判例検索β > 平成30年(わ)第316号
強盗致傷被告事件
事件番号平成30(わ)316
事件名強盗致傷被告事件
裁判年月日平成31年2月1日
法廷名大阪地方裁判所
裁判日:西暦2019-02-01
情報公開日2019-03-14 20:00:11
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主文
被告人は無罪

第1


公訴事実及び争点
本件公訴事実の要旨は,被告人は,現金を強奪しようと考え,A,B,C,D,E,F及びGと共謀の上,平成29年4月28日午後1時12分頃,大阪市a区内の路上において,現金約7000万円を運搬していたH(当時42歳)及びI(当時34歳)に対し,持っていた催涙スプレーを同人らの顔面等に噴射し,同人らを転倒させ,その顔面を拳骨で数回殴り,その脇腹等を足で数回蹴るなどの暴行を加え,その反抗を抑圧して同人らから現金約7000万円を奪おうとしたが,同人らに抵抗されるなどしたため,その目的を遂げず,その際,前記一連の暴行により,同人らに傷害をそれぞれ負わせた。というものである。検察官は,本件は被害者らが密輸入した金を換金するとの事前情報を基に,換金によって得られる多額の現金を狙って行われた犯行であるとし,金の換金に関する情報がAからBに,BからCに,Cから被告人に伝えられ,被告人又は被告人及びCが,Gにその情報を伝えて犯行を指示し,Gから指示を受けたDら3名が実行犯となって行われた犯行であることを事件の基本的構図としている。検察官は,被告人が単独で,又は,被告人がCとともに,Gに対し,密輸入された金の換金情報を提供し,本件犯行を指示したとして,被告人と他の共犯者との間の共謀が認められると主張する。そして,被告人がGに犯行を指示したことを推認させる主要な根拠として,①Gが本件の換金情報の提供を受けた場に,被告人がGを呼び寄せ,G,Cとともに行動していたこと,②本件犯行に関わる要所の場面で被告人と共犯者との間の通話が連動していること,③Gが被告人の舎弟格で親密であるのに対し,GとCは関係が希薄であることを挙げるほか,④被告人がGに本件犯行に用いられた催涙スプレーを送ったこと,⑤犯行直前に被告人が岐阜県内から大阪方面に向かって移動していること,⑥犯行後に,被告人が実行犯らを匿うなどして共犯者を支援していることも,被告人の指示があったことを推認させる根拠として挙げる。
これに対し,弁護人は,被告人はGに犯行を指示しておらず,共謀はなかったと主張する。
本件の争点は共謀の有無であり,被告人がGに犯行を指示したのかどうかが問題となる。よりかみ砕いていえば,被告人が主導しGに犯行を指示した被告人1トップ的犯行か,被告人とCが主導し両名がともにGに犯行を指示した2トップ的犯行か,Cが主導しGに犯行を指示したC1トップ的犯行か,検察官が前二者のいずれかであると主張するのに対し,弁護人は後者であると主張している。第2
1
当裁判所の判断
①について
検察官は,被告人がGに本件換金情報が伝達されるという重要な場面に居合わせる機会があった上,Gを呼び寄せてその機会を作ったのも被告人であることから,被告人がGに犯行を指示ないし情報伝達をしたことが推認できると主張する。
そこで検討するに,関係証拠によれば,Gは,平成29年(以下断らない限り平成29年とする。)4月17日に被告人から連絡を受け,4月18日,Jとともに岡山県から長野県飯田市に赴いて被告人及びCと合流し,被告人やCが所属する暴力団組織の関連事務所に立ち寄った後,他の暴力団関係者らとともに居酒屋やスナックに行ったこと,その後,Gは同日夜から翌朝にかけて岡山県内に戻ったことが認められる。そして,Gがこの飯田市を訪れた機会に何者かから本件の換金情報を伝えられたと考えられる。
検察官の主張は,被告人がGに犯行を指示したとか,情報を伝達したとする関係者の供述等の具体的な証拠に依拠することなく,被告人がGを飯田市に呼び寄せ,その機会に被告人がC及びGと行動をともにしていたという状況を推認の根拠にするものと理解できるが,そのような状況であったことが被告人の犯行指示や情報伝達があったとの事実に結びつくわけではない。この点に関し,被告人は,Gを飯田市に呼び寄せた理由について,Cから前日の4月17日に金に困っている者がいないかと尋ねられ,その場ですぐにGに電話で連絡をしたところ,Gが直接Cと話がしたいというので,翌日の4月18日に組関係者の食事会が予定されていたことから,その食事会に来るついでに,Cから話を聞くように言ったにすぎない,Cからどのような案件であるのかは聞いていなかったというのであり,その内容に不自然,不合理な点はない。①の点に関する検察官の主張から,C1トップ的犯行である可能性が低いとか,被告人1トップ的犯行や2トップ的犯行であることがより有力であるということはできない。
したがって,①の点に関する検察官の上記主張は採用できない。2
②について
検察官は,4月19日に,被告人からD(午後4時32分頃),被告人からG(午後4時34分頃),GからD(午後4時35分頃)と通話が連続しており,GはDが当時使用していた携帯電話番号を知らなかったことから,この通話の内容は被告人がDに確認の上,Dの連絡先をGに伝達するものであったと主張する。しかし,仮にそのような内容であったとしても,他人の電話番号を尋ねられ,本人に了承を取った上でこれを教えただけである可能性も十分に考えられることから,このことが被告人の指示があったことを推認させる力は弱い。
検察官は,4月19日及び20日に,GとDとの通話の後,Gと被告人との電話連絡があったことから,GがDとの本件の換金に関するやりとりを被告人に報告する内容であると推認できると主張する。しかしながら,被告人とGとの間では,本件以前から極めて頻繁に電話連絡をし合っていたことがうかがえることから,たまたまGとDとの間の通話の前後に被告人との通話がされた可能性が十分にあり,被告人とGとの間の通話内容がDとのやりとりの報告であると推認する根拠は薄弱である。
検察官は,本件の換金の仲介業者であったAが換金店であるネットジャパンに本件の換金予約を入れた4月25日午前10時21分以降に,BとC(午前11時44分頃),Cと被告人(午前11時47分頃),被告人とG(午後0時7分頃)と通話が連続していることから,この連続した通話の内容は本件の換金予約の情報伝達であると推認できると主張する。しかし,そもそも,AとBとの間で同日に通話がされたとの記録はなく,通信アプリ等他の手段で連絡を取り合っていたことを示す証拠もない。同日にAからBに換金予約に関する情報伝達があったということ自体憶測の域を出ないものである。また,同日午前11時44分頃の通話は元々はCからBに発信された通話がきっかけであると見られ,同日午前11時47分頃の通話は被告人からCに発信されていること(検察官は,着信履歴を見ての折り返し電話であったと主張するが,証拠上不明確なところを主張に沿うよう推測で補うものであり,説得力に乏しい。),被告人がCとの通話後,Gに発信するまでに約20分程度間が空いていることも考えると,通話内容が同一事項であったと推認する根拠も薄弱である。BとCは中学の頃からの知人で,日頃から電話連絡をする関係にあったし,Cと被告人は同じ暴力団組織に所属し,本件以外の件で連絡を取り合うことも考えられるのであるから,他の会話内容であった可能性も十分にあり得,これらの者の通話の内容が本件の換金予約の情報伝達であると認める根拠は不十分である。
検察官は,本件犯行の2日前である4月26日に,GがDに本件犯行の実行の再確認をしており(午後5時21分頃),その後にGと被告人の通話があるから(午後5時26分頃),この通話の内容はGがDに犯行実行の再確認をしたことの報告であったと主張する。しかし,同日についても,他の日と同様,被告人とGとの電話連絡は頻繁にされているから,その内容がGとDとのやりとりの報告であると認める根拠は薄弱である。
検察官は,Gが,本件犯行が失敗した直後である4月28日午後1時19分頃から午後1時30分頃までの間,実行犯の一人であるEと通話し,本件犯行が失敗したこと,Dが犯行現場に取り残されたことなどを聞いたが,その直後に,GからC(午後1時31分頃から午後1時33分頃まで),Cから被告人(午後1時37分頃から午後1時43分頃まで)と通話が連続していることから,その内容は本件犯行が失敗したことの速報であり,被告人が本件犯行においてそのような報告をする必要がある重要人物であったことを示すものであると主張する。これに対し,被告人は,Cから本件犯行が失敗したことを聞き,CからGに対する口止めを頼まれた旨述べている。事件後に被告人とCとの間で本件犯行が失敗したことに関する会話がなされたことは両者の供述が一致していることからそのとおりであるとしても,その主眼がCの被告人に対する口止めの依頼であったとする被告人の供述は不自然ではない。仮に被告人がGに指示をしていたとすると,Gがこれまで頻繁に電話連絡をしてきた被告人ではなく,Cに犯行の失敗を先に報告し,Gから被告人に対する直接の連絡がないことはかえって不自然であるともいえる。検察官は,犯行前日の4月27日午前11時の被告人とCとの通話の中で,今後はGとCとでやりとりをすることを決めたと考えられる旨主張するが,同日にそのようなやりとりがあったことについては,被告人はもとより,Cもそのようには供述しておらず,証拠上の根拠を欠くし,その通話の後も被告人とGとの間の通話は依然としてなされており,被告人とCとの間で検察官が主張するようなやりとりがなされたとは認められない。そうすると,犯行後に被告人とCとの間で通話がなされているとの事実も,被告人がGに犯行を指示するなどして関与していたことを示す根拠となるものではない。検察官は,Gが本件の換金情報を提供された4月18日以降本件犯行の前日である4月27日までの間に,GとCとの間の電話連絡がないことから,被告人が関与していないとすると,実行犯の確保など本件犯行に当たっての重要事項をCが直前まで知らなかったことになり不自然であるなどと主張する。しかし,4月6日に被害者らが航空券を予約しており,4月13日に被害者らの換金依頼をAが受けていることからすれば,本件の換金情報の重要部分(換金日,おおよその時間,換金場所,対象者など)については,4月18日の段階で既にG側に提供されており,4月27日までCとGとの間で連絡を取り合う必要性がなかっただけとも考えられる。そうすると,4月27日までGとCとの間の電話連絡がなかったからといって,その間に被告人とGとの間で本件に関する指示や連絡があったと推認することはできない。さらに,検察官は,これらの電話連絡を全体として見れば,本件に関する要所の場面で被告人と共犯者らの通話が連続していることから,このような連続した通話の内容がすべて本件犯行と無関係であることはあり得ないと主張する。しかしながら,連続しているといえる部分はあるものの,被告人とGとの間の電話連絡の頻度からすれば,本件と関係のないしのぎの話など,他の可能性は十分に考えられるのであって,全体を総合してみても,被告人とGとの間で本件に関する連絡や指示があったことを示す根拠としてはやはり不十分であり,その推認力は弱いものといわざるを得ない。
3
③について
検察官は,白昼に強盗を行うという逮捕される危険性が極めて高い犯行にもかかわらず,実行犯側の報酬が指示者側よりも少ないこと,逮捕された場合には指示者が供述されるリスクがあることからすれば,Gと深い関係があり,Gにとって従うべき者からの指示によって犯行が行われたとしか考えられず,GとCとの関係は希薄であったのであるから,舎弟格であるGに指示できる立場にあった被告人の指示があったはずであると主張する。
しかし,Gは,確かな情報源からの情報であり,しかも密輸入された金を換金した現金を狙うのであるから被害届が出されず,刑事事件として捜査対象にはならないと考えて安易に引き受けたものと見られ,逮捕される危険性を深く考えていなかったと考えられる。報酬の分配についても,Gは,Cから,情報提供者らCの先の人物がいると聞いたことから,ある程度納得していたものと考えられる。逮捕後に供述されるリスクについても,被害者側から被害届が提出されることはないとの思惑がCにもあったと考えられ,Cも逮捕されるリスクを過小評価していたと考えられるし,仮に本件が捜査対象になったとしても,暴力団関係者としてつながりのあるGであれば,Cとの関係が希薄であったとしてもCの関与を捜査機関に安易に供述することはないと想定していたとも考えられる。本件は暴力団組織としての犯行ではなく,金目当てで結集したメンバーによる犯行との見方ができ,そうであれば,CとGの関係が希薄であっても,両者の意思が合致しさえすれば,被告人の関与なしにCとGがつながって犯行に及ぶことは十分に考えられる。
したがって,③の点に関する検察官の主張も採用できない。4
④について
本件の実行犯らは,4月27日にGから受け取った催涙スプレーを本件犯行に使用しているところ,検察官は,Jの証言,Cの供述,被告人の会社付近の配送センターからG宛に送られた被告人の筆跡に酷似する配達伝票の存在などから,4月26日にGに届いた催涙スプレーを送ったのは被告人であると主張する。これに対し,Gは,催涙スプレーは後輩が送ってくれた物であるとし,犯行の直前頃に被告人から荷物を送ってもらったことはあるが,中身は催涙スプレーではなく,ビタバという電子タバコであると証言し,被告人も,Gに対して,ビタバを宅配で送ったことがあるが,催涙スプレーを送ったことはないと供述する。
Jは,当公判廷において,当時,Gが契約している居室に住みながらGの運転手をしていた,ある日Gが宅急便が届くからと言って一緒に帰った,宅配物をおそらく自分が受け取ってGに渡したところ,Gが別の部屋に持って行った後,中身が催涙スプレーだったと言っていた,G宛の宅配物のうち,送り主が個人名だったものは多分1件しかなかったと思うなどと証言する。しかし,送り主が個人名のG宛の宅配物が1件だけであったかどうかは,J自身が断定をしていないし,送り主が個人名であるか否かを注意深く観察し,記憶していたかにも疑問があり,送り主が個人名のG宛の宅配物が1件だけであったかどうかは定かでないというべきである。
また,Cの供述(Cの被告人質問調書)によれば,Cは,何のときかは覚えていないが,被告人から,Gに催涙スプレーを用意して送ったと聞いたとのことである。しかし,この供述によっても,その話がどのような状況で出てきたのかは覚えていないというのであり,内容自体あやふやなものといわざるを得ないし,催涙スプレーの話題になった経緯が唐突との感も否めない。Cは立場上被告人に責任を転嫁する意図で虚偽の供述をするおそれが多分にあり,捜査機関から聞いた情報に話を合わせて供述をした可能性もあることから,その供述をたやすく信用することはできない。
検察官は,配達伝票の筆跡が被告人のそれと酷似するというが,筆跡鑑定等に基づく指摘ではなく,あくまで主観に基づく印象の域を出ないものであり,そもそも酷似しているといえるのかも疑問である。
そうすると,Jが受け取った宅配物の内容物が催涙スプレーであったとしても,その送り主が被告人であるとの根拠は乏しく,被告人がGに催涙スプレーを送ったとの事実を認めることはできない。
5
⑤について
検察官は,Gが実行犯らに対し,被害者から現金を奪ったら名古屋方面に走れと指示していたところ,被告人が本件犯行の直前である4月28日午後1時3分頃,高速道路を利用して当番をしていた組事務所がある岐阜県から大阪方面へ向かったことから,被告人が強取金を受け取りに向かったと推認できると主張する。
しかし,被告人は,組事務所の当番が約1か月前に決まり,自身の自宅がある山梨県よりも組事務所がある岐阜県の方が大阪に近いため,この日に大阪に住む知人から引っ越し費用名目で貸した金を回収するとともに食事をするために大阪へ向かったと供述しているところ,被告人が犯行が失敗したとの連絡を受けた後にもそのまま大阪に向かっていることなどからすれば,被告人の弁解を排斥することはできない。むしろ,検察官が主張するように,被告人が強取金を受け取るために大阪へ向かっていたとするならば,本件犯行が失敗したとの連絡を受けてもなお大阪へ向かう理由はないし,GはCよりも先に被告人に対して連絡をすべき状況であったともいえる。検察官は,失敗に終わったとの連絡を受けたにもかかわらず大阪へ行ったのは,本当に失敗したのか確認するなど情報を得る目的や,被害者であると誤解されて警察の下にいたDの身柄引受人となる可能性も検討したと考えられると主張する。しかし,そのようなことをすれば,かえって自身の関与が疑われる状況になりかねないのであって,犯行の指示者であり強取金を受け取る役割を担っていた者の行動として合理的でない。
したがって,この点に関する検察官の主張は採用できない。
6
⑥について
検察官は,被告人が,事件後にE及びFを匿うなど,本件事件関係者を支援したことは,被告人が本件犯行に関与していたことを推認させると主張する。しかしながら,これはあくまで犯行後の事情であり,弟分的な立場にあるGの求めを受けてやむなく引き受けたにすぎないとの見方が可能であって,被告人が犯行に関与していなかったとしても,全く不自然ではない。
したがって,この点に関する検察官の主張もまた採用できない。

7
結論
以上のとおりであって,検察官が共謀の存在を推認させる根拠として主張する各点は,その推認力がないか,あるとしても弱いものであって,それらを総合しても,依然として,C1トップ的犯行である可能性は否定できず,被告人がGに対して本件の換金情報を提供し犯行を指示したと認めるには合理的な疑いが残る。
したがって,本件については犯罪の証明がないことに帰するので,刑事訴訟法336条により被告人に対し無罪の言渡しをすることとした次第である。よって,主文のとおり判決する。
(求刑

懲役15年

平成31年2月4日
大阪地方裁判所第9刑事部

裁判長裁判官

渡部市郎
裁判官

辻󠄀

井由雅
裁判官

渡邉真

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