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障害基礎年金不支給処分取消請求事件
事件番号平成27(行ウ)194
事件名障害基礎年金不支給処分取消請求事件
裁判年月日平成30年12月14日
法廷名東京地方裁判所
裁判日:西暦2018-12-14
情報公開日2019-02-27 16:00:18
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平成30年12月14日判決言渡
平成27年(行ウ)第194号

障害基礎年金不支給処分取消請求事件

主1文
厚生労働大臣が平成26年1月17日付けで原告に対し
てした障害基礎年金を支給しない旨の処分を取り消す。

2
訴訟費用は被告の負担とする。

第1

実及び理由
請求
主文同旨

第2
1
事案の概要等
本件は,原告が,20歳未満の時に初診を受けた知的障害により,2
0歳に達した日に障害等級に該当する程度の障害の状態にあり,国民年金法(以下国年法という。)30条の4第1項所定の障害基礎年金の支給要件を充足しているとして,厚生労働大臣に対し,障害基礎年金の支給の裁定請求(以下本件裁定請求という。)をしたところ,同大臣から,20歳に達した日において障害等級に該当する程度の障害の状態にあるとは認められないとして,障害基礎年金を支給しない旨の処分(以下本件処分という。)を受けたことから,原告の障害の状態は障害等級2級の程度にあるとして,本件処分の取消しを求めた事案である。
2
関係法令等の定め

(1)20歳前の傷病による障害基礎年金
国年法30条の4第1項は,疾病にかかり,又は負傷し,その疾病又は負傷及びこれらに起因する疾病(以下傷病という。)につい
て初めて医師又は歯科医師の診療を受けた日以下初診日」いう。

と)において20歳未満であった者が,当該初診日から起算して1年6月を経過した日(その期間内にその傷病が治った場合においては,その治った日(その症状が固定し治療の効果が期待できない状態に至った日を含む。)。以下「障害認定日という。)以後に20歳に達したときは20歳に達した日において,障害認定日が20歳に達した日後であるときはその障害認定日において,障害等級に該当する程度の障害の状態にあるときは,その者に障害基礎年金を支給する旨を規定している。
(2)障害等級

国年法30条2項は,障害等級は,障害の程度に応じて重度のも

のから1級及び2級とし,各級の障害の状態は,政令で定める旨を規定し,国民年金法施行令(以下国年令という。)4条の6は,
障害等級の各級の障害の状態は,国年令別表に定めるとおりとする旨を規定している。

精神の障害について,国年令別表2級の16号は,障害等級2級

の障害の状態として,精神の障害であつて,前各号と同程度以上と認められる程度のものと規定し,同別表2級の15号は,前各号に掲げるもののほか,身体の機能の障害又は長期にわたる安静を必要とする病状が前各号と同程度以上と認められる状態であつて,日常生活が著しい制限を受けるか,又は日常生活に著しい制限を加えることを必要とする程度のものと規定している。(3)障害等級の認定の基準
厚生労働省作成の国民年金・厚生年金保険障害認定基準(以下
障害認定基準という。乙8。)のうち,本件に関係する部分の概
要は,以下のとおりである。

2級の障害の程度
身体の機能の障害又は長期にわたる安静を必要とする病状が,日

常生活が著しい制限を受けるか又は日常生活に著しい制限を加え
ることを必要とする程度のものとする。この日常生活が著しい制限を受けるか又は日常生活に著しい制限を加えることを必要とする
程度とは,必ずしも他人の助けを借りる必要はないが,日常生活は極めて困難で,労働により収入を得ることができない程度のものである。例えば,家庭内の極めて温和な活動(軽食作り,下着程度の洗濯等)はできるが,それ以上の活動はできないもの又は行ってはいけないもの,すなわち,病院内の生活でいえば,活動の範囲がおおむね病棟内に限られるものであり,家庭内の生活でいえば,活動の範囲がおおむね家屋内に限られるものである。

精神の障害

(ア)

認定基準

精神の障害の程度は,その原因,諸症状,治療及びその病状の
経過,具体的な日常生活状況等により,総合的に認定するものと
し,日常生活が著しい制限を受けるか又は日常生活に著しい制限
を加えることを必要とする程度のものを2級に認定する。
精神の障害は,多種であり,かつ,その症状は同一原因であっ
ても多様である。したがって,認定に当たっては具体的な日常生
活状況等の生活上の困難を判断するとともに,その原因及び経過
を考慮する。
(イ)
a
知的障害の認定要領
知的障害とは,知的機能の障害が発達期(おおむね18歳ま

で)にあらわれ,日常生活に持続的な支障が生じているため,
何らかの特別な援助を必要とする状態にあるものをいう。
b
各等級に相当すると認められるものを一部例示すると次のと

おりである。

2級

知的障害があり,食事や身のまわりのことなどの基本

的な行為を行うのに援助が必要であって,かつ,会話によ
る意思の疎通が簡単なものに限られるため,日常生活にあ
たって援助が必要なもの
c
知的障害の認定に当たっては,知能指数のみに着眼すること

なく,日常生活のさまざまな場面における援助の必要度を勘案
して総合的に判断する。
d
日常生活能力等の判定に当たっては,身体的機能及び精神的

機能を考慮の上,社会的な適応性の程度によって判断するよう
努める。
e
就労支援施設や小規模作業所などに参加する者に限らず,雇

用契約により一般就労をしている者であっても,援助や配慮の
もとで労働に従事している。
したがって,労働に従事していることをもって,直ちに日常
生活能力が向上したものと捉えず,現に労働に従事している者
については,その療養状況を考慮するとともに,仕事の種類,
内容,就労状況,仕事場で受けている援助の内容,他の従業員
との意思疎通の状況等を十分確認した上で日常生活能力を判
断すること。
3
前提事実(当事者間に争いのない事実か,文中記載の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認定することができる事実)
(1)原告は,平成5年▲月▲日生まれの男性であり,平成25年▲月▲日,20歳に達した。D病院E医師作成の平成25年▲月▲日付け診断書(以下本件診断書という。)による原告の中度精神発達遅
滞(以下本件傷病という。)に係る初診日は,平成23年11月
22日であった。(乙1)

(2)原告は,平成25年▲月▲日,厚生労働大臣に対し,本件傷病により20歳に達した日に国年法30条2項所定の障害等級に該当する障害の状態にあるとして,国年法30条の4第1項所定の20歳前の傷病による障害基礎年金に係る裁定の請求(本件裁定請求)をした(乙2)。
(3)厚生労働大臣は,平成26年1月17日,原告に対し,20歳に達した日である平成25年▲月▲日(以下本件基準日という。)に
おける原告の障害の状態が国年令別表に定める程度に該当しないとして,本件裁定請求に係る障害基礎年金を支給しない旨の処分(本件処分)をした(乙3)。
(4)原告は,平成26年3月20日,関東信越厚生局社会保険審査官(以下審査官という。)に対し,本件処分の取消しを求めて審査
請求をしたが,審査官は,同年6月4日,本件基準日における原告の障害の状態が,国年令別表に定める障害等級2級の程度にあるとは認められないとして,審査請求を棄却した(乙4,5)。
(5)原告は,平成26年6月12日,社会保険審査会(以下審査会という。)に対し,本件処分の取消しを求めて再審査請求をしたが,審査会は,平成27年1月30日,本件基準日における原告の障害の状態が,国年令別表に定める障害等級2級の程度にあるとは認められないとして,再審査請求を棄却した(乙6,7)。
(6)原告は,平成27年4月1日,本件訴えを提起した(当裁判所に顕著)。
4
争点及び当事者の主張の要旨
本件の争点は,本件基準日における原告の障害の状態が障害等級2級に該当する程度のものであるか否かである。当事者の主張の要旨は以下のとおりである。

(原告の主張の要旨)
(1)障害認定の判断枠組み
障害認定基準では,障害等級2級について身体の機能の障害又は長期にわたる安静を必要とする病状が,日常生活が著しい制限を受けるか又は日常生活に著しい制限を加えることを必要とする程度のものとされているが,認定基準の一般的事項は,そのままでは精神疾患の認定には適さず,精神疾患についての認定基準及び各精神疾患について個別に設けられた認定要領の趣旨を読み込んで解釈しなければならない。
そして,神の障害についての認定要領では,神の障害のうち知


的障害について,就労支援施設や小規模作業所などに参加する者
に限らず,雇用契約により一般就労をしている者であっても,援助や配慮のもとで労働に従事している。したがって,労働に従事していることをもって,直ちに日常生活能力が向上したものと捉えず,現に労働に従事している者については,その療養状況を考慮するとともに,仕事の種類,内容,就労状況,仕事場で受けている援助の内容,他の従業員との意思疎通の状況等を十分確認したうえで日常生活能力を判断すること。と定められていること,障害年金(精神の障害用)に係る診断書の日常能力の判定は,単身で生活するとしたら可能かどうかという視点からなされることとされていることなどからす
れば,認定要領では,保護的な就労や配慮された就労は,障害認定基準における労働に該当しないことを前提としているというべきで
あり,また,障害認定基準において障害等級2級の例として挙げられている活動の範囲がおおむね家屋内に限られるもののうち,活動の範囲は,反復練習,助言及び指導なくして自発的に活動ができる範囲と限定的に解釈すべきであるか,当該要件は精神疾患の場合
には妥当しないと考えるべきである。
(2)就労について
原告は,就労しているものの,勤務先のF(以下本件会社とい
う。)は,スタッフ全員が障害者手帳を所持しているいわゆる特例子会社(障害者の雇用の促進等に関する法律44条1項)であり,原告は,本件会社で就労するに当たり障害者への対応に専門的な知識を有する社員から手厚い保護・配慮を受けている。また,就労内容も清掃などの簡単な作業を機械的に行っているにすぎない。
したがって,原告の就労は,前記⑴記載の保護的な就労又は配慮された就労に当たる。
(3)日常生活について
原告は,起床,就寝,食事,着替え,出勤準備,入浴及び歯磨きなどの家庭内の日常生活について,家族の指示や援助が必要であり,指示や援助によっても不十分にしかできないものもあるほか,漢字が読めないため,書類を記入することはできず,買物はよく行くスーパーなど限られた店舗で,いつも購入している限られた商品を買うのみであり,計算ができないため支払でも小銭を使うことができない。通勤は一人で行っているが,母親の援助により暗記した通勤ルートを毎日繰り返しているだけである。
(4)意思疎通能力について
原告は,ごく限られた極めて簡単な意思の疎通しかできず,外に出ることもないため,職場の障害者の同僚,障害者への対応の専門知識を有している社員及び母親以外とは会話をしない。原告は,それ以外の他者に声をかけられると対応ができず黙り込んでしまうほか,会話の意味を取り違えたり,会話がかみ合わなかったりすることが多く,会話による意思疎通をすることがほとんどできない。

(5)平成25年11月13日付け原告の母親G(以下原告母という。)作成の病歴状況申立書(以下本件申立書という。乙10。)について
原告母は,本件申立書において,本件基準日の原告の日常生活状況につき,着替え,洗面,トイレ,入浴及び食事について,自発的にできると記載しているが,専門家の助言なく本件申立書を提出したため,指示されたことでも援助を受けながら自分で行えるのであれば,自発的にできる」に該当すると解釈して記載したものであり,それらのことについて,原告が,指示や援助がなくても行うことができるわけではない。(6)原告主張のまとめ以上からすれば,原告の本件基準日における障害の状態は,「知的障害があり,食事や身のまわりのことなどの基本的な行為を行うのに援助が必要であって,かつ,会話による意思の疎通が簡単なものに限られるため,日常生活にあたって援助が必要なものに当たり,障害等級2級に該当する程度のものであるというべきである。
したがって,本件処分は違法である。
(被告の主張の要旨)
(1)障害の程度及び認定基準
国年令別表に定める障害等級2級に相当する障害とは,身体の機
能の障害又は長期にわたる安静を必要とする病状が,日常生活が著しい制限を受けるか又は日常生活に著しい制限を加えることを必要とする程度のものをいい,障害認定基準によると,具体的には必ずしも他人の助けを借りる必要はないが,日常生活は極めて困難で,労働により収入を得ることができない程度のものあり,例えば,で
家庭内の極めて温和な活動(軽食作り,下着程度の洗濯等)はできるが,それ以上の活動はできないもの又は行ってはいけないもの,すなわち,病院内の生活でいえば,活動の範囲がおおむね病棟内に限られるものであり,家庭内の生活でいえば,活動の範囲がおおむね家屋内に限られるものとされている。そして,知的障害の障害の状態でいうと,知的障害があり,食事や身のまわりのことなどの基本的な行為を行うのに援助が必要であって,かつ,会話による意思の疎通が簡単なものに限られるため,日常生活にあたって援助が必要なものとされている。
そして,障害の程度の認定は,診断書及び病歴状況申立書等によって行うとされているところ,精神の障害による障害の程度の認定に当たっては,日常生活能力の判定が大きな要素とされていることから,診断書においては,日常生活状況における家庭及び社会生活についての具体的な状況及び日常生活能力の程度に関する診断が求められており,それらに加えて裁定請求者と同居している家族等,裁定請求者の日常生活をよく認識していると考えられる人物が申し立てた病歴状況等も検討し,総合考慮した上でその障害の状態を判定することとなる。
(2)就労について
原告は,本件基準日において,月20日程度,約1時間30分の電車等通勤を経て,就労場所に出勤し,トイレ清掃等の作業に従事しており,約7か月にわたって就労を継続し,月7万円から9万円の収入を得ていた。
このような就労状況からすれば,障害者雇用枠での採用であり,周囲の理解や援助があることを前提としても,原告は,一定の勤務実績が認められるだけの労働を行う能力を有していると認められるのであり,このような原告の就労状況からすれば,原告は,社会適応性を
有していたといえる。
(3)日常生活について
原告は,食事,着替え,洗顔,入浴及び歯磨きといった基本的な動作や買物等を自分で行うことができると認められる。このことは,本件診断書や本件申立書の記載からも裏付けられている。
また,本件申立書の記載からすれば,原告は,訓練し暗記したルートであったとしても,自転車に乗って最寄り駅まで行った後,バス,電車といった公共交通機関を利用し,都内の勤務先まで継続的に自ら一人で通勤することができたといえるから,あらゆる日常の基本的な行為について他者からの援助が必要不可欠であるとは認められないし,その他個々の日常生活において不便な状況が生じているとしても,それが障害に起因するものか,性格等によるものかは判断が難しい場合もあるから,日常生活状況の事情を全て障害によるものとして評価する理由はない。
(4)意思疎通能力について
前記⑵記載のとおり原告が就労していたと認められること並びに本件診断書及び本件申立書の記載を前提とすれば,原告は,少なくとも家庭内においての意思疎通に不自由が生じる程度のものであったとは考え難く,20歳に達した日における原告の障害の状態が会話による意思の疎通が簡単なものに限られているとまで認めることは困難である。
(5)被告主張のまとめ
以上からすれば,原告の本件基準日における障害の状態は,知的障害があり,食事や身のまわりのことなどの基本的な行為を行うのに援助が必要であって,かつ,会話による意思の疎通が簡単なものに限られるため,日常生活にあたって援助が必要なものに当たるとは
認められず,障害等級2級に該当する程度のものであったとはいえない。
したがって,本件処分は適法である。
第3
1
当裁判所の判断
障害等級の認定について

国年法30条の4第1項は,診日において20歳未満であった者が初
障害認定日以後の20歳に達した日(又は20歳に達した日後の障害認定日)において障害等級に該当する程度の障害の状態にあることを障害基礎年金の支給要件とし,国年法30条2項は,障害等級を障害の程度に応じて重度のものから1級及び2級とした上で各級の障害の状態は政令で定めるものとし,これを受けた国年令は,障害等級の各級の障害の状態につき,国年令別表において具体的に定めている。そして,厚生労働省作成の障害認定基準は,障害基礎年金等の裁定権者である厚生労働大臣による障害等級の認定の基準として定められているものと解されるところ,その内容及び策定や改正の経緯(甲1の1ないし1の3,2,乙8,弁論の全趣旨)等に照らせば,障害認定基準は,法的拘束力を有するものではないものの,近時の医学的知見を踏まえたものであって合理的なものということができる。
したがって,害の状態が障害等級2級に該当する程度のものである障
か否かの認定は,特段の事情がない限り,障害認定基準を参酌して判断するのが相当であり,知的障害でいえば,障害認定基準において障害の程度が2級に相当すると認められる障害の状態として例示されている知的障害があり,食事や身のまわりのことなどの基本的な行為を行うのに援助が必要であって,かつ,会話による意思の疎通が簡単なものに限られるため,日常生活にあたって援助が必要なものに該当し,又はこれと同等程度の障害の状態にあると認められるか否かで判断する
のが相当である。
そして,その際には,障害認定基準が定めるとおり,知能指数のみに着眼することなく,日常生活の様々な場面における援助の必要度を勘案して総合的に判断すべきであり,また,就労をしている者も援助や配慮の下で労働に従事していることを踏まえ,労働に従事していることをもって,直ちに日常生活能力が向上したものと捉えず,現に労働に従事している者については,その療養状況を考慮するとともに,仕事の種類,内容,就労状況,仕事場で受けている援助の内容,他の従業員との意思疎通の状況等を十分確認した上で日常生活能力を判断すべきである。
2
認定事実
(1)本件診断書(乙1)に記載された原告に係る本件傷病の状態及び生活状況等は,要旨,以下のとおりである。

障害の原因となった傷病名
中度精神発達遅滞


傷病の発生年月日
平成5年▲月▲日


アのため初めて医師の診察を受けた日
平成23年11月22日


発病から現在までの病歴及び治療の経過,内容,就学・就労状況
等,期間,その他参考となる事項(陳述者の氏名
聴取年月日

G(原告母),

平成25年▲月▲日)

二卵性双子で早産,仮死状態で出生。1歳半健診で自力歩行が無
く発達の遅れを指摘される。H病院を紹介され,月に2回グループ指導へ通った。けるようになると多動で母親の目が離せなかった。歩
初めての建物や家以外のトイレを非常に怖がり激しく泣いて抵抗

をするため,H病院の建物に入るのに数ヶ月間かかった。障害児枠で保育園に入園。小学校では通級学級と情緒障害児学級に所属。性格は大人しく周囲からからかわれる事があり,人ぽつんとする事

が多かった。勉強にはついて行けなかった。中学校は特別支援学級へ進学。同級生からお前は足手まとい等と馬鹿にされた事で精
神的に落ち込み,通学級の生徒との関わりを避けて生活をするよ

うになった。中3時,頭痛,微熱,倦怠感を訴え,10日間ほど学校へ行けなくなり,内科や耳鼻科をあちこち受診した所,精神的な問題だろうと言われ安定剤を処方された事がある。学卒業後は通

信制高校に進学し,センターでの訓練を経て平成25年4月より
J
障害者枠で会社に入職し,清掃の仕事を週5日行っている。

診断書作成医療機関における初診時所見(初診年月日

平成2

3年11月22日)
精神的な心配事を相談できるかかりつけをつくっておきたいと
いう主訴で,母親に伴われて当院初診。感情の表出や表情が乏しく自発的発語は無いが,情は穏やかで質問されると視線を合わせ答

えることが可能。将来の仕事について尋ねるとミシンとかの仕事をやりたいと話す。カ
障害の状態(平成25年▲月▲日現症)
(ア)

現在の病状又は状態像

知的障害
学習の困難
(イ)

中程度
読み,書き,計算

(ア)の状態についての程度・症状・処方箋等

療育手帳B判定所持
IQ49(田中ビネー検査
精神年齢8歳2月

平成24年2月1日実施)

簡単な話は理解できるが内容が複雑になると理解が難しく,
他者のサポートを必要とする。
小学・中学時代に同級生からお前は足でまといかけ算もできないのか等とからかわれた事がトラウマになっており,普通級の生徒との関わりを避けて生活をしている。環境の変化
に弱い面があり,新しい環境に行くと自分は周りの足手まといなのではないかと心配になり,頭痛,腹痛など,身体的不調を訴える事がある。電車通学・通勤は,両親と何度も電車の乗り
方を訓練しないと覚えられず,高校生時,駅で迷子になり教師
に迎えに来てもらったエピソードがある。
平成25年4月より障害者枠で清掃の仕事を始めたが,電車
通勤の方法や仕事内容に至るまで母親や周囲の援助を受けてお
り,どうにか一人で通えるようになった段階にある。
(ウ)
a
日常生活状況
家庭及び社会生活についての具体的な状況

(a)

現在の生活環境
在宅



同居者有

全般的状況
自発的なコミュニケーションはない。族以外の者とは挨

拶程度は可能だが,交流は難しいためサポートが必要。

b
日常生活能力の判定
(a)

適切な食事摂取-配膳などの準備も含めて適当量をバ

ランスよく摂ることがほぼできるなど。
自発的かつ適正に行うことはできないが助言や指導があ
ればできる


身辺の清潔保持-洗顔,洗髪,入浴等の身体の衛生保持や

着替え等ができる。また,自室の清掃や片付けができるなど。
自発的かつ適正に行うことはできないが助言や指導があ
ればできる


金銭管理と買物-金銭を独力で適切に管理し,やりくり
がほぼできる。また,一人で買物が可能であり,計画的な買
物がほぼできるなど。
助言や指導をしてもできない若しくは行わない



通院と服薬-規則的に病院や服薬を行い,病状等を主治
医に伝えることができるなど。
不要
助言や指導をしてもできない若しくは行わない



他人との意思伝達及び対人関係-他人の話を聞く,自分
の意思を相手に伝える,集団的行動が行えるなど。
助言や指導があればできる



身辺の安全保持及び危機対応-事故等の危険から身を守
る能力がある,通常と異なる事態となったときに他人に援
助を求めるなどを含めて,適正に対応することができるな
ど。
助言や指導をしてもできない若しくは行わない



社会性-銀行での金銭の出し入れや公共施設等の利用が
一人で可能。また,社会生活に必要な手続が行えるなど。
助言や指導があればできる

c
日常生活能力の程度
知的障害を認め,日常生活における身のまわりのことも,多
くの援助が必要である。たとえば,簡単な文字や数字は理解

でき,保護的環境であれば単純作業は可能である。習慣化して

いることであれば言葉での指示を理解し,身辺生活について
も部分的にできる程度)
(エ)
a
現症時の就労状況
勤務先
一般企業(特例子会社)

b
雇用体系
障害者雇用

c
継続年数
7か月

d
仕事の頻度
週に5日

e
ひと月の給料
7~9万円程度

f
仕事の内容
簡単な清掃業

g
仕事場での援助の状況や意思疎通の状況
単純作業のみで都度職員が付き添い,援助を受けながら仕
事を覚えている。

(オ)

身体所見

特記なし
(カ)

臨床検査

IQ49(田中ビネー検査:平成24年2月1日)
精神年齢8歳2月
(キ)

福祉サービスの利用状況

移動支援

現症時の日常生活活動能力及び労働能力

日常生活活動動作は低く,周囲の手厚い支援や理解がないと,単
純作業をすることも難しい。

予後
不明

(2)本件申立書(乙10)に記載された本件裁定請求時における原告の就労及び日常生活状況等は,要旨,以下のとおりである。

職種等
清掃


通勤方法
電車


通勤時間

1時間30分

出勤の状況(日数)
請求日の前月


22日

請求日の前々月

19日

仕事内容
トイレ清掃,フロアー清掃,外での落ち葉の掃き掃除,封入


日常生活についての制限
a
着替え,洗面,トイレ,入浴,食事
自発的にできる

b
掃除
自発的にできるが援助が必要

c
散歩,買物
自発的にはできないが援助があればできる

d
炊事,洗濯
できない

eカ
介護やヘルパーの支援を受けていない。
補助具の使用について
補助具を使用していない。


その他日常生活で不便に感じること
同じことを繰り返し言う。見た目で障害の有無が分からないため,他人に誤解を与えてしまうことがある。

(3)文中証拠及び弁論の全趣旨によれば,原告に係る本件傷病の状態及び生活状況について,以下の事実が認められる。

原告は,1歳半健診で発達の遅れを指摘され,1か月に2回,H
病院に通い,障害児保育の枠で保育園に入園した。保育園年中のときに千葉県α市に引っ越したが,市でも発達の支援を受けること
α
ができる機関に通いながら保育園に通園していた。小学校では,普通学級に所属しながら,情緒障害学級に通級していた。(乙10,証人原告母)


原告は,中学進学時に学習面での困難等を指摘され,中学は特別
支援学級に進学し,中学1年時(平成18年10月18日)に療育手帳を取得した(乙10)。


中学校卒業後について(甲4,7,16,乙11,23,証人K,原告母)
(ア)

原告は,中学校卒業後,平成21年4月から平成24年3月

まで,通信制高校であるL高等学校に在籍しながら,通信制高校
のサポート校であるN学院高等部(以下本件学院という。)
に入学し,当時の自宅の最寄りのβ駅から同校の最寄りのγ駅ま
で電車で移動して本件学院に通学していた。本件学院では,体育
の授業や校外行事等の際には学校以外の場所に直接集合する場
合があり,その際,直接集合場所に行く自信がない生徒は,一旦
本件学院に行き,教員と一緒に現地に行くことも可能となってい
たところ,告は,度か行ったことのある場所以外は,年間,


3
おおむね上記方法により教員と一緒に現地に行っていた。

(イ)

原告は,本件学院では,学力別に分けられたクラスで4クラ

ス中最も下のクラスに所属しており,同クラスでは,約半数の生
徒が何らかの障害を持っていた。同校における原告の成績評価の
平均は,五段階評価(絶対評価)のうち,英語が約2.8,数学
が4.0,国語が約2.3,理科が約4.1,社会が約2.3で
あった。なお,本件学院では,成績評価で1が付くことは事実上
なかった。

原告の就労状況について(甲4ないし6,8,9,乙10,11,証人O,原告母)
(ア)

原告は,件学院卒業後,センターで職業訓練を受けた後,
本J
平成25年4月にPの特例子会社(障害者の雇用の促進等に関す
る法律44条1項に基づき,厚生労働大臣の認定を受け,法律上
求められる障害者雇用率の算定において親事業主の一事業所と
みなされる子会社)である本件会社に障害者雇用枠で採用された。(イ)

本件会社では,害者雇用枠のスタッフは全員障害者手帳の

所持者である。本件会社には社会福祉士,精神保健福祉士の資格
を有している社員が数名おり,社員全員が障害者へ対応するため
に必要な研修や講習等を受けている。
(ウ)

原告は,自宅から本件会社まで,約1時間30分かけて通勤

しているところ,その経路は,自宅から最寄り駅まで自転車で行
き,δ駅で電車を乗り換え,γ駅から(省略)のバスに乗り終点
である(省略)でバスを降り出勤するというものである。なお,
原告は,本件会社に上記方法で通勤するに当たり,原告母と何度
も通勤の練習をした。
(エ)

原告は,本件会社に採用された後,現在まで,書類の封入作

業,(省略)の校舎周辺の掃き掃除等を担当しており,月に20

日程度勤務して毎月7万円から9万円の収入を得ている。なお,
原告が担当している上記作業は,本件会社が行っている仕事の中
でも比較的簡単な内容の仕事である。
(オ)

原告は,時的に文書受付の郵便物の仕分作業を担当したこ

ともあったが,担当した社員が障害者についての専門知識がない
者であったことや原告の漢字を読む能力が不十分であったこと
から,上記作業を習得するには至らなかった。また,原告は,ト
イレ清掃の作業を担当したこともあったが,掃き掃除と比較して
手順が複雑であるため,同様に作業を習得するに至らず,トイレ
清掃のスタッフが体調不良で欠員となった際には,大便器の清掃
は手順が多く正確に作業を行うことが困難であるとして,小便器
の清掃のみを担当している。
(カ)

原告は,他のスタッフが2,3日から一週間程度で習得する

ことができる掃き掃除作業について,習得まで2,3か月かかっ
たことがあるほか,原告の作業内容は,ごみが多くても少なくて
も同じペースで同じように清掃し,天候やごみの量によって作業
内容を調整することが困難であるという特徴がある。

休日等の状況及び金銭管理について(甲4,原告母)
(ア)

原告は,休日は,主にインターネットで動画を見たり,ゲー

ムをしたりして過ごしているほか,一人で近所の決まったスーパ
ーに行って買物をしたり,自宅付近を1時間程度サイクリングす
ることもある。また,障害者の友人との懇親会や当該友人同士で
パフェを食べに行ったり,障害者の友人とともに,自宅から2駅
先にあり家族で何度か行ったことのある映画館に映画を見に行
くこともある。
(イ)

原告は,原告母との間で,月2,3万円を小遣いとする旨約

束し,原告が管理しているキャッシュカードを用いてATMから
現金を下ろして使っており,決められた小遣い額以上に現金を下
ろすことはないが,好きなものがあると買ってしまうため次の月
までに小遣いがなくなってしまうことがあるほか,細かい数字を
理解することが困難であるため,小銭で支払うことが難しく,ど
のような場合でも紙幣で支払うことが多い。
3
検討
(1)本件診断書によれば,原告の本件基準日である平成25年▲月▲日頃の障害の程度については,中度精神発達遅滞があり,日常生活能力の判定のうち,適切な食事摂取,身辺の清潔保持につ
いては,自発的かつ適正に行うことはできないが助言や指導があればできるとされ,他人との意思伝達及び対人関係」及び社会性
については,「助言や指導があればできるとされているほか,金銭管理と買物,通院と服薬」及び身辺の安全保持及び危機対応は「助言や指導をしてもできない若しくは行わないとされ,日常生活能力の程度も,知的障害により日常生活における身のまわりのことも,多くの援助が必要であるとされている。この点,本件申立書においては,平成25年11月13日(本件申立書作成日)の原告の状態について,着替え,洗顔,トイレ,入浴及び食事について,自発的にできるとされ,掃除について,自発的にできるが援助が必要とされているが,原告は,当該記載について,原告母が,限られた動作に限定した場合であればそれに沿った動作ができる場合には自発的にできる場合に該当すると認識してい
たためであると主張し,原告母もそれに沿う供述をしている。
これに対し,被告は,日常生活能力の判定においては,診断書のみならず,裁定請求者と同居している家族等,裁定請求者の日常生活を
よく認識していると考えられる人物が申し立てた病歴状況等も検討し,総合考慮した上でその障害の判断をするべきであるとした上で,診断書に記載された医学的な知見に関わらない点とその他の提出資料との間で整合性を欠く場合には,具体的かつ客観的な検討を行うことが必要であると主張する。
そこで,下,件基準日における原告の日常生活能力等について,


本件診断書及び本件申立書並びにK,O及び原告母の供述等を踏まえて検討する。
(2)日常生活能力について

適切な食事摂取
(ア)

Oの供述(証人O・27頁)によれば,原告は,本件会社の

勤務時の昼食について,持参した弁当を食べることがあるほか,
コンビニエンスストアに一人で昼食を買いに行くこともあると
認められる。
また,原告母の供述(原告母・2,3,18,25ないし27
頁)によれば,原告は,料理が一切できず,指示をすると食事の
準備や後片付けを手伝うことがあるが,それらを自発的に手伝う
ことはなく,食器も不十分にしか洗えないため,原告母が洗い直
すことがあること,食事についても,栄養バランスを考えること
はできず,出されたものをそのまま食べている状況であり,食事
の用意がないときは,食事の時間を意識せず,食事とのバランス
を考えないままお菓子を食べてしまうことがあること,ナイフと
フォークが使えず,食べこぼしが多いこと,ドレッシングや醤油
などの調味料を適切に使用することが難しいことが認められる。
(イ)

以上からすれば,原告は,調理はできないとしても,助言や

指導があれば食事の用意を手伝うことができ,用意された食事を

摂取することができるといえるものの,食事を自発的かつ適切に
行うことができるとはいえないから,適切な食事摂取」つき,
に「自発的かつ適正に行うことはできないが助言や指導があればできるとされている本件診断書の記載は相当といえる。(ウ)

この点,被告は,原告母が述べる自宅での原告の状態は,同

居する原告母への甘えであり,母親と同居している20歳の男性
が自宅において調理を行わなかったり,栄養バランスを考えた食
事を行わなかったとしても不自然ではないから,適切な食事
について,自発的にできるが時には助言や指導を必要とする
との評価が相当であると主張する。
しかし,前記原告母の供述(原告母・2,18,26,27頁)
によれば,原告母は,原告に対し,ナイフとフォークの使い方を
教えたり,皿洗いをさせたことがあるものの,上達する見込みが
少なかったため,ナイフとフォークの使い方を教えるのを諦め,
皿洗いについても,原告が行った場合はその後に再び原告母が行
っているというのであり,食事についても,菓子をあまり食べな
いように言っても食べる量が少なくなるにすぎず,外食時におい
ても好きなものを選ぶことがほとんどであり,それ以外のメニュ
ーを選ぶことは少ないというのであって,このような食事に係る
原告の行動からすれば,原告の状態が原告母に対する甘えを主な
原因とするものであるとはいえず,適切な食事」について,自
「発的にできるが時には助言や指導を必要とすると評価すること
はできない。
したがって,この点に関する被告の主張は理由がない。

身辺の清潔保持
(ア)

Kの供述(K・17,23頁)によれば,原告は,本件学院

の在籍時,体育の授業や宿泊がある修学旅行の際に他の生徒と同
様に着替え等をすることができたと認められ,Oの供述(O・2
8,29頁)によれば,原告は,本件会社の勤務時には,他人の
介助を必要とすることなくトイレに行って排泄をし,着替えをす
ることができると認められる。
また,原告母の供述(原告母・3ないし6,17頁)によれば,
原告は,着替えの際には,上下でちぐはぐな服を選んだり,気温
に関係なく気に入った服やたんすの一番上にある服を選ぶこと
があり,夏に長袖や冬に半ズボンを出すことがあるため,原告母
が事前に服を用意していること,洗顔については,行為自体は一
人できるが汚れた部分をきれいに洗うというものではなく,ひげ
そりについては行為自体はできるがそり残しがあったり出血す
ることがあるため原告母が手伝っていること,入浴については指
示をしなければ入浴しないことも多く,入浴自体は一人でできる
が洗い残し等がある場合があること,歯磨きについては,声を掛
けなくても1日3回行うが,原告母からすると不十分な場合があ
ること,泄については,イレに自主的に行くことができるが,


用を足す際に床を汚すことがあり,掃除については,声を掛けな
いと行わず,掃除の方法や整理整頓についても内容を具体的に指
示しないとすることができず,行った場合も不十分であり原告母
がやり直すことがあることが認められる。
(イ)

以上からすれば,原告は,排泄は自分で行うことができ,着

替え,洗顔,入浴,清掃についても,基本的な動作についてはあ
る程度自ら行うことができるが,助言や指導がなければこれらを
十分に行うことができないといえるから,身辺の清潔保持に
ついて,自発的かつ適正に行うことができないが助言や指導があればできるとされている本件診断書の記載は相当である。(ウ)

この点,被告は,着替えについては,原告の服装に関する好

みの問題であり,掃除についても清掃の仕事をしていることから
すれば,自ら掃除をすることができないとは考えられないから,
身辺の清潔保持について,できる又は自発的にできるが時には助言や指導を必要とするとの評価が相当であると主張する。
しかし,着替えについては,上記のとおり,気温に関係なく服
装を選んでしまうというのであるから,好みによって選んでいる
面があるとしても,適切な服装を選ぶことができているとはいえ
ないし,清掃の仕事についても,前記2⑶エ(オ)及び同(カ)のとおり,手順が複雑な清掃作業は困難であり,単純な清掃であって
も,習得に時間がかかったり,天候やごみの量によって作業内容
を調整することが困難というのであるから,原告が清掃の仕事を
していることをもって直ちに自宅等の清掃をすることができる
と認めることはできず,身辺の清潔保持」について,できる」
「又は「自発的にできるが時には助言や指導を必要とすると評価
することはできない。
したがって,この点に関する被告の主張は理由がない。

金銭管理と買物
(ア)

原告母の供述(原告母・8,21ないし24,29ないし3

1頁)によれば,原告は原告母との間で給料から月に2,3万円
を小遣いとする旨約束しているところ,原告母とATMから現金
を下ろす練習をしたことから,小遣いについては,原告が管理し
ているキャッシュカードを用いて原告自身がATMから現金を
下ろして使っており,決められた小遣い額以上に下ろすことはな

いが,小遣いを無計画に使用してしまい次の給料日までに小遣い
がなくなってしまうことがあるほか,細かい数字を理解すること
が困難であるため,小銭で支払うことが難しく,どのような場合
でも紙幣で支払うことが多いこと,近所の決まったスーパーに行
って買物をしたり,障害者の友人との懇親会に行ったり,パフェ
等を食べた際に支払をすることがあること,練習をしたため交通
系ICカードのチャージは一人でできることが認められる。
(イ)

以上からすれば,原告は,原告母の助言や指導の下であれば

ある程度金銭を独力で管理し,限られた店であれば一人で買物が
可能であるといえるものの,小銭を使用して支払をすることがで
きないほか,一定のまとまった金銭を使用するに当たり,収支の
バランスに配慮しつつ計画的に金銭を使用することまではでき
ないといえるから,金銭管理と買物について,助言や指導があればできると評価すべきである。もっとも,本件診断書において,日常生活能力の判定は,単身で生活するとしたら可能かどうか判断するものとされ,金で
銭管理と買物は,具体的には,

金銭を独力で適切に管理し,やりくりがほぼできる。また,一人で買い物が可能であり,計画的な買い物がほぼできるなど。

とされているところ,上記のとおり,原告の金銭管理は,原告母との間で決められた小遣いの範
囲にほぼ限られており,原告は,家賃等の居住費,水道光熱費及
び食費といった生活に必須となる費用を管理しているわけでは
ないし,一定のまとまった金銭を使用するに当たり,収支のバラ
ンスに配慮しつつ計画的に金銭を使用することまではできない
のであるから,単身で生活するに当たって,生活に必須な費用を
適切に管理し,計画的な買物をすることは極めて困難といえ,そ

のような趣旨の記載であるとすれば,本件診断書における助言や指導をしてもできない若しくは行わないとの評価が相当ではないとまでは言い難いというべきである。
(ウ)

この点,被告は,原告は買物について自ら行うことができ,

原告母の助言を要する場合があったとしても給料を自らの銀行
口座で管理し,交通系ICカードの仕組みを理解してチャージ等
による入金をするなどしており,金銭の管理を十分できているこ
とからすれば,金銭管理と買物」について,できる」又はお「「おむねできるが時には助言や指導を必要とするとの評価が相当であると主張する。
しかし,前記(イ)のとおり,買物については,主に決まったス
ーパーで買物をしているにすぎないといえるし,ATMの使用や
交通系ICカードのチャージも原告母と練習した結果として機
械を操作することができるようになったというのであり(原告
母・24頁),それらの仕組みを理解して使用しているとは認め
られず,金銭管理と買物について,できる又はおおむねできるが時には助言や指導を必要とすると評価することはできない。
したがって,この点に関する被告の主張は理由がない。

通院と服薬
(ア)

原告母の供述(原告母・8,23,24頁)によれば,原告

は漢字の読み書きが小学校低学年程度しかできないため,病院に
行く際には,原告母らが付き添い問診票を記載していること,精
神科に通院する際には原告母が同行しているが,歯医者や耳鼻科
については,何度か原告母が付き添い,精神発達遅滞があること
を医療機関に説明したところ,最近になり一人で通院することが

できるようになったことが認められる。
もっとも,後記オのとおり,原告は,面識のない者との間では
適切な対応をすることが困難であり,複雑な会話をされると混乱
して受け答えが一切できなくなってしまうと認められる。
(イ)

以上からすれば,原告が,医師に自らの症状を伝え,医師か

らの説明を理解しつつ,その指示により服薬をするなどして疾病
に対応することは極めて困難であるというべきであり,上記の一
人での通院は,原告母と一緒に通院したことにより,決められた
場所に行くことができるにすぎないという限度で評価すべきも
のといえるから,のような趣旨での記載というのであれば,通

院と服薬について,助言や指導をしてもできない若しくは行わないとされている本件診断書の記載は相当であり,上記通院の実態を最大限考慮しても,助言や指導があればできると評
価されるに過ぎないというべきである。
(ウ)

この点,被告は,原告の病院への通院状況を前提とすれば,

通院と服薬について,おおむねできるが時には助言や指導を必要とするとの評価が相当であると主張するが,本件診断書における通院と服薬の能力は,具体的には,規則的に病院や服薬を行い,病状等を主治医に伝えることができる能力であるところ,前記(ア)及び(イ)で述べたとおり,原告は問診票が記載できず,病状等を主治医に伝えることが困難と認められるので
あるから,通院と服薬について,おおむねできるが時に助言や指導を必要とすると評価することはできない。したがって,この点に関する被告の主張は理由がない。

他人との意思伝達及び対人関係
(ア)

Kの供述(K・2,3,8,10,21,24頁)によれば,

原告は,本件学院在籍時,表面上は他の生徒や教師とコミュニケ
ーションができているように見え,やるべきことを黙々とやる性
格だったため,コミュニケーションの問題で他の生徒とトラブル
を起こすことは少なかったが,師からの指示や依頼にははい」

と返事をするものの,内容を理解していないため,行動に反映されていないことが多く,指示や依頼を言葉で理解しているというよりも他の生徒の見よう見まねで行動していることが多かったと認められる。また,Oの供述(O・11ないし13頁)によれば,原告は,日常的に原告と接している者に限定した人間関係の中ではコミュニケーションが取れるものの,面識のない者との間では適切な対応をすることは困難であり,複雑な会話をされると混乱して受け答えが一切できなくなってしまうと認められる。さらに,原告母の供述(原告母・9,10,22,23,29,30頁)によれば,原告の会話は,思ったことを思ったときに口に出してしまう,主語が抜けている,過去の話を突然話し始めるといったことがあり,冗談が通じずに友人とトラブルになったことがあること,原告は障害者の友人とスマートフォンで連絡を取り,懇親会に参加することがあるほか,それらの友人と映画館等に行くことがあることが認められる。(イ)以上からすれば,原告は,家族,職場の同僚及び障害者の友人といった限定された人間関係の中では,ある程度コミュニケーションができるものの,相手の発言の意味を理解して行動に反映することや,冗談を理解するなど相手の発言の真意を捉えることが困難であり,初対面の者など原告に係る本件傷病を理解していない者とのコミュニケーションは困難であるといえるから,「他人との意思伝達及び対人関係につき,助言や指導があればできるとされている本件診断書の記載は相当である。(ウ)

この点,告は,件会社における原告の面談記録甲19)




や個人記録(甲20)など原告が担当する作業等について積極的
にコミュニケーションを取っている旨の記載があること,電車の
遅延により出社時間に間に合わない場合に勤務先に電話連絡を
することができていることなどを指摘し,原告が,原告母,本件
会社の上司や同僚,K及び友人との間において日常的な意思伝達
に支障があったとする事情はうかがわれず,周囲に配慮を欠いた
行動をとるような事情があったこともうかがわれないことから
すれば,他人との意思伝達及び対人関係につき,おおむねできるが時には助言や指導を必要とするとの評価が相当であると主張する。
しかし,Oの供述(O・10頁)によれば,本件会社における
上記各記録は,スタッフの長所を伸ばすという本件会社の社員の
支援の方針として,課題やミスについては小さく少なめに記載し,努力している点や伸びた点については,可能性も含めて大きめに
記載する傾向があり,原告のコミュニケーション能力を正確に表
している資料ではないといえ,上記各記録の記載をもって,原告
のコミュニケーション能力を判断するのは相当ではないし,Kの
供述(K・7,8頁)によれば,原告は,K,他の教員及び他の
生徒からの指示や依頼に対しては,表面的にはいと述べるた
めコミュニケーションを通じてのトラブルが少なかったにすぎ
ず,内容を理解し,相手に配慮をした上で行動していたわけでは
ないから,記事情をもって,他人との意思伝達及び対人関係」

について,「おおむねできるが時には助言や指導を必要とする

と評価することはできない。
したがって,この点に関する被告の主張は理由がない。

身辺の安全保持及び危機対応
(ア)

K及び原告母の供述(K・4頁,原告母・7頁)によれば,

原告は,体育の校外授業が行われる場所に一人で行った際に道に
迷い,原告母に連絡をするも自分がどこにいるか的確に説明する
ことができず,原告母から降りた駅を尋ねられ,駅名を原告母に
伝えたことによって,教員が原告を迎えに行ったことがあったと
認められる。
また,K及びOの各供述(K・19,20頁,O・18頁)に
よれば,原告は,本件学院への通学途中や本件会社への通勤途中
に電車が遅延した際には,遅延証明書を持ってくることや,本件
会社の社員に電話連絡をすることができると認められる。
(イ)

しかし,前記エ(ア)のとおり,原告は漢字の読み書きが小学

校低学年程度しかできず,書類への記入ができないというのであ
るし,前記オのとおり,限定された人間関係の中ではある程度コ
ミュニケーションができているというものの,面識のない者との
間では適切な対応をすることは困難であり,複雑な会話をされる
と混乱して受け答えが一切できなくなってしまうことからすれ
ば,身辺の安全保持及び危機対応については,助言や指導があればできると評価するのが相当である。もっとも,本件診断書において,日常生活能力の判定は,単身で生活するとしたら可能かどうか判断するものとされ,身で
辺の安全保持及び危機対応は,具体的には,事故等の危険から身を守る能力がある,通常と異なる事態となったときに他人に援助を求めるなどを含めて,適正に対応することができるなど
とされているところ,上記で述べた原告のコミュニケーション能
力からすれば,単身生活をする中で,適切に情報を収集するなど
して事故等の危険を予測して行動することや,事故等が生じた際
に他人に援助を求めたりすることは極めて困難といえ,そのよう
な趣旨の記載であるとすれば,本件診断書における助言や指導をしてもできない若しくは行わないとの評価が相当ではないとまでは言い難いというべきである。
(ウ)

この点,被告は,原告が公共交通機関を利用し,複雑な通勤

経路で通勤しており,電車遅延の場合には通勤先への連絡ができ
ていることなどからすれば,身辺の安全保持及び危機対応に
ついて,できる又はおおむねできるが時には助言や指導を必要とするとの評価が相当であると主張する。しかし,前記(イ)で説示したとおり,原告は,本件会社への通
勤途中に電車に遅延した際には,本件会社の社員に電話連絡をす
ることができるものの,原告は,飽くまで,限定された人間関係
の中でコミュニケーションを取ることができるにすぎず,前記
(ア)のとおり,実際に道に迷った際には,他者に援助を求めることができずに母に連絡をした際も自分がどこにいるか的確に説
明することができなかったというのであり,そのような原告の安
全保持及び危機対応に関する能力がその後改善したことはうか
がわれないから,身辺の安全保持及び危機対応」について,で
「きる又はおおむねできるが時には助言や指導を必要とする
と評価することはできない。
したがって,この点に関する被告の主張は理由がない。

社会性
(ア)

本件診断書において,社会性は,具体的には,

銀行での金銭の出し入れや公共施設等の利用が一人で可能。また,社会生活に必要な手続きが行えるなど。

とされているところ,前記ウ(ア)のとおり,原告は,原告母とATMから現金を下ろす練習をしたことからキャッシュカードを用いて現金を下ろすことが
できるものの,前記エ(ア)のとおり,原告は漢字の読み書きが小学校低学年程度しかできないのであり,加えて,前記オ(イ)で説示した原告のコミュニケーション能力からすれば,原告母や友人
らと何度も通ったことがある場所であればともかく,それ以外の
公共施設等を一人で利用することは極めて困難であるといえる
から,社会性について,助言や指導があればできるとさ
れている本件診断書の評価は相当である。
(イ)

これに対し,被告は,原告が公共交通機関を利用し,複雑な

通勤経路を単身で通勤し,ATMや交通系ICカードの利用方法
を習得しており,それらの利用に当たって,当初において助言が
必要であったとしても,それらの行為を習得した後においては助
言や指導は必要なく,社会での基本的なルールや周囲の状況に合
わせた行動がおおむねできていることからすれば,社会性に
ついて,おおむねできるが時には助言や指導を必要とすると
の評価が相当であると主張する。
しかし,前記2⑶エ(ウ)及び前記ウ(ウ)のとおり,原告に係る本件会社への通勤及びATMや交通系ICカードの使用は,いず
れも,原告母と練習した結果として特定の通勤経路で通勤するこ
とやATMを操作して現金を下ろすことができるようになった
にすぎないのであり,そのことをもって,広く社会での基本的な
ルールや周囲の状況に合わせた行動ができているとは評価でき
ないから,社会性について,おおむねできるが時には助言や指導を必要とすると評価するのは相当ではない。したがって,この点に関する被告の主張は理由がない。
(3)原告の就労状況等

前記2⑶エのとおり,原告は,本件会社に障害者枠で採用されており,害者対応のための講習や研修を受けている社員の支援を受

けながら就労している。そして,証拠(甲21,O・3ないし5頁)によれば,本件会社では,作業中のスタッフと連絡が取れるようにするため,つの作業場所に一人は携帯電話を所持させているほか,一
清掃道具の保管等についても,道具ごとに色分けをする,保管する道具の名前を記載する,定の場所に道具をしまうためのガイドと

なるラインを床に貼るなどの工夫がされていることが認められ,

告は,そのような環境の中で,書類の封入作業や掃き掃除等の単純な作業を担当している。


また,前記2⑶エ(ウ)のとおり,原告は自宅から本件会社まで,電車を乗り継いでγ駅まで行き,駅からバスに乗って本件会社ま

で通勤しているところ,原告は,本件会社に通勤するに当たり,原告母と何度も通勤の練習をしたというのであり,記⑵カ(ア)のと前
おり,原告は,本件学院在籍中,体育の校外授業が行われる場所に一人で行った際に道に迷ったことがあるなど,勤通学に当たって

支援が必要であった。

(4)日常生活能力の程度

前記⑵で検討したとおり,本件診断書における原告の日常生活能力につての記載は,おおむね相当であるといえ,当該記載及び前記⑶記載の原告の就労状況等に鑑みると,告の日常生活能力の程原
度につき,知的障害を認め,日常生活における身のまわりのことも,多くの援助が必要である(たとえば,簡単な文字や数字は理解でき,保護的環境であれば単純作業は可能である。習慣化していることであれば言葉での指示を理解し,辺生活についても部分的に身できる程度)とされている本件診断書の判断は相当であるといえる。

これに対し,被告は,原告が,本件基準日において,電車等を利
用して約1時間30分かけて本件会社に通勤し,7か月の勤務経

験を有し,月20日程度稼働して,7万円から9万円の収入を得ていたこと,件会社における就労においても必要な連絡や報告等の

意思伝達や対人関係についてはおおむねできていたと認められ,

業に当たって常時の保護的な見守りは不要であったことなどから
すれば,原告は,一定の勤務実績が認められるだけの労働を行う能力を有していると認められ,そのような原告の就労状況は,原告の社会的適応性の一現れであり,会的適応性が向上していると評価

できるのであれば,労により障害の程度がより軽度であると判定

され得る一事情となると主張し,R医師の意見書(乙18)にはこれに沿った記載がある。
しかし,前記1のとおり,障害認定基準によれば,知的障害に係
る障害等級の認定については,労働に従事していることをもって,直ちに日常生活能力が向上したものと捉えず,に労働に従事して

いる者については,の療養状況を考慮するとともに,事の種類,


内容,就労状況,仕事場で受けている援助の内容,他の従業員との意思疎通の状況等を十分確認した上で日常生活能力を判断すべき
であるとされているところ,前記⑶のとおり,原告は,本件会社の社員や原告母の手厚い援助や配慮の下で就労が可能になっている
にすぎないというべきであり,の作業内容も単純なものにとどま

っているから,原告が,本件基準日において本件会社で就労してい
たことをもって,告の社会的適応性が向上しているものと評価す

ることは相当ではない。
また,告は,害認定基準によれば,障害等級2級の例示が家被障庭内の生活でいえば,動の範囲がおおむね家屋内に限られるもの活
とされていることを踏まえると,告に係る通勤状況及び稼働状況

に加えて,告が休日に自宅以外の場所に出かけることもあったこ

となどからすれば,原告の障害の程度は,障害等級2級の例示に該当しないとも主張するが,前記⑶のとおり,原告は,本件会社の社員や原告母らの手厚い援助や配慮の下で通勤及び就労をし,記2

⑶オのとおり,休日も主に自宅内で過ごしているほか,障害者の友人と外出するほかは,まったスーパーや自宅付近に行っているに

すぎないから,活動の範囲がおおむね家屋内に限られるものと
評価でき,上記例示において活動の範囲がおおむね家屋内に限
られると記載されていることも踏まえると,族及び職場の関係者

等の支援を受けた結果として活動の範囲が必ずしも家屋内に限ら
れない程度となったとしても,れをもって直ちに障害等級2級に

該当しないと評価することは相当ではない。
したがって,この点に係る被告の主張は理由がなく,前記アで説
示した原告の日常生活能力に係る判断について,の判断を左右す

るものではない。そして,本件全証拠を踏まえても,上記判断を左右するに足りる証拠はない。
(5)まとめ
以上からすれば,原告の本件基準日における障害の程度は,知的障害があり,食事や身のまわりのことなどの基本的な行為を行うのに援助が必要であって,かつ,会話による意思の疎通が簡単なものに限られるため,日常生活にあたって援助が必要なものに該当するか,
これと同等程度のものであったというべきであり,障害等級2級に該当する程度のものであったというべきである。
したがって,件基準日における原告の障害の程度が障害等級2級

に該当する程度のものではないと判断した本件処分は違法である。4
結論

よって,原告の請求は理由があるから認容することとし,訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第38部

裁判長裁判官

朝倉佳秀

裁判官

野村昌也

裁判官

細井直彰

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