判例検索β > 平成30年(う)第1508号
住居侵入、殺人、死体遺棄
事件番号平成30(う)1508
事件名住居侵入,殺人,死体遺棄
裁判年月日平成31年4月19日
法廷名東京高等裁判所
結果破棄差戻
原審裁判所名横浜地方裁判所
原審事件番号平成29(わ)1407
裁判日:西暦2019-04-19
情報公開日2019-06-25 03:34:21
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平成31年4月19日宣告

東京高等裁判所第3刑事部判決

平成30年

住居侵入,殺人,死体遺棄被告事件

1508号
主文
原判決を破棄する
本件を横浜地方裁判所に差し戻す。
理由
検察官の本件控訴の趣意は,検察官山口英幸作成の控訴趣意書記載のとおりであり(検察官は,控訴趣意書第2の2は事実誤認,同第2の3ないし5は量刑不当の主張である旨釈明した。),これに対する答弁は,主任弁護人市川寛及び弁護人木小太郎連名作成の答弁書記載のとおりである。弁護人の本件控訴の趣意は,上記弁護人連名作成の控訴趣意書及び控訴趣意補充書記載のとおりであり,これに対する答弁は,検察官澁谷博之作成の答弁書記載のとおりである。
第1本件事案等
1本件事案及び原判決の判断の概要

本件は,被告人が,知人であるA及びB姉妹を殺害する目的で,同人らの自宅マンションに侵入し,同人らを順次殺害し,その死体を遺棄したとされる住居侵入,殺人,死体遺棄の事案である。
原判決は,事実認定上の主たる争点である本件殺人及び死体遺棄の犯人性について,間接事実からの推認により被告人が犯人であると認め,住居侵入の目的の一部
を除き,概ね公訴事実どおりの罪となるべき事実を認定した。次に,量刑事情を検討し,犯情は甚だ悪いが,犯行態様及び犯行動機について,格別,刑を重くする事情はなく,妹の殺害及び姉妹の死体遺棄の計画性は認められないなどとした上で,単独犯による被害者複数名の殺人罪の裁判員裁判において,凶器が使用されていない場合に死刑又は無期懲役刑を選択した事案は見受けられないなどとして,検察官
の死刑の求刑に対し,懲役23年の刑を量定した。
2本件各控訴の趣意

検察官の控訴趣意は,①妹の殺害及び姉妹の死体遺棄の計画性を認めなかった原判決の認定に対する事実誤認,②原判決は犯情の認定・評価を誤り,量刑調査の手法も甚だ不当であって,その量刑は軽きに失するという量刑不当の主張である。弁護人の控訴趣意は,①原判決の判断には,公判前整理手続の結果を無視する論理構成を持ち出すとともに,被告人側に挙証責任を転換した違法があるという訴訟手続の法令違反,②原判決が,被告人が本件殺人及び死体遺棄の犯人であるとして,原判示の罪となるべき事実を認定したことに対する事実誤認の主張である。3当裁判所の判断の概要
当裁判所は,弁護人の訴訟手続の法令違反及び事実誤認の主張には理由がなく,
検察官の事実誤認の主張にも理由はないが,検察官の量刑不当の主張については,当裁判所の判断(後記第6の3)に沿う限度で理由があり,原判決の量刑判断は不合理であって,是認することができないと判断した。そして,原判決は,不適切な量刑資料により量刑傾向の把握を誤り,それを前提としたために量刑事情の検討も甚だ不十分なものになったと考えられるなど,量刑判断の過程に大きな問題があり,
本件事案の重大性や,量刑事情の認定・評価及び量刑判断を裁判員の参加する合議体で行うこととした裁判員制度の趣旨に照らすと,改めて裁判員の参加する合議体によって,適切な量刑資料を基にして,量刑事情に関する評議を尽くした上で,量刑判断を行うことが相当であると判断して,本件を原裁判所に差し戻すこととした。第2原判示の罪となるべき事実

原判決は,罪となるべき事実として,要旨,被告人は,

A(当時25歳,以下

Aという。)を殺害する目的で,平成29年7月6日午前3時18分頃(以下,特に断らない限り,月日は平成29年である。),横浜市内のマンションa号室のA及びB(当時22歳,以下Bという。)方(以下a号室という。)に玄関から侵入し,①その頃から同日午前5時14分頃までの間に,同所において,Aに対し,殺意をもって,その頸部を圧迫するなどし,よって,Aを窒息死させて殺害し,②その頃から同日午前5時37分頃までの間に,同所において,Bに対し,
殺意をもって,その頸部を圧迫するなどし,よって,Bを窒息死させて殺害し,翌7日午前0時23分頃から同日午前0時54分頃までの間に,同所から,それぞれキャリーバッグに詰め込んだA及びBの死体を順次運び出して自動車(以下本件車両という。)に積載し,これらを神奈川県内の保安林まで運搬し,同日午前8時頃,同所に投棄し,もって死体を遺棄したと認定した。
なお,本件公訴事実において,a号室への侵入の目的は,A及びB(以下,被害者両名あるいは両名ともいう。)を殺害する目的とされていたが,原判決は,上記のとおり,Aのみを殺害する目的と認定した。
第3弁護人の控訴趣意中,訴訟手続の法令違反の主張について

1
論旨は,要するに,①原判決は,公判前整理手続における争点整理の結果を
無視した論理構成によって,争点に関する事実認定を行ったもので,被告人側の防御の機会を奪う不意打ちであり,刑訴法316条の24,316条の31第1項に違反する,②原判決には,被害者両名が自由な意思でキャリーバッグに入り,a号室を退出する特別な事情の有無を,新しい争点として設定した上,その立証を被告人側に求める挙証責任の転換をした違法があるなどとして,原審の訴訟手続には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令違反がある,というのである。2原審の訴訟手続の概要
原審記録によれば,論旨に関係する原審の訴訟手続の概要は,以下のとおりである。
公判前整理手続における争点整理の概要


原審裁判所は,公判前整理手続を終結した第13回期日において,当事者と
の間で争点整理結果を確認しているところ,争点の概要として,何者かが被害者両名を頸部圧迫による窒息死により死亡させたこと,被告人がa号室に入室したことには争いがないが,上記入室が殺害目的であったこと,被告人が本件公訴事実記載の日時場所で両名を殺害したことには争いがあり,死体遺棄については,被告人の犯人性について争いがあるとして,当事者の主張の骨子を整理している。

検察官の主張の骨子は,概ね,①複数(検察官の整理では7個)の間接事実
から,7月7日午前0時台にa号室からキャリーバッグ2個が運び出された時点で,被害者両名は死亡していた(すなわち,両名は同室内で殺害された上,その死体が上記キャリーバッグに詰め込まれた)という前提事実(以下検察官の前提事実ともいう。)が推認できるとした上で,②これと他の間接事実を総合すると,本件殺人の犯人が被告人であることが推認でき,③さらに,①及び②に他の間接事実を加えると,本件死体遺棄の犯人が被告人であることが推認でき,④さらに,①ないし③に他の間接事実を加えると,被告人は同室に殺害目的で侵入したことが推認できるというものである。


弁護人の主張の骨子は,概ね,被害者両名は,生きたまま自由意思でキャリ
ーバッグに入ったとして,検察官の前提事実を推認する基礎とされている間接事実の一部(キャリーバッグの形状・大きさ,両名の体格等からすると,両名が生きたまま自由意思で同バッグ内に入る方法を選択するとは考え難いこと。以下本件間接事実ともいう。)を争い,その余の6個の間接事実からは,検察官の前提事実は推認されないとした上で,本件殺人及び死体遺棄の犯人性,住居侵入の目的に関する推認は,いずれも検察官の前提事実を前提とするものであるが,これが認められないから,被告人が犯人であることなどは認定できないというものであり,争わない間接事実についても,被告人が犯人ではないという観点から説明できる事情(後記の偽装失踪)を主張するとしている。


また,原審裁判所は,争点整理結果の確認において,争点の概要に加え,
中核的争点という項目を立て,検察官の前提事実が認定できるか否かが,本件における中核的な争点であるとしている。そこでは,検察官は,上記7個の間接事実のうち,主に本件間接事実と,もう1個の間接事実(Aの死体が入っていた布団圧縮袋に付着した青色テープ片〔検察官は水色テープ片と主張しているが,証拠に照らして,青色テープ片と摘示する。〕及びa号室で発見された同種の青色テープ片に,いずれも被告人の指紋が付着しており,Bの死体に,同室に取り付
けられていたピンク色のカーテンが巻き付けられていたこと(以下テープ片・カーテンの事実ともいう。)から,検察官の前提事実が立証できる旨主張するとされている。
公判審理における当事者の主張の概要

第1回公判期日の冒頭陳述において,検察官は,本件の争点は,①本件殺人
の犯人性,②本件死体遺棄の犯人性,③住居侵入罪の成否であるとした上で,概ね,上記主張の骨子と同様の主張をし,その際,検察官の前提事実も主張した。これに対し,弁護人は,被害者両名は偽装失踪をしようとして,それぞれが自らキャリーバッグに入り,そのキャリーバッグ2個を,被告人がa号室から運び出したのであり,その後,両名は何らかの事件に巻き込まれて殺害され,死体を遺棄されたが,被告人は事件に関係していないとして,偽装失踪に関する事実関係(被告人が説明するストーリー)を主張するとともに,検察官は争点に関する立証ができていないことを説明すると主張した。その後,原審裁判所は,

争点整理結果の要旨

を告げた。

証拠調べを終了した後の第4回公判期日の論告・弁論において,検察官は,
争点について,検察官の前提事実を含め,概ね,上記冒頭陳述と同様の主張をした。これに対し,弁護人は,検察官の前提事実は立証されておらず,本件死体遺棄の現場での発見時のキャリーバッグの中身が,a号室からの搬出時のそれと同一であるという立証もされていないから,検察官が主張する推認過程によって,被告人が犯人であることを論理的に導くことはできず,また,証拠を総合しても,被告人が犯人であるとはいえないと主張するとともに,被告人が犯人であるとした場合の不自然・不合理性として,証拠上認められる事実関係の意味合いを主張し,被告人が供述したストーリーで,上記の事実関係は説明が可能であるなどと主張した。3争点に関する原判決の判断の概要

争点に関する原判決の判断の要旨は,後記第4の2のとおりであるが,原判決は,被告人が被害者両名を,その自由意思に反して(ただし,死亡させた場合に限定さ
れない。),それぞれキャリーバッグに入れてa号室から運び出した(以下原判決の前提事実という。)と認定した上で,原判決の前提事実を基礎として,本件死体遺棄の犯人性,次いで,本件殺人の犯人性について判断し,いずれも被告人が犯人であると認められるとした。
4争点整理の結果を無視した論理構成による不意打ちをいう主張についてア
上記2によれば,検察官の基本的な立証構造は,検察官の前提事実によっ
て,被害者両名が殺害された場所がa号室であることを立証した上で,同室への出入り状況から,犯行を行う機会があったのは被告人しかいないなどとして,本件殺人及び両名の死体をキャリーバッグに詰め込んだ犯人が被告人であることを立証し,これを前提として,本件死体遺棄の犯人が被告人であることを立証するというものである。

これに対し,原判決が当初の段階で認定した原判決の前提事実は,上記3の
とおり,被告人が被害者両名を,その自由意思に反して(ただし,死亡させた場合に限定されない。),それぞれキャリーバッグに入れてa号室から運び出したというものであり,両名がキャリーバッグに入れられ,同室から運び出された時点で死亡していたとは認定していないところ,そのような認定になった理由は明らかではない(なお,原判決は,テープ片・カーテンの事実について,何ら触れていない。)が,所論のいうように,公判前整理手続において中核的争点(その実質は,争点の判断をする上で重要と考えられる間接事実であり,争点の概要で示された
争点とは異なる。)とされた検察官の前提事実を,中核的争点として扱わずに判断を回避したのではなく,その検討段階では,検察官の前提事実の一部(両名がキャリーバッグに入れられ,同室から運び出された時点で死亡していたこと)は認定できないと判断して,認定できる限度で原判決の前提事実としたと解されるのであり,原判決の前提事実は,検察官の前提事実と全く別の間接事実ではない。もっ
とも,原判決の前提事実では,被害者両名がa号室で殺害されたとは認定できないため,原判決は,本件死体遺棄の犯人性から検討したと考えられるのであり,その
検討において,キャリーバッグに入った両名が投棄された時点で,両名は既に死亡していたこと,本件死体遺棄の犯人は被告人であると認定し,その上で,本件殺人の犯人性を検討し,その検討において,両名が殺害されたのは,両名がそれぞれ帰宅した後,被告人が本件死体遺棄を行うまでの間のいずれかの時点であると認められるとして,この時間帯に両名を殺害できた者は,被告人以外には考えにくく,第三者が関与したことをうかがわせる証拠も見当たらないとして,本件殺人の犯人は被告人であると認定したものである。

このように原判決は,公判前整理手続における争点整理結果を殊更に無視し
たのではなく,検察官の前提事実の一部は認定できないと判断したと解されるのであり,そのため,検察官の立証構造による推認過程とは異なり,本件死体遺棄の犯人性,本件殺人の犯人性という順序で判断をしたと認められる。そして,このような原判決の判断は,被害者両名が殺害された時間帯を認定した上で,その時間帯に犯行が可能であった者を検討するという点では,検察官の立証構造による推認過程と視点が共通している。しかも,原判決は,一連の判断過程において,検察官が公
判前整理手続又は公判審理で主張していない,全く新たな間接事実を認定することもしていない(原判決の前提事実が,検察官の前提事実と全く別の間接事実ではないことは,上記のとおりである。)。
他方,被告人側の防御という観点からみると,上記2のとおり,弁護人は,公判前整理手続の段階から,検察官が主張する本件間接事実を争い,当該事実が認
められない以上,本件殺人及び死体遺棄について,被告人が犯人であると推認することはできないと主張したほか,本件間接事実以外の間接事実は,概ね争わないものの,被告人が犯人ではないという観点から説明できると主張し,弁論においては,検察官の立証構造による推認過程について反論するほか,証拠を総合しても,被告人が犯人であるとはいえないと主張している上,①本件死体遺棄の現場での発見時
のキャリーバッグの中身が,a号室からの搬出時のそれと同一であるという立証がされていない,②本件殺人及び死体遺棄に第三者が関与していることをうかがわせ
る事情があるとして,原判決のような推認過程で問題となり得る点についても主張をしている。
このような被告人側の防御の状況にも照らすと,原判決の判断が,被告人側の防御の機会を奪う不意打ちであるとはいえない。
所論は,公判審理ひいては判決における事実認定は,公判前整理手続における争点整理の結果に拘束されるという趣旨を主張するが,所論のいうところは,実質的には,第一審裁判所の事実認定の過程が,公判前整理手続で検察官が主張した推認過程に拘束されるというに等しいものであって,事実認定は自由心証主義(刑訴法318条,裁判員の参加する刑事裁判に関する法律62条)の下で行うことに
照らして,採用できない。もとより,公判前整理手続で取り上げられなかった新しい争点や間接事実が問題となり,それらが重要であって,しかも当事者にとって不意打ちになる場合には,その内容や訴訟の進行段階に応じて,不意打ちを防止するための措置がとられるべきであるが,本件がそのような場合に該当しないことは,これまで検討したところから明らかである。

以上のとおり,原判決の判断は,争点整理の結果を無視した論理構成による不意打ちであり,刑訴法316条の24,316条の31第1項に違反するとの主張は理由がない。
5新しい争点を設定して挙証責任を転換した違法をいう主張について所論は,原判決は,特別の事情がない限り,被害者両名が自由な意思でキャ
リーバッグに入って自宅から退出したのではないと認められる旨説示し,特別の事情の有無を検討しているが,このような原判決の判断は,特別の事情の有無という新しい争点を設定し,その立証を被告人側に求めるもので違法であると主張する。しかし,所論が論難する原判決の説示は,証拠に基づいて,被害者両名がキャリーバッグに入った状態でa号室から運び出されたという事実を認定した上で,通常,
人は自由な意思でキャリーバッグに入らないという経験則を適用して,両名が自由な意思でキャリーバッグに入って自宅から退出したのではないという事実が強く推
認される状況にあることを前提として,その推認を揺るがせるような特別の事情がなければ,上記の事実が推認されるということを述べているのであって,挙証責任を転換するものではない。また,原判決の上記説示は,原判決の前提事実を認定する過程でされたものであるところ,原判決の前提事実は,争点について判断をする上での間接事実であって,それ自体は争点ではないから,原判決の上記説示は新しい争点を設定したものではなく,上記4で検討したところにも照らすと,被告人側の防御権を侵害する不意打ちでもない(なお,弁護人は,原審公判において,上記特別の事情に当たるとする事情を主張し,被告人質問等により反証をしている。)。以上のとおり,原判決には,新しい争点を設定して挙証責任を転換した違法
があるとの主張は理由がない(なお,所論の中には,原判決が

の経験

則を論難する部分があるが,それ自体は訴訟手続の法令違反の問題ではない。)。6
そのほかの所論を踏まえて検討しても,弁護人の訴訟手続の法令違反の論旨
は理由がない。
第4弁護人の控訴趣意中,事実誤認の主張について
1
論旨は,要するに,上記第2の罪となるべき事実を認定した原判決の推認過
程には,論理則違反,経験則違反,証拠裁判主義違反があり,また,本件の証拠関係では,被告人が本件殺人及び死体遺棄の犯人であるとの合理的な説明ができず,ひいては住居侵入罪が成立するともいえないから,原判決には判決に影響を及ぼすことが明らかな事実の誤認がある,というのである。
2原判決の判断の要旨
原判決の前提事実
原判決は,概要,以下のとおり説示して,原判決の前提事実が認定できるとした。ア
7月5日夜,翌6日未明にそれぞれa号室に帰宅した被害者両名は,7月7
日午前中に警察官が同室内を確認した際にはいなかったところ,この間に両名が同室から退出した可能性としては,両名が7月7日の午前0時23分頃及び同日午前0時39分頃にキャリーバッグに入った状態で運び出されたこと(以下本件搬出
ともいう。)以外には考えられないから,そのような事実が認められる。そして,人が自由な意思でキャリーバッグに入って自宅から退出するとは通常考えられないから,本件においても,特別の事情がない限り,両名が自由な意思でキャリーバッグに入って自宅から退出したのではないと認められる。

被害者両名は偽装失踪をするために自らキャリーバッグに入ったのであり,
それを被告人がa号室から運び出した旨の被告人の原審公判供述(以下被告人の供述という。)は信用できないから,上記特別の事情は存在せず,両名は自由な意思に反して,キャリーバッグに入れられて同室から運び出されたと推認できる。そして,両名が帰宅してからキャリーバッグで搬出されるまでの間に,a号室に出入りしたのは被告人のみであったから,被告人が両名を,その自由意思に反して(ただし,死亡させた場合に限定されない。),それぞれキャリーバッグに入れて同室から運び出した(原判決の前提事実)と認められる。
本件死体遺棄の犯人性
次に,原判決は,原判決の前提事実を踏まえ,概要,以下のとおり説示して,被
告人が本件死体遺棄の犯人であると認定した。

被害者両名の死因は,頸部圧迫による窒息死であること,被告人は,本件搬
出後,付近の駐車場に駐車していた本件車両に,両名がそれぞれ入ったキャリーバッグ2個を積み込み,同車を運転してその場を立ち去ったこと,被告人は,本件死体遺棄の現場付近に本件車両を約5分間停車させていたところ,その付近から,両名がそれぞれ入ったキャリーバッグ2個が発見されたこと,それらのキャリーバッグは,被告人がa号室から搬出したキャリーバッグと同一のものであることが認められる。

上記アの事実に基づいて検討すると,被害者両名の死因に照らせば,キャリ
ーバッグに入った両名が投棄された時点で,両名はすでに死亡していたことが認められる。そして,①被告人が,両名をその自由な意思に反してキャリーバッグに入れて,a号室から搬出し,本件車両に積み込んで出発したこと,②被告人が,両名
の死体が入った上記と同一のキャリーバッグが遺棄されていた本件死体遺棄の現場付近に本件車両を約5分間停車させていたことは,いずれも被告人が本件死体遺棄の犯人であることを相当程度推認させる事実であるところ,これらが偶然重なって生じることは常識的に考えにくい。そして,本件死体遺棄に第三者が関与していたことをうかがわせる証拠が見当たらないばかりか,これまで認定した事実関係を前提にすると,被告人以外の第三者が両名の死体が入ったキャリーバッグを投棄した可能性はおよそ考えられないから,被告人が本件死体遺棄の犯人でなかったとすると合理的な説明ができない事実関係がある。
本件殺人の犯人性

原判決は,被告人が本件死体遺棄の犯人であることを前提にして,概要,以下のとおり説示して,被告人が本件殺人の犯人であると認定した。

被害者両名の死因及び死体の発見状況に照らせば,両名が何者かによって殺
害されたことは明らかであるところ,両名は,7月5日夜,翌6日未明にそれぞれ帰宅した後,被告人が両名の死体を遺棄した7月7日午前8時頃までの間に殺害されたと認められる。

上記の時間帯に被害者両名を殺害することができた者としては,被告人しか
考えにくく,被告人以外の第三者が関与したことをうかがわせる証拠も見当たらない。
さらに,原判決は,①本件殺人の日時場所について,本件車両内を含む屋外で犯行に及ぶことは,第三者に目撃されたりする危険が大きいから,犯行場所はa号室であると認められ,被害者両名の死因からすると,両名を同時に殺害することは困難であることなどに照らすと,両名を殺害した時間帯は罪となるべき事実(上記第2)のとおり認定できる,②被告人が7月6日午前3時18分頃に同室に入る前の状況からすると,被告人がAに何らかの違法行為をする目的を有していたこと
は明らかであり,その後,被告人がAを殺害していることを加味すると,被告人はAを殺害する目的で,同室に侵入したと認められる,③犯行の動機は,証拠上明確
ではないが,被告人とAを巡る従前の経緯や人的関係に照らせば,被告人にAに対する殺意が生じたと見て不自然・不合理なところはなく,他方,Bについては,当初から殺害する意図があったとは考えにくいが,Aを殺害後,Bの帰宅時間が切迫する中で,犯行発覚を恐れるなどして,咄嗟にBに対する殺意が生じたといった想定も困難とはいえないから,被告人が本件殺人及び死体遺棄の犯人であるとの判断は左右されないとした。
3当裁判所の判断
原判決の上記判断は,主要な説示において,論理則,経験則等に照らして不合理なところはなく,原審記録を検討しても,原判決に事実の誤認はない。
以下,所論を踏まえて,補足して説明する。
所論は,仮に,原判決の前提事実,すなわち,被告人が被害者両名を,その自由意思に反して(ただし,死亡させた場合に限定されない。),それぞれキャリーバッグに入れてa号室から運び出したという事実が認められたとしても,第三者が両名を殺害して,その死体を遺棄したという合理的説明が可能であって,被告
人が犯人でないとした場合に合理的な説明がつかない(あるいは,少なくとも説明が極めて困難である)事実関係は存在しないから,被告人が本件殺人及び死体遺棄の犯人であると認定した原判決には,最高裁平成22年4月27日第三小法廷判決・刑集64巻3号233頁に反する論理則違反があると主張する。しかし,原判決が指摘するとおり,原審記録を検討しても,本件殺人及び死体遺
棄に被告人以外の第三者が関与していることをうかがわせる証拠は見当たらない(後記のとおり,第三者による犯行であることを示唆する被告人の供述は,到底信用できない。)のであり,本件死体遺棄,更には本件殺人の犯人は被告人であると推認できるとした原判決の判断に誤りはない。所論のいうところは,抽象的な可能性であっても,これを証拠によって積極的に否定できなければ,有罪認定をするこ
とができないというものであって,間接事実からの推認による事実認定を否定するに等しく,採用することができない(なお,所論は,上記最高裁判例が2つの証明
基準を示して,有罪認定のための新たな基準を定立したかのような趣旨を主張するが,このような解釈は,当裁判所の採用するところではない。)。イ
所論は,原判決は,通常,人が自由な意思でキャリーバッグに入って自宅か
ら退出することは考えられないという経験則を用いて,被害者両名が自由な意思でキャリーバッグに入って自宅から退出したのではないと認定しているが,そのような経験則は存在しないから,原判決の事実認定は経験則に反していると主張する。原判決は

,本件搬出の事実だけを認定した上で,上記の経

験則を示しているところ,検察官が主張した他の間接事実(特に,テープ片・カーテンの事実)を含めた具体的な事情を検討することなく,上記の経験則を示して検討を進めている点で,必ずしも適切とはいえないが,キャリーバッグ自体は,人が入ることが予定されたものではないことに照らすと,原判決が示した経験則は,特段不合理なものとはいえない。

所論は,原判決は,存在しない上記経験則を用いて,本件においても,特別の事情がない限り,A及びBが自由な意思でキャリーバッグに入って自宅から退出したのではないと認められるとした上で,直ちに特別の事情の有無を判断するため,被告人の供述を検討しているが,被告人の供述以外の証拠から,どのような事実が認定できるかの検討を放棄するものであって,証拠裁判主義に反する手法であると主張する。
しかし,上記イのとおり,原判決は,本件搬出の事実だけを認定した段階で,上
記の経験則(ただし,その経験則自体は,特段不合理なものとはいえない。)を示して検討を進めている点で,必ずしも適切とはいえないが,原判決は,上記の経験則によって,被害者両名が自由な意思でキャリーバッグに入って自宅から退出したのではないと強く推認される状況にあることから,その推認を揺るがせるような事情が存在するかという観点から,偽装失踪のために,両名が自らキャリーバッグに
入ったという被告人の供述を検討したものであり,犯人性を推認させる積極的な証拠として,被告人の供述を用いているわけではない。そして,原判決が,その後の
推認過程で種々の間接事実を検討していることにも照らすと,上記の段階で,被告人の供述を検討することが適当かという問題はあり得るとしても,このような原判決の検討が証拠裁判主義に反する手法であるとはいえない。

以上のとおり,論理則違反,経験則違反,証拠裁判主義違反をいう所論は,
いずれも理由がない。
所論は,被告人が犯人である場合に合理的な説明がつかない証拠ないし事実があり,また,被告人が犯人であるとすれば存在するはずの証拠がないと主張する。
しかし,以下のとおり,所論が指摘する事情は,犯人性等に関する原判決の認定
を揺るがすものとはいえない。

所論は,被告人が犯人であるとすれば,①殺害したBの死体を布団圧縮袋に
入れるに当たり,a号室のカーテンを死体に巻き付けるのは,あまりにも不可解である,②Aを殺害し,その死体を布団圧縮袋に入れた後,青色テープ片を取り除かずに付着したままにしているのは不自然である,と主張する。
しかし,①については,Bの死体にカーテンが巻き付けられていた経緯は,証拠上,明らかではないといわざるを得ないが,所論を前提にすると,a号室以外の場所で,第三者によってカーテンが巻き付けられたことになるが,被告人の供述以外にそのような第三者の存在をうかがわせる証拠は見当たらず,そのような可能性は考え難い(なお,偽装失踪を実行する際,Aが,上記カーテンが可愛いので持って
いくと言うので,これを取り外してAに渡したなどという被告人の供述は,上記の可能性を示唆するものであるが,後記

のとおり,この点を含む被告人の供述は信

用できない。)。また,②についても,青色テープ片が布団圧縮袋に付着していた経緯は,証拠上,明らかではないといわざるを得ないが,所論を前提にすると,上記同様に,被告人の指紋の付いた青色テープ片が布団圧縮袋に付着していたことの合理的な説明ができない。むしろ,後記

のとおり,テープ片・カーテンの事実は,

被告人の犯人性を基礎付ける事実というべきである。

そのほかにも所論は,①キャリーバッグの中に外国人登録証明書等の被害者両名の身元の特定につながるものが入っていたこと,②被告人がa号室から,処分に困るような大量の荷物を運び出している一方で,被告人のパーカーを置いたままにしていること,③被告人は,7月6日午前5時台に同室からの出入りを繰り返しており,その際,マスク等を着用していないことは,被告人が犯人であるとすれば不自然であると主張する。
しかし,所論は,被告人が犯人であれば,その発覚につながるような失敗はしないということを前提とするものであるが,これを動かない前提とすること自体が問題である。そして,積極的間接事実から,被告人が犯人であることが強く推認され
る一方で,被告人の供述以外に,第三者が犯人であることをうかがわせる証拠がないことに照らすと,所論が指摘する点は,原判決の認定を揺るがすものとはいえない。

所論は,①被告人が犯人であるとすれば,本件殺人及び死体遺棄は計画的犯
行のはずであるが,被告人の行動等は計画的犯行であることと矛盾している,②被告人には被害者両名を殺害する動機が存在せず,このことは被告人が犯人ではないことを裏付けている,③a号室内から両名の体液等が,両名の爪などから被告人の皮膚片が発見されておらず,被告人が犯人であるとすれば存在するはずの証拠がないと主張する。
しかし,①については,所論は,被告人が犯人であれば,周到な計画を立てて犯
行に及ぶことを前提とするものであるが,これを動かない前提とすること自体が問題である。また,②については,両名それぞれについて,殺人の動機形成の原因となり得る事実を想定することができるから,被告人が犯人であるとの推認は左右されないという趣旨の原判決の判断に不合理なところはない(もっとも,後記第6の3のとおり,量刑事情としての犯行動機に関する原判決の検討は,十分とはいえな
い。)。さらに,③については,原審証拠(甲101,109,111)によれば,被告人がa号室内で,両名を殺害した痕跡を除去する作業をしていたことがうかが
われる(なお,同室内の2台のベッドは,シーツが取られた状況になっている。)から,所論のようにいうことはできない。

以上のとおり,被告人が犯人である場合に合理的な説明がつかない証拠な
いし事実があり,また,被告人が犯人であるとすれば存在するはずの証拠がないという所論は理由がないが,本件においては,テープ片・カーテンの事実を含む間接事実を総合すると,検察官の前提事実,すなわち,被害者両名は,a号室内で殺害された上,その死体がキャリーバッグ2個に詰め込まれ,同室から運び出されたという事実を認めることができ,ひいては,被告人が本件殺人及び死体遺棄の犯人であると認められる。


被告人の供述を除く原審証拠によれば,①Aは7月5日午後8時48分頃,
Bは翌6日午前5時14分頃,それぞれa号室に帰宅したが,7月7日午前9時30分頃,警察官らが両名の安否確認のため,同室内を確認したところ,両名の姿はなく,この間に両名が外出した形跡はないこと,②被告人は,7月6日午前3時18分頃,同室に入り,同日午前10時21分頃,同室を出て,横浜市内の自宅に戻った後,本件車両を運転して自宅を出発し,同日午後11時13分頃,同室に入ったこと,③被告人は,7月7日午前0時台に,2回にわたって,同室からキャリーバッグ2個を運び出し,マンション前の道路を横断して行き,いずれも15分程度で同室に戻ったこと,④被告人は,上記マンション付近の駐車場に本件車両を駐車していたところ,同日午前2時54分頃,同車を運転して走り去ったこと,⑤被告
人は,同日午前7時47分頃,母親からラインのメッセージを受け取り,同日午前7時50分頃,母親に電話をかけたところ,病院へ行くのに車を使いたい旨言われ,急いで帰ると答えて,同日午前9時頃,本件車両を運転して帰宅したこと,⑥本件車両は,同日午前8時1分頃から午前8時6分頃までの約5分間,神奈川県秦野市内の山中の県道に停車していたところ,同月13日,上記停車位置付近の雑木林内
(本件死体遺棄の現場)でキャリーバッグ2個が発見されたこと,⑦上記キャリーバッグ2個は,被告人がa号室から運び出したものと同じ形状,模様であり(うち
1個の取っ手部分に白色の飾りが付いている点も同じ),その中には,被害者両名の死体がそれぞれ詰め込まれていたところ,両名の死因は,少なくとも5分程度,頸部を圧迫されたことによる窒息死であったこと,⑧Aの死体は布団圧縮袋に入れられており,その外側には,被告人の指紋が付いた青色テープ片が付着していたところ,同室内からも,被告人の指紋が付いた青色テープ片が発見されたこと,⑨Bの死体も布団圧縮袋に入れられており,その腰部付近には,同室に取り付けられていたピンク色のレースカーテンが巻き付けられていたこと,⑩発見されたキャリーバッグ2個にはダイヤルロックによる施錠がされており,それらの解錠番号は025927であったところ,被告人は,7月6日午前6時4分頃と同日午前
8時25分頃に,自己の携帯電話機で,上記キャリーバッグのダイヤルロック部分と酷似したダイヤルロック部分を撮影しており,それらの番号は025927であったことが認められる。ウ
以上の認定事実に基づいて検討すると,⑦のようなキャリーバッグの特徴の
一致,⑩のようなダイヤルロックの施錠番号の一致からすると,被告人が携帯電話機で撮影したダイヤルロック部分は,本件死体遺棄の現場で発見されたキャリーバッグ2個のダイヤルロック部分であると認められるところ,②のようなa号室への被告人の出入り状況からすると,上記撮影は同室内でされたものであり,その時点で,キャリーバッグ2個は施錠されていたと推認できる。また,以上を踏まえると,本件死体遺棄の現場で発見されたキャリーバッグ2個は,施錠された状態でa号室
から運び出され,その後,上記現場に投棄されたことが推認できる。さらに,⑧及び⑨のテープ片・カーテンの事実のほか,⑦のとおり,両名の死因は頸部圧迫による窒息死であり,キャリーバッグに詰め込まれた後に窒息死したとは考え難いことに照らすと,両名は,それぞれa号室で首を絞める方法で殺害され,その後,同室内で,それぞれキャリーバッグに詰め込まれたと認められる。

そして,原審証拠(甲100,101)によれば,①のとおり,被害者両名が帰宅した後,③のとおり,被告人がa号室からキャリーバッグ2個を運び出すまでの
間に,同室に出入りしたのは被告人だけであると認められることからすると,犯行の機会があったのは被告人だけであるから,被告人が本件殺人の犯人であると認められる。このことに加えて,④及び⑤によれば,被告人が7月7日午前2時54分頃,本件車両を運転して,上記マンション付近から走り去った後,同日午前9時頃,自宅に戻るまでの間,被告人が本件車両を使用していたと推認できるところ,⑥のとおり,この間に本件車両が約5分間停車していた場所付近で,上記キャリーバッグ2個が発見されていることに照らすと,本件死体遺棄の犯人も被告人であると認められる。
所論は,被告人の供述の信用性を否定する具体的な根拠はないから,原判決
の判断は誤っていると主張する。
原判決は,被害者両名は偽装失踪をしようとしていたなどという被告人の供述について,①別人を装って不法残留をする際,本人が不審者によって連れ去られたかのような外観を作出する必要はないこと,②a号室には,多額の現金が残されていたが,偽装失踪をするのであれば,生活上重要な現金を置いていくとは考えられな
いこと,③Bの在留資格の期限は,約2年も先であったところ,Bが当日(7月6日)になって,Aから初めて偽装失踪の計画を知らされて,これに同意したというのはあまりに不自然であること,④被告人とAとの間では,偽装結婚に関するメッセージのやり取りは多数存在するが,偽装失踪に関してやり取りをしたことが証拠上認められないことなどを指摘して,被告人の供述は内容が不自然である上,証拠
から認められる客観的事実と矛盾し,あるいは整合しないから,信用できないとした。
このような原判決の判断に不合理なところはない。とりわけ,被害者両名が不審者によって連れ去られたかのような外観を作出するという点,Bが仕事を終えて帰宅した後,偽装失踪という生活の根本に関わる計画を初めて聞かされて,程なくこ
れに同意したという点などは,不自然さが際立っているというほかなく,また,被告人の供述の裏付けとなるような事情も何らうかがえない。被告人の供述は,到底
信用できない。所論は理由がない。
そのほかの所論を踏まえて検討しても,上記第2の罪となるべき事実を認定した原判決に事実の誤認はなく,弁護人の事実誤認の論旨は理由がない。第5検察官の控訴趣意中,事実誤認の主張について
1
論旨は,要するに,本件は,被告人が,AのみならずBの殺害も計画し,両
名の死体遺棄も計画していた事案であるから,7月6日午前3時18分頃,a号室に侵入する(以下本件侵入ともいう。)時点で,被告人がBの殺害や,両名の死体をキャリーバッグに入れて遺棄することまで計画していたとは認められないとした原判決には,判決に影響を及ぼすことが明らかな事実の誤認がある,というのである。
2原判決の判断の要旨
本件公訴事実では,被告人は,被害者両名を殺害する目的でa号室へ侵入したとされていたが,原判決は,罪となるべき事実において,Aのみを殺害する目的で同室へ侵入したと認定した。そして,原判決は,量刑の理由の中で,犯行の計画
性について,概要,以下のように説示して,本件侵入の時点で,被告人がBの殺害や,両名の死体をキャリーバッグに入れて遺棄することまで計画していたとは認められないとした。
被告人は,本件侵入よりも前に,①携帯電話機で土葬,腐敗等と検索し,②布団圧縮袋2枚を購入し,③Bに対し,同人の仕事が終わる時刻を確認しており,
これらの事実は,本件侵入の時点で,被告人が,Bの殺害や,被害者両名の死体をキャリーバッグに入れて遺棄することまで計画していたことを一定程度うかがわせる。
しかし,①については,どのような目的で検索したのかが明確ではない。②については,布団圧縮袋2枚は,両名の死体遺棄に用いられているが,併せて購入され
た他の物品が死体遺棄に用いられた形跡がないことに照らすと,当初の購入目的が死体遺棄のためではなかった可能性も排斥できない。③については,Aのみを殺害
する計画で,その犯行が可能な時間帯を確認する目的であったとしても矛盾しない。キャリーバッグはa号室内にあったものであり,殺害後に偶然利用された可能性が否定できないこと,被告人は両名殺害後まで自動車を用意しなかったこと,被告人は,両名の死体をa号室に半日近く放置し,その間も出入りを繰り返すなど,犯行発覚の危険性が高いと思われる行動を取っていること,死体遺棄現場に到達するまで長時間を要し,母親からの電話直後に死体を遺棄しており,死体を遺棄する場所をあらかじめ決めていたとは考えられないことなど,かなり杜撰な行動に終始している。これらの行動は,当初から両名を殺害して死体をキャリーバッグに入れて遺棄する計画をしていたとすると,合理的に説明することが困難である。
Bについては,Aに比して殺害の動機を一層想定しにくいこと,
おり,死体遺棄の計画性が認められない以上,被告人としては,Aを殺害する際,そのまま逃走しようとしていたと想定することも可能であり,本件侵入前に購入した物品の内容に照らしても,Aの殺害を自殺や不審者によるものと見せかけようとしていたと見る余地もあること等からすると,あえて,A殺害の発覚を恐れて,当
初からAに加えてBも殺害する計画を立てていたとまでは認められない。さらに,Aを殺害すれば当然直面するであろう事態に対して,上記
のよう

な杜撰な行動に終始していたことからすれば,Aを殺害する計画自体も,巧妙で綿密なものであったとは認められない。
3当裁判所の判断
原判決の上記判断は,主要な説示において,論理則,経験則等に照らして不合理であるとまではいえず,原審記録を検討しても,原判決に事実の誤認があるとまではいえない。
以下,所論を踏まえて補足して説明する。
原審証拠によれば,①被告人は,2時間近く後にはBが帰宅することを認識
した上で,7月6日午前3時18分頃,a号室に侵入して,Aを殺害し,そのまま同室にとどまり,同日午前5時14分頃に帰宅したBを殺害していること,②被告
人は,本件侵入に先立つ7月3日,土葬,腐敗のキーワードで,インターネットを検索して,土葬や,人の死体の腐敗・白骨化に関する情報を閲覧し,更に同月5日には布団圧縮袋2枚,青色テープ等を購入し,同月6日未明に順次,被害者両名を殺害した後,それぞれの死体を布団圧縮袋に入れ,さらに,同室内にあったキャリーバッグ2個にそれぞれ入れて,本件死体遺棄に及んでいることが認められる。これらの事情からすると,所論が主張するように,本件侵入の時点で,被告人は,Aを殺害後に帰宅するBを待ち構えて殺害し,両名の死体をキャリーバッグに入れて遺棄することを計画していたと推認することも,あながち不合理であるとはいえない。

しかし,原審証拠を検討しても,Bについては,被告人がそれまでの人間関係等を原因として,その殺害を企図するような事情は認められない。そして,本件侵入の際,被告人が黒色マスクを着用していること,Bの帰宅までには2時間近くの時間的余裕があったこと,被告人がAを殺害した具体的な状況やその直後のa号室内の様子等が,証拠上明らかではないことに照らすと,本件侵入の時点では,被告人
は,A殺害後に逃走し,不審者による犯行であると見せかけようとしたが,Aを殺害した後の状況等から,そのまま同室に残って,Bも殺害することを決意したという見方をする余地があり(なお,所論は,原判決が,本件侵入前に購入した物品の内容に照らしても,Aの殺害を自殺や不審者によるものと見せかけようとしていたと見る余地もある旨説示している点について,いずれの物品が,Aの自殺を示唆す
るものになるかを示しておらず,合理的な判断とはいえないと主張するが,被告人が事前に購入したロープは自殺を装うものとして使うことが想定できるから,上記説示が不合理であるとはいえない。),①及び②のような事情によって,そのような見方をする余地が排斥されるとまではいえないから,これと同様の見方をした原判決の判断が不合理であるとまではいえない。

なお,原判決は,上記のインターネットの検索・閲覧は,どのような目的で検索したのかが明確ではないとしているが,その後の事態の進展にも照らすと,Aの死
体を遺棄することも頭にあって,そのような検索・閲覧をしたと見る方が合理的であるが,そのような検索・閲覧は10分程度であり,その直前には別の事柄を検索・閲覧していること

諸点にも照らすと,その時点で,死体遺棄

を実行する決意を固めていたと断定することはできない。また,布団圧縮袋の購入についても,

などに照らすと,その時点でも,死体遺棄を実行する決

意を固めていたと断定することまではできない。
所論は,被告人の一連の行動からすると,被告人は,A殺害について,事件性そのものを隠蔽して,罪責を免れることを企図していたことが明らかであり,そのため,Bの殺害や,被害者両名の死体発見が相当困難となるような態様の死体遺棄を計画していたと認められるから,被告人は,本件侵入の時点で,両名を殺害して,その死体をキャリーバッグに入れて遺棄することを計画していたのであり,被告人の行動が杜撰ということもできないなどと主張する。
しかし,本件死体遺棄については,以下の点を指摘することができる。すなわち,本件死体遺棄の際,a号室にあったキャリーバッグ2個が使われているところ,被
告人は,これらが同室内にあることを知っていたことを認めているが,その中に両名の死体を詰め込むことが可能か,解錠することができる状態かなどを確かめた形跡がなく,これを使用することについては相応の不確実性があったといわざるを得ないから,キャリーバッグは殺害後に偶然利用された可能性も否定できないという原判決の判断が不合理であるとはいえない。そうすると,所論のように,キャリー
バッグを用いることを計画していたため,布団圧縮袋のみを購入したと断定することもできない。
また,所論のような計画であるとすれば,死体を遺棄する場所は決定的に重要であるが,被告人が,事前に死体を遺棄する場所の下見等をした形跡はない。本件車両で本件死体遺棄現場に到着するまでに長時間を要している上,母親から電話で帰
宅を促された直後に死体を遺棄していることから,遺棄する場所をあらかじめ決めていたとは考えられないという原判決の判断が不合理であるとはいえない。なお,
所論は,被告人は,車を使いたいという母親の電話を受けて,臨機応変に判断し,人目に付かない場所に冷静に遺棄しているから,犯行が杜撰であったとは評価できないと主張するが,原審証拠(甲5,104)によれば,本件死体遺棄の現場は,山中の県道脇の雑木林の中であるが,当該道路脇には,ガードレールが途切れた駐車スペースがあり,上記現場は上記スペースから数メートルほどの位置にあり,その間には雑草が刈り取られている部分がある上,周囲にゴミが散乱していることが認められる。このような現場の状況からすると,頻度はともかく,人が立ち入ることも十分に考えられるというべきであるが,被告人はそのような場所で,ゴミの中にキャリーバッグ2個を投棄している。そして,被告人が,母親と電話をした約1
0分後に本件死体遺棄に及んでいることからすると,所論がいうように,臨機応変に判断し,人目に付かない場所に冷静に遺棄したと評価することはできない。さらに,被告人は,本件殺人の後の7月6日午前8時43分頃に,遺体,腐敗臭というキーワードで,インターネットを検索して,これらに関する情報を閲覧しているところ,所論は,被告人の検索内容は,行動の進展に伴い,その段階に必
要な情報を対象としたものになっていると主張するが,両名を殺害した後に上記のような検索をすることは,場当たり的との感を免れない。
そのほか,原判決は,被告人が,被害者両名殺害後まで自動車を用意しなかったことや,両名の死体を半日近くa号室に放置し,その間も同室への出入りを繰り返すなど,犯行発覚の危険性が高いと思われる行動を取っていることも,被告人の行
動が杜撰であったことの根拠としているが,所論を踏まえて検討しても,このような原判決の評価も不合理であるとはいえない。
以上によれば,被告人が,本件侵入の前に,A殺害の事件性そのものを隠蔽する計画を立てていたとまでは認められないから,このような計画であったことを根拠として,Bの殺害や,両名の死体をキャリーバッグに入れて遺棄することも計画し
ていたという所論は採用できない。
そして,以上のような点を踏まえると,A殺害の計画自体も,巧妙で綿密なもの
であったとは認められないとした原判決の評価が不合理であるとまではいえない。そのほかの所論を踏まえて検討しても,本件侵入の時点で,被告人がBの殺害や,両名の死体をキャリーバッグに入れて遺棄することまで計画していたとは認められないとした原判決の判断が,不合理であるとまではいえない。検察官の事実誤認の論旨は理由がない。
第6検察官の控訴趣意中,量刑不当の主張について
1
論旨は,要するに,本件の犯情を正当に評価すれば,本件は死刑を選択すべ
き事案であることが明らかであり,公平性の観点から他の裁判例を検討しても,死刑が相当であるのに,原判決は,犯行の計画性,犯行態様の残虐性,犯行動機の悪質性等の犯情事実の認定・評価を誤ったばかりか,量刑検索システムによる量刑調査の手法も著しく不当であり,本件とは背景や犯情が全く異なる事案の量刑傾向を前提として量刑をした結果,被告人を懲役23年に処したものであり,原判決の量刑は軽きに失して不当である,というのである。
2原判決の判断の要旨
原判決は,量刑の理由において,まず重視すべき点は,被害者2名の生
命が奪われた結果の重大性であるとした上で,本件では,まず,死刑又は無期懲役刑を選択することが許容されるか否かが問題になるとして,本件殺人の犯情,具体的には,犯行態様,犯行動機,犯行の計画性,殺意の程度を検討している。これらのうち,犯行の計画性(本件死体遺棄の計画性も,併せて検討している。)に関する判断の要旨は,上記第5の2のとおりであるが,それ以外の犯情については,概要,以下のとおり説示している。

犯行態様については,被告人が被害者両名の頸部を,それぞれ少なくとも5
分程度圧迫して死亡させたことは明らかであるが,それ以上に具体的な態様は認定できないから,特別に残虐な態様であるとはいえない。また,上記態様は,刃物等の凶器を用いる場合と比べると,生命侵害に対する危険性の点で質的に異なる面があることは否定できない。


犯行動機については,被告人を偽装結婚の相手としか見なかったAに対する
殺意を生じたと見て,何ら不自然・不合理なところはなく,また,Aを殺害したのが発覚するのを防ぐために,Bに対する殺意を生じたとすれば,自然かつ合理的であるが,被告人が本件殺人を否認しており,これ以上に具体的な動機を認定できず,わいせつ目的,営利目的等も認められないから,動機面で,格別,刑を重くする事情があるともいえない。

殺意の程度については,上記アの犯行態様からして,強固な殺意に基づく犯
行であることは明らかである。
その上で,原判決は,殺人の被害者が2名であること,強固な殺意に基づく犯行であることからすれば,本件の犯情は甚だ悪いとしながらも,犯行態様及び犯行の計画性に関する上記の評価を踏まえ,犯行態様の危険性や犯行の計画性の有無及び程度は,過去の裁判例においても,死刑や無期懲役刑と有期懲役刑との分水嶺として重要な意味を持つ犯情であったと解される上,単独犯による被害者複数名の殺人罪の裁判員裁判において,凶器が使用されていない事案は,さほど件数はない
ものの,死刑のみならず無期懲役刑に処せられた事案は見受けられないとして,上記のような犯行態様,犯行の計画性しか認められない本件においては,被害者両名の死体を遺棄している点などを勘案しても,死刑はもとより,無期懲役刑を選択することも困難であるとした。そして,遺族の処罰感情や被告人が反省の態度を全く示していないことも,死刑や無期懲役刑を選択する決め手とすることはできないと
して,本件において,有期懲役刑を選択した場合の処断刑期の上限である懲役23年の刑を量定した。
3当裁判所の判断
以下のとおり,原判決は,不適切な量刑資料を用いたために,量刑傾向の把握を誤り,また,そのような量刑傾向を前提としたため,量刑事情の認定・評価が
甚だ不十分,不相当なものになったと考えられるなど,量刑判断の過程に大きな問題があり,その結果,不合理な量刑判断をしたといわざるを得ないから,破棄を免
れない。

原判決は,犯行態様の危険性や犯行の計画性の有無及び程度は,過去の裁判例においても,死刑や無期懲役刑と有期懲役刑との分水嶺として重要な意味を持つ犯情であったと解されるとしているが,それに続いて,単独犯による被害者複数名の殺人罪の裁判員裁判において,凶器が使用されていない事案は,さほど件数はないものの,死刑のみならず無期懲役刑に処せられた事案は見受けられないとしている。
このような原判決の説示からすると,評議では,裁判員量刑検索システムの検索条件を,殺人単独犯処断罪と同一又は同種の罪の件数2~4件凶器等なしとして検索した量刑資料を用いたものと考えられる。そして,評議の際に用いられた量刑資料を正確に把握することはできないが,上記の検索条件で検索した量刑資料(判決年月日が,裁判員制度施行から原判決宣告の前日である平成30年7月19日までのもの。以下同様)によれば,2名を殺害した事案の裁判例は,わずか数件であり,いずれも有期懲役刑となっているが,すべて親族間の事例(心
中など)である。親族間の事例は,継続的あるいは濃密な人間関係の中で犯行が行われることが多く,他の類型と比べると,犯行の経緯や動機に酌むべき事情があることも多いといえるから,本件殺人とは全く異なる類型であることが明らかである。そうすると,本件事案において,上記のような量刑資料を用いることは,甚だ不相当である。


また,原判決は,本件殺人の犯行態様は,刃物等の凶器を用いる場合と比べ
ると,生命侵害に対する危険性の点で質的に異なる面があることは否定できない(上記2

しており,そのため,凶器等なしを検索条件としたものと解

されるが,上記のような犯行態様の評価も相当ではない。すなわち,凶器を用いなくても,相当な力で,少なくとも5分程度,頸部を圧迫するという行為態様自体,生命侵害に対する危険性が高いといえる(原審証拠〔甲105,107〕によれば,被害者両名は,それぞれ致命的な窒息をもたらす頸部圧迫を受けたことが認められ,
原判決も,上記のような態様から,強固な殺意に基づく犯行であるとしている。)上,それぞれの被害者は,助けを求めることができないマンション居室の中で,不意に襲われたと推認されるのであり,被告人との体力差等も考慮すると,本件の具体的状況の下においては,原判決がいうように,凶器を用いる場合と比べると,生命侵害に対する危険性の点で質的に異なる面があるとはいえない(実際に,被害者両名は殺害されている。)。そうすると,凶器等なしという検索条件で絞り込むこと自体が相当ではないといえる。

さらに,原判決は,犯行の計画性も,死刑や無期懲役刑と有期懲役刑との分
水嶺として重要な意味を持つ犯情であるとしているところ,A殺害については,その程度はともかく,計画性が認められると認定しながら(なお,このような犯行の計画性は,生命侵害の危険性を高めるものである。また,後記のとおり,原判決は.B殺害についても,Bが帰宅する直前の時点では,被告人は明確な殺意を抱いていたと認定しており,予想外の事態が生じてとっさに犯行に及んだ場合に比べれば.生命侵害の危険性は高いと評価できる。),計画的という検索条件で量刑資料
を検索した様子はうかがえないのであり,結局,凶器等なしという犯行態様を分水嶺として,被害者2名の殺人の量刑傾向を把握する結果となっている。エ
このように原判決は,犯行態様の評価を誤ったことなどに起因して,不適
切な量刑資料を用いたことが明らかである。そして,上記アの検索条件のうち,凶器等なしを外し,さらに,本件事案を踏まえて,処断罪名と異なる主要な罪の有無減軽事由をいずれもなしとして検索すると,2名を殺害した事案の裁判例は数十件あり,そのうちの約半数が死刑又は無期懲役刑となっており,有期懲役刑となったものは,すべて親族間の事例である。そうすると,原判決は,不適切な量刑資料を用いたため,量刑傾向の把握を誤ったものといわざるを得ない。ア
本件殺人は被害者2名が殺害され,検察官が死刑を求刑している事案であ
る。このような事案においては,裁判例の集積の中から,考慮すべき量刑事情及びそれぞれの重みの程度・根拠を検討し,その結果を裁判体の共通認識として議論す
るとともに,公平性の観点を踏まえて議論を深める必要がある。このような観点から,原判決の量刑理由の説示をみると,以下のとおり,量刑事情の認定・評価が甚だ不十分,不相当であるといわざるを得ない。

犯行態様については,

生命侵害の危険性という観点から

の原判決の評価は相当ではなく,また,特別に残虐な態様であるとはいえないという評価の前提となっている部分の説示にも疑問がある。

犯行の動機について,原判決は,上記2

,Aを殺害したのが発

覚するのを防ぐために,Bに対する殺意を生じたとすれば,自然かつ合理的であるとしているところ,このような動機であったとすれば,自己の犯行の発覚を免れるという不法な目的のために,Bの生命を奪う意思決定をしたという点で,非難の度合いは相当強いといえる。しかし,原判決は,被告人が否認しているため,それ以上に具体的な動機を認定することはできず,動機面で,格別,刑を重くする事情があるともいえないとしており,事実認定の補足説明でも,上記のような動機を想定することも困難であるとはいえないと説示するにとどめていることにも照らす
と,結局,原判決は,犯行の動機を認定することはできないとして,上記のような評価をしたに等しいとみるほかない。しかし,被告人が否認していても,情況証拠から,B殺害の動機(少なくとも主たる動機)を認定することは可能であると考えられるから,上記のような原判決の検討は,不十分かつ不相当である。エ
原判決は,被告人が,当初からBの殺害を計画していたとまでは認められな
いとしている(上記第5の3のとおり,このような原判決の判断が不合理であるとまではいえない。)が,他方で,被告人が結果的にBの帰宅時間を把握していたことや,その直前に黒色マスクを着用の上,自分がどのように見えるか携帯電話で確認していることからすれば,その時点では明確な殺意を抱いていたと推認できるとしている。そうであれば,Bの殺害は,予想外の事態に直面して,とっさに犯行に
及んだ場合とは犯情を異にするというべきであるが,原判決は,Bの殺害には計画性が認められないとするだけで,上記の点をどのように評価したのかが明らかでは
ない。

このような原判決の量刑事情の認定・評価の問題点を踏まえ,原判決の量刑
理由の説示をみると,Aの殺害の動機,本件死体遺棄の犯情等についても,十分な検討がされたのかという疑問を入れる余地があるといわざるを得ない。カ
以上のように,量刑事情に関する原判決の検討は,全体として甚だ不十分,
不相当であるというべきであるが,このような検討になった原因としては,上記のとおり,不適切な量刑資料を用いて量刑傾向の把握を誤ったことが,大きく影響していると考えざるを得ない。
以上のとおり,原判決は,不適切な量刑資料を用いたために,量刑傾向の把握を誤り,また,そのような量刑傾向を前提としたため,量刑事情の認定・評価が甚だ不十分,不相当なものになったと考えられるなど,量刑判断の過程に大きな問題があり,その結果,不合理な量刑判断をしたといわざるを得ない。検察官の量刑不当の論旨は,以上の判断に沿う限度で理由がある。
そして,原判決の量刑判断の過程に大きな問題があることのほか,本件事案の重
大性や,量刑事情の認定・評価及び量刑判断を裁判員の参加する合議体で行うこととした裁判員制度の趣旨に照らすと,訴訟経済の見地を考慮しても,改めて裁判員の参加する合議体によって,適切な量刑資料を基にして,量刑事情に関する評議を尽くした上で,量刑判断を行うことが相当である。
第7結論

よって,刑訴法397条1項,381条により原判決を破棄し,同法400条本文により,本件を原裁判所である横浜地方裁判所に差し戻すこととして,主文のとおり判決する。
平成31年4月23日
東京高等裁判所第3刑事部

裁判長裁判官

中里智美
裁判官

來司直美
裁判官中川正隆は差支えのため署名押印することができない。
裁判長裁判官

中里智美
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