
反にならないとすれば,機能的に定義された,いかなる広範囲のクレームであっても,実施可能要件を充足することが可能となり,実施可能要件の判断が形式的なものに貶められるから,本件訂正発明1は,実施可能要件を満たさず,また,本件訂正発明5も,これと同様である旨主張する。
しかしながら,前記ア認定のとおり,当業者は,本件明細書の記載に基づいて,本件明細書に記載された参照抗体と競合する中和抗体以外にも,本件訂正発明1の特許請求の範囲(請求項1)に含まれる参照抗体と競合する中和抗体を得ることができるものと認められる。
したがって,原告の上記主張は理由がない。
(3)

小括
以上によれば,本件訂正発明1及び5が実施可能要件に適合するとした本
件審決の判断に誤りはないから,原告主張の取消事由3は理由がない。5
結論
以上のとおり,原告主張の取消事由はいずれも理由がなく,本件審決にこれを取り消すべき違法は認められない。
したがって,原告の請求は棄却されるべきものである。

知的財産高等裁判所第4部

裁判長裁判官

大鷹一郎
裁判官

古河謙一
裁判官

関根澄子
別紙1
【表2】

【表3】

【表8.3】

【表37.1】

【図1A】

【図7A】

【図7B】

【図7C】

【図7D】

【図14A】

【図14B】

【図20A】

【図20B】

【図20C】

【図20D】

【図27D】

別紙2

【図2A】

(訳)
Cellsurface:細胞表面
Whole-cellextract:細胞全体抽出物
Transferrinreceptor:トランスフェリン受容体
【図3】

(訳)
Cellsurface:細胞表面
Whole-cellextract:細胞全体抽出物
Concentration(μg/ml):濃度(μg/ml)Lane:レーン
Transferrinreceptor:トランスフェリン受容体
別紙3
【図A】

21B12抗体と
競合する仮想抗体

【図B】

31H4抗体と
競合する仮想抗体

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