判例検索β > 平成28年(ワ)第27562号
損害賠償等請求事件
事件番号平成28(ワ)27562
事件名損害賠償等請求事件
裁判年月日平成31年3月26日
法廷名東京地方裁判所
裁判日:西暦2019-03-26
情報公開日2019-05-17 18:00:14
戻る / PDF版
平成31年3月26日判決言渡
平成28年

第27562号

同日原本領収

裁判所書記官

損害賠償等請求事件(本訴)
債務不存在確認請求反訴事件(第1反訴)
損害賠償請求反訴事件(第2反訴)

口頭弁論終結日

平成30年11月13日
判主1決文
被告会社,被告乙及び被告丙は,原告に対し,連帯して330万円及びうち165万円に対する平成28年6月20日から,うち165万円に対する平成28年6月23日から,各支払済みまで年5分の割合に
よる金員を支払え。
2
被告会社は,月刊誌Wedgeに,別紙1の謝罪広告を,別紙
2第1記載の掲載条件で掲載せよ。

3
被告会社は,本判決確定の日から2週間以内に,ウェブマガジン
WEDGE班が捏造Infinityにおける子宮頸がんワクチン研究厚労省,信州大は調査委設置を利用される日本の科学報道(続篇)と題する記事のうち,別紙3記載の各記述を削除せよ。4
被告会社は,ウェブマガジンWEDGEInfinityに,

別紙4の謝罪広告を,別紙2第2記載の掲載条件で掲載せよ。
5
原告のその余の本訴請求をいずれも棄却する。

6
被告丙の第1反訴請求を却下する。

7
被告丙の第2反訴請求を棄却する。

8
訴訟費用は,本訴反訴を通じてこれを10分し,その3を原告の,その1を被告会社の,その1を被告乙の,その余を被告丙の負担とする。
9
この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。
事実及び理由

第1

請求の趣旨

1
本訴


被告会社,被告乙及び被告丙は,原告に対し,連帯して1116万円及びこれに対する平成28年6月20日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。



被告会社は,月刊誌Wedgeに,別紙5の謝罪広告を,別紙6第1記載の掲載条件で掲載せよ。



被告会社は,ウェブマガジンWEDGE「子宮頸がんワクチン研究班が捏造Infinityにおける
厚労省,信州大は調査委設置を

利用

される日本の科学報道(続篇)」と題する記事のうち,別紙7記載の各記述
を削除せよ。


被告会社は,ウェブマガジンWEDGEInfinityに,別紙
5の謝罪広告を,別紙6第2記載の掲載条件で掲載せよ。
2
第1反訴
被告丙が執筆した別紙記事目録記載⑴ないし⑸の各記事に関し,被告丙の原
告に対する名誉毀損による損害賠償債務の存在しないことを確認する。3
第2反訴
原告は,被告丙に対し,100万円及びこれに対する平成28年10月25日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第2

事案の概要

1
事案の要旨
本訴は,信州大学医学部教授であり,同大学の医学部長兼副学長であった原告が,月刊誌Wedge(以下本件雑誌という。)及びウェブマガジンWEDGEInfinity(以下本件ウェブマガジンとい

う。)に掲載された,原告が子宮頸がんワクチンの副反応の研究においてねつ造行為をしたとの事実を摘示する記述により自らの名誉を毀損されたと主張し
て,本件雑誌を制作,発行し,かつ,本件ウェブマガジンを制作,発表した被告会社,上記記述を含む記事が掲載された当時,本件雑誌及び本件ウェブマガジンの編集人であった被告乙並びに上記記事を執筆した被告丙に対し,不法行為に基づく損害賠償請求として,慰謝料及び本件雑誌の発行日である平成28年6月20日から民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めると
ともに,名誉を回復するための適当な処分として本件雑誌及び本件ウェブマガジンへの謝罪広告の掲載等を求める事案である。
第1反訴事件は,本訴において原告が名誉毀損であると主張する記述を含む前記記事の中で,上記記述を除く部分及び前記記事以外に被告丙が執筆した子宮頸がんワクチンに関する記事について,被告丙が,原告に対し,不法行為に
基づく損害賠償債務のないことの確認を求める事案である。
第2反訴事件は,原告は,本訴について不法行為の成立要件を満たすものではないことを知り又は容易にそのことを知り得たにもかかわらず,被告丙の言論を封殺し,子宮頸がんワクチン薬害国家賠償訴訟を有利に進める目的で,敢えてこれを提起したと主張して,被告丙が,原告に対し,不法行為に基づく損
害賠償請求として,慰謝料及び本訴の訴状が被告丙に送達された日である平成28年10月25日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。
2
前提事実(当事者間に争いのない事実並びに掲記証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)


当事者

原告は,本件雑誌平成28年7月号が発行された同年6月20日当時,国立大学法人である信州大学医学部の教授であり,同大学の医学部長兼副学長であった。

原告は,厚生労働科学研究費補助金を受けた新興・再興感染症及び予防接種政策推進研究事業である子宮頸がんワクチン接種後の神経障害に関する治療法の確立と情報提供についての研究(以下「本件研究という。)」の研究代表者であった。
(争いがないほか,弁論の全趣旨)

被告会社は,図書,雑誌その他印刷物の開発,製作及び販売等を目的とする株式会社であり,月刊誌Wedge(本件雑誌)を制作,発行す
るとともに,ウェブマガジンWEDGEInfinity(本件ウ
ェブマガジン)を制作,発表する会社である。
(争いがないほか,弁論の全趣旨)

被告乙は,平成28年6月当時,本件雑誌及び本件ウェブマガジンの編集人(編集長と同義)であった者である。

(争いがないほか,甲1,弁論の全趣旨)

被告丙は,医師・ジャーナリストの肩書で,本件雑誌及び本件ウェブマガジンに後記本件各記事を執筆した者である。
(争いがないほか,甲1,2,弁論の全趣旨)



本件研究におけるマウス実験及びその公表について

信州大学医学部特任教授A氏(肩書は平成28年6月当時。以下A氏という。)は,本件研究の研究分担者である信州大学医学部教授B(以下B教授という)から依頼され,本件研究の一環となる,子宮頸がんワクチンを含む複数のワクチンを実験用の特殊なマウスに対して各々接種して,各マウスから得られた血清を,正常なマウスの脳組織切片に振
りかけ,血清中の抗体が正常な脳の海馬の中枢神経細胞を認識すると緑色に発色することにより,その反応の有無を観察することのできる実験(以下本件マウス実験という。)を行った。
(争いがないほか,甲24,弁論の全趣旨)

A氏は,平成27年12月28日に開催され,原告も出席したプログレスミーティングと称する信州大学の産科婦人科教室内で行われた研究
会(以下本件ミーティングという。)において,本件マウス実験における実験結果として,子宮頸がんワクチンを接種したマウスから得た血清を振りかけて得られた画像と,それ以外のワクチンを接種したマウスから得た血清を振りかけて得られた画像とを組み合わせたスライド(甲17㉛,以下本件A氏作成スライドという。)を含む資料を示した。

本件A氏作成スライドは,本件マウス実験により得られた画像を組み合わせたものである。組合せに用いた画像は,子宮頸がんワクチンについては,画像全体が強く緑色に発色しているのに対して,他のワクチンの場合,画像の辺縁部がわずかに発色するにとどまり,画像の大部分は緑色に発色していない。

(争いがないほか,甲17,弁論の全趣旨)

原告は,平成28年3月16日,厚生労働省における成果発表会(以下本件成果発表会という。)において,本件A氏作成スライドを基にサーバリックスだけに自己抗体(IgG)沈着ありなどの記載が加えられ,原告において白丸を付したスライド(甲5,以下本件スライド
という。)のほか,今後の取り組みとして,サーバリックス接種群においてのみ,マウス海馬への自己抗体(IgG)の沈着gG)はヒト海馬へも沈着この抗体(I抹消神経障害ありなどと記載されたスライ
ド(甲4)を用いて発表を行った。
(争いがないほか,甲3,4,弁論の全趣旨)


株式会社TBSテレビ(以下TBSという。)は,平成28年3月16日,報道番組であるNEWS23(以下本件番組という。)
において,原告が

子宮頸がんワクチンを打ったマウスだけ,脳の海馬といって,記憶の中枢があるところに異常な抗体が沈着して,海馬の機能を障害していそうだ。

これは明らかに脳に障害が起こっているということです。ワクチンを打った後,こういう脳障害を訴えている患者さんの共通した客観的所見がこうじゃないですか,ということを提示できている。

と話す内容を放映した。(争いがないほか,乙1,丙79の1・2,弁論の全趣旨)


記事の掲載

被告会社は,平成28年6月20日,子宮頸がんワクチン薬害研究班崩れる根拠,暴かれた捏造と題する記事(以下本件雑誌記事という。)が掲載された本件雑誌平成28年7月号を約12万5000部発行し,東海道新幹線のグリーン車内で無料配布するとともに,東海道新幹線の列車内及び駅売店で販売した。
(争いがないほか,甲1,11,弁論の全趣旨)


被告会社は,同月23日,本件ウェブマガジンに子宮頸がんワクチン研究班が捏造厚労省,信州大は調査委設置を利用される日本の科学報道(続篇)と題する記事(以下本件ウェブ記事といい,本件雑誌記事と併せて本件各記事という。)を掲載し,現在に至るまで公開を続けている。

(争いがないほか,甲2,弁論の全趣旨)


本件各記事の記載内容

本件雑誌記事(甲1)には,次の①から⑤までの各記述(以下,①の記述を本件記述①といい,②から⑩までの各記述についての略称もこの
例によるものとし,本件記述①~⑩を併せて本件各記述という。)がある。


研究者たちはいったい何に駆られたのか害研究班②子宮頸がんワクチン薬崩れる根拠,暴かれた捏造<40頁>

3カ月に及ぶ取材で明らかになったのは,信じがたい捏造行為の存在だった。

<41頁>


A氏によれば(中略)手渡した資料には子宮頸がんワクチン以外のワクチンでも強く緑色に染まった画像が何枚もあった。しかし,原告教授は,子宮頸がんワクチンでよく光っている写真と他のワクチンで光っていない写真が組み合わさったスライドだけを発表したのだという。これは重大な捏造である。<42頁>④

チャンピオンデータで議論を進めるのは紛れもない捏造である。

<42頁>


それぞれの立場と動機から,捏造に手を染める研究者たち――これが国費を投じた薬害研究班の実態だ。

<44頁>

本件ウェブ記事(甲2)には,次の⑥から⑩までの各記述がある。⑥

子宮頸がんワクチン研究班が捏造<1頁>



しかし,原告教授はこの組み合わせのスライドだけを選んで公表した。

<2頁>


他のワクチンでも強く光っている写真がたくさんあったのに,原告教授は,子宮頸がんワクチンでよく光っている写真と他のワクチンで光っていない写真が組み合わさったスライドだけを発表した。

<3頁



これは『子宮頸がんワクチンを打ったマウスの脳に障害が起きた』と言うために造られた実験であり,“捏造の意図”があったと結論付けざるを得ない。

<5頁>

それぞれの立場と動機から,捏造に手を染める研究者たち――これが国費を投じた子宮頸がんワクチン薬害研究班の実態だ。

<7頁>


原告は,平成29年6月13日に実施された第5回口頭弁論期日において,第1反訴につき,別紙記事目録記載の⑴から⑸までの各記事(ただし,記述④及び⑧を除く。)について,被告丙に,名誉毀損に基づく損害賠償債務が
存在する旨の主張をしない旨陳述した。
(当裁判所に顕著)

3
主な争点


本訴
アイ
本件各記述について,違法性阻却事由又は責任阻却事由があるか。

原告に生じた損害額


本件各記述が,原告の社会的評価を低下させるものであるか。

原告の名誉を回復するのに適当な処分として,謝罪広告の掲載等が必要か。



第1反訴
アイ
被告丙の反訴請求について,確認の利益が存するか。
被告丙に,別紙記事目録記載の⑴から⑸までの各記事について,不法行為に基づく損害賠償債務が存するか。



第2反訴

原告が,本訴請求について,不法行為の成立要件を満たすものではないことを知り又は容易に知り得たにもかかわらず,敢えてこれを提起したと認められるか。

イ4
被告丙に生じた損害額

主な争点に関する当事者の主張


争点⑴ア

本件各記述が,原告の社会的評価を低下させるものであるか。

【原告の主張】

本件記述③,④,⑦及び⑧(以下,これらを併せて本件記載1という。)は,原告がA氏から手渡された子宮頸がんワクチン以外のワクチンでも強く緑色に染まった画像が何枚もあったにもかかわらず,子宮頸がんワクチンでよく光っている写真と他のワクチンで光っていない写真が組み合わさったスライドだけを発表したという事実を摘示するものである(以
下本件摘示事実1という。)。
一般読者の普通の注意と読み方を基準にすると,本件記述③は,原告が
スライドに基づいて発表をした場面を指しており,前後の文脈からすると,本件成果発表会での発表を指すものであって,本件番組で放映された原告の発言を発表に含めると解することはできない。

本件記述①~⑥,⑨及び⑩(以下,これらを併せて本件記載2という。)は,本件摘示事実1を踏まえて,原告が本研究班のマウスを使った
動物実験に関してねつ造行為,具体的にはマウス実験について存在しないデータや研究結果等を作成した事実を摘示するものである(以下本件摘示事実2という。)。本件記載2において用いられている捏造という言葉は,研究活動の不正行為等の定義として,

存在しないデータ,研究結果等を作成すること。

(研究活動の不正行為への対応に関する指針平成19年4月19日決定)とされており,一般的にも事実でない事を事実のようにこしらえること(新村出編広辞苑第6版)とされており,評価を表す言葉ではない。

したがって,本件記載1及び2は,原告が,実験結果をねつ造する研究者であるという印象を読者に与えるものであるから,原告の社会的評価を著しく低下させるものである。

【被告らの主張】

原告は,本件研究において,比較の対象とはならない遺伝子保有率と遺伝子頻度を比較するなど,研究者として基本的なミスを犯しており,この点に関して,厚生労働省が異例の発表を出したことや,本件雑誌記事の本件各記述以外の部分において,本件研究が不適切であったことが明らかにされたことにより,研究者としての原告の名誉は既に著しく低下していたから,原告には本件各記述によって毀損される名誉が存在しない,
又は,毀損されたとしても毀損された名誉はごく僅少であるから,名誉毀損が成立する余地はない。


原告の主張によれば,ねつ造行為として事実が特定されているのは,本件記述③と④であるところ,本件記述③のうち

A氏によれば……という。

の部分は,A氏に対する取材の結果を伝聞形式で紹介するものであり,A氏が取材において手渡した資料には子宮頸がんワクチン以外のワクチンでも強く緑色に染まった画像が何枚もあった。しかし,原告教授は,子宮頸がんワクチンでよく光っている写真と他のワクチンで光っていない写真が組み合わさったスライドだけを発表した。という趣旨の発言をした事実を摘示したものである。
本件記述③のうち,

これは重大な捏造である。

の部分は,その前の

手渡した資料には……発表したのだという。

の部分が真実であれば
それは捏造に値するとの趣旨で書かれたものであり,一般的読者もそのように理解するであろうから,

これは重大な捏造である。

の部分は,事実の摘示ではなく,単なる評価に過ぎず,そもそも名誉毀損には該当しない。
本件記述④については,チャンピオンデータで議論を進めるのは
捏造に値するとの趣旨で書かれたものであり,一般的読者もそのように理解するであろうから,

紛れもない捏造である。

の部分は,事実の摘示ではなく,単なる評価に過ぎず,そもそも名誉毀損には該当しない。

また,本件記載2について,本件各記事における捏造とは,一般の読者の普通の注意と読み方を基準とすると,厚生労働分野の研究活動における不正行為の対応等に関するガイドラインにいう捏造ではなく,読者一般が想定する一般的な意味で用いられたものであり,その内容としては,㋐原告が,子宮頸がんワクチンを打ったマウスの脳にワクチンによ
る異常が発生したという科学的事実はなく,そもそも,このマウス実験はワクチン接種後に症状を訴えている患者とは何ら結びつけることができない実験だったにもかかわらず,原告が,あたかも子宮頸がんワクチンを打ったマウスにのみ脳に障害が起こっており,子宮頸がんワクチンを打った後,脳障害を訴えている患者の共通した客観的所見が提示できているように本件番組で断定的に発言したこと(以下本件対象事実㋐といい,㋑及び㋒についても同様とする。),㋑子宮頸がんワクチンを接種したマウ
スのみが強く緑色に光ったという事実は存在せず,それ以外のワクチンでも強く緑色に染まった画像が何枚もあったにもかかわらず,原告が,子宮頸がんワクチンでよく光っている写真と他のワクチンで光っていない写真が組み合わさったスライドだけを発表し,もって,子宮頸がんワクチンを接種したマウスのみが強く緑色に光ったものとして発表したこと,㋒原告
が,本件マウス実験の結果について,各群ごとに各1匹のマウスから採取された血清を用いたものに過ぎないのに,さも結果を代表する意味を持つデータが実験によって得られたかのように議論を進めたこと,以上の本件対象事実㋐から㋒までの全ての事実又はこれらのいずれかの事実について,捏造と評価されるべき旨を記載したものと読むべきである。



争点⑴イ

本件各記述について,違法性阻却事由又は責任阻却事由がある

か。
【被告らの主張】

本件記載2は,本件摘示事実1及び本件成果発表会から本件番組における原告の発言を前提として,それが捏造に相当すると評価したもので
あって,その行為は公共の利害に関する事実に係るものであって,かつ,その目的は専ら公益を図ることにある。そして,前提としている本件摘示事実1及びその他の前提事実はいずれも真実であり,人身攻撃に及ぶなど意見ないし論評としての域を逸脱したものではないから,当該行為は違法性を欠くものであって,不法行為が成立することはない。


本件記載1及び2がいずれも事実の摘示であるとしても,以下のとおり,本件各摘示事実はいずれも公共性があり,かつ,公益目的においてなされた,真実ないし真実と信じるについて相当の理由がある表現であるというべきであるから,違法性又は責任が阻却される。
真実性の証明の対象となる事実
本件摘示事実1の真実性の証明の対象となる事実は,一般の読者の普通の注意と読み方を基準として摘示された事実である,A氏が手渡した資料には子宮頸がんワクチン以外のワクチンでも強く緑色に染まった画像が何枚もあった。しかし,原告教授は,子宮頸がんワクチンでよく光っている写真と他のワクチンで光っていない写真が組み合わさったスライドだけを発表した。と発言した事実である。また,本件摘示事実2の真実性の証明の対象となる事実は,本件対象事実㋐ないし㋒が捏造,すなわち事実でないことをさも事実であるかのように作り上げたといえることである。
公共性又は公益目的

本件各記事は,我が国の子宮頸がんワクチン接種政策推進の可否を左右し,公衆衛生向上の観点から重大な社会的意義を有し,国民の関心も極めて高い子宮頸がんワクチンの副反応に関連する本件研究において,適切さを疑われる研究が行われていた事実に関するものであるから,公共の利害に関する事実に係るものであることは明らかである。

また,このように,重大な社会的意義を有し,国民の関心も極めて高い子宮頸がんワクチンの副反応に関する研究において,不適切な研究が行われていたとすれば,それは当該研究に対する国民の信頼を破壊する行為であって,ひいては国のワクチン接種政策を誤らせる危険のある深刻な問題である。本件各記事は,そのような政策の誤りを回避して,国
民の健康の増進に資するのために掲載されたものであるから,その目的は,専ら公益を図ることにある。
本件摘示事実1についての真実性又は真実相当性
A氏は,被告乙及び被告丙がA氏に対して直接取材を行った際,手渡した資料には子宮頸がんワクチン以外のワクチンでも強く緑色に染まった画像が何枚もあった。しかし,原告教授は,子宮頸がんワクチンでよく光っている写真と他のワクチンで光っていない写真が組み合わさったスライドだけを発表した。との趣旨を述べたから,本件摘示事実1は真実である。
仮に本件摘示事実1をA氏が原告に手渡した画像の中には子宮頸がんワクチン以外のワクチンでも強く緑色に染まった画像があったと読
む場合であっても,A氏は,被告乙及び被告丙がA氏に対して直接取材を行った際,A氏は何枚もある画像を原告に渡し,原告が当該画像をピックアップしたという趣旨の発言をしていたから,これを真実と信じるに相当な理由があった。
本件摘示事実2に係る各対象事実についての真実性又は真実相当性
本件対象事実㋐について,原告は,本件マウス実験によっては結果を代表する意味を持つデータが何ら得られていないのに,その事実を歪曲し,結果を代表する意味を持つデータが得られたかのように画像及び棒グラフを提示し,本件成果発表会で発表すると共に,本件番組で発言した。

また,本件対象事実㋑について,原告は,何枚もあるスライドの中から,子宮頸がんワクチンでよく光っている写真と他のワクチンで光っていない写真が組み合わさったスライドだけを発表し,もって,子宮頸がんワクチンを接種したマウスのみが強く緑色に光ったものとして発表した。

そして,本件対象事実㋒について,原告は,本件マウス実験の結果について,各群ごとに各1匹のマウスから採取された血清を用いたものであったに過ぎないのに,結果を代表する意味を持つデータが実験によって得られたかのように議論を進めた。
したがって,原告は,事実でないことをさも事実であるかのように事実を作り上げたといえるから,一般的な意味での捏造を行ったといえる。また,仮にそうでないとしても,被告らは,A氏に対する取材を
行い,その結果について専門家である藤田保健衛生大学総合医科学研究所教授C(心理学博士。肩書は当時。以下C教授という。)を始め研究者の検証を経たこと,本件雑誌記事の掲載された本件雑誌をA氏に送付したが異論を述べられることはなかったことから,本件対象事実㋐ないし㋒の事実が真実であると信じたのであり,真実と信ずるについて
相当の理由がある。
【原告の主張】


本件摘示事実1及び2は,いずれも論評ではなく事実の摘示である。本件記載1及び2は,以下のとおり,いずれも公益を図る目的でなされたものではない上,本件摘示事実1及び2は,真実でもないし,被告らが真実と信じるにつき相当の理由があったとも認められない。
公益目的がないこと
本件各記事は,子宮頸がんワクチンの安全性に疑念を抱くことを許さない推進論者である被告乙及び被告丙が,公益目的を装って,子宮頸が
んワクチンの副反応を研究する者に対する研究妨害ないし口封じを意図した悪質な人身攻撃であり,本研究班の研究内容に難癖をつけて妨害し,中止に至らせることを目的としたものであり,およそ公益を図る目的に出たものではない。
すなわち,当時の本件雑誌の編集人であった被告乙自ら取材を行い,
一面識もないB教授に対して取材を申し込むに際しても期限(明日の正午)までにお答えがない場合,……,ご回答は『YES』であったと理解して記事化させていただきますと記載した電子メールを送付するなど,強引な決めつけを行い,被告乙自ら,本件雑誌記事の掲載された本件雑誌の正式出版前に,原告の所属する信州大学学長に宛てて本件雑誌と共に大学として何らかの措置をとられるべきと記載した手紙を送付したり,厚生労働省の担当部局を訪れて本件雑誌を配布したりするなどの行動をしていたことからすると,公益目的はおよそ認められない。本件摘示事実1について真実性及び真実相当性がないこと
本件摘示事実1は真実ではない。原告は,A氏から,子宮頸がんワクチン以外のワクチンでも強く緑色に染まった画像を受け取った事実
がない。
原告は,B教授から,本件マウス実験に関するスライド資料(甲6)を受け取っただけであり,その資料の中には,本件マウス実験に関するスライドは,1枚(14枚目)しかなく,その1枚は本件A氏作成スライドと同一のものであった。

したがって,原告が本件成果発表会用の資料を選定するにあたり,本件マウス実験について子宮頸がんワクチン以外のワクチンでも強く緑色に染まった画像が何枚も存在したという事実がなく,子宮頸がんワクチンでよく光っている写真と他のワクチンで光っていない写真が組み合わさったスライドだけを選ぶ余地もない。

そして,上記スライドの画像しかない以上,原告が仮説にとって都合の良いデータをチャンピオンデータとして選択することは不可能であり,原告がチャンピオンデータで議論を進めたという記述も誤りである。また,被告らは,本件各記事を掲載又は発表するにあたって,A氏の取材以外に裏付け取材を何も行っておらず,真実相当性が認められる余
地はない。そのA氏の取材についても,A氏の発言を裏付ける重要な客観資料であるスライドについて,結局,A氏から提供を受けられず,A氏の取材における発言の信用性は低下していた。
本件各記事は,研究者である原告に対して捏造という極めて重大
な非難を行う記事であるにもかかわらず,これについて原告に何らの確認を行っていない。また,B教授に対する取材についても,前述のとおり期限(明日の正午)までにお答えがない場合,……,ご回答は『YES』であったと理解して記事化させていただきますなどと記載した一方的な電子メールを送付したに過ぎず,結局,実質的な裏付け取材は何ら行っていなかった。
したがって,本件各記事に関する裏付け取材は,事実上全く行われていなかったから,被告らが本件摘示事実1を真実であると信じるについ
て相当な理由があったということはできない。
本件摘示事実2について真実性及び真実相当性がないこと
本件摘示事実2について,原告がマウスを使った動物実験に関して,存在しないデータや研究結果を作成したというねつ造の事実はない。したがって,本件摘示事実2は真実でないし,真実であると信じたこ
とが相当であると評価できないことは,上記


争点⑴ウ

同様である。

原告に生じた損害額

【原告の主張】
原告は,本件各記述による名誉毀損により,実験結果をねつ造する研究者であると目され,原告の研究者,医療従事者としての社会的評価は著しく失墜させられた。原告は,被告らの不法行為により,多大な精神的苦痛を被っており,この精神的苦痛を慰謝するための慰謝料は,1000万円を下らない。
また,原告は,本件訴訟追行のため,弁護士に依頼せざるを得なくなった
から,弁護士費用である116万円が被告らの不法行為と相当因果関係のある損害である。
【被告らの主張】
争う。
争点⑴ア【被告らの主張】において記載したとおり,原告は,平成28年3月16日,本件成果発表会及び本件番組において,大多数の研究者及び医師が捏造と評価する発表を自ら行ったことにより,研究者としての名誉
を完全に喪失し,又はその資質に疑問を抱かれて当然であるから,本件各記事が掲載された平成28年6月時点において,原告には研究者として毀損される名誉が存在しない。
したがって,原告には,本件各記事の掲載と相当因果関係のある損害が生じていない。



争点⑴エ

原告の名誉を回復するのに適当な処分として,謝罪広告の掲載

等が必要か。
【原告の主張】
本件各記述によって毀損された原告の社会的評価を回復するためには,慰謝料のみでは足りず,本件雑誌及び本件ウェブマガジンにおける謝罪広告が
必要である。
さらに,本件ウェブ記事は現在も本件ウェブマガジン上に掲載されているところ,本件ウェブ記事の掲載を継続すれば,被告らから原告に対して慰謝料が支払われたとしても,なお名誉毀損が継続することになるから,本件ウェブ記事のうち,別紙7記載の記述部分の削除も必要である。

【被告らの主張】
争う。


争点⑵ア

被告丙の反訴請求について,確認の利益が存するか。

【被告丙の主張】
原告は,本件各記事の中で,本訴請求において名誉毀損であると主張する本件各記述以外の部分及び本件各記事以外に被告丙が執筆した子宮頸がんワクチンに関する記事について,請求原因を追加する予定である旨を主張するから,今後名誉毀損に基づく損害賠償請求をされるおそれがあり,確認の利益がある。
【原告の主張】
債務不存在確認請求において,確認の利益が認められるためには,被告丙
の権利ないし法的地位に危険又は不安が現存し,その除去のため確認判決によって即時に権利ないし法的地位を確定する必要がある場合でなければならない。
原告は,被告丙に対し,別紙記事目録記載の⑴から⑸までの各記事(ただし,本件記述④及び⑧を除く)について,名誉毀損に基づく損害賠償請求権
の存在を主張しない。なお,本件記述④及び⑧については,本訴請求において,名誉毀損に基づく損害賠償請求の対象としているから,この部分についても確認の利益がない。
したがって,第1反訴は訴えの利益を欠くから不適法であり,却下されるべきである。



争点⑵イ

被告丙に,別紙記事目録記載⑴から⑸までの各記事について,
不法行為に基づく損害賠償債務が存するか。
【被告丙の主張】
別紙記事目録記載⑴から⑸までの各記事について,原告に対する名誉毀損は成立しないから,これらの各記事に関して,被告丙が原告に対して不法行
為に基づく損害賠償債務を負うことはない。
【原告の主張】
原告が,被告丙に対し,別紙記事目録記載の⑴から⑸までの各記事(ただし,本件記述④及び⑧を除く)について,名誉毀損に基づく損害賠償請求権の存在を主張していないのは,前記⑸【原告の主張】のとおりである。


争点⑶ア

原告が,本訴請求について,不法行為の成立要件を満たすもの
ではないことを知り又は容易に知り得たにもかかわらず,敢えてこれを提起したと認められるか。
【被告丙の主張】
原告は,本訴請求について不法行為の成立要件を満たすものではなく,事実的・法律的根拠を欠くことを知り又は通常人であれば容易にそのことを知
ることができた。
本訴の提起は,科学的観点から子宮頸がんワクチン薬害説を否定する被告丙の言論を封殺し,子宮頸がんワクチン薬害国家賠償訴訟を有利に進めるために提起されたものであるから,裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠くものとして違法であって,原告は被告丙に対し,不法行為に基づく
損害賠償責任を負う。
【原告の主張】
争う。
原告は,本件マウス実験に関与しておらず,本件マウス実験にねつ造や改ざん行為がなかったことは,信州大学が設置した調査委員会も認定したとお
りであって,原告が何らねつ造行為をしていないことは客観的にも明らかになっている。
したがって,原告による本訴請求は,事実上・法律上根拠を欠くものではないから,原告の本訴提起が被告丙に対する不法行為になる余地はない。⑻

争点⑶イ

被告丙に生じた損害額

【被告丙の主張】
被告丙は,原告の本訴提起により,連載を失うなど,ジャーナリストとして大きな打撃を受け,本訴の対応のために精神的に疲労困憊しており,多大な精神的苦痛を被った。この精神的苦痛を慰謝するための慰謝料は,100万円を下らない。
【原告の主張】
争う。
第3

争点に対する判断

1
前記前提事実のほか,後掲各証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。



当事者

原告は,平成10年4月に信州大学医学部の教授に就任し,本件各記事が掲載された平成28年6月当時,同大学の副学長及び同大学医学部長を務めていた。
(争いがないほか,甲19,弁論の全趣旨)


被告会社が発行する本件雑誌は,主に東海道新幹線のグリーン車内で無料配布されると共に,東海道新幹線の列車内及び駅売店等でも販売されており,本件雑誌記事が掲載された本件雑誌平成28年7月号の発行部数は約12万5000部であった。
また,被告会社の発表する本件ウェブマガジンは,誰でも閲覧できるように公開されており,現在も,本件ウェブ記事は掲載されている。
(争いがないほか,甲11,弁論の全趣旨)

被告乙は,平成18年から被告会社において編集者として勤務し,平成23年に編集責任者となり,本件各記事が掲載された平成28年6月当時,本件雑誌及び本件ウェブマガジンの編集人として,編集責任者の地位にあった者である。

被告乙は,平成28年6月末で,本件雑誌の編集責任者を退任することになっていた。
(争いがないほか,甲1,被告乙本人,弁論の全趣旨)

被告丙は,医師免許取得後,世界保健機関(WHO)やワクチンを製造する製薬会社に勤務し,平成26年頃から医療問題に関する執筆活動を行うジャーナリストとして活動する者であり,本件各記事の執筆者である。被告丙は,子宮頸がんワクチンに関して,その接種による副反応について,科学的とはいえない診断や治療が行われていることに対して危機感を持ち,接種を勧奨する立場から,被告乙の協力を得て,同ワクチンに関する取材,執筆等を行っている。
(争いがないほか,丙71,弁論の全趣旨)



本件研究における本件ミーティング開催までの経緯

原告は,平成11年から厚生労働省(当時の厚生省)の研究事業に携わるようになり,厚生労働省から,平成27年,子宮頸がんワクチン接種後の神経障害に関する治療法の確立と情報提供についての研究(本件研究)を単年度で依頼され,その後,平成28年から平成30年までの間,
本件研究の成果を踏まえて子宮頸がんワクチン接種後に生じた症状に関する治療法の確立と情報提供についての研究の依頼を受けた。原告は,これらの研究の研究代表を務めている(以下,原告が研究代表を務める,本件研究等を行っていた研究者グループを称して原告班という。)。(争いがないほか,甲19,弁論の全趣旨)


原告が,各研究分担者の研究を研究代表者として取りまとめる際には,各研究分担者が十分な経験を有する研究者であることに鑑みて,各研究分担者の具体的な研究内容を指示したり,指揮監督したりするのではなく,研究班の班会議を行って各研究分担者の報告内容を議論した上で,各研究分担者が報告書を作成し,これを取りまとめるという順序で行っていた。
(甲8,9,19,原告本人,弁論の全趣旨)

厚生労働科学研究費補助金事業は公募によるものが通常であるが,本件研究は,厚生労働省が平成25年4月に子宮頸がんワクチンについて定期接種に指定したものの,同ワクチンの副反応とみられる症状を訴える複数
の患者が現れたことから,積極的接種勧奨を差し控えることとされた,という経緯を受けて,厚生労働省から研究タイトルと研究期間(1年)を指示して依頼されたものである。
(甲19,弁論の全趣旨)

B教授は,本件研究の研究分担者の一員であるところ,子宮頸がんワクチンの視床下部ホルモンへの影響検討と題して,原告班においても子宮頸がんワクチン自体の生物学的作用を研究対象としていた。

原告は,本件研究の研究分担者に対し,平成28年1月8日に班会議を実施すること及び同班会議における各研究分担者の発表の演題や抄録の送付を依頼し,これを受けて,B教授は,平成27年12月3日,原告に対して,Cervarix(子宮頸がんワクチン)接種による中枢神経細胞を認識する自己抗体の産生誘導との演題で発表したいとの連
絡をし,抄録のファイルを送付した。
これに関心を抱いた原告は,平成27年12月28日のプログレスミーティング(本件ミーティング)に出席することとした。
(甲6,19,原告本人,弁論の全趣旨)


本件マウス実験について

A氏は,平成25年11月頃,B教授から,子宮頸がんワクチンの副反応について,マウスを用いた実験を行ってみないかと誘われ,同実験を行うことになった。
ただし,A氏は,研究分担者となるわけではなく,B教授の研究の一環として,自己の研究結果を研究分担者であるB教授に報告し,B教授が
原告に報告するという関係であった。
(甲8,9,19,24,証人A,原告本人,弁論の全趣旨)

A氏は,B教授から,動物に子宮頸がんワクチンを打った場合に特異的な反応が出るかどうかを試しに見てもらえないか,という概括的な指示を
受け,検討した結果,A氏が,従前,NF-κBp50欠損マウスと呼ばれる,自己免疫疾患の素因を有し,ワクチンの接種の有無に関わらず加齢により自己抗体を産生し,神経変性が起きやすいマウス(以下本件マウスという。)による実験を行った経験があり,本件マウスについての高い知見を有していたことから,上記実験で用いるマウスについても,本件マウスによることとした。
(甲24,36,証人A,原告本人,弁論の全趣旨)


A氏は,子宮頸がんワクチンと生理食塩水とを接種したマウスからそれぞれ血清を採取して,これを希釈した上で正常なマウスの脳組織切片に振りかける,免疫組織化学染色法を行った実験結果について,B教授に報告し,B教授は,原告も参加した平成27年1月の班会議において,A氏の前記実験結果を踏まえた報告を行った。

B教授の上記の実験報告を聞いた原告が,子宮頸がんワクチン以外のワクチンとも比較対照してみてはどうかという趣旨の提案をした旨伝え聞いたA氏は,子宮頸がんワクチン及び生理食塩水に加えて,インフルエンザワクチン,B型肝炎ワクチンについても,本件マウスに接種して,同様に免疫組織化学染色法による検討を行うこととした(本件マウス実
験)。
A氏は,本件マウスを用いて本件マウス実験を行い,子宮頸がんワクチンにおいて,有意かつ早期に自己免疫疾患が認められるかどうかを検討することにした。
ただし,本件マウス実験は,単年度の研究の中で行われるものであり,
限定された予算の下で,各群5匹程度の規模で行われる予備的な実験であって,これにより有意な実験結果を得ることは不可能であり,さらにマウスの数を増やして相当な匹数(1群20匹程度)で実験を行う必要があることはA氏自身も認識していた。
(甲19,24,36,証人A,原告本人,弁論の全趣旨)


A氏は,平成27年2月頃から本件マウス実験を開始し,各群ごとにマウス1匹から得られた血清を用いて,複数枚の画像を撮影した。
A氏が撮影した画像の中には,自己抗体を産生しやすい本件マウスの特性から,本件マウスから得た血清の希釈倍率が低かったために,いずれの群についても強く緑色に光るなどして,有意に子宮頸がんワクチンを接種したマウスと,それ以外のワクチン等を接種したマウスとの差別化
を示すことのできなかった画像もあった。
A氏は,本件マウス実験で得られた画像のうち,子宮頸がんワクチンによってのみ緑色を呈し,それ以外のワクチン等では発色が見られないような,適切な倍率で血清を希釈して行った実験によって得られた画像を組み合わせて,本件ミーティングの資料となる本件A氏作成スライドを作成し
た。
A氏が,本件ミーティングまでの間に,本件マウス実験について子宮頸がんワクチンを用いて得られた画像と,それ以外のワクチン等を用いて得られた画像とを組み合わせて作成したスライドは,本件A氏作成スライドの1枚のみである。

(甲24,36,証人A,弁論の全趣旨)


本件ミーティングの実施内容及びその後の状況

本件ミーティングは,平成27年12月28日,信州大学医学部産婦人科教室で開催され,原告,B教授,A氏のほか,同教室に所属する医局員ら総勢数十人が参加した。

A氏は,本件ミーティングにおいて,本件A氏作成スライドを含む47枚のスライド(甲17)を示しながら説明を行った。
(甲17,19,24,37,原告本人,弁論の全趣旨)

B教授は,本件ミーティングの後,A氏が資料として用いたスライドを交付するようA氏に依頼し,A氏は,本件A氏作成スライドを含む資料のスライド(甲17)を,宅ふぁいる便と称するファイル転送サービスを用いて,B教授に送付した。
(甲24,証人A,弁論の全趣旨)

原告班は,平成28年1月8日,班会議を開催し,原告,B教授のほか,厚生労働省における本件研究の担当者であるD氏らが参加した。
B教授は,上記班会議において,本件A氏作成スライドに自ら手を加え
たスライド(甲7,以下本件B教授作成スライドという。)を示しながら研究報告を行った。
本件B教授作成スライドは,本件A氏作成スライドに,サーバリックスだけに自己抗体(IgG)沈着ありとの記載が書き加えられるとともに,当初は別のスライド(甲17㉜)で示されていた画像の蛍光強度
を示すグラフ(以下本件グラフという。)が画像の右上に配されている。
本件グラフには,左から

Flu.(注:インフルエンザワクチンを指す。)

HBV(注:B型肝炎ワクチンを指す。)

Cer.(注:子宮頸がんワクチン『サーバリックス』を指す。)

PBS(注:生理食塩水を指す。)

が順に並べられ,それぞれ赤色と緑色の2つの棒グラフが示されている。棒グラフの内,赤色のグラフはいずれも120~140の値を示し,大きな差が見受けられないのに対して,緑色のグラフは,Cer.以外はいずれも2.5~3.0の小さい値を示す一方で,Cer.のみ72と大きな値を示している。

(甲6,7,19,24,証人A,弁論の全趣旨)


成果発表会における発表の内容

厚生労働省は,平成28年3月16日,本件研究の成果発表会(本件成果発表会)を,現段階での研究の進捗状況について,成果という形で発表
することにより,協力医療機関の先生方の診療に役立つ情報提供となることを企図して開催した。
成果発表会は,非公開で行われるのが通例であったが,本件成果発表会は,公開で行われた。
(甲18,19,原告本人,弁論の全趣旨)

原告は,本件成果発表会において,本件スライドを含む資料(甲4)を示しながら,子宮頸がんワクチンの副反応を訴える患者100例以上の臨
床データや,高次脳機能検査及び脳SPECT画像検査の結果などについて報告した上で,疾患感受性遺伝子がある可能性についても言及し,最後に,本件マウス実験について,脳の海馬と呼ばれている記憶の中枢のところに,このHPVワクチンを打ったマウスだけ,こういう異常抗体がついている。すなわち,脳を攻撃する異常な抗体がこのマウスにはできたということが分かりました。現在,その抗体の性状を詳しく分析しているところなんですが,同時に,このマウスの,こういう皮膚,足の足底の皮膚の中の神経,こういうところですね,これを電子顕微鏡で見てみるとですね,皮内の神経,こういうものですが,どの神経も壊れている。だからこのマウスは脳と末梢神経と同時に障害を受けていそうだ,人の子宮頸がんワクチンの反応の解析をするモデルになりそうだというところまできております。ただ,まだ調べて確定したものではない。今後,このマウスの機序をもっと深部,調べて,ワクチン成分の何がこういうことを起こしているのかということの研究に使えればと考えております。と述べた。(甲3,4,18,19,丙37,弁論の全趣旨)



NEWS23の報道内容
TBSは,平成28年3月16日,本件番組を放送し,同月14日に原告に対する取材を行った際に,原告がした発言のうち,

子宮頸がんワクチンを打ったマウスだけ,どうも脳のですね,海馬といって,記憶の中枢があるところに,異常な抗体が沈着して,海馬の機能を障害していそうだ。

と述べた部分と,高次脳機能障害が生じている患者の,高次脳機能検査及び脳SPECT画像検査の各所見から,

これは明らかに脳に障害が起こっているということですね。ワクチンを打った後こういう脳障害を訴えている患者さんの共通した客観的所見がこうじゃないですかということを提示できている。

と述べた部分を,編集して放送した。また,TBSは,本件番組において,子宮頸がんワクチンを接種した
マウスの絵の直下に異常ありとの記載と共に,緑色を呈する画像を配し,インフルエンザワクチン及びB型肝炎ワクチンを接種したマウスの絵の直下に何も記載せず,緑色がわずかにしか見られない画像を配した画面を放送した。
(甲2,19,乙1,丙79の1~3,弁論の全趣旨)



被告乙及び被告丙の取材状況

被告乙及び被告丙は,本件成果発表会及び本件番組における原告の発言を知ったことから,これを検証して報道しようと考え,C教授に協力を求めた上で,原告や,A氏への取材を行うこととした。
(乙9,12,丙71,被告乙本人,被告丙本人,弁論の全趣旨)

被告丙は,平成28年3月22日,原告に対して,本件マウス実験等に関する12項目の質問を列挙した電子メールを送付した。
原告は,同月23日,メール拝見しました。HLApingの結果あ(ママ)表示で,DPB1geno-ty05:01alleleについてその遺伝子頻度とこのAlleleをヘテロまたはホモで有している個体頻度をもう少し明瞭に分けて示さなかったことが混乱の原因になったと考えております。鹿児島大学のデーターについてはE教授へ直接お問い合わせ下さい。私達が脳障害とした診断根拠等は現在論文にまとめている最中であります。……。マウスの実験は私ではなく,信州大学の他の研究者が発案して実施しております。私は皮内神経の障害の有無を検索する役割を担っております。このノックアウトマウスは学内の研究室で長年自己免疫疾患の研究に使用しており,免疫異常を引き起こしやすいから使用しているとのことです。実験結果の詳細は,研究のoriginalityと論文作成のためお話しすることはできません。電子顕微鏡写真等の個別データーの解説は控えさせていただきます。……。以上,私の回答できる範囲で述べさせていただきました。と記
載された電子メールを,被告丙に送信した。
(甲21,弁論の全趣旨)

C教授は,原告に対し,A氏への面談を実施する前に,本件マウス実験に関するデータの開示と発表内容の訂正を提案した。
原告は,平成28年4月8日,C教授に対し,ご指摘の点については近日中に厚労省の方から提示する予定です。マウスの実験については自己抗体が検出され,これが脳に付着していることを提示したのみで,神経変性には言及しておりません。あくまでモデルマウスになる可能性がる(ママ)ことを示したのみです。以上の点を御理解下さい。と記載した電子メールを送信し,C教授は,この電子メールを被告乙及び被告丙に提供し
た。
(乙8,被告乙本人,被告丙本人,弁論の全趣旨)

一方,A氏は,B教授や共同で実験を行っている医局員の了解なくジャーナリストに本件マウス実験の内容を話すことはできないとして,当初は
取材を受けることに難色を示していた。しかし,被告乙及び被告丙が,A氏の旧知の友人であるC教授を介して繰り返し取材を申し込み,A氏がこのまま取材を受けないとA氏自身も不利な状況に追い込まれる旨の連絡をしたことや,A氏が,自らの指導教官であったF氏(以下F教授という。)に相談した際に,本件マウス実験の実験方法について,正確な内容
を説明した方がよいと示唆されたことから,被告乙及び被告丙の取材を受けることにした。
(甲24,丙71,証人A,弁論の全趣旨)

被告乙,被告丙及びC教授は,平成28年6月3日,東京都内のホテルのレストランで,A氏と面談し(以下本件面談という。),約1時間半程度,会食をしながら取材を行い,その内容を録音した。本件面談では,別紙取材結果記載の会話がされ,原告は,被告乙らに対して,本件マウス
を用いた研究論文を交付するなどして本件マウス実験について説明すると共に,本件マウス実験は,子宮頸がんワクチン等を接種した本件マウスに自己抗体ができているかについて,正常なマウスの脳組織と反応するかを画像が緑色に染まるかどうかで確認する実験であること,本件スライドはマウス1匹について得られた画像を組み合わせたに過ぎず,本件マウス実
験はあくまでパイロット実験として位置づけるものであるから,クローズドのプレゼンであればともかく,学会発表を行うレベルのものではないとB教授には伝えていたことなどを述べた。
なお,A氏は,本件面談の際,サーバリックスだけに自己抗体(IgG)沈着ありとの記載をB教授がしたものであるとは思っておらず,
原告が記載したものであると考えていた。
(甲24,25の1・2,乙7の1・2,丙70,71,証人A,弁論の全趣旨)

本件面談以後の動き

A氏は,本件マウス実験により得た画像等について,本件面談の際に,被告乙らから強く交付を求められ,これに応じるような発言もしていたが,実際には,B教授や原告が,上記画像等についてジャーナリストに交付することを了解するはずはないと考えていた。
本件面談の翌日である平成28年6月4日及び5日に,被告丙,被告乙
及びC教授から,上記画像等の交付を求める催促の電話や電子メールが何度もあったが,A氏は,B教授や原告に対して,上記画像の提供の可否を尋ねたりすることもなく,同月6日の朝,被告乙からの催促の電話に対して,

出さなければならない理由はない。

と述べて拒絶した。(乙7の1・2,証人A,被告乙本人,弁論の全趣旨)

被告乙は,A氏から画像の交付を断られた翌日である平成28年6月7日午後4時35分,B教授に対し,本件面談の要旨を記載し,次の2つの質問について,明日6月8日の正午までにご回答をいただきますようお願い致します。(中略)期限までにお答えがない場合,実験デザイン,進捗のご報告を受けていたB先生は,1,2ともにご回答は『YES』であったと理解して記事化させていただきますのでご了承ください。と記載した上で,本件マウス実験により得られた画像は,N=1のチャンピオンデータであることを前提として,B教授が本件マウス実験に対して,どのような関与をしていたのかを質問する電子メールを送信した。B教授は,同日午後5時21分,前記電子メールに対し,

どなたかしりませんが,デリケートな質問を勝手にメールで送り付け,返答しない場合はそちらの勝手な答えを掲載するという行為は一種の脅迫であり自分にはちょっと信じられません。

と電子メールで回答した。被告乙は,同日午後5時27分,B教授の電子メールに対し面会してお話しをお伺いしたいところですが,距離もございますので,お時間を頂戴できれば,お電話させていただく,あるいはスカイプといった手段もございます。できる限りのことをやらせていただきたいと思っております。と記載した電子メールを送信したが,これに対するB教授の回答はなかった。
(乙4,弁論の全趣旨)

被告乙及び被告丙は,本件面談後,本件各記事の掲載までの間,原告に対しては,一切取材を行っていない。
また,被告乙が,本件各記事の掲載までの間,自ら行った裏付け取材は,前記イのB教授に対する電子メールのみである。
(被告乙本人,被告丙本人,弁論の全趣旨)


本件雑誌記事の掲載及びその後の状況

被告丙は,平成28年6月7日頃,本件雑誌記事の初稿を被告乙に交付した。

被告乙は,本件雑誌記事の見出し等を作成した上で,同月10日から12日頃までの間に,本件雑誌記事が掲載された本件雑誌の原稿を印刷所に入稿した。
(被告乙本人,被告丙本人,弁論の全趣旨)

被告乙は,平成28年6月17日,原告に対し,本件雑誌記事の掲載された本件雑誌を送付すると共に,信州大学の学長に対しても,同雑誌を,貴学医学部長,原告教授が率いる厚労省研究班の発表内容に重大な問題があることが判明しましたので記事にいたしました。このような方が副学長,医学部長の任にあることは大きな問題であると考えます。大学として何らかの措置をとられるべきではないかと存じます。と記載した手紙と
共に送付した。
また,被告乙は,同日頃,本件雑誌記事の掲載された本件雑誌を,厚生労働省に持ち込んで配布した。
(甲19,28,29,原告本人,被告乙本人,弁論の全趣旨)

被告丙は,A氏に対し,同日頃,本件雑誌記事の掲載された本件雑誌を送付した。
被告丙は,同月19日,A氏に対し,掲載記事は来週以降,加筆してウェブでも展開する予定です。通常,ウェブは雑誌の数百倍ほど読まれますが,金曜日に本誌の宣伝用に出したウェブ記事がすでに驚くほどの数読まれており,本件が世間の注目を集めておりますこと,どうぞご承知おきください。もし,今からでもお話しいただけることがあれば,ウェブ記事でのトーンの修正は可能です。等と記載した電子メールを送信した。A氏は,翌20日に,

私といたしましては,先日御会いした際,御話しをした内容が真実で,だいたい全てです。

等と記載した電子メールを返信した。
被告丙は,A氏の電子メールに対し,

記事への反論や修正点はなく,原則,この内容でウェブにも掲載するという理解で宜しいのですね。

等と記載した電子メールを送信した。
A氏は,被告丙にさらに返答したものの,前記記載の部分に対しては,特に言及していない。
(丙73,弁論の全趣旨)


本件雑誌記事の掲載された本件雑誌は,同年6月20日,一般に発売された。
(争いがないほか,甲1,弁論の全趣旨)


本件各記事の公開及びその後の状況

信州大学は,平成28年6月25日付けのC教授による公益通報メールを受けて,同月29日,報道機関等から研究活動における不正行為の疑いが指摘されたとして,本件研究について研究不正があったかどうかについての調査(以下本件調査という。)を開始した。
本件調査は,信州大学の理事や教授,弁護士からなる予備調査(以下本件予備調査という。)と,法学の専門家1名,医学の専門家4名
からなる本調査(以下本件本調査という。)の二段階により実施された。
(丙2,9,84~86,弁論の全趣旨)

本件予備調査においては,原告,B教授及びA氏からのヒアリングを合計9回実施し,最終的に研究成果の発表方法として,研究倫理上の問題が存在する可能性があること,一方で,データのねつ造・改ざん等に該当するような具体的事実は見つからず,研究活動における不正行為の有無について確認できていないことから,本調査委員会を設置し,調査を行うべきであるとの結論に至った。
(丙85,86,弁論の全趣旨)

本件本調査においては,原告,B教授,A氏からのヒアリングを実施し,さらに,本件マウス実験に関する実験ノートやマウス繁殖記録,研究の各段階で作成された報告資料等のほか,A氏の個人所有コンピュータ内の本件マウス実験により得られた編集前の画像等についても調査を実施したうえで,実験結果と矛盾する画像が存在しないことを確認し,平成28年1
1月15日,調査の結果,信州大学不正防止規定第2条2項に定める研究活動における不正行為(ねつ造,改ざん,盗用,不適切なオーサーシップ,二重投稿)及び厚生労働分野の研究活動における不正行為への対応等に関するガイドラインに定める特定不正行為(故意又は研究者としてわきまえるべき基本的な注意義務を著しく怠ったことによる,投稿論文など発表さ
れた研究成果の中に示されたデータや調査結果等のねつ造,改ざん及び盗用)は認められなかったとの結論を示した。
なお,本件本調査の結果として,原告について,平成28年3月16日開催の成果報告会……は,厚生労働科学研究費の助成を受けた研究の進捗状況を報告するものであって,必ずしも科学的に証明された知見のみを公表する場ではなかったことも考慮すると,発表の一部に,このような予備的な実験段階における研究結果が含まれていたとしても,それは許容範囲のものであったと考えられるけれども,厚生労働省に提出した報告書での予備的な段階における実験結果の断定的な記述や抗体の『沈着』という表現が用いられたこと(本来は「反応という表現にとどめるべきで
あった)に関して,調査委員会は原告教授に対し,A教授(注:B教授)とともに,その修正または修正内容の公表の措置をとる」こと,本件マウス実験の結果が予備的な段階のものであることを,適切な方法をもって公に明らかにすること及び科学的な証明に耐えうる数のNF-κBp50欠損マウスを用意したうえで,HPVワクチンを含むワクチン等を接種する初めの段階からの検証実験の実施と,その結果の公表を求めた。(丙2,86~88,証人A,弁論の全趣旨)


本件各記事公表後の信州大学の状況

信州大学では,本件雑誌記事の掲載された本件雑誌の発行直後である平成28年6月22日に実施された医学部の定例教授会で,ねつ造の疑いがある医学部長が教授会の司会を行うことに反対する意見が出たため,原告による議事進行が困難となった。

原告は,医学部事務部長や医学部執行部と相談した結果,今後,教授会の運営が妨げられたり,医学部教授会がまとまらなくなったりすることが強く懸念されることから,同年6月30日に辞職届を提出し,9月末日に医学部長及び副学長を辞任することとした。
(甲19,24,原告本人,弁論の全趣旨)


原告は,本件本調査により,研究不正はない旨結論付けられたものの,確定的な結論を得たかのような印象を与える発表を本件成果発表会やマスメディアに対して行ったことを原因として,学長厳重注意処分となり,同年12月14日付けで,医学部教授についても辞任した。
(甲19,丙2,原告本人,弁論の全趣旨)


なお,原告班は子宮頸がんワクチン接種後に生じた症状に関する治療法の確立と情報提供についての研究として,現在も活動中である。(甲19,弁論の全趣旨)

2
争点⑴ア(本件各記述が,原告の社会的評価を低下させるものであるか。)について


事実を摘示してする名誉毀損にあっては,その行為が公共の利害に関する事実に係り,かつ,その目的が専ら公益を図ることにあった場合に,摘示された事実がその重要な部分について真実であることの証明があったときには,上記行為には違法性がなく,仮に上記証明がないときにも,行為者において上記事実の重要な部分を真実と信じるについて相当の理由があれば,その故意または過失は否定される(最高裁昭和41年6月23日第一小法廷判決・
民集20巻5号1118頁,最高裁昭和58年10月20日第一小法廷判決・裁判集民事140号177頁参照)。


そこで,上記⑴の観点から,本件各記述がどのような意味内容の事実を摘示し,又は意見若しくは論評を表明するものか,及びそれが原告の社会的評
価を低下させるものかどうかについて,以下検討する。

本件各記事中で捏造とされている行為の具体的内容は,本件記述③,④,⑦及び⑧で示されているところ,本件記述③は,前後の文脈を含めた一般の読者の普通の注意と読み方を基準とすれば,A氏の談話の形式をとりながら,A氏が原告に手渡した資料には,子宮頸がんワクチン以外のワ
クチンでも強く緑色に染まった画像が何枚もあったにもかかわらず,原告は,敢えて子宮頸がんワクチンでよく光っている写真と他のワクチンで光っていない写真が組み合わさったスライドだけを発表したという事実(以下本件摘示事実Aという。)を摘示するとともに,その事実を前提として,そのような原告の行為を重大なねつ造であるという被告丙の意見若
しくは論評(以下本件論評aという。)を表明するものと理解することができる。
そして,本件記述⑦及び⑧についても,本件記述③と同様に,本件摘示事実Aを摘示するものであると解される。
また,本件記述④については,前後の文脈を含めた一般の読者の普通の
注意と読み方を基準とすれば,原告がチャンピオンデータ(仮説にとって都合の良いデータのこと)で議論を進めている事実(以下本件摘示事実Bという。)を摘示するとともに,その事実を前提として,そのような原告の行為を紛れもないねつ造であるという被告丙の意見若しくは論評(以下本件論評bという。)を表明するものと理解することができる。
本件摘示事実A及びB並びに本件論評a及びbは,原告が,A氏から手
渡された資料の中には,反対の結論を示すものもあったにもかかわらず,自分にとって都合の良い1枚のスライド,1匹のデータのみを取り出して発表し,研究結果について虚偽の結論をでっちあげたとの印象を読者に与えるものであるから,本件記述③,④,⑦及び⑧は,原告の社会的評価を低下させるものである。


本件記述①は,本件雑誌記事のタイトルであり,このタイトルに続く本件雑誌記事の本文を一般の読者の普通の注意と読み方を基準として読むと,子宮頸がんワクチン薬害研究班の研究者たちというのは,原告班の研究者らを指すものであり,その研究代表者である原告が,本件研究において,
何らかの理由により研究結果のねつ造を行っていたという事実(以下本件摘示事実Cという。)を摘示するものと解される。そして,本件雑誌記事全体に照らすと,ねつ造行為の内容とされているのは,本件摘示事実Aであると読むことができる。
同様に,本件記述⑥は,本件ウェブ記事のタイトルの一部であり,子宮
頸がんワクチン薬害研究班,すなわち原告班が研究結果のねつ造を行っていたという事実(本件摘示事実C)を摘示するものと解され,本件ウェブ記事の本文を併せ読むと,ねつ造行為の内容とされているのは,本件摘示事実Aであると理解できる。
そして,本件記述②,⑤及び⑩についても,原告班が研究結果のねつ造
を行っていたという事実(本件摘示事実C)を摘示するものと解され,本件各記事の文脈からすると,ねつ造行為の内容とされているのは,本件摘示事実Aであると読むことができる。
そうすると,本件記述①,②,⑤,⑥,⑩は,原告が,反対の結論を示す実験結果もあったにもかかわらず,自分にとって都合の良いスライドのみを取り出して発表し,研究結果について虚偽の結論をでっちあげるというねつ造行為を行っていたとの印象を読者に与えるものであるから,
これらの記述は,原告の社会的評価を低下させるものである。

本件記述⑨は,前後の文脈を含めた一般の読者の普通の注意と読み方を基準とすれば,これは本件マウス実験を指すものと読むことができるから,本件マウス実験は,原告が,子宮頸がんワクチンを打ったマウスの脳に障害が起きたという結論を導くために作り出した実験であり,原
告には捏造の意図があったという事実(以下本件摘示事実Dとい
う。)を摘示するものと理解することができる。
本件摘示事実Dは,原告が,自己が欲する結論を得るために,本件マウス実験を自分にとって都合の良いように,意図的にでっちあげたとの印象を読者に与えるものであるから,本件記述⑨は,原告の社会的評価を
低下させるものである。


この点,被告らは,原告が,本件成果発表会において,遺伝子頻度と遺伝子保有率を混同した発表をしているところ,この両者の区別を誤って発表することは,遺伝に関する基本的理解を欠いていることを自ら露呈するもので
あって,この時点で研究者としての原告の名誉は失われているから,本件各記事の公表によって毀損されるべき原告の名誉はすでに存在しない旨主張し,被告乙及び被告丙は,その本人尋問においてこれに沿う供述をするほか,同旨を述べる意見書等(丙62の1・2,63の1~6,74の1~4)を提出する。

しかしながら,不法行為の被侵害利益としての名誉(民法710条,723条)とは,人の品性,徳行,名声,信用等の人格的価値について社会から受ける客観的評価のことをいうところ(最高裁昭和61年6月11日大法廷判決・民集40巻4号872頁ほか参照),前記認定事実によれば,本件各記事が掲載された時点において,原告は,信州大学の副学長及び医学部長の任にあり,厚労省の依頼により,本件研究の原告班の研究代表を務めていたことが認められる。

そして,被告らが主張するように,原告が本件成果発表会において,遺伝子頻度と遺伝子保有率を混同するという誤りを述べたという事実があったとしても,それは,ねつ造のような研究不正とは次元の異なるものであり,そもそも根拠が示されて故意によるものではない誤りについては,研究不正とはされていないこと(甲12)に照らしても,上記誤りを述べたことによっ
て,毀損される名誉が存しないほどに原告の社会的評価が著しく低下したとは認めることができないから,被告らの上記主張には理由がない。⑷

以上によれば,前記認定のとおり,本件各記述は,本件摘示事実AないしDを摘示し,本件論評a及びbを表明することによって,それぞれ原告の社会的評価を低下させるものということができる。

したがって,前記第2の4⑴の被告らの主張は,この判断に抵触する限度において,理由がない。
3
続いて,争点⑵(本件各記述について,違法性阻却事由又は責任阻却事由があるか。)について,判断する。



事実を摘示することによる名誉毀損については,当該事実を摘示する行為が公共の利害に関する事実に係り,かつ,その目的が専ら公益を図ることにあった場合において,摘示された事実の重要な部分が真実であることが証明されたときは,当該行為には違法性がなく,不法行為は成立しないものと解するのが相当であり,また,真実であることが証明されなかったときであっ
ても,その行為者が真実と信ずるについて相当の理由があるときには,当該行為には故意又は過失がなく,不法行為は成立しないものと解される(最高裁判所昭和41年6月23日第一小法廷判決・民集20巻5号1118頁,最高裁判所昭和58年10月20日第一小法廷判決・裁判集民事140号177頁参照)。さらに,特定の事実を基礎としての意見又は論評の表明による名誉毀損にあっては,その行為が公共の利害に関する事実に係り,かつ,その目的が専ら公益を図ることにあった場合に,当該意見又は論評の前提と
している事実が重要な部分について真実であることの証明があったときには,人身攻撃に及ぶなど意見又は論評としての域を逸脱したものでない限り,当該行為は違法性を欠くものというべきであり,仮に証明がないときにも,行為者において当該事実を真実と信ずるについて相当な理由があれば,その故意又は過失は否定されると解される(最高裁判所平成9年9月9日第三小法
廷判決・民集51巻8号3804頁)。


そこで,上記⑴において説示したところを前提として,本件各記述に関し,その違法性阻却事由又は責任阻却事由の有無について,検討する。ア
前記認定事実によれば,原告は,国立大学の医学部教授であり,本件研究の研究代表者であるところ,子宮頸がんワクチンの副反応に関する本件研究が,国の同ワクチン接種に係る政策を左右しうる重要な研究であることに鑑みると,本件研究においてねつ造行為が行われていたかどうかについては,一般多数人の利害ないし関心に関わるものということができるから,本件摘示事実AないしDを摘示し,本件論評a及びbを表明する行為
は,公共の利害に関するものと認められ,かつ,上記摘示事実を摘示した主たる動機は,公益を図る目的にあったものと認めることができる。この点,原告は,被告乙が,本件雑誌記事を掲載した本件雑誌を信州大学学長宛てに送付したり,厚生労働省に持ち込んで配布したりしたことから,被告乙及び被告丙が本件各記事を本件雑誌に掲載したり本件ウェ
ブマガジンに発表したりしたことは,公益目的を装った子宮頸がんワクチンの副反応を研究する者に対する研究妨害又は口封じであって,公益を図る目的でされたものではない旨主張する。
しかしながら,前記認定のとおり,本件研究において実際に研究不正が行われていたとすれば,国の施策をも左右する重要な事柄であると認められるところ,前記1⑼イ記載のとおり,被告乙及び被告丙がA氏との本件面談の結果,本件研究には研究不正があったと信じて大学や厚生労
働省に対する働きかけを行っていることが認められるから,そのような行動から,直ちに公益目的がないということはできず,原告の上記主張には理由がない。

次に,本件各記述に関し,摘示された事実の重要な部分若しくは意見若しくは論評の前提としている事実の重要な部分が真実であるかどうか,又はこれらが真実であると信ずるについて相当の理由があるかどうかについて,検討する。
本件摘示事実Aについて
a
本件摘示事実Aの重要な部分は,前記2⑵のとおり,A氏が原告に手渡した資料には,子宮頸がんワクチン以外のワクチンでも強く緑色に染まった画像が何枚もあったにもかかわらず,原告は,敢えて子宮頸がんワクチンでよく光っている写真と他のワクチンで光っていない写真が組み合わさったスライドだけを選び出したということである。前記認定事実によれば,A氏が実施した本件マウス実験では,自己
免疫疾患の素因を有し,加齢により自己抗体を産生し,神経変性が起きやすい本件マウスを用いるために,本件マウスから得た血清の希釈倍率が低かった場合には,いずれの群についても強く緑色に光るなどして,有意に子宮頸がんワクチンを接種したマウスと,それ以外のワクチン等を接種したマウスとの差別化を示すことのできなかった画像
もあったことが認められるが,A氏は,本件マウス実験で得られた画像のうち,子宮頸がんワクチンによってのみ緑色を呈し,それ以外のワクチン等では発色が見られないような,適切な倍率で血清を希釈して行った実験によって得られた画像を組み合わせて,本件ミーティングの資料となる本件A氏作成スライドを1枚だけ作成し(網膜の画像は別である。),これを本件ミーティングの資料として用いた後,B教授の求めに応じて,他の資料と共にB教授に送付したことが認めら
れる。
したがって,A氏が原告に対して,本件A氏作成スライドを含め,いかなる画像を手渡したこともない上,本件マウス実験に関して,原告がB教授から入手したスライドは,本件A氏作成スライドにB教授が手を加えた本件B教授作成スライド1枚のみであったから,原告の
手元に,子宮頸がんワクチン以外のワクチンでも強く緑色に染まった画像が何枚もあったという事実も認めることはできないし,原告が,その中から自分に都合の良いように,子宮頸がんワクチンでよく光っている写真と他のワクチンで光っていない写真が組み合わさったスライドだけを選び出したという事実も認めることはできない。

以上によれば,本件摘示事実Aの重要な部分が真実であるとは認められない。
b
この点,被告らは,被告乙及び被告丙が行った本件面談において,A氏は,何枚もある画像を原告に渡し,原告が当該画像をピックアッ
プしたという趣旨の発言をしていたから,これを真実と信じるに足りる相当な理由があったと主張する。
確かに,別紙取材結果によれば,本件面談において,A氏は,本件マウスの特性から,子宮頸がんワクチンを打っていない他のマウスでも緑色に染まることがあったこと(6),毎月行われるプログレス・
ミーティングのときに,何枚も写真を出しており,(本件スライドは)5,6枚はある中の1枚であること,網膜の写真もあること(8,13),その中から原告が選んだと思われること(8,13)などを述べている部分がある。
しかしながら,A氏が原告に複数の画像を渡したと明確に述べている部分はなく,A氏が渡したのはB教授であったと解される発言もあり(17),A氏がB教授と原告との間のやり取りを知らなければ,
原告に本件スライド以外の画像が渡ったのかについては,A氏の推測に過ぎないことになる。実際,A氏は,本件A氏作成スライドを誰がどのように記載を加えて本件スライドになったかについて知らなかった。したがって,取材する側としては,A氏が誰に,何を渡したのかについて明確に確認しなければ,その説明の信用性について判断でき
なかったというべきである。
しかも,A氏の説明では,他にもあったという画像が,本件A氏作成スライドのように各ワクチン等で得られた画像を組み合わせて1枚に作成したものなのか,その元となる画像なのか,網膜の画像なのか,必ずしも明確とはいえない。

このように本件摘示事実Aに関するA氏の説明はあいまいさが残っており,本件面談の場では,他にもあると述べた画像について,被告らに提供しても良いような発言をしていたものの,その後,画像の提供を拒否しており,結局,A氏の発言の客観的な裏付けは取れていないというべきである。

c
さらに,前記認定事実によれば,被告乙及び被告丙は,A氏との本件面談の結果を受け,本件各記事の掲載に先立って,原告に対する取材を行っていないことが認められる。
本件摘示事実Aとの関係では,原告が,A氏から,いかなる画像や
スライドを受け取っていたのか,原告に取材を行うことが,最も重要かつ端的であり,それが困難であった事情は認め難い。
この点,被告らは,平成28年3月22日に原告に対する電子メールを送付して取材した際,原告が回答を拒否したため,本件各記事に関しても,回答を得ることは困難と考えて,原告に対する取材を行わなかったと主張する。
しかしながら,前記認定事実によれば,原告は,被告丙による上記
取材に対して,

マウスの実験は私ではなく,信州大学の他の研究者が発案して実施しております。

このノックアウトマウスは学内の研究室で長年自己免疫疾患の研究に使用しており,免疫異常を引き起こしやすいから使用しているとのことです。

実験結果の詳細は,研究のoriginalityと論文作成のためお話しすることはできません。

などと記載して,回答できる範囲で,質問に回答する姿勢を示していることが認められるから,同年6月上旬の時点において,原告がいかなる取材に対しても回答しないことが明らかであったということはできない。
d
また,被告らは,被告乙が平成28年6月7日,B教授に対して電子メールで取材を行ったから,適切な裏付け取材を行っている旨主張する。
しかしながら,前記認定事実によれば,被告乙のB教授に対する取材とは,24時間以内の期限を設定した上,期限までに返答がなけれ
ばYESと理解して記事にする旨を付記した上で,

本件スライドについてA氏からチャンピオンデータとの説明を受けていたか。

本件スライドをチャンピオンデータと言わずに公表することを了承していたか。

という2点の質問を記載した電子メールを送付したことであると認められる。

前記認定事実によれば,上記のような一方的な電子メールを受け取ったB教授は,

どなたか知りませんが,デリケートな質問を勝手にメールで送り付け,返答しない場合はそちらの勝手な答えを掲載するという行為は一種の脅迫であり自分にはちょっと信じられません。

という電子メールを返信し,被告乙の取材に応じることはなかったことが認められる。
以上によれば,上記電子メールの送付をもって,被告乙が本件摘示
事実Aについて,適切な裏付け取材を行ったということはできない。e
被告らが,本件調査の結果等もない段階で,本件摘示事実Aの存在をもって,本件研究についてねつ造であるという,研究者にとって致命的ともいえる研究不正の存在を告発する趣旨の記事を公表するので
あれば,その記事が原告に与える影響の重大さに鑑みて,A氏の発言を鵜呑みにするのではなく,より慎重に裏付け取材を行う必要があったというべきである。
本件各記事は,その内容からして,裏付け取材をする暇がないほどに公表の緊急性を要するものということはできない。(被告乙が編集
人として本件雑誌を発行するのが平成28年7月号で最後であるといった事情は,被告ら内部の事情である。)
なお,前記認定事実によれば,被告丙は,本件ウェブ記事の掲載前に本件雑誌記事をA氏に送付して,修正点がない旨の確認をした事実が認められるものの,これは,A氏の発言を事後的に確認しただけで
あって,A氏の発言内容の裏付け取材としての意義は乏しい。
以上によれば,被告らが,本件面談においてA氏の述べた内容を軽信し,その他,実効的な裏付け取材を何ら行わないまま,本件摘示事実Aを真実と信じたことについては,相当の理由があったものということはできない。

本件論評aについて
本件論評aの前提としている事実の重要な部分は,前記2⑵のとおり,本件摘示事実Aであるところ,これが真実でないこと及び被告らにおいてこれが真実であると信ずるについて相当の理由があったと認めることができないのは,

である。

本件摘示事実Bについて
a
本件摘示事実Bの重要な部分は,前記2⑵のとおり,原告が自分の仮説にとって都合の良いチャンピオンデータで議論をしているということである。
B教授から受け取ったスライド資
料の中に,本件マウス実験に関するスライドは本件B教授作成スライ
ド1枚しかなかったから,原告が,子宮頸がんワクチン以外のワクチンでも強く緑色に染まった画像が何枚もある中から,自分の仮説に都合の良い本件スライドだけを公表して,チャンピオンデータで議論をしているという事実を認めることはできない。
また,前記認定事実によれば,A氏は本件マウス実験について,各
群ごとにマウス1匹から得られた血清を用いて複数枚の画像を撮影し,その画像の中から本件A氏作成スライドを作成したことが認められるから,本件A氏作成スライドを基に作成された本件スライドは,マウス1匹から得られた血清によるデータではある。
しかし,本件記述④に続く被告丙の説明によれば,チャンピオンデ
ータとは,100人に1人しか成功しないダイエット法で減量に成功した一個人のデータや写真のようなものというのであるから(甲1),多数のマウスを用いて同様の実験を行い,1匹だけに都合の良い結果が得られた場合に,当該1匹のデータや写真のようなものがチャンピオンデータだということになる。そうすると,A氏は,本件ミ
ーティング時点においては,当該1匹以外のマウスについての画像を有しているわけではなく,仮説に都合の悪いデータを持っていたわけでもないから,本件A氏作成スライドは,上記の意味でのチャンピオンデータには当たらないというべきである。
実験担当者のA氏が当該1匹以外のマウスについて画像を作成していない以上,原告が,当該1匹以外のマウスについて画像を有していないのは明らかであり,この意味においても,原告が,相反する結果
がある中で,都合のよいチャンピオンデータを用いて議論していると認めることはできない。(なお,本件記述④におけるチャンピオンデータを用いて議論することと,N=1のデータで有意の結論を導くこととは異なる問題である。)
以上によれば,本件摘示事実Bの重要な部分が真実であるとは認め
られない。
b
そして,前記

で述べたのと同様に,被告らが,本件面談において

A氏の述べた内容を軽信して,原告が,子宮頸がんワクチン以外のワクチンでも強く緑色に染まった画像が何枚もある中から,自分の仮説に都合の良い本件スライドだけを公表して,チャンピオンデータで議論をしているという事実(本件摘示事実B)を真実と信じたことについては,相当の理由があったものということはできない。
確かに,前記認定事実によれば,本件面談において,A氏は,本件スライドについて,1匹のマウスから得られた画像であることを述べ
ており,A氏自身がチャンピオン,チャンピオンデータとい
う言葉に対して,

うん,そうそう。

と相づちを打っていることが認められる。しかし,A氏がチャンピオン,チャンピオンデータという言葉をどのように理解した上で,同調したのかは必ずしも明確ではない。むしろ,A氏は,原告先生が『一番いいやつ持って来てくれ』とか,そういうオーダーはありました?という被告乙の質問に対しても,何かこのサーバリックスに関して『やっぱりって思うようなデータない?』みたいな感じのことは言われなかった?という被告丙の質問に対しても,明確に「ない。」と否定していることが認められる。
そうすると,被告乙及び被告丙としては,A氏が本件面談において,チャンピオン,チャンピオンデータという言葉に同調したこ

とがあったとしても,それを軽信することなく,原告がA氏から本件マウス実験について,どのような説明を受け,その実験結果についていかなる画像やスライドを受け取っていたのか,原告に裏付け取材を行うべきであったのに,そのような裏付け取材を何ら行わないまま,本件摘示事実Bを真実と信じたことについて,相当の理由があったも
のということはできない。
本件論評bについて
本件論評bの前提としている事実の重要な部分は,前記2⑵のとおり,本件摘示事実Bであるところ,これが真実でないこと及び被告らにおいてこれが真実であると信ずるについて相当の理由があったと認めることができないのは

ある。

本件摘示事実Cについて
a
本件摘示事実Cの重要な部分は,前記2⑵のとおり,原告が,本件研究において,研究結果のねつ造,すなわち,存在しない研究結果を
存在するかのように作り上げたということである。そして,本件記述①,②,⑤,⑥及び⑩におけるねつ造行為の内容は,原告が,反対の結論を示す実験結果もあったにもかかわらず,自分にとって都合の良いスライドのみを取り出して発表したこと(本件摘示事実A)と解されるのは前述のとおりである。

て,子宮頸がんワクチン以外のワクチンでも強く緑色に染まった画像が何枚もあったにもかかわらず,その中から,子宮頸がんワクチンでよく光っている写真と他のワクチンで光っていない写真が組み合わさったスライドだけを選び出して,あたかも子宮頸がんワクチンの場合のみ緑色に染まる(同ワクチンを接種した本件マウスの血清についてのみ,その中の一部の抗体が,正常な脳の海馬の中枢神経を認識することを意味する。)という結果が得られたかのように作出したという事実は認められない。
そもそも,前記認定事実によれば,原告は,本件成果発表会において,自己の報告の終わりの方で,本件マウス実験について,

脳の海馬と呼ばれている記憶の中枢のところに,このHPVワクチンを打ったマウスだけ,こういう異常抗体がついている。すなわち,脳を攻撃する異常な抗体がこのマウスにはできたということが分かりました。

と紹介してはいるものの,

ただ,まだ調べて確定したものではない。今後,このマウスの機序をもっと深部,調べて,ワクチン成分の何がこういうことを起こしているのかということの研究に使えればと考えております。

と述べていることが認められ,確たる結論が得られたという趣旨の報告をしているわけではなく,次年度以降の研究の頭出しといった意味合いで言及していることからしても,研究結果のねつ造というには無理がある。

前記認定事実によれば,原告班の本件研究にねつ造があったかどうかについては,約5か月間に及ぶ本件調査において,関係者からのヒアリングは勿論,本件マウス実験に関する実験ノートやマウス繁殖記録,研究の各段階で作成された報告資料等のほか,A氏の個人所有コンピュータ内の本件マウス実験で得られた編集前の画像等についても
調査を実施した上で,実験結果と矛盾する画像が存在しないことが確認されており,調査の結果,本件研究には,ねつ造,改ざん等の不正行為がなかったとの結論が示されている。
以上によれば,本件摘示事実Cの重要な部分が真実であるとは認められない。
b
なお,被告らは,原告の本件番組での発言を捉えて,事実でないことをさも事実であるかのように事実を作り上げたから,ねつ造を行ったといえる旨主張する。
しかしながら,発言それ自体については,仮に虚偽の事実や根拠の乏しい事実を述べたとしても,事実を作り上げたということには
ならないから,発言を捉えてねつ造行為の内容と主張する被告らの主
張は無理があるというべきである。
また,前記認定事実によれば,本件番組では,原告の

これは明らかに脳に障害が起こっているということですね。ワクチンを打った後こういう脳障害を訴えている患者さんの共通した客観的所見がこうじゃないですかということを提示できている。

と断定的に述べた発言
が,本件マウス実験に関する

子宮頸がんワクチンを打ったマウスだけ,どうも脳のですね,海馬といって,記憶の中枢があるところに,異常な抗体が沈着して,海馬の機能を障害していそうだ。

という発言の後に放送されていることが認められるところ,その結果,本件番組を見た視聴者は,原告が,あたかも本件マウス実験により得られた
結果を,子宮頸がんワクチンによる副反応を訴える患者たちの脳障害と結びつけて,結論付けているかのように受け取ることになる。(実際,被告乙及び被告丙は,そのように受け取っている。)
しかしながら,これは明らかに脳に障害が起こっている,患者さんの共通した客観的所見といった発言内容からすると,原告が
主張するように,高次脳機能障害が生じている患者の,高次脳機能検査及び脳SPECT画像検査の各所見を説明して述べた発言と解する方が自然であり,本件成果発表会における原告の発表内容(甲4,丙37)とも整合するから,本件番組における原告の発言は,TBSの編集の結果,原告がTBSの取材において実際に述べたのと異なる文脈で放送されたというべきである。
したがって,原告が,本件番組において,本件マウス実験により,
子宮頸がんワクチンにより脳障害が引き起こされたことが明らかになったという虚偽の結論を述べたという事実を認めることもできない。c
そして,前記

で述べたのと同様に,被告らが,本件面談において

A氏の述べた内容を軽信して,原告が,子宮頸がんワクチン以外のワクチンでも強く緑色に染まった画像が何枚もある中から,自分にとっ
て都合の良いスライドのみを取り出して発表し,存在しない研究結果を存在するかのように作り上げたという事実(本件摘示事実C)を真実と信じたことについては,相当の理由があったものということはできない。
本件摘示事実Dについて

a
本件摘示事実Dの重要な部分は,前記2⑵のとおり,本件マウス実験は,原告が,子宮頸がんワクチンを打ったマウスの脳に障害が起きたという結論を導くために作り出した実験であり,原告には捏造の意図があったということである。
前記認定事実によれば,本件マウス実験は,B教授から実験に誘われたA氏が,本件マウスによる実験を行った経験があったため,本件マウスを用いることとし,子宮頸がんワクチンと他のワクチン等を本件マウスに接種して,血清を採取して,これを希釈した上で,正常なマウスの脳組織切片に振りかける免疫組織化学染色法を行うことを発
案,実行したものであり,原告は他のワクチンとも比較対照してみてはどうかという提案をしたことがあるのみで,実験を主導していたわけでも,関与していたわけではなく,そのことは,原告自身が,被告丙に宛てた平成28年3月23日の電子メールにおいて記載していることが認められる。また,原告がC教授に宛てた同年4月8日の電子メールに,

マウスの実験については自己抗体が検出され,これが脳に付着していることを提示したのみで,神経変性には言及しておりません。

と記載していること,C教授はその電子メールを被告乙及び被告丙に提供していたことが認められる。
そして,本件マウス実験の方法自体は,A氏が本件面談でも説明しているとおり,自己抗体を有しているかどうかを調べる方法としては,被験者の血清を採取して,別の正常な組織と反応させて自己抗体の有
無,程度を検査するやり方として,医療機関で行われている通常の検査方法であること(別紙取材結果5,甲24,25の1・2),本件マウスは加齢と共に神経変性が起きやすいマウスであるが,それを前提として,本件マウス実験は,子宮頸がんワクチンを接種をしたマウスについて,他のワクチン等を接種したマウスよりも,より早期に自
己免疫疾患が認められるかを調べることを目的としていたこと(甲別紙取材目録16,甲24)が認められ,本件マウス実験それ自体が被告丙が本件記述⑨の直前に書いているような不自然な実験内容であったということはできない。
したがって,本件摘示事実Dの重要な部分が真実であるとは認めら
れない。
b
また,被告らは,原告の上記2通の電子メールの内容を承知していた上,A氏が本件面談において,本件マウス実験の実験方法は自己抗体を有しているかの検査方法としては通常のものであるということを,
論文も渡して説明したにもかかわらず,あくまで,子宮頸がんワクチンがBBB(血液脳関門)を越えて脳に何らかの影響を及ぼしているのかが争点であるという自説を堅持し,BBBを越えないことを十分に承知していた実験者が,自己抗体を生じさせた別の異常マウスからわざわざ血清を摂取し,正常なマウスの脳切片にふりかけたという実験方法を不自然な実験内容と決めつけ,本件摘示事実Dの結
論を導いていることからすると,本件摘示事実Dを真実と信じたこと
について,相当な理由があったとは認められない。
以上によれば,本件摘示事実AないしD並びに本件論評a及びbの前提としている事実の重要な部分は,いずれも真実と認めることができず,かつ,被告らにおいて真実であると信ずるについて相当な理由があったということもできない。

したがって,本件記述①ないし⑩について,その違法性又は責任を阻却する事由を認めることはできないから,不法行為が成立しない旨の被告らの主張は,理由がない。
4
争点⑴ウ(原告に生じた損害額)について
前記2のとおり,原告は本件各記事によりその名誉を毀損されたと認められるところ,本件雑誌記事が掲載された本件雑誌は発行部数が約12万5000部を数え,東海道新幹線の車内等において販売し,グリーン車においては本件雑誌を無料配布したうえ,被告乙は,本件雑誌記事が掲載された本件雑誌を原告の所属する信州大学の学長に宛てて送付したり,本件研究の監督官庁である
厚生労働省に持ち込んで配布したりした。
さらに,本件ウェブ記事については,本件調査において,ねつ造等の不正行為がなかったとの結論が示された後も,現在まで,被告会社の運営するウェブサイト上に掲載を続けており,2年以上にわたり名誉毀損行為を継続しているものと認めることができる。被告丙は,本訴の提起の後も,自らの管理するウ
ェブサイト等において,繰り返し原告による本訴提起の不当性を訴えるため,本件各記事の正当性を主張する表現活動を続けている(甲33,34)ほか,本件各記事の正当性を前提とした署名活動により,相当数の署名も得ている(丙75)ことが認められる。
これらの事情を考慮すれば,本件各記事の内容は,そもそも本件各記事発行当時に相当広範囲に伝播していたと認められる上,現在においても,相当広範囲への伝播が引き続き行われていると認められる。

そして,本件雑誌記事の掲載の状況を見ると,WEDGE_REPORTの先頭に,SPECIALREPORTと銘打って掲載された記事
であることや,本件各記事は,平成25年に子宮頸がんワクチンの定期接種指定以来,副反応報告が相次ぎ,厚生労働省が積極的接種勧奨を差し控えるなど,社会的に耳目を集めていた分野についての記事であること,平成26年にST
AP細胞における研究不正によって,研究代表者の学位が取り消されるなどした記憶も新しい時期に,薬害研究班による捏造という,重大な意味をもつ表題を付して掲載されたこと,その上,記事の内容についても,医師の肩書を付した被告丙が,十分な裏付け取材もせずに,繰り返し原告の行為を捏造と記載したこと,当時,本件各記事が信州大学の副学長,医学部長及び医
学部教授の任にあった原告に与えた影響は甚大であって,結果的に上記役職すべてを辞任せざるを得なくなったこと,その他本件に現れた一切の事情を総合考慮すると,本件各記述によって原告に生じた損害額は,300万円と認めるのが相当である。
また,本件における認容額,事案の内容その他一切の事情に鑑みると,被告
らの不法行為と相当因果関係のある弁護士費用は,30万円と認めるのが相当である。
5
争点⑴エ(原告の名誉を回復するのに適当な処分として,謝罪広告の掲載等が必要か。)について

民法723条が,名誉を毀損された被害者の救済処分として,損害賠償のほかに,それに代えまたはそれとともに原状回復処分を命じ得ることを規定している趣旨は,金銭による損害賠償のみでは填補できない,毀損された人格的価値に対する社会的,客観的評価自体を回復することを可能ならしめる点にある(最高裁判所昭和45年12月18日第二小法廷判決・民集24巻13号2151頁参照)。


本件各記事の削除の要否
前記4のとおり,本件ウェブ記事が掲載され続けることにより,原告の名誉は継続して侵害され続けているものと認められるから,原告の名誉を回復するために適当な処分としては,本件ウェブ記事中の原告の名誉を毀損する部分の削除を命ずることが最も適当であると認められる。



謝罪広告の要否
本件雑誌記事に対する謝罪広告の掲載について検討すると,本件記述①ないし⑤による名誉毀損が,本件雑誌において行われたことに鑑みると,名誉が毀損された媒体と同一の媒体において謝罪広告を命ずることは,そのこと自体によって相当の名誉回復が図り得ることになるものと認められるほか,
本件雑誌の販売・配布の特殊性から,本件雑誌への謝罪広告を命ずることは,原告の名誉の回復のために直接かつ有効な手段であるであると認められる。そして,原告に生じた名誉毀損の被害が深刻であって,その回復の必要性が高いことは前述のとおりであるから,別紙2記載の条件により,謝罪広告を掲載させることは,原告の名誉を回復するための措置として相当であると認
められる。
さらに,本件ウェブマガジンについては,本件雑誌と異なり,自ら積極的に本件ウェブ記事にアクセスするなどしてこれを閲読した者が相当数に上るものと考えられるから,本件ウェブマガジンに謝罪広告を掲載することは,名誉回復手段としての有効性を認めることができるところ,原告に生じた名
誉毀損の被害が深刻であって,その回復の必要性が高いというべきことは前述のとおりであるから,原告の名誉を回復するための適当な処分として,別紙2記載の条件により,謝罪広告を掲載させることが,原告の名誉を回復するための措置として相当であると認められる。
6
争点⑵ア(被告丙の反訴請求について,確認の利益が存するか。)について前記認定事実によれば,原告は,被告丙が損害賠償債務のないことの確認を求める別紙記事目録記載の記事のうち,本件記述④及び⑧を除く各記事につい
て,名誉毀損に基づく,損害賠償請求権の存在を主張しないというのであるから,上記損害賠償請求権の存否について原告と被告丙との間に争いがない。したがって,上記各記事について被告丙の損害賠償債務がないことの確認を求める訴えは,確認の利益を欠くものとして不適法であり,却下を免れない。また,原告は,本件記述④と⑧については,原告の被告丙に対する本訴(損
害賠償請求)の対象となっているから,この点についても,確認の利益がなく不適法であり,やはり却下を免れない。
7
争点⑶ア(原告が,本訴請求について,不法行為の成立要件を満たすものではないことを知り又は容易に知り得たにもかかわらず,敢えてこれを提起したと認められるか。)について

前記のとおり,原告による本訴請求は,名誉毀損の不法行為の成立要件を満たすものであって,裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠くものとはいえないから,その余の点について判断するまでもなく,被告丙による第2反訴は理由がない。
第4

結論
以上によれば,原告の被告らに対する本訴請求には主文の限度で理由があるから当該限度において認容するとともに,その余の部分を棄却することとし,被告丙の第1反訴については不適法であるからこれを却下し,第2反訴については理由がないからこれを棄却することとし,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第26部
裁判長裁判官

男澤
裁判長裁判官

森田
裁判長裁判官

奥山男澤聡子
裁判長
聡子淳直毅
別紙1

第1

本件雑誌における謝罪広告の内容

見出し
原告氏に対するお詫び

第2

本文
当社は,当社発行の月刊誌Wedge平成28年7月号において,研究者たちはいったい何に駆られたのか子宮頸がんワクチン薬害研究班崩れる根拠,暴かれた捏造と題して,原告氏が厚生労働省の研究班の研究活動において捏造行為を行ったとする誤った内容の記事を掲載したことで,原告氏の名誉を著しく傷つけ,多大なるご迷惑をお掛けいたしました。
ここに謹んでお詫び申し上げます。
平成

年月

被告会社
代表取締役

別紙2

第1
1
掲載条件

月刊誌Wedge
掲載場所
いずれかの頁の4分の1面

2
使用活字
見出しについては,12ポイント,ゴシック体活字
本文については,10.5ポイント,明朝体活字

3
回数
本判決確定の日から3か月以内に1回

第2
1
ウェブマガジンWEDGEInfinity

使用字体
見出しについては,12ポイント,ゴシック体(黒色)
本文について,10.5ポイント,明朝体(黒色)

2
掲載期間
本判決確定の日から1カ月以内に掲載を開始することとし,掲載開始日より6カ月間,継続して掲載する。
別紙3

1
ウェブマガジンWEDGEInfinity削除対象部分

本件ウェブ記事タイトル
子宮頸がんワクチン研究班が捏造

2
中見出し実験担当者の供述中の記事

しかし,原告教授はこの組み合わせのスライドだけを選んで公表した。

(A氏が語ったことの詳細としてまとめられた記述の第4項部分)
3
中見出しチャンピオンデータは科学か中の記事

他のワクチンでも強く光っている写真がたくさんあったのに,原告教授は,子宮頸がんワクチンでよく光っている写真と他のワクチンで光っていない写真が組み合わさったスライドだけを発表した。


4
中見出し明らかな意図中の記事
これは「子宮頸がんワクチンを打ったマウスの脳に障害が起きたと言うために造られた実験であり,“捏造の意図”があったと結論付けざるを得ない。」

5
中見出し当事者たちに反省なし中の記事

それぞれの立場と動機から,捏造に手を染める研究者たち――これが国費を投じた子宮頸がんワクチン薬害研究班の実態だ。

別紙4

第1

本件ウェブマガジンにおける謝罪広告の内容

見出し
原告氏に対するお詫び

第2

本文
当社は,当社ウェブマガジンWEDGE「子宮頸がんワクチン研究班が捏造Infinityにおいて,
厚労省,信州大は調査委設置を

利用さ

れる日本の科学報道(続篇)」と題して,原告氏が厚生労働省の研究班の研究活動において捏造行為を行ったとする誤った内容の記事を掲載したことで,原告氏の名誉を著しく傷つけ,多大なるご迷惑をお掛けいたしました。ここに謹んでお詫び申し上げます。
平成

年月

被告会社
代表取締役

別紙5

第1

謝罪広告の内容

見出し
原告氏に対するお詫び

第2

本文
当社は,当社発行の月刊誌Wedge平成28年7月号において研究者たちはいったい何に駆られたのか子宮頸がんワクチン薬害研究班崩れる根拠,暴かれた捏造と題し,また,当社ウェブマガジンWEDGEfinityにおいて,子宮頸がんワクチン研究班が捏造大は調査委設置をIn厚労省,信州利用される日本の科学報道(続篇)と題して,原告氏が
厚生労働省の研究班の研究活動において実験結果の捏造行為を行ったとする虚偽の内容の記事を掲載したことで,原告氏の名誉を著しく傷つけ,多大なるご迷惑をお掛け致しました。
ここに謹んでお詫び申し上げます。
平成
原告

年月日

被告会社
代表取締役

別紙6

第1
1
掲載条件

月刊誌Wedge
掲載場所
いずれかの頁の1面

2
使用活字
見出しについては,14ポイント,ゴシック活字
本文については,12ポイント,明朝体活字

第2

ウェブマガジンWEDGEInfinity

12ポイント以上のゴシック体。
掲載開始日より1年間継続して掲載する。
別紙7

1
ウェブマガジンWEDGEInfinity削除対象部分

本件ウェブ記事のタイトル
子宮頸がんワクチン研究班が捏造

2
中見出し実験担当者の供述中の記事

しかし,原告教授はこの組み合わせのスライドだけを選んで公表した。

(A氏が語ったことの詳細としてまとめられた記述の第4項部分)
3
中見出し明らかな意図中の記事
これは「子宮頸がんワクチンを打ったマウスの脳に障害が起きたと言うために造られた実験であり,“捏造の意図”があったと結論付けざるを得ない。」

4
中見出し当事者たちに反省なし中の記事

それぞれの立場と動機から,捏造に手を染める研究者たち――これが国費を投じた子宮頸がんワクチン薬害研究班の実態だ。

別紙取材結果
1
A氏

(本件スライドを指して)まあ,これ,沈着じゃないですよね。

<7頁>

2
被告乙

『NEWS23』,原告先生,何て言ったかというと,読み上げると『明らかに脳に障害が起きていて,ワクチンを打った後,こういう脳障害を訴えている患者の共通した客観的所見が提示できている』。

,A氏

ないですね,そんな。

<12頁>
3
被告乙

脳の海馬,記憶の中枢に異常な抗体が沈着したと。で,海馬の機能を障害していそうだ。

,A氏

いや,それもないですね。

(中略)

これからやりましょうか,って話になったんですよ。

<13頁>
4
A氏

ただ,今回はパイロット実験でやっただけなんですよ。

<18頁>
5
A氏脳の切片を取って,ちょうど海馬が出るとこ,そこに各ネズミから採ってきた血清をこう載せて,そこに自己抗体がもしあって,その自己抗体が,脳の,何らかのものを認識すれば,緑色に染まるような状態にしたって感じ。,被告丙

何でそんなことしたんですか。

,A氏自己抗体のやり方です,被告丙

要するにアジュバンドがね,Blood-BrainBarrier越えて,脳に沈着化するかどうかみたいなところが割と争点になっていて。

,A氏

それ,全然違いますよ。

(中略)C教授

自己抗体って,割と,マウスだと,BBB越えないんです。

,A氏

越えないですね。

(中略)

ただ,自己抗体ができているかどうかを確認しただけです。

(中略)

ワクチンを打ったマウスの脳の神経変性が起きたっていうようなことは,一切やってないんですよ。私たち。

<28~30頁>6
A氏元々このネズミって,脳とか神経変性が起きやすいネズミだから,例えばワクチン,子宮頸がんワクチンを打ったところだけがドラマチックに緑色になるっていうこともあるんだけども,ただ,元々なるから,他のマウスでも緑色に染まることありました。<32頁>7
A氏

ただ,数値から見ると,子宮頸がんワクチンの方が若干高いかな。

<33頁>

8
被告乙

(本件スライドを示しながら)これが,ずっと,テレビとかに使われてるんですけど。

,A氏例えばね,うん,例えば,緑色のこれとか出るんですよ。……。元々,自己抗体持ってますからね,このネズミは。だから,出るときありますよ。もちろん。……。ラボのプログレス・ミーティングのときに,何枚も写真出しますよ。何枚も写真出して,その中の1枚なんですよ。(中略)きれいかなって(中略)

だから,それを選んだんじゃないですか。原告先生が。

,被告乙

(本件スライドを示しながら)これに近いぐらい染まってるやつは他にも。

,A氏

ありますよ。

<43~45頁>
9
A氏

だから,これ,班会議だから,私は出した,渡しただけであって。

(中略)C教授

文科省から厚労科研費の,あのう,中間発表の,あの,報告会みたいなのは,基本,クローズで。

,A氏「クローズ。」<46~47頁>A氏

私,『学会発表はだめだ』って言ってますから。

,被告丙

いいました?先生に。

A氏

言ってます。

,C教授

これ,学会発表やる段階じゃない。

,A氏

段階じゃない,こんなものは。

(中略)被告丙

これ,かなり騒ぎになってるんですけど。

,A氏

そうだよ。困っちゃうんですよ,こんなことやられたんじゃ。全然,事実と違いますからね。

<56頁>C教授

だから,N1ずつっていうことですね。この棒グラフは。

,A氏

この場合はN1ですね。

,被告乙

これ,まさにチャンピオンっていう。

,A氏

うん,そうそう。

<58~59頁>A氏

厚労省科研の報告書,申請書見てもらえればわかると思う。私の名前はどこにもないですよ。

,被告乙

そうですよね。

,A氏

はい。ないですよ。

,被告丙

ああ。そう,確かに,確かに。ないですよね。

,被告乙じゃ,ほんと,お手伝いさせられた,A氏

お手伝いさんです,私は。

,C教授だから原告先生が『これやって』って言ったから,A氏

『やって』って言われたから,やった。

<61頁>被告丙

サーバリックスの差ってやっぱりすごく濃く見えますけど,こういうふうにきれいに他のものでも染まることってあったんですか。

,A氏

ありましたよ。

(中略)被告丙

だけど,この,一番サーバリックスがきれいに染まっているデータを原告先生にお渡しした理由は何かあるんですか。

,A氏

いや,だから,それだけじゃないですもん。

,被告丙もっと,これが何枚もある,A氏

もう,もう何枚もある。

,被告丙あ,で,原告先生が,これ取ったの?,C教授

で,それ,これ,ピックアップ。

,A氏

ピックアップしただけなんですよ。

,C教授

やばい人なんだ。

,被告丙

うわ,やばい。これは,やばい。

,C教授

やばい人ですよ。それ。

,A氏

だって,私,渡したのは毎回毎回プログレス・ミーティングでやるのは,大体1回あたり30枚やりますからね。

,被告乙30枚あるんですか?,被告丙

もうこれ記事バリュー超上がります。

,C教授

超上がります。

,被告乙

30枚あるんですか。

,A氏

1回当たり,1カ月当たりのプログレス・ミーティング,30枚あるので,その内の2,3枚がこういうデータなので,枚数からすると,5,6枚はありますよ。

,被告乙これが?,A氏

うん,こういうの。あと,これは海馬だけれども,網膜もありますからね。

<75~77頁>被告丙

先生,これぜひ,こういうふうに,濃くきれいに他のワクチンが染まってる画像とかも欲しいです。

,被告乙

見せたんだったら。

,被告丙

見せたのであれば。

,A氏

ありますよ。うん,上がってますからね。数値的には。

,被告丙

もらえます?それ。

,A氏

うん?今すぐ出ないよ。

,被告丙

今すぐじゃなくて,お帰りになってからでいいんで。

,A氏

松本行かないと,出ないです。うん。

,被告乙

松本,いつ行かれますか。

,A氏「今日の夜。」<79~80頁>
被告乙原告先生が『一番いいやつ持って来てくれ』とか,3月の発表があるから『早く出して』『早く出してくれ』とか,そういうオーダーはありました?,A氏「ない。」,被告丙何かこのサーバリックスに関して『やっぱりって思うようなデータない?』みたいな感じのことは言われなかった?,A氏「ない。」(中略)被告乙

単につまんだって。

,A氏

つまんだってこと。

<81~82頁>被告丙

先生自体は,これ,パイロットでやってますけど,かなり,サーバリックスだけにおかしいことが起きてそうだみたいな,例えばマウスの様子とかね,そういうのも含めて。

,被告乙印象はある?,被告丙

何か印象としてはどうですか。

,A氏

多少なりともあるかな。

,被告丙「多少なり。」,A氏

でも,それは,サイエンティフィックエビデンス提示しろ,っていわれたら,今現時点ではちょっとないですね。

,被告乙

でも,ちょっと感触があるから,これからも続けようとされてるわけですね。

,A氏

うん。そういうことですよ。そう,そう,そう。

,被告丙

どんなところですか,例えば。なんか,その,そういうふうに思わせるもの。

,A氏

ああ,それは,例えば自己抗体にしても,一応少しは高いですからね。サーバリックスにすると。

<86頁>A氏

内輪の,クローズド・ミーティングのときは(パイロット実験で得られた結果について,発表することも)『いいですよ』って私,言ってんだけど。

,被告丙

それも言ったんですか。先生。

,A氏

言ってますよ。B先生に言ってます。言ってる。

,被告丙B先生にはクローズドの会なら出していいというふうにおっしゃった?,A氏

ファイナルというか,クローズド・ミーティングで表に出ないもんだったらば,プレゼンは,いいんじゃないですかと。その中に。

,C教授

先ほど,他のワクチンを打ったマウスも緑色になってるやつも渡しつつ。

,A氏

そうそう。渡して。うん。

<98頁>C教授

ワクチン打ったマウスで,脳にIgGが,あのう,確認っていう。

,A氏

沈着したっていうのは見てないし,そんなデータ持ってません。

,被告乙

なるほど。脳に病気は,もちろん,元々そういうマウスだからあるけど。

,A氏

元々,はい。

,被告乙

IgGは出てないと。その脳のマウスそのものの。

,A氏

出てないんじゃなくて,出てるっというエビデンスは,も,取れてない。

,被告乙

出てるっていうデータがない。

,C教授ちょっとやった限りでは,被告乙

分かんない。

,A氏

エビデンスは取れてない。

,C教授

ちょっとやった限りでは,あの,出てなかった。

,A氏

ちゃんとやれば出るかもしれないけれども。

,被告乙

取れるかもしれない。なるほど。なるほど。

,A氏

私は今のところ,そのエビデンスは持ってない。

<115~116頁>
被告丙ワクチンを打ったマウスの,12カ月時点のもので,IgGの沈着が確認されたものはなかったと言っていいですよね,A氏

なかったんじゃなくて。

,被告乙

あるエビデンスがない。

,A氏

あるっていうエビデンスは取れてない。

,被告丙

あるというエビデンスはない。

,被告乙

あるというエビデンスが取れてない。

,A氏「うん。」,被告乙

なかったとは言えない。

,A氏

なかったなんて言わない。言ってないですよ,私。

,被告乙

わかりました。

,A氏

あるっていう証明できるエビデンスが取れていない。

,C教授

ちょっと実験やった限りでは。

,A氏

うん,ちょっとやった限りではね。

<117~118頁>被告乙(本件面談について)原告さんの指示は,確認とか,指示はされ,受けて,特に原告先生に相談されたりということはしてない?,A氏

してないです。

<131頁>A氏パイロット実験の内容に対して,話をしても,正確な話はできないんじゃないかと。だから,もし可能性があるならば,本当にちゃんとした実験系を組んだときに,確かなデータが出た時に話をするっているのが,一つのルールなんじゃないかなっていうのは,それはB先生のコメントです。<136頁>
トップに戻る

saiban.in