判例検索β > 平成29年(ワ)第2704号
損害賠償請求事件
事件番号平成29(ワ)2704
事件名損害賠償請求事件
裁判年月日平成31年4月23日
法廷名福岡地方裁判所
結果その他
裁判日:西暦2019-04-23
情報公開日2019-05-17 20:00:11
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主1文
被告らは,原告に対し,連帯して1623万5965円及びこれに対する平成24年4月19日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2
原告のその余の請求をいずれも棄却する。

3
訴訟費用は,これを20分し,その9を原告の負担とし,その余を被告らの負担とする。

4
この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。
事実及び理由

第1

請求
被告らは,
原告に対し,
連帯して2968万3158円及びこれに対する平

成24年4月19日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。第2

事案の概要
本件は,指定暴力団五代目工藤會(以下工藤會という。
)の捜査・取締り
を指揮していた元警察官であった原告が,退職から1年余り経過した後の平成
24年4月19日,工藤會構成員であったF(以下Fという。
)から拳銃で
銃撃されるという襲撃行為(以下本件襲撃という。
)を受けて負傷したとこ
ろ,本件襲撃は,工藤會の幹部であった被告らが共謀し,Fに指示して行わせたものであって,
①共同不法行為に当たると主張して,
民法719条に基づき,
②被告A,同B及び同Cについて,同人らは工藤會の幹部として構成員である
Fの使用者ないし代理監督者であるところ,本件襲撃が工藤會の弱体化を目的とした警察の捜査・取締りに対する報復・牽制であって資金獲得活動に向けた工藤會の威力を維持するための事業として行われたものであると主張して,使用者責任(民法715条)に基づき,又は③被告A及び同Bについて,工藤會を代表し又はその運営を支配する地位にあるところ,構成員であるFが資金獲
得活動に向けた工藤會の威力を維持するための行為を行うについて他人である原告の生命及び身体を侵害したと主張して,暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律(以下暴対法という。
)31条の2に基づき,被告らに対し,
連帯して,損害賠償金2968万3158円及びこれに対する不法行為の日である平成24年4月19日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。
1
前提事実(当事者間に争いがないか,掲記の証拠(枝番があるものは特に断らない限り枝番全てを含む。
)及び弁論の全趣旨により容易に認定できる事実)


当事者
原告は,昭和45年4月,福岡県警察(以下福岡県警という。
)の警

察官となり,
昭和53年4月以降,
一貫して工藤會を中心とした暴力団犯罪
捜査に従事し,
平成23年3月31日退職した者であり,
本件襲撃当時61
歳であった(甲4,33,60)

工藤會は,
北九州市を中心として勢力を有する暴力団であり,
平成4年6
月26日以降,
暴対法3条所定の指定暴力団に指定され,
平成24年12月
27日,同法30条の8所定の特定危険指定暴力団に指定されているとこ
ろ,本件襲撃当時,被告Aが総裁を,被告Bが会長を,被告Cが理事長をそれぞれ務めていた。五代目田中組(以下田中組という。
)は,工藤會傘
下の暴力団であり,
被告A及び被告Bの出身母体であるところ,
本件襲撃当
時,被告Cが組長を,被告Dが若頭をそれぞれ務めていた(甲5,6,13,18,19,62)




本件襲撃
被告Dは,本件襲撃の前日ないし数日前,田中組構成員であったFに対
し,原告を拳銃で襲撃するよう指示し,田中組若頭補佐であったE(以下Eという。
)とともに原告方及びその周辺を下見させ,拳銃及び携帯電
話を渡した。
Fは,
平成24年4月19日,
原動機付自転車に乗って原告方付近で待機
し,
携帯電話で原告が自宅を出た旨連絡を受けると,
原動機付自転車で原告
方付近路上を通行する原告の左横約1.
2メートルまで近づいて停車し,

動機付自転車に跨ったまま両手で拳銃を構えて原告の左太腿付近を目がけて2発発射して,直後に逃走した(本件襲撃)

Fの発射した弾丸はいずれも原告の左大腿部に命中し,1発は皮膚直下の大腿骨大転子部に跳ね返るなどして体外に射出され,もう1発は左大腿
骨付近の体内に残存しており,
原告は左股関節内異物残留,
左大腿部銃創の
傷害を負った。
(甲4,34~36,39~42,45~48,52,60)
2
争点及び争点に関する当事者の主張



被告らの本件襲撃に対する責任の有無
【原告の主張】

被告らの共同不法行為責任(民法719条)
被告Aは,
原告が警察官在職中に工藤會を破門された元構成員に接触し,
工藤會に関する情報を引き出すために被告Aを批判する発言をしたことを知って激怒し,原告及び福岡県警への報復・牽制のために本件襲撃を計画
した。同計画は,被告B,同C及び同Dへと順次指示が伝わって共謀し,被告Dが同共謀に基づいてEらとともに本件襲撃の具体的計画を立案して準備し,被告DからFに対して本件襲撃の実行が指示されるに至った。本件襲撃は,被告AからFに至る一連の指示や被告Dらによる準備行為によって実行されたものであり,各被告の不法行為が関連共同して引き起
こされたものであるから,被告らは共同不法行為責任を負う。

被告A,同B及び同Cの使用者責任(民法715条)
被告A,同B及び同Cは工藤會の幹部として,序列的擬制的血縁関係に基づき,Fら構成員を服従させ,直接ないし間接に指揮監督する者である
ところ,
暴力団の事業として威力を維持し,
資金獲得活動につなげるため,
警察への報復牽制を目的とした本件襲撃をFに行わせたものであるから,・
暴力団の事業の執行としてその指揮監督下にあるFに本件襲撃を行わせたものとして,Fの不法行為について使用者責任を負う。

被告A及び同Bの暴対法31条の2に基づく責任
被告Aは,工藤會の代表者として意思決定を行う総裁の地位にあり,被告Bは,総裁に次ぐ会長の地位にあって工藤會の運営を支配していたもの
であるから,いずれも暴対法3条3項の代表者等に該当するところ,本件襲撃は工藤會の威力を維持し資金獲得を容易ならしめるために行われたものであるから,暴対法31条の2に基づき,原告の生命及び身体の侵害による損害を賠償すべき責任を負う。
【被告Dの主張】

被告DがFに対して本件襲撃を指示したことは認めるが,その余は否認ないし争う。被告Dは,被告A,同B及び同Cから本件襲撃を指示されたことはなく,また,原告に対して殺意を有していなかったから,Fに原告の殺害を指示したことはない。
【被告A,同B及び同Cの主張】

被告DがFに本件襲撃を指示したこと,及びFが同指示に基づき本件襲撃を行ったことは不知であり,その余は否認ないし争う。被告A,同B及び同Cが,本件襲撃を計画したり,指示されたり,被告DやFに指示したことはない。


損害額
【原告の主張】

治療費

169万9062円

原告は,本件襲撃によって左股関節内異物残留,左大腿部銃創の傷害を負い,平成24年4月19日から同年5月7日までの入院治療及び同日から平成27年1月8日(症状固定日)までの通院治療を余儀なくされ,治療費169万9062円の損害を負った。

入院雑費

2万8500円

原告は,本件襲撃によって平成24年4月19日から同年5月7日までの19日間入院しており,入院中に要した諸雑費は1日当たり1500円(合計2万8500円)を下らない。

休業損害

59万0240円

原告は,本件襲撃当時,Gに再就職し,年収は633万6728円(1日当たり1万7360円)であったが,本件襲撃により34日間の欠勤を余儀なくされたから,59万0240円(1万7360円×34日間)の休業損害が発生した。

逸失利益

685万0243円

原告の年収は,上記のとおり633万6728円である。
原告は,本件襲撃により左股関節の可動域制限及び左股関節から大腿部の疼痛の後遺障害を負い,前者は地方公務員災害補償法施行規則別表第3所定の後遺障害等級(以下,単に後遺障害等級という。
)の12級7号
(1下肢の3大関節中の1関節の機能に障害を残すもの)に,後者は後遺
障害等級14級9号(局部に神経症状を残すもの)にそれぞれ相当し,重い障害に応ずる障害等級に従って12級7号とされているから,労働能力喪失率は14パーセントが相当である。
原告は,症状固定時である平成27年1月8日,63歳であり,労働能力喪失期間は平均余命の半分である10年間(ライプニッツ係数・7.7
217)である。
したがって,原告の逸失利益は,685万0243円(633万6728円×0.14×7.7217)である。

慰謝料

2000万0000円

本件襲撃は原告の正当な職務行為への報復を目的とした暴力団による組織的な犯行であり,原告の生命を危険にさらす悪質かつ残忍な犯行であって,原告は強い恐怖心を感じ続けている。また,原告は本件襲撃によって前記エ記載の後遺障害を負い,現在も左股関節の可動域制限や疼痛に苦しめられている。こうした原告の精神的苦痛を慰謝するに足りる慰謝料は2000万円を下らない。

損益相殺

443万2080円

原告は,地方公務員災害補償基金から,療養補償給付169万9062円,休業補償給付29万0344円及び障害補償給付244万2674円の合計443万2080円の支給を受けており,同支給金額の限度において損害が填補されている。

弁護士費用

494万7193円

被告らが本件襲撃について任意の賠償金支払をしないため,原告は弁護士に依頼せざるを得ず,被告らが特定危険指定暴力団の構成員であって複数の弁護士を必要としたことなどの事情に照らせば,弁護士費用は,前記アないしオの合計から前記カを控除した2473万5965円の2割に当たる494万7193円が相当である。


合計

2968万3158円

【被告らの主張】
いずれも否認ないし争う。
第3
当裁判所の判断

1
争点⑴(被告らの本件襲撃に対する責任の有無)について⑴

認定事実
前提事実に加え,後掲の証拠(枝番があるものは枝番全てを含む。)及び弁
論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。

工藤會の指揮命令系統及び被告らの地位
工藤會は,総裁の被告Aを頂点とし,会長の被告Bのもとに,田中組ら下部組織の直系組長及び同下部組織に属する構成員から構成されるピラミッド型階層組織となっており,その重要な意思決定については理事長の被告Cら執行部がその決定案を被告Bに上申し,被告Bが被告Aに仰いで指示を受け,同指示をもとに被告Bが最終決定して執行部に伝え,毎月10日に開催される定例会等を通じて下部組織に周知されていた。工藤會における序列は絶対的なものであり,上位の幹部の指示に対して下位の幹部
や構成員らが拒否することは許されなかった。
工藤會には,工藤會の幹部らが決定した計画を下部組織の構成員に指示して実行させることがあり,これは殺人などの犯罪行為を含むものであったが,被告Aや被告Bに捜査が及ばないようにするため,被告A及び被告Bらが実行役の構成員に直接指示することはなく,被告A,同B,同Cへ
と順次指示がなされ,被告Cがさらに下部組織の構成員らに指示するなどして,実行されていた。
(甲6,7,12,13,15,16)

原告と被告らとの関係
原告は昭和53年以降一貫して工藤會を中心とする暴力団犯罪捜査に従
事する中で,被告A,同B及び同Cと面識を有するようになり,工藤會構成員が起こした事件における関係場所の捜索差押えの際などに,被告Aと言葉を交わし,被告Aは原告をHとの愛称(原告が同僚の警察官から呼ばれていたもの)
で呼ぶなどして謙虚な態度で接していた
(甲4,
60)

なお,福岡県警は,工藤會が指定暴力団に指定されたことを受けて取締
りを強化しており,工藤會は,配下の構成員に対して警察への非協力を周知徹底させ,取調べでの自白の禁止や組事務所への立入りの回避などを掲げている(甲62)


本件襲撃に至る経緯
I(以下Iという。
)は,平成20年4月に工藤會を破門されていた
ところ,原告は,Iが工藤會や被告Aらに恨みを有しており,工藤會の関与が疑われる事件について情報が得られるのではないかと考え,平成21年4月,Iに連絡を取って面談した。その面談において,原告は,

工藤會のシノギ(構成員からの上納金)は,AとBが独り占めしよってから,他の組長連中は泣きよるぞ。,

Aは弘道会に狙われとるんやぞ。

などと被告Aを批判する発言をし,Iを同調させて情報を引き出そうとしたが,I
は同調せず,密かに原告の発言を録音した記録媒体を工藤会幹部に送り,同発言は被告B及び同Aの知るところとなった。
(甲4,
29~31,
60)
被告Aは,原告の発言を知って激怒し,上記面談の約2週間後に原告と接触した際,腹を立てている様子で,

H,あんた,Iに会ったりしとうやないな。,

H,あんた,わしより年下なのに,年上のような物言いをしよるんですね。,

あんた,最後になって悪いもん残したな。

などと発言し,従前の謙虚な態度から一変しており,さらに原告の警察官退職後の平成23年4月ないし5月頃,原告の勤務先において偶然出会った際,強い口調で

あんた,俺よか年下のくせに,年上のような物言いするな。,

田中組の情報は,全部あんたが流しとったんやろ。,

こっちは信用しとったのに,そんなことしたら,つまらんばい。

などと発言し,原告の警察官在職中と異なり脅すような態度を取った。
(甲4,32,60)
被告Dは,本件襲撃の前日ないし数日前,Fに対し,原告を拳銃で襲撃するよう指示し,
Eとともに原告方及びその周辺を下見させ,
拳銃及び携
帯電話を渡した。そして,Fは,平成24年4月19日,原動機付自転車
に乗って原告方付近で待機し,携帯電話で原告が自宅を出た旨連絡を受けると,
原告方付近路上を通行する原告に対して本件襲撃を敢行し,
逃走
した(前提事実⑵)


被告Dの指示の内容について
被告Dは原告に対して殺意を有していなかったことから,Fに対して原告を殺害するような指示はしていない旨主張するところ,
被告Dの供述調書
(甲
34)にはFに対して足に向けて2発撃ってくれ絶対に殺したらつま,らんぞと指示し,怪我が少ないように小さな口径の拳銃を用意したとの記載があり,Fは現に原告の左大腿部を狙って撃ち,原告は緊急手術の結果死亡していないなど,上記主張に沿う証拠がある。
しかし,原告の救急搬送先の病院で治療に当たった救急救命を担当する医師の供述調書(甲45)によれば,Fの撃った銃弾のうち1発が左大腿骨で停止することなく股間に貫通していた場合,腹部から内腿に続く大動脈を損傷し,出血性ショックによって死亡するおそれがあったと認められ,また,本件襲撃に使用された拳銃の発射実験の結果(甲44)によれば,同拳銃は
銃砲刀剣類所持等取締法において殺傷能力が法的に認められる20J/cm2を大きく超える279J/cm2の威力を有していたから,Fが原動機付自転車に跨った不安定な体勢で殺傷力の高い拳銃を足に向けて発射した場合,左大腿骨からずれて股間に貫通し,出血性ショックによって死亡する危険性が十分にあったといえ,本件襲撃は原告の死亡する危険が高い行為であったと認め
られる。
そして,そもそも拳銃を人に向けて発射することは被害者の体勢が多少ずれれば死亡させる危険の高い行為であることは被告Dにおいても認識していたと考えられるのであり,大腿部を銃撃させたとしても,上記のとおり大腿部には大動脈が通っており,これを損傷すれば死亡する危険が高いことも一
般人においても認識し得るから,本件襲撃を実行したFやこれを指示した被告Dにおいてもこれらの事情は当然に認識していたというべきである。他方,
被告Dは殺したらつまらんなどと抽象的な指示をするのみで,原告が死亡する危険が考えられない襲撃方法を具体的に指示したことは認められない。

したがって,被告Dは本件襲撃を原告の死亡する危険の高い行為であることを認識して指示したものであるから,原告に対する殺意があるものというべきであり,Fに対して原告を殺害する目的で本件襲撃を指示したと認めるのが相当である。


被告A,同B及び同Cの指示の有無について
被告Dは,
原告を襲撃した理由について具体的に供述しておらず
(甲34)


証拠上,被告Dが個人的に原告を襲撃する動機は認め難いのであって,むしろ,他者からの指示等に基づいて本件襲撃を敢行したものとみるのが合理的である。
しかるに,証拠(甲4,30,33,50)によれば,原告は,平成23年3月頃,被告Cと思しき人物が乗った同人使用車両が原告方の周辺を徘徊
しているのを目撃していること,Fは,本件襲撃の数日後,被告Dから現金50万円を受け取っており,その現金を提供したのは被告Cであることの各事実が認められ,これらの事実からすれば,被告Cが原告に危害を加えることを意図して原告方を下見し,その意図に従ってFが実行した本件襲撃に対して報酬を与えたものと認めるのが相当であり,ひいては,被告Cから被告
Dに対して原告に危害を加えるよう指示がなされたものと認めるべきである。
さらに,前記⑴ア及びイの認定のとおり,工藤會は配下の構成員に対して警察への非協力を周知徹底し,組事務所への立入りなど警察の工藤會に対する捜査を極力回避することを方針としており,同方針は執行部のみならず上
位の意思決定者である被告A及び同Bによって決定されたものと推認されるところ,本件襲撃は福岡県警において工藤會の関与を疑わせ組事務所への捜索や被告Aらへ捜査の手が及ぶことが当然に想定されるものである。そのため,被告Cが被告Bや被告Aに図ることなく本件襲撃を実行することは,被告Bや同Aの指示に反するものといえ工藤會内で許されない行為であるか
ら,被告Cが同Bや同Aから叱責や懲罰を受けるべき行為であるが,同Cがこれらを受けた形跡はない。また,前記⑴ウの認定のとおり,被告Aは,平成21年4月のIに対する発言によって原告に強い憤りを感じており,原告の退職後の平成23年4月ないし5月頃時点でも恨みに思い続けていたものと認められるから,原告に危害を加える動機があるということができる。これらの事情を総合すれば,被告Cが被告Dに対して指示をしたのは,被告Aが原告に危害を加えることを決定し,同決定を被告Bに指示し,さらに
同人が同Cに指示したことによるものと認めるのが相当であり,これらの指示に基づいて,本件襲撃が行われたものというべきである。
なお,被告A,同B,同C及び同Dへと順次指示された指示の具体的な文言等は明らかでないが,工藤會における絶対的な指揮命令の存在に照らすならば,その指示が単に原告を脅迫したり傷害に至るおそれの少ない軽い暴行
等を意図したものではなく,少なくとも原告の生命に危険を及ぼす行為まで容認する内容であったものと認めるのが相当である(軽い暴行を指示したのに,本件襲撃のような殺人未遂行為に及んだとすれば,被告DやFが叱責や懲罰の対象となるはずであるが,同人らがこれらを受けた形跡はうかがわれない。。




被告らの責任
以上からすれば,本件襲撃は,被告A,同B,同C及び同Dへと順次された指示に基づいて行われたものであるというべきであり,被告Dにおいて本件襲撃の具体的な計画をし,必要な道具を準備し,Fに指示して現に本件襲撃を実行したものであって,被告ら,E及びFの各行為はいずれも民法70
9条の不法行為に該当し,本件襲撃はこれら行為が関連共同して行われていることから,
民法719条の共同不法行為に該当するものというべきである。
したがって,被告らは,本件襲撃による原告の損害について,連帯して賠償すべき責任を負う。
2
争点⑵(損害額)について


治療費

169万9062円
原告は,本件襲撃によって左股関節内異物残留,左大腿部銃創の傷害を負い(甲52)
,平成24年4月19日から平成27年1月8日(症状固定日)
までの治療を受けており(甲53,54)
,その治療に要した費用は169万
9062円であると認められる(甲55)



入院雑費

2万8500円

原告は,本件襲撃によって平成24年4月19日から同年5月7日までの19日間入院したことが認められるところ
(甲53)その入院期間中に要し

た諸雑費は1日当たり1500円が相当である。したがって,同期間中の入院雑費は,合計2万8500円と認められる。


休業損害

59万0240円

証拠(甲56)及び弁論の全趣旨によれば,原告の再就職先のGにおける平成23年分の給与収入は633万6728円であること,原告は本件襲撃により34日間の欠勤を余儀なくされたことが認められる。
したがって,原告には,59万0240円の休業損害が生じたと認められる。

(計算式)
633万6728円÷365日=1万7360円(1円未満切捨て)1万7360円×34日間=59万0240円

逸失利益

685万0243円

原告の平成23年分の給与収入は,上記のとおり633万6728円である(甲56)

原告は本件襲撃により左股関節の可動域制限及び左股関節から大腿部の疼痛の後遺障害を負ったところ,同障害は地方公務員災害補償基金により地方公務員災害補償法施行規則別表第3の12級7号と認定されたことが認めら
れる(甲58)
。したがって,原告の労働能力喪失率を14パーセントと認め
るのが相当である。
原告は,症状固定時である平成27年1月8日(甲54)当時63歳であり,
労働能力喪失期間は平均余命の半分程度の10年間
(ライプニッツ係数・
7.7217)が相当である。
したがって,原告の逸失利益は,685万0243円(633万6728円×0.14×7.7217。1円未満切捨て。
)である。



慰謝料

1000万0000円

本件襲撃は,暴力団による組織的背景を有する殺人未遂行為であり,拳銃による銃撃という原告の生命を危険にさらし,入・通院治療を余儀なくさせたものであり,その目的も,警察官としての正当な職務行為に対する報復行為であって,これにより原告が受けた精神的苦痛は極めて大きい。また,原
告は本件襲撃により後遺障害を負うだけでなく,外出に支障が生じるなど,極めて強い不安を感じ続けている(甲60)
。これらのほか,本件に顕れた一
切の事情を総合すると,原告が本件襲撃により受けた精神的苦痛を慰謝するに足りる慰謝料は1000万円が相当である。


小計
1916万8045円



損益相殺

443万2080円

原告は,
地方公務員災害補償基金から,
療養補償給付169万9062円,
休業補償給付29万0344円及び障害補償給付244万2674円の合計443万2080円の支給を受けていることが認められるから(甲55,57,59)
,同支給金額を前記⑴ないし⑸の損害から控除する(控除後の損害
額は,1473万5965円である。。



弁護士費用

150万0000円

本件事案の内容,本件訴訟に至る経緯,原告の立証活動及びこれに対する被告らの対応等に照らせば,弁護士費用は150万円が相当である。⑼

3
合計

1623万5965円

小括
以上の次第であるから,被告らは,原告に対し,共同不法行為責任に基づき,連帯して損害賠償金1623万5965円及びこれに対する不法行為の日である平成24年4月19日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金を支払う義務がある。
なお,以上の認定説示からすれば,原告の使用者責任に基づく請求及び暴対
法31条の2に基づく請求の認容額は,これと選択的併合の関係にある共同不法行為に基づく請求についての認容額を超えないことが明らかである。第4

結論
以上によれば,原告の請求は,主文の限度で理由があるから,これを認容す
べきである。
よって,主文のとおり判決する。
福岡地方裁判所第5民事部

裁判長裁判官

鈴木
裁判官

酒井博直樹
裁判官横山寛は,転補のため,署名押印することができない。
裁判長裁判官

鈴木博
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