判例検索β > 平成31年(ワ)第7371号
損害賠償請求事件
事件番号平成31(ワ)7371
事件名損害賠償請求事件
裁判年月日平成31年2月26日
法廷名大阪地方裁判所
裁判日:西暦2019-02-26
情報公開日2019-03-29 20:00:11
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主1文
被告会社は,原告ら各自に対し,3694万8301円及びこれに対する平成24年8月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

2
原告らの被告会社に対するその余の請求,
被告Cに対する請求並びに被
告B及び被告Dに対する主位的請求及び予備的請求をいずれも棄却する。
3
訴訟費用は,
原告ら及び被告会社に生じた費用の100分の15並びに
被告B,被告C及び被告Dに生じた費用を原告らの負担とし,原告ら及び被告会社に生じたその余の費用を被告会社の負担とする。

4
この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。
事実及び理由
第1請求
1被告らは,原告ら各自に対し,連帯して,4344万8301円及びこれに対する平成24年8月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。2(被告B及び被告Dに対する予備的請求)
被告B及び被告Dは,原告ら各自に対し,連帯して,4344万8301円及びこれに対する被告Bについては平成27年9月16日から,
被告Dについては
平成28年2月18日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。第2事案の概要等
本件は,被告会社が経営していたホストクラブE(以下本件ホストクラブという。のホストであった亡Aが,

勤務中,
急激かつ大量の飲酒をさせられたた
め,急性アルコール中毒により死亡したとして,亡Aの父母である原告らが,被告らに対し,
亡Aから相続した損害賠償請求権及び遺族固有の損害賠償請求権に基づき,連帯して,それぞれ4344万8301円及びこれに対する亡Aの死亡した日である平成24年8月1日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金(被告B及び被告Dについては,予備的請求として,附帯請求に関し,訴状送達の日の翌日(被告Bについては,平成27年9月16日,被告Dについては平成28年2月18日)から支払済みまで,民法所定の年5分の割合による遅延損害金)の支払を求める事案である。
原告らは,被告会社に対しては,本件ホストクラブの他のホストが亡Aに飲酒を強要した上,同人が酩酊して危険な状態になったにもかかわらず,救護すべき義務を怠ったとして,主位的に使用者責任,予備的に債務不履行(安全配慮義務違反)に基づき,被告Bに対しては,主位的に,被告会社の取締役としての職務である従業員の安全配慮を怠り,そのことにつき悪意又は重過失があったとして,会社法429条1項に基づき,予備的に,故意又は過失により従業員に対する安全配慮義務を怠ったとして,不法行為に基づき,被告Cに対しては,主位的に,被告会社の取締役在任中,
従業員が過度に飲酒しないよう十分な監視体制及び救
護体制を構築する職務上の義務を怠り,そのことにつき悪意又は重過失があったとして,会社法429条1項に基づき,予備的に,従業員に対する安全配慮義務を怠ったとして,不法行為に基づき,被告Dについては,被告会社の取締役として,従業員に対し,過度の飲酒をしないよう十分な監視体制及び救護体制を構築する義務を怠ったとして,不法行為に基づき,それぞれ損害賠償請求をするものである。なお,原告らは,被告Dについて,当初,会社法429条1項の主張に基づく予備的請求をしており,後に同主張は撤回されたが,予備的請求の取下げはしていない。
1前提事実(証拠等の記載がないものは争いがない。



当事者等

亡A
亡Aは,平成3年生まれの男性である。
(甲4)
亡Aは,平成24年8月1日午前9時11分,勤務先である本件ホストクラブから救急搬送され,
搬送先の病院において急性アルコール中毒により死
亡した(以下本件事故という。。


原告ら
原告らは,亡Aの父母であり,他に亡Aの相続人はいない。


被告会社
被告会社は,平成23年5月10日に設立された,飲食店の経営等を目的とする株式会社であり,本件ホストクラブを経営していた。被告会社は,平成27年10月21日,株主総会の決議により解散して同年11月5日その旨の登記をし,
平成28年1月12日に清算を結了して同日その旨の登記を
した。
(甲1,弁論の全趣旨)


被告B
被告Bは,平成23年10月1日,被告会社の取締役及び代表取締役に就任したが,
同社の解散により,
代表清算人に就任した。甲1,

弁論の全趣旨)


被告D
被告Dは,被告会社の設立以来,その取締役を務めていたが,平成25年6月30日に退任し,同年11月12日,その旨の登記をした。
(甲1)


被告C
被告Cは,被告会社の設立以来,その代表取締役を務めていたが,平成23年10月1日に代表取締役を退任するとともに取締役を辞任し,同月21
日,その旨の登記をした。
神戸地方裁判所尼崎支部は,被告Cに対し,平成29年4月13日午後5時に破産手続開始及び同時破産廃止決定をし,
同年6月21日に免責許可決
定をし,
同年7月21日に免責許可決定が確定した。
(丙1及び2,
弁論の全
趣旨)



本件ホストクラブについて

営業形態
本件ホストクラブは,大阪市F区Gに所在していた,客の接待をして客に飲食をさせる営業をする施設であり,本件事故当時には,約10名のホストが在籍していた。
本件ホストクラブは,営業開始当初,午後9時から翌日の午前1時までの第1部,
第1部終了後の日の出から午後9時頃までの第2部からなる2部制により営業をしていた。

ホストの業務
本件ホストクラブにおいては,基本的に,ホスト2名で1組の客を接待していたが,来客数が少ない場合には,客に指名されたホストの周囲を,指名を受けていない他の数名のホストが盛り上げ役として取り囲み,
共に接待す
ることがあった(以下,客の指名を受けずに接待するホストをヘルプという。。

ホストの業務には,客と会話等をして接待することのほか,客の費用で一緒に飲酒することも含まれていた。

2当事者の主張


本件事故発生前におけるホストらによる飲酒強要等の事実の有無
(原告らの主張)

本件ホストクラブの主任であるHは,ホストに対する指導や朝礼などの指示も職務として担当しており,代表,店長に次ぐ3番目の地位にあった。また,Hは,本件ホストクラブにおけるナンバーワンホストであり,被告Bが客として本件ホストクラブを訪れた際に指名を受けていたことなどから,本件ホストクラブにおいて一番の権力者であった。加えて,Hは,客の承諾もなくシャンパン等を提供し,客が承諾せざるを得ない状況に追い込むような営業を頻繁に行っていた。そのため,本件ホストクラブにおいて,Hに逆らったり,Hの行動を止めたりすることのできる人物はいなかった。一方,亡Aは,通っていた通信制高校の学費を稼ぐために本件ホストクラブで働いていたが,酒に弱く,本件ホストクラブにおいても,普段は薄い酒を飲んでいた。
亡Aは,Hにあこがれており,同人の傍にいることが多かったが,Hは,亡Aを嫌っていたことから,職務上の地位等を背景に,日常的に様々ないじめ行為を繰り返していた。

亡Aは,平成24年7月31日,38度の高熱があったため,本件ホストクラブに対し,仕事を休ませてほしい旨申し入れたが,飲酒はしなくて良いから,席にだけ着くよう言われ,やむなく同日も勤務に就いた。
Iは,平成24年8月1日午前3時頃本件ホストクラブを訪れたが,普段から指名していたホストであるJが他の客を接待していたことから,亡AがヘルプとしてIの席に着いた。Iが本件ホストクラブを訪れた時には,四,五組の客が入っており,また月末の最終締日であったことから,売上げを伸ばすため大量の飲酒が行われていた。
亡Aは,Iの席で,同人がキープしていた焼酎のボトルで薄い水割りを作り,
一,
二杯程度飲んだ。
その後,
HとJがIの席に加わったが,
同人らは,
亡Aに対し,

なにちびちび飲んでんねん。もっと飲めや。,

3人で飲み比べをしよう。

などと申し向けて,焼酎やテキーラゴールドの一気飲みを強制し,亡Aが,もう飲めないと述べて拒否したにもかかわらず,飲酒を強制し続けた。さらに,Jは,亡Aが客席でおう吐したことに逆上し,暴行を加えた。その後も,H及びJは,顔色が悪くなっていた亡Aに対し飲酒を強制し,亡Aがこれを拒むと暴行を加えた。
酔いつぶれた亡Aは,客席に一人放置されたが,その後,泡を吹いて倒れているのを発見され,救急車で搬送されたが死亡した。

(被告会社及び被告Bの主張)
原告らの主張事実は否認する。

亡Aは,普段から自ら好んで飲酒をしており,プライベートで飲酒をする際には,ビールのほか,テキーラなどの酒をストレートで飲んでおり,テキーラであればショットグラスで10杯程度は飲み,時には一人で焼酎ボトル1本を空けることもあった。
亡Aは,平成24年8月1日午前0時頃,電話でHに借金を申し込んだ。Hは本件ホストクラブで亡Aを待っていたところ,亡Aはひどく酔った状態で訪れた。Hは,亡Aに対し,借金の申込みを断った上で,酔いがひどいから帰るよう述べた。その後,Hは,本件ホストクラブを離れ,同日午前3時頃再び同店に戻ったが,亡Aは,本件ホストクラブを去らずに,酔った状態でソファーに座っており,金を貸してくれなどといっていた。その後,亡Aは救急車で搬送された。
以上のとおり,亡Aは,本件事故当時,大量の飲酒をした状態で業務と関係なく本件ホストクラブに行ったものであり,またそうでないとしても,勤務中であったにもかかわらず,業務と関係なく,自らの意思で大量の飲酒をしていた可能性もある。

原告らの主張は,Iの供述を前提とするものである。
しかし,Iは,本件事故当日,来店時に四,五組の客が入っていたと述べるものの,
事件当日の午後2時から同4時の間に来店していた客は2組だけ
であったこと,また,本件ホストクラブの関係者の中に本件事故に関して起訴された者はいないことからすれば,同人の供述は信用できない。
(被告Cの主張)
原告らの主張事実は否認する。Iは,被告Cが本件ホストクラブの会長であったと供述するが,事実と異なっており,その供述は全体として信用性を欠く。


被告会社の責任の有無1

使用者責任

(原告らの主張)

Hは,
従業員の生命身体の安全に配慮すべき立場にある本件ホストクラブの主任だったのであるから,客の接待をしているホストに対し,過度の飲酒により生命身体を損なうことがないように指導監督するとともに,ホストが酩酊等により危険な状態に陥った場合には,直ちに救急車を呼ぶ等して,生命身体を保護すべき義務を負っていた。
Hは,本件事故の発生に先立ち,亡Aが体調不良であったことを認識し,又は認識し得たところ,上記各義務に反し,普段から薄い酒しか飲まず,高熱による体調不良の状態であった亡Aに対し,同人が拒否していたにもかかわらず,強制的に焼酎ほぼ1本と,大量のテキーラゴールドを飲ませ,亡Aが酔いつぶれた後も,直ちに救急車を呼ぶなどして病院に連れて行くなどの措置を執ることなく,長時間にわたり放置し,亡Aを死亡させた。したがって,Hは,本件事故の発生につき,不法行為責任を負う。イ
Hの上記不法行為は,本件ホストクラブ内における接客中に行われたものであり,被告会社の職務と密接な関連性があるから,事業の執行につき行われたものといえる。
したがって,被告会社は,本件事故の発生につき,使用者責任を負う。
(被告会社の主張)

原告らの主張は争う。争点⑴において主張したとおり,亡Aは,業務とは関係なく,自らの意思で大量に飲酒したものである。


仮に,Hが亡Aに暴行等を加えて飲酒させていたとしても,被告会社は,下記のとおり被用者の選任及びその事業の監督について相当の注意をしていた。また,本件ホストクラブにおいて,本件事故当日以前にホストらが飲み比べをしたことはなく,私的な金銭貸借等の機会における突発的な暴行を防止することは困難であり,相当の注意をしても本件事故が発生していた。本件ホストクラブにおける主任は,現場のホストの接待及び接客を補助又は指導監督する役割を担っており,自らが全く飲酒をしなくとも指名を受けることができ,
責任を持った行動ができる地位にある者が選ばれると
ころ,Hは,かかる技量を持つものとして選任された。
本件ホストクラブにおいては,ホストが過度の飲酒を行い,接待に支障が発生することを回避するため,ホストに対し,過度の飲酒の誘因となる売上ノルマを設定せず,次のとおり,過度の飲酒を防止する体制を整えるとともに,飲酒の方法や飲酒を回避する方法等を指導又は指示していた。また本件ホストクラブにおいては,店内全体を見渡して,異常事態に対する回避や対処をするために,キャッシャー及び主任が置かれ,そのうちの一人が必ず店内にいるようにしており,過度に飲酒するおそれがあるホストに対しては,キャッシャー又は主任が,席を外させる,休ませる,又は帰宅させるという対応をしていた。さらに,ホストが一人で客に接客することがないように,ホストが指名されていてもヘルプを付けて2名体制で客に接するようにしていた。ヘルプに対しては,指名されたホストを補助するだけでなく,両者でその場を盛り上げるとともに,相互にけん制するように指導しており,指名されたホストが飲酒しすぎるおそれがある場合は,
ヘルプがそれを抑制し,
ヘルプが飲酒しすぎるおそれがある場合は,
指名されたホストがそれを抑制するようにしていた。
加えて,1週間におおむね二,三回開催されるミーティングでは,接客における会話能力を高めることや,過度に飲酒をしないことを,繰り返し指示伝達していた。また,同ミーティングにおいては,ホストに飲酒をするよう求めて絡むおそれのある客のかわし方として,おしぼりを顎の下付近に接触させ,飲むしぐさをしながら,口から顎に伝って流れるようにしておしぼりに酒類を吸収させること等,具体的な方法も指導していた。そして,被告Dは,店の方針や従業員の心得等を記載した従業員マニュアルを作成し,ホストの新規採用時に交付し,同マニュアルに沿って指導教育を行っていた。さらに,各ホストに対して,セレブを迎える店という本件ホストクラブのコンセプトを前提に,ホストが出勤前に飲酒して接待に影響しないようにすることはもちろん,勤務中にあっても過度の飲酒を厳に禁じるだけでなく,
客からの勧めがあっても飲みすぎないようにする方策
を指導,教育し,上記コンセプトに反する行動をし,又はする可能性のある客は退店させていた。


被告会社の責任の有無2

債務不履行責任(安全配慮義務違反)

(原告らの主張)
被告会社は,亡Aを雇用し,本件ホストクラブで勤務させていたのであるから,雇用契約に基づき,従業員であるホストに対し,生命身体に危険を及ぼすような過度の飲酒をしないように指導監督する義務及び酩酊等により危険な状態に陥った場合には,直ちに救急車を呼ぶ等して生命身体を保護すべき義務を負っていた。
Hは,
被告会社の履行補助者として上記義務を履行すべき地位にあったところ,上記⑵記載のとおり,これらの義務を怠り,亡Aを死亡させたものであるから,被告会社は,本件事故の発生につき,安全配慮義務違反による債務不履行責任を負う。
(被告会社の主張)
原告らの主張は争う。被告会社は,上記⑵イ記載の過度の飲酒を防止するための体制の構築やホストに対する指導等を通じて,従業員に対する安全配慮義務を尽くしていた。
また,仮に,本件事故に当たりHが亡Aに飲酒を強制していたとしても,本件ホストクラブにおいて,本件事故が発生する前にそのような飲酒の強制がされたことはなく,本件事故のような突発的な事故を予見することはできなかったから,被告会社には過失がない。


被告Bの責任の有無
(原告らの主張)

会社法429条1項に基づく責任
被告Bは,被告会社の取締役として,従業員の生命身体の安全に配慮すべき職務上の義務を負っていた。
被告Bは,週に1回程度本件ホストクラブを訪れ,Hを指名した上でVIPルームにおいて接待を受け,亡Aに対しても過度の飲酒をさせていたことから,
本件ホストクラブにおいて日常的に過度の飲酒が行われていることを知っており,また,本件ホストクラブに設置されていた防犯カメラによる監視を通じ,
Hが亡Aに対して焼酎ほぼ1本と大量のテキーラゴールドを強制
的に飲ませていることを知り得た。したがって,被告Bは,過度の飲酒や飲酒の強要により亡Aが死亡するおそれがある状況にあったにもかかわらず,悪意又は重過失により,
上記義務を怠り,
亡Aを死亡させたものであるから,
本件事故の発生につき,会社法429条1項に基づく責任を負う。イ
不法行為責任
被告Bは,上記のア記載のとおり,従業員の生命身体の安全に配慮すべき義務を負っていたにもかかわらず,これを怠り,亡Aを死亡させたものであるから,本件事故の発生につき,不法行為責任を負う。

(被告Bの主張)

被告Bの本件ホストクラブへの関与の程度について
被告Bが本件ホストクラブに頻繁に来店し,防犯カメラで店内を監視していたことは否認する。
Iは,被告Bが本件ホストクラブを頻繁に利用し,VIPルームに入って行くところを見ており,被告Bが店内に設置された防犯カメラでホストの勤務態度を確認していた旨供述する。しかし,被告Bは,本件事故発生当時,東京に生活の本拠があり,一,二か月に1度しか本件ホストクラブに行くことはなかった。また,VIPルームへは,本件ホストクラブの店舗と構造上独立している廊下を通り,
一般の客の出入口とは異なるVIP用出入口から
入室するのであって,廊下からVIPルームに出入りする客は本件ホストクラブの客室からは見えないし,
店内は客が互いに見えにくいように薄暗くし
ており,
店内からVIPルームに入る場合であっても他の客からは分かりにくい状況にあったことなどからすれば,被告Bが本件ホストクラブを頻繁に利用しており,
同人がVIPルームに入るのを見た旨の上記供述は信用でき
ない。
被告Bが店内に設置された防犯カメラでホストの勤務態度を確認していたとの点も,従業員からの伝聞にすぎず,店内には,防犯カメラの内容をチェックできる部屋や設備はなかったのであるから,被告Bは,店内の状況を監視することはできなかった。

会社法429条1項に基づく責任
本件ホストクラブにおいて,日常的に過度の飲酒が行われていた事実は存在しない。また,上記⑴記載のとおり,亡AがHにより飲酒を強要された事実は存在せず,仮にかかる事実があったとしても,本件事故は突発的に生じたものである。
上記⑵及び⑶記載の被告会社の主張のとおり,本件ホストクラブにおいては,
従業員に対する安全配慮義務が尽くされていたのであって,
被告Bには,
任務懈怠はなく,悪意も重過失もない。
したがって,被告Bは,会社法429条1項に基づく責任を負わない。

不法行為責任
上記イ記載のとおり,被告Bは,従業員に対する安全配慮義務を尽くしており,亡Aの死亡につき予見可能性がなかったのであるから,被告Bには故意も過失もない。
したがって,被告Bは,不法行為責任を負わない。



被告Cの責任の有無
(原告らの主張)

会社法429条1項に基づく責任
被告Cは,平成23年5月10日から同年10月1日までの間,被告会社の代表取締役だったものであり,取締役在任中,従業員が過度の飲酒により生命身体を損なうことがないよう監視体制を整え,
従業員であるホストが酩
酊状態等危険な状態に陥った場合には,直ちに救急車を呼ぶ等して病院に連れて行き,早期の治療・処置を施すという体制を構築する取締役としての職務上の義務を負っていたところ,悪意又は重大な過失によりかかる義務を怠り,退任後に亡Aの死亡という結果を生じさせたものであるから,本件事故の発生につき,会社法429条1項に基づく責任を負う。

不法行為責任
被告Cは,上記アのとおり,被告会社の取締役在任中に,被告会社の従業員に対する安全配慮義務違反を負っていたところ,故意又は過失により同義務を怠り,退任後に亡Aを死亡させたものであるから,本件事故の発生につき,不法行為責任を負う。

(被告Cの主張)
被告Cは,
平成23年10月1日に被告会社の代表取締役及び取締役を退任
してからは,被告会社とは関わりを有しておらず,取締役に在任中も,経営には関与せず,経営実態を聞かされることもなかった。
また,本件事故は,被告Cの退任から1年近く経過してから発生したものであり,被告Cがこれを防止することは不可能だった。
以上によれば,被告Cは,亡Aの死亡につき何ら責任を負わない。⑹

被告Dの責任の有無
(原告らの主張)
被告Dは,本件事故発生当時,被告会社の取締役であり,本件ホストクラブに常勤し,本件ホストクラブの運営責任者でもあった。被告Dは,本件ホストクラブにおいて,
勤務中のホストが過度の飲酒を行うおそれがあることを十分
に認識していたものであり,ホスト等の従業員に対し,飲酒量の十分な監視体制及びホスト等が酩酊状態等危険な状態に陥った場合の救護体制を構築すべき義務を負っていた。しかるに,被告Dは,故意又は過失によりかかる義務を怠り,
これによって亡Aを死亡させたものであるから,
本件事故の発生につき,
不法行為責任を負う。


損害
(原告らの主張)

亡Aの損害額
治療費

4万3210円

亡AがK病院に救急搬送された際の治療費である。
葬儀費用

150万円

葬儀費用として,社会通念上相当な金額である。
逸失利益

4735万3392円

亡Aは死亡時21歳の男性であり,就労可能年齢67歳までの46年間にわたり得ることができたはずである平成24年賃金センサスによる男性・学歴計・全年齢平均賃金529万6800円の収入を失った。亡Aの逸失利益を,生活費控除率を50パーセントとし,ライプニッツ方式により中間利息を控除すると
(ライプニッツ係数は17.
880)亡Aの逸失

利益は,以下のとおりに算定することができる。
529万6800円×(1-0.5)×17.880
=4735万3392円
死亡慰謝料

2800万円

亡Aに配偶者及び子はいなかったが,将来ある21歳の若者の生命が奪われた慰謝料は2800万円が相当である。
原告らは,
上記亡Aの損害賠償請求権をそれぞれ2分の1ずつ相続した。

原告らの固有の慰謝料

各人につき

500万円

原告らは,まだ若い亡Aの死亡により多大な精神的苦痛を被った。また,被告会社は,本件事故後,原告らに対し謝罪も連絡もせず,ひたすら責任を逃れようとしていたため,原告らは,本件訴訟提起までの間,子を失った悲しみのやり場もなく苦しみ続けていた。以上によれば,原告らの固有の慰謝料としては,各人につき500万円が相当である。
(被告会社,被告B及び被告Cの主張)
原告らの相続分がそれぞれ2分の1である事実を除き,否認ないし不知。第3当裁判所の判断
1認定事実


本件ホストクラブの体制等について

被告Dは,本件ホストクラブに勤務する前からホスト業をしていた者であり,被告Bから開店費用の援助を受けて本件ホストクラブを開業し,本件ホストクラブにおいては,運営に関する最高責任者として代表と呼ばれる立場にあり,売上げの管理をしたり,従業員の雇用及び従業員の給与の支払の決定を行ったりしていた。
被告Bは,被告会社の設立及び本件ホストクラブの開業に当たり,本来であれば,直ちに被告会社の代表取締役に就任すべき立場にあったが,設立から平成23年10月1日までの間,クレジットカード使用の審査のため,被告Cに取締役及び代表取締役に就任してもらい,同期間の後は,被告Bが被告会社の取締役及び代表取締役に就任した。
Lは,本件ホストクラブの店長として,ホスト全員の出退勤の管理や,迷惑客への対応等を行っていた。
Hは,
本件ホストクラブが新規開店した平成23年7月から平成24年秋頃まで,同所でホストとして勤務するとともに,他のホストに対し売上げや勤務態度の指導をする役職である主任を務めていた。
Mは,本件ホストクラブにおいて,ホストとしての勤務は行わず,キャッシャーとして,金銭管理及びホストによる接客体制の管理を行っていた。(乙4ないし6)


本件ホストクラブは,定期的なミーティングを行い,その内容は接客やヘルプの指導が中心であったが,
過度な飲酒をしないよう指導が行われること
もあった。また,接客できないほど過度に飲酒をしているホストには,店に出ないで帰宅するよう注意していた。店長,主任及びキャッシャーは,店内において異常が発生した場合に対応することとなっていた。
(甲5,乙4,
5)


本件ホストクラブの店内の状況について

本件ホストクラブの店内は,南北に細長く伸びており,南側には外部に通ずる出入口ドアが設置され,内部では,ガラス戸等によって,一般の接客フロアと北側奥のVIPルームに仕切られていた。
店内には,一般の接客フロアに2基のトイレが設置されているほか,VIPルームには広めのトイレが1基設置されていた。
南側出入口付近にある事務室には,防犯カメラの操作器が設置されており,店内及び店外に設置された防犯カメラの映像をモニターで確認できるようになっていた。
(甲21の2)


亡Aが死亡した日の翌日である平成24年8月2日にN警察署が実施した検証の際には,店内の厨房から,空ビール瓶18本,テキーラスピリッツの空き瓶1本等が発見された。
接客フロアとVIPルームとの間を仕切るガ
ラス戸の南面及び付近の床上からは,吐物様の物が採取された。本件事故発生当時にVIPルームの真南に設置されていたボックス席のテーブルとその奥のソファーとの間付近の床面には,吐物を拭いたような跡が残っていた。店内の冷蔵庫に掲示されていた予定表には,
7月締日
との表題の下に,

後10時から午前0時,午前0時から午前2時,午前2時から午前4時,午前4時以降及び未定と,5つの時間枠があり,午前2時から午前4時の枠に2組,未定の枠に2組の来店予定の客及びそれぞれの担当者(ホスト)4名の名前,さらに,亡Aが,午前2時から午前4時にかけて来店予定の客を担当するJのヘルプとして席に着く予定であることが記載されていた。(甲2
1の2)


亡Aの本件ホストクラブにおける勤務状況
亡Aは,平成24年4月頃,被告会社に雇用されて本件ホストクラブに勤務するとともに,通信制高校にも在籍していた。亡Aは,被告会社に雇用されてから本件事故までの間,勤務中に指導されたことを頻繁にノートに取り,ホストとしての心構え,仕事の手順,目標等を記入していた。また,知人に対し,電子メールにより,
しばしば勤務中に多量の飲酒をせざるを得なかったことを
明るい調子で報告していた。
(甲5,10)



本件事故の状況

本件ホストクラブは,平成24年7月31日深夜に第1部の営業が開始し,亡A,H,L,Mのほか,J他数名のホストが出勤し,亡Aは,ヘルプとして接客をしていた。そして,同年8月1日午前4時から午前6時まで滞在した1名の客,
午前3時30分から午前7時まで滞在した1名の客については,
会計表が残っており,本件ホストクラブは,少なくとも同日においては,第1部の終了予定時間後もそのまま営業を続けていた。
被告Bは,
本件事故時,
本件ホストクラブにはいなかった。
(甲12の1及び2,
甲16の1及び2,
乙3の1及び2,乙4,6)


亡Aは,平成24年8月1日午前7時30分頃,本件ホストクラブの一般の接客フロアにおいて,VIPルームとの仕切り近くのボックス席前の通路部分で泡を吹いて倒れているところを発見され,呼吸を停止しているようであったことから他のホストが救命措置を執ったが,回復せず,同日午前8時6分に119番通報がされ,同日午前8時10分に救急車が本件ホストクラブに到着した。
亡Aは,平成24年8月1日午前8時34分,L及びHの付添いの下,K病院へ搬送されたが,同日午前9時11分,死亡が確認された。
(甲12の1及び2,甲19,乙4)


亡Aの解剖結果
平成24年8月2日警察の嘱託により行われた亡Aの解剖の結果は,次のと
おりである。
亡Aは,同月1日午前9時11分,アルコールの大量摂取による急性アルコール中毒により死亡し,死亡時の血中アルコール濃度は1ミリリットル当たり3.6ミリグラム(泥酔期のアルコール濃度に相当し,意識が消失し,死亡の危険性がある濃度)であった。
亡Aには,右側頭部の右耳介上端から4.5センチメートルの部分に皮下出血,
同部頭皮下に頭皮下出血,
さらにその下層に右側頭筋内出血が認められた。
また,頭頂部やや左側に頭皮下出血が,左側頭部の左耳介上端から上方に9センチメートルの部分に軽微な頭皮下出血が,右外眼角から外側に3.5センチメートルの部分に皮下出血がそれぞれ認められた。これらの損傷の原因は,鈍体による打撲であり,いずれも死因には直接の影響はないものの,右側頭部の打撲は,
側頭筋内にも出血が及んでいることから,
やや強い打撲と認められた。
(甲21の3)
2本件事故の発生状況


本件ホストクラブに平成24年8月1日午前4時から午後6時の間客とし
て滞在し,亡Aの接待を受けたIの陳述書及び尋問に係る供述(甲20,証人I。以下I供述という。
)並びに労働基準監督官から本件事故に至る状況等
の取調べを受けた際のHの供述(乙4。以下H供述という。
)は,いずれも
本件事故の発生状況に関して具体的に言及したものであるため,上記1で認定した客観的事実を踏まえて,その信用性を検討する。


I供述は,要旨以下のとおりである。
亡Aは,本件ホストクラブに客として来店したIを,VIPルームとの仕切
りの近くに位置する一般の接客フロアのボックス席で接待することとなった。その後,H及びIの当時の交際相手であったJも,Iの接待に加わった。H及びJは,亡Aに対し,

なにチビチビ飲んでんねん。,

飲めよ。」などといって,Iがボトルキープしていた焼酎の水割りを飲ませたほか,Hがバーカウンターから持ってきたテキーラゴールドを何度も一気飲みさせた。H及びJは,亡Aが,これ以上は飲めないといった後も,

もっと飲め。,

お前,酒弱いんか。

などと威圧的な態度で飲酒を求めた。焼酎1本及びテキーラ1本に近い量の酒を飲んだ亡Aは,
ボックス席でおう
吐し,VIPルームのトイレに移動した。亡Aを追って行ったJは,ボックス席に戻った後,Iに対し,

どついたったわ。,

あいつ調子のってる。

などと述べた。
亡AがVIPルームのトイレから戻った後も,亡Aは,H及びJに

客からもらった酒吐くなや。,

飲んだ分出ていってんねんからまだ入るやろ。

などと言われ,酒を飲まされていた。
亡Aは,Iのいたボックス席で寝てしまい,Iは,他のホストに言われて別の客が接待を受けている席に合流した。
その後,Iは,亡Aが泡を吹いて倒れているのを発見し,Jが救命措置を行ったが回復せず,発見から30分ないし1時間後,119番通報がされた。⑶

H供述は,要旨以下のとおりである。
亡Aは,プライベートで飲むとき,一人で焼酎のボトル1本は空けることが
あり,テキーラもストレートでショットグラス10杯くらい飲み,酒には強かった。亡Aは,近所で飲酒してから本件ホストクラブに出勤することがほとんどで,2回に1回は,相当酔った状態で店のドアを蹴って入り,後輩のホストに絡んでいるような状況だった。
亡Aは,平成24年8月1日午前0時頃,Hに借金を要請する内容の電話をかけてから本件ホストクラブに来たが,Hは,亡Aが酔っていたため,家に帰るように言い,Mに対し,亡Aを帰らせるよう指示をした。しかし,Hが同日午前3時頃にミーティングのため本件ホストクラブを訪れたところ,亡Aが酔ってソファーで寝ていたため,亡Aが帰っていないことについてMを叱責した。Hは,
ミーティングの後,
客とバーOで飲んでいたが,
同日午前7時か8時頃,
Mから,亡Aが倒れたので救急車を呼んだとの報告を受け,本件ホストクラブに戻った。


まず,I供述について検討する。
亡Aには,死亡時,右側頭部,頭頂部,左側頭部の合計4か所に鈍体による
打撲があったこと,本件事故の翌日実施された検証において,亡Aが倒れていたボックス席の床面に吐物の痕跡が確認されたこと,その場所からVIPルーム内のトイレまでの動線上にある接客フロアとVIPルームとを仕切るガラス戸の付近に,
吐物様の物が確認されたこと
(認定事実⑵イ及び⑸)これらの

事実は,I供述による亡Aに対する飲酒強要の経過,すなわち,VIPルーム真南で,Iの接客をしていた亡Aが,H及びJから焼酎1本,テキーラ1本近くを飲まされた上,ボックス席でおう吐してVIPルームのトイレに移動したが,亡Aの後を追ってトイレに行ったJがボックス席に戻って来ると,

どついたったわ。

などと暴行を加えた趣旨の発言をし,Hは,Jとともに,戻ってきた亡Aに対してさらに酒を飲ませていたこととおおむね整合している。被告らは,
①Iが本件事故に関して検察官等から取調べを受けたにもかかわらず,H及びJは起訴されなかったのは,I供述に客観的事実と整合しない部分があったためである,②Iは,本件事故当日の来客について,4ないし5組の客がいたという事実に反する供述をしている,③Iは,被告Cが本件ホストクラブの会長であったという事実に反する供述をしていると主張して,I供述の信用性を争っている。
しかし,①について,H及びJが起訴されなかったことが,直ちにI供述の信用性の有無と結びつくものではない。②について,認定事実⑵イによれば,午前2時から4時にかけての来店予約が2組,さらに時間未定の来店予約が2組あったのであるから,
必ずしも,
客観的事実に矛盾しているとはいえないし,
来客数の違いも,供述の信用性を揺るがす程度のものとはいえない。③について,確かに前提事実⑴カとは整合しないものの,本件ホストクラブの会長についての認識の誤りが,本件事故に関する認識,記憶等の誤りにつながるとは解し難い。そして,上記のとおり,亡Aに対する飲酒強要の経過に関するI供述は,客観的事実と整合しており,供述それ自体に矛盾点や不自然な点が見当たらないことにも照らすと,被告らの上記①ないし③の指摘は,亡Aの飲酒強要の経過に関するI供述の信用性を損なうものではなく,また,他に信用性を疑わせる事情もない。


次に,H供述について検討する。
亡Aには,死亡時に合計4か所の鈍体による打撲があったこと,本件事故の
翌日実施された検証において,吐物の痕跡及び吐物様の物が確認されたことは,H供述と矛盾するものではない。
しかし,亡Aが,酒に酔った状態で勤務と関わりなく本件ホストクラブを訪れたということは,亡Aの勤務状況(認定事実⑶)に照らして信用し難い。また,仮にそのような事実があったとしても,本件ホストクラブの営業の妨げになるような状態にあった亡Aに対して,店内に立ち入ることを許した上,おう吐し,口から泡を吹いて倒れているという一見して危険な状態になるまで特段対処することなく寝ている状態で放置していたということは,不自然といわざるを得ない。


以上によれば,I供述は,亡Aに対する飲酒強要の経過の中核部分において
十分な信用性があり,H供述は,客観的事実関係との整合性に欠ける上,内容も不自然であり,信用できないというべきである。
そして,前記認定事実とI供述を総合すると,亡Aは,HやJから多量の飲酒を強要されておう吐した後,暴行を加えられてさらに飲酒させられ,泥酔状態のまま放置された上,急性アルコール中毒により死亡したと認められる。3被告会社の責任の有無1

使用者責任
上記1及び2の認定事実によれば,Hは,本件ホストクラブの主任として,従業員であるホストらが過度に飲酒しないように配慮し,酩酊など危険な状態に陥った場合には,救急車を呼び,早期に適切な措置を執ってその生命身体の安全に配慮すべき注意義務を負っていたにもかかわらず,同義務に反し,本件ホストクラブにおいて,
Jとともに,
業務中の亡Aに暴力も伴いながら飲酒を強要した上,
泥酔状態に陥った亡Aを放置し,その結果,亡Aを急性アルコール中毒により死亡させたものであるから,本件事故の発生につき,不法行為責任を負う。そして,Hは,被告会社の被用者であるところ,上記Hの不法行為は,本件ホストクラブにおいて,客であるIの接待中になされたものであるから,被告会社の事業の執行について生じたものといえる。
本件事故当日,本件ホストクラブでは,Hだけでなく,店長であるLやキャッシャーであるMも仕事をしていたのであり,店内において異常が発生した場合には,これらの者が対応することとなっていたにもかかわらず,Hらによる飲酒の強要に起因する本件事故が起きたことからすると,被告会社が,本件事故当日に被用者の選任及びその事業の監督について相当の注意をしたとか,相当の注意を
しても損害が生ずべきであったとは到底認められず,
被告会社の同旨主張は採用
できない。
よって,被告会社は,本件事故の発生につき,使用者責任を負う。4被告Bの責任の有無


会社法429条1項に基づく責任
被告Bは,被告会社の取締役として,従業員である亡Aの生命身体の安全に配慮すべき職務上の義務を負っていたところ,本件ホストクラブにおいて,従業員であるホストの飲酒も予定されていたことに照らすと,上記安全配慮義務違反の一環として,従業員の過度の飲酒を防止し,従業員の体調に異変が生じた場合に救急車を呼ぶ等の指導を行うべき義務を負っていたというべきである。しかし,それを超えて,取締役の地位にある者が,常時従業員の動向を監視する義務があるとはいえず,本件ホストクラブに監視カメラ及びモニターがあったことによっても,
一般的にかかる義務を負うとはいえない。
また,
Bは,
本件事故時に本件ホストクラブにいなかったのであるから,具体的状況下においても監視義務を負っていたとはいえない。
そして,本件ホストクラブにおいては,定期的にミーティングが開催され,過度な飲酒をしないよう指導を行い,接客ができないほど過度な飲酒をしているときは,
店に出ないで帰宅するよう注意していたこと
(認定事実⑴イ)本件

事故発生以前に,ホスト同士の飲酒の強要があったことはうかがわれないこと,本件ホストクラブにおいては,店長,主任及びキャッシャーは,店内において異常が発生した場合には対応することとなっていたこと(認定事実⑴イ),本
件事故当時,口から泡を吹いて倒れている亡Aを発見した他のホストが救命活動を行い,発見から30分余りで救急要請がされたこと(認定事実⑷イ)からすれば,被告Bについて,上記安全配慮義務に基づく過度の飲酒に対する十分な監視体制及び救護体制の構築,本件ホストクラブの従業員に対する指導等について懈怠があったとは認められず,上記指導を行うべき主任のHが,他のホストともに亡Aへの暴力を伴う飲酒強要に及んだ本件事故は,取締役の業務執行に係る安全配慮義務の範ちゅうを超える突発的な出来事といわざるを得ない。
以上によれば,
被告Bに職務上負っていた安全配慮義務の懈怠があったとは
いえず,会社法429条1項に基づく責任を負うとはいえない。


不法行為責任
また,前記1及び2の事実関係及び上記4⑴で判断したところによれば,被告Bは,本件ホストクラブの従業員に対する関係で,生命身体に対する安全配慮義務を負うというべきであるが,亡Aが通常の業務において想定される程度を超えて,他のホストから過度の飲酒を強要され,本件事故に至ったことを予見し得たとは認められない。
したがって,被告Bには,結果を予見及び回避する義務の違反があったとはいえず,不法行為責任を負うとはいえない。
5被告D及び被告Cの責任の有無
被告Dについては,本件事故当時,被告会社の取締役の立場にあったのであるから,本件ホストクラブの従業員に対する関係で,被告Bと同様の安全配慮義務を負っていたというべきであるが,上記4のとおり,本件事故の発生について予見可能性があったとはいえず,過度の飲酒に対する十分な監視体制及び救護体制の構築,
本件ホストクラブの従業員に対する指導等についての安全配慮義務違反も認められないから,不法行為責任を負うとはいえない(なお,被告Dは,公示送達により呼出しを受けたが,本件口頭弁論期日等に出頭しない。。)
本件事故当時既に被告会社の取締役を退任していた被告Cについても,本件事故当時の取締役である被告B及び被告Dに,過度の飲酒に対する十分な監視体制及び救護体制の構築,
本件ホストクラブの従業員に対する指導等についての安全
配慮義務が認められないのであるから,
取締役在任中における被告Cの職務執行
を問題とする余地はなく,被告Cに,本件事故につながるような取締役としての義務懈怠があったとはいえない。また,本件事故の約10か月前に被告会社の取締役を退任している被告Cに,
本件事故の発生について予見可能性があったとは
いえないし,結果回避義務を負うべき根拠もない。したがって,被告Cには,会社法429条1項に基づく責任及び不法行為責任を負うとはいえない。6亡Aの損害


死亡慰謝料
亡Aの死亡当時の年齢その他本件に現れた一切の事情を考慮すると,亡Aの
死亡による精神的苦痛を慰謝するための金額としては,2300万円が相当である。


逸失利益
亡Aは,死亡当時満21歳の男性であり,満67歳に至るまでの46年間にわたって稼働可能であったところ,この間,平成24年度賃金センサスの産業計・企業規模計・男性・学歴計全年齢平均賃金に基づく年間529万6800円の収入を得ることができたと認められる。また,Aの死亡当時の年齢,家族構成,死亡直前の稼働状況,その他本件に現れた一切の事情を考慮すれば,生活費控除率は50パーセントとするのが相当である。
ライプニッツ方式により中間利息を控除すると(46年のライプニッツ係数は17.880)
,亡Aの死亡による逸失利益は,以下の計算式のとおり,47
35万3392円と認められる。
(計算式)
529万6800円×(1-0.5)×17.880
=4735万3392円


葬儀費用
本件に現れた一切の事情を考慮すると,亡Aの葬儀費用は150万円と認め
るのが相当である。


治療費
証拠
(甲9)
によれば,
本件事故後に搬送されたK病院において処置を受け,

治療費として4万3210円の損害を被ったことが認められる。
損害のまとめ
亡Aが被った上記⑴ないし⑷の損害の合計額は7189万6602円であるところ,原告らは,相続により,その2分の1に当たる3594万8301円の損害賠償請求権をそれぞれ取得した。
7原告らの損害
原告らは,亡Aの両親であるところ,年齢,家族状況等,本件に現れた一切の事情を考慮して,亡Aの死亡による民法711条に基づく遺族ら固有の慰謝料としては,各人につき100万円をもって相当と認める。
8結論
よって,原告らの請求は,被告会社に対し,原告ら各自に対し3694万8301円及びこれに対する不法行為の日である平成24年8月1日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し,被告会社に対するその余の請求,被告Cに対する請求並びに被告B及び被告Dに対する主位的請求及び予備的請求には理由がないから,これをいずれも棄却することとして,主文のとおり判決する。

大阪地方裁判所第12民事部

裁判長裁判官

酒井良介
裁判官

安川秀方
裁判官

前田早織
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