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損害賠償請求事件
事件番号平成29(受)1492
事件名損害賠償請求事件
裁判年月日平成31年3月18日
法廷名最高裁判所第一小法廷
裁判種別判決
結果破棄自判
原審裁判所名名古屋高等裁判所
原審事件番号平成27(ネ)974
原審裁判年月日平成29年5月25日
判示事項死刑確定者において許可を受けずにした吸取紙への書き込み等の行為が遵守事項に違反するとして拘置所長等がした指導,懲罰等の措置が,国家賠償法1条1項の適用上違法であるとはいえないとされた事例
裁判日:西暦2019-03-18
情報公開日2019-03-18 16:00:04
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平成29年(受)第1492号損害賠償請求事件
平成31年3月18日第一小法廷判決

主文
原判決中上告人敗訴部分を破棄する
前項の部分につき,被上告人の控訴を棄却する。
控訴費用及び上告費用は被上告人の負担とする。
理由
上告代理人舘内比佐志ほかの上告受理申立て理由について
1
本件は,死刑確定者として拘置所に収容されている被上告人が,拘置所長が
定めた遵守事項に違反したことを理由に同所長等から受けた指導,懲罰等の措置が違法であると主張して,上告人に対し,国家賠償法1条1項に基づき,慰謝料等の支払を求める事案である。
2
(1)

原審の適法に確定した事実関係の概要は,次のとおりである。
被上告人は,平成18年▲月に死刑判決が確定したことにより,死刑確定
者として名古屋拘置所に収容されている者である。
(2)

名古屋拘置所長(以下所長という。)は,平成19年6月1日付け
で,刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律(以下刑事収容施設法という。)74条1項に基づき,名古屋拘置所において被収容者が遵守すべき事項(以下本件遵守事項という。)を定め,以後,これを被収容者の居室に備え付けている。
本件遵守事項は,20項において

(物品不正製作等)許可なく物品(金銭を含む。以下同じ。)を製作し,加工し,所持し,隠匿し,壊し,若しくは投棄し,又はこれらの行為を企ててはならない。

と,26項において

(不正書込)便せん,ノートその他認書を許可された用紙以外の物に許可なく書込みをしてはならない。

と,それぞれ定めている。(3)ア
名古屋拘置所の職員(以下,単に職員という。)は,平成26年3
月31日,被上告人の居室において,便箋つづりに添付された吸取紙に,被上告人により許可なく書き込みがされているのを発見したことから,被上告人に対し,当該書き込みは本件遵守事項26項に違反するとして,書き込みが容認されているノート等にその内容を書き写した上で当該吸取紙を廃棄するよう指導した。その後,被上告人は,当該吸取紙を廃棄した。

職員は,平成26年4月14日,被上告人の居室において,未使用の封筒
が,被上告人により許可なく半分に切断されて二つの袋状とされ,切手の保管に用いられているのを発見したことから,その後数回にわたり,被上告人に対し,当該封筒の切断は本件遵守事項20項に違反するとして,当該封筒を廃棄又は提出するよう指導した。被上告人がこれに応じなかったことから,所長は,同項等に違反した疑いで被上告人に対する調査を行った上,同年5月30日,被上告人に対し,上記違反を理由に戒告の懲罰を科するとともに,当該封筒を国庫に帰属させる処分をした。

職員は,平成27年4月23日,被上告人の居室において,便箋つづりの台
紙に,被上告人により許可なく書き込みがされているのを発見したことから,被上告人に対し,当該書き込みは本件遵守事項26項に違反するとして,書き込みが容認されているノート等にその内容を書き写した上で当該台紙を廃棄するよう指導した。被上告人がこれに応じなかったことから,所長は,同項に違反した疑いで被上告人に対する調査を行った上,同年5月19日,被上告人に対し,上記違反を理由に閉居5日の懲罰を科するとともに,当該台紙を国庫に帰属させる処分をした。3
原審は,上記事実関係の下において,要旨次のとおり判断して,被上告人の
請求のうち前記2(3)アからウまでの所長又は職員(以下所長等という。)の指導,懲罰等の措置の違法を理由とする各請求を一部認容した。
刑事収容施設法74条2項は,同条1項にいう遵守事項として定める事項を列挙しているところ,物品の加工や書き込みに関しては,同条2項8号において,不正と評価し得る行為の禁止のみを容認していることが明らかである。そうすると,同項に基づいて定められた本件遵守事項20項及び26項についても,その文言にかかわらず,不正と評価し得る行為のみを禁止しているものと解釈すべきである。そして,被収容者による物品の加工や書き込みが,一般社会においても通常行われる態様のものであり,不正連絡,不正情報収集その他不正の目的につながるおそれがないことが明らかであるような場合においてまで,これを一律に禁止することは,同条2項に反し,国家賠償法上も違法と解すべきである。
被上告人がした,便箋つづりに添付された吸取紙に書き込みをする行為(前記2(3)ア),封筒を半分に切断する行為(同イ)及び便箋つづりの台紙に書き込みをする行為(同ウ。以下,これらの行為を併せて本件各行為という。)は,いずれも,一般社会においても通常行われる態様のものであって,不正連絡又は不正情報収集につながるおそれがないものと認められるから,本件各行為について所長等が被上告人に対してした指導,懲罰等の措置は,国家賠償法上違法というべきである。
4
しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次
のとおりである。
(1)

刑事施設の規律及び秩序は,適正に維持されなければならず(刑事収容施
設法73条1項),そのため,刑事施設の長は,被収容者が遵守すべき事項(遵守事項)を定めるものとされている(同法74条1項)。そして,遵守事項は,被収容者としての地位に応じ,同条2項各号に掲げる事項を具体的に定めるものとされているところ(同項柱書き),同項各号は遵守事項の策定の基準となる概括的な事項を列挙するにとどまることからすれば,これらの事項を具体的にどのように定めるかについては,それが刑事施設の規律及び秩序を適正に維持するため必要な限度を超えるものでない限り(同法73条1項,2項参照),当該刑事施設内の実情に通じた刑事施設の長の合理的な裁量に委ねられているというべきである。(2)

刑事収容施設法74条2項8号は,遵守事項に定める事項の一つとして,

金品について,不正な使用,所持,授受その他の行為をしてはならないこと。

を掲げているところ,ここにいう不正とは,刑事施設の規律及び秩序を害するおそれがあるか否かという観点から判断すべきものと解される。そして,本件遵守事項20項は,許可なく物品の加工等をしてはならない旨を,同26項は,便箋等以外の物に許可なく書き込みをしてはならない旨を,それぞれ定めているところ,これらは,同号に掲げる金品の不正な使用等の禁止のための規制を具体的に定めたものであり,一定の行為について,所長による事前かつ個別の許可を受けない限り,当該行為をしてはならないものとし,その許可に際して,所長において上記の観点から被収容者がしようとする行為が不正なものか否かを判断することとする趣旨のものと解される。
被収容者による物品の加工等や便箋等以外の物への書き込みは,一般に,不正連絡その他の刑事施設の規律及び秩序を害する行為に用いられる可能性がある行為といえるところ,その性質上,事後的に不正と認められるもののみを規制することとするのでは,その実効性を確保することは困難であると考えられる。他方,上記の加工等や書き込みを許可の対象とすることにより,刑事施設の長において,当該行為が不正なものか否かを事前かつ個別に判断して,刑事施設の規律及び秩序を害するおそれがない場合に限り許容するものとすることができ,被収容者の処遇に当たる刑事施設の職員においても,その長の許可の有無という明確な基準により,被収容者の行為が規制の対象となるか否かを判断することができる。また,これらの行為は,被収容者において事前に許可を求めることが困難な性質のものではない。以上のことは,被収容者が死刑確定者であるとしても異なるものではない。そうすると,本件遵守事項20項及び26項は,死刑確定者を対象とする場合を含めて,刑事収容施設法74条2項8号に掲げる金品の不正な使用等の禁止のための規制として,刑事施設の規律及び秩序を適正に維持するため必要かつ合理的な範囲にとどまるものということができるから,所長の裁量の範囲内で定められた適法なものというべきである。
(3)

前記事実関係によれば,本件各行為は,いずれも遵守事項を遵守しなかっ
たものとして,懲罰を科せられるべき行為(刑事収容施設法150条1項)に該当する。そして,これを前提に所長等が被上告人に対してした指導,懲罰等の措置に不合理な点があったということはできない。
したがって,所長等が,本件各行為が本件遵守事項に違反するとして,被上告人に対してした指導,懲罰等の措置は,国家賠償法1条1項の適用上違法であるとはいえない。
5
これと異なる原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違
反がある。論旨は以上と同旨をいうものとして理由があり,原判決中上告人敗訴部分は破棄を免れない。そして,以上に説示したところによれば,本件各行為に係る所長等の指導,懲罰等の措置の違法を理由とする被上告人の各請求は理由がなく,これらをいずれも棄却した第1審判決は正当であるから,上記部分につき被上告人の控訴を棄却すべきである。
よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官
山口


小池

裁判官


裁判官

池上政幸

深山卓也)
裁判官

木澤克之

裁判官

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