判例検索β > 平成30年(わ)第919号
死体遺棄被告事件
事件番号平成30(わ)919
事件名死体遺棄被告事件
裁判年月日令和元年6月25日
法廷名神戸地方裁判所
裁判日:西暦2019-06-25
情報公開日2019-07-17 12:00:10
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令和元年6月25日宣告
平成30年(わ)第919号

死体遺棄被告事件
判決主文
被告人を懲役1年6月に処する
未決勾留日数中120日をその刑に算入する。
この裁判が確定した日から3年間その刑の執行を猶予する。
理由
(罪となるべき事実)
被告人は,Aから衣装ケースの処分を手伝うよう依頼された際,その衣装ケースの中に人の死体が入っているかもしれないと認識していながら,あえて,Aと共謀の上,平成30年8月9日,大阪市a区bc丁目dA方において,Bの死体が入れられていた衣装ケースを段ボール箱内に入れるなどし,同段ボール箱を同所から兵庫県加古川市ef番所在のg湖岸まで自動車等で運搬し,同所において,同衣装ケースと土嚢を結束させた状態で同段ボール箱を同所付近の湖中に投げ入れ,もって死体を遺棄したものである。
(補足説明)
検察官は,被告人には死体を遺棄するとの未必的な認識があったと主張するのに対し,弁護人は,被告人は,Aと共に湖中に投げ入れた段ボール箱内に死体が入れられていることを知らなかったから,
死体遺棄の故意がなく,
無罪である旨主張し,
被告人も,弁護人の主張に沿う供述をする。
しかしながら,関係証拠によれば,①死体が入れられていた衣装ケースは,縦約37センチメートル,横約70センチメートル,高さ約33センチメートルの大きさがあった上,被告人は,内容物を含む衣装ケースの重さが40ないし50キログラムほどであると認識していたこと,②被告人は,Aと共に,その衣装ケースを,ベニヤ板を敷いた段ボール箱に入れ,ガムテープで巻いて梱包し,防犯カメラのあるエレベーターを避け,非常階段を使って4階から1階まで人力で運び下ろしてレンタカー内に積載し,80キロメートル以上離れた人気のない湖まで運搬し,夜になるまで3時間以上待った上,50キログラムの土嚢をくくり付けて湖中に沈めたことが認められる。
以上の事実によれば,被告人は,その衣装ケースには,相当の大きさ及び重量があり,かつ,徹底的に人目につかないように投棄しなければならないものが入っていると認識していたことが容易に推認される。そして,一般の常識に照らして,このような投棄物としてまず想起されるのは人の死体であると考えられることからすると,上記①②の事実関係は,当該投棄物が死体である可能性を想起しなかったとみることのできる特段の事情が認められない限り,被告人が衣装ケースの中に人の死体が入っているかもしれないという認識を有していた事実を推認させるものというべきである。
しかるところ,被告人は,衣装ケースの中に違法コピー商品が入っていると考えていたから,死体の可能性は全く想起しなかった旨弁解する。しかしながら,違法コピー商品を投棄するために,わざわざ,上記①の大きさ及び重量に達する数量の商品をひとまとめにした上で,上記②のような手間をかけた方法で投棄する必要があるとは考え難いし,被告人は,衣装ケースの中を見ていない上,Aに対して衣装ケースの中身が違法コピー商品であるかどうかを確認してもいないことに照らせば,被告人の上記弁解は不自然であって,これをそのまま信用することはできない。弁護人は,被告人はBの死亡に全く関与していなかったから,Aが死体を投棄するということは想定できなかった旨主張する。しかしながら,被告人がBの死亡に全く関与していなかったとしても,上記①②の事実関係を認識すれば,通常,本件投棄物が死体である可能性を想起するものと考えられるから,弁護人の主張は理由がない。
また,弁護人は,被告人は,人の死体を水中に沈めるのであれば,体重の2倍程度の重りで沈めるか,
あるいはドラム缶に詰めるなどしなければ,
完全には沈まず,
浮かび上がってくるということを聞いたことがあったから,被告人が死体を遺棄するとの認識があるならば,100キログラム以上の土嚢を結束させるはずであるので,本件において被告人が結束させた土嚢が50キログラムにとどまるという事実は,
被告人が人の死体以外の物を沈める意図であったことの証左であると主張する。しかしながら,この主張は,信用性に疑義のある被告人供述に依拠するものであって,採用の限りでなく,50キログラムもの土嚢をくくりつけたという事実は,やはり,当該投棄物が死体である可能性を認識していたことを相当程度裏付けるものというべきである。
さらに,弁護人は,被告人が,自らの地元において,変装せずに投棄行為に及んでいる上,近くの店舗の防犯カメラに被告人の姿が映っていることに照らせば,被告人に当該投棄物が死体かもしれないとの認識があったとは考えられないとも主張する。
しかしながら,
上記②のとおり,被告人は,投棄行為が発覚しないための種々の方策をとっていることに照らせば,
弁護人が指摘する上記の事実関係から直ちに,
被告人に死体遺棄の未必的認識さえなかったとの疑いが生じるものとはいえないから,弁護人のこの主張も理由がない。
そして,弁護人のその他の主張を踏まえて本件全証拠を精査しても,被告人が上記①②の事実関係を認識していながら本件投棄物が死体である可能性を想起しなかったとうかがわせる事情は認められない。
以上の次第で,被告人は,Aと共に湖中に投げ入れた段ボール箱内に死体が入れられているかもしれないと認識していたものと認められるから,検察官が主張するとおり,被告人には死体を遺棄するとの未必的な認識があったと認められる。(法令の適用)
被告人の判示所為は刑法60条,190条に該当するので,その所定刑期の範囲内で被告人を懲役1年6月に処し,未決勾留日数の算入につき刑法21条を,情状により刑の執行を猶予することにつき刑法25条1項を,訴訟費用を被告人に負担させないことにつき刑訴法181条1項ただし書をそれぞれ適用する。(量刑の理由)
本件の犯行態様は,死体の入っていた衣装ケースを段ボール箱に入れ,土嚢を結束させた上で湖中に沈める,という死体の尊厳を著しく害する悪質なものである。また,本件の主犯はAであるけれども,被告人は,犯行に必要な道具の購入,遺棄場所の選定,運搬,遺棄行為といった一連の行為に及んでおり,その関与の度合いが従属的であったと一概にいうことはできない。もっとも,被告人には本件投棄物が死体であるとの確定的な認識まではなかった上,本件犯行につき必ずしも主体的な動機があったものでもなく,主犯のAから本件投棄物の処理を手伝うよう依頼されてこれに応じたものであることなどの事情に鑑みると,被告人に関する本件の犯情が死体遺棄の事案の中で特に重いとまでみることはできない。そこで,当裁判所は,被告人が本件により半年余り身柄を拘束されたことや,被告人にさしたる前科がないことなどの事情も併せ考慮し,被告人を主文の刑に処した上,刑の執行を猶予することとした。
(求刑

懲役2年)

令和元年6月26日
神戸地方裁判所第1刑事部

裁判官

松井修
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