判例検索β > 平成31年(ネ)第10004号
販売差止め及び損害賠償等請求控訴事件 意匠権 民事訴訟
事件番号平成31(ネ)10004
事件名販売差止め及び損害賠償等請求控訴事件
裁判年月日令和元年6月27日
法廷名知的財産高等裁判所
原審裁判所名東京地方裁判所
原審事件番号平成29(ワ)40178
裁判日:西暦2019-06-27
情報公開日2019-07-19 18:00:24
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令和元年6月27日判決言渡
平成31年(ネ)第10004号

販売差止め及び損害賠償等請求控訴事件

(原審・東京地方裁判所平成29年(ワ)第40178号)
口頭弁論終結日

平成31年4月25日
判決
控訴人(一審原告)

株式会社ジェイ・エス

同訴訟代理人弁護士

吉原崇晃竹内瑞穂
同訴訟代理人弁理士

工藤一郎
被控訴人(一審被告)

株式会社ユメロン黒川

被控訴人(一審被告)

Y
上記両名訴訟代理人弁護士

早祐野淳也安主田

上記両名補佐人弁理士

稲美子立卓司文1
本件控訴を棄却する

2
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
以下,用語の略称及び略称の意味は,原判決に従い,原判決の引用部分の別紙を全て原判決別紙と改める。なお,書証の掲記は,枝番号を全て含むときは,枝番号の記載を省略する。
第1

控訴の趣旨

1
原判決を取り消す。

2
被控訴人株式会社ユメロン黒川は,原判決別紙イ号物件目録記載の商品及び原判決別紙被告会社商品目録記載の商品を製造し,譲渡し,譲渡の申出(譲渡のための展示を含む。
)をしてはならない。

3
被控訴人株式会社ユメロン黒川は,前項の商品を廃棄せよ。

4
被控訴人らは,控訴人に対し,連帯して,1000万円及びこれに対する平成29年12月16日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
5
被控訴人株式会社ユメロン黒川は,株式会社日本経済新聞社の発行する日本
経済新聞に,原判決別紙謝罪広告目録記載1の内容の謝罪広告を,同2の条件で1回掲載せよ。
第2

事案の概要

本件は,控訴人が,①被控訴人株式会社ユメロン黒川(以下被控訴人会社という。
)による原判決別紙イ号物件目録記載の商品(アイマスク。イ号物件)の製造,販売等は,自らが有する登録意匠第1276735号(本件登録意匠)に係る意匠権(本件意匠権)の侵害に当たる旨,②控訴人が販売する原判決別紙原告商品・表示目録記載の商品(レッグウォーマー等。本件原告商品)の形態の特徴は控訴人の商品等表示として周知,著名になっていたところ,被控訴人会社によるこれに類似する原判決別紙被告会社商品目録記載の商品(アーム&レッグウォーマー等。本件被告商品)の製造,販売等は,不正競争防止法2条1項1号及び2号所定の不正競争行為に当たる旨,③被控訴人Y(以下被控訴人Yという。)
は被控訴人会社による上記各行為につき取締役の第三者に対する責任(会社法429条1項)を負う旨を主張して,被控訴人会社に対し,①意匠法37条1項及び2項に基づき,イ号物件の製造,譲渡等の差止め及び廃棄を,意匠法41条の準用する特許法106条に基づき,原判決別紙謝罪広告目録記載1の謝罪広告を同記載2の条件で掲載することを求め,②不正競争防止法3条1項及び2項に基づき,本件被告商品の製造,譲渡等の差止め及び廃棄を,不正競争防止法14条に基づき,上記①と同様の謝罪広告を掲載することを求めるとともに,被控訴人らに対し,③民法709条及び意匠法39条1項,不正競争防止法4条及び5条1項,並びに会社法429条1項に基づき,損害賠償金4億4748万円の一部である1000万円及びこれに対する訴状送達日の翌日である平成29年12月16日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の連帯支払を求める事案である。本件の争点は,①本件登録意匠とイ号意匠は類似するか,②本件原告商品の形態は商品等表示に当たるか,③本件原告商品の形態は周知又は著名か,④本件被告商品の形態は本件原告商品の形態と類似して混同のおそれがあるか,⑤被控訴人Yは会社法429条1項に基づく責任を負うか,⑥控訴人の損害額等,⑦謝罪広告の必要性があるかであり,原判決は,争点①について,本件登録意匠とイ号意匠が類似しているとは認められない,争点②について,本件原告商品の形態(本件特徴)が商品等表示性を獲得していたとは認められない,争点⑤について,被控訴人会社の意匠権侵害や不正競争防止法違反をいう控訴人の主張はいずれも理由がないから,被控訴人Yの責任は認められないとして,控訴人の請求をいずれも棄却したため,控訴人が控訴した。
1
前提事実

原判決3頁25行目の紐の次に,(以下においては「ストラップということもある。)」を加えるほかは,原判決事実及び理由の第2の「12事案の概要
前提事実」に記載のとおりであるから,これを引用する。

争点に関する当事者の主張

次のとおり,原判決を補正し,当審における当事者の主張を付加するほかは,原判決事実及び理由の第2事案の概要の3争点に関する当事者の主張
に記載のとおりであるから,これを引用する。
(1)

原判決の補正
原判決6頁25行目の際を,最に改める。

原判決8頁6行目の本件需要者等を,需要者等に改める。


原判決8頁19行目の視界を遮ることがないようにを,顔面に装着された際に使用者の視界を遮ることがないようにに改める。エ
原判決10頁12行目の乙6.10を,乙6,10に改める。


原判決14頁15行目~16行目のエステを,
エステティックサロンに改める。

原判決18頁18行目の需要者が原告商品であることを広く認識されるを,需要者が原告商品であることを広く認識するに改める。
(2)

当審における控訴人の主張
意匠権侵害について
(ア)

原判決の本件登録意匠の要部の認定が誤っていること

本件登録意匠に係る物品の需要者は,明るいところで快適な睡眠に関心を持つ一般消費者及びそのような者に商品を販売する取引者である。一般消費者は,紐部分の形状などから,アイマスク全体から紐によって生み出される第1閉空間の面積が自身の顔の目のある前面から耳の後ろにかけての面積と一致することを求めるから,上記第1閉空間の面積が注目点となる。また,一般消費者に商品を販売する取引者からすると,商品の写真などを用いて宣伝する場合や陳列する場合などにおいて,載置されたアイマスクを広げても紐の作る輪郭が容易に乱れず,一定の秩序を容易に保てることが注目点である。
本件登録意匠は,上下2枚の平行状の紐が,中間部に存在する球状ビーズの貫通穴に対して平行状態で入っており,同様に平行状態で出ているという意匠構成から導かれる形状を有し,それによって,第2閉空間において平板状である紐が捩れることなく球状ビーズの軸心方向から延びて徐々に離間しながらアイマスクから最も遠い領域で綺麗な円弧を描くことができるようになる(以下では,本件登録意匠美感という。)。その結果として,載置されたアイマスクを広げても,紐の作る輪郭が容易に乱れず,一定の秩序を保つことができる。
このように,本件登録意匠のうち,構成イウエの各構成は,それぞれが関連し合って一体となり,一つの強い意匠的効果を発揮しており,需要者は,上記一体となって発揮される美感に対して強い興味を示すから,当該一体としての構成が本件登録意匠の要部である。
なお,原判決は,本件登録意匠の出願経過において,控訴人が本件意見書に記載した内容を基に,本件登録意匠の要部を判断しているが,本件意見書は,拒絶理由通知の引用意匠(乙13)と本件登録意匠の間に実際に存在している相違点を指摘しているにすぎず,要部であると主張したものではないし,本件登録意匠美感を凌駕するほどに強い美感を発揮していると主張したものではないから,原判決の認定は誤っている。
(イ)

原判決による公知意匠(乙10~13)についての判断,認定が

誤っていること
a
乙11~13が公知意匠としての適格を欠くこと

乙11(公開特許公報特開2002-291793号)に記載の物品は,アイマスクとされているが,もっぱら,
目の焦点を合わせるトレーニングが用途であ
り,構造上も視界を遮ることがないように開口された開口部が設けられているから,本件登録意匠に係る物品が想定している需要者,すなわち,快適な睡眠のために遮光性のある物品としてのアイマスクを求める需要者とは相容れない。したがって,乙11の物品は,需要者を異にするものであるから,本件登録意匠の要部認定に影響を与える公知意匠としての前提を欠くものである。また,乙12及び13の物品は,乙11の公開特許公報の実施品であるから,同様である。b
乙10~13が本件登録意匠と要部を異にすること

乙10(意願昭和62-44303号)の意匠は,紐が平板状でないことに加え,本件登録意匠の構成イウエの各構成を有していない結果,上記(ア)の一体としての構成によって発揮される本件登録意匠美感とは大きく異なる美感を生じさせているものであるから,乙10の意匠により,本件登録意匠の要部が公知,周知となっているとはいえない。また,乙10の意匠による物品の略端部に存在する丸みを帯びた部材については,
【意匠の説明】の記載を見ても,その部材の内容を確認するこ
とができないから,それを見た需要者が,当該部材を自由に移動させることが可能であると認識するとはいえない。乙10の意匠においては,略端部に存在する丸みを帯びた部材よりも端側の領域がわずかであることからすると,仮に当該部材の移動が可能であれば着用時に容易に外れてしまうため,移動不可能な態様を想定していると考えるのが自然である。
また,乙11の物品及びその実施品(乙12,13)についても,紐が平板でないことに加え,捩れが生じており,本件登録意匠美感を生じさせる上での構成である本件登録意匠の構成イウエの各構成を備えないものと考えるのが自然である。乙11の物品は,本件登録意匠の一体としての構成によって発揮する本件登録意匠美感とは大きく異なる美感を生じさせているのであって,乙11の物品及びその実施品である乙12及び13により,本件登録意匠の要部が公知,周知となっているとはいえない。
(ウ)

本件登録意匠とイ号意匠が全体として美観を共通にすること

本件登録意匠とイ号意匠とでは,アイマスクのマスクの部分,アイマスクの左右端部の上下端に紐が固定されているという形状,アイマスクの左右端部の上下端に紐が固定されているという形状,及び第1閉空間と第2閉空間を区切るためのビーズが存在するという点で美感が共通する。
他方において,本件登録意匠とイ号意匠とでは,左右の紐の先端部にも上記紐に通されている略小球形のビーズが配置されているか否かという点で異なっている。しかし,この改変は,本件登録意匠に存在する球状ビーズ一つを削除するという改変であり,そこに改変としての特段の創作性はない。したがって,左右の紐の端部にビーズが配置されているか否かという点は,極めてありふれた改変であって,その差異点をもって共通点の有する美感を凌駕するものとはいえず,意匠の類似性を否定する根拠とはならない。

不正競争行為該当性について
(ア)

原判決の商品等表示の判断枠組みの誤りについて

原判決は,商品の形態が商品等表示に該当するか否かについて,特別顕著性が必要であるとするが,この要件は,不正競争防止法2条1項1号及び2号に何ら記載されていない。
商品の形態自体が特定の出所を表示する二次的意味を有するに至っているかが,より本質的に問われるべき事項であり,これは,商品形態の特徴の顕著性の程度と周知性の度合いとの相関で決まるべきことであるから,特別顕著性のような明文のない要件のハードルを原判決のように過剰に高いものとすべきではない。
そして,
商品の形態自体が特定の出所を表示する二次的意味を有するに至っているかの社会的認識を問題とすべきこと,不正競争防止法2条1項1号が需要者の広い認識を問題としていることからすると,顕著性の判断は,特定の一個人の認識を基準とするものではなく,広く需要者一般の認識を基準に検討されなければならないのであり,類似品が一般に出回っていることを広く需要者一般が通常認識する態様であったのかどうかという観点をも検討した上で,顕著性の程度が検討されなければならない。
(イ)
a
控訴人の商品形態はありふれた形態ではないこと
原判決は,乙1~5,26,27及び29を根拠として本件原告商
品の形態が他に類を見ない顕著な特徴となっていたとは到底いえないとして,他の点(周知性など)を検討するまでもなく,控訴人の主張を退けているが,以下のとおり,その評価は誤っている。
b
乙5及び29について

これらは,いずれも平成30年の発売情報であり,平成26年8月より相当程度後の事情である。そのため,本件原告商品の形態の顕著性判断に影響を与えないことは明らかである。
c
乙2,3,26及び27について
これらの商品は,控訴人及び控訴人の代理店など当業者においても,被控訴人ら主張を受けて初めて認識するに至ったほど人知れず発売されていた商品であり,あえて諸々の検索条件で根気強く検索を試みなければヒットしないような商品ばかりである。そのため,当該商品の形態が,需要者の間で認識されていたとはいえない。d
乙4について

この商品は,発売開始直後(なお,発売開始時期は平成25年11月以降にずれ込んでいる。),控訴人の代表取締役から発売会社である株式会社ポーラに対し,控訴人の知的財産権侵害に当たるかもしれないので確認するよう伝えた後,販売廃止となったものである。したがって,販売された数や期間はわずかであり,株式会社ポーラがニュースリリースをしている商品の存在をもって,需要者において本件原告商品が一般的な形態であるとの認識であったという根拠とはならない。(3)

当審における被控訴人の主張
意匠権侵害について
(ア)
a
本件登録意匠の要部の認定について
控訴人は,本件登録意匠の構成イウエが,それぞれ関連しあって一
体となっており,当該一体としての構成が本件登録意匠の要部であると主張する。しかし,原判決は,
アイマスクの耳かけストラップに一つのビーズ形状が現れ,そのビーズの形状が略小球形である形態(乙10)及びアイマスクの左右端の上部又は下部から伸びた紐が左右端(左右同順)の下部又は上部(上下同順)に到達し,上記紐の中間部の一箇所に物体が設けられ,上記中間部の物体は,上記紐を束ねており,移動可能である態様(乙11~13)が本件登録意匠の出願時にお
いて公知になっていたことを認定しており,上記構成イウエのうち公知でない部分は,紐の先端部と中間部の2箇所にビーズが設けられている点のみである。仮に,構成イウエが関連しあって一体として要部になる余地を認めたとしても,控訴人の主張を前提とすれば,紐の先端部と中間部の2箇所にビーズが設けられている点を捨象して考えなければならないため,
紐を束ねるビーズ又は紐に通されたビーズが一つ設けられた態様を要部として主張しているものと解されるところ,公知意匠の存在を踏まえると,そのような態様が需要者の注意を惹くものとはいえない。本件登録意匠は紐とビーズからなる単純なものであり,このような単純な構成において,中間部と先端部の2箇所にビーズが現れるか,中間部のビーズのみであって先端部のビーズがないかという形態上の差異点が需要者に与える印象は強いといわざるを得ず,この差異点が類否判断に与える影響は大きいものといえる。したがって,原判決の要部の認定は相当である。
b
控訴人は,原判決は,本件登録意匠の出願経過における控訴人の主
張の意味付けを誤っていると主張する。
しかし,本件意見書において,控訴人が,ストラップの結び目が現れない点及びストラップの先端部にビーズが施されている点を共に美的な処理とし,これがされた点において引用意匠とは相違すると述べていたことは明らかであり,このことは,原判決の認定したとおり,
耳かけストラップの先端部にもビーズが存する形態が本件登録意匠の要部に含まれることを裏付けるものと解する他はない。(イ)
a
原判決による公知意匠の認定について
乙11~13の公知意匠としての適格について

本件登録意匠と乙11~乙13の物品は,いずれもアイマスクと明記しているところ,その耳かけストラップ部分の用途及び機能を見ても,用途は耳に掛けて用いること,機能は顔とアイマスク本体を密着させることであることからすると,両者が異なる物品であると考えることはできない。そのため,乙11~乙13を本件登録意匠に対する公知意匠とした原判決の認定は適切である。また,控訴人自身も,出願の審査段階において乙12及び13の意匠が示された際には,それらが公知意匠としての適格性を有することを特段争っていない(乙21)

b
乙10~13が本件登録意匠と要部を異にしないこと

控訴人は,乙10については紐が平板状でないことに加えて,本件登録意匠の構成イウエの各構成を有していないこと,乙11~13については紐が平板状でないことに加えて,捩れが生じていることを理由に,本件登録意匠と美感が大きく異なる旨主張する。
しかし,少なくとも乙11に記載のストラップにおいて,紐は平板状であるように見える(乙11の図1,図2,図3,図11,図12,図13及び図14)。ま
た,本件登録意匠の願書及び図面の記載のみから,捩れが生じないか否かを判断することはできない。
さらに,出願経過において,審査官は本件登録意匠について乙13に類似するとして拒絶理由通知書を発したが,これに対する控訴人の本件意見書においては,紐が平板状であること及び捩れが生じていることについては全く触れられていない。したがって,紐が平板状であること及び捩れが生じないことは,本件登録意匠の要部とはいえないし,仮に,要部の構成要素であるとしても,類否判断に決定的な影響を及ぼすほどの特徴点とはいえない。
よって,本件登録意匠を構成する要素のうち,
耳かけストラップの中間部及び先端部の二箇所にビーズが現れる形態(構成イ)を除く要素については,いずれ
も公知意匠に現れている態様であるか,本件登録意匠の願書及び図面からは看取できない態様である。
(ウ)

本件登録意匠とイ号意匠が全体として美観を共通にしないこと

控訴人は,主に①二つの輪から構成される点が看者の目を惹くこと及び②ビーズを削除することはありふれた改変であることを根拠として,本件登録意匠とイ号意匠が類似していると主張する。
しかし,上記①については,乙11~13の意匠であっても,紐の中間部の物体を移動させることによって二つの輪(紐の接合部から当該物体までの輪及び当該物体から先端の結び目までの輪)を作り出すことは可能であるため,公知意匠を踏まえると,二つの輪から構成される点はありふれた形態であって,需要者の目を惹くものではない。
上記②については,類似性の判断は需要者の視覚を通じて起こさせる美感(意匠法24条2項)に基づいて行われるものであり,改変の容易性は,意匠登録要件のうち創作非容易性において判断する要素であって,類似性において判断する要素ではない。本件登録意匠とイ号意匠は,先端部にビーズを有しないという点で明確に美感が異なり,類似ではない。

不正競争行為該当性について
(ア)

原判決の商品等表示の判断枠組みに誤りがあるとの主張について

商品の形態は,商標等とは異なり,本来的には商品の出所を表示する目的を有するものではないが,商品の形態が客観的に他の同種商品とは異なる顕著な特徴を有しており(特別顕著性)
,かつ,その形態が,特定の事業者によって長期間独占的
に使用され,又は短期間であっても極めて強力な宣伝広告や爆発的な販売実績により,需要者においてその形態を有する商品が特定の事業者の出所を表示するものとして周知になっている(周知性)場合には,例外的に,不正競争防止法2条1項1号の商品等表示として,特定の出所を表示する二次的意味を有するとされている。
この特別顕著性の要件は,事業者間の公正な競争を確保するための要件であるところ,控訴人の主張するように特別顕著性を緩やかに解する場合,当該商品の実用性や機能性,装飾性等からみて他の事業者が容易に選択しうる形状について,意匠法,特許法等の登録によって権利が公示される法律によることなく権利の独占を認める結果をもたらすものであって,事業者間の公正な競争が害されることは明らかであり,解釈論としてバランスを欠いたものといわざるを得ない。したがって,控訴人の主張は採り得ない。
また,類似商品の存在が特別顕著性を否定する要素となるのは,本件特徴がありふれたものであることを基礎付ける資料になるためと,その存在自体によって出所表示機能を減殺するためである。控訴人は,あたかも被控訴人において類似商品の販売数量などを主張及び立証しなければ,本件特徴に特別顕著性が認められるかのような主張をしているが,当該主張は,
特別顕著性の主張立証責任を誤認
したものである。
(イ)

控訴人の商品形態はありふれた形態であること

控訴人は,類似商品について,①人知れず発売されていた商品である,②平成30年の発売情報であって商品形態の顕著性判断に影響を与えない,③販売数や期間はわずかである旨主張するが,乙2~5,26,27及び29からは,本件特徴又はこれと類似した特徴を有する商品が多数販売されていたことは明らかであり,控訴人の主張はいずれも理由がない。
第3
1
当裁判所の判断
当裁判所も,控訴人の請求にはいずれも理由がないものと思料する。その理
由は,次のとおり,当審における当事者の主張に対する判断を付加するほか,原判決第32当裁判所の判断の1~3記載のとおりであるから,これを引用する。
当審における当事者の主張に対する判断
(1)

意匠権侵害に基づく請求について
本件登録意匠の要部の認定について
(ア)

控訴人は,本件登録意匠は,本件登録意匠美感を有しており,構成
イウエの各構成は,それぞれが関連しあって一体となり一つの強い意匠的効果を発揮しているところ,その製品を購入する際に需要者が最も重要視する部分は,上記一体となって発揮される美感であり,先端部のビーズではない旨主張する。しかし,本件登録意匠は,アイマスクのマスク部の両脇より延びる耳かけストラップ部分の部分意匠であり,ストラップ部において,中間部及び先端部の2箇所にビーズが現れることは,需要者の印象に大きく残るものであると認められる。これに,公知意匠(乙10~13)も考慮すると,原判決(第3,1,(3),ウ)が認定するとおり,
耳かけストラップの中間部及び先端部の二箇所にビーズが現れる形態(構成イ)を含む本件登録意匠の構成全体が本件登録意匠の要部であると認めるのが相当であり,控訴人の上記主張を採用することはできない。(イ)

控訴人は,本件意見書は,拒絶理由通知の引用意匠(乙13)と本件登録意匠との間に実際に存在している相違点を指摘しているにすぎず,要部であると主張したものではないし,本件登録意匠美感を凌駕するほどに強い美感を発揮していると主張したものではない旨主張する。
しかし,本件意見書が本件登録意匠と引用意匠との相違点(耳掛けストラップの先端部にもビーズが存する形態)が類否判断の上で重要であることを指摘していると認められることは,原判決(第3,1,(3),エ)が判示するとおりであって,本件登録意匠の要部を認定するに当たり考慮することができるというべきである。したがって,控訴人の上記主張を採用することはできない。

公知意匠の認定について

控訴人は,乙11~13が公知意匠としての適格性を欠いており,また,乙10~13の要部が本件登録意匠とは異なる旨主張する。
しかし,乙11~13を公知意匠とし,これも参酌して本件登録意匠の要部を認定することができることについては,原判決(第3,1,(3),イ及びウ)が判示するとおりである。
乙10については,乙10の意匠が本件登録意匠の構成要件イウエの各構成は有していないことは認められるが,ストラップの先端部にビーズ形状が現われているアイマスクの意匠であるから,これをアイマスクの部分意匠(ストラップ部分についての意匠)である本件登録意匠の公知意匠とし,これを参酌して本件登録意匠の要部を認定することができるというべきである。
また,乙11~13の物品が本件登録意匠の構成要件イウエの構成そのものを備えていないとしても,
アイマスクの左右端の上部又は下部から伸びた紐が左右端(左右同順)の下部又は上部(上下同順)に到達し,上記紐の中間部の一箇所に物体が設けられ,上記中間部の物体は,上位紐を束ねており,移動可能である態様を備えているから,これをアイマスクの部分意匠(ストラップ部分についての意匠)である本件登録意匠の公知意匠とし,これを参酌して本件登録意匠の要部を認定することができるというべきである。
したがって,控訴人の上記主張は採用することができない。

本件登録意匠とイ号意匠の美感の類似性について

控訴人は,両意匠の一部の差異は,共通点の有する美感を陵駕しておらず,全体としての美感を共通にしているから,両意匠は類似していると主張する。しかし,両意匠が類似していないことは,原判決(第3,1,(4))が判示するとおりである。
控訴人は,本件登録意匠のデザインからビーズ一つを削除する改変は,ありふれた改変であると主張するが,そうであるとしても,両意匠が類似していることにはならない。
(2)

不正競争行為該当性について
商品等表示の判断枠組みについて

控訴人は,原判決が,商品の形態自体が出所を表示する二次的意味を有し,不正競争防止法2条1項1号及び2号にいう商品等表示に該当するための要件の一つとして,特別顕著性という要件を考慮したことが,明文のない要件のハードルを過剰に高いものにしたと主張し,顕著性の程度の判断には,類似品が販売されていたか否かだけでなく当該類似品が一般に出回っていることを広く需要者一般が通常認識する態様であったのかどうかも検討すべきであると主張する。商品の形態は,商標等と異なり,本来的には商品の出所を表示する目的を有するものではないが,商品の形態自体が特定の出所を表示する二次的意味を有するに至る場合があるため,このような商品については,不正競争防止法により,出所表示機能が保護されるものであって,そのためには,原判決(第3,2,(1))が判示するとおり,特別顕著性と周知性が必要であると解される。そして,特別顕著性の判断に当たっては,当該商品の類似品が一般に出回っているか否かも考慮することにはなるものの,当該商品の形態に客観的に他の同種商品とは異なる顕著な特徴があるか否かを判断するのであるから,必ずしも類似品が一般に出回っていることを広く需要者一般が認識する必要はないというべきである。

控訴人の商品形態と類似商品があること
(ア)

控訴人は,乙2,3,26及び27の商品は,控訴人及び控訴人の
代理店など当業者においても被控訴人ら主張を受けて初めて認識するに至ったほどに人知れず発売されていた商品であり,あえてもろもろの検索条件で根気強く検索を試みなければヒットしないような商品ばかりであると主張する。しかし,乙3及び27の商品は,日経流通新聞に掲載されたものであることが認められるし,乙2の商品は,パンジーストアと題するウェブサイトに,平成23年9月6日付けニュースとして新規発売が紹介されており,乙26の商品も,株式会社山善のウェブサイトに平成24年10月23日付けで新製品として紹介されているものであるから,控訴人及び控訴人の代理店などの当業者が被控訴人ら主張を受けて初めて認識するに至ったほどに人知れず発売されていた商品であるとは認められない。したがって,控訴人の上記主張を採用することはできず,これらの商品の形態を本件原告商品の形態の特別顕著性の判断に当たって考慮することができるというべきである。
(イ)

また,証拠(乙5,29)及び弁論の全趣旨によると,乙5及び2
9は,いずれも平成30年の発売情報であることが認められる。
しかし,証拠(乙2,3,4,26,27)によると,既に,平成23年~同24年頃には本件特徴又はこれと極めて類似した特徴を有する複数の商品が市販されていることが認められるところ,平成30年頃にも,本件特徴又はこれと極めて類似した特徴を有する複数の商品が市販されているという,乙5及び29によって認められる事実は,平成23年,同24年頃から平成30年頃までの間,本件特徴又はこれと類似する特徴を有する商品が継続して多数販売されていたことを裏付けるものとなる。乙5及び29は,上記のような意味において,本件原告商品の形態が特別顕著性を有していたかどうかの判断に用いることができるものである。なお,仮に,乙4について,株式会社ポーラとの間で控訴人が主張するようなやり取りがあったとしても,乙4の商品が発売された事実は認められるのであって,本件原告商品の形態が特別顕著性を有していないとの原判決(第3,2,(2),ウ)の判断を左右するものではない。
第4

結論

以上の次第で,原判決は相当であるから,本件控訴を棄却することとして,主文のとおり判決する。

知的財産高等裁判所第2部

裁判長裁判官
森義之
裁判官
眞鍋佐野美穂子
裁判官


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