判例検索β > 平成28年(ワ)第889号
損害賠償請求事件
事件番号平成28(ワ)889
事件名損害賠償請求事件
裁判年月日平成31年2月5日
法廷名福岡地方裁判所
裁判日:西暦2019-02-05
情報公開日2019-03-08 18:00:12
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平成31年2月5日判決言渡

同日原本領収

裁判所書記官

平成28年(ワ)第889号

損害賠償請求事件

口頭弁論終結日平成30年10月19日
判決主文
1被告Aは,原告に対し,40万円及びこれに対する平成25年10月8日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2被告Bは,原告に対し,10万円及びこれに対する平成25年12月31日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3被告Cは,原告に対し,20万円及びこれに対する平成26年5月9日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
4被告D及び被告Eは,原告に対し,連帯して15万円及びこれに対する平成26年5月9日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
5被告Fは,原告に対し,5万円及びこれに対する平成26年7月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
6被告Gは,原告に対し,5万円及びこれに対する平成26年7月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
7原告の被告A,被告B,被告C,被告D,被告E,被告F及び被告Gに対する
その余の請求をいずれも棄却する。
8原告の被告Hに対する請求を棄却する。
9訴訟費用は,


原告に生じた費用の14分の4と被告Aに生じた費用との合計の10分の9を原告の,10分の1を被告Aの各負担とし,



原告に生じた費用の14分の3と被告Bに生じた費用との合計の30分の29を原告の,30分の1を被告Bの各負担とし,


原告に生じた費用の14分の2と被告Cに生じた費用との合計の10分の9を原告の,10分の1を被告Cの各負担とし,



原告に生じた費用の14分の2と被告D及び被告Eに生じた費用の合計の40分の37を原告の負担,40分の3を被告D及び被告Eの連帯負担とし,


原告に生じた費用の14分の1と被告Fに生じた費用との合計の20分の19を原告の,20分の1を被告Fの各負担とし,



原告に生じた費用の14分の1と被告Gに生じた費用との合計の20分の19を原告の,20分の1を被告Gの各負担とし,


原告に生じた費用の14分の1と被告Hに生じた費用との合計を原告の負担とする。

10この判決は,第1項から第6項までに限り,仮に執行することができる。事実及び理由
第1請求
1被告Aは,原告に対し,400万円及びこれに対する平成25年6月15日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2被告Bは,原告に対し,300万円及びこれに対する平成25年10月12日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3被告Cは,原告に対し,200万円及びこれに対する平成26年5月9日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

4被告D及び被告Eは,原告に対し,連帯して200万円及びこれに対する平成26年5月9日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。5被告Hは,原告に対し,100万円及びこれに対する平成26年5月24日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
6被告Fは,原告に対し,100万円及びこれに対する平成26年7月1日から
支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
7被告Gは,原告に対し,100万円及びこれに対する平成26年7月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2事案の概要
本件は,
防衛大学校
(以下
防衛大
という。に2学年時まで在校し,

その後,
退校した原告が,同校の学生であった被告らに対し,在校中,それぞれ暴行,強要,いじめ等の行為を受け,精神的苦痛を被ったとして,不法行為あるいは共同不法行為に基づき,
①被告Aに対して400万円,
②被告Bに対して300万円,
③被告Cに対して200万円,④被告D及び被告E(共同不法行為)に対して連帯して200万円,
⑤被告Hに対して100万円,
⑥被告Fに対して100万円,
及び⑦被告Gに対して100万円,並びにそれぞれ不法行為の日又は不法行為の
後の日
(被告Aにつき平成25年6月15日
(一部の不法行為の後の日)被告B

につき同年10月12日(一部の不法行為の後の日),被告C,被告D及び被告Eにつき平成26年5月9日(被告Cの最後の不法行為の日,被告D及び被告Eの不法行為の後の日),被告Hにつき同月24日(不法行為の後の日),被告F及び被告Gにつき同年7月1日(不法行為の後の日))から支払済みまで,いず
れも民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。1前提事実
(争いのない事実並びに後掲の証拠及び弁論の全趣旨によって容易に認められる事実)


当事者(その概要は,おおむね別紙当事者関係図のとおりである。)

原告
原告は,平成25年4月1日,防衛大に入校したが,平成26年8月31日から防衛大を休学し,平成27年3月21日,防衛大学校長に対し,退校願を提出したところ,同月30日付けで退校命令が発令された(甲A1,H11,12,13,乙チ80)

この間,原告は,防衛大の1学年であった平成25年4月1日から平成2
6年3月31日まで,第I大隊J中隊K小隊(以下IJK小隊という。)
に所属して,
そのうち平成25年4月1日から同年8月24日までは第I号
学生舎a号室(以下a号室という。,同月25日から同年12月27日)
までは第I号学生舎b号室(以下b号室という。
)で生活し(甲A1,1
1,甲C1)
,同2学年であった平成26年4月1日から平成27年3月3
0日まで,第L大隊M中隊N小隊(以下,第L大隊M中隊のことをLM中隊,第L大隊M中隊N小隊のことをLMN小隊という。
)に所属して,

そのうち平成26年4月1日から同年5月27日まで,第L号学生舎c号室(以下c号室という。
)で生活していた(甲A11)


被告A
被告Aは,平成22年4月1日に防衛大に入校し,4学年であった平成25年4月1日から平成26年3月まで,第I大隊J中隊O小隊(以下IJO小隊という。に所属し,

そのうち平成25年4月1日から同年8月24
日まで,a号室で,副室長として,原告と共に生活していた(争いなし,年月日につき甲A11,所属について乙チ120)


被告B
被告Bは,平成23年4月1日に防衛大に入校し,3学年であった平成2
5年4月1日から平成26年3月31日まで,IJO小隊に所属し,そのうち平成25年8月25日から同年12月27日までは,
b号室で原告と共に
生活していた(争いなし,所属について乙チ120)
。また,被告Bは,同年
10月当時,原告の所属していたボクシング部の主将であった(甲C1)。

被告C
被告Cは,平成23年4月1日に防衛大に入校し,4学年であった平成26年4月1日から平成27年3月31日まで,
LM中隊の原告とは別の小隊
に所属し,
第L号学生舎d号室
(以下
d号室
という。で生活していた

(争
いなし,
年月日につき甲A11)被告Cは,

平成26年4月から中隊学生長
を務めていたが,同年5月12日付けで解任された(乙チ31)



被告D
被告Dは,平成25年4月1日に防衛大に入校し,2学年であった平成26年4月1日から平成27年3月31日まで,LMN小隊に所属し,そのうち平成26年4月から同年5月頃まで,d号室で生活していた(被告Dの入校年月日,学年,所属及び役職につき争いなし,その余は甲A11)。被告D
は,同年4月からLMN小隊先任学生長付を務めていたが,同年5月12日
付けで解任された(乙チ41)


被告E
被告Eは,平成24年4月1日に防衛大に入校し,2学年であった平成26年4月1日から平成27年3月31日まで,LM中隊の原告とは別の小隊に所属し,そのうち平成26年4月から同年5月頃まで,d号室で生活して
いた(被告Eの学年及び所属につき争いなし,その余は甲A11)。

被告H
被告Hは,平成24年4月1日に防衛大に入校し,3学年であった平成26年4月1日から平成27年3月31日まで,LM中隊の原告とは別の小隊に所属していた(争いなし)



被告F
被告Fは,平成25年4月1日に防衛大に入校し,2学年であった平成26年4月1日から平成27年3月31日まで,LMN小隊に所属し,c号室で原告と共に生活していた(争いなし)



被告G
被告Gは,平成24年4月1日に防衛大に入校し,2学年であった平成26年4月1日から平成27年3月31日まで,LM中隊の原告とは別の小隊に所属していた(争いなし)



防衛大における学生間指導の在り方等

防衛大の設置目的,学生の身分等
防衛大は,防衛省設置法に基づいて防衛省に設置された,幹部自衛官となるべき者の教育訓練等をつかさどる機関であり
(乙チ56,
116)原告及

び被告らが在校時に属していた本科においては,幹部自衛官となるべき者の教育訓練が行われる(乙チ57,116)

防衛大の学生
(以下
防衛大生
という。は,
)特別職の国家公務員であり,
毎月,学生手当が支給されるほか,食事,被服等が貸与又は支給される(乙
チ59,61,116)


学生隊の編成
防衛大では,学生の融和団結等を図り,学生に部隊指揮等の基礎的能力を修得させるために,学生自ら規律と服従を身につけ,リーダーシップ及びフォロアーシップを育成することを目的として,4個大隊の学生隊が編成され
る(1個大隊は4個の中隊,1個中隊は3個の小隊から構成される(乙チ55,65,116))
。。
学生隊,各大隊,各中隊,各小隊等にそれぞれ配置される学生隊学生長,大隊学生長,中隊学生長及び小隊学生長が,総括首席指導教官,首席指導教官(大隊指導教官)
,次席指導教官(中隊指導教官)及び指導教官(小隊指導

教官)の指導監督の下に,所属隊の指揮等の任務を行い,同様に,各大隊,各中隊,各小隊に配置される週番学生が,自習時間中に自習室の見回りをするなどの日課週課の遂行,学生隊の規律の維持等に当たる(乙チ60)。

学生舎生活
防衛大生は,敷地内にある学生舎内において,各学年が各数名ずつ,同一
の自習室及び寝室で起居を共にし,各室の4学年が室長及び副室長を務めることとされている(甲A11,乙チ60,弁論の全趣旨)


学生間指導
防衛大においては,幹部自衛官としてのリーダーシップ及びフォロアー
シップを涵養するため,主に中隊及び学生舎における室等を単位として,学生間で,規律を遵守させるように学生間指導が行われている(乙チ47添付資料2)

防衛大生が行う作業指揮や規律の指導は,自主自律の精神の下,自己修練の一環として行うものであり,強制を伴うものではなく,強い遵法精神に則り,法令,規則,確立した学生慣習に厳格に従うものであって,暴力的指導や下級生に対する不当な強制をもってする指導は厳に慎まなけれ
ばならないとされている(平成22年4月8日付けの

学生間指導のガイドラインについて(通知)(乙チ47添付資料2)。そこでの,学生間指


導における各学年の役割について,4学年は,学生舎生活の最上級指導層であり,
学年が一致して学生隊組織及び校友会活動を通じて積極的に下級
生の指導を行わなければならず,その際は,各学年の特性に応じて2,3
学年による間接指導を主用し,各学年の指導力向上に配慮するとともに,必要に応じ,直接指導を行うものとされている。3学年は,学生隊や各室の運営に関し,
4学年の補佐を通じて次期最高学年として相応しい拡張性
のある指導力の習得に努めるものとされ,2学年は,1学年に対する直接的な指導を行う立場とされている。1学年は,最下級生として,大半の場
合指導を受ける立場となるが,単に受動的に強制されるのではなく,進んで防衛大における規律や清掃等の作業の意味を理解するよう努めるべきであるとされている。
(乙チ47添付資料2・2から3頁)
防衛大内では,学生間指導の一環として,従前から,中隊及び小隊の各学生長等の上級生が同室の1学年に対し,常日頃,部屋の整理整頓やベッ
ドメイキングの方法等を指導する一方で,従来から,学生のベッド,ロッカー,机の上の物などの整理整頓ができていない場合には,あえて,これらを散らかして荒らす,「飛ばし」あるいは台風と呼ばれる行為(以下飛ばし行為という。
)が行われていた(甲A1,D1)



原告1学年時における被告A及び被告Bの原告への対応

被告Aの行為
被告Aは,平成25年4月から同年8月頃まで,被告Aほか1名の4学年,2名の3学年及び原告ほか5名の1学年が共に生活するa号室で,副室長を務める中(甲B2,3,5)
,下級生に対し,掃除ができていないな
どの落ち度について粗相ポイントと称する点数を付け,一定程度点数が累積すると,当該下級生に対し,何らかの罰ゲームをするように指示す
るという粗相ポイント制度を行っており,原告に対しては,同年4月頃から同年6月頃までの間に,罰ゲームとして,カップ麺を硬いまま食べさせたり,風俗店に行くことを指示したことがあった(以下,これらの指示を被告A罰ゲーム指示行為という。(争いなし)


被告Aは,平成25年6月14日,a号室の自習室において,粗相ポイ
ントを解消する罰ゲームとして,原告の陰毛に消毒用アルコールを吹きかけ,ライターで着火した(以下被告A陰毛着火行為という。(争いな)
し。ただし,これにより原告がやけどを負ったかどうかについては争いがある。。
)被告Aは,
平成27年3月11日,
被告A陰毛着火行為について,
暴行罪で起訴され,罰金20万円の略式命令を受け,同命令は同月26日
に確定した(起訴の年月日及び罪名につき甲B1,その余は争いなし)。
被告Aは,
平成25年9月17日,
週番学生として見回りをしていた際,
自習時間中に携帯電話を操作していた原告を見とがめ,反省文を作成するように指示し,同年10月8日までの間,複数回やり直しを指示してこれを提出させた(以下被告A反省文提出指示行為という。(争いなし。)

ただし,反省文を書かせた回数,内容等の態様には争いがある。。)

被告Bの行為
平成25年8月25日から同年12月27日まで,b号室では,2名の4学年,被告Bほか1名の3学年,2名の2学年及び原告ほか1名の1学
年が共に生活していた
(甲A11,
甲C4)被告Bは,

同年10月上旬頃,
b号室において,起床の際,原告が被告Bら同室の上級生を起こさなかったことを理由として,左手拳で,原告の右頬を一回殴った(以下被告B暴行行為という。(争いなし。ただし,これにより原告が傷害を負った)
かどうかについては争いがある。。被告Bは,平成27年3月11日,被)
告B暴行行為について,暴行罪で起訴され,罰金10万円の略式命令を受け,
同命令は同月26日に確定した
(起訴の年月日及び罪名につき甲C2,

その余は争いなし)

被告Bは,原告と同室であった間(平成25年8月25日から同年12月27日まで)
,b号室で,原告の陰部に掃除機を当てて吸引する行為を
複数回行った
(以下
被告B陰部吸引行為
という。

(争いなし。
ただし,
その回数については争いがある。。




原告2学年時における学生の対応等①(被告C,被告D,被告E,被告H)原告の処分
原告は,平成26年5月3日から6日まで,特別外出の許可内容と異なる行動をとったことから,同月23日,学生としての服務規律に違反したとして,大隊指導教官注意の処分を受けた(以下本件服務事故という。)(乙

チ15,33)。

被告Cの行為
被告Cは,平成26年5月6日,原告に対し,LM中隊の週番室において,顔面を右手の平で殴打し,その後,d号室の自習室において,腹部を
右手拳で殴打し,同月7日,同室において,胸部を右手の平で押し,左足首を蹴る暴行を加えた(以下,上記記載の暴行を被告C自認暴行行為という。(争いなし。ただし,被告C自認暴行行為以外の暴行の有無につ)
いては争いがある。。被告Cは,平成27年3月11日,被告C自認暴行)
行為について,暴行罪で起訴され,罰金10万円の略式命令を受け,同命
令は同月26日に確定した(起訴の年月日及び罪名につき甲D2,その余は争いなし)

被告Cは,平成26年5月6日頃,飛ばし行為として,原告の机やタンスを荒らす行為を複数回行った(以下被告C飛ばし行為という。(争)
いなし。ただし,その程度,継続期間及び回数には争いがある。。)

被告D及び被告Eの行為
被告D及び被告Eは,平成26年5月8日,LM中隊集会室及びd号室に
おいて,原告に対し,被告Dにおいて,原告の胸部を2回手拳でたたき,被告Eにおいて,原告の胸倉をつかみ,胸についている名札を剥ぎとろうとする暴行を行った(以下,これらの際の暴行を被告Dら暴行行為という。)
(争いなし。ただし,上記記載以外の暴行の有無については争いがある。。)

被告Hの行為
被告Hは,平成26年5月23日,原告をc号室の寝室に呼び出し,原告が,同月21日頃に,2学年のLINEグループに,大隊指導教官から注意処分を受けることを,
表彰される
という言葉で表現したメッセージ
(以下
本件メッセージ
という。を送信したことなどについて,

原告に注意し,
その際,付近にあったロッカーに手を掛け,それによってガンガンという音
が発生した(以下,上記呼び出して注意した行為を被告H呼出し等行為という。(争いなし。ただし,被告Hがロッカーを拳でたたいたのか,揺す)
ったのかについては争いがある。。


原告の療養経過等
原告は,平成26年5月13日頃より体調を崩し,発熱,下痢,胃痛等の症状が続き,同月27日には,防衛大を出て,同月30日,福岡の実家に帰省した。そして,原告は,同年6月3日には,P病院において,引き続き2週間の療養を要するとされる抑鬱状態と,同月5日には,福岡県飯塚市内の病院において,
同年7月4日まで自宅療養及び通院加療を要する抑鬱反応兼自律神経失
調症と,同年6月20日には,同年7月5日から1か月間の静養加療を要するストレス反応とそれぞれ診断された(甲H6,7,9)



原告2学年時における学生の対応等②(被告F,被告G)ア
被告Fの行為
被告Fは,平成26年6月30日,c号室の自習室のホワイトボードに立てかけてある,
原告の写真の枠を黒いビニールテープで囲んだもの
(以下
本件工作物
という。に,

夏期休暇へ移行。)自ら報告書今日中に出せじゃろ


との吹出しを付けて,写真(以下本件写真という。
)を撮影し,LM中隊
の2学年全員がメンバーとなっているLINEグループ(以下本件グループという。)に送信した(以下,吹出しを付けて本件写真を送信した行為を
被告F写真送信等行為という。(争いなし。。



被告Gの行為
被告Gは,平成26年6月30日,被告F写真送信等行為がされ,本件グループ内で本件写真を見ることができる状態となっているのを知り,本件グループから自主的に退会しない者を強制的に退会させ,メンバーが原告と被告Gのみとなった状況で,本件グループに,短時間の内に,嘔吐,藁人形,怒り等の絵柄のスタンプを724個程度送信した(以下被告Gスタンプ送信行為という。(争いなし。。)

2争点



国家賠償法による被告Hの免責の可否



原告の損害(慰謝料額)



被告らによる不法行為の成否

被告Bの弁済供託による債務消滅の可否

3争点に対する当事者の主張


被告らによる不法行為の成否

被告Aについて
【原告の主張】
被告A罰ゲーム指示行為について
被告Aは,原告に対し,粗相ポイントの解消のための罰ゲームとして,風俗店に行き,性行為の写真を撮影することや,カップ麺にわさびを混ぜてお湯を入れず硬いまま食べることを強要した。
これらの行為は,
悪ふざけで済まされるものではなく,
強要行為であり,
原告の人格権を侵害する行為である。
被告A陰毛着火行為について
被告Aは,平成25年6月14日,被告A陰毛着火行為を行い,原告の陰部にやけどを負わせた上,かみそりで陰毛を剃らせた。原告は,陰部に火が付いた状態で,部屋の中を這いずり回ったのであり,やけどした箇所
は出血し,回復するのに1か月を要した。
被告A反省文提出指示行為について
被告Aは,
平成25年9月17日から同年10月8日まで,
原告に対し,
A4の用紙で3枚程度の反省文をボールペンで書くことを強要し,原告が書き誤ると訂正を許さず,30回程度書き直して提出させた。被告Aは,
上記期間のうち,
同月3日から同月8日までは原告の進級がかかる試験期
間と重なるにもかかわらず,反省文の作成を夜に指示して翌朝に提出させ,さらに,朝に指示して昼に提出させ,就寝前にも提出させるなどしたのであり,
原告の睡眠,
食事,休息,勉強の時間を奪った。さらに,被告Aは,
同日,原告に対し,同月10日までに学生必携の基本鍛錬の部分を一字一
句間違わないように暗記することも強要した。
被告Aは,
被告A反省文提出指示行為は学生間指導の一環であると主張
するが,そもそも4年生による1年生の直接指導は許されていないし,上級生が下級生に反省文の作成を命じる権限はない。また,原告の携帯電話の使用は,一度目は自習時間中であったが,二度目以降は休み時間中であ
って問題はなかったのであるから,被告Aの行為は指導の範ちゅうを超えたものであり,違法性を有し,不法行為を構成する。
【被告Aの主張】
被告A罰ゲーム指示行為について
被告Aは,
原告に対し,
カップ麺を硬いまま食べさせたことはあったが,
わさびは混ぜていない。
粗相ポイント制度は,体罰等を避けつつ指導を一種のふざけに変えるも
のであって,原告を狙い撃ちにしたものでもないから,被告A罰ゲーム指示行為は,学生間の悪ふざけの範ちゅうを超えるものではなく,不法行為を構成するほどの違法性はない。
被告A陰毛着火行為について
被告A陰毛着火行為の後,火はすぐに消えており,原告がやけどを負っ
たことはなかった。仮に原告がやけどを負ったとしても,軽度のものである。
被告A反省文提出指示行為について
被告Aは,原告に対し,自習時間中に携帯電話でゲームをしていたことを一度注意したが,それでも原告がゲームをするので,指導として,被告
A反省文提出指示行為を行ったものである。反省文は,A4用紙1枚であり,被告Aは,原告が持参した反省文の字が乱雑で誤字脱字も多かったため,また,原告が指示した提出時期に提出せず,提出時期を先延ばしにしていたため,何度かやり直しを指示したが,朝,昼,夜と矢継ぎ早に提出を指示していたのではない。原告に手書きで反省文を書かせたのは,書き
ながら自身の行為とその改善点を反省してもらいたいとの考えからであり,嫌がらせではない。
このように,被告A反省文提出指示行為は,上級生による指導の一環である上,これにより原告が何らかの健康上,就学上の損害を受けた事実がないことからすれば,不法行為を構成するほどの違法性はない。


被告Bについて
【原告の主張】
被告B暴行行為について
平成25年10月11日,被告Bは,被告B暴行行為を行い,原告に,口の中が切れ,唇が腫れる傷害を負わせた。
被告B陰部吸引行為について

被告Bは,
被告B暴行行為の後である平成25年10月中旬から同年1
2月末までの約2か月にわたり,他の学生の前で,週に一,二回,合計8回から16回の被告B陰部吸引行為を行った。
【被告Bの主張】
被告B暴行行為について

被告Bが被告B暴行行為を行った際,原告の口の中が切れるなど負傷した事実は不知。
被告B陰部吸引行為について
被告B陰部吸引行為は3回のみである。

被告Cについて
【原告の主張】
被告Cの暴行行為について
被告Cは,平成26年5月6日から同月7日まで,原告に対し,被告C自認暴行行為を行ったほか,同日深夜から同月8日午前中にかけて,ぼこ
ぼこに殴る,
みぞおちを不意打ちで蹴る,
同日昼休みには,
胸倉をつかみ,
壁に押し付け,2往復のビンタをする,同月9日には,喉を鷲づかみにしてエビ反りのような体勢で何度も机に後頭部をたたきつける,殴る蹴るなどの暴行を加えた(以下,被告C自認暴行行為を含め,上記一連の暴行を被告C暴行行為という。。


被告C飛ばし行為について
被告C飛ばし行為は,平成26年5月6日から同月9日まで,毎日二,三回,4日間で10回以上にわたり,原告の机やタンスを荒らし続けるものであった。
これは,被告Cが,原告から,制服のプレス等の時間を奪う目的で意図的に行った行為であり,その結果,原告はプレスができなかったために,更に叱責の対象とされ,
多大な精神的負担を受け,
行動の自由も制限され,

人格権を侵害された。
被告Cの強要行為について
被告Cは,原告に対し,平成26年5月7日深夜から同月8日午前中にかけて,反省文の作成を,同日午前中には,髪を坊主頭にすることを強要し,原告の外出を禁止し,厚さ2.5cmの学生必携を書き写すことも強
要した(以下被告C強要行為という。。

【被告Cの主張】
被告C暴行行為について
被告Cは,被告C自認暴行行為以外には,暴行を行っていない。
被告C飛ばし行為について

被告C飛ばし行為は,指導の目的で行ったのであり,原告をいじめ,心理的苦痛を与える意図で行ったものではない。
被告C強要行為については,記憶にない。

被告D及び被告Eについて
【原告の主張】
被告D及び被告Eは,平成26年5月8日,LM中隊集会室において,原
告に対し,被告Dにおいて,少なくとも,原告の胸を左手で3回突き,みぞおち付近も突き,被告Eにおいて,原告の胸倉を掴み,壁に少なくとも2回押し付け,後頭部を壁に打ちつけるなど,共同して胸部や腹部を殴打する暴行を加え,その後,d号室において,被告Dは原告を羽交い絞めにし,被告Eは,原告の胸に付いている2学年の名札を剥ぎとろうとし(被告Dら暴行行為)
,原告はこれらの行為により打撲傷を負った。さらに,被告D及び被告Eは,原告をd号室に呼び出した際に,下級生が上級生の部屋に入るときに行う入室要領(2回ノックをして,当該部屋の長に対して敬礼し,名前,用件を名乗り,許可を求めるといった手続)を執拗に行わせた上,本件服務事故について反省を示すため,床掃除,靴墨落としなどを行うように強要した(以下被告Dら強要行為という。。

【被告D及び被告Eの主張】
被告Dら暴行行為について
被告Dは,原告が,本件服務事故について説明した際,反省をせず,開き直るような態度をとったため,腹を立て,原告の胸部付近を軽く2回,
掌底と手拳でたたいたが,原告の腹部を殴打したことはなく,被告Eは,原告が反省の色を一切見せないことから,原告の胸倉をつかんだだけである。被告Eが,原告の胸に付いている名札を剥ぎとろうとしたのは,反省を示さない原告に対しいらだちを感じたためであり,少なくとも,いじめとして行ったものではない。被告Dが原告を羽交い絞めにしたことはない。
原告は,被告D及び被告Eの行為により打撲傷を負ったことはない。被告Dら強要行為について
被告Dら強要行為はない。

被告Hについて
【原告の主張】
被告Hは,平成25年5月23日,被告H呼出し等行為の際,次第に興奮
し,感情的になって,鋼製ロッカーを右手拳で何度もガンガンとたたきながら,原告に対し,
舐めやがって指導官が(指導を)やめろと言っても,,俺らには(学生間のルールがあるから)関係ない5月で指導が終わると,思うなよなどと恫喝した。被告Hは,指導の名の下に,学生間指導で禁止されている威圧,精神的圧迫を行ったものであり,指導として許容される範囲を逸脱した違法な行為である。
【被告Hの主張】
被告H呼出し等行為は,恫喝ではなく,適切かつ正当な指導である。すなわち,被告Hは本件メッセージ等について知り,本件服務事故について反省を示さないような態度をしている原告に指導する必要があると考え,原告を呼び出し,事前に立てていた指導計画に則り,原告に対し,なぜ本件メッセージを流したのか尋ね,
返答をしない原告に対して,

自分の失敗で迷惑を掛けて事故を起こしたのに,どうしてこういう態度がとれるのか。,

こういう態度をとっていると,同期の信頼を失ってしまう。このままでは同期から見放されてしまうぞ。

と述べたのである。被告Hは,この間,原告が何も返答しないことから,話を聞いているのか,分かっているのかという趣旨で,貧乏揺すりのような感じで,ロッカーに拳を何度か当てたが,ロッカーが鋼製であったことから,音がしたにすぎない。被告Hは,原告がなおも無言でう
つむいていたので,
態度が改まったか今後も見ていくから
と言って部屋を
出た。
被告H呼出し等行為は,原告を威迫するものではなく,原告に対する指導の範囲を超えるものではないから,違法性はない。

被告Fについて
【原告の主張】
被告Fは,原告が心身の健康を害して帰郷したことを知りながら,原告に無断で原告の写真を改ざんし,
原告を茶化すメッセージを加えた上で本件写
真を送信したのであり(被告F写真送信等行為)
,原告の人格権を侵害する
故意の加害行為である。

【被告Fの主張】
被告Fは,原告ではない同学年の学生個人に対し,報告書の提出を依頼しようと考え,本件写真に

夏期休暇へ移行。報告書今日中に出せじゃろ

との吹出しを加え,
当該学生個人に送信するつもりで本件写真を送信したので
あって,原告やその他の学生に送信するつもりはなかった。したがって,被告F写真送信等行為は故意に基づくものではないし,
本件写真を見ることに
なったのは本件グループの学生に限られ,
不特定の者の目に触れる状態にな

ったわけではないから,仮に原告に精神的苦痛が生じたとしても,不法行為を構成するほどの違法性はない。

被告Gについて
【原告の主張】
被告Gは,原告が心身の健康を害して帰郷したことを知りながら,嘔吐や
藁人形,
応用化学0点の趣旨と読めるおえかの文字に続けて


0点のスタンプなど,原告に不快感を与える大量のスタンプを送ったのであり,被告Gスタンプ送信行為は,悪質な故意の加害行為である。【被告Gの主張】
被告Gは,原告をいじめる目的で被告Gスタンプ送信行為を行ったのでは
ない。
すなわち,
被告Gは,
本件写真が原告の目に触れるのはまずいと考え,
自分と原告以外の者を本件グループから退会させた。そして,被告Gは,原告が自発的に退会した場合はグループトークの履歴が削除され,本件写真を見ることはできなくなる
(原告を強制的に退会させた場合,
履歴が残る。と

考え,
原告を自発的に退会させようとして,
スタンプを送信したものである。

被告Gは,原告とほとんど接点はなく,原告がなぜ休暇に入ったかなど,さほど意識もしていなかったのであって,被告Gスタンプ送信行為は,いじめの目的で行ったのではない。
仮に原告に精神的苦痛が生じたとしても,不法行為を構成するほどの違法性はない。



国家賠償法による被告Hの免責の可否
【被告Hの主張】
被告H呼出し等行為が仮に不法行為に当たるとしても,少なくとも外形的には上級生の下級生に対する指導として行われたものであり,職務行為に付随するものであるから,国に国家賠償法(以下国賠法という。
)1条1項による
責任が成立する反面,公務員である被告H個人の責任は免責される。【原告の主張】
被告Hは,以下のとおり,公務員であることをもって,不法行為責任を免れるものではない。

客観的に職務執行の外形を備える行為について公務員の個人の責任が免責されるといわれる根拠は,
不法行為を行った公務員に代わって国が代位責

任を負い,損害を填補することにある。しかし,本件について,原告は,国に対して国賠法1条1項に基づく請求をしていないから,
被告Hに対して請
求する精神的損害が国に対する請求により填補されるという関係にはない。したがって,本件には,上記の根拠は妥当せず,被告Hは不法行為責任を免れない。


仮にアの主張が認められないとしても,学生間指導は,自衛隊において服従を求められる上官の職務上の命令とは異なり,
教育課程の中途にいる学生
の教育方法の一つに過ぎないから,防衛大生の職務の内容ではなく,被告Hは不法行為責任を免れない。


また,仮に学生間指導が被告らの職務に当たるとしても,被告Hによる不法行為は,指導を装ってなされた故意の加害行為であるから,被告Hの不法行為責任は否定されない。



原告の損害(慰謝料額)

被告Aについて
【原告の主張】
原告は,被告A陰毛着火行為により,やけどを負い,身体の完全性という重大な法益を侵害されたのみならず,被告A罰ゲーム指示行為及び被告A反省文提出指示行為により,人格権を侵害され,多大な精神的苦痛を被った。これを慰謝するには,400万円が相当である。
【被告Aの主張】
被告A陰毛着火行為により原告がやけどを負ったわけではなく,そのほか
の被告Aの行為は不法行為を構成しないから,慰謝料400万円との原告の請求は余りにも過大である。

被告Bについて
【原告の主張】
原告は,被告B暴行行為により,身体の完全性という重大な法益を侵害さ
れ,被告B陰部吸引行為により,多大な屈辱感による精神的苦痛を被った。これを慰謝するには,300万円が相当である。
【被告Bの主張】
仮に被告B暴行行為により,原告の口の中が切れ,唇が腫れるといった結果が生じたにせよ,
被告B暴行行為及び被告B陰部吸引行為に対する慰謝料

が300万円というのは不相当に高額である。

被告Cについて
【原告の主張】
原告は,被告C暴行行為,被告C飛ばし行為及び被告C強要行為により,
多大な精神的損害を被った。
これを慰謝するには,
200万円が相当である。
【被告Cの主張】
被告C自認暴行行為及び被告C飛ばし行為により,仮に原告が精神的損害を被ったことがあったとしても,200万円の慰謝料は余りにも高額である。損害額については,被告Cが,指導の目的でこれらの行為を行ったものであ
り,原告に対し,誠心誠意を尽くした謝罪をし,罰金10万円の刑事処分を受けたほか,防衛大内で停学7日の処分を受け,卒業が1年間遅れるなどの社会的制裁を受けたことなど,行為の程度や目的,その他の諸事情を十分考慮した上で,相当な範囲において算定されるべきである。

被告D及び被告Eについて
【原告の主張】
原告は,多数の学生の面前で,被告Dら暴行行為により,打撲傷を負って
身体の完全性を侵害され,被告Dら強要行為と併せて,遺書を書き,自殺を考えるほどの多大な精神的苦痛を被った。これを慰謝するには,200万円が相当である。
【被告D及び被告Eの主張】
原告の主張は,否認ないし争う。


被告Hについて
【原告の主張】
原告は,被告Hが,被告H呼出し等行為の際,ロッカーを拳でガンガンとたたいて暴言を吐き,
5月で指導が終わると思うなよと述べたことによ
り,このような対応がさらに1か月も続くことに耐えられず,平成26年5
月26日を最後に授業に出席できなくなり,
休学に追い込まれるほどの精神
的苦痛を被った。これを慰謝するには,100万円が相当である。【被告Hの主張】
原告の主張は,否認ないし争う。

被告Fについて
【原告の主張】
原告は,被告F写真送信等行為により,多くの学生が参加する本件グループのトーク画面上で直ちに本件写真を見ることになって,心身の健康を害するほどの多大な精神的苦痛を受けた。これを慰謝するには,100万円が相
当である。
【被告Fの主張】
原告の主張は,否認ないし争う。100万円の慰謝料は過大である。キ
被告Gについて
【原告の主張】
原告は,被告Gスタンプ送信行為により,心身の健康を害するほどの精神的苦痛を受けた。これを慰謝するには,100万円が相当である。
【被告Gの主張】
原告の主張は,否認ないし争う。100万円の慰謝料は過大である。⑷

被告Bの弁済供託による債務消滅の可否
【被告Bの主張】
被告Bは,平成27年3月3日,被告Bの当時の代理人弁護士を通じて,原
告の当時の代理人弁護士に対し,被告B暴行行為に係る損害賠償金として,20万円及び遅延損害金の合計21万3863円を弁済のため現実に提供したが,受領を拒否されたため,同月4日,横浜地方法務局において,原告を被供託者として供託した。したがって,被告Bの損害賠償債務は当該金額の範囲で消滅している。
【原告の主張】

原告が,被告Bの当時の代理人弁護士が現実の提供を行った相手であるQ弁護士に依頼したのは刑事告訴のみであり,民事の損害賠償に関する示談交渉や金銭の受領等の委任はしていない。
原告本人は,
平成27年3月3日に,
Q弁護士の事務所で弁済の提供がなされたことを知らず,了承していない。

また,
弁済の提供は,
債務の本旨に従ってなされなければならないところ,
被告Bは,
300万円の債務のうち20万円及び遅延損害金しか提供してお
らず,債務の本旨に従った提供ではない。さらに,被告Bは,不法行為による損害賠償債務の履行地である原告の住所地(福岡)で弁済の提供をしてい
ないため,債務の本旨に従った提供をしたことにはならない。
第3争点に対する判断
1争点⑴(被告らによる不法行為の成否)について⑴

被告Aの行為について

被告A罰ゲーム指示行為について
証拠(甲B2,3,乙チ1,3,被告A本人,原告本人)によれば,以
下の事実を認めることができる。
被告Aは,平成25年当時,a号室の1学年6名に対する生活指導の手法として,粗相ポイント制度の実施を提案し,これを実施していた。その実態は,被告Aが,1学年に対して,気分次第でポイントを加算した上,カップ麺を硬いまま食べさせる,風俗店に行かせるなどの内容の罰ゲーム
を指示し,これを受けた1学年が,これを学生間指導の一環として従うべきものと理解しつつも,抵抗感を抱きながら指示に従う様子を見て興じるというものであった。原告も,被告Aから,罰ゲームとして,わさびを混ぜられたカップ麺を硬いまま食べるよう指示され,腹踏みを受けたことがあった。

前記

認定事実によれば,被告A罰ゲーム指示行為は,学生間指導の

一方法として被告Aにより提案され,
恣意的に運用されていた粗相ポイン
ト制度の一環として行われ,その指示内容は,陰毛着火,腹踏み,風俗店行き,
カップ麺にわさびを入れて硬いまま食べさせることなど,
非常識で,
危険な内容を含むものもあり,いずれも,指導対象となる違反行為等の内容とは関わりがなく,何らかの教育効果を上げ得るものでもない。さらには,被告Aが,自身の意のままに,屈辱感や羞恥心を抱きながらも罰ゲームを行う1学年の様子を見て興じるなどの側面も見られるのであって,結局は,1学年に肉体的,精神的苦痛を与えるに過ぎないものというほかない。

したがって,被告A罰ゲーム指示行為は,およそ指導といい得るものではなく,原告を特定の対象としたいじめ行為とはいえないものの,故意に原告の身体を傷害し,精神的苦痛を与えたものとして違法性を有し,不法行為に当たるということができる。
被告Aは,原告に食べさせたカップ麺にわさびは入れていない旨,粗相ポイント制度は,1学年の生活指導を目的として指導をふざけに変えたものであって,被告A罰ゲーム指示行為は,学生間の悪ふざけの範ちゅうを
超えるものではなく,違法性を有しない旨主張し,これらに沿う供述をする。
しかしながら,原告のみならず,当時c号室で生活していた他の1学年2名も,
カップ麺にわさびを混ぜて硬いまま食べさせられた旨供述してお
り(甲B2,3)
,被告Aにおいて,原告に対してのみ,わさびを抜く対応

をしていたものとは認め難いから,上記供述と一致する原告の供述は採用することができ,これに反する被告Aの供述は採用することができない。また,他の学生舎の部屋でも行われていた(被告A本人)ともいう,粗相ポイント制度自体の是非は措くとしても,被告A罰ゲーム指示行為は,被告Aの気分に任せ,恣意的に,極めて不合理な内容を指示するものであ
ることからすれば,およそ指導の体をなしているとはいえず,また,常識を逸脱した指示行為は,上級生による悪ふざけという範囲に収まらない違法なものである。これを違法でないとする被告Aの前記主張は,学生間指導の意味をおよそわきまえないものであるのみならず,社会常識や他者の心情に思いを致さない,極めて一面的で,幼稚な発想によるもので,採用
することはできない。

被告A陰毛着火行為について
証拠(甲A1,B2,3,4,乙チ1,3,原告本人,被告A本人)によれば,以下の事実を認めることができる。

被告Aは,平成25年6月14日,原告に対し,粗相ポイント制度に基づく罰ゲームの一環として,風俗店に行くことを指示したが,これに抵抗感を抱いた原告から,別の罰ゲームとされていた,陰毛を剃ることを提示され,陰毛を燃やした上で陰毛を剃ることで粗相ポイントを減らす(以下本件罰ゲームという。
)よう指示した。
被告Aは,原告が,本件罰ゲームを選ばざるを得なくなり,a号室の自習室において自ら下半身裸となる中で,同室の1学年に対し,本件罰ゲームの様子を動画撮影することと,ドア付近で見張りに立つことを指示した上,原告の陰部に消毒用アルコールを10プッシュ程度吹きかけ,その陰毛に着火した。炎は,程なく消されたものの,原告は,これによりやけどを負い,
さらに,
被告Aの前記指示に従い,
陰毛を剃ったところ,
陰部は,

やけどに加え,剃刀によって血が出た状態となり,治るまでに時間を要した。
前記

認定事実によれば,被告A陰毛着火行為は,極めて危険な態様

であり,その結果,傷害を生じさせたものである上,同室の学生の前で,しかも,動画を撮影する指示をした上で行わせるなど,原告にとって屈辱的な内容であって,およそ指導として正当化されるものではない。被告A陰毛着火行為は,故意に原告の身体を傷害し,精神的苦痛を与えたものとして違法性を有し,不法行為に当たるということができる。
被告Aは,被告A陰毛着火行為により原告はやけどをしていないし,陰毛を剃るようには指示していない旨主張し,これに沿う供述をする。
しかしながら,被告A自身,検察官面前調書において,炎が原告の陰部を覆うくらいの大きさになり,
その後,
原告が
あちー
と言ったことや,
原告に怪我をさせてしまったことは間違いない旨(甲B5)
,他の1学年
も原告からやけどを負ったと聞いた旨(甲B3)それぞれ供述していることからすれば,原告はやけどを負ったと認められ,これに反する被告Aの
供述は採用することができない。また,被告A陰毛着火行為後に陰毛を剃るという行為は,原告が自ら進んで行うようなものではないし,被告A自身,当初,原告が陰毛を剃ると申し出たのに対し,これでは粗相ポイントが余り減らないとして,陰毛着火を提案した旨述べることからすれば(甲B5)
,被告Aは,陰毛を剃ることと陰毛に着火することとを併せて指示したと認められ,
このような経緯を踏まえて被告A陰毛着火行為後に陰毛
を剃った旨の原告の供述は自然であり,信用できるから,これに反する被
告Aの供述は採用することができない。
したがって,被告Aの前記主張はいずれも採用することができない。原告は,原告の陰部に炎が上がり,火がついた状態で部屋の中を這いずり回ったりしたなどと主張し,これに沿う供述をする。
しかしながら,原告の前記供述部分に関する裏付けはなく,かえって,
被告Aがはたいて火を消すなどしたとの被告Aの供述部分(甲B5)及びこれに沿う他の学生の供述部分(甲B2)があることからすれば,採用することはできない。
したがって,原告の前記主張は採用することができない。

被告A反省文提出指示行為等について
証拠(甲A1,B4,6,H88,乙チ16,17,原告本人,被告A本人)によれば,以下の事実を認めることができる。
被告Aは,平成25年9月半ば頃,自習時間中に,週番学生としてb号室の自習室の見回りをした際,原告が同時間中の使用が禁止された携帯電
話を操作しているのを発見し,一度注意したが,その後,再び操作しているのを発見したことから,同月17日及び同月18日の二度にわたり,原告に対し,
A4用紙2,
3枚程度にボールペンで反省文を書くよう指示し,
原告はこれに従って反省文を提出した。その後,被告Aは,原告が中休みに携帯電話を操作しているのを発見し,同月24日から同年10月8日ま
で,ほぼ連日,特に同月1日から同月8日までは,夜に指示して朝に提出させるなど,日に数回,反省文を作成,提出させては書き直しを命じた。また,同時期に,被告Aは,原告に対し,名札が汚いからという理由で何度も縫い直しを命じた。
その間,
原告は,
同月2日にはTOEICテスト,
同月3日から同月8日までは定期試験を受けながら被告Aの指示に対応し,睡眠時間が不足するような状態が続いた。同日頃,被告Aは,原告の母親より報告を受けたIJK小隊の指導教官R
(以下
R教官
という。

から,原告に対する反省文の作成指示は不適切な指導である旨注意され,原告に反省文を作成させることをやめた。
前記

認定事実によれば,被告A反省文提出指示行為は,自習時間中

に携帯電話を使用していた原告に対して,当時,学生隊の規律の維持を任務とする週番学生(前提事実⑵イ)であった被告Aが,その態度を改めるよう指導したことを契機とするものであり,指導する側が反省文を求め,指導を受ける側が任意にこれに応じて対応することは,自身の問題点を整理し,反省を深める上で一定の効果を有するから,被告Aが,原告に対して,反省文の作成を求めること自体は,指導の範囲内であるというべきで
ある。
しかしながら,上下関係の厳しい防衛大で上級生が下級生に行う学生間指導は,その性質上,ともすれば下級生において強制的なものとして受け止められやすいものであるから,上級生は下級生の置かれている状況や心情を慮り,適宜,その反応を見ながら,不必要に過度の肉体的,精神的負
担を掛けない範囲で指導を行うよう努めるべきところ,被告Aの述べるように,原告が,指導に対して言い訳をしたり,行動を改めず,同様の指摘を繰り返し受けるような態度をとっていたとしても,被告Aの執った指導の手段は,約2週間にわたり,原告の睡眠時間を大幅に奪う程度まで,執拗に反省文の作成や名札の縫い直しを指示したものであって,
上級生とし

て容易に認識することのできる原告の状況や心情に対する配慮を欠いた,行き過ぎたものであり,指導として不適切であることはもとより,違法性を有し,不法行為に当たるということができる。
被告Aは,被告A反省文提出指示行為は,原告に対する指導を目的としており,指導の内容も,A4用紙1枚程度の反省文の作成を求めたにとどまり,矢継ぎ早に提出を命じたものではなく,原告が提出時期を先延ばしにしていただけであって違法性を有しない旨主張し,これに沿う供述をする。
しかしながら,被告Aは,原告が,指導に対して言い訳から入り,素直に従わないことから,テスト期間中であっても指示をした旨述べているのであり
(被告A本人)その程度はともかく,

原告が反省文作成に時間を割

くことにより,
勉強時間や睡眠時間を削らざるを得ない状況になることを
認識していたものということができるのであって,原告と被告Aから反省文作成に係る事情を聴取したR教官が,その直後である平成25年10月9日に原告の母親と行った会話(甲H88)において,被告AがA4用紙2枚程度の反省文を日に数度書き直させ,原告が睡眠時間を大幅に削られ
たことを前提としていることと符合するのであるから,反省文指示の態様る。そして,反省文作成の時期,頻
度が原告に過度の肉体的,
精神的負担を与えるものであったことや,
後日,
R教官も不適切な指導であるとして被告Aを指導していることも踏まえれば,被告A反省文提出指示行為は,学生間指導として適切性,相当性を
欠き,違法性が認められる。
したがって,被告Aの前記主張は採用することができない。
原告は,被告A反省文提出指示行為と同時期に,被告Aから,訓練必携の暗記を命じられ,さらに,腕立て伏せをさせられた際に手を蹴られたなどとも主張し,原告もこれに沿う供述をするほか,原告の母親がR教官と
の会話(甲H88)において,原告が反省文の暗記と思われる行為を受けていることを話題にしたことは認められるものの,それ以上に裏付けのないものであって,
原告の上記供述は採用することができない。
したがって,
原告の前記主張は採用することができない。


被告Bの行為について

被告B暴行行為について
前記前提事実⑵イ及び証拠(甲A1,甲C1,3,4,H89,乙ロ2,チ22,115,120,原告本人,被告B本人)によれば,以下の事実を認めることができる。
被告Bは,平成25年10月10日夜,同室の原告及びもう1名の1学年に対し,翌朝の起床時間が通常の時間よりも早く設定されていることか
ら,同室の上級生が起床できなかった場合には起こすように指示した。同月11日朝,b号室では,原告ともう1名の1学年のみ起床時間に起床することができたが,上級生を起こすことはしなかった。これに対して,被告Bは,それまでに,原告に対して,室内の掃除や生活態度全般について問題があり,これを注意しても態度を改めないという思いを抱いていたこ
ともあって,原告及びもう1名の1学年に対し,なぜ先輩を起こさないのか,口で言っても分からないなら体で覚えてもらう,歯を食いしばれなどと述べ,手加減してではあるが,利き腕ではない左手の拳で原告の右頬の唇の右側部分を一回殴り,もう1名の1学年の右頬も同様に殴った。これにより,原告は,倒れることはなかったが,口内は切れ,唇は腫れた。
その後,被告Bは,原告の母親よりR教官を通じて被告B暴行行為について報告を受けた,IJO小隊の指導教官S(以下S教官という。)か
ら,
起こすように指示したことや手を出したことが不適切な指導である旨注意を受けた。
前記

認定事実のとおり,被告Bは,原告が被告Bの指示に従わなか

ったことを理由に被告B暴行行為に及んでいるところ,そもそも,被告Bの指示内容は,
学生舎生活における気遣いとして自発的に行われることは
あるとしても,S教官も不適切な指導であったと注意したとおり,指示に反したことを理由に直ちに指導することが適切であるような事項ではない上(それ以前に,被告Bが原告に対して指示に従わないという印象を抱いていたとしても,
暴力を正当化する理由とならないことはいうまでもな
い。,
)利き腕ではない手で手加減したとはいえボクシングの心得がある者
が殴打行為に及んでいるのであるから,
被告B暴行行為は,
危険なもので,
指導として正当化されるものではなく,
違法性を有し,
不法行為に当たる。
被告Bは,原告の口内が切れ,唇が腫れたことについて知らない旨主張し,これに沿う供述をする。
しかしながら,
被告Bはボクシング部の主将であること
(前提事実⑴ウ)


被告B自身,被告B暴行行為の際に原告のあごの骨の感触があった旨述べること(甲C4)からすれば,被告B暴行行為は原告に傷害を負わせるに足る力加減であったと認められ,さらに平成25年10月15日撮影の原告の写真には,原告の唇の右側付近が腫れた様子で映っていること(甲C3)も踏まえれば,被告B暴行行為により原告の口内が切れ,唇が腫れた
ことが認められ,被告Bの前記供述及び主張は採用することができない。イ
被告B陰部吸引行為について
証拠(甲A1,乙チ115,原告本人,被告B本人)によれば,被告Bが,従前からの原告の生活態度に不満を募らせ,悪ふざけの気持ちもあっ
て,
被告B暴行行為後の平成25年10月中旬から同年12月末までの間,b号室において,原告及びもう1名の1学年に対し,ズボンと下着を脱がせた上,
掃除機でそれぞれの陰部を吸引する行為を複数回行ったことを認
めることができる。
前記

認定事実によれば,被告B陰部吸引行為は,陰部を吸引すると

いうその態様からして,
およそ生活指導に関連する教育効果を有する行為
ではなく,被告Bは,上級生の立場を利用して,理由なく,原告に屈辱感や羞恥心を抱かせて興じていたものというほかはなく,違法性を有し,不法行為に当たるということができる。


被告Cの行為について

被告C暴行行為及び被告C飛ばし行為等について
後掲証拠によれば,以下の事実を認めることができる。
原告は,平成26年のゴールデンウィーク期間中,特別外出の許可を得たものの,改めて申請,許可等の手続を執ることなく,許可内容と異なる外出行動をとったことから,服務規律違反として,同年5月23日,大隊指導教官注意の処分を受けた(本件服務事故)(乙チ15,33)。
被告Cは,平成26年5月6日,原告が,同日の着校時間の間際に外出先から防衛大内に帰校したことを知り,同日午後6時30分頃,原告を第L学生舎中隊週番室に呼び出し,帰校が遅れた理由を尋ねたところ,原告が,期限までに申請するのを忘れて福岡まで帰省していたが,ばれなければ済むと思った旨述べたことから立腹し,当時,指導に当たっては,暴力
を用いることも許されるものと理解していたことから,また,言葉で伝えられていないというもどかしさもあって,原告の胸倉をつかみ,再三注意してきただろ,ふざけんな,などと怒鳴り,右手で原告の左頬を一回平手でたたき,その後10分程度,なぜ申請を出さなかったのか,なぜ注意を守れなかったのかなどと原告を追及した。さらに,同日午後8時頃,被告
Cは,原告をd号室に呼び出し,再び,ばれなきゃいいという発想はおかしいだろなどと怒鳴りつけたが,原告の態度に反省が見られないものと認識し,
原告の左脇腹を右手拳で殴打し,
その後30分程度,
追及を続けた。
同日午後10時55分頃,被告Cは,原告に対し,翌日中に,皆の前で読み上げる本件服務事故の経緯等を記載した文書(以下本件服務事故説明文という。)を作成して持参するよう求めた。同月7日午前7時10分
頃,被告Cは,LMN小隊の指導教官T(以下T教官という。
)から,
原告が同教官に対し,申請期間が過ぎてから福岡に帰省したい旨申し出た経緯があると聞いた。同日午前7時40分頃,被告Cは,d号室に本件服務事故説明文を持参した原告に対し,その記載が上記経緯と異なることから立腹し,原告の胸部を右手掌で押し,原告は,後方に倒れ込んだ。被告Cは,
原告に本件服務事故説明文を作り直すよう命じ,
同日午後0時半頃,
原告が,再度作成した本件服務事故説明文をd号室に持参したところ,被告Cは,その記載にまたも立腹し,右足で原告の左足首を蹴った。(甲A
1,D1,8,9,原告本人,被告C本人)
また,被告Cは,その頃,中隊学生長として,下級生の整理整頓状況を
確認し,乱れを整えさせるべく,下級生のベッド等を確認し,乱れているものについては,飛ばし行為をしていたが,平成26年5月7日から同月9日までの頃,原告の机,タンス,ベッド等を荒らし,制服をしわくちゃにするなどの相当程度の飛ばし行為を行った(被告C飛ばし行為)(甲A。
1,D1,8,9,原告本人,被告C本人,被告F本人)

平成26年5月9日,被告Cは,被告C暴行行為及び被告C飛ばし行為について原告の母親から報告を受けた,LM中隊の指導教官U(以下U教官という。から,

私的制裁は行ってはならないとして原告への接触を
禁止するとの指導を受け,同月13日,同教官が設けた機会に,原告に謝罪した(乙チ122,原告本人,被告C本人)
。また,同月12日,被告C

は,原告に対する被告C暴行行為及び被告C飛ばし行為について,私的制裁として事故扱いとされ,中隊学生長を解任された(乙チ31)

前記

認定事実によれば,
被告Cが中隊学生長の立場において,
当時,

服務規律に違反したとされた原告に対して,規律を遵守させるために指導を行うこと自体は,学生間指導として許容されるということができる。もっとも,被告Cは,原告が,納得のいく事情説明や反省を示さないとの認識の下,一方的に,暴力及び相当程度の飛ばし行為に及び,原告を精神的に追い詰めたものであり,指導として適切な範囲を逸脱したといわざるを得ない。そして,単なる一上級生ではなく,LM中隊で最も指導的な立場である中隊学生長であった被告Cから,このような行為を受けた原告は,相当な精神的苦痛を受けたものと認められ,被告C暴行行為及び被告C飛ばし行為は,いずれも違法性を有し,不法行為に当たるということができ
る。なお,被告C飛ばし行為については,同時期に他の学生長等も飛ばし行為を行っていたというが
(被告C本人)被告Cは,

服務規律違反を犯し
た原告に対しては,特に,指導する気持ちが高じたものと推認され,被告Cの飛ばし行為をやり過ぎとする供述(乙チ76,被告F本人)も踏まえれば,上記期間,相当程度の飛ばし行為があったものと認めるのが相
当である(ただし,原告の供述は裏付けを欠くから,原告の主張のような回数,
程度のものが行われたとまでは認定することはできない。。
)そして,
それが,指導の形をとっていたとしても,被告C飛ばし行為については,損害賠償を基礎づける程度の違法性があることを否定することはできない。

原告は,被告Cが,平成26年5月7日夜から同月9日にかけての被告C暴行行為及び被告C強要行為を働いた旨主張し,
これに沿う供述をする。
しかしながら,原告が,平成26年5月7日頃から同月9日頃まで家族との間で行っていたLINEのやりとり(甲D3)はあるものの,被告Cから受けた行為について具体的なものではなく,
原告の前記供述部分を直

ちに採用することはできず,これを裏付ける証拠も見当たらない。したがって,原告の前記主張は採用することができない。


被告Dら暴行行為について

後掲証拠によれば,以下の事実を認めることができる。
被告D及び被告Eは,
平成26年4月頃のカッター競技会の訓練における
原告の態度から,
LM中隊のチームが一丸となって取り組むべきであるのに,
原告が意欲を欠いているものと認識した。また,被告D及び被告Eは,本件服務事故後を契機として,LM中隊の2学年が上級生から厳しく生活指導を受けていると認識していた。そのような中,被告D及び被告Eは,同年5月8日,
服務規律違反等を起こした当人が事案の説明及び今後の対応等を説明するという慣行に従って,原告が,LM中隊の2学年全員を中隊集会室に集めた際,原告からは,本件服務事故後の生活方針について,同学年の納得する説明や反省の態度が示されていないと認識し,原告を問い詰めた。これに対し,原告は1学年が上級生に対して話すように大声で答えていたものの,被告D及び被告Eは,原告の答えに納得できず,被告Dにおいて,原告の胸
を数回突き,腹部を殴り,被告Eにおいて,原告の胸倉をつかみ,数回,壁に押し付けた。その後,被告D及び被告Eは,原告をd号室に呼び出し,同室において,防衛大で1学年が上級生の部屋に入る際に行う入室要領を何度か行わせ,引き続き,原告の生活態度が2学年としてふさわしくないなどと原告を詰問し,途中,被告Eにおいて,原告に2学年としての資格がないと
述べ,原告の胸に縫い付けられた名札を剥ぎとろうとし,その際,被告Dにおいて,原告の腕を押さえつけた。被告Dは,原告に対し,今後,LM中隊に貢献するための具体的な手段を問いただしたところ,原告が公共場所の靴墨落とし等を行う旨述べたので,それに加えて,土間のワックス掛け等もするように提案し,再度原告の腹部を殴った(以上の被告D及び被告Eの一連
の暴行が,
被告Dら暴行行為である。。

(甲A1,
D3,
E3,乙チ38,
5,
39,被告E本人,被告D本人)
被告D及び被告Eは,
平成26年5月9日,
原告の母親より被告D及び被
告Eの原告に対する暴力について知ったU教官から,
原告への接触を禁止す
るとの指導を受け,同月13日頃,同教官が設けた機会に,原告に謝罪した
(乙チ122,原告本人,被告E本人,被告D本人)

平成26年5月13日,
被告D及び被告Eは,
原告に対する暴行行為につ
いて,
私的制裁として事故扱いとされ,
被告Dは同月12日付けで小隊学生
長付を解任された(乙チ41)


前記アの認定によれば,被告D及び被告Eは,原告が,服務規律違反等を起こした当人が事案の説明及び今後の対応などを説明するという慣行に従って,LM中隊の2学年全員を中隊集会室に集めたにもかかわらず,本件服
務事故について納得のいく説明等をしないことに腹を立て,一方的に暴力に及んでいるのであるから,これが不法行為を構成することは明らかである。ウ
被告D及び被告Eは,原告の腹部を殴ったり,腕を押さえつけたことはない旨,原告に対して,大声で話すようにさせたり,入室要領をさせたりはし
ていない旨,原告に対する指導として被告Dら暴行行為を行ったのであり,違法性を有しない旨主張する。
しかしながら,平成26年5月8日の前記アのやりとりの録音データ(甲E5-2)によれば,被告Dらが原告に入室動作を何度かやり直すように命じ,
2学年が集まる中で原告のみが大声で丁寧語を用いて話していることは
明らかであり,
これに反する被告D及び被告Eの供述は採用することができ
ず,
他方で,
被告Dらから,
何事も大声で話し,
入室要領を強いられる中で,
被告Dから腹部を殴打され,腕を押さえつけられたとの原告の供述は,上記録音データの内容と矛盾せず,自然であり,これに反する被告D及び被告Eの前記供述は採用することができない。

また,被告Dら暴行行為は原告に対する指導であるとの主張に関しては,同期生間の指導に関する防衛大の規律について,平成25年に策定された学生間指導の留意事項(乙チ47添付資料3)をみると,2学年は,指導力が未熟であることが前提としてあり,専ら1学年を指導する立場として,1学年の指導方針に関して同期同士で互いに助け合うように定められており,4
学年のように同期生間の指導との文言が用いられていないことからすれば,同期生に対して,1学年に対するのと同様に指導をすることは想定されていないと認められるから,2学年同士で指導することが,直ちには学生間指導に当たるとはいえない。そもそも,被告D及び被告Eは,原告に大声で話させ,執拗に入室要領を行わせながら,被告Dら暴行行為を行っていることからすれば,単に,同期生の原告が本件服務事故を起こしたことに対する不満やいらだちを解消するため,一方的に原告を下級生のように扱って,暴
行を加えたものにすぎず,
一般的に2学年同士の学生間指導が許されるとし
ても,その指導の範ちゅうにないことは明らかである。
したがって,被告D及び被告Eの前記各主張は,以上の理由により,いずれも採用することができない。

原告は,被告D及び被告Eから,床掃除,靴墨落とし等を行うよう強要された旨主張し,これに沿う供述をする。
しかしながら,前記録音データ(甲E5-2)によれば,原告は,被告Dから今後の生活方針を尋ねられる中で,自ら,靴墨落としを行う旨申し出たところ,これに対し,被告Dが,床のワックス掛けも行うよう提案していることは認められ,原告が同期学生等に対して反省の態度を示すために,不本
意ながら清掃活動を行うこととなったと認めることはできるが,
本件全証拠
によっても,それが,被告D及び被告Eの違法な強要行為によるものであるとは認められないから,原告の前記供述及び主張は採用することができない。⑸
被告H呼出し等行為について

後掲証拠(甲A1,16,乙チ31,42,75,121,原告本人,被告H本人)によれば,以下の事実を認めることができる。
原告は,平成26年5月頃,本件服務事故に関して,大隊指導教官から注意処分を受けることに関連して,2学年のLINEグループで事情を説明しようとしたところ,同室の3学年であるV学生から表彰を受けると説明
するよう促され,ためらったものの,信頼を置いていたV学生のアドバイスとして,これに従って,
大指から表彰といった表現で,本件メッセージを
同グループに送信した。
これに対して,原告は,他学生から調子に乗っているなどと非難を受けていたが,原告とは学年も小隊も異なっていた被告Hも,それ以前の平成26年5月6日,中隊週番を務めていた際,原告から帰校が遅れるとの連絡を受けたことから原告を認識するようになっていたこともあって,原告が本件服務事故を起こして指導を受けるなどしているにもかかわらず,同月21日頃に本件メッセージを送信したことや,大隊指導教官から注意処分を受ける際に礼装で行くべきところを通常の課業制服で行ったことを聞き及び,原告の行動は,改善するどころかむしろ悪くなっているものと判断し,当時,被告
Cが被告C暴行行為及び被告C飛ばし行為について私的制裁として事故扱いとされた後で,教官から,原告への指導をなるべく控えるよう説明がなされていたものの,なお独自に指導する必要があると考えた。他方で,被告H自身,
防衛大における上級生の指導が横暴なものになっていないかとの疑問を抱いていたこともあって,適切な指導をすべく,また,自らを律する目的
もあって,原告に対する指導メモを作成した上,同月23日,原告をc号室に呼び出した。そして,被告Hは,原告に対し,本件メッセージの内容や注意処分を受けた際の服装が不適切である旨注意したが,原告に期待したような反応がないことから,次第にいらだつようになり,手を触れていたロッカーを揺すって音を出し,声を荒げながら,こういった軽率な行動を繰り返し
ていると同期から見放される,今回指導したことが改善されるかどうかは今後も見ていくといった趣旨の発言をした。これに対し,原告は,被告Hの上記発言を聞いて,
それまでに被告Cらから受けたような厳しい指導が今後も
続くという意味であると理解し,恫喝されたものと受け止めた。
その後,被告Hは,原告の母親より被告H呼出し等行為について報告を受
けたT教官から,指導の趣旨は理解できるが,ロッカーをたたき,声を荒げたことは不適切である旨指導を受けた。

前記アの認定事実によれば,被告H呼出し等行為は,本件メッセ―ジ等の原告の不適切な行動を注意する過程で行われたものであるところ,被告Hが,原告において本件服務事故に関する注意処分を真摯に受け止めていないと認識し,これについて,LM中隊で下級生を指導する権限を有する3学年として原告を指導したこと自体は,学生間指導として,不適当なものとまでい
うことはできない。もっとも,被告Hは,既に,被告C,被告D及び被告Eからの暴行により,精神的苦痛を受けていた原告を指導するに当たっては,原告が従前の暴力的指導の延長であると誤解して更に精神的に追い詰められることのないよう,その心情を慮り,十分に反応を見ながら行うのが相当であるから,期待した反応がないからといって,声を荒げ,ロッカーを揺す
って音を立てることは指導の方法として不適切である。
しかしながら,被告Hの原告に対する発言は,前記アのとおり,原告に,軽率な行動を慎むことや指導事項について改善されるかどうかは今後も見ていく旨を伝えるものであって,客観的に見て,原告に対する恫喝として評価されるものではなく,また,被告Hは,原告において,自らの指導が,被
告Cと同様の理不尽な指導と受け止められ,不安を抱いているなどの心情にあると認識した上で,
あえて指導を行ったものともいえないことからすれば,
原告がこれを恫喝として受け止めたことを踏まえても,損害賠償を基礎づけるほどの違法性を有するとは認められず,不法行為に当たるということはできない。


原告は,被告Hが,原告に対し,
舐めやがってなどと発言し,終始威圧
的に,
今後も被告Cらが行ったような厳しい指導を続けるという趣旨の恫喝をした旨主張し,これに沿う供述をする。
しかしながら,前記アのとおり,被告Hは,被告H呼出し等行為の時点に
おいて,既に,被告Cらが原告に暴行を加えた件で事故扱いとされ,教官からも原告への指導を控えるように説明があったことを認識していたから,仮に原告に対し,
今後も被告Cらと同様の厳しい指導を続けるなどの指導を行
えば,被告Cらと同様に処分を受けることが容易に予想できたのであり,従前,原告とは面識がなく,同じ中隊に所属する上級生というだけの立場において,あえて自身が処分を受ける危険を冒してまで,意図的に上記のような恫喝を行う動機があったとも,被告Hにおいて,およそ自制が困難な状況に
なったとも認め難い。原告の供述その他関係証拠によっても,このような事態を避けるべく,
メモを作成して原告の指導に臨んだという被告Hの供述部
分を否定することはできない。なお,被告Hは,防衛大の総務課による調査において,
指導しながら興奮し激高してロッカーをガンガン叩いた旨供述し
ているが(乙チ42)
,他方で,T教官の聴取に対しては,指導の際にロッカ

ーを叩いた(貧乏ゆすりのような感じ)という供述をしている(乙チ75)ところ,前者において,迎合的に対応した可能性は否定し難く,これを直ちに採用することはできない。
したがって,
原告の前記供述及び主張は前記アの認定に反する限度では採
用することができない。



被告Fの被告F写真送信等行為について

前提事実⑹ア及び証拠(甲A1,F1,G1,乙チ76,原告本人,被告F本人)によれば,以下の事実を認めることができる。
被告Fは,c号室の他の学生らと共に,平成26年6月上旬に行われたL
M中隊のレクリエーションで,自室のメンバー紹介をする際,当時,療養中で出席できなかった原告の紹介として写真を用意することとし,V学生を中心として,原告の写真をプリントし,段ボールに貼り付けた上,周囲を黒いビニールテープで縁取った本件工作物を作成した。その上で,被告Fを含むc号室の学生らは,同レクリエーションの当日,ステージ上において,本件
工作物を参加学生全員に見せた。
被告F及びV学生は,その後,同室のホワイトボードに立てかけられていた本件工作物の周りに鳥居の絵を描き,原告の口ぶりを真似て,

今日は支給日。ボーナスもらったじゃろ。と記入した上,

W大明神
と呼んで合掌,
礼拝するなどの遊びを行っていた。
被告Fは,平成26年6月30日,2学年の誰かが原告の帰宅療養に関する報告書を作成,提出する必要があったことから,原告ではない他の同期学
生個人に対し,同報告書の作成,提出を依頼するため,本件工作物に,報告書出せじゃろと,原告の口ぶりをまねた吹出しを加えて撮影し,送信しようとしたが,同日午後2時47分,誤ってこれを本件グループに送信し,同日午後3時頃,本件グループを自ら退会した。

前記アの認定事実によれば,被告Fの被告F写真送信等行為は,指導とは全く関連しない,同人の私的な非行行為にすぎない。すなわち,被告Fは,本件写真の送信以前において,療養中の原告の写真を遺影のように加工した本件工作物をLM中隊の多数の学生に見せ,原告の口ぶりを揶揄する書き込みを加えた上でW大明神と称して合掌,礼拝する遊びを行っていたとい
うのであり,
このような行為は,
仲間内で,
療養中の原告を嘲笑の対象とし,
その人格をいわれなく中傷する陰湿かつ幼稚ないじめ行為というほかはなく,本件写真を同期学生に送信しようとすること自体が不適切であるし,被告F写真送信等行為は,誤って行ったもの(過失)であったとしても,上記いじめの延長上にあるものということができる。
その結果,
療養中の原告は,

本件写真を見て,
自身が同室の同期学生の間でさえも嘲笑の対象とされてい
ることに精神的苦痛を感じたことは明らかであり,学生間の悪ふざけとして許容されるものではないから,被告F写真送信等行為は,違法性を有し,不法行為に当たるということができる。
被告F写真送信等行為は違法性を有しない旨の被告Fの主張は,行為の受
け手である原告の心情に対する配慮を欠いた一方的な見方にすぎず,採用することはできない。


被告Gの被告Gスタンプ送信行為について

証拠(甲A1,G1,2,3,5,乙チ44,77,原告本人,被告G本人)によれば,以下の事実を認めることができる。
平成26年6月30日午後3時32分頃,被告Gは,本件グループ上に被告Fが送信した本件写真に気付き,原告及びその親が気付けば不快な気持ち
となり,
良くない事態になるものと感じて,
被告Fをかばう気持ちもあって,
原告が本件写真を容易に見ることができないようにするため,
本件グループ
のメンバーで自主的に退会しない者を強制的に退会させ,被告Gと原告のみが残った状態で,
午後3時47分から午後4時頃まで,
途中,
原告による
既読のマークがついたにもかかわらず,これに気付くことさえなく,合計7
24個程度のスタンプを絶え間なく送信した上,
なんで退会せんの?と
のメッセージを送信した。上記スタンプの中には,人様のものが嘔吐する様子や,藁人形に五寸釘を打っている様子,怒っている様子,
0点と発言す
る様子等の人に不快感を与える絵柄のものが多く含まれていた。
これに対し,
原告が辞めさせたいわけ?やねまだ,おれ戻るきあるんやけどこれって,イジメてるんやろ?とのメッセージを送信したところ,被告Gは原告を本件グループから退会させた。

前記アの認定事実によれば,被告Gスタンプ送信行為は,指導とは全く関連しない,同人らの私的な非行行為にすぎない。すなわち,被告Gは,本件
グループのメンバーを原告と被告Gのみにした上で,
被告Gスタンプ送信行
為を行った上,原告を退会させたものであるところ,これは,その客観的態様からも,療養中の原告を本件グループから排除する趣旨のものと認められ,原告において,
LM中隊の2学年から排除する趣旨の嫌がらせと受け止めた
のも当然である。被告Gは,原告が本件写真を容易に見ることができないよ
うに,自発的な退会を促すため被告Gスタンプ送信行為を行った旨主張し,これに沿う供述をするが,たとえそのような意図があったにしても,被告Fの送信した本件写真に続けて,絶え間なく執拗に不快感を与えるような絵柄のスタンプを送り続け,退会を迫るような行為は,療養中の原告に対して,同期生の輪から締め出されそうであるとの精神的苦痛を与えるものであって,違法性を有し,不法行為に当たるということができる。被告Gスタンプ送信行為は違法性を有しない旨の被告Gの主張も,被告Fと同様,行為の受
け手である原告の心情に対する配慮を欠いた一方的な見方にすぎず,採用することはできない。また,被告Gは,原告が鬱病であるなどとの認識はなかった旨主張するが,
少なくとも体調不良を来して療養していることは認識し
ていたのであり,
疾病の種類や程度等に関する詳細な認識までは必要がない
から,上記判断を左右しない。



原告は,被告ら各自の行為について,被告らによる各行為が原告に対する集
団的ないじめであり,
原告が,
平成26年5月13日頃より体調を崩し,
発熱,
下痢,
胃痛等の症状が続き,
同月30日,
福岡の実家に帰省し,
同年6月3日,
P病院において抑鬱状態と診断されたことと因果関係があるものと主張する。しかしながら,まず,原告が1学年時の被告Aによる行為と被告Bによる行為については,行為の時期も発端も異なり,本件全証拠によっても,被告Aと被告Bが原告をいじめることについて共謀をしていた事実は認められず,2学年時の各行為との関連性も認められないから,これらはそれぞれの被告による個別の行為であると認めるのが相当である。また,原告が2学年時の被告C並
びに被告D及び被告Eが行った行為については,いずれも原告の本件服務事故を発端としてはいるものの,本件全証拠によっても,被告Cが被告D及び被告Eに原告への暴行を指示したことや,被告D及び被告Eが被告C暴行行為を認識していたことも認められないから,被告C暴行行為及び被告C飛ばし行為と,被告Dら暴行行為は独立した行為であると認められる。被告F及び被告Gにつ
いても,他の被告らの行為が終わった後で,被告Fが本件写真を原告に誤って送信したことを発端として被告Gが被告Gスタンプ送信行為を行ったものであって,他の被告らの行為と関連するものとは認められない。したがって,本件が,被告らが共謀して意図的に原告に対して暴行,嫌がらせ等を行った集団的ないじめの事件であるとの原告の主張は採用することができない。そうすると,
原告は,
平成26年5月13日頃から体調を崩しているところ,
これに対しては,
被告C暴行行為,
被告Dら暴行行為が直近の不法行為として,

相当因果関係を有するということができる。
しかしながら,原告は,防衛大入校後,被告B,被告C,被告E,被告D,被告F及び被告Gによる不法行為又は共同不法行為を受ける中で,上級生,同期生ら他の学生に助けを求め,教官に相談するなどしつつも,思うような対応が得られず,かえって,本件服務事故や本件メッセージの送信等の原告の言動
により,他の学生との間の信頼関係が次第に崩れ,防衛大内における原告の居場所が失われていくなど,事態を複雑化,悪化させる状況を招いたという面があることは否定できず,防衛大在学中に原告が抱いた不満などの心情等は,被告らの個々の不法行為のみならず,被告らを含む周囲の学生の幼稚な,あるいは内容の伴わない権威的な態度,対応等や,防衛大内における原告の居場所が
次第に失われていったという状況等にも起因するものということができる。そのような中,
原告が,
原告に対して反省を求めるなどの周囲の対応に耐えかね,
さらには,
事態改善に向けて期待を抱いた教官の対応が望んだものではなかったという思いがあった(甲A1,4,原告本人)としても,被告C暴行行為及び被告Dら暴行行為という個々の不法行為のみから,
原告が体調を崩したとま

では認め難いといわざるを得ない。
したがって,原告の上記主張は以上の限度で理由がない。
2争点⑵(国家賠償法による被告Hの免責の可否)⑴
原告の被告Hに対する請求は,前記1⑸のとおり不法行為が成立するものとは認められないから理由がないが,被告Hは,公務員である被告Hがその職務の範囲内で行った行為については国が国家賠償責任を負い,被告H個人は責任を負わないとも主張するので,進んで,公務員である被告Hが不法行為責任を免責されるか否かについて検討する。なお,被告H以外の被告らについては,免責について主張しないため,検討の要をみない。


国賠法1条1項は,国又は公共団体の公権力の行使に当たる公務員が,その職務を行うについて,
故意又は過失によって違法に他人に損害を与えた場合に

は,国又は公共団体がその被害者に対して賠償の責めに任ずることとし,公務員個人は民事上の損害賠償責任を負わないこととしたものと解される(最高裁
決・民集32巻7号1367頁等)そのように解するのは,

国又は公共団体に

同項に基づく責任が成立する場合には,被害者は国又は公共団体から損害の填補を受けられ,国又は公共団体の公務員に対する求償(同条2項)や懲戒処分等によって,公務員の違法行為の抑止も図られる一方で,公務員個人に責任を認めれば,公務員個人を萎縮させ,公務の適正な執行を妨げるおそれがあるからである。
そして,
ここでいう
職務を行うについて
という文言についても,

上記と同様の趣旨から,公務員が職務行為及びこれと密接に関連する行為を行った場合のみならず,公務員に権限濫用の意思があったとしても,客観的に職務執行の外形を備える行為を行った場合も含まれると解するのが相当である。これに対し,原告は,本件に関し,国に対し,被告Hの行為につき国賠法1条1項に基づく請求をしていないことから,仮に被告Hが免責されても国によ
り損害が填補される関係にはないと主張する。しかしながら,原告が,現在,国に対し安全配慮義務違反に基づく損害賠償請求をしていることが,国賠法1条1項に基づく請求をすることを直ちに妨げるものではないから,原告の上記主張は採用することができない。


学生間指導が職務に当たるか否かについて
防衛大においては,学生に部隊指揮等の基礎的能力を修得させ,学生自ら規律と服従を身につけ,
リーダーシップ及びフォロアーシップを育成することを
目的として学生隊が編成される
(前提事実⑵イ)このように,

学生間指導は,
幹部自衛官としての基礎的能力を修得するという防衛大での教育の要を成すものと位置付けられ,学科,訓練以外の多くの時間を過ごす学生舎生活の場で日夜実践されるものであるから,特別職の国家公務員である防衛大生の職務で
あると認めるのが相当である。
原告は,学生間指導は強制力を伴わない教育方法の一つにすぎず,防衛大生の職務ではない旨主張する。しかしながら,防衛大の発行する学生必携,
学生間指導に関するガイドライン及び学生間指導の留意事項等において,学生間指導の在り方が詳細に定められ,不適切な指導に対しては指導教官
も関与することとされるなど,組織的に学生間指導が行われていること(弁論の全趣旨)
,単なる学生ではなく,将来の幹部自衛官の候補としての防衛大生の身分を考慮すれば,
学生間指導は防衛大生の職務に当たると認めるのが相当
である。したがって,原告の前記主張は採用することができない。⑷

被告Hの責任について
前記1⑸のとおり,被告Hは,下級生である原告に対して学生間指導を行う権限を有していたところ,本件メッセージの内容や注意処分を受けた際の服装について原告に不適切な行動が認められた状況において,
軽率な行動を慎むよ
うにとの指導事項を伝え,口頭で注意する過程で,声を荒げ,ロッカーを揺す
って音を立てたものである。
このような被告Hの行為は,
上記経緯からすれば,
客観的にみて,
上級生が原告に対して指導をする必要性を感じるのも合理的で
ある場面で行われたものであり,結果として,声を荒げ,ロッカーを揺すって音を立てたことは指導の態様として不適切ではあったものの,その程度は,指導としての外観を失わせるほどのものではないから,客観的に職務執行の外形
を備える行為であるということができる。したがって,仮に被告H呼出し等行為が不法行為に当たる場合でも,被告Hは,その職務について,職務上の注意義務に違反したものであって,国が国賠法1条1項により責任を負い,公務員である被告H個人は不法行為責任を負わない。
これに対し,原告は,被告H呼出し等行為は,指導を装った故意の加害行為であるから,職務執行の外形を有しない旨主張する。しかしながら,前記のとおり,被告Hは,上級生として原告に何らかの指導を行うことが合理性を有す
る場面において,適切な指導事項を伝える過程で,不穏当,不適切な態様の手段によったというにとどまり,殊更指導を装って故意に加害行為を行ったものとはいえないから,原告の前記主張は,その前提を欠くものであり,採用することができない。


以上より,被告Hについて,被告H呼出し等行為が不法行為に該当しないが
(前記1⑸)
,仮にこれが不法行為に当たるとしても,職務の執行につき行わ
れたものであるから,被告Hは,公務員として個人責任を負わない。3争点⑶(原告の損害(慰謝料額)
)について


被告Aの行為について
前記1⑴のとおり,被告A罰ゲーム指示行為及び被告A陰毛着火行為は,粗
相ポイント制度を背景として,原告に肉体的苦痛を与えるのみならず,被告A自身が下級生に羞恥心や屈辱感を覚えさせて興じていたといえること,被告A
反省文提出指示行為は,執拗に不必要な肉体的,精神的負担を与える行為であることなど,本件に表れた一切の事情を考慮すれば,被告Aによる不法行為について,慰謝料は40万円と認めるのが相当である。



被告Bの行為について
前記1⑵のとおり,被告B暴行行為は,手加減をしており,傷害を与えるとの認識があったとまではいえないが,
ボクシング経験者による殴打行為であり,
原告は,重いものではないとはいえ,傷害を負ったこと,被告B陰部吸引行為
は,原告に傷害を加えかねない危険な態様であるのみならず,原告に著しい羞恥心や屈辱感を覚えさせる行為であることなど本件に表れた一切の事情を考慮すれば,慰謝料は,被告B暴行行為につき15万円,被告B陰部吸引行為につき10万円と認めるのが相当である。


被告Cの行為について
前記1⑶のとおり,被告C暴行行為及び被告C飛ばし行為は,中隊学生長としての立場を利用し,学生間指導の形をとりながらも,下級生に力で服従を強
いるものであり,原告は,その後,体調不良を来したことなど本件に表れた一切の事情を考慮すれば,被告Cによる不法行為について,慰謝料は20万円と認めるのが相当である。


被告D及び被告Eの各行為について
前記1⑷のとおり,被告D及び被告Eは,同期生複数名で原告を囲み,原告
を下級生であるかのように扱いながら,一方的に暴行行為を行ったこと,その後,
原告が体調不良を来したことなど,
本件に表れた一切の事情を考慮すれば,
被告Dら暴行行為による慰謝料は連帯して15万円と認めるのが相当である。⑸

被告Fの行為について
前記1⑸のとおり,被告F写真送信等行為は,送信それ自体は過失ではある
ものの,吹出しをつけて本件写真を撮影するなど,仲間内で原告を嘲笑の対象としようとするものであり,
抑鬱状態で療養中の原告の人格を何らの理由なく
傷つけるものであって,その他本件に表れた一切の事情を考慮すれば,慰謝料は5万円と認めるのが相当である。


被告Gの行為について
前記1⑹のとおり,被告Gスタンプ送信行為は,被告F写真送信等行為により,本件写真が原告に認識可能となった状態を前提として,原告がこれを認識しないようにするため行ったというものではあるが,
その方法は適切ではなく,
療養中の原告に対し,
何らの理由なく精神的苦痛を与える行為であることなど

本件に表れた一切の事情を考慮すれば,
慰謝料は5万円と認めるのが相当であ
る。
4争点⑷(被告Bの弁済供託による債務消滅の可否)について⑴

証拠(被告B本人,乙ロ1)によれば,被告Bは,平成27年3月3日,当時の代理人であったX弁護士を通じて,
当時の原告の代理人であったQ弁護士
の事務所において,被告B暴行行為に係る損害賠償債務の弁済として,20万円及びこれに対する平成25年10月14日から平成27年3月3日まで年
5分の割合による遅延損害金1万3863円の合計21万3863円を現実に提供したが,同弁護士が受領を拒絶したため,同月4日,横浜地方法務局において,原告を被供託者として,同額を供託(以下本件供託という。)した
ことを認めることができる。


有効な弁済供託の前提となる弁済の提供とは,債務の本旨に従った提供(民法493条)であることを要するところ,これを本件についてみる。前記のとおり,被告Bの被告B暴行行為による損害賠償債務は15万円及びこれに対する平成25年10月12日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金である。そして,X弁護士は,Q弁護士に対して,被告B暴行行為
による損害賠償債務の弁済として,20万円及びこれに対する平成25年10月14日から平成27年3月3日まで年5分の割合による遅延損害金1万3863円の合計21万3863円を提供したものであるが,それは被告Bの上記債務額を上回るものであるから,その限度で債務の本旨に従った弁済の提供及び供託として有効なものということができる。
したがって,被告Bの弁済供託の抗弁は,被告B暴行行為による損害賠償債
務について,15万円及びこれに対する平成25年10月12日から平成27年3月3日まで年5分の割合による遅延損害金の範囲で有効であり,同債務は消滅したものと認められる。

これに対し,原告は,弁済の提供等の手続が行われたことを知らないなどとして,本件供託は,その要件を欠くものと主張する。
しかしながら,X弁護士からQ弁護士に対して,紛争解決に向けて示談の申し入れ等がされていたことは,本件供託がされたことからも容易に推認されるところ(乙ロ1,弁論の全趣旨)
,その前提として,被告B及びX弁護士が,Q
弁護士に交渉権限があること,あるいは,少なくともQ弁護士が原告の意向を確認しつつ,
交渉を行っているものと理解していたと認めることができ,
他方,
原告も,被告Bが被害弁償をしたいという意向であったことを認識していた(原告本人)のであるから,弁済の提供等の手続が行われたものの,原告において,その受領を拒否したものと認めるのが相当である。
したがって,原告の上記主張は採用することができない。


他方,被告Bは,被告B陰部吸引行為による損害賠償債務についても,本件供託により債務が消滅した旨主張するが,本件供託の供託原因は,供託の原因たる事実(乙ロ1)を見れば明らかなように,被告Bの被告B暴行行為(ただし,
その態様については争いがあるが同一の事実に関するものと理解できる。)
による損害賠償債務であって,
不法行為の時期も内容も異なる被告B陰部吸引
行為による損害賠償債務を含むものではない
(当時,
原告と被告B間において,

被告B陰部吸引行為に関する紛争が顕在化していたものとも認められない。。)
被告Bの主張の趣旨は,同一時期における同質の損害賠償債務であるから,上記供託原因に含まれるものとの主張と解される。しかしながら,供託は,債権者,債務者のみならず,他の関係者との法律関係の前提ともなり得るものであるから,供託原因は,その意味内容において合理的,客観的に理解すべきとこ
ろ,上記のとおり,本件供託の供託原因は,明らかに被告Bの被告B暴行行為のみが記載されており,被告B陰部吸引行為を含むものとは到底解されない。したがって,
被告B陰部吸引行為による損害賠償債務
(10万円)
について,
被告Bの弁済供託の抗弁は認められない。
また,原告は,被告Bによる弁済の提供は,債務の履行地である原告の住所
(福岡)でなされていないから,債務の本旨に従ったものではないなどとも主張するが,前記の経過のとおり,Q弁護士には被告B暴行行為による損害賠償債務に係る弁済の受領権限があるので,
Q弁護士の事務所において弁済の提供
をしたことに問題はなく,さらに,供託の場所についても,当時,原告が防衛大に在学中であり,福岡で療養中であったにすぎないことからすれば,防衛大の所在地を債務の履行地として,
横浜地方法務局に供託したことに問題はなく,
少なくとも本件供託の効力は左右されない。
第4結論
以上によれば,原告の請求は,①被告Aに対し,40万円及びこれに対する平成25年10月8日(最後の不法行為の日)から,②被告Bに対し,10万円及びこれに対する同年12月31日
(最後の不法行為の日)
から,
③被告Cに対し,

20万円及びこれに対する平成26年5月9日から,④被告D及び被告Eに対し,連帯して15万円及びこれに対する前同日から,⑤被告Fに対し,5万円及びこれに対する同年7月1日から,⑥被告Gに対し,5万円及びこれに対する前同日から,
いずれも支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから,この限度で認容することとし,原告の被告Hに対する請求及
びその他の被告らに対するその余の請求はいずれも理由がないから,いずれも棄却することとして,主文のとおり判決する。

福岡地方裁判所第2民事部

裁判長裁判官

足立正
裁判官

大野健佳太郎
裁判官

上原ひとみ
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