判例検索β > 平成30年(わ)第480号
住居侵入、強盗致傷被告事件
事件番号平成30(わ)480
事件名住居侵入,強盗致傷被告事件
裁判年月日平成31年3月8日
法廷名札幌地方裁判所
裁判日:西暦2019-03-08
情報公開日2019-04-08 16:00:17
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主文
被告人を懲役6年4月に処する
未決勾留日数中160日をその刑に算入する。
理由
(罪となるべき事実)
被告人は,A,B,C,D,E,F及びG(少年)と共謀の上,北海道幌泉郡a町内の被害者方に侵入して金品を強奪しようと企て,平成29年11月27日午前2時8分頃,同人方玄関ドアから侵入し,その頃,同人方において,同人(当時74歳)に対し,左足等を持っていたバールで数回殴るなどの暴行を加え,同人の反抗を抑圧して金品を強奪しようとしたが,同人に抵抗されるなどしたためその目的を遂げず,その際,前記暴行により,同人に加療約2週間を要する左大腿挫創等の傷害を負わせた。
(証拠の標目)
(略)
(争点に対する判断)
第1

争点

本件では,実行役が判示の住居侵入強盗致傷に及んだことを前提に,事前謀議のみに関与した被告人は,強盗ではなく窃盗をする認識しかなかったと供述し,弁護人も,被告人には住居侵入窃盗未遂の限度で共同正犯が成立するにとどまると主張している。
第2

本件の事実経過

関係各証拠によれば,以下の事実が認められる。
1
暴力団であるH組組長であった被告人は,同若頭のBや準構成員のC及びD
のほか別の暴力団員であるAらとともに,特殊詐欺を繰り返していた。被告人らは,平成29年11月頃には,それと並行して民家に侵入して金庫等を盗むことも試みるようになっていたが,被告人は,
強の付くことはするなと,強盗にならない

ような方法で犯行をするよう頻繁に言い,人に見つかったら犯行を中止して逃げてくるよう指示していた。
2
同月10日(以下,日の記載は平成29年11月のそれを指す。,被告人,)

B及びCは,Aの父から,北海道幌泉郡a町に住む漁師の家に現金2億円の入った金庫がある旨の情報提供を受けた。被告人らは,これを奪う計画を進めることとし,さほど期間をおかずに,Dのほか実行役としてGらが加わることとなった。3
被告人,A,B,C及びDは,17日未明,札幌市内の被告人方で犯行計画
の話をし,その夜に実行に移すことを決定した。その話の中で,AとBが指示役を,CとDが,A及びBと実行役との連絡の仲介役と金庫の回収役をそれぞれ担うこととされ,分け前が1人当たり1000万円余りになることなども話題となった。また,住人に発見された場合について,Aが,バールでたたけばいい,ロープ等で縛っておけばいいと言い,これにつられてDが殺しちゃえばいいと言ったのに対し,被告人は,それは駄目だと反対しつつ,最悪縛るまでだと言ったことから,そのような方針に決まった。その話の中で,実行役は,侵入や金庫の破壊に用いるバール,人を緊縛する結束バンドとロープを持参することとされた。
同日夜,実行役のG及び高校生2名が車で被害者方へ向かったが,翌18日未明,途中で交通事故を起こしたことなどから,その日の決行は見送られた。4
被告人,A,B,C及びDは,26日夕方,被告人方で犯行計画の話をした。
Aが,現金が月末に船の購入に使われてしまうとして,その夜に決行することを被告人に強く主張していたのに対し,被告人は,Aの強い働きかけに応じかねていたが,最終的には,これを了承した。人に見つかった場合の対処も改めて話題になり,最悪縛るまでとする方針が維持され,役割分担や道具等についても,ロープは不要とされたこと以外は,17日未明に取り決められたとおりとされた。5
実行役のE,F及びGは,26日夜,バールや結束バンド等を持参して被害
者方に向かった。AとB,CとDも札幌市や苫小牧市の待機場所に向かった。27日午前1時30分頃,被害者方の電気がついており,人がいるかもしれない
状況であったため,Bの指示で,実行役は同日午前2時頃まで待つこととされた。その時刻頃になっても状況に変化がなかったが,実行役が決行に意欲的であったこともあって,BとCはこれを了承し,BとD,CとG,EとFの間で携帯電話を通話状態にしたまま,同日午前2時8分頃,F及びGが判示の住居侵入強盗致傷に及んだ。
第3

関係証言の信用性

前記認定事実,特に17日未明及び26日夕方の犯行計画に関する話合いの状況は,主にBやCの各証言によるところ,各証言は以下のとおり信用できる。B及びCの各証言は,前記の話合いの状況について,印象的なAの発言やこれに対する被告人の発言を中心に具体的に述べられている上,本件以前は被告人から強盗にならないようにと注意されていたCらが人を緊縛する以外に用途が想定されていない結束バンドを準備するに至った理由をよく説明するものといえる。また,その話合いの点に限らず,情報提供を受けてから本件犯行に至るまでの経緯につき全般的にもよく一致・整合し,かつ不自然さや違和感の残らない内容となっている。暴力団での上下関係や犯行における役割など立場が異なる両名の証言が相互に一致・整合していることは,基本的には,両名が体験や記憶に基づいて率直に証言していることの表れともいえる。なお,B及びCはいずれも強盗致傷等の犯行を争わずに有罪判決を受け,Bは判決が確定している。Cも,本件犯行のため被告人方を出る際に,被告人から,実行役に無理をさせるなよと声を掛けられたなど,後記のとおりその点の信憑性はともかく,被告人に有利な証言もしている。これらのことからすると,B及びCが,被告人の責任をあえて強調している可能性は低い。以上より,B及びCの各証言は,先の事実経過を認定する上で十分信用できると認められる。
第4
1
被告人の認識等について
前記第2のとおり,被告人は,日頃から強の付くことはするなと配下の
共犯者に強調していたが,17日未明の話合いでは,人に見つかった場合には,バ
ールでたたいて縛ることを主張するAの発言を受け,たたくことには反対しつつも,最悪の場合には縛ることもやむを得ないという発言をし,こういったやり取りを経て,結束バンドやロープを準備することが決定された。また,26日夕方の話合いでも,いち早く決行すべきであると主張するAと被告人の間で似たようなやり取りがあった上で,ロープはともかく結束バンドを持参することとされており,人に見つかった場合には結束バンドで緊縛する方針は変わらなかった。このような道具で人を緊縛すること自体相手の抵抗を封じる暴力である上,その際には,相手の出方に応じて更に強い暴行がなされることも高い確率で見込まれる。被告人は,人に遭遇せずに金庫を盗むのが最善ではあるものの,人に遭遇した場合は,次善の方法として,実行役がそういった暴力を用いる展開となり得ることも想定し,その上で本件犯行の計画を了承したと認められる。
そうすると,被告人は,人に見つかるなどした実行役が,強盗に当たるような行為に及ぶ現実的可能性もあることを認識し,共犯者との間でその旨の意思連絡があったと認められる。
2
なお,Cは,27日未明に被告人方を出発する際,被告人から,Aはがつが
つやると言っているが,実行役に無理をさせるなよと声を掛けられ,また,犯行直前には,Gに,人に見つかったら逃げるよう指示した上で決行を了承した旨証言している。しかし,被告人は,Cの上位者で指示役のBには,Cに対する声掛けのような指示をしなかったと認められるし,Gは,決行了承に当たって,Cから,見つかったら逃げるというような指示等を受けていない旨証言している。これらは,被告人のCに対する声掛けがおよそ暴力を使うことを制止する趣旨の真剣な指示であったとすると,説明がつかない事情である。また,そもそも通話状態の携帯電話を通じ,現場の音声がそのまま指示役に伝わる状況下で,Gが,被害者をバールで殴打するという,指示に反する行動を躊躇なくとったとも考え難い。そうすると,被告人がCに前記のような声掛けをしたというのは,不自然である。仮にそのような声掛けがあったとしても,実行役が暴力を用いる可能性やその想定を打ち消すよう
なものではなかったと認められ,先の認定を妨げるものではない。第5
1
被告人供述について
被告人は,
強の付くことはするな,人がいたら逃げてこいと常々言って

おり,その方針で金庫の盗みをさせていたので,本件でも,BやCが実行役にその旨指示して盗みをするものと考えており,実行役が人をたたくことは全く想定していなかったと供述している。また,被告人方では,真剣に犯行計画の話をしていたわけではなく,特殊詐欺の話題や冗談などが多くを占め,耳に入ってこない話もあったなどと述べ,B及びCの各証言にあるような犯行計画に関するやり取りがあったかどうかについて,かなり曖昧な述べ方をしたり否定したりしている。しかし,その供述は,犯行計画についてのやり取りに関し,B及びCの各証言と矛盾することはもちろん,細かく真剣に話す雰囲気ではなかったことはBやCも認めているとはいえ,人に見つかった場合の対処やそれに関係する道具といった重要な事柄につき,最上位者として,実行するかどうかを最終的に判断する立場の被告人がこれを耳にすることがなかったというのは,余りに不自然である。実際被告人は,共犯者の1人がふざけて殺しちゃえばいいと言ったことに対しては即座にとがめたと自認している。本件に先立つ他の民家での侵入盗に際しては,下見結果等を報告させ詳細な情報を基に,人に出くわさないかを見極め,実行するかどうかを判断し,時には中止を命じていたという被告人自身の供述と対比してみても,明らかに不自然である。
そうすると,被告人の供述は,犯行計画のやり取りに関する重要な部分において信用できず,先の認定に影響を与えるようなものではない。
2
なお,弁護人は,被告人は最悪縛るしかないとは言っておらず,B及びCが,
冗談話での被告人の紛らわしい発言を誤解した可能性があると主張する。しかし,その主張の前提となる被告人供述が信用できないことは前記のとおりであるし,弁護人の主張によると,決行に向けてある程度具体的なやり取りがされている状況で,被告人の何らかの発言が,その場に居合わせた複数の者らによって,同じように誤
解され,2回にわたる同様の話合いの機会等を通じて是正されることがなかったということとなるが,そのような事態はおよそ想定し難い。
第6

結論

以上より,被告人には住居侵入強盗致傷の共同正犯が成立すると認定した。(法令の適用)
被告人の判示行為のうち,住居侵入の点は刑法60条,130条前段に,強盗致傷の点は同法60条,240条前段にそれぞれ該当するところ,この住居侵入強盗致傷との間には手段結果の関係があるので,同法54条1項後段,10条により1罪として重い強盗致傷罪の刑で処断することとし,所定刑中有期懲役刑を選択し,その所定刑期の範囲内で被告人を懲役6年4月に処し,同法21条を適用して未決勾留日数中160日をその刑に算入し,訴訟費用は,刑事訴訟法181条1項ただし書を適用して被告人に負担させないこととする。
(量刑の理由)
犯行の態様は,深夜に2名の実行役が被害者宅に押し入って,同人の身体をバールで複数回殴るという危険かつ悪質なものである。金品は奪えず,被害者の傷害も同種事案と比較すると軽いものにとどまったが,心理的な苦痛も軽視できない。場当たり的な面もあったとはいえ,実行役や道具を手配するなど計画性が認められ,多数の暴力団組員等が役割を分担した組織的犯行といえる。
その中で被告人は,実行の準備や実行役への指示連絡を主導したわけではないが,その了承なくして配下の共犯者が計画を進めることができないという組長の立場にあって,計画の内容や実行するか否かについて最終的な判断をしており,重要な役割を担ったといえる。また,配下の共犯者と同等とはいえ,多額の分け前を得ようとし,さらに,自身に捜査の手が及ぶのを防ぐ手立ても講じていた。ただし,被告人は,手荒な犯行に反対の姿勢を示していたものであり,先に検討したような犯行計画となったのは,情報提供側の人物でもあった共犯者が,激しい暴行を振るうことを強く主張したことによる部分が大きかったといえる。もとより被告人は,判示
のように激しい暴行がされることを確定的,積極的に想定していたわけではなかったと認められる。
これらの事情を踏まえて検討すると,被告人が負うべき刑事責任は,重いものではあるが,同種事案の中で最も重い部類に属するとはいえない。そこで,以上のほか,不合理な弁解をして十分な反省が見られない一方,被害者に15万円を支払って示談が成立し許しを得たことなども併せて考慮し,被告人に対しては,主文の刑に処するのが相当であると判断した。
(求刑・懲役8年

弁護人の科刑意見・懲役1年6月)

平成31年3月11日
札幌地方裁判所刑事第3部

裁判長裁判官

駒田秀和
裁判官

坂田正史
裁判官

先﨑春奈
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