判例検索β > 平成29年(ワ)第9201号
特許権侵害差止等請求事件 特許権 民事訴訟
事件番号平成29(ワ)9201
事件名特許権侵害差止等請求事件
裁判年月日令和元年6月20日
法廷名大阪地方裁判所
裁判日:西暦2019-06-20
情報公開日2019-06-25 03:33:14
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令和元年6月20日判決言渡

同日原本交付裁判所書記官

平成29年(ワ)第9201号特許権侵害差止等請求事件
口頭弁論終結日

平成31年4月19日

当事者の表示


別紙当事者目録記載のとおり
主1文
被告らは,別紙物件目録記載1及び2の各製品を販売し,又は販売の申
出をしてはならない。
23
被告サラヤ株式会社は,前項の各製品を製造してはならない。
被告サラヤ株式会社は,原告に対し,683万6000円及びこれに対
する平成31年1月18日から支払済みまで年5分の割合による金員(ただし,うち341万8000円及びこれに対する平成31年1月18日から支払済みまで年5分の割合による金員の限度で,被告東京サラヤ株式会社と連帯して)を支払え。4
被告東京サラヤ株式会社は,原告に対し,被告サラヤ株式会社と連帯し
て,341万8000円及びこれに対する平成31年1月18日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
5
原告のその余の請求をいずれも棄却する。

6
訴訟費用は,原告と被告サラヤ株式会社との間においては,これを10
分し,その3を原告の負担とし,その余を被告サラヤ株式会社の負担とし,原告と被告東京サラヤ株式会社との間においては,これを10分し,その3を原告の負担とし,その余を被告東京サラヤ株式会社の負担とする。
7
この判決は,第3項及び第4項に限り,仮に執行することができる。事実及び理由

第1
請求

1
主文第1項及び第2項と同旨。

2
被告らは,別紙物件目録記載1及び2の各製品を廃棄せよ。

3
被告サラヤ株式会社は,原告に対し,被告東京サラヤ株式会社と第4項の限
度で連帯して,1464万円及びうち1220万円に対する平成29年10月12日から,うち244万に対する平成31年1月18日から,各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
4
被告東京サラヤ株式会社は,原告に対し,被告サラヤ株式会社と連帯して,
732万円及びうち610万円に対する平成29年10月12日から,うち122万円に対する平成31年1月18日から,各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2
1
事案の概要
本件は,発明の名称をシリコーン・ベースの界面活性剤を含むアルコール含有量の高い発泡性組成物とする発明に係る特許権(特許第5891575号。以下本件特許権といい,これに係る特許を本件特許という。)を有する原告が,被告サラヤ株式会社(以下被告サラヤという。)が製造し,同被告及び被告東京サラヤ株式会社(以下被告東京サラヤという。)が販売する速乾性手指消毒剤である別紙物件目録記載1及び2の各製品(以下,同記載1の各製品を被告製品1と,同記載2の各製品を被告製品2とそれぞれ総称し,また,これらを併せて被告各製品という。)がいずれも,本件特許の請求項1,5及び6に係る各発明(以下,請求項の番号に従って本件発明1のようにいい,また,これらを併せて本件各発明という。)の技術的範囲に属するとして,被告
らに対し,以下の各請求をする事案である。
(1)差止請求

被告らに対する請求

本件特許権に基づく被告各製品の販売等の差止請求(特許法100条1項)イ
被告サラヤに対する請求

本件特許権に基づく被告各製品の製造の差止請求(同項)
(2)廃棄請求(被告らに対する請求)

本件特許権に基づく被告各製品の廃棄請求(同条2項)
(3)損害賠償請求

被告サラヤに対する請求

本件特許権侵害の不法行為に基づく損害賠償金1464万円及びうち1220万円に対する不法行為後の日である平成29年10月12日(訴状送達の日の翌日)から,うち244万円に対する平成31年1月18日(訴えの変更申立書送達の日の翌日)から,各支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払請求(なお,次項記載の限度で,被告東京サラヤと連帯しての支払を請求するものである。)


被告東京サラヤに対する請求

本件特許権侵害の不法行為に基づく損害賠償金732万円及びうち610万円に対する不法行為後の日である平成29年10月12日(訴状送達の日の翌日)から,うち122万円に対する平成31年1月18日(訴えの変更申立書送達の日の翌日)から,各支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払請求2
前提事実(当事者間に争いがないか,後掲書証〔なお,枝番のあるものは,
枝番を含むことがある。〕及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)(1)当事者

原告

原告は,手指消毒剤の製造販売等を主たる事業とするデブグループリミテッドのグループ会社であり,同グループの知的財産権の保有・管理を行う外国法人である(弁論の全趣旨)。
イ被告ら
被告サラヤは,業として,手指消毒製品を含む衛生関連製品等の製造及び販売等を行う株式会社である。また,被告東京サラヤは,業として,手指消毒製品を含む
衛生関連製品等の販売等を行う株式会社である。被告らは,同一の企業グループに属し,被告サラヤの代表取締役であるP1が被告東京サラヤの代表取締役でもある
こと(甲19,20),被告サラヤが製造した被告各製品について,同被告が九州,中国,近畿及び東海地方における販売等を,同被告から仕入れた被告東京サラヤが関東,東北及び北海道地方における販売等をそれぞれ担当していることに表れているように,経済的に密接な関係にある。
(2)本件特許権
特許番号

第5891575号

発明の名称

シリコーン・ベースの界面活性剤を含むアルコール含有量の高い発
泡性組成物
登録日
平成28年3月4日

出願日

平成25年8月13日

出願番号

特願2013-167939(なお,本件特許に係る出願は,平成1
8年3月7日に特許出願に基づく優先権〔優先日:平成17年3月7日,優先基礎出願:米国仮出願60/658580〕を主張してされた特許出願〔特願2008-500017号,以下親出願という。〕の一部を新たな特許出願〔特願2013-141342号〕とした後,更にその一部を新たな特許出願としたものである。)
特許請求の範囲

別紙特許公報記載のとおり

なお,本件特許の出願願書に添付された明細書及び図面を,以下本件明細書という。
(3)特許無効審判請求等
被告サラヤは,本件特許の請求項1,5及び6等に係る発明について,①明確性要件違反,②実施可能要件違反,③サポート要件違反,④進歩性欠如等の無効理由があるとして,特許無効審判を請求したところ,特許庁が請求不成立とする審決をしたことから(甲23。以下本件審決という。),審決取消訴訟を提起した
(知的財産高等裁判所平成29年(行ケ)第10113号)。これに対し,同裁判所は,平成30年10月25日に請求棄却判決をし(甲37),同判決はその後確
定したことから,本件審決は確定した(弁論の全趣旨)。
(4)構成要件の分説
本件各発明を構成要件にそれぞれ分説すると,別紙構成要件目録に各記載のとおりである。
(5)被告らの行為
被告サラヤは,平成27年10月ないし同年11月頃,被告製品1の製造を開始し,被告らは,それぞれ,同年11月25日頃~平成31年1月10日頃までの間,上記(1)イで指摘した商流に従って,被告製品1を販売及び販売の申出をした。また,被告サラヤは,平成28年5月頃,被告製品2の製造を開始し,被告らは,
それぞれ,同年6月1日頃~平成31年1月10日頃までの間,上記(1)イで指摘した商流に従って,被告製品2を販売及び販売の申出をしていた。3
争点

(1)技術的範囲の属否(構成要件1A及び1C〔5B,6B〕の充足の有無。争点1)
(2)無効理由の存否(争点2)
アイ
実施可能要件違反の有無(争点2-2)


サポート要件違反の有無(争点2-3)


明確性要件違反の有無(争点2-1)

進歩性欠如の有無(争点2-4)

(3)原告の損害額(争点3)
第3
1
争点に関する当事者の主張
争点1(技術的範囲の属否〔構成要件1A及び1C{5B,6B}の充足の
有無〕)について
(原告の主張)
(1)被告各製品の構成は,別紙被告各製品の構成に各記載のとおりである。(2)被告各製品は,本件発明1の構成要件1B及び1D,本件発明5の構成要件5
A及び本件発明6の構成要件6Aをそれぞれ充足する。
(3)被告各製品は,以下のとおり,構成要件1A及び1Cを充足する。ア
発泡性アルコール組成物(構成要件1A)及び泡が形成される発泡剤(構成要件1C)について(ア)被告各製品は,いずれも,その製品情報等に泡状の手指消毒剤であることが明記され,また,実際にポンプ式のディスペンサー(無加圧ディスペンサー)から吐出されることにより泡が生成されることから,発泡性組成物である。したがって,被告各製品は,発泡性アルコール組成物(構成要件1A)及び泡が形成される発泡剤(構成要件1C)に当たる。

(イ)被告らは,本件明細書の実施例20及び34の各組成物が泡を生成しなかったことを前提に,上記各組成物の構成と被告各製品の構成とを比較して,被告各製品が発泡性アルコール組成物,泡が形成される発泡剤に当たらないと主張する。
しかし,本件明細書の実施例20については,その記載のとおり泡の生成欄
の記載は有で正しく,他方,実施例34の同欄の記載は有の誤記であり,当業者は,本件明細書の他の記載と併せ,そのように理解する。このことなどから,被告らの主張はその前提を欠く。

低い圧力で空気と混合されるときに発泡性(構成要件1A)及び組成物を空気と混合するディスペンサーポンプを有する無加圧ディスペンサーから分配されるときに,該発泡性アルコール組成物が空気と混合されて泡が形成される(構成要件1C)について
本件明細書の記載(【0040】等)によれば,低い圧力(構成要件1A)とは,無加圧容器から泡を分配するときのような大気圧付近又はそれ以下の圧力をいう。また,本件明細書の記載(【0066】等)によれば,ディスペンサーポンプを有する無加圧ディスペンサー(構成要件1C)とは,噴射剤等により圧力がかかっている加圧容器ではなく,ポンプ式等のディスペンサーを意味して
おり,吐出の際に手で圧力を加えることにより内容物を分配するポンプ式のディスペンサーもこれに該当する。したがって,ディスペンサーポンプを有する無加圧ディスペンサーから分配される場合に加えられる圧力と低い圧力は同義である。
被告各製品には,いずれも容器内が加圧されていない手動ポンプ式ディスペンサーが用いられており,当該ディスペンサーから分配されるときに泡状となるものである。すなわち,被告各製品は,低い圧力で空気と混合されるときに発泡性であり(構成要件1A),組成物を空気と混合するディスペンサーポンプを有する無加圧ディスペンサーから分配されるときに,該発泡性アルコール組成物が空気と混合されて泡が形成される発泡剤である(構成要件1C)。ウ
生理的に許容される(構成要件1C)について

本件明細書の記載(【0035】)によれば,生理的に許容される(構成要件1C)とは,皮膚に適用したときに刺激又は毒性を通常生じることがなく…ユーザーによって受け入れられることをいう。被告各製品は,いずれも,滑らかなシリコーンの感触を付与するものであることなどに照らせば,生理的に許容される(構成要件1C)シリコーン・ベースの界面活性剤を含む発泡剤である。
(4)構成要件5B及び6Bについて
被告各製品は,本件発明1の構成要件を充足することから,構成要件5B及び6
Bを充足する。
(被告らの主張)
(1)被告各製品につき,これらが発泡性組成物であること(a1,a2)及びbisPEG-12ジメチコーンの量(c1,c2)は否認する。その余は認める。bis-PEG-12ジメチコーンの量は,被告各製品ともに1.00重量%である。
(2)被告各製品が本件発明1の構成要件1B及び1D,本件発明5の構成要件5A及び本件発明6の構成要件6Aを充足することは認める。

(3)被告各製品は,以下のとおり,構成要件1A及び1Cを充足しない。ア
発泡性アルコール組成物(構成要件1A)及び泡が形成される発泡剤(構成要件1C)について本件明細書の実施例20の組成物は,本件明細書上,泡が生成しなかった旨が記載されていると解される。この組成物と比較して,被告各製品は,いずれもエタノール濃度が近似し,起泡剤であるbis-PEG-20ジメチコーン濃度が大幅に低いことに照らせば,発泡性組成物ではない。また,本件明細書の実施例34の組成物は,本件明細書上,泡の生成欄が無とあるとおり,泡が生成しなかったとされている。この組成物と比較して,被告各製品は,いずれも消泡剤であると考えられて
いたエタノール濃度が高く,起泡剤であるbis-PEG-20ジメチコーン濃度が近似することに照らせば,発泡性組成物ではない。

低い圧力で空気と混合されるときに発泡性(構成要件1A)及び組成物を空気と混合するディスペンサーポンプを有する無加圧ディスペンサーから分配されるときに,該発泡性アルコール組成物が空気と混合されて泡が形成される(構成要件1C)について
低い圧力で空気と混合されるときに発泡性(構成要件1A)の低い圧力で空気と混合とは,薬液と空気を大気圧付近以下の圧力を加えて混合することを意味すると解され,これはディスペンサーポンプを有する無加圧ディスペンサーから分配される場合に加えられる圧力よりも低い。しかるに,被告各製品には手動
ポンプ式ディスペンサーが用いられており,吐出の際に手で圧力を加えることにより内容物を分配されている。そうすると,被告各製品は,低い圧力で空気と混合されるときに発泡性(構成要件1A)を示すものとはいえないし,無加圧ディスペンサーが用いられているとはいえないことから,組成物を空気と混合するディスペンサーポンプを有する無加圧ディスペンサーから分配されるときに,該発泡性アルコール組成物が空気と混合されて泡が形成される(構成要件1C)発泡剤でもない。


生理的に許容される(構成要件1C)について

被告各製品が生理的に許容されるシリコーン・ベースの界面活性剤を含む発泡剤であることは否認する。ある界面活性剤が生理的に許容されるか否かはその用いられ方によって異なり,bis-PEG-12ジメチコーンそのものが滑らかなシリコーンの感触を付与するものではない。
(4)構成要件5B及び6Bについて
被告各製品は,本件発明1の構成要件1A及び1Cを充足しないから,構成要件5B及び6Bを充足しない。
2
争点2-1(明確性要件違反の有無)について

(被告らの主張)
本件各発明に係る特許請求の範囲の記載は,以下のとおり,特許法36条6項2号の要件(明確性要件)を満たしていない。
(1)低い圧力で空気と混合されるときに発泡性における低い圧力については,本件明細書上,無加圧容器から泡を分配するときのような大気圧付近又はそれ以下の圧力を意味するとされている。しかし,そのような大気圧付近又はそれ以下の圧力で発泡性アルコール組成物と空気をどのように混合するのかは,技術的に理解し難く,本件明細書にも記載がないため,不明確である。
(2)発泡性については,泡を生じる性質を意味すると理解されるところ,本件
明細書上,泡とは,混合されて,可変長の時間持続する構造を有する小さい気泡のマスを形成する液体及び気体を意味するとされている。しかし,小さい気泡とはどの程度の大きさのものをいうのか,泡と気泡の違いは何か,可変長の時間がどの程度の時間をいうのかなどがいずれも不明確であるため,どのような気泡のマス(集団)が発泡性に該当するのかが
不明確である。
(原告の主張)

(1)本件明細書の記載(【0040】等)を考慮すれば,低い圧力で空気と混合されるときに発泡性とは,泡を分配するために噴射剤や加圧容器等といった高い圧力を発生させるシステムを使用するときではなく,それと比べて相対的に低い圧力,すなわち,手動ポンプ又は機械的手段等による無加圧ディスペンサーから分配されるときに発泡性であることを意味する。そのことは,本件明細書を参照した当業者にとって当然に理解可能である。
(2)本件明細書や本件特許出願当時の技術的常識を参照にした当業者であれば,小さい気泡とは,代表的用途である消毒用途において,目視により識別し易くなる程度の大きさの気泡をいうことを当然に理解する。このことなどから,小さい気泡との用語を用いて定義される泡ないし発泡性との用語は,第三者が不測の不利益を受けるほどに不明確とはいえない。
また,本件明細書(【0036】,【0037】)では,泡は混合されて,可変長の時間持続する構造を有する小さい気泡のマスを形成する液体及び気体をいい,気泡は液体のフィルムで取り囲まれた気体のセルをいうとされてお
り,両者を混同する余地はない。しかも,本件明細書の記載(【0002】,【0041】等)を考慮すれば,本件各発明に係る泡は,従来,消毒用途に使用されてきた液体製剤やゲル製剤のようなものと比較して,薬剤の存在を目視により識別しやすくなるものであるか否かという観点から,気泡と判別可能である。さらに,本件明細書の記載を考慮すれば,無加圧ディスペンサーから分配された
際に少なくとも数秒持続する,少なくとも相当程度の数の気泡が生成された場合に,泡は生成されたといえる。そうすると,可変長の時間とは少なくとも数秒程度の時間を意味するということは,当業者にとって理解可能である。(3)したがって,本件各発明に係る特許請求の範囲の記載は,特許法36条6項2号の要件(明確性要件)を満たす。

3
争点2-2(実施可能要件違反の有無)について

(被告らの主張)

本件明細書の発明の詳細な説明の記載は,以下のとおり,特許法36条4項1号の要件(実施可能要件)を満たしていない。
(1)上記2(被告らの主張)(1)のとおり,本件明細書には,大気圧付近又はそれ以下の圧力で発泡性アルコール組成物と空気をどのように混合するのかについて,当業者が本件特許に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されていない。
(2)本件明細書の実施例33~36の各組成物(エタノール:約69.6%v/v=62.00重量%)について,泡の生成欄には無と記載されているところ,他の実施例に係る記載等を併せ考慮すれば,泡の生成欄の記載と泡の評価/記述/特性欄の記載との間に一定の関係はない。このため,後者の欄に泡が生成したことを前提とするかのような記載があるからといって,これを根拠に泡の生成があったとはいえない。
また,実施例17~19の各組成物に係る泡の評価/記述/特性欄の記載を比較すると,エタノール濃度の上昇に伴って生成する泡の質が低下して持続時間も
短くなる傾向が見て取れることに,本件明細書の記載(【0060】,【0087】)を併せて参酌すると,エタノール濃度が実施例17~19の各組成物よりも高い実施例33~36の各組成物において,泡の生成があったとは直ちにはいえないことなどに照らせば,同実施例に係る泡の生成欄の無の記載は有の誤記ではない。

また,実施例20の組成物については,泡の評価/記述/特性欄が…と記載されているところ,同実施例のエタノール濃度が実施例17~19の各組成物よりも高いことに鑑みると,泡は生成されなかったと解釈される。さらに,実施例32の組成物は泡が生成されないことに,実施例13及び14の各組成物を比較すると,bis-PEG-20ジメチコーンよりも3-(3-ヒドロキシプロピル)-ヘプタメチルトリ
シロキサン,エトキシレーテッド,アセテートの方が泡の質及び持続時間を向上させることが見て取れることに鑑みると,実施例32の組成物と異なり発泡剤がbis-PEG-
20ジメチコーンである実施例20の組成物において泡の生成があったとはいえない。以上の事情等に照らせば,実施例20の泡の生成欄の有の記載は無の誤記である。
このように,本件明細書には,低級アルコールを約81.3%v/vより高い濃度で含有する場合には本件特許に係る発明の課題が解決できないことが示されている。また,低級アルコールを約67.7%v/vより高い濃度で含有する場合に本件特許に係る発明の課題が解決できることを示す実施例は,記載されていない。
したがって,本件明細書には,当業者が本件特許に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分な記載はない。

(3)上記2(被告らの主張)(2)のとおり,どのような気泡のマス(集団)が発泡性に該当するのかについて,当業者が本件特許に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分な記載はない。
(原告の主張)
被告らが実施可能要件違反の根拠として指摘する点は,以下のとおりいずれも誤
っており,本件特許に実施可能要件違反の無効理由は存しない。
(1)上記2(原告の主張)(1)のとおり,本件明細書には,低い圧力で空気と混合されるときに発泡性の意味について,当業者が本件特許に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されている。
(2)本件明細書の実施例33~36の各組成物は,泡の生成欄には無と記
載されているものの,泡の評価/記述/特性欄には生成した泡に関する具体的な記載がされている。また,実施例19の組成物は泡が生成したとされているところ,本件明細書には,評価が好ましく所望の持続時間の泡を得るには,高アルコール濃度では,bis-PEG-20ジメチコーン濃度を高める必要性がある旨の記載がある(【0087】等)。さらに,実施例33~36の各組成物が,実施例19の組成
物と比較して,エタノール濃度は近似する一方,bis-PEG-20ジメチコーン濃度は高いことに照らせば,泡が生成したものであって,泡の生成欄の無の記載は
有の誤記である。
また,実施例20の組成物は,泡の評価/記述/特性欄には…と記載されているものの,本件明細書には,シリコーン・ベースの界面活性剤を使用することにより,アルコール濃度が約90%v/vという高濃度である場合であっても,発泡性組成物を得ることができるという記載がある(【0043】等)。しかも,本件明細書には,評価が好ましく所望の持続時間の泡を得るには,高アルコール濃度では,bis-PEG-20ジメチコーン濃度を高める必要性があるとの記載もある。これらの記載によれば,bis-PEG-20ジメチコーンを大量に含む実施例20の組成物は,泡が生成したものであって,泡の生成欄の有の記載は正しい。

これらの記載を参照した当業者もそのように理解することから,本件明細書には,当業者が本件特許に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分な記載がされている。
(3)上記2(原告の主張)(2)のとおり,本件明細書には,発泡性の意味について,当業者が本件特許に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に
記載されている。
4
争点2-3(サポート要件違反の有無)について

(被告らの主張)
本件特許に係る発明の課題は,これまで消泡剤と考えられていた低級アルコール(C1-4アルコール)を高い濃度(少なくとも40%v/v)で含有するにもかかわらず,噴射剤を用いることなく大気圧付近又はそれ以下の圧力で表面上に容易に広がる泡として分配できる,低級アルコール高含有組成物を提供することにある。しかし,上記3(被告らの主張)(2)のとおり,本件明細書の実施例33~36の各組成物に係る泡の生成欄の無という記載は有の誤記であるとは理解されず,実施例20の組成物に係る同欄の有という記載は誤記と理解される。
そうすると,本件明細書には,低級アルコールを約81.3%v/vより高い濃度で含有する場合には本件特許に係る発明の課題が解決できないことが示されている。また,
低級アルコールを約67.7%v/vより高い濃度で含有する場合に本件特許に係る発明の課題が解決できることを示す実施例は,記載されていない。
したがって,本件明細書の発明の詳細な説明に開示されている内容は,本件特許に係る発明の課題を解決できると当業者が認識できる範囲のものとはいえない。(原告の主張)
上記3(原告の主張)(2)のとおり,本件明細書の実施例33~36の各組成物に係る泡の生成欄の無という記載は有の誤記であり,他方,実施例20の組成物に係る同欄の有の記載は正しいと理解される。したがって,本件明細書の発明の詳細な説明に開示されている内容は,本件特許に係る発明の課題を解決
できると当業者が認識できる範囲のものである。
5
争点2-4(進歩性欠如の有無)について

(被告らの主張)
(1)本件発明1
ア本件特許は,平成18年3月7日に特許出願に基づく優先権(優先日:平成17年3月7日,優先基礎出願:米国仮出願60/658580)を主張してされた親出願の一部を新たな特許出願(特願2013-141342号)とした後,更にその一部を新たな特許出願としたものである。
しかし,本件発明1には,bis-PEG-[10-20]ジメチコーンと記載されているところ,上記仮出願の出願書類にはbis-PEG-[10-20]ジメチコーンに相当する記載
はなく,これに包含される物質に関する記載はbis-PEG-20dimethiconeだけである。
したがって,本件発明1は上記仮出願を基礎とするパリ条約上の優先権の利益を受けることはできず,本件発明1の進歩性の判断基準日は,親出願の出願日である平成18年3月7日である。


本件発明1は,C1-4アルコール,気泡剤及び水を必須成分として含み,更に任
意の成分を含み得るものであり,また,本件明細書には,その発泡性アルコール組
成物がフッ素化界面活性剤を含むことが好ましい旨記載されている。他方,国際公開第2005/030917号公報(2005年(平成17年)4月7日国際公開。以下乙1公報という。)には,以下の発明(以下乙1発明という。)が開示されている。(a)組成物全体の約40%v/vを超える量のC1-4アルコール又はその混合物;(b)組成物全体の少なくとも0.001重量%の量で存在している湿潤及び起泡に有効なフッ素化界面活性剤;及び
(c)組成物全体を100重量%とする量で存在している水;
を含む,発泡性組成物。

したがって,本件発明1と乙1発明との間の相違点は,構成要件1Cの構成を備えるか否かという点のみである。
この点,特開2005-289994号公報(平成17年10月20日公開,以下乙2公報という。)には,身体洗浄又は皮膚保護のために用いる発泡組成物が開示されているところ,当該発泡組成物に配合する化粧品等に添加される泡安定
剤としてビスアルコキシル化シリコーン化合物が記載され,このうち好ましいものとしてbis-PEG-12ジメチコーン及びbis-PEG-20ジメチコーンが記載されている。他方,乙1公報には,乙1発明につき,化粧品,トイレタリー及びパーソナルケア等に添加される泡安定剤を10重量%までの量で配合してフッ素化界面活性剤の量を低減することが,発明を商業的に適した処方にする1つのアプローチであること
とともに,そのような泡安定剤の1つとしてシリコーンワックスが記載されている。そして,シリコーンワックスがbis-PEG-[10-20]ジメチコーンと同様にシリコーン化合物に該当することは,当業者にとって技術常識である。
これらのことなどに照らせば,乙1発明の発泡性組成物に,フッ素化界面活性剤の使用量を低減する目的で,フッ素化界面活性剤とともに泡安定剤としてシリコー
ン化合物を用いようとすること,そのような泡安定剤として,乙2公報及び本件特許出願時の技術常識に基づき,本件発明1に係るbis-PEG-[10-20]ジメチコーンを組
み合わせて用いようとすることの動機付けは十分にあったといえる。また,本件発明1は,乙1組成物と比較して格別な効果を奏するものではない。したがって,本件発明1は,乙1発明及び乙2公報記載の事項(以下乙2記載事項という。)に基づき,当業者が容易に想到し得たものである。(2)本件発明5及び6

本件発明5は,C1-4アルコール濃度がより限定されている点(少なくとも
40%v/v~90%v/v。構成要件5A)を除けば,本件発明1と同じ構成であり,構成要件5Aに係る構成は,乙1発明に係る構成と同一である。したがって,本件発明5と乙1発明との間の相違点は,本件発明1と乙1発明との間の相違点と同様,構成要件1Cの構成を備えるか否かという点のみである。
そうすると,上記(1)と同様に,本件発明5と乙1発明の相違点に係る構成は当業者が容易に想到し得たものである。

本件発明6は,C1-4アルコールの種類がエタノールに限定されるとともに,そ
の濃度も限定されている点(少なくとも60%v/v。構成要件6A)を除けば,本件発明1と同じ構成である。構成要件6Aに係る構成は,乙1発明とは異なるものの,乙1公報に記載された別の発明(エタノールを約67.7%v/v含有するもの(実施例14)。以下乙1’発明という。)に係る構成と同一である。このため,本件発明6と乙1’発明との間の相違点は,結局,本件発明1と乙1発明との間の相違点と同様に,構成要件1Cの構成を備えるか否かという点のみである。
そうすると,上記(1)と同様に,本件発明6と乙1’発明の相違点に係る構成は当業者が容易に想到し得たものである。
(原告の主張)
(1)本件発明1

判断基準日につき,bis-PEG-20ジメチコーンを用いる発明については,優先
基礎出願である米国仮出願に明示的に記載されており,少なくともbis-PEG-20ジメチコーンを用いる発明は,優先基礎出願に基づくパリ条約上の優先権の利益を受け
ることができる。
したがって,少なくともbis-PEG-20ジメチコーンを用いる発明についての進歩性の判断基準日は,上記仮出願の米国への出願日である平成17年3月7日となる。これは,乙1公報及び乙2公報の公開日より前であることから,少なくとも上記発明との関係では,乙1公報及び乙2公報は公知文献ではない。

乙1発明は,その解決課題として,無加圧容器によって発泡可能である,低
級アルコール含有量の高い組成物の提供を含み,その解決手段として,特定のフッ素化界面活性剤を使用することが開示され,また,そのようなフッ素化界面活性剤系により生成される泡の量と持続性を増大させる添加剤として泡安定剤を添加できることが記載されている。もっとも,乙1公報には,泡安定剤として本件発明1に係るbis-PEG-[10-20]ジメチコーンを用いることは記載も示唆もされておらず,また,乙1発明の一次的な用途等に鑑みれば,生成された泡の持続時間はせいぜい数秒~数分程度で足りる。これに対し,乙2記載事項の解決課題は,少なくとも発泡後1週間~6か月以上保持されるような永続発泡性の泡を生成する発泡組成物であ
って,速く動く攪拌機等の装置を使用して発泡可能である,低級アルコールを含まないか,またはその含有量の低い(1~30重量%)組成物の提供であり,その解決手段として,特定のシリコーン化合物を泡安定剤として使用することが開示されている。
このように,乙1発明と乙2記載事項とでは,その解決課題や解決手段は根本的
に相違しており,乙1発明において,乙2公報記載のbis-PEG-12ジメチコーン(及びbis-PEG-20ジメチコーン)を配合するための合理的な動機付けは存在しない。むしろ,生成された泡の持続時間との関係で,乙1発明において,乙2公報記載のbisPEG-12ジメチコーンを採用することには阻害要因があったというべきである。また,本件発明1は,乙1公報及び乙2公報から予測し得ない顕著な作用効果を
奏する。
したがって,本件発明1の進歩性は,乙1公報及び乙2公報によって否定されな
い。
(2)本件発明5及び6
本件発明5及び6は,本件発明1の構成を限定したものであるところ,上記(1)のとおり,本件発明1と乙1発明の相違点に係る構成につき当業者が容易に想到し得たものではない以上,本件発明5及び6と乙1発明の相違点に係る構成も当業者が容易に想到し得たものではない。
6
争点3(原告の損害額)

(原告の主張)
(1)実施料相当額

被告各製品の売上高(平成28年3月4日~平成31年1月10日の間)
(ア)被告サラヤによる販売分(被告東京サラヤに対する販売分は除く。)a
被告製品1

600万円

・平成28年3月4日~平成29年9月20日の間500万円
・平成29年9月21日~平成31年1月10日の間100万円
b
被告製品2

3840万円

・平成28年3月4日~平成29年9月20日の間3200万円
・平成29年9月21日~平成31年1月10日の間640万円
(イ)被告東京サラヤによる販売分
a
被告製品1

600万円

・平成28年3月4日~平成29年9月20日の間500万円
・平成29年9月21日~平成31年1月10日の間100万円
b
被告製品2

3840万円

・平成28年3月4日~平成29年9月20日の間3200万円
・平成29年9月21日~平成31年1月10日の間640万円

実施料率

本件各発明の特徴的な用途は消毒剤であり,また,本件特許の実施品は第2類医
薬品に,被告製品1は指定医薬部外品に,被告製品2は第3類医薬品にそれぞれ分類されている。これらの事情に鑑みると,本件特許が属する技術分野については医薬品・その他の化学製品(イニシャル無)とされるべきところ,当該技術分野における実施料率の平均値は7.1%とされている。
しかし,本件各発明は,特定の界面活性剤を使用するという極めてシンプルな解
決手段を採用することにより,加圧容器を用いたり,噴射剤及び界面活性剤以外の成分を用いたりすることなく,低級アルコール含有量の高い発泡性組成物を提供できることを初めて見いだしたものであり,その技術的価値は極めて優れたものである。しかも,泡状であるという特質に伴うメリットから,速乾性手指消毒剤の市場で泡状の製品の占めるシェアが年々向上していることから,本件特許の価値は経済的にも極めて高い。
こうした事情に加え,特許法102条3項の趣旨からは,特許発明を無断実施した者との関係では交渉によりライセンスを受けた者よりも実施料率を高くすべきことなどに鑑みれば,本件における実施料率は15%とするのが相当である。ウ
小計

以上によれば,実施料相当額(特許法102条3項)は,以下のとおりとなる。(ア)被告サラヤによる販売分(被告東京サラヤに対する販売分は除く。)
666

万円
・平成28年3月4日~平成29年9月20日の間555万円
・平成29年9月21日から平成31年1月10日までの間

(イ)被告東京サラヤによる販売分

111万円

666万円

・平成28年3月4日から平成29年9月20日までの間

555万円

・平成29年9月21日から平成31年1月10日までの間111万円(2)弁護士費用及び弁理士費用相当額
ア係
被告サラヤによる販売分(被告東京サラヤに対する販売分は除く。)との関66万円

・平成28年3月4日~平成29年9月20日の間55万円
・平成29年9月21日~平成31年1月10日の間

被告東京サラヤによる販売分との関係

11万円

66万円

・平成28年3月4日~平成29年9月20日の間55万円
・平成29年9月21日~平成31年1月10日の間11万円
(3)合計

被告サラヤにつき

1464万円

・平成28年3月4日~平成29年9月20日の間
・平成29年9月20日~平成31年1月10日の間

1220万円


被告東京サラヤにつき

244万円

732万円

・平成28年3月4日~平成29年9月20日の間
・平成29年9月21日~平成31年1月10日の間

610万円
122万円

(被告らの主張)
(1)実施料相当額

被告各製品の売上高

平成28年3月4日~平成31年1月10日の間の被告各製品の売上高につき,被告サラヤによる販売分(被告東京サラヤに対する販売分は除く。)が,被告製品1につき600万円,被告製品2につき3840万円であること,被告東京サラヤによる販売分が,被告製品1につき600万円,被告製品2につき3840万円であることは,いずれも認める。

実施料率

本件特許が属する技術分類(健康;人命救助;娯楽)に係る実施料率の平均値は5.3%とされている。
平成17年4月7日の時点において,ゲルであるか又はフォームとして分配されることが可能で,所望の表面上に容易に広げられるアルコール含有量の高い組成物であって,個人衛生用の起泡性組成物を提供する発明は存在していた。このことに
照らせば,本件各発明は,平均的な発明に比して技術的に優れた発明ではない。また,製品のシェアは直接的には当該製品の販売事業者の営業努力によって拡大するものであり,シェアの拡大をもって特許の経済的価値が高いと判断することはできない。さらに,被告各製品を含む医療分野の手指消毒剤の市場価格は低価格であり,かつ,量産品であるために利益率が低い結果,実施料率も低額とならざるを得ない。これらの事情を考慮すれば,本件各発明の実施料率は5.3%とすべきである。(2)弁護士費用及び弁理士費用相当額
否認ないし争う。
第4

1
当裁判所の判断
無効理由の存否について

事案に鑑み,まず無効理由の存否について判断することとするが,当裁判所は,後記2~6のとおり,本件特許につき,特許無効審判により無効にされるべきものとは認められないと判断する。理由は以下のとおりである。
2
本件各発明について

(1)本件各発明に係る特許請求の範囲は,別紙特許公報の【特許請求の範囲】の【請求項1】,【請求項5】及び【請求項6】記載のとおりである(第2の2(2))。また,本件明細書には,以下の記載がある(なお,表については別紙本件明細書表目録参照。)。

技術分野

本発明は,エアゾール包装システムを用いて達成される,無加圧容器及び加圧容器の両者から低い圧力で泡として分配され得る,低級アルコール(C1-4)含有量の高い組成物に関する。泡として分配されるべき組成物は,シリコーン・ベースの界面活性剤を含有しており,そして空気と混合されるときに個人的洗浄用又は消毒目的のために使用できる安定なアルコール泡を与える。(【0002】)

背景技術

少なくとも60%v/v(約52重量%)を含むエタノール及び/又はイソプロピルアル
コール及び/又はn-プロピルアルコールの組成物は抗菌性であることがよく知られており,従って消毒目的のために広く受け入れられている。それにもかかわらず,アルコールの固有の特性のために,その含有量が高いほど生成物は良好であり,そしてアルコール含有量が60容量%より高い溶液がより望ましい。(【0003】)アルコール消毒液は,無駄をなくし,かつ組成物を所望の範囲全体に塗るのを容易にするために,一般的に増粘される。ゲル化剤以外には,アルコール含有量の高い溶液の増粘を達成するためにパラフィン又はワックスを使用できることも知られている。…ゲル及び上記タイプの濃厚なアルコール含有組成物の欠点の一つは,…アルコール消毒液の使用を続ける前に増粘剤を最終的に洗い落とす必要があること
である。(【0004】)
洗浄目的のため以外の界面活性剤は,1種又はそれ以上の活性物質を含有する水性組成物をそれらの湿潤特性により表面上に急速かつ均一に塗布するためにも使用される。(【0006】)
使用が容易かつ安全である40%v/vより多いアルコールを含む泡製品は,従来の液
体,ゲル又は軟膏タイプの組成物製品よりも望ましい。このアルコール濃度は既にそれ自体が危険を及ぼすが,泡として分配できるならば,認められたリスクを減少し得る多くの用途がある。皮膚消毒剤として有用であることが意図される泡は,一様な稠度,塗布性,洗浄能力を持たねばならず,そして快適な感触を持たねばならず,すなわち,加圧したときに急速な破壊力を持たねばならず;それらの全ては低
級アルコール含有量の高い組成物にとって課題を提示する。(【0008】)これまでに利用されている泡形成剤は,液相が高いアルコール含有量を有する場合には他の成分を用いないで安定な泡を形成することができなかった。更に,低級アルコールは,泡促進化学物質というよりはむしろ消泡剤と考えられている。(【0010】)

今日までになされた研究にもかかわらず,どのように泡が反応して形成されるのかについての具体的な知識は殆どなく,そして驚いたことに,発泡性でないと思わ
れた処方が泡を生成する最も良い処方であるという結果をもたらす一方,調製中でさえ泡を生成すると思われた他の処方は幾つかの非エアゾール泡ディスペンサーでは全く機能しなかった。(【0013】)
シリコーン・ベースの界面活性剤は,表面張力の低下及び湿潤特性の上昇を必要とする用途,特に水以外の溶剤系と適合性であり,かつ組成物の他の成分と反応しない材料を必要とする用途に使用されている。シリコーン界面活性剤は,それらが興味ある組成物において比較的低い濃度で比較的低い表面張力を達成し得るので望ましい。(【0014】)
低い圧力下で及び/又はエアゾール包装システムにより泡として分配し得る,シ
リコーン・ベースの界面活性剤を含有するアルコール・ベースの消毒製剤があることは,極めて有利であろう。更に,適用された部分に留まることができ,そして蒸発後に残る残留物の量が少ないために洗い流し又は拭き取りを必要としない生成物における使用を可能にする濃度で使用し得る発泡剤を見出すことは,極めて有利かつ望ましいだろう。(【0015】)


発明が解決しようとする課題

本発明は,ユーザーの皮膚又は手の乾燥を殆ど全く引き起こさず,そして加圧及び無加圧分配システムから泡として分配できる界面活性剤/洗浄剤,並びに消毒剤/洗浄剤/溶剤/担体を含有するアルコール含有量の高い組成物を提供する。(【0017】)
本発明は,特定用途のために表面上に容易に広がる泡として分配できる,アルコール含有量の高い組成物を提供する。本発明の組成物は抗菌性アルコール泡として処方することができる。これらの発泡性組成物は,適切なディスペンサーから分配されるときに安定であり,そして噴射剤及び加圧容器の使用を必要としないが,使用しても同様に発泡するだろう。(【0018】)


課題を解決するための手段

従って,本発明は,下記の成分;

a)全組成物の40%v/vより多い量で存在する,C1-4アルコール又はその混合物;b)全組成物の少なくとも0.01重量%の量で存在する,湿潤及び発泡のための,シリコーン骨格を含有する親油性鎖を含む生理的に許容される有効なシリコーン・ベースの界面活性剤を含む発泡剤であって,ディスペンサーから分配されるときに,該発泡性アルコール組成物が空気と混合されて泡が形成されるように選択された発泡剤;及び
c)全組成物を100重量%とする量で存在する水
を含む発泡性アルコール組成物を提供する。(【0019】)
本発明の一態様において,有効なシリコーン・ベースの界面活性剤は,全組成物
の約0.001%~約10.0重量%の量で存在し,この量は生理的に許容されるので,それはパーソナルケア型製品に使用することができる。(【0020】)本発明の好ましい実施形態において,シリコーン・ベースの界面活性剤はBisPEG-[10-20]ジメチコーン,3-(3-ヒドロキシプロピル)-ヘプタメチルトリシロキサンエトキシレーテッドアセテート,エトキシル化シリコーン・ベースの界面活性剤,
Bis-PEG/PPG18/6ジメチコーン,ポリエーテル改変ポリシロキサン又はポリシロキサンベタイン,又はその混合物であってよい。(【0021】)

発明を実施するための形態

本明細書で用いられる生理的に許容されるという用語は,皮膚に適用したときに刺激又は毒性を通常生じることがなく,そしてヒトに適用するためにユーザーによって受け入れられる材料を意味する。(【0035】)
本明細書で用いられる泡は,混合されて,可変長の時間持続する構造を有する小さい気泡のマスを形成する液体及び気体を意味する。(【0036】)気泡は,液体のフィルムで取り囲まれた気体のセルである。(【0037】)本明細書で用いられるエアゾールという用語は,分配のために製品を強制的
に追い出すために加圧気体が用いられる包装及び送出システム,並びに送出された製品を意味する。(【0038】)

本明細書で泡を生成するという文脈で用いられる低い圧力というフレーズは,無加圧容器から泡を分配するときのような大気圧付近又はそれ以下の圧力を意味する。典型的には,泡がエアゾール容器から分配されるとき,この泡は高い圧力条件下で分配されると考えられる。(【0040】)
本発明は,無加圧容器から低圧条件下で,又はエアゾール包装システムにより,泡として分配することのできる,シリコーン・ベースの界面活性剤を高い低級アルコール(C1-4)含有量と共に含む発泡性アルコール組成物を提供する。本発明の発泡性組成物は,空気と混合されるときに安定な泡を送出してアルコール性溶液を与え,この泡は,個人的洗浄用又は消毒目的のために使用でき,そして加圧時に,例えば
ユーザーが両手をこすったとき又は表面上に塗布されたときに壊れる。(【0041】)
本発明に用いられるアルコールは低級炭化水素鎖アルコール,例えば,メタノール,エタノール,プロパノール,ブタノール等のC1-4アルコールである。…最も好ましくはエタノールであり,適正濃度で十分な消毒作用があるとして衛生管理職員に
より良く受け入れられている。…本組成物には単一のアルコールを用いてもよく,又は上記のように2種又はそれ以上のアルコールのブレンドが組成物のアルコール含有量を構成してもよい。(【0042】)
一実施形態では,前記アルコールは約40%~約90%v/vの範囲で存在することができる。(【0043】)

本発明の重要かつ驚くべき成果は,消毒に適する組成物が40%v/vより多量のアルコールを含有するようにされていること,そしてシリコーン・ベースの界面活性剤が低圧容器及びエアゾール包装容器の両者から化粧品として魅力的な泡として分配され得ることである。(【0044】)
シリコーン・ベースの界面活性剤の使用は,発泡するように考案された組成物に
おける主発泡剤として重要な成分である。シリコーン界面活性剤は,例えば残渣を殆ど残さないこと,過酷な化学的及び熱的環境において機能し得ることのような種
々の興味深い特性を有し;それらは比類なき湿潤力,すなわち伝統的な界面活性剤よりも一般的に良好であるという特性を有し,有機溶剤中でより良い界面活性特性を示し,そしてそれらをコーティング,油田,材料仕上げ剤,クリーニング,塗料,農薬施用等における用途に広く使用されるようにしている。(【0045】)異なる界面活性剤を試した一方で,確認し得る何らかの相乗作用が存在して用法及び泡性能を最適化するかどうかを見出すために,2種又はそれ以上の混合物を評価した。若干の相乗作用が確認された一方で,特に二官能性のシリコーン界面活性剤Bis-PEG[10-20]ジメチコーンは単独で使用するときに最良であることも見出された。…具体的には,Bis-PEG12ジメチコーン及び/又はBis-PEG-20ジメチコーン
及び/又はBis-PEG-17ジメチコーンは,3-(3-ヒドロキシプロピル)-ヘプタメチルトリシロキサンエトキシレーテッドアセテート,ポリエーテル改変ポリシロキサン及びポリシロキサンベタインと並んで好ましく,後者は有望な結果を示したが,ジメチコーンの結果ほどには良好ではなかった。(【0048】)
本組成物の好ましい実施形態において,有効なシリコーン・ベースの界面活性剤
は,全組成物の約0.01%~約10.0重量%の,生理的に許容されるBis-PEG[10-20]ジメチコーン,3-(3-ヒドロキシプロピル)-ヘプタメチルトリシロキサンエトキシレーテッドアセテート,ポリエーテル改変ポリシロキサン,ポリシロキサンベタイン又はその混合物であってよい。(【0049】)
更に,加圧容器又は噴射剤を使用しない場合でも泡を生成することができるアル
コール含有量の高い生成物を得るためには,表面張力はできるだけ低いことが必要である。そうすれば,手動ポンプ又は機械的手段により,このような泡を生成するために必要な圧力で足りる。(【0051】)
本発明を開発する間に,80%v/wほどにも高いエタノールのみ及びシリコーン・ベースの界面活性剤を用いた場合に比較的安定な急速破壊性の泡が得られたが,伝統
的な界面活性剤をより高いパーセンテージで使用すると少しも類似しない結果を与え,そして泡は全く得ることができなかったことを見出したことは,予想外であっ
た。(【0052】)
アルコールに水を添加することは,製品を発泡させるために必要なシリコーン・ベースの界面活性剤の量の減少を可能にする一方で,より安定な泡を生じさせる。例えば,50~60%v/vアルコール水溶液と共に0.5~1.0%のシリコーン・ベースの界面活性剤を使用すると安定な泡を生成し,この泡は容易に壊れず,そして逆さにしたときでさえ落ちず,また圧力を加える(例えば両手で又は表面上でこするときに)まで壊れない安定なひと吹き…を生じてアルコール性溶液を与える一方で,アルコールの使用パーセンテージが65%w/wより多い場合には5%以下のレベルを必要とする。(【0060】)

本組成物は,組成物を空気と混合し,そしてそれから泡を分配するためのディスペンサーポンプを有する無加圧ディスペンサーから泡として分配されるように処方される。(【0066】)
本発明は,上記のような手動式低圧分配システムから泡として分配できる点で独特である…。(【0067】)

一方の界面活性剤又は他方(フルオロ界面活性剤に対してシリコーン界面活性剤)の使用における主な相違の一つは,フッ素化界面活性剤が表面張力をシリコーン・ベースの界面活性剤だけを用いて達成されるレベルよりも低いレベルに低下させ得るとい事実であり,従ってシリコーン・ベースの界面活性剤だけを含む組成物が同様の結果を達成するためにはより高いパーセンテージのシリコーン・ベースの
界面活性剤を一般的に必要とすることにも注目すべきである。(【0076】)カ
実施例

実施例17~32は,異なるシリコーン・ベースの界面活性剤を用いて泡を生成するためのエタノール濃度の上昇を示す。実施例33~36は,62%エタノールで許容される泡を生成するためのシリコーン・ベースの界面活性剤濃度の上昇を説明する。(【0081】)
(2)本件明細書の上記各記載によれば,本件各発明の概要は,おおむね以下のとお
りのものと認められる。
本発明は,エアゾール包装システムを用いて達成される,無加圧容器及び加圧容器の両者から低い圧力で泡として分配され得る,低級アルコール(C1-4)含有量の高い組成物に関する。(【0002】)
アルコール消毒液は,無駄をなくし,かつ組成物を所望の範囲全体に塗るのを容易にするために,一般的に増粘されるところ,これらの濃厚なアルコール含有組成物の欠点の一つは,アルコール消毒液の使用を続ける前に増粘剤を最終的に洗い落とす必要があることである。(【0004】)
低い圧力下で及び/又はエアゾール包装システムにより泡として分配し得る,シ
リコーン・ベースの界面活性剤を含有するアルコール・ベースの消毒製剤があることは,極めて有利である。適用された部分に留まることができ,そして蒸発後に残る残留物の量が少ないために洗い流し又は拭き取りを必要としない生成物における使用を可能にする濃度で使用し得る発泡剤を見出すことは,極めて有利かつ望ましい。(【0015】)

本発明は,ユーザーの皮膚又は手の乾燥を殆ど全く引き起こさず,そして加圧及び無加圧分配システムから泡として分配できる界面活性剤/洗浄剤,並びに消毒剤/洗浄剤/溶剤/担体を含有するアルコール含有量の高い組成物を提供する。(【0017】)
本発明は,特定用途のために表面上に容易に広がる泡として分配できる,アルコ
ール含有量の高い組成物を提供する。本発明の組成物は抗菌性アルコール泡として処方することができる。これらの発泡性組成物は,適切なディスペンサーから分配されるときに安定であり,そして噴射剤及び加圧容器の使用を必要としない。(【0018】)
本発明は,下記の成分;

a)全組成物の40%v/vより多い量で存在する,C1-4アルコール又はその混合物;b)全組成物の少なくとも0.01重量%の量で存在する,湿潤及び発泡のための,
シリコーン骨格を含有する親油性鎖を含む生理的に許容される有効なシリコーン・ベースの界面活性剤を含む発泡剤であって,ディスペンサーから分配されるときに,該発泡性アルコール組成物が空気と混合されて泡が形成されるように選択された発泡剤;及び
c)全組成物を100重量%とする量で存在する水
を含む発泡性アルコール組成物を提供する。(【0019】)
3
争点2-1(明確性要件違反の有無)について

(1)特許法36条6項2号の趣旨は,特許請求の範囲に記載された発明が明確でない場合に,特許の付与された発明の技術的範囲が不明確となることにより生じ得る第三者の不測の不利益を防止することにある。そこで,特許を受けようとする発明が明確であるか否かは,特許請求の範囲の記載のみならず,願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し,また,当業者の出願時における技術的常識を基礎として,特許請求の範囲の記載が,第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるか否かという観点から判断すべきものと解される。

(2)発泡性について

証拠(甲37)及び弁論の全趣旨によれば,泡には,形態的に区別される気
泡と泡沫とがあり,気泡は,気体が液体又は固体に包まれた状態を指し,ただ1つの界面を有するのに対し,泡沫は,気泡が多数集まって薄膜を隔てて密接に存在し,2つの界面を有するものであることは,親出願の出願日当時における当業者の技術常識であったと認められる。
他方,本件明細書には,本件各発明に係る泡に関し,本明細書で用いられる「泡は,混合されて,可変長の時間持続する構造を有する小さい気泡のマスを形成する液体及び気体を意味する。」(【0036】),

気泡は,液体のフィルムで取り囲まれた気体のセルである。

(【0037】)との定義が記載されてい
る。また,本件各発明の発泡性組成物の作用効果に関しては,本件各発明の組成物は,発泡性であるために,適用された部分に留まることができる(【0015】)
とともに,表面上に容易に広がる泡として分配できる(【0018】)ものであること,空気と混合されるときに安定な泡を与え,この泡は,個人的洗浄用又は消毒目的のために使用でき,例えばユーザーが両手をこすったとき又は表面上に塗布されたときに壊れること(【0041】),消毒に適する組成物が40%v/vより多量のアルコールを含有するようにされており,かつ,低圧容器及びエアゾール包装容器の両者から化粧品として魅力的な泡として分配され得ることが本発明の重要かつ驚くべき成果であること(【0044】)も,それぞれ記載されている。これらの記載に鑑みると,本件各発明における泡との語は,親出願の出願日当時における当業者の技術常識である上記意義と異なるものでないことは明らかで
ある。
そうである以上,発泡性なる文言との関係において,本件各発明に係る特許請求の範囲の記載が第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるとはいえない。すなわち,当該文言との関係において,本件各発明に係る特許請求の範囲の記載に明確性要件違反はない。


被告らの主張について

この点につき,被告らは,本件明細書【0036】の可変長の時間の程度,泡と気泡の違い,小さいとされる大きさの程度がいずれも不明であるから,本件各発明に係る特許請求の範囲の記載が不明確であると主張する。しかし,上記のとおり,当業者は,本件各発明における泡との語が泡沫を意味し,泡沫とは,気泡が多数集まって薄膜を隔てて密接に存在するものであるから,これはすなわち気泡のマスであること,そして,本件明細書【0036】における構造とは気泡のマスであることをそれぞれ理解できる。
また,可変長の時間持続するについては,本件各発明の発泡性組成物の作用効果に関する本件明細書の上記記載からすると,適用された部分に留まることがで
き,かつ,表面上に容易に広がる泡として分配できるものである本件各発明の組成物につき,例えばユーザーが両手をこすったとき又は表面上に塗布されたときに壊
れる程度の安定性を有するほどに,泡の持続時間が様々であることを示すものと理解できる。
さらに,小さいとはも,やはり本件各発明の作用効果に関する上記記載に照らせば,化粧品として魅力的な泡といえる程度の大きさをいうものと解するのが相当である。
したがって,この点に関する被告らの主張は採用できない。
(3)低い圧力で空気と混合されるときに発泡性について

本件明細書【0040】において,低い圧力は,無加圧容器から泡を分配するときのような大気圧付近又はそれ以下の圧力と定義され,また,典型的には,泡がエアゾール容器から分配されるとき,この泡は高い「圧力条件下で分配されると考えられる」とも記載されている。ここで,本件明細書におけるエアゾールとは,分配のために製品を強制的に追い出すために加圧気体が用いられる包装及び送出システム,並びに送出された製品を意味するものとされている(【0038】)。また,本件各発明は,無加圧容器から低圧条件下で,又はエア
ゾール包装システムにより,泡として分配することのできる,シリコーン・ベースの界面活性剤を高い低級アルコール(C1-4)含有量と共に含む発泡性アルコール組成物を提供する発明であることが記載されている(【0041】)。このような本件明細書の記載に鑑みると,本件各発明における低い圧力との語は,エアゾール容器のような加圧容器を用いない程度の圧力を意味するものであ
ることは明らかである。このことと,上記泡ないし発泡性の意味を併せ考えると,低い圧力で空気と混合されるときに発泡性との語は,加圧容器を用いない程度の圧力で発泡性アルコール組成物と空気を混合したときに,泡沫を生成することを意味することもまた,本件明細書の記載から明らかである。したがって,低い圧力で空気と混合されるときに発泡性との文言との関係に
おいて,本件各発明に係る特許請求の範囲の記載が第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるとはいえない。すなわち,当該文言との関係において,本件各
発明に係る特許請求の範囲の記載に明確性要件違反はない。

被告らの主張について

この点につき,被告らは,低い圧力とは無加圧容器から泡を分配するときのような大気圧付近又はそれ以下の圧力を意味するとされているものの,そのような大気圧付近又はそれ以下の圧力で発泡性アルコール組成物と空気をどのように混合するのかについては,技術的に理解し難く,本件明細書に記載がないため,不明確であると主張する。
しかし,上記アのとおり,低い圧力とは加圧容器を用いない程度の圧力を意味することは,本件明細書に明確に記載されているから,この点に関する被告らの
主張は採用できない。
(4)小括
以上のとおり,本件各発明に係る特許請求の範囲の記載は,明確性要件に違反するものとはいえない。
4
争点2-2(実施可能要件違反の有無)について

(1)明細書の発明の詳細な説明の記載が実施可能要件に適合するというためには,物の発明にあっては,当業者が明細書及び図面の記載並びに出願当時の技術常識に基づいて,その物を生産でき,かつ,使用できるように,具体的に記載されていることが必要であると解される。
(2)本件各発明に係る発泡性アルコール組成物の生産可能性


シリコーン・ベースの界面活性剤に着目すると,本件明細書には,アルコー
ルの濃度とシリコーン・ベースの界面活性剤の濃度に関し,50~60%v/vアルコール水溶液と共に0.5~1.0%のシリコーン・ベースの界面活性剤を使用すると安定な泡を生成し,

アルコールの使用パーセンテージが65%w/wより多い場合には5%以下のレベルを必要とする。

(【0060】)との記載がある。また,実施例17~19に係る泡の評価/記述/特性欄の記載からは,bis-PEG-20ジメチコーンの濃度が同じ(0.01重量%)場合,エタノールの濃度が40重量%,50重量%,60重
量%と高くなるほど泡の評価が下がり,泡の持続時間も短くなる傾向があること,実施例33~36に係る泡の評価/記述/特性欄の記載からは,エタノールの濃度が同じ(62重量%)場合,bis-PEG-20ジメチコーンの濃度が0.50重量%,1.00重量%,2.0重量%,5.00重量%と高くなるほど泡の評価や持続性が向上することが,それぞれ読み取れる。さらに,界面活性剤の濃度と表面張力低下作用の関係につき,一般的に,シリコーン・ベースの界面活性剤だけを含む組成物が表面張力をより低いレベルに低下させるとの結果を達成するためには,より高いパーセンテージのシリコーン・ベースの界面活性剤を必要とするとの記載もある(【0076】)。そうすると,これらの記載に接した当業者は,アルコール濃度が高い発泡性組成
物を得るためには,bis-PEG-[10-20]ジメチコーンを多く配合しなければならないことが理解できる。
以上によれば,本件明細書に接した当業者は,アルコール濃度が高いとの理由により,組成物が発泡しなかったり,良好な泡の性質が得られなかったりした場合には,上記記載内容に基づき,bis-PEG-[10-20]ジメチコーン又はその混合物の含有量
を増やすことによって発泡性や泡質を改善できることを,格別の困難を伴うことなく理解し得るというべきである。このことは,bis-PEG-[10-20]ジメチコーン又はその混合物の含有量が,請求項1に特定されている下限値の全組成物の0.01重量%である組成物,ひいては本件発明5及び6についても同様である。
したがって,本件明細書の発明の詳細な説明には,本件各発明の発泡性アルコー
ル組成物について,当業者が,本件明細書の記載に基づき,その組成物を生産でき,かつ,使用できるように,具体的に記載されていると認められる。イ
被告らの主張について

(ア)被告らは,本件明細書の実施例20及び33~36では泡が生成されていないとの理解を前提に,本件明細書には,低級アルコールを約81.3%v/vより高い濃度で含有する場合には本件特許に係る発明の課題が解決できないことが示されているとともに,低級アルコールを約67.7%v/vより高い濃度で含有する場合に本件特許に係
る発明の課題が解決できることを示す実施例は記載されていないなどと主張する。(イ)前記3(2)及び(3)のとおり,本件明細書には,大気圧付近又はそれ以下の圧力で発泡性アルコール組成物と空気をどのように混合するのか,また,どのような気泡のマス(集団)が発泡性に該当するのかについて,当業者が理解し得る程度に明確に記載されている。したがって,この点について,本件明細書には,その記載に基づき,当業者が本件各発明に係る組成物を生産でき,かつ,使用できるように,具体的に記載されていると認められる。
(ウ)本件明細書において,実施例20では泡の生成欄は有とされる一方で,泡の評価/記述/特性欄は…と記載されている。また,実施例33~36
では泡の生成欄はいずれも無とされながら,泡の評価/記述/特性欄には,急速に次々と壊れる泡は1分間より長く持続する(実施例33),良いクリーミーかつソフトな泡は1分間より長く持続する(同34),極めて良いクリーミーかつソフトな泡は1分間より長く持続する(同35),極めて良いクリーミーかつソフトな泡は数分間持続する(同36)と記載されている。
まず,実施例33~36に係る上記各記載について,その泡の評価/記述/特性欄の記載はかなり具体的なものといってよく,しかも,他の実施例のうち泡の生成欄が有となっているものの泡の評価/記述/特性欄の記載と対比すると,実施例33~36の泡の生成欄が無とされていることはむしろ不合理というほかない。このような事情は,上記各実施例に係る泡の生成欄の記
載が誤記であることを強くうかがわせるものである(なお,上記他の実施例の泡の評価/記述/特性欄の記載が誤りであること,実施例33~36の泡の評価/記述/特性欄の記載が他の実施例に関するものを誤って記載したものであることをうかがわせる証拠は,いずれも見当たらない。)。
また,本件明細書は,シリコーン・ベースの界面活性剤の含有量を増加させるこ
とが発泡性の向上ないし泡の質の増強につながることを示唆している(【0060】,【0087】。なお,このような理解は,甲18の発泡試験結果及び甲31
の再現試験の結果とも符合する。)。たとえ,エタノール濃度が高くなるに従って泡が生成されにくくなる傾向が認められるとしても,実施例33~36は,泡の生成欄が有とされる実施例19と比較して,エタノールの濃度はわずか2重量%しか増加していない(約1.03倍)のに対し,bis-PEG-20ジメチコーンは50倍以上もの量を含有していることに鑑みると,これらの実施例において泡が生成されないとは考え難い。
そうすると,実施例33~36については,泡の評価/記述/特性欄の記載及びその組成に照らし,泡が生成したと考えるのが合理的である。このため,当業者は,本件明細書全体の記載を踏まえ,実施例33~36に係る泡の生成欄の
無の記載は誤記である可能性が相当に高いものと理解すると見られる。また,以上に鑑みれば,エタノール濃度が高くなっても,bis-PEG-20ジメチコーンの濃度を高くすることにより(ただし,本件各発明に係る組成物において,アルコールのほか,bis-PEG-[10-20]ジメチコーン等及び水が必須の成分として含有されることなどを考えると,アルコール濃度には事実上の上限が想定されていると考え
られる。),本件各発明に係る発泡性アルコール組成物はなお生産可能であると考えるのが合理的である。そうである以上,実施例20についても,実施例19と比較してエタノール濃度は15重量%高いものの,bis-PEG-20ジメチコーンは800倍もの量を含有していることを踏まえると,本件明細書に接した当業者は,泡の評価/記述/特性欄の記載が…であってもなお,泡の生成欄記載のとお
り,同実施例の溶液により泡が生成された可能性は高い(その意味で,泡の評価/記述/特性欄の記載は誤記である可能性が高い)と理解するというべきである。(エ)その他被告らがるる主張する事情を考慮しても,この点に関する被告らの主張は採用できない。
(3)小括

以上より,本件明細書の発明の詳細な説明の記載は,実施可能要件に違反するものとはいえない。

5
争点2-3(サポート要件違反の有無)について

(1)特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するか否かについては,特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し,特許請求の範囲に記載された発明が,発明の詳細な説明に記載された発明で,発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か,また,その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものと解される。
(2)本件発明1においては,bis-PEG-[10-20]ジメチコーン又はその混合物の含有
量につき下限値(0.01重量%)及び上限値(10.0重量%)がいずれも明示されるとともに,アルコール濃度は下限値(40v/v%)が明示されており,かつ,水は全組成物を100重量%とする量と特定されている。また,アルコール濃度が高いとの理由により,組成物が発泡しなかったり良好な泡の性質が得られなかったりした場合,当業者は,本件明細書の記載に基づき,bis-PEG-[10-20]ジメチコーン又はその混合物
の含有量を増やすことによって発泡性や泡質を改善できると理解し得ることは,前記4(2)のとおりである。
そうすると,本件特許に係る特許請求の範囲の記載と本件明細書の発明の詳細な説明の記載を併せ考慮すると,当業者は,本件発明1の組成の範囲において,高い蓋然性をもって発泡性の組成物が得られる,すなわち,発明の課題を解決し得ると
認識できると認められる。なお,本件発明1はアルコールとしてC1-4アルコールを含有するものであるところ,このことは,エタノール以外のC1-4アルコールについても同様である。
そして,上記は本件発明5及び6についても妥当する。
したがって,本件各発明は,発明の詳細な説明に記載された発明で,発明の詳細
な説明の記載から,当業者が本件各発明の課題を解決できると認識できる範囲内のものというべきである。

(3)被告らの主張について
この点につき,被告らは,本件明細書の実施例33~36の各組成物に係る泡の生成欄の無という記載は誤記ではなく,他方,実施例20の組成物に係る同欄の有という記載は誤記であるとの理解を前提に,本件明細書の発明の詳細な説明に開示されている内容からは,本件特許に係る発明の課題を解決できると当業者が認識できる範囲のものとはいえないと主張する。
しかし,前記4(2)のとおり,本件明細書の実施例33~36の各組成物に係る泡の生成欄の無の記載は誤記であり,実施例20の組成物に係る同欄の有の記載は誤記ではないと理解されるから,被告らの主張はその前提を欠く。
そうである以上,この点に関する被告らの主張は採用できない。
(4)小括
以上より,本件特許に係る特許請求の範囲の記載は,サポート要件に違反するものとはいえない。
6
争点2-4(進歩性欠如の有無)について

(1)引用例について

乙1公報には,おおむね以下の記載がある(訳は乙5による。)。
(ア)組成物であって,
(a)該組成物全体の約40%v/vを超える量で存在しているアルコールC1-4又はその混合物;
(b)該組成物全体の少なくとも0.001重量%の量で存在している湿潤及び起泡に有効なフッ素化界面活性剤;
及び
(c)該組成物全体を100重量%とする量で存在している水;
を含んでいる,前記組成物。(請求項1)

前記組成物を空気と混合させたときに,該組成物と空気の混合物がフォームを形成する,空気を含んでいる請求項1に記載の組成物。(請求項2)
アルコール消毒用組成物であって,
(a)該組成物全体の約60%v/v~約80%v/vの量で存在しているアルコールC1-4又はその混合物;
(b)該組成物全体の約0.01重量%~約2.0重量%の量で存在している生理学的に許容されるフルオロ界面活性剤;
(c)約0.01重量%~約12.0重量%の量で存在しているフォーム安定化剤;(d)約0.05重量%~約5.0重量%の量で存在している保湿剤,軟化剤及びその組合せのいずれか一つ;
及び

(e)該組成物全体を100重量%とする量の水;
を含んでいる,前記組成物。(請求項46)
非加圧式ディスペンサーの中に収容されている請求項46~63のいずれか1項に記載のアルコール消毒用組成物であって,該ディスペンサーが該消毒用組成物を空気と混合させてそのディスペンサーからフォームを分配するためのディスペンサ
ーポンプを有している,前記アルコール消毒用組成物。(請求項64)(イ)本発明は,ゲル様組成物であり得るか,又は,フォーム(泡)として分配可能な溶液であり得る,高含有量の低級アルコール(C1-4)を含んでいる組成物に関する。フォームとして分配される該組成物は,フルオロ界面活性剤(fluorosurfactant)を含んでいて,空気と混合されたとき,個人の清浄又は消毒(disinfecting)用として
使用し得る安定なアルコールフォームを提供する。(2頁9行目~13行目)本発明の目的は,アルコール含有量の高い液体組成物を提供することであり,ここで,該液体組成物は,界面活性剤/清浄剤,及び,消毒剤/クリーニング/溶媒/担体を含み,使用者の皮膚又は手を殆ど乾燥させることがなく,加圧システム及び非加圧システムの両方からゲル又はフォームとして分配され得る。(6頁下から
5行目~1行目)
本発明は,ゲル又はフォームとして分配され得る,低級アルコール(C1-4)含有量
が高い組成物を提供する。該起泡性組成物は,空気と混合されると,アルコール性液体溶液を提供するための安定なフォームを送達する。この安定なフォームは,個人清浄用又は消毒用として使用可能であり,また,使用者が自分の手を擦り合わせる場合や,表面全体に塗布される場合などのように,加圧用途に際しては,当該フォームの泡は破裂して消える。(14頁7行目~12行目)
フルオロ界面活性剤の使用は,本明細書で開示している起泡するように意図された組成物における主要な起泡剤として重要な成分である。(15頁9行目~10行目)
商業的に適した製剤を得るために,他の成分,例えば,化粧品,エアゾール,…
などで用いられる第二界面活性剤,乳化剤,フォーム安定化剤及び芳香剤などの成分を用いて補助しながら,フルオロ界面活性剤の使用量を低減するということが,次に行ったアプローチの1つである。(16頁下から3行目~17頁2行目)上記アルコールに水を添加することによりさらに安定なフォームが生成されるが,同時に,生成物を起泡させるのに必要とされるフルオロ界面活性剤の量を低減する
ことができる。(18頁14行目~15行目)

乙2公報には,おおむね以下の記載がある。

(ア)発明の名称
耐久性ある発泡組成物
(イ)特許請求の範囲
水および下記の化合物の種類の一つ以上に属する少なくとも一種のアルコキシル化シリコーン化合物を含む発泡組成物で,
-ビスアルコキシル化シリコーン化合物
-アルコキシル化シリコーンワックス
-脂肪酸およびアルコキシル化シリコーン化合物からのエステル

-水不溶性アルコキシル化シリコーン化合物,
空気または不活性ガスで発泡され,持続性よく0.8g/cm3以下の密度を有すること
を特徴とする組成物。(【請求項1】)
適切な包装材料に入れた請求項1ないし14いずれか1項の永続発泡性の組成物または請求項15ないし18いずれか1項の薬剤の,整髪,ヘアスタイリング,洗髪または身体洗浄または皮膚保護への使用。(【請求項19】)
(ウ)背景技術
使用の直前に発泡させた一時的な不安定な泡の形の化粧用毛髪処理製品は公知である。この場合,燃料ガスを使った圧力容器からの取り出しによって不安定な泡に発泡させるエアゾル製品か,または泡ヘッドに接続した機械的なポンプによって包装材から取りだすことによって不安定な泡をつくるいわゆるポンプフォームが問題
となる。そのような一時的な数分間で崩壊する泡を作る製品は,それぞれの使用の前にまず泡を作らねばならず,これは使用者にとっては面倒なことであるという欠点をもつ。そのうえ,製品販売システムの渋滞の危険が存在するので,必要な包装材はコストがかかり,間違いが起こりやすい。さらに,処方の自由度が制限され,すなわち全ての希望の皮膚保護および整髪効果が一時的な泡製品で実現可能ではな
い。(【0003】)
(エ)発明が解決しようとする課題
永続発泡性の化粧用既製調剤の製造のための種々の手がかりは,…公知である。また,高温で特に貯蔵安定性がよく同時に皮膚または毛髪に使用したときに良い使用特性をもつ発泡製品の製造は,まだ全ての点で満足できるようには解決されてい
ない。したがって,使用しやすい化粧用または皮膚病用の向上した感覚的性質(例えば,触感,外観,聴覚)をもつ皮膚保護剤および整髪剤を提供するという課題が存在する。この場合,主要な皮膚保護性および整髪性を受容できないほど損なってはならず,その薬剤はコストがかかり,間違いが起こりやすい包装材を必要としてはならず,また高い貯蔵安定性で永続発泡(耐久性ある発泡)の形で存在しなけれ
ばならない。(【0004】)
(オ)課題を解決するための手段

この課題は,永久泡沫のための泡安定剤として,一定のシリコーン化合物を使用することによって解決される。(【0005】)
本発明の組成物により,既製調合の泡製品として適切な包装材中に存在し,これは取り出すことができ,その場合,室温(20℃)で少なくとも一週間保存したあとの発泡度がなお少なくとも10%またはそれ以上であり得るような化粧用,医薬用または皮膚病用の皮膚または毛髪の処理剤が製造できる。(【0007】)水のほかに,親水相にはさらに水溶性の化粧品に適した有機溶媒を1ないし30重量%または5ないし20重量%の量で含ませてもよい。そのような溶媒は,例えばエタノールやイソプロパノールのような低級一価アルコールまたは例えばエチレング
リコール,ジエチレングリコール,ブチレングリコールまたはグリセリンのような多価のC2-ないしC4-アルコールである。(【0009】)
[アルコキシル化シリコーン化合物]
アルコキシル化シリコーン化合物は,未発泡の組成物に基づいて0.1ないし30重量%,または0.2ないし20重量%,特に好ましくは1ないし10重量%の量で含まれるの
が好ましい。アルコキシル化シリコーン化合物は,ポリアルコキシル化シリコーン化合物,すなわちポリ酸化アルキレン基をもつものである。シリコーンワックスは,室温でワックス状の固体である物質,すなわち25℃より高い融点または滴点を有するものである。(【0010】)
好ましいシリコン化合物は,INCI名で…ビス-PEG-12ジメチコーン,ビス-PEG-
20ジメチコーン…である。…特に好ましいのは,脂肪酸でエステル化したビス-エトキシル化シリコーンワックスである。(【0013】)
永続発泡または永久泡の概念は,その中に気体物質が気体の小さい泡の形で均一に分散しており,この均一な分散物が室温(20℃)で,少なくとも1週間,好ましくは1ケ月,特に好ましくは6ケ月含まれたままであること,すなわち発泡
度がなお少なくとも10%,なお特に好ましくは少なくとも20%であることで示される製品塊をいう。(【0038】)

(2)本件発明1と乙1発明との対比

乙1公報には,以下の発明(乙1発明)が記載されていると認められる。
非加圧式ディスペンサーの中に収容されているアルコール消毒用組成物であって,該ディスペンサーが該消毒用組成物を空気と混合させてそのディスペンサーからフォームを分配するためのディスペンサーポンプを有しており,前記アルコール消毒用組成物が,a)該組成物全体の約60%v/v~約80%v/vの量で存在しているアルコールC1-4又はその混合物;b)該組成物全体の約0.01重量%~約2.0重量%の量で存在している生理学的に許容されるフルオロ界面活性剤;c)約0.01重量%~約12.0重量%の量で存在しているフォーム安定化剤;d)約0.05重量%~約5.0重量%の量で存在している保湿剤,軟化剤及びその組合せのいずれか一つ;及びe)該組成物全体を100重量%とする量の水;を含んでいる,前記アルコール消毒用組成物。イ
そうすると,本件発明1と乙1発明とは,界面活性剤が,本件発明1では
bis-PEG-[10-20]ジメチコーンであるのに対し,乙1発明ではフルオロ界面活性剤である点で相違する。(3)相違点に係る構成の容易想到性

乙1発明の組成物と乙2公報の組成物は,アルコール,水及び界面活性剤を
含有する発泡性の組成物である点で共通する。
しかし,乙1発明の組成物は,本件発明1と同様に,約40%v/vを超える高濃度のアルコールを含み,使用時に一時的に発泡させて用いる水性組成物である。他方,乙2公報の組成物は,既製調合の泡製品として包装材中に保存可能な永続発泡性の組成物であり,その中に気体物質が気体の小さい泡の形で均一に分散しているとこ
ろ,この均一な分散物は,室温(20℃)で,少なくとも1週間,好ましくは1か月,特に好ましくは6か月含まれたままであることとされている。また,乙1発明における界面活性剤であるフルオロ界面活性剤(フッ素化界面活性剤)は,水性組成物を一時的に発泡させるための発泡剤として添加されているのに対し,乙2公報の組成物における界面活性剤であるアルコキシル化シリコーン化合物は,永久泡沫のための泡安定剤として添加されているものである。したがって,乙1発明と乙2記載事項は,同じく発泡性の組成物に係る発明であるとはいえ,その発泡性の持続性に係る技術的思想はおよそ異なるものというべきである。
そうすると,乙1公報及び乙2公報に接した当業者において,乙1発明の組成物
に乙2公報記載の組成物に用いられるシリコーン・ベースの界面活性剤を更に配合することに対する動機付けがあるとはいえない。
また,乙2公報において,好ましいシリコーン化合物のうち,特に好ましいのは,脂肪酸でエステル化したビス-エトキシル化シリコーンワックスであるとされているところ,当業者が,同段落に掲記された多数のシリコーン化合物の中から,bis-
PEG-[10-20]ジメチコーンに該当する界面活性剤であるbis-PEG-12ジメチコーンやbis-PEG-20ジメチコーンに特に着目すると認めるに足りる事情はうかがわれない。その意味でも,乙1公報及び乙2公報に接した当業者において,乙1発明の組成物にbis-PEG-[10-20]ジメチコーンを更に配合しようとする動機付けがあるとはいえない。

以上より,当業者が相違点に係る本件発明1の構成を容易に想到できたということはできない。

被告らの主張について

被告らは,化粧品等に添加される泡安定剤としてはbis-PEG-12ジメチコーンやbis-PEG-20ジメチコーン等が好ましい旨が乙2公報に開示されていることなどに照らせば,起泡剤であるフルオロ界面活性剤を含有する乙1発明の発泡性組成物に,乙2公報から導かれる泡安定剤であるものの,永久泡沫のために特に好ましいとさ
れているわけではない(逆に言えば,可変長の時間持続する構造を有する泡沫を形成する上では好ましい)bis-PEG-[10-20]ジメチコーンを更に配合する動機付けはあると主張する。
しかし,上記アのとおり,乙2公報において,bis-PEG-12ジメチコーンやbis5
PEG-20ジメチコーンは,永久泡沫のための泡安定剤として好ましいものとされている以上,これを,水性組成物を一時的に発泡させるための発泡剤として界面活性剤であるフルオロ界面活性剤を添加する乙1発明の組成物に添加する動機付けがあるとはいえない。
その他被告らがるる主張する事情を考慮しても,この点に関する被告らの主張は
採用できない。
(4)本件発明5及び6の進歩性について
本件発明5と乙1発明との相違点は,本件発明1の場合と同様であることから,本件発明5の進歩性についても,本件発明1の場合と同様である。他方,本件発明6との関係で対比すべき乙1公報記載の発明は乙1’発明(前記
第3の5(2)イ)であると認められるところ,本件発明6と乙1’発明との相違点は,やはり本件発明1と乙1発明との相違点と同様である。したがって,本件発明6の進歩性についても本件発明1と同様のことが妥当する。
(5)小括
以上より,その余の点を検討するまでもなく,本件各発明は,いずれも乙1発明
に基づいて容易に相当し得たものとは認められない。
7
争点1(技術的範囲の属否〔構成要件1A及び1C{5B,6B}の充足の
有無)について
(1)被告各製品が本件発明1の構成要件1B及び1D,本件発明5の構成要件5A並びに本件発明6の構成要件6Aをそれぞれ充足することは,当事者間に争いがない。
(2)発泡性アルコール組成物(構成要件1A),泡が形成される発泡剤
(構成要件1C)について

前記3(2)のとおり,本件各発明における泡は,泡沫を意味するものであ
るところ,被告各製品が泡状の手指消毒剤であることは被告サラヤのホームページや製品情報等にうたわれていること(甲5~11)に加え,被告各製品の試験結果(甲36)及び弁論の全趣旨によれば,被告各製品はいずれも泡沫を生成するものであることが認められる。
したがって,被告各製品は発泡性アルコール組成物,泡が形成される発泡剤に当たる。イ
これに対し,被告らは,本件明細書の実施例20及び34の各組成物が泡を
生成しなかったとの理解を前提に,上記各組成物の構成と被告各製品の構成とを比較して,被告各製品は発泡性アルコール組成物,泡が形成される発泡剤に当たらないと主張する。
しかし,上記のとおり,被告各製品が本件各発明における泡を生成するものである以上,この点に関する被告らの主張は採用できない。

(3)低い圧力で空気と混合されるときに発泡性(構成要件1A),組成物を空気と混合するディスペンサーポンプを有する無加圧ディスペンサーから分配されるときに,該発泡性アルコール組成物が空気と混合されて泡が形成される(構成要件1C)について

前記3(3)のとおり,低い圧力で空気と混合されるときに発泡性とは,加
圧容器を用いない程度の圧力で発泡性アルコール組成物と空気を混合したときに泡沫を生成することを意味する。また,本件明細書には,加圧容器又は噴射剤を使用しない場合でも泡を生成することができる手段として手動ポンプ又は機械的手段が想定されていることがうかがわれる(【0051】)とともに,本件各発明の組成物が,泡を分配するためのディスペンサーポンプを有する無加圧ディスペン
サーから泡として分配されるように処方されることが記載されている(【0066】)。これらを併せ考えると,ディスペンサーポンプを有する無加圧ディスペンサーとは,吐出の際に手で圧力を加えることにより内容物を分配するポンプ式等のディスペンサーを意味すると解される。他方,証拠(甲6,9,36)及び弁論の全趣旨によれば,被告各製品には,加圧容器ではない,手動ポンプ式ディスペンサーが用いられていることが認められる。
したがって,被告各製品は,低い圧力で空気と混合されるときに泡を生成し,組成物を空気と混合するディスペンサーポンプを有する無加圧ディスペンサーから分配されるときに,該発泡性アルコール組成物が空気と混合されて泡が形成される発泡剤であるということができる。イ
これに対し,被告らは,低い圧力がディスペンサーポンプを有する無加圧ディスペンサーから分配される場合に加えられる圧力よりも低いこと,吐出の際に手で圧力を加えることにより内容物を分配するポンプ式等のディスペンサーがディスペンサーポンプを有する無加圧ディスペンサーに当たらないことを前提に,被告各製品は,低い圧力で空気と混合されるときに泡を生成するものではなく,また,組成物を空気と混合するディスペンサーポンプを有する無加圧ディスペンサーから分配されるときに,該発泡性アルコール組成物が空気と混合されて泡が形成される発泡剤ではないなどと主張する。しかし,前記3(3)及び上記アのとおり,被告らの主張はその前提において誤りがあるから,この点に関する被告らの主張は採用できない。
(4)生理的に許容される(構成要件1C)について

本件明細書の記載によれば,生理的に許容される(構成要件1C)とは,皮膚に適用したときに刺激又は毒性を通常生じることがなく…ユーザーによって受け入れられることを意味し(【0035】),生理的に許容される有効なシリコーン・ベースの界面活性剤の量は,全組成物の約0.001%~約10.0重量%の量である(【0020】)。他方,被告各製品に存在するシリコーン・ベースの
界面活性剤であるbis-PEG-12ジメチコーンの量については,原告と被告らで主張を異にするものの,被告らの主張を前提としても全組成物の0.01%~10.0重量%の量(構成要件1C)の範囲内にある。さらに,弁論の全趣旨によれば,被告各製品は,速乾性手指消毒剤として特段の問題もなく販売されていたことがうかがわれる。
これらの事情に照らせば,被告各製品は,生理的に許容されるシリコーン・ベースの界面活性剤を含む発泡剤であると認められる。これに反する被告らの主張は採用できない。
(5)小括
以上によれば,被告各製品は,いずれも構成要件1A及び1C,ひいては構成要件5B及び6Bを充足する。

したがって,被告各製品は,いずれも本件各発明の技術的範囲に属する。8
差止請求・廃棄請求の可否

以上のとおり,被告各製品の製造,販売等は,本件各発明に係る本件特許権の侵害行為を構成する。
もっとも,証拠(乙8~10)及び弁論の全趣旨によれば,被告らは,被告各製品については処方変更をしたこと(なお,変更後の製品が被告各製品と実質的に同一の処方によるものであるといった事情をうかがわせる証拠はない。),平成30年12月4日時点で被告各製品の在庫が存在しないことが,それぞれ認められる。この点をも踏まえると,まず,被告各製品の製造,販売等の差止めについては,被告らの応訴態度に鑑み,被告らが被告各製品を製造,販売等するおそれは依然と
して残っているというべきである。したがって,被告各製品の製造,販売等の差止めはなおその必要性が認められる。
他方,被告各製品の在庫は既にないことから,被告各製品の廃棄については,もはやその必要性が認められない。
したがって,被告各製品の製造,販売等の差止請求は理由があるものの,その廃
棄請求は理由がない。
9
争点3(原告の損害額)について

(1)実施料相当額

被告各製品の売上高

平成28年3月4日~平成31年1月10日の間における被告各製品の売上高が以下のとおりであることは,当事者間に争いがない。
(ア)被告サラヤによる販売分(被告東京サラヤに対する販売分は除く。)a
被告製品1

600万円

b
被告製品2

3840万円

(イ)被告東京サラヤによる販売分
a
600万円

b
被告製品2

3840万円


被告製品1

実施料率について

(ア)特許法102条3項は,

特許権者…は,故意又は過失により自己の特許権…を侵害した者に対し,その特許発明の実施に対し受けるべき金銭の額に相当する額の金銭を,自己が受けた損害の額としてその賠償を請求することができる。

旨規定する。そうすると,同項による損害は,原則として,侵害品の売上高を基準とし,そこに,実施に対し受けるべき料率を乗じて算定すべきである。ここで,特許法102条3項については,その特許発明の実施に対し通常受けるべき金銭の額に相当する額では侵害のし得になってしまうとして,平成10年法律第51号による改正により通常の部分が削除された経緯がある。また,特
許発明の実施許諾契約においては,技術的範囲への属否や当該特許の効力が明らかではない段階で,被許諾者が最低保証額を支払い,当該特許が無効にされた場合であっても支払済みの実施料の返還を求めることができないなど,様々な契約上の制約を受けるのが通常である状況の下で,事前に実施料率が決定される。これに対し,特許権侵害訴訟で特許権侵害に当たるとされた場合,侵害者は,上記のような契約
上の制約を負わない。これらの事情に照らせば,同項に基づく損害の算定に当たって用いる実施に対し受けるべき料率は,必ずしも当該特許権についての実施許諾契
約における実施料率に基づかなければならない必然性はなく,むしろ,通常の実施料率に比べておのずと高額になるであろうことを考慮すべきである。したがって,特許法102条3項による損害を算定する基礎となる実施に対し受けるべき料率は,①当該特許発明の実際の実施許諾契約における実施料率や,それが明らかでない場合には業界における実施料の相場等も考慮に入れつつ,②当該特許発明自体の価値すなわち特許発明の技術内容や重要性,他のものによる代替可能性,③当該特許発明を当該製品に用いた場合の売上げ及び利益への貢献や侵害の態様,④特許権者と侵害者との競業関係や特許権者の営業方針等訴訟に現れた諸事情を総合考慮して,合理的な料率を定めるべきである。

(イ)実施料の相場(①)
実施料率〔第5版〕(社団法人発明協会研究センター編,平成15年発行。甲38)によれば,医薬品・その他の化学製品(イニシャル無)の技術分野における平成4年度~平成10年度の実施料率の平均値は7.1%であり,昭和63年度~平成3年度に比較して上昇しているところ,その要因として,

実施料率全体の契約件数は減少しているものの,8%以上の契約に限れば件数が増加しており,この結果,…実施料率の平均値が高率にシフトしている。

,この技術分野が他の技術分野と比較して実施料率が高率であることと,実施料率の高率へのシフト傾向は,医薬品が支配的であるが,これは近年医薬品の開発には莫大な費用が必要となってきており,また,代替が難しい技術が他の技術分野と比較して多いためであると考えられる。との分析が示されている。また,同時期の実施料率の最頻値は3%,中央値は5%であることも示されている。
他方,平成21年度特許庁産業財産権制度問題調査研究報告書知的財産の価値評価を踏まえた特許等の活用の在り方に関する調査研究報告書~知的財産(資産)価値及びロイヤルティ料率に関する実態把握~本編(株式会社帝国データバンク,平成22年3月作成。乙11)によれば,健康;人命救助;娯楽の技術分野における実施料率の平均は5.3%,最大値14.5%,最小値0.5%とさ
れている。また,バイオ・製薬の技術分野においては,平均6.0%,最大値32.5%,最小値0.5%とされている。
(ウ)本件における実施料率を考えるにあたり考慮すべき事情(②~③)a
原告は,本件各発明の技術的価値は極めて優れたものであり,また,速乾性
手指消毒剤の市場における泡状の製品の占めるシェアの動向から,経済的にもその価値は高いなどと主張する。
泡状の速乾性手指消毒剤である被告各製品に係る宣伝広告(甲5,7,8),製品情報(甲6,9)及び医薬品インタビューフォーム(甲10)では,液状の速乾性手指消毒剤では手に取ったときにこぼれやすく,ジェル状の速乾性手指消毒剤で
は増粘剤が配合されているためにポンプのノズルの詰まりや繰り返し塗布したときの使用感が問題になることがあったところ,被告各製品は,これらの問題点を解決する製品である旨がうたわれていることが認められる。
また,本件各発明の実施品である泡状の速乾性手指消毒剤(平成23年6月発売。甲39,41の1~41の5,弁論の全趣旨)の販売業者が医療関係者向けに開設
したウェブサイト(甲40)には,泡が目に見えるので消毒範囲が確認できるとともに,泡が消えるまで塗り広げることが消毒時間の目安にもなる点や,増粘剤が入っていないので,ポンプが詰まらず,手に擦り込んでもヨレ(増粘剤入りの消毒剤や化粧品を手に擦り込んだ際に出る糊状の剥離物)が出ないことがうたわれている。さらに,平成30年9月26日付け薬事日報ウェブサイトの新薬・新製品情報に関
する記事(甲44)においては,第三者の販売に係る医薬品として日本で初めて承認された低アルコール濃度72vol%の手指殺菌・消毒剤の出荷開始予定について報じる中で,同品の登場によって,手指消毒剤の課題であったアルコールによる手肌への刺激が低減され,…このほか,▽きめ細かく弾力のある泡で,手からこぼれるリスクを軽減する▽泡が目でしっかり見えるため,手指消毒の状態を確認できる-といった使用感も特徴。,現在,医療分野における手指消毒剤市場は約160億円とされ,構成比は液状が6割,ジェル状が3割,泡状が1割という状況。ただ,液状の構成比は年々減少しており,今後はジェル状と共に泡状も伸びていくことが見込まれている。とされている。加えて,被告サラヤが実施したアンケートによれば,アンケート対象者である医療従事者の施設で使用されている速乾性手指消毒剤の種類は,平成25年にはジェルタイプ67%,液タイプ27%,泡タイプ6%であったものが,平成27年にはそれぞれ66%,24%,10%となっている(甲42,43)。以上の事情を総合的に見ると,被告各製品と本件各発明の実施品に加え,第三者の製品も,本件各発明の奏する作用効果(前記3(2)ア)と同趣旨と見られる効果を利点としてうたっていることなどに鑑みれば,泡状の手指消毒剤において本件各発
明が持つ技術的価値は高いものと見られる。また,手指消毒剤の市場において,泡状の製品のシェアが徐々に高まっていることがうかがわれることに鑑みると,本件各発明の経済的価値も積極的に評価されるべきものといえる。もっとも,後者に関しては,ジェル状の製品のシェアはなお維持されているといってよいことに鑑みると,その評価は必ずしも高いものとまではいえない。実施料率の決定要因としては,
当該特許発明の技術的価値よりも経済的価値の方がより影響力が強いと推察されることに鑑みると,このことは軽視し得ない。
これに対し,被告らは,本件各発明は平均的な発明に比して技術的に優れた発明ではなく,また,泡状の手指消毒剤のシェアの拡大は直接的には当該製品の販売事業者の営業努力によるものであり,シェア拡大をもって特許の経済的価値が高いと
はいえないなどと主張する。
しかし,進歩性が認められる本件各発明の奏する作用効果と同趣旨と見られる効果が実際の製品の利点としてうたわれていることなどに鑑みれば,上記のとおり本件各発明の技術的価値は高いものと評価するのが相当である。また,販売事業者が営業活動に当たって相応の営業努力を行うことは当然である上,泡状の手指消毒剤
に係る営業方法等が,ジェル状ないし液状のものに係る営業方法等と比較して,格別のものであると見るべき事情もない。

これらのことから,この点に関する被告らの主張は採用できない。b
被告各製品は,被告製品1(500mLの泡ポンプ付が定価1760円,3
00mLの泡ポンプ付が1200円,80mLの泡ポンプ付が670円,600mLのディスペンサー用が2000円。甲5,28,乙13),被告製品2(500mLの泡ポンプ付が1760円,300mLの泡ポンプ付が1200円,200mLの泡ポンプ付が930円,80mLのものが670円,600mLのディスペンサー用が2000円。甲8,29,乙14)いずれも比較的低価格である。反面,これを踏まえて被告各製品の売上高を見ると,その販売数量は多いといえるから,被告各製品はいわゆる量産品であり,利益率は必ずしも高くないと合理的に推認さ
れる。この点は,本件各発明を被告各製品に用いた場合の利益への貢献という観点から見ると,実施料率を低下させる要因といえる。
(エ)小括
上記(イ)及び(ウ)の各事情を斟酌すると,特許権侵害をした者に対して事後的に定められるべき,本件での実施に対し受けるべき料率については,7%とするのが相当
である。これに反する原告及び被告らの各主張は,いずれも採用できない。ウ
特許発明の実施に対し受けるべき金銭の額に相当する額

以上によれば,原告が被告らによる本件各発明の実施に対し受けるべき金銭の額に相当する額は,売上高に7%を乗じて算定すべきこととなる。具体的には以下のとおりである。
a
被告サラヤによる販売分(被告東京サラヤに対する販売分は除く。)
310万8000円


42万円



被告製品2

268万8000円

b
被告製品1

被告東京サラヤによる販売分



被告製品1

42万円



被告製品2

268万8000円

合計310万8000円

合計


弁護士費用及び弁理士費用相当損害額

また,上記ウの額その他本件に現れた一切の事情を考慮すると,被告らの特許権侵害行為と相当因果関係に立つ弁護士費用及び弁理士費用相当損害額は,被告サラヤによる販売分(被告東京サラヤに対する販売分を除く。),被告東京サラヤによる販売分それぞれにつき31万円と認めるのが相当である。
被告製品2の販売に関する共同不法行為責任について
被告ら相互の関係(第2の2(1)イ)や被告各製品の流通過程(同(5))に照らせば,被告東京サラヤによる被告各製品の販売行為については,被告らの間に客観的関連共同にとどまらず主観的関連共同も認められるから,被告らによる共同不法行為が
成立し,被告サラヤは連帯して損害賠償責任を負うと解するのが相当である。遅延損害金の起算日について
原告は,平成28年3月4日~平成29年9月20日までの間に販売された被告各製品に係る損害分については平成29年10月12日(訴状送達の日の翌日)を,平成29年9月21日~平成31年1月10日までの間に販売された被告各製品に
係る損害分については平成31年1月18日(訴えの変更申立書送達の日の翌日)を遅延損害金の起算日として主張する。
不法行為に基づく損害賠償請求権の遅延損害金の起算日は不法行為の日以後でなければならないところ,被告各製品の販売は,遅くとも平成31年1月10日までに行われたことは明らかであるものの,それ以上の詳細は証拠上明らかではない。
そうすると,本件における被告らの損害賠償債務の遅延損害金の起算日は,原告の上記主張の趣旨も併せ考慮し,平成31年1月18日とするのが相当である。第5

結論

以上のとおり,原告の請求は,主文第1項~第4項記載の限度で理由があるから,その限度で認容し,その余はいずれも理由がないから棄却することとして,主文のとおり判決する。なお,主文第1項及び第2項について,仮執行の宣言を付すのは相当でないから,これを付さないこととする。

大阪地方裁判所第26民事部

裁判長裁判官

杉浦正樹野上誠一大門宏
裁判官

裁判官

一郎
(別紙)
当事者目録


リミテッド

同訴訟代理人弁護士

岡田春中西同駒木寛隆
同訴訟代理人弁理士

大﨑勝真
同補佐人弁理士岡
デブアイピー

同告本篤史同佐藤浩司
ラヤ

夫淳被告サ株式会社被告
東京サラヤ株式会社

上記両名訴訟代理人弁護士

原正敏同原井大介同山澤
同訴訟代理人弁理士

林同中同小北満雅仁野睦子野善基以上
(別紙)
物件目録
1
下記の商品を含む,販売名にサニサーラフォームHを含む消毒剤。記
(1)品


内容量/規格
(2)品


内容量/規格
(3)品


内容量/規格

(4)品


内容量/規格
2
速乾性手指消毒剤サニサーラフォームH
500mL泡ポンプ付
速乾性手指消毒剤サニサーラフォームH
300mL泡ポンプ付
速乾性手指消毒剤サニサーラフォームH
80mL泡ポンプ付
速乾性手指消毒剤サニサーラフォームH
600mLディスペンサー用

下記の商品を含む,販売名にサニサーラフォームを含む消毒剤(ただし,
販売名にサニサーラフォームHを含む消毒剤を除く。)。

(1)品


内容量/規格
(2)品


内容量/規格
(3)品


内容量/規格
(4)品


内容量/規格
(5)品

内容量/規格

速乾性手指消毒剤サニサーラフォーム
500mL泡ポンプ付
速乾性手指消毒剤サニサーラフォーム
300mL泡ポンプ付
速乾性手指消毒剤サニサーラフォーム
200mL泡ポンプ付
速乾性手指消毒剤サニサーラフォーム
80mL
速乾性手指消毒剤サニサーラフォーム
600mLディスペンサー用
以上
(別紙)
構成要件目録
1
本件発明1

1A
発泡性アルコール組成物であって,低い圧力で空気と混合されるときに発
泡性であり,下記の成分;
1B

a)全組成物の少なくとも40%v/vの量で存在する,C1-4アルコール又は
その混合物;
1C

b)全組成物の0.01重量%~10.0重量%の量で存在する,発泡のための,
シリコーン骨格を含有する親油性鎖を含む生理的に許容されるシリコーン・ベースの界面活性剤を含む発泡剤であって,bis-PEG-[10-20]ジメチコーン,又はbis-PEG[10-20]ジメチコーンの混合物であり,組成物を空気と混合するディスペンサーポンプを有する無加圧ディスペンサーから分配されるときに,該発泡性アルコール組成物が空気と混合されて泡が形成される発泡剤;及び
1D

c)全組成物を100重量%とする量で存在する水を含む

1A

発泡性アルコール組成物。

2
本件発明5

5A

上記アルコールが少なくとも40%v/v∼90%v/vの範囲で存在する,
5B

請求項1に記載の組成物。

3
本件発明6

6A

上記アルコールが少なくとも60%v/vの量で存在するエタノールである,
6B

請求項1に記載の組成物。
以上
(別紙)
被告各製品の構成
1
被告製品1

a1
b1

全組成物の約78.6%v/vのエタノール,

c1

全組成物の約1.66重量%の量で存在するbis-PEG-12ジメチコーン,
d1

エタノールを含む発泡性組成物であり,下記のb~dの成分を含む;
全組成物の約25.6重量%の量で存在する水

このほか,被告製品1は,保湿剤としてグリセリン,ミリスチン酸イソプロピル及びアラントインを含有する。
2
被告製品2

a2
b2

全組成物の約78.7%v/vのエタノール,

c2
エタノールを含む発泡性組成物であり,下記のb~dの成分を含む;
全組成物の約1.81重量%の量で存在するbis-PEG-12ジメチコーン,
d2

全組成物の約25.1重量%の量で存在する水

このほか,被告製品2は,保湿剤としてグリセリン,ミリスチン酸イソプロピル及びアラントインを含有する。
以上
(別紙)
本件明細書表目録

以上
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