判例検索β > 平成29年(行コ)第246号
事件番号平成29(行コ)246
裁判年月日平成31年4月10日
法廷名東京高等裁判所
裁判日:西暦2019-04-10
情報公開日2019-06-25 03:34:40
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主文1
原判決を取り消す。

2
被控訴人は,控訴人Aに対し,4万円及びこれに対する平成27年6月19日から支払済みまで年5分の割合による金員を,控訴人B及び控訴人Cに対し,それぞれ1万円及びこれに対する同日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

3
控訴人らのその余の請求をいずれも棄却する。

4
訴訟費用は,第1,2審を通じてこれを30分し,その1を被控訴人の,その余を控訴人らの負担とする。
事実及び理由

第1

控訴の趣旨

1
原判決を取り消す。

2
被控訴人は,控訴人Aに対し,133万3333円及びこれに対する平成27年6月19日から支払済みまで年5分の割合による金員を,控訴人B及び控訴人Cに対し,それぞれ33万3333円及びこれに対する同日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第2

事案の概要

1
事案の要旨
控訴人A(以下控訴人Aという。)が,甲府刑務所に収容されていた当時,同控訴人と養子縁組をしていた亡D(以下Dという。)に対して信書を発信しようとしたところ,甲府刑務所長は,この信書の発信を禁止する決定をした。これに対して,控訴人A並びにDの父母である控訴人B(以下控訴人Bという。)及び控訴人C(以下控訴人Cという。)が,刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律(以下刑事収容法という。)は受刑者とその親族との信書の発受は禁止することができないと規定しており,Dは控訴人Aの親族に当たるから,甲府刑務所長の上記信書の発信を禁止する決定は違法であり,控訴人A及びDがこれによって精神的損害を被ったとして,国家賠償法1条1項に基づき,控訴人Aが,慰謝料100万円及びこれに対する遅延損害金の支払を求め,控訴人らが,Dを相続したことによるDの慰謝料各33万3333円及びこれに対する遅延損害金の支払を求めたものである。
原審は,控訴人Aの訴えのうち,同控訴人がDの訴訟手続を承継したことに基づく33万3333円及びこれに対する遅延損害金の支払を求める部分を却下し,控訴人Aのその余の請求並びに控訴人B及び控訴人Cの請求をいずれも棄却する判決(以下原判決という。)をし,控訴人らは,これを不服として控訴したものである。
2
刑事収容法等の定め
刑事収容法等の定めは,原判決の事実及び理由の第2の1のとおりであるから,これを引用する。

3
前提事実
前提事実は,原判決の事実及び理由の第2の2のとおりであるから,これを引用する。

4
争点
Aの訴えのうち,同控訴人がDの訴訟手続を承継
したことに基づく部分(33万3333円及びこれに対する遅延損害金の支払請求)が適法か否か(

A
本件決定をしたことについて,国家賠償法1条1項にいう違法があるか否か
訴人A及びD
る。
5
争点に関する当事者の主張
控訴人Aの訴えの適法性)
(控訴人らの主張)
控訴人AとDとは,平成27年5月8日に本件養子縁組をしており,同控訴人は,Dの相続人であるから,同人の訴訟手続を承継した。
(被控訴人の主張)
本件養子縁組は,以下のアないしウのいずれかの理由により無効であるから,控訴人Aは,Dの相続人ではなく,同人の訴訟手続を承継することはない。

控訴人AとDとは,以下の

ないし

の各事実に照らせば,同性愛関係

にはなかったのであり,縁組意思(養子縁組を行うのに必要な効果意思)を持ち合うほどに親密ではなかったから,同控訴人もDも,控訴人らの主張するような両名が助け合って共に生活しようという意思を持ってはいなかった。両名は,刑事収容法による信書発受の禁止を潜脱する目的で養子縁組を行ったものである。したがって,本件養子縁組は無効である。控訴人AとDは,平成26年4月に府中刑務所において初めて知り合ったのであり,それ以前に交友関係はなく,養子縁組まで半年程度しか経過しておらず,また,刑務所内では,私的関係を持つことは制限されており,両名が私語を交わすことができたのは僅かな時間であり,両名の親密な接触は目撃されていないのであるから,養親子になる意思を形成するまでに関係を深めることは困難であった。
控訴人Aの犯罪性の特徴は,12,13歳の男児に対するわいせつ行為の反復であり,成人男性を被害者とするものは見当たらず,同控訴人に,本件養子縁組以前に男性の恋人がいたことはなく,成人男性に対する同性愛傾向はみられないし,同控訴人は,これまで収容された刑務所において,自身が同性愛者であると申告したり,同性愛者であるとして処遇上の配慮を求めたりしたこともなく,刑務所職員から同性愛者とは認知されたこともなかった。
Dの犯罪性の特徴は,児童誘拐の反復であり,同人に成人男性に対する同性愛傾向はみられないし,同人は,これまで収容された刑務所において,自身が同性愛者であるとして処遇上の配慮を求めたこともなかった。
控訴人Aは,刑務所で懲罰に係る調査をされ,刑務所内でDと顔を合わせられなくなった直後に,Dとの養子縁組の手続を控訴人ら訴訟代理人である海渡雄一弁護士(以下海渡弁護士という。)に依頼しており,養子縁組の後,同弁護士は,控訴人Aに対して,信書の発受が認められたら報告するよう連絡していたのであって,同控訴人とDとは,養子縁組に際して,両者間で信書発受が可能となることを強く意識していたものである。

仮に,Dは,控訴人Aに同性愛感情を有しており,同控訴人と助け合って共に生活しようという意思を持っていたとしても,上記アの
に加え,下記の

ないし



及び

の各事実に照らせば,同控訴人は,Dに同性

愛感情を有しておらず,同人と助け合って共に生活しようという意思を持っていなかったから,養子縁組は無効である。同控訴人は,刑事収容法による信書発受の禁止を潜脱する目的で,Dに対して同性愛関係を持ち掛けて,同人をして助け合って共に生活しようという意思を持つに至らせたものである。
控訴人Aは,大阪刑務所に収容されていた平成19年,同じ居室に収容されていたことがあるE(以下Eという。)と養子縁組を行っていたが,この養子縁組は,同控訴人がEに金銭等の利益を供与することの見返りとしてされたものであり,縁組意思を伴わないものであった。控訴人Aは,甲府刑務所に収容されていた平成25年1月,同刑務所内の工場で共に就業していたF(以下Fという。)に対し,縁組意思がないのに,暴力団による制裁をほのめかす脅迫的言辞を用いて養子縁組を持ち掛けた。
控訴人Aは,平成25年7月頃にも,甲府刑務所の2名の受刑者に対し,縁組意思がないのに,養子縁組を持ち掛けた。うち1名は,ほどなく,同刑務所を出所する予定の者であった。

仮に,控訴人AとDとが,同性愛関係にあり,両名が助け合って共に生活しようという意思を持っており,そのような意思の下に本件養子縁組が行われていたとしても,そもそも,縁組意思は習俗的な標準に照らして親子と認められるような関係を創設しようとする意思でなくてはならず,同性愛関係にある者同士が助け合って共に生活しようという意思は,実質的には同性間の婚姻をするという意思ともいうべきであり,縁組意思とはいえないから,このような意思の下に行われた本件養子縁組は無効である。
(被控訴人の主張に対する控訴人らの認否及び反論)
控訴人AとDとの本件養子縁組が無効であるとの主張は争う。

被控訴人の主張アについて
被控訴人の主張アの

AとDが府中刑

務所において初めて知り合った事実,及び同控訴人がDとの養子縁組の手続を海渡弁護士に依頼した際のやり取り等に係る事実は認め,その余の事実は否認する。
以下の

ないし

の各事実に照らせば,控訴人AとDとは同性愛関係に

あり,両名は助け合って共に生活しようという意思を持っていたというべきである。
なお,同控訴人とDとが,養子縁組を行うことによって信書の発受が可能になることを意識するのは,受刑者である縁組当事者にとって自然なことである。
Dは,平成27年2月に海渡弁護士に宛てた手紙の中で縁組したい理由を一言で言いますと,愛しているからですと述べ,また,平成28年6月の同弁護士らとの面談においても,控訴人Aとは同性愛関係にあり,同人のことが好きだから養子縁組をした旨述べていたし,Dは,その父親に対しても,同控訴人と一緒に生活し,同じ会社で働くか家事をしていくという将来の生活設計を述べていた。
控訴人Aは,原審の原告本人尋問において,Dと会って心が通じ,親しくなった旨述べ,海渡弁護士らに宛てた手紙に,Dには自らの出自も話すことができ,互いの寂しさを理解し合えるから,出所後も助け合って生活したい旨記載し,必ずしも関係の良くない自分の母親に対する手紙にも,刑務所から出たらDと一緒に生活したいと記載しており,Dが出所後に暴行事件を起こした際にも,養親として将来にわたって同人を見守る旨の嘆願書を作成していた。
控訴人Aは,Dが死亡した後,海渡弁護士らに対する手紙に,Dの訃報を聞いて,悲しみのあまり食事もとれない状態であるなどと記載し,Dの両親である控訴人B及び控訴人Cに,Dの遺骨の分骨を依頼して,これを受け取っていた。

被控訴人の主張イについて
(被
控訴人の主張に対する控訴人らの認否及び反論)のアのとおりであり,イないし
イの

の各事実は否認する。

の事実については,控訴人AはEとも真に養子縁組をする意思を

有していた。同

の事実については,控訴人AはFを脅迫したことはない。

上記(被控訴人の主張に対する控訴人らの認否及び反論)のアの

及び

の事実に照らせば,控訴人AとDとは同性愛関係にあり,両名は助け合って共に生活しようという意思を持っていたというべきである。

被控訴人の主張ウについて
養子縁組の縁組意思としては多様なものが許されるのであって,広く共に生きるというような意思があれば足りる。同性愛関係にある者同士が助け合って共に生活しようという意思も,養子縁組意思となることは当然である。
なお,縁組意思は,それほど密接な関係を形成する意思である必要はなく,緩やかな関係を形成する意思であっても,認められるべきである。
(控訴人らの主張)
刑事収容法128条は,刑事施設の庁は,犯罪性のある者その他については,受刑者がその者との間で信書を発受することを禁止することができるとしつつ,受刑者の親族を除くと規定しており,受刑者とその親族との信書の発受は禁止することができないと定めている。控訴人AとDとは,本件決定当時,既に本件養子縁組をしており,Dが同控訴人の親族に該当することは明らかであるから,同控訴人のDに対する信書の発信を禁止した本件決定は違法である。
(被控訴人の主張)

本件養子縁組は,以下の

ないし

のいずれかの事由により無効である

から,Dは刑事収容法128条の親族に該当せず,本件決定は違法ではない。
争点⑴の(被控訴人の主張)アと同じ。
争点⑴の(被控訴人の主張)イと同じ。
争点⑴の(被控訴人の主張)ウと同じ。

仮に,控訴人AとDとに縁組意思が認められ,民法上は両名の養子縁組が有効であったとしても,上記アの

及び

で挙げた各事実に照らせば,

同控訴人とDとは,もっぱら刑事収容法による信書発受の禁止を潜脱する目的で養子縁組をした,又は,少なくとも,同控訴人は,もっぱら刑事収容法による信書発受の禁止を潜脱する目的で養子縁組をしたというべきであるから,刑事収容法における親族との外部交通に係る規定を適用する基礎を欠くものというべきであり,信書の発受を禁止した本件決定は違法ではない。
(被控訴人の主張に対する控訴人らの認否及び反論)

被控訴人の主張アについて

控訴人の主張に対する控訴人らの認否及び反論)のアないしウと同じ。控訴人AとDとの本件養子縁組は有効であり,Dは刑事収容法の親族に当たる。

被控訴人の主張イについて
被控訴人の主張イの上記アの

及び

で挙げた各事実に対する認否は,

争点⑴の(被控訴人の主張に対する控訴人らの認否及び反論)のアないしイと同じ。控訴人AもDも,もっぱら刑事収容法による信書の発受の禁止を潜脱する目的で養子縁組をしたものではない。
なお,養子縁組が民法上無効とならない場合に,信書発受を禁止することは,刑事収容法の解釈として許されない。

(控訴人らの主張)
甲府刑務所長は,控訴人AとDとが本件養子縁組をしていることを認識しながら本件決定をしたものであり,同所長に故意又は過失があったことは明らかである。
(被控訴人の主張)
上記争点⑴のア及びイで挙げた各事実に加え,控訴人Aが,本件信書の発信を申請するに当たり,甲府刑務所に対し,Dと同性愛関係にあることを申告しなかった事実に照らせば,甲府刑務所長が,控訴人AとDとの本件養子縁組が縁組意思を欠くものと信じたこと,又は,もっぱら刑事収容法による信書の発受の禁止を潜脱する目的で行われ,信書の発信を禁止することができると信じたことにつき,注意義務違反はない。
(損害の有無及びその額)
(損害の有無及びその額)に関する当事者の主張は,原判決の事実及び理由の第2の4第3
1
のとおりであるから,これを引用する。

当裁判所の判断
当裁判所は,控訴人らの請求は,控訴人Aが,4万円及びこれに対する平成27年6月19日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の,控訴人B及び控訴人Cが,それぞれ1万円及びこれに対する同日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の各支払いを求める限度で理由があるからこれを認容し,その余の請求には理由がないからこれを棄却するのを相当と判断する。その理由は以下のとおりである。

2
認定事実
前記前提事実に加え,以下の各項掲記の証拠等によれば,以下の事実が認められる。
控訴人Aの平成21年までの前科等について
控訴人Aは,昭和62年に14歳の少年2名に対する恐喝により懲役8月の,平成2年に9歳の女児を姦淫し傷害を負わせた強姦致傷により懲役4年6月の,平成6年に15歳と16歳の各少年に対する強制わいせつにより懲役4年6月の,平成12年に17歳の少年に対する恐喝により懲役1年6月の各判決の言渡しを受けて各服役し,平成14年に13歳ないし14歳の少年3名に対する恐喝,うち1名の少年に対する強制わいせつ,別の16歳の少年に対する強制わいせつ及び同少年に対する恐喝未遂により懲役7年の判決の言渡しを受け,同懲役刑の執行のため,平成15年2月から同21年12月まで大阪刑務所に収容された。(乙1,45の1ないし5)
控訴人AとEとの養子縁組に関する経緯について

Eは,平成18年11月から平成20年12月まで大阪刑務所に収容されており,入所時に26歳であり,このときの刑務所の調査に対しては,同性愛の経験がないと答えていた。(乙49,50)


控訴人Aは,

大阪刑務所に収容中,平成19年5月14日から

同月25日まで,Eと同じ居室に収容されていた。(乙21,22,50)ウ
Eは,その頃,同じ棟の受刑者にA組長(控訴人Aを指す)の舎弟になるなどと述べていた。また,同刑務所の担当者は,同月25日ころ,Eが居室内で控訴人Aらから肩もみをされていることを現認し,これを受けて,両名の居室を別にする処置がとられた。
同刑務所の調査専門官は,Eの処遇方針連絡票に,同控訴人は弱者に対して自己の陰茎の口淫を求めているという噂もあり,同控訴人とEとが同衾していたとしても全く驚けない,Eが今後もAと一緒の居室にしてほしいと訴えてくると思われるなどと記載していた。(乙49,50)

その後,控訴人AとEは,行政書士に手続を依頼して,同年12月19日,養子縁組の届出をした。(甲3,控訴人A)


控訴人Aは,Eに対し,平成19年12月20日頃に,養子縁組の手続が難航していて申し訳ない,籍が入るまで発信も叶わないが,今置かれている立場以上の罰を受けることなく頑張ってほしい旨の手紙を,また,平成20年1月には,養子縁組の件がずいぶん遅れたが許してほしい旨の手紙をいずれも送付した。(乙24ないし26)


その後,Eは,控訴人Aに対し,同年2月28日付で『恥ずかしくないだけの銭もたす』言われたから,信用して領置金使ってしもうて,一切手持ち金ないですから,責任とって下さい。養子縁組に弁護士使って銭かかったんか知りませんが,値打ちのつけるところと違うのではないですか。

信用したばっかりに,年末に一文無で出所せなあかんので,最低限3万円は責任とって下さい。

などと記載した手紙を送付し,同年●月●日付けで,高知地方裁判所に,同控訴人とその実母,養子縁組の手続を行った行政書士を被告として,無断で養子縁組をされ,身体的精神的苦痛を被ったとして,300万円の損害賠償を求める民事訴訟を提起した。(乙27,29,51,52の1,19)

控訴人Aは,Eに対し,平成20年5月8日に,離縁届を早急に記入し返信して欲しい旨の手紙を送付したが,Eは,同控訴人に対し,同月12日付け及び同年6月11日付けで,同控訴人がEを騙したと責める内容の手紙を送付し,同年7月には同控訴人の母に対しても,同控訴人との養子縁組には同意していない旨の手紙を送付した。(乙30,52の18,20及び21)。


上記カの民事訴訟は,その後大阪地方裁判所堺支部に移送され,Eは,同訴訟の準備書面において,控訴人AとEとの間に養子縁組の合意がないと主張し,陳述書において,同控訴人から,同控訴人が暴力団の組長であり,Eの出所後に不動産会社や飲食店の経営を任せる,受刑中も不動産会社の従業員としての給与を保証するなどと言われて形だけの養子縁組をした旨述べ,これに対して,同控訴人は,答弁書及び準備書面において,同控訴人とEは,拘禁独居収容中にお互い意気投合して養子縁組をした,縁組届は,Eも同意して記入したと主張していた。同裁判所は,同年12月15日,Eの請求をいずれも棄却する判決を言い渡し,同判決は確定した。(乙51,52の2及び11ないし15,53)


控訴人Aは,平成20年中に,Eに対し,離縁等を求める家事調停申し立てたが,同事件は同年8月調停をしない措置により終了し,同年9月には,Eが,同控訴人を被告として養子縁組の無効確認を求める人事訴訟を提起し,また,平成21年3月には,同控訴人が,Eを被告として離縁を求める人事訴訟を提起したが,いずれも訴えの取下があったものとみなされて終了した。同控訴人は,平成22年4月,Eに対し,養子縁組の無効確認を求める家事調停を申し立てたが,Eが出頭せず調停不成立となり,同年8月,Eを被告として,主位的に養子縁組の無効確認を,予備的にEとの離縁を求める人事訴訟を提起し,これに対して,Eは,同年11月,同控訴人の請求をいずれも認諾する旨の答弁書を提出し,同控訴人は,同年12月に離縁の届出をして,両名は離縁した。(甲3,乙51)コ
Eは,平成21年7月から平成23年9月まで京都刑務所に収容されたが,収容の際,同人からの聴取等に基づき作成された身上調査書には

H19・12(前刑中),同室者のAと養子縁組。Aとは同性愛関係にある。Aは現在,大阪刑務所在所中。現在は関係が悪化しているため,外部交通は希望しないと言う。

と記載され,同刑務所の健康診断簿の既往歴欄には同性愛大刑で今の養父と同性愛関係と記載され,同じく処遇調
査票には前刑時の同室者と同きん行為の末養子縁組したと申告しているとも記載されていた。(乙50)
控訴人Aの甲府刑務所への収容について


控訴人Aは,平成23年1月18日,13歳の少年に対して反抗を抑圧して強いてわいせつな行為をし,12歳の少年に対して反抗を抑圧して強いてわいせつな行為をしたことにより懲役8年の判決の言渡しを受け,同判決は確定した。(乙2)
なお,上記2名の少年に対するわいせつ行為は,いずれも同人らの陰茎を手淫したり,同人らの肛門に自己の陰茎を押し当てるなどしたものであ
せつ及び平成12年に判決を言い渡されたうちの2名の少年に対する強制わいせつも、同人らの陰茎を手で弄んだり,同人らの口腔内に自己の陰茎を挿入したり,同人らの肛門に自己の陰茎を挿入したりなどしたものであった。

控訴人Aは,同年2月,上記アの懲役刑の執行のため,八日市場拘置支所から千葉刑務所に移送され,その後,川越少年刑務所,前橋刑務所を経て,平成24年9月,甲府刑務所に移送された。(乙1)


甲府刑務所は,控訴人Aの入所の際,同人に係る処遇調査票を作成したが,同票には,犯罪性の特徴として12,13歳の男児に対するわいせつ行為の反復と記載されていた。また,控訴人Aは,甲府刑務所の担当者に対して自分が同性愛者である旨の申告はしなかった。(乙2,46)控訴人AからFへの養子縁組の持ちかけについて


控訴人Aは,平成25年7月上旬から同年9月まで,甲府刑務所において,受刑者であるFを含む3名と同じ居室に収容されていたが,同年8月3日ころ,Fに対し,出所後どうするのかと尋ね,Fが両親は他界しているので親戚の所に行くつもりであるなどと答えたところ,もし行く所がなければ自分の所へ養子に入らないかと述べて,養子縁組をしようと持ちかけた。Fは,その場では,考えさせてくださいと答えたが,その後,断りたいと述べたところ,同控訴人は,断るならば住んでいる場所を探して追い込みを掛けるぞなどと述べた。
この当時,Fは,他の複数の受刑者から,同控訴人には同性愛の傾向があると聞いており,そのように認識していた。(乙31の1,32,33,47,F)


控訴人Aは,平成25年9月5日,八王子医療刑務所に移送され,同年10月24日,再び甲府刑務所に戻された。(乙1)


控訴人Aは,同年10月28日,甲府刑務所の工場の作業で一緒になったFに対し,養子縁組の返事はどうするんだなどと申し向け,Fは,

すいません。やめさせてもらいます。

と応答した。同控訴人は,同日にFに対して刑務作業を拒否するよう強要したとして,同年11月21日,閉居15日の懲罰を受けた。(乙23,31の1及び2,33,34の1,35の1,47)
Dの府中刑務所への収容について

Dは,平成9年9月から同10年2月まで,同年10月から平成12年3月まで,同年7月から平成15年1月まで,平成17年2月から同21年10月までそれぞれ刑事施設に収容され,その後,平成23年8月4日に8歳の男子児童を誘い出して自己の支配下に置いた未成年者誘拐により,平成24年8月6日、懲役4年の刑が確定した(乙1,16)。


Dは,同年10月24日,上記アの懲役刑の執行のため,横浜刑務所横浜拘置支所から川越少年刑務所に移送され,同年11月30日,府中刑務所に移送された。府中刑務所は,Dを収容する際,同人に係る処遇調査票を作成したが,同票には,犯罪の動機・原因として,10代の頃から子どもが好きで,中学生頃から子ども相手のわいせつ事案をやっている。当時から対象は小学生だった。自分では男女どちらでもいいと思っているが,実際にわいせつ行為を行ったり,YouTubeで動画(括弧内略)を見ていると,男児の方が興奮するので,最近では,自分は男の子が好きなのかなと思う。との記載がされ,犯罪性の特徴として

児童誘拐を反復している。

との記載がされていた。(乙1,16)控訴人AとDとの養子縁組に関する経緯について


控訴人Aは,平成26年4月10日,特別改善指導の性犯罪再犯防止指導(高密度)受講のため,甲府刑務所から府中刑務所に移送され,同月22日から同刑務所の第32工場で就業し,同改善指導を受講した。他方,Dも,特別改善指導の性犯罪再犯防止指導(高密度)を受講することとなり,同月21日から,府中刑務所の第32工場で就業し,同改善指導を受講した。
なお,両名とも,指導密度は高密度とされ,再犯のリスク及び性犯罪につながる問題性が大きい者として,指導の全科目を受講させることとされていた。(甲8,乙1,14,15,17,43)

性犯罪再犯防止指導の標準プログラムは,性犯罪につながる自己の問題性を認識させ,その改善を図るとともに,再犯しないための具体的な方策を習得させることを目標とし,自己統制,認知のゆがみと変容方法,対人関係と親密性,感情統制,共感と被害者理解などの科目について,グループワーク及び個別に取り組む課題を中心とする方法で行われ,このうちグループワークは,概ね8名程度の対象者及び各回2名程度の指導者によって構成するグループで行われる。府中刑務所においても,当時,受刑者30人余りを集めて,同プログラムが行われた。


控訴人AとDとは,これまでに交友関係はなく,府中刑務所における上記改善指導の受講の際に初めて出会い,同月22日から下記エの同年10月27日まで,共に同刑務所の第32工場で就業し,入浴や運動,グループワークを含め上記指導プログラムの受講を共にした。工場での作業台は隣同士であり,食事や休憩時間のテーブルも同卓であって,休憩時間に会話をするなどして交流していた。(甲8,乙42,44,控訴人A)


控訴人Aは,同年10月27日,工場の作業検査係の受刑者に対して,未完成品を持っていくように語気強く申し向けるという他人を困惑させる言動により調査されることになり,その後,同年11月13日,この反則行為により閉居15日の懲罰を課された。(乙4,18)


控訴人Aは,同年11月5日,海渡弁護士に手紙を出し,Dとの養子縁組手続を行うことを依頼した。この手紙には,Dについて

私の今回の服役生活に於て,私の過去から現在までを充分に理解し承諾し,私も相方のことを同様以上な程,理解と承諾を深める受刑の人がいます。

私もDも同様の気持ち,意見で一致しておりますが,(中略)お互いに支え合い,良きパートナーとして社会に根付きたいと強く抱いております。

他の誰よりもDを大切にし助け守りたい存在となっておりますと記載されていた。(甲29,乙5)

海渡弁護士は,同月7日,上記オの手紙に対して,控訴人AとDの犯罪事実の内容,同控訴人の受けている懲罰の内容,二人がどこで知り合い,どういう話合いの結果養子縁組をすることにしたか,2人で今後どのように助け合っていくつもりかなどの質問を記載した手紙を同控訴人に送付した。(甲1)


控訴人Aは,同年12月1日付けで,海渡弁護士に対し,上記カの質問に答える手紙を送り,その中で,同控訴人とDの犯罪事実等については虚偽の記載をしたものの,自分とDとの関係については,府中刑務所の工場作業場で隣となり,その日から運動,入浴等を共にし,教育改善指導プログラムの受講も一緒であり,お互いの微妙な部分もすべてさらけ出した上,出所後の計画などを話し合い,自分から,助け守り支えてあげたいから,自分と養子縁組をして新しい生活基盤を作ろうと話し,Dから,家族であるだけで嬉しい,お願いしますと承諾を得た旨記載していた。(甲2の2の2)


控訴人Aは,同月15日,性犯罪再犯防止指導除外により,甲府刑務所に移送された。(乙1)


海渡弁護士は,平成27年2月12日,Dに対して手紙と養子縁組届,委任状用紙及び返信用封筒を送付し,控訴人Aから養子縁組の手続を依頼されたことを伝えると共に,Dがこれからの人生を同控訴人と二人で,助け合って歩んでいきたいという気持ちであるなら,同封の養子縁組届に署名押印をして,返送するよう依頼した。(甲30)


海渡弁護士は,同月13日付けで,控訴人Aに対して手紙を送付し,Dに上記ケのとおり手紙と養子縁組届等を送ったことを伝え,Dから返送があれば,このまま届出をしてよいかを確認した。(甲13)

控訴人Aは,同月26日,海渡弁護士に対して手紙を送付し,自分への手紙が転送されない場合であっても,手続を進めるよう,また,手続の完了後には戸籍謄本2部を自分とDに送付するよう依頼した。この手紙の中で,同控訴人は,海渡弁護士に対し,Dへの手紙に,養子縁組をすることで,受刑者であっても手紙や面会が自由となることを明確に記載してほしい旨の申入れをしていた。(乙20)。


Dは,同月18日付けで,海渡弁護士に対し,手紙と共に,同弁護士から送られた養子縁組届や委任状に署名押印をして返送した。これらは,同年3月13日に海渡弁護士の元に到達し,手紙には,縁組の手続をしてもらえることへのお礼と共に,控訴人Aと養子縁組をした理由について

一言で言いますと,愛しているからです。

との記載がされていた。(甲11,32)


海渡弁護士は,同年5月8日,控訴人A及びDの代理人として養子縁組届出を提出し,同届出は受理され,海渡弁護士は,同日,その旨を控訴人A及びDに伝える文書を送付した。(甲33,34)


海渡弁護士は,同月26日付けで,控訴人A及びDに対して,手紙と養子縁組後の戸籍謄本を送付した。手紙には,養子縁組後の戸籍ができたこと等と共に,

これで,交通が認められることになるでしょう。交通が認められたらご報告下さい。

との記載がされていた。同控訴人は,同月27日にこれを受領した(乙6.甲10)
本件処分に至る経緯について


控訴人Aは,平成27年5月29日,Dを親族として追記するように求める親族等追記願を提出した。甲府刑務所は,同日,同控訴人の親族等申告書(信書の発受用)にDの氏名等を記載したが,同年6月15日付けで同氏名等の記載に実線を引いて抹消し,外部交通目的の養子縁組のためと付記をした。(乙7,8)

控訴人Aは,同月9日,D宛ての本件信書の発信申請を行った。本件信書には,海渡弁護士や数人の弁護士についての自分が承知しているこれまでの仕事振り,Dが先に出所した際の就業や居住先についての助言,Dの出所から自分の出所までの間にDが再犯をして服役することがないよう守るべき注意事項,困ったことが生じたら海渡弁護士に相談するようにという助言が記載されていた。(乙3,甲54の1)


海渡弁護士は,同年6月11日,甲府刑務所長に対して要請書と題する書面を送付した。同書面には,同弁護士が控訴人AからDとの養子縁組手続の依頼を受けた経緯,同弁護士は同控訴人とDが真摯な合意に基づいて養子縁組をしたと認識していることが記載され,刑事収容法の規定に基づき,同控訴人とDとの間の信書の発受を認めるよう求めると共に,同控訴人の親族等追記願を受理するようを求める旨の記載がされていた。(甲2)

甲府刑務所長は,同月15日,上記イの本件信書の発信につき本件決定をし,同月18日,控訴人Aにこれを告知した。本件決定の際に作成された信書検査処理票には,同控訴人とDとは,平成26年4月22日から府中刑務所の特別改善指導を共に受講していたものであり,同年11月5日,同控訴人から海渡弁護士に,同控訴人とDとの養子縁組の手続が依頼され,同弁護士がこれを受任し,平成27年5月27日,同弁護士から,養子縁組が成就したことを知らせ,交通が認められたら報告するよう求める連絡があったこと,及び同控訴人とDとは,上記の府中刑務所までには実社会においても交友関係があったとは認められないことが記載され,これらを理由に,両名の養子縁組は民法が本来想定している扶養・相続等の良好な親族関係を維持する目的で行われたものではなく,専ら刑事施設内で知り合った受刑者同士が,外部交通を確保する目的で養子縁組を締結したことが強く推認できると記載されていた。
なお,本件信書の内容については,刑事収容法128条ただし書の重要用務処理に該当するものではない旨の記載がされていたが,受刑者の矯正処遇の適切な実施に支障が生ずるおそれがあるといった記載はされていなかった。(乙3)
本件処分後の経緯について

Dは,平成27年6月17日頃,海渡弁護士に対して手紙を送付した。この手紙には,養子縁組の手続をしてもらったことへのお礼に加え,Dから控訴人Aへの発信が刑務所に許可されなかったこと,このまま許可されないと,自分の出所後の生活について同控訴人と相談できないのを心配していることなどの記載がされていた。(甲35)


控訴人Aは,同月18日付で,本件決定の取消しを求める審査の申請を行った。これに対し,東京矯正管区長は,同年8月12日,同審査の申請を棄却する裁決をした(甲5の1)。


控訴人Aは,同月15日付で,上記イの裁決に不服があるとして再審査の申請を行った。これに対し,法務大臣は,同年11月9日,同再審査の申請を却下する裁決をした(甲5の2)。


控訴人Aは,同年9月1日付で,服役前に勤務していたタクシー会社の上司であるGに対し手紙を送付した。同手紙には,同控訴人がDと養子縁組をしたことを報告し,同控訴人の母親や妹,叔父からは養子縁組に反対されているが,Dと助け合い協力し合って再び刑務所に入ることがないように共に生活しようと思っていることなどの記載がされていた。
控訴人Aは,このGへの手紙に先立つ頃,実母であるHに手紙を送付し,刑務所で出会ったDと養子縁組をして,刑務所を出たら一緒に生活したいと望んでいる旨知らせていたが,実母は,これに反対である旨応答していた。(甲49,50)

控訴人Aは,平成27年10月29日,八王子医療刑務所に移送された。同控訴人は,同月20日、Dを親族として申請する親族申告票を提出し,同年11月4日,同申告に係る可否の判断の教示を求める教示願を提出した。これに対し,同刑務所副看守長は,同刑務所では,平成27年5月8日付で養子縁組した養子と認めている旨通知をした。ただし,同刑務所の視察表と題する書面においては,同養子縁組は外部交通を確保する目的でされたものと認められるから,刑事収容法で規定した重要用務処理に該当するもの以外の外部交通を禁止するとの方針が記載されていた。(乙1,37,38)


控訴人Aは,同年12月1日,甲府刑務所に移送された。(乙1)

控訴人A及びDは,同月24日,本件訴えを提起した。(弁論の全趣旨)
本件訴え提起後の状況


Dは,平成28年1月13日,府中刑務所を出所した。(乙1)


海渡弁護士と同じく控訴人ら訴訟代理人である川上資人弁護士(以下川上弁護士という。)は,同年5月2日,甲府刑務所を訪れ,控訴人Aと初めて面会した。その際,同控訴人は,Dとの関係について同性愛関係かを尋ねられたのに対し,これを否定した。(甲37)


Dは,同年6月18日

海渡弁護士の事務所で同弁護士らと面談し,養

子縁組の理由について

Aのことが好きでしたから,Aと一緒になるにはそういう方法しかないと思うようになりました。

と述べた。(甲7)エ
Dは,同年7月11日,器物損壊被疑事件により逮捕され,翌12日の取調べにおいて,警察官に対し,

私は去年の5月に苗字をB´から,A´に変えています。理由は刑務所で出会ったAさんという男性と恋仲になり,結婚したかったけど,法律で出来なかったので,その人と養子縁組したからです。

と述べていた。(甲38)オ
海渡弁護士と川上弁護士は,平成28年8月16日,甲府刑務所を訪れ,控訴人Aと面会した。その際,同控訴人は,Dとの関係が同性愛関係であることを肯定した。(甲37)


控訴人Aは,同年9月27日付で,Dの上記エの刑事事件についての嘆願書を作成した。その中には,Dが自分の養子であること,Dと知り合ったいきさつや今後Dと支え合って生活していくつもりであること,自分がDに再犯をさせないよう努力することなどの記載がされていた(甲16)。

Dは,同年11月12日付で反省文を作成した。その中には,暴行事件に対する反省の弁と共に

Aさんとの手紙のやり取りが認められず,さみしかったです。

との記載がされていた。(甲17)

Dは,同年12月15日頃から,横浜拘置支所において容態が悪化し,同月22日,搬送先の病院で死亡した。


控訴人Aは,同日,電報でDの訃報を知り,同月26日に海渡弁護士らに手紙を送付した。手紙には,悲しみのあまり食事もとれない状態となり,人間の抜け殻のような状態になっているとの記載がされていた。
同控訴人は,控訴人B及び控訴人Cに対して,Dの分骨を依頼し,その分骨を受けた。(甲22,52,55)


控訴人Aは、平成30年8月31日,甲府刑務所を出所した。(弁論の全趣旨)

3
(控訴人Aの訴えの適法性)について
控訴人AとDとの間の本件養子縁組が無効かどうか。

まず,被控訴人は,控訴人AとDとは同性愛関係にはなかったのであり,縁組意思を持ち合うほどに親密ではなかったから,同控訴人もDも,助け合って共に生活しようという意思を持ってはいなかった,両名は信書発受の禁止を潜脱する目的で養子縁組を行った旨主張するので,この点について検討する。
控訴人Aの性的傾向について
確かに,控訴人Aは,甲府刑務所に入所の際,自分が同性愛者である旨の申告をしておらず,同刑務所では,同控訴人の犯罪性の特徴を12,13歳の男児に対するわいせつ行為の反復と認識していたし(前記認定事実⑶ウ),原審の本人尋問においても,同控訴人は,Dとの関係以前に同性の恋人がいたことはなく,平成26年4月に府中刑務所で特別改善指導を受けて,初めて自分が同性愛者であると認識した旨述べている。
しかしながら,まず,同控訴人が犯した平成6年から同23年までの強制わいせつの各犯行は,12歳から16歳までの少年に対するものであるとはいえ,男性に対して,その陰茎を手で弄んだり,その口腔内に自己の陰茎を挿入したり,その肛門に自己の陰茎を挿入したり押し当てたりなどしたものであり(同⑴,⑶ア),これらの犯行から,同控訴人が同性を性的行為の対象としていたことが明らかに見て取れる。また,後記

に説示するように,大阪刑務所に収容されていた当時,同控訴

人とEとは養子縁組を行っていたが,このとき,同控訴人とEとは同性愛関係にあったものと認められ,同控訴人は成人男性と同性愛関係にあった経験を有するものである。さらに,平成19年当時の大阪刑務所において,刑務所の職員は,同控訴人が他の同性の受刑者を性的行為の対象としているという噂に信ぴょう性があると認識していたものであり(同⑵ウ),平成25年当時の甲府刑務所においても,複数の受刑者が,同控訴人には同性愛の傾向があると認識していたものである(同⑷ア)。以上によれば,同控訴人に同性愛の性的傾向があることを認めることができる。
なお,同控訴人は,原審の本人尋問において,Dとの関係以前に同性の恋人がいたことはなく,特別改善指導で初めて同性愛者であると認識した旨述べているが,上記説示のとおりであって,この供述は信用することはできない。この供述は,当時,同性愛関係にあったDへの配慮等から,真実を述べなかったものと思われる。また,甲府刑務所入所の際,同性愛者であると申告していないが,刑務所における処遇を慮って,その旨の申告をしないことも不自然とはいえないし,同刑務所が同控訴人の犯罪性を12,13歳の男児に対するわいせつ行為の反復と認識していたことも,上記説示を左右するものとはいえない。
Dの性的傾向について
Dが犯した平成23年の未成年者誘拐の対象は男子児童であるし(同⑸ア),平成24年11月に府中刑務所に収容された際の調査において,自ら,対象は子どもであるものの,わいせつ行為を行ったり,動画を見たりしていると,男児の方が興奮するので,自分は男の子が好きかと思う旨述べていること(同⑸イ)に照らせば,それまでは年少者を対象とするものではあったが,Dにも,同性愛に親和的な性的傾向を認めることができる。
控訴人AとDとの交流について
控訴人AとDとは,それまでは交友関係が無かったものではあるが,平成26年4月22日から,府中刑務所において,いずれも特別改善指導の性犯罪再犯防止指導(高密度)を受講することとなり,同じ工場で就業し,同指導プログラムのグループワークや個別課題を共に受講し,入浴や運動を共にし,食事も同卓で,休憩時間に会話をするなど交流するようになり,それは同年10月27日まで,6か月余り続いたものであり(同⑹ア~エ),上記プログラムは,性犯罪につながる自己の問題性を認識させることも目標としているものであり(同⑹イ),そのことも踏まえると,同控訴人とDが,お互いの性的傾向に気付き,互いに親交を深めて,刑務所職員の目を盗んで,手を握り合ったり,軽く抱き合ったりといった一定程度の身体的接触も持つようになることも,自然なことといえ,6か月という期間があれば,両名が同性愛関係となり,後互いに助け合って共に生活しようという
意思を持つに至るのも自然なことといえる。
ところで,同控訴人とDとの身体的接触について,同控訴人は,原審の本人尋問において,同控訴人とDは,府中刑務所のグラウンドや体育館で,連日のように,50~60回程度,手を握り合ったり,体を抱き合ったりしたが,刑務所職員からは黙認されていた旨述べており,Dは,グラウンドや体育館で手を握り合ったり,抱き合ったりするようになった,同控訴人からハグされたなどと陳述している(甲7)。これに対して,刑務所職員は,両名が,グラウンド及び体育館における運動時間中,一緒に歩きながら話しているのは見た記憶はあるが,手を握り合ったり,体を抱き合ったりしているのを見た記憶はないと陳述し(乙42),刑務所職員としては,仮に,そのような状況を現認した場合には,黙認することはなく,必ず注意又は指導すべきとされているとも陳述しており(乙41,42),これら刑務所職員の陳述は,刑務所が矯正施設であることに照らしても,信用することができる。もっとも,刑務所職員も,グラウンド及び体育館における運動時間中,両名が一緒に歩きながら話しているのを見ており,両名は一定程度親密に交流していたものといえ,

に説示するような両名の性的傾向をも併せ考え

ると,刑務所職員の目を盗んで,手を握り合ったり,軽く抱き合ったりしたことがあったことまでは認めることができると考える。同控訴人が,原審の本人尋問において,連日のように,50~60回程度,身体的接触をしていたと述べ,これを刑務所職員から黙認されていたと述べる部分については,Dもそのようには陳述しておらず,信用することができない。
控訴人AがDに対して持っていた意思について
控訴人Aは,海渡弁護士に対して,養子縁組手続を依頼した当初から,同控訴人とDとは互いに理解し合える関係で,同控訴人はDと支え合い,助け合って,良きパートナーとして生きたいなどという意思を持っている旨述べていたものであり(同⑹オ,キ),同控訴人とDとが同性愛関係にあることについては,一旦は否定したものの,平成28年8月には,これを肯定したものである(同

イ,オ)。そして,同控訴人

は,原審の本人尋問において,同控訴人とDとは同性愛関係にあり,精神的に支え合う家庭環境を作りたい旨述べている。
また,同控訴人は,実母に対して,刑務所で出会ったDと養子縁組をして,刑務所を出たら一緒に生活したい旨の手紙を送付し,実母から,これに反対である旨の返事をされていたものであり(同⑻エ),服役前の勤務先の上司に対して,Dと養子縁組したことを報告し,母親や妹等からは反対されているが,助け合い協力し合って共に生活しようと思っている旨の手紙を送付していたものである(同⑻エ)。加えて,同控訴人がDに出そうとした本件信書には,海渡弁護士に関することのほか,先に出所した際の就業や居住先についてのDへの助言や再犯をしないよう守るべきDへの注意事項等が記載されていたものであり(同⑺イ),同控訴人がDの新たな刑事事件について作成した嘆願書には,Dを支えて生活していくつもりであり,再犯させないよう努力すること等が記載されていたものである(同

カ)。

以上の事実関係に照らせば,同控訴人がDに対して同性愛感情を有しており,Dと助け合って共に生活しようという意思を持っていたと認めることができるといえる。
ところで,被控訴人は,同控訴人は,Dとの間の信書発受禁止を潜脱しようという意思を持っていたもので,Dと助け合って共に生活しようという意思は持っていなかったと主張する。確かに,同控訴人の原審の本人尋問における供述は,いくつかの部分で信用することができず(前記

),また,同控訴人は海渡弁護士に対しても,

虚偽の申述をしていたこともあり(前記認定事実⑹キ),このような同控訴人にあっては,Dに対して持っていた意思の点についても,同控訴人の供述等に依拠して上記のとおり認定してよいのかが問題となり得る。しかしながら,前述のとおり,同控訴人は,実母や服役前の勤務先の上司に対しても,Dと養子縁組をして共に生活しようと思っていることを手紙で知らせており(同⑻エ),そのような意思がないのに,このように実母や元の上司に知らせる行動を取るとは考えられず,Dとの信書発受の禁止を潜脱する目的であれば,実母らに知らせる必然性はないと考えられる。また,前述のとおり,Dに対する本件信書の内容は,同人の生活への助言等であり(同⑺イ),Dの刑事事件に係る嘆願書の内容は,同人に再犯をさせないとの誓約等であり(同

カ),いずれも同

控訴人がDの生活自体に関わろうとするものであるといえる。これらを併せ考えれば,同控訴人はDと助け合って共に生活しようという意思を持っていたと認定できるところである。
Dが控訴人Aに対して持っていた意思について
Dは,海渡弁護士が控訴人Aとの養子縁組につき受任するに当たり,同弁護士から,その意思を確認された際,同控訴人と養子縁組する理由は同控訴人を愛しているからである旨応答していたものであり(同⑹シ),平成28年6月にも,同弁護士らに対し,同控訴人のことが好きだったので,一緒になるのに養子縁組しか方法がないと思った旨述べていたものである(同

ウ)。

また,同年7月に,新たな刑事事件で逮捕された際の警察官の取調べにおいても,刑務所で出会った同控訴人と恋仲になり,法律で結婚できなかったので,養子縁組をした旨述べていたものである(同

エ)。

以上の事実関係に照らせば,Dが同控訴人に対して同性愛感情を有しており,同控訴人と共に生活しようという意思を持っていたと認めることができるというべきである。
控訴人AとDとが信書発受を意識していたことについて
確かに,控訴人Aは,海渡弁護士に対し,Dへの手紙に,養子縁組をすることで,受刑者であっても手紙や面会が自由になることを明確に記載してほしい旨申し入れていたし(同⑹サ),同弁護士から,同控訴人とDに対し,養子縁組ができたので,交通が認められたら報告するよう求めていたものである(同⑹セ)。また,同控訴人は,その言動に係る調査のため,Dと刑務所内で会えなくなった直後に,海渡弁護士に養子縁組について依頼しており(同⑹エ,オ),Dとの養子縁組ができると,すぐさま刑務所に親族等追記願を提出し,間を置かずに,Dに本件信書を発信しようとしていたものである(同⑺ア,イ)。これらの事実関係に照らせば,同控訴人とDとが,養子縁組をする際に,養親子間では受刑者であっても信書の発受が自由になることを意識していたと推認することができる。
しかし,他方で,上記

説示のとおり,同控訴人とDとが同性

愛関係にあり,両名が互いに助け合って共に生活しようという意思を持っていたと認めることができるところであり,そのような関係,意思を有していたとすれば,同控訴人とDとが,信書の発受が自由にできることを欲することも自然であるといえるから,信書発受の点を意識していたことが,上記の関係や意思を否定する理由にはならない。また,前述のとおり,Dに対する本件信書の内容は,同人の生活への助言等であり(同⑺イ),やはり,上記の関係や意思に基づき,そのような内容の信書を発出しようとしていたものと理解することができる。
そうすると,上記の信書発受の点を意識していたことがあるからといって,両名が信書発受の禁止を潜脱する目的で養子縁組を行ったとの被控訴人の主張を採用することはできない。
結局,控訴人AとDとは,同性愛関係にあり,助け合って共に生活しようという意思を持っていたと認めることができる。

次に,被控訴人は,控訴人AとEとの間の出来事,同控訴人とFとの間の出来事等にも照らせば,同控訴人はDに同性愛感情を有しておらず,助け合って共に生活しようという意思を持っていなかった,同控訴人は,信書発受の禁止を潜脱する目的で,Dに同性愛関係を持ち掛けたものである旨主張するので,この点について検討する。
控訴人AとEとの関係について
被控訴人は,控訴人AとEとの養子縁組は,同控訴人がEに金銭等の利益を供与することの見返りとしてされたもので,縁組意思を伴わないものであった旨主張する。
確かに,Eは,養子縁組をした後,同控訴人に対して,金銭を供与してくれる約束であったのに,これを果たさないとして,金銭の無心をする手紙を出しており(前記認定事実⑵カ),その後に同控訴人に対して起こした損害賠償請求訴訟においても,同控訴人から会社や店舗の経営を任せる,給与を保証すると言われて形だけの養子縁組をした旨の陳述をし(同⑵ク),他にも,養子縁組の無効確認を求める訴訟も提起していたものであるから(同⑵ケ),これらEの言動からすると,同控訴人がEに金銭等の利益を供与することの見返りとして養子縁組がされたかのようにもみえないではない。
しかしながら,同控訴人とEとは,大阪刑務所で,10日余りの間,同じ居室に収容されていたことがあり(同⑵イ),このとき,Eは同控訴人から肩もみをされていたこともあり,また,Eは,他の受刑者に対し,同控訴人の舎弟になると述べていたこともあったものであり(同⑵ウ),これらを踏まえて,同刑務所の調査専門官は,同控訴人が他の同性の受刑者を性的行為の対象としているという噂に信ぴょう性があると認識した上で,同控訴人とEが同衾していたことも,Eが今後同控訴人との同室を希望することもあり得ると考えていたものである(同⑵ウ)。また,Eは,その後に京都刑務所に収容された際,同刑務所に対して,前刑の受刑中,大阪刑務所で同室者であった同控訴人と同衾し,同性愛関係となり,養子縁組をした旨申告していたものである(同⑵コ)。そして,同控訴人は,養子縁組の手続が難航していた際,Eに対し,そのことを謝罪し,養子縁組ができるまで,罰を受けることなく頑張るよう励ます手紙を出しており(同⑵オ),また,同控訴人は,上記のEが起こした損害賠償請求訴訟において,同控訴人とEは大阪刑務所においてお互い意気投合して養子縁組をした旨主張していたものである(同⑵ク)。これらの事実関係,殊にE自身が京都刑務所に対して同控訴人との同性愛関係を申告していた事実と大阪刑務所の職員が同控訴人とEとの関係を同性愛関係であり得ると考えていた事実に照らせば,同控訴人とEとは同性愛関係にあったものであり,その上で合意の上で養子縁組をしたものと認めることができるというべきである。
なお,上述のように,Eと同控訴人とは金銭等の供与をめぐって紛争となったものであるが,上記認定のような経緯で養子縁組がされた場合であっても,その過程で,同控訴人が経済的支援を約束するとか,あるいはEが経済的支援を受けられると考えるとかということも想定できるのであって,上記紛争があったことが,上記認定を左右するものとはいえない。
控訴人AとFとの関係について
被控訴人は,控訴人Aが,甲府刑務所で,Fに対して,縁組意思がないのに,脅迫的言辞を用いて養子縁組を持ち掛けた旨主張する。確かに,同控訴人は,同室のFに対して,自分との養子縁組を持ち掛け,Fが,一旦は考えさせてくださいと答えた後,断りたいと述べたのに対し,断るならば居所を探して追い込みを掛けるなどと述べたものであり(同⑷ア),脅迫的言辞を用いて養子縁組を持ち掛けた事実は認めることができる。
なお,この点,控訴人Aは,原審の本人尋問において,同控訴人が,Fに対し,同室の高齢受刑者の食事を取り上げていたのを注意したことから,その腹いせにFが虚偽の事実をでっちあげたものである旨供述する。しかしながら,Fは当審における証人尋問においても,一貫して前記事実認定のとおりの証言を行っている上,控訴人A及びFと同室の2名の受刑者(そのうちの一人は同控訴人がFに食事を取り上げられていたと述べる者ということになる。)及び同じ工場で就業していた受刑者も,これと同旨の供述を行っており(乙32.33,35の1),これらの供述には不自然なところはなく,信用することができるといえ,したがって,同控訴人の上記供述は信用することができない。
もっとも,同控訴人は,Fに対し,出所後の行き先を尋ね,Fから両親は他界していて親戚の所に行くと聞き,もし行く所がなければ自分の養子に入らないかと申し向けたものであり(同⑷ア),このようなやり取りに加え,Fは,同控訴人に同性愛の傾向があると認識していながら,このとき,養子縁組について考えさせてくださいと応答していたものであり(同⑷ア),同控訴人からの養子縁組の持ち掛けを同性愛関係に関わるものと受け止めていたとも推認できることにも照らせば,脅迫的言辞を用いていたからといって,同控訴人がFに養子縁組を持ち掛けた目的が信書発受の禁止を潜脱することにあったとまでは認めることができない。
控訴人Aと他の2名の受刑者との関係について
被控訴人は,控訴人Aが,甲府刑務所のF以外の2名の受刑者に対しても,縁組意思がないのに,養子縁組を持ち掛けた旨主張する。
確かに,Fは,当審における証人尋問において,これに沿った証言をするが,この証言は,同控訴人が養子縁組を持ち掛けているところを自ら目撃したというものではなく,他の受刑者からそのように聞いたという伝聞に止まるものであるし,Fの証言では,2名のうち1名は実際に養子縁組をしたと聞いたとされるが,これは客観的事実と整合しないものであるから,この証言に基づいて上記の事実を認めることはできず,他に,これを認めるに足りる客観的な証拠はない。
同控訴人が,甲府刑務所において他の2名の受刑者に養子縁組を持ち掛けていたという事実を認めることはできない。
以上のとおりであるから,被控訴人の主張する出来事を理由に,控訴人Aは,Dに同性愛感情を有しておらず,Dと助け合って共に生活しようという意思を持っていなかったと認めることはできない。上記アのとおり,同控訴人とDとは,同性愛関係にあり,双方が助け合って共に生活しようという意思を持っていたと認めることができる。

次に,被控訴人は,同性愛関係にある者同士が助け合って共に生活しようという意思は,実質的には同性間の婚姻をするという意思ともいうべきであり,習俗的な標準に照らして縁組意思とはいえない旨主張するので,このような場合に縁組意思があるといえるかについて検討する。
縁組意思について
民法上の養親子の適格要件は,未成年者を養子にする場合以外では,養親が成年であること(792条),養子が年長者又は尊属でないこと(793条)であり,養子が成年であっても,養子と養親との間に年齢差がなくてもよいとされている。他方,養子縁組による民法上の法律効果は,養子が嫡出子の身分を取得すること(809条),これに伴い,扶養義務が発生すること(877条1項),互いに推定相続人となること(887条1項,889条1号)に加え,養子の氏を変更すること(810条)である。
そして,養子縁組の実質的要件として,当事者間に縁組意思の合致があることが求められ,この縁組意思は,社会通念上親子と認められる関係を形成しようとする意思と解されるが,実親子関係にあっても,特に子が成年に達した後の親子関係の態様には様々なものがあり,必ずしも一様ではないし,上記のとおり,適格要件において,養子が成年であっても,養子と養親との間に年齢差がなくてもよいとされていることをも踏まえれば,成年同士の養子縁組の場合にあっては,養子縁組に求められる縁組意思における社会通念上親子と認められる関係というのは,一義的には決められず,相当程度幅の広いものというべきである。そうすると,縁組意思があるかどうかは,様々な動機や目的のものがあり得る中で,上記の養子縁組の扶養や相続等に係る法的効果や,同居して生活するとか,精神的に支え合うとか,他方の特定の施設入所や治療実施に当たっての承諾をするとかなどといった社会的な効果のうち,中核的な部分を享受しようとしているときには,これを認めるべきと考える。同性愛関係にある者が,助け合って共に生活しようという意思について
前記認定のとおり,本件において,控訴人AとDとは,同性愛関係にあり,両名は助け合って共に生活しようという意思を持って,養子縁組を行ったものである。
確かに,同性愛関係にある者には,法律上,婚姻が認められていないことから,婚姻に準じた法律関係,社会的な関係を形成するために養子縁組を行うことがあるといわれており,本件においても,そのような側面は否定できない。
しかしながら,成年である養親と養子が,同性愛関係を継続したいという動機・目的を持ちつつ,養子縁組の扶養や相続等に係る法的効果や,同居して生活するとか,精神的に支え合うとかなどといった社会的な効果の中核的な部分を享受しようとして養子縁組をする場合については,取りも直さず,養子縁組の法的効果や社会的な効果を享受しようとしているといえるのであるから,

縁組意思が認められると

いえる。年齢差のない成年同士の養子縁組にあっては,典型的な親子関係から想定されるものとは異なる様々な動機や目的も想定され得るものであり,その中で,同性愛関係を継続したいという動機・目的が併存しているからといって,縁組意思を否定するのは相当ではないと考える。例えば,養子の氏の変更のみを得ようとする養子縁組は,養子縁組の法的・社会的な効果の中核的な部分を享受しようとするものではないし,重婚的内縁関係の継続を動機・目的とする養子縁組は,重婚的内縁関係の継続それ自体が不適法なものであって,養子縁組として是認できない効果を求めるものといえ,いずれも縁組意思を認めることはできないというべきであるが,これらと異なり,同性愛関係の継続は,それ自体が不適法なものではなく,養子縁組の法的・社会的な効果の中核的な部分を享受しようとしている以上,縁組意思を肯定することができるといえる。
本件について
上記のとおりであるから,控訴人AとDとが,同性愛関係にあり,両名が,助け合って共に生活しようという意思を持って,養子縁組を行った本件においては,両名に縁組意思を認めることができ,養子縁組は有効というべきである。

小括
以上のとおり,控訴人AとDとの本件養子縁組は有効であるから,同控訴人は,Dの相続人であり,同人の訴訟手続を承継したということができる。同控訴人の訴えのうち,Dの訴訟手続を承継したことに基づく部分は適法である。
(本件決定の違法性の有無)


Dが刑事収容法上の親族に該当するかについて
被控訴人は,控訴人AとDとの本件養子縁組は無効であるから,Dは,同控訴人の刑事収容法128条に定める親族には該当しない旨主張するが,から,Dは同控訴人の親
族に該当するものであり,この点の被控訴人の主張は採用し得ない。

本件養子縁組がもっぱら信書発受の禁止を潜脱するためにされたかについて
被控訴人は,仮に,控訴人AとDとに縁組意思が認められ,民法上は養子縁組が有効であったとしても,同人らはもっぱら刑事収容法による信書発受の禁止を潜脱する目的で養子縁組をしたから,同法における親族との外部交通に係る規定を適用する基礎を欠くものであり,信書発受を禁止した本件処分は適法である旨主張する。
アに説示のとおり,控訴人AとDとは,同性愛関係にあ
り,互いに助け合って共に生活しようという意思を持って養子縁組を行ったものであって,養子縁組をすることにより受刑者同士であっても信書発受が自由になることを意識はしていたとしても,もっぱら信書発受の禁止を潜脱する目的で養子縁組を行ったとは認められない。
したがって,被控訴人の上記主張は採用できない。


小括
以上のとおり,Dは刑事収容法128条所定の親族に該当するから,Dが同条にいう犯罪性のある者等に該当するとしても,信書発受を禁止することはできないこととなり,それにもかかわらず,控訴人AからDに対する本件信書の発信を禁止した本件処分は違法ということになる。
(故意又は過失の有無)
この点について,被控訴人は,甲府刑務所長が,控訴人AとDとの本件養子縁組が縁組意思を欠くものと信じたこと,又は,もっぱら刑事収容法による信書発受の禁止を潜脱する目的で行われ,信書の発受を禁止することができると信じたことにつき,注意義務違反はない旨主張する。
しかし,前記認定事実のとおり,甲府刑務所長は,本件決定を行った際,控訴人AとDとは,従前には交友関係がなかったが,平成26年4月から府中刑務所において共に特別改善指導を受講したものであること,同年11月に同控訴人から海渡弁護士にDとの養子縁組の手続が依頼され,翌27年5月に同弁護士から養子縁組が成就した知らせがあり,信書発受が認められたら報告するよう連絡があったことを根拠に,同控訴人とDの本件養子縁組はもっぱら受刑者同士が信書発受の禁止を免れる目的で行ったと認定したものであるところ

,上記⑴アに説示のとおり,控訴人AとDとの交流
が府中刑務所における6か月余りの期間だけであったからといって,そのことから直ちに両名が養子縁組を行うほどには親密になることはないと推認することはできないし,また,両名が養子縁組により信書発受が自由になることを意識していたからといって,そのことから直ちに本件養子縁組がもっぱら信書発受の禁止を免れる目的であったと推認することもできないのであり,甲府刑務所長が,そのような事実関係から,本件養子縁組をもっぱら信書発受の禁止を潜脱する目的で行ったと認定したことには,合理性も相当性もあるとはいえず,同控訴人がDと同性愛関係があることを甲府刑務所に申告していなかったとしても,それによって上記認定に合理性や相当性が認められることになるとはいえない。
そうすると,甲府刑務所長は,本件養子縁組がされているのに,上記の合理性も相当性もあるとはいえない認定を行ったものであり,その職務上の注意義務を十分尽くしたとはいえない。
(損害の有無及びその額)

控訴人らは,本件決定によって,Dは心の支えであった控訴人Aとの交流を奪われ,これにより,Dは,自暴自棄となり新たな犯罪を起こして逮捕・勾留され,拘置所で死亡したものであり,Dが受けた精神的苦痛は甚大であり,Dを失ったことにより,同控訴人が受けた精神的苦痛も甚大である旨主張する。
しかしながら,本件決定により本件信書の発信がされなかったことと,Dの拘置所での死亡との間に,相当因果関係を認めるに足りる基礎となる事実は認められない。


そうすると,本件決定によって,控訴人Aは,本件信書の発信を制限されたこと自体により精神的苦痛を被り,Dは,本件信書を受信できなかったこと自体により精神的苦痛を被ったものといえるから,同控訴人及びDが被った精神的苦痛に対する慰謝料は,本件信書の内容その他の諸般の事情を考慮すると,各3万円とするのが相当である。

第4

結論
以上によれば,控訴人らの請求は,主文掲記の範囲で理由があるからその限
度においてこれを認容し,その余は棄却すべきであるところ,これと結論を異にする原判決は失当であるからこれを取り消し,主文のとおり判決する。東京高等裁判所第23民事部

裁判官


裁判長裁判官垣内正及び裁判官小川理津子は,転補につき,署名押印することができない。

裁判官


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