判例検索β > 平成30年(ネ)第70号
事件番号平成30(ネ)70
裁判年月日平成31年3月7日
法廷名福岡高等裁判所  那覇支部
結果棄却
原審裁判所名那覇地方裁判所
原審事件番号平成25(ワ)647
裁判日:西暦2019-03-07
情報公開日2019-04-04 12:00:08
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主文1
本件控訴を棄却する

2
控訴費用は控訴人らの負担とする。

第1

実及び理由
控訴の趣旨

1
原判決を取り消す。

2
主位的請求


被控訴人は,控訴人らに対し,それぞれ原判決別紙謝罪文(ただし,あて
名部分は控訴人らを連記したもの。)を交付し,かつ,同謝罪文を官報に掲載せよ。


被控訴人は,控訴人らに対し,それぞれ1100万円及びこれに対する昭
和20年8月15日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。3
第一次予備的請求


主位的請求⑴に同旨。



被控訴人は,控訴人らに対し,それぞれ1100万円及びこれに対する昭
和22年5月3日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。4
第二次予備的請求


主位的請求⑴に同旨。



被控訴人は,控訴人らに対し,それぞれ1100万円及びこれに対する平
成30年5月17日(控訴状送達の日の翌日)から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2
1
事案の概要(略称は原判決のものを用いる。)
本件は,アジア太平洋戦争中の南洋群島及びフィリピン諸島(南洋群島等)における戦闘行為(南洋戦)等の被害者又はその遺族であるとする控訴人らが,①主位的請求として,被控訴人の被用者であった旧日本軍の南洋戦における戦闘行為等が,一般住民の生命,身体,安全等への危険発生を未然に防止す
べき被控訴人の国民保護義務等に違反する不法行為に該当すると主張し,民法709条,715条及び723条に基づき,②第一次予備的請求として,条理,憲法13条及び14条1項を根拠とする公法上の危険責任,すなわち,旧日本軍の南洋戦における戦闘行為等は,被控訴人が控訴人ら及びその近親者の生命,身体に対する危険を創出又は惹起したものであるから,被控訴人による先行行為であり,その結果発生した控訴人らの損害については被控訴人が回復すべき責任を負うと主張して,同危険責任に基づき,③第二次予備的請求として,国会議員が控訴人らの被害を救済する立法をすることなく漫然と放置し続けた立法不作為は,憲法14条1項,13条,条理及びアメリカ合衆国(米国)に対する外交保護権放棄による救済義務に基づく立法義務に違反する国賠法上の違法な公権力の行使に該当すると主張して,被控訴人に対し,国賠法1条1項に基づき,それぞれ原判決別紙謝罪文(ただし,あて名部分は控訴人らを連記したもの。)を控訴人らに交付し,同謝罪文を官報に掲載することを求めるとともに,損害賠償として,控訴人ら各自に対して慰謝料1000万円及び弁護士費用100万円の合計1100万円並びにこれらに対する①主位的請求については終戦の日である昭和20年8月15日から,②第一次予備的請求については日本国憲法施行の日である昭和22年5月3日から,③第二次予備的請求については第一次事件控訴人らに対しては同事件の訴状送達の日の翌日である平成25年9月7日から,第二次事件控訴人らに対しては同事件の訴状送達の日の翌日である平成26年4月19日から,第三次事件控訴人らに対しては同事件の訴状送達の日の翌日である同年8月23日から,第四次事件控訴人らに対しては同事件の訴状送達の日の翌日である平成27年12月11日から,第五次事件控訴人に対しては同事件の訴状送達の日の翌日である平成28年8月13日から各支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
原審は,控訴人らの請求をいずれも棄却したので,控訴人らが控訴した。な
お,第二次予備的請求の附帯請求について,上記のとおり原審では各訴状送達の日の翌日を起算日としていたが,控訴人らはその後の日である控訴状送達の日の翌日である平成30年5月17日以降について控訴したから,当審の審判の対象はこの限度となる。また,原審口頭弁論終結時には,45名の原告(承継人を含む。)が存在したが,うち5名(承継人を含む。)による控訴はない。
2
前提となる事実等,主要な争点及び主要な争点等に関する当事者の主張は,次のとおり訂正し,後記3のとおり当審における控訴人らの補充的主張を付加するほかは,原判決事実及び理由第2の1から3までのとおりであるからこれを引用する(以下の頁・行数はいずれも原判決のものを指す。)。⑴

7頁10行目平成を昭和に改める。



12頁2行目最下層から同行目

割り振られた。

までを

最上階から4層目及び5層目の船底層の船室が割り振られた。

に改める。


12頁7行目末尾に改行の上,次を加える。

美山丸は,上記魚雷攻撃により,控訴人Aら一般民間人が入室していた5層目の船室部分が浸水し,同室にいた一般民間人285名中7名が負傷し,83名が行方不明となり,船員2名が死亡した。5層目以外の船室部分への被害はなく,上層階の船室に乗船していた軍人201名及び軍属68名全員に死傷者,行方不明者はいなかった。⑷

12頁20行目13の後に・16を,同行目A本人の後に

,当審控訴人A本人をそれぞれ加える。


18頁9行目13の後に・15,当審控訴人B本人を加える。



18頁20行目戦死の後にしたを加え,19頁7行目17を

18に改め,同行目C本人の後に,当審控訴人C本人を加え
る。


20頁10行目生まれたの後にきょうだいである,同行目Dらは,の後に昭和19年6月頃をそれぞれ加える。⑻

20頁25行目終戦後の後にの昭和21年2月頃,同行目末尾に

戦争孤児となった控訴人Dらは,親戚らの家で世話になったが,学校に通うことはできず,農作業や軍雇用の仕事をして生活した。

をそれぞれ加え,21頁10行目9を10に改め,同頁11行目10の後に
,当審控訴人Dを加える。


23頁4行目10を11,当審控訴人Eに改める。


24頁9行目9を10に改め,同行目F本人の後に,当審控訴人F本人を加える。⑾
28頁8行目終戦後の後にの昭和20年頃を加える。


28頁19行目13を14に改める。

3
当審における控訴人らの補充的主張
国家無答責の法理の適用制限(争点⑴関係)
仮に,国賠法附則6項により国賠法施行前の国家の権力的作用について,国家無答責の法理が適用されるとしても,本件のような旧日本軍の残虐非道行為により被った損害についてまで国が責任を免れる結果となるのは,日本国憲法の根底にある正義公平の理念に反する。大審院下においても,国の権力的作用について民法上の不法行為責任を認めた事案もあるように,国家無答責の法理は絶対的なものではなかったし,日本国憲法施行後,国賠法施行前に発生した損害については,民法(不法行為法)を適用すべきであるとの有力な見解が存し,同趣旨の裁判例(東京高等裁判所昭和32年10月26日)も存する。したがって,本件については,条理上,国家無答責の法理の適用が制限される結果,民法(不法行為法)が適用又は類推適用される。


公法上の危険責任について(争点⑵関係)
公法上の危険責任は,立法論ではなく,条理法,憲法13条,14条1項
の法的根拠に基づく法理である。控訴人らが受けた南洋戦被害の特異性を直視すれば,被害の救済を条理に求めることは一層妥当である。憲法13条,14条1項に基づく具体的権利性を肯定する有力な見解も存する。⑶

立法不作為に係る国賠法上の責任について(争点⑶関係)立法不作為にかかる国賠法上の違法について,仮に,最高裁判決(平成2
7年12月16日大法廷判決民集69巻8号2427頁等)がいう,いわゆる職務行為基準説に従ったとしても,被控訴人は,戦闘参加者と非戦闘参加者との間の不合理な差別の解消を長期間にわたって怠っており,この差別が,平等原則に違反することは明白であって,最高裁判例が示す例外的に国賠法上の違法の評価を受ける場合に該当する。援護法は,制定以来,順次適用範囲が拡大されているが,その拡大の推移は,場当たり的で,理由が不明確なものが少なくない上,戦闘参加者該当性の判断基準は極めて不明確である。その結果,南洋戦の一般民間戦争被害者は,援護法により補償される者と比較して,合理的理由なく不当な差別的取り扱いを受けている。
第3

当裁判所の判断

1
当裁判所も,控訴人らの請求はいずれも理由がないからこれを棄却すべきも
のと判断する。その理由は,後記⑴のとおり訂正し,後記⑵のとおり付加するほかは,原判決事実及び理由第3の1から3までのとおりであるから,これを引用する。


原判決の訂正

57頁9行目,すなわちから同頁10行目否かまでを削除す
る。


77頁11行目被告側の行為を旧日本軍の南洋戦における戦闘行為等に改める。


当審における控訴人らの補充的主張に対する判断


国家無答責の法理の適用制限(争点⑴関係)について控訴人らは,仮に,国賠法施行前の国家の権力的作用について国賠法附則6条が適用されるとしても,条理上,国家無答責の法理の適用が制限される結果,民法が適用又は類推適用されると主張するが,独自の見解に基づくものであり,採用することはできない。
仮に,控訴人らの被害にかかる旧日本軍の加害行為について,国家無答責の法理の適用が制限されると解する余地があるとしても,このような大日本帝国憲法下における国家の権力的作用ないし統治権に係る行為について,国に民法上の不法行為責任を生じさせる法的根拠がないことは,引用にかかる原判決第3の1⑶のとおりである。確かに,控訴人らが指摘する明治期の大審院判決の中には,国の権力的作用に関し,国に損害賠償義務を肯定する事案が存するが,遅くとも昭和18年までには,国家の権力的作用ないし統治権に係る行為について,民法の規定の適用を排除し,国の民法上の不法行為責任を否定する一般法理が確立されたという大審院の判決の推移に照らせば,控訴人らが加害行為として主張する昭和18年以降の南洋戦における旧日本軍の戦闘行為等に対して,民法が適用又は類推適用される法的論拠が存在するということはできない。また,控訴人らが指摘する見解や裁判例は,日本国憲法施行後,国賠法施行前の国家の権力的作用について生じた損害について,民法(不法行為法)の規定を適用する余地があることを述べるにとどまっており,大日本帝国憲法下の国家の権力的作用について,国に民法上の不法行為責任を負わせる法的根拠になるとはいえない。
控訴人らが主張するように,大日本帝国憲法下の国家の権力的作用に当たる昭和18年以降の南洋戦における旧日本軍の戦闘行為等により生じた損害について,日本国憲法下において妥当する正義公平の理念や条理を根拠に,国に民法上の不法行為責任があると解することは,結果的
に,日本国憲法及び国賠法の遡及適用を認めるに等しい。このような解釈は,昭和18年当時の確立した判例法理に背理するものであって,国賠法附則6条の規定に明らかに反することとなるから,旧日本軍の加害行為の特異性を考慮したとしてもなお,そのような解釈を採用することはできない。
なお,控訴人らが指摘する最高裁判所昭和25年4月11日第三小法廷判決・集民3号225頁は,警察官である公務員の重大な過失による家屋の破壊行為であったとしても,そのために同行為が,私人と同様の関係に立つ経済的活動としての性質を帯びるものでなく,公権力の行使に関しては,当然に民法の適用はない旨を説示している。同判決は,旧日本軍の戦闘行為等に関する事案そのものではないものの,国家の権力的作用にかかる活動による被害という点から見れば,本件に射程が及ばないということもできない。この点に反する控訴人らの主張は採用することができない。

公法上の危険責任(争点⑵関係)について
控訴人らは,南洋戦の遂行により作出された特別の危険状態は,国の行為(先行行為)に起因するから,その危険状態から生じた重大な被害については,危険状態を支配する国が責任を負うべきであると主張する。しかし,このような大日本帝国憲法下における国家の権力的作用について,国家無答責の法理の適用を否定又は制限して国の責任を認めるべきであるとする控訴人らの主張を採用することができないことは,引用にかかる原判決第3の1及び前記アのとおりであり,第一次予備的主張にかかる控訴人らの上記主張もまた採用することはできない。
加えて,控訴人らの主張する公法上の危険責任なる概念が,控訴人らに対する損害賠償責任等を生じさせる法的根拠となるものと認められないことも,引用にかかる原判決第3の2のとおりである。


立法不作為に係る国賠法上の責任(争点⑶関係)について控訴人らが主張する立法不作為が,国賠法1条1項の規定の適用上違法の評価を受けるものに該当しないことは,その引用にかかる原判決第3の3のとおりである。
原判決第2の1⑸ウからクまでのとおり,援護法による援護の対象になる者が順次拡大されているところ,南洋戦を含む,戦争遂行という国家意思の実現に協力した者に対する補償を拡充していくこと自体不合理であるとはいえず,その結果生じた控訴人らとの差異が不合理な差別であるとはいえない。



以上のとおりであるから,当審におけるその余の控訴人らの種々の主張に
ついて判断するまでもなく,控訴人らの請求はいずれも理由がないといわざるを得ない。
2
よって,控訴人らの請求をいずれも棄却した原判決は正当であり,控訴人ら
の本件控訴は理由がないから棄却することとして,主文のとおり判決する。福岡高等裁判所那覇支部民事部

裁判長裁判官


裁判官

裁判官

保正道本多智子神久谷厚毅
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