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損害賠償等請求事件
事件番号平成24(ワ)3042
事件名損害賠償等請求事件
裁判年月日平成30年11月30日
法廷名東京地方裁判所  立川支部
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平成24年(ワ)第3042号

損害賠償等請求事件(以下「第1事件」という。


平成26年(ワ)第1711号

損害賠償等請求事件(以下「第2事件」という。


(略称)以下においては,特に必要がない限り,第1事件原告か第2事件原告かを問わずに単に「原告」といい,個別の原告については「原告番号2の原告」のように原告番号によって特定する。また,第1事件被告兼第2事件被告を単に「被告」という。
主1文
原告番号9,20,30,31,36,80及び133の各原告による横田飛行場における自衛隊の使用する航空機の離着陸及びエンジン作動の差止め並びに音量規制を求める訴えをいずれも却下する。

2
第1項の各原告による横田飛行場におけるアメリカ合衆国軍隊の使用する航空機の離着陸及びエンジン作動の差止め並びに音量規制の請求をいずれも棄却する。

3
第1項の各原告による同原告らの居住地の上空におけるアメリカ合衆国軍隊の使用する航空機の旋回,急上昇,急降下の訓練の差止めの請求をいずれも棄
却する。
4
原告A1の第1項ないし第3項と同旨の差止請求に係る訴訟は,平成25年10月10日の同人の死亡により終了した。

5
原告らの各訴えのうち,平成30年7月20日以降に生ずべき損害の賠償請求に係る部分をいずれも却下する。

6
被告は,次の各原告に対し,次の各金員を支払え。


別紙3-1認容額一覧表1の「氏名」欄記載の各原告(ただし,同欄に「被承継人」と併記された者を除く。
)に対し,対応する同表の「元金合計」欄記
載の金員及びうち「提訴前合計」欄記載の金員に対する平成24年12月2
1日から,
「H24.12.12~H25.1.11」欄から「H30.7.12~H30.7.19」欄までの各欄記載の各金員に対する各期間の最終
日の翌月1日から各支払済みまで年5分の割合による金員


別紙3-3承継人認容額一覧表の
「承継人」
欄記載の各原告
(訴訟承継人)
に対し,対応する同表の「元金合計」欄記載の金員及びうち「提訴前合計」欄記載の金員に対する平成24年12月21日から,
「H24.12.12~
H25.1.11」欄から「H29.5.12~H29.5.30」欄まで
の各欄記載の各金員に対する各期間の最終日の翌月1日から各支払済みまで年5分の割合による金員


別紙3-2認容額一覧表2の「氏名」欄記載の各原告に対し,対応する同表の「元金合計」欄記載の金員及びうち「提訴前合計」欄記載の金員に対する平成26年8月22日から,
「H26.8.7~H26.9.6」欄から「H

30.7.7~H30.7.19」欄までの各欄記載の各金員に対する各期間の最終日の翌月1日から各支払済みまで年5分の割合による金員7
第6項の原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

8
原告番号21及び22の原告らの請求並びに30及び80の原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

9
訴訟費用は,全事件を通じ,第8項記載の原告らについて生じた費用は同原告らの負担とし,第1項ないし第3項記載の原告ら(ただし,原告番号30及び80の原告らを除く。
)について生じた費用は4分し,その3を同原告らの,
その余は被告の負担とし,その余の原告らについて生じた費用は2分し,その1を同原告らの,
その余を被告の負担とし,
被告について生じた費用は2分し,

その1を原告らの負担とし,その余を被告の負担とする。
10

この判決は,第6項に限り,本判決書正本が被告に送達された日から14日を経過したときは,仮に執行することができる。ただし,被告が,別紙3-1認容額一覧表1,同3-2認容額一覧表2及び同3-3承継人認容額一覧表の
各原告に対する「担保額」欄記載の各金員の担保を提供するときは,担保を提供した原告との関係で,その仮執行を免れることができる。

事実及び理由
第1部
第1

請求及び事案の概要
請求(第1事件,第2事件を通じて)

1
被告は,原告番号1,9,20,30,31,36,80及び133の原告ら(以下,一括して「差止原告ら」という。)のために,自ら又はアメリカ合
衆国軍隊をして,


横田飛行場において,毎日午後7時から翌日午前8時までの間,一切の航空機を離着陸させてはならず,
かつ,
そのエンジンを作動させてはならない。



横田飛行場の使用により,毎日午前8時から午後7時までの間,差止原告らの居住地内に70dB(A)(以下「dB」と表記する。)を超える一切
の航空機騒音を到達させてはならない。
2
被告は,アメリカ合衆国軍隊をして,差止原告らの居住地の上空において,航空機による旋回,急上昇,急降下の訓練をさせてはならない。

3
被告は,各原告に対し,それぞれ82万8000円及びこれに対する第1事件原告については平成24年12月21日から,第2事件原告については平成
26年8月22日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。4
被告は,各原告に対し,第1事件原告については平成24年12月12日から,第2事件原告については平成26年8月7日から,第1項記載の各行為がなくなるまでの間,それぞれ毎月末日限り,2万3000円及びこれに対する当該月の翌月1日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
5
被告は,別紙1-3-2承継人請求額一覧表記載の各原告に対し,対応する同表の「提訴前分」欄記載の金員及びこれに対する平成24年12月21日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

6
被告は,別紙1-3-2承継人請求額一覧表記載の各原告に対し,平成24年12月12日から,対応する同表の「終期」欄記載の日までの間,毎月末日限り1か月当たり,対応する同表の「提訴後分」欄記載の金額及びこれに対す
る当該月の翌月1日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。78
仮執行宣言

第2
訴訟費用は被告の負担とする。

事案の概要

1
本件は,横田飛行場の周辺に居住する住民である原告らが,横田飛行場を航行する航空機の発する騒音を中心とする侵害によって,生活妨害(睡眠妨害,会話・通話妨害等),身体的被害及び精神的被害を受けているとして,同飛行場をアメリカ合衆国に同国軍隊(以下「米軍」という。)の使用する施設及び区域として提供している被告に対し,原告らのうち差止原告らにおいて,次の
⑴の各差止請求をし,併せて,原告らにおいて,次の⑵の請求をする事案である。


人格権,
環境権及び平和的生存権に基づき,
航空機の離着陸等の差止め
(毎
日午後7時から翌日午前8時までの間,一切の航空機の離着陸及びエンジンの作動の禁止),航空機の発する騒音の音量規制(毎日午前8時から同日午後7時までの間,差止原告らの居住地に70dBを超える一切の航空機騒音
を到達させることの禁止)及び米軍の使用する航空機の訓練の差止め(差止原告らの居住地の上空における旋回,急上昇,急降下の訓練の禁止)を求める差止請求(以下,これらの請求を併せて「本件差止請求」という。)⑵
日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約第六条に基づく施設及び区域並びに日本国における合衆国軍隊の地位に関する協定の実施に伴う民事特別法(以下「民事特別法」という。)1条又は2条に基づき,第1事件原告は平成21年12月12日から,第2事件原告は平成23年8月7日からそれぞれ本件差止請求の対象行為がなくなるまで(以下,第1事件原告につき平成21年12月12日以降,第2事件原告につき平成23年
8月7日以降を「本件請求対象期間」という。),原告1名につき1か月当たり慰謝料2万円と弁護士費用3000円の合計2万3000円の割合によ
る損害賠償請求金及び,うち提訴日までの分82万8000円に対する訴状送達の日の翌日(第1事件については平成24年12月21日,第2事件については平成26年8月22日)から,うち提訴日後については,当該月の翌月1日から各支払済みまで年5分の割合による遅延損害金
2
被告は,被告(自衛隊)の使用する航空機(以下「自衛隊機」という。)に関する差止請求及び口頭弁論終結日の翌日以降の将来の損害賠償に係る訴えは不適法であるとして却下を求め,米軍の使用する航空機(以下「米軍機」という。)に関する差止請求は主張自体失当であるとして棄却を求め,口頭弁論終結日までの過去の損害の賠償請求については,原告らが航空機騒音によって受けている影響は受忍限度を超えるものではないなどとして棄却を求めるととも
に,仮に被告に損害賠償責任が生じるとしても,原告らの一部は,横田飛行場における航空機騒音等の存在を認識し,その被害を容認して同飛行場周辺に転入したものであるとして,危険への接近の法理による免責ないし損害の減額を主張し,さらに,住宅防音工事の助成を受けた原告らにつき,被害が軽減しているとして,損害の減額を主張している。

第2部

前提となる事実
以下の事実は,当事者間に争いがないか,括弧内掲記の証拠又は弁論の全趣旨により容易に認められる。

第1
1
横田飛行場の設置・管理の経緯等
横田飛行場の所在位置及び規模
横田飛行場は,平成29年3月31日現在,東京都の福生市,立川市,武蔵村山市,昭島市(ミドルマーカー(計器着陸装置)関係部分及び鉄道側線敷部分のみ),羽村市及び西多摩郡瑞穂町(以下「瑞穂町」という。)の5市1町にまたがる地域に所在する総面積約713万6000㎡の施設及び区域であり,
長さ約3350mの滑走路(これに接続して南側約305m,北側約300mのオーバーラン部分が設けられている。)及び長さ約2000mの誘導路を有
し,格納庫,整備工場等の附属施設のほか,アメリカ合衆国第5空軍司令部,同空軍第374空輸航空団等の各庁舎及び住宅等の支援施設が設置され,後述のとおり,平成24年3月以降,航空自衛隊航空総隊司令部と関連部隊の施設も設置された。
2
横田飛行場の設置及び管理の経緯


終戦までの経緯
旧陸軍省は,昭和15年4月,当時の福生町,羽村町,瑞穂町,砂川町,村山町及び拝島町にまたがる山林及び農地約446㎡を買収して多摩飛行場(旧陸軍の立川飛行場の附属施設)を開設し,昭和20年8月15日の終戦に至るまで,我が国の東部防衛飛行基地として管理運用していた。


終戦以後の経緯

昭和20年8月15日の終戦によって旧陸軍は解体され,その管理下にあった多摩飛行場は,
連合国軍を構成する米軍の進駐に伴い,
同年9月に,
アメリカ合衆国陸軍に接収された。


その後,多摩飛行場は,米軍によって整備され,当時の村山町の一字地名を採って横田飛行場と称されることとなり,昭和21年8月,新たに米軍の使用する飛行場として開設され,以降,アメリカ合衆国空軍によって管理,使用されている。


被告は,昭和27年4月28日,「日本国との平和条約」(昭和27年条約第5号。以下「平和条約」という。)の発効に伴い,「日本国とアメリカ合衆国との間の安全保障条約」(昭和27年条約第6号。以下「旧日米安保条約」という。)及び「日本国とアメリカ合衆国との間の安全保障条約第三条に基づく行政協定」(以下「行政協定」という。)2条1項に基づき,横田飛行場を,米軍の使用が許される施設及び区域として,アメ
リカ合衆国に提供した。昭和35年6月23日以降,「日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約」(以下「日米安保条約」とい
う。)及び「日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約第六条に基づく施設及び区域並びに日本国における合衆国軍隊の地位に関する協定」(以下「地位協定」という。)の締結に伴い,被告は,横田飛行場を,同協定2条1項(a)(同項(b)によって,行政協定の終了の時に使用している施設及び区域は,同項(a)の規定に従って合意した
施設及び区域とみなされた。)に基づき,引き続き,米軍による使用が許される施設及び区域として米軍が飛行場として管理,使用している。なお,アメリカ合衆国が日米安保条約の目的の遂行に当たって使用するため必要とされる施設及び区域の決定並びに返還については,日米両国代表者による合同委員会(以下「日米合同委員会」という。)の協議を経て
行われることとなった。

その後,
被告は,
日米合同委員会の協議に従い,
アメリカ合衆国に対し,
数度にわたって米軍による使用が許される施設及び区域の追加提供を行った。そのうち,滑走路の拡張,航空機運航の安全確保等に関する主なも
のは,次のとおりである。
昭和30年10月,滑走路拡張用地として約40万8447㎡,ローカライザー(着陸機に滑走路中心線からの左右の逸脱を知らせる装置)用地として約1万1127㎡,アウターマーカー(計器進入着陸装置の一つで滑走路末端からの距離を知らせるもの)用地として約231㎡,
アウターマーカーへの出入道路として約699㎡の地役権,航空障害物制限区域として約7万6972㎡にわたる土地の地役権(ただし,空間に航空機の路線権を認めるための用役制限を内容とするもの。)を提供した。
昭和37年12月21日,南と北の進入灯設置用地として約3万39
90㎡を提供した。ただし,道路敷に係る部分は都有地等であり,鉄道敷に係る部分は旧日本国有鉄道所有地であったため,この部分について
は地役権を提供した。
昭和45年5月28日,滑走路の南東側面の無障害地帯として約1万700㎡を提供した。
昭和47年2月3日,滑走路北側の無障害地帯として約6万2679㎡を提供するとともに(国有地であるが,このうち約6万2607㎡の
部分は航空障害物制限区域として提供した。),上記

の航空障害物制

限区域として既に提供してあった部分の地役権を解除し,改めて航空機の着陸安全確保のための米軍専用区域として同部分約7万6972㎡を提供した。
昭和47年3月2日,ミドルマーカー設置用地として約1万7160
㎡(このうち約1万6747㎡はミドルマーカー保護のための障害物制限用地として提供されたもの)を提供した。
3
横田飛行場の基地機能の変遷


駐屯部隊及び使用状況等の変遷

横田飛行場は,朝鮮戦争,ベトナム戦争の当時は,米軍の爆撃機や戦闘機の離着陸に使用されていたが,昭和46年の第347戦術戦闘航空団等の沖縄等への移駐に伴う戦闘爆撃機の撤収によって,戦闘基地としての機能を失った。これ以降,横田飛行場は,DC-8,ボーイング727,同747及びその他の米軍にチャーターされた民間航空機並びにC-141及びC-5Aギャラクシー等の軍用輸送機の極東空輸中継基地となり,
昭和50年9月には,沖縄の嘉手納飛行場からC-130を配備した第345戦術空輸大隊が移駐した。

また,被告は,日米両政府間で協議されていた在日アメリカ合衆国空軍の関東平野地域における施設・区域の整理統合計画(関東平野地域統合計
画)に基づき,昭和48年から昭和53年にかけて,府中空軍施設,立川飛行場,関東村住宅地区等の各施設の返還を受け,これらの各施設の代替
施設が横田飛行場内に建設された。そして,昭和49年11月以降,府中空軍施設に置かれていた在日米軍司令部が横田飛行場内に置かれることとなった。
昭和63年10月,フィリピン共和国のクラーク基地から第600空軍音楽隊が移駐し,平成元年7月から9月にかけて,同基地から第9航空医
療飛行隊等4部隊が移駐し,同年12月には,第374戦術空輸航空団が移駐した。
第374戦術空輸航空団は,平成4年4月,空軍再編の一環として,横田飛行場の維持管理を任務とする第475航空基地団と合併し,第374空輸航空団として再編成された。


横田飛行場に配備されていたC-130の一部は,平成10年3月末までに,アメリカ合衆国本土のエルメンドルフの空軍基地に移駐した。

航空医療輸送機として使用されていたC-9A4機は,平成15年9月末,第347航空医療輸送中隊が解散したことに伴って退役となり,代替機の配備はなかった。


日米安全保障協議委員会は,平成17年10月,「日米同盟:未来のための変革と再編」を発表し,その中で,航空自衛隊航空総隊司令部がアメリカ合衆国第5空軍司令部と同じく横田飛行場内に設置されることが明記された。そして,同委員会は,平成18年5月,「再編の実施のための
日米のロードマップ」
を発表し,
航空自衛隊は,
同ロードマップに基づき,
横田飛行場において,航空総隊司令部の運用に必要な各種施設を整備するとともに,指揮システムや自動警戒管制システムなどの指揮統制システム及び器材などの移設作業を進め,平成24年3月26日,航空総隊司令部及び関連部隊の横田飛行場への移設を完了し,横田飛行場における航空総
隊司令部の運用を開始した。
この際,
横田飛行場に移転するなどしたのは,
航空総隊司令部のほか作戦情報隊及び防空指揮群であり,移転後の航空自
衛隊の所在人員は約800名である。
航空総隊司令部がアメリカ合衆国第5空軍司令部と同じ敷地内に設置されたことにより,被告とアメリカ合衆国との間において,対処可能時間が短い防空及び弾道ミサイル防衛に関し,必要な情報をより迅速に共有することが可能となるほか,日米両司令部組織間の連携が強化され,相互運用
性の向上が図られた。

以上のとおり,横田飛行場は,昭和15年4月,旧陸軍省が多摩飛行場として開設して以来,
航空機が離着陸する飛行場として使用され,
現在は,
在日米軍司令部,アメリカ合衆国第5空軍司令部,同空軍の一部並びに航空自衛隊航空総隊司令部及び関連部隊が設置され,C-130(プロペラ
輸送機),C-12(プロペラ輸送機)及びUH-1N(ヘリコプター)が常駐する米軍の輸送中枢基地となっている。


横田飛行場における夜間着陸訓練の実施と代替施設の検討状況等

夜間着陸訓練
(NightLandingPracticeNLP)

とは,航空母艦(以下「空母」という。)の艦載機が,滑走路の一部を空
母の着艦甲板に見立て,夜間,地上の誘導ライト等を頼りに大きな推力を維持しつつ,滑走路上に定められた基点に向けて滑走路に進入し,着陸後直ちに急上昇をして復航することを数回繰り返すというものである(以下,夜間か否かを問わず,このような内容の訓練を「タッチアンドゴー」ということもある。)。


昭和48年当時,空母ミッドウェー搭載機の夜間着陸訓練は,三沢,岩口の両飛行場を使用して実施されていたが,支援要員の増加,維持修理,補給面での負担の増大及び上記各飛行場が空母ミッドウェーのいわゆる母港である横須賀海軍施設から遠距離にあること等を理由として,関東地
方及びその周辺地区で夜間着陸訓練を行いたいとの米軍の要請を受け,昭和57年2月からは厚木海軍飛行場で同訓練が行われることとなった。そ
して,昭和58年1月以降は横田飛行場においても同訓練が実施されることとなり,平成3年8月までは空母ミッドウェー搭載の早期警戒機が,同年9月の空母インディペンデンス及び平成10年8月の空母キティホークの各配備後は早期警戒機及び対潜哨戒機等が,それぞれ訓練を実施していた。

横田飛行場における夜間着陸訓練の実施日数を年ごとにみると,昭和58年は21日,
昭和61年は7日,
昭和62年及び昭和63年は各11日,
平成元年は9日,平成2年は17日,平成3年は10日,平成4年は17日,
平成5年は28日,
平成6年及び平成7年は各5日,
平成8年は6日,
平成9年は1日,平成10年は5日,平成12年は8日であった。昭和5
9年,昭和60年及び平成11年には同訓練は実施されず,また,後述のとおり平成13年以降の同訓練の実施はない。

夜間着陸訓練は主として厚木海軍飛行場で実施されてきたが,同飛行場周辺地域の市街化に伴う騒音問題を早急に解決する必要があり,また,米
軍も騒音の軽減や同訓練の効率化を理由に関東地方及びその周辺における十分な訓練ができる飛行場の確保を要請してきたことから,防衛省(当時の防衛施設庁。以下,省庁名は特に断らない限り現在のものによる。)は,昭和58年度から,既存の飛行場の中に,米軍の要請を満たすとともに,周辺住民の理解が得られる飛行場があるか否か,飛行場を新たに設置
するのに適地があるか否かなどの調査検討を行った。
これらの検討の結果,防衛省は,三宅島に空母艦載機着陸訓練場を設置することを計画し,昭和58年12月,三宅村議会において,一旦は官民共用の飛行場を誘致する意見書が決裁されたものの,同議会が,昭和59年1月,昭和58年12月の決議を撤回し,同飛行場の誘致に反対する旨
の意見書を決議し,上記訓練場の設置が実現するまで相当の期間を要することが見込まれたため,米軍に対し,硫黄島で空母艦載機着陸訓練を実施
するという暫定措置を申入れたところ,平成元年1月,米軍は基本的にこれを受け入れた。

防衛省は,平成元年度から,硫黄島に設置されている飛行場(海上自衛隊硫黄島航空基地)において,灯火施設等の滑走路関連施設,給油施設等の夜間着陸訓練に必要な施設の整備に着手し,約166億8600円の予
算を投じて,平成5年3月末に上記施設を完成させた。なお,米軍は,この施設整備期間中においても,硫黄島において,一部完成した施設を使用し,可能な範囲で夜間着陸訓練の一部を実施した。
防衛省は,
硫黄島における夜間着陸訓練施設の完成に伴い,
米軍に対し,
硫黄島においてできるだけ多くの訓練を実施するよう強く要望し,米軍も
その要望を受け入れる意向を示した。米軍は,平成5年4月から平成24年5月までの間,
硫黄島において,
41回にわたり夜間着陸訓練を実施し,
その多くは,騒音の比較的大きいジェット戦闘機による訓練であった。オ
横田飛行場は,平成22年度まで,天候等の事情により硫黄島で所要の訓練を実施できない場合の空母搭載機着陸訓練の対象区域に指定されて
おり,米軍は,硫黄島での訓練が悪天候によって予定どおり実施できなかった等の特別な事情がある場合に,横田飛行場において,早期警戒機及び対潜哨戒機による訓練を実施していた。もっとも,米軍は,平成12年9月を最後に横田飛行場においては空母艦戦機着陸訓練(夜間を含む。)を実施していない。

4
横田飛行場に係る施設及び区域の一部返還とその後の利用状況


横田飛行場の用地及び飛行場運営のためにアメリカ合衆国に対して提供された土地(地役権も含む。)のうち,被告が返還を受けた主な土地は,次のとおりである。


昭和32年4月5日,旧陸軍時代には射撃練習場として使用され,提供後は遊休地となっていた土地約17万4474㎡。


昭和46年4月12日,横田飛行場から我が国に出入国する外国人を対象とする税関庁舎等を建設するための土地約2012㎡。


昭和47年2月29日,変電所の移設に伴い不要となった土地約1743㎡。


昭和52年9月30日及び同年11月11日,不要となったアウターマーカー関連用地約1310㎡。


昭和55年8月29日,熊川交差点拡幅のための土地約742㎡。

昭和56年8月13日,横田飛行場から我が国に出入国する外国人を対象とする東京入国管理事務所を建設するための土地約750㎡。


昭和60年7月8日,国道16号を拡幅するための土地約3万8990㎡。


以上の各土地の合計約22万0021㎡に加え,横田飛行場への専用側線(貨物列車の引込線)用地等合計約4800㎡。


返還土地の利用状況

上記⑴アの土地
国有地である約16万0630㎡は,財務省所管の普通財産として,一部は瑞穂町に貸し付けられて,中学校,公民館及び図書館用地として利用され,また,一部は東京都との交換に供されて,高等学校の用地として利用されている。その余の民有地部分は所有者に返還された。


同イの土地
財務省所管の行政財産として,横田飛行場を利用する出入国者のための税関及び出入国管理事務所の合同庁舎用地として利用されている。

同ウの土地
大部分が民有地であったことから,所有者に返還された。


同エの土地
大部分は財務省所管の普通財産として,一部は都道として利用されてい
る。

同オの土地
東京都の財産として,五日市街道用地の一部として利用されている。

同カの土地
法務省所管の行政財産として,横田飛行場を利用する出入国者のための
東京入国管理事務所庁舎用地として利用されている。

同キの土地
国土交通省所管の行政財産として,国道16号用地として利用されている。


その余の土地のうち国有地の一部は,市道や雨水汚水幹線敷として関係自治体に無償で貸し付けられている。

5
横田飛行場の設置,管理及び米軍機の運航等の法律関係


終戦までの法律関係
旧陸軍は,昭和20年8月15日の終戦まで,旧軍財産として横田飛行場(多摩飛行場)を所管し,飛行場の設置,維持,管理,航空機の運航及びこ
れに伴う航空交通管制(旧航空法は,軍用航空機に対しては適用が除外されていた。)の全てを専権的に行っていた。


終戦から平和条約発効までの法律関係
前記2⑵アないしウのとおり,横田飛行場は,昭和20年9月から平和条約の発効の日の前日(昭和27年4月27日)までは米軍の接収下にあり,
横田飛行場の施設及び区域の維持,管理,航空機の運航及びこれに伴う航空交通管制は,我が国の国内法の制約を受けることなく,米軍の専権下にあった。

平和条約発効後の法律関係
被告は,平和条約の発効により,昭和27年4月28日以降,行政協定2条1項に基づき米軍の使用する施設及び区域として横田飛行場を米軍に提供
し,行政協定3条1項により,米軍が管理,使用を開始した。
これにより,米軍は,自らの判断と責任において横田飛行場に航空機を配備し,その運航のために,横田飛行場を管理し,使用することとなった。その有する管理,使用権限は,横田飛行場に離着陸する米軍及びその関係の航空機の運航管理行為を含むものであった。

被告は,昭和35年6月23日,日米安保条約及び地位協定を締結し,同日以降,横田飛行場を地位協定2条1項(a),(b)に基づいて提供し,現在に至っているが,アメリカ合衆国は,地位協定3条1項で,使用を許可された施設及び区域内でそれらの運営,管理等のため必要な全ての措置を採ることができるとされており,横田飛行場の管理,使用に係る法律関係は,
従前と同様であって,
米軍機の保有及び運航権限は全て米軍の専権に属する。
そして,米軍機の運航活動の内容について変更を求めるには,地位協定25条の定める日米合同委員会の協議によらなければならない。
6
横田飛行場の航空交通管制等


航空法の適用除外
被告は,平和条約発効後の昭和27年7月15日,国内における航空機の運航の安全,航行に起因する障害の防止等の目的の下に,航空法(昭和27年法律第231号)を制定した。これに伴って,それまで米軍独自の判断により我が国領空を自由に航行していた米軍機と我が国の航空機との航空活動
に伴う種々の面での法的調整を図る必要が生じたため,航空法の制定と併行して,同日,「日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約第六条に基づく施設及び区域並びに日本国における合衆国軍隊の地位に関する協定及び日本国における国際連合の軍隊の地位に関する協定の実施に伴う航空法の特例に関する法律」(昭和27年法律第232号。以下「航空特例
法」という。)を制定し,航空法所定の事項について,次のとおり,適用除外事項を定めた。これにより,横田飛行場においては,適用除外事項につい
て航空法所定の手続は行われていない。

飛行場,航空保安施設の設置に係る国土交通大臣の許可(航空法38条1項)

イウ
航空機の耐空証明(同法11条)
航空機の運航従事者(操縦士,航空士,航空機関士,航空通信士及び航空整備士)の資格の技能証明(同法28条1項,2項)

エオ
外国航空機の蛇行の許可(同法126条2項)


外国航空機の国内使用の制限(同法127条)


軍需品輸送の禁止(同法128条)


各種証明書等の承認(同法131条)


操縦教育証明(同法34条2項)

航空機の運航に関する同法第六章の規定のうち,国土交通大臣の航空交通の指示(同法96条),航空交通情報の入手ための連絡(同法96条の2),飛行計画及びその承認(同法97条)並びに到着の通知(同法98条)を除くその余の事項(なお,適用保留事項は,「日本国とアメリカ合
衆国との間の相互協力及び安全保障条約第六条に基づく施設及び区域並びに日本国における合衆国軍隊の地位に関する協定及び日本国における国際連合の軍隊の地位に関する協定の実施に伴う航空法の特例に関する法律施行令」(昭和34年制令第334号。以下「航空特例法施行令」という。)によって指定されている。)



航空交通管制
航空法の制定に伴い,我が国の領空を運行する航空機に対する航空交通管制は国土交通大臣の権限事項となった(同法95条の2ないし97条参照)が,米軍機に対する航空交通管制を全て我が国の国土交通大臣の権限に服せ
しめるのでは米軍機の運航に支障を来す場合も生じることから,日米合同委員会は,航空交通管制についても,地位協定6条1項(地位協定締結前は行
政協定6条1項)により,地位協定2条(地位協定締結前は行政協定2条)に基づいてアメリカ合衆国に提供された飛行場施設の隣接,近傍空域における航空交通管制業務は,同国が行うことを合意した。具体的には,航空交通管制業務(航空路管制業務,飛行場管制業務,進入管制業務,ターミナル・レーダー管制業務及び着陸誘導管制業務(航空法施行規則199条1項1号
ないし5号)のうち,航空路管制業務を国土交通大臣が所管し,その余の横田飛行場に関する管制業務については米軍が行うこととされ,米軍は,横田飛行場内の離着陸管制,横田飛行場の管制圏及び進入管制区内の航行については,米軍機のみならず我が国の民間機も含め全てこれを管制し,これから離脱し,又は航空路から横田飛行場の進入管制区へ進入する場合には,国土
交通省の航空路管制と管制の引継ぎを行うこととされている。


航空機騒音に関する日米合同委員会の合意(甲A10,A11)
日米合同委員会は,昭和39年4月17日,横田飛行場における米軍の航空機騒音の軽減に関する規制措置について合意し,平成5年11月18日には,同合意を一部改正し,「22時から6時までの間の時間における飛行及
び地上での活動は,米軍の運用上の必要性に鑑み緊要と認められるものに制限される。夜間飛行訓練は,在日米軍の任務の達成及び乗組員の練度維持のために必要とされる最小限に制限し,司令官は,夜間飛行活動をできるだけ早く完了するようすべての努力を払う」ことを合意した(以下「平成5年日米合同委員会合意」という。)。



横田飛行場の財産管理面の法律関係
平成24年12月31日時点における横田飛行場の施設及び区域(合計713万6000㎡)の財産管理関係の主なものは,財務省所管の普通財産が約608万9000㎡,防衛省所管の行政財産が約2万6000㎡,国土交
通省所管の行政財産が約96万㎡,
東京都等の公有財産が約3万4000㎡,
民有財産が約2万7000㎡である。

7
自衛隊機使用の法律関係


自衛隊機の運行権限
自衛隊法3条は,「自衛隊は,我が国の平和と独立を守り,国の安全を保つため,我が国を防衛することを主たる任務とし,必要に応じ,公共の秩序の維持に当たるものとする」と定め,同法第6章は,自衛隊の行動として,
防衛出動(同法76条),治安出動(同法78条,81条),海上における警備行動
(同法82条)災害派遣

(同法83条,
83条の2,
83条の3)

領空侵犯に対する措置(同法84条)等の各種の行動を規定している。自衛隊機の運航は,上記のような自衛隊の任務,特にその主たる任務である国の防衛を確実かつ効果的に遂行するため,防衛政策全般にわたる判断の下に行
われる。
そして,
防衛大臣は,
内閣総理大臣が有する指揮監督権
(同法7条)
の下,
自衛隊の隊務を統括する権限を有しており(同法8条),同権限には,自衛隊機の運航を統括する権限も含まれている。
防衛大臣は,
同権限に基づいて,
同法107条5項の規定により,防衛大臣が定めた航空機の使用及び搭乗に
関する訓令(昭和36年防衛庁訓令第2号)を発し,自衛隊機の具体的な運用は,同訓令2条6号に規定する航空機使用者に与えられており,当該航空機使用者は,所属の航空機を同訓令3条に定められた場合に使用することができる。


自衛隊機の運航に関する規制
自衛隊機に関しては,自衛隊の任務を遂行するため,一般の航空機と異なる性能,運航及び利用の態様等が要求される。そのため,自衛隊機の運航については,次のとおりの規制がある。

航空法の適用除外
自衛隊法107条1項及び4項は,航空機の航行の安全又は航空機の航行に起因する障害の防止を図るための航空法の規定の適用を大幅に除外
し,同条5項は,防衛大臣は,自衛隊が使用する航空機の安全性及び運航に関する基準,その航空機に乗り組んで運航に従事する者の技能に関する基準を定め,その他航空機による災害を防止し,公共の安全を確保するため必要な措置を講じなければならないとしている。

防衛大臣の定める基準等
防衛大臣は,前同項に基づき,上記適用除外の代替措置として,自衛隊が使用する航空機の安全性及び運航に関する基準,その航空機に乗り込んで運航に従事する者の技能に関する基準として,航空機の運航に関する訓令(昭和31年防衛庁訓令第34号)及び航空従事者技能証明及び計器飛行証明に関する訓令(昭和30年防衛庁訓令21号)を定めている。
第2
1
航空機騒音の評価方法
音の尺度と航空機騒音の特性
音とは,物体の振動等が媒質(気体,液体,固体)を伝わって聴覚に引き起こされる刺激である。音は,音波の周波数によって定まる音の高さ,音圧によ
って決まる音の大きさ,及び,音波の波形によって定まる音色の3つの要素で構成される。人間が聴くことのできる範囲(可聴範囲)は,周波数(1秒間における音圧(音波によって空気中に生ずる圧力であって,単位はマイクロパスカル(以下「μPa」と表記する。)である。)による空気の変動の繰り返し回数で,単位はヘルツ(以下「Hz」と表記する。)である。)で約20Hz
から2万Hzまでとされているが,もとより個人差がある。また,音圧そのもの(音波の物理量)に照らしてみた人間の可聴範囲は20μPaから2000万μPaまでといわれているところ,
人間の感覚の特徴である対数的性質から,
音圧レベル(SPL)については「SPL=20log10P/P0」(P0,Pはいずれも音圧であり,P0には人間の最小可聴単位である20μPaが用い
られる。)という対数尺度が成立し,この単位はdBとされ,上記式に人間の可聴範囲であるP=20μPa~200万μPaを代入すると,SPL=0~
120dBとなる。そして,同じ音圧の音でも周波数によって人間の聴覚には異なった音の大きさに聞こえることから,音圧レベルは耳に感じる音の大きさをそのまま表示するものではないため,人間の耳にどの程度に聞こえるかという感覚に基づく生理的ないし心理的な尺度としての「音の大きさ」を定量的に表示する方法として作られたのが,phonである。これは,機械的に正弦波
(純音)を作成し,1000Hzの純音が実際にはどのような大きさに聞こえるかを表すものであり,例えば,1000Hzで70dBの純音と同じ大きさに聞こえる他の周波数帯の音圧レベルの音を,全て70phonと表示して用いるものである。
もっとも,phon値は,自然界にはあまり存在しない純音成分だけを取り
出したものであることや,聴感には個人差があることなどから,実際の騒音程度を客観的に表示する値としては十分ではない。すなわち,一概に騒音といっても,実際の騒音は,突発性とか周波数成分の違いなどの様々な特性を有しており,一様ではない。殊に,航空機騒音は,工場騒音,自動車騒音等と比較して継続時間が数秒から数十秒の間欠音であること,音源パワーが桁違いに大き
く広い範囲に騒音影響をもたらすこと,及び,飛行形態や飛行経路の変更,気象条件による飛行方向や音の伝播特性の変化により地上で聞こえる騒音の性状やレベルが大きく変化すること等の特性がある。
そこで,航空機騒音にさらされている人間にとっての騒音レベルを評価するには,その騒音の特性をつかみ,「うるささ」という感覚的な評価を重視する
ことが必要であると考えられるようになり,
次のような評価方法が考案された。
2
PNL(PerceivedNoiseLevel。感覚騒音レベル)⑴

概要
航空機騒音に対して感じる「やかましさ(Noisiness)」(「大
きさ」ではない。)を求め(単位はノイ(Noy)であり,1000Hzの大きさのレベル40phonの音と同じやかましさの音が1Noyとされる。
乙A4),これを基礎にして「音の大きさのレベル」に対応するものとして考案されたものに,PNL値による評価方法がある。


計算方法
Noy及びPNLは,次の計算式によって求められる。

NT(総Noy)=Nmax+0.15(∑N-Nmax)
Nmaxは,騒音を1/3オクターブバンドによる周波数分析をした各周波数帯の最大値である。また,∑Nは,各周波数帯のNoy数の総計である。


PNLは上記の総Noyを基に次の計算式で算出される。
PNL=40+100/3logNT〔PNdB〕

3
WECPNL(WeightedEquivalentContinuousPerceivedNoiseLevel。加重等価継続感覚騒音レベル)


概要
昭和46年,国際連合の下部機関であるICAO(Internatio
nalCivilAviationOrganization。国際民間航空機関)は,航空機騒音の特性を考慮し,公共用飛行場周辺のように1日を通して定常的な航空機騒音にさらされている地域の住民が受ける感覚騒音量をより適切に評価する方法として,上記PNLを基礎にしたWECPNL値(以下,略して「W値」という。)による評価方法を採択した。我が国
でも,後記第3のとおり航空機騒音に係る環境基準としてW値を採用し,後記第4のとおり横田飛行場のような防衛施設の周辺対策を実施する上での行政指針としても採り入れた。

基本的な考え方
W値による評価方法は,前記1のような航空機騒音自体の特異性,騒音の1日を通じた定常性といった条件の下では,一般騒音と同様に,瞬間的な騒
音レベルであるdBだけで評価するよりも,ある期間(例えば1日)について,時間帯補正をするなどしてその総曝露量で評価した方が人間の感覚的な騒音評価として適切であるとの考え方に基づくものである。WECPNLの個々の意味は次のとおりである。

W(Weighted)
例えば,90dBの航空機騒音でも,昼間と夜間では周囲の状況(暗騒音の大きさの違い),あるいはその人が日常生活で置かれている状況(仕事,一家団らん,睡眠等)等を考慮した場合には,心理的,生理的に反応する度合いが異なるものとして,時間帯に重み付けをするという意味である。


E(Equivalent)
1日の航空機騒音の総量を24時間(86,400秒)で平均することを意味し,等価騒音値を求めるという意味である。


C(Continuous)
等価騒音値が1日中継続するという意味である。


PNL(PerceivedNoiselevel)
騒音の大きさのみならず,騒音の成分を考慮し,人間がうるさく感じる度合いを単位化したものであり,dBで表示される騒音レベルに対して,感覚騒音レベルと呼ばれるものである。

第3
1
航空機騒音に係る環境基準について
環境基準告示の経緯
公害対策基本法(昭和42年法律第132号)9条1項は,「政府は,大気の汚染,水質の汚濁,土壌の汚染及び騒音に係る環境上の条件について,それぞれ,人の健康を保護し,及び生活環境を保全するうえで維持されることが望
ましい基準を定めるものとする。」と,同条4項は,「政府は,公害の防止に関する施策を総合的かつ有効適切に講ずることにより,第一項の基準が確保さ
れるように努めなければならない。」と定めていたところ,航空機による特殊騒音についても,同条1項に基づき,環境基準が設定された。
上記環境基準が設定される経過として,環境庁長官の諮問を受けた中央公害対策審議会騒音振動部会特殊騒音専門委員会は,昭和48年4月12日,「航空機騒音に係る環境基準について(報告)」と題する書面(乙A64)を提出
し,航空機騒音に係る諸対策を総合的に推進するに当たっての目標となるべき環境基準の設定につき,航空機騒音の評価単位として人の感じる「うるささ」を表示するW値を用いることを明らかにするとともに,指針値を70W(商工業の用に供される地域においては75W)以下とし,騒音測定方法,指針値達成期間,指針値達成のための施策等についての検討結果を報告した。そして,
中央公害対策審議会は,上記委員会報告に基づき,同年12月6日,環境庁長官に対し,「航空機騒音に係る環境基準の設定について」と題する答申(乙A65)を行い,環境庁長官は,同月27日,「航空機騒音に係る環境基準について」(昭和48年環境庁告示第154号。以下「昭和48年環境基準」という。)を告示した(甲A3,乙A5)。

2
昭和48年環境基準の内容
昭和48年環境基準は,生活環境を保全し,人の健康の保護に資するうえで維持することが望ましい航空機騒音に係る基準及びその達成期間につき,次のとおり定めた(甲A3,乙A5)。



基準値

専ら住居の用に供される地域
(地域類型Ⅰ)
につきW値70以下
(以下,
W値は「70W」など数字に「W」を添えて表記する。)とし,それ以外の地域であって通常の生活を保全する必要がある地域(地域類型Ⅱ)につき75W以下とする。各類型を当てはめる地域は,都道府県知事が指定する。


上記におけるW値は,

における値とする(以下,これに従ってW値を算定する方式を,後述の防衛施設庁長官の定めた算定方式(防衛施設庁方式)と対比させる意味で,「環境庁方式」という。)。
測定は,原則として連続7日間行い,暗騒音より10dB以上大きい航空機騒音のピークレベル(計量単位dB)及び航空機の機数を記録す
るものとする。
測定は,屋外で行うものとし,その測定点としては,当該地域の航空機騒音を代表すると認められる地点を選定するものとする。
測定時期としては,航空機の飛行状況及び風向等の気象条件を考慮して,測定点における航空機騒音を代表すると認められる時期を選定する
ものとする。
評価は

ピークレベル及び機数から次の算式により1日ごと

の値(単位WECPNL)を算出し,そのすべての値をパワー平均して行うものとする。
dB(A)+10log10N-27

上記算式のdB(A)とは,1日のすべてのピークレベルをパワー平均したものをいい,Nとは,午前0時から午前7時までの間の航空機の機数をN1,午前7時から午後7時までの間の航空機の機数をN2,午後7時から午後10時までの間の航空機の機数をN3,午後10時から午後12時までの間の航空機の機数をN4とした場合における次により
算出した値をいう。
N=N2+3N3+10(N1+N4)
測定は,計量法(平成4年法律第51条)71条の条件に合格した騒音計を用いて行うものとする。この場合において,周波数補正回路はA特性を,動特性は遅い動特性(Slow)を用いることとする。



達成期間等

公共用飛行場等の周辺地域においては,空港整備法(昭和31年法律第80号)によって区分(第一種から第三種まで)された種別に従い,第三種空港及びこれに準ずる飛行場については直ちに,福岡空港を除く第二種空港については5年(第二種A)又は10年(第二種B)以内に,第一種空港のうち新東京国際空港については10年以内に,新東京国際空港を除く第一種空
港(横田飛行場はこれに含まれる。)及び福岡空港については10年を超える期間内に可及的速やかに行う。そして,達成期間が10年以内とされる飛行場については,中間段階における達成目標として,5年以内に85W未満とする,又は85W以上の地域においては屋内で65W以下とする。達成期間が10年を超える期間内に可及的速やかにとされる飛行場については,上
記5年以内の達成目標に加えて,10年以内に75W未満とし,75W以上の地域については屋内で60W以下とする。
自衛隊が使用する飛行場の周辺地域においては,
平均的な離着陸回数及び,
機種並びに人家の密集度を勘案し,当該飛行場と類似の条件にある上記の飛行場の区分に準じて環境基準が達成され,又は維持されるように努める。


東京都は,昭和53年3月,埼玉県は,昭和57年12月,それぞれ横田飛行場周辺に係る地域類型対象区域を定めた上,当該対象区域内において昭和48年環境基準の地域類型を当てはめる地域を指定する旨の告示(東京都告示第309号,埼玉県告示第1841号)をした。これらによると,上記対象区域のうち,地域類型Ⅰを当てはめる地域は都市計画法(昭和43年法
律第100号)8条1項1号に定める第1種住居専用地域,第2種住居専用地域及び住居地域並びに同号の規定による用途地域として定められていない地域とされ,地域類型Ⅱを当てはめる地域は同号に定める近隣商業地域,商業地域,準工業地域及び工業地域とされた(乙A124~A126)。3
平成25年4月1日改正後の環境基準
公害対策基本法は平成5年11月19日に廃止され,同法に代わるものとし
て新たに施行された環境基本法(平成5年法律第91号)16条1項は,政府が,騒音等に係る環境上の条件について,人の健康を保護し,生活環境を保全する上で維持されることが望ましい基準を定めるものとする旨規定している。そして,昭和48年環境基準は,環境基本法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律(平成5年法律第92号)2条により,環境基本法16条1項に基
づいて定められた航空機騒音に係る環境基準とみなされた。
その後,昭和48年環境基準は平成19年環境省告示第114号により改正され,改正後の基準(以下「現行環境基準」という。)が平成25年4月1日から適用されている。この改正は,近年の騒音測定機器の技術的進歩及び国際的動向に即して,WECPNLの代わりに新たな評価指標として時間帯補正等
価騒音レベル(Leveldayeveningnight:Lden)を採用したものである。
もっとも,昭和48年環境基準の基準レベルの早期達成の実現を図ることが肝要であり,騒音対策の継続性も考慮すべきであるため,現行環境基準の基準値は昭和48年環境基準の基準値に相当する値とするものとされている。すな
わち,現行環境基準により,環境基準は,Ldenで,地域類型Ⅰにつき57dB以下,地域類型Ⅱにつき62dB以下とされたが,それぞれの数値は70W以下,75W以下に対応する。このことから分かるとおり,Ldenの値はW値から13を引いたものと近似する(以下,昭和48年環境基準と現行環境基準を一括して単に「航空機環境基準」ということがある。)。

第4

防衛施設である飛行場の周辺地域の騒音に関する法制度

1
法令の定め


環境整備法
防衛施設周辺の生活環境の整備等に関する法律(昭和49年法律第101
号。以下「環境整備法」という。)は,自衛隊等(自衛隊又は米軍をいう。同法2条1項)の行為又は防衛施設(自衛隊の施設又は日米地位協定2条1
項の施設及び区域をいう。同条2項)の設置若しくは運用により生ずる障害の防止等のため防衛施設周辺地域の生活環境等の整備について必要な措置を講ずるとともに,自衛隊の特定の行為により生ずる損失を補償することにより,関係住民の生活の安定及び福祉の向上に寄与することを目的とする(同法1条)。
環境整備法4条によれば,被告は,政令で定めるところにより自衛隊等の航空機の離陸,着陸等の頻繁な実施により生ずる音響に起因する障害が著しいと認めて防衛大臣が指定する防衛施設の周辺の区域(以下「第一種区域」という。)に当該指定の際現に所在する住宅について,その所有者又は当該
住宅に関する所有権以外の権利を有する者がその障害を防止し,又は軽減するため必要な工事を行うときは,その工事に関し助成の措置を採るものとするとされている(以下,同条の定める措置を「防音工事助成」という。)。環境整備法5条によれば,被告は,政令で定めるところにより第一種区域のうち航空機の離陸,着陸等の頻繁な実施により生ずる音響に起因する障害
が特に著しいと認めて防衛大臣が指定する区域
(以下
「第二種区域」
という。

に当該指定の際現に所在する建物,立木竹その他土地に定着する物件(以下「建物等」という。)の所有者が当該建物等を第二種区域以外の区域に移転し,又は除却するときは,当該建物等の所有者及び当該建物等に関する所有権以外の権利を有する者に対し,政令で定めるところにより,予算の範囲内
において,当該移転又は除却により通常生ずべき損失を補償することができるとされている(以下,同条の定める措置を「移転措置」という。)。環境整備法6条によれば,被告は,政令で定めるところにより第二種区域のうち航空機の離陸,着陸等の頻繁な実施により生ずる音響に起因する障害が新たに発生することを防止し,併せてその周辺における生活環境の改善に
資する必要があると認めて防衛大臣が指定する区域(以下「第三種区域」といい,第一種区域,第二種区域と併せて「第一種区域等」という。)に所在
する土地で同法5条2項の規定により買い入れたものが緑地帯その他の緩衝地帯として整備されるよう必要な措置を採るものとするなどとされている。なお,同法の制定に伴って従前,上記を含む周辺対策の根拠とされていた防衛施設周辺の整備に関する法律(昭和41年法律第135号。以下「周辺整備法」という。)は廃止されたが,周辺整備法に基づき指定された第二種
区域は,
その指定時に環境整備法5条1項により指定されたものとみなす
(附
則4項)こととされている。


環境整備法施行令,同法施行規則
環境整備法の委任を受けた防衛施設周辺の生活環境の整備等に関する法律
施行令(昭和49年政令第228号。以下「環境整備法施行令」という。)8条は,環境整備法4条の規定による第一種区域の指定,5条1項の規定による第二種区域の指定及び6条1項の規定による第三種区域の指定は,自衛隊等の航空機の離陸,着陸等の頻繁な実施により生ずる音響の影響度をその音響の強度,その音響の発生の回数及び時刻等を考慮して防衛省令で定める
算定方法で算定した値が,その区域の種類ごとに防衛省令で定める値以上である区域を基準として行うものとすると規定している。
これを受けて定められた防衛施設周辺の生活環境の整備等に関する法律施行規則(昭和49年総理府令第43号。平成25年防衛省令第5号による改正前のもの。以下「旧環境整備法施行規則」という。)1条は,上にいう「防
衛省令の定める算定方法」を
dB(A)+10log10N-27
とし(同条1項),そこにいう「dB(A)」を,1日の間の自衛隊の航空機の離陸,着陸等の実施により生ずる音響のそれぞれの最大値をパワー平均して得た値と定義し(同条2項1号),「N」を,1日の間の自衛隊等の
航空機の離陸,着陸等の実施により生ずる音響のうち,午前0時直後から午前7時までの間に発生するものの回数をN1,午前7時直後から午後7時ま
での間に発生するものの回数をN2,午後7時直後から午後10時までの間に発生するものの回数をN3及び午後10時直後から午後12時までの間に発生するものの回数をN4として,次に掲げる式によって算出して得た値と定義した(同項2号)。
N2+3N3+10(N1+N4)
そして,防衛大臣は,これらの値を算定するに当たっては,自衛隊等の航空機の離陸,着陸等が頻繁に実施されている防衛施設ごとに,当該防衛施設を使用する自衛隊等の航空機の型式,飛行回数,飛行経路,飛行時刻等に関し,年間を通じての標準的な条件を設定し,これに基づいて行うものとされ
た(同条3項)。
また,旧環境整備法施行規則2条は,環境整備法施行令8条にいう防衛省令で定める値について,第一種区域にあっては75W(昭和49年の制定当初は85Wであったが,昭和54年総理府令第41号による改正により80Wと改められ,昭和56年総理府令第49号による改正により75Wと改め
られた。),第二種区域にあっては90W,第三種区域にあっては95Wと定めていた(乙A16~A18)。
なお,旧環境整備法施行規則は,平成25年防衛省令第5号によって改正され,
現行の環境整備法施行規則
(以下
「現行環境整備法施行規則」
という。

1条は,
現行環境基準と同じく,
W値に代えて時間帯補正等価騒音レベル
(L

den

)による算定方法を採用しており,2条の定める値も,第一種区域にお
いては62dB,第二種区域においては73dB,第三種区域においては76dBとされている。これらの規定は平成25年4月1日から施行されているが,同日以後の環境整備法4条の規定による第一種区域の指定,5条1項の規定による第二種区域の指定及び6条1項の規定による第三種区域の指定について適用するとされており,横田飛行場を含む同日より前にされた第一種区域等の指定については引き続き旧環境整備法施行規則の規定によること
となる。
2
防衛施設庁方式におけるW値の算定方法等


算定方法の根拠等
旧環境整備法施行規則1条3項は,前記のとおり,同条2項の値(W値)を算定するに当たり,防衛大臣は,自衛隊等の航空機の離陸,着陸等が頻繁
に実施されている防衛施設ごとに,当該防衛施設を使用する自衛隊等の航空機の型式,飛行回数,飛行経路,飛行時刻等に関し,年間を通じての標準的な条件を設定し,これに基づいて行うものとした。
そこで,防衛施設庁長官は,上記算定方法の細部基準等として,昭和55年10月2日,「防衛施設周辺における航空機騒音コンターに関する基準に
ついて(通達)」(施本第2234号(CFS)。乙A31。以下「コンター作成旧通達」という。)を定めた。その後の平成16年11月1日,「第一種区域等の指定に関する細部要領について(通達)」(施本第1589号(CFS)。乙A32。以下「コンター作成新通達」という。)により,コンター作成旧通達を廃止し,新たなコンター作成基準を定めた。なお,コン
ター作成新通達は,その後平成19年8月30日に防衛庁の省移行に伴う規定整備により,防衛施設庁長官を防衛大臣に改める等の一部改正が行われて現在に至っている。
コンター作成新通達は,防衛施設周辺におけるW値の算定方式(その内容は後記⑵において説明するとおりである。)を定めており,各防衛施設につ
いてこれを用いてW値を算定した上,75W以上となる地域について5Wごとに同一の値を結んだ線を騒音コンターとするものとしている。すなわち,騒音コンターとは,航空機騒音として同一のW値が測定された地点を結んだ線であり,天気図の気圧線(等圧線)や地形図の標高線(等高線)に相当するものである。



防衛施設庁方式と環境庁方式の差異

コンター作成旧通達及びコンター作成新通達に定められたW値の算出方法(以下,「防衛施設庁方式」という。)の具体的内容,とりわけ環境庁方式との差異は,次のとおりである(甲A3,乙A5,A31,A32)。ア
防衛施設庁方式では,航空機の飛行回数について,飛行しない日も含めた1年間の全ての日を対象に,1日の総飛行回数の少ない方からの累積度
数曲線を求め,累積度90%に相当する値(下から数えて90%,上から数えて10%である。)をその防衛施設における1日の標準総飛行回数とする(以下,これを「累積度数90%方式」という。)。これに対し,環境庁方式は,標準総飛行回数として,運航スケジュールを用いて算出した1日当たりの単純平均回数を用いる。


騒音の継続時間に応じた補正(継続時間補正)に関して,環境庁方式では,最大騒音レベルから10dB低いレベルを超える騒音の継続時間を,実際の時間にかかわらず一律に20秒としているのに対し,防衛施設庁方式では,実際に測定した継続時間に応じ,また,飛行中とエンジン調整中とを区別して,補正を加えている。


防衛施設庁方式では,ジェット機の着陸時のものと確認できる騒音については,着陸音補正として2dBを加算しているが,環境庁方式ではそのような補正はしない。


このような差異があることから,
防衛施設である飛行場の周辺において,
同一の条件の下で,環境庁方式によって算定されるW値と防衛施設庁方式
によって算定されるW値を比較すると,後者が前者よりも3から5程度高くなるとされている。
3
横田飛行場周辺の騒音コンターの作成及び区域指定等


被告は,昭和52年3月14日から同月21日まで及び同年7月8日から同月13日までそれぞれ予備調査を行って横田飛行場に離着陸する米軍機の飛行形態を把握し,次いで,同月18日から同月25日までの間(夏季)及
び昭和53年2月13日から同月14日までの間(冬季),本調査を行い,飛行場内測点(測点500),北側固定測点(測点15)及び南側固定測点(測点169)において常時測定員を配置し,24時間連続して,騒音の発生時刻,機種,飛行方法,ピーク騒音レベル,時間特性,1時間ごとの暗騒音,気象状況等を観察した。また,移動点測定として,同時に12点ないし
15点にわたる測定が可能な人数で,約1週間にわたって,毎日午前8時から午後5時まで,移動しながら測定をした。
被告は,これらの資料を総合し,N(1日の飛行回数)及び各地点でのdBを算出し,
着陸音補正
(着陸時のジェット騒音について2dBを加える。

及び継続時間補正(継続時間の補正は10logT/20による。)を行う
などして,横田飛行場周辺のW値を求め,それによる騒音コンター図(等音線ともいうべきもの)を作成し,これに基づき,道路,河川等現地の状況を踏まえ,次のとおり順次区域指定を行った。

被告は,
昭和54年8月31日,
環境整備法4条及び5条1項に基づき,
85W以上の区域を第一種区域,90W以上の区域を第二種区域として指
定し,同施行令19条に基づき,その旨を告示した(防衛施設庁告示第17号。乙A27)。

被告は,昭和54年9月14日総理府令第41号(乙A17)による旧環境整備法施行規則2条の改正に伴い,昭和55年9月10日,80W以上の区域を新たに第一種区域として指定し,その旨を告示した(防衛施設
庁告示第14号。乙A28)。

被告は,昭和56年12月21日総理府令第49号(乙A18)による旧環境整備法施行規則2条の改正に伴い,昭和59年3月31日,75W以上の区域に新たに第一種区域として指定し,その旨を告示した(防衛施設庁告示第4号。乙A29。以下「昭和59年告示」という。)。


平成17年における第一種区域の解除及び指定


被告は,飛行場周辺における航空機騒音対策を始めとする周辺対策について,今後の採るべき施策の在り方に関する検討の資料を得ることを目的として,平成13年9月,有識者による「飛行場周辺における環境整備の在り方に関する懇談会」を設置し,同懇談会は,平成14年7月,「区域
指定した時点に比べて,騒音の程度が大幅に変化しているのであれば,国は騒音訴訟判決において現状の騒音状況を踏まえた判断を受けていない」こととなる旨を指摘するとともに,「真に騒音等の影響を受けている住民に対して限られた財源を効果的に支出する観点から,深刻な騒音等の影響を被っている区域を見極める必要があり,改めて計画的に全国の飛行場施
設の騒音度を調査し,各防衛施設ごとに段階的に区域の見直しを図ることが適切な時期が到来している。」旨の提言を行った(乙A30)。このような状況を踏まえて,東京防衛施設局は,財団法人防衛施設周辺整備協会に対し,横田飛行場周辺の現地調査を委託し,平成15年度に概ね次のとおりの内容で調査が実施された(乙A89。以下「平成15年度調査」と
いう。)。
調査期間
平成15年8月20日から同月22日までの間,離着陸訓練等の飛行態様や測定点の適切性を調査する事前調査を実施し,その後,同年9月5日から同月13日までの間(夏季),同年11月3日から同月10日
までの間(秋季),平成16年2月20日から同月28日までの間(冬季)の3回にわたり本調査を実施した。
また,飛行回数調査は,後述のとおり自動騒音測定装置によるものを含めて平成15年4月1日から平成16年3月31日までの間を対象として実施した。

調査対象地域
横田飛行場における過去の調査結果,飛行経路図等を参考にして,滑
走路を中心としてその延長方向に38km,垂直方向に6kmの範囲とした。測定点は現地調査をした52地点と従前から自動騒音測定装置が設置された13地点とした。
調査対象機種
調査対象機種は,
C-130,
C-21,
C-5,
UH-1等である。

事前調査における調査方法
離着陸訓練等の飛行態様を現地で把握するとともに,あらかじめ地図上で選定した測定点を踏査し,暗騒音レベルが低く測定に支障がないこと,航空機の飛行状況が確認できる場所であること等,測定点として適切であるか否かを調べた。また,不適当な場合は当初選定した予定地を至近の適当な場所に変更するなどし,その周辺において測定点として妥当な場所に測定点を設定した。最終的に選定した測定点を地図上で確認するとともに,周辺の既存住宅や主要道路等について調査を行った。本調査における調査方法

a
飛行状況調査
横田飛行場においては,米軍から飛行回数に関する資料が提供されず,自動騒音測定装置の観測データを基に飛行回数を確認するため,1週間連続で測定する点を設定し,機種,方向,態様,経路等を正確に確認し,
その比率を基に標準飛行回数の基となるデータを取得した。
測定は,夏,秋,冬の3季について行い,測定時間は,自動騒音測定
装置のデータを基に,年間を通してほとんど飛行のない深夜の時間帯を除き,午前6時から午後10時までの16時間の測定を行った。秋季については,午前8時から午後10時までの14時間とした。
b
飛行経路調査
飛行経路及び基礎データ作成用のスラントディスタンスの確認のため,過去の調査結果を参考に測定点を設定し,仰角測定により飛行位
置(平面位置,高度)を確認した。
c
基礎データ調査
地上面にウィンドスクリーンを装着したマイクロホンを設置し,普通騒音計(C特性)を通してデータレコーダに録音し,持ち帰り分析用のデータとした。

d
ピーク騒音レベル及び継続時間
地上約1.5mの高さにウィンドスクリーンを装着したマイクロホンを設置し,
普通騒音計
(A特性)
を通してレベルレコーダに記録し,
ピーク騒音レベル及び継続時間を読み取るとともに,
飛行時刻,
機種,
飛行経路,飛行態様等をデータ用紙に記入した。

飛行回数
平成15年4月1日から平成16年3月31日までの期間の自動騒音測定装置(横田飛行場滑走路両端の2地点のもの)の航空機騒音発生回数及び現地調査における飛行状況調査の結果を基に求めた。
W値の算出

上記調査に基づく機種別,飛行態様別,飛行経路別のピーク騒音レベル,1日の標準飛行回数,継続時間のデータに基づき,防衛施設庁方式より各測定地点のW値を算出し,それによるコンター図を作成した。イ
被告は,平成17年10月20日,上記アの平成15年度調査の結果に基づき,
これまでの第一種区域等を見直し,
区域の指定及び指定の解除
(指
定の解除については,平成19年5月1日から適用。)を行い,防衛施設庁告示第9号をもって告示した(乙A19。以下「平成17年告示」という。)。新たに指定し直された第一種区域の範囲は,別紙4-1「横田飛行場に係る第一種区域指定等参考図」「凡例」「第一種区域
のに
平17.

10.20防衛施設庁告示9号」と記載された赤実線で囲む区域であり,指定を解除された第一種区域は,「第一種区域解除区域

平成19.5.

1解除」と記載された赤斜線部分である(以下,平成17年告示における第一種区域とその外側の区域とを画する線を
「第一種区域線」
という。。

また,平成17年告示によって従前の第二種区域の指定も一部解除されたが,横田飛行場については,環境整備法附則4項の規定によって第二種区域及び第三種区域とみなされる地域が引き続き存在し,その範囲は,別
紙4-1
「横田飛行場に係る第一種区域指定等参考図」
及び別紙4-2
「横
田飛行場に係る移転措置対象区域指定参考図」
の各
「凡例」
にそれぞれ
「第
二種区域(みなし)

昭42.3.31防衛施設庁告示第5号」と記載さ

れた黄色の実線で囲む範囲,「第三種区域(みなし)
防衛施設庁告示第5号

昭42.3.31

昭44.4.15防衛施設庁告示第6号」と記載

された緑色の実線で囲む範囲のとおりである。もっとも,横田飛行場周辺区域は,第三種区域指定の基準(95W以上の区域)に達していないことから,同区域の指定はされていない。

工法区分線等の設定
防衛大臣は,環境整備法4条に基づく住宅防音工事の助成を行うため,「防衛施設周辺における住宅防音事業及び空気調和機器稼働事業に関する補助金交付要綱」(平成22年防衛省訓令第10号。乙A25)を定めており,その5条に基づき,防衛省地方協力局長は,住宅防音工事標準仕方書(乙A53。以下「防音工事仕方書」という。)及び住宅防音工事の
標準仕方に係る工法区分線の設定等要領(乙A212。以下「区分線設定等要領」という。)を定めている。
防音工事仕方書は,住宅防音工事の工法として第Ⅰ工法と第Ⅱ工法を定めている。第Ⅰ工法は,80W以上の区域内の住宅を対象として計画防音量を25dB以上とするものであり,第Ⅱ工法は,75W以上80W未満
の区域内の住宅を対象として計画防音量を20dB以上とするものである。そして区分線設定等要領は,それぞれの工法の適用区域を区分する線
(以下「工法区分線」という。)の設定方法を定めている。
上記2工法による住宅防音工事は居室を対象として行うものであるが,防音工事仕方書は,このほかに家屋全体を一つの区画としてその外部について実施する防音工事すなわち外郭防音工事
(後記4⑵オ)
を定めている。
区分線設定等要領によれば,全ての住宅が外郭防音工事の対象となる区域
の外郭線(以下,単に「外郭線」という。)について,85Wを基準値とする第一種区域が指定されていない場合,85Wの騒音コンターと重なる住宅の所在状況を勘案して,85Wの騒音コンターに沿って引くものとされている。
防音工事仕方書及び区分線設定要領の以上の定めは,防衛施設庁長官が
昭和56年4月に通達によって定めたもの(乙A48)が引き継がれ,変更が加えられて現在に至ったものである。
横田飛行場については,平成17年10月20日,当時の防音工事仕方書及び区分線設定等要領に基づき,平成15年度調査に基づく騒音コンターにおける80Wのコンターを基礎にした新たな工法区分線と85Wの
騒音コンターを基礎にした新たな外郭線が設定された。

本件請求対象期間の区域指定
以上の結果,横田飛行場周辺地域においては,平成17年10月20日以降,防衛施設庁方式による平成15年度調査に基づくW値の大きさに従
って,75Wコンターにつき第一種区域線,80Wコンターにつき工法区分線,85Wコンターにつき外郭線を画されていることとなり,現在もこれが維持されている(以下,これらに係るコンターを「告示コンター」ということがある。)。
本判決においては,上記の告示コンターによる第一種区域の外側の地域

「指定区域外」第一種区域線と工法区分線の間の地域を

「75W地域」

工法区分線と外郭線の間の地域を
「80W地域」外郭線の内側地域を

「8

5W地域」といい,また,第一種区域線の内側全体を「告示コンター内地域」又は「75W以上の地域」という。
4
助成措置の対象となる防音工事の概要と種類


概要
助成措置の対象となる防音工事とは,建物中の工事対象となる居室又は区
画の内外部開口部の遮音工事,外壁又は内壁及び室内天井面の遮音及び吸音工事並びに換気設備と冷暖房設備を取り付ける空気調和機器の設置工事を内容とするものであり,被告は,各対象家屋所有者らに対し,これらの工事に要する経費を補助金として交付する。一定の補助限度額が設けられているものの,補助率は原則10分の10であって,建物の構造が通常のものと特に
異なっているというような特殊な場合(外部開口部となる窓の数が多い場合や,その面積が通常の規模に比して特に大きい場合など)を除き,個人負担が生じることはない。


種類
防音工事は,次のとおり,新規防音工事,追加防音工事,一挙防音工事,
防音区画改善工事及び外郭防音工事に分類される(乙A39)。

新規防音工事
いまだ防音工事が実施されていない住宅につき,住宅の世帯人員にかかわらず,2居室以内の居室(平成11年12月10日までは世帯人員4人以下の場合は1居室)に実施するものである。

新規防音工事は,住宅防音工事の進捗状況等を踏まえて,平成21年度をもって廃止され,平成22年度以降は,防音工事が実施されていない住宅については一挙防音工事が実施されることとなった。

追加防音工事
上記アの新規防音工事を実施した住宅につき,5居室を上限とする世帯人員に1を足した居室数から,新規防音工事を実施した居室数を減じた居
室数以内の居室に防音工事を実施するものである。

一挙防音工事
いまだ防音工事が実施されていない住宅につき,5居室を上限とする世帯人員に1を足した居室数以内の居室に,住宅防音工事を実施するものである。


防音区画改善工事
バリアフリー対応住宅,フレックス対応住宅及び身体障害者福祉法4条が規定する身体障害者等が居住する住宅等につき,専用調理室(台所),区画された玄関,廊下,浴室その他の居室以外の区画と居室とを併せて1つの防音区画として防音工事を実施するものであり,平成11年度から実
施されている。世帯人員が4人以下の場合には5居室,5人以上の場合は世帯人員に1を加えた居室数(ただし,防音工事実施済みの場合は実施された居室数を減じる。)が上限となる。なお,既に追加防音工事又は一挙防音工事が実施された住宅については,原則として各工事の完了の日から起算して10年以上が経過していることを要する。


外郭防音工事
前述の85W以上の外郭線の内側の区域(外郭対象区域)に所在する住宅のうち,防音工事を実施していない居室を有する住宅につき,世帯人員にかかわらず,原則として,住宅全体を1つの防音区画として,その外郭
について防音工事を実施するもので,平成14年度から実施している。第一種区域のうち外郭対象区域を除く区域(75W以上85W未満の区域)に所在する鉄筋コンクリート造系の集合住宅のうち,防音工事を実施しておらず,一定の条件を満たす住宅も対象となる。なお,外郭対象区域に所在する住宅のうち,既に追加防音工事又は一挙防音工事が実施された住宅
については,原則として各工事の完了の日から起算して10年以上が経過していることを要する。



防音工事の助成対象となる住宅
防音工事の助成対象となる住宅は,環境整備法4条では,第一種区域の指定の際に当該区域内に現に所在する住宅となっているが,被告は,当該区域指定に先立ち,昭和50年度から周辺整備法に基づき指定された第二種区域内で防音工事の助成処置を行ってきた。
その後,
前記3⑴のとおり,
被告は,

昭和54年8月31日,昭和55年9月10日,昭和59年9月31日及び平成17年10月20日に順次第一種区域の指定(あるいは指定解除)をしたが,その結果,例えば昭和54年の指定日以降に建築された住宅は,85W以上の地域では環境整備法による助成対象とはならないのに,昭和55年の指定で新たに第一種区域とされた80W以上85W未満の地域では助成対
象となるといういわゆるドーナツ現象が生じた。そのため,被告は,行政措置により,横田飛行場周辺においては,平成8年度から85W以上の地域,平成11年度から80W以上の地域において,ドーナツ現象により助成対象外となった住宅に対しても防音工事の助成を行い,さらに,平成17年告示による第一種区域内の上記のいずれにも該当しない住宅(いわゆる告示後住
宅)のうち,一定の地域及び基準日に所在するものについても同様の助成を行っている。
第5

原告らの訴訟承継及び居住地等
別紙3-1認容額一覧表の「氏名」欄に「(被承継人)」と付記した者は,
提訴後の同「死亡日」欄記載の日に死亡し,別紙3-3承継人認容額一覧表の当該「被承継人」に対応する「承継人」欄に記載の者が同「相続割合」欄記載の割合で本件に関し相続した。
原告ら(前記の被承継人を含む。)の居住関係(住所,居住期間,居住地に係る区域指定におけるW値等)
は別紙5移動経過一覧表に記載のとおりである。

なお,原告番号151の原告の平成23年8月7日から平成24年7月17日までの間の住所は,当事者間に争いのないものと解される。

第6

横田飛行場の騒音訴訟の経緯等
横田飛行場の周辺住民らは,昭和51年以降数次にわたり,横田飛行場に離着陸する航空機による騒音等の被害を受けているとして,被告に対し損害賠償等を求める訴えを提起して救済を求めてきた。その経緯は次のとおりである。
1
第1,2次訴訟


横田飛行場の周辺住民らは,昭和51年4月28日及び昭和52年11月17日,被告に対し,横田飛行場における航空機の離着陸等の差止め並びに過去及び将来の損害賠償を求める訴えを東京地方裁判所八王子支部に提起した。同裁判所は,昭和56年7月13日,差止請求に係る訴えを却下し,85W以上の地域に受忍限度を超える騒音被害が生じているとして過去の損害
賠償請求の一部を認容し,その余の請求を棄却した(判例タイムズ445号88頁,判例時報1008号19頁)。


上記判決に対し,双方が控訴し,東京高等裁判所は,昭和62年7月15日,差止請求に係る訴えを却下した部分に対する原審原告らの各控訴を棄却し,損害賠償に係る部分については,原判決を変更して,過去の損害賠償請
求につき昭和48年環境基準における地域類型Ⅰについては75W以上の地域,地域類型Ⅱについては80W以上の地域に受忍限度を超える騒音被害が生じているとして認容額を変更し,将来(控訴審口頭弁論終結の日の翌日以降)の損害賠償請求部分に係る訴えを却下した(判例タイムズ641号232頁,
判例時報1245号3頁。「横田昭和62年控訴審判決」
以下
という。。




上記判決に対し,原審原告らが上告したが,最高裁判所は,平成5年2月25日,米軍機の離着陸等の差止請求は主張自体失当として棄却すべきであるから,原審がこれを不適法として却下したことは相当ではないが,不利益変更禁止の原則により上告棄却にとどめるとしたほかは,原審(控訴審)の
判断を支持して上告を棄却した(裁判集民事167号359頁,判例タイムズ816号137頁,判例時報1456号53頁。以下「横田平成5年最高
裁判決」という。)。
2
第3次訴訟


横田飛行場の周辺住民らは,昭和57年7月,被告に対し,横田飛行場における航空機の離着陸等の差止め並びに過去及び将来の損害賠償を求める訴えを東京地方裁判所八王子支部に提起した。同裁判所は,平成元年3月15
日,差止請求に係る訴え及び将来の損害賠償請求に係る訴えは不適法として却下し,過去の損害賠償請求につき,前記1⑵の控訴審判決と同様に,昭和48年環境基準における地域類型Ⅰについては75W以上の地域,地域類型Ⅱについては80W以上の地域に受忍限度を超える騒音被害が生じているとして一部を認容し,その余の請求を棄却した(判例タイムズ705号205
頁,判例時報1498号44頁)。


上記判決に対し,
双方が控訴し,
東京高等裁判所は,
平成6年3月30日,
差止請求に係る訴えを却下した部分に対する原審原告らの各控訴を棄却し,損害賠償に係る部分については,原判決を変更して,過去の損害賠償請求につき,受忍限度に関しては基本的に一審と同様としつつ,慰謝料の基準額を
一部増額するなどして一部を認容し,将来(控訴審口頭弁論終結後)の損害賠償請求部分に係る訴えを却下し(ただし,不利益変更となる部分は控訴棄却とした。),同判決は確定した(判例タイムズ855号246頁,判例時報1498号25頁)。
3
第5ないし7次訴訟,第4,8次訴訟


横田飛行場の周辺住民らは,平成8年4月,平成9年2月及び平成10年4月,被告及びアメリカ合衆国に対し,横田飛行場における航空機の離着陸等の差止め等並びに過去及び将来の損害賠償を求める訴えを東京地方裁判所八王子支部に提起した。同裁判所は,被告に対する訴訟につき,平成14年
5月30日,差止請求等に係る訴えを棄却し,将来の損害賠償請求に係る訴えは不適法として却下し,75W以上の地域に受忍限度を超える騒音被害が
生じているとして過去の損害賠償請求を一部認容し,その余の請求を棄却した(判例タイムズ1164号196頁,判例時報1790号47頁)。なお,アメリカ合衆国に対する訴訟については,訴えを却下する旨の判決がされ,最高裁判所は,平成14年4月12日,我が国の民事裁判権はアメリカ合衆国の主権行為には及ばないとしてこれを是認した(民集56巻4号
729頁)。


被告に対する上記判決に対し,双方が控訴し,東京高等裁判所は,平成17年11月30日,原判決を変更し,差止請求等に係る請求につき改めて棄却し,損害賠償に係る部分については,地域類型ⅠとⅡを区別することなく75W以上の地域に受忍限度を超える騒音被害が生じているとして過去の損
害賠償請求を一部認容し,将来の損害賠償請求に係る訴えにつき,控訴審の口頭弁論終結日の翌日から判決の言渡し日までについて一部認容し,その余は不適法として却下した(判例タイムズ1270号324頁,判例時報1978号7頁。以下「横田平成17年控訴審判決」という。)。


最高裁判所は,上記判決に対する被告の上告受理申立てを受理した上,平成19年5月29日,将来の損害賠償請求に係る訴えのうち原審が認容した部分を破棄し,同部分に係る訴えを却下した一審判決は相当であるとして原審原告らの各控訴を棄却した(裁判集民事224号391頁,判例タイムズ1248号117頁,判例時報1978号7頁。以下「横田平成19年最高裁判決」という。)。



なお,この間の平成6年12月と平成12年8月も,横田飛行場の周辺住民らが同種の訴訟を東京地方裁判所立川支部に提起した(第4,8次訴訟)が,同裁判所は,平成15年5月13日に,75W以上の地域に受忍限度を超える騒音被害が生じているとして上記⑴と基本的に同旨の判決を言い渡し
た。東京高等裁判所は,一審判決後の平成15年度調査に基づく告示コンターの変更前と変更後の各75W以上の地域に受忍限度を超える騒音被害が発
生しているとして過去の損害賠償の認容額を一部変更するほかは一審の判断を基本的に支持する判決を言い渡し,
最高裁判所での原審原告らの上告棄却

不受理決定により確定した。
4
第10,11次訴訟
横田飛行場の周辺住民ら(本件訴訟の原告らとは異なる。)は,平成22年
3月及び同年8月,被告に対し,横田飛行場における航空機の離着陸等の差止め並びに過去及び将来の損害賠償を求める訴えを東京地方裁判所立川支部に提起した。同裁判所は,平成29年10月11日,①航空機の離着陸等の差止請求のうち,自衛隊機に係る訴えを却下,米軍機に係る請求を棄却し,②将来の損害賠償請求に係る訴えを不適法として却下するとともに,③75W以上の地
域に受忍限度を超える騒音被害が生じているとして過去の損害賠償請求を一部認容した(公刊物未登載・判例秘書登載)。
5
本件訴訟は,通算すると第9,12次訴訟に当たる。

第3部
第1

当事者の主張
原告らの主張

1
差止請求権の法律上の根拠と許容性


法律上の根拠
差止原告らは,以下のとおり,憲法上保障される人格権,環境権及び平和的生存権に基づき,被告に対し,①横田飛行場における航空機の離着陸及び
エンジン作動の差止請求権や,差止原告らの居住地内への70dBを超える航空機騒音の到達の差止請求権,及び,②差止原告らの居住地の上空における航空機訓練の差止請求権を有する。

憲法13条,25条は,①個人の生命,身体,精神及び生活利益といった人間としての生存に基本的かつ不可欠な利益の総体としての人格権,②
国民が健康で快適な生活を維持し得る外的条件であるところの良好な環境を享受し,かつ支配し得る権利としての環境権,及び,③平和的手段に
よって平和状態を維持し,その下で快適な生活をする権利としての平和的生存権を保障し,差止原告らはこれらの権利を保有している。
他方,被告は,国民の生命,自由及び幸福追求に対する権利(憲法13条)及び国民が健康で文化的な生活を営む権利(憲法25条)を積極的に保障すべき義務を負うとともに,環境の保全についての基本理念に則り,
環境の保全に関する基本的かつ総合的な施策を策定し,及び実施する責務を有しており(環境基本法6条)
,その施策は,環境基本法16条以下の環
境基準として具体化されている。

横田飛行場の航空機騒音等は,周辺住民に対し,その健康な生存に対する重大な脅威となる睡眠妨害を始め,円満な日常生活全般の破壊をもたら
すものであるとともに,聴力損失の被害を生じさせる高度の危険性を有するものであるから,上記騒音によって,差止原告ら横田飛行場周辺住民の人格権の一内容である身体的人格権や平穏生活的人格権(平穏安全な生活を営む権利)等が侵害されていることは明らかである。
そして,人間の一般生活サイクル上,静謐,静穏が必要となる時間帯で
あり,騒音による生活被害の程度が極めて大きい夜間(午後7時から翌日午前8時までの間)においては,航空機の離着陸等自体を差し止めなければ,差止原告ら横田飛行場周辺住民の静謐,静穏な日常生活を取り戻すことはできないし,被告が,環境基本法16条1項に基づき,騒音に係る一般的な環境基準として,一定程度の交通量が当然予想される「幹線交通を
担う道路に近接する空間」
の昼間
(午前6時から同日午後10時までの間)
の時間帯における基準値を70dB以下と定めている(甲A4)以上,昼間(午前8時から同日午後7時までの間)の横田飛行場の使用に伴う騒音も同基準値を超えないレベルに抑制されるべきである。

横田飛行場は,人口過密都市に所在する飛行場であるため,一度その航空機が墜落すれば大惨事となるところ,横田飛行場の上空における航空機
の旋回訓練は,海上等に分散せず,市街地を通るコースで行われているため,周辺住民らは,航空機の墜落の危険と隣合せの生活を余儀なくされている。加えて,旋回訓練は,一度の訓練で航空機が複数回上空を飛来するものであり,長時間に及ぶ訓練でもあるため,旋回訓練の実施に伴い,騒音の程度及び回数は当然増加することとなる(例えば,C-130が横田
飛行場の西側のコースで旋回訓練をする場合,機体が約3~4分で1周することとなり,これを2,3機が同時に行うと,訓練終了まで常に騒音が鳴り響く状態が続くのである。。

また,横田飛行場では,戦地において地上からの砲火を避けるための訓練として,一定の高度をとりながら滑走路に近づき,滑走路のすぐ近くま
で来てから急降下し,接地後に素早く離陸体勢に入り急上昇して離陸するという訓練(タッチアンドゴー)等,急上昇,急降下を伴う訓練が行われているところ,同訓練は,周辺住民に航空機の墜落の危険をより強く抱かせる危険な態様の訓練である上,これに伴う騒音,振動はすさまじいものである。

このように危険な態様の訓練が人口過密都市に所在する横田飛行場内ないしその周辺上空で行われていること自体,異常であるというほかなく,上記訓練の実施によって,差止原告ら周辺住民の平穏生活的人格権等が侵害されていることは明らかである。

上記のとおり,横田飛行場における航空機騒音等によって,差止原告ら周辺住民の人格権等は現に侵害され又は侵害される危険性が差し迫っているのであり,裁判所において差止請求を認める以外にはその被害を救済する手段はないのであるから,本件において,差止めを認める必要性は非常に高いというべきである。


以上によれば,本件で,差止原告らは,人格権等に基づき,①夜間における航空機の離着陸等の差止め,②昼間における航空機騒音の音量規制,
及び,③航空機訓練の禁止を求めることができる。⑵

民事訴訟による自衛隊機の差止めが可能であること

被告は,厚木飛行場に関する最高裁判所平成5年2月25日第一小法廷判決
(民集47巻2号643頁。「厚木平成5年最高裁判決」
以下
という。

等を根拠に,自衛隊機の離着陸等の差止めや自衛隊機の発する騒音の音量
規制を求める訴えは,民事上の請求としては不適法である旨を主張する。しかしながら,上記訴えが不適法であるとして,差止原告らの人格権侵害の有無等を判断しないことは,憲法32条が国民の裁判を受ける権利を保障していることに照らして許されないというべきであるし,被告の引用する厚木平成5年最高裁判決の内容は誤りを含む不合理なものであるか
ら,被告の上記主張は失当である。

行政事件訴訟法及びその関連法規の解釈に当たっては,憲法32条の保障する国民の裁判を受ける権利の重要性を考慮すべきであること,そもそも,民事訴訟法と行政事件訴訟法は,その適用に関し二者択一の関係にあるものではなく,国民に生じる権利侵害の原因が行政行為にある場合など
に,民事訴訟における解決を図るか,行政訴訟における解決を図るかは,裁判手続を利用する者の選択に委ねられていること,実体的権利関係についてみても,行政上は合法であるものの民事上は違法であるということは当然にあり得ることなどからすれば,権利侵害からの救済については,民事訴訟か行政訴訟かなどの手続的分類を問わず,裁判を受ける権利が確保
されるべきである。

行政事件訴訟法3条7項の規定する「差止めの訴え」は,その根拠となる法規との関係で違法と評価される行政処分の差止めを求めるものであるのに対し,民事上の差止請求は,権利の侵害という側面に着目し,違法
な権利侵害の差止めを求めるものであるところ,本件の自衛隊機の差止請求は,自衛隊機の離着陸等に伴う騒音によって現実に発生している人格権
の侵害に対する救済を求めるものであり,訴えの目的や紛争の実質からして,民事上の差止請求に適合するといえる。
なお,本件における自衛隊機の離着陸等その他の差止請求が認められるとしても,自衛隊機の運航全般が禁止されるものではないから,防衛大臣による権限行使が変更取消されるのと同様の結果は生じない。これまで最
高裁判所及び下級裁判所が,行政の関与の下で行われる事実行為に対する民事上の差止請求につき,適法な請求であることを前提に審理をしてきたことからも,民事上の請求として自衛隊機の飛行等の差止めを求めることが許されないとする理由はない。

厚木平成5年最高裁判決は,防衛大臣による自衛隊機の運航に関する権限の行使が周辺住民との関係で公権力の行使に当たることを認めたが,自衛隊機の運航に関する命令は自衛隊内部におけるものであることや,自衛隊法が自衛隊機の運航に伴う騒音の受忍義務を周辺住民に課す根拠となるものとは解し得ないことからすれば,同判決における上記判断は誤りと
いわざるを得ない。この点,小松飛行場に関する平成14年3月6日金沢地方裁判所判決(以下「小松平成14年一審判決」という。
)も,自衛隊法
上,防衛大臣が周辺住民に対する騒音の影響に配慮してその運航統括権限を行使すべきことを定めた規定は設けられておらず,まして,それに当たり周辺住民等国民の権利義務を形成し又はその範囲を確定し得ること,例
えば周辺住民に騒音等の受忍義務を課し得ることを定めた規定も,その要件,内容,手続,補償措置,不服申立手続を定めた規定も何ら設けられていないから,法治主義,法律による行政の原則に照らして,広汎性のある騒音の発生が必然的であるという社会的事実から当然に周辺住民に騒音受忍義務が発生するということにはならず,周辺住民への配慮責務が行政
庁に課せられているということから法律上の明確な根拠なくして周辺住民に騒音受忍義務を課すことは許されない旨判示し,自衛隊機の運航に関
する防衛大臣の権限の行使につき,周辺住民との関係での公権力性を否定している。

よって,
差止原告らによる自衛隊機の差止請求は不適法なものではなく,
被告の上記主張は認められない。



米軍機の差止めが可能であること

被告は,米軍機の差止請求は,被告の支配の及ばない第三者の行為の差止めを求めるものであるから,主張自体失当であると主張する。


しかしながら,我が国の領土内で発生した米軍による違法行為に対し,国家の管理権が及ばないとすることは国民主権の原則に反するし,国家の国民に対する基本権保護義務や,違法な侵害行為がなされた場合にその侵
害行為は差し止められなければならないという市民法の原則にも反するものといえる。また,米軍機の差止めが認められなければ,米軍機の離着陸等や訓練に伴う騒音等により金銭には換算できない健康上,生活上の被害を受けている差止原告ら周辺住民の救済が不可能となる。

地位協定3条3項が,米軍の基地管理権に基づく行為であっても「公共の安全に妥当な配慮を払って行わなければならない」と定め,同協定16条が,米軍に「日本国の法令を尊重」する義務を定めているとおり,米軍の基地管理権も無制約なものではなく,米軍による基地の使用が基地外の住民に影響を及ぼす場合には,当然に日本国の法令による制約を受けるこ
ととなり,被告は,その限度で,米軍の活動に対し日本国の法令の遵守を要求する権限を有する。そして,地位協定18条5項にいう「公務執行中の合衆国軍隊の構成員若しくは被用者の作為若しくは不作為又は合衆国軍隊が法律上責任を有するその他の作為,不作為若しくは事故で,日本国において日本国政府以外の第三者に損害を与えたものから生ずる請求権」
には,差止請求権も含まれると解されるから,同項の適用ないし準用をもって,被告に対し,米軍機の差止請求をすることができるものといえる。
これに加えて,①地位協定25条1項が「この協定の実施に関して相互間の協議を必要とするすべての事項に関する日本国政府と合衆国政府との間の協議機関として,合同委員会を設置する。合同委員会は,特に,合衆国が相互協力及び安全保障条約の目的の遂行に当たって使用するため必要とされる日本国内の施設及び区域を決定する協議機関として,任務を
行う。
」と規定していることから,被告は,日米合同委員会において,横田飛行場における米軍機の訓練方法や時間等に係る協議ができること(なお,平成11年1月14日の日米合同委員会では,米軍による低空飛行訓練に係る協議,合意がなされている。甲A12)
,及び,②米軍の日本駐留の根
拠となる日米安保条約は,
「この条約が10年間効力を存続した後は,
いず

れの締約国も,他方の締約国に対しこの条約を終了させる意思を通告することができ,その場合には,この条約は,そのような通告が行われた後1年で終了する。(10条)と規定しており,被告としては,同条項に基づ」
いて日米安保条約を終了させる意思を通告することで,違法な権利侵害を伴う米軍機の運航を終了させることもできることからすれば,差止原告ら
による米軍機の差止請求は,被告の支配の及ばない第三者の行為の差止めを求めるものとはいえない。
また,被告は,米軍に対し,横田飛行場等の基地を提供し,その使用を継続させていることや,米軍機の運航による騒音被害の発生を知りながら,「思いやり予算」を始めとするあらゆる便宜を図り,米軍の活動を助長し
ていることからすれば,被告自身も騒音被害拡大を助長した加害者であると評価することができるため,当然に本件差止請求の相手方になるというべきである。

よって,被告に対する米軍機の差止請求が主張自体失当であるとする被告の上記主張は認められない。

2
損害賠償請求権の法律上の根拠



民事特別法1条は,米軍の構成員又は被用者が,その職務を行うについて日本国内において違法に他人に損害を加えたときは,国家賠償法(以下「国賠法」という。
)1条の例により,国が損害賠償責任を負う旨を規定する。
この点,横田飛行場を離着陸する米軍機の飛行は米軍の構成員又は被用者がその職務を行うについて実施しているものであるから,同米軍機の飛行に
伴う騒音等の発生について違法性が認められる限り,民事特別法1条の適用がある。そして,このように,集団ないし組織として繰り返される米軍機の飛行が問題となる場合には,事柄の性質上,米軍機の飛行に関与した各個人の特定までは必要がないと解するのが相当である。


民事特別法2条は,米軍の占有し,所有し,又は管理する土地の工作物その他の物件の設置又は管理に瑕疵があったために日本国内において他人に損害を生じたときは,国賠法2条の例により,国が損害賠償責任を負う旨を規定しており,同条には,大阪国際空港に関する最高裁判所昭和56年12月16日判決
(民集35巻10号1369頁。「大阪空港訴訟最高裁判決」
以下
という。
)の示した国賠法2条1項の解釈がそのまま妥当する。

そして,横田飛行場は,多数の航空機の離着陸を予定して米軍に供用された飛行場であるが,その周辺に居住禁止区域等が設けられておらず,多くの人々が居住する地域に近接して存在するため,航空機の離着陸に伴う騒音等が周辺住民に甚大な影響を与えることは避け難い状況にある上,横田飛行場の管理者である米軍や,その提供者である被告は,騒音等による被害の発生
を防止するための十分な措置を講ずることなく,ジェット機を含む多数の航空機に横田飛行場を使用させてきたのであるから,米軍は,一定限度を超えた横田飛行場の利用(米軍機の離着陸,訓練等)によって原告ら周辺住民に危害を生じさせており,
その設置,
管理に瑕疵があることは明らかといえる。


よって,被告は,民事特別法1条又は2条によって,原告らの損害を賠償する責任を負う。

3
侵害行為の内容


航空機騒音による侵害

(以下「米軍機等」という。
)が飛行し,周辺住民に騒音被害を与えている。

常駐機について
横田飛行場に常駐する航空機は,C-130ハーキュリーズ,C-12Jヒューロン及びUH-1Nイロコイである。
C-130ハーキュリーズは,中距離戦術空輸機であり,横田飛行場では最も離着陸回数が多い。C-12Jヒューロンは,プロペラ式の小
型輸送機で,
人員輸送や貨物輸送に使用される。
UH-1Nイロコイは,
連絡用のヘリコプターである。これらの常駐機は,昼夜を問わず頻繁に旋回訓練を行い,周辺住民に騒音被害を与えている。
飛来機について
横田飛行場には,上記の常駐機のほか,様々な輸送機や戦闘機が飛来
し,訓練を行っている。その中でも代表的なものは,輸送機であるC-5ギャラクシーやC-17グローブマスター,戦闘機であるFA-18ホーネットやF-15イーグルである。C-5ギャラクシーは,ジェット4発の世界最大級の輸送機であり,離着陸飛行直下の騒音は100dBを軽く超える。C-17グローブマスターは,ジェット4発の戦略・
戦術輸送機である。FA-18ホーネットは,アメリカ海軍,海兵隊の主力戦闘攻撃機で,週末になると2ないし4機編隊で飛来してくることもある。F-15イーグルは,アメリカ空軍の主力戦闘機であり,非常に高速度で飛行するため,空を切り裂くようなすさまじい騒音が突然襲ってくる。

また,上記の輸送機,戦闘機のほかにも,空中給油機・輸送機であるKC-135ストラトタンカーやKC-10エクステンダー,早期警戒
管制機E-3セントリー,艦上輸送機C-2Aグレイハウンド,戦闘機F-16ファイティングファルコン,ヘリコプターSH60シーホーク等が飛来している。
飛行コースについて
横田飛行場の米軍機は,南北に延びる滑走路に沿って離着陸する。南
北のいずれから離発着するかは季節によって異なる。旋回訓練の際は,滑走路の南端ないし北端より1,2km付近の地点から,西ないし東回りに旋回した後,上記地点で着陸態勢に入ることが多い。
訓練について
横田飛行場では,常駐機及び飛来機による物資投下訓練やパラシュー
ト降下訓練,旋回訓練が昼夜を問わず日常的に行われている。
また,飛行訓練としてサムライサージ訓練(輸送機の運用能力向上のため,
多数機により編隊飛行などを行う訓練)緊急管理演習としてEM

E(重大事故における対応訓練)
,運用即応演習としてORE(仮想戦闘
環境における基地の機能テスト)等が行われている。これらの訓練にお
いては,大音響出力可能な特殊スピーカーや地上爆発模擬装置(金属製の容器内で爆発物を破裂させ,爆発音を発生させる。
)等が使用され,す
さまじい騒音が長時間にわたって発生する。
なお,平成27年5月12日,日米両政府は,平成29年後半以降にオスプレイを横田飛行場に配備することを決定し,平成30年4月3日
には,同年夏頃の配備を決定した。オスプレイは,正式な配備を前に横田飛行場に多数飛来しているところ,その発する騒音の程度は,他の航空機の騒音をはるかに上回るものである。

横田飛行場における航空機騒音の特徴
公共用飛行場を離着陸する民間航空機は,毎日ほぼ同じ時刻に同じ経路の飛行や離着陸を繰り返しているのに対し,軍用飛行場である横田飛行場
を離着陸する航空機は,軍用機である性質上,飛行時間及び飛行回数が日によって大きく異なり,飛行経路も一定ではない。そのため,横田飛行場周辺における航空機騒音の発生状況には常態性,定期性がなく,原告ら周辺住民は,いつ騒音に曝されるのかを予測することが不可能な状況にある。また,航空機騒音の音量は極めて大きいものである上,航空機自体が音
源であるために騒音の及ぶ範囲は広く,原告ら周辺住民は,突然,頭上からの騒音にさらされることとなる。そして,航空機騒音は,機種によって音が異なり,例えば,ジェット機は金属的な高音を発し,プロペラ機はバリバリバリといった音を継続的に発する。横田飛行場では,1日に何十回も航空機が飛行し,原告ら周辺住民は繰り返しこのような航空機騒音に曝
露されているのである。

防衛施設庁方式によるW値を騒音の評価指標とすべきであること
航空機騒音の評価指標としては,従来,W値が用いられてきたが,このW値の算定方式として,我が国では,昭和48年環境基準に基づく環境庁
方式と防音工事助成措置等に関して用いられてきた防衛施設庁方式の2つの方式が併用されており,これらは基礎となる数値の取り方や計算方法が異なる。そして,以下で述べるように,本件における航空機騒音の評価指標としては,防衛施設庁方式で算定したW値が用いられるべきである。前述したように,民間航空機が使用する公共用飛行場では,1年を通し
て飛行回数や飛行経路に大きな変動はなく,離着陸する航空機の機種も限定されているのに対し,自衛隊等の航空機が使用する軍用飛行場では,航空機の飛行回数や飛行経路が日によって異なり,また,離着陸する航空機の機種や飛行態様も多種多様であるから,軍用飛行場の周辺において環境庁方式によってW値を算定した場合,公共用飛行場の周辺において算定し
たW値と同じ数値であっても,騒音に対する住民の反応が同じであるとはいえない。これに対し,防衛施設庁方式では,上記のような軍用飛行場の
特殊性を踏まえた補正が施されているため,より適切に騒音とこれに対する住民の反応を評価することができる。
この点,被告は,防衛施設庁方式が実際の騒音曝露量よりも程度の高い数値が算定されるように設計されている旨を指摘し,環境庁方式を採用することが相当であると主張するが,前述したように,防衛施設庁方式は,
軍用飛行場の特殊性を踏まえ,公共用飛行場と軍用飛行場との間でW値に整合性が保たれるように,すなわち公共用飛行場であっても軍用飛行場であってもW値が同じであれば同じ住民反応が示されるといえるようにするために考案された算定方法であるから,被告の上記主張は,防衛施設庁方式の策定の経緯を正解しないものである。

また,被告は,横田飛行場周辺の航空機騒音の評価指標として,単なる環境庁方式によるW値ではなく,昼間騒音を控除して同方式で算定した「昼間騒音控除後W値」を採用すべきであるとも主張するが,そもそも,W値は,現実に発生した騒音曝露量を単純に示す指標ではなく,騒音区域に居住する住民を対象とする大規模な社会調査を経て,その属性や生活様
式が様々であることも考慮した上で,
騒音の周辺住民への影響
(うるささ,
迷惑や被害等)を示す指標として策定されたものであるから,昼間騒音控除後W値が現実に発生した騒音の内容と程度により近いなどという被告の主張は失当といわざるを得ない。昼間の騒音被害が共通損害とはいえない旨の被告の主張も,原告らの主張する後述の共通損害の考え方を誤解す
るものであり,認められない。

告示コンター内地域(75W以上の地域)の騒音の実態
前述したように,航空機騒音は広範囲に及ぶものである上,気象状況,機種,飛行形態,風向き等の様々な条件によって地上で聞こえる音の大き
さや性状に変化がみられる。加えて,横田飛行場の米軍機の運航管理は米軍が行っていることからすれば,原告らが横田飛行場の航空機騒音の実態
を把握することは極めて困難といえる。
もっとも,
被告,
東京都及び横田飛行場の周辺自治体
(昭島市,
瑞穂町,
福生市)は,横田飛行場周辺に自動記録騒音計を設置し,継続的に航空機騒音を計測しているから,原告らとしては,これらの測定結果をもって,横田飛行場周辺の騒音の実態を主張することとする。
東京都の騒音測定結果
東京都は,①昭島市役所(東京都昭島市田中町1-17-1),②瑞穂
町農畜産物直売所
(東京都西多摩郡瑞穂町箱根ヶ崎612-1)③福生,
第二中学校及び④武蔵村山市立第二老人福祉館の4か所(甲A53・1
枚目の固定(通年)調査地点①~④)に騒音計を設置し,70dB以上の騒音が5秒以上継続したときに,発生年月日,時刻,騒音最高値,継続時間及び暗騒音を記録している(甲A5,A53)

上記①及び②の各地点における平成20年度ないし平成24年度の平均W値(環境庁方式によるW値)は次のとおりである。
測定地点

21年度

22年度

23年度

24年度

①昭島市役所屋上

75W

74W

73W

73W

74W

②瑞穂町畜産物直売所

20年度

81W

81W

81W

80W

81W

昭島市の騒音測定結果
昭島市は,①昭島市立拝島第二小学校(東京都昭島市拝島町3927-2)及び②昭島市役所を測定地点として,航空機騒音の自動測定を行っている。測定方法は,平成25年3月までは75dB以上の騒音が5秒以上継続したときに,同年4月以降は暗騒音+8dB以上の騒音が5
秒以上継続したときに,騒音を測定するというものである。上記①及び②の各地点における平成21年度ないし平成28年度の年間飛行測定回
数,
一日平均測定回数,
時間別測定回数,
土日測定回数及び平均W値
(環
境庁方式によるW値)は次のとおりである(甲A6,A44,A54,A74)

【拝島第二小学校】
年度

年間飛行一日平均22~7時

22~6時

19~8時

土日

平均79dB(A)80dB(A)90dB(A)100dB(A)110dB(A)
測定回数測定回数測定回数測定回数測定回数測定回数W値

以下

以上

以上

以上

以上

H21

H22

21.8

H23

21.2

H24

19.7

H25

27.9

H26

H27

H28

26.6

【昭島市役所】
年度

年間飛行一日平均22~7時

22~6時

19~8時

土日

平均79dB(A)80dB(A)90dB(A)100dB(A)110dB(A)
測定回数測定回数測定回数測定回数測定回数測定回数W値

以下

以上

以上

以上

以上

H21

17.5

H22

17.5

H23

17.3

H24

H25

19.9

H26

20.5

H27

20.8

H28

19.6

上記の測定結果のとおり,上記①の地点では75dB以上の騒音が1日約20回ないし29回発生し,100dBを超える騒音も年間約100回ないし230回発生しており,上記②の地点でも,70dBを超える騒音が1日約16回ないし20回発生し,100dBを超える騒音も
年間約20回ないし90回発生している。また,平成5年日米合同委員会合意によって午後10時から午前6時までの間の時間における飛行等は制限されているにもかかわらず,両地点における午後10時から午前6時までの騒音発生回数は年間23回ないし84回に及んでいるし,多くの原告らにとって休日である土曜日及び日曜日の騒音発生回数も年間で約300回ないし600回に及んでいる。さらに,平均W値は,上記①の地点では80~84Wで推移し,上記②の地点では71~75Wで推移しており,全体的に横ばいではあるものの,平成26年度には増加傾向がみられるし,今後は,CV-22オスプレイの配備によって,増
加するものと見込まれる。
瑞穂町の騒音測定結果
瑞穂町は,①箱根ヶ崎民家及び②瑞穂町役場(東京都西多摩郡瑞穂町箱根ヶ崎2335)に騒音計を設置し,航空機騒音の自動測定を行っている(甲A7,A55,A75の1~3)
。上記①の地点における平成2

1年度ないし平成29年度の年間飛行回数,一日平均回数,最高dB及び平均W値(環境庁方式によるW値)は次のとおりである。
年度

回数

日平均回数

最高dB

W値

H21

26.4

113.6

78.9

H22

28.5

113.4

77.9

H23

26.2

78.4

H24

23.3

111.7

77.6

H25

26.6

11.4

76.8

H26

28.1

114.1

78.7

H27

27.5

116.7

H28

24.5

111.8

77.2

H29

24.2

115.8

77.7

福生市の騒音測定結果
福生市は,福生市誘導灯付近(東京都福生市大字熊川字武蔵野1571番地付近)を測定地点として,航空機騒音の自動測定を行っている。
上記地点における平成21年度ないし平成29年度の年間飛行回数,最大dB,及び時間別飛行回数は次のとおりである(甲A46,A57,A76の1~9)


年度

回数

最高dB

夕刻

夜間

(19~22時)

(22~翌7時)

H21

H22

H23

H24

H25

H26

H27

H28

H29
上記測定地点は,横田飛行場の滑走路南側から航空機が離着陸する直下の地点であるが,上記測定結果のとおり,平成25年度以降,年間1万回を超える騒音が発生しており,夜間(午後10時~午前7時)の騒音発生回数が年間200回を超えることが多い。
被告の騒音測定結果

被告は,①行政財産内(北側・東京都西多摩郡瑞穂町箱根ヶ崎),②行
政財産内(南側・東京都昭島市美堀町)
,③入間市金子公民館(東京都入
間市寺竹)
,及び④八王子市石川市民センター(東京都八王子市石川町)を含む13か所(甲A8の1の測定点①~⑬。なお,別紙7-1自動騒音測定装置の設置位置図参照。に自動騒音測定装置を設置し,

航空機騒

音の測定を行っている(甲A8の1~5,A56の1・2,A77の1~3)上記①ないし④の各地点における平成21年度ないし平成29年。
度の日平均騒音発生回数及び平均W値(環境庁方式によるW値)は次のとおりである。

測定

瑞穂町

昭島市

入間市

八王子市

場所

箱根ヶ崎民家

美堀町

金子公民館

石川市民センター

年度

日平均騒音
発生回数

日平均騒音

W値

発生回数

日平均騒音

W値

発生回数

W値

日平均騒音
発生回数

W値

H21

86.5

71.1

H22

85.9

84.1

70.7

H23

84.5

85.3

70.8

71.6

H24

85.8

84.9

72.3

H25

84.9

84.8

70.6

71.3

H26

87.3

72.9

72.7

H27

85.7

83.7

69.6

69.3

H28

84.4

83.7

69.6

69.4

H29

84.4

80.6

68.2

以上によれば,告示コンター内地域(75W以上の地域)では,本件請求対象期間においても,昼夜休日問わず,防衛施設庁方式に換算する(環境庁方式によるW値に3~5を加える)と75Wを超える騒音が発生しているものと認められ,同地域に居住する原告らは,かかる騒音に
さらされている。

指定区域外の騒音の実態
原告番号21,22,30,80の4名の原告ら(以下,一括して「指定区域外原告ら」という。
)は,提訴時から告示コンターでは指定区域外と

された地域に居住している。もっとも,告示コンターの基となる平成15年調査は,13か所の測定地点における1年間の騒音測定等を主な内容とするものであるところ,航空機の運航が不定期,不規則であるという軍用飛行場の特徴を考慮すれば,同調査は,横田飛行場の周辺住民の騒音被害の実態を明らかにするものとしては不十分なものといわざるを得ず,横田
飛行場の常駐機の旋回訓練における飛行経路等からすれば,告示コンターの区域外においても,告示コンター内地域と同様の騒音が発生していると考えられる。
そして,実際に,原告番号21,30,80の原告らの自宅屋外を測定
地点として,65dB以上の航空機騒音を対象とする騒音測定を実施したところ,次のような結果が得られた。
原告番号21の原告宅(東京都福生市大字熊川a-b)
上記測定地点における測定期間は平成26年1月12日ないし同月25日(14日間)であり,同期間中の65dB以上70dB未満の騒音発生回数は123回,70dB以上80dB未満の騒音発生回数は120回,80dB以上90dB未満の騒音発生回数は13回であった。同期間中,1日の騒音発生回数が50回を超えることもあり,また,早朝(午前0時から午前7時まで)の騒音発生も2回あった。

原告番号30の原告宅(東京都立川市一番町a-b-c)
上記測定地点における測定期間は,平成25年2月19日ないし同月28日(10日間)であり,同期間中の65dB以上70dB未満の騒音発生回数は21回,70dB以上80dB未満の騒音発生回数は45回,80dB以上90dB未満の騒音発生回数は7回であった。また,
同期間中,1日の騒音発生回数が約30回に及ぶこともあった。
原告番号80の原告宅(東京都昭島市つつじが丘a-b-c-d)上記測定期間における測定は,①平成25年3月12日ないし同年5月9日(59日間)と②平成27年1月5日ないし同年4月11日(同年3月5日ないし同月12日は測定ができなかったため,測定日数は8
8日間)の2期間にわたって行い,①の期間中の65dB以上70dB未満の騒音発生回数は23回,70dB以上80dB未満の騒音発生回数は292回,80dB以上90dB未満の騒音発生回数は42回,90dB以上100dB未満の騒音発生回数は1回であり,②の期間中の65dB以上70dB未満の騒音発生回数は902回,70dB以上8
0dB未満の騒音発生回数は453回,80dB以上90dB未満の騒音発生回数が49回,90dB以上100dB未満の騒音発生回数が5
回であった。1日の騒音発生回数が約70回に及ぶ日もあり,また,①の期間中,深夜(午後10時から午前0時まで)の騒音発生が1回,早朝
(午前0時から午前7時まで)
の騒音発生が3回あり,
②の期間中も,
深夜の騒音発生が4回,早朝の騒音発生が7回あった。
以上の騒音測定結果から,告示コンターの区域外である指定区域外原
告らの居住地域においても,本件請求対象期間を通じて,頻繁に航空機騒音が発生しているものと認められ,指定区域外原告らは,かかる騒音にさらされている。


地上騒音による侵害
航空機騒音による侵害としては,上記⑴の飛行騒音による侵害以外に,航
空機がエンジンの試運転作業を行う際に発生するエンジンテスト音や,暖機運転させる際に発生するエンジン音,航空機誘導音等の地上騒音による侵害がある。

航空機の排気ガス,振動による侵害

一般に,航空機の排気ガス中に含まれる主要な汚染物質としては,一酸化炭素(CO)
,炭化水素(HC)
,窒素酸化物(NOX)等がある。これら
の汚染物質は,健康に悪影響を与え,特に呼吸器疾患を引き起こすことが判明している。横田飛行場は人口過密都市に所在している上,特に排出ガスが増加する米軍機の離着陸が居住地近辺で行われ,加えて,軍用飛行場
であるため訓練の必要性から離着陸の頻度が高く,また,低空を飛行することから,原告ら周辺住民は,米軍機の排気ガスに含まれる汚染物質による被害に相当程度さらされている。なお,横田飛行場の常駐機として,世界最大級の輸送機であるC-5ギャラクシーがあるところ,その排気ガスが民間航空機と比較して相当大量に及ぶことは明らかである。

そして,東京都の設置する一般大気測定局の速報値(甲A73)によれば,羽田空港(東京国際空港)周辺地域及び横田飛行場周辺地域における
窒素酸化物(NOX)の測定値が,東京都内の他の地域と比較して高いことが認められる。

横田飛行場周辺では,上空を飛行する航空機による空気の振動や,地上でのエンジンテストによる空気の振動によって,居宅内の家具等が共鳴し,損壊する等の被害が発生している。特に離着陸の際には低空を飛行するこ
とから,離着陸コース直下の居住者は振動にさらされている。また,戦闘機は飛行速度が高速であり,訓練内容によっては市街地上空を低空で飛行するところ,その際の空気の振動,風圧は強烈であり,多大な振動被害を発生させる。


航空機の墜落及び落下物事故等による侵害

航空機の墜落及び落下物事故の危険性
横田飛行場周辺では航空機の墜落及び落下物事故が相次いで発生しており,平成元年から平成26年までの間における横田飛行場周辺での米軍機の事故あるいは横田飛行場の常駐機による事故の発生件数は,原告
らに判明しているものだけでも23件ある。
このような事故発生状況に加えて,横田飛行場は人口過密都市に所在する飛行場であることから,原告らは,常時,航空機の墜落及び落下物による生命,身体及び財産の侵害の危険にさらされているものといえ,このことに対する不安も強い。

また,横田飛行場への配備が予定されており,既に同飛行場に飛来しているオスプレイは,
①オートローテーション機能
(回転翼機が飛行中,
エンジンからの出力によらず,空力のみによって主回転翼を回転させて揚力を得る緊急手順をいう。が備わっていない,

②火災の原因となり得
る高温の排気熱を排出するという構造的な欠陥がある上,高度の飛行技
術が要求されるために事故率が高い非常に危険な航空機であるため,原告ら周辺住民にとって非常に大きな脅威となっている。


横田飛行場における燃料漏出事故等の危険性
アメリカ合衆国から公開された資料によれば,平成11年9月30日から平成18年5月10日までの間,横田飛行場及びその関連施設で,90件の有害物質の漏出事故が発生し,そのうち1件は,その危険度が「環境に被害を及ぼし,公衆の健康や安全に深刻な脅威を与える報告量を超えた
放出」と評価されるものであった(甲C17)
。また,上記期間後の平成1
9年9月には,横田飛行場の給油場で,約5600リットルのジェット燃料が漏出する事故が発生しており,周辺環境を汚染するとともに,原告ら周辺住民に対し不安を与えている。


低周波音による侵害

一般に,低周波音とは,人間の耳には聞こえにくい100Hz以下の周波数の音をいう。低周波音には,距離減衰しにくい,障害物を置いても防ぐのが難しい等の特徴がある。
低周波音による具体的な被害としては,
①物的苦情
(音を感じないのに,
戸,障子,窓ガラス等の建具が振動する,置物が移動するといった苦情),

②心理的苦情ないし生理的苦情(低周波音を感じよく眠れない,気分がイライラするといった苦情や,頭痛や耳鳴りがする,吐き気がする,胸や腹に圧迫感を感じるといった苦情)が挙げられる。
低周波音に関する規制基準や環境基準は策定されていないが,
環境省は,
平成16年6月,
「低周波音問題対応の手引書」
(甲C48)の中で,どの

程度の低周波音が人あるいは物に影響を生じさせるかということを示す参照値を公表している。

本件では,
①平成27年9月20日から同月26日の7日間にわたって,横田飛行場周辺(立川市西砂町)で低周波音等の測定を実施した結果等を
記載した「横田飛行場立川市西砂町における低周波音の現状」と題する報告書(甲A59。以下「本件低周波音測定報告書」という。
)によれば,横

田飛行場を離着陸する航空機から環境省の公表する参照値を超える低周波音が発生していることが判明したこと,及び,②原告らの陳述書等によれば,
「飛行機が飛ぶと建具や窓枠が揺れる」
等の物的苦情を訴える者が複
数いるほか,
航空機騒音による身体的ないし精神的被害として,
「イライラ
する」「眠れない」「不快感がある」等と訴える者の中には,低周波音の,


影響を訴える者も相当数含まれていると推測されることなどからすれば,横田飛行場周辺における低周波音の発生は明らかといえる。
また,平成24年10月4日実施の普天間飛行場付近の小学校の屋上におけるMV-22オスプレイの着陸時の低周波音の測定では,防衛省が普天間飛行場の名護市辺野古移設に向けて作成した環境影響評価(アセスメ
ント)で物的影響及び心理的影響の基準とした閾値を大幅に上回る低周波音の発生が確認されたことから,横田飛行場への配備が予定されているCV-22オスプレイの発する低周波音も,他の航空機の発する低周波音をはるかに上回るものと推測される。

なお,普天間飛行場に関する福岡高等裁判所沖縄支部平成22年7月29日判決(判例タイムズ1365号174頁,判例時報2091号162頁。以下「普天間平成22年控訴審判決」という。
)及び那覇地方裁判所沖
縄支部平成28年11月17日判決は,航空機の運航等から生じる低周波音による被害を認めている。



その他の侵害

地域発展の障害
横田飛行場の位置する5市1町
(福生市,
立川市,
武蔵村山市,
昭島市,
羽村市及び瑞穂町)では,南北に広がる同飛行場の存在によって道路や鉄道といった交通網が遮断され,各地域が有機的に結び付いて発展する機会を奪われている。


米兵による犯罪事件の発生

従前から横田飛行場所属の米兵による犯罪事件が多数発生しており,この点においても,原告ら周辺住民は,生命,身体及び財産侵害の危険,不安にさらされている。
なお,地位協定17条5項(c)は,
「日本国が裁判権を行使すべき合衆
国軍隊の構成員又は軍属たる被疑者の拘禁は,その者の身柄が合衆国の手
中にあるときは,日本国により公訴が提起されるまでの間,合衆国が引き続き行うものとする。としていることから,

米兵である被疑者が横田飛行
場内に逃げ込んでしまうと,日本の捜査機関は起訴まで同人の身柄を拘束する権限を失うことになるところ,このような日本の捜査権に対する制約は,米兵による犯罪を助長しているものといえる。


経済的被害
航空機騒音等の被害が発生することから,横田飛行場周辺の土地の価格は下落し,横田飛行場周辺に所在する不動産を賃貸することも困難な状況にある。そのため,横田飛行場周辺の不動産を所有する者については,その所有不動産を有効活用することができず,経済的被害を受けている。
4
航空機騒音その他の侵害による被害


総論

原告ら横田飛行場周辺住民の被害の多様性・重大性
前記3で述べたように,横田飛行場を始めとする軍用飛行場は,騒音,
大気汚染,低周波音,有害物質の漏出,航空機事故や航空機からの落下物事故の危険等,広範囲で多岐にわたる被害を周辺地域の環境,住民にもたらすものである。その意味で,軍用飛行場に由来する種々の被害は,一つの大きな環境問題なのであり,
「基地被害」とでもいうべきものである。
そして,原告らは,このような「基地被害」として,後記⑵以下のとお
り,睡眠妨害,身体的被害・健康被害,日常生活の妨害,心理的・情緒的被害等の様々な被害を受けてきたのである。


共通損害
原告らが航空機騒音等によって受けている被害は,原告ら各自の年齢,性別,健康状態,生活形態等の相違に応じて,その内容及び程度を異にする。しかしながら,具体的な被害の内容等が異なっていても,航空機の運航という同一の侵害行為によって,その航空機騒音にさらされる地域に生
活の本拠を有する原告らが,身体の安全を害され,平穏な生活を破壊されるという被害を受けているという根本は共通である。また,原告らは,各自が受けた具体的被害の全部について賠償を求めるものではなく,原告らの被害に伴う精神的苦痛を慰謝料という形で請求するのであるから,その精神的苦痛を一定の限度で原告らに共通する被害の最低限のものとして
とらえて,各原告において一律にその限度で慰謝料として賠償を求めることができる。このような考え方は,大阪空港訴訟最高裁判決で採用され,その後の航空機騒音訴訟においても採用されてきたものである。
この点,被告は,具体的な被害の内容や程度の差異にこだわって,原告ら全員に共通して生じている損害であるかどうかを検討し,全員に共通し
て生じるとはいえないものは共通損害ではないとして切り捨てようとするが,これは共通損害の概念を誤って理解するものであり,被害の一部を不当に無視するものであって許されない。

睡眠妨害

平成5年日米合同委員会合意によって午後10時から午前6時までの間の時間における飛行等を制限する旨の合意がなされたものの,依然として同時間帯においても航空機が飛行しており,その騒音によって,原告ら周辺住民の睡眠が妨害されている。また,夜間勤務をしている者や,長時間の睡眠が必要な乳幼児,早い時間帯に就寝する高齢者など,昼間の時間に
睡眠をとる者も一定数いるところ,昼間の飛行による騒音は,これらの者の睡眠を妨害しているといえる。そして,横田飛行場においては,土日も
航空機が飛行するため,休日の休息も妨害されている。

沖縄県の委託で実施された嘉手納,普天間両飛行場の周辺住民の健康影響調査の報告書である「航空機騒音による健康影響に関する調査報告書」(甲C5。以下「沖縄県健康影響調査報告書」という。,京都大学工学研)
究科の松井利仁が厚木飛行場周辺の航空機騒音の現状と健康影響等を記
載した「厚木海軍飛行場周辺における健康影響に関する意見書」
(甲C1
0)及び,

東京都公害研究所の委託で横田飛行場の周辺住民を対象として
実施された面接調査の報告書である「横田基地周辺航空機騒音による住民生活影響調査」
(甲A29。以下「横田飛行場調査報告書」という。
)は,
いずれも航空機騒音が周辺住民の睡眠を妨害していることを示している。

騒音による睡眠妨害は,単に眠れないという不快感をもたらすだけでなく,その頻度によっては,様々な疾患を生じさせるおそれがある。この点,世界保健機関(以下「WHO」という。
)の作成した「環境騒音
のガイドライン実務的抄録」
(甲C3。「WHO環境騒音ガイドライン」
以下

という。
)は,騒音による睡眠妨害が健康に及ぼす影響等について,
「騒音
によって睡眠中に一次影響が生じ,二次影響として騒音曝露を受けた次の日にも影響が生じる」「睡眠妨害の一次影響としては,入眠困難,覚醒や,
睡眠深度の変化,血圧・心拍数・指先脈波振幅の上昇,血管収縮,呼吸の変化,不整脈,脳幹の反応,体重の増加などがある」「騒音によって覚醒,

する確率は,一晩あたりの騒音発生回数の増加とともに高くなる。翌朝やその後何日間かに現れる睡眠妨害の二次影響としては,不眠感,疲労感,憂うつ,作業能率の低下といったものがある」との知見を示した上で,「快
適な睡眠のためには,夜間の連続的な暗騒音のLAeqは30dB以下にとどめるべきであり,個々の発生音についても,45dBを超えるような騒
音は避けるべきである」とする。また,WHO欧州事務局の作成した「欧州夜間騒音ガイドライン実務的概要」
(甲C9。以下「欧州夜間騒音ガイド

ライン」という。
)も,WHO環境騒音ガイドラインを補足して,夜間の騒
音による健康影響を防止するためのガイドライン値を定めている。⑶

身体的被害・健康被害

聴覚障害
聴力の低下(聴力損失)や耳鳴り等の聴覚障害は,騒音による被害とし
て広く知られている。騒音による聴力損失(騒音性聴力損失)は,一過性の聴力損失(NITTS)が繰り返されることによって,検知可能な永久性の聴力損失(NIPTS)が生じると考えられている。航空機騒音のような間欠騒音は,定常騒音と比べて騒音レベル(刺激の強さ)が大きく,立ち上がり速度(刺激の強まり方)も早いため,刺激時間は短いものの,
他の定常騒音よりも聴力には有害とされている。航空機騒音が騒音性聴力損失を発生させることを肯定する研究報告は相次いでおり,沖縄県健康影響調査報告書では,嘉手納飛行場周辺の居住者約1000名を対象として聴力検査を実施したところ,航空機騒音に起因すると考えられる聴力損失の症例が11例確認された旨が報告されているほか,騒音が聴力損失に影
響を与えるという横田飛行場や小松飛行場周辺における疫学調査結果もある。

睡眠妨害
上記⑵で述べたように,睡眠妨害は,睡眠障害や不眠症等を始めとする様々な疾患を生じさせるおそれがあるため,単なる生活妨害にとどまるも
のではなく,身体的被害・健康被害にも当たるものといえる。

身体の変調
航空機騒音は,交感神経を刺激し,脈拍増加,血圧上昇,唾液・胃液分泌の減少,胃腸運動の抑制等を生じさせたり,脳下垂体からのホルモンの
分泌や,これによって支配される副腎皮質ホルモン,甲状腺ホルモン及び生殖腺ホルモン等の分泌に変動を生じさせて,肩こりや頭痛,めまい,高
血圧,食欲不振等の様々な身体的不調を引き起こす。また,騒音によるストレスがストレス性疾患を引き起こすこともある。
この点,
WHO環境騒音ガイドラインは,騒音職場に働く労働者,

空港,
工場,
騒音の激しい道路近傍の住民に対して,
騒音が生理的機能に急性的・
慢性的な影響を及ぼしている可能性がある」「長期曝露によって,住民の,

中の高感受性群が高血圧や虚血性心疾患などの永続的な影響を発現することになると考えられている」「心循環器系への影響は,LAeq,24hが6,
5-70dB(A)の航空機・道路交通騒音の長期曝露地域においても明らかにされている」との知見を示し,騒音曝露が心臓血管系疾患を増加させるとする。また,その危険性に関し,
「騒音に曝露されている人員の多さ

に鑑みると,わずかなリスク上昇であっても重大である」と指摘する。さらに,WHO欧州地域事務局の作成した「環境騒音による疾病負荷」(甲C
7)
の中にも,
「航空機騒音と高血圧症ならびに虚血性心疾患との関連性を
証明する疫学研究結果が近年増加している」との記載がある。
そして,沖縄県健康影響調査報告書は最高・最低血圧,白血球数及び尿
酸濃度とW値との関連性を指摘し,横田飛行場調査報告書も,騒音曝露量が増加するほど健康被害を訴える住民が増えるという結果を示している。エ
精神的疾患
騒音,航空機の墜落事故や落下物事故の危険等による不快感,恐怖感といった精神的ストレスの蓄積は,身体にも影響を及ぼし,ノイローゼや神
経衰弱を生じさせる。
WHO環境騒音ガイドラインにおいても,
「騒音によ
って,潜在的な精神障害が加速・助長されると考えられる」とか「精神安定剤や睡眠薬の使用状況,神経症症状,精神病院への入院率などを調査した研究結果は,環境騒音が精神的健康に悪影響を及ぼしている可能性を示唆している」などと指摘されている。


会話了解度

会話と同時に騒音が発生すると,会話の理解が困難となる。WHO環境騒音ガイドラインは,35dB以上の騒音は小さな部屋での会話(通常50dB程度)を妨害する旨を指摘した上で,会話の内容が理解できないことは日常生活における行動に支障を来すこととなり,その影響を特に受けるのは,聴力障害者,高齢者,言語取得中の小児等であるとしている。

認知作業・知的能力への影響
騒音は,作業や学習といった認知作業の成績にも悪影響を及ぼすものである。WHO環境騒音ガイドラインは,騒音による影響を特に受ける認知能力として,読解力,集中力,問題を解く力及び記憶力等を挙げ,「複雑な
作業の場合,認知作業の成績は大幅に低下する」とか「騒音は集中力を妨
げる刺激にもなり,衝撃音は驚愕反応によって破壊的な影響を及ぼす可能性がある」と指摘する。また,
「慢性的に航空機騒音に曝露されている空港
周辺の学校の生徒は,詳細な読解力,難問に取り組む際の持続力,読解試験の成績,学習意欲が標準よりも低い」などと,騒音が学習能力,意欲にも大きく影響を与えることも指摘されている。そして,同ガイドラインの
他にも,
騒音が知的作業に阻害影響を与えることや,
読解能力,
学習意欲,
長期記憶力の低下に関連していることを示す文献がある(甲C11)。

乳幼児の問題行動
航空機騒音が乳幼児の健康や行動等に影響を与えることは,各種の調査
で明らかにされている。
沖縄健康影響調査報告書は,
「航空機騒音は身体的
にも精神的にも幼児達の要観察行動を増加させる要因になっていると結論づけることができる」としているし,横田飛行場調査報告書も,航空機騒音が乳幼児の行動に影響を及ぼしている旨を指摘している。また,WHO環境騒音ガイドラインは,
「騒音高曝露地域の小児は,
ストレスホルモン

の濃度が増加しており,安静時の血圧が高いことなどから,交感神経が亢進している」として小児への影響を指摘している。


低出生体重児出生率の増加
航空機騒音が妊婦に影響を与え,2500グラム以下の低出生体重児の出生率が増加することが,これまでの動物実験や疫学調査の結果から明らかとなっている。沖縄県健康影響調査報告書は,騒音区域(嘉手納町)では非騒音区域と比べて低出生体重児の出生率が高いことが判明したとし,
その原因については,
「沖縄本島内の他の市町村と比較して,
すべての住民
が高レベルの航空機騒音に曝露されているためであると結論せざるを得ない」としている。低出生体重児は,身体の発育や学習能力等に関して,出生後長期にわたってリスクを負うことが報告されているところであり,子ども自身や家族に重大な影響をもたらすものといえる。


まとめ
以上のとおり,
航空機騒音は,
人間の身体の様々な部分に影響を及ぼし,
場合によっては生命,身体に重大な被害を発生させることが,これまでの研究結果等からも判明している。原告ら周辺住民は,長年にわたって,このような生命,身体に重大な被害が生じる危険性の高い場所での生活を余
儀なくされているのである。


日常生活の妨害

騒音による会話の中断及び電話,テレビ等の聴取妨害
原告らは,航空機騒音により,家族や来客等との会話や電話での通話を妨害され,家庭や仕事のあらゆる面で日常的なコミュニケーションが阻害
されて,生活に支障を来している。また,テレビやラジオの視聴,音楽鑑賞も妨害されている。

職務作業,学習,趣味等の妨害
航空機騒音によって会話や通話が妨害されることで,仕事上の連絡や打
合せに支障が出たり,学校での授業が中断し,このような直接の妨害のないときでも,騒音によって,本来,静謐な環境で行うべき知的作業が阻害
され,集中力が減退して,仕事における作業効率が低下したり,児童生徒の学習理解が妨げられている。
また,航空機騒音は,映画鑑賞や音楽鑑賞といった趣味を妨害するし,読書等の集中力を要する趣味も妨害するものである。

騒音の感受性が高い人(乳幼児,高齢者,療養者等)に対する悪影響横田飛行場周辺には,保育園や病院も多数存在するところ,乳幼児や高齢者,療養者といった比較的抵抗力の弱い者にとっては,騒音が与える影響はより甚大である。特に,乳幼児に関しては,騒音により睡眠が妨害されることはもとより,哺乳や食事も妨害され,性格面,情緒面に対しても悪影響を及ぼし,成育の障害となっている。



心理的・情緒的被害
騒音区域の住民は,騒音による不快感,航空機の墜落事故や落下物事故の危険等に対する不安感や恐怖感といった精神的不快感を抱えながらの生活を強いられている。上記⑶エで述べたように,このような精神的不快感がスト
レスとして蓄積されると,精神的疾患を引き起こす可能性もある。この点,WHO環境騒音ガイドラインには,80dBを超える騒音は援助的な行動を減少させ,攻撃的な行動を増加させると考えられる旨や,高レベルの騒音に曝露されていることにより,学童が無力感を抱きやすくなってしまうことが特に懸念される旨の記載がある。また,沖縄県健康影響調査報告
書の作成にも関与した長田康公も,
「環境保健の提唱」と題する論文(甲C6
の1~4。以下「長田論文」という。
)の中で,
「交通の激しい道路沿いの住
民や工場周辺の住民が,会話できない,電話やテレビがきこえない,勉強ができないなどの生活妨害から,不快,焦燥感などの情緒妨害をおこし,ついには不眠症,高血圧,心悸亢進,胃腸障害をおこしたというような訴えをよ
くきくのである」と指摘している(甲C6の2)

そして,沖縄県健康影響調査報告書や横田飛行場調査報告書は,騒音被害
が大きくなるほどイライラ感や落着きのなさといった精神的不快感が強くなることを明らかにしている。


その他の被害

交通事故の危険
横田飛行場周辺は住宅地であって,交通量が非常に多いところ,自動車
の走行音やクラクション,踏切の警報音が航空機騒音でかき消されることや,運転者や歩行者が航空機騒音に気を取られることがあるため,航空機騒音によって交通事故が発生する危険が増大しているものといえる。イ
排気ガス,振動による被害
横田飛行場を離着陸する航空機は,大量の排気ガスを原告らの居住地域
にまき散らしながら飛行し,原告ら周辺住民の健康に悪影響を及ぼすとともに,周辺環境を破壊している。また,航空機の飛行によって,家具等が共鳴し,振動によって損壊するなどの被害も生じている。

その他精神・心理への侵害
平穏生活的人格権の侵害
原告らは,危険のない安心安全な環境の中で暮らす平穏生活権としての人格権を有しているものの,横田飛行場周辺に居住しているゆえに,同飛行場に離着陸する航空機の墜落事故や航空機からの落下物事故,同飛行場に所属する米兵による犯罪事件の発生の危険がある中で,日々の
生活を送ることを強いられており,上記権利を侵害されている。
平和的生存権(憲法秩序)の否定
憲法は,国民に対し平和的生存権を保障するとともに,政府に対し平和的に国際紛争を解決する義務を負わせており,原告らは,このような憲法秩序の下で生活しているが,日米安全保障条約の下,世界中で武力
行使を行うアメリカ合衆国と一体となって戦闘行為に参加させられることは,上記権利の否定に他ならず,耐え難い苦痛である。また,被告が
米軍に提供している基地から無辜の人々への爆撃が実施されたことをテレビや新聞等で知ることによる原告らの精神的苦痛は甚大である。攻撃目標とされる危険
横田飛行場を含む日本の米軍基地は,他国からの軍事攻撃の標的とされる危険性がある。原告らの横田飛行場の存在自体に対する不安感,恐
怖感は日に日に深刻なものとなっている。
戦争への恐怖
横田飛行場は極東地域における米軍の主要基地であり,
ベトナム戦争,
アフガン戦争,イラク戦争の際には,横田飛行場から戦闘機や輸送機が出発したり,横田飛行場所属の米兵が戦地に派遣されたりした。原告ら
は,
横田飛行場に離着陸する米軍機の騒音にさらされるなどすることで,戦争を想起し,恐怖を感じている。
5
損害賠償請求について


受忍限度を超える違法な侵害行為
侵害行為の違法性が認められるためには,当該侵害行為が社会生活上受忍
すべきであると考えられる範囲を超えていることを要するとされるところ,その判断要素については,
「侵害行為の態様と侵害の程度,
被侵害利益の性質
と内容,侵害行為のもつ公共性ないし公益上の必要性の内容と程度等を比較検討するほか,侵害行為の開始とその後の継続の経過及び状況,その間にとられた被害の防止に関する措置の有無及びその内容,効果等の事情をも考慮し,これらを総合的に考察してこれを決すべきもの」とされている(大阪空港訴訟最高裁判決)


告示コンター内地域(75W以上の地域)に居住する原告らについて前記3⑴ウで述べたように,防衛施設庁方式によるW値は,軍用飛行場
の特殊性を踏まえた補正の施されている航空機騒音の評価指標であるため,横田飛行場周辺に居住する原告らの航空機騒音による精神的苦痛を検
討する上で重要な指標となるといえる。そして,被告は,平成15年度調査に基づき,防衛施設庁方式による75W以上の地域が「航空機の離陸,着陸等のひん繁な実施により生ずる音響に起因する障害の著しい」区域(環境整備法4条)であるとして第一種区域に指定しているのであるから,被告自身,上記地域の騒音被害が著しいことを認めているものといえる。
これに加えて,被告は,告示から既に45年以上経過している航空機環境基準の達成に向けて努力することなくこれを放置していること,告示コンター内地域に居住する原告らが航空機騒音等による様々な被害を訴えていること,
及び,
横田飛行場の騒音被害に係る第4,
8次訴訟において,
75W以上の地域に受忍限度を超える騒音被害が発生していると認めら
れ,その後,騒音被害の程度が強まることはあっても,軽減することはなかったことからすれば,告示コンター内地域に居住する原告らが受忍限度を超える被害を受けていることは明らかといえる。

指定区域外原告らについて
指定区域外原告らも,以下で述べるように,告示コンター内地域に居住する原告らと同様に,受忍限度を超える被害を受けているといえるため,その被害の程度に応じて賠償がなされるべきである。
告示コンター及びその基礎となった平成15年度調査に一定の合理性があることは否定しないものの,航空機の運航に常態性,定期性がない
などの特徴を有する軍用飛行場である横田飛行場周辺の航空機騒音等による被害の実態を把握するには,少なくとも1年を通して測定を実施する必要があり,限られた地点における短期間の騒音測定を内容とする平成15年度調査では不十分であるといわざるを得ない。
そして,前記3⑴オのとおり,指定区域外原告らの自宅屋外における
騒音測定結果によれば,同人らの居住する地域に65dBを超える騒音が頻繁に発生していることや,80~90dBの騒音が発生しているこ
とが認められたのであるから,告示コンターの区域外であるとの一事をもって,騒音被害そのものや,受忍限度を超える騒音被害が否定されるべきでないことは明らかである。
また,航空機環境基準は,地域類型Ⅰにおける基準値を70W以下と定めているところ,指定区域外原告らは,いずれも地域類型Ⅰに当たる
地域に居住しているものである。
これらに加えて,横田飛行場の常駐機は,旋回訓練の際に指定区域外原告らの居住地域上空も飛行することや,指定区域外原告らが航空機騒音等による被害について供述ないし陳述している(甲B3の8,B4の33,B6の1・2)ことなども併せ考えれば,指定区域外原告らも受
忍限度を超える被害を受けているというべきである。


横田飛行場の公共性に関する被告の主張に対する反論
被告は横田飛行場における米軍等の諸活動には高度の公共性が認められ,受忍限度も高くなると主張する。しかし,憲法の規定する国民主権,基本的
人権の尊重及び平和主義に照らせば,軍事公共性は否定されるべきである。また,被告の主張する横田飛行場の便益は,国民の日常生活の維持存続に不可欠な役務の提供のように絶対的な優先順位を主張し得るものではなく,平時における便益はほとんど存在しないのに対し,横田飛行場の供用によって被害を受ける地域住民はかなりの多数にのぼり,その被害内容も広範かつ重
大なものである上,これらの住民が横田飛行場の存在によって受ける利益とこれによって被る被害との間に彼比相補の関係は認められない。結局,被告の主張する公共的利益の実現は,原告ら周辺住民という限られた一部少数者の特別の犠牲の上でのみ可能といえるところ,そこに看過することのできない不公平が存するのであるから,横田飛行場の供用につき,公共性ないし公
益上の必要性という理由で原告らに対してその被害を受忍するよう要求することはできないというべきである。

さらに,横田飛行場の位置する5市1町(福生市,立川市,武蔵村山市,昭島市,羽村市及び瑞穂町)が,その運営する「横田基地に関する東京都と周辺市町連絡協議会」
において,
被告や米軍に対し,
周辺住民の身体,
生命,
財産に係る現在の被害や危険性を訴えて,基地の整理・縮小・返還を含む対策の実施を要望している状況にある以上,その要望事項を達成し,周辺住民
の被害の回復や危険性の除去を行うことこそ,優先されるべき公共性といえる。しかし,被告は,国防の優先を求め,構造的欠陥を有し,事故率の高いCV-22オスプレイの横田飛行場への配備を強行するなど,原告ら周辺住民の安全や健康を脅かす事態を生じさせており,このことからも横田飛行場の非公共性は明白といえる。



被告の防音工事助成その他の周辺対策等の主張に対する反論

住宅防音工事の実施状況について
被告の主張する原告ら
(訴え提起後に死亡した被承継人を含む。の住居

に対する防音工事の実施状況のうち,各工事の種別,各工事の完了年月日
及び各工事により防音工事が実施された室数が別紙6防音工事一覧表の各該当欄記載のとおりであるとすることに対する原告らの認否は次のとおりである。
原告番号3,4,17,18,20,23,24~27,28,36~38,43,44,45,46,47,57~59,60,69,7
6~78,81,82,83,139,140,142,143,144,145,146,147,150,151の原告らに関する部分については認める。
原告番号7,8,11,12,19,56の原告らに関する部分については,各工事の実施及び室数は認めるが,各工事の完了年月日は否認
ないし不知。
原告番号29,39~42,51(ただし,東京都昭島市美堀町a-b
-c所在の建物,及び,同町a-b-c-d号所在の建物についてのみ),
67,68の原告らに関する部分については,防音工事の実施は認めるが,各工事の完了年月日や室数は否認ないし不知。
その余はいずれも否認する。
なお,原告番号13,14の原告が平成16年に新築した建物には防
音工事は実施されていない。また,原告番号65,66,79の原告らについては,各工事実施後に住宅を建て替えたため,被告の主張する防音工事の効果は残存していない。

防音工事による減額について
被告は,住宅防音工事が実施された住宅については,航空機騒音に係る昭和48年環境基準の改善目標(屋内で60W以下)が達成できているなどとして,原告らの損害を減額すべきであると主張する。
しかし,昭和48年環境基準は屋外における騒音測定を基準としたものであるし,被告が指摘する改善目標は,昭和48年環境基準の告示後10
年以内に達成されるべき中間目標に過ぎず,これを達成しても同環境基準を達成したことにはならない。
また,住宅防音工事の効果は,その施工時期や経年劣化の程度,建物自体の遮音効果等の複数の要因によって異なることとなるため,同じ工事仕方書に従って住宅防音工事が施工されているとしても,全ての住宅につい
て上記改善目標が達成できているとはいえない。被告の主張する上記改善目標の達成は,窓を閉め切った部屋における防音効果を前提とするものであるが,日常生活においてこのような部屋で人が一日中過ごすことはあり得ないし,空調機器の使用によって電気料金の負担が増えるなどの弊害も生じる。

さらに,住宅防音工事の実態をみても,防音工事の助成対象となる条件は厳しい上,防音工事が実施されたとしても,施工できる居室数は制限さ
れており,その効果は限定的であって,原告らの大半は防音工事の効果を実感できていない。沖縄県健康影響調査報告書においても防音工事の実施の有無で生活や環境の質に著明な差は認められなかったとされているし,防衛省の厚木飛行場周辺住民に対する住宅防音工事に係る調査でも,防音工事によって十分な効果が得られると回答した者は全体の2%にも満た
なかった(甲A52)

以上によれば,被告の主張する住宅防音工事は原告らの被害を軽減するものではなく,これによる減額は許されない。

危険への接近の法理の主張に対する反論
免責の法理としての危険への接近の法理を認めた大阪空港訴訟最高裁判決は,一定の民間航空機が定期的に運航する公共用飛行場に関する判例であるから,本件のように,航空機の運航に常態性,定期性がなく,公共用飛行場とは航空機騒音の発生状況が大きく異なる軍用飛行場につき,その周辺住民が航空機騒音被害を訴える場合においては,同判決を根拠として,危険への
接近の法理により被告の不法行為責任を免責することは相当でない。横田平成17年控訴審判決では,免責法理としても減額法理としても危険への接近の法理の適用が否定され,近時の他の基地航空機騒音訴訟の判決でも危険への接近の法理の適用が否定されていることからしても,本件において危険への接近の法理による免責ないし減額が認められるべきとする被告の
主張が失当であることは明らかである。
仮に本件で危険への接近の法理の適用の可否を検討するとしても,原告らが横田飛行場周辺に住居を構えたことは社会的に非難される事柄ではないし,原告らは航空機騒音被害を容認していたものでもないから,適用の余地はない。すなわち,被告が横田飛行場周辺の騒音区域へ住民が転入することを防
止する措置を何ら採っていない以上,土地・建物の価格や取得の難易,通勤・通学の利便,親類縁者等との交際の便宜,資力・資産等の事情を総合的に考
慮した結果,騒音区域に住居を構えるということは十分あり得ることであるし,また,被告が積極的に騒音の実態等に係る情報提供をしていない中で,原告らが住居の選定に際し,転入地における航空機騒音の有無,程度,頻度等の騒音の詳細な実態を把握することは極めて困難であったというべきであるから,原告らの騒音区域への転入を非難することはできず,原告らが騒音
区域への転入に際して日常的に受ける騒音被害の程度及び影響を認識していたとか,その認識を有していなかったことに過失があったということもできない。
なお,被告は,原告らにおいて原告ごとに個別具体的に危険への接近の法理の適用を否定し得る事情を主張すべきであるとするが,原告らが騒音区域
に住居を構えること自体に非難可能性がない以上,原告らにおいて上記主張をする必要はなく,かえって,上記法理の適用を主張する被告において,原告らが公害問題を利用する意図をもって接近したと認められる事情等を個別に主張,立証すべきである。


損害額
原告らは,横田飛行場を離着陸する航空機の騒音等によって,それぞれが様々な被害を受けているものの,本件においては,各自の具体的被害の全てについて賠償を求めるのではなく,原告ら全員が等しく受けていると認められる被害を原告らに共通する損害とし,その限度で慰謝料という形で賠償を
求めるものである。
そして,原告らの受けた被害に伴う全員に共通する損害は,原告ら1人当たり,慰謝料として1か月当たり2万円を下らず,それに伴う弁護士費用は1か月当たり3000円が相当である。原告らは,提訴時までに発生した損害として,提訴日から遡って過去3年分の慰謝料(第1事件原告においては
平成21年12月12日から平成24年12月11日まで,第2事件原告においては平成23年8月7日から平成26年8月6日まで)の慰謝料と弁護
士費用の合計である82万8000円をそれぞれ請求し,提訴日以降も1か月当たり2万3000円の支払を請求し,併せて上記82万8000円に対する各訴状送達日の翌日から,提訴日以降分の毎月2万3000円に対する当該月の翌月1日から,各支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。



口頭弁論終結日の翌日以降の将来の損害賠償請求の適法性
将来の損害賠償請求の訴えの適否について大阪空港訴訟最高裁判決が定立した基準は,横田平成19年最高裁判決における反対意見や学説で厳格すぎるなどと批判されており,社会的実態に鑑みても,同基準に従う限り,判決
で受忍限度を超える騒音被害であることが認められながらも,被害住民において再訴提起を強いられるという異常な事態が続くこととなる。大阪空港訴訟最高裁判決から40年近く経過した今日においては,将来の損害賠償請求に係る同判決の判断は見直されるべきであり,本件においては,権利を侵害された者の負担軽減のため,
口頭弁論終結時の被害が将来も継続する蓋然性,

原告らの再訴提起に伴う負担の内容,将来の損害賠償請求を認容した場合に被告が請求異議事由として主張し得る事項とその立証に要する負担の程度等を考慮し,
「あらかじめその請求をする必要がある場合」
(民訴法135条)
に当たるかどうかを個別に判断すべきであると解する。
これを本件についてみると,昭和51年の第1次訴訟の提起から約40年
にわたって,横田飛行場周辺に受忍限度を超える騒音等の被害が継続して発生していることは,横田飛行場の航空機騒音訴訟の各判決における認定に照らして明白であり,軍用飛行場としての特性上,今後,横田飛行場における航空機の飛行回数が劇的に減少することは考え難く,騒音の消失や大幅な軽減につながる周辺対策等の具体的な実現可能性もないから,本件の口頭弁論
終結時における横田飛行場周辺の騒音等の被害が将来も継続する蓋然性は極めて高い。また,本件のような公害訴訟は,性質上,原告の人数が多数にの
ぼり,主張立証も多岐にわたることなどから,長期化,複雑化しやすく,数年ごとにこのような訴訟の提起を強いられる原告らの負担は相当大きい。そして,被告が請求異議事由として主張し得る事項としては,①横田飛行場の利用状況,②騒音等による被害防止・軽減対策の内容や実施状況,及び,③原告らの死亡や居住地の変動等が挙げられるところ,上記①及び③について
は,被告における調査等で十分に把握可能であるし,上記②については,対策を実施する者として当然にその詳細を把握しているものであるから,上記各事項について被告に立証の負担を課すことは何ら不当とはいえない。したがって,本件では,あらかじめその請求をする必要がある場合に当たるから,将来の損害賠償請求が認容されるべきである。

第2

被告の主張

1
差止請求の成否ないし可否


自衛隊機に対する差止請求が不適法であること(本案前の答弁)
本件差止請求のうち,自衛隊機の離着陸等の差止め及び自衛隊機の発する騒音の音量規制を求める部分は,厚木平成5年最高裁判決及び福岡空港に関
する最高裁判所平成6年1月20日第一小法廷判決(判例時報1502号98頁。以下「福岡空港平成6年最高裁判決」という。
)が説示するとおり,防
衛大臣に委ねられた自衛隊機の運航に関する権限の行使の取消変更ないしその発動を求める請求を包含するものであるから,民事上の訴えとしては不適法であり,却下されるべきである。



米軍機に対する差止請求が主張自体失当であること
米軍機の運航等に伴う騒音等による被害を理由として,直接の加害者ではない被告に対し米軍機の離着陸等の差止請求をするためには,被告が米軍機の運航等を規制し,制限することのできる立場にあることが必要であるが,
横田飛行場に係る被告と米軍との法律関係は条約(地位協定2条1項(a)(b)
)に基づくものであるから,被告は,条約及びこれに基づく国内法令に
特段の定めがない限り,米軍の横田飛行場の管理運営の権限を制約したり,その活動を制限し得るものではない。
現在,関係条約及び国内法令に前記のような米軍機の横田飛行場における運航の規制等に関する特段の定めはないから,差止原告らの米軍機の離着陸等の差止請求は,被告の支配の及ばない第三者の行為の差止めを求めるもの
であって,主張自体失当である(横田平成5年最高裁判決,厚木平成5年最高裁判決,福岡空港平成6年最高裁判決参照。。

したがって,本件差止請求のうち,米軍機の離着陸等の差止め,米軍機の発する騒音の音量規制,及び,米軍機の訓練の差止めを求める部分は,その主張それ自体からみて理由がないことが明らかである。

2
損害賠償請求権の法律上の根拠に関する原告らの主張に対する反論⑴

原告らは,過去の損害の賠償を求める部分に関する適用法条として,民事特別法1条及び2条を挙げているが,以下で述べるとおり,本件損害賠償請求については,端的に,民事特別法2条の規定に照らしその可否を検討すれば足りる。



民事特別法2条にいう「土地の工作物その他の物件の設置又は管理に瑕疵があった」とは,国賠法2条1項における解釈と同様に,当該物件を構成する物的施設自体に存する物理的,外形的な欠陥ないし不備によって他人に危害を生ぜしめる危険性がある場合のみならず,その物件が供用目的に沿って
利用されることの関連において他人に危害を生ぜしめる危険性がある場合をも含み,また,その危害は,当該物件の利用者以外の第三者に対するそれをも含むものと解される(大阪空港訴訟最高裁判決参照)

原告らは,横田飛行場が民事特別法2条にいう「合衆国軍隊が占有し,所有し,
又は管理する土地の工作物その他の物件」
に当たることを前提として,

横田飛行場は多数の住民が居住する地域に近接した場所に所在するところ,被告が騒音等による被害の発生を防止するのに十分な措置を講じないまま,
ジェット機を含む多数の航空機を離着陸等させることによって,原告らに対し航空機騒音等による甚大な被害を及ぼすことが不可避な状況にあることなどを理由に本件損害賠償請求をしているが,民事特例法2条の前記解釈に照らせば,同請求の可否は,まさに同条にいう「設置又は管理の瑕疵」の有無の判断に係るものである。

そうすると,本件損害賠償請求については,民事特例法2条の規定に照らしその可否を検討すれば足りるのであって,それ以外に,同法1条の適用を検討する必要はない。
3
侵害行為に関する原告らの主張に対する反論


航空機騒音による侵害について

航空機騒音の特性と防衛施設としての横田飛行場の特殊性
航空機騒音は,その継続時間が短く,一過性,間欠性であることに特徴があり,しかも,飛行形態や飛行経路,気象条件等によって音の伝播特性が異なる。また,航空機騒音による影響は,飛行場(音源)からの距離,
飛行形態,飛行方向,離着陸の別等によっても大きく異なる。
さらに,横田飛行場のような防衛施設としての飛行場は,民間航空機が使用する公共用飛行場とは異なり,航空機の運航形態に一定性がなく,航空機が比較的多く飛行する日がある反面,ほとんど飛行しない日もあり,その周辺の航空機騒音の状況は日々変化している。

これらの航空機騒音の特性や防衛施設としての横田飛行場の特殊性等からすれば,W値が一定値以上の区域においても,日ごと,月ごとに騒音の頻度や程度は一定ではなく,W値は一定程度以上の騒音が恒常的に発生していることを示すものではない。横田飛行場における航空機騒音がもたらす周辺住民への心身への影響や生活妨害の程度を的確に認定するために
は,騒音の大きさ,その発生回数,年別,月別,曜日別,日別の騒音量の変化,時間帯別の発生回数及び騒音の継続時間その他の発生形態等につい
て,個々の住民,居住地ごとに多面的かつ具体的な検討を加える必要がある。

環境庁方式による「昼間騒音控除後W値」を騒音の評価指標として用いるべきであること

告示コンターの前提となる防衛施設庁方式は,防衛施設周辺の関係住民の生活の安定及び福祉の向上に寄与することを目的とする政策的補償措置として家屋への防音工事等の周辺対策を手厚く実施するために設計されたものである。そのため,特定の区域内において,常に当該区域を設定した時点と同等の騒音が生じていることが推定されるわけではない
し,飛行回数について実際の飛行回数の算術平均を大幅に上回るいわば架空の飛行による数値を計上しているから,当該区域に付された防衛施設庁方式によるW値に相当する騒音が現実に生じたことが推定されるわけでもない。その上,防衛施設庁方式によるW値は,年間を通じて屋外で曝露し続けることを前提としているところ,個々の居住者は,それぞ
れ固有の様々な生活様式に従って生活しているのであるから,これら個々の居住者が,すべからく告示された指定区域のW値に相当する騒音にさらされているなどと推定することは到底できない。
これに対し,航空機環境基準は,あくまで行政目的達成のための「望ましい基準」とされるもので,直ちに航空機騒音の受忍限度の範囲を画
する基準となるものではないが,人の健康保護や生活環境保全を念頭に置いたものである。また,航空機環境基準は,自衛隊等が使用する飛行場も対象としており,騒音測定日数の点で自衛隊等の特殊性を反映させようとする以外は,環境庁方式を用いることを含め,公共用飛行場と差異を設けておらず,もとより防衛施設庁方式で評価するなどとは一切規
定していない。したがって,騒音の評価の基礎としては環境庁方式によるW値を用いるのが相当である。

ことを前提としているところ,原告ら全員が昼間の時間帯に共通して一定程度の航空機騒音に曝露されているわけではなく,昼間の時間帯は勤務や就学等で居住地域を離れる者が相当数存在することを考慮すると,原告らが現実に共通して曝露された騒音の内容と程度の認定は,環境庁
方式によった上で昼間騒音を控除して計算したW値(以下「昼間騒音控除後W値」という。
)を用いて行うべきである。昼間騒音控除後W値は,
基本的には環境庁方式によるW値の算出方法と同様の方法で算出するが,飛行回数については,1日ごとの総飛行回数を時間帯別による重み付けをして算出するに当たって,
「平日(土日,祝日及び12月29日から1

月3日を除く)の昼間の時間帯(午前9時から午後5時)
」の回数を除い
て算出するものである。
したがって,航空機騒音の内容及び程度は,被告が,平成15年度調査における航空機騒音データを基にして算出した昼間騒音控除後W値に基づき作成したコンター図(乙A103の1・2)に基づいて認定,判
断されるべきである。

環境庁方式による自動騒音測定の結果に見られる航空機騒音の減少被告は,別紙7-1自動騒音測定装置の設置位置図の10か所(同別紙に記載のない⑦,⑪及び⑫の測定点については,そもそも昭和59年に告
示された第一種区域の範囲外に設置された測定点であり,本件訴訟とは関連がないことから,
除外した。に自動騒音測定装置を設置しており,

うち,
⑤,⑧,⑨,⑩が75W地域,⑥が80W地域,①と②が85W地域,③,④,⑬が指定区域外(ただし,平成17年告示により第一種区域から除外された区域内)に設置されている(以下,一括して「被告測定地点」とい
う。。

被告測定地点における各測定結果(乙A68の2,A69の1・2,乙
A70の2)によれば,環境庁方式によって算出されたW値(ただし,昼間騒音控除後W値ではない。は全体として減少傾向にあり,

各測定地点の
属する地域における防衛施設庁方式により算定されたW値に近似する値であるか,それを下回る値となっている。また,いずれの測定地点でも,深夜(午後10時から午前0時まで)及び早朝(午前0時から午前7時ま
で)はほとんど航空機騒音が発生していない。


地上騒音による侵害について

原告らは,横田飛行場から発生する地上音がどの程度の騒音であり,原告らに対してどの程度の侵害を与えているか等について立証するに足りる客観的証拠を一切提出していない。


そもそも,横田飛行場周辺には国道16号,都道5号(新青梅街道),都
道7号(五日市街道)等の幹線道路及び一般道路が存在し,当該道路を通行する交通車両による地上騒音も横田飛行場とは別に近隣地域に影響を及ぼしていると考えられることや,地上騒音の正確な状況を把握することは困難とされていることからすれば,仮に原告らが何らかの地上騒音によ
って侵害行為といえるほどの影響を受けていることが明らかとなったとしても,それが横田飛行場から発生した航空機騒音としての地上騒音に起因するものか否かは不明であるといわざるを得ない。

また,横田飛行場において地上騒音が発生し得るエンジン試運転場やエンジン調整場等の施設は,いずれも横田飛行場の境界線から一定程度距離のある中央部分に位置しており,その周辺には多数の基地施設の建物が存在しているから,音の特性(距離減衰等)に照らすと,仮に横田飛行場から周辺地域に影響を及ぼすような地上騒音が発生していたとしても,その範囲は横田飛行場に近接するごく限られた地域のみと考えられる。
そして,横田飛行場においては,エンジン試運転場及びエンジン調整場の使用時間,飛行及び地上での活動時間に規制等が設けられていること,
平成15年度調査の測定結果によれば,70dB以上の地上騒音が観測された地点は横田飛行場直近の3か所のみであり,観測された地上騒音はいずれも継続時間が比較的短かったこと,及び,平成19年3月に出された日本騒音制御工学会の報告書(乙A90)によっても,飛行場周辺での地上音の影響は些少であるとされていることからすれば,横田飛行場におけ
る地上騒音が原告らに対し侵害行為といえるほどの影響を与えているとは認められない。

なお,原告らの陳述書等によれば,地上音・暖機運転の影響を訴える者は44名(人数比約30.8%)にとどまる。また,同じW値の地域内でも訴えの状況が共通ではなく,W値と被害の訴えの状況に相関関係も認め
られない。


航空機の排気ガス,振動による侵害について

航空機による排気ガス等の排出について
航空機の離着陸は一本の滑走路で行われるため,一定の時間的間隔が不
可欠である。元来,飛行場における航空機の離着陸等は単発的,間欠的であり,このため,飛行場は,長時間継続的に自動車等の平行走行や渋滞などが生ずる自動車道路などに比べて大気汚染源となりにくい。また,航空機の排気ガスは,大容量の噴気で高速の噴射をするために,PPM濃度が薄い上,拡散率が非常に高く,局所的な汚染現象を示しにくい。加えて,
横田飛行場の総面積は約714万㎡に及び,離着陸の方向は風向きによって変わり,飛行方向も一定ではないため,拡散率が高く,排気ガスの周辺への影響は低くなる。なお,航空機が上空に至った場合には,エンジンの出力の上昇による完全燃焼と高度における放散によって局所的な影響はほとんどなくなる。

原告らは,東京都の設置する一般大気測定局の速報値によれば,横田飛行場周辺における窒素酸化物
(NOX)
の測定値が他の地域よりも総体的に

高いことが認められる旨を主張するが,横田飛行場周辺の大気汚染状況には自動車排気ガスが大きく寄与していることに加え,工場,事務所,一般家庭等の固定発生源から排出された汚染物質の存在もあることからすれば,原告らの指摘する大気汚染の原因が横田飛行場の航空機の排気ガスであると特定することはできず,原告らの上記主張には理由がない。また,
原告らは,他に横田飛行場周辺の大気汚染物質の測定結果を提出するものではないし,大気汚染物質によって原告らがどのような身体的被害を受けたかなどの具体的な侵害行為及び被害の内容を明らかにするものでもない。
以上によれば,横田飛行場周辺において,航空機による排気ガス等の侵
害が生ずることはあり得ず,仮に原告らにおいて何らかの排気ガス等による被害があったとしても,それが横田飛行場の航空機の排気ガス等によるものではないことは明らかである。

航空機通過に伴う振動について
航空機が30ないし40mまで接近する建物を除いて,航空機による振動が何らかの被害につながることはほとんどないとされている(乙A135)

横田飛行場における航空機の運航については,昭和39年4月の日米合同委員会における合意(乙A138)に基づき,
「離着陸又は計器進入の場

合を除き,横田飛行場隣接地域の上空における最低飛行高度は,ジェット機については平均海面上2000フィート(609.6m)とし,ターボプロップ機及び在来機については,
平均海面上1500フィート
(457.
2m)とすることとされており,

米軍機等が30ないし40mにまで建物
に接近して低空飛行するなどということは通常あり得ない。

また,実際に生じる振動は,航空機騒音のレベルが同一であっても,家屋等の構造や建築年数,材質その他様々な要因次第で全く相違してくるも
のである。
以上によれば,航空機の通過によって周辺の家屋等に振動が生じること自体はあり得るとしても,それが必然的に,あるいはどこでも共通に生じるということはできないのであり,少なくとも原告らの主張する物的被害が横田飛行場の航空機の通過に伴う振動によるものではないことは明ら
かである。


航空機の墜落及び落下物等の危険による侵害について

原告らは,航空機事故の危険性が現実的かつ具体的であり,原告らに恐怖,不安を抱かせることが侵害行為であると主張するが,航空機事故が発
生した場合,それが直接の被害者との間では侵害行為となっても,直接の被害者ではない単なる飛行場周辺住民との間では何ら侵害行為とはならない。また,過去に航空機の墜落事故等が発生したことがあるからといって,直ちに現在においても航空機の墜落事故等が発生するということにはならない。

加えて,民間の航空交通事故による死者数が一部の年を除いて概ね数名ないし10数名で推移している(乙A139・1,143頁)ことからも明らかであるように,航空機は,現存する交通機関の中で最も安全性の高い乗り物である。
そして,横田飛行場は,我が国の航空関係法規の適用がある一般の公共
用飛行場以上の広大な敷地を有しており,滑走路の位置,長さ,幅員も一般の公共用飛行場に適用される航空法の基準を満たしていて,航空管制に関する設備及び計器飛行(航空機の姿勢,高度,位置及び針路の測定を計器にのみ依存して行う飛行。航空法2条16項)に必要な設備も具備されている。また,米軍は,自ら各種の基準を定めてその安全性確保に努めて
おり,自衛隊も同様に安全性確保のための基準を設けている(自衛隊法107条5項)
。さらに,被告は,昭和40年7月30日付け基地問題等閣僚

懇談会了解事項「横田飛行場及び厚木飛行場等の周辺における安全措置について」並びに周辺整備法及び環境整備法に基づき,一定範囲における移転補償,土地買収の措置を講じ,結果的に航空交通量の多い空域の直下の土地を空き地とすることによって飛行場周辺の安全性を確保している。以上のとおり,航空機事故の危険性自体いまだ抽象的なものにすぎない
ことに加え,横田飛行場は他の飛行場と同様に安全対策が十分にされ,移転補償等により周辺の安全性確保がされているのであるから,このような横田飛行場における抽象的な航空機の墜落や落下物の危険性をもって違法な権利侵害ということは到底できない。

なお,原告らは,オスプレイに関し,構造的な欠陥がある上,事故率が高いなどと主張してその危険性を強調する。しかし,オスプレイがオートローテーション機能を使用する場面は実際にはほとんど想定されないことや,高温の排気ガスにより火災が発生する可能性は極めて低いとされていることなどからすれば,原告らの指摘する構造的な欠陥は,オスプレイの具体的な危険性を基礎付けるものとはいえない。また,従前のオスプレ
イの事故は,主として人的要因によるものであるところ,日米合同委員会において,アメリカ合衆国が事故の再発防止策を講じること及びオスプレイの安全性について最大限配慮することの合意が成立しており,オスプレイの運用に係る安全性は最大限確保されるものといえる。


低周波音による侵害について

原告らが提出する本件低周波音測定報告書(甲A59)は,わずか1か所の測定地点で5日間測定した結果にすぎず,横田飛行場周辺の低周波音の実態を示したものと認めるにはおよそ不十分である。また,その測定方法や測定結果の分析も不適切であり,結果の信用性は乏しく,横田飛行場
を離着陸する航空機の発する低周波音の実態を裏付けるものとは認め難い。


仮に横田飛行場周辺において低周波音が発生しているとしても,低周波音の音圧は,W値において適切に評価されているといえるから,航空機騒音と別の侵害としてとらえる必要はない。また,低周波音による健康被害の発生を肯定する確立した科学的知見は存在しないことや,低周波音は生活環境における様々な場所に存在していることからすれば,低周波音を健
康被害の発生原因であるなどと即断することはできないし,ましてや特定の低周波音が健康被害の発生原因であると即断することは誤りといわざるを得ない。原告らは,上記測定結果が環境省の示す参考値を超えるなどと主張するが,参考値は,あくまで苦情申立てがあった場合に,これが低周波音によるものか否かを判断する1つの目安として示されたものであ
る上,固定発生源から発生する低周波音を適用対象とするもので,航空機騒音のような一過性,間欠性の音源から発生し得る低周波音については適用が除外されている。
4
航空機騒音等による被害に関する原告らの主張に対する反論


共通損害論について

主張立証責任
横田飛行場の供用が違法であるかどうかを判断するに当たっては,原告らにおいて侵害行為の態様と侵害の程度,被侵害利益の性質と内容を明らかにすることが必要であり,本件のような集団訴訟においても,各原告が
それぞれその主張する損害を被っていることを個別具体的に主張立証しなければならない。
すなわち,横田飛行場の航空機騒音によって原告らに身体的被害や生活妨害等の法益侵害が具体的に発生しており,横田飛行場の供用が違法と評価されるためには,個々の原告について,実際に曝露されている騒音の内
容や程度を明らかにした上で,その主張に係る各種被害が具体的に発生していることを個別具体的に主張立証する必要がある。
そして,
各人の性別,

年齢,職業,健康状態,気質,体質,騒音等に対する感受性や慣れの程度,騒音等の発生源に対する利害関係,居住地域,防音工事実施の有無等による家屋の遮音性,居住期間,勤務地,通学先など,身体的,心理的,社会的な条件や生活の態様が異なるのに応じて,各人が受けるであろう精神的被害(心理的不快感)
,生活妨害,身体的被害の有無・程度は当然異なるも

のであるから,上記の主張・立証に当たっては,原告ごとにどのような被害を受けているか,その内容,程度を個別的,具体的に明らかにしなければならない。

共通損害を主張立証しようとする場合にも,原告らに最小限共通する被害の主張立証責任があること
本件で,原告らは,原告らに最小限共通する共通損害について賠償を求めているものと考えられる。この点,大阪空港訴訟最高裁判決は,航空機騒音による被害のように無形の被害が集団的に発生する事案について,原告ら各自の生活条件,身体的条件等の相違をおいて,原告ら各自が等しく
被っていると認められる被害を原告ら全員に共通する損害としてとらえて損害賠償を請求する余地を認めている。
もっとも,上記判決は,共通損害に関して,損害の立証の程度が軽減されることを認めたものではなく,本件で,原告らが,原告ら全員に最小限共通する損害が存在するとして,当該共通する損害について賠償を求める
のであれば,どのような損害を一定の限度で原告ら全員が等しく被っているのかを具体的に立証しなければならないことは当然である。
すなわち,共通損害として認められるためには,①原告らの一部の者にそのような被害が発生していることを主張立証するのみでは足りず,②その被害が現に他の原告らにも共通して生じていると認められるような性
質,内容及び程度のものであることを合理的な疑いを容れない程度に主張立証することが必要とされるのである。


昼間の騒音被害は共通損害ではないこと
昼間の時間帯は出勤や通学により不在とする者も多く,全員が共通して在宅しているものでないから,少なくとも昼間の騒音被害は原告ら全員に共通するものではない。そのため,仮に,原告らが共通して曝露された航空機騒音の内容と程度を認定するのに何らかの基準を用いざるを得ない
としても,1日24時間を通じて騒音にさらされていることを前提に出されたW値を用いることは不当であり,前述のとおり,昼間騒音控除後W値を用いるべきである。

睡眠妨害について

睡眠妨害は,その原因や程度について個人差が顕著である上,航空機騒音との関連性を示す客観的な基準も存在しないのであるから,そもそも共通損害となり得るものではない。


本件で,原告らが横田飛行場の航空機騒音による睡眠妨害を共通損害として主張するのであれば,原告ごとに,日々睡眠をとる時間帯において,
どの程度の航空機騒音に何回曝露されているのかについて,個別具体的な検討を加えた上で,他の原因ではなく,当該騒音に基づき,実際に睡眠妨害があったことを主張立証すべきである。
原告らは,横田飛行場の航空機騒音による睡眠妨害を立証するものとして,①WHO環境騒音ガイドラインや欧州夜間騒音ガイドラインのほか,
②沖縄県健康影響調査報告書,③厚木海軍飛行場周辺における健康影響に関する意見書,及び④横田飛行場調査報告書を挙げるところ,上記①の各ガイドラインは,WHO憲章1条に示された健康観に基づき,重要な健康への影響が生じ得る最低レベルをガイドライン値とし,騒音対策に万全を期すものであるから,航空機騒音による現実の被害が受忍限度を超えるか
否かという様々な現実的要素を前提とした法律的評価が問題となる場合において,これらのガイドライン値が尺度たり得ないことは明らかであり,
仮に横田飛行場周辺においてこれらのガイドライン値を超える騒音が測定されたとしても,原告らに受忍限度を超える程度の健康被害が生じたことが立証されたことにはならない。また,上記②の報告書や上記③の意見書のように,横田飛行場とは騒音の状況が異なる他の飛行場における,ある一定の時期についての調査結果が,原告らの主張する横田飛行場の航空機騒音による被害を立証するものでないことは明らかである上,上記②の報告書に係る調査は,質問を記載した調査票を配布し,これに回答を記載させた上,
回収するという方法によって行われているところ,
当該回答は,
回答者の主観に基づく自己申告にすぎないから,騒音レベルの影響を検討
するに当たって,このような回答データを重視する調査方法には問題があるといわざるを得ない。そして,上記④の報告書についても,各「被害」状況について調査対象者からの主観的訴えをまとめたものにすぎず,診断書その他の客観的資料による裏付けはされていないこと,当該調査では,疫学調査として当然に必要とされる交絡因子
(調査対象者の性別,
年齢等,

曝露と疾病発生の関係の観察に影響を与え,真の関係とは異なった観察結果をもたらす第三の因子)の制御等がなされておらず,航空機以外の騒音による影響も排除されていないこと,及び,当該調査は,横田飛行場の騒音状況が質量ともに増大していた時期といえる昭和45年7月に実施されたものであり,その後,横田飛行場を取り巻く情勢は大きく変化し,後
述のとおり,種々の騒音対策も実施されるようになったことからすれば,本件訴訟における横田飛行場の航空機騒音が周辺住民に与える健康被害や生活妨害を立証し得るものとはいえない。
そのため,
上記①ないし④は,
いずれも横田飛行場の航空機騒音による睡眠妨害等の被害を立証するに足りるものではない。

一方,厚生労働省の公表した平成25年国民健康・栄養調査結果の概要(乙A156の2)によれば,航空機騒音の有無とは関係なく,6割以上
の回答者が睡眠の質に何らかの問題を抱えていると認められ,また,ファイザー株式会社が全国の20歳以上の男女4000人を対象として行った不眠に関する意識調査では,回答者の6割以上が,過去1か月の睡眠の質に不満を有しているとの結果が得られたこと(乙A157)などからすれば,原告らの中に睡眠の質について何らかの不都合を感じる者がいると
しても,これが航空機騒音に起因するものと即断することは誤りである。ウ
また,仮に原告らが航空機騒音により睡眠を妨げられているとしても,別紙7-2被告測定地点の騒音発生状況によれば,横田飛行場周辺における午後10時から午前7時までの1日当たりの平均騒音発生回数は,85W地域内の被告測定地点①,②においてすらわずかである上,後述のとお
り被告の助成によって施工されている住宅防音工事には少なくとも20dB以上の防音効果が認められるのであり,防音工事が実施されていない住宅でも上記の時間帯は窓を閉めているのが通常と考えられ,居室内に到達する騒音量は相当程度減衰するといえるから,受忍限度内のものと評価するのが相当である。



身体的被害について

国内外の調査研究結果によれば,我が国のみならず,国際的にも,飛行場周辺で航空機騒音を受けることにより人の身体又は精神に直接的かつ深刻な影響を及ぼすことは,一般的に否定されている。

また,
「成田国際空港航空機騒音健康影響調査二次調査報告書」
(乙A2
11。以下「成田空港調査報告書」という。
)は,成田国際空港周辺地区の
住民約8000人と航空機騒音曝露を受けていない対照地区の住民約2000人の合計1万人にアンケート調査票を配布し,平成26年7月1日から同年9月16日までを調査期間として,①情緒不安定や抑うつ傾向等
の精神的影響や消化器系・循環器系の疾病や高血圧の症状などの身体的影響,②アノイアンスや聴取妨害・会話妨害等の生活妨害等の感覚的影響,
③夜間の睡眠影響を調査項目とした調査であり,同調査において有効回答3659件を分析した結果として,身体的影響と騒音曝露量との間に明確な関連性は認められなかったと結論付けている。
そして,原告らの引用するWHO環境騒音ガイドライン,沖縄県健康影響調査報告書及び横田飛行場調査報告書等が,航空機騒音による原告らの
健康被害を立証するに足りるものでないことは,上記⑵イで述べたとおりである。

よって,原告らに横田飛行場の航空機騒音による共通損害として身体的被害を認めることはできない。



生活妨害,精神的被害及びその他の被害について

一般的に航空機騒音が各種の生活妨害及び心理的不快感等の日常生活に望ましくない影響を与える可能性があること自体は否定できないものの,原告らが横田飛行場の騒音による生活妨害や精神的被害等を共通損害として主張するのであれば,社会生活上通常耐え難い程度の被害が原告ら全員に共通して生じていることにつき客観的な証拠をもって明らかにすべ
きであり,陳述書や供述では不十分である。また,仮に原告らに何らかの生活妨害等が生じているとしても,前記3⑴ウのとおり近時の横田飛行場周辺の騒音が軽減の傾向にあることに加えて,家屋自体の減音効果や被告が実施している住宅防音工事の減音効果等をも考慮すれば,受忍限度内のものというべきである。


なお,原告らの主張する振動及び排気ガスによる被害が認められないことは,前記3⑶で述べたとおりである。

5
損害賠償請求権について


違法性の判断枠組み
民事特別法2条にいう営造物の設置,管理の瑕疵が認められるためには,その営造物を供用目的に従って利用に供した結果として,利用者以外の第三
者の権利ないし法益を侵害し,同侵害が社会生活上受忍すべき限度を超え,違法と評価されることが必要である。そして,この違法性の有無は,侵害行為の態様と侵害の程度,被侵害利益の性質と内容,侵害行為のもつ公共性ないし公益上の必要性の内容と程度等を比較検討するほか,侵害行為の開始とその後の継続の経過及び状況,その間にとられた被害の防止に関する措置の
有無及びその内容,効果等の事情をも考慮し,これらを総合的に考察してこれを決すべきこととされている(大阪空港訴訟最高裁判決参照)



横田飛行場の公共性
横田飛行場における米軍機等の運航活動といった公共性を有する行為が第
三者との関係において違法な権利侵害ないし法益侵害となるかどうかを判断するに当たっては,
当該活動の公共性が判断要素となり,
公共性が高ければ,
それに応じて当該活動による被害を受忍すべき限度も高くなる。
横田飛行場は,アメリカ合衆国空軍が管理し,航空自衛隊航空総隊司令本部が設置され,日米安保条約に基づき,我が国の安全に寄与し,並びに極東
における国際の平和と安全の維持に寄与するという高度に政治的・行政的な目的のために米軍に対して提供され,その目的を遂行する上での諸活動をする飛行場として,米軍が利用している。そして,横田飛行場は,日本本土のほぼ中央の首都圏の郊外に所在し,交通,輸送及び通信網も発達していることから,在日米軍司令部の任務遂行に当たり日本政府の関係当局者と常時緊
密な連携関係を維持し得るし,要員の居住条件も整備されている。また,横田飛行場の敷地のほとんどは国有地であり,昭和15年に旧陸軍によって多摩飛行場として設置されて以来,一貫して飛行場として使用されてきたものであるため,
在日米空軍の航空基地としての経済的な立地条件も備えている。
加えて,昭和48年から昭和53年にかけて,かつて関東平野区域における
在日米空軍の使用していた施設及び区域のうち合計面積約2220万㎡の施設及び区域が我が国に返還され,これら施設及び区域の機能の大部分が横田
飛行場に集約された経緯があり,現時点において,他に同規模,同条件の施設及び区域を首都圏の近くに求め,その機能を代替させることは不可能である。なお,横田飛行場は滑走路が3353mと長く,大型機の離着陸が可能であることから,平成23年3月11日の東日本大震災発生直後に羽田及び成田の両空港が閉鎖された際には,代替空港として利用され,また,同震災
後に米軍が「トモダチ作戦」と称する大規模な人道支援・災害救助活動を行った際にも,日米間の調整や人員及び物資等の空輸等において重大な役割を果たした。
したがって,横田飛行場を離着陸する米軍機等の諸活動は,我が国の基本的な存立と安全を確保するためのものであり,高度の公共性が認められるも
のである。
そして,原告らが違法な侵害行為であるとする航空機騒音等の発生は,横田飛行場の使用によって必然的に生ずるものであり,米軍が条約や法律によって与えられた権限の逸脱ないし濫用に当たる態様で横田飛行場を使用していることによって生じたものではないから,違法性ないし受忍限度の判断に
当たっては,上記のような横田飛行場の公共性が十分に考慮されるべきである。


被告の防音工事助成その他の周辺対策等による被害の防止又は軽減ア
概要
被告は,横田飛行場の存続によってもたらされる公益の重大性と,横田飛行場において米軍機等が運航されることによって影響を受ける住民の生活上の利益との調和を図るため,平成28年度までに総額約4991億円の国費を用いて,
住宅防音工事の助成,
移転措置と緑地帯の整備,
学校,
病院その他の公共施設の防音工事の助成及びその他種々の周辺対策(テレ
ビ受信料の助成措置,騒音用電話機の設置に対する補助,民生安定施設の一般助成,再編交付金,基地交付金及び調整交付金の助成等)を実施して
きた。これらの対策により,原告らを含む横田飛行場の周辺住民にもたらされる航空機騒音を主とする不利益ないし影響は,既に相当程度防止又は軽減されており,仮に原告らに一定の生活妨害等が発生しているとしても,それが受忍限度を超えるとみることはできない。

住宅防音工事の助成
住宅防音工事の助成の実施
被告は,昭和50年度から平成28年度までに横田飛行場周辺地域の住宅の所有者に対し合計約1426億6797万8000円を支出して,前記第2部「前提となる事実」第4の4の住宅防音工事への助成を実施
響は軽減されている。
住宅防音工事の効果
住宅防音工事は,第2部「前提となる事実」第4の3⑵ウのとおり,防音工事仕方書に従って行われ,標準的な工法は,80W地域に所在する住宅を対象とする第Ⅰ工法と75W地域に所在する住宅を対象とする第Ⅱ工法に分けられ,前者では25dB以上,後者では20dB以上を計画防音量とした上で,使用する建具等の基準を定めている。そして,被告は,個々の住宅防音工事が完了した際,提出資料や現地調査等により防音工事仕方書に従って工事がされたことを必ず確認しているから,
住宅防音工事後の居室内は上記計画防音量を達成しているといえる。現に,過去の横田飛行場の騒音訴訟における検証結果(乙A54)や本件訴訟の現地進行協議における航空機騒音の測定結果(乙A183)でも上記計画防音量以上の遮音効果が確認されている。
原告らの住居についての住宅防音工事の実施状況

原告らの住居に対する被告の助成による住宅防音工事の実施状況は,別紙6防音工事一覧表に記載のとおりである。


その他の周辺対策等
移転措置及び緑地帯整備事業
被告は,周辺整備法及び環境整備法に基づき,移転対象区域に居住等する住民がより好ましい環境に移転する場合,移転の補償等を行うとと
もに,その移転跡地等を買い上げて緑地帯その他の緩衝地帯とし,周辺住民の生活環境の整備を図ってきた。
昭和39年度から平成28年度までに被告が横田飛行場に関してこれらの事業に支出した総額は,移転措置事業が約137億1013万6000円,緑地帯整備事業が約20億3530万5000円に及ぶ。その
結果,
平成28年度末時点で,
昭島市においては,
広場,
種苗育成施設,
消防に関する施設敷地等として約1万0549㎡,福生市においては,広場,駐車場,花壇等として約3万1777㎡,立川市においては,広場,
消防に関する施設敷地として約2万8552㎡,
瑞穂町においては,
広場として約2万9715㎡が無償で使用されるに至った。
学校,病院等の施設の防音工事の助成

被告は,横田飛行場周辺地域において,周辺整備法,環境整備法又は行政措置に基づき,平成28年度までに,学校等の防音工事の補助金として昭和29年度から総額約684億9814万7000円,学校等の防音工事関連設備の使用に要する費用の補助金として昭和48年度から総額76億5587万1000円,病院等の防音工事の補助金として昭和34年度から総額約80億3671万5000円,公民館,図書館等の学習等共用施設や老人福祉センターといった民生安定施設の防音工事の補助金として昭和42年度から総額約230億2220万1000円を交付した。
その他の周辺対策

a
テレビ受信料の助成,騒音用電話機の設置に対する補助

被告は,横田飛行場周辺において,航空機騒音が家屋内で伝播することにより生ずる聴取障害
(テレビの音声が聞き取りにくくなったり,
音声が細切れに聞こえたりするなど)に関し,昭和45年度以降はNHK,平成18年度以降は放送受信契約者を対象に補助金を交付するテレビ受信料の助成措置を実施している。

また,被告は,昭和46年度から,横田飛行場周辺において,騒音用電話機(通常の電話機の送受器部分を騒音防止用送受器に取り替えたもの)の設置を希望する者に対し,その補助金を交付している。b
障害防止工事の助成,民生安定施設の一般助成
被告は,自衛隊等の使用する施設の周辺において自衛隊等の行為に
よって生ずる障害を防止又は軽減するため,昭和40年度から,地方公共団体に対し,河川,道路の改修工事の補助金を交付している。横田飛行場周辺地域においては,南部幹線排水路工事,中央幹線排水路工事,下の川改修工事及び弾薬庫地区排水路工事等の8件の障害防止工事につき補助金を交付している。

また,被告は,昭和37年度から,民生安定施設の整備等の一般助成のため,地方公共団体に対し,補助金の交付をしている。
c
特定防衛施設周辺整備調整交付金の助成,農耕阻害補償
被告は,公共用の施設の整備又はその他の生活環境の改善若しくは
開発の円滑な実施に寄与する事業のために,昭和50年度から,横田飛行場周辺地域の福生市,立川市,武蔵村山市,昭島市,羽村市及び瑞穂町に対し,特定防衛施設周辺整備調整交付金を交付している。また,被告は,昭和35年度から,横田飛行場の南北進入表面又は転移表面下にあり,着陸帯の先端から一定の距離の区域において農業
を営む者に対し,航空機の離着陸等による農耕阻害の補償を実施している。

d
基地交付金及び調整交付金の助成
被告は,
昭和32年度から,
横田飛行場周辺地域の福生市,
立川市,
武蔵村山市,昭島市,羽村市及び瑞穂町に対し,条件や使途に制約等は一切付していない一般財源の補給金である基地交付金及び調整交付金を交付している。

音源対策等
第2部「前提となる事実」の第1の3⑵のとおり,被告は,夜間着陸訓練による騒音の軽減を図るため,硫黄島において夜間着陸訓練が実施できるよう,平成元年度から平成5年3月末までに,約166億8600万円をかけて同島に夜間着陸訓練に必要な施設を建設した。
その結果,

横田飛行場における夜間着陸訓練の実施日数は大幅に減少し,平成12年9月以降は横田飛行場における同訓練の実施はない。
また,被告は,直接に米軍機の運航方式に規制を加える権限がない中で,外交交渉の努力を重ね,第2部「前提となる事実」の第1の6⑶のとおり,平成5年11月18日,日米合同委員会において,米軍の22
時から6時までの間の時間における飛行及び地上における活動を制限し,夜間飛行訓練を必要最小限にすること等を合意し(平成5年日米合同委員会合意)
,以降,米軍は同合意事項を履践し,被告も折に触れてその実
行につき協力を求めてきた。


本件における受忍限度の判断

航空機環境基準は受忍限度を画する基準とはならないこと
航空機環境基準は,環境基本法16条1項が「人の健康を保護し,及び生活環境を保全する上で維持されることが望ましい基準」と規定していることからも明らかなように,政府が航空機騒音に対する総合的施策を進め
る上で達成されることが望ましい基準であって,損害賠償請求権の発生を基礎づける航空機騒音の受忍限度を画する基準となるものではないし,仮
に原告らが航空機環境基準を超える航空機騒音に曝露されているという事実があったとしても,このことは,直ちに原告らに航空機騒音による健康被害が生じていたとの事実を推認させるものではない。
また,
第2部
「前
提となる事実」の第3のとおりの航空機環境基準の制定の経緯やその内容に照らしても,同基準はあくまで理想的な生活環境を造出するための行政
上の改善目標として設定されたものであり,航空機騒音の受忍限度を画する基準とはなり得ない。
ただし,航空機環境基準では,環境騒音に関する住民意識の差異等に基づき地域類型ごとに基準値が定められている(地域類型Ⅰについては70W以下,地域類型Ⅱについては75W以下)ことに鑑み,航空機騒音が受
忍限度を超えるかどうかの判断に当たっても,地域の用途に合わせたその地域の類型が十分に考慮されるべきである。

告示コンターは受忍限度を画する基準とはならないこと
前述のとおり,告示コンターは,政策的補償措置としての防音工事等の周辺対策を実施するために政策的に算定された防衛施設庁方式に基づく
W値を基礎にして,その実施区域を画するものにすぎず,当該区域に付されたW値に相当する騒音が現実に発生していることが推定されるわけではない。また,現実には多くの居住者は,指定区域内にいる場合もほとんどは屋内で生活しているにもかかわらず,告示コンターは年間を通じて屋外で騒音曝露し続けることを前提としており,実際と乖離した過大な騒音
曝露量を認めることとなる。
したがって,告示コンター内地域に居住していることをもって,防衛施設庁方式で算定された当該区域のW値に相当する騒音曝露を受けていると推認することはできない。

原告らへの航空機騒音の影響が受忍限度の範囲内であること
前述のとおり,横田飛行場周辺の航空機騒音は軽減されていること,航
空機騒音以外の侵害は認められないこと,周辺住民が受けている影響は日常生活の妨害や心理的不快感等にとどまること,横田飛行場には高度の公共性があること,被告による住宅防音工事その他の周辺対策等が一定の効果を上げていること等を考慮すると,横田飛行場に航行する航空機の騒音によって原告らに何らかの損害が生じているとしても,社会生活上,受忍
すべき限度を超えるものとは認められない。


危険への接近の法理による免責又は損害賠償の減額

免責又は減額の法理としての危険への接近
免責の法理としての危険への接近の法理とは,ある者がある場所に危険
が存することを認識しながら又は過失により認識しないで,あえてその場所に入って危険に接近し,そのため損害を受けたときは,危険を容認したもの又はそれに準ずるものとして,加害者の責任が否定されるとするものである。これは,私法関係にあっては自由な意思決定によって選択した結果は自ら負担するのが原則(自己責任の原則)であり,自由な意思決定に
よりあえて自らの法益を危険にさらしたにもかかわらず,これによる損害を他に転嫁することは,不法行為法を支える根本理念の1つである衡平の理念(損害の公平な分担)に反するという考え方に根ざすものである。大阪空港訴訟最高裁判決は,①危険に接近した者が侵害行為の存在を認識しながらあえてそれによる被害を容認して居住を開始したこと(被害容
認要件)
,②被害が精神的苦痛ないし生活妨害の程度にとどまり,直接,生命,身体にかかわるものではないこと(被害程度要件)
,③侵害行為に相当
高度の公共性が認められること
(公共性要件)④実際の被害が入居時の侵

害行為からの推測を超える程度のものであったとか,入居後に侵害行為の程度が格段に増大したなどの特段の事情が認められないこと(消極的要件)
が満たされる場合に,航空機騒音による被害は受忍すべきものとして,損害賠償責任を否定するという免責の法理としての危険への接近の法理を
認めた。本件においても,以上の4つの要件を満たす原告らについては,その損害賠償請求を棄却すべきである。
また,上記①の被害容認要件が認められず,危険への接近の法理により免責が認めらない場合でも,危険(騒音の存在)についての認識を有し又は過失によりこれを認識しなかったときは,過失相殺の法理に準じ,損害
賠償額の算定に当たり,この事実を考慮して賠償額の減額を認めるべきである(減額の法理としての危険への接近の法理)


本件における危険への接近の法理の適用について
免責の法理としての危険への接近の法理の適用について

大阪空港訴訟最高裁判決によれば,騒音が広く社会問題化している地域に転入し,住居を構えようとする者は,特段の事情がない限り,この騒音の存在を認識していると考えるのが経験則上通常であって,この事実によって,騒音の存在の認識が推定される。また,被害の容認には,居住上の便宜等の他の利益を重視したがゆえに,騒音の悪影響ないし被
害を認識しながら,これをやむを得ないものとして受け入れる場合も含まれ,
被害者の承諾のような積極的な容認に限る必要はない。
そのため,
被害容認要件は,航空機騒音の認識から事実上推定される消極的な容認で足りると考えられる。
本件においては,以下の経過に照らし,遅くとも平成6年1月1日以
降に横田飛行場周辺の第一種区域(以下「指定区域」という。
)内に居住
を開始した原告らについては,航空機騒音による被害の発生状況を認識し,その被害を容認していたことが推定される。
すなわち,①昭和38年,福岡県米軍板付基地に所在する航空団がF105D戦闘爆撃機と共に横田飛行場に移駐する計画があり,その計画
に対して昭島市議会が全会一致の反対決議を行ったこと(乙A100の12)②昭和39年5月に当該戦闘爆撃機が横田飛行場に移駐した後,・,

滑走路近隣地区の住民から,同地区住民全員を他地区に移転させる補償を求める旨の国への陳情書,
市議会への請願書が提出されたことを受け,
昭和40年7月30日,政府が集団移転の基準を定めたこと(乙A100の3)から,昭和40年には,横田飛行場周辺が,恒常的に航空機騒音の曝露を受ける地域であることが広く知れ渡るに至っていたものと認められ,本来は遅くとも昭和41年1月1日以降に横田飛行場周辺に居住を開始した原告らについては,転入時に航空機騒音の存在を十分に認識しており,かつ,その被害を容認していたことが推認されるというべきである。

そして,上記の事情に加え,③昭和42年3月31日に移転対象区域(
「みなし第二種区域」
及び
「みなし第三種区域」が告示されたこと

(乙
A36)④昭和50年3月10日には環境整備法9条1項に基づき,,

田飛行場を含む複数の防衛施設が特定防衛施設に,立川市,昭島市,福生市,武蔵村山市,東京都西多摩群羽村町(現羽村市)及び瑞穂町を含
む複数の市町村が特定防衛施設関連市町村にそれぞれ指定され,官報で告示されたこと(乙A111)
,⑤防衛大臣が,環境整備法4条に基づく
住宅防音工事の助成対象区域について,昭和54年8月31日に第一種区域及び第二種区域を,昭和55年9月10日に第一種区域を,昭和59年3月31日に第一種区域をそれぞれ指定した上,いずれも官報で告
示したこと
(乙A27~A29)⑥平成5年2月25日に横田平成5年,
最高裁判決の言渡しがされたことが主要日刊紙において全国的に報道されたこと,⑥同年11月には平成5年日米合同委員会合意がなされたことが全国的に報道されたことなどからすれば,どんなに遅くとも,平成6年1月1日以降においては,横田飛行場の航空機騒音が重要な社会問
題として広く国民の注目を集めるようになっていたものといえる。そうすると,少なくとも平成6年1月1日(以下「基準日」という。)

以降,指定区域内に転居した原告ら(出生者を除き,指定区域内で転居した者も含む。別紙8居住履歴一覧表の類型A)については,免責の法理としての危険への接近の法理を適用すべきである。
仮に基準日以降における指定区域内への転居の事実のみでは,航空機騒音の被害の容認まで推定することが認められないとしても,少なくとも,以下の類型B1,B2,B3のいずれかに当たる者は,転入ないし転居時に航空機騒音の被害を容認していた事実が強く推認されるから,その転居等が選択の余地のないものであったなどの特段の事情がない限り,免責の法理としての危険への接近の法理を適用すべきである。
a
類型B1

基準日以降に指定区域内に居住した事実が認められ,そ

の後,指定区域外に転出したにもかかわらず,再び指定区域内に転入した者
b
類型B2

基準日以降に指定区域内に居住した事実が認められ(指

定区域内の居住開始時点は基準日の前後を問わない。,その後,より)
騒音レベルの高い区域に転居した者

c
類型B3

基準日以降に指定区域内の転居を複数回繰り返した者

減額の法理としての危険への接近の法理について

れないとしても,少なくとも基準日以降に指定区域内に転居した原告ら(上記の類型A)又はそのうち上記の類型B1ないしB3のいずれかに該当する者については,航空機騒音の存在を認識していたか,あるいは過失によってこれを認識していなかったといえるから,減額の法理としての危険への接近の法理が適用されるべきである。
危険への接近の法理の適用を受けるべき原告ら

本件において,被告が免責の法理又は減額の法理としての危険への接近の法理の適用を受けるべきと主張する原告らは,主位的には,別紙8
居住履歴一覧表の
「危険への接近類型」
の欄にAの記号がある者であり,
予備的には同欄にB1,B2,B3のいずれかの記号がある者である。⑹

損害額に関する原告らの主張に対する反論

損害額一般
仮に横田飛行場の供用に係る航空機騒音が受忍限度を超える内容及び程
度のものであると判断された場合でも,原告らは一律の請求をするにとどまり,これによる個別具体的な被害の内容及び程度につき的確な主張立証をしていないし,原告らが支払を求める損害賠償額は,これまでの裁判例等に照らすと高額にすぎる。

住宅防音工事による減額
前記⑶で述べたとおり被告の助成による防音工事が実施された居室については,
少なくとも20ないし25dBの防音効果が認められる。
そして,
原告らが主張する騒音等の被害は,住宅の総居室数に占める防音工事が実施された居室数の割合に応じて軽減されるから,防音工事が実施された住宅の居住者については,当該住宅の総居室数に占める防音工事が実施され
た居室数の割合に応じて損害を減額すべきである。そして,当該住宅の全室数及び防音工事が実施された居室数は,別紙6防音工事一覧表の「全室数」欄及び「住宅防音工事」の「工事室数」欄に各記載のとおりであるから,該当する原告の各損害については,それぞれ後者を前者で割って算出した「施工割合(%)(小数点以下切捨て)分を減額すべきである。」



口頭弁論終結日の翌日以降の将来の損害賠償請求が不適法であること(本案前の答弁)

将来の給付の訴えの要件
民訴法135条は,
将来の給付を求める訴えについて,
「あらかじめその

請求をする必要がある場合に限り,提起することができる」と規定している。この将来の給付を求める訴えの要件について,大阪空港訴訟最高裁判
決は,
「同一の態様の行為が将来も継続されることが予測される場合であっても,それが現在と同様に不法行為を構成するか否か及び賠償すべき損害の範囲いかん等が流動性をもつ今後の複雑な事実関係の展開とそれらに対する法的評価に左右されるなど,損害賠償請求権の成否及びその額をあらかじめ一義的に明確に認定することができず,具体的に請求権が成立
したとされる時点においてはじめてこれを認定することができるとともに,その場合における権利の成立要件の具備については当然に債権者においてこれを立証すべく,事情の変動を専ら債務者の立証すべき新たな権利成立阻却事由の発生としてとらえてその負担を債務者に課するのは不当であると考えられるようなものについては(中略)本来例外的にのみ認め
られる将来の給付の訴えにおける請求権としての適格を有するものとすることはできないと解するのが相当である。
」と判示し,同判決は,将来の
損害賠償請求については,将来の不法行為成立の確実性及び賠償内容の確定性の要件を厳格に解したものと考えられる。そして,この法理は,横田平成19年最高裁判決のほか,厚木飛行場,福岡空港,小松飛行場,嘉手
納飛行場及び普天間飛行場の各航空機騒音訴訟に係る最高裁判決等で踏襲されている。

本件将来請求に係る訴えが不適法であること
本件においては,口頭弁論終結後において,原告らのいう侵害行為又は
損害の発生の基礎となる事実関係が変動することが予測されるのであり,将来の不法行為成立の確実性及び賠償内容の確定性の要件をいずれも充足するものではない。
すなわち,実体法上,原告らが横田飛行場に関して損害賠償請求権を取得し得るのは,横田飛行場における航空機エンジンの作動,航空機の離着
陸等によって生じる騒音等が受忍限度を超える場合に限られるが,騒音等が受忍限度を超えているか否かの判断は,侵害行為の態様と侵害の程度,
被侵害利益の性質と内容,公共性,地域性,先(後)住性,危険への接近及び侵害防止措置等の多様な事実関係の総合的判断の上で決められるべきことである。しかるに,本件における違法性,損害の判断要素の将来予測については,航空機騒音等の状況に恒常性がないために将来の状況を予測することは困難であること,原告らの請求が認容されるには,将来にお
いても横田飛行場周辺に居住していることが前提となるが,転居の有無は原告らにとっては明白な事実であっても,被告にとっては,140名を超える原告らの居住地全てを逐次把握することは非常に困難であること,被告による周辺対策も,例えば住宅防音工事については着実に実績が積み重ねられており,原告らの被害についても,それが受忍限度を超えるか否か
は複雑多様な諸要因によって判断されること等に照らすと,横田飛行場の航空機騒音による損害賠償請求権の将来における発生の有無は,極めて不明確といわざるを得ないし,また,明確な具体的基準により,賠償されるべき損害の変動状況をあらかじめ把握することも極めて困難である。したがって,損害賠償請求権の成否及びその内容を的確に把握するためには,
それが成立したとされる時点の事実関係に基づいて,改めてその成立の有無及びその内容を判断するほかないものというべきである。
第4部

争点

以上を整理すると,本件の争点は次のとおりとなる。
第1

本件差止請求について

1
本件差止請求の趣旨等

2
自衛隊機に係る差止請求に係る訴えの適否

3
米軍機に係る差止請求の成否

第2
本件損害賠償請求について

1
法律上の根拠及び判断枠組み

2
侵害行為の有無と内容について

34
横田飛行場の公共性について

5
被告の防音工事助成その他の周辺対策等による被害の防止又は軽減について
6
違法性の有無(受忍限度)の判断について

7
危険への接近について

8
被害の性質と内容について

損害額について

第3

口頭弁論終結日の翌日以降の損害賠償請求に係る訴えの適否

第5部

当裁判所の判断

第1
本件差止請求について

1
本件差止請求の趣旨等


本件差止請求の趣旨
差止原告ら(ただし,後記⑵の原告A1を除く。以下同じ。)は,被告に対
し,人格権等に基づく民事上の請求として,①毎日午後7時から翌日午前8時までの被告自身及び米軍による航空機の離着陸等の差止め及び毎日午前8時から同日午後7時までの航空機の発する騒音の音量規制,並びに②毎日午
前8時から同日午後7時までの米軍による特定の航空機訓練の差止めを請求するものである。そのうち上記①の請求は,自衛隊機に係るものと米軍機に係るものを包含し,両者は扱いを異にすると解されるので,後記2以下で分けて検討する。


訴え提起後に死亡した者の訴えについて
原告A1が訴え提起後である平成25年10月10日に死亡したことは当事者間に争いがないところ,人格権等に基づく航空機の離着陸等の差止め等の請求権は,請求権者の一身に専属する権利であって相続の対象となり得ないものと解されるから,本件訴訟のうち同人の差止請求に関する部分は,同
人の死亡により当然に終了したというべきである(最高裁判所平成28年12月8日第一小法廷判決・裁判集民事254号35頁。乙A205)。

2
自衛隊機に係る差止請求に係る訴えの適否


検討
本件で,差止原告らは,被告に対し,人格権,環境権及び平和的生存権に基づき,民事上の請求として,一定の時間帯における自衛隊機の離着陸等の
差止め及び自衛隊機の発する騒音の音量規制を求めている。
この点,前記第2部「前提となる事実」第1の7のとおり,防衛大臣は,自衛隊に課せられた我が国の防衛等の任務の遂行のため自衛隊機の運航を統括し,その航行の安全及び航行に起因する障害の防止を図るため必要な規制を行う権限を有するものとされているのであって,自衛隊機の運航は,この
ような防衛大臣の権限の下において行われるものである。そして,自衛隊機の運航にはその性質上必然的に騒音等の発生を伴うものであり,
防衛大臣は,
騒音等による周辺住民への影響にも配慮して自衛隊機の運航を規制し,統括すべきものである。しかし,自衛隊機の運航に伴う騒音等の影響は飛行場周辺に広く及ぶことが不可避であるから,自衛隊機の運航に関する防衛大臣の
権限の行使は,その運航に必然的に伴う騒音等について周辺住民の受忍を義務づけるものといわなければならない。そうすると,上記権限の行使は,騒音等により影響を受ける周辺住民との関係において,公権力の行使に当たる行為というべきである。
前述したように,差止原告らの自衛隊機に係る差止請求は,被告に対し,
①夜間の時間帯(毎日午後7時から翌日午前8時までの間)における自衛隊機の離着陸等の差止め,及び,②昼間の時間帯(毎日午前8時から同日午後7時までの間)における自衛隊機の発する騒音の音量規制を私法上の権利に基づく民事上の請求として求めるものである。
しかしながら,上記に説示したところに照らせば,このような請求は,必
然的に防衛大臣に委ねられた上記のような自衛隊機の運航に関する権限の行使の取消変更ないしその発動を求める請求を包含することになるものといわ
なければならないから,行政訴訟としてどのような要件の下にどのような請求をすることができるかはともかくとして,本件の自衛隊機に係る差止請求は不適法というべきである(厚木平成5年最高裁判決参照)

よって,差止原告らの自衛隊機の離着陸等の差止め等に係る訴えは,不適法である。



差止原告らの主張について

これに対し,差止原告らは,上記⑴のような判断をもって差止原告らの人格権侵害の有無等を判断しないことは,憲法32条が裁判を受ける権利を保障していることに照らして許されない旨を主張する。
しかし,同条は,訴訟の当事者が訴訟の目的である権利関係について常
に実体的判断を受ける権利を保障したものではないから,差止原告らの主張は理由がない。

また,差止原告らは,防衛大臣による自衛隊機の運航に関する権限の行使が周辺住民との関係で公権力の行使に当たるとする厚木平成5年最高裁判決の判断は誤りであり,小松平成14年一審判決は,その公権力性を
否定している旨を主張する。
この点,
小松平成14年一審判決は,
「自衛隊機の運航に伴う騒音等によ
る人格権の侵害等を理由に自衛隊機の離着陸差止め等を求める原告らの訴えは,行政庁の公権力の行使に当たる行為の取消変更ないし発動を求める請求を包含することになるとはいえず,民事上の訴えとして,不適法と
いうことはできない。と判示して差止請求を適法としたものの,

上記⑴と
見解を同じくする控訴審である名古屋高裁金沢支部平成14年(ネ)第183号平成19年4月16日判決(公刊物未登載・判例秘書登載)によって変更され,差止めに係る訴えは却下されている。厚木平成5年最高裁判決に反する原告らの上記主張を採用する余地はない。



よって,差止原告らの自衛隊機の離着陸等の差止請求に係る訴えは,不適
法であり却下を免れない。
3
米軍機に係る差止請求の成否


検討
本件で,差止原告らは,被告が妨害を除去し得る立場にある旨,及び,被告自身も違法行為を行っていると評価できる旨を主張して,被告に対し,人
格権,環境権及び平和的生存権に基づき,①夜間の時間帯(毎日午後7時から翌日午前8時まで)における米軍機の離着陸等の差止め,②昼間の時間帯(毎日午前8時から同日午後7時まで)における米軍機の発する騒音の音量規制,及び,③航空機訓練の差止めを求めている。しかし,前記第2部「前提となる事実」第1の5及び6によれば,横田飛
行場は,日米安保条約及び地位協定に基づき,被告が,米軍の使用する施設及び区域としてアメリカ合衆国に提供しているものであるから,横田飛行場における米軍機の運航はアメリカ合衆国によるものと認められる。また,アメリカ合衆国は,日米安保条約及び地位協定2条1項(a)(b)及び3条,
1項に基づき,横田飛行場内において,その運営,管理等のために必要な全
ての措置を執る権限を有するとされる一方で,
関係条約及び国内法令の中に,
アメリカ合衆国の横田飛行場の管理運営を規制する権限を被告に与える規定は見当たらないのであるから,横田飛行場の管理運営の権限は,全てアメリカ合衆国に委ねられており,被告は,横田飛行場における米軍機の運航等を規制し,制限することのできる立場にはないと評価せざるを得ない。
そうすると,上記のとおり差止原告らが米軍機の離着陸等の差止め等を請求するのは,被告に対し,その支配の及ばない第三者の行為の差止めを請求するものというべきであるから,上記差止請求は,その余の点について判断するまでもなく,主張自体失当として棄却を免れない(横田平成5年最高裁判決,厚木平成5年最高裁判決参照)




差止原告らの主張について


これに対し,差止原告らは,上記⑴のような理由で米軍機の離着陸等の差止請求を認めないとするのは,国民主権の原則等の法の基本原則に反するものである旨や,米軍機の発する騒音等によって健康上,生活上の被害を受けている差止原告らの救済は不可能となる旨を指摘した上で,①地位
協定3条3項,16条によれば,米軍の横田飛行場の使用によって基地外の住民に騒音被害が生じている場合には,米軍にも日本国の法令による制約が及び,被告は米軍の活動を制限することができると解されることや,②地位協定18条5項にいう「公務執行中の合衆国軍隊の構成員若しくは被用者の作為若しくは不作為又は合衆国軍隊が法律上責任を有するその
他の作為,不作為若しくは事故で,日本国において日本国政府以外の第三者に損害を与えたものから生ずる請求権」には,差止請求権も含まれると解されること,③被告としては,地位協定25条の定める方法による協議や,日米安保条約10条に基づく同条約を終了させる意思の通告をもって,違法な権利侵害を伴う米軍機の運航等の差止めを求めることができるこ
とからすれば,差止原告らの被告に対する米軍機の離着陸等の差止請求は,被告の支配の及ばない第三者の行為の差止めを求めるものではないと主張する。
しかし,被告が米軍機の運航活動等の内容について変更を求めるには,地位協定25条の定める日米合同委員会の協議による必要があり,地位協
定3条3項,16条及び18条5項は,いずれも横田飛行場における米軍機の運航等を規制し,制限することのできる根拠になり得るものではないと解されるから,差止原告らの上記①及び②の主張は,上記⑴の判断を左右するものではない。そして,差止原告らの上記③の主張は,単に,米軍機の運航活動の内容に関する外交交渉の方法等を指摘するにとどまるも
のであり,被告が横田飛行場における米軍機の運航等を規制し,制限することのできる権限を有し,差止原告らの主張する侵害行為が被告の支配内
にあることを指摘するものではないから,同主張も,上記⑴の判断を左右しない。

また,差止原告らは,被告は,米軍に対し,横田飛行場を提供してその使用を継続させている上,米軍機の運航等による騒音被害の発生を知りながら,
「思いやり予算」
等の便宜を図って米軍の活動を助長していることか

ら,被告自身も騒音被害を拡大している加害者と評価できるとして,本件差止請求の相手方となる旨を主張する。
しかし,米軍機の運航等に係る本件の直接の侵害行為者はアメリカ合衆国であること,そして,関係条約や国内法令に照らし,被告が米軍機の運航等を規制し制限する権限を有していないことは,上記⑴のとおりであり,
これらの事実は,差止原告らの主張する事実を加味しても変わらないから,差止原告らの上記主張は理由がない。その他米軍機の差止請求に関し差止原告らが主張するところは,上記⑴の判断を左右するものではない。第2
本件損害賠償請求について

1
法律上の根拠及び判断枠組み


原告らは,損害賠償請求についての適用法条として,民事特別法1条又は2条を挙げているところ,本件で,原告らは,横田飛行場が多数の住民が居住する地域に極めて近接しているなどその立地条件が劣悪であることに起因して航空機騒音等の被害を受けているというのであるから,同法2条により端的に横田飛行場の設置,管理の瑕疵に対する責任を追及するのが最も良
く実態に合致し,かつ,それで十分であると考えられる。以下,同条について検討する。


民事特別法2条について

「土地の工作物その他の物件」の該当性
前記第2部「前提となる事実」第1の2⑵オによれば,横田飛行場は,アメリカ合衆国が日米安保条約及び地位協定に基づき使用を許与され,米
軍を駐留させ,使用,管理していると認められるから,民事特別法2条にいう「合衆国軍隊の占有し,所有し,又は管理する土地の工作物」に当たる。

設置又は管理の瑕疵の意義
民事特別法2条にいう設置又は管理の瑕疵については,国賠法2条1項の営造物の設置又は管理の瑕疵についての解釈が妥当するところ,同項の営造物の設置又は管理の瑕疵とは,営造物が有すべき安全性を欠いている状態をいい,当該営造物を構成する物的施設自体に存する物理的,外形的な欠陥ないし不備によって他人に危害を生ぜしめる危険性がある場合の
みならず,その営造物が供用目的に沿って利用されることとの関連において危害を生ぜしめる危険性がある場合をも含み,また,その危害は,営造物の利用者に対してのみならず,利用者以外の第三者に対するそれをも含むものと解される。すなわち,当該物件の利用の態様及び程度が一定の限度にとどまる限りにおいてはその施設に危害を生ぜしめる危険性がなく
ても,これを超える利用によって危害を生ぜしめる危険性がある状況にある場合には,そのような利用に供される限りにおいて同物件の設置又は管理には瑕疵があるというを妨げず,したがって,同物件の設置・管理者において,かかる危険性があるにもかかわらず,これにつき特段の措置を講ずることなく,また,適切な制限を加えないままこれを利用に供し,その
結果利用者又は第三者に対して現実に危害を生ぜしめたときは,それが設置・管理者の予測し得ない事由によるものでない限り,同条の規定による責任を免れることができないと解され,民事特別法2条の責任についても同様と解される(大阪空港訴訟最高裁判決,横田平成5年最高裁判決,厚木平成5年最高裁判決参照)


原告らの主張する横田飛行場の設置又は管理の瑕疵は,横田飛行場に離着陸等する米軍機及び自衛隊機が発する航空機騒音等が原告らに被害を
生ぜしめているという点にあるところ,上記のとおり,利用者以外の第三者に対する危害も民事特別法2条の設置又は管理の瑕疵に含まれ,また,工作物がその供用目的に沿って利用されている状況のもとにおいてこの利用から危害が生ずるような場合もこれに含まれるというべきであるから,横田飛行場の供用が第三者に対する関係において違法な権利侵害ない
し法益侵害となる限り,横田飛行場に同条の設置又は管理の瑕疵があるというべきである。

違法性の意義
土地の工作物その他の物件の使用又は供用が第三者に対する関係において違法な権利侵害ないし法益侵害となり,被告が民事特別法2条に基づく
賠償義務を負うかどうかを判断するに当たっては,侵害行為の態様と侵害の程度,被侵害利益の性質と内容,侵害行為の持つ公共性ないし公益上の必要性の内容と程度等を比較検討するほか,侵害行為の開始とその後の継続の経過及び状況,その間に採られた被害の防止に関する措置の有無及びその内容,効果等の事情をも考慮し,これらを総合的に考察してこれを決
すべきである
(大阪空港訴訟最高裁判決,
厚木平成5年最高裁判決参照)



以上により,本件においては,上記⑵ウの判断枠組みを踏まえて,以下,侵害行為,原告らの被害,横田飛行場の公共性及び防音工事の助成を始めとする被告の措置による被害の防止又は軽減に関して順次認定判断し,その上で横田飛行場の使用又は供用が周辺住民である原告らとの関係において受忍
限度を超える違法な権利侵害ないし法益侵害となるかを検討する。2
侵害行為の有無と内容について


航空機騒音について

本件請求対象期間における横田飛行場への航空機の離着陸等の状況前記第2部「前提となる事実」第1の1及び3⑴に加えて,証拠(甲A44,A69,A70,C21,C24)及び弁論の全趣旨によれば,次
のとおり認めることができる。
常駐機
横田飛行場には,軍用中距離輸送機C-130ハーキュリーズ,プロペラ式の小型輸送機C-12Jヒューロン,及び,中型単発汎用タービンヘリコプターUH-1Nヒューイといった米軍輸送機・連絡機が常駐している。
C-130は,横田飛行場で年間を通じて最も離着陸回数が多く,編隊飛行も含め,日常的に訓練が行われている。C-12Jは,人員輸送や貨物輸送に使用され,UH-1Nは,主に人員輸送等に使用されてい
る。
他基地からの飛来機
上記の常駐機のほか,横田飛行場には,輸送機C-5ギャラクシー,同C-17グローブマスター,空中給油・輸送機KC-10エクステンダー,同KC-135ストラトタンカー,多用途ヘリコプターSH-6
0シーホーク,艦上輸送機C-2Aグレイハウンド等の米軍輸送機が飛来している。また,戦闘機F-15イーグル,同F-16ファイティングファルコン,艦上戦闘・攻撃機F/A-18ホーネット,早期警戒管制機E-3セントリー等の米軍戦闘機や米軍攻撃機も飛来している。また,
平成26年7月以降は,
MV-22オスプレイも飛来している。

このうち,C-5は,ジャンボジェット機(B-747)よりも一回り大きい世界最大級の輸送機で,離着陸時飛行直下では110dBを超える激しい騒音を発生させ,低空時の威圧感も大きい。また,戦闘機であるF-15,F-16及びF/A-18等は,度々,横田飛行場に飛来するが,その離陸時等の騒音は大きい。なお,F/A-18は,厚木
飛行場に配備されている機体が関東北部上空で実施する飛行訓練への往復に横田飛行場近辺の上空を通過することもある。

横田飛行場には自衛隊機は常駐していないが,ビジネスジェット機であるガルフストリームU-4やブリティッシュ・エアロスペースU-125,中等練習機としてのほか,連絡・支援任務にも使用されるジェット機川崎T-4,及び,大型輸送用ヘリコプターCH-47J等が度々飛来している。特にT-4は,飛来数は少ないがビジネスジェット機に比較して騒音が大きい。
飛行訓練について
横田飛行場では,基地所属機による通常の飛行訓練のほか,様々な事態を想定して,次のような演習・訓練が不定期に行われている。

a
CERE(CombatEmploymentReadines
sExercise。
戦闘対象即応演習)戦闘装備品等の確保に迅
速に対処するための対応訓練である。

b
EME(EmergencyManagementExerci
se。緊急管理演習)

大地震,航空機事故,バスと航空機との衝突

事故,踏切における電車とバスの衝突など,様々な状況を想定した重
大事故における対応訓練である。
c
IRRE
(InitialResponseRedinessE
xercise。初動対応即応演習)

緊急事態発生に対する初動の

対応を行う訓練で,ORE(後記e)の初期段階を想定したものである。

d
NLP(NightLandingPractice。夜間着陸
訓練)

空母艦載機搭乗員が着発艦の技術を維持するため,飛行甲板

に見立てた滑走路上でタッチアンドゴーを繰り返す訓練である(前記第2部「前提となる事実」第1の3⑵ア)
。横田飛行場においては平成
13年以降の実施はない。

e
ORE(OperationalReadinessExerc

ise。運用即応演習)

テロ攻撃や航空機又は地上戦闘力による基

地への攻撃を想定し,実践的な即応体制をとることを目的とした演習である。
OREや上記bのEMEでは,GBS(GroundBurst
Simulator。地上爆発模擬装置)やPAS(PublicA
ddressSystem)
といった大音量の出る装置が使用される
ことがある。
f
サムライサージ訓練

横田飛行場所属機による大規模編隊飛行訓練

であって,パラシュート降下・投下訓練(滑走路上への人員降下,物資投下)を伴うこともある。このような訓練では,輸送機が飛行場周
辺の市街地上空を低空で旋回することが多い。
日米両政府は,平成27年5月12日,対テロ作戦等を主要任務とするCV-22オスプレイを平成29年後半以降に横田飛行場に配備する旨を決定し,その後,平成30年4月3日には,CV-22オスプレイを平成30年夏に横田飛行場に配備することを決定したが,当審口頭弁
論が終結した平成30年7月時点では上記配備は行われていない。イ
W値の算定方式について
W値の算定は防衛施設庁方式によるべきか環境庁方式によるべきかa
前記第2部「前提となる事実」第2,第3及び第4のとおり,航空機騒音を評価する代表的な指標としてW値があり,横田飛行場周辺の
航空機騒音についてもこのW値に基づいて検討を加えるべきである。もっとも,W値については防衛施設庁方式(前記第2部「前提となる事実」第4の2)と環境庁方式(同第3の2⑴)という異なった算定方式があり,そのいずれを採用すべきかについて当事者間に争いがあるので,まずこの点について判断する。

b
環境整備法に基づく第一種区域等の指定をする基準となるW値の算
定について防衛施設庁長官が防衛施設庁方式を採用した理由は,証拠(甲C34,C35)及び弁論の全趣旨によれば,次のとおりであると認められる。
民間航空機が使用する公共用飛行場では,1年を通して飛行回数に大きな増減がなく,飛行経路も一定である。また,離着陸する航空機の機種が限られている上,耐空証明など航空法所定の各種証明制度が存在することもあり,騒音の特徴や継続時間にも機種による大きな違いがない。
これに対し,防衛施設すなわち自衛隊及び米軍の航空機が使用する
飛行場では,
航空機の飛行回数も飛行経路も日によって異なる。
また,
離着陸する航空機の機種が多種多様であることや離着陸の態様に違いがあることから,機種の違いや高度の違いによって騒音の態様ないし程度に差異が生ずる。
公共用飛行場と防衛施設である飛行場との間のこのような違いは,
周辺住民の騒音に対する反応に差異をもたらす。そのため,防衛施設である飛行場の周辺において環境庁方式によってW値を算定した場合,公共用飛行場の周辺において算定したW値と同じ数値であったとしても,騒音に対する住民の反応が同じであるとは直ちにはいえないことになる。そこで,公共用飛行場と防衛施設である飛行場との間でW値
に整合性が保たれるようにするため,すなわち公共用飛行場であっても防衛施設である飛行場であってもW値が同じであれば同じ住民反応が示されるといえるようにするため,音響の専門家による調査研究を踏まえて,防衛施設庁方式によるW値の算定方法が考案されたのである。

具体的にいうと,日によって騒音を受ける回数にばらつきがある場合,人間の感覚の特性として,騒音回数が多く騒音程度の著しい日の
騒音に強い印象を受けることが知られている。防衛施設である飛行場周辺において住民反応を調査した研究結果からも,1日の航空機数に変動がある場合には,一定期間内の平均機数を基準にしたW値よりも数多く飛行した日を基準にしたW値が,周辺住民の反応に比例することが示された。防衛庁方式において累積度数90%方式が採用された
のは,防衛施設である飛行場における騒音に対する上記のような住民反応を適切に評価するためである。また,継続時間補正及び着陸音補正も,防衛施設である飛行場の実態を考慮した補正方法である。
以上の採用理由については,音響の専門家として防衛施設庁方式の策定に携わった田村朋弘横浜国立大学名誉教授(以下「田村教授」と
いう。
)が,平成23年9月3日付けの同人作成の意見書(甲C34)
の中で説明しているところであり,別件訴訟において証言もしている(甲C35)

c
以上によれば,防衛施設庁方式は,1年を通じて飛行回数,機種及び飛行態様が不規則でその変動が大きい防衛施設である飛行場周辺に
おいて,そのような変動がほとんどない民間航空機の使用する公共用飛行場周辺における環境庁方式によるW値と同等の住民反応が得られるようにするためにはどのような補正をすべきであるかという観点から,提案,策定されたものと認められる。そうすると,防衛施設である横田飛行場周辺の航空機騒音を評価する指標としては,環境庁方式
によって算定されたW値よりも防衛施設庁方式によって算定されたW値の方が,単なる騒音曝露量ではなくこれに対する騒音の受け手である住民の「うるささ」という感覚的評価を重視して数値化しようとするW値の趣旨により適合し適切であるというべきである。
d
これに対し,被告は,防衛施設庁方式は,環境整備法に基づく周辺対策を手厚く実施するため,実際の飛行回数の算術平均を上回る飛行
回数を計上するなどして環境庁方式を調整したものであり,防衛施設庁方式によって算定されたW値は,現実に発生した騒音の内容・程度を反映していないから,航空機騒音の評価指標としては環境庁方式によって算定されたW値を採用すべきである旨を主張する。
しかしながら,前述したように,防衛施設庁方式によるW値の算定
方法は,防衛施設である飛行場に特有の航空機騒音に関する客観的な調査研究の結果に基づいて考案されたものであって,被告の主張するような,単に周辺対策を手厚く実施するという政策的配慮に基づくものとは認められないから,被告の上記主張は採用できない。
e
したがって,横田飛行場周辺における航空機騒音を評価する指標としては,防衛施設庁方式によって算定されたW値を採用するのが相当である。
もっとも,環境庁方式によって算定されたW値も,実際の測定データを基礎として算出されたものであるから,防衛施設庁方式によって
算定されたW値を参照することができない場合に参考として用いることができるというべきである。
そして,
前記第2部
「前提となる事実」
第4の2⑵エのとおり,環境庁方式によって算定されるW値と防衛施設庁方式によって算定されるW値を比較すると,後者が前者よりも3~5程度高くなるとされていることから,横田飛行場周辺の測定地点
における測定結果が,環境庁方式によって算定されたW値である場合は,その値に3~5を加えたものが,実際にその地点において住民が感じる騒音であると判断するのが相当である。
被告の主張する「昼間騒音控除後W値」について
被告は,環境庁方式によって算定したW値を採用すべきであるとの主
張から更に進んで,被告の考案した「昼間騒音控除後W値」を横田飛行場の周辺における航空機騒音の評価指標として採用すべきであると主張
する。
被告の考案する昼間騒音控除後W値とは,環境庁方式を採用し,前記第2部「前提となる事実」第

の算式によってW値を算定する

が,その際,平日昼間の時間帯(午前9時から午後5時)の騒音発生回数すなわち航空機の飛行回数を0として計算するというものである。し
たがって,同算式のN2の数値が実際の航空機の機数よりも相当減少することとなり,
これに従って算定されるW値も相当減少することとなる。
しかしながら,W値は,早朝,夜間及び深夜における航空機の飛行回数に重み付けを行って算定するものであり,
単なる騒音曝露量ではなく,
これに対する周辺住民の感覚的評価を重視して数値化しようとするもの
であるから,被告の主張する算出方法はW値が拠って立つ基本的な考え方とは相容れないものである。
加えて,本件において原告らは,一定の騒音にさらされている地域に居住する原告らにつき,その騒音を原因とする共通被害をもって損害と主張するものであって,個々の原告が受ける実騒音曝露量を根拠とする
個別の騒音被害を主張しているわけではない。このような共通損害について,
昼間騒音控除後W値のような指標を用いることができないことは,後記3⑴で述べるとおりである。
したがって,本件で,被告の考案する昼間騒音控除後W値を航空機騒音の評価指標として用いる必要はないし,相当でもないというべきであ
る。

本件における航空機騒音の程度を認定資料としての告示コンターの合理性
前記第2部「前提となる事実」第4の3のとおり,横田飛行場周辺に
おいては,被告の委託によって平成15年度調査が実施され,これに基づいて第一種区域線,工法区分線及び外郭線が指定ないし設定されて告
示コンターが作成されている。平成15年度調査は,防衛施設庁長官による昭和59年3月の横田飛行場周辺における第一種区域の指定,告示(昭和59年告示)から既に約20年が経過し,その間,横田飛行場の航空機の騒音状況に変化がみられることなどから実施されたものであるところ,前提となる昭和59年告示に至るまでに被告が行った騒音調査は,まず予備調査を行って横田飛行場に離着陸する米軍機等の飛行形態を把握し,次いで,夏季の1週間及び冬季の2日間に本調査を行い,飛行場内測点(500か所)
,北側固定測点(15か所)及び南側固定測
点(169か所)において常時測定員を配置し,24時間連続して,発
生時刻,機種,飛行方法,ピーク騒音レベル,時間特性,1時間ごとの暗騒音,気象状況等を観測し,また,移動点測定においては,同時に12か所から15か所にわたる測定が可能な人数で,約1週間にわたって毎日午前8時から午後5時までの間,移動しながら測定を行うという大規模かつ詳細なものであった。平成15年度調査は,昭和59年告示か
ら騒音状況に変化がみられるかを調査するため,前記第2部「前提となる事実」第4の3⑵アのとおり,3日間の現地事前調査により測定点としての適切性等を調査し,夏季,秋季及び冬季の3回に分けてそれぞれ9日,8日,9日にわたって実施した現地での本調査により,52の測定点において飛行状況調査,飛行経路調査,騒音測定等の基礎データ調
査を行うとともに,平成15年4月1日から1年間の自動騒音測定による航空機騒音発生回数及び本調査による飛行状況調査の結果からの飛行回数を求め,防衛施設庁方式により各測定地点のW値を算出し,これによるコンター図を作成して,第一種区域等を新たに指定したものである。

このように,告示コンターは,極めて大規模かつ詳細な騒音調査を行った昭和59年告示を踏まえ,新たに大規模かつ詳細な騒音測定等の調
査に基づき,防衛施設である飛行場における航空機騒音を適切に評価する指標である防衛施設庁方式のW値によって横田飛行場周辺の航空機騒音を評価した結果によるものであるから,少なくとも上記各調査がなされた当時の航空機騒音の実態に合致したものであったと認めるのが相当である。
そして,告示コンターが全面的に適用された平成19年5月から本件請求対象期間の始期である平成21年12月又は平成23年8月までは,2年ないし4年前後しか経過しておらず,当審口頭弁論終結の時点で更に7年ないし9年近くが経過しているところ,上記のとおりの告示
コンターの合理性に加え,現に被告において平成15年度調査を行わせて第一種区域等の見直しを実施していること等に照らせば,同調査時の航空機騒音の実態と現状との食い違いが顕著となっている場合には被告において告示コンターの再見直しがなされるべきであり,少なくとも,告示コンターを作成する際の各騒音調査と同程度の規模,内容の騒音調
査がなされて原告らが損害賠償を求める平成21年12月以降の航空機騒音の状況が,告示コンターの前提となった平成15年度調査の結果と比較して乖離が顕著となっていることが認められない限り,告示コンターに基づいて本件請求対象期間の航空機騒音の状況を認定することが合理的であり,相当である。

これに対し,被告は,別紙7-1の自動騒音測定装置の設置位置図記載の「測定場所」欄の測定地点10か所(85W地域2か所,80W地域1か所,75W地域4か所,区域外3か所。以下「被告測定地点」又は単に「測定地点」といい,個別の測定地点については「測定地点①」などと表記する。
)における平成20年度から平成28年度までの測定

地点ごとのW値,1日当たりの時間帯別及び騒音レベル別の平均騒音発生回数の集計結果(乙A68の2,A69の1・2,A70の1・2)
に基づき,告示コンターの各W値の区域において,実際にはそれを下回るW値の騒音しか発生していない旨や,深夜(午後10時から午前0時まで)及び早朝(午前0時から午前7時まで)はほとんど航空機騒音が発生していない旨を主張する。
そこで,被告の援用する上記騒音測定結果について検討する。

a
被告は,上記10か所の被告測定地点における継続時間3秒以上の70dB以上の航空機の騒音発生回数をまとめているところ,本件請求対象期間に先立つ平成20年度(平成20年4月)から平成28年度までのW値の推移と平均騒音発生回数(4月から翌年3月までの発生回数を同期間の日数で除したもの)は別紙7-2のとおりである。
ただし,別紙7-2の「W値」に記載された数値は環境庁方式によるものであるため,これに3~5を加えた防衛施設庁方式による近似値をその欄外に追加記載した。また,平均騒音発生回数につき,被告は元データの小数点第2位を四捨五入した値を記載しているが,その結果が0となる場合は更に傾向を詳しく見るために下側に元データの
数値を併記した。
b
まず,防衛施設庁方式によるW値の推移をみるに,75W地域では概ね75Wかそれ以上となっていて顕著な乖離はなく,85W地域ではほとんどの年度で90Wを超えるかこれをわずかに下回る程度で平成15年度調査の時点よりも騒音が激化していることを窺わせる結果
となっている。これに対し,80W地域では,いずれの年度でも80Wを下回ってはいるものの,77台が多く最低でも75を上回っているため乖離が顕著とまではいえない。
c
次に,深夜(午後10時から午前0時まで)と早朝(午前0時から午前7時まで)の平均騒音発生回数の傾向を検討すると,85W地域(測定地点①,②)では,深夜は,測定地点①で平成26年度に0.
04回となっているのを唯一の例外として,いずれの年度でも0.1回を維持しており,基本的には変わっていない。早朝は,平成21年度をピークに若干減少傾向にあるものの,平成26年度以降も0.3回又は0.4回を維持している。また,80W地域(測定地点⑥)では,深夜は,平成20年度以降,ほぼ0.1回で少なくとも0.04回を維持しており,基本的には変わっていない。早朝は,平成21年度の0.6回をピークとして平成23年度までは若干減少傾向にあったが,
平成24年度以降は0.
2回から0.
3回の間を推移している。
そして,75W地域(測定地点⑤,⑧,⑨,⑩)では,深夜は,概ね
0.04回から0.1回の間を推移している。早朝は,平成21年度をピークとして若干減少したものの,平成24年度以降はいずれにおいても0.2回から0.3回の間を推移している。
これに対し,原告らは,測定地点①,⑤,⑥,⑩についての被告が公表している測定結果(甲A8の1~5,A56の1・2,A77の1~
3)を集計した結果を元に騒音の発生状況を主張するが,時間帯別の飛行回数等は原告らの主張立証からは把握できないため,被告提出の書証によることとする。また,原告らは,告示コンター内地域の騒音発生状況を示すものとして,上記測定結果のほか,昭島市,瑞穂町及び福生市の公表している騒音測定結果も提出するところ,別紙7-2の測定結果
では80W地域が瑞穂町の1か所しかなかったこと等を考慮し,これを補完する意味で,昭島市の測定結果(甲A6,A44,A54,A74)を検討する。
昭島市では,85W地域の昭島市拝島町の拝島第二小学校屋上(以下「拝島第二小地点」
という。及び80W地域の昭島市田中町の昭島市役


所庁舎屋上(以下「昭島市役所地点」という。
)において航空機騒音の自
動測定を行っている。測定方法は,平成25年3月までは70dB以上
の騒音が5秒以上継続したときに,同年4月以降は暗騒音+8dB以上の騒音が5秒以上継続したときに,騒音を測定するというものである。これらの測定結果に基づき平成21年度から平成28年度までのW値の推移及び1日当たりの平均騒音発生回数は,別紙7-3のとおりである。ただし,別紙7-3の「W値」に記載された数値は環境庁方式によるものであるため,これに3~5を足した防衛施設庁方式による近似値を併記した。
これによれば,防衛施設庁方式によるW値をみると,85W地域の拝島第二小地点ではどの年度も85W前後で一貫しており,平成27年度
は83~85Wであるものの,前年の平成26年度は本件請求対象期間では最高の87~89Wに達するなどしていて,騒音が減少傾向にあるとは到底いえない。また,80W地域の昭島市役所地点でも,概ね80Wを下回ってはいるが,平成26年度は78~80Wであるし,最低でも74~76Wにとどまっているのであるから,告示コンターとの乖離
が顕著であるとはいえない。
さらに,深夜,早朝の平均騒音発生回数をみても,拝島第二小地点では,
深夜は,
平成24年度の0.
03回を唯一の例外として一貫して0.
1回であり,早朝は,平成21年度をピークにして若干減少傾向にあるとはいえ,同じ85W地域である別紙7-2の測定地点①,②と同様に
平成24年度以降0.3回を維持しているし,平成28年度は平成24年度ないし平成27年度と比べて回数自体は増加し100回を上回っている。
また,昭島市役所地点では,深夜は0.04回の年度もあるが,概ね0.1回を維持しており,早朝は平成21年度をピークにして若干減少
傾向にあったが,
同じ80W地域である別紙7-2測定地点⑥と同様に,平成24年度以降は0.2回と0.3回との間を推移している。

以上によれば,W値の推移と夜間早朝の年間騒音発生回数のいずれをみても,告示コンターとの乖離が顕著であるとはいえないし,騒音が軽減される傾向にあるともいえない。80W地域については,瑞穂町の測定地点⑥も昭島市役所地点も一応80Wには達していないとはいえ,80Wを大きく下回るものではないし,わずか2か所の測定結果で,機種や飛行経路も調査されていないのであるから,平成15年度調査の妥当性を左右するものとはいえない。そもそも,被告が,真に実際の騒音の状況が告示コンターを不合理とするまでに変化して現状と乖離しているという認識を有しているのであれば,少なくとも平成15年度調査と同
程度の現地調査を改めて行ってこれに基づき新たなコンターを作成すべきである。そうすると,本件請求対象期間において平成15年度調査の結果と比較して航空機騒音が減少していると認めることはできず,被告の主張は採用できない。
他方,原告らは,平成15年度調査は,その調査期間や調査対象地域
等に照らし,横田飛行場周辺の航空機騒音の被害の実態を正確に把握するには不十分なものである旨を主張するとともに,指定区域外原告らの自宅屋外を測定地点とする騒音測定結果(甲B13の1~7,B18。以下
「指定区域外測定結果」
という。に基づき,

指定区域外においても,
告示コンター内地域と同程度の騒音発生状況が認められる旨を主張する。
しかしながら,原告らは,平成15年度調査が,横田飛行場周辺の航空機騒音の被害の実態を把握するには不十分であるとすることにつき,何ら具体的な理由を述べるものではない。
そして,
平成15年度調査は,
調査当時の航空機騒音の実態に合致したものといえることや,本件請求対象期間においても告示コンターを不合理とする程度にまで航空機騒音
の実態に変動があったとはいい難いことは,既に述べたとおりである。なお,原告らは,軍用飛行場である横田飛行場の特殊性から,1年を通
して測定しなければ被害の程度等が正確には判明し得ない旨を指摘するものの,前述のとおり,平成15年度調査では,平成15年4月1日から平成16年3月31日までの間,自動騒音測定装置による飛行回数調査が実施されている。したがって,平成15年度調査が不十分な調査であるとする原告の主張は採用できない。
また,原告らの提出する指定区域外測定結果をもって,指定区域外における騒音発生状況が告示コンター内地域と同様であると認めることはできない。その理由は次のとおりである。
そもそも,原告らの指摘する指定区域外で65dB以上の騒音が頻繁
に発生しているとの事実をもって,直ちに指定区域外において告示コンター内地域と同様の被害が発生していると評価し得るものとは考え難い。この点は措くとしても,指定区域外測定結果における測定地点はわずか3か所である上,各測定地点における測定期間は,①平成26年1月12日ないし同月25日
(原告番号21の原告)②平成25年2月19日


ないし同月28日,及び,平成30年2月4日ないし同月16日(同30の原告)
,③平成25年3月12日ないし同年5月9日,及び,平成27年1月5日ないし同年4月10日といずれも半年に満たない短期間であるし,測定を行った季節にも偏りがみられるが,同期間が測定期間として選ばれた理由は明らかではない。そのため,測定地点や測定期間の
点だけとってみても,指定区域外測定結果が平成15年度調査に匹敵する程度に騒音の発生状況を示す証拠であると評価することはできない。そして,環境庁の公表する「航空機騒音測定・評価マニュアル」
(乙A
182,182の2)には,環境基準の適用の対象とされる飛行場周辺の地域における航空機騒音の測定・評価の具体的手順として,騒音計の
マイクロホンの設置場所は,建物等からの反射の影響を無視できる程度に小さくするため,設置面(地面又は屋上の面)以外の反射物から原則
として3.5m以上離れた位置に設置する旨の記載があるところ,証拠(甲B13の1,B18)及び原告番号30,同80の原告本人の各供述から認められる同人らの自宅屋外における測定方法によれば,騒音計の設置場所は外壁からの距離が3.5m未満の場所であることが窺われる。また,上記マニュアルでは,遅い時間重み付け特性(Slow)に
設定する旨の記載があるものの,少なくとも原告番号30の原告の自宅屋外における平成30年2月4日ないし同月16日の測定や同80の原告の自宅屋外における平成27年1月5日ないし同年4月10日の測定では,速い時間重み付け特性(Fast)が選択されており,このように,環境庁のマニュアルに反する測定方法による測定結果の客観性には
疑問があるといわざるを得ない。なお,原告番号21の原告の自宅屋外における具体的な測定方法は何ら明らかにされていない。したがって,指定区域外測定結果に基づく原告らの上記主張を採用することはできない。
以上のとおりであるから,告示コンターは横田飛行場周辺の航空機騒
音を基本的に正確に反映しているものと認められ,平成15年度調査以降,被告あるいは原告らによって,同調査と同程度の規模,内容の騒音調査がなされた事実はなく,また,本件訴訟で提出された各種の測定結果に照らしても,平成15年度調査当時との乖離が顕著となっている事実は認められない。そうすると,本件請求対象期間においても,告示コ
ンターによる75W以上の地域においては,当該W値に照応する航空機騒音が発生していると認めるのが相当である。


地上騒音による侵害について

証拠(乙A86,A89,A90)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。
地上騒音とは,航空機の離着陸に伴い発生する上記⑴の航空機騒音と
区別されるものであって,飛行場内における航空機の運用や機体整備に伴い発生する騒音である。
地上騒音の例としては,①着陸機が接地後の制動のためエンジンを逆噴射するときに発するリバース音,②航空機が駐機場と滑走路を行き来する際に発するタクシーイング音,③駐機中の航空機に空気圧,油圧,電力などを供給するために航空機の尾部に装備された補助動力装置であるAPU(AuxiliaryPowerUnits)の稼働音,④整備に伴うエンジン試運転の音,⑤離陸前のエンジン調整音,⑥離陸直前の戦闘機エンジン最終点検によるランナップ音が挙げられる。

平成15年度調査における地上騒音の測定結果
夏季,秋季及び冬季の各7日間における3度の本調査で得られた各測定点におけるピーク騒音レベル及び継続時間のデータを,機種別,飛行方向別,飛行態様別にそれぞれ平均値を求めて整理した結果によれば,52の固定測定地点のうち,測定点14(87.1W)
,同20(83.

8W)
,同24(69.3W)
,同26(75.3W)
,同28(68.6
W)同31

(73.
1W)同32(79.2W)同35(75.9W)



同36(83.4W)
,同41(71.5W)
(乙A89・37頁以下で
「G」と記載された地点。なお,各地点のW値については同122頁参照)の計10地点において,地上音が確認された。

平成18年度環境省請負業務騒音評価手法及び規制手法等検討調査業務報告書
平成18年度環境省請負業務騒音評価手法及び規制手法等検討調査業務報告書(乙A90)は,社団法人日本騒音制御工学会が作成したものであり,我が国の騒音対策における評価量が整合されていないために住
民が実際に受けている騒音の総曝露量などを適切に評価できないとの問題意識から,諸外国の騒音に係る評価手法や規制手法の実態を調査する
とともに,音源ごとの評価・規制のあり方について技術的検討を行い,将来における騒音対策に関する技術的課題を検討する際の有用な資料を提供することを目的として,防衛施設を含む飛行場の飛行経路等のデータを参考に,運用状況につき典型的な条件を設定して推計によりW値への影響を検討して,検討委員会の審議によって取りまとめられたもので
ある。その地上音評価の必要性に関する検討結果は次のとおりである。地上騒音の全般的な特徴として,気象の影響を強く受け,騒音レベルが大きく変化すること,騒音の影響を受ける地域が限定された範囲に止まること,及び,音源の稼働状況に関する情報が十分に得られないことが挙げられる。そして

うち,APUの稼働音は暗騒

音との区別や測定が困難であり,整備に伴うエンジン試運転の音も多くは騒音低減対策を施した施設内で実施されているため周辺に大きな騒音を及ぼしている例は少ないとされている。また,タクシーイング音は誘導路に近い場所を除いて影響は小さく,離陸前のエンジン調整音も飛行音と比べるとレベルは低く,影響は小さい。これに対し,着陸後のリバ
ース音は滑走路側方で比較的大きな音として頻繁に観測され,従前の基準でも測定,評価の対象とされている。また,離陸直前のランナップ音は,エンジン出力や音源の指向性により向きごとに騒音の大きさが変わり,離陸音と同程度から-20dB程度の範囲で変化するところ,音は数秒から20秒程度継続する単発騒音であり,発生位置が滑走路端と明
確であるため,測定は可能であるし,推計・予測も可能である。もっとも,着陸後のリバース音は空港から離れた地域では寄与は少なく,離陸直前のランナップ音は滑走路側方1km地点でも騒音曝露評価値の上昇が0.1~0.4dBで影響は小さい。

検討
上記ア

によれば,平成15年度内の計21日間において,横田

飛行場周辺の地域のいくつかの地点において何らかの地上騒音が発生していたことが窺われるものの,その音源等は必ずしも明確であるとはいえず,その測定箇所や測定期間を踏まえても,平成15年度調査における地上騒音の測定結果は,平成21年頃から現在までの本件請求対象期間内に,告示コンターの各地域内においてどのような地上騒音が生じているかを
認定する客観的資料としては不十分なものといわざるを得ない。また,上検討結果によれば,防衛施設周辺において生じる地上騒音がW値
の算定に与える影響は小さいものと認められる。
これに対し,原告らは,航空機騒音とは別個の地上騒音による侵害が発生していると主張し,原告らの陳述書及び報告書(以下「陳述書等」とい
う。甲B2~B6,B10,B11。なお,枝番号の記載は特に必要がない限りは省略する。にも,

エンジン調整音を主とする地上騒音に言及する
ものがある。しかし,地上騒音について陳述する者は,被告の指摘するところ(平成30年1月25日付け準備書面(25)及び乙A194)によれば,陳述者全体(143名)の3割程度(44名)にとどまっている上,
地上騒音に言及しない原告の居住区域が共通しているものでもない。なお,本人尋問を実施した原告10名の陳述書だけみても,地上騒音に特に触れていない者が半数近くを占め(原告番号11,31,60,122の各原告)
,言及する者のうち2名(同61,133の各原告)は抽象的に地上騒音がある旨を陳述しているにとどまっている。

以上によれば,横田飛行場周辺の原告らの居住地域の全域又は一定のW値以上の地域において,航空機騒音とは別の侵害として評価すべき地上騒音による侵害があると認めることはできない。

航空機の排気ガス,振動による侵害について

排気ガスによる侵害について
原告らは,横田飛行場を離着陸する航空機(特に米軍機)が,健康に悪
影響を及ぼす汚染物質(一酸化炭素等)を含む排気ガスを原告らの居住地域にまき散らしており,原告らに相当程度の被害が生じている旨を主張し,原告らの陳述書等(甲B2~B6,B10,B11)の中には排気ガスの被害を訴える内容も一部見られる。
しかしながら,本件で,原告らは,横田飛行場を離着陸する航空機の排
気ガス中の汚染物質の量につき客観的資料による主張立証をしていないし,横田飛行場周辺における大気汚染の状況等を示す的確な証拠の提出もない。原告らは,横田飛行場周辺の大気汚染の状況を示すものとして,東京都の設置する一般環境大気測定局による窒素酸化物の速報値(甲A73)を提出するが,東京都が速報値として公表する図のみでは,横田飛行場周
辺の大気汚染が他の地域と比較して顕著であることや,これが航空機の排気ガスによるものであることは判然としない上,証拠(乙A168,A169)及び弁論の全趣旨によれば,福生市役所を始めとする横田飛行場周辺の自治体(福生市,八王子市,立川市,青梅市)の6か所の測定局の平成21年度ないし平成27年度の二酸化炭素や一酸化炭素の年平均値(乙
A168,A169)は,他の東京都内の測定局の年平均値と比べて格段に高い値を示しているわけではなく(なお,平成21年度の福生市役所における窒素酸化物の年平均値も,他の測定局の年平均値と特段変わるものではない。乙A169・1枚目)
,いずれも環境基準を達成していることが
認められる。

したがって,本件で,横田飛行場周辺の原告らの居住地域において横田飛行場を離着陸する航空機の排気ガスによる侵害が生じていると認めるに足りない。

振動による被害について
原告らは,横田飛行場周辺では,上空を飛行する航空機による空気の振動や,地上でのエンジンテストによる空気の振動によって,居宅内の家具
等が共鳴し,損壊する等の被害が発生しているなどと主張し,被告の指摘するところ(平成30年1月25日付け「準備書面(25)
」及び乙A19
4)によっても原告らの陳述書等(甲B2~B6,B10,B11)の通数,人数のいずれで見ても7割近くの者が振動について言及している。これに対し,被告は,航空機が30ないし40mまで接近する建物を除いて,航空機による振動(空気振動を通しての建物の振動)が何らかの被害につながることはほとんどないとの知見(乙A135・38頁)を前提として,昭和39年4月の日米合同委員会における「離着陸又は計器進入の場合を除き,横田飛行場隣接地域の上空における最低飛行高度は,ジェ
ット機については平均海面上2000フィートとし,ターボプロップ機及び在来機については平均海面上1500フィートとする。との合意」
(乙A
138)の内容からすれば,米軍機等が上記のような低空飛行することはあり得ない旨を主張し,横田飛行場周辺において,航空機による振動の被害が生じることを否定する。

この点,上記合意は離着陸及び計器進入の場合を除いていることや,前述したように,原告らのうち半数を超える者が航空機の飛行時における建物の振動を体感したことがある旨を陳述していることからすれば,被告の上記主張をもって直ちに振動による被害を否定することは相当でない。しかしながら,
振動の有無や程度については,
家屋の構造や建築・耐用年数,

窓ガラス・屋根瓦等の材質その他様々な要因による影響が考えられることを考慮すれば,原告らが陳述する振動や損傷の原因が専ら横田飛行場を離着陸する航空機であるとは認め難い。
そうすると,横田飛行場周辺で相当数の原告らが航空機の飛行時に建物の振動を経験していることは窺われるものの,その発生機序は現時点では
明確ではなく,上記⑴の航空機騒音とは別個の侵害として評価すべき振動による被害が横田飛行場周辺の原告らの居住地域の全域又は一定のW値
以上の地域に共通する侵害として発生しているとまでは認めるに足りない。


航空機の墜落及び落下物事故等による侵害について

航空機の墜落及び落下物事故について
証拠(甲A9,A32~A33の7)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。
昭和22年7月から昭和59年10月までの間,横田飛行場所属機及び東京周辺の航空機墜落事故が11件発生し,そのうち6件においては基地関係者以外にも身体的,財産的被害が生じている。また,昭和53
年4月から平成23年10月までの間に,5件の不時着事故,1件の発煙事故,1件のエンジンカバー紛失事故,10件の緊急着陸ないし予防着陸,1件の着陸事故が発生した。横田飛行場の常駐機であるUH-1Nは,平成16年8月から平成23年10月までの間に,9回,予防着陸ないし緊急着陸をしている。

さらに,昭和38年1月から平成20年7月までの間,1件の模擬爆弾落下事故,3件の曳航標的や訓練用砂袋の誤投下事故,8件の航空機部品やヘルメット,ペットボトルの落下事故,1件の部品紛失事故が発生し,そのうち平成11年5月の砂袋誤投下事故と平成13年9月の部品落下事故では周辺の民家や工場の屋根が損傷する被害が生じている。
そして,平成25年7月から平成26年3月の間には,部品紛失事故が3件発生している。
原告らは,人口過密都市に所在する横田飛行場周辺で,過去に以上のような航空機事故が発生したことから,原告ら周辺住民には,常時,航空機の墜落及び落下物事故による生命,身体及び財産の侵害の危険性が
あり,このこと自体が航空機騒音とは別個の侵害行為となる旨を主張する。

確かに,実際にこれまで上記の航空機事故が発生し,その中には周辺住民に現実に身体的,財産的被害が生じたものもあることに照らせば,原告らが横田飛行場に離着陸する航空機の事故の危険にさらされているとの不安や恐怖を感じていることは理解できるところであり,後述するように,このような不安感や恐怖感自体は航空機騒音に伴う原告らの心理的・情緒的被害の一環として考慮すべきである。
しかしながら,

横田飛行場に離着

陸する米軍機の墜落事故及び横田飛行場周辺における航空機の墜落事故は,昭和59年10月の事故以降は発生していないことや,明確に部品等の落下と認められる事故も平成20年7月の事故以降は発生していないこと,その他の事故の内容や発生頻度に照らせば,本件請求対象期間内において横田飛行場を離着陸する航空機につき墜落や落下物事故が発生する具体的な危険性があったものとはいい難く,このような危険性自体を侵害行為として認めることはできない。

原告らは,航空機事故の危険性について,横田飛行場に飛来し,同飛行場への配備も予定されているオスプレイの墜落事故等の危険性についても言及する。
この点,証拠(甲A71,C28~C30,C36の1~C38,乙A164,
A167)
及び弁論の全趣旨によれば,
平成26年7月以降,

普天間飛行場に配備されたMV-22オスプレイが横田飛行場にも時折飛来していること,平成27年5月17日,ハワイのオアフ島にあるベローズ海兵隊訓練場でMV-22オスプレイが着陸に失敗し,海兵隊員2名が死亡する事故が発生したこと,この他にも,平成3年6月から平成24年6月までの間に,MV-22オスプレイの墜落事故が5件発生
したことが認められる。しかし,上記各事故に関する分析評価の結果によれば,その主たる原因が人為的ミスであった可能性は否定できず,オ
スプレイの構造の欠陥に起因する事故と断定することができない上,防衛省が平成24年9月に公表したMV-22オスプレイのクラスAの事故率(10万飛行時間当りの事故件数)が1.93(飛行時間:10万3519時間,件数:2件)であって,他の米軍機と比較して高い数字ではないと認められる(乙A167)ことからすれば,オスプレイの飛
来が原告らの不安感,恐怖感を強めていることは理解できるものの,航空機事故の危険性に係る上記判断を左右する事情とまではいい難い。なお,平成30年4月には同年の夏頃にCV-22オスプレイを横田飛行場に配備する旨が発表されたものの,前述したとおり,当審口頭弁論が終結した時点で配備はなく,これによる航空機事故の危険性は,い
まだ抽象的なものであって,このことも航空機事故の危険性に係る上記判断を左右するものとはいえない。

燃料漏出事故等について
証拠(甲A37,C17)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認
められる。
横田飛行場では,平成11年9月から平成18年5月までの間に90件の燃料(有害物質)漏出事故が発生している。米軍関係者によって構成される環境事故調査委員会
(EnvironmentalIncid
entInvestigationBoard:EIIB)は,各燃
料漏出事故を,汚染除去に要する費用,POL(石油,油類,潤滑油)の放出量,環境や人間の健康への危険度等の観点から4つの部類に分けているところ,上記90件の事故のうち,平成15年に発生した事故が最も危険度の高い部類1(1万ガロンを超えるPOLの放出・環境に被害を及ぼし,公衆の健康や安全に深刻な脅威を与える報告量を超えた放
出)とされた。なお,部類2(1千~1万ガロンまでのPOL放出・環境を危険にさらし,公衆の健康や安全に脅威を与える報告量を超えた放
出)
とされたものは2件,部類3(1百~1千ガロンまでのPOL放出・公衆の健康や安全と環境とに被害も危険も及ぼさない報告量を超えた放出)とされたものは7件である。
そして,平成19年9月にも,約5600リットルのジェット燃料が漏出する事故が発生している。

の発生状況から,
原告ら周辺住民が今後も同様の事故が発生する不安を感じている上,燃料漏出事故の発生によって周辺環境が汚染されてきたとして,燃料漏出事故発生の危険がある横田飛行場の設置,運用自体が航空機騒音とは別個の侵害行為を構成する旨を主張する。

この点,共通損害といえるかどうかはともかくとして,航空機騒音から想起される燃料漏出事故発生に対する不安感や恐怖感を航空機騒音による心理的・情緒的被害の一環として考慮する余地はあり得るものといえる。しかし,上記認定によれば,約7年間で発生した燃料漏出事故の件数自体は90件に及ぶものの,比較的危険度の高い事故の発生件数は
10件にとどまることや,平成19年9月以降は特段の燃料漏出事故の発生が認められないことなどからすれば,燃料漏出事故の発生の点をもって,横田飛行場の設置,運用が原告らに対する具体的な危険性を伴う侵害行為になると認めることはできないというべきである。
なお,原告らは,横田飛行場所属の米兵による犯罪事件の発生等を理
由に,横田飛行場の設置や運用自体が侵害行為に当たるとの主張もするが,これについても,過去に米兵による犯罪事件があったというだけでは,横田飛行場の設置,運用自体が原告らに対する具体的な危険性を伴う侵害行為になると認めることはできない。


低周波音による侵害について

原告らは,平成27年9月実施の横田飛行場周辺における低周波音の測
定結果等を記載した本件低周波音測定報告書(甲A59)に基づき,横田飛行場に飛来する航空機から相当程度の低周波音が発生しており,航空機騒音とは別個の侵害を構成すると主張する。

環境庁大気保全局は,平成12年10月,低周波音による苦情に対応するため「低周波音の測定方法に関するマニュアル」
(乙A171。以下「環
境庁マニュアル」という。
)を公表しており,これによれば低周波音に関す
る知見は次のとおりである。
低周波音の意義等
一般に人が聴くことのできる音の周波数範囲は20Hzから20kH
zまでとされており,周波数20Hz以下の音波を超低周波音といい,100Hz以下の低周波数の可聴音と超低周波音を含む音波を低周波音という。
低周波音は多くの環境騒音に含まれているが,音圧レベルの高い低周波音は,不快感や圧迫感を与え(心理的・生理的影響)
,また,家屋の窓

や戸の揺れ,がたつきなどを生じさせる(物理的影響)ことが知られている。ジェット機のジェットエンジンやヘリコプターの回転翼は低周波音の問題を発生させる可能性がある。
現在のところ,低周波音に関する環境基準やガイドラインは存在しない。

A特性とG特性
うるささについての人間の感覚では,低周波数域及び高周波数域における感度は,500Hzから5000Hzまでの範囲における感度と比べて低下する傾向がある。そこで,航空機の騒音レベルの評価は,この特性を反映した周波数重み付けを施した音圧レベルで行われている。こ
の周波数補正特性をA特性といい,この周波数補正特性を反映した音圧レベルをA特性音圧レベルという。W値もA特性で補正した値が用いら
れている。
これに対して,1Hzから20Hzまでの超低周波音の人体感覚を評価するため,16Hz付近の周波数特性の重み付けを高くした周波数補正特性をG特性といい,この周波数補正特性を反映した音圧レベルをG特性音圧レベルという。
低周波音の測定方法
測定は,G特性音圧レベルを測定できる低周波音圧レベル計を用いるものとし,G特性を持たない低周波音圧レベル計を用いる場合には,実時間周波数分析器を用いて現場で周波数分析を行うか,平坦特性で低周
波音を録音し,持ち帰って再生し,実時間周波数分析器等を用いて周波数分析を行うものとされている。
低周波音の測定では風の影響を強く受ける。対象とする低周波音の音圧レベルが小さいほど,
また,
周波数が低いほど風の影響を受けやすい。
風雑音によるレベルの上昇は不規則かつ不安定で,風の強い場合には人
が測定器にはりついて風雑音と対象音とを逐次仕分けなければ,何を測っているか分からなくなり,大きな音圧レベルが発生したのは実は風によるものだったということになりかねないので特に注意が必要である。そのため,音圧レベル計にはできるだけレベルレコーダを併用して風雑音による影響をこまめにチェックし,録音に際しても風雑音の影響をこ
まめにアナウンスすることが望ましい。風が強いときは測定しない方が無難である。低周波音の測定時にはマイクロホンに騒音計用の防風スクリーン(通常,直径9cm)を付けるがあまり大きな効果は期待できない。低周波音の音圧レベルが80dB程度で草木や木の葉が風で揺れているときの測定は難しい。風が強く感じられる場合には,マイクロホン
を地上に寝かせても風の影響は十分には除けない。
また,音圧レベル計とレベルレコーダの動作特性は遅い時間重み付け
特性であるSlowを用いる。

環境省の「低周波音問題対応の手引書」について
環境省環境管理局大気生活環境室は,平成16年6月,地方公共団体における低周波音問題対応に役立ててもらう目的で,苦情申立ての受付から
解決に至る道筋における具体的な方法や配慮事項,技術的な解説等を記載した「低周波音問題対応の手引書」
(甲C48。以下「環境省手引書」とい
う。
)を公表した。もっとも,同手引書は,固定発生源から発生する低周波音苦情に適用するものであり,交通機関等の移動音源や発破・爆発等からの低周波音苦情には適用しないものとしている(同1頁)
。また,同手引書

は,建具等のがたつきや室内での不快感等が低周波音によるものかどうかを判断する目安となる値(参照値)を示しているが,これについては,低周波音についての環境アセスメントの環境保全目標値や作業環境のガイドラインなどとして策定したものではないとしている。さらに,心身に係る基準に関する参照値については,低周波音に関する感覚について個人差
が大きいことを考慮して大部分の被験者が許容できる音圧レベルを設定したものであり,ほとんどの苦情は室内で起こることから室内での測定値であるとしている。
環境省手引書は,低周波音の測定に際しては,測定項目を低周波音の1/3オクターブ周波数分析,
G特性音圧レベル,
騒音レベル,
振動レベル,

風向,風速として的確な測定計画を立案し,環境庁マニュアルを参考にして測定を実施することとしている。なお,測定の際の注意事項として,風が強い日に調査を行う場合には,風雑音が対象となる低周波音よりも大きくなってしまうことも考えられるため,その影響が小さくなる条件で測定する必要があるとしている。

また,低周波音問題対応のための「評価指針の解説」には,低周波音の測定方法に関し,①物的苦情に関する測定場所は,問題となる住居等の建
物から1~2m程度離れた位置としたこと,②測定量はG特性音圧レベル又は1/3オクターブバンド音圧レベルとすること,③測定を行う周波数範囲は,原則として,1/3オクターブバンド中心周波数1~80Hzとしたこと,④低周波音レベル計の聴感補正特性は周波数分析の場合は平坦特性に,G特性音圧レベルを求める場合はG特性(G特性の付いていない
低周波音レベル計では平坦特性も可)とすることの記載がある。
その上で,苦情については,第1に発生源と疑われる施設・設備機器等と苦情内容との間に対応関係があることを確認し,第2に低周波音の測定結果と環境省が評価指標として示す周波数毎の1/3オクターブバンド音圧レベルによる参照値(以下「参照値」という。中心派数40Hzを例
にとると,物的苦情については93dB,心身に係る苦情については57dB)とを照らし合わせた上で,測定値がいずれかの周波数で参照値以上であれば,低周波音による苦情の可能性が考えられるとしている。また,心身に係る苦情については,G特性音圧レベルが92dB以上の場合も20Hz以下の超低周波音による苦情の可能性が考えられるとしている。

本件低周波音測定報告書等について
本件低周波音測定報告書(甲A59)は,琉球大学工学部環境建設工学科准教授である渡嘉敷健が,
横田飛行場滑走路南端からほぼ南へ約1.
2kmの位置にある東京都立川市西砂町a-b-cの家屋(80W地域)
の2階屋上から1.2mの高さに騒音計マイクロホンを設置し,平成27年9月20日から同月26日の7日間にわたって,騒音及び低周波音の測定を実施した結果等を記載するものである。
上記測定に当たっては,
C特性(周波数補正がほぼ平坦な特性)が採用され,また,速い時間重み付け特性(Fast)が用いられている。上記測定期間中,データ解
析をすることができたのは,同月20日,同月23日ないし同月26日の5日間で,そのうち,①同月20日午後5時5分から午後5時10分
までの間,②同月23日午後4時45分から同日午後7時30分までの間,③同日午後4時48分から午後4時53分までの間,④同日午後5時15分から午後5時20分までの間,⑤同日午後5時28分から午後5時33分までの間,⑥同日午後5時40分から午後5時45分までの間,⑦同日午後5時40分から午後6時までの間,⑧同日午後6時から午後6時30分までの間,⑨同月24日午後6時10分から午後6時15分までの間,⑩同月25日午前10時10分から午前10時15分までの間,及び,⑪同月26日午後1時53分から午後1時58分までの間に,低周波音が観測されたとする。そして,原告らは,同期間の横田
飛行場周辺の上記測定地点を含む7か所のいずれかで航空機の目撃がされたとする「飛行記録作成報告書」
(甲A60。以下「本件飛行記録」と
いう。
)との照合の結果として,低周波音の発生時に飛来していたのは,C-5及びC-130であると主張する。
しかしながら,本件低周波音測定報告書は,1か所の測定地点におけ
る,平成27年9月中の5日間というごく短期間の測定・分析の結果を示すものにすぎないから,横田飛行場周辺の低周波音の発生状況の全体像を明らかにするものとはいえない。
また,環境庁マニュアルでは,低周波音レベル計の聴感補正特性はG特性若しくは平坦特性とするものとされているにもかかわらず,本件低
周波音測定報告書は,周波数補正特性についてC特性及びA特性が用いられており,このような環境庁マニュアルに反する測定方法による測定結果の客観性には疑問がある。この点,原告らは,本件低周波音測定報告書の中でも指摘されているように,C特性を採用したのは20Hz以下の風による影響を極力抑えるためであるから,環境庁マニュアルにあ
る測定方法による測定結果と比して不当に高い結果になるとは考え難い旨を主張するものの,C特性の場合には風の影響を考慮しなくてよい旨
を指摘する文献等,同主張を裏付ける的確な証拠はなく,原告らの主張を採用することはできない。
加えて,環境庁マニュアルは,低周波音の測定で最も注意すべきは風による影響であると随所で強調し,風が強い場合には人が測定器に張り付いて風雑音と対象音とを仕分ける必要があるとしており,環境省手引書も風速や風向を低周波音測定時の測定項目としているが,本件低周波音測定報告書では測定地点における風向,風速の記載がない。この点,原告らは,本件低周波音測定報告書の測定期間における風向,風速を示すものとして,府中市における平成27年9月20日,同月23日ない
し同月26日の気象データ(甲A61)を提出するが,府中市で測定された風向,風速が立川市西砂町にそのまま妥当するとは考え難く,本件低周波音測定報告書が,風雑音による影響をどの程度排除した測定結果を記載するものであるかは不明であるといわざるを得ない。
そして,本件飛行記録で本件低周波音測定報告書の測定地点(記録地
Z)において同報告書で低周波音が測定されたとする時間帯に符合して飛行機の飛来が目撃されたのは平成27年9月20日午後5時7分のC-5ギャラクシー程度であって,その余の時間帯についてはどの機種の低周波音を測定したものであるのか不明である。また,本件飛行記録によれば同月23日午後7時24分に上記測定地点でC-130の飛来が
目撃されているものの,
同時間帯に低周波音の観測がされていないなど,
本件飛行記録における目撃状況と本件低周波音測定報告書とは必ずしも一致するものとはいえないことからも,本件飛行記録をもって本件低周波音測定報告書において測定された低周波音の発生音源が特定されたものとは認め難い。

そうすると,本件低周波音測定報告書をもって,横田飛行場を離着陸する航空機等による低周波音の発生状況を認定することはできず,原告
らの一部の陳述書に低周波音に言及するものがあることを考慮しても,原告らの居住地の全域又は一部の地域において,横田飛行場が離着陸する航空機等から心理的・生理的影響や物的影響を及ぼす程度の低周波音が発せられていることを認めるに足りる証拠はない。
なお,原告らは,普天間平成22年控訴審判決や普天間平成28年一
審判決で低周波音による侵害ないし被害が認められたことを指摘するが,原告らの主張を見ると,これらの判決は,沖縄県等での複数地点での数年にまたがる時期を異にする低周波音の測定結果に基づき,常駐機の大半が低周波音を発生しやすいヘリコプターとプロペラ機であること等の事情を考慮した上で,周辺住民らが低周波音に日常的に曝露されている
ことを認めたものと窺われるのであって,前述したように,横田飛行場を離着陸する航空機等による低周波音の発生状況を示す的確な証拠はなく,普天間飛行場と横田飛行場では飛来する航空機の内容も異なるのであるから,上記判決の認定するところと同様の航空機等による低周波音の発生があるとして,原告らに低周波音による侵害ないし被害を認める
ことはできない。

以上によれば,横田飛行場周辺において航空機騒音とは別に低周波音による侵害が発生していると認めることはできない。


地域発展の障害,経済的被害について
原告らは,①南北に広がる横田飛行場によって道路や鉄道といった交通網が遮断され,周辺地域が有機的に結び付いて発展する機会が奪われている旨や,②航空機騒音等の被害発生のため,横田飛行場周辺の土地の価格が下落している旨などを主張し,このように地域発展の障害となり,経済的被害を生じさせる横田飛行場の存在(設置,運用)自体が,原告らに対する侵害行
為を構成する旨を主張する。
しかしながら,本件で,原告らの上記①及び②の主張を裏付けるような客
観的証拠の提出はなく,上記①の地域発展の障害となっている旨の主張については,これによって原告らに生じる具体的な被害に係る主張もない。そして,原告らの指摘するところ(平成26年9月11日付け「準備書面⑹」)に
よっても,原告らの中で,横田飛行場による地域発展の障害に係る陳述をする者は,わずか4名(甲B2の7,B4の7,B4の18,B4の21)で
あり,原告らの主張するような経済的被害を訴える者はいない。横田飛行場の存在が地域発展の障害になっているとか,これによって経済的被害が具体的に生じているとは認めるに足りず,原告らの主張は理由がない。3
被害の性質と内容について


共通損害論について(判断枠組み)
原告らは,横田飛行場の航空機騒音等によって原告ら全員が等しく被害を受けており,これについての最低限の賠償として,一律に慰謝料を請求すると主張する。これに対し,被告は,共通損害とは原告ら全員に共通して生じているものであると理解し,原告らはそのような共通損害を立証すべきであ
るなどと主張するので,この点について検討する。
この点,民事特別法2条は,あくまでも,個々の原告らがそれぞれに受けた被害につき,それぞれが固有の権利として損害賠償を請求することを認めているものと解されるから,本件損害賠償請求については,各原告につきそれぞれの被害の発生とその内容が確定されなければならないことは当然であ
る。
しかしながら,原告らの請求は,原告ら各自が受けた具体的被害(身体的被害,睡眠妨害,生活妨害,精神的被害等)の全部について賠償を求めるのではなく,それらの被害のうち原告ら全員が等しく被っていると認められる程度のものにつきその限度で各自が損害賠償を求める,という趣旨のものと
理解することができる。もとより,そのような被害であっても,原告ら各自の生活条件,身体的条件等の相違に応じてその内容・程度を異にし得るが,
そこには全員について同等にその存在が認められるものや,例えば生活妨害の被害の場合のように,被害を受けた日時や被害の態様及び程度等,その具体的内容において若干の差異はあっても,静穏な日常生活の享受が妨げられているという点では同様であって,これに伴う精神的苦痛の性質及び程度において差がないと認められるものも存在しうるのであるから,このような観
点から同一と認められる性質・程度の被害を原告ら全員に共通する損害としてとらえて,各自につき一律にその賠償を求めることも許されると考えられる。
ただし,横田飛行場の設置管理の違法性の判断については,その供用に伴う航空機の離着陸の際に生ずる騒音等が原告ら周辺住民にどのような種類,
性質,内容の被害をどの程度に生ぜしめているかが一つの重要な考慮要素をなすところ,この場合における被害の総体的な認定判断においては,原告ら全員に共通する被害のみならず,その一部の者にのみ生じている特別の被害も考慮の対象にすることができ,原告のうち特殊な生活条件,身体的条件を有する者について生ずる特別の被害も加えて総体的な評価判断をするのが相
当である。もっとも,このような被害は,前述した意味における共通損害に対する慰謝料算定の斟酌事由とはならない。
以上によれば,原告らの主張する個々の被害について全ての者に共通するといえるかどうかを一つ一つ検討し,全員に共通するとはいえないものを切り捨てようとする被告の主張は共通損害の意味内容について正解しないもの
である。被告は,各原告が現実にさらされた航空機騒音のうち全員に共通するもののみが共通損害になるとした上で,平日昼間の時間帯における騒音に基づく被害は全員に共通するものではないから共通損害にはなり得ないとして「昼間騒音控除後W値」を主張するが,同主張も以上の議論からして採用することができない。



騒音が心身に影響を与える一般的な可能性


沖縄県が平成11年に作成した航空機騒音による健康への影響に関する調査報告書(甲C5。沖縄県健康影響調査報告書)は,
「第1章

序論」に

おいて航空機騒音によって健康影響が発現する経路ないしその構造について,次のとおり説明しており,これによれば,騒音の人体への生理学的な影響の発現経路に関する研究結果を踏まえた一般論として,次のとおり
認めることができる。
騒音は,外耳道から鼓膜・耳小骨連鎖を経て内耳に入り,有毛細胞に傷害を与えることによって,聴力の低下を引き起こす。内耳の有毛細胞において神経インパルスに変換された騒音は,聴神経を経て大脳皮質の聴覚域に達して音感覚を成立させるとともに聴取妨害をもたらす。一方,網様体
を経て大脳の新皮質に到達した神経インパルスは,覚醒,睡眠妨害あるいは思考・精神作業妨害を起こす。また,視床下部を介して大脳旧皮質全体を刺激し,不快感,イライラ等の情緒妨害を起こし,さらに食欲・性欲等の本能欲を妨害するに至る。このような情緒妨害,日常生活妨害がアノイアンス(不快感)としてとらえられている反応の背景要因を構成するもの
である。
また,
これらの影響が一定の限度を超すと,
ストレス反応として,
視床下部と下垂体を介して甲状腺,副腎,生殖腺等の内分泌系に影響が現れる。さらに,視床下部からのインパルスは自律神経系を介して循環器系や消化器系に影響を及ぼすと考えられている。

したがって,航空機騒音は,これに対する曝露状況やその内容・程度によっては,原告らの身体又は精神に影響を及ぼす可能性があるものと認められる。


これに対して,被告は,航空機騒音が人の身体又は精神に直接的かつ深刻な影響を及ぼすことは一般的に否定されているとして,各種の国内外の
調査結果(乙A140~A151)を提出する。
しかしながら,被告が依拠する研究,調査の大半は,昭和40年代から
50年代の知見(乙A140~A145の2,A148,A151)であり,その後の新たな知見を基に作成された沖縄県健康影響調査報告書や後述のWHO環境騒音ガイドライン,欧州夜間騒音ガイドラインなどの原告らの依拠する証拠を排斥するものとはいえない。
そこで,以下では,原告らが提出する証拠(甲A29,C3,C5,C
9)と被告が提出する比較的近時の証拠とを個別的に検討し,横田飛行場の航空機騒音等によって原告らに共通の被害が生じていると認めることができるか及びこれが認められる場合の性質・程度につき検討する。⑶
睡眠妨害

認定事実
証拠(甲B2~B6,B10,B11,C3,C5,C9,原告番号11,31,36,60,61,122,133,142の各原告本人)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。
WHO環境騒音ガイドライン(甲C3)

平成11年に公表されたWHO環境騒音ガイドラインには,睡眠妨害に関する次のような記載がある。
睡眠妨害は,環境騒音の主要な影響の一つである。騒音によって睡眠中に一次影響が生じ,二次影響として騒音曝露を受けた次の日にも影響が生じる。騒音によって睡眠中に生じる一次影響として,入眠困難,覚
醒や睡眠深度の変化,血圧・心拍数・指先脈波振幅の上昇,血管収縮,呼吸の変化,
不整脈,
体重の増加などがある。
一次影響の反応確率には,
問題となっている騒音の騒音レベルよりも暗騒音とのレベル差が関与する。騒音によって覚醒する確率は,一晩あたりの騒音発生回数の増加とともに高くなる。翌朝やその後何日間かに現れる睡眠妨害の二次影響と
しては,
不眠感,
疲労感,
憂うつ,
作業能率の低下といったものがある。
快適な睡眠のためには,騒音が定常的な音ならば,夜間の屋内の暗騒
音のLAeqは30dB以下にとどめるべきであり,個々の発生音についても45dBを超えるような騒音は避けるべきである。
欧州夜間騒音ガイドライン(甲C9)
a
欧州夜間騒音ガイドライン策定の経緯
WHO欧州事務局は,平成15年,欧州委員会に対し,夜間騒音曝
露の制御と監視に関する将来的な法規制及び政策実施に関する科学的な助言を提供するため,専門家による作業部会を設置し,夜間騒音の健康影響に関する文献調査を行い,作業部会の中に設置された4つの専門家会議での討議を経てまとめた草案を平成18年から企業,各国政府,非政府組織などと共に検討した上で,平成21年10月,最終
報告書として欧州夜間騒音ガイドラインを提出した。
b
睡眠及び健康への影響に関する記載
欧州夜間騒音ガイドラインには,騒音の睡眠や健康への影響に関する次のような記載がある。

睡眠が生物学的に必要であり,睡眠の妨害は様々な健康問題に関連し,健康に悪影響を及ぼしている。睡眠中の騒音が心拍数の増大,脳幹の反応,睡眠深度の変化及び覚醒反応といった生物学的影響を与えることに関する十分な知見がある。夜間騒音曝露が自己申告による睡眠妨害,薬物使用の増加,体動の増加,
(環境要因による)不眠症の原

因になることを示す十分な知見がある。また,夜間騒音がホルモンレベルの変化や心臓血管系疾患,うつ,その他の精神的疾患といった臨床症状を引き起こすという限定的な知見がある。
なお,同ガイドラインにおける「十分な知見」とは,夜間騒音曝露との因果関係は既に確立されていることをいい,偶然の一致,バイア
ス,歪みなどが十分に排除されていると考えられる研究において,その関係を確認し得ること,騒音が健康影響をもたらす生物学的妥当性
も十分に確立されていることをいうものと定義されている。
他方,
「限
定的な知見」とは,騒音と健康影響の関連性は直接的には観測されていないが,因果関係を支持するに足る優れた知見があること,間接的な知見は豊富に存在し,それらは健康に悪影響を及ぼす生理学的変化の中間的影響と騒音曝露とを結びつけていることをいうものと定義さ
れている。
同ガイドラインは,以上の知見を基礎として,自己申告による睡眠妨害や,環境要因による不眠症,睡眠薬・鎮痛薬服用の増加などの健康に対する悪影響を防止するための夜間騒音のガイドライン値として,Lnight,outside40dBとすること及び種々の理由でこれを早期
に達成できない場合の暫定目標を同55dBとすることを提案している。
長田論文(甲C6の3)
医学書院の刊行する専門誌である「公衆衛生」において昭和46年に発表された論文であって,次のような記載がある。
騒音によって安静,
ことに睡眠が妨害されることは健康上重大である。
睡眠に対する影響はアンケートによる住民の訴えにももちろんみられるが,実験によると自覚する場合よりももっと低い騒音レベルで証明される。睡眠中の脳波や血液成分の変化からみると40dBで既に睡眠はか
なり浅くなる。この結果は道路交通騒音や工場騒音のように,比較的切れ目のない騒音を聞かせた実験で得られたが,さらに睡眠中30分に1回ずつ,2.5分の騒音を聞かせても連続騒音の場合と同程度の睡眠妨害がみられた。
沖縄県健康影響調査報告書(甲C5)

a
生活質・環境質の調査方法
沖縄県健康影響調査では,
生活質・環境質の調査のため,
全部で98

問の質問事項から成る調査票を,嘉手納飛行場周辺の75W以上の区域及び普天間飛行場周辺の区域(75W未満として指定はないが,騒音の影響を受けていると思われる区域(以下「75W未満区域」という。
)を含む。
)並びに対照地区として航空機騒音に曝露されていない
佐敷町,大里村及び南風原町に居住する合計7894名に配布し,5693名分の有効回答を得た。
b
「睡眠妨害」に関する調査結果
睡眠妨害の頻度に関する設問について「いつもある」「ときどきあ,
る」と回答した者の合計割合(反応率ともいう。
)は,嘉手納飛行場周
辺及び普天間飛行場周辺のいずれにおいても,指定区域のW値と相関
し,W値が高くなるほど高くなった(もっとも,75W区域及び80W区域においては,普天間飛行場周辺における反応率が嘉手納飛行場周辺における反応率よりも格段に高く,反応率が異なっている。。ま)
た,特定の航空機騒音による睡眠妨害(飛行機・ヘリコプターの音による睡眠妨害とエンジン調整音による睡眠妨害の2種類)についても
反応率を調査したところ,
いずれについても
「週に何回も妨害される」

「週1,2回妨害される」と回答した者の合計割合は,W値が高くなるほど高くなった。
c
「睡眠障害」に関する調査結果
睡眠障害に関しては,①床についたとき,寝つけなくて困ることがありますか,②夜中に目がさめて,その後寝つけなくて困ることがありますか,③朝早く目がさめてしまって困ることがありますか,④一晩じゅう十分に眠れなかった感じのすることがありますかという4つの質問事項を設け,
「週に3回以上ある」又は「週に1,2回ある」と

回答した項目数を
「睡眠障害:週1,
2回」
とし,週に3回以上ある」


「週に1,2回ある」「月に1,2回ある」のいずれかに回答した項,

目数を「睡眠障害:月1,2回」として,それぞれの尺度値とした。いずれも4つの設問に対する回答数(1問につき1点)に応じて,0点から4点までの値を取る尺度値であり(すなわち,上記4つの質問全てに「週に3回以上ある」と回答した場合には,
「睡眠障害:週1,
2回」の区分では尺度値4点とされる。,点数が高いほど睡眠障害の)
程度が高いと推定される。
以上を基に,
「睡眠障害:週1,2回」が尺度値4点であった者及び
「睡眠障害:月1,2回」が尺度値1点以上であった者の各割合を年齢性別の構成比が対照群と一致するように調整して算出したところ,・

全体として,睡眠障害と航空機騒音曝露との間に量反応関係が見られた。
他方で,対照群においても「睡眠障害:月1,2回」
(1点以上)が
57%と少なからぬ割合で軽度の睡眠障害が認められたため,
さらに,
W値の上昇が睡眠障害の反応率の増加をもたらしたといえるかどうか
判定する目的で,多重ロジスティック回帰分析(統計的な多変量解析の一手法で,ある事象が起こる確率を複数の要因から予測するための回帰式を導くことができ,各要因の影響の程度は後述のオッズ比として得られる。によって,

対照群に対する各W値群の睡眠障害のオッズ
比が求められた。なお,オッズ比とは疾病の発病リスクなどを比較す
るために一般に用いられる尺度であり,騒音曝露群での該当者の比率をP1,対照群での比率をP0とすると,
{(1-P0)/P0}}×{P
1
/(1-P1)}という数式で表される。両群に差がない場合,オッ
ズ比は1となり,曝露群での比率が高い場合は1以上の値となる。その結果,
嘉手納飛行場周辺では,
「睡眠障害:週1,
2回」
(4点)

「睡眠障害:月1,2回」
(1点以上)のいずれについても,航空機騒
音曝露量とオッズ比との間に著明な量反応関係が認められた。
他方で,

普天間飛行場周辺では,
「睡眠障害:月1,2回」
(1点以上)につい
ては量反応関係が有意に認められたが,
「睡眠障害:週1,2回」
(4
点)については,量反応関係は認められなかった(なお,この結果に関しては,普天間飛行場が嘉手納飛行場に比べて夜間の離着陸が少ないことを反映したものと解せられる旨の指摘がされている。。比較的)

重度な睡眠障害を示す「週1,2回」では,対照群との間に5%の有意水準で有意差が認められるのは85W以上の区域であるが,比較的軽度な睡眠障害である「月1,2回」では,75W以上の全ての曝露群において,対照群との間にオッズ比の有意差が認められた。他方,75W未満区域については,
「月1,2回」の睡眠障害の回答率に関し

てすら非曝露群との有意差があるとは窺われない。
横田飛行場調査報告書(甲A29)
東京公害研究所は,横田飛行場周辺の航空機による騒音公害の実態を明らかにするため,昭和43年から物理的な調査を開始し,横田飛行場周辺の騒音分布をほぼ把握した。
次いで,同研究所は,周辺住民が実際に受けている被害を明らかにするため,財団法人日本公衆衛生協会に委託し,昭和45年7月,横田飛行場周辺住民に対する質問調査を行い,住民反応の面から生活妨害の実態をとらえることとした。
この調査の方法及び結果につき,横田飛行場調査報告書には,次のよ
うな記載がある。
a
昭和44年度までの騒音測定調査より判明したNNI(NoiseandNumberIndex。航空機騒音被害の程度(音の大きさのみならず頻度をも考慮したもの)をあらわす指標)分布図を用い
て,横田飛行場周辺の地域のそれぞれNNI40台,50台,60以上の区域並びに対照群としてのNNI30台の区域(非騒音区域)を
調査対象とし,質問票に基づく調査員による面接調査を1000世帯で実施し(面接対象者は満20歳以上の在宅主婦)
,990世帯(NN
I40台の区域247世帯,NNI50台の区域348世帯,NNI60以上の区域246世帯,非騒音区域149世帯)の回答を得た。b
本調査は騒音公害の実態を正しく把握するため,調査題目を「生活環境調査」とし,調査対象住民の偏り(Bias)をできるだけ排除して実施した。質問票は,本調査の前に予備調査を行い,この結果を種々検討して作成した。質問内容は25項目(住宅の環境条件,住宅周囲の環境状況,騒音による生活妨害の内容・程度・その騒音源,騒音の身体的情緒的影響,
乳幼児に対する騒音の影響,
騒音の発生状況)


自由意見記入欄,フェース・シート13項目で構成されている。フェース・シートには,年齢,職業,家族,居住年数,住宅の形式・構造等を含んでいる。
c
航空機による日常生活の妨害として,①昼寝(別に気にならない,突然目を覚ます,昼寝をしたくてもできない,非常にじゃまになる)と②夜の睡眠(別に気にならず眠れる,特に寝つきが悪い,夜中に目が覚める,朝早く目が覚める,非常にじゃまになる)の質問項目を設けてその具体的な影響を聞き,NNI別に被害率(各NNI地区の全被調査者数に対する該当者の割合)を集計するとともに,その影響の
程度を相互に比較できるように「じゃまの程度」を5段階評価(じゃまにならない,少しはじゃまになる,ふつう,かなりじゃまになる,非常にじゃまになる)で評価させ,各評価を0から4までの仮評点に置き換えて,集団ごとの平均値を算出した。
その結果,昼寝の支障を訴えた者の割合は,NNI40台の区域で
は40%弱,NNI50台の区域では65%,NNI60以上の区域では70%であり,NNIの増加に伴って被害率も高まることが認め
られた(なお,昼寝の妨害については,昼寝の習慣のない者を除いて被害率を計算したところ,該当者は全体の45%であった。。また,)
夜の睡眠妨害を訴えた者の割合は,NNI40台の区域では25%,NNI50台の区域及び60以上の区域ではいずれも40%であり,全体的に昼寝の妨害の訴えに比して少ない割合であったが,NNIの
増加に伴う被害率の増加がみられ,騒音で夜中に目を覚ます割合も,NNI40台の区域で14%,NNI50台の区域で34%,NNI60以上の区域で39%であり,NNIの増加に比例していた(158頁・図4)
。さらに,
「昼寝」と「夜の睡眠」の両項目とも,NNI
の増加に伴って
「じゃまの程度」
が増加していることが認められた
(1

60頁・163頁の図7⑤⑥)

原告らの供述及び陳述書
原告らの陳述書等(甲B2~B6,B10,B11)を見ると,その陳述状況に関して被告の指摘するところ
(平成30年1月25日付け
「準
備書面(25)
」及び乙A194)によっても,陳述者全体(143名)

の6.5割程度(94名)が,航空機騒音による睡眠妨害(寝付けない,起こされる,眠りが浅いなど)を訴えていることが認められる。また,本人尋問を実施した75W以上の区域内の原告8名(原告番号11,31,36,60,61,122,133,142の原告)全員が航空機騒音による睡眠妨害について陳述ないし供述している。


検討
WHO環境騒音ガイドラインは,屋内において睡眠障害が生じ始めるガイドライン値を単発の最大騒音レベルで45dBとしている(上記ア)
。また,欧州夜間騒音ガイドラインは,睡眠妨害や不眠症,睡眠薬・
鎮痛薬服用の増加などの健康に対する悪影響などを防止するためのガイドライン値をLnight,
(同
outside40dBとすることを提案している


。さらに,長田論文によれば,実験内容の詳細が明らかではなく,直ちにその結果を一般化することは困難であるものの,40dB以上の騒音により睡眠が浅く
そして,前記


で検討した別紙7-2及び7-3の75W以上

の地域内の被告測定地点並びに昭島市役所地点及び拝島第二小学校地点における平成21年度から平成28年度までの1日当たりの平均騒音発生回数をみると,深夜においては概ね10日間に1日程度(1日当たり0.1回)
,早朝においては概ね10日間に2ないし7日程度(1日当た
り0.2回~0.7回)の頻度で70dB以上の航空機騒音が発生し,
その頻度は,特に早朝の時間帯をみると,決して低いとはいい難いし,前記

のとおり実際には日によっては深夜から早朝にかけて断続

的に航空機騒音が発生することもある。
これに対し,被告は,住宅防音工事実施済みの住宅においては少なくとも20dBの防音効果が認められると主張するが,後述するように,そのような防音効果が生じるのは開口部の施錠を完全にしている場合に限られるし,仮にこれを前提としても,WHO環境騒音ガイドラインが制限すべきとするLAmax45dBを超えており,
睡眠の質に影響を与え
るレベルの騒音であると認められる。
以上のほか,経験則上も,一定以上の騒音にさらされることによって
睡眠が妨げられることは肯定することができること,沖縄県健康影響調査報告書及び横田飛行場調査報告書によれば睡眠妨害に関する訴えと航空機騒音曝露との間の量反応関係があることが統計学的に示されている)
,本件においても陳述書を提出しあるいは本人尋問
で供述した原告らの相当数が自身又はその家族において航空機騒音によ)を併せ考慮する

と,75W以上の地域に居住する原告らは,一定程度以上の睡眠妨害の
被害を等しく受けていると認めることができる。
これに対し,指定区域外に居住する原告(指定区域外原告)については,そもそもこれらの原告の居住地点における騒音の推移を示す継続的な測定結果は提出されておらず,これに関する明確な主張もされていない。また
区域と非曝露群との間で睡眠妨害の頻度につき有意差は認められていない。そして,指定区域外原告ら4名の陳述書をみても,原告番号22,同80の原告は,睡眠妨害には言及しておらず,同80の原告は,本人尋問においても,深夜や早朝に睡眠妨害を受けているかという原告ら訴
訟代理人からの問いに対し,午前6時ないし7時台に横田飛行場の飛行機に起こされたことがあるなどと供述するにとどまる(同原告本人37頁)ものであるし,経験則上も騒音曝露量が小さければ睡眠妨害の程度は小さいと考えられることをも考慮すれば,告示コンター内地域と同程度の睡眠妨害が生じているとまでは認めるに足りないといわざるを得な
い。
被告の反論について
a
被告は,WHO環境騒音ガイドラインは,WHO憲章1条の示す健康観に基づき,あえて高感受性群を念頭に置いて安全確保に万全を期すための参照値を示しているものであるから,航空機騒音と健康被害
との因果関係を検討する場合の尺度にはならないし,欧州夜間騒音ガイドラインも,同様に,夜間騒音と健康被害との因果関係の存否に係る判断基準等を示すものではない旨を主張し,これらのガイドラインは,横田飛行場の航空機騒音が周辺住民に与える健康被害を立証し得るものではないと主張する。

しかしながら,WHO環境騒音ガイドラインは,ストックホルム大学とカロリンスカ研究所が平成7年にWHOに提出した「環境騒音」
と題する報告資料を基に,特定の環境と重要な健康影響ごとに健康影響が生じ得る環境騒音のガイドライン値をまとめたものとして平成11年に発表されたものと認められ,その内容に不合理な点もみられないことをも踏まえれば,同ガイドラインにおけるガイドライン値や,その前提となる知見の記載は,基本的に信用できるものといえる。ま
た,欧州夜間騒音ガイドラインについても,その策定の経緯(上記アや内容,及び同ガイドラインがWHO環境騒音ガイドラインを
補足するものと位置付けられていると認められることからすれば,そのガイドライン値や,その前提となる知見の記載は,基本的に信用できるものといえる。そうすると,横田飛行場の航空機騒音による原告
らの被害を認定するに際し,WHO環境騒音ガイドライン及び欧州夜間騒音ガイドラインに記載のガイドライン値や知見を考慮すること自体は相当といえる。
b
被告は,沖縄県健康影響調査報告書は,①横田飛行場とは騒音の状況が異なる他の飛行場における,ある一定の時期についての調査結果にすぎない旨や,②自己申告によって得られたデータを重視する調査方法には問題がある旨を指摘し,同報告書も,横田飛行場の航空機騒音が周辺住民に与える健康被害を立証し得るものではないと主張する。しかし,同報告書は,防衛施設庁方式によるW値に従って指定等さ
れた区域と当該区域に居住する住民反応との関連性を調査したものであり,同様に防衛施設庁方式によるW値によって指定等された地域における騒音被害が問題となっている本件についても,一定程度参考にし得るところがあるといえる。また,睡眠妨害の有無などは,その被害の内容,
性質が複雑,
多岐,
微妙で,
外形的には容易に捕捉し難く,

騒音への被曝露者の主観的条件によっても差異が生じ得る反面,その主観的な受け止め方を抜きにしてはこれを正確に認識,把握すること
ができないものであるから,アンケート調査等に主観的要素が含まれているからといって,
証拠価値を直ちに否定することは相当でない
(大
阪空港最高裁判決参照)

また,被告は,横田飛行場調査報告書は,①各「被害」状況について調査対象者からの主観的な訴えをまとめたものにすぎないこと,②
同調査は,疫学調査として当然に必要とされる交絡因子の制御等はなされておらず,証拠価値は乏しいものであること,③同調査は,横田飛行場の騒音状況が質・量ともに増大していた時期において実施された調査結果であることを指摘し,同報告書も,横田飛行場の航空機騒音が周辺住民に与える健康被害を立証し得るものではないと主張する。
しかしながら,アンケート調査等に主観的要素が含まれていることをもって証拠価値を直ちに否定することが相当でないことは既に述べたとおりであるし,
同報告書も,
沖縄県健康影響調査報告書と同様に,
航空機騒音の被害の程度をあらわす指標であるNNI(なお,NNIとW値の関係については,乙A64・別紙資料「航空機騒音に係る環
境基準設定の基礎となる指針の根拠等について」3頁参照)40以上の各区域につき,騒音曝露量と当該区域に居住する住民反応との関連性を調査したものであって,仮に同調査当時と本件請求対象期間における横田飛行場周辺の騒音状況が質・量ともに異なるものであるとしても,騒音の程度と生活に対する影響との相関関係を把握するについ
て,一定程度参考し得るところがあるといえる。もっとも,同調査においては,そもそも調査対象者を「満20歳以上の在宅主婦」に限っていることからすると,交絡因子による制御が十分ではなく,沖縄県健康影響調査報告書等に比して証拠価値はやや劣るものと解される。c
被告は,①厚生労働省が公表した平成25年国民健康・栄養調査の概要(乙A156の2)によれば,6割以上の者が睡眠について何ら
かの問題を抱えていると認められたことや,②ファイザー株式会社が平成23年に行った不眠に関する意識調査でも,回答者の6割以上が過去1か月の睡眠の質に不満を有しているとの結果が得られたことなどを指摘し,原告らの中に睡眠の質について何らかの不都合を感じる者がいたとしても,これが航空機騒音に起因するものと即断すること
は誤りである旨を主張する。
しかしながら,上記①の厚生労働省の調査における睡眠の質の状況に関する質問は,
「睡眠全体の質に満足できなかった」とか「日中,眠
気を感じた」といった必ずしも睡眠障害に直結するとはいい切れない抽象的なものを含むものであった上,
「日中,眠気を感じた」と回答し

た者の割合が最も高かったというものであるから,上記①の調査結果をもって,沖縄県健康影響調査報告書等が認めた量反応関係が否定されることになるとはいえない。また,上記②のファイザー株式会社の調査についても,その規模や内容に照らし,上記判断を左右するものとはいい難い。



身体的被害・健康被害

身体的被害・健康被害としての検討の対象
原告らは,身体的被害・健康被害として,①聴覚障害(聴力の低下,耳鳴り)
,②身体の変調,③低出生体重児出生率の増加,④精神的疾患を主張
し,横田飛行場の航空機騒音等によってこれらの身体的被害ないし健康被害が原告らの共通損害として発生していると主張する。また,原告らは,以上に加え,⑤睡眠妨害に起因する各種健康被害についても独立した健康被害であるかのように主張するが,これについては,前述の睡眠妨害の被害として検討済みであるか,後記イ以下の個別の項目と実質的に重複する
ものである。
なお,原告らは,⑥会話了解度に対する影響,⑦認知作業や知的能力に
対する影響も,身体的被害ないし健康被害として主張するものの,これらは持続的な生理的影響や身体症状を伴うものではないから,後記⑸の生活妨害の一環として検討するのが相当である。さらに,原告らは,⑧乳幼児の問題行動も騒音による身体的被害ないし健康被害の一つであると主張するが,原告らは,騒音による乳幼児の生理的影響や身体症状について具
体的に指摘するものではないから,原告らの主張する乳幼児への影響を独立の身体的被害ないし健康被害として捉えることはできず,子どもに対する後記⑸及び⑹の被害の発現として考慮するのが相当である。そこで,以下では,上記①ないし④について順次検討する。イ
聴覚障害
認定事実
証拠(甲B2~6,B10,B11,C3,C5,C9,乙A150,原告番号36,67の各原告本人)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。

a
WHO環境騒音ガイドライン(甲C3)
騒音による健康影響について記述する部分において,騒音性聴力障害は,世界で最も広汎に見られる回復不能な職業病であり,世界全体で1億2000万人が聴取困難の障害を有していると推計されること,職業性の曝露による聴力障害の程度は,LAeq,8h,曝露年数,個人の
受傷性などに左右されること,LAeq,8hが75dB以下であれば,職業曝露が長期にわたっても聴力障害は生じないと期待されること,環境騒音や娯楽に関わる騒音のLAeq,24hが70dB以下であれば,たとえ生涯にわたって曝露されても大多数の人には聴力障害は生じないと期待されることが記載されている。

また,ガイドライン値を示す部分では,ISO1999が,LAeq,24h

が70dB以下であれば,長期的な曝露であっても,聴力障害に

は至らないことを示していること,聴力保護の観点からすれば,衝撃音のピーク音圧は,成人に対して140dB,小児に対して120dB以下にとどめることが絶対的に必要であることが述べられた上で,ガイドライン値として,工業地域,商業地域,道路沿道における聴力障害については,LAeq,24hで70dB,LAmaxで110dBの各数
値が示されている。
b
沖縄県健康影響調査報告書(甲C5)
沖縄県健康調査報告書には,
航空機騒音に起因する聴力損失に関し,
次のような記載がある。

航空機騒音が騒音性聴力損失を発生させているかという問題については従来から肯定するものと否定するものとがあり議論されていたが,近年これを肯定する調査結果が台湾の研究者から相次いで報告されている。空港・基地周辺において住民に騒音性難聴が生じるか否かは,その騒音曝露量によるが,仮に激甚な騒音曝露があったとしても,航
空機騒音に起因する聴力損失者を見出すことができるかどうかの問題がある。
平成3年に北谷町において実施されたアンケート調査において「耳の聞こえが悪い」とする者の割合が95W以上の区域において対照群に比べて有意に高かったこと,及び,過去の資料を用いてベトナム戦
争当時の騒音曝露量を推定してW値が105程度,LAeq,24hが85dB程度であると推定される地区について,聴力損失が生じている可能性があると推察し,聴力検診を実施した。
対象は,嘉手納飛行場周辺の北谷町砂辺区(85W以上100W未満の地区)と嘉手納町屋良(90W以上95W未満の地区)に居住す
る25歳から69歳までの男女2035名であり,二次にわたる検診の成績を総合的に評価した結果,航空機騒音への曝露が原因と濃厚に
疑われる聴力損失者を12名(北谷町砂辺区で10名,嘉手納町屋良で2名)確認した。
c
運輸省等の空港周辺住民健康調査(乙A150)
運輸省航空局及び財団法人空港環境整備協会は,空港周辺地域において平成10年に実施した巡回健康診断の結果と航空機騒音の関連性
を検討し,住民における健康状態を把握するための基礎資料を作成する目的で調査を実施し,平成12年3月に同調査の結果を公表した。同調査は,後述するように,血圧等への影響に関するものであるが,その結果報告書の冒頭部分には,聴覚影響については長年に渡る研究「
成果の蓄積があり,空港周辺住民に騒音性難聴がみられることはまず
ないとの結論が得られている」との記載がある。
d
原告らの供述及び陳述書
原告番号36の原告は耳鳴りを訴えるがその原因は不明であると供述しており(同原告本人3頁)
,同67の原告も耳が聞こえづらく,会

社の健康診断における聴力検査では要検査という検査結果が出ているなどと訴えるものの,医師からその原因は一概には言えない旨を説明された旨を供述している(同原告本人14頁,15頁)
。その他,陳述
書等で聴力低下や耳鳴りを訴える原告が散見されるが,これらの症状が横田飛行場を離着陸する航空機の発する騒音によることを個別に認
めるに足りる診断書その他の証拠の提出はない。
検討
WHO環境騒音ガイドラインは,工業地域,商業地域,道路沿道(屋内,屋外)の環境条件に対する聴力障害が生じ始めるガイドライン値につき,LAeq,24hで70dB,LAmaxを110dBと定めるが,横田飛
行場周辺においてこのようなレベルの航空機騒音が発生してきたとの主張立証はない。

また,沖縄県健康影響調査報告書は,嘉手納飛行場周辺において騒音性難聴の可能性が濃厚な症例があったと指摘しているが,上記の診断自体が確定的なものでないことは同報告書も自認している上,過去のベトナム戦争の時期に105W程度の激しい騒音にさらされたことが推測されるという特殊な条件下での可能性にとどまるものであって,これをも
って横田飛行場の航空機騒音によって一部の原告らが訴える聴力障害が発生していると認めることはできず,他にこれを認めるに足りる証拠はない。

らの訴える耳鳴りや難聴等の慢性的な聴力障害が横田飛行場を離着陸す
る航空機の騒音によるものであると認めるに足りる証拠はないといわざるを得ず,上記症状を航空機騒音による身体的被害と認めることはできないし,また,航空機騒音によって上記症状が出現する具体的な危険性があるとも認め難い。

身体の変調
認定事実
証拠(甲A29,B2~B6,B10,B11,C3,C5,C9,乙A150,A211)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。

a
WHO環境騒音ガイドライン(甲C3)
WHO環境騒音ガイドラインには,生理的機能に関する知見として次のような記載があるが,騒音の特異的影響を考慮した「指針値」の項目ではこれを考慮した特段の値は示されていない。
騒音職場に働く労働者,空港,工場,騒音の激しい道路近傍の住民
に対して,騒音が生理的機能に急性的・慢性的な影響を及ぼしている可能性がある。影響の大きさやそれが持続する時間は,一部,個人の
特性,生活習慣,環境条件などの影響を受ける。騒音は反射応答も引き起こす。特に,聞き慣れない音が突発的に発生した時に生じる。長期曝露によって,住民の中の高感受性群が高血圧や虚血性疾患などの永続的な影響を発現することになると考えられる。強大な工場騒音に5ないし30年曝露された労働者は血圧が上昇し,高血圧になる
リスクが高まると考えられる。心循環器系への影響は,LAeq,24hが65ないし70dBの航空機騒音・道路交通騒音の長期曝露地域においても明らかにされている。騒音と高血圧や心疾患の発症率との関連は必ずしも強いものではないが,高血圧よりも虚血性心疾患の方が騒音との関連がいくぶん強いとされている。

b
欧州夜間騒音ガイドライン(甲C9)
欧州夜間騒音ガイドラインは,上記⑶ア

bのとおり,夜間騒音が

ホルモンレベルの変化や心臓血管系疾患(高血圧,心筋梗塞等)等の臨床症状を引き起こすことについては,
「限定的な知見」
があるにとど
まるとする。他方,最新のメタ解析によれば,心筋梗塞のリスクの上昇がLday(昼間(午前7時から午後7時まで)の等価騒音レベル)に関連して上昇することには十分な知見があるものの,Lnight,outside

が比較的新しい曝露指標であり,心臓血管系疾患に関して夜間騒

音に着目した調査が少ないため,Lnight,outsideに関連する知見は限定的であるとしつつ,夜間の騒音曝露が日中の騒音曝露よりも心臓血管系に強く関連しているという仮説を支持する動物やヒトを対象とした研究の知見があり,この研究項目に関する疫学研究の必要性は高いとする。そして,騒音影響の閾値(影響が生じ始める値,もしくはそのレベル以上であれば影響が曝露レベルと関係する値と定義され
ている。
)の項目において「心臓血管系機能の変化」
(十分な知見が得
られている影響)や「
(ストレス)ホルモンレベルの変化」
(限定的な

知見が得られている影響)を掲げながらも,いずれも生物学的に妥当な因果の経路が構築されているものの,これを定めるには至っていないと注記して,特段の指針値を示していない。その一方で,
「健康保護
のための提言」
として,night,outsideが55dBを超えると夜間
L
騒音による心臓血管系への影響が公衆衛生上の重要な事項になるとも
記述する。
c
沖縄県健康影響調査報告書(甲C5)
沖縄県健康影響調査報告書の
「第7章

住民健康診断データ」
には,

次のような記載がある。
平成6年度及び平成7年度に嘉手納飛行場と普天間飛行場の周辺の
市町村で行われた老人保健法に基づく基本健康診査データを基に,W値と最高・最低血圧,赤血球・白血球数,及び尿酸濃度との関連を調査した。
最高・最低血圧
血圧は年齢や肥満度等による違いが大きく,特に年齢との関連が

顕著であることから,各年齢世代別に閾値(10代から70代までの各世代の10,25,50,75,90パーセンタイル値)を設け,各閾値を上回る比率についてW値との関連を分析した。その結果,多少の凹凸があるものの,顕著な量反応関係が認められた。


赤血球・白血球数
赤血球数及び白血球数は性別による違いが大きいことから,男女
別に閾値(10,25,50,75,90パーセンタイル値)を定め,各閾値を上回る比率についてW値との関連を分析した。その結果,赤血球数,白血球数ともにオッズ比とW値との間に顕著な関連は認められなかった。



尿酸濃度

尿酸濃度は性別による違いが顕著であることから,男女別に閾値
(10,25,50,75,90パーセンタイル値)を定め,各閾値を上回る比率とW値との関連を解析した。その結果,W値の上昇に伴って尿酸濃度が低下する顕著な量反応関係が得られた。
もっとも,
血清中の尿酸濃度と各種ストレスとの関連については,

ストレスによって尿酸濃度が上昇するという報告が多く,今回の分析結果はそれらの報告とは矛盾する。
d
横田飛行場調査報告書(甲A29)
横田飛行場調査報告書には,航空機騒音による身体的情緒的影響について,次のような記載がある。

航空機による身体面,情緒面の被害として考えられる16項目(耳鳴りがする,耳がいたい,頭痛がする,食欲がない,鳥肌が立つ,胃の調子が悪い,
疲れやすい,
胸がどきどきする,
気分がイライラする,
不愉快である,気分が滅入りうっとうしい,びっくりする,落着きがない,しゃくにさわる,頭にくる,注意の集中ができない)のうち,
該当するもの全てを指摘してもらい,NNI別に被害率を集計した。その結果,1個でも影響すると指摘した者の割合は,NNI40台の区域で30%,NNI50台の区域で60%,NNI60以上の区域で60%を少し超えていたが,その内容は,身体的影響よりも情緒的影響の方がはるかに多かった。身体的影響として指摘が多かったの
は,
「頭痛がする」「疲れやすい」「耳鳴りがする」「胸がどきどきす,


る」「胃の調子が悪い」との項目であり,情緒的影響として指摘が最,
も多かったのは,
「イライラする」「不愉快」「頭にくる」「しゃくに



さわる」との項目であった。
e
運輸省等の空港周辺住民健康調査(乙A150)
上記イ

運輸省航空局及び財団法人空港環境整備協会

は,平成12年3月に空港周辺住民の健康状態等に係る調査の結果を公表したところ,その内容として次のような記載がある。
平成元年から平成10年までの間に大阪国際空港及び福岡空港の周辺で実施された健康診断結果のデータを集計・集約して,航空機騒音による最高血圧,最低血圧並びに血圧判定及び心電図判定への長期影
響を検討した。当時の公共用飛行場周辺における航空機騒音による障害の防止等に関する法律8条の2,9条及び同施行令6条に定める第一種区域外,第一種区域(環境庁方式75W以上)
,第二種区域(同9
0W以上)のそれぞれの10年間の最高血圧,最低血圧の推移をみると,大阪,福岡の男女ともに10年間で増加や減少している傾向はな
く,ほぼ横ばいを示していた。一方,年度ごとに騒音対策区域間の最高血圧及び最低血圧を比較すると,福岡では男女ともに最高・最低血圧は第二種区域が他の2群に比べて低い傾向を示しているが,これは騒音対策区域3群の平均年齢がそのまま反映されたもので,航空機騒音によるものではないと判断した。さらに医師が下す心電図判定結果
の正常者率の推移も,ほぼ横ばいの推移を示していた。以上により航空機騒音による影響は確認できないものと判断した。
f
成田空港調査報告書(乙A211)
一般財団法人小林理学研究所は,成田国際空港株式会社の委託を受
けて,成田国際空港の周辺住民を対象とした健康影響調査を行い,平成27年4月に同調査結果の概要を公表したが,その内容として次のような記載がある。
調査は,平成26年7月1日から同年9月16日まで,調査対象区域(成田市等の騒音地区及び山武市内の対照地区)に居住する1万人
(騒音地区の約8000人,
対照地区の約2000人)
を対象として,
アンケート調査票を郵送で配布,回収する方法で実施した。

アンケート調査票のうち心身の健康に関するTHI
(TotalH
ealthIndex)
調査票の130問の回答結果から,
精神的影
響及び身体的影響に関わる12個の尺度と2つの総合尺度を算定するとともに,うつ病傾向・心身症傾向・神経系傾向・統合失調症傾向を表す尺度値を求め,さらに,それらの健康尺度値と騒音曝露量との関
連性を分析した。また,アンケートの回答結果から治療歴・通院歴のある病気・症状や血圧値(自己申告)の回答を抽出し,騒音曝露量との関連性を分析した。その結果,身体的影響と騒音曝露量との間に明確な関連性は認められず,また,
「高血圧症」「高脂血症」の治療歴・

通院歴や血圧と騒音曝露量との間にも明確な関連性は認められなかっ
た。
g
原告らの陳述書等
原告らの陳述書等(甲B2~B6,B10,B11)によれば,航空機騒音による被害として身体症状の出現を挙げる者は少なくなく,その訴える症状は,高血圧,頭痛,めまい,肩こり,疲労感,動悸・
不整脈,胃の不調,神経過敏など様々である。例えば,原告番号90の原告は,飛行機が頭上を通過するとめまいに襲われてドキドキしたり,体がこわばって肩こりになる旨を陳述し(甲B5の3)
,同64の
原告は,航空機騒音のため,めまい,疲労感,頭痛,目の痛みを感じるようになった旨を陳述している(甲B4の40)
。もっとも,同人ら

を含め,身体症状を訴える原告らについて,その症状が騒音によることを個別に認めるに足りる診断書その他の証拠の提出はない。
検討
a
原告らは,航空機騒音によって生じる交感神経への刺激や,脳下垂体からのホルモン分泌の変化が様々な身体症状を引き起こす旨を主張し,
原告らのうち少なくない者が高血圧や頭痛等の症状を訴えている。
しかしながら,航空機騒音によって疾病が発症し,又はこれを増悪させたといえるためには,医学的知見に基づき,その間の因果関係が存在することが認められる必要があるところ,本件で,原告らの訴える身体症状が航空機騒音によることを裏付ける診断書その他の証拠の提出はない。
また,
騒音と高血圧や心疾患の発症率との関連は必ずしも強いものではないとしており,欧州夜間騒音ガイドラインも,夜間騒音がホルモンバランスの変化や心臓血管系疾患(高血圧,心筋梗塞等)を引き起こすことについて「限定的な知見がある」としているにすぎないことから,
これらのガイドラインによって,騒音とホルモンレベルの変化や心臓血管系疾患,
高血圧等との因果関係が明確にされているとも認め難い。
そして,沖縄県健康影響調査報告書は,騒音曝露量と血圧や尿酸濃度との間に顕著な量反応関係が認められたとするものの



運輸省等の空港周辺住民調査は,長期にわたる診断結果を踏まえて騒音と血圧との関連性を否定し(同e)
,成田空港調査報告書も,血圧と
騒音曝露量との間に明確な関連性は認められなかったと結論付けている(同f)
。また,沖縄県健康調査報告書は,ストレスと尿酸濃度の関
係については,ストレスによって尿酸濃度が上昇するという報告が多く,W値の上昇に伴って尿酸濃度が低下するという同報告書における
分析結果はこれには矛盾するとしていること(同c⒞)や,成田空港調査報告書が身体的影響と騒音曝露量との間に明確な関連性は認められなかったとしていること(同f)からすれば,沖縄県健康影響調査報告書の指摘する結果のみをもって,騒音曝露量と血圧ないし尿酸濃度との間に関連性があるとは認め難い。

なお,横田飛行場調査報告書は,航空機騒音による身体的影響よりも情緒的影響を指摘する者がはるかに多かった旨を指摘するところで
以上によれば,原告らの主張する身体症状を航空機騒音による被害として認めることはできない。
b
もっとも,WHO環境騒音ガイドラインは,その具体的な態様を明らかにはしていないものの,強大な騒音にさらされ続けると生理的機
能に悪影響が生じ,高血圧や虚血性心疾患のリスクが高まると考えられるとの知見を示している上,欧州夜間騒音ガイドラインも,上記のとおり,限定的な知見があるとするにとどめながらも,予防的見地から,健康に対する悪影響の防止の趣旨も含めた暫定目標を示していることに照らせば,原告らが航空機騒音にさらされ続けることによって
健康を害することになるのではないかという不安を感じることには相応の根拠があるというべきである。そこで,後述のとおり,航空機騒音による心理的・情緒的被害の一環という限度において,このような不安感を共通の被害として認めるのが相当である。

低出生体重児出生率の増加
認定事実
沖縄県健康影響調査報告書(甲C5)の第8章には「低出生体重児出生率」として次のような記載がある。
一般に低出生体重は2500グラム未満の出生体重をいう。低出生体
重児は,身体の発育や学習能力等に関して,出生後長期にわたってリスクを負うことが報告されている。
沖縄県は,昭和49年から平成5年までの20年間の沖縄本島内の人口動態調査出生票35万7845件を利用して,市町村別の低出生体重児の出生率を調査した上で,嘉手納飛行場周辺の市町村に絞って騒音曝
露量との関連を調査,分析した。ただし,上記出生票の「住所地」の記載は市町村単位での分類になっており,防衛施設庁のW値のコンターを
利用して個々の出生地における騒音曝露量を定めることができないため,昭和52年の実測値に基づく地域区分から市町村ごとの平均曝露量を求め,①嘉手納町(平均88.0W)
,②北谷町(平均83.5W)
,③低
曝露群5市町村(平均75~77.8W)
,④対照群としてのその余の8
市町村(平均72.5~73.4W)の4群に分類して比較検討した。その結果,嘉手納町では対象群よりも低出生体重児の出生率が約1.3倍高く,北谷町は低曝露群5市町村と同程度の比率であるものの,その2群をまとめて嘉手納町及び対照群9市町村で比較すると,騒音曝露量が高くなるほど上昇するという関係がみられた。

ただし,低出生体重児の出生には,多くの因子が影響を及ぼすので,そのうち,性別,母親の年齢,出生順位,世帯の主な仕事,嫡出か否か,出生年,母親の年齢と出生順位の交互作用を調整して,騒音曝露と低出生体重児との関係を多重ロジスティック回帰分析によって解析した。その結果,対照群と北谷町との間でも有意な差が生じ,騒音曝露量と低出
生体重児の出生との間には顕著な量反応関係が得られた。
検討
沖縄県健康影響調査報告書は,沖縄本島内の人口動態調査出生票を基にして調査,分析した結果,騒音曝露量と低出生体重児の出生との間に顕著な量反応関係が得られたとしている。もっとも,上記の分析に際し
ては,
市町村ごとの平均曝露量を求めているところ,
同報告書によれば,
北谷町は実際には75W区域から95W区域まで5つの区域に分かれている一方,低曝露群5市町村の中にも80W区域や85W区域への居住者が相当数おり,さらには対照群の中にも75W区域を有する市町村が複数あることが認められるのであって
(甲C5の8-4頁の表8-2
「W

ECPNLで層化した飛行場周辺市町村の人口分布」,このように各市)
町村の中で複数の騒音曝露量が混在する状況を踏まえていない点で,前
提となるべき母親の騒音曝露量の設定に疑問があるといわざるを得ず,同報告書の分析結果をにわかに採用することはできない。
また,本件で提出された陳述書等(甲B2~B6,B10,B11)によれば,原告らの中に,航空機騒音による健康被害として低体重出生児の増加に対する影響等を訴える者はいない。

以上によれば,低出生体重児の出生率の増加を航空機騒音による被害として認めることはできないものというべきである。

精神的疾患
認定事実
証拠(甲A29,B2~B6,B10,B11,C3,C5,C9)
及び弁論の全趣旨によれば,次のような事実が認められる。
a
WHO環境騒音ガイドライン(甲C3)
WHO環境騒音ガイドラインには,精神的疾患に関し,環境騒音が精神的疾患を直接的に引き起こすとは考えられてはいない旨や,環境騒音の曝露とメンタルヘルスとの関連について明確な結論は得られて
いない旨の記載がある。
b
欧州夜間騒音ガイドライン(甲C9)
上記

のとおり,欧州夜間騒音ガイドラインは,夜間騒音が,

うつやその他の精神的疾患を引き起こすことについては,限定的な知「
見がある」とするにとどまる。

c
原告らの陳述書等
原告らの陳述書等(甲B2~B6,B10,B11)によれば,航空機騒音による被害として精神症状を訴える者がおり,例えば,原告番号144の原告は,横田飛行場周辺の現住所に引っ越した後,めま
いやイライラといった症状が出現し,自律神経失調症であると診断された旨を陳述し(甲B4の45)
,また,同148の原告は,神経衰弱

やノイローゼの症状を訴えるとともに,騒音のせいで些細なことですぐに腹を立てて攻撃的になる旨を陳述する
(甲B4の48)もっとも,

同人らも含めて,その訴える精神症状が騒音によるものであることを個別に認めるに足りる診断書その他の証拠の提出はない。
検討

本件で,原告らの訴える精神症状が航空機騒音によるものであることを裏付ける診断書等の証拠の提出はされていない。また,WHO環境騒音ガイドラインは,騒音とメンタルヘルスとの関係について明確な結論は得られていないとし,欧州夜間騒音ガイドラインも,夜間騒音が精神的疾患を引き起こすことについて「限定的な知見がある」とするにとど
めているため,これらのガイドラインが指摘する騒音と精神的疾患との関係に係る知見は,法的因果関係が認められる程度にまで確立したものとは認められない。そうすると,日常的に航空機騒音にさらされるようになってから精神症状が出現した旨を訴える原告がいることを踏まえても,これを航空機騒音による被害として認めることはできない。



日常生活の妨害

認定事実
証拠(甲A29,B2~B6,B10,B11,C3,C5,原告番号31,133の各原告本人)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認め
られる。
WHO環境騒音ガイドライン(甲C3)
WHO環境騒音ガイドラインでは,日常生活の妨害に関する知見として,下記aないしcの知見が示されている。
a
会話妨害について
会話了解度は騒音によって低下する。会話音の音響エネルギーは大部分が100Hz~6kHzの周波数領域に存在し,そのうち300
Hz~3kHzは会話の理解に最も重要な役割を果たしているところ,会話と同時に妨害音が発生するとマスキングされて会話の理解が困難となる。環境騒音は,ドアのベル,電話の呼出し音,その他の警告音や音楽といった日常生活を送る上で重要な役割を果たしている会話以外の音を妨害することもある。

大多数の人々は騒音による会話妨害を被りやすく,高感受性群に属する。最も感受性が高く影響を受けやすいのは高齢者や聴覚障害者である。
複雑な内容(学校での会話,外国語,電話の声)を聞くときには,聞き取ろうとする音声が50dBの場合,会話音と妨害音のレベルの
差が少なくとも15dBは必要である。50dBは男女を問わず話者が1m離れて日常会話をするときの平均的なレベルであるから,会話を正確に聞き取るためには,暗騒音を35dB以下にとどめるべきである。
b
作業,学習への影響について
主に労働者や小児に対して騒音が認知作業の成績に悪影響を及ぼし得ることが明らかにされている。騒音によって集中力が賦活され単純作業の能率を短期間上昇させることもあるが,複雑な作業の場合,認知作業の成績は大幅に低下する。読解力,集中力,問題を解く力,記
憶力などが,騒音によって特に影響を受ける認知能力である。騒音は集中を妨げる刺激にもなり,衝撃音は驚愕反応によって破壊的な影響を及ぼす可能性がある。騒音への曝露は,曝露終了後の成績にも悪影響が生じると考えられ,慢性的に航空機騒音に曝露されている空港周辺の学校の生徒は,詳細な読解力,難問に取り組む際の持続力,読解
試験の成績,学習意欲が標準よりも低い。騒音は作業中の障害やミスを増加させると考えられ,ある種の事故は作業能率の低下を示す指標
になり得る。
c
社会的行動について
環境騒音の影響は,社会的行動やその他の行動に対する妨害の程度を調査することによって評価することができる。休息,娯楽,テレビ
の視聴などに対する妨害が最も重要な影響と思われる。80dB以上の騒音が援助的な行動を減少させることや,大きな騒音が攻撃的な人の攻撃的行動を増加させることについてかなり整合性のある研究結果が得られている。慢性的に高レベルの騒音に曝露されている小児が無力感を抱くことも懸念されている。

沖縄県健康影響調査報告書(甲C5)
沖縄県健康影響調査報告書には,前記

の調査票に対する回答結

果として,次のような記載がある。
飛行機の音などによる,①会話妨害,②電話聴取妨害,③TV聴取妨害,④作業妨害,⑤思考妨害,⑥休息妨害の各設問(①会話のじゃまになる,②電話の話がききとりにくい,③テレビ,ラジオ,CDなどの音がききとりにくい,④仕事のじゃまになる,⑤読書や考えごとがさまたげられる)について,
「いつもある」「ときどきある」「たまにある」



「あまりない」「まったくない」の5段階の評定尺度で回答を求め,,
「い
つもある」と回答した人数の割合の合計を年齢,性別の構成比率を調整
の上,W値ごとに分析した。いずれについても,W値の増大とともに正反応率が上昇し,著明な量反応関係が認められ,特に,上記①ないし③のコミュニケーションに関する妨害の3項目は正反応率が最も高く,極めて明瞭な量反応関係が認められた。
これに対し,警告音聴取妨害(自動車の走行中又は道路の歩行中に警
笛が聞こえなくて危ない思いをしたかどうか)の設問への反応率は,85W以下の区域ではほとんど認められず,
「いつもある」と「ときどきあ

る」を合計しても約10%もしくはそれ以下にとどまっている。
横田飛行場調査報告書(甲A29)
横田飛行場調査報告書には,航空機による日常生活の妨害に係る調査結果として,次のような記載がある。
質問票の中に,航空機による日常生活の妨害として,①家族との会話
(普通の声で聞き取れる,自然に声が大きくなってくる,会話を中断する,非常にじゃまになる)
,②電話(普通の声で通じる,自然に声が大き
くなる,電話を中断する,非常にじゃまになる)
,③テレビ・ラジオ(小
さな音でも聞き取れる,普通の音なら聞き取れる,音を大にすれば聞き取れる,音を非常に大きくしても聞き取れない,画面がちらつく,非常にじゃまになる)④読書・思考

(読書・思考ともに差し支えない,
読書・
思考とも差し支える,頭を使うことは全て差し支える,非常にじゃまになる,
かなりじゃまになる)
との項目を設けてその具体的な影響を聞き,
NNI別に被害率を集計するとともに,その影響の程度を相互に比較で
きるように「じゃまの程度」を5段階評価で評価させ(その内容は,上記
と同じである。,
)各評価を0から4までの仮評点に置き換えて,

集団ごとの平均値を算出した。
その結果,①家族との会話の被害率は,NNI40台の区域で既に50%となり,NNI50台の区域では,会話を中断せざるを得ない者が70%になり,
NNI60以上の区域ではそれが90%に達した。
また,
②電話を中断すると訴える者は,NNI40台の区域で31%,NNI50台の区域で86%,NNI60以上の区域で96%であって,会話の被害率よりもさらに増加傾向が強くなっており,③テレビ・ラジオの被害率は,NNI40台の区域でも70%に達し,NNI50台,60
以上の区域では90%以上であった。④読書・思考は,上記①ないし③よりはやや被害率が低く,NNI40台の区域で40%,NNI50台
の区域で70%,NNI60台で80%であった。そして,上記①ないし④の各項目とも,NNIの増加に伴って「じゃまの程度」が増加していることが認められた(甲A29の160頁・図7①~④)。
原告らの供述及び陳述書
a
騒音による会話の中断及び電話,テレビ等の聴取妨害
原告らの大半が航空機騒音による会話・通話の中断や,テレビ・ラジオの聴取妨害を訴え,仕事や日常生活に支障が生じている旨を陳述ないし供述している。例えば,原告番号78の原告は,自宅の一部を事務所にして建築士の仕事をしており,仕事の関係者と電話で連絡を取ったり,事務所内で打合せをすることが多いが,航空機の騒音で電
話や打合せが一時中断してしまう旨を陳述している(甲B4の31)し,同43の原告は,フリーランスのライターという仕事柄,自宅でDVDを視聴することも多いが,航空機騒音によって妨害される旨を陳述している(甲B4の5)
。そして,同133の原告は,航空機騒音
によるテレビの聴取妨害の対策として,あらかじめ番組を録画してお
く旨や,視聴中に航空機騒音が発生した際には直ぐに録画を開始する旨を供述ないし陳述している(同原告本人6頁,甲B6の4)

b
職務作業,学習,趣味等の妨害
原告らの複数名が,航空機騒音による集中力の低下に伴う知的作業
の妨害や騒音そのものによる仕事,授業の中断による業務,学習への支障が生じている旨を陳述ないし供述している。
原告番号31の原告は,自宅で溶接機等の機械を使用して金属や木による造形をする仕事をしており,仕事中は機械の音に集中する必要があるため,航空機騒音によって機械の音がかき消されると仕事を中
断せざるを得ない旨を具体的に供述し(同本人調書2頁,11頁),フ
リーランスのライターとして自宅で仕事をする同43の原告も,執筆
や翻訳をしている間に飛行機が飛ぶと集中力が途切れてしまう旨を陳述している(甲B4の5)
。そのほか,同78の原告は,自宅での文献
調査が航空機騒音によって妨害される旨を陳述している(甲B4の31)
。また,同90の原告は,八王子市のA中学校に通っていた際,同校舎には防音対策がされていなかったため,飛行機が学校付近を通過
すると騒音で授業に集中できないことがあった旨や,自宅で勉強していても飛行機がうるさくて集中できない旨を陳述し
(甲B5の3)同

113の原告も,航空機騒音によって授業が中断されたり,重要なところで先生の説明が聞こえなくなったりするため,非常にストレスがたまった旨や,自宅でも静かに勉強することができなかった旨を陳述
している(甲B5の16)


検討
WHO環境騒音ガイドラインは,騒音による会話妨害に関しては住民の大多数が高感受性群に属し,特に高齢者や聴覚障害者は影響を受けや
すいとしてこれを重視し,騒音が集中力を妨げることや作業中のミスを増加させることを肯定し,休息,娯楽,テレビの視聴などに対する妨害をその重要な影響として挙げている(上記ア


。また,沖縄県健康影響

調査報告書によれば,電話聴取妨害,TV聴取妨害,作業妨害,思考妨害,休息妨害といった生活妨害に関する質問に対して著明な量反応関係ている

航空機騒音が生活妨害を生じさせているとの

結論は統計学の知見からも一応支持される。経験則に照らしても,航空機騒音に曝露されることによって,
音の聴取や集中力の維持を妨げられ,
それによって,会話,通話及びテレビ等の視聴など音を聞き取ることを必要とする作業や,仕事,学習,趣味等の意識の集中を要する作業が妨げられることは明らかである。また,原告らのうち少なくない者が,騒
音による会話や通話の中断,テレビの聴取妨害による業務への支障を具)騒音による授業の中断

や集中力の低下による学習への支障を陳述する者も複数いる(同b)。
以上に照らすと,横田飛行場の航空機騒音によって,その日常生活において,音の聴取(会話,テレビ,電話等)や意識の集中を要する作業(仕事,学習等)のような生活の質を高める行為を妨げられ,その日常生活が妨害されていること,その妨害の程度は,W値の大きさに応じて増大していることが認められ,このような生活妨害は原告らに共通する被害と認められる。

もっとも,以上で述べた航空機騒音による生活妨害は,75W以上の地域に居住する原告らにおいて共通損害と認められるべきものであって,指定区域外原告らについて直ちに同様の被害を認めることはできない。そもそも指定区域外原告らについては,各原告の居住地での騒音曝露量やこれに対するうるささの住民反応を個別的に認めるに足りる騒音の測
定結果やW値の算定に関する主張立証はないし,沖縄県健康影響調査報告書によっても,各生活妨害について「いつもある」と回答した者の割合は普天間飛行場周辺の75W未満区域では75W以上の区域に比べてごく低率にとどまっている上(甲C5・3-78頁)
,対照群との比較も
なく,経験則上も騒音曝露量が小さければ生活妨害の程度が小さくなる
と考えられることに照らせば,指定区域外原告らにある程度の生活妨害が生じることがあるとしても,その程度は75W以上の地域に居住する原告らに比べて小さいといわざるを得ないからである。
他方で,被告は,航空機騒音が原告らの主張するような生活妨害を生じさせる可能性は否定しないものの,沖縄県健康影響調査報告書等の各
種調査結果,原告らの陳述書等や供述では証明が不十分であると主張するが,睡眠障害について前述したのと同様に,被害の性質上,外形的に
は捕捉し難く,騒音への被曝露者の主観的な受け止め方を抜きにしては正確な認識,把握は困難であるから,被告の上記主張には理由がない。⑹

心理的・情緒的被害

認定事実
証拠(甲A29,甲B2~B6,B10,B11,C3,C5)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。
WHO環境騒音ガイドライン(甲C3)
WHO環境騒音ガイドラインは,

に加

えて,高速道路,空港,工場のような大きな騒音源の近くに保育所や学校を作るべきでないことは明らかであると指摘し,これらの知見を踏まえ,学校関係のガイドラインを授業中の室内はLAeq35dB,屋外の校庭は昼間の居住地域と同じLAeq55dBとすることを提言する。沖縄県健康影響調査報告書(甲C5)
沖縄県健康影響調査報告書には,

の調査票に対する回答結

果として,次のような記載がある。
航空機騒音による「被害感」の質問(あなたの生活は基地の騒音によってどの程度の被害をうけていますか。
)について,
「耐えがたい被害を
うけている」「非常に被害をうけている」「かなり被害をうけている」,


「少し被害をうけている」「被害をうけていない」の5段階の選択肢に,

よる回答を求めたところ,
「耐えがたい被害をうけている」及び「非常に
被害をうけている」と回答した者の合計割合は,嘉手納,普天間の両飛行場周辺ともに,W値の増大とともに上昇する傾向が著明であった。ただし,75W未満の地域においては,上記回答の合計割合は,5%程度にすぎず,同じ普天間飛行場周辺の75W地域や嘉手納飛行場周辺を含
む75W地域全体に比較して低率にとどまるものとうかがわれる(甲c5の3-9,77頁)


また,航空機騒音の「イライラ感」や「恐怖感」
(飛行機の音がこわい
と思う)に関する質問について,
「いつもある」「ときどきある」「あま


りない」「まったくない」の5段階の評定尺度で回答を求めたところ,,
「いつもある」及び「ときどきある」と回答した者の合計割合には,上記の「被害感」の質問と同様に,W値の増大に伴って上昇する傾向が見受けられた。
これに対し,
戦争への恐怖
(戦争を思い出して怖いと思う)
の設問については,同様の回答をした者の反応率は90W以上の群では高くなっているものの,全体的にみると低く,W値への連動傾向も明らかではないように見受けられる(同3-9頁,3-11頁)


さらに,
「飛行機の墜落の不安」や「飛行機からの落下物の不安」に関
する質問に対し,
「非常に感じる」「かなり感じる」「少し感じる」「あ



まり感じない」「まったく感じない」の5段階の選択肢による回答を求,
めたところ,
「非常に感じる」及び「かなり感じる」と回答した者の合計
割合にも,上記の「被害感」や「イライラ」感等に係る質問と同様の傾
向が見受けられる(同3-10頁の図3-10,3-70頁)

横田飛行場調査報告書(甲A29)
横田飛行場調査報告書には,航空機騒音による身体的情緒的影響として,

の記載があるほか,乳幼児への影響について,次のよ

うな記載がある。
乳幼児への影響については,
乳児
(誕生後24か月まで)
及び幼児
(誕
生後25~48か月)
のいる世帯に対し,
「昼寝をしていても途中で目を
覚まし泣き出す」「昼寝をしながら手足体を動かす」「遊びをやめる」,

等の各6項目の質問の中で該当するものを指摘してもらった。
その結果,乳児の反応のうち「昼寝をしながら,手足,体を動かす」,

「こういうことはない」については,NNI50,60以上の区域と対照区域の間に5%,1%の危険率で有意差が示されたが,NNI40の
区域と対照区域の間には有意差はなかった。また,幼児への影響については,
「寝付かない」以外の5項目につき,NNI40以上の区域と対照区域との間に有意差が認められ,
「耳へ手をもっていく」や「遊びをやめ
る」といった項目では,NNI40台の区域とNNI50,60以上の区域の間にも有意差があった。乳児と幼児を比較してみると,幼児の方が,外から観察される行動に関する限り,航空機騒音に対して,より敏感で,より多く影響を受けやすいと推測することができる。
原告らの供述及び陳述書
原告らの大半が,航空機騒音に対する何らかのイライラ感,不快感を
訴えている。例えば原告番号60の原告は,戦闘機の大きく響く音や,パタパタパタという音が長く続くヘリコプターの音を聞くと,非常に心の中でストレスになる旨を供述し
(同本人調書11頁以下)同4の原告

は,夜勤を終えて夜遅くに帰宅したときに,航空機の騒音が聞こえると本当に精神的に苦痛で気が狂いそうになる旨を陳述している(甲B2の
3)

また,多数の原告が航空機の墜落事故や航空機からの部品等の落下事故に対する恐怖感ないし不安感についても言及している。例えば,原告番号11の原告は,強風の中で機体を大きく傾けて旋回飛行している様子を見ると,墜落するのではないかという恐怖を感じる旨を陳述ないし
供述しているし(甲B2の8,同原告本人11頁)
,同61の原告も,ヘ
リコプター等が旋回訓練をしていると墜落の危険を感じ,ヘリコプターの音が聞こえると不安になる旨を陳述ないし供述している(甲B4の19,同原告本人12頁)

そして,
原告らの中には,
子どもへの悪影響を訴える者も少なくない。

原告番号61の原告は,同居の子である同63の原告が小さい頃,昼寝の時間に戦闘機などの音がすると,びっくりして目を覚まし,泣きなが
ら自分の元に寄ってくることが何度かあった旨を陳述ないし供述している(甲B4の19,同原告本人4頁,5頁)
。同24の原告は,同居の子
である同27の原告が小さい頃,自宅で騒音が聞こえると両手で耳をふさいでいたことがあった旨を陳述し(甲B3の1)
,同31の原告は,同
居の子である同33の原告が小さい頃,ジェット機の音に対して,特に
ひどい時は,パニックになり頭を抱えてくるくる回るという行動に出ることもあった旨を陳述する(甲B3の6の1)


検討
WHO環境騒音ガイドラインは,騒音は集中

力や持続力を妨げ攻撃的行動を増加させるといった知見を示しており,上記⑹ア

沖縄県健康影響調査報告書によれば,75W以上

の地域における被害感と騒音曝露量との間には顕著な量反応関係が認められ,騒音が被害感などの精神的苦痛を生じさせているという結論は統計学の知見からも一応支持される。そして,経験則に照らしても,航空機騒音そのもの,
又はこれによる会話,
電話,
テレビ視聴の妨害や趣味,
作業の中断といった各種の生活妨害によってイライラ感や不快感を覚えることは明らかといえるところ,現に,横田飛行場調査報告書には,航空機による情緒的影響として最も多く指摘されたのは,イライラする」「

「不愉快」「頭にくる」「しゃくにさわる」といった項目であったとす,


る記載があるし
(甲A29の160頁)原告らの大半も何らかのイライ

ラ感や不快感を訴えている。
また,航空機騒音から想起される墜落事故や落下物事故に対する不安感ないし恐怖感についても多数の原告らが言及しているところ,前記2や航空機からの落下

物の事故の発生履歴や内容に照らせば,そのような不安感,恐怖感にも相当な根拠があるといえるし,沖縄県健康影響調査報告書によれば,航
空機騒音の恐怖感や事故の不安感についても基本的にW値に応じて増加する傾向がみられるところである。
以上によれば,75W以上の地域に居住する原告らは,横田飛行場の航空機騒音によって,イライラ感その他の不快感や不安感,恐怖感等の精神的苦痛を感じており,このような心理的・情緒的被害は,原告らに共通する被害であると認められる。
そして,原告らは子どもへの影響についても主張するところ,WHO環境騒音ガイドラインが小児を高感受性群に位置付けていることからすると
(甲C3の6頁)成人である原告らに先に認定した生活妨害や上記,

のような心理的・情緒的被害が生じている以上,子どもにもこれと同様の被害が生じて成人以上の影響を受けていると推認できる。また,横田飛行場周辺報告書によれば,騒音曝露量と乳幼児の反応との間には一定供述ないし陳述す
る航空機騒音に対する子どもの反応等をも踏まえると,
子どもについて,

原告らの主張するような心理的・情緒的被害が生じていることが窺われる。
もっとも,このような子どもに対する悪影響は,違法性の判断の一要素として考慮するのが相当である。
これに対し,指定区域外原告らに関しては,騒音曝露量やこれに対す
る住民反応を示す的確な証拠がない上,普天間飛行場周辺の75W未満の区域における被害感の正反応率は低率にとどまり,恐怖感や事故の不安感については75W未満区域と対照群との比較は示されていないから,この間に有意な差があるとも認められない。経験則上も騒音曝露量が小さければ心理的・情緒的被害の程度も小さくなると考えられる。そうす
ると,指定区域外原告らに一定程度の心理的・情緒的被害が生じることがあるとしても,その程度は75W以上の地域に居住する原告らと比べ
ると小さいといわざるを得ず,指定区域外原告らの供述及び陳述書を考慮しても,75W地域と同等程度の損害が発生していると認めることはできない。

張をするものの,このような主張に理由がないことは既に述べたとおり
である。


その他の被害

交通事故の危険
原告らは,横田飛行場周辺は交通量が非常に多い住宅地であるところ,自動車の走行音やクラクションの音等が航空機騒音でかき消されること
などによって,交通事故が発生する危険が増大している旨を主張し,原告らの中には,航空機騒音に起因する交通事故の危険性について陳述する者がいる(甲B3の9の1,B4の33,B4の41,B5の1)

しかしながら,本件で,横田飛行場周辺における交通事故の発生頻度が他の地域と比較して特別に高いことを認めるに足りる証拠はないことに
加えて,前記

のとおり,沖縄県健康影響調査報告書においても85

W以下の曝露群では交通事故の危険を示す警告音聴取妨害への反応率は極めて低率にとどまっており,原告らの居住地域は85W以下の地域であることからすれば,原告らの主張するような交通事故の危険性やこれに対する不安感が原告らに共通する被害として認められるとはいえない。

排気ガス,振動による被害
排気ガスによる被害
原告らは,横田飛行場を離着陸する航空機は,原告らの居住地域に大量の排気ガスをまき散らし,周辺環境を破壊している旨を主張し,原告
らの中には,各陳述書において排気ガスによる被害を申告する者がいる(甲B2の10~2の12,2の16,B4の43,B5の5,B5の
21,B6の4,B10の2,B10の7)

しかしながら,前記2⑶アのとおり,横田飛行場を離着陸する航空機の排気ガスが原告らの主張するような被害を生じさせるものとは認められない。
振動による被害

原告らの中には,横田飛行場を離着陸する航空機騒音等により家屋等の振動を感じている者も少なくない
(甲B2の1~B2の3,
B2の8,
B2の9,B2の13,B2の14,B4の25,B4の28,B4の41~B4の47,
B4の49,
B4の50,
B4の52,
B4の53)

しかしながら,前記2⑶イで述べたように,本件で,航空機騒音とは
別個の侵害として振動が生じていることを認めるに足りる証拠はなく,原告らに共通する被害であると認めることもできない。

その他精神・心理への侵害
原告らは,上記被害のほか,①危険のない安心安全な環境の中で暮らす
平穏生活権としての人格権の侵害,②平和的生存権(憲法秩序)の否定,③攻撃目標とされる危険,及び,④戦争への恐怖も,原告らに共通する被害である旨を主張する。
しかし,上記①の被害の主張は,航空機の墜落及び落下物事故の発生等に対する不安感,恐怖感をいうものと解されるから,上記⑹の心理的・情
緒的被害として既に評価されているといえるし(なお,原告らは,横田飛行場所属の米兵による犯罪事件発生に対する不安感も併せて述べるが,これは,航空機騒音等に起因する被害を主張するものではなく,また,そのような事件発生の危険が原告らに対する侵害行為であるとは認められないことは,前記2⑷

上記②や③の被害の主

張は,横田飛行場の航空機騒音等による被害をいうものとは解し難い。また,原告らの中には,戦争を経験していることなどから,横田飛行場
の航空機騒音によって戦争への恐怖を感じるとする者(甲B4の2,B4の20)がいるものの,そのように供述する者はごく少数にとどまる上,沖縄県健康影響調査報告書でも,戦争への恐怖についてはイライラ感や恐怖感に比べて反応率が低く,W値との連動傾向も明確ではないことを考慮すると,原告らの主張する④戦争への恐怖が,上記⑹の心理的・情緒的被
害と独立した共通の被害として発生しているとは認められず,このような苦痛を感じる原告がいることは違法性の判断の一要素として考慮し得るにとどまるというべきである。
4
横田飛行場の公共性について


被告の主張の要旨
原告らが横田飛行場における航空機の運航に伴う騒音等を違法な権利侵害ないし法益侵害であると主張するのに対し,被告は,横田飛行場における米軍機等の運航には高度の公共性があるところ,違法性ないし受忍限度の判断に当たってはこの点が十分に検討されるべきであると主張する。そこで,横田飛行場の公共性や,本件における違法性,受忍限度の判断との関係につい
て,以下で検討する。


横田飛行場の公共性の有無と内容
前記第2部「前提となる事実」第1の1ないし4,証拠(乙A72~A84)及び弁論の全趣旨によれば,横田飛行場は,日米安保条約に基づき,我
が国の安全に寄与するとともに極東における国際の平和と安全の維持に寄与するという目的のため,米軍が使用するものとしてアメリカ合衆国に提供されている上,平成24年3月には我が国のミサイル防衛における統合任務部隊の指揮等を行う航空自衛隊航空総隊司令部も設置されていることが認められる。横田飛行場に駐留する米軍の主要部隊は,在日米軍司令部,アメリカ
合衆国第5空軍司令部,
アメリカ合衆国第5空軍第374空輸航空団である。
在日米軍司令部は,太平洋軍司令部の指揮下にある司令部であり,在日米軍
の全ての活動を維持調整しつつ,日米安保条約の目的を達成することを主たる任務とし,在日米陸軍司令部(座間)
,在日米海軍司令部(横須賀)
,第5
空軍司令部(横田)の各司令部の管理面の調整を行っている。また,横田飛行場は,米軍の輸送中枢基地でもあり,世界各地に展開している米軍の部隊及び基地に対する物資,
兵員の輸送に当たっている。
さらに,
横田飛行場は,

アメリカ合衆国第5空軍の指揮中枢基地であるとともに,アメリカ合衆国本土からアラスカを経て東南アジアに至る北太平洋空輸ルートの輸送中継基地であり,日本本土における唯一の空輸基地である。
このように,横田飛行場は我が国にある米軍の航空基地の中でも主要な役割を担っている。



公共性と違法性の有無(受忍限度)の判断
上記⑵の横田飛行場における米軍機等の運航の持つ公共性ないし公益上の必要性の内容と程度等をみると,横田飛行場は,自衛隊の飛行場としても,米軍が我が国において使用する飛行場としても,極めて重要な位置付けを与
えられており,
ここに離着陸する米軍機等の運航活動は,
我が国の安全にも,
極東における国際の平和と安全の維持にも資するものであって,国民全体の利益につながる公共性を有するといえる。
しかし,前述のとおり,米軍機等による横田飛行場の運航に伴う航空機騒音によって,原告らには,睡眠妨害,各種の生活妨害及び心理的・情緒的被
害が発生していると認められ,身体的被害ないし健康被害までは認め難いとしても,その被害の程度は原告らが当然に受忍しなければならないほど軽度であるとはいえない上,その被害を受ける地域は広範で多数の住民に被害が及んでいる。しかも,横田飛行場が存在することによって原告らを含む周辺住民が受ける利益は,国民全体が等しく享受する性格を有する上記公共的利
益の範囲にとどまるというべきであり,米軍機等の発する騒音によって被る被害の増大に必然的にその利益が伴うというような彼此相補の関係が成り立
っているとはいえない。つまり,上記公共的利益の実現は,原告らを含む周辺住民という限られた一部少数者の特別の犠牲の上でのみ可能となっているのであり,そこに看過することのできない不公平が存在するのである(厚木平成5年最高裁判決参照)

したがって,横田飛行場における米軍機等の運航活動は公共性を有するけ
れども,それによって横田飛行場の使用及び供用の違法性が否定されることにはならない。
5
被告の防音工事助成その他の周辺対策等による被害の防止又は軽減について⑴

被告の主張の要旨
被告は,横田飛行場の提供によってもたらされる公益の重大性と,横田飛
行場において米軍機等が運航されることによって影響を受ける住民の生活上の利益との調和を図るために,防音工事助成及びその他の周辺対策を実施しており,これらによって原告らの被害は相当程度に防止ないし軽減されているとして,原告らに一定の生活妨害等が発生しているとしても,受忍限度を超えるものとみることはできないと主張する。



防音工事助成について

認定事実
証拠(甲B2~B6,B10,B11,乙A53,A54,A110,A170,A171,A183,A213~A215,原告番号11,6
0,142の各原告本人)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。
防音工事の工事内容等
前記第2部「前提となる事実」第4の3⑵ウのとおり,被告の助成による防音工事は,防音工事仕方書(乙A53)に従って行われている。
標準的な工法は,80W以上の区域に所在する住宅について25dB以上の計画防音量を目標とする第Ⅰ工法と,75Wの区域に所在する住宅
について20dB以上の計画防音量を目標とする第Ⅱ工法とに分類され,各工法について,
木造系
(木造及び鉄骨造)
と鉄筋コンクリート造系
(鉄
筋コンクリート造及び補強コンクリートブロック造)の標準工法例を定めている。
鉄筋コンクリート造系の防音工事は,第Ⅰ工法と第Ⅱ工法で基本的に違いはなく,主として開口部に対する工事であり,窓等の外部開口部については,在来の建具を撤去し,アルミニウム合金製気密建具(5ミリガラス)を取り付け,内部開口部については,木製防音建具(防音フラッシュ戸,防音襖及び防音ガラス戸)を取り付けることとされている。
アルミニウム合金製気密建具は,枠と可動障子との間に気密材を使用して気密性を保持できる機能を有するものであり,
また,
木製防音建具は,
周囲に植毛ゴムパッキングを用いて気密性を保たせた建具である。木造系の防音工事は,開口部に対する鉄筋コンクリート造系と同様の工事に加え,壁及び天井に対しても改造を加えるものである。外壁に対
する工事は,例えば,第Ⅰ工法においては,在来仕上げを撤去の上,壁胴縁を格子に組み,その間に吸音材を充填し,その上に石膏ボードを打ち付け,さらに,その上に新規の仕上げ材等を張り直している。第Ⅱ工法においては,原則として在来仕上げのままであるが,著しく防音上,有害な亀裂,隙間等がある場合は,同一の仕上げ材等で補修する。天井
に対する工事は,
例えば,
第Ⅰ工法における最上階二重天井にあっては,
在来の天井を撤去し,野縁(天井の裏に入れる骨組みのこと)を新設して石膏ボードを打ち付け,更にその下部に同様に野縁を組み,これに吸音材を張り,更に化粧石膏ボードを打ち付けている。第Ⅱ工法においては,
外壁に対する工事と同様に,
原則として在来仕上げのままであるが,

防音上有害な亀裂,隙間等がある場合又は在来に天井がない場合は,有効な防音工事を施している。

木造系及び鉄筋コンクリート造系のいずれにおいても,屋根は在来のままとされている。また,計画防音量に達する防音効果を上げるためには,内外の開口部を完全に閉め切って室内を密閉することが必要であることから,居室の環境を保持するため,換気設備及び冷暖房設備を設置することとされている。
被告の助成を受けて住宅防音工事を実施した住居に居住する原告ら原告らの中にも被告から助成を受けて住宅防音工事を実施した住居に居住する者がいる。また,その原告らの中には,被告から助成を受けて防音工事を実施した住居をその後になって取り壊し,改築した住居に居
住する者もいる(原告番号13,14,65,66,79の各原告)。こ
れらの原告らについて,各工事の種別(第2部「前提となる事実」第4の4⑵)各工事の完了年月日及び各工事により防音工事が実施された室,
数,さらに,その取壊しによって防音の効果を有する居室が消滅した場合にはその時期につき,当事者間に争いがない場合にはそれにより,争
いがある場合は証拠(乙A170の1,A170の2,A226の1,A226の2,甲B2の10,B4の21,B4の32)及び弁論の全趣旨によって,別紙6防音工事一覧表に記載のとおり,認められる。住宅防音工事の助成に支出した費用の総額
被告は横田飛行場周辺地域の住宅の所有者等に対して昭和50年度か
ら住宅防音工事の助成を実施し,平成28年度までに,総額約1426億6797万8000円を支出した。
住宅防音工事の効果の検証結果
a
防衛施設庁は,平成13年10月から平成14年3月にかけて行った住宅防音事業に係る政策評価に伴い,過去に実施した防音量調査の
結果を整理したところ,第Ⅰ工法においては,14か所の飛行場周辺で118世帯,第Ⅱ工法においては,4か所の飛行場周辺で23世帯
の調査をそれぞれ実施したこと,第Ⅰ工法では,最低でも25.0dB,最高では44.0dBの遮音効果を認め,第Ⅱ工法では,最低でも20.0dB,最高では32.4dBの遮音効果を認めたことが確認された(乙A110の6頁,別紙10)

b
大阪防衛施設局が,小松飛行場周辺(80~85Wの区域及び85~90Wの区域)における住宅防音工事の効果測定のため,各区域の防音工事実施済みの住宅の屋外と屋内に騒音計を設置して,
航空機
(F
-15,T-4等)の騒音の各ピークレベル値を計測した結果,いずれの住宅においても,内外のレベル差の平均は30dBであった(乙A214)


c
北関東防衛局が,平成28年9月12日に,横田飛行場周辺の外郭防音工事実施済みの住宅(東京都昭島市上川原町a-b-c)で測定を実施した結果によれば,午前10時41分の航空機(C-130)の騒音について,屋外のピークレベル値が84.8dBであったのに対し,屋内における値は52.7dBであった。また,午前11時13
分の航空機(C-17)の騒音については,屋外における値が89.6dB,屋内における値が57.5dBであった(乙A215)

d
過去の横田飛行場の騒音訴訟における平成10年10月27日の検証期日での防音工事実施済みの住宅での被告側の測定結果によれば,午後2時56分の航空機(C-9)の騒音について,屋外のピークレ
ベル値が75dBであったのに対し,屋内における値は44dBであった(乙A54)

e
厚木飛行場の騒音訴訟における平成11年8月24日の検証結果によれば,午後4時2分の航空機(FA-18C)の騒音は,屋外では
96~98dBであったのに対し,防音工事を実施した部屋の屋内で窓を閉めた状態では73dBであった。ただし,同じ部屋の屋内で窓
を開けた状態で測定した午後3時49分に飛来したFA-18Cの騒音は,90dBであった(乙A213)

原告らの供述及び陳述書における評価
原告番号11,60,142の原告ら本人の各供述,原告らの陳述書等(甲B2~B6,B10,B11)によれば,住宅防音工事を実施した世帯の原告らの住宅防音工事に対する評価については,工事の種別を問わず,ほとんど遮音効果を感じられない,あるいは,全く遮音効果を感じないわけではないが不十分であるなどの消極的な評価がほとんどであると認められ,屋根の防音工事は行われないため家の真上で響く航空
機騒音に対する遮音効果はない,窓の開け閉めに相当の力を要する,換気が非常に悪くなる,窓を閉め切っていないと効果が出ないため夏季においては冷房機の使用が不可欠となり電気料金の負担が増えるなど,住宅防音工事の遮音効果の限界や同工事による様々な弊害についての指摘がされているところである。

具体的には,原告番号60の原告は,防音工事を実施している寝室と防音工事を実施していない他の居室で騒音の感じ方に変化はない旨を供述し(同原告本人11頁)
,同36の原告も,旋回訓練等で自宅の上空を
飛行しているときは大変うるさく感じる旨を供述している(同原告本人13頁)
。一方,同11の原告は,窓を閉め切った状態にすれば,少し音

が静かになったように感じた旨,防音工事について一定の効果を認める供述をしているものの,
常時窓を閉めて生活することは困難であるとか,
ガラス戸が重くて開けにくいなどの弊害を指摘しているし(同原告本人12頁,22頁,23頁)
,同142の原告も,家の中であれば若干の騒
音の軽減がある旨の供述をするが,窓を閉め切った閉鎖空間にいること
自体が非常に耐え難い旨を述べている
(同原告本人7頁,
8頁)さらに,

外郭防音工事を行った原告番号57及び同58の原告らも,飛行機の離
陸音に対する効果は全くない旨や,飛行機が真上を飛行するときの騒音は防音工事実施の前後でほとんど変わらない旨の陳述をしている(甲B4の15,B4の16)

防音工事の効果に対するその余の評価
a
厚木飛行場周辺において,防衛施設庁が平成13年3月から同年5月までに実施した
「厚木飛行場周辺住民意識調査」
(回答者数5136
名)では,
「防音効果が不足している」及び「防音効果が全くない」と
の回答が合計で約66%であった。その理由としては,
「テレビ・電話
等が聞き取りにくかったり,会話や睡眠が妨害されるなど,予想していたほど防音効果がなかった」「住宅全体を防音工事していない」な,

どが最も多かった(乙A110・6頁,別紙12)

b
また,神奈川県が平成12年7月から同年9月までにかけて実施した「厚木基地周辺生活環境調査」の結果では,
「防音工事の効果があま
りない」と「まったくない」との回答が合計で約53%であった(乙A110・6頁)


c
沖縄県健康影響調査報告書(甲C5)には,

aの生活

質・環境質調査の回答結果のうち,防音工事の効果及び満足度に関する回答について,次のような記載がある。
「防音効果はどの程度ですか」との質問に対し,
「十分にある」「か

なりある」「ある程度ある」「あまりない」「まったくない」の5段,


階尺度による回答を求めたところ,あまりない」「まったくない」「
又は
と回答した者の割合は,75W区域では19.0~20.6%であったが,W値の上昇とともに増大した。
嘉手納飛行場周辺の回答者につき防音工事の実施の有無で回答率に
変化があるかをみるに,自宅における基地騒音の「うるささ」につき「大変うるさい」と回答した者では防音工事実施群と非実施群でうる
ささ反応に関する量反応曲線にほとんど違いがなく,TV聴取妨害が「いつもある」又は「ときどきある」と回答した者についても同様であった。また,睡眠妨害に関する4つの設問のいずれかに「月1,2回」と回答した者のオッズ比にも著明な差はなく,95W以上の地域では,むしろ防音工事実施群のオッズ比が非実施群のそれより低い結
果となった。
これらの結果によれば,現行の防音工事は物理的には一定の効果をもたらしているものの,生活実態としては必ずしも居住者にとって生活環境の改善に十分には寄与していない。その理由としては,防音工事を行っても,窓を開けて生活をしている世帯が多いことのほか,遮
音量の問題が考えられる。1家屋の中で防音工事の対象となる居室数は限られているところ,防音工事を行った部屋の隣の部屋が防音工事の対象となっていなければ,その境界部分にある遮音性のドアのロックを励行しない限り所定の遮音量は得られないが,日々の生活の中でこのドアをいちいち閉めて,その上にロックをすることは非現実的で
ある。

検討
被告が助成の対象とする防音工事は防音工事仕方書に従って行われるも住宅に

つき防音工事仕方書に従わない工事がされたことを窺わせるような事情はないから,これらの工事は防音工事仕方書に従って行われたものと認め防音工事仕方書に従って防音工事を行っ
た場合は,内外の開口部を完全に閉め切って室内を密閉状態とする限り,計画防音量を達成する遮音効果があるものと認められるし,原告らの同工
事に対する評価に係る供述ないし陳述の中にも,一定程度の遮音効果は感じられる旨の意見がみられるところである。

そうすると,防音工事の効果に否定的な一部の原告らの陳述を勘案しても,被告の助成による防音工事が一定限度の遮音効果を有し,室内における航空機騒音の軽減に資することは否定し得ない。
もっとも,実際の工事の効果は個々の住宅のもともとの状態によって様々であると考えられるから,計画防音量が必ず達成するとは限らないし,計画防音量が達成されても,室内における航空機騒音が常に気にならない程度まで軽減するものとも認め難い。また,被告が助成の対象とする防音工事は,原則として85W以上の区域でしか行われない外郭防音工事を除いては,住宅全体にではなく,独立した厨房,玄関,廊下,浴室等を除い
た一部の居室にしか実施されないものであり,当該居室についても扉や窓を開けてしまえば遮音効果は著しく失われるところ,沖縄県健康影響調査報告書でも指摘されているように,日常生活において,防音工事実施部分の内部開口部の建具を逐一完全に閉め切ることは非常に頻雑であっておよそ実行し得るものではないし,密閉された部屋の中で人が一日中過ごす
ということもあり得ない。さらに,原告らの供述ないし陳述によっても,窓の開け閉めに力を要する,冷房機の使用による電気料金の負担が大きい,換気が非常に悪くなる,部屋を密閉することで閉塞感,圧迫感を感じるなど,住宅防音工事による弊害が少なくないことが認められる。
なお,被告は,①防音工事で設置した空調機器の電気代の負担軽減策と
して平成元年度から生活保護法に規定する被保護者に対し上記電気代の助成措置を行っている旨や,②平成15年度からは太陽光発電システム設置に係るモニタリング事業を行っている旨を主張するが,上記①は対象者が極めて限定されており,上記②も試行段階にあるものにすぎず,現時点での実績や実効性は乏しいから,いずれも考慮し得る事情とはいえない。
また,老朽化した防音建具の機能復旧工事等についても,現状を維持するために当然必要な措置にすぎず,特段考慮すべきものとはいえない。
以上のとおりであるから,被告の住宅防音工事に対する助成は,住宅防音工事が一定の遮音効果を有することから,室内における航空機騒音の軽減に資するものであり,防音工事を実施した周辺住民に対しては被害対策として有効なものといえるが,他方で,防音工事によっても日常生活における航空機騒音を防止するには不十分な面があり,また,防音工事には部
屋を密閉することに伴う負の効果もあるため,被害の防止対策としては限界がある。
そうすると,被告が周辺対策として住宅防音工事の助成をしていることをもって,原告らの騒音被害が受忍限度の範囲内であると認めることは相当でなく,住宅防音工事を実施した者に対する慰謝料算定の際の一事情と
して考慮するにとどめることとする(具体的な考慮の程度については後述する。。



その余の被害防止措置について

認定事実
証拠(乙A20~A23,A216~A222)及び弁論の全趣旨によれば,次のとおり認められる。
移転措置及び緑地帯整備事業
被告は,周辺整備法及び環境整備法に基づき,移転対象区域に居住等する住民がより好ましい環境に移転する場合,現に所在する建物等の移
転の補償等を行うとともに,その跡地等を買い上げて緑地帯その他緩衝地帯とし,地方公共団体が一定の用に供するときは無償で使用させることにより,周辺住民の生活環境の整備を図る措置を講じてきた。昭和39年度から平成28年度までに被告が横田飛行場に関してこれらの事業に支出した総額は,移転措置事業が約137億1013万6000円,
緑地帯等整備事業が約20億3530万5000円に及ぶ。その結果,平成28年度末時点で,昭島市においては広場,種苗育成施設,消防に
関する施設敷地等として約1万0549㎡,福生市においては広場,駐車場,花壇等として約3万1777㎡,立川市においては広場,消防に関する施設敷地として約2万8552㎡,瑞穂町においては広場として約2万9715㎡が無償で使用されるに至った。
学校,病院等及びその他の施設の防音工事の助成

被告は,横田飛行場周辺地域において,周辺整備法,環境整備法又は行政措置に基づき,平成28年度までに,学校等の防音工事の補助金として昭和29年度から総額約684億9814万7000円,学校等の防音工事関連設備の使用に要する費用の補助金として昭和48年度から総額約76億5500万円,病院等の防音工事の補助金として昭和34年度から総額約80億3671万5000円,公民館,図書館等の学習等供用施設や老人福祉センターといった民生安定施設の防音工事の補助金として昭和42年度から総額約230億2220万1000円を交付した。
その他の周辺対策

a
テレビ受信料の助成,騒音用電話機の設置
被告は,平成28年度までに横田飛行場の周辺において,航空機騒音が家屋内で伝播することによって生じる聴取障害(テレビの音声が聞き取りにくくなったり,音声が細切れに聞こえたりするなど)に対
する補償の趣旨で,昭和45年度以降はNHK,平成18年度以降は放送受信契約者(NHKとの間で受信についての契約を締結した者)に対する補助金の交付を行っており,昭和45年度から総額約149億4950万円を支出した。
また,被告は,地方公共団体その他の者が,音響による著しい電話
の通話障害を防止し,又は軽減することのできる騒音用送受話器を設置する事業を行う場合に,
同事業に対する補助金の交付を行っており,

昭和46年度から総額約4847万7000円を交付した。
b
障害防止工事の助成,民生安定施設の一般助成
被告は,自衛隊等の使用する施設の周辺において自衛隊等の行為によって生ずる障害を防止又は軽減するため,河川,道路等の改修工事(障害防止工事)につき補助金を交付している。昭和40年度から平
成28年度までに被告が横田飛行場に関して障害防止工事に支出した総額は約61億9343万円である。
また,被告は,民生安定施設の整備等の一般助成のための地方公共団体への補助金として昭和37年度から平成28年度までに総額約339億0892万7000円を交付した。

c
特定防衛施設周辺整備調整交付金の交付,農耕阻害補償
被告は,公共用の施設の整備又はその他の生活環境の改善若しくは開発の円滑な実施に寄与する事業のために,昭和50年度から平成28年度までに,横田飛行場周辺地域の福生市,立川市,武蔵村山市,昭島市,羽村市及び瑞穂町に対し,合計約362億2561万200
0円の特定防衛施設周辺整備調整交付金を交付した。
また,被告は,横田飛行場の南北進入表面又は転移表面下にあり,着陸帯の先端から一定の距離の区域において農業を営む者に対し,航空機の離着陸によって農耕被害を被ったとして補償を実施しており,昭和35年度から平成28年度までに総額約3億4061万5000
円を支出した。
d
基地交付金及び調整交付金の交付
被告は,交付に当たって条件又は使途についての制約等は一切付していない一般財源の補給金である基地交付金及び調整交付金の交付を
しており,昭和32年度から平成28年度までに,横田飛行場周辺地域の福生市,立川市,武蔵村山市,昭島市,羽村市及び瑞穂町に対し
て,総額約1232億7942万6000円の基地交付金ないし調整交付金を交付した。
音源対策等
前記第2部「前提となる事実」第1の3⑵のとおり,被告は,夜間着陸訓練に伴う騒音の軽減を図るため,平成元年度から,硫黄島に設置さ
れている飛行場において,夜間着陸訓練に必要な施設の整備に着手し,約166億8600円の予算を投じて,平成5年3月末に上記施設を完成させた。
また,前記第2部「前提となる事実」第1の6⑶のとおり,横田飛行場における米軍の航空機騒音の規制に関する平成5年日米合同委員会合
意により,午後10時から午前6時までの間の時間における飛行及び地上での活動は,米軍の運用上の必要性に鑑み緊要と認められるものに制限され,夜間飛行訓練は,在日米軍の任務の達成及び乗組員の練度維持のために必要とされる最小限に制限し,司令官は,夜間飛行活動をできるだけ早く完了するようすべての努力を払うことが合意された。


検討
前述したように,横田飛行場の使用によって国民全体が利益を受ける一方で,その使用に伴って発生する航空機騒音によって原告らを含む周辺住民は特別の犠牲を強いられるという不公平が存在するところ,上記
空機騒音による被害を軽減させるものではなく,また,同
害補償についても特定の損失に対する補償であって原告らが何らかの利益を受けるとはいえず,
上記の不公平を是正するものとはいえないから,
本件における違法性ないし受忍限度の判断に際してこれらを考慮することはできない。
他方,上記ア

うち上記農耕阻害補償以外の各周辺対策については,より良好な社会環境を原告らの居住する地域に提供するものであり,W値が前提とする,一定の地域を社会環境単位ととらえ,その社会環境単位に居住する住民の属性や生活パターンを超越して影響をもたらすという航空機騒音の特性にも照らせば,間接的とはいえ上記のような不公平に対する総体的な
補償の一環と位置付けることができ,違法性ないし受忍限度を判断するに当たっての考慮要素の一つとなり得るということはできる。
もっとも,もとよりこれらの周辺対策が直接に原告らの被っている航空機騒音そのものを軽減させるものではないから,これらの周辺対策をもって原告らの受ける損害が受忍限度の範囲内であるということはでき
ず,慰謝料算定に当たっての一要素として限られた範囲で考慮する余地があるにとどまるというべきである。
また

,前述したように依然として

深夜や早朝に少なくない航空機騒音が測定されているのであるから,航空機騒音による被害の軽減は限定的であって,これをもって違法性を消
滅させるものということはできない。
6
違法性の有無(受忍限度)の判断について


告示コンター内地域(75W以上の地域)に居住する原告らについて前記2及び3のとおり,横田飛行場を離着陸する航空機の騒音により,少
なくとも告示コンター内地域(防衛施設庁方式による75W以上の地域)に本件請求対象期間の一部において居住していた原告らは,その居住期間において,相当に大きな騒音に曝露されるという侵害を受け,これによる共通の被害として,睡眠妨害,会話の中断,電話・テレビ・ラジオの聴取困難,仕事,学習,趣味等の知的作業の妨害といった日常生活の妨害及び不快感,不
安感等による心理的精神的苦痛といった心理的情緒的被害を受けている。・

そして,
環境整備法,
同施行令及び同施行規則が,
自衛隊等の航空機の離陸,

着陸等の頻繁な実施により生ずる音響に起因する障害が特に著しいと認めて防衛大臣が指定する防衛施設の周辺の区域(第一種区域)に当該指定の際現に所在する住宅について,防衛工事の助成をすることを規定し,この第一種区域を画する基準を防衛施設庁方式で算出したW値で75Wとしていること(前記第2部「前提となる事実」第4の1)に照らすと,法令上も,75W以上の地域においては航空機騒音による上記のような被害の防止又は軽減をする必要があると判断されているものと認められる。
他方で,前記4のとおり横田飛行場における米軍機等の運航活動には公共性ないし公益上の必要性が認められるものの,その公共性は国民全体に帰属
するもので,むしろそのために原告らに特別の犠牲を強いるという不公平を生じさせているのであるから,これによって原告らの被害を正当化することはできない。
また,前記5のとおり,被告は,航空機騒音について住宅防音工事等の対策を講じているが,これらには限定的及び間接的な効果しかなく,環境基本
法上の努力義務を十分に果たしているものとはいい難い。加えて,前記第2部「前提となる事実」第6のとおり,横田飛行場の周辺住民は,横田飛行場を離着陸する航空機の騒音等による被害を受けているとして,昭和51年以降繰り返し損害賠償等を求めて被告を提訴し,裁判所によって75W以上の地域の居住者の騒音被害を認定して被告に慰謝料の支払を求める判断がされ
ているにもかかわらず,アメリカ合衆国又は被告は,より抜本的な被害防止策を講じておらず,
その被害を漫然と放置している状態であると評価し得る。
以上の事情を総合考慮すれば,告示コンター内地域に居住する原告らの被害は,社会生活上受忍すべき限度を超える違法な権利侵害ないし法益侵害であるというべきである。

なお,被告は,自ら陳述書を提出しない原告ら(原告番号6,16,33,38,41,42,62,63,141,91,97~99,101,10
2,104~106,120,121,123,124,128,136,152,153の原告ら)については,その被害の立証がなく,損害賠償請求は認められない旨を主張するが,同原告らについても,その同居の家族による陳述書や原告ら訴訟代理人作成の報告書をもって,それぞれの被害を基礎付けているものと認められ,原告らが本件において主張している共通損害
の内容に照らし,これらの証拠では被害の立証として不十分であるというべき理由は見当たらないから,被告の上記主張は採用し得ない。


指定区域外原告らについて

指定区域外原告らは,本件請求対象期間を通じて,告示コンター内地域に居住している原告らと同様の受忍限度を超える航空機騒音等による被
害を受けている旨を主張し,その根拠として,①告示コンター及びその基礎となった平成15年度調査では横田飛行場周辺の航空機騒音等による被害の実態を正確に把握することはできないところ,指定区域外原告らの自宅屋外を測定地点とする騒音測定結果(甲B13の1~7,B18)によれば,65dBを超える騒音の頻繁な発生や,80~90dBの騒音の
発生が認められたこと,及び,②航空機環境基準は,専ら住居の用に供されている地域
(類型Ⅰ)
における基準値を70W以下と定めているところ,
指定区域外原告らは,いずれも地域類型Ⅰに当たる地域に居住していることなどを指摘する。

しかし,前記2⑴ウのとおり,告示コンター及びその基礎となった平成15年度調査は,調査当時の航空機騒音の実態に合致したものといえるし,本件請求対象期間においても,告示コンターを不合理とする程度にまで騒音被害の程度に変動があったとは認められないから,平成15年度調査では,横田飛行場周辺の騒音被害の実態を正確に把握できないとする原告ら
の主張は採用できない。
そもそも,原告らは,横田飛行場の騒音等に日々曝露されることによっ
て原告らに生じる被害の総体を主張していると解され,航空機の運航が不定期,不規則であるという軍用飛行場の特徴をも考慮すれば,その認定には,原告ら各自の年単位での平均的,総体的な騒音曝露状況を認定できることが不可欠というべきである。この点,告示コンター内地域の原告らについては,前述したとおり,本件請求対象期間における騒音の実態が,こ
れと乖離する程度に激化又は緩和しているとは認められず,告示コンターが合理性を失っていない以上,75W,80W,85Wの各コンター線の範囲内では平均的,総体的に少なくとも各W値に相当する航空機騒音が発生していると認定することができる。これに対し,指定区域外原告らについては,このような認定をすべき根拠がなく,各原告において,平成15
年度調査に匹敵する程度の季節を異にしたある程度の期間の騒音の発生状況を個別具体的に主張立証することを要するというべきであるところ,本件で,指定区域外原告らの平均的,総体的な騒音曝露状況を認めるに足りる的確な証拠はないというべきである。
なお,原告らは,上記①のとおり,指定区域外原告らの騒音曝露状況を
示す客観的資料として,指定区域外測定結果を提出するものの,前記2⑴で述べたところに照らせば,これをもって,指定区域外原告らの平均的,総体的な騒音曝露状況を認めることはできない。

そして,公害対策基本法9条及びその後身である環境基本法16条の規定(前記第2部「前提となる事実」第3の1及び3)によれば,航空機環境基準は行政上目指すべき政策目標として位置付けられており,直ちに受忍限度を超えた騒音の基準となるということはできない。また,上記②のとおり,指定区域外原告らが地域類型Ⅰに当たる地域に居住している旨を主張することが,本件で,原告らが地域類型ⅠとⅡで区別することなく共
通損害を主張していることと整合するのかどうかも疑問である。いずれにしても,上記②の事情は,指定区域外原告らが受忍限度を超える騒音被害
を受けていることの根拠にはなり得ないものと解するのが相当である。エ
以上によれば,指定区域外原告らについては,平均的,総体的な騒音曝露状況が明らかではなく,もとよりこれが受忍限度を超えていると認めるに足りる証拠もないから,慰謝料を認めることはできない。なお,以上の点は,その余の原告らのうち,本件請求対象期間内の一部の期間において
指定区域外に居住していたと認められる原告らの当該居住期間についても同様である。


地域類型の考慮の要否
被告は,航空機騒音環境基準において,専ら住居の用に供される地域(類
型Ⅰ)と通常の生活を保全する必要がある地域(類型Ⅱ)という地域類型が設けられ,
この類型ごとに基準値が定められていることから,
本件において,
原告らの被害が受忍限度を超えているかどうか判断するに際しても,地域類型の差を考慮すべきであると主張する。
昭和48年環境基準の設定に係る中央公害対策審議会の答申の基となった
同審議会騒音振動部会特殊騒音専門委員会の報告
(乙A64。
前記第2部
「前
提となる事実」第3の1参照)によれば,航空機騒音環境基準において地域類型が設けられたのは,一般の騒音環境基準に地域類型が設けられていることを踏襲したものと認められるところ,騒音環境基準で地域類型が設けられた理由は,その制定経過等に関する証拠(乙A128,A130)に照らす
と,住民地域などの静穏を要する地域と商工業地域とで都市騒音の実態や騒音に関する住民の意識(うるささ等)等が異なるためであったことが窺われる。
この点,周辺環境から生じる定常的な騒音(例えば,道路騒音や周辺の店舗の騒音等)については,居住地域や商工業地域でその実態に大きく差があ
り,これに対する住民の意識も異なるものと考えられる。
しかし,
前記第2部
「前提となる事実」
第2の1のとおり,
航空機騒音は,

その他の環境騒音に比して,広範囲に及ぶものである,継続時間が数秒から数十秒の間欠音である,エネルギー量が圧倒的に大きいとの特徴を有するところ,このような特徴に鑑みれば,航空機騒音は,地域類型の差にかかわらず等しく及ぶものと考えられ,地域類型ごとに実態が異なるということはできない。現に,環境整備法も,地域類型の差を考慮せずに,航空機騒音の曝
露量を主たる基準として当該騒音による障害が著しい区域を認め,その対策措置を講じている。
そうすると,環境騒音が一般的に生じやすいと考えられる地域に居住する者について,それ以外の地域に居住する者と比べて,航空機騒音による被害を受忍すべき限度が大きいということはできず,受忍限度の判断に際し地域
類型を考慮すべきとする被告の主張は理由がない。
7
危険への接近について


被告の主張の要旨

被告のいう免責の法理としての危険への接近の法理とは,横田飛行場における航空機騒音の存在についての認識を有しながら,それによる被害を容認して居住し,かつ,その被害が直接生命,身体に関わるものでない場合には,実際の被害が居住開始時に認識した騒音から推測される被害の程度を超えるものであったとか,入居後に騒音レベルが格段に増大したなどの特段の事情が認められない限り,その被害はその者において受忍すべき
であるとして,その被害を理由として賠償請求をすることを許さないというものであり,大阪空港訴訟最高裁判決は同法理を認めたものであるとする。
そして,被告は,平成5年2月や同年11月に横田平成5年最高裁判決や平成5年日米合同委員会合意について主要日刊紙で報道されたことや,
そこに至るまでの横田飛行場の騒音訴訟及び官報告示等の経過を主張した上で,遅くとも平成6年1月1日には横田飛行場の航空機騒音が社会問
題化していたとして同日を基準日とし,主位的に,基準日以降,環境整備法4条に基づく第一種区域に指定された区域(告示コンター内地域)内に居住を開始した原告ら(出生者を除き,告示コンター内地域間で転居した者を含む。は,

居住開始時に航空機騒音による被害の発生状況を認識し,
その被害を容認していたことが推定されるとして,このような原告らにつ
いては,免責の法理として危険への接近の法理を適用すべきであると主張し,予備的に,具体的な類型(類型B1~B3)を挙げた上,少なくともこの類型に該当する原告らについては,特段の事情のない限り,同法理を適用すべきであると主張する(別紙8居住履歴一覧表参照)


また,被告は,上記の「免責の法理としての危険への接近の法理」に加え,
「減額の法理としての危険への接近の法理」も存在すると主張し,ある者がある場所に危険が存在することを認識しながら又は過失によってこれを認識しないで,あえてその場所に入って危険に接近し,そのために被害を被ったときは,損害賠償の減額事由として考慮するのが衡平であるか
ら,判例の採用する危険への接近の理論によって免責が認められない場合にも,具体的な事情のいかんにより,過失相殺の法理に準じ,損害賠償額の算定に当たりこれを減額事由として考慮すべきであると主張する。不法行為の被害者に過失があったときは,裁判所はこれを考慮して損害賠償の額を定めることができる
(民法722条2項)この過失相殺の法理


は,発生した損害を加害者と被害者との間において公平に分担させるという公平の理念に基づくものであり,裁判所は,具体的な事案につき公平の観念に基づき諸般の事情を考慮し,自由な裁量によって被害者の過失を斟酌して損害額を定めることができる(最高裁昭和39年9月25日第二小法廷判決・民集18巻7号1528頁参照)そしてここにいう過失は不法。

行為の成立要件としての過失と同じではないから(最高裁昭和39年6月24日大法廷判決・民集18巻5号854頁参照)航空機騒音による被害,

を理由に周辺住民が飛行場の設置・管理者に対して損害賠償を請求する事案において,当該住民がその居住地に居住するに至った事情を「過失」ないしこれに準ずるものとみて同項の適用ないし類推適用により過失相殺をし得る場合があることは否定できないが,これは,過失相殺による損害額の減額とすれば足りる。そこで,被告の上記主張は,原告らの一部につ
き,居住するに至った事情に基づき過失相殺をすべきであるとの主張として取り扱うこととする。


原告らの一部につき,危険への接近の理論の適用により被告は免責されるか。


被告の引用する大阪空港訴訟最高裁判決は,大阪国際空港に離着陸する航空機の騒音にさらされる地域にそうでない地域から転居してきた者について,危険への接近の理論の適用を問題としたものである(なお,同判決は,当該事案の事実関係に即して危険の接近の理論の適用の可否を検討し,適用の余地があるとして事件を原審に差し戻したのであり,危険への接近の理論を適用し結論として加害者を免責したわけではない。。そうす)

ると,本件で被告が同法理の適用があると主張する者のうち,基準日以降に告示コンター内地域間で転居した者,並びに,基準日以降に告示コンター内地域内に居住し,①その後指定区域外に転出したにもかかわらず再び75W以上の地域に転入した者
(被告のいう類型B1)②その後より騒音

レベルの高い地域に転居した者
(同類型B2)③その後75W以上の地域


での移動を複数回繰り返した者(同類型B3)については,そもそも大阪空港訴訟最高裁判決の射程は及ばず,告示コンター地域に指定区域外から初めて転居してきた者(以下「類型A」という。
)にのみ同判例の射程が及
ぶものと解される。

以上を前提に,まず,類型Aについて検討する。
原告らの被害は前記のとおりであるから,大阪空港訴訟最高裁判決の挙
げる要素のうち「被害が騒音による精神的苦痛ないし生活妨害のごときもので直接生命,身体にかかわるものでない」という点は満たされているので,それ以外の要素,特に「航空機騒音の存在についての認識を有しながらそれによる被害を容認して居住した」という要素が検討の対象となる。横田飛行場は,専ら米軍と自衛隊が使用しており,他の者が利用することはないから,その所在地は一般的に知られているとはいえない。また,一口に横田飛行場の周辺地域といっても広大であり,平成6年1月1日当時は昭和59年告示が適用されて第一種区域が現在よりも広かったことを措いて告示コンターによる現在の第一種区域の範囲だけみても,北は埼
玉県飯能市から南は東京都八王子市,日野市まで広がっている。さらに,横田飛行場に離着陸する航空機の飛行計画及び飛行経路が事前に公表されることはなく,飛行回数や飛行する航空機の機種は日によって大きく異なり,飛行経路も一定ではない。
これらの事情によると,横田飛行場周辺の告示コンター内地域に転入し
ようとする者の中には,横田飛行場の存在自体を知らない者が少なくないと考えられるし,その存在を知っていたとしても,米軍機や自衛隊機の発する騒音の実態は,経験しなければ感得できないものといえる。事前に下見に来たとしても,それが航空機の飛行回数の少ない日に当たれば騒音の実態は全く把握できない。平成29年9月15日に瑞穂町箱根ヶ崎(85
W地域)
,立川市西砂町(80W地域)
,及び昭島市美堀町(70W地域,
75W地域)等で行った現地進行協議期日においても,全体的に航空機の飛行回数が少なく
(乙A183)同日の印象だけでは日常的に航空機騒音

にさらされている地域であるとは認識し得なかったところである。したがって,一般的にいって,実際に告示コンター内地域に転居し,ある程度継
続して生活をするまでは,航空機騒音の実態はつかめないというべきであり,大阪空港訴訟最高裁判決にいう「認識」及び「容認」があったと認め
ることはできない。
被告は,横田平成5年最高裁判決の報道や平成5年日米合同委員会合意の報道及びこれに先行する官報告示その他の経緯を主張立証し,類型Aの者は航空機騒音による被害の発生状況を認識していたと推定される旨を主張するが,被告の主張立証する事情から,平成6年1月1日時点で,横
田飛行場の航空機騒音問題が周辺住民以外にも広く知られるようになっていたとまで認めることはできない。また,仮に同問題に係る情報に接していたとしても,上記のとおり,横田飛行場に離着陸する航空機の騒音の実態は経験しなければ感得し難いものであるから,この点においても,被告の上記主張は採用できない。


次に,基準日以降に告示コンター地域内で転居した者(被告のいう類型Aの一部)
,並びに,類型B1ないしB3について検討する。
まず,告示コンター内地域内で転居した者のうち,騒音のレベルが同じ地域で転居した者や,騒音のレベルが高い地域から低い地域に転居した者
については,そもそも危険への「接近」をしたとはいえない。実質的に考えても,告示コンター内地域の居住地に居住し続けていれば損害賠償を受けられるのに,上記のような転居をしただけで損害賠償を受けられなくなるというのでは,居住し続けた者との関係で合理的な理由なく不公平な結果になるというべきであり,
これを容認することはできない。
したがって,

上記のような転居をした原告らについて,免責の法理としての危険への接近の理論を適用することはできない。
次に,告示コンター内地域内で,騒音レベルの低い地域から高い地域に転居した者や,告示コンター内地域から指定区域外に転居した後,再び告示コンター内地域に転居した者(以下,併せて「再転入者」という。)につ

いては,確かに「危険への接近」といい得るものの,再転入者であるからといって,告示コンター内地域に転居するに当たり,横田飛行場における
航空機騒音による被害を認識しこれを容認したものと推定することはできない。すなわち,人が住居を定める場合は,血縁上,地縁上又は職業上など何らかの事情を伴うことがほとんどであり,特に一旦ある地域に居住すると,そこでの不動産の取得,家族の存在,友人や勤務先等の社会的生活基盤の形成により,当該地域との結びつきが強まることは明らかであっ
て,たとえその後に一旦当該地域を離れたとしても,再び同地域に戻って生活することが望ましい,あるいは戻らなければならないという事態が生じることも決して珍しいことではない。家族や友人,勤務先等に係る事情から,以前の居住地域やその周辺に転居することとした再転入者にとって,このような転居は主観的には必然ととらえられているというべきであり,
その地域が告示コンター内地域であり,そこにおける過去の航空機騒音の実情を認識していたとしても,その被害にさらされることを「容認」しているとはいえない。
なお,被告は,免責の法理としての危険への接近の理論における被害の「容認」について,航空機騒音の認識から原則として事実上推定される消
極的な容認で足りる旨を主張するものの,同主張は,大阪空港訴訟最高裁判決が「危険に接近した者(中略)が危険の存在を認識しながらあえてそれによる被害を容認していたようなときは」と説示して,危険の認識と被害の容認を明確に区別していることと整合せず,採用し得ない。

以上を前提に,免責の法理としての危険への接近の理論を適用すべきであると被告が主張する原告らの個別の事情(別紙8居住履歴一覧表参照)を検討したものの,いずれについても大阪空港訴訟最高裁判決のいう「認識」及び「認容」があると認めることはできず,被告の主張は採用することができない。なお,被告は,昭和41年1月1日以降に転入した原告ら
について同様に騒音被害の容認が推定されるとして危険への接近の理論による免責の主張もするものの,この主張についても理由がないことは,
既に述べたことから明らかというべきである。


原告らの一部につき,その転居に関する事情を理由として過失相殺により損害額を減額すべきか。
上記⑵で検討したとおり,平成6年1月1日以降に告示コンター内地域内に居住を開始した原告らについて,転入時から航空機騒音を認識していたと
は認め難く,また,仮に認識していたとしてもその被害にさらされることを容認しているとはいえない。
さらに,本件では,上記⑵において検討した事情のほか,①原告らの受けている航空機騒音による被害は,前記のとおり,健康又は生活環境に関わる重要な利益の侵害であることや,②横田飛行場に離着陸する航空機の発する
騒音については,昭和51年以降数次にわたり周辺住民が損害賠償等を求めて被告を提訴し,裁判所において75W以上の地域の居住者の損害賠償請求を認容する判断がなされているにもかかわらず,いまだ航空機騒音による被害が継続していることに加えて,③被告は,環境基本法6条に基づき,環境の保全に関する基本的かつ総合的な施策を策定し,これを実施する責務を負
っているものの,上記②の被害の継続状況に鑑み,被告が同責務を果たしているとはいい難いことなどの事情に鑑みれば,原告らの転居に関する事情を理由に過失相殺による損害額の減額を主張するのは,過失相殺の法理が基礎とする公平の観念にかえって反するものといわざるを得ず,本件で過失相殺による損害額の減額を認めることはできない。

8
損害額について


基準額の認定
慰謝料は,裁判所がその事件に関する一切の事情を斟酌して自由な心証をもって決定しなければならないものであるから,ここまでに認定した事実や
検討した事項を前提として,本件における侵害行為の態様と侵害の程度,被侵害利益の性質と内容,侵害行為の持つ公共性の内容と程度,侵害行為の継
続の経過及び状況,その間に採られた被害の防止に関する措置等の一切の事情を考慮して定める必要がある。
ところで,原告らは,横田飛行場に離着陸する航空機騒音によって各自の具体的被害について賠償を求めるのではなく,原告ら全員が等しく受けていると認められる被害を原告らに共通する損害とし,その限度で慰謝料という形で一律に1か月当たり2万円の慰謝料を請求している。しかしながら,共通損害といっても,原告らがさらされている航空機騒音は原告らそれぞれが居住している地域によってその程度が異なるから,原告らの損害を一律に評価するのは相当ではない。そこで,原告らそれぞれの居住する地域における
騒音の大きさに応じて,共通する最小限度の損害の程度に対応するものとして,次のとおりの区分に従い,基準となるべき1か月当たりの慰謝料額を定めることとする。
75W地域
80W地域

4000円
8000円

85W地域

1万2000円

慰謝料額の算定期間について1か月単位としたのは,横田飛行場に離着陸する航空機の発する騒音の回数や大きさが日によって異なるため1日を単位とするのは適当ではないものの,1か月単位でみると年間を通じて極端な差異があるとはいえないことを考慮するとともに,原告らが1か月単位で請求していることをも踏まえたものである。また,原告らが提訴日(第1事件につき平成24年12月12日,第2事件につき平成26年8月7日)を基準にして,同日までの3年間分と提訴日以降の分につき1か月単位で慰謝料を請求していること,後述のとおり本件訴訟においては,口頭弁論終結後の損害賠償を請求することはできず,当審口頭弁論終結日である平成30年7月
19日までに発生した損害が賠償の対象となることを考慮して,1か月の単位を原告らの各請求期間の初日から1か月間ずつ(第1事件では平成21年
12月12日~平成22年1月11日から,第2事件では平成23年8月7日~同年9月6日から,それぞれ始まり,平成30年7月19日までの間,以下これに準ずる。
以下,
この1か月単位の期間を
「慰謝料算定の基準期間」
という。とし,

慰謝料算定の基準期間中にW値の異なる区域への転居があっ
た場合には,少なくとも低い方の被害が1か月を通じて発生していたといえ
るから,当該日の属する慰謝料算定の基準期間については低い方の慰謝料額を認めることとする。
もっとも,転居や死亡などにより居住期間が1か月に満たない場合には,その間の損害を全て切り捨てることも,逆にこれを1か月分の損害とみなすことも,損害の公平な分担の見地からして妥当でないから,日割りで計算す
ることとし,当審口頭弁論終結日前の最後の慰謝料算定の基準期間(第1事件では平成30年7月12日から同月19日,第2事件では平成30年7月7日から同月19日)についても同様とする。

住宅防音工事による減額

慰謝料額の減額割合
上記のとおり,住宅防音工事は一定の防音効果を有し,原告らの被害を軽減する効果があると考えられることからすれば,環境整備法に基づく被告からの助成を受けて住宅防音工事を実施した住居に居住する原告らについては,上記⑴の基準をそのまま適用せずに,一定の減額を認めること
が相当である。
もっとも,住宅防音工事は,室数に限界があったり,屋内に到達する騒音を防止するにとどまるものであったりするため,原告らの生活全体をカバーするものとはいえないこと,防音効果を得るには部屋の開口部を全て閉め切らねばならず,日常生活で常時そのような行動をとって防音効果を
十全に得ることは困難であること等の限界がある。
そこで,原告らの被害の内容及び程度に,これらの限界を考慮し,住宅
防音工事による慰謝料の減額の方法としては,防音工事を実施した室数が1室のみである場合には10%を減額し,同室数が2室以上ある場合にはこの10%に加え2室目以降の1室ごとに更に5%を減額する。ただし,上記の限界を踏まえ,合計で6室以上となる場合であっても一律に30%を減額し,
また,
外郭防音工事を実施した場合も一律に30%を減額する。

減額の計算については,1か月を単位とし,慰謝料算定の基準期間の途中で住宅防音工事が施工された場合には,W値の異なる区域への転居があった場合に準じて,当該月も減額計算の対象とする。

減額割合に関する被告の主張について
被告は,住宅防音工事の対象となった居室の全居室に占める割合も考慮
して,慰謝料額の減額割合を決めるべきである旨を主張する。
しかし,環境整備法等においても,住宅防音工事の対象となる居室の全居室に占める割合は考慮されておらず,このような割合が直ちに原告らの被害軽減の程度となるという根拠が十分でないことに加え,全居室数の不明な住宅もあり,全ての原告について上記割合を考慮することは困難であ
ることに照らし,被告の上記主張は採用しない。


弁護士費用
本件訴訟における立証の難易度,
本件訴訟の経過等の諸般の事情を考慮し,
上記⑴及び⑵によって算出される1か月当たりの慰謝料額の10%に相当する額をもって,賠償の対象となる弁護士費用とするのが相当である。


認容額一覧表(別紙3-1,別紙3-2)について
以上の考え方をもとに,第1事件については認容額一覧表1において平成21年12月12日から,第2事件については認容額一覧表2において平成23年8月7日から,それぞれ当審口頭弁論終結日までの各原告に対応する
慰謝料算定の基準期間ごとに慰謝料及び弁護士費用の合計額を記載し,その総額を「元金合計」欄に記載したほか,訴え提起前3年分の合計額を「提訴
前合計」欄に記載した。


承継人認容額一覧表(別紙3-3)について
承継人認容額一覧表の「被承継人」欄記載の被承継人については,同「承継人」欄記載の承継人が「相続割合」欄記載の割合で被承継人の死亡日までに生じた損害賠償請求権を取得しているところ,
被承継人に生じた損害額は,

認容額一覧表1の,
当該被承継人に対応する
「提訴前合計」
欄及び
「H24.
12.12~H25.1.11」欄以降の欄に記載のとおりである。もともと自らも原告として損害賠償請求をし,その後,親族の分を承継取得した原告については,認容額一覧表1記載の当該原告欄の金額と承継人認容額一覧表の同原告を承継人とする部分の金額を合算した金額が当該原告兼訴訟承継
人に対する認容額合計ということになる。


遅延損害金について
提訴日前日までに生じた損害については,認容額一覧表1記載の第1事件原告及び承継人認容額一覧表記載の訴訟承継人らについては,各人に対応する「提訴前合計」欄の額に対する第1事件の訴状送達日の翌日である平成2
4年12月21日から,認容額一覧表2記載の第2事件原告については第2事件の訴状送達日の翌日である平成26年8月22日から各支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金を認める。
提訴日以降に生じた損害については,提訴前に生じた損害に対する遅延損害金との重複を避けつつ,原告らが1か月当たりの損害について翌月1日を
遅延損害金の起算日として請求していることに照らし,認容額一覧表1及び同2記載の各原告並びに承継人認容額一覧表記載の各訴訟承継人に対応する各慰謝料算定の基準期間欄記載の各金員に対する同期間の最終日の翌月1日から各支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金を認める。第3

口頭弁論終結日の翌日以降の損害賠償請求に係る訴えの適否

将来請求に係る訴えの適否

継続的不法行為に基づき将来発生すべき損害賠償請求権については,たとえ同一態様の行為が将来も継続されることが予測される場合であっても,損害賠償請求権の成否及びその額をあらかじめ一義的に明確に認定することができず,具体的に請求権が成立したとされる時点において初めてこれを認定することができ,かつ,その場合における権利の成立要件の具備については
債権者においてこれを立証すべきであり,事情の変動を専ら債務者の立証すべき新たな権利成立阻却事由の発生としてとらえてその負担を債務者に課するのは不当であると考えられるようなものは,将来の給付の訴えを提起することのできる請求権として適格を有しないと解するのが相当である。そして,
飛行場において離着陸する航空機の発する騒音等により周辺住民らが精神的
又は身体的被害等を被っていることを理由とする損害賠償請求権のうち口頭弁論終結の日の翌日以降の分については,将来それが具体的に成立したとされる時点の権利関係に基づきその成立の有無及び内容を判断すべきであり,かつ,その成立要件の具備については請求者においてその立証の責任を負うべき性質のものであって,このような請求権は将来の給付の訴えを提起する
ことのできる請求権としての適格を有しないものである(大阪空港訴訟最高裁判決,横田平成19年最高裁判決,厚木平成28年最高裁判決参照)。
したがって,横田飛行場において離着陸する航空機の発する騒音により原告らが精神的又は身体的被害を被っていることを理由とする損害賠償請求権のうち当審口頭弁論終結日の翌日(平成30年7月20日)以降の分につい
ては,その性質上,将来の給付の訴えを提起することのできる請求権としての適格を有しないものというべきである。
よって,この部分の請求に係る訴えは不適法として却下されなければならない。

原告らの主張について
原告らは,大阪空港訴訟最高裁判決の定立した基準は厳格すぎる旨の批判
がされていることを指摘し,
口頭弁論終結時の被害が将来も継続する蓋然性,
原告らの再訴提起に伴う負担,及び被告が請求異議事由として主張し得る事項とその立証に要する負担の程度等を考慮要素として,
「あらかじめその請
求をする必要がある場合」に当たるかどうかを個別具体的に検討すべきであるとした上で,本件請求については,将来の請求権としての適格が認められ
ると主張する。
しかし,本件において,将来の侵害行為の違法性の有無及びこれによる損害の有無・程度は,被告の実施する被害対策や原告らの各自の生活事情の変動等複雑多様な因子によって左右されるべき性質のものであって,口頭弁論終結後における将来の変動を予め把握することはできず,また,将来請求を
認めた上で,被告に請求異議訴訟等の起訴責任を被告に負わせるのは相当でないから,原告らの上記主張は採用できない。
第6部
第1
結論
本件差止請求について

1
差止原告らの自衛隊機に関する離着陸等の差止請求に係る訴えは,不適法であるから却下する。

2
差止原告らの米軍機に関する離着陸等の差止請求,音量規制の請求及び航空機訓練の差止請求は主張自体失当で理由がないから棄却する。

3
原告A1の差止請求に係る訴訟は同人の死亡により終了した。

第2

本件損害賠償請求について

1
原告番号21,22,30及び80の原告らについては受忍限度を超える損害の発生が認められないから,これらの原告らの請求はいずれも棄却する。
2
その余の原告らについては,当審口頭弁論終結日である平成30年7月19日までの損害賠償請求について,次の限度で理由があるから認容し,その余は
いずれも棄却する。


別紙3-1認容額一覧表1の「氏名」欄記載の各原告(ただし,同欄に「被
承継人」と併記された者を除く。
)に対し,対応する同表の「元金合計」欄記
載の金員及びうち「提訴前合計」欄記載の金員に対する平成24年12月21日から,
「H24.12.12~H25.1.11」欄から「H30.7.12~H30.7.19」欄までの各欄記載の金員に対する各期間の最終日の翌月1日から各支払済みまで年5分の割合による金員



別紙3-3承継人認容額一覧表の
「承継人」
欄記載の各原告
(訴訟承継人)
に対し,対応する同表の「元金合計」欄記載の金員及びうち「提訴前合計」欄記載の金員に対する平成24年12月21日から,
「H24.12.12~
H25.1.11」欄から「H29.5.12~H29.5.30」欄までの各欄記載の金員に対する各期間の最終日の翌月1日から各支払済みまで年
5分の割合による金員


別紙3-2認容額一覧表2の「氏名」欄記載の各原告に対し,対応する同表の「元金合計」欄記載の金員及びうち「提訴前合計」欄記載の金員に対する平成26年8月22日から,
「H26.8.7~H26.9.6」欄から
「H
30.7.7~H30.7.19」欄までの各欄記載の金員に対する各期間
の最終日の翌月1日から各支払済みまで年5分の割合による金員
3
原告らの平成30年7月20日以降の損害賠償請求に係る訴えは不適法であるからいずれも却下する。

第3
仮執行宣言及び仮執行免脱宣言について
原告らの請求のうち,過去の損害賠償請求を認容した部分(主文第6項⑴ないし⑶)については,仮執行宣言を付した上で,仮執行免脱の宣言をするのが相当である。また,仮執行宣言の開始時期については,本判決書正本が被告に送達された日から14日を経過したときと定めることとする。
東京地方裁判所立川支部民事第3部

裁判長裁判官

見米
裁判官

餘多分

裁判官

八正屋
亜紀

敦子
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