判例検索β > 平成30年(行ウ)第424号
その他 行政訴訟
事件番号平成30(行ウ)424
裁判年月日令和元年6月18日
法廷名東京地方裁判所
裁判日:西暦2019-06-18
情報公開日2019-06-26 12:00:23
戻る / PDF版
令和元年6月18日判決言渡

同日原本交付

平成30年(行ウ)第424号

裁判所書記官

異議申立棄却決定取消請求事件

口頭弁論終結日平成31年4月11日
判決原告
セヴァーン・トレント・ウォーター・リミテッド

原告
ヨークシャー・ウォーター・サーヴィシーズ・リミテッド

原告
エヌセーセー・デンマーク・アクティーゼルスカブ

原告
アングリアン・ウォーター・サーヴィシーズ・リミテッド

原告
ヘイデール・コンポジット・ソリューションズ・リミテッド

末吉西川喜裕
原告ら補佐人弁理士

中村充利

原告ら訴訟代理人弁護士
同告国
被告代表者法務大臣

山下貴司処特分行政庁許剛庁長官

被告指定代理人

和氣同鈴木吉憲同宮川和大同近野智同小野和実同像木原理沙主直子礎香子文1原告らの請求をいずれも棄却する。
2訴訟費用は原告らの負担とする。
3この判決に対する控訴のための付加期間を30日と定める。
事実及び理由
第1請求
1特許第4637825号の特許権に係る第4年分特許料納付書について,特許
庁長官がした平成28年3月3日付け手続却下処分を取り消す。
2
特許庁長官が平成30年4月6日付けで原告らに対してした行政不服審査法
による異議申立てを棄却する旨の決定を取り消す。
第2事案の概要等
1事案の概要
本件は,特許第4637825号の特許権(以下本件特許権といい,その特許を本件特許という。
)の特許権者であった原告らが,特許法112条1項
規定の特許料追納期間中に第4年分の特許料及び割増特許料(以下,特許料及び割増特許料を
特許料等
と総称する。を納付しなかったため同条4項により消

滅したものとみなされた本件特許権について,同法112条の2第1項に基づき
第4年分の特許料等を納付する旨の特許料納付書
(以下
本件納付書
という。

及び回復理由書を提出したところ,
特許庁長官が本件納付書による納付手続を却
下した(以下本件却下処分という。
)ため,上記の追納期間の徒過には同項所
定の正当な理由があるから本件却下処分は違法であると主張して本件却下処分の取消しを求めるとともに,
本件却下処分に対する異議申立てを棄却する旨の
決定(以下本件決定という。
)の取消しを求める事案である。
2前提事実(争いのない事実については証拠番号を付さない。以下同じ。)
原告らは,以下のとおり,本件特許権を有していた(なお,本判決では,原告ヘイデール・コンポジット・ソリューションズ・リミテッドと,現時点における登録名義人であるイーピーエル・コンポジット・ソリューションズ・リミテッドを特に区別することなく,本件特許権を有する者を原告らと総称す
る。。


特許番号
第4637825号


発明の名称
ダクトのライニング


優先日
平成15年4月12日


出願日
平成16年4月7日


登録日
平成22年12月3日
本件特許権については,
特許法108条2項に規定する第4年分の特許料の

納付期間(以下本件納付期間という。
)の末日である平成25年12月3日
までに同年分の特許料の納付がされず,さらに,追納期間の末日である平成26年6月3日までに特許料等(以下本件特許料等という。
)の納付がされな
かった
(以下
本件期間徒過
という。ため,

同法112条4項の規定により,
本件納付期間の経過の時(平成25年12月3日)に遡って消滅したものとみなされた。
原告らは,特許庁長官に対し,平成26年12月24日付けで,本件特許料等についての本件納付書及び回復理由書を提出した。
特許庁長官は,原告らに対し,平成27年11月12日付けで,本件納付書に係る手続については本件期間徒過についての正当な理由があるとはいえず,
特許法112条の2第1項に規定する要件を満たしていないから却下すべきものである旨を通知し,原告らから同年12月22日付け弁明書の提出を受けた上,原告らに対し,平成28年3月3日付けで,上記通知に記載した理由により却下処分(本件却下処分)をした。

原告らは,平成28年5月13日付けで,特許庁長官に対し,本件却下処分の取消しを求めて行政不服審査法
(平成26年法律第68号による改正前のも
の。
)6条の規定に基づき異議申立て(以下本件異議申立てという。
)をし
た。
特許庁長官は,平成30年4月6日付けで,原告らに対し,本件異議申立て
を棄却する旨の決定(本件決定)をした。本件決定の決定書謄本は,同月9日に原告らの本件異議申立てに係る代理人に送達された。
原告らは,
平成30年10月5日付けで本件決定の取消しを求める訴えを提
起し,平成30年12月11日,行政事件訴訟法19条1項の規定に基づき,本件却下処分の取消しを求める訴えを,上記の本件決定の取消しを求める訴え
に併合して提起した。
3争点
本件期間徒過について
正当な理由
(特許法112条の2第1項)
があると
いえるか(争点1)
本件決定に固有の瑕疵があるといえるか(争点2)

4争点に関する当事者の主張
争点1について
(原告らの主張)
特許法112条の2第1項の正当な理由とは、その文言に照らし,原特許権者として、相当な注意を尽くしたにもかかわらず、客観的に見て追納期間内に特許料等を納付することができなかったことをいうと解するのが相当である。
特許権者がなし得るのは,適切な外部組織を選任することまでであり,外部組織の内部における個別の工程について特許権者が注意義務を負うことはない。
原告らが本件特許権に係る年金の納付を依頼した特許事務所であるバーカー・ブレッテル・エルエルピー(以下本件特許事務所という。
)は,イギリ

スにおいて信頼できる有力な事務所として推薦されており,一つの人為的なミスなどによって期間徒過に至ることがないように様々な観点から多重の措置を講じることによりバックアップ体制を整え,それらは通常では十分に機能していたのであるから,
原告らは適切な外部組織として本件特許事務所を選任し
たといえる。

仮に,本件特許事務所に関する事情が正当な理由の判断の対象に含まれるとしても,本件では,二つのミスが偶然に重なるという予想外の事態により結果的に本件特許権に係る年金が支払われないこととなったものであり,そのような場合に正当な理由が認められないとすることは不合理である。特許庁の判断は,期限徒過が生じた後に,発端となる事象を事後的に特定し,それ
に対する対策の欠如を論難しているにすぎないものであり,妥当でない。(被告の主張)
特許法112条の2第1項の正当な理由とは,特段の事情のない限り,原特許権者
(代理人を含む。として,

相当な注意を尽くしていたにもかかわら
ず,
客観的にみて追納期間内に特許料等を納付することができなかったことを
いうと解するのが相当である。
本件期間徒過は,本件特許事務所において,特許料の納付に係る特許権者の代理人として当然に求められるルールが確立していなかったことや,そのよう
なルールを遵守するように各担当者に対して指示ないし監督を行う体制が構築されていなかったことに起因するものであるから,本件特許事務所が,代理人として,
本件期間徒過を回避するために相当な注意を尽くしていたとはいえない。
また,原告らは,年金納付に係る注文書において,本件特許権の特許番号を併記することなく本件特許料の納付を指示しており,
これは明確性に欠ける指
示であるといえるから,原告らが,特許権者として本件期間徒過を回避するために相当な注意を尽くしていたということもできない。

争点2について
(原告らの主張)
本件却下処分では本件特許事務所と原告らのそれぞれについて相応の措置が講じられていたか否かが検討されたが,本件決定では,本件却下処分とは異なる判断枠組が採用され,本件特許事務所の過失についてのみ判断された。本
件決定は原告らにとって不意打ちであり,手続上の瑕疵がある。
(被告の主張)
異議申立てを棄却する決定の理由が原処分の理由と異なるとしても,その決定の理由は,
異議申立ての審理により原処分が適法であると判断された理由で
あるから,決定における当該判断の違法を主張することは,本件却下処分の実
体的な違法事由を主張するに等しく,裁決固有の瑕疵には当たらない。原告らの主張する手続上の瑕疵の内容を,
本件決定の理由に対して弁明や反
論をする機会を与えなかったこと,本件異議申立ての審理において原告らに対して決定の理由を提示し弁明を求めなかったこと,
本件決定の理由付記につい
ての瑕疵があることなどと理解しても,本件においてそれらが違法であるとは
認められない。
第3当裁判所の判断
1後掲各証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の各事実が認められる。原告らは,本件特許に係る年金の納付を本件特許事務所に委託していた。本件特許事務所は,6372件の特許等の更新手続を管理しており,そのうち日本における特許等は114件であった。
(甲22,弁論の全趣旨)
本件特許事務所は,原告らの特許権について,3つのファミリーの特許出願
及び更新手続を管理していた。第1のファミリーは平成9年から管理しているものでその中には合計26件の特許があり,第2のファミリーは平成13年から管理しているものでその中には合計28件の特許があり,第3のファミリーは平成16年から管理しているものでその中には本件特許権を含め合計11件の特許があった。
(甲22)
本件特許事務所の年金納付業務の遂行における手順及び運用は,概ね以下のとおりであった。
(甲15,弁論の全趣旨)

本件特許事務所は,年金納付期限の3か月前,2か月前及び1か月前にコンピュータシステムを用いてリマインダを作成し,クライアントである特許権者に送付して特許年金納付の要否を尋ねる。


本件特許事務所は,特許権者から特許年金納付の指示を受領したら,その旨をコンピュータシステムに記録した上で,
特許権者に対して当該指示を受
領したことを通知し,請求書を送る。


本件特許事務所は,特許権者から特許年金納付の指示を受領したら,各国の担当者(各国の更新代理人,弁理士など)に対し,特許料の支払の指示を送る。
本件特許事務所は,前記担当者によって特許料が納付された場合には,その納付が行われた旨を確認する証明書を受領した上で,それらを依頼者である特許権者に送付する。

原告らの年金納付担当者は,本件特許事務所の担当者に対し,平成25年12月6日付け注文書(以下本件注文書という。
)を,電子メールに添付する
方法で送信した。上記電子メールの本文には,
2013年12月16日期限の年金に関する注文書(電子ファイル)を添付しますできるだけ早く請求,書をお送りくださいいつもは注文書の国名の横に特許番号を記入している,のですが,そうする気力がありませんなどと記載されており,その添付ファイルである本件注文書の明細欄には,
冒頭に
特許年金(パイプ)17年目013年12月16日まで22013年11月15日付けの最終連絡に基づくとの記載がされ,その後に,行を改めて日本を含む複数の国名(合計25か国)
が記載され,
特記事項欄には,
2013年12月16日までに年金を更新との記載があった。上記記載以外に,上記電子メールや本件注文書には,特許番号に代替し得る,
対象とする特許権を特定するための情報は全く記載さ
れていなかった。
(甲16,17)
本件特許事務所の担当者は,本件注文書は,本件特許ではなく特許第4076188号(以下別件特許権という。
)に関する指示であると理解し,本件
特許権については,

とおりの,特許権者である原告らに対する

指示の受領の通知や請求書の送付,担当者に対する特許料支払の指示をしなかった。
別件特許権のファミリーに属する特許の年金の期限は平成25年12月16日であった。
(甲19,弁論の全趣旨)
原告らは,本件特許事務所から平成26年10月24日に送付されたメールにより,
本件特許権が第4年分の特許料の不納によって消滅したことを認識し
た。上記メールには,本件特許権については原告らからの特許年金納付の指示を受領しなかったために失効したと記載されていた。
(甲21)
2争点1について
特許法112条の2第1項は,同法112条4項の規定により消滅したものとみなされた特許権の原特許権者は,同条1項の規定により特許料を追納する
ことができる期間内に特許料等を納付することができなかったことについての正当な理由があるときは,経済産業省令で定める期間内に限り,その特許料等を追納することができると規定する。
この規定は,平成23年法律第63号による改正前の特許法112条の2第1項では,期間徒過後に特許料等を追納できる場合について原特許権者の責めに帰することができない理由により追納期間内に特許料等を納付できなかった場合と規定していたところ,国際調和の観点から,より柔軟な救済を可能とすることを目的として,
手続期間を徒過した場合の救済を認める要件につき,
特許法条約の規定を踏まえて
DueCare(相当な注意)の概念を採用

したものであると解される。
これらを踏まえると,特許法112条の2第1項にいう正当な理由があるときとは,
原特許権者
(その手続を代理する者を含む。において一般に求め

られる相当な注意を尽くしても避けることができないと認められる客観的な事情により,同法112条1項の規定により追納することができる期間内に特許料等を納付することができなかった場合をいうと解するのが相当である。原告らは,本件特許事務所から平成25年11月に本件特許権について第4
年分の年金のリマインダの送付を受け,電子メールに添付した本件注文書によって,
本件特許事務所に対して本件特許権の第4年分の年金納付の指示をしたと主張する。
しかし,上記電子メールや本件注文書には特許番号が記載されておらず,また,
特許番号に代替し得る本件特許権を特定するための情報は全く記載されて
いなかった。特許番号を記載しなかった理由は,原告らの年金納付担当者の気力がなかったというものであった。かえって,本件特許権の第4年分の年金の納付期間の終期が平成25年12月3日であったにもかかわらず,電子メール及び本件注文書には,年金納付を指示する特許権の年金が第17年分のものであり,
その納付期間の終期が同月16日であることをうかがわせる記載のみが
あった。
本件特許事務所は原告らの特許権について多数の特許出願及び更新手続を管理しており,その特許権の中には年金の納付期間の終期が前同日のものが含まれていた。
更に,本件特許権について年金納付の指示をしたのであれば,本件特許事務所からそれに対応してその指示の受領の通知と本件特許権についての請求書等が送付されるところ,そのような通知や請求書の送付はなく,原告らがそれに気付くことはなかった。
これらによれば,本件注文書に2013年11月15日付けの最終連絡に基づく旨が記載されていて,原告ら主張のとおり同最終連絡に仮に本件特許権の年金納付の要否を尋ねる旨の記載があったとしても,原告らは,年金納付をする特許権を容易に特定することができ,また,本件特許事務所が管理する
原告らの特許権には年金納付をする必要がある別の特許権があるにもかかわらず,本件注文書やその電子メールをもって,本件特許事務所に対し年金納付の対象の特許権が本件特許権であることを明確に認識できる形でその納付を指示したとは到底いい難い。そして,原告らは,年金納付の指示をすれば当然あるはずの請求書の送付等がないことを看過していた。原告らについて,本件
において,
一般に求められる相当な注意を尽くしても避けることができないと認められる客観的な事情があるとは認められない。
これに対し,原告らは,本件特許事務所は世界的なランキングに掲載される有力な事務所であり,
年金納付が確実に行われるように体制を整備していたの
であって,そのような外部組織を適切に選任した以上,原告らには特許法11
2条の2第1項の正当な理由があるなどと主張する。
しかし,前記のとおり,本件特許権の年金の納付についての原告らの指示が明確であったとはいい難く,また,その後,原告らは,当然あるはずの請求書の送付等がないことを看過していたのであって,本件特許事務所を選任したことによって正当な理由があるとはいえない。

以上によれば,
本件期間徒過について
正当な理由
(特許法112条の2第
1項)があるとはいえないから,原告らの請求には理由がない。
3争点2について
原告らは,本件却下処分の理由と本件決定の理由が異なっており,本件決定は原告らにとって不意打ちであるから手続上の瑕疵(裁決固有の瑕疵)があるなどと主張する。
本件却下処分は,
本件特許事務所及び原告らがいずれも本件特許権の期間徒過
を回避すべく相当の注意を払ったとはいえないことを理由として本件納付書による納付手続を却下したのに対し,本件決定は,本件特許事務所が上記相当の注意を払ったとはいえないことを理由に本件却下処分に対する異議申立てを棄却した(甲10,12の1)


本件決定は,上記のとおりの理由で異議申立てを棄却したところ,本件特許事務所に過失が認められることは本件却下処分の理由として示されており,また,本件決定において原告らが主張していない事実が認定されたということはない(甲12の1)
。したがって,本件決定は原告らに対する不意打ちとは評価でき
ず,原告らの主張は採用することができない。

以上によれば,本件決定(裁決)に固有の瑕疵があるとはいえないから,原告らの請求には理由がない。
第4結論
よって,原告らの請求はいずれも理由がないから棄却することとして,主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第46部

裁判長裁判官

柴田義
裁判官

安岡美明香子
裁判官

佐藤雅浩
トップに戻る

saiban.in