判例検索β > 平成29年(わ)第1354号
強盗致傷、強盗予備
事件番号平成29(わ)1354
事件名強盗致傷,強盗予備
裁判年月日平成31年3月22日
法廷名福岡地方裁判所
裁判日:西暦2019-03-22
情報公開日2019-04-26 12:00:18
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主文
被告人を懲役15年に処する
訴訟費用は全部被告人の負担とする。
理由
(犯行に至る経緯)
Aは,旧来の知人であるBから,上位者の間で話がついていて,警察に届けられることはないという前提で,金地金取引の代金を運んでいる者から現金を奪い取る計画を持ち掛けられて承諾し,その後旧来の知人である被告人にBから伝えられた計画内容をそのまま伝えて実行を依頼した。この際,Aは被告人に対し,前記代金を運んでいる者は,
事情を知らないことも伝えた。
Aの依頼に応じた被告人は,
C,
D,E,F,G及びHに対し,直接又は間接的に指示して,Cは犯行現場に赴き,犯行後には奪った現金をAに引き渡すなどの役割,DとEはそれぞれスタンガン及び催涙スプレーを所持して被害者を襲撃し,現金を奪い取るなどの役割,Fは犯行使用車両を運転し,Eの逃走を援助し,
D,
Cを現金の引渡し場所まで連れて行き,
犯行使用車両を処分先に運搬するなどの役割,GとHは犯行使用車両を埼玉県内から福岡市内に運搬し,犯行当日には犯行現場となる駐車場で被害者による追跡の妨害をするなどの役割を果たすこととなった。また,IもBの依頼により,Aと共に奪った現金を受け取る役割を果たすこととなった。
この計画に基づき,平成29年4月14日及び同月19日,福岡市a区bc丁目d番Jパーキング付近路上に駐車中の自動車内において,C,D,E及びFが,催涙スプレー及びスタンガンを携帯した上,同パーキング付近にある銀行で金地金取引代金である現金を引き出すKを待ち伏せるなどして,同人を襲って現金を強奪する機会をうかがったが,
同人が現金を所持していない様子であったり
(同月14日)

現金の運搬者がもう一人いたため
(同月19日)いずれも実行には至らなかった。

そこで,被告人らは,同様にC,D,E及びFが同月20日に上記パーキングの敷地内で現金を強奪することにした。
(罪となるべき事実)
被告人は,現金を強取しようと考え,C,D,E,F,G,H,I,A及びBと共謀の上,平成29年4月20日午後零時25分頃,福岡市a区bc丁目d番Jパーキングにおいて,Dが,K(当時29歳)に対し,その顔面に催涙スプレーを噴射する暴行を加えて,その反抗を抑圧し,同人管理の現金3億8400万円在中のスーツケース1個(時価約1万円相当)を強取し,その際,上記暴行により,同人に約5日間の治療を要する見込みの刺激物質性接触皮膚炎及び化学物質性急性気管炎の傷害を負わせた。
(事実認定及び罪数判断の補足説明)
1
争点
本件の争点は,
①被告人に他の共犯者らとの間で強盗の共謀が認められるか否か,
②平成29年4月20日の現金奪取行為(以下本件現金奪取行為という。)によ
り,Kが負った怪我が,刑法240条前段における負傷に該当し,強盗致傷罪が成立するか否か,③本件現金奪取行為につき強盗致傷罪が成立するとして,同月14日及び同月19日に催涙スプレー及びスタンガンを携帯した上で,待ち伏せるなどした各行為(以下本件各待ち伏せ行為という。
)につき,強盗致傷罪とは別
強盗予備罪が成立するか否かである。
2
争点①について
弁護人の主張の要旨は,被告人は,Aから,金塊の密輸の取引に使う現金を奪う
計画があるが,襲われる人間もぐるであり,被害届は出ないなどと聞かされていたことから,被害者であるKは内通者であって,Kは襲われたふりをするだけの出来レースだと思い込んでいたのであり,被告人に強盗の故意はなく,その共謀も認められないというものである。
しかしながら,
関係証拠によれば,
被告人及び共犯者らは,
Aからの話をもとに,
DとEがKを襲って運搬中の現金を奪い,現場から車で逃走する計画を立て,そのためにスタンガン等の道具や犯行使用車両等を準備していたことが認められるところ,仮にKが内通者であれば,Kから容易に現金を奪うことができるはずであるから,このような周到な準備をする必要はなく,むしろ,かかる犯行計画及び準備状況からは,被告人を含む共犯者らが,Kから現金を強奪することを計画の前提としていたことが強くうかがわれる。
また,現金奪取の前記計画は,Aから被告人を介して,実行役であるCら4名にもたらされているところ,Aは,公判廷において,Bから持ち掛けられた同計画を被告人に伝えた際,現金を奪う相手である現金の運搬者は事情を知らない人物であり,同人を抱き込もうとはしたが,まだ抱き込めていない旨伝えたなどと供述しており,C及びDも,公判廷において,現場にいる被害者本人は事情を知らない旨を被告人から伝えられたなどと供述している。関係証拠によれば,本件に関して,Aと,C,Dら実行役とが,被告人を介することなく直接連絡をとり合うことはなかったことが認められる。そうだとすれば,上記の点につき3名の供述が一致していることは,被告人において,被害者本人が事情を知らないことを当然に知っていたことを意味する。
C,D,E,F及びHは,いずれも公判廷において,被告人から誘われて本件犯行に関与することになり,その後も被告人の指示に従って前記犯行に至る経緯のとおりの役割を果たした旨供述しており,前記のような態様による現金奪取計画が被告人の指示によるものであったことを一致して供述している。関係証拠によれば,被告人は,スタンガン及び催涙スプレー,犯行使用車両,他人名義の携帯電話(いわゆる飛ばしの携帯電話)といった犯行使用道具等の準備にいずれも深く関与していることが認められるが,実行役であるCら4名の各公判供述は,こうした被告人の前記計画への関与状況とも整合している上,被告人からの指示を受けて行動したという点において合致しており,相互に信用性を高め合っている。また,いずれも捜査段階からの供述の一貫性が認められ,供述態度にも問題はみられない。被告人が実際には指示をしていないのに,このように複数の共犯者の供述が一致することは考えにくいところ,Cら4名において被告人に殊更不利な虚偽の供述をする動機も見当たらない。
したがって,被告人の指示に関するCらの各公判供述は,基本的には信用することができる。
そして,これら共犯者らの各公判供述によれば,被告人は,Kに暴行を加え,その反抗を抑圧して現金を奪うことを当初より認識していたと認められ,前記犯行に至る経緯のとおり,被告人は,そのような認識を前提に,C,D,E,F,G及びHに対して,具体的な指示をしていたと認定できるから,被告人と他の共犯者らとの間に強盗の共謀があったことは明らかである。
これに対して,弁護人は,①被告人は,Aから,奪うお金は金塊の密輸の取引に使うお金で,襲われる相手もぐるであり,違法なお金だから被害届は出ないと説明されたこと,②被告人は,平成29年4月14日,Kがスーツケースをくるくる回していることや,スーツケースを開けて中にお金が入っていないのをDが見た旨の報告を受け,Kが,今回の計画が失敗しないようにアシストしてくれていると受け取ったこと,③被告人は,Aから同日の具体的な取引金額などを聞かされ,Aが情報提供者につながっていると信じ込んだことなどを指摘して,被告人はKが内通者であると思い込んでいたと主張する。
しかしながら,被告人は,例えば,Kがスーツケースをくるくる回すなどしていた話を聞いた際に,仮にKを内通者と思い込んでいたのであれば,Kの行動が被告人らに対する合図であるかどうかを当然に計画グループ側のAに確認するはずであり,そうでなくとも,出来レースの進め方等に関してCらと話をしていて然るべきであるのに,被告人はそうした言動には一切出ていないのであって,弁護人の主張は,被告人の実際の行動と明らかに整合していない。
その他の弁護人の主張を検討しても,被告人がKを内通者であると認識していたとの疑いは残らない。
3
争点②について
弁護人は,
仮に被告人と他の共犯者らとの間に強盗の共謀が認められるとしても,本件程度の怪我では強盗致傷罪は成立せず,強盗罪が成立するにとどまると主張する。
しかしながら,関係証拠によれば,Kは,本件現金奪取行為の当日に,病院を受診して約5日間の治療を要する見込みの刺激物質性接触皮膚炎及び化学物質性急性気管炎と診断されており,これが強盗致傷罪における負傷に該当することは明らかである。
4
争点③について
検察官は,本件各待ち伏せ行為について,犯行日時が異なるだけでなく,その都
度金地金取引の情報を入手し,それぞれ異なる金地金取引の代金を奪おうとしたもので,強盗致傷罪とは機会の同一性,意思・行為の継続性がないから同罪とは別に強盗予備罪がそれぞれ成立すると主張する。
しかしながら,本件各待ち伏せ行為と本件現金奪取行為は,金地金取引に携わる同じ会社の関係者が同じ場所の金融機関から引き出した金地金取引代金である現金を奪うという犯行計画に基づいて行われている点で共通性が認められ,それ故,被告人らにおいて,本件各待ち伏せ行為のいずれかの時点で強盗が成功していれば,以後強盗行為に及ぶことはなかったと考えられること,実行する犯行の手段や関与する共犯者も同じであったことなどからすれば,全体としてみれば,1個の強盗に向けて継続した意思の下に行われたものといえる。
よって,本件各待ち伏せ行為はいずれも強盗予備罪を構成せず,本件現金奪取行為による強盗致傷罪に吸収されるものと解される。
5
結論
以上のとおり,被告人には,判示のとおり強盗致傷罪が成立する。
(量刑の理由)
まず,全体的な犯情についてみると,量刑上重視すべき事情としては,奪われた現金が3億8400万円と巨額に上っており,財産的損害が極めて大きいことが指摘できる。また,被害者が負った怪我の程度は軽かったものの,被害者が受けた恐怖心や精神的苦痛は大きかったと考えられる。被告人から被害弁償はなされておらず,被害者及び被害会社代表者は被告人らの厳罰を希望している。被告人及び9名の共犯者らは,あらかじめ入手した情報に基づき,犯行現場の下見,犯行使用道具や車両の準備・運搬,実行,被害者による追跡の妨害,奪った現金の運搬,犯行使用物品の処分などの役割を分担し,入念な準備を行った上で,2度にわたり失敗をしても,なお計画の実現をあきらめることなく,最終的に強盗致傷の犯行にまで及んでいるのであり,現場における実行役らのやや場当たり的ともいえる行動等が見られることを踏まえても,本件は確実に現金を奪い取ることを意図してなされた組織的で計画性の高い犯行と認められる。
被告人の犯行への関わり方をみると,被告人は,Aから犯行の実行役を依頼されて承諾した上で,C,D,E,F,G及びHを犯行に誘い入れ,犯行に関する情報をAに確認してその結果をCらに伝えたり,必要に応じて実行方法につき助言をするなどしたほか,犯行使用道具や車両を調達し,犯行現場の下見へ行き,Cら実行役が本件犯行を遂行するのに必要な諸経費も負担している。しかも,被告人は,本件各待ち伏せ行為や本件現金奪取行為の当日には犯行現場付近へ自ら赴き,飛ばしの携帯電話を用いてAやCらと連絡をとり,Cら実行役に対し犯行のタイミングを指示したり,犯行後にはAから実行グループの取り分の現金を受け取って東京まで運搬することで,捜査の手をかいくぐって犯人側が多額の利益を確保することに貢献するなど,本件犯行に終始主導的かつ密接に関与しており,実行グループのリーダーというべき立場にあったと認められる。被告人が本件犯行により得た報酬の具体的金額は証拠上判然としないものの,被告人の共犯者間における地位や上記の関与の内容からすれば,相当額の報酬を得ていると推察され,実行グループに属する他の共犯者らと比較しても,非難の程度は格段に高いといえる。
これらの事情に加え,白昼繁華街で3億円以上の現金を強奪したという本件犯行が社会に与えた衝撃の大きさをも考慮すると,本件は,共犯事件で被害金額が1000万円以上の強盗致傷事件1件の事案の量刑傾向の中では,かなり重い部類に属する。
次に,犯情以外の量刑要素についてみると,被告人は,本件犯行に一定の関与をしたことは認めているものの,被害者や被害会社が受けた被害の大きさに思いを致すこともなく,自己の責任を回避し,共犯者らに責任を押し付けるような不合理な供述を繰り返しており,そこに反省の情をみてとることはできない。また,現在服役中の大麻取締法違反等の罪での収監を控えた時期に本件犯行に及んでいることなどにも照らせば,被告人の遵法意識の欠如の程度は著しい。以上の事情を考慮の上,主文のとおり刑を量定することとした。
よって,主文のとおり判決する。
(求刑:懲役16年)
平成31年3月26日
福岡地方裁判所第3刑事部
裁判長裁判官

足立
裁判官

太田寅彦
裁判官

池上恒太勉
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