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営利目的略取、逮捕監禁、詐欺、死体遺棄
事件番号平成30(わ)236
事件名営利目的略取,逮捕監禁,詐欺,死体遺棄
裁判年月日平成31年2月15日
法廷名静岡地方裁判所
裁判日:西暦2019-02-15
情報公開日2019-03-19 16:00:11
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平成31年2月15日宣告
平成30年(わ)第236号,第287号,第363号
主文
被告人を懲役7年に処する
未決勾留日数中170日をその刑に算入する。

理由
【罪となるべき事実】
第1

被告人は,氏名不詳者と共謀の上,不正に入手したAの自動車運転免許証を使用して他人名義で預金口座を開設して預金通帳等をだまし取ろうと考え,平成30年5月22日,東京都港区ab丁目c番d号株式会社B銀行C支店において,
同支店行員Dに対し,前記Aになりすまし,お名前欄にA
,ご住所欄に港区ef-g-hE等と記入した受付票を提出するとともに,前記A名義の自動車運転免許証を呈示するなどし,同人名義の預金口座の開設及びそれに伴う預金通帳等の交付を申し込み,前記Dらを,被告人が前記A本人であり,前記申し込みが正当なものであると誤信させ,よって,その頃,同所において,前記Dらから
普通預金通帳1通及びキャッシュカード1枚の交付を受け,もって,人を欺いて財物を交付させた。
第2

被告人は,氏名不詳者と共謀の上,前記Aになりすまして携帯電話機等をだまし取ろうと考え,同日,川崎市i区j町k番地のlF店において,同店に派遣されている派遣社員Gに対し,
前記Aの運転免許証を呈示するなどして同人になり

すました上,真実は,後日契約所定の方法により携帯電話機等の代金を支払う意思がないのにこれがあるように装って携帯電話機等の購入を申し込み,前記Gを
その旨誤信させ,よって,その頃,同所において,同人から携帯電話機2台及びタブレット端末1台(販売価格合計30万3720円)の交付を受け,もって,人を欺いて財物を交付させた。

第3

被告人は,H及びI(平成30年6月15日死亡)と共謀の上,被害者(当時29歳)を営利の目的で略取し,逮捕監禁しようと考え,平成30年5月26日午後6時21分頃,浜松市m区n町o番p号パチンコ店J北側駐車場において,被害者が同所に駐車中の普通乗用自動車の運転席に乗車するや被告人及びHがそれぞれ同車の助手席及び運転席から乗り込み,被害者を押さえ込むなどの暴行を加え,被害者を被告人らの支配下に置くとともに逮捕し,同日午後6時22
分頃,同車を発進させ,その頃から同月27日午前4時20分頃までの間,同所から静岡県掛川市,静岡市等を経て浜松市m区qr丁目s番t号Kビル東側路上まで走行させ,その間,被害者の身体を押さえ込み,あるいは被害者の両上肢を結束バンドで縛るなどし,被害者を同車から脱出することが著しく困難な状態に置き,もって被害者を営利の目的で略取するとともに不法に逮捕監禁した。
第4

被告人は,
Iと共謀の上,
同日頃,
静岡県藤枝市uv番w地先山林内において,
被害者の死体を土中に埋め,もって死体を遺棄した。

【証拠の標目】
省略
【法令の適用】


判示第1及び第2の行為

いずれも刑法60条,246条1項

判示第3の行為のうち
営利略取の点
刑法60条,225条

逮捕監禁の点

包括して刑法60条,220条

判示第4の行為

刑法60条,190条

科刑上の一罪の処理
判示第3につき

刑法54条1項前段,10条(1個の行為が2個の
罪名に触れる場合であるから,1罪として重い営利
略取罪の刑で処断)

併合罪の処理

刑法45条前段,47条本文,10条(最も重い判示
第3の罪の刑に法定の加重)
未決勾留日数の算入

刑法21条

訴訟費用の不負担

刑事訴訟法181条1項ただし書

【量刑の理由】
本件は,
被告人が,
氏名不詳者と共謀の上,
他人名義の自動車運転免許証を用いて,
他人名義の預金通帳等を銀行から詐取したり(判示第1)
,他人名義で携帯電話機等
を家電量販店から詐取したりし(判示第2)
,また,I及びHと共謀の上,営利の目的
で,駐車場において,自動車に乗り込んだ被害者を車ごと連れ去り,約10時間にわたり車中で監禁し(判示第3)
,その後,Iと共謀の上,被害者の遺体を土中に埋めた

(判示第4)という事案である。
まず,量刑判断の中心となる判示第3の営利略取逮捕監禁の量刑要素について検討する。
犯行全体の悪質性についてみると,本件営利略取逮捕監禁は,インターネットの匿名掲示板におけるIの呼びかけに応じ,それまで見ず知らずであった被告人らが集
まり,互いに偽名を名乗り合うなどしながら共同して犯罪を実行したものであり,捜査機関による追跡を困難にする匿名性の高い犯行といえる。そして,被告人らは,あらかじめ,
役割分担を謀議し,
対象者の拘束に用いる結束バンド,
下見用
実行用
などの複数の服装,変装用のかつら,帽子,軍手を用意した上,別の駐車場において予行演習をするなどして本件を敢行したものであり,
周到に準備された計画性の高い

犯行であったといえる。被告人らが対象者として被害者を選んだ経緯については,本件の首謀者とみられるIが死亡したなどのため不明な点も残るが,被告人らとは縁もゆかりもない若い女性を標的にした無差別的な犯行と考えられ,社会に与えた不安感等の悪影響は極めて大きい。被害者は,夕刻の未だ明るい時間帯に,判示のパチンコ店に併設されているスポーツジムから出てきて,多数の自動車が駐車され,しばしば
客も行き来する駐車場に駐車していた自分の自動車に乗り込んだところを,突然助手
席側から乗り込んできた被告人に体を押さえ込まれ,運転席側から乗り込んできたHに勝手に自動車を発進させられ,
自動車ごと連れ去られた。
そのような経緯において,
被害者に落ち度はもとより,被害の誘因となるような不注意も全く認められない。そして,被害者は,監禁当初,
助けて
殺さないでと繰り返し述べたり,足を動か
して暴れたりして必死の抵抗をしたものの,
ほどなく自動車に乗り込んできたIから
結束バンドで両手首を拘束されるなどして抵抗できない状態にさせられた。その後,被害者は,約10時間もの長時間にわたり,一度も車外に出ることなく,Iから,口封じのためとして屈辱的な姿態を撮影されたり,後部座席の足元に横臥させられるなどして,監禁状態を継続されたものであるから,本件の態様は誠に悪質というほかない。その間に被害者の味わった恐怖は著しいものであり,被害者が負った肉体的,精
神的苦痛は極めて重大であったと考えられる。犯行後の情状をみても,被告人らは,犯行に使用した衣服や自動車内にあった被害者の荷物等を投棄して証拠隠滅を図るなどした上で解散しており,その後,被告人及びHが犯行を自供した経緯を踏まえても,事後情状は芳しくないというべきである。
被告人に固有の事情についてみると,被告人は,まず,スポーツジムから出てきた
被害者を見るや,駐車場を歩く被害者を追尾し,この被告人の動きに合わせてHも被害者の追尾を開始している。被害者が対象者として選定された理由については,前記のとおりIが死亡していることや被告人の供述が曖昧であることなどから,不明といわざるを得ないが,関係証拠上,Hが被害者を選定したとは考え難く,被告人が,Iからの何らかの指示に従い,具体的な対象者として被害者を選んだものと考えるのが
合理的であり,その限りにおいてではあるが重要な役割を果たしたものとみるべきである。次に,被害者が自動車の運転席に乗り込むと,被告人は,助手席側から自動車に乗り込んで被害者を力ずくで押さえ込み,Hが運転席側から自動車に乗り込んで自動車を発進させることを可能とさせた上,その後も助手席のドアを開けるなどして必死に抵抗する被害者を押さえ込み続け,自動車の走行継続を可能とさせたのであるか
ら,犯行に不可欠の役割を担ったものといえる。なお,被告人は,自動車が発進した約2時間半後に降車しているが,これはIの指示によるものであり,その後も再び合流できるよう待機を続けていたものであるから,この点をさほど有利に斟酌することはできない。そして,被告人は,事前にIとの間のやり取りの中で,強盗を示す隠語である叩きという言葉を用いて仕事内容を確認したり,若い頃に体を鍛えており体格が良いことをアピールしたりした上でIらと合流し,犯行直前の謀議において,被告人が対象者をヘッドロックしている間にHが運転して自動車を奪うこと,対象者は結束バンドで拘束すること,
もし逮捕されたら10日間黙秘することなどをIから
告げられてもなお,報酬目的で犯行に加担したものであるから,暴力的に被害者を制圧して自由を奪うという犯行を実行することに向けた犯意は強固であったといえる。被告人は,事前にIに対して被告人の子らが通う学校名を告げてしまい,犯行直前に
Iから子らを引き合いに暗に脅迫されたため,犯行に加担せざるを得なかった旨弁解するが,仮にそのような事情が存したとしても,前記のように強固な犯意で犯行に加担した経緯等に照らせば,酌量の余地は乏しい。
そうすると,本件営利略取逮捕監禁については,被告人が,犯行の首謀者ではなく,犯行を主導したわけでもないことに照らしても,同種事案の中で重い部類に属す
ると評価すべきである。
次に,判示第4の死体遺棄の量刑要素について検討する。被告人は,Iの指示で,被害者の自動車に再乗車し,
判示第3の犯行後,
降車したHに代わって運転を始めた。
被告人の供述によれば,その運転中,Iが後部座席で被害者の首を絞めているように見える場面を目撃し,その後,被害者の死亡を確信したにもかかわらず,そのままI
の指示に従い運転を続けた。そして,被告人は,Iや自身らの犯行発覚を防ぐべく,Iと共謀の上,死体遺棄の犯行に及んだものである。これは自身が関与した犯行のみならず,Iによる殺人行為をも隠ぺいする目的で敢行されたものといえ,厳しい責任非難を向けるべき動機である。
態様についてみても,
Iの指示に基づくものとはいえ,
被告人自ら掘削に適したショベルを購入し,人気のない山中に移動した後,被告人の
手で相当程度の深さの穴を掘った上,2人で協力して全裸の遺体を移動させ,Iがその遺体をガードレール上から崖下に掘った穴に投げ落とし,その後Iが埋め戻したというものである。これは,死者の尊厳を著しく踏みにじる態様であり,被告人は,重要かつ不可欠な役割を果たしたといえる。そうすると,本件死体遺棄についても,同種事案の中で悪質な部類に属するといえる。
さらに,判示第1,第2の各詐欺についてみると,被告人は,平成30年4月頃からいくつかのグループの下で携帯電話機の不正契約をして報酬をもらうことを繰り返していたというのであるから,第2の犯行には常習性が認められる。また,第1の犯行も,第2の犯行と同じグループからの指示で実行され,詐取した預金通帳等の銀行口座を第2の犯行の際の料金の引落先として利用したものであるから,手慣れた一連の犯行といえる。そして,その被害金額が約30万円と多額であることにも照らせ
ば,犯情は悪いといわざるを得ない。
以上によれば,本件各犯行の行為責任は相当程度重く,相当期間の懲役刑の実刑を科すほかない事案というべきである。
その上で,他の情状事実について検討する。まず,被告人は,被害者の遺体が発見された旨の報道に接した翌日には,自ら捜査機関に出頭して判示第3の犯行を打ち明
けている。そして,当初判示第4の犯行については否認していたものの,最終的には本件各犯行を自白しており,
一応の反省の態度はみられる。
しかしながら,
被告人は,
自身が使用していた携帯電話機を破壊するなどの証拠隠滅を図った上で捜査機関に出頭したものであり,顕著な改悛の情から出頭したとはいえない上,その後の捜査段階及び公判廷においても,合理的な理由なく幾度となく供述を変遷させ,また,不利
な点を追及されると記憶がない旨述べたり不合理な弁解を弄したりしており,真摯な反省の情まではうかがえない。そして,そのような不誠実ともいえる供述態度によって,被害者遺族の心情は今なお傷付けられており,遺族が被告人に対する峻烈な処罰感情と憤りをあらわにしているのも至極当然といえる。
以上を踏まえ,主文の刑期が相当であると判断した。

(求刑-懲役10年)
平成31年2月15日
静岡地方裁判所浜松支部刑事部

裁判長裁判官

山田直
裁判官

横江麻
裁判官

村島裕之里子美
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