判例検索β > 平成30年(わ)第484号
住居侵入、強盗致傷被告事件
事件番号平成30(わ)484
事件名住居侵入,強盗致傷被告事件
裁判年月日平成31年1月25日
法廷名札幌地方裁判所
裁判日:西暦2019-01-25
情報公開日2019-02-22 10:00:29
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主文
被告人を懲役4年6月に処する
未決勾留日数中110日をその刑に算入する。
理由
(罪となるべき事実)
被告人は,A,B,C,D,E,F及びG(少年)と共謀の上,北海道幌泉郡a町内の被害者方に侵入して金品を強奪しようと企て,平成29年11月27日午前2時8分頃,同人方に玄関ドアから侵入し,その頃,同所において,同人(当時74歳)に対し,左足等を持っていたバールで数回殴るなどの暴行を加え,その反抗を抑圧して金品を強奪しようとしたが,抵抗されるなどしたためその目的を遂げず,その際,前記暴行により,同人に加療約2週間を要する左大腿挫創等の傷害を負わせた。
(証拠の標目)
(略)
(争点に対する判断)
第1

争点

本件では,実行役が住居侵入強盗致傷を行ったことに争いはないが,被告人は,強盗ではなく,窃盗をする認識であったと供述し,弁護人も,被告人には共謀共同正犯は成立せず,住居侵入窃盗未遂の幇助犯が成立するにとどまると主張する。第2

本件の事実経過

関係各証拠によれば,以下の事実が認められる。
1
Aは暴力団であるH組組長,Cは同若頭,Bは別の暴力団組員であった。D
及び被告人は,H組の組員ではないものの組事務所に出入りし,平成29年10月頃から,Aの下で他の本件共犯者らとともに特殊詐欺等を頻繁に繰り返していた。2
同年11月10日(以下,日の記載は平成29年11月のそれを指す。,A,)
B,C及びDは,Bの父から,北海道幌泉郡a町に,力が強そうな漁師(被害者)らが住んでおり,その自宅兼会社事務所に現金2億円の入った金庫などがある旨の情報提供を受け,これを奪って半分を情報元に渡し,残りを共犯者らと被告人で山分けするという計画を進めることとした。被告人も,ほどなくCやDからこの話を聞き,犯行に加わることとなった。
3
A,B,C,D及び被告人は,17日未明,札幌市内のA方で犯行の話合い
をし,同日夜に実行に移すことを決定した。その話合いでは,BとCが指示役を担い,Dと被告人が現場の比較的近くに赴いて,B及びCと実行役との連絡を仲介するとともに,実行役が奪った金庫を回収してBやCに引き渡すという役割分担が取り決められ,また,分け前については,1人当たり1000万円余りになることなどが話題となった。併せて,住人に発見された場合について,Bから,たたけばいいとか,ロープ等で縛っておけばいいなどといった発言があり,これを受けて,Aが,たたくのは良くないと制しつつ,たたくのであれば縛る方がいいなどと言ったのを経て,一同は,
最悪縛るしかないとの方針で一致した。実行役は,侵入や
金庫の破壊に用いるバールや,住人を緊縛する結束バンド,ロープを持参することとされた。
同日夜から翌18日未明にかけて,Dが準備した実行役のG及び高校生2名が車で被害者方へ向かったが,途中で事故を起こしたため,中止となった。4
A,B,C,D及び被告人は,26日夕方頃,A方で犯行の話合いをした。
Bは,現金が使われる前にいち早く実行することを強く主張し,住人に見つかった場合,バールでたたくとか,結束バンドで縛るなどと改めて言っていた。Aは,被害者への暴力を厭わないBの姿勢を制止していたが,Bの強い働きかけもあって,無理させないようになどと言いながらも,同日夜に実行すること自体は了承した。役割分担や道具等については,住人を緊縛する道具としてロープは不要とされたほかは,17日未明の決定どおりとされた。その頃に,GのほかにE及びFが実行役を務めること,使用する車なども決定しており,Gらは,合流の上,26日夜遅く,Dらが準備した道具を持参して被害者方に向かった。被告人は,翌27日午前1時頃にA方をDと出発して,Dが運転する車で北海道苫小牧市へ向かった。5
同日午前1時30分頃,Dは,現場付近に到着していたGから,被害者方の
電気がついており,人がいるかもしれない旨の報告を受け,被告人にこれを伝えた。被告人は,Cにその旨報告し,Cは,Bと相談の上,同日午前2時頃までGらを待機させることにして,その指示は,被告人及びDを介してGに伝えられた。Dは,同日午前2時頃,Gから,電気がついたままである旨報告を受け,被告人にこれを伝えた。被告人は,Cに対し,実行役が行く(決行する)気であることを伝え,Cは,現場の判断に任せる旨答えた。その後,EとF,GとD,被告人とCの間でそれぞれ携帯電話を通話状態にした上で,同日午前2時8分頃,F及びGが本件犯行に及んだ。
第3

関係証言の信用性

前記認定事実は,主にCやDの各証言によるところ,各証言は以下のとおり信用できる。
1
C及びDの各証言は,17日未明及び26日夕方の話合いの状況や,下見後
犯行前の連絡状況に関して,当時の雰囲気や各々の思惑なども併せて具体的に述べられている上,誰からいかなる発言があったかやその場に被告人がいたかどうかという点を含め,よく整合している。同日夕方の話合いは,計画の中止を経て再び決行することとなった重要な場面の一つであったと考えられ,特にDは,計画再実行を決断するまでのBやAの印象的な発言内容のほかに,17日未明の話合いの際とは違う切迫したやり取りなどを挙げて生々しく証言していることからすると,記憶の混同のおそれも考えにくい。また,下見後の連絡状況については,Gの証言とも一致している上,共犯者間の通話履歴とも整合する。なお,C及びDは,本件犯行を認めてすでに有罪判決を受け,判決が確定し又は自身なりの考えでいずれ控訴を取り下げるということから,被告人の責任を殊更強調しようとしている可能性は低いといえる。
2
弁護人は,CとDの証言のうち,26日夕方の話合いの場に被告人がいたと
いう点,下見後の連絡に被告人が関わっていたという点の信用性を争っている。しかし,両名の証言が相互に又はGの証言等と整合,一致しているなど,これらの点でも十分な信用性が認められるのは,前記のとおりである。弁護人は,同日午前中からの被告人らの通話履歴や位置情報のほか,同日日中の行動について両名の証言が一部相違していることなどを指摘するが,どれも的を射ていない。その指摘のうち,最終的に計画実行が決まった同日に,被告人に特に連絡がなされていないことについては,共犯者から電話で呼出しなどを受けたわけではない被告人が,しかるべき時間帯にAらに合流して犯行に参加していることからすると,むしろ被告人が同日夕方の話合いに参加していたことをうかがわせる事情であるともいえる。また,被告人が同日夕方に知人に電話をかけた履歴があることをもって,計画実行に向けた切羽詰まった話合いの場にはいなかったはずであるとも主張するが,話合いの場にいても短時間の電話をかけることは十分可能であるから,そのようにはいえない。第4

争点について
被告人は,17日未明の話合いの頃には,力の強い漁師がいる家から巨額
の現金を奪う計画であること,実行役が人に見つかった場合には,結束バンドやロープで縛る,つまり身動きができないような状態にすることになる可能性を含む計画であると認識していたと認められる。住人をそのような状態にすること自体強度の暴力にほかならないし,その際には,相手の抵抗に応じてやはり相応に強い暴力を用いる展開になることが不可避である。そうすると,被告人は,この話合いの当時,実行役がそういった暴力に出る事態となり得る計画であることを想定していたと認められる。弁護人は,同日未明に話し合われた計画が失敗・中止となったため,被告人は,本件はその話合いとは関係がないと思っていた旨主張している。しかし,計画にほとんど変更はなく,短期間のうちに再度実行を試みて本件に至っていることからして,失当である。
また,26日夕方の話合いでも,実行役が人に見つかった場合には結束バンドで縛るという方針は維持された上で,実行が決定されたものであり,被告人も,A方での話合い等を通じて,そのことを認識していたと十分認められる。さらに,被告人は,犯行直前の段階で,行動をともにしていたDと二人で,指示役と実行役との連絡の仲介に関わって,その内容を相当程度把握していたと強く推認される。被害者方の電気がついていることや,その状況下で犯行に及ぶかどうかということは,非常に重要な事柄にほかならない。当然これを認識していたはずの被告人は,実行役が人に見つかる現実的可能性があり,その場合には,先のような暴力を振るう事態となり得ることを十分想定できていたと認められる。以上からすると,被告人が,本件犯行当時,人に見つかるなどした実行役が住人の反抗を封じるような暴力を用いる現実的可能性があること,すなわち強盗に及ぶであろうことを認識していたことは明らかであって,共犯者らとの間でその旨の意思連絡があったと認められる。
なお,Dは,犯行直前,決行の了承を催促するGに対して,無理しないで,人に見つかったら逃げるのであれば行ってもよいなどと指示した旨証言する。しかし,Gは,Dからそういった指示等はなかった旨証言しており,判然としないところである。いずれにせよ,先のような暴力を振るう展開も視野に入れた話合いが重ねられ,実行役に伝達されていたことや,実行役が決行に向けてかなり積極的な姿勢を示し,住人がいる可能性がある状況下で現に決行の運びとなったことを踏まえると,前記のような発言があったとしても,それによって,Dや被告人において,実行役が暴力を用いることになる可能性がなくなったものと認識するようになったとは考え難い。
2
また,被告人は,謀議に参加して計画を把握した上,犯行グループの一員と
して,他の共犯者と同等かつ高額の分け前を得られる見込みの下,Dとともに,指示役と実行役との連絡を仲介し,実行役が奪った金庫を回収してBやCに引き渡す役割が分担されていた。これにより,捜査がAらに及ぶのを防ぐ意味があったともいうのであるから,被告人が任され,現に果たした役割は,他の共犯者ほどではないとしても,重要なものであったといえる。
以上から,被告人は,本件の幇助犯ではなく,共同正犯としての責任を負うというべきである。
第5

結論

以上より,被告人には住居侵入強盗致傷の共同正犯が成立すると認定した。(法令の適用)
被告人の判示行為のうち,住居侵入の点は刑法60条,130条前段に,強盗致傷の点は同法60条,240条前段にそれぞれ該当するところ,この住居侵入強盗致傷との間には手段結果の関係があるので,同法54条1項後段,10条により1罪として重い強盗致傷罪の刑で処断することとし,所定刑中有期懲役刑を選択し,なお犯情を考慮し,同法66条,71条,68条3号を適用して酌量減軽をした刑期の範囲内で被告人を懲役4年6月に処し,同法21条を適用して未決勾留日数中110日をその刑に算入し,訴訟費用は,刑事訴訟法181条1項ただし書を適用して被告人に負担させないこととする。
(量刑の理由)
犯行の手口は,深夜,実行役2名が他人の家に無理やり侵入し,被害者の足等をバールで複数回殴るというもので,危険かつ悪質である。財産的被害は生じず,他の同種事案との比較の上では,実際に生じたけがは必ずしも重いものではないが,被害者は精神的に大きな衝撃を受けたと認められる。また本件は,暴力団組員等が計画を立て,役割を分担し,実行役や道具を手配して実行に至っており,綿密で周到なものとはいえないにしても組織的,計画的犯行である。
被告人個人についてみると,計画段階から謀議に参加し,多額の分け前にあずかろうと,犯行時も,前記のとおり重要な役割を任された上で,現に共犯者間の連絡を仲介するなどしているが,指示役らと比べると立場は高くなく,関与も小さいものにとどまった。
これらの事情を踏まえて検討すると,本件により被告人が負うべき刑事責任は,同種事案と比較すれば中程度よりもやや軽いと評価できる。そこで,以上のほか,責任を軽減するような弁解をしており十分な反省が見られないこと,他方,被害者に5万円を支払って示談が成立し許しを得たことなども併せて考慮し,被告人に対しては,主文の刑に処するのが相当であると判断した。
(求刑・懲役6年

弁護人の科刑意見・懲役2年6月)

平成31年1月28日
札幌地方裁判所刑事第3部

裁判長裁判官

駒田秀和
裁判官

坂田正史
裁判官

先﨑春奈
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