判例検索β > 平成31年(う)第53号
覚せい剤取締法違反被告事件
事件番号平成31(う)53
事件名覚せい剤取締法違反被告事件
裁判年月日平成31年3月27日
法廷名大阪高等裁判所
結果破棄自判
裁判日:西暦2019-03-27
情報公開日2019-05-07 14:00:29
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平成31年3月27日宣告

大阪高等裁判所第6刑事部判決

覚せい剤取締法違反被告事件
主文
原判決を破棄する
被告人を懲役1年に処する
原審における未決勾留日数中210日をその刑に算入する。
この裁判が確定した日から4年間その刑の執行を猶予し,
その猶予の期間中被告人を保護観察に付する。
大阪地方検察庁で保管中の覚せい剤1袋(同庁平成30年
領第291号符号1)を没収する。
理由
本件控訴の趣意は,弁護人中道一政作成の控訴趣意書及び控訴趣意書(補充書)と題する書面に記載のとおりである。論旨は,原判示第1の事実についての事実誤認,訴訟手続の法令違反及び量刑不当である。
すなわち,本件は,覚せい剤の使用と所持の事案であるところ,論旨は,使用の事実につき,被告人は心神耗弱の状態であったのに,完全責任能力を認めた原判決には事実の誤認があり,また,原審裁判所が,被告人の責任能力判断に必要な原審弁護人のした精神鑑定請求を却下したのは,訴訟手続の法令違反に該当する,さらには,被告人に対し,刑の一部執行猶予を付しただけで全部執行猶予を付さなかった原判決の量刑は不当である,というのである。そこで,記録を調査して検討する。第1

事実誤認の論旨について

控訴趣意の論旨が前記のようなものであるから,訴訟手続の法令違反の論旨に先立ち,事実誤認の論旨について検討する。
1
原判決の認定した事実及び論旨

原判決が認定した罪となるべき事実第1の要旨は,被告人が,平成29年11月
29日頃,大阪市a区内の自宅マンション居室において,覚せい剤を加熱し気化させて吸引して使用した,というものである(以下本件覚せい剤使用という。)。論旨は,精神医学を専門とする甲医師の原審証言(以下甲証言という。)及び同医師作成の意見書(原審弁2。以下,甲証言と併せて甲意見という。)によれば,被告人は,本件覚せい剤使用時に心神耗弱の状態にあったと認められるのに,被告人の完全責任能力を認定した原判決には,判決に影響を及ぼすことが明らかな事実誤認がある,というのである。
2
原判決の要旨
本件に至るまでの,被告人の生活歴,病歴及び本件時の状況等


被告人は,19歳の頃に初めて精神科を受診し,その後複数の精神科に通院
したが,うつ病,境界性人格障害等と診断された。

被告人は,29歳の頃,当時交際していた男性から無理やり気化した覚せい
剤を吸引させられ,初めて覚せい剤使用した。なお,被告人は,その男性から,身体的,性的な暴力を受けたりもしていた。

被告人は,平成26年に通院していた精神科の医師から,境界性人格障害,
解離性障害等との診断を受けた。

被告人は,平成28年4月21日,覚せい剤取締法違反の罪(覚せい剤の自
己使用2回)により,懲役2年・4年間の執行猶予との判決を受けた。本件は,その猶予期間中の犯行である。

被告人は,平成29年9月頃に覚せい剤を入手して使用を再開し,同年11
月29日本件覚せい剤使用(原判示第1)に及んだが,その後被告人が暴れるなどしたため,母親が110番通報をし,被告人は,病院に入院した。カ
同年12月21日に,被告人方の捜索が行われ,覚せい剤が発見された(原
判示第2の覚せい剤所持)。
本件覚せい剤使用に関する被告人の供述
被告人は,本件覚せい剤を使用した動機について,死にたかったからであると説
明している。以前から親子関係に悩んでいて,覚せい剤を過剰摂取して死のうと思ったというのである。
また,覚せい剤使用を再開したきっかけは,被告人の周りに出現する,場合によっては体の中に入ってくる(客観的には実在しないが,被告人は実在すると認識している。)色の黒いマッチョなおっちゃん(原判決では,おっさんと表記しているが,以下では,おっちゃんという。)に操られて密売人に連絡を取ったことであり,そのおっちゃんから覚せい剤を使えとあおられたりしていたので,おっちゃんから解放されたいという気持ちもあった。
甲意見について
甲意見の骨子は,①被告人は,本件覚せい剤使用当時,解離性同一性障害,覚醒剤精神病及び覚醒剤使用障害に罹患していた,②解離性同一性障害があり,実在しない人物(被告人の供述するおっちゃんなる人物。なお,このおっちゃんは,甲意見によれば,被告人に対し,かつて暴力的な性行為を強いるなどした被告人の元交際相手の人格が影響したものとされる。)に憑依されていた被告人は,実在しない人物(おっちゃん)に覚せい剤使用を求められ,抗せずに使用していたところ,急性中毒により錯乱状態に陥った,③本件覚せい剤使用については,憑依されていた人物(おっちゃん)に指示され,それに抗しきれずに使用したものであるとした上で,被告人は,本件覚せい剤使用時において,善悪の判断能力及びその判断に従って行動する能力は著しく損なわれていた,という参考意見を述べた。原判決は,これらのうち,被告人が本件覚せい剤使用当時,解離性同一性障害,覚醒剤精神病及び覚醒剤使用障害に罹患していたとの点を採用し,そのとおり被告人に精神障害があると認定したが,その余の点は採用しなかった。その理由の要点は,
A
甲医師は,本件覚せい剤使用やその前後の状況について,被告人から直接確
認しておらず,本件覚せい剤使用の経緯や動機,その時の被告人の精神状況について,従前の他の覚せい剤使用と明確に区別した上で具体的に検討しているとはいい
難い。
B
被告人は,原審公判廷で,本件覚せい剤使用の動機や使用及びその前後の状
況について具体的に供述しており,それらの時点で記憶を保持していると認められるが,甲意見は,そのことを正当に考慮しているとはいえない。
C
甲医師は,被告人が述べるおっちゃんを別人格であると考えているが,
別人格の出現自体を確認しているわけではなく,別人格の具体的内容は,被告人の述べることを前提に推測や一般論として述べているところも多い。D
甲医師は,被告人が覚醒剤精神病や覚醒剤使用障害にも罹患していると診断
しているが,被告人の覚せい剤使用について,解離性同一性障害の影響と被告人の覚せい剤に関係するその他の疾病の影響との区別が難しいと述べる一方で,これらの疾病が本件覚せい剤使用に及ぼした影響の有無及びその程度については必ずしも十分に検討されていない。
以上のような点を指摘し,甲意見の本件覚せい剤使用と被告人の精神疾患との関係や責任能力についての判断(甲意見②及び③)は,前提としている事実や他の疾病との関係の考慮に疑問が残るとして,採用しなかった。
その上で,原判決は,次の諸点を指摘し,本件覚せい剤使用につき,被告人の解離性同一性障害が与えた影響は限定的であるとして,被告人に完全責任能力を認めた。

本件覚せい剤使用当時,被告人が解離性同一性障害に罹患しており,解離性
同一性障害に基づく別人格が出現していた可能性は否定できないが,甲意見によっても,被告人は解離性同一性障害の憑依型の不完全型で,別人格が出現していても元来の被告人の人格は併存しているとされているから,直ちに当時の被告人の人格が別人格であって責任能力に疑問が生ずることにはならない。

本件覚せい剤使用について,死にたいという犯行動機は,親子関係や自らの
解離性同一性障害による別人格の発現などという状況から解放されたいという心情からみて一定の合理的なものといえ,十分了解可能である。また,被告人供述を前
提としても,本件覚せい剤使用直前には,おっちゃんから覚せい剤を使用することを求められておらず,解離性同一性障害の影響によって動機が形成されたものではない。

被告人は,本件覚せい剤使用やその前後の状況について具体的かつ明確に供
述しており,その内容は捜査段階から大きな変遷はなく,記憶を保持しており,見当識も保持されていた。加えて,被告人は,同居していた両親に覚せい剤使用が発覚せず,その後も覚せい剤使用が可能な状況を作出するなど,覚せい剤使用に向けた合目的的な行動をとっていたから,犯行後に自己防御,危険回避的行動をとっていたと認められる。

被告人は,本件覚せい剤使用当日に,覚せい剤をトイレに流さないといけな
い,覚せい剤から足を洗わないといけないなどと考えていた旨述べていることからすると,本件覚せい剤使用時,自己の行為の意味・性質を理解し,違法性の意識も有していたとみられる。また,行動制御の面に解離性同一性障害が影響を与えたことは考えられるものの,解離性同一性障害による別人格が被告人の人格を自由に操っていたとか,本件覚せい剤使用を被告人とは別人格が行ったものと認めることはできず,その前後の被告人の行動状況に照らせば,その影響は限定的である。オ
被告人は,覚せい剤使用再開後,おっちゃんから強いられたときだけ覚
せい剤を使用していたのではなく,覚せい剤依存状態であったことが強くうかがわれ,覚せい剤の薬理効果を欲していることからして,本件覚せい剤使用は,被告人の覚せい剤依存によるものと理解することも十分に可能であり,おっちゃんが被告人の身体的,精神的な覚せい剤依存を充足させていたとも考えられる。3
当裁判所の判断

原判決の前記認定及び判断のうち,被告人が本件覚せい剤使用当時,解離性同一性障害,覚醒剤精神病及び覚醒剤使用障害に罹患していたと認定した点(前記①)は是認できるが,その余の甲意見を採用せず,被告人の完全責任能力を認めた点は是認できない。その理由は,以下のとおりである。

甲意見について

甲医師は,解離性同一性障害の知識や臨床経験を有し,その経歴や経験等に
照らし,本件覚せい剤使用時の被告人の精神状態について専門的知見を述べる証人として十分な資質を備えている。もっとも,甲医師は,原審弁護人の依頼により,本件時の被告人の精神状態について私的鑑定を行ったものであるから,正式鑑定と比べると,鑑定資料等の面で一定の制約があったことは否めない(その意味では,訴訟手続の法令違反の論旨にもあるように,本件では正式鑑定を実施した方が良かったといえる。)。しかし,甲医師は,被告人の捜査段階及び原審公判廷における供述内容を供述調書等の記録に基づいて検討し,被告人の両親及び被告人との面接も行っているほか,不明な点は,原審弁護人を通じて被告人本人から事情を確認するなどしており(甲医師の原審証人尋問調書16ないし20,30頁),本件覚せい剤使用及びその前後の状況(被告人が,自宅のテレビ台の引き出し内に隠していた覚せい剤を取り出し,自宅トイレ内において,ガラスパイプに覚せい剤を入れ,これをあぶって使用し,残りの覚せい剤を市販の睡眠導入剤の箱に入れ,それを自分のバッグ内にガラスパイプと共に入れて保管した。)について,誤解があるとは認められない。その上で,甲医師は,被告人に嫌がらせをするようにまとわりついていたおっちゃんの人格が,平成29年9月頃,被告人に憑依し,覚せい剤を買えとか,使えと指示するようになり,被告人は,その指示に従って覚せい剤を密売人から買って使用するようになり,おっちゃんに殴られたり蹴られたりするという体感幻覚が出て,非常に辛くなり,もともと被告人にあった希死念慮も強くなって,抵抗できなくなって本件覚せい剤使用に至ったとの見解を示している(甲意見書9頁,甲医師の前記尋問調書8頁)。そうすると,甲医師は,おっちゃんの人格が憑依した平成29年9月頃以降の覚せい剤使用状況は,それ以前の被告人の覚せい剤使用状況とは質的に異なることを指摘した上,おっちゃんの人格が憑依した以降の覚せい剤使用状況を踏まえ,本件覚せい剤使用時の被告人の精神状態を判断していると認められるから,原判決の,本件覚せい剤使用の経緯や動機,
その時の被告人の精神状況について,従前の他の覚せい剤使用と明確に区別した上で具体的に検討しているとはいい難いとの批判(A)は当たらない。イ
次に,甲医師は,解離性同一性障害の憑依型には,完全型と不完全型があり,
完全型であると,本人の意識はなくなってしまうが,不完全型である被告人の場合は,被告人本人の意思もあり,周囲の状況は分かっているが,おっちゃんの人格に支配されてしまい,それに抵抗できなくなっている状況であると説明している(甲医師の前記尋問調書21,22,27頁)。このように,甲医師は,被告人が本件覚せい剤使用時の記憶を保持していることを前提に,おっちゃんの人格に支配されたとの見解を述べているのであるから,原判決の,被告人が本件覚せい剤使用及びその前後の状況について記憶を保持していることを正当に考慮していないとの批判(B)は当たらない。

さらに,甲医師は,被告人本人からの報告(幼少時に実在しない子供が現わ
れ,慰めてくれたというエピソードや,元交際相手に暴力的な性行為を強いられた際にまいやという別人格が出現したこと)のほか,被告人が筆跡の異なる文章を書いていたこと,被告人の両親から得られた報告(祖母が死亡した際に,祖母が話をしているように語り,気味悪がられたこと)によって,被告人に解離症状があり,別人格の出現があると判断したものである。このような甲医師の見解は,精神医学において一般的に承認された診断基準(DSM-5。これによれば,医師が別人格を直接確認する必要はなく,本人による報告で足りるとされている。)に基づく合理的なものと認められるから,原判決の,被告人の述べる別人格の出現自体を確認しているわけではなく,別人格の具体的内容は,被告人の述べることを前提に推測や一般論として述べている,との批判(C)も,当を得ないものである。エ
甲医師は,被告人が解離性同一性障害のほか,覚醒剤精神病や覚醒剤使用障
害にも罹患していると診断しているが,覚醒剤精神病や覚醒剤使用障害で別人格が出現する症例を経験したことはなく,医学文献でも見たことがないと供述している(甲医師の前記尋問調書11,15頁)ことからすると,別人格が出現し,その指
示に抗しきれず,覚せい剤を使用したという本件の場合には,解離性同一性障害が相当大きな影響を及ぼしていると考えられるのに対し,覚醒剤精神病や覚醒剤使用障害の影響は考えにくい,あるいは,あってもそれほど大きなものではなかったと考えられるから,原判決の,解離性同一性障害以外の覚醒剤精神病等の疾病が本件覚せい剤使用に及ぼした影響の有無及びその程度について十分に検討されていないとの批判(D)も,甲意見を採用できないほど重大なものでは決してない。以上のとおり,原判決は,甲意見を正しく理解し評価しているとはいい難い。甲意見は,その前提とした事実関係や推論の過程に基本的には誤りはなく,精神医学の専門的知見に基づく合理的なものとして基本的に信用することができ,被告人の責任能力判断に当たり十分に尊重されるべきである。
原判決は,甲意見を採用せず,前記2⑵アないしオの点を指摘し,本件覚せい剤使用時,被告人に完全責任能力があったと認定したが,そのような原判決の認定及び判断は,前記のとおり信用できる甲意見に反するか,又は,整合的でなく,論理則,経験則に照らして不合理であるといわざるを得ない。以下,その理由を簡潔に述べる。

甲意見によれば,被告人の主人格は,覚せい剤を買ったり使用したりするこ
とはいけないことだと認識していたが,おっちゃんに体を乗っ取られ,その指示に抗しきれなくなり,別人格に強く支配されて本件覚せい剤使用に及んだとされるから,原判決がいうように,別人格が出現していても元来の被告人の人格が併存していたことを理由に完全責任能力を肯定することは相当でない。イ
甲医師は,被告人は,おっちゃんに憑依され,覚せい剤を使用するよう
に指示され,その指示と,主人格の死にたいという気持ちが重なり,蹴られたり殴られたりする体感幻覚もあり,抵抗できなくなって本件覚せい剤使用に及んだと考えられる旨供述しているのであるから(甲医師の前記尋問調書10,16頁),覚せい剤を使用して死にたいと思ったという本件覚せい剤使用の動機が了解可能であることをもって完全責任能力があったと判断することも相当でない。

甲医師は,被告人の解離性同一性障害は,憑依型の不完全型であり,被告人
が本件覚せい剤使用時及びその前後の記憶を保持していることを前提におっちゃんの人格に支配され,抵抗できなくなって本件覚せい剤使用に及んだとの見解を示しているのであるから,被告人が本件覚せい剤使用時やその前後の状況について具体的かつ明確に供述し,記憶を保持している点は,被告人の完全責任能力を肯定する根拠とはならない。また,原判決が指摘する被告人が覚せい剤使用に向けて合目的的な行動をとり,犯行後に自己防御,危険回避的行動をとっている点についても,甲医師は,警察に捕まってしまうと,覚せい剤を使いたいおっちゃんの人格が覚せい剤を使用することができなくなるため,その別人格が,親に見付かったり警察に捕まったりしないような方法で覚せい剤を使用させていたと考えられるとの見解を示しているのであるから(甲医師の前記尋問調書22,26頁),この点も,被告人の完全責任能力を肯定する理由とはならない。

原判決は,被告人が本件覚せい剤使用時,違法性の意識を有していた点を指
摘するが,甲医師は,おっちゃんの別人格が違法性の意識を持っていたと考えられるとの見解を示している(甲医師の前記尋問調書22頁)。すなわち,基本的に,前述した,被告人が覚せい剤使用に向けて合目的的な行動をとり,犯行後に自己防御,危険回避的行動をとっていることについてと,同様の観点(露見すれば,警察に捕まってしまうような行為であることを認識している)から,この点についても説明が可能であり,被告人の完全責任能力を肯定する理由とはならない。オ
甲意見によれば,被告人は,解離性同一性障害によりおっちゃんが憑依
し,その指示に抗しきれず,覚せい剤を使用したという面も強いと考えられるから,原判決のいうように,被告人の主人格が覚せい剤の薬理効果を欲したことが主たる動機となって本件覚せい剤使用に及んだとみるのも相当でない。
そこで,さらに,被告人が本件覚せい剤使用に至ったことにつき,被告人の解離性同一性障害の影響の有無,程度についての甲意見を基礎に,法的観点から責任能力について検討する。

解離性同一性障害の状態で犯罪を行った場合の責任能力をどのように判断すべきかは,それ自体困難な問題であるが,本件では,不完全型の解離性同一性障害が問題となっているから,その個人の犯行時の精神状態を検討することによって責任能力を判断するという,甲意見の採用する方法は合理的なものとして是認できる。甲意見によると,被告人は,数か月前に体を乗っ取られたおっちゃんから覚せい剤を買えと指示され,主人格は,覚せい剤を買ったり使用したりすることはいけないことだと認識し,おっちゃんの指示と葛藤していたが,おっちゃんの指示についに抗しきれなくなり,覚せい剤を購入させられ使用させられたものであると判断している。
当裁判所としても,既に検討したとおり,甲意見は,基本的に尊重に値し,その内容と,本件に現れた諸事情を総合考慮すれば,被告人は,解離性同一性障害に罹患しており,本件覚せい剤使用当時は,その強い影響下にあったと認められる。すなわち,一面では,本件が不完全型の解離性同一性障害であって,主人格が全く消失するわけではなく,覚せい剤を使用する動機としては,親との不和からの希死念慮も強くある中で,覚せい剤の過剰摂取によって死のうと思うなど,責任能力を肯定する方向の事情も認められるが,本件覚せい剤使用時は,おっちゃんなる別人格に,体を乗っ取られた状態にあり,覚せい剤を使えという指示に逆らうことが困難であったために,使用に至ったという疑いは否定できない。そして,覚せい剤使用することについての,合目的的な行動,違法性の意識のあることは,本件の場合,被告人の完全責任能力を強く示唆するものと評価できないことも,前述したとおりである。
そうすると,被告人は,解離性同一性障害の影響により,覚せい剤使用時の責任能力は著しく減弱していた疑いは排斥できず,心神耗弱の状態にあったと認められる。したがって,この点につき,被告人の完全責任能力を認めた原判決は,事実を誤認したものといわざるを得ない。そして,原判決は,原判示第1の事実(覚せい剤使用)と同第2の事実(覚せい剤所持)を併合罪として処断し,1個の刑を言い渡しているから,前記の事実の誤認が判決に影響を及ぼすことは明らかである。したがって,その余の論旨について判断するまでもなく,原判決は破棄を免れない。事実誤認の論旨は理由がある。
よって,刑訴法397条1項,382条により原判決を破棄し,同法400条ただし書により被告事件について更に判決する。
第2

自判

(罪となるべき事実)
原判決が認定した罪となるべき事実の末尾に,

なお,被告人は,判示第1の犯行当時,解離性同一性障害により,心神耗弱の状態にあったものである。

と挿入するほかは,原判決の罪となるべき事実のとおりである。
(法令の適用)
被告人の判示第1の所為は覚せい剤取締法41条の3第1項1号,19条に,判示第2の所為は同法41条の2第1項にそれぞれ該当するところ,判示第1の罪は心神耗弱者の行為であるから刑法39条2項,68条3号により法律上の減軽をし,以上は同法45条前段の併合罪であるから,同法47条本文,10条により重い判示第2の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で被告人を懲役1年に処し,同法21条を適用して原審における未決勾留日数中210日をその刑に算入し,なお被告人は平成28年4月21日東京地方裁判所で覚せい剤取締法違反の罪により懲役2年に処せられ4年間その執行を猶予され,本件の各罪はその猶予の期間内に犯したものであるが,情状に特に酌量すべきものがあるから,刑法25条2項を適用してこの裁判が確定した日から4年間その刑の執行を猶予し,同法25条の2第1項後段によりその猶予の期間中被告人を保護観察に付し,大阪地方検察庁で保管中の覚せい剤1袋(同庁平成30年領第291号符号1)は,判示第2の罪に係る覚せい剤で犯人である被告人の所有するものであるから,覚せい剤取締法41条の8第1項本文によりこれを没収し,当審及び原審における訴訟費用は,刑訴法181条1項ただし書を適用して被告人に負担させないこととする。
(量刑の理由)
本件は,被告人が,⑴

平成29年11月29日頃,自宅において,覚せい剤を

自己使用し(判示第1),⑵

同年12月21日,自宅において,覚せい剤結晶0.

023gを所持した(判示第2)という事案である。
被告人は,平成28年4月に,覚せい剤取締法違反(自己使用2件)の罪により懲役2年,4年間執行猶予の判決を受け,その執行猶予期間中であるにもかかわらず,同種の本件各犯行に及んだものであるから,格別に酌むべき事情が認められない限り,実刑に処するのが相当な事案である。
しかし,前記のとおり,被告人は,本件当時,解離性同一性障害により別人格であるおっちゃんの強い影響を受けており,使用・所持にかかる覚せい剤の入手も,おっちゃんの指示によるものである疑いが濃厚であり,本件覚せい剤使用は,心神耗弱の状態でなされたものである。この点は,犯情面で相当程度,被告人のために酌むべき事情である。また,再犯予防という観点からは,本件は,解離性同一性障害により,別人格の状態で行われたもので,被告人は,自己の犯罪であることを実感しにくいものであるから,処罰を受けるより,解離性同一性障害について治療を進める方がより有効であると考えられる。加えて,被告人自身が,解離性同一性障害の点も含め,自分の辛さ等を周りの者に話すことができるようになってきた。それには,もちろん,被告人が安心して相談できる環境が必要であるが,実父が原審に出廷し,被告人の更生支援を約束したこと,相談支援専門員により,被告人に対する具体的な支援策が立てられていることなどに照らせば,一層,被告人が専門家等の指導や支援を受け入れて薬物依存克服に向けて努力を続けていくことが期待できる。
以上のような事情を総合すると,本件は,被告人のために格別に酌むべき事情があると判断され,被告人に対しては,再度の刑の執行猶予を付し,社会内での更生及び治療の機会を与えるのが相当である。
よって,主文のとおり判決する。
平成31年3月27日
大阪高等裁判所第6刑事部

裁判長裁判官

村山浩昭
裁判官

田中健司
裁判官

畑口泰

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