判例検索β > 平成30年(う)第635号
電子計算機使用詐欺、窃盗、殺人、死体損壊、死体遺棄、強盗殺人、有印私文書偽造・同行使、電磁的公正証書原本不実記録・同供用、詐欺
事件番号平成30(う)635
事件名電子計算機使用詐欺,窃盗,殺人,死体損壊,死体遺棄,強盗殺人,有印私文書偽造・同行使,電磁的公正証書原本不実記録・同供用,詐欺
裁判年月日平成31年3月15日
法廷名東京高等裁判所
結果棄却
原審裁判所名静岡地方裁判所
原審事件番号平成28(わ)329
裁判日:西暦2019-03-15
情報公開日2019-04-25 18:00:21
戻る / PDF版
平成31年3月15日宣告
平成30

東京高等裁判所第5刑事部判決

635号電子計算機使用詐欺窃盗殺人死体損壊,死体

遺棄,強盗殺人,有印私文書偽造・同行使,電磁的公正証書原本不実記録・同供用,詐欺被告事件
主文
本件控訴を棄却する

第1


本件事案の概要

浜松市内のB方マンション居室(乙マンション1103号室)において,B(当時62歳)を,殺意をもって手段不明の方法により殺害した上,B名義の普通預金口座のキャッシュカード1枚,印鑑1本,自動車運転免許証1枚等27点を強取した強盗殺人(原判示第1)
までの間,同市内又はその周辺において,Bの死体を手段不詳の方法により
焼損し,その頃,同死体を浜名湖又はその周辺に投棄した死体損壊死体遺棄(原判示第2)

同年2月1日頃,Bの印を押捺するなどしてB所有の

軽四輪自動車に係る自動車検査証記入申請を被告人に依頼する旨のB名義の申請依頼書1通を偽造し,同日,軽自動車検査協会静岡事務所浜松支所において,法令により公務に従事する者とみなされる同協会職員に対し,真正に成立したもののように装って提出して行使し,同車両の現在の所有者が被告人である旨の内容虚偽の自動車検査証記入申請を行い,情を知らない同協会職員をして,電磁的記録である軽自動車検査ファイルにその旨不実の記録をさせ,
これを公正証書の原本としての用に供させた有印私文書偽造同行使,・
電磁的公正証書原本不実記録・同供用(原判示第3)

Bの

実印を押捺するなどして,B所有の乙マンション1103号室に関する所有権移転登記申請を被告人に委任する旨のB名義の委任状1通を偽造し,同月5日,静岡地方法務局浜松支局において同局登記官にこれを真正に成立したもののように装って提出して行使し,同居室の所有権が売買を原因としてBから被告人に移転した旨の内容虚偽の登記申請をし,情を知らない登記官をして,不動産登記簿の原本として用いられる電磁的記録にその旨不実の記録をさせ,これを公正証書の原本としての用に供させた有印私文書偽造・同行使,電磁的公正証書原本不実記録・同供用(原判示第4),
Bの印を押捺するなどしてBから被告人に対し自動二輪車2台を譲渡した旨のB名義の譲渡証明書2通を偽造し,同日,浜松自動車検査登録事務所において,同事務所自動車登録官に対し,これらを真正に成立したもののよ
うに装って提出して行使し,Bから被告人に上記車両2台の所有権が移転した旨の内容虚偽の自動車検査証記入申請を行い,情を知らない自動車登録官をして,各申請に基づき,電磁的記録である自動車登録ファイルにそれぞれその旨不実の記録をさせた上,これらを公正証書の原本としての用に供させた有印私文書偽造・同行使,電磁的公正証書原本不実記録・同供用(原判示
第5)

同月8日から翌9日までの間,前後2回にわたり,現金自動預払

機に,不正に入手したB名義の信用金庫キャッシュカードを挿入して作動させた上,同信用金庫の預金残高等の事務処理に使用する電子計算機に対し,B名義の上記信用金庫の口座から被告人が不正に管理するB名義の銀行口座に合計70万円を振込送金したとする虚偽の情報を与え,同計算機を介して上記銀行の電子計算機に接続されている磁気ディスクに記録された同口座の預金残高を合計70万円増加させた電子計算機使用詐欺(原判示第6)同月9日,コンビニエンスストアの現金自動預払機に,B名義の上記銀行のキャッシュカードを挿入して作動させ,現金20万円を引き出した窃盗(原判示第7)

自動預払機にB名義の信用金庫のキャッシュカードを挿入して作動させ,同信用金庫の電子計算機に対し,B名義の信用金庫口座からB名義の上記銀行口座に合計384万円を振込送金したとする虚偽の情報を与え,同電子計算機を介して同銀行の電子計算機に接続されている磁気ディスクに記録されていた預金残高を合計384万円増加させた電子計算機使用詐欺
(原判示第8)

Bが死亡しているのに,同年3月26日頃,Bの印を押捺するなどしてB名義の年金受取口座を変更する旨の年金受給者受取機関変更届1通を偽造し,年金事務所宛に郵送し,回送された日本年金機構静岡事務センター職員に対して行使するとともに,同職員らにBにより年金受取口座の変更届が出された旨誤信させてそれに伴う必要な手続を行わせ,同年6月15日,被告人が不正に管理するB名義の預金口座に16万9730円を振込送金させた有印
私文書偽造・同行使,詐欺(原判示第9)

同年7月5日頃,静岡県磐田

市内のマンション居室(丙マンション105号室)において,C(当時32歳)に対し,殺意をもって有尖の凶器でその右側腹部を2回にわたり刺すなどし,同人を右側腹部刺切損傷による肝臓損傷及び血気胸により死亡させて殺害した殺人(原判示第10)
その頃から同月8日までの間,丙マンシ

ョン105号室でCの死体の頭部,両足の付け根部分を切断し,これらを浜町市内又はその周辺から浜名湖又はその周辺に投棄した死体損壊死体遺棄(原判示第11)の事案である。
第2

控訴趣意

弁護人丹羽聡子の控訴趣意は,原審裁判長の措置についての訴訟手続の法令違反及び原判示第1ないし第11についての事実誤認の主張であり,これに対する検察官の答弁は検察官岩﨑吉明作成の答弁書のとおりである。第3

訴訟手続の法令違反の論旨について

所論は,原審公判期日の被告人質問において,検察官が被告人に証拠を示すことを許可した原審裁判長の措置には黙秘権侵害の違法があるという。すなわち,原審第10回公判期日において被告人質問が実施された際,それまでの質問に対して,終始,黙秘権を行使していた被告人に対し,検察官は,記憶喚起を理由として証拠(原審甲655の資料3から6まで)を示すことの許可を原審裁判長に求めたところ,弁護人がこれに反対する意見を述べ,被告人が黙秘権を行使する旨明言したにもかかわらず,原審裁判長は許可した。このように記憶喚起をする必要性が明らかになっておらず,黙秘権を行使する旨を明言している被告人に対し,検察官において証拠を示すことを許可した原審裁判長の上記措置には,憲法上の黙秘権の行使を侵害する訴訟手続の法令違反がある,というのである。
しかしながら,証拠を示して質問することが,被告人の意思に反して供述を強いるものとはいえないから,原審裁判長の上記措置は,その性質上,黙
秘権を侵害するものとはいえず,所論は採用できない。
もっとも,刑訴規則199条の11第1項は

訴訟関係人は,証人の記憶が明らかでない事項についてその記憶を喚起するため必要があるときは,裁判長の許可を受けて,書面(供述を録取した書面を除く。)又は物を示して尋問することができる。

と定め,これは,被告人質問においても準用され
ると解されるところ,それまでの供述態度等からみても,被告人は,記憶が喚起できずに質問に答えられないのではなく,記憶の有無にかかわらず黙秘権を行使する意思を表明していたものと認められるから,記憶を喚起するために必要があったとはいえず,原審裁判長の上記措置は同規則の適用を誤ったものといえる。しかし,上記証拠が示された後も,被告人は黙秘権を行使
し続けていたのであって,この誤りは判決に影響を及ぼさない(なお,本件では,被告人が黙秘権を行使し続ける態度が明らかであったのであるから,刑訴法311条2項の趣旨からしても,相当の時間にわたり検察官に質問を続行させたことは適切であったとはいい難い。)。
論旨は理由がない。

第4
1
事実誤認の論旨について
原判決の概要
原判決は,概ね,以下のとおり判示して,原判示第1から第9までの各事実を認めた(以下の日付は,特に明示しない限り,平成28年のそれを示す。)。

Bは,1月28日午後11時24分,外出先から自宅のある乙マンシ
ョンに戻ったが,それ以降,防犯カメラの画像上,同マンションに出入りする姿は確認されず,上記時点が最終生存確認日時である。Bの遺骨は,8月31日,浜名湖湖岸で発見された。

被告人は,以下のとおり,B所有の財産の移転に関与している。

すなわち,①2月1日の軽四輪自動車の登録名義移転手続,②2月5日の乙マンション1103号室の所有者を被告人とする所有権移転登記手続申請,③2月8日の自動二輪車2台の所有権を被告人に変更する旨の変更申請手続,④H信用金庫の普通預金口座から被告人が管理するB名義のI銀行の普通預金口座に対する送金及び同口座からの出金,⑤2月12日付けのB名義でなされたJ銀行の普通預金口座開設の申込みや3月26日頃のBの老齢年金の
受取金融機関を変更する書類の提出等がなされている。上記①から③まで及び⑤の手続には,7月14日の被告人の実家の捜索時に発見されたBの印鑑5本(うち1本はBの実印)等が用いられており,それぞれ申請書類等から被告人の指紋が検出される一方,Bの指紋は検出されていない。④の手続では,被告人の実家のパソコンからインターネット経由で口座開設申込みがな
され,この口座のキャッシュカードは被告人が受領するなどしている。Bは,家族や知人に対して,上記のような自己の財産を手放す意向を示したことはなく,被告人とBは,平成25年3月のBの退職時まで勤務先での同僚であったものの,
その後に両者に接点があったことはうかがわれない。
被告人が上記捜索時点で所持していたBの所持品には貴重品や日常生活上常
時必要な物が含まれ,被告人が任意にBから預かったとは考え難い。また,その財産処分を内容とする領収書,売買契約書等も発見されているが,これらの売買代金合計950万円がBの口座に入金された形跡はない上,被告人にこれらの原資となる資産があったこともうかがわれない。

被告人は,平成26年2月頃から,乙マンション1103号室の集合
ポストの様子やBのH信用金庫の預金口座の暗証番号などを自己のメールアドレス宛に送付するなどし,平成27年12月15日,乙マンション1103号室の建物登記情報を同様に送付し,1月26日には,登記申請書の様式等を同様に送付したほか,登記原因証明情報及び登記申請に関する委任状の書式等をパソコンでダウンロードするなどした。

最終生存確認日時前後の被告人の行動
被告人は,Bが外出中であった1月25日午後7時8分頃,乙マンシ
ョン1103号の郵便ポストから透明ビニール袋様のものを持ち出し,K店において,鍵束に鍵が9本取り付けられている写真などを撮影し,同日午後8時16分頃,何かを集合ポストの外側から投函しているところ,同店内の鍵店で4本の鍵の販売履歴があったことなどからすれば,被告人は,Bの承諾なく,乙マンション1103号室の郵便ポストから同室の鍵を持ち去り,合鍵を作製した後,同室の郵便ポストに戻した可能性が高い。
被告人は,1月27日午前1時52分頃,台車2台が積載された軽四輪貨物自動車
(スバルサンバー)
に乗り,
乙マンションの地下駐車場に入り,
鍵を使って乙マンション建物内に出入りしたり,台車を押して地下駐車場内
をうろついたりした。
被告人は,1月29日午前2時4分頃,白色手袋,上下つなぎの恰好で,白いビニール袋を持ち,乙マンション駐車場前の通路に入り,周囲をうかがいながらうろつくなどした後,鍵で通用口ドアを開けて,同日午前2時10分,同建物内部に入った。その後,被告人は,同日午前2時24分,上
記通用口から左手に白いビニール袋を持って出てきて,駐車場前の通路に現れており,このような行動や被告人が合鍵を持っていたことからすれば,被告人はBの最終生存確認日時の前後に乙マンション1103号室に立ち入ることが可能であった。
被告人は,1月30日午前2時33分頃,段ボール箱などを乗せた台車を押して,乙マンションのエントランスに現れ,同建物内部に入り,その後,同日午前3時30分頃,台車に白色ビニール袋様のもので包まれた段ボール様のものを乗せて,エントランスに現れ,建物の外へ出た。そして,防犯カメラ映像による画像解析を踏まえた鑑定によれば,7月14日に被告人の実家から押収された台車のうち1台は,上記の台車と同一のものであり,その台車にはBのDNA型と矛盾しない血痕が付着していた。このときの台
車上の段ボール様のものの大きさは,生存しているBを収納することは容易ではないと考えられるが,その時点でBが死亡していたなら頭部や四肢が切断するに至らない状態でも部分的に切断又は骨折させるなどして収納することが十分可能であった。
被告人は,1月30日午前10時頃,ホームセンターに乙マンション
1103号室の畳6枚の新調をする見積もりを依頼し,その際,既存の畳は自分で処分する旨告げた。
被告人は,1月31日午前2時34分からの約2分間に,乙マンションのエントランスと建物内部を3往復し,合計6枚の畳をエントランス外へ運び出した。防犯カメラの映像では,そのうち1回目に運び出した2枚の畳
には,2枚が重なり合った部分に広範囲にわたり血液状のものが付着していることが確認でき,そのうち1枚の畳の表面には広範囲にわたる赤い染み様のものがあり,2回目に運び出した畳には1枚の畳の表面に赤い染み様のものが確認できる。
から

までの事情等に照らすと,被告人が1月30日に押して

いた台車にBの血液が付着したことが認められ,同月31日に搬出された畳に付着していた血液はBのものである可能性が高く,遅くとも1月30日の時点でBは相当量の出血をしていた可能性が高い。

財産移転後の被告人のBの財産に関する言動

被告人は,3月31日,Bの実妹に対し,BのバイクはBが知り合いの業者に売ったそうだなどと述べたが,これはBが被告人に売ったとする領収書や名義人登録申請の際に提出された譲渡証明書とも矛盾する虚偽の内容であって,Bの財産に関する被告人の話には明らかな虚偽が含まれている。カ
被告人の犯行に関する言動
D(7月23日付け検察官調書)は,被告人から先生と呼ばれる

など親しい付き合いをしていたが,被告人から,4月21日,乙マンション売買の契約書の日付時点でBは死んでいた,バラバラにして捨てたが,死体が出ていないから警察は殺人では持って行けない,Bの歯を抜き,死体を焼いた,などと聞いた,7月8日,浜名湖でバラバラの遺体が発見された報道に接し,遺体がBなのかと尋ねると,被告人は,全然違います,仮に先生に話したBさんの話が本当だとしても,死体の状態が違います,などと応じた
旨供述している。この供述は,Dに被告人を陥れる動機はうかがえないことやDと被告人とのLINEのやり取り(被告人が

現場わかりました。完全に無関係です。距離あり過ぎ。ダイバー問題ないです。

などと送信し,Dが本当にAさんがやったのですか?嘘であって欲しいんですがなどと返信)とも整合している上,Bの遺体の状況については,8月31日の遺
体発見前でありながら,その後に判明した客観的事情と合致しており,犯人以外知りえない情報であるといえ,信用できる。
被告人がDに対して虚偽の内容の話をした可能性は残るが,Bの死体を焼いたことや歯を抜いたことなどに関する供述の部分は客観的証拠と合致するため,真実の犯行告白と認められる。

また,Eの原審証言によれば,被告人は,逮捕された7月14日の一週間後位の時期に,浜松中央署の隣の房に留置されていたEに対し,おじさんを殺した後,若い子を殺した,ふたりの死体の処分は浜名湖周辺の同じところに捨てた,マンション取るために殺した,先生と呼ぶ親しい付き合いの人物がいる,などと告白したという。この証言は客観的な事実にも整合しており,被告人はEに真実の内容の告白をした可能性が高い。
以上によれば,被告人は,乙マンション1103号室等の財産を取得するために,その手続に必要なBの実印等を奪う目的で事前に準備を整え,1月29日頃にBを殺害し,その遺体を段ボール箱に入れて台車で運び出し,その後Bの血痕が付着した畳を運び出したことが合理的に推認できる。そうすると,被告人が原判示第1ないし第9の各犯行に及んだことが優に
認定できる。
次に,原判決は,概ね,次のように判示して,原判示第10及び第11の事実を認めた。

犯人の行為,殺害日時,殺害後の行動について
Cの死因は右側腹部刺切損傷による肝臓損傷及び血気胸であり,有尖
の刃器を用いて非常に大きな力で刺されたと認められる。自分自身で背中寄りの右側腹部の位置を非常に大きな力で突き刺すことは考え難く,傷の部位や深さ及び傷が整っていることからは揉み合いなどで偶然生じたとも考え難いから,他人による意図的なものであり,犯人はCを2回の刺突行為で殺害したといえる。

7月14日の捜索時,丙マンション105号室のフローリング床面には付着した血液を拭き取った形跡が認められ,その血痕はいずれも人血であり,その多くはCのDNA型と一致していることから,そのほとんどがCの血液であると認められる。そして,フローリング床面に付着した血液の広がり状況等からすれば,出血量は1500ミリリットル超と推測され,そのよ
うな出血量からはCが重篤な状態に至ったと認められること等を考慮すると,犯人は丙マンション105号室でCを殺害したと推測できる。
Cと被告人は,7月5日午前零時6分までオンラインゲームを起動させ,ゲーム中にチャットをし,同日午前零時8分にはCがツイッター投稿をしていること,その後にはCが毎日のようにしていたツイッターへの投稿を全く行っていないこと等に照らせば,Cの最終生存確認日時は上記時点といえる。また,7月8日午前6時20分頃以降にCの遺体が発見されていることから,犯人はその間にCを殺害したといえる。
Cの死体は頭部,両下肢が切断された状態で発見されているが,CのDNA型と一致する頸椎の骨片が丙マンション105号室で発見されており,Cの頭部,両下肢は同室内で同じ機会に切断されたものと推認できる。丙マンション105号室の居間のフローリングの目地に血痕が付着し,
床板の裏面には血液が染み込み床下のコンクリート部分まで血液が流れ落ちた痕跡が認められ,これらの血液はCのものと合致する。他方,上記床面には目地以外に目立った血痕は認められないから,犯行の発覚を防ぐために犯人あるいはそれに準ずる者がフローリングの血痕を払拭したことが推測される。

被告人の行動について
被告人は,7月3日以降,自ら借りていた丙マンション105号室で
知人であるCを寝泊りさせていた。Dは,Cが同月3日に浜松市内に来ること,Cを丙マンション105号室に住まわせることを被告人から聞いていたものの,Cの最終生存確認日時である同月5日午前零時8分以降,Cが同室にいたことを知る人物の存在は他にうかがわれない。
被告人は,
7月5日午前2時26分頃,
乙マンションの建物から出て,
トヨタクラウンを運転し,同日午前3時28分頃には,同車が丙マンションに近接したコンビニエンスストア付近で丙マンション方向に向かっているの
が判明している。同日午前9時33分には,丙マンションから0.4キロメートルの地点にあるL郵便局で段ボールを購入し,その後,引き返す方向に車を走らせたことが判明しており,被告人には,同日午前3時28分頃から同日午前9時33分頃までの間,丙マンション105号室に入る機会があった。
また,
被告人は,
同日午後2時18分頃,
普通貨物自動車
(日野デュトロ)
を運転して,前記L郵便局の前を丙マンションに向かう方向に進み,同日午後9時52分頃には離れる方向に進んでおり,その間に丙マンション105号室に入る機会があった。
被告人は,7月5日午後1時17分頃,ホームセンターで,キッチンタオル,洗車ブラシ,段ボール,大型ポリ袋等を購入したが,同月14日の
丙マンション105号室の捜索時には,同所でこれらと類似するキッチンタオル,洗車ブラシ,段ボール,ポリ袋等が,L郵便局や上記ホームセンターのレシートと共に発見されており,これらは被告人が同室に運び入れたものと推認できる。
7月14日の捜索時に,被告人の実家敷地内からCの所持品(同人の
印鑑,各種会員カード,眼鏡等)が発見され,Cが最終生存確認日時当時にLINEをするため使用していたパソコンのハードディスクが,乙マンション1103号室で差し押さえられており,被告人が上記最終生存確認日時後に丙マンション105号室でCが使用していたパソコンを運び出したことも推認できる。さらに,Cが使用していた携帯電話9台は,被告人が使用して
いたクラウンの車内から発見された。Cの関係者が,7月6日午前11時22分,
Cの携帯電話に電話をかけたところ,
被告人が電話に出て話しており,
この時点で被告人がCの使用していた携帯電話のうち少なくとも1台を所持していたことも認められる。
これらのCの所持品は日常生活で常時必要な物であって,被告人がCから
任意に預かっていたとは考え難く,被告人が丙マンション105号室から運び出したと推認できる。ウ

被告人が使用していた軽四貨物自動車(スバルサンバー)について
サンバーは,7月14日に被告人の実家で差し押さえられたが,同車の荷台上の板に血痕が付着しており,この血痕はCのDNA型と一致している。Cは,7月3日に京都から浜松に来たばかりであり,その死体が発見されたのは同月8日であって,その間にCがサンバーに乗車する機会があったとはうかがわれず,血痕の大きさ(縦約6センチメートル,横約2.6センチメートル)や付着場所等からすれば,被告人が丙マンション105号室から持ち出した物品をサンバーに積載した際に,
Cの血痕が付着した可能性が高い。

検討

以上によれば,被告人は丙マンション105号室でCを殺害し,同所から同人の遺体を入れた段ボールやCの所持品を運び出したと推認することができる。
これに対し,原審弁護人は,被告人にはC殺害の動機はなく,被告人は犯人ではないという。検察官は,この点に関し,被告人がCにBとの養子縁組
を持ち掛け,7月3日,Cを乙マンションに連れて行った際,Bがいなかったことから,被告人がBを殺害したことや養子縁組がBの財産を奪う目的であることをCが察知したため口封じとして殺害したと考えるのが合理的であると主張する。しかし,Cが養子縁組の目的等を察知した可能性が高いとはいえず,Bの事件の口封じとして殺害したとは断定できない。

そこで,さらに第三者による犯行の可能性について検討すると,Cが丙マンション105号室にいることを知っていた人物としては,
前記Dがいるが,
同人はCと会ったことはない旨供述し,Cを殺害する動機があるともうかがえないし,7月3日に浜松に来てから同月8日の死体発見まで間もなく,その間に浜松市内で新たな交友関係を築いたとも考え難い。被告人は,丙マン
ション105号室の鍵を3個受け取っていたところ,1個はDに渡したものの同月3日にDから返却されている。7月14日の捜索の際,丙マンション105号室の鍵2個が乙マンション1103号室から発見されており(残り1個は所在不明),7月5日当時,Cの意思に反して同室に容易に入ることのできた第三者は被告人以外に存在しなかった可能性が高い。さらに,犯人はCを殺害した後,死体を同室内で切断して運び出し,血痕を払拭したと認められるところ,Cと面識のない者が同人を殺害したとすれば,その作業のため,長時間,同室にとどまることが必要であって,同室を訪ねてくるかもしれないCの知人と出くわす危険もある反面,その作業をする必要性は乏しいから,第三者が犯人である可能性は考え難い。
さらに,Eの原審証言は,CがD宅で泥棒したので殺害したとの被告人の
告白を聞いたというものであるところ,これは,D宅が泥棒の被害にあっていないという点において客観的事実とは異なる内容を含むものの,被告人が先生と呼ぶ人間がいることなど被告人から聞かなければ知りえない事情も含まれていて,基本的に信用でき,被告人の犯人性を基礎付ける事情となる。以上によると,被告人によるC殺害の動機は判然としないものの,被告人
がCの殺人死体損壊死体遺棄の犯人であると優に認められる。2
当裁判所の判断
以上の原判決の事実認定には,論理則,経験則等に照らして不合理な
点はなく,当裁判所もこれを是認することができる。
これに対し,所論は,まず,被告人はBに対する強盗殺人(原判示第1)の犯人ではなく,無罪であると主張し,①原判決が,被告人が1月30日午前3時30分頃,乙マンションから台車で運び出した段ボール様のものにはBの死体が入っていた可能性が高いとした点に関し,同段ボール様のものにBの死体を入れるには,同人の首や四肢は切断されていなくてはならないところ(原審甲445),原審のF医師の証言によれば,Bの頸骨やその
他の骨を人為的に切断した跡は指摘できないというのであるから,頭部は切断されていないというべきであって,そうすると被告人が運び出した段ボール様のものの中にはBの遺体は入らなかったはずである,②原判決が,被告人が1月31日に搬出した畳に付着していた血液はBのものである可能性が高いといえ,遅くとも同時点でBは相当量の出血をしていた可能性が高いとした点に関し,上記畳に付着していたものが血液であると判断できる客観的な証拠はなく,Bが出血していたとは認められない,③原判決が依拠したEの原審証言は信用できない,という。
しかし,
原判決が指摘するとおり,
被告人は,
Bの最終生存確認の時点
(1
月28日)の前である1月25日,Bの部屋の合鍵を入手したと推測できる行動をとっていること,同月29日には乙マンションの裏口から建物内に入
り,約14分後に同所から出てきたこと,同月30日,乙マンションから白色ビニール様のもので覆われた段ボール様のものを台車で搬出していること,同日,畳を新調するための見積もりをホームセンターに依頼し,古い畳は自ら処分する旨告げていること,同月31日,乙マンションから1103号室の畳6枚を搬出しており,その畳には血痕状のものが付着していたこと,そ
の後,2月1日から3月26日以降にかけ,Bの財産の名義を被告人に移転し,Bの口座の預金を自分が管理する口座に移し,年金の受取口座を変更したりするなどの行為に及んでいること,4月21日,DにB殺害について告白していること,7月14日,被告人の実家から発見された台車にBの血痕と矛盾しない血痕が付着していたこと,その後,被告人がEにB殺害を告白
していることなどの事実を総合すれば,原判示第1(Bに対する強盗殺人)の事実は優に認められる。
さらに,所論について個別にみると,所論①(1月30日に運び出した段ボールにはBの遺体は収納できない)が依拠する実況見分調書は,被告人が運んだと同じ大きさと推定される段ボールに生きている仮想被害者を無理に
押し込もうとしたが,頭の部分が出てしまい蓋が閉まらなかった,マネキン人形をバラバラにした場合には上記段ボールに収納が可能であった,という実験結果を報告したものにすぎず,既に死亡していて無理な体勢を取ることも可能な遺体が上記段ボールに収納できるかどうかについて明らかにしてはいない。したがって,上記実験結果を根拠に,被告人が運んだ段ボール様のものの中にBの遺体は収納できないとの結論を導くことはできない。しかも,
原審のF医師は,Bの遺骨につき確認できた範囲において切断した痕跡が指摘できない旨を証言しているにとどまるのであって,遺体が切断された可能性を全く否定しているものではない。そうすると,原判決が,頭部や四肢を切断するに至らない状態でも,部分的に切断又は骨折させるなどして,上記段ボール様のものに収納することも十分に可能であったと考えられると説示
したことに不合理な点はない。
以上のとおり,被告人が運んだ段ボール様のものにBの遺体は収納できないとの所論は採用できない。
次に,所論②(被告人が1月31日に搬出した畳に付着していたものが血液であると判断できる客観的な証拠はなく,Bが相当量の出血をしていたと
は認められない)についてみると,確かに,被告人が運んだ畳は発見されておらず,そこに付着したものがBの血痕であったことを示す客観的な証拠はない。しかしながら,被告人が1月30日午前2時33分頃から同日午前3時30分頃までに段ボール様のものを乗せるために用いた台車と同一とみられる台車(7月14日に被告人の実家から押収)にはBのDNA型と矛盾し
ない血液が付着していたこと,同月31日午前2時34分頃から同日午前2時36分頃にかけて,被告人が合計6枚の畳を,3回にわたって,2枚ずつ運び出す様子が乙マンションのエントランスホールに設置された防犯カメラに映されており,その1回目に運んだ2枚重ねの畳の間には赤い血液様のものや染み状のもの,2回目に運んだ畳には赤い染み状のものを,それぞれ明
確に見て取ることができること,さらに,被告人は,1月30日午前10時頃,畳6枚を新調するための見積もりをホームセンターに依頼し,古い畳は自ら処分することを告げていたことに照らせば,上記畳の赤い血液状のものや染み状のものは,Bの血痕であったと合理的に推認できる。したがって,原判決の上記認定に誤りはない。
次に,所論③(Eの原審証言は信用できない)についてみると,所論は,Eは,8月19日頃,自己の犯罪につき取調べを担当していた警察官のGから,Cが児童養護施設出身者であると誤解されるような話を聞かされた上,被告人に対する捜査に協力するよう言われ圧力を受けた,同月18日,警察署長とEとの間で言い争いがあった際に,被告人が警察署長の味方をする発言をしたことから,被告人とEとの間で争いが生じているなどと指摘し,E
には虚偽の証言をする動機があり,Eの原審証言が信用できるとした原判決の判断は誤りであるというのである。
しかしながら,Eが警察官に被告人の告白について供述し,その調書が作成されたのが8月20日であり,その後の同月31日にBの遺体が発見されたのであって,Eの原審証言(基本的に前記調書の内容と同様とみられる)
には,被告人の告白の内容として,⒜おじさん(B)と若い子(C)を殺した,
⒝二人の遺体は浜名湖に捨てた,
⒞おじさんの遺体は,
ばらして捨てた,
⒟被告人には先生と呼ぶ親しい付き合いのある人物がいる,⒠おじさんの方はマンションを取るために殺した,などという被告人から聞かなければ知りえない情報が含まれており,また,上記⒜から⒟までの内容は客観的な
事実とも整合していることなどからすれば,Eの原審証言を基本的に信用できるとした原判決の判断に不合理な点はない。そもそも,所論の指摘する事情は,Eが虚偽の証言をしようとする動機になるとは直ちにはいえず,その性質上,Eにおいて,相当重い刑が予想される強盗殺人殺人という重大事実を被告人が告白したとの事実を捏造し,被告人を罪に陥れるような証言を
する動機になるものとは考え難い。
次に所論は,死体損壊死体遺棄(原判示第2)に関し,B殺害に被告人が関与していないことを前提に,Bの死体損壊,遺棄の各行為を証明する証拠がない,というが,前記のとおり,被告人はBに対する強盗殺人に及んだと優に認定できるのであるから,所論は前提を欠く。そして,被告人が強盗殺人に関与し,その遺体を運び出したとみられること,被告人の実家から発見された台車にBのものと矛盾しない血液が付着していたこと,死体損壊,遺棄について被告人がDやEに告白していることなど,原判決が掲げる各事情によれば,
上記死体損壊
死体遺棄の事実を優に認めることができる。
所論は,電子計算機使用詐欺窃盗,有印私文書偽造・同行使,電磁的公正証書原本不実記録・同供用,
詐欺
(原判示第3ないし第9)
について,

Bに対する強盗殺人の犯人が被告人ではないことを前提に,被告人に権限がなくBの財物移転の手続をしたとはいえないから,これらの各事実を認めた原判決には誤りがあるという。
しかしながら,Bに対する強盗殺人の犯人が被告人であると認められることは前記のとおりであって,所論は前提を欠く。原判決がその理由で説示す
るように,原判示第3ないし第9に関するBの財産移転の手続等に被告人が関与しているのは明らかであるところ,
Bの親族や友人の供述等からしても,
年金暮らしのBが,その生活基盤である自宅マンションや自動車,さらには長年の趣味であったバイク等の財産の殆どを他人に譲って,それまでと全く異なる新たな生活を始めるということは,通常考え難いことであって,その
ような意向がBにあったことをうかがわせる証拠も一切存在しない。そして,
同じ会社で勤務したことはあるが,Bの退職後は格別接点がなかったBと被告人との間柄からしても,Bが,自己の財産を被告人に譲り渡す意思があったとも到底認められない上,対価を払ってこれらの財産を譲り受けることのできる資産が被告人にあったことはうかがえないし,被告人からBに対して
その対価が支払われた形跡も全くない。
そうすると,被告人がBを殺害してその実印等を奪取するなどした上,その後何らの権限なく,不正に入手したBの印鑑を使用するなどして,その財産を取得した旨を認定した原判決に不合理な点はない。
原判示第3ないし第9の事実は優に認められると判断した原判決の認定に不合理な点はなく,所論は採用できない。
所論は,Cに対する殺人(原判示第10)に関し,被告人はCを殺害していないと主張し,①被告人とCとの間にトラブルはない上,被告人はCに働いてもらうために費用を負担して住居(丙マンション105号室)を用意したのであって,同人を殺害しても何ら利益がなく,被告人にはCを殺害する動機はない,丙マンション105号室は,被告人が借り受けたものであ
るから,そこでCを殺害した場合には被告人が犯人であると疑われる可能性が高いにもかかわらず,被告人がCの殺害に及んだとすれば相応の動機が存在するのが自然であり,何ら動機が見当たらないのに被告人がCを殺害したと認定した原判決の認定は誤りである,②C殺害に関するEの原審証言も信用できないという。

しかしながら,原判決が指摘するように,被告人とCとは刑務所で知り合い,その後のCの刑事裁判では被告人が情状証人として出廷するなどの関係にあったところ,被告人がCを京都から浜松に呼び寄せたこと,被告人が借りていた丙マンション105号室にCを住まわせたこと,7月5日午前零時6分まで,被告人とCはオンラインゲームを起動させて,ゲーム中にチャッ
トをしていたこと,Cは,同日午前零時8分,ツイッターに書き込みをしたが,その後はそれまで頻繁にしていた投稿がなくなったこと,被告人は,同日午前2時26分頃,乙マンションを自動車(クラウン)で出発し,同日午前3時28分頃には丙マンション方向に向かっていたこと,同日午前9時33分頃,丙マンション付近のL郵便局で段ボールを購入した後,丙マンショ
ンから離れる方向に自動車で移動したこと,
その後,
貨物自動車
(デュトロ)
で乙マンションを出発し,ホームセンターで段ボール等を購入して丙マンション方向に向かったこと,同日午後9時52分頃には丙マンションから離れる方向へ進んでおり,その間に丙マンション105号室に入る機会があったと認められること,Cは丙マンション105号室で殺害されたと認められるところ,犯行後に同所で遺体が損壊され,同所が清掃されていることに照らすと,第三者がCを殺害した可能性が高いとはいえないこと,7月6日,Cの関係者がCの携帯電話に電話をかけると被告人が応答したこと,7月14日時点で,丙マンション105号室の居間には払拭した様子があるものの,フローリングの目地には血痕が付着し,床板には血液が流れ出た痕跡が認められたこと,被告人の実家や自動車(クラウン)内からCの所持品が発見さ
れ,被告人の実家で差し押さえられた被告人使用の軽四輪貨物自動車(サンバー)
の荷台の板にCのものと一致する血痕が付着していたこと,
被告人が,
Eに対し,Cと思われる者の殺害を告白したことなどの事実に照らせば,被告人がCを殺害したことを優に認めることができる。
所論は,殺害動機が判然としないのにCを殺害したと判断した原判決の事
実認定は誤っているというが,その動機が判然としないからといって殺害犯人と被告人との同一性が認定できないということにはならない。本件においては,被告人が,他の件も含めて黙秘を貫いており,動機を特定することには困難な事情がある。なお,所論が,被告人が借りていた丙マンション105号室で殺害すれば被告人が疑われることが明らかであると指摘する点につ
いては,犯人がその支配する場所で犯行を行うことは,一般的にみられるところである上,同室内の犯行の痕跡は払拭された形跡がみられ(同室内からC及び被告人の血痕が発見されている。),Eの原審証言によれば,被告人は,Eに中性洗剤でやればDNA拭き取れるなどと述べた,というのであって,所論の指摘によっても前記認定は動かない。

また,所論は,C殺害に関するEの原審証言についても信用できない旨いうが,この点に理由がないことは既に判示したとおりである。所論は,Cの死体損壊死体遺棄(原判示第11)に関し,殺害する動機がない被告人が同罪を犯したとはいえない,という。しかしながら,上記のとおり,被告人がCを殺害したことは優に認められるのであって,所論は前提を欠く。
3
第5
1
事実誤認をいう論旨は理由がない。
原判決の量刑について
論旨は,量刑不当の主張を含んではいないものの,事案にかんがみ,
原判決の量刑について職権をもって判断する。
2
原判決は,本件強盗殺人及び殺人の各犯行の動機・経緯,態様,結果
の重大性にかんがみれば,被告人の刑事責任は極めて重大であり,罪刑の均衡の観点からは特に斟酌すべき事情がない限り,死刑の選択をするほかはないとした上,Bの殺害が財産奪取の目的によるものであることや理不尽な理由によって殺害された被害者両名の無念は察するに余りがあること,各遺族らが峻烈な処罰感情を示しているのも当然であること,各遺族らには何らの
慰謝の措置も講じられていないこと,事件が報道で大きく取り上げられ周辺住民に与えた不安感などの社会的影響も看過できないことを指摘した。そして,被告人の前科には生命身体に関わる凶悪な前科はないことや原判決の時点で34歳という年齢等の被告人のために酌み得る事情を考慮しても,被告人に対しては,死刑を回避すべき特に酌量すべき事情があるとはいえず,死
刑を選択することは誠にやむを得ない旨説示した。
3
原判決の量刑判断に不合理な点はなく,その結論も相当であり,当裁
判所もその結論を含め支持することができる。
すなわち,2人の貴重な人命が奪われた本件の結果は重大であること,強盗殺人等の犯行についてみると,事前に被害者の財産等を調査し,合鍵を入手するなど周到に計画されたものであって,深夜,被害者のマンションに立ち入り,被害者を殺害し,被害者財産の名義移転手続等に必要な実印等を奪い,その後にそれらを用いて,マンション,自動車等の名義変更をした上,預金を自分の物にするなど被害者のほぼ全財産を取得し,さらには被害者の年金も手中にするなどの行為にも及んでおり,その経緯や利欲的動機に酌むべき事情はなく,その後に各犯罪行為に及んだ点も強い非難に値すること,退職後,
趣味を楽しむなど充実した生活を送っていた被害者が,
理不尽にも,
突然,自宅で襲われ命を奪われた無念は察するに余りがあること,殺人については,凶器を用いた強固な殺意に基づく残虐な態様のものといえ,その動機は明らかではないものの,
格別酌むべき事情があるとはうかがえないこと,
未だ若い被害者の恐怖や無念もまた察するに余りあること,各死体損壊,死
体遺棄については,各遺体は焼損され,あるいは切断されるなどした上,浜名湖又はその周辺に遺棄されるなどその態様も残忍であること,本件各行為が地域社会に与えた影響も小さくないことなどが指摘できる。また,被告人は,各遺族らに対して慰謝の措置を講じていないのはもとより,何ら謝罪の意思さえも表明しておらず,当然のことながら,各遺族らの処罰感情は峻烈
である。
以上のような事情に照らせば,被告人の刑事責任は極めて重いといわざるを得ないのであって,被告人に有利に考慮し得る事情を十分踏まえても,原判決が死刑を選択したのは誠にやむを得ないものとして,当裁判所もこれを是認するほかはない。

第6

結論

よって,刑訴法396条,181条1項ただし書により,主文のとおり判決する。
平成31年3月15日
東京高等裁判所第5刑事部
裁判長裁判官

藤井

敏明
裁判官

菊池則
裁判官

馬渡香明津子
トップに戻る

saiban.in