判例検索β > 平成28年(ワ)第3126号
損害賠償請求事件
事件番号平成28(ワ)3126
事件名損害賠償請求事件
裁判年月日平成31年3月27日
法廷名大阪地方裁判所
裁判日:西暦2019-03-27
情報公開日2019-05-13 12:00:15
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主文1
原告らの請求をいずれも棄却する。

2
訴訟費用は,原告らの負担とする。

第1
1実及び理由
請求の趣旨
被告は,原告Aに対し,1200万円及びこれに対する平成27年5月15日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

2
被告は,原告Bに対し,6588万3807円及びこれに対する平成27年5月15日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第2
1
事案の概要
本件は,平成27年5月15日(金曜日)に,当時府立高校の生徒であったC(以下本件生徒という。)が,授業中に他の生徒とトラブル(以下本件トラブルという。)になったところ,同校の教員らが,約8時間にわたって本件生徒を校内の一室に監禁状態にして反省文等を作成させる等の不適切な指導を行ったのみならず,無期限の停学処分になるかのように受け止められる趣旨
のことを告げた上で,これによって肉体的・精神的に追い詰められた状態にある本件生徒を一人で帰宅させた結果,本件生徒が,下校中に踏切内に立ち入って電車に跳ねられて死亡した(以下本件事故という。)として,上記教員らの行為は,社会的妥当性を著しく欠く違法なものであるとして,国家賠償法1条1項に基づき,本件生徒の祖父である原告Aが,慰謝料等として合計120
0万円の,本件生徒の母である原告Bが逸失利益及び慰謝料として合計6588万3807円の各損害賠償及びこれらに対する平成27年5月15日(本件事故の日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。
2
前提事実(当事者間に争いがない事実及び後掲各証拠及び弁論の全趣旨によって認定できる事実)
(1)

当事者等


本件生徒(平成11年5月5日生まれ)は,平成24年3月に大阪市立
D小学校を,平成27年3月に大阪市立E中学校(以下E中学校という。)をそれぞれ卒業し,同年4月,大阪府立F高校(以下本件高校という。)に入学し,同年5月15日当時,16歳の高校1年生であった。本件生徒は,本件高校の1年2組に所属していた。
(当事者間に争いがない。)

原告Aは,本件生徒の祖父であり,原告Bは本件生徒の母である。なお,
原告Bは本件生徒の父とは,平成25年8月5日に離婚している。(甲1)


本件高校の本件事故当時の校長はG(以下G校長という。),教頭
はH(以下H教頭という。)とI教頭(以下I教頭という。)の2名であった。
J(以下J教諭という。なお,証拠として引用する場合には名字のみで表記する。
他の教諭等についても同様)
は,
平成25年4月1日に大阪
府公立高等学校教員として任用され,同日から本件高校に勤務するようになり,本件事故当時,1年2組の担任兼年次副主任兼生徒指導担当であった。本件事故当時,1年2組の副担任は,K(以下K教諭という。)であった。L(以下L教諭という。)は,平成20年4月1日に大阪府公
立高等学校教員として任用され,平成26年4月1日から本件高校に勤務するようになり,本件事故当時は,1年1組の担任兼1年生の生徒指導担当であった。なお,この当時,M(以下M教諭という。)も,1年生の生徒指導担当であった。N(以下N教諭という。)は,昭和59年4月1日に大阪府公立学校教員として任用され,平成26年4月1日から本件
高校に勤務するようになり,本件事故当時は,1年生の学年主任であった。O(以下O教諭という。)は,平成15年4月1日に大阪府公立学校教員に任用され,平成25年4月1日から本件高校に勤務するようになり,本件事故当時は,全学年の生徒指導を統括する生徒指導主事(生徒指導部長)であった。
P(以下P講師という。)は,平成25年頃から高等学校で英語科の非常勤講師として勤務するようになり,平成27年4月1日から,本件
高校の英語科の非常勤講師をしていた。
(乙29~33,証人P,弁論の全趣旨)
(2)

本件高校の授業時間
本件高校では,1限目は午前8時45分から9時35分まで,2限目は午
前9時45分から10時35分まで,
3限目は午前10時45分から11時
35分まで,4限目は午前11時45分から午後0時35分まで,5限目は午後1時20分から2時10分まで,6限目は午後2時20分から3時10分までであった。
(証人J)

(3)

本件高校の生徒懲戒規定及び懲戒規定運用細則の定め


本件高校の生徒懲戒規定では,懲戒は,退学・停学(有期及び無期)・
訓告とし,補導委員会での検討を経て校長が決定し,保護者同伴の上で行うものとされていた。
懲戒の原案は,教頭(委員長),生徒指導部長,生徒指導部員,年次主任,当該担任及びその他関係教職員から構成される補導委員会において作成するものとされ,
懲戒の対象の中には,
暴力行為・暴言及びいじめ等並びにそ
れに準ずる行為が含まれている。
(乙4)

本件高校の懲戒規定運用細則では,停学期間について,起算日は懲戒内
容決定後の翌日(原則として申渡日)とされており,停学については,有期が3,5,7,10日(土日・祝日は含まず),無期は15日以上(土日・祝日を含む)とされていた。そして,停学日数については,懲戒指導の対象となる行為が暴力行為(対等な生徒間の喧嘩)である場合には3日以上,
暴力行為(一方的な暴力)である場合には5日以上とされ,対教師暴言・授業妨害・指導拒否等である場合には校長訓告以上とされていた。

また,同細則では,懲戒に至る手順として,①

問題行動の発見者は,

速やかに各年次団室・生徒指導室等に報告する,②
生徒指導部員におい

て発見者・関係教員・当該生徒等からの事実確認を行い,必要が認められる場合は,
授業中でも聞取りを行うことができる,


事実確認は,
当該生

徒からの聞取り及び作文にて内容を確認する。
時系列で問題行動を確認し,

問題行動が複数の生徒に及ぶ場合には内容の突合せを行い,事実に矛盾がないかを確認し,当該生徒に自分の行動を認めさせる。事実確認が終了し,学校から早退させる場合は,保護者にその旨を連絡する。④
事実確認が

終了次第,生徒指導部長は教頭に報告し,補導委員会の開催が必要な場合は要請する,⑤

懲戒指導が必要な場合は,生徒指導部員において生徒指

導記録を作成する,⑥

懲戒内容が決定し次第,生徒指導部長は申渡し日

を当該担任に連絡し,当該担任から保護者へ,当該生徒同伴の下,来校するように連絡するとともに問題行動に係る事実を説明するが,懲戒内容については伝えない,⑦

懲戒の申渡しは,校長が当該生徒及びその保護者

に対して行う。その際,教頭・生徒指導部長・生徒指導部員・当該年次主
任・当該担任が同席する,などの内容が定められている。
なお,本件高校の停学には,登校謹慎と家庭謹慎の2種類がある(以下,上記の生徒懲戒規定及び懲戒規定運用細則の定めを本件懲戒規定等という。)。
(乙5)

(4)

本件トラブルの発生

本件高校の1年2組の教室では,平成27年5月15日(以下,特に記
載のない限り日付は同日である。午前9時45分から,

P講師の担当する
2限目の基礎英語総復習の授業(以下本件授業という。)が行われていた。
本件授業の際の本件生徒の座席は,教卓から見て左から2列目の前から
4列目であり,本件生徒の前の座席(左から2列目の前から3列目)には,Q(以下相手方生徒という。)がいた。なお,1年2組の教室の机の配置は,横は6列,縦は6~7列であった。
(当事者間に争いがない。)

P講師は,本件授業開始後,各生徒の机間を回って従前に課した宿題の
解答状況等のチェックをするなどしていたところ,相手方生徒は,その間,体を乗り出して,別の女子生徒と課題の教え合いをするなどしていた隣席の女子生徒(以下本件女子生徒という。)の腕の部分を握るなどしていた。
本件生徒は,午前10時前頃,相手方生徒を注意するために,後ろから頭を軽く叩くなどしたところ,相手方生徒がこれを無視したことから,再度,相手方生徒の襟をつかむなどして自席に正しく座らせようとするなどしていたところ,相手方生徒が本件生徒の方に振り向いたことから,相手方生徒の頬を平手で叩いた(以下,頬を平手で叩くことをビンタという
ことがある。)。
これに対して相手方生徒は,本件生徒の頬を平手で叩いた上,教室の外に連れ出そうとして胸ぐらをつかんで引き寄せるなどしたところ,本件生徒は椅子から落ちて尻餅をついた。
この際,
大きな音がして,
教室内が騒然
となったことから,隣の1年3組の教室で英語の授業をしていたR(以下
R教諭という。)が1年2組の教室に駆けつけ,騒ぎに気付いたP講師と一緒に,本件生徒の胸ぐらをつかんでいた相手方生徒を本件生徒から引き離した(本件生徒と相手方生徒との間のこれらの一連の出来事が本件トラブルである。)。
(甲2,3,乙1,7,8,18,19,弁論の全趣旨)
(5)
本件生徒に対して行われた指導等の状況


相手方生徒は,同窓会室において,午前10時10分頃から,生徒指導
担当であるL教諭から事情聴取を受けた。
他方,本件生徒は,相手方生徒からの事情聴取と並行する形で,小会議室において,J教諭及びL教諭から事情聴取を受けた。
その後,J教諭及びL教諭は,同窓会室と小会議室を行き来して,相手方生徒と本件生徒から交互に事情聴取を行い,本件トラブルに関する事実関係や,本件生徒が相手方生徒の頬を平手で叩くなどした理由を繰り返し確認するなどした。
(乙29,30,弁論の全趣旨)

J教諭及びL教諭は,上記事情聴取の結果,本件トラブルの経緯等を確
認できたことから,本件生徒及び相手方生徒に対し,
振り返りシートの
作成を指示した。振り返りシートは,生徒が質問項目に順に回答していく形式になっており,問題があるとされる行動の具体的な内容(誰が誰に何をしたのかや,その発生日時及び場所)を記載するほか,
⑤うなことをしてしまったのですか?
⑥思いますか?⑦
「⑧誰にどのような迷惑をかけたとこれから誰にどのように迷惑をかけると思いますか?
迷惑をかけた相手はどんな嫌な気持ちになったと思いますか?」
⑨自分は,今,何を考えなければならないと思いますか?

⑩で周りにどう思われると思いますか。

⑪今回のこと今回のことに至るまで,いつからどのような気持ちがあなたの背景にありましたか?⑫なぜそのよ中学のころ自分はどのような生徒だったと思いますか?⑬高校生になってからの自分はどのような生徒だったと思いますか?⑭自分は,これから何をどうしなければならないと思いますか?との各質問項目が並べられていた。
(甲3,乙7)

本件生徒は,小会議室において振り返りシートを書き始めたものの,こ
れをなかなか完成させることができなかった。この間,J教諭等の教諭ら
は,数回にわたって本件生徒の様子を見に行き,進捗状況を確認するなどしていた。
J教諭は,午後0時半ころに本件生徒が振り返りシートを完成させたことを確認したことから,K教諭に依頼して,本件生徒が持参していた弁当の入ったかばんを小会議室に届けさせた上,昼食後に,振り返りシートに
基づいて反省文を作成するよう指示した。
その後,生徒指導主事のO教諭が小会議室を訪れ,本件生徒に対し,相手方生徒にビンタをした理由を尋ねた上で,
反省を促すための指導を行い,
午後1時15分頃に昼食を取るよう指示して小会議室から退出した。本件生徒は,昼食後,小会議室において反省文の作成をしていたが,な
かなか反省文を書き進めることができない様子であったことから,途中で様子を見に来たL教諭及びO教諭は,本件生徒に声をかけ,反省文を書くように促すなどしたが,
午後4時頃になっても,
未だ反省文をほとんど書く
ことができていなかった。なお,本件生徒は,午後4時頃,小会議室を訪れたJ教諭にトイレに行きたいと申し出たことから,M教諭が付き添ってト
イレに行った。
他方,相手方生徒は,6限目の途中までに振り返りシートと反省文の作成を終えたことから,O教諭は,相手方生徒をそのまま帰宅させた。(甲3,6,乙7,8,29~31,弁論の全趣旨)
(6)

本件高校における補導委員会の開催及びその後の本件生徒に対する対応等本件高校では,H教頭(委員長),O教諭(生徒指導部長),L教諭及びM教諭(1年次生徒指導部員),N教諭(年次主任)並びにJ教諭(1年次生徒指導部員兼担任)等の合計13名の教員が出席して,午後4時頃から補導委員会(以下本件補導委員会という。)が行われた。
本件補導委員会では,状況説明等が行われた上で,O教諭から,本件懲戒規定等の定めに基づいて,本件生徒及び相手方生徒について,暴力行為(対等な生徒間の喧嘩)の停学日数が3日であることに加えて,授業妨害も加味して,停学5日とする旨の懲戒原案が提示された。なお,この段階では,本件生徒は反省文を未だ作成しておらず,本件補導委員会においても,
その旨の説明が行われた。
本件補導委員会は,
午後4時20分頃に

終了した。
(乙2,3,29~31,弁論の全趣旨)

本件補導委員会終了後,N教諭は,小会議室に本件生徒の様子を見に行
き,本件生徒と話をした上で,反省文の書き方についての指導をするなどした。この際,本件生徒は,反省文をほとんど書いておらず,また,N教諭に対し,学校に戻ってくることはできないかもしれないなどと悲観的な発言をしたことから,
N教諭は,
指導を受ければ戻ってくることができるなど
と述べた。
(甲6,乙32)

J教諭は,午後5時頃に本件生徒の様子を見に行ったところ,本件生徒
は反省文を2~3行程度書いただけであった。
その後,
J教諭は,
午後5時
40分頃に本件生徒の様子を見に行き,反省文の状況を確認した上で,月曜日までに反省文を書いてくるよう指示した上,今後のことは,電話で母である原告Bに伝えるので,本件生徒自身でも,本件トラブルの内容を伝えて,
反省していることや,
変わろうと思っていることを伝えるよう指導し

たところ,
本件生徒は表情を曇らせた上,
自棄的な発言をしたことから,
J
教諭は本件生徒の発言内容を否定して,更に指導・助言を行った。その後,本件生徒は,J教諭と共に1年2組の教室に荷物を取りに行った上,午後6時過ぎ頃に1人で下校した。なお,J教諭は,この時点では,原告Bには連絡を取らなかった。
(乙26,29,弁論の全趣旨)
(7)

本件事故の発生
本件生徒は,午後6時28分頃,本件高校から自宅への帰宅経路上にある
S電鉄T線のU踏切(大阪市住吉区ab丁目c番d号先。以下本件踏切という。)内において,電車に跳ねられて死亡した(本件事故)。
(当事者間に争いがない。)
3
争点
(1)

本件高校の教員らによる本件生徒に対する指導等についての,国家賠償
法上の違法性の有無
(2)
4
原告らに生じた損害及びその額

争点に対する当事者の主張
(1)

争点(1)(本件高校の教員らによる本件生徒に対する指導についての,国
家賠償法上の違法性の有無)について
(原告の主張)

本件生徒は,当時高校1年生になったばかりの16歳の生徒であった上,本件高校では,本件生徒が在籍していたE中学校の教員から,本件生
徒は優しくて正義感が強く,やんちゃな子や間違ったことをすることが嫌いなため,高校入学後もトラブルが生じるかもしれないとの報告を受けていた。そして,実際にE中学校の教員が想定していたようなトラブルが生じたのであるから,本件高校の教員らは,本件生徒に対して事情聴取等をするに当たり,本件生徒の肉体面・精神面について最大限配慮するととも
に,本件生徒の受けた肉体的・精神的衝撃を和らげるために適切な処置を執るべき義務があった。

そうであるにもかかわらず,本件高校の教員らは,次のとおり上記の義務に違反する行動を取った。下記のような本件高校の教員らの行為や,本件生徒に対する処分の内容等(以下,本件トラブルに関して本件生徒に対して行われた指導及び本件生徒に対する処分(原案)を含めて本件指導等という。)は,本件トラブルの内容に照らして著しくバランスを失しており,社会的妥当性を著しく欠いている。
(ア)

本件高校の教員らは,本件生徒が相手方生徒に押し倒されて床に尻
をついた状態になっていたことを現認したにもかかわらず,本件生徒に対し,怪我をしたかどうかを確認せず,何らの救護措置も取らなかった。
(イ)

本件生徒は,正義感が強くまじめであり,本件高校に入学後,問題
を起こしたこともなかったのであるから,本件トラブルに際しては,教員がその場で注意をしたり,生徒同士で話合いをさせるなどの指導方法でも足りたはずであった。また,相手方生徒は,本件授業の最中にも立ち,横を向いて大きな声で話をしたり,隣席の女子生徒の手や足を触ったりつかんだりするなど,目に余る行動をとっていたところ,当該女子生徒がこれを嫌がっており,また,P講師には,相手方生徒のそのような行為を是正する行動を取ることを全く期待できなかったことから,自ら相手方生徒を注意しようと考えたものである。

しかしながら,本件高校の教員らは,本件生徒が悪いことをしたと決めつけて,約8時間にわたって3畳ほどの小部屋に監禁し,十分に情報共有がされていない教員らが,入れ代わり立ち代わり監視や指導を行い,トイレに行く際にも同行して監視するなどして,振り返りシートや反省文の作成を強要した。このような行為は,本件生徒に肉体的にも甚
大な苦痛を与えるものであり,学校教育法11条が禁止する体罰に当たる。
また,本件高校の教員らは,本件生徒に対し,相手方生徒にビンタをした理由を繰返し問い質した上,一方的に変わることを強要しているが,同教員らのこのような行為は,指導の域を脱し,本件生徒の正義感,自尊心をことごとく毀損し,疲労や心理的負荷等により,本件生徒の心身の健康を損なう不当不法な行為であり,教育上必要にして正当な制裁ではなく,私的制裁行為である上,本件生徒を長時間にわたって個室に止め措いたことは,監禁罪(刑法220条)を構成するものである。
さらに,本件生徒は,本件事故の当日,2限目以降の授業を受けるこ
とができなかったところ,このことも本件生徒に相当な精神的苦痛を与えるものであった。
(ウ)

本件高校の教員らは,本件生徒に弁解の機会を与えず,本件授業を
担当していたP講師からの事情聴取も行わないなど,杜撰な事情聴取しか行わないままで本件補導委員会を開催したのみならず,本件生徒を長時間にわたって別室に止め置いて反省文を作成させておきながら,その内容を踏まえることなく,早々に5日間の停学処分とすることを決定した。
また,相手方生徒は,本件授業の最中に立ち歩いたり大きな声で話したりしていたことを振り返りシートや反省文の中で自認しているのであ
り,授業の妨害行為をしていたことは明らかであるし,P講師が授業をコントロールすることができていなかったことも明らかである。本件生徒は,このような中で相手方生徒を注意しようとしたのであるところ,本件生徒に対する懲戒原案を決定するに当たって,そのような動機は全く考慮されておらず,不当である。

(エ)

本件補導委員会が終了した後,N教諭は,本件生徒から,退学にな
ってもう二度と学校に戻って来ることができないのかとの質問を受けたのに対し,特段それを否定することのないまま,指導を受ければ戻ってくることができるとだけ伝えて,無期限の停学の処分になったと受け取られかねないような言い方をした。
(オ)

本件高校の教員らは,本件生徒に対する本件トラブル後の指導の過
程で,本件生徒が自暴自棄な発言を繰り返すなど,動揺していることが
明らかであったにもかかわらず,本件生徒の心情に何ら配慮することもないまま,不適切な指導を続けた。また,J教諭は,本件生徒に対する処分を母である原告Bに伝える旨を告げた際,本件生徒が表情を曇らせたのを確認し,かつ,本件生徒が自棄的な発言をしているにもかかわらず,単に言葉で取り繕うのみで,原告Bに連絡を取ることもなく,本件
生徒を一人で下校させた。

憲法26条は,教育を受ける権利等について定めているところ,同規定によると,学校や教員は,学校教育において支配的立場ではなく,生徒の成長,発達,自己の人格の完成,実現を充足させる義務ある立場として,
生徒の学校生活での安全及び教育に配慮する義務を負っている。このことは,生徒指導においても当然妥当するものであり,本件高校の教員らにおいても,生徒を指導するに当たり,生徒の成長,発達,自己の人格の完成,実現に資するよう指導方法に配慮するとともに,生徒の生命,身体,精神等の安全にも配慮すべき義務を負っている。労働事件において,使用
者は,労働者に対し,業務の遂行に伴う疲労や心理的負荷等が過度に蓄積して労働者の心身の健康を損なうことがないよう注意する義務を負っているところ,学校教育においては,教員には,労働関係よりも高度な危険な状況を回避する義務が課せられているはずである。特に,指導に当たる教員は,指導が少なからず生徒の権利・人権を侵害する側面があることか
ら,指導の遂行による疲労や心理的負荷等により生徒の心身の健康を損なうおそれ,ひいては自殺にまで追い込む危険を予防するために,指導の内容・方法について常に適切な措置や配慮を講ずべき危険状況回避義務を負うことになる。

一般に指導と考えられている教員の行為によって,子供が精神的あるいは肉体的に追い詰められて自殺する場合があるところ(これを指導死という。),本件生徒の死亡の原因は,本件高校の教員らによる一連
の指導とその後の配慮義務違反(保護者に連絡せず一人で帰宅させたこと)によるものである。本件高校においても,本件事故は建前上は踏切事故とされているが,実際には自殺であり,その原因は本件事故の当日に本件生徒に対して行われた指導が原因である可能性を認識した上で迅速に対応を協議している。指導死の特徴として,問題行動等に関
わる生徒指導に関して,十分に情報共有されていない教師による入れ代わり立ち代わりの多人数による指導や,指導直後の自殺が多いことなどが挙げられているが,本件指導等は,正にこれに当たる。指導死のケースは,全国的に多発しており,一般に指導と考えられている教員の行為によって,子供が精神的あるいは肉体的に追い詰められて自殺する可能性
があることについては,本件高校の教員らは予見し得たはずである。また,本件生徒は,振り返りシートに自暴自棄とも取れる記載をしたり,本件高校の教員らとの遣り取りの内容からも,自暴自棄になり,心理的に動揺していることが見て取れたのであるから,真面目で繊細な面を持つ本件生徒が追い詰められて自殺する可能性があることを十分に予見し得たはず
である。

本件生徒が自殺するに至ったのは,本件高校の教員らによる指導により疲労や心理的負荷等を過度に蓄積させた結果であり,このようなことは通常起こりうることであり,異例なものではない。また,本件生徒は,スト
レス耐性が低かった可能性があるところ,本件高校の教員らは,本件生徒の身上から,本件生徒が母親に迷惑をかけることについて神経質であることを認識又は認識し得たはずであるにもかかわらず,J教諭においては,本件生徒を解放する際,当日のことは母親に通知するなどと伝えたのみならず,指導によって一定程度の大きな疲労や心理的負荷等を負った本件生徒に対し,反省文の作成を週末の課題として持ち帰らせるなど,危険状況回避措置どころか,危険に追い込む行動を取っている。


以上によると,本件高校の教員らによる本件指導等は,国家賠償法上違法であることは明らかである。

(被告の主張)

本件高校の教員らの本件生徒に対する対応(本件指導等)は,次のとおり相当なものであり,何らの違法性もない。
(ア)

本件トラブルの際,相手方生徒が本件生徒を押し倒した事実はな

い。また,本件生徒には出血等もなく,事情聴取の最中にも顔や尻などの痛みを訴えることもなかったのであるから,客観的にみて怪我をしている様子はなかった。
(イ)

本件生徒は,相手方生徒が特に騒いだりしていなかったにもかかわ
らず,相手方生徒をうっとうしく感じ,ビンタをするなどの暴力を振るっており,自らもそれを認めていた。そのため,本件高校の教員らは,問題行動をした生徒に対して,事情聴取や指導等を行うに際して,一般的に使用してきた部屋において,このような場合に,通常作成させている振り返りシートや反省文の作成をさせたものである。しかしながら,本件生徒が相手方生徒にビンタをした理由を容易に述べず,また,振り返りシートや反省文の作成も容易に進まなかったこと等から,事情聴取や指導等の時間が結果的に長時間に及んだのであり,不必要・不合理な対応ではなかった。本件高校の教員らは,本件生徒を監禁したわけでは
ないし,本件生徒に対し,何かを強制的に押しつけるようなことはしていない。なお,振り返りシートは,その質問に一つ一つ答えさせることを通じて,生徒の頭の中を整理させ,円滑に反省文を書くことができるようにする目的で記載させているものである。
(ウ)

生徒に対する懲戒処分は校長が決定すべきものであるところ(学校
教育法11条,同法施行規則26条2項),本件トラブルについては,G校長は本件生徒の懲戒処分を決定しておらず,その通知もしてはいなかった。本件補導委員会は,G校長に供する懲戒処分の原案を決めたにすぎないし,その原案の内容は,妥当かつ合理的なものであった。なお,本件補導委員会が開催された当時,本件トラブルの概要は既に明らかになっており,本件生徒の自己認識の状況や反省状況等も一定程度把
握することができていたのであるから,懲戒処分の原案を十分に協議・決定することができる状況であった。なお,本件事故の当日,本件生徒の反省文が提出されていない状況で本件補導委員会が開催されたのは,相手方生徒が午後2時頃に反省文を書き終えており,本件生徒と相手方生徒の供述が一致していたことから,相手方生徒と一緒に合わせて補導
委員会を開催するのが妥当であると判断されたためである。
(エ)

本件補導委員会が終了した後,N教諭が本件生徒と話をした際,本
件生徒は,自ら停学を前提とした話をしたことから,本件生徒が自己の行為について指導を受け反省をすればよいだけで,何ら学校生活等に支障はないことを伝えようとしたものであり,その指導内容等には,全く不当・不合理なところはない。
(オ)

本件生徒は,本件高校の教員らからの指導等を受けながら,自ら振
り返りシートを仕上げ,前向きに反省文の作成に取り組むなどしていたものであり,動揺したり自暴自棄になったりしている状況はなかった。また,本件生徒は,J教諭と別れる際も,普通に挨拶を交わし,特に落胆するなど精神的な異変を示すような状況も皆無であり,原告Bに連絡を取ったり,迎えに来てもらったりすることが必要な状況ではなかった。なお,J教諭は,本件トラブルについて原告Bに連絡を入れるために,原告Bからあらかじめ提出されていた家庭連絡票(乙26)の記載に従って午後7時過ぎに,携帯電話に電話をしたが,連絡が取れず,自宅にも電話をしたが,やはり連絡が取れなかったものであり,連絡を怠ったといわれる理由はない。


本件高校の教員らは,情報を共有しないまま,無計画に入れ代わり立ち代わり本件生徒から繰り返し同じことを問い質すなどして,本件生徒を精神的に追い詰めるなどしてはいない。

(2)
争点(2)(原告らに生じた損害及びその額)について

(原告の主張)

原告Bの損害及びその額
(ア)

本件生徒の逸失利益

2488万3807円

本件事故が発生した平成27年の賃金センサスによる大学卒男子の平均賃金年額648万7100円を基礎収入として,稼働可能年数である45年間(22歳から67歳まで)のライプニッツ係数は13.2633であるから,本件生徒の逸失利益は4976万7615円となる。原告Bは,その2分の1である2488万3807円を相続により取得している。
(イ)

本件生徒の死亡慰謝料

2000万円

本件高校の教員らによる指導が著しく不適切であったことや,本件生
徒の将来が理不尽な形で奪われたことを考慮すると,本件生徒の精神的苦痛を慰謝するための慰謝料は4000万円を下らない。原告Bは,その2分の1である2000万円を相続により取得している。
(ウ)
原告B固有の慰謝料

1500万円

原告Bが,一人息子である本件生徒を失った精神的苦痛を慰謝するための慰謝料の額は,1500万円を下らない。
(エ)

弁護士費用

(オ)

合計


600万円

6588万3807円

原告Aの損害及びその額
(ア)

原告A固有の慰謝料

1000万円

原告Bが,孫である本件生徒を失った精神的苦痛を慰謝するための慰
謝料の額は,1000万円を下らない。
(イ)

S電鉄株式会社への賠償金

100万円

本件生徒が,本件高校の教員らの違法行為により,本件踏切で自殺するに至ったことから,S電鉄株式会社に対して賠償金100万円の支払を余儀なくされた。

(ウ)

弁護士費用

(エ)

合計

100万円

1200万円

(被告の主張)
いずれについても争う。
第3
1
当裁判所の判断
前提事実と後掲各証拠及び弁論の全趣旨を総合すると,以下の事実が認められる。
(1)

本件生徒及び相手方生徒の従前の状況等
本件生徒は,平成11年5月5日生まれであり,平成27年3月にE中学校を卒業し,同年4月に本件高校に進学したが,小学生の頃からクラスメートが喧嘩をしているときに傍観せずに止めに入ったり,授業中に私語をしている人を注意するなど正義感が強く,物事に真面目に取り組む性格であった。また,本件生徒は,優しく思いやりもある性格であったが,中学3年生の時に,授業中に立ち歩いたり喧嘩をしたり,教員に暴力を振る
うなどするいわゆる不良グループの生徒の一人から繰り返しからかわれるなどしたことなどから,我慢ができなくなり,それを止めさせようとして当該生徒の首の辺りをつかむなどしたところ,同生徒から顔面を蹴られて地面に倒されたことがあった。
なお,本件生徒の母である原告Bは,本件生徒の父とは平成25年8月に離婚しているが,実際には,本件生徒が1歳半の頃から,本件生徒の父とはほとんど同居してはいなかった。

(甲1,4,5,20,原告B本人)

本件高校では,新入生が入学する前に本件高校の教員が近隣の中学校の学校訪問を行い,学年主任や担任の教員から入学予定の生徒の状況について話を聞くようにしているところ,L教諭は,平成27年度の入学式の前にE中学校への学校訪問を行った。L教諭は,この際,E中学校から本件
高校への入学を予定していた3名の生徒の状況を確認したが,E中学校の教員は,本件生徒について,おとなしく口数が少なく,いじられやすい,正義感が強く,そこをおもしろおかしくいじる生徒がいて過去に爆発した経験があると述べた上で,中学校においても指導をしており,高校に入ってからは同様のことが起こることはないと思うが,一応,知っておいてほ
しいとの話をした。また,E中学校の教員は,上記3名ともいじられやすく,おとなしいのでヤンチャな生徒から守ってほしいとの話をした。(乙30,34,証人L)

原告Bは,本件生徒が本件高校に入学する際に提出する生徒個人票の特に学校へ伝えておきたいことの欄に,コミュニケーション不足で特に自分とは性格や考え方が合わない子との対人関係が心配なのでうまく付き合えるようになってほしいですあるいは

コミュニケーションがうまくとれず対人関係で心配なことがあります。自分と性格や考えが違う子ともうまく付き合っていけるといいと思います

との記載をし,また,
高校生活支援カードにおける

これまでの学校生活で,不安に感じた事や通学しにくくなるような出来事はありましたか。

との質問に対して,

特定の相手とのコミュニケーションが上手くとれずもめたり傷つく事が何度かありました。

との記載をし,

学校生活面で配慮を希望することがありますか。

との質問に対して,

真面目な性格なので少しやんちゃ(という表現で正しいのかわかりませんが)な生徒とは対立する事があり,からかわれたりする事を嫌がるのでその部分でのかかわりに配慮して頂きたいと思います。

との記載をした。(甲28の1・2,甲29,乙27,原告B)

本件生徒は,本件高校に入学した後は,おとなしく,周りの者とコミュニケーションを取るのが苦手なのではないかと思われるところがあり,友人は少ない様子ではあったものの,真面目に授業に取り組んでおり,特段
の問題は見当たらなかった。
なお,本件生徒は,文系の大学に進学して小説家になりたいという希望を持っており,大学進学のために必要な国語と英語の勉強を頑張りたいと思っていたところ,本件高校に入学後,母である原告Bに対し,本件高校では,授業中に私語をしたり,携帯電話でLINEをしたりゲームをした
りする者がいること等について不満を漏らすことがあった。
(甲20,乙15,29,証人P,証人J)

他方,相手方生徒は,中学校時に喫煙,飲酒,窃盗,家出を繰り返し,二度,児童相談所に入所したことがあり,保護者からも,教室で騒いだりして迷惑をかけることがあるので,席を前の方にするなどの配慮をしてほ
しいとの話が出ていた。相手方生徒は,本件高校に入学した後も,授業中に私語をしたり,勝手に立ち歩くことがあり,担当教員から度々注意を受けていたものの,注意をされると,指導には素直に従っていた。
(乙7,8,11,29,30,証人P,証人J)
(2)

本件トラブルが発生した当時の状況
本件高校の1年2組の教室では,平成27年5月15日午前9時45分から,P講師の担当する2限目の基礎英語総復習の授業(本件授業)が行われていた。P講師は,数名の生徒に宿題の問題集の解答を黒板に記載させながら,生徒の机間を回って各生徒の解答状況等をチェックしたり,生徒からの質問に答えるなどしていたが,解答状況等のチェックに時間がかかりそうだったので,途中から,生徒に対し,あらかじめ配付して
いた同月22日に提出させる予定の中間テスト前の課題のプリントを完成させるよう指示した。この際,P講師は,隣席の生徒と話し合いながら課題を検討してもかまわないとの指示をしていたことから,教室内は,私語をする者などもいて,やや騒がしい状態ではあったものの,生徒らは,おおむね指示された課題に取り組んでいた。

(乙17,乙19の1~29,乙33,証人P)

本件授業の当時,相手方生徒は,本件生徒の前の座席で授業を受けていたところ,課題の検討をしている最中に,立ち歩いたり,大きな声で話をするなどしていたほか,別の女子生徒と課題の教え合いをしていた右隣の女子生徒(本件女子生徒)の方に身を乗り出して本件女子生徒の腕を握る
などしていたが,本件女子生徒から,勉強中だから待ってと言われたことから,黙って本件女子生徒の腕を握っていた。なお,本件女子生徒は,以前,相手方生徒と交際していたことがあり,相手方生徒の上記のような行動に対し,特に嫌がるようなそぶりをしていたわけではなかった。(乙7~9,11,14,乙19の1,乙29,30,証人J,証人L)

本件生徒は,上記のような相手方生徒の行動について,授業中の態度として不適切であると思ったことから,午前10時前頃,まず,何も言わずに後ろから相手方生徒の頭部を右手で軽く叩いて注意を促したが,相手方生徒がこれを無視したので,左手で相手方生徒の襟をつかんで左斜め後方
に引っ張って,座席に正しい姿勢で座らせようとした。しかしながら,相手方生徒は,再度これを無視して本件女子生徒と話を始めたので,再度,相手方生徒の襟をつかんで左斜め後方に引っ張り,座席に正しい姿勢で座らせようとしたところ,相手方生徒が,本件生徒の方に振り向いたことから,本件生徒は,何も言わずに相手方生徒の左頬を右の平手で叩いた。本件生徒は,相手方生徒が呆然としている様子が滑稽に見えたので,にやにやと笑ったところ,相手方生徒は,これに腹を立てて本件生徒の左頬を右
の平手で叩いた上,立ち上がって本件生徒の胸元を右手でつかみ,廊下に連れ出そうとして引き寄せたことから,本件生徒は椅子からずり落ちて床に尻餅をついた。この際,本件生徒のボタンが3つほど取れてしまった(本件トラブル)。
(乙7~9,11,14,乙19の1,乙29,30,33,証人P,証
人J,証人L)

P講師は,机間指導をしている最中に,背後で大きな物音がし,生徒達が声を上げたことから,本件トラブルに気付き,慌てて二人を制止しようとしたところ,隣室の1年3組の教室で授業をしていたR教諭が二人の間に入って制止し,相手方生徒を1年2組の教室の外に連れ出した。本件生
徒は,一旦,自席に戻ったが,その後,R教諭とK教諭が本件生徒を教室の外に連れ出した。
P講師は,その後も4限目まで授業を続けた後,本件高校を離れたが,当日,P講師からの事情聴取はされなかった。
(甲11,12,乙33,証人P)

(3)

本件生徒及び相手方生徒に対して行われた事情聴取時の状況
1年次職員室にいた1年生の生徒指導担当のL教諭は,午前10時頃,相手方生徒を連れてきたR教諭から,1年2組の教室で,授業中に相手方生徒と本件生徒が喧嘩をしたので対応してほしいと依頼されたことから,
相手方生徒を引き継ぎ,1年次教官室の近くにある同窓会室に連れて行った。なお,同窓会室及び階段を挟んでその隣にある小会議室は,生徒指導事案が生じた場合に生徒から事情聴取をしたり指導したりする際に使用される部屋である。また,1年2組の副担任であったK教諭は,R教諭と共に1年2組の教室に赴いた。
L教諭は,同窓会室で相手方生徒から事情を聞いたところ,相手方生徒は,自分は何もしていないのに本件生徒から,突然,後ろから頭を叩かれた。無視していると,本件生徒に襟をつかまれて後方へ引っ張られたが,これも無視して本件女子生徒と話を始めたところ,再度,本件生徒が襟をつかんで後方に引っ張るので,本件生徒の方を振り向いたところ,突然頬をビンタされた。その後,本件生徒が笑っていたので,頭にきてビンタを仕返して胸ぐらをつかみ,廊下へ出て話をしようとした。殴られた理由が分からず,本件生徒が笑っていたので余計に腹を立ててしまい,悪いこととは分かっていたが手を出してしまった。何か言ってくれればまだ話ができたのに,我慢できなかった。との趣旨のことを話して,当時の状況を説明した。L教諭は,本件生徒については,生徒指導上,特に問題があるとの話を聞いていなかったのに対して,相手方生徒については,生徒
指導上課題のある生徒として出身中学校から引き継ぎを受けていたことから,本件生徒が先に相手方生徒の襟を引っ張ったりビンタをしたりしたということが信じられず,相手方生徒に対し,嘘をついていないかと追及したものの,相手方生徒は,嘘はついていないと述べた。そのため,L教諭は,本件生徒から事情を聞くことにした。

(乙11,30,証人L)

1年2組の担任であり,当日は生徒指導室当番で本件高校1階の生徒指導室で待機していたJ教諭は,午前10時頃,K教諭から電話で,生徒間でトラブルが発生したため,小会議室で事情聴取を行うので来てほしいと
の連絡を受けたことから,小会議室に赴いた。なお,小会議室は,入口が狭い通路状になっており,少し奥まったところに10人程度が入ることができるスペースがある部屋であり,窓もあって明るい風通しの良い部屋である。J教諭は,L教諭から,相手方生徒が話している内容を聞き,一旦,本件生徒を小会議室に入らせた上で,L教諭をその場に残して同窓会室に赴き,まず,相手方生徒から事情を聞いたところ,相手方生徒は,L教諭に話したのと同様の内容の話をした。
そこで,J教諭は,小会議室に戻り,L教諭と共に,再度,本件生徒から話を聞いたところ,本件生徒も,おおむね相手方生徒と同様の話をした。そのため,J教諭及びL教諭が,本件生徒に対し,相手方生徒に対して手を出した理由を尋ねたところ,本件生徒は,

じゃれあっていた延長で手を出した。

などと述べて理由を説明しようとしなかった。しかしながら,本件生徒と相手方生徒の双方の話からしても,本件生徒と相手方生徒は,これまでほとんど話をしたこともない様子であったことや,本件生徒が真面目な生徒であったのに対し,相手方生徒は中学校時代から問題のある生徒であったことから,J教諭及びL教諭は,相手方生徒が先に本件
生徒に嫌がらせをするなどし,腹を立てた本件生徒が相手方生徒にビンタをしたのではないかと考え,いじめの場合によく見られるように,本件生徒はそのことを言い出しにくい状況にあるのではないかと考えて,繰り返し確認したものの,本件生徒は,同じ発言を繰り返し,自分から手を出した理由を説明しようとはしなかった。

そのため,J教諭とL教諭は,本件生徒のいる小会議室と,相手方生徒のいる同窓会室を3~4回にわたって行き来しながら,双方から本件トラブルに至った理由を確認したものの,相手方生徒は,本件生徒に嫌がらせをしたことを否定した上で,なぜ殴られたのかは分からず,自分の方が教えてほしいと述べていた。

なお,J教諭とL教諭が本件生徒から事情聴取をしていた際に,L教諭が,相手方生徒をどのように殴ったのかと尋ねたところ,本件生徒は,突然,

じゃあ失礼します。

と言って勢いよく手を振り上げ,L教諭を平手で叩きかけるような素振りをしたことから,L教諭は,驚いてとっさに顔を避け,

何考えてるねん。俺にしたらあかんやろう。それ俺にやろうとしているのか。

と言ったところ,本件生徒は

ぎりぎりで止めたらいいと思ったので。すみません。

などと言った。
(乙10,11,14,29,証人J)

L教諭は,本件生徒との話が行き詰ってしまったことから,話題を変えようと思い,中学校の時の部活動の話をしたりする中で,出身中学を確認したところ,E中学校であると述べたことから,学校訪問の際に,同中学
校の教員から聞いた話(前記(1)イ)を思い出した。そこで,L教諭は,本件生徒が,相手方生徒の授業中の態度に腹を立ててビンタをしたのではないかと考え,小会議室の外に出てJ教諭にその旨を伝えた上で,J教諭と共に同窓会室に赴いて,相手方生徒に対し,本件生徒からビンタをされる前の授業中の行動について確認したところ,相手方生徒は,本件女子生
徒の方に身を乗り出して本件女子生徒の腕を握るなどしていたことを認めた。
そこで,J教諭とL教諭は,小会議室に戻って,本件生徒に対し,相手方生徒の授業中の態度に腹を立てたのではないかと聞いたところ,本件生徒は,腹が立ったわけではないが,相手方生徒が授業中にうるさくしゃべ
っていること,立ち歩いていること,女子生徒の手や足を触っていることの3点を挙げて,授業中にこのようなことをするのはダメだろうと思ったと述べて,それが相手方生徒に対してビンタをした理由であったと述べた。そして,本件生徒は,中学校の時にも素行の悪い生徒とこのようなことが何度かあり,また同じことをしてしまったと述べた。なお,その後,
本件生徒と相手方生徒の話に若干の食い違い(本件生徒が相手方生徒にビンタをする前に,相手方生徒が何か言ったか否かに関するもの)があったことから,J教諭とL教諭は,同窓会室と小会議室を1~2回行き来して事情聴取を続けたが,双方の言い分は食い違ったままであった。
J教諭及びL教諭は,本件生徒に対し,授業中にうるさくしている生徒に注意をすることは良いことだが,そのような場合には暴力で制止するべきではなく,口頭で注意をしたり,担任や教科担当の教員に授業の後で相
談したりして解決するべきであるとの指導を行ったところ,本件生徒は,指導の内容を理解した様子であった。
(乙10,11,29,30,証人L,証人J)
(4)

本件生徒に対する事情聴取後の指導の状況等
本件高校では,生徒指導担当の教員が事情聴取をして事実関係等を把握した後に,問題行動を起こした生徒に振り返りシート(その内容は,前提事実(5)イで認定したとおりである。)を作成させており,同シートの質問項目に順に回答していく中で,自らの行為の問題点や反省すべき点を整理させた上で,改めて自分の言葉で反省文を作成させることになっていた。当該生徒が反省文を完成させると,生徒指導担当が反省文を読み,事
情聴取によって把握された事実関係と齟齬がないかや,新たな事実関係が記載されていないかなどをチェックした上で,当該事案を補導委員会に付議し,当該生徒に対する懲戒処分等についての検討が行われることになっていた。
(乙5,29,30,証人J,証人L,証人O)


本件生徒及び相手方生徒に対する事情聴取の結果,本件トラブルの経緯が明らかになったことから,J教諭及びL教諭は,本件生徒及び相手方生徒に対し,午前11時35分頃,振り返りシートの作成を指示した。J教諭は,本件生徒に対し,振り返りシートの作成について質問があるとき
や,トイレに行きたい場合等には,1年次職員室に声を掛けるように指示をして,小会議室を退出した。その後,午前11時45分頃,M教諭が本件生徒と相手方生徒に対し,反省文の用紙を渡し,振り返りシートを書き終わったら,それを基に反省文を書くよう指示した。
(甲3,6,乙7,8,10,11,29,30,証人J,証人L)ウ
J教諭は,午後0時頃,小会議室へ本件生徒の様子を見に行ったところ,振り返りシートの回答欄があまり記載されていなかったことから,本
件生徒に対し,分からないところがあるのかと尋ねたところ,本件生徒は,自分は,これから何をどうしなければならないと思いますか?という質問項目が分からないと答えたので,その部分を見ると,同じような事を起こさないようにと記載されたところで止まっていたことから,J教諭が,

どうするか考えてみ。

と言ったところ,本件生徒は,

人と関わらないようにする,ですかね。人と接しなければトラブルも起こらないじゃないですか。

と述べた。そこで,J教諭は,人と接しないで高校生活を送ることはできないのではないかと述べた上で,この部屋に呼ばれたのは,相手方生徒にビンタをしたためであることを改めて本件生徒に確認させた上で,注意をすることは良いことであるが,ビンタ以外の方法
はなかったのかと述べたところ,本件生徒は,

口で言う……。僕はダメですね……。

と独り言のように言った。J教諭は,どうしたらよかったか考えるようにと述べて,小会議室から退出した。
(甲3,乙10,29,証人J)

L教諭は,4限目頃に小会議室に本件生徒の様子を見に行ったところ,振り返りシートはほとんど書かれておらず,何をしたのですか?という質問項目について,何度も書いたり消したりした跡が残っており,どのように書けばよいのか分からないと言ったことから,自分の言葉で自由に記載すればよく,文章がおかしいから怒られるということはない旨の助言
をしたところ,本件生徒は,難しい表現を口にしたことから,それでもかまわないと述べたところ,振り返りシートを記載し始めたので,L教諭は小会議室から退出した。
(乙11,30,証人L)

J教諭が,午後0時30分頃に小会議室に赴いたところ,本件生徒の振り返りシートが完成していたことから,昼食を取らせることとし,K教諭に1年2組の教室に本件生徒の弁当の入ったカバンを持ってきてもらうよ
う依頼した。また,J教諭は,本件生徒に対し,トイレに行きたくないかを確認したところ,必要ないとのことだったので,昼食後に適当に休憩したら振り返りシートに基づいて反省文を書くように指示をして,小会議室から退出した。なお,相手方生徒は,弁当を持ってきていなかったことから,昼休み終了後にL教諭が食堂まで連れて行き,昼食を購入させた。
(乙29,30,証人J,証人L)

本件生徒が記載した振り返りシートの③何をしたのですか?の項
目には相手の事をうっとうしく感じて,ビンタしたと,⑤なぜそのようなことをしてしまったのですか?の項目には相手の事をうっとうしく感じて,突発的に手を出してしまったと,⑦これから誰にどのように迷惑をかけると思いますか?の項目には母親と,

⑩今回のことで周りにどう思われると思いますか。

の項目には少しイラッとしただけですぐに暴力をふるう,近付きたくない存在と,⑪今回のことに至るまで,いつからどのような気持があなたの背景にありましたか?の項目には今日の2時限目の授業中,相手の行いが良くないと思い,止めさせた方が良いと考えるが,最後のビンタは個人的に相手の事をうっとうしく感じて突発的に行った事と,⑫中学のころ自分はどのような生徒だったと思いますか?の項目には性格は暗めで,ほんの少し馬鹿にされただけで怒る面倒な存在と,⑬高校生になってからの自分はどのような生徒だったと思いますか?の項目には

性格は暗め,これと言った個性はなし。

と,⑭自分は,これから何をどうしなければならないと思いますか?の項目には

同じような事を起こさないようにする。その為にどうするべきかを考える。

とそれぞれ記載されていた。
なお,J教諭は,上記のような振り返りシートの記載内容については,今後の指導の中で校内カウンセリング等も含めて対応していかなければな
らないと考えたものの,特にこの時点では,本件生徒に対し,趣旨を確認することなどはしなかった。
(甲3,証人J)

J教諭は,4限目の終了後,生徒指導主事のO教諭に対し,本件トラブルの内容をごく簡単に報告した上で,本件生徒及び相手方生徒の事情聴取が終了し,事実関係が一致したことから振り返りシートを記載させたこと,午後からは反省文を作成させる予定であるが,授業が入っているので,その間はO教諭において,適宜,本件生徒と相手方生徒の様子を見に行ってほしいと伝えた。なお,O教諭は,相手方生徒とも本件生徒とも面
識はなかった。
O教諭は,午後0時40分頃,同窓会室に赴き,相手方生徒から事情を確認した上で,午後0時45分から50分頃,小会議室に赴いて,本件生徒から話を聞いた。
O教諭は,本件生徒に対し,本件トラブルの経緯を確認した後,相手方
生徒に対してビンタをした理由を確認したところ,本件生徒は,うっとうしく感じたからであると述べた。そこで,O教諭は,学校というところは安心して安全に勉強できる場所でないといけないとして,暴力を振るうことはいけないことである旨の指導をしたところ,本件生徒が,

僕は学校にいない方がいいですね。

と述べたことから,このまま学校を去れば,
今回の件の反省と改善ができないままになる,社会に出れば,人に手を出せば傷害事件となってもっと大事になる,この機会に反省して,今後に向けて変わっていかないといけないなどといった話をしたところ,本件生徒は,

僕は変わらないですよ。15年間生きてきた実体験から,変われないと思う。

と述べた。O教諭は,本件生徒に対し,少しでもいいから変わろうとする気持ちを持たないといけないなどと諭した上で,以前にも同じようなことがあったのかと尋ねたところ,本件生徒がこれを肯定したの
で,重ねて,変わろうとすることが大切であるとの趣旨の指導をした。O教諭は,約20分程度,本件生徒と話をしていたが,本件生徒がO教諭からの指導に対し,一応の理解を示した様子であったことから,昼食を取るように指示した上で,小会議室を退出した。
O教諭は,その後,生徒指導室でL教諭から,改めて本件生徒及び相手
方生徒に対する事情聴取の内容の報告を受けた上で,G校長の了解を得て,午後4時から本件生徒及び相手方生徒の懲戒処分の原案を決定する補導委員会を開催することとし,その旨を補導委員会の構成員の教諭に伝えるとともに,補導委員会のための資料の作成等の準備を始めた。
(乙12,29~31,証人J,証人L,証人O)


O教諭は,午後2時頃,小会議室に赴いたところ,本件生徒が机に伏せて寝ている様子であったため,早く反省文を書くよう声を掛けるとともに,自分の行為を振り返って反省し,自分を変えていかなければいけないし,変わるかどうかは分からないが,変わろうとしていくことが大切であ
ると指導したところ,本件生徒は,

なんでそんなに僕に期待をするのか。僕なら切り捨てますよ。

と述べた。そこで,O教諭は,自分は生徒を切り捨てたりしない,反省して変わっていけばよいと述べた上で,反省文を書くように促して,小会議室を退出した。
O教諭は,同窓会室にも赴いて相手方生徒の様子を確認したところ,相
手方生徒は,反省文を書き進めていた。
(乙12,31,証人O)

相手方生徒は,6限目(午後2時20分から午後3時10分まで)の途中に,1年次職員室に反省文を書き終えたと告げに来たので,その旨の連絡を受けたO教諭は同窓会室に赴いて,相手方生徒の反省文を確認した後,相手方生徒に対し,担任のJ教諭から保護者に連絡を入れること,保護者にも学校に来てもらうことになること,自宅にまっすぐに帰り,保護
者とよく話をすることなどと伝えて,相手方生徒を下校させた。
O教諭は,6限目終了後に行われる臨時の学年集会の前に,J教諭に対し,相手方生徒が反省文を書き終えたので下校させたことなどを伝えるとともに,本件生徒は,反省文の作成が進んでおらず,O教諭の指導に対し,前記キ及びクのような発言をしていたことなどを伝えた。

そこで,J教諭は,午後4時頃,小会議室に赴き,本件生徒に対し,O教諭との会話の内容を確認したところ,本件生徒はこれを肯定したので,変わる努力をしようとすることが必要である旨の指導を行ったところ,本件生徒は,何か考えるような素振りをしていた。その後,本件生徒がトイレに行ってもよいかと言い出したことから,J教諭が付き添ってトイレに
行こうとしたところ,M教諭が補導委員会の開催を告げに来たことから,本件生徒をM教諭に任せて,J教諭は補導委員会に出席することとした。なお,この時点においても,本件生徒は反省文を数行程度しか記載していなかった。
(乙10,29,31,証人J,証人O)


M教諭は,小会議室に戻った後,本件生徒に対し,反省文に記載すべき8項目(①

いつ,②

どこで,③

誰が,④

かについての経緯(なぜこうなったのか),⑥
いう風に思っているか,⑦
何をした,⑤

何をした

したことについて今どう

相手に対する今の気持ち,⑧

今後こういう

ことをしないように自分(に)何ができるか)を箇条書きにしたメモを渡した。
(甲8,乙29,32,証人J,証人N)
(5)

本件補導委員会の開催及びその後の本件生徒に対する対応等
本件高校では,H教頭(委員長),O教諭(生徒指導部長),L教諭及びM教諭(1年次生徒指導部員),N教諭(学年主任)並びにJ教諭(1年次
生徒指導部員兼担任)等の合計13名の教員が出席して,午後4時頃から補導委員会(本件補導委員会)が行われた。なお,本件補導委員会には,P講師の出席は,当初から予定されていなかった。
本件高校では,前記のとおり,本来,補導委員会は,問題行動を起こした生徒が反省文を作成し終わってから開催されることになっていたとこ
ろ,この時点で,相手方生徒は既に反省文を完成させていたのに対し,本件生徒は未だ反省文を完成させてはいなかった。しかし,同一の事案であるにもかかわらず,相手方生徒だけを先に補導委員会に付議し,本件生徒を,後日,別の補導委員会に付議することは適切ではなく,かつ,本件トラブルに関する本件生徒及び相手方生徒からの聴取結果はほぼ一致してお
り,できる限り早く補導委員会を行ってその後の指導に入るのが相当であると考えられたことから,両者を併せて本件補導委員会に付議することとした。
本件補導委員会では,まず,O教諭から本件トラブルの経緯に関する説明を行った後,L教諭から,本件生徒は,相手方生徒が授業中に女子生徒
の手を触るなどしていたことについて注意をするためにビンタという行動に出たこと,L教諭に対し,実際にどのようにビンタをしようとしたのかを実演しようとしたこと,中学校時代にもヤンチャな生徒と同様のトラブルを起こしたことがあったことについての補足説明を行い,J教諭からも,本件生徒及び相手方生徒の出欠状況等,普段の学校生活の状況につい
ての補足説明を行った。本件補導委員会の出席者からは,特段の質問等は出なかった。
本件懲戒規定等では,停学については,有期の停学は3,5,7,10日とされており,懲戒指導の対象となる行為が暴力行為(対等な生徒間の喧嘩)である場合には,停学日数は3日以上の停学とされていることに加えて,本件トラブルは授業中の暴力であり授業妨害にも該当することから,O教諭は,上記の事情を踏まえて,本件生徒及び相手方生徒につい
て,停学5日とする旨の懲戒原案を提示したところ,特に反対意見等は出されなかったことから,上記懲戒原案が決定された。なお,補導委員会においては,対象となった生徒の反省の度合い等を懲戒原案の決定に際してしん酌することは行われていない。
本件補導委員会では,反省文を完成させている相手方生徒については,
G校長から,平成27年5月18日(月曜日)に懲戒処分の申し渡しを行い,反省文を完成させていない本件生徒については,同月19日(火曜日)以降に申し渡しを行うことが確認され,午後4時20分頃に本件補導委員会は終了した。
(乙2,3,29~32,証人J,証人L,証人O,証人P)


本件補導委員会の終了後,J教諭は引き続き生徒指導部会に出席する必要があったことから,N教諭が本件生徒の様子を見に行くことになり,N教諭は小会議室に赴いた。N教諭は,本件生徒とはこの時が初対面であった。

N教諭は,本件生徒に対し,昼食を取ったかとか,飲み物は飲んでいるか,トイレに行かなくてよいかなどを確認した上で,相手方生徒に対し,日頃から不満等が溜まっていたのかとか,どうして叩いてしまったのかを確認したところ,本件生徒は,相手方生徒に対して不満等が溜まっていたことを否定した上で,

その時はむかついて,頭が真っ白になって,よく覚えていません。

と答えた。そして,N教諭が,これまでもそのようなことがあったのかと尋ねると,中学の時にも同じようなことがあったと答えた。
本件生徒は,N教諭と会話の途中で,突然,

僕はもうきっと停学になって学校には戻れないかもしれませんね。

と言ったことから,N教諭が

そんなことはないよ。今回の指導を受けたら戻れるよ。

と答えると,

でも僕は反省文が書けません。作文とか苦手です。

と述べた。そこ
で,N教諭は,机に置かれていた反省文に記載すべき項目を書き出したメモ(M教諭が作成したもの。前記(4)コ)を一緒に見ながら,上手に書く必要はないと言った上で,どの項目が書きにくいのかを確認したところ,⑥したことについて今どういう風に思っているかと⑧今後こういうことをしないように自分(に)何ができるかを書くことができない
と答えた。N教諭は,本件生徒に対し,自分がやったことがいけないことだとは思っているのかや,これから変わっていければいいと思っているのかを確認したところ,本件生徒がこれを肯定したので,そのように書けばいいと述べて,長い文章でなくてもよく,原稿用紙2枚書けなくても1枚でもよいなどと話したところ,本件生徒が反省文を書き始めたことから,
N教諭は,小会議室を退出した。
N教諭は,その後,生徒指導部会の途中にJ教諭を呼び出し,本件生徒の様子や,遣り取りの内容を伝えた。
(乙13,29,32,証人J,証人N)

J教諭は,午後5時20分頃に,O教諭との間で,本件生徒は反省文を完成させてはいないものの,下校時間を過ぎているので,そろそろ下校させて,残りは自宅で書かせるようにしようという話をした。また,J教諭は,相手方生徒の保護者に電話をかけ,本件トラブルについての話をした上で,月曜日に来校してほしい旨を告げた。

その後,J教諭が小会議室に赴いたところ,本件生徒の反省文は,2,3行記載したところで止まっており,本件生徒はM教諭の作成したメモを見ていたことから,J教諭は,本件生徒に対し,相手方生徒に対してビンタをしてしまったことについて反省していることと,突発的に行動してしまうところを変えたいという意思を確認した上で,そのアドバイスどおりに書かなくてもいいぞ。時系列も前後してもいいし,漢字も分からなければひらがなでいいし,上手く書く必要はないんやで。自分の反省した気持ちと,変わりたい気持ちを素直に書いたらいいねんで。と助言したところ,本件生徒は,

分かりました。でも,少しは参考にします。

と言って,反省文を書こうとした。そこで,J教諭は,もう少し反省文を書く時間を与えた方がよいと思い,また後で来ると述べて小会議室を退出した。

(乙10,29,証人J)

J教諭は,午後5時40分頃,小会議室に赴き,本件生徒の反省文の作成状況を確認したところ,多少は進んでいることが確認できたことから,月曜日までに家で書いてくることができるか確認したところ,本件生徒が
はい。」と答えたことから,下校させることとした。そして,J教諭は,本件生徒に対し,これからの動きは,今日,家に電話してお母さんに伝えます。お母さんにも後日学校に来てもらわないといけなくなるかもしれないから,先生からも伝えるけど,自分の口で今日学校であったことと,反省していることと,変わろうと思うことを伝えるんやで。と言っ
たところ,本件生徒の表情が少し曇ったように見えた。そこで,J教諭は,変わろうと思っていれば,お母さんも協力してくれると述べたところ,本件生徒が

でも,それはきれいごとですよね。迷惑以外の何ものでもないですよね。

と言ったことから,本件生徒の発言を否定した上で,変わろうとすることが成長なので,まずはそこを目指そうと述べたとこ
ろ,本件生徒の表情が和らいだので,本件生徒に対して帰宅を促した。J教諭は,1年2組の教室まで荷物を取りに行く本件生徒に同行し,教室を出る際,改めて月曜日に反省文を書いて持ってくるように指示し,この後の指示は家に電話ですると述べて,気を付けて帰るよう声を掛け,本件生徒とJ教諭は,お互いさようならと挨拶を交わした上で,別れた。
(乙10,29,証人J)


本件生徒がこの時点までに作成した反省文には,

五月十五日金曜日,時刻は午前十時から十五分頃,場所は一年二組の教室,行われていた授業は基礎英語。要点だけをまとめて言うと,うっとうしく感じたという理由だけで,一つ前の席の相手に暴力行為を行いました。

とだけが記載されていた。

(甲6)

本件生徒は,本件トラブルが発生した後,各教諭から事情聴取を受けた際,ほとんど終始落ち着いて受け答えをしており,反抗的な態度を取ることもなく,丁寧な言葉遣いで淡々と応対しており,真面目に指導を受け入れようとしている様子であった。また,各教員らも,本件生徒が上記のよ
うな対応をしていたことから,特段言葉を荒らげたりすることもなかった。
(乙29~32,証人J,証人L,証人O,証人N)

本件生徒の家庭連絡票(乙26)には,原告Bの携帯電話への連絡可能な時間帯が19時以降と記載されており,自宅の固定電話への連絡可能な時間帯が21時以降と記載されていた(なお,同連絡票には,勤務先の電話番号も記載されていた。)。J教諭は,当日,私用のため午後6時過ぎに本件高校を出たが,原告Bに対し,午後7時9分頃,自分の携帯電話から電話をかけたものの,原告Bは電話に出なかった。そのため,J教諭
は,午後7時11分頃,本件生徒の自宅にも電話をかけたが,やはり誰も電話に出なかったことから,午後9時以降に,改めて自宅に電話をかけることにした。
(甲20,乙10,24,26,29,証人J)
(6)

本件事故の発生及びその後の状況等
本件生徒は,午後6時28分頃,本件高校から自宅への帰宅経路上にある本件踏切内に自ら侵入し,電車に跳ねられて死亡した。

(前提事実,甲19,乙10)

住吉警察の担当者から,午後7時42分頃,本件生徒が踏切事故で死亡した旨の連絡が入った。上記の連絡を受けて,本件高校は,J教諭の携帯電話に電話をし,J教諭は着信に気付いて午後7時51分頃に本件高校に電話をかけ直したところ,本件事故の発生を告げられたことから,O教諭
に連絡を取った上で,本件高校に戻った。
J教諭は,本件高校に到着し,午後8時43分頃住吉警察に電話をかけて,住吉警察の担当者に対して,本件生徒の住所,家族構成,母である原告Bの連絡先等を伝えた上で,本件トラブルの内容や,懲戒原案の内容を伝えるなどした。なお,J教諭は,住吉警察からの連絡を受けた内容を原
告Bに伝えようとしたが,ベテランの教員から連絡は控えた方がよいと言われたことから,結局,連絡をしなかった。
(乙10,15,24,29,31,証人J)
2
争点(1)(本件高校の教員らによる本件生徒に対する指導等についての,国家賠償法上の違法性の有無)について
(1)

国家賠償法1条1項は,国又は公共団体の公権力の行使に当たる公務員
が個別の国民に対して負担する職務上の法的義務に違背して当該国民に損害を加えたときに,国又は公共団体がこれを賠償する責めに任ずることを規定するところ(最高裁判所昭和53年(オ)第1240号同60年11月21日第一小法廷判決・民集39巻7号1512頁等参照),本件において原告らは,本件高校の教員らの行為や本件生徒に対する処分の内容等(本件指導等。具体的には,①

本件生徒が怪我をした可能性があったにもかかわら

ず,救護の措置を取らなかったこと,②

本件トラブルは,本件生徒が授業

中の相手方生徒の不適切な行動を注意しようとしたことに端を発するものであるにも関わらず,本件高校の教員らは,十分に情報を共有することもないまま本件生徒を約8時間にわたって小部屋に監禁した上で,入れ代わり立ち代わり監視や指導を行い,授業を受けさせることなく振り返りシートや反省文の作成を強要した上,変わることを強要するなどしており,このような行為は学校教育法が禁止する体罰に当たること,③
本件高校の教員ら

は,杜撰な事情聴取しか行わないままで本件補導委員会を開催し,反省文の内容を踏まえることなく,また,本件生徒が本件トラブルを起こすに至った動機を考慮することなく,早々に5日間の停学処分を決定したこと,④

件補導委員会終了後,本件高校の教員が,本件生徒に対し,無期限の停学処分になったと受け取られかねないような言い方をしたこと等)が,本件トラブルの内容に照らして著しくバランスを失しており,社会的妥当性を著しく欠いている上,本件高校の教員らは,本件生徒が自暴自棄な発言を繰り返すなど,動揺していることが明らかであったにもかかわらず,その心情に配慮することのないまま指導を続け,真面目で繊細な面を持つ本件生徒が,追い詰められて自殺する可能性があることを十分に予見し得たにもかかわらず,そのような状態の本件生徒を一人で下校させたことは不適切な対応であった
と主張して,本件高校の教員らの行為は,国家賠償法上違法である旨主張する。
(2)

前記1(2)で認定したところによると,本件トラブルは,相手方生徒が本
件授業の最中に立ち歩いたり,大きな声で話をするなどしていたほか,本件女子生徒の方に身を乗り出して腕を握るなどの不適切な行動をとっていたことに対して,本件生徒が相手方生徒に注意を促す趣旨で頭部を軽く叩いたり,相手方生徒の襟をつかんで引っ張り,座席に正しい姿勢で座らせようとしたものの,相手方生徒がこれを無視したことから,再度,襟をつかんで引っ張ったところ,相手方生徒が本件生徒の方に振り向いたことから,無言のままその頬を平手で頬を叩いたというものであり,その後,本件生徒がにやにやと笑っていたことに腹を立てた相手方生徒が,本件生徒の頬を平手で叩いた上,胸元をつかんで廊下に連れ出そうとしたことから,本件生徒が椅子からずり落ちて床に尻餅をついたというものである。そうすると,本件トラブルのきっかけとなったのは,授業中における相手方生徒の不適切な行為であり,本件生徒は,これに対して相手方生徒を注意しようとしたものではあるものの,結果的には,本件生徒及び相手方生徒が,相互に暴力を振るいあ
うことになったという態様のものであったということができる。
そして,前記1(3)~(5)で認定したとおり,本件高校の教員らは,本件トラブルの発生を受けて,本件生徒に対して本件指導等を行っているところ,上記のような経緯に照らすと,本件高校の教員らの行為は,懲戒権の行使(学校教育法11条)として行われたものであるということができる。
したがって,本件においては,公権力の行使に当たる公務員である本件高校の教員らの懲戒権の行使としての本件指導等が,その目的,態様,継続時間等から判断して,教員が生徒に対して行うことが許される教育的指導の範囲を逸脱するものであり,学校教育法11条ただし書にいう体罰に該当するなどの理由で,同教員らが負っている職務上の法的義務に違背していたとい
えるか否かが問題になる。
(3)ア

そこで検討するに,前記(2)で指摘した本件トラブルは,生徒間の暴力
行為であり,かつ,少なくとも結果的に本件授業を妨害することになったものであるところ,前提事実(3)で認定したとおり,これらの行為は,本件懲戒規定等の定めによっても懲戒指導の対象とされているのであるから,本件トラブルに際しての本件生徒の行為が,相手方生徒の授業中の不適切な言動を注意する目的で行われたものであったことを考慮したとしても,懲戒権の行使をすることが相当な場合であったということができる。イ
もっとも,前記1(3)~(5)で認定したところによると,本件生徒は,本件トラブルが発生した午前10時頃から午後5時40分過ぎ頃までの8時間近くにわたって,小会議室において事情聴取を受けたり,振り返りシー
トや反省文の作成をさせられるなどしており,その拘束時間が相当長時間にわたっていたということができる。
しかしながら,前提事実(5)イ及び前記1(3)~(5)で認定したところによると,①

本件高校の1年生の生徒指導担当であったL教諭及びJ教諭

は,午前10時過ぎ頃から,同窓会室及び小会議室において本件生徒及び相手方生徒から個別に事情聴取を行って事実関係を確認したところ,同人らは,おおむね同様の内容の話をしたものの,相手方生徒は,なぜ自分が突然ビンタをされたのかの理由が分からないと述べ,他方,本件生徒は,自分から手を出した理由を容易に明らかにしようとしなかったことから,本件生徒が自分から手を出した理由を確認するために時間を要し,この点
を含む本件トラブルの経緯が明らかになった時点で,既に午前11時35分頃(3限目が終わるころ)になっていたこと,②
本件高校においては,

問題行動を起こした生徒に対し,14の各質問項目に順に答えていく形式になっている振り返りシートを作成させて,自らの行為の問題点や反省すべき点を整理させた上で,改めて自分の言葉で反省文を作成させることになっており,当該生徒が反省文を完成させた後に,当該事案が補導委員会に付議され,当該生徒に対する懲戒処分等についての検討が行われることになっていたこと,③

J教諭及びL教諭は,本件生徒及び相手方生徒

に,振り返りシート及び反省文の用紙を渡し,これらの作成を指示したところ,相手方生徒は,6限目(午後2時20分から午後3時10分まで)の途中までに反省文を書き終えたものの,本件生徒は,振り返りシートをなかなか完成させることができなかった上,振り返りシートを完成させた後も,反省文の作成が進まず,本件補導委員会の開催が予定されていた午後4時頃の時点においても,反省文は数行程度しか記載されておらず,その後,M教諭及びN教諭が,本件生徒に対し,反省文の書き方を指導し,本件生徒はその指導に従って反省文を書こうとしていたものの,やはり反省文の作成は容易に進まず,午後5時20分頃の時点でも,2~3行程度しか記載されていなかったこと,④

このような状況の下,J教諭が午後

5時20分頃に本件生徒と反省文の書き方等についての話をしたところ,本件生徒は,これを受けて反省文を書き進めようとしている様子であったことから,J教諭は,もう少し各時間を与えた方がよいと思い,そのまま反省文を書かせることとし,午後5時40分頃まで反省文を作成させていたものの,結局,反省文が完成するには至らないまま,本件生徒を下校させることにしたこと,⑤

本件トラブルが発生し,本件生徒に対する事情

聴取が開始された後,本件生徒が下校するまでの間,本件生徒は,ほとんど終始落ち着いて受け答えをしており,丁寧な言葉遣いで淡々と応対していて,真面目に指導を受け入れようとしている様子であったことから,各教員らも言葉を荒らげたりすることもなかったことの各事実を指摘することができる。
このような諸事情に鑑みると,本件生徒を結果として小会議室に8時間近くにわたって止め置くことになったのは,本件生徒が事情聴取の際に,
相手方生徒に対して暴力行為を行った理由を容易に明らかにしなかったり,振り返りシート及び反省文をなかなか記載することができなかったことによるものであって,小会議室に止め置いたこと自体は,本件生徒の行為に対する懲罰として肉体的あるいは精神的な苦痛を与えるという意図の下に行われたものではなかったということができる。

そうすると,本件において本件生徒の拘束時間が8時間近くと相当長期間にわたったことは,適切であったとはいい難いものの,そのことだけから,本件高校の教員らの対応が,直ちに教育的指導の範囲を逸脱するものであったとまでいうことはできない。

また,本件指導等の態様についてみるに,前記1(3)~(5)で認定したところによると,①

本件生徒及び相手方生徒から事情聴取を行ったL教諭

及びJ教諭は,当初は,相手方生徒については生徒指導上課題のある生徒として出身中学校からの引継ぎを受けていたこともあって,相手方生徒による本件生徒に対する嫌がらせ等の事象があったのではないかと考えて事情聴取を行っており,その後,本件トラブルの経緯が明らかになった後も,本件生徒に対しては,授業中にうるさくしている生徒に注意すること
は良いことであると認めた上で,そのような場合に暴力によって制止するのではなく,口頭で注意をするなどして解決すべきである旨の指導を行っており,少なくとも一方的に本件生徒の対応を叱責したり,非難したりしたような事情は認められないこと,②

J教諭及びL教諭を始めとする本

件高校の教員らは,本件指導等が行われている間,本件生徒に対し,トイレに行きたい場合等には,1年次職員室に声をかけるように指示をしてはいたものの,懲戒権の行使を行うために必要な限度を超えて,殊更にその行動を制約するような対応をしたわけではなく,本件生徒は,昼食についても,本来の昼食の時間帯を過ぎてはいたものの,午後1時過ぎ頃には取ることができていたこと,③

本件生徒に対し,当初の段階から指導に当

たっていた担任のJ教諭は,午後は担当する授業の関係で本件生徒の指導に当たることができなかったことから,生徒指導主事のO教諭に,適宜,様子を見に行ってほしいとの依頼をし,O教諭は,本件生徒の下に赴いて会話を交わしつつ,反省を促すための指導を行い,また,本件補導委員会が開始された午後4時頃には1年生の生徒指導担当のM教諭が,J教諭に
代わって反省文を書きあぐねている本件生徒に対し,反省文に記載すべき具体的な項目が記載されたメモを渡すなどしており,これらの指導の際にも,本件生徒を叱責したり,非難したりするような対応がされた形跡は見当たらないこと,④

本件補導委員会が開催された後も,J教諭が別の会

議に出席する必要があったことから,1年生の学年主任であったN教諭がJ教諭に代わって本件生徒の様子を見に行き,本件生徒と会話を交わしていたところ,本件生徒が,停学になって学校に戻れないかもしれないなどと悲観的なことを述べたのに対し,N教諭はこれを否定し,指導を受けたら戻れると述べた上で,反省文を書くことができないと述べた本件生徒に対し,反省文の書き方を指導するなどしていること(なお,この点について原告らは,N教諭が本件生徒に対し,無期限の停学処分になったと受け
取られかねないような言い方をした旨主張するが,N教諭の指導は,上記のようなものであったのであるから,原告らの主張するような事実を認めることはできない。),⑤

J教諭は,午後5時20分頃の時点でも反省

文をほとんど作成することができていなかった本件生徒に対し,上手く書く必要はなく,反省した気持ち等を素直に書けばよいとの指導をし,本件生徒も反発等することなく,指導を受け入れる姿勢を示していたことを指摘することができる。
以上によると,本件高校の教員らは,本件生徒と会話を交わして意思疎通を図りながら,反省文を作成するように促しており,本件生徒もその指導を受け入れる姿勢を示していたのであるから,その態様においても,相
当性を欠いていたということはできない。
なお,原告らは,本件指導等の態様について,本件生徒が怪我をした可能性があったにもかかわらず,救護の措置を取らなかったとか,本件高校の教員らは,十分に情報を共有することもないまま入れ代わり立ち代わり監視や指導を行い,長時間にわたって振り返りシートや反省文の作成を強
要したり,変わることを強要したことは,学校教育法が禁止する体罰に当たるなどとして,本件指導等は社会的妥当性を著しく欠いている旨主張する。しかしながら,前記1(2)ウで認定したとおり,本件トラブルの際,本件生徒は相手方生徒から胸元をつかまれて廊下に連れ出そうとされたことから,椅子からずり落ちて床に尻餅をつくなどしたというのであるが,その後,本件指導等が行われている間に,本件生徒が体の痛み等を訴えた形跡はないのであるから,本件生徒には特段の怪我はなかったと考えられる。また,先に指摘したとおり,本件指導等に際しては,複数の教員が本件生徒の下に赴いて指導を行っているところ,前記1(3)~(5)で認定したところによると,担任であるJ教諭以外の教員らは,この時点まで,本件生徒とほとんどあるいは全く面識がなかったものの,本件トラブルの
経緯をおおむね把握した上で,本件生徒と会話を交わして意思疎通を図りながら指導を行っており,その指導の態様それ自体にも,相当性を欠いた点は見当たらない。そして,本件高校の教員らは,本件生徒に対し,振り返りシートや反省文を作成するよう指導しており,結果的にその指導が約8時間という長時間に及んだことは事実であるものの,問題行動を起こし
た生徒に対し,反省を促したり事実関係を確認する目的で振り返りシートや反省文を作成させることそれ自体は,教育的指導として相当なものであるということができる。なお,前記1(4)及び(5)で認定したところによると,本件高校の教員らは,本件指導等を行うに際して,本件生徒に対し,今後,変わっていかなければならないとの趣旨の発言を繰り返し行ってい
るところ,その趣旨は,本件生徒が本件トラブルの際,相手方生徒に対し,暴力を振るってしまったことや,突発的に行動してしまったことに関して,本件生徒に対する反省を促す趣旨で述べられたものであり,このような指導が繰り返された理由は,本件生徒が,O教諭から,暴力を振るうのはいけないことであり,今後に向けて変わっていかなければならないと
の指導を受けた際に,

僕は変わらないですよ。15年間生きてきた実体験から,変われないと思う。

と述べ(前記1(4)キ),その発言がO教諭からJ教諭に伝えられたこと(同(4)ケ)や,J教諭(及びL教諭)に対し,中学校の時にも同じようなことがあったと述べ(同(3)ウ),N教諭に対しても同様の話をしたこと(同(5)イ)などの事情によるものであると考えられる。そうすると,本件高校の教員らが,繰返しこのような指導をしたこと自体,相当性を欠くものであったということはできない。
以上のような諸事情に鑑みると,本件生徒に対する上記のような指導が,教育的指導の範囲を逸脱するものであったということはできないので,この点に関する原告らの主張は,採用することができない。

前提事実(3)イ及び前記1(5)アで認定したとおり,本件高校は,本件補導委員会において,本件トラブルの内容が,3日以上の停学とされている暴力行為(対等な生徒間の喧嘩)と,校長訓告以上とされている授業妨害に該当することを踏まえて,本件生徒及び相手方生徒について,停学5日とする旨の懲戒原案が決定されたというのであるが,この点について原告らは,本件高校の教員らは,杜撰な事情聴取しか行わないままで
本件補導委員会を開催し,反省文の内容を踏まえることなく,また,本件生徒が本件トラブルを起こすに至った動機を考慮することなく5日間の停学処分を決定したとして,上記のような対応は本件トラブルの内容に照らして著しくバランスを欠いている上,社会的妥当性を著しく欠いている旨主張する。

しかしながら,先に認定・説示したところによると,本件高校の教員らが行った事情聴取が杜撰なものであったということはできない。
また,前提事実(3)並びに前記1(4)ア及び同(5)アで認定したところによると,本件懲戒規定等においては,懲戒に至る手順として,問題行動を起こした生徒に対する事実確認は,当該生徒からの聞取り及び作文(反省
文のことを意味する。)によって内容を確認し,問題行動が複数の生徒に及ぶ場合には内容の突合わせを行い,事実に矛盾がないかを確認し,当該生徒に自分の行動を認めさせた上で,事実確認が終了し次第,生徒指導部長は教頭に報告し,補導委員会の開催が必要な場合はこれを要請するものとされており,補導委員会は,上記事実確認が終了した後に開催されることになっていたところ,本件補導委員会は,相手方生徒は既に反省文を完成させていたものの,本件生徒は未だ反省文を完成させてはいない時点で開催されている。しかしながら,前記1(5)アで認定したとおり,本件補導委員会が上記の時点で開催されたのは,同一の事案であるにもかかわらず,相手方生徒だけを先に補導委員会に付議し,本件生徒を,後日,別の補導委員会に付議するのは適切ではなく,かつ,本件トラブルに関する本
件生徒及び相手方生徒からの聴取結果はほぼ一致しており,できる限り早く補導委員会を行ってその後の指導に入るのが相当であると考えられたことによるというのであるから,このような判断は,合理的かつ相当なものであったということができる。なお,原告らは,本件補導委員会の決定に際して,反省文の内容が斟酌されていないことを問題視するが,前記のと
おり,本件懲戒規定等においては,反省文(作文)は事実確認のために作成されるものと位置付けられているところ,本件においては,本件生徒及び相手方生徒からの聴取結果はほぼ一致していたのであるから,反省文が完成するまで補導委員会の開催を待たなければならない合理的な理由はなかったということができる。また,反省文は,上記の目的とともに,問題行
動を起こした生徒に反省を促すためのものでもあり,また,懲戒の申渡しがされた後に行われる当該生徒への指導に際しても活用されることが想定されていたものと考えられるから,本件生徒の作成した反省文の内容が,本件補導委員会において本件生徒の懲戒原案の決定に際してしん酌されることがなかったからといって,本件高校の教員らが,本件生徒に対し,無
駄な作業を強要したということになるわけでもない。
なお,本件補導委員会が決定した本件生徒に対する懲戒原案は,本件トラブルの内容に鑑みると,本件懲戒規定等の定めを形式的に当てはめたものとも評価でき,やや厳しすぎるきらいはあるものの,それ自体,教育的指導の範囲を逸脱するものであったとまでいうことはできない上,本件事故の当日,本件生徒に対する懲戒の申渡しがされたわけではないことを併せ考慮すると,このような事実をもって,本件指導等が社会的妥当性を欠
くものであったということはできない。
したがって,この点に関する原告らの主張も,採用することができない。

さらに,原告らは,本件高校の教員らは,本件生徒が自暴自棄な発言を繰り返すなど,動揺していることが明らかであったにもかかわらず,その心情に配慮することのないまま指導を続け,真面目で繊細な面を持つ本件生徒が,追い詰められて自殺する可能性があることを十分に予見し得たにもかかわらず,そのような状態の本件生徒を一人で下校させたことは不適切な対応であった旨主張する。

そこでこの点について検討するに,前記1(1)及び(3)~(5)で認定したところによると,①

本件生徒は,中学3年生の時に,いわゆる不良グル

ープの生徒の一人から繰り返しからかわれるなどしたことから,我慢ができなくなり,それを止めさせようとして当該生徒の首の辺りをつかむなどしたところ,同生徒から顔面を蹴られて地面に倒されたことがあったところ,本件トラブル発生後にL教諭及びJ教諭から事情聴取を受けた際,相手方生徒に対して手を出した理由をなかなか説明しようとはしなかった上,同教諭らからの働きかけによって,ようやく理由についての説明を行った後に,中学校の時にも素行の悪い生徒とこのようなことが何度かあり,また同じことをしてしまったと述べていたこと,②
本件生徒は,大

学に進学して小説家になりたいという希望を持っており,文章を作成すること自体が苦手なわけではなかったと考えられるにもかかわらず,振り返りシートの質問項目についての回答欄をなかなか書くことができず,特に自分は,これから何をどうしなければならないと思いますか?の項目に関して,指導をしていたJ教諭に対し,

人と関わらないようにする,ですかね。

などと述べたり,J教諭から,ビンタ以外の方法で相手方生徒に注意を促す方法はなかったのかと問われたのに対し,

口で言う……。僕はダメですね……。

などと答えるなどしており,自分が今後どのようにすればよいのかについて,何らかの葛藤を感じている様子がうかがわれたこと,③

本件生徒は,振り返りシートの,これから誰にどのよう

に迷惑をかけると思いますかとの質問項目について,母親と記載した上,今回のことで周りにどのように思われると思うかとの質問項目について少しイラッとしただけですぐに暴力をふるう,近付きたくない存在と記載したり,中学校の頃の自分について性格は暗めで,ほんの少し馬鹿にされただけで怒る面倒な存在と記載したり,高校生になってからの自分について

性格は暗め,これと言った個性はなし。

との記載をする
などしていたほか,暴力を振るうことはいけないことであり,今後に向けて変わっていかないといけないとの指導をしたO教諭に対し,

僕は学校にいない方がいいですね。

と述べたり,

僕は変わらないですよ。15年間生きてきた実体験から,変われないと思う。

とか

なんでそんなに僕に期待をするのか。僕なら切り捨てますよ。

などと述べるなどしてお
り,自分自身を必要以上に低く評価するかのような自棄的な言動が見られたほか,その後指導に当たったN教諭に対しても,

僕はもうきっと停学になって学校には戻れないかもしれませんね。

などと悲観的な予測を口にしており,心理的に動揺していることがうかがわれたこと,④
本件生

徒は,下校を指示された際,J教諭から,今後のことは母である原告Bに伝えることや,原告Bに本件高校に来てもらわないといけなくなるなどと告げられた際,表情を曇らせた上,J教諭において本件生徒が本件トラブルのことを反省して変わろうと思えば,原告Bも協力してくれると述べたところ,

でも,それはきれいごとですよね。迷惑以外の何ものでもないですよね。

などと述べ,自分のために母である原告Bに迷惑をかけるのではないかと心配している様子がうかがわれたこと,⑤
もっとも,

本件指導等に際して,本件生徒は,ほとんど終始落ち着いて受け答えをし
ており,反抗的な態度を取ることもなく,丁寧な言葉遣いで淡々と応対しており,真面目に指導を受け入れようとしている様子であったことを指摘することができる。
以上のような諸事情に鑑みると,本件指導等を受けるに際して,本件生徒は何らかの葛藤を抱えており,そのために本件生徒にはやや自棄的な言
動が見られたほか,停学になるなどして母である原告Bに迷惑をかけるのではないかと心配するなどして,心理的に動揺している様子がうかがわれたということができる。
しかしながら,前記のとおり,本件生徒が落ち着いた受け答えをし,真面目に指導を受け入れようとしている様子であったことや,先に説示した
ような,本件高校の教員らによる本件指導等の態様等の諸事情に鑑みると,本件生徒が上記のとおり自棄的な言動を取り,動揺している様子がうかがわれたことのみから,本件高校の教員らにおいて,本件生徒が下校途中に自殺することを予見することは不可能であったといわざるを得ない。したがって,本件において,本件高校の教員らが,本件生徒を一人で下
校させたことが対応として不適切であったということはできない。(4)

以上によると,本件において,本件高校の教員らの本件指導等が,その
目的,態様,継続時間等から判断して,教員が生徒に対して行うことが許される教育的指導の範囲を逸脱するものであり,同教員らが負っている職務上の法的義務に違背していたということはできないので,国家賠償法上違法であったということはできない。
第4

結論
以上のとおりであるから,原告らの請求は,その余の点について判断するまでもなく理由がないので,いずれも棄却すべきである。
よって,主文のとおり判決する。

大阪地方裁判所第25民事部

裁判長裁判官

金地香枝
裁判官

上田元和
裁判官

亀井健斗
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