判例検索β > 平成30年(わ)第610号
殺人、死体遺棄、窃盗、有印私文書偽造・同行使、電磁的公正証書原本不実記録・同供用、詐欺未遂被告事件
事件番号平成30(わ)610
事件名殺人,死体遺棄,窃盗,有印私文書偽造・同行使,電磁的公正証書原本不実記録・同供用,詐欺未遂被告事件
裁判年月日令和元年7月5日
法廷名水戸地方裁判所
裁判日:西暦2019-07-05
情報公開日2019-08-02 14:00:10
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令和元年7月5日宣告
平成30年

第499号,第532号,第566号,第610号,第800号
主文
被告人を懲役23年に処する
未決勾留日数中280日をその刑に算入する。
水戸地方検察庁で保管中の離婚届1通(令和元年水戸地
領第405号符号1),委任状1通(同年水戸地領第4
06号符号12)及び住民異動届書1通(同領号符号1
1)の各偽造部分を没収する。
理由
(罪となるべき事実)
第1

被告人は,夫であるB(当時33歳。以下被害者という。)が勤務先会社や同社への返済のために保管していた金銭を被告人が使い込んで浪費していたことに関し,被害者から勤務先会社に返済する分として約500万円を準備するよう言われ,親族から借りられるなどと嘘をついていたが,被害者をごまかし切れなくなり,被害者がいなくなればよいと考えて同人の殺害を決意し,平成30年2月17日頃,茨城県かすみがうら市(住所省略)当時の被告人方において,被害者に対し,殺意をもって,その頸部を充電器コード様のもので絞め付け,よって,その頃,同所において,被害者を頸部圧迫による窒息により死亡させて殺害した。【平成30年10月11日付け追起訴状記載の公訴事実】

第2

被告人は,同年2月17日頃,前記被告人方において,被害者の死体を毛布等で包んだ上で北東側洋室に移動させるなどして隠匿し,さらに,同年3月上旬頃,毛布等に包まれた状態の前記死体を布団圧縮袋で包むなどし,次いで,これを集草バッグに入れ,同バッグ内に水で溶いたモルタルを流し込むなどした上で同室クローゼット内に入れて隠匿し,もって死体を遺棄した。【平成30年9月20日付け追起訴状記載の公訴事実】第3

被告人は,株式会社C銀行D支店発行の既に死亡した被害者名義のキャッシュカードを不正に使用して現金を窃取しようと考え,別表記載のとおり,同年2月18日午前11時58分頃から同年3月3日午後0時18分頃までの間,7回にわたり,茨城県つくば市(住所省略)E出張所ほか4か所において,各所に設置された現金自動預払機にそれぞれ前記キャッシュカードを挿入するなどして同機を作動させ,各現金自動預払機から当時の株式会社F銀行ATM推進部部長Gら4名管理の現金合計63万5000円を引き出して窃取した。【平成30年12月28日付け追起訴状記載の公訴事実】

第4

被告人は,同年3月27日頃,前記被告人方において,行使の目的をもって,長女であるA(当時▲歳。)をして,離婚届用紙の届出人署名押印欄にBと記入させるなどし,被告人が,同欄末尾にHと刻した印
鑑を押印し,もって被害者作成名義の離婚届1通(令和元年水戸地領第405号符号1)を偽造し,同月28日,同市上土田461番地かすみがうら市役所千代田庁舎において,同市役所市民課係員に対し,これをあたかも真正に成立したもののように装って提出行使して虚偽の申立てをし,よって,同年4月10日頃,同庁舎において,同課係員をして,権利義務に関する公正証書の原本として用いられる電磁的記録である戸籍総合システムにその旨不実の記録をさせ,これを同庁舎に備え付けさせて公正証書の原本としての用に供させた。【平成30年8月8日付け起訴状記載の公訴事実】
第5

被告人は,被害者が同人の住民異動手続を被告人に委任する旨記載した被害者作成名義の偽造の委任状を使用して同人の代理人になりすまし,被害者の住民登録を異動させようと考え,同年4月12日頃,前記被告人方において,行使の目的で,ほしいままに,Aをして,白紙に,被害者の転出手続をなす権限を被告人に委任する旨の記載をさせ,その委任者として委任者住所K氏名Bなどと記載させた上,被告人が,その名

の右横にHと刻した印鑑を押印して被害者作成名義の委任状1通(令和元年水戸地領第406号符号12)を偽造し,同月13日,同市稲吉3丁目15番67号かすみがうら市中央出張所において,行使の目的で,ほしいままに,被害者の代理人として,同所備付けの住民異動届書の異動年月日欄に304所・世帯主氏名欄に「L8,異動する人の氏名欄にB,新住B」,旧住所・世帯主氏名欄にKB,

窓口に来られた方欄に,甲などと記載し,もって被害者作成名義
の住民異動届書1通(同領号符号11)を偽造した上,即時同所において,情を知らない同市役所市民課係員Iに対し,前記偽造に係る委任状とともに前記偽造に係る住民異動届書各1通を真正に作成されたもののように装って提出して行使し,もって被害者が転居した事実はないのにその旨虚偽の申立てをなし,その頃,同所において,情を知らない前記Iらをして,同所に設置された権利義務に関する公正証書の原本として用いられる電磁的記録である住民基本台帳ファイルにその旨不実の記録をさせ,これを即時同所に備え付けさせて公正証書の原本としての用に供させた。【平成30年8月29日付け追起訴状記載の公訴事実第1】

第6

被告人は,児童扶養手当受給の名目で金銭をだまし取ろうと考え,同年4月13日,前記かすみがうら市役所千代田庁舎保健福祉部子ども家庭課において,同課係員Jに対し,真実は,被害者と協議離婚して婚姻関係を解消した事実はなく,同事実に該当することを理由にして児童扶養手当を受給する資格はないのに,その資格があるように装い,被告人が被害者と離婚した旨記載した内容虚偽の児童扶養手当認定請求書等を提出するなどし,被告人に対する同手当の支給を請求し,前記Jらをしてその旨誤信させ,よって,同年6月5日,かすみがうら市長をして児童扶養手当の受給資格者認定をさせたが,被告人が被害者との離婚届を偽造したなどとして逮捕されたことなどから,同市役所係員らに被害者との協議離婚が無効であることが看破されたため,その目的を遂げなかった。【平成30年8月29日付け追起訴状記載の公訴事実第2】

(証拠の標目)記載省略
(法令の適用)記載省略
(量刑の理由)
1
量刑の中心となる判示第1の殺人についてみる。


まず,本件の動機・経緯についてみる。
被告人は,被害者の仕事の負担が重いため家事・育児をほぼ一人で担っていたことや,被害者の酒癖が悪いこと等から,被害者らとの生活の中でストレスを感じていて,そのストレスを発散するべく子供服等の購入に走ったという面があり,被害者が勤務先会社や同社への返済のために保管する金銭から多額の使い込みをするにまで至った。本件の約1年前に被告人の使い込みが被害者に発覚した際には,被害者に許してもらったにもかかわらず,その後も被告人は浪費を続け,本件の約2か月前に再び使い込みが被害者に知れるところとなり,被害者から勤務先会社に返済するための被告人が使い込んだ分として約500万円を準備するよう言われると,被害者に対し金策が付く旨その場しのぎの嘘を述べ続け,被害者との口論が絶えず,被害者をごまかし切れなくなる中で,被害者がいなくなればよいと考えて,本件犯行に及んでいる。被告人が前記のようなストレスを発散するために買い物に走ったという心情は一応理解できるものの,被告人の浪費の態様はストレス解消の範疇をはるかに超えており,これを止めるための努力などは一切せず,結果,被害者から金銭の返還を求められることとなったが,このような被害者の行動は至極当然のことである。被害者は,本件の約2か月前に使い込みが発覚した後も,被告人の買い物に付き合うなどしており,被害者の金銭返還の求めが厳しいものであったとは認められず,被告人が窮状に追い込まれていった理由は,被害者に嘘をついてごまかし続けた自分自身の言動にあったというべきである。被害者がより適切な金銭管理の方策をとっていれば,被告人による使い込みを防ぎ得たと考えられる点を加味しても,被害者には何ら落ち度はない。翻って,被告人は,そもそも浪費を止める努力をすべきであったし,本件の約2か月前に使い込みが発覚したときには,金策が付かない旨素直に被害者に伝えて善後策を相談すべきであった。また,信用できるAの供述によれば,被害者は,毎日被告人と口論する状況にあって,子供たちを連れて自分が家を出ていくとも言っていたというのであり,被告人には,被害者と距離を置くなどして被害者殺害を回避する方策はいくらでもあった。そのようなことを考えると,身勝手かつ短絡的な動機と経緯に酌量の余地はない。⑵

次に,本件の犯行態様等についてみると,被告人は,被害者を殺害することを決意して以降,被害者を毒殺するための農薬を調達したり,絞殺するためのひも類を見繕ったりした上,就寝した被害者が首を絞めるのに適した体勢であるかをAに確認させたりしており,一定の計画性があったと認められる。また,信用できるAの供述等によれば,被告人は,自分一人で犯行を成し遂げられるか不安だと思い,母親である被告人と離れたくないという小学生のAの心情を利用して,しぶるAに犯行への加担を承諾させ,Aを犯行に巻き込んで自分の意思を実現したものであり,そのこと自体,強い非難に値する。殺害を実行する際には,就寝中の被害者を襲ってその首をコード様のもので絞め続け,その間,抵抗する被害者の手足をAに押さえさせたりし,被害者が死亡したかを執拗に確認するなどしている。被告人には,確実に被害者を殺害しようという相当に強固な殺意があったと認められるとともに,犯行の危険性の高さも指摘できる。犯行態様等は非常に悪質であるといわざるを得ない。



以上のような経緯・態様等で行われた犯行によって,被害者の貴い生命が奪われたことからすると,遺族が被告人に厳しい処罰感情を述べるのも当然といえる。本件殺人は,落ち度のない配偶者(内縁関係を含む。)を殺害した殺人既遂事件1件の量刑傾向の中で,殺人罪の法定刑のうちの有期懲役刑の上限に近いかなり重い部類に属する事案である。
2
これらに加えて,被告人は,被害者の殺害後には,そのほとんどをAに手伝わせて判示第2ないし第6の一連の事件に及んでおり,これらについても相応に強い非難が向けられるべきである。

3
以上みたとおり,被告人の刑事責任は極めて重い。被告人が各事実を認めて一応反省の弁を述べていること,前科がないことも斟酌し,主文の刑を量定した。

(求刑:懲役25年及び主文同旨の没収)
令和元年7月5日
水戸地方裁判所刑事部

裁判長裁判官

寺澤
真由美

裁判官

佐藤康行
裁判官

小谷侑也
(別表掲載省略)

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