判例検索β > 平成26年(行ウ)第247号
業務停止処分取消等請求事件
事件番号平成26(行ウ)247
事件名業務停止処分取消等請求事件
裁判年月日平成30年9月6日
法廷名大阪地方裁判所
裁判日:西暦2018-09-06
情報公開日2019-02-06 08:17:23
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平成30年9月6日判決言渡
平成26年(行ウ)第247号

業務停止処分取消等請求事件
主文12
原告の請求をいずれも棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由

第1
1
請求
主位的請求
厚生労働大臣が原告に対して平成26年10月27日付けでした業務停止命令を取り消す。

2
予備的請求
厚生労働大臣が原告に対して平成26年10月27日付けでした業務停止命令が無効であることを確認する。

第2
事案の概要

1
事案の要旨
本件は,薬剤師である原告が,大阪府知事から平成22年7月6日付けで一般用医薬品(うち第一類医薬品)及び医療用医薬品のインターネットを利用した販売を中止することなどを内容とする業務改善命令(以下本件業務改善命令という。)を受けたにもかかわらず,上記医薬品のインターネットを利用
した販売をし,もって本件業務改善命令に違反したとして,薬事法(平成25年法律第84号による改正前の薬事法をいう。以下,特に断らない限り同じ。)違反の罪により罰金20万円に処せられ,薬剤師法5条3号に該当することとなったことを理由に,厚生労働大臣から,平成26年10月27日付けで同年11月10日から3か月間の業務停止命令(厚生労働省発薬食〇第〇号。以下
本件業務停止命令という。)を受けたため,被告を相手に,主位的に本件業務停止命令の取消しを求め,予備的にその無効確認を求める事案である。2
関係法令等の定め


薬剤師法

次のいずれかに該当する者には,免許を与えないことがある(5条)。(ア)
(イ)


罰金以上の刑に処せられた者(同項3号)

(ウ)

(略)(同項1号,2号)

(略)(同項4号)

薬剤師が,上記アのいずれかに該当し,又は薬剤師としての品位を損するような行為のあったときは,厚生労働大臣は,次に掲げる処分をすることができる(8条2項)。
(ア)

3年以内の業務の停止(同項2号)

(ウ)


戒告(同項1号)

(イ)

免許の取消し(同項3号)

薬事法
薬事法の定めは,以下のとおりである。なお,薬事法は,平成25年法律
第84号による改正により,題名が医薬品,医療機器等の品質,有効性及び安全性の確保等に関する法律に改められた(以下,平成25年法律第84号による改正後の薬事法を医薬品医療機器等法という。)。

薬事法は,医薬品,医薬部外品,化粧品及び医療機器の品質,有効性及び安全性の確保のために必要な規制を行うとともに,指定薬物の規制に関する措置を講ずるほか,医療上特にその必要性が高い医薬品及び医療機器
の研究開発の促進のために必要な措置を講ずることにより,保健衛生の向上を図ることを目的とする(1条)。

薬事法で医薬品とは,次に掲げるものをいう(2条1項)。
(ア)

日本薬局方に収められている物(同項1号)

(イ)

人又は動物の疾病の診断,治療又は予防に使用されることが目的と
されている物であって,
機械器具,
歯科材料,
医療用品及び衛生用品
(以
下機械器具等という。)でないもの(医薬部外品を除く。)(同項2号)
(ウ)

人又は動物の身体の構造又は機能に影響を及ぼすことが目的とさ

れている物であって,機械器具等でないもの(医薬部外品及び化粧品を除く。)(同項3号)。


厚生労働大臣は,厚生労働省令で,薬局における医薬品の試験検査の実施方法その他薬局の業務に関し薬局開設者が遵守すべき事項を定めることができる(9条1項)。


薬局開設者又は店舗販売業者は店舗による販売又は授与(以下,併せて販売等といい,販売し又は授与することを販売等するという。)

以外の方法により,医薬品を販売等し,又はその販売等の目的で医薬品を貯蔵し,若しくは陳列してはならない(37条1項)。

都道府県知事は,薬局開設者について,その者に同法又はこれに基づく命令の規定に違反する行為があった場合において,保健衛生上の危害の発生又は拡大を防止するために必要があると認めるときは,その薬局開設者
に対して,その業務の運営の改善に必要な措置を採るべきことを命ずることができる(72条の4第1項)。

上記オの規定による命令に違反した者は,1年以下の懲役若しくは100万円以下の罰金に処し,又はこれを併科する(86条1項15号)。


薬事法上の医薬品の区分
薬事法上の医薬品(同法2条1項。専ら動物のために使用されることが目的とされているものを除く。以下同じ。)は,同法及びその関連法令等において,次のとおり区分される。

一般用医薬品
一般用医薬品とは,医薬品のうち,その効能及び効果において人体に対する作用が著しくないものであって,薬剤師その他の医薬関係者から提供された情報に基づく需要者の選択により使用されることが目的とされているものをいい(薬事法25条1項1号),一般用医薬品(専ら動物のために使用されることが目的とされているものを除く。)は,次の3つに区分される(同法36条の3第1項各号)。
(ア)

第一類医薬品
その副作用等により日常生活に支障を来す程度の健康被害が生ずるお
それがある医薬品のうちその使用に関し特に注意が必要なものとして厚生労働大臣が指定するもの及びその製造販売の承認の申請に際して薬事法14条8項1号に該当するとされた医薬品であって当該申請に係る承認を受けてから厚生労働省令で定める期間を経過しないもの(薬事法3
6条の3第1項1号)
(イ)

第二類医薬品
その副作用等により日常生活に支障を来す程度の健康被害が生ずるお
それがある医薬品(第一類医薬品を除く。)であって厚生労働大臣が指定するもの(薬事法36条の3第1項2号)

(ウ)

第三類医薬品
第一類医薬品及び第二類医薬品以外の一般用医薬品(薬事法36条の
3第1項3号)

薬局医薬品
薬局医薬品とは,医薬品のうち,薬局製造販売医薬品その他の一般用医薬品以外の医薬品をいい(薬事法施行規則〔平成26年厚生労働省令8号による改正前のものをいう。以下,特に断らない限り同じ。なお,現在の題名は医薬品,医療機器等の品質,有効性及び安全性の確保等に関する法律施行規則である。〕15条の5)。薬局医薬品は,次の2つに区分
される。
(ア)

薬局製造販売医薬品
薬局開設者が当該薬局における設備及び器具をもって製造し,当該薬局において直接消費者に販売等する医薬品であって,厚生労働大臣の指定する有効成分以外の有効成分を含有しないもの(平成26年政令第269号による改正前の薬事法施行令3条3号)。
(イ)

医療用医薬品
医師若しくは歯科医師によって使用され又はこれらの者の処方せん若
しくは指示によって使用されることを目的として供給される医薬品であり,
薬局医薬品のうち薬局製造販売医薬品を除く医薬品をいう
(乙16,
弁論の全趣旨)。


薬事法施行規則
薬事法施行規則の定めは,以下のとおりである。なお,以下の各規定は,平成18年法律第69号による薬事法の改正(以下平成18年法改正という。)に伴う平成21年厚生労働省令第10号による薬事法施行規則の改正(以下平成21年規則改正という。)により新設され,同年6月1日か
ら施行されたものである。

薬局開設者は,郵便等販売(当該薬局以外の場所にいる者に対する郵便その他の方法による医薬品の販売等をいう。同規則1条2項7号)を行う場合は,次に掲げるところにより行わなければならない(15条の4第1項)。
(ア)


第三類医薬品以外の医薬品を販売等しないこと(同項1号)

(イ)

(略)(同項2号,3号)

薬局開設者は,薬局医薬品を販売等する場合には,調剤及び医薬品の販売等に従事する薬剤師に,当該薬局において,対面で販売等させなければならない(15条の5)。


薬局開設者は,その薬局において薬局医薬品を販売等する場合には,調剤及び医薬品の販売等に従事する薬剤師をして,その適正な使用のために必要な情報を提供させなければならない(15条の6第1項)。
薬局開設者は,
上記の規定による情報の提供を,
次に掲げる方法により,
調剤及び医薬品の販売等に従事する薬剤師に行わせなければならない(同条2項)。
(ア)

当該薬局内の情報提供を行う場所において,
対面で行わせること
(2

項1号)
(イ)
3
(略)(同項2号以下)

前提事実
以下の事実は,当事者間に争いがないか,掲記の証拠(枝番のあるものは特
記しない限り全枝番を含む。以下同じ。)及び弁論の全趣旨により容易に認められる。


当事者
原告は,薬剤師であり,平成21年当時から平成23年6月2日まで,薬
局の経営及び医薬品,
医薬部外品の販売等を目的とする有限会社B
(以下
本件会社という。)の代表取締役として,本件会社の業務全般を統括管理していた者である。本件会社は,平成21年から平成23年までの当時,大阪府(住所省略)において,D薬局(以下本件薬局という。)を経営していた(甲2,乙3,4)。


本件業務改善命令に至る経緯等

1回目の業務改善命令
大阪府知事は,平成21年12月1日付けで,本件会社に対し,要旨以下の内容を命ずる旨の業務改善命令をした(甲2)。
(ア)

郵便等販売については,薬事法施行規則15条の4第1項,15条
の5,15条の6第2項1号(以下本件各規定という。)等の規定を遵守すること。
(イ)

上記(ア)のために,本件薬局が行うインターネットを利用した医薬品の販売のうち第一類医薬品及び医療用医薬品の販売を行わないこと。イ
2回目の業務改善命令(本件業務改善命令)
大阪府知事は,平成22年7月6日付けで,本件会社に対し,以下の内容を命ずる旨の本件業務改善命令をし,原告は,同日,命令書を受領した(乙3,5)。

(ア)

郵便等販売については,薬事法施行規則15条の4第1項,15条
の5,15条の6第2項1号(本件各規定)等の規定を遵守すること。(イ)

上記(ア)のために,本件薬局が行うインターネットを利用した医薬
品の販売のうち第一類医薬品及び医療用医薬品の販売を,命令書交付日から30日以内に中止すること。


原告及び本件会社に対する略式命令
原告及び本件会社は,平成23年12月27日,大阪簡易裁判所において,それぞれ薬事法違反の罪により罰金20万円の略式命令(以下本件略式命令という。)を受け,本件略式命令は,平成24年1月11日に確定した。本件略式命令において認定された犯罪事実の要旨は,本件会社
の代表取締役であった原告が,本件業務改善命令を受けてその命令書を受領したにもかかわらず,改善期限を経過した平成22年8月6日以降も本件業務改善命令に従わずにインターネットによる第一類医薬品及び医療用医薬品の郵便等販売を継続し,4名に対し,第一類医薬品及び医療用医薬品を販売価格合計2万1152円で販売し,もって本件業務改善命令に
違反したというものであった。(以上につき,甲3,4,乙3)

大阪府知事による具申
大阪府知事は,平成24年5月14日付けで,厚生労働大臣に対し,原告について,薬剤師法8条2項の処分が行われる必要がある旨具申した(乙6)。


弁明の聴取等
(ア)

厚生労働大臣は,
平成26年6月10日付けで,
大阪府知事に対し,

原告に対する弁明の聴取を行うことを求めた(乙7)。
(イ)

大阪府知事は,平成26年7月18日,原告に対する弁明の聴取を
行い,同年8月11日付けで厚生労働大臣に対してその結果を報告した(乙8)。

(ウ)

厚生労働大臣は,平成26年10月24日,医道審議会に対し,原
告に対する行政処分について諮問した(乙9)。
(エ)

医道審議会薬剤師分科会薬剤師倫理部会
(以下
本件部会
という。


は,平成26年10月27日に部会を開催し,事務局を務める厚生労働省の職員(以下本件職員という。)の説明を受けて原告に対する処
分について審議し,原告を業務停止3月とすべきである旨決定し(乙35,40),同日,同大臣に対し,その旨答申した(乙10)。

本件業務停止命令等
(ア)

厚生労働大臣は,平成26年10月27日付けで,原告に対し,本
件略式命令により罰金20万円の刑に処せられ,薬剤師法5条3号に該
当することとなったことを理由として,同年11月10日から平成27年2月9日までの間,業務の停止を命ずる旨の本件業務停止命令をした(甲5,乙39)。
(イ)

厚生労働大臣は,平成26年11月15日付けで,原告に対し,本
件業務停止命令を受けたことを理由として,再教育研修を受けるよう命
じた(甲6)。


不服申立て及び本件訴えの提起

原告は,平成26年11月7日付けで,厚生労働大臣に対し,本件業務停止命令及び上記カ(イ)の再教育研修命令に対する異議申立てをし,厚生
労働大臣は,平成27年1月22日付けで,上記異議申立てを棄却する旨の決定をした(甲7,乙13)。
イ4
原告は,平成26年11月28日,本件訴えを提起した(顕著な事実)。
主たる争点
原告は,薬事法上,医療用医薬品の郵便等販売は禁止されていないにもかかわらず,これを一律に禁止し,薬剤師による薬局での対面販売を義務付けた本件各規定は,薬事法による委任の範囲外の規制を定める違法,無効なものであ
る上,憲法22条1項が保障する職業活動の自由を制限する違憲,無効なものであるところ,本件業務停止命令は,本件各規定が無効であること等の事情を考慮せず,また,他の考慮すべきでない事情を考慮して行われたものであるから,本件業務停止命令を行った厚生労働大臣の判断は,裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用したものとして違法である旨主張し,被告は,これを争ってい
る(なお,前記事案の概要記載のとおり,原告は,本件訴訟において,主位的に本件業務停止命令の取消しを,予備的にその無効確認を求めているものの,取消事由と無効事由とを区別して主張することはしていない。)。したがって,本件の主たる争点は,本件業務停止命令を行った厚生労働大臣の判断に裁量権の範囲を逸脱又は濫用があるか否かであり,具体的には,①本
件各規定が薬事法による委任の範囲外の規制を定める違法,無効なものか否か(争点①),②本件各規定が憲法22条1項の保障する職業活動の自由を制限する違憲,無効なものか否か(争点②),③厚生労働大臣の判断に,考慮すべき事情を考慮せず(考慮不尽),考慮すべきではない事情を考慮した(他事考慮)違法があるか否か(争点③)である。

5
争点に関する当事者の主張


争点①(本件各規定が薬事法による委任の範囲外の規制を定める違法,無効なものであるか否か)
(被告の主張)


本件各規定は,薬局における医療用医薬品の販売方法に関し,薬事法9条1項による委任の範囲を逸脱するものではないこと
一般に,専門技術的事項は必ずしも国会の審議になじまず,また,状況の変化に対応した柔軟性を確保する必要がある事項は法律で詳細に定めることが適当ではないから,かかる事項については法律の委任(授権規定)に基づいて行政機関が規定を定めること(委任命令)が認められている。そして,委任命令が授権規定による委任の範囲内といえるか否かについては,①授権規定の文理,②授権規定が下位法令に委任した趣旨,③当該委任命令が委任した法律(授権法)の趣旨,目的及び仕組みとの整合性,④委任命令によって制限される権利又は利益の性質等を考慮して判断すべきである。

しかるところ,薬事法9条1項は,厚生労働大臣は,厚生労働省令で,薬局における医薬品の試験検査の実施方法その他薬局の業務に関し薬局開設者が遵守すべき事項を定めることができる旨規定しており,同項は,その文理上,薬局における医療用医薬品の販売方法に関する具体的な方法の定めを省令に委任したものであることが明らかである。そして,同項は,
ある一定の事項に限定して省令に委任する形式を採っておらず,委任事項そのものについても抽象度の高い文言で規定していることに照らせば,同項は,その文理上,薬局開設者の遵守事項を定めることを広く省令に委任する趣旨の規定であると解するのが相当である。
また,薬事法9条1項が,薬局開設者の遵守事項について,本件各規定
に委任した趣旨についてみるに,同項は,昭和54年法律第56号による改正(以下昭和54年法改正という。)により9条の2として新設された後,平成14年法律第96号による改正(以下平成14年法改正という。)により9条1項に繰り上げられたものであるところ,昭和54年法改正によって同規定が新設された趣旨は,それまで行政指導の形で行わ
れてきた薬局における医薬品の販売方法に関する規制を法制化し,医薬品の安全性を確保することにあった。そして,昭和54年法改正以前の行政指導では,薬局の店舗以外での医薬品の販売は認めていなかったことに鑑みると,同項は,厚生労働省令によって,医療用医薬品の郵便等販売を明示的に禁止することも当然に予定していたというべきであり,上記の趣旨は,平成14年法改正によって9条1項に繰り上げられた後も受け継がれているといえる。
薬事法9条1項による委任の趣旨を上記のように解することは,薬事法の改正経過からみた同法の趣旨,
目的及び仕組みとも整合する。
すなわち,
平成18年法改正の趣旨は,一般用医薬品をリスクの程度に応じて分類し,その販売等に当たり,リスクの高い医薬品ほど専門家の関与をより強
める制度を構築し,医薬品の安全性を確保することにあった。そして,医療用医薬品は,一般用医薬品よりもその効能や効果が高い反面,副作用も強く適正に使用しなければ容易に健康被害を生じさせ得るものであることに鑑みれば,リスクの高い医薬品ほど専門家の関与をより強める必要があるという上記の理は一般用医薬品と医療用医薬品の関係についても妥
当し,医療用医薬品の販売等に当たっては,一般用医薬品より専門家が適切に関与する必要性が高いといえる。そうすると,平成18年法改正前においても,医療用医薬品の販売方法について,医薬品の安全性を確保する上で必要かつ合理的な規制をすることが予定されていたものといえる。したがって,医療用医薬品の販売等について,最も確実に専門家に関与させ
る方法として対面販売等及び情報提供を義務付ける旨の本件各規定は,平成18年法改正後の薬事法の趣旨,目的及び仕組みにも整合するものといえる。
他方,薬事法9条1項の委任を受けた本件各規定によって制限される権利又は利益の性質についてみるに,平成18年法改正以前においては,ご
く一部の者を除き,医療用医薬品の郵便等販売をする者はいなかったのであり,平成18年法改正当時,医療用医薬品の郵便等販売を一律に規制することが,職業活動の自由に対する過度な制約であったとはいえない。以上によれば,本件各規定が,授権規定である薬事法9条1項による委任の範囲を逸脱しているとは認められない。

最高裁判所平成25年1月11日第二小法廷判決・民集67巻1号1頁(以下平成25年最判という。)について
平成25年最判は,薬事法施行規則15条の4第1項1号(同規則142条において準用する場合)等の各規定は,一般用医薬品のうち第一類医薬品及び第二類医薬品につき郵便等販売を一律に禁止することとなる限度において,薬事法による委任の範囲を逸脱した違法なものとして無効で
ある旨判断したものであり,医療用医薬品の郵便等販売について判断したものではないから,平成25年最判の判断を理由に,医療用医薬品につき郵便等販売を一律に禁止し,対面販売を義務付ける旨の本件各規定が,薬事法による委任の範囲を逸脱した違法,無効なものであるとはいえない。この点をおくとしても,平成25年最判は,一般用医薬品について,郵
便等販売の需要があることやその制限に反対する意見等があり,郵便等販売に対する新たな規制が職業活動の自由を相当程度制約するものであったことなどの事情(平成25年最判にいうこれらの事情)の下では,郵便等販売を規制する薬事法施行規則の規定が,これを定める根拠となる薬事法による委任の範囲を逸脱したものではないというためには,薬事法
中の諸規定から,郵便等販売を規制する内容の省令の制定を委任する授権の趣旨が,上記規制の範囲や程度等に応じて明確に読み取れることを要するとしたものである。しかるに,医療用医薬品については,本件各規定に係る意見公募手続や国会審議,政府の閣議決定及び専門家・有識者による会合等においても,郵便等販売を認めるべきであると明示的に述べる意見
はなかったし,平成18年法改正前において,医療用医薬品の郵便等販売が広く行われていたという実情はなく,これを規制することに伴う職業活動の自由の制約の範囲及び程度は限定的であったといえる。そうすると,平成25年最判が,上記判断枠組みを採用した前提としてのこれらの事情は,医療用医薬品については当てはまらず,本件について,平成25年最判の判断枠組みを採用すべきであるとはいえない。原告の上記主張は,前提において誤っており,理由がない。


処方せん医薬品と処方せん医薬品以外の医療用医薬品との違いに関する原告の主張について
原告は,薬事法は,少なくとも処方せん医薬品以外の医療用医薬品について,省令において郵便等販売を禁止することを許容したものとは解されない旨主張する。しかし,薬事法は,薬局における医療用医薬品の販売方
法について,処方せん医薬品とそれ以外の医療用医薬品とで異なる取扱いを予定していないのであるから,郵便等販売の規制の可否に関し,処方せん医薬品以外の医療用医薬品についてのみ異なる立場を採用しているとは解されない。
(原告の主張)

本件各規定は,薬局における医療用医薬品の販売方法に関し,薬事法9条1項による委任の範囲を逸脱したものであること
被告は,薬事法9条1項は,厚生労働省令で医療用医薬品の郵便等販売を規制する規定を定めることを予定していると主張するが,そのような解
釈は,
同項の文理解釈として無理がある。
すなわち,
薬事法9条1項の
薬局における医薬品の試験検査の実施方法その他薬局の業務に関しという文言によれば,試験検査の実施方法は,薬局の管理に関する帳簿整備義務,医薬品の記帳義務等と同列の薬局内の日常的な業務(法文上のその他薬局の業務)の例示として挙げられたものであり,省令に
おいて,これらの業務に関する留意点を定めることができるという,ごく当たり前のことを定めたにすぎず,同項は,厚生労働大臣に医薬品の販売方法の制限という制度の根幹に係る事項の制定までも一任するという趣旨のものではないと解するのが常識的な条文解釈である。被告の解釈によれば,薬事法9条1項を置いておけば,医薬品に関するいかなる規制も省令で定めることが可能であることになり,そのような解釈は,委任命令が授権規定による委任の範囲内かどうかについての判断基準のうち最も重要な
①授権規定の文理に明らかに反しているといわざるを得ない。また,薬事法は,販売方法の制限については,同法37条1項を別に定めているのであるから,同法9条1項を授権規定とみる必要性はない。
被告は,昭和54年法改正及び平成14年法改正の経過によれば,授権規定である薬事法9条1項による委任の趣旨として,省令によって医療用
医薬品の郵便等販売を禁止する旨の定めを置くことも予定していたといえるなどとも主張する。しかし,平成14年法改正前の薬事法9条の2第1項ないし同改正後の薬事法9条1項は,単に,専門技術的事項は必ずしも国会の審議になじまず,また,状況の変化に対応した柔軟性を確保する必要がある事項は,法律で定めることが適当でないことから,法律の委任に
基づいて行政機関が規定を定めることが認められているという委任命令の趣旨を,念のために付言した程度のものにすぎず,それ以上に,上記改正経過から,医薬品の販売方法に関する規則を法制化する趣旨を読み取ることはできない。
かえって,
平成25年法律第103号による改正
(以下
平成25年法改正という。)により追加された医薬品,医療機器等の品質,
有効性及び安全性の確保等に関する法律36条の4第1項によって初めて,明示的に薬局開設者に対し薬剤師による薬局医薬品の対面販売を義務付ける旨規定されたという改正経過に鑑みれば,平成25年法改正前までは,薬事法上,医療用医薬品の対面販売は義務付けられていなかったというべきである。


平成25年最判について
平成25年最判は,店舗販売業者に対して第一類医薬品及び第二類医薬品の郵便等販売を一律に禁止する旨の薬事法施行規則が薬事法による委任の範囲を逸脱し,違法である旨判断した理由として,①インターネットを通じた郵便等販売(以下インターネット販売という。)に対する需要は相当程度存在していたこと,②郵便等販売を広範に制限することに反
対する意見は一般の消費者のみならず専門家・有識者等の間にも少なからず存在していたこと,③政府部内においても,安全面において郵便等販売が対面販売より劣るとの知見は確立されていないとの意見があったこと,④郵便等販売に対する規制は,郵便等販売を事業の柱としてきた者の職業活動の自由を相当程度制約すること,⑤薬事法は,販売方法を原則として
対面販売に限るべきであるとか,郵便等販売を規制すべきであるとの趣旨を明確に示す定めを置いていないことを挙げている。そして,これらの各事情は,医療用医薬品の郵便等販売においても同じであるから,平成25年最判の射程は,医療用医薬品の郵便等販売についても及び,同判決によれば,医療用医薬品の郵便等販売を一律に禁止し,対面販売等を義務付け
る旨の本件各規定は,薬事法による委任の範囲を逸脱し,違法であるといえる。

本件各規定は,少なくとも処方せん医薬品以外の医療用医薬品の販売方法に関し,薬事法9条1項による委任の範囲を逸脱したものであること
薬事法49条1項は,原則として,処方せんの交付を受けた者以外の者に対する処方せん医薬品の販売を禁ずる旨を定めているが,処方せん医薬品以外の医療用医薬品についてはこのような定めはない。また,処方せん医薬品以外の医療用医薬品は,
一般用医薬品と同じ成分によるものが多く,
副作用等が顕著でない医薬品であることから処方せんが不要とされている
とみるべきであることも併せ考慮すると,薬事法は,処方せん医薬品以外の医療用医薬品については,一般用医薬品と同様に,郵便等販売を禁じていないと解すべきである。
以上によれば,本件各規定は,医療用医薬品又は少なくとも処方せん医薬品以外の医療用医薬品に係る郵便等販売を一律に禁止することとなる限度において,薬事法による委任の範囲を逸脱した違法なものとして無効というべきである。



争点②(本件各規定が憲法22条1項の保障する職業活動の自由を制限する違憲,無効なものか否か)
(被告の主張)

判断枠組み
本件各規定による規制は職業選択の自由そのものに制約を課するもので
はなく,職業活動の内容及び態様に対する規制にとどまるものであるところ,このような職業活動の自由に対する規制の合憲性は,規制の目的が公共の福祉に合致し,規制の内容とその必要性に関する立法府の判断が合理的裁量の範囲内か否かによって判断すべきである。そして,規制の目的が公共の福祉に合致するものと認められる以上は,規制の具体的内容及びそ
の必要性と合理性については,立法府の判断がその合理的裁量の範囲にとどまるかぎり,
立法政策上の問題としてその判断を尊重すべきものである。

本件各規定の規制目的が公共の福祉に合致し,規制の具体的内容とその必要性に関する立法府の判断が合理性を欠くことが明らかであるとはいえ
ないこと
本件各規定の目的は,薬剤師による対面での販売等及び情報提供等を通じて,医療用医薬品等の適正な使用を確保し,健康被害等の発生を防止するというものであり,このような目的は,公共の福祉に合致するものである。

そして,医療用医薬品は,その効能・効果において人体に対する作用が著しく,重篤な副作用が生ずるおそれがあるため,医療従事者の直接的な関与の下で慎重に取り扱うべきであることが医学・薬学の専門家の共通認識とされている。また,医療用医薬品の適正な使用を確保するためには,薬剤師が購入者の状態を的確に把握し,個別事情に応じた情報提供を行う必要があり,現に,薬剤師が対面で受診勧奨等を行うことによって,健康被害等の発生を防止することができた事例は多数存在する一方,郵便等販
売によった場合には,薬剤師と購入者とのやり取りは,電話,FAX,電子メール,テレビ電話等を用いる方法で行うことになり,薬剤師は,購入者の外見や行動等から購入者の状態や提供した情報に対する理解の程度を確認することはできず,安全性を確保することができない。これらのことからすると,医療用医薬品について,郵便等販売を禁止し,対面販売を義
務付けることが必要かつ合理的である。また,薬事法上,医療用医薬品と一般用医薬品は,その効能及び効果の点で違いがあることから,医療用医薬品については医療関係者が医薬品を選択し,その関与の下に使用することを前提とする一方で,一般用医薬品については需要者が医薬品を選択することを前提として一般使用者が自ら判断できる内容の添付文書を備える
ようにするなど(薬事法52条),販売制度上,異なる取扱いがされていることからすると,医療用医薬品と一般用医薬品の違いに応じて,それぞれの販売方法を規制する必要性があるといえ,医療用医薬品について郵便等販売を禁止することに合理性があるといえる。
以上によれば,本件各規定が,効能・効果の点において人体に対する作
用が著しい医療用医薬品について,その郵便等販売を禁止し,対面販売等を義務付けていることについて,規制の具体的内容とその必要性に関する立法府の判断が合理性を欠くことが明らかであるとはいえず,憲法22条1項に反するものとはいえない。
(原告の主張)

判断枠組み
本件各規定による規制は,いわゆる自由国家的な見地から,国民の生命及び健康に対する危険を防止するために,職業の選択とその遂行に対して加えられる規制(以下消極目的規制という。)であり,消極目的規制の違憲審査に当たっては,警察権の発動は,その対象となる社会公共に対する障害の大きさに比例しなければならず,その障害を除去するために必
要な最小限度にとどまらなくてはならないという,いわゆる警察比例の原則が妥当する。そうすると,本件各規定が憲法22条1項に反するか否かは,目的との関係で,より緩やかな規制手段で目的を達成できないかという,より緩やかな制限の有無によって審査すべきである。

本件各規定の規制目的は立法事実を欠く上,規制目的を達成するより緩やかな制限があること
処方せん医薬品以外の医療用医薬品について郵便等販売を認めることによって,弊害が起こる可能性があるということは,単なる観念上の想定にすぎず,本件各規定の規制目的は,立法事実を欠くものといわざるを得な
い。
また,被告は,規制内容として対面販売の意義を主張するが,仮に対面販売をしたとしても,購入者の理解度は,年齢,置かれた状況,病歴,病状等によって区々であり,服用する者以外の者が購入する可能性もあるから,郵便等販売を規制する合理的な根拠とはなり得ない。そうであるばか
りか,医薬品の副作用等に係る情報提供について,郵便等販売が対面販売よりも劣っている説得的な理由が示されたことはないし,仮に副作用等によるリスク管理の点で,郵便等販売が対面販売よりも劣るとしても,購入者は対面販売をいつでも選択できるから,郵便等販売を一律に禁止する合理的な理由はない。上記⑴で述べたところによれば,少なくとも,処方せ
ん医薬品以外の医療用医薬品については,一般用医薬品と同様の規制で足りるのであるから,処方せん医薬品に限り郵便等販売を禁止するなど,より緩やかな制限による規制を行うこともできたはずである。
以上によれば,医薬品の郵便等販売を一律に禁止し,対面販売を義務付ける旨の本件各規定は,憲法22条1項で保障された職業活動の自由を侵害するものであり,違憲,無効である。


争点③(厚生労働大臣の判断に考慮不尽,他事考慮の違法があるか否か)(被告の主張)

本件業務停止命令は,原告が,本件業務改善命令に従わず,医療用医薬品等のインターネット販売を継続したことにより罰金20万円に処する旨の本件略式命令を受け,薬剤師法5条3号所定の罰金以上の刑に処せられた者に該当し,同法8条2項の処分要件を満たすこととなったため,同項2号に基づいて,
原告に対し3か月の業務停止処分をしたものである。
そして,本件略式命令については,略式命令が発付されて確定した後に,その罪となるべき事実が前提とする薬事法施行規則の一部が平成25年最判により無効と判断されているところ,このように,施行規則のような委
任命令が判決により無効と判断されてその判決が確定した場合,仮に当該委任命令が遡及的に無効になると解したとしても,当該委任命令が有効であることを前提として言い渡されて確定した有罪判決までが当然に無効となるものではない。このことは,確定した有罪判決に,法律上罪とならない事実を有罪とした誤りが含まれる場合であっても,非常上告によって破
棄されない限り,当該確定判決は有効とされていること(刑事訴訟法459条の反対解釈)からも明らかである。そうすると,本件略式命令は,本件業務停止命令を行った時点において,依然として有効なものであったと認められる。なお,非常上告の理由である原判決が法令に違反したとき(刑事訴訟法458条1号本文)とは,客観的に極めて明白な違反がある
場合に限られると解すべきであるとする見解が有力であり,最高裁判所の判例が変更された場合等は含まれないとされているから,本件のように,裁判所がある委任命令を違法,無効と判断した場合であっても,その判断が示される前に,当該委任命令が有効であることを前提として発付されて確定した略式命令について,非常上告の理由があると考えるのは相当ではない。
これに対し,原告は,本件各規定が無効であることを考慮すべきであっ
た旨主張するようであるが,そもそも上記⑴及び⑵のとおり,本件略式命令で認定された犯罪事実が前提とする本件各規定は有効であるから,原告の上記主張は,前提において誤っているし,仮に平成25年最判によって本件略式命令で認定された犯罪事実の根拠法令である本件各規定が無効となるとしても,そのことによって本件略式命令の有効性に影響するもの
ではないから,本件業務停止命令に当たって,原告の行為が当罰的であったか否かを検討し,これを考慮すべきであったとはいえない。

また,本件業務停止命令は,薬剤師の行政処分に関する考え方の一部改正について(平成25年3月14日付け薬食総発0314第1号厚生労働
省医薬食品局総務課長通知)別添の薬剤師の行政処分に関する考え方に従い,行われたものであり,考慮不尽ないし他事考慮はない。
すなわち,厚生労働大臣は,原告は,国民の健康な生活を確保する任務を負うべき薬剤師であるにもかかわらず,重篤な副作用が生ずるおそれがある医療用医薬品をインターネットで販売し,正に国民の健康を危険にさ
らすおそれの強い行為を行っていたこと,二度にわたる業務改善命令に違反して医療用医薬品等の郵便等販売を継続したことからすると,原告の行為は薬事法違反の事案の中でも悪質な部類に属する一方,罰金以上の刑に処せられた他の薬剤師に比べ軽い処分にとどめるべき理由があるともいえないと判断し,原告に対し3か月の業務停止を命ずる旨の本件業務停止
命令を行ったものである。
これに対し,原告は,本件業務停止命令について,本件略式命令において原告がインターネットで販売したと認定されたEは,平成25年最判において郵便等販売を一律に禁止することが違法であると判断された第一類医薬品であったことを考慮していない違法がある旨主張するが,厚生労働大臣は,本件業務停止命令を行うに当たり,平成25年最判を踏まえ,第一類医薬品であるEをインターネットで販売した事実を捨象して検討
しているから,原告の上記主張は,誤った事実認識に基づくものであり,理由がない。
また,原告は,本件業務停止命令は,原告が処方せん医薬品をインターネットで販売したことはないことを考慮すべきであったにもかかわらず,これを考慮していない点で違法であるとも主張する。しかし,医療用医薬
品については,処方せん医薬品であるか否かを問わず,明確に郵便等販売が禁止されていたのであるから,原告が販売した医療用医薬品が処方せん医薬品ではなかったとしても,原告が行った行為の悪質性を大きく減殺する事情であるとはいえない。
さらに,原告はインターネットを介して必要な情報収集や情報提供をし
た上で医薬品のインターネット販売をしていた点を考慮すべきであったとも主張するが,原告の主張する方法は,薬局の薬剤師が対面で情報提供を行わないという点において違法であることに変わりはないし,患者の状態の的確な把握といった点において対面販売には及ばない以上,対面販売と実質的に同視することもできないから,原告の主張する方法が,原告が
行った行為の悪質性を大きく減殺する事情であるとはいえない。
したがって,本件業務停止命令に当たって,原告が主張する考慮不尽ないし他事考慮はなく,同命令は,もとより適法である。
(原告の主張)

本件業務停止命令は,本件略式命令を理由とするものであるところ,本件略式命令で認定された犯罪事実は,第一類医薬品及び医療用医薬品の販売を中止することを求める旨の本件業務改善命令に違反したというものである。
しかし,
刑事処分と行政処分とはそもそも目的が異なる制度であり,
刑事処分がされたからといって,必然的に行政処分を科さなければならないという結論にはならない上,上記⑴及び⑵のとおり,本件略式命令で認定された犯罪事実の前提とされている本件各規定は,平成25年最判によ
り違法,無効とされているから,原告の行為に実質的な違法はなく,薬剤師としての品位を損ない,国民の信頼を喪失させるものでもなかった。そればかりか,原告の行為は,過去の業務停止命令の理由とされた調剤報酬の不正請求や覚せい剤取締法違反,大麻取締法違反の事案等のまさに薬剤師としての品位を損なうような行為とは異なるにもかかわらず,このこと
が考慮されていない。本件業務停止命令は,原告の行為が上記のとおり当罰的な行為ではなかったことを考慮しておらず,違法である。

また,本件業務停止命令は,原告は,これまでにインターネットで処方せん医薬品を販売したことは一度もなく,処方せん医薬品以外の医療用医薬品の販売に当たり,対面販売と同程度の注意を払うべく,別紙2問診票
に記入した購入者に限って医薬品を販売するなど,インターネットを介して購入者との間で適切な情報収集及び情報提供をしてきたことも考慮していない。
本件業務停止命令は,
原告の行為の内容を十分に考慮しておらず,
3か月の業務停止という他の事例と比較して不当に重いものとなっており,違法である。


さらに,本件業務停止命令の前提とされた本件略式命令に係る犯罪事実には,第一類医薬品であるEをインターネットで販売した事実も含まれているところ,第一類医薬品の郵便等販売の一律禁止は,平成25年最判において違法とされたのであるから,上記事実を考慮して,本件業務停止命
令を行うことは許されない。本件業務停止命令は,第一類医薬品のインターネット販売という考慮すべきでない事情を考慮した違法がある。以上によれば,本件業務停止命令は,上記各事情について,考慮不尽ないし他事考慮による裁量権の範囲の逸脱又は濫用があり,違法である。第3

当裁判所の判断

1
本件業務停止命令の違法性についての判断枠組み


薬剤師法8条2項は,薬剤師が同法5条3号の掲げる罰金以上の刑に処せられた者に該当するときは,厚生労働大臣は,当該薬剤師に対し,戒告,3年以内の業務の停止又は免許の取消しの処分をすることができる旨規定している。この規定は,薬剤師が罰金以上の刑に処せられたことから,薬剤師として品位を欠き人格的に適格性を有しないものと認められる場合には,薬
剤師の資格をはく奪し,そうまでいえないとしても,薬剤師としての品位を損ない,あるいは薬剤師の職業倫理に違背したものと認められる場合には,一定期間の業務の停止又は戒告によって反省を促すものとし,これによって薬剤師の業務が適正に行われることを期するものであると解される。したがって,薬剤師が罰金以上の刑に処せられた場合に,当該薬剤師について,免
許を取り消し,業務の停止を命じ,又は戒告をするかどうかということは,当該刑事罰の対象となった行為の種類,性質,違法性の程度,動機,目的,影響のほか,当該薬剤師の性格,処分歴,反省の程度等,諸般の事情を考慮し,同法8条2項の趣旨に照らして判断すべきものであるところ,その判断は,同法8条5項に基づき医道審議会の意見を聴く前提の下で,薬剤師免許
の免許権者である厚生労働大臣の合理的な裁量に委ねられているものと解するのが相当である。
以上によれば,厚生労働大臣がその裁量権の行使としてした薬剤師に対する業務停止処分は,それが社会通念上著しく妥当を欠いて裁量権を付与した目的を逸脱し,これを濫用したと認められる場合でない限り,その裁量権の
範囲内にあるものとして,違法とならないものというべきである。(以上につき,最高裁判所昭和63年7月1日第二小法廷判決・集民154号261頁参照)


前記前提事実によれば,原告は,第一類医薬品及び医療用医薬品のインターネット販売をしないよう命ずる旨の本件業務改善命令を受けたにもかかわらず,同命令に従わずに第一類医薬品及び医療用医薬品のインターネット販売をし,もって本件業務改善命令に違反したとして,薬事法違反の罪により
罰金20万円に処する旨の本件略式命令を受け,その後,本件略式命令は確定したのであるから(前記前提事実⑵ウ),原告が罰金以上の刑に処せられた者(薬剤師法5条3号)に該当するものであったことは明らかである。そうである以上,原告に対して薬剤師法8条2項所定の処分をするための要件は満たされていたといえる。
原告は本件各規定が無効である旨主張するが,

確定した本件略式命令は,仮にそれが法令に違反していたとしても,非常上告によって破棄されない限り有効であるから(刑事訴訟法470条,459条),本件各規定が無効であるからといって,直ちに本件業務停止命令が薬剤師法8条2項所定の処分要件を欠くものとして違法ということにはならない。

もっとも,仮に本件各規定が無効であると解すべきであるとすれば,無効と解すべき理由や無効であることの明白性の程度等によっては,原告が本件各規定を根拠とする本件業務改善命令に違反したとして罰金刑に処せられたことを理由に本件業務停止命令をすることが,上記⑴の判断枠組みの下において,社会通念上著しく妥当を欠くものと評価される余地があるというべき
である。
そこで,以下,本件各規定が薬事法による委任の範囲外の規制を定める違法,無効なものか否か(争点①),及び本件各規定が憲法22条1項の保障する職業活動の自由を制限する違憲,無効なものか否か(争点②)について,まず,検討する。

2
立法経緯等
各項掲記の証拠等によれば,
薬事法9条1項及び本件各規定の立法経緯等は,
以下のとおりである。


薬事法の委任規定が設けられる以前の状況

厚生省薬務局長は,昭和33年5月7日付けで,都道府県知事に対し,薬局,医薬品製造業,医薬品輸入販売業及び医薬品販売業の業務について(薬発第264号厚生省薬務局長通知。以下昭和33年通知という。)を発出した。昭和33年通知は,薬局開設者の遵守すべき事項として,以下の各点を挙げている。
(ア)

店舗販売以外の方法で医薬品を販売しないこと等について,自ら遺
漏のないよう留意するとともに,管理薬剤師をして遺漏ないよう留意せ
しめること(第一の一⑵)。
(イ)

薬局の開局中は,薬剤師を薬局に常時配置し,医薬品の販売に当た
り,購入者等に対し,医薬品の適正な使用のために必要な情報を提供すること(第一の一⑹)。
(以上につき,乙14)


厚生省薬務局長は,
昭和50年6月28日付けで,
都道府県知事に対し,
薬事法の一部を改正する法律の施行について(薬発第561号厚生省薬務局長通達。以下昭和50年通達という。)を発出した。昭和50年通達(記の第二の(三))は,医薬品の販売態勢の適正化について,以下
の各点を挙げている。
(ア)

薬剤師,薬種商販売業者等が医薬品を販売する際,消費者に対し直
接に効能効果,副作用,使用取扱い上の注意事項を告げて販売する等医薬品の対面販売の実施につき指導すること。
(イ)
薬局等の構造設備は,かかる対面販売が可能となるようなものとす
るよう指導すること。
(以上につき,乙15)


昭和54年法改正の経緯及び内容等
薬事法9条1項は,昭和54年法改正により9条の2として新設された。なお,後述のとおり,同条は,その後の改正を経て,平成14年法改正により9条1項に繰り上げられた。
厚生大臣は,昭和54年9月4日,第88回国会衆議院社会労働委員会に
おいて,昭和54年法改正に係る法律案の提案理由について,現行薬事法は,占領下において制定された旧薬事法を昭和35年に全面的に改めて制定されたものであり,以後,ほとんど改正が行われずに今日に至っております。しかしながら,医薬品を取り巻く環境は,この間に大きく変化しており,特に昭和36年に発生したサリドマイド事件は,世界的に大きな衝撃を与え,医薬品の有効性と安全性の確保が,各国薬事行政の最重要課題として改めて深く認識されるに至ったわけであります。このような状況に対し,(中略)わが国においては,新薬承認の厳格化等,主として行政指導により各般の施策を積極的に展開してきたところであります。今回の改正は,これまでの行政指導による施策の実績を踏まえ,さらに,その徹底を図ることを主眼とするものであり,したがって,医薬品等の有効性及び安全性の確保がその中心課題となっております。などと説明した(乙62)。上記改正により追加された9条の2は,

厚生大臣は,厚生省令で,薬局における医薬品の試験検査の実施方法,薬局の管理者の義務の遂行のための配慮事項その他薬局の業務に関し薬局開設者が遵守すべき事項を定めることができる。

と規定していたところ,この規定を受けて,昭和55年厚生省令第34号及び同第50号により薬事法施行規則が改正され,管理者の意見の尊重,試験検査の実施方法,薬局の管理に関する帳簿並びに医薬品の譲受及び譲渡に関する記録についての規定が設けられた。


昭和54年法改正後の行政指導の状況
厚生省薬務局監視指導課長は,昭和63年3月31日付けで,各都道府県衛生主管部(局)長に対し,医薬品の販売方法について(薬監第11号。以下昭和63年通知という。)を発出した。昭和63年通知には,要旨,近年,薬局開設者等店舗による医薬品の販売等を行う者が,カタログ,ちらし等を配布し,注文書により契約の申込みを受けて一般用医薬品を配送する通信販売(以下カタログ販売という。)を行う事例が見られるようにな
ったこと,カタログ販売は,対面販売の趣旨が確保されないおそれがあり,一般的に好ましくないところである旨,具体的なカタログ販売形態の当否については,個々のケースごとに判断するべきところであるが,当面,最小限遵守されなければならない事項として,カタログ,ちらし等では,医薬品に関する記載を他の商品に関する記載と明確に区分し,当該医薬品に関する記
載において,①販売店舗の名称等,②各販売品目の剤型,有効成分の名称等,③医薬品使用に当たっての一般的な注意の表示,④問合せに応ずるための電話番号の表示が一般消費者に明示されていること,取扱医薬品の範囲は,容器又は被包が破損し易いものでなく,経時変化が起こりにくく,副作用のおそれが少ないもので,一般消費者の自主的判断に基づき服用されても安全性
からみて比較的問題が少ないものであることなどが列挙されていた。(以上につき,乙17,弁論の全趣旨)


薬事法の委任規定の改正経緯
平成8年法律第104号による薬事法の改正は,9条の2中,薬局の管理者の義務の遂行のための配慮事項を削り,同条に2項として管理者の意見の尊重についての規定を加えるものであり,同改正法の施行に伴い,薬事法施行規則中管理者の意見の尊重についての規定は削除された(平成9年厚生省令第29号による薬事法施行規則の改正)。
平成11年法律第160号による薬事法9条の2第1項の改正は中央省庁
等の再編等に伴う所要の改正をするものであり,その後,同条の規定は,平成14年法改正により9条に繰り上げられた。この時点において,同条1項は,

厚生労働大臣は,厚生労働省令で,薬局における医薬品の試験検査の実施方法その他薬局の業務に関し薬局開設者が遵守すべき事項を定めることができる。

と規定していた。⑸
インターネット販売等に係る行政指導の状況

厚生労働省医薬食品局監視指導・麻薬対策課長は,平成16年9月3日付けで,都道府県,保健所設置市及び特別区の各衛生主管部(局)長に対し,医薬品のインターネットによる通信販売について(薬食監麻発第0903013号。以下平成16年通知という。)を発出し,インターネットによる医薬品の通信販売についてはこれまで昭和63年通知と同様の扱いとしていたが,これを改めて周知するとともに,監視指導の徹底を
図るよう依頼した(乙17)。

厚生労働省医薬食品局長は,平成17年3月30日付けで,都道府県知事,政令市長及び特別区長に対し,
処方せん医薬品等の取扱いについて
(薬食発第0330016号。以下平成17年通知という。)を発出
した。
平成17年通知には,
処方せん医薬品以外の医療用医薬品について,
以下の記載がある。
(ア)

処方せん医薬品以外の医療用医薬品についても,処方せん医薬品と
同様に,医療用医薬品として医師,薬剤師等によって使用されることを目的として供給されるものである。このため,処方せん医薬品以外の医療用医薬品についても,効能・効果,用法・用量,使用上の注意等が医師,薬剤師等の専門家が判断・理解できる記載となっているなど医療において用いられることを前提としており,薬局においては,処方せんに基づく薬剤の交付が原則である(記の2⑴)
(イ)

処方せん医薬品以外の医療用医薬品については,処方せんに基づく
薬剤の交付を原則とするものであるが,一般用医薬品の販売による対応を考慮したにもかかわらず,やむを得ず販売を行わざるを得ない場合等においては,必要な受診勧奨を行った上で,その販売に当たっては,薬局において,薬剤師が対面により販売することなどを遵守する必要がある(記の2⑵)。
(以上につき,乙21)


平成18年法改正に至る検討の状況
厚生科学審議会は,医薬品販売制度改正検討部会を設置して医薬品販売の在り方全般について検討し,
平成17年12月15日付けで報告書
(以下
本件報告書という。)を取りまとめた。同報告書では,一般用医薬品をめぐる現状と課題が整理され,近年,国民の健康意識が高まり,一般用医薬品の果たすべき役割が大きくなっており,昭和35年の薬事法制定以降,国民生
活が大きく変化し,インターネット等の情報通信技術の発展・普及等もあり利便性への要請といった医薬品の販売に対するニーズが変化し,国民の意識の面でも医療や医薬品に関する安全性についての関心も高まっているなど,医薬品をめぐる情勢が変化していることが指摘された。また,本件報告書では,リスクの程度に応じて一般用医薬品を分類し,情報提供及び相談応需を
必要とする旨の改正の方向性が示されたほか,医療用医薬品が医療の一環として提供され,大きな役割を果たしてきていること,医療用医薬品との比較で言えば,一般用医薬品のリスクがおおむねリスクが低いことが指摘されたが,
医療用医薬品の販売の在り方やその改正の方向性に係る記載はなかった。(以上につき,乙18)



平成18年法改正における審議経過等
内閣は,平成18年3月7日,平成18年法改正に係る法律案を第164回国会に提出した。平成18年法改正は,一般用医薬品をその副作用等により健康被害が生ずるおそれの程度に応じて区分し,その区分ごとに,専門家
が関与した販売方法を定める等,医薬品の販売制度の全面的な見直しを行うこと等をその内容とするものであり,同改正後の薬事法の下において,医療用医薬品は薬局開設者のみが販売することができ,店舗販売業の許可を受けた者(以下店舗販売業者という。)等は医療用医薬品を販売することはできないこととされた(薬事法27条,31条)。なお,薬事法9条1項は,同改正の対象とはされなかった。(以上につき,乙22)
上記法律案の国会審議では,政府参考人である厚生労働省医薬食品局長から,医療用医薬品及び一般用医薬品による重篤な副作用の過去3年の発現動向について,医療用医薬品は1年度当たり2万5000件前後の副作用報告があり,一般用医薬品は1年度当たり300件前後の副作用報告があった旨の答弁がされた(乙23)。また,上記審議では,一般用医薬品のインター
ネット販売の可否について,G委員から,インターネットが大変普及しているところであるが,一般用医薬品についても,サリドマイド等の重度の障害又は生命の危険が生ずる事例が報告されており,このような薬害被害の実態を考えれば,特にリスクの高い第一類医薬品は,対面販売以外の販売方法になじまないのではないか,少なくとも第一類医薬品についてはインターネッ
ト販売・通信販売を禁止すべきであるという意見が述べられるなど,販売の範囲の在り方を含めて質疑が行われた。上記局長は,上記意見に対し,本件報告書において,対面販売が原則であることから情報通信技術を活用は慎重に検討すべきであるとされ,リスクの程度が比較的低い第三類医薬品については電話での相談窓口を設置する等の一定の要件の下で通信販売を認めざる
を得ないとされていること,厚生労働省としては,インターネットの技術進歩には目覚ましいものがあるとはいえ,医薬品の適正使用を確保する観点から,現時点では慎重な対応が必要であると考えていること,現状において把握しているインターネット販売業者については,薬剤師による対面での情報提供が不当となる第一類の医薬品を販売している事案について必要な指導を
行うこと,現行の薬事法では,その指導は通知に基づくものであり,強制力を持って取り締まることが困難であるが,G委員の指摘も踏まえて必要な指導を行うこと等の答弁をした。他方,上記審議では,医療用医薬品のインターネット販売の可否については,参考人である薬害被害者団体の代表者から言語道断である旨の意見が述べられただけであり,他に意見や質疑はなかった(乙23~26,弁論の全趣旨)。


平成21年規則改正の経緯

平成21年規則改正に係る薬事法施行規則等の一部を改正する省令(同年厚生労働省令第10号)は,薬事法の一部を改正する法律(平成18年法律第69号)の施行に伴い,及び薬事法の規定に基づき,薬事法施行規則等の一部を改正するものであり,
同改正により本件各規定が新設された。
厚生労働省は,上記改正に当たり,平成20年9月17日から同年10
月16日までの間,本件各規定を含む平成21年規則改正の案を公示して意見公募手続に付した。同手続では,一般用医薬品の郵便等販売を第三類医薬品に限定するという案に対し,賛成意見のほか,販売可能な一般用医薬品の範囲を第一類医薬品及び第二類医薬品についても認めるべきであるとする反対意見①,及び販売可能な一般用医薬品の範囲を第二類医薬品
についても認めるべきであるとする反対意見②等があったが,明示的に医療用医薬品についても郵便等販売を認めるべきであるとする意見はなかった。他方,処方せん医薬品以外の医療用医薬品について,平成17年通知を廃止して同旨の内容を省令で明文化すべき旨の意見があった。(以上につき,乙31,弁論の全趣旨)


内閣府に設置された規制改革会議が平成20年11月11日付けで公表したインターネットを含む通信販売による一般用医薬品の販売規制に関する規制改革会議の見解においては,一般用医薬品について,インターネットを含む通信販売が第三類医薬品に限って許されるという平成21年規則改
正の案は薬事法による委任の範囲を超えている旨の見解が示されていたが,医療用医薬品の通信販売についての見解は示されなかった(乙30,34)。⑼

平成25年最判
平成21年規則改正により,店舗販売業者に対し,一般用医薬品のうち第一類医薬品及び第二類医薬品について,①当該店舗において対面で販売等させなければならない(159条の14第1項,2項本文)ものとし,②当該店舗内の情報提供を行う場所において情報の提供を対面により行わせなければならな
い(159条の15第1項1号,159条の17第1号,2号)ものとし,③郵便等販売をしてはならない(142条,15条の4第1項1号)ものとする各規定が設けられたところ,最高裁判所は,平成25年1月11日,これらの各規定は,いずれも上記各医薬品に係る郵便等販売を一律に禁止することとなる限度において,
平成18年法改正後の薬事法の趣旨に適合するものではなく,

薬事法による委任の範囲を逸脱した違法なものとして無効というべきである旨判示した。

平成25年法律第103号による法改正の内容

その後,平成25年最判等を踏まえ,平成25年法律第103号による薬事法の改正(以下平成25年法改正という。)が行われたところ,同改正は,一般用医薬品のインターネット販売を認めることとし,その販売方法に関する遵守事項を定めるとともに,第一類医薬品については,その販売に際し,使用者の年齢,他の医薬品の使用状況等を確認することとするなど,一般用医薬品の販売に際してのルールの整備を行うこと等を内容とするもの
であった。これにより,同法9条1項は,次のとおり,改められた。厚生労働大臣は,厚生労働省令で,次に掲げる事項その他薬局の業務に関し薬局開設者が遵守すべき事項を定めることができる(9条1項)。(ア)

薬局における医薬品の試験検査その他の医薬品の管理の実施方法に関
する事項(同項1号)
(イ)

薬局における医薬品の販売等の実施方法(その薬局においてその薬局
以外の場所にいる者に対して一般用医薬品を販売等する場合におけるその者との間の通信手段に応じた当該実施方法を含む。)に関する事項(同項2号)

上記改正法の施行に伴い,平成26年厚生労働省令第8号により薬事法施行規則が改正されたところ,同改正後の同規則11条の7は,薬事法9条1項の厚生労働省令で定める薬局開設者が遵守すべき事項は,同規則11条の
8から15条の10までに定めるものとする旨規定し,同改正後の同規則15条の6柱書きは,薬局開設者は,特定販売(その薬局又は店舗におけるその薬局又は店舗以外の場所にいる者に対する一般用医薬品又は薬局製造販売医薬品(毒薬及び劇薬であるものを除く。)の販売等をいう。)を行う場合には,同項各号に掲げるところにより行わなければならない旨規定し,同項
1号は,当該薬局に貯蔵し,又は陳列している一般用医薬品又は薬局製造販売医薬品を販売等することを掲げ,医療用医薬品については特定販売をしてはならないこととしている。
3
争点①(本件各規定が薬事法による委任の範囲外の規制を定める違法,無効なものであるか否か)について


薬事法9条1項の趣旨
薬事法が医薬品の製造,販売等について各種の規制を設けているのは,医薬品が国民の生命及び健康を保持する上での必需品であることから,医薬品の安全性を確保し,不良医薬品による国民の生命,健康に対する侵害を防止
するためである(最高裁判所平成7年6月23日第二小法廷判決・民集49巻6号1600頁)。このような規制の具体化に当たっては,医薬品の安全性や有用性に関する厚生大臣ないし厚生労働大臣の医学的ないし薬学的知見に相当程度依拠する必要がある(平成25年最判参照)。
そして,上記2⑵のとおりの昭和54年法改正の経緯及び内容等からすれ
ば,同改正により9条の2が新設され,薬局における医薬品の試験検査の実施方法,薬局の管理者の義務の遂行のための配慮事項その他薬局の業務に関し薬局開設者が遵守すべき事項の定めを厚生省令に委任することとされたのも,医薬品の品質,有効性及び安全性を確保するためには,医薬品の販売過程での一定の適切な配慮が必要であることから,厚生大臣の医学的ないし薬学的知見に基づき,薬局の業務に関し薬局開設者が遵守すべき事項を設定するのが合理的であることによるものと解される。そうであるところ,医薬品
の有効性及び安全性を確保するために必要な方策については,医学的ないし薬学的知見の進展や情報通信技術の発展・普及等の社会情勢の変化等に適合したものにする必要があると考えられる。以上に述べたところに加え,同条が厚生省令に委任する事項を薬局の業務に関し薬局開設者が遵守すべき事項と抽象的・一般的に定めていたことからすれば,同条は,上記事項とし
て省令にいかなる内容の規定を設けるかについては,どのような事柄を対象とするかも含めて,省令の制定権者である厚生大臣の裁量に委ねたものと解するのが相当である。
また,上記2のとおり,薬事法9条1項の規定は,昭和54年法改正により新設された9条の2が,その後の改正を経て,9条1項に繰り上げられた
ものであるところ,同⑷のとおりの上記各改正の内容からすれば,昭和54年法改正により新設された薬事法9条の2が薬局の業務に関し薬局開設者が遵守すべき事項の定めを厚生省令に委任した上記趣旨は,基本的に,薬事法9条1項に引き継がれているものと解される。なお,薬事法9条1項は,その後,平成25年改正により改正されたが,上記2⑽のとおりの上記改正の
内容からすれば,上記趣旨は,更に,現行の医薬品医療機器等法9条1項にも引き継がれているものと解される。


本件各規定について
以上を前提に,
本件各規定について検討するに,
薬事法9条1項にいう
薬局の業務に医薬品の販売業務が含まれることは明らかであるから,薬局の業務に関し薬局開設者が遵守すべき事項として,厚生労働省令に,医薬品の販売方法に関する遵守事項を定めることができるというべきである。したがって,同項の文言に照らし,同項が医薬品の販売方法の制限を厚生労働省令に委任する趣旨までも含むものとは解されない旨の原告の主張は,採用することができない。
そこで,更に進んで,厚生労働省令において医療用医薬品の郵便等販売を一律に禁ずることが,薬事法9条1項による委任の範囲を逸脱しないものであるか,すなわち,薬事法が厚生労働省令において上記規制をすることを許容していたといえるかについて検討する。
上記2の立法経緯等によれば,平成21年規則改正が行われるまでは,医
薬品の郵便等販売は,薬事法及びその関連法令において禁止されていなかったものの,厚生省ないし厚生労働省は,昭和54年法改正以前から平成21年規則改正に至るまで,各地方自治体に対し,医薬品については対面販売を実施するよう指導することや,郵便等販売は対面販売の趣旨が確保されないおそれがあるからその範囲を一定の薬効群のものに限るよう指導することを
求める通知等を度々発しており(昭和33年通知,昭和50年通達,昭和63年通知),特に,医療用医薬品については,平成17年通知において,対面販売を遵守させるよう指導することを求めていた。そうであるところ,平成18年頃には,インターネット等の情報通信技術の発展・普及等もあり医薬品の販売に対するニーズが変化し,国民の意識の面でも医療や医薬品に関
する安全性についての関心も高まっているなど,医薬品をめぐる情勢が変化していることを背景に,医薬品の販売の在り方全般について見直しを行うことが求められ,このような事情の下で平成18年法改正が行われた。この平成18年法改正は,一般用医薬品をその副作用等により健康被害が生ずるおそれの程度に応じて区分し,その区分ごとに,専門家が関与した販売方法を
定める等,医薬品の販売制度につき全面的な見直しを行うこと等をその内容とするものであるが,医療用医薬品については,薬局開設者のみが販売することができ,店舗販売業者等は販売することはできないこととされたのであり,その立法過程においても,一般用医薬品のインターネット販売に関しては,その可否や許容される範囲等について検討が行われたのに対し,医療用医薬品のインターネット販売に関しては,国会審議において参考人からこれを許容しない旨の意見が述べられたにとどまり,その可否や許容される範囲
等についての検討が行われた様子は見当たらない。さらに,平成18年法改正を受けて行われた平成21年規則改正の際の意見公募手続においても,医療用医薬品について郵便等販売を認めるべきであるという意見はなかった一方,処方せん医薬品以外の医療用医薬品について,平成17年通知を廃止して同旨の内容を省令で明文化すべき旨の意見があった。また,平成20年1
1月に公表された規制改革会議の見解においても,一般用医薬品について,インターネットを含む通信販売が第三類医薬品に限って許されるという平成21年規則改正の案は薬事法による委任の範囲を超えている旨の見解が示されたのに対し,医療用医薬品の通信販売に係る見解は示されなかった。以上のとおり,医療用医薬品については,従前より,行政指導によってで
はあるが,対面販売が強く求められていた状況に加え,情報通信技術の発展等による医療品をめぐる情勢の変化を背景に,平成18年法改正がされ,医薬品の販売制度の全面的な見直しが行われたのであるが,その立法過程等において,医療用医薬品の郵便等販売を認めるべきであるとの意見はなかったということができる。以上の経緯に加え,後記4で説示するとおり,医療用
医薬品については,その不適切な使用による副作用等を防止し,その安全性を図るためには,対面販売によるのが合理的であって,薬事法もこのことを当然の前提としていたものと考えられることも併せ考慮すれば,薬事法が,厚生労働省令において医療用医薬品の郵便等販売を一律に禁ずることを許容していなかったものと解することはできないというべきである。



原告の主張について

以上に対し,原告は,第一類医薬品及び第二類医薬品について説示した平成25年最判を根拠に,同判決の判断枠組みの下では,医療用医薬品の郵便等販売を一律に禁止した本件各規定も,薬事法による委任の範囲を逸脱するものである旨主張する。

確かに,①平成18年法改正により追加された同改正後の薬事法9条の2は,薬局において薬剤を販売する場合等における情報提供について定めるところ,その文理上は情報提供を対面で行うことを義務付けていないことはもとより,その必要性等について明示的に触れているわけではないこと,②医薬品(当然に医療用医薬品を含む。)に係る販売等の方法等の制
限について定める薬事法37条1項も,現金行商・露店販売等,事後に販売業者の責任を追及することが困難であるような形態による販売等を禁止する趣旨であると解されているところ,郵便等販売が違法とされていなかったことの明らかな平成18年法改正前の薬事法の当時から実質的に改正されていないこと,③薬事法の他の規定中にも,薬局における医療用
医薬品の販売等やその際の情報提供の方法を原則として薬局における対面によるものに限るべきであるとか,郵便等販売を規制すべきであるとの趣旨を明確に示すものは存在しないということは,医療用医薬品についても同様に指摘できる。また,④平成18年法改正により,薬事法には9条1項と同様に,店舗販売業者の遵守事項の定めを厚生労働省令に委任する
旨規定する,
29条の2が追加されたにもかかわらず,
平成25年最判は,
同条を授権規定ととらえていない。
そうすると,
薬事法を形式的にみれば,
平成25年最判において,郵便等販売を一律に禁止することが薬事法による委任の範囲を逸脱するものとされた第一類医薬品及び第二類医薬品と,医療用医薬品とで異なるところはないという見方も全く成り立たないわ
けではない。
しかし,平成25年最判は,平成18年法改正の前後を通じてインターネット販売に対する需要が現実に相当程度存在し,郵便等販売を広範に制限することに対する反対意見が少なからず見られたこと,一般用医薬品の販売方法として郵便等販売が対面販売より劣るとの知見が確立されておらず,薬剤師が配置されていないことに直接起因する一般用医薬品の副作用等による事故も報告されていないことから,一般用医薬品の販売方法を対面販売に制限する理由は乏しいとの見解が根強く存在していたことなどの事情の下では,薬事法の諸規定から,郵便等販売を規制する内容の省令の制定を委任する授権の趣旨が,上記規制の範囲や程度等に応じて明確に読み取れることを要するとの判断枠組みを示した上で,薬事法の授権の
趣旨が,第一類医薬品及び第二類医薬品に係る郵便等販売を一律に禁止する旨の省令の制定までをも委任するものとして,上記規制の範囲や程度等に応じて明確であると解するのは困難であると判示したものである。他方で,医療用医薬品については,既に認定・説示したとおり,平成18年法改正の立法過程において医療用医薬品の郵便等販売を認めるべき
であるとの意見はなく,またその需要も少なくとも一般用医薬品ほどには存在していた様子もうかがわれないといえるほか,医療用医薬品による重篤な副作用は,1年度当たり2万5000件前後の報告があり,一般用医薬品の同様の報告が300件前後の報告にとどまることに比べ,副作用の報告件数において有意な差があるということができる。そうすると,平成
25年最判において一般用医薬品について指摘された上記事情は,医療用医薬品については認められず,前提となる事情が異なるのであるから,同判決で示された上記判断枠組みがそのまま医療用医薬品に係る郵便等販売にも妥当するということはできない。したがって,上記①から④までの指摘ができるからといって,直ちに,本件各規定が薬事法による委任の範
囲を逸脱するものであるということにはならないというべきである。むしろ,上記⑴で説示したところからすれば,平成18年法改正前においては,仮に,厚生労働省令により,医薬品全般について郵便等販売が一律に禁止されていたとしても,薬事法による委任の範囲を逸脱しないものと解する余地があったというべきである。すなわち,平成25年最判は,上記のとおり,一般用医薬品の郵便等販売をめぐって積極・消極の意見があった中で平成18年法改正が行われたにもかかわらず,郵便等販売に対
する薬事法の立場は不分明であり,その理由が立法過程での議論等から全くうかがわれないことから,そもそも国会が平成18年法改正をするに際して第一類医薬品及び第二類医薬品に係る郵便等販売を禁止すべきであるとの意思を有していたとはいい難い旨判示しているのであって,このような事情を欠く平成18年法改正前においては,仮に,厚生大臣ないし厚
生労働大臣が,その専門技術的裁量に基づき,上記のような規制を設けていたとしても,そのことから直ちに同改正前の薬事法による委任の範囲を逸脱することにはならなかったものと解される。
以上によれば,平成25年最判を根拠にして,本件各規定が薬事法による委任の範囲を逸脱する旨をいう原告の上記主張は,採用することができ
ない。

また,原告は,平成25年法改正により追加された医療品医療機器等法36条の4第1項によって初めて,明示的に薬局開設者に対し薬剤師による薬局医薬品の対面販売を義務付ける旨規定されたことからすると,同改
正前までは,医療用医薬品の対面販売は義務付けられていなかったというべきである旨主張する。
しかし,既に認定・説示したとおり,薬事法9条1項の趣旨及び平成18年法改正時の立法経緯等に鑑みれば,
薬事法は,
厚生労働省令によって,
医療用医薬品の郵便等販売を一律に禁止することを許容していたものと
解される。平成21年規則改正によって本件各規定が新設されるまでの間,上記規制が,厚生労働省令として明示的に規定されなかったのは,同改正時に至って初めて,情報通信技術の発展等に伴う医薬品の販売方法の変化が著しく,インターネット販売を含む医薬品の郵便等販売を規制する必要性が認められたことによると考えられる。そうすると,平成25年法改正によって,初めて,法令上,医療用医薬品の対面販売が義務付けられたものとは解されず,同改正前においても,薬事法9条1項の委任を受け
て定められた本件各規定によって,医療用医薬品の対面販売が義務付けられていたものと解するのが相当である。原告の上記主張は,採用することができない。

加えて,原告は,薬事法49条1項の規定を挙げて,同法は,少なくとも処方せん医薬品以外の医療用医薬品について,厚生労働省令で郵便等販
売を禁止することを許容したものとは解されない旨主張する。
しかし,薬事法上,医療用医薬品のうち処方せん医薬品と処方せん医薬品以外の医療用医薬品とで,その販売方法について異なる規律を定めているものと解すべき規定は見当たらない。原告が指摘する薬事法49条1項は,処方せんの交付を受けた者以外の者に対する処方せん医薬品の販売を
禁ずる旨規定しているところ,同項は,処方せん医薬品が,処方せん医薬品以外の医療用医薬品よりもリスクが高いものであることを前提として,処方せん医薬品のリスクの程度に応じて販売の相手方を制限する趣旨の規定であるが,そうであるからといって,薬事法が,処方せん医薬品以外の医療用医薬品について一般用医薬品と同様の販売方法によることを予
定しているとはいい難い。原告の上記主張は,採用することができない。⑷

小括
以上によれば,本件各規定が薬事法による委任の範囲を逸脱した違法なものとして無効ということはできない。したがって,これを前提として,本件
業務停止命令が違法である旨をいう原告の主張は,その前提を欠くものであって,採用することができない。
4
争点②(本件各規定が憲法22条1項の保障する職業活動の自由を制限する違憲,無効なものか否か)について


判断枠組み
憲法22条1項は,狭義における職業選択の自由のみならず,職業活動の自由の保障をも包含しているものと解すべきであるが,職業の自由は,それ
以外の憲法の保障する自由,殊にいわゆる精神的自由に比較して,公権力による規制の要請が強く,同項も公共の福祉に反しない限りという留保を付している。しかし,職業の自由に対する規制措置は事情に応じて各種各様の形をとるため,同項に適合するか否かを一律に論ずることはできず,具体的な規制措置について,規制の目的,必要性,内容,これによって制限され
る職業の自由の性質,内容及び制限の程度を検討し,これらを比較考量した上で慎重に決定されなければならない。そして,その合憲性の司法審査に当たっては,規制の目的が公共の福祉に合致するものと認められる以上,そのための規制措置の具体的内容及び必要性と合理性については,立法府の判断がその合理的裁量の範囲にとどまる限り,立法政策上の問題としてこれを尊
重すべきであるが,その合理的裁量の範囲については,事の性質上おのずから広狭があり得るのであって,裁判所は,具体的な規制の目的,対象,方法等の性質と内容に照らして,これを決すべきものといわなければならない。(以上につき,最高裁判所昭和50年4月30日大法廷判決・民集29巻4号572頁,最高裁判所平成4年12月15日第三小法廷判決・民集46巻
9号2829頁参照)。
以下,上記判断枠組みに沿って,本件各規定の合憲性について検討する。⑵

本件各規定の規制の目的が公共の福祉に合致するものか
薬事法は,医薬品,医薬部外品,化粧品及び医療機器の品質,有効性及び
安全性の確保のために必要な規制を行うとともに,指定薬物の規制に関する措置を講ずるほか,医療上特にその必要性が高い医薬品及び医療機器の研究開発の促進のために必要な措置を講ずることにより,保健衛生の向上を図ることを目的とするところ(同法1条),上記3で説示したところによれば,本件各規定は,薬事法9条1項の委任を受けて,薬局開設者に対し,医療用医薬品を含む薬局医薬品の郵便等販売を禁止し,薬剤師による対面販売等を義務付けることによって,医療用医薬品を含む薬局医薬品の適正な選択及び
使用を確保し,副作用による健康被害の発生を防ぐことを目的とするものといえる。そして,このような目的は,上記2⑺のとおり,医療用医薬品について1年当たり2万5000件前後の副作用報告があり,薬害被害者団体の代表者からも医療用医薬品のインターネット販売について強い反対意見が述べられたことに鑑みれば,公共の福祉に合致するものであるということがで
きる。
これに対し,原告は,処方せん医薬品以外の医療用医薬品について,郵便等販売を認めることによって弊害が起こる可能性があるということは,単なる観念上の想定にすぎない旨主張するが,上記のとおり,医療用医薬品については相当数の副作用報告があったことが認められるのであって,原告の主
張には理由がない。


規制措置の具体的内容及び必要性と合理性
次に,規制措置の具体的内容及び必要性と合理性に係る立法府の合理的裁量の範囲について,本件各規定による規制措置の対象,方法等の性質と内容
の観点から検討するに,本件各規定による規制は,薬局開設者に対し,医療用医薬品を含む薬局医薬品について,郵便等販売を禁ずるとともに対面販売等を義務付けるものであって,医療用医薬品を含む薬局医薬品の販売等そのものを断念させるものではない。そうすると,本件各規定は,職業選択の自由そのものに制約を課するものとはいえず,郵便等販売という営業活動の態
様に対する規制にとどまるものといえる。もっとも,薬局開設者である事業者が,医薬品のインターネット販売を主要な事業内容とする業態を採用している場合には,当該事業者は,本件各規定による規制によって,事実上,医薬品の販売等に係る営業活動そのものを制限される結果となり得るから,本件各規定による規制は,医薬品のインターネット販売を主要な事業内容とする事業者に関する限り,当該規制の事実上の効果としては,規制の強度において比較的強いものということができる。
以上を前提に,本件各規定の規制措置の具体的内容及び必要性と合理性について検討するに,医薬品は,人体にとって本来異物であり,治療上の効能,効果とともに何らかの有害な副作用が生ずる危険を内在するものであり,薬事法の定めもこれを前提とするものであると解される(最高裁判所平成7年
6月23日第二小法廷判決・民集49巻6号1600頁参照)。そして,上記の危険は,医薬品が,投与禁忌や他の医薬品等との相互作用(飲み合わせ)を看過して使用された場合,本来の用法・用量を超えて多量又は頻回にわたって使用された場合,本来受診すべき状態を放置して長期間連用された場合等において,健康被害の発生という形で顕在化する。また,医療用医薬品は,
一般用医薬品と異なり,
その効能及び効果の点で人体に対する作用が著しく,
上記のとおり,平成18年法改正当時,一般用医薬品については,一年度当たり300件前後の副作用報告があったのに対し,医療用医薬品については1年度当たり2万5000件前後の副作用報告があったことからすると,医療用医薬品は,類型的に,一般用医薬品よりも,①その作用の強さによって
副作用が生ずる危険性や,②需要者の判断により多量又は頻回にわたって使用されるなどの不適正な使用によって副作用が生ずる危険性が高いものといえる。そうすると,医療用医薬品の不適正な使用等による危険性を可及的に防ぐために,医療用医薬品の販売方法について規制を設ける必要性があることは明らかである。

そして,医療用医薬品の不適正な使用等による上記の危険性を避けるためには,薬剤師は,医療用医薬品の販売等に当たって,使用者に関して収集できる最大限の情報を収集した上で,服薬指導と指導内容の確実な理解の確認を行う必要があるものといえ,仮に医療用医薬品をインターネットにより販売した場合には,使用者に関する情報収集や服薬指導をメールや音声等の文字情報をはじめとする電子データによるやり取りによって把握することとなるが,このような方法で使用者の様子を的確に把握するには限界があることは否定し難い。また,医薬品販売事業者ごとに,あるいは医療用医薬品ごとに個別にその販売態様を規制することは,規制に係る監督実施の観点からすると困難であると解されることに加え,医薬品の副作用による健康被害はひとたび発生すればその被害者に対して償うことのできない重大な損害を被ら
せる危険性が高いものであって,現に平成18年法改正当時,医療用医薬品について相当数の副作用報告があったことからすると,本件各規定による規制が営業活動に及ぼす事実上の効果が比較的強いことを考慮しても,事前に医療用医薬品について一律に販売方法を規制することには,合理性があるといえる。

以上によれば,薬剤師が服薬指導及びその理解の確認をするに当たって,使用者の症状の状態や程度を目視により直接確認して必要な情報を収集し,あるいは服薬指導を受けた使用者の挙動等の反応等を目視により直接確認してその理解の程度を確かめることにも相応の合理性があるものといえ,医療用医薬品の対面販売等を義務付ける旨の本件各規定の規制内容が合理性を欠
くということはできない。
これに対し,原告は,購入者がインターネットを介して問診票を記入して申込みを行う方法によって使用者の症状等の情報を適切に確認することができるから,郵便等販売が対面販売に劣るという合理的な理由はない旨主張する。しかし,上記方法では,薬剤師は,もっぱら購入者が申告した文字情報
を基に使用者の状態を確認することができるにとどまるから,購入者の様子を目視等によって確認することのできる対面販売による方法と同程度の情報を収集できるものとは認め難い。
また,原告は,薬事法36条の6第4項は,説明を要しない旨の意思を表明した購入者に対しては薬剤師による情報提供を要しない旨を定めている以上,本件各規定によって,郵便等販売を禁止し,対面販売等を義務付けることに合理性はない旨主張する。しかし,同項は第一類医薬品を販売等する場
合に係る規定であって,医療用医薬品を販売等する場合には適用されず,原告の上記主張は,前提を欠くものである。
したがって,本件各規定による規制は,医療用医薬品を含む薬局医薬品の適正な選択及び使用を確保して副作用による健康被害の発生を防ぐという規制の目的を達成するための規制手段として必要性及び合理性を有するものと
いえ,上記規制は,立法府の合理的裁量の範囲内にとどまるものといえる。⑷

小括
以上によれば,本件各規定が憲法22条1項に反するものとして違憲,無効ということはできない。したがって,これを前提として,本件業務停止命令が違法である旨をいう原告の主張は,その前提を欠くものであって,採用
することができない。
5
争点③(考慮不尽,他事考慮の違法があるか否か)について⑴

原告は,本件各規定が違法・無効ないし違憲・無効であったことを前提に,厚生労働大臣は,本件業務停止命令を行うに当たり,原告の行為が当罰的な行為ではなく,薬剤師としての品位を損なうようなものでもなかったことを
考慮すべきあったにもかかわらず,これを考慮していない違法がある旨主張するが,これらの主張を採用することができないことは,上記3及び4において説示したとおりである。

そして,掲記の各証拠によれば,原告は,対面販売の方法によることなく,インターネットのウェブサイト上で,購入者に別紙2問診票記載の各項目に記入してもらい,その内容を確認するという方法により,処方せん医薬品以外の医療用医薬品を販売したことが認められるところ(甲17,36),上記4で認定・説示したとおり,医療用医薬品は,一般用医薬品よりも類型的にその作用の強さによって副作用が生ずる危険性や,需要者の判断による不適切な使用によって副作用が生ずる危険性が高いこと,インターネットにより販売した場合には,使用者に関する情報収集や服薬指導を電子データによって把握することとなるが,このような方法で使用者の様子を的確に把握することには限界があることからすると,原告の上記行為は,国民の健康を医薬品の副作用による危険にさらすおそれが強いものであったというほかない。加えて,原告は,医療用医薬品のインターネット販売を行わないことな
どを明示した二度の業務改善命令に反して,その販売を継続しており(前提事実⑵ア~ウ),薬剤師としての基本的な職業倫理に反するものというべきであるし,上記命令違反に係る違法性の認識に欠けるところはない。以上によれば,原告の行為は薬事法違反の事案の中でも悪質な部類に属するといえる。

これに対し,原告は,処方せん医薬品を販売したことはないことや,インターネットで別紙2問診票を介して購入者との間で適切な情報収集及び情報提供をしてきたことが考慮されていない旨主張する。しかし,薬事法上,処方せん医薬品と処方せん医薬品以外の医療用医薬品とを販売方法の点で別異に取り扱うべき根拠は見当たらず,処方せん医薬品以外の医療用医薬品につ
いても対面販売等を義務付けた本件各規定が有効であることは,上記3で説示したとおりであるから,原告が処方せん医薬品をインターネットで販売したことがないからといって,本件業務停止命令に当たって,原告に有利な方向で考慮すべき事項であったとはいえない。また,原告が医療用医薬品の販売に当たって使用した別紙2問診票は,症状の内容や発生時期等について購
入者が申告した文字情報にとどまるものであるし,医療用医薬品の添付文書が医療関係者の理解や使用を前提として作成されたものであり,一般の購入者が読んで使用上の注意を理解することができることを前提として作成されたものではないにもかかわらず(乙45~47),購入者が上記添付文書に内容を理解しているという結論のみの申告を求めるものにすぎない。そうすると,上記問診票を介した情報収集等によって,対面販売の方法と同程度に購入者の症状を確認し,医療用医薬品の購入に際してその作用の強さによって副作用が生ずる危険性や需要者の判断による不適正な使用によって副作用が生ずる危険性を防ぎ得るものともいい難い。したがって,原告の上記販売方法は,本件業務停止命令に当たって,原告に有利な方向で考慮すべき事項であったとはいえない。

さらに,原告は,本件業務停止命令は,平成25年最判によって第一類医薬品の郵便等販売の一律禁止が違法であると判断されたにもかかわらず,第一類医薬品であるEをインターネットで販売した事実も含めて原告の行為を評価しており,考慮すべきでない事項を考慮した違法がある旨主張する。しかし,薬剤師法8条5項は,厚生労働大臣が,薬剤師法8条2項に規定する
処分をするに当たっては,あらかじめ,医道審議会の意見を聴かなければならない旨規定するところ,証拠(乙40)によれば,平成26年10月27日に開催された医道審議会薬剤師分科会薬剤師倫理部会(本件部会)において,C委員から,原告に対する処分を決めるに当たって,原告が罰金刑を受けたことを問題としているのか,その前提となった原告の行為そのものを問
題としているのかを明確にしておく方がよい旨の指摘があり,本件職員は,これに対し,従前,本件部会において,薬剤師法に違反して罰金刑を科された場合には,業務停止3月を基本とした上で,悪質性等の事情を考慮して行政処分を決めるという方針を決めていること,一般用医薬品をインターネットで販売したということを除き,医療用医薬品のみをインターネットで販売
していたとしても,原告に対する行政処分は業務停止3月から処分を減ずる理由はないと考えられる旨の説明をしたことが認められる。そうすると,本件部会は,第一類医薬品であるEを販売した事実を捨象して原告の行為を検討,評価し,これを受けて,厚生労働大臣は,本件業務停止命令をしたものと認められる。したがって,第一類医薬品であるEをインターネットで販売した事実も含めて原告の行為を評価した旨の原告の上記主張は,前提を欠いており,採用することができない。

その他,原告は,本件略式命令の内容が罰金20万円にとどまることからすると,業務停止3月を命じた本件業務停止命令は,過去に業務停止処分のあった調剤報酬の不正請求のような詐欺事案や覚せい剤取締法違反,大麻取締法違反,麻薬及び向精神薬取締法違反等の事案と比較すると,重きに失する旨主張する。しかし,原告の行為は,上記のとおり,薬剤師としての基本
的な職業倫理に反して国民の健康を危険にさらす行為であるから,原告が挙げる事例と比較しても,本件業務停止命令が,その業務停止の期間も含めて重きに失するとはいえない。


以上によれば,厚生労働大臣が,本件部会の答申を踏まえて原告に対して業務停止3月とする本件業務停止命令をしたことについて,考慮すべき事項
を考慮せず,考慮すべきでない事項を考慮したことを認めるに足りる証拠は見当たらず,本件業務停止命令が,社会通念上著しく妥当を欠いて裁量権を付与した目的を逸脱し,これを濫用したものとはいえない。
したがって,本件業務停止命令は適法かつ有効である。
6
結論
よって,原告の請求はいずれも理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決する。
大阪地方裁判所第7民事部

裁判長裁判官

松永栄治
裁判官

森田
裁判官

横井
(別紙1省略)
(別紙2省略)
亮真由美
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